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半跏思惟像にまたも長蛇の列か?!ほほえみの御仏展@東京国立博物館に行ってきた

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かるび(@karub_imalive)です。

6月21日から、日韓国交正常化50周年記念と銘打たれて、日韓両国を巡回して公開されている仏像展「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像ー」展に行ってきました。結構印象深かったので、ちょっと書いてみたいと思います。

0.興味を持ったきっかけ

個人的な話になりますが、僕の亡くなった祖父は、生前、零細出版社を経営していました。今はもう残念ながら倒産してしまったのですが、昭和高度成長時代、まだカラー写真印刷が珍しかった頃から、カラー写真を取り入れた図鑑や美術・風景などの学術系写真集を得意としていました。

そんなわけで、僕が小さい頃は、自宅や実家の書棚には、大量の祖父の出版社で出した本がストックされて飾られていました。軽く1,000冊以上はあったかなと思います。

中でも祖父が大事にしていた本が、「中宮寺半跏思惟像」が表紙になっている大型本の写真集で、いつも本棚の目立つところにおいてあったのです。

幼い時によく目にしていた日常風景っていうのは、本当に記憶に残っているものですよね。その写真集を見るたびに、「なんで笑いながらこの仏像寝てるんだろう」と不思議に思っていたものです。今回。そんな中宮寺の半跏思惟像が実際に上野に来るっていうので、これは見ておかないとな、ということで行ってきた次第です。 

1.混雑状況と所要時間目安

さて、東京国立博物館・国宝・仏像・日本美術・・・と言えば、ちょっと美術展に通い慣れている人なら、なんとなく「混雑」というキーワードが頭に浮かんでくるかと思います(笑)

実際、過去の「阿修羅展」「皇室の名宝展」「長谷川等伯展」などはアホみたいに混雑しましたし、今回もどうなるのでしょう。

・・・と思って出かけたのですが、大江戸線を降りて、上野公園を横切り、公園奥の噴水前あたりに来た所で、すでに博物館のゲート前に遠巻きに列をなしているのを遠巻きに発見!!うわー、若冲展の時みたいになっちゃうの?!このアメなのに!!

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一瞬、引き返して別の日に出直そうかと考えたのですが、先日の若冲展が、結局会期の後半になればなるほど混雑がひどくなっていったのを思い出し、意を決して雨に打たれながら渋滞の最後尾に取り付くことにしました。

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そんなわけで軽く憤りながら軽くツイートでグチをこぼします。

で、傘に隠れてよく見えなかったのですが、どうしてゲート前で渋滞しているのかというと、手荷物検査が実施されていたからだったようです。

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まぁ仕方がないですね。日韓の国宝だし、特に何か爆発等取り返しの付かないことになったら、時期も時期ですから、政治問題に発展しかねない。おとなしく並ぶこと10分で、ゲートを通過。手荷物検査は結構厳しかったですよ。アイドルやタレントのコンサートでよくある、形だけのカバンチェックじゃなくて、金属探知機も導入した、空港並みの厳重なチェックです。

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で、コレを抜けると、渋滞は解消。正面の「日本館」1Fの特別展示室へ直行します。平日の午前中だったから、修学旅行生が多かったのが印象的でした。

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入り口です。写真撮影はここまで。特別展示室内は、当然写真撮影禁止です。f:id:hisatsugu79:20160623093609j:plain

2.「ほほえみの御仏展」のコンセプト

冒頭でも書きましたが、今年は日韓国交正常化50周年。これを記念して、古代における日韓の文化交流の象徴である「仏教伝来」をテーマに、日韓両国での仏像「半跏思惟像」を比較展示した企画展です。

すでに、先行して5月24日~6月12日の会期で、韓国国立中央博物館にて「特別展:韓日国宝半跏思惟像の出会い」展として、韓国側の展示が完了しています。20日間の会期で46,000人の動員実績でした。

韓国国立中央博物館
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展示は、本当にシンプルで、特別室に、2つの仏像が向かい合ってガラスケースに入って置かれているだけです。余計なものは何もありません。もう、仏像をしっかりと見ていってくださいね、ということですね。

昔、ドラクロワの絵が来た時も「えっ、これ1枚かよ(笑)」と思いながら長蛇の列をなしたものですが、今回もそれくらいの希少性はあると思います。是非、穴のあくまで見つめて行ってください(笑)イメージ図としては、こんな感じ。

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3.展示されている日韓の半跏思惟像

3-1:韓国国宝第78号 半跏思惟像

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制作地は不明。制作年は、朝鮮半島の三国時代(高句麗、百済、新羅)である6世紀後半頃に鋳造されたと見られています。韓国では、国宝を第◯◯号、と数字で管理しているのですね。

像高83.2cm、座高52.3cm、台座30.9cmと非常に小ぶりの仏像でした。日本の中宮寺の仏像の半分くらいの大きさです。なんと木彫りではなく金銅像。非常に高い鋳造技術を持っていたことがわかります。頭には宝冠が乗り、詳細なデザイン、洗練された天衣などの表現は、王室のお抱え彫師によるものだと言われています。

3-2:中宮寺 半跏思惟像

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これに対して、日本側の半跏思惟像です。奈良の飛鳥地方、法隆寺のちょうど隣にある古刹「中宮寺」に安置されている弥勒菩薩像です。韓国の78号より50~100年後の制作で、7世紀後半くらいに制作されました。

像高126.1cm、座高87.9cm、台座高79.6cm。仏像としてはよくある大きさでしょうか。78号と見比べると、1.5~2倍位の大きさに見えます。

頭頂はおだんご頭で、2つに髪を結った古代のヘアスタイルです。木造で、漆塗りのため黒光りして、時代の経過をあまり感じさせません。よく見ると、体の一部に彩色がしてあったり、昔は装身具も身にまとっていた形跡があります。止利仏師の2代後くらいの彫師が複数のクスノキ木材をつなぎ合わせて制作しました。

飛鳥時代の近畿地方では、当時良い石が採石できず、その代わりに木材は豊富に産出していたことから、木材で作られたと言われています。

4.半跏思惟像のルーツと日本伝来の経緯って?

半跏思惟像(はんかしゆいぞう)とは、右脚を左膝の上に組んで座り、右手を頬に添えて物思いにふける仏像のことを言います。日常風景でも、テスト中とか電車の中で寝てる人とかたまにこんな格好してますよね・・・。f:id:hisatsugu79:20160623115516j:plain

(引用元:ほほえみの御仏 二つの半跏思惟像 × 聖おにいさん

本来は、出家前の釈迦が修行中に思い悩むところを表現した姿勢としてインドから伝わってきました。敦煌莫高窟や、雲崗石窟寺院などでは、釈迦そのものを表わす石像としてデザインされました。

しかし、仏教朝鮮半島に伝わった段階で、当時信仰が盛んだった弥勒菩薩信仰と合体し、朝鮮では弥勒菩薩として半跏思惟像が制作されるようになります。

仏滅から56億7千万年後にこの世に救世主として顕現する弥勒菩薩が、人々の救済を願い、思い悩むポーズがちょうど半跏思惟像にぴったりだったので、イメージを重ねあわせられたのだと言われています。
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ところで、6世紀後半は、朝鮮半島は百済・新羅・高句麗の3国が相争う戦乱の時代でした。日本書紀によると、劣勢だった百済の聖明王は、新羅に何とか対抗するために、日本へ仏教伝来・指導と引き換えに日本に軍事支援を要請しました。西暦577年、造仏工、造寺工が1名ずつ百済から来日しています。

日本史の教科書にも出てくる「止利仏師」(鞍作鳥)が、この時来日した百済の仏師から必死に学び、制作した、日本における第一世代の仏像が、法隆寺釈迦三尊像や、飛鳥寺の飛鳥大仏です。見てもらえればわかりますが、この2体は顔の表情が、「国宝78号」と似てるんですよね。

法隆寺釈迦三尊像
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中宮寺 飛鳥大仏
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また、7世紀には、今度は新羅が日本との軍事交流のため、広隆寺に仏像を送ってきています。(623年、日本書紀による)これが、通称、「宝冠弥勒」と呼ばれ、日本の国宝第1号に指定された広隆寺の半跏思惟像です。*1

広隆寺 宝冠弥勒
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これが、同じく旧新羅統治エリアから発掘された韓国国宝第83号とソックリなんですよね。頭の宝冠の形や、下半身の天衣の表現など。見比べてみてください。

韓国国宝 第83号
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このあたりからも、飛鳥時代当時の、仏教伝来における朝鮮半島と日本の強い結びつきを感じられますよね。こうやって丹念に歴史と合わせて見ていくと本当に勉強になるし、面白いです。古くからの友人としての日韓の友好を記念としたテーマとして、ぴったりだったかなと感じました。

5.まとめ

あれこれブログに書きましたが、日本美術は、特に「現地に行って」実物を見てくるのが一番だと思います。中宮寺や広隆寺はまぁ京都奈良に行けば今後も見る機会はありますが、韓国の78号のほうはこれを逃すと非常に実物を見るのは難しいです。

僕も、子供の頃からずっと写真集だけで見てきた、中宮寺のおだんご頭の半跏思惟像を初めてリアルで見て非常に感銘を受けました。幼い時の記憶通り、優しい微笑みをたたえた仏様で、ちょっと嬉しかったです。優しい顔をした中性な体躯をした仏像は本当に魅力的でした。会期も短いですから、是非時間を作って足を運んでもらえるといいと思います。

おまけ1:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

今回ブログで紹介したネタは、実は展示会がスタートする直前、6月15日にNHK総合で放送された「日韓の国宝が海を超えた~半跏思惟像はるかな旅」での放送内容を大きく参考にしています。

今のところ、再放送予定は決まっていないようですが、オンデマンド等でチェックすると、さらに理解が進んで良いと思います。

また、この一部引用させてもらいましたが、「聖☆お兄さん」の特別コラボマンガは面白いので強くおすすめです(笑)東京国立博物館もなかなかやりますね。

おまけ2:同時開催の「特別展 古代ギリシャー時空を超えた旅ー」もおすすめ!

このあと、ほほえみの御仏展の左奥の「平成館」で6/21から開催されている古代ギリシャ展に行ってきたのですが、これがかなり良かったです。東洋の仏像とはかなり趣は違いますが、同じく古代ギリシャ時代の貴重な展示物が何と大量325点も展示されています!!ほんと、1日で回りきれないくらいの充実展示でした。

ほほえみの御仏展自体は、10分程度で見終わっちゃいますので、その後本館の常設展示を見るもよし、古代ギリシャ展に回るのもよし、どちらでも面白いと思います!

それではまた。
かるび

*1:※ただし、最近の研究だと材質などから日本で作られた可能性もあるとのことです。


大迫傑、日本選手権5000m、10000m 2冠達成&リオ代表内定おめでとう!

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(引用:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160624-00000185-nksports-spo.view-000

かるび(@karub_imalive)です。
陸上ファンの上半期を締めくくるイベント、日本選手権が終わりました。その初日と3日目、陸上日本選手権10000メートルと5000メートルで、無冠のスピードランナー、大迫傑がとうとうやってくれました!2012年に初挑戦して以来、5年越しでつかんだ日本選手権初優勝。長距離2冠です。

ここ数年リアルタイムでテレビ観戦していましたが、毎年悔しがる大迫を目の当たりにしてきたので、今回の完全勝利は格別だったんじゃないかなと思います。

そして、こちらは日本陸連のリザルトと公式動画。

さて、陸上長距離は、ここ20年位の低迷が象徴する通り、年末の箱根駅伝以外では、全く注目されないマイナー競技であり、朝刊各種を確認していましたが、扱いはケンブリッジ飛鳥や福島千里に大きく及ばず・・・。今回取り上げる大迫だって、3000mと5000mの日本記録保持者ですよ?!(笑)

であれば、一陸上長距離ファンとしては、それならブログに書いて残しておきたいな、と思い、今回、エントリを残しておきたいと思います。このエントリでは、以下大迫傑の苦節5年間の日本選手権での戦いについて、少しまとめて書いてみたいと思います。

個人的な長距離陸上への思い

大迫の話に入る前に、少し自分語りを。
僕は、まったく走れないくせに、わりと熱心な陸上長距離ファンなのです。学生・社会人を問わず、春~夏はトラックシーズンをウォッチし、秋~冬は駅伝とマラソンを欠かさず見ています。(見るだけです、本当に走るのは全くダメ/笑)

この6月24日~26日までは、そんな陸上長距離ファンにとって、2016年前半戦のハイライトとなる日本選手権が行われました。

陸上の日本選手権は、毎年、6月中の金土日3日間で行われます。たいていの年は、何らかの世界選手権などの前哨戦と位置づけられることが多くなっています。事実上、春・夏のトラックシーズンのフィナーレを飾る試合で、季節柄、かなりの高確率で雨の中の競技となるのが特徴です。競馬で言えば宝塚記念みたいな感じ。野球で言えば、オールスターのようなものでしょうか。

長距離ファンは、その中で、特に3000m障害、5000m、10000mに注目することが多いのですが、その中で、10000mといえば、特に秋冬シーズンでフルマラソンや駅伝でエース級の活躍をする実力上位の選りすぐりメンバーが出場してきます。

特に、今年の出場選手21人は、ほぼ全員が箱根駅伝の経験者でもあり、毎年のエース格として、学生時代から長く活躍をしてきたエリート選手が揃って出場していました。去年、「新・山の神」として騒がれた神野大地選手も出ていましたね。

そして、この2016年大会は、1ヶ月後に控えたオリンピックの前哨戦として、非常にハイレベルな戦いが予想されました。

結果、勝ったのは、今日このエントリで取り上げる大迫傑(おおさこすぐる)。5年越しの日本選手権勝利は、5000m、10000mと文句なしの2冠でした。ようやく、勝てました。長かった・・・。

2012年:挑戦1年目(2位)

大迫が日本選手権の10000メートルに初挑戦したのは、早稲田大学3年生となった2012年。参加即優勝候補として注目されましたが、ラストスパートで、日清食品の佐藤悠基に地力の差を見せられ、2位となります。

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勝負は、最後のバックストレートで決着しました。先行する佐藤悠基選手に、最後のラストスパートで追いすがりますが、逆に佐藤選手にさらにスパートされ、わずか0.4秒差で敗れます。百戦錬磨の社会人に、経験・実力とも及ばず、見た目のタイム差以上の実力差を感じさせる敗戦でした。結果として、ロンドン五輪代表の座も逃してしまいます。この時のひと目もはばからない大迫の悔しがり方は、ぐっとくるものがありました。クールな大迫にしては珍しい光景でした。

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(引用:日本選手権総括 | 早稲田スポーツ

2013年:挑戦2年目(2位)

前年で佐藤の後塵を拝し、捲土重来を期してさらにトレーニングに励んだ翌年。1月2日の箱根駅伝では、1区で見事区間賞。確実にパワーアップして臨んだ日本選手権10000メートルでした。

しかし、またしても佐藤悠基の前に敗れ去ります。通称「コバンザメ走法」とも揶揄されることもある佐藤悠基のラスト200メートル勝負に持ち込まれます。一瞬のキレ味に劣る大迫は、またも佐藤悠基に惜敗。2年連続2位となりました。

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佐藤悠基は、優勝後のインタビューで「最後の100メートルで決めてやるというつもりで、絶対に前に出ないようにしました。プラン通りだったと思います。」と述懐しています。王者佐藤悠基の心憎いまでの余裕でした。

2014年:挑戦3年目(2位)

大学を卒業し、実業団選手として競技を継続することになりました。奇しくも、大迫が選んだ社会人チームは、前年まで2年連続で惜敗中の佐藤悠基も所属する日清食品。佐藤とチームメイトとなったのでした。

そして、迎えた2014年の日本選手権。またも10000メートルの舞台で、佐藤悠基との3度目の対決となります。大会開始前から、下馬評は2012年、2013年に続いて、やはり佐藤、大迫の2強チームメイト対決であろうと言われていました。

絶対王者である佐藤は、この年から年齢的にもマラソン練習を本格的に始めており、そのスピードにも陰りが見えてきたところでした。そろそろ大迫にもチャンスがあるだろう、今年こそ大迫が逆転するかもしれない、と言われていました。

しかし、フタを開けてみたら、佐藤悠基の鉄壁のコバンザメ走法の前に、またしても敗れ去ります。3連敗。一瞬の切れ味に劣る大迫は、ラスト1周半でロングスパートをかけますが、佐藤にぴったり後ろにつかれてしまいます。結果、やはりバックストレート手前で佐藤にかわされ、またも無念の2位となったのでした。

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2015年:挑戦4年目(2位)

日清食品のチームカラーは、どちらかというと「個」の力を尊重する傭兵軍団みたいなプロチーム。社会人2年目となった大迫は、徐々に国内から海外へとトレーニングの拠点をシフトしていきます。

学生時代からたびたびゲスト参加していたナイキ社が、アフリカ勢に対抗できる長距離陸上選手を強化育成する目的で立ち上げた、「ナイキオレゴンプロジェクト」へ正式参加することになり、2015年3月には、日清食品を退社します。

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(引用:大迫傑、まだ見ぬ先へ。 | onyourmark MAG

アメリカに移住し、最高のコーチや、ラップ、ファラーといった世界的な選手と競い合える最高の環境の下で、5000mや10000mといったトラック競技に絞ってスピードの強化に努めました。

奇しくも、4度目の対決となるか?と思われていた佐藤悠基は2015年より本格的にマラソンへ転向していました。そして、調整が遅れていたこともあり、佐藤は直前で10000mを回避することになります。

一方で、大迫も直前の海外試合転戦での疲れが溜まっており、本調子とは言えない状態でした。日本選手権直前に日本に戻ってきますが、5000m、10000mのダブルエントリーは体力的に厳しい状況でした。大迫は、熟慮した結果、10000mには出場せず、2015年は5000m1本で勝負することになります。

参加選手の持ちタイムや、佐藤の不出場により、今年こそは大迫に栄冠か?!と思われていた2015年でしたが、そこに、思わぬところで伏兵が現れました。

その伏兵とは、2015年に城西大学を卒業し、将来の長距離界を嘱望されていた村山兄弟の弟、村山紘太です。

社会人1年目に、長距離の名門、旭化成に進んだ村山は、同年5月、同社本拠地延岡市で開催された「ゴールデンゲームズのべおか」5000mにて、日本人史上6人目となる13分20秒を切る好タイムを叩き出し、好調を維持したまま、この日本選手権にピークを合わせてきていました。

対して、大迫は前走を回避するなど、調整が100%上手くいっていませんでした。大迫に対して現役時代ほとんど勝ったことがなかった村山は、日本選手権での雪辱を密かに狙っていました。

勝負は、最後のバックストレート。切れ味に劣る大迫は、残り1周半でロングスパートをかけますが、村山を振り切ることができません。そして、最後の直線で追いつくと、一瞬の切れ味で勝る村山は、残り200mで並び、ゴール前で一気に抜き去りました。競馬で言うと一瞬の末脚というやつです。

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そして、最後は、大迫に対してこれ見よがしな「昇竜拳」のおまけ付き(笑)どんだけジャンプしてるんですか・・・。村山は余程嬉しかったのでしょう。大迫はこの5000mで派遣標準記録も満たすことができず、世界選手権の出場権も逃してしまったのでした。

そして、2016年・・・

オレゴンプロジェクトでいよいよ勝負の年となる2年目となりました。2015年7月に、海外試合にて、それまで松宮隆行が長年保持していた5000mの日本記録を一気に5秒近く縮める13分08秒台を出すなど、ますますキレが増した2016年。今回は調整も上手くゆき、5000mと10000mの両方にエントリーしました。

まずは10000mから。

そして、日本選手権初日。19時48分に定刻通りスタートした10000mで、とうとうやってくれました。中盤以降、設楽悠太(ホンダ)、村山紘太(旭化成)との3つ巴の争いとなりますが、設楽・村山が残り5周(約8000m地点)で早仕掛け気味に足を使ってしまいます。恐らく、地力に勝る大迫を意識した早仕掛けだったでしょう。

ライバルの戦略ミスも重なり、他選手にスパート余力がなくなる中、大迫が残り1周半となったところで満を持してロングスパートをかけると、今年は村山についていく余力はもうありませんでした。

終わってみると、2着の村山に10秒近くの大差をつけてゴールイン。圧勝でした。5年越しの悲願の優勝と、オリンピック代表を自力でつかんだ記念すべき瞬間となりました。

つづいて、5000m。

初日にデッド・ヒートした村山紘太が欠場し、鎧坂哲哉も調子が上がらない中、ライバルらしいライバルが不在な感じのレースに。

序盤から設楽悠太が飛ばすも、3000m過ぎに一昨日の疲れが残っているのか後退していきます。代わって、上野裕一郎や大六野秀畝が入れ替わりトップを走るそのすぐあとくらいの3番手付近を終始キープ。

残り500mとなったところで、ロングスパートをかけると、あっさりと抜けだして勝利を確定。後方で上野や大六野、一色などもゴール寸前で盛り返すも、時すでに遅く、2位争いとなりました。そして、最後は少し流し気味にゴールイン。

疲れも残っており、万全の状態でない中、地力の違いを魅せつけた感じになりましたね。オレゴンプロジェクトでの成果が遺憾なく5000mでも発揮されました。

まとめ

早稲田大学に在籍した時代から、世界を見据えて積極的に海外へと転戦を重ねていった大迫傑。間違いなく、日本陸上長距離界のパイオニアであり、野球で言うところの野茂みたいな存在です。

日本人選手の中では、特に3000、5000、10000といったトラック競技においては実力No.1であると目されていた大迫でしたが、この日本選手権だけは、鬼門でした。その日本選手権を、5年越しにつかんだ勝利。これは非常に大きかったと思います。

あくまで、これは通過点に過ぎませんが、是非リオオリンピックでは、ケニア、エチオピア勢の上位独占状況に風穴を開け、存在感を示してほしいな、と思います。

大迫、おめでとう!リオでも応援します!!

それではまた。
かるび

「ミケランジェロ展 ルネサンス建築の至宝」@パナソニック汐留ミュージアムに行ってきた

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かるび(@karub_imalive)です。

汐留地区といえば、日本テレビ、電通、パナソニック、ソフトバンク、日本通運等々、名だたる会社の本社の高層ビルがあるわけですが、今日はそんな汐留に月曜日の昼から突撃してきました。お目当ては、パナソニック汐留ミュージアムで開催されている、「ミケランジェロ展 ルネサンス建築の至宝」展です。少し感想を書いてみたいと思います。

0.無職になってから初めて来た真昼の新橋(笑)

会社員だったときまでは、スーツで頻繁に出入りしていた東新橋の汐留地区。そんなサラリーマンのメッカみたいな汐留地区に、月曜日の昼間からプライベートでうろうろして、優雅に美術館に入っちゃうなんて不思議な感覚であります。

特にこのパナソニック汐留ミュージアムは、サラリーマン臭い場所であります(笑)すぐ下のフロアには白物家電の展示スペースがあり、ミュージアムと同じ空間に商談スペースがあります。美術館に来る客と、パナソニックに商談で来る営業が同居する不思議な空間になっていました。

フロア内にも、パナソニックの社員さんが普通に展示を見てたりして、こんなところでさぼってていいのかな(笑)なんて思いながら展示を見ていました。あれ、やっぱり社員ならタダなのかな。

1.混雑状況と所要時間目安

パナソニック汐留ミュージアムの展示スペースは、どちらかというと小~中規模クラスのコンパクトな展示場です。今回も、ミケランジェロの建築系の素描を中心として80点くらいの展示でした。所要時間は、1時間あれば回れるでしょうか。

平日昼間に行ったのですが、混雑はありませんでした。テーマもわりと専門的ですし、レア絵画や彫刻の出展もないので、恐らく土日含めて混雑はしないと思います。

中の雰囲気としては、こんな感じ。(※別のサイトから映像お借りします。)

2.鉛筆とバインダーの貸し出しがありがたい!

