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ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(後編)

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アートブロガーのレジェンド、ブログ「青い日記帳」のTakさんが8月6日、ちくま新書からアート鑑賞入門の決定版「いちばんやさしい美術鑑賞」を上梓することになりました。

新書発売を記念して、アートブロガーのはろるどさん(@harold_1234)、KINさん(@kin69kumi)など共同で、Takさんと、筑摩書房の編集担当・大山悦子さんにインタビューさせて頂いた、【インタビュー後編】をお送りいたします!

こちらが、【インタビュー前編】です。新著出版に関する裏話や苦労話を中心にまとめています。未読の方は、是非こちらと合わせてお読み頂けると嬉しいです。 

第2回(後半)は、「青い日記帳」ブログ開設秘話やTakさんがアート鑑賞にハマったきっかけなど、Takさんのよりパーソナルな一面を掘り下げたインタビューとなっています!

ブログ「青い日記帳」誕生秘話とは?ブログ運営についてのエピソードも聞いてみた!

―2003年にブログ「青い日記帳」を始められて15年立ちましたが、最初の方の苦労した話や初期の頃のアートブログ界隈についての印象的なエピソードとかありますか?

Tak(「青い日記帳」Takさん):「ブログ」のあり方も、2018年とは全然違っていたので。タイトル通り、本当に「日記」をつける感覚ではじめました。どうせブログを書くのであれば、毎日書こうかなと思って。気がついたらここまできちゃいました。

誰かに書きなさいと言われたりとか、締切がどうこう、というのだと、なかなか続けるのは難しいと思いますが、なんとなく自分で書こうかなっていう、ふわっとしたスタンスで臨んでいることが、15年間ブログを続けられた秘訣じゃないですかね。

ゆき(Takさんの奥様):とにかくしつこい(笑)あきらめないんです。一回書くって決めたら、もう何があっても書き続ける(笑)すっとこの15年続けてるわけだから、恐ろしい(笑)これをやる!とか絶対言い出さないでほしいなぁとか(笑)言い出したら何があっても通しちゃうから。

―15年前ってブログが出来てきた頃ですよね。ブログ仲間などはどこで見つけられたのですか?

Tak:あっちこっちのブログに遊びに行っては、ブログにコメントをつけまくってましたよね。あとは、掲示板で知り合ったり。その感覚は、今の人に言っても伝わらないかもしれないですよね。好きなものをただ書いていただけって感じです。

 ーなぜ、ブログタイトルが「青い日記帳」なのですか?
Tak:元々運営していたWebサイトが「青」が印象的な作家や作品を取り上げたサイトだったので。フェルメールとかセザンヌとか。イヴ・クラインとか。曜変天目も。そこから【青】をブログタイトルとして取って。

ブログの前に、日記帳っていうサービスっていうのがあって、最初はそこで日記を書いていたんです。そこが、「青い日記帳」というタイトルだったんですね。ところが、その日記帳サービスが終了して、代わりに立ち上がってきた「ブログ」へと引っ越したので、ブログに「弐代目・青い日記帳」とつけたんです。(※今回の新書出版のタイミングで「弐代目」はブログタイトルから削除されました)

―今時点で、ブログを書くにあたって、ポリシーなどはありますか?

Tak:重要視しているのは、欠かさないように書き続ける、ということです。あとは、ダメだったことは書かない。もっと皆さんに展覧会に来てほしいので、展覧会を見て、良かったところを重点的に取り上げるようにしています。

―それは、なぜなんでしょうか?

Tak:美術展はなんにも宣伝しなくても人が集まるようなものとは違うので。特にこれだけ娯楽が世の中に氾濫している今、色々な娯楽の中から展覧会を選んでもらうのは本当に大変なので。

大山(筑摩書房の担当編集者・大山悦子さん):Takさんの「良いところを重点的に取り上げる」という書き方は、何より読後感がいいんです。展覧会に行きたいなっていう気持ちにするにはこういうふうに書いたほうが良かったんだなって思います。

私は、展覧会を見る時、面白くないところを見つけていく鑑賞法っていうのはあると思っていたんです。面白くないな、ヘタだなヘタだな・・・と見ていって、良い部分を見つけたときの落差を楽しむ鑑賞の仕方です。どんな凄い作家でもホームランばっかりではないはずですから。たとえば、回顧展をやる時に、作家の初期作品って展示の最初の方に並ぶじゃないですか。習作とか、学生時代に書いていた作品とか。

でもそういう作品って正直出来がよくないですよね。それで、Takさんに執筆して頂く時「ああいうものはすっ飛ばしてみてよろしい」って書いてくださいとお願いしたりね。冗談で(笑)

でも、Takさんはそういう出来の悪い作品には触れず、出来の良い作品を重点的に見て、取り上げていくんです。「いちばんやさしい美術鑑賞」の編集を通して、Takさんのそういった視線が、まさに”展覧会を見る楽しさ”なんだな、と学ばせて頂きました。

仮に、例えば晩年になって作風が崩れてしまったような巨匠の出来の悪い作品を1枚だけ選んだとしても、Takさんならきっと面白いところを見つけて書かれると思うんです。それはきっとその絵の面白い見方なんだと思うんですね。本書「いちばんやさしい美術鑑賞」で提示された鑑賞法を駆使すると、多少クオリティに欠けた絵画でも、絶対面白く見れると思います。

―つまらないととか書くと、お客さんに足を運んでもらう出鼻をくじくというか、行きたい気を反らせてしまうような気がしますよね。

Tak:そうです。そのとおりですね。

―また、TakさんはTwitterやブログで、作品の内容意外にも「グッズ」や「カフェ」となども積極的に取り上げられますよね。このあたりも、ポイントとして意識されているのでしょうか?

Tak:グッズはやっぱり注目される度合いが違いますよね。ぶっちゃけ、絵画の画像をアップするより、グッズの画像をアップするほうが注目を浴びます(笑)本当によく考えられて作られているので。

―それは展覧会への興味を引くために、一つのきっかけづくりとして話題にされているのですか?

Tak:美術展のことをきっちり(Twitterで)140字で紹介しても基本誰も読んでくれないので。美術鑑賞は、他の娯楽に比べると所詮ニッチな世界ですから。

Takさんはなぜ年間に300、400も展覧会に通うのか?

―ところで、書籍の帯には、「年間に300、400通うカリスマブロガー・・・」と書かれているのですが、こんなに展覧会に熱心に通われるのはなぜなんでしょうか?

Tak:ただ好きだからです。それに、美術館に行くと落ち着きますよね。先日、(国際フォーラムで7月24日に開催された)フェルメール展の記者発表会に来た際も、せっかく有楽町まで来たんだからということで、ポーラ ミュージアム アネックスと出光美術館に行きましたし。美術館は「非日常空間」なので、行けば行ったで落ち着きますしね。また、あの日とんでもなく暑かったし・・・。(笑)

ゆき(Takさんの奥様):活動してないと調子が悪くなっちゃうんだよね(笑)まぐろみたいだなと。ずっと動いてないとダメなんだよね。

―Takさんは、一つ一つの展覧会にはそこまで時間はかけませんよね。展覧会に来ると、たいていは1時間以内であっさり済ませるような感じにも見えますが、それはずっとそういうスタイルでやっていらっしゃるのですか?

Tak:そうですね。ただ、気に入った作品や展覧会は何回も見ます。短く何回も。
大山:疲れなくていいかもですね。

―ポイントを絞って見るタイプなのですね。

Tak:同じ作品に同じだけ時間をかけるのではなく、流すもの、しっかり見るものと、好き嫌いでもいいのでメリハリをつけるようにしています。

―美術館に着いたら、いきなり見始めないで、一旦展示全体を見て回ってますよね。

Tak:流れを掴めますからね。行けば行ったで発見があって。例えば、先日行った縄文展(※東京国立博物館で開催中の「特別展 縄文」)は、チラシで前もって宣伝されている火焔型土器などの名品も良かったんだけど、目に止まったのは、最初の部屋に置いてあった、赤いうるしの塗られた北海道の縄文土器。それが大発見でした。

縄文時代は、イメージがない世界ではなく、実は色があった世界だったんだ!なんて腑に落ちて。ああいう作品をちゃんともっと取り上げればいいのになって思いました。

Takさんが美術鑑賞にハマったきっかけに迫ってみた!

―ところで、Takさんは大学生時代に本格的に美術鑑賞にハマったのでしたよね。最初に美術館に通い始めたきっかけを教えて頂けますか?

Tak:大学の授業中に、教授が、せっかく東京の学校に来てるんだから、たくさんの文化に触れなさいと。東京には、世界がうらやむようなコンサートやオペラとか絵画とかいろんなものが集まってきているから。だから、時間のある学生のうちに見ておきなさいって言われたんですね。大人になったらそんな時間はないんだから、って。

いくつかピックアップした中で色々試しました。ただ、コンサート、映画、オペラ、歌舞伎などは、時間が決まってるんですよね。その点、美術鑑賞だったら、展覧会がオープンしている時間なら好きな時間に行ける。それと好きな感覚で見れる。映画館だったら決められた時間に行って2時間とか座って見てなければいけないですけど、美術の場合は好きな時間に来て好きなテンポで見れる。それが、多分自分にはあっていたんだと思います。

―学生時代、Bunkamura・ザ・ミュージアムに欠かさず通ったっていうエピソードがありますよね。

Tak:それは大学(※國學院大學渋谷キャンパス)が渋谷にあったから。当時は、Bunkamuraが年間パスポートを発行していて。見始めたばっかりなので、とりあえずやっている展覧会は全部見ようと思って。年パス買えば、いくらでも好きな時に何回でも見れますし。でもそこで(西洋美術とは全然関係がない)織部焼とか知ったんですよね。あと写真の展覧会とか。当時の自分の感覚では、自分じゃ絶対お金払って見に行かないような展覧会でも見に行きましたし。

―だからこその年パスの威力ですね。

Tak:そうですね。色々見ていくうちに、印象派が好きになったりだとか。好きな作家が見つかると、その作家が展示されている展覧会に行ってみようだとか。

―Takさんの美術鑑賞の経歴の中で、Bunkamuraでの経歴って結構重要ですね?

Tak:重要ですね。あと当時はデパート展が結構あったんですよね。新宿伊勢丹とかにもあったんですよ。今のMEN’S館になっちゃったところとか。小田急百貨店で「シスレー展」とか普通にちゃんとした展覧会としてやっていたんですよ。都心のデパートや百貨店でやっていた展覧会は入場料が安かったですよね。

―学生時代というと30年前ですよね?とすると、現代アートとか全盛期でしょうか?

Tak:池袋のセゾン美術館とかも、年パス買って、現代アートの展覧会には通いましたね。デザイン系や建築系の展覧会も多くやってましたね。

―その頃もほぼ毎週行っていた感じですか?

Tak:そうですね。暇さえあれば。ただ、今みたいに300、400ほどは行ってなかったです。時間の空いた時くらいでしょうか。昔はどこでどんな展覧会をやっているのか、今みたいに調べる術がなかったんですよね。情報源がチラシとか「ぴあ」か「Tokyo Walker」か。当時「Tokyo Walker」ではたくさんある展覧会の中から、厳選してこれとこれがオススメっていう書き方をしてくれていました。それで、目についたものを全部行くようにして。

―当時の情報源は雑誌がメインだったのですね。

Tak:雑誌でしたね。
大山:新聞とかもありましたね。日曜版とか。

―当時と今では展覧会の数なんかも違うんですか?それとも、東京では昔からこんなに展覧会があったんですか?

Tak:ありましたね。昔から。行列ができて大混雑する展覧会もありましたよね。国立西洋美術館の「バーンズ・コレクション展」とか。(※日本の美術展の中で、100万人以上の来場者を集め、過去最大級に混雑した展覧会のうちの一つ)

―たくさん見て、美術鑑賞の目が養われたのですね。

Tak:でも、本も読みましたよ。本も好きでした。

―確かに、新書の中でもかなりの本を引用されていますが、Takさんにとってのバイブル的な本はありますか?

Tak:大学生の頃に手に取って感銘を受けたのが、赤瀬川原平「名画読本」シリーズです。これは、結構好き勝手に書いてあって、あ、美術作品って、こういうふうに自由に見ていいんだっていうのを、その本で知りました。

オススメの展覧会や美術館も聞いてみた

―今まで見た展覧会の中で、一番良かった生涯ベスト展覧会を教えて頂けますか?

Tak:相当悩みましたが、以下の5展ですね。

「杉本博司展」森美術館 2005年
「若冲展」相国寺 2007年
「ハンマースホイ展」国立西洋美術館 2008年
「江戸の幟旗展」松濤美術館 2009年
「東山御物の美」三井記念美術館 2014年

―日本美術系が多いですね!では、ここ数年で見た展覧会だとどうですか?

Tak:2018年8月現在、奈良国立博物館で開催中の「糸のみほとけ展」です。通常、仏像は「のみ」で削り出して制作しますが、あれは縫い付けて作り上げてるのでちょっと異質な感じがするんです。一つ一つ気持ちがこもっていて、積み上げていく行為で、宗教的なものを作ると、やっぱり熱いですよね。これは観に行ってよかったですね。

―読者にオススメの、今一番好きな美術館を教えて頂けますか?

Tak:東京・上野の国立西洋美術館ですね。企画展・常設展・建物なども含め、総合的に安定したクオリティですよね。美術館の中の空間も非常に見やすいですし。大学生だった時、先生から言われて、じゃあちょっと美術館行ってみるかなと思って最初に行ったのが、上野だったこともあります。

―Bunkamura同様、国立西洋美術館はTakさんの原点なのですね?

Tak:はい。とにかく学生時代は上野へよく通いました。その反面、六本木にはアート関連の施設が何もなかったですね。ヤバい外人しかいなかった(笑)

―今、一番注目しているアートのジャンルはありますか?

Tak:日本美術ですね。中でも、丁寧なものに注目してみたいですね。そんなに馬鹿みたいに作りこんでなくてもいいんです。線の1本が丁寧に引いてあるのが感じられるような作品がいいですね。工業製品とは違うので、流れ作業でざっざっと作ったものとは違ったものに見応えを感じます。先日の奈良国立博物館「糸のみ仏展」を見てからずいぶんそういうふうに思うようになりました。

編集・大山悦子さんにも、せっかくなのでいろいろ聞いてみた

―まず、伺ってみたかったのが価格面についてです。今回「いちばんやさしい美術鑑賞」の定価は920円で、税込み1000円を切る絶妙の価格に収まりましたよね。これは、敢えて1000円の大台に行かないように苦心して調整されたのでしょうか?

大山:そうですね。1000円を超えると、買ってくれなくなると思います。新書は簡素な作りの本なので、1000円は超えたらダメだろう、という考えはありました。もちろん、分厚い新書ならば話は別ですけどね。今回、本当は900円も切りたいなと思ったんですけど、それはまぁ、口絵代と思って下さい。

―ページ数とかカラー印刷部分によって、値段が上下するのですか?

大山:そうです。

―筑摩書房の新書って1000円以上の作品が少ないんですか?

大山:少ないです。ないことはないですが、非常に少ないです。一部のカラー新書では、1000円を超えてきます。

―新書の「厚さ」も、売れ行きに関係ありますか?

大山:あります。重たい本とか厚い本は読めないから・・・実は、本作はちょっと厚いんです(笑)どんなに広末涼子のエピソードの部分を切ってやろうかと思ったか・・・(一同爆笑)

―Takさんの作風についてはどんな印象をお持ちですか?

大山:Takさんと打ち合わせしていると、普段は結構毒舌なんです。展覧会やアーティストなど、面白おかしく斬っちゃう(笑)でも上がってきた文章を見ていると、すごくアーティストや作品のいいところを探して書いていらっしゃるのです。やっぱりアート鑑賞っていうのは作品への「愛」がなければだめなんだなということをすごく今回の仕事から私は学びました。やっぱりね、人が悪いのはだめですね。

―ところで、最近アート系の書籍がビジネスの文脈で販売され、ベストセラーもいくつか出ていますよね。これに関して、何か思うことなどありますでしょうか?

大山:ビジネスに携わる人でも、ビジネスそのものだけでなく、歴史や文化を語らなければいけないっていう流れは確かにきっとあるんだろうなっていう感触はあります。だから美術を語るだけでなく、日本文化を語ったり、美術を通して外国の文化を知っていくっていうことが求められているのかなとは思います。

そういう意味で、ビジネスマンは、すぐに現場で使える知識がほしい人たちですから、恐らく美術はとても受け入れられやすいポテンシャルがあるのだろうと思います。だからビジネスとアートっていうのは文脈的に非常に親和性があるんじゃないかなと。

―美術史って全てを含んでいるようなジャンルですよね。

大山:美術などの啓蒙的な知識って、新書との親和性が強いと思うんですよね。だから今回新書という媒体を選ばせてもらいました。高橋館長の本(※ちくま新書/高橋明也『美術館の舞台裏』)もそうなんですが、世の中の仕組みを美術から見ていくとどうなのか、というジャンルは、割りと読者がいるジャンルなんです。

恐らく書店に行かれると気づかれると思うんですが、美術書のコーナーって書店の誰も行かないようなひっそりしたところに、超ロングセラーみたいな書籍と、画集みたいなものと、ちょっと美術の読み物みたいな物が置いてあるっていうのが現状ですよね。でも、そういうところだけに置かれていても、やっぱり本は売れないと思うんですよね。

そうじゃなくて、もっと教育の話だったり、日本経済の話だったり、そういう書籍と同じ場所でに新書として美術の本が置いてあるっていうほうが、ずっとみんな読みやすいと思うんですよね。美術はこれからはそうやって読んでいきたいジャンルだと思います。

 

インタビューの締めくくりに、読者へのメッセージ 

最後の質問は、これ、と最初から決めていました。読者の皆様へのメッセージです。

―最後に、是非「いちばんやさしい美術鑑賞」読者へのメッセージをお願いします。

大山:これを読んで、一人でも多くの人に美術館に行ってほしいなぁと。作品を見る面白さをみんなでもっと語り合いたいなぁと思います。
Tak:この本が、一つのきっかけになってくれればいいなと。これの見方は正しいとか、正しくないとか、これをしなくちゃいけないと強制的なものではなくて、こんなふうにしたらいいんだよ的な感じで書かせて頂きました。もちろん、100%真似する必要は全然ないんですけど、この本を読んでもし面白いなと思ったら、まずは、是非展覧会に出かけていって、絵の前に立って見て下さい!

まとめ

前後編、約18000字でお送りした特大ボリュームのTakさんへのインタビュー、いかがでしたでしょうか?Takさんの美術鑑賞やブログでのこだわりや思い、そして著作「いちばんやさしい美術鑑賞」制作の舞台裏をまんべんなく聞いてみました。

もし、インタビューに掲載されたトピック以外でも「Takさんに改めて何か聞いてみたいな」という人は、是非Twitterで「#いちやさ美術」とハッシュタグをつけて、Takさんに質問を投げかけてみて下さいね。きっと回答をくれると思います!

最後に、インタビューを通して強く感じたことを書いておきます。いちばん印象的だったのは、「アート鑑賞はそれほど難しく考える必要はない」ということです。

まずは絵の前に立ってみて、今の自分でできる限り、色々考えたり、感じ取ってみたりする。そのうえで、気が向いたら作品や作者のことをちょっと深く調べてみる。まさにそのプロセスを30年繰り返してきたことで、今のTakさんが形作られてきたわけです。

今回インタビューを実施したきっかけになった書籍「いちばんやさしい美術鑑賞」では、そんなTakさんが30年間かけて培ってきた、誰でも実践できる美術鑑賞のコツや考え方が満載です。是非、手にとって読んでみてくださいね。

それではまた。
かるび

ブログ「青い日記帳」主宰Takさんと著書の紹介

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今回インタビューさせて頂いたブログ「青い日記帳」のTakさんですが、新書裏表紙に記載されているプロフィールを引用して紹介しておきますね。

1968年生まれ。1990年國學院大學文学部文学科卒、Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を主宰する美術ブロガー。展覧会レビューや書評をはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する。他にも東京都美術館やブリヂストン美術館の公式サイト、goo「いまトピ」、朝日マリオン・コム「ぶらり、ミュージアム」、など多くのメディアにコラムを寄稿。ギャラリーや書店、カルチャーセンターでのトークショーも多く行っている。

まぁ早い話がアートブロガー界のイチロー的な存在の方です(笑)

 「カフェのある美術館」 「フェルメールへの招待」などいくつかの著書を初め、各種雑誌への寄稿やトークショーも頻繁に開催するなど、まさに今ブレイク中のすごい人なんです。

▼青い日記帳・Takさん近影
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そんなTakさんの活動をフォローするなら、TwitterでTakさんのアカウント(@Taktwi)をフォローするのが一番早いと思います。ブログの更新状況や活動報告なども積極的に発信されています。

Kindleもある!最強のアート入門書「いちばんやさしい美術鑑賞」

30年間、展覧会に通い続けて独自のアート鑑賞ノウハウを身につけてきた「青い日記帳」Takさんが、日本国内で見ることができる和洋15点の作品を通じて、美術鑑賞に役立つ知識やコツを様々な角度からわかりやすく解説。取り上げられた作品もかなり掘り下げて説明されており、知識ゼロの初心者から中級者まで、読めば必ずアート鑑賞に役立つヒントが得られる良書です。(※後日詳細レビュー予定)

発売から2年、未だにじわじわ売れ続けている前著「カフェのある美術館」

前著「カフェのある美術館」も、美術館を見て回る楽しみを増やしてくれました。美術館は鑑賞が終わってからが本番なのです(笑)こちらの書籍について、レビューも書いています。もしよければこちらも見て下さい!



これは良書!アート鑑賞入門書のオススメ決定版:『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ数年、アート鑑賞ブームですよね。大型展覧会には長蛇の列ができますし、文化系総合雑誌では、春・秋のトップシーズン前は必ず「アート特集」が組まれるようになりました。また、ビジネス系の文脈でも「西洋美術史」(木村泰示)「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 」(山口周)など、アート関連書籍が平積みでベストセラーになる時代です。

僕もそんなブームにあやかって、2015年頃から本格的にアート鑑賞を趣味として始めた初心者のうちの一人です。フリーになり、わりと時間的に自由がきくようになったことをきっかけに、思い切り美術館巡りをするようになりました。2018年現在では年間100件程度展覧会を回りながら、色々と試行錯誤しつつ自分なりのアート鑑賞法を探しているところです。

ただ、実際に100%展覧会を楽しむには、ブルース・リーの名言のように、ただ「考えるな、感じろ」とはいかないものです。現代アートの展覧会では意味不明なオブジェに泣かされ、茶碗の展覧会ではくすんだ色をした井戸茶碗の良さがどうしてもわからなかったり。鑑賞のための知識やノウハウがないと、どう観ていいのかわからないんですよね。

そこで、書店や図書館に行くたびに、いろいろ美術の専門家が書いた「美術の見方」指南した書籍を漁ること2年。なかなか「これだ!」という決定版に出会えていませんでした。

そんな時、アートブロガーの大先輩であるTakさん(@Taktwi)が、ちくま新書から『いちばんやさしい美術鑑賞』という、【アート鑑賞】に特化した美術入門書を出版されると聞きました。

そこで、普段から割りと身近なところで交流させていただいている特権(?)を利用して、出版前に少しゲラを読ませて頂いたり、出版を記念してロングインタビューもさせて頂きました。

そして、実際に発売された『いちばんやさしい美術鑑賞』を読んでみたら、大当たり!

西洋美術、日本美術、現代アートから工芸まで、幅広いジャンルを網羅しながら、各ジャンルから代表的な作品を題材として15点取り上げ、作品解説と並行して美術鑑賞のポイントを初心者でもわかるよう、わかりやすく語りおろしてくれていました。

本エントリでは、このアート鑑賞入門書『いちばんやさしい美術鑑賞』なぜ初心者にオススメなのか、従来の入門書とは何が決定的に違っているのか、僕の感想を交えながら書いてみたいと思います。

「いちばんやさしい美術鑑賞」とはどんな本なのか

本書『いちばんやさしい美術鑑賞』では、その題名の通り、アートブロガーの第一人者たる著者・Takさんが、徹底的にアートファン目線で「美術鑑賞のいろは」を【一番優しく】徹底的に語り尽くします。

取り上げられた作品は、フェルメールやモネ、セザンヌといった、誰もが知っている西洋美術の巨匠たちから、伊藤若冲、尾形光琳ら日本美術、そして工芸や現代アートまで、非常に多彩。それぞれの作品を徹底的にわかりやすく掘り下げて説明しながら、合わせて鑑賞のポイントが解説されていきます。

全15章でアート鑑賞の解説用に取り上げられた作品は、以下の通り。

・グエルチーノ《ゴリアテの首を持つダヴィデ》
・フェルメール《聖プラクセディス》
・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》
・ガレ《蜻蛉文脚付杯》
・モネ《睡蓮》
・ピカソ《花売り》
・デュシャン《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》
・雪舟《秋冬山水図》
・狩野永徳《檜図屏風》
・尾形光琳《燕子花図屏風》
・伊藤若冲《動植綵絵》
・曜変天目(稲葉天目)
・並河靖之《藤花菊唐草文飾壺》
・上村松園《新蛍》
・池永康晟《糖菓子店の娘・愛美》

いかがでしょうか?アート初心者の方でも、知っている名前が何人かあったのではないでしょうか?

嬉しいのは、取り上げられた作品がすべて日本国内に存在するため、本を読み終わったあとに実地で鑑賞可能であること。この本を読み終わってから、長くても2~3年以内に、日本中どこかの展覧会で、実物と対面する機会があるのです。作品選びにこういう配慮が行き届いているのも嬉しいポイントですね。

著者は、アートブロガーの草分け的存在「青い日記帳」Takさん

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さて、本書を書いたのは、アートブロガーの第一人者とも言える、Takさんです(※たっくさんではなくタケさんと呼びます)学生時代から東京を中心とした美術館・博物館に通いつめ、アート系のあらゆる展覧会を楽しみ尽くしてきた、アート鑑賞の達人なのです。

「年間300以上展覧会に通う」というキャッチコピーは嘘でも誇張でもありません。ブログやTwitterでは本当に毎日のようにその日に行った展覧会の様子がレポートされています。

青い日記帳(ブログ)
Tak(たけ) @『カフェのある美術館』 (@taktwi) | Twitter

その日行った展覧会の「良かったところ」を鑑賞ポイントとしてピックアップして紹介してくれているので、「次の休み、どの展覧会行こうかな?」と迷ったら、Takさんのブログ「青い日記帳」を毎日読んでおけば間違いありません。僕も、毎日のようにTakさんのブログからアート鑑賞のヒントを頂いています。 

一番のポイントは、「素人」が書いていること

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さて、本書には、他のアート鑑賞の類書と決定的に違うユニークな点があります。それが、専門家ではない「素人」によって書かれた本であることです。

職業は公開されてはいませんが、Takさんの本業は美術の専門家ではありません。あくまで、コツコツと学生時代から約30年間、5000以上の展覧会を観続けてきた「アートファン」という立場で、いろいろな活動をしています。だから、本書執筆においても、その目線はあくまで一人の美術好きとして、どうやったらもっとアート鑑賞を楽しくできるだろうか?というところに固定されているのです。

筑摩書房の担当編集者・大山悦子さんにインタビューさせて頂いた際も仰っていましたが、アートファンの代表が、西洋美術、日本美術から工芸、現代アートまで網羅して、本音でわかりやすく語り尽くした書籍は、過去にはほとんど類例がありません。

なぜなら、過去にも多数出版されてきた美術鑑賞の手引き的な書籍は、そのほとんどが大学の先生方や評論家など、いわゆる「美術の専門家」の手によるものだからです。

彼らはどんなにわかりやすく本を書いたとしても、自分の専門分野を大きく逸脱した分野への言及や、美術史の流れを気にしないぶっちゃけトークはできません。ゆえに、ファン目線での大胆な鑑賞法を、自らのキャリアに直結する「公」の出版物の上で語ることは難しいのです。

その点、Takさんの場合は自由なのです。西洋美術だろうが工芸だろうがなんだって好きなものを取り上げて、業界に遠慮なくものを書けるのですね。実際、第1章から「聞いたこともない画家の作品を鑑賞する時は」なんて、専門家だったらそんなタイトルつけないですよね(笑)

徹底した「ファン目線」でアート鑑賞のポイントを掘り下げている

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Takさん近影

では、『いちばんやさしい美術鑑賞』のどのあたりが、他の類書との違いなのでしょうか?それは、本書が徹底的にアートファンの立場に立って、美術鑑賞をどう進めていけばよいのかアドバイスしてくれている点です。

少し、具体的な箇所をピックアップしてみたいと思います。

まず、最初の第1章からして、

[・・・]スマホを取り出して「ゴリアテの首を持つダヴィデ」と検索すれば、そこに描かれている物語の一節を容易に調べることができます。そういうものを積極的に使って鑑賞をするのも一つの手です。[・・・]絵画鑑賞の手助けとしてストーリーを完全にインプットしておく必要はありません。出会った作品ごとにその場面だけつまみ読みしたり、調べたりすればよいのです。

要は「今はスマホかなんかで調べれば、ある程度知識はその場で得られるんだから、肩肘張らずに見たらいいよ」ってことなんですが、「その場でケータイで調べればOK」とか、そんなことは間違っても専門家では書けないことですよね(笑)

展覧会に行くときは、「アートファン」として作品を楽しむスタンスを忘れないTakさんだからこそ書ける、『本音の提案』が詰まっているのです。

また、曜変天目を取り上げた第12章の締めもいい感じです。

そしてこれを至上の国宝としてただ観るだけではもったいないので、脳内で様々なものを盛りつけてみてはどうでしょう。自分は炊き立ての白米が曜変天目にとても似合うような気がしてなりません。願いがひとつだけ叶うなら静嘉堂文庫美術館の曜変天目でお腹いっぱいご飯を食べてみたいです。もちろん、おかずなんて必要ありません!

これも面白い!西洋絵画などに比べて、難易度が高いとされる茶道具やうつわの鑑賞法。肩肘張らない、意外性あふれる面白い見方だと思いました。これまた、真面目な先生方の専門書でこんなことを書こうものなら、権威が失墜しかねません(笑

たとえが非常にわかりやすい

そして、解説のたとえが非常にわかりやすいのも本書の特徴。Twitterのタイムラインを見ているとわかりますが、作者のTakさんはかなりのグルメ好きです。しょっちゅうアプリで今日の夕食がアップされてきますが、どれも美味そうなんですよね。

そのせいか、作品解説でも食べ物と関連付けた解説が随所で目立ちます。例えば、第1章から、早速食べ物の例えが炸裂します。

誰しもが知る名店ではなく、ふと入った名も知らぬ店でびっくりするほど美味しい料理にありつけたときの新鮮な感動を想像して下さい。これと同じなのがグエルチーノ作品です。「食べログ」の点数やランキングだけで店を選ばないのと同様に、美術の世界でも知名度だけでその作品を評価しないのが美術鑑賞の心得と言えます。

非常にわかりやすい(笑)

また、続く第2章でフェルメールの絵画を論じている時、

日常の台所風景のひとコマが描かれているだけの《牛乳を注ぐ女》を前に、この絵のどこがそんなにすごいのか?[・・・]引き算の美学、最小限度の事柄で最大限の美しさを発揮するーこれってどこかで聞いたことがありませんか?そう、これは素材を生かしたシンプルな和食の美学です。

フェルメール和食論。非常にわかりやすい例えで、すんなり頭に入ってきました(笑)

さらに、伊藤若冲が好んで使った「裏彩色」という技法を説明する時も、

しかし裏から色をぬることで、どうして表面の色に違いをもたらすのでしょうか?それは《動植綵絵》が、和紙ではなく絹に描かれていることに大きなポイントがあります。例えばパスタのトマトソースを白いTシャツにつけてしまうと、当然裏までその色が染みてしまいますよね。Tシャツは綿ですが、絹でも同じことが言えます。

読者にイメージさせるのが難しい日本画の「裏彩色」という技法も、パスタソースの例えで難なく処理してしまうこのカジュアルさ。ブログ歴15年の中で培ってきた文章術を遺憾なく発揮されております(笑)

次に行くべき美術館・読むべき本なども惜しむことなく紹介

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本書を読んでいて、非常に嬉しいのが、本書で紹介された各作品について、関連する書籍や、関連する美術館が豊富に示されていること。アートファンは割りと読書好きの人が多いようですが、中でもTakさんはかなりの読書家。アート関連で、話題の新著が出ると大体購入して読んでいらっしゃいます。

本書でも、各章においてTakさんが作品をより深く理解するために役立った本がいくつも紹介されています。本書のあと、さらに探求するときに役立ちそうです。

また、それと同時に関連作品が所蔵されている美術館の情報やそれにまつわる思い出のエピソードなども、読み応えがありました。

たとえば、尾形光琳を取り上げた第10章では、尾形光琳が江戸で暮らした家を再現した「光琳屋敷」(MOA美術館)や、代表作「燕子花図屏風」でモチーフにされた「燕子花」の群生がリアルに楽しめる場所(根津美術館)が紹介されています。また、国内にはモネが生涯をかけて取り組んだ連作群《睡蓮》がたくさんありますが、特にオススメの美術館をピックアップしてくれています。

また、曜変天目茶碗を取り上げた第12章では、現存する3つの「曜変天目茶碗」のうちの1点を所蔵する藤田美術館が、かつて、希望者には茶碗を観るための懐中電灯を貸してくれたというおもしろエピソードなんかも披露されていて、非常に興味深く読むことができました。

初心者だけではなく、中級レベルまでカバーされた知識量

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また、本書の想定読者は、アート鑑賞の初心者・初級者をメインターゲットにされていますが、そこはちくま新書。コンビニムック本レベルで終わるはずがありません。中級者クラスでも読み応えのある、骨太な内容となっています。

取り上げられた15点の作品について、それぞれの作品について鑑賞法を説明するだけでなく、作品が制作された背景や経緯や、作品をめぐる最新のトピックなどが、美術史の流れの中できちんと解説されているのです。

特に、前半7章でのセザンヌ・ピカソ・デュシャンといった、西洋美術史において特に重要ではあるけれど解釈が難解な3名についての解説が絶妙!

初心者にはとっつきにくい彼ら3名については、まずちゃんと、「全部デュシャンのせいだ!」と初心者の気持ちに寄り添ってくれます。ここで読者の警戒心を解き、最終的には好き嫌いで決めて良い、としながらも、直感で観るだけでなく、きちんと美術史の流れを踏まえて「考えること」「解釈すること」の楽しさや重要性を説いています。

アート鑑賞を趣味にしている人は多いとは思います。ただ、誰でもすべての分野にまんべんなく精通し、作品鑑賞のコツや美術史の流れなどを総合的に理解している人は少ないはず。僕の周りの中級以上のベテランアートブロガー数名からも感想を聞いてみましたが、「中級以上でも十分読んで役立つ内容が網羅されている」と好評でした。 

まとめ

いろんな鑑賞法や解説を交えながら楽しく読める本作ですが、作者のTakさんが繰り返し説くのは、「アート鑑賞の楽しさ」。そして、できるだけ気楽にリラックスして展覧会へ足を運ぶことの大切さです。

あとがきの最後の一文に「さぁ、ご一緒に展覧会へでかけましょう!」と締めくくられていますが、本書を読めば、ぐっとアート鑑賞が身近なものに感じられることは間違いありません。「これからアート鑑賞に出かけてみようかな」という初心者の方から、「もう少し違う視点で美術を楽しみたい」という中級者まで、幅広く役立てることができる実践的な著作でした。

僕も結構読書好きなので、アートの入門書籍はこれまでいくつも購入して読んできましたが、今回購入した『いちばんやさしい美術鑑賞』は間違いなく今後何度も読み返してみたい、書棚の中心に入ってくる本となりました。

アートファンの代表であるTakさんが、全アートファンのために2年間を書けてじっくり書き下ろした力作。文句なくおすすめです!

関連イベント・関連エントリなど

本書が出版される直前に、他の2人のアートブロガーさん達と共同でTakさん、編集者の大山さんにインタビューさせて頂きました。そのインタビュー内容(前後編)はこちらでアップしています。

また、共同でインタビューにあたったアートブロガーのはろるどさん@harold_1234)、KINさん@kin69kumi)が書いた記事は、それぞれこちらとなります。 

また、Takさんが昨年出版した書籍「カフェのある美術館」についても、レビューしています。合わせてお読み頂ければ幸いです。 

また、8月29日には、Webメディア「楽活」と「丸善雄松堂」が主催する無料トークイベント『美術館に出かけてみよう!~いちばんやさしい美術鑑賞~』が開催されます。メインゲストとしてTakさんが登壇し、書籍についてたっぷり語り尽くす予定とのこと。僕も参加しますが、こちらも楽しみですね。定員100名のところ、座席がかなり埋まってきているようなので、申込はお早めに!

 

芸術の秋到来!2018年秋~冬に絶対見たいおすすめ美術展ベスト20!見どころ・開催情報もまとめました!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月に入り、ようやく秋の気配が近づいて来ました。秋といえばやはり芸術の秋。2018年秋も、首都圏・関西圏を中心に、過去最強クラスの西洋美術の名画・名作が続々と日本に上陸してきます!もちろん、それを迎え撃つ日本美術のラインナップも超豪華!国宝級の仏教美術はもちろん、日本美術史における巨匠たちをフィーチャーした展覧会が開かれる予定です。

そこで、本エントリでは、2018年秋~冬にかけて行われる各種展覧会の中から、”これは絶対見逃したくない”展覧会約20展を、簡単な見どころと開催情報を含めてまとめてみました。

それでは、順番にみていきましょう!

2018年下半期に観ておきたい展覧会ベスト20!

1.フェルメール展(東京・大阪)

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この秋何があっても外せない、注目度No.1の美術展がこの「フェルメール展」。なぜなら、世界中にわずか30点ちょっとしか現存しないフェルメール作品から、実に約1/4にあたる8点が、東京に集結するからです!これは日本の美術展の歴史の中でも、ちょっとした「事件」レベルの画期的なできごとであり、まさに正真正銘の過去最高の「フェルメール展」なのです。関係者の努力に頭が下がります。

しかし、東京展の会場は狭い上野の森美術館。人気展の場合、数時間レベルの行列がすぐにできてしまいます。期間中、絶望的な厳しさの混雑が見込まれるだろうと思っていたら、主催者側がうまく解決してくれました。つまり、日時指定制チケット(音声ガイド付き、2500円)となったのです。これなら並ばなくてすみます。ホッ。

しばらくこの規模のフェルメール展はできないと思いますので、少しでも絵に興味があるなら、絶対見ておいたほうがいいと思います!会社をズル休みしても駆けつける価値はあります!! 

展覧会情報
展覧会名:「フェルメール展」
会期:2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)
展覧会場:上野の森美術館
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
休館日:12月13日(木)
公式HP:https://www.vermeer.jp
公式Twitter:https://twitter.com/VermeerTen

 

 2.ルーベンス展(東京/国立西洋美術館)

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カラヴァッジョ、フェルメール、レンブラント、ベラスケスらと並ぶ、17世紀頃のバロック期における西洋美術の巨匠・ルーベンス。ウルトラマリンブルーの「青」を多用し、静かであっさりしたフェルメールと比べると、ルーベンスは「こってり」とした、いかにもなザ・西洋絵画という感じの作風。

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上昇感のある派手な構図の宗教画、程よく肉付きの余ったリアルな男女の裸体像、ねじれた複雑なモチーフ、大迫力な画面など、バロック期の特徴に加え、ルーベンスの作品にはどれも強烈な個性が見て取れます。

今回の展覧会では、ルーベンスとイタリアの関係性に着目し、彼が作風のよりどころとした15世紀頃のイタリア絵画や彫刻などを見ながら、ルーベンスの作風のルーツを楽しむことができます。作品を集めて物量で勝負するタイプの回顧展というより、テーマがハッキリした真面目な展覧会といえそう。初心者から上級者まで、幅広く楽しめる、まさに王道の西洋絵画展だと思います。  

展覧会情報
展覧会名:「ルーベンス展ーバロックの誕生」
会期:2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)
展覧会場:国立西洋美術館
開館時間:9:30〜17:30(※最終入場は30分前迄)
※金曜、土曜は20時まで。ただし11/17は17時30分まで
休館日:毎週月曜日、12/28〜1/1、1/15
※ただし12/24、1/14は開館
公式HP:http://www.tbs.co.jp/rubens2018/
公式Twitter:https://twitter.com/rubensten2018

 

 3.ムンク展(東京/東京都美術館)

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ムンクの最高傑作《叫び》がついに来日!もちろん、それだけではありません!オスロ市立ムンク美術館が誇る世界最大のコレクションを中心に、約60点の油彩画に版画などを加えた約100点が展示されます。企画展示室のすべてがムンク作品で埋め尽くされる、正真正銘ムンクの大回顧展なのです。

巨匠・ムンクが画業を通して残した作品の中で何を伝えたかったのか、年代別に順番に作品を楽しみながら、ムンクについて徹底的に知ることができそうな展覧会です。とりあえず《叫び》を記念に見ておくだけでも行く価値は絶対ある、この秋必見の展覧会です!会期前半に行かないと、混雑するだろうなー。

展覧会情報
展覧会名:「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」
会期:2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
展覧会場:東京都美術館
開館時間:9:30〜17:30(※最終入場は30分前迄)
※金曜日、11月1日(木)、11月3日(土)は午後8時まで
休館日:毎週月曜日、12月25日(火)、1月15日(火)
年末年始休館日:12月31日(月)、1月1日(火・祝)
※ただし、11月26日、12月10日、24日、1月14日は開館
公式HP:https://munch2018.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/munch2018

 

 4.京のかたな展(京都/京都国立博物館)

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ここ数年、オンラインゲーム「刀剣乱舞」の影響で、空前の刀剣ブームが続いています。そんな中、国宝級のアイテムが多数出展される、2018年最大級の刀剣展が、京都国立博物館で開催されます。美しいだけでなく、歴史ロマンがたっぷり詰まった国宝・重文クラスの刀剣をたっぷり楽しめそう。

展覧会初日などは、通常はあまり博物館で見かけないようなクラスタの人たちが、何時間もかけて入館待ち行列を作ったり、特設テントでのグッズを奪うように買い漁るのではないかと予想されます。僕も行く予定ですが、混雑が怖い・・・(笑) 

展覧会情報
展覧会名:特別展「京のかたな 巧のわざと雅のこころ」
会期:2018年9月29日(土)~11月25日(日)
展覧会場:京都国立博物館
開館時間:9:30〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※金・土曜日は午後8時まで
休館日:毎週月曜日
※10月8日(月・祝)は開館、翌9日(火)休館
公式HP:https://katana2018.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/katana2018kyoto

 

 5.ボナール展(東京/国立新美術館)

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19世紀末~20世紀初頭にパリを中心として活躍した「ナビ派」というグループがいます。その中でも、印象派に近い独特の色彩感覚を持ち、「日本かぶれのナビ」と呼ばれるほど日本美術から多大な影響を受けたボナール。色彩感覚に優れ、妙な可愛さも併せ持つ、ボナールの個性的な作品は、日本でも熱心なファンが多いようです。

特に、オルセー美術館と深いパイプを持つ三菱一号館美術館などが、たびたびナビ派のアーティストの展覧会を重ねてきたことから、ボナールを含めた「ナビ派」絵師たちの人気も近年急上昇中です。 

首都圏では「フェルメール」「ルーベンス」「ムンク」といった巨匠の展覧会が開かれる裏開催的な位置づけになりますが、アートファンなら間違いなく抑えておきたい展覧会です。 かわいい猫の絵もいっぱい出ますよ!

展覧会情報
展覧会名:「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」
会期:2018年9月26日(水)~12月17日(月)
展覧会場:国立新美術館 企画展示室1E
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※毎週金・土曜日は20:00まで。ただし9月28日(金)、29日(土)は21:00まで
休館日:毎週火曜日
公式HP:http://bonnard2018.exhn.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/NACT_PR

 

 6.プラド美術館展(神戸/兵庫県立美術館)

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スペインが誇る美の殿堂「プラド美術館」から、スペイン絵画黄金期にあたる17世紀の作品を中心に、たっぷりと近代西洋絵画を楽しむことができる展覧会です。目玉は、なんと言っても巨匠・ベラスケスの作品が一挙7点もそろったこと。

バロック絵画らしい激しい動きのあるシーンや、モデルが見せる一瞬のハッとするような表情を、まるでスナップ写真のように生き生きと描いたベラスケスの肖像画は、絶対に見逃せません!また、ベラスケスと親交のあったルーベンスの作品も出展されていますので、10月中旬から始まる「ルーベンス展」とセットで観ると、より楽しめますね。 

プラド美術館展は、こちらで東京展のレビューを書いています。もし良ければ、参考にしてくださいね。 

展覧会情報
展覧会名:「プラド美術館展ーベラスケスと絵画の栄光ー」
会期:2018年6月13日(水)~10月14日(日)
展覧会場:兵庫県立美術館
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※毎週金・土曜日は午後8時まで
休館日:毎週月曜日 
※祝休日の場合は開館し、翌火曜日休館
公式HP:https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1806/index.html
公式Twitter:https://twitter.com/prado_2018

 

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 7.プーシキン美術館展(大阪/国立国際美術館)

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17世紀頃から20世紀前半まで、フランスを代表する近代の画家たちが手がけた美しい風景画が勢揃い!(・・・ロシアの美術館なのに)大人気のマネ、モネ、セザンヌら印象派の作品を中心に、各世代の巨匠たちの作品がずらーっと並んでいるので、フランスの近代美術史もこの展覧会で学べてしまいます。

また、本展は、大のロシア好きで知られる人気声優・上坂すみれが音声ガイドを担当。会場に行かないとわからないシークレット・トラックなども含め、収録時間は1時間以上ある、超特大ボリュームの音声ガイドは必聴です!東京で見逃した方も、まだまだやってますので大阪で是非! 

