Quantcast
Channel: あいむあらいぶ
Viewing all 443 articles
Browse latest View live

【ネタバレ注意】映画「デスノート Light up the NEW world」の感想と解説!豪華キャストのスリリングな競演が楽しめました!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

10年ぶりとなる、デスノートの実写映画の新作続編「DEATH NOTE デスノート Light up the NEW World」(以下、デスノートLNWと記載)を見てきました。2015年以降、TVドラマや演劇で再度取り上げられ、そしてこの秋リリースされた新作が、デスノートの10年後を描いた後日譚となります。

f:id:hisatsugu79:20161029191205j:plain

早速初日に気合を入れてみてきましたので、以下感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、ネタバレ部分を含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

【監督】佐藤信介(「図書館戦争」「アイアムアヒーロー」他)
【脚本】真野勝成「ST 赤と白の捜査ファイル」「刑事7人」他)
【原作】大場つぐみ・小畑健「バクマン」「プラチナエンド」

2.主要登場人物とキャスト

f:id:hisatsugu79:20161029184623j:plain

すでにTVやネット等で流れている予告編にてクローズアップされている通り、今作の主役は、三島、竜崎、紫苑です。個性もバックグラウンドも違う3人の天才達がデスノートを巡って攻防を繰り広げます。

三島創(東出昌大)
デスノート対策本部特別チーム捜査官。署内No.1のキラ研究家である。
竜崎(池松壮亮)
新生キラ事件に対応するため、ICPOから派遣された探偵。Lの後継者。
紫苑優輝(菅田将暉)
狂信的なキラ信奉者にして、天才的なサイバーテロリスト。
弥海砂(戸田恵梨香)
夜神月の彼女で、女優。元デスノート保有者。
七瀬聖(藤井美菜)
デスノート対策本部特別チーム捜査官。三島の片腕的存在。
青井さくら(川栄李奈)
デスノート所有者。無職の20歳。
御厨賢一(船越英一郎)
デスノート所有者。最高裁判事。

3.あらすじ(ネタバレ無し)

ノートに名前を書かれた人間は必ず死ぬという、「デスノート」を操り、世の中を震撼させた夜神月、通称キラによる大量殺人事件と名探偵”L”の活躍から10年。世界には再び原因不明の突然死事件が頻発するようになっていた。地上に落とされた新たな6冊のノートの存在が判明し、日本のデスノート対策本部に、新生キラからのメッセージが届く。キラ事件を熱心に追い、熱心に捜査を行う三島を筆頭に、新たにICPOから事件解決に向けて送り込まれた竜崎が、事件の解決に向けて動き出す。

新生キラとは誰なのか、そして、三島と竜崎はキラによる大量殺人事件を再び解決することができるのか?地上に新たに落とされた6冊のデスノートをめぐり、キラと竜崎たちの戦いが再び切って落とされた!

4.映画を楽しむための見どころ(ネタバレ無し)

4-1.デスノートのルールを覚えておくとより楽しめる!

f:id:hisatsugu79:20161029184656j:plain

この映画は、一応マンガ原作や、2006年の実写版「デスノート」を見ていなくても最低限楽しめるように配慮はされていますが、前提としてデスノートについての前提知識は入れておいたほうが良いと思います。

デスノートには数え切れないほどのルールがありますが、今映画作品で覚えておいたほうが良いルールは、以下のとおりです。(当たり前の項目は省略)

・デスノートは書く人物の顔が頭に入っていないと効果は得られない。同姓同名の人物は死ぬことはない。
・名前のあとに死因を書かなければ、全て心臓麻痺となる。
・デスノートに触ったものだけが、死神を見ることができる。(切れ端でも可)
・デスノートの所有権を放棄したら、デスノートに関する記憶をすべて失う。デスノートの一部にでも触れれば、記憶はまた蘇る。(保持するには所有権を持たなければならない)
・デスノートに一度書かれた人間の死は変更することができない。
・デスノートには、最大23日間の先日付まで死亡日付を指定することができる。
・人間界に一度に存在できるデスノートの上限は6冊。7冊目は無効になる。
・デスノートは破って切れ端に書いても、効果を得ることができる。
・死神が自分のデスノートに任意の人間の名前を書くと、その死神は死ぬ。

4-2.誰が新生「キラ」なのか

映画中、最終場面ではキラが判明します。でも、とにかく手がかりが少ないことと、展開にスピード感があるので、物語のスジを追いつつ、推理するのは意外に難易度が高いかもしれません。

4-3.なつかしい前作での出演者たち

2006年の映画2部作「DEATH NOTE」「DEATH NOTE the LAST NAME」で活躍した夜神月(藤原竜也)、L(松山ケンイチ)、弥海砂(戸田恵梨香)、松田桃太が今作でも出演しています。特に夜神月を失い、大人になった弥海砂が見せる寂しそうな表情が印象的でした。 

スポンサーリンク

 

5.あらすじ(※ネタバレ有注意)

夜神月とLが死闘を繰り広げたキラ事件から10年。死神大王の命により、キラの後継者を探しだすため、6冊のデスノートが、新たに下界へと落ちていった。

ロシアの雪深い街で、医師のアレクセイがそのうちの1冊を拾う。「楽になりたい」と訴える寝たきりのヴァシリィの名前を半信半疑でノートに書くと、間もなくヴァシリィは死亡した。まもなく、アレクセイは同じような安楽死希望者をノートに書きまくる毎日となる。

同じ頃、日本でも渋谷で大量無差別殺人事件が起きていた。デスノートによる犯罪を疑ったデスノート対策本部の三島創は、チームとともに現場へ急行。パニックとなった現場の状況から、「死神の目」を持つ、青井さくらという20歳の女性が浮上。

三島が逮捕に踏み切る直前、ICPOから探偵Lの後継者として捜査に加わっていた竜崎が麻酔銃で青井さくらを狙撃。青井は倒れたが、すでに心臓麻痺で死んでいた。白いコートを来た謎の男(紫苑)がデスノートで殺したのだった。

押収したデスノートを持ち帰り、対策を話し合うチームメンバー。竜崎に促されてデスノートに触れると、「ベポ」という死神が現れた。ベポに尋問する竜崎。ベポによると、人間界には現在6冊のデスノートが存在し、7冊目が人間界に仮に持ち込まれても無効になるという。これを受け、デスノート対策本部では、現存する6冊全てを確保して、事件の収束を狙う戦略を立てた。

その日、世界中のパソコンやスマホが一斉にキラ=夜神月の動画を配信する通称「キラウイルス」に感染する。

僕が、キラだ。
僕は人の死を自由に操ることができる。
僕は、悪意と、憎悪に満ちたこの世を浄化し、キラが平和な新世界へと導く。
僕が、キラだ。

キラウイルスの真の目的は、感染した端末から個人情報を抜き取ること。対策本部の所属員は、みな家族のいない人間で構成され、松田桃太(10年前のキラ事件の唯一の経験者)以外は、みな偽名で通していた。

10年前、夜神月と共犯関係だった弥海砂は、デスノートの所有権を放棄した際に、ノートに関する全ての記憶を失っており、証拠不十分で釈放され、現在は女優として大成功していた。また、弥海砂を担当していた検事、魅上は1年前から失踪中。

弥海砂は、楽屋で届けられたプレゼントの中からデスノートを取り出し、ノートに触れた瞬間に過去の記憶を全て思い出した。キラの使者を自称する紫苑優輝が現れ、海砂に10年前、夜神月から聞いた「約束の地」を教えて欲しいと頼み込む。

竜崎もまた、密かにデスノート保持者だった。自宅を出る時に所有権を放棄し、帰宅すると所有権を戻すという特殊な処理をすることで、デスノート保持者から、自分がノートの所有者であることを隠すことができる。ノートの死神は、アーマという雌の死神だった。

f:id:hisatsugu79:20161029184943j:plain

ある日、キラ信奉者であるキャスター、貴世河春奈が、レストランで食事中に突然死亡した。殺したのは、最高裁判事、御厨賢一。キラの信者と信奉者に対して激しい憤りから、片っ端からデスノートで殺していた。

御厨が執務室でデスノートを広げていた時、ちょうど宅急便の配達員に扮した紫苑が訪ねてきて、その場で御厨をデスノートで操り、御厨のデスノートを奪っていくのであった。御厨はデスノートの記述通り、警視庁内で武器を持って「Lの後継者に告ぐ。キラはすでに3人の所有者を処刑した。これより、4人目の処刑を行う」と叫んだ後、自殺して果てた。

紫苑優輝は、熱心なキラの信奉者。家族全員を異常者に殺され、毎日怯えて暮らしていた中、キラがその異常者を排除してくれたことがきっかけである。紫苑は、世界中に散らばるデスノートを収集していた。

ある日、紫苑は、デスノートの収集に邪魔となるLの後継者に向かってTVで声明文を出すと、竜崎は死亡した「L」のCGに暗号文メッセージを入れて返答する。

これをきっかけに、竜崎と紫苑はチャット経由で直接オンライン上でコンタクトを取るようになる。コンタクト中に紫苑の住所を逆探知した三島達は、都内のアジトへと踏み込む。しかし、それは紫苑が仕掛けた巧妙なワナであり、現場はもぬけの殻だった。代わりに、「松田桃太、笑顔で自殺する」と書かれたデスノートが残されており、松田は拳銃自殺するのだった。

f:id:hisatsugu79:20161029185046j:plain

この捜査失敗をきっかけに、捜査一課の須賀原の命令により、デスノート対策本部は解散となる。三島と竜崎は言い争いをして、竜崎は、このあと一人で捜査を進めると言い残し、立ち去ってしまう。残された三島は、一人対策本部に残り、竜崎が紫苑へと当てた暗号化された返答メッセージを解読してみると、竜崎が最後の1冊を持っていることを示唆する文面がそこに書かれていた。

f:id:hisatsugu79:20161029190835j:plain

竜崎が帰宅すると、三島が拳銃を構えていた。しかし、竜崎のノートは、白紙のままだった。竜崎は死んだLとの約束でデスノートは使わないと心に誓っていた。(※映画版「デスノート」(2006)では、Lは夜神月を仕留めるため自分で自分の名前をノートに書き込んでいた)

三島が竜崎の家を出ようとすると、三島は竜崎宅で捜査一課が重要参考人として連行されることに。過去の魅上検事失踪事件の報告漏れを咎められ、留置所に入れられる三島。留置所へ入ってきた竜崎は、三島を出して、警視庁内で保管しているノートと自らのノートを持って紫苑をおびき出し、逮捕を試みることにしたのだ。

三島は、対策本部にて竜崎を後方支援する。三島のチームメイト3人も加わり、紫苑とまず13時に東大川門駅で待ち合わせて、ロッカーでノートの切れ端を交換しあい、本物であることを確認してから、14時30分に東京ニューシティーホールで顔を合わせることに。

三島は、警察官を配置し万全の体制で臨むも、キラウイルスによりダウンさせられる警視庁のサーバー。なんとか回復するも、十分な支援ができないまま、竜崎は現場に現れた弥海砂と対面していた。

f:id:hisatsugu79:20161029185027j:plain

直前に、再び「死神の目」を契約した弥海砂は、見えた竜崎の本名をノートに書くと、竜崎はその場に倒れた。現場に向かった黒本、浦上も弥海砂に殺されてしまう。

「死神の目」で夜神月の写真を見て、夜神月がもはや生存していないことを悟ると、弥海砂は、紫苑に後を託すため、夜神月との約束の場所を「甲羅山山頂のホテル、最上階」と紫苑に教え、自らの名をデスノートに書いて死亡した。

甲羅山山頂のホテルで、キラの後継者を待つ紫苑。夜神月が存命でないことが確定的になった今、リュークと死神の目の契約をしてキラの後継者を殺そうというのだ。

そこへ、顔を隠して踏み込んできた三島。銃を構えている。さらに、竜崎も入ってきた。紫苑は、すかさず「俺がキラだ」と仮面を外して叫ぶ竜崎の本名を手元のノートに書き込んだが、竜崎は倒れない。ノートも本物だ。

つまり、10年前と同じく、竜崎の名前はすでに他のデスノートに書かれているということだった。キラは三島であると断定する竜崎。所有権を放棄していたため記憶を失っていたのだ。

その場でデスノートを改めて手にした三島は、記憶を取り戻した。アメリカで秘密裏に誕生していた夜神月の子供とその後見人魅上は、1年前からキラとしての活動を始めていたが、疑心暗鬼にかられた魅上は、夜神月の子供をデスノートで殺してしまう。三島は、魅上と銃撃戦になり魅上を殺すと、デスノートを回収し、新生キラとして生きることに決めた。

三島は、リューク経由で紫苑を発見し、紫苑を操ることに成功。そして、対策本部に竜崎が現れた時、死神の目を契約した三島は、怪しまれないよう、竜崎の本名を先日付(12月25日)でデスノートに書き込み、その直後にノートの所有権を放棄することで、一切の記憶を失っていたのだった。

放心状態の三島に対して、夜神月にならい、腕時計に仕込んだデスノートで三島を仕留めようとする紫苑。と、そこに須加原の部隊が到着し、ヘリコプターから3人を機銃掃射した。応戦するも、紫苑は機銃掃射を受け、死亡。

三島と竜崎は秘密のトンネルから何とか脱出したが、そこへ無線で一切の情況を聞いていた七瀬が入ってきた。兄をキラに殺された憎しみから、三島を殺そうとする七瀬。

f:id:hisatsugu79:20161029185107j:plain

しかし、その瞬間、アーマが七瀬の名前をデスノートに書き込み、七瀬が倒れていた。砂になって消えていくアーマ。

事件後、一旦は日本政府の下に揃った6冊のデスノートのうち、4冊が強奪され、捜査が再開される。三島は投獄されたが、竜崎が死ぬ直前、超法規的措置で三島と入れ替わった。死んでゆく竜崎にかわり、三島が新たな竜崎となって、デスノートを取り返す捜査を続けるのだった。

エンディング、エンドロールが終わった後、流れるキラの動画ファイル。
「・・・計画通りだ。」

スポンサーリンク

 

6.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

6-1.竜崎とLの関係はどうなっているの?

Lのように天才的な頭脳を持つ竜崎は、Lの子供ではなく、「Lの遺伝子を受け継いだ存在」と説明されています。(子供だったら年齢が合わないですし)映画中で、何度かせきこみ、自宅で薬を飲むシーンや、髪の毛の色がところどころ白くなっているあたりは、遺伝子操作の副作用なのかもしれません。

6-2.死神の目とは何なのか?

デスノート保有者は、死神と「死神の目」を契約することで、目視しただけで人の名前と年齢がわかるようになります。その場で見えた名前をノートに書き込むことで、より効率的に殺せるようになるメリットがありますが、そのかわり契約者の余命の半分を死神に渡すことになります。

今作では、結局、三島、紫苑、弥海砂、そして青井さくらが目の契約をしていました。原作や映画1作目より随分みんな大胆になっていますね・・・

6-3.デスノート対策本部はなぜ解散したのか

直前に紫苑のアジトへ踏み込んだ松田桃太は、キラウィルスにより警視庁のサーバから個人情報を抜かれており、紫苑によりデスノートで凄惨な殺され方をしました。捜査一課からデスノート対策本部にも出入りしていた須賀原もまた、本名で活動していました。

映画中での反応から、須賀原はこの一連の事件を見て怖くなったため、松田の変死と突入失敗を機に、強引に対策本部を解散したものと思われます。また、映画冒頭から、須賀原だけデスノートの存在や取扱について、ついていけていない雰囲気も出していましたよね。

6-4.弥海砂と「約束の地」について

紫苑からデスノートを返却された弥海砂は、楽屋でデスノートに触れてから、過去の記憶を取り戻した際に、夜神月から聞いていた「約束の地」も思い出したのでしょう。

車中で最初に紫苑と対面した際に教えなかったのは、その直前にキラウィルスを目にして、もしかしたら夜神月が生きているかもしれないと考え、自分自身が「約束の地」へ行く希望を見出していたからと推測します。

しかし、リュークと死神の目を契約し、夜神月の写真を見た時、夜神月が死亡していることを確認し、最終的にその後継者を目指す紫苑に「約束の地」を教えました。弥海砂にとって、新世界を創ることなどには興味はなく、夜神月が全てだったのでしょう。

6-5.夜神月の子供と魅上について

夜神月は、死ぬ前にアメリカで自分の子供を設け、リュークに依頼し、子供にデスノートを託しました。(どうやって、なぜ・・・等は映画内では説明なし)月へ心酔していた魅上は、子供の後見人を務めていましたが、夜神月Jrが成長するにつれ、疑心暗鬼にかられ、魅上は夜神月Jrをデスノートで殺してしまいます。

その現場に居合わせた三島は、恐怖感から魅上を射殺し、デスノートを手に入れて新生キラになったのでした。

6-6.誰がキラなのか推理が可能な伏線はあったのか?

この映画でのキラは、三島でした。

ただし、三島=キラである、ということを状況証拠や演者の表情から読み取ることのできるシーンは極端に少なかったと思います。

映画中盤で、竜崎邸を出ようとした三島が重要参考人として拘束され、警視庁サーバを調査した須賀原から「魅上事件の報告漏れ」を突っ込まれたことが唯一と言って良い伏線でした。映画の冒頭では、すでにデスノートの所有権を放棄した状態で始まっているので、三島の言動からは少なくとも「キラ」であるという証拠は見つかりにくい状態でした。

青井さくら死亡後、押収したデスノートを触り、ベポを尋問するシーンで記憶が戻らなかったのは、ベポのデスノートは過去に三島が使用した履歴がないからです。記憶が戻る条件は、触ったデスノートの所有権を過去に一度でも持つ必要があります。

6-7.なぜデスノートは6冊に増えたのか

人間界で存在できる上限、6冊までデスノートが増えたのは、死神大王からの「夜神月に続くキラ候補を見つけ出した死神には、次の死神大王へと昇格させる」という強いインセンティブがあったからです。映画冒頭のテロップと、最後のリュークの説明にありましたね。

死神大王は、人間の感情をコントロールし、巧みな人口調整を行ったキラの手腕を高く評価しており、キラ亡き後の世界の荒廃ぶりを目にして、新たな「キラ」探しの必要性を感じていました。リュークだけでなく、他の死神も競わせ、新生「キラ」を探し出すことで、人間界と死神の共存繁栄を狙っていたのです。

実際、一旦日本政府に収まった6冊のノートのうち、4冊は移送中に焼失しましたが、すぐに別のノートがどこからか降ってきているようですから、三島(新生竜崎)はこれからが大変になるわけです・・・。

7.原作マンガとの設定相違点(※ネタバレ有注意)

原作漫画とは、すでに2006年の実写版映画2部作の時点から設定やストーリーの展開が違っていますが、今作では実写版映画の流れを受け、さらに原作漫画から設定が広がっているのが特徴です。(でもみんな死んだけど・・・)

7-1.弥海砂が10年後に生きている

原作マンガでは、弥海砂は夜神月の死亡後1年後に亡くなっていましたが、映画実写版の世界では、女優として活動を続けていました。死者の目を2回契約し、さらにもう1回契約したならば、いずれにしても余命はほとんどなかったと考えられますね。

7-2.魅上について

原作マンガでは、魅上は夜神月が死亡した時、警察に逮捕され、10日後に発狂して死亡していたはずです。しかし、映画実写版では、2006年の2部作で出てきていないので、同名で別の役割が当てることができたのでしょうね。夜神月の狂信的な信者で、検事であるという設定は、マンガ版と共通しています。

7-3.夜神月の子供について

原作マンガでは夜神月に子供は勿論いませんでしたし、付き合ったのも高田清美・弥海砂と全員日本人でした。アメリカにどうやって種を残したのか、そのあたりの設定は不明ですが、これから公開されるんでしょうか・・・?!

ストーリーに味付けをするためだけに子供がいることにして、セリフもなしに殺さなくても良かったんじゃないかとは思います・・・

8.ノベライズ版との設定相違点(※ネタバレ有注意)

今作は映画のノベライズ版が出版されています。ライトノベル風で、割りとあっさり描かれた読みやすい文体です。基本的な展開、台詞回しは映画に忠実ですが、映画でやや乏しいと思われる状況説明を補完するシーンや一部映画と違う展開もあるので、非常に興味深く読めました。主な相違点をピックアップしておきます。

8-1.いっぱい出てくる死神たち

映画版で出てきたリューク、アーマ、ベポの他に、アレクセイに憑いたシドウ、そして御厨賢一についたイーヴという死神が出てきます。シドウはマンガ版後半で出てきたちょっとどんくさい性格そのものでした。ノベライズでは、紫苑にチョコレートをねだるかわいい一面もあります。せっかくなので、もう1体の死神(アメリカでデスノートを拾ったアーヴィングのデスノートの死神)にもちゃんと名前をつけてあげてほしかったです。

8-2.弥海砂と竜崎の対面シーン

ノベライズでは、紫苑が操った一般人が竜崎の仮面を剥いだところを弥海砂が見て、ノートに書き込む流れでしたが、映画では竜崎は自分で仮面を外していました。命をかけて「すでに別のノートに自分の名前が書かれていたか」確認する竜崎の決意や意志を強調するための演出だったのだと思います。

8-3.映画で省略された説明の補完

たとえば、以下の点が映画中では時間の都合上説明が省略されていましたが、ノベライズではバッチリ説明されていました。

・紫苑がアレクセイをデスノートで殺害する際の詳細なシーン
・アーヴィングのデスノート使用と紫苑に殺害されるまでの経緯
・甲羅山へ攻撃出動前の須賀原と日本政府のやり取り
・竜崎が三島と入れ替わる前の「超法規的措置」を取るに至った経緯

是非、読んで確認してみてください。

9.感想とまとめ

10年後の後日譚を描いた本作「DEATH NOTE デスノートLight up the NEW world」。

良かった点は、個々の俳優の頑張り。竜崎の、粗野でバイク好きのキャラクターが原作のメロに似ているところが非常に興味深かったです。紫苑の菅田将暉も、「カメレオン俳優」と言われるように、配役にぴったりあわせた演技が良かったですし、記憶を取り戻し、夜神月への思いを断ち切れない哀愁たっぷりの戸田恵梨香の演技も成長を感じられて良かった。

反面、従来の「謎解き」を期待していたファンにとっては、少し不満が残る展開だったのではないでしょうか。端的にいうと、この映画は「謎解き」ではなく、「アクションもの」と割り切ったほうがいいのかも(汗)

ストーリーや伏線はやや粗く、スピード感で押し切る場面が多かったような。設定もあいまいな点が残りました。竜崎はなぜデスノートを所持していたのか、誰もそれを問題にしないのか・・・あいまいな「約束の地」も少し不明確でした。Huluの前日譚やノベライズとのストーリーの効果的な補完もあまりうまく行っていない印象はあります。

それでも、「デスノート」の世界がより広がったのは良かったと思います。またアナザーストーリーに期待したいし、今回は今回で、僕個人としては味わい尽くせたかなと思います。

それではまた。
かるび

10.映画を楽しむための小説やガイドなど(随時追加)

10-1.ノベライズ版

今作「DEATH NOTE LNW」を忠実にノベライズ化した作品。謎解きをじっくり味わいたい人や、背景をより詳細に理解したい人にお勧め。映画の世界観を忠実に表現しているライトノベル仕立てです。

10-2.マンガ原作「デスノート」

やっぱり原点は漫画版原作。スリリングな謎解きに圧倒的に詰まった情報量。僕も今回Kindleで買い直しましたが、全巻で3000万部を売り上げただけある、不滅の名作だと改めて実感。映画公開に合わせ、Kindleカラー版1巻がAmazonにて期間限定で無料で読めるようになっていますので、この機会に是非!

10-3.Amazonの「デスノート」特設ページ

現在、Amazonで「デスノート」特設ページができています。こちらも過去作品を押さえる場合は便利。特に、2006年の実写映画「DEATH NOTE」「DEATH NOTE the Last name」が、今回の作品と直接関係があるので、まだ見たことが無い方は、是非藤原竜也と松山ケンイチの若い時の演技を楽しんでみて下さい!(満島ひかりとか戸田恵梨香も若いし!)


本当に2万年前とは思えない?!「世界遺産ラスコー展」はクロマニョン人のハイレベルなアートが驚きでした

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

11月1日から上野の国立科学博物館で始まった、「世界遺産ラスコー」展に行ってきました。

f:id:hisatsugu79:20161102094633j:plain

クロマニヨン人が洞窟内で描いた動物の壁画や装飾品類がハイレベルであり、心の通った人間らしい「アート作品」であることに非常に驚かされました。また、クロマニヨン人の当時の生活や文化レベルについても、科学博物館らしい多彩な分析展示が非常に良かったです。

美術館系よりも写真撮影に寛容で、触ったり臭いをかいだり、音を聞いたりと先進的で、子供にもバッチリ配慮した良い展覧会でした。

ということで、早速行ってきた感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

初日はガラガラでしたf:id:hisatsugu79:20161102112045j:plain

春休み~GW期間を含んで開催された「恐竜展2016」もそうでしたが、平日は割と空いていますが、休日は一転して家族連れで大混雑するのが、国立科学博物館の特徴です。

3連休や子供の冬休み期間中は混雑すると思いますので、念のためこちらのサイトを見てから出かけるのがいいと思います。

【混雑チェックはこちら】
国立科学博物館の混雑状況を確認する

2.子供も楽しめる音声ガイド!

f:id:hisatsugu79:20161102094805j:plain

前々回の「大恐竜展2016」の際は、子供と大人の音声ガイドが別々になっていました。今回の音声ガイドは、大人/子供共通ですが、遊び心と工夫が満載の楽しいガイドでした。

これは面白い!と感じたポイントとしては、いくつかのガイド音声の最後に3択クイズが出題されること。例えば、

問題:
「◯◯について、正しいものはどれでしょうか?」
回答:
「◯◯なら、21番をプッシュ」
「△△なら、22番をプッシュ」
「✕✕なら、23番をプッシュ」

といったように、ガイド機が一種のシミュレーションゲームのような使われ方をされているのが斬新でした。大人も子供も楽しめるので、是非借りてみて下さい!

3.ラスコーの壁画と今回の展覧会

 

フランス中西部~スペインにかけて、ネアンデルタール人やクロマニヨン人の生活していた遺跡がいくつも見つかっています。壁画もいくつか見つかっていて、世界最古の壁画はショーヴェ洞窟にあり、およそ32000年前に描かれたものであるとされています。

ラスコーの壁画は、約20000年前と世界最古ではないものの、現存する壁画群の中では、群を抜いて大規模で、しかもクオリティも高く保存状態も良いので、世界的に有名になっています。

フランス政府では、1940年の発見以来、常にこのラスコーの壁画を人類共通の世界遺産として丁寧に取り扱い、国を挙げて保護と出土品の多角的な研究を進めてきました。

【ラスコー壁画を詳しく知る】
フランス政府制作のラスコー公式ページ

このラスコーの壁画展は、フランス政府の企画により各国を巡回中の国際的な展覧会で、日本では東京と宮城、福岡と3箇所を巡回する予定です。日本では、さらに日本独自のコンテンツも付け加えて展示されています。

ちなみに、写真は一部のコーナーと映像を除いて、フラッシュなしであれば撮り放題なので、思い出に残したい方は、是非カメラを持っていくと良いと思います。

4.展覧会の見どころは?

4-1.ラスコーの壁画にまつわるストーリー

 

ラスコーの壁画は、1940年にフランス中西部、ドルドーニュ県レゼジー村で、地元の少年がヴェゼール渓谷の野原で遊んでいたときに偶然に発見されたところから始まりました。

ラスコー洞窟近辺ののどかな風景f:id:hisatsugu79:20161102103238j:plain

発見後、すぐに調査隊が入り、600点を越える大規模な壁画群と、その良好な保存状態、ハイレベルな美しい動物画で、瞬く間に世界的な注目を浴びる有名な遺跡になりました。世界中から観光客や研究者が訪れ、多い時は1年間に10万人の見学者が殺到したと言います。

見学者を迎える1940年代のラスコー洞窟f:id:hisatsugu79:20161102104358j:plain
(引用:http://www.lascaux.culture.fr/

高松塚古墳などもそうですが、暗く密閉され、外気や細菌との積極が最低限に保たれていた環境が大きく変わってしまうと、脆弱な壁画は一気に劣化が進んでしまいます。

ラスコーも例外ではなく、洞窟内に多数の人が入るようになってから、呼気に含まれる二酸化炭素と壁画の石灰岩が反応して絵の鮮明さが落ちたり、人間の持ち込んだ細菌や空調施設を設置したことで、カビや苔が生えたりしたといいます。

カビ、変色の痕
f:id:hisatsugu79:20161102104344j:plain
(引用:http://www.lascaux.culture.fr/

事態を重く見たフランス政府は、ラスコーを立入禁止として、そのかわり観光資源や研究用として、1980年代にオリジナルのラスコーの洞窟と壁画そのものを複製した「ラスコー2」という洞窟を近隣に作りました。今では、観光名所として有名です。

さらには、国際巡回展用に、コンピュータやデジタルプリント技術を駆使して、「ラスコ-3」という、オリジナルと誤差1ミリ以下の超精巧な複製が制作されました。今回巡回展で展示されるのは、この「ラスコー3」です。 現場ではパネルや立体模型、複製を制作する際のプロセスや道具などが、分かり易く展示されています。

複製画制作に使用された道具類f:id:hisatsugu79:20161102104734j:plain

4-2.ラスコーの壁画の複製(ラスコー3)

f:id:hisatsugu79:20161102104926j:plain

ラスコーの洞窟壁画は、洞窟の広範囲に渡って描かれています。展覧会で洞窟ごと再現された5つの洞窟壁画の複製画は、デジタル技術を駆使した上、最終的な作業は専門家の手作業で仕上げられ、洞窟内の微細な形状やひび割れ、退色など、オリジナルに非常に近い完璧な仕上がりになっています。

完璧に再現された洞窟壁画f:id:hisatsugu79:20161102105001j:plain

特に、数分おきに館内の照明が全部落ちて、蛍光塗料で描かれた壁画の動物たちの輪郭だけが浮かび上がる趣向は非常に幻想的で良かったです。ここまで仕上げるのは本当に大変だったはず。何度見返しても価値がある展示だと感じました。

照明が落ちると、壁画に描かれた動物の輪郭が浮かび上がるf:id:hisatsugu79:20161102105052j:plain

4-3.クロマニヨン人の遺した芸術品達

f:id:hisatsugu79:20161102105158j:plain(引用:国立科学博物館HPより)

そして、本展示のハイライトは最終コーナーにあるクロマニヨン人の遺した優れた芸術品たち。猿から類人猿を経て、原人~ホモ・サピエンスへと至る人類進化の歴史の系譜の中で、「人類」になったと言える境目はいつからとみなせばいいのでしょうか?

f:id:hisatsugu79:20161102105327j:plain

色々な基準が考えられると思うのですが、著書「ラスコーの壁画」で、哲学者のジョルジュ・バタイユが提示する「芸術が誕生した時」という回答は説得力があります。

今のホモ・サピエンスへと進化する一つ手前のネアンデルタール人は、労働の象徴である「石器」は利用していましたが、言語や装飾品や生活上の儀式など、独自のアートや文化を持ちませんでした。そして、石器を使うだけなら、チンパンジーやゴリラでもある程度出来るのですよね。

しかし、ラスコーを始めとする、紀元前2万年前前後と推定されるフランス中西部のクロマニヨン人の遺跡では、鹿の角や象牙を加工した装飾品や、埋葬の際に添えられた副葬品や、美しい壁画類など、生きるために最低限必要な「道具」を超えた「芸術」とみなせる作品群が見つかっています。

ネコ科の動物が描かれた骨角器f:id:hisatsugu79:20161102105216j:plain(引用:国立科学博物館HPより)

ヴィーナス像f:id:hisatsugu79:20161102105225j:plain(引用:国立科学博物館HPより)

これがさらに少しずつ進化していって、紀元前3000~4000年前の古代ギリシャ文明につながっていったのだな、と、自分の中で人類の文化・芸術史ののミッシング・リンクが少し埋まったような気がしました。

この最終コーナーの作品は写真NGなので、画像を載せましたが、是非目で見ていただきたいと思います。2万年前の人類が、石器や骨角器などをこんなにアートの香りがする精巧な加工をしていたのか、と驚かされます。(というか今の自分に同じものを作れと行っても多分ムリ/笑)

5.その他気になった展示

5-1.精巧に作られたクロマニヨン人の人形

今回の展覧会では、非常に精密に制作されたクロマニヨン人の人形が展示されています。顔を見ると、ほとんど今のヨーロッパ人と変わらない作り。よくよく見ると、体毛や手足の太さなどは違いがあるのですが、多分現代的な衣服を来てそのあたりに紛れ込んでいたとしたら、見分けがつかないと思います。

物凄くリアルで、細かいところまで作り込まれていますので、是非チェックしてみて下さい。

f:id:hisatsugu79:20161102105437j:plainf:id:hisatsugu79:20161102102912j:plain

5-2.クロマニヨン人第1号の頭骨のレプリカ

f:id:hisatsugu79:20161102105507j:plain

19世紀、ラスコー洞窟から少し離れたクロマニヨン洞窟から見つかった第1号の人骨。ここから、近辺一帯で見つかった同時代の人骨が「クロマニヨン人」と名付けられたそうです。

5-3.埋葬されたクロマニヨン人のレプリカ

f:id:hisatsugu79:20161102105537j:plain

洞窟で発見された埋葬された女性の人骨ですが、面白かったのは、頭蓋骨に付着していた貝殻みたいなつぶつぶ。埋葬されたときに副葬品として頭に被されたものだそうです。面白いですね・・・。

f:id:hisatsugu79:20161102105554j:plain

6.まとめ

厳重な壁画保護のため、一部の研究者以外は入ることが出来ないラスコーの洞窟。幸いなことに最先端のデジタル複製技術で制作された精巧なレプリカを通して、氷河期に生きたクロマニョン人の素晴らしい壁画を臨場感たっぷりに味わうことができます。

展示自体はあっさりしていますが、超リアルな壁画展示とクロマニヨン人の遺した原初のアート作品は、非常におすすめできるコンテンツでした。親子での鑑賞にも好適な展覧会です。驚きと楽しさに満ちた展覧会ですので、是非!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

「世界遺産ラスコー」展は、東京展のあと、宮城、福岡へと巡回します。来年までやっているから、旅行のついでに見て回るのもいいかも。

展覧会名:「世界遺産ラスコー」展
会期:
【東京】2016年10月15日~2017年1月15日
【宮城】2017年3月25日~2017年5月28日
【福岡】2017年7月11日~2017年9月3日
会場:
東京:国立西洋美術館
宮城:東北歴史博物館
福岡:九州国立博物館

公式HP:http://lascaux2016.jp/index.html
Twitter:https://twitter.com/lascaux2016

展覧会の予習・復習に役立つ書籍類

今回の展覧会に合わせて出版されたムック本。ラスコーの壁画の大特集に加えて、世界各地の古代~中世にかけての洞窟壁画を一気に紹介した、価格の割に情報量の多いまとめ本的な良書。

ラスコーに魅せられたフランスの大哲学者、ジョルジュ・バタイユがラスコーの壁画を「哲学者らしく」熱く語ります。古くて高い本だから、図書館で借りてもいいかも。僕もつまみ食いで読みましたが、難解ですが彼の熱さは十分伝わってきました(笑)

【ネタバレ注意】超ゆるふわコメディ映画「ぼくのおじさん」の感想とあらすじ・解説!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

今年一番平和でゆるふわな映画との前評判だった、北杜夫原作の同名の児童小説を映画化した、「ぼくのおじさん」を見てきました。松田龍平と子役の大西利空との年齢差のある「相棒もの映画」は、戦闘やアクションシーンが一切なく、下馬評通りの平和な作品でした。

f:id:hisatsugu79:20161103191051j:plain

興収、動員数的にはかなり厳しそうですが、すごく気に入りました。映画の感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、ネタバレ部分を含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

【企画】須藤泰司
【監督】山下敦弘
【脚本】春山ユキオ(須藤のペンネーム)

映画『探偵はBARにいる』シリーズの脚本・プロデュースで松田龍平とは2回めのタッグになる須藤泰司。監督は渋谷すばるが主演をつとめた『味園ユニバース』(15)の山下敦弘。優しさと共感が画面に溢れ出す監督独特の演出は今作でも健在です。

2.主要登場人物とキャスト

f:id:hisatsugu79:20161103160754j:plain
(引用:日経STYLE)

主人公は、映画パンフレットの表紙にもある通り、おじさん役の松田龍平と、雪男役の大西 利空。マドンナ役(とあえて言おう)には真木よう子を配置。その他豪華な脇役陣で、コメディを彩りました。

おじさん(松田龍平)
兄の家に居候する自称「哲学者」で変わり者の雪男のおじさん。伯父さんではなく、「叔父さん」なわけですが、作中では名前がありません。ハワイでも「I AM UNCLE」とか言ってました。何やそのセリフ(笑)働かず、昭和の高等遊民のような生活を続けるが、ゆるふわで若い女性陣からは人気。

春山雪男(大西利空)
小学校4年生。学校の宿題で、おじさん観察日記をつけ始め、おじさんと行動を共にする。冷静でしっかりもの。なんだかんだでおじさんが大好き。

稲葉エリー(真木よう子)
ハワイ生まれ日本育ちの日系4世。画廊で個展を開くほどのカメラの腕前だが、ハワイで祖母の遺したコーヒー農園を継ぐためにハワイ島へ渡る。

青木伸介(戸次重幸)
老舗和菓子屋「寛政堂」の社長。エリーの元恋人。

春山節子(寺島しのぶ)
雪男の母親。居候のおじさんをあまり良く思っていない。

春山定男(宮藤官九郎)
雪尾の父親。居候のおじさんのお兄さん。

みのり先生(戸田恵梨香)
雪男のクラスの担任。雪男の作文を読み、おじさんが気になっている。

3.あらすじ途中まで(ネタバレ無し)

小学4年生のぼく=春山雪男(大西利空)は、学校の作文コンクールで「自分のまわりにいる大人について」宿題が課されたが、なかなか思いつかない。公務員の父(宮藤官九郎)と専業主婦の母(寺島しのぶ)では筆が進まなかった。

そこで思いついたのが、春山家に居候する、愛すべきぼくの“おじさん”(松田龍平)について。おじさんは、ほとんど働かず、朝遅く起きてきて万年床でマンガを読んだり、いつもダラダラして、変な屁理屈ばかりこねる浮世離れした遊び人。雪男は、そんなおじさんを題材に作文を書くことにした。

そんなある日、雪男のおばさんから、おじさんにお見合い相手を紹介される。しぶるおじさんをつれてお見合いに向かうと、相手はハワイ生まれの美女、稲葉エリー(真木よう子)。その場でエリーに一目惚れしたおじさんだったが、お見合い後、エリーは亡くなった祖母のコーヒー農園を継ぐためにハワイへ帰国してしまう。

なんとかエリーに再会したいおじさんは、働かず、奇想天外な手を使って無計画にハワイへ行こうとするが、うまくいかない。しかし、雪男の書いた作文が全国コンクールで入賞し、その副賞として保護者同伴のハワイ旅行が当たったため、おじさんと雪男はハワイでエリーとの再会を目指すのだった。

しかし、現地ではエリーの元恋人と思われる老舗和菓子屋の若社長、青木伸介(戸次重幸)もあらわれ、おじさんの強力な恋のライバルが出現する。

おじさんの恋は果たしてうまくいくのか?!

