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【ネタバレ有】映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」 感想・レビューと10の疑問点を徹底解説!/時空を超えて手紙がつなぐ絆と、若者の確かな成長を描いた佳作!

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【2018年3月2日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

9月24日に公開された東野圭吾の大ベストセラーの映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を見てきました。1980年と、2012年の間で、時空を超えて、「ナミヤ雑貨店」でやりとりされた「手紙」を巡って描かれたファンタジー色の強い群像劇。「泣ける」「感動!」と事前の評判は上々でしたが、果たしてどうだったでしょうか?早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、映画の内容・ポイントなど、詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の予告動画・基本情報

▶「ナミヤ雑貨店の奇蹟」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】廣木隆一(「PとJK」「余命一ヶ月の花嫁」「ストロボ・エッジ」他)
【配給】KADOKAWA・松竹
【時間】129分
【原作】東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

東野圭吾作品の中でも、「最も泣ける」と大評判だった原作。時代を超えた連作群像劇の中で、時代を超えて複雑に絡み合ったストーリーが、最後に劇的な収束を迎える展開は、東野圭吾作品の真骨頂とも言えました。僕も読みながら泣きました・・・。

ただし、これを実写映画化するとなると、話は違ってきます。映画化は非常に難易度が高く、主要作品の大半が早々に映画化されてきた東野圭吾作品の中では、最後まで手がつけられずに残っていた印象です。

今回これに果敢に挑戦したのは、ベテラン職人映画監督・廣木隆一でした。(現場が好きな監督なので、頼まれれば基本的に嫌だとは言わないのかもしれませんが・・・^_^;)

画像検索結果
引用:廣木隆一 - 映画.com

ここ数年は、主に若者向けの青春学園恋愛スイーツ系を主戦場としていましたが、元々ピンク映画出身らしく、その守備範囲は広く人情物からアクション、サスペンスまで何でもこなす生粋の職人気質な監督です。意外にも、「ファンタジー」要素のある作品は、今回の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」が初めてなんだとか。

廣木隆一監督といえば、なんといってもあの、ねっとりと動く「引き」のクレーンカメラやドローン撮影を多用する独特の映像演出ですね。

クレーンカメラが大活躍!f:id:hisatsugu79:20170926004530j:plain
引用:映画公式パンフレットより

例えば、学園ものだと主人公が1Fから3Fまで階段を登っていくシーンを、吹き抜けからクレーンカメラでねっとりと追いかけたり(ストーカー目線?!)、カメラが上空すぎて主人公たちが一瞬どこにいるのかわからなくなる「ウォーリーをさがせ」状態だったり、カメラワークが面白いなぁと思うところが結構あります。

「ストロボ・エッジ」とか「オオカミ少女と黒王子」「PとJK」あたりでは、「そこ、今二人がいいところなのにカメラ引きすぎじゃね??!!」とイラッとする場面もありました(笑)

でも、今回の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」では、その独特の引きの映像が、逆に幻想的・神秘的なファンタジー色を程よく醸し出すプラスの効果があるように感じました。是非、廣木監督作品を初見の方は、この独自の「カメラワーク」を味わってみてくださいね。 

2.映画「ナミヤ雑貨店の奇跡」主要登場人物・キャスト

本作は、大量の豪華キャストと登用した群像劇となっています。名前の通った俳優だけでも15人以上起用するなど、映画ならではのゴージャスな俳優陣を揃えてきました。ここでは、本当に主役級の7人のみ、簡単に触れておきますね。 

主要登場人物

浪矢雄治(西田敏行)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube

代表作「釣りバカ日誌」シリーズや、「探偵ナイトスクープ」「人生の楽園」など中高年向けの番組MCなどから、昭和の人情・ノスタルジーを体現するアイコンになりつつある西田敏行。浪矢雄治はまさにはまり役でした。手術、糖尿病治療等で、一時期よりかなり痩せたかな?という印象。その分、ガンで亡くなる前のシーンは妙に病的でリアルな表情が撮れていました。

敦也(山田涼介)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube
ジャニーズが映画配信に消極的なので、今まで過去作を見たことがなかったのですが、「暗殺教室」(計2本)「グラスホッパー」など、映画作品にもコンスタントに出続けているだけあって、演技力はそれなりでした。2017年10月には同じく主演の大規模公開映画「鋼の錬金術師」が控えており、今年は映画で勝負する年になりそうです。

翔太(村上虹郎)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編- YouTube
今年に入って「武曲」「二度目の夏、二度と会えない君」など精力的に絶賛売り出し中の二世タレントですね。(母親:UA)今、20歳ですが、舌っ足らずで童顔なので、あと5年くらいは学生役いけるかも?廣木隆一作品では、「夏美のホタル」以来、2度目の起用となりました。

幸平(寛一郎)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編- YouTube
2017年、俳優として映画デビューとなり、実写映画「心が叫びたがってるんだ」では、演技力はともかく、外見的にはアニメキャラのイメージそっくりの野球部員が再現されていました。村上虹郎同様、ベテラン俳優佐藤浩市を父に持つ二世タレントです。(三國連太郎から数えて三代目?!)

松岡克郎(林遣都)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube
林遣都っていつの間にこんなに増量してたんでしょう?自分の中では、未だに「風が強く吹いている」(2009)でデビューした時の、痩身の駅伝ランナーというイメージが離れないのですが、今作ではすっかり「売れないミュージシャン」オーラ全開のなりきりぶりが良かったです。

セリ(門脇麦)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube
村上虹郎同様、廣木組では2度めの起用。「オオカミ少女と黒王子」ではひたすら主演・二階堂ふみの引き立て役でしたが、今回はガッツリ見せ場のある良い役でした。歌いっぷりは、松任谷由実のような独特の声色が妙に印象に残りましたし、本人即興での振り付けで踊ったという海岸でのダンスも風景に上手くハマっていました。演技だけでなく歌もダンスも起用にこなせる実力派女優として存在感を示した作品でした。

田村晴美(尾野真千子)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編- YouTube
19歳のホステス役から51歳の女社長まで、唯一1980年と2012年の両方を演じましたが、やっぱりどちらもちょっと無理があったかも(笑)特に、19歳には見えなかった・・・。設定には難がありましたが、演技力に関してはいつもの申し分ない安定感でした。

皆月暁子(成海璃子)
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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube
前作「古都」以来、久々の映画出演。子役時代から、背伸びして実年齢にプラスした役も演じていたこともあり、もう30代くらいのイメージだったのですが、未だ24歳なんですよね。本作では、服装が昭和初期の「モガ」っていう感じでした・・・

3.途中までの簡単なあらすじ

児童養護施設「丸光園」出身の敦也、翔太、幸平の3人は、ある裕福な女性起業家の自宅に盗みに入ったが、逃走用のため空き地に止めてあった車が故障したため、彼らは走って逃げ、一晩だけ身を隠せる空き家「ナミヤ雑貨店」に忍び込んだ。

一息ついた時、店のシャッターの郵便口から突如差し込まれた1通の手紙に気がついた3人は、手紙をけてみると、その差出人は「魚屋ミュージシャン」と書かれており、日付は1980年となっていた。店の中に置いてあった古い雑誌記事から、かつての空き家の店主浪矢雄治が、生前に悩み相談で評判になっていたことを知った。

敦之は、誰かのいたずらだろうと取り合わなかったが、店を出て街を彷徨うと、不思議な事にまたナミヤ雑貨店前まで戻ってきてしまった。彼らは、思いつきで「魚屋ミュージシャン」に手紙の返信を書くと、すぐさま第2の返信がシャッターに差し込まれた。

やがて、彼らはナミヤ雑貨店シャッターの郵便口と、裏口の牛乳箱を通じて、彼らのいる2012年と1980年が不思議な力でつながっていることを知る。

そして、何人かの手紙に返信を重ねる中で、彼ら3人は、全ての相談者、登場人物たちが、何らかの形で3人の出身施設「丸光園」と関係があり、不思議な力で時空を超えて縁が結ばれていることを知っていくー。そんな中、彼らはネットで「ナミヤ雑貨店1夜限りの復活」と書かれた奇妙なページを見つけるのだったー。

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4.映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の感想・評価

ノスタルジーとファンタジーが程よくミックスされたまずまずの感動系作品

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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』特報2 - YouTube

まず、最初に見て感じたのは、1960年代、70年代ではなく、1980年という世界ですら、すでに大衆文化の中では昭和的な懐かしさの文脈で語られるような時代になってきたのだなということ。雑貨屋という舞台セット、牛乳箱、商店街の街灯、町の魚屋、路面電車、主演に「昭和」を強く想起させる西田敏行が起用されたことなどは、明らかに「ALWAYS三丁目の夕日」路線の昭和懐古趣味を入れてきているなという印象。

自分が年を取ったのだなと言う事実を突きつけられるようで、見ていて複雑な心境になりました(笑)

実は、原作はもっと露骨なのです。小説内でサザンオールスターズの「みんなのうた」(1988)、ビートルズファンのバー、映画「エイリアン」(1979)、モスクワオリンピック(1980)、昭和天皇の崩御(1988)など、ノスタルジックな設定やキーワードが意図的に多めに入れられており、最初に一読した際は、いわば東野圭吾版「ALWAYS三丁目の夕日」なのかと思いました。

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豊後高田の美しい遠浅な海岸も非常に印象的
引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube

映画では、CG/VFX向けの予算・ノウハウがそこまでなかったのか、小説ほど露骨に昭和美化路線には入らず、代わりに、ファンタジー色、ご当地映画色(ロケ地:豊後高田市)が強めに入っていました。どうしても「手紙」を全文読ませる形で進行していくため、若干オジサンの説教臭くなりがちな原作小説のアクを消しつつ、若いお客さんにも訴求した、絶妙のバランスだったように思います。

東野圭吾作品特有の絶妙なまとまり感

本作では、なぜ「ナミヤ雑貨店」彼ら3人が時空を超えた手紙のやり取りができるのか?という疑問には一切答えません。

そこは若干不満が残るところではありますが、それさえ与件・前提として一旦受け入れてしまうと、ものすごくストーリーの構成がかっちりしていて、エンディングに向けてパズルのピースがはまるように伏線が回収されていきます。選択肢がほとんどなく、ほぼ一直線に進んでいくロールプレイングゲームを解いているような感じですね。良い意味でも悪い意味でも、わかりやすく話の筋が整理されていました。

多少前半のエピソードが間延びしても、前半で広がった様々なストーリーが、時系列を越えてエンディングへと収束していく構成は、東野圭吾作品ならではの安心感でしょうか?鑑賞者に考えさせる余地は余り与えないものの、ストーリーを追っていく楽しさがある映画でした。

どうしようもない若者の確かな成長を描かれた点が印象的

僕が本作の一番の見どころと考える点は、若者3人(敦也、翔太、幸平)の一夜での特別な体験を経て大きく変わり、成長した姿を描いた部分です。

両親からの本当の愛情を知らず、将来の自己像も見えず、自尊心が低いまま、若さのエネルギーだけを持て余して大人になった地方の若者たち。彼らの、行き場のない不満・不安・諦念/閉塞感は、中盤までの敦也の演技に実によく反映されています。

しかし、彼らは突如として超常的な異空間に入り込み、そこで夜通し他人の人生相談と向き合うことで、同時に自分自身に真剣に向き合うことになります。

3人は、相談者たちが、まさに自分たちのアドバイスに従い、真摯に行動し続けてポジティブな結果を出したことで、「行動すれば可能性は開けていく」という事実を知るとともに、自分たちが初めて他人のために役立ったという実感を得て、クライマックスで大きく意識が変わり、劇的に成長を果たしました。

ここでも、やっぱりファンタジー的な異空間を雑貨店の周囲に作り出したことが、彼らのBEFORE/AFTERを劇的に演出する強い効果を生み出していたと思います。

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一夜明け、大きく成長した若者たち
引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編- YouTube

若い時って、例えば合宿や旅行先などの非日常空間において何かきっかけを掴むと一夜で大きく自分が変わったことを実感できる経験って結構ありますよね?映画内で朝になって、達観したような表情の3人を見た時、「いや、まだまだ自分もここから変われるはず!」と、主人公のやんちゃな3人から勇気をもらえたような気がした、そんな映画でした。

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5.映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!~

本作は、劇中で15名以上の俳優と、4つのエピソードを一気に紹介したため、かなりの設定・伏線に関する説明が省略されています。ここでは、より映画を立体的に深く理解するため、劇中で分かりづらかった10個のポイントに絞って解説してみたいと思います。ここからは、ネタバレ要素が強めに入りますので、閲覧については何卒ご注意下さい。

疑問点1:主人公達が入所していた「丸光園」とは?

主人公たちが入所していた「丸光園」とは、静岡県時越市に前館長、皆月暁子が建てた児童養護施設です。児童養護施設とは、保護者がいなかったり、虐待されていたりして保護する必要がある1歳~18歳までの子供を預かり育てる施設のことです。

元々戦前から地主として裕福だった皆月家で、両親が亡くなってから資産を相続した暁子は、戦争などで孤児となってしまった子どもたちを救うため、私費を投じて「丸光園」を創立したのでした。

疑問点2:手紙を通した時系列はどうなっていたの?

本作では、約120分の本編内で、実に10回以上目まぐるしく時間軸が変わります。でも、それほど難しく捉える必要はありません。基本的には1980年(浪矢雄治や相談者達)と2012年(敦也達の時間)を行ったり来たりするだけです。そこで、映画パンフレットを元に、1980年と2012年の出来事をわかりやすく整理してみました。

▼映画内での出来事を整理してみるf:id:hisatsugu79:20170925222702j:plain

映画を理解する際に大雑把に抑えておくべきこととしては、細かい因果関係は別にして、以下の2つだけです。

・浪矢雄治が膵臓がんで入院して亡くなるまでの3ヶ月間、2012年12月20日にナミヤ雑貨店に迷い込んだ敦也たちが、浪矢雄治の代わりに相談者の対応にあたった。
・浪矢雄治が亡くなる1980年12月20日、未来からの感謝の手紙と、敦也からの白紙が浪矢雄治の元に届いた。浪矢雄治は亡くなる前、最後の返信を敦也に託した。

疑問点3:なぜ浪矢雄治は悩み相談をやっていたの?

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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編- YouTube

1960年代、まだ浪矢雄治が元気で、ナミヤ雑貨店も繁盛していた時、彼は子供がいたずら的に始めた悩み相談を、半分とんちで返すような、子供相手の「余興」としてスタートさせました。「生協の白石さん」的な掲示板上での楽しいやり取りですね。

しかし、その後徐々に子供だけでなく、大人まで含めて「本気の」人生相談が入るようになったため、個別に「牛乳箱に」翌日までに返信する形で対応しているうちに、評判が評判を呼び、いつのまにか週刊誌で取り上げられるような本気の悩み相談へと変わっていったんですね。

いつしか、悩み相談は、浪矢雄治にとって生きがいになっていきました。1970年代以降、商店街の衰退とともにナミヤ雑貨店も客足が細り、売上が立たなくなるのに店を閉めようとしなかったのは、いつの間にか悩み相談が浪矢雄治のライフワークとなっていたからですね。

疑問点4:成海璃子扮する皆月暁子とは?どんな人だったの?

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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube

皆月暁子は、児童養護施設「丸光園」の創設者で、戦前の1930年代、浪矢雄治と付き合っていました。小説によると、機械工(労働者階級)だった浪矢雄治と、地主の家系(上層階級)だった皆月暁子は、階級差を越えて一緒になるために駆け落ちを計画しますが、周囲に感づかれて未遂に終わります。

二人はそこで大人たちに引き離されることになり、浪矢雄治はそのあと別の女性と結婚しましたが、暁子は生涯浪矢雄治以外の男性とは結婚しないと心に決めて、丸光園の経営に心血を注いだのでした。暁子は、元々体が弱く、心臓の病気で1969年(or1970年)に亡くなっています。

浪矢雄治が亡くなる直前、暁子が雄治だけに見える形で出てきたのは、映画ならではのファンタジー演出を強化すると共に、暁子の存在こそが時空を越えて丸光園の関係者を結びつけたことを印象づける効果がありましたね。

疑問点5:敦也、翔太、幸平の3人は、どんな過去を持っていたの?また、なぜ強盗に入ったのか?

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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube

敦也の母は22歳の時、敦也を産みます。水商売のお店でバーテンをしていた年下の男が父親でしたが、間もなく父親は行方がわからなくなり、母子家庭となりました。しかし、同棲中の母の恋人から度重なる虐待を受けた上、母の育児放棄により小2の冬、飢えて食べ物を万引きした際に貧血で倒れます。それから3ヶ月後、丸光園に預けられたのでした。

彼ら3人は同い年で、中高とも一緒だったので、学生時代には置き引き、万引き、自販機荒らし、空き巣など、暴力を使わない窃盗行為をゲーム感覚で楽しんできた過去がありました。

満18歳になり、翔太、幸平、敦也は丸光園を出ましたが、折からの不況で、翔太は家電ショップをクビになり、幸平は働いていた自動車工場が倒産し、敦也は部品工場で度重なるパワハラに嫌気が指して辞めていました。一方で、自分たちの育った丸光園が地元の成金によってラブホに変えられてしまうという噂は捨て置けず、3人共金がなかったこともあり、「懲らしめてお金を取る」ため強盗に入ったのでした。

疑問点6:浪矢雄治の遺言の中身とは?

浪矢雄治の遺言は、ざっくりいうと「自身の死亡した命日(1980年12月20日)の三十三回忌になる日に、『雄治のアドバイスの結果、相談者たちの人生がどう変わったか、手紙を雑貨店のシャッター郵便ポストに投函して報告して欲しい』という広告・告知を打つこと」でした。この遺言は、親族の手により実行されます。

疑問点7:インターネットでのナミヤ雑貨店のHPは誰が作ったのか?

浪矢雄治の遺言は、2012年になってから、インターネットのホームページ上での臨時告知として実行されました。映画では省略されましたが、原作小説によると、浪矢雄治の息子、貴之ではなく、貴之の孫、浪矢駿吾によって実行されました。つまり、浪矢雄治の曾孫(ひまご)ですね。

33回忌の当日、すでに貴之はこの世になく、貴之は亡くなる前、みずからの(子供ではなく)孫にネット上での告知を依頼したのですね。

疑問点8:皆月館長が亡くなってから丸光園に何が起きたのか?

丸光園は、前館長である皆月良和が2003年に亡くなってから、その長男が経営を引き継ぎましたが、長男が経営する本業の不動産業で膨大な赤字を出し、経営の実権が苅谷という副館長に移ると共に、経営破綻の危機にありました。苅谷は、経営の実権を握ると、職員の水増し登録などを行い、行政に補助金を不正申請していたことが、晴美の独自調査によって判明します。

晴美は苅谷に出資や経営の交代を申し出ましたが、苅谷は自らが手を染めている補助金の不正受給を知られたくないため、晴美の申し出に乗り気ではなかったのですね。

疑問点9:ラストシーン・エピローグの解釈は?登場人物たちのその後は?

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引用:映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』予告編(手紙編) - YouTube

エンドロールと共に、今回の映画での主人公たちの「その後」が簡単に描かれたのは、映画オリジナルの描写でした。簡単にまとめてみると・・・

・敦也・・・看護師の見習い実習中
・幸平・・・料理人として修行中
・翔太・・・航空機の整備工場で勤務中
・セリ・・・ミュージシャンとしてライブ活動中
・映子・・・セリのマネージャーになった
・克郎・・・路上ライブでパフォーマンス(生前)
・晴美・・・丸光園の経営と手紙相談を引き継ぐ

敦也、幸平、翔太はともかく、晴美が浪矢雄治の手紙相談まで復活させて引き継いでいたのは、目頭が熱くなるサプライズ展開でした。

疑問点10:原作で省略されたエピソードや、原作との違いは?

映画では、尺の都合上、省略されたエピソードや、原作からの一部改変があります。かなり原作に忠実な出来でしたが、主な違いを、一応下記にまとめておきますね。 

・北沢静子(晴美の親友)から、モスクワオリンピックを目指す道か、余命の短い重病の彼氏の看病に専念するか相談をするエピソードがカットされている。(対応したのは浪矢雄治ではなく敦也達3人)
・両親の夜逃げ計画に当惑した和久浩介が浪矢雄治に相談するエピソードがカットされている。
・インターネットでナミヤ雑貨店復活のHP対応を行う浪矢駿吾のエピソードがカットされている。
・時間が、オリジナルでは2012年9月13日となっている。(映画公開時期に合わせてずらしたか?)
・小説版では、皆月暁子は地の文章に出てくるだけで、浪矢雄治の前に(霊として?)登場することはない。
・小説版では、3人は幻の路面電車に遭遇しない。
・小説版では、ナミヤ雑貨店の中と外では時間の流れ方が違う。中の方が早い。しかし、裏口を開けっ放しにすると、時間の流れ方は同じになる。

6.パンフレットにも泣ける演出が!

そして、今回の映画パンフレットには、ちょっとした嬉しいサプライズ演出がありました!最初のページと最後のページに、手描き印字の浪矢雄治から敦也に当てたのラスト・レターと、それに対して敦也が書いたものの、出さなかった浪矢雄治へのお礼の手紙が封入されていました。(最初見た時は、全く気づかなかった^_^;)

▼表紙(浪矢雄治→敦也へのラストレター)f:id:hisatsugu79:20170926003836j:plain

▼裏表紙(敦也→浪矢雄治への返信)f:id:hisatsugu79:20170926003906j:plain

実生活などで挫けそうになった時、このパンフレットで浪矢雄治が死ぬ前に敦也に最後に宛てた渾身のメッセージ

あなたの未来はまだ白紙です。白紙だからどんな未来も描けます。全てがアナタ次第なのです。何もかもが自由で可能性は無限に広がっています。

という一文を読むと、なんだか勇気が出てくるような気がしますね。映画の内容を忘れてしまっても、この浪矢雄治のメッセージだけは心に刻み込んでおきたいと思いました。ちなみに、パンフレットは映画館で発売中ですが、Amazonでも出ているようなので一応リンクを置いておきますね。

7.もう1本見るなら!東野圭吾の【泣ける】映画3選

最近では、もう刊行するたびに必ずと言っていいほど映画化・ドラマ化される東野圭吾ですが、手がけるジャンルは刑事ドラマ、人情物、サスペンスなどかなり多岐に渡ります。ここでは、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を機に、次に見るべき東野圭吾の泣ける作品を3つ厳選して紹介しますね。

7-1.広末涼子の一人二役が好演!「秘密」

僕自身、東野圭吾作品の中でダントツに好きな作品です。1999年に広末涼子、小林薫主演で映画化されました。当時、世代No.1の人気若手女優として頭角を表した広末涼子が、小林薫を相手に妻と娘の一人二役を演じています。ラストシーンのどんでん返しでは涙腺決壊間違い無しです!

7-2.加賀恭一郎シリーズの傑作「麒麟の翼」

TBSでドラマ化もされた阿部寛扮する「加賀恭一郎」シリーズの中で、映画化されたエピソードです。 2012年当時、社会問題となっていた派遣切りや労災隠しなど、時事ネタも採り入れつつ、父と子の親子愛をテーマに描いた作品。主役に新垣結衣、中井貴一、松坂桃李を据えて、当時まだブレイク前だった18歳頃の若い菅田将暉、山崎賢人らも重要な役どころを演じており、見どころ満載です。

7-3.手紙のやり取りで人間ドラマが浮かび上がる「手紙」

犯罪加害者の親族の視点に立って、その心情の動向を丹念に追った作品。玉山鉄二が迫真の演技で迫ってきます!「手紙」のやり取りをする点では「ナミヤ雑貨店」と同じですが、こちらは時空を飛んだりはしません(笑)

8.まとめ

本作が、例え悩み傷つき、どん底にある時でも常に「他人のため」に行動する人たちの群像劇であったことが、作品を通してどこかしら感じられる「温かさ」「安心感」につながっていたのかなと感じました。

決して「古き良き昭和は良かった!」という懐古趣味一辺倒ではなく、今を生きる若者たちがそれぞれの道で自分自身を見つけた、という終わり方も良かったと思います。素直に見れば、心が浄化される泣ける作品です。
それではまた。
かるび

9.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ブルーレイ/DVD「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

3月23日にDVD/ブルーレイが発売となりますが、事前購入するなら、やっぱり豪華版がおすすめです。豪華版&早期予約特典を以下の通りまとめました!

★★豪華版の特典まとめ★★
【外装・封入特典】
・豪華三方背ボックス&デジパック仕様
・特製ブックレット
・ポストカード
【映像音声特典】

・本編オーディオコメンタリー
(※山田涼介×西田敏行×二宮直彦プロデューサー)
・予告編集
・メイキング
・イベント集
★早期予約特典としてオリジナルA4クリアファイル付き!