音声ガイドの貸出はなし。ただし、1点1点の展示に非常に詳しい解説のホワイトボードがつけられているので、問題ありません。うれしかったのは、口前に鉛筆が「自由にお使いください」とあり、学習者やブロガーには優しい配慮。

そして、僕がB6のメモ帳片手に書きにくそうにしていると、案内のお姉さんが声をかけてくれて、バインダーを貸してくれました。ありがたいことです。おかげでメモ書きがはかどりました。いろいろと、オリンピック公式スポンサーだけあっておもてなし精神ができているようです^_^

3.ところでミケランジェロって誰なの

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ミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)は、16世紀のヨーロッパで、彫刻・絵画・建築全てにおいて驚くべき才能を発揮し、数多くの優れた作品を遺した大芸術家です。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロと並んで、ルネサンスの3大巨匠と呼ばれ、非常に長命でした。

性格は気難しく、誇り高き天才職人とも形容されます。制作物について、常にわがままなオーダーを出す教皇に一歩も引かず、自己主張をしたと言われます。日本で言うと千利休みたいな人なわけです。ダヴィンチとは仲も悪かったし、作業場に見学にきたラファエロを「俺の芸を盗むな」と言って追い返したらしい(笑)

代表作は、システィーナ大聖堂の天井画「創世記」と、障壁画「最後の審判」、それから彫刻では「ダヴィデ像」などです。本人の中では、本職は彫刻家であり、絵画や建築には得意意識はなかったといいます。

創世記f:id:hisatsugu79:20160627232241j:plain

展示会では、ミケランジェロが「俺は画家じゃないんだ!天井画を描くときに、上を見過ぎてて腰が痛い、首が痛い」と友人に弱音を吐いた直筆の手紙が展示されており、これは何気に必見です。ブツブツ文句を言いつつも、手を抜かず最高傑作を仕上げてしまう職人魂が感じられ、感慨深い手紙でした。

 

最後の審判
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4.ミケランジェロの「建築」に焦点を当てた展示会

さて、今回は、そんな天才ミケランジェロの芸術の中でも、特に「建築」について、焦点を当てた展示会でした。とは言っても、建築についての展示会の場合、まず、現物そのものを展示会に持ってくることが非常に難しいので、展示方法に工夫が必要となります。

例えば、ひたすらバーチャルな映像で「建物」自体を紹介する手法などは有効です。先日試写会に行ってきた、7月2日公開の映画「フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館」では、ルネサンス期のフィレンツェの建物、建物内のデザイン、彫刻などを、ドローンを飛ばしてレアな角度から撮影したり、最新の4K映像技術を活用して、よりリアルに写しだしたりする工夫がなされていました。 

今回は、それに比べると文書中心で、一見するとわりと地味な展示会です。しかし、建物の設計書となるミケランジェロが描いた「素描」や「デッサン」、あるいは本人の手紙や、周辺資料が丁寧に展示されており、落ち着いていてよかったと思います。

5.デッサンは全ての芸術の基本

一番多かった展示物は、「デッサン」や「素描」となる、建物のデザイン案でした。通常の絵画展などだと、デッサン類などはいわゆる下書き的なものとして、さしみのつまのように脇役的な展示が多いような気がしますが、今回の展示会では、これらが主役です。

ルネサンス期では、「彫刻」「絵画」「建築」等は、親方や師匠が経営する工房単位で貴族や教皇などからの発注に対応していました。そこで、各工房で一番大切とされたのが、こうした「デッサン」でした。特に、建築や彫刻の場合は、「デッサン」は単なる下絵ではなく、そのままそれが「制作指示書」となっていたケースも多かったようです。

また、親方や師匠を中心として、徒弟制度により工房が経営されていた当時、こうした師匠が描いたデッサンは勉強のため非常に貴重な資料であり、中には貸し借りにあたって、有料で賃貸料を払ってまでも勉強させてもらっていたケースもあったようです。

ミケランジェロ本人も、親しくない外部からのデッサン拝借依頼を度々断り、自分の重要なパトロンである懇意にしている貴族や、弟子にだけ素描を譲り渡すなど、デッサン類を非常に大切にしたそうです。

残念なのは、本人が亡くなる前に、手元にあった素描類は全部自分で焼き捨てたらしいということ。現存する約600点のデッサンは、他人の手などに渡り、焼却を免れたものを後日彼の子孫たちがかき集めたもので、その最大のコレクションが、彼の名を冠したカーサ・ブオナローティ美術館に所蔵されています。今回の素描・デッサン類はそのカーサ・ブオナローティからの出品が大半となりました。

6.ミケランジェロが実際にデザインに関わった建築物たち

ミケランジェロは、長命だったこともあり、生涯を通して実に12名の教皇に仕えました。(というか教皇早く死にすぎ・・・)そのたびに、あれやこれや造れ、改造しろ、やめろと指示され、振り回されるのですが、本当によく頑張ってそれらの要求に応えました。

展示会で紹介されているフィレンツェ、ローマでの沢山の建築物のうち、特に気に入ったものをいくつか紹介しますね。

6-1.ラウレンツィアーナ図書館(フィレンツェ)

ミケランジェロが関わった建築物の中で、一番重要な建築物と言われています。メディチ家出身のクレメンス7世の発注により、1524年に設計開始、1571年に建築が完了しています。特に、この天井部分のゴージャスなデザインや、広々とした図書スペースが印象的でした。

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図書閲覧コーナー。広々としていて気持ちよさそう。f:id:hisatsugu79:20160627183948j:plain

ミケランジェロが設計した天井部分のデザインf:id:hisatsugu79:20160627190753j:plain
(引用:フィレンツェガイド日記

6-2.カンピドーリオ広場と建築物(ローマ)

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この広場床面の幾何学模様や、左右対称の整然としたルネサンス期のデザインが印象的でした。後に、昭和の大建築家、丹下健三がつくばセンタービルを作った時に、このカンピドーリオ広場の床面から着想を得て、オマージュとしてデザインに取り入れたそうです。

6-3.サン・ピエトロ大聖堂(ローマ)

ルネサンス期になり、老朽化したからリニューアルしよう!ということになって、建築設計競技(今で言う企画競争入札みたいな)で選ばれたブラマンテが、着手中に亡くなってしまい、後継として指名されたラファエロも急逝し、最後の頼みの綱としてお鉢が回ってきた案件。今で言うとさしづめ炎上案件の火消し役といった感じです。ミケランジェロの胸中はともなくとして、彼はこれに晩年のエネルギーをほぼ全部注ぎこみ、財政難の中、実に17年間も無給でやりきってしまいます。

サン・ピエトロ大聖堂f:id:hisatsugu79:20160627191132j:plain

ドーム天蓋部分の、ミケランジェロがやり直した設計部分f:id:hisatsugu79:20160627191146p:plain

 

6-4.プラート門要塞化計画(フィレンツェ)

1529年、神聖ローマ帝国のカール5世とローマ教皇クレメンス7世(メディチ家出身)が手を組み、フィレンツェへ侵攻しました。その際、ミケランジェロは教皇側ではなく、市民側につきます。市民側から、フィレンツェを守る要塞建設のプロデュースを依頼され、これに応えました。

クレメンス7世の仕事もメディチ家の仕事も一杯受注していたにも関わらず、フィレンツェ愛が爆発し、彼はローマを捨てて一旦故郷へ戻るわけであります。ミケランジェロの設計した要塞は、よく持ちこたえて難攻不落でした。

しかし戦争終結後、また何事もなかったかのように、ローマに戻ってクレメンス7世の仕事をやっているあたり、なんだかよくわからないですね・・・。
プラート門(現在)f:id:hisatsugu79:20160627193351p:plain

(引用:プラート門フィレンツェ

プラート門要塞 設計図面
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(引用:プラート門の要塞のための習作

7.まとめ

美術史家としても有名な同時代の画家、ヴァザーリは、「美術家列伝」にて、ミケランジェロに最高位の格付けと賛辞を送っています。絵画・彫刻・建築と、その土台となる素描技術全てに優れ、なみいる美術家たちの頂点に君臨する「神の如き」と表現しました。

僕は、これまで西洋絵画・日本絵画を中心に(というかそれしか見えてなかった)美術展に通ってきました。焼き物や彫刻、建築物、写真、デザインなどはまだまだこれから勉強中、というところだったので、今回のテーマは「天才」ミケランジェロを通してルネサンス期の建築物に触れてみるいい機会となり、個人的には非常に勉強になりました。

しかし、こういった建築物については、やっぱり展覧会に行ったからには、是非現地で見てみたいなぁと思うわけです。つくづく、ローマ、フィレンツェは街全体が美術館っていうのがわかりますね。ローマ、フィレンツェに近いうちに旅行に行く人は、逆にこういう展覧会を見ておくといいかもしれません。会期は、8月28日(日)までです。

それではまた。
かるび

PS
同時期のフィレンツェの建築物、ミケランジェロの絵画、彫刻が美しい映像で見れる映画です。合わせて見ると理解が進むと思います! 

ブログは大好きなんだけど、書き出すまでにうだうだしてしまう優柔不断なくせをなんとかしたい

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かるび(@karub_imalive)です。

最近長大エントリばっかりなので、今日は日記のような記事を短くアップしますね。

会社をやめて2ヶ月目に突入しました。退職してから、予定通り、毎日図書館や美術館、博物館、落語会などに通いながら、主夫業にも精を出す毎日です。仕事してる時よりなんか忙しいぞ(笑)

そして、このブログ。サバティカル期間中に見聞きしたことは、極力ブログでアウトプットしよう!と決めました。逐一こういったパブリックの場にアップすることにより、学びの定着を図りたいという思いがあるからです。

 

でも、これが、なかなか筆が進まないんですよね。目下、それが悩みであります。

 

ブログでのアウトプットを、ムリやり擬似的な「仕事」とみなすと、セミリタイア生活下での唯一の仕事はブログを書くくらいのものなんですが、この2ヶ月でアップできた記事はわずかに20件程度。す、すくない・・・。会社辞める前とペース変わってないじゃないか・・・OTL

ブログ書くのすきなのに、なぜか取り掛かれないという。

そこで、なんで筆が進まないか振り返ってみました。

その最大の理由は、記事を書き終わるのに時間がかかるから。僕の場合、ブログを書き出すと1エントリ書き終わるのに平均5時間はかかっているんですよね。字数も平均して4500字くらいはあるから、遅筆な僕にはどうしてもそれくらい必要なわけで。

ちょっと前に新聞記事とはてなブックマークについて調査した記事を書いた時は、きちんと計ってはいないけど、少なくても10時間以上はかかっているという。。。

それがわかっているので、ブログ書きたいのに、大変そうなので取り組むのが億劫になってしまって、なかなか机に向かえないというこのもやもや感。

ブログなんて日記みたいに書けばいいじゃんっていうのはわかるんですが、書き終わったら、日記レベルじゃなくなってるんです。

なんでしょう、こんな感じの思考回路ができちゃってるんですよ。

できるだけ読まれるようないい記事を書かなきゃ →→→ じゃあ内容を充実させよう →→→ いっぱい調べ物しなきゃ →→→ 字数ももりもり書かなきゃ

みたいな感じで、書き終わった記事も大盛りになっているんですよね。人事タックル様から頂いた寄稿依頼も、2000字~3000字くらいで、って言われてるのに、できあがったら5000字超えてたりするし(苦笑)

現役で仕事してる時も、そういえば社長や専務から「お前は文章が長い」とよく言われてました。多分、同じような思考回路に陥っていたんだろうと思います。

で、書く前から長くなりそうなのがなんとなくわかっているから、どうしても筆が進まなくなって、書き出すまで余計に時間がかかっちゃう。この2ヶ月で、わりとトレンド記事に近い時事ネタをいくつか構想としてはあたためていたんですが、こんな感じでぐずぐずしてて、アップしないままお蔵入りになったのがいくつもありました。

でも、一旦書き出すと、そこそこ頭が徐々に回転しだして、書きながら書きたいことが頭に思い浮かぶので、1度に2時間程度は集中して作業できるのです。気がついたら昼飯も食べず、洗濯ものも取り込まずブログだけ書いていて日が傾いている・・・みたいな。

それで、1エントリ書き上がってから、なんだこんなことだったらもっと早くから書き出せばよかった。ぐずぐずしなきゃよかったな。と一通り後悔する。毎日が、子どもの夏休みの最終日みたいな感じになっております。

会社やめるかどうか迷いだしてから、8年も決断できずうだうだしたので、それに比べたらまだマシなのですが、この、何事にもとりかかるのが遅くてダラダラする癖、なんとかしたいものだなぁ、と特に最近思う今日このごろです。

ほんとこれ、どうしたらいいんでしょうね?
幸い、時間もあるみたいなので、これを機にもうちょっと考えてみたいと思います。

それではまた。
かるび

PS
短くと言ったのに1500字超えてた(T_T)。そして、次回エントリからまたいつもの長大エントリに戻ります(笑)

 

300点以上の充実展示!古代ギリシャ展@東京国立博物館はこの夏おすすめ!

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かるび(@karub_imalive)です。

今年からプライベートで時間ができたこともあり、頻繁に博物館や美術館など、学術系のイベントに行くことが多くなりました。上半期は多分人生40年で、一番見て回ったのではないかと思います。そんな中、上半期最後に行った展示会が大当たり!でした。

「特別展 古代ギリシャ ー時空を超えた旅ー」

2011年に国立西洋美術館で「大英博物館 古代ギリシャ展」が開催されて以来、同様のテーマでは5年ぶりとなります。最初、企画名を見た時は、「まぁ、どうせ土器とか彫刻が置いてあるだけだよね?」いまさらギリシャか~と思ったのですが、その認識は大間違いでした。

もちろん、瓶や土偶、金細工の装飾品みたいに、典型的な古代の代名詞みたいなものもあるのですが、それだけじゃありませんでした!彫像や壁画、美術品など、結構持ってくるのが難しそうなものまで、ありとあらゆる古代の遺品が、なんと充実の325点!

1回じゃ見切れないほどの大規模展で、かつ、話題性のあるトピックも散りばめられていて非常に感嘆いたしました。さすがトーハク(東京国立博物館の愛称)、いい仕事します。ということで、前置きが長くなりましたが、以下、少しレポートを書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間の目安

僕が現地入りしたのは、6月29日(水)11時30分頃でした。平日です。なぜ平日にホイホイいけるかっていうのは、こちらを見てくださいね。まだ会期も始まったばっかりだし、地味だから人も少ないだろう・・と思っていたら、意外といます!

さすがに平日昼間という時間帯ですから、高年齢者が多めですが、これは休日や夏休みシーズンになったら混雑しそうですよ!参考までに、前回5年前の「大英博物館展」では257,000人の動員がありましたが、今回はもう少し行きそうな気がします。

展示品がめちゃくちゃ多く、しかも捨て展示品みたいなのがなくて、展示品のレア度やクオリティが高いため、所要時間は最低1時間30分は必要だと思います。混雑したら、2時間は覚悟がいるかも。僕は、3時間15分かかりました。今季最長滞在時間でした。つかれた~。

※7月10日までは、同時開催「ほほえみの御仏」展での持ち物チェックが博物館ゲート前であるので、土日は入場前にさらに少し混むかもしれません。ご注意を。

2.音声ガイドは市村正親

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個人的には、ブータン展での鶴田真由のような癒し系ガイドを期待していたんですが、まぁいいでしょう。お金はかかっている感じ。音声ガイドの監修には、ポンペイの壁画展の企画者でもある芳賀京子氏なども入っていて、分かりやすくて良かったです。

音声ガイドについては、必ずしも借りなくても良かったかなっていう展示会もありますが、今回はお薦めです。非常に勉強になるガイドでした。市村さんの声はともかく、内容が素晴らしかった。余裕があれば是非!

3.古代ギリシャ展のコンセプト

f:id:hisatsugu79:20160701161330p:plain(引用:特別展 古代ギリシャ ー時空を超えた旅ー

一般的な歴史区分で、ローマ以前の「古代」とされる時代全部をひっくるめて見通しちゃおう、という展示会です。

カバーされている範囲としては、世界四大文明とほぼ同時代、紀元前6000年くらいの超古代から始まり、アレクサンドロス大王の最後の後継者であるクレオパトラのエジプトがローマに完全吸収される紀元前30年までの約8000年間です。途方もないですね・・・

また、いわゆる美術展というより、歴史・政治・風俗・文化などにも幅広くスポットライトを当てた展示なので、美術ファン以外の人も充分楽しめる内容です。

4.展示構成

平成館の2F全部を4部屋動きまわる中で、歴史の時系列に沿った展示になっています。超古代の時系列から始まり、ミノス、ミュケナイ時代~アルカイック時代、クラシック時代~ヘレニズムからローマ時代へと、部屋を進んでいきます。

その中で、ちょくちょくミニテーマとしてちょうど「演劇文化」や旬のトピックでもある「民主政全盛時代の選挙」や「オリンピック」などの特集展示もあり、粋な計らいを感じました。個人的には、もう少しプラトンやソクラテスなんかも出して欲しかったかな。

5.ギリシャの歴史や地理について

行く前に予習するとしたら、是非古代ギリシャ時代の歴史年表と、ギリシャ周辺の地図を眺めておくと、絶対に楽しめます!歴史年表は、展示会でメモした情報を元に、試しに作ってみました。うーん、勉強になるなぁ。

古代ギリシャの簡易年表f:id:hisatsugu79:20160701173252j:plain

地図は、ネットで探せばゴロゴロ出てきます。
歴史好きの方や旅行会社が作ってくれているわかりやすい古代のものが沢山あります。こうやって見ると、ギリシャって島が多いんですねぇ。今回、こちらからお借りしました。

古代ギリシャ 地図f:id:hisatsugu79:20160701173627p:plain(引用:http://www.ohjiiji.com/gr/greeceaegeatabi.html

6.特に印象深かった展示品

多すぎて書ききれないんですが、敢えて絞ってピックアップするとこんな感じかなっていうのをいくつか挙げてみました。

6-1.スペドス型女性像(BC2800~2300、後期新石器時代)

f:id:hisatsugu79:20160701145155p:plain

東洋もそうですが、古代の出土品って高度に抽象性が表現されていて、しかも個性的なデザインで。本当に飽きが来ないです。このスペドス型女性像は、例外的に大きくて迫力がありました。

ピカソやモディリアーニなどの近代の美術家たちが、この女性像からインスピレーションを得たという話ですが、まぁ確かに分かりやすく影響を受けてそうです。
モディリアーニ
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(引用:アメデオ・モディリアーニ-主要作品の解説と画像・壁紙-

スペドス型女性像に目を描き足したら、モディリアーニの絵の女性そっくりになると思うんですが・・・

6-2.牛頭型リュトン(BC1450頃、後期ミノス文明)

これは、写真で見るより小さく、サッカーボールほどの大きさでした。ですが、制作された時期を考えると驚異的な精密さです。牛を聖なる動物として崇めたミノス文化の傑作だと思います。

牛頭型リュトン
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で、これは単なる飾り物ではなく、祭祀などに実際に使われていた形跡があります。頭部に空いている2つの穴からワインや水などを注ぎ、それを喉元に開いた穴からコップなどに注ぎこんだと予想されています。

牛型リュトンの使いみちf:id:hisatsugu79:20160701160416j:plain

6-3.漁夫のフレスコ画(BC1700頃、ミノス文明)

紀元前1600年末にテラ島の火山大噴火により、一瞬で火山灰に埋もれて滅亡した都市遺跡から出土したフレスコ画。ポンペイの壁画みたいですね。驚くべきは、制作想定年月です。奇跡的に良好な保存状態からは想像もつかないほどで、何と今から3700年前の作品なんですよ!!火山グッジョブ!!その頃の日本列島は、まだ稲作すら始まっていないのですよね。これは、博物館でナマの壁画を是非見て欲しいです!

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6-4.クーロス像(BC520頃、アルカイック時代)

暗黒時代が終わり、紀元前9世紀に入ると、エジプト彫刻の影響を受けて、急速になめらかで写実的な芸術表現が発達していきます。この時期の大理石の男性彫刻像を、「クーロス像」と呼ぶのですが、今回出品されているクーロス像は、非常に状態が良いです。ふくよかな体格、自然な筋肉美など、すでにこの時代に西洋美術の基本がほぼできあがっているんですよね。その頃の日本は、弥生時代になったばっかりで、良い所土偶レベルであります。(土偶は土偶で大好きですけどね)

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(引用:http://www.asahi.com/panorama/160620greece2016/

6-5.オリンピック特集展示

展示会では、後半部分でオリンピック関連の展示品がかなり大々的にクローズアップされていました。ちょっと古代オリンピックについて、簡単に振り返ってみましょう。

紀元前776年、アテネ北方の城郭都市、オリンピアのゼウス神域にて第1回オリンピックが開催されました。ギリシャ中から代表選手が集まった第1回では、スタディオン走(約190m)という短距離走のみでスタートします。競技は、余計な衣類をつけず、全身裸で行われたと言われます。

その後、正式に以下の「5種競技」の総合得点で王者を選ぶゲームに進化していきます。

  1. スタディオン走(短距離走)
  2. 走り幅跳び
  3. 円盤投げ
  4. やり投げ
  5. レスリング

なんだか、マッチョ系の人材が有利な感じもしますが、この5種競技に、後から加わった戦車競走などをモチーフとした作品群が大量に出土しているんです。4年に1度、合計290回余りも開催される中、各地から参加した選手たちが、戦いを終えて地元に帰った際に、参加記念品を地元の神殿に奉納したからだと言われています。

ちょうど東京オリンピック開催、そして8月にリオ・オリンピック開催を控えて、非常にタイムリーな展示でした。下記のようなツボやコイン、彫刻など、様々な品が飾られています。

f:id:hisatsugu79:20160701160123p:plain
(引用:東京国立博物館 - 1089ブログ

6-6.高度に発達した民主政

今回の展示会では、「選挙」を意識したのか、偶然なのか、民主政に関連する展示品も珍しい物がいくつかありました。

ギリシャ文化が最盛期を迎えたのは、ペリクレスの指導下、西暦477年にデロス同盟が成立し、アテネが覇権を握った前後と言われています。その強固な体制を支えたのが、安定した民主政治でした。

アテネは、住民に対して、法の下の平等や、言論の自由、投票権など、現代民主国家とほぼ同様の人民の基本的な権利を保証していました。

例えば下の「陶片追放」(オストラキスモス)制度。
独裁者になる恐れがある危険人物の名前を陶片に刻んで投票し、6000票を超えた者は10年間の国外追放とする制度です。アテネ全盛期の紀元前510年頃から法制化されて70年ほど続きました。いわば変形版住民投票みたいなものでしょうか。実際にこの制度を使って、当時の為政者が追放されています。是非、M添さんにはこちらの展示品を視察していただきたいものです。私費でね^_^

実際に陶片追放で使われた「陶片」f:id:hisatsugu79:20160701155716p:plain
(引用:http://www.fashion-press.net/news/22644

そして、こちらは裁判員を選定する際の「抽選機」です。訴訟ごとは、陪審みたいな制度で抽選で選ばれた住民代表による裁判が行われていたのですよね。実際に現物を見ると、本当に感慨深いです。

裁判官を選ぶための抽選機
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6-7.アルテミス像(BC100頃、ヘレニズム時代)

古代ギリシャ文化では、男性は裸でも、女性は必ず着衣だったのが印象的でした。わりと性表現が抑制されていたのですよね。女性から衣装が取れていくのが、ヘレニズム時代~ローマ時代に移り変わる中でした。アレクサンドロス大王が征服した奔放な東方の文明と交流が進む中で、より過激で妖艶な表現に変わっていったようですね。

そのあたりも、歴史の移り変わりを俯瞰して見渡せる総合展示会ならではの気付きだったと思います。

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(引用:http://www.asahi.com/panorama/160620greece2016/

7.まとめ

さすがは国立博物館です。企画が立てられてから、6月下旬の展示会本番を迎えるまで、恐らく数年がかりで準備した大プロジェクトだったでしょう。遠く離れた現地に行かなくても、1箇所でこれだけ古代ギリシャの歴史・文化・美術品を一気通貫にリアルで見れちゃうのは、本当に凄いことだと思います。いい時代だ・・・。

夏休みの時期でもありますし、地方在住の人も、近辺に立ち寄った際は、是非検討してみてはいかがでしょうか?下期も含め、トーハクの今期展示会では今のところイチオシの展示会です!

8.今回の展示会の予習/復習に参考になる本

今回の古代ギリシャ展では、ギリシャという国の成り立ちや、考え方、またその創生期から練り上げられてきたギリシャ神話などを頭に入れた上で見て回ると、さらに理解が深まると思います。

当日の物販でも売られていましたが、昨年出版された「古代ギリシャのリアル」がイチオシ。作者の藤村シシンさんは、高校時代に「聖闘士星矢」経由でギリシャ神話にハマってから、古代ギリシャに人生を捧げることになったそうです。

そんな藤村氏が、ギリシャ神話や古代ギリシャの人々について、カジュアルにわかりやすく説明してくれる本です。労働観や恋愛事情など、現代人とはかなり違うギリシャ人の奔放な考え方に驚かされますよ。僕は展示会後に入手して読みましたが、できれば行く前に読んでおけばよかった!

9.ポンペイの壁画展(名古屋展が7/23からスタート!)