4.映画の見どころと感想(ネタバレ無し)

4-1.ひたすら超平和でゆるふわなコメディ映画

冒頭にも書きましたが、この映画は、今年一番の「平和でゆるい」コメディ映画だと思います。アクションシーンも戦闘シーンも一切なし。あるのは、小学生の雪男とおじさんの面白おかしい日常と、ハワイでの、さらにゆるい珍道中。

おじさんに扮したゆるくてかわいい松田龍平のトボけた新境地と、利発なしっかり者だけどおじさんが大好きな雪男を演じる大西利空のかけあいが絶妙な「相棒モノ映画」「バディもの」コメディは、老若男女幅広い層が安心して楽しめる出来になっています。

4-2.昭和の臭いがするのんびりとした空気感

映画完成後のインタビューで、今作を企画立案した東映の須藤泰司は「ギスギスした時代だからこそ、のんびりした空気感の作品が見たかった。だから原作小説のセリフをそのまま残した」と話しています。

「ぼくのおじさん」の原作小説が書かれたのは、今から45年前となる昭和高度成長時代の1972年。春山家の生活環境は現代に置き換えられていますが、おじさんの生活スタイルやセリフまわしは、いまより時間の流れがゆったりしていた昭和の自由人そのものです。「わぉ!」なんて言わないですからね・・・。

4-3.子役の大西利空が素晴らしい演技!

今回、松田龍平の相棒役に抜擢されたのが、実に7回にわたるオーディションを勝ち抜いてきた子役、大西利空(おおにしりく)君。彼の演じる雪男は、映画のバランスや雰囲気を左右する、一番難しい役どころです。

大人たちが言い争うシーンでは、常に冷静沈着にその場を仲介しますし、観察者として、大人の世界で起こる出来事を冷静に、時には軽蔑の気持ちを隠さず見続けています。要するに、ボケ役である相棒=おじさんに対して、ツッコミ役として、画面を引き締める必要があるんですよね。

しかし、その一方でダメダメなおじさんを沈着にフォローしつつも、おじさんに対する信頼と共感も表現することで、映画のあたたかみを引き出す演技ができていました。彼のおじさんへの温かい情愛のまなざしは、映画に松田龍平の醸し出す「ゆるかわ」だけではない、ほのぼのとした平和な温かみを加えていました。

===↓ 以下ネタバレ含みます。ご注意 ↓===

スポンサーリンク

 

5.あらすじ(※ネタバレ有注意)

f:id:hisatsugu79:20161103191141j:plain

小学4年生のぼく=春山雪男は、クラス担任のみのり先生(戸田恵梨香)から、作文コンクールで「自分のまわりにいる大人について」書いてくるように宿題を出される。自宅に帰り、しばらく机に向かったけれど、なかなか思いつかない。父は公務員の平凡な課長だし、母はいわゆる専業主婦だから。

机で唸っていると、そこへ春山家に居候するおじさんだった。おじさんから、マンガ「少年キック!」を買ってくるように頼まれる雪男。しかし、お金はなかなか出してくれないおじさん。僕がマンガを買ってくると、万年床でマンガをけらけら笑いながらおじさんは読み始めた。

f:id:hisatsugu79:20161103191153j:plain

そこで、雪男は、この愛すべきぼくの“おじさん”をネタに作文を書くことを思いつく。タイトルは、「ぼくのおじさん」。

おじさんは、自称「哲学者」で、ドイツの哲学者「カント」が特にお気に入り。週に1回だけ大学で非常勤講師として働くほかは、いつも寝ていてなまけてばかり。そしてお金がない。猫のえさを横取りしようとしたり、動物園には連れて行ってくれなかったり、スポーツに誘ってもてんで体力がなくてだめだったりする。そして、自宅でも母親から、「万年床はやめてください!」とガミガミ言われる始末。

f:id:hisatsugu79:20161103191222j:plain

ある日、そんなおじさんが、外出した帰りにお土産を買ってきてくれたが、それは、精巧に出来たおもちゃの巨大ムカデだった。それを見て本物だと思ったママは、気を失ってしまう。もちろん、その晩にママから大目玉を食らうのだが、のらりくらりとかわしてマイペースなおじさんなのであった。

また、休日になると、「思索の旅」と称して、雪男をつれだして、ママから昼飯代をせびるのだった。交通費を浮かせるため、電車で神田の古本街へでかけるおじさんと雪男。ファーストフードのカレー屋に入り、福神漬を「野菜」といって大量にふりかけたり、割引クーポンを差し出したら期限切れとなっていたり、彼らの思索の旅はなんともしまりのないものであった。

そんなおじさんを早く結婚させようと企んだのがママとおばさん。ママのすすめは断るも、画廊を経営するせっかちで強引なおばさんには弱く、しぶしぶお見合いに望んだおじさんなのであった。

お見合いの道中、人気和菓子屋の「寛政堂」で和菓子をお土産として調達して、会場へと向かうおじさんと雪男。「寛政堂」店頭では、マジメな若社長は自ら接客に励むのだった。

f:id:hisatsugu79:20161103191922j:plain

そして、お見合いに臨んでみると、おじさんはお見合い相手である日系4世の写真アーティスト、稲葉エリーに一目惚れ。おじさんは、その場で卒倒してしまう。目が冷め、額から流れる血を見て更にダウン。

ようやく正気に戻ったおじさん。お見合いからの帰り道、エリーは祖母と母の跡をついでハワイの実家のコーヒー園を継ぐために、ハワイへと帰るとおじさんにつげる。一目惚れしてエリーにまた会いたいおじさんは、「ハワイへ留学します」と嘘をつき、その日からなんとしてもハワイへ渡航する方法を考え始めた。

f:id:hisatsugu79:20161103191844j:plain

なんとかエリーにハワイで再会したいおじさんは、あくまで働かず、ビールやウィスキーの懸賞で当てようとして、空き缶を拾ったり、教え子に協力させたりして、大量のはがきに応募券をはりつけて応募しました。

f:id:hisatsugu79:20161103191732j:plain

しかし、結局は全部落選。がっかり寝込んだおじさん。しかし、雪男の書いた作文が全国コンクールで入賞し、その副賞として保護者同伴のハワイ旅行が当たったため、おじさんと雪男はハワイに行けることになったのでした。「エス・イスト・グート」(これでよし)と、カントのセリフをうそぶくおじさんなのだった。

さっそくハワイに到着し、オアフ島のエリーの部屋で落ち合う二人。おじさんは、飛行機でビールをのみすぎてお腹を壊してトイレへ。そして、トイレから出たおじさんは、タバコが切れていることに気づき、そのまま部屋に戻らず、街にタバコを買いに行きます。戻ってこないおじさんを探しに行くエリー。

おじさんを探すにいったすきに、雪男がエリーの机に伏せて置かれていた写真立てを見ると、そこには白黒の「寛政堂」の御曹司のポートレートが写っていた。

結局、英語がうまく通じず、何とか話しかけた若者からは、タバコのかわりに大麻をつかまされてしまうおじさん。不幸なことに、ガサ入れに遭遇し、そのまま逮捕されてしまうのだった。

翌日朝、ホテルでおじさんと雪男が朝食を食べていると、そこへ寛政堂の御曹司、青木伸介が現れる。偶然の出会いに驚く。

朝食後、伸介と別れ、真珠湾の見える丘へエリー、おじさん、雪男の3人で向かうことに。そして街に戻ってくると、3人は偶然青木伸介と遭遇する。表情がこわばり、「もう会わないっていったのに!」と拒否反応をみせるエリー。エリーは、その場でおじさんにキスをして、「今はこの人と一緒になってるの」と青木に言い放つ。それを見て一人冷静に呆れる雪男。

そして、エリーの経営するホテルや農園があるハワイ島へ行く3人。そして、コーヒー農園「INABA FARM」へ。祖母の墓に手を合わせる3人。エリーから「オハナ(ハワイ語で「家族」)が来てくれたよ」と言われ、舞い上がるおじさん。

その晩、エリーの経営するホテルで夕食を取りながら、エリーの農園への情熱に心打たれたおじさんは、エリーにさらにアピールしようと、「力になりたいんです」と農園で働くことを申し出、エリーと雪男は、翌日、農園で体験労働をすることになった。

そこへ、エリーに対して、農園の経営が上手く行っていないことを伝える部下のボブ・トーマス。エリーは、独り祖母の墓の前へ行き、「どうしたらいいの」と弱音を吐いて佇んでいると、トーマスから、「日本の寿百貨店から商談のTEL」があったと吉報が入る。

一方、体験労働で早々に体力不足から倒れてしまうおじさん。気がついたら、ホテルに横たわっていた。そこへ、エリーを追ってやってきた伸介もホテルへチェックインしてきた。エリーをめぐり、トイレで睨み合うおじさんと伸介。そして、またしても冷静な雪男は、おじさんと伸介をたしなめるのだった。

雪男が寝た後も、夜通し酒を飲みながらエリーを巡って言い争う二人。寛政堂を弟に譲り、不退転の覚悟で来たという伸介。そして、翌日の朝、エリーのいる前で、エリーがどちらを選ぶのか決めよう!と二人は意気投合する。

雪男は、その夜、伸介と別れて自室に戻ってきたおじさんに、「エリーの部屋に伸介のポートレイトが置いてあった」事実をボソッと伝えるのだった。

f:id:hisatsugu79:20161103191358j:plain

翌日の朝、エリーのコーヒー園で対決する二人。そこにエリーが来て、エリーは伸介を非難し始める。必死で過去の非礼を謝罪し、復縁を迫る伸介に対して、エリーは冷たく断るも、おじさんが伸介のエリーへの気持ちを伝える。すると、エリーは泣いて伸介の元に向かうのだった。「エス・イスト・グート」とつぶやくおじさん。

f:id:hisatsugu79:20161103191409j:plain

翌日、そろそろ日本へと帰ろうか、と切り出す傷心のおじさんと雪男は日本へと帰国するのだった。(エンドロール)

帰国後、みのり先生に職員室に呼び出される雪男。みのり先生からは「また続編が読みたいなぁ」と言われるのだった。そして、今回のハワイ旅行で撮影したおじさんの写真の右隅に、小さくUFOみたいな円盤が写り込んでいたのだった。(それはまた別の話)という字幕がながれ、映画はここで終了。

スポンサーリンク

 

6.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

今作は、話の筋もわかりやすく、プロットを楽しむ感じの映画でもないのですが、一応今作でキーになりそうな設定や伏線をまとめておきたいと思います。

6-1.ハワイ到着後、おじさんはなぜ逮捕されたの?

タバコが切れたおじさんは、エリーの家を出て売店でタバコを買おうとするも、お釣りがないため近隣のお店でタバコの購入を断られます。仕方なく、街でタバコを吸っていた若者に100ドル札を見せて声をかけると、奥まったところへ連れて行かれて、タバコではなく葉っぱを渡されます。これは、紙巻きタバコではなく、大麻だったんですね。

しかし、容量の悪いおじさんは、結局葉っぱの入った袋をつかまされ、それを手に持って街をうろうろしていました。そこへ、麻薬の売人への警察のがさ入れがあり、売人は走って逃げましたが、のんきに目立つように大麻を持って歩いていたおじさんは、現行犯で逮捕されてしまったというわけです。

6-2.ハワイのコーヒー園とヒロインの関係

稲葉エリーは日系4世。日本滞在も長く、日本語は堪能ですが、日系人である祖母はハワイ島でコナ・コーヒー用のコーヒー園を開拓し、経営していました。戦後の苦しい時期を経て、母も祖母も亡くなり、後継者がいなくなったコーヒー園を守るため、エリーはフォトアーティストの仕事を辞めて、ハワイでコーヒー園の経営を継ぎました。

ただ、伸介の機転で日本の百貨店との取引が始まる前は、アメリカ本土への売り込みも伸び悩み、日本との取引も「円安」の影響で上手く行っていなかったため、それがエリーの悩みのタネでもありました。

6-3.エリーと伸介はなぜラストで復縁したの?

元恋人のエリーと一緒になるためです。伸介は、青木家が代々経営する和菓子屋「寛政堂」の跡を継ぎ、エリーにコーヒー園をあきらめさせる前提でしつこく結婚を迫ったと思われます。(直接そのシーンは描かれておらず、匂わす程度の表現)その強引な迫り方がエリーの祖母への思いを踏みにじり、エリーを傷つける結果となりました。そして、お互いの進む道を尊重しようとしたエリーから、伸介に別れを切り出していました。

傷心のまま、おじさんとのお見合いに臨んだエリーでしたが、エリーは伸介に未練を残していました。ハワイのエリーの自宅で、カメラと一緒に倒されてテーブルに置かれていた伸介の白黒のポートレイトは、エリーが撮影したものでしょう。

伸介は、ハワイへ単身乗り込んできますが、エリーへの最後の説得材料として、和菓子屋の社長業を弟に譲り、かつ、再三断り続けてきた寿百貨店への出店を、寿百貨店がエリーのコーヒー農園と取引を開始することを条件に決めてきたのでした。

それらの誠意が実り、心動かされたエリーは伸介と復縁を決め、おじさんは振られてしまったのでした・・・。

6-4.続編への伏線

今回、キャストや関係者のインタビューでは、(興収次第では)続編の制作を匂わせるような発言が結構ありました。毎回ヒロイン役が変わり、おじさんと雪男がコンビで活躍するストーリーなので、雪男の「成長」という賞味期限があります。

そういう意味では、原作では小学6年生だった雪男が4年生へと年齢が下がっていたのは、続編を見据えた設定だったと言えそうです。

また、エンドロール後のラストで戸田恵梨香演じるみのり先生が「続編がみてみたいな~」と雪男に話しかけた意味深なセリフと、おじさんの映る記念写真にUFOが写り込んでいた不思議な画像について「それはまた別の話」とテロップがわざわざ出たあたり、続編を前提とした伏線だったと思われます。

11月3日の夜時点で、残念ながら興収はベスト10に入っていない苦しい状況ですが、なんとか続編制作に期待が持てる動員を目指してもらいたいですね。

7.原作版との関連や相違点(※ネタバレ有注意)

7-1.原作は「どくとるマンボウ航海記」で有名な北杜夫

冒頭でも書きましたが、今作「ぼくのおじさん」の原作は北杜夫が1972年に出版した同名の児童向けです。作者没後、しばらく絶版となっていましたが、映画化決定とともに再版が決まりました。原作も映画同様、おじさんの不思議なダメダメキャラやゆるふわな行動原理は変わりません。映画→原作に入っても違和感はないと思います。

北杜夫といえば、代表作は「どくとるマンボウ航海記」「ぼくのおじさん」同様、児童向けにわかりやすく独特のユーモアを交えて描かれた、船医としての航海奇譚が楽しめる作品です。

作品中に出てくる「おじさん」のモデルは特にないそうですが、一部は北杜夫本人が医者になりたての頃、兄の家に居候した薄給の大学病院勤務時代の思い出を元に話の筋が作られたそうです。

7-2.原作との相違点

映画は、台詞回しや前半部分やハワイへの渡航はほぼ原作通り進行しますが、後半にオリジナルキャラのヒロイン役、稲葉エリー(真木よう子)が登場し、彼女を追いかける形でハワイへと渡っていきます。ハワイへ行ってからの行動は全く違っていますが、まとめてみると・・・

原作との相違点
・原作では雪男は6年生だけど、映画では4年生。
→続編を視野に入れて低年齢化させたのでしょうか?
・ハワイでの行動全般。
→ハワイでおじさんと雪男ははぐれてしまい、雪男はおじさんに「愛想がつきてしまい」おじさんを探すのを早々にあきらめてしまいます(笑)そして、雪男は地元の日系人、ヘンリー・佐藤にお世話になり、真珠湾などハワイ観光を堪能します。おじさんとはあとで合流するも、おじさんが先に日本に帰国するところで終わります。
・映画オリジナルのキャスト
→映画向けにヒロイン役、稲葉エリーが用意され、コーヒー農園、そして元恋人の青木伸介も原作には出てきません。原作のほうがストーリーがシンプルです。

8.まとめ

体感型の3D席が増えてきた映画館において、何の戦闘もアクションもなく、ほのぼのと平和に時間が過ぎていく映画の存在って貴重なんじゃないかと思います。興収的には苦しそうですが、週末に疲れた頭や体をクールダウンするために、この「ぼくのおじさん」を見てゆるっと癒やされるのはありかなぁと思いました。

釣りバカ日誌や寅さんシリーズなき邦画において、ダメだけど愛すべき大人を描いたゆるいコメディ枠がちょうど開いているので、是非続編も期待したいです。

それではまた。
かるび

9.映画を楽しむための小説やガイドなど

北杜夫の独特のユーモアがふんだんに盛り込まれた原作は、後半のストーリーが若干ちがうものの映画版とほぼ雰囲気は同じです。さらっと読めちゃいますので、映画が気に入ったら原作でもう一度違う角度から味わってみるのもいいですね。

仕事を辞めたら会社ネタや仕事ネタのエントリが書けなくなった

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

会社を退職して期間限定のセミリタイア的な生活に移行して、ちょうど5ヶ月目になります。

無職になって、生活のリズムだけは崩さないようにしよう、と気は使っており、子供や妻と同じ時間帯で、同じ生活リズムで家事などをこなすようにしています。また、会社をやめて人付き合いが減る分、世の中から置いていかれないように、用事がなくても外を出歩いて、書店やショッピングモールなどへ出かけるようにしています。

完全に世の中の流れやビジネスの現場から離れてしまい、世捨て人みたいになってしま-ったら、なんか怖い気がして。それで、最近は、わざとサラリーマン時代の仕事着に近いような恰好で外を歩いたりもしてみました。

それでも、やっぱり自分の中で内面的な変化というか、趣味嗜好が避けがたく大きく変わってきた感じはあります。特に顕著に自分で感じるのが、

・ブログで仕事系、会社系のネタが書けなくなった

ということ。

当ブログを最初に立ち上げた時は、まだ前職で人事労務の仕事をしていました。会社は辞めたかったけど職種や仕事の中身は大好きだったので、「人事労務系」のネタを中心に仕事経験から得た知見などを書くことが多かったです。それで、登録して頂いた読者の方も、やっぱりそういうネタを待っている方が多かったような気がします。

9月以降、ちょっと記事を好きに書いてみよう、と思って、わりと心の赴くままに好きなようにブログを書いてみました。

見返してみると、ほとんど人事労務系のネタを書いていないんです。代わりに、美術館ネタと映画レビューネタしかなかったという・・・。あんなに仕事や人事労務の記事を書くのが楽しかったのに、なんか最近そうでもないんですよね。ネタも思いつかないし。

まぁ、会社を辞め、現場から遠ざかっている人間から、現場の肌感覚がない「仕事論」なんか聞かされても説得力ないだろうし、「おまえがいうな!」ってお叱りを受けるとは思いますが(笑)。

それでも過去に読者登録して頂いた読者の方の属性などを考えると、読者の皆様にお役に立てるようなネタを何かひねりださなきゃな~とは常に考えてしまいます。しかし、もう会社ネタ、仕事ネタ、人事労務ネタ、不思議と全然出てこないんですよね。なんとかせんとな~。

会社員をやっていた現役時代、あんなに物申したいことや不満があったのに、会社生活から少し離れただけで、何となくもういいやっていうか、過去のことになっちゃってるのだなと。

人事労務系の仕事をしているときに、出産育児や、精神的な疾病から回復途上の長期休職者たちと話していると、小さい違和感を感じることがよくありました。「ん?なんか時間の流れ方とか、感覚が違ってきてない?」と。

どんなに仕事中は優秀でピリピリしていた人でも、休職期間に入っちゃうと、彼らの時間感覚や喋り方の端々から、仕事に就いていない人特有の「おおらかさ」や「のんびり感」が出てるのがわかるんですよね。

今、同じような環境に自分が置かれてみて思ったのは、仕事の現場から遠ざかったという「環境の変化」によって、知らず知らずの間に自分の感覚が変わってきているのだろうなということ。仕事の現場から離れると、仕事の最前線に立っている人たちとは同じような空気感を共有して、打ち合わせ一つできなくなっちゃうのかもしれません。(別にそれが悪いわけじゃなく、会社などの仕事の現場にはそれ特有の空気感があるのだと感じたのです)

「今、この瞬間にビジネスの現場に立ち会い活躍している」人の書く記事の方がなんとなく面白く感じるのは、仕事の現場の最前線にある、リアルな「空気感」が記事中に感じられるからなんじゃないのかな、と思う今日このごろです。

誰だ、サラリーマンの記事はつまらないなんて言ってるやつは?!(笑)

意図的に無職生活を始めてみて5ヶ月。日常生活の中で感じるこうした微細な感覚の変化を細かく書き残しておこうと思って、ちょっと書いてみました。

それではまた。
かるび

小説「ちょっと今から仕事やめてくる」は、仕事で悩む全ての人におすすめの良書だった!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

最近、映画化とコミカライズが決まり、50万部を突破したベストセラーとなった、北川恵海のデビュー作「ちょっと今から仕事やめてくる」をようやく読みました。福士蒼汰主演による映画化も決まり、就活のピークにあたる2017年初夏に公開されることもあって、かなり話題になりそうな作品です。

いわゆる「ライト文芸」ジャンルらしく、(良い意味で)小学生でも読めてしまう平易な文体に、「泣き」のツボも押さえたフックのあるわかりやすいストーリーは、若者だけでなく、仕事で悩むサラリーマン全員が読んで損なしの良作でした。

今日は、この「ちょっと今から仕事やめてくる」について、読書後の感想を書いてみたいと思います。(※ネタバレが少しだけ入るかも)

1.おおまかなあらすじ(ネタバレ無し)

いわゆる「ブラック企業」で勤務し、仕事で疲弊して「自殺」を考えるところまで追い込まれた主人公が、友人のサポートによって無事に退職を決意するところまでを描いたエンターテインメント小説です。

主人公のは、適当な就職活動の結果、とりあえず中堅企業の印刷会社に新卒として働き始めますが、隆が入社した会社は、パワハラと長時間の違法労働が横行する「ブラック企業」でした。

過酷な労働環境の中、徐々に心身を蝕まれていく隆は、無意識に電車のホームから飛び込もうとしてしまいますが、間一髪で小学校の同級生だったという「ヤマモト」と名乗る若者に助けられます。

その後も、親身に隆を支えてくれる「ヤマモト」でしたが、隆はどうしても「ヤマモト」のことがどうしても思い出せません。そして、ある時、同級生だった本物の「ヤマモト」はニューヨーク勤務中で、目の前の「ヤマモト」は赤の他人であることが判明。

ネットで懸命に調べたところ、3年前に隆同様、ブラック企業の勤務に耐えられず自殺した同じ顔の男が引っかかってきたー。目の前のヤマモトとは、一体誰なのか?なぜ隆にこんなによくしてくれるのか?

謎が深まる中、隆はいよいよ会社内で孤立・疲弊し、自殺寸前のところまで追い込まれますが、またしてもそこへヤマモトがあらわれーーー。クライマックスでは意外な涙ありのエンディングへ?!

2.つらい職場環境には、誰しもが「ハマって」しまう可能性がある!

本書の冒頭で、隆より1年先に就職したアメフト部の主将だった橘先輩が、新卒就職後3ヶ月で精神的にダウンして「サザエさん症候群」にかかる様子が描かれます。大学の現役時代、厳しい練習と上下関係の中で心身を強く鍛錬した体育会系の部長が、新卒となって数ヶ月でダウンしてしまうのです。

それを見た主人公の隆は、

「本当にできる人間っていうのはどんな環境にいてもできるんだよ。社会に出てから一番重要なのは、体力でも、我慢強さでもない。頭の良さだ」

と先輩をこき下ろします。隆も、大学時代はそれなりに友人や頼れる仲間などもいて、社交的で人間関係も良好でした。そして、就職するまでは自分自身に対してどんな環境でも適応できるという「人間力」に自信がありました。

しかし、そんな隆も、就職したブラック企業での長時間残業と日常的に繰り返されるパワハラですっかり魂を吸い取られてしまい、わずか6ヶ月後に飛び込み自殺を考えるところまで追い込まれてしまいます。いとも簡単に。

つまり、どんなに精神的にタフな人であっても、配属された職場や人間関係、業務への適性などの要素が重なると、簡単に人間は厳しい局面へと追い込まれる可能性があるっていうことなんです。

僕も、社会人生活17年間で、職場や職種は何度も変わりましたが、2005年に配属された常駐先現場(当時エンジニアだった)で、度の過ぎたパワハラを受けて、実際に精神的にかなり追い込まれました。自殺までは行かなかったけど、明らかに体調不良に陥りました。その時は、現場を変えてもらって脱出できましたが、あのまま行ってたらかなりやばかったと思います。

3.周囲の大切な人のためにも、自殺を考える前にまず「辞める」のがすごく大事

つい最近も、過重労働の結果、自殺してしまった広告代理店の新入社員の痛ましいケースが話題になりましたが、自殺を考えるところまで追い込まれたのであれば、まず、仕事を辞めるか、会社を休むべきです。

なぜなら、自殺してしまったら自分自身の苦しみは終わり、楽になるかもしれませんが、残された周囲の家族や大切な友人たちを一生後悔させ、苦しませてしまうからです。

小説のクライマックスでも、「ヤマモト」のセリフでこのように語られます。

「なあ、隆。お前は今、自分の気持ちばっかり考えてるけどさ。一回でも、残された者の気持ち考えたことあるか?なんで助けてあげられなかったって、一生後悔しながら生きていく人間の気持ち、考えたことあるか?」

家族や恋人、大切な友人を悲しませたくないのであれば、彼らのためにも、自殺する前に会社を辞めて、まず正常な自分を取り戻すのが大事だという重要なメッセージが本書から読み取れます。

4.できれば、病気になる前に退職を考えたい

また、自殺まで行かなくても、我慢を続けた結果、うつ状態など、精神疾患を発症してしまったら、回復にはものすごく時間がかかります。

僕は、前職で人事労務職として、休職者との面談や事務処理を相当数担当しました。ほとんどのケースにおいて、仕事を通していったんうつ状態に陥ってしまった人が、完全に治癒することはありませんでした。また、同じ職場・職種で復帰してからも、以前と同じパフォーマンスが出せる人もほとんどいませんでした。

さらに、復帰してもすぐにまた精神的に不安定になってしまう。結果として、退職せざるを得なくなってしまった人もかなりいて、そういう人をたくさん送り出してきた苦い経験があります。

だから、僕は本書より一歩踏み込んで主張したい。

心身の体調不良が慢性化する前の段階で、「退職」を真剣に考えないといけないのではないかと。自殺するしないまで追い込まれる、そのはるか前段階で、決断のポイントがあるんじゃないでしょうか。

現代の日本では、極論すれば餓死することはないわけです。だから、まずは自分自身が心身ともに健康であることを最優先すれば、必ず職場や環境を変えて復活できる可能性も最大化できる。そう思います。

5.そうは言っても踏ん切りがつかないという人や、誰にも相談できない、という人こそ、気楽にこの本を読んでみるといいと思う

でも、真面目で誠実な人ほど、「そんな簡単に辞められれば世話ないよ」と本書のタイトルのように「ちょっと今から・・・」と、割り切って考えることができないのもまた事実。

僕自身も、優柔不断で自己評価が低い性格が災いしました。

前職でモチベーションが無くなってから、退職するまで7年間もダラダラ悩んでおり、退職する覚悟がつきませんでした。「早く辞めたほうがいい」と自分自身で思っていても、失職後の様々な不安を考えると、踏ん切りがつかず、ずっと惰性で仕事を続けていました。

そういう人こそ、こういったエンターテインメント小説という、いわゆる「変化球」的なアプローチを気軽に試してみると良いと思うのです。本書をケーススタディとして消化することにより、違った角度から決断できたり、自分の気持ちが整理できるかもしれませんから。

また、悩んでいても周りに相談できる友人などがいない人にも、作中の「ヤマモト」を擬似的なカウンセラーとして見立てて何度も読み返してみるのも良いと思います。

6.まとめ

「ちょっと今から仕事やめてくる」という響きはカジュアル過ぎて、このタイトルだけ見たら、昨今のお手軽な転職ブームを煽っているようにも思えます。でも、それは心身が健康な健常者に限った話。ブラック企業に当たったら、話は別です。

今やブラック企業に限らず、どんな会社に所属していても、ちょっとした展開のアヤで偶発的に、つらく厳しい職場環境に遭遇し心身の不調をきたしてしまうリスクがあります。

そんな中、一番大切なのは自分の心身の健康であり、自分を支えてくれる周りの大切な人たちの存在です。自分自身のためにも、かけがえのない友人・家族のためにも、「ちょっと今から仕事やめてくる」くらいのスタンスでちょうどいいんだな、と実感させられた良作でした。

読んでいて、胸のすくような痛快なシーンもある、楽しくそしてちょっと切ないエンターテインメント小説です。働く全ての人にお勧め!

それではまた。
かるび 

名作ずらり!『円山応挙「写生」を超えて』展は日本画ファン必見の良い展覧会でした!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

この秋は、「速水御舟展」「禅-心をかたちに」「鈴木其一展」など日本画の大型展覧会が続いていますが、11月3日から根津美術館で始まった円山応挙展も非常に見応えのある展覧会でした。

f:id:hisatsugu79:20161106131758j:plain

以下、感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

僕が行ってきたのは11月5日(土)の午後14時すぎ。さすがに大規模展というわけではないので、入場制限がかかるほどではないですが、いつもの根津美術館に比べるとやはり混雑しています。余裕を持って出掛けたほうがよさそうですね。

展示点数はそれほど多くないですが、常設展、そして新コースのできた庭園の紅葉と合わせて堪能するなら、2時間は欲しいところです。

2.円山応挙と、今展覧会のコンセプトについて

f:id:hisatsugu79:20161106131302j:plain
(引用:Wikipediaより)

円山応挙(1733ー1795)は、18世紀後期に京都で活躍した日本画の巨匠です。この秋も京都の展覧会でブレイク中の伊藤若冲、文人画の巨匠池大雅、与謝蕪村らと同時に、江戸時代の京都画壇黄金期に活躍したスーパー絵師でした。30代後半で屏風絵の大作等のオーダーが殺到した京都人気No.1の絵師になり、亡くなるまで最前線で活躍し続けました。(ちなみに、若冲は当時、応挙に次いでずっと2位)

美術ファン以外にとっての円山応挙のイメージは、今年の「大妖怪展」でも出展されていた「幽霊画」だと思います。足のない幽霊画を初めて描いたのが応挙なのだとか。

返魂香之図(※今回未出展)
f:id:hisatsugu79:20161106153254j:plain
(引用:http://edo-g.com/blog/2016/06/ghost.html

ですが、幽霊画は彼の広大なレパートリーのうちの一つにすぎないのです。応挙の絵画の一番の特徴は、多彩な技法と精密な写生に支えられた超技巧的な花鳥画や山水画です。

また、写実に基づきつつも個性あふれる独自の作風を作り、弟子も多数育成して、現代の日本画壇まで延々と続く日本画の流派「円山派」を立ち上げました。

今回の展覧会は、根津美術館所蔵の重要文化財「藤花図屏風」をはじめ、国宝「雪雪松図屏風」や、「雲龍図屏風」など応挙の代表作と言える大作が出展される他、応挙の修行時代の試行錯誤やネタ帳、さらに出世作となった大作絵巻「七難七福図巻」まで、若手時代に遡って多彩な作品を収集展示しています。

3.必見の代表作と名作

特に、今回の展覧会では応挙の代表作がガッツリ展示されています。必見の作品をいくつかピックアップしてみました。

3-1.牡丹孔雀図(~11/27迄) 

f:id:hisatsugu79:20161106131218j:plain
(引用:http://userdisk.webry.biglobe.ne.jp/002/299/66/1/11579068721554281.jpg

応挙中期に描かれた傑作。圧倒的な写生に基づいて描きこまれています。まず、この絵の前で最低3分は立ち止まって細かく味わってみて下さい!

