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宇宙と芸術展@森美術館は、宇宙好きの人に幅広く楽しめる良い展示会でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

夏休みになって、各地で子供から大人まで楽しめる色々な展示会が活発に開催されていますね。僕もいくつか行きましたが、7月30日に開幕された森美術館での「宇宙と芸術展-かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボー」が、出色の出来でした。科学、美術、歴史、エンターテイメントを融合させたような総合的な展示会として、非常に印象深かったです。今日はこれについて書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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僕が行ってきたのは8月4日です。会期5日目で始まったばかりでしたので、結構空いていました。

夏休み中で、同じ森美術館の敷地内で開催されている「ジブリの大博覧会」が並んで混雑しているのとは対照的。会期が2017年1月9日(月)までのロングラン開催であることも影響していると思います。冬場までは多分余裕で入れるでしょう。

展示品はそこまで多くはないですが、体験型コンテンツや動きを楽しむインスタレーションが多く、じっくり見ようと思ったら2時間は確保したほうがいいと思います。僕も終盤のチームラボ出展作品は3周しましたし、見終わるまで2時間30分かかりました。

2.音声ガイドは篠原ともえ、チームラボの猪子寿之

最近、マルチタレントやデザイナーとして文化人的な立ち位置での活躍が目立つ、篠原ともえが起用されています。こういった多様で意外性のあるコンテンツにはぴったりの人選ですね。音声も落ち着いていて違和感がなかったです。(※どうしても若かりし頃のハチャメチャなイメージがあるのですよね・・)

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そして、今回の展示会のサブタイトルにもある通り、展示会終盤に、スーパー技術者クリエイター集団「チームラボ」からの出展があります。その解説音声として、制作者代表として、チームラボ代表の猪子寿之氏が、肉声でポイントを解説しています。

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3.宇宙と芸術展のコンセプト(夏休みの自由研究向き!)

今回展示会のコンセプトは、展示会の序文挨拶の言葉を引用すると、「人類が続けてきた宇宙の探求を、芸術史・文化史的な視点で振り返る展覧会」です。

宇宙に関する芸術性が感じられるありとあらゆる歴史資料や美術品、現代美術等を総力で集め、ごった煮にしたクロスオーバーなコンテンツ群は、圧巻です。ほんとによく集めたな・・・と。

仏教的宇宙観を強く感じさせられる東洋の曼荼羅、宇宙人説もあるかぐや姫の竹取物語絵巻、ダ・ヴィンチ、ケプラーなどの天文機材、資料、書籍、現代美術の大型インスタレーション、写真・映像作品、最新の宇宙開発構想(3Dプリンターで制作されたシェルター模型や宇宙服など)、スペースシャトルの模型など、色々なものが次から次へと出てきます。

様々な切り口から「宇宙」と「芸術」について展示されていますので、夏休みの自由研究のネタ作りのきっかけとしてもいいかもしれません。

4.写真撮影OKな展示が多い

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進行していくと細かく注意事項が掲示されていますが、写真撮影OKな展示品が多いです。自撮り棒やフラッシュはダメですが、これは嬉しい措置ですね。

5.一番のお気に入り作品はチームラボ「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく - Light in Space」

チームラボが得意とする3Dでのデジタル・インスタレーションで、展示会終盤のメインコンテンツです。中華・東洋風のアップテンポの音楽に合わせ、擬似3D空間で八咫烏(やたがらす)が宇宙空間を縦横無尽に飛び回ります。

凄いのは、これがあらかじめ用意された映像ではなく、プログラムで制御され、その場で空間の中を飛び回る八咫烏が、鑑賞者に当たるとその場で「花」になって散ってしまうなど、1回1回違う映像作品として変化する点です。(といっても、映像に圧倒されてみんな座り込んでみてましたが/笑)

チームラボのサイトにあるYoutube動画を見ても凄いな、と思いますが、これは実際に見てもらわないと本当の凄さは伝わりにくいです。壁の四方に立体的な映像が凄いスピード感が展開され、体感的に宇宙空間に置かれたような擬似的な感覚を強く伴う凄い映像体験でした。

また、八咫烏の描き出す機影が、東洋美術の水墨画等での筆使いのようなスタイルで描きこまれており、きっちり「アートとの融合」も意識されて制作されているのも良かったと思います。

6.その他気になった展示

6-1.歴史の偉人達の原稿や書籍類

レオナルド・ダ・ヴィンチ「アトランティコ手稿」f:id:hisatsugu79:20160806141742p:plain
(引用:http://www.mori.art.museum/contents/universe_art/work.html

★アイザック・ニュートン「プリンキピア」f:id:hisatsugu79:20160806142139j:plain

ルネサンス期以降、西欧では急速に自然科学が発達していきますが、当時の科学者たちが遺したその手稿や初版本などが展示されていました。

一番印象的なのは、やっぱり鏡文字で書かれたレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿「アトランティコ手稿」。ここでは、太陽・月・地球の関係をダ・ヴィンチが観察・分析した内容の手書きの原稿が出品されています。

その他にも、ニュートン「プリンキピア」、コペルニクス「天球の回転について」、ケプラー「新天文学」、ガリレイ「星界の報告」などの初版本が展示されていて、偉大な人たちの研究の足跡を感じることができました。

6-2.空山 基「セクシーロボット」

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世界的に有名な空山基氏の「セクシーロボット」。最初見た時、妙な既視感が・・・と思ったら、個人的に、数年前にAerosmithのアルバム「Just Push Play」のジャケットで散々見ていたのでした。最初にジャケット見た時は斬新なデザインに「なんだこれ・・・」と度肝を抜かれたのを思い出しましたが、こうして3Dの彫像として目の前で見れるとは思いませんでした(笑)

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6-3.竹取物語絵巻

お爺さんが竹やぶで拾ってきた竹から生まれたかぐや姫。やがて成長すると、絶世の美女へと成長し、天皇を初めあらゆる男から求婚されますが、これを断り、生まれ故郷の月へと帰っていくという、古代の元祖SF絵巻物です。

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(引用:国立国会図書館デジタルコレクション - 竹取物語

上記の画像は、上中下巻に別れた絵巻物の下巻のクライマックス、月へと帰るかぐや姫を迎えに来たシーンですが、古代の日本人が想像した宇宙船の姿が微笑ましくて非常に良かったです。

6-4.ビョーン・ダーレム「ブラックホール(M-領域)」

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ビヨーン・ダーレムが制作した、宇宙をテーマとした現代アート。

この巨大な木組みの作品は、ブラックホールと多次元宇宙を表現しているそうです。全部で9つの輪っかが折り重なっているのは次元や銀河系の様子をを表しており、これが、どこにでも手に入るような身近な素材である、木材と蛍光灯をシンプルに組み合わせて不思議な雰囲気を醸し出しているのも良かったです。

6-5.万寿堂「小笠原越中守知行所着舟」(うつろ舟)

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江戸時代後期の1803年、常陸国(現在の茨城県神栖市近辺)にUFO状の不思議な物体が漂着したといううわさ話を元に、その様子を当時の絵師がまとめた資料。

実話かどうか定かではないですが、江戸時代の絵師がUFOを描くとこうなるのかも?と思わされた面白い資料でした。

グッズ販売では、このUFOに似た丼「うつろ舟どんぶり」なども置いてあって面白かったです。

★グッズ「うつろ舟どんぶり」f:id:hisatsugu79:20160806143526p:plain
(引用:グッズ | 宇宙と芸術展 | 森美術館

7.まとめ

宇宙をテーマにした美術展は本当に珍しいですが、色々な切り口から宇宙と芸術を捉えるためのヒントにあふれた非常に面白い展示会でした。「宇宙」という、人工知能やバイオテクノロジーなどと同じく最先端分野を俯瞰して様々な角度から学ぶには、非常に良い入り口となりうる展示だと思います。

今回の展示会は、時期柄なのか、子供連れや外国人も非常に目立ちました。東京以外に巡回しないようですが、会期も長いので是非東京に来る機会があればおすすめです。

それではまた。
かるび

展示会情報、役に立つ書籍類等

開催情報
会期: 2016年7月30日~2017年1月9日
会場:森美術館(六本木ヒルズ) 
公式HP:http://www.mori.art.museum/contents/universe_art/index.html
Twitter:https://twitter.com/mori_art_museum
Instagram:https://www.instagram.com/moriartmuseum/


祝Kindle化!中間管理職の悲哀を描く「中間管理録トネガワ」が面白い!

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かるび(@karub_imalive)です。

以前からネットで話題になっていて、大評判な「中間管理録トネガワ」が、この8月に既刊も含め、1巻~3巻までKindle化されました。僕も、遅ればせながらポチッと全巻まとめ買いしたのですが、これが面白すぎました!

今日は、この「中間管理録トネガワ」について、感想を書いていきたいと思います。

1.中間管理録トネガワとはどんなマンガなのか

もともとは、福本伸行の「賭博黙示録カイジ」でのカイジの敵役として、カイジを苦しめた帝愛グループの大幹部、利根川幸雄(以下、トネガワと省略)を取り上げたスピンオフ作品です。

本編の物語中盤までは、まるで王のように振る舞うトネガワも、実は帝愛グループのワンマンオーナー、兵藤和尊会長の前では一中間管理職に過ぎないのですよね。

本編「カイジ」では、トネガワは「限定ジャンケン」「鉄骨渡り」「Eカード」と、カイジと死闘を繰り広げた結果、最終的にカイジに負けてしまいます。すると、怒った兵藤会長はあっさりトネガワを切り捨ててしまい、本編ではこれにてフェードアウトしていきます。

この「中間管理録トネガワ」は、そんなトネガワがまだ帝愛グループで曲がりなりにも一応幹部として地位を保っていた時期、つまりカイジ本編よりも少し前の時代の、トネガワの中間管理職としての苦悩と葛藤を面白おかしく描いていきます。

2.舞台設定は典型的なブラックオーナー企業

中間管理録トネガワが、幅広い読者から共感を呼んでいる背景には、その絶妙な舞台設定があります。帝愛コンツェルンという企業は、まるで昭和の旧き良き日本の大企業そのもの。徹底的に日本企業をデフォルメして面白おかしく描き出しています。

それでは、ちょっとトネガワの所属する帝愛コンツェルンを見てみましょう。

2-1:典型的な前近代的ブラック企業

帝愛コンツェルンは、非合法すれすれの高利貸し、闇金融、裏カジノなどを抱えるなんでもありの、完全に反社会的勢力なヤバい企業です。「カイジ」本編では、人の死をなんとも思わないイベントや地下強制労働で多重債務者から借金を回収するなど、人の不幸や生き血をすすって儲けることも厭わない、そんな超絶ブラック企業であります(笑)

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2-2:超ワンマン社長が仕切る、オーナー企業

さらには、帝愛コンツェルン総裁の兵藤和尊は、気分屋で言うことがコロコロ変わる理不尽極まりない超ワンマン社長です。いつカミナリが落ちるかわからないため、同社の大幹部トネガワであっても、オーナーの一挙手一投足にビビりながら会社生活を送る毎日なのです。

兵藤会長から、電話一本で思いつきのくだらない指示を受けたりするのは、トネガワにとって日常茶飯事。でもここで手を抜くわけにはいきません。どんなにつまらない指示でも全力で取り組まなければならないわけです。

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そして、極めつけは会社内に兵藤会長専用の大浴場があるという(笑)題して、「王の湯」

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2-3:長時間残業に休日出勤

そんなオーナー企業ですから、トネガワも毎日夜遅くまでガッツリ働きます。物語中のメイン舞台である「第三会議室」で開かれる企画会議は、いつも深夜まで開催されます。企画書の相談のため、夜9時から「王の湯」から上がってくる会長の出待ちとか、キツすぎます・・・。

★兵藤会長の出待ちをする図
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そんなブラック企業ですから、利根川クラスの大幹部であっても、20連勤などは当たり前。羽を伸ばせるのは福岡や大阪への出張電車の中だけというタフな状況です。

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2-4:トネガワ他、社員の私生活は一切出てこない

そんなわけで、この「中間管理録トネガワ」には、ものの1コマもトネガワやその他社員達の私生活を描いたシーンは出てきません。彼らはいつも帝愛社内にいます。プライベートらしき風景が見えたシーンを強いて探すなら、トネガワが部下たちをねぎらうため、土日を潰して社員慰安旅行に行ったシーンくらいでしょうか、(しかしこれもほぼ仕事の一貫で行ったという/笑)

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3.面白さのポイントは、トネガワの立ち回り

さて、そんな超絶前近代的ブラックオーナー企業で健気に中間管理職として身を捧げる主人公トネガワですが、その面白さのポイントは、なんといっても中間管理職としてのトネガワの描かれ方です。いくつか見てみましょう。

3-1.上下に挟まれる中間管理職トネガワ

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トネガワは、基本的には、仕事ができて、他の黒服(=モブキャラ)よりははるかに優秀なんです。でも、長年の過酷な労務環境の中、なんだか少し疲れも溜まっていて、ヘマもしてしまう。疲れから、ついつい会長の目の前で居眠りをしてしまったり。

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また、幹部のくせにゴマすりもいまいち下手くそで、上司である兵藤会長の言動を気にしすぎるあまり、おどおどしてしまい、兵藤会長とコミュニケーションがいまいちきちんと取れない。出世を争うもう一人の帝愛グループの大幹部、No.2の黒崎には、会長へのお追従でいつも水をあけられてしまうのも哀しいところです。

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でも、作中では、いきあたりばったりながら、上司に気を使い、部下をそれなりに鼓舞しながら、神経をすり減らしつつ頑張っていて、憎めない感じもあるオジさんなのですよね。

3-2.パソコンは一切使うシーンなし

トネガワは、基本的にはオジさんなので、会議は口を出すだけで、自分では手は動かしません。だから、パソコンを触るシーンやネットで何かを検索したりするシーンは一切なし。(かろうじて、携帯電話で理不尽な兵藤会長の指示を受けるシーンはいくつかあります。)

作中の会議室やデスクにも、一切パソコン類は置いておらず、目の前には灰皿だけ。オジさんらしくIT関係は弱そうです。作中でも、部下の黒服がパワポを使うシーンで圧倒されているところを描き出されており、非常に微笑ましいです。

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3-3.飲みニケーション、集団行動が大好き

第1巻~第3巻まで、約20話弱ある中で、合宿1回と飲み会2回、部下とサシで飲んだのが1回、飲み会を企画したが潰れたのが1回、社内接待が1回と、ひたすら社内で濃い付き合いを重ねます。まさに昭和のザ・サラリーマンという感じが面白い!

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4.良かったのはどこまでもギャグ漫画路線であるという点

最初、書店で1巻の途中まで試し読みした時は、主人公トネガワが失敗を重ねつつ、プロジェクトの成功にたどり着く中で得た学びや気づきを読者にフィードバックするような、ビジネス書的なアプローチなのかなと思っていました。

でも全く予想はいい意味でハズれました。

そんな高尚な路線ではなく、ひたすらギャグ漫画でした。社内接待、出張、入社面接、インフルエンザの蔓延・・・など、身近なネタが、カイジの世界観の中で、トネガワ目線でドタバタ劇として展開されていきます。昭和の古き良きサラリーマン生活のシュールなバカバカしさが、決してキツくなりすぎず、単純にゲラゲラ笑えるレベルでテンポよく描かれます。

実際、リアルにトネガワ的なサラリーマン生活を送っている人はかなりいるはずです。そして、現実のリアルトネガワ的会社生活は結構つらいはず(笑)だからこそ、こういう後に引かないカラッとした笑いにデフォルメ・昇華されたストーリー展開は非常に良かったと思うのです。そして、個人的にはものすごく共感できた(笑)

5.思えば僕の最近までのサラリーマン生活はトネガワそのものだった

この「中間管理録トネガワ」は、極端に昭和の企業戦士・中間管理職をデフォルメして描いていますが、ここで描かれている中間管理職の悲哀やキツさは、「あーわかるわかる」って言える人は多いんじゃないでしょうか?

僕も、非常によくわかります。

現在、僕は、2016年5月からしばらく自主サバティカル期間中ということでお休みを頂いています(つまり無職)が、前職は、トネガワ程ではなかったですが、「オーナー独裁のワンマン中小企業」での経営幹部クラスの立ち位置だったのでした。東京のITシステム開発を手掛ける会社だったのですが、そこで営業や採用をメインで担当していました。

そして、退職する直前までの数年間は、まさにトネガワ状態。20連勤休みなし・・・やりました。普通にありました。社員旅行や管理職の合宿、社員研修、長時間残業など盛りだくさんでしたね。

また、出世しても、幹部に近づけば近づくほどオーナーに近い立ち位置になり、逆に自由がなくなっていくというパラドックスも経験しました。オーナーの鶴の一声で、休出が簡単に決まったり、理不尽な対外交渉なども沢山やらされました(笑)

トネガワもそうですね。大幹部なのに、会議では部下が寝坊しても必ず朝一で来て、夜は必ず最後まで会議室に一人残っているシーンがきっちり描かれています。そして、電話1本で兵藤会長から電話での呼び出しも・・・。共感できるところ多すぎ(笑)

6.まとめ

「中間管理録トネガワ」は、最近読んだマンガの中では、久々にお腹を抱えて笑える作品でした。購入して、読了してすぐに何度もリピートして読みかえしてしまいました。ガラパゴス的な日本企業の中間管理職の難しさや悲哀を、これだけ笑いに変えて作品に仕上げられる構成力は素晴らしいと思います。なおかつ、それでいて元の「カイジ」の作品の雰囲気も全く壊れていないという、、、

この作品は、特に今サラリーマン生活を頑張っている人にこそ、読んで欲しい傑作です。大好評につき、まだまだ連載は続いていきますが、是非Kindle化された今の時点で、まとめ読みしてみてはいかがでしょうか?お勧めのマンガです!

【2016/8/9追記】「中間管理録トネガワ」の元となった本編、「賭博黙示録カイジ」は、2016/8/8現在、全巻Kindle Unlimitedで読み放題になっていました。読み放題はこちら。
それではまた。
かるび

ダリ展は大混雑でしたが、200点以上の充実展示が最高でした!オススメ!

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かるび(@karub_imalive)です。

毎年8月のお盆には、京都にある実家に帰省しています。今回、せっかくなので、普段行けない関西の美術展回りを精力的にやろう!ということで、東京展(9月14日~)に先駆けて、京都でダリ展を見てきました。

今回のダリ展は、10年ぶりの大回顧展ということで、企画発表段階からファンの期待度が高く、注目の美術展でした。混雑度で言うと、2016年下期No.1になるんじゃないでしょうか。今日は、そんなダリ展について少し書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

僕が行ったのは、8月11日(木)山の日の14時頃。入場制限こそしていませんでしたが、入り口はすでに中に入れないためそとまで行列が伸びていました。

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やっとの思いで中に入ったところ、お盆休み中だったからか、鬼のように混雑していて、美術館内はちょっと作品がまともに見きれないほどの人口密度でした。京都市美術館の狭さもあって、暑いし見えないしで、居心地の悪さはハンパなく、かなりの消耗戦となりました。

いや、、、下馬評通りの凄い集客です。土日は混雑必至なので、時間帯をずらして、朝一や開館延長日の夕方などに行くことをおすすめします。

なお、京都展の後に開催となる東京展は国立新美術館の1Fスペースとなり、もう少し広くなるので、人が入っていても息苦しさは少し緩和されそうな気がします。

作品点数が200点と多めなので、所要時間は90分以上見ておいたほうがいいと思います図録は公式HPで事前でも購入できるので、予習をしておくといいかも。

2.ダリ展の音声ガイドは竹中直人

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(引用:https://pbs.twimg.com/media/CmMC_fmUcAAZwjo.jpg:large

音声ガイドは19トラック全35分で550円。竹中直人の情熱的な解説は、スペイン出身のダリにあっていると感じました。なんでルー大柴じゃないんだ

シュルレアリスムのような20世紀絵画を見る場合は、歴史的な背景や思想的な文脈がないと、なかなか満足に理解できないことが多いので、解釈のヒントになるような解説満載の今回の音声ガイドは非常に役に立ちました。

3.ダリ展のコンセプト

今回のダリ展は、主にスペインのサルバトール・ダリ財団、フロリダのダリ美術館、そしてスペインの国立ソフィア王妃芸術センターの主な3ヶ所から、作品を集めています。これに加え、諸橋近代美術館(福島・裏磐梯)、横浜美術館他、日本中のダリ作品を所蔵している美術館からも貸出を受け、全200点以上の展示品が揃いました。

展示では、ダリが絵画を志したスペイン、リガトでの少年時代から、アメリカに渡って活躍した最晩年の作品まで、作品を順番に眺めながらダリの生涯を追っていけるような展示構成になっています。

特に、シュルレアリスム時代だけでなく、その前後の時代の作品も要注目です。1920年代の作風を模索していた青年時代は、キュビスムやピュリスム、そして印象派風の絵画など、あらゆる作風を研究していました。また、アメリカに渡ってからの舞台芸術や絵本の挿絵、宝飾品など、絵画以外の作品も見どころ満載です。

4.ダリとシュルレアリスム

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サルバドール・ダリ(1904-1989)はスペイン出身の、20世紀を代表する美術家です。主に、シュルレアリスム(Surrealism)の代表的作家として世界的に有名になりました。

シュルレアリスムというのは、フランスの詩人、アンドレ・ブルトンが提唱した思想活動で、日本では「超現実主義」と訳されることが多いです。1930年代以降、絵画・映画・詩・小説など様々なジャンルでその思想を反映した作品が制作されました。

彼の描く絵画は、いわゆる現代アート然とした抽象絵画ではなく、誰でも見てわかる具象絵画です。現実にはありえない夢や無意識下、空想上の光景や不思議な構図の絵画を描き、人気を博しました。

5.セルフ・プロデュースの天才だった

ダリは、徹底的に「自己演出」にこだわった、セルフプロデュースの天才でした。特に1940年代に第二次大戦中にアメリカに亡命してからは、絵画だけでなく、彫刻、舞台芸術、映画など様々な分野の芸術にジャンル横断的に取り組んだ天才アーティストでもありました。

我が強く、戦略的な売り込み上手で天才肌のマルチタレントと言うと、ダリ以外にピカソがすぐに思い浮かびます。そのピカソとダリが根本的に違っていたのが、女性遍歴です。

ピカソが終生浮気ばっかしていた(笑)のとは対照的に、ダリは、25歳の時に、10歳年上のガラと運命的な出会いをします。それ以来、どんなことがあってもガラ一筋で、恋愛においては非常にピュアな人なのでした。

特に、ガラをモチーフにした絵画や彫刻作品を多く残しており、今回の回顧展でもガラについての関連絵画やエピソードも整理・展示されています。

風貌については、日本人で一人滅茶苦茶似ている人がいます。ルー大柴です。・・・と思ったら、今回京都市美術館のダリ展のフライヤーで、実際にそっくりさんとして取り上げられていました。本当に似ています(笑)

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6.ダリ作品の注目点について

ダリの作品では、彼の得意とした技法やモチーフが、繰り返し随所で使われています。ここでは、僕の考えた主な注目点4つを、いくつか作品を使いながらピックアップしてみたいと思います。

6-1.繰り返し色々な作品で使われるモチーフ

ダリは、数多くの作品において、彫刻や絵画の中でお気に入りのモチーフを何度も作品に登場させました。

★その1:「引き出し」
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引き出しのイメージは、絵画より彫刻作品でよく使われていますが、フロイトに強い影響を受けていたダリは、「引き出し」を精神分析における無意識下の領域の比喩として捉えていました。

★その2:「歪んだ時計」

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(引用:ダリ展公式HPより

ダリの「歪んだ時計」は、彼にとっての最重要モチーフと言ってもよく、複数の絵画、彫刻、宝飾品などで繰り返し使われています。ダリ自身はこのモチーフを「カマンベールチーズから着想を得た」と語っていますが、ダリの宇宙観や物理科学観を表しているとも言われます。

その他、『パン』や『ピアノ』、『ガラ(奥さん)』『スペインの海岸の岩場』なども、くり返し使われているモチーフです。是非、チェックしてみてください。

6-2.妻、ガラとの関係

妻、ガラ
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ダリが25歳の時、シュルレアリストの会合で友人から紹介され、妻となるガラと運命的な出会いをします。ガラは当時すでに既婚者でしたが、歳の差も条件もお構いなく、二人はすぐに意気投合して結婚してしまいます。

その後、ダリはガラと死ぬまで添い遂げましたが、ダリにとってガラは聖母マリアのような存在であり、創造力の源であったとともに、ダリの編集者、プロデューサーとして芸術活動を支えました。

今回の展覧会でも、第4章で、『ミューズとしてのガラ』と題して、ガラをモチーフにした幾つかの絵画が紹介されています。

ガラの測地学的肖像f:id:hisatsugu79:20160815131202j:plain

6-3.形態学的なこだま

ダリの絵が、奇妙な物体の取り合わせなのに、妙に絵画全体にリズム感や整合性が感じられる理由の一つとして、この「形態学的なこだま」技法が挙げられます。ダリは、1930年代以降、一つの形態を様々な異なるテーマに変化させ、一枚の作品の中で繰り返し描くこの「形態学的なこだま」を得意としました。解りやすく言うと、一種の「だまし絵」みたいなものですね。

アン・ウッドワードの肖像
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(引用:https://www.salvador-dali.org/cataleg_raonat/index.php

上記の絵では、銀行家として財をなしたウッドワード家に嫁いだアン・ウッドワードを描いた肖像画ですが、アンの輪郭の形をした岩や、彼女の白いドレスの胸元のドレープと、砂浜に置かれた貝殻、腰に巻かれた青いベルトと水平線などが、ダリが表現した「形態学的なこだま」です。

その他の作品にも繰り返し使われている面白い技法なので、是非チェックしてみてください。

6-4.ダブル・イメージ

ダブル・イメージとは、絵の中にあるイメージ(意味)にもう一つのイメージを重ね合わせて表現する技法で、これも一種のだまし絵みたいなものだと思います。例えば、以下は、ダリのダブル・イメージの作風が反映された典型的な作品です。

ビキニの3つのスフィンクスf:id:hisatsugu79:20160815154331j:plain
(引用:https://www.salvador-dali.org/cataleg_raonat/index.php

戦後、原子爆弾や核実験に非常に興味が傾いたダリが、ビキニ環礁での核実験を主題に制作した一枚。本作品では、原子爆弾が投下された際のキノコ雲と人間の頭部(アインシュタインを表しているという説あり)がダブルイメージによって描かれています。

ちなみに、画面左側の樹木は、「形態学的なこだま」技法によって、似たような形で描かれていますね。

7.印象的だった展示作品

上記で紹介した以外に、興味深かった作品をもう少しだけ紹介したいと思います。200点以上あるので、選ぶのが大変です・・・。

7-1.「ラファエロ風の首をした自画像」

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(引用:ダリ展公式HPより

ダリが20歳になる前で、シュルレアリスムへ移行する前の若い時の作品。彼が尊敬するラファエロの自画像風ですが、ポスト印象派的な自由な色彩感覚が面白い一枚でした。

7-2.「奇妙なものたち」

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(引用:ダリ展公式HPより

彼の重要なモチーフである「歪んだ時計」や、彼の出身地、カダケスの海岸の岩場、引き出し、ピアノなどが配置されています。女性の下半身と赤い建物の毛のようなもので覆われた入り口部分、口部、白い椅子の肘掛と女性の右腕に「形態学的なこだま」も仕掛けられており、彼のシュルレアリスム充実期の一枚と言えそうです。

7-3.「ポルト・リガトの聖母」

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(引用:The Madonna of Port Lligat, 1950 by Salvador Dali

ガラを聖母マリアに見立てて、祭壇画形式で描いた作品。中世からの伝統的宗教画のスタイルを踏襲しても、ダリが描くとなんとも不思議で哲学的な浮遊感のある作品に仕上がるのが面白いです。この福岡市美術館蔵の他にも同タイトルの似たような構図の作品があり、ガラへの愛情も伝わってきます。

7-4.「ラファエロの聖母の最高速度」

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(引用:ダリ展公式HPより

ダリは1940年代後半頃から、量子物理学や原子爆弾といった最新の科学への強い関心を持ち始めます。その興味関心は、そのまま彼の作品制作へ反映されましたが、そのハイライト的作品として展示されていました。

本作でも、彼の尊敬するラファエロの「聖母」のイメージを借用しつつ、物理学的な世界観を視覚的なイメージとして表現しようとしており、中世以来の伝統的西洋絵画と最新の科学の融合を図ろうとする探求者としての貪欲な姿勢が感じられました。

8.まとめ

今回のダリ展では、鑑賞中のお客さんの表情や、話しているトーク内容も面白かったです。作品と向き合っても、わかったようなそうでないような感じの神妙な顔つきをした人が多く、聞こえてくるのは微妙な感想。「おどろおどろしい感じがなんともいえないよね。」とか。

僕もそうでしたが、ダリの絵は、抽象絵画ではなく具象絵画のため、中途半端になんとなくわかった気になる。でも実際はその絵や構図は何を意味しているのか、エキセントリックすぎて、パッと見ではもう一つよくわからない。

けれども、後になって何度も画集を見返すと、繰り返し現れるモチーフやパターン、ダブル・イメージなど、よく計算された構図と背景が見えてきます。また、背景にある哲学的な土台に、意外性のある幻想的な風景、それらが一体となって、ダリ独自の世界観を形作っていることがわかってきます。

また、ダリの作品は、常に時代の最先端の思潮や流行に非常に敏感に取り入れ、反応してきた彼の芸術家人生の歴史のそのものでもあります。シュルレアリスムの寵児になって以降も、常に時代の最先端で様々な形態のアートを通して、自分自身の考えや気持ちを鋭く語りかけました。

今回の回顧展では、200点以上の作品を時系列で丹念に見ていくことで、ダリの凄さや彼の生涯追い求めたものが何だったのか俯瞰できる、非常に良い機会になると思います。人が多くて混雑していましたが、何度もまた足を運びたくなる美術展でした。

それではまた。
かるび

展覧会情報

展覧会名:「ダリ展」
会期:
【京都】2016年7月1日(金)~9月4日(日)
【東京】2016年9月14日(水)~12月12日(月)
会場:京都市美術館、国立新美術館
公式HP:http://salvador-dali.jp/
Twitter:https://twitter.com/s_dali_2016

参考文献

今回の展示で、非常に予習、復習に役に立った文献を最後に紹介しておきますね。会場か、その近くの書店でも売っているかも。

ダリの生涯・思想・作品などが非常に分かり易く、読みやすくまとまった伝記的読み物。図書館などでも「ティーンズコーナー」の棚に入っていることがあったりと、入門者にぴったりな一作。何冊か予習復習に書籍を読んだ中で、一番良かったです。オススメです。

ダリがブレイクした1930年代、彼はシュルレアリスムという芸術運動における時代の寵児として一躍人気芸術家になったのですが、そもそもシュルレアリスムってなんなのか?っていうことになると、これがなかなか難しい(笑)大抵は、哲学コーナーに難しい本が一杯刺さっているのですが、この本は入門本として分かりやすかったです。Wikipediaで調べたけど、もう少し詳しくシュルレアリスムについて見てみたい!という人にはこちらが良いと思います。

圧迫面接と出会ったらブラック企業のサイン!迷わず即日選考辞退しよう!