東京展開催中に、上坂すみれの音声ガイド収録現場を取材した記事を書いています。もしよければ、覗いて見てくださいね。 

展覧会情報
展覧会名:「プーシキン美術館展ー旅するフランス風景画」
会期:2018年7月21日(土)~10月14日(日
展覧会場:国立国際美術館
開館時間:10:00〜17:00(※最終入場は30分前迄)
※金曜・土曜は午後9時まで
休館日:毎週月曜日
※ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)、10月8日(月・祝)は開館。9月25日(火)は休館
公式HP:http://pushkin2018.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/pushkin2018

 

 8.東山魁夷展(東京/国立新美術館)

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近現代日本画の巨匠の中では、随一の人気・知名度を誇る東山魁夷。毎年のようにどこかで東山魁夷展が開催されていますが、今回の「東山魁夷展」は特別!巨大な展示室でスケール感の大きな回顧展となっています。

展示は、教科書にも載っている超名作《道》から始まり、東山魁夷がお気に入りだった古都・京都や、風情あふれる北欧の風景画と続きます。

クライマックスは、魁夷が唐招提寺御影堂周囲の襖に描いた、一連の障壁画群!天井が高く、開放感のある国立新美術館ならではの空間を活かして、ダイナミックな再現展示になっていると思います。楽しみですね。 

展覧会情報
展覧会名:「生誕110年 東山魁夷展」
会期:2018年10月24日(水)~12月3日(月)
展覧会場:国立新美術館 企画展示室2E
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※毎週金・土曜日は午後8時まで
休館日:毎週火曜日
公式HP:http://kaii2018.exhn.jp/
公式Twitter: https://twitter.com/NACT_PR

 

 9.快慶・定慶展(東京/東京国立博物館)

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大報恩寺ってちょっと聞き慣れないお寺ですよね。地元では、「大報恩寺」という名前よりも「千本釈迦堂」という名前で親しまれているカジュアルなお寺です。

が、その宝物館には、とんでもないお宝が!!快慶の代表作である《十代弟子像》、慶派仏師の重鎮、定慶の傑作《六観音菩薩像》など、鎌倉時代を代表するような錚々たる美仏たちが眠っているんですが、今回の「快慶・定慶展」では、その宝物館の主要なお宝がほぼ全部東京国立博物館に来るんです!特に《十大弟子像》は、2017年の「快慶展」でも出展されていなかった作品。仏像好きなら絶対見逃せません!

短いですが、このPR動画は必見ですよ!

展覧会情報
展覧会名:特別展「京都大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
会期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
展覧会場:東京国立博物館 平成館3・4室
開館時間:9:30〜17:00(※最終入場は30分前迄)
※金・土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は午後9時まで
休館日:毎週月曜日
※ただし10月8日(月・祝)は開館、10月9日(火)は休館
公式HP:https://artexhibition.jp/kaikei-jokei2018/
公式Twitter:https://twitter.com/kaikeijokei2018

 

 10.醍醐寺展(東京/サントリー美術館)

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2018年1月には「仁和寺展」、2019年1月からは「東寺展」など、真言宗系の大型仏教美術展が東京で相次いで開かれています。もちろん、真言宗のもう一つの雄、醍醐寺も負けてはいません。

特に近年、醍醐寺は寺宝を国内外の展覧会で積極的に披露してくれるようになりました。今回、サントリー美術館で開催される醍醐寺展も、2016年から中国数都市で開催した展覧会の日本帰国凱旋展となります。出展される国宝・重要文化財は仏像・仏画・経典をはじめ、軽く100点以上。仏像ファン、仏教美術ファンは絶対外せない展覧会です! 

展覧会情報
展覧会名:「京都・醍醐寺 真言密教の宇宙」
会期:2018年9月19日(水)~11月11日(日)
展覧会場:サントリー美術館
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※金・土および9月23日(日・祝)、10月7日(日)は20:00まで開館
休館日:毎週火曜日 
※ただし11月6日は18:00まで開館
公式HP:http://daigoji.exhn.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/sun_SMA

 

 11.フィリップス・コレクション展(東京/三菱一号館美術館)

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20世紀初頭に美術品を蒐集した世界有数の大コレクター、ダンカン・フィリップスが築き上げた西洋美術の大コレクションが、2011年の展覧会以来、7年ぶりに再び上陸します!

チラシに「全員巨匠!」と謳われているのは誇張でもなんでもなく、モネ、ルノワールといった印象派から、ゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、ブラック、ジャコメッティ、ルソーといった19世紀後半~20世紀前半に活躍した近代西洋絵画で活躍した巨匠達の作品が大挙して来日。三菱一号館美術館の壁面を埋め尽くします。西洋絵画好きにはたまらない展覧会になりそう。 

展覧会情報
展覧会名:「全員巨匠!フィリップス・コレクション展」
会期:2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
展覧会場:三菱一号館美術館
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで
休館日:毎週月曜日、12月31日、1月1日
※但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館
公式HP:https://mimt.jp/pc/
公式Twitter:https://twitter.com/ichigokan_PR

 

 12.太陽の塔展(大阪/あべのハルカス美術館)

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2018年3月に内装をリニューアルし、復活した太陽の塔。岡本太郎にゆかりの深い全国の美術館や、TVでの特集番組が組まれたりしました。今回開催される「太陽の塔」展は、万博記念公園のお膝元、大阪の美術館で開催されるとあって、特に力が入っています。

単に当時の写真や映像資料をバラバラ並べる展覧会ではなく、1970年当時、実際に地下部分で展示されていた作品や、直径11mの初代「黄金の顔」が美術館内で実物展示されるなど、スケール感が凄い!1970年当時に持っていた作品群のエネルギーを感じ取れるような構成になっていそうです。 

展覧会情報
展覧会名:「太陽の塔」展
会期:2018年9月15日(水)~11月4日(日)
展覧会場:あべのハルカス美術館
開館時間:火~金 / 10:00~20:00、月土日祝 / 10:00~18:00(※最終入場は30分前迄)
休館日:9月18日(火)
公式HP:http://playtaro.com/harukas-taro/
公式Twitter:https://twitter.com/harukas_museum

 

 13.正倉院展(奈良/奈良国立博物館)

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毎年、10月末から11月初旬の約3週間だけ限定開催される「正倉院展」。第70回となる今回は、各倉庫から56点が展示。うち、10点は初公開作品となります。1300年前の螺鈿手箱や、麻製品など、どれを見ても国宝級。

ただし、会期が短く、遠方からツアーバスでやってくる固定ファンが大挙して押し寄せるので、行列・混雑は覚悟が必要。見終わったら、常設展示「なら仏像館」でもいくつか国宝を楽しむことができますよ! 

展覧会情報
展覧会名:「第70回正倉院展」
会期:2018年10月27日(土)~11月12日(月)
展覧会場:奈良国立博物館
開館時間:9:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※金曜日、土曜日、日曜日、祝日(10月27日・28日、11月2日・3日・4日・9日・10日・11日)は午後8時まで 
休館日:会期中無休
公式HP:https://www.narahaku.go.jp/exhibition/2018toku/shosoin/2018shosoin_index.html
公式Twitter:https://twitter.com/narahaku_PR

 

 14.千の技術博展(東京/国立科学博物館)

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明治~昭和初期にかけて、猛烈に発展した科学技術。手工業からはじまり、製糸や紡績での徹底的な機械化を経て、そこから自動車や家電など、ハイレベルな産業技術を集積して日本は世界に冠たる技術立国へと成長していきました。

今回の展覧会では、明治期以降、日本の発展を支え、産業発展を象徴付けるような産業技術遺産が実に約400点出展されます!むき出しで、複雑に絡み合った動力機構や丁寧に動態展示され(ているであろう)展示品は、アート作品そのものですよね。個人的に、非常に楽しみにしています! 

展覧会情報
展覧会名:特別展「明治150年記念 日本を変えた千の技術博」
会期:2018年10月30日(火)~2019年3月3日(日)
展覧会場:国立科学博物館
開館時間:9:00〜17:00(※最終入場は30分前迄)
※金曜日、土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は20時まで
休館日:毎週月曜日、12月28日(金)~1月1日(火)、1月15日(火)、2月12日(火) 
※ただし、12月24日(月)、1月14日(月)、2月11日(月)、2月25日(月)は開館
公式HP:http://meiji150.exhn.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/1000heritages

 

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 15.バレル・コレクション展(福岡/福岡県立美術館)

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19世紀、イギリス・グラスゴーを拠点に、海運業で巨万の富を築いたウィリアム・バレル。生前、彼がヨーロッパ全土から広く蒐集した西洋美術コレクションが、初来日します!展示作品は100%すべて初来日作品というレアさがたまりません!

展覧会のメインディッシュとなるのは、カミーユ・コロー、クールベ、ブーダンといった写実主義から、マネ、ルノワール~ゴッホに至る印象派・後期印象派作品。初心者でもしっかり楽しめますね。

その一方で、マニア向けにはイギリス・スコットランド作家の作品、全盛期の17世紀オランダ絵画なども出展されるので、目の肥えた西洋絵画ファンこそ足を運ぶべき展覧会と言えるかも。

その後、2019年に愛媛(愛媛県立美術館)、東京(Bunkamura・ザ・ミュージアム)へと巡回予定です。 

展覧会情報
展覧会名:「印象派への旅 海運王の夢 バレルコレクション」
会期:2018年10月12日(金)~12月9日(日)
展覧会場:福岡県立美術館
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※ただし11月16日(金)は20時まで開館
休館日:毎週月曜日 ※ただし12月3日(月)は開館
公式HP:http://fukuoka-kenbi.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/fukuoka_kenbi

 

 16.カール・ラーション展(東京/東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館)

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スウェーデンで国民的人気を博する画家・カール・ラーション。今回の展覧会では、カール・ラーションの絵画だけでなく、彼が楽しんだ北欧・スウェーデンの生活文化が合わせて取り上げられています。

ここ数年、デザインやファッション、陶芸など、様々なテーマを切り口として各展覧会で北欧の豊かな生活文化が紹介されてきましたが、今回のカール・ラーション展でも、19世紀の国民的画家が暮らしの中で楽しんできた様々な芸術を楽しめそうです。 地味に見えますが、こういう展覧会が意外な掘り出し物だったりするんです。個人的には楽しみにしています!

展覧会情報
展覧会名:「カール・ラーション展」
会期:2018年9月22日(土)~12月24日(月・休)
展覧会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
※ただし10月3日(水)、26日(金)、12月18日(火)~23日(日)は午後7時まで
休館日:毎週月曜日
※ただし9月24日、10月1日、8日、12月24日は開館
公式HP:https://www.sjnk-museum.org/
公式Twitter:なし

 

 17.ロマンティック・ロシア展(東京/Bunkamura・ザ・ミュージアム)

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ロシアの美術館を特集した西洋美術展は、たいてい、ロマノフ王朝あたりがヨーロッパ各地から集めた近代西洋絵画の展覧会に落ち着きがち。ロシアの美術館展なのに、ロシア人の作品は出展ゼロ、ということもよくあります(笑)

ですが、今回の「ロマンティックロシア」はちょっと違います。ロシア絵画の殿堂、トレチャコフ美術館が保有する、ロシア人によるロシア絵画の名作だけが日本にやってくるのです!19世紀後半から20世紀初頭にかけて描かれた、ロシア人作家による風景画、風俗画、人物画、静物画を、ロマンたっぷりに魅せてくれると思います。この秋激戦となる首都圏での西洋美術展においては、割りとダークホース的な位置づけの展覧会ですが、これは楽しみ!

展覧会情報
展覧会名:「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティックロシア」
会期:2018年11月23日(金・祝)~2019年1月27日(日)
展覧会場:Bunkamura・ザ・ミュージアム
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
休館日:2018/11/27(火)、12/18(火)、2019/1/1(火・祝)のみ休館
公式HP:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_russia.html
公式Twitter:https://twitter.com/Bunkamura_info

 

 18.横山華山展(東京/ステーションギャラリー)

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横山大観・・・かと思ったら、横山華山。誰それ・・・って感じですが、江戸後期、京都で活躍した当時は、バリバリ人気絵師だったようなのです。ですが、今は完全に無名。つまり、時が経ち、歴史に埋没して忘れ去られてしまった、知る人ぞ知る実力派絵師の回顧展を開催することで、再び再評価してみようよ!っていう意欲的な展覧会ということですよね。

HPを見ると、曾我蕭白に傾倒し、岸駒(虎の絵で有名)、呉春(四条派の祖)などに師事し、独自の作風を打ち立てたのだとか。

本展では、ボストン美術館など、海外の美術館で所蔵されている作品も里帰りし、彼の師・曾我蕭白の作品なども含め、約100点が展示されるそうです。日本美術好きなら見逃せない、横山華山初の大規模回顧展です!

嬉しいことに、東京展のあとは、宮城県美術館(2019年4月20日~6月23日)、京都文化博物館(2019年7月2日~8月17日)にもそれぞれ巡回予定。

展覧会情報
展覧会名:「横山華山展」
会期:2018年9月22日(土)~11月11日(日)
展覧会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00〜18:00(※最終入場は30分前迄)
休館日:毎週月曜日、9月25日(火)、10月9日(火)
※9月24日、10月8日、11月5日は開館
公式HP:http://kazan.exhn.jp/
公式Twitter:なし

 

 19.狩野芳崖と四天王展(東京/泉屋博古館分館)

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幕末~明治期に日本美術界の中心人物として活躍し、《五百羅漢図》や《悲母観音》など傑作が残した狩野芳崖。彼には、四天王と言われる4人の有能な弟子がいました。ですが、芳崖の死後、ぱったりと活動の行方がわからなくなったといいます。

今回の展覧会では、狩野芳崖や、同時代の日本美術院で活躍した明治期の巨匠達の絵画をフィーチャーしつつ、芳崖の4人の弟子の画業の謎にも迫ろう、という意欲的なコンセプトで構成されています。

会場がやや狭いので、前後期で展示が総入れ替えとなりそう。是非2回通いましょう!もちろん、名作《悲母観音》も出展されますよ! 

展覧会情報
展覧会名:「特別展 狩野芳崖と四天王─ 近代日本画、もうひとつの水脈 ─」
会期:2018年9月15日(土)~10月28日(日)
展覧会場:泉屋博古館分館
開館時間:10:00〜17:00(※最終入場は30分前迄)
休館日:毎週月曜日
※9/17、9/24、10/8は開館、9/18(火)、9/25(火)、10/9(火)は休館
公式HP:https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/index.html
公式Twitter:https://twitter.com/SenOkuTokyo

 

 20.国宝、日本の美をめぐる 東京国立博物館名品展(大分/大分県立美術館)

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この秋、大分市を中心に「にっぽん芸術科学祭」というアートイベントが開催されます。期間中は、現代美術作家アニッシュ・カプーアの個展など、芸術祭の期間内にいくつかの展覧会やイベントが地域内で開催される予定。この「国宝、日本の美をめぐる」も、芸術祭の目玉イベントの一つで、大分県立美術館で3週間限定で開催。

東京国立博物館から、国宝・重要文化財16点を含む、絵画や工芸など、日本美術の名品44点が展示されます。このイベントのあと、国東半島の国宝石仏群を一緒に見て回っても風情があっていいですね! 

展覧会情報
展覧会名:「国宝、日本の美をめぐる 東京国立博物館名品展」
会期:2018年11月2日(金)~11月25日(日)
展覧会場:大分県立美術館
開館時間:10:00〜19:00(※最終入場は30分前迄)
※金曜日・土曜日は20:00まで
休館日:なし
公式HP:https://www.opam.jp/exhibitions/detail/332
公式Twitter:https://twitter.com/OPAM_OPAM

 

まとめ

美術館・博物館の展覧会が盛り上がる春期・秋期には、各館でもイチオシの企画展で勝負してくる傾向にありますが、2018年秋期は、特に西洋美術が出揃った感があります。フェルメールを筆頭に、ルーベンス、ムンク、ボナールと近代絵画の巨匠が揃いましたし、フィリップス・コレクション、バレル・コレクションなど、海外の有力な私立美術館からも、お宝が多数来日します。

僕も、ここに挙げた20の展覧会は、必ず行く予定です!極力このブログで感想レポートも順次アップしていきますね!

それではまた。
かるび

おまけ:展覧会まとめ本も紹介!

秋・冬の展覧会から名画を網羅!「日経おとなのOFF 2018年7月号」

ほぼ1冊全部、2018年の夏~秋にかけて企画展で楽しめる「名画」を大特集。「名画」解説とともに、誌面で紹介された作品を見ることができる企画展も関連付けて紹介されています。その他、「怖い絵」で有名な中野京子氏による大塚国際美術館のレポートや、かんたんにおさらいできる西洋美術史特集も良かった!さらに、付録に万年筆がついてきます!

2018年秋・冬の展覧会を網羅!「美術展ぴあ2018秋冬」

ここ2~3年、非常に美術展特集に力をいれているぴあから、2018年秋・冬に開催される全国の展覧会情報をまとめたムック本が出ました。情報の密度・精度では本誌が一番です。でも表紙にもある通り、「絶対に観たい美術展112」って、そんなに見れませんから(笑)特集の読み応えより、情報密度の濃さを優先して作られた、ぴあらしいムック本。買って損なしです。

旅やグルメと一緒に楽しむアート特集が嬉しい!「OZ magazine2018年9月号」

美術鑑賞が終わったら、お腹もすくし、遠征したら疲れるから泊まっていきたいですよね。アートを中心に、関連する旅行ネタ、グルメネタが非常に充実しているのがOZmagazineの9月号。2018年秋に開催される地域芸術祭についての記事も充実しています!

知の森に酔いしれる!「世界を変えた書物展」は掘り出し物的なオススメの超優良展覧会でした!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

9月に入って芸術の秋がいよいよ到来。博物館・美術館でも一斉に秋の展覧会が始まりました。ムンク展、フェルメール展、ルーベンス展など、どれに行こうか目移りするくらい今年の秋は充実していますよね。

そんな中、秋の展覧会の先頭を切って上野の森美術館で公開された「世界を変えた書物展」が、掘り出し物的な凄い展覧会でしたので、感想レポートにまとめました!

1.「世界を変えた書物展」とは

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金沢工業大学の大学ライブラリーセンターに、世界中の「稀覯書」(きこうしょ)を集めた『工学の曙文庫』というコレクションがあります。

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金沢工業大学 正門から撮影した写真
引用:Wikipediaより

ニュートン、ガリレオ、コペルニクス、メンデル、アインシュタイン、ライト兄弟、エジソン、キュリー夫人・・・etcと、小学生でも知っているような、同コレクションでは、世界の偉人達が重要な発見や発明を発表した書籍の『初版本』を中心に、約2000点を所蔵。ライブラリーセンター顧問の竺覚暁氏が、実に40年をかけて蒐集してきた珠玉の大コレクションなのです。(凄い情熱!)

ところで、そもそも「稀覯書」ってどんな書籍なのでしょうか。

と思ったら、展覧会場入り口すぐのパネルに、こんな説明がありました。一部抜粋して紹介しますね。

稀覯書とは、「極めてまれにしか見ることのない本」のことです。

その条件としては、

1.極めて少数しか残っていない書物であること
2.書物の制作が古いものであること
3.その内容が極めて貴重なもので、それが最初に世に出たもの
4.書物のデザイン、レイアウトやタイポグラフィ、装丁、造本が豪華であったり美しく、美術品的価値を持っていること
5.副次的には、原著者の署名があるとか、著名人の蔵書であったことの証拠、蔵書票や署名があることなどがあります。 

要するに、古くて、レアで、状態が良く美しい初版本やサイン本っていうことですよね。古書専門の古本屋なんかで、何十万、何百万もするような古書をイメージすると近いかもしれません。 

金沢工業大学のオープン講座で、竺氏が稀覯書の凄さについて熱く語る動画を見つけました。とにかく熱いので、もしよければチェックしてみてくださいね。

実は、[世界を変えた書物]展が開催されるのは今回が4回目。過去は、

2012年4月27日~5月19日ー金沢21世紀美術館
2013年9月13日~9月29日ー名古屋市科学館
2015年11月6日~11月23日ーグランフロント大阪北館

と、金沢、名古屋、大阪で、竺氏が先頭に立って展覧会を企画・開催してきました。

アーカイヴ|[世界を変えた書物]展 人類の知性を辿る旅|金沢工業大学

今回の東京展では、竺氏監修の元、建築学部の准教授、宮下智裕氏と、宮下研究室の学生さん達が、手作りで企画・運営を進めています。展示のところどころに、学生さんが苦労して作り上げた痕跡が垣間見えるのも、非常に風情があって良いです。

2.見どころ満載!稀覯本の放つ知のオーラに酔いしれる!

インスタ映え必至!異世界に迷い込んだような展示空間!

さて、アーチ状のセットが設けられた入り口をくぐり、最初のコーナー「知の壁」に足を踏み入れると、驚きの光景が!! 

天井一杯の高さまで設置された書棚は、まさに「壁」のよう。ドラマのセットみたいな荘厳で上品な展示空間に思わずみとれてしまいます。

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書棚には、金沢工業大学秘蔵の稀覯本コレクションが天井までぎっしり。オレンジ色のランプに照らされた展示スペース内は、数百年前の図書館へとタイムトリップして、別世界に迷い込んだような不思議な感覚が味わえます。

稀覯本の放つ独特のオーラを感じながら、ガラスケースを見ていくと、アインシュタインの手書き原稿や、エジソンの生写真など、貴重なコレクションがずらり。

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アルベルト・アインシュタイン「自筆研究ノート」

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エジソン生前の生写真!
トーマス・オールヴァ・エディソン「自筆指示メモランダム」

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特に建築書は挿絵が非常に見応えあり!
ジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラ
「建築の五種のオーダーの規則」

ガラスケースで1点ずつ、丁寧に展示された稀覯本コレクション

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1F展示室「知の森」

そして、この「知の壁」を抜けると、今度は「知の森」です。金沢工業大学が保有する稀覯本約2000点から、特に選りすぐられた130点が、1点ずつ、ガラスケースに入って系統別に整理され、部屋いっぱいに展示されているのです。しかも、そこら中に名前を聞いたことのある偉人たちの書籍がいっぱい!

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それでも地球は回っている・・・地動説を論じた書籍
ガリレオ・ガリレイ「星界の報告」

思ったよりどの書籍も状態が良いのも驚き。数百年経過しているのに、非常に美しく保たれている美麗な書籍ばかりなのです。

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500年前の書籍も退色せず、カラー印刷が鮮やか!
ヒエロニムス・ブルンシュヴィヒ「真正蒸留法」

嬉しいことに、特にその書籍のハイライトとして、書籍内容をよく特徴づけているイラストや図柄の掲載ページが開いた状態で展示されていることです。古代の外国語は我々には読めませんので、挿し絵を通して内容を何となくでも理解できるのは嬉しいですよね。

たとえば、これなんかは熱心なアートファンなら、誰が何を書いているのかこの挿絵一つでわかるかも?!

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ラファエロ像はヴァザーリ自ら描いた?!
ジョルジョ・ヴァザーリ
「最も優れた画家、彫刻家、建築家の生涯」

そう、これはヴァザーリの通称「芸術家列伝」です!描かれているのは盛期ルネサンスで大活躍したラファエロ・サンティの肖像画ですね。イタリア・ルネサンス研究で最重要資料とされ、芸術文学の金字塔として、世界中でもっとも有名な書籍です。こちらはさすがに初版ではなく、1568年の増補改訂版でした。

本を見ていて非常に気が利いているな、と感じたのは、1冊1冊の書籍に丁寧な解説パネルがついていること。本の概要や著者の紹介、本が書かれた背景・経緯、書籍に書かれた内容が後世にどのようなインパクトを与えたのかなど、やさしく説明してくれていました。

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解説がしっかりしているから安心して見れます!

「知の集積」を直感的に理解できるインスタレーションも秀逸

こうした稀覯本を1冊1冊眺めていると気付かされるのが、古代から現代に至るまで、自然科学分野での発見や研究は、先人の実績を土台に、少しずつ発展してきた積み重ねであるということです。

いきなり、パッと何もないところから凄い発見や理論が出てくるわけじゃないんですね。歴史上の偉人たちはみな、先人の研究成果をじっくり勉強して、そこから独自のブレークスルーを果たして科学史に名を残してきたのです。

そうした「知の連関」「知の集積」といったコンセプトを、直感的に理解させてくれるような解説パネルやインスタレーションがくつか用意されていたのが心憎い!

たとえばこちら。

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解説パネル「知の連鎖」

これまで金沢工業大学が蒐集してきた様々な稀覯本の関連性を線で結ぶことにより、科学史上のあらゆる発見・理論は、アインシュタインの「相対性理論」につながっていた、ということを図示しています。

数学、物理学、生物学、化学、熱力学、電磁気学等々、一見分野が違う様々な分野で発見された法則・理論は、それぞれどこかで互いにつながりあっていて、それらすべてが統合された究極の理論に一番近いのが、アインシュタインが発見した「相対性理論」ということなのでしょう。

2Fの展示室には、こんなインスタレーションもありました。

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ベニヤ板を縦横にブロック状に積み重ねることによって、少しずつ領域が異なる分野での発見や理論が、別の科学分野の次の発展に寄与しながら、全体として科学が発達してきた様子を、直感的に理解させてくれるインスタレーション。単純な作りながら、科学がどのように発展してきたのか、その本質を言い表した優れた作品だと感じました。

さらにもう一つ。

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こちらは、書籍に見立てたベニヤ板を縦にうず高く積み上げることによって、ある分野における科学的な知見や研究成果の集積を表現したインスタレーションです。ひとりの研究者が生み出した偉大な研究成果は、過去の研究者たちの膨大な努力や試行錯誤があってこそ成り立っているだということに気づかせてくれます。

これら2つの展示はまるで現代アートみたいな趣もあります。好みの角度を探して、是非SNS映えする写真が撮ってみてくださいね。

3.グッズ制作も力が入っています!!

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展示を見終わると、見逃せないのが今回の東京展のためだけに製作されたグッズコーナー。ちょっと見てみると、これが凄いんです。[世界を変えた書物]展は、どちらかというと会期も短く、中小規模の展覧会。なのに、この規模の展覧会ではまずあまり見かけないくらい、よく練り込まれた、力の入ったグッズが並んでいました。

順番にいくつか紹介していきますね。

厚手で高級感のある「和」テイストの『風呂敷』

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出展された稀覯本のイラストをプリントした、高品質な風呂敷。クリーム色の落ち着いた上品な色合いで、触ってみると、綿と麻が混じった、厚手のしっかりした生地が心地よいです。全6種類用意されています。

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価格が5000円と、展覧会グッズとしてはかなりお値段が張りますが、それもそのはず。グッズ制作担当者の強いこだわりで、京友禅の老舗「岡重」に頼み込んで作ってもらったそうです!

担当者の方いわく、「儲け度外視で、ほとんど利幅ありません!」とのこと。色々な用途に、長く日常使いできそうです。

ためしに、自宅にあった焼酎の一升瓶を包めるかどうか、やってみました。

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ほら、こんな感じです。かさばる一升瓶も、いい感じで楽々包めてしまいました。厚手の生地なので、割れ物を包んだ阿相、衝撃もある程度吸収してくれそう。風呂敷の万能感すごいです。

こだわりの作り込み!『ノートブック』

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本展に出展された稀覯本を形どって制作されたレザーブック&ノート。外観は遠目から見ると完全に古い辞書のようです(笑)

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持ってみると結構ずっしり重量があって、かなりのページ数が確保されています。ところどころ、今回展示されている稀覯本のイラストも印刷されており、かなり雰囲気出ています。グッズの中では1,2を争う売れ行きのようです。

パンフレットも手を抜かない!『タブロイド』

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本展は、会期が短く、商業ベースでの展覧会ではないため、いわゆる「図録」は制作されていません。ですが、展覧会の公式パンフレット的な位置づけとして、2種類のタブロイド紙サイズのパンフレットが用意されました。

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紙面では、ガラスケースで展示された稀覯本から、それぞれ数点が大きくクローズアップされ、詳細な解説とともに紹介されています。記念に是非2冊とも抑えちゃいましょう!

秋~冬でも暖かく着れる!オリジナルの『プリントTシャツ』

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稀覯本のイラストがプリントされた会場限定の記念Tシャツも、白・黒あわせて6種類が発売中。触ってみると、生地がしっかりしています。担当者いわく、「秋・冬でも暖かく着れるよう、夏用のTシャツよりも少し生地を厚めにしました」とのこと。日常使いしても、かなり長持ちしそうです。価格は2,000円とかなり安いので、これは結構お得かも。

自分で好きなようにデザインできる『ミニトートバッグ』

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トートバッグは、2種類用意されていたのですが、そのうち、レジで購入し、購入後に専用のスタンプで、自分オリジナル柄でプリントできるミニトートバッグが面白そう。こんな感じで、専用のスタンプ台で5種類の図柄を選んで、インクをたっぷりつけて転写します。

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販売コーナーのお姉さんに聞きましたが、「乾いたらインクはしっかり定着するし、ベタベタしないので、安心して下さい」とのことでした。遊び心のある、よく考えられたグッズでした。是非チャレンジしてみてくださいね!

4.嬉しいことに入場無料・写真撮り放題!

レアな稀覯本や、考え抜かれたインスタレーションに大満足だった本展。学生の発表会展示レベルを遥かに超え、有料でお客さんを呼べるクオリティなのに、なんと驚きの入場無料!開催期間中、気兼ねなく何度も入場できますね。

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さらに、驚いたことに、フラッシュ・三脚を使わなければ、写真も撮り放題。これは嬉しい!稀覯本で埋め尽くされたエントランスの書棚や、本の世界に入り込んだような2Fのインスタレーションは、インスタ映え必至ですからね。記念撮影コーナーもちゃんと用意されていますよ。

5.混雑状況と所要時間目安

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人が少ない時間帯を狙って、美しい写真をゲットしましょう!

過去、大阪展や名古屋展でも、会期後半は口コミで展示の素晴らしさが伝わり、結構にぎわっていました。現状は、まだ不快なほどの混雑は見られません。

ただ、今回の東京展では、若い人を中心にネットで爆発的に口コミが広がりました。最終週の3連休あたりは、ひょっとしたら入場待ち行列ができるかもしれません。いい写真を撮るためにもお早めに!!

6.まとめ

どの美術系メディアを見てもほとんど展覧会の事前情報がなく、始まる直前までほぼ全員がノーマークだった本展。フタを開けてみたら、無料の展覧会とは思えないクオリティの高い展示内容やグッズにびっくりでした。本年度最大のダークホース的、掘り出し物展覧会であることは間違いありません。

展覧会がスタートしてすぐに、Twitterでは展覧会の感想を書いたいくつかのツイートが物凄い勢いで拡散していったあたり、良い展覧会が若い人にも「見つかって」良かったな、と思いました。入場無料ですし、上野近辺で何かのついでのときでも良いので、是非本展を覗いて、稀覯本の世界を楽しんでいってくださいね。展示を頑張った金沢工業大学の学生さんも、喜ぶと思います!

それではまた。
かるび 

7.関連書籍・資料などの紹介

超オススメ!竺覚暁「図説 世界を変えた書物」

今回の展覧会を監修した竺覚暁氏が昨年出版した書籍。「世界を変えた書物展」で展示された130冊の大半が収録され、図版・解説が1冊にまとまった、図録代わりになる本です。オールカラーでビジュアル解説が素晴らしく、展示に感銘を受けた人なら絶対オススメできるクオリティ!

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全ページカラーで、図版や解説も非常にわかりやすい!

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展覧会同様、稀覯本同士の関係性が図示されています

残念ながら、諸事情により会場内での販売はされないようですが、もし置いてあったら飛ぶように売れていたと思います。きっと金沢工業大学の学生は、この本で勉強しているんでしょうね。羨ましい。

池上「世界を変えた10冊の本」

展覧会との直接の関係はありませんが、池上彰が選んだ「世界を変えた10冊」も良い本です。書評や、その書物が書かれた歴史的な背景、意外なエピソードを交えながら紹介されています。「コーラン」「アンネの日記」「沈黙の春」など、文系・理系ジャンルを問わず、古代~現代からバランスよくピックアップされ、池上節で非常に明快に解説されています。池上彰が出版した膨大な書籍群の中でも、トップクラスのクオリティと評判の1冊。稀覯本関連で少し紹介してみました。

展覧会開催情報

「世界を変えた書物展」

◯美術館・所在地
上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩3分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩5分
・京成電鉄「京成上野駅」より徒歩7分
◯会期・開館時間・休館日
2018年9月8日~9月24日(会期中無休)
開館時間:午前10時~午後5時
*最終入場閉館30分前まで

映画以上の迫力!映画「散り椿」に合わせ、山種美術館で名作《名樹散椿》が特別公開!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月28日(金)に「散り椿」という注目の日本映画が公開されます。江戸中期を舞台とした時代劇で、主演・岡田准一が不器用ながら筋を通し、誠実に生きる浪人剣士を演じた本格派時代劇映画です。

すでに原作も早々に読了し、あとは映画館に行ってブログに感想を書くだけとなっており、公開が非常に待ち遠しい今日このごろ。そんな中、映画の原作小説の表紙を飾る速水御舟の名画《名樹散椿》が、映画上映中に山種美術館の企画展「日本画の挑戦者達」で特別展示されることが決まりました。

今日は、簡単ですがこのタイアップ企画についてアートファンの立場からまとめてみたいと思います。(映画レビューは公開後に別途書きます!)

映画「散り椿」とは?

映画「散り椿」は、時代小説の名手、葉室麟が2012年に発表した同名の原作小説を元に、映画界のレジェンド・木村大作監督が映画化した作品です。

映画の主要スタッフ・キャスト陣は、ざっとこんな感じ。
うーん、豪華です。

監督・撮影:木村大作
脚本:小泉堯史
音楽:加古隆
キャスト:岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子他

木村監督の前作「春を背負って」は、良い映画でしたが、残念ながら「ヒット」の目安となる興収10億円を若干下回ってしまいました。なので、今回は絶対に負けられない戦いとなります。(これがコケたら、次の映画企画が通りづらくなるからですね)

なんとしても10億円以上のスマッシュヒットを達成するんだ、という東宝以下制作陣の本作にかける並々ならぬ意気込みが、スタッフやキャスト陣を見るだけで一目瞭然です。日本映画界のレジェンド”キャメラマン”、木村大作監督の顔に泥を塗るわけにはいかないと!

巨匠・木村大作監督もまさかのインスタアカウント開設!

 

もちろん、木村監督自身も、物凄い気合いの入りよう。なんと、映画公開1ヶ月前に合わせて、Instagramのアカウントを開設してくれました!御年79歳になろうとする方ですよ・・・^_^;

まぁキャメラマンですから、スマホの操作も余裕・・・ということでしょうか(笑)でも、意気込みはしっかり伝わってきました。日本映画の黄金時代を知る数少ないレジェンドでも、映画ヒットのためにここまで頑張ってるんですね!

しかしこの木村監督、映画監督としてはまだキャリア3本目ですが、撮影”キャメラマン”としては、主に降旗康男監督とのタッグで、日本アカデミー賞優秀撮影賞を21回受賞、そのうち最優秀撮影性を5回受賞するなど、圧倒的な実績を打ち立ててきました。

その作風の最大の特徴は、徹底的にロケ地にこだわり、雄大な自然描写によるドラマチックな演出です。今回も、山の上のお寺での緊迫したシーンや、雪がしんしんと降る中殺陣をこなすシーンなど、少し予告映像を観るだけでも、木村監督らしい詩情あふれる風景美を感じ取ることができました。

なんと今回は、時代劇なのに、映画村などを一切使わず、全シーン富山・滋賀・長野で撮影されました。すごい!

映画内で特に注目したいのは「椿」

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映画の鍵となるモチーフ「椿」
引用:「散り椿」予告 - YouTube

そんな中、映画内でぜひ注目してみたいモチーフがあります。それが、映画タイトルでもある「椿」です。岡田准一扮する主人公、瓜生新兵衛と、亡き妻・篠の強い絆の象徴であり、新兵衛の生き様を体現したメタファーでありと、原作小説では、「散り椿」というタイトルに、登場人物たちの運命や思いなど様々な意味を持たせているからです。

映画での見どころも、どのようなシーンで椿の木が登場しているのか、今から見に行くのが非常に楽しみであります。

ちなみに、上記の画面内に写っている大きな椿の木は、スタッフ総出で手間隙をかけて苦労して探し出したとのこと。撮影時期は椿が咲く2月~4月ではなかったため、わざわざ花びらを1枚1枚上向きにして撮影時に手動でとりつけるというスタッフの涙ぐましい努力があったそうです。

原作小説の表紙に速水御舟《名樹散椿》が使われている!

さて、映画内での「椿」の他に、本作ではもう一つ注目して欲しい「椿」があります。それが、原作小説(文庫本)の表紙に使われている椿の絵です。 

実はこのイラスト風の椿の絵は、明治~昭和初期にかけて活躍した日本画家、速水御舟の《名樹散椿》(めいじゅちりつばき)という二曲一双の屏風絵の一部なんです。

全体像は、こんな感じ。 

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速水御舟《名樹散椿》1929年 山種美術館蔵

御舟が二曲一双の大画面に描いたこの椿は、原作小説と同じく、京都・地蔵院の境内に咲く五色の八重散椿をモデルとしています。速水御舟が描いた時、なんと樹齢約400年だったのだとか。映画内で使われている椿は、せいぜい100年程度なので、御舟の絵のほうが圧勝ですね(笑)

《名樹散椿》の見どころは?

この椿の木は、少し見て頂くとわかりますが、美しく描かれているものの、写実的というより、どこかデザイン的ですよね。老木ゆえに、葉や椿の花の重みからなのか、描かれた椿の枝は今にも地面につきそうなほど扇形にしなっており、屏風いっぱいに椿の木を収めようと、図像的なデフォルメが施されています。

これは、本作制作にあたって、御舟が俵屋宗達や、尾形光琳といった、「琳派」の作風を意識して、デザイン性を高めて製作したからなのです。

そして、椿といえば、ぼとっと花ごと落ちることがよくありますが、映画同様、こちらも白~赤まで色とりどりの花びらが上品に舞い落ちた様子を描いています。

また、この屏風絵の背景の金地部分にも注目してみて下さい。「撒きつぶし」技法という、通常より手間がかかる緻密な金箔の塗り方により、均一でしっとりした上品な輝きを生むよう絶妙に計算されています。

この作品は、昭和52年に、昭和以降に制作された作品としては、初めて国の重要文化財に指定されました。誰もが認める傑作だからこその快挙です。

山種美術館の次回企画展「日本画の挑戦者たち」での特別展示が決定!

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この《名樹散椿》は、明治期以降の日本画では日本一の大コレクションを保有する山種美術館が所蔵する作品です。なんと今回、映画上映を記念して、山種美術館の次回企画展「日本画の挑戦者たち」の後期日程で特別展示されることになりました!

展示期間は、10 月16 日(火)から11 月11 日(日)まで。ちょうど映画が公開されて3週目なので、まだまだ絶賛上映中の段階での満を持しての特別公開ですね。

僕も、以前2016年に山種美術館で開催された大回顧展で初めて生で間近で見たのですが、ネット上のJpeg画像で見るのとは大違いでした。やっぱり直接「生」で見ると、美しさと迫力のレベルが違います!その時の様子は、以下の過去ログでレポートしていますので、もしよろしければ御覧くださいね。 

余談ですが岡田准一は、大の美術ファンだと聞きます。公開されたら、絶対お忍びで見に来ると予想しているのですが、果たしてどうなのでしょう?展覧会が終わったら、学芸員さんに岡田くんを見かけたかどうか、聞いてみたいと思います!

まとめ

御舟が残した約600点の作品中、旧安宅コレクションを核として、実に120点もの作品を所蔵する山種美術館。別名「御舟美術館」と言うコアな日本画ファンもいるほどです。だから、山種美術館の所蔵品展では、頻繁に御舟の作品が取り上げられますが、今回特別展示される《名樹散椿》は、その中でも特に人気が高い作品なのです。

ぜひ、映画制作陣が「椿」のイメージを固めるため、インスピレーションを得たであろう速水御舟《名樹散椿》を特別展示期間中に「ナマ」で味わってみて下さい!グッズコーナーには、この《名樹散椿》の図柄がプリントされた色々な記念グッズが発売されていますので、そちらも見てみると面白いですよ。

それではまた。
かるび

《名樹散椿》が特別展示される展覧会情報

◯《名樹散椿》が展示される展覧会名
日本美術院創立120周年記念
企画展「日本画の挑戦者達ー大観・春草・古径・御舟ー」
◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
 2018年9月15日(土)~11月11日(日)
*会期中、一部展示替えあり
《名樹散椿》の展示期間
2018年10月16日(火)~11月11日(日)まで
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※9/17(月)、24(月)、10/8(月)は開館
※9/18(火)、25(火)、10/9(火)は休館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

 

橋づくし!ユニークな企画展「北斎の橋、すみだの橋」がマニアックで面白かった!【展覧会レビュー・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。 

開館1周年を越えて所蔵品の紹介も一段落したすみだ北斎美術館。2018年になってから、意外性のある企画展が続いています。この秋、9月11日から開催する企画展「北斎の橋 すみだの橋」が、非常に力の入った意外性あふれる展覧会でした。徹底的に「橋」に着目した、「橋」づくしとなったユニークな展覧会は見応え充分。内覧会で取材させて頂くことができましたので、以下、感想・レビューをまとめてみたいと思います。

1.企画展「北斎の橋 すみだの橋」とは

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展覧会名にもある通り、徹底的に「橋」に着目した企画展です。様々な橋のかたちの面白さに着目して製作された北斎の代表作の一つ《諸国名橋奇覧》全11作品ほか、北斎や彼の弟子たちが浮世絵、絵本などの中で描いた「橋」を丹念に拾い上げ、整理・展示してくれています。

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葛飾北斎《北斎漫画 初編》年代未詳
すみだ北斎美術館蔵 ピーター・モースコレクション

展示後半では、墨田区内の主要な「橋」を徹底的に掘り下げて特集。北斎の生きた江戸後期から現代に至るまで、墨田区内に架けられた様々な橋が、どのように発展し、続いてきたのかを、錦絵等で描かれた風景や、絵葉書、設計図、古地図、記念品等、様々な歴史関連資料をまとめて紹介してくれています。

展示されている作品や資料は、大ボリュームとなる全206点。同館の所蔵品だけでなく、個人の熱心なコレクターさんたちや、近隣の江戸東京博物館、東京都建設局から借り集めるなど、非常に手間ひまをかけて構成されていました。展示スペースをフルに活用した、情報密度の濃い非常に充実した展覧会です。

2.展覧会の3つの見どころは?

見どころ1:葛飾北斎「諸国名橋奇覧」

非常に有名な代表作《富嶽三十六景》以外にも、北斎は「滝」に注目した《諸国瀧廻り》シリーズ、「海」に着目した《千絵の海》シリーズなど、様々なテーマ別の浮世絵作品集を制作しています。 

北斎は、「橋」にも着目して、一連の錦絵のシリーズを制作しました。それが、《諸国名橋奇覧》シリーズ。現存する作品は、11点確認されていますが、すみだ北斎美術館では非常に状態の良い作品を複数セット所蔵。前後期合わせ、全部見せてくれます!

美術品としてじっくり見る・・・というより、「え、なにこれおかしい!」と一つ一つ突っ込みながら楽しめる作品が多いのです。

例えばこれ。

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葛飾北斎《諸国名橋奇覧 飛越の堺つりはし》(1834頃)
すみだ北斎美術館蔵

《諸国名橋奇覧》シリーズの中でも、唯一実在するモデルの橋が特定されていない作品。同シリーズでは一番有名な作品なので、どこかの展覧会で見たことがある人も多いのではないでしょうか。

でも、これ、めちゃくちゃ危なくないですか?よく見ると幅も狭いし、手すりなどもなくて、まるで綱渡りです。男性と女性の表情はよく見えませんが、特に焦っている感じでもなく。見ているだけでもハラハラしてきますが、でもこの危うさに、なぜか画面に目が惹きつけられてしまう、不思議な魅力を持った作品です。

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葛飾北斎《諸国名橋奇覧 かめゐど天神たいこばし》1834年頃
すみだ北斎美術館蔵

つづいてこちら。深川からほど近い、亀戸天神内に現存する太鼓橋をモデルに描いていますが、なぜか亀戸天神が海辺に隣接して描かれています。

また、よく見たらこの現実離れした斜面、やばいですよね(笑)実際の亀戸天神内の太鼓橋はもっと小さくこじんまりしていますし、こんなに斜度はないような気がする(笑)現実の風景を誇張して描くことが多い錦絵ならではの劇的な演出であります。

拡大してみると、こんな感じ。 

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葛飾北斎《諸国名橋奇覧 かめゐど天神たいこばし》部分図

下りはまだいいとして、これ、渡り初めの上りは、まるでロッククライミングかボルダリングのようであります。冷静に見るとツッコミどころ満載の作品。

続いては、こちら。現在も山口県岩国市に現存する、3連のアーチ橋。増水時でも落ちない橋を造ろう、と創意工夫した結果、こういう芸術品のような橋ができたのだそうです。今も昔も、珍しい橋は観光地だったんですね。 

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葛飾北斎《諸国名橋奇覧 すほうの国きんたいはし》1834年頃
すみだ北斎美術館蔵

さらにもう1点。

こちら、何に見えますでしょうか?僕にはどこか高原かなんかの観光地でよくある湿地帯のハイキングコースに見えたんですが、実はこれ、伊勢物語の主人公、在原業平が歌を詠んだことで名高い「八ツ橋」を描いた作品。平安時代中期にはすでになかったので、北斎は想像で描いたのだそうです。それにしても、カキツバタ一つも咲いてないですよね・・・手を抜いたのか、オフシーズンを描いた図なのか・・・。

また、やたらムダに橋脚が高いのは、やっぱり浮世絵らしいデフォルメ感があって面白いですよね。

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葛飾北斎《諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図》1834年頃
すみだ北斎美術館蔵

このように今回の企画展「北斎の橋、すみだの橋」のメインディッシュである【諸国名橋奇覧】はどれも非常に見応えがあるので、是非注目してみてくださいね。 

見どころ2:北斎や弟子たちが描いた、様々な「橋」が面白い!

