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【ネタバレ有】映画「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」感想・考察と9つの疑問点を徹底解説/たくさんのクリーチャー、宇宙人も一挙紹介!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月30日に公開されたフランス発SFアドベンチャー映画「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」を見てきました。春休みの映画激戦区シーズンに公開された影響もあり、公開初週から興収・動員数ベスト10圏外に沈んでしまい、僕の近くでは今週末(4月12日)上映終了になる映画館もちらほら・・・。

でも、これがかなり自分としては気に入ったSF作品だったんですよね。最初から最後まで、ワクワクしながら映画を見れたのは本当に久しぶりでした!早速ですが、興奮冷めやらぬ中、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ヴァレリアン千の惑星の救世主」の予告動画・基本情報

▶映画「ヴァレリアン」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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【監督】リュック・ベッソン(「フィフス・エレメント」「ルーシー」
【配給】キノフィルムズ
【時間】137分
【原作】ピエール・クリスタン/ジャン=クロード・メジエール「ヴァレリアン」シリーズより

本作を手がけたのはフランス出身の巨匠、リュック・ベッソン監督。最近は彼が設立したEuropa Corpのアクション・サスペンス系作品のプロデューサー業に徹していましたが、今回は久々に監督/脚本を自ら務める力の入った作品となりました。

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引用:Wikipediaより

最近は色々「切れ味がなくなった」「つまらなくなった」とベテラン映画ファンから辛口コメントをもらいがちな監督の常連となってしまった感がありますが、自身がメガホンを取った作品は、「グランブルー」「レオン」「ニキータ」と、なんだかんだ名作揃いなのであります。


引用:Amazon.co.jp

SFアクション・アドベンチャー系では、「フィフス・エレメント」や、スカーレット・ヨハンソンが主役の「ルーシー」などが有名ですね。


引用:Amazon.co.jp

そんなリュック・ベッソン監督が、構想約20年、着手から7年かけて、フランス映画史上最大となる約2億ユーロ(≒約260億円)を投入して作り上げた作品が本作「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」です。

実は、本作は原案として、フランスを代表するSF系バンドデシネ(マンガ)の古典「ヴァレリアン」シリーズを土台としており、リュック・ベッソン監督は幼少時から何度も何度も読み返した、非常に思い入れのある作品なのだそうです。

その物語が持つ広大な世界観や、監督の思い入れ、本作の製作背景を理解するのにぴったりの紹介動画「3分でわかるヴァレリアン」が、キノフィルムズからリリースされています。これは、映画を見る前でも、見た後でも、チェックしておくと、より深く作品理解ができるので、視聴おすすめです!

▶3分でわかる映画「ヴァレリアン」
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.主要登場人物・キャスト

ヴァレリアン(デイン・デハーン)f:id:hisatsugu79:20180411003155j:plain
引用:映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』小悪魔編(18秒)|
優秀だけどナルシストで自信家、そして軽くてチャラいプレイボーイ、という役柄を見事に演じきりました。実年齢は30代ですが、映画内では見事にローレリーヌと同じか、それより精神年齢が確実に低い感じの頼りなさをしっかり出せています。なお、2018年公開予定「チューリップ熱」でもカーラ・デルヴィーニュと共演しています。

ローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ)f:id:hisatsugu79:20180411003046j:plain
引用:映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』小悪魔編(18秒)|
ナタリー・ポートマンミラ・ジョヴォビッチなど、これまでも数々の新人原石系女優を大作で抜擢・発掘してきたベッソン監督。今回新たにオーディションで選んだのは、元カリスマモデルのイギリス人若手女優、カーラ・デルヴィーニュ。前作「スーサイド・スクワッド」に続く大役をゲットし、さらに本作のサントラで、歌手デビューも果たすなど、いよいよブレイク間近でしょうか?

フィリット司令官(クライヴ・オーウェン)f:id:hisatsugu79:20180411003238j:plain
引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna z
代表作「キング・アーサー」での主演が激シブだっただけに、今回、かなり情けない司令官役にはびっくり。どことなく、顔つきがルー大柴に似てきたような?(そう思うのは僕だけ?)

バブル(リアーナ)
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引用:『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』バブル(リアーナ)ダンス映像|
シナリオ後半の一番大事な部分で、彼女が本筋とは関係の薄いダンスを披露するシーンは、正直「このシーン、いるの?」と思いましたが、ダンス自体はキレキレで、見応え充分。流石に一流歌手は舞台度胸はしっかりしています。

客引きジョリー(イーサン・ホーク)f:id:hisatsugu79:20180411003358j:plain
引用:『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』バブル(リアーナ)ダンス映像|
誰だこのオッサンと訝しげに思い、あとからクレジットを見て愕然!イーサン・ホークのSFオススメ作品といえば、「ガタカ」(1997)ですが、あのかっこよかったイーサン・ホークはどこへ?????しかしリアーナ同様、この人の役柄も本筋には何ら関係がなかったですね(笑)

3.途中までの簡単なあらすじ

西暦2740年。1975年に地球人によって建設が始まった宇宙ステーションは、それから約200年後、地球を離れ、全宇宙から集まってきた何千もの種族が集まって暮らす、巨大なコロニー、「アルファ宇宙ステーション」となっていた。

宇宙に飛び出した人間は、宇宙人との連邦政府を樹立し、全宇宙で活動するようになっていたが、そんな連邦政府の若き捜査官、ヴァレリアンとローレリーヌは、この日も惑星キリアンでの特殊任務に当たっていた。二人は、すでにコンビを組むようになって2年。ヴァレリアンは女癖の悪い、軽い男性とみなされていたが、ローレリーヌの聡明さと強さ、頭脳明晰さに惚れ込んでいた。彼は、思い切って任務前にローレリーヌに求婚した。ローレリーヌは、特殊任務が終わったら返事をする、とサラッとかわしたが、内心悪い気はしなかった。

彼ら2人に与えられた任務とは、今や滅亡してしまった惑星ミュールでかつて生息していたが、今や宇宙でたった1頭となってしまった小動物「ミュール変換器」を、惑星キリアンに本拠地を置く海賊、アイゴン・サイラスから奪還することだった。

惑星キリアンでVR空間上に築かれた巨大商業都市、ビッグ・マーケットでアイゴン・サイラスを追い詰め、VRマシーンの不具合にもかかわらず「ミュール変換器」を奪還したヴァレリアン達は、久々にアルファ宇宙ステーションへと帰還することになった。

帰還した二人の次の任務は、最近宇宙ステーションで拡大中の「放射線汚染エリア」の調査任務だった。その過程で、フィリット司令官の護衛についた二人だったが、護衛中にトラブルが起きた。フィリットが何者か未知の種族にさらわれたのだ。ヴァレリアンは、すぐに追跡用のジェット「スカイジェット」に乗り込み、そのエイリアンを追いかけるが、追跡中にスカイジェットが操縦不能になり墜落してしまう。

ヴァレリアンの身を案じたローレリーヌは、上官の静止を振り切り、情報屋を使って単独でヴァレリアンの居場所を突き止めるのだった。

しかし、二人が合流したのもつかの間、今度はローレリーヌが攻撃的なエイリアン、ブーラン・バソール族に捕まってしまう。ヴァレリアンは、ローレリーヌの救出のため、姿を自由に変えられるエイリアン、グラムポッド族のバブルの力を借りて、ブーラン・バソールの王宮へと忍び込む。そして、なんとかローレリーヌと合流したのだが、彼らが合流した地点は、任務で調査対象エリアとなっていた「放射線汚染エリア」指定地域だった。同エリアは、実際には放射線には汚染されておらず、この地区に居住していたのは、なんと30年前に絶滅したはずの惑星ミュールに住んでいたパール人だった。

二人は、そこでパール人の哀しい秘密と、自らの上官・フィリットが犯した重大な罪を知り、ある重大な決断を迫られることになったのだったーーー。果たして、彼らの出した結論は?また、ヴァレリアンとローレリーヌの恋の行方はどうなるのか?

4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

ハリウッドとは「何か」が違うフランス流の大作SFアクション映画

本作はリュック・ベッソン監督が仕上げた大作SF作品と聞いて、観る前は「まぁ、ハリウッド作品と同じような感じなのかな」と思って見ていたら、既存のハリウッド作品とはやっぱりテイストがちょっと違っているのが面白いですね。

まず、映画冒頭から最後まで、基本的には主人公ヴァレリアンとローレリーヌの二人の愛と冒険の物語になっていて、男女1対1の関係性が深く掘り下げられて描かれます。表面上は男女関係の恋愛ゲームを楽しんでいるような感じに見えて、深いところではお互いに深く信頼しあっている二人は、劇中で様々な危機が迫るたびに、お互いの名前を叫ぶのです。このあたりは、過去2年間のコンビを通じて、数々のピンチを乗り切ってきた二人の絆の強さでもありますが、そんな2人が、本作で起こる巨大な事件を通じて、今度は仕事上のパートナーから人生のパートナーへと変わっていく、その過程をじっくり、じっくりと描いていくのが印象的でした。

こうなると他の登場人物は、もうハッキリ脇役ですよね。名優、クライヴ・オーウェンもカッコ悪い悪役ですし、イーサン・ホークもリアーナも、ほぼ使い捨てであります(笑)豊富に用意されたクリーチャーやエイリアンたちの存在も、二人のストーリーを盛り上げるためだけにいるような感じで、どこまでも二人の世界を中心に演出が組まれているのですよね。ハリウッドでよくある、シリーズ化への伏線がたっぷり張られた群像劇とは一線を画したこの徹底ぶり、良かったです。

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引用:映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』最終予告(60秒)

そして、映画冒頭から密室で際どい水着姿の二人が絡んでいるところが映し出され、いきなりヴァレリアンが激しくローレリーヌに求婚を迫る展開に始まり、最後はやはり二人だけの密室で終わるラストシーン。このあたりもさすがフランス流の映画でした。フランスだと職務中にずーっと耳元で結婚しよう、と囁いてもセクハラにはならないのでしょうか(笑)

タイトルは「ヴァレリアン」だけど、事実上ローレリーヌが主役の本作

実はベースにしている原作ではもっとハッキリそうなのですが、本作では全体的にダメで情けない男性のキャラクターに比べて、女性キャラクターの強さ・明晰さが目立ちました。

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

特に、ローレリーヌは美しいだけでなく、頭もよくて芯の強いキャラクターとして描かれます。映画冒頭こそ、ヴァレリアンの副官として控えめで殊勝にしていますが、危機が高まってくる中盤以降、特にヴァレリアンが倒れてからはグイグイ前に出てきて、行動作戦面においてはヴァレリアンをリードするようになってきます。最後のキスも自分からですし・・・

映画ラストでパール族のために究極の選択を行うシーンでも、まだ地位や立場、建前にこだわり、最良の選択肢への逡巡を見せるヴァレリアンに対して、より本質的で臨機応変に正しい判断ができたローレリーヌ。美しいだけでなく、心も強く、愛情も深い無敵のキャラなのですよね。

パンフレットでも言及されていましたが、全体的に、本作では男性キャラが地位や名誉、立場、利益などに固執し、人間として正しくない行動を取ってしまう反面、女性キャラの聡明さ、バランスの良さが強調されて描かれました。

昔のように、単に美しく、エロく演出されるだけでなく、女性の「強さ」がどう作品内で表現されるかが、最近の映画作品の一つの見どころですよね。「スター・ウォーズ」や「モアナと伝説の海」「ズートピア」「美女と野獣」といった最近のディズニー大作映画もそうですが、時代はハッキリ女性的な感性・感覚を求めているのだなと感じた作品でもありました。

「フィフス・エレメント」の正常進化版?こだわり抜かれたビジュアル面の演出

かつてベッソン監督が「フィフス・エレメント」を撮った時、彼が頭に思い描いたビジュアル面の全てが満足に表現できたわけではなかったといいます。当時はまだCG/VFXを活用した特撮技術が未発達だったのですね。

あれから、20年。まるで過去消化不良だった鬱憤を晴らすかのように、ものすごい種類が用意されたエイリアンたちや、彼らのコロニーの多様性や、演出のアイデアは、見ているだけでもワクワクする豪華さがありました。1作品だけで何十種類も出てくるエイリアンの種類は、スター・ウォーズやスタートレックといった名作を遥かに凌いでいますし、惑星キリアンでのビッグ・マーケット内でのVR世界と実世界を股にかけた複雑なアクション演出は、見応えたっぷりでした。

どんな厳しいレビューを見ても、その驚愕の映像表現だけは、けなしている記事を一つも見たことがありません。ぜひ、映画館でやっているうちにガッツリ大画面でチェックしてみて下さい!

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5.映画で登場する主な宇宙人・クリーチャーたちをまとめて紹介! 

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引用:3分で分かる映画『ヴァレリアン』 - YouTube

本作で特に力を入れて作り込まれたのが、数々の宇宙人やクリーチャーたち。ベッソン監督は、企画段階でクリエイティブ系クラウドソーシングを活用し、世界中から3000以上集まったデザイン案から20ほど厳選して採用したとのこと。ここでは、映画で登場する主なクリーチャーを、特徴をピックアップしながら紹介しますね。

◯アイゴン・サイラス

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引用:Valerian and the City of a Thousand Planets | "This Thing is Priceless" Clip | Own It Now 

惑星キリアンを縄張りとして、古物や美術品を取り扱う宇宙海賊。攻撃的な性格のコダール・ハーン種族で、鼻に3つの鼻腔があることが特徴。(乾季、雨季、冬と3つの季節が存在するコダール・ハーン族の母星の気候に適応)パール人ツウリの依頼で、真珠とミュール変換器を集めたが、パール人達との交渉の席で、ヴァレリアンに両方とも奪われた。

◯シールト族

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引用:Valerian and the City of a Thousand Planets | "Imagination" TV Commercial |

惑星キリアンのビッグマーケットで雇われ、警備を担当していたヒト型爬虫類。知能は低めだが、温厚な種族。人懐っこさゆえに気が散りやすい性格で、彼らの文化は「利益」「通貨」という概念を持たない。そのため、本来は警備員として長期雇用されることに本質的に向いていない。

◯メガプトール

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

惑星キリアンで、アイゴン・サイラスが飼っていた、6本脚と鋭い鉤爪を持つ獰猛な肉食獣。ビッグマーケットから逃げるヴァレリアン達を捕食すべく放たれたが、離陸するイントルーダーに噛み付いたまま、同機のワープ時に上空に放り出されて不運な最期を遂げた。

◯オムライト族

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

ステーション北部に巨大なコロニーを構築し、大きい頭と長い腕を持っている有機体と金属で構成された体を持つ痩せ型の宇宙人。主に情報技術・金融に強いとされている。

◯アジン・モウ族

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引用:映画「ヴァレリアン オフィシャルサイト」より

どんな細胞も生成する特殊能力を持つ医師集団で、神経科学に精通しており、ステーション東部に巨大コロニーを構築している。アジン・モウ族は、ステーションに何百ものファームを運営し、その中できらきら光る、様々な遺伝物質が詰まった「核クラスター」という柔らかい玉をメンテナンスしている。

◯ドーガン・ダギーズ

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

いつも3体一組で行動する、金にうるさい民間の情報屋。5000の言語を話す情報通で、連邦政府高官に情報を高く売りつけることを生業の一つとする。本作では、ローレリーヌに接近し、ヴァレリアンの行方探しを手伝った。

◯グラムポッド族(バブル)

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引用:Meet Bubble: Rihanna Talks Valerian - YouTube

自由に姿を変えられる特殊能力を持った宇宙人。青いゼリー状で半透明の体を持つ。本作で登場する「バブル」は、宇宙ステーション内でも身寄りのない寂しい「ブーラン・バソール」に囚われたローレリーヌの居場所へ潜入するため、ヴァレリアンを助けた。

◯ブロモサウルス

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

爬虫類と昆虫を足して2で割ったような巨大な水棲生物。硬い甲羅と短い脚を8本持つ。水面下にあるステーション南部の液体の中に生息しており、体長は64メートルと超巨大。普段はおとなしく、ガラナ海の深みに生息している。

◯コーテックスクラゲ(皮質クラゲ)

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引用:Cara Delevingne - I Feel Everything (From "Valerian and the City of a Thousand Planets")

ガラナ海の深みで、ブロモサウルスの吐き出す純水を摂取することでしか生きられず、ブロモサウルスの頭部に寄生して生息する。このクラゲに頭から肩まですっぽり入ることで、観たい対象者のイメージを伝えると、対象者の記憶を垣間見ることができる。

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引用:Cara Delevingne - I Feel Everything (From "Valerian and the City of a Thousand Planets")

ただし、長時間は無理で、目安として1分までとされており、1分をすぎると記憶を吸い取られてしまうリスクがある。(ローレリーヌは1分10秒耐えた)

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6.映画「ヴァレリアン」に関する9つの疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く・面白く鑑賞するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:ヴァレリアンとローレリーヌの関係性とは?なぜ、ヴァレリアンはいきなり求婚しているのか?

ヴァレリアンとローレリーヌは、宇宙政府の連邦捜査官として、コンビを組んで2年になっていました。幼い時に両親を亡くしたヴァレリアンは、17歳から捜査官になってから、その勤勉さと有能さを認められ、昇進を重ねていましたが、一方で母親の愛を知らない彼は、理想の女性を求めて、女性との交際を繰り返すプレイボーイでもありました。

しかし、2年前から副官としてコンビを組んでいるローレリーヌは、美しく、頭もよく、行動力もある、優しさと強さを兼ね備えた女性で、ヴァレリアンが巡り合った女性の中で、No.1の理想だったのですね。だから、彼は映画冒頭でローレリーヌに求婚していたのです。でも、映画中ずっと口説きっぱなしの展開は、いつものハリウッド的な映画の作りとは違い、いかにもフランス映画っぽい展開だなぁと思いますよね。

疑問点2:ヴァレリアンとローレリーヌの本作における当初の任務とは?

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引用:Valerian and the City of a Thousand Planets | "Imagination" TV Commercial | 

連邦捜査官であるヴァレリアンとローレリーヌの当初の任務とは、惑星キリアンで骨董品店を営む海賊・アイゴン・サイラスから、「ミュール変換器」を奪還することでした。「ミュール変換器」は、その希少性から人間連盟の保有生物となっていたのです。

疑問点3:「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」での宇宙の歴史をまとめてみた

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

ヴァレリアンの世界は、西暦28世紀ですが、映画冒頭では、プロローグとしてそれまでの人類の歴史が簡単に紹介されました。以下、簡単にまとめてみました。

・1975年:アメリカのアポロとソ連のソユーズが初めて宇宙でのドッキングに成功。
・1998年:アルファ宇宙ステーションで、多国籍のドッキングに成功。
・2019年:中国の巨大宇宙船、天宮3号がアルファに接続。国際的な緊張関係終焉の象徴となる。
・2027年:アルファでの居住人数が8000名を突破。
・2029年:各国からの1名以上の科学者が選出され、各国代表としてステーションへ滞在するようになる。
・2031年:ステーションに人工重力システムが導入される。
・2150年:ステーションは全長3kmに拡大、居住者数は10万人を突破。この年、人類は初めて宇宙人とのファースト・コンタクトを経験。コータン・ダフーク族との接触があった。その後、ステーションの重量過多による地球への落下を危惧した地球政府は、ステーションを地球の軌道外から外宇宙へと出航させた。

疑問点4:アルファ宇宙ステーションとはどんな存在なのか

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引用:3分で分かる映画『ヴァレリアン』 - YouTube

元々は地球で作られ、少しずつ膨張を繰り返す中で、外宇宙へと移動した宇宙ステーションの名称です。28世紀には、宇宙で暮らすほぼ全ての知能を持つ生物が訪問し、交流するうちに住み着き、現在は宇宙最大のステーションへと膨張しました。今も毎年数%ずつ物理的なエリアが拡大しており、現在の直径は約20km弱で、3236もの種族、約3000万人が暮らし、5000を超える言語が使われています。それぞれのエリアには各宇宙人のコロニーが形成されており、水棲動物なども住み着いていました。ドーガン・ダギーズのような多言語を自由に操れる特殊能力を持つ種族には、格好の稼ぎ場ですよね。

疑問点5:パール人はなぜ滅んだのか?その後なぜアルファ宇宙ステーションのコア部分に住み着いたのか?

元々惑星ミュールに住んでいたパール人は、30年前、惑星軌道上で行われた戦争に巻き込まれ、その際、核融合爆弾を打ち込まれたことで、王族以下数十名を除き、全滅してしまったのです。

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

その後、彼らは上空から墜落して半壊した宇宙船に咄嗟に乗り込み、これを使って惑星ミュールを脱出します。惑星ミュールが爆発し、帰るところのなくなった彼らは、宇宙船の中で必死に人類文明や学問を学び、環境へと適応したのでした。

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

その後、彼らは別の商船に乗り込み、アルファ宇宙ステーションへとたどり着き、人知れず情報を集め、社会を観察し、ステーションの深奥部に彼ら自身のコロニーを建設したのです。彼ら独自の技術を使い、外部には「放射線汚染区域」とみせかけることで、人を寄せ付けずに上手く偽装してきたのですね。 

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引用:Valerian and the City of a Thousand Planets | Final Trailer |

ちなみに、パール人は、死ぬ時に全エネルギーを宇宙へと四散させるため、その魂が誰か別の人間へと入り込むことがあります。惑星ミュール滅亡時、宇宙船へ乗り遅れたプリンセス・リホは、爆発する惑星と最後を共にしましたが、彼女が爆散させたエネルギーを、たまたま任務外で寝ていたヴァレリアンがキャッチしてしまい、以来、ヴァレリアンの心の中にはリホが住み着いていたというわけです。

疑問点6:物語の核心に絡む「ミュール変換器」とは?

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

ミュール変換器は、元ミュール星に生息していたクリーチャーで、あらゆるものを複製できる特殊能力を持ちます。ウランを主食としており、元気な時は体表が七色に光ります。ミュール星が爆破されたことをきっかけに、全宇宙で1匹だけになってしまった絶滅危惧種として、連邦政府で保護されていましたが、海賊アイゴン・サイラスに奪われ、所在がわからなくなっていました。

物語中では、ローレリーヌは試しに自ら持っていたダイヤモンドをミュール変換器に複製させていましたね。

疑問点7:ローレリーヌをさらった「ブーラン・バソール」とはどんな種族なのか?

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引用:VALERIAN Official Trailer # 2 (2017) Cara Delevingne, Dane DeHaan, Rihanna 

宇宙ステーションとブーラン・バソール族の間は現在緊張関係にあり、現在の皇帝ブーラン3世は、他種族が彼らの縄張りに入ることを禁止していました。政治的実権は、皇后「麗しのノバ」が握っており、皇帝ブーラン3世は、豪勢な食事を楽しむことのみでした。映画内でも、次々に運ばれてくる(ゲテモノ?)料理を一口味見しては捨ててましたね。そのメインディッシュとされたのが、彼らの縄張りでさらわれたローレリーヌだったというわけです。

ちなみに、ヴァレリアンは、幼少期、母・サラがかつてステーションの拡大方針に反対するブーラン・バソール族との和平交渉にあたった際、爆殺されてしまい、母を失いました。次いで、父も彼の元を離れていくなど、同種族との関わりには、個人的にも複雑な思いがあったと思われます。

疑問点8:ラストシーン・結末の考察~フィフス・エレメントと似ていたエンディング~

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引用:3分で分かる映画『ヴァレリアン』 - YouTube

アルファ宇宙ステーションの古いコアの深遠部を占拠して自らの居住区を作り、そこで密かに宇宙船の建設を進めていたパール族。彼らの滅亡の原因は、30年前、パール人が居住していることを知りながら、戦局を有利に進めるためにミュール星へと核融合爆弾での爆撃を行った上官、フィリットにありました。さらに、その不都合な事実を画すため、関係者を粛清して、関連するデータベースを削除、アクセス不能にするなど、フィリットの卑劣な行動も明るみになります。

パール族は、ミュール変換器を取り戻し、彼らの「真珠」(莫大なエネルギーをその中に蓄積している)をミュール変換器を使って複製することで、建造した脱出用の宇宙船の動力エネルギーにしようと計画していました。

フィリットの逮捕には積極的だったヴァレリアンでしたが、「愛」と「信頼」に基づいてミュール変換器を、その元々の持ち主であったパール人へと独断で返却しようとするローレリーヌに対して、彼は最初頑なに「任務」に忠実であろうとして、返還を渋ります。より本質的で、直接的な解決策は明らかにローレリーヌの判断なのですが、こういう時に組織べったりで、守るべきもの(地位や名誉)がある男性は弱いですね。土壇場で、守りに入ってしまう・・・。

しかし、ローレリーヌの強い押しに説得されて、彼女の判断を信頼し受け入れたヴァレリアンも、ミュール変換器をパール人へ返すことに同意します。

こうしてミュール変換器を使って「真珠」を複製してエネルギー源を確保したパール人は、間一髪、フィリットのロボット部隊を使った捨て身の妨害を振り切り、ヴァレリアとローレリーヌと一緒にアルファ宇宙ステーションを脱出していきました。

そして場面は変わってラストシーン。やはり外宇宙のどこかで、古代の宇宙船(密閉空間)で救援を待つ間、再度プロポーズしたヴァレリアンに対して、ローレリーヌはやっと彼の気持ちを受け入れ、二人は結ばれてハッピーエンドとなるのでした・・・。このシーン、どこかで既視感が・・・と思ったら、ほぼ「フィフス・エレメント」のラストと同じなのですよね。色々あったけど、最後は愛する二人が幸せになって終わり、二人の愛は全てんい勝る・・・といったテイストのラストシーンは気持ちの良い終わり方でした。

疑問点9:続編はあるの?

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引用:Wikipediaより

日本でも苦戦中の本作ですが、本国フランスはともかく、アメリカを始め世界各国でも興収が伸びず苦戦。これによってベッソン監督の製作会社Europa Corpは2017年末時点で1億3500万ドルの赤字を計上し、役員の責任問題にも発展する事態となりました。当然続編はもう無理かな、と思っていたのですが・・・。

なんと、まだまだベッソン監督はやる気満々でした(笑)

各種報道によると、第2弾の脚本は書き終え、第3弾のシナリオ作りに着手中なのだとか。さすがに、この状況だけにベッソン監督も、「第2作以降は予算規模を縮小して、やれる範囲で・・・」と現実感ある構想になっているようですが、ちゃんと続編プロジェクトは存在していました!

別のソースでは、「NetflixがEuropa Corpへ買収の打診をしている・・・」との報道もあるので、ひょっとしたら、第2弾以降は、Netflixオリジナルドラマで見れちゃうかもしれませんね?!どんな形でもいいので、続編が見たい!楽しみです!

7.映画パンフレットも買ってみた

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本作「ヴァレリアン」のパンフレットは、マーベルのアメコミ系作品ほど超充実しているわけではないですが、質量ともにかなり力が入っているのは確かです。

特に良いなと思ったのは、コラムとビジュアル面のバランスの良さ。映画評論家3名によるコラムに加え、監督/キャスト陣インタビュー、詳細なプロダクションノート、原作紹介など、しっかりしています。

特に村山章氏のコラムは、「惑星ミュールの冒頭シーンがダサい」「(リュック・ベッソンは)映画監督として一貫性と精細を欠き・・・」と書きたい放題。軽くベッソンをディスりながら、作品をしっかり持ち上げるという絶妙なバランス感の辛口コラムが最高!キノフィルムズの開き直った率直な編集姿勢、素晴らしかったです(笑)

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そして、登場人物紹介だけでなく、クリーチャーや宇宙人の詳細解説も充実していたのは嬉しい限り。

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さらに、本作最大の「ウリ」でもあるビジュアル面での斬新な演出・美術がよく振り返ることができるようにしっかり映画内の各シーンも収録されています。

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毎回必ずパンフを購入する僕としては、今回は率直に「買い」だと思いました。 調べてみたら、Amazon等でも買えるようになっているみたいなので、リンクを置いておきますね。

8.まとめ

様々なエイリアンやクリーチャー、美術、セットを見ているだけでも楽しめる本作。ハリウッド流とは色々な意味で一線を画すストーリー、演出スタイル、フレッシュな主演陣の活躍も好感が持てました。日本でも興行で大苦戦しているようですが、個人的には非常に大好きな思い出深い作品となりました。ブルーレイが出たら絶対買います!

それではまた。
かるび

9.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

完成度高し!ノベライズ版「ヴァレリアン」

「スター・ウォーズ」「スター・トレック」シリーズなどのハイクオリティなノベライズ作品で定評のあるクリスティ・ゴールデンによる書き下ろし。映画に忠実なストーリーテリングでありながら、映画では収録しきれなかったキャラクターの各場面での個別の心理描写や、ヴァレリアン、ローレリーヌについての逸話が描かれており、非常にクオリティの高いノベライズ作品に仕上がっています。訳も秀逸で、ストレス無く一気読みしちゃいました。おすすめできるノベライズです!

原作バンド・デシネ版「ヴァレリアン」

原作全23巻の中から、特に映画の原案として断片的に使われた「千の惑星の帝国」(1971)と「影の大使」(1975)の2章をまるっと収録し、作品解説と、リュック・ベッソン監督と原作者達の特別対談を収録した、映画の原点とも言える作品集。僕はこの作品でフランスの漫画「バンド・デシネ」を本格的に読んだのですが、非常にアメコミの影響を強く受けた作風に感じました。絵柄はまさに古き良きアメコミですが、ストーリーや舞台設定は、40年経った今でも全く色あせない意外性・楽しさがあります。

映画「フィフス・エレメント」

同じくリュック・ベッソン監督が手がけた壮大な宇宙を舞台としたSF冒険アクションもの映画で、本作「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」のルーツとも言える作品。実際にフィフス・エレメントで大切な役割を果たす宇宙人「モンドシャワン人」他複数の人種が、ヴァレリアンにカメオ出演するなど、キャラクター造形、美術、セット、映像演出において類似点が多数あります。

また、「フィフス・エレメント」は、コミック「ヴァレリアン」第15巻"The Circles of Power"を原案とし、ここから着想を得ていると言われています。ヴァレリアンを見てリュック・ベッソン監督のSFに入っていくなら、合わせて見ておくといいですね!

リュック・ベッソン監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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本作を見て、リュック・ベッソン監督の作品をもっと見てみたいなと思った人は、豊富な作品群が用意されていて、その大半が「見放題」となっているU-NEXTで配信版を見て、ビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてはいかがでしょうか。

リュック・ベッソン監督がプロデュース・監督として関わった過去作は全部27作品配信中で、うち、代表作「レオン」「ニキータ」など、実に22作品を「見放題」でチェックすることが出来るのです。(2018年4月10日現在)

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今年のゴールデンウィークは東京国立博物館で過ごそう!新緑の季節は展示が超充実!

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かるび(@karub_imalive)です。

お花見の季節はあっという間に終わり、早くも初夏の気配も漂ってきた今日このごろ。この時期に美術館・博物館に行くと、案外服装のチョイスが難しいのですよね。日中、外を歩くと暑いけど、一度美術館の中に入ってしまえば、室内が低めの温度設定で調節されていて、途端に冷えたりするんですよね。

さて、先日、こんな記事を書きました。

東京国立博物館の春の恒例イベント展示「博物館でお花見を」は、庭園で実物の桜を愛でつつつ、室内展示でも桜をモチーフに取り込んだ様々な「春」の訪れを実感できた、素晴らしいイベント展示でした。

では、東京国立博物館は桜の季節が終わったら、一旦落ち着いてしまうのか?!というと、実はそうではないのです。トーハクは、ゴールデンウィークの前後が見頃です!いわば上半期のハイライトというべき充実展示が期待できるのですよね。

本エントリでは、「トーハクを楽しむなら桜が散ってからが本番!」ということで、新緑の季節(特にゴールデンウィーク)でトーハクを楽しむポイントを、4つに分けて紹介していきたいと思います!

※なお、本エントリで使用した一部の写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

ポイント1:GWは特別展がたっぷり楽しめる!

特別展「名作誕生 つながる日本美術」

まず、ゴールデンウィークをちょうど中日(なかび)として挟むように平成館で開催されている春の特別展が「名作誕生ーつながる日本美術」です。

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この展示は、明治時代初期に刊行が始まり、世界で最も古く歴史があると言われる美術雑誌「國華」発行130周年を記念して企画された日本美術に関する展覧会です。

平成館の展示室全てを使い、仏像・仏画・絵巻物・工芸品・絵画など、日本美術に関する総合的かつ重厚な展覧会なのです。国宝・重要文化財指定を受けた、日本美術史に名高い名品もかなり出ていますので、これは日本美術が好きな人なら、見逃せない春の大型展覧会になっていますよ。

少し写真を使って紹介していきますね。

まず、展示入り口を入ると、薬師如来像や観音菩薩像など、奈良~平安期に作られた一木造りの仏像が広い空間で大特集されています。海外では石像・銅像なども数多く作られましたが、日本では、奈良時代以降、豊富な山林資源を活用した、木像彫刻で造る仏像が爆発的に広がっていったのですね。

▼一木造の仏像が広大な展示空間に並んでいるf:id:hisatsugu79:20180413100105j:plain

また、本展のみどころの一つは、室町時代末期~江戸時代に数多く輩出された、日本人の巨匠絵師達が、自らの絵画のルーツとして学んだとされる、中国絵画が数多く出展されているのですね。私達の日本美術がどこから来たのか、どう継承されてきたのか、展示を丹念に見ていくとよくわかるようになっているのです。

しかも、古いのに非常に状態がよく、細部までストレス無くじっくり見ることができました。通常、中国の宋や明といった古い時代の中国絵画は、状態が悪いものも多く、真っ黒に画面が日焼けして何が何だか分からない作品も多いのですが、本展で出展されている作品は、どれも非常に状態が良いのも嬉しいところ。何百年もかけて、大切に受け継がれてきたのでしょうね。

▼王淵「竹雀図」
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本展でのハイライトは、巨匠たちが残した国宝・重要文化財級の作品の数々です。雪舟・長谷川等伯・俵屋宗達・尾形光琳など、室町~江戸期にかけて、様々な巨匠たちの作品が楽しめるのですが、やはり一番人気は、伊藤若冲の作品でした。若冲の描いた「鶏」や「鶴」を心ゆくまで堪能してみてくださいね。

▼一番人気!伊藤若冲の珠玉の作品群f:id:hisatsugu79:20180413125750j:plain 

特別展「アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝」

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さて、表慶館でも、現在「アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝」という特別展が行われています。当初、3月18日までの会期予定でしたが、嬉しいことにGW開けの5月13日まで会期が延長されました。

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こちらの「アラビアの道」を観るための特別料金は必要ありません。特別展「名作誕生ーつながる日本美術」のチケットか、「総合文化展」(常設展)のチケットを持っていれば、追加料金無しで無料で入れるのもお得です。

内容は、約7000年以上も前の旧石器時代の石器や土器から、20世紀初頭のサウジアラビア王国で使われていた日用品や工芸品まで、サウジアラビア王国の歴史・文化について、多数の貴重な展示物で振り返る展覧会です。

サウジアラビアが位置するアラビア半島は、古代から様々な文化がぶつかり合う要衝地でした。同国がヘレニズム文化やローマ文化などの影響を受けながら、徐々にイスラム文化の国として形作られていった歴史的背景が感じられ、非常に興味深く見れますよ。

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ポイント2:平成30年度の「新」国宝がお披露目!

文化庁での審議会決定を経て、毎年少しずつ選定される国宝・重要文化財。その中のハイライトとも言うべき作品群が、4月17日から本館8室、10室にて特別陳列され、お披露目される予定です。

今年のオススメは、以下の2点!

▼日月山水図屏風f:id:hisatsugu79:20180413095050j:plainf:id:hisatsugu79:20180413095054j:plain
文化庁リリース資料より引用

大阪、河内長野市の金剛寺が保有する、室町時代に描かれた屏風絵です。作者は不明ですが、ダイナミックな構図に繊細な技法を取り入れて描かれ、春夏秋冬全ての季節と太陽・月が配置された作品で、まるで現代アートのような斬新さが非常に高く評価されています。

▼木造千手観音立像(蓮華王院/三十三間堂)f:id:hisatsugu79:20180413095057j:plain
文化庁リリース資料より引用

京都観光の目玉スポットでもある、蓮華王院(三十三間堂)に安置されている約1000体の千手観音立像。1970年代から40年以上をかけて完了した、昭和~平成の大修復作業を終えた今年、満を持して国宝に指定されました。

今回、そのうちの1体が東京国立博物館に特別展示されるのです。これをしっかりチェックしてから、京都の三十三間堂に残りを見に行くのも面白そうですよね。

フレッシュな(と言っても古いけど^_^;)国宝や重要文化財をいち早くチェックできる機会、ぜひ見逃さないようにしてくださいね。

ポイント3:庭園開放も5月20日まで継続中!

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そして、桜の季節に合わせて、春季の一般開放が始まった本館裏の日本庭園も、まだまだ5月20日までじっくり見ることができます。残念ながら桜はほぼ全て散ってしまいましたが、桜がなくても、庭園内には観るべき史跡や茶室がたくさんあるのです。庭園入口で散策マップが配布されているので、ぜひチェックしてみてくださいね。

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また、普段は裏側から観ることのできないトーハク本館建物ですが、トーハクは各建物自体が美術品でもあります。普段は味わえない、変わったアングルから建物そのものを楽しむこともできますね。

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さらに、5月20日までの間、こちらでは「さくらカフェ」という臨時の移動式カフェも設置され、軽食や飲み物、そしてビールなどのお酒も販売されているのですよね。ほろ酔い気分で庭園を散策するのも面白いかもしれません。

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そして、この庭園内では、4月6日~4月8日にかけてアメックスの特別招待イベントが行われていました。この時の様子は、以下のブログ記事にまとめています。

他にも、期間中、上記のような茶室を使った特別イベントなど、ちょくちょく茶室や庭園内をめぐるガイドツアーやイベントなどが開催されています。イベントやガイドの日程やスケジュールは、以下のトーハクのHPでチェックできますよ。

ポイント4:アメックスの対象カード会員も、特典継続中!

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先日ブログでもお伝えしたのですが、お花見シーズンが始まった3月20日から、ゴールデンウィーク一杯の5月6日まで、アメリカン・エキスプレスの対象カード会員向けに、様々な優待サービス・特典が用意されています。

そのうち、今回は東京国立博物館内で対象カード会員向けに用意されたコラボカフェ2軒を、アメックス様のご厚意により、今回特別に取材させて頂けることになりました。そこで、はしごして体験してきましたので、画像と一緒に簡単にレポートしてみたいと思います!

なお、対象のアメリカン・エキスプレスのカードとは、以下の3つのカードを差しています。ご自身のアメックスカードをチェックしてみてくださいね。

★対象のアメリカン・エキスプレスのカード★
◯アメリカン・エキスプレス®・カード
◯アメリカン・エキスプレス・ゴールド®カード
◯プラチナ・カード®

期間限定コラボカフェ「THE GREEN Café」での優待サービス

さて、まず最初に行ってみたのは、東洋館1Fに設置された期間限定コラボカフェ「THE GREEN Café」です。

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早速入ってみると、レストランの奥の方に、アメリカン・エキスプレスの対象のカード会員向けの限定席が用意されていました。

▼対象のカード会員向け限定席f:id:hisatsugu79:20180413094704j:plain

どの座席が限定になっているのかは、アメックスの水色のブロック状のオブジェが置かれているかどうかで見分けて下さい。(もっとも、入り口で、「アメックスカード会員です」と店員さんに言えば、そのまま案内してくれます。)

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今回、オーダーしてみたのは、対象のカード会員向け特別限定メニュー「牛丼ゆりの木風」です。春らしく、どの品々にもアメックスカードを象徴するような「緑色」が鮮やかに配置されていますね。こうやって写真に撮ってみると、かなりボリューム感があるように見えますが、実際はそこまで量は多くありません。ちゃんと適量になっていますのでご安心を。

▼「牛丼ゆりの木」風(1日限定10食)
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牛丼部分を拡大してみました。ちゃんと、お肉の先端部分にアメックスの旗がささっています。牛丼のお肉も、非常に柔らかく、美味しくぺろりと頂けました。美味しかった~。

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そうそう、ちょうどこの日は肌寒かったので、今回は「THE GREEN Café」の室内で頂いたのですが、天気が良く、暖かい日であれば、野外スペースでも頂くことができますよ。後日、トーハクに行った時は、こちらで楽しんでいる人もたくさんいました。

▼天気が良い日は野外スペースでも楽しめる!
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さて、お腹がいっぱいになったところで、これはデザートも頂くしかないな!ということで、次に向かったのは東京国立博物館の法隆寺宝物館にあるカフェ「ホテルオークラガーデンテラス」です。こちらでも、やはりアメリカン・エキスプレスの対象カード会員向けの特別メニューが用意されていました。

法隆寺宝物館1Fカフェ「ホテルオークラ ガーデンテラス」の優待サービス

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まずは腹ごなしに「THE GREEN Café」から移動。こうやって歩いてみると、トーハクの敷地内の広さを実感しますね。法隆寺宝物館に着くと、谷口吉生建築のトレードマークである池のほとりに、ヤエザクラがきれいに咲いていました。

早速入っていきます。入り口を入って、すぐ右手の狭い通路の奥に、お目当てのカフェがあります。

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カフェの入り口につくと、アメリカン・エキスプレスの対象カード会員向けの専用メニューが告知された看板が出ています。案内係の方に、「アメックス会員です」と伝えて、専用メニューを持ってきてもらいます。

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そして、デザートとしてオーダーしたのは、同じく対象カード会員向けのサービス「ドリンク無料引換券」を提示してアイスコーヒーを注文してみました。

▼「ロゴ」入りフレンチトーストセット(1,200円)f:id:hisatsugu79:20180413102024j:plain

拡大図です。ホテルオークラ特性のフレンチトーストには、抹茶で「AMERICAN EXPRESS」と描かれ、アイスクリームには旗が刺さっていました。また、付け合せのキウイフルーツ、香草、メロンの「緑色」がやはりここでもきちんと主張していました。

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ふー、食った食った。調子に乗って、アメックスのコラボカフェを2軒ハシゴして、豪遊してしまいました(笑)

それにしてもアメックスは凄いですね。限定お花見茶室イベントもプレミアム感がありましたし、展覧会に行った後、対象カード会員向けのサービスも充実したトーハクとのコラボ、素晴らしかったです。ぜひ対象のカード会員さんは、「名作誕生」を見て、庭園を見て、最後に「THE GREEN Café」でガッツリ限定メニューを頂いて帰りましょう!

期間中のアメックス×トーハクのコラボ情報は、以下のリンクから確認することができます。チェックしてみてくださいね。

まとめ

ということで、今年のゴールデンウィークは、どこ行こうかな?と迷っている人は、ぜひ東京国立博物館で過ごしてみてはいかがでしょうか?特別展「名作誕生」をはじめ、国宝、庭園、会期延長されたサウジアラビア展、さらには膨大な常設展示、アメックスのコラボカフェなど、1日かけても消化しきれないほどの充実ぶりです。お金もかからないし、色々な楽しみ方ができる行楽スポットとしておすすめです。ぜひ楽しんでみてくださいね。

それではまた。
かるび

それぞれのイベント情報はこちらから!

◯名作誕生
開催期間:2018年4月13日(金)~5月27日(日)
展示場所:東京国立博物館 平成館
公式HP:http://meisaku2018.jp/

◯アラビアの道
開催期間:2018年1月23日(火)~5月13日(日)
展示場所:東京国立博物館 表慶館
公式HP:http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1886

◯春の新国宝陳列
開催期間:2018年4月17日(火)~2018年5月6日(日)
展示場所:本館8室、10室
公式HP:なし

◯春の庭園開放
開催期間:2018年3月13日(火)~ 2018年5月20日(日)
展示場所:日本庭園
公式HP:http://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=9510

◯アメリカン・エキスプレスの優待情報
開催期間:2018年3月20日(火)~ 2018年5月6日(日)
公式HP:https://www.americanexpress.com/jp/content/event/culture/art.html?alive

【ネタバレ有】「パシフィックリム:アップライジング」感想・考察と11の疑問点を徹底解説!/KAIJU再び!作品世界の正統派的発展を目指した注目の第2作!

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かるび(@karub_imalive)です。

ハリウッド発のロボットものブロックバスター映画「パシフィック・リム」の5年ぶりの続編となる「パシフィック・リム:アップライジング」が公開されました。前作は、日本人にとって非常に親しみやすい作品でした。劇中で出てくる巨大怪獣が「KAIJU」と日本語読みで呼ばれるなど、日本の古き良き特撮映画へのオマージュにあふれていました。また、小学生だった芦田愛菜がハリウッドデビューを果たしたり、菊地凛子が重要な配役をもらっていたりと、日本人キャストの存在感も目立ちました。

当然、続編としての本作も、公開前から熱心なファンを中心に非常に注目されていましたが、果たして出来や満足度はどうだったのでしょうか?早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「パシフィック・リム2」の予告動画・基本情報

▶パシフィック・リム2:公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】スティーヴン・S・デナイト(TVドラマ「デアデビル」他
【配給】東宝東和
【時間】111分

さて、本作でメガホンを取ったのは、前作ギレルモ・デル・トロ監督ではありません。実は、当初2作目も監督を務める予定だったギレルモ監督ですが、同時期に2018年度アカデミー賞作品賞を獲得した「シェイプ・オブ・ウォーター」の撮影で多忙になってしまったのです。そのため、自身はプロデューサーへと退き、代役として白羽の矢が立てられたのがTVドラマ畑で実績のあるスティーヴン・S・デナイト監督。

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/アマーラ

いくつかのインタビュー記事や動画でも答えている通り、この人も幼少時に日本のポップカルチャーに強い影響を受けて育った人らしく、第2作目を監督すると決まった時、決戦の舞台はゴジラやウルトラマンといった過去の特撮映画へのオマージュとして「東京」にする!と決めていたそうです。(おまけに戦場には巨大ガンダム像まで出てくる始末・・・^_^;)

富士山や東京が戦いの舞台になる他、日本人俳優も前回の菊地凛子に加え、千葉真一の息子、新田真剣佑も起用され、かつてないほど日本人には馴染み深い作品となりました。かつて予告編では「主役級なのか?!」と日本人をぬか喜びさせ、実際に封切られてみれば、「What do we gonna do ?」のセリフ一言を残して死んでいった「バイオハザード・ザ・ファイナル」のローラの二の舞にならなきゃいいけど?と思っていたら、そこまで酷くはなく、そこそこセリフはもらっていましたね。

2.映画「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」主要登場人物・キャスト

ジェイク・ペントコスト(ジョン・ボイエガ)f:id:hisatsugu79:20180418185805j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』本編抜粋映像/次世代イェーガーが一挙に登場!
メインキャストのみならず、自ら売り込んでプロデューサーも兼任するなど、制作面でもアイデアを出して全面的に本作に関わりました。映画「スター・ウォーズ フォースの覚醒」でデビューしたてのひよっこだった頃とは違い、だいぶスターらしい貫禄がついて来ましたね。 

ネイサン・ランバート(スコット・イーストウッド)f:id:hisatsugu79:20180418185653j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/団結編
映画「硫黄島からの手紙」で父、クリント・イーストウッドの監督作品でデビューして以来、順調にキャリアを重ね、年を追うごとに活躍の幅が広がる充実ぶりは凄いの一言。映画「スーサイド・スクワッド」ではアメコミ映画へとデビューし、さらに映画「ワイルド・スピード アイスブレイク」では、亡きポール・ウォーカーの立ち位置(イケメン白人俳優)として抜擢され、その知名度はいよいよ世界的なものとなっていますね。

アマーラ・ナマーニ(ケイリー・スピーニー)f:id:hisatsugu79:20180418185541j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/アマーラ
元々シンガーソングライターとしての活動が先行していましたが、若干20歳ながら、オーディションを経て、本作での主演級に大抜擢されました。本作での演技で「強さ」と「繊細さ」をしっかり感じさせてくれた女性像を演じたその存在感は天性のものが感じられました。2018年にはハリウッド映画4作品で出演が決まっているなど、将来が楽しみな新人女優です。

森マコ(菊地凛子)
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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』日本先行解禁映像
2006年、映画「バベル」での海外映画出演が高く評価されたことにより、国内だけでなく海外映画のオーディションも積極的にこなす異色の経歴の持ち主。人気米ドラマ「ウエストワールド」シーズン2でも出演するなど、染谷将太との間に子供が生まれた後も、休みを取らず積極的に女優として活動継続中です。(夫も映画「空海」で海外進出成功しましたしね。そういえば・・・)

リーウェン・シャオ(ジン・ティエン)f:id:hisatsugu79:20180418185455j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像
ここ数作、レジェンダリー・ピクチャーズが制作する映画でほぼ中国人俳優として皆勤賞となる活躍を見せる、ジン・ティエン。「グレート・ウォール」「キングコング髑髏島の巨神」に続き、抜擢3作目となります。今作では、前半と後半でまるで別人物のような変わりようがちょっとおもしろい演出でした。

ニュートン・ガイズラー博士(チャーリー・デイ)f:id:hisatsugu79:20180418185403j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像
前作「パシフィック・リム」から継続して出演する3名の主役級俳優のうちの一人。今作ではコミック・リリーフ的な立ち位置から、一転して狂気のマッド・サイエンティスト的な悪役キャラへと後半徐々に変身。難しい役どころでした。

リョーイチ(新田真剣佑)f:id:hisatsugu79:20180418185621j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/団結編 
18歳までハリウッド在住だけあって、英語力には何の不安もないという意外な「強み」が活かされた今回の配役。すでに日本では、映画・ドラマと引っ張りだことなり、人気若手俳優の一角へと上り詰めましたが、今回のチャンスをきっかけに、頑張って海外進出してほしいですね。独特の憂いを帯びた表情、個人的には結構好きです。

3.途中までの簡単なあらすじ(前作のおさらい含め)

前作「パシフィック・リム」のあらすじ
2013年、突如太平洋の深海に異次元からの「裂け目」(ブリーチ)が現れ、「KAIJU」と名付けられた巨大怪獣生命体が、世界各国の大都市を襲撃するようになった。これに対して、世界は環太平洋防衛軍(PPDC)を組織し、KAIJUに対抗すべく、神経同調システムにより、2人1組でパイロットの脳波を同期して戦う巨大人形兵器「イェーガー」の開発に成功する。

KAIJUとの戦いにピリオドを打ったのは、かつての戦闘で兄を失ったローリー・ベケットと彼の新相棒・森マコだった。彼らの乗るイェーガー「ジプシー・デンジャー」は、マコの養父で司令官だったスタッカー・ペントコストの捨て身の支援も実り、見事にKAIJUと、KAIJUを操る異星人「プリカーサー」を「裂け目」の深遠で撃退し、地球に暫くの平和をもたらしたのだった。

 

KAIJUとの最後の激闘から10年。

激闘で命を落とし、世界的英雄となったスタッカー・ペントコストの息子・ジェイクは、一時期PPDCにてイェーガー・パイロットの候補生として父親譲りの高い適性・能力を示していたが、訓練から脱落し、荒れ果てた街で違法なイェーガー・パーツの不法転売に手を染めていた。

しかし、ある日無人倉庫で、手作りの小型イェーガー「スクラッパー」を造っていた戦災孤児アマーラと出会ったことで、ジェイクの運命は大きく変転することになる。違法行為を咎められ、アマーラと共にPPDC施設に逮捕勾留されたジェイクは、10年前の最後の戦闘後、PPDC長官に上り詰めていた義姉・森マコの手引きにより、再びPPDCの主力シャッタードームである中国・モユラン基地内で、若きパイロット候補生たちの教官として従事することになった。アマーラも、パイロット適性を認められ、訓練に参加することとなるのだった。

同時期、PPDCでは新世代のイェーガーとして遠隔操作により無人で駆動するドローン・イェーガーの導入が検討中だった。天才女性科学者、リーウェン・シャオが率いる中国の有力な軍需企業、シャオ産業は、かつてPPDCに勤務していた科学者・ニュートン・ガイズラー博士を傍らに引き連れ、社長自らPPDC評議会の開催地・シドニーで、激しい売り込みを展開していた。

そんな折り、同僚のネイサン・ランバートとイェーガー「ジプシー・アベンジャー」に乗り込み、共に評議会の警備に当たっていたジェイクは、海中から浮上した正体不明の未登録イェーガー「オブシディアン・フューリー」の襲撃を受ける。必死で防戦し、なんとか撃退に成功したが、シドニー市民に多数の犠牲を出し、ヘリコプターに搭乗していた森マコは命を落とすことになった。

襲撃後、森マコがPPDCへ送信しようとしていたダイイング・メッセージを解析したPPDC本部は、彼女が示唆したPPDCの廃基地・シベリアのセヴェルナヤ・セムリャ基地へジェイク達を派遣した。すると、そこに再びオブシディアン・フューリーが現れ、激しい戦闘になるのだった。

なんとか戦闘に勝利したジェイクたちがモユラン基地へと戻ると、PPDC評議会の決定を受け、世界各国へ配備されたシャオ産業のドローン・イェーガーが突如の変調をきたし、暴走してしまう。暴走したドローン・イェーガーは、太平洋の深海に閉じられていたはずの異次元との裂け目を再び開いてしまい、日本近海にカテゴリー4以上の巨大KAIJUが3体出現した。

東京を目指し、進撃するKAIJUたち。これを食い止めるため、PPDCは、ジェイクやアマーラ達、訓練生全員を投入して、現存する対KAIJU戦闘用イェーガー4体全てを出動させ、KAIJUとの決戦に挑むのだったーーー。

4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

良い意味でも堅実にキープコンセプト的な作品だった

1960年代、1970年代の古き良き日本の特撮怪獣映画のノリを、ギレルモ・デル・トロ監督が圧倒的な予算とVFX技術で、ハリウッド実写映画として現代に蘇らせた傑作だった前作。アクションが凄いだけの単なる怪獣映画、ロボット映画とは一線を画した点が、この映画の奥深さでした。ギレルモ・デル・トロ監督の「人種的多様性」への目配せと「力を合わせて団結する」大切さをテーマに、あくまで「人間」描写に焦点が当てられ、登場人物ひとりひとりのこまやかな心情描写・キャラ設定の作り込みこそが、評価の広がったポイントでもありました。

今作は、急遽製作直前になって監督が交代となったためか、基本的にはロボットや怪獣のアートワーク、ストーリーの骨格や作品のテーマをほぼそのまま継承し、手堅く製作された印象があります。

とはいえ、前作から10年が経過したことを示すため、イェーガーのデザインは大幅に洗練され、エヴァに似たスマートな体格のものから、前作の主役機「ジプシー・デンジャー」の後継機種まで色々用意されていました。コン=ポッド内のインターフェースや、各機種の外観上のバージョンアップもしっかり図られています。

▼コン=ポッド内の操作インターフェースはより洗練されたf:id:hisatsugu79:20180418232619j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』海外版予告

また、怪獣とロボットのハイブリッド型イェーガーを登場させ、「イェーガーVSイェーガー」という新たな対決構図を演出したり、一度倒されたKAIJUが合体して巨大化して復活するシーンなどは、第2作目として、最大限製作者のイマジネーションを飛躍させて描かれた面白い展開だと感じました。(恐らく元ネタは色々あったのでしょうけど)

▼無機質な怖さを感じさせたハイブリッド型イェーガーf:id:hisatsugu79:20180418232729j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

そして、登場人物の人間関係やキャラ設定も、よく見ると前作とほとんど同じです。

前作で主役となったローリーとマコは、共に、大切な人をKAIJUに目の前で殺されてしまったトラウマを抱えていました。ローリーは、KAIJUとの戦闘で兄を亡くし、マコは目の前でKAIJUに両親を殺害されたのでした。そして、それを乗り越えるためにイェーガーに乗り、ブレイン・ハンドシェイクでお互いの心の中をドリフト(≒共有)して支え合って敵を倒す・・・という流れでした。

今作では、ジェイクとアマーラがローリーとマコに代わってメインのイェーガー・パイロットとして登場しますが、表面上、登場の仕方は違っているものの、やはりジェイクは親をKAIJUとの戦いによって失い、アマーラは両親を目の前でKAIJUに殺害されているという・・・そして、案の定ブレイン・ハンドシェイクをしてみれば、1度目はトラウマによってうまくイェーガーと同期できず、挫折しかけるものの、使命感とお互いを思いやる気持ちによって心の傷を乗り越え・・・という流れは、そのまんま前作と同じなのです。

このように、あらゆる面で想定範囲に収まるマイナーチェンジにとどまり、鑑賞者に「サプライズ」的な新鮮さをもたらす演出がもう1歩出なかったかな、という印象です。すでに1作目で色々完成度の高い作品だったので、手堅いと言えば手堅い造りなのでしょうが、欲を言えばあと一工夫、何かひねりが欲しかったです。

ツッコミどころを笑って見逃せるかどうかで評価が決まる?!