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かるび(@karub_imalive)です。

久々に元採用担当として、就職・転職ネタについて書いてみたいと思います。

さて、今年の新卒採用も、労働市場の逼迫から、史上最高にせまる学生側の売り手市場でしたね。ただ、気になったのは相変わらず様々なニュースや統計データで見る限り、前近代的な「圧迫面接」が根強く残っていることです。

そこで、ネットで「圧迫面接」について調べると、たいていは「圧迫面接」をどう乗り切るのか?というノウハウはたくさん検索結果に出てきます。どれも役に立つ良いマニュアルが多いのですが、どうもアドバイスとしては「本質」ではないような気がしていました。

それはそれで大事なのですが、より大切なのは、「圧迫面接」と出会ったら、そもそもその会社に行くべきなのかどうなのか?を考えるべきだと思うんですよね。その場を”うまくやる”、”乗り切る”というコミュニケーションレベルの技術論は二の次でいいのかなと。

今日は、ちょっとそのあたりを詳しく書いてみたいと思います。

0.企業の圧迫面接を取り巻く状況

まず、このデータを見てください。2014年度のダイヤモンド・オンラインの調査では、就職活動中、圧迫面接を実際に受けたことがある人が、約12%いるとされています。

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(引用元:http://diamond.jp/articles/-/49305

これは、単純に10社に1社が圧迫面接をしている、というわけではありません。一人が10社、20社と選考を受ける中で、1回でも圧迫面接を経験した人の割合なので、実際に圧迫面接を行っている企業は、全体の数%程度にとどまるでしょう。

これは、一時期に比べるとかなり減ってきた印象ですが、それでもまだまだ圧迫面接が採用面接の場で行われていることがわかる、リアルな数字です。

1.そもそもなぜ圧迫面接は行われるのか

色々な状況や理由で圧迫面接は行われますが、圧迫面接が行われるシーンは「意図的に行うケース」か、「偶発的に行われるケース」に分かれます。

1-1.意図的に行われているケース

 圧迫面接が意図的に行われる理由は、主に「入社してからのストレス耐性を見たいから」という企業側の都合です。入社してから、上司の厳しい叱責や厳しい業務形態ですぐに精神的に病んだり、心が折れてしまう人材であっては困りますよね。だから、採用選考の段階で、求職者にあえて厳しい質問を投げかけて、どう反応するかで、心の強さを見ているのです。

1-2.偶発的に始まってしまうケース

最近増えてきたケースは、意図的にではなく、「偶発的に」圧迫面接が始まる場合でしょう。むしろ、こっちのほうがタチが悪いのかもしれません。

訓練が行き届いていない面接官や、中小企業の経営者の場合は、選考希望者の受け答えが気に入らなかった場合、その場で説教を初めたり、イライラを「立場の弱い」求職者にぶつけることがしばしばあります。あるいは、単純に虫の居所が悪くて面接官の態度が悪かった、ということも。会社として面接の方針がちゃんと定まっていないか、統制が取れていないため、採用現場の暴走によって圧迫面接が行われてしまうケースですね。

実際、僕が以前勤めていた会社でも、圧迫面接は固く禁じていましたが、目を離したすきにオジサン管理職の独演会や説教タイムになっていたケースが少なからずありました(汗)

2.普通の会社が圧迫面接を採用しなくなった4つの理由

とはいえ、圧迫面接は、以下の4つの理由によって、現在では企業が採用活動をする際に割に合わないものになってきており、デメリットが大きすぎるのです。時代にそぐわない手法になってきているとも言えるでしょう。それでは、なぜ、圧迫面接が使われなくなってきたのか見てみます。

2-1.理由①:コンプライアンスリスク

ここ10年ほどで、雇用対策法や男女雇用機会均等法などの一連の労働法規において、性別や国籍、年齢などによる差別が厳しく制限されてきました。また、個人情報保護法や企業統制の考え方から、ハッキリと圧迫面接のような差別的発言やパワハラ的な要素が前に出やすい手法がとりにくくなってきています。

また、訴訟や行政指導リスクもあります。圧迫面接に怒った求職者が、労働基準監督署へ報告したり、訴訟を起こす可能性があるからです。これまでに企業側の明確な敗訴ケースはないものの、訴訟を起こされたり、労基署の立入検査があると、その対策に莫大な時間が取られてしまいます。

現に、差別問題に非常に敏感な大阪労働局では、ホームページ上で、実際に不適切な圧迫面接により行政指導を入れた実例を複数掲載しています。

★行政指導を入れた実例のキャプチャ画面f:id:hisatsugu79:20160817161137j:plain
(引用元:就職差別につながるおそれのある不適切な質問の例 | 大阪労働局

2-2.理由②:選考辞退リスク

圧迫面接を仕掛ける方はともかく、やられた側の求職者はいい気持ちがしないものです。圧迫面接の結果、選考合格となったとしても、現在圧倒的に求職者側有利な「売り手市場」な状況下、他に求職者が内定を複数持っているケースも増えています。

冷静に比較検討したら、いやな思いをした会社をお断りするのは自然な流れですよね。したがって、圧迫面接は「選考辞退」率を非常に高めてしまうのです。

実際、「圧迫面接が行われているという噂を見た・聞いた」ら、全体の27.9%の学生が「絶対に就職しない」と最新のネットアンケートで回答しています。

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★引用元:学生に聞いた「就職活動に関する調査」
http://www.technopro-construction.com/shared/pdf/ishikichosa160601.pdf

2-3.理由③:ネット等の風評リスク

また、圧迫面接を行った結果、ネット上で悪いうわさが立ってしまうと、そのログは簡単に消えてくれません。Google検索でずっと表示されてしまうのは、思ったより企業側に痛手なのです。明らかに採用活動全般に悪影響を及ぼします。

Googleに、企業名を入れた時、サジェスト機能の一番上に「ブラック」と合わせて表示されてしまったりするわけです。(モザイク部分は企業名)

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さらに、ネット上では2chやみんなの就職など企業の口コミを集めているサイトなども増えており、それらログが半永久的に残り、次の世代に情報が引き継ぎされてしまうのです。

2-4.未来の顧客を失うリスク

加えて、圧迫面接を行う会社が、消費者への物販やサービスを展開するBtoC系企業だった場合、将来の大事な顧客を失うリスクもあります。いやな思いをした会社の商品を買うわけありませんからね。

まぁ、こんな感じになりますよね。

3.時代錯誤な圧迫面接を続ける会社はブラック企業以外の何物でもない

そんな状況でも、なおも圧迫面接を実施する会社ってどういう会社なのでしょうか?

一言で言うと、「ブラック企業」と表現するしかないと思います。

というのも、圧迫面接の現場を通して、その会社が確実に「ブラック企業」であるサインを読み取ることができるからです。その企業の「本質」や「地」が知らず知らずの間に隠しきれず面接の場ににじみ出ちゃっているんだと解釈します。

3-1.入社してから確実に面接以上のパワハラが待っている

そもそも、採用面接も、基本的に通常の商談などと同じく、社外の「お客様」とのコミュニケーションの現場であることは変わらないわけです。そんな「お客様」とのコミュニケーションですらパワハラや差別発言の横行を許す会社なら、通常の社内での人間関係はどうなのでしょうか?

パワハラ、セクハラや行き過ぎた叱責、懲罰的な指導がそれ以上のレベルで行われていることは容易に想像がつきますよね?

3-2.コンプライアンス軽視で、労働条件も良くないことが予想される

ここ数年の企業統制、コンプライアンス重視の流れから、悪手となっている圧迫面接を野放しにしちゃっている、あるいは意図的に会社を挙げて取り組んじゃっているというのは、やはり「法令遵守」「モラル」に対するネジがとんじゃっている証拠なのではないかと推測できます。

当然、そんな会社なら労働法規への意識も低いことが予想されます。サービス残業や理不尽な業務指示なども横行していることが多いでしょう。

4.圧迫面接を受けたら即日辞退をおすすめします

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したがって、圧迫面接と出会ったら、それはもう「どう、このつらい面接を乗り切るか」考えるのではなく、「この会社に入社してもいいのか?」というより根本的な問いを持つべきです。

もちろん、僕のオススメは、何があっても「即日辞退」です。他にも良い会社が一杯あるのに、わざわざリスクだらけの会社にもやもやしながら入社しても仕方ないと思うからです。

4-1.圧迫面接を辞退することは「逃げ」ではない

そもそも、普通の会社に入っても「ストレス耐性」を試されるような辛い局面は、普通に仕事をしていればどうしても多かれ少なかれ避けられないものです。担当する取引先がきつかったり、周囲との人間関係で悩むことだって多いわけですよね。

だから、あえて圧迫面接を仕掛けてくるような、精神的負荷の高そうなリスクのある会社を選ばなくてもいいのではないでしょうか。それは、安易な逃げではなく、自分にとってより理想的なキャリアを選ぶ際の理性的な「選択」なのではないでしょうか。

4-2.大企業であってもキツくて将来性がない会社にいたいですか?

判断に迷うのは、名だたる有名企業・大企業が圧迫面接を仕掛けてきた時。給与・福利厚生も良さそうだし、辞退するのはもったいないと思うかもしれません。

でも、本当に優良な大企業はすでに「企業統制」「コンプライアンス遵守」の観点から、圧迫面接を意図的にしつこく仕掛けてくることはありません。

大企業だからといって、「圧迫面接」が許されると考えるのなら、その立場に甘えているわけですし、従業員の人数がただ単に多いだけで、将来性のない三流企業だと判断できます。

4-3.あなたが「圧迫面接」と感じたらそれが基準

では、何を持って「圧迫面接」と捉えたらいいのでしょうか?僕は、あなた自身の基準で測れば、それで良いと考えます。ある人によっては「圧迫されていない」と感じても、別の人には十分「圧迫面接」にカテゴライズされてしまうレベルになり得るなど、その基準は人によって違ってきます。

だから、最終的には自分の感覚を信じて、「あ、これはちょっと乱暴だな、嫌な感じだな」とか「一線を越えてきたな」とある種の違和感を感じたら、警戒してみてもらえればいいと思います。

5.まとめ

ここまで、圧迫面接について色々書いてきましたが、大事なのは、圧迫面接をする会社に本当に自分の身を預けちゃってもいいのか?ということです。時代錯誤的で、大半の会社が止めた圧迫面接をなおも続ける会社が、はたしてまともな会社なのでしょうか?

入社してから「しまった・・・」となるのでは遅いのです。迷っても良いとは思いますが、もし「圧迫面接」にあたってしまったら、いつもよりも注意深くその会社に行くべきかどうか検討してみることを強くおすすめします。

それではまた。
かるび

実物はやっぱりすごかった!始皇帝と大兵馬俑展に行ってきました

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かるび(@karub_imalive)です。

先週、お盆で里帰りした際に、東京で見逃していた「始皇帝と大兵馬俑展」を大阪の国立国際美術館で見てきました。

帰省すると、母が朝日新聞からタダ券もらったから行こう、ということで、最初は「どうせ兵馬俑がいくつかおいてあるだけなんでしょ?まぁタダ券だから行ってみるか」とそんなに期待していなかったのですが、展示が予想外にしっかりしていてびっくり。

兵馬俑の実物だけでなく、その他出土品や、「秦」国が成立する紀元前8世紀頃~春秋戦国時代を経て滅亡するところまでの歴史を通した「秦」国に関する出土品、また始皇帝が中華統一を成し遂げた後の治世での施策がわかるような出土品なども出展されており、純粋な意味で「勉強になりました」。非常に良かった!

以下、感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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2016年2月に終了した東京展は、40万人以上の人出で大変な盛り上がりだったようですが、大阪では会期当初こそ混雑していたものの、8月に入ってからは落ち着いているようです。

とはいえ、僕が行ってきたのは夏休みのお盆の真っ最中でしたので、非常に混雑していました。会期終了まで、土日はやはり混雑するとは思いますが、不快なほど人が連なっている感じではないと予想します。

 

子供連れがかなり多く、夏休みの自由研究のためにノートを熱心にとっていた学生も目立ちました。隣に科学博物館が隣接しているので、ハシゴで見に来る子供も多いのかもしれませんね。

所要時間目安は、約90分程度でした。音声ガイドが通常展示よりも少し項目数が多いので、音声ガイド付きなら2時間あればじっくり見て回れると思います。撮影可能場所が出口直前に2ヶ所、入口前に1ヶ所あるので、カメラを持っていくと良いですね。

2.音声ガイドは壇蜜

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(引用:http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000143.000009214.html

セクシータレントながら、知性も兼ね備えたマルチタレントとして活躍の幅を広げる壇蜜ですが、本展の音声ガイドに起用されています。2015年度のNHK中国語講座のホスト役を務めたこともあり、割と違和感はなかったような。落ち着いた語り口で非常に聞きやすかったです。

また、音声ガイドではないですが、子供向けの「ジュニアガイド」も、インフォメーションデスクで配布されています。ネットからもダウンロードできますので、子供を飽きさせないためにも、事前にチェックしてみるのもいいかもしれません。

★ジュニアガイドをダウンロードする
http://heibayou.jp/wp/wp-content/themes/ver2.1.1/pdf/guide.pdf

3.「始皇帝と大兵馬俑」展とは

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「秦の始皇帝」という言葉って、よく聞きますよね。紀元前3世紀中盤の古代中国の西方の大国、「秦」の王位を継いだ嬴政(えいせい)中国の歴史史上はじめて全国統一を成し遂げた際に、「王」を超える「皇帝」として、自ら「始皇帝」と名乗ったことにちなみます。

★秦の領土(全国統一後)と始皇帝陵の場所f:id:hisatsugu79:20160823111557j:plain

(引用元:http://heibayou.jp/column

今回の展示会では、展示後半部分に設置された、秦の始皇帝が、秦の王都「咸陽」に建設した巨大な始皇帝陵に埋葬品として作製した、自身の兵隊を模した「兵馬俑」の展示とその副葬品が目玉です。

展示前半では、紀元前8世紀頃から、秦が滅亡する紀元前206年までの歴史を振り返り、青銅器や武器、土器などの変遷を見ながら、秦が辺境の小国から強大な帝国へと成長する過程・歴史を見ていきます。

それ以外にも、中華統一を成し遂げた始皇帝は度量衡の統一や大規模な土木工事、通貨や文字の統一など様々な政策を打ち出しました。それを裏付ける発掘品の数々が中国全土の博物館から厳選され、今回の展示会に持ち込まれています。

4.一番の目玉は兵馬俑の実物8体

大兵馬俑・・・というには実物展示は8体しかなかったわけですが、それでも実物を目の当たりにするのは非常に刺激的な経験でした。将軍や部隊長クラス、弓兵、歩兵など、各クラスの実物大人形が1体ずつじっくり見れるように展示されており、それぞれの人形に、詳しい解説と音声ガイド項目が用意されています。

実際の並びはこんな感じでした。大部屋にどーんと8体並べられています。

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(引用元:http://umeda.keizai.biz/headline/photo/2312/

 じっくり見てみると、靴の裏の滑り止めや、髪の毛の結び目など、細かいところまで写実的な造型が施されており、見れば見るほどよくできているな~と感心しきりでした。 

5.その他気になった展示

それ以外にも、今回の展示会では沢山の展示品が並んでいました。個人的に印象深かった展示品を、いくつか紹介したいと思います。

5-1.秦の公鐘

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(引用元:http://heibayou.jp/artwork

秦は、紀元前8世紀頃に前王朝「周」の国土の一部を引き継いで建国されたのが始まりでしたが、この青銅製の公鐘は、秦建国当初に周王朝の影響下において製作されました。驚いたのは、これが約2900年前に作られた青銅器だということです。西欧だと、古代ギリシャ時代が始まったばかりの頃ですね。

ちなみに、古代中国の精巧な青銅器は、東京の根津美術館のコレクションが有名です。開館時は常設展示されているので、機会があったらチェックしてみてください。ここの青銅器も非常に見応えがありますよ。

5-2.水道管

f:id:hisatsugu79:20160823104205j:plain(引用元:http://heibayou.jp/column

始皇帝は、中華統一とともに、様々な統一事業を行いましたが、首都咸陽の王都では、雨水を集め、飲用水とするため、地中に土器製の水道管を張り巡らせる公共事業を行いました。

今でこそ当たり前の技術ですが、まだコンクリートも土木技術もそれほどなかった時代に、土器だけで手作りで力技で作ってしまう発想に感銘を受けました。これは一見の価値有りだと思います。

5-3.銅車馬

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(引用元:https://pbs.twimg.com/media/CnIf6cdWAAAA02_.jpg:large

始皇帝は、自ら大規模事業として手がけた広大な始皇帝陵において、死後の世界でも兵隊たちを率いて中華世界の王として活躍することを夢見たと言われます。この4頭立て馬車も、王墓に副葬品として収められたのですが、非常にリアルで精巧かつ豪華な作りが印象的でした。(※展示品はレプリカです)

5-4.兵馬俑のレプリカ(写真撮影OK)

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展示会場出口の直前に、今回の展示会に合わせて作られた歩兵のレプリカが通路の左右に40体くらい設置されていて、写真撮影OKとなっています。兵馬俑の人形は8000体すべて顔つきや表情なども違うのですが、よく観察すると1体ずつ本当に表情が違い、リアルに再現されていました。

6.同時開催のミニ展示「キングダム展」

ヤングジャンプで連載中の、秦の始皇帝をモデルにした戦国大河マンガ「キングダム」とタイアップして、2016年2月に東京の山手線車内で実施した「キングダム展」で使った資料の一部が、「始皇帝と大兵馬俑」展の入口横部分に展示されていました。

キングダム初期の制作秘話や、キャラクター設定、原画など、非常に興味深い資料が盛り沢山ですよ。

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また、「キングダム」のメインキャラ達と一緒に記念撮影できるコーナーなどもあり、「キングダム」好きにはたまらない展示会でした。 

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7.まとめ

2015年から東京、九州と回って、この大阪展が最後となる「始皇帝と大兵馬俑展」ですが、構想から実現まで数年間かけた、非常に大規模で丁寧な展示会です。現地・中国の西安では、今もまだ兵馬俑の発掘が継続されているということですが、いつか現地に行って、8000体全部を見渡してみたいなと思いました。

中国古代の歴史と文化に興味を持つきっかけにもなる面白い展示会でした。関西方面の方は、是非行ってみてくださいね。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会名:特別展「始皇帝と大兵馬俑展」
会期: 2016年7月5日(水)~10月2日(日)
会場:国立国際美術館(大阪)
公式HP:http://heibayou.jp/
Twitter:https://twitter.com/heibayou2015
※東京展、九州展は日程終了

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

今回の展示会が終わった後、秦の始皇帝について本格的に調べてみようと思い立ちました。まずはマンガから入ろう!ということで、気合でキングダムの既刊43巻全巻を読破しました。キングダムの漫画中で武将達が着ている甲冑や武器、馬車など、時代考証はちゃんとしているのだなと感心。

秦の始皇帝「政」が王位についてから中華統一を成し遂げるまでを描く一大叙事詩(となる予定)ですが、連載10年、40巻以上出版されている現在でも、まだ物語前半戦です。ストーリーのほとんどを戦場での戦闘シーンで埋め尽くされた男臭いマンガですが、一気読みして、中だるみしないのはさすがにヤングジャンプの売上No.1の人気マンガ。血沸き肉踊る戦国武将の熱さにテンションが上りました。ワンピースやジョジョのように超長期連載になりそうな名作です。

そして、「キングダム」とは対照的に、戦いのシーンがほとんど出てこないのがこちら。全4巻で、呂不韋と嬴政の父、子楚(荘襄王)が出会うシーンからスタートし、その子嬴政=始皇帝による中華統一までをコンパクトに描き出しています。史記の記述により忠実に、嬴政よりも、途中で失脚する嬴政の後見役、呂不韋に焦点を当てたストーリー展開からは、戦国の世の無常観や哀愁が感じられます。

電子書籍化されてすでに10万ダウンロードされた人気作とのことですが、2016年8月22日現在、KindleUnlimited読み放題対象となっています。ヒロイックな英雄譚を少年ジャンプ的なノリで熱く描き出すキングダムと比べると、落ち着いて淡々とした対照的な仕上がり。これはこれで、落ち着いて読めて面白かったです。

天才肌の人に限ってメンタルが弱かったりコミュニケーション能力が足りないのはなぜなんだろう

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かるび(@karub_imalive)です。

数カ月前、まだ前職であるSierにいる時に書いたのですが、アップできずに下書きのまま残していた雑記エントリです。

タイトルで、「なぜなんだろうか?」と書いておいて申し訳ないのですが、その理由を分析する、といった大上段から構えた有用なエントリではありません。何でだろう、不思議だなという単なる感想であります。なので、もしよかったらこのあとの雑談にゆるっとお付き合いくださいませ。

ソフトウェア開発の現場では天才肌の人が多かった

ソフトウェア開発の業界に長くいると、嫉妬しちゃうくらい才能あふれる天才肌のエンジニアと出会うことが多々ありました。

特に、前職でエンジニアの現役から退いて「採用」と「営業」の兼任スタッフ職に回るようになってからは、自社/他社を問わずいろいろなエンジニアと交流する機会が増えるとともに、「あー、この人は凄い。天才だ・・・」と思えるようなエンジニアとの交流も増えました。

そんな中で感じたのは、天才的な才能や素養をもったエンジニアに限って、メンタルが弱くて繊細でうつ気味だったり、体が弱かったりしたことです。また、性格に難があったり、そもそもしゃべりが不明瞭でコミュニケーション能力が欠落していたりするケースも多かった記憶があります。

だから、そういう天才肌の人に開発プロジェクトに入ってもらう際は、結構気を使いました。普通にアサインしても、ダメなわけです。天才肌である彼らの精神面、コミュニケーション面のフォローアップを十全に行える人材をそばに配置したり、彼らだけ特別扱いでプロジェクトに入ってもらったりしていました。

そうでないと、彼らの才能が活かされないからです。

天は二物を与えず、とはよく言いますが、彼らと接すると、いつもこの格言が頭から離れませんでした。世の中ってほんとよくできてるよね。って思っていました。

一方で僕は凡庸なエンジニアで、才能の限界を悟り4年でエンジニアを引退した

もともと、僕は新卒で社会人になった時に、メーカーでの事務職からキャリアをスタートさせました。事務職といっても、経理、総務等の裏方の仕事を全部こなすような感じの雑用係なのですが、その当時はオジサンたちがほとんどパソコンに触ったことがない、あるいは苦手な人が多かったのです。

だから、必然的に僕のような若手にパソコン関係や、ExcelやWordでの集計やデータ打ち込み作業の仕事が集中しました。どうせならOfficeアプリケーション上のデータを全部自動化させたら面白いかな、と思ってVBAにはまったのがきっかけで、プログラミングの面白さに惹かれ、20代後半から未経験からの「プログラマー」として転職することになったのです。

実は、転職する前から、プログラミングや基本情報技術者試験の勉強などを通して、自分にはITエンジニアやプログラマーとしての才能がなかったのはわかっていたのですが、一度きりの人生、どうしても仕事としてエンジニア職を体験しておきたい!という無謀な気持ちの方が勝って、ついうっかり(笑)、ソフトウェア開発の世界にエンジニアとして身を投じてしまったのです。

未経験で20代後半からエンジニアの業界に入ったこともあり、転職してしばらく最初の2年間くらいは、キャリアにおけるハンデを取り返すためには現場で意図的に仕事量を増やし、毎日終電まで自分を追い込んで仕事をしました。(※一昔前は残業することが美徳な時代だったので、むしろほめられた)

スパルタ的に追い込んで技術習得に取り組んだ成果もでて、ある程度は成果を残せて、プロジェクト現場でもサブリーダー的な位置づけまでにしてもらったし、会社の中でも管理職に早期昇格することはできました。

でも、結局4年目でITエンジニア職としては足を洗うことになりました。会社の中で営業職への公募があった際に、衝動的に手を挙げて、エンジニア職からあっさり引退したのです。

その一番の理由が、同僚やプロジェクトを通してエンジニアの仲間と仕事をする中で、「これはどう頑張ってもこの人には勝てん」という天才肌のエンジニアに何人も接してきて、自分のプログラマーとしての才能の限界を知ったからです。

「恐らくこのままマジメに仕事をしてても、エンジニアとしてはそこそこやれるかもしれないけど、上位トップ5%とかにはどうあがいてもなれなそうだ」という諦観から、あっさりエンジニアの道をあきらめることとしました。(※今思うと謙虚さのない不遜な考えだとは思います)

で、それ以来、会社の中で次世代のエンジニアを採用、育成、フォローアップする仕事の方に回ることになりました。

でも一歩引いたところから見たら、天才肌の人も結構問題を抱えていることがわかった

そして、いざエンジニアの世界を一歩引いたところから関わるようになると見えてきたのが、天才肌の人っていうのは往々にしてバランスが悪いという事実でした。

コミュニケーション能力も技術力も高くて、そのうえプロジェクトマネジメントまでできちゃう人なんて皆無なわけなんです。

現実は、むしろその逆でした。

素養あふれる天才肌の人はその分どこか別の面できっちり欠落しており、チームで仕事をする時は彼らを理解し、サポートできるチームメンバーがいて、初めて彼らの才能が開発プロジェクトで血となり肉となり生きてくる。そんなケースが山程あったんです。

芸術分野など見てもそうですね。ここ数年、よく美術展やクラシックのコンサートに行くようになりましたが、偉大な芸術家はみなどこかしらに問題を抱えていた人の方が多いかもしれません。

西洋美術史やクラシック音楽の歴史を学んでいくと、実際に天才画家や天才音楽家では通常より高い確率で精神に変調をきたしていた人が多いことがわかります。ゴッホは耳を引きちぎり、気を病んで自殺しますし、シューマンやチャイコフスキーも自殺してしまいます。

あるいは、性格に難があったり。ブラームスやベートーヴェンの気難しい系のエピソードはよく聞きますし、ミケランジェロの偏屈さや締め切りを守れないダ・ヴィンチのルーズな性格なども有名なエピソードですよね。先日「カラヴァッジョ展」が好評だったカラヴァッジョに至っては、殺人犯ですから(笑)

まとめ

雑談なので、結論らしい結論はないのですが、つくづく世の中ってよく出来てるんだなぁ、って本当に思います。ある分野で仕事をさせれば、ものすごく天才肌で才気あふれるのに、その他がまるっきりダメ、というのは、ある意味そこでバランスが取れているのかな、とも思ったり。

 

今後IT業界に戻るかどうかはわかりませんが、もし戻るのであれば、個人的には彼らのサポート役に回り、愛すべき天才である彼らが能力を十分活かせるような、「縁の下」的な仕事ができたらなぁと思う今日このごろです。

それではまた。
かるび

「おしりたんてい」絵本・アプリが子供に人気爆発中!その面白さの秘密を探る!