  

小説原作「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

上映時間の都合上、映画ではカットされた2つのエピソードや、登場人物たちの背景・人物描写がより詳細に描かれている他、敦也たちと相談者で何往復も出された手紙の生々しいやりとりが、(小説だけに)全文読めるため、映画とはまた違った緊張感や人間ドラマが味わえます。全世界で900万部売り上げただけあって、ストーリーの緻密さや組み立ては本当に上手。映画を見た後でも、別角度から何度でも楽しめます。

映画主題歌「REBORN」(山下達郎・門脇麦)

門脇麦が、劇中で2番までほぼフルコーラス近く歌い上げた「劇中歌バージョン」、エンディングでかかる山下達郎バージョンと、両方が収録されたマキシシングル。映画にあわせて山下達郎が描き下ろした歌詞も、物語の世界観にぴったりフィットしているため、聞き返すたびに感情移入できる素晴らしいテーマソングになりました。 

東野圭吾の小説原作の作品は、まとめてU-NEXTで!

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よく練り込まれた緻密なストーリーがベースにあるので、誰が監督を務めても一定の水準以上のクオリティにしっかり仕上がってくる東野圭吾作品。かなりの数が映画化・ドラマ化されていますが、まとめてチェックするのであればU-NEXTが良さそうです。東野圭吾原作映画では、U-NEXTが一番おすすめ。2018年3月現在、なんと大量11作品が「見放題」でチェックできます!

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【ネタバレ有】映画「三度目の殺人」 感想・考察と10の疑問点を徹底解説!/名作!見応え抜群のリアルな法廷劇!

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【2018年3月1日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

今、日本で一番国際的に評価が高い映画監督、是枝裕和監督の最新作「三度目の殺人」が9月9日に封切られました。「そして父になる」「海街Diary」のような、得意のホームドラマ路線は一旦お休みして、シリアスな法廷劇を手掛けた意欲作です。法廷内で福山雅治が大活躍!!!・・・するのかと思ったら、全然違ってました(笑)

でも、見終わった感想としては、これぞ是枝裕和作品というべき、作家性にあふれた大傑作の心理サスペンスに仕上がっていたと思います!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、考察等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「三度目の殺人」の予告動画・基本情報

▶映画「三度目の殺人」公式予告動画
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【監督】是枝裕和(「海街Diary」「そして父になる」他)
【配給】GAGA・東宝
【時間】124分
【原作】是枝裕和・佐野晶「三度目の殺人」

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是枝裕和監督近影
引用:https://filmaga.filmarks.com/articles/1440

本作を手掛けた是枝裕和監督は、元々ドキュメンタリータッチの映画作品からキャリアをスタートし、ここ数作は、リアルな生活描写にあふれたホームドラマを作ってきました。

特に、ここ数年は、福山雅治とのタッグで興収30億を超える大ヒットとなった「そして父になる」や、主役の4姉妹に豪華キャストを起用して話題となった人気マンガ原作の「海街Diary」などを手がけた結果、是枝監督の名前はコアな映画ファンだけでなく一般層へも知名度が浸透してきています。(昨年「君の名は。」が大爆発してる時に勇気ある逆張り気味のコメントを出してちょっとネットで話題にもなりましたね/笑)

2年に1作ペースで制作するとして、「生涯であと10作程度しか撮影できないのであれば、50代のうちに積極的に新ジャンルに挑戦して、先に苦労しておきたいと考えた」、と、インタビューで語っているように、本作「三度目の殺人」は、是枝監督の初挑戦となる法廷劇となりました。

しかし、そんな法廷サスペンスも、フタを開けてみればさすがのクオリティ。企画・脚本段階での弁護士への徹底取材を経て制作された本作は、司法の現場を詳細に至るまでリアルに再現しつつ、監督の作家性もたっぷり反映された大傑作となりました。

2.映画「3度目の殺人」主要登場人物・キャスト

主要登場人物

重盛朋章(福山雅治)
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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト
ここ数年、「そして父になる」「SCOOP!」等、完璧エリート芸能人としてのパブリック・イメージを崩すような作品に積極的に出続けています。今作でも経済合理性を最優先するクールなエリート弁護士としてスタートし、次第に壊れていく演技が素晴らしかったです。次作は、ジョン・ウー監督の香港・中国映画「MANHUNT」が公開されたことをきっかけに、いよいよ海外に飛躍していくんでしょうか? 

三隅高司(役所広司)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
映画「関ヶ原」での徳川家康役での怪演が素晴らしかった一方、本作でも悪人なのか善人なのか、正常なのかサイコパスなのか掴みどころのない殺人犯役が見事すぎた役所広司。時代劇・サスペンス・コメディ、どんな役をこなしても完璧に演じてみせるその演技力に脱帽でした。 

 山中咲江(広瀬すず)
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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト
是枝組には高1、15歳時の「海街Diary」以来の2度目の参加。前回出演時からキャリアを積み、同世代の若手女優の中では不動のNo.1の地位を築いての、満を持しての再登板となりました。あちこちのインタビューで是枝監督からその演技・役者としての存在感を絶賛されており、今後も是枝作品で起用され続けそうな感じですね。この秋は、主演作品「先生!」も楽しみです。

摂津大輔(吉田鋼太郎)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
キャリア中盤で検事から弁護士へと転向した、いわゆる「ヤメ検」弁護士。公判前の事前折衝で検事や裁判官との潤滑油的な役割を果たし、出演キャラクター中、唯一のコメディ・リリーフ的な立ち位置でした。吉田鋼太郎がおちゃらけた役を演じるのは珍しく、いつも是枝組常連のリリー・フランキーの代役だったのかな?なんて思いながら見てました。(二人は激似ですし)

川島輝(満島真之介)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
弁護士にはなったけど、独立事務所を構えず、先輩格の弁護士事務所にデスクだけ借りている「軒弁」の若手弁護士。公判以外の場面でも常に弁護士バッジをきちんと装着するなど、3人の弁護士の中で、一番ピュアでスレていない情熱的なキャラクターを好演していました。

山中美津江(斉藤由貴)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
不倫騒動で世間に大きく注目される中、登場人物中最もわかりやすい形で「ダメな」母親を演じた絶妙の配役がなんとも言えない所。自宅でねっとり広瀬すずに後ろから絡みつくシーンはゾクゾクしました。プライベートでの経験が演技にちゃんとフィードバックされているようです(笑)

その他、主人公の父親役、重盛彰久に橋爪功、相手側検事、篠原一葵に市川実日子ら豪華キャストが脇役として配置されています。

3.中盤までの簡単なあらすじ

2017年秋、徹底して勝利にこだわり、年々競争が厳しくなる中、順調にキャリアを伸ばしてきたエリート弁護士、重盛朋章(福山雅治)は、同期のヤメ検弁護士、摂津(吉田鋼太郎)から新たな難事件を持ち込まれた。川崎の河川敷で起きた強盗殺人事件である。殺害されたのは、地元の食品加工会社「山中食品」の社長、山中光男で、妻と娘が遺族として残された。犯人は元従業員の三隅高司(役所広司)。会社をクビになり、金に困って殺害したと警察には供述調書が残っていた。

三隅は30年前にも殺人で無期懲役となった前科を持っていた。敗色濃厚な案件だったが、重盛は、事務所の後輩、川島輝と共に三隅高司の国選弁護人を引き受けることにした。

事前に摂津が手を焼いたとおり、拘置所での数度の接見で三隅の供述は一貫しなかった。被害者の家族フォローや現場検証を一通りこなした後、先に三隅が週刊誌の取材に応じ、「被害者の奥さんに頼まれて保険金目当てで殺害した」と語った内容に乗っかり、重盛は被害者の妻、山中美津江からの殺害依頼メールを物証として、美津江が主犯となった保険金殺人の線で一旦公判準備を進めていく。

重盛はエリート弁護士として仕事では順調にキャリアを伸ばしていたが、家庭は冷たく壊れていた。妻・娘とは別居中で、娘が衝動的に窃盗事件を起こす中、重盛は数度の接見を通して次第に三隅の人となりや事件の真実に興味を惹かれていく。

三隅の住居や実家での調査を進めるうち、次第に事件で被害者の一人娘、山中咲江と三隅の奇妙な関係性が浮上した。そして、第1回の公判終了後、咲江が死亡した父から性的暴行を受け続けてきたこと、美津江のメールは、保険金とは全く関係のなかったことが相次いで判明した。さらに、ここにきて、突然三隅が「本当は私、殺していないんです」と一転して容疑の否認をし始めたのだった。

三隅の真意を測りかねる中、それでも重盛は三隅の意向に寄り添うように弁護方針を変更し、第ニ回以降の公判へ臨む。三隅は証言台で容疑を否認した。法廷内が大混乱に陥いる中、果たして判決はどうなるのか?そして、事件の真実は明らかにされるのだろうか。法廷劇はますます混迷を深めていくのだったー。

4.映画「三度目の殺人」の感想・評価

鑑賞後のモヤモヤしたわからなさがこそが良い!映画的な楽しみにあふれた大傑作でした!

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

本作を見終わってまず感じるのは、本当によく練り込まれた脚本・演出だったということです。通常、法廷モノや刑事モノは、物語後半になるにつれ、事件の真相・犯人の特定に必要な情報・手がかりが出揃って、ある一つの結論が明確に(そして劇的に)提示されることで、観客はカタルシスを得るわけです。

しかし、この映画は全く逆のアプローチで映画ファンを楽しませてくれました。物語の進行に合わせ、観客に結末を推理させる材料が提供されていくのは他の映画と同じですが、最終盤で、主人公、重盛がなんとか導き出した「真実」は、あっさり犯人である三隅に覆されてしまい、結局答えは何だったのか、なんだかわからない宙吊りのまま結末を迎えます。

仕方なく、観客は自分たちで映画を振り返りながら推理しますが、映画のタイトル「三度目の殺人」の意味や犯人が誰だったのかなど考えても、決定的な結論に決してたどりつけず、複数の解釈ができてしまうんですよね。この、計算しつくされた脚本・演出のあいまいさが素晴らしい!もう少しでわかりそうなんだけど、でも結局わからないというこの絶妙のバランス感。すごすぎます。鑑賞後に否応なく頭をフル回転させて考えさせられてしまう楽しさ、これこそが本作の醍醐味なんですよね。

重層的に複数浮き彫りになったテーマ設定も秀逸!

優秀な作品は、物語の進行とともに複数の主題が互いに絡み合って浮き彫りになっていくものですが、本作では特にそれが顕著に感じられました。

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

まず第一に、司法制度のあり方への強烈な問題提起です。様々な事件関係者が集まり、本来事件の「真実」が解明されるはずの法廷ですが、劇中では、誰も真面目に「真実」には目を向けようとしません。関係者たちの利害調整の場に成り下がってしまっている司法現場での生々しい現実。裁判員制度が導入されて10年になりますが、映画を見る限り、理想的な制度からは程遠いものを感じました。

そして、そんな司法システムに絡み取られ、もがこうとしても実際には何もできなかった重盛と咲江の無力感。そこから導き出される本作の二つ目の主題は、是枝作品で通底して感じられる「人と人とのコミュニケーションの難しさ」でした。三隅のように言動がコロコロ変わる人間の不確かな心や、法廷に集まった人たちが現実を自分の見たいようにしか見ることのできない故に、そもそも人が人を安易に裁くことのと危険性や愚かしさを感じます。

さらに、主人公の三隅・重盛に目を向けると、見事に両者とも「父親失格」振りが際立ちます。これが三つ目のテーマでしょうか。是枝裕和作品では、共通項として、どの作品でも徹底して「ダメな父親像」が描かれます。例えば、「そして父になる」では、仕事ではエリートだけど、子供の心に寄り添えない父親が少しだけ成長する姿を描きますし、「海よりもまだ深く」では阿部寛演じる主人公は大人になりきれず甲斐性のないダメ男です。もっと酷いのは「海街Diary」で、そもそも最初から父親不在な状態でストーリーが進んでいきます。

本作でも、ある意味で鏡像関係にある三隅と重盛は、やはり両者とも妻・娘との関係が断絶していたダメな父親でした。そんな彼らが、「真実」を巡ってやり取りする中で、少しでも自らの娘に償おうとする姿が印象的でした。

様々な映像演出が散りばめられ、片時も画面から目が離せない!

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

また、映画の中で散りばめられた様々な映像的なメタファーも秀逸でした。ストーリーや背景のセリフでの説明は最低限に抑え、映像・演出で謎が深まるように少しずつ見せていく手法は非常に映画的です。ラストまで何度も出てくる「十字架」の意味、謎の手紙、咲江の「赤い」ダッフルコートや手袋、三隅のちょっとした手の仕草、ピーナッツクリーム、逃げたカナリアの意味・・・等々、一秒たりとも画面から目が離せません。

また、7度に渡る接見室での役所広司扮する三隅と、福山雅治扮する重盛のやり取りも本当に見ごたえがありました。善人とも悪人ともつかず、落ち着いていたと思ったら時に狂人のような不穏な表情・言動で重盛を幻惑する三隅。そして、次第に三隅の術中にハマり、真実を追い求めずにはいられなくなる重盛の変化。毎回少しずつ変わる接見室の光の加減や音の響き、そして、ラストシーンで重なり合う二人の横顔・・・

一見単調に思えるような接見室のシーンが、俳優の演技力と、演出の妙でここまでスリリングで見どころたっぷりに仕上がるとは、さすがとしかいいようがないです。

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5.映画「三度目の殺人」をより深く理解するための10個の疑問点・ポイント~伏線・設定を徹底考察!~

是枝裕和監督作品では、物語の結末についての解釈は鑑賞者に委ねられることが非常に多いです。また、劇中での主要キャラについての設定や人間関係の説明も非常にシンプルで最低限に留められます。そこで、本エントリでは、本作をより深く理解し、味わうために、物語の焦点となる10点のポイントに絞り、掘り下げて考察してみました。ネタバレが強めに入りますので、何卒ご容赦下さい。

疑問点1:摂津と重盛の関係は?摂津がヤメ検となった理由とは?

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

本作で吉田鋼太郎が演じる元検事の「ヤメ検」弁護士、摂津は、重盛と同時に司法試験に合格した、司法修習生時代の同期生という設定です。摂津は検事に、重盛は弁護士になりましたが、摂津はキャリア半ばで検事を辞め、弁護士へと転向します。

小説版で明らかにされていますが、摂津が弁護士になった表向きの理由は、一人娘が有名私立高校に入学したため、転勤の多い検察を辞めたということになっています。しかし、重盛は検察の官僚的な組織体制の息苦しさが肌に合わなかったのではないか、と考えているようです。

疑問点2:川島と重盛の関係は?重盛が国選弁護案件を受けた理由とは?

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

川島は、2016年度に司法試験に合格し弁護士となったばかりの若手弁護士です。しかし、大手法律事務所に就職できなかったため、重盛の個人事務所にデスクを借りて仕事をすることになりました。いわゆる「軒弁」(のきべん)です。川島との間に雇用契約はなく、劇中の山中光男殺し以外の別案件では、川島は個人で動いているものと思われます。

重盛が、元々採算性の低い山中光男殺しのような案件での国選弁護人を敢えて引き受けたのは、殺人事件を未経験である川島に経験を積ませて早く独立させてやりたい、という重盛の親心もあったのでしょう。

ちなみに、「国選弁護人」とは、死刑・無期・長期3年を超える懲役等で、弁護士を雇うお金がないため国の費用で専任される刑事事件の弁護人です。後から摂津の要請で弁護に入った重盛も、国選弁護人登録を行っているため、三隅の弁護人となることができました。

疑問点3:三隅の犯した「1度目の殺人」の内容は?

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1度目の殺人の舞台となった「留萌」
引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

30年前、昭和61年1月21日に三隅が犯した1度目の殺人事件は、彼の郷里、留萌(るもい)で起こした「留萌強盗殺人事件」でした。借金取り2人が住む自宅に放火し、金を奪って殺したのです。当時取り調べを担当した渡辺刑事の話では「個人的な怨恨は感じられず、空っぽの器のようだった」とのことでしたね。

ちなみに、留萌は昭和初期まで、炭鉱の町として賑わいましたが、石炭が斜陽産業となってからは、街は不景気になり、失業者で溢れていたといいます。高利貸しに手を出す元炭鉱労働者も多数いたのでしょうね。

疑問点4:咲江はなぜ足をひきずっていたのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

劇中で、川島のセリフに咲江のケガは「生まれつきだった」みたいです、とありました。しかし、咲江本人は「飛び降りてケガをした」と言い張っており、食い違っていました。これが咲江の虚言癖なのか、それとも川島が聞いてきた情報が間違っていたのかは、劇中では示されていません。咲江に虚言癖があるのかないのか、劇中の広瀬すずの演技から観客が判断するしかないのですよね。ちなみに、接見室で、三隅は咲江のことを、「あの娘はよく嘘をつきますよ」と証言していましたね。

疑問点5:三隅の飼っていた5羽のカナリアは何を意味していたのか?その隠喩とは?

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引用:Wikipedia「カナリア」より

三隅は犯行に及ぶ直前、大家に断わった上で自宅で飼っていたカナリアを5羽殺して庭に埋め、小石で十字架をあしらった墓標を作っていました。この「5羽のカナリア」は恐らく彼が30年前の殺人事件で殺害した、または、結果的に不幸な死に方をさせてしまった者たちのメタファーだと思われます。

カナリアは、観賞用だけでなく、「炭鉱のカナリア」と呼ばれる通り、カゴの中に入れられ、炭鉱や洞窟で毒ガス検知をするためによく使われます。(オウムサリン事件の時も実際に使われていた)つまり、カナリアとは、強者の都合に運命を左右されがちな「抑圧された弱者」の象徴だったと思われます。

「5羽のカナリア」とは、元炭鉱の街、留萌で三隅が死に追いやった5人、すなわち、殺害した借金取りの二人、不幸な死に方をした元妻、三隅の父母の合計5人を表現していたのではないでしょうか?

ちなみに、「1匹だけ逃げましてね」と三隅が供述した「1匹」とは、この後の山中光男殺しで彼が解放しようとしていた咲江を表していたと思われます。公判結果を聞いた後、看守に導かれて法廷を後にする三隅が、部屋を出る時に咲江だけに見えるよう、カナリアが飛んで行く仕草を手で表現していたことからもわかりますね。

疑問点6:三隅が重盛の父に宛てたハガキにはなんと書いてあったのか?何のために出したのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

実際に公判中で証拠資料として供されることはなかったものの、重盛の心象を大きく左右した、三隅が重盛の父に宛てた一枚のお礼状。咲江と河原で雪遊びをした5日後に投函されています。文面は、以下の通りでした。

重盛裁判長様。ご無沙汰しています。裁判でお世話になった三隅高司です。昨年、仮釈放され、今は川崎の食品加工工場で働いています。先週、こちらでも大雪が降って、故郷の北海道を思い出しました。娘の誕生日に雪で大きなケーキをつくったんです。娘は手袋をしていなかったので、私のをひとつ渡しました。娘は手を真っ赤にしながら、自分の背より大きなケーキをつくっていました。冷たくて・・・温かい思い出です(ノベライズ「三度目の殺人」より引用)

ここで言う「娘」はもちろん咲江を表すメタファーです。「手袋を渡した」とあるのは、二人で共謀した、ということを示唆しているのでしょうか?また、ここで言及されている赤い「手袋」は、その後咲江が両手にはめていた手袋と関係があるのでしょうか?非常に謎ですが、咲江と三隅が共謀して殺害したシナリオも十分ありえると思えるような意味深なエビデンスでした。

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疑問点7:重盛はプライベートでどのような問題点を抱えていたのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

重盛は、ありていに言うと仕事で「勝つ」ことに生きがいを見出すワーカホリックです。(徹夜で仕事をしているシーンが2回も劇中のワンカットとして映し出されました)仕事にのめりこむあまり、そのしわ寄せが家庭へと波及し、三隅の事件にかかわる1年前から妻・一人娘の結花(14歳)と近所で別居中となっていました。

弁護士制度改革によって、ここ10年で急増した弁護士の数。生存競争を勝ち抜くため、民事・刑事を問わず仕事を24時間体制で引受け、実績を上げてきた重盛は人気弁護士となっており、猛烈に忙しくなったのでしょうね。

仕事に追われ、それを言い訳にさらに仕事に逃げ込んだ重盛と母娘の断絶は、すでに引き返せないところまで来ていたということでしょうか。

疑問点8:結局、誰が事件の真犯人だったのか?

本作では、山中光男殺しの犯人を特定するための決定的な情報・証拠が敢えて提示されずぼかされています。そのため、犯行のシナリオや犯人が誰だったのか、複数の解釈が成り立つのです。そもそも犯人探しが本作のメインテーマではないのですが(笑)、敢えて推理してみることにします。

個人的には、映画冒頭で描かれたとおり、咲江の想いを忖度した三隅が、自らの「死刑」を覚悟した上で起こした単独での犯行と考えています。なぜなら、

・犯行時刻直後のタクシー車載カメラに写った仕草
・三隅から押収した被害者の財布にガソリン臭がした
・几帳面な三隅は、事件前に身辺を整理している
・咲江は平然と受験勉強をするなど日常生活を平然と送っている。もし殺害に直接関与していたなら、もっと動揺しているはず

といった、劇中の状況証拠に加え、監督自らが、インタビューで三隅が単独犯であることを示唆しているからです。

出てくるたびに違う人に見える――善人にも見えれば、悪人にも見えるし、誰かを救おうとしたようにも見えれば、裁こうとしたようにも見えるし、もしかすると(殺人を)やっていないようにも見える。そういう多面性のようなものを、役所さんなら表現できるだろう、と思っていました。でも、僕が思っていた以上に出てきたので、正直、僕も見ながら「これ……殺していないんじゃないかな……こんな脚本を書いたかな……」という瞬間が結構ありました。是枝裕和が思う「日本で一番うまい役者」役所広司と福山雅治の真剣勝負『三度目の殺人』【ロングインタビュー】 | FILMAGA(フィルマガ)

上記赤線部分は、逆に言うと、基本的には三隅の単独犯として脚本を書き、撮影を進めていた、という解釈ができます。

僕自身が非常に混沌とした森の中に入ってしまったんですよ。役所さんの芝居を見ながら『やっていないっていう流れもあるかあ……』『やっていないとしたら誰が?』『法廷で誰かが告白したらどうなるんだろう……』とか、それで書いたパターンも実はあるんですよ。三度目の殺人 インタビュー: 是枝裕和監督が投じた新たな一手、その真意に迫る (2) - 映画.com) 

別のインタビューでも、役所広司が最後に「殺人をやっていない」と供述を変えた迫真の演技を見て、「やってない」という脚本も書いてみた(けど採用しなかった)というふうに読むことができますよね。

疑問点9:映画タイトル「三度目の殺人」の意味とは?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

これも、複数の解釈が可能です。まず、1度目は「留萌強盗殺人事件」、2度目が山中光男殺し。ここまではいいとして、3度目は、死刑判決を受けた三隅高司のことを指していると解釈するのが一番自然でしょうか?司法関係者・被害者が法定内で利害調整した結果、確定した三隅の死刑。ならば、三隅は、自らの起こした2度の殺人事件について一連の裁判や取り調べなどを経て、司法のプロセスを通して合法的に「殺害された」と言っても言い過ぎではないでしょう。

また、重盛も、三隅の心理操作に心を侵食されて、「精神的に」殺されたとみなすこともできそうです。ラストシーンで十字路に立ち、途方に暮れているように見える重盛は、自らの心の中に生じた(三隅殺しに加担してしまったという)罪の意識を背負って今後どう生きていけばいいか、心が「空っぽの器」のような状態になっていたことでしょう。以後、勝利至上主義なドライな法廷戦術を続けられる精神状態になく、これ以上弁護士を続けられない心境になっていたとしたら、重盛もまた、三隅に精神的に殺されたと言ってもいいのかもしれません。

さらに、映画内では省略されましたが、ノベライズ版での設定では、三隅の父親は、三隅が高校生の時に、自宅の火事で焼死しています。殺害時、必ず【火】を使う三隅は、ひょっとしたら父を殺害している可能性もあります。すると、1度目は高校時代の父親殺し、2度目が留萌強盗殺人事件、3度目が山中光男殺し、と解釈することもできるのですよね。

このように、複数の解釈が可能な深遠なタイトルもまた、見事だったと思います。 

疑問点10:ラストシーンなど、映画内でたびたびあらわれた「十字架」の意味とは?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

映画内では、繰り返し、しつこいくらい「十字架」のモチーフが使われました。ざっくり見ても、以下のシーンで使われています。

・焼死した山中光男の犯行現場の燃え跡
・雪合戦の回想シーンで倒れ込んだ三隅と咲江の姿勢
・三隅が庭に作ったカナリアの墓
・咲江の立ち寄ったパン屋の名前「丸十ベーカリー」
・ラストシーンで重盛が見上げた電線の交差する形
・ラストシーンで重盛が立っていた十字路

7回目の接見シーンで、まるで三隅が神父のように見えたり、法廷の内外で弁護側が3人居並ぶシーンが「三位一体」で描かれるキリスト教的宗教画のモチーフに似ていたことから、この「十字架」も、基本的にはキリスト教的な隠喩として「罪」「裁き」を象徴していたのだろうと思われます。

三隅は、心の底では「誰かを裁く強い力を持ちたい」と願っていた反面、彼自身が生涯を通して司法によって「裁かれ続ける」存在であり続けました。自らの強い力へのあこがれが衝動的な殺人としての「裁き」につながり、そしてそんな自分が法廷で「裁かれる」、そんなダブルミーニングだったのかもしれません。

そして、三隅の一種の鏡像でもある重盛にとっては、この十字架は、法廷で三隅を救えなかったことにより背負ってしまった罪の意識や、これからの人生に対する心の迷いを表現していたのでしょうね。 

6.まとめ

映画を見終わった後、今年一番と言っていいほど考えさせられた作品でした。結局犯人が誰だったのか?という謎解きから、本作に散りばめられた様々なテーマ、映像表現に示されたメタファーなどを読み解くのが非常に楽しかった本作。映画を見ることの楽しさ、奥深さが味わえた傑作だったと思います。

ベネチア映画祭では惜しくも「金獅子賞」は逃してしまったようですが、作品としての完成度、役者陣の熱演など、名作にふさわしいクオリティでした。何度も繰り返し楽しめる素晴らしい映画です。おすすめ!