ビッグバジェットな超大作エンタメアクション作品であっても、メカや武器などの設定はしっかり作り込まれていたとしても、全体のストーリーが大味だったり、現実感の感じられないマンガ的なご都合展開だったりすることはよくありますよね。(最近だと「ワイルドスピード8」とか・・・)

本作も、まずロボットやKAIJUのアクションシーンありきで製作されたからなのか、前作以上に強引、かつ失笑してツッコミを入れたくなるようなご都合展開がかなりあります。一例を挙げてみると、たとえば・・・

・何度も逮捕されているジェイクが、姉の情実人事でいきなり教官になる
→品行方正とは程遠く、実戦経験もないのになぜ教官に抜擢??
・PPDCの評議会があるのに、PPDC長官であるマコが、なぜかヘリで議会の様子を監視している(結果オブシディアン・フューリーに殺害される)
→PPDC長官なのに、本会議場にいなくていいの?
・巨大企業であるシャオ産業の社長が、物語後半では会社も放り出して一エンジニアとして楽しそうにPPDC内で作業をしている
→ドローン・イェーガー配備失敗の後始末はしなくていいの?
・富士山の頂上にマグマがたまっている。今にも噴火しそう
→富士山って休火山じゃなかったでしたっけ、そもそも・・・

これ以外にも、キリがないほど荒っぽい描写があって、本当に今作はツッコミどころが多くて、何度も映画上映中に笑ってしまいました。恐らく映画に「リアリティ」や裏付けをしっかり求めてしまう人は、現実離れした本作のプロットにイライラするでしょうし、逆にこれらを笑って許せるならば、楽しめるのではないかなと思います。

僕個人としては、ストーリーや心情描写では若干雑なところが目についたものの、VFX技術やCG、特撮、セットの高いレベルでの融合や大音響(音圧高めでしたね)には見るべき点が多々あると感じられたため、何度か失笑しつつも、映画館の大スクリーンで見るならば、見ておいて損はない作品であると感じました。少なくとも、豊富な制作費でここまでゴージャスな画面を作れる映画はそうそうないと思いますし、ポップコーン映画の大作としては、十分及第点だったと思います。

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5.本作で登場する「イェーガー」を一挙紹介!

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

作品をより楽しむためには、特に本作でPPDC(環太平洋防衛軍)がKAIJU対策のために投入した4機の戦闘用イェーガーをチェックしておくと良いでしょう。そこで、ここでは4機の特徴とパイロットをそれぞれ紹介します。(紹介用に編集された公式動画もありますので、こちらもはっておきますね) 

▶イェーガー全4機の紹介動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

ジプシー・アベンジャー

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』本編抜粋映像/次世代イェーガーが一挙に登場!
ジェイクがかつてPPDCに在籍した際に割り当てられた訓練機でもある。両腕にチェーン・ソード、右腕には重力スリングを装備する、第6世代のエース的なイェーガー。ジェイクとネイサン・ランバートが搭乗。

▼両腕にチエーン・ソードを装備f:id:hisatsugu79:20180419005453j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』海外版予告

▼重力スリングで敵へ致命的な一撃を与えられるf:id:hisatsugu79:20180419004554j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

セイバー・アテナ

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』本編抜粋映像/次世代イェーガーが一挙に登場!
全イェーガー中、一番細身で、高い敏捷度を誇る。生物と同じスピードで動けるように設計され、ツインプラズマソードで速攻攻撃を仕掛ける。乗組員は、リョーイチ、レナータ。

▼ツインプラズマソード
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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

ブレーサー・フェニックス

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』本編抜粋映像/次世代イェーガーが一挙に登場!
3人乗りのコン=ポッドを持つ実験的な機体。一人が補助制御室へ移動し、トラック大のレールガン、ボルテックス・キャノンを1分間に100発の割合で連射できる。また、巨大なモーニングスター・ハンドで敵を打ち砕く。乗組員は、アマーラ、ヴィクトリア、ジナイ。

▼迫力あるモーニングスター・ハンドf:id:hisatsugu79:20180419004636j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

ガーディアン・ブラーボ

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

グラフェン・アークウィップという強力な帯電したムチで遠隔攻撃を得意とする。一撃で、平均的な稲妻とほぼ同じ量の電流を敵に与えることができる。乗組員は、スレシュとイリヤ。 

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6.映画「パシフィック・リム:アップライジング」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:映画タイトル「パシフィック・リム:アップライジング」の意味とは?

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/団結編

映画のタイトル「パシフィック・リム」とは、直訳すると「環太平洋」という意味です。太平洋の海底に「裂け目」を開き、異次元から「KAIJU」を送り込んでくる異星人「プリカーサー」に対して、中国・ロシア・日本・アメリカ・インドといった環太平洋21カ国の国々が、PPDC(環太平洋防衛軍)を結成し、人種や立場の違いを乗り越えて一致団結し、世界を救う、というテーマにピッタリのタイトルですよね。

次に「アップライジング」とは、直訳すると「反乱」とか「暴動」という意味ですね。10年前、一度は人類に抑え込まれたプリカーサー&KAIJUが、ニュートン博士の心の弱さにつけこみ、KAIJU復活の先導役をさせて再び東京で暴れまわる様子を表現しているのでしょう。あるいは、ニュートン博士がたった一人で人類に対して起こした「反乱」と見ることもできますね。

疑問点2:主人公ジェイクとマコや父親との関係は?

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』海外版予告

ジェイクは、2025年に敵KAIJUとの戦いの際に海底で自ら犠牲となって落命した伝説の英雄、スタッカー・ペントコストの一人息子です。父・スタッカーは、同じく戦場で知り合った遺児・森マコを引き取り、自らの養女としたため、ジェイクとマコは義兄弟という関係になります。ジェイクと父親、スタッカーの関係は、必ずしも良好ではありませんでした。スタッカーが任務で忙殺されていたことや、養女マコをよりかわいがったためです。ジェイクは、一度は父親に追いつくためにPPDCの訓練生になったが、その後辞めて、行方をくらましてしまうのでした。(前作では全く登場せずジェイクの存在への言及がなかったことをある程度説明できる)

疑問点3:前作のヒーロー、ローリーはどこに行ってしまったの?

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引用:映画「パシフィック・リム」一場面より

映画内での言及はありませんでしたが、ローリー・ベケットは、前作「パシフィック・リム」で世界を救った際、次元の裂け目で長時間活動をしたことで、強い放射線を浴び、後遺症としてガンを発症し、翌年2026年に死亡したのでした。

直接的には、ローリーを演じたチャーリー・ハナムのスケジュールがどうしても抑えられなかったため、脚本上彼の役柄が削除されたことによるようです。(インデペンデンス・デイ:リサージェンスで、前作で準主役だったウィル・スミスの扱いがひどかったのを思い出させました・・・)

疑問点4:怪獣(KAIJU)達はどこからやってくるのか?怪獣を操っているのは?

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引用:映画「パシフィック・リム」一場面より

異次元の世界に生息しているKAIJUは太平洋にランダムに出現する次元の裂け目を通って、毎回出現するのです。その怪獣をマインドコントロールして操っているのは、プリカーサーと呼ばれる異次元に住むエイリアンでした。

▼プリカーサーはこんな顔をしてましたf:id:hisatsugu79:20180418231800j:plain
引用:映画「パシフィック・リム」一場面より

彼らは、KAIJUを先兵として操り、異次元からやってきては居住可能な星を征服し、環境を彼らの住みやすいようにテラフォーミングした上で、徹底的に資源を食い尽くしたら、また別の星を征服する・・・というサイクルを繰り返していました。

地球も、以前恐竜時代に一度彼らの征服ターゲットになったのですが、その時は地球の大気組成が彼らプリカーサーに適合せず、一旦彼らは地球から撤退していったのでした。(恐竜絶滅の原因?!)

疑問点5:謎のイェーガー、オブシディアン・フューリーとは?なぜ現れたのか?

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』海外版予告

ジプシー・アベンジャーと比較的体格・武器が似ている謎の未登録イェーガー「オブシディアン・フューリー」は、シャオ産業で研究者として働いているニュートン博士によって密かに開発された、KAIJUとイェーガーのハイブリッドロボット第1号機でした。

ニュートン博士は、2022年に閉鎖されたシベリアのセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島にあるシベリアのPPDCの廃工場を使って、オブシディアン・フューリー他、ハイブリッドロボットを密かに開発していましたが、森マコに気づかれてしまったのです。だから、シドニーで森マコを殺害し、PPDCのチームが同工場の存在に気づいた際、彼らに先回りして工場を破壊し、証拠の隠蔽を図ろうとしたのです。

疑問点6:シャオ産業とはどんな会社なのか?

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』海外版予告

シャオ産業を率いる若き女社長、リーウェン・シャオは元コンピュータ技術者からイェーガー設計へと転身し、自ら「シャオ・インダストリー」を興しました。

▼ドローン・イェーガー工場の様子f:id:hisatsugu79:20180418232026j:plain
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

彼女は、様々なイェーガーをデザインする過程で、PPDCからニュートン博士を始めとして優秀な技術者を何名も引き抜き、コスト削減と人命尊重が可能な、遠隔捜査で動くドローン・イェーガーの開発に成功し、PPDCへと売り込みをかけていたのでした。

ちなみに、アマーラが手作りで開発した小型イェーガー、スクラッパーは、シャオ産業のパーツや技術を多数採用していました。そのため、アマーラはモユラン基地へ運び込まれた「オブシディアン・フューリー」のパーツを見て、すぐにシャオ産業の機体であることを見抜けたのです。 

疑問点7:マコのダイイング・メッセージが指し示したシベリアの廃工場には何があったのか?

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/進化の証&魂の継承

上述したように、シベリアのPPDC廃工場には、ニュートン博士の開発したKAIJUの第2の脳とイェーガーを組み合わせたハイブリッド型のドローン・イェーガーや、戦闘で倒された3体のKAIJUの死体を自らの身体を接着素材として接合し、メガKAIJUを作り上げるためのサイボーグ、リッパーが保管されていました。

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3体のKAIJUの死体をつなぐ工作用サイボーグ「リッパー」
引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

疑問点8:ニュートン・ガイズラー博士(ニュート)に何が起こっていたのか?

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引用:映画「パシフィック・リム」一場面より

前作「パシフィック・リム」で好奇心を抑えられなかったニュートン博士は、倒したKAIJUの第2の脳とブレイン・ハンドシェイクを繰り返し、KAIJUの正体や、それらを操るプリカーサーの存在、そして太平洋の「裂け目」の仕組みについて解明しました。

その後、KAIJUの襲来がなくなってからも、彼は密かに自宅にKAIJUの脳を持ち込み、「アリス」と名付けて、定期的にブレイン・ハンドシェイクを繰り返していました。しかしこれがプリカーサーに反撃のチャンスを与えることになったのですね。ニュートン博士の功名心と好奇心を巧く利用し、彼の意識を乗っ取ることに成功したプリカーサーは、シャオ産業のリソースを使って、世界中に配備したドローン・イェーガーにKAIJUの第2の脳を植え付けて、来るべき時に備えていたのです。

疑問点9:なぜ怪獣は日本近海に現れ、富士山を目指したのか?

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

ニュートン博士が発動した秘密コマンドによって、その体内に仕込んだKAIJUの脳を起動させ、プリカーサーが乗っ取ったドローン・イェーガーは10年前にローリー・ベケットが閉じた「裂け目」を再度開くことに成功します。

これにより、KAIJUが3体、異次元から送り込まれて地球上へと出現したのです。なお、KAIJUは日本近海に現れ、東京で3体が合体しその上で富士山の火口を目指すプランが組まれていました。富士山の溶岩に含まれるレアアースと、KAIJUの体液が富士山の火口内で反応した時、そこで発生した超大質量のエネルギーは、世界中の活火山の噴火を誘発するはずでした。これにより、大量の火山灰、二酸化炭素濃度の上昇など急激な気候変化を起こし、プリカーサーが定住するにふさわしい地球環境を作り出す「テラフォーミング」を一気に進めようというのがプリカーサーの真の狙いだったのです。

ちなみに、最初から超巨大KAIJUを出現させず、カテゴリーⅣ2体と、カテゴリーⅤ1体に分けてKAIJUを出現させた理由は、超巨大KAIJUのサイズでは、大きすぎて異次元からの裂け目を通過することができなかったからです。

疑問点10:ラストシーン・結末の考察

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引用:『パシフィック・リム:アップライジング』新着映像

訓練生の搭乗する3機のイェーガーは、いずれも超巨大KAIJUによって大破し、操縦不能に陥りました。残ったジプシー・アベンジャーを放置して、超巨大KAIJUは富士山を目指しましたが、ジプシー・アベンジャーは、KAIJUの体液を混合して作ったロケットで、宇宙空間まで上昇し、そこから一気に降下し、富士山の8合目あたりまで上ってきた超巨大KAIJUへ捨て身の体当たりをすることで、かろうじてKAIJUが富士山の火口へ飛び込むことを阻止することができたのでした。(捨て身の攻撃でKAIJUと同士討ちで終わる結末も前作同様でした)

大気圏に再突入する時、機体が空気との摩擦熱で真っ赤になっていましたが、確かジプシー・アベンジャーの頭部って穴が空いてたんじゃなかったかな・・・ジェイクとアマーラ、これ大丈夫なのかな?普通、焼け死ぬよね・・・と思って見ていましたが、そこは映画の世界。二人はケロッとして無事にシャオの手引きによって脱出ポッドからジプシー・アベンジャーを抜け出し、無傷で富士山麓の雪景色の草原に降り立ったのでした。 

ちなみに、エンドロールでは、拘束したニュートン博士と対面したジェイクは、人類代表として、ニュートン博士を操るプリカーサーに対して、本格的な宣戦布告をするシーンで終わりますが、これは大いに続編への含みをもたせる終わり方でしたね。

疑問点11:続編はあるの?

いくつかの報道によると、まだ構想段階ですが、スティーヴン・S・デナイト監督は、次回作があるとすれば、1つは、「プリカーサーがなぜ地球を征服したいのか」という、異星人の行動原理に焦点を当てた作品になるかもしれない、と語っています。今度は人類の側からプリカーサーの住む異次元へと遠征するのであれば、もはや1,2とは違うテイストのSF映画になりそうですよね。

あるいは、パシフィック・リムの世界が、レジェンダリー映画の「モンスターバース」に合流する流れもありそうです。「GODZILLA」で始まり、「キングコング 髑髏島の巨神」で第2作が製作されたモンスターバースでは、現在、第4作「ゴジラVSキングコング」までの製作が決定しています。果たして、第5作目以降でKAIJUもゴジラやキングコングと同じフィールドに立つ日が来るのでしょうか??!

7.映画パンフレットも買ってみた!

恐らくこの後にしっかりした設定資料集やアートワーク資料集が発売されるので、そっちを買おうかと思ったのですが、やはり物欲に負けて買ってしまいました(笑)

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内容は、この後に発売される公式「アート&メイキング」でマニアックな設定情報等を掲載しているからか、思っていたよりあっさり目な感じ。でも、ビジュアル面でのハイライトとなる4体のイェーガー、本編で登場するKAIJU3体がきっちり紹介されるなど、基本事項はちゃんと抑えられていました。また、日本のロボットアニメからの影響を分析した尾崎一男氏、最新のVFX事情についての解説した大口孝之氏の各コラムは、内容が充実しており読み応え抜群でした。熱心なファンなら買って損なしだと思います。

▼イェーガーの登場シーンやイラストが充実!f:id:hisatsugu79:20180418095353j:plainf:id:hisatsugu79:20180418095356j:plainf:id:hisatsugu79:20180418095400j:plain

▼3体のKAIJUについても特集されています!f:id:hisatsugu79:20180418095403j:plain

▼今回のパンフはコラム2本が非常に秀逸!f:id:hisatsugu79:20180418200505j:plain

欲を言えば、もう少し価格をアップしてもいいので設定資料イラストなどをたっぷりつけてほしかった感はありますが、前述したようにコラムの読み応えが素晴らしく、総合判断としては「買ってよかったな」と思えるパンフレットでした。 調べてみたら、Amazon等で買えるようになっているみたいなので、リンクを置いておきますね。 

8.まとめ

5年間の熟成を経て、メカや怪獣のアートワークや、アクションシーンの作り込みはギレルモ・デル・トロ監督の残したDNAを受け継ぎ、作品世界の正統派的な発展・拡大を図ろうとした本作。その反面、ストーリー構成や心情表現、人間側のキャラ設定などは、若干物足りなさも感じられました。

とはいえ、やはり迫力ある映像と音響が保証された映画館の大画面で鑑賞するとなると、「まぁ細かいところはいいか」と思えたのも確か。いわゆる、家族でも子供連れでも楽しめる、ポップコーン映画として、気楽に楽しめる娯楽映画としては、全然アリだと思います。新田真剣佑も頑張ってたし、僕は子供をつれて2回目リピート行く予定です!

それではまた。
かるび

9.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ノベライズ版「パシフィックリム:アップライジング」

本編内容を忠実にノベライズ化した作品。概して洋書のノベライズはハズレが少なく、映画と並行して読むことで、作品の世界観をぐっと深く感じられるようになる事が多いのですが、本作も非常にハイクオリティなノベライズです。110分と比較的コンパクトにまとめられた映画内ではどうしても欠落しがちな、詳細な状況説明や主人公たちの心情変化など、小説ならではの描写に大納得の作品でした。これは文句なくおすすめ!

パシフィック・リム:アップライジング アート&メイキング

マニア必見の本作公式の設定資料集。前作「パシフィック・リム」で3000部限定発売された際は、瞬殺するほどの大人気となった資料集ですが、今回も相当な人気が予想されます。実際、まだ発売前なのに4月17日時点で、すでにAmazonの同カテゴリにて「ベストセラー」マークがついていました!僕も予約しました!!

怪獣映画の金字塔!「パシフィック・リム」1作目

ハリウッド発の実写版怪獣映画として、世界中の映画ファン・特撮ファンを唸らせ、怪獣映画の金字塔となった前作。怪獣やロボット、物語の背景設定の作り込みも凄いですが、従来のハリウッド作品と違い、多種多様な人種で構成されたヒーローチームが、力を合わせて団結するまでのストーリーの描きこみも見事。DVD/ブルーレイの特典映像でのギレルモ・デル・トロ監督のメイキングコメントからは、ストーリーや日本の特撮映画・アニメへの深い造詣が感じられ、こちらも必見です。

Amazonに「パシフィックリム:アップライジングの特設サイト」が開設!

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ここ近年の映画作品の中では、「スター・ウォーズ」シリーズや「ハリーポッター」シリーズと同じくらい映画関連の派生商品が発売されています。そのためか、Amazon内では、特設ページが開設され、盛り上がっています!

パシフィック・リム特設セール会場
簡前作を含め、フィギュアやDVDなど、映画作品の関連商品がクーポンセール対象商品特設会場はこちら!

映画「モリのいる場所」の見どころや魅力を解説!トークショーで沖田修一監督から裏話を聞いてきました!【ネタバレなし】

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かるび(@karub_imalive)です。

5月19日からいよいよ沖田修一監督の最新作、映画「モリのいる場所」が公開されます。画業に打ち込む真摯な姿勢と、そのユニークな立ち振舞いや生活スタイルから「仙人」と呼ばれて愛された、昭和の洋画家の巨匠・熊谷守一(くまがいもりかず)の最晩年期における、ある1日を追ったファンタジー伝記フィクションです。

ちょうど、この3月まで東京国立近代美術館で開催された大型の総合回顧展「熊谷守一展」で、改めて熊谷守一の生涯や画業に興味を持った人も多かったでしょう。映画ファンからアートファンまで、幅広いお客さんが楽しめる、非常にほのぼのとした作品にしあがりました。

ところで、先日、池袋においてちょうど映画「モリのいる場所」にちなんで、沖田修一監督がトークショーに登壇されました。本稿では、トークショーで披露された制作秘話なども含め、本作の簡単な内容やみどころ、作品の魅力を紹介してみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した一部の写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

映画「モリのいる場所」とはどんな作品なの?

映画「モリのいる場所」は、「横道世之介」「南極料理人」等で知られる若手映画監督・沖田修一監督が監督・脚本を手がけた最新作です。

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沖田修一監督。トークイベントにて。

本作は、昭和の洋画家の巨匠「熊谷守一」(くまがいもりかず)の最晩年における、ある1日を象徴的に切り取った伝記映画です。といっても、いわゆる硬派な「アート・ドキュメンタリー」ではなく、SF的な味付けも施されたフィクションとして、コミカルかつユーモラスに登場人物たちが描かれていきます。 

▶映画「モリのいる場所」予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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予告編や特別映像を見るとわかりますが、映画内で起こる全てのイベントは、熊谷守一の自宅内で起きる出来事を扱っているのです。1日の中で、写真家や画商など、次から次へと熊谷守一邸へと人々が出入りして、いろんなことが起きるのですが、その中でもモリはあくまでマイペース。94歳の「仙人」・モリを巡って、人々が織りなす人間関係や、モリの風変わりで「かわいい」生き様が活写されています。

そして、自宅内の庭には、草木が鬱蒼と生い茂り、アリや金魚、猫といった、生前熊谷守一が好んで絵画のモチーフとして描いた昆虫や動物たちが自由に飛び回る様子が、気鋭の音楽アーティスト・牛尾憲輔の個性的な音楽をバックに描かれています。

▶映画「モリのいる場所」特別映像
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僕が感じたこの作品の一番の魅力とは、山﨑努さんが扮する「モリ」と樹木希林さん扮するその妻「秀子」の愛情あふれる味わい深いかけあいや、熊谷守一邸に出入りする様々な人物たちをユーモアたっぷりに温かく描いた、ほのぼのとした人間関係の描写です。

映画で取り上げられた熊谷守一の年齢は、すでに94歳。1日の中で何かドラマティックな出来事が起こって、それをきっかけに自分と向き合って葛藤し、カベを乗り越えて成長していく主人公・・・というのは、年齢的にもうありえないわけです(笑)

だから、映画で描かれるある1日は、モリにとってはいつものルーティーンが始まり、終わっていくだけの1日にすぎません。それでも、見終わった後、モリと、モリの仲間たちが織りなす人間模様を見て、なんともいえない朗らかな気持ちになれる、一服の清涼剤的な映画でした。

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生前よく熊谷守一が描いた、庭の猫
引用:映画『モリのいる場所』予告編 - YouTube

また、映画内で再現される様々なエピソードや構図は、実際の熊谷守一の晩年期を巡る逸話が相当数引用されています。絵画のモチーフをそのまま写し取ったシーンなどもあり、アートファンにとっても非常に楽しめる作品となりました。

本作で取り上げられる「熊谷守一」とはどんな画家なの?

ところで、「モリのいる場所」の主人公「モリ」とは、先述した通り昭和の洋画家の巨匠・熊谷守一のことを指しています。

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引用:映画『モリのいる場所』予告編 - YouTube

熊谷守一は、非常に長命な画家でした。明治時代から昭和中期まで、画家としてのキャリアは実に70年以上に及びます。生涯の間、作風を少しずつ変えながらも、その間ずーっと日本における西洋画壇の最前線で活躍し続けました。

没後も、故郷である岐阜県周辺の中部地方を中心として、定期的に各地で回顧展が開催されてきました。そして折しも、今年は熊谷守一の没後40年にあたる記念イヤーでもあるのです。

そこで、ちょうど映画が公開される数ヶ月前、2018年1月から3月にかけて、東京国立近代美術館で、約250点あまりの作品を集めて大規模な展覧会が開催されました。この展覧会は、アートファンを中心に非常に話題になりました。

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僕も、開催期間中、初日と最終日の2回、展覧会に足を運びましたが、その画業の変遷ぶりや、晩年に到達したオリジナルの極み、シンプルで味わい深い作風に大いに魅せられました。下記の通り、ブログで展覧会の感想を書いていますので、もし良ければみてやってください!

  

blog.imalive7799.com

映画「モリのいる場所」3つのみどころ

さて、そんな映画「モリのいる場所」ですが、いち早く試写会でチェックしてまいりました!色々「ここはこういうことで・・・」とか語りたいのですが、まだ上映開始前なので、極力ネタバレにならないように、本稿では映画の見どころを3つに絞ってお伝えします!

伝説の「熊谷守一邸」を”ほぼ”完全再現したセット

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引用:映画『モリのいる場所』予告編 - YouTube

熊谷守一の自宅は、東京の都心・池袋からほど近い要町という静かな住宅地にあります。現在は、残念ながら(?)森林のように鬱蒼と茂った熊谷守一邸は取り壊され、その跡地には熊谷守一美術館が建っています。

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実はこちらの熊谷守一美術館の3Fで、写真家・藤森武が撮り下ろした晩年期の「モリ」と、自宅や庭の様子の写真が展示されているのですが、驚いたことにその写真は、映画で観た熊谷守一亭にそっくり!・・・ということは、映画での再現が完璧だってことですよね。

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引用:映画『モリのいる場所』予告編 - YouTube

ジャングルのように鬱蒼と木が生い茂った庭の草木や、絵画のモチーフとして取り上げるため、よく熊谷守一が庭で観察していたというアリやトカゲ、30年かけて熊谷守一が自宅の庭に掘った池の鯉など、本当によくここまで再現したな・・・と感服いたしました。

晩年期のエピソードを1日の出来事に詰め込んだストーリー

生前の熊谷守一は、その偉大な画業とは別に、その存在や生き方自体が非常に人々から愛されました。例えば、展覧会で守一の絵を観た昭和天皇から「子供の絵みたいですね」と言われたエピソードから、文化勲章の打診を2度も断ったエピソードなど(あまり書くと本筋に関わるネタバレになるので控えますが)、晩年期の逸話がぎゅっとストーリーへと凝縮されているのです。

だから、熊谷守一とはどんな人だったのか?と知りたいなら、まずはこの映画を見るのが一番なのです。

後半の一部SF的展開を除くほぼ全ての出来事は、熊谷守一の生涯で実際にあったエピソードから多かれ少なかれ引用されていると言っても良いと思います。熊谷守一について知りたい人にとって、最強の入門資料となったのは間違いありません。

絵を描くシーンは一切なし!熊谷守一の人としての魅力を描く

とはいえ、本作はいわゆるアート・ドキュメンタリーとは違い、あくまで映画監督・沖田修一の作家性が色濃く出たフィクション作品なのです。過去作「キツツキと雨」「滝を見に行く」「南極料理人」同様、豊かな個性を持つ各キャラクター同士のぶつかり合いや、どのシーンからも漂う、ゆるくほのぼのとした雰囲気などは今回も健在。さらに、僕が沖田監督作品で一番好きな、全員でご飯を食べる和気あいあいとした「大家族」的なシーンもちゃんと入っていました。

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引用:映画『モリのいる場所』予告編 - YouTube

そして、この映画では、画家の1日を取り扱っていながら、絵を描くシーンは一切ありません(笑)どんな絵を描いたのか?ということよりも、熊谷守一がどんな人だったのか?彼が自宅にこもって過ごす1日はどんな生活だったのか?ここだけに焦点を当てて、映画が製作されました。ただ、実際の熊谷守一も、晩年は5月~11月までの深夜にだけ自室のアトリエにこもって創作活動をしたそうで、基本的に彼の創作シーンを目の当たりにしたことのある人は、ほとんどいなかったようです。

なので、アートに興味がない人でも、安心して見て下さい。彼の作品や、その画業の変遷などを先に観ておくと、より楽しめるのは確かですが、観てなくても全く大丈夫です!

上映記念トークショーにも行ってきました

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そして、少し前になりますが、4月14日、映画公開を記念して、池袋西武本店・池袋コミュニティカレッジにて開催されたトークショー「セブンシネマ倶楽部 新作映画紹介トーク」にも行ってきました。この日は、脚本家・女優の近衛はなさんがナビゲーターを務め、ゲストに沖田修一監督、そしてモリと同じ岐阜県出身での現代アート作家・日比野克彦氏を迎えた三者での鼎談トークでした。

せっかくなので、このトークショーで披露された映画の裏話や、沖田監督の話してくれた映画製作時の苦労話を中心に、ネタバレにならないレベルで書いておきますね。

トークショーで披露された、制作の苦労話・裏話とは?

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裏話1:地元・岐阜県では非常に知名度の高い熊谷守一

日比野克彦さんの出身地・岐阜県では、やはりお膝元らしく、熊谷守一は相当有名な画家であるとのこと。実際に、日比野さんの実家には、熊谷守一作品のトンボをモチーフとした複製画がかかっていたそうです。

日比野さんは、子供の頃からその複製画を見て毎日育ったからか、自らの作品でも、複製画で使われている「朱色と水色」のコントラストが、無意識に多めに反映されているんだとか。子供の時の影響って大きいですよね。

裏話2:沖田修一監督が本作を撮ろうと思った理由やきっかけとは?

これは、エッセイ集「モリカズさんと私」にも掲載されているのですが、沖田監督が過去作「キツツキと雨」をロケ地である岐阜県・恵那市にて撮影中、ワンポイントでキャストに起用していた山崎努さんから、「近くに熊谷守一の美術館があるから、行ってみたら」と言われたのがきっかけだったのだとか。

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引用:Amazon.co.jpより

撮影が落ち着いた後、沖田監督は、改めて熊谷守一の作品や人となりに触れていくうちに、熊谷守一の人物像にどんどん興味を惹かれるようになっていったそうです。そして、ある日、「山崎努さんに熊谷守一役をやってもらったら面白いかも?」と思いたち、脚本案を一気に書き上げて、山崎さんに打診したそうです。すると、前々から熊谷守一の大ファンだった山崎さんは二つ返事でOKをくれて、映画「モリのいる場所」が本格的に動き出したのでした。

こうして、前の映画の撮影現場で何気なく拾った情報の種が、長編映画作品へと大きく実っていったというわけです。不思議なエピソードですよね。詳細は、映画の副読本「モリカズさんと私」により詳しく書いてありますから、ぜひ読んでみて下さいね。

裏話3:山崎努さんと沖田修一監督が目指した「モリ」像について

山崎努さんは、過去のエッセイ集でもたびたび守一のことを話題にするくらい、昔から熊谷守一の作品や、芸術家としての人柄が好きだったとのこと。ただ、すでに熊谷守一は亡くなってしまっており、完全に再現するのは難しい、、、ということで、彼らは、自分たちの「モリ」=熊谷守一像を決めて、それをしっかりと表現しよう・・・ということで落ち着いたそうです。

沖田監督の中では、熊谷守一の家=「モリのいる場所」は、いわゆる彼だけに見えている一種の「小宇宙」みたいなものであり、虫や動植物、そして多種多様な人間たちがその中に引きつけられてくるというイメージを持っていました。だから、周りの人々のリアクションはかなりオーバーですが、それとは対照的に、「モリ」を演じた山崎さんには、仏頂面に近い、抑えめの表情で演技にあたってもらったそうです。

それでも、悠然として、マイペースなモリは、かなり実物の熊谷守一に迫る迫真の演技だったと思います。

裏話4:CGは一切なし?ロケ地はどこ?昆虫はどうやって集めたの?

今回の映画では、自宅のセットや虫、鯉といった動物も含め、一切CGを使わなかったそうです。自宅のセットも、庭のアリ行列も、庭に掘られた大きな穴も、全部スタッフが総掛かりで神奈川県・葉山のロケ地で見つけてきて、ゼロから丁寧に作り込まれました。

特に大変だったのが、昆虫をカメラに収めるシーンです。CGを使わないので、全て根気よく仕込みを行う必要があったのだとか。

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撮影が大変だったアリの行列。足音も収録された
引用:映画『モリのいる場所』予告編 - YouTube

たとえば、アリ行列の仕込みに非常に苦労した点です。アリの専門家にアドバイスをもらって、何度も餌付けして、やっと行列ができるようになってきたと思ったら台風が来てダメになってしまったり、根気よく足音を録音したり・・・

また、蝶などは3方向くらいからいっぺんに全部飛ばして、そのうちカメラの中に入ってくれば良しとする、、、といった力技で収録していたりと、自然と格闘しながらの撮影現場は、本当にいろいろ大変だったようです。

こんな状況なので、撮影中、スタッフは虫かごを持って、ロケ地の周りを走り回り、昆虫を集める地道な作業が欠かせなかったそうです。その中で、ある日、ロケ地近くの公園でいつものようにアリを集めていたら、偶然に公園を通りかかった小学生たちがアリ集めを手伝ってくれたという無邪気なエピソードも聞けました。

このように、CG全くなしでこだわり抜いて撮影された本作。一つ一つの何気ない動植物を短く写したカットにも、人知れず苦労があるのを知ると、ぐぐっとみごたえが感じられますよね?!

映画の予習・復習にぴったりな関連書籍や場所を一挙紹介!

聖地巡礼しよう!素朴な個人美術館「熊谷守一美術館」

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映画を観る前でも、観た後でも、是非行ってほしいのが、かつて熊谷守一の住んだ家と庭があった、東京・池袋にある熊谷守一美術館です。行ってみると、さすがに当時の雰囲気はありません。しかし、その跡地に建てられた個人美術館は、外も中もコンクリートむき出しでシンプルな作り。

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そして係員さん同士が世間話をしながら和気あいあいと働いていました。そのゆったりして飾り気のない館内や、熊谷守一の代表的なモチーフを彫り込んである美術館の外壁は、どこかしら往年の熊谷守一邸の面影を残しているようで、面白かったです。

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お土産も充実していますし、運が良ければ熊谷守一の次女で、父・守一と同じく、画家である熊谷榧(くまがいかや)さんとお話できるかも?!(僕が行った時、ちょうど1Fの休憩コーナーでくつろいでいらっしゃいました)

最強の映画副読本「モリカズさんと私」

今回の映画上映を前に、数冊読んだ中では一番読み応えがあって、面白かったです。いわば、映画「モリのいる場所」の超ロングバージョンのプロダクション・ノートといった趣きで、沖田修一監督や、山崎努さん、生前の熊谷守一と中の良かった写真家・藤森武さんが、作品制作時の感想や、熊谷守一への思いを思う存分語り尽くします。映画の副読本として、パンフレットより読み物系の解説が好きな人は、買って損なしです。

もっと知りたい熊谷守一

熊谷守一のアートも、人物伝も知りたい!という欲張りな入門者のかゆいところに手が届くような、定番の入門書。守一の初期~最晩年までの作品をまんべんなくカラー写真と解説付きで収録し、彼の生き方・考え方がわかるようなエピソードなどもしっかり入った、ムック本形式のしっかりした入門書でした。おすすめです。

仙人と呼ばれた男 - 画家・熊谷守一の生涯

こちらも、画家・熊谷守一の生涯に着目して、詳しくその画業や生き様、彼の考え方などを、余すこと無く文章でまとめ上げた本格的な伝記書籍。熊谷守一美術館でも、オススメ書籍としてピックアップされていました。

沖田監督・山崎努のインスピレーションの源泉、伝説の写真集「独楽」

映画中でも、加瀬亮さんが演じている藤森武氏。熊谷守一の晩年期についての研究は、この人が熊谷守一の最晩年期、毎日のように自宅へと通いつめて撮影したこれらの貴重な写真抜きでは成立しなかったことでしょう。

本作は、そんな藤森武氏が撮りためた晩年の熊谷守一について、1冊の写真集にまとめた、今となっては大変貴重な歴史的資料でもあります。本作で撮影された本物の「熊谷守一」と、映画で山崎努さんが務めた「モリ」の共通点や違いをじっくり見てみるのも面白そうですね。

映画情報

映画「モリのいる場所」
公開日:2018年5月19日
上映時間:99分
配給:日活
オフィシャルサイト:http://mori-movie.com/

【ネタバレ有】映画「ゲット・アウト」感想・考察と11の疑問点を徹底解説!/最高に面白い社会派ホラー・サスペンス映画でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

昨年、アメリカでは年度末の各種賞レースも賑わした映画「ゲット・アウト」。低予算で製作されたホラー・サスペンス映画ですが、全米では初登場第1位を獲得するなど大ヒット。さらに、アカデミー賞「脚本賞」を受賞して話題になりました。

しかし、日本では見事に不発。映画マニアの間ではそれなりの話題となったものの、興収はわずかに1.5億円程度と振るわず。「ブレードランナー2049」等、同時期に公開された他作品との兼ね合いで、ほとんど話題にならずすぐに上映打ち切りになりました。

僕も気づいたら見逃してしまっていたので、ようやく配信・レンタルに回った2018年春、自宅で見たのですが、これが物凄く面白かったのです!

これは感想を残しておきたい!と思ったので、新作映画ではありませんが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ゲット・アウト」の予告動画・基本情報

▶映画「ゲット・アウト」予告動画
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【監督】ジョーダン・ピール(※初監督作品)
【脚本】ジョーダン・ピール
【配給】東宝東和
【時間】104分

本作でメガホンを取ったのは、長編映画で監督を務めるのは今回が初めてとなったジョーダン・ピール監督。

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引用:Get Out (Get Art) (HD) - YouTube

元々はテレビ系喜劇俳優の人です。ハリウッド作品でも、過去作はアニメ作品の声優や、コメディでの出演はありましたが、ホラー映画を監督として手がけるのは正真正銘今回が始めて。まさに畑違いへの挑戦といった感じです。

だからなのか、彼に与えられた制作費はわずか日本円にして5億円程度と言われています。何十億、何百億円かけてビッグタイトルがバンバン作られるハリウッドにおいては、慎ましいほどのインディペンデント系・低予算映画なのです。

そんな低予算作品かつ初監督作品であるにもかかわらず、こんなに緻密な脚本・演出で、社会性に富んだ傑作を作り上げてしまうのだから本当に脱帽です。全米初登場1位を記録すると、その勢いは世界中に飛び火。全世界で約270億円程度のヒットを飛ばし、アカデミー賞脚本賞まで獲得してしまったのでした。

いやほんと、ジョーダン・ピール監督も凄いですが、今年も「レディ・バード」「スリー・ビルボード」といった、インディ系映画でも傑作が次々と生み出されるハリウッドの懐の深さも改めて感じさせてくれました。

なお、予告編とは別に、監督やキャスト陣が公開トークのQAセッションにて作品を解説してくれているわかりやすい動画がありますので、こちらも映画と一緒に見ておくとより作品世界を深く理解できると思います。

▶映画「ゲット・アウト」キャスト陣QAセッション
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.映画「ゲット・アウト」主要登場人物・キャスト

クリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)f:id:hisatsugu79:20180513231345j:plain
引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube
母親がウガンダ出身という経歴を買われ、世界的に大ヒットした映画「ブラックパンサー」では見事なアフリカ英語を駆使し、ボーダー族の長、ウカビを熱演。その他待機作として、スティーブ・マックイーン監督の「Widows」(2018年公開予定)など。ニヤッと笑った人懐っこいタレ目の笑顔から、驚いた引きつり顔まで、非常に表情の豊かな黒人若手俳優です。

ローズ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)f:id:hisatsugu79:20180513231454j:plain
引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube
どちらかというと、TVを主戦場とするTVドラマ俳優。代表作は、世界的にも大人気のドラマ「GIRLS」でのマーニー・マイケルズ役です。今回の「ゲットアウト」は、ジョーダン・ピール監督同様、映画初デビューとなります。果たして今回の役をきっかけに、大きく映画俳優へと羽ばたけるか。今後の展開に要注目です。

3.途中までの簡単なあらすじ

黒人のプロカメラマンであるクリス・ワシントンには、付き合って5ヶ月目になる恋人がいた。ローズ・アーミテージという美しい白人女性だ。彼らは将来の結婚への布石として、ローズの父、ディーン・アーミテージに会うことにした。未だ根強く人種差別が残るアメリカ社会では、黒人男性と白人女性のカップルは一般的ではない。彼らは自分たちが父や家族に受け入れられるか心配だった。

自宅に到着すると、アーミテージ家の人間は彼ら二人に理解を示し、逆に気持ち悪いくらい歓待してくれた。アーミテージ家の二人の黒人使用人がいた。彼らの仕草や立ち振舞を見ていると、クリスには挙動不審に見えて気味が悪かった。

慣れない環境下、若干の違和感を感じていたクリスは、その晩寝付けなかった。外の空気を吸おうと館の外に出てみると、クリスは深夜にすごい勢いでジョギングをする使用人に遭遇した。部屋に戻ると1Fではまだローズの母、ミッシーが起きていた。

彼は勧められるままにミッシーの催眠術にかけられてしまう。意識の奥底に自らが閉じ込められるイメージを見ていた。が、次の瞬間、気づいたら翌朝ベッドで目を覚ます自分がいた。

翌日は、アーミテージ家でローズの父、ディーンの知り合いを集めたパーティが行われた。パーティでのゲストは白人の富裕層ばかりで、クリスは居心地が悪かった。しかし、ゲストの中に1人だけローガンという黒人男性がいた。クリスは、ローガンに話しかけたが、その黒人らしからぬ立ち振舞いに不信感をおぼえた。

パーティで特にクリスに話しかけてきたのは、盲目の美術商、ジム・ハドソンだった。元カメラマンだったジムは、才能の限界を感じてから画廊オーナーとなったのだが、そこで彼は失明してしまったのだという。ジムは、前からクリスの作品を高く評価していたのだった。

パーティが終盤になると、ある事件が起こった。ローガンをスマホで撮影しようとした時、誤作動したフラッシュに過剰反応したローガンが、取り乱してクリスに襲いかかってきたのだ。クリスは、混乱してその場をローズと離れた。

しかし、クリスが離れている間、恐るべきことが起こっていた。なんとディーンは、ビンゴ大会を装い、クリスを人身売買のオークションにかけていたのだった。競り落としたのは、盲目の美術商・ジムだった。

気味が悪くなったクリスは、パーティが終わると、ローズを促して帰ろうとしたが、ローズはクリスに車のキーを渡そうとしなかった。そしてクリスは催眠術によって眠らされてしまい、地下室に監禁されてしまった。

クリスが地下室で目覚めると、彼はようやく何が起こっていたのかを理解した。ローズも含め、アーミテージ家によって彼は人身売買の材料として誘拐されたのだ。両手を縛られ、ソファに座らされたクリスには、とんでもない運命が待ち受けていたのだった・・・。果たしてクリスは、絶体絶命のこの窮地を脱出することができるのかーーー。

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4.映画内容の簡単なレビュー!(ネタバレあり感想・評価)

徹底的に練り込まれた脚本・演出!見逃していいシーンは1つもなし!

本作は、まず純粋にストーリーそのものが面白いです。序盤~中盤こそ、いわゆる低予算系脱出・脱獄ホラー映画に典型的な展開で進みます。すなわち、許嫁のローズと結婚前の挨拶にアーミテージ家を訪れた黒人の主人公・クリスが、アーミテージ家で様々な不可解な出来事に遭遇するうち、囚われの身になっていくという展開ですね。

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笑いながら泣く!怖すぎる使用人ジョージナ
引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

中盤までは、主人公クリスが、アーミテージ家のメンバーや、そのゲスト達の言動の異常性を目の当たりにするたび、鑑賞者である我々もなんとなくゾクゾクッとする薄ら寒さを感じ・・・といった感じで、ホラー映画らしい気味の悪さが積み重なっていきます。

いわゆるサイコパスに追い詰められる、密室モノ猟奇殺人系なのかな・・・?と思って見ていると、終盤の入り口に差し掛かったあたりからがすごかった!ここから、意外性あふれる怒涛の展開へ進んでいくんです。

実は、許嫁のローズも含め、アーミテージ家のメンバーは家族ぐるみで伝統的に黒人の拉致誘拐・人身売買に手を染めており、希望する富裕層の白人に対して、違法な脳移植手術を行っていたのですね。

何という展開・・・。

敢えて他作品と比較するならば、僕が感じたこの作品の「怖さ」とは、よくある陰謀論などで紹介される、白人エリート層の秘密結社的な気持ち悪さなんですよね。お金も名誉も満たされた、富裕層の白人が最後に「不老長寿」「永遠の命」を獲得しようとして、誰も見てない秘密の会合で、非人道的・非倫理的な行為に手を染める。その倒錯した価値観に染まった大人たちは、おぞましくて、ぞくぞくするような怖さがありました。

そして、絶体絶命のところまで追い詰められたクリス。いよいよやられちゃってバッドエンドを迎えるのか?!と鑑賞者が絶望しかけた時、クリスの反撃が始まります。クリスは、知恵と機転を使って拘束を解き、アーミテージ家の人間を一人ずつ容赦なくぶっ潰して、家を出ていきます。

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最後、クリスの怒涛の反撃がケレン味たっぷりで爽快!
引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

このラストシーンの胸のすくような描写は、まさに爽快!アーミテージ家の人間が「野獣」と彼を評したように、彼の眠っていた獣性が解き放たれたような大暴れは、ケレン味たっぷりでスカッとする展開でもありました。

このように、最初から最後まで、とにかくあらゆる場面で画面にぐぐっと引きつけられるような、そんな面白さがある作品でした。

現代まで続く「黒人差別」を丁寧に、歴史的観点も織り交ぜて描いた

本作が優れているのは、練り込まれた脚本に加え、1本「黒人差別」という筋の通ったテーマ性がしっかり設定されていることです。作品の中で重層的に、執拗に繰り返し繰り返し表現されているのです。

ただ単に、現代のアメリカ社会での「黒人差別意識」をトレースしているだけにとどまらず、きっちりと歴史的な文脈を踏まえ、「黒人差別の歴史」も随所で表現しようと試みているのが凄いのです。

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

例えば、ローズの母親ミッシーがクリスを催眠術にかける時に使ったアイテム「紅茶」や地下室に拘束されたクリスが破れたアームレストの中から掴んだ「綿花」。両者とも、長年、白人がプランテーション農業において、奴隷労働を強いてきた作物の代表格であり、アメリカ有史以来の「黒人差別」の歴史をさらっと踏まえたメタファーが試みられています。

さらに、アーミテージ家を訪問したクリスがテラスで振る舞われた「アイスティ」。白ワインとかコーヒーとかじゃなくて、あれっ、なんだろうこの飲み物?とか思いませんでしたか?