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かるび(@karub_imalive)です。

僕には小学校1年生の子供が一人います。
できるだけ小さい時から読書習慣をつけさせたいと思い、保育園の時から図書館で借りたり、買い与えたりして何とか本に向かわせようと腐心してきました。

いずれ小学校の友達に感化され、テレビゲームをやりたがる時期が来ると思うのですが、それまでにできるだけ読書の楽しさを知ってもらいたいなという思いがあります。

今年、小学校に入学して、学校の図書室に置いてあった「かいけつゾロリシリーズ」にいい感じでハマってくれたので、ちょっと一安心でした。

ただ、ゾロリだけじゃなくて、ダメ押しになにか他にないかなと思って良い本を探しているところで、子供がハマったのがゾロリと同じくポプラ社から絶賛売出し中の「おしりたんてい」シリーズ

今日は、この「おしり探偵」シリーズについて少し書いてみたいと思います。

1.最初の印象は微妙だった「おしりたんてい」シリーズ

見てください。この表紙。おしりの顔をした子供が探偵姿をしているなんとも言えないこの感じ。帯を見ると、

「どんなじけんもププっとかいけついたします。」

と書かれています。お、おぅ。奇抜というかシュールというか、なんとも言えない表紙に圧倒され、最初に見た時は、そっと閉じてやりすごしました。

・・・

・・・

しばらくして、別の日に立ち寄った複数の書店で、山積みディスプレイされ、地元の小学生たちが、封が開けられている「見本」を夢中で立ち読みする姿を目撃しちゃったんです。(写真はうちの息子です)

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2.ただいま人気沸騰中!

あれ、これってひょっとしてすごい人気なの?と驚きました。あとでネットや書店での状況を確認したところ・・・なんと児童書のランキングで過去全作ベスト10に入っているじゃないですか!しかも、Amazonでは、読者の評価もよく、全部★4つ以上ついてますし。

★TSUTAYA 週間ランキング(8月13日~19日)

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★Amazonランキング(児童書/推理モノ)f:id:hisatsugu79:20160824103204j:plain

次に、Google Trendで、キーワードを「おしりたんてい」と入れてチェックしてみると、、、2015年ごろから検索数が爆発的に伸びていることがわかりました。

★Google Trendで「おしりたんてい」で調査f:id:hisatsugu79:20160824103417j:plain

ならば、ちょっと図書館で借りてみようかと思い立ち、いつも利用している江東区立図書館のOPACを叩いてみました。

すると、絶望的な予約数が。。。予約待ち87件って!!これでは回ってくるのが半年以上先になりそうです。ベストセラー並みのすごい人気ですね。

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ということで、これはもうダメだ、素直に買うしかないな、と観念し、本屋で一気に4冊まとめ買いしました。

そして、息子に読ませてみたところ、見事にハマってくれました。

息子曰く「これ、めちゃくちゃ面白いよ!」とのこと。ここ数日は、「かいけつゾロリシリーズ」と「おしりたんていシリーズ」を交互にずーっと夢中で読んでいます。

3.おしりたんていシリーズの概要について

おしりたんていシリーズは、「ズッコケ3人組」「かいけつゾロリ」等、人気児童書を多数発行するポプラ社が2012年頃から力を入れて出版してきた、小学校低学年~幼児向けの児童書/絵本シリーズです。作者は、トロルという2人組のコンビ作家で、本シリーズがデビュー作のようです。

最初に、3歳~5歳向けの「絵本シリーズ」第1作「おしりたんてい」が刊行されました。これが好評だったため、2015年からは半年に1冊ペースで小学校低学年向けの「児童書シリーズ」も並行して刊行され、いずれも大人気になっています。

さらに、絵本だけでなくiOS/Android両方で、無料のスマホアプリも4つ公開されるなど、複数のメディアでコンテンツが展開されています。

各ラインアップをまとめると、こんな感じ。

★おしりたんてい コンテンツ一覧f:id:hisatsugu79:20160824143223j:plain

4.おしりたんていはなぜ人気があるのか?人気の秘密を考えてみた

息子があまりにもハマっているので、その人気の秘密を探るべく、僕も「絵本シリーズ」と「児童書シリーズ」を実際に読んでみました。僕が考えた、「おしりたんてい」が人気作となった理由は、以下の4つです。

4-1:遊べる仕掛け満載のコンテンツ

その一番の人気の秘密は、とにかく毎ページ毎ページめくるたびに、子供の心に刺さる遊びの要素がいっぱい詰まっているところです。

★おしりたんてい「ふめつのせっとうだん」1ページ目f:id:hisatsugu79:20160824121433j:plain

絵本・児童書の両シリーズともに、マンガと絵本を融合させ、仕掛けを一杯入れた作風は、間違いなくポプラ社が「かいけつゾロリ」シリーズで長年培ってきたノウハウを目一杯使っています。

各シリーズとも、探偵推理モノなので、まずは事件が起きて、依頼人がおしり探偵のところに来ます。持ち込まれた事件を、おしりたんていが解決していくオムニバスストーリーとなっています。絵本では1作につき1話が、児童書では1作につき2話が収められています。

読者は、絵本をめくりながら、本の中の仕掛けを楽しみながら、おしりたんていと一緒になって謎を解いてストーリーを追っていけるようになっています。強引に例えると、子供版ゲームブックみたいな感じでしょうか。(ページは飛ばないけどね)

たとえば、用意されている仕掛けのほんの一例を紹介すると、こんな感じです。(絵本シリーズ、児童書シリーズ共通)

★迷路f:id:hisatsugu79:20160824121234j:plain

★暗号謎解きf:id:hisatsugu79:20160824121525j:plain

4-2:おしりたんていのエキセントリックなキャラクター

そして、この遊び満載な絵本の主人公であるおしりたんてい。下品になる一歩手前まで攻めまくったキャラクターですが、図書館や本屋で見ていると、女の子の読者の方が目立ちます。子供には、これくら強烈でわかりやすいほうが良いのでしょう。

そんなおしりたんていの口癖は、「ムムッ、においますね」
・・・何が臭うんでしょう(笑)わかりやすいダブルミーニングであります。

そして、犯人を特定したら、いよいよクライマックスです。おしりたんていの必殺技がいよいよ炸裂します!

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うん、まぁこんな感じです(笑)何が出ているのかは、本を手にとって、じっくり確かめてみてください(笑)

4-3:裏表紙まで手を抜かない密度の濃いコンテンツ

また、本の裏表紙にもちゃんと遊べるようにおまけの「間違い探し」が用意されていました。以前、印刷会社に勤務していた妻に言わせると、「全ページオールカラーで、丁寧に裏表紙まで良い紙を使って仕込んで、980円っていうのは相当コスト的にも頑張ってる。ここまでやるとは凄いね。」だそうです。

★裏表紙の間違い探しf:id:hisatsugu79:20160824123340j:plain

4-4:夏休みの課題図書指定が売上にブーストをかけている

また、2016年の夏は、「おしりたんてい」が読書感想文の課題図書指定を受けている地域や学校もあり、また、指定を受けていなくても、多くの書店で独自に設定する「推薦図書」となっていることが多いです。

もともとのコンテンツ力による人気に加え、どこの書店でも販促キャンペーンと平積みディスプレイを強化しているため、特にこの夏休み期間は売上が加速しているんですよね。僕の息子も、「1行読書日記」のネタにしっかり使っていました。

5.スマホアプリも面白い

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そして、無料で頒布されているスマホアプリもあります。

ポプラ社としては、これをフロントエンドの販促ツールとして、絵本をたくさん売りたいのでしょうけど、アプリ単体でもなかなか良い出来です。

絵本よりもさらにわかりやすく易しい感じなので、最初の導入をアプリから入り、絵本、児童書と年齢が上がるにつれて買い進むのがいいのかもしれません。

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ちなみに、アプリでおしりたんていの顔をタッチすると、ある仕掛けが用意されています。だいたい想像はつくと思いますが・・・(笑)

アプリは、これまで全部で4作出ています。最後にアプリリンクコーナーを作りましたので、もしよろしければそちらからどうぞ!

6.まとめ

もし、子どもに本を読ませたい、という親御さんには本当にオススメ。読書習慣の定着を狙うため、導入として最初に読ませる本として、非常に最適です。

一つの絵本/児童書にここまで丁寧に、徹底して「遊び」の要素を詰め込んだ本はなかなかありません。「かいけつゾロリ」シリーズや、「ウォーリーを探せ」「はらぺこあおむし」など、過去の名作の良い部分を凝縮して詰め込んだような本です。間違い探し、迷路、推理、暗号謎解きなど、あらゆる遊べる仕掛けが満載されていますし、個性的なおしりの形をした主人公のキャラも立っています。

そして、気がついたら、僕自信も結構のめり込んで読んでしまっていました。親子で一緒に楽しみながら読み進めるにも好適です。

おしりたんてい、本当におすすめです。是非読んでみてください。

それではまた。
かるび

スマホアプリはこちらから!(無料)

アプリは、2016年8月現在、全部で4作出ています。直感的でわかりやすいので、親子で遊ぶなら保育園/幼稚園年少さんくらいからいけるでしょう。なぞときがわからなくても、子どもがきっと喜ぶ仕掛けがあります(笑)

おしりたんてい
おしりたんてい
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おしりたんてい〜ぬすまれたバナナをおえ!〜
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おしりたんてい〜ねらわれたダイヤ〜
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おしりたんてい〜きえたサンタクロース〜
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児童書シリーズは、2016年8月現在、既刊3冊。絵本シリーズより少し難しいので、小学校低学年向きでしょう。小学校低学年で習得する漢字も混じっていますが、ふりがなは全部ついていますので、ひらがながよみこなせれば大丈夫です。

謎解きは、絵本シリーズより格段に面白く、親でも楽しめます(笑)僕の小学校1年生の息子は、絵本シリーズも児童書シリーズも両方並行して面白がっています。

絵本シリーズは、2016年8月現在、既刊5冊。A4サイズで、児童書よりワンサイズ大判です。全編ひらがなで書かれています。早ければひらがなが読めるようになった幼稚園/保育園の年中さんくらいからいけるかも。

【後半ネタバレ有】『君の名は。』徹底レビュー!あらすじ・見どころ・感想・評判など!

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かるび(@karub_imalive)です。

新海誠監督の最新アニメ映画「君の名は。」、封切り初日の朝一に行ってきました。

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本当に素晴らしい映画でした!

ここ数年見た映画の中では、ダントツNo.1の素晴らしさでした。あっという間の2時間で、終わった瞬間頭が空っぽになり、しばらく呆然としていました。

もともとSF系ジャンルは冒険活劇、アクション、恋愛となんでも好みなんですが、この映画は僕の好きな要素が全て詰まっていた上に、ストーリーや映像も非常に良かった!

本エントリは、映画の感想を書いていますが、後半にネタバレを含みます。ネタバレ以降を読みたくない方のために、ネタバレ以降の部分は明示しています。

1.「君の名は。」の映画基本情報

【ジャンル】アニメ・SF恋愛系
【公開日】2016年8月26日(金)
【監督】新海誠
【作画監督】安藤雅司
【音楽】RADWIMPS

足掛け3年の月日をかけて制作されたポスト宮﨑駿最有力と言われる、新海誠監督の最新作。監督本人の公式Webサイトでの2015年大晦日のエントリでも、

2015年は、新作映画『君の名は。』の制作だけの1年でした。

と書かれているように、新海誠監督の全勢力をかけて制作された本作は、作画・ストーリー・舞台設定・演出全てにおいてハイレベルで非常に密度の濃い大作映画となりました。

2016年4月には、新海誠監督自らが書き下ろした原作小説「小説 君の名は。」の発表もありましたが、映画公開前に早くも30万部を売り上げる異例の大ヒットとなっています。

僕も、事前に小説を読んでから映画本編に臨んだのですが、さすがに監督本人が書き下ろしただけあって、小説で描かれている世界観・ストーリーと映画本編はほぼ100%同一のイメージです。

原作小説を読んでネタバレ済みであるからといって、本編での感動が損なわれるわけでは決してなく、むしろ相乗効果で感動が増しているのが凄いところ。まだ読んでいない方は、一読して映画に出かけるのも悪くないかと思います。

2.映画館の混雑状況について

僕が行ってきたのは、封切り初日、ユナイテッドシネマ豊洲の朝一の9時50分の回でした。客層は若い人が多く、中高生、大学生~30代位までが中心です。40代の僕はちょっと肩身が狭い感じ?でした。

金曜日の朝一の回ですら、シートの半分くらい埋まっていましたので、しばらく土日祝日は、大混雑するものと思われます。なんといっても、封切り前に原作だけで30万部すでに売り上げているわけですから大ヒット待ったなしです。是非、前売り券を購入してから行ったほうがいいと思います。

3.主要キャスト

立花瀧(たちばなたき/声優:神木隆之介)f:id:hisatsugu79:20160826221125j:plain

東京の都心に暮らす男子高校生。父親と二人でマンション暮らし。喧嘩っ早いがバイトや高校生活は楽しそう。バイト先の奥寺先輩に憧れていた。建築や美術へのセンスがあり、絵が上手である。

宮水三葉(みやみずみつは/声優:上白石萌音)f:id:hisatsugu79:20160826221133j:plain

岐阜県の山奥の田舎町、糸守町の宮水神社に仕える巫女。狭い村社会に窮屈さも覚えており、都会の華やかな生活に憧れを持つ。

奥寺ミキ(おくでらみき/声優:長澤まさみ)f:id:hisatsugu79:20160826221159j:plain

瀧のアルバイト先の年上の先輩で男子たちの憧れの存在。序盤では瀧の恋人候補、中盤以降は良き先輩としてストーリーに絡む。

宮水一葉(みやみずいちは/声優:市原悦子)f:id:hisatsugu79:20160826221208j:plain

三葉と四葉の祖母で、宮水神社の神主。三葉の父親のトシキから三葉、四葉を引き取り女手一つで育てている。

4.あらすじと見どころ(ネタバレなし)

あらすじ(前半まで)

父親と東京の都心に住む男子高校生・立花瀧と、岐阜県の山奥の糸守町に住む女子高校生・宮水三葉。朝起きると、ひょんなことから二人の意識が入れ替わり、ドタバタ生活を描かれるところからストーリーが始まります。

二人は、当初、単純にリアルな夢を見ているだけだと思っています。だけど、たびたび朝起きると体が入れ替わっていることから、これが現実世界の出来事であると認識し、互いの実在を確信するように。

やがて、二人は朝起きるとランダムに発生する入れ替わりに備え、入れ替わった日は、お互いのスマホにメッセージを残し合うという風変わりな形での交流をはじめます。

三葉はあこがれだった都会生活を満喫し、瀧は田舎の学校生活で一目置かれる存在になるなど、二人が入れ替わり生活に馴染んできたところで、1000年ぶりのティアマト彗星が日本に大接近して、二人の入れ替わり生活は唐突に終わりを迎えます。

三葉は瀧に、瀧は三葉に実際に会いに行こうとしますが、物語は意外な展開を迎えます・・・。

みどころ①:緻密に描かれた美しい風景

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今作品の第一の見どころは、美しく、緻密に描かれた美しい作画です。作画監督に宮﨑駿監督作品で名をはせた安藤雅司氏を迎え、前作以上に美麗で細密な情景が楽しめます。

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田舎の大自然を描いた風景描写だけでなく、新宿や四谷など、東京都心を描いた都会の風景も非常に美しいのです。空の「青」を基調に、ほぼすべてのシーンで、温かみのある空気感や光のコントラストが幻想的に描かれ、”新海マジック”と言われる作画レベルの高さに舌を巻きました。f:id:hisatsugu79:20160826223209j:plain

帰宅してから、「あぁ、都会の風景ってこんなにきれいだったんだな」と自宅マンションから夕陽に映える風景をしげしげと見返してしまいました・・・

みどころ②:思春期の繊細で一途な心情描写

今作は、SF的な舞台背景でボーイミーツガール的な王道の恋愛を描くストーリーは、非常に明快です。純粋でちょっと奥手なところもある二人が、物語が動き出す中盤以降に心の赴くまま一途に行動するところなど、若さを感じるキャラクターや心情描写がみずみずしくて非常に良かったです。

みどころ③:声優陣と劇中音楽のレベルの高さ

声優陣では、特に瀧役の神木隆之介が素晴らしい演技でした。俳優を起用すると、どうしても棒読み感がでてしまいがちですが、神木隆之介は宮崎アニメ等の過去作などにも起用されて慣れているのか、非常に自然で、一途で繊細な瀧の心情を表現できていました。

他の声優も、メインキャラは俳優を配置していましたが、特に違和感なく自然に没入できる好演だったと思います。唯一心配していた長澤まさみも、空気感満載だった妖怪ウォッチの時よりは上達していました(笑)

そして、オープンニングからエンディングまで劇中音楽を全面的に担当したRADWIMPS。僕はJPOPは聴かないので、恥ずかしながらまともに聴くのは今回が初めてだったのですが、映画の雰囲気にぴったりでした。

公式ビジュアルガイドや、新海誠公式Webサイトを見ると、新海誠監督とRADWIMPSのリーダー、野田洋次郎が時間をかけて真剣に作りこんでいった過程が見えて、なるほどな、と思わされる作りです。是非、音楽も楽しんでみてください。

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・・・(以降ネタバレありスクロール注意)・・・

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5.総評と感想(以降ネタバレあり注意!)

後半部分あらすじ

ある朝、三葉と入れ替わっていた瀧は、三葉の祖母、一葉、妹の四葉と山の上にある宮水神社のご神体へ、神事で三葉が作った口噛み酒を奉納しに行くことに。その際に、地域の伝承を一葉から聞くことになります。「口噛み酒はあんたらの半分なのだよ」と一葉に言われるもその時は意味もわからず、夕暮れ「カタワレ時」を迎えるのでした。

物語が動き出すのは、入れ替わっている間に三葉が勝手に設定していた瀧と奥寺先輩との初デート。三葉は、結果が気になって実際に瀧に会いに行こうと東京に出掛けますが、携帯はつながらず、二人のデートシーンには会えません。

三葉が代わりに会えたのは、中学生だった瀧でした。

なんと、二人の間には3年の時差があったのです。2016年に生きる瀧と、2013年に生きる三葉。

満員電車の中、三葉はまだ三葉の存在を認識していない2013年の中学生の瀧になんとか一声かけ、別れ際、三葉の組紐を瀧に渡して岐阜に帰り、失意のうちに髪を切ります。

一方で、2016年の瀧は奥寺先輩との初デートに身が入りません。デート中、美術館で見かけた糸守町の写真に心奪われる瀧。奥寺先輩にはそれを見透かされ「今は別の好きな人ができたんでしょ」と言われてしまう始末です。

それ以降、入れ替わりが途切れてしまった瀧は、三葉のことが気になって仕方ありません。そして、自ら描いたスケッチを片手にとうとう現地入りし、糸守町をつきとめます。しかし、行ってみたら糸守町は3年前、2013年の彗星落下災害で消滅してしまっており、図書館で見つけた犠牲者名簿に三葉の名前を見つけてしまいます。

その時、瀧は三葉となってご神体に奉納した口噛み酒を思い出し、衝動的に山上に登り、ご神体の中へ。そこで三葉の口噛み酒を口にします。すると、、3年前、彗星落下直前の三葉に入れ替わりが起きます。三葉は、代わって山上の2016年の瀧へと入れ替わり、眼前の糸守町の消失を見て呆然とします。

2013年の三葉に入れ替わった瀧は、糸守町で幼なじみのサヤちんとテッシーの力を借りて、彗星落下から村人を安全な場所に避難させる作戦を立てます。瀧は、何故かその時山上のご神体に三葉の気配を感じ、三葉を呼びます。

そして、カタワレ時(=夕暮れ時)がやってきて、互いの姿が目の前に顕れ、二人のこころとからだが元通りに戻り、二人は初めて対面を果たします。瀧は、3年前電車の中でもらった組紐を、三葉に渡して、彗星の災害から糸守町を守る作戦を引き継ぎます。

しかし、カタワレ時が終わると、二人はまたお互いが見えなくなってしまい、お互いの名前を忘れてしまいます。それでも、三葉は糸守を守る作戦を成功させ、彗星は落ちて町は消滅したものの、大半の町民は無事になったのでした。(つまり歴史が書き換わった)

それから数年が経ち、大学生になった瀧は就職活動を経て、社会人になります。記憶が風化する中、「ずっと何かを、誰かを探しているような気がする」と漠然と心に引っかかりながら毎日を過ごす瀧。そこで、とうとう偶然に東京で瀧と三葉が出会います。お互いの名前は思い出せないけれど、大切な人。そして、二人は同時に、「きみの、名前は・・・?」と問いかけをするシーンで、ハッピーエンドです。

練り上げられた脚本が良かった

男女、親子体が入れ替わる「とりかえばや」的ストーリーは、昔から「らんま1/2」や、東野圭吾「秘密」、最近だと押見修造の「ぼくは麻理のなか」など多いですよね。

今作は単純に男女の体の取り替えっこによってもたらされる男女の「性差」から起きるドタバタ劇に終始することなく、あくまでストーリーは入れ替わりが解消し、男女が出会い、紡がれるストーリーそのものに主眼が置かれています。

そして、単純な入れ替わりではなく、3年の時差があったことなど、タイムトラベルSF的な要素が、ストーリーの面白さを倍加させていました。

ムダのない設定と見事な伏線回収

そして、伏線の設定と回収も見事でした。物語序盤で紹介される、夜と夕方の境目であるたそがれどきを表す糸守町の方言「カタワレ時」、宮水神社で巫女の手によって作られる「組紐」(くみひも)、祭祀の際に巫女の唾液を介して造られる世界最古の酒「口噛み酒」(奉納される際に組紐で封印される)これらが物語中で有機的に絡み合い、時を超えて二人が結ばれる媒介物となっていきます。

カタワレ時f:id:hisatsugu79:20160826223824j:plain

物語クライマックスで、瀧が三葉の「口噛み酒」を飲み、再び入れ替わりが起きると、時空の境目を象徴する「カタワレ時」にとうとう二人は正位置で再会します。その、僅かな時間の間に、3年前の満員電車内の出会いで、三葉から瀧に手渡された「組紐」が、再び三葉に戻ります。そして、それを媒介していたのが、「組紐」同様、二人の絆を暗示する「彗星」で、組紐と相似形なのであります。

また、舞台の「糸守町」という、組紐を連想させる名称や、主人公の「瀧」(さんずいに竜)という彗星を暗示させるような名前もすごく良かった。

そして、世界は二人のために収束していく

こうした設定や伏線のすべてが、物語終盤の二人の直接の出会いへと収斂していくのです。1000年に一度、周期的に大災厄をもたらす「彗星」までもが、時空を超えて二人をつなげる強い「組紐」となり、数年間の別離を乗り越え、最後には瀧と三葉は運命に導かれたように、四谷の須賀神社の階段で再会する・・・。

また、全編を通して、現実世界よりも遥かに印象的に美しく、温かみのある光が溢れ徹底的に緻密に描かれたこの映画の中の世界も、最終的に結ばれる二人を祝福するための壮大な舞台装置だったのだと思います。

そう、すべての設定は二人が結ばれるためにあったという、壮大なセカイ系ストーリーでもあったわけですね。

被災者で生きる人にも勇気になる

また、新海監督は明言していませんが、この1000年に一度の彗星がもたらす周期的で不可抗力な天災の描かれ方は、5年前の東日本大震災に通じるものもありました。

物語序盤で紹介された糸守町で起こった「繭五郎の大火」により、古文書が失われたエピソードは、長期間の間に風化する被災や災害の記憶を伝え続けることの難しさを象徴しているように感じました。1000年前に落ちた彗星によって湖が出来たほど甚大な大災厄の歴史も、年月を重ねる中、長年の間にこうして風化していくんですよね。

東日本大震災でも「つなみてんでんこ」といった明治時代の言い伝えがありましたが、多くの地域では、その記憶は風化してしまい、今回の震災予防に充分に生かされず、結果として多数の命が失われました。

だけど、「君の名は。」のラストでは、彗星が落ちて壊滅状態になった糸守町をあとにした仲間は、それぞれの新しい生活を東京で始めていました。主人公の三葉は瀧と再び出会い、テッシーとサヤちんは結婚準備を、妹の四葉は東京で高校生活と、「再生」に向けて順調な様子が描かれたのは、災厄から立ち直り、新たな人生を歩んでいる姿も描かれたのは、非常に良いメッセージだったのかなと思いました。

新海監督の伝えたかったこと

上映後、ららぽーと豊洲店の紀伊國屋書店ですぐに公式ビジュアルガイドを購入して帰りました。興味深い監督のメッセージが掲載されています。ちょっと長いですが、引用します。

今回、奥寺先輩が瀧に”君もいつかちゃんと、幸せになりなさい”というセリフがあって、ちょっと謎めいた言葉にも聞こえるかもしれないけれど、あれはお客さんに対する僕の気持ちでもあるんですよ。[・・・]誰かの幸せを願うような作品にできたらいいなと。[・・・]ラスト、就職活動の場面で瀧に”東京だっていつ消えてしまうか、分からないと思うんです”と言わせているんですが、日常がいつかなくなってしまうかもしれない感覚って、みんな日に日に強く抱えるようになっていると思うんですよ。でも、あと少しだけでいいからこの状態を続けていたい。好きな人と一緒にいたい。幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。 

カタワレ時の一瞬の出会いは儚くて、一瞬で終わります。一転して、直前まで強く想っていた人の一番大切な「名前」すら忘れさせられてしまうほど、二人を隔てる時空(=運命)の力は強大でした。でも二人は数年の時を経て、何度もすれ違ってようやく最後にお互いにたどり着きます。その原動力となったものこそ、新開監督がここで言う「幸せ」への切実な想いだったのでしょうね。

まとめ

新海誠作品は、実は今回が初めての出会いでした。普段、SF実写もの映画には目がないのですが、アニメはほとんど見ないのです。今回も、当初はまったくノーチェックでした。偶然、趣味の美術展で手にとったチラシに強く惹かれるものがあり、どうしても見てみたくなったのですよね。するとこれが本当に大当たり。

本当にいい映画や作品を観た後って、しばらく放心状態になることがあるのですが、今作品は久々にそんな感覚にさせられました。映画館からの帰りの運転、ぼーっとしちゃって結構危なかったです。結局、夕方近くになるまで何も手につかなかったです。

本当に、いい作品でした。今年最大のおすすめ映画作品です。

それではまた。
かるび

おまけ:2周目を楽しむための小説・外伝・公式ガイドなど

まずはこれ。監督本人が書き下ろした原作は、読んで損なしです。映画の世界観そのままを文章に詰め込んだ感じ。監督の書き下ろす小説は3作目ですが、着実に小説の腕も上げている印象。

今作の脚本協力として活躍した加納新太氏による外伝です。本編に収録しきれなかった伏線部分やサイドストーリーを、主人公以外の視点(四葉、父親、テッシーなど)で描き出しています。本編では単なる悪役にしか見えない父親の秘めたる苦悩、糸守町の秘密や伝承など、本編を深く理解し、楽しむために非常に役に立つ骨太な作品でした。本編を見終わった後にこそ読むことをオススメします。

コミカライズ版も封切と同時に第1巻が出ました。1巻では、物語前半部分が描かれ、原作に忠実な作りとなっていますが、このあと映画本編とは異なる展開・結末となるとのこと。続きが気になりますね。

映画カットを使ったストーリーガイドに、監督・声優・RADWIMPSへのインタビュー記事、設定資料集など、映画を細部まで味わうためのガイドブックです。新海監督がこの映画に込めた想い、制作での苦労、超美麗な作画がどのようにして作られたのか、丁寧にまとめられています。基本的にはネタバレなので、映画本編を見終わった後に楽しむと良いと思います。


初心者でも意外に楽しめる!トーマス・ルフ展は独創的な写真がいっぱいでした!