《諸国名橋奇覧》以外にも、北斎やその門人たちは、「橋」をモチーフとした印象的な作品を沢山残しています。もう少し見ていきましょう。

まずは、《富嶽三十六景》からの1枚。

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葛飾北斎《富嶽三十六景 深川万年橋下》1831年頃
すみだ北斎美術館蔵

北斎得意の、構造物の間から垣間見える「遠見の富士」が印象的な作品なんですが、注目してほしいのは、富士山ではなくて絵の中に描かれた登場人物です。

この「万年橋」は、現在でも小名木川と隅田川の接続部分に掛かっているのですが、よく見てみると、橋の上にいる人は、みんな釣りをする人を見ているんですね。

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葛飾北斎《富嶽三十六景 深川万年橋下》1831年頃
部分拡大図

僕は、実はこの万年橋の近くに住んでおり、日々のジョギングコースで毎日のように通りかかるんですが、ここ、この絵が描かれた150年後の現在でも、格好の漁場なんですよね。日が落ちると万年橋の下(小名木川と隅田川の接続部分)で夜釣りを楽しむ人が非常に多いんです。

釣りのことはよくわからないんですが、2つの川が出会い、複雑な流れが発生する部分だからなのか、昔も今も格好の漁場なんだな、と思ってしみじみ納得してしまいました。

つづいて、北斎が描いた面白い橋の浮世絵《百橋一覧》。

ぱっと見て、画面真ん中やや右寄り中央に大きな橋がかかっていますが、よーく見てみると、それ以外にも様々な形をした無数の橋が、絵の中に潜んでいます。

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葛飾北斎《百橋一覧》1823年頃
すみだ北斎美術館蔵 ピーター・モースコレクション

たとえば、ちょっと拡大してみましょう。

ほんの一部分ですが、この部分図だけでも10個くらいの橋が描かれていますよね。北斎は絵の中に描いた一つ一つの橋には、一応日本中のどこかの橋をモデルとしていたらしく、第2刷以降は、橋一つ一つに名前がつけられたバージョンが市場に出回りました。

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葛飾北斎《百橋一覧》部分図

続いて、こちらの絵本から。

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葛飾北斎《富嶽百景二編 七橋一覧の不二》1835年
すみだ北斎美術館蔵 ピーター・モースコレクション

こちら、一見なんでもない橋の絵に見えるんですが、よーく見てみると、大きな橋のアーチの下には、合計6つの橋が描きこまれているんです。まさに橋づくし。展覧会場で、全部みつけるまで3分くらいずっとにらめっこしてました(笑)

続いて、こちらの絵本では、実際にはありえない奇想の橋も考案しています。

橋を、1本の大きな古い木の幹が支えているという構造。実際にはありえないですが、想像力豊かな北斎らしい絵だなと思いました。

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葛飾北斎《富嶽百景 三編 橋下の不二》年代未詳
すみだ北斎美術館蔵

見どころ3:マニアックな「すみだの橋」特集!

実は僕も墨田区のすぐとなりの江東区深川の住人なのですが、今でも隅田川や、その支流にかかる橋は、文化財として大切に取り扱われているのは肌でよく知っています。特に、隅田川の河口部から南千住付近までの約10Kmの中で、隅田川にかかる橋は、どれも外見、構造、工法が一つ一つ違っており、本当に見ているだけでも面白いです。

本展では、墨田区内にかかる主要な橋ごとに、各所から集められた資料や絵画作品をまとめて展示。大花火大会などで有名な「両国橋」や、浅草に架かる「吾妻橋」といった有名な橋から、非常にマイナーな運河にかかる小さな橋まで余すことなく展示されているのが凄い!

では、いくつか実際に見てみましょう。

隅田川で昔からいちばん有名な橋といえば、「両国橋」。江戸時代において、江戸の風景や町人たちの日常生活を描いた浮世絵では、「両国橋」のにぎわいは最頻出のモチーフといっていいかもしれません。

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小林畿英《東京名所之内川開之図 両国橋大花火》

面白いのは、両国橋が描かれた浮世絵は、おおよそ「花火が上がっている」か「人がすし詰めになっている」かどちらかのパターンが非常に多いこと。

今回の展覧会でも、やはり花火大会の風景を描いた3連の錦絵が印象的でした。どうですかこの弾ける花火の表現方法。

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浮世絵での弾ける花火の表現方法に注目!
小林畿英《東京名所之内川開之図 両国橋大花火》部分図

また、花火を一目見ようと、橋の周りは人々でごった返し、隅田川にはたくさんの屋形船が浮かんでいます。人力車やボート、麦わら帽子など、文明開化の香りもして面白いし、興奮する人々の表情などを見ているだけでも見飽きないですよね。 

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江戸時代とは明らかに違う人々の様子も興味深い
小林畿英《東京名所之内川開之図 両国橋大花火》部分図

つづいて、人々ですし詰めとなり大混雑する両国橋。これも浮世絵では定番です。実際、江戸時代に、花火大会の日に人の重みに耐えかねて崩落した事故も起きていますので、両国橋は町人たちの人気スポットだったのでしょうね。

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葛飾北斎《『絵本隅田川 両岸一覧』中 両国納涼 一の橋弁天 無縁の日中》
年代未詳 すみだ北斎美術館蔵

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両国橋名物?!橋の上はすし詰めで大渋滞!
葛飾北斎《『絵本隅田川 両岸一覧』中 両国納涼 一の橋弁天 無縁の日中》拡大図

もう一つ、両国橋をこれから渡って、吉良上野介の邸宅に討ち入りしようとする赤穂浪士達を描いた作品。両国橋を渡ると、回向院の裏にあった吉良邸。討ち入り前のクライマックスシーンなのですが、両国橋とセットで浪士たちが描かれると、なぜか画面上大混雑しちゃう(笑)

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歌川国芳《忠臣蔵十一段両国橋勢揃図》1818-30~1840頃
江戸東京博物館蔵

見て下さいこの人口密度。ちゃんと一人ひとり誰が誰なのか、テロップまでつけてある親切設計。こういうのを観ると、江戸時代の浮世絵ってブロマイドだったのだなとよくわかりますよね。

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歌川国芳《忠臣蔵十一段両国橋勢揃図》部分図

両国橋は、明治になってから一度架け替えられましたが、関東大震災で被災。木造部分の歩道が焼け落ちました。震災復興に伴い、1932年に現在の鋼鉄製の端に再度架け替えられましたが、明治時代にかかっていた橋の遺構の一部が、ちゃんと保管してあるんですね。

それがこちら。 

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(中)両国橋 橋名板
(左、右)橋梁装飾物の被害品(両国橋エンドポストキャップ)

看板の両サイドのオブジェを見ると、文明開化の匂いや、その後の大震災の爪痕も感じられるようで、なんとも感慨深いものがあります。

さて、続いては人気No.2の「吾妻橋」。浅草にかかる橋で、もともとは町人の私費で架橋され、武士以外から橋銭2銭を徴収して維持運用されていたのだとか。江戸時代は、現在は赤く塗られていますが、こちらも明治20年(1887年)に1度、関東大震災で被災した後、昭和6年(1931年)にもう1度架け替えられました。

この吾妻橋は、明治期になってから描かれた3連の錦絵なのですが、橋脚はレンガ造り、橋の上は鋼鉄の梁が張り巡らされていて、江戸時代からの土木技術の着実な進歩を感じますよね。

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井上安治《大日本東京吾妻橋真画》1887年
江戸東京博物館蔵

そして、橋の下を歩く人達もこんな感じ。この異国風の兵隊さんみたいなおじさんは、警察官なのでしょうか?それとも軍隊の偉い人?また、子供が着ている洋服や、おばあさんたちの着物姿、その後ろの人力車など、江戸時代と人々の生活文化も大きく変わってきていることがよく読み取れます。 

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井上安治《大日本東京吾妻橋真画》部分図

橋脚付近では、なぜかオーストリアの国旗を挿した手こぎボートで敢行を楽しむ人々も描かれています。

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井上安治《大日本東京吾妻橋真画》部分図

面白いのは、この絵に描かれた橋脚部分で使われていたレンガが、遺構として大切に保管されていることなんですよね。ほら、この通り。 

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このように、浮世絵などを楽しむだけでなく、こうした歴史的な資料も合わせて展示されているという点で、企画展後半は、博物館の展示を見ているようでもありました。

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(東京名所)吾妻橋 1887-1931頃 紅林章央氏蔵

また、吾妻橋に関しては、明治期に撮影された写真も残っていました。こうやって見てみると、当時まだ高層ビルなどが周りにない中、巨大建築物としての「橋」は、今よりももっと人々の生活の中で存在感があったのかもしれませんね。「瀧」や「海」などと並んで、わざわざ北斎がシリーズ化して作品を発表していったのもわかる気がします。

続いては、北斎が描いた小型の錦絵から。

一見なんでもないように見えるのですが・・・

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葛飾北斎《東都十景 あさくさ》1804-18年頃
すみだ北斎美術館 ピーター・モースコレクション

拡大してみると、この小ぶりな錦絵の中に小さな石橋が描かれていることがわかります。

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葛飾北斎《東都十景 あさくさ》部分拡大図

実はこの端、浅草寺の中に今でも現存する石橋なのですが、北斎が絵の中に描いた墨田区内の橋の中で、唯一2018年現在でも残っているのが、この浅草寺の石橋なのだそうです。 

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面白いですよね。こんなに小さく描かれた橋でさえ見逃さず、しっかりと展示につなげてくるあたり、本展を企画した学芸員さんたちの執念を感じました(笑)

さて、それ以外にもまだまだたくさん墨田区にかかる橋が特集されているのですが、例え錦絵などが残っていなくても、記念絵葉書や構造図/設計図の図面、古地図、青焼きを展示するなど、とことんマニアックなのです。 

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このように、橋梁好きにはたまらない展示となった、展示後半の「すみだの橋」特集。とことんマニアックでした。

4.混雑状況と所要時間目安

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本展を隅から隅まで楽しむのであれば、90分~120分は欲しいところ。浮世絵や絵本は、一つ一つ図柄が面白くて見入ってしまいますし、墨田区に架かる橋の資料も非常に情報量が多く、見ごたえ抜群でした。

混雑状況については、特に心配しなくても大丈夫だと思いますが、万全を期するのであれば、一番入場者が多くなる土日祝日の13時~15時頃を避けるようにすれば良いと思います。

5.関連書籍・資料などの紹介

すみだ北斎美術館の企画展を120%楽しむなら、北斎が生涯残した作品やその作風、経歴などを抑えておくと良いかと思います。僕が読んでみて、特に役に立った「北斎入門本」を3冊紹介しておきますね。

読みやすさは随一!入門書の決定版「北斎への招待」

すみだ北斎美術館の紹介や、最近人気上昇中の北斎の三女「葛飾応為」も網羅し、北斎研究の最新トレンドも踏まえた、初心者・入門者に超オススメのムック本。構成もスッキリしており、非常に読みやすいので、僕も重宝しています。これ1冊を何度も読み込んでおけば、北斎の展覧会をより楽しめること間違いなしです。

安心の定番入門書!「もっと知りたい北斎」

アカデミックな正統派の研究を元に、しっかりと北斎の画業について時系列でまとめてくれている入門書。10年以上前に出版されていますが、記載内容は非常にバランスが良く、「もっと知りたい」シリーズらしい、圧倒的な信頼感があります。こちらも「北斎への招待」同様、初心者~中級者までオススメの1冊です。

新書で手軽に魅力を知る!「北斎漫画入門

北斎が人物・風景・動植物・日常生活における様々なモチーフを「絵手本」としてまとめたスケッチ画集が《北斎漫画》です。あらゆる北斎の展覧会で、必ず参照される《北斎漫画》は、ある程度わかっていたほうが展覧会をより楽しく観ることができるでしょう。日本における在野での《北斎漫画》研究の大家、浦上氏が非常にわかりやすく《北斎漫画》を解説してくれています。

6.まとめ

すみだ北斎美術館が本気を出して作り上げた企画展「北斎の橋、すみだの橋」は、北斎やその門人たちが描いた錦絵や絵本の中の「橋」を徹底的に集めただけでなく、墨田区の代表的な橋梁を、徹底的に調べ上げたマニアックな展覧会でした。

後半の展示はもはや美術館というより、博物館の企画展示みたいな趣もありましたが(笑)、東京下町の「橋」は200年、300年と普通に積み重ねてきた歴史があるんだな、と感じさせてくれます。歴史の面白さを味わえる意欲的な展示は、見ごたえ十分でした。

力の入った企画展なので、是非!おすすめです。
それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

企画展「北斎の橋 すみだの橋」
◯美術館・所在地
すみだ北斎美術館
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2
◯最寄り駅
・都営地下鉄大江戸線「両国駅」A3出口より徒歩5分
・JR総武線「両国駅」東口より徒歩9分
・JR総武線「錦糸町駅」北口より墨田区内循環バスで5分
◯会期・開館時間
2018年9月11日(火)~11月4日(日)
9時30分~17時30分(入場は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※9月17日、24日、10月8日は開館
※9月18日、25日、10月9日は休館
◯入館料
一般1200円/高校生・大学生900円/中学生400円
65歳以上900円/障がい者400円
※小学生以下無料
◯公式HP
http://hokusai-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/HokusaiMuseum

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、Webメディア「楽活」向けの取材として、あらかじめ主催者の許可を得て内覧会で撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

ブレイク前夜?!伝説の天才絵師、渡辺省亭の回顧展「SEITEIリターンズ!」が面白い!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

伊藤若冲、河鍋暁斎、柴田是真、五姓田義松・・・生前は実力・人気共に画壇トップクラスの天才絵師であったにもかかわらず、没後まもなく人々から忘れ去られ、そして近年になって再発見されてブレイクを果たした画家は、日本美術史の中でたくさんいます。

本エントリで紹介する渡辺省亭(わたなべせいてい)も、そのうちの一人。生前はパリに留学し、当時一流の西洋美術の巨匠たちと交流を持つなど華々しい活躍もありましたが、亡くなってからは完全に歴史の中で忘れ去られてしまいました。しかし、2017年頃から急速に注目され、再び「見つかりつつある」あるのです。

今日は、まさに再ブレイクをこれから果たすかもしれない、加島美術で開催中の渡辺省亭のミニ回顧展「SEITEIリターンズ!!」について、簡単に感想・レビューを書いてみたいと思います!

1.渡辺省亭ってそもそも誰なの?

さて、「そもそも渡辺省亭って誰よ?」っていう人も多いかも知れません。そこで、まずは天才絵師・渡辺省亭と、今回の展覧会が開催されるきっかけを整理してみたいと思います。

渡辺省亭について簡単に紹介

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引用:【孤高の神絵師】渡邊省亭 現代に蘇るその偉大な画業とは・・。

渡辺省亭(わたなべせいてい)は明治~昭和初期にかけて活躍した日本画家です。幕末に活躍した日本画家、菊池容斎に学んだ後、日本画家としてパリへと留学。まだ画家が海外修行を行うのが珍しかった時代、パリで画家修業に打ち込む傍ら、マネやドガなど、当時現地で活躍していた錚々たる画家たちと交流しました。

帰国してからは、留学時代に西洋絵画から学んだ新しい色彩感覚や技法を日本画へと取り入れ、当時日本画壇で主流だった橋本雅邦、狩野芳崖ら狩野派直系の画家たちとは一線を画し、独自の作風で一流画家として人々に認められるようになりました。また、帝室技芸員・涛川惣助とのコンビで赤坂離宮へ無線七宝作品約30点を納めたり、新聞や雑誌の挿絵なども精力的にこなしました。

省亭は、写実的な花鳥画を中心に68歳で亡くなるまでずっと日本画を描き続けました。しかし、キャリア中途で中央画壇からは距離を置いたことも災いし、卓越した腕前を持っていたにもかかわらず、死後時間が経過するにつれ、日本美術史の中では「知る人ぞ知る実力派絵師」として、徐々に忘れ去られていきました。

渡辺省亭展でマニアを唸らせた加島美術の展覧会

そんな中、渡辺省亭に再び光を当て、ファンにその画業の真価を問うたのが、東京・京橋の日本美術専門の画廊・加島美術です。ちょうど1年半前、東京・京橋にある画廊の1F ,2Fスペースを全部使ってミニ回顧展「SEITEI渡辺省亭」が3週間限定で開催されると、これがスマッシュヒット。TwitterやFacebookといったSNSで目の肥えたアートマニアを唸らせ、熱心なファンで画廊内は大盛況となりました。

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あれから1年。前回展の流れを意識して企画された今回の展覧会は、「SEITEIリターンズ!!」と銘打たれ、約40点弱の省亭作品が集結しました。

加島美術では、今回展のために特設ホームページやYoutubeの動画ページを開設するなど、渡辺省亭のプロモーションに非常に力を入れています。特にYoutubeの動画は、短くコンパクトに省亭の魅力をまとめてくれていますので必見!5分程度でコンパクトにまとまっていますので、お時間のある方は是非!

ちなみに加島美術は、数ある画廊の中でも、SNSで積極的に広報活動を行い、ブロガーやアートファンに優しい画廊です。また、通常業務としての美術作品の売買以外にも、夏には「七夕入札会」というユニークな入札イベントや、自社保有の作品を一挙展示してお祭りのようなイベント「美祭ーBISAIー」を開催したり、BSフジでミニ番組「アートな夜」のスポンサーにもなるなど、積極的なPR活動が素晴らしいです。

去年、実際に七夕入札会に行ってきた感想レポートなども拙ブログで書いておりますので、もしよければ参考にチェックしてみてくださいね。 

2.展覧会の5つのみどころ

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さて、今回も大盛況になりそうな展覧会「SEITEIリターンズ!!」ですが、今回も見どころがいっぱい。実際に見てきて、僕が感じた本展の魅力・みどころを5つに絞ってピックアップしてみます。

見どころ1:超絶技巧!驚異的な写実性に酔いしれる!

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渡辺省亭《春野鳩之図》部分図

省亭の凄さは、動植物を極限まで写実的に描いた、その卓越した技術です。雨や雪、水がうねる質感など、伝統的な日本絵画から受け継がれた技法をしっかり使いつつ、主役である動植物は徹底的にリアルに描きこまれているのが特徴。

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本当に岩絵の具で描いたのでしょうか!?凄い!
渡辺省亭《十二ヶ月 春野》部分図

しかも、図録にて日本画家の荒井経氏が指摘している通り、一発勝負で描き直しが出来ない日本画において、ササッと最小限のタッチでこのリアルさを再現しているというのが驚異的です。荒井氏はこんなふうにコラムで書いています。

絵かきというものは、下手なほど筆数が増えるものだから、筆数を減らしていくと技量が露わにされてしまう。ところが、卓越した技量に恵まれた省亭は、これ見よがしと余裕をもって筆数を減らしてくる。

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リアルなのに、意外な筆数の少なさに驚く
渡辺省亭《春野鳩之図》部分図

同時代、日本画壇の主流派だった画家たちとは全く違うアプローチで、新たな日本画の可能性を極限まで追求した省亭の超絶技巧ぶり、是非展覧会の「ナマ」の絵で確認してみて下さい!呆れるほど巧いです!

見どころ2:まるで生きているかのような動物たち!

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カラスの飄々とした表情が味わい深い!
渡辺省亭《雪中松鴉》部分図

特に注目したいのが、今回いくつも展示されている「鳥」や「うさぎ」といった小動物たちの「目」です。瞳の中に白く反射する光を入れたり、ちょっとした表情にニュアンスをつけることで、作品中の動物に生命感が宿っているのです。

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鑑賞者の心を見透かすような鷹の表情がたまりません
渡辺省亭《松に雉子、杉に鷹 左幅》部分図

もっというと、極めて人間臭い表情をしているともいえそう。単に写実的であるだけでなく、描かれた動物たちの、なんともいえない人懐っこさが省亭の花鳥画の魅力だと思うのです。

見どころ3:メイン展示は1Fの《十二ヶ月》

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渡辺省亭《十二ヶ月》

今回の一番の注目作品は、入り口を入って左側の壁一面に架けられた十二幅対の作品《十二ヶ月》です。季節の草花を背景に、主役として描かれたのは鳥や蝶、魚などの昆虫や小動物たち。

色調は抑えめで、全体的にモノトーンな色合いでまとめられている分、画面上にてワンポイントで使われている草花の「青」や効用の「赤」が非常に引き立って見えるのも渋くて良いです。もちろん、動植物は極限まで写実的に描かれています。

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ワンポイントで使われた「青」の色使いが凄い!
渡辺省亭《十二ヶ月 春野》部分図

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渡辺省亭《十二ヶ月 枯野》部分図

ちなみに、加島美術では、もし作品を「買いたい」というお客さんがいたら、展示終了後、個別に商談に応じるとのこと。この《十二ヶ月》の参考価格を聞いてみましたが、(当然僕では買える金額ではありませんが)他の西洋絵画に比べたら、一桁少ない非常にリーズナブルな価格でした。(高級車一台分くらい?!)これを毎月自宅で架け変えながら1年中床の間で楽しめれば生活が楽しくなりそうだな~。

見どころ4:豪華共同制作!涛川惣助との合作作品も! 

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渡辺省亭は、陶磁器の下絵なども担当することがありました。よく知られているのが、無線七宝の伝説的職人、涛川惣助(なみかわそうすけ)とのコラボレーション。省亭が下絵を担当し、それを涛川惣助が七宝に仕上げる・・・。今思うと、なんて贅沢なコラボなのでしょうか(笑)

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今回、涛川との共同作品もいくつか展示されています。省亭の下絵が、うつわへと正確に引き写された無線七宝作品で、絵画以外での省亭の作品もしっかり楽しんでみてくださいね。

見どころ5:露出展示かつ写真が撮り放題

加島美術では基本的にいつもそうなのですが、展示される作品はガラスケースなしのすべて露出展示。思う存分絵の近くまで寄って、その超絶技巧ぶりを楽しむことができます。

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渡辺省亭《牡丹之図》

近くに寄って接写してみると、驚くほど正確に、絶妙のタッチと色使いが楽しめます。

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渡辺省亭《牡丹之図》拡大図

嬉しいのは、フラッシュ、三脚等を使わなければ写真も撮り放題!SNS映えしますし、これはうれしいですよね。 

3.他にも渡辺省亭の作品が楽しめる展覧会が同時開催中!

前回展でも、松岡美術館・山種美術館など、東京都内の5館が同時期に渡辺省亭の作品を一斉に展示する連携イベントが開催されました。今回も、前回ほどではないですが、加島美術「SEITEIリターンズ!!」と同時か少し後に、省亭の他作品を都内の他の美術館でも楽しむことができます。簡単ですが、少し紹介しておきますね。

迎賓館赤坂離宮(~10月9日)

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引用:Wikipediaより

迎賓館赤坂離宮では、8月31日から10月9日までの間、『没後100年 渡辺省亭特別展』が開催されています。壁面に展示された30枚の七宝焼を、通常時に比べ、より近くに寄って鑑賞できるまたとない機会です。

展示内で楽しめるのは、「SEITEIリターンズ!!」の作品と同じく、渡辺省亭が描いた下絵に基づき、涛川惣助が焼成を手掛けた作品群。絵画×七宝の超絶技巧コンビが生み出した無線七宝をガッツリ楽しんでくださいね!

また、土日は庭園内でビールも飲める!これ重要です!!(笑)

山種美術館(11月17日~1月20日)

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山種美術館で11月17日からスタートする展覧会「皇室ゆかりの美術」で、省亭の作品《赤坂離宮下絵 花鳥図画帖》が1点出展されます。先に赤坂離宮で七宝作品を見ておくと、なお楽しめそうですね!

4.混雑状況と所要時間目安

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所要時間は、およそ30分~60分程度あれば、一通りチェックできると思います。恐らく大混雑することはないでしょうが、お客さんに邪魔されず、ゆっくり作品と向かいたい、あるいは良い写真を撮りたい、という方は、土日祝日の13時~15時頃を避けて行くと良いでしょう。

5.関連書籍・資料などの紹介

唯一の渡辺省亭入門書!「渡辺省亭:花鳥画の孤高なる輝き」

渡辺省亭没後100年を記念して2017年に発売された、ムック本型式での入門書。多数の作品を収録しているので、コンパクトな画集としても楽しめます。オールカラーでの作品解説を中心に、渡辺省亭の生涯や、作品の魅力についての対談や解説が読めます。僕も度々省亭について調べる時に見返しており、簡単な資料集としても重宝しています。

今年出版された渡辺省亭の評伝。

多数の資料を元に、渡辺省亭の画業を中心に、彼の生涯についてまとめたはじめての評伝。ハードカバーの分厚い専門書で、省亭を極めたい!という人にオススメ。 

6.まとめ

数年後には大規模な回顧展も計画中と噂される渡辺省亭。2018年、省亭の作品をまとめて一気に楽しめる展覧会は「SEITEIリターンズ!!」だけです!

画廊主催の展覧会だけあって、どうしても気になる作品については、展覧会終了後に購入のための交渉も可能です!無料で撮影OKですので、是非気軽に省亭の超絶技巧の世界を楽しんでみてくださいね!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会名:「SEITEIリターンズ!!」
◯美術館・所在地
加島美術

〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2
◯最寄り駅
・東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分
・東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7から徒歩約2分
・都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から徒歩約5分
・JR東京駅八重洲南口から徒歩6分
◯会期・開館時間
2018年9月15日(土)~9月29日(土)
10時00分~18時00分
◯休館日
なし(会期中無休)
◯入館料
無料!
展覧会特設HP
http://www.watanabeseitei.org/

◯加島美術公式HP
https://www.kashima-arts.co.jp/

◯Twitter
https://twitter.com/Kashima_Arts

「狩野芳崖と四天王」展は、知られざる実力派絵師の傑作ズラリ!近代日本画の意欲的な美術展!【展覧会感想・レビュー】

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かるび@karub_imalive)です。

日本美術がブームとなって久しいですよね。2016年春、社会現象にまでなった伊藤若冲展をはじめ、歌川広重や葛飾北斎といった浮世絵の巨匠や、京都・奈良の古刹や仏師を特集した仏教美術展など、大都市圏で開催される企画展は、朝から行列ができることも珍しくなくなりました。

今まで美術史の中で埋もれかけ、低評価に甘んじていた画家たちも、熱心なファンたちによって少しずつ見直されてきています。鈴木其一、河鍋暁斎、渡辺省亭といった江戸末期~明治期の画家たちです。いずれも、美術館でのまとまった規模の回顧展がきっかけでした。

そんな中開催された本展「狩野芳崖と四天王」は、美術史の中で完全に忘れ去られた狩野芳崖の弟子だった4名の日本画家たちに新たに光を当てた意欲的な展覧会です。

知られざる実力派絵師4名の作品を掘り起こしつつ、横山大観、菱田春草といった、明治期の日本画壇を引っ張ったエースたちの作品も合わせて展示した、展覧会場はまさに「近代日本画づくし」!

早速、初日に行ってきましたので、簡単に感想・レポートを書いてみたいと思います!

1.「狩野芳崖と四天王展」とは?

そもそも狩野芳崖って知ってます?

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Wikipediaより引用

「狩野永徳や狩野探幽はよく知っているけど、狩野芳崖は名前くらいしか知らない・・・」という方は結構いらっしゃるのではないでしょうか?僕も、アートを見始めた頃は、「狩野芳崖、誰それ?」って感じでした。なので、念の為狩野芳崖について簡単にまとめておきますね。

狩野芳崖は、室町時代から延々と続いた日本画の御用絵師集団、狩野派における最後の大物絵師とも言える存在です。江戸末期、幕府の奥絵師(将軍にも謁見を許された)として10代目木挽町狩野家当主だった狩野勝川院雅信の下で修行時代を送りますが、明治維新後はフェノロサ・岡倉天心らとともに新しい日本画の再興を目指して、日本画壇の中心人物として活躍しました。

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狩野芳崖《悲母観音》東京藝術大学蔵
引用:Wikipediaより

代表作は、教科書にも掲載された《悲母観音》(重要文化財)

狩野派特有の強い線描は抑えられ、色彩の濃淡で神秘的な空気感を全面に押し出した芳崖絶筆となる作品です。まさに今、赤子が地上に降り立ち、生を受けようとするスピリチュアルな感じも受ける作品。(※後期展示で観れます!)

狩野芳崖の4人の弟子たちとは?

狩野芳崖は、橋本雅邦・川端玉章ら同時代の画家たちに比べ、あまり多くは弟子を取りませんでしたが、少数精鋭となる4人の弟子たちがいました。彼らは、師匠・狩野芳崖が亡くなってから、確かな実力を持っていたにもかかわらず、完全に目立たない存在となり、歴史の間に埋もれてしまいます。今では、日本美術史の中で完全に埋没した「知る人ぞ知る」存在レベルになってしまっています。 

公式図録『狩野芳崖と四天王ー近代日本画、もうひとつの水脈』(求龍堂)から短評を抜粋してみると、

◯岡倉秋水(おかくらしゅうすい/1867-1950)
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岡倉覚三(天心)の甥で、芳崖の顕彰にもっとも積極的に取り組んだ最大の功労者
◯岡不崩(おかふほう/1869-1940)
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本草学を志し、植物画として正確で鮮やかな草花図を数多く残した学者画家
◯高屋肖哲(たかやしょうてつ/1866-1945)
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仏画師と自称し、仏教美術研究に基づいた精神性の高い仏画を残した市井画家
◯本多天城(ほんだてんじょう/1867-1946)
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懇願し続けて芳崖門下となり、のちに狩野派の筆墨と写実の雪中に取り組んだ画家

本展が画期的なのは、展覧会中前後期で展示される全76点の作品中、約4割強となる33点が、この忘れ去られた4人の弟子たちの作品や関連資料であるということ。現在、明治~昭和期に活躍した忘れられた天才画家・渡辺省亭のミニ回顧展も同時期に加島美術にて開催されていますが、彼ら4人もまた、これを機に見直されることになるのでしょうか。

3世代の特徴ある「四天王」作品で明治~昭和期の日本画を堪能

本展が巧いのは、芳崖門下の4人の弟子だけでなく、それ以外の画家たちも4人ずつ「四天王」としてまとめて、章立てして整理してくれていること。各章では、芳崖に関連した、異なる3世代の画家たちがキリよく4人ずつ取り上げられています。

つまり、本展では明治期を中心に活躍した合計(四天王×3世代+1人=)13人の日本画家の作品を楽しめるということなんです。

まとめると、こんな感じです。

第1章:狩野勝川院の弟子四天王
◯狩野芳崖 ◯橋本雅邦 ◯木村立獄 ◯狩野友信
江戸幕府の御用絵師、木挽町狩野派10代目・狩野勝川院雅信の有力な弟子4人。幕末の激動の時期を乗り越え、フェノロサ・岡倉天心らの指導の下、新たな日本画の創出に取り組んだ。 

 

第2章:狩野芳崖の弟子四天王
◯岡倉秋水 ◯岡不崩 ◯高屋肖哲 ◯本多天城
狩野芳崖門下の有力な弟子4名。横山大観らとはほぼ同期生にあたり、東京美術学校1期生の中ではエース格の存在だった。 

 

朦朧体の四天王
◯横山大観 ◯菱田春草 ◯下村観山 ◯西郷孤月(◯木村武山)
岡倉天心の指導の下、明治30年代、空気感の表現に重きを置き、輪郭線を描かない「朦朧体」での新しい日本画を生み出そうとした芳崖次世代の画家たち

 

会場内には、この3世代の「四天王」の登場人物関係図が、うまく解説パネルでまとめられています。(※公式図録P184にも掲載されています)

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2.展覧会の3つの見どころ

3世代の異なる四天王を集中的に取り上げ、日本画づくしの展覧会となった本展。初日に僕が見てきた中で、特に見どころと感じた4つのポイントをピックアップします。 

見どころ1:日本画壇主流派たちの「過渡期」における試行錯誤が楽しめる展覧会!

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本展では、岡倉天心・フェノロサらの指導の下、江戸狩野派から日本画壇のバトンを受け継いだ作家たちが、新しい日本画を生み出そうと試行錯誤した明治初期~明治30年頃までの作品を集中的に楽しむことができました。

特に、明治期の重鎮だった狩野芳崖・橋本雅邦の作品を前後期で合計19点まとめてチェックできるのは嬉しいところ。両者とも、展覧会で頻繁に作品を見かけはしますが、いつも「◯◯に影響を与えた明治期の巨匠~」みたいな扱いで、脇役的に1,2点パラパラとした展示にとどまることが多いので、今回のようにまとまってガッツリ楽しめる機会は貴重なのです!

いくつかピックアップして紹介してみますね。

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狩野芳崖《壽老人》泉屋博古館分館蔵

狩野芳崖が何度か好んで描いた七福神の一人「壽老人」が展示室を入ると、まず最初に目に飛び込んでくる作品(※前期展示)。極太の輪郭線で描かれた力強い筆触は、周囲の作品を圧倒するオーラを放っていました。

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狩野芳崖《伏龍羅漢図》福井県立美術館蔵

続いても老人が主役の絵画。こちらは、仏教美術を主題に、狩野派伝統(?)のいかり肩をした高僧が、獰猛な龍を調伏して手懐けたシーンを描いています。老人のユニークな顔相と、細部まで徹底的に描きこんだ丁寧なタッチが見どころ。

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狩野芳崖《伏龍羅漢図》福井県立美術館蔵

特に、老人の膝上でおとなしくする龍の表情が素晴らしい!馬が草を喰む場面を徹底的に観察して、龍の表情に応用したのだとか。

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橋本雅邦《神仙愛獅図》川越市立美術館

つづいて、橋本雅邦の作品。木挽町狩野派のエース格としてキャリアをスタートさせた雅邦は、明治30年代を頂点として、西洋画から遠近法、色彩感覚を日本画に取り入れて作風を変化させていきますが、本作は江戸期までにはなかった「モチーフ」が新鮮。

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橋本雅邦《神仙愛獅図》川越市立美術館 拡大図

つまり、このライオンの写実的な描写が新しいんですよね。1886年にはライオンを伴ったイタリアのサーカスが初来日するなど、この時代になって、雅邦は恐らくライオンの実物を見たか、写真を目にする機会があったのでしょう。ライオンの優雅なたてがみの表現など、味わい深いです。

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橋本雅邦《西行法師図》
東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部 駒場博物館蔵

つづいて、前期展示からもう1枚。湖畔に静かに悠然と佇む西行法師を描いた歴史画作品。湖面に反射する光やモヤを表現した絶妙の色彩感覚や、空気遠近法などが駆使されており、ほとんど西洋絵画のような構図です。

見どころ2:狩野芳崖の4人の弟子たちの作品をガッツリ観る!

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展覧会副題にもある通り、本展で初めて大きくクローズアップされた狩野芳崖の4人の弟子たちの作品も、詳細資料合わせて前後期で33点展示されます。

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岡不崩《群蝶図》個人蔵

画家としてのキャリアの傍ら、本草学に傾倒した岡不崩が、生涯好んで描いたテーマが、こういった草花図でした。非常に多くの草花に、10種類以上の蝶が群がる華やかな絵画です。

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岡不崩《群蝶図》部分図 個人蔵

どうですかこの華やかさ。試しに数えてみましたが、描かれている蝶は軽く10種類以上ありました。

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本多天城《山水》川越市立美術館蔵

遠目からざーっと見ると、山水画というより、遠景に巨大な山脈がそびえ立つ西洋の風景画のような印象です。しかしよく目を凝らしてみると、近景の岩や松の木は、狩野派由来の伝統的な技法で描かれており、本多天城が西洋画と日本画の融合を目指していたのだなと言うのがよく分かる作品でした。

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近景部分は、狩野派の伝統技法で描かれている
本多天城《山水》川越市立美術館蔵 部分図
なお、本作が描かれる元となった作品は、橋本雅邦《月夜山水》という絵画で、後期に展示される予定です。 

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高屋肖哲《武帝達磨謁見図》東京・浅草寺蔵

インドより海を渡り、「梁」の都、南京で達磨大師が武帝と謁見するシーンを描いた屏風絵です。左隻に描かれた達磨大師の表情は、禅画でよく見る典型的な描かれ方ですが、左隻左端の役人の表情などは写実的に描かれています。 

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岡倉秋水《龍頭観音図、雨神之図、風神之図》個人蔵

本展では、仏教美術や歴史を主題とした作品が多めに出展されている岡倉秋水の作品は、画面内で描かれた人物が味わい深いのです。どことなくマンガタッチと言うか、絵本の挿絵みたいな感じが面白いんですよね。

たとえばこれ。

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岡倉秋水 《風神之図》 部分図 

伝統的な風神雷神・・・の「風神」を表現しているのですが、我々がよく知る琳派の風神雷神図や浅草寺・三十三間堂などの彫刻と違い、なんだか妖怪みたいな顔つきです・・・。でもあんまり怖くなくて、どことなくコミカルな感じが非常に面白い!

つづいてはこちら。

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岡倉秋水《不動明王》部分図 個人蔵

こちらも平安時代より伝統的に仏画の人気モチーフとして描かれ続けてきた不動明王(青不動)。片目を閉じて口をへの字口に閉じるという密教絵画における「儀軌」を遵守しつつも、マンガの挿絵のような親しみやすさ。

きっと現代に生きていたら、人気イラストレーターとして活躍してたんじゃないのかなと思いながら絵を見ておりました。

見どころ3:やっぱり名作《悲母観音》は見ておきたい!

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狩野芳崖《悲母観音》東京藝術大学蔵
引用:Wikipediaより

本展のハイライトは、歴史や美術の教科書にも採用されている狩野芳崖《悲母観音》 でしょう!後期での展示となるため、今回は観ることができませんでしたが、前期では、代わりに師匠の《悲母観音》を丁寧に模写した岡倉秋水の作品をはじめ、弟子たちの模写した下絵などが展示されています。

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岡倉秋水《慈母観音図》福井県立美術館蔵

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模写した下絵に鉛筆で書き込まれたメモに注目!
高屋肖哲《悲母観音図 模写》部分図 金沢美術工芸大学蔵

3.その他特に気に入った作品

木村武山《祇王祇女》

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木村武山《祇王祇女》永青文庫蔵

「朦朧体」による日本画の新しい方向性を模索した、橋本雅邦門下の四天王(横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山)の中では一番知名度が劣る木村武山。僕は彼の描く丁寧な花鳥画が結構好きなのですが、本作は朦朧体を一通り消化して身につけた繊細な色彩感覚と、写実的な草花の描写がぴったりフィットした力作だと思います。

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木村武山《祇王祇女》永青文庫蔵 部分図

また、隣にかかっていた仏画で描かれた仏像の顔もそうでしたが、女性のふくよかで丸い顔は、武山の好みなのでしょうか。

西郷孤月《深山の夕》

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西郷孤月《深山の夕》長野県信濃美術館蔵

こちらも「朦朧体」を一部作品中に取り入れ、夕暮れが迫る樹海のダークな風景が醸し出す不安定な感じを見事に表現した作品。

西郷孤月は、将来を嘱望されながら、師匠・橋本雅邦と衝突し、日本美術院を脱退して台湾へと出奔し、非業の早逝を遂げた悲劇の画家・・・というイメージがあるのですが、この絵を見ていると、何となく孤月の行く末を暗示しているようで、非常に強く印象に残りました。すごくいい作品だと思うのですが、家の床の間には・・・いいかな^_^;

4.混雑状況と所要時間目安

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泉屋博古館分館は、滅多なことでは混雑しないため、土日祝日を含め、いつ行っても快適に観ることができると思います。小規模な美術館なので、前期・後期に展示が細かく分かれることもあり、所要時間は30分~60分程度あれば問題ないと思います。

5.関連書籍・資料などの紹介

公式図録がAmazonで買える!

本展は、福井県立美術館、山梨県立美術館でも展示された巡回展。だからなのか、図録にISBNがついていてAmazon等で気軽に買えるようになっています!。狩野芳崖ですらそこまでメジャーじゃないのに、その弟子にスポットライトを当てた本が、ネットでしっかり流通するなんていい時代です(笑)もちろん、展覧会を見てから会場で購入することも可能ですよ。

6.まとめ

幕末~明治期の中で、庇護してくれる江戸幕府という後ろ盾を失ったことで一旦は混迷を極めながらも、その後フェノロサ、岡倉天心と共に新たな日本絵画の本流を作り上げてきた狩野芳崖。彼らの取り組みは、やがて朦朧体を開発し、日本美術院を立ち上げた横山大観らに受け継がれていきます。その一方、芳崖直系の弟子たちは、大観ら主流派の陰に埋もれてしまいますが、師匠の作風を継承し、それぞれの地道な作家活動を続けていました。

本展は、狩野芳崖や、彼の仲間・弟子たちが明治~昭和初期にかけて、どのようにそれぞれの画業に取り組んできたのか、わかりやすく整理・提示してくれた展覧会でした。個人的には非常に勉強になった展覧会です。近現代の日本画が好きな人には是非おすすめ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

特別展「狩野芳崖と四天王」展覧会詳細:
◯美術館・所在地
泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
◯最寄り駅
・東京メトロ南北線線六本木一丁目駅北改札口より徒歩3分
・東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口から徒歩10分
・東京メトロ銀座線溜池山王駅13番出口から徒歩10分
◯会期・開館時間
2018年9月15日(土)~10月28日(日)
※前期:9/15~10/8 後期:10/10~10/28
10時00分~17時00分(入場は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日(※9/17、24、10/8は開館、9/18、25、10/9は閉館)
◯入館料
一般800円/大学生・高校生600円/中学生以下無料
◯公式HP
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/
◯Twitter 
https://twitter.com/SenOkuTokyo

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、Webメディア「楽活」取材のため、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。


入江明日香展で幻想的な世界観に魅了された!髙島屋にてキャリア初の大回顧展が開催中!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

幻想的で細密な人物画で、ここ数年人気急上昇中のアーティスト、入江明日香。僕も、美人画を特集したムック本で最初に存在を知り、その後別の展覧会でクリアファイルや画集を購入してから、次の大規模な個展の開催を心待ちにしていたファンの一人です。

今回、デビューしてから初めてとなる大規模な回顧展が横浜・京都で開催されることになりました。9月19日から始まる、横浜会場(横浜髙島屋ギャラリー)の初日に、運良く取材させて頂くことができましたので、 感想を交えた展覧会レポートを書いてみたいと思います! 

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.入江明日香ってどんなアーティストなの?簡単に紹介

入江明日香は、1980年生まれの現代作家です。自ら名乗る時は「銅版画家」と名乗っていますが、手がけるのは単なる銅版画ではありません。あらかじめ鉛筆で下絵を描いた紙の上に、細かくプリントした銅版画のパーツを貼り込んでいく「コラージュ」を主体として、水彩や油彩絵具で仕上げを行うという、非常にユニークな手法で絵画作品を制作する作家です。

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左:《衣笠草》2012年 丸沼芸術の森蔵
右:《黒姫紫陽花》2012年 丸沼芸術の森蔵

どうですか?遠目から見たら、一見、普通の絵画作品にしか見えませんよね。「貼ってる痕跡がわかっちゃったら負けかな」と入江さんが語るとおり、近くまで寄って見ても、非常に繊細かつ高度な技を駆使して銅版画パーツが貼り合わされており、どこが貼り合わせの継ぎ目なのか全くわかりません。凄い技術です。

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寄って凝視しても貼っている痕跡がわからない!
左:《衣笠草》2012年 丸沼芸術の森蔵  部分図

それ以外にも、「クレパス」を使ったり(2018年夏に東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館「巨匠たちのクレパス画展」でも出品されていましたね)、元々得意としていた「書道」も武器としています。

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こちらが、展覧会の取材時に撮影させて頂いた写真。非常に若くてきれいな方ですよね。僕の初歩的な質問にも非常に真摯にご回答くださって、清楚な作品イメージそのままの方でした。

2.入江明日香は銅版画家!驚異の超絶テクニック

2014年以降、人物画を描くことが増えた入江明日香は、実に様々な技法の引き出しを持っている作家ですが、一番のこだわりは自身のルーツである銅版画。

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展覧会場解説パネルより引用

凄いのは、高みに登る努力を一切惜しまないことです。2012年頃までには、すでに銅版画技術では国内屈指のレベルに達していたにもかかわらず、さらに技術を磨くため、2012年~2013年の1年間、文化庁の助成を得て渡仏し、パリの工房で日本にはない「色彩感」「印刷技法」「彫刻技法」を学びました。

今でも1年に1回、定期的に技術習得のためにパリの工房へと渡仏修行を欠かさないとのことです。実際に御本人のTwitterをチェックすると、今年もつい最近までパリで修行してたんだな、っていうのがよくわかります。

本展では、単に入江明日香の作品を楽しめるだけでなく、彼女がどのようにして作品を制作するのか、その制作工程もわかりやすく解説パネルで紹介してくれているのも嬉しいところ。

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版画制作に使用する道具もまとめて展示してくれていますので、銅版画の制作プロセスがイメージしやすくなっています。

3.入江明日香作品のここが凄い!個人的に注目したい5つのみどころ

見れば見るほど、長持ちするガムのように鑑賞する楽しみが増える入江明日香作品。その特徴や魅力を、5つにまとめてみました。

見どころ1:少年少女や動物たちの独特な表情

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《江戸淡墨大桜》2016年 丸沼芸術の森蔵 部分図

まず、誰しもが目をひかれるのが、絵の中に登場するなんとも言えない印象的な顔つきの少年・少女たちです。明らかなカメラ目線の作品は一つもなく、こちら側のどこか1点を、遠い目で見据える彼らの中には、もろさ、はかなさと力強さが微妙にブレンドされたような独特の表情が感じられます。

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《Zéphyr violet iris》2015年 個人蔵 部分図

物憂げな感じだったり、決意を秘めた感じだったりと、作品によって色々ありますが、2016年以降の作品では、比較的男性的で、力強さを秘めた表情が目立つようになってきているのは興味深いところ。作家本人の心境の変化なのかも知れません。

見どころ2:銅版画ならではの美しい色彩

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波の「青」の美しすぎるグラデーションは銅版画ならでは!
《Vagues déferlantes》2017年 丸沼芸術の森蔵 部分図

次に着目したいのが、銅版画ならではの美しい色彩感覚と、ドラマチックなグラデーションです。特に、留学から帰国して以後、北斎や広重が錦絵制作で愛用した「ベロ藍」(プルシアンブルー)を思わせる浮世絵の「一文字ぼかし」のような鮮やかな色彩変化は、油彩画、水彩画単体では絶対出せないはず!