調べてみると、アメリカ南部では、特にシロップを沢山入れて味わうので「スイートティー」とも呼ばれるこの飲み物は、19世紀からアメリカ南部の白人家庭で伝統的に飲まれてきたアメリカ人のソウルフードの一つなのだそうです。しかし、本作では、同時に黒人奴隷たちが彼らの農場やキッチンで働かされていた時代をも強く想起させる演出として見事な効果を発揮していました。

このように、映画全体のストーリーにとどまらず、各場面の演出や各キャラクターの立ち振舞ひとつひとつに至るまで、アメリカにおける黒人差別を徹底的に描き出した細やかさには舌を巻かされました。

1度見て終わらすな!2度目の鑑賞からが本当に面白い!

そして、この作品は、1回で終わりにせず、是非2周目以降のリピートを強くおすすめしたいのです。一度ストーリーの全容を把握した後、もう一度最初から各キャラクターの何気ない仕草やセリフ、服装などをよーく観察してみて下さい。もう、登場人物の一挙手一投足に、「ああ、、そういう意味があったのか!」と符に落ちますので。

たとえば、いくつか例を挙げてみましょう。

まず、序盤のシーンから。アーミテージ家へ向かう道中、車を運転するのはクリスではなく、恋人、ローズでした。これって、違和感を感じませんでしたか?

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引用:『ゲット・アウト』予告編 - YouTube

クリスも、ラストシーンで車の免許は普通に持っているのですが、敢えて、ローズが運転するのですね。それは、クリスがアーミテージ家にとって「出荷前の商品」だからなのです。オークションを前に、商品価値を落としたくない。だから、ローズが大事に運ぶのです。また、アーミテージ家の家族たちが、クリスに執拗に禁煙を迫るのも同じ理屈ですよね。

あるいは、アーミテージ家でクリスが出会う奇妙な黒人たち。彼らは、全員白人の脳を移植手術されているのですが、その証拠に、彼らは全員帽子かかつらをかぶっているのです。つまり、手術痕の残る地肌を見えないように巧みに隠しているのですよね。・・・なるほど!と思いました。

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引用:『ゲット・アウト』予告編 - YouTube

さらに面白かったのは、アーミテージ家へやってきたゲストたちの服装です。この時、ローズも含め、クリス以外は全員、服装や持ち物のどこかしらに「赤」が入っています。これに対して、クリスだけが「青」系の服装なのですね。

そう言えばアメリカの2大政党も白人支持者の多い共和党のテーマカラーは「赤」で、黒人支持者の多い民主党のテーマカラーは「青」でした。こうしたところにさらっと政治的なスタンスも入れてきているのがまた面白いです。

その他、映画の隅から隅まで本当に仕掛けが多く、演出やストーリーに多重的な意味やメタファーが仕掛けられていることに気づきます。本当に初監督作品なの?と思えるほど、読み解き甲斐のある作品でした。是非、みなさんも探してみてくださいね。 

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5.映画「ゲット・アウト」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

また、疑問点をまとめるにあたり、東宝東和から公式動画として提供されている、評論家・町山智浩さんの試写会トークセッションが非常に役立ちました。ネタバレを含む、非常に納得感のある解説が聞けます、まずはこちらを是非チェックしてみて下さい!

▶必聴!町山智浩氏トークセッション!
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疑問点1:タイトル「ゲット・アウト」の意味とは

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

直訳すると「Get Out」とは「逃げ出せ!」という意味ですね。劇中でも、ストーリー中盤、アーミテージ家への唯一の黒人の招待者、ローガンが錯乱状態になった時、クリスに向かって「ゲットアウト!」と叫ぶセリフでも強調されていますね。

 

直接的には、文字通り、アーミテージ家に囚われたクリスが、屋敷から脱出するストーリーそのものを直接表現していると思われます。さらに深読みすると、人種差別意識が強いアメリカ社会そのものから、「脱出して自由になりたい!」という黒人の悲痛な叫びである、と取ることもできますね。

疑問点2:主人公、クリスの職業は?

クリスの職業は、プロのカメラマンです。映画中、キャノンの高級デジタル一眼レフを肌身離さず持ち歩く様子からもよくわかりますね。

クリスを競り落としたハドソン画廊のオーナーも、クリスの作風を「力強く、残忍で物悲しいイメージ」と高く評価していましたね。恐らく、幼少時に母親と生き別れた強烈な原体験が、彼の芸術性を支えているのでしょう・・・。

疑問点3:ローガンの正体とは?

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

アーミテージ家のパーティで出会った、いわゆる黒人らしからぬ振る舞いをするローガン。クリスの「黒人特有の」グータッチに対して、普通に握手で返す不自然さ。クリスが挨拶した時、彼は老婦人の物静かな年老いた夫という感じの立ち振舞でしたね。しかし、クリスが写メを撮った時、切り忘れていたフラッシュを浴びると、錯乱状態になり、クリスに襲いかかってきました。

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

彼の正体は、少し前に行方不明となっていたアンドレ・ヘイワースでした。ローガンの写メを見たロッドが、暫く前に失踪した知り合いに似ていると考え、ネットで調べた結果判明します。つまり、彼もまたローズのハニートラップにかかり、アーミテージ家で白人たちの顧客に売り飛ばされていたのですね。

疑問点4:アーミテージ家の正体とは?

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

アーミテージ家は、「知能」や「体力」に優れた黒人を誘拐し、ローズの祖父が編み出した「凝固法」という脳外科手術のメソッドを活用し、「白人」の顧客たちの脳を移植する、違法な人身売買ビジネスを家族ぐるみで行っていました。

その役割分担とは、以下の通りです。

娘(ローズ):誘拐担当
色仕掛けでターゲットに近づき、結婚詐欺で黒人男性を自宅へと招き入れる。非常時は、逃げ出そうとするターゲットを、猟銃で仕留めるスナイパーの役割も務める

息子(ジェレミー):誘拐担当
柔術でターゲットを締め上げ、意識を失わせて誘拐し、自宅へと引き入れる。また、父親の実施する脳移植手術のアシスタントを務める。

母親(ミッシー):催眠術担当
心理療法士で、催眠術を得意とする。本作では、夜に眠れないクリスを誘い出し、紅茶のカップを繰り返しかき混ぜる音と動作で、催眠状態へと誘導した。

父親(ディーン):オークション・手術担当
顧客を集め、ビンゴ大会を偽装したクリスの人身売買オークションを実施。また、実際の脳移植手術を実施する担当でもある。

疑問点5:クリスを競り落とした老人の正体とは?

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引用:映画「ゲット・アウト」DVD本編映像より

クリスを競り落とした老人は、ハドソン画廊のオーナー、ジム・ハドソンです。彼は、失明する前、野外専門のカメラマンとして活動していました。しかし才能の限界を感じ、美術商に転じたのでした。そこで成功を収めたのですが、皮肉なことに今度は失明してしまったのです。

そこで、ジムは自らが失った「視力」とクリスの世界を捉える独特のセンスを自らのものにしたいため、彼を宿主にしたいと願い、クリスをオークションで競り落としたのでした。

疑問点6:クリスはなぜ洗脳を解き、脱出することができたのか?

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引用:映画「ゲット・アウト」DVD本編映像より

映画を注意深く見ているとわかるのですが、地下室で催眠状態から一旦覚めたクリスは、夢中でアームレストにしがみついているうちに、アームレストを覆う毛皮が破れ、中からクッション材としての「綿花」が出てきていることに気づいたのです。

これを両耳に詰めることによって、クリスは、ローズの母ミッシーが仕掛ける、紅茶のカップをかき混ぜる音を遮断することで、 これ以上催眠術にかからないようにしたのですね。

ちなみに、彼は敵を油断させるため、ジェレミーが室内に入ってくるまでの間、わざと催眠にかかったふりをして目を閉じていました。

疑問点7:「鹿」は何のメタファーだったのか?

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

本作で、「鹿」は3度象徴的な登場をします。1回目は、アーミテージ家へ向かう道中で誤ってハネてしまった「死体」として。2回目は、地下室の壁に掛けられたオスの剥製との対面。そして、3回目はその剥製を「武器」として使って、ディーンを倒すシーンです。

この「鹿」には重層的にメタファーがかけられていると見ることができます。

1つは、「鹿」=「黒人」という見立てです。歴史的に黒人は搾取され、痛めつけられてきました。現在は、美しい鹿の剥製のように、表面上は人種差別は「なくなった」ように繕われていますが、実際はまだまだ人々の心の中に根強く差別意識は残っていますよね。クリスが剥製を使ってディーンを殺すシーンは、そんな現状に対して、黒人たちの怒りが爆発しているのだ、と見ることもできますね。

もう1つは、「鹿」=「クリス」と見ることもできますよね。すなわち、鹿が画面に登場するシーンと、クリスのたどる運命が連動しているのです。アーミテージ家へ向かう途中で殺された死体は、クリスの運命を暗示しているようですし、地下室の剥製は、このあとクリスが白人の脳を移植手術され、たんなる入れ物になろうとしていることを暗示しています。そして、最後に剥製のツノがディーンを倒すシーンは、このあとクリスがアーミテージ家を全員やっつけることを暗示しているのですね。

疑問点8:クリスが脱出する車の中、助手席に置いてあった「仮面」とは何の意味があったのか?

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この鉄仮面は、ローズの弟、ジェレミーが誘拐する時に、顔を隠すため使用していた「誘拐用の道具」ですね。映画冒頭で、閑静な白人居住地域に紛れ込んでしまったある黒人男性が、車から下りてきた仮面をかぶった男に誘拐されるシーンがありましたが、この仮面の男こそがジェレミーだったのです。

また、よく見ると、このクリスが脱出に使った白い車も、映画冒頭で映し出される白い車と一致しています。映画ラストシーン近くになって、一見、本編とは関係のなさそうに見えた映画序盤で男が襲われるシーンと本編のつながりをワンショットで鑑賞者に悟らせるという、非常にクレバーな演出でした。

疑問点9:ラストシーン・結末の考察

拘束されていた古椅子のアームレストのクッション材として使われていた綿花を耳に詰めることで、ミッシーの催眠術を回避したクリスは、ジェレミー、ミッシー、ディーンと、アーミテージ家のメンバーを次々倒し、外に止めてあった白いスポーツカーで屋敷を脱出しようとします。

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

そして追いすがってきた男性の使用人(=祖父)をカメラのフラッシュで錯乱状態に追い込み自殺させると、最後は猟銃を手に追ってきたローズを倒したところで、親友のロッドが迎えに来てくれたところで、映画は幕を閉じます。

ジェレミーが柔術で襲いかかってきたり、実はジェレミーこそが、冒頭で登場した高級住宅街での誘拐犯であることが判明する仕掛けが用意されていたりと、ラストシーンにも見どころが満載。

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引用:Get Out - In Theaters This February - Official Trailer - YouTube

そして、よく見るとローズもラストシーンだけ髪型が違うんですよね。クリスの恋人モードだった時は、髪を下ろして女性らしさを全面に出していましたが、ラストシーンでは猟銃を手にオールバックの出で立ちで完全に戦闘モード。狂気が宿った目つきが怖かったです。

ローズをしめ殺して、アーミテージ家全員を倒した直後にクリスの前に現れた警察車両を見て、一瞬「ここで逮捕されてしまうのか、きついな・・・」と思ったら、車からは親友のロッドが下りてくるラストショットも、最後までハラハラさせてくれる演出で秀逸でした。

疑問点10:もう一つのエンディングとは

すでに発売されているDVD・ブルーレイといった円盤には収録されているのですが、本作には陽の目を見なかったアナザー・エンディングがあります。

そのエンディングとは、クリスが最後にローズをアーミテージ家の屋敷近くの路上で殺して、車で立ち去ろうとするまさにその時、親友・ロッドではなく、警察が現れてクリスを逮捕してしまうという筋立てです。その後、クリスは収監され、半年後にロッドと面会をするシーンで静かに終わっていくバッドエンドとなります。

ジョーダン・ピール監督によると、敢えて精神的に堪えるバッドエンドにすることで、「未だに黒人差別は存在しているのだ」ということを強烈に観客へと印象づけたかったとのこと。ただし、このエンディングだとあまりに救いがないので、採用を見送ったのだとか。

疑問点11:続編はあるの?

当初は本作はこれで完結と思われていました。しかし、2018年2月、アメリカの各種Webメディアで、「ジョーダン・ピール監督自身が続編制作へ前向き」と一斉に報道がありました。ただ、現状ではアイデアや構想、スケジュール等は全く決まっていません。単に「前向き」「やりたい」と監督自身が表明した段階です。

現在、ジョーダン・ピール監督は、ユニバーサル・ピクチャーズと契約し、2019年上半期に公開予定の別の2作目(タイトル、内容不明)を撮影中とのこと。

だから、もし「ゲットアウト2」または、「ゲットアウトユニバース」みたいなものが実現するとしても、当面先の展開になるのでしょうね。これだけの練り込んだオリジナルコンテンツを作れる力量のある監督なので、いくらでも話は広がっていくと思います。映画でもドラマでもいいので、是非もう少しこの世界観でのお話を見てみたい気もしますね。 

7.まとめ

映画「ゲットアウト」は、日本で劇場上映された時はそれほど話題になりませんでしたが、低予算のインディーズ作品ながら、脚本・演出とも非常によく練り込まれた素晴らしい作品でした。

良い作品は、2回目、3回目と見返すと、さらにじわじわと面白さが染み渡るように体感できるといいますが、本作はまさにそういった「スルメ作品」の代表格。僕も、何度も何度も手元で確認するたび、ディテール描写や精巧に仕掛けられたメタファーの数々に嘆息させられました。おすすめなので、是非何度も見返してみてくださいね。

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

「ゲットアウト」DVD・ブルーレイ

特典で一番見ておきたいのが、本編では採用されなかった「もう一つのエンディング」映像と、各種未公開シーンです。それぞれ、ジョーダン・ピール監督の音声解説付き。また、アメリカで上映時に実施された、監督とキャスト陣が登場した公開QAセッションシーンや、本編についての監督自身による音声解説もがっつりついてくるので、まさに作品を隅から隅まで味わい、読み解きたい人にぴったりのスペシャル限定バージョンです。Amazon限定版は、特性収納ケースがついてきます。僕もこれを購入しました!

【レポート】小学館「週刊ニッポンの国宝100」編集部に遊びに行ってきました!

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かるび(@karub_imalive)です。

昨年9月の創刊以来、毎週欠かさず購入中の分冊雑誌「週刊ニッポンの国宝100」(小学館)。個人的には、日本美術を体系的に勉強したいなら、これをコンプリートして熟読するだけで相当な教養・知識量がつくのでは??と思っています。

実際、ブログを始める2年半前は知識ゼロだった僕も、この「週刊ニッポンの国宝100」を読み始めてから、かなり知識がついてきたように思います。Twitterでもせっせと「#国宝」「#国宝100」などとタグを付けて、感想をこまめにツイートするなど、全国に数万人いると思われる読者の中でも、かなり真面目な読者だと自負しております(笑)

そうそう、創刊当時にアップしたこの記事とかも、編集部も含め(一時期は検索上位に上がっていたこともあり)かなり色々な方に読んで頂きました。 

そんな僕にまさかのご褒美(?)となったのが、小学館の「週刊ニッポンの国宝100」編集部から、「制作場面を取材させてあげるから小学館の編集部へ遊びにこないか?!」とお声がけを頂いたのです。

おお、まじか!!

大手出版社の、アート雑誌の制作現場の最前線を見れる?!ということで、二つ返事で「行きます!」とお返事をして、GW前に編集部へお邪魔してまいりました。

簡単ですが、今日は「週刊ニッポンの国宝100」の編集部を訪問してきたレポートを書いてみたいと思います!

地下鉄直結!さすが大手出版社!!

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「週刊ニッポンの国宝100」編集部のある小学館は、「古本の街」神保町にあります。ちょうど去年新社屋へと移転したばかりなのですが、その新社屋は、なんと地下鉄神保町駅A8出口直結なのです。さすが老舗の大手出版社!神保町という街を象徴する存在なわけですね。

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さて、そのA8出口からどんどん進んで行くと、目の前には小学館のドル箱コンテンツである「コナン」や「ドラえもん」といった記念写真用の立体紙パネルが!こういった、お客さんへのサービス精神は素晴らしいですね。

「週刊ニッポンの国宝100」編集部は書籍制作フロアに!

さて、受付で髙橋編集長に連絡して、早速8Fの書籍制作フロアへ案内していただきました。すると、意外なことに室内はかなり静かです!打ち合わせや社外へ離席している人も半分くらいいて、フロアにあんまり人がいません。しゃべると、2~3ブロック先まで話し声が聞こえてしまうくらい非常に静かな空間が、意外すぎてちょっとびっくりしました。

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移転したばかりの社内には清潔感があふれていました。一般的に、出版社に抱きがちなカオスな雰囲気は微塵も感じません。想像していたよりもスッキリとした明るい社内空間が広がっていました。書類なども意外にちゃんと片付いてますよね。僕の子供の通う小学校の職員室のほうがよっぽど書類だらけであります(笑)

聞いてみたところ、でも、こんなに静かなのはこのフロアだけなのだとか。他の階の「週刊ポスト」「女性セブン」といった情報誌や、営業・広告といったスタッフのいるフロアは、外部ライターさんなども室内に常駐して仕事をしていたりと、もっとざわざわしているようですね。

さて、こちらが、「週刊ニッポンの国宝100」の編集部です。

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あれっ、編集部はたった1シマで、数名しかいないんですか・・・結構、少人数なんですね???

聞いてみたところ、毎週40ページにもわたるあのコンテンツ量を、現在ではわずか4名の編集部員+編集協力者数名で回しているそうです。まさに少数精鋭であります。

この日は、ちょうど雑誌にも掲載されている髙橋編集長をはじめ、4名の編集部員全員にご挨拶をさせて頂きました。皆さん、僕より年上か同年代で、全員がキャリア20年以上の超ベテラン編集者でした。

ちょっとでも病気などしたら、途端にピンチになってしまうギリギリの体制なので、緊張感もあって、かえって風邪などはひかなかったそうです。ただ、全員がプロ編集者で、仕事が早いプロであるとは言っても、やはり結構仕事量は多く、残業なんかはかなりあるみたいです・・・。本当にお疲れ様です。

編集作業の様子を覗かせてもらいました

ちょうどこの日は、1ヶ月ぐらい先の第33号、34号あたりの編集作業が佳境に入っていました。編集のプロセスについて、資料を使って色々と説明していただきました。段取りとしては、概ね以下のようになります。

1.編集会議で基本構成を決定する 

どの号も、企画の起点となるのは、編集部全体での「編集会議」です。ここでは、編集部員全員が企画案を持ち寄り、内容・構成について綿密に検討が行われます。

こうして編集の最終案が決まってくると、次のステップに進みます。編集会議自体は、各号刊行のかなり前から行われます。たとえば、2018年4月末時点でまだ32号までしか刊行されていませんが、全50号全ての編集案は、すでにできあがっているのだとか。

この「編集会議」が、雑誌編集の最初の大きな「山」だということなので、ここからあとは、作るだけだー、、、と、ゴールが見えてきているからか、みなさん表情は明るかったです。

2.誌面の絵コンテを作る

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編集案がまとまったあと、いよいよ当該号の担当編集部員が、全誌面約40ページのレイアウト案を考えます。マンガや映画、ドラマと同じで、大まかな「絵コンテ」でアイデアを形にしていくんですね。

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とは言っても、編集部員はマンガ家ではありません。複雑な仏像などを「絵」で表現するのも割りと苦労が多そう。絵コンテで表現されている仏像も、その・・・怪獣のようです(笑)

僕も半端なく絵が下手くそなので、いやー・・・苦労されているんだなぁとしみじみ。ちなみに、この「怪獣」(?)の絵コンテは、下記の通り、第29号で取り上げられた向源寺十一面観音のお顔の裏側の写真でした。

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こうして苦労して出来上がった絵コンテが髙橋編集長によってOKが出たら、いよいよ次の作業へと進んでいきます。 

3.写真選定と執筆作業

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コンテンツ案が決まれば、あとは全40ページの文面を埋めていくだけです。文章は、専属のプロの外部ライターさんが担当します。基本は、1号分の文章をまるまる全部一人のライターさんに委託します。

かなりの文章量があるので、さすがにプロのライターさんをもってしても、最低でも2週間くらいはガッツリ「週刊ニッポンの国宝100」の記事作成でかかりっきりになるとのこと。

ライターさんも必死で調べて良い記事を書こうと頑張ってくれています。実際、調べるだけじゃわからないことは、ちゃんと国宝の所蔵先へ赴いて、現地取材を入れることも多々あるようですね。

いやー、僕もいつかこういうプロの仕事がしてみたいです。

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一方、文章と合わせて掲載する写真を選定するのは、編集部員の大事なお仕事です。「週刊ニッポンの国宝100」では美麗かつ詳細な写真が生命線ですよね。なので、あらゆるリソースを使って、各編集部員は必死で「良い写真」を探します。

例えば、過去の写真集や展覧会図録をチェックしたり、「飛鳥園」「便利堂」といった文化財写真の有力な撮影業者のアーカイブを漁ったり・・・。そのため、小学館の社内には相当な量の図録や写真集が常備されています。時には編集部員で奪い合いになるんだとか(笑)

また、どうしてもほしい写真がない場合は、作品の所蔵先(寺社や個人)などから、新しい写真を頂く交渉をしたり、文化財専門のプロのカメラマンに頼んで撮ってきてもらうこともしばしばあるようですね。

4.綿密な校正作業を行う

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そして、写真と文章が一旦出揃ったら、ここから校正作業に入ります。編集部内で徹底的に読み込んで、文章や図案、写真の色合いなど、あらゆる角度からチェックを入れていきます。

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基本的には、チェック→ゲラ作成→チェック→ゲラ修正→チェック→ゲラ修正・・・と校正作業を最低限3回は繰り返すとのこと。いや・・・途方もない作業です。(ブログなんて、1回ササッと誤字脱字見直して終わりですからね・・・)

5.誌面完成!印刷所から取次や書店へ発送

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こうして、ようやく我々の手元に完成した誌面が届くんですよね。ここまで編集プロセスを拝見して、ほんとにこれ、1号たった680円でいいの?って正直思っちゃいました。ライター、編集者が、身を削って作った渾身の作品、これからはもっと姿勢を正して読ませて頂かないとです・・・

編集部は取材より調査・チェックに時間をかける

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見て下さいこの「赤」の入り方。というか、赤だけじゃなくて、青や緑、黄色などわけがわからないくらい直しが入ってます。特に、こういった固有名詞や人名の読みがななどは徹底的に読みやすさを追求してチェックを入れるのだとか。

あとで「週刊ニッポンの国宝100」を持っている人は読み返してみてほしいのですが、確かに、執拗なまでに固有名詞には全ページ「ルビ」がきちんと入ってます。

また、連絡先の電話番号は必ず電話を入れてチェックも怠らず実施するのだとか。Webなら後から簡単に訂正できますが、印刷物は一度出回ったら直せませんからね。あらゆる面からファクトチェック(事実検証)が徹底されているのですね。

「写真」への徹底的なこだわり

僕が誌面づくりで感じたもう一つのこだわりが、「写真」です。展覧会や寺社で現物を観るだけでは味わえない、写真ならではの特徴を活かそうと、本当に写真選定には気を使っているのだなと。

そして、写真は選定して終わり、ではないんですね。

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右側:元の図版
左側:図版の元画像データを使用して印刷した誌面

例えば、上の写真を使って説明してみましょう。右側が、誌面に使うと決めた、印刷物の図版です。その場合、まずは図版の元になった(その印刷物で使用されている)画像データ、またはポジ・フィルムを入手してきます。そして、その画像データ、ポジ・フィルムを使用して実際に印刷をかけてみます。

しかし、「週刊ニッポンの国宝100」と元の図版では、印刷方法が違うので、同じ画像データを使用しても、見え方はかなり異なってくるのです。上の印刷比較でも、光沢や色合いが微妙に変化しており、雰囲気がかなり違っていますよね。このあたりをどう調整するか。非常にさじ加減が難しいのです。

表紙の写真にも神経を使います。「週刊ニッポンの国宝100」の表紙は、通常のコート紙にポリプロピレンフィルムを貼り付ける加工を施しています。これにより、光沢を出しつつ強度を高めているのですが、普通にコート紙に印刷した時(右側)とは発色や色味もやはり微妙に変わってきます。

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左側:表紙(コート紙+ポリプロピレンフィルム加工)
右側:通常のコート紙での試し印刷

こういったものを全て調整し、理想の色味へと微調整をかけていくのです。実際、髙橋編集長は、週に1回以上のペースで、実際に印刷所に足を運び、誌面の印刷状態をその場でチェックしているそうです。いやー、大変ですよね。

さらに、写真選定で大変なのは、誌面に掲載される各写真の権利関係をきちんと処理すること。寺社への写真使用申請書を出したり、写真業者にお金を払ったり、クレジットを正確に記載したり・・・といった管理は、本当に大変なのです。ブログを書いてるだけでも「ああん、うっとうしい!!」といつも煩雑さに音を上げそうになるのに、1号あたり100枚単位で写真を使う本誌ではどれだけ苦労することでしょうか・・・

幸いにして、こうしたクレジット管理は、専門のプロがきちんと処理してくれるそうで、毎号毎号、専門スタッフの方がExcelに丁寧にまとめます。(僕もブログ用に一人こういうアシスタントの人ほしい・・・(^^) )

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拡大してみます。すごいですよね~。この徹底した管理。間違えたら一発で著作権法違反ですからね。正確を期して、万全の体制で臨んでいるのです。

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まとめ

いかがでしたでしょうか?雑誌づくりの流れを、めちゃくちゃお忙しい編集部員の方々に約1時間かけてガッツリご説明頂きました。

数万部規模の安定読者を抱える「週刊ニッポンの国宝100」。1冊の雑誌づくりには、我々が思ったよりはるかに凄いプロセスと工数がかけられているわけです。少数精鋭の凄腕編集部員やプロのライターさん達が、時には徹夜も辞さず徹底的にこだわって作った誌面が、わずか680円で読めるこのありがたさ。

書籍や雑誌が売れない時代と言われてから久しいですが、こうやって編集者の皆さんの本気の取り組みを見ていると、本当に頭が下がる思いです。個人ブログやWebメディアのお手軽な制作風景とは違い、雑誌制作ならではの厳しさや複雑さが良くわかった取材となりました。

第50号の最終号まで、あと17冊ほど残っていますが、残りも楽しみにしています!また、ライター&ブロガーとしても、こういった雑誌のお仕事ができるように頑張っていきたいなぁと思いました。小学館の「週刊ニッポンの国宝100」の編集部のみなさま、お忙しいところありがとうございました!

それではまた。
かるび

分冊百科雑誌「週刊ニッポンの国宝100」とは?

国宝制度120周年を記念して、小学館より創刊された週刊分冊雑誌です。2017年9月に創刊されました。全50号発行予定で、1号につき2件の国宝が毎週紹介されます。創刊号は、豪華付録もついて10万部以上を完売。現在も、数万部規模で安定して売れているそうです。

特徴は、初心者~中級者向けに書かれたわかり易い文面と、美麗な写真。写真ならではの高品質画像で細部まで紹介してくれます。1冊全40Pと、程よい情報量なのもうれしいところ。

僕は初回号からガッツリ愛読させてもらってますが、この雑誌と出会ってから、日本美術に対する基本知識が身についてきたことを実感してます。

特に嬉しいのは、発売後1週間経過した時点で、Kindleをはじめとして、様々な電子媒体でも手に入るようになったことですね。こういう分冊雑誌は、コンプリートする安定読者にとって、まず「紙」ベースで揃えたい!というニーズが第一に来るのは確か。でも、この号だけ買いたい!読みたい!っていう人にとっては、半永久的に品切れとならない電子版の存在は、非常に心強いと思います。

琳派400年の歴史がわかる!特別展「琳派-俵屋宗達から田中一光へ-」@山種美術館【展覧会感想・レポート】

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かるび(@karub_imalive)です。

5月12日から、山種美術館で特別展「琳派ー俵屋宗達から田中一光へー」が始まりました。「特別展」と銘打たれ、今年一番力が入っている展覧会です。副タイトルの作家名が示す通り、江戸時代から現代まで引き継がれた琳派約400年の歴史を、各時代の作品を見ていくことで紐解いていこう、という意欲的な展覧会です。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.特別展「琳派 俵屋宗達から田中一光まで」の展示内容とは?

本阿弥光悦・俵屋宗達のコラボによって江戸初期に始まったとされる「琳派」の歴史も、すでに400年。特に江戸時代には、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一など、日本美術史に名を残すビッグネームを沢山輩出しています。

明治維新後も、酒井抱一や鈴木其一の直接の弟子筋である「江戸琳派」の流れの画家は昭和初期まで活動していました。また、先人たちへのオマージュとして、琳派的なエッセンスが色濃く出た作品を残した近現代の作家たちは多くいます。昭和に入っても、加山又造や田中一光など、琳派に私淑するアーティストが優れた作品を残しています。

▼参考:加山又造《華扇屏風》(陶板作品/「Re又造展」より)
※今回展覧会では「原画」が展示されています
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今回の特別展「琳派 俵屋宗達から田中一光まで」では、各時代を彩った様々な作家の傑作を見比べることによって、琳派400年の歴史を振り返ってみよう、という非常にスケール感の大きい展覧会となりました。

実は、意外なことに「琳派」の歴史を総括した手頃な入門書って、近年は全く出ていないんですよね。(※図録系雑誌や高額な専門書籍を除く)「俵屋宗達」「尾形光琳」といった個人にフォーカスした書籍や、「江戸琳派」「かわいい琳派」といった、テーマを絞り込んだ本はいくつかあるのですが、真っ向から「琳派400年をわかりやすく振り返る!」という書籍ってないんですよね。

だからこそ、今回の展覧会は、江戸初期から伝わる琳派400年の歴史をガッツリ学べるチャンスでもあるのです!

正直なところ、僕も「田中一光って誰」「神坂雪佳・・・名前しか知らんな」という状態でした。光琳や抱一といったビッグネームだけでなく、色々な時代の琳派作家の代表作に触れることができたので、非常に勉強になりました。是非楽しんでみて下さい!

2.展覧会のみどころ

琳派の歴史は、世襲制ではなく「私淑」の歴史

江戸時代には、琳派以外にも、江戸幕府御用絵師の狩野派や土佐派、住吉派といった絵師集団がいました。彼らは、基本的には血縁・地縁で紐付いた一子相伝の徒弟制度で、代々の技を受け継いでいきます。

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しかし琳派の場合は違いました。尾形光琳も、酒井抱一も自分たちで勝手に先人の作品を評価し、自らの作風に取り込む形でリスペクトを表す、いわゆる「私淑」という形で、琳派の作風や精神性を受け継いでいきました。その流れは、昭和世代の加山又造や田中一光に至るまで綿々と続いていったのです。

今回の展覧会では、そうした「私淑」の連鎖によって、どのように「琳派」の歴史が形作られていったのか俯瞰するには絶好の機会なのです。

江戸時代のビッグネーム達の傑作が多数出展!

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今回は「特別展」と銘打っているだけあって、特に江戸時代の作品群が非常に充実!山種美術館で所蔵している琳派の江戸時代の代表作品がキッチリ出展されています。これから「琳派」の代表的な絵師について、その作品に触れてみたい!という方にも、入門編としてばっちり楽しめる展覧会となりました。

鈴木其一《四季花鳥図》f:id:hisatsugu79:20180516235915j:plain

日本史の教科書にも出てくる、俵屋宗達、尾形光琳といったビッグネームはもちろん、根強いファンのいる酒井抱一、2016年末のサントリー美術館での展覧会で一気にメジャー化した鈴木其一など、琳派絵師で「抑えておかなければならない作家」は全て出展されています!

明治期以降の作家も、積極的にモチーフや技法を取り入れた

明治以降に入ると、「琳派」の作品は海をわたり、西洋画壇において高い評価を得ていきます。この動きに合わせ、日本でも日本画・洋画を問わず、尾形光琳や、俵屋宗達の芸術性・デザインセンスなどを制作上のアイデアの源泉とする作家が沢山出てきます。

奥村土牛《南瓜》
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近代日本画の中からも、速水御舟・菱田春草・加山又造・安田靫彦などが、「琳派」の巨匠たちから学び、自らの作品に技法や作風を取り込んでいきました。本展では、こういった近代日本画の有名画家たちが、どのように「琳派」を自らの作品で表現したのか、元ネタと合わせてチェックできるようになっています。

3.特に気に入った展示作品をご紹介!

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《鹿下絵新古今和歌巻断簡》

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俵屋宗達・本阿弥光悦のゴールデンコンビによる絵巻物の断簡。山種美術館が保有する最古の琳派作品のうちの一つで、作品内に描かれた「鹿」をモチーフにしたグッズも販売されています。

個人的に非常に好きな作品で、山種美術館で本作を見てから、本阿弥光悦の個性的で特徴のある、優雅な字体に惚れ込んでしまいました。(何と書いてあるのかは読めないのですが・・・^_^;)山種美術館の開催する琳派の展覧会には、いつも高確率で出展される作品です。

尾形光琳《白楽天図》

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謡曲「白楽天」から着想を得て製作された作品。白楽天の乗る船のとんでもない角度や、山のようにうねる大海原、極端にデフォルメされた、山と一体化された陸地など、尾形光琳のデザインセンスが大爆発した一作。これぞ「琳派」といった趣の作品ですね。

つい先日まで開催されていた根津美術館「光琳と乾山」展でも、同タイトルで同じ構図の作品が展示されていました。こちらのほうが波や山の稜線などがよりくっきりと描かれ、各モチーフのデザイン化が進んでいます。根津美術館に行かれた人は、是非2つの作品の違いを味わってみてくださいね。

鈴木其一《牡丹図》

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近年、山種美術館に収蔵されましたが、非常にファンからも人気の高い一作。この展示と、ちょうど反対側に展示されている鈴木其一《四季花鳥図》とを比較して頂ければわかりますが、あんまり琳派っぽくない作品です。どちらかというと、古い中国絵画に近いような。

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山下裕二教授の解説によると、本作には元ネタがあるとのこと。14世紀の趙昌が描いたとされる《牡丹図》と構図、絵柄がかなり似ているのです。琳派の伝統に縛られず、あくまで自らのオリジナリティ、新境地を貪欲に探った鈴木其一らしい作品だなと思いました。

速水御舟《翠苔緑芝》

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山種美術館の所蔵する速水御舟の代表作《翠苔緑芝》が、今回満を持して展示されています!速水御舟が琳派的なエッセンスを大胆に取り込んで制作した、ゴージャスな金地の屏風絵です。

本作は山種美術館の人気作品として頻繁に展示されているので、今回僕が見るのも2回目。でも、いつ見てもいいですよね~。極端に図像化され、ゴルフのグリーンのような芝生の上で、のんびりしているうさぎやネコを見ていると癒やされます・・・。

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でも、よくよく見ると右隻のうさぎたちは、琳派の巨匠・俵屋宗達の《白象図》《唐獅子図》からそれぞれインスパイアされて描いているとされるのです。

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これ、あとでブロガーの友人たちと話していたのですが、研究者や学芸員さんって、よくこういう共通点をさらっと見つけ出せるものだなと・・・。その熱意に頭が下がります・・・。

また、この屏風の一番の見どころは右隻中央部に描かれたあじさいの表現!色彩のグラデーションも美しいですし、あまり他の日本画ではちょっと見ないような質感の表現方法で描かれており、要チェックですよ!

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《絵御本茶碗「風神」・「雷神」》

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左:今村紫紅(絵付)・清水六兵衛[4代](作陶)《絵御本茶碗「風神」》
右:安田靫彦(絵付)・清水六兵衛[4代](作陶)《絵御本茶碗「雷神」》

今回の展覧会で展示されているのは、絵画だけではありません。工芸品やポスターなど、バラエティに富んだ幅広い作品ジャンルで、琳派の流れを体感できるように展示されています。

その中でも、特に印象的だったのは、俵屋宗達以下、琳派のランドマーク的作品「風神雷神図屏風」から着想を得て製作された一揃いの茶碗。今村紫紅と安田靫彦の琳派へのリスペクトを形にしたコラボ作品です。

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酒井抱一《宇津の山図》

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酒井抱一の作品。歴史や文学からテーマを取り、当時の一流文化人だった酒井抱一らしい、優雅な作品。「宇津の山」は伊勢物語の一場面ですね。

僕がこの作品で目に止まったのは、メインテーマではなく、背景部分に控えめに描かれた「みどり」のモミジでした。

ここ数年、京都観光の広告やチラシで目立つのが、春~初夏にかけての「青もみじ」特集。お寺の境内や庭園で青々と茂った若いもみじを見て回るのも風流でいいですよね。先日、京都観光に行った際、初めてこの「青もみじ」の下でお茶を頂いたのですが、心が洗われるようでした。

日本画でもそういうのないのかな?と思ったら、本展でとうとうみつけました(笑)あくまで後景の一部分として控えめに描かれているだけなのですが、新緑の季節に青々と茂る琳派のモミジが非常に印象に残ったので、最後に取り上げてみました。

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4.新作グッズや期間限定和菓子も要注目!

毎回、展覧会に合わせて細かくグッズのラインアップも少しずつリニューアルされている山種美術館。特に、今回いくつか目を引いたグッズがありましたので、そちらを紹介していきますね。

▼Tシャツ
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山種美術館に、福田平八郎《芥子花》をモチーフとしたTシャツが登場!最初これを見た時、新鮮な違和感を感じました。なぜかというと、山種美術館で企画展に即したTシャツが制作されるのは、約10年ぶりであり、激レアグッズだからなんです。美術館が広尾に移転してからだと、初めての試みとなるそうです。

サイズは男女共通のフリーサイズで、いくつか用意されています。ちょうどグッズ制作会社の方が着ていたので、写真を撮らせて頂きました。

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夏らしいデザイン、いいですよね。これから山種美術館さん、これを機に毎回シャツ作ってくれないかな~(笑) 

▼携帯ルーペ
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気軽に日常使いできる、持ち運びできる携帯ルーペ。あしらわれているのは、本阿弥光悦・俵屋宗達《鹿下絵新古今和歌巻断簡》の鹿ですね。おしゃれな新作グッズでした。

▼マルチホルダー
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続いて、速水御舟《翠苔緑芝》をあしらったチケットホルダー。表裏で、左隻・右隻両方のデザインを楽しむことができます。こちらも今回の展覧会用に製作された新作!

▼売り切れ必死!人気の「図録」
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そして、最後に展覧会図録!サイズもA5サイズ(A4の半分)に抑えられ、持ち運びや保管もラクラクです。山種美術館の図録は、人気になると会期後半には売り切れるリスクがあります。少しでも気になったら、サクッと抑えてしまいましょう!!

そして、山種美術館と言えば、展覧会の作品にちなんだ限定「和菓子」ですよね!今回も、色とりどりの上品な和菓子が用意されています。僕も展覧会が終わって時間があれば、かならず1Fロビーの休憩スペースで和菓子を頂いてから帰途につくことにしてます!

▼限定「和菓子」
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5.混雑状況と所要時間目安

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春休みからゴールデンウィークあたりの春の行楽シーズンが一段落して、観光や娯楽は夏休み前の閑散期に入っていきますが、今回は年に1回の「特別展」です。しかも、特集ジャンルも人気が高い「琳派」です。すし詰めになるくらい混雑することはありませんが、ゆっくり観たい人は、ピークの時間帯(13時30分頃~15時頃)を避けて、朝イチか16時ごろに入るのがいいかも。

また、今回は、展示替え作品もかなりあります。前後期合わせて楽しんでみてくださいね。

6.関連書籍・資料などの紹介

冒頭でも書きましたが、これだけメジャーな存在なのに、意外と「琳派」のことを総合的に学べる手頃な価格帯の本が出ていないのです。よって、ここでは東京美術から出版されている、初心者定番のムック本「もっと知りたい~」シリーズから、いくつか良書を紹介しておきますね。彼らの代表作品が高品質画像とともに網羅されています。

もっと知りたい俵屋宗達

もっと知りたい尾形光琳

もっと知りたい酒井抱一

7.まとめ

今回の琳派展は、江戸初期から近現代まで、約400年間にわたる琳派の歴史の中で幅広く「琳派」の作品を取り上げた意欲的な展覧会でした。

「琳派」については、先日も根津美術館の「光琳と乾山」展でしっかり見てますし、年に1回はそれっぽい展覧会に行っているので、割りと理解できた気でいました。しかし改めて今回の特別展を見て、知らなかったこと、わかってなかったことが多数あったことに愕然・・・。いざブログを書こうと思ったら、全然筆が進みませんでした(笑)

初めて琳派作品を見る、という人にもオススメですし、琳派の作品に馴染んでいる人でも、必ず新しい発見や学びが得られる展覧会です。是非楽しんでみてくださいね。

それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年5月12日(土)~7月8日(日)
*会期中、一部展示替えあり
(前期: 5/12~6/3、後期: 6/5~7/8)
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日

◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

【ネタバレ有】映画「モリーズ・ゲーム」感想・考察と9つの疑問点を徹底解説!/ポーカー・プリンセスと言われた女性の激動の半生とは?

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かるび(@karub_imalive)です。

トップアスリートを引退し、自らの才覚と根性で世界中のセレブが熱狂するポーカールームの経営者となった実在の女性の半生を描いた作品があるー。そして主演は「ゼロ・ダークサーティ」や「女神の見えざる手」など、強くて知的な女性を演じさせたら抜群のジェシカ・チャステイン・・・。

これは面白い作品になるだろうなと思っていたら、案の定、先に試写会に行ってきた肩から「面白いよ!」と大評判だったので、早速行ってきました。面白かったです!

早速ですが、映画の感想やレビューを書いてみました。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「モリーズ・ゲーム」の予告動画・基本情報

▶映画「モリーズ・ゲーム」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】アーロン・ソーキン
【脚本】アーロン・ソーキン(「ソーシャル・ネットワーク」他
【配給】キノフィルムズ
【時間】140分

本作は、NYやLAで、セレブ達の集まる伝説的なポーカー・ルームを若干26歳で運営した実在の人物、モリー・ブルームの数奇な半生を描いた、実話ベースのヒューマン・ドラマです。

上映時間は、かなり長めの140分。ですが、高速で遷移するカメラワークや、情報量が詰まったマシンガンのような会話劇を中心として、3つの時系列が入り乱れて進行するなど、早く結末を見たい!と期待感を持続させる仕掛けがいくつも用意されており、尺の長さをあまり感じさせません。

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アーロン・ソーキン監督
引用:Wikipediaより

本作は、アーロン・ソーキン監督の初監督デビュー作となります。今作では、監督と同時に脚本も担当。過去作「ソーシャル・ネットワーク」「スティーブ・ジョブズ」で見せた、スリリングな会話劇の切れ味は今作でも健在です。初監督作品ながら高い評価を得て、2018年度アカデミー賞脚色賞や、2018年度ゴールデングローブ賞2部門でノミネートされました。

ちなみに、衝撃の冒頭シーン約2分半が、公式動画として用意されていました。出だしの2分半程度をちらっと見るだけでも雰囲気をたっぷり味わえます!下記に動画を貼り付けましたので、是非チェックしてみてくださいね。

▶映画「モリーズ・ゲーム」衝撃の冒頭!
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.映画「モリーズ・ゲーム」主要登場人物・キャスト

モリー・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)f:id:hisatsugu79:20180517165202j:plain
引用:『モリーズ・ゲーム』日本版オリジナル予告 5.11 - YouTube
ここ数年、作品にも恵まれ、話題作やヒット作を連発しているジェシカ・チャステイン。年2作以上のペースで、娯楽超大作から賞レースに上がる作品まで、幅広く出演中。2018年は、とうとうマーベルヒーロー映画にも進出。「X-MEN ダーク・フェニックス」で最強のヴィランを務める予定で、こちらも楽しみです。

チャーリー・ジャフィー(イドリス・エルバ)f:id:hisatsugu79:20180517165138j:plain
引用:『モリーズ・ゲーム』日本版オリジナル予告 5.11 - YouTube
アメコミファンには「アベンジャーズ」「マイティ・ソー」シリーズでの寡黙な門番役としておなじみですが、それ以外にも「ダークタワー」「スター・トレックビヨンド」といったSFものから、「ズートピア」「ジャングル・ブック」「ファインディング・ドリー」などディズニー・アニメ映画の常連でもあります。40代中盤の働き盛りの黒人俳優としてしばらくは引っ張りだこ状態が続きそう。

プレイヤーX(マイケル・セラ)f:id:hisatsugu79:20180517165126j:plain
引用:『モリーズ・ゲーム』日本版オリジナル予告 5.11 - YouTube
性格の曲がったハリウッドスター・・・という役柄を、子役あがりで幼少時からべったりハリウッドで過ごしてきたマイケル・セラに託したのは配役の妙というか。どこか倫理観のネジの飛んだ悪役ぶりがはまっていました。ここ数作は「レゴバットマン・ザ・ムービー」や「ソーセージ・パーティ」といったアニメ系での声の出演が続いています。

モリーの父親(ケビン・コスナー)f:id:hisatsugu79:20180517165351j:plain
引用:Molly's Game | Official Trailer | 
初老を迎え、枯れてきてからは渋い堅実な演技が光るケビン・コスナー。2017年以降、「ドリーム」「クリミナル」など、作品にも比較的恵まれて出演頻度が上がってきています。不倫に悩む父親像は、若き日にやらかしたこともある、自らのプライベートそのまんまだったりして・・・。

ディーン・キース(ジェレミー・ストロング)f:id:hisatsugu79:20180517165317j:plain
引用:Molly's Game | Official Trailer | 
出演時間は短めでしたが、ハリウッドに生息してそうな、いかにも粗暴で浮ついた成り上がり経営者といった雰囲気の役柄を見事に熱演。ちなみに本作出演までポーカーなど一切やったことがなかったそうです。主演のジェシカ・チャステインとは、「ゼロ・ダーク・サーティ」以来の共演となりました。

3.途中までの簡単なあらすじ

かつて、世界有数の大物実業家やスポーツ選手、ミュージシャン、ハリウッドスター、スポーツ選手が集う秘密のポーカー・ルームがあった。そのポーカー・ルームは、掛け金の最低額が100万ドル。考えられないような高レートのセレブ専用のポーカーゲームでは、一晩で100億円が動くこともあった。

そのポーカー・ルームのオーナーは、コロラドの片田舎から出てきた、何の後ろ盾も持たない若き女性、モリー・ブルームだった。最終的に、ニューヨークのゲームの後、モリーはFBIの国策捜査で逮捕されてしまうが、その間の8年間は、まるでローラーコースターのような激しい人生だった・・・。

映画は、モリーがスキーのモーグル選手だった大学生時代に遡る。2002年、ソルトレイク冬季五輪の最終予選に臨んでいたモリーは、万全を期して最後の試合に臨んでいた。しかし不運なことに、ゲレンデに落ちていた1本の松の枝にスキー板が当たり、激しく転倒したのだった。

モリーのアスリートとしてのキャリアはこれで終わった。彼女は新しいキャリアを模索するため、ロースクールへ行く決心をした。しかし、その前に1年間の休暇を取るため、単身ロサンゼルスへと移住したのだった。これが、モリーのその後の激動の人生を決定づける決断となった。当初はハリウッドのクラブでウェイトレスとして働いていたが、店の常連客だった、ディーン・キースにスカウトされ、彼の会社の雑用係として働き始めた。

ディーンは、「コブラ」というポーカールームで、LAのセレブ達を集めた秘密のポーカーゲームを主催していた。モリーは最初ディーンの手伝いとして、ポーカールームへ出入りを始めたが、すぐに運営の一切を仕切るようになっていた。やがて、モリーはポーカーを通してセレブ達の考え方や知識・教養を身に付け、彼らから受け取るチップで生活のレベルも向上させていった。

これに嫉妬したディーンから、突如クビを言い渡されたモリーだったが、ここで負けず嫌いのモリーは起死回生の一手に打って出た。高級ホテルを借り切り、プレイヤーXと組んで、自分のポーカールームを立ち上げたのだ。

ポーカールームの運営は、しばらく順調だった。しかし数年後、プレイヤーXとの手数料のいざこざから決裂し、彼女は一夜にしてロサンゼルスでのポーカールームを失ってしまう。

これにめげないのがモリーだった。勝利を得るまではやめられない。モリーはニューヨークへと進出し、さらに掛け金の大きなゲームを始めた。しかし、ニューヨークの顧客は一筋縄ではいかなかった。マフィアや詐欺師、イカサマ師が跋扈するなど、筋の悪いプレイヤーも増えていった。高騰する掛け金のレートや、困難を極めたゲーム管理に、やがて心身ともに疲弊していった。判断力の甘くなったモリーは、やがてポーカールームへロシア系の犯罪組織メンバーを招いてしまうのだった。

犯罪組織メンバーは、やがて彼女を個人的に恐喝するようになった。身の危険を感じた彼女は、最後のビッグゲームに臨むが、そこへFBIの強制捜査が入るのだった・・・。

それから2年後、資産をすべてFBIに差し押さえられたモリーは、回顧録「モリーズゲーム」を出版し、講演会に追われていたが、ある朝、再びFBIはモリーを逮捕に踏み切ったのだ。

モリーは、無罪を勝ち取るため、元検察官の経験がある凄腕弁護士、チャーリー・ジャフィーを訪ね、弁護を依頼する。チャーリーは、モリーとの面会当初、弁護を引き受けることに消極的だったが、やがてモリーの特別な倫理観に心を打たれたチャーリーは、モリーとともに真相究明に乗り出すのだった。

果たして、モリーは無罪を勝ち取り、平穏な日々を取り戻すことができるのか?