それではまた。
かるび

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【2018年3月2日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

6月3日にリリースされた、時代劇映画の新作「花戦さ」を見てきました。初代池坊専好と千利休の交流を軸に、華道・茶道・日本画など、戦国~安土桃山時代の「日本文化」に焦点を当てた異色の戦国エンターテイメント作品です。

「のぼうの城」以来、戦国時代作品では約5年ぶりの主役となる野村萬斎を筆頭に、豪華ベテランキャスト勢を揃えた、力の入った作品でした。やっぱり野村萬斎はこういう伝統文化の香りがただよう配役がフィットしますね。期待通りの楽しい作品に仕上がっていました!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「花戦さ」の基本情報

<「花戦さ」予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

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【監督】篠原哲雄(「起終点駅ターミナル」他)
【配給】東映
【時間】127分
【原作】鬼塚忠「花戦さ」

脚本に「女城主 直虎」森下桂子、音楽に大御所の久石譲を起用し、ゴージャスなベテラン俳優陣を揃えた本格的な時代劇映画となりました。にも関わらず、Twitterフォロワー数や予告動画再生回数はかなり寂しいものがあり、事前の認知度はかなり低め。

そのためか、公開直前になって、特別映像として約7分間の予告ロングバージョンも公開されました。これを見て予習しておけば、バッチリですね。

<「花戦さ」特別ロングバージョン予告>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

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2.映画「花いくさ」の 登場人物と豪華キャスト陣!

「殺陣」や「合戦』シーンが全くない、異色の時代劇エンタテイメント作品としては、異例とも言うべき豪華キャストが集結。時代劇の経験豊富なベテラン勢の共演が楽しめる充実の陣容となりました。

池坊専好(野村萬斎)
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「のぼうの城」「スキャナー」、そして本作「花戦さ」など、ここ数作は風変わりで個性的なキャラクターでの映画主演が続いています。本作では篠原監督が語るように、意識的に引きの映像を減らし、ひたすら野村萬斎の変幻自在な「顔芸」をアップで楽しめるように撮影されています。

豊臣秀吉(市川猿之助)
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芸名の通り「猿」こと悪役としての豊臣秀吉を熱演。むしろ公家的で上品すぎる顔立ちが合ってないというネットでの意見もありましたが、晩年の暴走した傍若無人な振る舞いはよく表現できていたと思います。

千利休(佐藤浩市)
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1989年公開映画「利休」で、かつて、実父・三國連太郎も演じた「千利休」年齢を重ねて白髪が目立ち始め、往年の三國連太郎に雰囲気が似てきましたね。また、野村萬斎との共演は2012年「のぼうの城」以来で、息もぴったりあっていました。

前田利家(佐々木蔵之介)f:id:hisatsugu79:20170602092627j:plain

2017年は「3月のライオン」「美しい星」「破門」と、立て続けに4本公開されて充実一途。時代劇は「大奥」「超高速!参勤交代」に続いて3度目の出演となりました。物分りの良い温厚な利家を好演していましたね。

吉右衛門(高橋克実)
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町衆をとりまとめる町人の世話役で、専好の幼馴染として抜擢されました。時代劇出演は念願だったそうです。ちなみに、劇中で髪の毛がなかったのは「地頭」だったようですね(笑)

石田三成(吉田栄作)
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今作では冷徹で野心家な「悪い」石田三成像が描かれました。町人の様子を密偵して、聞かれもしないのに事ある度に秀吉に密告するという・・・(笑)岡田准一主演で8月公開される「関ヶ原」では、不器用な悩める大将として描かれることもあり、作品によってテイストが一貫しないキャラですね。

織田信長(中井貴一)
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序盤でちょっとしか出番がないのに、ゴージャスに起用されました。(無駄遣い?)中井貴一は、大河ドラマ「武田信玄」の主演他、過去作で何度も時代劇ヒーローを演じていますが、「信長」役は初めてだったようです。

れん(森川葵)
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原作にはないオリジナルキャラクター。2015年頃にブレイクして以来、年間5作程度のコンスタントな映画出演が続いていますが、2017年秋は「先生!」「恋と嘘」など、いわゆる青春恋愛映画の主役級で起用されます。今作ではかなり登場人物の平均年齢が高い中、唯一の若手俳優でした(笑)

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3.結末までの簡単なあらすじ紹介

専好、信長のために花を立てる

1573年。応仁の乱以来、100年にわたって続いた戦乱の影響で、京の都は荒れ果て、人々の暮らしは疲弊していた。都の西方に位置する頂宝寺六角堂では、執行(※住職)池坊専栄の下、池坊専好は僧侶として花の修行に勤しむ毎日だった。専好は、毎日のように鴨川沿いに行き倒れた人に花を手向け、祈りを捧げることを日課にしていた。

ちょうど、尾張の織田信長から岐阜城で「花を立ててほしい」と依頼された専栄は、専好とその弟弟子、専武をを岐阜城にいる信長のもとに派遣した。

専好は、信長の天下統一に向けた武運を祈念して、「昇り龍」というテーマで松を中心に据えた大砂物を見事作り上げた。その制作風景は、当時既に織田信長の下で「茶頭」を務めていた千利休にも印象的なものだった。

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生け花が完成し、いよいよ信長の前で披露することになった。背後の屏風絵と重なった絶妙の構図、荒々しい松の様子に信長は見事!と褒め称えるのだった。その時だった。信長が扇子を鳴らした途端、左側の松が、根本から折れてしまったのだ。

全員が顔面蒼白になる中、必死で配下の羽柴秀吉がフォローして、その場は何とか丸く収まるのだった。信長は、より一層専好に華道に励むよう激励しつつ、褒美として六角堂へ多数の進物を寄進してその期待の大きさを形で示した。

千利休とはじめての茶会

それから12年後の天正13年。信長が本能寺に倒れた後、天下は豊臣秀吉のものとなった。戦乱の時代が終わり、活気を取り戻した京の都において、専好は相変わらず六角堂で生け花と向き合う毎日だった。

先代の池坊専栄から、正式に「執行」の地位を受け継ぎ、若干窮屈な思いもあった専好だったが、以前にも増して町人達に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。

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彼の意外な情報源は、六角堂によく遊びに来る近所の町人の子供、季(とき)だった。何か街で変わったことがあると、季がいつも教えてくれるのだ。

ある日、専好が細川家で生け花を奉納した帰りに立ち寄った河原で、いつものように行き倒れた死人を弔っていたら、一人の少女が河原に行き倒れていることに気づいた。花を手向け、読経を始めた時、その少女はピクリと動いた。生きていたのだ。

急ぎ少女を自宅に連れ帰り介抱したが、なかなかその少女は口を聞こうとしない。専好が少女と打ち解けるために蓮の花を持ち帰ると、少女は猛然と襖に水墨画を描き始めた。見事な腕前だった。

別の日、専好は山へ生け花用の花を探しに少女を連れて行った。その道中、少女が毒のある黄色い花を摘もうとしたので、専好は慌てて「その花は3つ食べると死んでしまう。触らない方が良い」と注意した。結局、専好は、その少女を「れん」と名付け、懇意にしている浄椿尼が住職を務める尼寺へと預けることにした。

それからしばらくしたある日、千利休が六角堂の専好を訪ねてきた。10年以上前に岐阜城で会って以来だったので、すっかり専好は利休のことを忘れていた。その頃、利休はすでに秀吉の茶頭として京で絶大な権威のある文化人として有名だった。付き合いの深い町人、吉右衛門が利休の凄さを説明したが、花以外のことには疎い専好は、ポカーンとしていた。

別の日、専好は利休の招きに応じて彼の草庵へ訪ねていった。見事な朝顔が咲き誇った門をくぐり、茶室へと入ると、そこには利休の目指した「わび茶」の世界が広がっていた。専好は利休の茶を頂くと、「執行」になって以来、張り詰めていた緊張が解けて、利休の前で泣いて弱音を吐くのだった。

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利休の草庵から帰ると、早速専好の作風に変化が現れた。より大胆に、独創的な生け花を作り出すようになったのだ。再び六角堂を訪ねた利休もまた、専好の生け花に触発され、さらに自らの「侘び茶」の精神を極めていった。しかし、それは却って金ピカ趣味な秀吉を怒らせる結果にもなった。利休は、秀吉の茶の湯は好きではなかったが、秀吉から「金の茶室」の製作を命じられると、しぶしぶ引き受けるのだった。

北野大茶会

それから2年後。尼寺に預けていたれんが突然いなくなったと浄椿尼から連絡があった。れんの腕前を見込んだ三条家から、彼女を御用絵師として召し抱えたいと声がかかったことを嫌がって、家を出たのだ。

その日、専好はちょうど訪問してきた利休から、ある依頼を受けた。北野大茶会という、近々秀吉が開催する、町人も自由に参加できる野点(のだて)のイベントで、利休のために花を活けてほしいという。

快諾した専好は、早速準備のため山で花を摘みに行ったが、その時に偶然見つけた洞穴の中に、れんが隠れていた。専好は、れんになぜ出奔したのかその理由を聞いたが、それはれんの出生の秘密に関わるものだった。れんは天才絵師の父「むじんさい」(漢字名称不明)の実の娘だったが、父、「むじんさい」が秀吉の逆鱗に触れて処刑されてから、れん自身も身を隠す必要があったのだ。

専好は、れんの意向を汲んで、彼女のために山中の空き家を確保し、そこに住まわせることにした。

北野大茶会の日がやってきた。その日は、秀吉本人が金の茶室で町民たちにも茶を振る舞ったが、人々の人気は、専好が立てた華麗な生け花をバックに、気さくに振る舞う利休に集中した。これを見て、面白くなかった秀吉は、翌日以降の大茶会を急遽中止にしたのだった。

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茶会が終わり、人がいなくなった夕暮れに吉右衛門と専好、利休の3人で野点を楽しんだ専好は、なぜ利休は黒茶碗を使うのか聞いてみた。利休は、金色も赤も緑も黒も全部好きだが、今は「懐が深い」から、黒が一番好きだと笑って答えた。

翌日、利休は秀吉の茶室に招かれたが、秀吉の嫌いな「黒茶碗」を使ったことを咎められ、利休は秀吉から足蹴にされる屈辱的な扱いを受けた。利休と秀吉の間柄は急速に冷え込んでいった。

利休の自害

それから3年後。秀吉は天下を手中に収め、今や彼に真正面から意見を言える人間は誰もいなかった。秀吉は、ますます傲慢になっていった。

ある日、大徳寺の門をくぐる際に、新たに大徳寺が設置した門上の千利休像に気づいた秀吉側近の石田三成は、秀吉に「不敬」であると告げ口した。利休は、秀吉から詫びを入れるよう命じたが、利休は決して謝ろうとしなかった。大徳寺の像は、利休の預かり知らぬところで彼らが勝手に設置したものだからだ。

北野大茶会で専好と知り合いになっていた前田利家は、利休と秀吉の間を仲介し、何とか彼らの亀裂を元に戻そうと必死だった。利家は、秀吉に決して詫びを入れようとしない利休の説得を専好に託した。

専好は、アポなしで利休を訪ねたが、利休は快く迎えてくれた。茶を立てながら、専好は利休を必死で説得した。しかし、時既に遅く、利休には切腹が命じられた後だった。利休は、形見として専好に愛用の「黒茶碗」を託したのだった。

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そして、利休は専好の活けた梅の花を最後に愛でて、切腹して果てた。利休の死体は、鴨川の三条河原に晒された。

かけがえのない友人を失った専好は、精神的なダメージからしばらく生け花を立てられない日々が続いていた。見かねた吉右衛門は、利休の四十九日法要に合わせ、六角堂周辺の町民から花を集めさせた。

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また、どこからともなくれんが現れ、満開の梅がついた枝を六角堂に届けに来た。すこし時期外れだったが、れんが山中を必死に探しあてた1本だった。そんなれんの様子を、遠目からじっと見ていた石田三成だった。

そして、皆が見ている中、専好は町民たちと一緒に利休の四十九日法要を執り行い、六角堂の境内を花で埋め尽くした。

聚楽第に帰った三成は、池坊専好が千利休の四十九日法要を手厚く行ったことや、秀吉が以前処罰した絵師の娘が六角堂に匿われていることを報告した。しかし、秀吉は不機嫌そうに「利休のことは捨て置け!」と吐き捨てた。

専好、秀吉と対決する

それから半年後、天正19年。専好の回りには平穏な日々が戻ってきていたが、秀吉の息子、鶴松が2歳で夭逝したことが京の街中で噂になっていた。利休の呪いが囁かれ、町中には秀吉を揶揄する落首も現れた。秀吉は、「おのれ利休!」と憤っていた。

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秀吉は、利休が生前仲良くしていた専好についても、北野大茶会で恥をかかされたことを根に持っており、良い感情を抱いていなかった。鶴松の死をきっかけに、秀吉は専好の周囲の人間を捕らえはじめた。

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落首を置いた咎でトメ吉が、秀吉の悪口を言った罪で、季までもが理不尽な理由で打ち首にされた。そして、急に不穏になった周囲を探ろうとした吉右衛門も捕らえられ、打ち首となった。さらに、隠れ家にいたれんも見つかり、投獄されてしまった。れんは、隠し持っていた毒薬を飲んで、まもなく自害した。

あまりの仕打ちに、専好は覚悟を決め、秀吉と直接「生け花」を通じて対決し、死を賭して抗議する決意を固めた。専好は、近日中に秀吉が前田利家の邸宅を訪問する情報をつかむと、利家に直訴し、花を奉納させてもらう約束を取り付けた。

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専好は、弟子たちを前に「これは花の戦や」と意気込んだ。専好は、弟子たちを連れて松の大砂物を完成させると、最後は自分自身で仕上げた。

そして、いよいよ秀吉が前田家の大広間にやってきた。秀吉は、見事な生け花に目を奪われていたが、専好が生け花の後方壁際に「猿」の絵を開き、利休の形見「黒茶碗」を取り出すと、秀吉の表情は怒りに変わった。

しかし、専好は一歩も引かず、生け花を通して「美の形は一つだけではない。人それぞれの多様な解釈を認めるべきである」と秀吉をいさめるのだった。いつもなら即刻斬り捨てるところだったが、秀吉は専好の前に座り込み、涙を流して自らの過ちを認めたのだった。と、その時、大砂物の左の枝が根本から折れてしまうアクシデントに見舞われた。専好は、倒れないように自ら大木の下で支えになった。その様子は非常におかしく、場の雰囲気は一気になごみ、笑いに包まれたのだった。

秀吉との対決が終わると、今度こそ六角堂と専好に平穏な日々がやってきた。その日も専好は河原で見知らぬ亡骸を丁寧に葬っていたが、ふとれんのことを思い出した専好は、れんの弔いも行おうとした。

紫の花を挿して一心不乱に祈っていた専好だが、次の瞬間、花はいつぞやのことか、れんに「毒花」だと教えた黄色い花に変わっていた。

ふと後ろを見るとれんが微笑んで立っていた。れんは、実際に投獄されたけれど、その後仮死状態で事件を迎え、その後なんとか脱獄して帰ることができたのだという。

二人は、久々に一緒に鴨川をいつまでも見つめているのだった。

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4.映画「花戦さ」のみどころ、感想・評価など

画期的!戦わない戦国時代劇エンタテイメントだった!

池坊専好の「剣」は一輪の生け花!!f:id:hisatsugu79:20170604163030j:plain

戦国時代モノ時代劇と言えば、やっぱり派手な合戦や国盗り物語が中心になりますよね。最近はあらかたメジャーな戦国大名ものはやり尽くされて、よりマイナーな地方大名に焦点を当てたり、忍者・海賊といったアウトローな集団を取り上げたりする作品が増えている印象。

そんな中、メジャー配給の邦画では恐らく初めてとなる「華道」をテーマとして取り上げた作品が登場しました。リアルな戦闘描写が売りでもなく、権謀術数を使った政治モノでもなく、「いけ花」という芸術作品の持つ力で権力者と対決するというシナリオは、非常に画期的で新しかったと思います。

野村萬斎の多彩な表情はみごたえ十分!

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過去作「のぼうの城」「スキャナー」など、ここ数作は、奇人・変人系の主役を演じる事が多い野村萬斎ですが、今作で主役を務めた池坊専好も、やはり(どちらかと言えば)エキセントリックな人物像。

特に、ずーっとアップで撮られた野村萬斎のくるくる替わる表情は見どころ満載。ネットでは評価が分かれているようですが、僕は肯定派です。狂言師として鍛えた見事な「顔芸」が発揮されていましたね。

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ただ、若干やりすぎな表情もあったりして、たまに「美川憲一のモノマネをしているコロッケ」に見えるシーンもちらほら(苦笑)野村萬斎のクセだと思うのですが、彼の演技って、大きく表情を変える時、すこしタメがあるんですよね。(今から表情変えるぞ!、、みたいな)その時の所作や雰囲気が、どことなくコロッケに似てるんですよね~。

茶道・華道・日本画と、日本文化の豊かさを実感できる映画!

エンドロールでこれでもか!といわんばかりに「池坊」派の生け花関係者のクレジットが続く通り、映画内で用意された花は、全て「池坊」のプロ達が用意した秀作ばかり。

特に、信長と秀吉のために活けた「大砂物」の制作シーンは、目からウロコでした。巨大な枝は工作のようにジョイント部分を丁寧に作られていたり、まるでアートの工房のように弟子たちと数名がかりで作品につきっきりになっていたりと、みどころ満載。

また、茶道でも、全部作り物ではありましたが、「金の茶室」「黒楽茶碗」、利休の「草庵」など、極力史実に沿った形で忠実に再現されていました。

さらに、驚きだったのはれんがプロの絵師だったという設定。

劇中で、れんが屏風や洞窟に描いた前衛的な作品は、小松美羽というプロの現代日本画家が製作しています。若干32才の若手芸術家ですが、独特のパワーを持った前衛的な日本画を描く作家です。

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(小松美羽オフィシャルHPより)

特に、あの屏風絵はワケあり隠遁生活で溜め込んだエネルギーが、作品に一気に注ぎ込まれたようなパワフルなアート作品になっていましたね。蓮の花の本質を大胆に切り取って、素早い筆さばきの気迫満点な作品でした。個展で飾ってくれたら一度見てみたい!

れんが襖に描いた蓮の水墨画(小松美羽)f:id:hisatsugu79:20170604161641j:plain
(映画パンフレットより)

また、秀吉の前で大砂物の背景として使用した猿の日本画は、同時代の天才絵師、長谷川等伯を模した作品でしたね。長谷川等伯より明らかにヘタだったけど・・・/笑)画面を見ながら「おお!等伯キター!」と一人ニヤニヤしてしまいました(笑)

実際に、ちょっと見比べてみましょう。

映画で使われた猿の水墨画f:id:hisatsugu79:20170604161824j:plain
(映画「花戦さ」オフィシャルブックより)

長谷川等伯「枯木猿猴図」(一部)
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(京都国立博物館HPより)

どうでしょうか?結構似てませんか?戦国末期~桃山時代の作家で、他には海北友松、狩野永徳なども同じようなモチーフがありますが、長谷川等伯が一番似ていると思います!

芸術作品で権力者に戦いを挑むアーティストのかっこよさ

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物語終盤で、専好の周囲が次々と殺されていったのは、直接的には秀吉の嫉妬心によるものではありますが、政治的には政権安定化のため「不満分子」を事前に摘み取るという意味合いもあったと思われます。

古今東西、世界の権力者達はこうした芸術家達の持つ潜在的な「パワー」を恐れ、たびたび言論や表現の自由に制限をかけますが、これに対してギリギリのところで戦いを挑むアーティストはやっぱりかっこいいですね。

暴力には暴力で対抗するのではなく、あくまで自らが信じる「花」の持つ力を信じて、秀吉に強力なメッセージを送りたいという強い決意は心打たれました。時に芸術の力は、数十万人の軍隊の力にも匹敵するパワーがあるという好例でしたね。 ラストは溜飲の下がる展開でした。

5.映画「花戦さ」の7つの疑問点~伏線や設定を徹底考察!~

映画の設定や伏線の中で、ややわかりにくいポイントがいくつかありました。以下、7つの疑問点に絞って考察・解説してみたいと思います。

疑問点1:なぜ池坊専好は人の名前を覚えられなかったのか?

史実では実際にそうだったかはもちろんわかりませんが、本作のシナリオライター、森下桂子氏によると、「専好は、華道のことで頭が一杯で、花の名前は完璧に覚えられる分、花以外の全ての物事については頭に入ってくる余地がない」というキャラクターとして描かれています。つまり、早い話が重度の「花オタク」だったという設定ですね。ユニークなキャラ設定が光りました。

疑問点2:れんの父「むじんさい」とは一体誰だったのか?

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公式ガイドやパンフレットに一切言及はありませんが、ストーリー後半で秀吉や三成が口にしていた「むじんさい」(漢字不明)という高名な絵師の子供だったと思われます。「むじんさい」は生前、秀吉の命を受けて一連の猿をモチーフとした水墨画を制作しましたが、それを見た豊臣秀吉が激怒し、「むじんさい」を殺害しました。

なお、「むじんさい」とはもちろん架空の映画内オリジナルキャラですが、ラストシーンで描かれた猿の水墨画の作風から考えると、戦国時代末期~安土桃山時代に大活躍した天才絵師、長谷川等伯をモデルにしていると思われます。(ですが、調べた限り等伯の娘が実際に絵師として活躍したという記録はありません。

疑問点3:れんはなぜ鴨川で行き倒れていたのか?また、浄椿尼の尼寺から逃げ出したのか?

上記の通り、実父「むじんさい」が罪人となったことから、自らも命を狙われ、逃亡生活をするうちに鴨川で行き倒れてしまったのでしょう。だから、浄椿尼の元で暮らす中で、貴族の御用絵師への口があっても、自らの出自がバレてしまう恐れがあったため、逃げるしかなかったのでしょう。

疑問点4:北野大茶会はなぜ2日目から中止になったのか?

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当初、秀吉が北野天満宮で開催した大茶会は、10日間連続で開かれる予定でした。しかし、その初日、「千利休の人気ぶりに嫉妬」した秀吉は、きまぐれに2日目以降の予定を中止してしまいます。

実は、実際の史実上でも、1583年の北野大茶会は2日目以降中止になっているのです。これには、もちろん秀吉の癇癪・気まぐれ説もありますが、開催したもののあまり盛り上がらなかった為、だらだら続けることは却って秀吉の権威を落としかねないので、政治的な判断から2日目以降がキャンセルされたという説もあります。

疑問点5:千利休はなぜ黒茶碗を好んで使ったのか?この茶碗は誰が作ったのか?