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かるび(@karub_imalive)です。

僕は写真が苦手です。撮るのも見るのも。

なぜかというと、とにかく撮影のセンスがないので苦手意識があるからです。たとえば、ちょっと遊びに行ったとして、スマホやデジカメで風景などを撮影するとします。そして、その後自宅でゆっくり見てみると、手ブレや指の映り込みは朝飯前、構図もひどくて、使いものにならなくて、愕然とすることが良くあります(笑)

そんな苦手意識があるので、「アート」としての写真をテーマにした展覧会も、ここまで割と敬遠してきました。ただ、今年になって”なんでもあり”の現代アートに少しずつ馴染んできた中で、写真だけ変に苦手意識を持っているのももったいないな、と思い、夏頃からいくつか展示会に通うようにしています。只今勉強中なのです。

初心者なので、見終わってももやっとしたまま「うーん、こんなもんか」と消化不良気味な展示会がまだまだ多い状況ではありますが、やっと自分なりにもこれは良かったな!と思える展覧会に出会いました。

それが、今日紹介する「トーマス・ルフ展」です。

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初心者でもわかりやすい明快なコンセプト、際立つ独創性は、見ているだけでも面白いなーと思える展覧会でした。

1.混雑状況と所要時間

今回はプレス向け内覧会に入れて頂いたので、混雑状況はまだわかりません。参考として、ルフと同門で、ベッヒャー派の「アンドレアス・グルスキー展」が2013年に東京・大阪で約20万人を動員したことを考えると、それなりに土日は来場者が多くなりそうですね。ただ、館内は広々としているので、鈴なりに人が群がって作品が全く見えない!ということはまずなさそうです。

★館内の様子f:id:hisatsugu79:20160830125759j:plain

作品掲示は、約120点。所要時間は、およそ90分あれば大丈夫だと思います。当日は、東京国立近代美術館のMOMATコレクション(常設展)にも無料で入れます。

こちらにもドイツ現代写真の特集コーナーがあるので、併せて回るなら、さらに1~2時間余裕を持って来館したほうが良いでしょう。(僕はこっちも非常に楽しみ!)

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2.音声ガイドと写真撮影

音声ガイドも用意されています。耳に当てる形式で、収録時間は約30分でした。ただし、音声ガイドがなくても、各コーナーに作品のコンセプトが非常に明快に示されているので、ガイドなしでも充分理解できます。

また、今回は、全作品写真撮影がOKです。アンドレアス・グルスキー展ではまったく撮影不可だったことを考えると、太っ腹ですね。

撮影条件は、下記を御覧ください。(※パンフレットからの抜粋)

★撮影許可条件
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3.トーマス・ルフと日本での展覧会について

3-1.ルフの日本での展覧会について

今回の展覧会は、ドイツの巨匠写真家トーマス・ルフの日本における初の大規模回顧展となります。海外では、ヨーロッパを中心として大規模な個展が過去何度も開かれてきましたが、日本では、これまでのところ彼が日本で懇意にしているギャラリー小柳などでの小中規模の個展や、グループ展での出展にとどまっていました。

今回の展覧会で出展された作品群、全18シリーズは、彼の最初期作の「Interieurs」から、最新の「press++」まで、彼のキャリア全体から満遍なく収められており、回顧展としてふさわしい内容となりました。

3ー2.トーマス・ルフの作風

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トーマス・ルフ(1958-)は、ドイツを代表する現代写真アーティストです。デュッセルドルフ美術アカデミーの写真学科にて、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の元で写真を学び、彼らから大きな影響を受けました。

ベッヒャー夫妻の同門に、日本での回顧展を成功させたアンドレアス・グルスキーやトーマス・ストルゥース、カンディダ・へーファー、トーマス・デマンドら著名な写真家が多数輩出されており、彼らは、ベッヒャー派、またはベッヒャー・シューレ(ベッヒャーの教え子/一派)としばしば言われます。

トーマス・ルフも含め、ベッヒャー派の写真の特徴は、「タイポロジー」という手法を取ることで有名です。同じ撮影方法やフォーマットを用いて撮影した一連の被写体対象をグリッド上や横一列などにまとめ、似たもの同士を比べることにより、浮き上がってくる差異や共通性などを探ろうとする独特の写真表現を取りました。(試しに、Googleの画像検索で、『ベッヒャー』と入力するのが一番手っ取り早くわかります)
タイポロジー

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今回のルフ展でも、技法やコンセプトの異なる全18カテゴリごとに同種の写真群が横一列やグリッド上にまとめて展示されるものがあり、ルフがベッヒャー派の影響下にある写真家であることがよくわかります。

4.作品のみどころ

今回の展覧会で出展されている18シリーズのうち、そのほとんどが、従来の伝統的な手法で制作された「写真」や「画像」にデジタル加工処理を施して、作品に仕上げられています。後半展示の幾つかの作品群に至っては、「写真」を自分で撮影すらせず、ネット等から拾ってきた画像を流用・加工するといったいわば「レディ・メイド」的な手法で新境地を開拓していることに、驚きました。

4-1.「Hauser(ハウス)」シリーズ

その取組は、キャリア初期の1987年「Hauser(ハウス)」シリーズで既に始まっており、二枚のネガを接合するなど、レタッチやカット&ペーストといったオーソドックスな加工処理で、作品を恣意的に変化させて提示しました。

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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

4-2.「nudes(ヌード)」シリーズ

そして、中期以降作品では、撮影すら自分では行わず、イメージや画像の加工処理そのものに焦点をあて、コンセプトを定めた作品を仕上げるようになります。

たとえば、1999年に発表された「nudes(ヌード)」では、インターネット上のポルノサイトから取ってきたデータを極限までぼかして、色調を変えるなどの画像処理を行い、ヌードの構造がわずかに認識できる程度まで加工した「画像」を作品化しました。

ルフは、本シリーズの作品の意図について、ポルノグラフィティという、「見てはいけないけれど見たいもの」こうしたものがインターネット上でいとも簡単に手に入ってしまう現代の状況に対して、問題提起したかったのだと言います。

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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

4-3.「jpeg」シリーズ

さらに、圧縮率を高くするとモザイク状に劣化してしまうJPEGフォーマットの特性を作品に活かした2004年の「jpeg」シリーズなども面白かったです。

大判の写真でも、充分遠くまで離れたら、普通の写真に見えますが、近くに寄ると、格子状のドットが目立つようになり、まるで点描などの近代絵画のように見えるというJpeg画像の特性を活かしたユニークな作品でした。

★遠ざかると普通の写真に見えるf:id:hisatsugu79:20160830124340j:plain

★近くに寄ると、点描のような独特の格子が見える(上記写真の煙の部分)f:id:hisatsugu79:20160830124630j:plain
(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

2001年9月11日、ちょうどニューヨークに滞在中だったルフは、テロ現場を手元のカメラで収め帰国します。が、帰国してから作品制作のために確認してみると、撮ったはずの写真がなぜか全部消えてしまっていたそうです。

そこで、仕方なくネット上で使えそうなテロ現場の写真を検索していた際に、この「jpeg」シリーズのコンセプトがぱっとひらめいたという逸話が面白かったです。

4-4.「Photogram」シリーズ

フォトグラムとは、1920年代後半にマン・レイらによって開発された写真技法で、カメラを用いず、感光紙の上に物を置いて直接露光して、その影や、透過する光をかたちとして定着する技法です。(参考:トーマス・ルフ展図録P204)

ルフは、ここに最新のデジタル技術を導入し、独自の味わいを持つ「光の造形」を作り出し、フォトグラムの新たな表現手法を開拓しています。写真というより、美しい抽象絵画っていう感じなのですよね・・・f:id:hisatsugu79:20160830132802j:plain
(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

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(©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016)

 5.グッズ

グッズもおしゃれなものが用意されており、写真の絵柄がプリントされたシャツや、トートバッグなどがなかなか良い感じでした。(ちょっとヌード図柄のトートバッグは勇気いりそうですが・・・)f:id:hisatsugu79:20160830133005j:plain

面白かったのは、クリアファイル。通常よくあるA4やB5サイズではなく、A3サイズで非常に大判です。これはちょっと珍しい感じ。

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グッズ担当の方にお聞きしたら、基本的に、売り切れ次第終了になる可能性が高いとのことです。スタイリッシュでクオリティが高いので、是非お早めに!

6.まとめ

こうして、トーマス・ルフの作品全般を俯瞰してみてみると、彼が、伝統的な記録媒体という「写真」という枠を大きく超えて、様々な「画像イメージ」を自由な発想で作り上げてきたのだないうのがよくわかりました。

全18シリーズとも、西洋のアーティストらしくコンセプトはしっかり際立っており、整理されていました。初心者である僕にも、「何をどう意図して表現したかったのか」というルフ自身の狙いや目的がしっかりと理解できました。

図録の中田耕市氏の解説のタイトルに『トーマス・ルフ「写真」の臨界へ』とありますが、これはうまい表現だなと思います。ルフ自身も、内覧会のインタビューにて「これからも技術革新とともに写真はもっともっと創造性豊かに、可能性が広がっていく」と語っていましたから。

今回の展示会では、そんなルフの写真に対する独創的・創造的な取り組みをたっぷり楽しめます。もちろんそういった細かい文脈抜きで、単純に自分の感性だけで見ても、「あぁ、これいい写真だな」と思える作品も沢山あります。

楽しい展覧会です。是非足を運んでみてください。

それではまた。
かるび

展覧会概要

11月までは東京、その後、金沢21世紀美術館へ巡回します。

展覧会名:「トーマス・ルフ展」
会期:
【東京】2016年8月30日~11月13日
【金沢】2016年12月10日~17年3月12日
会場:東京国立近代美術館、金沢21世紀美術館
公式HP:http://thomasruff.jp/

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

今回の展示会の前に、写真を鑑賞するための知識や歴史的な文脈を知るためにいくつか予習した中で、役に立ったものを紹介しておきますね。写真を「撮る」入門本は腐るほどあるのですが、「写真を見る」鑑賞入門のための本って少ないんですよね・・・。

今展覧会の特設Webサイトでも、トーマス・ルフが学んだデュッセルドルフの美術学校の写真と推薦文の寄稿をしているホンマタカシ氏。よい子の・・・とありますが、普通に一般初心者向けの入門書です。写真史、写真の見方・楽しみ方を分かり易く噛み砕いてくれています。

アンリ・カルティエ=ブレッソンに代表される「決定的瞬間派」、今展示会のルフの流れを組むベッヒャーら「ニューカラー派」の違いは、端的に言ってシャッタースピードの違いである!と分かり易く解説してくれています。ここまで易しいと、センスのない僕でもわかります(笑)

写真家、菅原一剛氏が個人的に尊敬する歴史上の重要写真アーティスト達を紹介した本。各アーティストの写真や作風の特徴、有名な逸話、より理解するための参考図書をコンパクトに纏めてくれています。日本人からも、土門拳や田淵行男などがピックアップされています。

世界的に活躍する現代写真家数十名をピックアップし、彼らの代表作をピックアップしながら、現代アートの文脈で写真を語り尽くした労作。カラー写真をふんだんに使い、やや値段は張りますが、アートとして写真を本格的に味わいつくすなら欠かせない取っ掛かりのための入門書だと思います。もちろん、トーマス・ルフも紹介されています(ポルノ写真が/笑)オススメ!

高額なTOEIC通信講座の中古教材をヤフオクで落として失敗した話

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かるび(@karub_imalive)です。

会社を退職し、無職生活となって3ヶ月。ようやく無職なりの健全な生活スタイルが確立できてきたところで、今度は身の回りの不要品の整理整頓にとりかかっています。

古雑誌や古本を整理していたところ、ダンボールの奥から、少し前にヤフオクで購入して、やらなくなってしまったTOEICの中古通信添削教材が出てきました。

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「あちゃー、こんなのあったよな・・・」と苦々しい思い出とともに、古新聞と一緒に包んで捨てようと思ったのですが、捨てる前にふと手が止まりました。「んー、これはちょっとブログに書いてから成仏してもらおうかな」

ということで、ゴミと成り下がった高額教材一式を捨てる前に、今後の自分への戒めのためと、読者の皆様が僕と同じような轍を踏まないためにも、「なぜ中古の通信講座をヤフオクで落としてはいけないのか?」簡単に僕の失敗談を書き残しておきたいと思います。

通信講座って、やったことありますか?

僕は、これまで社会保険労務士の資格取得をする際に、TACの通信講座をやり切った覚えがあります。確か、教材一式と試験前の特別オプション教材を併せて20万円くらいだったような。2013年のことです。

一度2008年に挑戦した時は、市販のテキストと問題集だけで独学を試みて挫折。そんな背景もあり、今度はTACの教材だけを信じて、ビデオ講座の受講、添削と模擬テストを全セットやり切り、何とか社会保険労務士に合格することができたのです。

それが成功体験になったのかどうか、自分の中では、「まぁ通信教材は順番にやっていけば、なかなかいいものだ」という肯定的な評価もできていました。

そして、2015年。

ちょうど去年の夏頃から、TOEIC熱にはまっていて(今はブログ熱ですが/笑)自分もいつかTOEICerのように990点を取るんだ!と息巻いていた時期がありました。

ただ、勉強法に行き詰まっていて、市販の問題集と参考書ではなんとなく物足りない気がしていました。じゃあいっちょ本格的な通信添削教材でもやったろうか、と思い立って、目をつけたのが、英語通信会社のアルクの教材「挑戦900点 TOEIC(R)テスト攻略プログラム」。

元々アルクの教材は結構好きで、単発で「English Journal」「キクタン」など市販の教材は買っていたのですが、やっぱりここはまとまって勉強してみたい!と思って、ちょっとセットで教材を買ってしっかりやろうかと。

そこで、どれどれ、と思ってサイトを見ると、結構高いんですよね。アルクの販売サイトを見ると、定価62,640円。うーん高い。

テキストやCD教材を含めると、量的にはかなりあるので、高いのは仕方ないのかなと思ったのですが、さすがに6万円はワンクリックで試せる価格ではありません。

ヤフオクで中古を購入してみた

そこで、どうしようかなぁと思って、迷った挙句、たまたまひらめいたのが、

「そうだ、教材をヤフオクで落とせばきっと安いよね?」

ということ。ひらめかなきゃ良かった・・・。

早速、調べてみるといくつも出ています。

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その中で、一部書き込みありだけど、その分相場より安くなっていたものが即決20,000円弱で出ていたので、これを落として、届くのを待つことに。

定価62,640円に対して、約7割引の価格です。送料も無料にしてもらったし、「よしよし、なかなかいい買い物をしたぞ」・・・なんて購入当時は無邪気によろこんでいたものです。

なお、この取引自体はなんの問題もなく、気持よく終わりました。届いたものを確認しましたが、確かに目録通りです。

・・・。

・・・。

・・・。

ですが、これが結構甘かった。

ヤフオクで落とした中古品は使えなかった

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始めたはいいのですが、やっぱり続かなかったんです。最初は、喜び勇んで取り組んでいたのですが、なんか違和感があるのです。「通信添削は社労士試験の時に相性が良かったのにな~。おかしいな~。何故かやる気が出ないわ・・・。」結果として、ひとつ目のテキストをやるところで、早々にフェードアウトしてやらなくなってしまいました。

今振り返ると、理由は、以下の3つです。

失敗した理由1:やっぱり他人の書き込みがつらい

わかっていて購入したので、自業自得なのですが、1冊めのテキストとワークブックにびっしりと書き込みがしてありました。丸付けなんかもしてあったりして、使用感満載。(しかも結構まちがってたりしてうざい)

こんな感じです。

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無視して2冊目から始めればよかったのですが、こういう通信添削モノは、やっぱり最初から進めていくのが合理的なもの。その、最初のテキストが使い込まれていて書き込みだらけでだるいのは、モチベーションがくじかれました。

僕も、ブックオフなどで古本を購入する時に他人の書き込みなどはあまり気にならないタイプだったのですが、それは、読み捨てする感覚だから許容できていたのであって、きちんと真剣に課題に時間をかけて取り組む時に、他人のわけのわからない書き込みがごちゃごちゃあるような教材では、モチベーションが上がりませんでした。

失敗した理由2:通信添削が受けられない

当たり前ですが、正規に購入したものではないので、当然月ごとの添削が受けられないわけです。なくても別に問題ないかな?と思いましたが、やはり月ごとに課題の「提出期限」がないと、なんだか締まりがありません。また、提出した課題の添削によるフィードバックも継続への励みになるもの。

その「締め切り効果」「フィードバックによる双方向のコミュニケーション」といった継続へのインセンティブが全く機能しないわけですから、書き込みがうっとうしくて集中できずに進みが悪くなっている中、添削部分もなくてそのまんまフェードアウトしてしまいました。

失敗した理由3:FINAL TEST(模擬試験)が受けられない

更にへこんだのが、6ヶ月間の全工程を終えた後に受けられるはずの直前模擬試験「FINAL TEST」の問題が届かないし、採点も勿論してくれないという。オークションで落としたものは、正規購入者ではないので、正規の受講者IDが発行されないため模擬試験を受けられないのです。

こういう通信教材を購入する一つの目的として、アルク社が作成した良質な模擬テストを受けられる、というものは非常に大きいのです。また、そのテストの成績票が帰ってきた時に自分の目標に対する立ち位置、足りていない部分の分析ができるのも便利です。

話は前述のTACの社会保険労務士の通信パックに戻りますが、TACの通信コースでは、社労士試験のスタンダードとなっているTAC主催の直前2回の模擬試験もセットでついており、本当に励みになったし、奮起させられました。(A判定、とかB判定とか出てきますからね)

ダメ押し→テスト形式が新基準に変わってしまった

まぁそれでも少しずつでもいいから「いつか」取り組んでみるか、、、と思いながら、教材は部屋の隅の方に積んだままになっていました。

そんなこんなでブログ更新にかまけて教材を放置していたら、なんと2016年5月からTOEICのテスト自体が変わることに。

TOEIC|インフォメーション|2015年度|TOEIC Listening & Reading Test 出題形式一部変更について

リスニングセクションや読解問題を実践形式へと高度化させるようなメジャーアップデートが走り、テストフォーマットが変更されました。これにより、部屋の片隅に積んであった教材全部が、「旧基準」のピントのずれたものになってしまい、限りなくゴミの山に近いものに成り下がってしまったというわけです。

まとめ:通信講座は、高くても正規のものを申し込もう!

この一連の顛末を経て、得た教訓としては、「通信添削教材は、正規のサービスを申し込むべきだ」ということです。たとえ少し安くても、ヤフオクなどで他人の使った中古教材では、学習を継続するための「課題提出」や「通信添削」や、正規受講者特典である「模擬試験」のサービスが受けられません。

こういった通信講座の特徴である、「双方向のコミュニケーション機能」を失った中古品では、ただの割高な市販教材と変わらないのですよね。

「安物買いの銭失い」という言葉がありますが、どんな買い物でも、安さだけを追求してクオリティを犠牲にして物品やサービスを購入すると、かえって満足な結果が得られずお金だけ損しちゃう、その典型例だったかもしれません。

まさに身銭を切ってわかった失敗談でありました。

秋以降しばらく落ち着いたら、TOEICの試験勉強を再開したいと思いますが、もし通信講座をやるなら、もう二度とヤフオクは使わないと思います。

少しでも、学習者の方の参考になれば幸いです。

それではまた。
かるび 

ブロガー内覧会って楽しい!山種美術館「浮世絵 六大絵師の競演」展に行ってきました!

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かるび(@karub_imalive)です。

8月28日から山種美術館で展示がスタートした展覧会、「浮世絵 六大絵師の競演
―春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重―」のブロガー内覧会に行ってきました。

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美術館や博物館の企画展では、展示開始の直前や当日の閉館後などに、通常のお客さんが入れないマスコミや関係者向けの「内覧会」という特別招待イベントがあります。映画でいうところの「試写会」みたいなものでしょうか。

最近は、各種展覧会でもブログ、Twitter、InstagramなどのSNS経由での口コミ集客がバカにならない影響力があるということで、招待制ではなく、応募可能なブロガー向けの内覧会を開催する展示会が増えてきました。

この、山種美術館も、毎年1年間で5~6展の企画展を実施しますが、そのたびにブロガー向けの内覧会を開催している非常に熱心な美術館です。

今日は、山種美術館で開催されているブロガー向け内覧会の様子を少し書いてみたいと思います。

1.ブロガー内覧会の概要

今回のブロガー内覧会は、美術系ブロガーの大御所「青い日記帳」主宰のTakさん(@taktwi)と山種美術館とのコラボで実現した企画です。展覧会があるたびに、ここ最近は毎回継続して開かれている企画です。

僕も、今回がこれで2回めとなります。前回記事はこちら。 

さて、内覧会への応募は、TakさんのTwitterやブログ、または山種美術館の公式HPから告知され、申し込みフォームから応募が可能で、一定の条件を満たす情報発信者なら、誰でも参加できました。

ブログ、Facebook、Twitter、Instagramの個人アカウント(いずれか1つ必須)をお持ちで 「【開館50周年記念特別展】山種コレクション名品選Ⅱ 浮世絵 六大絵師の競演 ―春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重―」の記事を執筆でき、展覧会紹介記事としてインターネット上に掲載・公開が可能な18歳以上の方。Facebook、Twitter、Instagramは「友達のみ」「自分のみ」の公開は対象外。mixiでの限定公開は不可。本イベント終了後、9月10日(土)までに展覧会紹介記事を執筆・公開が可能な方。

条件を見てみると、非常に敷居が低いのがわかりますね?!

要するに、内覧会イベント終了後、自分が持っているいずれかの媒体で展覧会の感想を拡散すればOKという条件ですので、別にブログをやっていなくても、InstagramやTwitter、Facebookに一言コメントを書いて流せばそれでOKなわけです。事実上、やる気があれば誰にでも開かれている内覧会ということですね。(InstagramがOKでmixiがダメなのは時代の流れですね・・・)

だから、参加者は、老若男女様々な人が来ていました。(失礼な言い方にあたるかもしれないですが)SNSなど到底興味なさそうな感じの裕福な着物の初老のおば(あ)さまなども沢山来ていますから。

2.内覧会に参加するメリット

内覧会といえば、なんとなく業界人ぽい特別感が漂うものですが、そういう雰囲気だけじゃなくて、ブロガーとして実質的なメリットが非常に大きいと感じています。僕の場合は、主に以下の3点でしょうか。

2-1:写真が撮り放題

これが非常に大きいのです。ここ数年は、国立美術館/博物館系の常設展示などで、全部または一部撮影OKである展示物が増えてきてはいますが、やはりまだまだ全面的に撮影禁止であるところが多いのです。(理由は商業上の都合や著作権など色々)

ブロガーの立場からすると、展覧会は一種の取材みたいなもの。読者に対して、美術展の臨場感をより効果的に伝えるには、文章だけでなく、説得力ある現場の展示状況や作品の生写真が絶対にほしいところなのです。

だから、「撮影禁止」だと、あとでレビュー記事を書いていて物足りないのですよね。なんとかネット上から展示品と同一の画像を探し出して、引用として画像を貼って作品を紹介するのですが、それだとリアリティがもうひとつしっかり出せないのですよね。たとえ下手くそな写真でもいいから、「現場」を撮っておきたいのです。

山種美術館の作品でも、通常の企画展においては、基本は撮影禁止となっていますが、内覧会では、撮影自由です。しかも、フラッシュや三脚を使わなければ、ほぼ全作品を撮影し放題という太っ腹。ガラスを傷つけないようにケアすれば、接写や一点撮り(作品のみをクローズアップして撮影すること/通常内覧会でも推奨されないことが多い)もOKだというではありませんか。素晴らしい!

2-2:学芸員さんやゲスト解説者の詳細な解説が聞ける!