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

アーロン・ソーキンの作家性がしっかり全面に出た作品

本作は、アーロン・ソーキン監督の監督デビュー作です。一方で、ソーキン監督は、脚本家としては実績十分。過去にも「ソーシャル・ネットワーク」や「スティーブ・ジョブズ」など、実在の人物の実話に基づくヒューマン・ドラマの脚本を手がけたことで有名です。

マーク・ザッカーバーグやスティーブ・ジョブズなど、何らかの分野で突出した実績を残した有名人って、やっぱりちょっと通常の人間とは違う「感覚」を持っているんですよね。こうした「感覚」の違いこそが、彼らの成功の原動力であり、強烈な個性の源泉でもあるわけです。

アーロン・ソーキンの脚本は、なんといっても高速で繰り広げられる会話劇。この一連の会話劇を通して、彼らの仕事や日常から、彼ら特有の「感覚」を抽出し、成功者の外側に見えている輝かしい「栄光」の部分だけでなく、人物の実像に迫ろうとするアプローチが非常にユニークです。

今回のモリーズ・ゲームで監督を手がけることになっても、そのスタンスは不変でした。本作でメガホンを取ることが決まってから、ソーキン監督は、実に8ヶ月間の間、モリー・ブルームに丁寧に取材を重ねて、何度も内容について協議を重ねたそうです。

・コロラドの片田舎から出てきたモリーが、なぜ短期間で、セレブたちを虜にするポーカーゲームの主催者へとのし上がることができたのか?
・なぜ、アンダーグラウンドなギャンブルの場において、暴力的な手段や、女性ならではの性的な誘惑を一切使わず、ポーカーゲームを平和裏に運営することができたのか?

このあたりの答えは、3つにシャッフルし、時系列を目まぐるしく入れ替えてテンポよく交わされる会話劇を丹念に追って行くことで、しっかり透けて見えてくるのですよね。まさにアーロン・ソーキンの作家性が色濃く出た作品だと感じました。

「モリーズ・ゲーム」を通して見えてくる「人生」の様々な側面

本作を見て、強く感じたのは、人間の「人生」の持つ様々な性質です。例えば、人のキャリアや人生は、計画通り進むことよりも、偶然の要素に左右されることの方が多いということ。

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

映画序盤で描かれるのは、そんな「偶然」が人生を左右する一場面です。大怪我を克服し、自らの才能の限界まで必死に努力して、オリンピックを目指したモリーでしたが、コースに撒かれた松の枝を踏んだことにより、片方のスキー板が本番の滑走中に外れてしまいます。非常に確率的には起こりえなそうな出来事により、スキーヤーとしてのキャリアが終了し、結果的にはこれが後のモリーの大活躍につながるのです。

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

そこからのモリーの人生はまさに激動の時代を迎えます。「人のご縁」とモリー自身の圧倒的な「努力」によって、偶然掴んだチャンス活かし、桁外れの成功を収めていくのです。

・セレブたちがどうしたら喜んでお金を使ってくれるか?
・どうやったらプライドが高い彼らから、平和裏に負け金を回収できるのか?
・どうやったらセレブ達が集まる高額掛金のゲームを維持・拡大できるのか?

こういった課題に真剣に向き合い、顧客を満足させることに必死で取り組んだからこそ手に入った成功。人生は、確かに運に左右される面もあるけれど、努力も大切。掴んだチャンスを活かす殺すは自分次第。努力次第でかなりのところまで達成できるものなのだと、彼女が証明してくれました。

しかし、そんな超人的な努力と根性にも限界がありました。モリーの身の丈を遥かに超えた巨大すぎるマネーは、いつしか個人の力ではコントロール不可能なレベルに達してしまいます。連邦法で禁じられた手数料(レーキ)徴収に踏み込んだり、心身へのプレッシャーからドラッグを常習するようになり、無理に無理を重ねる毎日・・・。

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最後はマフィアにも恐喝されるストレスフルな日々だった
引用:Molly's Game | Official Trailer | 

こうなると、人生は必然的に一気に暗転していきますよね。約10年にわたって積み上げてきたゲームは、マフィアからの物理的な恐喝と、FBIから受けた資産凍結で、一瞬で終わりを告げることになります。転落する時は一瞬、栄枯盛衰・諸行無常であります。人生に上り坂があれば、必ずその逆の下り坂も待っているんだ、という人生の厳しい側面を見せてくれました。

偶然をチャンスに変えて、努力と才覚で10年間大成功を収めた彼女でしたが、まさに転落するのは一瞬だった・・・という。本作は、まさに人生を学ぶための生きた教材でもあったのです。

ヘタな自己啓発書を読むくらいなら、本作を何回も見返したほうが、よっぽど学びがありそうですよね。僕も20代始めにこういう良作と出会えていればなぁ(笑)

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5.映画「モリーズ・ゲーム」に関する9つの疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:主人公、モリーはなぜプロスキーヤーだったのか?その成績は?

映画でも描かれたように、モリーは兄弟二人と一緒にオリンピック出場を目指して一流のスキーヤーとして活躍していました。幼少時、物心ついた頃から徹底的に父親の指導の下、スキーの腕を磨いてきたのでした。

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幼少時代から父・ラリーのスパルタ教育を受けて育った
引用:Molly Bloom leads quiet life compared to poker party days

モリーは、下の男兄弟2人に比べると、自らの運動神経やスキーの腕前が劣っていることは自覚していましたが、それでも北米の国際大会で上位の成績を収められるだけの実力を持っていました。

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モリーの引退直前の公式戦成績
引用:https://data.fis-ski.com/dynamic/athlete-biography.html?sector=FS&competitorid=5590&type=result

ちょうど、現役時代のラスト2年の成績が今でも公式記録としてネット上で見れるようになっていますので、貼っておきますね。これによると、モリーの最終戦は、転倒してのDNFではなく、4位となっています。ソルトレイク冬季オリンピック出場まであと一歩だったということがわかります。

疑問点2:「プレイヤーX」の正体とは?

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

プレイヤーXは、原作小説からのいくつかの合成キャラですが、ベースとなっている人物は、ハリウッド俳優、トビー・マグワイアだと言われています。彼の主な出演作は、「スパイダーマン」シリーズですね。映画内でも「スーパーヒーローを演じている・・・」と暗にトビー・マグワイアであることを示唆していました。

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引用:Wikidpediaより

映画では、ロサンゼルスのゲームにおいて、モリーのチップが高すぎるとケチをつけ、モリーからゲームの場を奪ってしまう「悪役」として描かれていました。モリーの自伝でも、ロサンゼルス時代にモリーからゲームを奪ったのはトビー・マグワイアでした。

最初の出会いから、彼の気性の荒さや非紳士的な振る舞いには手を焼き、苦労する様子が描かれています。(なるほど、このゲスい性格なら、確かに最近仕事を干され気味なのも仕方ないわな・・・と納得しながら読んでました^_^;)

疑問点3:モリーのポーカーゲームに参加していた有名人は誰がいたの?

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

ロサンゼルス時代には、かなりのハリウッド系有名人が出入りしていたようです。原作内でハッキリ書かれているのは、前述したトビー・マグワイアに加え、ベン・アフレック、レオナルド・ディカプリオなど。各種報道では、これに加え、マット・デイモン、マコーレー・カルキンなども上がっています。

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引用:上記全てWikipediaより

また、プロのスポーツ選手も出入りしていたようで、ニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲスや、プロテニスプレーヤーのピート・サンプラスなども参加していたのだとか。

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引用:Wikipediaより

こうした有名人たちの前では、大富豪たちも単なる少年に戻ってしまい、みんなこうしたセレブたちとポーカーを遊びたがったのだとか。原作でも、モリーも、こうした有名人たちを特に客寄せに効果的に使っていたようですね。

疑問点4:モリーはなぜ逮捕されたのか?彼女の犯した罪とは?

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

モリーの犯した直接の罪状は、約10年に及んだポーカーゲームの最後の半年間で、ゲームの手数料(レーキ)を取ったことです。アメリカ連邦法だと、賭けポーカーの場を開催するのは合法ですし、サービス料としてチップを受け取るのは合法ですが、ゲームごとに手数料を徴収するのは連邦法1955条に反する「違法」となるようです。

ただ、FBIが彼女の資産を凍結し、著作出版後の逮捕に踏み切ったのは別の理由があったからでした。映画でもあったように、モリーのニューヨーク時代の顧客は、だんだんと筋の悪い裏稼業のメンバーも増えてきていました。巨額なお金がからんだ金融犯罪を操作していたFBIから見ると、犯罪者たちが顔を合わせる場所を提供していたモリーは、彼らの人間関係や情報を引き出す上で、キーマンであると映ったのでしょう。国策捜査の一環として、一時期は重罪犯のような扱いを受けてしまったのでした。

疑問点5:モリーに対する判決はどうなったのか?

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

映画でも描かれましたが、最終的にモリーが受けた判決は、1年間の保護観察と200時間の社会奉仕、1000ドルの罰金刑と、ほぼ無罪に近い形となりました。当初、10年程度の実刑判決が予想されていただけに、嬉しいサプライズとなったようですね。

疑問点6:モリーは、父親とはなぜ仲が悪かったのか?

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

映画最終盤で明かされるのですが、モリーの父は、別の女性と不倫関係にあったようです。モリーが5歳の時、その不倫現場をたまたま目撃されてしまった(とモリーの父が感じていた)ため、父は、モリーに対してだけ、自らの愛情をストレートに伝えることに気後れするようになってしまったのです。

ただ、実際のモリーと父親の関係は、そこまでは悪化していなかったようです。確かに、モリーの幼少時代は、モリーや兄弟たちをアスリートに育てるためスパルタ教育を施したようですし、モリーがロサンゼルスに出て行くことには反対しています。ただ、原作の中で、終始モリーは父に対して深い愛情を示しています。

つまり、モリーと父親のこじれた関係性と、最終盤の劇的な和解シーンは、ドラマとしてかなり脚色されていると考えて良さそうです。

疑問点7:原作との主な違いとは?

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引用:Molly's Game | Official Trailer | 

本作は、原作となったモリー・ブルームの自伝とは結構違いがあります。ここでは、主な相違点について解説してみます。

モリーは、実際にはモーグルの試合で転倒していない。あくまで予選会で敗退し、脊髄の痛みにこれ以上耐えながら競技を続けることは出来ないという、自らの判断をもって、スキーヤーとしてのキャリアを終わらせている。

・原作では、相当数の人物が実名で描かれている。特に、映画ではプレイヤーXとぼかされたトビー・マグワイアをはじめ、ベン・アフレック、レオナルド・ディカプリオ、アレックス・ロドリゲスなど、誰でも知っている有名人が登場。

・LA時代の雇用主ディーン・キースは、原作ではリアドンという名前で出てきており、どちらかというと師弟関係に近い。LAでモリーがリアドンを出し抜いて自らのポーカールームを立ち上げた時、リアドンは逆にモリーを祝福し、以来モリーとリアドンは対等の関係で良好な人間関係を維持している。

・原作では、モリーがFBIに資産を差し押さえられるまでを描いている。それに対して、映画では原作の「その後」まで、すなわち、モリーがFBIとの訴訟で勝訴するまでも含めてを描いている。また、父親との関係性についてより深く踏み込んで描いている。

・モリーがゲームを失うのは、映画で描かれたLA時代だけでない。NYでも一度仲間にハメられて、自らのゲームを失っている。

疑問点8:ラストシーン・結末の考察

夜中のスケートリンクで、偶然父親と出くわしたモリーは、父との劇的な和解を果たし、長年心の奥底に鬱積していた「父に愛されたい」という執着を開放することができました。これにより、自らの有罪を認め、ニュートラルな気持ちで臨んだ裁判では、ほぼ「無罪」に寛大な判決を引き出すことに成功したモリー。結局、ポーカーゲームで稼いだお金は全て失い、一文無しになったモリーですが、最後に自由の身を勝ち取ったのでした。

f:id:hisatsugu79:20180518093915j:plain
引用:Molly's Game | Official Trailer | 

そして、ラストシーンは、モリーのその後のエピローグを描くのではなく、敢えて過去へと飛びます。それは、映画冒頭で、モリーが派手に負傷・転倒してしまい、ゲレンデの脇に倒れ込んだシーンの続きでした。ギャラリーが心配そうに見守る仲、モリーは再び意識を取り戻して立ち上がります。係員に肩を担がれながらゲレンデから引き上げる時、彼女が電光掲示板で見た最後のレース結果は、「DNF」(リタイア)でした。

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引用:『モリーズ・ゲーム』 オリンピック目前!超早口な冒頭スキー映像

それでも、周囲のギャラリーはモリーが無事だったことに対して温かく拍手で迎え、実況中継のアナウンサーも、「彼女は根性があるから、再び活躍できるだろう」とコメントを残します。

その一連の描写は、ポーカーゲームで失敗し、かろうじて体一つだけ残ったモリーが、これから新たな人生をまた模索しようとする今現在の状況と見事にオーバーラップする演出となっていました。過去に幼少時の側弯症を乗り越え、競技スキーでの挫折を乗り越えてきたモリーは、今回もきっと心の傷を癒やし、失敗を乗り越えて、また新しい人生を切り開いていくのだろうな、という爽やかな予感で、エンドロールへと突入していきました。

ラストシーンの心憎い演出、是非味わい尽くしてみてくださいね。

疑問点9:モリー・ブルームのその後は?最近は何をしているの?

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引用:Poker Princess Molly Bloom - YouTube

モリー・ブルームは、自らの裁判が大方片付いた2014年以降、彼女は生まれ故郷のコロラド州・ラブランドへと戻りました。現在は家族とのんびりした日々を送りつつ、地元の女性起業を手伝うネットワーク作りに従事しているとのことです。

f:id:hisatsugu79:20180518094620j:plain
家族での集合写真。幸せそうなブルーム家
引用:Molly Bloom leads quiet life compared to poker party days

2017年、映画化に際して、プロモーションや各種賞レースの対応で、テレビやネットのインタビューに積極的に答えていますし、請われれば講演活動などもしているようですね。

ただし、本人はもう2度とポーカーゲームの世界に戻ることはない、とは断言しているようです。ちょっと惜しい気もしますが、これだけの才覚と根性がある女性なので、今後も何かやってくれるのではないでしょうか?

6.まとめ

本作は、ポーカーゲームでモリーが成り上がっていき、そして全てを失うまでの過程を中心に、その前後のエピソードも含め、3つの時間軸を同時進行で描き出しました。時間が進むに連れてモリーの人物像が次第に立体的に浮かび上がってくるよう、周到に計算された脚本や、時間の長さを感じさせないテンポの良さは、とても初監督作品とは思えないすばらしい出来でした。高速でのセリフの応酬、ポーカーシーンのスリリングな展開など、見どころ満載の映画です。モリー・ブルームのたどった数奇な人生を、是非劇場で味わってみてくださいね。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作の自伝ノンフィクション「モリーズ・ゲーム」

モリー・ブルームが、自らのゲーム運営を始めてから、ロサンゼルス~ニューヨークと成り上がり、FBIに逮捕されるまでの激動の約10年間を語り下ろした自伝的ノンフィクション。アレックス・ロドリゲスやベン・アフレックなど、セレブたちの名前が「実名」でいくつも出ているのが衝撃的です。そしてトビー・マグワイアは悪く書かれすぎ(笑)

映画では、モリーの成功譚は割りとスマートに描かれていましたが、この自伝を読むと、モリーが自らのゲームを成立させるために、細心の準備と配慮で「仕事」に臨んでいたかがよくわかります。映画同様、スリリングでリアルな描写は読み応え抜群でした!

ジェシカ・チャステイン出演作品は、まとめてU-NEXTで!

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本作で主演を務めるジェシカ・チャステイン。タフで知的な女性像を抜群の演技力でまとめる才能は、過去作でもがっつり堪能できます。ジェシカ・チャステインの過去作を見るなら、U-NEXTが一番おすすめ。過去作は全部で12作品、その大半を「見放題」でチェックすることが出来ます。一気にチェックするなら、この機会に動画配信サービスを試してみるのもありですね。

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【ネタバレ有】映画「孤狼の血」感想・考察と10の疑問点を徹底解説/オススメ!日本産ノワール映画の新境地を開く大傑作!!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月12日に公開された映画「孤狼の血」。古き良き東映の「実録ヤクザ映画」が元気だった頃の原点に立ち返った、気合の入った傑作だ!という声に押されて見に行ってみたのですが、想像を遥かに上回る素晴らしい大傑作でした!

ということで、これはがっつりブログに感想を書き残しておかねば、と思い、急遽感想や考察を書いてみました。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「孤狼の血」の予告動画・基本情報

▶映画「孤狼の血」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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【監督】白石和彌(「日本で一番悪いやつら」「凶悪」他
【配給】東映
【時間】126分
【原作】柚月裕子「孤狼の血」

本作は、柚月裕子の原作小説「孤狼の血」をベースに実写映画化されました。第145回直木賞(2015年度下半期)にノミネートされた原作小説には、出版後に映画制作会社からのオファーが殺到したそうです。

そんな中、映画化権を獲得したのは、1970年代に実録ヤクザ映画シリーズ「仁義なき戦い」で一つの新しいジャンルを打ち立てた東映でした。そして、映画化にあたって東映が指名したのが、実話をベースとした社会派サスペンスを得意とする白石和彌監督です。

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白石和彌監督といえば、同じく汚職悪徳警官をコミカルなタッチで味付けした「日本で一番悪い奴ら」や、凶悪な事件を生々しく描いた「凶悪」、一風変わった個性的な登場人物たちの恋愛ミステリー「彼女がその名を知らない鳥たち」など、どの作品もコアな映画ファンから高い評価を受けている若手監督の代表格。同年齢のライバルに、熊切和嘉監督「武曲」「私の男」他)や、西川美和監督「永い言い訳」他)などがいますね。

小説、映画で描かれたのは広島県呉市をモデルとした架空の都市、呉原市。広島弁がバリバリ飛び交う地方都市で、荒くれ者たちが活躍する映画といえば、必然的に東映の黄金時代を飾った70年代の「仁義なき戦い」を連想してしまいますよね。

実際、原作者の柚月裕子氏は、「仁義なき戦い」シリーズにインスパイアされて原作小説を書いたと公言していますし、「日本の映画をもっと元気にしたい」と公言する白石和彌監督も、映画化にあたっては「仁義なき戦い」他、東映の歴史あるプログラム・ピクチャーの映画シリーズに最大限のリスペクトとオマージュを払っています。

ところで、Youtubeで映画解説動画を漁っていると、よく出会うのが映画コメンテーター”赤ペン瀧川”氏です。実は今回の映画で、”赤ペン瀧川”氏こと、瀧川英次さんが、呉原東署のキャリア組署長として出演していました。実際に映画にキャストとして参加しているだけに、普段よりさらに解り易い解説動画は必見!映画を見る前にこれだけでも見ておくと、かなり理解が進みますよ。

▶映画「孤狼の血」”赤ペン瀧川”氏の解説動画!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.映画「孤狼の血」主要登場人物・キャスト

呉原東署・大上章吾巡査部長(役所広司)f:id:hisatsugu79:20180522155922j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
映画作品でヤクザ(厳密には警察官ですが)を演じるのは、1996年「シャブ極道」以来久々となりました。名実ともに日本No.1の役者である役所広司が、一生懸命演技をしている現場を見るだけで、他の俳優陣も気合がはいって良い撮影現場になったのだとか。荒くれ者のヤクザ刑事、文句なしの熱演でした。

呉原東署・日岡秀一巡査(松坂桃李)f:id:hisatsugu79:20180522155934j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
ここ数作で、一気に役者としてのポテンシャルを開花させ、一流の俳優へと急成長している松坂桃李。白石監督作品では「彼女がその名を知らない鳥たち」以来、間をおかず2度目の起用となりました。2018年も、「不能犯」「娼年」と個性的な役柄を難なくこなし、安定感抜群。そうそう、ベッドシーンもかなり上手だったらしい(笑)

尾谷組若頭・一ノ瀬守孝(江口洋介)f:id:hisatsugu79:20180522160830j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
トレンディドラマにロン毛で出ていた時代、江口洋介は何を演じても江口洋介・・・的な感じはありましたが、それも一昔前の話。今回のヤクザ若頭役は、厳しさと冷徹さが全面に出た新境地で、役所広司との丁々発止のやり取りは見応え充分。

加古村組若頭・野崎康介(竹野内豊)f:id:hisatsugu79:20180522160918j:plain
引用:「孤狼の血」×千鳥コラボスポット - YouTube
全盛期のトレンディドラマ俳優時代に比べると、ここ最近、エンドロール等では3番手、4番手にクレジットされるなど、徐々に扱いが下がってきています。ただし、ここ数作は「ラストレシピ」「彼女がその名を知らない鳥たち」など、個性的な悪役で新境地を開拓。完全に一皮むけた感があります。本作でも、ヒステリックなまでにキレキレの悪役は見どころ抜群でした。

クラブ「梨子」のママ・高木里佳子(真木よう子)f:id:hisatsugu79:20180522161246j:plain
引用:赤ペン瀧川の映画添削 映画『孤狼の血』 - YouTube
終始胸の谷間を強調し、男性陣から触られまくるなど、体を張った熱演が印象的でした。そこまでやるんならいっそ脱いでしまったら・・・という意見もネットでちらほら見ましたが、80年代に女手一つで一人息子を育てる「強い女性像」を見事に表現できていました。そして、36歳になるとは思えない若さもさすが。

五十子会会長・五十子正平(石橋蓮司)f:id:hisatsugu79:20180522161353j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
直近のヤクザ映画では北野武監督の「アウトレイジ」でも同じような立ち位置の悪役を見事に演じていた石橋蓮司。本作では呉原市のヤクザ抗争に裏で糸を引く悪役中の悪役ですが、妙に人間臭い柔和な表情が、役者の貫禄を感じさせてくれます。通り一遍等ではない、リアルなヤクザ像に近い親分を演じてくれました。

全日本祖国救済同盟代表・瀧井銀次(ピエール瀧)f:id:hisatsugu79:20180522161411j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
白石和彌監督作品では、「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」「サニー/32」に続いて実に4度目の起用となります。顔だけ見ていると完全に悪人ヅラですが、意外にコミカルな役柄もこなせるのがピエール瀧の強み。「アウトレイジ最終章」シリーズでもどこか3枚目の憎めない一面を持つキャラを演じていましたが、本作でもストーリーの中核部分を担う主要キャラでありながら、コミックリリーフ的な立ち位置で時折笑わせてくれました。

ーーーーーー

その他にも、滝藤賢一、田口トモロヲ、中村獅童、音尾琢真、嶋田久作、中村倫也、伊吹吾郎、阿部純子、MEGUMIなど、錚々たるメンバーが勢揃い。これだけ良い役者が揃って悪い作品になろうはずがありません!

3.途中までの簡単なあらすじ

昭和63年夏。今から30年前、ヤクザが最もヤクザらしかった時代、広島県呉原市を中心として、新たなヤクザ同士の抗争が始まろうとしていた。発端となったのは、呉原市に本拠を置く、加古村組の経営する高利貸し店舗「呉原金融」において、経理を担当する上早稲二郎が行方不明となったことだった。

上早稲二郎の妹、洋子が、呉原東署の大上章吾巡査部長に相談へと訪れたことで事件が発覚。大上は、対暴力団において違法スレスレの捜査を行うなど、ヤクザ顔負けの強面警官だった。その名は、呉原市だけでなく、広島県全域において、 暴力団組織から一目置かれる存在だった。

大上は、この春広島大学を卒業したばかりのキャリア組新人、日岡秀一を連れて早速調査に乗り出した。日岡を使い、偶然パチンコ屋にいた加古村組の中堅・苗代広行を脅しつけて上早稲の消息を引き出そうとしたが、苗代は口を割らない。これは、裏になにかあるかもしれない、と考えた大上は、次の手に打って出ることにした。

次に大上が向かった聞き込み先は、呉原市において加古村組と敵対している尾谷組本部だった。その日大上に応対したのは、服役中の組長・尾谷憲次の留守を預かる若頭・一之瀬守孝だった。一之瀬は、現組長引退後、尾谷組の看板を背負うとされている最有力の人物だった。ひとしきり打ち合わせた後、日岡は、大上が一之瀬から金の入った封筒を受け取るところを目撃し、酷くショックを受けた。

実は、日岡は広島県警の直属の上司、嵯峨大輔から、呉原東署で大上の部下として赴任する際、隠れた任務として、大上の素行監視をすることになっていた。大上は対暴力団捜査において大変優秀な刑事だったが、手段を選ばない強引な違法捜査や、アラっぽい言動は県警内でも問題になっていたのだ。

やがて、呉原市内の尾谷組のシマにあるクラブに、加古村組と、その後ろ盾である広島市内に本拠地を置く五十子組のメンバーが公然と出入りするようになり、にわかに抗争の機運が高まってきた。

加古村組内での上早稲殺害事件を解決し、加古村組を潰すことで抗争を未然に防ごうとした大上は、さらに違法捜査をエスカレートさせていく。大上は、親友である広島市内の右翼団体・全日本祖国救済同盟の代表・瀧井銀次を使って内偵を進めた。判明したのは、上早稲殺害は、加古村組の組員が深く関わっているということだった。加古村組のメンバーが尾谷組との抗争準備のため、金庫番だった上早稲を脅して組長の許可なく勝手に金を引き出していたが、組長への引っ込みがつかなくなったため、上早稲が使い込んだことにして上早稲を殺害して死体を埋めて隠したのだった。この情報を元に、加古村組の吉田を脅して死体遺棄現場を突き止め、加古村組構成員による上早稲の拉致映像テープを入手た大上は、加古村組への一斉捜査に取り掛かろうとした。

しかし、加古村組は捜査を撹乱するため、尾谷組との抗争を強引に仕掛けていく。尾谷組の若手構成員・タカシが加古村組の吉田に射殺されたのだ。これに逆上した尾谷組・一ノ瀬は、すぐにでも報復しようとしたが、市民生活への影響を最小限に抑えたい大上は、一ノ瀬を必死で説得し、3日以内に加古村組の組員を逮捕すると約束し、報復を思いとどまらせた。

加古村組構成員から聞き出した情報を元に、上早稲の死体を発見した大上達だったが、いよいよ一斉に加古村組を検挙するその直前、大上は謹慎処分を課されてしまう。日岡が広島県警の嵯峨に報告した、大上が行った一連の強引な違法捜査の状況が問題とされたのだ。広島県警上層部と癒着している加古村組の後ろ盾、五十子組が、五十子組お抱えのジャーナリストを使い、大上の違法捜査についての事実を呉原東署長へ突きつけさせたのだ。

大上抜きでの加古村組への強制捜査は空振りに終わり、大上謹慎の事実を察知した尾谷組は、加古村組との全面戦争へと踏み切った。こうして、尾谷組と加古村組の抗争は、いよいよ激化していくことになった。

それでも大上は、謹慎処分中も必死で尾谷組と加古村組との抗争を終わらせようと、最後の望みとして、加古村組の後ろ盾にいた五十子組会長・五十子正平の居場所へ単身乗り込み、抗争集結に向けて直談判に向かった。しかし、それはあまりに危険すぎる行動だった・・・。案の定、大上はその日を境に出勤しなくなったのだ。その果たして大上の運命は?大上不在の中、その部下・日岡はどう動くのか?

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

久々に骨太で見応えのあった、純日本産フィルム・ノワール映画!

映画を見る前に、最初に柚月裕子の原作「孤狼の血」を読んでから見に行ったのですが、原作を読んだ段階で、すでに「これは面白い映画になりそうだな」という予感はありました。ただ、フタを開けてみたら、面白いなんてものではありません。もう、最高でした!映像・脚本・演技等々、どれを取っても惚れ惚れするような素晴らしさでした。一体、どのあたりが素晴らしかったのか、4つに絞って説明してみます。

良かった点1:ディテールまできっちり描ききる映像へのこだわり

本作は、今から約30年前の1988年、広島県の架空都市「呉原市」を舞台としています。本作は、呉原市のモデルとなった呉市でオールロケを敢行したそうですが、画面を見ていると、完全に30年前に戻ったような錯覚になるんですよね。

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署内にはパソコンなどもなく、昔のオフィスを完全再現。
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

例えば映画内で出てくる呉原東署の署内の様子。質素なねずみ色のオフィス机の上には、黒電話と書類だけ。パソコンなど一切置いてありません。さらに警察の捜査用車両は、当時の白のマークⅡ。携帯などもなく、重要なメンバーとのやりとりは、ポケベルや黒電話を通して要件を伝える時代でした。さらに、お店の内装や、夜の街の風景、自動販売機で売られているジュース、落ちている雑誌など、誰も見ないような細かいところまで1980年代当時を忠実に再現されているのです。毎回毎回、詳細まできっちりこだわりを持って画面づくりを丁寧に行う白石和彌監督らしいプロの仕事でした。

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

また、制作陣もインタビューでしばしば言及していましたが、ロケ地となった呉市が、奇跡的に80年代の香りや雰囲気を残した街だったことも、映画の雰囲気作りに大いに貢献していました。(要するにバブル期以降停滞してるってことなんですが・・・^_^;)これが京都の映画セットではここまでリアルな雰囲気は絶対出せないはずですから、呉でのオールロケに踏み切ったのは結果的に大成功でしたね。

良かった点2:R15+指定作品らしく、目を背けたくなるようなシーンも愚直に取り切る

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

原作「孤狼の血」はさすが女性作家が書いただけあって、スマートなハードボイルド作品に仕上がっています。それはそれで端正な作りでかっこいいのですが、本作では「かっこよさ」よりも、どちらかというと目を背けたくなるような生々しいシーンがてんこもりに!

暴力シーンの激しさや流血描写は当然のこと、度肝を抜かれたのが上早稲の死体を掘り返すリアルな映像や、水ぶくれして変色した、大上の腐乱死体映像です。汚いところ・気持ち悪いところもきっちり映像としてディテールを見せる姿勢は、正直なところ賛否両論あるかと思います。美しさとは対極にあるグロ映像も、敢えて詳細まで見せることで、登場人物たちが現場で受けた衝撃やショックを伝えようとする。R15+映画でしか実現できない演出であることは間違いありません。プロ意識を感じました。

良かった点3:熱演!新境地を開拓した俳優陣

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

もちろん、本作が素晴らしいのは俳優陣の頑張りも大きいのです。主演・役所広司は抜群の安定感でしたが、相棒を務める松坂桃李も、ここ1~2年で本当に成長を見せました。本作でも、いわゆるエリート臭のする青臭い新卒警官から、短期間のうちに葛藤・苦悩を経て、大上の持つ独特の倫理観・価値観へと徐々に感化されていく「変化」を見事に表情や演技で表現できています。

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

さらに驚いたことに、90年代ではテレビのトレンディドラマ俳優だった竹野内豊や江口洋介も、本作では狂気を眼に宿した、狂犬のようなキレキレのヤクザを見事に演じていた点です。特に竹野内豊は、ここ最近は3番手、4番手の立ち位置に下がることが多くなってきましたが、変人や悪役などを積極的にこなし、演技の幅を確実に広げている印象。その他、コメディリリーフ役を見事に務めたピエール瀧、若手俳優なのにベテランの貫禄があった阿部純子、露出が多く、劇中ではセクハラされまくるなど、体を張った好演が光った真木よう子、大上への嫉妬・対抗心に燃える小心者を見事に演じた田口トモロヲなど、どの出演者もみどころたっぷりです。

良かった点4:原作ファンも納得の、映画オリジナルのどんでん返し

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桃子は実は大上の放った美人局だった・・・
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

もちろん、脚本の練り込み方も素晴らしかった!原作のプロットにほぼ忠実な作りながら、後半にいくつか仕込まれた映画オリジナルの後日譚やどんでん返しには、唸らされました。原作の世界観を壊さず、映像でしかできないケレン味たっぷりのサプライズ演出には、原作読了済みの人でも満足感を得られたかと思います。

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5.映画「孤狼の血」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:物語の前身となった「第三次広島抗争」とは何なのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

1974年5月、広島県呉原市を舞台に、呉原市の暴力団・尾谷組に対して広島市の暴力団・五十子会が発砲したことにより発生した抗争です。この抗争では多数の死傷者が出たが、6月に尾谷組の賽本友保が死亡し、7月に五十子会幹部・金村安則が死亡したことをきっかけに、約3ヶ月で収束。結果は痛み分けに終わりました。これが、今回の抗争の遠因となった「第三次広島抗争」です。

疑問点2:物語の発端となった「上早稲二郎失踪事件」とはどんな事件なのか?

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「呉原金融」社内で上早稲を脅す加古村組メンバー
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

上早稲二郎は、加古村組が経営する高利貸しのフロント企業「呉原金融」に経理職として勤務するカタギの社員でした。加古村組の若頭・野崎康介ら数名は、近日中に計画していた尾谷組との抗争に向けて、上早稲を脅しあげて加古村組の組長に無断で金庫から金を引き出していました。

しかし、加古村組長に金を使い込んだのが露見します。困った加古村組メンバー達は、すべて上早稲がやったことにして、彼を脅迫した挙げ句、農場で虐待後殺害し、上早稲の口封じを図ったのです。

彼の失踪に気づいた上早稲二郎の妹、洋子が不審に思い、呉原東署の大上へと行方不明の相談を行ったことで、上早稲二郎失踪事件の捜査が開始されました。

疑問点3:加古村会の後ろ盾となっていた五十子会は何をしようとしていたのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

五十子会会長・五十子正平は、14年前に呉原市で起こった尾谷組vs加古村組の抗争(通称:第三次広島抗争)での結果に不満を持っていました。そこで、尾谷組組長、尾谷憲次が服役中の今をチャンスと考え、実質上支配下に置いていた加古村組を使って尾谷組を潰そうと、抗争を起こしたのです。これにより、広島から呉原へと進出を図ろうとしたのですね。

疑問点4:里佳子と大上の関係とは?14年前の事件とどう関係があるのか?

里佳子と大上は、過去に何回か肉体関係があったことは小説や映画においてセリフから示唆されますが、現在は男女関係にはなく、どちらかというとお互いの秘密を知り合う古くからの戦友のような関係なのです。

里佳子は、14年前の第三次広島抗争において、婚約中だった尾谷組の構成員・賽本友保を、卑劣な手段で五十子会の幹部・金本安則に殺害されました。これを恨んだ里佳子は、後日復讐を決行。ホテルで油断させたところをナイフでめった刺しにして金本を殺害しました。この現場に居合わせたのが大上でした。

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動揺する里佳子をかばう大上
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

里佳子に深く同情した大上は、賽本の子供を妊娠中だった里佳子をかばい、金本の死体処分や事件処理を全て担当し、里佳子の起こした殺人事件をもみ消したのでした。それ以来、大上は里佳子を情報源やおとり捜査に活用したり、大上の広島県警上層部の秘密を記録したノートを里佳子に預けるなど、深い信頼関係で結ばれてきたのでした。

疑問点5:映画では語られなかった大上の過去とは?

小説版だけで掘り下げられて描かれているのですが、大上には清子という妻と、その間に1歳になる子供がいました。当時広島北署にて第三次広島抗争の対応に追われ、多忙を極めていた大上は、自宅へ帰れない日々が続いていました。そんな留守のある日、彼の妻子が盗難されたダンプカーによって撥ねられて死亡したのです。ハネた運転手は逃亡し、事件は未解決のままとされましたが、五十子会による捜査への嫌がらせというのが警察の仲間たちの共通見解でした。

疑問点6:映画タイトル「孤狼の血」の意味するところとは?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

本作で言う「孤狼」(=一匹狼)とは、もちろん大上章吾のことを指しています。カタギを守るためならヤクザも利用し、ヤクザ顔負けの違法捜査も辞さない、その独特な倫理観や正義感で、組織内で一匹狼として生きてきた大上。

本作では、大上の死後、彼に感化されて、抗争を通して成長を見せるとともに、大上の「血」(=倫理観や正義感)を迷いと葛藤の末に受け継ぐことを決意する日岡を生々しく描きました。月間シナリオ6月号で、脚本を担当した池上純哉氏は、脚本を書くに当たりこのように語っています。

[・・・]この『孤狼の血』という題名はとても重かった。一匹狼の先輩刑事から後背へと<血>が受け継がれる・・・言うのは簡単だが、<血>ってもんはそんな簡単に他人に引き継がれるものなのか。<血>と銘打つからには、主人公たちがまさに血縁のように抗いようのない枷に絡め取られ、どうにも身動きが取れなくなるような、吐き気を催すような汚れた血と知りながらも、それを窒息寸前になりながらも飲み込んでしまわなねばならないような、そんな苛烈な瞬間を描かなければならないと思った。

なるほど、「孤狼の血」に制作陣が込めた思いがよく伝わるコメントですよね。

疑問点7:なぜ五十子会は、大上を殺害したのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

加古村組と尾谷組の抗争をなんとか食い止めようと、単身五十子会のアジトへと乗り込んだ大上でしたが、大上は殺害されてしまいます。ヤクザ同士の抗争の中、カタギ以上の存在である「現職警官」を殺害した五十子会。なぜ、五十子会は広島最強のヤクザ警官を殺害するという大胆な手を打てたのでしょうか?

その理由は、五十子会と、ズブズブにつながっている広島県警上層部が、共に「大上排除」で利害が一致していたからです。五十子会にとっては、尾谷組との抗争に勝利するため、抗争の原因や上早稲次郎殺害事件の真相を知る大上を排除する必要がありました。そして、広島県警上層部は、大上にそれぞれ不祥事の弱みを握られていました。

そこで、両者は手を組み、五十子会が大上を殺害する代わりに、広島県警上層部は大上の死亡原因を「事故死」とマスコミへ発表し、五十子会による拉致・殺害を見逃したのでした。

疑問点8:右翼団体の代表・瀧井銀次とは何者なのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

映画本編では、妻に完全に知りに敷かれた恐妻家で、コメディリリーフ的なキャラクターでありながら、大上に事件解決への決定的な情報を与えたり、大上亡き後、覚醒した日岡の作戦を手助けしたりと、重要な人物だった瀧井銀次。

彼は、高校時代の大上の同級生でした。互いに番長格だった二人は、田んぼの真ん中で気を失うまで殴り合い、そこで意気投合。大人になってから、キャリアは正反対の道を選びましたが、友情はその後も続き、立場の違いを越えてお互い助け合う間柄でした。

瀧井銀次が所属する右翼団体・全日本祖国救済同盟は、五十子正平率いる五十子会と同じく、広島における暴力団組織・広島仁正会の傘下団体です。同じ仁正会同士なので、五十子とは表面上穏やかに付き合っていますが、心情的には大上が肩入れする尾谷組にシンパシーを抱いています。

疑問点9:ラストシーン・結末の考察~なぜ日岡は一之瀬を逮捕したのか~

自分が広島県警から密偵として大上の下に送られていたことを知っておきながら、日岡を高く評価し、自らの後継者として選んだ大上。大上の死後、銀次や里佳子から大上が違法捜査やヤクザとの付き合いを「必要悪」と認識した上で、市民の生活を第一に考えていたことを聞かされた日岡は、大上の生き方に深く共感します。

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トイレに隠れていた五十子に襲いかかる一之瀬
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

そこで、日岡は瀧井銀次と計画し、五十子会の上部団体、広島仁正会の主催イベントにおいて、尾谷組の一之瀬守孝を扇動して五十子正平を殺害させます。殺害現場を現行犯で抑えた日岡は、一之瀬をかばって殺害を自己申告した舎弟ではなく、一之瀬を現行犯逮捕します。

なぜ、日岡はここで一之瀬を逮捕したのでしょうか?これには2つの解釈があります。

まず、1つ目は尾谷組を潰さないため、一之瀬を刑務所へ入れて身柄を保護しようとしたという解釈。大上は、ヤクザの存在を「必要悪」と考えていました。彼らを根絶やしにするのではなく、互いの勢力を拮抗させてパワーバランスを取ることで、市民の平和を守ろうとしました。その考え方に沿って、将来の尾谷組復興を狙っての「保護」を図ったと考えられます。

もう1つは、一之瀬に対する日岡なりの「復讐」と考えることもできます。追い詰められた大上が、五十子との危険な交渉に臨まざるを得なかったのは、一之瀬の強情な姿勢が原因の一つであったことは間違いありません。

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自重を促す大上の説得に応じなかった一之瀬
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

そこで、大上を殺害した主犯である五十子正平を一之瀬を使って殺させ、一之瀬にも長い懲役を科すことで、日岡なりの一之瀬に対する「ケジメ」だったとも解釈できますよね。

この答えは、もし続編が製作された時、明かされるはずです。原作の数年後を描いた続編「凶犬の眼」においては、一之瀬が普通に日岡と会話するシーンがあります。映画続編では、一之瀬と日岡の関係はどのように描かれることになるでしょうか?次作があるとしたら要注目です。

疑問点10:続編制作の可能性はあるの?

時期はまだわかりませんが、今回の映画「孤狼の血」がそれなりにヒットすれば、まず確実に続編が制作されると思われます。すでに原作者・柚月裕子は映画公開に合わせて続編「凶犬の眼」を上梓しましたし、各種取材記事や公式ガイドブック等において、原作者・監督・プロデューサー全てが「是非続編を作りたい」と希望しています。

続編「凶犬の眼」のクオリティも素晴らしかったですし、是非次作も白石監督でお願いしたいです!

6.まとめ

古き東映実録ヤクザシリーズに最大限のリスペクトを払いつつ、白石和彌ワールド全開の、個性豊かなキャスト陣と時に目を背けたく成るようなリアルな情景描写が素晴らしい作品。まさに大傑作でした。ディテールまでしっかり計算された演出も味わい深く、何度見ても新たな発見がある素晴らしい映画でした。是非劇場の大画面で味わってみてくださいね。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説「孤狼の血」

警察VS組織暴力の抗争劇を緻密な構成力で描き、第154回直木賞にもノミネートされた大傑作。小説ならではのプロット上の工夫や心情描写はぐいぐい引き込まれますし、映画とは違うラストのサプライズも文句なしの原作小説です。映画が気に入った人は是非!

続編!成長した日岡が活躍する「凶犬の眼」

出版社や読者の声に推されて、大上の後を継ぎ、成長した日岡の「その後」を描いた第2弾。大上から受け継いだ「正義」を悩み、苦しみながら継承する日岡に対して、彼を成長させ、試練を与える「国光寛郎」というヤクザの大物が登場します。ストーリーは、広島ローカルから、暴力団のメッカ(?)神戸など舞台は全国に。前作同様、印象的なセリフの応酬、しびれるような立ち回りに、気づいたら徹夜で一気読みするほど没入できました。映画が気に入った人なら、文句なしの後日譚です。

孤狼の血「ガイドブック」

今回は、映画パンフレットよりも、こちらの公式ビジュアルガイドブックを購入したほうが絶対お得です。松坂桃李、役所広司をはじめ、主要キャスト10名以上、監督・原作者へのロングインタビュー、ストーリーの徹底解説、人物相関図、名場面集、設定資料集、ロケ地マップなどオールカラーで盛りだくさん。なのに、価格は980円と非常に抑えられており、コスパ抜群の優れたガイドブックでした。これはおすすめ!

白石和彌監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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ハードボイルドな実話系作品や、ひとひねりした社会派エンターテインメント作品で、毎作必ず映画ファンに高い評価を受けている白石和彌監督作品。美術やセットのディテールまで作り込まれ、個性豊かな登場人物が、迫真の演技を繰り広げる各作品は、見返すたびに新しい発見があります。

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ルーヴル美術館展(2018)は最高の「肖像芸術」が楽しめる!見どころや楽しみ方を一挙紹介!【展覧会レビュー・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

5月30日から、東京・国立新美術館展にて2018年上半期最後の大型展覧会「ルーヴル美術館展 肖像芸術ー人は人をどう表現してきたか」が始まりました。今年のルーヴル美術館展のテーマは「肖像芸術」。

「人物」を描く肖像芸術は、古代から非常に長い歴史を持つ芸術分野です。「美の殿堂」ルーブル美術館の全面協力のもと、古くは古代エジプト・ギリシャ時代から近代まで、同美術館の所蔵する珠玉の作品群が集められました。下馬評通りハンパなくクオリティの高い展覧会でした。日本にいながらにして、ルーヴル選りすぐりの作品を100点以上楽しめる、そんな機会はまたとないと思います。

そんな今年のルーヴル美術館展について、がっつり見てまいりました。以下、内容や見どころについて、感想を交えながら書いていきたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.ルーヴル美術館展とは

定期的に開催される「ルーヴル美術館展」

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世界で一番有名な美術館といっても過言ではない「ルーヴル美術館」。そんな「ルーヴル」美術館の所蔵品を特集した、「ルーヴル美術館展」は、実は今回が初めての開催ではありません。過去、頻繁に開催されているのです。

たとえば、2000年代に入ってからは、2005年、2006年、2009年、2015年と、過去4回にわたって、テーマを絞って絵画や彫刻の企画展が開催されてきました。特に、風俗画をテーマとした2015年の前回展では、東京・京都の2箇所で合計約111万人の入場者で賑わうなど大盛況でした。いずれも、日本テレビ主催で展覧会が開催されています。

そして今回2018年。実は、2015年の前回展終了後、日本テレビは、新たにルーヴル美術館と包括的な契約を締結していました。2018年の今回展を皮切りに、4年に一度、合計5回の「ルーヴル美術館展」を日本で開催することが決定されたのです!

つまり、今回の展覧会は、2018年、2022年、2026年、2030年、2034年と、全5回シリーズの第1回目に当たるのですね。いやー、日本にいながらにして、定期的にルーヴルの至宝を味わえるなんて、いい時代になったものですね!

2018年のテーマは「肖像芸術」

冒頭でも書きましたが、今年の「ルーヴル美術館展」のテーマは、「肖像芸術」です。

日本テレビが、約6分半にわたる強力なプロモーション動画を作ってくれています。こちらは見に行く前に必見ですよ!

動画でも紹介されたとおり、ルーヴル美術館では、3000年以上前の古代メソポタミアの彫像から、19世紀ヨーロッパの絵画・彫刻まで幅広いコレクションを保有しています。本展では、ルーヴル美術館の全8部門から協力を得て、絵画・彫刻・工芸など、幅広い分野の作品が充実しました。 

そして、その出展点数は何と約110点!通常、大きな美術館とタイアップして開催される展覧会では、出展点数は50~60点程度と少なめになることもよくありますが、今回はまさかの100点オーバー!これは日本テレビ、頑張ってくれました!

展覧会入り口の最初から最後まで本当にハイレベルで、目移りするくらい1点1点が素晴らしかったのですが、特に僕がポイントだと感じた「3つの見どころ」を紹介したいと思います。 

2.展覧会の3つの見どころ

巨匠たちの名作がいっぱい!

さすが「美の殿堂」と言われるだけあって、110点の展示の中には、絵画作品を中心に、美術史に名を残す巨匠たちの作品がゴロゴロ含まれています。

中でも、最も注目したいハイライト作品が、こちら。27年ぶりに来日した、ヴェロネーゼ《女性の肖像》、通称《美しきナーニ》です。

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ヴェロネーゼ《女性の肖像》、通称《美しきナーニ》
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

ルネサンス最盛期のヴェネツィアで大活躍した巨匠・ヴェロネーゼ。中でもルーヴル美術館が所蔵する本作品は、同館の所蔵作品の中でも屈指の名作と言われます。光沢のある藍色の高貴なビロードのドレス、薄いヴェールの質感、身にまとっているアクセサリーの描き込みなど、ほれぼれするような美しさ。

そして、注目したいのは絵の中の女性の不思議な表情。宙のどこかをさまよっているような視線は、鑑賞者がどこに立っても、彼女と目を合わすことができないと言われています。様々な感情の入り混じった表情をどう読み解くかも、鑑賞ポイントです!

その他、巨匠たちの作品は下記でもう少し紹介しますね。

古代ギリシャ・ローマ・オリエントの作品も充実!

そして、ルーヴル美術館といえば、いわゆるルネサンス期以降の巨匠たちの作品だけではありません。メソポタミア文明からギリシャ、エジプト、ローマといった、古代の作品群も多数所蔵しているのです。

本展では、彫刻作品を中心に、普通に2000年前、3000年前といった時代の作品が多数並んでいるのが特徴です。肖像作品は、特に時代や地域ごとに「コード」と呼ばれる決まった表現の仕方・ルールがハッキリ見られますが、時代・地域によって、少しずつ異なる「コード」の違いを見比べてみるのも楽しいですよ。

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《「青冠」をかぶった王アメンヘテプ3世(在位 前1391-1353)の頭部》

見てくださいこの頭部の大きさ!エジプト人は、しばしば王族や貴族を中心に幼少時からの頭部矯正を行う風習があったことで知られますが、このアメンヘテプ王の頭部はまさにそれ!見立てによってはエイリアンみたいにも見える、コーンヘッドの王様、味わい深かったです。

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《王妃ケネメト・ネフェル・ヘジェト・ウレトの彫像》

人体表現がどことなく自然でなく、写実的なんですが固い感じの造型はまさにエジプト古代王朝の伝統的作風ですね。そういえば古代ギリシャでも、アルカイック期(~紀元前5世紀頃)は手足がつながってたり、やたらカクカクしていたりと、こんな感じですよね。古代ギリシャはその後、写実的でダイナミックな肉体美が美しい彫刻へと移行していきますが、エジプト王朝は最後までこういうスタイルだったんですよね。「コード」の強力な呪縛を打ち破れなかったのでしょうか。

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そして、こちらはローマ中期の歴代皇帝たちの胸部像。ほれぼれするような美しさでした。2000年前の彫刻家が、今とそう変わらない美的センスと技術力を備えていたという事実に、改めて驚かされました。ここからルネサンス時代にかけて、長い間西洋美術はある意味「トンネル」に入っていくのですよね。

フランス史上最強の権力者「ナポレオン」特集!