また、少し時代は下ってローマ時代(紀元1世紀)になりますが、ヘレニズム時代のギリシャ文化をそっくりそのまま受け継いだローマ時代の壁画そのものをそっくり日本に持って来ちゃった、という「ポンペイの壁画展」が、六本木森美術館にて今週末7月3日まで開催中です。これはガラガラでじっくり見れました。

もし見逃しても、このあと名古屋、神戸、山口、福岡と巡回していくので、そちらでチェックしてみてもいいですね。

  • 2016年7月23日(土)~9月25日(日)名古屋市博物館 
  • 2016年10月15日(土)~12月25日(日)兵庫県立美術館
  • 2017年1月21日(土)~3月26日(日)山口県立美術館 
  • 2017年4月~ 福岡市内の美術館(現在検討中)

それではまた。
かるび

江戸絵画を堪能したいなら、山種美術館へ行こう!~開館50周年で所蔵コレクションを豪華展示中~

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かるび(@karub_imalive)です。

暑くなってきましたね。ここ最近、3日おき位にせっせと美術館通いに勤しんでいるんですが、こう暑いと美術館にたどり着くのが大変です。都心といっても、美術館は閑静な住宅街の中にあったりと、結構駅から歩かされることもあるからです。

昨日7月3日は、2016年では東京で初の猛暑日。35度を超えるうだるような暑さの中、駅から15分苦行をこなして、山種美術館の「青い日記帳✕山種美術館 ブロガー内覧会」に行ってきました。死にそうになってたどり着いたら、美術館の中は、キンキンに冷えた砂漠のオアシスみたいなところでした(笑)

今日は、そんなブロガー内覧会の様子を少しレポートしたいと思います。

1.山種美術館ではブロガー向け内覧会を強化中

美術館や博物館で「内覧会」というと、通常は展示会会期前や、夕方以降の閉館時間帯に行われる、マスコミや研究者などの、いわゆる「関係者」向けの特別イベントのことを言います。映画の試写会みたいな位置づけだと思ってもらえれば。

日本国内の展示会では、作品保護やビジネス上の配慮から、通常展示会では写真撮影等が厳しく制限されることが多いですが、こういった内覧会では、一定のルールの下、ある程度の写真撮影が許可されます。

今年に入って精力的に美術展回りとブログ記事での感想をアップしている中で、なんとかならないのかな~と思っていたのが、この「写真撮影禁止」というルール。だって海外などではほぼ最近はオール撮影OKなわけですよね。

もちろん、趣旨は理解できるのですが、ブログを書く際にどうしても自分のお気に入りの作品などの画像がないと、雰囲気が上手く伝わらないことがあるんですよね。

そういう時は、色々なWebサイトから写真をお借りするのですが、でもやっぱりブログ書いている限りは、自分で撮影した写真を掲載したい!「あぁ、この写真さえあればしっかし紹介できるのになぁ」と地団駄を踏んだケースが結構ありました。

その点、山種美術館では、情報拡散の目的のためにマスコミ向け以外で、ブロガー向け内覧会を定期的に開催しています。ここ最近は、美術系ブロガーの大御所、Takさんとコラボした企画を行っており、今回、Takさんのブログ経由で応募して行ってきた次第です。

2.山種美術館について

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(引用:http://www.yamatane-museum.jp/

山種美術館は、東京の広尾にある、日本画専門の私設美術館です。1966年に開設され、今年で開設50週年を迎えました。そして、その所蔵する作品群は名品揃い。創始者は、昭和の戦後、米事業等で大成功した、株式会社ヤマタネの創業者、山崎種二氏です。苗字の「山」と名前の「種」を取って「ヤマタネ」ですね。

この美術館は、一般には、明治~昭和期の近現代日本美術に強みがあるとされていますが、実は、江戸絵画も結構強いんです。このあたりのニュアンスは、昨日の内覧会で、山崎館長より説明いただいたエピソードが面白かったのでちょっと紹介します。

種ニ氏は、絵画を集め始めた最初期に、酒井抱一の絵画を購入したそうです。まだ米問屋の小僧をしていた10代の頃に抱一の絵に惹かれ、自分も財をなした後は抱一の絵を床の間で愛でるような主人になりたい!という強い思いを持ったことがきっかけでした。

結果、米相場で大成功し、念願の酒井抱一の絵を手に入れるのですが、それが後でニセモノを掴まされたと判明。それ以来、「今現在同時期に生きている人の作品なら間違いは無いだろう」ということで、一旦は江戸絵画収集をやめて、速水御舟や竹内栖鳳、小林古径らの近現代作品収集へとシフトしていきます。

しかし、美術品を買い集めていく中で、やはり彼の思いの原点である「江戸絵画」への思いは捨てきれなかったらしく、コツコツと収集する中で、結果として江戸絵画においても、今の非常に良質なコレクションが出来上がりました。

実際、昨日の内覧会で見た江戸絵画群は見事なラインナップでした。開館50周年ということもあり、所蔵する江戸絵画のベストメンバーが出てきた感じです。最近江戸絵画にハマっている初心者クラスの僕でも、その凄さがすぐわかるくらいでした。

3.開館50周年の記念特別展を実施中

現在そんな山種美術館では、開館50周年を記念して、来年4月まで以下のように、記念コレクション展を全4回にわたって開催予定となっています。全力で出し惜しみなく作品を出してくれると思いますので、期待しましょう。(詳細はこちらへ

え、僕ですか?もちろん皆勤する予定です!

・絵と絵画への視線ー岩佐又兵衛から江戸琳派へー
 2016年7月2日(土)~8月21日(日) ただいま開催中
・浮世絵 六代絵師の競演ー春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重ー
 2016年8月27日(土)~9月29日(木)
・日本画の教科書 京都編 ―栖鳳、松園から平八郎、竹喬へ―
 2016年12月10日(土)~2017年2月5日(日)
・日本画の教科書 東京編 ―大観、春草から土牛、魁夷へ―
 2016年2月16日(木)~4月16日(日) 

4.今回見てきた内覧会

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さて、今回参加した内覧会はコレクション展第1弾、「山種コレクション名品選Ⅰ 江戸絵画への視線 ー岩佐又兵衛から江戸琳派へー」ということで、浮世絵以外の江戸絵画をたっぷりと楽しめる内覧会でした。

内覧会は、17時30分スタート。主催者のTakさんの挨拶で始まり、1時間たっぷりかけて、学芸員の三戸さんによる、ディープでマニアックな解説を拝聴しました。

内覧会の様子f:id:hisatsugu79:20160704204521j:plain

そして、19時からは、1Fの喫茶スペースで、オリジナルの和菓子をいただきながら、あらためてTakさんのトークコーナーと質疑応答。最後は、館長さんからの告知とご挨拶で、19時30分にお開きとなりました。

Takさんプレゼン中。僕は座席で和菓子を頂き中
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あっという間の2時間で、学芸員さんの充実解説は聞けるし、お菓子はいただけるし、写真は撮り放題だし、すばらしいブロガー向け内覧会でした。他の美術館もこういう取り組みをもっとやってもらいたいものですね・・・

5.展示の見どころ~若冲展の次ならこれ~

先日の「伊藤若冲展」で初めて本格的に日本絵画を見た!という人も結構いるかと思います。では、その後どう取っ掛かりを作っていけばいいのか?

僕の考えは、ずばり「江戸絵画にはまれ!」です。

比較的若冲と類似した作風の画家が多く比較検討しやすい、江戸中期以降の「江戸絵画」を流派別、年代別に一気に俯瞰してチェックする中で、お気に入りの絵師を見つけるのが一番だと思うのですよね。

しかも、江戸絵画はまだ新しいので、絵も傷んでなくて見やすいのもストレスがなくて良いです。(室町以前の絵画は、もう茶色くなって劣化しているのが多くて見るのがしんどい物も多い)

ということで、次のセクションからは、今回の展示会で、特に気に入った作品を、幾つか紹介しますね(僕の撮った下手くそな写真で/笑)

6.特に印象的だった作品

点数はそれほど多くないですが、大物の屏風絵を始めとして、1点1点かなり突っ込んで見ていきたいものが多かったです。

6-1:伊藤若冲「伏見人形図」(無所属)

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若冲展を見た人は気づかれた方が多いと思いますが、若冲は意外と作風が幅広いのです。細密な動植物の絵図「動植綵絵」シリーズを始め、超絶技巧なイメージが強い若冲ですが、意外にも力が抜けたユーモアたっぷりの絵画もたくさん手がけているのですよね。

伏見人形は、土粘土をこねて作る「土人形」なのですが、これを表現するために、若冲は「筆使い」ではなく、顔料に混ぜ物をするなど、素材を工夫することにより人形の質感を出そうとしました。これは当時では画期的なことだったそうです。若冲が「奇想」の画家と呼ばれるゆえんですね。

6-2:酒井抱一「飛雪白鷺図」(江戸琳派)

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華やかできれいな図柄、虫や鳥が何気にかわいいのが特徴の「琳派」ですが、18世紀には後継者不在により、一旦下火になっていました。

しかし、そこで中興の祖が出ます。酒井抱一です。始祖である尾形光琳・乾山に私淑し、同時に彼らの研究者でもありました。自ら、江戸で「尾形光琳没後100周年記念展示会」などを企画しつつ、自らも絵の才能を遺憾なく発揮して秀作を連発、琳派を再び盛り上げていきます。「天は二物を与えず」とはいいますが、酒井抱一には、プロデューサー、研究者、画家と3つくらいの才能があったんですね。

僕も、酒井抱一は大好きで、江戸絵画の中ではダントツに一番好きです。飽きが来ないんですよね。絵の前で何時間でもお茶とか飲んで佇んでいたい感じ。

この冬の図柄、「葦と鳥」の図を抱一はいくつか残していますが、恐らく得意なパターンだったんだろうなって思いました。ちょうど同時開催中の出光美術館「美の祝典」展でも同様の構図の絵画が出展されています。

6-3:酒井抱一「秋草鶉図」(江戸琳派)

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同じく酒井抱一の屏風絵。秋草にうずらが戯れていますが、このラグビーボールのような謎の物体は一応は「月」であるとされます。でも月であるならば、弦の向きが反対なのはなぜなのか、そこはまだ研究中とのことです。個人的には、もうちょっと高い所に持ってきたほうがいいんじゃない?って思うんですが、、、。UFOみたいですよね。

6-4:岸連山「花鳥図」(円山四条派)

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孔雀と鶴がゴージャスな、二艘の屏風絵の大作。円山応挙を始祖とする写実的な作風である、円山四条派の流れをくむ画家です。純粋に絵のリアルな迫力と、上品で幻想的な構図にしばらく見惚れてしまいました。

6-5:池大雅「指頭山水図」(文人画)

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文人画とは、元々は、職業御用絵師達の描いた「院体画」に対して、教養人たちが自らの教養を示すための「余技」としてたしなむものとして中国で発達しました。その中国に習い、日本でも江戸中期頃より、京都・江戸や有力諸藩のいる各地方にて、教養人を中心として流行します。教養人同士で詩歌や手紙と一緒に絵を送り合ったりしたわけです。ヒマですよね、江戸の知識人って・・・

池大雅は、その中でも、職業専業画家として文人画(南画)を大きく世に広めた第一人者です。同じく文人画家だった与謝蕪村、写実的な絵画で一世を風靡した円山応挙、そして現在ブレイク中の伊藤若冲らと同時代に京都で活躍していました。この「指頭山水図」は、「指墨」「指画」とも言われ、手の指先や爪、手のひらなどを駆使して描かれた超絶技巧的作品です。・・・しかし画像だと伝わらないな~。

6-6:山本梅逸「白衣観音図」(文人画)

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山本梅逸は、19世紀に三河・尾張で活躍した文人画家です。彼らは、京都・江戸だけでなく、各地の有力藩のお膝元でも活躍しました。恥ずかしながら山本梅逸については、今回の展示会で初めて知ったのですが、個人的にかなり気に入りました。

ネットで調べたのですが、今ひとつ有力な資料や過去の大規模回顧展の記録なども見つからず、どうしたものかと思っていたのですが、購入した図録で、日本美術の大家、山下裕二教授が

「さらに、山本梅逸、椿椿山、日根対山、冷泉為恭などの作品は、これまで研究者にすら公開される機会がきわめて乏しかったから、今後、本展を景気に研究が進展することを期待したい」 

と書いているくらいですから、まだまだ埋もれてる(?)画家なんじゃないかと。若冲のように、我々が積極的に見つけてあげないと?って思いました。この観音様を描いた筆使いとか、ふくよかで中性的な感じとか、すごく良いと思うのですが、どうでしょうかね?

6-7:山本梅逸「桃花源図」(文人画)

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山本梅逸をもう一丁。こちらは、遠く引いてみた時に、桜のピンクの発色がすごく綺麗で、ホントに150年前の作品なの?とマジマジと見てしまいました。美術館の保管もよかったのでしょう。春先でまだ寒さも残る中、割と控えめに咲いている桜と遠景の山、そして川の流れが構図的にも美しいなと感心しきりでした。

7.まとめ

江戸絵画は、比較的状態のよい作品が多く残っていますし、中期以降は特に諸派入り乱れ、本当に見応えのある作品が物凄く多いです。19世紀後半に入ると、流出した日本画がパリで「ジャポネスム」として大流行。近代西洋絵画に大きな影響を与えました。

今回の山種美術館の50周年記念展では、第一弾は江戸絵画、第二弾は浮世絵の所蔵コレクションが一挙大放出して展示される予定です。共に、中身が濃く凝縮された展示会です。江戸時代の各流派の大家たちの代表作品に一気に会える良い機会なので、この夏は是非山種美術館に出かけてみてくださいね。僕も、さんざんこれからリピートしたいと思っています。

それではまた。
かるび

Twitterはブロックされたけど、ちきりん「未来の働き方を考えよう」はすごくいい本だった

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かるび(@karub_imalive)です。

僕は、前職が人事労務系の仕事でした。今度復職する際もその系統がいいなぁと考えているので、離職中の現在でも、読書の際は一定量、人事労務系の本を読むようにしています。

最近は、近くに大型書店がないので図書館で片っ端から借りているのですが、人事・採用系の本って、内容の陳腐化が早いのですよね。

法制度の変更や人材市場の需給変化の速さから、僕の感覚としては、平均で約3年程度で内容が古くなってしまい使えなくなってしまいます。

そんな中、これは!という当たりがありました。それが、今日紹介させて頂く、ちきりん著「未来の働き方を考えよう」です。

出版年月は2013年6月と、約3年が経過していますが、その主張内容は全く陳腐化していません。むしろ3年前よりも本書の主張の重要性は益々高まっているように感じました。

あ、過去の経緯から、はてな界隈の人たちには評判が悪いことは知ってますよ。僕も、特に心当たりもないのに、なぜだか本人からTwitterでブロックされているから、わからなくはないです(笑)

しかし、この「未来の働き方を考えよう」は個人的なもやもや(あんま気にしてないけど)を吹き飛ばしてしまうくらい良い本でした。

1.未来の働き方=「人生は二回生きられる」

ちきりん氏が主張する、「未来の働き方」とは何なのか。実は、サブタイトルにこそ端的にこの本の結論が示されています。すなわち、

「人生は二回生きられる」

「人生は二回生きられる」とはどういうことなのか。それは、長い人生の中で、一度はキャリアをリセットすることを念頭に、人生を柔軟に考えてみようという提案です。

医療の発達による長寿化と、労働者人口減少による老齢年金の受給開始年齢の高年齢化により、これからは、より一層長期間働かざるを得なくなる。

例えば、大学を卒業して22才。そこから、年金受給がスタートする70才前後まで、約50年間も働かなきゃいけないわけです。60才で隠居していた昭和高度成長時代に比べると、10年近く労働期間が伸びるわけです。

年功賃金、終身雇用がガッチリ噛み合い、誰しもが右肩上がりの高度成長を実感できた昭和時代ならいざしらず、これだけ不確定要素が高まった時代に、「一生御社に骨を埋める所存です!」といった単線的なキャリア志向は成り立たない。

超長距離走となってしまった労働生活だから、自分の好きなところでどこかで休みを入れられるようにしよう、一旦休んで、また働けるような、そんな柔軟なキャリアを目指そうよ、、、という提案ですね。

2.やりたいことは「いつか」ではなく「今」やる!

では、意図的にキャリアをリセットして、何をやるのか?

それは、「人生で本当にやりたいことをやる」です。

60、70になってから、やりたいことが100%やれるか?というと、どうでしょうか?結構怪しいですよね?老化は誰にも平等に訪れ、そして誰も免れることはできません。

月1、2回美術館に通ったり、たまにバスで団体旅行に行くくらいなら、充分年老いてからも対応できます。でも、70才でトライアスロンができますか?スキューバダイビングができますか?登山ができますか?ということなんです。

やりたいことは、「今」やらないとダメなんです。

そして、本書でその基準、分水嶺とされるのは40才。
40才を境に、体力はピークアウトしていく一方で、様々な成人病のリスクは逆に上昇していくわけです。「老い」が本格的に始まるのですよね。だから、心身ともに若さをキープできる健康なうちに、いちどキャリアをリセットし、やりたいことをやる時間にあてなさい!というのが本書の趣旨です。

3.取りうる方向性のいくつかのパターン

では、「キャリアをリセット」し、やりたいことをやる時間を効果的につくりだすにはどうしたらいいのでしょうか?最終的には、一人ひとり状況や課題が違うので、細かい処方箋は自分で考えるしかないでしょう。その代わり、本書ではいくつかのおおまかな方向性や考え方のフレームワークが提示されています。

3-1.間欠泉的キャリア

市場ニーズの多い分野で就職することで、多少のブランクが空いても強烈な需給ギャップから、再就職の不安なくリフレッシュが可能となります。例えば、医療・介護系の仕事です。給与条件はともかくとして、今後高齢化が進む日本において、超売り手市場が継続することが目に見えています。こういった業界では、何年か働いたら、数ヶ月休みを取る、といった間欠泉的キャリアが可能になる、というわけです。

3-2.支出を抑え、ミニマムに暮らす

一生懸命働き、よりたくさん稼いで、より豊かな生活を目指す、という従来の常識と真逆の考え方を採るということです。必要生活費をできるだけ抑え、働く期間を最短化することにより、やりたいことをやる時間にあてる。「収入を増やす」から、「支出を減らす」へと発想転換を図れ、ということです。

3-3.ゆるやかな引退=プチ引退

40代までは普通に働き、それ以後の第二の人生で、ゆるやかな引退=自分スタイルの働き方に移行してみては?という提案です。例えば、今あなたが35才なら、あと5年~10年は仕事を頑張り、その後はやりたいことに合わせて、徐々に引退へとソフト・ランディングしていく、という考え方。ちきりん氏は、それを「プチ引退」と命名し、プチ引退には以下のパターンがあるといいます。

パターン1:半年だけ働く「シーズン引退」
パターン2:週に2、3日働く「ハーフ引退」
パターン3:好きな仕事だけ請ける「わがまま引退」
パターン4:夫婦でひとり1年ずつ引退する「交代引退」

このパターン別のプチリタイア案は構想としては良いんじゃないかと思います。すっぱりやめるのではなく、一部労働負荷を下げて、空いた余暇にやりたいことをやる。両取りでいいかもしれません。

そういえば、今の我が家のパターンは、まさにパターン4=「交代引退」状態であります。数年前に妻が育児出産中は、1年半ほど産休育休で会社を休職していました。今はフルタイムに戻り、代わって僕が離職中であります。

4.ちきりん氏の実体験に基づく体を張った提案

ちきりん氏のブログが批判される原因として、しばしば「アイデアはいいけど根拠が伴ってない」「思いつきでものを言っている」と言われますが、この本に限っては、それはあてはまりません。

なぜなら、今回の主張「人生をプチリセットして、やりたいことも都度やっていこうぜ!」という考え方は、まさに彼女自身の半生での試行錯誤から生まれた結論だからです。本書のP138には、こう綴られています。

実は私自身も、40代後半に働き方を大きく変えました。大学を出た後、日本の証券会社と米系企業に勤務し、20数年にわたって、資本主義の最先端のような場所で働いていました。[・・・]仕事自体は楽しく、やりがいも感じていましたが、40代になる頃には、「この働き方を今後20年も続けるのは、必ずしも自分の望んでいる働き方じゃない」と考えるようになりました。

その理由として、①加齢による体力の限界、②仕事への飽き、③両親との触れ合いの時間確保、④趣味のための時間と、大きく4点示した上で、このように締めくくります。

でも、今までの働き方を続けていたら、それらをすべて経験することは不可能だったのです。こうして次第に私は、40代の間にひとつめの働き方を終え、その後は別の仕事、別の働き方に移行するのも、ひとつの選択肢だと真剣に考え始めたのです。

なるほど。ちきりん氏が、独身で行動の自由が比較的取りやすい、という事を割り引いて考えたとしても、外資系優良企業でのゴージャスな給与やステータスを放りだして、「ちきりん」という一ブロガーになってしまうのは、やはり相当葛藤があったと推測します。

少なくとも、本書で「煽られている」と感じるようなことは一切ありませんでした。真摯に本音が綴られていると思います。

5.心配なら徹底的にモデルケースを調べよう!

・・・とは直接本には書いてないんですが、ただ、本書の結論部分でも「自分の生きる道を見つける力は、能力の高低や家庭環境の善し悪しには全く無関係」と書かれています。僕も全く賛成です。

そして、それをどう実現するかについては、必ず先人に類似するケースが見つかるはず。心配なら、徹底的にキャリア事例を調べることです。ネット上でも本でも、いくらでも先進的な生き方をしている人が見つかるし、その成功/失敗事例も手に入ります。

心のカンフル剤として一時的に高揚するためではなく、そこから学び、自分自身に活かすために徹底的に調べるのです。そこから先は、ちきりん氏の仕事ではなく、自分自身のタスクですよね。

6.まとめ

この本は、これからの生き方やキャリアに悩みを抱えている全ての人に幅広く役立つ可能性を秘めています。「未来の働き方を考えよう」と問われているので、決して手取り足取り教えてくれるわけではありません。考え方の方向性や、フレームワークをインプットしてくれるに過ぎないわけです。いわば、「こんなキャリアの考え方はどうですか?」という抽象化された提案レベルであります。

それでも、直線的な従来型キャリアしか見えていなかった人には、大きな問題提起となります。そして、本格的にダブルワークや早期引退を考えている人には、その戦略立案の大きな助けになる本です。

決して甘くはないのですが、何度も読み返すと自分自身に気づきが起こる良い本でした。わけもわからずツイッターをブロックされているからといって、ブコメが書けないからといってメゲること無く、虚心坦懐に読み込んでみました。本当に、良い本でした。ブロックされてなきゃなおよかった(笑)

そんじゃーねっ!!
かるび

大規模システム開発案件のデスマーチは、どうしてこんなにつらいのか

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かるび(@karub_imalive)です。

この春までSI業界にいたので、たびたび大型システム開発案件の大規模炎上を見てきました。そして、ここ最近はみずほ銀行のシステム統合案件が厳しいようです。

2012年頃からスタートし、一昨年くらいからヤバイんじゃないの?と言われていた案件がどうも最終局面な感じになってきているようですね。

規模的に見ても、大きすぎて後戻りできないっぽいので、カネと時間がいくらかかっても最後までやりきるしかなさそう。しかし、みずほ社内オトシマエとしてたくさんの悲しい人事異動が発令されることでしょう・・・。(まぁ、今回はソースがまとめサイトやマイナー雑誌の抄訳なので、詳細については続報を見守りたいところですが・・・)

さて、プロジェクトの炎上にも色々ありますよね。大きい案件なら数千人規模から、小案件なら2~3人規模のプロジェクトまで、規模を選ばず、炎上するときは炎上するものです。

僕は、都内の中小SIerにて、最初はSEとして、次に営業・採用として、残念ながら炎上した案件に多数関わってきましたが。中でも、大規模プロジェクトでの炎上、デスマーチほどキツいものはなかったです。今日は、このエントリにて、なにがどうキツくて、どう対処すればよいのか、簡単に思うところを書いてみたいと思います。

1.大規模案件の炎上案件は、入場時から燃えかかっている

大規模案件であっても、プロジェクト序盤は、多くても100名程度の比較的少人数でスタートします。プロジェクトが増員され、一気に数百名~数千名体制になるのは、1次請やコンサル会社が要件定義・基本設計あたりまで完成させ、いざ開発工程に入ろうかとなるところからです。

開発工程で一気に工数を積んで、大規模化するわけです。順次、2次請、3次請、4次請・・・といった会社が、順次体制を作ってピラミッド状に集まってくる。つまり、現在のSI業界の最大の課題である、多重下請構造をそのまま体現したような体制になるわけです。図にすると、こんな感じ。

大規模システム開発体制図f:id:hisatsugu79:20160706144319j:plain

そして、大規模案件で規模が拡大するのは、開発工程以降から。顧客とのシステム要件整理や基本設計の入り口くらいまでを1次請企業や、コンサル会社でやってから、開発工程全般を、いくつかのブロックに分けて2次請企業に発注します。さらに、2次請企業は3次請へ案件を切り出し、3次請は4次請へ・・・(以下繰り返し)3次、4次となってくると、プロジェクト現場へ人を派遣するイメージですね。

結果として、大規模システム開発案件にかかわる大半のメンバーは、開発工程以降を担当することになります。

しかし!