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江戸浮世絵の「一文字ぼかし」で和のテイストを演出
《平成 東海道五拾三次之内:日本橋》(入江明日香オリジナル)
2015年 丸沼芸術の森蔵 部分図

色彩の美しさに関しては、物心ついた頃から染色家だった母親の作業を間近でよく見ていたことで天性のセンスが身についたのかもしれません。

また、留学時代、多色刷り技法を学ぶ中で、ヨーロッパでの色彩の豊かさに驚いたとも語っています。実際、日本では買えず、ヨーロッパでしか手に入らない絵の具もたくさん使っているそうです。

見どころ3:細密な描きこみの中に散りばめられた遊び心

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あやかしや眷属のようなコミカルなキャラクターも作品内に頻出!
《多聞天》2016年 丸沼芸術の森蔵 部分図

極薄の紙に印刷した銅版画を下絵に丹念に貼り込んで製作された入江明日香の作品は、どれも非常に細密で細かいところまで気を配って描かれています。

でも、細密描写一辺倒というわけではなく、作品中にはたくさんの「遊び」や「だまし絵」的な要素が含まれているのも面白いところ。

例えば、こちらの作品。

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《Un chat contemplant le Mont Fuji》2014年 個人蔵 部分図

外国人風の少女の横顔を描いた肖像画の肩のあたりに、一転して江戸の浮世絵風な画中画が入り込むなど、異なる文化や時間・空間が一つの絵画の中にミックスされることで、不思議な雰囲気が醸し出されています。つい近くまでじっくり見入ってしまいます。

さらに、こちらはどうでしょうか?

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《四季草花図》2017年 丸沼芸術の森蔵

猛禽類を手に抱えた少女の頭部~首元には、野菜や果物、鳥やあやかしなどが満載。アルチンボルドのだまし絵を想起させます。その一方で、掛け軸の周囲の「柱」や上部の「風帯」も含め、全て描かれた「描き表装」仕立てになっているのも見どころ。江戸時代から日本画に伝わる定番のトリックアート手法ですね。

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《四季草花図》2017年 丸沼芸術の森蔵 部分図

さらに、ファンタジーと現実/歴史が同居するように、突然ねじれたところから異空間が出現するような表現も面白いです。

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馬の体と首都高速の風景が絶妙に溶け合った異空間
《En virée sur la Shutokō》2017年 個人蔵 部分図

このあたりの自由さ、発想の豊かさは、元々写実一辺倒ではなく、抽象絵画から出発して、イマジネーションを最大限まで広げて作品を作っていたこともあるのかもしれませんね。 

見どころ4:生命の「風化と再生」が描かれた細部の表現

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《Zéphyr violet iris》2015年 個人蔵 部分図

入江明日香の作品では、単に甘くて口当たりの良いファンタジーの世界だけが描かれているわけではありません。厳しさや儚さも見え隠れします。特に、留学から帰国した2014年以降の作品では、「風化と再生」というコンセプトが作品内で強く顕著に表現されています。

描かれた人物や動物たちを丹念に見ていくと、手足の先端や体の輪郭の一部分が欠けていたり、骨と皮だけになっていたり、消滅して草木のような植物に侵食されていたりと、躍動感あふれる動きのある作品ほど、よく見ると細部は朽ちて消滅してしまっています。

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《Vagues déferlantes》2017年 丸沼芸術の森蔵 部分図

作品集「風のゆくえ 生命の真影」(P104-P105)のあとがきで、入江さんはこう語っています。

「生きているもの」と「命の終わったもの」。「風化」と「再生」。「儚さ」と「力強さ」。そんな相反するものたちの「共存」を描くことにずっと興味を持ってきました。

生命の消滅と再生といったライフサイクルのイメージに興味を持つようになったきっかけは、自らの作品制作工程からでした。プレートを腐食させ、プレス機を通すことで作品を生み出す銅版画の制作プロセスそのものが、生と死の相反する要素を含んだ営為だったからです。

また、現場でのギャラリートークでは、学生時代に骨と皮を繰り返し描く訓練をしたことや、きっちりものの形を描くより少し崩して表現するほうが自分の好みであることなども作風の形成に影響している、と語ってくれました。

こうした、生命の力強さと儚さを同時に表現しつつ、画面上に秩序と混沌を美しく表現する入江明日香の技量の凄さには感嘆するしかありません。

見どころ5:作家の「成長」を実感できる回顧展ならではの展示構成

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最近何度も読んだ、青い日記帳・Tak氏が上梓したアート鑑賞入門書「いちばんやさしい美術鑑賞」にも書いてあり、なるほど、と思ったのですが、「現代作家の作品を観る時、アーティストの成長をリアルタイムで感じることができる楽しみ」があります。

現在まだ38歳と発展途上にある入江明日香ですが、回顧展でこうして初期作品から2018年までの作品の変遷をたどってみると、まさに物凄い勢いで日々変化・成長していることが実感できます。

「黒」に惹かれて版画制作を志した、と語る入江明日香が学生時代に手がけた初期作品は、色彩が画面にあふれる今現在とは違い、「黒」が画面で優勢な抽象絵画でした。

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展示を進んでいくと、抽象画に色が乗るようになり、次に植物をモチーフに一部取り入れた半抽象画、そして動物画、そして2009年以降の人物画へと、より美しく、より共感しやすいモチーフへと移行していく流れが手に取るようにわかります。

また、展示後半に行くに連れて、作品の完成度が驚異的に高まっていくのが明確に感じられるのもいいですね。まだ30代後半と若い彼女が今後どんな作品を作っていくのか、非常に楽しみです。

4.特に印象に残った作品を紹介!

《平成 東海道五拾三次之内:日本橋(入江明日香オリジナル)》

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《平成 東海道五拾三次之内:日本橋》(入江明日香オリジナル)
2015年 丸沼芸術の森蔵

留学から帰国後、歌川広重の《東海道五拾三次》を観た時に、現代の五十三次を描こうと思い立ったのだそうです。オリジナルのモチーフ・構図に、現代の日本橋や首都高環状線がコラージュされ、歴史と現実が交錯する不思議な空間が描かれています。前述した広重の愛した「ベロ藍」っぽい一文字ぼかしも駆使されているのが素敵です。

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《平成 東海道五拾三次の内:品川(入江明日香オリジナル)》
2015年 作家蔵 部分図

なお、絵画以外に書道の達人でもあるため、オリジナルへのリスペクトを込めて達筆な毛筆で書かれた落款やタイトルも味わい深くて良いです。

六曲一双の超大作!《江戸淡墨大桜》

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1年間のパリ留学から帰国後、初めて制作された六曲一双の大作屏風絵。岐阜県の有名な夜桜をモデルに、東京・江戸情緒あふれる夜桜の屏風絵を描いています。

留学中、パリで日本人としてのアイデンティティを突き詰めて考えさせられたという彼女は、この作品以後も、「和」のテイストあふれる、日本美術の文脈に照らした(あるいはオマージュ的な)作品が増えていきます。

なんというか、留学から帰ってきて、作品制作に対する情熱のマグマが一気にほとばしったような、そんなエネルギーの高い作品ですよね。文句なしに好きな作品です。

四天王像をオリジナル作品で再現!

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左から《持国天》《多聞天》《廣目天》《増長天》
いずれも2016年 丸沼芸術の森蔵

前年に奈良へ旅行に行ったことがきっかけとなり、「2016年は、まず四天王像を書こう!」と思い立って制作された作品。それまでのアンニュイな少女像から、より凛々しく、男性的なたたずまいの人物へと微妙にニュアンスが変わるとともに、細部が大胆に崩れており、よりカオスな感じや、「死と再生」のイメージが強く感じられる作品。画面に描かれた毛筆の文字も、上手です。

展覧会に向けて発表された新作2点!

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左:《横浜海航図》2018年 作家蔵
右:《京都白浪図》2018年 作家蔵

横浜展、京都展に向けて描き下ろされた作品。《横浜海航図》では兜の上の橋や、コスチュームの帆船が、《京都白浪図》でも菊の御紋や京都の風景が衣装に描かれ、それぞれの土地の特徴が表現されています。

少年たちの決意に満ちた目つきが、現在の画業の充実や、今後の飛躍を胸に誓う作家の心境を表しているようでした。

5.要チェック!グッズコーナーも充実しています!

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ポストカード

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ポストカードは全25種類用意されました。六曲一隻屏風の作品は横長な大判ポストカードになっていたり、A4サイズの額絵も12種類用意されているなど、非常に充実した品揃えです!

 

Tシャツ

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Tシャツは、黒地にプリントしたものが数種類用意されました。作品内では、白地のキャンバスで制作されることが多いですが、こうしてTシャツにしてみても、違和感なくまとまっていますね。

チョコレート

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チョコレートは、食べ終わったら容器がそのまま小物入れに使えます。

アクリルスタンド

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作品中に登場する少年たちをかたどったアクリル製のスタンド。職場のデスクや自室の勉強部屋に置いておくと作業が捗りそうです!

LEDライト付きルーペ

これ、結構お得だと思うんですよね。会場内の見本ではLEDランプをつけることができなかったのですが、グッズ制作を担当したPR会社さんのツイートでの画像を見るとよくわかります。

クリアファイル

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僕も《江戸淡墨大桜》のクリアファイルをここ1年愛用しているのですが、細密に描かれた入江明日香の作品は、ふとした時にじっくり見返せるのでよいですよね。クリアファイル好きな人のためにたくさん種類が用意されています! 

公式図録

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今回の展示作品全83点を収めたコンパクトな図録。アトリエ内での制作風景の様子や、監修者のミニ解説もついてきます。画集の代わりにどうでしょうか?

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1500円と、このボリュームとしては間違いなくお得な価格!ISBNがついてないので、会場でしか買えませんのでお買い逃しなく! 

6.混雑状況と所要時間目安

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展示は約80点ですので、60分~90分あれば全部丹念に見て回れます。作品も、版画の習作以外は大きめの作品が多いため、多少混雑してもきちんと観ることができます。

ただ、入江明日香の作品は、細密な描き込みによって1点1点非常に情報量が多いので、じっくり見て回るなら、120分は欲しいところ。僕は115分かかりました!

7.まとめ

2016年頃から人気が急上昇中で、今や個展やグループ展を中心にひっぱりだことなっている入江明日香。2017年には韓国で海外発の出展も行うなど、これからさらに人気化することは間違いありません。

これまで入江明日香の作品を見たことがない人にとっては、入門編として良い展覧会ですし、ずっと彼女の作品を見続けてきた人でも、キャリア初期から2018年までの画業を一挙に振り返ることができる回顧展で新しい発見ができるはず。

大人から子供まで、幅広く楽しめるオススメの展覧会です!

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

入江明日香作品集 風のゆくえ 生命の真影

キャリア中期以降で、会場内に展示されている作品以外の大型作品も収録した、入江明日香初のまとまった作品集。展覧会図録を上回る、全97点を収録。巻末に収められた埼玉県立近代美術館館長、建畠哲氏が寄稿した「ふくよかなカオス」での入江明日香評が見事でした。

美人画ボーダレス

美しい女性像を、それぞれ個性的な表現方法で描く、現代の人気作家によるオムニバス美人画作品集。入江明日香作品も収録されています。大人と子供の端境期における少女像を描くことが多くなった彼女は、イラストファンや美人画ファンからも熱く注目されている作家の一人です。

恩田陸「七月に流れる花」

丁子紅子や紺野真弓など、若手美人画作家が手がけた単行本や文庫本の表紙が書店の店頭で目立つようになってきましたが、入江明日香も今回、ベストセラー作家、恩田陸の描き下ろし新刊の表紙を担当。表紙でジャケ買いしてしまいそうです。

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引用:Amazon.co.jp

展覧会開催情報

入江明日香展ー 細密のファンタジー ー
◯美術館・所在地
横浜髙島屋ギャラリー(8F)
〒220-8601 横浜市西区南幸1丁目6番31号
◯最寄り駅
・「横浜駅」西口より徒歩1分
◯会期・入場時間
2018年9月19日(水)~10月1日(月)
10時00分~19時30分(閉場は20時)
※10月1日は17時30分(閉場は18時)
◯休館日
会期中無休
◯入場料
一般800円/大学生・高校生600円
※中学生以下無料
◯公式HP
展覧会専用特設ページ
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/event/irie.html
◯美術展巡回先
■京都髙島屋7Fグランドホール
2018年10月3日(水)~10月15日(月)

山種美術館の企画展「日本画の挑戦者達」は日本画入門に最適の美術展!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

近現代絵画を中心に、豊富な所蔵作品を誇る山種美術館では、年に数回、自館コレクション作品だけで構成される企画展を開催しています。今回開催中の企画展「日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち」は、明治~昭和中期まで活躍した近現代日本画の巨匠たちの代表作をたっぷり味わえる展覧会。コアなファンから、これから日本画を見てみたい!という入門者まで幅広く楽しめる、同館の総集編的な所蔵作品展となりました。

会期が始まってすぐに開催されたブロガー内覧会に参加してきましたので、その様子を早速レポートしてみたいと思います! 

※本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.企画展「日本画の挑戦者達」とは

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日本美術の歴史を振り返ると、明治維新後~昭和初期にかけての日本画壇は、激動の時代でした。文明開化がもたらした急激な近代化は、人々の生活や社会構造を大きく変え、人々の価値観は大きく変化しました。伝統的な日本美術も、西洋絵画の流入により、大きく影響を受けます。そんな中、明治期以降、新時代の日本画の担い手達は、西洋文化からの強いプレッシャーを受け、強い危機感を抱きながら作品制作を続けていました。

そこで、狩野派を中心とした従来の御用絵師に変わって、新しい日本画を創造・発展させるため、岡倉天心や橋本雅邦、横山大観らによって1898年に新たに立ち上げられた団体が「日本美術院」です。

日本美術院に所属した画家たちは、新しい日本画を作り出すための「挑戦」を続ける中で数々の傑作を生み出してきました。本展では、そんな彼らの軌跡を山種美術館の豊富な所蔵作品の中から厳選して展示。横山大観、菱田春草、小林古径、速水御舟から現代画家にいたる日本画の挑戦者たちの優品で、同院の120年の歴史を振り返ります。

2.展覧会で大きく取り上げられた巨匠たち

本展では、日本美術院の成立120周年を記念して、その創立時から「院展」を中心に活躍してきた近現代日本画の巨匠たちをクローズアップして取り上げています。

サブタイトル「ー大観・春草・古径・御舟ー」にある通り、本展ではその中でも特に山種美術館とゆかりが深く、同館で所蔵点数の多い横山大観・菱田春草・小林古径・速水御舟をそれぞれ複数作品展示で集中的に取り上げています。

順番に、見どころを紹介していきたいと思います。

横山大観

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引用:Wikipediaより

2018年春には、東京・京都で過去最大規模の大回顧展が開催されたばかりの横山大観。彼は、日本美術院の創立者であり、戦前~戦後の近現代日本画の発展に尽くしてきた組織人であった一方、画家としてのキャリアにおいても、数々の新しい挑戦を重ねてきました。本作では、大観のキャリア中期の作品を中心に展示されています。

まずはこちらの作品。

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横山大観《燕山の巻》部分図 山種美術館蔵

40メートルを越える水墨画絵巻の大作《生々流転》の準備作品としても位置づけられる作品です。中国・燕山を舞台に、山河の雄大な風景が写実的に表現され、街で行き交う人々の様子がいきいきと描かれています。

ガラスケースを上から覗き込む形での鑑賞なので、少し難しいかもしれませんが、近づいたり、引いたりしていろいろな角度から是非チェックしてみて下さい。近づくと粗めの筆使いに見えるのですが、引いて見ると驚くほど写実的で、白黒写真を観ているような味わいもあります。

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横山大観《燕山の巻》部分図 山種美術館蔵

続いて、こちらの《喜撰山》。喜撰山とは、平安時代の六歌仙の一人・喜撰法師の歌に詠まれた宇治の山のことを指しています。

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横山大観《喜撰山》山種美術館蔵

正直、第一印象はそんなに上手に見えなかったのですが(苦笑)、この山地の微妙な赤みのある土肌の色合いを生み出すために、大観が取り組んだ新しい技法の秘密をギャラリートークで聞いて、この絵の本当の凄さがわかりました。

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横山大観《喜撰山》部分拡大図 山種美術館蔵

なんと大観は、山の地肌に深みを持たせるため、作品の裏側に金箔を貼った紙の表面を薄く剥いだ「金箋紙(きんせんし)」を貼り付けていたのです。なんとマニアックな!

日本画では、よく「裏彩色」と言って、色の鮮やかさを際だたせるため、絹地のキャンバスの裏地からも岩絵の具を塗ったり金箔を貼ったりすることはありました。ここから着想を得て、紙のキャンバスの裏側に細工をすることで作品のクオリティを確保しようと一工夫した大観のアイデア力に脱帽です。

そして、最後は大観定番の富士山。数多くのバリエーションが存在しますが、今回展示されているのはオーソドックスな部類の1枚。見ているとなんだかホッとしますよね。 

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横山大観《不二霊峯》山種美術館蔵

菱田春草

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引用:Wikipediaより

明治30年代を通して、菱田春草、横山大観らとともに伝統的な線描技法ではなく色彩の濃淡で対象物を描く「朦朧体」による日本画の革新に取り組みました。しかし、思うように評価を得られず、仲間たちと共に茨城県・五浦へと都落ちして苦楽をともにしました。志半ばで病に倒れ、40代で惜しくも亡くなりますが、「朦朧体」のエッセンスを体得し、作品中で効果的に使えていたのは大観よりも春草のほうだったのかな、と個人的には思います。

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菱田春草《月下牧童》山種美術館蔵

特に今回展示されている作品では、「牛」が可愛く幻想的に描かれていたのが興味深かったです。 輪郭線を省き、墨の濃淡だけで描かれているのは「朦朧体」研究の成果なのでしょうね。

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菱田春草《月下牧童》部分拡大図 山種美術館蔵

小林古径

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引用:Wikipediaより

安田靫彦、今村紫紅、速水御舟ら強力な同期生たちと同時期に日本画壇へとデビューし、留学したことで西洋美術の薫陶も受けつつ、「線描」の美しさにこだわって、ライバルたちと日本画の新たな表現方法を模索しました。院展では、安田靫彦、前田青邨とともに「院展三羽烏」と呼ばれ、エース格の活躍を長く続けました。

本展では、入り口に展示された猫の作品がお客さんを出迎えますが、この《猫》が小林古径の作品です。 

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小林古径《猫》山種美術館蔵

縦長の胴まわり、耳がぴんと張って凛々しい顔つきの猫は、エジプト彫刻で描かれた猫を参考にしているそうです。決意に満ちた眼光の鋭さに惹かれるものがありました。

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小林古径《猫》部分拡大図 山種美術館蔵

そして、今回古径作品で絶対見ておきたいのが、代表作《清姫》シリーズ全8点です。安珍清姫で知られる紀州の道成寺伝説からモチーフを取って、ストーリーにとらわれず、自由にイマジネーションを膨らませて製作された作品。

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本作は、山種美術館にとって特別な作品でもあります。古径は、本作シリーズに特に思い入れがあったようで、作品を誰にも売らず、ずっと自らのアトリエに置いて保管していたそうです。ところが、生前親交があった山崎種二が山種美術館を創立することを聞き及んだ古径は、種二への開館のお祝いとして、一括して本作を譲り渡すことを決意したのだとか。

それほど思い入れが深かった本作は、見れば観るほど斬新な作品。空を飛ぶ清姫の髪が、すごいことになってます(笑)

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小林古径《清姫》部分拡大図 山種美術館蔵

古径が自由にイマジネーションを膨らませて描いた本作は、子供向けの絵本の挿絵や、マンガのようなおおらかさを持った作品でした。作家から創立者へと大切に受け継がれてきた作品、ぜひ堪能してみて下さいね。

速水御舟

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引用:山種美術館「速水御舟展」(2017)解説パネルより

別名「御舟美術館」と呼ばれることもある山種美術館では、速水御舟の作品を約120点所蔵しています。重要文化財《名樹散椿》をはじめ《翠苔緑芝》《炎舞》など、まさに名作揃い。

御舟もまた、今村紫紅や菱田春草同様、残念ながら病気で早逝します。しかしその短いキャリアの中で、南宋院体画風の画風に傾倒したり、写実表現に凝ってみたり、琳派を研究したり、南画風の作品を残したり、日本画のあらゆる可能性を追求しました。

今回の展覧会は、山種美術館で2017年に開催された「速水御舟展」以来となる大量9点が前後期に分かれて展示されます。

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まず、こちらの《昆虫二題》。特に左側の「粧蛾舞戯」は、重要文化財にも指定され、御舟の代表作となった《炎舞》を応用して制作された作品。描かれた蛾は、すべて実在する様々な種類の「蛾」が正確に写しとられており、昆虫の専門家にこの絵を見せたところ、大体どの蛾を描いたのか特定できるのだそうです。

画面中央の不穏な光に、見ている我々も蛾と一緒に吸い込まれてしまいそうな感覚になる、ちょっとホラー感覚の面白い作品だと思います。

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速水御舟《昆虫二題》左:「粧蛾舞戯」右:「葉蔭魔手」
いずれも山種美術館蔵

続いては、こちらの《柿》。

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速水御舟《柿》山種美術館蔵

油絵でなくても、日本画の岩絵の具だって細密で写実的な作品は可能なんだ!ということを示した、御舟の「意地」が込められた1枚。この時期はちょうど中国の古い南宋院体画の影響を受けていた時代で、落款の描き方も含めて中国風なのであります。

その他にも、展示作品一つ一つで、いろいろな技法が使い分けられているのがわかります。御舟の引き出しの多さには驚かされました。

音声ガイドやギャラリートークの活用がおすすめ!

上記で紹介したように、日本美術院を黎明期から支えてきた巨匠たちは、新しい日本画を創り出そうと、制作過程で様々な試行錯誤を行ってきました。また、個性豊かな巨匠たちは、「五浦への都落ち」をはじめ、有名なエピソードを沢山遺してきました。

今回の展覧会では一枚一枚の絵と直感的に向かい合うだけでなく、作品の背景にあるバックストーリーと一緒に観ることで、何倍も作品を楽しめるようになります。

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日本美術のプロ!三戸学芸員のギャラリートーク!

そこでオススメなのが、「音声ガイド」と「ギャラリートーク」の活用です。山種美術館の学芸員さんは、近現代日本画研究におけるプロ中のプロ。僕も、今回ブロガー内覧会において、山下裕二先生の作品解説と、三戸学芸員のトークをお聞きしましたが、一枚一枚の絵に興味深いバックストーリーが用意されていて、今回ほど「ギャラリートーク」の威力を感じた展覧会はありません。

是非、時間があえば「音声」による解説を併用して展覧会を味わってみてくださいね。ギャラリートークの予定は、こちらで案内されています。

「[企画展] 日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟―」ギャラリートーク開催のお知らせ(2018年09月11日 - 新着情報 - 山種美術館

3.その他、個人的に面白かった作品を紹介!

下村観山《不動明王》

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下村観山《不動明王》山種美術館蔵

日本美術では、11世紀に描かれた青蓮院の国宝・青不動を筆頭に、数多くの「不動明王像」が仏画や歴史画の中で描かれてきました。

が、この下村観山の「青不動」ほど、自由で斬新な描かれ方をした作品は珍しいのではないでしょうか。不動明王といえば、仏像でも仏画でも、半眼を閉じて、口元を食いしばる伝統的なポーズが一般的。しかし、観山はそういった仏教の伝統的な「儀軌」をほとんど無視(笑)右手の剣、左手の羂索も持たせず、普通は観音が乗るような雲に乗せて画面左上から降下させています。しかも、画面中央に不自然なほどぽつんと小さく描くなど、ファーストインプレッションではかなり違和感があります。

でも、そこが観山の狙いなんですよね!鑑賞者は、ついつい、画面に小さく描かれた青不動を凝視する羽目になるんですが、この青不動の表情や体つきがまた、日本人離れした面白いフォルムをしているのです!

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下村観山《不動明王》部分拡大図 山種美術館蔵

どうですかこの青不動。筋肉もりもりで、髪だけでなく、目の色まで青い(笑)これじゃまるで西洋人ですよね。なぜか落款もアルファベットで描かれていますし、観山は実験的に、というか確信犯的に青不動を西洋人をモデルとして描いたのかな、と思いました。

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左:下村観山《不動明王》部分拡大図 山種美術館蔵
右:下村観山の写真(引用:Wikipedia)

そういえば面白いことに、写真で見てみると下村観山って、彫りが深くて結構日本人離れした顔つきをしているんですよね。どうですかこれ。比較してみると、実はこの青不動、西洋人を描いたというより観山の自画像だったのかな・・・と思えてきました。

安田靫彦《出陣の舞》

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引用:Wikipediaより

安田靫彦は、明治期より昭和高度成長期を越えて非常に息の長い活躍をした巨匠です。主に歴史画を得意とし、卑弥呼、源頼朝、源義経、織田信長、豊臣秀吉など、歴史上の偉人たちを、ロマンたっぷりに描きました。

本展で出展されている作品は、安田靫彦が描いた数々の歴史画の中でも、わかりやすさで言うとNo.1!たとえタイトルを見なくても、誰を描いた絵なのか、見た瞬間にほぼわかってしまうという・・・(笑)

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安田靫彦《出陣の舞》山種美術館蔵

本作は、天下統一に乗り出そうとした織田信長が、強敵・今川義元と桶狭間の戦いで乾坤一擲の大勝負に臨む前夜、「人生50年、下天のうちを比ぶれば~」と「敦盛」を舞った有名な一場面を描いています。ちなみに僕は、小学生の時TVゲーム「信長の野望」でこの曲を知りました。プレイヤーの大名が死ぬと、この「敦盛」がバッドエンド画面で出てくるのです(笑) 

木村武山《秋色》

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木村武山《秋色》山種美術館蔵

「朦朧体」を追求する中で、茨城県・五浦へと都落ちをして共に絵の修業に打ち込んだ「朦朧体四天王」(横山大観、菱田春草、下村観山、木村武山)の中で、一番知名度が低そうな木村武山。

でも僕はこの人のオーソドックスな花鳥画が好きなんですよね。なんとなくホッとできるというか。山種美術館で所蔵する《秋色》は何となく琳派の影響も感じられ、江戸絵画のような落ち着いた趣が気に入っています。

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木村武山《秋色》部分拡大図 山種美術館蔵

橋本雅邦《不老門・長生殿》

ちょうど現在、泉屋博古館分館「狩野芳崖と四天王展」でも、まとまった数の作品を楽しめる橋本雅邦。江戸末期の狩野派の最後の生き残りとして、日本美術院にも深く関わり、狩野派の技法をベースに西洋絵画のエッセンスを大胆に画面に融合させた作風で新しい日本画を作り出しました。

本展で展示される《不老門・長生殿》は、キャリア晩年の作品です。

でも、よーく見てみると、本展で展示されているのはクラシカルなザ・狩野派といった趣の古いスタイル。学芸員さんに質問してみると、これは依頼主の要望や趣味を反映したものだったのではないかという見解でした。

描かれた画題は「不老門」「長生殿」。いずれも、中国唐代の玄宗皇帝の健康長寿を祝った故事を連想させ、伝統的に非常におめでたい画題とされました。こうしたシチュエーションを描く時は、当時最新の技法を使ったアグレッシブな作風ではなく、江戸時代から続く伝統的なスタイルのほうがお客さんにも好まれたのではないか、とのこと。

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橋本雅邦《不老門・長生殿》山種美術館蔵

現代作家の作品群も個性的な逸品揃い!

明治~昭和初期の名人たち以外の現代作家の作品も個性派揃い。ブロガー内覧会で撮影可だった作品の中から、特に印象的だった作品を紹介しておきますね。

まず、小山硬の《天草(洗礼)》。

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小山硬《天草(洗礼)》山種美術館蔵

日本画では珍しく、キリスト教的なモチーフが描かれた1枚。中央のおじいさんはイエスの父・ヨセフ、横にいる手を合わせた頭巾の女性はマリアを想起させます。

極太の輪郭線は、同じく宗教画を特異とした近代西洋美術の巨匠・ジョルジュ・ルオーや、山種美術館でも複数作品を所蔵する橋本明治を彷彿とさせます。

また、極端な丸顔の女性も非常に印象的でした。

つづいて、 西田俊英の《華鬘》。現在の院展で非常に人気の高い「同人」の一人であります。

植木鉢いっぱいに盛られた、様々な季節の花々が咲き誇りますが、どこかしら画面には生気のなさというか、この世のものではない退廃した不穏な感じがぞくぞくします。西田が初めてインドを訪れた際、ガンジス川で目にした光景から死の尊厳・荘厳さを表現したのだそうです。

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西田俊英《華鬘》山種美術館蔵

そして、最後に面白かったのがこの作品。日本美術院の現・理事長を務める田渕俊夫《輪中の村》。木曽川と長良川に囲まれた福原輪中の田園風景を写実的に描いています。面白いのは、空の表現に使われている銀色のアルミ箔。箔を手で掴み、画面にランダムに落ちたアルミ箔が偶然織りなす模様をそのまま味わいとして生かしているのだそうです。 

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田渕 俊夫 《輪中の村》山種美術館蔵

4.映画「散り椿」とタイアップ!速水御舟《名樹散椿》を見逃すな!

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今回の展覧会の後期展示にて、速水御舟《名樹散椿》が展示されます。昭和以降の美術作品として、初めて重要文化財に指定された、日本美術史屈指の名作として名高い本作。

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速水御舟《名樹散椿》山種美術館蔵

実は、本作は9月28日から、木村大作監督・岡田准一主演で公開される映画「散り椿」とのタイアップ特別展示でもあります。

映画タイトルに「散り椿」とある通り、物語では「椿」の木が重要なモチーフとなっているのですが、制作陣が、美術イメージのモデルとしたのが、速水御舟《名樹散椿》だったそうです。

江戸中期が舞台となる映画なので、残念ながら時代が合わないため、直接映画内で《名樹散椿》が登場することはありませんが、映画パンフレットやサントラCDのジャケット、原作小説の表紙カバーに《名樹散椿》が起用されています。

展示は、後期展示となる10月16日~11月11日まで。撮影も可能なので、是非映画の感想と合わせてSNSでアップしてみてくださいね。

ちなみに、映画「散り椿」と速水御舟《名樹散椿》の関係については、下記のエントリで詳しく書きました。もしよければ、チェックしてみてくださいね! 

また、映画「散り椿」の中では、長谷川等伯など、本物の絵画の複製画を劇中でいくつも使っています。いまトピのこちらの記事で詳しく解説されています!

5.美術館限定グッズや展覧会限定の和菓子もおすすめ

日本美術系の美術館の中では、質・量ともに非常に充実した山種美術館のグッズ販売。今回も展示内容と連動して、多数の「和」を感じさせるグッズが用意されています。 

まず、注目してみたいのが速水御舟の写生帳に描かれたバラをモチーフにしたマグカップや付箋です。バラ自体は初夏の花ですが、落ち着いた上品な柄は、オールシーズン使えそう。

▼マグカップ
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▼付箋
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これらグッズの元になった速水御舟の写生帖は、本展で展示されています。少しずつ角度をつけながら、色々なバラの表情を詳細に描きこんでいるあたり、熱心に研究に取り組んでいたのがわかりますね。

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速水御舟《写生帖 1》山種美術館蔵

続いて、本展のために製作されたポストカードやクリアファイル。山種美術館の代表的な所蔵品だけでなく、小山硬や西田俊英など現代作家の作品もありますね。

▼ポストカードとA4クリアファイルf:id:hisatsugu79:20180922005414j:plain

そして、早くも2019年度のカレンダーの販売も始まりました!

▼2019年カレンダーf:id:hisatsugu79:20180922005429j:plain

白地の背景に、2ヶ月で1枚ずつ、山種美術館の代表的な所蔵作品がプリントされています。毎日生活の中で使うカレンダーなので、季節に応じた落ち着いた絵柄が選ばれている感じですね。

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そして、今回の展覧会で後期から特別展示される速水御舟《名樹散椿》からも、色々なグッズが販売されています。

一番のおすすめは、このハンカチ!今回の展覧会に合わせ、たくさん用意されています!

▼《名樹散椿》ハンカチf:id:hisatsugu79:20180922005509j:plain

そして、今回もCafe「椿」で頂ける、和菓子の老舗「菊屋」が手がける展覧会限定のお菓子メニューが5種類登場。展覧会でじっくり集中して頭を使った後は、お茶と一緒に頂くとほっとしますね。

店員さんに聞いてみたら、「鮮度保持には気を使っています。展覧会中は、フレッシュな出来たての和菓子を毎朝届けてもらってます」とのこと。

ちなみに、その場で頂かなくても、お土産用に持ち帰りで購入することも可能とのことです。食べてみて気に入ったら、是非家族や友人にも!

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6.混雑状況と所要時間目安

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本展で出展されている作品は約60点。9月16日(日)15時頃、一番混雑する土日の午後にも行ってきたのですが、所蔵作品展なので、比較的落ち着いて展示を観ることができました。(ただし、カフェは大人気で、結構混んでいました!)

所要時間は約30分~60分あれば大丈夫だと思いますが、もし時間があれば、1FのCafe「椿」も是非楽しんでみてくださいね。

7.まとめ

2016年春頃から、山種美術館には年6回必ず毎回展覧会に通っているためか、本展では初めて見る作品の方が少なかったように思います。

しかし名作は何度見ても良いですね。1作1作で巨匠たちが作品で表現した技法や思い、作品にまつわるエピソードなども含め、色々な角度から見ていくことで、2回、3回と楽しめます。初心者から上級者まで日本画好きなら幅広く楽しめる展覧会です。芸術の秋に是非!

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

山種美術財団2019山種コレクション名品選

山種美術館で所蔵する近現代絵画から選りすぐりの作品を紹介した最新の作品集。今回の展覧会で出展されている作家の作品が多数紹介されています。こういった作品集が、普通にISBNがついてAmazon等で買えるのが嬉しいですね。

山種美術館所蔵作品多数!「色から読み解く日本画」

山種美術館の三戸学芸員が執筆した、日本画における「色使い」の面白さ・読み解き方を解説した、日本画鑑賞の手引書です。掲載されている作品が、5作品を除きすべて山種美術館での所蔵作品が取り上げられているので、山種美術館ファンはマストバイ。本展出展作品からも、速水御舟《名樹散椿》《牡丹花》、横山大観《喜撰山》の3点が掲載・解説されています! 

原作小説「散り椿」

9月28日から公開される映画「散り椿」の原作小説です。葉室麟作品の中でも恋愛要素、謎解きミステリー要素、ハードボイルド要素が時代劇の中で絶妙にミックスされており、小説としての完成度が非常に高い作品でした。表紙に起用されているのが速水御舟《名樹散椿》部分拡大図です。

展覧会開催情報

日本美術院創立120周年記念
企画展「日本画の挑戦者達ー大観・春草・古径・御舟ー」
◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年9月15日(土)~11月11日(日)
*会期中、一部展示替えあり
《名樹散椿》の展示期間
2018年10月16日(火)~11月11日(日)まで
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※9/17(月)、24(月)、10/8(月)は開館
※9/18(火)、25(火)、10/9(火)は休館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

京のかたな展は過去最高の刀剣展!刀剣乱舞との強力タイアップも見応えあり!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年の秋、今年最大級に注目したい美術展が関東・関西を中心に新しくスタートしています。関東では「フェルメール展」「ムンク展」「ルーベンス展」など西洋美術の巨匠を特集した展覧会が目白押し。そして、関西で特に注目したいのは、本稿で取り上げた「京のかたな」展です。

ここ数年、各地の美術館・博物館では、歴史系、工芸系の展覧会で、たびたび展示物の一部として刀剣類が展示されるたびに、刀剣コーナーの前だけ、熱心な刀剣ファンが列を作る、、、という光景がたびたび見られました。「刀剣乱舞ONLINE」の大ヒットに後押しされた「刀剣ブーム」によるものです。

今回の「京のかたな」展は、まさにこの刀剣ブームを追い風にした、至上最大規模の刀剣展となりました。全国の刀剣ファンが注目する熱い展覧会、早速見てきましたので、レポートしてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て他媒体での取材も兼ねて撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.「京のかたな」展とは

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「京のかたな」展は、古来から日本で製造・使用されてきた「日本刀」を大特集した展覧会です。日本刀は、平安中期以降「武士」が台頭してから戦闘シーンで実戦的な武器として使われてきただけでなく、一流の鍛冶職人によって作られた「名刀」は観賞用・贈答用として一種の「美術品」として上流社会で大切に守り継がれてきました。また、武士が一族の繁栄や武運を記念して神社仏閣に寄贈した奉納刀や、祭礼や神事で使われた刀剣類などもあります。

本展では、古来から様々な用途で制作されてきた全国の日本刀の中から、特に有力な刀の産地であった京都=山城の鍛冶職人が制作してきた名剣・名刀類を取り上げ、特集展示する展覧会です。

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もちろん、現在の刀剣ブームの原動力となっている「刀剣乱舞ONLINE」への目配せも忘れていません。本展では、「刀剣乱舞ONLINE」で登場する約70振の刀剣男子から、そのモデルとなった刀剣23振が一挙大量出展される他、特設記念写真コーナー、特設グッズコーナー、ゲーム版の声優で収録された特別版の音声ガイドなど、多岐にわたる大規模なタイアップ展示が実現。とうらぶファンにも納得のコンテンツが出揃っています。

2.刀ってどうやって鑑賞するの?鑑賞のポイント

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ところで、絵画や彫刻と違って、「日本刀」ってどうやって鑑賞したらいいのか今ひとつわからない方って多いのではないでしょうか?僕も、つい最近までは「日本刀ってどれも同じに見えるよね」 と、自分の拙い鑑賞眼を棚に上げて、食わず嫌いに陥っていました。

でも、日本刀はそんなに難しくありません!最低限の鑑賞ポイントを抑えるだけで、実はどの刀剣もそれぞれに時代・地域・作り手によってしっかり違いや個性があるんだ、っていうことがわかってきます。

公式サイトで発行されている無料解説PDFがオススメ!

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今回の展覧会のために、展覧会場や、公式HPにて無料配布されているPDF「京のかたな鑑賞ポイント」が非常に役に立ちます。このパンフレットを展覧会場で持って見て回るだけで、断然違って見えてきますので、是非チェックしてみてくださいね。

パンフレットをダウンロードする

こちらでも、このPDFを引用しながら、僕のおすすめする鑑賞ポイントを少し解説してみますね。

鑑賞ポイント1:刃文、銘、地鉄をチェック!

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引用:特別展「京のかたな」無料配布パンフレット:「京のかたな」鑑賞ポイント

刀剣類は、熱さや寒さ、光などによる品質劣化に比較的強く、適切なメンテナンスを施せば、驚くほど長期間の間、制作された当時に近い状態を長く保つことができます。(例外:湿気には弱い!)そのため、21世紀の今日においても平安時代・鎌倉時代の「古刀」でさえ、展覧会場でサビやキズがほとんどない、新品同様のクリアな状態で楽しめるのです。

だから、刀剣鑑賞においては、鑑賞前に着目点さえ明確にしておけば、実はそんなに難しくはなくて、誰でもすぐに楽しむことができるのですね。

無料パンフレットの最初の部分を見てみましょう。「刃文」「地鉄」「銘」と3つの鑑賞ポイントが説明されていますが、混雑時、遠くからでも比較的違いがわかりやすいのが各刀剣での「刃文」です。刀剣初心者の方は、まずはこの「刃文」を徹底的にま~くしてみるのがおすすめ。 

展覧会をざーっと見た感じ、刀がどんどん新しい時代のものになるにつれて、刃文も複雑さや個性が増してくる傾向が感じ取れました。 

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刃文は特に見分けやすい!
引用:特別展「京のかたな」無料配布パンフレット:「京のかたな」鑑賞ポイント

どこに着目してみていいかわからない!と思ったら、まずは「刃文」だけを見て回って、時代や流派による傾向を掴んでみるだけでも面白いですよ。

鑑賞ポイント2:刀剣名の由来・エピソードで凄さを楽しむ

歴史上名高い名剣には必ず「名物」や「号」といったニックネームがつけられていることが多いものです。「刀剣乱舞」でも、正式名称ではなくこの「名物」「号」といった愛称で各刀剣(男子)の個性を際立たせ、プレイヤー(審神者)に名前を覚えてもらえるよう工夫しているのですね。

ニックネーム(名物・号)には、下記のように、刀剣にまつわる伝説的なエピソードから付けられたり、刀剣の形状から連想して名付けられたり、所有者が重要人物だったりすると、所有者の名前がそのまま愛称として定着したり、各刀剣によって様々です。

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引用:特別展「京のかたな」無料配布パンフレット:「京のかたな」鑑賞ポイント

国宝級の刀剣を見ていく時は、姿形の麗しさだけでなく、ぜひ刀剣名がつけられた由来をチェックして見て下さい!かなり大仰だったり、歴史のロマンを感じられたりと、興味深いエピソードが満載!

特に、面白いのが、その刀剣に纏わる伝説的なパフォーマンスがそのまま刀剣名として定着したケースです。

例えば、下記の刀剣を見て下さい。

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国宝 刀 金象嵌銘 長谷部国重本阿(花押)/
黒田筑前守(名物圧切長谷部)福岡市博物館蔵

この南北朝時代に制作された国宝刀剣は、名物「圧切長谷部(へしきりはせべ)」という個性的な名前がついています。伝説によると、戦国時代にこの剣の所有者だった織田信長が、自分を裏切ろうとした部下の茶坊主を成敗しようとした時、台所へ逃げて膳棚の下に隠れた茶坊主を棚ごと刀身を押し当てて「圧し切った」ほど切れ味が凄まじかったことから、「圧切長谷部」という物凄い愛称がついたとのこと。

刀剣乱舞ONLINEではちょっと愛嬌のあるリーダー格のイケメンとしてほのぼのと描かれていますが、実は凄い刀剣なのですね。こうしたエピソードは、展覧会場のキャプションでしっかり解説されています。

その他、例えば

虎を退治した→「五虎退」
罪人を膝まで斬り落とした→「膝丸」
罪人を髪まで斬った→「髪切」
源頼光が酒呑童子を斬った→「童子切安綱」

などなど、変わった愛称がついている刀剣には、伝説的なエピソードがたっぷり残っているので、是非展覧会でも色々楽しんでみてくださいね。

鑑賞ポイント3:かたなの長さも結構違う!

外見上、刃文の次にわかりやすいのは、刀剣の「長さ」なのではないでしょうか?かたなは、長い順から、太刀>打刀>脇差>短刀と4つに分かれますが、中でも一番わかりづらいのは、太刀と打刀の違いかと思います。

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ただ、これは展示の仕方で簡単に見分けられます。太刀は展示される時、刀の「弧」が下向きになるように展示される一方、打刀は刀の「弧」が上向きで展示されます。すなわち、武士が自分の腰に身につける時の体勢そのままで展示されているのですね。(上記イラストを参照して下さい)

刀と言っても、長いものから短いものまで、様々ありますので、是非いろいろ展示を見ながら、シンプルに自分の好みの長さの刀剣を見つけてみてくださいね。

「刀剣鑑賞ノート」の活用もあり!

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展覧会場でじっくり刀剣を観察したい!という刀剣ファンのために、今回の展覧会で刀剣鑑賞の専用ノート「刀剣鑑賞ノォト」というグッズが発売されました。

ノートには、「刀剣乱舞ONLINE」でも出てくるような有名な名剣類を多数収録。このノートを片手に色々メモしながら刀剣鑑賞してみるのも、自分だけの審美眼を鍛えるためにはいいかもしれません。

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中を開いてみるとこんな感じ。あとは、このノートにガンガン自分だけの鑑賞ポイントを記入していくだけです!

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3.展覧会の3つのみどころと感想

次に「京のかたな」展で、僕自身が展示を回ってみて、特に感じた見どころを3つに絞ってお伝えしたいと思います。

見どころ1:国宝・重要文化財がずらり!日本中から集められた山城の名刀たち!

見ていて一番感慨深かったのは、雑誌やゲームでその名をよく聞いたことのある歴史上に名を残す刀剣との出会いです。あの伝説の刀剣がここにも、あそこにも!!みたいな。なんせ、出展されている全200件中、国宝19件、重要文化財は実に71件と、その半数近くが日本を代表する刀剣であるとお墨付きをもらっている作品ばかり。

たとえば、「天下五剣」として名高い平安時代屈指の古刀「三日月宗近」。地金のエリアに無数の三日月状のマークが出来ていることから、「三日月宗近」と名付けられた、という有名なエピソード通り、ぐぐっとガラスケースに近づいて、三日月状のシルシをじっくり観察できます。

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国宝 太刀  銘 三条(名物三日月宗近) 東京国立博物館蔵

こちらも国宝刀剣。通常の展覧会だと、国宝指定されている文化財など、1~2件出展されれば良い方ですが、「京のかたな展」ではあっちこっちに国宝だらけ。いかにレベルの高い展覧会なのかよくわかります。

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国宝 太刀 銘 久国 文化庁蔵

特に「刀剣乱舞ONLINE」で登場する刀剣は、元々有名なエピソードや際立った個性を持つ作品が多く、どれも非常に見応えがありました。 

例えば下記の「骨喰藤四郎」(写し)。

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薙刀直シ造刀(名物骨喰藤四郎写)
銘 宮入法廣作之琇巴彫/平成丗年秋吉日

よーく刀身の根元部分を観ると、見事な龍の彫り物が施されているのがわかります。天才・粟田口吉光の名作で、『斬る真似をしただけで相手の骨を砕いた』という伝説的なエピソードを持つこの刀剣にぴったりの迫力ある彫刻、見事でした。

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薙刀直シ造刀(名物骨喰藤四郎写)
銘 宮入法廣作之琇巴彫/平成丗年秋吉日 部分拡大図

見どころ2:個性的な刀剣も揃っています

また、祭礼用・奉納用として制作された刀剣類は、実戦での使用よりを想定されていない分、規格外の長さや大きさ、形で特別感を表した作品が多いように感じました。いくつか、印象に残った「規格外」の刀剣を紹介しますね。

まずは、熱田神宮に奉納された祭礼用の太刀。

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太刀 朱銘 千代鶴国安 木屋□研之(号次郎太刀)愛知・熱田神宮蔵

一見するとわかりますが、超長いです!刀身には朱色で着色してあるため、ぱっと観ると、人を斬った後の血のりがこびりついているようにも見えて、少しぎょっとしました。

続いては、こちらの9世紀頃の非常に古い祭礼用の刀剣。平安時代より以前に制作された刀剣は、日本刀特有の「反り」がなく、まっすぐなのですね。それにしても制作されてからかれこれ約1200年も経過しているのに、ほぼ新品の状態をキープしている刀身を見ていると、工芸品としての「日本刀」の丈夫さを実感します。

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重要文化財 黒漆剣 京都・鞍馬寺蔵

つづいて紹介するのが、日本で現存する最古の「鑓(やり)」です。「最古」とか「最長」とか聞くと、とりあえず見てみたくなりますよね。

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鑓 銘 来国俊 

そして、最後は、16世紀~17世紀頃に制作され、それ以来ずーっと大切に保管され、祭礼用のためだけに使われてきた長刀。こちらももちろん展覧会では初登場。この2作品と一緒に展示されていた、《祇園祭礼図屏風》では、この長刀が実際にお祭りで使われている様子が、京都・祇園祭の風景として描かれています。

有名な名剣類が、大名や天皇家といった歴代のセレブ達によって大切に守り継がれ、きらびやかな来歴を持っていることに対して、この長刀は、まさに庶民の間で大切に守り継がれてきた珍しい刀剣なのです。

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祇園祭で使用された祭礼用の長刀

見どころ3:刀剣以外にも見どころ満載!