肖像芸術は、権力者たちによって、古代から自らの権勢を幅広く知らしめるために活用されてきました。本展でも、ハンムラビ王の頭部像やローマ時代の頭部像、ルイ14世の肖像画、彫刻などいろいろな時代の権力者たちの肖像作品が特集されています。

そのハイライトとなるのが、フランス史上最も強大な権力を誇った一人である、ナポレオン・ボナパルトについての肖像作品です。ルーヴル美術館は、ナポレオンのお膝元でもあるので、本展でも絵画・彫刻など多数の作品が出展されました。

なかでも絶対に見ておきたいのが、ナポレオンの「デスマスク」です。

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フランチェスコ・アントンマルキ《ナポレオン1世のデスマスク》1833年

1821年5月5日、ナポレオンが息をひきとった数日後、イギリス人の主治医バートンが石膏で最初のデスマスクを作成しました。その後1833年になってこのデスマスクの「顔」の部分の複製が製作・販売されました。本作品はそのうちの1点とされます。

いろいろな角度から鑑賞できるようになっていますが、どの角度から見ても、安らかな寝顔のようでした。

きらびやかな工芸品もあります

展覧会の主力となる作品は彫刻と絵画です。これに加え、本展ではメダル、アクセサリー、銀食器など、様々なジャンルでルーヴル美術館の保有する優れた肖像作品が展示されています。

特にアクセサリーや小物類の展示コーナーは、一区画だけトンネルのような入り口で区分けされています。中は、ぐっと照度が落とされて、暗室のようになっていました。その中で、きらびやかにライトアップされた各アイテムが楽しめるように演出が工夫されていました。

▼アクセサリーや小物類の展示コーナーf:id:hisatsugu79:20180531144358j:plain

面白かったのは、セーヴル王立磁器製作所《国王の嗅ぎタバコ入れの小箱》です。小箱の中には、嗅ぎタバコを入れる小さなスペースと、楕円形のミニアチュールを8点並べたプレートが3枚収容されるようになっています。各ミニアチュールには、当時のフランスやヨーロッパ諸国の王侯貴族や、一流文化人たちの肖像画が描かれていました。

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セーヴル王立磁器製作所《国王の嗅ぎタバコ入れの小箱》1819-1820年
マリー=ヴィクトワール・ジャコト《「国王の嗅ぎタバコ入れ」のためのミニアチュール48点》のうち数点 

解説パネルの説明によると、こんな感じで収容していたようです。貴族たちは、タバコを楽しみながら、肖像画をみんなで鑑賞して楽しんだのでしょうか。

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引用:展覧会場の解説パネルより

そして、こちらはイタリア・ポンペイ近くの小都市から出土した、紀元1世紀前半頃に製作された銀食器《ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯》です。

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《ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯》

食器の中央部分に、中年男性の胸像が、裏側から立体的に打ち出された超絶技巧な作品でした。これが2000年前に製作されたとはとても信じられません。古代ローマ人、恐るべしです・・・。 

音声ガイドも良かった!高橋一生が語り下ろすルーヴルの魅力

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そして、今回の音声ガイドは、2017年に大ブレイクを果たした俳優・高橋一生なのです!今年2月に開催された記者発表会では、「僕の声って眠くなるって言われてるんですよね~」と冗談めかして話していました。

が、聞いてみたらこれが予想以上に渋くて良いのです。かなり低めのトーンで落ち着いて話してくれるので、つい引き込まれるように聞き入ってしまいました。ボーナストラックでは、彼がこの展覧会のために実際にルーヴル美術館を訪れたときの感想レポートなんかも入っていますよ。

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3.巨匠たちの昨品(肖像画)

そして、展覧会で注目したいのは、豪華絢爛な巨匠たちの絵画作品です。気に入った作品がいくつもあったのですが、特に今回見ておきたい作品をいくつか絞って解説しますね。

ベラスケス

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ディエゴ・ベラスケス(1599-1660)の工房《スペイン王妃マリアナ・デ・アウストリア(1634-1696)の肖像》

5月27日に国立西洋美術館で閉幕したばかりのベラスケス展ですが、わずか3日後にまた再会できるとは(笑)近づくと粗目のタッチでも、ちょっと遠ざかるとピントが合ったかのようにしっくり見えるのが、ベラスケスの肖像画。宮廷の壁面などに展示され、少し離れたところから鑑賞する時、ベストな見え方になるように調整されているのです。そして、極めて素朴で、人間臭い表情を写し取った本作は、紛れもなくベラスケス度100%!他の時代・地域の巨匠たちと並べると、個性がハッキリとわかります。

レンブラント

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《ヴィーナスとキューピッド》

「光と闇の魔術師」とも言われたレンブラントは、自画像・肖像画も100点以上遺しています。本作は、愛の女神ヴィーナスとキューピッドの神話的な構図を借りつつ、彼の内縁の妻・ヘンドリッキェと、彼らの娘コルネリアを描いたものとされています。不思議といつまでも見ていたい気分にさせられる、傑作でした。レンブラントの、奥さんに対する深い愛情が伝わってくるような作品です。

ゴヤ

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フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《第2代メングラーナ男爵、ルイス・マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネスの肖像》

18世紀スペインの巨匠・ゴヤは宮廷画家として子供の肖像画も多数手がけました。本作に描かれたのは、スペイン王家に近い貴族の家系に生まれた、ルイス・マリア・デ・シストゥエが2歳8ヶ月の時の肖像画です。

彼の引き締まった凛とした表情は、生まれながらの高貴な風格をまとっているようですよね。ぬいぐるみのような犬は、彼の忠実な家来のように見えました。

ダヴィッド

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ジャック=ルイ・ダヴィッド(1748-1825)と工房《マラーの死》

最初、ぱっと遠目から見た時「カラヴァッジョの作品がまさかの出展?」と思ったら、違いました。ダヴィッドとその工房のメンバーが、カラヴァッジョ作《キリストの葬送》から構図を借用して制作した葬送の肖像です。フランス革命の象徴でもあった新聞記者、マラーの死は革命を支援する市民たちの英雄となりました。

そのマラーを悼む肖像画を描くということは、当時としては極めて政治的な行動だったとのこと。まして、彼はこの絵を描いた前年、国民議会の議員にも選ばれていた政治家だったのでした。

ヴィジェ・ル・ブラン

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エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン
《エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人(1761-1829)の肖像》

ヴィジェ・ル・ブランは、マリー・アントワネットの肖像画家として特に有名です。1789年にフランス革命が勃発すると、それを機にフランスを離れ、ヨーロッパ各地で肖像画の名手として引っ張りだこになりました。

本作のモデルはロシアのスカヴロンスキー伯爵の妻、エカチェリーナです。34歳の時の肖像画とのことですが、惚れ惚れするほどかわいいですよね。展覧会でも、この絵の前で足を止める人が多く、「かわいいー」と大評判でした。肌感覚ですが、おそらく展覧会の一番人気作品なのでは??!

アルチンボルド

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左:ジュゼッペ・アルチンボルド《春》
右:ジュゼッペ・アルチンボルド《秋》

そして、展覧会の最後を飾るのが、アルチンボルドの「四季」シリーズから《春》と《秋》です。昨年、「アルチンボルド展」「ルドルフ2世の驚異の世界展」でも紹介され、ここ最近頻繁に作品を見ているイメージがありますが・・・。

が、本作がここにあるというのは、本来間違いなくレアな出来事なのです!紛れもなく世界で数十点しか存在しない、超貴重な国宝級作品です。そんなアルチンボルド作品が、ぽんぽんと短期間の間に3回も見れるとは、日本って本当に展覧会大国ですよね・・・。

展覧会ラストを締めくくる本作は、大人から子供まで童心に帰って楽しめる作品です。じっくり細部まで堪能してみてくださいね。

4.彫刻作品も凄い!

そして、絵画だけでなく彫刻作品も見どころたっぷり!ここでは近代以降で特に面白かった作品を紹介しますね。

これぞ貴族の象徴!盛装した枢機卿の晴れ姿!

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フランチェスコ・マリア・スキアッフィーノ(1688-1763)《リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシ(1696-1788)》

見てくださいこのゴージャスな盛装姿を!筋肉隆々とした写実的な肉体美が特徴だった古代の大理石彫刻とはタイプの違う魅力が楽しめます。ルイ15世に仕えた当時の枢機卿・リシュリュー公爵を表しているのですが、やりすぎ感満載で非常に華やかでした。

苦悩する彫刻家のリアルな頭部像!

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フランツ・クサファー・メッサーシュミット(1736-1783)
《性格表現の頭像》

こちらは、苦渋な表情に顔を歪める初老の男性。作者であるフランツ・クサファー・メッサーシュミットが、自分をモデルに、様々な表情の奇妙な頭部像を製作した全69点のうちの1点です。

なぜこんなユニークな頭部像を作ったのか?その理由は、妄想に悩まされた自分自身を治療する目的だったとされます。だから、彼は生前これらの作品群を一切発表しませんでした。没後にアトリエでまとめて発見されたのです。最初見つけた人はさぞ驚いたことでしょうね~。

苦悶に満ちた表情はリアルで切実なのですが、なんとなくおかしみもあって、絶妙の味わいがある頭像でした。

ルイ14世の騎馬像!

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トマ・ゴベール《フランス式の衣服をまとったフランス国王ルイ14世(1638-1715)》

そして、最後はルイ14世界をモデルとした騎馬像、トマ・ゴベール《フランス式の衣服をまとったフランス国王ルイ14世(1638-1715)》です。ダヴィッドがナポレオンを描いた油絵でも同じようなポーズの作品がありましたが、「馬に乗った王様」はやはり権力の象徴なのでしょうか。

それにしても気になったのはルイ14世の独特な「髪型」です。隣に展示されているイアサント・リゴー《聖別式の正装のルイ14世(1638-1715)》もそうですが、真ん中分けされ、頭頂部で盛り上がった異様な(?)ボリューム感の巻き毛は個性たっぷり。そういえば最近の北朝鮮の主席やアメリカの大統領もかなり個性的な髪型ですよね・・・。

5.広々としたグッズコーナーで買い物を楽しむ!

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いや~、見てくださいこの広々としたグッズコーナー。さすが国立新美術館。圧倒的な広さです。そして、用意されたグッズの種類・量とも非常に充実していました。代表的なところを見ていきますね。

絵葉書が充実!

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壁一面にどーんと架けられた絵葉書。かなりの種類が用意されていました。有名な巨匠の代表作は、ほぼ全部揃っています。安心してガッツリ購入しちゃってください!

定番の文房具グッズやTシャツなど

もちろん、クリアファイル、チケットホルダー、マスキングテープ、メモ帳、ペン、マグネット、一筆箋といった文房具系や、Tシャツ、トートバッグなどの定番アイテムは、しっかり用意されています。

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その中で、ちょっと目を引いたのがこの会場限定で販売されているヴェロネーゼ《美しきナーニ》をモチーフとした扇子。扇子といえば「和」のイメージがあったので、ちょっと意表を突かれました。これからの暑い季節に、重宝しそうですよね。

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お菓子

続いてはお菓子です。最近はどの大型展覧会でも有名な和菓子チェーンや、関東・関西の老舗とのタイアップが珍しくなくなりました。もちろん、ルーヴル美術館展でも大型タイアップが実現。

たとえば、こちらの鎌倉紅谷とのコラボ菓子「ルーブルッ子」。ベースとなっている同社の主力商品「クルミッ子」は本当に美味しいので、これは文句なくオススメ。

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会場限定の「ガチャ」

そして大型展覧会では最近良く見るようになった会場限定のガチャマシーン。

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今回のガチャの中身は、展覧会限定「アクリルスタンド」です。「ルーヴルの男顔」「ルーヴルの女顔」と併せて全部で12種類用意されていますが、どれも精巧に作られています。僕も次回行った時、しっかり回してきます!

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必ず抑えたい!図録

最後に、記念に抑えておきたいのは展覧会の図録です。今回は、日本語版だけでなく、永久保存版として、日仏バイリンガル版も発売されました。作品毎の解説はもちろん、コラムも細かく全6編入っており、読み物としても充実した展覧会カタログでした。

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6.混雑状況や所要時間は?

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2015年の開催実績(2会場合計110万人動員)を考えると、会期後半は混雑すると見て良いでしょう。期間中、日本テレビ系列での関連番組も組まれていますし、ちょうど他にライバルとなるアート系の大型展覧会がないため、お客さんが集中する可能性もあります。混雑を回避するのであれば、7月以降、21時まで開館してくれる金・土の夜間延長を狙うのも良いですね。

所要時間は、当日のチケット購入や入場まで並ぶことも考慮に入れると、余裕を持って90分程度は見ておいたほうが良いかと思います。

もう一つ、意外に忘れてはいけないのが「防寒対策」です。国立新美術館は、かなり冷房が効いています。寒さに敏感な方は、念の為に館内用の上着やストールなどをお忘れなく!

7.関連書籍・資料などの紹介

知識ゼロからの肖像画入門

『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』がビジネス書コーナーのベストセラーとなっている木村泰司氏。彼がその少し前に上梓した、初心者向けの肖像画鑑賞のための入門書です。西洋絵画を中心に、歴史上、肖像画がなぜ描かれ続けたのか?肖像画をどう読み解けばよいのか?等々、わかりやすくビジュアル満載で解説してくれます。この本は展覧会の副読本にぴったりだと思います。

美女たちの西洋美術史

同じく、木村氏が書いた本をご紹介。こちらは、「女性の肖像画」について掘り下げて書かれた新書です。西洋美術の中で、ルネサンス期以降19世紀ごろまでに描かれた女性の肖像画を取り上げ、徹底的に解説してくれます。絵画鑑賞を通して、西洋の宮廷文化や歴史についてこれ1冊でかなりの教養がつきます!

8.まとめ

今や日本では「エルミタージュ美術館展」「プーシキン美術館展」「デトロイト美術館展」等々、毎年のように世界中の著名な美術館の作品が日本にいながら楽しめる展覧会が目白押しです。

その中で、絶対見逃せないのが今回の「ルーヴル美術館展」です。今回改めて足を運んでみて思ったのは、他の美術館とはひと味もふた味も違う「美の殿堂」としての歴史の重みでした。古代ギリシャ・エジプト文明の作品から近代の作品まで、幅広いジャンルのマスターピースを満喫できる、この夏本命の美術展です。おすすめです!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
◯最寄り駅
・東京メトロ千代田線乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口直結
・東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
・都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
◯会期・開館時間
2018年5月30日(水)~9月3日(月)
10時00分~18時00分(入場は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日は夜間延長あり。
※6月は20時まで、7月~9月は21時まで
◯休館日
毎週火曜日(※ただし8月14日は開館)
◯入館料
一般1600円/大学生1200円/高校生800円
※中学生以下無料
※高校生無料観覧日は追って発表あり
◯公式HP
・国立新美術館HP
http://www.nact.jp
・展覧会オフィシャルHP
http://www.ntv.co.jp/louvre2018/
◯公式Twitter
 https://twitter.com/louvre_ntv

面白エピソード満載!壺屋めり「ルネサンスの世渡り術」出版記念トークイベントに行ってきた!

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ最近、西洋美術史の知識が「できる」ビジネスマンに欠かせない教養や知識として脚光を浴びていますよね。木村泰司『西洋美術史』山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』など、書店のビジネス書コーナーで平積みされるベストセラーも珍しくなくなってきました。

そんな中、今回芸術新聞社から出版された、壺屋めりさんの著書「ルネサンスの世渡り術」豊富なイラストと軽快な文章で、イタリア・ルネサンス期に活躍した巨匠たちの「仕事」におけるエピソードをユーモアたっぷりに語り尽くした楽しい本です。

一見堅苦しく思える「西洋美術史」がこんなにも面白く読めてしまうのか!という新鮮な驚きと、「アート」と「仕事術」をつなげる着目点に感銘を受けました。購入してから夢中で読み進めました。

さて、そんな中、壺屋めりさんが、僕の尊敬するアートブロガー、Takさんと、ジュンク堂・池袋本店で出版記念の無料トークイベントを実施しました。これは行っておかなければ!ということで、早速行ってまいりました!

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写真も沢山撮らせてもらえましたので、簡単ですがイベントの感想レポートを書いてみたいと思います!

さて、トークイベントが行われたのはジュンク堂・池袋本店。ビル1棟がまるごと売り場で、タワー型大型書店の先駆けとなった老舗ですね。

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ここに入ったのは高校時代以来約20年ぶり。受験生時代、エスカレーターをひたすら登って、よく8Fの参考書コーナーにせっせと通った思い出があります。

イベントが行われたのは売場最上階となる9Fのイベントスペース。約40名ほど収容できるイベントコーナーは開始時間直前に早々に満席になりました。僕も、写真撮影がしやすそうな最後列に陣取って準備万端です。

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トークイベントの登壇者紹介!

トークイベントは、「ルネサンスの世渡り術」を出版された壺屋めりさんと、聞き手役の中村剛士さん(Takさん)の二人が対談形式で進めていく形で行われました。元々古くからTwitterでゆるくつながっていたというお二人。Takさんの軽妙な質問やツッコミに対して、あふれるルネサンス愛でめりさんが答えていく・・・という流れで進んでいきました。

壺屋めりさん

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どんな方なのだろう・・・と想像していたのですが、著作や絵柄から受けるイメージとぴったりで、お若くて博識な方でした。現在は東京藝術大学でイタリア・ルネサンス期の美術史が専門の客員研究員を務められ、Twitter(@cari_meli)ではカジュアルなツイートで楽しませてくれます。

壺屋めりさんが特に力を入れて研究しているのがルネサンス期に活躍した美術史家、ヴァザーリです。ヴァザーリの著作「芸術家列伝」は西洋美術史上非常に重要な歴史資料となっています。彼の美術史家としての先進性は、同時代を中心に200人以上の芸術家たちを網羅しただけでなく、彼らの残した小話やエピソードを拾い上げ、芸術家の人間性に迫ったことだと言われます。

Takさん

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一アートファンとして、美術界をもっと盛り上げたい!という思いから、主宰ブログ「青い日記帳」では、どんなに忙しい日でも1日1記事書き続ける人気アートブロガー。著書も近著「カフェのある美術館」に続き、2018年8月上旬にはちくま新書からアートの入門書を出版予定とのこと。どんな本なのか楽しみですね~。

「ルネサンスの世渡り術」出版についてのエピソードとは?

クーリエ・ジャポンでの連載が1冊の本になった

本作「ルネサンスの世渡り術」は、壺屋めりさんが2017年1月~2017年12月まで全12回に渡って講談社のWebサイト「クーリエ・ジャポン」で連載したコラムを1冊の書籍にまとめた著作となります。

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もともとは、「デキる!!ルネサンスの仕事術」というタイトルで始められたこの連載企画。ダヴィンチ、ミケランジェロといった、イタリア・ルネサンス期に生きた芸術家たちの「仕事術」を面白エピソードとともに紹介するコラムでした。

国内外から凄腕の芸術家たちが集まっていたローマやフィレンツェでは、貴族や教会からの受注競争は熾烈を極めたと言います。仕事を遂行するプロセスでは、「抜け駆け、パクリ、サバ読み、炎上商法、ハッタリ」なんでもアリだったと言います。

めりさんは、これまでイタリア・ルネサンス史を研究してきた中で膨大な資料を読み込んできました。その難解な資料群の中から、これは!というエピソードを選び抜き、全12回の連載を完走したのでした。

「ルネサンスの世渡り術」の面白さとは?

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こうして完成した本書の特徴ですが、まず、徹底的に芸術家たちの「人間臭い」エピソードが面白く、そして徹底的にわかりやすく掘り下げられていることです。アートに関する前提知識はゼロでも大丈夫!

めりさんの手にかかると、いかにも聖人君子で完全無欠そうだった教科書によく出てくる巨匠たちも、実に人間臭く、ユーモアたっぷりに泥臭く描かれるのです。作品はパクるわ、すぐに出し抜こうとするわ、ケチだわ、厄介な性格だわで、みんな一癖も二癖もある個性的なキャラクターばかり。

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たとえば、第6章をめくってみましょう。あの天才レオナルド・ダ・ヴィンチでさえ、一時期フィレンツェで仕事にあぶれ、ミラノへの移住を決意します。彼は、仕事を探して移住したミラノで、早速王様へと謁見します。でも、その時、彼は画家としてのキャリアをアピールするのではなく、なぜかそれまでやったこともない「軍事・土木」の仕事を全力で「できます!」とアピールするのです。(意味がわかりません/笑)

ダ・ヴィンチは、そこでようやく仕事を得たわけですが、雇われた職種は軍事・土木の専門家としてではなく、なぜか「宮廷音楽家」だったという・・・。めちゃくちゃですよね(笑)

今でこそ、後世の鑑賞者は当時の一流芸術家たちの「成果物」である作品を豊かに味わえるわけですが、その作品が生み出されるプロセスには、生々しい競い合いがあったのですね。そして、彼らの面白マル秘エピソードを、いきいきと語るめりさんの文章には本当に引き込まれるものがありました。

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そして、めりさんの武器といえば何と言ってもそのイラストの可愛さと面白さ。ラファエロもダヴィンチもまるで女の子みたいな可愛さですが、4コママンガ仕立てのイラストは毒もメリハリも効いてて本当に面白い!

軽快で読ませる文章力と、可愛くて痛快なイラスト。僕もどちらかでいいのでこういった才能が欲しいです(笑)

なぜ講談社から出なかったのか?

しかし不思議なのは、「クーリエ・ジャポン」は講談社の運営するWebマガジンなのに、本書は講談社から出版されず、芸術新聞社から出版されたのです。

なぜ、講談社から出版されなかったのでしょうか?

実は、講談社の事業方針によるものだったそうです。講談社からは、よほどのことがなければ「クーリエ・ジャポン」のコラム書籍化は行わないので「もし書籍化を検討したいのであれば、ご自身で別の出版社をあたってください」と連載当初から言われていたとのこと。

そこで、全12回の連載が予定通り終了した時点で、めりさんが「書籍化したい」と匂わせるツイートをしたところ、それを見た芸術新聞社が名乗り出たというのが、書籍化に至る経緯だったとのことです。 

連載を射止めた、壺屋めりさんの情熱と行動力

書籍化のプロセスよりも驚いたのが、むしろ書籍化の前段階の話。つまり、壺屋めりさんは、一体どのようにして「クーリエ・ジャポン」での連載の仕事を得ることができたのか?という部分です。

なんと、そのきっかけは、めりさんが手作りで作った展覧会向けの無料の解説小冊子でした。ちょうど2016年には「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち展」、2017年「ティツィアーノとヴェネツィア派展」と、めりさんの大好きなイタリア・ルネサンス期の大型展覧会が開催されました。 (参考に過去記事を貼っておきますね)

ま、普通はこんな感じでせいぜい感想をブログに書いたり、「よかったー」とSNSに上げたりするくらいですよね。

でも、めりさんは違ったのです。

めりさんは「イタリア美術をもっとみんなに知ってほしい!」という純粋な想いから、誰にも頼まれたわけでもないのに、非公式で手作りのイラスト入り解説パンフレットを制作し、希望者に無料配布していたというのです。

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そして、その無料パンフレットを元に、時には有志を集めてゲリラ的にガイドツアーをやってみたり、希望者が誰でも気軽にダウンロードできるように、コンビニのネットプリントで小冊子を印刷出力できるようにしてみたり・・・。

いや、すごい情熱ですよね。

試しにちょっとこの2つの小冊子をチェックしてみてください。展覧会終了後、現在は壺屋めりさんのホームページから誰でもPDF形式でダウンロードできるようになっているのですが、両方ともかなり手がかかっています!

こうしたルネサンスLOVEな一途な情熱と、これだけハイクオリティなアウトプットは評判を呼ばないわけがありません。この一連の小冊子が、クーリエ・ジャポンの関係者をして、めりさんに声をかけるに至った決定打となったのでした。

ついにメジャーな美術展での仕事も!

めりさんは「クーリエ・ジャポン」での連載をスタートさせただけでなく、念願だった美術館の仕事も手がけることになりました。それが、2017年、三菱一号館美術館で開催された「レオナルド×ミケランジェロ展」です。こちらもルネサンス盛期に生きた巨匠二人が残した「素描」を扱った渋い展覧会でした。

めりさんは、ここで主に新聞広告を担当されたそうです。金曜日の読売新聞の夕刊TV欄に縦長の広告スペースがあるそうですが、そのスペースに4コマ漫画「本当にあったレオミケ話」を描いて新聞デビューも果たしたのでした。

すごい話ですよね。2つの展覧会でのアウトプットが、Webでの連載、展覧会のPRのお仕事を引き寄せ、その集大成として書籍化までゲットする。まさに個人ライター、クリエイターにとって理想的な流れです。そのベースには人一倍熱い思いと並外れた行動力があったということなんですね。「行動力」と「情熱」大事です。(←自分に言い聞かせている)

即興で、絵を描く実演をしてくれました

さて、そんな壺屋めりさんの経歴やエピソードを一通りお聞きした後、Takさんから唐突に「じゃあ、ちょっとこの場で絵を描いてみてくれますか」と唐突に振られるめりさん。

どうするんだろう、と思っていたら、ちゃんとデスクにはめりさん愛用のタブレット型ノートPC(Microsoft「Surface」)が。あ、ちゃんと進行上の仕込みだったんですね(笑)

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それはともかくとして、驚いたのはその手際の良さです。アプリを立ち上げると即興でSurfaceはペンタブレットに早変わり。画面上に表示された描画ソフト上で付属のペンを走らせると、あっという間に書籍でお馴染みのキャラクターが描き上がります。

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イラストレーターや漫画家って、丸ペンとか使ってるイメージだったのですが、最近はタブレット一つあれば、どこでも仕事が簡単にできちゃうんですね。完全デジタル製作でイラストを仕上げる過程を見ることができたのは、非常に興味深かったです。

書籍化にあたって工夫したこととは?

さて一連の紆余曲折を経て無事に芸術新聞社から出版されることが決まった本作。実は今でも、その元となった連載自体は、クーリエ・ジャポンに有料課金することで全て読むことができるのです。

しかし、今から読むなら断然書籍がおすすめです。

これはTakさんも指摘されていましたが、やっぱり横書きよりも、書籍の縦書きのほうが読みやすいんですよね。めりさんの文章は非常にわかりやすく読みやすいですが、文章内にはかなりの情報量が詰まっています。だから、読めば読むほど知識も教養も定着していきます。僕もすでに2周読み返しましたが、何度も読むのであれば、やっぱり落ち着く縦書きがベストかなと思いました。

また、Web連載からかなり加筆されているのもポイント。

まず、書籍化にあたって、イラストが大幅追加されました。そして、ミニコラム7本が新たに書き下ろしとして追加されています。さらに、参考となる様々な作品画像も挿入されており、ちょっとした美術館気分でパラパラめくることもできます。

まとめ

かつてご自身のTwitterでは、プロフィール欄に”現代のヴァザーリになる”と宣言されていた壺屋めりさん。見事、芸術新聞社のオファーを射止め、出版にこぎつけたことで、まさに有言実行。ついに「現代のヴァザーリ」になられたのでした。

「生来のオタク体質で、イタリアルネサンスが好きで好きで仕方がない」とトークイベントで仰っていましたが、Takさんの絶妙なファシリテーションもあって、次から次へと話が尽きませんでした。めりさんの圧倒的な知識量と、イタリア・ルネサンスへの深い愛をたっぷり感じることのできたイベントでした。

イベント終了後、著書へのサイン会が行われましたが、イベント参加者のほぼ全員が書籍を購入。サイン会には長蛇の列ができていました。

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ネットではすでにアートファンから絶賛されている本書ですが、アートを知らない読者でも、気軽に楽しめる本です。500年前、良い仕事をするために、なりふりかまわず必死で生き抜いたルネサンスの巨匠たち。その世渡り術・仕事術は現代に生きる我々も大いに参考にできるポイントがあります。アートの入門書としても、教養書としてもオススメの1冊でした!
それではまた。
かるび

壺屋めり「ルネサンスの世渡り術」

本書のおすすめポイントは上記に書いたとおりですが、主な登場人物は、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼ、デューラー、ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ブルネレスキ、ベッリーニなど。イタリア・ルネサンス盛期の巨匠たちはほぼ1回以上登場します!あと、ラファエロやダヴィンチはまるで女の子のようにイラストがかわいい!癒やされます(笑)

Tak「カフェのある美術館」

展覧会で真剣に作品に向き合ったら、結構疲れますよね。終わった後、なんかちょっと休憩したいなぁと思った時、美術館併設のおしゃれなカフェがあるとついつい入りたくなりませんか。本書では、美術館併設の「カフェ」に着目。全国各地の美術館から、優れたカフェやレストランをピックアップして紹介する、日本初の「美術館カフェ本」なのです。

すでに発売されて1年半が経過していますが、未だに堅実に売れ続け、重版を重ねているとのこと。Takさんによると、現在「第2弾」企画が進行中とのこと!これは楽しみですね~。ちなみに本書については、僕も以下の過去記事で感想を書いています。もしよければご覧になってください。 

ミラクルエッシャー展で不思議なだまし絵の世界を楽しもう!上野の森美術館で開催中!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

上野の森美術館で始まった『生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展
奇想版画家の謎を解く8つの鍵』に行ってきました。数々の不思議な「だまし絵」作品で有名なエッシャー。日本でも、毎年のように全国各地でエッシャー展が開催されていますが、いつも会場はにぎわっていますよね。

東京では実に12年ぶりの開催となったエッシャー展。どんな感じになっているのか、早速見てきましたので、感想レポートを書いてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.ミラクルエッシャー展とは

今回の展覧会『生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵』では、エッシャーが生涯で製作した全448点の作品中、約1/3にあたる152点が出展されています。

展覧会のタイトルにある通り、今回出展された全ての作品が、世界最大級のエッシャー・コレクションを誇る「イスラエル博物館」の所蔵品なのが本展の特長です。

イスラエル博物館
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引用:展覧会場解説パネルより

実は今回の展覧会は、現在イスラエル博物館が各国で開催中の世界巡回展の一部に組み込まれているのです。日本では、東京を皮切りに大阪(あべのハルカス美術館)、愛媛(※詳細は今後発表)、福岡(※詳細は今後発表)と約1年かけて4箇所で展覧会が開催される予定。

今回のイスラエル博物館の世界巡回展では、同館が常設展示にすら出していないような秘蔵作品も多く、日本初来日となる珍しい作品も含まれています。後述しますが、本当に見どころの多い、力の入った展示でした。

ところで、会期初日となる6月6日、公式サイトから、できたてほやほやの新しいプロモーション動画が公開されました。6月5日に開催された関係者向け内覧会の様子を撮影した内容で、館内の展示や見どころが整理されています。展覧会前の予習にぴったりですよ! 

 

音声ガイドはお笑いタレント・バカリズムが担当!!

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さて、展覧会で多くの人が借りていたのが音声ガイドでした。今回のナビゲーターはお笑いタレント・バカリズムさんです。僕も早速借りて聴いてみましたが、思ったより落ち着いた語り口で好感が持てました。

公式Twitterでも、バカリズムさんの音声ガイド収録風景をGIF動画にまとめたツイートが回ってきましたので、貼っておきますね。どんな感じか雰囲気がよくわかります。 

2.エッシャーについて

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マウリッツ・コルネリス・エッシャー
引用:Wikipediaより

マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898-1972)は、【だまし絵】や【トリックアート】の第一人者として知られる、20世紀を代表する個性的な版画家です。2018年は、ちょうどエッシャー生誕120周年にあたる記念イヤーでもあります。

エッシャーは、生涯を通じて全部で448点の作品を生み出しました。絵画や彫刻などは一切作らず、全ての作品が「版画」として制作されました。版画は、一般的に絵画や彫刻と比べると、作品制作上、不自由で制限の多い媒体なのかもしれません。でも、だからこそエッシャーは「不自由だからこそ挑戦するんだ」と、生涯を通じて木版画を中心とした「版画」にこだわり続けたと言われます。

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展示室では、エッシャーが作品制作で用いた版画技法について、わかり易く説明した解説パネルが、1F、2Fに1枚ずつ設置されています。それぞれの作品で採用された版画技法の違いなどにも着目してみると面白いですね。

エッシャーは他の人が真似できない、唯一無二ともいえる「奇想の」版画作品を多数生み出しました。その卓越した技術力や着想・発想の独創性は凄いの一言。数学的な理論や表現技法に基づいた構図で「錯視」や「幻視」を自由自在に生み出し、現実ではありえない独自の作品世界を作り出しました。

では、一体どのあたりが凄かったのでしょうか?次に、展覧会で出展されている作品群を見ながら、僕自身が感じた「エッシャーの凄さ」を説明してみようと思います。

3.展覧会の8つのみどころ 

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本展では、エッシャー作品の見どころについて、わかりやすく章立てして、8つのテーマ別に作品群を整理してくれています。「科学」「聖書」「風景」「人物」「広告」「技法」「反射」「錯視」という8つのテーマに分かれ、順路に沿って整理展示されていました。展示エリアごとに、壁の色が塗り分けられているのもわかりやすくて良いです。

ただ、展覧会と全く同じ着目点でブログを書いてもあまり面白くありませんので、ここからは僕が感じた独自の見どころを8つピックアップして紹介したいと思います。 

見どころ1:劇的に表現されたイタリアの風景

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エッシャーは、キャリア中期以降の一連のだまし絵作品が良く知られていますが、20代、30代の頃を中心に、風景画の秀作を多数残しています。

彼は、特にイタリア各地へ写生旅行に出かけるのが好きでした。ラヴェッロ、アヴルッツィ、ローマ、シエナ・・・出かけた各地で印象に残ったイタリアの風光明媚な風景に目をつけ、いくつもの優れた作品を残してくれました。

例えば、こちらの作品。

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《サンコジモ、ラヴェッロ》1932年

高い壁のように切り立った崖と、その麓に立つ白い建物を左半分に、右半分は野原など遠景が見渡せます。息を飲むような迫力が感じられる構図が素晴らしいです。浮世絵や日本の山水画のように、現実の風景よりも若干縦方向に引き伸ばすことで劇的な効果を生み出そうとしているのでしょうか?

エッシャーの風景画は、どの作品も独特のアングルから見た構図や、緊張感のある構図を選んでいることが多く、キャリア初期から早くも非凡な才能を感じさせるものがありました。

見どころ2:正多面体に惹かれたエッシャー

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《対象(秩序と混沌)》1950年

エッシャーは、しばしば「正六角形」「正八角形」など、作品内に正多面体を好んで描き込みました。正多面体が持つ幾何学的なプロポーションの美しさに惚れ込んでいたのでしょうか。

この作品でも、画面のど真ん中に正十二面体がどーんと置かれています。その周りには敢えて冴えないガラクタ(=混沌)を配置することで、中央に配置された多面体の美しさ(=秩序)を際立たせる効果があります。

見どころ3:モザイク状に並べて表現された「無限」の世界

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《発展Ⅱ》1939年

エッシャーは、スペインのアルハンブラ宮殿を装飾していた「モザイク」の模様に感銘を受け、そこから作品制作への着想を得ました。ここで生み出されたのが「正則分割」と呼ばれる技法です。同じ形の複雑な図形を、色分けして平面上に敷き詰めた模様を螺旋状に並べ、「無限」を表現しようとしました。

本作の中心点は六角形が並んでいますが、周辺に広がるにつれて、六角形が少しずつ「トカゲ」へと変化していく不思議な作品です。この「トカゲ」は、エッシャーが生涯を通じて最も多用した動物のイメージの一つでした。

見どころ4:「正則分割」応用編:循環し、溶け合う2つの世界

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《昼と夜》1938年

エッシャーの全作品の中で、最も人気の高い作品の一つとされる本作。やはりここでも、平面の「正則分割」の技法が使われています。昼と夜の世界が鏡像のように左右対象に置かれ、お互いの領域に白と黒の鳥が入り込んでいく構図。

どれ一つとして同じ形の鳥もなく、画面真ん中の灰色の畑から両サイドへ向けて、なめらかに溶け込むように出現する鳥たち。いつまでも見ていたい気持ちにされる傑作です!

見どころ5:球面に写った、ゆがんだ鏡の世界

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《球面鏡のある静物》1934年

エッシャーの作品には、鏡による反射を描いた作品が数多く残っています。球面上に映し出された鏡像の反転世界と、直接見えている世界が同居する奇妙な構造。そして、なんとも言えないシュルレアリスム的な人面鳥。

球面鏡の内部に写っている男性は、エッシャー本人の自画像でもあります。球面鏡の真ん中に必ずエッシャー本人の両目が位置するのが特徴で、エッシャーは「観測者が世界の中心から逃れることができない」という点が大いに気に入っていたのだとか。

見どころ6:”ネッカーの立体”:よく見るとありえない柱の構造?!

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《ベルヴェデーレ(物見の塔)》1958年

これもよく見る有名な作品ですよね。建物の細部までよく目を凝らして見てみると、2階建ての建物の「脚」が、現実にはありえない付き方をしているのです。これにより、階段を登った1F部分と2F部分の床の向きもおかしなことになっています。

でも少し引いて作品全体を見てみると、建物が違和感なく存在しているという・・・なんとも不思議な作品ですが、画面左下のベンチに座っている男が手に持っているだまし絵の立体と、その下に落ちている図面(通称”ネッカーの立体”)がこの作品を読み解くカギとなります。

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引用:Wikipediaより

すなわち、座った人が持っている立体は、辺の前後関係がちぐはぐにつながった、現実にはありえない立体です。しかも見る角度によって立体の見え方が2通りに見えるんですよね。この構造を、まるごと作品に援用したのが本作でした。

見どころ7:存在不可能な立体!「ペンローズ回廊」

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《滝》1961年

そしてこちら。滝壺に落ちたはずの水が、いつのまにか滝の上まで登ってきているという不思議な錯視を招く作品。作品のベースになったのは、イギリスの数学者ロジャー・ペンローズとライオネル・ペンローズが1958年に発表した、現実には存在しない「ペンローズの三角形」でした。

数学に興味があったエッシャーは、実際にペンローズと交流し、本作以外にも作品のアイデアをもらうことも多かったそうです。

ちなみに、本作の滝の上に多面体を複数合成したような謎のオブジェが乗っかっていたり、画面左下に海藻のような謎の植物が描かれているのも不気味で面白いです。

見どころ8:絶対に見ておきたい大作「メタモルフォーゼⅡ」

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《メタモルフォーゼⅡ》(1939-40年)

そして、本展のハイライトは、日本初公開となる4mの超大作「メタモルフォーゼⅡ」です。「メタモルフォーゼ」とは、エッシャーの母国語・オランダ語で「変身」を表す言葉です。

そのタイトルの通り、作品左端からモザイク状の平面が、トカゲ→ハチ→チョウ→魚→鳥→ブロック→イタリア風景→チェス盤→モザイクへと次々変わっていく楽しい作品。元々は郵便局の壁画を飾る作品として制作されたとのこと。

なお、「メタモルフォーゼⅡ」が設置されているコーナー四方の壁面には、壁画のように、原画よりも大きく図柄を拡大したバージョンが印刷されています。混雑して細部まで見られない場合は、この壁面パネルをじっくり見ていってもいいですね。

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《メタモルフォーゼⅡ》部分図(1939-40年)※壁面パネル

この「世界が移り変わっていき、そして最初に戻ってくる」という作品に誰しもが「循環」「再生」といったメタファーを感じることと思います。

図録の解説によると、本作が製作された1939年は、ナチスドイツがフランス、オランダに侵攻した年でした。ただでさえ暗い世相の中、エッシャーは相次いで両親を亡くします。一方向への変化にとどまった最初のバージョン「メタモルフォーゼⅠ」と違い、敢えて物事の再生や復活を予感させるような「循環」を描きこんだところに、エッシャー自身の、再生・復活への祈りが感じられるようでした。

4.見逃せないグッズコーナー!

絶対入手しておきたい!「展覧会公式図録」

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ところで、エッシャーほど「図録」の価値が重要となるアーティストはいないのではないでしょうか?展示作品数も多いですし、展示会場が混雑していると、中には満足に見ることができなかった作品もあったかと思います。でも展覧会場で1度見ただけで終わりにするのはもったいないです!

そこで、公式図録の登場です。家に帰ってから、思う存分時間をかけて復習してみてはいかがでしょうか?僕も、美術館への滞在時間は1時間30分でしたが、帰宅後、ブログを書く前に少なくとも数時間は眺めていたと思います(笑)

しかも、現在ネットやリアル書店で市販されているエッシャーの画集には絶版が多く、普及版の画集をリーズナブルな価格で手に入れるのが意外に難しいのです。こんな状況なので、少しでも気になったら、思い切って図録を購入することを強くおすすめしたいです!会場限定での販売ですので、あとでAmazon等で購入することができません。売り切れないうちにお早めに!! 

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しかも、今回の図録では、最近ちらほら見るようになった「コデックス仕様」が採用されています!「コデックス仕様」で製本された図録は、糸綴の背中をそのまま見えるように本を仕立てるため、本の開きが良いのです。どのページで開いても本にストレスをかけずに大きく開くことができます。

これは嬉しい工夫ですよね!

トリックアートが描かれた定番グッズたち

今回の展覧会でもマグネット、クリアファイル、ハガキ、ボールペンといった文房具類や、トートバッグ、Tシャツなどの定番グッズが充実。

それぞれ、アイテムのどこかに必ずトリックアート的なデザインが施されているので、展覧会の思い出が心に残りやすい作りになっています。

▼マグネット
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▼クリアファイル
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▼トートバッグ
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▼Tシャツ
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▼トリックアートノート
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この「トリックアートノート」はちょっと面白かったです。一見、普通のノートに見えますよね?!でも、ページをめくると、各ページにエッシャー的なだまし絵の描き方が解説してあるのです。まさにトリックアートを描くために用意されたスペシャルなノート。これは面白い!

▼ノートを開くとだまし絵の描き方が解説されているf:id:hisatsugu79:20180607142453j:plain

ガチャにも挑戦してみる?

最近、展覧会場限定のガチャマシーンをよく見るようになりました。本展でも、トリックアート的な意匠が施されたオリジナル缶バッジのガチャが用意されていました。種類は全部で8種類。会場では、初日から意中のアイテムを取り出そうと、複数回挑戦している猛者も見かけました・・・。

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5.混雑状況と所要時間目安

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今回の展覧会は、全部で152作品とかなり多めに用意されました。版画作品なので、比較的小ぶりな作品が目立ちます。だから、しっかり見ようと思ったら意外に時間がかかります。混雑していない前提なら、90分~120分程度は見ておきたいところ。

ただ、やっぱり気になるのが混雑状況ですよね。エッシャー展は、本当に混雑します。前回2006年のBunkamura・ザ・ミュージアムの展覧会に妻と行った時は、散々並んだ挙げ句、若いリア充カップルたちに押しつぶされました(笑)

まして、今回の展覧会場は入場待ち行列ができやすい「上野の森美術館」です。会期後半にもなると、かなりの混雑が予想されます。会期後半になると、チケットを買うだけでも、かなり並ばなければならない可能性も大いにあります。

チケットは事前にプレイガイド等で購入した上で、できるだけ朝一に近い時間帯でおでかけください。(上野の森美術館の混雑は昼以降になることが多いため)

6.まとめ

毎年のように日本のどこかで開催されている人気のエッシャー展。しかし今回は、超大作「メタモルフォーゼⅡ」や、日本初公開作品も多く出展されています。アートファンならもちろん抑えておきたい展覧会となりました。

その一方で、キャリア後期の有名な代表作は、ほぼ全て網羅しているため、「エッシャー入門編」としても最適な展覧会でした。何より、わかり易い作品が多いので家族や仲間、恋人と気軽に見に行けるのも嬉しいところ。

色々な楽しみ方がある今回の「ミラクルエッシャー展」。是非楽しんでみてくださいね。僕も期間中、混雑を避けてもう一度行ってきたいと思います!

それではまた。
かるび 

おまけ:エッシャーの世界が楽しめる映画を3つ紹介!

映画「ナイトミュージアム/エジプト王の秘密」

夜になると、博物館の展示物が一斉に動き出し、毎回一騒動が起きる「ナイトミュージアム」シリーズ第3弾。本作ではイギリスの博物館へ潜入した主人公が、エッシャーの代表作《相対性》の中へ入って敵と戦うシーンが出てきます。3方向に重力が働く特殊な空間で、どこが地面なのかもはやわからないアクションシーンは見ごたえがあります。展覧会場の入り口でも放映されています。

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引用:上記いずれも映画「ナイトミュージアム/エジプト王の秘密」DVDより

映画「インセプション」

鬼才、クリストファー・ノーランの代表作です。ストーリー中盤で、代表作《上昇と下降》の3次元セットが組まれ、その上を主人公たちが歩くシーンが出てきます。もちろん、現実には組むことが不可能なので、別の角度から見ると行き止まりになっているのですが・・・。

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引用:映画「インセプション」DVDより

それ以外にも、潜在意識の第2層に入り込んだ主人公たちが、ふとした拍子に天地がひっくり返り、宇宙遊泳のような状態で激しいアクションシーンを繰り広げる場面や、意識の力で空間を曲げるシーンなど、不可思議な映像が満載。もう10年近く前の作品ですが、今見ても、エッシャー作品のような不思議な映像体験ができる秀作です。

映画「ドクター・ストレンジ」

最後は、マーベルのアメコミヒーロー「ドクター・ストレンジ」です。こちらも映画「インセプション」を正常進化させたような、CGで作られた不思議な空間が癖になります。調べてみると、本作の空間演出は、シュルレアリスム系の作家やエッシャーの作品をかなり参考にしているとのこと。やっぱり!

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両方共に引用:「ドクター・ストレンジ MovieNEX」予告編 - YouTube

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
東京都台東区上野公園1-2
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩3分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩5分
・京成電鉄「京成上野駅」より徒歩7分
◯会期・休館日
2018年6月6日~7月29日(会期中無休)
毎週金曜日は20時まで
◯開館時間
開館時間:10:00~17:00
※最終入場は閉館30分前まで
◯観覧料金
一般1600円/大学・高校生1200円/中学・小学生600円
※小学生未満無料 ※障害者手帳保持者と付添1名まで無料

【ネタバレ有】映画「デッドプール2」感想・考察と10の疑問点を徹底解説/順当に正常進化を遂げた第2作目!

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かるび(@karub_imalive)です。

6月1日に公開された映画「デッドプール2」を見てきました。すでに全世界で前作並みの動員・興行収入を達成して大ヒットが確定。2作目のジンクスを打ち破りつつあります。僕もDVDが待てず、劇場でチェックしてきました!

早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「デッドプール2」の予告動画・基本情報

▶映画「デッドプール2」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】デヴィッド・リーチ(「ジョン・ウィック」「アトミック・ブロンド」
【配給】20世紀フォックス
【時間】120分

前作で「デッドプール」で監督を務めたティム・ミラーが、ライアン・レイノルズとのクリテエイティブ上の対立(と言われている)により降板。代わって、本作で監督を任されたのはデヴィッド・リーチ監督。

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デヴィッド・リーチ監督 引用:IMDB.com

かつて、ブラッド・ピットやジャン=クロード・ヴァン・ダムら、有名俳優のスタントダブルを務めてきたスタントのプロでもあり、アクション映画を中心に下積みを重ねてきた実力派です。2014年、「ジョン・ウィック」での共同監督で映画監督業への本格的な進出を達成すると、昨年シャーリーズ・セロンを主演に起用したアクション映画「アトミック・ブロンド」で単独での初監督作品をてがけました。いずれの作品も、アイデア満載のスタイリッシュなアクションシーンに定評があり、今後もこのジャンルでは安定して良作を作り続けてくれそうな、将来有望な職人的監督であります。

そして、本作での一番の功労者は、下記の「デッドプール」10年の歩みを自虐的に(?)まとめたこの動画でも分かる通り、ライアン・レイノルズです。

▶「デッドプール2」映画化までの10年を振り返る
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

今作でも、プロデュース・脚本・主演と、映画制作のほぼ全編に渡ってガッツリかかわっています。動画にもある通り、前作「デッドプール」が実現するまで苦節約10年を要しました。1度ならず2度もアメコミ・ヒーロー映画で苦杯をなめ続けたライアン・レイノルズが、まさに執念を実らせた大復活作でした。

なので、2作目も気合いが違います。パンフレットによると、映画撮影中は「寝ても覚めてもデッドプールのことしか考えて無かった」とのこと。相当な入れ込みようだったことがわかります。

本作は、前作に比較すると登場人物が大幅に増えました。基本的には「X-MEN」の世界観をゆるく継承しつつ、沢山の特殊能力を持った個性的なキャラクター(ミュータント)が次から次へと登場し、楽しませてくれます。

2.映画「デッドプール2」主要登場人物・キャスト

デッドプール(ライアン・レイノルズ)f:id:hisatsugu79:20180614001831j:plain
引用:Deadpool 2: The Final Trailer - YouTube
アメコミ・ヒーロー作品では「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」(2009)「グリーン・ランタン」(2011)と評価されず、出演するたびに俳優生命が危うくなりそうなまでになりましたが、前作「デッドプール」で乾坤一擲の大復活。デッドプール効果なのか、2017年には「ライフ」「クリミナル2つの記憶を持つ男」など、本作以外での仕事も再び増えてきています。

ドミノ(ザジー・ビーツ)f:id:hisatsugu79:20180614002058j:plain
引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube
本作のヒロイン役に大抜擢されました。TVシリーズ「アトランタ」で名が売れ、映画「ジオストーム」では物語のキーマンでもある天才ハッカー役を好演。「グレイテストショーマン」「スパイダーマン・ホームカミング」でヒロインを務めたゼンデイヤに顔や雰囲気が似ているとのもっぱらの評判ですね。

ケーブル(ジョシュ・ブローリン)f:id:hisatsugu79:20180614002128j:plain
引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube
「アベンジャーズインフィニティウォー」ではサノス役を務め、アメコミヒーロー史上最も味わい深い最強ヴィランを熱演。こちらでは準主演を好演と、2018年上期はアメコミヒーロー映画を席巻。ガタイの良さと、激渋の演技力で魅せてくれました。さらに6月には山火事を扱った実録映画「オンリーザブレイブ」でも主演が決まってます。

ラッセル/ファイヤーフィスト(ジュリアン・デニソン)f:id:hisatsugu79:20180614003854j:plain
引用:Deadpool 2 | The Trailer - YouTube
ライアン・レイノルズの盟友、タイカ・ワイティティ監督「マイティ・ソー バトルロイヤル」)が手がけた知る人ぞ知る名作「ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル」でも好演が光ったおデブな子役。皮肉なことに、本作上映中はまだ15歳以下なので自分自身が出演した映画なのに映画館で見れないという・・・(笑)

コロッサス(CGキャラクター)f:id:hisatsugu79:20180614002213j:plain
引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube
前作に引き続き、オールCGで描かれたX-MENの一員。X-MEN本作では存在感が薄かったですが、「デッドプール」シリーズでは頭が固く、ちょっとシャイなマッチョ的キャラとして欠かせない存在となりました。ちょうど「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのドラックス的な立ち位置でしょうか?

ドーピンダー(カラン・ソーニ)f:id:hisatsugu79:20180614002151j:plain
引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube
前作、デッドプールが作戦中偶然知り合ったタクシー運転手。本作ではデッドプールにあこがれ、タクシーの車内で自己啓発テープを聞きながら、自分自身もヒーローを目指してデッドプール行きつけの酒場でバイトを始めます。作品内ではインドなまりのある英語を話しますが。本人はインドで暮らしたことはないのだとか。

ネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッド(ブリアナ・ヒルデブランド)f:id:hisatsugu79:20180614002229j:plain
引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube
前作「DP1」に引き続いての出演。前作同様、華奢な体型とは裏腹に、パワー主体の格闘で戦います。本作では、日常生活においてユキオとカップルで行動するなど、アメコミ・ヒーロー映画初のレズビアンとして登場。画期的な演出でした。

ユキオ(忽那汐里)
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引用:Deadpool 2: The Final Trailer - YouTube
ニュージーランド出身の帰国子女。国民的美少女コンテストを経て日本の芸能界入りしましたが、日本ではもう一つ伸び悩んでいました。昨年頃から、持ち前の語学力を生かしてハリウッドでのオーディションに参加。そしてNetflix映画「アウトサイダー」や本作での役柄をゲットするなど、予想以上に成果を上げています。逆輸入俳優的な立ち位置として、一躍日本でも注目度上昇となるでしょうか。菊地凛子に続き、ハリウッドで是非活躍して欲しい!