利休は、1580年代後半から、独自の美的感覚に基づいた「わび茶」を完成させていきます。静謐さや質素さを第一とした草庵の中で、わび茶の感覚に合う茶碗は「黒茶碗」であると考え至りました。そこで、当時、京で名高い陶芸家だった楽焼の創始者、「長次郎」と、納得が行くまで「黒楽茶碗」を製作しました。

初代長次郎 黒楽茶碗 銘『大黒』
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(東京国立近代美術館 オフィシャルHPより)

長次郎の制作した黒楽茶碗は、現代でも数点良好な状態で残されていますが、今ではその歴史的・芸術的な価値から、値段がつかないくらい貴重な品とされています。

本作では、豪快に秀吉が投げ捨てるシーンもあって(笑)、もちろん模造品が使われています。しかし、2013年に上映された市川海老蔵主演の映画「利休にたずねよ」では、映画内で実際に長次郎の450年前の本物の黒楽茶碗(重要文化財)が使われたこともあります。

疑問点6:なぜ前田利家が利休と秀吉の間を仲介したのか?

前田利家は、織田家に仕え始めた尾張の足軽時代からの秀吉の盟友であり、かつ千利休の「利休七哲」と言われた高弟でもありました。また、彼は温和な性格としても知られていました。利休と秀吉の間を取り持つのは、彼が一番の適任であったのは間違いないですね。

疑問点7:そもそも「花戦さ」とは、実際にあった実話だったのか?

専好と利休の間に交流があったかどうか、という点は、直接の資料は残っていないものの、その関係は非常に密接だったという説があります。専好は利休の「わび茶」の精神性を自らの立花に活かす一方、利休は花を専好に習っており、彼らは互いの専門分野を学び合い、自らの芸術性を高めていったとされます。

また、専好が前田家に出入りして、専好の披露した大作を秀吉が見た、という記録は、「文禄三年前田亭御成記」という書物に残っています。作品についても「池坊一代之出来物」と激賞されていることから、素晴らしい出来だったようですね。ただし、専好が秀吉に対して利休の仇討ちとして”花戦さ”を仕掛けたかどうかまでは、記録からは読み取れません。(少なくとも専好は秀吉に殺されてはいないのは確か)

6.まとめ

「芸術の力」を信じ、時の絶対的権力者と「花」一本でわたりあうという、異色の戦国時代劇ストーリーは、そのテーマも斬新で面白かったし、日本固有の芸術・文化を知るきっかけにもなる、知的エンタテイメントでもありました。野村萬斎の演技や豪華な顔ぶれの俳優陣も良かったです。是非映画館でチェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画DVD「花戦さ」が発売中!

現在、Amazonでも有料配信中ですが、映画内でいけられた様々な生け花を永久保存版として楽しみたい方は、是非DVDの購入を検討してみてくださいね。Amazonだと、定価5,076円→4,027円(1,049円OFF)とお買い得になっています!(※2018年3月1日時点)

原作小説「花戦さ」

鬼塚忠による原作小説。微妙に映画版と登場人物の設定やストーリーが違いますが、一番の違いは、専好のキャラクターの違いかもしれません。小説版のほうがより野心的で上昇志向の強いキャラクターとして描かれています。若き専好が清州城で利休と最初に出会った時、その若さゆえに生け花作品を通してにじみ出た「功名心」を見事に見透かされてしまうシーンが個人的には気に入っています。

映画「花戦さ」オフィシャルブック

映画パンフレットより、さらに内容を掘り下げて総力特集したオフィシャルブック。映画館でパンフレットを購入するなら、こちらを先に購入しても良いかもしれません。主要キャストや製作者へのインタビュー、ロケ地紹介、茶道や華道の歴史、映画内で使用した小道具や生け花など、多彩なコンテンツが楽しめます。

別冊歴史REAL池坊専好

池坊専好の生涯や、生け花の歴史など、歴史的な観点から特集した1冊。古代から続く華道家元池坊の歴史とともに、初代池坊専好の事績・生涯を詳細に解説。歴史と伝統に裏打ちされた「いけばな」の哲学から、映画『花戦さ』の見どころ徹底紹介まで、充実の一冊です。オススメ!

【ネタバレ有】映画「関ヶ原」 感想・考察と11の疑問点を徹底解説!/予習必須!写実的で面白いけど、難解さもある映画でした!

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【2018年3月2日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

2017年に夏休みは、大型時代劇映画が、「忍びの国」「関ヶ原」と2本上映されました。時代劇映画の退潮がハッキリしてきた中、2017年の夏は久々に邦画大作で2本も時代劇ジャンルがヒットしました。

本作は歴史小説のレジェンド、司馬遼太郎の代表作「関ヶ原」を原作とした、戦国大河ドラマです。過去、NHK大河ドラマや数々の展覧会、時代劇小説等で何度も取り上げられ、人気コンテンツとなってきた、日本の歴史を変えたといってもいい「関ヶ原の戦い」に、もう一度真正面から「映画作品として」取り組んだ意欲作でした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「関ヶ原」の予告動画・基本情報

▶映画「関ヶ原」予告動画
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【監督】原田眞人(「金融腐食列島呪縛」「日本の一番長い日」他)
【配給】東宝
【時間】149分
【原作】司馬遼太郎「関ヶ原」

本作で監督を務めたのは史実モノをベースとしたドキュメンタリータッチの群像劇を得意とする原田眞人監督。今回が時代劇初挑戦となりますが、なんと映画化が実現するまで、本作の構想に25年をかけたそうです。

その間、脚本も何度も変わりました。想定していた主人公も、構想当初の徳川家康から、小早川秀秋に変わり、最終的には本作の通り石田三成に変わったそうです。「義を重んじる三成の魅力に、60歳を超えてから気づいた」とのこと。また、意外なことに彼が関ヶ原を撮りたい!と強く思うようになったのは、原田監督自身が出演したハリウッド映画「ラストサムライ」がきっかけだったのだとか。

原田眞人監督自身、様々な歴史資料を当たる中、最終的に映画化のベースとしたのは、歴史小説の大御所、司馬遼太郎版の小説「関ヶ原」でした。しかし、司馬遼太郎の歴史観に依拠しつつも、後半では原田監督自身の歴史解釈も織り込まれ、主役たちの人物像は新しいタッチで描かれています。

ただし、本作を見る前には、少しでもいいので戦国時代や「関ヶ原の戦い」に関する事前知識を仕入れておいたほうが良いでしょう。史実に忠実に描かれてはいますが、初心者にわかりやすいテロップや説明的なナレーションが最小限に抑えられ、ぼやっとしてると何が起こっているのか理解できないまま進んでいくからです。予習・復習には、公式サイトで用意されたもう一つの解説動画が理解を助けてくれます。是非チェックしてみて下さい!

▶映画「関ヶ原」公式解説動画
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2.映画「関ヶ原」人物相関図・主要登場人物・キャスト

人物相関図も絶対押さえておきたい!

行く前に是非少しでもいいので眺めておきたいのが、この人物相関図。映画本編はかなりのハイペースな上、字幕等を援用した説明もほとんどありません。特に、脇役陣については、気がついたら誰が誰なのかわからなくなります^_^;  

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主要登場人物

石田三成(岡田准一)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
本作の主役。従来の「小賢しい小役人」的なイメージで描かれがちだった三成像が一新されました。誰もが利害関係で動いた戦国の世にありながら、一人不器用ながら「義」を重んじる生き方を貫いた新しい三成を演じました。(若干いい人過ぎたような気も・・・)「海賊とよばれた男」「追憶」など、重厚な人間ドラマでの起用が続き、ますますハクがついてきましたね。

徳川家康(役所広司)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
原田組といえば、役所広司。これまで数々の原田監督作品で主演を務めてきましたが、今作では、特に相性の良さがばっちり生きた素晴らしい演技。老獪で狡猾、権力闘争に長けた古狸のような「悪役」としての家康像をきっちり演じています。風呂場で「今日の伽は誰にするかのうフフフ」と笑うシーンが個人的には一番好き(笑)

初芽(有村架純)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
戦国歴史モノは女性成分がどうしても足りなくなる中、ヒロイン役の初芽は、原作の武家の「間者」という設定が変更されて、伊賀「忍び」としてフィールドでのアクションシーンもこなすアクティブな役柄に。ちょうどNHK連ドラ「ひよっこ」の役作りで増量中だったのか(?)、いつにも増してアップだと童顔が目立ち、忍者にしては可愛すぎるような感じはありました。

小早川秀秋(東出昌大)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
「関ヶ原の戦い」では、合戦の帰趨を決定づけた重要人物として位置づけられる小早川秀秋。中途半端な裏切り者、頭の弱いお坊ちゃまキャラとして、大抵の物語中ではダメキャラとして描かれますが、今作では少し描かれ方が変わっていました。東出昌大といえば、キャラとの相性がハッキリ出てしまう棒気味の演技が特徴ですが、今回は映画「聖の青春」に引き続き、絶妙にフィットしていました。

島左近(平岳大)
f:id:hisatsugu79:20170831124311j:plain
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
最近ますます父・平幹二朗に似てきた感のある平岳大が、特殊メイクを施して猛将・島左近を演じました。眼光の鋭さ、立ち振舞いの威圧感が伝わる圧巻の風格。「真田丸」の武田勝頼に引き続き、素晴らしい演技でした。

3.中盤までの簡単なあらすじ

 戦国時代末期。ストーリーは、石田三成が、後に「本能寺の変」で謀反に倒れた織田信長に変わって天下統一を成し遂げる豊臣秀吉と最初に知り合う場面から始まる。三成が働く寺に、偶然に鷹狩りの休憩で訪れた秀吉。秀吉は、茶のもてなしにおける三成の気配りを高く評価し、彼を家来に取り立てた。

それ以来、三成は秀吉の懐刀として活躍を続け、豊臣政権随一の行政官として出世を果たす。一方、有能だが融通の利かない頑固な文官として、武士たちの間で好かれてはいなかった。

1595年、秀吉に側室淀君との間に跡継ぎとして秀頼が生まれると、秀吉は跡継ぎとして予定していた養子である関白秀次を謀反の罪で切腹させ、その妻子達も連座させ、処刑した。

京の六条河原で秀次の妻子たちの処刑に立ち会った三成は、この時生涯に渡り大切な二人の人物と出会う。一人は、最上家の駒姫お付きの忍び、初芽だった。もう一人は、島左近だった。たまたま処刑場に姿を見せた左近を追いかけ、三顧の礼で迎え、第一の家臣として取り立てた。

その後、朝鮮半島出兵を巡って石田三成ら文官と、福島正則ら武断派たちの対立が激化していった。1598年、秀吉と、豊臣政権でNo.2だった前田利家が相次いで死去すると、邪魔者がいなくなった徳川家康が野心をむき出しにして豊臣政権を壟断し始める。

家康と対立した三成は、様々な対抗措置を打ち出すも、家康に近い武断派七人衆は、直接三成に対して軍事行動を起こした。そんな中、盟友・大谷吉継の元へ使いに出した初芽は、その帰り道、家康側の忍びに襲撃され、三成の元に帰れなくなった。

三成は、この危機をライバルである家康の仲裁により切り抜けると、故郷の佐和山城へと蟄居し、遠方の上杉家や毛利家と計り、家康と直接対決する天下を二分する大戦の計画を始めた。

そして、1600年夏。家康が上杉征伐に乗り出し、東北へと兵を進めたそのスキをついて、三成は京都・伏見で兵を上げた。その知らせを受けた家康は、上杉征伐を中止し、急ぎ引き返す。そして、三成と家康は、互いの盟友達を引き連れて、1600年9月15日、両軍合わせて15万人を超える東西両陣営がついに関ヶ原の地で激突するのだったー。

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4.映画「関ヶ原」の感想・評価

これは忍者映画なのか?主役同様にクローズアップされた忍びたちの活躍

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

本作「関が原」原田監督が想定した主人公は、石田三成、徳川家康と、彼らを取り巻く重要人物たちです。しかし、ユニークなのは、彼らの周辺で暗躍する忍者たちがストーリーの中で大きくクローズアップされたこと。原作にはない特色です。

戦いが始まる前段階の情報戦、忍者同士が情報交換する「忍び市」の存在、忍者同士の戦い、そして戦闘が始まってからも伝令・物見から暗殺を企図するシーンまで、忍者の動きが徹底的に掘り下げられて描かれました。さらに、三成・家康ともにお気に入りの女忍者を側に置き、側女どころか、側室のような扱いで厚遇します。

この忍者偏重描写は、明らかに全体の尺を圧迫しています。これにより「伏見城の戦い」や「岐阜城攻防戦」「小山評定」など、「関が原の戦い」で節目となる重要シーンがカットされざるを得なくなったと思われます。また、主要な戦国武将についての人物描写も限られたものにならざるを得ませんでした。

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七人衆も黒田・清正・福島以外は描写する余裕なし
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

今回、大幅に時間を割いて忍者を大きくクローズアップさせたことで否応なく気付かされるのは、今も昔も戦争における戦略・戦術を支えるのは「情報力」だったということ。

電話やネットがない戦国時代は、飛脚や忍びの機動力が、大名たちの情報戦を支えました。例えば、家康は「関が原の戦い」の前に、実に120通以上の密書を書き、忍びや飛脚を使って各大名へ届けさせたといいます。

特に、「関ヶ原の戦い」は単独の大名vs大名の戦いではありません。諸大名がバラバラで指揮命令系統を整えるのが難しい「連合軍」同士の戦いでした。だからこそ、情報戦を制することが何よりも肝だったはずです。家康率いる東軍が、情報戦を制した結果、島津や毛利の動きを抑え、小早川を内通させることに成功して戦略レベルで揺るがぬ勝利を手にすることができたのです。

そういう意味で、僕個人としては「情報」の運び手としての裏方である「忍者」を大きくクローズアップさせた本作の取り組みは、評価されてしかるべきではないかな、と思います。

歴史上級者向けの不親切設計がたまらない~不明瞭なセリフ、説明不足なストーリー

しかし、忍者以外の部分で、日本の歴史事実にそれほど詳しくない映画ファンにとっては、かなり不親切な作りになっていたのは残念でした。過去作「金融腐食列島呪縛」などでもやはり同様の説明不足感を感じますが、原田監督は鑑賞者の歴史リテラシーに期待しすぎなんじゃないでしょうか。すでに日本の歴史について教養として十分身についている熟年者層はともかく、若い人向けにはこれではちょっと足りない気もします。

前哨戦から含めると数年間にわたる歴史イベントを、わずか2時間あまりで凝縮するため、どうしても短いカット割りで画面がどんどん切り替わるスピーディな作りになるのに、ナレーションやテロップはほとんどありません。

だから、各登場人物のセリフからそれぞれの人間関係、起こっているイベントの意味を読み取るしかないのですが、そのセリフが全然聞き取れないのです。早口な上、他の音と被っていて、聞き取りが難しい箇所が多すぎるのです。

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合戦の詳細描写は写実的で迫力があったが・・・
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

また、合戦が始まってからの描写も今ひとつわかりづらかったです。合戦での戦闘は写実的で素晴らしいのですが、肝心の合戦の全体像が良くわかりません。どの部隊が何をしているのか?全く理解できないのです。

もちろん、シーンを細切れに撮影し、編集でつなげているので引きの大画面を映し出すのは難しいとは思うのですが、せめて、戦闘開始前~終了までの間、局面の節目節目で「陣地図」を入れてほしかったかなと。マニアックな事を言うなら、東軍の背後、南宮山に配置された毛利秀元、吉川広家、安国寺恵瓊の存在を全部省略するのはいかがなものでしょうか?

僕も、ある程度予習をした上で本作に臨んだのですが、1回目は理解が追いつかず意味がわからない箇所が数か所ありました、悔しいので2度目を見てようやくストーリー詳細・各イベントの内容を理解するに至りましたが、それでも登場人物たちが何を言っているのかわからないシーンはかなり残りました。字幕上映が欲しかった・・・

「忍者」やトリビアを丁寧に描きすぎて、重要なシーンが抜け落ちた

また、上述した通り、「忍者」や監督好みのトリビア・逸話を盛り込みすぎて、「関が原の戦い」の本質を理解するために必要なイベントが抜け落ちてしまったのも残念でした。「忍者」にフォーカスするなら、それ以外のトリビアは思い切って捨てたほうがよかったかと。

後半で持て余してしまった初芽の冗長な描写や、物語にほぼ関係ない柳生・島のエピソード、福島正則・加藤清正の仲直り場面など、悪くはないんですが、それはあとでDVDを出した時コンプリート・エディションの秘蔵シーンとして取っておけば良かったんじゃない?と思うようなシーンが多かったです。

家康と三成の人間観の違いの対比は明確で面白かった

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悪役が最高にハマっていた役所広司の名演
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

このように、全体の構成やストーリーテリングにはやや不満点が多かったですが、家康と三成の対比が鮮やかに描かれたのは良かったです。「義」VS「利」、「理想」VS「現実」、「中小企業」VS「大企業」など、様々な言葉で比喩的に対比することができますが、「全国統一」という大目的に対する二人の武将の対照的なアプローチがわかりやすく描かれました。

例えば、人材に対する考え方。三成は初芽の志に惹かれ、最後まで身分の違いも関係なく愛そうとします。まさに理想やロマンに生きる男ですよね。しかし、家康は、自らの身に危険が及ぶと、かわいがって側に置いていた側女の阿茶ごと暗殺者を斬り殺して自らの身の安全を図ります。家康にとって部下はあくまで目的達成のための駒にすぎず、このあたりの割り切り方は、合理的で現実主義的です。

しかし、二人の志はあくまで「全国統一を成し遂げて戦乱の世を終わらせること」であり、共通していました。それは、映画冒頭とラストで、二人ともが戦場の道祖神に対して手を合わせ、祈りを捧げていたシーンからわかります。(道祖神は、いわば「平和」のメタファーとして機能している)

ただ、そのやり方が見事に違っていたのですよね。

大義や理念を掲げ、人心を結集させようとした理想主義的な三成に対し、利害関係をベースに人間関係の機微を最重要視した現実主義的な家康。僕は、どちらにも賞賛すべき点、学ぶべき点があると感じました。

「関が原」では家康が圧倒的な勝利を収めましたが、僕自身が感じたのは、おそらく三成と家康のちょうど中庸あたりがベストな解なのではないかということ。三成と家康のそれぞれの良いところを学びとして、ビジネスや実生活に活かしていけば良いのではないかなと思います。

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5.映画「関ヶ原」をより深く理解するための11のポイント~伏線・設定を徹底考察!~

ポイント1:映画のナレーション(語り手)は誰をイメージしているのか

映画の冒頭のナレーションは、映画「関ヶ原」の原作者である司馬遼太郎が、実際に小説「関ヶ原」上巻の語りだしで書いた一節そのものです。小説の地の文に、作者の感想をたんたんと書き綴るのは司馬遼太郎作品の特徴です。

「いま、関ヶ原という、とほうもない人間喜劇もしくは「悲劇」をかくにあたって、どこから手をつけてよいものか、ぼんやり苦慮していると、私の少年のころのこういう情景が、昼寝の夢のようにうかびあがった。ヘンリー・ミラーは、「いま君はなにか思っている。その思いついたところから書き出すとよい」

三成と秀吉の場面に切り替わる前、寺で老人と話す少年のシーンがありましたが、この少年は司馬遼太郎を表していたのですね。

ポイント2:三成と秀吉の出会いのエピソード「三献の茶」とは?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画冒頭で、秀吉39歳、三成15歳の時、鷹狩の帰りに観音寺を訪れ、茶を所望した秀吉に対して、三成は「一杯目はぬるい茶をたっぷり、二杯目は少し熱い茶を半分くらい、三杯目は熱い茶を少しだけ」献上しました。

三成の利発さと気配りに感服した秀吉は、その場で三成を侍に取り立てたとされます。三成と秀吉に纏わるこのエピソードを、通称「三献の茶」といいます。これを記載した歴史資料がいずれも江戸期のものであるから、後世の創作という分析もありますね。

ポイント3:島左近と柳生一族の関係性は?

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家康の前で武芸を披露する柳生石舟斎の息子たち
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画内で島左近と柳生石舟斎が雨が降る中、粗末な草庵で対面するシーンがありました。彼らは、元々筒井家に仕えた大和国の同士であり、両家は家族ぐるみで付き合いがありました。例えば、島左近の娘は柳生利厳と結婚しています。

このシーンでは、島左近が石田三成についた報告をしたことで、柳生石舟斎は二人の息子を徳川家へ仕えさせる決心を固めます。最終的に息子の一人、4男宗章は小早川秀秋へ仕えることになりました。

これは、同じ主君に仕えた同士や、親兄弟が東西陣営に分かれて戦った戦国時代を象徴するようなエピソードでしたね。

ポイント4:初芽、蛇白、赤耳のそれぞれの人物詳細は?

映画中では、戦国時代の諜報機関として重宝された「伊賀忍者」が大きくクローズアップされました。本作で、特に描かれた初芽、蛇白、赤耳はすべて架空の創作キャラですが、それぞれの出自や顛末をまとめておきますね。

初芽
父亡き後、諸地域を流浪した後、母、姉と3人で最上家へ仕える。東国一の美女と名高かった駒姫が、当時の関白だった豊臣秀次の側室になる直前に秀次が失脚。連座して処刑された六条河原で立ち回りを演じ、その時三成に拾われる。三成に恋心を抱く中、使いに出た越前敦賀の大谷家からの帰りに、赤耳たちに襲われる。

蛇白
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
女忍者として家康に仕える。茶道や政治にも長け、家康に見初められた結果、「阿茶」という名前を賜る。関が原の戦いでは伝令役を務めたが、家康を暗殺しようとした赤耳と戦う中、後ろから赤耳と一緒に家康に斬り殺された。

赤耳
一里先の会話も聞き取れるという特技を持ち、越後の上杉家に仕えていた。老齢になり寒さが応えるため、上京。京で家康に仕えた後、蛇白との一件に懲りて、反家康陣営である石田家に仕えることになった。最後は家康を暗殺しようとするが、蛇白に阻まれる。

ポイント5:初芽はストーリー後半、何をしていたのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

1599年、越前敦賀の大谷吉継への密使として面会を終えた後、初芽は、蛇白の命で山伏の一行に扮した赤耳に襲撃されます。顔と足を斬られ重傷を負った初芽は、その後奴婢として売られます。1600年9月14日には琵琶湖畔から移動する道中で、逃亡に成功しますが、合戦の現場には間に合わず、関が原では三成に会えませんでした。結局、初芽が三成と対面できたのは、初芽の傷が癒えたラストシーンとなります。

ポイント6:小早川秀秋の裏切りのシーンはどう解釈したらいいのか?彼は本当に裏切ったのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

本作で、開戦後3時間を過ぎてもどう動くか悩んでいた小早川秀秋は、島信勝(島左近の息子)が決死の思いで出陣要請に来た時、部下たちに「三成に味方するんじゃー」と騒ぎましたが、部下たちは秀秋を無視し、勝手に大谷吉継へと襲いかかってしまいました。つまり、彼自身は最後の最後で三成の説得に心動かされ、西軍として動こうと決断したが、配下がついてこなかったという描写なのでしょう。

史実でも、秀秋の筆頭家老、稲葉正成と平岡頼勝は東軍と通じており、開戦と同時に裏切る密約も部下主導で進んでいたこともあるので、映画で描かれた「なし崩し的な裏切り」シナリオはあり得たかもしれません。

ポイント7:島津義弘はなぜ合戦中動こうとしなかったのか?

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合戦が始まっても全く動かなかった島津義弘
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画内では、合戦が始まってからも島津軍は一切陣地を動こうとせず、三成が直接出向いての出陣要請にも一切応えようとしませんでした。

映画内では、前日の作戦会議で、島津義弘は家康本陣への奇襲攻撃を三成に提言しますが、三成は頭ごなしに否定します。島津はこれを不服として、機嫌を損ねたと解釈出来るシーンがありました。それ以外の歴史資料によると、本当は前哨戦で東軍として伏見城へ入城しようとした所、徳川家康の部下、鳥居元忠から入城を拒否され、行き場がなくなったため消極的に西軍についたのだ、という説もありますね。

ポイント8:大一大万大吉とは?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

「一人が万民のために、万民が一人のために尽くせば、天下の人々は幸福になれる」という意味です。大義のために私欲を捨てて生き抜いた三成の人柄をよく表すスローガンだと思います。映画内では、1598年の秀次事件の後、三成自ら旗印の図案を考案しているシーンがありました。なお、このデザインはあくまで「旗印」であり、「家紋」ではありません。

ポイント9:ラストシーンの解釈は?なぜ三成は自害せず、処刑されたのか

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小早川秀秋と死ぬ前に対面する三成
引用:https://www.youtube.com/watch?v=HTqGWAbHmh0

関が原の戦い後、三成は一人戦場を離脱し、近くの農夫に匿われました。三成は、その後自首して最後は六条河原で処刑されました。大谷吉継は、戦場で自害して果てましたが、三成は最後まで生きようとしました。なぜ、彼は最後まで生きることに執着したのでしょうか。

この解釈として、原作では「最後まであきらめず生の機会を伺い、チャンスを貪欲に待つ」とされてましたが、本作では、「死ぬまでに、最後に見届けたい大切な人に会うため」とされています。

その大切な人とは、徳川家康、小早川秀秋、そして彼の想い人、初芽でした。家康とは無言の対面を済ませ、秀秋を許し、そして最後に「大一大万大吉」とつぶやく初芽と出会えたことで、彼は今生に未練がなくなり、最後まで姿勢を正したまま死んでいけたのでしょうね。

ポイント10:石田三成やその親族はその後どうなったのか?