もちろん、今回の展覧会では刀剣以外にも、軍記物の絵巻物などを中心に、「刀剣」が描かれた絵画も出展されており、それぞれに見どころが満載。

例えばこちらの《十二類絵巻》。戦場を駆け巡る武士たちの手に握られている「刀剣」をチェックして見て下さい。こうした絵巻物から、作品が成立した時期の「刀剣」の形状や使用法、種類などがよくわかるのですね。

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重要文化財《十二類絵巻》三巻のうち巻中、巻下

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重要文化財《阿国歌舞伎図屏風》京都国立博物館蔵

こちらの絵巻物は、「浮世絵」の祖と言われる岩佐又兵衛が仕上げた絵巻物。画面上の大半の人物が刀剣や弓などの武器を持って戦っており、最終クライマックスで敵を討ち取るシーンの劇的な躍動感や生々しさは要注目!岩佐又兵衛、改めて凄い絵師だと感じました。

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岩佐又兵衛《堀江物語絵巻》京都国立博物館蔵

また、岩佐又兵衛作品を観る時の楽しみは、描かれた人物のユニークな顔の形に着目しても面白いかも知れません。又兵衛の作品は、老若男女全員「アゴ」が異常発達しているのです(笑)

4.展覧会限定グッズが充実しています!

今回の展覧会では、グッズコーナーが秀逸!良く考えられた、思わず買ってみたくなるようなグッズがたくさん用意されていました。僕も毎年グッズコーナーができるような展覧会はほぼ全部行くようにしていますが、間違いなく今回の「京のかたな」展はレベルが高いと思います。

ここでは、特に「これはいいな!」と感じた展覧会限定グッズをいくつか紹介してみますね。

公式図録は画像が充実!じっくり家で楽しめます

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一振り一振り、展覧会でじっくり楽しむのがベストですが、今回の展覧会はこの秋屈指の人気展。1回では全部満足に見きれないかも知れません。その場合でも、展覧会図録を抑えておけば、かなりカバーできそうです。光沢感のある誌面にきれいに印刷された高精細画像で、刀身両面の刃文や地金などの鑑賞ポイントをクリアに見せてくれています。思う存分自宅に帰ってからも楽しめますので、永久保存版として買う価値あります!

ポストカードが非常に充実!

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図録と同じく、ポストカードも「刀剣乱舞」に登場する名剣を中心に、マニアのツボを付く幅広い品ぞろえでした。ほぼ全部大判仕様で、非常にクリアに刀剣が印刷されています。ハガキとして普通に使っても良いですし、額に入れてインテリアにしても面白いかも!

刀剣型ペンケース

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これはちょっとしたアイデア商品。仕事に学業に、これでずーっと刀剣と一緒にいられますね。営業先で広げたら、絶対つかみのネタにできると思います。

つば型ブックマーカー

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そうかこういうアイデアがあったのか!と唸らされた一品。刀の「鍔(つば)」の形をあしらったブックマーカーは、どれもセンスよく、読書が捗りそうです

マスキングテープ

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「刀剣乱舞」に登場する名刀を中心に、多種類用意されたマスキングテープ。白地に刀剣が印字されたシンプルなマスキングテープです。

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通常版の他に「骨喰藤四郎」は、特装版のマスキングテープが用意されていました。不動明王のイラストが背景に入っています。とうらぶ屈指の人気キャラにちゃんと特別版を用意するあたり、心憎いです。

京都の銘菓「鼓月」

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お菓子は何種類かあったのですが、やっぱり京都に来たら定番のコラボが嬉しいですよね。個人的に鼓月の「千寿せんべい」大好きなので、先日開催された奈良国立博物館の「糸のみほとけ展」に続いて、「京のかたな」展でも限定タイアップ商品が発売されたのを発見して、思わず即買いしてしまいました!熱い煎茶にもコーヒーにも合う、万能お茶菓子です。本当に美味しいので是非買ってみて下さい!

書籍コーナー

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あまりの盛り上がりに、現在入手が難しくなっている「BRUTUS」刀剣号や、「週刊ニッポンの国宝100別冊」国宝刀剣号なども、ここでは山積みされています!この2冊は、特に今回の展覧会の予習・復習に役立ちますので、少しでも気になったら抑えておくと良いと思います。

5.刀剣乱舞とのタイアップが凄い!

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公式Twitterなどの事前情報から、「今回はかなり大規模なタイアップ展示があるかも」と予想していました。前後期合わせて刀剣男士のモデルになった刀剣が23振用意されたり、最近滅多に開けなかった本館をオープンして、すべての部屋を刀剣乱舞のために用意するなど、国立博物館での取り組みとしては最大限頑張ったコラボ展示だったと思います。

ここでは、特に印象的だったタイアップやコラボ展示についていくつか紹介したいと思います。

「刀剣乱舞版」音声ガイド

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俳優・伊武雅刀が担当する通常版の音声ガイドも渋くて良いのですが、とうらぶファンなら、通常版より約500円高いですが、極力こちらの「刀剣乱舞ONLINE版」音声ガイドを選んだほうが悔いが残らなそうです!

画像にあるとおり、ガイドには以下の4名の刀剣男士が登場。寸劇も交えながらたっぷりと刀剣について解説してくれます。

鳥海浩輔(三日月宗近役)
粕谷雄太(五虎退役)
岡本信彦(膝丸役)
諏訪部順一(千子村正役)

ネットをチェックしていると、円盤にして別売りして欲しい!という声もちらほらあるようですね。今まで前例ないですが、展覧会終了後に販売されたら飛ぶように売れそう・・・。

本館「明治古都館」にて刀剣乱舞コラボ展示!

そして、本館「明治古都館」が刀剣乱舞ONLINEとのコラボ展示のハイライト。本館の展示は撮影自由。SNSにアップし放題です!

まず、メイン会場には刀剣乱舞から20人の刀剣男士の等身大パネルと、「京のかたな展」で描き下ろされた新作トレーディングポスターがズラーッとならんでいます。こうやって見ると、ゲームの本陣に入り込んだようです(笑)

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20振もいると色々なキャラクターがいるものですね。イケメンのかっこいいキャラクターから、二次創作で色々いじられそうな(?)中性的なキャラクターまでまんべんなく揃っています。僕はこの中だと「骨喰藤四郎」が一押しですかね^_^;

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中には、別の博物館・美術館で刀剣展が開催された際に描き下ろされた、過去の展覧会限定ポスターが展示してあるキャラクターも。特にレアだと思いますので、該当する刀剣男士のファンの方は、思う存分ガッツリカメラに収めちゃって下さい! 

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特設グッズコーナーも熱い!

そして、心ゆくまで写真を撮ったら、お買い物の時間です(笑)展覧会限定グッズが、20振の刀剣男士分用意されていますが、20振全部大人買いしていく人が多数いるのだとか。とうらぶファン、熱いです!

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▼ポストカード集
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▼会場限定クリアファイル(2種類あります!)
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▼トレーディングポスターf:id:hisatsugu79:20181002155941j:plain

こちらは、記念撮影会場に展示されている作品と同じものです。

▼アクリルスタンドf:id:hisatsugu79:20181002155910j:plain

個人的にはこれが一番欲しかったかな。みんな自分の刀剣を手に持っているポーズで統一されています。

6.混雑状況と所要時間目安

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「刀剣乱舞ONLINE」とのタイアップ効果で混雑が確実視されていましたが、やはり初日から凄いことになっていました。

会期中、土日祝日は、ほぼ全日混雑が確実と見られますので、どうしてもいい環境で観たい!という人は、金・土の夜間延長開館時を狙ったり、なんとかお仕事に区切りをつけて、平日に鑑賞することを強くおすすめします。

鑑賞時間は、混雑で並ぶ時間を除いて、最低でも90分~120分は見ておきたいです。全200件と大量出展されている上、刀剣は非常に繊細なので、じっくり見ているとあっという間に時間が過ぎていくからです。もし2回以上通えるのであれば、展示替えもありますので2回に分けてじっくり観るのもありですね。

7.まとめ

史上空前の出展点数や、多数の初公開作品、刀剣乱舞ONLINEとの強力タイアップなど、非常に見どころ満載の刀剣展となった「京のかたな」展。いろいろな楽しみ方ができる力の入った展覧会です。京都観光と合わせて、秋の旅行にも最適です!

それではまた。
かるび

PS 和樂のWebマガジン「INTOJAPAN」にも寄稿しました。もしよろしければ、チェックしてみてくださいね。

関連書籍・資料などの紹介

ブルータス「刀剣特集」

1冊まるまる「京のかたな」展を念頭においた刀剣の大特集なので、特に展覧会前の「予習」に最適の1冊です。中級以上の方まで使える詳細な刀剣鑑賞の手引きや、文化人のインタビューや寄稿による刀剣の魅力が伝わるページ、「京のかたな」展の見どころ紹介まで色々ありますが、本誌が売り切れ続出となっている原因は、「刀剣乱舞ONLINE」とのコラボ記事。混雑必至の「京のかたな」展において、どの刀剣男士がいつ、どのフロアのどのコーナーに出ているのかまで事前に特集してくれている親切設計。刀剣乱舞ファン必携です。

週刊ニッポンの国宝100別冊「ザ・極み 刀剣」

分冊百科シリーズのベストセラー「週刊ニッポンの国宝100」の別冊シリーズ第1弾。高精細画像で、「天下五剣」を始めとして、国宝刀剣を約50振掲載してくれています。「BRUTUS」に比べ、徹底的にビジュアル重視の編集が特徴。なかなか違いが分かりづらい刀剣を、隅から隅までクリアな画像で見せてくれるのは非常にありがたい!入門者・初心者に非常にわかりやすい刀剣鑑賞ガイドや、「京のかたな」展の入場割引券もついているので、こちらも展覧会の副読本として非常にオススメの1冊です!! 

入門書ムックの決定版!もっと知りたい「刀剣」

アートファンから絶大な信頼を寄せられている画家別やテーマ別に特集された東京美術が手がける入門書ムック本の決定版、「もっと知りたい刀剣」が展覧会に合わせて発売されました!

記述がわかりやすくて正確で、入門者から中級者くらいまで何度も見返しては学べるクオリティの高さが本シリーズの特徴なので、展覧会のためだけでなく、永久保存版として長く愛蔵できる1冊です!「京のかたな」展をきっかけに刀剣をもっともっと極めたい人にはこちらもおすすめ!

展覧会開催情報

特別展「京のかたな」
◯美術館・所在地
京都国立博物館 平成知新館【東山七条】
〒605-0931 京都府京都市東山区茶屋町527
アクセスはこちらの京都国立博物館HPを参照して下さい。
 
◯会期・開館時間
2018年9月29日(土)~11月25日(日)
午前9時30分-午後6時(金・土曜日は午後8時まで)
※入館は閉館30分前まで

◯休館日
月曜日(ただし10月8日(月・祝)は開館、翌9日(火)は閉館)
◯観覧料
一 般1500円/大学生1200円/高校生700円
※中学生以下:無料
◯公式HP
http://katana2018.jp
◯公式Twitter
Twitter:@katana2018kyoto

醍醐寺展は主力の寺宝が勢揃い!仏像好きなら絶対外せない展覧会!【展覧会レビュー・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年秋、首都圏で開催される展覧会は、仏教美術展が大当たりです。東京国立博物館で開催中の特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」 、三井記念美術館で開催中の特別展「仏教の姿」など、美しい仏像をしっかりしたディスプレイで魅せてくれる展覧会が目白押しです。

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そんな中、今回紹介させて頂くサントリー美術館で開催中の「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」は、約15万点の文化財を所蔵する醍醐寺が、その寺宝の中から仏像・仏画・経典・書跡など、代表的なアイテムを選りすぐって展観する、力の入った仏教美術展となりました。

仏像好きならマストとも言える素晴らしい展覧会です。内容について取材させて頂きましたので、僕の感想を交えてまとめてみたいと思います。

※なお、本エントリーで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.醍醐寺展とは?(正式名称:「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」)

近年の醍醐寺は、「生かされてこそ文化財」というスローガンを掲げるなど、日本の有力な寺社の中でも、所蔵する文化財の保存・研究・公開に対して、非常に積極的なお寺のうちの一つです。

今回の特別展「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」は、2016年に中国の2都市(上海・西安)にて開催され、合計約80万人の来場を記録して大好評のうち終了した中国巡回展での構成をベースに、日本での凱旋展的な位置づけとして開催される展覧会です。

2018年秋に東京(サントリー美術館)、2019年春に福岡(九州国立博物館)と2会場で開催されます。東京展での出展点数は、国宝34件、重要文化財43件を含む約100件。醍醐寺の主力となる国宝・重文級の仏像や仏画を中心に、平安時代から江戸時代まで、醍醐寺にかかわる貴重な史料・作品のいちばんおいしいところをたっぷり味わえる展覧会です。

2.醍醐寺について(簡単な基礎知識)

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引用:Wikipediaより

醍醐寺は、京都駅からタクシーで10kmほど西へと走った、山科盆地の西の外れの山の麓にある非常に大きな真言宗の密教寺院です。

醍醐寺が開かれたのは874年。開祖は、空海の孫弟子で、真言密教と修験道を学んだ理源大師聖宝です。

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聖宝坐像 吉野右京種久作 醍醐寺蔵

醍醐寺は、その後10世紀前半には醍醐天皇の手厚い庇護の下、上醍醐、下醍醐と敷地の拡大と建物の造営が進み、大寺院として発展していきました。

途中、応仁の乱で一旦没落しますが、16世紀末には豊臣秀吉が中興の祖・義演の復興事業を強力にバックアップし、見事に復興。塔頭・三宝院の整備や境内での歴史上名高いイベント「醍醐の花見」が開催されるなど、再び往年の賑わいを取り戻します。

現在は真言宗醍醐派の総本山、修験道当山派の本山として発展を続けており、1994年には、「古都京都の文化財」として世界遺産にも登録されました。

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醍醐寺三宝院庭園(2018年9月末撮影)

また、境内の土塀脇に植えられた優美なしだれ桜は非常に有名で、日本画の巨匠・奥村土牛が晩年に描いた《醍醐》は山種美術館の人気作品となっています。

3.音声ガイドは「見仏記」コンビのみうらじゅん、いとうせいこう!

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今回、音声ガイドのパーソナリティを担当したのは、仏像紀行番組「見仏記」シリーズを足かけ25年以上務める仏像マニアのコンビ、いとうせいこうとみうらじゅんのお二人。通常の音声解説に加え、要所要所で二人の軽妙な仏像トークを聞くことができます。その掛け合いは、「TV見仏記」でのお寺巡りのシーンそのまんま。臨場感たっぷりに収録されている音声ガイド、おすすめです。

ちなみに、みうらじゅんといとうせいこうの普段のテレビでの掛け合いはこんな感じです。まったりとした、力が抜けた二人のトークは、妙な中毒性があります。

実はこの日、音声ガイドを聴きながら作品を見て回っていたら、ちょうど記者会見前のおふたりが、僕の目の前に(笑)

▼みうらじゅん、いとうせいこうの両名、快慶を鑑賞中f:id:hisatsugu79:20181003121916j:plain

「あー、これ僕らが収録したやつだよね」「やっぱり快慶は凄いよね」とか、TVカメラが回っていないところでも、全く変わらない雰囲気で談笑しながら楽しそうに仏像を見ていらっしゃいました。お二人の音声ガイドを聴きながら、その本人たちが僕の目の前にいるという貴重な(?)体験をさせて頂きました^_^;

4.展覧会の3つのみどころと感想

本展は、どれを見ても凄い寺宝ばかりが並んでいて目移りするのですが、僕が展覧会を見てきて特に見どころだと感じたポイントを3つに絞ってみました。特に見てよかった作品の感想と合わせて、見どころを紹介します。

見どころ1:特に見ておきたいのは仏像!

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重要文化財 如意輪観音坐像 醍醐寺蔵

まず、入り口で出迎えてくれるのが、展覧会パンフレットでクローズアップされた「如意輪観音坐像」。開祖・理源大師聖宝がお寺を開いた際、まず最初に祀ったのが如意輪観音でした。ネット上の評判で「セクシーな仏像」との感想をちょくちょく見かけますが、優美さと妖しさが同居した不思議な雰囲気のある仏像です。

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重要文化財 如意輪観音坐像 醍醐寺蔵

こちらは、裏側まで回り込んでいろいろな角度から鑑賞が可能です。 

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重要文化財 不動明王坐像 快慶作 醍醐寺蔵

左手の縄、右手の剣、下唇を噛みしめるポーズは、いわゆる「不動明王」図像の「儀軌」に忠実に則ったオーソドックスなデザインです。しかしそこは快慶作品、真っ赤な瞳の玉眼や、人間に近いお顔立ち、光背部の立体的な表現など、細部までしっかり作り込まれており、大きさ以上に強い存在感を感じました。ちなみに光背の焔に、「迦楼羅」(火の鳥)の形をした焔が混じっています。探してみてくださいね。 

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国宝 虚空蔵菩薩立像 醍醐寺蔵

正面から見るとすらっとしたイメージですが、横から見ると意外にも寸胴で、お腹が出てがっしりした体型。お顔も含めて、平安初期の仏像っぽさを湛えています。よく見ると、さすが国宝らしく、衣紋のひだなど、非常に丁寧に細部まで作り込まれていて、制作に関わった仏師のレベルの高さがよくわかります。ぜひ、近寄ってじっくり見ていって下さい。小さいお像ですが、「さすが国宝!」と唸らされます。

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重要文化財 五大明王像 醍醐寺蔵

みうらじゅんさん&いとうせいこうさんもガイドで話していましたが、5体とも非常に目がでかい!!写実的というよりは、劇画タッチにデフォルメされ、激しさを全面的に表現した個性的な明王たちが、台座の上から巨大な眼力で「ぐわっ」とこちらを睨みつけてきます。この大きな眼で見据えられると、心の中まで見通されてしまうような気分になります。この迫力満点の五大明王の前で、昔の人々は崇敬の念を新たにしたのでしょうね。

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国宝 薬師如来および両脇侍像 醍醐寺蔵

上醍醐薬師堂の御本尊・薬師如来坐像と、その両脇に控える日光菩薩立像・月光菩薩立像です。真ん中の薬師如来像は、座った状態で像高が176.1cmあるので、正面に立つと非常に大きく感じます。どっしりした丸い顔立ちは、平安初期の仏像という趣があります。

見どころ2:仏画や障壁画なども、主力の寺宝がほぼ全部出展!

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国宝 五大尊像 醍醐寺蔵(展示期間:9月19日~10月15日)

不動明王を中心に、降三世・大威徳・軍荼利・金剛夜叉明王と揃うと圧巻ですが、驚いたのは状態の良さです。12~13世紀に制作されて以来、何度も国家鎮護・息災・増益等の儀式で本尊として使われてきたと思われますが、線描で描き込まれた確かな腕前がはっきり見て取れますし、光背の焔も真っ赤で非常に良い発色。鎌倉初期の大傑作だと思います。

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国宝 五重塔初重壁画両界曼荼羅図 旧連子窓羽目板断片
醍醐寺蔵(※会期中、面替えあり)

こちらも凄い!951年に完成して以来、五重塔は醍醐寺で唯一現存する創建当初の建築であり、京都で一番古い木造建築として有名ですが、これは、その中に収まっていた板絵壁画のうちの一つ。しっかりした形で健在です!よくぞ残ってくれたと思います。

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国宝 訶梨帝母像 醍醐寺蔵(展示期間:9月19日~10月15日)

こちらは、訶梨帝母像(かりていもぞう)といい、またの名を鬼子母神(きしもじん)といいます。元々は他人の子供を食べる鬼女でしたが、釈迦の働きかけにより改心し、一転して子供の守り神となりました。12世紀に描かれ、安産祈願のための修法で御本尊として祀られてきました。これも状態良く、細部までしっかり鑑賞できます。 

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松桜幔幕図屏風 生駒等寿筆 醍醐寺蔵

こちらは江戸時代の屏風絵。室内・野外を問わず、宴席の場で活用された可能性が指摘されています。パッと連想されるのは、醍醐寺を強力にバックアップした豊臣秀吉が開催した大イベント「醍醐の花見」です。本作は江戸時代に入ってから制作されましたが、生駒等寿は、「醍醐の花見」の伝承を念頭において制作したのでしょうね。

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三宝院内の障壁画 画・浜田泰介(2018年9月末撮影)
※本展には出展されていません

そういえば、三宝院にも、日本画家・浜田泰介氏が描いた「醍醐の花見」を連想させるだまし絵的趣向の障壁画が描かれていました。上記の生駒等寿の屏風絵とまさに同じ趣向で、伝承へのリスペクトを込めて描かれたと思われます。

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重要文化財 三宝院障壁画 竹林花鳥図(勅使之間)醍醐寺蔵
(展示期間:9月19日~10月15日)

こちらは、三宝院内で重文指定されている「勅使之間」に描かれていたオリジナルの襖絵です。普段、三宝院内で公開されているのはレプリカですが、結構直射日光が差し込んでいるせいか、先日僕が9月末に観に行った際は、レプリカでさえ劣化していました。展覧会で見たオリジナルのほうが状態が良いような気がします(笑) 

見どころ3:国宝連発!書跡や仏具も面白い!

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国宝 織田信長黒印状 醍醐寺蔵
(展示期間:9月19日~10月15日)

歴史上有名な武士たちの書状は、博物館・美術館に通い詰めるとそこそこ頻繁に観ることができますが、その中でもやっぱり信長の直筆書跡は格別な気がします。何が書いてあるのかは残念ながらわからなくても、何となく観るだけで気が引き締まりました。

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重要文化財 金剛五鈷鈴(一番左)醍醐寺蔵
重要文化財 金剛九鈷杵(真ん中)醍醐寺蔵
重要文化財 金銅輪宝羯磨文戒体箱(一番右)醍醐寺蔵
(一番右:展示期間:9月19日~10月15日)

こういった修法で使用される密教法具類も、細部まで非常に丁寧に制作されており、見どころ抜群。当時一流の仏師たちが日々の修行や法要で大切に守りついできたアイテムですね。

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金天目および金天目台 醍醐寺蔵

ちょっと珍しかったのが、こちらの「金」の天目茶碗。やはり連想されるのは、黄金の茶室を造った豊臣秀吉です。お寺の伝承によると、義演が秀吉の病気平癒のための加持祈祷を行った際、秀吉より褒美として与えられた天目茶碗なのだとか。醍醐寺の秀吉との強力な「縁」を感じさせる面白いアイテムでした。

5.混雑状況と所要時間目安

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さて、サントリー美術館の展覧会といえば、会期前半の落ち着きに対して、会期後半はうって変わって大混雑することがしばしばあります。今回は、展示アイテムも非常に秀逸なので、口コミで評判が広がりそう。場合によっては、会期後半は混雑するかも知れません。会期中、細かく展示替えも予定されていますので、できるだけ会期前半中にまず1回目を見ておくと良いでしょう。

所要時間は、60分~90分程度あればOKですが、本展を楽しみ尽くすなら、2回、3回と展示替えのタイミングで複数回足を運ばれることを強くおすすめします!

6.まとめ

9世紀の創建以降、その激動の歴史を刻んできた醍醐寺が、所蔵する国宝・重要文化財は実に約15万点。その中から、絶対に見ておきたい寺宝約100件が厳選展示された今回の醍醐寺展。主力となる寺宝を惜しげもなく展示してくれた醍醐寺の本展にかける思いがよく伝わってくる強力な展覧会でした。

仏像や仏画といった仏教美術が好きな人は、絶対に観ておきたいこの秋オススメの仏教美術展です。是非、複数回足を運んでみてくださいね。

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

「週刊ニッポンの国宝100」第30号 醍醐寺特集

全40Pのうち、前半の20Pで醍醐寺の国宝建築や、「国宝」指定されている代表的な寺宝を高精細画像で一挙紹介。「醍醐寺展」で出展されている国宝仏像・国宝仏画のほとんどが掲載され、誌面で詳しく解説されています。

展覧会とのタイアップが明示されているわけではありませんが、掲載画像がほぼすべて展覧会に出展されているので、「醍醐寺展」の副読本としておすすめです。

新板 古寺巡礼京都「醍醐寺」

カラー写真で京都の有名な寺社を紹介するシリーズ書籍としてはベストセラーの1冊。広大な敷地を持つ醍醐寺や、寺宝、庭園などの見どころを紹介しつつ、醍醐寺の成り立ちから今日に至るまでの激動の歴史も学ぶことができます。

みうらじゅん いとうせいこう TV見仏記3

みうらじゅん、いとうせいこうが京都のお寺を訪問した回をまとめて円盤にした永久保存版DVD。このTV見仏記3で、醍醐寺に立ち寄っています。仏像を見る楽しさを教えてくれる、カジュアルな仏像紀行の決定版です。

展覧会開催情報

展覧会詳細:京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー

◯展覧会開催場所・所在地
サントリー美術館
〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4
東京ミッドタウン ガレリア3階
◯アクセス(東京ミッドタウンまで)

・都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結
・東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
・東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路で直結
◯会期・開館時間
開催中~2018年11月11日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
10時00分~18時00分(入館は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日は
20時00分まで開館(入館は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週火曜日(ただし11月6日は18時00分まで開館)
◯入館料
一般1500円/大学・高校生1000円
※中学生以下無料
◯公式HP
・サントリー美術館
 http://suntory.jp/SMA/
・展覧会公式サイト
http://daigoji.exhn.jp/

◯Twitter
https://twitter.com/sun_SMA

◯美術展巡回先
■九州国立博物館
2019年1月29日(火)~3月24日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。

フェルメール展は、2018年秋最高の美術展!史上最多の9点が来日!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive )です。

2018年秋に開催される展覧会の中で、もっとも注目度が高い美術展「フェルメール展」がついにスタートしました。世界にたった35点しかないとも言われるフェルメール作品の中から、実に9点が東京・上野の森美術館に集結。展覧会のサブタイトルにも「それは、この上もなく優雅な事件」とありますが、確かにアートファンにとっては、もはやニュースというより「事件」レベルのレアな体験なのかもしれません。

これを逃したら、あと数十年はもうこの規模のフェルメール展は開催されないと思われます。まさに一生に一度の貴重な機会として、この「事件」をじっくり目撃しておきたいところです。

ラッキーなことに、初日のプレス内覧会で取材機会を頂くことができました。早速、感想を交えて、みどころやレビューをまとめてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.フェルメール展とは

なぜ今回のフェルメール展は画期的な「事件」レベルのイベントと言えるのか?

今回のフェルメール展は、いろいろな意味で特別なフェルメール展となりました。一番のインパクトは、冒頭でも書きましたが、わずか35点しか存在しないとも言われるフェルメール作品の中で、実に10点が来日するという衝撃。

通常、日本でフェルメール関連の展覧会が開催されても、たいてい来日するのは1点とか2点であって、全世界の1/4以上が1箇所(東京)に集結するなんて言うレアな事象はまず起こりえないわけです。

なぜなら、世界中の展覧会でフェルメールの作品は常に取り合いになっている上、《士官と笑う女》《稽古の中断》といったフリック・コレクションや、バッキンガム宮殿所蔵の《音楽の稽古》のようにいくつかの作品は美術館外への門外不出作品だったり、《合奏》のように行方不明になっていたりするからです。

よって、作品が来日するのを待っていられない熱心なフェルメールファンは、基本的にみんな何十万円もかけて現地へ観に行って全点制覇を目指しちゃうわけです。全点踏破系、聖地巡礼系の書籍も山のように出版されていますよね。

だから、今回わずか2500円を支払うだけで、巨匠・フェルメールの作品をまとめて一気に鑑賞できてしまう、というのは、物凄い画期的な出来事と言えるのです!

長時間の入場待ち行列対策のため、チケットは「日時指定入場制」

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本展は、日時指定入場制です。入場券は原則事前に購入する必要があります。

もし前売券の販売数が入場時間枠より少なかった場合、その枠に関しては当日券の販売がありますが、前売段階で予定上限数に到達した場合、当日券は発売されません。

1日の入場時間枠は、以下の6枠。

① 9:30~10:30  ② 11:00~12:30  ③ 13:00~14:30
④ 15:00~16:30  ⑤ 17:00~18:30  ⑥ 19:00~20:00

指定した入場時間枠の中で、好きな時間に入場できるルールです。一度入場してしまえば、閉館まで退場時間の制限はありません。(※入替制ではない)

よって、公式サイトでは、各入場時間枠の開始直後は混雑しそうなので、極力時間枠後半の入場が推奨されています。

時間帯がかなり細かく切られていて調整が大変ですが、その分混雑はぐっと抑えられそう。空き情報は、各種プレイガイドなどでチェックできます。土日祝日の行きやすい時間帯はすでにソールドアウトとなっていますが、会期前半はまだ余裕がありますね。

「音声ガイド」、「ハンドアウト」つき

さて、2,500円と通常よりやや高めの入館料を払う分、全員に入場時「音声ガイド」と、フェルメール・ブルーであしらわれたハンドアウト(ガイド小冊子)がもらえます。

まずハンドアウトを見てみましょう。出展されている約50点の絵画作品すべての短文解説が、展示順に掲載されています。やや暗めに設定された館内の照明でも読めるよう、印刷フォントはかなり大きめなのがうれしいところ。

▼ハンドアウト
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実は、今回のフェルメール展では作品と作家名だけがシンプルに壁に表示されているのみなのです。よく見かける作品解説用のキャプションパネルがありません。だから、このハンドアウトが作品鑑賞の大切な情報源となるのです。

もう一つ必ずついてくるのがこの音声ガイド。

▼音声ガイド
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今回、ナビゲーターとして音声ガイドを担当したのは、今最も忙しい旬の女優、石原さとみ。フェルメール展にふさわしい豪華な起用です。

Internet Museumさんが、石原さとみが「フェルメール展」の記者発表会での作品紹介や展覧会にかける意気込みを語った会見をアップしてくれています。行く前に見ておくと予習になるのでお時間のある方は是非!


東京展・大阪展で出展される作品を整理してみる

このフェルメール展は、東京・大阪の両会場で2月まで開催されますが、観る事ができる作品は、初来日作品3点を含むのべ10作品。作品によって、東京・大阪でずーっと観ることができたり、東京会場のみ展示(4作品)、大阪会場のみ展示(1作品)など、細かく状況が異なります。

これを非常にわかりやすい形でまとめてくれているのが、ブログ「アートの定理」の明菜さん。御本人から寛大にも「使っていいよ」とご許可いただきましたので、転載させていただきますね。

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引用:フェルメール展 いつ・どこで・何が見られるの?図表で整理して分かりやすく解説! : アートの定理

このマトリクス表を見ながら、観たい作品にあわせてチケットを押さえるようにすればばっちりですね。この表にしたがって、効率よくコンプリートしたいのであれば、

1回目:10月5日~12月20日の間に東京会場で観る
2回目:2月16日~5月12日の間に大阪会場で観る

このパターンで、来日作品全10点を最低1回はチェックできます。

ちなみに、ブログ「アートの定理」では、より突っ込んだ分析をしてくれています。現代作家からクラシックなアート作品まで、幅広いジャンルを独自の視点で書き綴る明菜さんのブログ「アートの定理」必見です!

2.フェルメール作品は1部屋で集中展示されています!

本展(東京会場)の最大の目玉にして一番の見どころは、展示会場最後に設置された、フェルメール作品のみを展示した1Fの「フェルメール・ルーム」!

フェルメール同時代の作家たちの作品を見終わると、このような光の回廊を抜けて展示会場へと向かいます。「光の魔術師」との異名を取るフェルメールにちなんだ、心憎い演出です。

▼フェルメールの光を感じて、展示室へ!f:id:hisatsugu79:20181005020502j:plain

展示会場に到着すると、大部屋に8点の展示がどーんと現れます。小さな作品もありますが、時間指定制チケットの効果で、人垣が何重にもできて全く見えない!ということはなさそうです。

▼フェルメール作品の展示室の様子f:id:hisatsugu79:20181005083108j:plain

それでは、この中から特に僕が印象に残った5点をピックアップして、「ナマ」のフェルメール作品がどう見えたか、感想を交えてご報告します!

▼ワイングラス
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ヨハネス・フェルメール《ワイングラス》ベルリン国立美術館蔵

絵画としての完成度は評価されてはいても、フェルメール作品の中ではそこまで人気があるわけではない《ワイングラス》ですが、並べて見てみると、丁寧な描き込みが目立ち、状態の良さも相まって非常に好印象!

机のタペストリーや獅子飾りまで丁寧に描かれたスペイン風の椅子、光の加減や経年劣化・使用感まで表現された絵柄入りの窓枠など、まさにこれぞ超絶技巧でした。写真よりも実物の良さが断然目立った作品だと思います。

▼リュートを調弦する女f:id:hisatsugu79:20181005013740j:plain
ヨハネス・フェルメール《リュートを調弦する女》
メトロポリタン美術館蔵

こちらはフェルメール作品の中でも作品の傷みが激しく、テーブル上や椅子のあたりは何が描かれているのか絵柄がハッキリ見えないのですが、それを差し引いても、期待感満載で窓の外に見えた彼氏を見つめる女性の表情が良いです!

これから部屋に遊びに来る彼氏は、床に転がっているヴィオラ・ダ・ガンバを演奏するのでしょうか。色々とこの後の展開を自由に想像して楽しめる作品でした。

▼手紙を書く女
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ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》
ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

今回来日する作品の中では、一番「カメラ目線」で描かれた作品。女性がまとう黄色の高級ガウンは隣に展示されている《真珠の首飾りの女》と共通しています。ムック本「フェルメール会議」で星野知子さんが、とにかくこの作品はすべてのモノが光っていて、光の過剰演出を楽しむ作品だ!と喝破されていましたが、まさにそのとおり(笑)

椅子の鋲や獅子飾り、女性のイヤリング、机の上の道具箱など、画面上に光の粒があふれていました。細部まで光が満ちた、フェルメールらしい作品です。

▼手紙を書く婦人と召使いf:id:hisatsugu79:20181005014314j:plain
ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》
アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵

この絵の見どころは、一心不乱に机に向かって手紙を書く女主人のひたむきな表情です。フェルメールが暮らした17世紀のデルフトは、交易で栄えた港湾都市でした。女主人の「いい人」も、東インド会社の遠方の拠点で働いていたのかも知れません。数カ月ぶりにやっと届いた恋文に、必死で返事を書いているのでしょうか。画面上、一番光が当たっているので鑑賞者の視線が女主人に自然と向けられますよね。

ですが、本作には陰の主役がいるのです!

それが、画面中央で立つ召使い。邪悪な(?)表情を浮かべ、窓の外をダルそうに見る召使いは、必死な女主人と対照的ですよね。ここで、やっぱり鑑賞者はいろんなストーリーを考えちゃうんです。生の絵と向かい合ってみて、自分なりのストーリーを自由に考えながら想像を膨らます楽しさもまたフェルメール作品の大きな醍醐味です!

▼牛乳を注ぐ女
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ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》
アムステルダム国立美術館蔵

そして最後は今回の主役。展覧会チラシにも起用され、今回の展覧会ではダントツの一番人気です。僕の好きなアートライター、藤田令伊さんが指摘する通り、この作品、よーく見ると窓ガラスが1枚割れています(笑) 

また、永遠に流れ続けているかのようなミルクの表現や、非常に美しく「フェルメール・ブルー」があしらわれたメイドの衣類なども良いです。足元のアンカや寒さで赤く火照った手元、なにもないシンプルな壁などを見ていると、寒い冬の静謐な朝を思い起こさせました。

3.フェルメール以外の作品も充実!

本展では、フェルメールの作品部屋に至るまで、フェルメールが生きた17世紀オランダで描かれたあらゆるタイプの作品群が、ジャンル別に数作ずつ展示されています。

今回の「フェルメール展」の英語タイトルを見てみると「Making the Difference: Vermeer and Dutch Art」とあります。つまり、フェルメールの作品と、彼の作風に影響やインスピレーションを与えた同時代の作家の作品と見比べて鑑賞してみよう!ということなんです。

単に作品の数合わせの「前座」的な位置づけではなく、フェルメール作品で描かれた構図やモチーフは、同時代の作家とどう違っているのか、比較検証するために展示されているのですね。

しかも、よーく見てみると、どの作家も本当に素晴らしい腕前です。世界の覇権国として黄金時代を迎えていた17世紀オランダの国力の凄さを感じさせます。

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ヤン・ファン・ベイレルト《マタイの召命》カタリナ修道院美術館蔵

入り口すぐに配置された宗教画。音声ガイドでも指摘されていましたが、構図や光の当て方、各人物の複雑な動きのあるポーズは、イタリアの巨匠・カラヴァッジョの強い影響を感じます。バロック期の西洋絵画は、多かれ少なかれカラヴァッジョが切り拓いた表現様式の上に成り立っているのだな、と強く感じた1作。いい作品でした。 

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左:ハブリエル・メツー《手紙を書く男》
右:ハブリエル・メツー《手紙を読む女》
共に、アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵

つづいては、オランダ絵画研究の権威、熊澤弘先生が強烈に「アイルランドの至宝」と絶賛するハブリエル・メツーの2枚の作品。手紙を書く男性と、彼が書いた手紙を受け取った女主人を描いた連作作品です。

左の作品はフェルメール《手紙を書く女》と呼応するようですし、右の作品は《手紙を書く婦人と召使い》と合わせて比較して観ると楽しめます。

特に右の作品がいいですよね。召使いがカーテンをめくった画中画には荒れ狂う海が・・・。恋の行方をあからさまに暗示しています(笑)女主人は必死に左のイケメンプレイボーイに返事を書いていますが、きっとイケメンプレイボーイに気持ちは届いていないのでしょう。

作品の丁寧な描き込み、画面上を解釈する面白さ、フェルメール作品と比較して観る楽しさなど、色々な面から絶対に見逃したくない本展における最重要な展示作品だと思います! 
▼個性がたっぷり感じられる肖像画!f:id:hisatsugu79:20181005012947j:plain
ヤン・デ・ブライ《ハールレム聖ルカ組合の理事たち》
アムステルダム国立美術館蔵

当時、オランダの職業画家たちは、みんな「聖ルカ組合」という職業ギルドに入らなければなりませんでした。本作はその聖ルカ組合の会合におけるスナップショット的な作品。みな画家として同じ盛装ですが、一人一人体型や顔つき、見ている方向が違います。肖像画、風景画、風俗画、静物画、歴史画、宗教画などオールジャンル揃い、百花繚乱だった17世紀オランダ絵画の隆盛を暗示するような1枚で見応えがありました。

▼動物が主役の静物画!f:id:hisatsugu79:20181005013029j:plain
左:ヤン・ウェーニクス《野ウサギと狩りの獲物》
アムステルダム国立美術館蔵
右:ヤン・デ・ボント《海辺の見える魚の静物》
ユトレヒト中央美術館蔵

こういう動物画も、静物画の一ジャンルとして需要があったのでしょうね。左側は屠殺されたウサギが逆さまに横たわっていたり、右の絵では不自然なほど太って大きな魚が描かれていて迫力満点。

▼幻想的な風景画!
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アブラハム・ブルーマールト《トビアと天使のいる風景》
ユトレヒト中央美術館蔵

こちらは、風景画ですが、見た瞬間に、著名な建築家・藤森照信氏のアート作品「高過庵」を連想させました。そっくりじゃないですか??!

▼藤森照信《高過庵》f:id:hisatsugu79:20181005095522j:plain
引用:Wikipediaより

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ニコラス・マース《窓辺の少女、または「夢想家」》
アムステルダム国立美術館蔵

こちらは僕の好きなニコラス・マースの作品。この人の作品は割りと意味深な表情を浮かべた人物が描かれる事が多く、絵の中にドラマをたっぷり感じられる点でフェルメールと似ていると思います。

この女性の表情も、なんだか一筋縄ではいかない感じです。真剣に何かを考えているのですが、思い詰めているというより何かたくらんでいるのかな?という複雑な表情。不思議な魅力のある作品でした。 

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ピーテル・デ・ホーホ《人の居る裏庭》
アムステルダム国立美術館蔵

同時代の作家として、フェルメール作品と頻繁に比較対象として展示される事が多いピーテル・デ・ホーホの作品もありました!共に庶民の生活風景を描く《風俗画》を得意とし、この絵では男と女がワイングラスを持つシーンなど、モチーフが《ワイングラス》と類似しています。また、「赤」「青」「黄色」と3原色を人物の服装に使う色彩感覚も結構似ていますね。

この人の作品って家のすぐ外での庶民の生活を描いた作品が多いのですが、フェルメールは《小路》《 デルフト眺望》の2作品を除いて、全て室内画なんですよね。ほぼ同じ時代、場所、ジャンルで活躍した作家同士を見比べて、違いを楽しんでみて下さい! 

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ヘラルト・ダウ《本を読む老女》アムステルダム国立美術館蔵

そして、今回見てすごく良かったのが、このヘラルト・ダウの本を読む老婆の作品。画中で描かれた書籍の紙の質感や、老婆の年老いた顔や手先のシワなど、フェルメール顔負けの高い写実性に引き込まれました。

また、この絵は17世紀オランダにおける識字率の高さも物語っていますね。グーテンベルグが15世紀に活版印刷を発明して200年が経過したこの時期には、もはや貴族だけでなく、一般庶民であっても男女ともに手紙を書き、難しい本も読みこなし、室内には絵画作品を飾るなど、文化レベルも熟成してきていたんだろうな、と唸らされました。

4.もう1点のフェルメール作品が隣の美術館で味わえる!

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 今回の展覧会で定義づけられたフェルメール作品全35点の中には入っていないのですが、だぶんこれフェルメールの作品かも?!と言われている作品《聖プラクセディス》が、上野の森美術館から徒歩3分の場所にある「国立西洋美術館」の常設展でいつでも観ることができるのです。

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ヨハネス・フェルメールに帰属《聖プラクセディス》
国立西洋美術館寄託作品、個人蔵
Wikipediaより引用

本作は、2014年、クリスティーズで日本人所有者が競り落としてから個人蔵となった後、国立西洋美術館に寄託される形で同館にて2015年3月から常設展示されています。キャプションでは、「ヨハネス・フェルメールに帰属」という形で紹介されています。

フェルメールの作品とされている根拠は、空の「青」にウルトラマリンブルーが使われていること、署名に「・・・Mer」と読めることなどとされています。良い機会なので、未見の方は是非フェルメール展とはしごしてチェックしてみて下さい!

5.会場限定の公式グッズも充実!

展覧会に来たら、やっぱり気になるのはお土産ですよね?!今回も、たくさんの注目グッズが用意されていました。特に気になったアイテムをピックアップしてみます。

▼多種類用意されたポストカードf:id:hisatsugu79:20181005014658j:plain

フェルメール来日作品全点に加え、ハブリエル・メツー、ヘラルト・ダウ、ピーテル・デ・ホーホなども用意されています。ほぼ展覧会のベスト作品を網羅!

▼メモパッド
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今回はメモパッドのラインナップの豊富さが目につきました。通常の展覧会では2~3種類しか用意されていないことが多いですが、この多彩さは凄い!

▼クリアファイルもたくさんあります!f:id:hisatsugu79:20181005011809j:plain

もちろん、クリアファイル好きの方々もご安心を!展覧会でお会いした熱烈なフェルメールファンの方がレジに持っていくところを激写させて頂きましたが、「クリアファイラーにとって嬉しい悲鳴です」とのこと。たくさん用意されてます!

▼フェルメールソックス!f:id:hisatsugu79:20181005011744j:plain

グッズとしては珍しい、フェルメールソックス!2種類用意されています。これからのシーズンでも暖かく履けるよう、厚手の秋冬用でした。

▼「牛乳を注ぐミッフィー」
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今回の展覧秋で一番目を引きました。ミッフィーの体型も、牛乳を注ぐ女といい具合にシンクロしています。熱心なファンがいるしこれは早々に売り切れそう!

▼プレイモービル
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これは限定タイアップではなく既存発売済商品なのですが、アムステルダム国立美術館とのコラボで、「牛乳を注ぐ女」のプレイモービル版です。

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チーズとパンがやたらデカいですよね(笑)

 ▼書籍コーナーも充実!新刊多し!f:id:hisatsugu79:20181005013220j:plain

書籍コーナーは、数多く出版されているフェルメール関連本の中から、公式ガイドブックや、最近出版された新刊を中心にムック、新書、雑誌、画集と揃っています。未読ですが、文春文庫『フェルメール最後の真実』はアート業界の舞台裏が書かれていそうで面白そうでした。(後ほど読んだらレポートします!)

6.美味!これはおすすめ!Soup Stock Tokyoの展覧会コラボスープ!

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そして、ちょうどこの日は入り口で「Soup Stock Tokyo」《牛乳を注ぐ女》との期間限定タイアップ商品の試食会をやっていました。

これが凄く美味でした!!

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極力17世紀オランダで使われていた(であろう)食材で、当時の人々が飲んでいたスープの味を再現してみたとのこと。オランダの「ゴーダ」チーズに牛乳などをミックスしたスープの中に、パンを漬けていただきます。

マスタードソースはお好みで。かくし味には、そしてパンに含まれていたくるみとレーズンも入っています。濃厚なチーズベースのスープに非常にマッチしてます!!