3.「デッドプール」の簡単なあらすじを紹介

前作のあらすじを簡単におさらい!

かつては米軍特殊部隊の一員として、世界各地で活躍していたウェイド・ウィルソン。退役後は、地元で用心棒的な稼業でその日暮らしの毎日を送っていた。そんな矢先、いつものバーで出会ったのが恋人のヴァネッサ。どんよりとした日常が一転して幸せな毎日になったのもつかの間、ウェイドは末期ガンで倒れてしまう。

恋人との日々を取り戻すため、怪しいエージェントの誘いによって、謎の人体実験施設へと運び込まれたウェイド。そこで、彼は超人化された肉体と不死の命を手に入れたが、実験での副作用によって、全身が醜くただれてしまう。全身を隠すため、真紅の全身スーツに身を包んだウェイドは、以後「デッドプール」と名乗り、逃亡した所長のエイジャックスを追って、悪漢達と戦う日々が続く。エイジャックスはヴァネッサを人質に取り、ウェイドをおびき出すが、その渦中で出会ったX-MENのメンバーたちとチームを組み、エイジャックスを倒すことができた。ウェイドは、ヴァネッサを救出し、二人は幸せな日常生活へと戻っていくのだった。

映画「デッドプール2」途中までのあらすじ

最高の恋人、ヴァネッサとの幸せな日々を送る傍ら、ウェイドはデッドプールとして世界中で悪人を退治する毎日を送っていた。しかし、そんな幸せな日々は唐突に終わりを告げる。ウェイドが取り逃がしてしまった悪人が、ヴァネッサの家に侵入してきたのだ。ウェイドの必死の応戦も甲斐なく、ヴァネッサは敵の凶弾に倒れてしまった。

失意に暮れるウェイドは、自暴自棄となって自らの身体を爆破するが、それでも死んだヴァネッサの元へ行くことは叶わなかった。そんな時、ウェイドを勧誘に来たX-MENのコロッセオにより彼はX-MEN見習いとして出動する。その初仕事は、ミュータント養護施設で理事長らを人質を取って暴れていたミュータントの少年、ラッセル/ファイヤーフィストの救出作戦だった。しかしその現場で自分勝手に無責任に暴れたため、ウェイド自身もラッセルと共に捕まり、ミュータント専用の牢獄、アイスボックスへと監禁されてしまう。

一方その頃、未来人のミュータント、ケーブルがアイスボックスへやってきて、ラッセル殺害を試みようとした。50年後、大人になったラッセルに妻子を殺害されたゲーブルは、時間を遡って少年時代のラッセルを殺害することで、妻子が殺害される未来を変えようとしていたのだった。事情を知らないウェイドはラッセルを守ろうとしてとケーブルはもみ合いになり、その弾みで雪山を転げ落ちていった。

しばらくは失意のまま日々を過ごしていたウェイドだったが、アルの助言で立ち直ったウェイドは、初心に帰ってラッセル救出を決意した。近日中にラッセルら一部のミュータントがアイスボックスから移送される情報を掴むと、ウェイドは仲間を集めて護送車を襲い、ラッセルを上空から降下して救出する作戦を立てた。新たに集めたベドラム、ツァイトガイスト、シャッタースター、ヴァニッシャー、ドミノ、ピーターの5人を加えたウェイドは、チーム名を「Xフォース」と名付けるのだった。

しかし、パラシュート降下作戦は見事に失敗。ドミノ、デッドプール以外の5人は降下早々に死亡してしまう。それでも懸命に護送車をハイジャックしたが、そこにケーブルがやってきて、現場は大混乱となる。なんとかケーブルを退けたウェイド達だったが、ラッセルはもはやウェイドを信用しておらず、同じく護送車に乗っていた巨漢のミュータント、ジャガーノートを連れて再び養護施設の理事長殺害へと向かってしまう。

ケーブルの事情を把握したウェイド達は、ケーブルを仲間に加え、ラッセルの殺害計画を阻止するため、養護施設へと向かうのだった。はたして、ウェイド達はラッセルを説得し、理事長殺害を思いとどまらせることはできるのか?ストーリーは二転三転する意外な結末を迎えるのだった・・・。

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4.映画内容の簡単なレビュー!(ネタバレあり感想・評価)

サプライズの連続でテンション高く押し切った続編でした

第1作目に比べて、冒頭での導入パートが不要な分、自由な演出余地が増えた第2作目。作品世界や破天荒な各キャラクターへの新鮮味が薄れた分、どう工夫するかがポイントとでしたが、今作も絶妙のバランス感で最後まで飽きさせず押し切ってくれました。

まず良かったのが、序盤、中盤、終盤でそれぞれ用意されているサプライズ演出です。序盤で軽くアクションシーンをこなしたあと、デッドプールの良き伴侶になるかと思われた恋人・ヴァネッサがあっさり死亡するという・・・。いや、その直前から豪雨が降っていて、これはなにか悪いことが起こりそうだ、と思っていたらまさかそうくるか!その直前まで下らないギャグの応酬が続いていただけに、この急転直下の悲劇はさすがに予想できませんでした。

で、しばらく泣かせるのかと思ったらそこからがオープニング。「007」そのまんまなパクリ演出には、感傷に浸る間もなく笑わされました。しかし曲はよく聞いたら大御所、セリーヌ・ディオンが起用されているのです。制作予算が増えたんだなぁと実感。「DP2」ではディズニー映画についてもギリギリのところまでブラックジョークで攻めていますが、これは実写版「美女と野獣」への対抗心なのでしょうか(笑)

しばらくストーリーが進んで、次に驚かされたのが「Xフォース」仲間集めからの降下作戦です。7人の侍ばりの「仲間集め」シーンを経て、さぁいよいよ最終決戦か?!とテンションを上げていたら、敵と戦う前にほぼ全滅してしまうまさかの展開に!(笑)ここでも唖然とさせられました。

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1作目からローガンへの対抗心を抱くデッドプール
引用:映画「デッドプール」DVDより

そして終盤。前作から執拗に続く「LOGAN/ローガン」への対抗心(?)も入って、強引に首輪までつけて死んで物語を完結しようとするウェイド。劇中でちりばめた小ネタにオチをつけるために最後までしつこくネタをかましつつ、ようやく死亡しますが、死んだかと思ったら、まさかの時間巻き戻しハッピーエンドへ!平行世界を作りすぎて、ストーリーの辻褄があっていない「X-MEN」をあてつけるかのように、結末そのものがメタ言及的ジョークになっていて、思わずうまい!と唸ってしまいました。

また、映画冒頭でウェイドのナレーションで「この映画はある意味ファミリー映画だ」と入った時は小ネタとして思わず笑ってしまいましたが、見終わってみると確かにファミリー映画でした(!)。ヴァネッサとの理想の家庭こそ築くことはできませんでしたが、終わってみると、風変わりな形ではありますが、映画「ワイルドスピード」的な、仲間の絆で結ばれたファミリーが出来上がっているという・・・。いかにもデッドプールらしいひねりの効いたファミリーですよね。

劇中、「ひどい脚本だ」ってなんどもデッドプールが観客に向けて自虐的につぶやくのとは裏腹に、色んな意味で笑いあり、涙ありで感情を揺さぶられる良作だと思いました。

イースターエッグとパロディネタで2周目以降もたっぷり楽しめる!

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引用:Deadpool, Meet Cable - YouTube

僕は、映画鑑賞は2回目以降見て楽しめる作品こそが、良い作品だと思っています。内容が深く、考えさせられる作品、情報量が多く、2度、3度と見返すことで新たな発見がある作品などいろいろありますが、本作も間違いなく複数回の鑑賞に耐えうる作品でした。

2作目に入って大幅にハリウッド映画ネタや、制作サイドの内輪ネタが増えています。最初から最後まで、他のマーベル系アメコミヒーロー作品はもちろん、DC系作品、ディズニー、スターウォーズなど、あらゆる映画作品がネタとして使われます。また、各登場キャラを演じる俳優の過去作品や出身地ネタ、プライベートなゴシップネタまで、よくまぁここまで詰め込んだなと思うレベル。

また、ブラッド・ピットやマット・デイモンなどの有名俳優のカメオ出演や、一場面に一つは散りばめられた膨大なイースターエッグ(小ネタ)も用意されており、どの場面も本当に見逃せません。(※例えば、モブキャラなのに不自然に画面の方を向いているカットがあれば、たいていそれはカメオ出演だったりします/笑)

確かに、これは賛否両論になっているポイントでもあります。アメコミ作品に詳しくない人や、そもそもあまりハリウッド映画を見ない人には、文脈が把握できないので笑えない箇所も増えていることは確か。ハードルが上がっているのです。また、ブラックジョークを狙いすぎ、詰め込みすぎで、多少くどいかな?と思うような会話シーンもありました。

でも、本作は元々アクション・コメディ作品なので、前作の路線を純化して突き詰めると、こうしたメタ言及的な小ネタが増えるのは致し方ないかと思います。また、徹底的に小ネタに走った分、アクションシーンも合わせてレベルアップしたことで、作品のバランスは保たれていました。

アクションシーンが大幅強化!デヴィッド・リーチ監督の作家性を反映

今回からメガホンを取ったデヴィッド・リーチ監督は、ガン・アクションや格闘バトル、カーチェイスなど、スピード感のあるスタイリッシュなアクションシーンに非常に定評があります。

今作は、前作に比較して制作費が増強されたこともあり、前作に比べるとアクションシーンが約3倍に増えているとのこと。(パンフレット記載)

ガンアクション、格闘バトル、カーチェイスなど、あらゆる場面で派手にモノが壊れ、スローモーションを多用したど迫力のアクション演出が素晴らしかったです。R15+作品らしく、アグレッシブでストレートな暴力描写がありますが、なぜかそれほどグロくなく、割とスッキリとスタイリッシュに魅せてくれました。

決してブラックジョークやメタ的な内輪ネタでえげつない笑いを取るだけでなく、ヒーロー映画としての最大の見せ場である「アクション」にもしっかり磨きがかかっていたと思います。

 

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5.映画「デッドプール2」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:新キャラ「ケーブル」の正体とは?

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引用:Deadpool 2 | The Trailer - YouTube

ケーブルは、50年後の未来からやってきました。テクノウイルスに罹患したことで、左目と右上半身を失い、生物と機械の融合体となったマッチョな戦士です。未来で大人になって凶暴化したラッセル/ファイヤ―フィストに襲われ、妻と娘を失いました。

この世界に来た理由は、凶暴化する前のラッセルを予め子供のうちに殺しておくことで、過去を改変し、妻と子供が殺されていない未来を作り出すためでした。

ちなみに、このケーブル、マッチョなだけじゃなくてなかなか頭も切れるのです。例えば、タイムトラベルで過去(=デッドプール達の時間軸)に来る際、未来のラッセルに焼かれ、黒焦げになった形見のテディベアを肌身離さず持参している点です。テディベアが黒いままであれば未来は改変されておらず、白く変わっていれば、未来においてラッセルの襲撃がなかった=妻子が助かったことをすぐに察知できるのですよね。

疑問点2:デッドプールの彼女、ヴァネッサとはどんな人物なのか?

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引用:Deadpool 2 | The Trailer - YouTube

ヴァネッサは、1作目「DP1」でデッドプールの親友、ウィーゼルの経営するバーで働く娼婦でした。そこで意気投合してデッドプールと付き合い始めました。1作目「DP1」では、ヴィランのボス・エイジャックスに人質として誘拐されましたが、デッドプールに救出され、彼への信頼と愛情がゆるぎないものになります。しかし、2作目では映画冒頭、デッドプールを追ってきた悪漢にあっけなく射殺されてしまったのでした。

疑問点3:オープニングのテーマソングは誰が歌っているの?

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引用:Céline Dion - Ashes (from the Deadpool 2 Motion Picture Soundtrack)

ヴァネッサが凶弾に倒れ、悲劇的な死を迎えてからスタートする「007」シリーズにそっくりなゴージャスなオープニング。そこでかかっていたテーマソングは、セリーヌ・ディオンが歌っていました。

セリーヌ・ディオンのYoutubeサイトでは、デッドプールと舞台で共演したMVをフルコーラス聴くことができます。歌い終わった後、セリーヌに軽くあしらわれ、スパイダーマンと間違われるデッドプール。役者が違ったのかな(笑)

▶「デッドプール2」メインテーマ
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

 

疑問点4:ドミノとは何者なのか?その正体とは?

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引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube

「Xフォース」の主要メンバーとしてデビューした本作のヒロイン・ドミノはかつてラッセルが虐待されていた孤児院で幼少時代を送った、特殊能力を持つミュータントでした。彼女の特殊能力は「運が良い」ことです。身の回りで起こる出来事を、全て彼女に好ましい結果に変えてしまうという、ある意味「究極のチート」とでも言えるオールマイティな最強能力です。

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格闘術も凄い!豪快な一本背負いも披露してます
引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube

なお、原作コミックでは母親の存在も描かれますが、映画では詳細不明です。現在企画が進行中のスピンオフ映画「Xフォース」ではケーブルと共に主演を務める予定。次作で掘り下げて描かれる機会もあるかもしれませんね。

疑問点5:ジャガーノートとは何者だったのか?

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引用:Deadpool 2 | X-Men Movies Wiki | FANDOM powered by Wikia

元々は「X-MEN」シリーズ第3弾、「X-MENファイナルデシジョン」(2013)で映画初登場となりましたが、今回「デッドプール2」では、中の俳優もキャラデザインも一新。よりコミック版のオリジナルに近いかたちの登場となりました。

見た目の通り、人間を遥かに越える怪力を持つミュータントで、あまりに危険なためミュータント専用の刑務所「アイスボックス」でも最下層の独房にて厳重管理されていました。彼はラストでユキオやネガソニックたちによって池の中に沈められますが、最終的に殺されることなく放置されました。むしろなんか池の中でバタバタして嬉しそうだった)果たして3作目以降での再登板があるのでしょうか・・・

疑問点6:盲目の老婆アルとデッドプールの関係は?

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引用:Deadpool, Meet Cable - YouTube

盲目の老婆アルは、ウェイド(デッドプール)のルームメイトです。コインランドリーで出会い、ウェイドがそのままアルの家に転がり込んだことがきっかけとなり、以後同居人になりました。「DP1」「DP2」ともにウェイドの良き理解者であり、母親代わりの存在でもありました。ちなみに、「DP1」で未回収となっていた伏線「アルの家の床下のコカイン」は、本作でちゃんとウェイドが自分で掘り起こしていましたね。 

疑問点7:ミュータント養護施設では一体何が起こっていたのか?

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引用:Deadpool 2 Thanks You - YouTube

ミュータント養護施設には、入所する幼いミュータントたちの特殊能力を制御し、人間社会で安全に生活が行えるようにする、という目的がありました。その特殊能力を抑えるため、職員たちは矯正装置を使うなどしてミュータントの世話を行っていました。しかし、この養護施設では、ミュータントたちへの取扱が乱暴になり、日常的な虐待の場になっていたのですね。ラッセル/ファイヤーフィストだけでなく、この養護施設出身であるドミノも幼少時に虐待を受けていた、とのセリフがありましたので、虐待は10年以上に渡って常態化していたものと思われます。 

疑問点8:あっけなく死んだ「Xフォース」メンバーは?

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引用:Deadpool 2: The Final Trailer - YouTube

ラッセル救出のために、ウェイドがリクルートした新しい助っ人メンバーに対して、「X-MEN」ならぬ「Xフォース」と名付けられました。

ところが、予想に反して新生「Xフォース」は降下作戦で大半が死亡してしまいます(笑)ここでは、どんなメンバーがいたのか、ドミノ以外の死亡したメンバー5名を簡単に解説しておきます。

・ベドラム
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引用:Deadpool 2: The Final Trailer - YouTube
自らの周辺や、人間の体内における電気や磁気を操作し、攻撃を仕掛ける。人間の脳に直接苦痛を与える心理的攻撃も得意とする。
→着地時、バスに轢かれて死亡。

・ツァイトガイストf:id:hisatsugu79:20180614005217j:plain
引用:Deadpool 2 | X-Men Movies Wiki | FANDOM powered by Wikia

猛毒のある緑の粘液を吐いて攻撃を仕掛ける。「イット~それが見えたら、終わり」でピエロを熱演したビル・スカルスガルドが演じた。
→着地時、木材粉砕機に吸い込まれて死亡。

・シャッタースター
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引用:Deadpool 2: The Final Trailer - YouTube
モジョワールドからやってきた異星人。特技は不明だが、本人は「地球人よりあらゆる面で優れている」と面接でアピールした。
→着地時、ヘリコプターの羽に巻き込まれて死亡。

・ピーター
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引用:Deadpool 2: The Final Trailer - YouTube
スカウトされた6人のうち、唯一の一般人だった。特殊能力は特になし。なにか面白そうだからXフォースに応募した。
→着地時、木材粉砕機に吸い込まれたツァイトガイストを救出しようとして、ツァイトガイストが吐いた猛毒の粘液が体にかかって死亡。

・ヴァニッシャー(画像なし)
誰からも見えない透明人間。降下作戦中は、背中のリュックだけが見えていた。特殊能力は不明だが、「X-MENファイナルデシジョン」では、テレポーテーションのスキルを持つとされた。
→着地時、高圧電線に引っかかって感電死。死亡する時、その姿を一瞬だけ見せた。本作ではブラッド・ピットがサプライズ的に出演。 

疑問点9:ラストシーン・結末の考察~エンドロールのも簡単に解説!

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引用:Deadpool, Meet Cable - YouTube

養護施設の理事長を殺害するために、ジャガーノートを伴って、養護施設へと戻ってきたラッセル。なんとか理事長殺害をやめさせ、ラッセルを更生させようとしたデッドプールは、自らミュータントとしての特殊能力を失う首輪を身に着け、ケーブルがラッセルに放った銃弾を受けて死亡してしまいます。

デッドプールの身を呈した捨て身の説得に心動かされたラッセルは、理事長殺害をあきらめ、良い心を取り戻します。その一部始終を見ていたケーブルは、密かに時間を巻き戻し、デッドプールが死なないよう、銃弾に細工を施してもう一度やり直したのでした。

それは、タイムトラベルを全部で2回しかできないケーブルにとっては、元の世界に戻れないということを意味していました。ケーブルもまた、デッドプールの献身的な自己犠牲に心を打たれ、妻子との再会を諦めてまで、デッドプールの命を救ったのです。このあたりの演出には、ぐっとひかれるものがあったのではないでしょうか?

そしてお楽しみのポストクレジットシーン。ケーブルから時計を回収したネガソニック達は、あっさり修理に成功してしまいます。それを待っていたのがデッドプールでした。彼はそれを使い・・・というか乱用し、せっせと過去に出かけては過去を改変しまくります。

まず、不運にもツァイトガイストの毒液を浴びて死んでしまったピーターを生き返らせました。(他の4人は生き返らせないのでしょうか/笑)

その後、さらに悪乗りして「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」の映画世界へ入り込み、そこで2009年版のデッドプールを殺しに行きます。本作ではこんなに喋り倒しているのに、2009年のデッドプールは、なぜか一言も話さないなんとも小物感の漂うヴィランでした。彼の中では、2009年版のデッドプールは黒歴史なわけですね。

そして、調子に乗ったデッドプールは、映画を飛び出て、2010年頃、DCコミックスのアメコミヒーロー映画「グリーンランタン」で主演が決まり、脚本を読んで期待に胸を膨らませているライアン・レイノルズをも殺しに行きます。

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本来はマーベルのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に対抗するため、DCユニバース作品第一弾となるはずだった本作は、制作費2億ドルをかけた超大作でした。しかし、本作はフタを開けてみれば評論家からはクオリティの低さを叩かれ、お客さんに見捨てられた結果、大コケ作品となってしまいました。この映画の大失敗で、「稼げない俳優」というイメージがついたのか、しばらくライアン・レイノルズはハリウッドで不遇の時代を過ごします。同時期にデビューした、同郷カナダで顔も名前もよく似たライアン・ゴズリングがヒット作に恵まれ大出世していったというのに・・・。大作映画のオファーがこなくなるなど、彼にとっては一番の忘れたい思い出なのでしょう。(ただ、今のライアン・レイノルズの奥さんはこの映画のヒロイン役だったわけですが・・・)

疑問点10:続編はあるの?

本作も無事に世界的な大ヒットを記録しており、いよいよ第3作や、それ以降も含めたシリーズ化が気になるところですよね。ただ気になるのは、直近2018年5月の段階では、ライアン・レイノルズが「次回あるとしたら、もっと小さなバジェット規模でやりたい。Xフォースの映画で、チームの一員として出るならありかも」と少しトーンダウンしているところです。

おそらく、彼は公開規模が大きくなることで、映画制作上様々なしがらみや制約が増えてしまうことを懸念しているのでしょう。映画界に衝撃を与えた1作目のように、プレッシャーが少ない中で実験的な作品を作りたい意向なのかもしれません。

したがって、現時点では「デッドプール3」の代わりにケーブルとドミノが主演を務めるデッドプールのスピンオフ「Xフォース」が先にリリースされることが濃厚かもしれません。2018年2月の各誌の報道によると、2018年秋から撮影に入る予定とのこと。

ただし、「X-MEN」系の映画は、「X-MEN:ニューミュータント」「X-MEN:ダークフェニックス」など、続々新作が控えていますので、「Xフォース」の具体的なリリース時期はまだ明らかになっていません。

さらに、もう1点気になる点は、Twitter上のやり取りにすぎませんが、同じマーベルの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズとのコラボもアイデアレベルとしては出ているようです。今は制作会社が違いますが、この後2019年にはディズニーと20世紀FOXが合併する予定です。同じアクション・コメディ路線として、将来のコラボは十分ありえる話ですよね。

6.本作の映画パンフレットはかなりおすすめ!

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本作「デッドプール2」は、制作予算も増額され、前作を遥かに上回る登場人物や押さえておきたい前提知識が増えています。そこで、いつものようにパンフレットを購入してみたのですが、本作のパンフレットは買いです!ディズニーのMCU系作品よりも一回り小さいサイズのパンフレットですが、文字量がかなりあります。

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詳細な人物紹介やライアン・レイノルズへのインタビュー、アメコミ系コラムニストによる濃いコラム3本、裏話満載のプロダクションノートなど、大満足のパンフレットでした。

そしてもちろん、映画の印象的なシーンの写真もちゃんと入ってます。

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意外とマーベル作品は日本語で読める解説資料が少ないため、本作のパンフレットはかなり頼れると思います。Amazon等で買えるようになっているみたいなので、リンクを置いておきますね。

7.まとめ

全世界でR指定を受けるハンデがありながら、前作に引き続き動員数・興行収入ともに順調に推移する本作。破天荒で予測不可能なストーリーや主人公たちの強烈なキャラクターはそのままに、アクション・コメディともに大幅にパワーアップし、正統派の進化を遂げた続編となりました。

これを見た後、改めてX-MENの過去作や、映画内に散りばめられたブラックジョークや小ネタを検証しても面白いですよね。プレッシャーのかかる中、見事なバランスで作品を仕上げてくれたと思います。何度も見れる楽しい作品でした。おすすめです。
それではまた。
かるび

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

今なら半額!アメコミ版「デッドプール」

「デッドプール2」公開を記念して、これまで日本語版で出版されてきたコミックから、2作品が【期間限定で】定価半額セール中。制作会社の権利問題に寄って映画で分かれてしまったアベンジャーズ系とX-MEN系も、コミックでは何の制約もありません。いろんなメンバーが入り乱れる活躍が楽しめるのはコミック作品ならではの醍醐味ですね。

映画「デッドプール」

「デッドプール」誕生までの経緯と、「デッドプール」となってからX-MEN達と組んでだ初めての大きな作戦を描いた1作目。作品中、観客に頻繁に話しかけることで映画の「第4の壁」を破りつつ、過激な暴力・性描写と並行してパロディやギャグもてんこ盛りにするなど、従来のアメコミヒーロー映画の常識を打ち破った金字塔的作品。DVD/ブルーレイで見るなら、特典映像の多い【アニバーサリー・エディション】がおすすめです。

映画「ウルヴァリン:ZERO」

ウルヴァリン(=ローガン)が一連の「X-MEN」作品群の中で存在感を高めて行った結果、制作されたスピンオフ第1弾。1970年代からウルヴァリンと共に特殊任務で戦ってきた同僚であるにもかかわらず、本作の中でひっそりと出演し、これ1作で消えていったのが初代デッドプールなのでした・・・。まさかエンドロールでそのまんまフィルムを使ってくるとは(笑)これも、合わせて抑えておきたい作品です。

映画「LOGAN/ローガン」

地下手術実験の結果、不死身のミュータントとなった元X-MENの同僚、ウルヴァリン(=ローガン)最後の作品。デッドプールから勝手にライバル視され、「DP1」「DP2」を通してネタにされ続けています。「DP2」の脚本は、明らかに本作のストーリーを意識して作られているので、合わせて見ておくと面白いです。

映画「グリーン・ランタン」

最後に紹介するのは、ライアン・レイノルズが過去に主演を務めた、DCコミックスを原作とするアメコミヒーロー映画。「DP1」「DP2」作品内で散々自虐的なネタにするなど、彼にとって一番の黒歴史となっている作品です。今見ると、確かにCG表現が拙い、スーツがダサい、とかいろいろツッコミどころ満載ですが、かなり原作コミックに忠実に第1作目を作ろうとしていたことはわかります。「DP2」に至るまでのライアン・レイノルズにとって、ステップとなった中間作品として一度見ておくのは悪くないかも。

【ネタバレ有】映画「万引き家族」感想・考察と10の疑問点を徹底解説!/パルムドール受賞作品はダテではなかった!心動かされる傑作!

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【2018年6月17日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

6月8日に公開された是枝裕和監督の新作映画「万引き家族」を見てきました。すでにネット上には、熱心なブロガーさん達によって先行上映が始まった6月2日頃から最速レビューがじゃんじゃん上がっていて、正直出遅れ感満載です(笑)

でも、行ってみて本当に良かった。毎回、違う設定・新しい切り口で「家族の肖像」を描き続ける是枝監督。前作「三度目の殺人」で日本アカデミー賞作品賞を獲ったと思ったら、今作はカンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」まで獲得するなど、その活躍は留まるところを知りません。早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「万引き家族」の予告動画・基本情報

▶「万引き家族」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】是枝裕和(「海よりもまだ深く」「海街diary」他
【脚本】是枝裕和
【配給】ギャガ
【時間】120分

これだけ騒がれ、ストーリーにかなり複雑な設定があるにもかかわらず、本作は予告編のバリエーションが極端に少ないのが特徴。ショートバージョンも含め、ネット用に制作された国内向けプロモーション動画はたった2本だけです。予告編なんか見てないで、とにかく映画館に見に来い!ってことでしょうか(笑)

ということで、海外版の公式予告も探してみたら、1本だけ収録シーンが日本版予告と大幅に違う海外版公式予告を見つけました。今年のシドニー映画祭(Sidney Film Festival/略称:SFF)のために製作された限定版公式予告です。

英語版の字幕が入っていますが、吹替ではありませんので日本人なら誰でも違和感なく見れます。事前に映画の雰囲気をより知っておきたいのであれば、こちらのSFF版も是非チェックしてみてくださいね。

▶「万引き家族」予告動画(シドニー映画祭版)
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

さて、本作でメガホンを取ったのは、今や世界の「Kore-Eda」となった、是枝裕和監督です。

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引用:Wikipediaより

本作で原案・脚本・編集を担当した是枝監督は、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを見事受賞。日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督「うなぎ」以来21年ぶりの受賞となりました。

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パルムドール受賞で、世界の「Kore-Eda」に!
引用:『万引き家族』/本予告 

是枝監督といえば、その2ヶ月前、2018年3月には前作「三度目の殺人」にて、日本アカデミー賞作品賞を見事受賞したばかりでした。こちらは、是枝監督の新境地となった「法廷もの」。ラストの解釈は鑑賞者に委ねられ、様々な謎や心理の読み合い、映画ならではの映像的な仕掛けもたっぷり入った社会派サスペンス・ドラマでした。
 

今や飛ぶ鳥を落とす勢いである是枝監督が、「万引き家族」にて取り上げたテーマは、監督が長年取り組んできた「家族」です。これまで、是枝監督は過去作「海よりも深い場所」「そして父になる」「海街Diary」など、作品ごとに「家族の肖像」を、それぞれ全く違った切り口やテーマ、ロケ地で味わい深く描いてきました。前作の法廷ミステリーを経て、今作は再び原点である「家族」を描いた作品へと回帰した是枝監督。果たしてどんな作品に仕上がっているのでしょうか?

2.映画「万引き家族」主要登場人物・キャスト

是枝監督は、どの作品でも「是枝組」常連メンバーを核に、必ず水準以上の演技力を持つ役者を選びます。また、選ばれたキャスト陣は、しばしば「是枝マジック」にかかり、自身のポテンシャルを全開させるような迫真の演技で新境地を開拓することも多々あります。今回、「柴田家」のメンバーに選ばれた6人も、子役2名の選定を含め、大納得のキャスティングでした。

柴田治(リリー・フランキー)f:id:hisatsugu79:20180615211659j:plain
引用:『万引き家族』/本予告 
是枝組常連メンバーの筆頭格。大根仁監督、白石和彌監督なども自身の映画作品で常連として重用しており、2018年度は現在待機作も含め、9作品に出演中(!)出過ぎでしょ(笑)それなのに俳優業だけでなく、小説もイラストもデザインもできて・・・ってどんだけマルチタレントなんでしょうかこの人は!

柴田信代(安藤サクラ)
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引用:『万引き家族』/本予告 
第1子出産後、復帰第1作となった作品。映画「百円の恋」で日本アカデミー賞主演女優賞を獲得し、実力派女優として知名度は全国区に。ヌードや役作りのための体型変化も厭わないプロ意識と、どんな役柄でも器用にこなす卓越した演技力は誰もが認めるところ。この人がキャストに名を連ねるだけで、「ちょっと見てみようかな」という気にさせられます。そう言えば映画「追憶」に続いて、お義父さん(=柄本明)との共演となりましたね(笑)

柴田初枝(樹木希林)
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引用:『万引き家族』/本予告 
ご自身は「死ぬ死ぬ詐欺」と自嘲的に語りますが、全身に癌が転移して久しく、75歳にして実は満身創痍の身。毎回映画作品で見るたびに、命を削って作品に打ち込む姿勢が垣間見え、迫真の演技は冴え渡るばかりです。先日公開された映画「モリのいる場所」でも抜群の安定感でしたし、今作でも要所要所で素晴らしい存在感を発揮していました。1作見るたびに、次もまたスクリーンで見ることができるのだろうかとハラハラさせられます。

柴田亜紀(松岡茉優)
f:id:hisatsugu79:20180615211800j:plain
引用:『万引き家族』/本予告 
NHK朝の連続ドラマ「あまちゃん」でのご当地アイドルリーダー役や映画「桐島、部活やめるってよ。」出演あたりからブレイクし、近年ではTVドラマ「水族館ガール」、映画「勝手にふるえてろ」など主演作も相次いでゲット。TVドラマ、映画、舞台、CM等で超多忙な日々を送る、若手実力派女優の代表格になった感があります。あまちゃん見てる時は、ここまで成長・出世するとは思わなかったな~。

柴田祥太(城桧吏)
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引用:『万引き家族』/本予告 
撮影初期と後期で、明らかに顔つきや身長などが違って見えるなど、長期に渡る撮影がちょうど思春期の伸び盛りにあたった子役。内に秘めた憂いある表情が味わい深かった演技力と監督好みの(?)整った顔立ちは、今後一気に伸びてきそうな気配を予感させます。数年後、スイーツ映画の主演級で登場してくるかも?!

ゆり/りん(佐々木みゆ)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=ztp6J4tLyN0
オーディションで、部屋の隅でポテトチップスを食べるシーンを演じてもらった時、食べ方が気に入ったから起用したとのこと。公開後の舞台挨拶でも、沢山の観衆を前にマイペースで物怖じしない振る舞いが話題になっていました。映画内でもセリフは少ないながら、自然でスムーズな演技ができていたと思います。

3.途中までの簡単なあらすじ

東京の下町、隅田川のほど近くに住む柴田家は、特殊な「家族」だった。それぞれが人には言えない事情を抱え、お互いが寄り添うように依存しあって古くて狭い家に集まってきた結果、擬似的な「大家族」のようになっていたのだった。

2月のある寒い夜、治と祥太はいつものようにスーパーで見事な連携プレーを決めて、万引きを済ませて帰宅する途中、団地の廊下で震えている小さな女の子を見かけた。不憫に感じた治は女の子を家に連れ帰り、女の子から事情を聞いた。女の子はゆりと名乗った。信代はゆりの手足や体に、日常的に両親から虐待を受けている痕跡を見つけたが、信代と治は一旦はゆりを両親の元へと返しに行った。しかし、ゆりの家の中から聞こえてくる凄まじい夫婦喧嘩の様子を聞いて、そのままゆりを柴田家で引き取ることに決めた。

彼ら家族にはお金がなかった。主な収入源は、初江が定期的に受給する老齢年金と初江のクリーニング工場でのパート代、そしてたまに治がこなす危険な日雇い建設業の仕事だけだった。収入が足りない分は、治と祥太が必要最低限な分、日々万引きを繰り返し、なんとか生活を成り立たせていたのだった。

家族の中で、亜紀は初江から許され、生活費を入れていなかったが、亜紀は近場のJKリフレでのアルバイトにて遊ぶ金を稼いでいた。ゆりはすぐに柴田家になじんだ。唯一警戒心を顕にしていたのが祥太だったが、ゆりに「おにいちゃん」と慕われ、いつしか本当の兄妹のようになっていた。

ゆりが来て2ヶ月後、季節は春になっていた。ワイドショーで「荒川区にて5歳の女の子が行方不明」というニュースが飛び込んできた。ゆりだった。ゆりの両親の言動に不審なものを感じた児童相談所が警察に通報したことで発覚したのだ。しかしゆりは両親の元へ帰ろうとせず、柴田家の一員であることを選んだ。彼らは、ゆりを「りん」と名付け直した。

夏になると、治は工事現場で怪我をして、働けなくなった。労災も下りず、万引きすら満足にできない体になった。信代もまた、クリーニング工場を解雇された。いよいよ経済的に困窮した彼らだったが、縁側で花火大会を楽しんだり、ささやかな日帰り小旅行で海水浴を楽しんだり、彼らには貧しい中でも笑顔が絶えなかった。

微妙なバランスの上に成り立っていた柴田家のささやかな幸せが崩れるきっかけとなったのが、日帰り小旅行の翌日朝、初江が亡くなっていたことだった。本来、初江とは何の法的な関係もなかった彼らは、経済的な理由もあって死体を自宅地下に埋めるしかなかった。

初江が亡くなったあと、嬉々として初江が残したへそくりを家探しし、年金を不正受給し続ける治と信代。それを見た亜紀は、この家族のあり方に疑問を抱くようになっていた。一方、祥太も駄菓子屋で万引きを咎められて以来、少しずつ無自覚に軽犯罪を重ねる治の姿勢に疑念を持つようになっていた。

そんなある日、祥太とりんが地元のスーパーで日用品の万引きを行おうとしたところ、祥太が店員に追いかけられて右足に大怪我を負ってしまう。病院に駆けつけた治と信代は、事情聴取に病院へ来ていた警官に住所・名前をうっかり伝えてしまう。祥太への事情聴取から柴田家の秘密や過去の不正・軽犯罪が露見することを恐れた治たちは、急いで家を出ようとしたが、自宅の門の前には警察が張り込んでいた。彼ら5人は、警察へ勾留されてしまったのだった。

果たして治や信代たち、柴田家の5人はどうなるのか?犯罪でしかつながれなかった家族に訪れた結末とはーーー?

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

だれがどう見ても上質な映画作品。ごてごてした状況説明的なセリフは一切なく、時系列に沿って小出しに提示されていく状況描写やわずかな映像的な手がかりから、家族のつながりやストーリーの全体像を読み解いていかなければならないという、映画的な醍醐味に溢れています。

また、作品自体も様々な観点から重層的に解釈できるように作られており、着眼点を変えて、様々な視点から何度も映画を楽しんで解釈できるように脚本・演出に至るまで細心の工夫が重ねられていました。以下、個人的に感じた本作の見どころを紹介します。

見どころ1:丁寧に描かれた家族6人の心情描写

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引用:『万引き家族』/本予告 

まず、本当に素晴らしかったのが彼ら「万引き家族」6名の揺れ動く心情描写です。

それぞれの心の内に打算や思惑を秘めながらも一つ屋根の下に集まり、身を寄せ合うように暮らす彼らの間には、血縁関係は一切なく、格式張った親子関係もありません。大人たちは日常生活の中で気軽に万引きや不正に手を染めるなど、適度に人間として問題がありますし、お互いの存在に対して打算的な思惑を隠そうともしません。

そんな中でも、この奇妙な共同生活の中で、彼ら家族ひとりひとりが本当は家族のぬくもりを切実に求めていることが伝わってきました。

擬似的な家族ごっこに過ぎなかったのかもしれませんが、でも、6人でいた短い夏の間、縁側から花火を全員で味わった夜や、海水浴場へ全員で小旅行へ出かけた日、そこには確かに幸せな家族の空間が広がっていました。

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引用:『万引き家族』/本予告 

海辺で見せた彼らのくつろいだ表情を見ていると、「貧困」への強烈な問題提起がなされている映画でありながら、「幸せであること」と「お金があること」の間には厳密な関係性がないのかもしれない、とも思わされます。彼らに訪れた一時的な多幸感。いつまでも見ていたい、と思うような名シーンでした。

しかし、ストーリー後半では無理に無理を重ねてかろうじて維持されていた「万引き家族」は、初江の死と共に「砂上の楼閣」のように一気に崩れ去ってしまいます。その過程で、残された5人が見せる様々な表情もまた味わい深いです。

家族だった他の4人の幸せを願い、獄中で強さと知性を見せる信江。短絡的で頭が悪く、小狡いところもあるけれど、最後まで家族の復活を望んでいた純粋な治。再びDV家族の元へと戻り、孤独な毎日を送るりん。物語が暗転してから、各キャラクターの心情を読みといていくだけでも非常に充実した鑑賞となりました。

見どころ2:是枝監督が作品内に込めた現代社会への強烈な問題意識

また、作品内に込められた社会批判や問題意識に目を向けるのも面白いです。是枝監督が「10年分の問題意識をこの作品に全て打ち込んだ」という通り、作品中では社会の底辺で生きる弱者がリアルに描かれると共に、年金不正受給問題、死因不明社会、高齢者お一人様問題、学校にも通えない子供家庭内暴力、育児放棄、ギャンブル依存症、雇い止め、労災事故、貧富の格差、現代日本社会が抱える、負の側面に思いっきり焦点をあてています。(ネットではあまりに詰め込みすぎて、かえってリアリティがないという意見もちらほら見かけました)

中でも特に注目したいのが、「万引き家族」6名の中でも、祥太とりんの子供二人の置かれた過酷な状況です。

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引用:『万引き家族』/本予告 

りんは、両親が家庭内で常に言い争い、母親が父親から絶え間ないDVを受ける中、精神的に追い詰められた母親から育児放棄された挙げ句、虐待を受けていました。そんな生死にかかわるギリギリのタイミングで、治と信代に拾われたのです。

また、物語後半で明らかになる、祥太と治の出会いについての秘密もインパクトがありました。パチンコ屋の駐車場で閉め切った車の中、放置されて死にそうになっていたところを、たまたま車上荒らしをしていた治に拾われたという衝撃のエピソード。

しかし、もっと問題なのは、たとえりんと祥太が「万引き家族」に拾われたとしても、それは長期的に見て何の解決にもなっていなかったという点です。もちろん、家族らしいぬくもりやを知ったことや、治・信代たちと過ごした時間も、彼らにとって大切な思い出になったことでしょう。

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引用:『万引き家族』/本予告 

「他に教えてやれることがなにもないんです」と警察の取調中に治が告白した通り、11歳になるまでに祥太が身につけたスキルは、治から教わった万引きの技術だけでした。戸籍がないから学校にも行けず、自宅の押入れの中で愛読しているのは小学校2年生の国語の教科書(スイミー)。同じく、6歳で拾われてきたりんも、読み書きさえ危うく、数字も1~10までしか数えられない有様です。

信代や治がいかに善意を持って、彼らを父親、母親代わりに育てようとしていたとしても、子供たちの発育状況を鑑みると、信代と治がやっていたことは、ゆるやかな虐待でしかないわけです。極度の貧困が子供から教育の機会を奪い、子供の将来を潰していくというインパクトの大きさに衝撃を受けてしまいました。

見どころ3:映画ならではの細やかな映像表現・演出

もちろん、映画ならではの見応えたっぷりの映像表現も秀逸でした。

まず何と言っても見どころは、柴田家の生活空間です。家の中はカオス寸前まで汚され、乱雑にモノが折り重なり、汚部屋寸前。

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引用:『万引き家族』/本予告 

不要不急なモノは家の中にあふれているのに、本当に必要なものは家の中にないのです。しかもこれだけ散らかり放題なのに、1度も掃除や洗濯など、家事をするシーンが出てきません。映画「家族はつらいよ」シリーズで、映画中一度は必ず史枝さんが疲れた顔して掃除機をかけたり洗濯物を干すシーンが出てくるのとは対照的です。さらに、「MOVIE WATCHMEN」で宇多丸さんも言ってましたが、何ですかあの汚いお風呂は!

また、家の中を映し出すカメラは、必ず子供二人か足の不自由な初江の目線に固定されているのも印象的でした。小津安二郎監督の名作「東京物語」の低い固定カメラをほうふつとさせます。低いカメラ位置のほうが、よりカオスな室内が際立つ効果がありますね。

もう一つ感心したのが、都心の下町で聞こえてくるリアルな生活の雑音。僕も都心の築30年のアパートで生活しているのでわかるのですが、東京都心って、静かな朝でさえ、通奏低音のように「ゴーーーーッ」というまとわりつくような低周波音がどこからともなく聞こえているんですよね。さらに、狭い部屋の中で動き回る、柴田家の生活から漏れ聞こえてくる雑多な音。劇伴音楽をできるだけシンプルに抑え、都心特有の生活雑音をリアルに反映させようと工夫した作り込みには舌を巻きました。

さらに、治と祥太の関係性を表す仕草や演出もひねりが効いていて面白かったです。「万引き」仕事に取り掛かる前の儀式やサイン、仕事の前後に交わすグータッチなど。後半、治に不信感を持った祥太が治の出した拳にグータッチを返さなくなる描写ひとつで、二人の間に広がった微妙な距離感や不信感をスマートに表現する巧さが光ります。一方、治と祥太が同じ体の部位を怪我してしまうのは、彼らの切っても切れない縁を暗喩するようで味わい深いです。治は工事現場で、祥太は万引きから逃げる途中、右足を「労災」で骨折するのです。(信代とりんも、腕の同じ場所をアイロンでやけどした痕を見せ合うなど、同じような演出がありましたね)

他にも、髪を切って家族の一員となったりんが、「赤い服」を捨て、それ意向は「青い服」しか着なくなる演出(母親のもとへ戻ったら、また「赤い服」に戻っていた)や、最後まで治のことを「父ちゃん」と呼ばなかった祥太が、バスの中で声にならない声で「父ちゃん」とつぶやくシーンなど、味わい深い演出が本当に多数ちりばめられていました!

このように、本作は、登場人物それぞれの心情描写の妙や、それを支える俳優の確かな演技力、映画ならではの細心の注意が払われた各種演出、監督が本作に込めた強烈なテーマ性、これらが絶妙にブレンドされたハイレベルな作品だったと思います。

 

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5.映画「万引き家族」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:タイトル「万引き家族」の意味とは?当初の原題は別のタイトルだった?

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海外版のタイトルは「SHOPLIFTERS」

このタイトルには、2つの意味が含まれていますね。1つは、家族全員が「万引き行為」を日常から常習的に行っていたこと(※厳密には亜紀を除く)。治と祥太はもちろん、信江はクリーニング屋で衣類のポケットから出てきたアイテムを持ち帰っていますし、初江はパチンコ屋で他人のドル箱を大胆にネコババしています。

もう1つは、家族そのものを万引き=盗んだという意味合いです。治は、祥太をパチンコ屋で拾い、りんを団地の廊下で拾いました。また、考えようによっては、初江は信代、治、亜紀を拾ってきたとも解釈できます。

ちなみに、現在の邦題「万引き家族」に最終的に決定する以前に、本作に付けられていた当初の仮タイトルは、「声に出して呼んで」です。確かに、作品のハイライトとなるような重要シーンで、各登場人物が声にならない思いを伝えようとした場面がいくつかありました。(※ただ、先日公開された映画「君の名前で僕を呼んで」とほぼタイトルが同じなので、変えてよかったとは思います)

疑問点2:自宅で祥太が繰り返し読んでいた「スイミー」とはどんな物語なのか?

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「スイミー」は、小学校2年生用の教科書(光村図書)で数十年間採用され続けている、非常に有名な外国の童話です。マグロに仲間を食い殺された小魚であるスイミーが、失意から立ち上がり、再び仲間を集めて、今度は沢山の仲間で大きな魚の形をしてマグロを追い払うという話です。

是枝監督は、映画の準備中に児童虐待の保護施設を取材で訪問した際、一人の児童がずっとスイミーを是枝監督へ読み聞かせてくれたことが印象に残ったことがきっかけで、劇中で祥太に「スイミー」を朗読させるシーンを作ったのだそうです。

祥太がスイミーを朗読するシーンには、複数の読み解きができそうです。

まず、1つ目は、極度の貧困は、子供から最低限の教育を受ける機会をも奪うということです。祥太は学校に通っていません。かつて初江の息子が使っていた古い教科書を押入れから取り出して、自分で勉強しているのです。本来、11歳になる祥太は、小学校4年生または5年生でなければならない年齢ですが、未だ小学校2年生程度の学力しか持ち得ていないのです。スイミーは小学校2年生用のテキストなのです。

祥太は元々地頭の良い子です。駄菓子屋の店主に一言注意されただけで世の中の善悪を正しく把握する力がありますし、読み書きも、治が教えてくれるわけではなく自分で勝手に習得しているのですよね。実際、柴田家が解散した後、児童養護施設から小学校に通うようになった祥太は、めきめき学力をつけて賢くなっていました。(釣りの知識を治に披露したり、学校のテストで8番を取ったり・・・)そんな地頭の良い祥太でさえ、正規の学校教育を受けられなければ、同年代の子供たちに追いつくこともままならないのです。

もう1つは、スイミーのストーリー自体が、柴田家の構造の暗喩になっているということです。家族を失ったスイミーは、再び仲間を集めて、一つの大きな大家族を形成します。この大家族が力を合わせてマグロをやっつけるのです。(この場合マグロは苦難の象徴)これは、家族との絆を失った柴田家の各メンバーが、一つ屋根の下お互いが支え合って生きていくことで、幸せな生活を取り戻す・・・という彼らの「希望」をメタファーとして表した映画的な表現だったと解釈することもできますね。

疑問点3:初江が亜紀の実家を訪問していた理由とは?

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引用:映画パンフレットより

初江が訪問していたのは、初江と離婚した元夫が別の女性と結婚して、その間にできた息子夫婦が住む家でした。息子夫婦には、二人の娘がいます。長女が亜紀、次女がさやかです。(ちょうど映画ではちらっと部活バッグを抱えたさやかが学校に行くところが写りましたね)

初江は、すでに亡くなった元夫へお線香を上げに行くという名目で、亜紀の父から慰謝料・迷惑料に相当するお金を定期的に受け取っていたのです。だからこそ、初江は自らの家に転がり込んできた亜紀からは生活費を取ろうとしなかったのでしょう。(もうもらってるから)でも、死後、手付かずのまま数回分のお金が残されていたあたり、まとまったところで亜紀に還元するつもりだったのかもしれませんね。

疑問点4:なぜ亜紀は家を出て柴田家へ転がり込んだのか

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=ztp6J4tLyN0

亜紀は、何をやっても自分より才能のある妹、さやかに両親の愛情を一手に奪われ(たと少なくとも本人はそう感じていて)、実家に居場所がなくなったため、初江を頼って初江の家に転がり込んだのでした。さやか自身はどう思っているかどうかわかりませんが、少なくとも亜紀自身は、妹に対して深いコンプレックスを抱いていたのでした。

疑問点5:祥太はどのようにして柴田家の一員となったのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=ztp6J4tLyN0

治は万引きの他に、パチンコ屋での車上荒らしをなりわいとしていました。数年前、治がいつものように車上荒らしをしていた頃、偶然にパチンコ屋の駐車場で直射日光の刺す中、置き去りにされてぐったりしていた祥太を見かけて、そのまま拾ってきてしまったのでした。

物語のラストで、祥太は警察の斡旋した児童養護施設へと入居しますが、その後収監された信江と面会した時、信江から本当の父母を探す手がかりとして、彼が乗っていた車の車種とナンバーを告げられます。その後、祥太が両親を探したのかどうかは、鑑賞者の想像に任せられています。

疑問点6:亡くなる前日、初枝は海辺で5人を見ながら何と言ったのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=ztp6J4tLyN0

物語前半のクライマックスとなる、柴田家6人で海水浴へ行った日。初江は、彼女を除く5人が海岸で仲良く波と戯れる様子を見て、聞こえない声で何かをつぶやいていましたが、何と言っていたのでしょうか。これは、おそらく「ありがとうございました」という感謝の言葉です。(小説版でははっきりセリフとして言っている)

つかの間の刹那的な一瞬のきらめきであることは自覚していたにせよ、自らが「選んだ」家族達に囲まれて、家族であることの幸せを人生の最後で噛みしめるように味わった初江が、思いがけず口にした言葉だったのでしょう。

疑問点7:治と信代は過去にどんな殺人を犯したのか?

信代(本名:田辺由布子)は、治(本名:榎勝太)と付き合い出す前に別の男性と結婚していました。しかし、結婚後、この男性から日常的な家庭内暴力(DV)を受け、どうにもならないところまで精神的に追い詰められていたのです。

その時、ちょうど信代が経営していた店の常連だった治は、信代と謀って信代の夫を殺害し、その死体を埋めたのでした。裁判では、治が「正当防衛」の結果、信代の夫の旨に包丁が刺さったという言い分が認められ、執行猶予が付いたのでした。

疑問点8:なぜ治と信代は初枝の死体を自宅の床下に埋めたのか?