デスマーチが発生する案件は、前兆があります。開発工程が始まる前からすでに燃えかかっているんですよね。発注側と1次請にて最初に立てたスケジュール案が、はやくも微妙に遅れている。

本来なら、ここで仕切り直すチャンスです。開発に入る直前で、さっさとリスケして立て直せばいいんです。でも、積極的にはリスケされません。それは色々な大人の事情が絡みあうからです。

例えば、すでに株主総会等で投資計画が発表済みなので、経営陣はスケジュールを動かしたくない。また、リスケとなると予算追加=コスト増から、発注者側にて誰かが責任を取らなければならない。誰も責任は取りたくない。・・・と言った事情から、遅れが出ていても、当初のマスタースケジュールのまんま下位工程で強引に挽回を図ろうとする力学が働きやすいのです。

2.大規模案件のデスマーチはなぜ特につらくなるのか

同じデスマーチでも、大規模案件と中小規模案件では、つらさの質が違います。個人的な経験からは、大規模案件のほうがより数倍キツかった。なぜなら、中小規模案件の場合は、自己への学び・コミュニケーション面でのやりやすさ・継続取引の可能性、といった面で、将来につながる可能性があるから。ちょっと簡単に対比表を作ってみました。

大規模案件と中小規模案件のデスマーチの違いf:id:hisatsugu79:20160706151342j:plain

中小規模案件は、自社案件だったり、お客さんと近い立ち位置で仕事をするため、案件が燃えた場合は、責任はキツいですが、全体像が見えている分、まだわかりやすいのです。何がダメでやり直しとなるのか、お客さんは何を望んでいるのか、どうリカバリーすればいいのか、比較的プロジェクト末端にいても把握しやすいです。

したがって、タスク量から残業・徹夜が発生するにしても、目的がハッキリし、ゴールがつかみやすいので、まだ何とか頑張れます。また、キツいですが、リカバリーで回したPDCAなどから、得られる経験は大きい場合もあります。

それに対して、大規模案件でデスマーチに突入した場合は、基本的に消耗するのみです。何が起こっているのか把握できないまま、方向感・目的感がない終わりなき残業に突入していきます。そして、立て直せないままバッドエンドまで一直線となるのが特徴です。

特に、大規模案件のデスマーチでの問題となる事項を挙げてみます。

2-1:物理的な作業環境が劣悪になっていく

大規模案件でデスマーチが発生すると、とにかく増員につぐ増員となるわけです。開発スペースがすぐに足りなくなります。しかし、1次請or発注元企業に、ゴージャスに新規開発スペースを借りる体力はすでに残っていません。

すると、既存の開発スペースに無理やり長机を持ち込んで、ぎゅうぎゅうで仕事をしたり、倉庫や使ってない汚い会議室に押し込められたりします。

また、往々にして駅から遠く、通いづらいところに行かされたりして、通勤がきつくなる。また、急造環境なので、ネット環境がなかったり、貸与されるPCがなくて、自前で機材持込、とかもよくあります。新浦安とか幕張とかお台場の奥の方とか、遠いしホント勘弁して欲しい

僕がこれまでに見た一番劣悪な環境は、営業として担当したT芝、某特◯庁案件の開発スペース。現場を訪問してみたら、部屋は汚いし、ボロボロの長机に、室内人口過多で、変な匂いがしていました。ネットは接続禁止。また、冷房が壊れ気味で部屋の中は夏でもないのに灼熱地獄。風邪を引いている人も多かったです。あれはヤバかった。すぐに撤退しました。

2-2:何の作業をしているのか全体像が見えない

大規模案件が炎上した場合、今現在担当している作業が、一体何のために行われているのかサッパリわからなくなることがあります。例えば、発注元→1次請→2次請→3次請→僕の会社(4次請)とかだと、情報が錯綜し、全体像も不明、目的も不明。多重請負の下の方だと、情報が落ちてこないので、リーダーすら把握していない事が多いです。何をやっているのか見えない時、非常に不安になります。

2-3:しかし、単純作業は山のように山積・・・

それでも大規模案件の厳しいところは、山のようにモジュールがあって、詳細設計書や単体テスト仕様書、エビデンスなども膨大な量があるということ。山のような単純作業をひたすらオーバーワークで1日中こなすのは、本当につらいです。1日中JUNITとか1日中コピー取りとか、いい年してなにやってるんだかと思いましたよ。

新入社員の時期ならまだしも、何年もキャリアを積んだ後でも、こういう前座修業的な単純作業は、学びにもならず「あー、何をやってるんだろうなぁ」と非常に焦りが出てきます。

2-4:そして、意味不明なやり直し

それでも、何とか割り当てられた工程を消化して、提出しますよね。「あー、おわったー」と安堵していたら、次の日には、上位工程での設計ミスや仕様変更が入り、もう一度また最初からやり直しが判明。大抵は、多重請負構造の中でのつまらないコミュニケーションミスや、人間関係の悪化から来るコミュニケーション不足が原因です。PMOとかがいても、炎上局面では機能せず、お構いなしにひっくり返りますから。

そして、先週1週間かけてひたすらシコシコ書いた詳細設計書が、全部ゴミ箱行きとなった時の徒労感。これは半端ないです。

現役時代は、よく、「あぁ、賽の河原のようだ・・・」と思っていましたが、こういう局面でモチベーションが一気にダウンしていきました。

3.プロジェクト終了後の退職者が続出する

そうはいっても、大規模案件のデスマーチは、たいてい突然の終わりを迎えます。全員のモチベーションが下がりきり、目が死んだ所で大抵は最終局面だったりするものです。やりきって終わり、ではなく、1次請が白旗を上げちゃったり、開発自体が中止・凍結になるんですよね。

しかし、エンジニアの心はこれで晴れるわけではなく、ここで精神的に痛手を負った人は「自分をプロジェクトに参画させた」会社側に不満が向いていきます。日本人エンジニアはおとなしく責任感が強い人が多いので、プロジェクト中はじっと我慢しますが、プロジェクト終了とともに、退職したり、あるいは転職活動を開始したりするケースが多々あります。

僕も、エンジニア→採用・営業となってからは、デスマーチ終了後に沢山の社員を残念ながら送り出してきました。

4.唯一の対策は、大規模SI案件は燃えそうなら手を出さない

孫請け以下、開発工程から入った場合、一担当者がプロジェクトを建てなおすことは到底不可能です。だから、一番の対策は、君子危うきに近寄らず。会社としてデスマーチ案件に参画しないことです。

事前打ち合わせ時点できな臭さを感じたら、たとえ空き工数となったとしても、別案件を探したほうがいいでしょう。すでに参画してしまっているのなら、極力早いタイミングで撤退を図るよう会社に働きかけることだと思います。営業担当と相談し、契約延長をしないことです。

まとめ

大規模案件がデスマーチとなった場合、何が一番つらいか、というと、単純に業務負荷があがることではないのですよね。いつ終わるのか分からない不安、何をやっているのか理解できないもどかしさ、こういった要素が確実に精神を蝕んでいきます。

その中で、現場の雰囲気も、フィジカルな環境面も悪化していきます。エンジニア側にも会社側にもまったくメリットがありません。最終的には、関わった会社も社員もみんな疲弊し、退職者や病気が続出しますから。

残念ながら、現在の日本のSI業界の構造で、大規模案件でのデスマーチを避けるには、消極的ですが「早逃げ」の一手しかない、と思います。慢性的なエンジニア不足の状況下、敢えて火中の栗を拾わなくても良いかと。他にもいい案件はいっぱいありますから。

それではまた。

かるび

 


大好評で混雑中!大妖怪展@江戸東京博物館はこの夏超オススメの美術展でした!

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※文中の各写真は、主催者の許可を得て掲載しています

【2016年7月18日更新】休日、大混雑中!
かるび(@karub_imalive)です。

先週日曜日、江戸東京博物館にて開催されている「大妖怪展」に行ってきました。会期が始まってまだ最初の土日で、しかも雨だったので、まぁ余裕で入れるだろうとタカをくくっていたら、思ったより熱気が激しく、早くも大混雑していました。

ある程度人が入りそうだなと思っていましたが、出足も好調で、これはこの夏休み、盛り上がりそうな展示会になりそうです。大人から子供まで幅広く楽しめる総合展に仕上がっており、非常にお薦め。今回は、以下「大妖怪展」の感想レポートを書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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僕が行ってきたのは会期5日目となる7月9日(土)の13時頃。博物館内のレストラン「FINN'S CAFE」で軽くピザとワイン2杯を頂き、いい感じになってから出動です。最近読んだ本で、「美術館に行ったらメシを食え!」とあったので、そうだ、たまにはいいよなと思って、食欲に負けて腹ごしらえ。

・・・しかし、食べ終わってチケット売り場に行ったら、想定外の混雑っぷり!

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しまった。メシとか優雅に食っている場合ではなかった!と酔いも醒めて一気に臨戦態勢です。この日は、チケット売り場での待ち時間が15分くらい。外国人や修学旅行中の学生もかなりいました。入場時は並ばずに入れましたが、会場内は人がパンパンでした。会期中盤以降は、確実に入場待ちが発生すると思われます。

できれば平日などを活用したり、土日でも15時以降に入るのが良いかもしれませんね。

【2016年7月18日追記】
大妖怪展、チケット売り場が混雑しやすくなっているため、Twitterで随時混雑状況を発表しています。チケット購入待ち行列のピークは7月18日(月)実績で、60分待ち。夏休みになると更に悪化すると思われます。公式Twitterをフォローしておいて、平日か夕方にでかけたほうがいいかもしれません。また、チケットは事前にコンビニやプレイガイドで購入してから出かけることを強くおすすめします。

2.音声ガイド活用がおすすめ

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音声ガイドもあります。今回の音声ガイドはベテラン声優の井上和彦が担当。今回の大妖怪展は、縄文時代~現代まで、幅広く「妖怪」をテーマに色々な切り口で日本美術を扱っているので、歴史的な背景を押さえるため、かなり音声ガイドが役に立ちました。レンタルおすすめです。

3.今回の「大妖怪展」の特徴・コンセプト

今回の大妖怪展は、まずその出展規模が過去最大です。展示企画責任者である安村敏信氏が、全国東北~九州まで出展交渉し、重要文化財、国宝はもちろん、レアな一品までかき集めてきました。展示数は、全128点。これを、会期中、前期・後期で順番に紹介していきます。

また、今回の展示では、「日本美術」の観点から、本物、オリジナルにこだわって出品されました。安村氏曰く、

「今の妖怪ウォッチを楽しんでいる子どもたちが、妖怪のルーツにこんな国宝があるんだ、と気づいて欲しい」

という思いで、粘り強く1点1点出品交渉を進めたといいます。

実際、展示物は、浮世絵・絵本・マンガ・絵巻物・屏風・彫刻・絵画と、日本美術で使われたほぼすべての形態で出展されています。

よって、サブタイトルに~土偶から妖怪ウォッチまで~と、子供連れにも対応した文言がありますが、妖怪ウォッチは完全に脇役です(笑)子供が展示に飽きたら、まず最後の部屋においてある妖怪ウォッチコーナーへワープしましょう(笑)

4.妖怪画を見る際に予習しておきたいキーワード

非常に混雑していますから、しっかり見るためにも、行く前に少し予習しておくと良いと思います。今回、実は僕も展示内容を1度では理解できなくて、2回観に行きました。ここでは、2回見終わった後で感じた、事前に予習しておくと良いキーワードを3つに絞ってお届けしたいと思います。

4-1:キーワード①:「百鬼夜行」

室町期から、繰り返し妖怪画の題名として使われた「百鬼夜行」。様々な妖怪たちがおどろおどろしく、また、時にはコミカルに絵巻物の中で騒いだり、練り歩いたりする絵には、たいていこの「百鬼夜行◯◯」というタイトルが付けられています。

4-2:キーワード②:「源頼光」

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引用:Wikipediaより

妖怪退治と言えば、この人。源頼光(みなもとのよりみつ)。実際に歴史上実在した人物で、藤原道長が君臨した、平安時代中期の摂関政治全盛時代に活躍し、後の「清和源氏」隆盛の土台を固めました。「平家物語」「源平盛衰記」では、土蜘蛛退治や大江山での酒呑童子退治のエピソードが描かれ、特に室町~江戸期は、有名絵師に何度も取り上げられました。今回の展示でも、かなりの点数で源頼光の妖怪退治が取り上げられています。

4-3:キーワード③:「六道」(りくどう)

展示終盤では、仏教絵画「地獄絵」が、妖怪画のルーツを探るために集中展示されています。その地獄絵で描かれるのが、「六道絵」(りくどうえ/ろくどうえ)です。六道とは、菩薩や如来が住む、いわゆる”天国”を含む、「天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道」の6つの世界を指します。

今回の展示会では、「天国と地獄」を6つに描き分けた「六道絵」やそのバリエーションが非常に見ごたえがあり、最後に待っているジバニャンを見る前に、しっかりと見ておきたいところ。

5.個人的に印象的だった作品たち

5-1.伊藤若冲「付喪神図」

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大流行中の若冲を外さず、しっかりと1点入れてきたところは、さすが。先日の山種美術館の記事でも紹介しましたが、伊藤若冲は緻密で超絶技巧な「動植綵絵」だけではなく、こうしたユーモアたっぷりの妖怪画なども手がけています。

この絵画で描かれている『付喪神』とは、作られて99年以上経過して古くなった食器や生活用品に魂が宿り、煤払い(大掃除)の際に捨てられた妖怪化したものです。大抵は可愛く描かれることが多いです。この若冲の作品でも、妖怪らしいコミカルな表情と、「黒・灰色」を基調とした色使いが見事でした。

5-2.歌川国芳「相馬の古内裏」

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そして、若冲にならんで近年人気が高い歌川国芳。日本美術に全く造詣のない超初心者の妻(自分も似たようなものだけど/汗)でも、「あのガイコツはよかった」「国芳はいい!」とひと目見てそのインパクト、ダイナミックな構図に感嘆していました。国貞国芳展でも注目されていましたが、何度見ても見飽きません。浮世絵といえば「美人画」という先入観を見事に壊してくれます。

5-3:歌川国芳「龍宮玉取姫之図」

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国芳をもう1枚。香川県の志度寺に伝わる話で、竜神に奪われてしまった、唐の皇帝から藤原鎌足へ贈られた贈り物を取り戻すために竜神と戦う海女を描きました。竜神のインパクトもすごいですが、周りの魚の妖怪たちもコミカルで見飽きないです。この自由奔放な大迫力の浮世絵、最高です。

5-4:門井掬水「牡丹燈籠」

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古典落語の名作、三遊亭圓朝作の怪談噺「牡丹燈籠」作中前半で出てくる幽霊「お露」を描いたもの。落語だけでなく、歌舞伎・演劇・映画など幅広く上演される怪談噺の定番ですね。落語好きなので、何度も見入ってしまいました。

5-5:大江山図屏風(写真は左隻)

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源頼光が大江山で酒呑童子を退治するシーンを、場面を区切りながら描いた屏風絵。17世紀に制作され、池上本門寺蔵となっていた作品ですが、とにかく緑色の発色が良く、保存状態が良好なので、ストレス無く物語をじっくりと追えました。日本美術だと、血しぶきが飛び散るグロいシーンでも、どこかファンタジックで非現実感が漂うため、楽しく鑑賞できちゃいます。

5-6:伝源信 「地獄極楽図屏風」

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わかりやすく、上方には極楽浄土が、そして真ん中右辺には人間界が、そして下方には地獄が描かれた屏風。鎌倉時代の作で、非常に古く資料的価値がありながら、かつ保存状態も非常に良い屏風絵です。構図もわかりやすいですし、食い入るように見てしまいました。きっと仏教伝導の際に、教育用途で繰り返し民衆に説法する際に使われたのかな。

5-7:妖怪ウォッチ「キャラクターボツ案」など

子供お待ちかねの妖怪ウォッチコーナーは、展示最終スペースに配置されています。その直前のコーナーで超古代の「土偶」を見たすぐ後、現代の「妖怪ウォッチ」へとタイムスリップする、その落差を楽しんで欲しいとは、企画責任者の安村氏の弁。

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目玉となったのは、アニメ中主要キャラとなった「ジバニャン」「ウィスパー」「USAピョン」のキャラクターボツ案です。特に、途中から追加されたUSAピョンは実に20点程度ボツ案があり、慎重に新キャラとして投入されたのだな、とわかりますね。

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正直、これは客寄せのためにちょっと取ってつけただけのようなネタに思えたのですが、うちの子供は食い入るように見ていました。「みて!USAピョンってこんなんだったんだよ?!」「ぱぱ、これぜんぶしってる?」とか興奮しておりました。子供には刺さるコンテンツのようです(笑)

6.展示替えについて

今回の展示会は、重要文化財や国宝が多数含まれていることも影響し、出展される128点のうち、実に75%以上が会期途中で展示替えされる予定です。また、巻物も会期中を4分割、6分割して「巻き替え」されます。沢山見ておきたい!という人は、少なくとも前期(7月5日~31日)、後期(8月2日~28日)の両方足を運べば大半の作品は何とか押さえられそう。9月以降の大阪展も同様となりそうですので、熱心な方は、2回以上足を運んでみるといいと思います!

東京会場の出品リストが公式HPにて公開されているので、リンクを貼っておきますね。
http://yo-kai2016.com/image/list.pdf

7.まとめ

今回は、妖怪展の総決算的な大展示会となりました。僕も、すでに早々に2回足を運びましたが、日本の妖怪画の多様さ・奥深さに非常に感銘を受けました。日本美術史上のビッグネーム達が競って描き、単に怖いだけでなく、コミカルさやユーモアもたっぷりと描かれた作品たちは、見応え充分です。

是非、会場に足を運んで、自分だけの一枚を見つけられるといいですね。お薦めの展示会です。この夏は是非!

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

今回の展示会前に、いくつかムック本が出ていますが、まずは「大妖怪展Walker」がおすすめです。展示責任者の安村敏信氏の熱いメッセージにはじまり、バッチリ展示内容のおさらいができます。また、江戸・上方それぞれの妖怪と深いゆかりがある場所への取材なども興味深かったです。

 

もう一つだけ紹介。すでに見てきた通り、妖怪画は決して怖いだけではなく、どこかしらファンタジックなおかしさやユーモアが漂っている作品が多いです。このムック本「かわいい妖怪画」では、大妖怪展に出展されている作品を含め、どこか可愛さを感じられる妖怪画が集められ、紹介されています。絵はかわいいですが、著者湯本氏の論評は対照的に理知的で丁寧な文章で、コンパクトながら非常に良質な本です。

 

【書評】堀江貴文「99%の会社はいらない」

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かるび(@karub_imalive)です。

先日の美術館帰りにふらっと本屋に立ち寄った際、ついタイトルだけで衝動買いしてしまった堀江貴文の最新作「99%の会社はいらない」について、今日はちょっと感想を書いてみたい。

タイトルは、釣りであり、もちろんこれは極論である。
読み手のターゲットを「現状に不満を抱くサラリーマン層」として、本屋などで「おっ?」と手に取らせるために敢えて付けられた煽り気味のタイトル。よく考えられていると思う。見事に釣られ、衝動買いしてしまった。

結論から言うと、”良い意味で"真新しいことは全く書いていなかった。

書いてあることは、全て市井のビジネス本、自己啓発本に書かれているありふれたことばかりである。要約すると、

  • 好きなことにフォーカスせよ。
  • サラリーマンとして、自分を犠牲にして他人に自分の時間を捧げるな。
  • 大切なのはお金よりも「時間」。
  • いらないものは全部捨てて、好きなことだけにフォーカスせよ。
  • 思いついたアイデアはどんどん実行に移せ。
  • 忙しいを言い訳にするな。
  • とにかく行動あるのみだ。

ざっとこんな感じ。

彼が以前に他社から出版した既刊にも、おおむね同じことが書かれている。本書を読了してから、先日Kindleセールで買って積ん読状態になっていたSB新書「本音で生きる~一秒も後悔しない強い生き方~」もパラパラ見てみたが、ほぼ同じ内容だった。切り口やタイトル、表面上のテーマは違うが、言っていることはいつも同じである。ぶれていない。

正直な所、ホリエモンも自分で書いていてわかっているだろう。同じことを言っているに過ぎないと。ヘビー読者やアンチにとっては、ああまたかという感じだろう。

でも、実際に彼の本は出すたびにかなり売れる。

なぜなんだろうか。

タイトルの過激さや緻密なマーケティング戦略などもあると思う。実際に、ホリエモン自身本書内で本を売るための仕掛け・地道な営業活動を実施していると明言している。

だが、その一番の理由としては、現状のサラリーマンとしての働き方に不安や不満を感じている人が非常に多く、ホリエモンのストレートな物言いが、そういった彼らの心をつかむからである。

僕も現在はあてもなく退職してフリーの身とはいえ、率直に言って、これまでの17年間のサラリーマン生活では、面白いことよりも我慢することの方がはるかに多かった。だから会社を辞めたのである。

17年の間、大企業にも中小企業にも所属し、また、営業やエンジニアとして他社にも出入りして見てきたが、その規模や業態にかかわらず、僕が見てきた日本の会社組織は自分の思う通り、やりたいことを100%できるところではなかった。

根回し。不毛な社内規則。意にそぐわない転勤・異動。嫌な上司、etc…。

会社の中で、心から納得していきいきと働いているメンバーは全体の10%もいなかったのではなかろうか。

みんな、心の何処かで不満はかなりためつつも、生活のため、お金のために我慢して現状と何とか折り合いをつけて今の仕事を続けているわけだ。副業や転職のチャンスなども伺いながら。僕も、迷い始めてから会社を辞めるまで、8年間もグズグズした。

それを、この本は、いつものようにバッサリと切りに来る。
好きなこと、やりたいんならなんでやらないの?
つまらない仕事なら、さっさとやめて、好きなコトやろうよ。俺みたいに。

語り口は、痛快である。読者の中には、こういった歯切れのよいコトバを読んで、溜飲を下げることに快感を覚え、何度もホリエモンの本を購入してしまう人もいるだろう。少し前の僕がそうだったからよくわかる。一時的にでも、気分が高揚して、やる気が取り戻せた気がするからだ。それこそが、いわゆるビジネス書の持つ一種の麻薬効果のようなものかもしれない。

そして、意外にもホリエモンの本から、ストレートに学びを抽出して、自分自身の日常や仕事生活へ応用するのは難しい。

なぜなら、彼の主張は、そもそも極論だからである。基本的に彼自身の日常の勝手気ままなライフスタイルでの経験をベースに組み立てられているので、一介のサラリーマンである我々にぴったり合う処方箋は書かれていない。明日からすぐに活かせるTipsなどではないのである。

結婚もしていない。子どももいない。家事もない。でもカネはある。人脈もある。テレビにも出てる。・・・etc。故に、読者とは住んでいる世界・階層が完全に違うため、提示されるアドバイスは、厳密にはあなたの今の状況に今すぐ当てはめることはできない。もちろん僕にとってもそうだ。

だから、本の内容を咀嚼して、極論の中から本質をつかみ、それを自分自身にどう落とし込めばいいかしっかり考えなければならない。それは意外に骨が折れる作業なのではないだろうか。

だから、大抵の場合は、読んで一時的にでも気分が高揚して「よーし、明日から頑張らなくちゃな!」で、終わってしまい、3日後くらいにはまたテンションがリセットされて終わりなき日常へ逆戻りしてしまうのである。

ホリエモンが常人ではないのは、常識にとらわれず、自分の決めた原理原則を、合理的に徹底して実行できること。文章にして書いてみると当たり前のことに思えるのだが、こういったアタリマエのことがみんなできないからこそ、ホリエモンの存在価値がある。

でも、100%真似するのは難しいけど、彼の行動の本質を見極め、そこからほんの少しでも、自分自身の現状の生き方にそのエッセンスを取り入れていくことなら、できるかもしれない。

例えば、できる範囲でもう少しだけ好きなことをやってみるとか、残業を減らしたり付き合いの飲み会を断ったりして自分の時間を作るとか。あるいは、小さく副業するもよし、転職準備をするもよし、また会社の中で少しでも自分自身が納得できる形で仕事ができるように、会社に働きかけるもよし。

ただ単に愚痴って終わり、泣き寝入りして不毛な日常を送っているのなら、本書をテコに徹底的に考え抜いて、新しい行動につなげていこう。

本書には、2016年時点でのホリエモンが活用しているITサービス、ガジェット類、事業構想、新たに取り組んだ趣味など、彼の考えたこと・行動したことがたくさん網羅されている。その中の一つでも参考にして、自分自身の行動に繋げられたら、800円前後の本代のモトは簡単に取れるだろう。

あとがきに、こう書かれている。

この本を買って、あとがきまで読んでいる人は「積ん読」ではなくしっかり内容を読んだ人だと思う。だとしたら、繰り返し僕が訴えていた「行動すること」を実践に移さなければならない。だって、この本を読んだ時間が無駄になってしまう。行動するのは実は簡単である。バカになればいいのだ。

僕はバカが悪いことだとは思わない。どんどんバカになって突拍子もない行動を起こす人が増えれば増えるほど、社会全体のイノベーションは活発化する。この本を出した目的はそこである。
すぐに行動することを求む。

 

僕も、自分に今できる「行動」は何なのか、本当にフォーカスしなければならない大事なことは何なのか、走りながら考えてみたい。

それではまた。
かるび

巨大祭壇画が圧巻!ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち@国立新美術館の感想

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かるび(@karub_imalive)です。

7月13日から、ヴェネツィア・ルネサンス展が始まりました。今年の日伊友好通商150周年を記念したイタリア関連美術展のフィナーレを飾る大型展です。混雑する前にじっくり見たかったので、開催初日に行ってきました。以下、感想をまとめてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

今回のヴェネツィア・ルネサンス展は、国立新美術館にて開催。会期は7月13日~10月10日まで約3ヶ月間。ついで、10月から大阪国立近代美術館に巡回する予定です。東京・大阪で約半年間じっくり見られるのは嬉しいところ。

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さて、さすがに初日だけあって、空いています。1Fはルノワール展が開催中ですので、エスカレーターで2Fへ。展示規模は60点ちょっとの展示ですが、大型の絵が多く、展示スペースが広いため、ゆっくり見れます。普通に回れば1時間ちょっとで回れるでしょう。僕は、メモを取りながらゆっくり見て回りましたので、所要時間は2時間でした。

そうそう、国立新美術館は特に冷房がキツいですから、上に羽織るものを持って行ったほうが良いと思います。僕は、今回Tシャツ1枚で行ったのですが、最後は凍えました・・・。

2.音声ガイド、おすすめです!