▼絵の中に描かれたパンとチーズを再現f:id:hisatsugu79:20181005011640j:plain

販売期間は、2018年10月5日~11月2日までの1ヶ月間。Soup Stock Tokyo全店で発売され、価格は630円です。上野の森美術館から一番近いお店は、JR上野駅の駅ナカです!展覧会の後は、こちらでガッツリ温まって下さい!

7.混雑状況と所要時間目安

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通常の美術館に比べて、その大きさや構造から、数時間待ちの超大混雑が発生しやすい上野の森美術館。しかし、今回は指定時間入場チケットを発売。そこまで大きく並ぶことはなさそうです。

逆に、会期後半になってチケットがソールドアウトになってしまわないように気をつけたいところ。早め早めに各種プレイガイドでチケットを予約して押さえておきたいですね。

展示点数が少なめなので、60分もあればゆっくり観ることができると思います。ちなみに、一度入場したら出るまでの滞在時間は無制限。せっかく来たので、ガッツリ長時間楽しむのもいいですね。

8.まとめ

2019年2月まで約5ヶ月間、東京・大阪で約半年弱楽しめるフェルメール展。数十年に1回レベルの非常に画期的な大規模回顧展です。僕も期間中は1ヶ月に1回~2回通って、遠征して大阪展限定の「恋文」も追いかけ、悔いのないように楽しみたいと思います。また、2018年の秋は上野にルーベンス展、ムンク展と西洋美術の巨匠が続々来日!美術展をはしごするのも面白いですね!

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

フェルメール展は楽しみにしていたので、今年の8月頃から約20冊フェルメールの関連書籍を読み込んできましたが、中でも【初心者・入門者】でも安心して読める上、展覧会が終わっても愛蔵版としてずっと使えるおすすめ書籍を5冊選んでみました。どれもハイレベルでわかりやすく、素晴らしい出来栄えです。

フェルメールへの招待

どれか1冊入門用に購入するのであれば、こちらがまずオススメ。知識ゼロの状態で読み進めても違和感なく読めますし、フェルメールのほぼすべての作品をカラー図版でも裏。初心者目線に合わせたやさしい解説が素晴らしいです。2012年のフェルメール展に合わせて出版されましたが、未だに版を重ねて売れ続けているベストセラーです。

もっと知りたいフェルメール

日本におけるフェルメール研究の第一人者、小林頼子氏が全面的に制作に関わった東京美術の定番ムック本。カラー図版、すっきりした解説でわかりやすさが確保されている一方、監修者が徹底してアカデミックな観点や、美術史的に正確な記述内容を担保してくれているのが「もっと知りたい」シリーズの特徴。この本で得た知識は、間違いなく本物の教養といって良いと思います。おすすめ。

フェルメール会議

2018年のフェルメール展に合わせ、アートブロガー「青い日記帳」Takさんが企画監修した、個性的なフェルメールのムック本。Takさんはじめフェルメール研究ではずば抜けた見識を持つ9名の識者が、様々な観点からフェルメールについて突っ込んで語り尽くしてくれています。

実は僕もこの本の執筆や構成、インタビューを手伝わせて頂きました。あくまで主観的な観点ですが、2018年秋に発売された数多くのムック本の中でもとびきり個性的で、情報量・クオリティ面でダントツ・・・だという自負があります。初心者向けにわかりやすい記述を心がけた反面、フェルメール上級者でも知らない知識や見解が多数出てきますので、「フェルメールを極めたい!」という方の予習・復習におすすめです。

売れまくって増刷されても僕にはこれ以上1円も印税みたいなものは入ってこないですが(笑)、せっかく頑張って作りましたので是非買って下さい!!

知識ゼロからのフェルメール鑑賞

有名な現代美術家・森村泰昌氏による斬新な入門書。フェルメール作品に対する個性的な絵の見方や創意工夫が凝らされた分析手法で、非常にわかりやすく解説してくれます。自ら得意のコスプレセルフポートレート表現で自らフェルメールの絵画世界の中に入り込み、体を張った分析も良かった。これは購入してよかった。

フェルメール原寸美術館 100% VERMEER!

高精細画像をうまく活用した画集や、ビジュアル重視の解説書を制作するノウハウは、大手出版社の中では小学館がNo.1だと思います。この「原寸美術館100%VERMEER!」でも、フェルメール絵画を原寸、あるいは部位によっては200%に拡大して、徹底して美しいビジュアルでフェルメール作品を丸裸にしていきます。原寸大写真の特性を生かして、普通鑑賞者が気づかないようなポイントまでしっかり解説してくれているので、より深い作品鑑賞が楽しめます。

展覧会開催情報

フェルメール展
◯美術館・所在地
上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩3分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩5分
・京成電鉄「京成上野駅」より徒歩7分
◯会期・開館時間
10月5日 (金) 〜 2019年2月3日 (日)
*開館・閉館時間が異なる日があります。
*会期中、一部作品の展示替えがあります。
◯休館日
12月13日(木)
◯観覧料金
前売日時指定券(税込)一般 2,500円、大高生1,800、中小学生1,000円
*未就学児は無料
*障がい者手帳保持者は本人と付添い1名まで割引
 来場時障がい者手帳要提示
*前売日時指定券料金は、来場日前日の23:59までの受付完了分が適用
*各時間枠の前売日時指定券は、予定枚数に達し次第販売終了
◯公式HP

www.vermeer.jp/
◯公式Twitter
<東京展>https://twitter.com/vermeerten
<大阪展>https://twitter.com/Vermeer_Osaka

ピエール・ボナール展で、豊かな色彩世界をたっぷり楽しもう!37年ぶりの大回顧展!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。 

「色彩の魔術師」と呼ばれる西洋美術の巨匠は数多くいます。ネットでちょっと検索すると、モネやマネといった印象派から、マティスやデュフィ、シャガールといったフォーヴィスムやそれに続く20世紀前半の画家たちが続々引っかかります。

今回、国立新美術館にて大規模な回顧展が開催中のピエール・ボナールもまた、豊かで意外性あふれる色彩感覚で、独自の作風を打ち立てた近代西洋美術の巨匠のうちの一人です。

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会場入口

郊外で描いた明るい風景画はまるでモネやルノワールのような印象派作品に見えますし、静かで落ち着いた室内画は、一見するとマティスのような作風にも見えます。

今回の「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」は、東京では実に37年ぶりの大回顧展開催となりました。ほとんどのアートファンにとって、生でボナールの作品をこれほど大量に楽しめる機会は恐らく初めてなのではないでしょうか?僕も、じっくり2回展覧会を見てきました。少し遅くなりましたが展覧会の感想レビューを書いてみたいと思います。

※なお、本エントリーで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.ピエール・ボナール展の概要について

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会場内風景。広々とした展示空間でゆったり楽しめます

ピエール・ボナールは、モネやルノワールといった印象派よりも少し後の世代の画家として、フランスで活躍した巨匠です。初期は、ゴーギャンに影響を受けた「ナビ派」のメンバーとして活動しつつ、キャリア中期以降は光や色彩に魅せられ、独自の色彩感覚に基づいた穏やかで親しみのある画風を打ち立てました。

▼ピエール・ボナール
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彼が活動した20世紀初頭以降、世界のアートシーンではキュビスムやそれに続く抽象絵画やアヴァンギャルドな前衛芸術が全盛を極めていました。しかし、ボナールは生涯を通じて自分自身のスタイルにこだわり、具象絵画の領域にとどまりました。

美術史の流れの中で位置づけるのが難しかったこともあり、没後しばらくは忘れられかけた時期もありましたが、20世紀後半にナビ派が再評価されるとともに、人気が復活。2015年、オルセー美術館で開催された「ピエール・ボナール展」では、会期中51万人を集めた人気展となったそうです。

今回、国立新美術館で開催されている「ピエール・ボナール展」は、ボナールの大規模な回顧展としては実に37年ぶりの開催となります。展覧会名の冒頭に「オルセー美術館特別企画」とある通り、フランス・オルセー美術館の所蔵作品を中心として、ボナールの初期~絶筆にいたるまで、大量130点超の作品が出展されています。

展示風景については、いつも頼れるInternet Museumさんが館内の様子を動画でYoutubeにアップして下さっているので、貼っておきますね。観ていただくとわかりますが、国立新美術館らしい、非常に広々とした展示空間の中で気持ちよく鑑賞できるようになっています。 

 

2.本展のみどころ・作品の特徴について

さて、ボナールの絵画作品は、「ナビ派」のメンバーだった初期以外、ほぼ独自路線でキャリアを歩んできているので、正直なところ、明確に特徴や見どころを解説するのが簡単ではありません。ただ、展覧会に2回通って、書籍等も含めて予習復習を重ねる中で、特徴や見どころが見えてきましたので、感想を交えながら順番に紹介してみたいと思います。

見どころ1:「ナビ派」に所属したキャリア初期作品

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ナビ派のメンバーたち(引用:Wikipediaより)

ボナールが20代の頃、アカデミー・ジュリアンの同窓生であるモーリス・ドニやポール・セリュジエ、エドゥアール・ヴュイヤールらと結成した絵画グループが「ナビ派」です。遠近法に基づき見たものを正確に写し取る写実性よりも、大胆な色彩表現や装飾的な構図を重要視して、新たな絵画表現を模索しました。ちょうど印象派と20世紀の抽象絵画の中間点に位置づけられるようなグループとして、近年再評価が進んでいるグループです。

展示室の最初の方の作品は、まさにボナールがナビ派として活躍した時期の作品が展示されています。グループの中でも、日本美術からの強い影響を受け、「日本かぶれのナビ」と呼ばれていたボナール。

たとえば、下記の作品《乳母たちの散歩、辻馬車の列》は強烈!まるで四曲一隻の薄墨水墨画のような屏風絵です!余白だらけで、茶色を主体に色彩を抑えた画風は、まさに日本画そのもの。たしかにこれなら「日本かぶれのナビ」とか言われますよね(笑)

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《乳母たちの散歩、辻馬車の列》ル・カネ ボナール美術館

もう一つ絶対見ておきたい作品がこちらです。

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《庭の女性たち》オルセー美術館 左から順番に
・《白い水玉模様の服を着た女性》・《猫と座る女性》
・《ショルダー・ケープを着た女性》・《格子柄の服を着た女性》

2017年に三菱一号館美術館で開催された「オルセーのナビ派展」でも目玉展示級の作品として出展されたこの”四季美人図”的な4枚1組の作品。

平面的にポーズをデフォルメされたモデルや、(順番は入れ替えてあるものの)春夏秋冬を1枚ずつ表現した四幅対の掛け軸を意識したような構成は、日本画からの強い影響を感じさせました。

ちなみに一番右の女性が着ている服装の「格子柄」は、初期作品を中心にボナールが非常に多用した絵柄ですね。解説によると「平面性を増幅する」効果があったとのこと。

また、ボナールのこうした平面的・装飾的なモチーフの追求は、版画によるポスター制作と相性がよく、展覧会ではボナールが当時手がけた代表作が展示されています。

特にシャンパンのグラスを手に、気持ちよさそうに陶酔する女性のポスター《フランス=シャンパーニュ》は有名です。思わず飲みたくなりますよね! 

▼ポスター作品も展示されていますf:id:hisatsugu79:20181016205537j:plain 
左:《ラ・ルヴュ・ブランシュ》
サントリーポスターコレクション(大阪新美術館建設準備室寄託)
右:《フランス=シャンパーニュ》
川崎市市民ミュージアム

見どころ2:画面上にあふれる色彩

ボナールは、室内の静物画や身近な郊外の風景画など、平和で穏やかな日常風景の一コマを好んで描きましたが、注目したいのはやはり「色彩」の豊かさです

特にキャリア中期以降の作品では、どの作品でもほぼすべての色が1枚の絵画の中に詰まっているのが凄い!「えっこんなところに紫が??」「なんでここを青に塗るかな??」と、近くに寄ってみると意外性あふれる色使いが楽しめます。でも引いて見てみると、しっかりと調和が取れた色使いに見えるのも不思議です。

たとえば下記の作品。

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《地中海の庭》ポーラ美術館

一見、印象派風の郊外の草原でくつろぐ家族の風景画ですが、近くに寄ってよーく見てみると、自由すぎる色使いが非常に心に残りました。

まず近景の草花は、緑ではなく黄色い色彩の中に溶け込んでいますし、遠景に描かれた森は、伝統的な遠近法に従えばもっと薄い青緑で描かれるところ、なぜか深緑で表現されています。面白いのは、画面一番手前の人物たち。本来、一番目立つように描かれることが多いモチーフであるはずですが、赤や茶色で「影」のように控えめに表現され、表情も全然読めません。もはや風景に一体化しようとしています(笑)

このように、画面のモチーフひとつひとつを観ると不思議な色使いが目立ち、あらゆる色が画面の中に使われているのですが、全体として3~4m離れて鑑賞してみると、そんなに違和感がないのです。

一見、適当にパパッと描かれたように見えますが、ボナールは1枚の絵画を描くのにながければ数年をかけることもあったと言います。一度目に焼き付けた情景を、自宅のアトリエでなんどもなんども心の中で振り返り、納得のいくまで自分らしい色彩や構図を追求したのでしょうね。

見どころ3:構図から見え隠れするストーリー

ボナールの作品では、画面上に置かれたモチーフは風景の中に溶け込んで渾然一体となっていることが多いのですが、「構図」の妙によって絵画からストーリーが浮き上がってくるように見える作品も多く展示されていました。

例えば下記の作品。

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《ブルジョワ家庭の午後 あるいは テラス一家》オルセー美術館

解説パネルや音声ガイドでも指摘されていますが、一見、上流家庭の優雅な昼下がりを描き出した作品ですが、画面左真ん中の少女の憮然とした表情や、すべての登場人物の目線がそっぽを向いていることから、家族の心はバラバラに離れているのではないかと解釈することもできます。

そして、よく見ると画面上の人物や家具、家屋などの各モチーフが不自然なほど垂直、水平方向にぴったり延ばされ、ぎこちなく配置されているのですよね。この、妙にカクカクした人物たちの配置も、画面上から暖かさを消して、不穏な緊張感を効果的に作り出しています。

もう1枚露骨に構図の面白さがでているのが、こちらの作品です。

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左:《男と女》オルセー美術館(※右:《親密さ》オルセー美術館)

たった今、男女の間で親密な時間が終わったばかりだというのに、二人を隔てる巨大な間仕切りが画面中央に!わかり易すぎますよね(笑)二人は肉体だけの関係だったのか、それともこの男女の葛藤する心理状態を象徴しているのか。間仕切り一つで、ストーリーをしっかり構築してしまうボナールの巧みな構想力は鑑賞の注目ポイントです。

また、よーく見ると女性のベッドの上には猫が2匹います。コトが終わって男がいなくなってもちゃんと猫はそばに寄り添ってくれているのです(笑)

ちなみに猫や犬などの小動物や子供など小さなオブジェクトが、擬態しているかのようにしばしば背景の色彩に溶け込んで一体化してしまっているのもボナール作品の特徴。目を凝らして、じっくり細部まで見ていくと、「あ、こんなところに猫が!」みたいな面白さを味わってみて下さい。

見どころ4:最愛の妻・マルトとの親密な日々

ボナールがキャリア中期以降に描いた作品群では、生涯連れ添った謎多き伴侶・マルトや、ボナール家の医師の妻であったリュシエンヌ、マルトを通して知り合った愛人・ルネなど、複数の女性が頻繁にモデルを務めました。

中でも、無類の風呂好きだったマルトの浴室や浴槽での入浴シーンを描いた一連の作品はインパクト抜群。作品中で描かれたモデルが取るポーズは、極めて自然で100%プライベートな姿・格好ばかり。

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左:《浴盤にしゃがむ裸婦》オルセー美術館
右:《浴室の裸婦》新潟市美術館

逆に、これだけ心理的に近い場所にモデルがいるのに、モデルの「顔」はしっかり描かないのがボナール流。誰をモデルにしたのかはっきりさせたくなかったのか、特に女性の体の美しさに鑑賞者の意識を集中させるためなのか。ただ、顔を描いていないことで、逆にモデルと画家の匂い立つような親密さがかえって強調されている感じもありました。

展覧会ではかなりの点数で、女性をモデルとした裸体画や室内画を味わうことができます。じっくり堪能してみて下さい。 

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左:《青い手袋をはめた裸婦》オルセー美術館
右:《化粧室 あるいは バラ色の化粧室》オルセー美術館

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左:《室内 あるいは 犬と女性》オルセー美術館
右:《バラ色のローブを着た女》ヤマザキマザック美術館

見どころ5:家族・小動物・食卓の風景

身近なお気に入りの情景を好んで描いたボナールが、特にモチーフとして登場させているのが、身近な親族などの「家族」や、猫や犬といった「小動物」、そして食器などが並べられた「食卓」、そして上述した最愛の妻「マルト」です。

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左:《猫と女性 あるいは 餌をねだる猫》オルセー美術館
右:《食卓の母と二人の子ども》個人蔵(京都国立近代美術館寄託)

たとえば、本展ポスターのメインビジュアルにもなっている《猫と女性 あるいは 餌をねだる猫》は、まさにボナールお気に入りのモチーフ全部のせ状態。室内の「食卓」に「マルト」と「小動物」が描かれています。しかも、ボナール作品では珍しく、真正面からおだやかなマルトの顔を描いています。マルトを無邪気な顔つきで覗き込む猫の一瞬の表情もしっかり捉えられた良い作品だなと思いました。

《食卓の母と二人の子ども》は「家族」が「食卓」で(恐らく)朝ごはんを食べているシーンを描いています。こちらは、ドラマ性が感じられる作品。よく見ると、食べているのは女主人だけなのです。真ん中の娘は手が止まっていますし、影の中に入った息子は、やる気ない表情をしており食事に興味がなさそう。反抗期なのでしょうか。さわやかで何一つ不自由なさそうな上流階級の家族の中に、不穏な空気が入り混じった面白い作品でした。

続いて、下記の作品《ボート遊び》も面白いですよね。

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《ボート遊び》オルセー美術館

解説パネルにもあった通り、水場で楽しげに遊ぶ子どもたちが手前に大きく描かれており、鑑賞者は子供と一緒に船に乗っているような感覚を得られます。ちなみに岸辺には女の子たちやヤギが何頭か、背景に同化して隠れています。こうした隠れキャラを見つける楽しみもぜひ味わってみて下さい!

見どころ6:印象派のような明るい風景画

最後に紹介したいのが、展覧会後半で紹介されている明るい郊外の風景画シリーズ。ノルマンディーの風景や明るい日差しが印象的な南仏の風景などは、画面の中にはまるで印象派のように光があふれています。

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左:《南フランスのテラス》グレナ財団
右:《ル・カネの眺望》オルセー美術館(リール宮殿美術館寄託)

でも、こうした作品も目を凝らしてじーっと画面をくまなく探してみて下さい。繰り返しになりますが、意外な色彩が紛れ込んでいたり、人物や子供が背景に隠れキャラのように同化して描かれています!

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左:《アンディーブ(ヴァリアント)》オルセー美術館
右:《紫色の家のある風景》オルセー美術館

3.会場限定の公式グッズも充実!

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グッズショップ風景

展覧会場を見終わると、最後に待っているのはお楽しみのグッズ売場。今回も、会場限定で買える、アイデア満載の商品が沢山用意されていました。いろいろあった中から、特に印象深かった商品を紹介しますね。

展覧会といえばやっぱり図録

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僕も入手しましたが、掲載された図版は非常に発色が良く、あとで見返した時いろいろな発見がありました。収録されたコラムも、ハイレベルで読み応えがあります。まだまだ日本語で気軽に読める書跡や画集が少ない中、貴重な資料だと思います!

たくさん揃っています!ポストカード

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今回用意されたポストカードは、充実の27種類!僕も自宅トイレ観賞用に、初来日作品をいくつかゲットしました!

印象的な色使いのクリアファイル

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「橙」「水色」「緑」「紫」など、ボナール的なやわらかい背景色に、ボナールの作品が印刷されています。仕事でガンガン使っても違和感ないですよね。

おしゃれなカクテルグラス

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ボナールの初期作品《庭の女性たち》があしらわれたカクテルグラス。ぴったりなじんでいますよね。

シブい!一筆箋

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一筆箋も非常に洗練されていておしゃれでした。こちらもモデルは《庭の女性たち》です。

意外な用途にも使えそう?!メガネケース 

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オリジナルグッズとしては珍しい、メガネケース。わりと大きめだったのでメガネだけでなく、大事な小物やアクセサリーの収納用にも使えそうです。

食べ終わった後も楽しめる!榮太樓飴 

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1818年に日本橋で創業し、約200年の歴史を誇る「榮太樓總本鋪」とのコラボ商品。中には榮太樓飴が封入されていますが、美味しく頂いたあと残った缶ケースをそのまま小物入れに使えそうです!

4.混雑状況

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会場内風景

9月26日から展覧会が開催されて約3週間経過しましたが、現状のところ土日を含めて、快適に楽しめるようです。10月下旬から別フロアで「生誕110年 東山魁夷展」がスタートすると、相乗効果で少し混雑することがあるかもしれません。すごく良い展覧会なので、逆にもっと注目されて、少し混雑してほしいくらいなのですが(笑)

所要時間は、人によって大きく変わると思います。展覧会では、パッパッと見ていく人と、かなり時間をかけてじっくりチェックする人とパターンが分かれるようでした。ちなみに僕は時間をかける派で、2回目の鑑賞は2時間ガッツリ堪能しました!

5.まとめ

ボナールの作品は、パッと見ただけじゃその魅力が分かりづらいかもしれません。僕も、最初にマルトを描いたボナール作品を2016年夏に開催されたポンピドゥー・センター展で観たとき「ぼんやりした作品だなぁ」とその魅力に気が付きませんでした。

でも、その後色々な展覧会で少しずつ観るようになって、1度だけでなく2度、3度と見返すことでボナール作品の面白さや奥深さが少しずつ、少しずつわかってきました。

今回の展覧会では、印象派作品のように比較的わかりやすい作品もありますし、人間ドラマが見え隠れする面白い構図の作品も多数用意されました。何度も観ていくことで、自分なりの新しい視点や楽しみ方が見つかる展覧会だと思います。僕も会期中あと1~2回は観る予定です。ボナール作品をまとめて一気にチェックできる貴重な機会なので、是非展覧会に足を運んでみてくださいね。

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

もっと知りたいボナール 

展覧会に合わせて発売された、東京美術の初心者向け定番ムック本「もっと知りたい~」シリーズ。初期のナビ派作品から、晩年の南仏時代まで、ボナールのプライベートな出来事とリンクさせながら、作品を時系列に紹介してくれています。展覧会の副読本としては、図録とこの本があれば鬼に金棒です。

展覧会開催情報

オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展
◯美術館・所在地
国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
◯最寄り駅
・東京メトロ千代田線乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口直結
・東京メトロ日比谷線六本木駅 4a出口から徒歩約5分
・都営地下鉄大江戸線六本木駅 7出口から徒歩約4分
◯会期・開館時間
開催中~12月17日(月)
10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで。
※入場は閉館の30分前まで。
◯休館日
毎週火曜日
◯観覧料
一般1600円/大学生1200円/高校生800円
※中学生以下無料
※高校生無料観覧日は11月14日(水)~11月26日(月)
 学生証要提示
◯HP
・展覧会オフィシャルHP
http://bonnard2018.exhn.jp
・国立新美術館HP
http://www.nact.jp

日本美術を気楽に楽しもう!加島美術「美祭-BISAI-」は年に1度の楽しいイベント!【展覧会レビュー・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ数年、日本美術が静かなブームを迎えています。50万人以上を動員した2017年の「国宝展」「運慶展」など、首都圏・関西圏を中心として、仏教美術や日本絵画の大型展覧会は大盛況です。書店でもずいぶん日本美術を特集した書籍が目立つようになってきました。

そんな中、もっと気軽に・身近に日本美術を楽しんで欲しいという思いから、自らの画廊を中心として様々なイベントを開催し、「日本美術を所有する」楽しさを伝えているのが東京・京橋にある日本美術専門の画廊「加島美術」です。

今回、お邪魔したのは、同画廊が所蔵する美術品を一挙に展示・販売する、春と秋の年2回開催されるイベント「美祭-BISAI-24」です。通常の展覧会のように観て楽しんでも良いですし、気に入ったらその場で作品を購入することもできます。早速、「美祭-BISAI-24」の感想や楽しみ方を紹介したいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真は、主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

加島美術のイベント「美祭-BISAI-」とは

「美祭-BISAI-」は、年に2回、春と秋に開催されている美術品展示販売会で、2018年秋で24回目となります。出展されるのは、近世から現代までの日本画、洋画、墨蹟など、同画廊が保有する約380点の作品。

▼画廊内展示風景
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といっても、美祭の期間中、画廊内で常時展示されている作品は約120~130点。残りはカタログ内に記載されており、展示されていない作品を見たい場合は、係員の方にお願いすれば奥の倉庫から出してきてくれます。

面白いのは、展示替えの方法。美術館・博物館のように時期が来たら展示替えされるのではなく、画廊内に展示されている作品が売れたら、随時展示替えされていくそうです。

ちなみに、出展される作品をカラー写真で収めたカタログは、今回2種類が用意されています。比較的買いやすい廉価商品を収めた通常版(白)と、特に価格が高い優品だけを厳選して収めた特装版(赤)の2種類です。

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これらのカタログは、お願いすればなんと無料で郵送してくれるそうです。こちらのフォームから請求できますので、お気軽にどうぞ。図録のようにパラパラ観ていくだけでもかなり楽しめますよ。

カタログはこちらから請求
https://www.kashima-arts.co.jp/contact/index.html

なお、2年前の映像ですが、「美祭-BISAI-」について紹介している加島美術制作の公式Youtube動画がアップされていましたので、紹介しておきますね。 

ついでにもう1本。

加島美術は、現在BSフジでのミニ番組「アートな夜!」(毎週月曜日22:55~23:00)のスポンサーとして1社独占提供中ですが、過去に放映した30分特別番組「若冲をあなたのそばに」ダイジェスト版もYoutubeで公開されています。これを見ると、加島美術の画廊内の様子や、どんな画廊なのかよりよく理解できると思います。こちらも貼っておきますね。


「美祭-BISAI-」の3つの楽しみ方!

年に2回開催される加島美術のお祭り「美祭-BISAI-」はいろいろな楽しみ方ができるイベントです。

1.作品を「無料で」鑑賞する

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画廊で開催されるアートイベントなので、「美祭」での展示品は基本的にすべて購入可能。しかし、他の画廊同様に、購入せず見て楽しむだけでももちろんOKです。美術館や博物館での展覧会と全く同じように、自由に館内を見て回ることができます。

▼2Fの茶室スペースでの展示風景f:id:hisatsugu79:20181021090338j:plain

入館料は無料な上、館内で展示されている作品は常時100点以上あるので、美術館での企画展に匹敵する内容の濃さ。しかも、展示品の7割~8割は、ガラスケースなしの裸展示。マナーをきちんと守れば、かなり近くまで寄って、至近距離で楽しむことができます!

▼目玉展示!伊藤若冲《恵比寿図》f:id:hisatsugu79:20181021090456j:plain

▼接近してじっくりチェック!f:id:hisatsugu79:20181021090526j:plain
若冲独特の技法「筋目描き」もじっくり見れました

また、展示作品は極端に寄って1点撮り・接写するのはNGですが、「展示風景」として好きな作品の撮影・SNSへのアップもOKとのこと。

江戸時代あたりから近現代作家まで、誰もが名前を知る巨匠クラスから、没後知名度が下がってしまった知る人ぞ知る名手まで、幅広く名品が展示されているので、自分の好みにあった意外な出会いができるかもしれません。広報の渡邊さん、後藤さんも「作品を見に来て頂くだけでも大歓迎です。是非楽しんで観ていってください!」とのことでした。

2.値札をチェックする!

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作品の横には価格入りのキャプションが!

買わなくても良い!と上記で書きましたが、でも、それぞれの展示作品には作家名・作品名と一緒に必ず値札が書かれています。

作品に対する値付けは、過去の取引実績や、直近の取引相場を参考に加島美術でのプロの鑑定家が決定するのだそうですが、非常にバラけていて面白いです。

▼作品の価格は全部ガラス張りになってます
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例えば、伊藤若冲や円山応挙、上村松園、東山魁夷といった、誰もが知る人気作家はちょっとした小品でも普通に数百万円クラスの値付けとなっている一方で、彼らと同程度の技量を持ちながら、没後人気が低迷してしまった実力派の絵師の良作が、わずか数十万円で買えてしまったり。

たとえば、明治30年代、岡倉天心の下、茨城県・五浦で修行した横山大観と木村武山。共に日本美術院でエース格として切磋琢磨した同期生でしたが、100年経過した現在、知名度には圧倒的な差がついていますよね。それを反映してか、二人の作品には価格面で100倍以上の格差がついているのは実に面白かったです。

▼横山大観・木村武山の価格比較f:id:hisatsugu79:20181021092626j:plain
横山大観はさすがの安定した人気ぶり

面白いのは、自分自身の絵に対する主観的な評価と、市場価格を反映した値付けが全く違っていることです。「えっ、こんなにしっかりした作品なのにこの値段で買えちゃうの?」と掘り出し物を見つける楽しさが感じられました。

普段美術館・博物館では体験できない「価格を比較する面白さ」を味わってみて下さいね。

3.気になった作品を買う 

観ているだけでも楽しいですが、「美祭-BISAI-」では作品を実際に購入することもできます。

アート作品なんて金持ちじゃないととても手が出ない・・・というのは、完全に誤解です。特に、日本絵画は西洋絵画や現代アートに比べると非常に買いやすい価格帯のアイテムが揃っているのです。

カタログを見ると、しっかりした作品でも10万円台、20万円台と、普通のサラリーマンでも(なんなら新卒でも)、余裕で手を出せるレベルの買いやすさ。海外から買い付けに来た外国人も、日本絵画の価格の安さに非常に驚くそうです。

買い方は簡単。実際に館内の作品を見て、あるいはカタログ内で気になる作品があれば、館内で待機している係員の方に声をかけましょう。すると、館内の空いている打ち合わせスペースで気軽に商談ができます。

ちょうど、この日はたまたま僕の知り合いのアートブロガー、yamasanさん(@yn600301)とばったり遭遇。すでに購入したいアイテムが決まっているそうで、ばったりお会いした時、手には付箋でびっしりのカタログが。「今から商談に入る!」とのことでしたので、特別にお願いして商談シーンを撮影させてもらいました。

▼意中の作品を最終チェックするyamasanさんf:id:hisatsugu79:20181021093226j:plain

yamasanさんは、筋金入りの熱心なアートファン。東京をはじめ、南関東首都圏の展覧会を熱心に回り、NTTレゾナントが運営する「gooいまトピ」では毎回濃厚な取材記事をアップされています。

yamasanさんの「いまトピ」での記事一覧はこちら。
yamasan - いまトピ

過去、加島美術で6作品を購入されているそうで、今回の「美祭-BISAI-」でも、自宅にてあらかじめカタログで購入ターゲットを決めてから満を持して初日に来場されました。

対して、yamasanさんの応対をするのは若手の営業エース、藤田さん。手慣れた手付きで、yamasanさんからリクエストがあった作品を箱から出していきます。普段、日本画を取り扱ったことがないので、ケースから出して展示する一挙手一投足に釘付けになってしまいました。(素人丸出し^_^;)

▼作品を箱から出して優雅な手付きで展示する藤田さんf:id:hisatsugu79:20181021093650j:plain

結局、何点かお買い上げになったようですが、あとでリストアップされている作品を拝見したら、さすがyamasanさん。するどい審美眼をお持ちです。価格はリーズナブルながら、非常にクオリティの高いアイテムを購入されていました。

▼商談中の机の様子f:id:hisatsugu79:20181021093306j:plain

展示作品の中から特に面白かった作品を紹介!

せっかくなので、この日は、約90分かけて展示された全作品を「購入するつもりで」見て回ることにしました。いわゆるエア買い付けという行為です(笑)特に面白かった作品を値札とともに(!)紹介しますね。もし僕が大富豪で豪邸を持っていたとしたら、これを買うかなという作品をピックアップしてみました。

森寛斎「溪山遊猿図」(500,000円)

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江戸時代の森派の絵師、森寛斎が丁寧に描いた堅牢な山水画。狩野派と円山四条派の良いとこ取りをしたような画風でしょうか?画面中央部の滝や渓流など、ダイナミックな水の流れが細かく描かれた作品なのですが、作品に近づいてよーく見てみると、滝の下では何匹もの猿が遊んでいます。

▼目を凝らすと、画面には何匹もの猿が!f:id:hisatsugu79:20181021095149j:plain

猿を描く名手だった森派の創始者・森狙仙へのオマージュなのでしょうか。でも猿たちの姿は写実的と言うより、コミカルでほほえましい感じ。

▼他にもいっぱいいる猿たち!
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小林清親「武蔵野々火災林透之図」(1,000,000円)

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明治初期、「光線画」という浮世絵の新ジャンルを打ち立てた小林清親が手がけた肉筆画。洋画に近いスタイルで描かれているのは日本画の定番モチーフ「武蔵野」です。

パッと引きで見て「あー、夕暮れの叙情的な風景だな」と思ったら、よーく見てみると、そこはやはり小林清親らしさが。

林の中に描かれたオレンジ色の光は、沈む太陽ではなくて、山林火災の炎なのでした(笑)浮世絵でも火事になっている構図が代表作としてよく紹介されますが、やっぱりこの人、根っからのジャーナリスト体質だったのですね。特に火事となれば飛んでいって取材したのでしょうか・・・。

▼モチーフの意外性、叙情的な構図が見どころf:id:hisatsugu79:20181021095654j:plain

本多天城「円窓懸崖瀑布」(180,000円)

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泉屋博古館分館で開催中の企画展「狩野芳崖と四天王展」、狩野芳崖の知られざる4人の高弟のうちの一人として、前後期合わせて多数の山水画が出展されている本多天城。僕もこの展覧会で初めて名前を知りました。 

狩野芳崖や橋本雅邦の作風を一歩推し進め、コントラストのはっきりしたビビッドな色使いや、「ここを見ろ!」と言わんばかりの押しの強い遠近法の活用は、非常に個性的でわかりやすいのです。

本作も、濃淡がはっきりした色使いに、鮮やかな金砂子で急峻な崖に流れる急流を描いた劇的な作風。画面にぐぐっと引き込まれました。それにしても知名度の低さからなのか、180,000円とはお買い得すぎ!

▼ドラマチックな構図に金砂子でダメ押し!f:id:hisatsugu79:20181021100057j:plain

小茂田青樹「粉雪」(4,000,000円)

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琳派に影響を受けた筆使いや、装飾的な画面構成、西洋の象徴主義絵画のような幻想的な色使いなど、独自の絵画世界を持つ小茂田青樹ですが、本作もまた小茂田ワールド全開の良作。

いい感じに丸くデフォルメされて幸せそうな表情を浮かべる2羽のおしどりがかわいいですし、点描で表現された満開の枝垂れ桜も叙情的。

▼まるまる太った幸せそうなおしどりf:id:hisatsugu79:20181021102251j:plain

面白いのは、画面全体にきらきらひかる銀箔を散らしたような表現なのですが、よーく近づいてみてみると、銀箔ではなくて、薄墨(または銀泥)を銀箔のように1つ1つ手作業で置いていっているのですね。膨大な工数がかかっています。

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小茂田青樹の作品は、遠くから見るとそうは見えないのですが、近くに寄って見てみるとどれも非常に手が込んでいて、丁寧な手仕事で制作されているのが、本作からもよくわかりました。状態も非常に良く、今回の「美祭-BISAI-24」でも加島美術一押しの作品。4,000,000円という高価格なのも納得です。

小川芋銭「ましらさけ」(450,000円)

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樹上でうつろな表情をする猿が印象的だった作品。なんだかやる気のない表情だなと思って眺めていたら、絵画のタイトル「ましらさけ」を聞いて納得。この絵は、猿が集めてきて、足元の木のくぼみに溜め込んだ果実が自然発酵してできた天然のお酒(=猿酒)を飲んで、酔っ払ってしまった図なのですね(笑)

野生の猿たちは秋になると、猿酒で宴会を開くと言う伝説がありますが、そこから俳句や短歌では「猿酒」は秋の季語になっているそうです。

▼酔っぱらいの猿
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▼木のくぼみで自然発酵した果実酒f:id:hisatsugu79:20181021095815j:plain

円山応挙「花鳥池中鯉図」(4,500,000円)

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大小様々な鯉が池の中を優雅に泳ぎ回り、頭上には満開の花と鳥が描かれた、おめでたい構図の絵です。透き通るような水の表現が非常に涼しげで、春~夏にかけて床の間にかけてみたい作品。4,500,000円とお値段が張るのも納得です。

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圧倒的な写実力はさすが応挙!

今尾景年「江村蛍火図」(280,000円)

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今尾景年は、明治~大正期にかけて京都画壇で活躍した四条派の画家です。生前は竹内栖鳳や山元春挙らと日本画における京都画壇を牽引した大御所的存在でした。昨年動物をフィーチャーした回顧展が大好評だった木島櫻谷を育てた実績もある実力のある作家なのですが、今ではすっかり忘れ去られてしまいました。

僕がこの人の作品を初めて見たのは東京国立博物館の近代絵画コーナーだったのですが、ひと目見て、力強さと優美さが同居した今尾景年の水墨画に惚れ込んでしまいました。

本作は、霞がかかった白と黒だけの夜の水辺のに、ホタルが控えめに乱舞する作品。よーく目を凝らしてみてみると水草の間に舞うホタルや、金泥で描かれたホタルの光が描かれています。叙情的で良い作品でした。

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金泥でボーッとした優しい光を上手に表現!

大橋翠石「仔猫之図」(350,000円)

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体毛の1本1本まで丁寧に描いた「虎」の絵が有名な大橋翠石ですが、この猫の絵画も凄い!虎画で培ったノウハウが惜しみなく投入された、モフモフした体毛の猫、可愛すぎます。好きな人には350,000円っていうのは圧倒的に安い!と感じるだろうな~。

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もふもふ感が強調された仔猫たち

甲斐庄楠音「太夫」 (600,000円)

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独特の妖しさと官能性を秘めた美人像を描いた、知る人ぞ知る美人画の名手、甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)の作品も出展されていました。

こうやって普通に引いて観ると、甲斐庄楠音にしては妖艶さがマイルドに抑えられているように思えるのですが、近づいてみると驚愕!

最初は、女性の顔にまず目が行くのですが、女性の目線を目で追っていくと、何やら手に見慣れないものをつまんでいます。さて、女性が手に持っているものは・・・?!

▼手に見慣れない変なものをつまんでいるf:id:hisatsugu79:20181021095858j:plain

なんと、裏返しになった小さなカエルでした!

▼指先で小さなやせたカエルをつまんでいました
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さすが甲斐庄楠音。やってくれます。このカエルが画面にもたらすなんとも言えない異物感や、気持ち悪さ・グロさ寸前の妖しさこそが彼の真骨頂ですよね。床の間に飾るには少し勇気がいるかもしれませんが、非常に面白い作品です!

西郷南州「氷輪」(2,800,000円)

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最後は、書跡から1作品紹介。西郷南洲=西郷隆盛の作品です。西郷隆盛や大久保利通、勝海舟ら明治の元勲たちはたくさんの書跡を残しています。中でも西郷隆盛は、豪快さの中にも繊細さが同居しているような感じの作風で、たまに東京国立博物館で見るたびに、いいなぁと密かに思っていました。 

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幕末・維新の名士たちの作品も多数展示されています

その他にも、山岡鉄舟、勝海舟、徳川慶喜ら、幕末・維新のキープレイヤーたちの書跡が多数出展されています。見比べてみるのも面白いですよね。

まとめ

「SEITEIリターンズ」のような注目企画展の開催や1社スポンサー枠のテレビ番組運営、「七夕入札会」といった、初心者でも気後れせず参加しやすいイベント開催など、抜群のアイデア力と企画力でいつもアートファンを楽しませてくれる加島美術。

「美祭-BISAI-24」では、観て楽しむのもよし、買って楽しむのもよし、色々な楽しみ方を提供してくれています。僕は現状のところ「観て楽しむ」専門ですが、展覧会とはまた違う意外な作品との出会いや、値付けの面白さなども十分楽しめました。

普通の美術展と変わらない気軽さで入れますので、日本画好きのアートファンの方は、是非足を運んでみてはいかがでしょうか?

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

加島美術「美祭-BISAI- 24」

◯美術館・所在地
加島美術

〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2
◯最寄り駅
・東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分
・東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7から徒歩約2分
・都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から徒歩約5分
・JR東京駅八重洲南口から徒歩6分
◯会期・開館時間
2018年10月20日(土)~11月4日(日)
10時00分~18時00分
◯休館日
なし(会期中無休)
◯入館料
無料!
◯加島美術公式HP
https://www.kashima-arts.co.jp/

◯Twitter
https://twitter.com/Kashima_Arts


快慶・定慶展の美仏たちは仏像ファン必見!大報恩寺の寺宝を堪能できました!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年の秋は、特に首都圏を中心に仏像系の展覧会が非常に充実しています。中でも、快慶・定慶・行快ら鎌倉時代のスター仏師集団「慶派仏師」の仏像が勢揃いした展覧会が、東京国立博物館で開催中の特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」です。

2017年秋、同博物館で開催された「運慶」展は、会期中約60万人の観客を動員したブロックバスター的な美術展となりました。運慶を中心に、父・康慶や子・湛慶、弟子である康弁らが制作した、鎌倉時代の国宝がずらりと並んだ凄い展覧会でした。

本展は、そんな「運慶」展だけでは飽き足らず、もっと慶派仏師たちの活躍を観たい!という人にはうってつけ。前回の「運慶」展では紹介されなかった快慶やその弟子行快、そして運慶の個性的な弟子だった定慶の3人を中心に、たっぷりと慶派仏師の仏像の魅力を堪能できる展覧会です。

すでに2回足を運びましたが、見れば観るほど本当に良い作品ばかり。本エントリでは、出展されている仏像の魅力を中心に、展覧会の見どころや感想をお伝えしていこうと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.快慶・定慶展とは

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現在開催中の特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」は、 洛中最古の木造のお堂を擁する大報恩寺(通称:千本釈迦堂)の霊宝殿に納められたアイテムのうち、重要文化財に指定されている主力作品を筆頭に、ほぼすべての重要な寺宝を展覧会場で展観してくれています。

また、今はもう失われてしまった北野経王堂ゆかりの名宝も、合わせて出展されています。北野経王堂は、足利義満によって建てられた仏堂で、寛文十年(1671年)に維持費用の問題から解体され、残された輪蔵や経典、仏像が大報恩寺に収蔵されています。

2.大報恩寺(千本釈迦堂)について

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大報恩寺本堂の外観(2018年夏・筆者撮影)

せっかくなので、本展の開催が決定してから、一足早く2018年夏に大報恩寺を訪問してみました。タクシーで「大報恩寺まで」と言うと、地元の運転手さんに通じません。ひょっとしたら、と思って「千本釈迦堂まで」と言い直したらわかってくれました。

タクシー運転手さんいわく、「地元の人には”千本釈迦堂”という通称で昔から親しまれているよ」とのこと。確かに、お寺の入口には「千本釈迦堂」と書いてあります。

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大報恩寺(千本釈迦堂)正門(2018年夏・筆者撮影)

その大報恩寺(千本釈迦堂)のある場所ですが、有名なお寺・北野天満宮の近くの住宅街の中に、ひっそりと佇んでいます。 平安京があった時代、内裏のすぐ裏手にあったようですね。

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拝観料を支払い、本堂へ入ると、本堂の柱には、応仁の乱の激しい戦闘の爪痕が。柱には刀や槍の痕跡が残っていました。当時、西軍は本拠地として大報恩寺の近辺に陣を構えていたそうです。

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本堂内の柱に刻まれた刀槍跡(2018年夏・筆者撮影)

そして、お参りを済ませると、本堂奥の、知る人ぞ知る慶派仏師のお宝が眠る「霊宝殿」へ。本展に出展されているほとんどのお宝は、普段はこの巨大な倉庫に収められているのです。 

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霊宝殿の入り口(2018年夏・筆者撮影)

ちょうど、Youtubeでは大報恩寺の境内の様子がよくわかる動画が熱心な有志の人によってアップされていました。観光客が殺到する有名な市内観光スポットとは違い、いつ行っても快適にお参りができるようです。 

  

3.展示作品の主なみどころと感想

さて、そんな大報恩寺ですが、今回の展覧会に合わせて、普段は霊宝殿に収められている寺宝から、主力となるアイテムのほぼすべてを出展してくれています。その中でも、特に絶対見逃したくない見どころをいくつか絞って、感想を書いてみたいと思います。

見どころ1:室町時代の傑作「傅大士坐像および二童子立像」

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1418年、仏師・院隆(いんりゅう)によって制作された三体セットの仏像。中央の傅大士が、左童子(普成)と右童子(普建)を従えます。傅大士は中国南朝で実在した僧侶で、人々が回すとご利益を得られるという、輪蔵と呼ばれる、大蔵経を収めるための回転式書架を発明したと言われる中国の偉人です。

それ以来、輪蔵の正面にこの三体の像がセットで設置されるのが慣習となりましたが、本像はその最も古い作例なのです。

慶派仏師たちが手がけた写実的で剛健な作風とは違い、優雅で細やかな「院派仏師」の丁寧な仕事ぶりが堪能できました。左右に配置された、口を空けて笑う童子たちの人懐っこい福面も味わい深いです。

見どころ2:小さいけどこれは必見!「誕生釈迦仏立像」

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誕生釈迦仏立像 京都・大報恩寺蔵

釈迦は実在した人物です。そんな釈迦の有名なエピソードの一つとして、生まれてすぐに7歩歩き、右手で天を指差し、同時に左手で地を指して、「天上天下唯我独尊」と宣言したという伝説があります。

その姿を表現したのが「誕生仏」と呼ばれ、釈迦の誕生を祝う「灌仏会」で祀られるために、奈良時代から多数の作例があります。

本作は、作者未詳ではあるものの、快慶の弟子、行快が制作した可能性が指摘されています。切れ長な眼に、天地を指す手付きが非常に力強く表現されています。写真では分かりづらいですが、天地を指す人差し指は明らかに太く長く強調されており、指先の先端までぴーんと力がみなぎっているような造形が印象的でした。

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誕生釈迦仏立像 京都・大報恩寺蔵

こちらは角度違いです。シンプルですが、見れば見るほどよく作り込まれた秀作です。 

見どころ3:珍品?!「天王および羅刹立像」

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天王および羅刹立像 京都・大報恩寺蔵

下記で紹介する快慶《十大弟子立像》が設置された部屋の目立たない片隅に展示されているため、さらっと通過しがちなのですが、仏像好きなら絶対この小さな6つのお像に目を止めてみてください!