同世代に活躍した伊藤若冲と比較すると、細密的な描写では甲乙つけがたい同レベルですが、個性が全く違っていることが一目瞭然です。

参考:伊藤若冲「孔雀鳳凰図」と比較f:id:hisatsugu79:20161106144540j:plain

3-2.雲龍図屏風(11/29~)

f:id:hisatsugu79:20161106131156j:plainf:id:hisatsugu79:20161106131202j:plain
(引用:http://rootakashi.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/2-0cb7.html

迫力ある龍の姿を描いた屏風。元々は東寺観智院の所蔵で、仏教儀式に使用されました。京都の寺社の天井画等で描かれた古画を参考に、たらしこみやにじみ、ぼかしなどの水墨画の技術をふんだんに注ぎ込んでリアルに表現された「雲」や「空気」の表現が凄いです。

3-3.藤花図屏風

f:id:hisatsugu79:20161106131149j:plain(左隻のみ。引用:cinra.net)

根津美術館所蔵の重要文化財。金地の屏風に、「つけたて」という一筆書き手法で一気に即興的に幹を描き、その上で1枚1枚の花に青と紫、白の絵の具で彩色しています。複雑に絡み合う立体的な幹の造形と、光って見えるようなあざやかな藤の花がみどころです。

3-4.雪松図屏風(~11/27迄)

f:id:hisatsugu79:20161106131121j:plainf:id:hisatsugu79:20161106131127j:plain(引用:Naverまとめより)

 そして、この展覧会のハイライトというべき作品が、この国宝にも指定されている「雪松図屏風」。「円山派」として後続の絵師達に受け継がれた応挙独自の手法で、見事に3D的に松の立体感を表現しています。

っていうか、難しいことは抜きにして、目の前に立てばわかります。雪に煙る幻想的な巨大な松の独特の存在感に圧倒されますから・・・。これは国宝になるわけだ、、、と納得させられました。

3-5.龍門図(~11/27迄)

f:id:hisatsugu79:20161106131047j:plain
(引用:http://rootakashi.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/2-0cb7.html

竜門を登ることのできた鯉は竜になるという古代中国の故事「鯉の滝登り」から、立身出世を暗喩するおめでたいモチーフの絵画です。応挙は、複数枚このような「鯉図」を描いていますが、特にサイドの2匹の鯉の細密な写実描写と水流の様子が非常に印象的でした。

4.マニアックな音声ガイドが最高!

オッサンがたんたんと地味に喋るだけで、一切エンタメ性はないのですが、根津美術館の音声ガイドは最高にマニアックなのです。作品の解説だけでなく、付帯的な情報までえんえんと長く喋り続け、「ん?まだ喋るの?」っていうくらい、1つ1つの解説が充実した「やりすぎ」解説が聴き応え抜群。

常設展の解説も合わせて聴けるので、応挙展の音声ガイドは絶対借りたほうがいいと思います!

5.その他注目したい作品

5-1.七難七福図巻

f:id:hisatsugu79:20161106130849j:plain
(引用:http://webun.jp/item/7119565

応挙が京都画壇で大きく注目されるきっかけとなった出世作。円満寺の住職のオーダーを受けて、「仁王経」の内容を長大な絵巻物にして3年をかけて制作しました。この絵巻の制作過程で、さまざまな表現方法を確立していったようです。

展覧会では、3Fの別室1室全部を使って展示されており、非常に見応えがありました。天獄だけでなく、地獄的な風景も描かれていて、わりと血がドバドバ出ていたりグロい表現もありました・・・。

5-2.四条河原夕涼み図

f:id:hisatsugu79:20161106130843j:plain
(引用:http://webun.jp/item/7119565

応挙が10代半ばから勤めた玩具商時代の作品で、今回の展覧会前に新たに発見されたそうです。「覗き眼鏡」という一種の写真装置を通して見えた立体的な画像を西洋から入ってきた遠近法の手法などを用いて描いた、「眼鏡絵」というジャンルです。京都の夏の夜、夕涼みに鴨川に集まってきた民衆を描いた作品で、一見して「これ本当に応挙?」と見入ってしまいました。

ちなみに、使われた写真装置はこんな感じだったみたいです。

覗き眼鏡(※今回未出展)
f:id:hisatsugu79:20161106152555j:plain
(引用:http://www.geocities.jp/sakushiart/nihon/822_2.JPG

 

6.まとめ

出品点数は全部で47点と少ないですが、大物の作品や貴重な研究資料が一通り揃った良い回顧展だと思います。応挙の代表作品をまとめて一気に見ることができる素晴らしい展覧会でした。僕も、後期に「雲龍図」を堪能しに、もう一度行ってきたいと思います。 

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

国宝や重要文化財がバリバリ出てくる円山応挙展は展示期間が短く、展示替えもあります。是非会期を逃さず、足を運んでみて下さい。

展覧会名:『円山応挙-「写生」を超えて』展
会期:2016年11月3日~12月18日
【前期】11月3日~11月27日
【後期】11月29日~12月18日
会場:根津美術館
公式HP:http://www.nezu-muse.or.jp/
Twitter:https://twitter.com/nezumuseum

参考図書など

最近展覧会があるたびに記事を書くために利用させてもらっていますが、豊富な図版なのにこの薄さと軽さは手放せませんね。応挙の画業全般をコンパクトに振り返ることができる良い本です。

今回出展されている有力作品のほぼ全部が掲載されています。解説の量もぶっちゃけ公式図録よりも充実しています(笑)図録よりこっちのほうがお勧めかも。

試写会感想「VR ミッション:25」:低予算映画だけど着想とラストは良かった

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

f:id:hisatsugu79:20161108011448j:plain

本日、ヴァーチャル・リアリティから着想を得た「VRミッション:25」の試写会@北とぴあに当選したので、行ってきました。海外ではいくつかの国で公開済みです。ネット上の評判はかなり低評価だったのでどうなのか心配でしたが、せっかく当選したので張り切って行ってきました。公開前なので、ネタバレ無しで感想を書いてみたいと思います。

1.映画の基本情報

【監督】チャールズ・バーカー
【公式】映画「VR ミッション:25」公式サイト
【Twitter】VR ミッション:25 (@vrmission25) | Twitter

2.主要登場人物とキャスト

f:id:hisatsugu79:20161108010735j:plain
(引用:オフィシャル予告編より)

いずれも聞いたことのない無名の俳優さんでしたが、黒人、アラブ系、東欧系、女性キャラなど、様々な人種で構成されています。ヴァーチャル・リアリティの脱出ゲームに巻き込まれるプレーヤーの8人については、オンライン上のハンドルネームで呼ばれるので、いちおうセットで書いておきますね。

Max Deacon:カール (Soxx_1)
Morfydd Clark:シェリー(Mustang67)
Ali Cook :エドワード (Da_Chief)
Parker Sawyer:アンドレ (Str8_Shoot3r)
Tom Benedict Knight:マルコ (xxAtla5xx)
Boris Ler :ザヒド (T3rrorist#1)
Douggie McMeekin:アダム (Reap3r_2000)
Adriana Randall:テイラー (SlayerGirl)

3.簡単なあらすじ(ネタバレ無し)

世界中の上級オンラインゲーマー達に届いた、新型ヴァーチャル・リアリティ(以下VRと省略)ゲームの秘密のベータ版テストへの招待状。これに応じて、ニューヨークのとあるビルの25階に集められた8人のオンラインゲーマーたち。

部屋に入り、ガイド音声に従ってモーション・キャプチャースーツを着込み、ヘルメットのバイザーを下ろすと、そこは本物そっくりの超リアルな仮想空間でシューティング・アクションゲームのフィールドが広がっていた。

f:id:hisatsugu79:20161108011100j:plain
(引用:オフィシャル予告編より)

そこにやってきたVRゲーム内の鬼軍曹から、ゲーム開始の説明がある。「館内に入り込んだロシアのテロリストを倒し、ビルから脱出せよ。」ナイフや機関銃、手榴弾が与えられ、そのリアルな質感に興奮覚めやらぬ中、喜々としてゲームをはじめる8人。しかし、敵から被弾した際の痛みやケガはゲーム中だけのものでなく、リアルとも連動する設定であることがわかってくる。すなわち、戦闘中、敵から撃たれてゲーム中で死亡すれば、現実でも死んでしまうのだ。

スーツを脱いで逃げ出そうとするも、スーツは固く体に固定され、しかもビル内は密閉されて、ゲーム中では鬼軍曹が見張っている。何者かの仕掛けたワナであることに気づき、戦慄する8人。しかし、ゲーム内のミッションを完遂し、クリアすることでしか抜け出せないことを悟り、命がけの恐怖のVRゲームが始まるのであった・・・。

スポンサーリンク

 

4.映画の感想やみどころ

4-1.随所で「低予算映画」とわかってしまう・・・

試写会が当たってから慌てて真面目に調べたところ、今作はハリウッドものではなく、イギリス映画でした。でも舞台はニューヨークなので、主要キャスト9人は、いずれもアメリカ人か、イギリス訛りを矯正したイギリス人の俳優でしょうか?

そして、俳優さんはいずれも聞いたことのない無名の新人クラスであり、監督も今作が初めてに近いキャリアであるとのこと。

映画中でも、窓の外にヘリコプターが少し飛来するくらいのもので、派手な爆発やカーチェイス、特撮シーンなどもありません。ビルのスタート地点である25階から、1階ずつフロアを下りながら、敵を倒しつつ館内からの脱出を図るという、あぁ、低予算映画なんだな、っていうのがわかっちゃう感じ。

f:id:hisatsugu79:20161108011228j:plain(引用:海外版予告より)

ちなみに、本国イギリスをはじめ、海外での公開タイトルは、「The Call Up」といい、和訳すると、「招集」とか「徴兵」、また、コンピュータのディスプレイへの「呼び出し」という意味もあり、英語の原題のほうがしっくりくるような。日本公開タイトルの「VRミッション:25」にわざわざ変えなくても良かったんじゃないかなぁと思います。

この「25」っていう数字は、殺人ゲームへ招待された8人がビル内でのゲームをスタートするフロアが25階であることや、ゲーム内のミッションの回数を指しているんだけど、ちょっと弱いかもしれないです。

4-2.他のSF作品との類似性が結構指摘されている

この映画では、ヴァーチャルへ完全没入し、ヴァーチャルゲーム上での五感やダメージが、リアルの肉体にも反映されるという設定を前提として、ストーリーが進んでいきます。

こちらのレビューでも指摘されていましたが、VR専用のスーツを来て仮想現実空間でリアルなサバイバルゲームが始まるのが、「GANTZ」の世界観と非常に似ているんですよね。

また、AR(拡張現実)上でファンタジックなストーリーが展開するアニメやゲームなどのシリーズ「ソードアート・オンライン」にもコンセプトが似ているかも。

あまり書くとネタバレになってしまいますが、ストーリーが進行するにつれ、8人全員が生き残れるわけではありません。仮想空間上で敵に倒されたり、究極の非日常空間下で仲間割れの結果互いに殺し合った仲間たちが、ひとり、またひとりと死んでいくサバイバルゲームでもあるわけで、そのあたりの命の軽さは「バトル・ロワイヤル」「王様ゲーム」を想起させました。

4-3.ゲームバランスはかなり難易度が高いように思う

用意されたVRゲームでは、25Fからワンフロアずつ戦闘があり、1Fの出口を目指して見えないテロリスト達と戦うのですが、ゲームをワンフロアずつクリアして、次のフロアに着くと、武器や回復用のポーションが部屋に置いてあるのです。

このあたりの設定は、良くも悪くも主人公たちがゲーム空間に確かにいるんだ、というリアリティを上手く醸成するナイスアイデアだと思いましたが、ちょっとバランスが悪くないでしょうか?

武器弾薬はふんだんに用意され、敵と戦う際の弾切れは心配の必要がないのに、被弾した際の回復用ポーション(注射器状の容器に入っている)が少なすぎなんじゃないかと思います。死んだらコンティニューできないんだから、もうちょっと用意しといてやれよと・・・。

4-4.心理描写はやや弱め

基本的には、上記で説明した通り、超リアルな仮想空間で展開される脱出サバイバルアクション映画なわけですが、アクション面は、設定が面白いため結構楽しめます。単調に戦うだけでなく、あれこれと仕掛けが用意されているため、戦闘シーンはハラハラして面白かった。ゲーム音楽のような劇伴も効果的でした。

その反面、心理描写がやや弱かったと思います。

90分と非常にコンパクトに収められた映画の中で、VRゲームに参加した8人のキャラクターのまず顔と名前が一致しない(笑)しかも、後半からハンドルネームと本名の両方が入り乱れるのは辟易しました。

家でせんべい食べながらDVD見てるんだったら巻き戻してチェックできますが、映画館ではそうは行きません。「誰がやったんだ!」「アトラスか!」とか言われても、えーと、アトラスって誰だったっけ?みたいな。(僕が頭悪いだけかもしれませんが^_^;)

また、ゲーム内では、否応なく全員が生き残るために見えない敵と強制的に戦わされるその極限状態での恐怖心が引き起こす様々な心理的反応が見どころ・・・のはずです。

たとえば、途中で抜け駆けしようとしたキャラクターと回復ポーションや武器の取り合いで仲違いしたり、自己犠牲を払っても仲間のためにポーションを回してやったり、こんなはずじゃなかった~とうろたえる奴がいたり。

戦闘の合間合間でこういった極限状況下での8人それぞれの心理状態が描かれていきますが、扱う人数の多さや、俳優の演技力がもう一つなことから、ややステレオタイプな感じに見えてしまいました。尺が短い中、8人もの大人数を丁寧に描き分けるのはやっぱりムリでしょ・・・。

4-5.ラストは秀逸

そして、ゲームが終わったラストはひねってあって良かったです。ハッピーエンドではなかったけれど、よく工夫され練り込まれたエンディングは、痛快で意外性のある面白い終わり方でした。

なんとなくどこかで既視感がある途中の展開に中だるみしたけれど、最後のシーンでぴしっと締まって、見終わった後の感想は「うん、まぁまぁだったかな」とそれなりに良い感触で家路につくことができました。

5.まとめ

IMDbや、Rotten Tomatoesなど、海外の大手映画レビューサイトでの評判がかなり悪いためか、公開される映画館が極端に少くやや寂しい状況です。(特に東北地方は放映館数ゼロ)VRゲームを元に着想したアイデアや、エンディングのひねりは、低予算ながらちゃんとした娯楽作品として鑑賞に耐えうる出来だと思います。個人的には、満足しました。

それではまた。
かるび

映画『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』の感想とネタバレ解説/トム・クルーズが好きな人にはお薦め!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

トム・クルーズの新作「ジャック・リーチャー Never Go Back/ネバ・ゴー・バック」を見てきました。個人的には結構好きな俳優なので、事前のアメリカ大手レビューサイト等の評価が厳しいものの、初日から気合を入れてみてきました。

f:id:hisatsugu79:20161111182833j:plain

個人的には結構楽しめましたので、以下感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、ネタバレ部分を含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

【監督】
エドワード・ズウィック(「ラスト・サムライ」)
【制作】
クリストファー・マッカリー
ドン・グレンジャー
トム・クルーズ
【原作】
リー・チャイルド(「ジャックリーチャー・シリーズ」)

2.主要登場人物とキャスト

f:id:hisatsugu79:20161111182811j:plain

今回の主役は、トム・クルーズと女性2名。海外のレビューサイトでは、即席の親子ものロードムービーだと書いていますが、言い得て妙かも。本作では、この3人が協力しあって敵に立ち向かっていきます。

ジャック・リーチャー(トム・クルーズ)
無頼な元憲兵少佐。今はヒッチハイクで自由奔放は放浪生活を送っている。

ターナー少佐(コビー・スマルダーズ)
リーチャーの憲兵時代の元同僚。アフガニスタンで部下を二人不可解な殺され方をしたその調査報告がきっかけで、逮捕拘禁されてしまう。

サマンサ(ダニカ・ヤロシュ)
母親がリーチャーに対して起こした訴訟によりリーチャーの娘ではないかとされる15歳の少女。万引きが得意。

3.映画のみどころ(※ネタバレ無し)

本作は、シナリオは複雑ですが、ストーリー展開はわりと一本調子で謎解き的な面白さよりもどちらかというとスピード感やアクション重視。トム・クルーズと仲間たちのアクションやめまぐるしいチェイスシーンを楽しめれば、満足度が上がると思います。

トム・クルーズの体を張ったクールなアクション

トム・クルーズ自ら制作に深くタッチし、極力スタントマンを使わず自分自身でアクションをこなしています。前作「アウトロー」に比べると格段にスピード感が上がり、謎解きよりもアクションシーンの比率が高まっているので、トム・クルーズのファンは必見だと思います。

連携プレーで敵を倒すシーン

今作はターナー少佐とサマンサのダブルヒロイン体制です。(というか擬似/即席親子ロードムービーという見立ても)特に、元憲兵でリーチャーと同僚だったターナーは、守ってもらうだけのヒロインではなく、自ら激しいアクションでリーチャーと連携して敵に挑んでいきます。

最初は息が合わず、言い争いもあった二人が、共に戦ううちにうまく連携できるようになっていくのも見どころです。そして、最終シーンではサマンサも頑張りますよ。

---以降、ネタバレあり注意---

---以降、ネタバレあり注意---

---以降、ネタバレあり注意---

---以降、ネタバレあり注意---

---以降、ネタバレあり注意---

スポンサーリンク

 

4.あらすじ(※ネタバレ有注意)

f:id:hisatsugu79:20161111181840j:plain

数人の人々がレストランの外に集まっていた。現場に到着した警察が、4人の男が倒れている現場を確認する。目撃者は、食堂に座っている男がものの数秒でやっつけてしまったと証言。そこへ踏み込んでいく地元の保安官達。

f:id:hisatsugu79:20161111181453j:plain

レイモンド・ウッド保安官と彼の部下は、顔に返り血のようなものがついたジャック・リーチャー(トム・クルーズ)がレストランのカウンターに座っているを見つけて、彼に尋問を開始する。ウッドはリーチャーに手錠をして、連行しようとするが、リーチャーは「90秒以内に電話が鳴り、憲兵が来てウッドを逮捕する」と予言。すると、本当に電話がかかってきて、ウッド保安官が汚職の疑いで連行された。軍事基地の不法入国社の人身売買での罪で、軍事警察に逮捕されたのだ。現場を去り、ヒッチハイクで雨の中モーテルへ宿泊するリーチャー。

その後、リーチャーはウッド逮捕に協力した、憲兵隊時代の同僚、スーザン・ターナー少佐(コビー・スマルダーズ)と電話で話をした。彼女は、軍にいた時にリーチャーの窮地を救ってくれた信頼のおける同僚で、お互いに密かに好意を持っていた。二人は、1週間以内にワシントンDCのターナーのオフィスで会う約束をした。

f:id:hisatsugu79:20161111181900j:plain

ワシントンに着いたリーチャーは軍本部へ。ターナーの部屋へ案内されると、そこにはターナーの代わりにモーガン大佐が座っていた。モーガンは、ターナー少佐が秘密漏洩の疑いで逮捕されたとリーチャーに告げる。リーチャーは、リーチ軍曹に話しかけ、ターナーの容疑を晴らせる弁護士がいないか尋ねる。

リーチャーは、ダイヤー基地でモアクロフト大佐を見つけ出し、ターナーへの面会と、彼にターナー少佐の拘束を解いて、外に出してくれるようにリクエストする。モアクロフトはこれを断る。リーチャーがキャンディス・ダトンという名前の女との間にできた子供の父親であるという、軍に対して起こされた親権訴訟が持ち上がっている事実を告げる。

f:id:hisatsugu79:20161111181558j:plain

モアクロフトから渡された子供、サマンサの写真を店でチェックするリーチャー。その時、店の外にあとをつけてきている車に乗った二人組の男に気づいたリーチャーは、男たちをぶちのめす。男のIDカードを探ると、「パラソース社」と書いてあった。そして、二人組のボス(原作では「The Hunter」と呼ばれていたが、字幕版では特に呼び名がなかったため、ここでは便宜的に「ハンター」とする)である「ハンター」という名前で知られる男にもつけられていた。

リーチャーは彼の娘とされるサマンサの後を追い、食料品店でサマンサが万引きをする所を目撃。店を出て、サマンサに、キャンディスの娘なのか問い詰めるリーチャー。サマンサは、キャンディスが以前売春婦だったので、また母を買おうと近づいてきたのだと勘違いし、リーチャーから立ち去る。

f:id:hisatsugu79:20161111181744j:plain

別の日、モアクロフトは、リーチャーにチベリミルコビッチというターナー少佐の部下で、タリバン掃討作戦でアフガニスタンに従軍し、近距離射撃で友軍から殺害された疑いがある二人の憲兵についてのファイルを与える。ターナーは、本件をちょうど調査中だったという。

ハンターは情報を漏洩したモアクロフトを彼の自宅で見つけ出し、リーチャーに情報提供した件で、彼を残酷に殴打した挙句、これ以上の口封じと見せしめのため、殺害してしまう。

翌日、リーチャーは再び軍本部に呼び出される。サリバン弁護士エスピン大尉とともに、モーガンから、モアクロフトを自宅で殺した容疑で尋問される。罠だと気づいたリーチャーが黙秘権を行使しようとするも、その場で軍法を特別適用され逮捕・拘束されてしまうリーチャー。

リーチャーは、拘束されダイヤー基地の独房へ向かう時、数人の男が、ターナーとリーチャーを殺そうと留置所へやってきたことに感づく。彼はサリバン弁護士にサンドイッチを持ってこさせ、そのすきにエスピン大尉を気絶させ、彼の制服を奪い、ターナーの独房へ入っていく。

f:id:hisatsugu79:20161111182002j:plain

まさに、男たちがターナーを殺そうとしていたときだった。リーチャーは全員をぶちのめし、ターナーを外へ逃がす。彼らはすぐにみつかり、他の護衛達に追いかけられる。ターナーとリーチャーは、パトカーを奪って逃げ出す。

f:id:hisatsugu79:20161111181801j:plain

ハンターも二人を追いかけ、レストランの厨房で激しく戦闘する。ターナーとリーチャーの息があわず、ハンターにやられかけたところへ、地元の警察官が来て、ハンターを追い詰める。そのすきにターナーとリーチャーは裏から逃げ出し、ハンターも警察官を殺害して、何食わぬ顔で現場を抜け出すのだった。

リーチャーとターナーはモーガン大佐がこの陰謀に加わっていることを悟り、翌朝モーガンの家に行き、モーガンからパラソース社とのつながりや、ターナーの調査ファイルを問い詰め、情報を引き出した。

その後、ハンターがモーガンの家に現れ、言い争った後、モーガンを電話機で殴り殺してしまう。そして、リーチャーの指紋が電話機に残っていたので、モーガンの殺害もリーチャーの犯罪とされてしまうのだった。

リーチャーはモーガンから応酬したデータを調べると、そのうちのいくつかはサマンサのものだった。彼はリーチへ連絡を取り、秘密裏にパラソースについて調べるよう依頼する。リーチは、リーチャーにモーガンが殺されたことと、リーチャーの指紋が電話機から見つかったと告げた。彼とターナーがサマンサの危険を察知し、サマンサの育ての親の家に行くと、すでに育ての親が暗殺者達に殺されたあとだった。

部屋中を探す二人。と、その時、隠れていたサマンサがキッチンシンクの下から半狂乱で出てきた。落ち着かせ、彼女を連れ出すことに。

リーチャーとターナーはサマンサをターナーの母校であるペンブローク学校へと連れて行き、そこで一時的な保護を依頼する。しかし、サマンサが電話を取り出し、メールチェックをしたことで、サマンサの居場所をハンターにつきとめられてしまう。二人はサマンサを連れ出し、サマンサの携帯電話を捨て、その場を急いで立ち去る。

リーチャーはリーチ軍曹からの調査報告の電話を受け、そこでダニエル・プルドムと名乗る男についての情報を得た。アフガニスタンのスペシャリストで、チベリとミルコビッチが殺害される場に居合わせた目撃者であるという。また、リーチからパラソース社が私設軍事会社で、アフガニスタンにて武器の密売を行っていた調査報告を聞く。

現場の唯一の目撃者であるプルドムと面会するため、ニューオーリンズに向かうリーチャー達。サマンサが学校で学生から盗んだクレジットカードでチケットを購入するのだった。

飛行機の中で、リーチャーはハンターの部下を見つけ出し、彼らを殴って意識不明にさせ、彼らの携帯電話から情報を取り出す。リーチャーは眠ったふりをして、サマンサがターナーに彼女の父親がどんなだったのか話しているところを目をつぶって聴いていた。

空港に到着すると、ハンターはリーチャー達をみつけ、空港内で激しく追いかけるが、リーチャー達はこれを振り切った。

ニューオーリンズにて、サマンサは何が起こっているのか二人に説明を求める。リーチャーはサマンサの母親から、親権訴訟を起こされており、彼が彼女の父親であるかもしれないと告げ、そのために彼女がリーチャー、ターナーと同じように追われていることを告げた。

リーチャーは、まずプルドームの妻から、プルドムが麻薬中毒になっていることを聞き出す。翌朝、リーチャーとターナーは、スラム街の廃ビルでプルドームを見つけ、尋問をした。

f:id:hisatsugu79:20161111181722j:plain

アフガニスタンで武器弾薬の監視係だったプルドムは、パラソース社から賄賂をもらい、武器弾薬をパラソース社経由で地元の武装集団に横流しをしていた。ある日、パラソース社と値段でもめたプルドームは、突然テロリストたちから襲撃を受ける。事態を把握した憲兵隊にいたチベリとミルコビッチが調査中、彼らはプルドムの見ている前で、至近距離からハンターに殺されてしまう。恐ろしくなって現場から逃走したプルドムは命だけは助かったが、帰国後にアフガニスタンで手を出した麻薬中毒になってしまったという。

リーチャーとターナーはエスピン大尉とコンタクトを取り、彼をプルドムと対面させ、事実を話させる。話に納得したエスピンがプルドムを連行しようとしたところ、そこでハンターたちと戦闘になる。エスピンは足を撃たれ、プルドムはそこで殺害されてしまう。リーチャーとエスピン大尉はハンターたちと戦い、なんとかその場を凌ぐと、エスピンを守り、脱出。その足で、パラソース社の武器横流しの証拠を押さえるため、空港へと直行する。

空港で荷物を改めると、武器自体は横流しされていなかったが、武器の中に大麻が入っていた。これが現在のパラソース社の資金源であると判明。そして、黒幕であるパラソース社のCEOでもあるハークネス将軍がその場で逮捕される。

ハンターたちは、一方で、再びルームサービスをオーダーするためホテルでカードを使おうとしたサマンサの居場所を逆探知し、現場のホテルを襲撃。サマンサは懸命にハロウィン・パレードの人並みに隠れて逃げる。

リーチャーとターナーはホテルに急行し、サマンサの居場所を探す。そして、ついにハンターが先にサマンサを捕まえ、リーチャーに銃を捨てないとサマンサを殺すと威嚇する。リーチャーが銃を捨てたそのすきに、サマンサはハンターの銃をつかみ、リーチャーがそこへタックルした。リーチャーとハンターは、殴り合いになり、最後にはリーチャーがハンターをKOし、殺してしまう。 

f:id:hisatsugu79:20161111183414j:plain

ターナーは無実が証明され、旧ポジションである少佐へと戻った。ターナーとリーチャーは、また別の日にディナーの約束をする。

サマンサは、リーチャーを食堂で見つけ出す。リーチャーは彼女が本当の娘かどうか真相を突き止めようとしていた。食堂の外で母とリーチャーのやり取りを見ていたサマンサは、リーチャーが本当の父親ではないことを悟る。ぜなら、食堂でリーチャーのコーヒーを入れていたのはキャンディスで、二人は全くの知り合いではないことが明白だったから。

結局ペンブローク学校へ通うことになったサマンサは、リーチャーとハグし、別れ際に彼のポケットに携帯電話をそっと忍び入れた。

映画は、リーチャーが道路でヒッチハイクするところで終わる。彼は、サマンサからの電話でテキストメッセージを受け取る。「もう会いたい?」リーチャーは、それを見て、微笑しながらヒッチハイクを続けるのだった。

スポンサーリンク

 

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

なぜリーチャーに実父確定訴訟が起こされたのか?

サマンサの母親は、リーチャーの顔を知らなかったはずなのに、なぜ訴訟を起こすことが出来たのか?映画の中では説明されていませんでしたが、状況的には、サマンサの入れ知恵でキャンディスが心当たりのある適当な男を相手どって適当な訴訟を起こした時、モーガンが適当に名前だけ書き換えてリーチャーのケースをでっち上げたと推測できます。

なぜなら、最終シーンでリーチャーが立ち寄った食堂で働いていたサマンサの母親とリーチャーは全く顔見知りでなかったことがわかるからです。

モーガンによってリーチャーへの訴訟が捏造されたのは、実父確定訴訟でお金を払わせるより、面倒事をきらうリーチャーの性格を逆手に取って、ターナーの調査したパラそース社の事件から手を引けという圧力をかけるためだったとみなすのが自然だと思います。

パラソース社の正体とは?

パラソース社は、アフガニスタンのタリバン掃討作戦でも関与した民間軍事会社です。通常は、現地での兵站(補給)や要人警護、生活サービスなどを軍から請負い、活動していたと思われます。

政府からの大口契約を切られて、経営が苦しくなったパラソース社は、代わりにテロリストへの武器転売と、麻薬の密輸入で息を吹き返していたということですね。そして、パラソース社のCEOが空港で陣頭指揮をとって逮捕された間抜けなハークネス将軍です。たびたび湾岸戦争やイラク戦争などで問題視された、典型的な軍産複合体の癒着問題が、デフォルメして描かれたシナリオでした。

ターナーとリーチャーはなぜ逮捕されたのか

アフガニスタンで武器の横流しと麻薬の密輸を手がけていたパラソース社。ターナーは、ターナーの元部下、チベリとミルコビッチが近距離からパラソース社の暗殺者に殺害されたのではないかと軍内部で調査報告を提出したところ、その翌日にパラソース社と癒着していたターナーの上司、モーガン大佐に情報漏えいの疑いをでっちあげられて、ハメられて逮捕されたのでした。

ターナーを見張っていた暗殺者達は、ターナーに近づこうとするリーチャーを警戒し、リーチャーにも親権訴訟を捏造して遠ざけようとしましたが、それでも諦めないリーチャーに対して、モアクロフト殺害嫌疑をでっちあげて逮捕しようとしたのでした。

なぜ「ハンター」は雇い主が逮捕されてもリーチャーと対決したのか

それは、恐らく彼は軍に恨みを持つ、根っからの猟奇殺人者だったからだと思われます。まず、リーチャーにターナーの調査していた事件のファイルを渡しただけで、あっさり殴り殺します。彼を直接雇用した、「味方」であるモーガン大佐をも、リーチャーに脅されたとみるや、自己の保身とリーチャーをハメるため、電話機で殴り殺してしまいます。

さらに、黒幕のハークネス将軍が逮捕されて、彼にリーチャーを追い回す必要性がなくなったにも関わらず暴走し、サマンサを捕まえてリーチャーと対決しようとしました。

非常にクレバーで残忍な性格ですが、誰もかれも無差別に殺すわけではなく、軍人か元軍人のみを狙う点から、軍を退役した際に軍に特別な恨みを抱いていたのかもしれません。(そのあたりは掘り下げて描かれていなかった)

6.映画の感想・評価

アクション重視が希薄にした前作「アウトロー」での渋いヒーロー像

今作は、熟考する前に思いつきでリーチャーが動き、そして動けば動くほど、関わった人物が次々と死んでいく現実は、映画の緊迫感を高める効果はありましたが、リーチャーの「思慮深さ」や「元憲兵」という設定を台無しにしていたような。

前作は、動く前にもう少し熟考し、凄腕の元憲兵らしく、冴え渡る謎解きや推理の知的なコミュニケーションと、ラストでの圧巻なアクションシーンのバランスがちょうど良く、サバサバとした新しいアクションヒーロー像が新鮮でした。

今作は、アクションを重視するあまり、熟考する前に体が動くスタイルは、前作「アウトローで確立したコンセプトからずれてきているような気がしました。

そしてストーリーも破綻寸前に・・・

アクションとスピード感を最優先して作り込んだことで、ストーリーや細かい設定がおざなりになり、かなり現実感に欠ける展開に。飛行機内でのアクションや、ニューオーリンズ空港に下りてからのチェイス、そして荷物検査の現場にハークネス将軍が単身下りていってしらを切るシーンをはじめ、強引な舞台設定やリアリティに欠けるストーリー展開がやや目立ったかなという感じ。

パラソース社とつながっている悪役(モーガン大佐他)も、あまりにテンプレート的な悪役然とした演出からも、少し安っぽさが出てしまいましたね。

7.まとめ

ハイスピードでめまぐるしいアクション・シーンが印象的だった本作。ストーリーや設定、前作「アウトロー」で築いた世界観が半分壊れながらも、トム・クルーズのバトルシーンは見ごたえがありました。ストーリーはともかく、頭をからっぽにして、トム・クルーズがビシビシ敵を倒すアクションを楽しむ!と割り切って見ると、スカッと楽しめる娯楽作品です。

本作「ジャックリーチャーNEVER GO BACK」は、凄い傑作!というわけではないですが、個人的にはそんなに悪い印象はなかったです。ファンの人なら楽しめると思います。

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむための小説やガイドなど

原作は、リー・チャイルドによるジャック・リーチャーシリーズ第18作目「ネバ・ゴー・バック」。邦訳版が映画公開に合わせて上下巻で出版されました。原作はリーチャーが傷害と不貞行為の容疑で逮捕され、ニューオーリンズだけでなく色々なところへ飛んでいきます。映画とかなり違うオリジナルな展開がじっくり楽しめる長編です。

前作「アウトロー」。本作よりも戦闘シーンが少なく、リーチャーが地道に考察を重ねる謎解きや、自由奔放で無頼漢だけど正義感が強い「元憲兵」としてのリーチャーの人物像がよくにじみ出た良作。今作が気に入ったら、こちらもチェックしてみて下さいね。なお、AmazonPrimeビデオHulu(登録後2週間無料)のラインアップにも入っています。


【ネタバレ注意】映画『この世界の片隅に』の感想と解説/2016年No.1の最高の名作でした!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

話題のアニメ映画「この世界の片隅に」を見てきました。クラウドファンディングで制作費を賄い、改名後、女優として再起をかける「のん」が主人公のすず役を務めたことなど、口コミで話題になっている作品ですが、今年No.1と言えるほど本当にいい作品でした!