山種美術館のブロガー内覧会では、主催者のTakさんを始め、学芸員の方や、ゲスト解説者の方が、実際に作品を見て回りながら詳細な解説をして下さいます。音声ガイドも役に立ちますが、作品を見ながらその場でプロの方に解説やプレゼンをしていただけるのが一番アタマに入り、鑑賞がはかどります。展覧会のキュレーション方針や裏話、展覧会や主要な作品の見所を、プロの方から直に聞けるし、質問も自由にできる、こんな機会はめったに無いですよね。

今回は、ゲスト講師として、国学院大学の浮世絵研究の第一人者である藤沢紫先生に作品を見て回りながら解説していただきました。

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そして、終わったら、和菓子をいただきながらスライド付きの講義まで聴かせていただけるなど、なんとも贅沢な内覧会となりました。f:id:hisatsugu79:20160901231738j:plain

2-3:終わった後のお菓子とお茶も美味しい

そして、山種美術館のブロガー内覧会は、お茶菓子付きです。この日は17時スタートで、1時間ほど作品に集中してじっくり頭を使ったところで、ちょうど小腹がすいてきます。そこへ、展覧会のテーマと連動したお茶菓子がサッと出てくるというタイミングの良さ。

今回は、この5種類の和菓子の中から1つ好きな物を選ばせていただきました。

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会期中、これらは1Fのカフェで注文できるのですが、上品で、美味しいんですよね。お茶が進みます。ちょうど、今回は和菓子企画の担当の職員さんに聞いたのですが、企画展が始まる半年以上前からアイデア出し~試作を繰り返して綿密に作りこんでいくそうです。毎回、展示会に合わせてお菓子を作り変えるのですから大変だと思います。

3.展覧会のみどころ

今回の展覧会の見どころは、山種美術館の浮世絵コレクションから、特に著名な6名の江戸時代の浮世絵絵師をピックアップした浮世絵展示です。展覧会のタイトル「浮世絵 六大絵師」春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重とは以下の6名を指しています。

・春信→鈴木春信(美人画)
・清長→鳥居清長(美人画)
・歌麿→喜多川歌麿(美人画)
・写楽→東洲斎写楽(役者絵)
・北斎→葛飾北斎(風景画)
・広重→歌川広重(風景画)

それぞれの絵師には得意ジャンルがあります。今回の展覧会では、浮世絵のジャンルごとに<美人画><役者絵><風景画>と3セクションに分けて展示が進んでいきました。

3-1:美人画

美人画では、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿から数枚ずつの出展でした。鈴木春信の描くのは、かわいい美人画。コミカルで柔らかい表情の男女が魅力的です。

鈴木春信「色子と供」
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ちなみに、上記春信の絵が描かれた1767-8年ごろからわずか10年ちょっと下った鳥居清長の代に入ると、浮世絵が6等身→8等身へと急に縦長になります。藤沢先生によると、これは、洋画等からの影響が大きく、急に江戸町人の美意識が変わったことを反映しているのだそうです。先生の深い分析に思わず納得。

鳥居清長「当世遊里美人合 橘妓と若衆」f:id:hisatsugu79:20160901222959j:plain

3-2:役者絵

役者絵は、北斎の師、勝川春章や東洲斎写楽、歌川豊国らが出品されていました。主に、当時のアイドル役者である、歌舞伎俳優のブロマイド的な使われ方をしました。

写楽の大首絵は、小品が多い浮世絵の中ではやはり際立っていますね。写楽の絵は3枚ありますが、うち2枚については、一般の展覧会でも引き続き撮影OKだそうです。

東洲斎写楽「二代目嵐龍蔵の金貨石部金吉」f:id:hisatsugu79:20160901223820j:plain

東洲斎写楽「八代目森田勘弥の駕籠舁鶯の次郎作」f:id:hisatsugu79:20160901224004j:plain

歌川豊国「役者舞台之姿絵 やまとや 初代坂東簑助の早野勘平」f:id:hisatsugu79:20160901223825j:plain

3-3:風景画

風景画コーナーは、ほぼ全部が歌川広重の作品でした。東海道五拾三次全編56枚に、近江八景、名所江戸百景などから数点、あわせて67点の大量出展でありました。今展覧会は、実質「広重展」みたいなものでしょうか。

広重の風景画は、風景自体もダブリがなく、構図の着想も面白いのですが、意外に見逃せないのが登場人物のコミカルで素朴な表情です。作品中に色々な遊びもいれたりして、読者を飽きさせない細かい工夫が面白いのです。

今回、特に気に入った作品を貼っていきますね。

歌川広重 東海道五十三次「掛川・秋葉山遠望」f:id:hisatsugu79:20160901225412j:plain

これをずっとアップで寄ってみると、茶店でくつろいでいるオジサンの表情がなんとも優雅で、ゆるやかに流れる江戸時代の旅の風景に癒やされます・・・f:id:hisatsugu79:20160901225457j:plain

歌川広重 東海道五十三次「大津・走井茶店」f:id:hisatsugu79:20160901225611j:plain

茶店の中の様子が興味深いのです。湧き水のそばのたらいで洗濯する若い衆や、店の女主人と話し込む着物の女など、細かいところがしっかり描かれています。f:id:hisatsugu79:20160901225746j:plain

歌川広重 東海道五十三次「石部・目川の里」f:id:hisatsugu79:20160901230037j:plain

こちらは、旅の一団に注目してみると、何か踊りながら歩いていますね。多分、お伊勢参りかなんかで、「ええじゃないか」踊りを踊っているのでしょう。これも非常にコミカルで気に入りました。f:id:hisatsugu79:20160901230053j:plain

そして、きわめつけがこれ。

歌川広重 東海道五十三次「原・朝之富士」f:id:hisatsugu79:20160901225956j:plain

なんと、よくよく見てみると、浮世絵が長方形ではなく、富士山の頂上部分が飛び出ています。粋な遊びを仕掛けたものだなと感心しました。f:id:hisatsugu79:20160901230414j:plain

最後は、僕の地元の絵を紹介。僕の家は東京都江東区で、隅田川のそばにあるのですが、その関係か、やたらと近所に浮世絵のモデルとなった地形が出てきます。

この絵は、明治時代前までは、単に「大橋」と呼ばれていた、隅田川にかけられた大きな橋です。深川地区と人形町をつないでいました。今は架け替えられ、「新大橋」と呼称が変わりましたが、僕の家から徒歩3分のところで、毎日通勤で通っていました。これ、毎日「聖地巡礼」してるようなもんだよな・・・

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」f:id:hisatsugu79:20160901230837j:plain

よく見ると雨の角度が2種類ありますが、異なる版木を使って2回刷りなおしているそうです。雨足の強さを表現するために、工夫を惜しまない姿勢は素晴らしいです。
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3-4:展示の見やすさも注目点

今回の浮世絵展は、1枚1枚の浮世絵に対してピンポイントで光が当たるようにライティングが調整されており、非常に見やすいのです。

写真越しでも、なんとなく絵画本体がマイルドにライトアップされているのがわかるでしょうか?小ぶりな絵が多く、見づらいことが多いので、これは助かります。状態が良い作品が多いだけに、これは嬉しい工夫でした。f:id:hisatsugu79:20160901231250j:plain

4.まとめ

質・量ともに充実している山種コレクションの凄さは、前回展の江戸絵画特集の時にも思い知りましたが、今回も所蔵品のクオリティが高くて感嘆しました。また、細かいところまで鑑賞者の気持ちを汲んだ細やかな心遣いも素晴らしいです。ブロガー内覧会の開催をはじめ、展示と連動した和菓子があったり、全展示に音声ガイドが用意されている点も丁寧で良いと思います。

浮世絵の入門編にも良い展覧会でした。会期が短いので、興味がある方は是非お早めに!それではまた。

かるび

展覧会詳細情報

展覧会名:
【開館50周年記念特別展】
山種コレクション名品選Ⅱ
浮世絵 六大絵師の競演
―春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重―
会期:2016年8月27日(日)~9月29日(日)
会場:山種美術館
公式HP:http://www.yamatane-museum.jp/
アクセス:http://www.yamatane-museum.jp/access/

稟議書って面倒だよね?楽に通す書き方やコツ、根回しの秘訣をシェアするよ!

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かるび(@karub_imalive)です。

先日、友人とお酒を飲んでいて聞かされたグチが、「何を買うにも社内で稟議書を出さなきゃいけなくて、なかなか通らなくて社内の古い体質にイライラする」ということでした。

まぁ、ありますよね。日本では、大手から中小まで様々な組織体で、「稟議書」はある種日本企業の「非効率な業務プロセス」を象徴する制度として存在しているような気がします。

僕の前職でも、この「稟議書」は強敵でした。典型的なオーナー企業で、オーナー社長は指導力はあるんだけど、とにかくケチでした。だから、5000円とか10000円の文房具一つ買うにしても、稟議書をわざわざ書いて役員決裁を仰がなければならないわけです。しかも中小企業のくせに承認印欄がやたらと多くて面倒でした。

今日は、そんな日本の古き好き(悪しき?)伝統である「稟議書」について、どうすればもっとスムーズに通るようになるのか、僕の経験も踏まえて柔軟に考えてみたいと思います。

0.稟議書って何なの?

とは言っても、会社に入ったばっかりの若い人は、稟議書(りんぎしょ)という文書の存在自体も知らない人が多いと思います。まずは簡単に定義をおさらいしたいと思います。

稟議書とは、日常業務において物品やサービスを購入したり、意思決定をしたりする際に、会社の承認を得るために起案されるドキュメントのことです。

会社によっては起案書、伺い書などと呼ばれることもありますね。

一般的に会社組織では、コンプライアンスや企業統制の観点から、特にお金のからむ意思決定をする際は、会議の議事録など、実行を担保するためのエビデンスが必要です。稟議書は、これを回覧・承認するワークフローを回すことで、会議を開催するまでもない日常的な業務の意思決定を効率よく回していく手段とされます。

・・・。

・・・あくまで定義上は。

1.しかし稟議書はめんどくさい

1-1:たくさんの承認印をもらわないといけない

スタンプラリーの様相を呈している稟議書の印鑑欄

そう、定義上は会議を省略して効率よく業務を回すための仕組みなんですが、これがまぁ会議以上に面倒なんですよね。日本企業の意思決定の遅さは、まさにこの「稟議システム」にあるんじゃないかって思えるほど、ダラダラとなかなか進まない。

なぜかと言うと、決裁承認が下りるまで、指揮命令系統上のほぼ全員のハンコをもらわなきゃいけないからです。僕は、ITシステム開発業にいたのでいろんなエンドユーザーと仕事をしましたが、一番ひどかったのは銀行系企業です。

彼らから実際の内部文書を見せてもらいましたが、印鑑欄が、ざっくり横一列に10人分くらい。どれだけ承認印がいるんだよ!と。

稟議書が別名「スタンプラリー」と言われてしまうゆえんであります。

1-2:仕事をすすめる際のボトルネックになることが多い

稟議書の大半は、実際のところ「モノやサービスを購入する」際に作成されます。

でも、今日や明日じゅうに購入しないと仕事が進まないのに、社内規定上稟議対象物件となってしまい、稟議書が承認されるまでは仕事に手を付けられない。お客さんとは全部打ち合わせが終わっているのに、社内の稟議手続きがボトルネックとなって資材購入や社内承認が遅れてプロジェクトが進まない・・・そんな経験ってありませんか?

僕も、過去何度となく、プロジェクトの進行の際に「稟議書」の承認が下りなくて仕事が止まったことがありました。でも納期は決まっているので、泣く泣く自腹を切って物品を購入し、強引に仕事を進めちゃう・・・僕はそんな経験も数えきれないほどあります。(ひょっとしたら会社はそれが狙いなのではと邪推したこともあった)

ある時、これではいかん!と思って、一念発起しました。そして、自分なりに色々工夫した結果、正攻法的な方策から、セコい裏ワザみたいなものまで、素早く稟議書を通すいろんな技を習得してきました。以下、僕が「稟議書」を効率的に通すためにやってきたことを、書いてみたいと思います。

2.稟議書を通すための基本技

2-1:アカの他人に読ませる想定で丁寧に書く

実のところ、稟議書を提出しても記載事項不備で却下されて失敗する大半の理由が、まず「背景や経緯の説明不足」に起因するものが非常に多いのです。

稟議書は、「現場の事情を全く知らない人」が多数読み、承認プロセスに加わるという特徴があります。自分の上司くらいはさすがに自分が何をやっているか把握はしていますが、その上の部長や事業部長、さらには本社の決済部門(経理や総務)や、決済担当の役員などは、あなたが今取り組んでいる仕事内容のことなど、全く把握していないのですよね。

そんなまっさらな彼らに稟議書を読ませ、かつ費用計上のための正当な理由を納得させなければならないのです。起案する側は、なぜその物品やサービスを購入しなければならないのか、120%位のわかりやすさで書かないと、まず伝わらないと考えたほうがいいでしょう。

普段、その対象業務にどっぷりつかっていると、自分の中では事情が完璧にわかっていることから、つい書類上での説明が足りず、却下されてしまう傾向があるようです。

2-2:箇条書きで書く

したがって、稟議書にはできるだけ詳細に記載した方がよいのですが、ダラダラ文章をつなげて書くと、今度は長くなりすぎて、読み手の印象が悪くなってしまいます。

だから、記載事項は、ナンバリングと箇条書きを多用して、分かり易く整理したほうが良いでしょう。そして、箇条書きをするなら、理由はメインの2つか3つに絞るのが大事です!

たとえば、こんな感じでしょうか。

稟議書記入例:ナンバリングや箇条書きでスッキリ見える稟議書

ナンバリングと箇条書きを多用することにより、なぜだかそれなりにまとまっているように見えてくるという一種の「ハロー効果」もあるのですよね。

2-3:費用対効果を明示する

これは上層部の社員への対策です。経営陣は、その仕事柄、投資や経費使用については必ず費用対効果をチェックする癖があります。だから、無理やり、予測値なんかでもいいので、これを投資すれば、これだけの利益が上がります!と、「もうかるぜ!」「お得だぜ!」という数字での分析を書くことが何よりも大事!

稟議書記入例:数字で分析することにより説得力が増す稟議書書き方例

2-4:予算範囲内であることを強調する

最近、基本的にコンプライアンスや企業統制の観点から、社内の経費予算や営業予算との整合性を確認されるケースが多くなっています。あとで社内監査等で、重点的にチェックされちゃうからですね。

よって、提出した稟議書が予算内に収まっているなら、「予算範囲内」である旨をアピールしましょう。予算がない場合は、無理矢理でもいいので「雑費」とか、他の項目から予算根拠を引っ張ってくるといいと思います。

稟議書記入例:稟議書において予算範囲内である旨をアピールする記述例

2-5:提出する前に、誤字脱字や文字切れをもう一度確認!

稟議書が出来上がったら、提出する前に「印刷して」読み返し、「てにおは」の間違いや、誤字脱字、また印刷切れ全部つぶしておきましょう。また、Excelフォーマットなどでは、画面上では入力できていても、印刷したら切れて見えなくなるケースも多々有りますからね。

日本企業のイケてないところですが、Webでワークフローを回しているのに上層部はなぜか紙媒体で決裁したりします。その際に、「印刷が切れているから却下!」となったり、あるいは、誤字脱字があるからって、平気で「やる気が足りない!却下!」と承認してくれないタイプの上司がいます。

一瞬殺意が芽生えますが、だからといって「それぐらいいいじゃないですか!」といっても通用しない場合が残念ながらほとんどですよね。

提出前の見直し、すごく大事です。

3.稟議を通すためのフォローアップや裏ワザ

とはいえ、稟議書の基本事項を丁寧に詰めたところで、なぜかそれでも稟議書というものは理不尽な理由で却下されて戻って来ることが多いのです。それがザ・日本企業というもの!たまたま役員の機嫌が悪くて・・・とか、役員のデスクの上に3週間寝ていて・・・とかザラにあります。

そこで、上記の基本技に加え、稟議書を提出する前後にもうひと手間を加えることで、稟議書の承認プロセスをスムーズに回すことができます。ある意味、稟議書は書いて提出したら終わり!というのではなくて、書いた後、あるいは書く前が本当の勝負なのですよね。

以下、フォローアップのために効果のある応用技・裏ワザを紹介しますね。

3-1:提出後、決済権者全員に社内電話で念押しと進捗確認

例えば、稟議書の印鑑決済欄に、「部長」「事業部長」「総務部」「役員」と4つ印鑑があったとします。急ぎの場合は、印鑑を押印するこの4名全員に、電話か口頭で早期決裁の重要性を下手に、丁寧に伝えましょう。

すごくダサいことを書いていることはわかります。でも、これは本当に効果があります。なぜなら、電話を受けてお願いをされた側は、悪い気がしないからです。「おぉ、まぁ仕方ないな。そこまで言うなら検討してやろう」的な感じで、自己重要感が増して前向きに考えてくれるようになるからです。

「だったら稟議の必要なんかないじゃん!」と思うかもしれませんが、それがザ・日本企業の現実です。使える技は割り切って使う、ということでやってみましょう。

3-2:最終決済権者にメールや口頭で事前承認をもらう

部下「社長、今日の会議での決定事項ですが」
社長「おぉ、稟議上げといてくれ。承認するから」
部下「では、稟議書に”社長事前承認済”って書いていいですか」
社長「いいよ」

理想はこんな感じ。こうなるともう稟議書の意味ってなんなの?って思うかもしれませんが、それはそれ。割り切って、最終決裁権じゃに口頭承認をもらっておき、それを稟議書に「◯◯社長事前承認済み」などとガッツリ書いてしまうのです。

稟議書記入例:事前承認済みと目立つように記載する究極の根回し

すると、間に入った部長やら総務の人たちも、面白くはないのであれこれいいますが、社内の力関係から決裁を進めざるを得なくなるので、結果としてスムーズに稟議が下りる、という算段です。

もちろんできる範囲で構いません。僕の現役時代は中小企業だったので社長と直接話ができましたが、大企業なら事業部長クラスまでが一杯一杯かもしれません。できる範囲で、アタマを押さえて、稟議書に事前承認を頂いている旨を記載するのは効果があります。また、「社長にOKもらってるので、通しておいてもらえませんか」とスタンプラリー中間の人たちにも電話やメールでフォローアップするのも効果がありますよ。

3-3:あいみつは効率よく!

稟議書を通す際に、社内規定で、「物品を購入する際は、必ず2つ以上の業者に相見積もりや値下げ交渉をすること」となっている会社も多いかもしれません。

こういった交渉プロセスも、じわじわと時間を食うばかり。ダルくてやってられないことも多いですよね。あるいは、値下げ交渉相手を真面目に絞りすぎても、結局相手は値段相応のサービスしか返してくれず、安かろう悪かろうになってしまうことも多いです。

そういう時は、予め購入先の業者さんに「御社に決めますから、見積書は、日付を変えて2枚出してください」と、値引き交渉をした体を演出してもらうように依頼しておくと良いです。「あぁ、そういうことなら協力しますよ」と、喜んで2枚出してくれることがほとんどです。

3-4:添付資料は大盛り、山盛りで!

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稟議書を提出する際、記載事項の根拠となるような参考資料や、見積書など、添付資料を提出する事が多いと思います。

これは、決裁担当の役員の性格にもよりますが、参考資料は多めにドサドサつけたほうが「一生懸命やってる感」がアップして、スムーズに通る確率が上がることが多いと思います。

また、本命となる根拠資料の記述内容が弱い場合は、目くらましにもなるんですよね。資料が多いと、見る側も必ず一つ一つの資料に対するチェックが甘くなります。結果として、根拠に穴があっても決裁者が気づかず通してくれる、ということもよくあります。また、甘い決裁権者なら「ちゃんとやってるんだろ?大丈夫だよな?」とか言われて、中身も見ずにめくら判を押してくれる確率も高まります。

したがって、これは本当に必要悪であるのですが、少しでも根拠資料としてつけられる資料があれば、たっぷりつけた方が良い場合があるのです。

まとめ

ここまで書いてきて、ほんと稟議書って不毛だよなって思いますが、だけど大半の読者の皆様は、会社の経費予算を自由に使える立場ではないはず。稟議書みたいな社内処理は早々に最小限の工数で切り上げて、実質的な仕事に打ち込めたほうが絶対いいと思うんです。

そのためには、多少の裏ワザなども使って、稟議書作成作業は効率化しておくべきです。やりたいことがあるのに、社内の事務処理で足をすくわれて、、、っていうのが一番ストレスもたまるし、よくないのです。

一番は「稟議書」そのものが効率化・簡略化されて、企業体質の改革やプロセスの効率化がなされるなど本質的な改善が必要なわけですが、しばらくは日本企業ではそれは望めないでしょうから、ちょっと現場で使える小技や裏ワザについて書いてみました。

少しでもお役に立てれば幸いです。
それではまた。
かるび

「驚きの明治工芸」展は、超絶技巧とかわいさが同居する楽しい展覧会でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

この秋は9月、10月から現代アートの各地の芸術祭、日本美術、西洋画の巨匠など様々な展覧会が目白押しですね。その中で、9月7日から明治期の「工芸」をテーマとした「驚きの明治工芸」展がひっそりと(?)スタートしました。

好きな人は好きなんですが、実際のところ「工芸」って言われたら、なんとなく美術より一段下のようなイメージもありますよね。(こけしとか寄木細工とか、おみやげの木工品みたいな感じ?)だから、わざわざ企画展を開催しても、なかなか人が集まりづらいのだそうです。

個人的には、この秋はやきものや写真を重点的に見て回りたいなと思っていたので、ちょうど良いタイミングでした。そして、これが非常に印象深く、展覧会名の通り「驚き」に満ちた印象深い企画展でした。今日は、少し感想を書いておきたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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展示点数は全部で133点。一つ一つが小さいので、展示スペースもコンパクトにまとまっていました。マイナーな工芸分野で、かつ東京藝術大学という場所柄もあるのか、全く混雑していません。ゆっくりと見て回れると思います。

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館内の様子はこんな感じです。ショーケースに入ったものは360度ぐるっと裏まで回り込んで見れるように展示されています。所要時間は約60分~90分程度でしょう。

2.驚きの明治工芸展の特徴について

近年、明治時代前~中期に花開いた、写実的な日本の細密工芸品を見なおそうという機運が高まっています。「超絶技巧」というキーワードで中規模クラスの展覧会もしばしば開かれるようになってきました。つい先日まで、全国を巡回した「宮川香山展」などががこれにあたりますね。

今回の展示も、その流れを受けての企画開催となりました。今回展示は、2点の特別展示品を除いて、すべての展示が台湾の実業家、宋培安氏のコレクションからの出展となります。約3500点の中から厳選した130点が日本に持ち込まれました。2011年にも、台湾にて彼のコレクション展が開催され、現地で評判だったようですね。

展示のメインテーマは、工芸品の「写実性」「精密性」です。明治工芸の技術の高さを堪能できます。そして、もう一つの隠れたテーマとして「かわいさ」もチェックポイントになります。

チラシを見てもわかりますが、ヘビやカエル、小鳥やたぬきなど、写実的でありつつも、思い切って「かわいく」デフォルメされた作品も多数あります。また、一点一点が絵画や大皿などに比べると「細密」な分、手のひらサイズで小さいことも「かわいさ」を連想させられるポイントかもしれません。

なにがなんでも超絶技巧推し!!という感じでもなく、幅広い工芸品の中から素朴な美しさや深みを感じ取ることができるのも今回の展示会の特徴だと思います。

展示品目録は、こちらから事前にダウンロードできますよ。

★目録ダウンロード
http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/data/catalog_jp.pdf

3.展示会は基本的に写真撮影OK

展示会会場は、著作権の関係で3点の作品のみ撮影が制限されていますが、その他残りの130点あまりは、全展示撮影OKとなっています。

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むしろ、主催者サイドとしては、バンバン写真を撮って口コミで広めて欲しいような感じでした。会場ではWifiも完備されており、その場でみんなが撮影した写真を、TwitterやInstagramでハッシュタグ#驚きの明治工芸にてシェアする企画が開催されています。

展覧会に行く前に、公式Twitterと合わせて会場でどんな作品があるのかじっくり予習できますので、是非見ておくといいと思います!

4.明治工芸の特徴や盛衰の歴史について

抽象的で、見た目の「美しさ」より、アーティストと鑑賞者の間でコンセプトを読み合う知的ゲームみたいになっている現代アートとは違い、明治工芸は圧倒的にわかりやすいです。見たまんま、「すごい!びっくり!かわいい!きれい!」という素直な鑑賞ができるので、アート初心者に易しいかもしれません。

それにしても、明治期の工芸品だけが、なぜこんなに驚くほど「細密」で「写実的」なのでしょうか?

日本の歴史の中で、江戸時代の徳川治世260年間は、戦争もなく非常に平和な時代でした。長い歴史の中では、むしろ特殊な時代だったといえます。こうした平和な時代には、文化がどんどん発展します。長らく続いた鎖国により、日本独自の江戸文化が形成され爛熟していく中、七宝、金工、木工、陶磁器、刺繍、漆工などの手工芸を中心とするものづくりも非常に発達していきました。

やがて、明治維新が起こり、新政府による殖産興業・富国強兵策が始まった時、最初に外貨獲得のための輸出品の目玉として目をつけられたのが、日本の伝統工芸品でした。廃刀令や士農工商等、旧身分制度が廃止されたことにより、大名や士族向け伝統工芸品の需要が一気に減退した事情も後押しします。

有力工芸家は商社と組んで組織的に輸出振興に取り組みました。さらに、定期的な万国博覧会への出展入賞を旗印に運営された官営の指導組織も有効に機能し、国のバックアップも上手くハマりました。

こうした努力が重なったことにより、明治期前半には、江戸時代よりさらにレベルアップした奇跡のような超絶技巧工芸品が沢山生み出されることになったのです。

しかし、明治33年(1900年)のパリ万博で、ヨーロッパの美術工芸品を席巻した美術様式「アール・ヌーボー」が流行すると、日本でもその影響を大きく受けることになります。それをきっかけとして、明治期の技巧性、写実性を極める細密工芸路線は下火となり、工芸品の様式は拡散・多様化していきました。

現代でも、その明治期の細密工芸を再評価して復興する動きはあるものの、まだまだ各工芸家の注目度や地位も高くなく、特に国内で、明治期のような盛り上がりを取り戻すには厳しい状況が続いているようです。(※海外では浮世絵より人気がある)

5.特に気になった展示品ベスト10

小さい作品が多いので、とにかく現場で直接見るのが一番です。気に入るポイントも人それそれだと思うのですが、特に僕の気に入った作品ベスト10を挙げておきますね。いろんなのがあったよ、という雰囲気だけでも伝われば幸いです!

5-1.佐藤一秀「芙蓉菊図花瓶」 

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銀製の花瓶に装飾が象嵌された品の良い一品。年季が経っていぶし銀的な味わいが出ているのも良かったです。

5-2.虎爪「蒔絵螺旋芝山花瓶」

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豪華な花瓶。このやり過ぎ感の装飾、たまりません。

5-3.涛川惣助「月に梅図盆」

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いわゆる明治七宝界の二人のナミカワの一人、涛川惣助のお盆です。七宝以外にも作品を残しているんですね。梅に満月の構図は江戸絵画からの安定の定番、非常によい味わいでした。

5-4.宗義「自在龍」

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入り口でお出迎えしてくれる3メートル超の特大サイズの自在置物です。(※自在置物とは、銅や鉄など金属製の部品で組み立てられ、手足や関節まで本物ソックリに動かせる置物の総称)天上から吊るす変わった展示でしたが、コレクターの自宅でも同じように置いているらしいです。東京国立博物館の常設展示でもよく見かけますが、この特大サイズは珍しいです。すごい迫力。

ちなみに、自在置物を実際に動かして撮影された今回展示会のプロモーション動画がありますので、参考に貼り付けておきますね。こちらは「自在蛇」です。

5-5.宮川香山「色絵金彩鴛鴦置物」

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たびたび江戸絵画でもセットで描かれることが多いおしどりの白磁の置物。超絶技巧といえばすっかりその第一人者として宮川香山の名前が連想されるようになりましたが、壺や鉢、花瓶以外の純粋な置物は初めて見ました。

5-6.宮川香山「留蝉蓮葉水盤」

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宮川香山をもう一つ。蓮の葉で休むアブラゼミを描いた器(青磁)。本物ソックリの超絶技巧炸裂です・・・

5-7.大島如雲「狸置物」

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銅製のたぬきの置物。東京国立博物館の常設でもよくこの人の作品は見かけますが、写実的でいて、よくよく見ると思い切ってディテールはデフォルメされている「かわいい」作品

5-8.好山「鳳凰」

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銀製の鳳凰の置物。時間が経過して黒く変色しています。右隣に「下絵図」も併せて展示してあり、製作の過程も知ることができました。

5-9.「天鵞絨(ビロード)友禅」

これは当日上手く撮影できなかったので、#驚き明治でアップされている記事から引用させていただきます。ツイートにある通り、これは絵画じゃなくて「京友禅」なんですよね。立ち位置によって見え方が変わるのも優雅でよかった。これ作るのにどれ位かかるんだろうなぁと考えてしまいました。

5-10.林小伝治「楓林キジバト文花瓶」 

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尾張七宝の名手、林小伝治の制作した繊細なデザイン。写真がいけてないですが、実物はピカピカに黒光りして、150年経過した古美術品とは思えない輝きと繊細さでした。

6.グッズ類について

グッズは、2Fの売店コーナーにありました。絵葉書、図録、メモ用紙等の定番や、珍しいところだとペーパーウェイトが良さそうでした。図録は2200円です。

★クリアファイルf:id:hisatsugu79:20160908132340j:plain

★ペーパーウェイトf:id:hisatsugu79:20160908132458j:plain

★公式図録f:id:hisatsugu79:20160908132508j:plain

Amazon等でも公式図録を販売しています。いつでも買えるから便利ですね。

7.まとめ

日本の工芸は、長らく「美術」(=ファイン・アート)の範囲からハズれており、絵画や彫刻に比べると一段下の扱いを受けてきました。逆に、海外で人気のある日本の伝統芸術品は価格が高値安定した浮世絵と、各種工芸品である、といいます。

明治期の栄光はいまだに失われたままです。レジェンド達が制作した工芸品は、今回展示のように海外のコレクターに拾われて、伊藤若冲のように日本で再評価される日を待っています。

今回「驚きの明治工芸」展では、そんな明治の超一流工芸家達の作品が少しずつあらゆる分野で網羅されています。一度じっくり見ると、展覧会のタイトルの通り、純粋に「驚かされる」名作ばかりでした。

僕も日本の伝統芸術の奥深さに改めて気付かされました。写真撮影OKのカジュアルで落ち着いた展覧会です。この機会に是非。

それではまた。
かるび

「驚きの明治工芸展」展覧会開催情報

今回は、東京藝術大学からスタートし、その後京都、川越と巡回していく予定です。

会期:
【東京】2016年9月7日(水)~10月30日(日)
【京都】2016年11月12日(土)~12月25日(日)
【埼玉】2017年4月22日(土)~6月11日(日)
会場:
・東京:東京藝術大学大学美術館(上野)
・京都:細見美術館
・埼玉:川越位市立美術館
公式HP:http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/
Twitter:https://twitter.com/odorokimeiji

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

超絶技巧な明治工芸を再評価し、その凄さを広めようと尽力する山下先生の監修した本です。世界を魅了した日本の工芸10分野(七宝、自在置物、漆芸、印籠、染織、金工、陶磁器、細密彫刻、根付、竹江・木工)と、明治工芸の匠たちとして、「二人のナミカワ」を筆頭に約20名の巨匠たちを紹介したフルカラーのムック本。見ていて単純に楽しくなる良書でした。