どれも人間と言うより、ゴブリンやオークのような亜人像のような「異形」の仏教彫刻です。(日本美術的に言うと「眷属」でしょうか)見どころは、極限まで盛り上がった、人間離れした筋肉美や筋肉造形です。まるでステロイドでもやっているのかと思うほど、ミケランジェロも真っ青な物凄い筋肉を備えた異形の亜人達。おどろおどろしい感じもあるのですが不思議に目が惹きつけられてしまいました。

どうですかこの迫力!これぞ奇想の仏像!

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天王および羅刹立像 京都・大報恩寺蔵

会場で偶然お会いした仏像研究者いわく、「この手の眷属のような異形の像は、江戸時代のものなら骨董屋でもしばしば出回りますよ。でも、鎌倉期の慶派仏師の手によるとされるものはまず見ないですね。・・・そして、運良く買えたとしても相当高いと思います」

だそうです。

こちらは別の角度から撮影したもの。 どうですかこの異形の筋肉美?! 

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天王および羅刹立像 京都・大報恩寺蔵

見どころ4:行快「釈迦如来坐像」

本展のメイン展示となる2つの部屋のうち1つ目は、快慶の一番弟子・行快の制作した大報恩寺の秘仏本尊《釈迦如来坐像》です。同じ部屋に展示された快慶《十大弟子立像》の”御本尊”的な位置づけでセットが組まれていました。

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行快《釈迦如来座像》 京都・大報恩寺蔵

普段は秘仏として、大報恩寺の本堂内陣の須弥壇の上に置かれた厨子の中に安置されています。下記写真で見ると、画面中央の扉の中にあるのですね。

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大報恩寺・本堂内(2018年夏撮影)

人の目に極力さらすことなく大切に守り継がれてきたからなのか、胴体、光背を含め非常に状態が良いです!制作当初の金箔の輝きがほぼそのまま残っています。

やや丸顔でがっしりした肩幅。目をしっかりと見開き、きゅっと口唇を閉めた凛々しい表情は、非常に男性的。全身から強い意志を感じました。後ろまで回り込める360度展示です。

見どころ5:快慶作「十大弟子立像」

釈迦如来坐像の回りを固めていたのが、快慶の傑作《十大弟子立像》です。大報恩寺の霊宝殿では一列に整列した密集隊形で展示されていましたが、今回は東京国立博物館の広い展示スペースを生かした、贅沢な展示空間が広がっています。

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十大弟子というのは、文字通り、釈迦の最も近くにいた10人の高弟を指しています。他の仏画などでも、老人から若者まで幅広い年齢層で描かれることが多いです。

快慶が制作した《十大弟子立像》でも、顔つきや体型、服装やポーズできっちりと個性を持って描き分けられていました。

▼個性がしっかり描き分けられた十大弟子立像f:id:hisatsugu79:20181018160527j:plain
左:快慶《迦旃延立像》 京都・大報恩寺蔵
右:快慶《阿那律立像》 京都・大報恩寺蔵

慶派仏師らしく目の瞳には「玉眼」が実装されており、天井部のLEDライトに反射して、より一層写実性が増しています。ちなみに僕の一番のお気に入りは、釈迦の一番弟子《舎利弗立像》

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快慶《舎利弗立像》京都・大報恩寺蔵

日本人離れした彫りの深い表情は、インド系の人たちの顔の特徴をよく捉えているように思えました。日本から出たことのない快慶が、どうしてこんなにインド人っぽい表情の仏像を作ることができたのか非常に謎です。

もちろん、それぞれのお像の裏側へと回り込んで、360度様々な角度から仏像を鑑賞することが可能です。仏像の後ろ側も、衣服の衣文線などきっちり彫り抜かれ、彩色を施されていた跡がよくわかります。

▼裏側から鑑賞するのもまた楽しい!
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快慶《舎利弗立像》京都・大報恩寺蔵

見どころ6:肥後定慶作「六観音菩薩像」

そして、最後の大きな展示室が、本展の2つ目のハイライトである、肥後定慶作《六観音菩薩像》です。

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六観音菩薩像 展示風景

六観音菩薩とは、日本の密教で考案されたオリジナルの観音菩薩の組み合わせです。仏教では、人々が輪廻転生する世界として、六道(天道、餓鬼道、地獄道、畜生道、阿修羅道、人間道)という6つの世界があるとされます。六道それぞれの世界において人々を救う観音として、既存の観音菩薩から選ばれたのが「六観音菩薩」です。

まず、仏像の表情を見るとわかりますが、どのお像も目や鼻、口といったパーツが非常に小ぶりな反面、顔のボリューム感がたっぷり取られています。師匠である運慶の影響を受けつつも、運慶とは明らかに違う個性がそれぞれの仏像に宿っていました。

もちろん、快慶が制作した《十大弟子立像》と同じく、6体それぞれ、顔つきや装飾品、ポーズ、光背や台座のデザインに至るまで、非常に細かく描き分けられています。

こちらも、後ろに回り込んでの360度鑑賞が可能となっています。 

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肥後定慶《十一面観音菩薩立像》 京都・大報恩寺蔵

なお、会期後半(10/30~)には、6体とも光背部分が取り外された状態の展示に代わります。光背のある/ないでどれくらい雰囲気が変わるのか見比べてみるのも楽しいですね。

ちなみに、僕の気に入った観音像を2つ紹介しておきますね。

▼如意輪観音菩薩坐像
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肥後定慶《如意輪観音菩薩坐像》 京都・大報恩寺蔵

6体のうち、このお像だけ座った状態で、如意輪観音特有の頬に手を当てて思索にふける表情が楽しめます。

 ▼馬頭観音菩薩立像
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肥後定慶《馬頭観音菩薩立像》 京都・大報恩寺蔵

五大明王や十二神将のように、いわゆる忿怒の相を浮かべたお像なのですが、頭の天辺の馬のお顔が結構かわいいです(笑)そして、額には第三の目が玉眼で埋め込まれ、阿修羅像のように両サイドの顔も楽しめるなど見どころ満載。

そして、本展では、六観音菩薩像の一番左に配置された《聖観音菩薩立像》は、写真撮影&SNSへの投稿が可能です!床に引かれた黒い線の内側に入れば、どの角度からも自由に撮れるのです!

▼聖観音菩薩立像
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肥後定慶《聖観音菩薩立像》 京都・大報恩寺蔵

せっかくなので、こんな感じでアップで顔を捉えてみました。ライティングがしっかりしているので、あごが二重になるくらい、肉付きたっぷりのどっしりとしたお顔も、鮮明に観ることができます!

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肥後定慶《聖観音菩薩立像》京都・大報恩寺蔵 

4.会場限定の公式グッズも充実!

今回の展覧会でも、展覧会場限定の公式グッズが多数販売されていました。その中から、特に良さそうだったアイテムを紹介してみますね。

迫力の拡大画像が秀逸!まずは公式図録!

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展示点数が少なかったためか、通常2,500円~3,000円程度かかることが多い図録は多少安めの価格に設定されています。

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出展作品数が少なめな分、《十大弟子立像》《六観音菩薩像》は、1体ずつ拡大高精細画像が多数用意され、衣文のひだや、残っている彩色、展示では見えない手のひらまでガッツリ楽しめます。これは凄い!

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なによりも、今回の大傑作を、高精細迫力画像で自宅に帰っても何度も楽しめるのがいいですよね。非常に発色の良い印刷でした。

准胝観音菩薩立像のフィギュア!

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仏像マニアにはたまらない、会場限定の特性フィギュアが発売されています。遠くから見てもわかるほど、小さめの顔のパーツ、ふっくらとした丸いお顔といった定慶仏の特徴がしっかり写し取られています。

根強い人気!会場限定の記念御朱印

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大きなお寺の展覧会を開催すると、意外に大人気となるのが御朱印。企画展限定の御朱印は、間違いなくレアアイテムです!

定番の文房具類もばっちり!

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パンフレットのイメージ通り、淡い紫の高貴な光につつまれ、かっこよく撮影された十大弟子立像や六観音菩薩像をあしらったポストカードやマグネット、メモ帳、クリアファイルなどの定番グッズが充実しています。

▼クリアファイル
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▼一筆箋
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この一筆箋に印刷された十大弟子立像の集合写真は特にかっこよくて、しばらく見惚れてしまいました。先頭の目犍連立像の決意に満ちた表情がたまりません! 

京都の老舗「豆政」の豆菓子がズラリ!

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食べ物の中で一番目を引いたのが、この「豆政」の豆菓子です。100年以上の歴史を持つ京都の老舗らしく、京都を強くイメージさせる上品なパッケージを見ていると、ついつい買いたくなります。 

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僕が購入したのは「和アーモンド味」。パッケージに惹かれた”ジャケ買い”でしたが、非常に楽しめました!

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人気の仏像イラストレーター、田中ひろみさんとのコラボ商品!

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そして、 最近大人気の仏像イラストレーター、田中ひろみさんのイラストを配した各種コラボ商品が4種類発売!最近、毎日のように仏像めぐりで全国を回り、テレビ出演も増えるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの大活躍ですよね。

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中でも目を引いたのが、専用ペンつきの仏像開運ポストカード。田中ひろみさんらしいコラボ商品です。描いているとだんだん心が静まり、ご利益がありそうですね。 

5.混雑状況と所要時間目安

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展覧会開催当初はほとんど混雑していませんでしたが、開始3週間を経てそれなりに混雑してきました。とはいえ、広い展示室に、1体1体かなりのスペース的な余裕をもって配置されているので、会期終了間際の土日祝日午後以外は、快適に観ることができるはずです。

展示点数は少なめなので、30分~60分あればOK。僕が2回目に平日昼間に行った際は、営業途中(?!)のサラリーマンなどスーツ姿の人が目立ちました。(いや僕も会社づとめしてたときはこんな感じでよくサボってましたが^_^;)気が向いたら、フラッと立ち寄ることができる程よい展示量です。 

6.まとめ

本展を2回見てわかったのですが、やはり慶派のスター仏師達はすさまじい技量の持ち主ばかりでした。最新鋭のライティング設備で360度展示された仏像と、高精細画像で隅々まで詳細を捕らえた公式図録で、慶派仏師の実力をがっつり堪能できた展覧会でした。この秋文句なくおすすめの仏教美術展です!

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

枻出版「運慶・快慶と慶派の美仏」

絶対的なスーパースターである運慶・快慶だけでなく、鎌倉時代に活躍した慶派仏師全体を取り上げ、彼らの優れた作品を美麗なカラー写真で紹介しています。10月18日現在、Amazonでベストセラーになっているのも納得。購入してよかったです。

もっと知りたい慶派の仏たち

信頼・定番の東京美術「もっと知りたい~」シリーズ最新刊。価格はよくあるムック本より500円程度高いのですが、どの号も必ずその分野の研究における第一人者が書いているため、きちんと最新の学術成果に基づいた正確な記述を読むことができます。きちんと勉強したい人は、この本がお薦め! 

展覧会開催情報

特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
◯開催地
東京国立博物館 平成館 特別第3・4室
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
◯最寄り駅
JR上野駅公園口、鶯谷駅南口から徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、東京メトロ千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅から徒歩15分
◯会期・開館時間
2018年10月2日(火) ~12月9日(日)
※会期中に展示替あり
9:30~17:00
※入館は閉館の30分前まで
※会期中の金曜・土曜、10月31日(水)、11月1日(木)は21:00まで開館
◯休館日
毎週月曜日
◯観覧料金
一般1400円/大学生1000円/高校生800円
※中学生以下無料
※「マルセル・デュシャンと日本美術」との2展セット料金
一般2000円

今度の東山魁夷展はスケール感が凄い!唐招提寺障壁画の再現セットを見逃すな!【展覧会レビュー・感想・混雑対策】

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かるび(@karub_imalive)です。

10月24日から、国立新美術館で生誕110年を記念した回顧展「東山魁夷展」がスタートしました。東京では10年ぶりの大型回顧展となります。わずか36日間と非常に短い会期ながら、キャリア初期から絶筆となった晩期の作品まで、代表作がほぼ全て集結した、非常に力の入った展覧会となりました。東山魁夷の画業の集大成とも言える、唐招提寺御影堂の障壁画が美術館内に再現された展示は圧巻です。

さっそくですが、プレス内覧会にて取材をさせて頂くことができましたので、感想や見どころをレポートしてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.東山魁夷展とは

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東山魁夷といえば、「青の巨匠」「国民的画家」と呼ばれるなど、第二次世界大戦後、日本の復興・高度経済成長とともにキャリアを歩んできた現代日本画作家のうち、もっとも成功した有名作家のうちの一人です。

そんな東山魁夷の生誕110周年を記念して、京都・東京の2会場を巡回する、過去最大規模の回顧展が2018年に開催されることになりました。

すでに、京都展は大盛況のうちに終了。続いて、いよいよ36日間限定開催での東京展が10月24日から東京・国立新美術館でスタートすることになりました。東京では約10年ぶりの大回顧展となります。

ちょうど、東京展の主催者であるテレビ東京の公式Youtubeにて広報用動画がアップされていましたので、こちらを参考に貼り付けておきますね。館内風景や主な出展作品が30秒動画の中で簡潔にまとめて説明されています。

2.東山魁夷について最低限知っておきたいこと

さて、美術館に通い慣れた中級以上のアートファンの中には、すでに何度か東山魁夷展を見たことがある方も多いのではないかと思います。ここでは、【初心者が知識ゼロから】東山魁夷展に参加する時、事前に知っておくと鑑賞の満足度が深まる最低限の事前知識を整理しておきたいと思います。

旅する「国民的画家」東山魁夷

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展覧会場写真パネルより引用

没後約20年経過した現在でこそ「巨匠」として位置づけられていますが、東山魁夷は、実はかなり遅咲きの日本画家なのです。

学生時代は非常に優秀でした。父を説き伏せ、日本画家として身を立てようと東京美術学校に合格して以来、やまと絵の名手、松岡映丘と、西洋画の技法に長けた結城素明に師事するなど師匠にも恵まれ、2年次から卒業するまでの4年間は特待生に選ばれるなど、成績優秀で前途を期待される存在でした。

しかし、画業において本格的にブレイクしたのは、意外にもかなり遅く、39歳になってから。渾身の風景画《残照》が第3回日展で特選を獲得したことで、躍進のきっかけをつかみました。それ以降、日展を中心に活動を続け、90歳で亡くなるまで「風景画家」として活躍しました。

魁夷のインスピレーション源は、旅行先で魁夷が出会った「いいなと思える風景」です。旅先で描きためたスケッチやメモを頼りに、自らの心象風景を投影して、幻想的・叙情的な作品を作り出しました。

魁夷は、作品制作のために、京都をはじめとして日本全国へとスケッチ旅行へ出かけた他、北欧4カ国やドイツ・オーストリアの「古都」めぐりなど、定期的に海外にも赴きました。本展では、写生旅行でのスケッチ・習作に基づいて制作された様々な風景画が展示されています。

「青の巨匠」東山魁夷


Amazon.co.jpより引用

東山魁夷の作品における最大の特徴は、「東山ブルー」とも言われる、独特な青の使い方。彼は生涯において約1260点の作品を描いていますが、うち、青系の色彩が多用された作品は1/3以上の約470点にもなるのです。(『別冊太陽』東山魁夷』より)

特に、昭和40年代~50年代にかけて日展でともに活躍した「赤」の色使いを得意とした日本画家、奥田元宋と合わせて、「魁夷の青、元宋の赤」と呼ばれていたそうです。

一口に「青」といっても、エメラルドグリーンのような色合いから群青のような濃い青、青紫色までバラエティに富んだ「青」が表現されていますが、共通するのは、透明感のある澄んだ「青」が表現されているということ。

魁夷は、清冽感あふれる「青」を最大限活用して、誰もがどこかで観たことがあるような普遍的な美しい風景を、叙情的・幻想的に表現しました。時代の空気ともマッチした魁夷の作風は、日本人の感性にぴったりフィット。国民的画家として不動の評価を得ることになったのでした。

より理解を深めるには、「肉声入り」音声ガイドがおすすめ

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東山魁夷が亡くなったのは1999年。生前から、常に国民的画家として画壇から注目され続けてきただけに、肉声を収めた取材テープなども数多く残っています。展覧会場で用意された音声ガイドでも、通常の作品解説に加えて、生前に東山魁夷が作品について本人の肉声で語ったトラックが2つ聞くことができますので、非常におすすめです。

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3.見どころ1:風景画

それでは、僕が展覧会を観てきた中で、見どころと感じた展示を、印象的な作品を取り上げながら紹介していきたいと思います。

風景画に目覚めた1枚「残照」

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《残照》東京国立近代美術館

上記でも書きましたが、本作は東山魁夷が自然の雄大さに心打たれて風景画に開眼し、風景画家としての巨大な成功を掴むきっかけとなった作品です。

「青の巨匠」とは言われていますが、意外にも売れっ子画家としてのきっかけを掴んだ作品は赤/茶系統の暖色系の色彩が優勢でした。澄み切った空の水色から手前の茶色の山肌まで、色合いのグラデーションが見事な作品です。

第二次世界大戦での過酷な疎開生活と従軍で疲弊し、両親や弟に先立たれた上、第1回日展でも落選し・・・と、本作を描く直前、30代後半にして人生のどん底にあった魁夷。まさに国破れて山河あり。しかし傷心のうちに写生旅行に出かけた近所の山で開眼することになるのだから、人生何があるかわかりませんよね。

未来の国宝?!国民の精神的支柱となった代表作《道》

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《道》東京国立近代美術館

ご存知、歴史や美術の教科書にも掲載される、戦後日本美術史の中でもっとも有名な絵画となった作品です。絵のモデルとなったのは青森県八戸市の種差海岸。戦前、戦後と時間をおいての2度の取材を元に、自らの心象風景を重ね合わせて、より普遍的・抽象的な風景画へと仕上げられました。本作に対して、1967年に出版された『風景との対話』で、魁夷自身、

「道」という作品を描いたことは、私にとって大きな意義を持つものであった。過去への郷愁に牽かれながらも、未来へと歩みだそうとした心の状態、これから歩もうとする道として描いたところに、生への意志といったものが感じられる。その二年前の、川のある青い風景「郷愁」と、この「道」の間には、一つの線が引かれているように思える。

と語っています。

《道》を評価するための大切な先行作品として考えられているのが、夕暮れの農村風景を描いた《郷愁》です。《郷愁》は、失われた故郷や過去の思い出への愛惜の意をこめて制作された作品でした。

▼自ら先行作品として位置づける《郷愁》(写真左)f:id:hisatsugu79:20181024144235j:plain
左:《郷愁》長野県茅野市
右:《月宵》香川県立東山魁夷せとうち美術館

これに対して、《道》は過去への郷愁を未だ引きずりつつも、その一方でしっかりと前途を見定め、未来志向で取り組んだ一作だったということです。

本作は、明快な構図やテーマ性が、戦後復興を目指した日本国民の心情にぴったり寄り添った作品として、国民に幅広く支持を得ましたが、本作を手がけた魁夷自身が、作品から一番エネルギーをもらえていたのかもしれませんね。

初期の代表作《秋翳》

その他、初期作品で特に目を引いたのは、紅葉に染まる秋の山を描いた第1回新日展出展作品《秋翳》。

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《秋翳》東京国立近代美術館

「単純な形の中に複雑なものを表したい」として、非常にシンプルな構図を採用する半面、秋から冬へと移りゆく季節の中で、木々が見せる様々な表情を、微妙な色彩の濃淡や細かく1本1本の形状を描き分けることで豊かに表現しようとしています。

よーく見ると、確かにピンク、オレンジ、朱色、茶色と様々な色合いが描き分けられていたり、木々の形も少しずつ変化を付けて描かれています。自然の多様性と統一性(あるいは単純さと複雑さ)が一つの絵画作品の中で同時に表現された見事な作品だと思いました。

幻想的な作品が多数!北欧旅行で作風を広げた魁夷

日展でブレイクし、売れっ子作家として多忙な日々を送っていた魁夷は、1962年4月18日~7月29日まで、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの北欧4カ国を3ヶ月以上かけて旅して回りました。帰国後、北方で味わい尽くした雄大な自然風景をモデルとして、精力的に作品に落とし込んでいきます。

本展でも、そのうちの代表作がいくつか展示されているのですが、個人的には第8回新日展へと出展された《白夜光》のスケール感に圧倒されました。

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《白夜光》東京国立近代美術館

取材地は、森と湖の国、フィンランドのクオピオ。魁夷は、丘の展望台から見えたモミの木がどこまでも広がる雄大な景色を写し取ったスケッチを元に、本作を描きあげました。

ポイントは、画面中央で水平に大きく広がった湖。雄大な景色が画面のはるか奥や、外側にまで無限に広がっているように思わせる効果をもたらしています。弱く灰色に光った湖面の表情も、北欧らしい、穏やかな陽光を感じさせました。

もう1点紹介しますね。 

▼第7回新日展に出展された《冬華》f:id:hisatsugu79:20181024144256j:plain
《冬華》東京国立近代美術館

霧氷に覆われ、珊瑚を思わせる1本の大きな木の上に描かれたのは、薄霧の中でぼーっとした日輪を浮かび上がらせた白夜の太陽。(※月ではないのです!)

半円形に描かれた樹木と太陽が相似形で互いに向き合ったシンプルな構図、そして白とグレーの2色のみで表現された色彩。にもかかわらず、画面は幻想的で荘厳な雰囲気に満ちており、ずーっと足を止めて観ていたい気持ちにさせられます。

古都・京都を描いた「京洛四季」シリーズ

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魁夷が手がけた作品として、特に有名なのが京都を描いた連作作品《京洛四季》シリーズです。本展では、その《京洛四季》シリーズのためのスケッチや習作がまとめて展示されました。

往復書簡が合計で100通残されているなど、生前に文豪・川端康成と篤い親交があった魁夷。康成は京都を舞台にした名作「古都」を書き上げましたが、魁夷にも「京都を描くなら今のうちです」と、失われゆく古都の風情を絵画作品にするように薦めていました。

そんな康成に触発されて魁夷が京都の四季を描いた作品が、一連の《京洛四季》シリーズです。本展では習作・スケッチの出展ですが、ただの下絵ではありません!習作であっても、きっちり最後まで作品として仕上げられていました。

巨大な代表作品群に囲まれ、つい見過ごしてしまいそうになりますが、古き良き京都における四季の風景美を叙情的に描いた傑作でした!

▼秋をテーマとした作品f:id:hisatsugu79:20181024144154j:plain
左:《京洛四季習作 照紅葉》長野県信濃美術館 東山魁夷館
右:《京洛四季習作 初紅葉》長野県信濃美術館 東山魁夷館

▼冬をテーマとした作品f:id:hisatsugu79:20181024144210j:plain
左:《京洛四季習作 年暮る》長野県信濃美術館 東山魁夷館
右:《京洛四季習作 北山初雪》長野県信濃美術館 東山魁夷館

ドイツ・オーストリア旅行でも新境地を開拓

北欧旅行から5年後の1969年、60歳と還暦を迎えた魁夷は、妻・すみを伴って、前回の北欧旅行より更に長期間となる、約5ヶ月間のドイツ・オーストリア写生旅行に出かけます。学生時代、ドイツへ私費留学した時には観ることができなかった古都の数々を回り、人間と自然が美しく調和した風景画を描き出しました。

その中で、特に面白かった作品をいくつかご紹介します。

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左:《古都遠望》個人蔵
右:《晩鐘》北澤美術館

それぞれ、街や森の中に高くそびえる尖塔を中心に、古都を象徴するような風景が描かれています。右の《晩鐘》は、分厚い雲の切れ間から下界へと差し込む木漏れ日の表現が、非常にスピリチュアルな雰囲気を醸し出していました。 

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《窓》長野県信濃美術館 東山魁夷館

こちらは、風景画と言うより17世紀オランダの風俗画のような趣きもある、魁夷にしては珍しく、スケッチそのままに現地の庶民生活の一コマを描いた作品。しかし画面にわらわらと人物が登場するオランダ風俗画と違って、断じて人物を画面上に持ち込まないのは、実に魁夷らしいと感じます。 

1年限定で登場!「白い馬」の作品群

1972年、それまでほどんど作品の中に生き物を描いてこなかった魁夷が、突如としてこの年だけ「白馬」を画面の中に描くようになります。1972年に描いた作品は全部で19作ありますが、19作品すべてに、「白馬」が登場しているのです。

魁夷いわく、「白馬は祈りの象徴」として画面に現れたとのこと。より一層叙情性・幻想性が増した「白馬」の作品は、魁夷作品の中でも特に人気になっていますね。あなたは、この「白馬」を何の象徴として観るでしょうか?

 ▼妖しく幻想的な大作《白馬の森》
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《白馬の森》長野県信濃美術館 東山魁夷館

青一色で表現された深遠な森の中、突如現れた白馬。闇に迷い込んだ鑑賞者を導いてくれているのか、あるいは白馬自身が迷い込んでしまったのか。ファンタジー小説の一場面のような、幻想的な作品です。

▼大人気!《緑響く》f:id:hisatsugu79:20181024142134j:plain
《緑響く》長野県信濃美術館 東山魁夷館

本作では、魁夷が繰り返し好んで描いた、湖に反射して写り込んだ「倒影」が楽しめます。また、魁夷十八番の「青緑」の色使いも冴え渡っています。鏡のような湖面、東山ブルー、白馬と、まさに東山魁夷作品のエッセンスを凝縮して詰め込んだような作品。

ちなみに、魁夷が《緑響く》のモデルとした湖へと聖地巡礼した方が、動画をYoutubeにアップしています。お時間があれば、チェックしてみてください!

晩年の傑作群も見どころ満載!

晩年の魁夷は、足を悪くして長旅でのスケッチ旅行ができなくなってしまいます。そこで、過去にストックしてあった手元のスケッチや下絵などを元に、より自由にイマジネーションを飛翔させ、神聖な雰囲気が漂う幻想世界を描くようになりました。

本展では、晩年の作品は最後の展示室にまとめて展観されていますが、どれも本当に素晴らしい作品ばかり。

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《静唱》長野県信濃美術館 東山魁夷館

朝もやに霞む中、背が高く二列に並んだポプラ木々が静かに居並ぶ風景。湖面すれすれの目線や深い奥行きから、壮大なパノラマ感が得られる作品です。かすかに描かれた微風に揺れる湖面や、淡く霞んだ柔らかい色彩に惹きつけられました。

▼最晩年の作品f:id:hisatsugu79:20181024173802j:plain
左:《木枯らし舞う》長野県信濃美術館 東山魁夷館
右:《夕星》長野県信濃美術館 東山魁夷館

絶筆となった作品が写真右側の《夕星》。魁夷は、本作制作中に90歳で亡くなりました。夜の暁光の中、対岸に立つ4本の木々は、まるで三途の川の向こう側で魁夷のことを手招きしているような最愛の両親・弟・義父に見えてきます。まるで魁夷が自らの最期を悟っていたかのような印象的な構図でした。 

4.見どころ2:唐招提寺御影堂障壁画

そして、本展のハイライトとなるのが、展示後半で一挙展示される唐招提寺御影堂の障壁画です。1970年~1981年の間、10年以上をかけて全5部屋の障壁画を2期に分けて完成。襖絵と床貼付絵全部合わせて全68面の大仕事でした。

「青」を堪能できる第一期制作

制作第1期で手がけたのが、「濤声」「山雲」足掛け12年をかけ、失明しながらも5度目のチャレンジで執念の来日を果たした鑑真に対する最大限のリスペクトを表したのが、得意の「青」で表現した海景画と山水画でした。

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《唐招提寺御影堂障壁画 濤声》唐招提寺

近づいて見てみると、強烈な吹き抜ける中、じっと岩礁の頂きで耐えて根を張る1本の松が、不屈の折れない心を持つ鑑真に見えてきたり。

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《唐招提寺御影堂障壁画 濤声》唐招提寺

また、この岩の間からこぼれ落ちる水の表現や、岸壁に打ち寄せる波しぶきの表現なども非常に見事でした。

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《唐招提寺御影堂障壁画 濤声》唐招提寺

続いて、《山雲》。深い霧が降りてきた山中に流れる滝や、丁寧に1本1本描き分けられた繊細な木々の描写が見どころ。

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《唐招提寺御影堂障壁画 山雲》唐招提寺

そして、違い棚の上部の引き出しには、1羽の鳥が青いシルエットで描かれています。唐招提寺障壁画で唯一描かれた動物です!

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《唐招提寺御影堂障壁画 山雲》唐招提寺

「水墨」に目覚めた第二期制作

第二期となる残り3部屋では、魁夷はキャリア初挑戦となる水墨画を手がけました。中国へ3度渡航しての取材旅行を経て着想された大作です。「異国に生涯を終えた鑑真のたましいを、せめて祖国の風景でお迎えしたい」という魁夷の思いを乗せて、中国の山水風景が描かれました。70歳を過ぎてから、まだ新たな技法に挑戦しようとする旺盛な意欲はさすがです。 

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《唐招提寺御影堂障壁画 黄山暁雲》唐招提寺

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《唐招提寺御影堂障壁画 桂林月宵》唐招提寺

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《唐招提寺御影堂障壁画 揚州薫風》唐招提寺

いくつかの風景では、城郭都市や湖に浮かぶ小舟などが描かれていますが、やはり人影だけがありません。徹底して風景のみ描き出す、という方針はブレず。 

▼人物は描かれず、小舟だけが湖上で浮いているf:id:hisatsugu79:20181024142628j:plain
《唐招提寺御影堂障壁画 揚州薫風》部分図 唐招提寺

ちなみに、障壁画が展示されていた唐招提寺御影堂は、現在大掛かりな工事中。しばらく唐招提寺に参拝しても観ることができません。だからこそ、本展で是非見ておきたいところです。

お時間のある方は、御影堂の工事シーンをYoutubeでチェックしてみてください。建物自体をレールでスライドさせるもの凄い工事が始まっています!

 

5.会場限定の公式グッズも充実!

さて、展示を見終わったら、会場限定の公式グッズをチェックしてみましょう。今回も、魅力的なグッズが多数あなたを待っています!

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公式図録

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展示作品が約70作品と少なめなこともあり、図録の価格は2,000円と非常にリーズナブルな価格に抑えられていました。特に、唐招提寺障壁画の襖絵は他の画集に比べてもかなりの高画質で掲載されており、お得感があります。

クリアファイル

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魁夷の代表作が1作品ずつあしらわれたクリアファイル。複数種類用意されています。

店員さん一押し!ダブルファイル!

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そして、こちらが店員さんオススメのダブルファイル。合計4面に、魁夷の代表作が隙間なく並べられ印刷されている、お得感のあるグッズです。毎日たくさんの作品を楽しめますね。京都会場では、売上No.1商品だったそうです。

ポストカード

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出展されている作品の大多数が揃っているポストカード。これは凄い!選びたい放題です!

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ちなみに、《京洛四季》シリーズから選ばれた、展覧会オリジナルの10枚セットは少し価格的にお得。1枚あたり80円で購入できます!

スマホケース

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スマホケースも、人気の2作品から選ばれています。特に、スマホを手にするたびに《道》を見返すと、初心に帰って頑張れそうですよね。

和三盆

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最後に、ばいこう堂とのコラボ商品。展覧会場限定で発売される「和三盆」です。これからの季節、熱いお茶と一緒におやつにいただくとはかどりそうですよね。

6.混雑状況と所要時間目安

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会場風景

会期がわずか36日間と短いことから、会期後半はそれなりの混雑が予想されます。ただ、会場はかなりゆったりしていることや、作品一つ一つが大きめなので、ある程度混雑しても、全く作品が見えないということはなさそうです。後列から観るときのために備えて単眼鏡や双眼鏡を持っていくとスムーズに鑑賞できそうですね。

作品の点数はそこまで多くないので、鑑賞時間は、60分~90分あればOKかと思います。

7.まとめ

わかりやすく安定した構図、優美で幻想的な色使いで、戦後の日本を代表する国民的画家となった東山魁夷。本展は、キャリア初期から晩年に至るまで、大作や代表作がほぼ全て網羅された充実した回顧展となりました。美術鑑賞初心者でも、文句なく楽しめる展覧会です。会期が短いので、混雑しないうちにお早めにどうぞ!

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

もっと知りたい東山魁夷―生涯と作品

東山魁夷の画業を、キャリア初期の修行時代から絶筆に至るまで、それぞれの時代の代表作をオールカラーで取り上げながら解説してくれます。ビジュアルと文章解説のバランスが丁度よい入門書。初心者・入門者向けの中では一番のおすすめです!

もっと知りたい東山魁夷の世界

東山魁夷展に準拠して制作された、最新のムック本。東京美術のムックとタイトルがほとんど同じですが(笑)、東京美術本に比べると、新しさと写真の大きさ、価格の安さで勝っています。ビジュアルも充実していますので、こちらでもいいと思います。

大判アートカレンダー2019

2019年のカレンダー。日本絵画をテーマとしたカレンダーでは、毎年かなり売れている定番商品ですが、1年間ずっと魁夷の絵がそばにあるのはうれしいですよね。

展覧会開催情報

生誕110年 東山魁夷展
◯美術館・所在地
国立新美術館 企画展示室2E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
◯最寄り駅
・東京メトロ千代田線乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口直結
・東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
・都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
◯会期・開館時間
2018年10月24日(水)~12月3日(月)
10時00分~18時00分
※毎週金・土曜日は20時まで
※入場は閉館30分前まで
◯休館日
毎週火曜日
◯観覧料(当日)
一般1600円/大学生1200円/高校生800円
※中学生以下無料
※11月23日~25日は高校生無料観覧日(要学生証提示)
◯公式HP
・国立新美術館HP
・展覧会オフィシャルHP
http://kaii2018.exhn.jp

【XYLOLOGY(キシロロジー)】若手木彫作家が集った、異色の注目展覧会が面白かった!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ最近、美術館や博物館で開かれる展覧会では、仏像展が大ブレイクしています。鎌倉時代の仏像彫刻の傑作を集めた「運慶展」は期間中、60万人もの人出がありましたし、現在開催中の「醍醐寺展」(サントリー美術館)、「仏像の姿展」(三井記念美術館)、「快慶・定慶展」(東京国立博物館)など、いずれも非常に評判が良いようです。

その一方、仏像以外の木彫作品って、展覧会ではそもそも観る機会がほとんどないかもしれません。最近でこそ「超絶技巧」というくくりで、非常に精巧な工芸作品を集めた展覧会の中で紹介されたり、旅行先等でアートホテルや地域芸術祭の中で、ちらほら観ることも増えてきましたが、美術館等では若手木彫作家の作品をまとめて観る機会はまだまだ少ないのが現状です。

そんな中、木彫作品の面白さや多様性、可能性などを知ってもらいたい、という思いから、有志の若手木彫作家達が、自主的に立ち上げた企画が、今回取り上げる「XYLOLOGY(キシロロジー)」という展示イベントです。

上野の東京国立博物館のほぼ真裏にある古民家を借り切って、約2週間限定でスタートした展覧会、初日に行ってきましたので、簡単にレポート・感想を書いてみたいと思います!

 

1.XYLOLOGY(キシロロジー)とは 

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東京国立博物館の裏に、明治~昭和期に活躍した木彫作家の大御所、平櫛田中が住んでいた旧家があります。10月27日から約2週間限定で、「XYLOLOGY」という、少し毛色の変わったユニークな若手木彫作家たちのグループ展が始まりました。

何がユニークなポイントなのかというと、この「XYLOLOGY」という展示イベントは、主催者の金巻芳俊さんをはじめ、作品を出作家自身で運営する自主企画であるということ。展示会場との交渉、期間中の展示運営、クラウドファンディングを活用した展示費用や図録作成など、通常の展覧会ではやらないような裏方仕事まで、すべて作家自身で行っているのです。

 

芸大を卒業したばかりの、実績もない駆け出しの作家がこのような形で作品発表の機会を作るのはよくあることですが、若手とはいえ、すでにどこかの画廊と契約し、それなりに実績のある作家たちが、仲間と協力しながらゼロから展覧会を立ち上げるのは非常に斬新な試みでもあるのです。

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「XYLOLOGY」で公開制作中の金巻芳俊さん

なぜ、若手とはいえ、画廊に所属し、プロとして実績のある作家たちが、わざわざ敢えて自主企画展をゼロから立ち上げたのでしょうか?

企画のリーダーである金巻さんに話を聞くと、

「『木彫』に対する危機感があるんです。ジャンルとしてはどちらかというと古いメディアに属する「木彫」に対するイメージを変えたい。現代の若手木彫作家たちが取り組んでいる、自由でクリエイティブな木彫の世界をたくさんの人に見て、知ってもらいたいんです」

とのこと。

確かに、現状では、若手木彫作家に対する自由な発表の場が非常に少ないのは、毎週のように展覧会回りをしているとよくわかります。比較的メディアの露出なども多い、舟越桂や三沢厚彦、須田悦弘といった有名なベテラン勢ならともかく、中堅~若手作家たちの作品を、ギャラリー以外の場所でしっかり観ることができる機会は、現状ではほぼ皆無と言えるかも。

次々と新しい形態のメディアが登場し、アート表現が多様になる中で、敢えて「木彫」にこだわり、多様な作品を作り続ける若手作家たちが、自由に作品発表できる場を求めて行動を起こした志には、非常に共感できるものがありました。

ちなみに、会場運営費用や図録制作は、クラウドファンディングにてその一部を賄う予定とのこと。図録が必要な方はこちらから申し込みが可能。紹介しておきますね。

2.いろいろな楽しみ方ができるXYLOLOGY!

さて、実際に展示を見ていきましょう。主催者の金巻さんも、「自由に、色々な楽しみ方を見つけて欲しい」と言っているように、楽しみ方は鑑賞者に完全に委ねられています。そこで、僕が実際に訪問して感じた「XYLOLOGY」の面白さを書いてみたいと思います。

古民家の雰囲気に馴染む木彫作品たち

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まず、ざーっと展覧会場である旧平櫛田中邸を回ってみて感じたのは、木彫作品は、古民家と非常に馴染んでいる、ということです。

入り組んだ路地を入った所にある古い建物なので、窓から入る自然光は少なめで、室内は暗めで落ち着いた雰囲気。時間の経過した木造建築らしく、室内は梁や木枠、黄土色の漆喰壁、家具調度品などにレトロな雰囲気が漂い、これが木彫作品とぴったりフィットしている感じなのです。

たとえばこちら。入り口でお出迎えしてくれる北彩子《Find Me》。古民家の暗い玄関にぼーっと浮かび上がる女の子の像はちょっと怖い(笑)。でも座敷わらしみたいで、妙に風情があって馴染んでいる感じがするんです。ちょっとしたホラ―テイストを感じつつ、面白い作品に出会える予感が高まっていきます。

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北彩子《Find Me》

2Fでは、戸棚スペースに佐々木誠《祠》が。もともと神棚だったのでしょうか?あまりに馴染んでいて、最初作品を見たときは、元から置いてある神棚かと思ったくらいです。 

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佐々木誠《祠》

でもこの作品、至近距離で見てみると、荘厳さと温かみがほどよくブレンドされた渋い作品でした。彫り跡をかすかに残しつつ、細部まで丁寧に手仕事で作り込まれていて、「木彫」ならではの良さがびんびん感じられる良い作品でした。

ガラスケースなし!至近距離で撮影もOK!

さらに、今回嬉しいのは、展示品は一部の繊細な作品を除き、裸展示で至近距離まで近づいて楽しめる点です。(※もちろん触っちゃダメです!)

木彫作品を観る醍醐味の一つとして、作者の丁寧な手仕事の痕跡をじっくり見ていく楽しさがあると思うんです。大きな美術館での展覧会の鑑賞では、柵越し、ガラスケース越しとなりがちで、どうしても細かいところまで自分の肉眼でチェックできないのが不満点。ですが、この「XYLOLOGY」では、(最大限触らないように気をつけた上で)ガッツリ至近距離で観ることができるのです。 

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中村恒克《白象》

たとえば、タンスの上にポン、と置かれていた中村恒克《白象》だって、ほら、この通り。至近距離まで寄って観ると、ゾウの体の線や模様、凹凸の細かさ、目、口の中の牙や歯、舌など、本当に細かいところまでじっくりちぇっくできました。うーん、大満足!

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中村恒克《白象》拡大図

しかも、最後にこうやってアップで好きなように撮影もできるのです!

宝探し的な面白さもあります!

展示作品の中には、あまりに平櫛田中邸に馴染みすぎているため、一見、どこに置いてあるのか見逃してしまうような所に置いてあるような作品もありました。

どこにあるのかわからない展示作品を、パンフレットを片手に一つ一つ探していく作業も凄く楽しい!じーっと室内や家具を見ていくと、ちゃんと置いてあります!

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前原冬樹《一刻》

中には、室内ではなく、野外に吊るされている作品もありました(笑) ぼーっとしていると気づかないですよね(笑)

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これです。

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ねがみくみこ《夜の大三角》

このシュールな格好と、人を食ったような表情のオッサンの顔もたまりません。このような遊び心も、美術館ではなかなかできない試みだったりします。

インパクトが凄い!自由な作風が面白い作品たち

そして、「XYLOLOGY」で一番感銘を受けたのが、若手木彫作家たちの意外性あふれる自由な表現です。もちろん、一つ一つの作品には、それぞれ彫刻家の思いやテーマがしっかり込められているとは思うのですが、まず見ていて純粋に「楽しい」のです。

たとえばこちらの作品。

全身ピンクの服装で、円盤のような形の頭髪(?)、USB接続端子(またはVRゴーグル?)が顔面についた、サイバー感あふれるダンサーのような決めポーズをする若い男性像。意外性とインパクトがもの凄い。

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小畑多丘《KAYAMARO》

裏に回り込むと、こんな感じ。どの角度から見ても絶妙のダサ格好良いポーズがたまりません。よくこんな変な姿勢を思いついて、彫刻作品にしたなと・・・。普段からブレイクダンスを通じて、人体の取りうるポーズを研究し尽くしている小畑さんならではの作品ですね。

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小畑多丘《KAYAMARO》

正面からではなく、横から、後ろからなど、楽しめるポイントがたくさんあるのも3次元の立体彫刻作品の強みでしょうか。是非360度いろいろな角度から楽しんでみてください。

つづいて、こちらの作品。

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金巻芳俊《マドイ・カプリス》

まるで阿修羅像のように、様々な顔の表情が半分ずつつながって、1体の彫刻作品をぐるっと回っていくと、いろいろな表情を楽しめる作品。見た目の奇抜さ・意外性もあるし、だまし絵のような面白さもあります。

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金巻芳俊《マドイ・カプリス》部分拡大図

たくさんついた顔は、若い女性の移り気でくるくる変わる多感な性格を表しているのか、心の中の色々な思いを表現しているのか。作品を前にいろいろ感想が広がります。

つづいて、子供の知育積み木や、古代神殿の柱、トーテムポールなどいろんなものを連想させる、立方体状のユニークな木彫シリーズを手がけた白尾可奈子さんの作品。

元々の角材から、ほんのちょっと彫り込むだけで、面白い形が浮かび上がってくるんだなと非常に感銘を受けました。立体作品なのに、絵画作品のような平面性も感じる面白さ。

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白尾可奈子さんの作品群
(※作品名は失念してしまいました。後日調べて追加予定)

ホームページで調べると、芸大では仏像修復のプロジェクトにも参加していたり、やはりスクエア状の2次元平面イラスト作品なども発表されていたりと、木彫・イラストの両方で活躍されているようです。

続いて、1Fに置いてあった、おじさんの顔をした猫(あるいは猫のコスプレをしたおじさん)がラインダンスをするシュールな作品。ギフトボックスを模した舞台には、可愛いリボンまでついています。(外にある隠れキャラを作った方ですね)

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ねがみくみこ《ネコのダンス》

拡大してみると、まさにキモ可愛い3匹のおじさんたち。仲良く肩を組んでいますが、3人共目がうつろで、表情が割と死んでいるのも興味深いです。木彫作品の自由さ、面白さを存分に感じられた作品でした。

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ねがみくみこ《ネコのダンス》部分拡大図

続いては、こちらの作品。武士のような鎧を着た男が、頭をエイリアンのようなモンスターに襲われている彫刻です。このあと、この武士はどうなっちゃうのでしょうか?

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村田勇気《祭礼》

さらに、2Fではこんな作品が。こちらも村田勇気さんの作品。ウイルス(バクテリオファージ)が、生々しく仏像のように鎮座しています。

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村田勇気《Conversion【降三世明王】》

このウイルスが足元に組み敷いているのは、2体の仏像を模した像。タイトルの通り、図像的には五大明王像のうちの一つ、「降三世明王」から着想を得て制作されたのでしょうか。凄いインパクトです。仏像のように、木の表面に経年劣化したような「汚し」などの加工も精巧に施されていました。

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村田勇気《Conversion【降三世明王】》部分拡大図

つづいては、1Fの床の間に置かれていた、未確認生物(UMA)の体の一部のミイラのような腕を模した木彫作品。綿がたっぷり入った古い標本箱のような木箱の中で、強烈なインパクトがありました。

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前原冬樹《一刻》

全国各地の民俗歴史館などで、こういう感じの妖しい未確認生物の骨とか残ってますよね(笑)ほとんどはいたずら好きな造形師がでっちあげたものらしいですが、案外調べてみると木彫作品だったりして・・・

かわいい作品も多数!

インパクト抜群の作品群が木彫作品の中で、いわゆる「SNS映え」するようなかわいい作品もあります。

こちらの中里勇太《つながれたひ》は、ソフトバンクのCMに出てくるような、可愛く端正な柴犬。

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中里勇太《つながれたひ》

優しい目つきで、体毛の1本1本まで、丁寧に彫り込まれています。

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中里勇太《つながれたひ》部分拡大図

こちらは、女の子の肩の上に鳥がちょこんと乗っかっている作品。物思いにふけっているような表情で、少し前方を凝視する女の子の表情が良かった。

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灰原愛《原因は意外なことかもしれない》

さらには、永島信也《卵生少女》はものすごく小さな作品。たまごから孵った美少女は、フィギュアのような趣きもあります。

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永島信也《卵生少女》

これも木彫?超絶技巧な作品群も!