公開初日に見てきましたが、なんと終演後、シネコンなのに会場内からは拍手が!こんなの初めてなんですけど・・・。その後、パンフレット購入に長蛇の列ができるなど、お客さんの反応も抜群でした。

f:id:hisatsugu79:20161109160700j:plain

凄くいい作品なので、興奮醒めやらぬ中、以下感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、ネタバレ部分をかなり含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

【監督】片渕須直
【脚本】片渕須直
【原作】こうの史代(「夕凪の街 桜の国」
【音楽】コトリンゴ

映画作品では単館系作品、「マイマイ新子と千年の魔法」以来、メガホンを取るのが7年ぶりとなる片淵監督ですが、自らの企画発案により、私財も投じて数年がかりで完成にこぎつけた作品です。作品全体に漂う優しい雰囲気は、前作「マイマイ新子と千年の魔法」と変わらず、片渕監督の面目躍如でしょうか。

f:id:hisatsugu79:20161112071553j:plain

映画製作が費用面で行き詰まっていた2012年以降、クラウドファンディングに打って出たところ、目標2000万円はわずか9日間で達成、最終的に目標の倍額、4000万円弱と、国内最高金額が集まります。

思わぬ反響に手応えを感じ、予算も潤沢に集まったことから、本格的に製作委員会が立ち上がり、制作が急ピッチで進んでいきました。

2.主要登場人物とキャスト

北條すず(CV:のん)
本作の主人公。のんびりマイペースで、天然キャラ。誰からも好かれる憎めない性格で、北條家では控えめに振る舞う。
f:id:hisatsugu79:20161112072014j:plain

北條周作(CV:細谷佳正)
すずの夫。海軍の軍法会議所で録時として働いている。運動神経は鈍く、優しく温厚な性格。
f:id:hisatsugu79:20161112072036j:plain

黒村径子(CV:尾身美詞)
周作の姉で、旦那と死に別れて離縁し、子供の晴美とともに北條家へ戻ってくる。一人息子は下関の黒村家にいる。すずには厳しくあたりがち。
f:id:hisatsugu79:20161112072046j:plain

黒村晴美(CV:稲葉菜月)
径子の娘。径子とともに北條家へ来てから、すずになついている。別れた兄の影響で、軍艦に詳しい。
f:id:hisatsugu79:20161112072056j:plain

白木リン(CV:岩井七世)
呉の繁華街の遊郭で働く。すずが道に迷った際、すずに道案内して交流する。f:id:hisatsugu79:20161112072105j:plain 

スポンサーリンク

 

3.ラストまでの簡単なあらすじ(※ネタバレあり注意)

広島で3人兄弟(長男:要一、次女:すみ)の真ん中で、浦野家の長女として生まれ育った浦野すず(CV:のん)は、天真爛漫でおっちょこちょいだが、純粋さを失わず、素直に成長していく。小さい頃から叔母の家で座敷わらしと交流したり、街に出た時に人さらいおばけに出くわしたり、日常的に非現実的な出来事も多かった不思議系少女でもあった。

すずの特技は、絵を描くこと。中学の時、クラスのガキ大将で幼馴染だった水原哲(CV:小野大輔)の代わりに描いた海の風景が、(水原哲の名前で)絵画コンクールで受賞したこともあった。

そんなすずに転機が訪れたのは18歳の時。電車を乗り継いで広島から2時間程離れた呉の高台にある北條家の長男で、呉の軍事工廠で働く北條周作(CV:細谷佳正)からの指名で、嫁入りすることに。

f:id:hisatsugu79:20161112165308j:plain

右も左も分からない中、祝言を挙げ、北條家へ嫁いだすず。姑である周作の姉である径子(CV:尾身美詞)は性格からなのか、すずにきつく当たってくる。慣れない中、頭にハゲができたりもするが、夫、周作のサポートなどもあり、すずは持ち前の明るさで、徐々に北條家にとけこんでいく。

夫の死後、離縁して実家に帰ってきた径子の連れ子、晴美(CV:稲葉菜月)からはよくなつかれ、一緒に遊んだり、絵を描いたりと楽しく交流する毎日だった。

f:id:hisatsugu79:20161112165224j:plain

ある日、晴美が貴重な砂糖壺を水の中に流してしまったので、呉のヤミ市へ買いにでかけたすずは、その帰り道で道に迷ってしまう。そこで遊郭の白木リン(CV:岩井七世)とはじめて出会う。

別の日に、軍法会議所で働く周作と、町中でたまの夫婦水入らずの夕方を過ごしたすずは、周作から「やせた」と指摘され、妊娠の疑いから病院へ検診に行ったが、結局ただの夏バテによる体調不良だった。

昭和20年になると、いよいよ軍事基地がある呉にも空襲が頻発し、周作も家を3ヶ月間離れることになった。また、工廠で航空機エンジニアとして働く義父の円太郎(CV:牛山茂)も空襲で大ケガをして、町の病院に入院しているという。晴美を疎開させるため、切符を購入する待ち時間の間に、晴美を連れて円太郎の見舞いに出かけたすずだったが、その帰りに空襲に遭遇する。

すぐ近くの防空壕で晴美と難を逃れたが、空襲が終わって防空壕を出た時、不発弾が爆発し、晴美は死に、すずは絵を描くための大切な右手を失った。径子からは「人殺し」となじられ、さすがのすずも自分を責め自暴自棄になる。

7月に入ると、さらに戦況は悪化する。北條家にも焼夷弾が落ちたり、至近距離から機銃掃射による空襲を受けたり、常に命の危険にさらされながら、「帰りたい」と周作に訴えるなど、不安定な心のまま毎日をすごすすず。

そして8月6日の朝。径子から、「人殺し」と非難されたことについて謝罪を受け、思いがけなく優しい言葉をかけられ、心がほぐされたすずだったが、和んだのもつかの間。広島で原爆が落ち、ものすごい地響きとキノコ雲を見て不安になるすずだった。

そして、終戦。一家そろって玉音放送をラジオで聞いた北條家。「晴美・・・」と言って泣き崩れる径子。自宅裏の畑で泣き崩れたすず。終戦を区切りとして、その日、すずの義母、サン(CV:新谷真弓)はとっておきの白米を一家に振る舞った。

f:id:hisatsugu79:20161112165246j:plain

終戦後、進駐軍が占領を開始すると、軍で働いていた円太郎と周作はお役御免となり、自宅へと帰ってきた。浦野家では、原爆が落ちた日、母は即死、父は10月に病死。生きていたのは放射能の後遺症で寝込んでいたすみ(CV:潘めぐみ)だけだった。

また、幼馴染の哲も無事に帰還していたが、その後姿をみかけたが、すずは敢えて声をかけなかった。

年が明け、街のベンチに座って握り飯を食べながら周作と話をしていると、ヨーコという小さな身寄りのない女の子が近寄ってきた。握り飯をヨーコに分け与えるすず。そのまま、ヨーコは二人のあとをついてきた。北條家でヨーコが新しい家族として迎えられようとしていた。

スポンサーリンク

 

4.映画の見どころや感想(※ネタバレ含)

4-1.のん演じる「すず」が意外にもフィットしている

あまちゃんの時にみせた、本人の「地」を活かした天然系でふわっとしたあたたかみのある声色が、すずにぴったりはまっていました。声優としてのキャリアも初めてなので決して上手だとは言えないのですが、映画の世界観にぴったりの抜擢は、大当たりでした。

4-2.戦時中を描くも、牧歌的でファンタジックな情景

f:id:hisatsugu79:20161112165601j:plain

本作は、基本的に主人公すずを通して見えている世界を描き出した「私小説」に近い構成です。すずを通して見えた戦時中の風景や心情を描き出しているため、物語前半部分は、緊迫した戦時下でもどこか牧歌的でのんびりとした柔らかく優しい情景が広がっています。日常世界をどこか幻想的に映し出すパステル調のきれいな画像は必見。ふわっとした抑えめの色使いで彩られた画面に癒やされました。

4-3.徹底した考証に支えられた精緻な描き込み

すずの心の中を描写したような牧歌的なトーンで描かれる一方、描かれた内容は極めてリアルです。「公式ガイドブック」「公式アートブック」で制作の舞台裏が取材されていますが、戦時下の呉の街並みや人々の生活風景、空襲の日時、その被害状況、被災場所など、徹底的なロケハン(下見等の現地調査)とヒアリングにより再現されました。後半になるにつれ、至近距離で爆発する焼夷弾や、機銃掃射、防空壕の中での振動や原爆が落ちた瞬間の描写は、鳥肌が立つほどリアリティがあります。70年前の戦時中の日本の生活や風景は、まるで別世界のようでした。

4-4.厳しい戦時下でも日常生活を守ろうとする市井の人々

衣食住全てにおいて、配給制限や闇市での物資の高騰が生活を圧迫する中、人々が協力しあい、工夫して毎日の生活を少しでも充実させようと懸命に取り組むシーンが淡々と描かれるところに心を打たれました。

特に印象的なのは、北條家や浦野家の食事シーン。終戦が近づくに連れ、どんどん劣化する一方の食事内容でも、身を寄せ合うように一つのカマのご飯を頂くカット(もちろん、まずい時は皆まずそうな顔をする)が何度も繰り返し描かれます。

f:id:hisatsugu79:20161112165147j:plain

そして、戦後の進駐軍の炊き出しを手に入れた径子とすずが、どうみてもねこまんまにしか見えないゴミ入りの洋風の雑炊を、「おいしい~」と肩を寄せ合って食べるシーンは印象的でした。

4-5.ジワジワと来る、大切な人が亡くなっていく厳しい現実

本作では、戦争の厳しさやつらさ、残酷さだけに焦点を当てたステレオタイプな描き方を脱し、すずという「普通の」女性から見えた生活風景を淡々と精緻に描き出すことで、戦時中の厳しさが自然に際出つ演出が取られています。

そして、戦局が悪化するにつれて、大切な人との死別が日常風景になっていくと、物語は暗いトーンへと落ち込んでいきます。

幼少時に、幼馴染の水原の兄はすでに戦死しています。嫁入り後、便りが絶えていた出征中の兄は、戦死して浦野家に兄の遺骨が届きます。さらに、空襲が激しくなると、軍工廠で働いていた周作の父が生死に関わる大怪我をし、晴美も焼夷弾に当たって死亡します。同時に、すずも自らのアイデンティティに深く関わる、絵を描くための大切な右手を失います。

クライマックスは、8月6日の広島への原爆投下です。近所の刈谷さんの息子が自宅の前で座って亡くなっているシーン(しかも死が日常的すぎて親さえも気づいていない!)があり、すずの広島の実家の母は原爆で即死、父は10月に病死(恐らく放射線の影響による)しました。妹は原爆後遺症で寝たきりになりました。

戦局が悪化し、空襲が日常化するとともに、懸命に平静を保とうとするも徐々に壊されていく大切な家族や衣食住。物語中を通して、多くの人が戦争で傷つき、亡くなって行く残酷な展開が、あくまで「すずの生活感覚の中で」ニュートラルに描かれますが、ジワジワと染み入るように重苦しさが伝わってきました。

個人的にも、東日本大震災直後に実際に強く実感したことですが、大切な人が健在であり、何気ない毎日の生活を平凡に送ることができることが、どれだけかけがえのないことであるのか、それを教えてくれる映画でもありました。

4-6.70年前の、「結婚」から始まる恋愛像

f:id:hisatsugu79:20161112165108j:plain日常生活を描く一方で、この映画は、すずと周作の恋愛映画でもあります。すずは、見ず知らずの家に就職面接をするかのように北條家へ嫁入りします。好きかどうかも分からない中、徐々に周作に惹かれていくすず。

日常生活や苦楽をともに過ごす中で二人の関係が深くなり、本当の家族になっていくプロセスは、現代ではちょっとあり得ない展開でもあり、恋愛観ひとつ取っても、70年前と現代では全く違ってきているのだな、と感じさせられました。一つの見どころです。

4-7.空襲で利き腕を失ったすずの心の変化

片渕監督の制作インタビューに「すずさんという人は、小さな子どもの頃から家の仕事とか家事の手伝いとか、妹の面倒までいっぱいしてきて、どこか子どもとしての部分を発揮しきれなかった人なんじゃないか」とあります。

すずは幼少期からずっと、北條家へ嫁入りするまで、一貫して自分自身を抑えて慎ましく生きてきました。あるいは、思いを言葉で表現するのが不器用なため上手く自己主張できなかったのでしょう。満たされない思いや感情は、「絵を描く」ことで上手く昇華され、ある意味「絵」の中に自分の居場所を見出していました。

f:id:hisatsugu79:20161112165835j:plain

空襲で利き手を失い、それまで北條家の嫁として家族の世話をする一方だったすずは、一転して世話をされる立場へと変わり、さらに「絵」に自分の感情のはけ口を求めることもできなくなります。

手を失ったことで、すずはようやく声に出して自分の思いを周りに伝え始めます。逆らったことのなかった夫と口げんかをしたり、姑の径子に甘えたり。「絵」を描くための大事な片腕を失うという大きな代償は払いましたが、タイトル通り「この世界の片隅」にしっかりと自分の居場所を作れたのではないでしょうか。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ注意)

5-1.新婚初夜について祖母イトからの「傘」のアドバイスって何だったの?

嫁入り前に、浦野家で祖母のイトが、新婚初夜に婿から「傘を1本持ってきたか」と聞かれたら、「新なのを1本持ってきました」と答え、「差してもええかいの」と言われたら「はい」と答えるようにすずにアドバイスしていました。

これは、通過儀礼として新婚初夜に夫婦が交わすテンプレート的なまくら言葉だと解釈するのが自然だと思います。

民俗学で有名なのが「柿の木問答」というやり取りがあり、九州~東北地方で昭和初期にはこんな初夜のかけあいがあったそうです。

男「あんたとこに柿の木あるの」
女「あります」
男「よく実がなりますか」
女「はい、よくなります」
男「わたしが上がって、ちぎってもよろしいか」
女「はい、どうぞちぎってください」

ちなみに、映画では、「新なのを・・・」とすずが答えたら、周作はその傘を使って干し柿を取って二人で食べましたね。想定と違う微笑ましい展開でしたが、ここでも柿が登場しており、祖母のイトがアドバイスした「傘」のやりとりは、この柿の木問答のバリエーションだとみなして良いと思われます。

5-2.座敷わらしの正体はリンだった

そうだ、とは明言はされていないのですが、マンガ原作や映画中のリンとの交流で挿入される思い出の一コマや映画のエンドロールで強く示唆されているように、幼少時、親戚の家に遊びに行き、昼寝をしている時に天井裏から出てきた座敷わらしは、リンだったと思われます。リンがすずに「芯ばかり食べていたけど、一度だけ女の子にスイカをもらって食べた」と語ったエピソードからもわかります。

5-3.広島で拾ってきた「ヨーコ」は家族の絆と戦後復興の象徴なのか

最終シーンで、広島の焼け跡で彷徨っていた浮浪者の「ヨーコ」(※映画では明らかにされませんでしたが、ノベライズ版で「ヨーコ」と名付けられています)に懐かれたすずと周平は、そのままヨーコを自宅に連れ帰ります。

エンドロールでは、少し成長したヨーコがすずから裁縫を教わり、すずと径子に赤い水玉柄のおそろいの服を作っていました。汚く裸同然の恰好で拾われたヨーコが成長し、モンペや着物ではなく「洋服」をプレゼントする様は、象徴的に戦後の日本の復興と重ね合ってみえました。

また、「ヨーコ」は皆にとって特別な存在にもなりました。子供ができないすずと周作にとっての子供であり、晴美を空襲で失った径子にとっての子供でもあり、さらに、すずにとっては、恵まれない幼少時代を過ごしたであろうリンの生まれ変わり、生き写し的な意味合いもあったと思われます。

家族や故人との大切な繋がりや、戦後の復興への希望を象徴する特別の存在として、マンガ原作にはない後日譚をエンドロールで付加的に描かれていたのは、非常に感慨深いものがありました。

6.ノベライズ版、マンガ原作との相違点(※随時追加、ネタバレ有注意)

ノベライズ版はマンガ原作と基本的には同じ内容です。そこから、2時間強の尺に収まるだけのコンテンツを厳選して映画が作られました。映画でのセリフなどはマンガ原作とほぼ全部同じですが、残念ながら惜しくも削られた部分もありました。ここでは、特に映画版にはなかったマンガオリジナルの伏線やサブストーリーを紹介したいと思います。

6-1.原作では、より複雑なリンと周作、すずの三角関係について

映画では省略されましたが、マンガ原作では、遊郭近くの海軍で働いていた周作が、すずと出会う前に遊郭でリンと出会い、熱を上げていた時期があったことが示唆されています。遊郭の女に情がうつり、そこから連れ出して妻に迎えるというのは江戸時代からよくあるパターンですが、さすがに家族の反対に遭うわけですね。

そこで、周作は、リンを諦めるその代わりとして小さい時に街で出会った「浦野すず」という女性なら結婚してもいい、と無理気味のリクエストを出しますが、伯父がすずを広島で見つけてきてしまい、祝言へと進んだのでした。

結婚後、祝言の仲人になってくれた伯父の小林家の疎開作業中に、みたこともない「りんどう柄」の茶碗が出てきます。そこから周作に過去の縁談話を聞いたすずは、その直前にリンが見せてくれた大学ノートの切れ端や「りんどう柄」という共通項、周作とデートした時の周作のセリフ「過ぎたこと、選ばんかった道、みな覚めて終わった夢と変わりはせんな」から、周作が過去結婚しようとしていた人物がリンであることを割り出したのでした。(そういうところは勘がいいすず)

6-2.遊郭の人々との交流

マンガ原作では、リンとは1回きりの関係ではなく、その後も何度か街に出た時に交流したり、周作が渡せなかった「りんどう柄」の茶碗を渡しに行ったりします。大空襲後、リンの勤めていた朝日遊郭へ行ってみたら、遊郭は廃墟になっており「りんどう柄」の茶碗のかけらが側に落ちていた描写から、リンは結局大空襲があった際に亡くなってしまったのだと思われます。

また、リンを訪ねた際、リン不在の時にテルという女性に会いますが、後日リンからテルの使っていた遺品の口紅をもらいます。以降、すずはこの口紅を非常に大切な機会に使っています。(長期で家を離れる周作を、朝見送る時とか)

7.まとめ

ここまで見てきたように、内容は素晴らしいです。日本人しか制作できない「戦争もの」ジャンル映画ですが、世界中の老若男女に幅広く受け入れられる訴求力を持っています。一般市井の普通の女性の視点から「日常生活のかけがえのなさ」という普遍的なテーマを扱い、政治的なイデオロギーや思想の色もありません。

公開前、「のん」の独立を巡る芸能界独特のしがらみから、テレビ等での十分なプロモーションが行き届いていたとは言えないですが、クラウドファンディングでネットの力で制作された本作は、ネットで口コミが広がって大ヒットしてほしいなと素直に思いました。

いい映画です。年末年始にじっくり味わって欲しい、心が震えるような名作でした。上映館数が少なめですが、文句なくお薦めです。

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむための小説やガイドなど

8-1.マンガ原作「この世界の片隅に」

映画を見て感動したなら、まず読んでほしいのがこうの史代による漫画原作版です。全3巻ですが、雰囲気や世界観は映画と共通な上、映画以上に伏線やサイドストーリーが充実しています。時代性や幻想的なやさしさを表現するため、マンガならではの多彩な表現方法が素晴らしいです。過去作品「夕凪の街 桜の国」と合わせてこうの史代の表現世界をたっぷり味わってみて下さい!

8-2.公式アートブック

「このマンガが凄い!」編集部によって制作されたムック本。アニメの制作過程や時代背景の詳細な説明、マンガ原作版の分析、設定資料集など、作品に多角的で深い解説が大盛りになった労作です。これは買って良かった!文句なくお薦め。

8-3.この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

もう一つのお薦めガイドブックがこちら。こちらは、映画製作の裏を総力取材した解説本です。ロケハン写真をはじめとする、膨大な制作資料やメイキングのプロセス、のんや監督、原作者のこうの史代などへのロング・インタビューも見どころ。こちらも値段以上の値打ちがありました。

8-4.ユリイカ

「この世界の片隅に」を始めとして、こうの史代の主要な作品を振り返り、映画についてのプロの文芸批評家たちの長文での徹底的なレビューが特集されています。マニアックかつ学術的な側面から作品を極めたい人にお薦め!

8-5.映画の公式ノベライズ版

映画、マンガに加え、公式ノベライズも出版されました。200ページ強と、ハンディな作品に仕上がっていますが、原作マンガに忠実な作品となっています。映像では捉えきれなかったストーリーや情景を、小説として「文字」でじっくりと消化することで、また違った味わいが出てきます。これもお薦め。

8-6.マイマイ新子と千年の魔法

片渕須直監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」(2009)も素晴らしい出来。上映時はほとんど興収もなかったマイナー作品でしたが、内容が良いです!DVDで後追いで見たのですが、やはり昭和の山陰地方を巡る牧歌的な心洗われる作品でした。こちらもお薦め!

展覧会ファン必見!「あなたが選ぶ展覧会2016」で今年No.1の展覧会を決めよう!!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

さて、今年も11月中旬。気がついたらすでに年末まで45日。あっというまに年末であります。ブロガーとしては1年間の活動のまとめ的なエントリをちらほらまとめていく時期となりました。

今年は、会社を退職したこともあって、個人的には美術展などの展覧会回りには非常に力を入れました。11月16日現在で、2016年度に回った美術展は、手元にチケットの半券が残っている展覧会だけで82展。一部マニアの方々にはまったく及びませんが、かなり頑張って回ったなーという印象です。

f:id:hisatsugu79:20161116182009j:plain

個人的には、12月にまとめエントリをアップしようと思っているのですが、せっかくなので自分のまとめだけじゃなくて、他の人はどうだったのかすごく気になります。

みんなで投票して決める「あなたが選ぶ展覧会2016」

ファンが選ぶ人気投票とかあるのかな~と思って探していたら、ありました!題して「あなたが選ぶ展覧会2016!」

f:id:hisatsugu79:20161116163909j:plain

みんなの投票で、今年一番の展覧会を決めよう!という、美術ファン目線でNo.1の展覧会を選ぶWebイベントです。主催者は、美術ブロガーの大御所2人、「青い日記帳」主催のTakさん(@Taktwi)と、「はろるど」主催のはろるどさん(@harold_1234)です。彼らの発案で、2015年からスタートして今回の企画が2回目となります。

投票の仕方

投票は、2回に分けて実施されます。まずは予選として、ベスト50を選出します。その中から、決戦投票としてNo.1を投票するスタイルです。

投票~結果発表までは、こんな感じになっています。

【STEP1:エントリー受付(1回目の投票)
今年見た展覧会で良かったものを、まず順位不同で最大5つ投票します。「あなたが選ぶ展覧会2016」の受付フォームからエントリーします。下記のリンクから飛べます。締切は11月25日まで!
1次投票ページ

 

【STEP2:ベスト50展の発表】
エントリーしていただいた数多の展覧会の中から、本選に進むことのできる上位50の展覧会が12月1日に発表されます。
こちらで発表予定

 

【STEP3:ベスト展覧会の投票】(2回目の投票)ベスト50に選ばれた展覧会の中から、さらに「これ!」という展覧会を選びます。この中から投票数がNo.1だった展覧会が、「あなたが選ぶ展覧会2016ベスト展覧会」となります。投票は12月1日(予定)から。

 

【STEP4:ベスト展覧会発表】
最終的な投票結果や投票で1位となった展覧会の発表は、年明けにライブでWebイベントが開催され、その場で発表される予定です。 このイベントで「あなたが選ぶ展覧会2016」が決定されます。イベントの日程などはエントリー発表の時に公表される予定です。楽しみ!

昨年の「あなたが選ぶ展覧会2015」ベスト3を紹介!

結果発表は、2017年初頭に、Webでライブ配信される予定です。

ところで、今年の投票前に、昨年度の「あなたが選ぶ展覧会2015」の録画アーカイブをYoutubeで聞いてみたんですが、これがめちゃくちゃ面白い!!

ファン目線で言いたい放題なトークは、勉強にもなるし、マニアックだし、毒舌全開だしで、楽しく一気に聞けてしまいました。Takさんの取り回しが上手なのは山種美術館などのブロガー内覧会で体験済みでしたが、はろるどさんの司会も安定感抜群で素晴らしい・・・。

そんな昨年度のベスト3なのですが、こんな感じでした!

第3位「春画展」

f:id:hisatsugu79:20161116175434j:plain(引用:「あなたが選ぶ展覧会2015」ベスト展覧会決定! - YouTube

はじめて開催された春画展。江戸時代の人気浮世絵師が普通の美人画や風景画以上に力を入れて取り組んだのが春画でした。通常博物館や美術館では収蔵されない「春画」のクオリティの高さと歴史的な意義から、3位に選ばれました。

第2位「マグリット展」

f:id:hisatsugu79:20161116175441j:plain(引用:「あなたが選ぶ展覧会2015」ベスト展覧会決定! - YouTube

シュルレアリスムの大御所ですね。だまし絵的な「遊び」の要素がたっぷりあって、不思議な面白さが人気を呼びました。今年のダリ展もものすごい大人気でしたね!

第1位「グエルチーノ展」

f:id:hisatsugu79:20161116175530j:plain(引用:「あなたが選ぶ展覧会2015」ベスト展覧会決定! - YouTube

日本ではまだ馴染みがないイタリアのバロック期に活躍したグエルチーノの回顧展が大人気でした。2016年も、これに続くバロック期の雄、カラヴァッジョ展も大好評でしたね。

1位になった展覧会の主催者の表彰もちゃんとやります!

f:id:hisatsugu79:20161116180445p:plain
(引用:あなたが選ぶ展覧会 | 弐代目・青い日記帳

これが、制作された記念品。見事、1位になった「グエルチーノ展」の主催者、国立西洋美術館へ行ってささやかな表彰セレモニーが開かれました。2016年度はどの展覧会になるんでしょうか?

f:id:hisatsugu79:20161116180541p:plain
(引用:あなたが選ぶ展覧会 | 弐代目・青い日記帳

まとめ

人々の趣味嗜好が拡散して、ヒット商品が出づらくなっている中、美術展をはじめとする展覧会の開催数や動員数は、ここ10年ほど一貫して伸びているといいます。

展覧会ファンが、自分たちで投票してNo.1を決めるイベント「あなたが選ぶ展覧会2016」、非常に面白い試みだと思います。

【あなたが選ぶ展覧会2016公式】
http://arttalk.tokyo/

僕も、1次投票はすでに済ませました。みなさんも、興味があれば是非!

それではまた。
かるび

知識ゼロでも心から楽しめる、絶対面白いおすすめの将棋マンガ15選!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。
f:id:hisatsugu79:20161117003010p:plain

11月19日より、故・村山聖9段をモデルにした話題の映画「聖の青春」が公開されます。原作「聖の青春」を読了し、運良く試写会が当たったので行ってきたのですが、すごくいい映画でした。

最近は、「観る将」と言って、誰かと対戦するよりも、有名トッププロ達のタイトル戦などを「見る」のを楽しみにしているファンも多いと聞きます。僕の場合は、見るのもやるのも引退して、もっぱら「読む将」なのです。将棋関連のマンガや小説、最近だとライトノベルなど、見かけたら片っ端から購入して読んでいます。

3月のライオンのアニメ化、実写映画、そして人工知能(AI)との攻防が佳境を迎え、今、非常に熱い将棋界。ちょうど良いタイミングなので、本エントリでは、将棋の知識ゼロでも楽しめる「読む将棋」として、オススメの将棋漫画を紹介したいと思います。

いっぱいあるので、「絶対読んで欲しい特選3作」と「自信を持っておすすめできる佳作12点」に分けて紹介してみたいと思います。

1.絶対読んで欲しいおすすめの将棋マンガ特選3作

面白い作品はいっぱいあるのですが、特に僕がお気に入りの将棋漫画を3つ上げるとするならばこれかな、というのをまず「特選」として選んでみました。

1-1.3月のライオン

とりあえず何はなくともこれでしょう!個性豊かな将棋棋士の人間模様とあたたかい家族愛がテーマの、読むと不思議と幸せな気持ちになれる大ヒット作。モデルとなる月島の叙情的な下町風景や隅田川のある風景も大好きです。2016年10月からアニメ放送が始まり、さらに2017年3月、4月に前後編での実写映画も決まるなど、マニアにとどまらず幅広い層のファンに支えられる羽海野チカの代表作になりましたね。

1-2.月下の棋士

1990年代~2000年代初頭にかけて、大人気だった全32巻の長編。実際の棋士をモデルにやりすぎなくらいユニークな棋士たちの真剣勝負を描いた作品。特に昭和の棋士(大山康晴、升田幸三、米長邦雄ら)をモデルに描かれたキャラクターの描写は、No.1だと思います。

「次回、詰むや詰まざるや」といった名言や、吐血したり対局中に死亡したりと強烈なシーンもたくさんありました。中学生~高校生の時に毎週スピリッツで読むのが楽しみだった個人的に思い入れのある作品。

1-3.或るアホウの一生


プロ棋士の登竜門「奨励会」で奮闘する若者達を描いた青春群像劇。描かれる何名かの若手棋士たちは、決して羽生のようなチート的な天才肌でもなく、かといって村山みたいな圧倒的な個性があるわけじゃないですし、絵もそんなに上手じゃないのですが、だからこそ、しみじみとにじみ出るリアルな彼らなりの喜怒哀楽、焦りや悩みなどが非常に印象的です。

1年1冊ペースで、まだ2巻までしか刊行されておらず、最終的な評価はこれからにはなりますが、今後大きく化けてきそうで、個人的に大好きな「奨励会」ものなので、個人的に「特選」としました。

2.自信を持ってオススメできる佳作の将棋漫画

整理してみると、女流棋士モノが非常に多いです。ちょうど数年前、日本将棋連盟から一部の女流棋士達が分離独立してLPSAを立ち上げたこともあり、そこから刺激を受けて女流棋士に焦点を当てた作品に読み物として面白いのが集中したのかも。

2-1.りゅうおうのおしごと


16歳で将棋界の頂点に達した主人公と、わずか9歳で将棋界入りしたヒロインを描いたライトノベルのヒット作のコミカライズ。コメディ調の進行をベースに、シリアスな展開もしっかり織り込まれ、決してラノベ的なチートハーレムな世界だけで終わりません。「萌え」要素以外で本線のストーリーもちゃんと楽しめます。ただ女流2冠の姉弟子が14歳、弟子が9歳という異様な低年齢なのはご愛嬌ですかね・・・。

2-2.ハチワンダイバー


なぜかメイドの恰好をした無敵の街の女真剣師(街の賭け将棋師)との交流から始まり、プロを目指して少しずつ成長していく主人公。1つ1つのコマ割りがデカくて、個性的な設定と作風に圧倒されます。「ハチワン」=81個の将棋盤のマスに深く潜り込んで指し手の読みを研ぎ澄ます禅的なシーンから名付けられたタイトルもまた個性的。

2-3.聖(さとし)-天才・羽生が恐れた男-


大崎善生「聖の青春」同様、29歳で夭逝した天才棋士村山聖の29年の一生を自伝的に描いた作品。派手さはないけれど、綿密な取材に裏打ちされた落ち着いた作品。映画「聖の青春」と合わせて読むと、より楽しめると思います。

2-4.ひらけ駒


将棋を題材に、将棋に打ち込む息子とそれを見守る母親の心温まる家族愛を描いたストーリー。実際に作者の息子さんをモデルに着想されたといいます。「読むと元気に、成る」というキャッチコピー通り、読後感は非常に良いです。「3月のライオン」にもテーマが少し似ていますね。

2-5.しおんの王


女流棋士や、女流棋士界の問題点や課題を浮き彫りにしながら、将棋と殺人ミステリーを融合させた意欲作。アニメ化もされており、作品のクオリティは非常に高いです。盤上でも盤外でも様々な駆け引きが展開され、ストーリーの中毒性が高い佳作!

2-6.ナイトぼっち


美形の天才女流棋士のヒロインに引っ張られ、将棋部に入部して成長していくボーイミーツガール的な学園青春モノ王道ストーリーですね。1手詰のシーンとか、やや将棋シーンでの監修が陳腐な気がしましたが、最近アニメ、映画化された「四月は君の嘘」みたいなノリの学園モノが好きな人はハマると思います。

2-7.王狩


一度見たものは瞬時に記憶し、忘れないという特殊能力を持つ主人公が、プロ棋士養成機関である「奨励会」で仲間たちと対局を重ねながら成長し、史上初の女性初の(女流ではない)プロ棋士を目指すストーリー。第1部までが終了、第2部が始まらないため、事実上の打ち切りとなってしまったようでしたが、最初の設定等は良かったですし、「奨励会」ものが好きな僕としては結構楽しめました。絵もきれい。

2-8.JOKER


主婦向けのコミック誌で連載された作品。それまで将棋漬けで、天才女流棋士だった主人公が、婚活パーティで出会ったバツイチの男から小学生の息子を預けられ、共同生活を始めるという、一風変わった設定が面白かった。

表紙だけ見るとかなり倒錯気味な雰囲気なのかと思いますが、この小学生と何かあるわけではありません(笑)家族愛に目覚めたトップ女流棋士の、心の成長や恋愛模様を描いたマイナー作品です。

2-9.盤上の詰みと罰


若くして女流6冠と頂点を極めた天才女流棋士が、ある日突然記憶をなくしたらどうなるのか?と描いた作品。記憶をなくしたきっかけとなった対局での対局相手を探し、全国を旅して回るストーリー。連載中、雑誌の休刊にともない全2巻と打ち切り的な終わり方になりましたが、単行本でのエンドの着地点は意外に良い感じでした。

2-10.PRICE 女流棋士飛翔伝


女流棋士にとっての2つの大きな壁、すなわち、男性棋士と人工知能(AI)をどう克服し、女性棋士たちの「PRICE」=「価値」をどう高めて活躍のフィールドを広げていくか?という将棋界の女流棋士が抱える本質的な課題にフォーカスして描かれた作品。マイナー作品だけど、テンポよくわかりやすい展開は良いと思います。絵柄も今風でよいかと思います。

2-11.ものの歩


少年マンガ的なストーリーのわかりやすさと、女性陣のサービスカットの多さはいかにもラブコメ要素がちょっと入ったジャンプ的なマンガでした。5巻が出た時点で残念ながら打ち切りとなってしまいましたが、明快さと絵のきれいさは良かったと思います。

2-12.将棋の渡辺くん


将棋界の「魔太郎」こと、渡辺明永世竜王をモデルに、漫画家である妻が彼を間近で観察した将棋指しの個性的な日常を実話ベースで(笑)コミカルに描いた作品。

その顔立ちから非常に個性的な雰囲気がぷんぷん臭う渡辺竜王ですが、妻ならではの視点で見出された意外なかわいい一面などが笑えます。

まとめ

2012年頃からの数年で、一気に増えてきた将棋マンガ。小説やライトノベルも含めると、ものすごい数の作品が生み出されるほど、「読む将棋」のブームが静かに広がっています。

すでに、人工知能(AI)との勝負付けは大勢が決してしまった感のある将棋。とはいえ、プロ棋士たちの生き様は昔も今も非常に個性的で、彼らの織りなすストーリーに目が離せないからこそ、将棋マンガが百花繚乱状態になっているのだと思います。

本エントリでは、将棋を題材に、棋士たちの交流や生き様、棋士をサポートする家族や仲間たちの絆を描いた作品を厳選して抽出してみました。

気に入った作品と出会えるお手伝いとなっていれば幸甚です。
それではまた。
かるび

【ネタバレ有】映画「ガール・オン・ザ・トレイン」の感想とあらすじ/女性の「強さ」を感じた衝撃の結末!