図書館などではジュニアコーナーに置かれることも多い、小中学生でも読める伝統工芸についての超入門書。各工芸品の名称や形から、バッチリ入門できます。今回の展覧会でもグッズコーナーに置かれていますした。事前に読み込んでおくと軽い予習にピッタリ。

各分野での伝統工芸の鑑賞の方法について、詳しく説明した決定版的なマニュアルです。鑑賞の仕方は人それぞれだと思いますが、良品を見分ける「眼」は持っておきたいものです。この本を展覧会の前後に読むと一気に学びが加速することは保証できます。こちらも、グッズコーナーに置いてありました。

41歳、あてもなく無職になって3ヶ月経過した、その率直な感想。

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かるび(@karub_imalive)です。

このブログでは何回か会社を辞める直前や、退職直後に断続的に「40歳を超えて無職になった」心境や経過を報告しています。

前回のエントリはこちら。多くの方に読んでいただいたみたいで非常に恐縮です・・・ 

上記の記事の通り、わりと気まぐれに「退職します」と宣言し、約45日の有給取得を経て2016年6月15日に前職を退職しました。そして、早くもそれから3ヶ月が経過しました。

退職する、と言っても、働かない期間は1年くらいにしようかなと思っています。1年限定のセミリタイア/サバティカル生活。このブログでは、退職後の自分の心境や周囲の環境の変化なども、個人情報が特定されない範囲で素直に書き残しておきたいと考えています。少々露悪趣味ですが、人柱になろうかなと。

というのも、一応退職する前に、「あてもなく40代で会社を辞めた人ってそのあとどうしているのかな」と思ってネットで検索しても、あまり例がなかったためです。

実際、過去に僕がアップした「退職」「無職生活」関連のエントリは、思っていたより検索で見に来る人が多いんですよね。「40歳 無職」「会社 やめたい 40歳」とか、、、。そうだよね、休みたいよね・・・。

それでは、やや長文になります。以下、お時間のある方はお付き合い下さいね。

1.40歳にして無職生活がしたかった理由

これは前回エントリにも書きましたが、初めて読んで頂く方のために、再掲しておきますね。こんな感じです。

  • 40歳くらいで、1年間程度の長期サバティカル休暇を取りたかった。
  • 会社での起用法や立ち位置、自分のやりたいことがよくわからなくなったので、一度リセットしてみたくなった。
  • 会社生活に疲れ、愛社精神がなくなった。
  • 40歳でアテもなく無職になるというのは珍しいので、やってみたいと思った

前職は東京の中堅の2次請、3次請中心の中堅Sierで人事労務や営業をやっていました。強く有能なオーナー社長の独裁政権下、昇進すればするほど会社に縛られ、心身の自由が利かなくなってくるというパラドックスを経験、年収も2008年~2014年までほぼ据え置かれ、先も見えてしまったので心を病む前に退職となりました。(そのあたりの詳細は前のエントリに書きました)

2.退職3ヶ月後の生活状況

特に大きな計画もなく、「休みを取る」「将来をゆっくり考える」ことを目的に1年間限定のセミリタイア生活に入ったのですが、大卒後、切れ目なく社会人を17年もやっていると、すでに「日中に仕事のない状態」がどんなものなのかすっかり忘れており、妙に新鮮な気分です。大学生の時はそれが日常だったんですけどね。

2-1.前職の交友を最小限に切りました

前職では会社指示にて強制的にFacebookで社員全員と「友達」にさせられました。退職してからは、迷いましたが、前職の人は全員友人解除させてもらいました。ついでにLINEも。嫌いだからではなく、新しい出会いのための心のスペースを意識的に開けたかったからです。

本当にコンタクトが必要なときは向こうから連絡が来ると思いますし、これで切れてしまうなら所詮「会社」にいる時だけのご縁だったということです。

その代わり、ブログを中心に色々と新しく交友範囲が増えて、趣味の「美術」クラスタの方々や、はてな系の同期ブロガーの方々とオフでお会いしたり、狙い通り交友範囲がリセットされつつあります。

「断捨離」っていうと言葉がキツいですが、新しいことを始める前はある程度思い切って古いものを処分しなきゃいけないのは、物理的なものだけじゃないんだなと実感中です。

2-2.生活習慣が夜型に変わり、少し太りました

朝晩は、家族のお世話や家事分担などもあるので、規則正しく保たれています。しかし、やっぱり運動量は落ちました。週に3~4回は図書館や美術館、落語会へ出かけるのですが、残りは家で読書やiPadで映画を見ていて、家から出ない日々が増えました。家の外に出てもコンビニ行って帰ってくるだけ、、、みたいな。

すると、ものの見事に退職後1ヶ月で3キロ増達成(T_T)

これはいかんな!と思い直し、今は万歩計を購入して、1日1万歩を目標に(あくまで目標)毎日Evernoteにログをつけています。(そのうち別途エントリを上げる予定)

2-3.家計分担について

無職となりましたが、だからといって家族全体の生活レベルは急には落とせません。自分の出費は抑えていますが、退職金や貯蓄から取り崩せば、一応2年分位は蓄えがある計算です。

退職に踏み切れた一つの裏付けとして、妻の年収が僕の2倍以上に拡大したから、というのもあります。つまり、セーフティネットは貯金と妻の収入の2本立てということです。最悪2年経過して僕の貯蓄がゼロで、再就職できなくなっていたとしても、情けない話、妻の稼ぎで家計は回る感じ。

2-4.家事分担について

妻がフルタイム勤務なので、自然と僕の立場は「準専業主夫」状態になりました。退職前の家事分担比率3:7くらいから、退職後は6:4~7:3くらいに増えました。通常の家事ルーティーン(食事・洗濯・掃除等)は全部引き受け、妻の得意な子供の教育と小学校のPTA活動は妻に任せる分担になっています。

2-5.税金/保険負担が結構重い

収入がなくなったからと言っても、税金や公的年金は払い続けないといけないのです。しかも、これまでサラリーマン時代に会社が半分持ってくれていた健康保険、厚生年金を全額支払わなきゃいけないし、住民税も昨年度収入をベースに計算されるのです。

健康保険、厚生年金、住民税だけで、なんと1ヶ月合計の支払額が8万5千円もあるんですけど!生きていくだけでこんなにコストがかかるのか!と唖然としてしまいました。健康保険料なんて5万5千円ですよ!!そんなに病気しないって!!

・・・いや、わかってるんですよ。こうなることは承知で退職したのですから、単なるグチです。だけど、退職後は食費等を切り詰めても、生きているだけで自然にお金は出て行くんだというところはこれから無職になる人は覚えておいて頂ければと。

2-6.会社を辞めても1日はあっという間に過ぎていく

退職前に色々とやりたいことをToDoList化しておいたおかげで、「やることがなくて暇だ」という状況からは程遠く、毎日時間が足りないくらいやりたいことが山程あります。

退職前にやりたかった最優先事項として、読書を週2~3冊程度、美術館・博物館回りを月10件程度、落語会を週1程度でこなしています。これに小旅行、トレッキング、日帰り温泉めぐり、ダイエット、マンガやゲームなど色々やることがあって、退職してからもそのToDoListが溜まっていく一方です。それに加えてブログ書くのも楽しいですし、毎日怠惰な生活にはならずに済みました。

2-7.ハローワークに行っています。ブログ収入を突かれました

一応、職探しも並行してやっているので、失業者らしく普通にハローワークに失業給付の申請をしに行きました。説明会で、失業給付受給にあたり収入を報告しなければならないらしく、判断に迷ったので、「ブログ収入」はどうなのか、あとで個別に質問すると、「内職にあたります」と。「内職」ね・・・。うーん(笑)

しかし、係員も慣れていないらしく、説明会終了後、申請窓口に行って、微々たるブログ収入(アドセンス等)を一応正直に報告したところ、前例が無いらしく窓口で15分待たされ、アドセンス等の仕組みについて説明を求められました。

まさかハローワークでブログでのマネタイズの仕組みについてレクチャーさせられるとはね!(笑)結局、これを受けて、10月以降、エビデンスとして毎日の収入状況をExcelにつけてまとめて提出するように言われました。やはり、「内職」に当たるので、失業給付受給にあたり給付調整(減額)されるらしいです。

インチキしてまで給付をもらおうとは思わないですが、別にブログは労働じゃないんだけどなと(笑)なんとなく納得感が薄いわけです。申告したって給付が減らされるだけですからねぇ。面白い経験でした。

3.セミリタイア生活で気づいたことや考えたこと

3-1.少しずつ仕事の感覚は低下していっている

退職してからも、前職の知見等を活かして人事タックル様に寄稿させて頂くなど、仕事的なものも少しはこなしています。ですが、基本的には、誰かの指揮命令系統下で組織的な業務活動に携わっていないので、多分営業やお客さんとの交渉スキルなんかは低下してる自覚はあります。

来るべき復帰の時に備えて、このあたりの感覚を研ぎ澄ませておく必要があるよな~と思っています。

3-2.貯金は2年分あるけど再就職は少し心配

今は妻の収入で生きる「ヒモ」状態なわけですが、17年間のサラリーマン生活でちょっとずつためた貯金があって、一応2年分くらいは、家賃を入れつつ自分の生活レベルを下げずに生きられるだけの蓄えがあります。

それがなくなる直前に働きに出たいわけですが、果たして「40代無職でセミリタイア明けのオッサンを雇ってくれる会社があるのか」正直なところ不安です。(でも夜も眠れないほど、というわけでもない)

転職フェアでは、40代の転職事例が急増してはいますが、あくまでそれは就業中の人がステップアップするケース。ブランクがあるオッサンは多分厳しいです。未経験からのゼロからの転職ができないのが、40代以降の苦しいところです。

3-3.退職したと義理の母に言えないでいる

実の両親には伝えたのですが、少し考えが古めである義理の母(別居)に、どうしても言い出せずにいます。会うたびに「かるびくんもお仕事頑張ってるのねぇ」なんて言われると少しつらいわけですが、カミングアウトすると物凄い騒ぎになると思うので黙っているしかないかなぁと思います。

また、最近小学校1年生の子供から「パパは最近ずっと家にいるじゃん」と突っ込まれていますが、「パパはねぇ、ブログを書くお仕事をしてるんだよ(爆)おばぁちゃんには内緒にするんだよ」みたいな感じで答えています。まぁ、子どもと遊ぶ時間は増えたのでそれは良かったのかなと思います。夏休みのラジオ体操の付き添いも皆勤しましたし!

このあたりはずっと黙っているわけにも行かないので、おいおい整理していかないとなぁとは思っています。

3-4.「無職」をカミングアウトしても良い人、悪い人

「会社辞めたんですよ~。え?次?そんなもの決まってるわけないじゃないですか。疲れたから1年間休むんです、ええ」みたいな話をすると、まず地元のPTA関係や保育園のママ友、パパ友には高確率で引かれました。うわっ、このあたりの地元クラスタには話をしてはいけないんだ、と学習しました。

反対に、大学の同窓会や、ブロガーのオフ会などで「会社辞めました、無職です!」みたいなことを言っても、「面白いじゃんそれ!」とか「ふーん」みたいな感じで、面白がられるか特に何も言われません。

物理的に利害関係がない人たちや、個性的な人たち、元々雇われない状況で生きてきている人たちからは、特に突っ込まれない感じですね。そっとしておいていただけるほうが嬉しいです(笑)

まとめ

退職したらもっとダラけて不毛な生活になっちゃうかなと自分自身危惧していましたが、現状のところはそれほど生活リズムやパターンは変わっていません。仕事一辺倒だったのが趣味一辺倒+ブログに変わっただけでした。想定していたより忙しいですが、会社でのストレスフルな生活からは解放されましたので、無職生活もまずまず楽しむことができています。

ただし、やっぱり税金等の支払いは多いし、将来これからどうなるんだろう?という不安は常につきまといます。会社辞めてサバティカル休暇を自主的に取って、ブログだけ書いてますって言う人ってそうそういないですからね。(いや、まぁ普通の人は会社辞めても、もりもりブログ書かないんだろうけど/笑)

自分で決めたことですが、周りに「お手本」となるような先輩がおらず、自分の人生は自分で切り開いていかないといけないんだな、という実感をひしひしと感じています。

僕の場合は、たまたま17年間働いた貯蓄があり、妻が高給取りになったというラッキーが重なり、金銭的なリスクをかなり取り除いたうえで、石橋を叩いての無職生活が実現できました。正直なところ非常にラッキーでした。

「無職生活いいですよ。まだサラリーマンで消耗してるの?」なんて人に勧めるつもりはさらさらありませんが、せめてリスクを取って辞めた分、もとは取りたいなぁと考える今日このごろです。

それではまた。
かるび

美術展のトークイベントの活用法について。「ポンピドゥー・ナイト」に参加して思ったこと

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かるび(@karub_imalive)です。

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9月に入ってから、美術館・博物館の展覧会が目白押しです。まさに芸術の秋。

僕のGoogle Calendarにも、ものすごい数の展覧会がリストアップされていて、退職して時間ができた今年は、思いっきり味わい尽くしてやろうと思っているところです。

美術展のトークイベントってどうですか?

ところで、皆さんは美術展でよく実施されている「トークイベント」って参加しますか?僕は、これまでそれほど熱心に参加してきませんでした。まぁ時間があれば・・・みたいな感じ。

今回、トークイベントに久々に参加して思ったのは、いい美術展のトークイベントはアートへの理解を深める大きな手助けになるっていうことです。

現代アートを理解するとっかかりとして、イベントに参加してみた

僕は、現代アートが少し苦手です。苦手意識はないのですが、見に行った時に、高確率で「わからない」という気持ちが先に立ってしまい、どうしても消化不良で展覧会場を出てきてしまうことが多いのですよね。

意味不明なインスタレーションは解説を見てもやっぱりわからないし、音声ガイドも説明が弱く、抽象的な解説に終止して頼りにならないことが多い印象です。

もちろん、どんなアートにしたって、最終的には現場で沢山の作品、つまり、「数」を見ないとダメなんだろうなとは自覚しています。美術展は、現代美術だろうがオールドマスターの作品だろうが、まずは現地に行ってこの目でじっくり現物を見るのが一番。それはわかっているんです。

それでも、やっぱりできるだけ効率的に審美眼を身につけてはいきたいのです。現代アート、どのように攻略したものか・・・と考えていたところ。

ちょうどタイムリーなことに青い日記帳Takさんから、「現代アートが苦手なんだったら、『ポンピドゥー・ナイト』というイベントがあるよ」と教えてもらいました。アートやサブカル界隈の人たちの間では有名な、荻窪のイベントスペース「6次元」での開催だそうです。

イベントスペース「6次元」玄関f:id:hisatsugu79:20160912012702j:plain
(カベに「6」という表札がかかっているのがわかる)

イベント内容をTakさんに詳しく聞いてみると、ちょうど現在、9月22日まで開催されている東京都美術館での近現代アートが勢揃いした「ポンピドゥー・センター傑作展」をより深く理解するためのトークイベントで、同展示会のキュレーターを担当した東京都美術館の学芸員、水田有子さんが分かり易く解説してくれるとのこと。

これは面白そうだ、「ならば行ってきます」ということで、早速、当日行ってきました。

イベントの様子f:id:hisatsugu79:20160912012639j:plain

イベント自体は、夜19時30分~21時までの90分程度の短時間での開催でした。写真の通り、講師の水田さんが、スライドに映しながら作品を順番に解説してくださる講義形式での進行です。写真や絵の画像を使ったわかりやすい解説と、会場の「学ぼう」とする熱気もあって、非常に良い企画でした。

トークイベントは理解が進みやすい

やはり、美術展の場合は、その道のプロから分かり易く作品を見ながらその場で解説してもらうのが一番頭に印象が残り、理解が進みやすいですね。

資格試験や受験勉強の場合は、先生の講義よりは、自分のペースで学習方法を固めて、どんどん問題を解いていったほうが実力はつくのでしょうが、美術展の場合は、その場で作品を見てナンボというところがあるので、家で予習復習をしているよりは、現場に出たほうが良いと感じます。

この点で、確かに音声ガイドは優れたツールではありますが、ライブ解説にはやっぱり及ばないかと思います。一方的な情報提供になるので、質問等がその場でできず、双方向でのコミュニケーションができません。また、全作品を網羅できるわけではないので情報量が限られる点も、音声ガイドの限界かと思います。

もちろん、受講者側も、トークイベント企画への対価として、展覧会1回分くらいの受講料は払わないといけないことが多いですが、得られる理解度が大きいので、そういった出費も余裕でモトを取れることが多いです。

今回のイベント参加のログをTwitterで流してみた

実際に「ポンピドゥー・ナイト」の当日に語られたことは、非常に役に立つことが多かったです。ブログでまとめようとも思いましたが、ブログで書くとなると、僕の場合はまとまった時間がどうしても必要です。

その間に、書きたかった内容を忘れてしまい、結局書かずじまいになっちゃうことが今まですごく多かったので、今回は、先行してTwitterでまとめて流しちゃってから、その後改めてブログにアップする作戦で臨みました。

ということで、以下、Twitterで流したイベント報告のログとなります。

まとめ

どんな美術展でも、会期中に最低1回以上はトークイベントや記念パネルディスカッションみたいなイベントが開催されるのが通常です。

確かにその時間帯に美術館にわざわざ行って、イベントをこなすのは少々面倒ではあります。でも、専門家の話を直接聞けるのは何よりも勉強になるし、鑑賞の際の正確な背景知識が効率的に手に入るのは、非常に大きいと感じました。

この秋は、積極的にトークイベントに出てみようかなと思っています。
みなさまも是非。

それではまた。
かるび

おまけ:トークイベントはとにかく早めに

ちなみに、トークイベントをより楽しむコツを一つだけ書いておくと、時間ギリギリに行かないことです。トークイベントに出席する人は、基本的に非常に熱心な人ばかり。開始時間の直前に行っても、一番後ろの席しか開いていないことが多いですから。できれば、集合時刻の30分前には会場についておきたいところです。


鈴木其一展は、巨匠の意外な一面も見えるリピート必至の良い回顧展でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月10日からスタートした「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展。
個人的には、2016年度下半期の最注目展覧会として楽しみにしていたので、気合を入れて初日から行ってきました。

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サントリー美術館HP等での事前情報が少なくどうかな~と思っていましたが、目玉の「朝顔図屏風」を筆頭に、多彩な鈴木其一の作品が網羅されており、力の入った回顧展で非常に良かったです。今日は、早速「鈴木其一展」の感想を書いてみたいと思います!

1.混雑状況と所要時間目安

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初日の土曜日11時頃に入館。土日でしたが、写真の通り特に混雑はしていませんでした。作品数は多めなので、大物の屏風なんかはゆっくり見るのであれば、90分は最低確保した方が良いと思います。

【2016年9月12日追記】
10月2日のNHK「日曜美術館」で特集されるらしいとのことで、これ以降は混雑するのではないかというコメントを頂きました。行くなら、まずは9月中が良さそうな感じですね。

鈴木其一展は、巨匠の意外な一面も見えるリピート必至の良い回顧展でした! - あいむあらいぶ

スマホアプリ良いなあ。他のところでもやってほしい/いい時期に行きましたね。日曜美術館では10月2日に鈴木其一を取り上げますので、それ以降は混雑するでしょう

2016/09/12 09:11

2.音声ガイドはダウンロードがオススメ

サントリー美術館の音声ガイドは、スマホアプリにダウンロードしてイヤホンをつける形式か、従来型の音声ガイドのどちらかを選べます。

今までは、なんとなく面倒だなと思って従来型の音声ガイドを借りていたのですが、今回思い切ってスマホ型にしました。ヤマハの「マイガイド」というアプリを落として、館内でもらえるQRコードを読ませると、ガイド音声がスマホアプリ内に配備されます。

MyGuide
MyGuide
無料
posted with アプリーチ

画面はこんな感じ。

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ダウンロード版音声ガイドの利点は、一旦ダウンロードしたら、家に帰った後でも何度も聞き返せるところ。僕も、帰宅してから図録を見ながらもう一度復習しました。

巡回する姫路県立美術館、細見美術館で使えるかどうかはわかりませんが、この仕組みは便利。これからサントリー美術館の展覧会はスマホ型を毎回使おうと思います。他美術展でも、もっと広まって欲しいなぁ。

3.鈴木其一と今回の展覧会のコンセプト

今回展示会の主役、鈴木其一(すずき「きいつ」)は、江戸時代末期~幕末に活躍した絵師で、「江戸琳派」の創始者酒井抱一(さかいほういつ)同様、同派絵師の代表格とされています。

江戸時代の絵画の流派やスタイルは、幕府の御用絵師系の「狩野派」を初め、京都の知識人で流行した「文人画家」、写実性に優れた円山応挙が起こした「円山派」伊藤若冲曾我蕭白など個性派ぞろいの「奇想派」などバラエティに飛んでいます。鈴木其一は、その中でも、俵屋宗達、尾形光琳の流れをくむ「琳派」に属します。

俵屋宗達の影響を受け、京都にて尾形光琳と、その弟尾形乾山が創始した「琳派」は、一旦江戸中期までに廃れましたが、18世紀に入り、徳川家の名門、酒井家の出身である酒井抱一により「江戸琳派」として再興されました。その、酒井抱一の一番弟子が、鈴木其一です。

下町の染物屋の町人として生まれた鈴木其一は、酒井抱一に弟子入りし、身の回りの世話から画塾の切り盛り、工房での制作まで、あらゆる面で抱一の一番弟子として15年以上献身的に仕えました。師匠存命中は、弟子として師匠の作風を忠実に受け継ぎ、制作面では師匠の下絵や代筆を完璧にこなしたといいます。(師匠が武家出身、其一が町人出身だったから、身分的にも全く逆らえなかったという説もあり)

やがて、酒井抱一没後、抱一の工房(画塾)「雨華庵」を抱一の養子である酒井鶯浦(さかいおうほ)が継ぐと、其一は一旦リフレッシュのため江戸を離れ、数年の長旅に出掛けます。

再び江戸に戻ると、其一は独立します。琳派の伝統画法をベースに、大名家や豪商のオーダーを受けて、売れっ子絵師として様々な種類の絵画や工芸品へと手広く制作物を手掛ける中、独自の画風を獲得するとともに、工房では多数の弟子を育成しました。

この展覧会では、そんな其一の一生をトレースする回顧展スタイルで、江戸琳派のルーツから抱一の弟子時代、独立してからの壮年時代、そして晩年の大作、弟子たちの活躍などを順番に展示して見ていくことができるようになっています。

4.鈴木其一展の見どころは?

みどころ①:10年ぶりに来日した最高傑作「朝顔図屏風」

f:id:hisatsugu79:20160911180302j:plain(Wikipediaより)

収蔵先のメトロポリタン美術館でも展示されるたびに人気を博している、鈴木其一の最高傑作との呼び声が高い「朝顔図屏風」が戻ってきました。2004年の東京国立近代美術館での「琳派展」以来、12年ぶりの里帰りとなります。

これ1枚だけでも見ておく価値があります!

画面での紹介だと全く魅力を伝えきれないのですが、まず、単純にこれが大迫力なのです。特大サイズの大屏風に、実物よりも大きなサイズで埋め尽くされた群青色のアサガオは、まさに圧巻!

細部まで一つ一つ写実的に描かれ、奔放にツルを伸ばす様子は、さすが江戸時代のアサガオの大生産地、浅草入谷の近くに終生住んだ其一ならではの描写です。繁殖力の高いアサガオの奔放な様子が良く描かれています。

また、青と緑だけの限定的な色使いで、ひたすらアサガオだけを描いたモチーフは、琳派の大先輩、尾形光琳「燕子花図屏風」へのオマージュであることは明白ですね。

また、音声ガイドによると、左隻、右隻の図柄の構成が、宗達、光琳、抱一も描いた琳派伝統の屏風絵「風神雷神図屏風」をも模しているとの分析がありました。

「なるほど!その見方はあるよな」と思わず目からうろこでした。音声ガイドは、パネル解説には書かれない、こういう鋭い分析をしれっと入れてくるから外せないんですよね・・・。試しに見てみましょう。

尾形光琳「風神雷神図屏風」f:id:hisatsugu79:20160911225917j:plain(Wikipediaより)

朝顔図屏風(再掲)f:id:hisatsugu79:20160911230341j:plain(サントリー美術館HPより)

どうでしょうか?確かになんとなく全体の構図として似ているような気もしますね?!

諸説いろいろある本作ですが、傑作であることは間違いありません。会期中、ずっと最終展示室手前でゆっくり鑑賞ができますよ。これだけでもいいから、是非見に行ってください!

みどころ②:其一の様々な画業が俯瞰できる

今回展示では、いわゆる琳派の伝統的な「花鳥画」「山水画」にとどまらず、其一の手がけた「仏画」「風俗画」「物語絵」や、掛け軸、扇、凧、羽子板、絵馬などの工芸品も展示しています。大名家や豪商への祝いの品や贈答品需要に応え、御用絵師としてなんでもこなした売れっ子作家らしい多作ぶりでした。

「神功皇后伝図絵馬」 

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(鈴木其一展 図録より)

 行田八幡神社に伝わる、其一が奉納した絵馬です。海の波濤の表現が、葛飾北斎スタイルで描かれていたところに目が釘付けに・・・。幕末は広重、北斎、国芳ら個性的な絵師が多かったの絵、江戸で交流があったのかもしれませんね。実際、研究家の指摘でも、円山応挙と葛飾北斎からの影響を指摘されています。

「虚空蔵菩薩像」
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(鈴木其一展 図録より)

極彩色の仏画は、保存状態もよく非常に目を惹かれました。花鳥画、山水画、風景画にとどまらず、こういった作品まで器用にこなせてしまう其一の多才ぶりに驚かされました。

「紅葉狩図凧」
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(鈴木其一展 図録より)

日本画の美術展で、タコを鑑賞したのは初めて!桜とモミジを背景に、般若の面をあしらったデザインで、江戸の空には映えたでしょうね。作られてからかれこれ150年以上経過しているのに破損もなく美麗な状態を保たれているので、美術品というより、風俗史・文化史的な資料としても貴重な作品だと言えそうです。

みどころ③:個人蔵の珍しい出展が多数

今回展示で目立ったのは、「個人蔵」の出品に佳作が多かったこと。やはり、光琳や抱一に比べて、まだ研究や収集が進んでいない分、美術館に収蔵されている点数の比率が少ないのかなと思わされました。

たとえば、出口付近にあったこの屏風絵。

 富士千鳥筑波白鷺図屏風f:id:hisatsugu79:20160911180331j:plain(鈴木其一展図録より)

其一晩年作で、写実よりも琳派らしい装飾性が前に出た作品。状態も非常に良くて、群青や緑青、銀の発色もよく、明るく極彩色でまとめた其一らしい傑作だと感じました。

インターネットで検索しても一切引っかからず、図録によると今回が美術展初出となる作品のようです。其一の場合、まだまだ世間に出回っていない作品が民家の蔵などに眠っていそうですね。

みどころ④:弟子たちの作品も面白かった

鈴木其一は、いわゆる江戸っ子気質だったといいます。町人出身で、大酒飲み。そして、弟子たちを沢山取ってよく面倒を見て後進を育成しました。

琳派は昭和初期まで日本画の一流派として続きますが、明治期以降への確かな流れを作ったのは其一の功績でした。其一の弟子を、江戸琳派の中でも「其一派」と呼びますが、江戸末期~明治前期までは「其一派」が琳派絵師を引っ張る中核的な存在になりました

鈴木守一「楓桜紅葉図」
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(鈴木其一展 図録より)

鈴木其一の実子で、父親同様絵師となった鈴木守一(すずきしゅいつ)の作品が、弟子たちの作品の中では一番しっくりきたかなぁと思います。親子ですから、一番画風が似ているのでしょう。本作では、雨の表現やもみじの描き方などは、伝統に忠実な琳派らしい作品です。

池田孤邨「蓬莱・百亀・百鶴図」
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(鈴木其一展 図録より)

池田孤邨(いけだこそん)は、酒井抱一門下で、其一より9歳年下の兄弟弟子でした。抱一の後を継いだ酒井鶯浦や鈴木其一とは、程よい距離を保ちながら明治維新直前まで活躍しました。沢山の鶴(群鶴)のモチーフは、特に尾形光琳以来の琳派の伝統的なスタイルを踏襲していますね。

彼の住居が、僕の前職の会社があった日本橋久松町だったこともあって、ちょっと個人的に勝手に親しみを感じています。(知らんがな)

5.その他気に入った作品たち

5-1.文読む遊女図

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引用:http://reinori.blog67.fc2.com/blog-entry-59.html

師、酒井抱一と鈴木其一の合作。其一が絵を書き、抱一が俳諧を詠みました。吉原に遊びに行った際、夜が明けて、翌朝お客を送り出したあとに休憩中の遊女を素早く描いた作品だと言われています。「手紙を読む遊女」は、浮世絵などでも良くある構図ですね。(「文読む遊女図」でぐぐってみるとわかります

遊女の何とも言えない「あー、今日もお疲れ自分・・・」的なまったりした表情が見飽きない早描きの佳作でした。

5-2.「雪中竹梅小禽図」(右幅)

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雪がドサドサっと、たった今落ちたところを描き出すのは鈴木其一の得意技だったそうです。落雪に驚いた小鳥が慌てて飛び出したような構図が、臨場感たっぷりです。伊藤若冲の粘着質な湿雪風の表現も好きですが、其一の軽そうな落雪の表現も独特で面白いです。

5-3.水辺家鴨図屏風

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(引用:水辺家鴨図屏風 : サントリー美術館で展覧会開催!鈴木其一とは? - NAVER まとめ

たびたび過去の琳派展で出展されている、割と認知度の高い其一の屏風絵です。

水辺で遊ぶアヒルの群れは琳派での伝統のモチーフですが、其一の独自性が伺える迫力ある作品です。家鴨の描き方が写実的で、1羽1羽の羽の色・形が違っていたり、水流が屏風の上部まで回り込んでいたりと、其一ならではの工夫が見られます。

6.その他注意点(展示替えに注意!)