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今回の音声ガイドは、石坂浩二が担当していましたが、特に今回の目玉であるティツィアーノ「受胎告知」の解説が非常に充実。通常の解説に加え、音声ガイドの画面で聖堂内での展示風景についての動画解説もあります。また、今回の音声ガイドの仕事が決まってから、石坂浩二は個人的にヴェネツィア現地視察へ行ったそうで、この「受胎告知」を現地サン・サルバドール聖堂内で見てきたレポートも入っていました。

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(引用:http://www.tbs.co.jp/venice2016/info/theme.html

音楽担当は、辻井伸行。今回展示のための公式テーマ曲「ヴェネツィアの輝き」を制作し、ガイド内で聴くことができます。一聴してすぐわかる優しい辻井節の音色。安心して絵画に没入できました。展示会を回りながら何度もリピートしちゃいました。

音声ガイドのポテンシャルを生かし切った良いコンテンツでした。550円と通常のガイド機より1割程度割高ですが、これは借りておいて損なしです。

3.ヴェネツィア・ルネサンス展とは

3-1:美術展のコンセプト

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冒頭でも書きましたが、今回は、日伊修好150周年を記念して、2016年の上半期に集中的に開催されたイタリア関連美術展の最終回を飾る展示会です。年始からボッティチェリ展ダ・ヴィンチ展カラヴァッジョ展ポンペイ壁画展、メディチ家の至宝展、ミケランジェロ展など良い展示会が沢山開催され、この間ルネサンス期のイタリア芸術を浴びるほど見させてもらいました。今回が一旦の見納めということです。

3-2:作品の大半は、アカデミア美術館収蔵品から

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副題に「アカデミア美術館所蔵」とある通り、今回展示されている大半の展示品は、ヴェネツィアの観光地でもある、アカデミア美術館から来ています。なお、フィレンツェにも同名の美術館がありますが、全く別物ですよ。

アカデミア美術館では主にルネサンス初期の14世紀から18世紀あたりまでの、西洋美術として一番分かりやすい時期の絵画を収蔵しています。展示会では、中間の休憩所と最後の出口前の映像でアカデミア美術館の内部の様子などが紹介されています。

3-3:ヴェネツィア・ルネサンスとは

西洋芸術・文化は、15世紀~16世紀前半にかけたルネサンス期に大きく花開くことになります。長らく停滞した中世から近代へ移り変わるその先駆けとなったこの時代、各地で立て続けに歴史に名を残す巨匠たちが現れました。

その発祥の地は、中部イタリアのフィレンツェとローマでした。15世紀中期には、彫刻家ドナテッロ、建築家ブルネレスキ、そして画家マザッチオらが初期ルネサンス美術を牽引します。特にマザッチオは、幾何学的遠近法やスフマート技法など新たな絵画技術を開発し、表現方法にブレークスルーをもたらしました。

また、フランドル地方から油絵の具が伝来し、それまで顔料を卵に溶かして描いていたテンペラ画から、塗り直しが自由でタッチが自在に表現できる油絵へと進化していきました。

15世紀後半になると、ルネサンス芸術が全盛期を迎えます。ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの3大巨匠がローマ/フィレンツェで腕を競い合いました。

やがて、ローマが戦争で荒廃すると、後期ルネサンスではティツィアーノに代表されるヴェネツィア派が隆盛を見ました。以後、ルネサンス終焉まで、ヴェネツィアはルネサンス絵画芸術の中心地としてローマ、フィレンツェと並び栄えます。

3-4:ヴェネツィアでのルネサンス期の巨匠たちを振り返る

正直、フィレンツェやローマで活躍した同時期の巨匠たちに比べると、知名度や注目度がぐっと下がってしまうヴェネツィア派ですが、展示会を機に、キーマンをざっくりおさえてしまうと良いと思います。こんな感じでしょうか。

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また、ヴェネツィア・ルネサンスの3代巨匠として、通期でティツィアーノ、バッサーノ(父)、ティントレット(父)があげられることもあります。

今回の展示会では、彼らの代表作がしっかり展示されていますよ。

4.ヴェネツィアのルネサンス絵画の特徴

4-1:絵画の背景には荒涼とした原野が広がる

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肖像画、宗教画、祭壇画を問わず、ヴェネツィア・ルネサンス絵画では、たいてい人物の後ろの背景についてもしっかりと描かれます。必ずと言っていいほど、寒々とした原野が描かれます。モナ・リザもそうでしたが、当時はそれがイケていたんでしょうか。。。

4-2:宗教画・肖像画が全盛

ヴェネツィアでは、王侯や貴族、それから宗教の同信会などのオーダーで、躍動感ある劇的なタッチの宗教画が描かれた時代でした。マリア、キリスト、キリストの弟子たち、後世の聖人たちなどが繰り返し繰り返しモチーフとして使われます。また、肖像画も貴族たちから好まれました。有名画家たちは彼らを若干美化しつつも、表情豊かに描きこんだと言われます。

4-3:女性の裸体画

ティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」(※今回展示外)f:id:hisatsugu79:20160715012539j:plain

ギリシャ・ローマ文化へのリスペクトから、ティツィアーノ以降の画家は女性の裸体画を多数手掛けるようになりました。今回の展示会の後半部分=ルネサンス後期では、急速に女性の裸体画比率が高くなっていきます。そこは裸じゃなくてもいいんじゃない?というところでもなぜか積極的にはだけているのが少し気になりました(笑)

5.一番の目玉はティツィアーノ「受胎告知」

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サン・サルヴァドール聖堂の右側廊を飾る巨大な祭壇画、ティツィアーノ「受胎告知」が、日本初上陸です。ティツィアーノが70代の時に描かれた大作。晩年の作風を反映し、荒々しいタッチは、後世の印象派を先取りしたような作品です。長身の人物達が描かれるなど、マニエリスムの影響もほのかに感じられました。

そして、なにより、でかいです!縦が8メートルくらいあり、遠路はるばる搬入するだけでも大変だったでしょうね。展示会中盤にどーんと設置されています。圧倒的な存在感。じっくり堪能してください。

6.その他、印象に残った作品たち

6-1.ティツィアーノ「聖母子」

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僕みたいな素人から見ても、なんだかんだでティツィアーノの実力は他のヴェネツィア派の画家に比べて頭一つ抜けています。この「聖母子」の、イタリア人顔の物憂げな、慈愛に満ちた、静謐で優しいマリアの表情を見ていると癒やされます。今回出展されているティツィアーノの作品の中では、これが一番印象に残りました。祭壇画の対面に飾られています。

6-2.ヴェロネーゼ「レパントの海戦」

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世界史でも有名な世紀の大海戦を描いた1枚。キリスト教国連合軍VSオスマン・トルコで、キリスト教国連合軍が勝利を収めるのですが、描き方が露骨です。オスマン・トルコ軍側には暗雲が立ち込め、影になっている上、雲の上から天使が矢を打ち込んでいるという、なんとも理不尽な構図(?)が面白かった1枚。下界は船がギュウギュウ詰めになっていますが、雲の上も神様たちが定員オーバー気味に盛り込まれていて、画面の密度がすごいことになっています。

6-3.ヤコポ・ティントレット「動物の創造」

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ティントレットがヴェネツィアのトリニタ同信会の発注を受け、「創世記」の5日目、6日目の情景を描いた大作。イエスではなく「神様」が光臨しております。動きやスピードが感じられる躍動感のある構図もいいのですが、面白かったのは動物が沢山描かれているところ。馬、牛、白鳥、魚類、ねこ、ウサギ、カメなど、ちょっと他の西洋絵画でみたことのない位描きこまれています。結構リアルで、地道にデッサンを重ねたのでしょうね。

6-4.バッサーノ「改悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」

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(引用:http://www.cinra.net/news/gallery/100406/12

ヴェネツィア郊外のヴィチェンツァ北東の田舎町、バッサーノ・デル・グラッパで活躍した画家、バッサーノの作品。とにかくごちゃごちゃと人が一杯出てくるマニエリスム的な絵画を描いた人なのですが、この作品は例外的にスッキリ(笑)

荒野で修行する聖ヒエロニムスのストイックな姿を描いています。左端のライオンが可愛かったり、ヒエロニムスがムキムキでどんだけ鍛えてるんだ・・・と見どころ一杯の迫力ある作品でした。

6-5.ドメニコ・ティントレット「キリストの復活」

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ヤコポ・ティントレットの次男。父ヤコポの工房を継ぎ、ルネサンス期終期に活躍しました。画面全体が青系の寒色基調で統一されているのが印象的。劇的だけどどことなくクールで、この世のものでないような超越した感じが良く表現されています。周りの兵士たちが疲れきって寝ていたり、意味不明の動作をしている中、画面真ん中で静かに復活したキリストが対照的で、上手い!と唸ってしまいました。

7.合わせてチェックするのがおすすめの展示会など

7-1:映画「フィレンツェ、メティチ家の至宝 ウフィツィ美術館」

詳しくは上記レポートを是非見てください。上映館数は限られていますが、フィレンツェでのルネサンス芸術全般について、映画ならではの迫力ある表現で、90分間現地の美術館へ本当に行ってきたかのような疑似体験ができます。試写会に行ってきたのですが、非常に良かった。

7-2:ルノワール展

厳密にはルネサンスとは違いますが、同じ国立新美術館で展示中なので、一服してからはしごするのも楽しいと思います。このルノワール展は、展示数も多く、国宝級の「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が出展されています。 

7-3:ボストン美術館 ヴェネツィア展

これは関西方面在住の人だけになりますが、ボストン美術館所蔵のヴェネツィアにゆかりのある作品をあつめた展示会もあります。こっちは、イタリア人作家だけでなく、モネやブーダンなど、国外の画家の作品も出ていますね。

8.まとめ

今回のヴェネツィア・ルネサンス展は、とにかく一つ一つの絵画が大きいのです。そして、現代美術とも違いテーマも宗教画・肖像画などいわゆる「ザ・西洋絵画」的な作品が多く、安心して見ていられます。

特に初期ルネサンス~ルネサンス終焉に至るまで、絵具の進歩、絵画表現の発達に伴いこの時期にぐぐっと作品のレベルが高まったのだなというのがよくわかる、非常に勉強になる展示会でもありました。ティツィアーノ「受胎告知」だけでも見ものだと思います。おすすめの展示会です。

それではまた。
かるび

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

カラヴァッジョ展でも、著書「カラヴァッジョ巡礼」からそのマニアぶりがわかるイタリア美術の著名研究家が、今回展示に合わせて書き下ろしました。岩波新書らしく、読み応え十分なヴェネツィアの美術・歴史・建造物等についての正統派的な解説本です。僕も絶賛これを使って現在復習中です!

人の心をつかむプレゼンテーションは、小泉進次郎から学べ!

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※この記事は政治信条や政策、政党を支援して書いているものではなく、あくまでもプレゼンテーションという視点から小泉氏の演説の内容に注目して書いています。

かるび(@karub_imalive)です。

参議院選挙も終わり、あの喧騒から1週間経過しましたね。各種数字も確定し、結果は予想通り自民党の勝利に終わりました。今回の選挙戦、各種特番やその後の新聞などを追っていたのですが、一つ印象深かったのが、小泉進次郎の大活躍です。
例えば、全選挙期間中の応援演説回数と移動距離のすさまじさ。本人のブログでもこんな記載がありました。

参院選を終えて|小泉進次郎オフィシャルブログ「日本の政治を未来のために~自由民主党~」Powered by Ameba

18日間で、22道県・98ヶ所で演説を行い、移動した距離は18,851kmに及びました。前回の衆院選での移動距離は、10日間で、東京から南極までと同じくらいの15,213kmだったのですが、今回はそれ以上です。

応援演説・移動距離ともに、民進党の岡田党首の17,774km、安倍総理の16,240kmよりも長く、いかに彼の応援演説が頼りにされていたのかよくわかりますね。

また、こんなことがありました。 

詳しくは記事を見て欲しいのですが、選挙速報番組の全ての民放で小泉進次郎の応援演説を特集し、同時に4番組に出演していたという話。

僕は選挙後の選挙特報をそんなに真面目には見ない方です。ただ、今回は池上無双について興味があったので、ビデオに録画してじっくり見てみました。すると、池上無双も確かに凄いのですが、もっと印象に残ったのは、小泉進次郎の卓越したスピーチ力と高コミュニケーション能力。もう仰天しました。こんなにすごかったとは。個人的には「池上無双」というより「小泉無双」といった感じです。ちょっと調べたら、進次郎の趣味のうちの一つに「落語」とあり、彼のプレゼンテーションの上手さは、僕も最近良く聞いている落語から来ているという話もよく聞きます。

そのあたりもあって、今日のエントリでは、なぜ小泉進次郎のスピーチはこんなにも凄いのか?この技術をなんとか我々の仕事などにも応用できないか?その観点から、少し考えてみたいと思います。

1.特に「つかみ」に非常に力をいれている

商談やプレゼンテーションでも、一番大事なのは本題に入る前の「つかみ」の部分です。開始数分で、場を和ませ、相手に「聞いてもらえるように」するため、雑談を始め、いろいろな工夫をしますよね。

それは僕も過去エントリーでこんな記事をあげています。 

進次郎も、この「つかみ」の部分にものすごく気を使って演説を組み立てています。文芸春秋2016年8月号「田中角栄と小泉進次郎」特集のP96では、

つかみが上手くできた時とそうじゃない時で、演説の全体が変わる。最初が上手くすっと入れると、そのあと最後まで聴衆の皆さんに飽きられないように言いたいことを伝えられるような、まず空気ができる。その空気を作れるかどうかっていうのは演説の良し悪しに最大の影響を与えると言ってもいい

このように語っています。

実際、Youtubeやニコニコ動画にアップされている各種演説を丁寧に聴きこんでいくと、演説の冒頭5分は、つかみに全力をかけている。彼の好きな落語では、「マクラ」の部分にあたります。

では、次に、つかみにどんな工夫を入れているのか。ちょっと見てみましょう。

つかみの工夫1:だじゃれ、ギャグで和ませる

オヤジギャグに近い部分もありますが、選挙での聴衆は、中高年が中心。だじゃれとの相性が良いのでしょう。外している時もありますが、大抵は笑いを誘い、高い効果をあげています。

例えば、2013年の選挙前に開かれた自民党秋田県支部の党内セミナーで、その県支部重鎮の中泉末司氏を褒め称えるつかみ部分です。

自民党青年局長の小泉進次郎でございます。秋田には、前回の参議院選挙で、石井浩郎先生の応援で2010年におじゃまをしてから、約3年ぶりでございますが、何度来ても、秋田はあきないですね(爆笑、拍手)[・・・]名前を見てください。小泉より大きいのが中泉!(爆笑)私よりも背は大きい!私よりも体は大きい!文字通り名前も大きい!そしてなんとか、この秋田を再生させたいという思いが、誰よりも大きい・・・

開始1分ほどで2つもダジャレを放り込み、完全に会場を掴んでしまいました。本当にすごい。

つかみの工夫2:関係者へのお礼と共感メッセージを必ず入れる

相手からの警戒心を消すための最高の切り札。商談などで、時にはキツイことを言わなきゃいけない時ってありますよね。その時に有効なのがこの「相手へのお礼」や「共感メッセージ」。これを冒頭に入れるだけでプレゼンテーション、商談の出来は違ってきます。

そして、小泉進次郎は、ほとんどのスピーチでこの「お礼」「共感」カードをつかみにおいて切ってきます。これは、2013年5月に、国会予算委員会にて、「与党」の立場にて初の質問に立った進次郎氏のスピーチです。同じ与党にどう厳しい質問を切り込んでいくのか、注目されました。すると・・・

与党の立場でありながら、若さ全開で厳しめの論調で質問を切り込んでいく進次郎。でも最初の部分で、しっかりと「あなたと同じですよ」というメッセージをいれて警戒心を解いてきます。

「おはようございます。自由民主党の小泉進次郎でございます。きょうは私にとって与党として初めての質問の機会をいただきまして、本当にありがとうございます。【お礼】今私は自民党の青年局長という任にありますが、安倍総理も元青年局長であり、麻生副総理も元青年局長であります。【共感】(・・・以下質問)」

さすがですね。

つかみの工夫3:聴衆をほめる

お礼、共感と続き、最後のダメ押しが、聴衆をほめるということ。プレゼン等でもかなり有効です。お客は悪い気分がまったくしない。この聴衆ほめはほぼ100%のスピーチでやってきます。これは、2016年7月の今回の参院選にて、青森県田舎館(いなかだて)村に応援演説に入った時の映像です。

「私は、実はさっき、車でばーっとあの、車で展望台のところまで行ってきて、上から田んぼアート。この村の景色を一望できるところから見させていただきました。もう一気に、田舎館村のファンにになりました!(拍手)」

そして、畳み掛けるようにさらに集中的に田舎館村のことを褒めまくります。1分近くの間に、水田、公園、場外競馬場、田んぼアート、村の名前など、5つ具体的にピックアップして、あざといくらい全力で持ち上げていきます。そして、最後は得意のダジャレで落とす。いなかだって、いなかだって・・・(笑)

それで、近いところを見ると、米のきれーいな水田が広がっていて、近くには武道をやってる方もいて、そしてすぐそこの公園には、こんな公園他の街にはなかなかないと思うような、ミニ遊園地のようなね、遊具もあって、その子供が遊んでる間に、大人の人達は、競馬も楽しめて(聴衆爆笑)、この村はいい村ですねぇ!

だから私は、あの田んぼアートの最初始まった時から今までの作品を展望台の階段の所に写真が飾ってあって全部見たけど、レベルアップが著しい。最初の時のアートと、今年のこのゴジラ、もうレベルが全然違いますよ。一人でも多くの人に見て欲しい!

ひとりでも多くの人にこの田舎館村に来てもらいたいという、村をなんとかしたいという、この村の皆さんの努力の結晶が、私はこの、田んぼアートであるということが、肌で感じることが出来て何で全国の1700ある地方自治体の中で、田舎という文字が村についている名前が珍しい、そういう名前の意味はなんだろうと思ったけど、今日見てよく分かりました。なんで、田舎館村は田舎館村という名前になったか。それは全国の田舎に、田舎だってがんばってるよ。いなかだっていなかだっていなかだって頑張ってるよ。それを少しでもね伝えたい。

2.基礎をしっかりおさえたプレゼン技術

最強のつかみ。本当に勉強になりますが、そのつかみを支えるのは、意外に地味で、当たり前とも言える基礎的なプレゼン技術です。基礎・土台がきちんとできているので、こういったつかみが生きてくるのでしょう。では、進次郎氏のスピーチから一つ一つ見ていきたいと思います。

基礎技術1:ゆっくり、つまらずに話す

進次郎が、スピーチやプレゼンテーションで「えー、うー、あー、」と詰まりながら話すことは一切ありません。ゆっくり、一言ずつ噛み締めながら、落ち着いて話す。プレゼンテーションでは、わかっていながら、なかなかできない基本事項です。

その基本が、完全に身についているのです。たとえば、昨年大晦日に国会議事堂前で撮影した動画スピーチ。淡々と語りますが、ゆっくり、わかりやすく話しかけます。基本がしっかり出来ているんだな、と思わされるスピーチです。

基礎技術2:聴衆、相手全員への配慮(アイコンタクト、語りかけ)

どの動画でもいいので、しばらく顔の首振りだけチェックしてみてください。必ず、目の前の聴衆全員に対して、順番に語りかけています。右向き→正面向き→左向き、と、聴衆全てに対してアイコンタクトを欠かさない姿勢、これが共感を生むのでしょう。

オバマ大統領も、この辺りは上手なのだそうです。

名人オバマの「右64回、左62回」のアイコンタクトを学べ(日本大学芸術学部教授・佐藤綾子)<参院選・特別コラム『選挙・演説に学ぶ、仕事で使えるパフォーマンス学のコツ』第5回>(gooニュース) - goo ニュース

また、インタビュー等でも、複数で来た場合は必ず、全員に対して語りかけます。例えば、池上選挙番組で、池上氏と若手アイドル、アナウンサーたちが小泉氏にインタビューするシーンがあります。

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たとえば、こういうシーンで、普通の政治家であれば、池上氏以外のメンバーは完全に置物状態になってしまい、池上氏にしか目線を合わせようとしません。そこでも、進次郎氏は必ず、脇にいるアイドルや若手アナウンサーにも進次郎氏側から話を振っていき、スポットライトを当ててあげて、引き立てにいきます。このあたりが非常に上手い。

基礎技術3:プレゼン前の事前調査の徹底

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彼は、全国各地で応援演説に入る際、必ずそのご当地の良い所や人を全力でほめに行きます。これを実現するには、必ず事前のリサーチが欠かせません。特に、具体的名称や具体的数値、具体的人名などは、絶対にはずさない。これにより、リアリティと本気度が伝わるのです。

また、演説場所に来てからすぐに演説をするのではなく、時間があれば、周りを視察して、現地で感じた生の感想を必ず入れていく。先の田舎館村では、田んぼアートを見て、いくつもネタを仕入れていました。分刻みのスケジュールの中、一瞬一瞬にアンテナを張っていることがよく分かります。

基礎技術4:聴衆とのコミュニケーション

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進次郎氏は、聴衆へ一方的に煽るだけでなく、聴衆のヤジに反応したり、聴衆に向かって、「おかあさん、どうですか?」と質問したり、聴衆と貪欲にコミュニケーションを取っていきます。聴衆いじりですね。上品にやってます。

今期の参院選で目立ったのは、18才、19才の若者を選挙カー壇上へ上げるパフォーマンス。これは非常に親近感を構築し、演説にフックを持たせるために効果があったと思われます。

【参院選】小泉進次郎氏の呼びかけに自民選挙カーに上がった若者の1人は野党支持者だった…思わぬハプニング、県連は「構わない」と冷静 - 産経ニュース

壇上に挙げるパフォーマンスは小泉進次郎が今年好んで使っている手法。

2016/07/15 10:49

まとめ

どうでしょうか。小泉進次郎が政治家デビューしてから7年。今や将来の総理候補として自民党内からも大いに期待されています。その彼のパフォーマンスを支えるのが、この圧倒的なプレゼンテーションスキルです。一つ一つをこうしてみてみると、細かい工夫を積み重ねているんだな、っていうのがよくわかりますよね。
進次郎自身も、オフィシャルサイトにて、こう書いています。
 小泉進次郎オフィシャルサイト|プロフィール

“自分の街頭演説をICレコーダーで録音し、毎回寝る前に聞いていた。また、事務所のスタッフに演説について来てもらって、率直なフィードバックを受けるようにしていた。試行錯誤の日々だった」。”

2016/07/17 08:45

そう、彼も必ずしも天才、というわけじゃないんですよね。大学だって東大早慶といった名門校じゃないですし。今でこそ自民党の若きエースとなって、応援演説で総理を凌ぐ忙しさとなった進次郎ですが、デビューしたての頃は、こうした地道な努力を積み重ねているんですね。

だから、私達も、進次郎のように努力すればうまくなる余地があると思うんです。プレゼンテーションの技術を学ぶ際、無料でいつでも手に入る最高の教材として、小泉進次郎という素材があるということ。それが、このエントリで伝わったのであれば幸いです。

それではまた。
かるび

PS
また、彼のプレゼンテーションの旨さは、趣味である「落語」から来ているという説があります。本人も落語から大いに学んでいると公言していますが、そのあたりの話はまた長くなりますので、別のエントリでお話したいと思います。

今、美術館が熱い!2016年下期必見の西洋美術展10選

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かるび(@karub_imalive)です。

2016年もあっという間に折り返しを過ぎました。月日の経つのは早いですね~。僕も、先日5月末に会社をやめたと思ったら、もう2ヶ月。しかし、時間がある程度自由になったので、最近図書館と美術館には通い詰めております。

さて、今年の1月に、「2016年上期に行きたい西洋美術展6選」というエントリをアップしましたが、なんとか皆勤し、ブログでレポートをアップできました。ブログで紹介したら意地でも必ず行く!という強い気持ちでおります(笑)

そこで、今度は「2016年下期に行きたい西洋美術展10選」ということで、2016年7月以降、僕がこれは絶対に見ておきたい!という凄そうな美術展をまとめてみました。選定条件は、「2016年7月1日以降に開催されているか、その後始まる美術展」です。それぞれの美術展について、個人的に期待しているポイントや見どころも一言ずつ添えて紹介しています。それでは早速いってみましょう。

1.古代ギリシャ展(東京・長崎・神戸)

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数千年前に、この地域に文明が誕生した石器時代から、アレクサンドロス大王の末裔たちがローマ帝国に吸収された西暦3世紀頃までの「古代ギリシャ」の美術を総括するような大型展示。340点以上の展示品が時系列上、文明区分ごとに展示され、合わせて歴史や文化なども学べる総合展です。

クーロス像(BC6世紀頃)
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個人的には、超古代の現代アートみたいな彫像と、ほぼ今の西洋美術の基礎が固まった頃の紀元前550年頃のクーロス像が印象的でした。日本で同レベルの彫刻が制作されるのは、その1200年後の飛鳥時代の止利仏師まで待たなければならなかったことを考えると、ギリシャ人の開明ぶりが際立ちます。

開催情報
会期:
【東京】2016年6月21日(火)~9月19日(月)
【長崎】2016年10月14日(金)~12月11日(日)
【神戸】2016年12月23日(金)~2017年4月2日(日)
会場:国立東京博物館、長崎県美術館、神戸市立博物館
公式HP:http://www.greece2016-17.jp/
Twitter:https://twitter.com/greece2016_17
期待度:★★★★★

こちらは、すでに行ってきましたので、レポートのリンクを貼っておきますね。 

2.世界遺産ポンペイの壁画展(神戸・山口)

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まもなく名古屋展が始まりますが、僕が東京展で見てきた時は、若冲展の裏番組だったこともあって、ガラガラだったんですよね。まぁ展示品もひたすら壁画だけなので、地味といえば地味なのですが、よく考えたら、壁画全部を持ってくるっていうのは凄いことです。

「ポンペイ」は、今世界的にも人気のある美術展のコンテンツであり、これまでもたびたび日本各地でその出土品を展示する企画は過去に何度かありました。ですが、家や建造物の「カベ」そのものを切り取って持ってきた展示会は、今回が初めてです。

「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」(状態良し!)f:id:hisatsugu79:20160720215745p:plain

終わってみてしばらく冷静になって考えたら、すごい展示だったのだなと実感。東京展は終わりましたが、名古屋、神戸と巡回中ですので、見逃した方はまだまだ大丈夫です。

開催情報
会期:
【名古屋】2016年7月23日(土)~9月25日(日)
【神戸】2016年10月15日(土)~12月25日(日)
【山口】2017年1月21日(土)~3月26日(日)

会場:名古屋市博物館、兵庫県立美術館、山口県立美術館
※詳細未定だが、福岡巡回予定
公式HP:http://www.greece2016-17.jp/
Twitter:https://twitter.com/greece2016_17
期待度:★★★