$
0
0

f:id:hisatsugu79:20161118200331j:plain

かるび(@karub_imalive)です。

11月18日から封切りとなった映画「ガール・オン・ザ・トレイン」を朝一で見てきました。世界50カ国で翻訳され、ベストセラーとなったポーラ・ホーキンズの同名の原作をもとに映画化された心理サスペンス作品です。

※以下、作品のあらすじや感想、解説などを書いてみたいと思います。後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

<オフィシャル予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】テイト・テイラー
【制作】マーク・プラット
【原作】ポーラ・ホーキンズ

同名の原作「ガール・オン・ザ・トレイン」の場所と時間軸のみ映画向けにカスタマイズされ、その他コンセプトやストーリーは忠実に受け継いで制作された本作品。日本以外では2016年10月に先行して上映されていますが、世界各国で初登場No.1を記録しています。

原作も映画も反応がいいのに、今作の日本での上映規模の小ささ(たったの17館!)にはちょっと拍子抜けしました。洋画人気の衰退を肌で感じた機会となりました。

2.主要登場人物とキャスト

この6人が織りなす男女の人間関係やドラマがこの映画の見どころです。映画を楽しむために、この男女6人をしっかりと頭に入れて臨むと良いと思います。

主役のエミリー・ブラントこそ酒焼けした不健康な老け顔メイクで出演していますが、残りの5名はまぁとにかく白人のイケメンとブロンド美女が揃いすぎているような気がします(笑)

レイチェル(エミリー・ブラント)
f:id:hisatsugu79:20161118184827j:plain
トムの前妻。アルコール中毒で荒んだ生活をしている。ルームメイトには会社をクビになったことを言えず、毎日ロンドンへ電車で通勤。行き帰りの車窓から見える以前の自宅を眺めるのが日課となっている。

メガン(ヘイリー・ベネット)
f:id:hisatsugu79:20161118184847j:plain
レイチェルの以前の自宅の近所の一軒家で夫のスコットと一緒に住んでいる。レイチェルは、通勤中の車窓から見える幸せそうなメガンのことを「ジェス」などと勝手に名付けてあれこれ想像して楽しんでいた。

アナ(レベッカ・ファーガソン)
f:id:hisatsugu79:20161118184912j:plain
現在のトムの妻。トムとの間にイーヴィという娘が生まれている。レイチェルとトムが住んでいた、電車から見える一軒家にそのまま住んでいる。たびたびトムに些細な用事で連絡してくるレイチェルのことを敵視している。

スコット(ルーク・エヴァンス)
f:id:hisatsugu79:20161118184952j:plain
メガンの夫。神経質で、相手をコントロールしたがる性格である。肉体美が凄い(笑)

トム(ジャスティン・セロー)
f:id:hisatsugu79:20161118185005j:plain
レイチェルの元夫で、現在はアンの夫。レイチェルと結婚した時に購入した自宅を買い取り、そのまま住んでいる。

カマル(エドガー・ラミレス)
f:id:hisatsugu79:20161118185020j:plain
精神的に不安定なメガンの心理カウンセラー。メガンは男女の仲になりたがるが・・・?

3.映画の見どころ(ネタバレ無し)

3-1.心理サスペンスを盛り上げるため、散りばめられた様々な要素

この映画では、途中で主要登場人物の中から1名殺害され、そして主人公のレイチェルも危険な目に遭う、心理サスペンスものです。「結婚」「出産」「不倫」「殺人」「暴力」「記憶喪失」「異常性癖」など、人間関係に纏わるサスペンスものの定番キーワードのほぼ全ての要素がてんこもりで網羅されています。

さらに、90年代のサスペンスものハリウッド映画で大流行したように、美男美女がやたら絡むセクシーなシーンがたくさん出てきます。惚れ惚れするような男性陣の肉体美が女性にもウケが良さそう。

3-2.謎解きをする主人公がアル中で記憶喪失体質という面白い設定

今作でエミリー・ブラントが演じるレイチェルが、電車内での妄想を膨らませて勝手に現場に押しかけ、素人探偵のように動き回る結果、事件が起こり、解決に向かっていきます。

しかし、その主人公であるレイチェルの人物設定がユニークでした。裏切られて離婚したショックから、アルコール中毒で半分うつに近い状態に陥っており、かつ、おせっかいでストーカー体質だったりもするという、斬新なヒロインでした。

3-3.物語にもうひとひねりを加える主人公レイチェルの「ブラックアウト」

さらに、レイチェルは、泥酔すると酩酊時の記憶が飛んでしまう「ブラックアウト」に陥りやすい体質です。離婚のショックからアルコール依存症なので、電車内では水筒にお酒を入れて持ち歩き、行動する時は顔色も悪くいつもフラフラ。そして、物語の肝心な部分が彼女の「ブラックアウト」によって記憶喪失となっているため、それが物語の大きなスパイスになっています。

3-4.オフィシャル映像での山村紅葉の解説が面白い!

<オフィシャル予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

2時間サスペンスものの第一人者(?)山村紅葉による熱い解説がメチャ面白いです!面白い作品に含まれる「2時間サスペンスあるある」を全て兼ね備えた本作はヒット間違いなし?!

 

スポンサーリンク

 

4.簡単なあらすじ(※ネタバレ有注意)

2年前、酒癖の悪さから会社をクビになってからも、相変わらず毎日決まった時間にニューヨークに通い続けるレイチェルは、車窓から見える家々の風景を眺め、空想するのが好きだった。

毎回決まって電車が徐行するエリアから見える、2軒の家。1軒は、離婚した夫トムが不倫の末、新たに結婚したアナと住む、かつての自分の家。そして、その家の近所で、見知らぬ美男美女のカップルが仲良く暮らす、もう1軒。レイチェルは、電車がさしかかるたびに彼らを観察し、彼らに、レイチェル自身が果たせなかった幸せな夫婦生活を重ね合わせ、妄想して楽しむのだった。

その家に住むブロンドの美女の名前は、メガン。レイチェルの想定とは違い、彼女もまた複雑な過去があった。過去に娼婦だったり、妻だったり、様々な立場に身を置いてきた。

メガンは、2軒隣のアナの家でベビーシッターの職についていた。(メガンはこの仕事が好きではなく、まもなくアナに「辞める」と宣言してしまう。)アナの悩みは、精神的に不安定になった元妻のレイチェルが頻繁にトムに連絡してくること。一度は、うたた寝をしている時に勝手に家の中に入り込んできて、子供を連れ去られるところであり、レイチェルに恐怖を覚えていた。

ある日、レイチェルが車窓からメガンの家を見ていると、いつもと違うパートナーと抱き合っている所を見かけた。不倫のように見えた。レイチェルの頭に、トムと別れる前、トムのPCから当時トムの不倫相手だったアナへの大量のメールを発見した日の苦い思い出がフラッシュバックする。友人と飲んで、酔っ払って怪気炎を上げるレイチェル。

飲んで帰ったその夜、レイチェルは我慢できなくなり、アーズリー駅(メガンとトムの家の最寄り駅)で下りて、メガンに一言言いに行こうと決意する。道中、トンネルのところで「あばずれ!」と叫ぶレイチェル。しかし、記憶はそこで途絶えていた。

翌朝、目が醒めたレイチェルは、泥まみれで、頭は血だらけになっている自分に愕然とする。昨日のことを思い出そうとするが、酩酊していたため、記憶が(ブラックアウトしてしまい)思い出せない。

次にレイチェルが禁酒の会合へ向かうため、電車に乗った時、横に座った男性のタブレットのトップニュースで、メガンが失踪したことを知る。

その晩、家に戻ったレイチェルは、警察の聴取を受けることになった。メガン失踪について、現場近くにいたことをアナに目撃されていたためだ。いつもは18時に帰宅するレイチェルが、メガンが失踪した日に限って23時まで帰宅しなかったのはなぜなのか聴かれるも、上手く回答できないレイチェル。

レイチェルは、メガンの夫、スコットに会いに行く。スコットには「友人である」と嘘をつき、スコットに、メガンが失踪した日、メガンが別の男と抱き合っていたことを目的したことを伝えた。スコットから写真を見せられたレイチェルは、彼がメガンのセラピスト、カマルであることを知る。

早速アブディックに会いに行くレイチェル。レイチェルは、アルコール依存症から、記憶を亡くしている間にトムにやらかした様々な粗相が原因で離婚したことを相談する。そして、人工授精でも子供を授からなかった罪悪感があると伝える。レイチェルはアルコール依存症で記憶をなくしている間、パーティで元夫のトムの上司に粗相をしたり、酔ってトムをゴルフクラブで叩こうとしたことを思い出す。

そして、メガンの死体が森の中から発見され、スコットが疑われて警察に連行されたが、証拠不十分で釈放される。スコットは、レイチェルがカマルと共謀してスコットをはめようとしているとレイチェルを責めた。

また、警察から、メガンが殺された時に妊娠していた事実が公表される。アナは、レイチェルが殺したと疑い、ライリー刑事に面会するが、ライリー刑事から「エビデンス」を集めるようアドバイスを受ける。

アナは、トムのPCメールを確認してレイチェルの罪状に関わる証拠を収集しようとするも、PCが開かない。代わりにカバンから出てきたのは、見知らぬ携帯電話だった。着信を再生すると、メガンの携帯電話へとつながった。

一方、レイチェルは、ある晩電車に乗っていると、トムの元上司(ホームパーティ会場でレイチェルが暴れたため、トムがクビになったとトムから聞かされていた)を見かけたので、以前、酔っ払って起こした粗相についての謝罪をする。元上司は、気持ち悪くて部屋で寝ていただけなので謝罪するには及ばない、トムがクビになったのは社内の女性に手を出しすぎたからだと聞かされ、愕然とする。

トムは、レイチェルの記憶が飛んでいたことを利用して、間違った情報を与えていたのだ。実際、ゴルフクラブで暴れたのは酔ったレイチェルではなく、トムだったことも同時に思い出す。

そして、レイチェルは、メガンが殺された日、トンネル付近で何が起こったか完全に思い出していた。メガンとトムの不倫現場を見たレイチェルに、トムが石のような鈍器でレイチェルを殴り、レイチェルは気を失っていたのだった。

メガンはその日に失踪し、死体が見つかったことから、トムがメガンを殺したことに気づき、アナの身を案じたレイチェルは、トムの家に急行する。アナ、トムと対面するレイチェル。レイチェルがトムに、メガンが殺された日のことを伝えると、レイチェルは激しくトムに殴打される。意識がとびかけるレイチェル。

トムは、レイチェルを殴打し、その日メガンと森で二人きりになる。そこで、メガンから妊娠の事実を聞き、堕胎を命じるトム。メガンは拒否し、トムは行きがかり上、メガンを殺してしまったのだった。

意識が戻ったレイチェルに再び襲いかかるトム。トムのすきをついて、家の外へ出るも、トムにおいつかれて組み敷かれるレイチェル。クビを締めて殺そうとしたトムを、レイチェルがコルク栓抜きでトムの首を刺して反撃する。動けなくなり、虫の息となったトム。そこへ、アナがやってきて、トムの首に刺さったコルク栓をさらにねじり、トムにトドメを差すのだった。

警察に連行された二人は、正当防衛で釈放され、事件はこれで解決となった。

エンディング。時が流れ、レイチェルは反対側のハドソン川が見える側の席に座り、他人の家を盗み見ることもなくなった。

スポンサーリンク

 

5.映画の感想や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

出て来る男性が全員ダメすぎる・・・

映画なので、出てくる男性は全員イケメンです。しかし、そんなリア充そうな顔つきに反して、カウンセラーのカマル以外、男は一貫して無責任な存在として描かれました。スコットは支配的で女性を縛り付けるキャラクター。トムは、社内の人間関係は壊すわ次々に不倫するわ、堕胎させようとするわですし、メガンの過去の恋人も、蒸発してメガンの苦悩を支えようとしませんでした。

そんな男性から押し付けられた苦悩を引きうけ、乗り越えようと描かれた女性たち

この女性3名は、それぞれ形は違いましたが、出産育児や家庭内でのありかたをめぐって、パートナーや、あるいは社会から期待される振る舞いに対応しきれず、苦悩していました。

レイチェルは不妊治療に失敗してトムから愛想をつかされ、アナは育児に専念し、夫の帰りを待つだけの無力な専業主婦でした。殺されたメガンは、過去に夫が蒸発して育児に失敗したトラウマを一人で背負い、現在の夫スコットからも日常的にコントロールされ、抑圧されていました。

レイチェルとアナが、いわば男性の「身勝手さ」の集大成として描かれたトムを、正当防衛をやや越える形で殺害するクライマックスは、視聴者には胸のつかえがスーッとするシーンでした。と、同時に、女性特有の「育児出産」「家庭内での伝統的な役割」にまつわる苦しみや苦悩からの解放に向けての二人の決意を象徴していたのかなと思います。

メガンは殺されてしまいましたが、残ったレイチェルとアナはトムという共通の「敵」を倒したことで、同性として同じ苦しみを時間差で味わったことへのシンパシーや同じ秘密を共有する仲間意識が芽生えたのでしょうね。

衝撃のラスト!変わり身の速さは恐ろしいものがあった(笑)

しかし、それにしてもアナの変わり身の速さ。トムが殺人鬼で、生かしておくと将来の自分自身と娘、イーヴィの禍根になると悟った瞬間、レイチェルの加勢をしてトムの息の根を止めてしまうとは(笑)

こういった土壇場での女性の変わり身の速さや精神的な強さ、一瞬でできる連帯意識には空恐ろしさを感じました・・・。

プロットの緻密さは原作に軍配が上がるけど、映像ならではの良さもあった良作

ストーリーの複雑さや、スリリングな展開、心理描写は原作のほうが優れているとは思いますが、エミリー・ブラントの怪演が素晴らしかったし、それ以外の俳優たちも美しい肉体美やそれぞれに宿る狂気・苦悩をしっかり演技として表現できていました。

また、物語の大事なシーンで「電車」が必ず後ろを通りかかる演出や、アート好きなレイチェルが最後に3人の絆の象徴として描いた公園のブロンズ像なんかも良かった。

6.原作との相違点(※ネタバレ有注意)

すでに映画が公開後大ヒットしたアメリカの有名なレビューサイトを見ていると、原作読了後のレビュアーの感想では、映画<<<<<原作と評価している人が多いようです。ここでは、映画化するにあたり、省略された点や変更点をまとめていきます。

6-1.原作はよりエグい不倫関係が展開されます

映画では関係があったのかなかったのかハッキリしない描かれ方をしていましたが、原作では、スコット✕レイチェル、メガン✕カマルが物語の時系列の中で、明確に不倫関係として描かれます。

特に、スコットはメガンが死亡して1ヶ月後に、知り合ったばかりのレイチェルと共依存的な不倫関係に落ちていくのが印象的でした。

6-2.舞台設定と時系列の違い

原作の舞台設定はロンドン郊外でしたが、ハリウッドで映画化されたことから、ニューヨーク郊外へと変わっていましたね。また、原作で事件が起きたのは2013年夏でしたが、映画では公開時期に合わせたのか、2016年秋~冬になっていました。

6-3.担当刑事が原作では2名

映画中、レイチェルの取り調べはほぼテイラー刑事1名によって行われましたが、原作では、レイチェルに好意的な男性の刑事ガスキルと、映画同様レイチェルに懐疑的なテイラーの2名体制で行われました。同性への捜査は厳しくなるのが通例ですね。

7.まとめ

原作小説は、イギリス版「ゴーン・ガール」と言われた心理サスペンスの名作でしたが、わりと忠実にイメージ通り映画化されたと思います。映画中、どんよりとした秋のシーンが印象的でしたが、レイトショーなんかで見ると情緒たっぷりなんじゃないかなと思います。ラスト20分で犯人判明し、豹変した犯人との衝撃のラストシーンは圧巻ですよ。

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむための小説やガイドなど

全米をはじめ、世界中でベストセラーとなった映画原作。完成度の高いミステリー小説のお手本みたいな作品で、緻密に練られたプロットと描写力で、レイチェル・メガン・アナそれぞれ3人の視点が入り乱れ、ほぼそれぞれの時間軸が進んでいきます。

特に、後半のクライマックスにかけてが圧巻!伏線や設定をきれいに巻き取って、パズルのピースがぴったりはまるように、3人の時系列が一致してエンディングへと加速していく流れは読んでいてスリル満点でした。間違いなくオススメ!!

【ネタバレ有】映画『聖の青春』の感想とあらすじ解説/鬼気迫る対局シーンは鳥肌モノだった!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

没後10年以上が経過するも、未だに事あるごとに天才個性派棋士としてファンの間で語り継がれる村山聖。その村山聖のドキュメンタリーノンフィクションを元に映画化された映画「聖の青春」が11月19日に封切となりました。

f:id:hisatsugu79:20161119012158j:plain

早速初日に気合を入れてみてきましたので、以下感想を書いてみたいと思います。後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

<オフィシャル予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】森義隆(『宇宙兄弟』
【脚本】向井康介(『ピースオブケイク』他)
【原作】大崎善生「聖の青春」

また、KADOKAWAの公式サイトでは、松山ケンイチや東出昌大、そして羽生名人や、村山聖の師匠、森信雄のインタビューなどが見れます。非常に見応えのある動画でしたので、是非お時間のある方はどうぞ。

<特別映像・ストーリー編(約9分)>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

 

<特別映像・インタビュー編(約9分)>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.主要登場人物とキャスト

松山ケンイチ、リリー・フランキーなど、力のある役者を揃えました。キャストの演技は非常に優秀でした。危なっかしいところもある東出昌大も今作は素晴らしい出来。

村山聖(松山ケンイチ)
主演の村山聖役には、天才肌の松山ケンイチ抜擢されました。今回の収録のために、短期間に20kgも増量して臨んだ作品。先週たまたま映画「デスノートLight up the worLd」で「L」役として使われた古い映像を見ましたが、とても同じ人間とは思えませんでした、、、。さすが「憑依系」と言われるだけあります。

羽生善治(東出昌大)
良くも悪くも、キムタクや能年玲奈のように、本人の「地」がどのキャラにも出てしまう東出昌大ですが、羽生名人の持つ純粋培養されたような天才肌の持つ素朴さと上品さがよく演じられています。対局中のの仕草や声色、クセなどは本当によく研究しつくされていると感心しました。

森信雄(リリー・フランキー)
村山聖の師匠、森信雄にはリリー・フランキーが。少し世間離れしたゆるっとしたオッサン役がぴったりでした。いつもたんたんと聖を見守るあたたかい眼差しが良かった。
村山母(竹下景子)
健康体で産み育てることができなかった罪悪感を背負い、心配性な母親像が良く表現されていました。ベテランの味。
村山父(北見敏之)
母親に比べるとやや弱めでしたが、何気ない距離感で息子を見守る良き父親像を控えめに演じられていたと思います。

3.映画の見どころ(ネタバレ無し)

3-1.松山ケンイチの鬼気迫る演技

試写会を見た、村山聖の師匠、森信雄をして、「村山そのものだった。10数年ぶりに村山に出会ったような錯覚になった」と言わしめるほど、村山聖が乗り移ったかのような鬼気迫る演技が素晴らしかったです。少し奥手でピュアな性格、酒癖の悪さや、対局中の盤面に没入する表情など、熱演でした。かわいくて笑える場面も結構ありますよ。

3-2.東出昌大演じる羽生名人がそっくり!!

先日公開された「デスノートLight up the WorLd」でも主役を務め、賛否両論あったその演技でしたが、今作で演じる羽生名人は、モノマネか!って思うくらいものすごく良く似ていました。対局中のしぐさや目線の置き方、構え方、そして名人らしい上品な立ち振舞いなど、本当によく再現されています。何時間もDVD等の映像で研究した成果が遺憾なく発揮されていました。やればできるじゃん、東出!!

3-3.クライマックスの羽生名人との対局シーン!

実際の村山ー羽生の若い時の対戦シーン(映画には出てきません)f:id:hisatsugu79:20161119173412j:plain

注目したいのは、3度の対決が描かれた村山ー羽生戦。早朝から日が落ちるまで、雪深い東北の旅館で長時間戦ったタイトル戦、日付が変わり、午前1時過ぎまで死闘を演じた二人の最終対局を描いた将棋会館の特別対局室での戦い。

東出、松山双方が当日の棋譜を全て覚え、ノーカットで3時間カメラを回しっぱなしでプロ棋士の実戦対局並みの緊張感がリアルに再現されています。

セリフもなく、将棋盤にたんたんと打ち込むだけのシーンなのですが、タイトル戦の緊張感や熱気が画面のこちらへビンビン伝わってくる熱演でした。

3-4.エンディングで流れる秦基博の主題歌が素晴らしすぎる

感動の余韻が残る中、エンドロールで流される秦基博の主題歌が、青春時代を生き抜いた村山聖の生涯にぴったりフィットする素晴らしい出来です。映画「何者」の中田ヤスタカや、映画「君の名は。」のRADWIMPSも素晴らしかったですが、こちらも素晴らしい出来でした。ここからYoutubeで聴けますので、是非!!

<主題歌「終わりのない空」>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

スポンサーリンク

 

4.簡単なあらすじ(※ネタバレ有注意)

f:id:hisatsugu79:20161119173603j:plain

自宅を出たけれど、体調が悪くて動けず、路上にうずくまる村山聖(松山ケンイチ)。関西将棋会館での対局の時間が迫っていた。たまたま声をかけてくれた、三谷工業のおじさんの軽トラに載せてもらい、対局室へ肩を担がれて入っていく聖。王将戦での田中6段との対局が始まるのだった。

f:id:hisatsugu79:20161119173355j:plain

対局が無い一日、聖は部屋の中で大好きな少女マンガを読んで過ごす。7段昇段記念パーティがある当日の朝も、迎えに来てくれた同じ森信雄門下の奨励会に所属する江川(染谷将太)から急かされ、ようやくスーツに着替えて出かけるのだった。

f:id:hisatsugu79:20161119173901j:plain

同じ頃、最大のライバルである羽生善治(東出昌大)は、米長邦雄名人を下してとうとう名人位を含め5冠を達成。

そんな羽生と、王将戦の予選で対局した日。師匠の森信雄(リリー・フランキー)が地元の将棋教室で見守る中、対戦がスタートする。その日は、126手で羽生に敗北した。

将棋に負けた翌日は、必ずと行っていいほど疲労と失意から、自宅のアパートで高熱を出して寝込んでしまう聖。幼少の頃から患っているネフローゼの影響である。ネフローゼは、腎機能障害により、タンパク質が尿中に漏れ出す病気である。そのせいで、疲れやすく、体もパンパンに膨れ上がってしまうのだ。

f:id:hisatsugu79:20161119173804j:plain

そんな聖が将棋に初めて出会ったのは、まさにネフローゼで入院中の6才の時である。父、伸一(北見敏之)の買ってきた将棋盤と入門書で一気にルールを覚えると、負けず嫌いの聖は入院中に何度も友達と対戦しながら上達していった。

寝込んでいた聖に、江川と師匠の森が看病に来てくれたが、聖は、森に羽生の側で戦うため、東京へ行く決意を伝える。森は、早速東京での世話役として将棋雑誌のライター、橋口(筒井道隆)を紹介した。

引越作業や生活面を橋口や森、母親に支えてもらいながら、聖は東京の生活に徐々に馴染んでいく。奥手でシャイな聖にも、特に荒崎学(柄本時生)や橘正一郎(安田顕)といった仲間の棋士ができて、狙い通り東京で順当に勝ち星を伸ばしていく聖。

f:id:hisatsugu79:20161119173826j:plain

一方、羽生もキャリアを積み重ね、とうとう将棋界の全てのタイトルを総なめする7冠へと到達するのだった。

順調かに見えた聖だったが、ある日、突然路上で倒れてしまう。医者の診察を受けると、進行性のぼうこうがんと診断されてしまう。その日の対局(橘正一郎)はさすがの聖も体調不良と病気のことで頭が一杯で、感想戦もなしに切り上げてうわのそらで帰宅するのだった。

帰宅した村山は、医師から何度も手術前の検査を促されるも、踏ん切りがつかずに一旦住み慣れた大阪の街へ戻ってくる。この世の名残を惜しむかのように、通い慣れた食堂や古本屋、公園を見て回る聖。そして、その足で関西将棋会館へ向かう。

将棋会館では、兄弟弟子の江川が奨励会の年齢制限ギリギリの崖っぷちとなっていた。明日の一戦に負けると、プロへの道を絶たれるという江川を勇気づける聖。しかし、翌日の対局で、江川は死闘の末敗れ、奨励会の退会が決定してしまう。

f:id:hisatsugu79:20161119173924j:plain

その晩、師匠の森、江川と飲み明かした聖。酔うと酒癖の悪い聖は、店を出ると自暴自棄になって「こんなもの、死んだらなんにもならんのじゃ」とお札を破り捨て、ぐずぐず言う江川に殴り掛かる。死と直面し、残された時間が少ないことを強く自覚し、やり場のない悔しさがにじみ出た夜だった。

f:id:hisatsugu79:20161119174003j:plain

気分転換に北海道旅行から戻ると、聖はいよいよ羽生とのタイトル戦での対決に臨んだ。紋付袴を師匠にあつらえてもらい、戦った大一番は見事に聖の勝利となった。

その晩、関係者の打ち上げを出て、羽生を誘い出し、二人だけで2次会へ出かける聖。羽生と大いに語り、将来の再戦とお互いの健闘を誓い合うのだった。

f:id:hisatsugu79:20161119173939j:plain

タイトル戦が終わり、病院へ行くと、膀胱がんの状態がステージ3Bまで進行しており、前立腺と膀胱を切除しなければ、余命3ヶ月と宣告される聖。手術後は最低1年間復帰できないと聞き、ショックを受ける聖。悩んだ結果、手術を受けて長期休養に入ることになった。

手術は成功し、実家の広島で久しぶりに家族と合流してつかの間の休息を取った聖だったが、回復すると、医師の反対を振り切って棋戦へと復帰していくのだった。

復帰してはじめての棋戦は、羽生名人との対決だった。緊急時に備え、ナースを控室に呼んで特別対局室で深夜まで及んだ熱戦は、聖の痛恨の悪手(6六角)にて決着がつく。その後、すぐにガンが肝臓へ転移して再度の入院を余儀なくされ、今度は懸命の治療もむなしく、29歳で亡くなった。

f:id:hisatsugu79:20161119174036j:plain

聖の弔問には師匠の森を始め、羽生も広島までかけつけてくれた。

聖の死後、追悼記事をまとめる橋口。橋口の所属する将棋雑誌社へ再就職した江川に原稿を託すと、江川は自転車に乗って将棋会館を出ると、そこに聖の気配を感じた。実際は何も見えなかったが、なぜか聖がそこで笑っているような気がしたのだ。(以降エンドロールへ)

スポンサーリンク

 

5.映画の感想や、伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

棋士として人間としてどう生きたかに焦点を絞った名作

少年のようなピュアな心を保ったまま大人になり、短い29年の生涯を太く生き抜いた聖。映画を見る前から、「亡くなる」ことが前提として制作されたため、体調を崩して、最後に入院してから亡くなるまでのシーンはむしろ簡略化されています。

その代わり、(恐らく自らの余命が長くないことを悟っていたであろう)聖がその生涯を通して「何を大切にして」「どう生き抜いてきたのか」に焦点を絞って描かれていました。結果、それが羽生名人と対決する長時間にわたるタイトル戦の熱戦であり、すべてを将棋をささげた1日1日の生活シーンだったのですよね。

映画のどのシーンを見ても、「泣かせる」ための特別な演出はなく、どちらかというとドキュメンタリー風にたんたんと進んでいくのですが、気がついたら泣かされている、そんな映画でした。

ハイライトは羽生と語り合うシーン

タイトル戦の夜、羽生と旅館を抜け出して、二人でしっぽりと語り合ったシーンが今作のハイライトです。趣味嗜好や性格はまるで違う二人ですが、将棋にかける情熱と目指すものは同じ。

村山「僕たちはどうして将棋をえらんだのでしょうねぇ」
羽生「ただ、私は今日あなたに負けて死にたいほど悔しい」
村山「負けたくない」
羽生「そう、それが全てだと思います」
村山「羽生さんの見ている海はみんなとは違う」
羽生「でも、村山さんとなら一緒にいけるかもしれない。そこはどんな景色なんでしょうね。いつか、一緒に行きましょう」

お互い内向的で静かな棋士なので、決して熱いトークではありません。寒い冬に、若くして将棋をきわめつくした二人が、淡々と感想戦のように語り、静かに共感し合うシーンは、本当に見ごたえがありました。

衣食住は完全に将棋の二の次だった村山の私生活は、時にコミカルに映る

f:id:hisatsugu79:20161119011810p:plain
(引用:Yahoo知恵袋より)

写真のように、将棋以外の衣食住全般について、完全に無頓着だった村山。銀行の通帳は記者に預け、もらってきた対局料はゴミ同然で床に投げ捨てられ、そして酔っ払うと札束を破りだすエピソードは強烈でした。

また、収入がアップしても少女漫画とゴミにあふれた汚部屋に住み続け、フロにも入らない。タイトル戦になるまで紋付袴すら持っていない(師匠にあつらえてもらった)など、個性的な逸話に溢れています。

とにかく将棋以外のことはまったく眼中にない村山の日常生活は、時としてコミカルでマンガチックでもあります。コメディ映画でもないのに映画館で頻繁に笑いが起きていました。おもしろエピソードは、原作からほぼ全部盛り込まれたのではないかと思います。片時も目が離せない映画でした。

その反面、原作からのエピソードを詰めこみすぎた嫌いもある

喜怒哀楽、様々な感情を呼び起こすエピソードに事欠かない村山ですが、映画内でも原作からのエピソードが大盛りになっています。村山が冬場に北海道へ一人旅をしたシーンやお気に入りの更科食堂のシーンなど、数秒しかなくて原作を読んでいなければ何のことだかわかりづらい場面もありました。

特に、原作を読んでいないお客さんは、映像の意味を考えているうちに、次のシーンに飛んでしまい、やや集中力が散漫にさせられる場面も何箇所かあったかなと思います。もう少し盛り込むエピソードを削っても充分にフックのあるストーリーラインはキープできたはずなので、ここは少し惜しい感じ。

6.細かい設定や伏線などの解説

映画中、駆け足で通り過ぎてしまった部分などもあるため、ここではいくつか詳細な設定や伏線を補足しておきたいと思います。

冒頭で聖を運んだ軽トラのおじさんは誰なのか?

近所の「三谷工業」という電気工事屋のおじさんです。家を出たけれど、動けなくなっていた聖を、何度か聖に頼まれて将棋会館まで送ってあげた縁から、毎朝9時頃に聖のアパート(前田アパート)の前の様子を毎日伺ってくれるようになったエピソードがあります。このおじさんのおかげで、聖は何度か不戦敗を逃れたことがあったそうです。

映画中での羽生との対局は実際にあったもの?そのモデルは?

f:id:hisatsugu79:20161119155659j:plain
(引用:https://www.youtube.com/watch?v=F_V0pp5_Euw

 羽生名人との雪国でのタイトル戦の対局は、架空の棋戦の対局です。(棋譜自体は多分実践譜から持ってきている)村山聖がタイトル戦を戦ったのは、1992年の王将戦7番勝負が唯一の機会で、その時は谷川浩司9段に0-4でストレート負けしています。

映画終盤での亡くなる前の対局は、1998年のNHK杯決勝です。終盤秒読み将棋となった時、羽生は攻め切れ寸前。あと1手受けきれば、勝利を不動のものにできた瞬間、村山の痛恨の角打ち(6六角打)で形成が一気に逆転。そのまま数手後に村山投了となりました。
痛恨の角打ちのシーン
f:id:hisatsugu79:20161119163605j:plain
(引用:https://www.youtube.com/watch?v=F_V0pp5_Euw

NHK杯は準優勝となり、これが最後の村山ー羽生戦となりました。村山から見て、対羽生善治は生涯で6勝8敗(うち1不戦敗)でした。大名人と互角の勝負だったわけですね。

何度か、一瞬だけ写った食堂は?

関西での奨励会時代から、プロ棋士になりたての頃まで、聖がよく通っていた更科食堂です。ネフローゼのため、病院食や、母親が作る料理は薄味で味気ないものだったので、たまに行く更科食堂では、塩気の利いた焼き魚定食を好んで注文していたようです。

脇役(荒崎、橘)のモデルとなった棋士達は?

荒崎学→先崎学9段
f:id:hisatsugu79:20161119012808p:plain
(引用:日本将棋連盟 棋士データベースより)

先崎学9段は、同じ村山世代で、羽生名人や森内俊之、佐藤康光らとともに「チャイルドブランド」と呼ばれ、若手時代は大活躍しました。「新人類」と呼ばれた同世代の中では、旧世代以上に飲む打つ買うなんでもやる古風な面もある、個性的な棋士です。

ちなみに、映画中で酔った聖が荒崎の車内で吐きますが、実際は、佐藤康光9段の所有する高級外車の中で吐いてしまった実話に基づいているそうです。

橘正一郎→滝誠一郎7段

f:id:hisatsugu79:20161119013155p:plain
(引用:日本将棋連盟 棋士データベースより)

聖が東京に本拠地を移してから、原作の筆者、大崎善生とともに甥弟子にあたる聖の面倒をよく見たと言われる滝誠一郎。面倒見がよく、親分肌でもあるとのことです。将棋の腕前は・・・まぁまぁといったところでしょうか。

原作との違い(谷川9段が原作では聖の目標となっている)

今作は、大崎善生の原作「聖の青春」を忠実に再現していますが、一番大きな変更点は、原作での最大のライバルは羽生名人ではなく、谷川9段だったことです。

現在はB級1組へと陥落し、無冠となった谷川9段ですが、村山聖がプロ棋士を目指して奨励会入りした当時は、今の羽生名人のような立ち位置にいました。名人位をはじめタイトル戦の常連だった「雲の上の人」であり、当時の将棋少年たちのあこがれでした。

「谷川を倒すには、いまいくしかないんじゃ」と言って、奨励会入りをした村山でしたが、あこがれの存在だった谷川9段には当初なかなか勝てなかったようです。

7.まとめ

今年見た実写映画の中では、一番深い感動と満足感を与えてくれた一作。元々将棋が好きで、原作や周辺作品を読み込んでいたこともありますが、そうでない人でも充分に楽しめる作品だと思います。

彼の生きざまから、人それぞれ受け取るものは違うと思いますが、幅広い年齢の対象者におすすめできる珠玉の良作でした。主役たちの熱演に心打たれますよ!

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむための小説やガイドなど

8-1.大崎善生の原作「聖の青春」絶対おすすめ!

映画では表現しきれなかった聖の幼少時代のエピソードや、プロになってからのさらなる心打たれるストーリーが満載のすばらしいドキュメンタリーです。それまで将棋ライターとしてずっと雑誌編集等に関わってきた大崎善生氏は、2001年に出版した本作品が絶賛され、文学賞を受賞し、小説家としてデビューを果たしました。原作がまだの人は絶対オススメです!

8-2.大崎善生の珠玉のノンフィクション「将棋の子」

「聖の青春」のサブストーリーで、奨励会員の江川は、年齢制限で3段リーグを勝ち抜けず、あと一歩というところで敢えなく強制退会となり、プロ棋士への夢を絶たれてしまいました。将棋でもプロ棋士になる前の若手達が所属する「奨励会」に密着したドキュメンタリーには非常に心打つ迫真のドラマがあります。

プロになれるのは年間でたったの4人。狭き門を目指して、村山聖同様青春時代を賭け、心を締め付けるような仲間と切磋琢磨し、年齢制限とも戦った10人の奨励会員達を追ったノンフィクションです。これは超おすすめ!

8-3.マンガ「聖 -天才・羽生が恐れた男-」

「聖の青春」をベースに、村山聖の半生を描いたマンガ作品。こちらも、映画同様羽生善治を終生のライバルとして緊迫感ある将棋風景を描いています。将棋自体への解説も結構しっかりしているので、読み物だけでなく、勉強にもなるかも。おすすめ!

f:id:hisatsugu79:20161119160918p:plain

8-4.将棋ソフトとの戦いをテーマと迫真の将棋ドキュメンタリー「不屈の棋士」

ドワンゴ主催の将棋ソフトNo.1とプロ棋士の五番対決「叡王戦」が広く認知されるなど、将棋界でも現在、人工知能搭載の将棋ソフト全盛時代を迎えつつあります。

本作は、将棋界の権威や構造を揺るがしかねない将棋ソフトに対してトップ棋士がどう考え、2016年現在どのように戦っているのか、丹念にインタビューで本音を聞き出した労作。読み応えがありました。下記で、レビュー記事も別途書いたのでもし良ければ覗いてみて下さい!

【レビュー記事はこちら】
書評:「不屈の棋士」は人工知能に追い詰められ苦闘するプロ棋士達をリアルに描く傑作でした!