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引用:『万引き家族』/本予告 

これにはいくつかの理由が考えられます。まず、単純に葬式費用を拠出することが難しかったこと。結果的に死んだ初江のへそくりが数十万円戸棚から出てきましたが、彼らは基本的にその日暮らし。葬式すら出せる金はなかったはずです。

もう一つは、彼ら自身の身分がバレるわけには行かなかったからです。彼らは初江の家に転がり込んでいただけで、戸籍上は家族でもなんでもありません。あかの他人です。彼らが家族であることの、法律的な裏付けはまるでないわけです。となると、初江の葬式とともに、彼らの関係性が公の下にさらされるわけにはいきませんよね。

さらに、もう一つは劇中でも描かれましたが、初江の死亡届を出さない限り、約11万円の年金受給が続くわけです。だから、実際は亡くなっていても、定期的に口座に入ってくるのであればこれを利用しない手はありません。もちろん、不正受給にあたるのですが、彼らにとっては背に腹は代えられないところだったでしょう。

疑問点9:なぜ柴田家のメンバーは警察に捕まってしまったのか

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引用:『万引き家族』/本予告 

万引きを見つかった祥太が、店員から逃げる途中、右足を捻挫・骨折して気を失い、病院に搬送されます。そこで、警察が祥太から事情聴取を行う一方、りんは祥太のピンチを伝えに、家族の元へ戻りました。

病院へ駆けつけた治と信代は、動転して、つい名前と住所を警察に伝えてしまったのです。不審に感じた警察は、柴田家の住所へ先回りし、治たちが逃げようとしているところを取り押さえた、というのが逮捕に至る簡単な経緯でした。

疑問点10:ラストシーン・結末の考察

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引用:『万引き家族』/本予告 

警察で勾留され、取り調べを受けた結果、亜紀がこれまでの経緯をすべて話し、柴田家の秘密は警察に全て把握されてしまいます。りんの誘拐、死んだ初江の年金不正受給、死体遺棄など主な罪状は、信代が一身に引き受け、亜紀と治は解放されました。映画では描写がありませんが、亜紀は恐らく実家へ戻ったのでしょう。治は、一人暮らしを始めていました。

対象的な結末を迎えたのは、二人の子供たちです。

祥太は児童保護施設に入居し、小学校に通い始めました。友達も出来て、学校で正規の教育を受けた結果、普通の子供らしい生活を手に入れていました。対照的に、りんの生活は悲惨でした。母親からの虐待や育児放棄が復活し、団地の廊下で一人寂しく遊ぶ毎日でした。エンディングでは保育園・幼稚園には通えず、未だに10までしか数えられない様子が映し出され、寂しげに団地の廊下から外をじっと見つめるシーンで終わりました。

初江の死後、「万引き家族」は解体され、一人ずつその後が丁寧にフォローされましたが、「家族」の元へ帰れたことで、本来は幸せな生活を取り戻せるはずだったりんが、一番悲惨な状況へと落ちていったのです。そんな彼女の後日譚を敢えてラストに持ってきて、寂しげなりんの表情でラストを締めたところに、是枝監督の並々ならぬ問題意識の強さが感じられました。ただのヒューマンドラマで感動して終わり、ではなくて、鑑賞者一人ひとりの潜在意識下に「あなたならこの問題、どう考える?」と重い課題を突きつけた、そんなラストシーンでした。

6.まとめ

素晴らしい映画作品は、何度見返しても新たな発見や楽しみが見つかるものですが、本作もまさにこれにあてはまります。家族となった6人のそれぞれの心情の動きにフォーカスして愉しむのもよし、映画に込められた社会批判、問題提起に思いを馳せるのもよし、様々な映画独自の映像表現やメタファー、脚本の構造をじっくり味わうもよし。様々なレベルで何度も何度も楽しめる大傑作だと思います。素晴らしい作品でした。是非映画館で楽しんでみてくださいね!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画パンフレットが本当に素晴らしい

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本作をもっとより深く楽しみたい人には、まず映画パンフレットがおすすめ。是枝監督へのロングインタビューを始め、主要キャスト全員に1ページずつ割かれたインタビュー系コンテンツが非常に充実しています。

▼キャスト陣へのロングインタビューf:id:hisatsugu79:20180616111514j:plain

さらに、絶対読んでほしいのが、各映画コラム。特に、内田樹氏のコラムは必読。「万引き家族」の住居空間の「狭さ」に着目し、狭さ故に逆説的に生じた「豊かさ」の理由や、なぜ「万引き家族」が崩壊するに至ったのか、本質を突いた分析が本当に素晴らしかった。

▼コラムも充実!
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また、物語をより深く読み解くために、「万引き家族」の自宅の見取り図や複雑な人物関係図もスッキリと整理されているページも見どころです。

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調べてみたら、Amazon等で買えるようになっているみたいなので、リンクを置いておきますね。

小説「万引き家族」

映画では「監督・脚本・編集」まで全部一人でやってしまうスーパーな才能を持っている是枝監督。もちろんノベライズ版だって人に任せたりはしません(笑)自分でちゃんと書くのです!この小説版は、映画版とストーリーは全て同じですが、映画を気に入った人なら、読んで絶対損がない優れたノベライズです。

なぜなら、一度映画を見ただけではわかりづらかったストーリーの全貌や、各シーンで是枝監督が表現したかった内容を、手に取るように把握することができるからです。外注のノベライズ作家がやっつけ仕事で書いたものとはワケが違います!僕は映画の前後に2回読み返してしまいました!

自著エッセイ集「映画を撮りながら考えたこと」

映画だけでなく、文筆業の方でも、かなりの健筆な是枝監督。ここ数作、新作映画が公開されるたびに何らかの関連書籍が出版されていますが。このミシマ社のエッセイ集は本当にオススメ!

是枝監督の日常生活で考えたこと・感じたことから、社会時事問題への鋭い問題提起、さらには過去に製作した作品の振り返りなど、様々なテーマで書かれたエッセイは、一流文化人なんだなと唸らされます。また、是枝監督が何をどのように考えて、映画制作に取り組んできたのかがよくわかる重要資料でもあるのです。分厚い本ですが、読みやすいので是枝作品をもっともっと深掘りしたい人は是非!!

是枝監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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本作を見て、もう少し是枝作品の過去作を見てみたいなと思った人は、1つずつDVDを買うよりも、まずはビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてはいかがでしょうか。

是枝監督作品では、U-NEXTが一番おすすめ。過去作は全部で12作品と、品揃えは配信サービス中No1です。
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【ネタバレ有】映画「空飛ぶタイヤ」感想・考察と11の疑問点を徹底解説!/単なる総集編ではない、池井戸作品の魅力が凝縮された労作!

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かるび(@karub_imalive)です。

6月15日に公開された映画「空飛ぶタイヤ」を見てきました。ベストセラー作家・池井戸潤が2006年に発表した同名の原作小説を映画化した作品です。「陸王」「半沢直樹」「ルーズヴェルト・ゲーム」など、代表作のほぼ全てがドラマ化され、例外なく大ヒットする池井戸作品。勧善懲悪の痛快なストーリーは、どれもわかりやすくて面白いですよね。

意外なことに、今回の映画「空飛ぶタイヤ」は、池井戸作品のなかでは初の映画化作品なのだそうです。キャスト陣も非常に豪華ですし、楽しみにしていた作品です。まずは、どんな仕上がりになっているのか映画館で見てきました。早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画版「空飛ぶタイヤ」の予告動画・基本情報

▶「空飛ぶタイヤ」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】本木克英(「超高速!参勤交代」シリーズ
【配給】松竹
【時間】120分
【原作】池井戸潤「空飛ぶタイヤ」

主題歌はサザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」。最初聴いた時「この曲、全く作風に合っていないのでは?」と感じたものでした。でも実際に映画を見てみると、ちょうどマイルドヤンキー風の2代目社長を演じる長瀬智也にぴったりかも、と意外にしっくり感じます。ネットで試聴できる公式音源は、曲に合わせて本編動画ダイジェストも流れますので、本予告と合わせてチェックしてみるといいかもしれません。

▶サザンオールスターズによる主題歌動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

本作で監督を努めたのは、本木克英監督です。1987年に松竹に入社して以来、映画「超高速!参勤交代」シリーズ「鴨川ホルモー」、「釣りバカ日誌」シリーズなど、主にコメディ映画で活躍。昨年独立を果たすまで、約30年にわたって松竹映画の屋台骨を支えてきた苦労人です。

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引用:本木克英 - 映画.com

しかし、松竹へ入社時は、もともと社会派映画を撮りたかったという本木監督。「リコール隠し」「企業再編」「貸しはがし問題」など、大企業の不正・横暴へと正面から切り込んだ企業小説を原作とする本作は、まさに本木監督にとって本懐だったのではないでしょうか?

2.映画「空飛ぶタイヤ」主要登場人物・キャスト

赤松徳郎(長瀬智也)
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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube
これまで映画作品では(本人曰く)マトモな配役を経験してこなかったという長瀬智也。会社社長役は今回が初めてとなりますが、若社長として違和感のない好演でした。WOWOWドラマの仲村トオルより、「地元のマイルドヤンキー」的な雰囲気もあって、割とはまり役だったと思います。

ホープ自動車・課長 沢田悠太(ディーン・フジオカf:id:hisatsugu79:20180622002512j:plain
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube
映画版・原作小説版と違い、妻との会話シーンもなく、ホープ自動車で仕事一筋に活きる、より「純粋培養」されたエリート会社員、という雰囲気がしっかり出ていました。追い詰められた時、もう少し違う表情を見てみたかったかも。

ホープ銀行 井崎一亮(高橋一生)f:id:hisatsugu79:20180622002523j:plain
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube
ここ最近、「ルーヴル美術館展」の音声ガイドや、ドラマ「THIS IS US」・映画「空海KUKAI」の吹替など、俳優業に派生した仕事も多数こなし、仕事の幅を広げています。映画でも、2018年になってから「blank13」「嘘を愛する女」や、待機中の「奥男」など、出ずっぱりとなっていますね。本作ではカットされたシーンが多かったことや、役作りが難しかったのか、やや精細を欠いた演技が残念でした。

ホープ自動車・常務取締役 狩野威(岸部一徳)
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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編 - YouTube
6月20日現在、映画.comに掲載されている出演映画は実に144本。この他にも毎クール連ドラに出ずっぱりと、70を過ぎても仕事が全く切れない大御所。最近は「アウトレイジ最終章」や本作のような「悪い大人」系か、「ドクターX」でのようなアキラ役のような「かわいいおじいちゃん」のどちらかに当たり役が多い印象。それにしてもこの人が、昔「ザ・タイガース」のリーダーで、ベースの腕前は超プロ級というのを知っている人、どれくらいいるんでしょうね(笑)

ホープ自動車・車両製造部 小牧重道(ムロツヨシ)f:id:hisatsugu79:20180622002959j:plain
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編 - YouTube
2018年は、映画「ボスベイビー」の吹替が出色の出来でした。この後も映画「銀魂2」など個性的な役柄での出演が続く予定。本作では、気のおけない(数少ない?)沢田の盟友的存在として、社内の「情報通」を演じました。体感時間としては、高橋一生扮する井崎よりも出演時間が長い印象。

週刊潮流記者・榎本優子(小池栄子)f:id:hisatsugu79:20180622002940j:plain
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編 - YouTube
毎作男性キャラが9割以上になりがちな池井戸作品ですが、本作において数少ない女性キャラとして、記者役を好演。どの作品でも割とピンポイントでの脇役系での起用が多いですが、2018年待機中の映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」では久々に主役級として活躍してくれそう。

港北中央署・刑事 高幡真治(寺脇康文)f:id:hisatsugu79:20180622002824j:plain
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編 - YouTube
どうしても「相棒」シリーズでの刑事役と比較して見てしまいましたが、本作では後半クライマックス部分で、非常に熱の入った捜査シーン・尋問シーンを好演。「相棒」で鍛えた刑事らしい動き方が板についていました。

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その他、本木克英監督の江戸時代歴史コメディ映画「超高速!参勤交代」シリーズでキャストを務めた、六角精児、佐々木蔵之介、深田恭子など、「本木組」メンバーを中心に30名以上の豪華キャストが本作で起用されています。

3.途中までの簡単なあらすじ

世田谷区で50年以上運送業を営む、中小企業「赤松運送」。先代社長が亡くなり、2代目を継いだ赤松徳郎にとって、2017年は人生最大のピンチが突如として降りかかった、生涯忘れられない年になった。よく晴れた春先のある日、自社のトレーラーが突如として脱輪事故を起こしたのだ。外れたタイヤは歩道を歩いていた女性の頭部に当たり、女性は即死したのだった。

この事故を重く見た港北署の高幡刑事は、整備不良により赤松運送を立件しようと度重なる家宅捜索を行った。世間やマスコミから冷たい目で見られた同社は、メインバンクや主要取引先からの取引停止を迫られ、経営状況が徐々に悪化していった。

精神的に追い詰められた赤松だったが、妻・史絵や先代社長から仕える宮代、若手整備士の門田ら周りの支えもあり、事故原因の独自調査に乗り出した。

過去にも不可解な同様のトレーラー事故がおきていたことを知った赤松は、事件の再調査と事故の原因となった部品の返還を求めてホープ自動車の窓口へ直接連絡した。しかしホープ自動車のカスタマー戦略課の反応は鈍く、なかなか事態が前向きに進まない。

その一方で、ホープ自動車社内では、カスタマー戦略課課長・沢田裕太は赤松の頑迷な姿勢にうんざりしながらも、品質保証部・常務取締役の狩野を中心に、会社上層部が大規模なリコール隠しを行っているのではないかと疑いを持つようになる。気のおけない仲間、小牧や杉本と調査を行った結果、ホープ自動車の社内にはT会議という秘密会議が存在し、その中で本来リコール対象であるべき車両の欠陥を隠し、個別でのヤミ改修や国土交通省への虚偽報告を組織ぐるみで上層部が先導している証拠を掴むのだった。

同じ頃、ホープ銀行の本展営業本部では、調査役となった井崎が、同じ系列グループ会社であるホープ自動車への200億円にのぼるつなぎ融資の調査を担当することになった。週刊潮流で記者をつとめ、元彼女の榎本優子から、ホープ自動車に関するきな臭い噂を耳にした井崎は、のらりくらりとホープ自動車に対する融資稟議の作成を遅らせる戦術に出た。

そして、とうとう沢田は、自分の署名入りでホープ自動車の社長に対して、内部告発状を送りつけるのだった。その直後、狩野の息のかかった人事部から不可解な呼び出しを受ける沢田。メインバンクであるホープ銀行からは資金引き揚げを通告され、さらに遺族から巨額の損害賠償訴訟を起こされた赤松。いよいよ赤松運送は倒産の危機に瀕することになる。果たして、大企業の不正は暴かれるのか?沢田と赤松はこのピンチを脱出できるのかーーーー。

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

池井戸潤の初映画作品は、ソツなくまとめられた良作でした

最初映画化の話を耳にした時、まず最初に頭に浮かんだのは、「文庫本上下巻2冊で900ページにわたる長編小説を、どうやって120分の尺に収めるのだろう・・・」という懸念でした。2009年に先行するドラマ版(約55分×全5回)が制作された経緯もあり、ドラマ版の半分以下の尺でできるのか?と、正直疑いしかなかったです。

しかしフタを開けてみれば、原作の骨格部分はほぼそのままに、スピーディでムダのないストーリーテリングで手堅くまとめられていました。

まず、原作で描かれるサイドストーリーやエピローグを大幅カットして、登場人物を半分以下に削ることで、シナリオを簡略化。(それでも多いけど・・・)人物一人ひとりを掘り下げて描くよりも、ストーリーのテンポやスピード感を大切にして、どんどん短いカット割りで場面を進めて、観客を画面へと引き込んでいく・・・という計算がなされていました。

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オジさん達のアップ画像が印象深かった
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編 - YouTube

映像や音楽、あるいはセリフや仕草に込められた意味やメタファーを紐解く楽しさよりも、各キャラクターの表情をアップで映し、細かい設定や伏線はセリフでがっちり説明させて、ストーリーの推進力で魅せていく・・・といったスタイルは、謎解き的な味わいよりも、わかりやすさやインパクトを優先した感じでしょうか。

その上で、「ものづくり現場の泥臭い写実描写」「中小企業の意地」「リアルな企業社会」「痛快な大逆転劇」「献身的な妻の待つ家庭」など、池井戸作品の持つ定番の魅力はほぼ全部のせ状態。

どちらかというと、「映画」を見ているというより、「手間とお金のかかった2時間ドラマ特番」を見ているような印象でした。映画を見慣れた玄人肌の鑑賞者には少し食い足りないかもしれませんが、アート的な作り込みを捨てて、大衆エンタメ路線で徹底的に作り込んだことが奏功して、かなり没入感のある娯楽作品に仕上がったと思います。

主人公二人の人間臭さや、二人の置かれた状況の対比が面白い

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本作は、立場も性格も全く違う、赤松と沢田の関係性を描き出す、変則的なバディ・ムービーでもあります。この二人は、意識的に強調され、しっかり描き分けられていました。一方は、マイルドヤンキー上がりの泥臭い運送会社の2代目若社長。もう一方は、名門財閥系大企業で純粋培養されてきた仕事一筋のエリート社員。「好敵手」こそが最良の「友人」であるという池井戸小説の定番テーマでもありますね。

まず、面白かったのは沢田の務めるホープ自動車の社内の様子です。今どきの大企業にあるまじき、狭苦しくて灰色な感じの社内風景。小型の片袖机が所狭しとフロアに並べられた中、主人公の沢田を初め、全員がほとんどダーク系のスーツを着用して、ネクタイも外さず仕事してます。「クールビズ」とは全く無縁な古い体質が透けて見えます。

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昭和の雰囲気が漂う社内。本当に2017年の大企業なの?!
引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

会議室は狭苦しく、照明は暗め。間仕切りやデスクなど、創造性のかけらもない室内の内装・・・。今どき、大企業でここまで息の詰まりそうな会社ありません(笑)僕もサラリーマン時代、M菱系企業に何度も営業で出入りしたことがありますが、現実はさすがにここまで昭和でレトロな感じではないです(笑)これはやりすぎ(笑)

そんな中、エリート臭が隠しきれない仕事一筋の沢田は、ディーン・フジオカのはまり役だったんじゃないでしょうか?僕も昔大企業にいたのでわかりますが、大企業で新卒から入社して純粋培養された、優秀な会社人間ってこんな感じです(笑)仕事もできるけど、大きな失敗をしないよう、細心の計算をしながら立ち回り、出世への野心を隠しきれない。そして頭の中は会社のことばかり・・・。純粋に正義感で動くだけのヒーロータイプっていう感じじゃなくて、ちゃんとエリートサラリーマンの鼻持ちならない部分も併せ持った人間臭い描写が良かったです。

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

そしてもう一つの赤松運送。こっちは逆に築40年の社屋にしては、綺麗すぎなんじゃないですかね(笑)配送業の事務所なので、もっと使い込んだところとか古い感じを出してくれても良かったかなと思います。

映画冒頭で社長と門田がキャッチボールをするシーンは非常に良かったですね。赤松が社員を家族同様に大切にしようとしている姿勢を映像で端的に表現できていました。実はこの描写、赤松の幼少時代、宮代とキャッチボールをしてもらったという、赤松の回顧シーンとして原作にも登場するのですが、原作のエピソードを上手に変形して取り込めていたと思います。

赤松もまた、熱血漢でこの映画では一番「良い」キャラですが、それでも完璧には程遠いのが素晴らしいです。終始頭を抱えて悩む描写は、中小企業の2代目社長というニュアンスが良く出ていました。後半、被害者の四十九日で遺族の深い悲しみを知るまでは、どちらかと言えば会社を守ることで精一杯。正義感よりも、まず「明日ちゃんと飯が食えるのか」「資金繰りは大丈夫なのか」という中小企業としての切実な悩みで頭が一杯になっている描写も、非常に共感できました。

一人ひとりの良心・善意が、大きな成果へとつながる奇跡

クライマックスでは、池井戸作品に誰しもが期待する「勧善懲悪」・「大逆転」的なケレン味たっぷりの展開が見れるのですが、本作はそこに至るまでの伏線や設定にしっかりリアリティを感じられるのが良かったです。

本作では、100%周りのために、自分をなげうってヒロイックに行動する登場人物は一人もいません。ホープ自動車の社員たち、ホープ銀行などの大企業の社員たちはもちろん、赤松運送の社員や、赤松が訪ね歩く同業他社、さらには週刊潮流の記者や警察官のメンバーまで、彼らの行動原理の中心として描かれているのは、目先の自分自身の利益です。赤松は目の前の資金繰りをどうするか?しか頭にありませんし、沢田も義憤に駆られて・・・というより、憎き品質保証部へ一矢報いて、自らの立場を強化したいという野心を隠そうともしません。記者も、上からの圧力で急にトーンダウンしていますし、運送会社の社員達も、ハナからホープ自動車へのクレームを諦めています。

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』スペシャルムービートレーラー(主題歌 サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」ver.) - YouTube

ですが、そんな普通の人たちであっても、どこかちゃんと心の奥底では「良心」や「善意」を持っているんですよね。そんなごく普通の人達が、あくまで自分の「利益」を損なわないギリギリのレベルで、平凡な日常風景からほんの一歩勇気を出して行動することで、最後にはホープ自動車のリコール隠し問題を暴き出すことに成功したのです。

これをパンフレット上では「正義の連鎖」と表現されていましたが、言い得て妙ですよね。まさに名もなき小さなヒーローたちが、少しずつ勇気を出して行動することで、時にはそれが巨大な悪と対決する大きな力になりえるのです。まるで1本の細い糸のような、奇跡的な「善意」のリレーを、時にはリアリティたっぷりに、時にはケレン味たっぷりに描き出したところが、本作の最大の見どころだと思うのです。

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5.映画「空飛ぶタイヤ」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:ホープ自動車のモデルとなる実在の企業は?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編 - YouTube

これはほぼ100%、間違いなく2000年~2005年頃の三菱自動車を想定しています。三菱自動車は、2000年、2004年、2016年と大きな大規模不祥事事件を起こしています。

そのうち、2004年に発覚したリコール隠し問題では、2002年、神奈川県綾瀬市の運送会社の三菱製トラックがハブの不具合により脱輪した事故により、車輪が女性の背中に当たる死亡事故を引き起こしました。この死亡事故が絡んだリコール隠しに着想を得て執筆・制作されたのが本作だと思われます。

ちなみに、2006年に出版された原作小説の結末では、リコール隠し発覚によって業績不振に陥ったホープ自動車は、グループ企業各社による協調融資を諦め、ホープ銀行が仲介することによってセントレア自動車(どうみてもトヨタ/笑)に吸収合併される怒涛の展開を迎えます。この一連の記述が、なんと現実の三菱自動車の10年後を先取りしているのが凄いのですよね。

実際、2016年にまたも発覚した3度目の大規模な不祥事(燃費改ざん問題)によって、とうとう経営が立ち行かなくなった三菱自動車は、グループ会社に救ってもらえず、日産・ルノー連合の傘下に入ることが決定したのです。「空飛ぶタイヤ」はいわば「予言の書」でもあったわけですね。

疑問点2:ホープ自動車が引き起こした3年前のリコール隠し事件とは?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

ホープ自動車の大規模なリコール隠しが最初に発覚したのは、赤松運送の死亡事故が起きる3年前でした。様々な不具合を把握しながら監督官庁への報告を怠り、販売店を通じてヤミ改修を続けた不正が、社員の内部通報によって発覚したのです。

この時、主担当として事件の収拾に当たったのが、品質保証部出身の現・常務取締役の狩野威であり、ホープ銀行の専務取締役、巻田だったのでした。

疑問点3:ホープ自動車はなぜホープ銀行から融資が必要だったのか?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

自社が3年前に引き起こしたリコール隠し事件が発覚したことにより、ホープ自動車の財務状況が大幅に悪化したからです。不正発覚後、消費者からのバッシングや信頼低下が、顧客離れ・販売不振を引き起こしました。

その不振をなんとか挽回しようとローン与信を緩めた無理な販売攻勢をかけたことで、ローン延滞と貸し倒れが広がり、損失が更に拡大したのです。まさに泣きっ面に蜂。また、言うまでもなく大規模な追加リコール費用がかさんだことも一因でした。こういった背景を受けて、ホープ自動車の狩野取締役は追加運転資金として200億円のクレジットライン(いつでも無担保で借り入れできる融資枠)をホープ銀行へ申し入れていたのでした。

疑問点4:赤松運送とはどんな会社なのか?現在の社長は2代目?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

赤松運送は、創業約50年になろうとする、世田谷区等々力を拠点とした運送会社です。年商7億でトラックは80台、社員は約90名の純然たる中小企業です。

設立当時は、戦後の高度経済成長期でした。父・寿郎がオート三輪で個人事業主として細々と初めた事業は、やがて軌道に乗り、従業員を雇うまでに成長。その後、株式会社化されました。現在の社屋が完成したのが昭和50年です。

赤松は、社会人になって10年程度は、大手運送会社でサラリーマンとして勤務していたが、父が病死したことをきっかけに2代目社長に就任したのでした。

疑問点5:「週刊潮流」に情報をリークしたのは誰だったのか?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』スペシャルムービートレーラー(主題歌 サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」ver.)

「週刊潮流」の記者・榎木に情報をリークしたのは、杉本でした。T会議の出席メンバーでもあり、ホープ自動車の不正隠蔽体質を憂慮した杉本は、自らの正義感に基づいて、「週刊潮流」へと情報を流したのでした。

疑問点6:赤松運送が引き起こした事故の本当の原因や真相とは何だったのか

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

赤松運送のトレーラーは、法定速度で走行中、何の前触れもなく左前輪のタイヤがホイールごと外れました。ホープ自動車は「ハブの摩耗を見落とした整備不良」と結論付けましたが、門田の整備記録によるとハブの摩耗は正常の範囲内でした。赤松は独自調査を進める中、設計ミスによるハブの構造的欠陥(剛性不足)による設計ミスを疑います。

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引用:三菱自動車 またやらかす 軽自動車4車種で燃費データを改ざんしていたと発表 - NAVER まとめ

そんな中、赤松が運送会社・富士ロジスティックの相澤を訪問した時、同社で購入したばかり(走行距離320km)の新車がプロペラシャフトの脱落事故を起こした原因が、クラッチハウジング(エンジンブロックと変速機の結合部分を覆う部品)の構造的欠陥(剛性不足)にあったことを突き止めます。

▼クラッチハウジングの設計ミスが発覚

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引用:国土交通省HPより

これらは、結局車体設計段階の設計ミスという点で共通点がありました。そして、ホープ自動車は、これら設計ミスを把握しておきながら、数十万台の同系トラックのリコール隠しを組織的に行っていました。ホープ自動車のブランド力をバックに「整備不良」とするか、「ヤミ改修」で問題をうやむやにされていたのです。これが、赤松運送が起こした事故の背景にあった真相でした。

疑問点7:ホープ銀行の田坂はなぜ赤松運送から強引に資金回収しようとしたのか?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

これは、ホープ銀行とホープ自動車が裏で手を引いた嫌がらせではなく、ホープ銀行自由が丘支店の支店長・田坂による個人的な判断によるものでした。

田坂は、過去に難波支店長時代、取引先の不動産会社社長が逮捕された詐欺事件で、融資した資金が詐欺のための「見せ金」として使われた苦い経験がありました。これ以降、社内で失地回復を図るため、人一倍コンプライアンスにはうるさい姿勢を打ち出すようになったのです。だから、赤松運送のような少しでも「事件」の匂いが感じられる問題企業からは、安全策として資金を全面的に回収しようとしたのです。

疑問点8:ホープ自動車内の「T会議」とはどんな会議だったのか?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

T会議とは、ホープ自動車の狩野取締役を筆頭に、品質保証部と製造部メンバーで構成された内輪の秘密会議でした。”T”は、タイヤの”T”です。T会議は、本来リコール対象として国土交通省へ報告すべき重大なハブの欠陥を評価替えして、「整備不良」として処理する「リコール隠し」を行う場だったのです。

疑問点9:沢田は、なぜワナだとわかっていて人事部からの異動を受け入れたのか?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

実名での告発状をホープ自動車の岡本社長へ提出した後、その動きを把握した狩野常務は、自らが影響力を講師できる人事部の◯◯に働きかけ、沢田へ「栄転」をエサに異動させようとしました。切れ者でもある沢田はこの動きの裏に、狩野の影や、異動後に冷や飯を食わされる可能性も感じたと思います。それでも沢田は一旦異動を受け入れました。これには、恐らく2つの計算がありました。

1つは、後任である長岡課長が赴任する前に、高額の示談金1億円で赤松運送のクレーム処理を片付け、実績を作ることで、異動先でも冷遇されることはないだろうという読みです。もう1つは、入社以来どうしても関わりたかった「商品開発」という花形部署の持つ抗い難い魅力です。奥さんとも離婚し、ホープ自動車での出世と仕事一筋だった会社人間・沢田には最大のチャンスに映ったのだと思います。

疑問点10:ラストシーン・結末の考察~映画で描かれなかった結末とは?

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引用:映画『空飛ぶタイヤ』予告編② - YouTube

遺族の深い悲しみに触れた赤松は、1億円の保証金を断り、「週刊潮流」の記者・榎本から受け取った「トラック事故」リストを元に、全国を回り、事故原因の真相をつかもうとしました。そして富士ロジスティックから、走行距離320kmの新車が、クラッチハウジングの不具合により引き起こした事故の調査資料を手に入れ、それを神奈川県警に提出します。その一方、T会議メンバーが組織的なリコール隠しを主導していた証拠が入ったノートPCを杉本から受け取った沢田は、異動先部署で徹底的に冷や飯を食わされた結果、会社の前途に失望し、PCごと内部告発資料として神奈川県警に提出します。

この2つの資料が元となって、ホープ自動車のリコール隠し問題が再び発覚し、赤松運送の名誉と信頼は劇的に回復されたのでした。事件発覚後、赤松運送はホープ自動車と和解し、損害賠償金を満額受領するとともに、被害者からの赤松運送への訴訟は取り下げられました。

ちょっと可愛そうだったのが、ホープ銀行で与信を担当した井崎を演じた高橋一生でした。井崎は、結局劇中でホープ自動車へのクレジットライン200億円の融資を遅らせただけで物語の核心に絡んできていない印象です。しかし、恐らく井崎の行った実績については、映画の編集段階で大幅にカットされてしまったため、井崎の存在がボケてしまったのでしょう。

そこで、原作小説版と合わせて、結末を追ってみましょう。

実は、後日談としてさらっと描かれていた、セントレア自動車によるホープ自動車の救済合併に至るプロセスの先鞭をつけたのが井崎の最大の功績だったのです。恐らく映画内ではカットされた場面だと思いますが、井崎がホープ自動車への稟議を遅らせたことにより、ホープ自動車の危機をホープグループ全体の協調融資で乗り切ろうとした巻田専務が失脚。代わって、ホープ銀行で井崎の上司にあたる濱中部長がセントレア自動車による救済合併案を取りまとめることで決着がついたのでした。

これによって救われたのが、ホープ自動車で内部告発に関わった沢田、杉本、小牧らでした。合併後、両社の組織再編を検討する「合併委員会」に3人とも起用され、見事に復権を果たしたのでした。

疑問点11:原作版/TVドラマ版「空飛ぶタイヤ」との主な違いは?

原作小説約900ページ分を120分の映像へと凝縮した本作。基本的には小説のプロットに忠実にストーリーが組み立てられましたが、それでも映画化にあたって変更・削除された部分が相当数あります。また、編集段階で思い切って削られたエピソードもかなりあるようです。 そこで、原作やTVドラマ版と比較して、主な違いを解説します。

・沢田の妻
原作小説やWOWOWドラマでは、沢田にはラジオDJをやっている美人妻がいます。沢田の良き相談相手であり、沢田を正しい行動に導く「内助の功」を発揮します。映画では、尺の都合からか「離婚済み」となっていました。

・PTAでの攻防戦
原作小説、WOWOWドラマでは、赤松は仕事だけでなく、一人息子が学校で巻き込まれた「盗難」事件をめぐって、PTAの集会でモンスターペアレンツと対決するサブストーリーが描かれます。(赤松はPTA会長を務めている)映画では、尺の都合により、全てエピソードがカット。

・狩野常務と井崎の関係性について
WOWOWドラマでは、ホープ自動車・狩野常務の一人娘とホープ銀行・井崎一亮は結婚を前提に同棲している関係です。まさに財閥企業内トップ同士の政略結婚!狩野は、この特別なプライベートでの関係を活用して、井崎を丸め込んでホープ銀行から200億円の融資枠を設定させようとします。WOWOWならではの思い切った脚色を愉しむことができます。

・「週刊潮流」記者、榎木の聖別
伝統的な財閥系企業や男臭いガテン系職場を扱ったこともあり、登場人物における男性比率がハンパない本作。それを少しでも和らげようとしたのか、原作では「週刊潮流」の記者・榎木は、一癖・二癖ある中年男性記者として描かれましたが、WOWOWドラマと映画版では、正義感に燃える女性記者へと設定が変更されています。

6.まとめ

立場は違えど、各企業や組織に属する普通の人達が、ちょっとずつ勇気を出してそれぞれの立場で自分のやれることをやる。その綱渡り的な「善意」のリレーが、最終的に巨大な財閥系名門企業による強固な組織ぐるみの不正をも暴いてしまう・・・。痛快で、わかりやすい勧善懲悪を、スピーディなコマ割りでスリリングに描いた本作。池井戸潤の原作小説が持つ、エッセンスを手堅く120分にまとめ上げた良作でした。

特に働く20代~50代くらいの男性サラリーマンには、非常にリアリティがあって感情移入しやすい社会派のお仕事映画でした。原作やWOWOWの連続ドラマと比較してみるのも面白いですよ!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ゴージャスな作り込みが良かった「映画パンフレット」

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本作の映画パンフレットが、非常に力の入った出来でした。30人以上のキャストが複雑に入り乱れ、専門用語も飛び交う複雑な設定・ストーリーを読み解くなら、パンフレットが役に立ちそう。

池井戸潤×本木克英監督の対談や主要キャスト・制作陣への丁寧なインタビューや、30人以上にわたる詳細な人物紹介、登場人物相関図、技術用語集、映画ライター陣コラム、池井戸潤の原作詳解など、50P超の大ボリュームでした。もちろん映画の名場面などもあります。

▼制作陣へのロングインタビューf:id:hisatsugu79:20180622180102j:plain

▼これでスッキリ!人物相関図f:id:hisatsugu79:20180622180050j:plain

▼名場面集も数ページちゃんと設けられてますf:id:hisatsugu79:20180622180057j:plain

現在、Amazonなどでも買えるようになっているようなので、リンクを置いておきますね。多分時間が経つと売り切れると思うので入手はお早めに!

原作小説「空飛ぶタイヤ」

文庫版上下巻合わせて約900ページ、登場人物は約70名と、池井戸潤が比較的キャリア初期に手がけた、本格的な長編お仕事小説。三菱自動車が2016年に引き起こした3回目のリコール隠しのもたらした結末を、2006年時点で10年以上も前に予見していたかのような鋭い視点は流石。どのキャラクターもリアリティがあり、小説の中でいきいきと描かれ、大河ドラマの群像劇を読んでいるような気持ちにもなります。長編ながら、非常に読みやすい作品なので、未読の方は面白いので是非!

コミック版「空飛ぶタイヤ」

先行するTVドラマ版に続き、メディアミックスの一環として、映画公開前にコミカライズ版も発売されました。大長編となる原作小説を読むのがつらい・・・という方でも安心してストーリー全体をマンガで把握できます。こちらも合わせてみておくと、より作品世界への理解が深まりますよ!

TVドラマ版「空飛ぶタイヤ」

ホープ自動車の専務の娘と、ホープ自動車の調査役が結婚を前提に付き合っていたり、原作小説にない独自設定も用意され、劇的なドラマ要素が加えられた全5回のドラマ作品。同じ時期に「チームバチスタの奇跡」シリーズで演じたちゃらんぽらんな役人とは違い、仲村トオルが熱く燃えたぎるような青年社長を好演。AmazonPrimeユーザーは、今なら全編無料で見れます! 

本木克英監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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「釣りバカ日誌」シリーズや、「超高速!参勤交代」シリーズなど、これまで松竹の手がけたコメディ作品を社員監督として手がけてきた本木監督。なんとU-NEXTでは、8作品中、全て見放題でチェックできます!本作を見て、もう少し本木監督作品を見てみたいなと思った人は、1つずつDVDを買うよりも、まずはビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてはいかがでしょうか。

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【Amazonプライムデー2018】おすすめタイムセール商品を徹底解説!家電からファッション、日用品まで超お得に買えるチャンス!

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年に入ってから、Amazonでは毎月のようにタイムセールが開催されるようになりましたが、やっぱりみんなが心待ちにしていたのは、毎年7月中旬に開催される「Amazonプライムデー」

そして、今年も7月16日、7月17日の32時間限定で開催されます。僕も期間中がっつり買い物を予定しています!

本エントリーでは、簡単にセールの目玉商品を解説してみたいと思います!タイムセール開始後は、随時更新していきます!

それでは、早速行ってみましょう!

Amazonプライムデーセール会場はこちら!
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「Amazonプライムデー」とは?

「Amazonプライムデー」とは、Amazonのプライム会員(有料会員)限定で初夏に開催される年に1回のビッグセールです。現在、Amazonで開催されている大型のタイムセールは、

・「Amazon初売り」
・「Amazonタイムセール祭り」
・「Amazonサイバーマンデー」

など他にもいろいろありますが、その中でも「Amazonプライムデー」はNo.1の知名度と売上実績規模を誇ります。

さて、そんな2018年のプライムデーは、7月16日(月・祝)12時~7月17日23時59分までの約36時間。年末のクリスマスセールや、初売りセールに比べると、かなり短い開催期間です。

その分、毎月開催されている「タイムセール祭り」よりも割引率が高く、かなり力の入った目玉商品が出品されることが予想されます。

セール開始までに絶対やっておきたい2つの準備

準備1:プライム会員に登録する

Amazonで開催される他の大型タイムセールと違い、「Amazonプライムデー」に参加するには、まずAmazonのプライム会員に登録する必要があります。まだ未加入の方は、これを機に思い切ってお試し登録してしまいましょう!

Amazonプライム会員になるには、月額400円の会費がかかります。でも、年間一括で申込みをすると年額3,980円。Amazonプライム会員になれば、例えば、以下のサービスがすべて無料で受けられるようになります。 

▼Amazonプライム会員のサービス内容とは?
・Amazonプライムデーに参加できる(必須条件)
・約35,000本の映画やTV番組が見放題

・100万曲以上の音楽が聴き放題
・お急ぎ便・日時指定便での配送が無料
・即時配達サービス「プライムナウ」が使える

初月31日間は、Amazonプライム会員に無料で加入できます。まだ未加入の方は、Amazonプライムデーを最大限楽しむためにも、まずは無料お試し会員登録しちゃいましょう!登録は、こちらからできます!

 

準備2:セール商品を見て、リストへ

Amazonプライムデーで最もチェックしたいアイテムは、期間中に開催される「特選タイムセール」対象商品です。一つ一つの商品は、タイムセールがスタートする時間が微妙に違っています。

そこで、活用したいのが「ほしい物リスト」です。以下の手順で、商品ページをチェックして、欲しいものが見つかったらどんどんリストへと放り込みましょう。

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このリストに気になったアイテムを入れておくと、タイムセールが始まったらあなたのケータイ上で通知して教えてくれます。一度使ったらその便利さが体感できますよ。少しでも気になったら、どんどんリストにいれちゃいましょう! 

Amazonプライムデーセール会場はこちら!
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ここからは、明日以降スタートする「プライムデー」で出品予告があった商品をいくつかピックアップしています。16日12時になったら、随時更新して差し替えていく予定ですが、まずは「こんな感じの商品が出品されるのか~」という、雰囲気だけつかんでもらえればと思います!

2.まずはチェックしてみたいAmazon機器!(Amazon機器編)

電子書籍リーダー「Kindle」シリーズ

Amazonのタブレット「Fireタブレット」

スマートスピーカー「Amazon Echo」

テレビでネットを見よう!「Fire TV Stick」

3.PC・ゲーム・デジタル家電が激安に!

SIMフリースマホ「ASUS ZenFone」

パナソニック HDビデオカメラ V360MS

パナソニック 49V型 4K対応 液晶 テレビ VIERA

4.生活家電や生活日用品も安い!

アイロボット ルンバ(Amazon限定)

【Amazon.co.jp 限定】男性用シェーバー「ブラウン・シリーズ9」

夏ですが福袋も登場!「ルクルーゼ」福袋

【Amazon.co.jp限定】 ティファール フライパン 鍋 9点 セット

まとめ買い!トップ スーパーナノックス【ケース販売 大容量】

5.ファッション・アウトドア商品も値引率がすごい!

フィットネスバイク エアロバイク スタンディングデスク

定番!コールマンの高機能テント【Amazon限定モデル】

ああああ

女性用水着も登場!「三愛」水着楽園アウトレット

6.女性用ジュエリー・アクセサリーは並行輸入品を狙え!

PRADA 長財布

GUCCI ショルダーバッグ 2way

7.男性用ファッションアイテムも有名ブランドが激安!

OMEGA 腕時計 Seamaster Planet Ocean

レイバンのサングラスも格安!

8.食料品、飲料が意外な狙い目!

プレミアムおつまみ 3個セット【Amazon限定】

夏らしいアイテム!ハーゲンダッツ&フルーツアイスセット

夏は泡!本格シャンパン製法だけの厳選泡9本セット

明治 ザバス ホエイプロテイン100【Amazon.co.jp 限定】

9.ベビー用品もまとめ買いがおすすめ!

Aprica (アップリカ) オート4輪ハイシートベビーカー

まとめ

いかがでしたでしょうか?リアル店舗でもバーゲンセールの真っ最中ですが、Amazonプライムデーのお買い得な商品は毎年本当に凄い!是非、Amazonプライムデーでお宝を探してみてくださいね!

それではまた。
かるび

Amazonプライムデーセール会場はこちら!
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美術館で納涼!企画展「水を描く」(山種美術館)は夏の涼しさをたっぷり感じる展覧会!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年の夏は、7月に入ってから連日、全国各地で体温を超える最高気温を記録するなど、外に出るのもつらくなるような暑さが続いていますよね。そんな中、美術館の中で別世界のような涼しさを体感できる企画展「水を描く」が、7月14日から山種美術館で開催中です。早速行ってきましたので、体験レポートをまとめてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.山種美術館は丘の上!夏場はタクシーかバスがおすすめ!

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引用:Wikipediaより

広尾の小高い丘の上にある山種美術館。渋谷駅・表参道駅・恵比寿駅など色々な最寄り駅がありますが、毎回歩いて美術館へ向かう中、展覧会への期待を胸のうちでふくらませるのが僕なりの儀式(?)みたいなものでした。

が、今回、渋谷駅の16番出口を降り立つと、あまりの暑さに歩くのを断念。2016年の春以降、企画展のたびに毎回欠かさず歩きで山種美術館へ通っていたのに、はじめてタクシーを使ってしまいました(笑)

これを機にいろいろなブロガーさんに聞いてみたら、やっぱり夏に限っては歩きよりも「バス」か「タクシー」を使って来る人が多いみたいですね。来館する時は、水分補給に気をつけてくださいね。

2.美術館の中は別世界!冷房の効いた館内で涼やかな夏を楽しむ!

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しかし美術館の中に一旦入ると、そこは快適に冷房が効いた別世界でした!ロッカーに荷物をおいて、トイレで顔を拭いてクールダウンしてから満を持して展示室へ入ると、待っていたのは、海・滝・渓流・雨・田園など、近現代の日本画の名手たちが描いた「水」の風景画がずらりと約50点!

3.企画展「水を描く」の内容と3つの見どころ

企画展「水を描く」は、徹底的に日本美術に描かれた「水」に注目した展覧会です。別途頂いた報道資料を引用すると、

豊かな水源に恵まれた日本では、水は常に人々の生活とともにあり、美術作品においてもさまざまに表されてきた。水が見せる表情は多くの画家の創作意欲を掻き立てたのだろう。水を描いた絵画には、画家たちの優れた技巧や多彩な表現をみることができる。

とあるように、今回展示されている江戸時代の浮世絵や近現代の日本画では、多士済々の作家たちが、それぞれ個性的な筆致で「水」を描いています。しかし、その描かれ方は作家によって千差万別。「水」は、日常空間にありふれた物質ではありますが、ある意味世界を形作る根源的な存在でもあります。それだけに各作家も格別その描き方には工夫をこらしたのかもしれません。様々な「水」その個性をたっぷり感じつつ、夏の涼しさを体感できる展覧会になっているのです。

そこで、僕の感じた本展の見どころを以下の3つに絞ってピックアップしてみました。

見どころ1:巨大作品で表現されたダイナミックな「水」の流れ

今回の展覧会では、展示スペース一杯にどかーんと並べられた巨大な作品群が目を引きました。大きい作品は、やっぱり迫力も違います!

まず、目が釘付けになったのが、川端龍子《鳴門》です。

鳴門海峡に渦巻き、水しぶきを上げる荒々しい水流の様子が、巨大な屏風絵一杯に描かれた傑作です。昨年の川端龍子展で見て、強烈な印象が残っていただけに、またすぐに作品に再開できてよかった!

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川端龍子《鳴門》

どうですかこの水の流れの表現!細部まできっちり描きこまれた川端龍子の「会場芸術」堪能してみて下さい! 

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川端龍子《鳴門》部分拡大図(4点いずれも)

つづいて、荒々しい海を描いた橋本関雪《生々流転》。めちゃくちゃ長いです!六曲二双の画面(24枚)いっぱいを使って描かれた海の情景は、先日、「横山大観展」でも話題となった、横山大観の40mを超える同名タイトルの巨大作品を連想させました。

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橋本関雪《生々流転》

つづいて、季節は夏を通り越して、紅葉に染まる秋の奥入瀬渓流を描いた涼し気な巨大作品《奥入瀬(秋)》。こちらも、ずばり注目したいのは渓流を流れる水の流れです。

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奥田元宋《奥入瀬(秋)》

拡大してみてみましょう。写実的で、まるで油絵のようですよね。紅く染まった晩秋の紅葉の中でひときわ涼し気な様子に映りました。

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奥田元宋《奥入瀬(秋)》部分拡大図

見どころ2:迫力満点!千住博の描いた巨大な「滝」

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2018年の夏は、やはり「滝」をモチーフに、大阪でチームラボとのコラボ作品が好評展示中の千住博ですが、「水を描く」展でも展示後半で、大々的に千住博作品がフィーチャーされています。春に展示された「夜桜」をテーマとした作品も良かったですが、今回も非常にパワフルで印象的な作品。

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千住博《ウォーターフォール》

しぶきを上げて直角に激しく落ちる白糸の滝は、涼しげというより荘厳で神秘的な雰囲気を漂わせます。見ているだけで身も清まってくるような、強烈な清々しさを体感できる作品。千住博が由緒あるお寺から次々にオファーが舞い込むのもわかります。この作風、仏教美術と相性がいいのだな、と実感できました。

いっそ、絵の中に入り込んで修行僧のように滝行してみたいです(笑)

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千住博《フォーリングカラーズ》

そして、その隣にあるのが、アンディ・ウォーホールの作風を彷彿とさせる、原色系で塗り固められた4枚の滝の写実絵画です。真横に一列に並べられた同じデザインの滝の絵画は、モチーフをコピペで表現する琳派的な「美」も少し彷彿とさせました。

しかしこうして大胆に色を変えて描かれても、荘厳な雰囲気が保たれつつもどこか涼し気なのは、「滝」の持つ自然の力なのかもしれません。

見どころ3:たくさんの画家たちについて深く学べる展覧会

山種美術館の展覧会に来るたびに思うのが、「解説が丁寧だなぁ~」ということ。特に今回のようなあるテーマを軸に企画された所蔵品展の場合、1つの展覧会でたくさんの作家が紹介されているのですが、嬉しいのは、ひとりひとりの作家のプロフィールに対して、詳細な解説パネルが完備されていること。

▼充実!所狭しと並べられた解説パネル!f:id:hisatsugu79:20180728175246j:plain

山種美術館の所蔵品は、大御所から知られざるマイナー作家まで幅広く取り揃えていますが、毎回楽しみなのが、まだ知らない作家の作品との出会いです。その時、ちゃんと解説パネルで作家の来歴を確認できるので、心強いんですよね。

▼主要作品には音声ガイドがほぼ全て用意されているf:id:hisatsugu79:20180728175307j:plain

また、美術館イチオシの重要作品に対しては音声ガイドもあるし、作品成立に至ったエピソードや作家本人談まで紹介されていることもあるんです。色々な角度から手を変え品を変え解説してくれるで、ガッツリ学びにもなりますね。これは嬉しい! 

4.個人的に非常に気になった作品たち

スパイダーマン?宮迫正明の緻密なネット

展示を見始めて、「おおっ!」と思わず目を見張ってしまったのが、宮廻正明《水花火(螺)》。宮廻教授といえば、先日東京芸術大学の退官を記念して開催された大回顧展で初めてまとめて作品を見たのですが、細部まで丁寧に描きこまれた職人的な作品へのこだわりが非常に印象的でした。

本作も、水辺でいつものように作業をする漁師を描いた何気ないモチーフ・・・のはずなんですが、宮廻氏が描くと、やっぱり独特の味が出るんですよね。

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宮廻正明《水花火(螺)》

ちょっと拡大してみましょう。タイトルにあるように、まるで花火のように360度にバァーッと広がった投げ網は、網というよりまるでクモの糸って感じです。画面中央に描かれた男も、なんだか特種なコスチュームを着ているように真っ白に描かれていて、怪しさ満点。常人離れした投網のスキルから、「和製スパイダーマンか?!」と思わず心の中で突っ込んでしまいました・・・。

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宮廻正明《水花火(螺)》部分拡大図

でも、もうちょっと寄って見てみると、本当に丁寧に、丁寧に描かれているんですよね。見て下さいこの網の描き込みと、点描で表現された透明感のある水面の様子を・・・。この個性、本当にクセになります。

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宮廻正明《水花火(螺)》部分拡大図

川合玉堂の18番!水車のある風景!!

山種美術館の所蔵品展では毎回と言って良いほど出展される近現代日本絵画の巨匠・川合玉堂の作品。その中でも、僕が特に好きなのが、玉堂が好んで何度も描いた水車のある風景です。今回、水車が描かれた玉堂の風景画が、《渓雨紅樹》《水声雨声》と複数堪能できたのは嬉しかった!

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川合玉堂《渓雨紅樹》

是非、近づいて水車に注目してみてください!

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川合玉堂《渓雨紅樹》部分拡大図

日本の古き良き田園風景を彷彿とさせ、叙情性あふれる玉堂の作品、堪能させてもらいました! 

涼しさを通し越して厳寒の海が楽しめる?!加山又造が描く夜の海岸!