石田三成は六条河原で処刑されて死亡しました。また、彼の父・兄と妻や側近たちは、1600年9月18日に佐和山城が陥落した際、城と運命をともにしています。しかし、劇中で北政所が「三成の血は残したほうがええ」とつぶやいたように、史実でも三成の5人の子どもたちは処刑されていません。僧侶になった者、名前を変えて別の大名に仕えた者など、様々な顛末が知られています。

それどころか、紆余曲折を経て、次女の孫(三成の曾孫)が徳川家光の側室となり、家光の長女千代姫を産むなど、わずか数十年後には、三成の天敵、徳川家に石田家の血が入っているのです!

ポイント11:描写が省略された「関ヶ原の戦い」の主要イベントとは?

本作は、忍者や逸話・トリビアに時間を割きすぎたため、「関ヶ原の戦い」での一連のイベントのいくつかが、バッサリ省略されています。正直なところ、「えっ?これも省略するの?」というくらい、前後のストーリーをつなぎ、歴史上節目とされるイベントまで切られていました。そこで、ここでは以下、本作で描写が省略された主要イベントをいくつか列挙してみます。

「直江状」
秀吉没後、家康への恭順の意を示さず、反抗的だった上杉家を再三問いただした家康に対して、上杉景勝の家臣、直江兼続が家康へ送った返答の書状。この書状を読んだ家康は怒り、会津征伐を決意したと言われている。

「小山評定」
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引用:開運のまち おやま 小山市ホームページ

京都・伏見での三成挙兵の一報を受けた家康が、会津征伐を続行するか、京へ引き返すか決めるため、諸将を集めて開催した会議。歴史を決定づけた意思決定として見逃せないイベント。
「伏見城の戦い」
三成挙兵後、初戦となった戦い。家康の忠臣、鳥居元忠率いる守備兵1800に対して西軍が宇喜多・小早川ら40000の圧倒的兵力で取り囲み、焼き討ちにした上落城させた。この戦いの最中、島津義弘が鳥居元忠に加勢しようとして拒否され、これにより最初東軍に付く予定だった島津は西軍に加わることになったとされる。

「島津の退き口」
関ヶ原の戦いで動かなかった島津氏だが、戦いが終わり、逃げ場がなくなったため、東軍のど真ん中を、捨て身で正面突破して戦線離脱した。1500人いた将兵は、領国薩摩へと帰着したとき、わずか80名程度に減っていたという。なお、井伊直政はこの時受けた重傷が癒え切らず、1602年に死亡したとされる。

このあたりは、関が原の戦いの屈指の「見どころ」でもあり、ストーリーのターニングポイントでもあるため、一瞬でもいいので描いてほしかったかなと思います。

6.まとめ

映画「関ヶ原」は、若干総集編的な粗い作りも目立ちましたが、それでも戦後、日本映画の巨匠たちが手がけなかった戦国屈指の大テーマに正面から臨んだ気合いは素晴らしかったと思います。

進行が早く、難解なパートもかなりありますが、予習復習をしっかりやって、2度目3度めと見返せば確実に新しい発見もある映画です。そして、忍者好きならマストです!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「関ヶ原」ブルーレイディスク・豪華版

本作は、ジャニーズ事務所所属・岡田准一が主演なので、基本的にはHuluやNetflixでは配信される見込みはありません。ツタヤで借りるか、思い切って買うか!です。もし購入を検討するなら、様々な映像・資料特典がついてくる豪華版が絶対におすすめ!

★★豪華版の特典まとめ★★

(本編ディスク音声特典)
■本編オーディオ・コメンタリー
原田眞人監督+岡田准一+平岳大ほかによる裏話満載の必聴コメンタリー!
(特典ディスク2枚!)
■メイキング
■イベント映像集
完成披露イベント・舞台挨拶、滋賀特別課外授業イベント、大ヒット祈願イベント、初日舞台挨拶、大ヒット記念イベント
■公開記念特番
■特番「映画関ヶ原の全て」
■インタビュー集・鼎談映像
インタビュー:岡田准一、役所広司、有村架純、原田監督
鼎談:岡田准一、平岳大、東出昌大
(外装・封入特典)
■特製アウターケース
■20Pの限定版ブックレット付き

 

司馬遼太郎原作「関ヶ原」

映画「関ヶ原」のベースとして使用された、累計500万部以上を売り上げた司馬遼太郎の名作。1966年の刊行ですが、決して古さを感じさせない名作です。司馬遼太郎らしい武骨な描かれ方ですが、映画では省略された初芽と三成の恋愛描写が気に入りました^_^関が原の戦いを巡って描かれた作品は多々ありますが、本作が決定版だと思います。映画で省略された主要イベントもしっかり網羅した大作!

決戦!関ヶ原

「関が原の戦い」でのキーマンたち一人ひとりにフォーカスし、作家たちが「関ヶ原の戦い」当日の各武将の行動から、心境を読み解き、それぞれの個性で描写した連作短編集。吉川広家、小早川秀秋、安国寺恵瓊、福島正則、島津義弘など、バイプレーヤーたちそれぞれの目線から「関ヶ原」を捉え直した素晴らしい企画。映画「関ヶ原」をより立体的に楽しむなら、外せない1冊です!

コンパクトな新書「関ケ原合戦の謎99」

映画「関ヶ原」を記念して、ムック本や新書、関連する小説などが刊行されていますが、関ヶ原の戦いの本質を理解し、なおかつ周辺知識・トリビアまでバランスよく学びたい人には、入門編となる1冊。読んで非常にためになりました!

石田三成が悪役として登場!映画「のぼうの城」

豊臣秀吉の命令で、石田三成が水攻めで落とそうとした弱小戦国武将・成田氏の居城、忍城の攻防を描く群像劇。成田市のうつけ若殿「のぼう様」が、奇想天外な作戦で三成を退けるまでのストーリーを劇的に描いた快作。悪役として戦いに負けはしますが、短期間で巨大な堤を建造してしまう三成の実務能力の凄さが伝わります。

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2018年夏、特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」開催決定!火焔型土器も土偶も国宝が全件集結!縄文の「美」を体感しよう!

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ数年、静かな「縄文ブーム」が広がっていると言われます。最近20年ほどで一気に進展した日本の考古学成果と歩調を合わせるように、縄文土器や土偶など、世界でも類を見ない独特の「縄文の美」が見直されてきています。 

そんな中、2018年7月3日から、東京国立博物館にて「特別展 縄文ー1万年の美の鼓動」の開催が決定しました。縄文時代に生きた人々の「美意識」を発掘された数々の文化財で振り返るという画期的な展覧会です。

先日、その概要を公表する記者発表会が東京国立博物館にて開催されたました。まずは速報として、その発表された概要をお伝えしたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

2018年7月、特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」が開催決定!

今回開催されることが決定した特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」は、ちょうど学生の夏休みを挟んだ2018年7月3日(火)~2018年9月2日(日)の2ヶ月間、東京国立博物館の平成館の特別展示室をすべて使って開催されることが決定しました。

21世紀に入ってから、東京国立博物館では、日本の考古学に関する特別展を過去2回開催してきました。2001年に開催された特別展「土器の造形ー縄文の動・弥生の静ー」、2009年の「国宝 土偶展」です。

特に、2009年の「国宝 土偶展」ではNHKの強力なTV番組特集との連動も奏功し、当初の予想を上回る128,285人もの入場者数を記録しました。予想外の集客の伸びは、関係者を驚かせたとともに、日本にも静かに考古学ブームが始まっている予兆を感じさせるものがありました。

そして、今回満を持して9年ぶりに開催されるのが、本展「縄文ー1万年の美の鼓動」です。まさに、9年分蓄積されたエネルギーを爆発させるかのように(?)縄文時代の国宝6件全件と、多数の重要文化財を含んだ合計約200点の総力展示となる予定です。(※国宝6件が出揃うのは、7月31日(火)~9月2日(日))

今回の「縄文」展の最大の特色とは?

これまでは、「土器」や「土偶」といった考古学系の展覧会が開催される場合、ほとんどは「考古学的視点」のみから当時の人々の狩猟・漁労・葬祭などの各生活文化や歴史が特集されることが多かったといいます。

しかし、今回の展覧会では、縄文時代の美意識に着目し、土器や土偶、土製品といった各出土品の「デザイン」にも注目していく「美術展寄り」のアプローチが取られる予定なのです。

いわば「縄文の美」をガッツリ追求して見ていこう!というのが今回の展覧会の最大の特色になるということですね。

それでは、具体的にどんな見どころがあるのでしょうか?「縄文の美」を味わうポイントを以下にまとめてみました。

展覧会の4つのみどころ~縄文の美をたっぷり味わおう!~

見どころ1:縄文時代の国宝全6件が上野へ大集結!

何と言っても、今回注目したいのは、縄文時代の国宝全6件が、会期中に一斉に東京国立博物館へと勢揃いすることです。(※全件揃うのは、7月31日~9月2日)関係者の粘り強い出展交渉によって、まさに奇跡の大集合となりました。昨年大好評だった京都国立博物館「国宝展」でも何点か登場しましたが、今度は東京で一斉にまとめて見ることができるとは思いませんでした。

縄文時代に多数出土した土器・土偶の中でも選りすぐりの個性と美を兼ね備えた珠玉の6件、是非味わってみてくださいね。

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国宝 火焔型(かえんがた)土器(どき) 新潟県十日町市 笹山遺跡出土 新潟・十日町市蔵(十日町市博物館保管) 写真:小川忠博

まず、こちらは縄文土器から、2018年現在では唯一「国宝」指定されている、新潟県篠山遺跡出土の「火焔型土器」です。いわば日本で一番有名な縄文土器であるといっても過言ではありません。縄文土器が一番ゴージャスで複雑なデザインへと発達した縄文中期の大傑作。縄目というより「炎」のデザインと一体化したかのような力強くプリミティブな造形は迫力満点です。

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国宝 土偶(どぐう) 縄文(じょうもん)のビーナス 長野県茅野市 棚畑遺跡出土 長野・茅野市蔵(尖石縄文考古館保管) 展示期間:7月31日(火)~9月2日(日)

膨らんだ腹部、ふくよかな下半身から、豊穣の女神として「縄文のビーナス」とニックネームがつけられた国宝。一般的に、祭祀の途中ですべて壊されることが多かった土偶ですが、この「縄文のビーナス」は小さな土のくぼみに横たえられ、完全な形で見つかったそうです。

しかも、その後のX線分析によって、頭や腕など、各部位の粘土の固まりを接続するプラモデル方式(分割塊製作法)により丁寧に作られていることが判明。また、粘土には光沢を出すための「雲母片」まで混ぜられているという手の混みようです。

見た目以上に高い技術で製作され、縄文人に大切に祀られてきた「縄文のビーナス」。当時の人々の生活に思いを馳せつつ、是非間近でじっくり見てみたいです。

見どころ2:最新の研究成果で、縄文土器の変遷をじっくり見る!

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エドワード・モース
引用:Edward S. Morse - Wikiwand

日本の考古学は、明治時代初期の1878年、エドワード・モースが大森貝塚の発掘を行った時からスタートしたと言われています。始まってまだ150年ほどの、非常に歴史の浅い学問分野でもあるということですね。

今回の展覧会では、改めてその草創期から晩期まで、縄文土器の変遷をわかりやすく見比べることができる展示構成になるとのこと。縄文時代は草創期から晩期まで、約10,000年の歴史があります。その間、縄目の付け方・デザイン、土器のかたちは地域や時期によって目まぐるしく変わっていきました。

▼草創期(紀元前11,000年~前7,000年)

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微(び)隆起(りゅうき)線(せん)文(もん)土器(どき) 青森県六ヶ所村 表館(1)遺跡出土 青森県立郷土館蔵

縄文草創期に製作された土器は、縄目も横一列で非常にすっきりしていますし、自立することもできません。この後、劇的に縄文土器の様式が発達していく中期や後期に比較するとシンプルそのものですよね。

▼中期(紀元前3000年~前2000年)

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深(ふか)鉢形(ばちがた)土器(どき) 長野県伊那市宮ノ前出土 東京国立博物館蔵

縄文土器の文様やデザインが一番派手になった縄文中期に制作された土器です。縄目は太く、複雑な形状へと進化しています。すでに、生活用品というよりアート寄りの非日常感あふれるデザインとなっています。国宝「火焔型土器」もこの時期に生み出された作品です。

▼晩期(紀元前1000年~前400年)

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重要文化財 壺形(つぼがた)土器(どき) 青森県十和田市滝沢川原出土 個人蔵

縄文晩期になると、縄目の文様は平らになり、形状も立体というよりエンボス加工のような控えめな質感へと変化しています。実用本位なシンプルな形の中で、陶磁器の絵付けのように、あくまで「入れ物」としての機能を邪魔しない程度のデザイン性へと後退しています。

このように、本展では、約10,000年の間に、縄文土器がどのように変化していったのか、わかりやすく解き明かしてくれそうです。

見どころ3:奇抜でかわいい土偶・土製品の数々!

そして、縄文時代と言えば、土器も良いですが、やっぱり土偶ですよね?!その世界にも類を見ない個性あふれるプリミティブな造形は、一つ一つがユニークかつ奇抜で、どこかしら「かわいさ」が感じられます。

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国宝 土偶(どぐう) 仮面(かめん)の女神(めがみ) 長野県茅野市 中ッ原遺跡出土 長野・茅野市蔵(茅野市尖石縄文考古館保管) 展示期間:7月31日(火)~9月2日(日)

岡本太郎が、1950年代に「縄文の美」と讃えた縄文人の独特な美意識と感性を感じられる、様々な土偶。それぞれ、「縄文のビーナス」「仮面の女神」など、一つ一つニックネームがついているのですが、その由来は何なのか?実際に実物を目の前にしながら、1つずつ紐解いていくのも面白いかもしれません。

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重要文化財 ハート形(がた)土偶(どぐう) 群馬県東吾妻町郷原出土 個人蔵

コレなんかは、歴史の教科書やいろいろな書籍・イラスト等で見たことがある人も多いかと思いますが、通称「ハート形土偶」と呼ばれています。顔の形がユニークすぎますよね(笑)

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重要文化財 猪形(いのししがた)土製品(どせいひん) 青森県弘前市 十腰内2遺跡出土 青森・弘前市立博物館蔵

また、出土したのは「ヒト」型の土偶だけではありません。「犬」や「イノシシ」を形どったかわいい動物型の土製品も多く作られました。

このように、奇抜だけど、どこかしら「かわいさ」を兼ね備えた土偶・土製品を思う存分味わる展覧会になりそうですね。どんな土偶と出会えるのか、非常に楽しみです。

見どころ4:まだまだある!縄文人の美意識がわかる暮らしのアイテム

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重要文化財 土製(どせい)耳飾(みみかざり) 東京都調布市 下布田遺跡出土 江戸東京たてもの園蔵

縄文人の美意識がわかるアイテムは、土器や土偶だけではありません!獲物を仕留めるための武器である「尖頭器」(せんとうき)や、木の実などを保管しておく「木製網籠」(もくせいあみかご)、アクセサリーである「耳飾り」など、生活に根ざした様々な出土品からも、縄文人の中に息づいていた「美」へのこだわりを感じることができるはずです。

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重要文化財 木製編(もくせいあみ)籠(かご)(縄文(じょうもん)ポシェット) 青森市 三内丸山遺跡出土 青森県教育委員会蔵(縄文時遊館保管) 写真:小川忠博

なんと、縄文時代に作られた、木製の網籠が、中に木の実が入ったまま、そのまま木炭化した状態でみつかったという奇跡的な出土品も出展されます。こちらもニックネームとして「縄文ポシェット」なる妙に可愛いニックネームがつけられています。展覧会のグッズなどで、お土産として実用化されていたら驚きですね^_^;

このように、今回の展覧会では、こうした彼らの暮らしのアイテムの中にも、積極的に「美」を見出していこう、というコンセプトが貫かれています。土偶や土器だけではなく、彼らの使っていた「日用品」からも意外な美しさを感じ取っていけたら良いですね。

展覧会の予習が平成館1Fの考古コーナーでできます!

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今から待ちきれない「特別展 縄文ー1万年の美の鼓動」ですが、展覧会が始まるのはまだまだ先になります。そこでオススメなのが、展覧会までに東京国立博物館平成館の「考古展示室」で予習をしておくことです。

実際、2018年2月時点では、展覧会にも出展される予定の3つの作品が展示されていました。

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重要文化財 遮光器土偶 青森県つがる市木像亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵

また、気軽に触って重さや質感を確認できる土偶のレプリカや、鳴らせる銅鐸のレプリカが設置されているなど、平成館の展示室は、単に見るだけでなく気軽に「体験できる」常設考古展示コーナーなのです。一度見てみると、本当に面白いですよ!

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持つとひんやりしてて、意外にずっしり重たい

総合文化展(平常展)のチケットか、開催中の特別展のチケットがあれば無料で入れますので、こちらも是非予習にチェックしてみて下さいね!

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※縄文展とは関係ないですが埴輪も奇抜でかわいい(笑)

展覧会の予習にはコレ!オススメの関連書籍を紹介します!

ここでは、僕が展覧会の予習として、特別展「縄文」のために実際に読んでみてよかった書籍を紹介していきます。随時7月まで読み進めていきますので、その都度、オススメの書籍があればどんどん追記していきますね。

「週刊ニッポンの国宝100」第9号(バックナンバー)

縄文時代の土偶や土器について特集した書籍は多数出版されていますが、初心者でもわかりやすい解説とカラー写真で、しかもワンコインで手軽に楽しめるのが、こちらの書籍。小学館より昨年10月から刊行中の分冊百科本「週刊ニッポンの国宝100」第9号です。こちらでは、本展に出展される縄文時代の国宝土偶5体を特集しつつ、土偶の持つ不思議な美しさについて、徹底解剖してくれています。

▼週刊ニッポンの国宝100「第9号」誌面f:id:hisatsugu79:20180224025649j:plainf:id:hisatsugu79:20180224025545j:plain

まずは最初にこちらを読んでから、いろいろな専門書へ移っていくのが良さそうです。僕はこちらの雑誌、すでに4周ほど読みました!!

縄文人の生活文化を楽しく学べる本「知られざる縄文ライフ」

同じく、縄文時代に生きた人々の「衣食住」に関する生活文化を、軽妙で楽しい文体、ゆるいイラストで読ませてくれる入門書です。上記で取り上げた「週刊ニッポンの国宝100」同様、入門の入門には最適の書籍でした。 

まとめ

昨年、日本を巡回した「ラスコー展」、そして古代ギリシャ文化のレベルの高さに刮目した2016年の「古代ギリシャ展」、現在国立科学博物館でつい最近まで開催された「アンデス文明展」など、私たちは、ここ日本にいながらにして、日本以外にも優れた古代の文化・文明は世界中に多数存在したのだということを目撃してきました。

しかし、ここ日本でも、10,000年以上前から「縄文式土器」「土偶」といった、プリミティブな美しさを備えた「縄文文化」が花開いていたのです。

今回の特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」は、日本中から集められた屈指の出土品で、縄文時代の最初から最後まで網羅した画期的な企画展です。私達日本人のはるか遠い祖先が生活文化の中で体現してきた「美意識」をじっくり感じる、またとない機会になりそうですね。今から夏の展覧会が非常に楽しみです。

それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
東京国立博物館 平成館
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
◯最寄り駅
JR上野駅公園口、鶯谷駅南口より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅から徒歩15分
東京メトロ千代田線根津駅から徒歩15分
京成電鉄京成上野駅から徒歩15分
◯会期・開館時間
2018年7月3日(火)~9月2日(日)
09時30分~17時00分(入場は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日は21時まで
※日曜日及び7月16日(月・祝)は18時まで
◯休館日
毎週月曜日、7月17日(火)
※ただし7月16日(月・祝)、8月13日(月)は開館
◯入場料
一般1600円/大学生1200円/高校生900円(当日券)
一般1400円/大学生1000円/高校生700円(前売券)
一般1300円/大学生900円/高校生600円(団体券)

※中学生以下無料
※団体は20名以上で適用
※障がい者とその介護者1名は無料(障害者手帳の提示要)
※前売券販売期間:4月3日(火)~7月2日(月)
◯HP
・展覧会公式サイト  http://jomon-kodo.jp/
・東京国立博物館HP http://www.tnm.jp
 ◯公式Twitter  https://twitter.com/jomon_kodo

 

【ネタバレ有】映画「空海 美しき王妃の謎」感想・考察と10の疑問点を徹底解説!/圧倒的なスケール感で美しい映像表現に酔いしれました!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月24日に公開となった映画「空海」を見てきました。構想されてから10年、セット設営に6年かかったと言われる、日中合作の超大作映画です。

早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「空海-KUKAI-美しき王妃の謎」の予告動画・基本情報

▶映画「空海」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】チェン・カイコー(「さらば、わが愛/覇王別姫」他
【配給】KADOKAWA/東宝
【時間】132分
【原作】夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 

本作はすべてにおいてスケール感がでかい!

構想に10年、中国襄陽市郊外での唐の宮古「長安」セット製作に6年、その大きさは東京ドーム8個分撮影期間は5ヶ月間、そして総製作費150億円と、全てが桁外れの規模感となった本作。

まず間違いなく日本では予算的に実現不可能な数値が並んでいますが、夢枕獏の長編伝奇小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」をベースとして、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の下、日中合作という形で制作されました。

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引用:Wikipediaより

チェン監督といえば、80年代後半~2000年代初頭にかけて、国際映画祭の常連として名を馳せた世界的な巨匠監督です。特に、カンヌ国際映画祭の最高賞「パルム・ドール」や「ゴールデングローブ賞外国語映画賞」を獲得した1994年の作品「さらば、わが愛 覇王別姫」が代表作とされています。

ところで、本作は日本でのタイトルこそ「空海-KUKAI-」とされていますが、残念ながら(?)空海の生涯を描いた伝記作品ではありません。どちらかというと、空海が唐の都・長安に渡った数十年前、当時、伝説の美女とうたわれた「楊貴妃」を中心に、玄宗皇帝や李白、阿倍仲麻呂といった8世紀中国で活躍した歴史的な登場人物を主役としたサスペンス・ファンタジー作品なのです。

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もはや同じ映画作品とは思えない日中ポスター比較

いや、正確に言うと彼らですら「主役」ではなく、真の主役はCG/VFXでリアルに再現された「黒猫」なのでした。試しに、日中で使われた映画ポスターを比較してみましょう。日本では、「黒猫」が主役ではお客を呼べないと判断されたためか、空海役を演じた染谷将太がど真ん中にいますが、中国版のポスターでは、相棒の白居易が中心で、かつタイトルが「妖猫伝」と出ていますね。

そう、ある意味、「空海-KUKAI-」というタイトル改変は、完全に日本での熟年層のお客さんに来てもらうためのマーケティング的な苦肉の策だったというわけです。

ですので、映画館に行く前に、ある程度8世紀~9世紀の中国・唐の歴史や重要な登場人物について頭に入れておいたほうがいいかもしれません。その必要性は東宝の関係者もわかっていたようで、映画公開直前になって、以下のような「2分でわかる空海」という映画鑑賞前の解説動画がアップされました。

これを見ておくだけで、かなり映画に対する理解度が変わってきますので、まだ行く前であれば是非チェックしてみてくださいね。

 ▶映画「空海」謎解きのヒント!