8-5.その他おすすめの将棋マンガ!

2012年頃から現在に至るまで、静かに広がりつつある将棋ブームの中、「知識ゼロ」でも楽しめる将棋マンガが多数出版されています。先日、おすすめの将棋マンガについて記事を書いたので、もし良ければ覗いてみてくださいね。

【レビュー記事はこちら】
知識ゼロでも心から楽しめる、絶対面白いおすすめの将棋マンガ15選!

祝開館!混雑注意!すみだ北斎美術館のオープン初日「北斎の帰還展」に行ってきました!

$
0
0

【2016年11月23日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

僕の地元、両国に新しい美術館「すみだ北斎美術館」が11月22日にオープンしました。様々な問題がある中、紆余曲折を経て、構想から数年がかりでようやく開館にこぎつけることができました。

江戸東京博物館に続き、自転車で10分弱の距離にできた美術館。これはいかねば!ということで、早速行ってきましたので、以下レポートを書いてみたいと思います。

1.すみだ北斎美術館とは

<すみだ北斎美術館公式動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

すみだ北斎美術館は、2016年11月22日にオープンした、日本で「葛飾北斎」をテーマとした浮世絵や日本画の専門美術館です。墨田区が30年来かけて進めてきた一大事業として、日本各地から有志やコレクターの協力を得て建てられました。

場所は、JR/地下鉄大江戸線両国駅から徒歩7分程度の好立地。葛飾北斎が生まれ暮らした本書割下水に建設されました。

f:id:hisatsugu79:20161122172532j:plain

外観はかなり派手で、近未来的な感じ。世界的に有名な建築士、妹島和世氏の設計です。エントランスでチケットを買ったら、一旦4階まで上がってから、階段を降りながら展示を見ていくような動線になっています。f:id:hisatsugu79:20161122172640j:plain

ちょうど横には、遊具も充実した緑町公園も併設されているので、子供連れで来ても遊ばせるスペースがちゃんとありますよ。f:id:hisatsugu79:20161122172840j:plain

また、1F部分にはそれぞれ図書室、グッズ販売コーナー、小ホールなどがありました。

図書室内は撮影禁止なので、外から外観だけ。葛飾北斎や浮世絵、日本画についての蔵書や、過去の展覧会の図録などが揃っています。f:id:hisatsugu79:20161122180113j:plain

講習会や地元の趣味の集まりなどで使えそうな会議スペース。ブロガー内覧会などもやってくれたら嬉しいなぁ。f:id:hisatsugu79:20161122180247j:plain

お祝いの花もたくさんきています。地元墨田区の企業が多いように思います。f:id:hisatsugu79:20161122180400j:plain

そして、こちらがグッズコーナー。オープン初日なので、飛ぶように売れています!f:id:hisatsugu79:20161122180801j:plain

ちょうど、地元の東京MXテレビのYoutube公式でマスコミ向けの内覧会を18日取材した動画が上がっているので、これが一番わかり易いかも。

<美術館の様子(東京MX)>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.オープン初日の混雑状況

小規模な美術館だし、まぁ大丈夫だろう・・・と思っていたら、予想外にチケット購入の列が混雑していました。僕が行ってきた午前11時30分で、約15分待ち。会館を出た14時には、30分待ちくらいになっていました。f:id:hisatsugu79:20161122172935j:plain

美術館1Fロビーにスペースがないこと、不慣れな受付のオペレーションなども重なり、恐らく年末年始あたりまで、土日は大混雑するものと思われます。

上記写真のプラカードには「お手持ちのチケットをご用意下さい」と書かれていますが、事前に企画展のチケットを持っていけば、並ばず入れます。来場前に、できるだけ事前にコンビニ等で購入していくことを強くオススメします!(ただ、許容範囲を超えて人が来たら、チケット購入だけでなく、入場制限がかかる可能性もあるかも) 

3.構想30年、所蔵点数は約1800点

すみだ北斎美術館の建設が最初に墨田区で構想されたのは、今から27年前の1989年。墨田区にランドマーク的な文化遺産をまとめるハコものを作ろう!ということで、「北斎館」(仮称)という名称で、計画が進められていきました。

以来、為政者が変わっても粛々と計画は進められ、約20億円をかけ、開館までに約1800点もの多数の北斎作品等のコレクションを収集していきました。

f:id:hisatsugu79:20161122181122p:plain
(引用:http://ose.blog.so-net.ne.jp/2015-01-24

集められた作品は、北斎やその弟子、同時代の浮世絵師などの日本画作品を中心に約1800点。その収蔵品は、大きく3つのコレクションに分かれます。

コレクション1:ピーター・モース コレクション
1993年、来日中に急逝した北斎の世界的なコレクターとして有名な同氏の遺族の意向を受け、その大半のコレクションを買い取り、収蔵品としました。

コレクション2:楢崎宗重コレクション
さらに1995年には、浮世絵研究の第一人者、楢﨑宗重氏のコレクションを加えたのが二つ目の柱。

コレクション3:墨田区が独自に買い付けたその他のコレクション
そして、その間も個人や閉館された美術館から墨田区がコツコツ買い付けを進めてきた独自のコレクションが3つ目の柱です。今回の展覧会「北斎の帰還」展のメインで出展されている「隅田川両岸景色図巻」は、圧巻の出来でした。

次回企画展では、いわば、すみだ北斎美術館の功労者であるモース氏と楢崎氏をフィーチャーしたコレクション展が企画されています。

スポンサーリンク

 

4.展示の内容

すみだ北斎美術館は、小規模館ながら、常設展示コーナーと企画展示コーナーの2つのセクションがあります。それぞれ部屋は独立していますが、基本的には企画展示のチケットで両方入ることができます。

4-1.常設展示コーナー

エレベーターで4Fへ上がると、左手に常設展示コーナーがあります。企画展チケットで入れるのは当日限り。ここでは、数点の写真撮影不可の作品を除き、全展示撮影OKとなっているのは嬉しいところです。f:id:hisatsugu79:20161122183637j:plain

北斎の画業を年代別に振り返る展示を中心に、浮世絵の作り方や北斎のアトリエ(想像図)、家系図など、コンパクトに良い感じでまとまっています。代表作「神奈川県沖浪裏」「凱風快晴」なども撮影OK!

富嶽三十六景「凱風快晴」f:id:hisatsugu79:20161122175819j:plain

解説展示「錦絵ができるまで」f:id:hisatsugu79:20161122181610j:plain

タッチパネルを触って理解を深める展示も!f:id:hisatsugu79:20161122181742j:plain

リアルな北斎の作業場模型f:id:hisatsugu79:20161122183349j:plain

質素な長屋で娘、お栄と二人で名作を次々と生み出していたのですね。非常に精巧に造られた模型で、今にも動き出しそうな人形でした。

4-2.企画展「北斎の帰還展」

f:id:hisatsugu79:20161122181439j:plain

開館こけら落としの企画展「北斎の帰還」展の主役は、長らく行方不明となっており、100年ぶりにオークションで墨田区が競り落とし、日本へと帰還した長大な肉筆画の絵巻物「隅田川両岸景色図巻」です。

f:id:hisatsugu79:20161122182727j:plain
(引用:今月22日に開館 「北斎美術館」目玉は“幻の絵巻”

洋風の遠近法を駆使し、両国橋から上流に遡り、吉原近辺にかけて(今の隅田川河口4km付近~10km付近)両岸の風景を写実的に描写した長大な絵巻物です。その長さは、約7メートル。北斎の手がけた作品中では最大の作品となります。

f:id:hisatsugu79:20161122185820j:plain
(引用:今月22日に開館 「北斎美術館」目玉は“幻の絵巻”

北斎は、琳派風の肉筆画から、春画、浮世絵まで幅広くこなした器用なアーティストではありましたが、こんな洋風の絵巻物まで手がけていたとは知りませんでした。詳細まで丁寧に描きこまれており、見応えがある作品です。

その他、膨大なコレクションから肉筆画(花鳥画や仏画など色々)、版画、版本、摺物まで幅広く120点ほど出展されています。状態は飛び抜けていいわけではありませんが、バラエティに富んだ作品群は、いわゆる一般的な浮世絵師「北斎」というステレオタイプなイメージを壊してくれる面白い展示だと思います。

5.展示品はよかったけど、運営上の課題はまだまだ山積

常設展示や、企画展の展示物は非常に良かった反面、開館当初だからなのかその運営にはまだまだ課題がありました。

列挙してみると・・・

  • チケット購入者が捌ききれず、建物の外まで長蛇の列になってしまう
  • 部屋を移動するたびにチケットを見せないといけない面倒な動線
  • 2F~4Fの螺旋階段が狭くてすれ違いが危ない
  • 1F⇔2Fを移動する階段がなく、エレベーターでしか移動できない
  • トイレにウォシュレットがない(男性だけ?)
  • 企画展の音声ガイドが用意されていない
  • 海外観光客向けの多言語展示対応が不十分
  • ブログの更新が止まっている
  • TwitterやFacebookを効果的に使い切れていない

結構ありますね(^_^;)

そして、もう一つ。美術館に来たゲストが休憩できるカフェが併設されていないこともやや残念でした。展示を楽しんだ後、美術館オリジナルの軽食を頂いて、楽しい思い出を記憶にとどめて帰りたいところですが、見終わったらさっさと出ていかないといけないのはちょっと寂しい感じ。

せめて施設の周りに、提携できそうな受け皿になるカフェができればお客さんの満足度も上がると思いますが、現状ではそれもなく、展示を見終わったお客さんはストレートに両国駅前に帰るしかありません。それは、地域活性化の観点からも、もったいないのではないでしょうか?

すみだ北斎美術館は、運営準備段階から入札不調などコスト面で苦しんできましたし、開館後も、年間約1億円程度の赤字基調を見込むことから、美術館運営には厳しい目が向けられていることは確かです。だからこそ、運営面でまだまだやれることはいっぱいあるはず。是非、少しずつでいいのでより良い美術館にしていってほしいです。

と、最後に結構言いたい放題書きましたが、個人的にはかなり期待をしています。ほら、年間パスポートも買いましたよ!!
年間パスポート(3000円/1名)f:id:hisatsugu79:20161122175410j:plain

年間パスポートも購入したし、毎回気合を入れて展示替えも含めて皆勤するので、是非とも地元民や観光客に愛されるスポットになって欲しいです!

6.まとめ

世界的にも知名度が高い葛飾北斎をテーマにした美術館は、日本では意外に少なく、長野県小布施市の北斎館と、このすみだ北斎美術館だけです。立地は非常に良いので、今後海外からの観光客も多数来館が期待されそう。

両国駅前の新スポット「江戸NOREN」(11月25日オープン)や、江戸東京博物館と合わせて、1日楽しめるエリアになりそうですね。今後に期待です。

それではまた。
かるび

すみだ北斎美術館について

◯所在地
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7
◯最寄り駅
JR両国駅/都営大江戸線両国駅から徒歩5分程度
◯開館時間

9時30分~17時30分(入場は30分前まで)
◯休館日

毎週月曜日
◯公式HP
http://hokusai-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/HokusaiMuseum
◯周辺地図

【ネタバレ有】「ファンタスティック・ビースト」の感想とあらすじを徹底解説!/大当たりの王道ファンタジー作品でした!

$
0
0

【2016年11月24日更新】
かるび(@karub_imalive)です。f:id:hisatsugu79:20161124001340j:plain

この秋最大の話題作「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」を見てきました。ハリー・ポッターの新シリーズは、初めて原作者のJ・K・ローリングが原作小説を書く前に映画化された作品となりました。

結果としては、予想外の良い出来に、大満足でした!
以下感想やあらすじ、解説を書いてみたいと思います。
後半パートでは、ネタバレをかなりの部分で含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

映画「ファンタスティックビースト」シリーズは、すでに全5部作での制作が決定されていると公表されています。その全てでメガホンを取るのは、ハリー・ポッターの後半4部作で監督を務めたデイヴィッド・イェーツです。

また、今回は脚本段階から、ハリー・ポッターシリーズの原作者であるJ・K・ローリングががっつり参加しているため、世界観がクリアで詳細な物語の設定が行き届いていました。

<最新のオフィシャル予告編動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】デイヴィッド・イェーツ
【原作】J・K・ローリング

2.主要登場人物とキャスト

ハリー・ポッターシリーズらしく、1名の一般人「ノーマジ」以外の主要登場人物は魔法界のメンバーです。

ニュート・スキャマンダー
(エディ・レッドメイン)
f:id:hisatsugu79:20161123192951j:plain
イギリスから渡ってきた世界的な魔法動物学者。魔法動物の保護と調査のため世界中を飛び回る中で、ニューヨークへ渡ってきた。

ポーペンティナ・ゴールドスタイン
(キャサリン・ウォーターストン)
f:id:hisatsugu79:20161123193008j:plain
通称ティナ。本作のヒロイン役。物語中盤まで表情も固く、マジメ一徹で保守的な古き良きアメリカの才女というイメージ。

クイニー・ゴールドスタイン
(アリソン・スドル)
f:id:hisatsugu79:20161123193031j:plain
ティナの妹。読心術を心得ており、人の心を自在に読める。地味な姉と対照的にセクシーな衣装で外向的だが、非常に姉思いのよくできた妹でもある。料理も上手。

ジェイコブ・コワルスキー
(ダン・フォグラー)
f:id:hisatsugu79:20161123193048j:plain
アメリカン・ドリームを目指して移民として渡ってきたが、さえない缶詰工場の労働者として働いていた。銀行から資金調達してパン屋を開こうとするが、そこでニュートと出会い、数奇な運命に巻き込まれる。魔法が使えない一般人「ノーマジ」。

パージバル・グレイブス
(コリン・ファレル)
f:id:hisatsugu79:20161123193103j:plain
アメリカ合衆国魔法議会、魔法保安局長。裏の顔も持つ、そこはかとない悪さを醸し出すコリン・ファレルの演技が非常に良かった。

3.映画の見どころ(ネタバレ無し)

3-1.「ビースト」たちの出来がいい!かわいい魔法動物たち!

今作は、魔法動物学者である主人公のニュートが様々な魔法動物を街中で追いかけ回し、また時には動物と協力して危機を脱出し、謎をとき、問題を解決していきます。そして、その独創的なビーストたちが意外なほどに動きや形がコミカルでかわいいのです。それも、人形みたいなかわいさではなく、現実世界に普通に生息していそうなリアルな造形で、なおかつかわいいという絶妙のデザインでした。作り込みに脱帽です。

3-2.アクションシーンでのVFXの美しさ

IMAXや4DXシアターに対応し、アクションシーン全開の今作ですが、最新の3DCGやVFXを駆使して非常にリアルにハリー・ポッターの幻想的な世界観がニューヨークの町中で表現されていました。一種の非現実的な世界を描くファンタジーものでどうしても弱くなりがちなリアリティをしっかり補えていました。

3-3.「狂騒の20年代」1920年代のアメリカを描いた時代背景にも要注目

今回の舞台は1926年のニューヨーク。豊かな時代ではあったが、貧困や差別なども豊かさのすぐ側に同居していた「狂騒の20年代」と呼ばれる世相を反映した街並みや人々の服装、考え方など、非常に詳細に時代考証がなされていました。当時まだ飛行機がないため、船着き場に入国審査・税関があったり、走っている車がクラシックだったり、禁酒法下のアングラな居酒屋が独特の妖しさを放っていたりと、見どころはつきません。 

スポンサーリンク

 

4.「ファンタビ」のラスト結末までのあらすじ(※ネタバレ注意)

1926年、闇の魔法使いグリンデルバルドがヨーロッパで猛威を振るっていた。魔法世界は、次にグリンデルバルドがどう出るか戦々恐々とする毎日だった。

そんな中、魔法動物学者、ニュート・スキャマンダーが船でニューヨークへと渡ってくるところからストーリーが始まる。ニュートのスーツケースの中には彼が世界中で保護した魔法動物たちで一杯。税関の手荷物検査で見つかりそうになるが、間一髪通り抜けてニューヨークの町中へ。

一方、ニューヨークで起きている一連の不思議な事件の調査で、グレイプスは現場検証をしていた。見知らぬ得体の知らない何かが、街を破壊した痕跡や被害状況を調査していたのだ。

f:id:hisatsugu79:20161124001559j:plain

ニュートが通りを歩いていると、新セーレム慈善協会の指導者、メアリー・ルー・ベアボーンが魔法使いの脅威と撲滅について熱心にスピーチをしていた。彼女は、運動をするかたわら、孤児たちを施設で庇護・養育していた。彼女の子供であるモデスティ・ベアボーンや、クリーデンス・ベアボーンらは、ビラ配りなどメアリー・ルーの教えを広める手助けをしていた。

メアリー・ルーはニュートを見かけると、壇上から何かを話しかけたが、その時ニュートの開きかけのスーツケースから、ニフラーという魔法動物が逃げ出した事に気づいた。

ニフラーは光るものや、金目の物を集めるのが大好き。銀行の中へ逃げたニフラーを追うニュート。銀行内では、パン屋を開くために融資の申込みに来たジェイコブ・コワルスキーがいた。ジェイコブの隣に座り、ニフラーの様子を伺うニュート。ニュートはニフラーを追うのに夢中になるあまり、魔法動物オカミーの卵を椅子に置き忘れてしまう。

ジェイコブは、スーツの中から持参した手作りのパンを取り出してアピールするが、結局融資を受けられず銀行を後にしようとする。引き続きニフラーを探していたニュートにオカミーの卵を返そうとしたジェイコブ。

f:id:hisatsugu79:20161124001756j:plain

「ノーマジ」に魔法動物を見られてしまったニュートは、焦ってジェイコブを魔法で転送して、銀行の金庫内に逃げ込んだニフラーを一緒に追うことになる。

まもなく銀行の警備員がやってきたので、さらに魔法で彼らを固めて、ジェイコブに「オブリビエイト」の魔法をかけて一連の魔法や魔法動物を見ていたジェイコブの記憶を消そうとする。しかし、ジェイコブはニュートをカバンで殴って逃げてしまった。

それを見ていたのが、元闇祓いで、アメリカ合衆国魔法議会で、魔法の杖認可局の職員を務めていたティナ・ゴールドスタイン。ティナは、一般人「ノーマジ」に魔法を見せた魔法機密保持法「3条A」に違反したニュートを捕まえて、アメリカ合衆国魔法議会(以下マクーザ)へ連れて行く。しかし、マクーザ議長のセラフィーナ・ピッカリーはすでに魔法の杖認可局を解任されたティナが余計なことをすることに気分がよくない。グレイブスが、ニュートのスーツケースを開けてみると、それはパンが一杯入ったジェイコブのスーツケースだった。最後にジェイコブに間違えてニュートのスーツケースを持って行かれてしまったのだ。

代わりにニュートのスーツケースを持って帰ったジェイコブは、中に何が入っているかも知らず、自宅でスーツケースを開け、中に入っていた幻獣を外に逃がしてしまう。

また、マリー・ルーは子供二人を伴い、ヘンリー・ショーが社長を務める新聞社へ、自らの魔法撲滅運動をアピールしにいった。社長やその息子(上院議員)相手にされない。新聞社からの帰宅途中、クリデンスはグレイブスと密かに接触し、グレイブスから「力」を持つ子供を探し出せ、そうすれば魔法使いにしてやるとささやかれた。

一方、魔法動物に逃げられたジェイコブの家はマートラップ(魔法動物)に半壊状態に。ニュートとティナはジェイコブの家を修復し、マートラップを回収するが、より安全な妹クイニー・ゴールドスタインと共同生活している家に。ジェイコブも連れて退避する。

その晩、クイニーの手料理を楽しんだジェイコブとニュートだったが、その晩、二人は部屋を抜け出し、残りの逃げ出した魔法動物を連れ戻しに行った。ニュートとジェイコブはスーツケースの中にあるニュートの小屋に行き、ジェイコブに、ニュートが保護している様々な魔法動物を紹介した。中でも、フランクと名付けたサンダーバードを、今回アリゾナの大自然に返すため、アメリカに渡ってきたと話すニュート。街に出て、ニフラーとエランペントを苦心の末回収した二人だった。

ニュートの小屋で、不穏な泡状の膜に覆われた黒いもやのような浮遊体をみつけるジェイコブ。取り憑かれないよう、ジェイコブに下がっているように注意するニュート。これは、3ヶ月前にニュートがスーダンで捕まえた、オブスキュラスという、小さな子供にとりつき、子供が内側へ抑えつけた魔法の力を捕食して生きる生命体/霊体であり、魔女狩りを恐れ、魔法使いが魔法の力を抑えなければならない何百年前では珍しいことではなかった。取り憑かれた子供はオブスキュリアルと呼び、10歳まで生きられないことが多いという。

その晩、新聞社のショー上院議員の大統領選の大会が開かれていたが、そこで見知らぬ巨大な力により、会場がめちゃくちゃに壊され、ショー上院議員はそこで死んでしまう。

これを重く見たメクーザのメンバーは、事件の原因をニュートが魔法動物と一緒にトランクの中から逃した、暴走したオブスキュラスが仕業であると断定。ニュートとティナを逮捕してしまう。グレイブスによる別室での取り調べで、自分が捕まえて持っていたオブスキュラスは人間に取り付いたことがない無害な個体で、事件とは無関係であると主張するも、クレイブスは、ニュートの言い分を却下し、ニュートとティナに死刑判決を出す。

死刑執行寸前、ニュートは隠し持っていた魔法動物ボウトラックルのピケットなど魔法動物を使い、手錠の鍵を解除し、ティナと逃げ出す。その途中でクイニーとジェイコブと合流した。

一方、繰り返し来る日も来る日も母親のマリー・ルーから虐待をされていたクリーデンス。その日、クリーデンスが杖で叩かれそうになった時、オブスキュラスが現れて、あっという間にマリー・ルーは殺されてしまう。クリーデンスとモデスティは家から逃げ出した。

ニュート達は、彼らの無実を証明するためにも、逃げた残りの魔法動物の手がかりを得ようと、ブラインド・ピッグというかくれ酒場へゴブリンの事情通、ナーラックを訪ねます。ナーラックは情報提供の見返りに、ニュートの所有する魔法動物、ボウトラックルを要求する。しぶしボウトラックルを渡し、ナーラックは「メーシー」百貨店に残りの1匹がいると教えるも、メクーザにも通報していたのだった。

急いで酒場を離れ、メーシー百貨店へ向かう4人。そこで魔法動物オッカミーのドゥーガルを見つけて、その場でゴキブリを餌に、ティーポットにオッカミーをなんとか閉じ込めることに成功したのだった。

一方、グレイブスはクリーデンスと合流し、オブスキュラスに取り憑かれているであろうモデスティを見つけ出す。グレイブスは、クリーデンスが魔法一族の息子だが、魔法を使えない体質であることを伝え、モデスティを確保できそうになったため、用無しになったクリデンスを見捨ててしまう。

見捨てられたクリーデンスは裏切られた悲しみと怒りのあまり、オブスキュラスになってとうとう暴走しまう。モデスティではなく、クリーデンスこそが宿主=オブスキュリアルなのだった。青年まで体内でオブスキュラスを抑えつけていたクリーデンスが開放したオブスキュラスは、非常に強力な個体となって、ニューヨークの街中を荒れ狂うように破壊していく。

f:id:hisatsugu79:20161124001108j:plain

オブスキュリアルになったクリーデンスを追うニュート達とグレイブス。やがて、クリデンスは地下鉄のホームへ入り込み、そこでニュートはクリデンスと対話を試みる。地上では、メクーザの魔法使いたちが現場近くに結界を張っていた。

f:id:hisatsugu79:20161124001048j:plain

ニュートとティナがクリーデンスと対話している時、再びグレイブスがやってきて、クリデンスの心を乱す。再びオブスキュラスになって荒れ狂うクリーデンス。

そこへ、メクーザの魔法使い達がやってきて、クリーデンスを殺してしまう。オブスキュラスを開放し、人間界を破壊したいと願っていたグレイブスは、失望と怒りのあまり、メクーザから離反する。その場でグレイブスと魔法使いたちの間で戦いになるも、グレイブスの正体を見破ったニュートがグレイブスを拘束し、本来の姿を暴きだした。

捕まったグレイブスは、姿を徐々に変え、正体を現していく。なんとグレイブスは、グリンデルバルドだったのだ。グレイブスは拘束され、ただちにメクーザに収監された。

多数の「ノーマジ」ニューヨーク市民に魔法を見られてしまったため、街全体に「オブリビエイト」の魔法をかける必要があったが、それは魔法使いたちの力だけでは到底無理だった。そこで、代わりにニュートが連れてきたサンダーバードのフランクに、ニュートが開発した記憶を失わさせる青いポーションを街全体へ雨と一緒に降らせることで解決した。

f:id:hisatsugu79:20161124001652j:plain

そして、ノーマジは全員記憶を消さなければならないが、その例外はない。ピッカリーに念を押され、ジェイコブも涙ながらにニュート達と別れを告げたのだった。

それから少したち、ジェイコブは、前職の缶詰工場への勤務に向かう灰色の日々を送っていた。不機嫌そうに通勤するジェイコブに、唐突にぶつかってくるニュート。ジェイコブが態勢を立て直し、スーツケースが妙に重いのでその場で開けてみると、中にはたくさんのオッカミーの銀のたまごが入っていた。中の手紙には、これを銀行からの融資の担保にして下さいと書かれていた。

いよいよニュートがニューヨークから旅立つ時が来た。見送りに来たティナに対して、本を書き終えたらまた戻ると言い残して旅立っていった。

ジェイコブが開いたパン屋は大繁盛。かすかに残る記憶で魔法動物をかたどったような変わったパンが今日も好評だ。そこへ、クイニーが入ってきた。微笑むクイニーを見て、何かを思い出したかにみえたジェイコブであった。

スポンサーリンク

 

5.映画の感想と評価(※ネタバレ有注意)

5-1.原作の縛りがないのびのびした脚本が良かった

ハリー・ポッターシリーズは、多数の原作ファンを満足させるため、どれも原作に忠実に制作する必要があったため、媒体の違いから、ストーリーや場面転換に理解しづらい不自然な点がどうしても残ります。個人的には、ハリーポッターシリーズの映画は、モヤモヤしたもどかしい感覚で見終わる事が多かったです。

ところが、今作は、世界観や設定はハリー・ポッターシリーズを受け継ぐものの、原作がなく、「映画」に最適化されて制作されたので、非常に展開がスムーズで感情移入もしやすかったです。見終わった後、すっきりと映画館を後にすることができました。

5-2.物語はやっぱり王道のラノベ的スタイルだった

ハリー・ポッターシリーズは、(クライマックスとなる後半は除き)、基本は現実世界で冴えないハリーが、年に1回異世界である魔法世界へ旅立ち、そこで「選ばれし勇者」が主人公だけの特殊能力を使って悪者を倒し、そしてまた現実へと戻っていく冒険活劇でした。いわば「異世界転生」「学園モノ」でチート的な無双をするライトノベル的な王道パターンのストーリーなのです。(※ただしハーレムではない)

本作も、イギリスから単身ニューヨークへ来たニュートが、地元のエース魔法使い達をさしおいて、彼だけが使える幻獣たちを駆使して謎を解き、敵を追い詰め、問題を解決します。そして、問題が解決したら女を置いてニューヨークを去って物語が完結する展開は、ハリー・ポッターシリーズ同様、「勇者がどこからか来て、活躍して、またどこかへ去る」という使い古されたパターンに当てはまっています。

でも、それがわかっていても決してしらけるわけじゃないのがこの映画の底力です。王道的なストーリー構成が決して嫌味ではなく「良い意味で」老若男女に幅広くアピールできたのは、原作に縛られずスピード感あふれるムダのない脚本と華やかな映像美、それらを支える詳細な設定や伏線がしっかりしていたからなのかなと思いました。

6.気になる設定や伏線の解説

6-1.グリンデルバルドはなんとジョニー・デップだった

事前にトレイラーでは明かされていなかった、真の悪役、グリンデルバルドの俳優。物語終盤、グレイブスが捕縛され、ニュートに魔法をかけられると、グレイブスの本当の顔がグリンデルバルドであることがわかります。そして、そのグリンデルバルドは、ジョニー・デップが演じていました。

本家アメリカでは、先日、私生活で妻を殴打したDV疑惑を引きずり、ジョニー・デップの起用は賛否両論のようです。子供まで幅広く対象とするファンタジーものにDV男優を起用するのはどうなのか?という議論ですね。

6-2.禁酒法とファンタスティック・ビーストの世界の関係

本作のスタートする1926年は、アメリカ全土で「禁酒法」が施行され、飲用目的でのアルコール飲料の製造が憲法で禁止されていました。1920年~1933年まで実に14年間も続きましたが、天下の悪法と言われています。なぜなら、人々のお酒への欲望を断ち切ることはできず、却ってアル・カポネに代表されるマフィア等の非合法組織により、密造酒が作られ続けたからです。

今作終盤でニュート達がゴブリンの情報屋を頼って立ち寄るバーも、「スピークイージー」と呼ばれる隠れ酒屋で、この時代ならではの文化・風俗です。

6-3.アメリカのメクーザ(MECUSA)はなぜこれほど厳しいのか?

本家イギリスと違い、魔法使いが自分たちに自信を持てず、一般人「ノーマジ」に魔法を見せ、婚姻や友人関係を持つことにまで厳しく制限をかけていたアメリカ合衆国魔法議会(MECUSA/メクーザ)。直接言及はされていませんが、これは、メリー・ルーが結成していた秘密結社的な「新セーレム慈善協会」で激しく魔法使い排斥運動を行うなど、多数派である一般人「ノーマジ」からの根強い偏見により、魔法使いが抑圧されている1920年代の現状が関係していると思われます。

元々西欧世界では、中世からキリスト教の異端弾圧の一貫として「魔女狩り」が盛んに行われてきました。アメリカでも、1694年にマサチューセッツ州で起きたキリスト教の異端信者を対象に起こされた、妖術を使うとされた女性が有罪判決を受けた「セーレム魔女裁判」という有名な事件があります。「新セーレム慈善協会」のマリー・ルーは新聞の力を使って、魔法使いを弾圧し、現代に「魔女狩り」を蘇らせようとしました。

このように、一般人と魔法使いが一触即発の雰囲気にありました。力を持つとは言え、「ノーマジ」と比較すると圧倒的少数派である魔法使いには相当生きづらい世の中だったから、自衛のための厳しい罰則を設けざるをえなかったのでしょうね。

6-4.MECUSA(メクーザ)の本部のモデルは?

f:id:hisatsugu79:20161124020511p:plain
(引用:Wikipediaより)

1913年に竣工され、1926年当時、世界で一番高いビルだった60F建のウールワースビル。ここの内部がアメリカ合衆国魔法議会として使われていました。ティナがふくろうの石像に杖を振ると、秘密の入り口が現れ、メクーザへとつながっていましたね。しかし、約90年も前にこんな高層建築があったとは驚きです。

6-5.オブスキュラスとは何なのか?

物語の核心でニューヨークの街をめちゃくちゃに破壊したオブスキュラス。オブスキュラスは、魔法動物界の寄生虫のような生命体です。何らかの理由で魔法の力を外部に開放せず、内側に抑圧する子供を宿主=オブスキュリアルとして、宿主の溜め込んだ生命力をエネルギー源として成長します。

成長したオブスキュラスはやがて宿主の精神力を食いつくし、最後は暴走してしまいます。だから宿主は10歳まで生きられないことが多いといいます。ただし、まれに精神力の強いクリーデンスのような宿主は青年まで生きられました。その分、負の感情が高まり、クリーデンスがオブスキュラスとなり暴走した時は、その力はどんでもないものとなりました。

ちなみに、ニュートがスーダンで捕まえたオブスキュラスは人に取り付いたことがないため、無害な存在でした。

6-6.なぜグレイブスはオブスキュラスを見つけ出したかったのか

グレイブスの表の顔は、アメリカ合衆国魔法議会の保安局長で、上級幹部として魔法世界を取り締まっていましたが、彼には内心忸怩たる想いがありました。「ノーマジ」と魔法世界を区別するため厳しく設けられた法律が、結果として魔法世界を抑圧するだけで、「ノーマジ」達をつけあがらせているだけなのではないかと。

映画では名言されていませんが、グレイブス=グリンデルバルドは魔法世界を復権させ、人間世界を破壊するための切り札として、密かにオブスキュラスを宿した子供を探し出そうとしていたのでしょう。

6-7.ジェイコブはささやかなアメリカンドリームの象徴なのか?

ポーランド移民としてアメリカへ渡り、第一次世界大戦で兵役を務めた後、アメリカへもどったばかりのジェイコブは、ニュートたちと出会ったことで、人生が変わりました。ラストでは、缶工場でのしがない労働者を卒業し、大繁盛する独創的なパン屋を開店し、魔法使いの美女、クイニーとも再会するなど、幸福な人生を掴んだように見えます。禁酒法下、人種差別や貧困をリアルに魔法世界と絡めて描く一方で、「狂騒の20年代」での古き良きアメリカン・ドリームもきっちり描かれていたのが印象的でした。

6-8.次作以降へ期待感を持たせるためのいくつかの伏線

今作で明らかにされず、作品中に回収されずに終わった主な伏線や謎は以下の通り。

  1. ニュートの元彼女(レダ・レストレンジ)の存在
  2. 「覚えておけ」と捨て台詞を吐いたグリンデルバルド
  3. ティナとの別れ際に「本が完成したらまた来る」と言い残して去ったニュート
  4. クイニーとジェイコブの新たな出会いの行く末

すでに全5部作と発表されているので、早くも次作への期待が高まります。ハリー・ポッターの世界では、ダンブルドアがグリンデルバルトを倒したのは1945年ですから、あと最大19年で4作分のストーリーを描くことができます。

7.まとめ

原作から解放されて、映画向けの脚本をゼロから書き起こされた本作は、アクション、謎解き、恋愛、コメディ、ファンタジーなど、様々な要素が上手くミックスされた優れたエンターテインメント作品に仕上がりました。時間を忘れて楽しめる佳作です。

大人から子供まで安心して楽しめる高品質な作品でした。ロングランで上映されるはずなので、この年末年始に機会があったら行ってみて下さい!

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむための小説やガイドなど

8-1.ハリー・ポッター全作品がU-NEXTで初月無料で楽しめる!

実は、ファンタビの公開前、見たことがあるハリー・ポッターの作品は、妻に無理やり学生時代連れて行かれた第1作「ハリー・ポッターと賢者の石」だけでした。今回、新シリーズの発表を機に、どうせなら全作品抑えてから映画に出掛けたい!と思っていたのですが、意外と全作品のブルーレイやDVDを揃えるのはお金がかかるんですよね・・・。

そこで、なんか安く上げる方法はないかと思って探してみたところ、ありました!

U-NEXTで全作品がラインナップされています。見てみると、最初の31日間は「無料期間中」とのこと。ということは、無料期間中に見ちゃえばいいんだな!ということで、映画公開前に急いで無料加入して全部見てしまいました。(といっても、8作品あるので見終わるまで2週間かかりましたが・・・笑)

ファンタビシリーズも、2作目からは、ダンブルドアの過去や、ニュートの過去の彼女なども深くストーリーにからんできて、過去作のチェックが必須になってくると思います。これを機に、せっかくなので、U-NEXTで見逃したハリー・ポッターシリーズを全部みちゃいましょう!

<無料視聴の申込みは下記のバナーかリンクから!>

U-NEXTで31日間無料でハリー・ポッターを制覇する!