3.デトロイト美術館展(大阪・東京)

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デトロイト美術館が所蔵する、19世紀後半~20世紀前半までに活躍した近現代西洋絵画の巨匠たちの作品が一同に会した企画展です。このデトロイト美術館は、一部条件はあるものの、「基本的には撮影OK」という太っ腹企画。さすがわかってます。世界の流れは写真撮影OKですから。ソーシャルで流したりブログに書く時に写真が撮れた方が臨場感が出ますし、何より記事にしてやろう!というやる気がでます。これは嬉しい措置。

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また、先日惜しくも直木賞を逃した原田マハの小説企画とのタイアップも進行中です。現在彼女は「芸術新潮」に『デトロイト美術館の奇跡』というタイトルで連載中。9月には単行本化される予定です。

開催情報
会期:
【大阪】2016年7月9日(土) ~9月25日(日)
【東京】2016年10月15日(土)~12月25日(日)

会場:大阪市立美術館、上野の森美術館
公式HP:http://www.detroit2016.com/
Twitter:https://twitter.com/DIA_JPN
期待度:★★★★

4.ポンピドゥー・センター傑作展(東京)

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絵画が「現代アート」へと拡散・進化する、その節目的なきっかけとなったフォーヴィスムの始まりである1906年から、パリの同美術館が開館された1977年まで、1年1作家1作品として、合計72作のポンピドゥー・センターに収蔵された様々な現代アートの作品を集めた展示会。

マティス『大きな赤い室内』(1948)
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20世紀の現代美術が主流なので、やや難解なところもありますが、割りきって気に入った作品を探しに行く!というスタンスでもいいと思います。巨匠たちがそれぞれの時代で何を考え、どう表現してきたか、という美術史を学ぶのにも最適な展示会でした。 

開催情報
会期:2016年6月11日(土)~9月22日(木)
会場:東京都美術館
公式HP:http://www.pompi.jp/
Twitter:https://twitter.com/pompi_2016
期待度:★★★★ 

こちらも展示会のブログ記事を作成しています。もし良かったらチェックしてみてくださいね。

5.ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち(東京・大阪)

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15世紀のルネサンス初期から、17世紀初頭のルネサンスが終焉し、バロック時代に入っていく手前までの、ヴェネツィア派の画家たちを特集した展示会。展示点数は60点ちょっとですが、1点1点の絵画のサイズが大きいので見応えたっぷりです。特に、ティツィアーノの巨大祭壇画(上記ポスターの絵)には度肝を抜かれました。よく日本に持ってこれたなこれ。っていうレベルです。また、この時期のヴェネツィア派の有名絵師はほぼすべて網羅しています。

ティツィアーノ「聖母子」
f:id:hisatsugu79:20160720220559p:plain

東京展は恐らく裏番組のルノワール展、ダリ展と競合するので比較的入りやすいと思います。穴場的な良い展示会です。おすすめ。

開催情報
会期:
【東京】2016年7月13日(水)〜 10月10日(月)
【大阪】2016年10月22日(土)〜 17年1月15日(日)
会場:国立新美術館、国立国際美術館
公式HP:http://www.tbs.co.jp/venice2016/
Twitter:https://twitter.com/accademia2016
期待度:★★★★

こちらは、初日に行ってきました。結構ガラガラでしたよ。東京会場は空調が効いているので館内での服装にご注意。

6.ゴッホとゴーギャン展(東京)

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印象派に続く、いわゆるポスト印象派時代の個性派の巨匠二人をセットでフィーチャーした展示会。その二人が、絵画制作に集中するため、フランスのアルルで共同生活を行った話とその顛末についてのエピソードは非常に有名ですね。その後ゴッホは精神を病んで麦畑で自殺、ゴーギャンは妻子を捨ててタヒチへ単身渡り、現地で14歳の妻と結婚するなど、最後までこの二人の人生は波乱万丈でした。この展示会では、そんな二人の接点となった共同生活時代を中心に、生涯にわたる画業を振り返っていきます。

ゴッホ「自画像」
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見てください。この自画像。絵具がうねっています(笑)ポスト印象派の画家たちは、特にその筆触が印象派時代からさらに大胆になり、絵画そのものだけじゃんくて、タッチや絵の具の使い方なども個性的です。このあたりは写真じゃどうしてもわからない部分なので、今回しっかりと生で作品を見ておきたいと思っています。期待。

開催情報
会期:2016年10月8日(土)~12月18日(日)
会場:東京都美術館
公式HP:http://www.g-g2016.com/
Twitter:https://twitter.com/ggten2016
期待度:★★★★

7.ダリ展(京都・東京)

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日本では約10年ぶりとなるダリの回顧展です。彼の生まれ故郷であるスペイン、そしてアメリカ、日本の3カ国から約200点にわたる展示物をかき集め、一堂に展示した過去最大規模の回顧展です。

ダリといえば、非現実的な独特の不思議な絵画が特徴である「シュルレアリスム」の第一人者として、日本でも昔から大人気ですね。

今回の回顧展では、京都展のちらしで、ルー大柴がダリそっくりに扮装をして楽しませてくれました。いや、本当に似てるわ・・・。

ルー大柴とのコラボチラシ(どっちがどっち?)
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(引用:http://www.j-cast.com/2016/06/24270646.html

すでに京都展が始まっていますが、非常に好評だと聞きます。早く行きたいな。

開催情報
会期:
【大阪】2016年7月1日(金)~9月4日(日)
【東京】2016年9月14日(水)~12月12日(月)

会場:京都市美術館、国立新美術館
公式HP:http://salvador-dali.jp/
Twitter:https://twitter.com/s_dali_2016
期待度:★★★★★

8.クラーナハ展(東京・大阪)

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ルカス・クラーナハは、ドイツ・ルネサンスを代表する巨匠です。展示会の副題「500年後の誘惑」とある通り、ポスターのユディト像をはじめ、女性を描き出す際の独特の艶めかしい質感が個性的です。ルターの宗教改革のお膝元で、激動の時代背景の中、ドイツ・ルネサンスの第一人者として活躍しました。

クラーナハ「正義の寓意」
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このように、同時代のドイツの画家の中では、裸婦像を描くことに一番熱心だったと言われています。

今回のクラーナハ展は、日本初となる大回顧展となり、10カ国から絵画作品を取り寄せて東京・大阪での開催にこぎつけられました。今秋必見の美術展だと言えそうです。

開催情報
会期:
【東京】2016年10月15日(土)~17年1月15日(日)
【大阪】2017年 1月28日(土)~4月16日(日)
会場:国立西洋美術館、国立国際美術館
公式HP:http://www.tbs.co.jp/vienna2016/
Twitter:https://twitter.com/tbs_vienna2016
期待度:★★★★★

9.拝啓 ルノワール先生 ー 梅原龍三郎に息づく師の教え(東京)

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国立近代美術館の常設展コーナーに、梅原の作品がいくつも展示されているのですが、彼は、結構時代によって作風を変化させていきます。セザンヌ風だったりルノワール風だったり、フォーヴィスム的だったり。なかなか難解な人だな・・・と思っていたら、三菱一号館が良い感じの回顧展を企画してくれました。

日本の近代絵画の巨匠、梅原龍三郎は、南仏カーニュへと移り住んだ晩年のルノワールと親交があったことは割とよく知られています。梅原が20歳の時、アポもなくカーニュへ突撃訪問した梅原をあたたかく迎え入れたルノワール。

その後の交流での書簡だったり、ルノワールに私淑した梅原が彼からどう影響を受けたのか。あるいはその後、ルオーやピカソとの交流がどう梅原の作風に影響したのか。さらにルノワールだけでなく、桃山時代や琳派の日本美術からも着想を取り入れた、梅原の作風がどう変わっていったのか。そのあたりをじっくり掘り下げて確認していける美術展です。

梅原龍三郎「黄金の首飾り」f:id:hisatsugu79:20160720221930j:plain

この作品などは、ルノワール晩年時代の影響大だなぁと思います。

梅原龍三郎が主役なので、厳密な意味では「西洋美術」ではないですが、近代西洋美術が日本画家にどう影響を与えていったかのか端的にわかる良い機会なので、入れました。

開催情報
会期:2016年10月19日(水)~2017年1月9日(月)
会場:三菱一号館美術館
公式HP:http://mimt.jp/renoirumehara
期待度:★★★

10.世界遺産ラスコー展(東京・仙台・福岡)

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2012年から世界各地を巡回中の「特別展 世界遺産ラスコー展~クロマニヨン人が遺した洞窟壁画」が日本に上陸します。

国立科学博物館主催であるため、「美術展」的な要素は恐らく弱めでしょう。精巧な複製や映像等を活用し、人類進化の歴史や最新の学術的な発見などを「科学的」なアプローチから解説してくれるはずです。ただ、超古代時代の「美術」としてはいい機会なのでやっぱり抑えておきたいなと。

開催情報
会期:
【東京】2016年11月1日(火)~17年2月19日(日)
【仙台】2017年3月25日(土)~5月28日(日)
【福岡】2017年7月11日(火)~9月3日(日)
会場:国立科学博物館、東北歴史博物館、九州国立博物館
公式HP:http://lascaux2016.jp/
Twitter:https://twitter.com/lascaux2016
期待度:★★★★

まとめ

こうしてみてみると、2016年度下期も、豊作だった上期に続き力の入った良い展覧会が多いです。日本は美術館も多く、非常に恵まれているなってつくづく思います。日本にいながら、何百年・何千年の時間を超えて世界各地のアートを1000円そこそこの値段で味わえてしまう。これって本当に凄いことだと思うんですよね。各美術館の学芸員さんの頑張りに本当に敬服です。

みなさんも、もし気に入った作品があれば是非美術展に足を運んでみてください。生でみる絵画や彫刻は、ネット上のイメージとは全然違いますから!

それではまた。
かるび

PS1
近日中に、「2016年下期必見の日本美術展」もアップしますね。こちらは10個に絞り込むのが難しいくらい見たいものがたくさんあって困ります・・・。

PS2
今回の展示会情報をまとめるにあたり、参考になった非常にオススメのムック本があります。BSの番組「ぶらぶら美術・博物館」制作チームでまとめた展示会の本です。美術展のまとめ本はいくつもあり、見かけたら全部購入していますが、これが一番よかった。おすすめです。

【書評】 魂の退社 -会社を辞めるということ。/稲垣えみ子  

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かるび(@karub_imalive)です。

いろいろなエントリで書いていますが、僕は今年の5月末から「1年間は人生の夏休みを取る」と称して、無職生活に突入しています。

サラリーマン時代末期は、時間だけが無為に過ぎていく灰色な感じがあって、退職が待ち遠しかったものです。でも、いざ退職したら、気持ちは落ち着いたものの、やはり新たな心配も出てきました。1年も休んで再就職できるのかな?、とか、昼間に町中でサラリーマンを見かけるたびに、僕だけ勝手に休んでて、これでいいのかな、と日々不安になるわけです。

すると、小心者な自分は、ついつい無意識に自分自身と同じような境遇、つまり中高年で早期退職した人たちが何故辞めたのか、またその後どうなったのかを見てみたくて、調べたくなっちゃうんですよね。それで、ネットや図書館で関連するリソースをついつい探してしまう。

そんな中、何気なく立ち寄った駅の小さな本屋の店頭で、ベストセラーとして、このよくわからないけどアフロのおばちゃんの顔がドーンと出た本が目に入ってきました。これです。

ぱらぱらっと見てみると、50歳で朝日新聞社を早期退職したという。その退職にまつわる顛末を書いた本のようです。さらにその場でネットで検索したら、50歳で一人暮らし無職。アフロヘアー。節電生活の達人・・・。

なんだか変わり者だな、と思いつつも、思わずタイトルとアフロヘアーの迫力に負けて購入してしまいました。

退職エントリを1冊の本に拡大したような本

ここ数年、ブログで退職エントリを書く人が増えていますよね。またそれがよくバズります。退職エントリというのは、いわばその人の人生の節目であり、ストーリー的にも一番面白く読める,、皆が気になるジャンルだと思います。

この本は、一言で言うと、いわばこの稲垣えみ子さんの壮大な退職エントリです。文面は、非常にやわらか。新聞の報道論調のような硬い文章とは違い、どちらかというと女性的で非常に柔らかい文面。人気ブログが書籍化されたような、そんな読み口で、出来の良いなが~いブログを一気に読まされているような感覚。疲れている時でもスイスイ読めます。

でも、読み物として一気に読めてしまったのは、この人がやはり朝日新聞社の記者として長年第一線で文章を人に読ませる仕事をしてきたところが非常に大きいのかな、と思いました。

30代中盤まではバリキャリ系女子だった

朝日新聞社と言えば、マスコミという特殊な業界ではありますが、社会的なステータスや給与水準は一流企業そのものです。そして日本の大企業特有の出世競争や社内政治などもしっかりあるようです。

彼女も、若い時はバリキャリ系でどっぷりと会社生活にはまっていたといいます。なんといってもバブル世代。いい学校、いい会社、いい人生、という昭和的成功イメージそのままに、「お金=幸せ」と捉え、もらった分は全部使うくらいのゴージャスな生活にどっぷりと浸かりきっていました。

そんな彼女も、30代後半になってくると、同期の男子たちは次々と要職へと昇進していきます。彼女は、男性社会の中で出世レースでは遅れを取りはじめ、次第に不安になっていきます。「会社の役に立つ人間」か「そうでない人間」かの選別対象年齢になって、憂鬱だったといいます。

人事異動・昇格発表があるたびに、なぜ自分が選ばれないのか不安になり、ネガティブな気持ちに心が染まっていかないように必死にその都度自分をコントロールし続ける・・・。いや、わかるなぁ。

きっかけは38歳の時、香川県への転勤だった

そんな彼女が、38歳の時に、大阪本社勤めから香川県の「総局デスク」への人事異動を命じられます。出世レースの先頭からは、明確に外れたのですね。暗にわからせる、という大企業らしい措置であります。

ただ、そこで腐って終わらなかったのが彼女のその後の運命を大きく替えました。香川県の総局デスク時代に、香川県人の「お金を使わない豊かな生き方」と、ハイキングやお遍路で出会った老人たちの笑顔などから気づきをもらい、人生に対する考え方が徐々に変わっていきました。

実は、うどん消費量日本一で知られる香川県ですが、もう一つの知られざる「日本一」があるそうです。それは、香川県は一世帯あたりの平均貯蓄高が日本一であるということ。

とにかく香川県人は手堅くて、お金を使わないのだそうです。香川県のうどんは本当に安く、地元の人達が日常的に使う「セルフ」系のお店での素うどんは1杯100円台。あれこれ乗せても500円もせずにお腹いっぱいうどんが食べられるそうです。

堅実に日々の出費を抑え、現実を見据えて貯蓄に励む香川県人達に感化され、こびりついたバブル女子体質が少しずつ抜け、「お金を使わなくてもハッピーなライフスタイル」を身に着けていきました。

ポイントは、彼女を縛り付けていた「お金」=「幸せ」という構図が少しずつ解体されていったことです。「お金」への執着と「お金」を失う不安がなくなるとともに、会社内外で次第に自由に、自分らしく振る舞えるようになっていきました。

やりだしたらとことんやってしまう人

じゃあ、お金から解放されたらどうなったのか?行動が自由奔放になっていきました。

恐らく、もともと若い時から個性的で扱いづらい(?)系の人材だったと思われますが、模範的なサラリーマン的な振る舞いから大きく逸脱する歯止めとなっていたのが、彼女の出世や収入への執着だったと思うんですよね。

それがタガが外れると、一気に個性爆発します。

倹約節電生活

たとえば、究極の倹約節電生活です。これは今も継続中だそうですが、2011年の東日本大震災をきっかけに、電気なしで生活したらどうなんだろう?と思い立ち、究極の節電生活に入っていきます。

「もの」がないことで感じられる幸せを追求し、身の回りの生活必需品をミニマリストばりに徹底的に捨てまくりました。最終的に冷蔵庫も処分し、夜は明かりさえ付けないところまで行き着きます。

今では家の電気契約は5アンペア。月々の電気代は200円程度だそうです。テレビでも変わった取り組みをしている人、今年4月に情熱来陸で取り上げられました。

思いつきで突然アフロに

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(引用:http://www.asahi.com/articles/ASH975CJLH97ULZU00B.html

また、40代半ばでほぼ思いつきで、まんまるアフロヘアーにしてしまいます。本書冒頭の前書きにこうあります。

「そうだ、アフロ、しよう」目論見や戦略があったわけではない。とにかくなんでもいいから変化がほしかっただけである。 

美容師からも「社会人としてどうなのか」と突っ込まれるも、これを強行。これを普通に許す朝日新聞社って実は凄い自由でホワイトな会社なんじゃないかとも思ったのですが、このアフロヘアーにしてからは、いい意味でも悪い意味でも注目されてモテ期が来たとのこと。

アフロにした時点で、恐らくもう会社の中で出世しようという気持ちはなくなっていたでしょうが、このアフロ化が彼女の中の「会社」への執着を最終的に溶かしていく大きなきっかけになりました。こう書いています。

私たちは自分の人生について、いつも何かを恐れている。負けてはいけないと自分を追い詰め、頑張らねばと真面目に深刻に考えてしまう。しかしまじめに頑張ったからその分何かが返ってくるかというと、そんなことはないのである。そしてそのことに私たちは傷つき、不安になり、また頑張らねばと思い返す。そして、その繰り返しのうちに人生は終わっていくのではないかと思うと、そのこともまた恐ろしいのである。しかし、もしや幸せとは努力したその先にあるのではなくて、意外とそのへんにただ転がっているものなんじゃないか?そう思ったら、会社を辞めるって、意外にそれほど怖いことなんじゃないかと思えてきたのである。

彼女が退職して実感した「無職」の厳しさと日本企業の余裕の無さ

本書終盤にかけては、自らが会社を退職した際に受けた「会社」中心の社会システムからの疎外感や、自営業者など、会社の組織外で行きている人たちに不利な仕組みとなっている社会制度から、日本が如何に「会社」中心で回っている「会社社会」であるかを実感した、というエピソードが、ユーモアたっぷりに描かれていきます。

例えば、さらに生活をダウンサイズするために引っ越ししようとするも、保証人が立てられずハマり、カードを作ろうと思ったら「継続的な収入」がないため作れず、またパソコンを買うのにも苦労し、、、といった感じ。

おおよそ教養あふれる記者とは思えない抜けたところもあって、そういう定番の問題は、辞める前に下調べしとけよ!なんて突っ込みながら読んでました。

さて、退職して自由にものが書けるようになって彼女が指摘するのは、ゼロ成長時代における会社社会が含む構造的な欠陥です。

会社で働くということは、極論すれば、お金に人生を支配されるということ。また、会社というシステムも、経済成長がゼロになった現代ではゼロサムゲームの中殺伐としてくる。すると、一番肝心な「自分の仕事が人の役に立っている」という感覚が失われ、社員を動かす動機がカネと人事だけになってしまう。

生き残るために大企業でさえも法律・倫理を破って自分たちさえ良ければという論理で行動してしまう危うさの根本は、会社への依存心にある。

このように、社畜化のプロセスについて小気味良く切っていくあたりは、さすが新聞記者であります。

会社依存度を下げる

最終章では、会社に人生を預けてしまうのではなく、少しでも自分の中の「会社依存度」を下げ、「カネ」と「人事」に振り回されない体質になろう、と提言されています。

生活を点検し、支出を抑える工夫をするとか、会社の外で趣味をみつけるとか。こういったものの見方や考え方が複眼的になるような取り組みをすることで、心の自由度が担保されるのですよね。

そして、会社に依存しない自分を作ることができれば、皮肉にもそれが会社生活の中で本来の仕事の喜びを取り戻すきっかけになるのです。会社の中で「守り」に入る必要がなくなり、自由に振る舞えるからです。

本書でも、朝日新聞社という巨大な組織にいながら、ある意味無敵モードに入った彼女が、会社で遊撃的・派閥横断的なアプローチをいくつも仕掛けてきた、そんなエピソードも紹介されていました。

まとめ:会社生活に行き詰まった人には是非おすすめ

「魂の退社」とは、決して『会社をやめよ』ということではありません。籍は置いたままでいいので、会社に心まで預けるな、会社を乗り越えろ、という彼女なりの思いです。大事なのは、会社を辞める辞めないではなく、自分の心が自由であること。

この本は、彼女が一度は昭和的な旧来の幸せの価値観にがんじがらめになりながらも、50歳で早期退職に至るまで、ゆっくりと本来の自分を取り戻していくプロセスを丁寧に描いた良書でした。読みやすい本ですし、自分の会社観や価値観を見直したい人は、参考になるわかりやすい本だと思います。おすすめ。

それではまた。
かるび 

若冲もまだまだ見れる!2016年下半期に注目したい日本美術展10選!

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f:id:hisatsugu79:20160723065131p:plain

かるび(@karub_imalive)です。

先日のエントリで、僕が注目している2016年下期の西洋美術展10選をピックアップして紹介させていただいたところ、思ったよりたくさんの方々に読んでいただきました。ブックマークコメントから、特にダリ展が大人気のようですね。 

僕は、去年までは、西洋美術展を中心に回っており、日本美術については受動的にしか見ていませんでした。せいぜい寺社仏閣に行ったついでに宝物展を見るとか、お参りしていたら目の前に鎮座していた仏像が重要文化財だった、という程度です。

でも、よくよく日本の美術展をチェックしてみると、日本美術をテーマにした美術館や、企画特集展のほうが圧倒的に数が多いのですよね。せっかくこれだけ企画展示があるのだから、江戸絵画や浮世絵、日本の工芸品なんかも見たほうが面白いかな、と思い、今年から積極的に回り始めました。

ちょうど、下半期はどこに行こうか検討する中で、ネットでお薦めとか無いかなと思って検索したのですが、ちょうどいい感じの「お薦め日本美術展」的な記事がなかったので、それであれば、自分でちょっとまとめてみようかと思い、書いてみました。

先日の西洋美術展につづき、2016年の下半期も、これは是非行きたい!という美術展をピックアップしてみました。ピックアップの基準は、日本美術(古代~現代、洋画含め)で、2016年7月時点で開催中かそれ以降に開催される美術展です。それではいってみましょう。

1.大妖怪展(東京・大阪)

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開催情報
展覧会名:「大妖怪展」
会期:
【東京】2016年7月5日(火)~8月28日(日)
【大阪】2016年9月10日(土)~11月6日(日)
会場:江戸東京博物館、あべのハルカス美術館
公式HP:http://yo-kai2016.com/index.html
Twitter:https://twitter.com/edohakugibochan(東京)
期待度:★★★★★

この大妖怪展は、これまでの民俗・風俗史的なアプローチではなく、日本美術史の観点から妖怪画を総括し、日本中から代表的な妖怪画作品を集めた気合の入った展示会です。

すでに夏休み前から大人気。江戸博は企画展展示スペースも小さく、夏休み中は厳しい入場待ちで大混雑が予想されます。公式Twitterで入場時間待ちを細かく表示していますので、こちらも参考にしておでかけください。

歌川国芳「相馬の古内裏」f:id:hisatsugu79:20160723104031j:plain

実際に東京展に行ってきたエントリもアップしています。もしよろしければチェックしてみてくださいね。 

2.藤田嗣治展(神戸・東京)

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開催情報
展覧会名:生誕130年記念 藤田嗣治展 —東と西を結ぶ絵画—
会期:
【神戸】2016年7月16日(土)~9月22日(木)
【東京】2016年10月1日(土)~12月11日(日)
会場:兵庫県立美術館・府中市美術館
公式HP:http://www.leonard-foujita2016.com/
Twitter:なし
期待度:★★★★★

西洋画をこころざして、戦前に海外に渡った画家の中では文句なくダントツNo.1の活躍をした藤田嗣治。その独自の「乳白色」の色使いで、パリでは並みいる巨匠達と同列の扱いを受けるほど人気がありました。彼の戦前・戦後を通した画業を時系列で回顧する力の入った展示会です。これは行きたい!

猫を抱く少女
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(引用:http://www.leonard-foujita2016.com/

3.鈴木其一展(東京)

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開催情報
展覧会名:「鈴木其一 ー江戸琳派の旗手」
会期:2016年9月10日(土)~10月30日(日)
会場:サントリー美術館
公式HP:http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2016_4/
Twitter:https://twitter.com/sun_SMA
期待度:★★★★★

江戸琳派を代表する名手鈴木其一。鈴木其一の花鳥画や植物画は本当に見ていて飽きません。今回は、過去最大規模で彼の作品を国内外から収集した大型展示で、酒井抱一の弟子として修行した時代から晩年期まで、時系列でその作風の変遷なども追っていきます。個人的には秋はこの展示会が一番興味があります。

朝顔図屏風f:id:hisatsugu79:20160723092123j:plain(引用:http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2016_4/display.html

みてくださいこの朝顔。屏風一面、こっちを向いて咲いています。実物を生で見たら、迫力あるだろうな~。

4.速水御舟展(東京)

f:id:hisatsugu79:20160723104906j:plain

開催情報
展覧会名:「速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造―」
会期:2016年10月8日(土)~12月4日(日)
会場:山種美術館
公式HP:http://www.yamatane-museum.jp/
Twitter:https://twitter.com/yamatanemuseum
期待度:★★★★★

山種美術館のコレクションの中でも、特に充実しているのが、大正・昭和初期に活躍した速水御舟作品。美術史の参考書にもよく掲載される代表作「炎舞」を中心に、多数の作品が集中展示される特別展です。山種美術館は喫茶店の和菓子も美味しいし、ブロガー内覧会も毎回開催されており、広報活動に積極的で好感が持てます。

「名樹散椿図」f:id:hisatsugu79:20160723092939j:plain

これは1929年に描かれた屏風絵で、重要文化財に指定されている速水御舟の代表作。山種美術館のいろいろなグッズのデザインにもなっていますね。

5.大仙厓展(東京)

https://pbs.twimg.com/media/CnjQh6WVYAA66Jp.jpg
(引用:https://pbs.twimg.com/media/CnjQh6WVYAA66Jp.jpg

開催情報
展覧会名:「開館50周年記念大仙厓展 ―禅の心、ここに集う」
会期:2016年10月1日(土)~11月13日(日)
会場:出光美術館
公式HP:http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/index.html
Twitter:なし
期待度:★★★

江戸中期において、禅の教えを広めるため、40歳過ぎから禅画を書き始めた仙厓の回顧展です。出光佐三のコレクションを中心に、仙厓の出身地である九州からも作品を集めました。同時期に、永春文庫(目白)でも仙厓の特集展示を行うそうです。東京国立博物館の白隠展と合わせて3本立てで見ておくと、一気に禅画に詳しくなれそう。

仙厓「◯△□図」f:id:hisatsugu79:20160723111121j:plain
出光美術館所蔵の「◯△□図」。全く謎な禅画ですが、きっと仙厓はこういった絵を即興でその場で描いて、お弟子さんや教え子たちに分かり易く仏教の教えを解説したのかなと思います。展示会でその意味が明かされるかな?!