今回の展覧会も、日本絵画の展覧会らしく、会期が50日と非常に短い展示期間です。また、期間中に3回の展示替えが発生し、かなりの展示が入れ替わる予定です。

会期初日時点では、大物である六曲一双(つまり12面ある)「四季花鳥図屏風」や定番モチーフである「風神雷神図襖」、そして根津美術館所蔵の「夏秋渓流図屏風」あたりは展示されていませんでした。展示期間をよくチェックして、何度か足を運んでみてください。

7.まとめ

これまで、琳派をテーマとした総合的な展覧会は毎年のように多数開催されてきましたが、その中で鈴木其一の作品も、必ずセットで展示されてきました。ただし、尾形光琳や酒井抱一に比べると、どうしても一歩下がった脇役という位置づけであり、専門家の研究も一歩遅れ気味でした。なかなかまとまって「其一」単独で焦点を当てた回顧展は開催されてきませんでした。(小規模展を含め、ここ30年でわずか2回)

今回展示は、前回細見美術館のコレクション展での特集展示以来、約10年ぶりの大回顧展となりますが、絵画だけでなく工芸品や弟子達の作品など様々な角度から作品を見ることができる貴重な機会です。

「朝顔図屏風」だけでも、見る価値はありますよ。是非足を運んでみてください。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

今回の鈴木其一展は、サントリー美術館から始まり、その他2会場へ巡回します。
展覧会名:「鈴木其一 江戸琳派の旗手」
会期:
【東京】2016年9月10日~10月30日
【姫路】2016年11月12日~12月25日
【京都】2017年1月3日~2月19日

会場:
【東京】サントリー美術館
【姫路】姫路市立美術館
【京都】細見美術館

公式HP:http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2016_4/index.html
Twitter:https://twitter.com/sun_SMA

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

1.鈴木其一の旅日記「癸巳西遊日記」(きしさいゆうにっき)

ダウンロード先
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/t226/t226cont.html

師である酒井抱一が亡くなり、暇をもらった其一が長期間の旅にでかけた際に、旅先でスケッチをまとめた絵日記。スキャンしたデータがオンライン上にアップされており、誰でも自由に読むことができるようになっています。

摺針峠(すりはりとうげ)から琵琶湖の全景を描いたページは、今回展示されている「琵琶湖入江遠望図」の構図そのまんまでした。是非覗いてみてください。

2.書籍

花鳥画や屏風絵を中心に丁寧にまとめられたムック本。鈴木其一の画業を振り返る、唯一の出版物です。(寂しい限り・・・)少々お値段は張りますが、きれいなカラー写真で主要作品をたっぷり収録しています。図録以外で其一を掘り下げた本はこれしかありませんので、ファンなら要チェックですね。

大混雑のこち亀展!連載40年の想いの詰まったファン必見の展覧会でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

先日、連載40周年を迎え、コミック200巻を達成した「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が、満を持して連載終了となるアナウンスがありました。それと同時に発表されたのが、この「こち亀展」の開催。東京を皮切りに、全国へ巡回予定とのことです。今日、9月14日が東京展の初日でしたので、混雑必至を覚悟の上、朝から行ってきた感想レポートを書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間

僕が会場となる日本橋高島屋に到着したのは、朝10時20分。朝一で、すでにこの絶望的に見える行列。おそらく、初日なので物販に命をかけたせどりや転売の人たちもかなりいるんでしょう・・・。

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一瞬萎えましたが、気持ちを強く持って10時30分と同時に、入場。3箇所の入り口で、エスカレーターと階段を乗り継いで、8Fの特設展示会会場へ。

チケットを持っていなかったので、ここで一旦チケット購入のために並ぶことになりました。そこで待つこと10分、ようやくチケットを購入して入場です。

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なお、会期が短いため、特に土日や連休中は大混雑は避けられないと予想します。しかし、前売り券はどうもないみたいです。招待券などをヤフオクや金券ショップで見かけたらすかさずゲットしましょう。

当日のチケット売り場はありますが、1名体制なので、処理が追いつかず渋滞必至です。入場よりチケット売り場が行列するパターンですね・・・。

所要時間は、入場やグッズで混雑して時間を食うため、並ぶ時間を含めて2時間~3時間は念のため確保しておきたいところ。展覧会の内容量が非常に多く、空いている時間に展示だけ見るとしても90分は空けておきたいです。

2.入り口付近の様子と客層など

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さて、いよいよ入場すると、入口の前には出版社や広告代理店など、名だたる企業のお祝いの花輪がありました。

入り口を過ぎると、展示会場内は意外なことにぎゅうぎゅう詰めまではいかず、まろやかに混雑している程度。物販は秒速で大混雑となっていましたが、展示会本体はそうでもないって・・・どんだけせどり屋さん多いんでしょうか(笑)

客層は、さすが国民的ギャグ漫画だけあって、老若男女幅広く来ています。サラリーマン風の人、ふらっと入ってきたおばさま達、大学生のカップルなど、これだけ一つの展覧会で客層が見事に分散しているのは久々です。

また、初日なので新聞記者やカメラが来ていました。僕も、メモを一生懸命に取っていたら朝日新聞の記者に質問されました・・・。

3.展覧会のコンセプトと展示の構成

今回の展覧会は、こち亀40周年&コミックス200巻という節目を記念して、秋本治の画業を振り返る回顧展です。物凄い量の原画、40年の歴史を感じさせる年表や人物関係図、40年から選りすぐった神回の原画や模型展示など、豊富なコンテンツで非常に見応えがありました。

中の展示物は大半が撮影不可なのですが、一部写真撮影が可能なコーナーがあります。写真の可否は、展示会場内で案内があります。

入り口から順番に、こんな感じの構成でした。

既刊全199巻のコミック単行本の展示(撮影禁止)

★会場イメージ図
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(引用:http://www.j-kochikame.com/exhibit/

棚一面にズラーっと並んだのは壮観でした。100巻を過ぎて、登場人物がどんどん増えだした頃から、表紙にも色々遊びが出てきて、並べるとすごくカラフルで明るいのが印象的でした。

連載の節目となった少年ジャンプ(未使用)の展示

連載第一号である、1976年の42号は、巻頭カラーでもなんでもなくて、巻頭カラー特集となったのは、同年50号が初めてだったみたいです。その後、連載500回とか30周年とか巻頭記念号が飾られていました。

アニメ放映時のビデオ(VHS)や、過去に発売した記念限定グッズ

過去に数年間だけ、アニメ放映していたことがありましたよね。リアルタイムで見ていましたが、個人的にはアニメよりマンガの原作のほうがパワーと緊迫感が合ったかなと思います。懐かしい・・・

キャラクター別のよりぬき原画の展示(両津、中川、麗子、大原部長)

両津はご存知安定のハチャメチャぶりで、原画でもひたすら滅茶苦茶(笑)面白かったのは、脇を固める3名の準主役。ごくたまに狂気の顔を見せる中川や、盆栽、ゴルフ、古城など自分の趣味が絡むと自分に甘いダメオヤジになる大原部長の人間臭さが印象深かったです。また、麗子は予想通りサービスカットがいくつかありました(笑)

秋本治のマンガ制作シーンと仕事道具類

スタジオで実際にマンガを描いているシーン(ペン入れなど)のビデオ動画をメインに、作画資料(警察の絵本やパンフレット)、取材道具(カメラ、ビデオカメラ一式)、ネームや両津の自宅、派出所内の設定資料集などが固めて展示してありました。

ガジェットオタクな両津を描くだけあって、カメラ類はペン型カメラなど珍しいタイプも展示されていたのが印象的です。

神回原画セレクション

連載40年、全200巻の中から、特に読者からの支持が熱い「神回」2話分の原画を展示していました。ちょっと紹介したいと思います。

・擬宝珠家の新しい息吹きの巻(126巻第8話/2001年)

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(引用:https://itunes.apple.com/jp/book/kochi-gui-dao-an-nei-2/id584468382?mt=11

両津が出入りする寿司屋「超神田寿司」を経営する擬宝珠家の末娘だったレモンに妹が生まれた日を描いた回です。突然産気づいた母、桔梗を介抱するためレモンがおばあさんの夏春都(げぱると)を呼びに行く話ですが、レモンのあどけなくも必死な表情がなんとも感動的な一話。この会の両津は完全に脇役でした。

生まれた子供は、後日少年ジャンプ誌上で公募されましたが、全部で9786通の応募があり、秋本治が「蜜柑(みかん)」を選んで決定となったそうです。他の候補として「たんぽぽ」「まりも」「らいむ」「さんご」「きらら」なんかも印象に残ったと述懐されていました。

・勝鬨橋ひらけの巻(71巻第9話/1990年)

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(引用:http://www.j-kochikame.com/special/map/tukishima/

連載700回を記念して描かれた昭和40年、両津が中学生の時のエピソード。隅田川河口にかかる勝鬨橋(かちどきばし)は、架橋された当初は、海運交通に便宜を図るため、橋の真ん中を開けられる跳ね橋として造られました。やがて道路網が発達し、陸上運送がメインになると、開かずの可動橋となって今日に至ります。(実際に機能は残っていると言います)

作品上では、橋を跳ね上げる最後の機会を見逃した、両津の中学生のクラスの同級生、純との心温まる交流を描きます。

純は容姿端麗で優等生だけど、体が弱く、学校を休みがち。ある日、もう橋が開かないことを聞くと、純はショックで寝込んでしまいます。お見舞いに行った純の家で、純が北海道に転校になったことを聞かされた両津は、何とか純にもう一度橋が空いたところを見せたいと、勝鬨橋の可動橋操作室に忍び込んで、無理やり橋をあけてしまいます。

純は、その一部始終を見ることができて、両津の思いは遂げられますが、係員に見つかってしまいます。そこで、両津と仲間たちは、隅田川に飛び込んで逃げて一見落着、というホロリとさせられるいい話。

こちらは、原画と一緒に、勝鬨橋の実際の縮小模型が飾ってありました。ひょっとしたら、この秋の聖地巡礼場所になるかも?

年表コーナー

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連載の始まった1976年から2016年までの40年間を、それぞれの連載で取り上げたネタと時事ネタを絡ませて紹介していました。40年の間に、幅広く社会・時事ネタもマンガの中に盛り込まれていて、時代とともにマンガの中のキャラクターの持ち物や生活様式、両津の暴れ方も変わっていったんだなぁと実感。

扉絵原画紹介(亀さんぽ~両さんが見つけた風景の巻)

こちらは、全200巻の連載の中で、下町の深川・本所エリアを中心に、風景とともに両津を描いた連載時の「扉絵」原画を紹介するコーナーがありました。例えば、吾妻橋(82巻-1話)、白鬚橋(82巻-7話)、浅草寺境内(72巻-4話)、金町浄水場(150巻-8話)など。同じ深川地区に住む自分に馴染みの深い情景ばかりだったので、少しぐっとくるものがありました。

記念撮影コーナー(派出所)

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マンガに出てくる派出所を模したセットの前で、記念撮影ができるようになっています。派出所の中は、原画で埋め尽くされています。

突入!!こち亀衝撃ワールドの巻

こち亀の特徴である、「毎回のオチ」「両津の金と欲」「祭り」をテーマとした3つの特集展示では、実際に見て触って、写真撮影がOKなエリアに指定されています。それぞれ、

「これぞこち亀!恒例エンディング傑作選」
「総決算?!両津の「金と欲」40年」
「みんなでかつげ!こち亀祭り!!」

とタイトルがついています。

順番に見ていきましょう。

「これぞこち亀!恒例エンディング傑作選」f:id:hisatsugu79:20160914161714j:plain

この部屋では、ひたすらオチのコマの原画が壁じゅうに展示されています。カベをちょっと拡大してみると、こんな感じ。オチのハチャメチャな収束が「こち亀」の一つの魅力ですが、こうして並べてみるとオチのページの破天荒ぶりが凄いことになっています(笑)

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つづいて、「金と欲」コーナーを見てみましょう。

「総決算?!両津の「金と欲」40年」f:id:hisatsugu79:20160914161039j:plain

拡大してみると、両津の足元には札束が(笑)

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そして、両脇の天井にぶら下がっているのは、各話で両津が背負った借金(賠償金?)の金額を1話ごとにまとめた一覧です。数字がなんかおかしい回がありますね(笑)そして、たまに大儲けもする?

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結果として、両津が200巻で出してきた合計被害総額は-1,663兆円ととんでもない金額に(笑)よく集計したな~。

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最後に、祭りの部屋に移動します。三社祭や神田明神のお祭りを描いた風景の原画が、壁一面に展示されています。

「みんなでかつげ!こち亀祭り!!」f:id:hisatsugu79:20160914161023j:plain

裏側はこんな感じ。

f:id:hisatsugu79:20160914162223j:plain

神田明神奉納こち亀絵巻

神田明神遷座400年、こち亀連載40周年を記念して、「こち亀」をテーマに描かれ、神田明神に奉納されたばかりの全長8メートルの大判のマンガ絵巻が、展覧会へ出品されました。大判の原画17枚を、劣化に強いアクリル絵の具で描き、工房で特装するなど、通常連載の傍ら、1年間かけてじっくり制作されたそうです。その製作シーンのドキュメンタリー映像が展覧会場で公開されていますよ。

こち亀絵巻(神田明神奉納時の写真)f:id:hisatsugu79:20160914164921j:plainf:id:hisatsugu79:20160914164932j:plain
(上記2枚の引用:http://mantan-web.jp/

描きおろし作品「想い出」の巻

フライヤーにも書かれていた、展覧会場だけで読める秋本治の描きおろし作品。これが出口前の最後のメインディッシュでした。

内容をさわりだけネタバレすると、ある日突然失踪した両津をめぐって脇役たちがドタバタする話です。ほろっとする、でもあっさり爽やかな読後感でした。是非、会場でゆっくり読んでみてください!

4.グッズコーナー

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展示を抜けると、グッズコーナーは山のように人だかりが。また、レジを待つ列は8Fのレジを先頭に、階段を下がっていって、最後尾が3F(!)という長蛇の列でした。ざっと100メートルくらい階段を巻いていたと思います。

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気を取り直して、どんなものがあるか見てみましょう。

クッキーやポスター、Tシャツ、クリアファイル、単行本など各種色々取り揃えていました。せどりが第一波で来たあとも、品切れになっているアイテムがなかったところから見て、かなり潤沢に準備しているような感じです。

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5.まとめ

さすがに連載40年分、原画は3万枚を超えるとあって、凄いコンテンツ量でした。連載終了とともに、満を持して開催された展覧会は大混雑での幕開けとなりました。そして幅広い層の来場者が示す通り、様々な年齢層の人々が一度はどこかで読みふけってハマったことがあるのが「こち亀」の凄さなんだと思います。

これをきっかけに、また読み返してみようかなという人も多いでしょうね。僕も、ミーハーながらちょうど読んでいない時期の分を跡追いしてみようかなと思います。

それではまた。
かるび

開催情報

展覧会名:「こち亀展」
開催場所:日本橋高島屋8Fホール
入場時間:午前10時30分~午後7時、最終日午後5時30分迄
入場料:一般800円、大学・高校生600円、中学生以下無料
会期: 【東京】2016年9月14日~9月26日(月)
※大阪は12月中旬~1月初旬で大丸心斎橋14Fにて開催決定
※その他主要都市への巡回は調整中
公式HP:http://www.j-kochikame.com/exhibit/

【20160916追記】

会場では置いていなかった200巻特装版

展示会場で、何人かが特装版の最終巻200巻は置いてありますか?と監視員に聞いている人を見かけました。発売日は9月17日となっているため、初日では置いていなかったですが、17日以降は置かれるんじゃないでしょうか?
Amazonのリンクは、多分転売屋さんの出品だろうな~。推奨しませんが、参考までに該当リンクを置いておきますね。

http://amzn.to/2cdBZoc

 

小学校の授業参観。親であれば必ず参加すべきだと強く思った4つの理由

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かるび(@karub_imalive)です。

僕には小学校1年生の息子が一人います。

先日、秋の学校公開に妻と手分けして行ってきたのですが、終わってから妻と参加しての感想を話し合って強く実感したのが、「授業参観は、必ず出ておくべきだな」ということ。今日は、なぜそう思ったのかを少し書いてみたいと思います。

1.学校公開日について

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地域によって色々違いはあると思いますが、息子が通う江東区の区立小学校では、毎年春と秋に学校公開日という授業参観期間が連続5日間ずつ設けられています。学校公開日の期間中は、すべてのクラスのすべての授業が、家族や外部の見学者に対して公開される仕組みとなっています。

いわば、授業参観の拡大版ですね。来年度小学生に上がる、地元の保育園・幼稚園児の年長組の両親に対するオープンキャンパス的な役割も担っています。 

僕が子供の時は、こういう仕組みはありませんでした。年に1回か2回、指定された日の指定された授業に、当時専業主婦だった母親が、おめかしして(笑)来てくれた想い出があります。親も先生も一種の晴れ舞台的な緊張感で臨んでいました。

それが、学校公開が5日間もあれば、先生も少しは気をつかっているようですが(化粧がやや念入りだとか)、基本的にはそんなに先生も児童も特別に身構えている感じはありません。いつも通りですが、何か?と言った感じ。

学校公開週間というのは、都心の核家族にて共稼ぎ等で子供を送り出す親としては、非常にありがたい仕組みであります。ピンポイントで来校日を指定されたら、おそらく大半の親は共働き状態のため、来れないケースも多いでしょう。

そういった事情に配慮して、5日間という「帯」で自由に見学できるように調整されたのだと理解していますが、これならば、どんなに忙しくても有給等をやりくりすれば、最低1回は都合をつけて見ることができるのではないでしょうか。いい制度です。

2.5日間授業参観に皆勤した

うちの場合は、今年の6月から僕が会社をやめて無職となりました。また、妻の会社もやることをやっていれば文句を言わない体質の会社で、フレックスもOKです。だから、この9月の学校公開は二人で手分けして5日間、毎日1~2時間ずつチェックすることができました。

見学した科目は、国語、算数、生活、図工、道徳、音楽など。主要科目を2回ずつくらい回ってみました。

基本的には、自分の子供のクラスでの様子を中心に見ながら、授業の状況やクラスの他の子供、学校全体の雰囲気など、色々な所を見ていくわけです。息子を見ていて、「あっ、手の上げ方が曲がってる」「また筆箱落とした!」「体操着がオモテウラ逆だ!」とか、後ろで見ているだけで手を出せないもどかしさなんかも面白いものです。

3.授業参観は、子育てのヒントになる気づきがたくさん得られる貴重な機会

さて、今回の学校公開週間が終わって、妻と話した感想として、意見が強く一致したのが、「授業参観は、できるだけしっかり見ておいたほうがいい」ということでした。

というのも、よく観察することで、現状の学校の様子や子供のモチベーション、学習進捗状況など、あらゆる情報が現場から得られるからです。特に、以下の4つの理由で、授業参観はしっかり見ておくべきだと感じました。

4.授業参観をしっかり見たほうがいいと強く思った4つの理由

理由①:子供の指導法、しつけの勉強になる

昔よりクラスが少人数化されたとはいえ、集中力が続かない小学校1年生30人を、先生ひとりでコントロールし、授業を成立させ、かつ全員の理解度を一定の水準以上に導くのは至難の業だと思います。僕にはまずムリ。

しかも、昔と違い「体罰」という飛び道具も使えないわけです。僕の小学生時代(1980年代)は、いうことを聞かない児童は、クラスの後ろや外で立たされたり、校庭を走らされたり、ケツバットをされたりしたものです。

しかし、今それをやったら大問題ですよね。懲戒処分モノです。だから、今の小学校の先生は、自分の「言葉」だけでクラスを統制して、導いていかなければいけない。これは大変な技術とノウハウがいると思うんです。

僕の息子のクラスの担任は、50代の先生なので、ご自身も育児経験があるこの道25年の大ベテラン。実際、授業での工夫や導き方がものすごく上手でした。国語も算数も生活も道徳も、1年生にわかるように指導する現場のノウハウは、本当に勉強になります。

「あっ、この言い回しは家でも使えるな」とか「こういうふうに言えば子供を納得させて集中力が持続するんだ」とか、非常に大きな学びを得ました。

理由②:自分の子供のクラスでの客観的な立ち位置がよくわかる

僕の息子は早生まれです。案の定というか、保育園の時は、0歳時~5歳時までを通して、クラスで一番小さく、しかも2歳半まで言葉を一切しゃべれませんでした。念の為保健所に連れて行って、問題があるかどうか見てもらったこともあります。

小学校に入っても、フタをあけたらやっぱり背は男女合わせて前から3番目でした。そして、春の運動会の徒競走ではダントツビリでした。どうしても、まだまだ4月や5月生まれの子とはかなり発育に差があるように思うんです。

だから、こういったクラスの授業参観で他の子の様子と比較して見ておくことで、「遅れてないかな」「授業内容についていけてるかな」と、より客観的に息子の状況が問題ないかわかるわけですね。

実際チェックした感じでは、音楽とか図工、体育はもう一つな感じですが、算数や国語はなんとかクラスの平均くらいのパフォーマンスがありそうなのが確認できたので、良しとしたいと思います。

自宅で、学校のプリントや宿題をチェックすることである程度習熟状況はわかりますが、果たしてそれが妥当なのかどうか、他の子に比べてどうなのか?というのも、実際に学校公開日に授業参観に行ってよりリアルにわかることですよね。

理由③:クラス全体の問題点を把握できる

授業参観日は、基本的には先生がしっかりクラスの雰囲気を作りこんで来ますよね。参観日だけ化粧が厚かったり、妙に掲示物が充実していたりとか。

だとしても、よく授業や教室の中を観察していると、短時間でもそのクラスの状況は把握できるものです。どの子が落ち着きがなくて、どの子がしっかりしてて、っていう状況は、後ろから見ていると想像以上に把握できました。

妻と意見交換しながらクラスの観察を5日間続けてみることで、例えば、こんなことがわかってきました。

・落ち着きがなく、問題がありそうな子は持ち物が汚く、よく忘れ物をしてくる。
→うわばきが汚く、洗っていなかったり、破れている。また、筆箱の中が汚れていたり、鉛筆を削っていない。また、教科書やのり、はさみなど必要な物を忘れてくる。

・計算が遅い子、ひらがなやカタカナの書き取りが遅い子、宿題を忘れてくる子の親は、授業参観に来ない傾向にある。
→何らかの事情があって、親が宿題を手伝えていないか、子供の教育に手をかけられていなそう。授業参観の出席率は、親の教育に対するスタンスをある程度象徴しているのでは?

・教室内外の掲示物から、授業の進度・内容や子供の理解度がよくわかる、
→俳句や硬筆、夏休みの宿題、図工の課題など、基本的に全員分貼りだしてあるため、自分の子供の得意科目や、友達の状況が把握できる。また、自宅での子どもとのコミュニケーションのネタ作りにもなる。 

ゆとり教育が終了し、子供が毎日持ち帰ってくる宿題は、「これって塾みたいじゃない?」って思えるほど、僕の子供の頃をはるかに上回る大盛りとなっています。江東区の小学校だけかもしれませんが、毎日の宿題は、親が最大限関与していかないと終わらない状況です。(毎日宿題をやらせるだけで結構一苦労・・・)

そのような状況下、小学校1年生くらいだと、子供の学校での振る舞いやモチベーションの状態、学校の勉強に差がつく原因は、家庭での学習進度が大きく作用してそうなのです。日常から、両親が子供に対してどれだけ適切に関与してあげられるか、がカギになってくるのではないかと考えています。

理由④:子供のモチベーションが上がる

ネットで検索すると、中学生になると、逆に授業参観日に親が来るのを嫌がる子供もかなりいるみたいです。でも、小学生で特に低学年の場合は、親が来るだけで基本的には喜び、子供のモチベーションが高まることが多いのではないでしょうか。

実際、僕の息子も、僕が教室に入ってきたのがわかると、突然姿勢がよくなりましたし、手をちゃんとあげ出したりして、しゃきっとしました。授業が終わった後も、少し話なんかもすると、非常に嬉しそうにするのですよね。

もう来ないで、って嫌がられるまでは、毎回できるだけちゃんと行ってあげたほうがいいんだな、というのを改めて実感しました。

5.まとめ

仕事でも、よく現場を見ろ、事件は現場で起こってる、などといいますが、教育も同じですね。授業参観に行くと、基本的には教室の後ろで立って見ているだけではありますが、ただ「見る」だけで、本当にいろいろな気付きや学びがありました。

子供の授業参観は、正直なところ平日の時間帯なので、仕事などの所用に都合をつけなければならない面倒さはあります。ですが、どうしてもムリ!という事情がなければ、できるだけ見に行ってよく観察しておくべきだな、と強く感じました。

それではまた。
かるび

「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展、ガラガラだけど渋い展示が面白かった。みんな行こうよ?!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月13日から江戸東京博物館にて開幕した企画展「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展に行ってきました。

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なんとなく中途半端な感じのテーマに思えたので、動員は厳しそうだなぁと考えながら中に入ったら、初日なのに大丈夫なのこれ?って思うくらいガラガラでした。予想の斜め上を行く閑散ぶり。

おかげで、たっぷり楽しめましたし、内容も全然悪くなかった。ちょうど歴史マニアと美術マニアの両方が楽しめるような内容となっていて、訴求できる客層はむしろ結構広めだなという印象。ガラガラにしておくのはもったいない!と思いました。

今日は、この「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展について、少し感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

最初にも書いたとおり、初日なのに非常に閑散とした状況。元々それほど注目度が高くない上に、関東圏の熱心なファンは、7/2~9/4にて佐倉市の国立歴史民俗博物館での展示会に参加し終わっていると思われます。

Twitterのフォロワー数やネットでの反応など、いろいろな状況を考えても、この東京会場での展示会はおそらく最後まで混雑することはなさそうです。

所要時間は、90分あれば回れると思います。僕は、今回工芸品を2回ずつゆっくり見て回ったので2時間かかりました。

2.音声ガイドはアイドルユニット「elfin'」

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(よみがえれ!シーボルトの日本博物館展公式HPより)

音声ガイドは、毎回あれば必ず借りるようにしています。今回は3人組声優アイドルユニット「elfin'」が担当しています。アニメを全然見ないので詳細を知らなくて申し訳ないのですが、声優系オーディションで選ばれ、2015年から活動中だそうです。

来ている客層とかなりアンマッチだなぁと思いつつも、「兵馬俑展」では壇蜜が担当していて、なかなか良かったことを思い出しました。これはこれで面白いかもしれません。収録時間も35分と大盛りだし、声優が本職だけあって、聞き取りやすかったです。

せっかくなら、グッズコーナーにCDとかも置いといてくれないと(笑)!