8-2.Pen「ハリー・ポッター完全読本。」

ハリー・ポッターシリーズの過去作品を振り返り、ファンタスティック・ビーストに続くその関連性や、原作者J・K・ローリングやD・イエーツなどのインタビューも含めて簡潔ににまとめた特集。僕はまずこれを購入して、全体像を掴んでから過去作に臨みました。時間のない人でもサラッと読めるのでオススメ。

8-3.『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』メイキング・ブック

少し値段は張るのですが、他の特集本より一段深い特集は値段相応の価値があると感じます。主役たちやJ・K・ローリング、D・イエーツ監督らスタッフへのロングインタビュー、衣装や小道具の制作秘話などが満載。映画をマニアックに何度も楽しみたい人は保存版として手元に置いておきたいです。僕も発売日に買いました!

8-4.映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」キャラクターガイド

映画での主要登場人物一人一人のキャラクターを掘り下げた特集本。各キャラクターの持ち物、衣服などがカラー写真で整理され、さらに物語で語られない背景など詳細な設定も楽しめます。ファンタビの世界観が良く理解できる一冊です。おすすめ。

8-5.映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」オフィシャルガイド

静山社から出版される解説本の中では一番薄く安価ですが、ストーリーとその背景に焦点を当ててたっぷり解説されています。全5作となる長大な物語を支えるハリー・ポッターシリーズの世界観を理解するにはちょうど良いと思います。


「クラーナハ展」のTBS関連番組の制作現場を取材してきました!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

国立西洋美術館で絶賛開催中の「クラーナハ展」、皆様はもう行きましたか?僕は、開催初週に行ってきました。クラーナハの独特な妖しさや中世とルネサンスの入り混じった不思議な作風が非常に印象的でした。

会期終了まではまだ1ヶ月半以上あるし、国立西洋美術館での東京展が終わったら大阪へ巡回し、国立国際美術館でアレシンスキー展と一緒に展示される予定です。TBSでも、11月27日(日)にそのテコ入れのために、クラーナハ展で音声ガイドを務めた阿川佐和子をフィーチャーした特集番組を組むことになっています。

そんな中、いつもお世話になっている大先輩の美術ブロガー、「青い日記帳」主催のTak(@taktwi)さんから、クラーナハ展に関して、TBSが特集番組を企画するので、その番組制作の舞台裏として「局アナのナレーション収録現場の取材に行かない?」とお誘いいただきました。もちろん、二つ返事で11月23日に行ってまいりました!

今日は、その美術番組のナレーション収録現場へ潜入取材してきたので、簡単にレポートを書いてみたいと思います!

1.行ってきたのはTBS放送センター

これまで、前職の仕事では何度かテレビ東京に出入りしたことはありますが、TBSの放送センターは初めて。千代田線の赤坂駅で降りて、駅の案内板に従って改札を出ます。 f:id:hisatsugu79:20161124225222j:plain

改札を出て、左側の階段を登ると、地続きでTBSの放送センターへそのまま行けるようになっていました。雨に濡れずに便利です。f:id:hisatsugu79:20161124225311j:plain

テレビ局らしく、通路のいたるところに番組の広告が派手に張り出されています。今、ブレイク中の「逃げ恥」のポスターも一杯ありました! f:id:hisatsugu79:20161124225425j:plain

来ました。正面玄関。官公庁とマスコミ関係の会社に入る時は、なぜか無駄に緊張してしまいます。この日も、正面玄関で芸能人の卵(知らないアイドル?)や、収録機材を抱えたスタッフが待機していました。f:id:hisatsugu79:20161124225609j:plain

ここが中です。一応、放送センターに特に関係のない観光客などの一般人も、1Fのロビーまでは普通に来ていいみたい。奥の方にカフェがあったり、記念写真を取れるようにブタのマスコットがおいてあります。TBSラジオ、好調なんですね~。f:id:hisatsugu79:20161124225628j:plain

ここで、Takさんと、TBSTBSテレビ事業局文化事業部の佐藤麻理子さんと待ち合わせして、収録スタジオへ。

2.スタジオの収録現場での様子

f:id:hisatsugu79:20161124134955j:plain

Takさんと案内された社内のスタジオでは、すでに27日に放送される「クラーナハ展」の特番関連番組のナレーション収録準備が進んでいました。所狭しと並ぶモニターや高そうな録音機材。コックピットのようです。

挨拶もそこそこに、ディレクターの方が映像を写しながら、本番のスクリプトを読み上げる、原稿の最終チェック場面に立ち会わせて頂きました。

そして、いよいよあとはアナウンサーによるナレーター収録が始まろうとしていた時、部屋に入ってきたのは、TBSの看板アナウンサー、井上貴博アナでした。 
 井上貴博アナ
f:id:hisatsugu79:20161124135052j:plain

(引用:TBSオフィシャルHPより)
井上アナは、月曜日ー金曜日まで朝8時~の看板番組「白熱ライブビビット」のメインキャスターですね。みのもんたの「朝ズバッ」時代から、一貫して朝の視聴率激戦区で活躍している方です。

非常に多忙な中、わずか数分の収録であるにも関わらず、しっかりと原稿を読み込み、背景知識も予習バッチリの状態で登場した井上アナ、早速スタジオ左奥にある録音部屋へと移動します。

f:id:hisatsugu79:20161124231516j:plain

そして、ナレーションの収録が始まりました。
間近でナマの声を聞いてみると、本当に上手!腹式呼吸でお腹から声を力強く発声し、難しいセリフでもかまずにスラスラ、そして大事なところでは情感たっぷりに抑揚をつけるのもお手のもの。最前線で活躍するエースアナのプロの技術に圧倒されました。

f:id:hisatsugu79:20161124135035j:plain

これが原稿なのですが、秒単位で映像にフィットするように原稿ががっちり組まれています。 厳しいタイムフレームに合わせながら、臨機応変に「て」「に」「を」「は」部分はアドリブをいれつつ、ディレクターさんと息を合わせてスムーズに収録が進んでいく様は圧巻でした。いや~。凄いものを見た・・・。

3.井上アナに簡単に質問してみた

全部で2パートほどの収録だったのですが、通して2~3回のテイクでディレクターさんのOKが出て、わずか20分ほどで収録が完了。「アナウンスのプロ」の実力を間近で感じることができた貴重な経験となりました。

折角の機会なので、Takさんと一緒に、井上アナに簡単にインタビューをさせていただくことになりました。以下は、その要約です。 

収録、大変お疲れ様でした。早速質問なのですが、こういった美術展などのナレーションの収録機会は結構あるんですか?

いや、実際はあまりないですね。今回がわりと初めてに近い感じです。

井上さんは、割と報道系の番組なども多いですが、普段のニュースなどで美術展の話題など結構あったりするんですか?

それも、あまりないです。

なるほどー。結構予習をされて今回の収録に臨まれたってスタッフの方にお聞きしたんですが、こういうナレーションの仕事の時は、いつも予習をされるんですか?

そうですね。特に今回は、自分として芸術には疎い方なので、事前に美術展の資料やDVDを頂いて、イメージ作りをしてから臨みました。頂いた資料とか見てると、あー、こんなのもあるんだ、って新鮮な気持ちになりますね。人によっては、そのままぶっつけ本番で読んでいく人もいますが、僕の場合は割と準備したい方で、そのあたりのこだわりはうるさいかもしれません(笑)

ナレーションの原稿を拝見しましたが、結構本番でちょっとずつ、臨機応変に変えていらっしゃいましたね?

そうですね。原稿をそのまま読むのではなく、その場で臨機応変に少しずつ変えていくことも多いですよ。

ナレーションの仕事をするとき、正直この人の仕事は苦手だ・・・っていうのはありますか?

いや、ないです(苦笑)というか、みなさんによく聞かれることがあるんですが、できるだけ色々な仕事をフラットな気持ちでやりたいと思っているので、やりづらい人は作らないようにしてますよ。逆にやりやすい人っていうのも作らないようにしています。自然体な感じでいつもやっていきたいですね。

展覧会の音声ガイドとか、いつかナレーションをやってみたいと思いませんか?

そうですね。是非やってみたいという気持ちはあります。ただ、知らない世界でもあるので、ハードルの高さはあるかもしれませんね。どこかいいところがあれば是非お願いします!

今日はどうもありがとうございました!

ということで、非常にリラックスしたムードの中、気さくに取材に応じてくださったTBSの看板アナウンサー、井上貴博さん。これを機に、今後もアート系のTV番組や音声ガイドなどでお声を聴けるのを楽しみにしております!

4.まとめ

終了後、クラーナハ展を担当しているTBSテレビ事業局文化事業部の佐藤麻理子さんから、テレビ局としての展覧会の全体統括やマネジメントの苦労や難しさについてもお話をいただきました。海外や自社内での煩雑な事務手続き、美術館側との折衝、採算性の確保など、少数精鋭のスタッフで一人何役もこなさなければならないそうです。

今回は、TBS様に展覧会の「広報活動」の一貫としての、番組収録を取材させて頂きましたが、様々な関係者が協力しあって「展覧会」という一大プロジェクトの成功のために頑張っているんだな、と強く実感しました。こういうのを見ちゃうと、展覧会で適当に流してみるのがもったいなく感じてしまいます^_^

日本で事実上初めての大回顧展となったクラーナハ展、素晴らしい展示ですので、是非まだ見てない人は見に行ってみて下さい!また、11月27日の関連番組「サワコのひとり旅inウィーン~巨匠クラーナハが愛した芸術の街へ~」も素晴らしい内容に仕上がっていますよ!是非忘れずチェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

クラーナハ展の展覧会情報と関連番組の紹介はこちら

11月27日放送「サワコのひとり旅inウィーン」

f:id:hisatsugu79:20161124142015j:plain

放送局:TBSテレビ
放送日時:2016年11月27日(日)
放送時間:15時00分~15時30分
タイトル:
「サワコのひとり旅inウィーン~巨匠クラーナハが愛した芸術の街へ~」
番組情報へのリンク:
http://www.tbs.co.jp/hot-jyouhou/201611171659.html

クラーナハ展(東京)の情報

◯開催期間
2016年10月15日~2017年1月15日
◯開催場所
国立西洋美術館(上野)
◯最寄り駅
JR上野駅から徒歩2分程度(上野公園内)
◯開館時間

9時30分~17時30分(入場は30分前まで)
※ただし、金・土は20時まで開館延長
◯休館日

毎週月曜日
◯公式HP
http://hokusai-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/tbs_vienna2016

◯レビュー記事 

◯周辺地図

【ネタバレ有】映画「疾風ロンド」の感想とあらすじ解説/原作より良かった、笑撃の雪山サスペンス!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

出版する小説が次々に映画化・ドラマ化される売れっ子ミステリー小説家、東野圭吾の「疾風ロンド」が映画化され、11月26日に公開されたので早速見てきました。

f:id:hisatsugu79:20161126203410p:plain

正直、見るまではあんまり期待していなかったのですが、サスペンスとコメディ、人間ドラマがバランスよく融合しており、素晴らしい出来だったのです。原作のプロットでの大切なポイントは全て網羅した上で、吉田監督ならではのプラスアルファの要素が加えられ、味わいあるストーリーへと昇華された佳作だと思います。以下、感想を書いてみたいと思います。

※エントリ後半では、かなりのネタバレを含んでいますので、何卒ご了承下さい。

1.映画の基本情報

本作は、下記の公式予告編でも明らかにされている通り、コメディ色の強い原作のタッチを活かして制作されています。監督にはコミカルな笑いを得意とし、「あまちゃん」で実績のある吉田照幸監督を起用。特色ある個性的な映像や独特のおかしみがある映像空間が楽しめます!

<公式予告編動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】吉田照幸(「あまちゃん」「サラリーマンNEO」)
【原作】東野圭吾「疾風ロンド」

2.主要登場人物とキャスト

主演は阿部寛。原作同様、脇役の2名が活躍し、主役はラストまでどうにも冴えない3枚目です。東野圭吾原作作品では、「麒麟の翼」(2012)以来、2回目の出演となりましたが、前作とまったく違うタイプのキャラクターでも幅広く演じ分けができる阿部寛はやっぱりすごい。

栗林和幸(阿部寛)
東野圭吾作品で、「栗林」姓の登場人物は、冴えない人物として描かれることが多いです。今作でも、研究所の「主任」ですが、どうにも情けない人として描かれます・・・根津昇平(大倉忠義)
野沢温泉スキー場でパトロール隊員を務める。正義感が強く、実直で冷静な好青年。
瀬利千晶(大島優子)
スノーボードクロスの国際大会に出る腕前を持つ。姉御肌で、何にでも絡みたがる世話焼きな性格でもある。根津のことが気に入っている。
栗林秀人(濱田龍臣)
多感な年頃を迎え、父親和幸に対して素直になれない今日この頃。ウィンタースポーツが好きで、毎年スノボに行くのを楽しみにしている。
東郷所長(柄本明)
研究所での栗林の上司。自己の保身を第一に考える俗物的なサラリーマン。

3.映画の見どころ(ネタバレ無し)

3-1.雪原でのチェイスシーンの迫力

超小型のアクションカメラ「GoPro」で撮影された雪原での犯人とのチェイスやアクションシーンがスピード感満載で見応えがあります。スノーモービルやスタントマンをフル活用して、迫力のある、実際に滑っているような

3-2.犯人探しではなく、死んだ犯人の残したトリックを素人探偵が挑むストーリー

原作小説でも、冒頭からビニール袋に入った「品物」をスキー場のある場所に埋め込む犯人が名前入り「葛原」で描かれ、そしてあっさりその帰り道に交通事故で死んでしまうというひねった展開。

そこから、素人探偵達が一つずつ謎を解いていくプロセスを楽しむ映画となっています。後半の謎解きのクライマックスシーンは、犯人との雪原でのチェイスを含め、かなりスピード感があります。

3-3.コメディとサスペンスの絶妙なバランス

多数の人命に関わる深刻なリスクのある問題が起こっているのに、主役の栗林や上司の柄本明扮する東郷所長の、ダメサラリーマンをデフォルメしたかのような間抜けなキャラクターがコメディ的な雰囲気を醸し出しています。そんな、サスペンスドラマにコメディ調のタッチがうまく融合した、面白い感覚の映画に仕上がっています。あまちゃんをヒットさせた吉田監督ならではの、ユーモアあふれる映像表現が見どころ。

※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※

スポンサーリンク

 

4.簡単なラストまでのあらすじ(※ネタバレ有注意)

大学の医科学研究所で主任研究員として働いている栗林和幸は、一人息子の秀人(しゅうと)と暮らすしがないサラリーマン。母親はすでに亡くなり、息子と二人暮らしだ。14歳になり、言うことを聞かなくなってきた息子の教育に悩みつつ、今日も出社するのだった。

その日出社した栗林は、バイオセーフティレベル4相当の実験室内に保管してあったはずの病原体を入れた試験容器がなくなっていたことに気づいた。

すぐに生物学部長の東郷に報告する栗林。すると、東郷宛に来ていた脅迫メールを見せられる。脅迫状には、摂氏10度以上になると破損する仕掛けを施した薄いガラスケースに生物兵器クラスの感染力がある炭疽菌「K-55」を入れて、ある場所に埋めたと書かれていた。

f:id:hisatsugu79:20161126203001j:plain

犯人いわく、埋めた場所は、あるスキー場の木の根本。そこに、目印として木に1週間限定で電池で動作する発信機をつけたテディベアをくくりつけたという。3億円を払えば、引き換えに病原菌を埋めた場所を教えるとメールにはあった。

この、K-55は2週間前に研究所で勤務していた葛原が勝手に作り出し、保管していた新種の炭疽菌だった。研究所の規約での禁止事項に抵触する行動を重く見た東郷は、即座に葛原を解雇。葛原が作り出した病原菌は、国に無届けでセキュリティレベル4の実験室を秘密裏に稼働させ、保管していた。恐らく、今回の事件はそれを恨みに思った葛原の仕業であると考えられた。

栗林が警察への届け出を申し出るも、今回の件を秘密にして保身を図る東郷はそれを却下。研究所員だけで回収したいという。

f:id:hisatsugu79:20161126205236j:plain

そこへ、警察から葛原が高速道路の交通事故で亡くなったと報告があった。警察からなんとか回収した葛原の遺品の中に、方向探知受信機とノートパソコンがあった。パソコン内に残っていたデジカメ撮影の写真画像には、どこかのスキー場でとったと思しきテディベアの画像など、数枚見つかった。

写真を見ても、写り込んでいる鉄塔みたいな物体から、どこかの上信越のスキー場であることだけはわかったが、それ以外がさっぱりわからない。栗林は、自宅に帰り、スノボにハマっている秀人の友人に調べてもらい、写真の場所が野沢温泉スキー場であることをつきとめた。

東郷に報告すると、やはり警察には届けず、栗林が回収してくるように指示を出す東郷。しぶしぶ野沢温泉へ向かう栗林だった。

20年来、スキーなどやったことがなかった栗林は、息子の秀人を伴ってスキー場へ捜索に向かうことにした。スキー場に着くと、早速着替えてゲレンデに出るも、まったく滑れない栗林。ボーゲンで右往左往して子供にもバカにされる始末だ。

f:id:hisatsugu79:20161126203247j:plain

捜索初日の水曜日。コース外を探索中に新雪につかまり、うごけなくなる栗林。それを見ていた「どどめいろ」の帽子をかぶった男が、パトロールに連絡する。連絡を受けた根津が現場に急行し、栗林を救助するのだった。

f:id:hisatsugu79:20161126203358j:plain

場面は変わり、地元の中学生二人が、コース外をスノボで楽しんでいた。地元の高野裕紀と、川端健太の二人である。しばらく滑っていると、ブナ林のある木の下で、木につるされた不審なテディベアーを発見した。気持ち悪くなり、そのまま何もせず、下山する二人だった。

一方、秀人は、親とは離れゲレンデでスノーボードを楽しんでいた。地元のスキー学校で野沢温泉に来ていた女の子、山崎育美とぶつかりそうになったことをきっかけに、二人はそのまま意気投合し、その日一緒にスキーを楽しむのだった。

その日は、結局捜索するも成果がなく、栗林は、中腹のヒュッテ「カッコウ」で状況を分析することにした。すると栗林に先程の「どどめいろ」の帽子をかぶった男が話しかけてきた。色々と質問されたが、本当のことが言えないので、栗林は、適当なことを言ってごまかした。

翌日、木曜日。疲れ切って全身がだるい栗林。それでも何とかゲレンデに出る準備をしていると、昨日会った親子連れにまたしても出会う。親子連れと軽口を交わし、スキー場に出ようとしたその時、受信機が突然反応し、驚く栗林。あたりを見回したが、特に何もない。やがて、受信機は反応しなくなった。

ゲレンデに出て、スキーを履いたままコース外へ出て、探索を開始するも、あっさりコケてケガをしてしまう。動けなくなった栗林は、たまたま側を通りかかった千晶に助けられた。千晶がパトロールを呼び、またしても根津に山小屋に運び込まれた栗林。

f:id:hisatsugu79:20161126203148j:plain

山小屋で、2日連続でコース外へ出た栗林に、その理由を問い詰める根津。栗林は、とっさの機転で、炭疽菌ではなく、未認可の新薬を探していることにして、その他の事件の全容を根津と千晶に打ち明ける。未認可のワクチンだが、待っている患者がいるため、急がなければならない、と咄嗟に話をつくると、それをすんなり信じる根津と千晶。そして、彼らが代わりに受信機を持って、テディベアの根本に埋まっているワクチンを探すことになった。

栗林は、軽食も取れる山小屋「カッコウ」で、二人の捜索状況を見守ることとなった。そこへ、その日も、育美とスキーを楽しんだ息子、秀人が「カッコウ」に入ってきた。あいさつをする栗林と育美。

f:id:hisatsugu79:20161126202902j:plain

一方、根津と千晶は捜索を開始するが、どどめ色の帽子をかぶった不審な男にあからさまに後をつけられていることに気づく二人。気にせず捜索に集中したが、やはり簡単には見つからない。もう一度山頂から見直してチェックするため、ゴンドラに乗って、何気なく受信機をつけたら、一瞬だけ受信機が反応した。しかし、すぐに消えてしまい、反応しなくなった。

やがて、捜索を終えた根津と千晶が「カッコウ」に帰ってきた。捜索状況を共有し、不審な男に後をつけられたことを栗林に伝える二人だったが、栗林は意に介さないようだった。

その晩、根津と千晶は久々の再開を祝して飲むことになった。スノーボードクロスのレース出場のための練習に身が入らないので、明日も捜査に協力したいと申し出る千晶。根津は色々思うところがあったが、次の日も捜査をお願いすることにした。

金曜日の朝になった。いよいよ今日見つけないと、発信機の電池が切れてしまう。またも例の親子連れとホテルの土産コーナーで立ち話をした。今日、高速で帰るという。

この日も、捜索は根津と千晶に任せ、栗林は「カッコウ」で待機することになった。捜索する中で、リフトに乗っていた時に再び受信機が大きく反応する。そして、ある親子連れに受信機を向けた時、受信機の電波感知が最大になるのだった。二人は、親子連れの服装を覚えてすぐに捜索するが、見失ってしまう。

f:id:hisatsugu79:20161126203045j:plain

根津は、栗林に状況を報告すると、栗林に「親子連れ」の心当たりがあった。何度か宿で話したあの親子連れだ。昨日、ホテルで親子連れと話をした時に、受信機が反応したことを思い出し、すぐにホテルのフロントへ。いやがるフロントから、何とかその親子連れが名古屋在住であることを聞き出す。

一方、根津はその親子連れが別のスキー場の食堂で「ビール」を2本注文していたことから、名古屋行きの高速バスで名古屋へ帰るはずだと推測し、高速バス乗り場へ急行する。すると、運悪くすでに名古屋に向けて出た後だった。

f:id:hisatsugu79:20161126202933j:plain

根津は、すぐに軽トラックを借りて、インターチェンジの前でバスを待ち伏せして、バスを捕まえて親子連れを探す。そこで、女の子「ミハル」ちゃんが持っていたテディベアを回収するも、このテディベアは、地元の中学生からもらったものだという。

これを聞いた栗林は、育美に、ミハルちゃんにテディベアをみつけて渡した友達を探してもらうように協力を要請した。育美は、LINEで連絡をとりあうと、同級生の川端がテディベアを持っていたとの情報が得られた。

すぐに育美が川端に連絡し、そのテディベアを拾った場所を栗林に案内してほしいので、「カッコウ」に来るように伝えた。「カッコウ」に向かう川端。

川端が「カッコウ」の前まで来ると、例のどどめ色の帽子の男が川端の前に出て「私が栗林だ」と名乗り、川端をつれていってしまう。

川端がいつまでたっても来ないので、途方に暮れる栗林たち。そこへ、川端の同級生高野裕紀が「僕、その場所知っています」と申し出る。根津は、高野を連れて現場へ急行する。

やがて、高野と現場近くの木の下を探したところ、雪の下に埋まったビンが出てきた。回収して、帰ろうとしたその矢先、「どどめいろ」の男が川端をナイフで脅し、ビンを渡すように根津を脅す。根津は、ビンを「どどめいろ」の男に奪われた。

その直後、現場に千晶がやってきた。ビンを横取りされたことを根津から聞くと、千晶は「どどめいろ」の男を追っていった。

f:id:hisatsugu79:20161126203329j:plain

やがて、「どどめいろ」の男に追いついた千晶は、男とスキー場で激しいチェイスを繰り広げる。そして、男からストックを奪うと、男と滑りながらバトルをする。最後に金的でノックアウトすると、その現場を根津が抑え、「どどめいろ」の男から再びびんを奪い返すことに成功した。

f:id:hisatsugu79:20161126203223j:plain

根津たちは、「カッコウ」に戻りK-55が入った収納容器を栗林に渡した。収納容器からビンを落とすと、ビンはその場で割れてしまった。「生物兵器だ!」と言って、慌てふためく栗林だったが、中身は高野家が「カッコウ」で使っているコショウだった。

根津から「ワクチンではなかったのか」と詰め寄られる栗林。謝罪するも、今はビンを探し出すことが先決として、再び捜索の手がかりを探ることに。すると、栗林は「カッコウ」の裏口で東郷所長への定期報告をする時、誰かに聞かれていた気配を感じていた。どうやら高野裕紀がすり替えて持ち逃げしたとわかり、裕紀を追うことに。

中学校のスキー学校の打ち上げの豚汁会場にいるだろうとアテをつけ、現場に急行すると、裕紀を捕まえることに成功した。今度こそ、K-55の入ったビンを回収することに成功したのだった。

その晩、今回の事件を警察などに公表する/しないで秀人と言い争いになり、気まずい雰囲気になり、栗林はなかなか寝付けなかった。

翌朝、栗林は、秀人に対して、今回の事件を隠蔽せず、きちんと公表することを伝え、秀人に感謝の気持ちを伝える。秀人も栗林に対して素直になれずごめんと謝る。事件を通して、ようやく二人のコミュニケーションが上手く周りだしたのだった。

K-55のビンを回収に来たのは、折口だった。折口が「どどめいろ」の男とつながっていたことを知らない栗林は、折口にビンを渡してしまい、折口はそのまま「どどめいろ」の男と成田空港へ向かい、高飛びしようとする。

東郷所長から折口の裏切りを伝えられ、焦った栗林だったが、秀人がいたずらでK-55のビンをすり替えていたので、間一髪折口に渡してしまうのを水際で防げたのだった。

後日、大学に戻った栗林は、東郷所長の元に収納容器を置いて、部屋を退出する。いぶかった東郷が、容器をあけると、K-55のビンではなく、東郷、栗林連盟で、今回の事件を公表するための記者会見のプレスリリースが設定されたことを印刷した紙が入っていた。栗林は、もう逃げないと決めていたのだった。

f:id:hisatsugu79:20161126202752j:plain

一方、テレビニュースでは、折口真奈美と「どどめいろ」の男が空港でパスポート偽造の罪で逮捕されたというニュースが報道されていた。押収した収納容器を税関職員が開けたところ、彼らは「生物兵器だ!」と叫んだが、中にはフランクフルトが入っているだけだった・・・

スポンサーリンク

 

5.映画の感想・評価、原作との相違点

映画オリジナルで付加された主役・栗林のサブストーリー

原作小説「疾風ロンド」は、根津と千晶のカップルがスノーリゾートで起こる事件を解決するシリーズ物です。だから、どちらかと言えば主役は根津と千晶なのです。

彼らが1作ごとのゲストキャラクターである栗林から依頼を受けて、雪原でのアクションや謎解きを行い、シリーズが進むごとに根津と千晶の関係も少しずつ親密になっていく、というパターンでこれまでシリーズが進んできました。

しかし、映画では、パンフを見ても分かる通り、主役はあくまで阿部寛扮する栗林です。原作のまま映画化すると、栗林を演じる阿部寛が間抜けなまま終わってしまうので、浮かばれないよな~と思っていたら、栗林に関するサブストーリーがクライマックスの後にきっちりと付加されていました。栗林が、息子と対話し、自分と向き合い、事件の一部始終を公表するくだりです。

栗林と息子の相棒映画という見立て

見方を変えると、この映画は、栗林と息子のバディ・ムービーと見ることもできます。長年の惰性でサラリーマン生活をこなしていた栗林が、突然降ってわいたような自分の手に負えないレベルの難事件に直面します。そして、息子とともにスキー場という特殊な非日常空間へ行って、お互いがそれぞれ一連の事件と深く関わり、問題に向き合いました。

非日常における危機は、日常に潜在していたお互いへの不満や人間関係の問題点浮き彫りにしてくれる触媒でもあります。事件をきっかけに、栗林は、その浮わついた言動を見透かされ、心が離れかけていた息子とコミュニケーションを取り戻します。そして、自分自身の自分自身の職業生活の原点へと回帰していきました。

コメディタッチで終始進んでいく中で、最後はシリアスに栗林をきれいに描いたオリジナル・サブストーリーが付加されたのは、映画全体を引き締める効果があって非常に良かったです。

脇役、根津と千晶が原作のイメージどおりで素晴らしい!

既発表のシリーズ3作を通じてすでにがっちりキャラクターが固まっている根津と千晶ですが、根津役の大倉忠義、千晶役の大島優子とも、非常に原作のイメージにぴったりの演技をしてくれました。冷静沈着で内に情熱を秘めた根津、活動的で、おせっかいな姉御肌の千晶ともに小説から出てきたような好演でしたね。(大島は地なのかも・・・)

6.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

6-1.埋められた病原菌の中身は何だったのか

交通事故死した葛原哲也が、実験室で作り出した、「K-55」という識別番号で呼ばれるワクチンの効かない「炭疽菌」の突然変異体です。炭疽菌は、体内に取り込まれると発病率が高い病原菌です。近現代の国家間戦争にて、生物兵器として何度か使われたほか、アメリカの炭疽菌テロでも使用されました。

「芽胞」という状態で粉末化して空気中で散布できるため、本作のような事件がおきるとパニックになるのは容易に想像できるところです。

6-2.どどめ色のスキーウェアの男と折口真奈美研究員の関係

エンドロール中に明かされましたが、折口真奈美研究員と、どどめいろのウェアの男は姉弟でした。真奈美は、従順でか弱い研究員を日頃演じながら、手段を選ばず大きなチャンスを伺う勝負師として、原作では描かれています。

真奈美は、無断で炭疽菌K-55を作成した葛原とグルでした。解雇された葛原が復讐として東郷所長へ3億円を脅し取ろうとした計画に乗り、葛原が炭疽菌を盗み出す手助けをします。そして、アクシデントで葛原が死亡した後は、多額の借金返済に迫られていた弟と共謀して葛原の残した炭疽菌のビンを回収し、外国へ売りさばいて高飛びしようとしました。

現実に、こういう大胆な人物がいるか?といえば、やや疑問ですが、物語にひねりと壮大なオチをもたらしてくれた存在でしたね。

6-3.なぜ秀人は炭疽菌の入ったビンをすり替えたのか

事件が解決したその夜、あくまで事件を隠蔽したままやり過ごそうとした栗林に対して、「それでいいのか?きちんと対処しなければいけないのではないか?」と迫り、親子はぎくしゃくしてしまいました。

秀人はなぜビンをすりかえたのでしょうか?まず、父親に対するあてつけの気持ちがあったでしょう。さらに、折口研究員に渡すのではなく、自分たちで持ち帰ることによって、もう一度父親に正しい選択を取るよう考え直して欲しいと考えたからとも考えられます。

秀人の「余計な」行動が、結果として折口姉弟の空港での高飛びを防ぎ、炭疽菌の拡散を防ぐ大殊勲につながったところに、このストーリーの面白みがありました。

6-4.「栗林」という名前に込められた意味とは

阿部寛扮する主人公の「栗林」という名前には、「冴えないサラリーマン」「うだつの上がらない中年」という記号的な意味が含まれていると思われます。本作だけでなく、小説・ドラマ・映画と大ヒットを記録した「ガリレオ・シリーズ」でも万年助手を務める栗林助手という名前のうだつの上がらない似たようなキャラが出てきますね。

今回の栗林は助手ではなく「主任」ではありますが、実質は強権的な東郷所長の下で情けない中間管理職でしたから、ほぼガリレオシリーズの栗林と同じようなイメージで描かれたものだと見て良いでしょう。

6-5.山小屋「カッコウ」についての考察

f:id:hisatsugu79:20161126205930j:plain

今回の事件で、物語の重要な拠点となったのが、スキー場の中腹にあったヒュッテ「カッコウ」です。野沢温泉スキー場に実在する小屋で、「パノラマハウス ぶな」という名前で、11月26日から営業を開始しています。聖地巡礼にいいかも?!

ちなみに、「カッコウ」という名前は非常に秀逸でした。本作は、後半にかけてどんでん返しの連続でストーリーが加速していきましたが、物語展開の核心部分にあったのが、炭疽菌の「収納容器」でした。物語中、高野裕紀、栗林秀人により2回もすり替えられた収納容器は、まさに「カッコウ」の巣みたいでしたね。物語の重要拠点となった小屋の名前が、まさに物語の本質を暗示していたわけです。

7.原作小説との細かい相違点(※ネタバレ有注意)

7-1.ロケーションの違い

犯人が炭疽菌を埋めた場所が、原作では「里沢温泉」となっていましたが、映画ではむしろぼかされることなく、「野沢温泉」となっていましたね。まぁ原作を読んでいる時に、ああこれは野沢がモデルかな・・・と思いながら読んでいましたが(笑)

7-2.発信機の電池の違い

原作では、脅迫状に、発信機の電池は1週間と書かれていましたが、映画ではスピード感を持たせるためか、4日間とされていましたね。

7-3.家族のきずなを強調するための片親設定

事件で鍵となる栗林家、高野家について、原作では両親とも健在でしたが、映画では栗林家が父子家庭、高野家が母子家庭として描かれていましたね。事件を乗り越えたことにより、強くなる家族の絆をより強く演出するための設定だったのでしょう。

8.まとめ

複雑にプロットが積み重なった原作を極力間引きせず、スピード感をつけてまとめ上げるとともに、原作で描ききれていなかった栗林親子の葛藤や、栗林自身が事件を通じて成長する様までを描いた本作。

監督の得意なコミカルでおかしみのある演出に逃げ込まず、シリアスなシーンとゆるいシーンが波状攻撃のようにつながっているのも良かったと思います。

映画ならではの面白さが感じられる、原作をうまく昇華した良い作品です。是非、映画館で楽しんでみて下さい。

それではまた。
かるび

【おまけ】映画を楽しむための原作小説などを紹介!

実は、この映画の原作「疾風ロンド」は、スノーリゾートで起きる事件を解決する根津・千晶が活躍する「根津・千晶シリーズ」の2作目なのです。本シリーズは、2016年11月現在、4作出版されています。

主人公がコミカルな3枚目だったり、恋の駆け引きや人間関係を面白おかしく描いた作品だったりと、サスペンスを基調としながら、作品を追うごとに読みやすいライト文芸調へと変わってきているのが特徴。そして、どの作品も発売後即ベストセラー。メチャクチャ売れてます!せっかくなので、全作紹介したいと思います。

第1作:「白銀ジャック」

シリーズ1作目は、渡辺謙主役でドラマ化もされました。スキー場経営をめぐり、スケールの大きい陰謀と殺人事件が起きます。スキー場のパトロール隊員だった根津が、はじめて千晶と出会い、共に事件に巻き込まれていくことになります。バブルの後遺症が続き、経営難に苦しむスキー場を舞台にした本格サスペンスミステリです。

第2作:「疾風ロンド」

時系列で言うと、「白銀ジャック」より少し後。里沢温泉スキー場に移ってきた根津に久しぶりに会いに来た千晶の距離がまた少しだけ縮まりました。本編ではサブストーリーですが、二人の絡みも読み応えがあります。ちなみに、「根津・千晶シリーズ」2作目から急にコメディタッチへと変わりました(笑)

第3作:「恋のゴンドラ」

「疾風ロンド」映画化に合わせ、書き下ろされた第3弾。舞台は再び里沢温泉ですが、今回はスキー場の「ゴンドラ」を舞台に、リア充たちの恋模様を描いた連作短編集。人は一人も死にませんが、結婚適齢期の男女の生々しい人間模様を描いた、東野圭吾版「私をスキーに連れてって」です。一気読みしました。面白かった!

第4作:「雪煙チェイス」(11月29日発売!)

「恋のゴンドラ」に続き、「疾風ロンド」映画公開に合わせて11月29日に発売となる文庫書き下ろし作品。未読ですが、「サスペンス、恋愛、コメディ、人間ドラマ」など全ての要素を入れて書き下ろした、と東野圭吾自身語っているように、本シリーズのハイライトになりそうな作品。(※読み終わったら、感想追記します!)

【ネタバレ有】映画「マダム・フローレンス」の感想とあらすじ解説/心暖まる上品なコメディ映画!