6.宮川香山展(大阪・瀬戸)

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開催情報
展覧会名:「没後100年 宮川香山」
会期:
【大阪】2016年4月29日(金) ~ 7月31日(日) 
【瀬戸】2016年10月1日(土) ~11月27日(日)
会場:大阪市立東洋陶磁美術館、瀬戸市美術館
公式HP:https://www.nhk-p.co.jp/event/detail.php?id=556
Twitter:なし
期待度:★★★★

東京展、岡山展は見逃し、大阪展はまもなく終了ですが、僕は最後の瀬戸展に必ず行ってこようと思います。

やっぱりまずはこの「カニ」。テレビの特集などでも、まずこれが特集されるので、映像では死ぬほど見ているのですが、やはり実物をこの目で見ておきたいです。初期と晩年で2壺制作しており、2壺とも出品されているので、見比べるのも楽しそう。

褐釉高浮彫蟹花瓶
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7.驚きの明治工芸展(東京・京都)

f:id:hisatsugu79:20160723105344j:plain(引用:http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

開催情報
展覧会名:「驚きの明治工藝」展
会期:
【東京】2016年9月7日(水)~10月30日(日)
【京都】2016年11月12日(土)~12月25日(日)
会場:東京芸術大学美術館、細見美術館
公式HP:http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/
Twitter:https://twitter.com/odorokimeiji
期待度:★★★★

明治期の超絶技巧な工芸品にスポットライトを当てた展示会です。出展元は、なんとたった一人のコレクター、台湾の宋倍安氏のコレクションからです。彼のコレクション、3,000点あまりの中から、江戸時代末期~明治時代を中心に昭和初期頃までの、漆工、金工、陶磁、七宝、染織とすべてのジャンルから厳選しての出展です。宮川香山展と合わせて見ておけば、工芸品についての造詣が一気に深まりそう。しかし、台湾にそんな熱心なコレクターがいるとは・・・。

8.はじめての古美術鑑賞展(東京)

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開催情報
展覧会名:「はじめての古美術鑑賞」展
会期:2016年7月23日(土)~2016年9月4日(日)
会場:根津美術館
公式HP:http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html
Twitter:なし
期待度:★★★★

水墨画や屏風絵など、日本美術で使用される技法、用語などを、根津美術館が所蔵する実際の古美術作品を使ってわかり易く解説する展示会。僕も、この機会に学んでこようと思っています。初心者向けで、勉強になりそうな展示会としてピックアップしてみました。

【たらしこみ】四季草花図屏風
f:id:hisatsugu79:20160723101819p:plain

水墨画で幅広く江戸時代に使われた「たらしこみ」技法。確かにテレビや音声ガイドなどでよく聴く単語です。解説で聞いている限りでは「フーン」という感じですが、やってみればめちゃくちゃ難しいんだろうなぁ。 

9.メナード美術館コレクション展(小牧)

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開催情報
展覧会名:メナード美術館コレクション名作展
会期:2016年10月1日(土)~17年1月29日(日)
会場:メナード美術館
公式HP:http://museum.menard.co.jp
Twitter:なし
期待度:★★★★

箱根のポーラ美術館に対抗したのか、非常に名古屋都心からアクセスの悪い所に建てられたメナード美術館。しかし所蔵品は粒ぞろいです。メナード美術館で所蔵する1400点余りの作品から、西洋絵画、日本画、日本洋画を中心に代表作およそ90点の作品を展示します。新印象派から、アンリ=エドモン・クロス《木陰のある浜辺》と、ジョルジュ・スーラ《働く農夫》が今回のコレクション展で初公開となります。

ただし僕のお目当ては、葛飾応為の代表作「夜桜美人図」です。応為は、巨匠葛飾北斎の娘であり、北斎の助手を勤めていたといいます。北斎に「美人画については、応為には敵わない」と言わしめた実力。非常に寡作で、また人物おぞうとしても謎の多い人物ですが、浮世絵の中でも夜の「光」と「影」にこだわって美人画を描き出した異色なスタイルは非常に個性的です。

f:id:hisatsugu79:20160723102446p:plain葛飾応為「夜桜美人図」
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10.伊藤若冲の特集展5つ!

今年の4月~5月に開催された東京都美術館での「若冲展」では、事前予想を遥かに超えた大盛況となりました。この大フィーバーに続くべく(?)、下半期も京都を中心にいくつも特集展示が行われます。全部行けば相当の若冲通になれることは間違いなさそうですね!

10-1.伊藤若冲展(京都・相国寺)

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開催情報
展覧会名:「生誕300年記念 伊藤若冲展」
会期:2016年7月1日(金)~12月4日(日)
会場:相国寺 承天閣美術館
公式HP:http://www.shokoku-ji.jp/j_now.html
Twitter:なし
期待度:★★★★★

若冲の代表作「動植綵絵」の全幅の複製画展示と、鹿苑寺障壁画がみどころ。動植綵絵はデジタルコピーながら、その出来は非常に精巧で、かつて相国寺にて動植綵絵30幅を一覧展示した際と同じ構図で展示されています。もちろんガラスケースもありません。落ち着いた雰囲気の中で、あの興奮を再び味わえる展示会です。早く行きたい。

10-2.伊藤若冲 ─京に生きた画家─(京都)

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開催情報
展覧会名:「生誕300年記念 伊藤若冲 ─京に生きた画家─」
会期:2016年9月5日(月)~12月18日(日)
会場:細見美術館
公式HP:http://www.okada-museum.com/exhibition/next
Twitter:なし
期待度:★★★★ 

雪中雄鶏図
f:id:hisatsugu79:20160723130432j:plain
(引用:http://www.kyoto-artculture.com/works/detail/10/

個人的には、2016年春の東京都美術館の若冲展の後に開催される若冲関連の展示会の中では、一番みごたえがある展示会なのではないかと思っています。全盛期の作品から、弟子たちやや同時代の絵師たちの展示も充実しています。 

10-3.若冲と蕪村 江戸時代の画家たち(箱根)

f:id:hisatsugu79:20160723124050j:plain

開催情報
展覧会名:「―生誕300年記念―若冲と蕪村 江戸時代の画家たち」
会期:2016年9月5日(月)~12月18日(日)
会場:岡田美術館
公式HP:http://www.okada-museum.com/exhibition/next
Twitter:なし
期待度:★★★★

伊藤若冲「孔雀鳳凰図」(孔雀)
f:id:hisatsugu79:20160723105902p:plain

岡田美術館は、箱根の小涌谷にあるお洒落な美術館。2016年に新規収蔵された孔雀鳳凰図が今回展示の目玉です。春の若冲展にも出品されていましたが、混雑してよく見れなかった人は多かったと思います。この展示会で改めてゆっくりと見れそうですね。

10-4.特集陳列 生誕300年 伊藤若冲(京都)

開催情報
展覧会名:「特集陳列 生誕300年 伊藤若冲」
会期:2016年12月13日(火)~17年1月15日
会場:京都国立博物館
公式HP:http://www.kyohaku.go.jp/jp/project/2016_jakuchu.html
Twitter:https://twitter.com/kyohaku_gallery
期待度:★★★  

果蔬涅槃図
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4月の東京都美術館「若冲展」でも展示されていましたが、豪華絢爛な動植綵絵以外にも、こうした水墨画などでも優れた作品を沢山残しているのが伊藤若冲の凄いところ。

10-5.若冲の京都 KYOTOの若冲(京都)

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(引用:https://pbs.twimg.com/media/CnCadJfUkAAu873.jpg:large

開催情報
展覧会名:若冲の京都 KYOTOの若冲
会期:2016年10月4日(火)~12月4日(日)
会場:京都市美術館
公式HP:http://www.mbs.jp/jakuchu-kyoto/
Twitter:なし
期待度:★★★

10月からスタートする割には、公式サイトや京都市美術館で内容の告知がないため、現時点では内容不明。もう3ヶ月前だけど、集客とか大丈夫なのかな?!展示会の内容が判明次第、また追記したいと思います。

まとめ

本当はまだまだこれ以外にも行きたい日本美術展はあるのですが、ピックアップしているとキリがないため、泣く泣く10選としました。ひょっとしたら、今年4月の伊藤若冲展で、日本美術の奥深さに目覚めた人も多かったかとは思います。

2016年下半期も、東京・大阪・名古屋を中心に色々な美術展がありますので、是非気軽に出かけてみてくださいね。僕も、ここでピックアップした展示会は、極力全部行って、順次感想をアップしていきたいと思います。

それではまた。
かるび


書評:「無知」の技法 Not Knowing ~見落としがちだけど、誰でも今日から簡単に実践できる心がけ

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(ソクラテス/Wikipediaより)

かるび(@karub_imalive)です。

ソクラテスの「無知の知」って知ってますか?
有名な格言ですよね。

今日取り上げる『「無知」の技法 不確実な世界を生き抜くための思考改革』は、いわゆるソクラテスが残した名言、「無知の知」を実践した際にもたらされる効用や、その有用性について、あらゆる科学的な見地から分析し、わかりやすく語り尽くした本です。

日本では、2015年11月と、少し前に出版されました。ネット上でもわりと評判が良かったので、すでに手にした人も多いのではないかなと思います。このたび、ようやく僕も読了したのですが、非常に良かったため、書評にどうしても書きたくなりました。おすすめです。

私たちは「知っている」ことが価値があるとされる知識社会に生きている

さて、私達は、知識偏重社会に生きています。学校や職場、コミュニティなどあらゆる場面で専門知識の有無が私達のステータスを決定します。知識があるとみなされるだけで、尊敬され、評判を得られ、影響力を保持できるわけです。

そして、知識の格差は、そのまま経済格差につながります。一般的に、学歴が高ければ高いほど良い就業機会と高収入を得られるチャンスが増大します。

僕も読みましたが、2016年春に上梓された新書のベストセラー橘玲「言ってはいけない」では、現代の知識社会における経済格差の根源を「知能」の差である、と赤裸々に分析して話題を呼びました。

逆に、周りから「知識がない」「知性がない」と思われることは、無教養で、未成熟である、と一段低く見られることも多いです。だから、私たちは必死で勉強して、知識を詰め込み、周りには「物事を何でも知っている」ことを装います。

本当は知らなくて、自信がなかったとしても、立場上、それを「知らない」とは言えないような機会も実際に多々あります。

例えば、先日の参院選で、元SPEEDの今井絵理子が当選者インタビューの際に沖縄問題について池上彰氏から質問された際「それについてはこれから勉強します」と回答しました。

彼女自体、まだ新人候補であり、選挙の作法に慣れていないため、知らないものは知らない、という素朴な態度でしたが、これを誠実さ・謙虚さよりも、「バカな奴」「非常識な奴」ととらえる評価のほうが優勢でした。

このように、私達の社会では、物事を「知っている」ことをアピールしないと、リーダーシップを取り、周りの信頼を勝ち取ることが難しいのかもしれません。あやふやなアイデアしかない人よりは、知識・知性を備え、確固たる信念を持っている(かのように見える)人に、私たちは信頼感を抱きやすいのです。

でも、実は知っているようで知らないことのほうが多い

でも、よくよく考えてみると、不確実性に支配された激動の21世紀を生きる私達にとって、確実にこれは「知っている」といえることよりも、「知らない」「よくわからない」ことのほうが遥かに多いのではないでしょうか?

本当は、知らないことばかりなのに、何でも「知っている」わかったふりをして、意思決定を行ったり物事を分析したりするのは実に不健全なことです。そういう時、我々はいとも簡単に間違えてしまいます。

余計な自負心やプライドが、創造的な思考を曇らせ、自由で斬新なアイデアを眠らせてしまったり、健全で前向きな人間関係の構築を大きく妨げてしまうのですね。

あるいは、知識が多すぎる際にも同様な問題は起きます。物事を知り尽くしてしまったゆえに、定型的なやり方にこだわり、新しい可能性に目を向けられなくなる。

皆さんもそんな経験、ないでしょうか?
知らないのに、無理して知っているふりをして、かえって物事がこじれたり、おかしくなってしまったようなことが。僕は、特に20代の若い時、結構ありました。

なんでも知っているという立場を捨てよう

本書は、こうした「自分は何でも知っている」という立場を捨てよう、とまず推奨しています。代わりに、あえて自分は「無知である」という立場で物事を始め、余計な自負やこだわりをゼロにしてまっさらなスタンスで取り組むことで、逆説的に最善の結果を生み出し得ることが多々あるのだ、と結論づけます。

不確実な時代には、「知らない」ことからスタートするという状態を楽しみ、心をゼロにしたところから立ち上る創造性を大事にして即興性やセレンディピティを大切にする。そのための、実践的なアプローチをいくつも紹介しています。

そして、この「無知の技法」に沿って大きく業績を残した何人ものケースを丹念に追い、実例としてまとめています。

学者、実業家、芸術家、教師、いろいろな立場の人たちが、様々な問題や課題が発生した際に、あえてそこで「自分は何も知らない」というまっさらな状態から始めたことによって、状況が好転し、問題があざやかに解決していったいくつもの事例を丁寧に見ていきながら、読者の意識改革を促します。

知らないということをシンプルに認めることで状況が好転する

知らない、という事は恥ずかしいことでも何でもなくて、当たり前のこと。でもエゴがそれを覆い隠してしまい、我々は人々の前に立つと、いろいろなしがらみ、どう思われるのか?という恐怖から、つい何でも「知っている」という立場で物事やコミュニケーションを始めてしまう。

そうではなく、まず一旦、自分は知らないんだということを受け入れ、認めよう、ということです。これにより、余計なエゴが落ちて、目が見開かれるのです。ゼロベースで物事を分析・観察することで、そこから手探りではあるけれど、オリジナルで最善な試行錯誤での手探りでの活動が始まるのです。

たとえば、本書で示される一例として、何らかの組織で、チームリーダーとして未知の課題にあたる場合を挙げておきます。

知らない、ということを認める事は、自分は弱い存在である、もろい存在であるということを、チームメンバーに自ら進んで開示してしまうことでもあります。それは、場合によってはチームメンバーから一時的にでも自信のなさとして受け取られることもありますが、それと同時に自己開示によって仲間からの信頼を勝ち取ることも多いのです。また、部下の自立心を育て、チーム全体の能力を開花させる効果もあるのです。

知りたいという思い自体は持ち続けてOK

では、何も知らなくても良くて、勉強しなくてもいいのか?というと、そうではないのです。本書で言っているのはそういうことではありません。

知ること・知識を求めること、それ自体は悪いことではないのですよね。知りたい、というのは多分人間の持っている根源的な欲求。それを抑える必要はないのです。

ただ、何かを始める時に、その知識や、それに裏打ちされた過剰な自負心を捨て去るだけでいい。これまで培った経験や知恵を捨てろ、という意味ではなく、それらの既存の知識が新鮮な視点やアイデアをふせぐカベにしてはならないのだ、ということですね。

まとめ

僕の最近の読書では、漠然とした一つの問いを立てながら読んでいます。それは、「不確実性が支配するこの時代、人生をどう生きるべきなのか」ということです。大げさですが、要するに「この先どう生きたらいいのか指針をくれ!」ということです。

別エントリーでも挙げましたが、僕は、現在41歳にして無職生活に突入して2ヶ月目を迎えています。(2016年7月現在)先立つものや確固とした考えもあまりなく、勢いで会社を退職してみました。将来のキャリアプランや確固たる生き方の指針なども当然ありません。

だから、これから人生の後半生を生きていくため、何らかの指針が欲しくて、その答えのヒントを「読書」に求めています。そんな僕にとって、シンプルながら、この「無知の技法」は学ぶところが非常に大きかった良書でした。

不確実性を全面的に受け入れ、心をゼロにしてそこから立ち上るセレンディピティや創造性を信頼してみる。本書で示されるこの「無知の技法」は、非常に汎用的で、あらゆる読者がこの書から得られるものがあると思います。

2500年以上前に生きた古代ギリシャのソクラテス以来、常に言われているシンプルなメソッドですが、シンプルであるがゆえに、立場、条件、環境、時代を選ばずあありとあらゆる局面で普遍的に活用できるのです。

でも、多分一番大事な事はそれを習慣として定着させること。本を読んだ直後はわかった気がしていますが、シンプルなことだからこそ、日常の瑣末な出来事に追われる中で忘れてしまいがちです。

そういう時は、この本をそっと本棚から取り出して、ランダムにペラペラめくるようにしたい。そういう意味で、長く自分の手元に置いておきたい本でもあります。訳出もスムーズで非常に読みやすかったです。本当におすすめです!

それではまた。
かるび

書評:「不屈の棋士」は人工知能に追い詰められ苦闘するプロ棋士達をリアルに描く傑作でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

素晴らしい本でした。

2016年7月に講談社現代新書から出た新刊、大川慎太郎著「不屈の棋士」は、衝撃的なノンフィクションでした。

どうすごいのか?

これまで、将棋界から出版される本は、個人に焦点を当てた英雄譚や偉人伝的なものや、ビジネス書的なアプローチで「プロ棋士に学べ」的なスタンスのものが多いイメージがありました。いわば彼ら個人や業界のブランディングの延長線上にあった、一種行儀の良い本が多かったわけです。

が、この本は違います。2016年時点で、彼らのプロ棋士としての『存在価値』を激しく揺さぶる「人工知能」について、トッププロに真正面からタブーなく切り込み、生々しい苦悩や迷いを証言として引き出したリアルなノンフィクションです。

僕も、読み終わって非常に衝撃を受けました。この感覚を忘れないうちに、以下、早速感想を書いていきたいと思います。

人工知能をテーマとしてまとめられたインタビュー

将棋界では、ここ数年人工知能を搭載した将棋ソフトがどんどん強くなり、公式棋戦等でも、プロ棋士にコンスタントに勝ち越すようになってきています。

昨今、人工知能の発達普及により、将来失業者が増えるのではないかという話をよく耳にすることが多くなりました。それは、我々一般の職業人にとっては、正直まだまだ先の話です。

でも、将棋界はいち早くこの「失職リスク」が現実化しつつあると言っても過言ではありません。だってソフトに勝てないのですから。「最強」という称号を失ったプロ棋士の存在意義が根底から揺さぶられつつあるのです。

そんな中、長年専門誌等で将棋ライターを務める著者が、将棋界の代表的な棋士11名に対して、非常にセンシティブなトピックである「人工知能についてどう思うか?」に焦点を絞り、ストレートに切り込んだインタビューをまとめたのが本書です。

インタビューでは棋士達の危機感や苦悩が強く感じられた

インタビューでは、プロ棋士たちの、AIを搭載した将棋ソフトウェアに対する様々な思いがあふれだします。トッププロ達の怒り、苦悩、焦りなど様々な感情が、インタビューの文面からにじみ出ます。

インタビューに応じたのは、第一人者である羽生善治を始め、長年将棋界を牽引するA級棋士である森内俊之、佐藤康光、次世代のエースである渡辺明、糸谷哲郎、そして実際に電王戦、叡王戦でコンピュータソフトに敗れた経験のある山崎隆之、村山慈明など錚々たるメンツ。

彼らトッププロをも実力面で凌駕しつつある将棋ソフトに対する見方や、対策、将来の展望などは様々に分かれましたが、彼らに共通するのは、強い「危機感」でした。

もはや将棋ソフト抜きでは成立しない将棋界

印象深かったのは、彼らトップ棋士達が、ソフトを好きか嫌いかにかかわらず、すでに将棋界全体が将棋ソフトにより大きく影響されていることです。

研究段階でソフトウェアの活用が進み、徹底的なシミュレーションにより新たな定跡や、新手が次々に生まれる反面、その対策も早い。流行の戦型が出ては消え、出ては消えという目まぐるしい状況です。

また、ソフトウェアの指す手は、良い意味でも悪い意味でも固定概念や定跡から解放された指し方になります。ソフトウェアを日常の研究段階から深く使い込む若手棋士を中心に、「もっと自由に奔放に指してもいいんだ」と良い意味で固定観念から解放された斬新な指し方をする若手も増えているといいます。

そして、ほぼ全員の棋士が、「自分たちプロ棋士よりもすでにソフトウェアの方が強い」という非常に現実的で冷静な分析ができていることも、ハッとさせられました。

プロ棋士という職業は今後どうなるのか

著者による「ソフトの進化によって、プロ棋士の存在価値はどうなるのか」という非常に核心を付いた厳しい質問への回答が、本書の最大の見どころです。

半数以上の棋士は、その価値の源泉である「強さ」が失われる以上、これまでと同様の待遇を受けるのは難しく、いつかは棋士という存在がいらなくなる可能性もあると認識していました。いわば「人工知能による失職のリスク」が十分現実味を帯びてきているということです。

しかし、こういった厳しい質問にも一つ一つ、絞りだすように誠実に回答する彼らの姿勢と、彼らが現時点で見出したそれぞれのスタンスは見事でした。決して現実から逃げることなく向き合い、現時点で彼ら自身がどう対応していくかーそれはひとりひとり違っていてユニークなのですがー非常に読み応えがありました。

プロ棋士という仕事はなくならないと感じた

読了しての感想ですが、個人的には、「プロ棋士」という仕事はなくならないのではないかな、と感じます。

彼らを支えるメインスポンサーである新聞社が厳しい状況ということもあり、人工知能全盛時代には、現在の「名人戦」という枠組みを基本とした現在のプロ制度は変化せざるを得ないでしょう。

ただ、コンピュータと人間の能力差がどれだけ広がったとしても、やはり観ていて面白いのは、人間対人間の真剣勝負が生み出す様々なドラマやストーリーだと思うのです。

「3月のライオン」「月下の棋士」等の将棋マンガが人気を博した理由は、登場人物達の競技レベルの高さではなく、彼らトップ棋士達が真剣に戦う中で生み出される人間模様の面白さにあります。

また、ジャンルは違いますが、箱根駅伝や高校野球といった、競技者達のレベルは決して最高ランクとはいえないアマチュアスポーツが、「真剣に競技に取り組む人間ドラマの面白さ」という点で国民的人気を保ち続けている点も、先行事例として参考になりそうです。

まとめ

世界的な人工知能研究者のレイ・カーツワイルによると、2045年には、人工知能が人間の情報処理能力を上回る特異点「シンギュラリティ」に至るとされ、その時、人間生活は後戻りできないほど変容する、と言われます。

現時点で、人工知能の脅威を間近に感じるところで生活している人は少ないと思います。ただ、いつかはわからないけれども、我々一人一人今の将棋界のトップ棋士のように失職のリスクやアイデンティティそのものについて嫌でも考えさせられる日が来るはずです。

この本は、そんな近未来の私達の状況を先取りしたかのような将棋界の現状を、迫真に迫るリアリティを持って感じさせてくれます。読んでいて、複雑な気持ちにさせられる深い内容の本でした。また、ハイレベルなインタビュー内容を現場の緊張感をそのまま本にまとめ上げた作者の力量にも感服しました。

ゼロから分かり易く背景知識が解説されているため、将棋についての背景知識も必要ありません。ノンフィクション好きに幅広くおすすめの本です。是非手にとって見てください。

それではまた。
かるび

東京都知事選での小池百合子圧勝劇の理由は、増田、鳥越両名とのコミュニケーション能力の違いだったのか

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かるび(@karub_imalive)です。

東京都民として、個人的に参院選より注目していた都知事選が終わりました。選挙戦序盤は、三つ巴と言われていましたが、終わってみれば、小池百合子の圧勝でしたね。投票締め切り直後早々に、当確が出てしまうほどでした。

今回のエントリでは、なぜ小池百合子がこれだけの地滑り的な圧勝を勝ち取ることができたのか、現時点で少し考えてみたいと思います。

1.増田・鳥越両氏の肉声が聞けず、「池上無双」は消化不良気味

さて、参院選ほどの特番シフトではなかったものの、今回もテレビ東京では池上彰をメインパーソナリティに据えた2時間30分の選挙スペシャル特番を組んでいました。

「池上無双」再びなるか?ということで、僕も、これを期待して最初から最後まで観ていたのですが、結果としては、肩透かしに終わりました。だって、当選した小池百合子以外の有力2氏は、池上氏のインタビューに応じなかったのですから。

増田氏や、彼を担ぎだした石原伸晃幹事長は、テレビ東京の中継時間帯には事務所に姿を見せず、また、鳥越氏はテレビ東京のインタビューを拒否するというていたらく。見事な敵前逃亡ぶりでした。

実際に選挙結果が出てからの彼らの対応を見ていると、最後まで好対照。最初から小池百合子の勝利は決まっていたんだなと思わざるを得ませんでした。

2.都知事選での勝利の方程式とは?