3.「よみがえれ!シーボルトの日本博物館展」のコンセプト

ドイツ人の医師で、19世紀に2度にわたり来日して、江戸時代の日本に近代西洋医学を伝える一方、滞在中に世話人の日本人妻「タキ」と事実婚状態となり、どっぷり日本に(良い意味で)ハマり、日本の生活や風俗、文化に関わる大量の資料を収集したシーボルト。

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(公式Twitterより)

シーボルトは、帰国してから、彼の故郷ヴュルツブルグを初め、アムステルダムやミュンヘンなど数回にわたり、日本に関する展示を行い、最終的には「日本博物館」の設立も企画していました。

ヨーロッパで本格的に日本の産品や文化が紹介されたのは、開国し、明治維新後の万国博覧会や、モネやゴッホらが熱を上げた1880年代以降の「ジャポニスム」ブームの時でしたから、それよりも早い段階での展覧会でした。事実上、ヨーロッパにおける最初のまとまった日本の紹介展示と言って良いでしょう。

惜しくも、「日本博物館」の企画中にシーボルトは70歳で亡くなってしまうのですが、彼がヨーロッパに持ち帰った様々な日本の工芸品コレクションは、歴史的な文脈においても、また美術品としても非常に貴重な品々でした。

 今回の展覧会は、シーボルトの日本渡航前後の経緯や業績を中心に振り返りながら、彼が実際にヨーロッパでの展示会で出品したコレクションを、一部当時の陳列方法を復元しながら紹介しています。

4.展示のみどころ

冒頭でも書きましたが、今回の展示は「美術」ファンと「歴史」ファン両方を満足させられる貴重なコンテンツとなっており、幅広い層の人達が楽しめる内容となっています。特に、江戸後期の工芸品の意外な面白さが新鮮でした!

みどころ①:シーボルトの日本での活動や業績を網羅している

シーボルトというと、日本史の教科書にも、蘭学を伝えた重要人物として「太字」で記載される歴史上のキーマンなわけですが、そんな彼の日本での活動を日蘭の最新研究を踏まえた詳細な歴史資料とともに分かり易く整理してくれています。

冒頭の展示から、日本人画家の描いたシーボルト像が残っていて、いきなり笑えます。当時の日本画家には、外国人はこういう風に見えていたという。見れば見るほど面白いです。

シーボルト像(作者不詳)
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さて、シーボルトが初来日したのは1823年。出島のオランダ商館付の医官として赴任しますが、まもなく、そこで世話人として側においた「おたき」と良い仲になり、子供「イネ」ももうけます。(やがてイネは成長すると女性初の西洋医学者となりました)

おたき
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いね(展覧会では幼児期の写真が展示されている)
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また、彼は日本にいる間、出島近辺の空き家を改装し、幕府の許可を得て「鳴滝塾」を開塾しました。そこで、日本人に対して医学や博物学を教え、後日鳴滝塾で学んだ生徒は、西洋医学の大家へと成長していきました。

展覧会では、その鳴滝塾の当時の木製の模型(江戸時代制作)が展示されていました。非常に精密で状態もよく保存されていました。

鳴滝塾の模型(江戸時代に造られたものです!)
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シーボルトは、日本滞在時の際に収集が行き過ぎて、持ち出しが禁じられていた国家機密、すなわち伊能忠敬原案の最新の日本地図を国外へ持ちだそうとした罪で、日本から追放されてしまいます。

これが1928年の「シーボルト事件」ですが、この時に持ちだそうとしたのが、伊能忠敬の測量に基づき編纂された「伊能全図」です。

伊能全図(西日本部分)
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(公式図録より)

最新の研究によると、幕府により没収される直前に、シーボルトは伊能全図をトレースしてコピーを隠し持ち帰っていたようで、帰国後に「伊能全図」がなければ出版できない日本地図を現地で出版していました。このあたりは面白いですね。

やがて約30年後、日蘭修好通商条約締結により開国されると、シーボルトも来日を許可され、1858年に12歳の息子、アレクサンダーを伴って来日しています。この時タキやイネと会えたんだろうか、と展示を探しましたが、残念ながら明示されていませんでした(笑)

みどころ②:見事な江戸の工芸品を収集した充実のコレクション

シーボルトは、博物学、自然科学の研究だけでなく、日本滞在時に生活用品や工芸品も片っ端から収集していました。陳列されていたコレクションだけでも、刀剣類、皿、食器、仏具、壺、織物類、蒔絵硯箱といった高級品から、コマ、薬、茶碗(標準品)、かるた、小銭などの雑貨類まで多岐に渡りました。

ほとんどは落款等がなく、無名の作家によって制作された工芸品でしたが、非常にハイレベルな工芸品が多く、「今、同じものを作れる人がどれだけいるのだろうか?」と唸りながら見ておりました。

特に、当時ヨーロッパでは珍しかった漆製品に良い物が多く、こんなものまで江戸時代に作っていたのか!驚いてしまうような貴重な工芸品が展示されています。そりゃシーボルトも喜んで持ち帰るわ~と思いながら見ていました。

少し見てみましょう。

花鳥図衝立
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贅沢な仏具。近くで見ると、超高級品であることがわかります。どこかの大名や豪商クラスじゃないと買えなかったんじゃないでしょうか?

桜川蒔絵眉作箱
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全面に高蒔絵とおしゃれな琳派風デザインの装飾が眩しい化粧道具を収納するための小箱です。博物館に普通に収蔵されるレベルのすごい作品でした。

四季草花花蝶扇散文蒔絵提重

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(公式図録より)

屋外での酒宴用の弁当箱。「提重」(さげじゅう)と呼ばれますが、当時の外国人が喜んだアイテムだったそうです。見れば見るほど凄いですよね、これ・・・。

鉄線蒔絵灯籠形弁当箱
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弁当箱その2。ここまで来るともうやり過ぎ感満載です。屋根をあけると弁当が取り出せるようになっています。どこの大名が愛用していたんでしょうか・・・。

船形漆塗弁当箱
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(公式図録より)
弁当箱その3。今度は船形です。もう見てるだけで笑いが・・・。江戸時代の弁当箱のやり過ぎ感、凄いです。

大森細工(麦わら細工)
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昭和20年台に衰退した「大森細工」と呼ばれる麦わらで作るおもちゃ類です。当時、東海道を行き交う旅人たちのお土産として喜ばれたそうです。最近、地元大田区のカルチャーセンターや小学校教育などで、復活した大森細工を作る活動が増えているようですね。

漆塗雲鶴竹鶴松鶴文染付蛸唐草文蓋付壺

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松平家が将軍家に献上する梅干し壺です。有田焼に蒔絵が施された超高級品。シーボルトはなぜかこれを3セット入手して持ち帰りました。中身は食べたのかな・・・。

14代将軍家茂から贈られた刀剣セットf:id:hisatsugu79:20160916170540j:plain
(Wikipediaより)

シーボルトが14代将軍、徳川家茂へ謁見した際に、贈られた刀と刀掛、刀袋、手書きのは衣料品目録まで丁寧に持ち帰られ、ミュンヘン五大陸博物館に所蔵されていました。

みどころ③:地図類や古文書類が充実している

今回の展覧会では、上述した「伊能全図」他、シーボルトが日本に持ち込んだ世界地図や、蝦夷地(北海道、樺太)も含めた日本地図、それから長崎の俯瞰地図、旅の途中で収集した江戸や京都の地図など、シーボルトの関わった時代の地図が多数出展されています。諸説ありますが、やっぱりシーボルトはオランダのスパイだったんでしょうか?

武蔵国全図
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また、沢山のシーボルトの直筆手紙をはじめ、各種ドキュメント類の資料展示もしっかりしています。きちんとした考察に基づいて展覧会のコンテンツが制作されていることがよくわかりました。

論語略解
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5.まとめ

「シーボルトの日本博物館」というタイトルが示す通り、シーボルトが2度の来日で収集した多数のコレクションは、当時のシーボルトの新鮮な驚きが詰まっています。そして、その視点は、江戸開国から150年経過し、現代に生きる我々も共有している部分があるはず。 

ストレートに言うと、江戸時代の精密工芸は、「ヤバい」です。面白すぎ。これをアムステルダムで保管しておいてくれるなんてシーボルトGJ!

シーボルトの日本の歴史における影響度・貢献度の高さを感じられるとともに、彼が持ち帰った江戸時代の愛すべきやりすぎ工芸品達を楽しんでみてください!空いていて非常に見やすいので、会場を独り占めしてゆっくり見れますよ!

それではまた。
かるび

展覧会の開催情報

展覧会名:「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」
会期:
【東京】2016年9月13日~11月6日
【長崎】2017年2月17日~4月2日
【愛知】2017年4月22日~6月11日
【大阪】2017年8月10日~10月10日

会場:
【東京】江戸東京博物館
【長崎】長崎歴史文化博物館
【愛知】名古屋市博物館
【大阪】国立民族学博物館

公式HP:http://siebold-150.jp/
Twitter:https://twitter.com/150Siebold

今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

今回の図録は、普通にISBNがついて、ネットや各書店でも流通しています。2300円とお手頃価格に抑えられているので、気に入ったら購入してみるといいかもしれません。

【ネタバレ】映画『聲の形』は、前評判通り泣ける名作だった!~あらすじ・感想・伏線なども紹介~

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かるび(@karub_imalive)です。

「君の名は。」で盛り上がる中、9月17日から封切りとなった映画「聲の形」。週刊少年マガジンでの、原作マンガの週刊連載時から、その優れたストーリー性と赤裸々な感情描写で話題でしたね。

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僕も、リアルタイムで連載を読み、その後大今良時さんの過去作「マルドゥック・スクランブル」も後追いで読んだくらい一時期ハマったことがあったので、今回上映が決まったときから楽しみにしていました。

今日は、初日見てきた感想を中心に少し書いてみたいと思います。

※本エントリでは、映画のあらすじや感想、伏線などを書いていますが、ネタバレを含みます。ネタバレ部分を読みたくない方のために、ネタバレ有りの部分は明示しています。

1.「聲の形」映画基本情報

【ジャンル】アニメ・恋愛/青春映画
【公開日】2016年9月17日(土)
【監督】山田 尚子
【主題歌】aiko「恋をしたのは」
【サントラ】牛尾憲輔「a shape of light」

2.当日の映画館の様子・混雑状況など

前回「君の名は。」と同様、ユナイテッドシネマ豊洲の朝一9時10分の回に行ってきました。さすがに早朝だったので、座席の埋まり具合は7割くらい。熱心なファンが多く、グッズを片手に座席についている若い人が多かったです。「君の名は。」の時に若者の周りに座るのはなんとなく懲りたので、オッサンは端の方の席におりました・・・。

ある程度のヒットを見越して多めに上映回数が設定されているので、おそらく座れないほど混雑することはないと思いますが、土日連休の午後などは、席が取りづらい時があるかもしれません。

3.主要キャストと声優

予告PVで名前付きで紹介された主要キャストは、8名とかなり多めです。中でも、主人公はこの二人。

石田将也(いしだ しょうや/CV:入野自由)f:id:hisatsugu79:20160917012146j:plain

クラスのガキ大将から、硝子との一件からいじめられるようになった小学生時代の心のキズをかかえ、自分を閉ざしたまま孤独な毎日を生きている。

西宮 硝子(にしみや しょうこ/CV:早見沙織)f:id:hisatsugu79:20160917012206j:plain

先天性の聴覚障害により周りとのコミュニケーションに苦労し続けたため、自己評価が低い。いつもあやまってばかりで、自己主張より愛想笑いで争いを避けようとする。

 つづいて、他のメインキャラ達。

西宮 結絃(にしみや ゆずる/CV:悠木碧)f:id:hisatsugu79:20160917012317j:plain

翔子の妹。母親との関係は良いとはいえず、たびたび家出を繰り返す。自身のことを「オレ」と言い、翔子のことをいつも気遣っている。

植野 直花(うえの なおか/CV:金子有希)f:id:hisatsugu79:20160917012221j:plain

小学校の頃からスクールカーストの上位にいた素直で活発なクラスの人気者だった。心の強さを備えた自信家だが、思ったことをすぐに口に出す不器用な性格で、好きな将也の心をつかめない。

永束 友宏(ながつか ともひろ/CV:小野賢章)f:id:hisatsugu79:20160917012229j:plain

見栄っ張りな性格から、過去にたびたび友人を無くしてきたが、人懐っこくて熱いタイプ。本編では将也の心を最初に解きほぐすキーマンとなる。 

佐原 みよこ(さはら みよこ/CV:石川由依)f:id:hisatsugu79:20160917012322j:plain

小学校時代、皆が見捨てた硝子と唯一仲良く接した優しさを持つが、心の弱さが泣きどころ。高校生になり、自信をつけつつあるが、「成長」への強いこだわりを内に秘めている。 

川井 みき(かわい みき/CV:潘めぐみ)f:id:hisatsugu79:20160917012253j:plain

天然タイプの優等生タイプのお嬢様。自分のルックスに多少自信があり、時に良い子ぶって鼻につく言動も、実は「地」であり表裏はない。

真柴 智(ましば さとし/CV:豊永利行)f:id:hisatsugu79:20160917012243j:plain

高校での将也のクラスメイト。イケメン男子だが、子供への異常な執着心がある。「軽さ」の下に心の葛藤を隠している。

4.結末までのあらすじ(※ネタバレ注意)

多数のメインキャラクターが存在しますが、ストーリーは、石田将也の視点で進行します。主に、将也が小学校6年生の時と、高校3年生の春~秋にかけての2つの時期を描いていきます。

ガキ大将だった小学校6年生の石田将也は、いつも悪ガキ仲間とつるんで、面白いことを探す毎日でした。ある日、先天的に聴覚障害を抱える転校生の少女、西宮硝子が転校してきます。硝子は、耳が聴こえないため、筆談用ノートを使ってクラスでコミュニケーションを図るが、コミュニケーションはうまくいきません。

硝子への対応で、クラスメイトが翻弄され、疲弊していく状況を見て、将也も不器用ながら何度かコミュニケーションを試みますが、上手く通じません。

そのうち、硝子の存在を疎ましく感じるようになり、将也は、率先して硝子に対して辛くあたるようになってしまいます。 やがて、将也を中心にエスカレートした嫌がらせは、クラス全体を巻き込んだいじめへと発展していきます。

硝子の筆談ノートを学校の池に投げ込んだり、高額な補聴器を破損させ、硝子の耳にケガを負わせてしまうなど、目に見えて物理的な被害を出すに至り、先生が介入する事態に発展します。

先生が介入して問題解決へと当たった際に、将也はいじめの主犯格として断罪されます。しかし、クラスメイトは、先生の追及に対して将也一人のせいにして逃げてしまいます。これをきっかけに、将也はクラスで孤立し、一転していじめられる対象となってしまいました。

学校側からの連絡を受けた将也の母親は、硝子の母親へ謝罪し、補聴器代(170万円)を弁償します。謝罪から戻ってきた将也の母の耳からは血を流した痕跡がありました。

ある日、下校時にいつものようにいじめられ、学校の池に突き落とされる将也。起き上がる時、偶然硝子の大切にしていた筆談ノートが池に落ちていたことに気づき、(直接的な表現はないが)ノートを持ち帰ります。

また、別の機会に、将也は硝子と放課後に偶然1対1で鉢合わせになるシーンがありましたが、そこでも結局分かり合えず、二人は取っ組み合いのケンカをしてしまいます。

結局、硝子はクラスになじめず、別の学校に転校してしまうことになりましたが、一連の事件を通じて、将也は他人不信に陥り、同時に罪の意識を背負うことになりました。

それから5年後。高校3年生となった将也は、それ以来人間不信と自己嫌悪からずっと孤立し続けていましたが、硝子に一言、小学生時代に伝えられなかった謝罪をしてから自殺しようと決意します。

そして、硝子の通うろう学校に出掛け、再会します。この日のコミュニケーションに備え覚えた手話で、硝子と会話し、持っていた小学生の時の筆談ノートを返すとともに、とっさに「友だちになってくれ」と口走ってしまうのでした。

それより、二人は、毎週火曜日の午後、ろう学校近く水門橋の「鯉の餌やり」の時間に定期的に会うことに。

やがて、家出の際に家に泊めてやるなどして、姉思いの硝子の妹、結絃(ゆずる)とも仲良くなります。以降、結絃は硝子と将也の潤滑剤的な存在になっていきます。

また、学校では、高3の春にして、不良に絡まれていた所を助けてやった縁から、クラスの後ろの席の永束とも仲良くなり、徐々に将也の学校生活にも変化が出てきます。

将也は、硝子と仲良くしたため、クラスで孤立し不登校となってしまっていた小学校のクラスメイト、佐原みよこを硝子に引き合わせます。また、偶然街で鉢合わせした植野直花とも再会することになりました。

硝子は、やがて石田のことを好きになり、ある日、思い切って髪型をポニーテールにして、贈り物を渡すとともに、水門橋の前で肉声で思いを伝えますが、聴覚障害のため、上手く発声ができません。「好き」を「月」と勘違いされてしまい、将也には通じませんでした。

将也、硝子の仲間はさらに増えます。クラスメイトの川井みき、真柴智を加えて、仲間たちで遊園地に行くことに。遊園地では将也はジェットコースターで隣の席に座った佐原と会話し、また植野は観覧車で硝子と一緒に乗り、かつての過去のわだかまりを乗り越えつつあるかに見えました。

しかし、夏休み前に、同じメンバーでいつもの水門橋で会った際、川井と植野の言い争いをきっかけに、将也と仲間たちの関係は再びこじれ、仲間同士の関係は一旦壊れかけます。

夏休みとなり、仲間で集まるきっかけを失った将也は、硝子を元気づけようと焦り、連日硝子を外に連れ出します。その過程で、硝子の母と和解する機会も持てた将也は、硝子の家族と花火大会に一緒に出かけました。

硝子は花火大会の最中、なぜか「受験勉強があるから」と先に帰宅してしまいます。結絃から、カメラを自宅に忘れたから取りに行ってくれ、と頼まれ、将也は硝子の後を追って硝子の家に戻ります。

すると、硝子はベランダからまさに飛び降り自殺をするところでした。仰天した将也は、「硝子ぉ~」と大声を上げながら、必死で助けますが、硝子を引っ張り上げた拍子に、将也自身がベランダの下に転落してしまうのでした。

落ちた将也は、しばらくの間昏睡状態となります。将也が昏睡状態の間、関係者の間で様々な葛藤がありますが、ある日吹っ切れた硝子は、もう一度、将也の不在の間、仲間との関係改善にコミュニケーションを尽くすようになりました。

ある夜、硝子はリアルな夢を見ます。その夢は将也の死を暗示させるもので、真夜中に目が冷めてしまった硝子は、直感的にいつもの水門橋のところへ。

同じころ、将也は病院で昏睡状態から目覚めます。将也も、点滴を外し、導かれるように病院着のまま病院を抜け出し、水門橋へ。

二人は、真夜中に水門橋で会い、将也は、そこでこれまで口に出来なかった硝子への謝罪の気持ちを伝え、改めて、「生きることを手伝って欲しい」と硝子に伝えます。ここで、ようやく将也は硝子に対する悔恨、罪悪感と決別することができました。また、硝子も将也の言葉を受け入れ、前向きに生きることを決意します。

そして、夏休みが終わり、文化祭。復帰した将也は、硝子と将也の学校の文化祭に行きますが、そこで仲間たちから再び受け入れられ、ようやく真の意味で自分を取り戻す喜びを感じます。

ここで、映画は終幕となりました。

5.見終わっての感想(※ネタバレ注意)

映画「聲の形」は、主人公の将也の視点でストーリーが進んでいきます。主人公の将也が小学生の際に負った「罪悪感」「自己嫌悪」といった一種のカルマ的な心のキズと少しずつ向き合っていく中で、それに触発された仲間たちもそれぞれの自分の心の課題と対峙するようになります。

物語を通して丹念に描き出されるのは、徹底したキャラクター同士の生々しいコミュニケーションと、その難しさです。時に、負の感情をむき出しにし、醜く顔をそむけたくなるような言葉遣いや仕草で、お互いのわだかまりやエゴ、本音を直接相手にぶつけ合うのは、原作同様でした。

不器用でもいいから、ストレートなコミュニケーションを重ねて、お互いに認め合い、自分自身に赦しを出すことでしか、本当の意味で自分自身の心を癒やすことはできないのでしょうね。重たい心のキズに向き合い、自死を選ぶ直前まで追い詰められながら克服した将也、硝子の強さが印象的でした。

6.映画のみどころ・伏線など(※ネタバレ注意)

みどころ①:原作とのストーリーの違い

一番大きな違いは、原作で丹念に描かれた「文化祭」での映画撮影企画が全省略されているところと、将也が昏睡状態に陥っている際に描かれたサブキャラクター達の過去と向き合うサイドストーリー、原作終盤の学校卒業後の後日談の箇所がそれぞれカットされたところです。

次に、原作では殴り合いのシーンや言い合いのシーンは全体的にやりすぎな位生々しさが際立ち、人間の醜い表情もきっちり描き出されていましたが、若干その表現は全体的に抑えめとなっていました。原作ではたびたびヒール役として登場する小学校の担任、竹内先生の持つ「大人のいやらしさ」全開のシーンも全カットでしたね。

また、原作では主要キャラ8名を丁寧に描き分けていましたが、映画では時間の制約上、佐原、川井、真柴あたりは描ききれていない感じでした。

これらは、全7巻の内容を2時間少々に詰め込む中で、致し方ないところではありました。しかし、全体としてのストーリーの流れや、作品のテーマ、世界観はきっちり保持されていたかと思います。不満を覚えるほどの違和感はありませんでした。

みどころ②:なぜ硝子は唐突に自殺しようとしたのか

原作の時から謎だったことですが、このたび、最終回答が、「聲の形公式ファンブック」原作者、大今良時氏から語られました。

硝子は自分のせいで壊したものを、ずっとカウントしています。自分のせいで親が離婚した。じぶんのせいで妹がいじめられた。自分のせいでクラスの雰囲気が悪くなった。自分のせいで佐原さんも学校に来なくなった。ぼんやりと「死にたい」と考えながら、そのカウントを積み重ねていたんです。[・・・]そうして将也と再会するわけですが、やっぱり彼と友達の関係を自分が壊してしまい、カウントと死への想いが甦り、橋の上で「やっぱり死のう」と決断してしまう・・・

つまり、ずっと自分の心の中では「死」を意識しており、直前に起こった事件により「自分がいると周りが不幸になる」と再認識してしまって、死を選ぼうとしたということですね。唐突な判断ではなく、以前から考え続けていた結果の行動でした。

みどころ③:「いじめ」や「聴覚障害」ではなく、「コミュニケーションそのもの」を描いたストーリー

これも、公式ファンブックやインタビューにて原作者が語っていることですが、「いじめ」や「聴覚障害」はあくまで設定であり、主題を強調するためのモチーフに過ぎないのです。実際、見終わって「やっぱりいじめはいけないな」「聴覚障害って大変なんだな」という感想にはならなかったのではないでしょうか?

それよりも、自分の犯した(と思っている)罪や罪悪感、伝えられなかった気持ち、コミュニケーションの難しさや、それらと傷つきながらも必死で対峙する主人公たちの心の動きに感動させられるはずです。

「君の名は。」が男女の体の入れ替わりというわかりやすい古典的な設定を使いつつも、決してそれに甘えずに、男女のすれ違いや思いを届けることの難しさをメインテーマに据えていたのと同じですね。良い映画は、安易な設定に頼り切ったりはしないということですね。

みどころ④:表裏一体、合わせ鏡のようなふたり

主人公の将也と硝子は、象徴的に表裏一体の存在として描かれていましたね。二人の共通点を挙げてみると、かなりあることに設定の妙を感じます。

・名前に「しょう」がつく。
・互いに、母子家庭の出身である。
・共に自己評価が低く、加害者意識が強いため、常に自己嫌悪に陥る。映画全編を通して二人はなんども「ごめんなさい」と痛々しいほど謝るシーンが多い。
・物語序盤で将也が自殺を試みれば、終盤で硝子が飛び降りようとする。
・物語序盤で将也が硝子をいじめれば、その後将也がいじめられる側に回る。

このあたりは、原作者が意図的に敷いた設定・伏線だと思いますが、調べればさらにまだまだあるのだろうと思います。

みどころ⑤:京アニの安定した作画のクオリティ

「けいおん!」「たまこまーけっと」の監督を務め、若いながら着実にステップアップしてきた山田監督の下、その作画は主要キャラからモブキャラまで、高レベルのクオリティだったと思います。

また、背景の作り込みも見事でした。何度も描かれた「鯉のいる水場の風景」やクライマックスの花火のシーン、場面転換時に時折挟まれる道端の草花などが印象的でした。

みどころ⑥:主題歌「aiko/恋をしたのは」もストーリーとよくマッチしていた

どこで流れるんだろう?と思ったら、最後の最後でしたね。余韻が残る中、心に残る印象的な曲でした。


aiko-36th SINGLE 『恋をしたのは』9.21 OUT

7.岐阜県民は必見?聖地巡礼企画も!

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今回、「聲の形」のアニメの舞台となった水門市のモデルは、岐阜県大垣市。その大垣市は、聖地巡礼ツアーをやる気満々です。

すでに始まっていますが、9月2日~10月2日にかけて、専用アプリ内で用意された大垣市内のチェックポイント全てにチェックインが完了すると、抽選でオリジナルグッズがもらえるらしいです。詳しくはこちら。

スタンプラリー専用アプリダウンロードページ | 聖地巡礼マップ

また、事前にすでに主要な聖地を回ってきた地元ブロガーさんのブログエントリもありますので、紹介しておきますね。映画の舞台そのもので、すごく行きたくなりました。

8.まとめ

原作に比べるとストーリーは単純化され、わかりやすくデフォルメされていますが、感情表現は映像・音声で強化された分、かなりのインパクトがありました。最初から心打たれるシーンが沢山出てきて、泣き所だらけです。

原作を見た人、見てない人でそれぞれ少しずつ感想は違ってきそうですが、ハイレベルな作品であることは間違いありません。原作が良いと、素直に作り込めば自然に良い作品になりますね。西宮硝子役の早見沙織の演技も、素晴らしかったです。

明日以降、2周目を早々に行ってきたいと思います。聖地巡礼もしてみたいな~。

それではまた。
かるび

おまけ:2周目を楽しむためのマンガ・公式ガイドなど

Kindleは、9月17日現在、期間限定で1巻のみ購読無料となっています。原作は2015年の「このマンガがすごい2015・男編」で第1位となったとおり、クオリティは言うまでもなく高いです。後半部分、映画では省略された「映画作り」や文化祭後の後日談も味わい深いですよ。

まとめ買い用のリンクです。ご活用ください。全7巻なので、早ければ半日あれば読み終わると思います。

小説も発売されました。上下巻での上巻が出たばかりですが、映画やマンガとは違った媒体で作品を味わうことで、今作のテーマ「コミュニケーションの難しさ、伝わらなさ」をリアルに味わうことができるかもしれませんね。

大今良時氏みずから、原作のポイントやコンセプト、伏線や設定の詳細についてを語り下ろした、ファン必携の書です。事実上の答え合わせのようなものですね。映画では省略された描写も含め、2周目を楽しむなら、欠かせない資料だと思います。連載前の「読み切り」バージョン(2013)、新人賞応募バージョン(2008)も収録されています。

こちらは、原作ファンのブロガーさんが、連載時から毎週感想や分析をブログに書いていた文章をご自身でまとめられたKindle本です。分析や読みのレベルが非常に深く、ファンサイドから本作を分析したリソースとしては、随一の出来です。公式ファンブックと合わせて読めば、映画がさらに楽しめます。Kindle Unlimited指定となっています。

大今良時のデビュー作。冲方丁の同名の原作SFアクションを、複雑な世界観を壊さず忠実に描ききった佳作です。えげつない表現は少年誌のレベルを越えているような気がしますが、聲の形でハマった人は、読んで損はないと思います。心をえぐり取るような激しい感情表現は、このデビュー作から遺憾なく描きこまれています。

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