どの作品も非常に繊細な手仕事で制作されているのですが、展示作品の中には、最近密かにブームとなっている超絶技巧系の作品もあります。

たとえばこちらの作品。佐々木誠《沙々禮石》。巨大なたて、よこ1.5mほどある巨大なさざれ石を、木彫で掘り上げた作品。

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佐々木誠《沙々禮石》

一見、そこまで難易度が高くないようにも見えますが、近づいてみると、1つ1つの石は全て向きや形、大きさが違います。彫り跡を残して温かみを出しつつ、膨大な量の石をひとつずつインスピレーションに従って、全体のバランスを考えながら即興で彫っていたそうです。丁寧な手仕事に感銘を受けました。

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佐々木誠《沙々禮石》部分拡大図

つづいては、TENGAone《Fabrication》。一見、木彫作品ではなく、ダンボールかな?と見間違えたのですが。。。 

f:id:hisatsugu79:20181028095523j:plainTENGAone《Fabrication》

近くまで寄って見ても、ダンボールにしか見えないのですが、本当によーく見てみると、木で制作されていることがわかるんです!

f:id:hisatsugu79:20181028095530j:plainTENGAone《Fabrication》部分拡大図

これは凄い!黄色いニコニコマークが描かれた表面の光線の反射の仕方や、塗装が剥げて、構造がむき出しになった部分など、すべてがダンボールにしか見えない!これは凄い物を見せてもらいました。

最後に、こちら。古民家の家具に擬態したかのように、完全に馴染んだ作品は、まず探し出すのが困難なのですが(笑)、作品ひとつひとつの超絶技巧度も半端ない! 

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前原冬樹《一刻》

この人の作品は、どんなモチーフでも腐りかけ、悪くなりかけの食べ物を描くことが多いのですが、本作も腐りかけのりんごを木彫で表現。どう見ても傷んだりんご片にしか見えません(笑) しかしそれにしても前原さん、全ての作品に《一刻》とタイトルをつけているんですね・・・ 

3.まとめ

現状に対する強烈な危機意識から、なんとか現状を打破したい、もっと木彫作品の面白さを知ってもらいたい、という思いから始まった、「XYLOLOGY」という若手木彫作家たちが立ち上げた展示イベント。古民家にぴったりフィットした宝探し感もあって、殺風景な美術館よりも純粋に「観る」楽しさが感じられました。

若手作家たちの個性が、古民家というユニークな展示空間の中で存分に発揮された今回の展覧会。一種の「宝探し」のような感覚で、お気に入りの作家を見つけて見てくださいね。オススメの展覧会です!

関連書籍・資料などの紹介

アートコレクター

4ページにわたる「XYLOLOGY」特集が組まれ、出展者たちによる座談会が収録されています。また、木彫を中心とした若手立体アート作家が、作品とともに100名以上紹介されており、非常に力の入った立体アート大特集号となっています。僕はこの雑誌を起点に、しばらくお気に入りの立体アート作家をギャラリーやグループ展で追いかけてみようと思っています!

展覧会図録は、Campfireから申し込み!

上記でも紹介しましたが、展覧会の図録(2種類)も後日制作される予定です。購入申込みは、上記Campfireから!

〇通常版(3,000円)
お礼カードが付属。作品は展示会場で撮影。

〇限定プレミアム版(10,000円)
50部限定の、特装盤の展覧会図録。巻末に購入者の名前が掲載される他、蔵出しおまけページ、参加作家全員の直筆サインも入ります。あとで価値がぐぐっと上がるかも?!

制作シーンの動画がFacebookでチェックできる!

「XYLOLOGY」公式Facebookページでは、出展作家の何人かが、制作シーンを動画で撮影してアップしてくれています。昔ながらのノミやカンナではなく、今は電動ノコギリ、NC旋盤なんかもバンバン使っちゃうんですね。面白いので是非チェックしてみてください!

XylologyのFacebookページはこちらから。 
https://www.facebook.com/xylology/

展覧会開催情報

木学 XYLOLOGY(キシロロジー)起源と起点

出展作家:
小畑多丘/金巻芳俊/北彩子/小鉢公史/佐々木誠/白尾可奈子/
中里勇太/中村恒克/TENGAone/永島信也/ねがみくみこ/灰原愛 HAROSHI/前原冬樹/村田勇気

会場:旧平櫛田中邸アトリエ(東京都台東区谷中上野桜木2-20-3)
会期:2018 年10月27日(土)~11月11日(日)
開館時間:13:00~18:00 ( 会期中無休/入場料無料)
交通:JR鶯谷駅(北口)より徒歩8分
   JR上野駅(公園口)より徒歩16分

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公式Facebookページ
https://www.facebook.com/xylology/
公式Twitter
https://twitter.com/kigaku_xylology
公式Instagram
https://twitter.com/kigaku_xylology

ルーベンス展で王道の西洋絵画を楽しもう!巨大な宗教画・歴史画は迫力満点でした!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

西洋美術史の巨匠として、誰もが一度は耳にしたことがあるけれど、実際に作品をじっくりとまとめて観た経験はあまりない・・・そんなイメージもある、17世紀前半に活躍した画家・ルーベンス。

そのルーベンスの画業を、イタリアとの関わり合いに焦点をあてて宗教画や歴史画の大作約70点で振り返る大回顧展「ルーベンス展」が国立西洋美術館でスタートしました。激しくて、ドラマチックで、西洋絵画を観る楽しさをしっかり感じさせてくれる素晴らしい展覧会になりました。一度行けば、二度三度とリピートしたくなる、非常にクオリティの高い展覧会です。

まだ会期が始まって10日程度ですが、僕もすでに2回行ってまいりました。早速、その見どころや感想などをまとめてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.ルーベンスは意外に日本人にはマイナーな存在?!

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西洋美術史の本を読むと、絵画だけでなく宮廷外交の立役者として大車輪の活躍をした17世紀前半の近代西洋絵画におけるバロック美術の巨匠として言及されることが多いのがルーベンスです。

その一方で、日本人にとってルーベンスはそこまで身近な存在ではないのかもしれません。確かに「フランダースの犬」でルーベンスの「名前」を知っている人は多いと思いますが、実はあまりルーベンスの絵画をしっかりと見たことがある人は少ないのではないでしょうか?

ためしにGoogleで「ルーベンス」「Rubens」と日本語・英語でそれぞれ検索してみると、「Rubens」検索結果がそれなりにヒットするのに対して、日本語の「ルーベンス」でのヒット数は明らかに少ないのです。試しに他の西洋美術の巨匠と併せて調査してみた結果が下記の図です。

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どうでしょうか?この数字から読み取れるのは、英語圏ではルーベンスの知名度は他の西洋美術の巨匠たちに比べて遜色ないのに、日本ではまだまだ認知されていないということです。

ブログ冒頭でも書きましたが、今回のルーベンス展は、彼が手がけた作品や、その画業のルーツを示す関連作品を含め、大型作品を中心に約70点の展示で振り返る、日本国内では史上最大級の画期的な回顧展となっています。

ルーベンスが残した宗教画や歴史画のドラマチックな構図や、圧倒的な迫力感・スケール感は、まさに日本人が西洋絵画に抱くイメージのど真ん中を体現した「ザ・西洋絵画」といえるもの。説得力が違います。

一度観れば、鮮烈な印象が残る展覧会が今回の「ルーベンス展」なのです。ぜひ、これを機にもっともっとルーベンスの知名度が上がればいいなと思います。 

2.西洋美術の巨匠・ルーベンスとはどんな人だったのか?

では、ルーベンスとはどんな人だったのでしょうか?ここでは、ルーベンス展をより楽しむために、最低限知っておくと鑑賞に役立つであろうポイントを簡潔に説明してみますね。

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ルーベンス作品の模写《自画像》ウフィツィ美術館

ピーテル・パウル・ルーベンスは、1577年、ドイツのジーゲンに生まれました。家計を支えるため13歳で職業画家を志して、アントウェルペンの聖ルカ組合(画家のギルド)に入会し、精力的に画家としての活動を始めます。

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展覧会場の解説パネルより引用

ルーベンスは、1600年~1608年の間、マントヴァ公の金銭的な援助を受けながら、イタリアで画家としての修行に打ち込みます。ティツィアーノティントレットといったヴェネツィアの画家たちの作品や、ミケランジェロ、ダ・ヴィンチといった盛期ルネサンス期の巨匠たちや、古代ローマ・ギリシャの彫刻からもまんべんなく学びを重ね、自らの作風へと貪欲に取り入れていきます。

▼古代彫刻からも貪欲に学び、作品制作に役立てたf:id:hisatsugu79:20181022143411j:plain
左:ペーテル・パウル・ルーベンスと工房《セネカの死》
マドリード、プラド美術館
右:《偽セネカ像のヘルメ柱》ローマ、カピトリーノ美術館

今回の展覧会では、特にルーベンスが画家修業を行ったイタリアとの関わりを大きくクローズアップして取り上げています。

イタリアで画家として国際的な知名度を高めたルーベンスは、母の体調悪化をきっかけにアントウェルペンへ戻ると、当時ネーデルラントを統治していたスペイン王女イサベルの宮廷画家に取り立てられる一方、急増したオーダーに応えるため、大規模な工房経営に乗り出します。

マネジメントスキルに長けたルーベンスは、地元アントウェルペンで立ち上げた工房経営において非凡な能力を見せました。弟子や仲間たちと効率的に分業制作を進めることで、生涯3,000点以上の作品を生み出したとも言われる一方で、代表作を版画化し、ヨーロッパ中に自作の「複製画」を独占販売するなど、抜群のビジネスセンスを発揮。

▼ルーベンス画に基づく版画が多数制作されたf:id:hisatsugu79:20181025163932j:plain
《The four Church Fathers》Wikipediaより引用

また、外交官として各国を回る多忙な日々の中で、スペインの巨匠・ベラスケスを指導したり、工房の筆頭助手だったアンソニー・ヴァン・ダイクがイギリスの宮廷画家に起用されるなど、まさに大車輪の活躍。工房経営で作品を大量生産しつつ、育成した次世代の画家たちも活躍するなど、ルーベンスの活動は、後世の美術史にも大きなインパクトを与え影響を与えたのでした。

▼一番弟子、ヴァン・ダイクも活躍!
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Wikipediaより引用

他にも調べると色々面白いエピソード、凄い逸話などが満載。展覧会を見て、さらに興味が湧いたらいろいろ調べてみると面白いですよ!

3.展覧会の5つのみどころや鑑賞ポイントを紹介

さて、前おきが長くなりましたが、実際に展覧会を見てきて、特に見どころだと感じた5つのポイントを、作品の感想を交えながらいくつか紹介したいと思います。

見どころ1:ドラマチックで巨大な宗教画・歴史画

とにかく本展で出展されている作品は、とにかくどれもでかい!大画面の圧倒的なスケール感の中で躍動する人物を見ていると、それだけでも満足感が湧いてくる感じです(笑)

たとえばこちらの作品。

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ペーテル・パウル・ルーベンス《マルスとレア・シルウィア》
ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

古代ローマの神話「オウィディウス」の一場面を切り取った歴史画です。キューピッドの働きにより、ウェスタ神殿の火を守る巫女レア・シルウィアに一目惚れした軍神マルスが、今にも掴みかからんとする場面を臨場感たっぷりに描いています。恐怖感を感じつつも、抗えない魅力を感じてマルスを見つめるレア・シルウィアの表情が見事です。今でいうと「壁ドン」的な場面でしょうか。

ちなみに、二人の間にできた子供、ロムルス、レムスが、ローマを作ったとされています。本作はちょうど日本のイザナギ・イザナミのようなローマ版国産み創世譚のハイライトシーンといったところでしょうか。

続いてもう1点。 

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ペーテル・パウル・ルーベンス《聖アンデレの殉教》
マドリード、カルロス・デ・アンベレス財団

縦306cm、横216cmと超巨大サイズの作品です。殉教者・聖アンデレの殉教場面のクライマックスを描いた本作は、地下の展示室で下から見上げるように鑑賞します。

X型の十字架に磔になった聖アンデレや馬に乗ったローマ総督アイゲアテス、さらには聖アンデレの助命を懇願するアイゲアテスの妻など、登場人物たちの劇的な身振りや姿勢、苦悶・悲しみなどを浮かべる顔の表情など、劇画感たっぷりの作品です。

筋肉質ながら年相応に弛緩した聖アンデレの肉体や、天使や女性のふくよかな体つきは、ルーベンスの個性がしっかり感じられます。

見どころ2:カオス寸前?画面にあふれる人物たち

画面全体に隙間なく人や馬、武器などが混在して埋め尽くされ、もはや「劇的」を通し越して、カオスのように絡み合う作品が多いのもルーベンスの特徴。丹念に見ていくとかなりの集中力を要するので、心地よい疲れが感じられます(笑)

たとえば、この作品。

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ペーテル・パウル・ルーベンス?《聖ゲオルギウスと龍》
ナポリ、カポディモンテ美術館

写真で見ると小さく感じますが、実際は天井まで届きそうな縦3m以上の巨大な作品。かなり下から見上げることを前提に制作されたのか、画面中央の馬が上下につぶれて見えますが、真下から観ると、作品から馬が飛び出てきそうな3D効果が加えられているのです。

さらに、極めつけはこちら。

展覧会中、特に作品の前で足を止めて見ている人が多かった作品です。

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ペーテル・パウル・ルーベンス《パエトンの墜落》
ワシントン、ナショナル・ギャラリー

パエトンの墜落・・・とありますが、画面を見ても、もはや誰がパエトンなのかさっぱりわからない(笑)雲の切れ間から斜め左に向かって光が指す中、戦車や人間や馬などが複雑にぶつかりあった戦闘シーンが渾然一体と描かれており、近づいて鑑賞してみるとまさにカオスそのものです。

でも、少し引いて全体をぼーっと見てみると、激しい動きの中にも、右上から左下に向けて斜めに差し込む光線に合わせ、統一されたリズム感や力動感も感じられたりする不思議な作品でした。

ダ・ヴィンチの有名な未完の壁画《アンギアーリの戦い》や、システィーナ礼拝堂に人物を複雑に詰め込んで描いたミケランジェロからの強い影響を想起させました。 

見どころ3:筋肉むきむきの男性たちが魅せる肉体美

そして、ルーベンスといえば、ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂で思う存分描いたムキムキの男性を、さらにグレードアップしたような男性の肉体表現が凄いのです。

たとえばこちら。

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ペーテル・パウル・ルーベンス《ヘスペリデスの園のヘラクレス》
トリノ、サバウダ美術館

見てくださいこのボディビルダーのような圧倒的な筋肉!本作は、ちょうど棍棒で怪獣を倒した後、りんごを食べようとするヘラクレスを描いた作品なのですが、画面中央で強調されたヘラクレスの肉体が物凄いボリューム感です。

さらにヘラクレスをもう1作品。

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グイド・レーニ《ヒュドラ殺害後休息するヘラクレス》
フィレンツェ、パラティーナ美術館
ルーベンスは、作品の模写を行い、弟子のために素描を購入するなど、同時代の人気画家グイド・レーニから大きな影響を受けていました。同時代のライバル(?)だけに、作風もどことなく似ていますね。

本作で描かれたのは、殴り倒した化物の死骸が足元に転がる中、悠然と考え事をしながら休憩するヘラクレス。やはり、鍛え抜かれた腰回りやハムストリングスといったた下半身のごつさに目を奪われます。

見どころ4:ボリューム感が凄い!豊満すぎる肉付きの女性たち

続いては女性編。ボディビルダーのようは筋肉量で描かれた男性に対して、女性は脂肪分がもの凄い(笑)もともとルーベンスがイタリアで学んだティツィアーノやティントレットも、比較的ふくよかな女性を描くことが多かったのですが、ルーベンスの描く女性は特に振り切っています。今ならメタボ検診で必ず引っかかるレベルです。

特に、晩年に二人目の妻となる、ぽっちゃり体型だったとされるエレーヌ・フルマン(当時16歳!)と結婚してからは、より一層ふくよかで脂肪たっぷりの女性を好んで描くようになったようです。

たとえばこちら。

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ペーテル・パウル・ルーベンス
《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》
ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

作品中で描かれているのは、古代ギリシャ神話におけるアッティカの初代王ケクロプスの3人の娘たち。「健康的なふくよかさ」のレベルですが、3人共結構がっしりしてますよね。真っ白な肌の裸体が大画面で広がっていますが、女性の優美さや華やかさよりも力強さ、たくましさを強く感じました。

つづいては、こちら。

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ペーテル・パウル・ルーベンス《バラの棘に傷つくヴィーナス》
ロサンゼルス、南カリフォルニア大学フィッシャー美術館

後ろを振り向きながら、足裏に刺さったバラのトゲを抜くヴィーナスを描いていますが、二の腕の太さ、おしりのハムストリングの巨大さにどうしても目が行ってしまいます。画面上部を専有する圧倒的な肉の塊。画面を通して、重量感が伝わってきます。 

見どころ5:ルーベンスの発想源や画業のルーツを学ぶ

本展のテーマは、ルーベンスがイタリアから何を学んだのかを整理展示するとともに、彼とイタリア・バロック美術との関係を明らかにすること

最初は巨大で劇的な作品群に目を奪われ、気づきにくいのですが、今回出展されている絵画作品の大半が、ルーベンスがイタリア修行時代に学んだ絵画技術やモチーフ、構図などを応用して制作されている作品なのです。また、彼がインスピレーションを得た着想源となった様々なアイテムも併せて紹介されています。

たとえばこちらの素描。

▼ルーベンスが大切にしていた素描f:id:hisatsugu79:20181022142600j:plain

ルーベンスは、自ら彫刻や有名作品の模写や素描を書き貯めたほか、同時代に活躍したグイド・レーニらイタリア人作家の素描を手に入れ、時には購入した素描に自ら手を加えて大切に保管していたのです。

また、1506年にローマ郊外で発掘され、ミケランジェロをはじめ、当時の彫刻家に大変なインパクトを与えたヘレニズム時代の傑作「ラオコーン像」の素描も展示されています。ルーベンスは、この「ラオコーン像」について、あらゆる角度からたくさんの素描を残しています。

▼ラオコーン像の素描f:id:hisatsugu79:20181022142930j:plain
ペーテル・パウル・ルーベンス《ラオコーン群像》の模写素描
ミラノ、アンブロジア―ナ図書館

さらに、展覧会場では、ルーベンスの制作に影響を与えた(であろう)ローマ時代やギリシャ時代の彫刻も運び込まれ、関連作品のすぐそばに展示されています。

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《棘を抜く少年》フィレンツェ、ウフィツィ美術館

たとえば、この少年が足の裏を見ている像《棘を抜く少年》。図録には、この彫刻作品(またはローマ・コンセルヴァトーリ宮にあるブロンズ製のレプリカ)に対してルーベンスが残した素描が掲載されています。

研究によると、この素描は、上記写真左奥に懸けられている《スザンナと長老たち》でのスザンナのポーズへと応用されたとされています。

また、地下会場に展示されている《ベルヴェデーレのトルソ(石膏像)》についても、ミケランジェロが着想源として重視していたことを知ったルーベンスは、何度も違う角度からこれを素描し、様々な作品へのインスピレーション源としていました。

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《ベルヴェデーレのトルソ(石膏像)》
ローマ、ラ・サピエンツァ大学古典美術館

本展では、まず作品の大きさ、派手さに圧倒されます。が、落ち着いて図録(館内でも読めます)や音声ガイド、キャプション、習作や素描、彫刻作品などをじっくり追っていくと、ルーベンスがイタリアで学んだものの大きさがじわじわと浮かび上がってくるような、そんな展示構成になっているのです。

決して押し付けがましくなく、鑑賞者に自分でわからせるような渋い演出、良かったと思います。

4.展覧会をより「深く」楽しむ3つのコツとは?

宗教画・歴史画は「直感」だけでは100%楽しめない

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今回のルーベンス展で展示されている作品は、西洋絵画で最もグレードが高いとされた宗教画や神話画、歴史画がほとんどです。バロック絵画らしい劇的な表現や天井まで届きそうな巨大な作品はインパクト抜群で、直感的に見ていくだけでも満足感は高いです。でも、描かれている登場人物や物語は、ローマ神話・ギリシャ神話・キリスト教などの背景知識なしでは100%理解することが難しいのです。

そこで、できるだけ負荷なく「ルーベンス展」をより深く楽しむためにはどうすればいいか、2回の鑑賞を通じてわかった「鑑賞のコツ」を書いておきたいと思います。

対策その1:とにかくキャプションをしっかり読む

まず絵を見てわからなければ、絵のすぐ横に掲示されているキャプションをしっかり読み込むようにしましょう。今回のルーベンス展では、一つ一つの作品に対してかなり充実したキャプションが用意されています。

キャプションでは、作品内で描かれている神話や聖書のストーリーについて、簡潔な解説が書かれています。これを読み込んでもう一度絵に向かうだけでも、かなり理解度が違ってきます。

対策その2:スマホで調べる!!

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どうしてもわからなければ、一旦展示会場の通路(階段や入り口ロビー、トイレなど)に出て、そこでスマホでささっと調べてしまう方法もあります。これは、先輩ブロガー「青い日記帳」Takさんの著書『いちばんやさしい美術鑑賞』で学んだ最重要事項だったかも(笑) 

ただし、展示会場内でスマホを取り出すと、係員さんに注意されてしまいます。TPOには気をつけて!

対策その3:「音声ガイド」の活用

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今回の音声ガイドは女優の長澤まさみが担当。かなり落ち着いたトーンでわかりやすく喋ってくれています。特に重要な作品については、こちらの音声ガイドが非常に役に立ってくれました。こういった宗教画や歴史画系の展覧会では、音声ガイドは非常に付加価値が高いですね。 

対策その3:特集本などで事前に知識を仕入れる!

こちらは、お金と時間にやや余裕がある人向け。僕は、2回目に行く前に今回の展覧会の「ほぼ公式ガイドブック」的な位置づけの「ルーベンスぴあ」を購入してから臨みましたが、展覧会に特化した解説だけでなく、割引券までついてきて重宝しました。

ルーベンスぴあ

 

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こちらが誌面の内容。ルーベンス展に出展されている約70作品中、20作品40ページの作品徹底解説やルーベンス作品の特徴、生涯、展覧会の見どころまで、非常にわかりやすくまとめてくれています。いきなり図録を購入するのはちょっと・・・という人にもおすすめ。

マンガ西洋美術史(第2巻)

ルーベンスやその同時代の巨匠たちについて、現在発売中の書籍の中では、唯一マンガで西洋美術史を学べる貴重な本。ルーベンスだけでなく、彼が影響を受けたイタリアの巨匠たちも特集しているので、今回のルーベンス展にピッタリです。僕も定期的に何度も読み返してます!

4.会場限定の公式グッズも充実!

公式図録

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今回のルーベンス展の図録は、凄く良いです!会場から持ち帰るのは確かに重たいのですが、作品一つ一つの写真が大きくて、全作品に非常に丁寧な解説がついているのです!また、コラム7本に年表、地図などもついているので、純粋な読み物としてもかなりのボリューム感がありました。

西洋絵画の他の巨匠たちと比べると、日本語で読めるルーベンス関連の書籍が非常に少ない現状、これは手に入れておいて損なしです!

トートバッグ

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トートバッグもあります。絵柄に選ばれたのは意外にもルーベンスが修行時代に心奪われ、夢中になって模写した《ティベリウスのカメオ》。落ち着いたデザインで、長く使えそうです。なお、図録と一緒に購入すると100円OFFで少しお得に買えます。

ポストカード

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画面の圧力が強くて、どの絵もポストカード映えするルーベンス。展示作品から約30種類が用意されていました。こうして並べてみると壮観ですね。

アクリルマグネット

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今回目を引いたのが、アクリルマグネット。他の展覧会でよく販売されているマグネットよりも、アクリル板がついて少し分厚いのです。

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ミニチュア版の複製画みたいで重厚感がありますね。これも毎日の生活を楽しくしてくれそうな良いグッズでした!

ブランケット

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本展のハイライト作品の一つ、《パエトンの墜落》をプリントした激しい絵柄のブランケット。僕もマイカー用に1セット買いました!

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マカダミアショコラ

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山積みになった派手なパッケージは、贈りものやお土産にいいかもしれません。この箱の中身は、こちら。

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チョコレートがけのマカダミアショコラです。もちろん、チョコレートはMade in Belgium!ルーベンスの故郷、ベルギーの首都ブリュッセルで名高い王室御用達の老舗洋菓子店「ヴィタメール」とのコラボ商品です。

ミントタブレット

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こちらは、コンパクトなお土産、ミントタブレット。タブレットを食べ終わってからも、何か別の用途で使えそう。

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パッケージは全3種類用意されています!

なお、グッズ情報はこちらの明菜さんの記事も参考になります。明菜さんの展覧会グッズレポや食レポを見てると、買いたくなるんですよね~。

5.混雑状況と所要時間目安

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展覧会に行ってきた人の反応がすごく良い今回のルーベンス展。現状ではそこまで大きく混雑していませんが、2019年1月以降、会期終了間際になると土日祝日を中心に大混雑しそう。会期中、展示替え等はありませんので、できるだけ早めにお出かけされることを推奨します。

展示作品数は約70点と、そこまで多くはないので、60分~90分程度あれば十分見て回ることができるはずです。時間が余ったら、常設展を見て回るのもいいですね! 

6.まとめ

国立西洋美術館の所蔵作品以外、ほぼすべての作品や資料がヨーロッパを始めとする世界各地から集められた、非常に力の入った大型展覧会です。激しくドラマチックなルーベンスの作品を通じて、西洋絵画鑑賞の楽しさを損損に味わってみてくださいね。僕も、会期中あと1~2回は通い詰める予定です!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

ルーベンス展 

◯美術館・所在地
国立西洋美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
◯最寄り駅
・JR上野駅下車(公園口) 徒歩1分
・京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
・東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅下車 徒歩7分
◯会期・開館時間
2018年10月16日(火)〜2019年1月20日(日)
9時30分~17時30分(入場は閉館30分前まで)
※金曜、土曜は20時まで。ただし11/17は17時30分まで。
◯休館日
・月曜日(ただし12月24日、1月14日は開館)
・2018年12月28日(金)~2019年1月1日(火)、1月15日(火)
◯入館料
一般1600円/大学生1200円/高校生800円
※中学生以下無料
◯関連Webサイト
・展覧会特設サイト
http://www.tbs.co.jp/rubens2018/

史上空前!600点の大量展示が凄い「日本を変えた千の技術博」【見どころ紹介・展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ数年、富岡製糸場が国宝指定されたり、全国各地の博物館ではご当地の産業遺産を収集展示する常設コーナーの整備が進んできたり、工場見学がちょっとしたブームになったりと、歴史的な技術遺産に対する興味関心が高まって来ていますよね。

そんな中、明治期以降における日本の科学技術の発達史をわかりやすく総覧できる力の入った特別展「日本を変えた千の技術博」が10月30日から国立科学博物館でスタートしました。

明治維新の文明開化から昭和の高度経済成長期頃まで、日本人のライフスタイルを大きく変えてきた様々な技術的な革新や発見を、全国から集められた貴重な産業遺産や重要文化財の資料展示で振り返る凄い展覧会です。

明治維新以降の約150年間で、我々の先人たちが苦労して積み上げてきた科学技術の歴史を振り返ることで、たくさんの学びが得られる良い展示でした。早速ですが、展覧会の感想や、見どころを徹底的に紹介していきたいと思います。

1.特別展「日本を変えた千の技術博」はどんな展覧会なの?

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今現在、わたしたちが普段生活する中で、電気やガスなどのインフラ設備、洗濯機や炊飯器、テレビや電話などの家電製品、自動車や鉄道などの乗り物など、身の周りで当たり前のように存在している便利なものの大半は、驚くべきことに150年前には何一つ存在していませんでした。

それらは一つ一つ、我々の先達が新発明や発見など、技術的なブレイクスルーの積み重ねにより、150年という途方もなく長い時間をかけて作り出してきたものばかりなんです。

本展「日本を変えた千の技術博」では、明治維新後から昭和高度成長期まで日本人の暮らしや産業、街づくりやコミュニケーションのあり方を変えてきた様々な科学技術に着目し、8つの章立てで約600点の機械装置や各種素材、歴史資料などを使い、150年間にわたる日本の科学技術の発展を振り返ろう、という壮大なテーマの展覧会です。

国立科学博物館の館蔵品を中心に、全国各地から「機械遺産」「未来技術遺産」「重要文化財」に指定された貴重なアイテムが大集結した展示は圧巻。ザーッと見ていくだけでもなにか1つや2つは絶対心に残る展示があると思います!

ちょうど、公式Twitterにて15秒の紹介動画をアップしてくれていますので、引用して紹介しますね。

2.「日本を変えた千の技術博」での4つの見どころ・注目ポイント

今回の展覧会で出展されている展示総数は約600点。膨大な量です。一見、何をどう見たらいいのかわからなくなってしまうくらい、展示アイテムが溢れかえっています!そこで、僕が展覧会に行ってきて感じた見どころ・注目点を4つに絞ってご紹介したいと思います!

注目ポイント1:インパクト抜群!巨大な展示物

まず今回の展覧会では、まさに「大きな鉄の塊」とでも言うべき、巨大な展示物が非常に目を引きました。早速いくつか紹介してみますね。

▼ブルドーザー
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コマツブルドーザーG40(小松1型均土機)所蔵:コマツ

世界最古クラスのブルドーザーの1台。第二次世界大戦後、フィリピンに駐在した米軍によって海底に沈められ、数年後海底から引き上げられた時、普通にエンジンがかかったそうです。そのまま地元の農家に払い下げられ、現役で絶賛稼働中だったのを見たコマツ社員が仰天したというスペシャルな逸話付き。まさにレジェンドマシンなのです。

▼エレベーター(のかご)
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日本で3番目に設置された乗用エレベーター 所蔵:国立科学博物館

1901年大阪市の日本生命保険本店に設置されたイギリス、オーチス製の乗用エレベーター。展覧会場でまさか模型ではなく、本物を観れるとは驚きました。エレベーターのカゴの入口が、古い洋画などで良く出てくる、折りたたみ式なのも味わい深いです!

▼ロータリーエンジンで動く伝説のスポーツカーf:id:hisatsugu79:20181105063720j:plain
マツダ コスモスポーツ 所蔵:国立科学博物館

世界でたった1社だけロータリーエンジンの実用化に成功したマツダ自動車が、初めて販売した量産型ロータリーエンジンを搭載した自家用車(にしてスポーツカー。)車をそのまんま展示室に持ち込むとはさすが。これは目を引きました。

ちなみに、ロータリーエンジンを縦に切った実物も車の側に展示されています。これはわかりやすいですよね。

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左:12A型ロータリーエンジン(カットモデル)
所蔵:国立科学博物館

▼日本初の国産メインフレーム!f:id:hisatsugu79:20181105063345j:plain
HITAC5020 所蔵:国立科学博物館

IBMの汎用機と互換性のある(要するにほぼコピー)日本初となる日立製作所製の国産大型汎用機(大型コンピュータ)。僕も前職のSE時代、富士通とIBMのメインフレームの保守をやっていたので、実物第一号を目にすると感慨深かったです。その後改良された現役のメインフレームと、少なくとも外観はあんまり変わってないんですよね。

驚いたのは、その内部の配線です・・・。

▼タコ足配線どころではない驚愕の内部f:id:hisatsugu79:20181105063243j:plain
HITAC5020 所蔵:国立科学博物館

どうですか、このびっしりとつながれた配線。凄まじい。もちろんこれは全部手作業で一つ一つつないでいったのでしょうから、組み上げる時は途方もない作業量だったでしょう。

注目ポイント2:黎明期の珍しい家電製品や懐かしい情報機器

技術の進歩に伴って、第二次大戦後、庶民生活にも電化製品が普及していきます。本展では、実用化黎明期の非常に珍しい家電製品を観ることができました。

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電気冷蔵庫 SS-1200型
所蔵:東芝未来科学館/東芝ライフスタイル

こちらは最初期の電気冷蔵庫。頑丈そうな鉄扉で、まさに「冷気は絶対逃さん!」といった感じですよね。冷蔵庫というより巨大魔法瓶のようにも見えました。

ちなみに、冷蔵庫が普及するまでの間、庶民がもっぱら使っていたのがこちら「氷蔵庫」です。

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氷像庫 所蔵:東京電力ホールディングス 電気の史料館

電気冷蔵庫が普及する以前は、近くの氷屋で買ってきた氷を、この氷像庫の上段の扉に入れ、その冷気で下段に入れた野菜や果物、肉などを冷蔵していたそうです。外見はほぼタンスと同じような木製家具に見えますよね。

続いては、これは家電製品というよりアイデア製品の範疇に入るものなのですが、面白かったのでご紹介。

▼手動洗濯機
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かもめホーム洗濯機 所蔵:国立科学博物館

取っ手の部分を持って、ぐるぐる自分の手で回すと、洗濯物を洗うことができるという意味で、ある意味非常にエコな製品。たらいに洗濯板でゴシゴシやっていた時代に比べたら、洗浄力は確実にアップしてそうですし、体力的にも楽そうです。

▼皇居で使われたバッテリー式電気扇風機f:id:hisatsugu79:20181105063324j:plain
「電気扇」所蔵:国立科学博物館

こちらは皇室が所蔵していた、初期のバッテリー駆動式扇風機。まだプラスチックが普及する前に製造されているため、鉄製で妙な高級感があります。それにしても、羽がほぼむき出しなので、一歩間違ったら確実に指を切断する危険な装置に見えました(笑)

▼一見謎の棒に見えるのですが・・・
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耐久電熱投げ込み湯沸器 所蔵:国立科学博物館

展示を見たときは、なんてワイルドな装置なんだ!と笑ってしまったのですが、あとで調べてみたらこの電熱コイルで水を温める「投げ込み式ヒーター」は、現在でも小型軽量化されてキャンプ用、非常用、または工業用に現役で販売されているのです!

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Amazon.co.jpより引用

「熱した鉄の棒を水の中に入れたら水が温まるだろう」というストレートな発想は、ある意味単純でわかりやすいからこそ、21世紀の今でもちゃんと製品として生きているんですよね。

続いては、時代を先取りしすぎた(?)ために、惜しくも普及しなかったアイデア家電製品を紹介しておきますね。

まず、こちらのテレビウォッチ。時計とテレビをいっぺんに楽しめる、当時のハイエンドデジタルウォッチ。

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セイコー テレビウォッチ 所蔵:セイコー

ですが、チューナーが完全に外出しなので、かろうじてモニターは腕時計上で共有されていますが、正直あまりスマート感がありません(笑)ウォークマンのように、爆発的に普及するまでには至らなかったようです。

続いて、セイコー社からもう一つ画期的なアイデア製品を。 1984年に発売された、世界初となるコンピュータ付きデジタルウォッチです。

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セイコーUC2000(腕コン) 所蔵:セイコーミュージアム

こちらも、かなり頑張って小型化されていますが、やはり入出力用のインターフェイスが少し野暮ったい感じにも見えます。今見たら、「うーん、これは難しいな」という感じに見えますが、約30年後に登場するスマホを大きく先取りした発想は凄いです。

続いて、こちらは今の40代以上の方なら、緑の電話が普及する前に電話ボックスでよく見かけた電話機です。

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左:電話ボックス用公衆電話(黄色)所蔵:NTT技術資料館
右:5号自動式公衆電話(赤電話)所蔵:NTT技術資料館

遠距離に電話をする時に、10円玉を入れまくったり、入れた100円玉が果たして何秒持つのだろうかとドキドキしながら通話した思い出が懐かしいです。

そして、こちらは懐かしの大型計算機!

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電子式卓上計算機 コンペットCS-10A 所蔵:国立科学博物館 

僕がまだ小学校低学年の頃、父が大切に自宅で保管してました。使わなくなったからおもちゃにしていいよ、と言われ、めちゃくちゃ叩いたり、足し算、引き算をしてみたりして色々遊んだ記憶があります。結構投げたり叩いたりしても壊れなくて、頑丈なんですよね(笑)

また、日本初のワープロも!

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日本語ワードプロセッサ JW-10 所蔵:東芝未来科学館

通称「オフコン」という名称で日本で普及した、机やプリンタと一体化した巨大マシンです。今となったら巨大で野暮ったいだけに見えますが、それまで全て手作業で書類を作っていたオフィスに初めて入ったときは画期的なツールだったのでしょうね。

そして、最後にPCゲーマーなら懐かしのNECのPC-9801を。

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パーソナルコンピュータ PC9801シリーズ 
所蔵:国立科学博物館

DOS-Vを搭載したIBMのPC-AT互換機が日本に入ってくる直前までゲーム用、オフィス用で最も普及していたNEC黄金期の製品。オフィス用では一時期80%以上の出荷シェアを誇っていた名機であります。

僕も小学生の頃、パソコンマニアの父親がいる友人の家でよくゲームやりました。ファミコンよりグラフィックがきれいだったんですよね。ファミコンにはないエ◯ゲーも友人宅にはあったような・・・。

注目ポイント3:むき出しの機械構造を楽しむ!

僕が明治期~昭和初期にかけての産業遺産を観るとき、いつも楽しみにしているのが、機械構造やメカニズムが醸し出す機能美です。どの産業分野においても機械化が始まった初期段階では、機械の可動部分がむき出しだったり、比較的つくりが単純だったりして、機械の構造が把握しやすいんですよね。

今では3次元CADに3次元プリンタの普及で、精緻な構造もPC上でじっくり設計できるようになりましたが、当時は全て図面も手作業なら、制作も手作業。昔の人は、設計ツールも乏しく、生産設備もろくにない中、よくこんな機械を手作業で作れたものだな、と見るたびに感心してしまいます。

たとえばこちらのスターリングエンジン。

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スターリングエンジン 所蔵:国立科学博物館

今から約140年前に製造された、熱交換を行うことでエネルギーを得るタイプの原始的なエンジン。理論上どんな燃料を使っても動くので、環境保全の観点から、140年のブランクを経て現在再び脚光を浴びているというのだから驚きですね。上部の水車のような大きな車輪が力強さを感じさせます。

続いては、飛行機のエンジン。

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二式一一五〇馬力発動機 所蔵:国立科学博物館

第二次世界大戦中、ゼロ戦などの戦闘機に積み込まれたジェットエンジンです。70年前のエンジンですが、かなりコンパクトなのに離陸時に最大1150馬力の出力が得られたというのだから凄まじい高性能です。今のF1マシンよりもパワーがあるのだから驚きですよね。

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帯締め用組ひも機 所蔵:東京農工大学科学博物館

紡績や製糸業における初期の機械設備は、カバーなどの覆いもなく非常に中の構造が見やすいのですよね。単純な仕組みながら、無駄がなく美しい機械装置にしばし見惚れてしまいました。 

注目ポイント4: 社会や生活を変えるカギとなった「新素材」

本展では、人々の生活や産業発展の「カギ」となった新素材の発明・発見に大きく寄与した機械装置なども展示されています。

たとえば、こちらの大きな装置。

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リンデ式空気液化分留器 所蔵:産業技術総合研究所

これは、「アンモニア」合成に必要な窒素ガスを、大気中の空気から分離して取り出す装置。1920年代、1時間に40m3もの窒素ガスを生産できたそうです。ここで取り出された窒素ガスと、アンモニア合成に必要な触媒を使って「アンモニア」を人工合成することができたのです。

「アンモニア」が大量に人工合成できるようになったことで、大規模な農業生産を支えるための化学肥料を安定的に大量生産できるようになったんですね。これによって、世界の食料問題は解決に向けて大きく前進したのです。

つづいて、日本が戦時中Uボート(潜水艦)でドイツから輸入したプラスチックの射出成形機。

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Isoma射出成形機 所蔵:旭化成

この射出成形機は、熱可塑性樹脂(加熱することで形を自由に変えられるプラスチック)を整形する装置で、プラスチック材料を溶かして高圧をかけて金型へと注入し、その後金型を冷やして成形する機械です。

現代で私達がよく使うプラスチックやポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの素材は、日本では1940年台からようやく作られるようになった比較的新しい素材なんです。今では生活の中で必需品として当たり前のように溢れかえっているのに、意外ですよね。

Isomaが日本に輸入されると、日本の各社は独自の射出成形機の開発を進める上でこれをお手本として徹底的に学び、構造を解析し尽くしました。つまりIsomaはまさに日本のプラスチック生産の原点と言えるのです。

3.充実!昭和の薫りがするグッズコーナー

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「日本を変えた千の技術博」のグッズコーナーは、恐らくここ数年に開催された国立科学博物館での企画展の中では、最大級の品揃えと売り場面積になっていると思います。

とにかく売り場が広い!そして、基本的にはどのアイテムも強く「昭和」を感じさせるレトロな商品ばかり。まさに40代以上を狙い撃ちしたような品揃え。家族で来ると、子供よりもパパの方がお土産選びに夢中・・・といった光景が目に浮かぶようです。

まず、真っ先に目に入ってくるのが「ハイカラ横丁」と銘打って設けられた駄菓子コーナー。コンビニの棚のようにぎっしりアイテムが詰まっています(笑)

▼ハイカラ横丁
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駄菓子は、お土産用に持ち帰れるように、全てお得用サイズとなっています。ラインナップは、たとえば、こんな感じ。

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今でもスーパーや駄菓子屋で現役で活躍中のお菓子もありますが、中には「えっこれまだ生産してたんだ!」と唸ってしまった珍しいものもありました。是非探してみてください。

また、こんなものも。

▼ホッピーグッズ
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ここ10年くらいで、勢いが復活した元祖・ノンアルコールビール「ホッピー」の居酒屋グッズが充実。「昭和」を強く感じさせるロゴがいいですよね。

▼ケロリングッズ
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ケロリンは、1925年に初めて発売された非ピリン系頭痛薬。なんともうすぐ発売100周年なのです。昔、温泉旅館や銭湯の大浴場で設置されていた風呂桶や椅子といえばこのレモン色の「ケロリン」が定番でしたよね。懐かしい。

▼巨大醤油差しボトル(500ml)f:id:hisatsugu79:20181105064204j:plain

最近あんまり見なくなった、お寿司や刺し身に必ずついていた、魚の形をしたプラスチック容器の醤油差し。その復刻版?として、元のサイズ(2.5ml)の約200倍の巨大な醤油差しが販売されていました。これ、ちなみに卓上で自立するそうです。ちょっとした水筒代わりにもなりますよね。 

▼昭和の香りがするおもちゃを集めたガチャf:id:hisatsugu79:20181105064201j:plain

ちなみにガチャマシーンも8台設置されていました。これがまた昭和の妖しい雰囲気がただようネタ感満載で・・・

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たしかに1つは「千の技術博」公式グッズなのですが、ガチャマシーンのいくつかは、あんまり見たことのないものや、昭和な雰囲気がぷんぷん漂う怪しさ満点のグッズもありました。中には「在庫限り」で終了というレア(?)なものもあります!

4.より深く極めたい人には展覧会図録の購入がオススメ!

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今回の「日本を変えた千の技術博」では、限られた展示スペースの中、物凄い密度で多種多様な展示アイテムが詰め込まれています。沢山のテーマを幅広く見渡しすことができる反面、それぞれの展示アイテムに対する解説はわりとあっさりしています。

そこで、もっとそれぞれの技術や展示品に対して重要性や原理・構造などを深く知りたい!という人のためには、展覧会図録の購入を強くおすすめします!正直、この内容で2,000円は絶対お買い得だと思います。書籍で流通させたら、普通に3,000円以上してもおかしくはありません。

図録と言っても、いわゆる美術展的な作品の図版がメインであとはおまけ、みたいな構成ではなく、学校の資料集やムック本のように、図解+文章でしっかり解説してくれているのです。

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僕もあとで全ページ読み返してみて、それぞれの展示の意味や、技術の重要性をしっかりと理解することができました。ショップでは昭和グッズのインパクトが凄くてつい見逃しがちですが、展覧会の図録、本当にオススメなので是非手にとって見てくださいね。

5.混雑状況と所要時間目安

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オープンして最初の土曜日15時過ぎに子供と行ってきましたが、まだそれほど混雑している感じはありませんでした。今後、口コミやTV放送などで紹介された後、年末年始を中心に混雑するタイミングがあるかもしれません。展覧会公式Twitterアカウントをフォローして、当日の混雑情報などをチェックしておくといいですね。

展示資料が約600点もあるので、所要時間は人によって大きく変わるかもしれません。僕は1回目が120分、2回目は90分しっかり堪能してきました!

6.まとめと展覧会感想

今回の展覧会は、国立科学博物館らしく日本の「科学技術」発展史を真正面から取り組ね、超大盛りの展示内容となりました。個人的な感覚としては、よくできたまとめサイトを見ているような感覚に近くて、全く知らなかった分野については新鮮な驚きと学ぶ楽しみを得られた展覧会でした。

自動車や蒸気機関、航空機エンジンなど巨大な展示物から、懐かしい生活家電や情報機器まで、見どころ沢山の展覧会。この展覧会を入口にして、さらに今後興味のある分野については、それぞれの博物館や資料館を訪問して深掘りしていくのも面白いですね。見ごたえのある展覧会で、おすすめです。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

特別展「日本を変えた千の技術博」
国立科学博物館
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩7分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分
・京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分
◯会期・開館時間
2018年10月30日(火)〜2019年3月3日(日)
午前9時〜午後5時
<金曜日、土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は午後8時まで>
※入場は各閉館時刻の30分前まで
◯休館日
毎週月曜日、12月28日(金)〜1月1日(火)、1月15日(火)、2月12日(火)
<ただし、12月24日(月)、1月14日(月)、2月11日(月)、2月25日(月)は開館>
◯入館料(当日)
一般1600円/小・中・高校生600円
◯関連サイト
・「日本を変えた千の技術博」特設サイト
http://meiji150.exhn.jp/
・国立科学博物館公式HP
http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2018/meiji150/
・「日本を変えた千の技術博」公式Twitter
https://twitter.com/1000heritages 
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