ちょうど、都知事選の前日に過去の都知事選について、その当選につながった勝因を分析している興味深い記事を見つけました。

記事によると、都知事選は、短期間での勝負でもあり、政策の中身よりも立候補者のイメージを効果的にアピールすることが勝利に繋がるのだと分析されていました。記事中で紹介されているのは、日本政治史を専門とする岡田一郎氏の著作「革新自治体」。

ちょうど今回の都知事選と似たようなケースとなった1967年、自民、公明が推す本命候補に対して、革新系の独立候補であった美濃部亮吉が終盤戦を制して勝利を収めるのですが、同氏の著作では、その勝利の要因を、

  • 短期決戦のため知名度が重視されたこと
  • 政党色、組織色を消すこと
  • 無党派を取り込むことが勝利の鍵になること
  • リーダーシップ、クリーンなど特徴的イメージを作ること

と分析しています。

これを、今回当選した小池氏に当てはめると、最後の「クリーン」(?)というのはともかくとして、ほぼ全部が当てはまっていますね。

◯短期決戦のため知名度が重視されたこと
→主要候補の中では鳥越氏と並んで知名度No.1でした。
◯政党色、組織色を消すこと
→自民党本部とケンカ別れしたこともあり、自民党からの推薦を得られず、結果として独立色が強くなりましたね。
◯無党派を取り込むこと
→浮動層にアピールするネット選挙を駆使し、無党派層を一番取り込無事に成功しました。
◯リーダーシップ、クリーン・・・
→都知事選では、既存の都議達の不透明な慣行に切り込むと宣言、また女性首長としてのリーダーシップも十分アピールできていました。

3.コミュニケーション能力が決定的な差をつける要因となった

僕は、これに加えて、今回小池氏と小池陣営が優れていたのは、マスコミ対応力やネット活用を含めた総合的なコミュニケーションの上手さだったのかなと考えています。対外的なプレゼンテーション能力、コミュニケーション能力の巧拙が結果を分けました。それは、主に以下の3つだったかなと思います。

3-1.判官贔屓を誘導する対立構造や雰囲気作り

今回の選挙は、自民党内の分裂選挙。自民党は、危機感の裏返し(と恐らく私怨)から、与党統一候補として推す増田氏を、党議拘束や組織を目一杯活用して支えました。党員本人だけでなく、その親族の投票行動にまで制限をかけ、違反時に連座して処分を下すというかつてないほどの厳しい罰則をちらつかせるなどして結束を図りましたが、これが完全に裏目に出ます。

猪瀬氏は、個人的に内田氏に恨みがありそうですが、それを差し引いても親族まで連座って中世の封建時代みたいなやり口は、どうみてもダメでしょう。

小池陣営は、このやり過ぎ感をきっちり突いて、対立候補である増田氏とそれを推す自民党失効本部を「組織で弱い者いじめをする悪者」へと仕立てあげて、うまく民衆の判官びいきを引き出します。

これは、1991年に、当時の現職である鈴木俊一知事が4選を決めた際もほぼ同じ構造でした。
1991年東京都知事選挙 - Wikipedia
当時、現職だった鈴木氏が4選を目指して立候補したところ、自民党の小沢幹事長(当時)は鈴木氏が「高齢」であることを理由に、公認せず、対立候補として元NHKアナウンサー、磯村尚徳氏を立てて分裂選挙に臨むことになります。

鈴木氏は、自民党本部の推薦がもらえず、東京都連だけの推薦を得て4選目の選挙を戦いました。その「公認」プロセスは、非常に不透明で見えにくいものでした。大衆はその状況から、「小沢執行部=悪」ととらえ、判官びいきから鈴木氏に同情票が流れます。結果、鈴木氏が全体の約50%を集める地滑り的勝利となり、後日小沢氏は敗戦の責任を取り、幹事長を辞任することになりました。

自民党本部は、25年前の小沢執行部で大失敗しているにもかかわらず、今回全く同じ轍を踏んでしまい、過去の学びを活かせませんでした。

小池氏は、この流れをきっちり踏まえた上で選挙でのイメージ作りに上手く利用し、同情票も集めることができたものだと思われます。

3-2.ネットへの対応能力

今回、Twitter等でネットを活用した選挙活動が一番上手だったのも、小池氏でした。それ以外の2氏は、SNS等を効果的に使えておらず、ネット上での支持を広げることができませんでした。

まず、こちらの記事を見てください。

今回、3者のFacebook、Twitterの数値を単純比較した際に、すでに小池氏が知名度を背景とした圧倒的なアドバンテージを保っていることがわかります。

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これに加えて、小池氏は、他の2氏に比べてその使い方が上手でした。他の2氏は、FBもTwitterもただ単に情報を流すだけ。本当の意味でのフォロワーとの交流が出来ていませんでした。

しかし、小池氏の場合は、フォロワーとの交流で雰囲気を盛り上げます。具体的には、フォロワーへの演説会等イベント告知の際に、本人のイメージカラーである「緑」にちなんだ何かを身につけて参加するようにお願いをしていきます。

また、演説会でもそれを効果的にアピールします。対立候補であるマック赤坂と鉢合わせした際も軽く利用してしまう巧みさ。1分過ぎから、すこし音声を起こしてみました。

ありがとうございます。(マック赤坂が緑色の服だったことを指して)ましてや、いつもは赤がイメージカラーであるマックさんまで、どういうことでしょう。パンツまで!ありがとうございますありがとうございます!一緒に頑張りましょう!くつだけは赤ということでありがとうございます!私、街頭演説を行います。お知らせをネットで致します。そして、緑のものをなにか持ってきてくださいとお願いをしてきました。みなさん、緑、緑、緑、緑、緑、緑、緑すごいです。ありがとうございます。わたくしが目指す東京は環境先進都市、エコな東京であります。その象徴がこの緑であります。皆さんとともにこの緑に染めていきたい。どうぞよろしくお願いいたしまーす!

この呼びかけが、フォロワーたちへ参加意識を明確にもたせ、「緑色」という共通シンボルが小池氏との「共感」「結束」をもたらしたのでしょう。実際、選挙戦最終日の池袋の最終演説会場では、アイドルのコンサート会場のような雰囲気が出来上がっていました。

ペンライトが乱舞する池袋f:id:hisatsugu79:20160801014040j:plain

3-3.ユーモアの使い方で差がついた

今回の都知事選中盤で、その象徴的となった事件が、石原慎太郎の「厚化粧」発言でした。増田氏を応援する石原氏が、26日の応援演説で、「あんな厚化粧には国政を任せられない!」と小池百合子の容姿をやゆする、一種時代錯誤的な発言をします。親子揃っての大ブレーキになるという・・・

昭和の旧き時代ならともかく、この21世紀の現代においては、公人としては全く不適切な発言であり、冗談にもなっていません。これで、増田氏からの女性離れが始まったと言われています。

すると、鳥越氏はこの敵失に対して、何も考えずに小池氏のことを「厚化粧の人が核武装解禁と言っている」と同じく演説で口を滑らせてしまいます。これも大きなマイナスでした。

これに対し、小池氏は、翌日の選挙演説で「今日は薄化粧で来ました」と軽くジョークで返します。対立陣営からの敵失に近いネガティブキャンペーンを、ユーモアで流し、余裕をアピールしつつ大衆の心をつかむ上手さは、まさに対照的でした。

4.まとめ

こうして見てみると、やはり今回の小池氏は、勝つべくして勝ったのだなと思わされます。決して、ものすごい工夫を行っているわけではないんです。小泉進次郎みたいにスピーチが滅茶苦茶上手なわけでもなく、議員としての過去の経歴も渡り鳥的で決してキレイではありません。

しかし、小池氏は、選挙戦の基本に忠実でした。状況を的確に読んで、過去の事例から学び、できる工夫を一つ一つ積み上げていく。そして、熟練した政治家らしく、大きな失言やミスもなく、手堅くまとめていきました。敵失にも助けられましたが、適切な選挙運動を確実に行うことで、勝利につながったのだな、と感じました。

もちろん、小池氏を待ち受ける試練はこれからだと思います。本人は「ノーサイドで」とインタビューで回答していましたが、そんなに簡単には行かないでしょうね。今回の捨て身の大勝負に勝った勝負強さを活かして、ぜひより良い都政を実現していって欲しいです。

それではまた。
かるび

「5分後に意外な結末」は気軽に楽しめるショートショート。おすすめ!

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かるび(@karub_imalive)です。

今年から、よく落語を聞くようになりました。

落語はいいですね。江戸時代から語り継がれてきた噺だから、ハズレがありません。ストーリーの骨格や展開が本当にしっかりしていると思います。そして、落語家が一番注意を払って工夫を重ねるポイントでもありますが、最後にオチをしっかりきかせて、意外性のある結末も良いと思います。

でも、今日は落語の話じゃなくて、「ショートショート」のおすすめ作品について書きたいと思います。そのタイトルとは、「5分後に意外な結末」。シリーズで出版されており、2016年8月現在で、続編を含めて全9冊出ています。

ショートショートと落語は似ている

ところで、ショートショートって、落語に似てるような気がします。まず、文学的な表現よりも、エンターテイメントとしての純粋な面白さが、気軽に楽しめる点です。

また、短くてあっという間に終わってしまうのに、必ず最後にインパクトのある結末が用意されている点も似ています。オチの種類も、面白おかしい話やバカ話だけでなく、人情味あるホロリとする展開があったり、ブラックユーモアを利かせた話があったりと、多種多様いろいろ楽しめる点も類似性がありますね。

ショートショートは多忙なサラリーマンの細切れ時間にぴったりはまる

ところで、ショートショートは、忙しいサラリーマンの日常の息抜きにもぴったりだと思うんですよね。会社の休み時間や通勤電車の中などのコマ切れ時間にささっと本を開き、1話完結で読み終えることができる。

まぁ、ブログなどを読んだりしててもいいのですが、活字中毒な僕は、断然細切れ時間は読書派です。前職のサラリーマン時代は、休み時間などはできるだけ一人の世界にこもり、少しでも時間があけば本を読むのが好きでした。

若年者向けだけど、大人も気楽に楽しめる本

今日の書評で紹介するショートショート/短編集「5分後に意外な結末」シリーズは、もともとは小学生高学年以上~高校生程度をターゲットにした若年者向けの本です。Yahoo知恵袋などを見ると、読書感想文に書く人も多いようですね。(ってショートショートの感想文とか、長く書けるんだろうか・・・)

僕も、最初この本は図書館の中学生向けコーナーで偶然見つけました。タイトルが面白かったので、完全にタイトル買いならぬ、タイトル借りです。

この本は、題名の通り、本当に1話につき5分で気軽に読了できます。そして、ひとつひとつの話は、どれもクオリティが本当に高いのがおすすめポイント。1冊あたり約30話がオムニバス形式で収録されているのですが、どれを取っても、どこから読んでもハズレなし。意外性と驚きに満ちた結末が待っています。

これは若者だけでなく、大人でも幅広く楽しめるよね、と思ってAmazonやブックメーター等の書評を見てみると、案の定書き込みは大人ばっかりでした。中には、子供から借りて読むなど、親子で楽しんでいる人もいるようですね。

世界中の意外なストーリーをキュレーションした作品集

本書は、著者のクレジットがないのですよね。なぜだろう?と思って見てみると、目次欄に小さくこんな注意書きがありました。

本書には、オリジナル作品のほか、日本や世界の小話、都市伝説や、名作小説、古典落語などを翻案した作品を収録しています。(クレジット表記のないものは、特定の作者が存在しないものです)。また、名作小説は、原典を忠実に翻訳したものではなく、短い時間で読み切れるようにアレンジを加え、翻案した内容になっております。

なるほど。

確かに、見てみると、僕でも出処のわかる古典落語の改作や、アメリカやフランスなどの古典作品から恐らく原案を取っているんだろうな、と思えるような痕跡がありました。

要するに、著者権が切れたか、不明となっている世界中の面白い話を編集者がキュレーションして、それをライターさんが現代風に短くアレンジしてまとめ直した作品であるということです。

昔から語り継がれ、歴史によるふるいに架けられて残ってきたストーリーを徹底的に短く作りこみ、面白さのエッセンスだけを残しました、みたいな、そんなコンセプトです。道理でハズレがないわけだ、、、。

だから、掲載の順番などもバラバラです。日本の江戸時代の話が出たと思ったら、近未来のSF風になったり、アメリカの西部劇時代の話になったり、統一感はありません。つまり、どこから本を開いても、楽しめるということですね。

マンガを読み返すように何度も楽しめます

また、この本は沢山の話がつめ込まれていますので、マンガを読み返すように何度も楽しめます。僕も、1度図書館で借りてから、2ヶ月後に改めて気になって買い直したのですが、2ヶ月前に読んだ内容など全部忘れていました。

多分、数カ月後にはまた忘れていると思うので、何回も気楽に読み返そうかなと思っているところです。

まとめ

もう1度言いますが、本当にタイトルどおり、「5分後に意外な結末」が待っています。「えっ、そうなるのか!」と驚かされたり、ちょっといい話にうるっとしかかったり、私達の心をいい具合に揺さぶってくれます。個人的には、1巻の「父の時給」が一押し。5分後に必ず泣けます。

昼休みに、寝る前に、通勤電車に、あらゆる細切れ時間に簡単に読める、心を少しだけ豊かにしてくれるサプリのような作品集です。本当にオススメです。

それではまた。
かるび

ちなみに、6冊目からは、新シリーズとして学校内に開設された「悩み部」の活動を軸に、学園生活で起こるイベントを題材にしたショートショート集となっています。こっちは学園モノのライトノベルみたいな感じで、ストーリーが少しずつ進んでいきますが、どこから読んでも楽しめて、各話に「意外な結末」が保証されているのは同じです。すでに4冊出版されて、累計60万部の大ヒットになっているようですね。

Kindle Unlimitedは有料の「電子図書館」。具体的な活用法を考えてみた!

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かるび(@karub_imalive)です。

2016年8月3日から、とうとうKindle Unlimitedが日本でも始まりましたね。早速本好きの人たちを中心に、ネット上で話題になっています。

僕も読書は大好きで、とにかくたくさんの本に常時触れていたい乱読派なので、早速お試し会員になってみました。

ある程度使ってみて思ったのは、うーん、「Unlimited」ではないかな、ということ。月額980円で、無尽蔵無制限に読めるわけではなく、仕様上の制限がきっちりとありました。

とはいえ、日本語の書籍が12万冊、洋書が100万冊以上定額読み放題となる大規模なサービスは初めてとなりますので、どうにかしてこれをいい具合に活用する方法はあるのか?また、どんな人がこのサービスに向いているのか、そのあたりを少し書いてみたいと思います。

1.Kindle Unlimited日本版の基本的な仕様について

もうご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、Kindle Unlimitedというのは、AmazonのKindleという電子書籍の中から、「Kindle Unlimited」とタグがついたものを月額980円で読み放題になる、というサービスです。

音楽や映画では、すでにNetflixやHulu、Line Music等々、すでに定額サブスクリプションサービスが開始されていますが、その「本」バージョンだと思ってください。

2016年8月4日現在、日本語の蔵書が140,046冊、洋書が1,284,075冊、読み放題となります。契約者は、通常のKindle同様、ボタンを1クリックするだけで、自分のKindleアプリやKindle Fire等の専用端末に通常通りダウンロードして読書を楽しむことができます。

2.Kindle Unlimitedは貸出制限がある

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Kindle Unlimitedは、一度に10冊までしか同時に読むことができません。11冊めをダウンロードしようとすると、上記のような画像とともに、どれか1冊、既存のダウンロード済みの書籍を削除しなければならないんですね。ここで、少しテンションが下がる僕(笑)


これって、なんか図書館みたいだよね?と思って、海外のKindle Unlimitedについて書かれた記事を見てみました。すると、「borrow up to 10 books」などと書かれているんですよね。「borrow」、つまり明確に「借りる」っていう概念で捉えられているんです。

つまり、Kindle Unlimitedの本質は、定額サブスクリプションサービスと言うよりは、有料の民間電子図書館みたいなものである、ととらえたほうがわかりやすいのです。

公立図書館は無料で物理的な「本」や「雑誌」の貸し出しサービスをしているのに対して、Kindle Unlimitedでは、有料で電子的な「本」や「雑誌」の貸出サービスをしているということですね。

3.日本の公立図書館と比較してみる

ということで、少し整理するために図を作ってみました。公立図書館とKindle Unlimitedの類似点/違いを見てみましょう。

★公立図書館 VS Kindle Unlimited(要素比較)f:id:hisatsugu79:20160804230959j:plain

どうでしょうか。共通点は、「所有できず、冊数制限付きで借りる」というところですね。相違点は、どこにコストがかかるか?ですね。

公立図書館は、利用自体は無料だけれど、「予約順番待ち」「貸出期限」「通うための時間/物理的費用」等、時間的なコストがかかります。

Kindle Unlimitedは、純粋なネット上のサービスなので、そういった不便さはありませんが、代わりに「利用手数料」としてAmazonへ毎月定額の支払いという金銭的なコストが発生するということでしょうか。

4.日本語書籍のクオリティはどうなのか

これは、すでに先行して良い分析をしてくれているサイトがありました。

こちらの記事に掲載されている一覧表によると、小学館・集英社・講談社等、大手出版社はほとんど様子見状態で、導入に積極的なのは中小出版社です。

そして、良い本も中にはありますが、ラインアップの大多数は発売されて時間が経過した本や、インディーズものです。学術的に価値が高い本、価格の高めな翻訳書など、クオリティの高い本はやはり少なめ。

逆に、参考書類や実用書といった、どちらかというとセールスがロングテール向きなものが比較的多かった印象です。

僕の個人的な印象ですが、公立図書館の蔵書と比較すると、こんな感じかとと思います。公立図書館との住み分けが結果的にはできているのかなと。

★公立図書館 VS Kindle Unlimited(蔵書の比較)

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まだ出始めたばかりなので、各社様子見というところもありますし、このあたりは今後に期待ですね。

5.アメリカでのKindle Unlimitedの普及状況

実は、Kindle Unlimitedは、アメリカ、イギリス、カナダなど、日本での導入前にすでに10カ国で先行してサービスが始まっています。日本は後発です。もちろん、最初にサービスがスタートしたのはお膝元のアメリカ。2014年7月からスタートしていますので、現在、導入して満2年以上が経過しています。

つまり、アメリカでのKindle Unlimitedのおかれた状況を見ておくことで、ある程度日本での普及の見通しなども立てられるのではないかな、ということで、少しチェックしてみました。

さて、アメリカでは、Amazonが定額読み放題サービスに参入する前、すでに何社か有力な先行組企業がいました。しかし、2014年7月にKindle Unlimitedのサービスローンチ後、ロケットスタートであっという間に電子書籍の市場を制圧。競合業者を抑え、全体の50%以上のシェアを確保しています。(※この調査の後、業界3位のOysterはサイト閉鎖)

f:id:hisatsugu79:20160804191706p:plain
(引用:http://goodereader.com/blog/e-book-news/kindle-unlimited-is-the-most-popular-e-book-subscription-service/attachment/poll-results

先行して2012年にサービスが始まっていたOyster、Scribdもそれぞれ100万冊以上の蔵書数を誇っていた強敵でしたが、それをものともせずあっという間に抜き去ったのはさすが多国籍企業というべきか。日本でも、先行するサービスは数社ありますが、きっとアメリカ同様Amazon1強体制になることでしょう。

6.では、アメリカでの評判はどうなのか?

ネットで20本ほど海外のニュースサイトや掲示板のスレッドを読み漁ってみました。具体的な満足度調査の統計データは見つからなかったものの、読者は全員が必ずしも両手を挙げて賞賛!というわけではなく、結構辛口な意見も多くありました。2つほど論点を挙げてみると・・・

6-1:コストに見合うほど本を読み切れるのか?

上記記事によると、典型的なアメリカ人の年間平均読書数は年間約4冊。一方、アメリカではKindle Unlimitedのコストは1ヶ月9.99USDなので、年間で約120USDの維持費がかかります。アメリカの電子書籍のベストセラーの平均額約8USDとされていますので、Kindle Unlimitedのコストに見合うには、年間15冊読まないといけないわけです。どうですか?そんなに読書しますか?いや、そんなにしないよね~、じゃあいらないよね、という意見はかなり多かった。

一方、日本人はどうなのでしょうか?

平成25年の文化庁の「国語に対する世論調査」を見てみましょう。この調査では、数年に一度「1ヶ月に何冊本を読みますか?」という設問が設けられますが、その回答がこちら。

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このグラフを見ると、読書量が1ヶ月に1~2冊以下の人が実に全体の81%になります。アメリカ人と大して変わりません。

アメリカ同様、年間15冊以上読んでペイできるとするなら、おおむね月2冊以上読む19%の人ならサービス加入の検討に値しますが、それ以下の人は、コスト負けしそう。ピンポイントで欲しくなった時に購入したほうがお得だということですね。

6-2:大手出版社は消極的だし、ベストセラーがラインアップに入っていない

アメリカでも、日本同様出版社とAmazonの関係は蜜月というには程遠く、常にピリピリした関係になっています。特に、大手5社(Hachette, MacMillan, Simon & Schuster,HarperCollins, Penguin)の書籍は1冊も読み放題対象にはなっておらず、それゆえにベストセラーもなかなか読めないようです。*1

日本でもこれは当てはまりそうです。売れ筋の本を多数扱う有力出版社は、まず様子見という感じですし、本音としてはやりたくないでしょう。フタをあけたら、中小出版社が思っていたよりコミットしている感じで、それなりに読めそうな本は案外多かったですが、やはりリアル書店や通常のKindleと比較するとまだまだこれからといった感じです。

7.Kindle Unlimitedの具体的な活用法

上記でも述べた通り、Kindle Unlimitedはどちらかというと「図書館」に近いサービスです。所有できず、あくまで一時的に「借りる」イメージです。これを踏まえて、どのような活用方法があるのか考えてみたいと思います。

7-1.調べ物の際に資料として使い倒す

とにかく借り放題なので、仕事や学校などで、調べ物をする際に使えそう。蔵書数がまだ少ないので、これだけでは調査が完結はしませんが、調査の初期段階としては十分まかなえます。まず気軽にダウンロードして、ざざっと主要論点や全体像を押さえるのには使えます。その後、図書館や本屋でさらにリサーチすればよいわけですから。

僕も、実はこの記事を書く際に、さっそく洋書から5冊ダウンロードしてざざっと論点を拾いましたが、やはり手元でさくさく調べ物ができるのは本当に便利!何かの調査の初動段階ではかなりいい感じで使えます。

7-2.資格試験や受験参考書、辞書を気軽に試す

自分に合う試験参考書や辞書ってなかなか見つからないですよね。本屋で立ち読みするだけじゃなかなかわからないし、買ってから「うーん、やっぱり違うな」となることも多いかと思います。

Kindle Unlimitedでは、こうした受験や各種資格の受験参考書が結構出ています。まずは気軽にダウンロードしてみて、気に入ったらそれを使い続けるもよし、紙媒体で買い直すのもよしだと思います。

7-3.購入も視野にいれてガンガン試す

Kindle Unlimitedの対象となっている本は、未来永劫そうであるとは限らないと思います。出版社も、いろいろ試行錯誤をしているはずで、特に最初のうちは機動的にラインアップが変わってくると思います。

Kindle自体、「期間限定セール」や「最初の3巻まで無料」といった売り手側の販売促進の為に「期間限定」「冊数限定」で値引きされてきた経緯があるため、前例を踏襲して、Unlimited対象作品は公立図書館よりも変動が激しそうです。

いつ読み放題から削除されるかわからないから、まず少しでも気になったらダウンロードして気楽に試す。そして、これは!と気に入った作品はKindle単体で購入したり、紙媒体で購入しても良いと思います。

実際に、アメリカではKindle Unlimitedに指定されてから、Kindle単体としてかえって売れるようになったという、出版社側の成功事例もあるようです。

7-4.雑誌の立ち読み代わりに使う

上記の記事のように、読み放題対象となった雑誌はそれなりにあります。雑誌をとにかく読みたい!という人は、これとドコモのdマガジンを網羅すればかなりのレベルになるはず。

これまで、コンビニや書店などで立ち読みで済ませていた雑誌も、読み放題となるので気兼ねなく場所・時間を選ばず読めますね。また、立ち読みされて読者を逃していた雑誌出版社にも、良い話なのかもしれません。

まとめ

Kindle Unlimitedに加入すると、リスクなく「気軽に落として」「適度に速読や流し読みで読み飛ばす」ことができます。また、調べ物の初動段階でもかなり使えます。

つまり、公立の図書館を使う時とほぼ同じような意識で使えばいいということですね。コスト的に見合う多読、乱読派や、調べ物を沢山する人には非常に良いサービスになるんじゃないでしょうか。試す価値は大いにあると思います。

僕は、しばらく半年くらいはまず使い倒そうと思っています。

それではまた。
かるび

*1:その代わり、アメリカでは公立図書館が健闘しているようです。日本以上にリアル書店が消えてしまった出版社にとって、現在公立図書館は新作のプロモーションを行う貴重な場となりつつあり、図書館と出版社の関係が良好なのです。Kindleにはベストセラーは流さないけど、図書館の電子書籍サービスには提供が始まっています。

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