※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.映画「空海-KUKAI-美しき王妃の謎」主要登場人物・キャスト

空海(染谷将太)
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引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube
チェン・カイコー監督が、映画「寄生獣」での染谷将太の演技をひと目見て気に入り、オファーをかけたのだそうです。撮影が始まるまで9ヶ月間、中国語を猛勉強して習得したプロ意識はさすが。留学前、すでに中国語がペラペラだったという空海のエピソード通り、映画内ではオール中国語で通しています。「悟りに近い」僧侶役のため、抑制的な演技が求められる中、微妙にアクセントを付けることで、飄々とした空海像を演じることに成功しています。演技、上手でした。

白楽天[白居易](黄軒/ホアン・シュアン)f:id:hisatsugu79:20180303041851j:plain
引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube
ここ最近、人気急上昇中の中国の若手俳優。日本では未公開の中国映画で活躍してきましたが、2017年のハリウッド大作「グレートウォール」や、主演を勤めている、2018年公開予定の「ミッション:アンダーカバー」など、日本でもホアン・シュアンの作品が映画館で見れるようになってきていますね。

阿倍仲麻呂(阿部寛)
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引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube
2018年は、本作に加え、「祈りの幕が下りる時」「北の桜守」「蚤とり侍」など、メジャー配給作品公開が上半期に集中。映画館の予告編で2度見た後、本編にも出て来るなど、俳優業は充実一途であります。共演した楊貴妃役の張榕榕は、阿部寛のことを知っていたようで、アジア圏では国際的な知名度も上がってきているようですね。

白玲(松坂慶子)
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引用: [映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube
本作への出演が決まる前は、60歳を迎えたことで、女優業を引退してハワイで余生を送ろうかと考えていたそうです。そんな折、チェン・カイコー監督からの声がかかったことで、再び女優業への情熱が戻り「生涯現役」を決意したとのこと。映画出演は、2015年の日本・ベトナム合作となった「ベトナムの風に吹かれて」以来3年ぶりです。2作連続で外国との合作映画への出演となったのは、さすが大物俳優です。 

楊貴妃(張榕榕/チャン・ロンロン)f:id:hisatsugu79:20180303001448j:plain
引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube
もともと、西方の異民族の血が入っていたと言われる楊貴妃ですが、今回演じている張榕榕は、フランス人と中国人のハーフなのです。誇り高く、高貴でいろいろな葛藤を心のうちに秘めた抑制的な演技は、楊貴妃のイメージ通りでした。

その他、超大作映画らしく、宮廷を中心に多数の登場人物が入れ替わり立ち替わり出てきます。特筆すべきは、本作の中国人女優の美しさ!楊貴妃役の張榕榕を始めとして、出演者全員が容姿・スタイルとも抜群でした。是非映画館の大画面で確かめてみて下さい!

▼その他の主要登場人物たちf:id:hisatsugu79:20180303001522j:plainf:id:hisatsugu79:20180303001524j:plainf:id:hisatsugu79:20180303001526j:plain
引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube 

3.途中までの簡単なあらすじ

9世紀初頭の古代中国、唐の都・長安は、世界中から人が集まる世界一の都だった。そんな唐の都で、ある日、怪事件が起きた。宮中の警備を担当する「金吾衛」の責任者である陳雲樵の妻・春琴が、人間の言葉を話す黒い化け猫と遭遇したのだった。春琴は、化け猫の影響で、精神に異常をきたしていった。

一方、日本から遣唐使の一員として、「密教」の教えを学びに来ていた若き留学僧・空海は、ある日、皇帝・徳宗の奇病を祈祷で調伏するため、その日宮中へと招待された。しかし、空海が祈祷を始める間もなく、皇帝は謎の変死を遂げてしまう。現場に赴いた空海は、すぐに皇帝の死が幻術によるものと見破り、化け猫の足跡を見つけたが、役人たちはこれを「病死」として片付けた。これに対して唯一疑問を抱いたのは、皇帝お付の記録係の役人だった白居易だった。しかし、彼の主張は取り入れられず、白居易は役人を辞めてしまう。

その後、空海と白居易は再会した。密教の教えを学びに来たが、密教の総本山・青龍寺の門戸が開かずに挫折していた空海と、絶世の美女・楊貴妃の悲劇を描いた長編の詩「長恨歌」の執筆に行き詰まっていた売れない詩人・白居易は、互いの境遇が似ていることもあり、すぐに打ち解けて懇意になっていった。

空海と白居易は、行動を共にする中、幻術で人を惑わす露天の西瓜売り・瓜翁と出会ったり、唐で随一の妓楼と言われた胡玉楼にて、宮中の警備を担当する「金吾衛」の責任者である陳雲樵の部下達が、化け猫に変死させられたりする事件を目撃したりする。

一連の変死事件を調べに来た役人は、正式に空海と白楽天に事件の調査を依頼するのだった。また、空海は蠱毒の術をかけられ、半死状態に陥った故玉楼の人気芸妓・玉連を法術で回復させることに成功した。すると、その一部始終を見ていた陳雲樵に、妻・春琴を救って欲しいと懇願された。

月夜の晩、白楽天と陳雲樵の屋敷へ赴いた空海は、屋敷の屋根の上で、何者かに取り憑かれ、李白の詩を諳んじる春琴を発見した。それを幻術と見破った空海は、白楽天とともに王宮の書庫で皇帝の変死事件との関係性を調査する。そこで浮上したのが、数十年前に悲劇の死を遂げた楊貴妃と変死事件の関わりへの疑いだった。

そして、陳雲樵の屋敷を再訪した二人は、ついに春琴に取り憑いていた化け猫と対面し、化け猫が、楊貴妃の死と深く関連することを確信した。再度聞き取り調査を行う中、二人は楊貴妃や玄宗皇帝の側近として、日本から遣唐使として来ていた阿倍仲麻呂が、当時の一部始終を日記として残していたことを知った。仲麻呂の日記には、玄宗皇帝と楊貴妃が唐の都・長安で過ごした最後の華やかな日々が綴られるとともに、その後、反乱を起こした安禄山に追われ、楊貴妃が悲劇の死を賜るところまでの一部始終が記されていた。そして、そこには楊貴妃の死について、驚くべき真相が描かれていたのだったーーー。

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4.映画のレビュー(感想・評価)

日本人にとっては、非常にわかりづらい映画となった、その3つの理由とは?

本作は、日中合作での映画作品とはいえ、事実上は中国作品なのであります。原作との絡みで数名の日本人キャストが起用されているものの、空海のバディ役は、橘逸勢から白楽天へと変更された他、オール中国ロケ、全編中国語での収録、監督も中国人です。

原作としてベースになっている夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」は、完全に中国風にアレンジされ、中国人のための映画になっていました。

そのため、非常に日本人にとってはわかりづらく、見終わった後にモヤモヤした感覚を残す作品となってしまったと思われます。それには、以下の3つの理由がありました。順番に見ていきます。 

理由1:「楊貴妃」や同時代の歴史事実についての説明が省略されている
本作で、日本人の観客が置いていかれた大きな要因は、阿倍仲麻呂の日記を紐解く回想シーンに入ったストーリー後半部分で、一体何が起こっているのか非常に把握しづらかったことです。字幕での最低限の説明すらなく、前提知識として中国の歴史に対する一定の知識なしでは何が起こっているのか把握しづらい展開がずっと続きました。

例えば、バブリーな「極楽の宴」という宴席の場で、酔っぱらいが詩を書いたり(李白)、靴を脱がせたり(李白・高力士)、異国風味のおっさん(安禄山)が踊ったり、その翌日に戦乱が起こったり(安史の乱)、何の説明もなしに次々歴史上の登場人物が現れたり(楊国忠の生首、玄宗皇帝に楯突く陳玄礼)、白楽天が作っている「長恨歌」の説明が一切なかったり・・・。

これは、恐らく中国人にとって、楊貴妃やその同時代に起こった様々な出来事っていうのは、日本人に取っての「関ヶ原の戦い」「本能寺の変」と同じぐらい、普遍的で説明不要な一般常識になっているからだと思われます。

私達が、歴史モノドラマを見る時、馬上でオッサンが「敵は本能寺にありーーーー」と叫んだ時、「あぁ、これは明智光秀が謀反を起こしているところだな」とか、誰かが恨めしそうに「おのれ猿めがぁぁ!断じて許さん!!!」とお城の中でギリギリやってるシーンを見たら「石田三成怒ってるな」とすぐにわかりますよね。

これと同じことで、本作のメインターゲットとなっている中国人の中高年にとっては、楊貴妃の悲劇をめぐる歴史的な事実関係は説明不要の一般常識なのでしょう。

でも、ほとんどの日本人にとって、「楊貴妃」の亡くなった場所や、安禄山の反乱、楊貴妃を題材にした有名な漢詩(白楽天「長恨歌」や李白「清平調詩」)は一般常識ではないわけです。だから、何の説明もないとかなりの消化不良になっちゃうと思うのです。

理由2:日本語吹替しか用意されなかった日本での劇場公開版
本作の予告編は、吹替ではなく、中国語版に字幕が付く形で提供されました。せっかく染谷将太がオール中国語で頑張っていると聞いたので、まず1回目は字幕で見に行こう・・・と思っていたのですが、いざ公開されてみると、なぜかオール吹替となっており、字幕が選べませんでした・・・OTL

仕方なく吹替版で見に行ってみたのですが、微妙に感情表現など、画面中の人物とズレている箇所も散見されましたし、字幕がないので、固有名詞がわかりづらいのです。

例えば、阿倍仲麻呂の中国名の通称は、「朝衡(晁衡)/ちょうこう」というのですが、いきなり別の人物が阿倍仲麻呂を指して「ちょうこう!!」って叫んでも、なんのことかわからないのですよね。同じく、玄宗皇帝が、楊貴妃に向かって「ぎょっかん!!」と叫ぶシーンも、楊貴妃の愛称が「玉環(ぎょくかん)」と言われていた事実を知らない日本人にとっては、「え?今なんて言ったの?」みたいな感じになってしまうのです。

このあたりは、翻訳時に一定の情報量は落ちてしまうデメリットを甘受したとしても、字幕版なら文字情報として画面で読めるので、「固有名詞わからない問題」は本来回避できていたのかなと思いました。

理由3:政治・仏教思想色が完全に脱臭された芯のないストーリー
映画・小説原作とも、唐の都・長安を舞台として、空海が化け猫による怪事件を解決する、という大枠のストーリーは共通しています。

しかし、原作で明確に描かれていた仏教哲学や東洋思想に裏打ちされた世界観や、密教僧としてきちんと描かれた空海の人物像は映画版では完全に希薄化しています。また、物語後半で再現される「安史の乱」での政治的な対立構造や楊貴妃がなぜ殺害されるに至ったかの経緯などもすべて描写が省略されていました。

まるで今の中国共産党政権での検閲を恐れたかのように、政治色・宗教色が不自然なまでに殺菌脱臭され、物語の核心を化け猫の引き起こした愛憎劇に帰してしまったストーリーからは、大衆娯楽作品以上の「何か」が全く感じられませんでした。

確かに、チェン・カイコー監督が語った「儚い夢のような幻想的な美しさ」は十二分に表現されていましたが、それ以外に一体この映画で何を表現したかったのか。これだけの壮大なセットと150億円の制作費をかけてまで表現したかったのが、「化け猫の夢」ではあまりに寂しいと思います。

それでも何より素晴らしかったのは壮大でゴージャスな映像表現

散々批判から入ってしまいましたが、それでも、本作は劇場へ足を運んで見にいく価値が十分あったと思います。それは、ハリウッド並みの予算と規模感で徹底的に作り込まれた美しい映像表現の数々です。

中国襄陽市の郊外に、まるでテーマパークのような長大なスペースを用意して、6年間かけて実際に長安の都を再現してしまう壮大さは、中国でなければ絶対に実現できなかったはずです。空海と白楽天が長安の都の様々なスポットを駆け巡るシーンでは、CGをほとんど使わず、ほぼオールロケで撮影されたというのも驚異的です。

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引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

僕が特に感銘を受けたのが、ラストシーン近くの「青龍寺」のお寺の中のシーンです。お寺に入ると、通路には迫力満点の数体の「明王像」が両脇に控えています。通路を進んだ奥にあるお堂のご本尊として、実物大で製作された5m以上の大仏が安置されており、度肝を抜かれました。これ作るだけで何億か絶対にかかってるはず・・・。

この壮麗な美術・セット一つ一つが、ちゃんとした時代考証を経て制作されているのも素晴らしいです。極彩色で彩られた様々なシーンでも、きちんと東洋人が手がけたデザインセンスに裏打ちされているため、いわゆるハリウッドが作った「嘘くさい」映像美ではなく、ちゃんと本物感があるのですよね。

まるで、古代版ディズニーランドの中を垣間見ているような本作。大味なストーリーや違和感の残る吹替えなど、いろいろ言いたいことはありますが、この圧倒的な映像美を見せられて、まぁ、いいかな・・・(笑)と思ってしまいました。

最大限ストーリーを楽しめるように中国の歴史についてある程度予習した上で、円盤を待つのではなく劇場版の大スクリーンで極彩色で彩られた圧倒的な美術表現に酔いしれるのが、本作の楽しみ方の一つだと思います。

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5.映画「空海 美しき王妃の謎」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:空海は、中国(唐)に何をしに来ていたのか?

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引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

空海は、唐の都・長安にある密教のメッカ・青龍寺にて、「密教」の教えを学ぼうとして、留学僧として遣唐使船で唐の都・長安に来ていたのでした。史実上では、空海は梵字(サンスクリット語)をマスターした後、青龍寺へと入門し、大阿闍梨・恵果和尚からわずか半年で真言密教に関する伝法灌頂を授かります。そして、唐へ来て2年後、日本へと帰国して真言宗を開始します。

本作では、唐に来たものの、なかなか青龍寺が門戸を開いてくれず、半分いじけて(?)帰国しようかと悩んでいるという設定がちょっとかわいかったです。

疑問点2:白居易とは誰なのか?彼の残した「長恨歌」とは?

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引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube

白居易(白楽天)とは、9世紀中国・唐にて活躍した歴史上の大詩人とされた人物です。その代表作として、楊貴妃の悲劇的な死について歌った「長恨歌」(ちょうごんか)という漢詩が特に有名です。本作の中では、一旦完成した「長恨歌」で描かれた楊貴妃の「死」について、その真相が間違っている、として化け猫=白龍から書き直しを命じられていましたね。

疑問点3:陳雲樵の勤めていた「金吾衛」とはどんな役職なのか?なぜ陳雲樵が化け猫に狙われたのか?

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引用: [映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

陳雲樵は、「金吾衛」という皇帝の住む宮廷一帯を警護する要職を、先祖から三代に渡って世襲し、引き継いできました。いわば、ちょっとした特権階級だったわけです。本作では、陳雲樵が、要職にありながらも、風俗で浮かれ騒ぐダメ役人っぷりが誇張されて描かれていました。平和ボケした危うさというか、その後に勃発する安史の乱を予兆させるような存在として、うまく描けていたと思います。

彼が化け猫に襲われたのは、彼の祖父である陳玄礼こそが、化け猫が愛した楊貴妃の死に関わる直接的な原因を作った存在だったからです。(疑問点8でその理由を詳述) 

疑問点4:「極楽の宴」で李白が高力士の背中に書いていた詩とは?

「極楽の宴」の宴席に途中から現れた楊貴妃を見て、その美しさに感動した李白は、酔った勢いで、その場で即興にて楊貴妃を称える漢詩を詠みました。これが「清平調詩」と呼ばれる有名な詩です。

ちなみに、史実では「極楽の宴」の席上ではなく、楊貴妃と玄宗皇帝に、酔ったまま興慶宮の庭園「沈香亭」へと呼び出され、牡丹が咲き誇る庭に遊ぶ楊貴妃の美しい姿を見て即興で作った、と伝えられています。

疑問点5:李白はなぜ「極楽の宴」の翌日都を追い出されたのか?

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引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

李白は、その詩人としての才能を高く買われ、宮廷内お抱えの詩人として、玄宗皇帝に徴用された時期がありました。しかし、何事にも縛られない「自由」を愛した李白は、しばしば宮廷内で礼儀を失した振る舞いに及ぶことも多かったようです。

「極楽の宴」では、自分より高い位にある皇帝の側近・高力士に筆と墨を持ってこさせ、高力士に靴を脱がさせた上、紙面ではなく、高力士の服の背中の部分に即興で詩を読みました。

こうした李白の一連の非礼な振る舞いを見て不快に感じた皇帝は、李白を追放するよう命じたというのが映画内でのストーリーでした。

史実では、「酔って高力士に靴を脱がせた」ことにより、高力士に不興を買った李白は、高力士の讒言で、長安を追い出されてしまったというエピソードが残っています。「極楽の宴」で、靴を脱がせるシーンは、こうした史実上のエピソードを変形して取り込んだものだったのです。

疑問点6:阿倍仲麻呂は、なぜ玄宗皇帝と楊貴妃の側にいたのか?

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引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

奈良時代、716年、遣隋使(当時、まだ「唐」ではなく「隋」の時代だった)として唐の都・長安に渡った阿倍仲麻呂ですが、科挙(役人になるための試験)に合格し、そのまま唐で役人となります。仲麻呂は、中国名を「晃衡」(ちょうこう)と言い、当時の玄宗皇帝のお気に入りとなり、当時の外国人官僚の中では最高位となるなど、宮廷内で出世していったのです。

映画内では、玄宗皇帝のほぼ側近のような扱いでしたが、確かに安史の乱が起きた際、玄宗皇帝らと共に都を離れているため、楊貴妃の死について一部始終を見ることができる立ち位置にいたとされても、おかしくはないと思われます。

疑問点7:阿倍仲麻呂の奥さんとはどんな人物だったのか?

その過程で、仲麻呂は現地で妻をめとりますが、これが原作・映画内では「白玲」という女性として出てきました。(史実では名前はわかっていません)

映画内では実は仲麻呂は楊貴妃に惚れており、一旦唐から日本へと帰ろうとするも、大好きな楊貴妃にもう一度会うために長安に戻った・・・という凄い展開になっていましたね。奥さんは、仲麻呂の死後、読まずに燃やせと言われた仲麻呂の日記を読んでしまい、その文面から彼の気持ちが自分ではなくずっと楊貴妃に向いていたことを知ったという展開も驚きでした(笑)これは確かに奥さん可哀想です^_^;

ちなみに、史実では、入唐して30年経過し、後続の遣唐使として唐へ渡ってきた吉備真備らと共に、一旦日本へ帰ろうとしますが、日本へ帰る船が難破してしまい、ベトナムへと流れ着いてしまいます。そこから、結局仲麻呂は日本へ帰ることを断念し、再度長安へと戻って、亡くなるまで玄宗皇帝に仕えたのでした・・・

疑問点8:玄宗皇帝は、なぜ唐の都・長安を追い出されたのか?何が起こっていたのか?

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引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

唐の都・長安では、楊貴妃の兄・楊国忠が宰相として実権を握っていました。これを快く思っていなかった西方の異民族出身・安禄山は、とうとう挙兵し、反乱を起こしてしまいます。安禄山は、第二の都・洛陽を落とし、そのまま長安へと攻め上って、長安を占領したのです。

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反乱兵に取り囲まれる玄宗皇帝と楊貴妃
引用:「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告 - YouTube

この安禄山の反乱によって、玄宗皇帝や楊貴妃は、長安を追われて蜀(成都)へと落ち延びていったのです。その途上の馬嵬駅(ばかいえき)という場所で、楊貴妃を巡る悲劇が起きたのでした。

疑問点9:なぜ楊貴妃は殺されなければならなかったのか?黄鶴が楊貴妃にかけた幻術・尸解の術とは?

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引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

都を脱出し、西方の都・蜀(成都)へ落ち延びる最中、馬嵬駅(ばかいえき)にて、さらに玄宗皇帝を悩ます事件が起きます。それは、今回の反乱のすべての元凶である楊貴妃を殺さなければ、玄宗皇帝にこれ以上仕えることはできない、という重臣・陳玄礼からの直訴でした。

玄宗皇帝にとって最愛の寵姫であった楊貴妃でしたが、自らの命と皇帝の権力保持のため、楊貴妃を殺害することで、陳玄礼の要求を受け入れたのでした。

映画では、ここで幻術士・黄鶴が、陳玄礼に検死させるため、「尸解(しかい)の術」という術を使い、楊貴妃を仮死状態にしたまま石棺の中へ入れて、将来ほとぼりが醒めた頃に再度蘇らせられるようにしました。しかし、術のかかり方が完全ではなかったため、結局楊貴妃は石棺の中で仮死状態が解けて、苦しみながら蠱毒が体内に回り、今度は本当に死んでしまったのでした。

疑問点10:ラストシーン・結末の考察~恵果の正体とは?最後に白居易が橋の上から投げ捨てたものとは?

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恵果の正体は露天で幻術を操る瓜翁だった・・・
引用:[映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌] - YouTube

阿倍仲麻呂の日記から楊貴妃の死を巡る真実を知り、化け猫の正体が玄宗皇帝お付きの幻術士・黄鶴の息子・白龍だと知った二人は、かつて極楽の宴が行われた宮中の廃屋で、丹龍とともに白龍(化け猫)の成仏を見届け、事件は一件落着します。

その後、白居易と別れた空海は、青龍寺から招かれ、入門を許されます。空海は、大阿闍梨・恵果和尚と対面しますが、実は恵果は丹龍であり、かつ都の露天でスイカを売っていた瓜翁であったことを知るのでした。(凄い歴史改変でした)

また、楊貴妃の死についての一部始終を目撃した白居易は、「長恨歌」を巡る自身の楊貴妃へのもやもやした思いを整理することができたのでした。そして、彼は宮中から盗み出して以来、大切に持っていた楊貴妃の髪が入った巾着袋を投げ捨てたのでした。(国宝級のアイテムを捨てるなんて言語道断ではありますが・・・)

6.まとめ

本作は、確かに日本の映画ファンにはいろいろな意味でハードルが高く、何の心の準備もないと、かなりの確率で肩透かしを食らうかもしれません。化け猫が主役で、空海は実質なにもしない語り部・狂言回しですから。

しかし、日本でもトンデモ伝説が数多く残る空海のことですから、多少のアラは目をつぶりつつも、現代の中国に再現された美しい長安の都を大画面で楽しむのが良さそうです。個人的には美しい映像表現の数々を迫力満点の大スクリーンで見れたので満足しました。どうせ見るのであれば、DVDや配信ではなく、映画館の大画面をオススメします!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画パンフレットの購入はオススメ!

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本作は、壮大なセット・極彩色で彩られた美術、衣装・幻想的なVFX/CGなど、映像表現の美しさが際立っていました。その一方で、多数の登場人物が現れて、目まぐるしくストーリーが展開していく難しさもありました。

特に印象的だった映画内での美しい映像表現や名シーンの写真を非常に多く掲載する一方で、登場人物をわかりやすく整理し、空海や歴史についてきちんと整理してくれている本作のパンフレットは、なかなか痒いところに手がとどくような堅実な作りになっています。使われている紙の質感も良いし、保存版として思い出のためにとっておけるクオリティでした。おすすめです。

▼映画内の名シーンがカラー写真で多数掲載されているf:id:hisatsugu79:20180303045607j:plain

▼登場人物がわかりやすく整理されているのは嬉しいf:id:hisatsugu79:20180303045738j:plain

▼空海の生涯を解説したページ。読み応えあった!f:id:hisatsugu79:20180303045751j:plain

ネット上でも、Amazon等で買えるようになっているみたいなので、念のためリンクを貼っておきますね。購入、おすすめです。

原作の大長編 夢枕獏「沙門空海唐の都で鬼と宴す」

夢枕獏が17年かけて完成させた、文庫本4冊で約2000ページとなる超大作。映画とは違い、主人公は空海と、その相棒である橘逸勢(たちばなのはやなり)ですが、歴史事実を極限まで改変し、政治・宗教色が薄いファンタジーに仕上がった映画とは違い、空海と橘逸勢の会話は師匠と弟子の仏教問答みたいですし、全編を通じてほぼ史実に近い形でストーリーが進行していくため、普通に読み進めていると中国の歴史や仏教思想の基礎知識が自然に身についてくるおまけつき(笑)。何度も掲載雑誌が変わったせいか、地の説明文に冗長な部分もありますが、基本的には読みやすく、起伏のあるストーリーのおかげで、飽きずに2000ページ読破できます。映画と並行して是非原作世界を楽しんでみて下さい!

読みやすい「マンガ版」も出ました!