写真撮影禁止のため、撮影した画像としてお届けできないのが残念なのですが、それでも是非見て欲しいのが加山又造の名作《波濤》月夜の岸壁に荒々しく打ち付ける波濤の表現は本当にいつ見ても見飽きません!

イメージ図として、先日恵比寿で開催された「Re又造展」で撮影OKだった加山又造の構図が似ている作品《月光波濤》の写真を貼っておきますね!

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参考:加山又造《月光波濤》(※本展には出展されていません)

どうですかこの迫力。山種美術館所蔵の作品《波濤》もこれと全く同じ迫力・冷たく妖しい魅力が詰まった作品です!

5.グッズや和菓子でも「涼」を堪能しよう!

まずは必ずチェックしたい展示にちなんだ5種類の和菓子

展覧会が開催されるたびに、展示中の作品をモチーフとして、毎回期間限定でCafe椿のカフェメニューに5点の新作和菓子が登場します。

今回は、以下の5点が登場!

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いつものように、着想の元となった展示作品については、展覧会場の解説パネルから、下記のマークを探してくださいね。

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毎日眺めたい「東海道五拾三次クリアファイル」

続いて、気になったグッズをいくつか紹介。

まず最初にこれは面白い!と感じたのが、歌川広重(初代)の描いた東海道五拾三次の作品全てがサムネイル的に印刷されたクリアファイル。

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こうしてみてみると、東海道五拾三次には、「雨」や「海辺」など水のある風景が多数出現しているんですよね。浮世絵が好きな人は毎日眺めても飽きないアイテムだと思いました。

売れ筋なのは「手ぬぐい」「絵はがき」

やはり夏らしく、ハンカチとして体の汗をぬぐったり、水筒などをくるんで持ち運んだり、様々な場面で使える「手ぬぐい」が最近のグッズの売れ線なのだそうです。僕も中高生時代、部活の剣道でよく使ったな~。

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また、本展の代表的な作品を収録した「絵はがき」もよく売れているそうです。人に贈っても良いですし、アルバムや額縁に入れて繰り返し自宅で眺めるのもいいですよね!

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そうそう、前回の特別展「琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―」で久々に制作されたTシャツですが、かなり売れていて在庫僅少となっているようです!!

夏らしいデザインは、まさに今が買い時!売り切れる前にぜひぜひ!!

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6.混雑状況と所要時間目安

今回の展覧会は、いわゆる「特別展」ではなく、所蔵品展にあたるため、そこまで大仰に混雑することはないかもしれません。ただ、ゆっくり見たいのであれば午前中や午後15時以降がおすすめです。時間帯によっては、川端龍子や千住博の巨大作品を独り占めできるかもしれませんね?!

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見て回るための所要時間はおおよそ60分~90分あればOKでしょう。ただし暑いので、一旦館内に入ったら帰りたく無くなるかもしれません。作品を一通り見終わった後、涼しい展示室内で体のほてりも収まったところで、カフェを楽しむところまでセットで考えるなら、120分~150分程度は余裕を見ておきたいです。

7.まとめ

ヒートアイランド・東京都心にありながら、美術館の館内に入るとまるで避暑地に来たような感覚をたっぷり感じられる企画展「水を描く」。館内で展示されている名画の数々を見ていると、色々な水の音が今にも聞こえてきそうな気がしました。風流な日本の「夏の涼」を感じられる、タイムリーな企画です。2018年の酷暑の夏に、何度でも訪れたい展覧会でした。おすすめ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年7月14日(土)~9月6日(木)
*会期中、一部展示替えあり
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※但し、7月16日(月)は開館、7月17日(火)は休館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

【Amazonタイムセール祭り/2018年8月】おすすめの目玉商品・お得なセール内容を徹底紹介します!

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年になって、毎月恒例のように開催されるようになった「Amazonタイムセール祭り」。つい先日、「アマゾンプライムデー」が開催されたばかりですが、それとは別にちゃんと月例のタイムセール祭りは開催されることになりました!

今度のタイムセール祭りは、8月1日18時~8月3日23時59分までの54時間。プライムデーで欲しいものを買い逃した人は、チャンスかも知れませんね。

そこで、本エントリでは、2018年8月1日18時~2018年8月3日23時59分まで、約54時間に渡って開催される「Amazonタイムセール祭り」について、オトクな商品とともに簡単に紹介してみたいと思います。それでは、早速行ってみましょう!

Amazonタイムセール祭り会場はこちら!
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1.Amazonタイムセール祭りの開催期間は?

今回の「アマゾンタイムセール祭り」の開催期間は、以下のとおりです。

8月1日18時~8月3日23時59分

今回もやはり平日開催です。

開催期間は約54時間と、約2日間。先日行われた「Amazonプライムデー」の36時間よりは、ややゆったり目にセール期間が設けられていますね。

Amazonタイムセール祭り会場はこちら!
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2.タイムセール中、よりオトクに買い物するには?

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タイムセールは、Amazonにアカウントを持っている人なら誰でも参加可能。ただし、ポイント還元対象のキャンペーン商品を購入した時、

・Amazonプライム会員であること
・Amazonショッピングアプリからの購入
・Amazonマスターカード会員であること

上記3つの条件のいずれか(または全て)を満たしていた場合、後日還元されるポイントに、最大7.5%さらに上乗せされるボーナスがついてきます。

せっかくタイムセールを活用するのであれば、ポイント還元対象商品を購入した際のポイントアップを最大限狙っていきたいですよね。特に、以下の2項目は是非検討しておきたいところです。(※僕は両方とも対応済みです^_^)

Amazonプライム会員での購入(+3%)

ポイント還元率+3%。もうご存知かと思いますが、月額400円/年額3,980円のAmazonプライム会員になれば、例えば、以下のサービスがすべて無料で受けられるようになります。 

▼Amazonプライム会員のサービス内容とは?
・約35,000本の映画やTV番組が見放題
・100万曲以上の音楽が聴き放題
・お急ぎ便・日時指定便での配送が無料
・即時配達サービス「プライムナウ」が使える

初月31日間は、Amazonプライム会員に無料で加入できます。まだ未加入の方は、セールを最大限楽しむためにも、まずは会員登録してから、プライム会員限定のセールに参加しちゃいましょう!登録は、こちらからできます!

 

Amazonアプリからの購入(+1%)

今回のタイムセールでは、モバイルでのAmazon専用ショッピングアプリからログインし、買い物をするだけでポイント還元率が+1ポイント上がります!完全無料ですし、特にリスクはありませんので、セール中は以下のAmazon専用ショッピングアプリから購入しちゃいましょう!

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開発元:AMZN Mobile LLC
無料
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3.Amazonギフト券(チャージタイプ)を活用して、最大2.5%分のポイントゲット!

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通常、Amazonでの買い物には、登録しているクレジットカードからの引き落としで決済されますが、Amazonギフト券をコンビニやATM、オンラインバンキング等によって現金払い(チャージ)することで、クレジットカードなしで買い物ができるって知ってますか? 

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この時、即日ではないですが、1回のチャージ金額に応じて、最大2.5%分のポイントを手に入れることができるんです。つまり、Amazonギフト券を現金で自分用のために買うことで、実質上2.5%の割引を受ける事が可能なんですね。

気になるポイント還元率は、以下のようになっています。

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1回のチャージ額が増えれば増えるほど、ポイントでの還元率が高くなっていくのがわかりますね。高額商品を買う時などに上手な活用を図りたいですよね。

Amazonチャージの買い方は?

気になる購入方法ですが、それほど難しくはありません。Amazonのサイト上で注文して、お金を別途現金で払うだけ。すごく簡単です。

1. チャージタイプを注文する
1回で5,000円以上を注文し、「コンビニ・ATM・ネットバンキング払い」を選択して注文確定します。現金チャージのやり方について、詳細が注文からお届けまでの流れで説明されています。

チャージはこちらからできます。

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2. コンビニ・ATM・ネットバンキングのいずれかで支払う
注文後に自動配信される「お支払番号お知らせメール」に記載されている手順に従って、自分の好きな支払方法でチャージします。ATM、ネットバンキングはすぐに、コンビニ払いでも約70分後にチャージした金額が反映されてきます。
(※クレジットカード・電子マネー払いは対象外なので要注意!)

3. ポイントを受け取る
ポイントは、翌月の中旬頃に付与されます。

もちろん、クレジットカードで買い物した場合に支払金額に応じて付与されるポイントと同様に、チャージしたポイントで支払った場合でも、金額に応じてポイントが付与されるので安心です。 

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4.タイムセール祭りでの目玉商品はこんな感じ!

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さて、今回のAmazonタイムセール祭りでは、今回も数億種類の商品がタイムセール対象になっているようです。詳細はタイムセール開始後に明らかになる予定です。

ここでは、タイムセール祭りより前に予告されているセール対象商品を紹介しておきますね。(8月1日18時以降、順次アップデートしていきます) 

その前にタイムセール祭りを待ちきれないという方のために、以下に今回のタイムセール祭りの本会場へのアドレスを用意しました。こちらから早速チェックしてみてくださいね。 

Amazonタイムセール祭り会場はこちら!
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それでは、お得なセール対象商品を順番に見ていきたいと思います。

Amazon Echoの最上級モデル「Echo Plus」

現在4種類発売されているAmazon Echoで一番の売れ線は廉価モデルのEcho Dotですが、今回のタイムセール祭りでは、ハイエンドモデルのEcho Plusが格安セール対象となっています。音楽だけでなくお部屋の家電を一括してコントロールできる「スマートハブ機能」を搭載しています。

大型タイムセールの定番激安商品「COACHの長財布」

毎回、Amazonの大型タイムセールでは特にバッグや小物、ジュエリー等ハイブランドなファッションアイテムが非常に安くなります。特にCOACHの長財布や小物類は毎回60%~70%OFFは当たり前!今回も期待できそうです。

Amazon限定!iRobot「ルンバ」が更に格安に!

元々かなり安くなっており、Amazonでも家電カテゴリのベストセラー常連となっているルンバのAmazon限定モデルが、タイムセール祭りでさらに値引きされる予定です。中華系の廉価コピー商品も多数出ていますが、やっぱり買うなら断然元祖ルンバです!

AQUOS 45V型 4K対応液晶テレビ

こちらもタイムセール祭り常連となっている大型4Kテレビ。これまでの傾向から、これ以外にもパナソニック、LGあたりの100,000円前後の商品が値下げ対象になりそうです。

Kentai ソイプロテイン

前回までは競合商品のザバスが値下げ対象になっていましたが、今回予告として上がってきたのがKentaiのプロテイン飲料。愛飲されている方はまとめ買いのチャンスです!

夏~秋のトレッキング・ハイキングに!ARC'TERYX Aerios 10 Daypack

バックパックやリュックサックも、スポーツ用品店で見ると、以外に高機能で本格的な商品って高いんですよね。このアークテリクスを始め、夏~秋のハイキングやトレッキングに、大幅値下げされたハイエンド商品を購入してみるのもありですね。

パナソニック ヘアドライヤー

ヘアケアやスキンケア系の家電類も、毎回タイムセール祭りの常連アイテムです。これ以外にも、ブラウン・フィリップスのシェーバーや電動歯ブラシ、日立・パナソニックの美顔器あたりもセール対象になりそう。

SAMSONITE Samsonite

サムソナイト以外にも、Tumiなど輸入ブランドの競合商品が値下げ対象になりそう。しっかりしたアイテムを買っておけば、何年も使えますよね。かなり値引率高そうなので、チェックしておきたいです。

5.タイムセール祭りと同時開催中のセールもあります!

最大9割引?!激安ファッションセール!

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タイムセール祭り以外にも、現在AmazonFashionにて、最大90%OFFとなる真夏の大バーゲンセールが開催中です。中には、タイムセール祭りよりも値下がりしている商品が多数見つかると思います。是非、探してみて下さい。

ファッションセール会場はこちら!
最大90%OFF!夏のファッションセールを見てみる!

 

夏物家電も安い!クリアランスセール!

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8月になって夏も折り返し地点まで来ると、セールが始まりますよね。Amazonでも、扇風機や除湿機など、夏物の生活家電を中心にクリアランスセールが開催中です。狙い目は型落ちの生活家電。性能的にはほぼ最新モデルと変わらないので、かなりお得です。

家電クリアランス会場はこちら!
夏物家電売りつくし!激安クリアランスセール会場を見てみる!

 

食品・飲料品オール半額セール!

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食品や飲料には、「賞味期限」があります。もうすぐ賞味期限が近づいている食品や飲料などを中心に、幅広いアイテムが50%OFFになっています。タイムセールで気軽に試してみるのもいいですね。

食品・飲料半額ストアはこちら!
全品半額の大セール!新商品も掘り出し物も多数揃った「食品・飲料半額ストア」を見てみる!

 

最大30%OFF!サマークーポンセール!

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その場でクーポンを入手して、購入時にクーポンコードを入力して値引きを受けることができるタイプのサマーセールです。こちらも、最大30%OFFとなる商品などもあり、掘り出し物をみつけてみたいですね。パソコン・携帯電話・各種生活家電や文房具、楽器、カメラ機器、各種オーディオ、情報家電など、幅広いジャンルの商品が値引き対象となっています。

サマークーポンセール会場はこちら!
幅広いジャンルの商品がクーポン適用で最大30%OFF!サマークーポンセール会場を見てみる!

 

DVD/ブルーレイのSummer大セール

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9月30日まで開催中のDVD/ブルーレイのセール。ドラマや映画、アニメなど、夏休みの間に一気に見るためまとめ買いするのもいいですね。

DVD/ブルーレイ大セール会場はこちら!
夏の終わりまでロングラン開催中!DVD・ブルーレイをまとめ買いするチャンス!Summer大セール会場を見てみる!

 

ライオン製品のクーポンセールで定番商品をまとめ買い!

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量販店やドラッグストアに買いに行っても、重たいのでまとめ買いするのがなかなか難しい洗剤や柔軟剤。でも結構すぐなくなるんですよね~。我が家もNANOXやHYGIA、ソフランなど愛用しているのですが、いつもセールでまとめ買いして、宅配で届けてもらってます^_^

ライオン・クーポンセール会場はこちら!
ライオンの洗剤や柔軟剤をまとめ買いするチャンス!定番商品が最大20%OFF!クーポンセール会場を見てみる!

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?アマゾンプライムデーで買い逃した!という方も、今回のタイムセール祭りで思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれませんね。平日開催の大型タイムセール、楽しんでみてくださいね。

それではまた。
かるび 

Amazonタイムセール祭り会場はこちら!
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ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(前編)

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アートに興味を持っていろいろネットを検索するようになると、まずどこかのタイミングで必ず出会うのが、アートブログの草分け的存在「青い日記帳」です。ブログ主の名前はTak(たけ)さん(@Taktwi)といいます。

ブログ黎明期である2003年頃からコツコツとひたすら毎日更新を続けて15年。書き綴ってきたエントリーは実に5000以上。そしてその間、ずっと年間300~400の美術展に通い続けてきたという、アートブロガーのレジェンド的存在でもあります。

そんなTakさんが8月6日、ちくま新書からアート鑑賞入門の決定版「いちばんやさしい美術鑑賞」を上梓することになりました。

実は、発売前に少しだけゲラを読ませて頂く機会が頂けたのですが、これが素晴らしいクオリティだったのです!

これはブックレビューだけでは惜しい!もっとTakさんにいろいろ深掘りして聞いてみたい!と思い、思い切ってはろるどさん(@harold_1234)、KINさん(@kin69kumi)など他のアートブロガーの方々と共同で、Takさんと、筑摩書房の編集担当・大山さんにインタビューさせて頂きました!

▼青い日記帳・Takさん近影
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早速ですが、新書「いちばんやさしい美術鑑賞」の内容にも少しずつ触れながら、書籍の内容や、Takさんの普段のアート生活や学生時代にアートにハマったきっかけなど、幅広く突っ込んで聞いてきました!かなりの分量になりましたので、前後編に分けてインタビュー内容をお送りしたいと思います!

第1回は、「書籍執筆についてのエピソード・裏話」編です!

執筆のきっかけは、居酒屋の打ち上げから始まった?

ーまずは、ご出版おめでとうございます!早速ですが、今回「いちばんやさしい美術鑑賞」をご執筆するに至ったきっかけを教えて下さい。

Tak:筑摩書房の編集ご担当・大山さんからお声がけいただいたことがきっかけです。大山さんと初めてお会いしたのは、三菱一号館美術館の高橋明也館長の新書「美術館の舞台裏」増刷を祝した打ち上げの場でした。たしかその場には4人ぐらいいたと思います。

-4人で打ち上げですか?

大山(筑摩書房の編集ご担当、大山さん):そんなに出版の打ち上げって派手にやるものでもないんです。予算とかそんなにないですし、新書だから小さい本ですし・・・(笑)
Tak(青い日記帳Takさん):いわゆる「ほぼ飲み会」みたいな感じですね(笑)
大山:新書「美術館の舞台裏」は重版がかかり、おかげさまで3刷までいったんです。どうしてそこまで売上が伸びたかというと、Takさんのおかげなんです。Takさんのブログ「青い日記帳」で取り上げてもらってから、爆発的に売り上げが伸びたんですね。それで、これは絶対Takさんにお礼を言わなきゃね、ってことで、なんかちょっと会ってみたいなぁと。そのお祝いの場にお呼びしたんです。

―では、もともと高橋明也館長と大山さんがちょうど打ち上げしようかというところにTakさんが呼ばれて行ったと?

Tak:そうですね。結局4人の会だったんですが、すごく盛り上がって。館長ずっと日本酒飲んでたし(笑)
大山:なんかいかにも「場末」みたいなところでしたよね。
Tak:浜松町の駅の近くのあたりの個室の居酒屋でしたよね。
大山:もちろん知ってたんですよ。Takさんのことは、ブログ「青い日記帳」は時々読ませて頂いていたんですが、その勢いを目の当たりにしたのが、「美術館の舞台裏」を取り上げて頂いた時なんですよね。確実に「数字」という形で出てきたんで、凄いなーと思ってましたね。

ーそんなにすごかったんですね~。

Tak:やってる本人はよくわかってないんだけどねぇ(笑)で、その飲み会の席で、Takさんも本を書いてみないか?って仰って頂いたんですね。でも、飲みの席の話なので、きっと単なる社交辞令なんだなと思ってました。僕は僕でそんな本なんか書けないし、とも思っていましたし。
大山:えーそうだったんですか?(爆笑)
Tak:後日、すごく大山さんから丁寧なメールを頂いて。「この前書くっていったじゃないか」みたいな(笑)
大山:ブログの記事はすごく楽しく読ませて頂いていたので、Takさんなら書けなくはないと思っていました。お願いしたら最初からちゃんと結構書いて頂けそうな予感があったのと、記事を読むと、いわゆる自分が知っているプロの美術史家とは全然違う目線で考えてるんだなというところがあるんで、そこが私的には面白いなと。こういう人が書いた本があったら、絶対面白いんじゃないかなと思ってました。

Takさんに執筆を依頼した狙いとは?

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―いわゆるアートの入門書って、いろいろ出ていますけれど、敢えて今、Takさんにお願いしたって理由を教えて頂けますか?

大山:Takさんのブログの文章って、プロの美術ライターさんが書く文章とは違うし、学者が書く文章とも違うんですよね。もうちょっと、「アートが好き」っていうところが前面に出ているんです。

それと、もう一つ挙げるとするならば、ブロガーという人が本を作るのは、料理や子育てのジャンルなどでは比較的よくあって、よく売れる書き手が育っているんですよね。その人達は、普段自分たちが書いているブログをそのまま本にしていけば本になるじゃないですか。

ーそうなんですか?!そういえば、料理・子育て部門だと、僕の知り合いのはてなブロガーでも何人も出版してるかも・・・。

大山:そうそう。そうなんです。だから、美術も料理や子育てジャンルと同じことができないかなっていうのが密かな狙いとしてありました。美術のことをブログで書いている人が、もっと書き手として本というものを介して、色んな人にその人の書いたものが読まれてもいいんじゃないかなと。

アートブロガーっていう言葉があるように、皆さんのようにブログを書いている人たちがたくさんいるわけですし、それを楽しんでいる人がたくさんいるんだなってことがわかってたんで、なんかそういう本があればいいなーって。

ーそのあたりにTakさんの独自性を見出されて、企画を進めていかれたのですね。

大山:そうです。

企画段階での知られざる攻防があった?!

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ーでも、学者やプロではない、「美術ブロガー」が「ちくま新書」で出版するとなると、企画段階で苦労も多々あったのではないでしょうか?

Tak:まず、筑摩書房の中での会議を通さなきゃ本にはならないんですよね。だから、大山さんが新書出版のための企画書を書いてくださって。会社の上層部にOKをもらわないと、いくら自分がいい企画だからといっててもダメなんですね。

その執筆以前の企画段階で、まず大山さんがご苦労なさったと。学者のように名前が知られているわけじゃないし、知ってるっていっても本当に一部の人間にしか知られてないわけですし。そういった人間が筑摩書房から新書を出すっていうのは、相当ご苦労があったんじゃないかと思うんです。

ー実際社内で企画を通すのって、数字的な裏付けがあると通りやすいとかそういうのはあるんですか?例えばTakさんのブログ「青い日記帳」のページビューがどれくらいあるとか?

大山:それはあります。そういう具体的な数字や実績をできるだけ使って会社側を説得します。
Tak:そんなご苦労があるとは全然知らなくて、僕は僕の方で、一旦自分で書いちゃったんですよね。企画書の前段階で。

ーえっ??先にフライングで書いちゃったんですか?

Tak:そうそう。
大山:それは、私が先にお願いしたんです。試しに1章分くらい書いてみてくださいって。で、読んでみたらそれが面白かったんですよ。

ーそれはどこの章ですか?

Tak:第1章、グエルチーノの部分です。

ーでは、試しに書いてもらった1章分も企画会議にかけて上層部の説得材料の一部になったんですね?

大山:こういう文章書いて、だいたいこういう章が10何個入ります、みたいな説得の仕方をして。そしたら、「面白い!いいね!」みたいな話になって。無事に企画会議を通りました(笑)
Tak:あの時は、楽しく書いてたんで(笑)結局執筆完了まで2年かかって、後からこんなにつらい思いをすることになろうなんて思いもしなかったんですが(全員爆笑)だから、ばばばーっといつものブログの調子で書いちゃって(笑)

2年越しの執筆作業!ブログと違って本を書くのは大変だった

―企画が通ったら、いよいよ本の全体構成を考えていかれると思うんですが、最初は打ち合わせとかブレインストーミングとかされたのでしょうか?

Tak:そうですね。こんなマンダラのようなマインドマップツールを使っていました。

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Tak:例えば、各章を書く前の構想段階で、項目というかもくじを入れて、作家の名前の真ん中に書き込んで、その周辺に思いつくキーワードをランダムに書いていって、それを順番に章立てにしていって、頭の中で書いていきました。(曼荼羅状のマインドマップのメモを見ながら)構想を練る時にこのマスをよく使いました。

―それはTakさんが日常の仕事などでよく使われているツールなんですか?

Tak:そうですね。こればっかり書いてますよね。
大山:これ、すごく可視化されているのでいいんですよね。
Tak:だから、これをお見せして、これだったらいけるんじゃないか、とかこれは難しいんじゃないかっていうことを打ち合わせしていきました。結構ここにもお邪魔して、相談したり打ち合わせしたりしたんです。

ーそれで、無事に企画が通ってブログを書き初めてからは、結構苦労されていましたよね?(ここで、Takさんの奥様、ゆきさんも会話に入られました)

ゆき:一日中、書斎がある2Fにこもってて「今日は書けたのー」って聞いたら、「いやまだ書けてない!」ってことが結構あった。
Tak:執筆本番に入ってからはね。
ゆき:だから、執筆中は機嫌悪そうだしなるべく寄らないようにして(笑)

ー終わるまで部屋に入ってくるな?みたいな?

ゆき:そう、鶴みたいな(一同爆笑)
大山:でも怪我したり、風邪引いたりずいぶんなさってましたよね。だからかなりの(ご苦労)だったんじゃないのかなって。
Tak:確かに!(笑)執筆期間中、熱出して寝込んだり、はろるどさんの家で飲んだ帰りに自転車で転んで肩を脱臼して救急車で運ばれたこともあった(笑)

ーなるほど、、、いろいろ紆余曲折、ご苦労があったのですね。

大山:確かに全然締切通りじゃなかったですよね(笑)
ゆき:まったく書けない日がありましたから。
Tak:書いた順に大山さんに原稿を送っていくんですが、1章ずつ「フェルメール」書けました、「曜変天目」書けましたって、
ゆき:それで催促のメールが来ちゃったよどうしようって、よく焦ってました(笑)

―新書は、第1章の頭から順番に書いていったのでしょうか?

Tak:そうです。

―どのあたりで苦労されたのですか。

Tak:全体的に遅れてるっていうか。
大山:最初は、書けます、大丈夫です、って仰るから。最初の締切は、2017年8月31日だったんですよね。当初の締切。で、最初の締切まであんまりできてなくて。

―そういうものなんですかね?

大山:(平然として)まぁそうです。(全員爆笑)

―その時は発売がいつとかっていうのはまったくなくて?

大山:そうですね。

―Takさんにプレッシャーをかけられたんですね?

Tak:ないない(笑)ないから余計怖いという(笑)やばい、そろそろやんなきゃ!って。

―ずっと言ってましたもんね。展覧会のブロガーイベントなどでお会いするたびに「そろそろ原稿がね~」って。

大山:えー、そうだったんですか~(笑)

―最初、Takさんから「今、本を書いてるんだ」とお聞きした時は、2017年の秋ぐらいには出るのかなって言ってたんですよね。そこから1年ぐらい押したっていう。

Tak:だから結果的には2年越しの企画なんですよね。
大山:そうですね。やっぱりそんなに簡単には書けないですからね。今見たら、2016年にはメールのやりとりがあったので、そこからですね。書き始めてから完成まで2年かかりましたね。

―だいたい新書って、1冊作り上げるまで2年位かかるものなんですか?

大山:そうですね、中には緊急出版みたいなものもあって、やろうと思えば、もっともっと速くはできますけど、ちゃんと腰を据えて書こうと思ったら、やっぱり2年位はかかるんじゃないでしょうか。

編集者のチカラを実感した、編集・校正作業

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Tak:編集者が赤を入れたり直したりするのを嫌がる作家さんもいるんですよね?

―でもTakさんは逆に編集さんに赤を入れていただくのはありがたいっていうスタンスなんですよね?

Tak:そういうスタンスですね。入れていただかないと間違いに気づかなかったり。あとは、全体的なバランスが実は悪かったり。各章の中で、段落の順番を入れ替えるだけでも「あぁ良くなったな」と印象が変わることも多いので。あと、同じ言い回しを何回も使っていたりとか。パソコン向かって一心不乱に書いていると、意外と気づかないんです。

―確かに、すでにゲラを3回くらい通して読ませて頂いたのですが、Takさんの美術鑑賞に対する主張やアドバイスは一貫性があるのに、一つとして同じ表現が一切ないのは凄いと思いました。やっぱり編集段階でかなり手を入れていただいている感じがしました。ところで、校閲は外部の他社に出されているんですか?

大山:校閲は自社(筑摩書房)でやっています。校閲部へ持っていってチェックしてもらうんですよね。これはルビを振ったほうがいいだろう、とか。一番最後に校閲担当が読んで、字が違うよ、とか。

ー編集者って大体どれくらいできあがった書籍を読み込むものなんですか?

大山:あと、何度も何度も暗記するくらい読みますよね。最初から考えたら、7、8回は読んでますよね。(一同驚く)

―お互い最新の原稿を読んできて感想を言い合うとか?

Tak:これはガレのときの原稿なんですが、1回僕が書いたものを、こうやって赤を入れて頂いたものが戻ってくるんですね。ここは要再構成って自分で書いたんですが、要するに、順番入れ替えなんですよね。で、こういった形でもう一回章を組み直してっていうっことをやりましたね。

▼「赤」がいっぱい入って返却されてきた原稿f:id:hisatsugu79:20180803195948j:plain
大山:校閲は、本のプロトタイプとしてゲラが出来上がってからやります。

―やっぱり読者には想像もつかないような、いろんな編集段階で目に見えない苦労があったわけですね。

Tak:何回も原稿のやり取りをするけれど、やっぱりここ(筑摩書房の打ち合わせ室)にきて、話をしてわかりあう、ということもありましたね。打ち合わせはここで顔を突き合わせて何回も何回もやりました。仕事が終わってから、これくらいの時間から(午後19時頃)からはじめて。
大山:あっという間に2時間くらい経過していましたね。
Tak:お酒も入らず、ずーっとこうやって向かい合って2時間、3時間話し合うんですよね。
大山:夜遅くなってくると、お互いヘロヘロになって(笑)本当は飲みたいんですよ。私だって(一同爆笑)でも10時で飲んだらもう帰れなくなっちゃうから、ぶっ通しで打ち合わせを夜遅くまでやって、終わったらそのまま飲まずに帰って頂いていました。

―編集者ってそういう生活がずっと続いていくわけなんですね・・・

大山:そうですね。あと、書き手によって打ち合わせの形はいろいろで、筑摩書房に来る人もいるし、こっちから行く人もいますし。小説家の作品などでは、そもそも直すところがない人もいますし。ゲラになってから直すのでOKという人もいます。

ー以下、次のエントリへ続く・・・ 

まとめ

いかがでしたでしょうか。この日は、約2時間強、文字数にして約24000字分のロングインタビューをさせて頂いたのですが、そのうち、前半の約1/3を掲載させて頂きました。Takさんが2年がかりで編集者・大山さんと二人三脚で作り上げた渾身のアート鑑賞入門書。やっぱり企画・編集段階から面白いネタがいっぱい転がっていました。

現役最強アートブロガーが2年間かけて練り上げた渾身のアート鑑賞入門書「いちばんやさしい美術鑑賞」。アートファン目線で書かれた素晴らしい本になっています。

是非、手にとって読んでみてください!

インタビュー第2回は、書籍発売直後に公開させていただきます。楽しみにしてくださいね。

それではまた。
かるび

Kindleもある!最強のアート入門書「いちばんやさしい美術鑑賞」

30年間、展覧会に通い続けて独自のアート鑑賞ノウハウを身につけてきた「青い日記帳」Takさんが、日本国内で見ることができる和洋15点の作品を通じて、美術鑑賞に役立つ知識やコツを様々な角度からわかりやすく解説。取り上げられた作品もかなり掘り下げて説明されており、知識ゼロの初心者から中級者まで、読めば必ずアート鑑賞に役立つヒントが得られる良書です。(※後日詳細レビュー予定)

発売から2年、未だにじわじわ売れ続けている前著「カフェのある美術館」

前著「カフェのある美術館」も、美術館を見て回る楽しみを増やしてくれました。美術館は鑑賞が終わってからが本番なのです(笑)こちらの書籍について、レビューも書いています。もしよければこちらも見て下さい!


「デザインあ展」は体験型展示が抜群の面白さ!大人でも夢中になれる楽しいコンテンツ満載でした!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

毎年7月~9月頃に開催される夏の美術展は、難しく考えなくても、大人から子どもまで幅広く楽しめる体験型展示が多くなります。そんな中、7月19日からNHK Eテレの番組「デザインあ」と連動した企画展、「デザインあ展 in TOKYO」が日本科学未来館でスタートしました。

「デザイン」の展示というと、なんだか難しいのかなぁ・・・と身構えていたのですが、行ってみてその面白さに圧倒されました。これは本当に面白い!!

ユーモア満載の体験型展示や没入感のあるインスタレーションを一つずつこなしているうちに、直感的にデザインの奥深さや面白さ、本質に気付かされていく、素晴らしい展覧会でした。

早速ですが、展覧会に行ってきた感想レポートを書いてみたいと思います!

1.企画展「デザインあ展 in TOKYO」とは

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7月19日から3ヶ月間のロングランで開催される企画展「デザインあ展 in TOKYO」NHK Eテレで2011年から放送中の子供向け教育番組「デザインあ」から選りすぐった人気コンテンツを中心に、実際の企画展示へと落とし込んだ展覧会です。

テレビの内容そのままに、シンプルかつユーモアたっぷりの展示は、単に楽しいだけでなく、「デザイン」の面白さや楽しさ、奥深さをたっぷり学べる内容になっています。特に、本展は体験型コンテンツが充実しているのです。単に「観る」だけでなく、楽しみながら「触って体験できる」展示が多く、夏休み向けにぴったりの展示構成です。

実は、「デザインあ展」はこれが初めての開催ではありません。5年前、2013年に東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて展覧会を開催済み。前回展では、22万人の来場者でにぎわい、大人から子どもまで楽しめる人気展となりました。

それから5年。2018年の今回展は、2度目の展覧会なのです。 

2018年は、東京展の前に富山展がすでに開催されています。東京展同様、会場内は動画・写真ともに撮影OKなので、その時の感想や会場の様子なども、TwitterやYoutubeなどでたくさん上がっています。

地元のYoutuberが、富山展の様子を詳細に紹介している動画コンテンツがありましたので、1つだけ紹介しておきますね。

テーマソングは小山田圭吾(コーネリアス)が担当!

「デザインあ」のテーマソングは、2011年に番組がスタートしたときから、一貫して小山田圭吾(コーネリアス)が担当しています。「デザインあ展」の東京会場でも、「体感のへや」で聞ける4曲全て、彼の作曲です。

しかし番組内の音楽は、聞けば聞く程耳について離れません。中毒性が高いというか。僕も展覧会のためにちょっと前から毎週NHK Eテレで「デザインあ」を見始めたのですが、気づいたらAmazonでテーマソング集をポチっていました(笑)

2.最大の見どころは、触って楽しめる体験型展示!

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観察のへや 展示風景

「デザインあ展」の最大の見どころは、なんと言っても豊富に用意された体験型展示です。どの作品も、外国人観光客や小学生の子どもでも、遊び方の説明を聞かずに体験できる「わかりやすさ」が特徴でした。

大人も子どもも、遊びながら自然に「デザインの本質」や「奥深さ」を学べてしまう、本当によくアイデアが練り込まれた作品ばかりでした。

ここでは特に東京会場で人気があった作品をいくつか紹介してみたいと思います。 

「器のモンタージュ」


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器のモンタージュ plaplax

大中小の円柱形の筒に、大小様々な形をしたパーツを組み合わせて、自分だけのオリジナルデザインの入れ物を作る体験型展示。積み木遊びの感覚で遊べるため、特に子どもからの人気が高かった展示です。

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この通り。僕の息子は高さを極めようと、タテにたくさん積んでいました。

「もんどころ」

続いては、番組コンテンツから派生したデザイン体験コーナー「もんどころ」。番組内の「森羅万象」という曲の中で、日本の家紋は「円」と「直線」でほとんど描けてしまうことが直感的に示されるのですが、この展示では、実際に指示書にしたがって、コンパスと定規だけで家紋を書く体験ができるんです。

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もんどころ 
TSDO+NHKエデュケーショナル/紋制作:波戸場承龍

手引きもタブレットやプラスチック板で用意され、鉛筆や紙も完備されています。

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僕も、「梅」を描いてみましたが、コンパスと定規を少し使うだけで簡単に書くことができました。こうやって手を動かすことで、家紋みたいに、飽きの来ない普遍的なデザインは、やっぱりシンプルにできているものなんだなーと体感できましたよ。

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「歯車になる」

つづいて、こちらも子どもに大人気だった企画。自分が歯車になって、カベを回転したり、ものを回したりすることで、機械の一部になったような体験ができる体験型展示です。

まず、荷物を置いて、体の周囲に発泡スチロールでできた歯車を巻きます。

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歯車になる パーフェクトロン

自分の歯車のギザギザをつかって、展示セットの歯車を回すことで、音が出たりメーターを回したり、ライトをつけたりして、たっぷり遊べます。自分が動いた分のエネルギーが伝わり、ちゃんと仕事ができてるんだな、とか、機械が動く仕掛けって案外簡単な作りなんだなとか、いろいろ気づきがやってきます。

もちろん、遊んでるだけでも楽しい!僕の息子も夢中になってやっていました。

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巨大な暗室で番組の人気コンテンツが360度展示!

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「体感のへや」 入り口

番組オリジナルソングや音楽とぴったりシンクロする映像が、巨大な暗室の展示スペース「体感のへや」の四方の壁面いっぱいに映し出されます。展覧会のために特別編集されたのは、以下の4つの人気コンテンツ。

◯「あ」のテーマ
◯ガマンぎりぎりライン
◯解散!
◯森羅万象

うち、僕の大好きな「森羅万象」を撮影してきましたので、貼っておきますね。少しでも雰囲気が伝わるかな・・・。 


森羅万象 高野光太郎
音楽:小山田圭吾/うた:大野由美子/紋制作:波戸場承龍

面白かったのは、人が多くなって混雑してくると、みんなライブビューイングみたいに地べたに座って見ていたこと。日本人って本当に行儀いいよなぁと思いました(笑)

思い思いの場所で、繰り返し上映される4つのコンテンツをコンプリートするまでしっかり見ていくお客さんが多かったです。

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3.直感的に「観て」楽しめる展示もたくさんありました!

もちろん、「デザインあ展」では、体験するだけでなく、見て楽しむ作品も非常に工夫がこらされ、意外性あふれる面白さが感じられる作品が多数ありました。特に僕が感銘を受けた作品をいくつか紹介しておきますね。

「目には「め」を 歯には「は」を」

この展示は、遠くから見ると一見何の変哲もない子どもたちの写真パネルに見えるのですが、徐々に近づいていくと面白い仕掛けがあるのです。。。

ためしに、ちょっとずつ絵に近づいていってみましょう。

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目には「め」を 葉に「は」を パーフェクトロン

少し近づきました。まだこの段階では普通の写真と特別変わったところはありません。

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そこで、思い切って一人の子どもの顔のそばまで一気に近づいてみます。

すると、実は写真を形作っていたのは、一つ一つ色がつけられた「ひらがな」の集合体だったのですね。まるで、後期印象派の「点描」のような感じです。

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さらに接近してみると、もう何がなんだかわかりません。単にカラーで印字されたひらがなが羅列されているだけです。 

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でも、面白かったのが、それぞれのパーツの部分に関連したひらがな文字で構成されていたこと。例えば、上記は少年の顔の部分ですが、「かおかおかおかお・・・」と印字されているんですよね。きっちりひねりが効かされた、意外性あふれる展示でした。

「抽象度のオブジェ」

よくトイレなどで見かける、男性・女性を表すデザイン記号。一番単純な形では、男性も女性も、わずかに「◯」と「△」だけで表現されることも多いですよね。

この展示では、一番左側に置かれた男性と女性のペアの人形が、左から順番にだんだんと抽象度が上がり、表現が簡略化されることで普遍的な「デザイン」へと変わっていく様子を、わかりやすく表現しています。

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抽象度のオブジェ 岡崎智弘+スタンド・ストーンズ

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我々の身の回りの普遍的なデザインは、こうやって形作られているんだな、ということを直感的に教えてくれる、優れた展示だったと思います。子どもから大人まで、興味津々で覗き込んでいました。

「いれもの二十面相」

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いれもの二十面相 plaplax+パンタグラフ

続いて、こちらも不思議な手法で、形や状態が似ている様々な「うつわ」が連続的に変化する様子をアニメーション的に表示した展示。これは、写真でも動画でももう一つその真の魅力が伝わりづらいのがもどかしいのですが、本当に面白かった!

是非、現場で実物を見て、その表現方法の面白さと意外性に驚愕していただきたいです!個人的には、これがコンセプチュアルな現代アート作品として地域芸術祭あたりで展示されていても全然おかしくないなと感じました。

「しくみ寿し」

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しくみ寿し パーフェクトロン+柴田大平

これはひたすら笑える展示。回転寿司から着想を得て、もしもこんな仕組み(=システム)の寿司屋があったら・・・という仮定を、面白おかしくビデオ作品として提示した作品。

ものやかたちの設計だけでなく、システムや仕組みだって、ちゃんと人間の行動や特性にフィットしたデザインにしないと、おかしくなっちゃうよってことですよね。

一番右側のノーマルな回転寿司から、左側に行くに連れて、だんだん変になっていきます。左2つの「信号寿し」「偶然寿し」を撮ってみました。面白いので是非チェックしてみてくださいね!


信号寿し


偶然寿し

「じかんがくる」

これも、「デザインあ」で得意とする、ひらがなを多用した映像インスタレーション。様々な動きや形をした「じかん」を意味するひらがなたちが、宇宙空間のような広がりのある画面の中でダイナミックに動き回ります。


じかんがくる 細金卓矢/音楽:小山田圭吾

何度見ても見飽きないので、展覧会中、10回くらいずーーーーーーーーーーーーっとみていました(笑)

4.最高に面白すぎるグッズ類!

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展示を見終わったら、出口の手前にあって、絶対見逃したくないのがグッズ販売コーナーです。NHK Eテレ「デザインあ」のコンテンツをグッズ化した会場限定の商品が、どれも非常にユニークで面白い!そのまま帰らず、是非グッズを観ていって下さい!

たとえ買わなかったとしても、純粋に「展示の延長線上」のように見て回るだけでも楽しい気分になれるグッズコーナーでした。僕が見てきて特に面白いと感じた商品をいくつかピックアップしてみますね。

オリジナル消しゴム

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あ消しゴム 594円

見て下さいこのムダに長い円柱状の消しゴムを!今までたくさん美術館や博物館の展示を見てきましたが、こんな形のユニークな消しゴムはまず見たことがありません(笑)

オリジナル定規

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歯車じょうぎ 756円

続いて、定規です。木枠の中にギザギザの歯車がセットでついてきますが、この歯車を回しながら鉛筆を動かすだけで、複雑なデザインや模様を作れちゃいます!消しゴム同様、普段使いでの利便性や効率などまったく気にしてないかのようなグッズ作りに、展覧会事務局の意地を感じます。

トートバッグ

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あトート 1944円

続いてトートバッグ。「デザインあ」のロゴが側面に大々的に印字されたシンプルなトートバッグです。こちらはちゃんと日用品として長く使える普通のデザインでした(笑)

マグカップ

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マグカップ ない世界 1080円

水道から飲み物を入れている男性がコップの外側、内側に印字されたシュールな絵柄のマグカップ。印字されている中年男性は、番組内コンテンツで登場する人気キャラなのだそうです。

外観を自由にデザインできる!ティッシュボックス

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あ方眼ティッシュボックス 各種 270円

こちら、一見何の変哲もないボックスティッシュに見えますが、そこは「デザインあ展」。普通のアイテムをわざわざ会場内に置くわけがありません。

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そう、よく見ると、ティッシュ箱の各面が方眼紙になっており、自分の好きなようにティッシュをデザインできてしまうという体験型のお土産なのです。

バカ売れ?!ビーチサンダル!

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あビーサン(17cm~28cm) 1620円~2160円

続いては、夏らしいグッズも。会場限定のビーチサンダルです。

一見、表だけを見ると何の変哲もない普通な感じのビーチサンダルに見えるのですが・・・

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ひっくり返すと、足裏部分に「あ」「あ」とひらがなのかたちのミゾができており、これが、砂浜を歩いた時にどうなるかというと・・・

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どうですかこれ。これで砂浜を歩いたらちょっとしたネタになりますよね?!会場内で、面白がって購入していく若い人多かったです。今年の夏、まだまだ実戦で投入する時間ありますよ?!

インテリアにどうでしょうか?「あ」のアクリル板

そして、ちょっといいな?!と思ったのが、「あ」のかたちをした、様々な色の透明なアクリル板。どう使うかは買った人のアイデア次第。頭をやわらかくしてくれそうなお土産でした。

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あ アクリル 各種 1080円

その他、オリジナル文房具類も多数ありました!

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左上:あシールセット 432円 
左下:マスキングテープ 各種388円

右上:付せん 432円 右下:あ鉛筆 896円

その他、会場限定の様々なオリジナル文房具も目を引きました。マスキングテープ、シール、鉛筆、ふせんなど、どれもインパクト抜群です。気に入ったグッズがあれば、是非手にとって見てくださいね。

5.混雑状況と対策、所要時間目安など

さて、この「デザインあ展」。2013年に開催された前回展が22万人の来場者数だったそうなので、それなりに混雑するだろうとは思っていました。

ただ、実際に日曜日に行ってみて、予想以上の人気にびっくり。夏休みシーズンということもあり、家族連れでの来場者が激増してます。取り急ぎ、7月29日に行ってきた時の混雑状況と、対策を書いておきますね。

夏休みシーズン突入とともに、子どもに大人気!

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「観察のへや」展示風景

見て下さいこれ。僕が子どもと2回目に行ってきたのが7月29日(日)16時30分。通常の展覧会なら、16時30分といえば、閉館前なのでお客さんはかなり減っているものですよね。それなのにこの大盛況!

土日は整理券配布形式で入場制限がかかるかも?!

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実は、僕が会場に着いたのは、15時30分過ぎでした。その時、すでに会場では入場制限がかかっていて、整理券が配布されていたのです。まだ会期も始まったばかりだから、少し混雑したとしても、夕方だし普通に入れるだろう、とたかをくくっていただけに、ちょっとびっくり。

でも、炎天下の下で順番に並んでいるよりはいいですよね。整理券方式で時間指定入場にしてくれたのは良い判断だと思います。この日は、入場まで60分時間が空いたので、整理券をもらって、テレコムセンターの展望台で時間を潰してました。

ただ、常設展へ入る外国人観光客と一緒にチケットブースに並ばなければならないので、チケットブースもかなり混雑しています。できれば事前にチケットはコンビニやプレイガイドで入手してから会場入りしたいですね。

▼混雑するチケットブースf:id:hisatsugu79:20180729233314j:plain

インスタ映え「梅干しの気持ち」は並びます!

展覧会では、ちゃんと会場内のキャパシティを考えた上で入場制限をかけているので、中は混雑しているといっても、不快すぎることはありません。混雑する中でも、展示一つ一つはそれなりに楽しむことができました。

ただし、1点だけ要注意な作品があります。それは、会場入口前に設置された、インスタばえ必至の作品「梅干しのきもち」。巨大なお弁当箱の中に入り込んで、梅干しの視点から世界を観てみるという面白い体験型展示なのですが、一人ひとり並んで順番に体験しなければならないためか、この日は行列ができて45分待ちになっていました。あとで友人に聞いたら、金曜日昼間に行ってきた友人も45分待ったそうです。

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ちなみに、展示「梅干しの気持ち」はこんな感じの写真が撮れますよ。

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梅干しのきもち パーフェクトロン

混雑対策まとめ

よって、混雑対策としては、できるだけ以下のような対応を取りたいところです。

・土日祝日は、極力午前中に行く
→午後15時以降~閉館時まで混雑し続けるため
・チケットは、事前にコンビニ等で購入しておく
→チケットブースは最大数十分並ぶ可能性があるため
・極力公共交通機関で行く
→土日祝日は、近隣のコインパーキングは終日全滅になります。また、休日はお台場のどこかでイベントが開催されます。イベント開催時は、お台場全体が動かなくなることもしばしばあるので、自家用車での来場はあまりおすすめできません。

6.関連書籍・資料などの紹介

さすがNHK Eテレの長寿番組。会場でも販売されていますが、書籍やCDもたくさん発売されています。ここでは、2018年に出版されたものだけを取り上げてみますね。

どんどんくせになる中毒性!小山田圭吾によるテーマソング集「デザインあ3」

 

展覧会時期に合わせて発売されました。これ以外にも「デザインあ1」「デザインあ2」も発売されています。ブログ記事本編でも書きましたが、すごく中毒性の高い音楽なんですよね。小山田圭吾の才能爆発ですね。

DVD/ブルーレイ「デザインあ」

番組内の人気コンテンツをギュッとDVD/ブルーレイ化した作品集。「デザインあ」好きなら買って損なしのベスト盤です。コンテンツの一部が、Youtubeで視聴できるようになっていましたので、紹介しておきますね。

「デザインあ みるほん」 

番組の総集編的な書籍。高尚なことは何もなく、NHKの番組や「デザインあ展」での雰囲気がそのまま本の中に封入されているような書籍。子どもの教育にもぴったりです。

「デザインあ かくほん」

「みるほん」と同時発売されたこちらは、本の中にどんどん書き込む、子ども向けのドリルのような作りの書籍。「みるほん」に比べて、より能動的にデザインを体験している感覚が得られると思います。こちらも直感的に理解できるので、小学生低学年から取り組めます。

「デザインあ 解散!の解」「デザインあ 解散!の散」

「デザインあ」の人気コンテンツ「解散!」を2冊の書籍へと落とし込んだ作品集。絵本のように楽しめる作品です。一つの物体を構成する要素って、我々が意識している以上にたくさんの単純なパーツから成り立っているんだなぁとつくづく感心します。複雑なデザインも、一つ一つの基本的な形をした図形や部品の組み合わせなのですね。

7.まとめ

アートっぽい展示内容なのに、通常の美術鑑賞とは違い、事前知識も予習も全く不要で、大人から子どもまで楽しみながら体験できる展覧会でした。一つ一つのコンテンツには、意外性とユーモアがあふれる上に、程よく洗練されてインスタばえもバッチリ。直感的な体験を通じて、遊びながら教養や学びまで得られます。

色々な観点から、見た目よりも非常にハイレベルでバランスよくまとまった展覧会で大満足でした。期間中、すでに2回来ましたが、会場内でかかる小山田圭吾の中毒性のある音楽同様、何度も再訪してみたくなる魅力ある展覧会です。非常におすすめ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯展覧会名
企画展「デザインあ展 in TOKYO」
◯美術館・所在地
日本科学未来館1F 企画展示ゾーン
〒135-0064 東京都江東区青海2-3-6
◯最寄り駅
新交通ゆりかもめ「船の科学館駅」徒歩約5分
新交通ゆりかもめ「テレコムセンター駅」徒歩約4分
東京臨海高速鉄道りんかい線「東京テレポート駅」徒歩約15分
◯会期・開館時間
開催中~10月18日(木)
10時00分~17時00分(入場は閉館30分前まで)
※土曜日、祝前日(9/16、9/23、10/7)、8/10~8/18は20時まで開館
※常設展は17時に終了
◯休館日
9月4日(火)、11日(火)、18日(火)、25日(火)
10月2日(火)、9日(火)、16日(火)

◯入場料
19歳以上1600円/小学生~18歳以下1000円/3歳~小学生未満500円
※2歳以下無料
※障害者手帳をお持ちの方および付き添いの方1名まで無料
※常設展も観覧可能、ただしドームシアターは別料金(要予約)
※会場の混雑状況により入場整理券配布、または入場を規制する場合あり
◯公式HP&SNS
・日本科学未来館オフィシャルHP
http://www.miraikan.jst.go.jp/
・展覧会公式HP
http://www.design-ah-exhibition.jp/
◯Twitter(「デザインあ」番組公式)
 https://twitter.com/nhk_design_ah
◯Twitter(日本科学未来館)
https://twitter.com/miraikan
◯Twitter(展覧会(東京展)公式)

https://twitter.com/design_ah_TOKYO

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