$
0
0

f:id:hisatsugu79:20161201101401j:plain

かるび(@karub_imalive)です。

かつて、世界で最もオンチだと言われた伝説のオペラ歌手がいました。その名は、フローレンス・フォスター・ジェンキンス。アメリカで実在した人物で、カーネギーホールで録音したライブCDまで発売されています。

今作「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」は、そんな彼女の生き様を振り返り、コミカルにまとめ上げた、涙あり、笑いありの上質なコメディ映画でした。

早速初日に気合を入れてみてきましたので、以下感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画の基本情報

<予告動画を見てみる!>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】スティーヴン・フリアーズ
【脚本】ニコラス・マーティン

2.主要登場人物とキャスト

今作では、ハリウッドの大物俳優、メリル・ストリープとヒュー・グラントが豪華共演しています。

フローレンス・フォスター・ジェンキンス(メリル・ストリープ)

f:id:hisatsugu79:20161130120954j:plain

資産家のマダム。難病を抱えつつも、趣味の声楽を生きがいとして、内輪のリサイタルを開催し続け、最後にはカーネギー・ホールでのコンサートを開催する。
シンクレア・米フィールド(ヒュー・グラント)

f:id:hisatsugu79:20161130121003j:plain

 

フローレンスと事実婚状態。フローレンスの生きがいと心を守るため、精神面のケアからコンサートのマネジメントまで裏方として奔走する。
コズメ・マクムーン(サイモン・ヘルバーグ)

f:id:hisatsugu79:20161130121010j:plain

フローレンスお抱えのピアニスト。ソロピアニストとしての成功を諦め、フローレンス専属のピアニストとして亡くなるまで彼女を支えた。
キャサリン(レベッカ・ファーガソン)

f:id:hisatsugu79:20161130121022j:plain

全米で大ヒットした映画「ガール・オン・ザ・トレイン」で憂鬱な専業主婦役が名演だったレベッカ・ファーガソンが、今作では報われない愛人役を務めます。
アグネス・スターク(ニナ・アリアンダ)

f:id:hisatsugu79:20161130121032j:plain

当初はフローレンスを馬鹿にしていたが、やがてフローレンスへの嘲笑が共感に変わっていく。古き良き時代のハリウッド女優的な役回り。

3.実在した人物「マダム・フローレンス」

f:id:hisatsugu79:20161130121137p:plain
(引用:Wikipediaより

マダム・フローレンス・ジェンキンス(1868-1944)は実在したアメリカ人女性です。前夫や家族からの反対を押し切り、1885年に前の夫と駆け落ちして家を出ました。この夫とは、後に離縁しますが、夫から生涯苦しむことになる「梅毒」をうつされています。1909年に父親が亡くなり、一生遊んで暮らせるほどの莫大な遺産を相続すると、ニューヨークの社交界へ華々しくデビュー。音楽家のパトロンとして芸術活動を支えると同時に、夢だったオペラ歌手の活動を開始しました。

自らが設立した「ヴェルディ・クラブ」で私的なリサイタルを繰り返しましたが、致命的に才能がなかった彼女。面白おかしく新聞に取り上げられたりするうちに、珍しいもの見たさからその人気に火がつき、亡くなる直前には、とうとうカーネギーホールで満員の大観衆を前にコンサートを開くまでになりました。

そのあたりの経緯は映画本編を見ていただくとして、実際に彼女が歌った歌唱のサンプルがWikipediaに上がっていますので、紹介しますね。

<マダムフローレンスの肉声!>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

もう、誰が聞いてもヤバいのがすぐにわかります。この腕前で世界に名高いカーネギーホールを埋め尽くした上、今でもカーネギーホールでのアーカイブリクエストNo.1といいますから、すごい奇跡(?)であります。

こちらが、カーネギーホールで張り出された当日の演目プログラムです。ピアニストの「コズメ・マクムーン」もいますね。

f:id:hisatsugu79:20161201103925j:plain
(引用:Classical MPR

スポンサーリンク

 

4.結末までの簡単なあらすじ(※ネタバレ有注意)

1944年、フローレンス・フォスター・ジェンキンス(以降、フローレンスと略記)は、自ら設立した「ヴェルディ・クラブ」にてフォスターの名曲「おおスザンナ」と共にワルキューレの恰好で歌い上げ、気分は上々だった。

コンサートを終えるとフローレンスは夫、シンクレアと共に帰宅し、寝床に就くのだった。最愛の夫シンクレアが愛情を込めてポエムを詠んでくれるうちに、眠りに落ちるフローレンス。フローレンスが眠った後、静かにフローレンスのウィッグを外し(持病の梅毒のせいで髪は全て失われている)、ナイトキャップをかぶせると、シンクレアは愛人、キャサリンのアパートメントへ通うのだった。

フローレンスは、次のリサイタルに備えて新しいピアニストを探していた。いつものように声楽のレッスンを終え、多数の候補者と面接を行った。決まったピアニストはコズメ・マクムーン。夫のシンクレアは、フローレンスと接する際、とがったものを持ち込まないこと、所定のいすには絶対座らないことなど、フローレンスの好みを逐一教え込むのだった。

次の日、フローレンスとのレッスン初日に赴くと、コズメはすぐに彼女の音程やリズム感がメチャクチャであることに気づく。レッスン中、笑いをこらえるのに苦労するコズメ。しかし、部屋を退出し、エレベーターに乗った時に抑えきれず、爆笑してしまうのだった。

f:id:hisatsugu79:20161201105949j:plain

ある日、フローレンスがリサイタルを開くことになった。徹底的に聴衆を知り合いだけで固めて、新聞記者を買収するシンクレア。当日は、主催する「ヴェルディ・クラブ」のなじみ客だけで固めたが、聴衆の中には、スターク氏の新しい妻も混じっていた。「笑ってはいけない」作法をわからず、リサイタル中に思わず爆笑してしまうスターク婦人。

f:id:hisatsugu79:20161201110035j:plain

途中でスターク婦人は退場したが、何とか平穏無事にリサイタルは終了した。その晩、疲労のため医師に診察させ、フローレンスを寝かしつけるシンクレア。医師は、このように重い梅毒症状で50年以上も生きる人は初めてだとつぶやくが、シンクレアには、音楽への情熱が彼女の生きる力になっていることを知っていた。

f:id:hisatsugu79:20161201110058j:plain

その晩、シンクレアのアパートでコズメやシンクレアの愛人も含め、盛大な打ち上げが開かれた。翌朝、フローレンスがシンクレアのアパートへやってきた。急いで愛人を隠し、なんとか取り繕ったシンクレア。

フローレンスが帰った後、怒る愛人に、穴埋めにゴルフに行くから許してくれ、と必死になだめるシンクレアだった。

フローレンスは、クリスマスに、自らが主催するヴェルディクラブの会員にレコードをプレゼントするためレコーディングすることを思い立つ。しぶしぶながら立ち会うシンクレアとコズメ。オンチなまま、レコーディングが終わり、満足げなフローレンスだった。

f:id:hisatsugu79:20161201110115j:plain

シンクレアが愛人とのゴルフ旅行中、フローレンスはコズメの自宅を訪問した。コズメにオリジナル曲をリクエストしながら、身の上話をするフローレンス。幼い時はピアノをよく弾いたが、ケガのためひけなくなってしまったこと。結婚してから、音楽を志したが反対されたこと。最初の夫と上手く行かなかった時期に、25年前に俳優をしていたシンクレアと出会ったことなど。

シンクレアがゴルフから帰ると、レコードの1枚がフローレンスに好意的ではない新聞記者の手に渡っていることが判明した。しかし、シンクレアの懸念をよそに、フローレンスはカーネギーホールを訪れ、ここでリサイタルを開きたいといい出す。

f:id:hisatsugu79:20161201110139j:plain

最初は反対したシンクレアだが、フローレンスの意志が固いと見るや、全力でサポートすることを決めるのだった。そして、とうとう愛人も、シンクレアに愛想をつかして出ていってしまう。

f:id:hisatsugu79:20161201110201j:plain

いよいよカーネギーホールでのコンサートの日がやってきた。チケットはソールドアウトし、いつものなじみ客の他、たくさんの復員兵がホールに詰めかけた。中には、これまで締め出してきた敵対的なニューヨーク・ポストの新聞記者の姿もあった。

コンサートが始まると、ニューヨーク・ポストの新聞記者はすぐに席を立つ。引き止めるシンクレアだったが、記者は去ってしまう。

f:id:hisatsugu79:20161201110219j:plain

また、あまりの下手さに笑い転げる復員兵たち。笑われていることに気づいたフローレンスは、歌うのを辞めてしまう。しかしスターク婦人が会場を落ち着かせ、再び演奏が始まる。結局、演奏は最後まで続けられ、大団円で終わった。

翌日の朝刊では、買収済みの記者は良いレビュ-記事を書いていたが、ニューヨーク・ポストだけ、酷評した記事が掲載されていた。目につく新聞スタンドのニューヨーク・ポストを買い占め、フローレンスの目に入れないように懸命に努力するシンクレアとコズメ。

f:id:hisatsugu79:20161201110240j:plain

なぜかニューヨーク・ポストの記事だけ見当たらないことに不信感を持ったフローレンスは、とうとう自分で新聞を買いに行ってしまう。そして、ゴミ箱にまとめて捨てられたニューヨーク・ポストを見つけ、その場で酷評記事を読んで倒れてしまった。

f:id:hisatsugu79:20161201110248j:plain

病床で、シンクレアとコズメに最期を看取られるフローレンス。自分が今まで嘲笑されていたことに気づいたが、フローレンスは「歌った事実は消せない」と、後悔はなかった。最期まで幸せな生涯だった。

スポンサーリンク

 

5.感想や評価(※ネタバレ有注意)

5-1.優しい嘘に嘘を塗り固め、行くところまで行ったコメディだった

梅毒で病弱のフローレンスを喜ばせたい一心で、本当はヘタクソでどうにもならない歌声を褒め、彼女を守り続けた夫、シンクレア。自らの「俳優で成功する」という夢を捨ててまで、フローレンスの生きがいだった音楽活動に尽くすシンクレアの熱意に、ピアニストのコズメも共感し、彼もまた自分自身のキャリアを諦め、フローレンスに尽くします。

暖かく愛ある「嘘」で盛り立ててくれる周りに載せられ、最期はもはや嘘で取り繕うことが出来ないレベルの大きさのリサイタルが実現してしまいます。最終的にはフローレンス自身がこれまで周りに笑われてきたことを悟りますが、でも最愛のパートナー達のことだけは信じることができたからこそ、最期は安らかに眠りにつけたのでしょうね。最期まで微笑ましい映画でした。

5-2.誰かに承認されているという安心感は大きなパワーを生む

劇中で、フローレンスは最初から最期まで夫、シンクレアの献身的な愛を疑いませんでした。最愛の人に守られ、承認されているという安心感こそが、彼女を精神的に安定させ、重たい持病を抱えながらも50年間のリサイタル活動を支える活力になったのだなと実感させられました。

5-3.人生は痛々しくても、やったもの勝ち

この秋に公開された映画「何者」でもありましたが、たとえ痛々しくても(そしてその自覚が自分にあろうとなかろうと)、人生は自分の目標や、やりたいことに向かってがむしゃらに行動した者が最後に果実を手にするのだなと。

フローレンスの最期の言葉が、非常に印象的でした。

「ひどい悪声だと避難されても・・・。歌った事実は誰にも否定出来ないのよ」

5-4.各演者とも素晴らしい名演だった

フローレンスを務めたメリル・ストリープは、もともと歌も上手な俳優ですが、今回の映画でわざと下手に外すという難易度の高い演技を見事にこなしています。特に、実際のフローレンスの音源を聞くとわかりますが、声質や外し方までそっくり!

夫のシンクレア役のヒュー・グラントは、いわゆるハリウッド版のキムタクみたいな俳優で、どの映画に出ても「ヒュー・グラント」然とした演技になっちゃう人なのですが、今回はしっかり役作りができていました。今まで見た中で一番の好演かも。

そして、見逃せないのがコズメ役のサイモン・ヘルバーグ。プロ並みのピアノの腕前を見込んでの起用でしたが、ピアノだけでなく、表情豊かで時に道化的な演技は、映画にコメディ的な上品なおかしさをもたらしていましたね。

また、愛人キャサリン役のレベッカ・ファーガソンはアメリカの20世紀の古き良き時代の大女優、キャサリン・ヘップバーンのようでいい味を出していました。(名前が同じなのはたまたま?)

f:id:hisatsugu79:20161130144642j:plain
(引用:http://www.geocities.jp/yurikoariki/katharinehepburn.html

6.映画の伏線や設定などを解説(※随時追加)

6-1.なぜフローレンスは頭髪がなかったのか?

フローレンスは、10代の時、離縁した前夫より「梅毒」をうつされました。現在では、ペニシリンの普及により、完治する病気となった梅毒でしたが、1940年代以前、「塩化第二水銀」の飲用が主要な治療法でした。(実際に、これで症状を抑えられたそうです)

ただし、「水銀」は身体には毒物です。用法用量を守らないと「水俣病」的な症状が出てしまいます。頭髪が抜けたのも、恐らく「水銀中毒」としての薬の副作用だった可能性が高いと思われます。

6-2.コズメとシンクレアのその後は?

コズメは1980年まで生きましたが、ピアノ奏者としてだけでなく、ボディビルディングに興味を持ち、ボディビルダーのコンテストで審査員を務めるなど、多彩な活動をしました。

シンクレアは1967年まで生きましたが、なんと史実では、1944年、フローレンスの死後にすぐに愛人だったキャサリンと結婚しています。映画では愛想をつかされ、キャサリンに逃げられていましたが、実際には関係は続いていたようですね。ちなみに、彼らの間に子供はいませんでした。

7.まとめ

1940年代のアメリカの古き良き時代で起こった奇跡的なコメディを、心温まるタッチで再現した本作。 見終わった後に、優しい気持ちになれる良作だと思います。是非チェックしてみて下さい。

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連書籍など

フローレンス・フォスター・ジェンキンスの生涯について、音源やインタビュー、当時の新聞記事などを徹底的に掘り下げた詳細な解説本。映画の世界観をより広げてくれる良い参考書籍でした。

こちらは、フランス版の「マダム・フローレンス」。舞台はフランスの1920年代の上流階級ですが、ストーリーの展開はほぼ同じ。予告動画もWebで見れます。

<予告動画を見てみる!>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

今回の「マダム・フローレンス」はハートフルなコメディでしたが、こちらは、狂気と毒を含んだサイコサスペンス的な雰囲気もあり、違いが際立って面白いです。Amazonビデオでも400円(SD画質)で見れますよ。見比べると興味深いので、是非!こちらから。

「戦国時代展」の感想/戦国時代マニアの心をくすぐる要注目の展覧会!

$
0
0

かるび(@karub_imalive)です。

11月23日から江戸東京博物館で開催中の「戦国時代展」に行ってきました。応仁の乱から始まり、信長が天下統一するまでの室町時代末期の100年間を様々な角度から大特集した、戦国マニア必見の展覧会でした!

f:id:hisatsugu79:20161201155645j:plain

以下、感想レポートを書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

冬休み~年始は非常に混雑しそうですが、土日以外は並ばずに入れそうです。江戸東京博物館は、入場時よりもチケット購入時に列ができやすいので、できればプレイガイド等で入場券を手に入れておくことをオススメします!

所要時間は、展示内容が気に入るかどうかでかなり変わってきそう。もしあなたが屈指の戦国マニアなら、3時間は覚悟して下さい(笑)普通の美術系クラスタの方なら、1時間くらいでOKかも。僕は、ちょうど90分くらいで見終わりました。

2.音声ガイドは戦国無双から4名登場!

f:id:hisatsugu79:20161201153640j:plain
(引用:戦国時代展公式HPより)

声優マニアや「戦国無双」好きなら、必ず借りたくなると思います。内容も、各キャラクターの寸劇が多くて、ガイドというよりライトな副音声を聞いている感じでした(笑)個人的にはもう少し硬派にしてほしかったけど、「戦国無双」ファン向きに思い切ってサービスした感じの内容です!

3.戦国時代展とは?

展覧会での「戦国時代」の区分

戦国時代の区分、つまり、いつから「始まり」、いつ「終わったか」については、諸説それぞれ別れるところですよね。様々な区分があります。例えば、僕が戦国時代の始まりとして長年認識していたのは、ゲーム「信長の野望全国版」のシナリオがスタートする1560年、つまり桶狭間の戦いからでした。

実際は、もっと早くから戦国時代に突入していたわけで、本展覧会では、おおよそ享徳の乱、応仁の乱が勃発した1450年~70年代をスタートとして、織田信長が足利義輝を京都から追放した1573年までの約100年間を「戦国時代」として取り扱っています。

戦国大名に着目した総合展示

戦国時代の特徴といえば、『下克上』により日本各地で名乗りを上げた「戦国大名」が大活躍したことです。本展覧会では、北は伊達氏、上杉氏から南は大内氏、毛利氏に至るまで、戦国時代の有力な大名たちにフォーカスした総合的な展示が行われます。

合戦の様子、外交戦、文化、肖像画、彼らが大切にした遺品など、様々な角度から大量のアイテムが前後期で入れ替えでどどーんと展示されます。その数、なんと国宝38点、重要文化財34点を含む、全部で264点(東京展)にもなる大型展示なのです。

東京展に続く京都展、山形展の全容は明らかになっていませんが、東京展だけに限って言うと、前期展示(11月23日~12月25日)は主に西国大名の特集、後期展示(1月2日~1月29日)は東国大名の特集になっています。

4.僕が考える戦国時代展の4つの見どころ

本展覧会は、戦国時代についての総合的な展覧会です。大きめのテーマでの総合展示は、物量に圧倒される凄さはあるのですが、その反面、漠然としてて焦点がぼけやすい欠点もあります。戦国時代展も、ややその気配があるかな。。。漫然と見ていると、「うーん、結局なんだったんだ?」という感想になりそう。

展覧会では、展示は章立てして区切られているのですが、ややわかりにくく感じました。そこで、僕が考える本展覧会の着目点・みどころを、4つに絞ってみました。もしよろしければ参考にしていただければ幸いです。

4-1.戦国大名の肖像画

「顔が見える野菜」じゃないですが、写真がなかった当時、彼らの外見的な容姿や人となりを知る最大の手がかりは、絵師たちが残した絵画です。本展覧会には、戦国時代で活躍した大名や著名人たちの「肖像画」がたくさん出展されています。まずこれでイメージをつかむといいんじゃないのかなと思います。

織田信長像
f:id:hisatsugu79:20161201140527j:plain

上杉謙信像
f:id:hisatsugu79:20161201140758j:plain
(引用:http://www.n-story.jp/topic/88/page1より) 

三好長慶像
f:id:hisatsugu79:20161201141035j:plain
(引用:Wikipediaより)

4-2.戦国大名が大切にした遺品

戦国大名達が命をかけて戦い、毎日を生き抜く中で、特に大切に取扱い、現代に至るまで残ってきた武器や防具などの銘品たち。その遺品に伝わる逸話も含めて、一つ一つ非常に見どころが多いと感じました。刀剣や甲冑、戦場で使用する道具など、様々な戦国時代ならではのアイテムが出展されています。

刀 義元左文字 無銘f:id:hisatsugu79:20161201141356j:plain

桶狭間の戦い(1560)の際に、討ち死にした今川義元が携帯していた刀と言われ、戦いの後、織田信長が愛用した名高い名刀。

ちなみに、有名な「鬼切」、「五虎退」が1月2日からの後期展示で並べられます。刀剣コーナーだけ、人だかりになるため特設の順番待ちの柵が出来ていますよ。(東京展)

色々威腹巻 兜・大袖付
f:id:hisatsugu79:20161201141331j:plain

尼子経久が愛用したと言われる変わり兜。大胆な葉っぱの形が非常に珍しいです。

泥足毘沙門天立像
f:id:hisatsugu79:20161201141325j:plain

上杉謙信が信仰し、愛蔵した毘沙門天像。ある日、謙信が帰城し、祈祷をしに毘沙門堂へ上がったところ、堂内には泥のついた足跡が毘沙門天像まで続いていました。そこで、「毘沙門天が一緒に戦場に来てくれたのか」と謙信は驚き喜び、これを「泥足毘沙門天」と呼ぶようになった逸話があります。気品のある小さな毘沙門天像です。

唐草透彫烏帽子形兜f:id:hisatsugu79:20161201141320j:plain

上杉謙信が使ったと言われる、変わり兜です。頭部に「無」と描かれた、信仰心と深く結びついた一品。戦場ではド派手に見えただろうな~。

法螺貝
f:id:hisatsugu79:20161201144058j:plain

真田家に伝わる法螺貝。戦場で合図のために使ったのでしょうか。見事な大きさの立派な法螺貝です。

4-3.合戦や外交戦の生々しい資料

戦国大名達は、平常時は合従連衡、計略などの頭脳戦、諜報戦を繰り広げつつ、戦場では戦いに明け暮れました。そんな彼らの活動を伝える様々な貴重な資料が展示されています。特に、肉筆で書かれた彼らの書状は、生々しくて非常に見どころだと思います。

毛利元就自筆書状
f:id:hisatsugu79:20161201141443j:plain

「毛利・小早川・吉川」の3本の矢で力を合わせて国難に立ち向かわなければならない、と兄弟結束を説いた有名な毛利元就の自筆文書。本人の肉筆で、非常に長文の力の入った書状です。展覧会の目玉展示なので、人垣が出来ていました。

姉川合戦図屏風f:id:hisatsugu79:20161201141624j:plain

徳川・織田連合軍VS朝井・朝倉連合軍が戦った姉川の戦いの様子を描いた屏風。江戸時代に描かれ、徳川家を称えるために制作された屏風なのか、「織田軍」の姿がどこにも見当たりません(笑)

川中島合戦図屏風 米沢本f:id:hisatsugu79:20161201141615j:plain

5回にわたって戦われた、上杉謙信と武田信玄の有名な「川中島の戦い」における、最大の激戦になった第4回目を描いた(と言われる)屏風。一人ひとりの兵士を丁寧に描いた力作です。

武家諸法度(寛永令)
f:id:hisatsugu79:20161201141515j:plain
(引用:江戸東京博物館HPより)

徳川家光により制定されたのが1635年なので、厳密に言うと戦国時代ではありませんが、ポスト戦国時代の武家の秩序を示す文書として、展覧会の最終コーナーで展示されています。保存状態もよく、非常に目についたので最後に紹介してみました。

4-4.戦国時代の文化

戦乱の世の中なので、どうしても戦乱で焼けたり逸失したりでその数は少なそうですが、足利義昭や織田信長を中心として、戦国大名の中には戦いの日々の中でも文化的な活動に造詣が深かった人も多かったようです。戦国時代に花開いた文化や、戦国時代に流行したアイテムを追っていくことで、美術史の流れがつかめるかもしれません。

平清泰西国三十三所巡礼納札
平清泰東国三十三所巡礼納札
f:id:hisatsugu79:20161201141649j:plain

室町時代中期以降、東国・西国などで、寺院の三十三所巡りでの巡礼の旅は一般庶民から武士まで幅広く定着していきました。「平清泰」とありますが、東北地方の豪族、千葉清泰が中尊寺に奉納したものです。

華南三彩五耳壺
f:id:hisatsugu79:20161201141731j:plain

15世紀~16世紀での戦国時代では、後の江戸時代に花開く古九谷や鍋島、伊万里といった洗練された「磁器」のうつわを制作する技術がまだありませんでした。この頃の大名たちは、京都の足利将軍家や貴族たちに倣い、中国大陸から景徳鎮や龍泉窯の陶磁器を手に入れ、祝祭時に使用したり観賞用に飾って愛でていたようです。

君台観左右帳記
f:id:hisatsugu79:20161201141803j:plain
(引用:江戸東京博物館)

足利義政の東山御殿の飾り付けに関して、能阿弥や相阿弥が記録したマニュアルの写し。中国絵画の格付けや、美術・工芸の歴史、茶道の作法などの手引など、当時の貴族や大名、文化人たちが抑えておくべき文化的教養のまとめ本的な存在。

足利氏の力が弱まっていたとは言え、戦国時代においても将軍家は文化・教養のお手本としての権威はしっかり持っていたことが伺えます。

5.公式図録が超分厚い!

今回の展示は、前後期での展示替えがあることや、会場ごとに違うアイテムが出展されるので、3会場分全てを網羅した図録にはとんでもない分量の展示物が収録されています。少なくとも、今年見た中ではNo.1の分厚さでした。まさにマニア必携の書といえそうですね。

図録は、Amazon等では購入できません。いかのよみうりイベントグッズの専用Web通販サイトから購入できます。「遠くて行けないかも?」という人は、図録を購入して、戦国時代展の雰囲気をまず味わってみるのもいいかもしれませんね。

6.まとめ

タイトルにも書きましたが、本展覧会は、アート系のファンよりも歴史ファンや戦国時代ファンにぴったりの展覧会といえそうです。戦国大名達が残した、数々の歴史資料や銘品たちを心ゆくまで味わえる、マニアックな展覧会に仕上がっています。

是非、楽しんでみて下さい!
それではまた。
かるび

「戦国時代展」展覧会開催情報(東京)

◯展覧会の会期
2016年11月23日(祝)~2017年1月29日(日)
※前期:11月23日~12月25日
※後期:1月2日~1月29日
◯会場
江戸東京博物館

◯所在地
〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1

◯最寄り駅
JR両国駅/都営大江戸線両国駅から徒歩2分程度

◯開館時間
9時30分~17時30分(入場は30分前まで)

土曜日は午後19時30分まで。
◯休館日
毎週月曜日

年末年始[12月26日(月)~1月1日(日)]
◯公式HP
http://hokusai-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/sengokuperiod
◯周辺地図
f:id:hisatsugu79:20161201153358p:plain

気が早い?2018年公開予定のファンタスティック・ビースト続編についてまとめてみた!(※随時追記予定)

$
0
0

【2016年12月3日更新】
かるび(@karub_imalive)です。

f:id:hisatsugu79:20161202211129j:plain

11月23日に日本でも公開されたハリー・ポッターシリーズの続編、「ファンタスティック・ビースト」ですが、封切り後1週目での興収は17億円、動員数は100万人を突破するなど、絶好調であります。

僕も、初日に同作品を見て、感想レポートを書いたのですが、早速続編のことが気になっています。

感想レポートはこちらから
【ネタバレ有】映画「ファンタスティック・ビースト」の感想とあらすじ解説

そこで、本エントリでは、ファンタスティック・ビーストの続編について、まとめてみたいと思います!

※なお、本エントリはエントリの性質上、映画本編についてかなりのネタバレ部分を含みます。予めご了承下さい。

1.続編映画公開の全体スケジュールとタイトル

「ファンタスティック・ビースト」シリーズは全部で5部作となることが明らかになっています。全米公開スケジュールは、第3作まで決まっていて、いずれもクリスマス前の11月に設定されているようです。

★★ 今後のリリース予定 ★★
  • 第2作・・・2018年11月16日公開予定
  • 第3作・・・2020年11月20日公開予定
  • 第4作・・・2022年で調整中
  • 第5作・・・2024年で調整中

タイトルは、いずれも「ファンタスティック・ビーストと◯◯◯」という形式となることが決定しています。楽しみですね。

2.ファンタスティック・ビーストシリーズの全体像

これまで原作者のJ・K・ローリングや監督から明らかにされている全体像としては、以下の通り。

5部作の結末は、1945年となる予定

ファンタスティック・ビーストシリーズの物語の幕開けは、ニュートがニューヨークに渡ってきた1926年でした。シリーズの結末は、1945年となることがすでに制作サイドから明言されています。

その間19年。これだけの期間があるので、たくさんのストーリーが今後続編で用意されているのでしょうね。スケジュールでは、あと8年かけて4作を消化する予定ですが、多少の制作遅延は余裕でカバーできそうです。

ハリー・ポッターシリーズでの1945年といえば・・・

そう!若き日のダンブルドアが、全盛期のグリンデルバルドを激闘の末に倒し、自らがヨーロッパ大陸の森に立てたヌルメンガードに幽閉されてしまうのが1945年でした。

ハリー・ポッターシリーズでは、ハリー・ボッターVSヴォルデモートにて、7年間に渡って戦うシリーズでしたが、ファンタスティック・ビーストシリーズでは、この後ダンブルドア(+ニュート)VSグリンデルバルドという構図で激しくつばぜりあいをかわしていくことになりそうです。

3.2018年の続編の登場人物とキャスト

とはいえ、気になるのはとりあえず続編「ファンタスティック・ビースト2」の内容ですよね?!ということで、現時点で決定している「ファンタスティック・ビースト2」の主な登場人物とキャストをまとめてみます。

ニュート(エディ・レッドメイン)
f:id:hisatsugu79:20161202210326j:plain
主役ですから、もちろん次回も出てくることになります。もう34歳だから、シリーズが完結する頃には立派なオッサンになってるのかも(笑)

ゲラート・グリンデルバルド(ジョニー・デップ)
f:id:hisatsugu79:20161202210338j:plain
1作目の最後で、ファンタビ・シリーズのラスボス、グリンデルバルドが早くもお目見えしましたが、2作目からは本格的に暴れてくれそうです。

リタ・レストレンジ(ゾーイ・クラヴィッツ)
f:id:hisatsugu79:20161202210356j:plain
ニュートの過去の恋人(?)だった女性。1作目では、ニュートのスーツケースの中の小屋においてあった写真について、クイニーから次回作以降への伏線を匂わすように、馴れ初めなどを聞かれていましたね。ゾーイ・クラヴィッツは、有名な黒人ロック・ミュージシャンのレニー・クラヴィッツの娘です。大物2世タレントが起用されました。彼女の演技がどれくらいなのか、楽しみです。

クリーデンス(エズラ・ミラー)
f:id:hisatsugu79:20161202210404j:plain
2作目でも続投が発表されました。エズラ・ミラー、最近本当によくハリウッド映画で見かけるようになりました。次回もやっぱりオブスキュラスとなって大暴れするんでしょうか。

アルバス・ダンブルドア(配役未定)
若き日のダンブルドア校長が帰ってきます!ただし、2016年11月末現在、まだ配役を誰にするか調整中とのこと。イギリス人かアイルランド人になりそうだとのことです。

スポンサーリンク

 

4.ファンタビ2の見どころについて

グリンデルバルド、本格始動か?

1作目ラストで、ニュートのかけた魔法により、正体が明らかになったグリンデルバルド。一旦はおとなしく牢獄につながれましたが、すぐに脱獄して本格的にアメリカ大陸で活動を開始することになるのでしょうね。どんな悪行の数々をしでかしてくれるのか、非常に楽しみです。

ダンブルドアもストーリーに絡んでくる!

そして、いよいよ若き日のダンブルドア校長が帰ってきます!グリンデルバルドが闇の手に落ちる前、彼のことが好きだったという「ゲイ設定」がどう表現されるのか非常に興味深いところ。

ハリー・ポッターシリーズの歴史では、1945年に彼がグリンデルバルドを封印するわけですが、それまでは、ファンタビ・シリーズを通して彼と様々な関わりや、知られざる逸話が用意されているはず。

憎しみと好意が交錯する中、どう彼がグリンデルバルドと向き合っていくのか描かれるのも楽しみです。

ニュートとリタ・レストレンジとの関係性

f:id:hisatsugu79:20161202200556p:plain
(引用:http://www.the-leaky-cauldron.org/2016/11/26/who-is-leta-lestrange/

リタ・レストレンジも2作目で本格的にストーリーに絡んでくることが明言されています。「レストレンジ」といえば、ハリー・ポッターシリーズで、ヴォルデモートの側近として、明らかに悪役サイドに位置したベラトリックス・レストレンジが思い浮かびますね。

f:id:hisatsugu79:20161202201019p:plain

ベラトリクスに続く血筋ですので、闇に落ちやすい属性を持った一族なのでしょう。1作目で、ニュートが「彼女はすべて奪う一方なんだ」と、リタについてどちらかと言えばネガティブに受け取れる意味深なコメントをしていました。

 

恐らく、2作目ではポジティブな役回りというよりはネガティブな関係性がクローズアップされ、そこから本編とからむストーリーが生まれていくのかなと予想しています。

クリーデンスの本編への絡み

1作目でニューヨークの街中でオブスキュラスとなって大暴れして、すっかりお尋ね者になってしまったクリーデンス。ラストでは生き延びたことを示唆するカットがありました。2作目でも、クリーデンス役はエズラ・ミラーで続投が決定していますので、殺されていなかった、ということですね。

彼が、今後どう作品に絡んでくるのか、今のところヒントらしきものは出てきていませんが、こちらも恐らくグリンデルバルドにもう一度見出されて悪役サイドの立ち位置なんじゃないのかなと予想。

5.その他、気になることなど

フランスで撮影されている模様

早くも第二作の撮影が一部始まり、舞台セットが本格的に制作されているそうですが、フランスでロケを行うようです。ロケ地が単にフランスであるのか、それともフランスを舞台にストーリーが動いてくるのか、追加情報を待ちたいと思います。

1作目の他の主役たちは?

ニュート以外の、ティナ、クイニー、ジェイコブについては、まだ正式にキャスト発表がされていませんが、主役ではないにしても、何らかの形でストーリーに関わってくるとされています。

ハリー・ポッター史によると、ティナは最終的にニュートと結婚することになっていますが、2作目ではニュートはまだ昔の恋人、リタ・レストレンジへの思いを断ち切れていない様子。ニュートとティナの関係がどうなっていくのか見どころです。

また、クイニーとジェイコブは、最終シーンでポジティブな形で再会した場面で終わりましたが、もし恋仲になるとすれば、ご法度とされるノーマジと魔法使い間での恋愛となるので、これも一騒動ありそうな気がします・・・。

新たな魔法動物たちは出て来るの?

イェーツ監督からは、魔法動物は出てくるが、1作目ほどストーリーの中心部分に大きく関わることはなく、次回作以降は、より人間(魔法使い)同士の関わりをシリアスに描く路線に徐々になっていくだろう、と示唆されています。

現時点で、次回作に出てくる新たな魔法動物のうちの1頭は、「中国に由来するビーストだ」と原作者のローリングから明らかにされているほかは、まだわかっていません。

とはいえ、まったく出てこないわけではないので、こちらは発売済みの魔法動物図鑑を見て、次回作でどんな魔法動物が出てくるのか予想してみるのもいいかもしれません。

6.まとめ

本格的にファンタスティック・ビースト2の撮影が始まるのは、2017年夏頃だと言われています。それまでは、小出しに少しずつ詳細が明らかにされていくはずですので、楽しみに動きをウォッチしていきたいと思います。

また、新たに判明したことは追記していきますね。

それではまた。
かるび

次回までの予習/復讐に役立つ関連書籍など

徹底分析! ハリー・ポッター[増補改訂版]

日本での書籍出版元、「静山社」以外の第三者から出版された数少ないハリー・ポッターシリーズをレビューし尽くした書籍。ファンタビ2作目以降は、ハリー・ポッターシリーズへ接続していく前日譚としての性格が強くなっていくはずなので、次作が公開されるまでに、ハリー・ポッターシリーズを徹底的に振り返り、物語や人間関係、魔法世界について抑えておくとバッチリ予習になりそう。現在、イギリスでチケットが取れないほど盛り上がっている演劇シリーズ「ハリー・ポッターと呪いの子」の脚本もカバーしています。

幻の動物とその生息地

「ファンタスティック・ビースト」シリーズを通して、ニュートが世界中を探検する中で関わり、育ててきた魔法動物たちを網羅した本がこれです。もちろん2作目も、この本の中にカタログされている中から、シリーズ未登場の魔法動物達が出てくることが予想されます。ものすごい売れ行きのようですが、シリーズを通して最重要のファン必携のバイブルであると言えそうです。

 

Viewing all 443 articles
Browse latest View live