こちらは、原作ではなく映画のストーリーに準拠したコミカライズ版となっています。全2巻で完結予定ですが、映画公開された2月末時点では、上巻のみのリリースとなりました。史実についての説明が大幅省略されている映画の内容でわかりづらい部分は、マンガで落ち着いて読むことで理解が深まることもありますよね。

オススメの空海マンガ:おかざき真里「阿・吽」

平安初期、日本にそれぞれ天台宗・真言宗という密教系宗派を開いた最澄・空海の二人を主人公として描いた伝記マンガ。映画「空海」とは直接関係はありませんが、空海の生涯や人となりをわかりやすく描いている傑作です。一コマ一コマ非常に丁寧に描かれた絵は幻想的で美しく、非常に中毒性があります。これはおすすめ!

2018年のプラド美術館展は名作ぞろい!スペイン絵画の巨匠作品がズラッと並んだ凄い展覧会でした!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。 

2018年上半期で、個人的に必ず見ておきたかった展覧会の一つ「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」がスタートしました!国立西洋美術館の広い展示空間を埋め尽くした迫力満点のスペイン絵画は、期待通りの珠玉の作品ばかりでした。

早速行ってきましたので、詳細な感想や見どころを書いてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.プラド美術館展とはどんな展覧会なの?

▶プラド美術館展の公式紹介動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

「プラド美術館展」と聞いて、「あぁ、過去何度か見たことがあるよね」という熱心なアートファンの方もいらっしゃるかもしれませんね。というのも、「プラド美術館展」は、ここ20年ほど読売新聞社が継続的に企画してきた展覧会だからです。

例えば、過去では

2002年「プラド美術館展 スペイン王室コレクションの美と栄光」
2006年「プラド美術館展 スペインの誇り 巨匠たちの殿堂」
2011年「プラド美術館所蔵 ゴヤ―光と影展」
2015年「プラド美術館展― スペイン宮廷 美への情熱」

と、ほぼ4年に1回のペースで、毎回サブテーマを決めて様々な美術館で開催されてきました。特に、プラド美術館が保有する「小品絵画」に絞って開催された、2015年に三菱一号館美術館で開催された前回展は、まだ記憶に新しいところかもしれません。

▼前回2015年の展覧会ポスター
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そして、今回開催されるプラド美術館展は、サブタイトルに「ベラスケス」と入っている通り、スペイン絵画黄金時代を象徴する世界的な巨匠、ベラスケスの作品7点を軸に、ムリーリョ、スルバラン、リベーラ他同時代の著名な画家の作品群や、彼らに深い影響を与えたティツィアーノ、ルーベンスといったイタリア、フランドル絵画の巨匠たちの作品、約70点を紹介する大型の企画展となりました。

音声ガイドは及川光博が担当!

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そして、今回音声ガイドを担当するのは、タレント・俳優の及川光博さん。プラド美術館展の公式ホームページには、すでに7つも展覧会PR動画がアップされており、やる気満々です!(※ちなみに、会期終了までさらに3つ追加されるとのこと)

僕も行く前に全部チェックしましたが、毎回1分~2分程度の中で、展覧会の見どころや初心者でもわかる簡単な解説をしてくれているので、楽しく予習するにはピッタリでした。こういった予告動画って、映画ではよく見かけますが、アートの展覧会では非常に珍しく、画期的だったんじゃないかなぁと思います。ブログ内でも、いくつか貼っておきますので、もしよければチェックしてみてくださいね。

2.展覧会に行く前の予備知識を簡単に紹介!

さて、ここでは本展「プラド美術館展」をフルに楽しむための最低限の予習項目として

「プラド美術館とは?」
「ベラスケスって誰なの?」
「ベラスケスの絵画の革新性とは?」

という3点を簡単に説明しておきますね。最低限、このあたりを押さえておくだけで、本展をしっかり楽しめるようになりますから。

予備知識①:プラド美術館とは?

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ベラスケス門 (c) Museo Nacional del Prado

プラド美術館は、1819年、スペインの首都・マドリードにて開館しました。その前身は、18世紀後半、カルロス3世によって自然科学博物館として建設された建物でした。16世紀~17世紀のスペイン王室コレクションを核として、伝統的な西洋絵画を約7,000点保有する、世界でも屈指の大コレクションを保有する著名な美術館です。

スペイン絵画全盛期に活躍したベラスケス、ムリーリョ、リベーラ、スルバラン等の作品を中心に、ハプスブルクとブルボン両王朝が収集してきたイタリア・フランス・フランドル地方の巨匠たちの作品も多数保有しています。

▶及川光博が紹介!プラド美術館とは?
※画像をクリックすると動画がスタートします


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予備知識②:ベラスケスって誰なの?

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引用:Wikipediaより

ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルバ・イ・ベラスケス(1599-1660)は、西洋美術史上最重要の画家の一人です。国王フェリペ4世の家族をウィットに富んだ構図とメタファーを散りばめて描いた代表作「ラス・メニーナス」をはじめ、肖像画を中心に数々の名作を生みだしてきました。

生涯の総作品数は約120点と意外に少なめ。同時代の巨匠たちに比べるとかなりの寡作と言えます。20代半ばでフェリペ4世の宮廷画家として絶大な信頼を得てからは、宮廷内で出世を続け、壮年期~晩年にかけては、宮廷内の様々な政務を担当する中で多忙を極めたためと言われています。

予備知識③ベラスケスの絵画の革新性とは?

ところで大高保二郎・川瀬佑介著「もっと知りたいベラスケスー生涯と作品」によると、ベラスケスの絵画芸術には、3つの革新性があるとされています。

◯描く対象に向けたまなざしの「無差別さ」
階級・身分に関係なく、モデルと率直に向き合い、外見だけでなく、心の内面(人間性)までも鮮やかに浮かび上がらせた写実性
(例:「バリェーカスの少年」)

◯雰囲気のリアリズム
重要性や遠近に応じて、大胆に取捨選択された描写方法。印象派を先取りしたかのような、大胆で荒い筆使いや色彩のグラデーション
(例:「王太子バルタサール・カルロス騎馬像」)

◯複数の視線と寓意を重層的に含んだ絵画空間
単なる写実性を超え、作品内に巧みに虚構性や暗喩的な概念を持たせ、徹底的に計算された構図やコンセプト
(例:「ラス・メニーナス」※本展不出展)

 

国内の展覧会では過去最多の7点が来日しているベラスケスの絵画作品。同時代の巨匠たちの作品と比較しながら、じっくり見ていきたいですね。 ちなみに、ミッチーの動画でも、さくっと「ベラスケスって誰?」っていうのをユーモアたっぷりに解説してくれていますよ!

▶及川光博が紹介!ベラスケスって誰?
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

3.「プラド美術館展」の5つの見どころとは?

見どころ1:とにかくデカい!選び抜かれた迫力あるスペイン王室コレクション!

まず、部屋に入ると驚かされるのが、とにかく一枚一枚の絵が「デカい」のです。中小規模の美術館では搬入することすら難しそうな大判の絵画群が、次から次へと現れてくるため、その大きさに圧倒されるんですよね。 

左:ジュゼペ・デ・リベーラ「聖ペテロの解放」
右:マッシモ・スタンツィォーネ「洗礼者聖ヨハネの斬首」f:id:hisatsugu79:20180305092104j:plain
左:1639年/右:1635年頃 共にマドリード、プラド美術館蔵

左:ジュゼペ・デ・リベーラ「女の戦い」
中:ジョヴァンニ・ランフランコ
「ローマ皇帝のために生贄を捧げる神官」
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左:1636年/中:1635年頃 共にマドリード、プラド美術館蔵

中には、この宗教画のように1枚でまるまる天井まで届きそうなものもありました!照明も程よく落とされ、荘厳な雰囲気の中で宗教画を味わえる贅沢な空間をぜひ味わってみて下さい。

▼フアン・バウティスタ・マイーノ「聖霊降臨」
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1615-20年 マドリード、プラド美術館蔵

また、大きさを活かしたユニークな作品もありました。例えば、下記の作品などはどうでしょうか?横一面に「ウォーリーを探せ」的なノリで無数の人物が描かれた作品です。

▼デニス・ファン・アルスロート
「ブリュッセルの
オメガングもしくは鸚鵡の祝祭:
 職業組合の行列」

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1616年 マドリード、プラド美術館蔵

また、「顔」だけを大きくクローズアップした、超巨大で奇抜な肖像画も印象に残りました。目の前に立つととにかくインパクトが凄いですよ。

▼ビセンテ・カルドゥーチョに帰属「巨大な男性頭部」f:id:hisatsugu79:20180305092704j:plain
1634年頃 マドリード、プラド美術館蔵

見どころ2:巨匠、ベラスケスの珠玉の7枚!

展覧会で展示されている約70点の作品のうち、特にしっかり足を止めてじっくり見ておきたいのが、ベラスケスの描いた珠玉の作品群です。何点か、僕の気に入った作品をこちらで紹介しておきますね。

▼ディエゴ・ベラスケス
「王太子バルタサール・カルロス騎馬像」
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1635年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

展覧会のポスターにもなっているバルタサール・カルロス王子が6歳の時の肖像画。離れた下方から見上げることを前提に、王子のまたがる馬の馬体が実物以上にボリューム感たっぷりに描かれています。また、背景に採用されたマドリード郊外のグアダラマ山脈の風景は、印象派のタッチを先取りしたような粗いタッチで描かれているのも見逃せないポイント!

大高保二郎・川瀬佑介著「もっと知りたいベラスケスー生涯と作品」によると、19世紀中盤で印象派のさきがけとなったエドゥアール・マネも、こうしたベラスケスの絵画を見て、

彼こそ、画家たちの画家なのです。彼は私を驚かせたのではなく、私を虜にしたのです。(1865年9月3日、マネのファンタン=ラトゥール宛て書簡)※「もっと知りたいベラスケス」表紙より引用

と激賞したのだとか。 

▼ディエゴ・ベラスケス「バリェーカスの少年」
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1635-45年 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

中世ヨーロッパの王宮では、一種の「癒やし」を求めるため、道化師や手足の不自由な「矮人(わいじん)」を側近として置く風習がありました。有り体に言うと、彼らは人間というより貴族にとってペットみたいな存在だったようです。宮廷画家だったベラスケスもまた、彼らを題材にいくつかの肖像画を残しましたが、そのうちの1点が来日しています。

他の作家たちと比べ、ベラスケスは必要以上に矮人をデフォルメしたり貴族の引き立て役として描いたりせず、見えた対象を見えたままリアルに描きました。そして、彼らの見せた一瞬の表情から、人間としての尊厳や品位、純朴さをきっちり写し取っているのが凄いのです。 

この1枚は本当に深い、考えさせられる作品でした。

▼ディエゴ・ベラスケス「東方三博士の礼拝」
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1619年 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

弱冠20歳のベラスケスが、修行時代に製作した初期の傑作。ベツレヘムの馬小屋で生まれたキリストを「礼拝」するために東方からやって来た博士たち、という伝統的な聖書の主題を描きました。聖母マリアは自らの妻:フアナ・パチェーコを、博士には自分自身や師のパチェーコを、そして、イエスには娘のフランシスカをモデルにしたと言われます。 聖人を神がかった大仰な存在として描くのではなく、敢えて卑近なモデルに置き換えて描くところに、実直なベラスケスらしさがしっかり出ていると感じました。

見どころ3:ベラスケスのライバル?!スペイン黄金時代を飾った巨匠たちの作品も!

スペイン絵画の黄金時代は、世界史の中でスペインが覇権を握っていた16世紀後半~17世紀とほぼ重複していますが、この時期には、ベラスケス以外にも多数の巨匠たちが活動しました。本展では、ベラスケスと同時代の作家の作品もたっぷり楽しめます。

▼フランシスコ・デ・スルバラン
「磔刑のキリストと画家」
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1650年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

スルバランは、ベラスケスより少し先輩格にあたるスペイン絵画黄金時代を担った作家の一人です。色彩感を抑え、まるで彫刻作品のようにリアルに描いた磔刑にされたキリスト像。見ているだけでぐぐっと気が引き締まる思いがします。

▼ジュゼペ・デ・リベーラ
「聖ペテロの解放」
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1639年 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

明暗がはっきりした荘厳な宗教画を得意として、キャリア中期にイタリアへと渡り、死ぬまでスペインへと戻ることはなかったリベーラ。僕のイメージでは、どちらかというと「カラヴァッジョの後輩」だと思っていましたが、こうしてスペインの画家たちの作品群と並ぶと、全く違和感ありません。スペインらしさがしっかり感じられたのでした。プラド美術館でも、スペイン出身画家として、多数の作品を保有しているそうです。

▼バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
「小鳥のいる聖家族」
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1650年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

本作は、聖書では示されないイエスの幼年時代の日常の一コマを描いた構図ですが、まず釘付けになったのが、イエスの父・ヨセフの大きな存在感とイケメンパパぶり!よくあるマリアとイエス・・・じゃなくて、ヨセフが主役で、マリアとイエスはこの絵では完全に脇役なんですよね?!

スペイン・バロック絵画においては、特にヨセフを慎み深く模範的な父親として描出することが多かったといいますが、本作を見て、自分もこんな父親になれているかなぁ(いやなれてない)となぜか反省したい気分になったのでした^_^;

見どころ4:「ボデゴン」というスペイン絵画独自のジャンル

▶及川光博が紹介!「ボデゴン」とは?
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スペインでは、風俗画の一種として、静物画のことを「ボデゴン」と呼んでいるそうです。 主に飲食物と人物が一緒に描かれることが多かったのがスペイン静物画=ボデゴンの特徴です。スペインワインを飲んでると、よく『ボデガ・◯◯』とかっていうワイナリーの名前を冠した銘柄が出てきますが、この「ボデゴン」という言葉は、「ボデガ」=「酒蔵」に由来があるようです。

たとえば、この左の作品!

▼アレハンドロ・デ・ロアルテ「鳥売りの女」
(※右側はトマス・イエペス「卓上の2つの果物皿」1642年)
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1626年、両作品ともマドリード、プラド美術館蔵

広場の家畜を扱う露店で、少年がフードを被った女性の売り子からニワトリを買う場面を写し取った作品。画面を埋め尽くさんばかりに(あくまで食材として)描かれたトリたちと、人物が一緒に描かれていますね。庶民の慎ましい生活風景の一場面として非常に印象に残りました。

見どころ5:スペイン以外にも巨匠の作品続々!

フェリペ4世をはじめ、スペイン王室が収集してきたコレクションの中には、イタリアやフランドル地方の巨匠たちの作品も多数含まれています。特にフランドル地方の作家の作品が多いのは、この時代、同地方がハプスブルク家の統治影響下にあったことも大きいのだとか。

▼ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
「音楽にくつろぐヴィーナス」
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1550年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

一時期、スペインの宮廷にも出入りしていたティツィアーノも、名作をいくつも残しています。本展では、名作「ウルビーノのビーナス」と構図が似た「音楽にくつろぐヴィーナス」という、オルガン奏者と一緒に描かれた作品が展示されました。我々鑑賞者を意味すると言われる、画面左に描かれたオルガン奏者の「目線」の方向が気になりました(笑)

▼ペーテル・パウル・ルーベンス
「聖アンナのいる聖家族」
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1630年頃 マドリード、プラド美術館蔵 © Museo Nacional del Prado

ルーベンスもまた、フェリペ4世統治下のスペインと関わりの深い画家でした。1628年、外交使節としてスペイン王宮を訪問した際、ルーベンスとベラスケスは出会い、親交を結んだそうです。実際、ルーベンスのアドバイスを得て、ベラスケスはイタリアへと絵画修業のため留学し、その後のキャリアで大きく画風を変化させています。

本展では、ルーベンスの良作が2作品来ています。2018年秋に上野で開催される「ルーベンス展」の予習としても、ここはじっくり見ておきたいところです!

4.洗練されたグッズコーナーは見どころたっぷり!

企画展示室を出て、エスカレーターで上がったところに設けられたグッズコーナーでは、他展よりも商品点数を絞り込まれ、厳選された商品群とスッキリしたディスプレイが印象的でした。

▼通常版と小型版の2種類用意された公式図録f:id:hisatsugu79:20180304021117j:plain

まず、これはいいな、と思ったのが、「通常版」と「小型版」の2種類が用意された公式図録です。今回の「通常版」は、作品点数は約70点と少なめながら、超大ボリュームで物凄いクオリティです。特に、冒頭から書き下ろされた約60ページもの論文は、くらくらするほど素晴らしかった(笑)

したがって、マニアならまず「通常版」を絶対買ってほしいところですが、とは言え、相当な重さがあるわけです。そこで、今回ダイジェスト版として用意された「小型版」が素晴らしかったのです。解説を簡略化し、ハンディサイズに縮められた「小型版」なら寝る前にベッド脇で気軽に読めます。これはなかなかいい配慮でした。

▼スペインワイン!
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そして、やっぱりスペインといえばスペインワイン!ポスターにも選ばれたバルタサール・カルロス王子の絵がラベルの展覧会限定赤ワインはおすすめです!レジ脇にはハモンセラーノ(生ハム)も置いてあるので、美術館を出たら上野公園で即飲めます(笑)

▼店長イチオシ!「トートバッグ」f:id:hisatsugu79:20180304021125j:plain
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そして、店長さんの一押しオススメだったのが、この数種類用意された、ベラスケスの絵画を拡大プリントした特製トートバッグです。メイドインジャパンでの安心クオリティ。縫製や丈夫さが、そのへんのオマケで無料で配られているものとは全く違いました。単なるお土産品ではなく、実用として長く何年でも使えるクオリティの高いトートバッグでした。特に、画家の筆触までクリアにわかる精巧なプリントもおすすめポイントです。

▼定番グッズももちろんあります!
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もちろん、マグネット、一筆箋、クリアファイル、チケットホルダー、絵葉書等、展覧会の定番グッズも一通りちゃんと揃っていますので、ご安心を! 

5.混雑状況と所要時間目安

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過去4回の展覧会では、合計180万人超を動員している実績のある「プラド美術館展」。いずれの回もかなりの来場者数を記録しているため、東京展に関して言えば、ゴールデンウィーク直前あたりから混雑するでしょう。ひょっとしたら、最盛期となるゴールデンウィークや、会期終了1週間前あたりは、相当混雑することも考えられますので、

・会期前半中に行く!
・夜間開館日を狙う!(夜桜もきれいだし)

このどちらかがおすすめです!是非早めにチェックしてみて下さい!

6.関連書籍・資料などの紹介

本展に関連する書籍では、上記で紹介した「図録」が素晴らしい出来なのですが、それ以外の副読本となると、以下の2点がダントツでおすすめです。2冊とも実際に買ってみましたが、展覧会で特集されているベラスケスやスペイン王室が収集したコレクションの中核となった画家たちについて深く学べる良書でした。

ダントツで読みやすい!「ベラスケスとプラド美術館展の名画」

わかりやすさでは、本書がNo.1でした。本展と完全に連動する形で新たに編集・出版されたムック本なので、展覧会で出展されている作品が明示されているのが何よりも嬉しいところ。また、さまざまな図解やイラストで、簡潔にベラスケスやプラド美術館の保有する作品群について解説してくれているため、特に初心者・入門者に優しい作りになっています。

東京美術社の定番ムック!「もっと知りたいベラスケス」

そして、もう1冊オススメしたいのが、東京美術から出版されている定番の「もっと知りたい~」シリーズ。ムック本の形式をとりますが、内容は硬派で中級者~上級者でも納得の情報量・クオリティが確保されているのが嬉しいところ。特に、本展を監修したスペイン近世絵画のスペシャリスト、国立西洋美術館・主任研究員の川瀬佑介氏が執筆しているのは頼もしいです。

ベラスケスの生涯を時系列でたどりながら、その画業や画風の変遷、代表作品を一つ一つ丁寧に解説してくれています。今回の展覧会に来ていないベラスケスの代表作「ラス・メニーナス」「ブレダの開城」「教皇インノケンティウス10世」「アラクネの寓話」など、体系的に網羅されているため、これ1冊あればベラスケスについてはガッツリ学べます!

7.感想・まとめ

実は、今回の展覧会で初めてベラスケスをはじめとしたスペイン絵画の巨匠たちの作品をじっくり深く見ることができました。僕自身の思い込みとして、16世紀~17世紀頃のマニエリスム~バロック期は、イタリア・フランス・オランダ(フランドル)以外はあまり見るべきものはないのかなと勝手に決めつけていたのですが、それは全くの浅はかな誤りでした^_^;

今回の展覧会で出展されている、ベラスケスを始めとした最盛期のスペインの巨匠たちのハイレベルな作品群を見て、もっと深くスペイン絵画について学びたいなと思うようになりましたし、じっくり絵画を見ることによって体系的な知識を身につける機会にもなりました。

代表作「ラス・メニーナス」をはじめ、ベラスケス作品約120点のうち約4割を保有するプラド美術館が、一度に7点以上のベラスケス作品を海外に貸し出すことは非常にまれなこととされています。今回の展覧会では、その上限とされる「7点」が厳選されて日本に来ているのです。これって、凄いことですよね?ベラスケス作品がこんなにまとまって1つの企画展で見れる機会は今後めったに無いと思われます。是非、この機会を見逃さずに国立西洋美術館に足を運んでみてくださいね。面白いので、ミッチーの動画で予習もぜひ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

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「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」
◯美術館・所在地
国立西洋美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
◯最寄り駅
JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分
京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
東京メトロ銀座線、日比谷線上野駅下車 徒歩8分
◯会期・開館時間
2018年2月24日(土)~5月27日(日)
午前9時30分~午後5時30分(入館は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日:午前9時30分~午後8時まで
◯休館日
毎週月曜日
※3月26日(月)と4月30日(月)は開館
◯観覧料
一般1600円/大学生1200円/高校生800円
※中学生以下無料
◯公式HP
・国立西洋美術館HP
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2018prado.html
・展覧会専用特設ページ
http://prado2018.yomiuri.co.jp

◯Twitter
 https://twitter.com/prado_2018

 ◯巡回先
兵庫県立美術館
2018年6月13日(水)~10月14日(日)

【ネタバレ有】映画「ブラックパンサー」感想・考察と11の疑問点を徹底解説!/アメコミヒーロー物語の新境地!話題性抜群の傑作でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月1日に封切られた話題作「ブラックパンサー」を見てきました。アフリカ中部の架空の国「ワカンダ」での王位継承を巡るエピソードを、ほぼオール黒人キャストで固めた意欲作です。

早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ブラックパンサー」の予告動画・基本情報

▶「ブラックパンサー」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ライアン・クーグラー(「クリード」他)
【配給】ディズニー
【時間】135分

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わずか3作で売れっ子監督になったライアン監督
引用:Marvel Studios' Black Panther - Wakanda Revealed Featurette

マーベル・シネマティック・ユニバースの第18作となった本作で監督に抜擢されたのは、本作が映画製作3作目となるライアン・クーグラー。長編デビューとなったインディーズ映画「フルートベール駅で」が、いきなりサンダンス映画祭で一躍注目を浴びました。これがきっかけで、第2作目では、ロッキー・シリーズの第7作「クリード」の監督へ大抜擢されます。そして、これも大成功。

そこで、2作連続での成功を受け、ビッグバジェットでの映画製作でもきちんとまとめきる実力が備わっていることに目をつけたマーベルのプロデューサー、ケヴィン・ファイギは、さらなる超大作となる本作での監督就任を打診したのでした。

日本での興行収入は特に突出して伸びている感じはありませんが、特に本国アメリカを中心に世界的に大ヒット中。3月10日時点で、全世界で9億ドル以上を稼ぎ出すなど、絶好調です。

ところで、本作は、4月27日に公開される「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」への重要なブリッジとなる作品だと言われています。

▼4月27日公開のアベンジャーズ最新作!
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引用:「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」予告編 - YouTube

実際、同作の予告動画では、本作のメインキャストであるティ・チャラ/ブラックパンサーや側近のオコエの登場が確認できますし、ラスボス:サノスとの戦いが行われる主戦場の一つは、ワカンダ王国であるといわれていますね。

▼ティ・チャラとオコエの登場が確認できるf:id:hisatsugu79:20180311215356j:plain
引用:「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」予告編 - YouTube

日米欧の様々な予告動画をチェックしてみましたが、意外に面白かったのが、日本オリジナルで制作された「藤岡弘の秘境探検シリーズ」のパロディ予告です。映画本編とは何ら関係がないのですが、ユーモアあふれる日本独自の企画は楽しかった。お時間があればぜひどうぞ。 

▶藤岡弘がワカンダ王国の謎に迫る?!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.「ブラック・パンサー」主要登場人物・キャスト

ブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)f:id:hisatsugu79:20180311150012j:plain
引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 
今年40歳になりますが、まだまだ映画出演歴は意外に浅く、かなり遅咲きの俳優です。彼が一躍有名になったのは、偉大な黒人ミュージシャン、ジェームズ・ブラウンになりきった映画「ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男」(2014)でした。見事な歌唱と演技力を披露してくれています。MCU作品では、「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」(2016)からの出演となっています。

 エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)f:id:hisatsugu79:20180311145552j:plain
引用:Marvel Studios' Black Panther - Good to Be King Featurette
ライアン・クーグラー監督が手がけた長編の過去2作『クリード チャンプを継ぐ男』『フルートベール駅で』ではいずれも主役として抜擢されています。なお、マーベル作品では過去に「ファンタスティック・フォー」(※非MCU作品)でも出演歴があります。また、MCU作品では、過去に「ファルコン」役でオーディションを受けた実績もあり、何かとマーベルヒーロー映画に縁が深い人なのです。

ナキア(ルピタ・ニョンゴ)f:id:hisatsugu79:20180311145737j:plain
引用:Marvel Studios' Black Panther - Warriors of Wakanda
2013年、近代アメリカでの黒人差別を劇的に描いた名作映画「それでも夜は明ける」パッツィー役でアカデミー賞助演女優賞を受賞するなど、数々の賞を受賞するなど実績十分。ワカンダに非常に近いケニア人の血を引く女優。仏像の螺髪(らほつ)のような映画内での髪型が、非常に新鮮でした。

オコエ(ダナイ・グリラ)f:id:hisatsugu79:20180311145302j:plain
引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 
ほぼDVDスルーされたマイナー映画作品への出演が多く、日本で現在知られる出演実績は「ウォーキング・デッド」のミショーン役です。両親がジンバブエからの移民であり、こちらもナキア同様、アフリカン・アメリカンの俳優として映画内の世界観にマッチしていました。

エヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)f:id:hisatsugu79:20180311145501j:plain
引用:Black Panther Teaser Trailer [HD] - YouTube
主戦場はTVドラマで、ベネディクト・カンバーバッチ扮するシャーロック・ホームズ「シャーロック」シリーズでの相棒:ワトソン役で有名。他「FARGO」1stシーズンなど出演履歴は多数。映画では、2016年「シビル・ウォー」から2作連続出演中。いい年をしたオジサンなのに、どこかしら「かわいさ」が感じられる童顔な俳優です。このあと、アベンジャーズ・シリーズでの出演はあるのでしょうか?

シュリ(レティーシャ・ライト)f:id:hisatsugu79:20180311145837j:plain
引用:Marvel Studios' Black Panther - Warriors of Wakanda
MCU内の設定では、「トニー・スタークよりも賢い」とされる天才科学者シュリを演じたのは、南アフリカ出身の新進女優、レティーシャ・ライト。この後、春先にかけて映画「トレイン・ミッション」「レディ・プレイヤー1」「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」とメジャー配給作品での出演が続き、ブレイク間近です。アベンジャーズでは、トニー・スタークと天才同士の対決シーンがあるのか楽しみですね。

ユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)f:id:hisatsugu79:20180311145238j:plain
引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 
MCU作品では、「アベンジャーズ/エイジオブウルトロン」についで2作目の出演となりました。リブート版「猿の惑星」シリーズ「GODZILLA」「ホビット」シリーズなどモーションキャプチャー俳優の第一人者として有名ですが、この冬はなんと言っても「スター・ウォーズ8最後のジェダイ」のスノーク将軍役として圧倒的な存在感を残すなど、普通の映画俳優としても大活躍でした。

3.途中までの簡単なあらすじ

アフリカ中央部に位置する小さな農業国・ワカンダ。この国は、もう何百年以上も外部と連絡を絶ち、国を閉ざしてきた。しかし、それには重大な秘密があった。それは、はるか昔の神話時代、地球に飛来した巨大隕石がワカンダの地に落下したことと関係があった。この隕石は、地球上にはない万能レアメタル「ヴィブラニウム」で出来ており、歴代の王たちは、この巨大な力を秘めた鉱石が悪の手に渡らないよう、厳重に管理してきたのだった。

ワカンダは鉱石を活用した最先端のテクノロジーを開発する一方、世界中にスパイを放ち、国境をカモフラージュするなど、ワカンダは戦略的に独立性を保つ仕組みを作り上げてきた。

しかし、先代国王ティ・チャカは、長年の沈黙を破り、国際会議にて世界各国との平和共存を目指した「開国」を目指そうとしていた。その矢先、彼はアベンジャーズの分裂を企図したジモによって、爆弾テロで暗殺されてしまった。

亡き父の跡を継ぎ、即位を目指したティ・チャカの息子、ティ・チャラは、ワカンダの4つの部族長の承認と、山奥に住む「ジャバリ族」の族長エムバクを決闘で下すことで、王位継承を認められ、国を守護する「ブラックパンサー」としての儀式を執り行った。

しかし、王位を継承した直後から、ワカンダには不穏な動きが伝わり始める。20年来、ワカンダに侵入し、ヴィブラニウムを強奪して逃走を続けている闇の武器商人、ユリシーズ・クロウと、ワカンダに恨みを抱く元アメリカ軍の黒人兵士エリック・キルモンガーが、イギリスの博物館から盗み出したヴィブラニウムを韓国・釜山で第三者へ売りさばく動きがあるという。

この情報をキャッチしたティ・チャラは、天才科学者の妹シュリの遠隔サポートを得た上で、側近のオコエ、ナキアと共に密売現場である地下カジノへと向かった。取引相手は、同じく潜入捜査中だったCIA捜査官エヴェレット・ロスだった。

しかし、この潜入捜査はクロウたちに直前で露見してしまい、クロウは逃亡する。市街地でカーチェイスの上、クロウを拘束することに成功したが、クロウを奪還しようと戻ってきたエリック・キルモンガーから襲撃されてしまい、ティ・チャラはロスも含めて母国へと帰還する。

その後、クロウと仲違いしたエリック・キルモンガーは、クロウを殺害し、ワカンダへと向かった。彼は、20年前、クロウのワカンダ侵入を手引きした元国王ティ・チャカの実弟ウンジョブの一人息子だったのだ。

クロウの死体を見せ、ボーダー族の族長、ウカビを手なずけたエリックは、その足でワカンダ王宮へ向かい、ティ・チャラに王位継承の挑戦を申し出る。ティ・チャラを決闘で滝の下へ突き落とし、決闘に勝利したエリックは新たなワカンダの王となったのだった。

玉座についたエリックは、世界中のレジスタンス達にヴィブラニウムを送り届けることで、世界中に混乱を発生させ、その中でワカンダが世界の覇権を握ろうとする野心を抱いていた。その危険な動きを察知した先代女王ラモンダ、ナキアは、山奥に籠もるジャバリ族の王・エムバクを擁立しようと画策するが、エムバクの宮殿には、昏睡状態となったティ・チャラが密かに運び込まれていたのだった・・・。

果たして、ティ・チャラは復活してワカンダの国難を救うことができるのか?クライマックスに向け激動の展開が幕を開けるのだったーーーー。

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4.映画本編のレビュー(感想・評価)

ヒットした最大の要因はコンセプトの新しさ。でも本作の魅力は別のところにあるのでは?

本作がヒットした最大の原因は、ハリウッド初のブロックバスター大作娯楽映画において、徹底的に黒人・女性で固めた斬新なキャスティングと、その内容に込められた政治的メッセージだと思われます。

LGBTをテーマにした「ムーンライト」(2016)「ナチュラル・ウーマン」(2017)が相次いでアカデミー賞を受賞し、女性を主役に据えたアメコミヒーロー「ワンダーウーマン」が大ヒットを飛ばす中、アフリカにゆかりが深い黒人俳優・黒人監督で制作された本作は、確かに世の中の流れ的には完全に「追い風」に乗っているとは思います。

個人的には、ハリウッド作品以外に【有色人種】オンリーで構成された外国映画をそこそこ見慣れている(韓国映画、インド映画、中国映画など)ため、アメリカ人ほどの驚きはありませんが、僕も確かにこれは画期的だとは感じましたし、こうしたコンセプトの新しい作品は確実に後世に残りやすいだろうなとは思います。

でも、本作の魅力は、こうしたキャスティングや制作体制の真新しさよりも、徹底的に練り込まれた映画のストーリーや、アフリカ文化を最大限リスペクトして世界観を作り込んだた点にあったと思います。

スキのないストーリー構成や世界観

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アベンジャーズのメンバーは一人も出演しない
引用:Marvel Studios' Black Panther - Warriors of Wakanda

僕が本作を見ていて本当に素晴らしいなと思ったのは、最初から最後までほぼムダのないすっきりとしたストーリー構成や、しっかりした世界観です。前日譚「シビル・ウォー」と次作「アベンジャーズインフィニティ・ウォー」をつなぐブリッジ的作品的な位置づけの作品でありながら、アベンジャーズのメンバーは一人も出てこず、説明的で変な展開・セリフもなく、独立した世界観がきっちり守られているのです。

その語り口も、説明的なセリフや字幕を多用すること無く、ビジュアルや音楽を最大限活用して鑑賞者に直感的に理解させる洗練された演出が光りました。

例えば、ティ・チャラが正式にワカンダ王になろうとする一連の冒頭シーン約30分での手際の良いストーリーテリングは本当にムダがありません。

ティ・チャラの王位継承を巡る手続きや儀式が進む中、

・伝統的な祭政一致の中央集権的軍事国家でありながら、王の人徳で平和裏に国を維持してきたワカンダ独特の政治体制
・ヴィブラニウムの力で世界最先端の軍事力・技術力で鎖国体制を維持してきた経緯

このあたりが極めてスマートに描かれました。

世襲制を基本とするものの、公式なルートで決闘に勝つことで(=実力で)王位にチャレンジできるという、王の堕落を監視するセーフティネットもちゃんと用意された、よくできた仕組みや、決闘に勝った者が、王家伝来の秘伝のハーブを飲んで、あの世へトリップして歴代の王たちの承認を得る、という、神話の時代から綿々と受け継がれたシャーマニックな慣習も大切にする神秘性。

それでいて、他のMCU作品との相性が良さそうな、ヴィブラニウムを活用した数々の近未来的なテクノロジーもきちんと折々に紹介されていくという要領の良さ。

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ハンパない科学技術と伝統的王政が同居する不思議な世界
引用:Marvel Studios' Black Panther - Warriors of Wakanda

超近代的な科学技術力を誇る一方で、正当な儀式によって選ばれた王が古来伝統の徳治主義で国を治めるという不思議な国のあり方は、ありそうだけど現実的には存在しないんですよね。このあたりの虚構と現実が絶妙にブレンドされた、映画独自のユニークな世界観、本当に素晴らしかったです。

はっきりとしたわかりやすいテーマ性

また、映画冒頭部分で描かれた1992年当時のエピソードにおいて、早々に本作の重要なテーマが提示されたのもスマートでした。

すなわち、「他者を気にせず、自らの幸せを優先すべきなのか、自らのリスクを犯しても、他者へと手を差し伸べるべきなのか?」という点ですね。

それを国王となったティ・チャラ=ブラックパンサーがどう整理統合し、乗り越えていくか?という点がティ・チャラの心情の揺れとともに、大きな見どころとなりました。

ワカンダはこれまで隣の国が混乱と窮乏に陥ったとしても、見て見ぬふりをして国を閉ざしてきました。この、他者の不幸には見て見ぬふりをして、「自国ファースト」で鎖国を続けてきたことで密かに蓄積されてきた「負の側面」の象徴が、前国王ティ・チャカが路線対立の末、見殺しにした実弟・ウンジョブでした。

ウンジョブは、ワカンダ国外に住む、肌の色が同じ黒人たちが、苦しんでいる状況を放っておけず、彼らにヴィブラニウムという「武器」を提供することで、圧政者・簒奪者たちへ対抗できる力をつけさせようとします。しかし、若き日のティ・チャカは、ワカンダの伝統的な鎖国政策を優先するため、自ら血を分けた兄弟すら殺害してしまいます。国を守るため、自らの肉親すら殺害するという「矛盾」は、後日、エリック・キルモンガーという「怪物」を生みだしてしまい、ワカンダでの王位継承を巡った内乱へとつながっていくのです。

そんな窮地に陥った国王を精神的にも肉体的にも救ったのが、かつて決闘まで行った仇敵、ジャバリ族の王、エムバクでした。エムバクは、本作において象徴的に「もうひとり」のティ・チャラでもあるのです。なぜなら、ワカンダ国内において、山奥でこもり、他部族と隔絶してきたジャバリ族の王という立場は、そのまま世界の中で鎖国を続けるワカンダの王であるティ・チャラと相似形の関係だからです。だから、自らと立場を同じくするエムバクが、自らが困窮した時、手を差し伸べてくれたという経験は、ティ・チャラに強い勇気を与えたはずです。

そして、実弟・ウンジョブとその息子を見捨てたことを心から悔い、事件後30年を経て、開国して、ワカンダを新しい国へと生まれ変わろうとさせていた矢先にテロにより非業の死を遂げた先代王、ティ・チャカの思い。

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引用:Marvel Studios' Black Panther - Wakanda Revealed Featurette

この2つのエピソードを経て、亡き父の遺志を継いで、ヴィブラニウムの対外的な開放と技術提供を軸に平和開国を行うと宣言したラストのティ・チャラの国際会議での力強いメッセージは、非常に感動的でした。

それと共に、「国民を守るため鎖国をするか、困っている隣人を助けるため開国をするか」という二者択一を乗り越え、「他者へ手を差し伸べ、他者と連帯して共に生きていくこと自体が自らの危険を減らすことにもつながるのだ」という止揚的な発想の転換は、「自国ファースト」の殻の中に閉じこもろうとする現代の国際政治のあり方への強烈なカウンターメッセージになっていたと思います。

ムダのないすっきりしたストーリー構成の中で、政治的・社会的なメッセージをわかりやすい形で入れてくる力強いスタンス。本当にしびれました。

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5.映画「ブラックパンサー」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:ヴィブラニウムとはどんな物質なの?

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引用:映画「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(C) Marvel 2015

ヴィブラニウムとは、太古の昔、巨大な隕石としてワカンダの地に落下してきた、地球には存在しないレアメタルです。強度が高く軽量なため、戦闘機や武器・防具といった軍事用から、精密機器・通信機器まで幅広く応用できる他、人体に使うと体力回復・肉体増強・知力向上にも効果があります。

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体内に取り込むこともできるヴィブラニウム
引用:映画「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(C) Marvel 2015

ワカンダは、このヴィブラニウムから得られた様々な知見・効能を応用して、世界の先進国の約20~25年進んだ科学技術力を手に入れました。

なお、ワカンダ以外でヴィブラニウムの潜在力にいち早く気づき、実用化に先鞭をつけたのがトニー・スターク(アイアンマン)の父、ハワード・スタークです。ハワードは、キャプテン・アメリカにヴィブラニウムで製作した「盾」を与えましたが、まさにこれから更に開発を進めようとした中、惜しくもウィンター・ソルジャーに殺害されてしまったのでした。

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ハワード・スタークが開発!ヴィブラニウム製の盾
引用:映画「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(C) Marvel 2015

その他、アベンジャーズの一員である人造人間、ヴィジョンも、ユリシーズ・クロウから闇取引で手に入れたヴィブラニウムから生成した皮膚で全身を覆っています。

疑問点2:謎の秘境国「ワカンダ」とは?その歴史は?

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引用:映画「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(C) Marvel 2016

ワカンダは、中央アフリカで、やや東寄りのケニアとウガンダの国境付近に位置する小さな内陸国です。約1000年前に、初代王が女神バーストから神託を受けて「ブラックパンサー」となって国内の5部族を従えて建国して以来、歴代国王達は、自国で産出する鉱物資源「ヴィブラニウム」を巡る国際紛争が起きないよう、固く国を閉ざしてきました。その国土は、ホログラムでジャングルに偽装されているため、上空からの写真などではまず見つからないとされています。

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立体ホログラムで守られたワカンダ国境付近
引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 

ちなみに、ワカンダという名前は、ケニアの「ワカンバ族」にちなんでつけられたそうです。ウガンダ・ルワンダ・コンゴ・ブルンジ・エチオピアといった中央アフリカ各国の文化や風習を映画内の美術・セットなどの各種デザインに取り込んで制作されました。

疑問点3:映画冒頭、ナイジェリアの密林でナキアは何をしていたのか?

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引用:Marvel Studios' Black Panther - Good to Be King Featurette

映画冒頭で、ティ・チャラは、元恋人のナキアに自らの即位式へ出席を促すため、ナイジェリアのサンビサ森林へ向かいました。国外でスパイ活動に従事していたナキアは、多数の若い女性達を誘拐拉致し、移送中だったアフリカの奴隷商人達の動向を探るため、内偵中だったのですね。

現地に到着したティ・チャラは、奴隷商人達と交戦し、期せずして女性たちを救出するお手柄となりました。でも、誘拐拉致された女性達の集団の中に紛れ込んでいたナキアは、途中で諜報活動を中断されてどこか不満げでしたね。

これは、明らかに2017年ごろから国際問題になっていたイスラム系過激派組織「ボコ・ハラム」による女性集団拉致監禁事件を念頭に描かれたと思われます。

疑問点4:先代国王ティ・チャカはなぜ亡くなったのか?

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引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 

数年前、先代王ティ・チャカは、史上初めて国際会議にて平和を訴える演説を実施しました。彼は、その演説にて将来の開国と、自国が保有するヴィブラニウムの平和利用を軸とした世界平和へ向けて一歩踏み込もうとしました。しかし、先代王の願いは虚しく、ちょうどティ・チャカが会議場で演説中、アベンジャーズの仲間割れを図ろうとしたテロリストの爆弾テロ事件が発生し、暗殺されてしまったのでした。 

疑問点4:王だけが飲めるという謎のハート型のハーブは何なのか?どんな効果があるのか?

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王のハーブ園に火をつけるキルモンガー
引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 

映画では、ワカンダの国王となる者だけが飲む紫色のハート型のハーブが頻繁に登場しました。ワカンダに伝わる伝説では、女神バーストから、ワカンダの国王へもたらされたとされます。国王として認められた時、このハーブの絞り汁を飲んだ国王は、地面へと埋め込まれたあと入眠すると、先祖たちと夢の中で再会できます。そして、目が覚めた後は、超人的な力を得ることができるのです。

疑問点5:CIAのエージェント、エヴェレット・ロスとは何者なのか?

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クロウを尋問するロス
引用:Marvel Studios' Black Panther - Wakanda Revealed Featurette

韓国でユリシーズ・クロウを巡るエリック・キルモンガーとの戦いにおいて、ナキアを守ろうとして背中に致命傷を受けたことで、ティ・チャラはエヴェレット・ロスをワカンダに連れ帰ります。シュリの看病によって回復した後は、ワカンダでのキルモンガー達との戦いにおいて、元パイロットの経験を戦闘機の操縦を任されるなど、一連の騒動を通じてすっかりティ・チャラの仲間になった感のあるロス捜査官でした。

振り返ると、もともとは「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で初登場した時は、対テロ合同対策本部にて、ウインター・ソルジャー事件を担当していました。この時、ティ・チャラと知り合い、シビル・ウォーの一件が落ち着いてからは、新たにヴィブラニウムの闇取引についての捜査担当となり、再びワカンダの人々と深く関わるようになっていったのでした。

疑問点6:オコエの所属する女戦士の部隊とは?

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引用:Marvel Studios' Black Panther - Warriors of Wakanda

オコエは、女戦士だけで構成された、ティ・チャラの身辺を護衛するワカンダ最強の親衛隊「ドーラ・ミラージュ」の隊長でした。この「ドーラ・ミラージュ」は国王の将来の妻候補でもあり、最強の護衛戦士でもあるのです。現在は国外で活動するティ・チャラの幼馴染で元恋人であったナキアも、かつてはドーラ・ミラージュに所属していました。長槍を基本に、あらゆる戦闘技能をマスターした最強の女戦士、かっこよかったですね。

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にてる?!SWのエリート・プレトリアン・ガード
引用:Star Wars: The Last Jedi | Red Carpet World Premiere

「スター・ウォーズ」シリーズで、ファースト・オーダーの指導者、スノークの周りを固める「エリート・プレトリアン・ガード」そっくりだなぁと思いました・・・。

疑問点7:密輸商人「ユリシーズ・クロウ」の正体とは?

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引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 

ユリシーズ・クロウはブラックマーケットで密輸品を売りさばく、闇の武器密輸商人です。トニー・スタークとも実は、知り合いなのです。トニー・スタークの父、ハワード・スタークがヴィブラニウムの実用化に成功したことを受け、1992年、彼はティ・チャラの叔父、ウンジョブの手引きにより、ワカンダへと侵入、数百キロのヴィブラニウムを盗み出すことに成功します。(その時にボーダー族のリーダー、ウカビの父を殺害)

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激昂したウルトロンに左腕を切り落とされるクロウ
引用:映画「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(C) Marvel 2015

本作の前日譚の一つでもある映画「アベンジャーズ/エイジオブウルトロン」で、彼は盗み出したヴィブラニウムをウルトロンに売りさばき、その取引現場でうっかりウルトロンを怒らせてしまったことから、左手を失ったのでした。

疑問点8:エリック・キルモンガーは王位についた後、何をしようとしていたのか

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引用:Marvel Studios' Black Panther - Official Trailer 

ワカンダ国外でスパイ活動に従事していたエリックの父・ウンジョブは、世界中で多数の人々が絶望的な中苦しんでいる様を見て、自国の資源、ヴィブラニウムの力で圧政者を倒し、世界に平和をもたらそうと考えていました。

その遺志を曲げて継いでしまったのが、エリックでした。彼は、幼少時代に最愛の父・ウンジョブを先代王ティ・チャカに殺害されて以来、アメリカ軍の特殊部隊にて戦闘能力を身に付けつつ、ワカンダへ帰り着き、王座を簒奪する機会を伺っていました。

ワカンダでティ・チャラの側近の一人、ウカビを味方に付けたエリックは、決闘でティ・チャラを倒して王座に就くと、ヴィブラニウムを国外のテロリスト・レジスタンスに送りつけて世界を大混乱に陥れ、その混乱に乗じて世界を征服しようと企んでいたのでした。父・ウンジョブの目指した目標から逸脱し、気づいたら自分自身が、父の最も忌み嫌った簒奪者・独裁者になってしまっていたという皮肉が哀れで悲しかったですね。

疑問点9:ラストシーン・結末の考察~エンドロールの2つのシーンの解釈は?

エムバクの看病と、ナキアが密かに摘んできたハーブの絞り汁のおかげで回復したティ・チャラは、自らが不在の間にエリック・キルモンガーが引き起こした大混乱を治めるべく、ヴィブラニウム鉱山の中で1対1の対決に挑みます。

長い戦いの末勝利を収め、エリックの最後を看取ったティ・チャラは再び王の座に返り咲き、先代王が引き起こした不始末の精算を果たしたのでした。また、先代王が志半ばで果たせなかった「開国・世界との平和共存」という第一歩に踏み出すべく、国際会議でヴィブラニウムの平和利用を軸とした、開国をも宣言します。

国を守らなければならないという責任感と、平和への願いをより高い位置で昇華させたティ・チャラの行動が、しっかりとエンディングで描かれたことは、自国の利害を最優先し、エゴをむき出しにする現代の国際政治情勢への強烈なカウンターメッセージであり、痛快かつ感動的なラストとなりました。

また、エンドロール後のポストクレジット映像では、傷が癒え、テントから出てきたバッキー・バーンズ(元ウィンター・ソルジャー)に対してシュリが「もう大丈夫なの?」と気遣うシーンが描かれました。

前作「シビル・ウォー」で、負傷したバッキーはティ・チャラがワカンダへと連れ帰り、密かにシュリに治療させていたのでしょう。それがわかる手がかりとして、劇中で、負傷して運ばれてきたロス捜査官の治療にあたる時、シュリが「また白人の男を診れるの?」というシーンがあります。つまり、シュリが最初に治療した白人男性が、バッキーだったわけですね。

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引用:「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」予告編 - YouTube

そして、すでにアベンジャーズ・インフィニティー・ウォーの予告動画の中で、バッキーはアベンジャーズ側の一員として戦うシーンが公開されています。「ブラックパンサー」のコミック版では、ワカンダで育てられた「ホワイトウルフ」という白人の戦士が登場するのですが、おそらくこのあと、バッキーは「ホワイトウルフ」となって、アベンジャーズに再び参戦するのではないでしょうか?(2ヶ月後の答え合わせが楽しみ!)

疑問点10:続編「ブラック・パンサー2」はあるの?

制作費200億ドルに対して、最終的には10億ドル以上の世界興収が予測され、超特大ヒットとなった本作。マーベル側からは今のところ何の公式アナウンスメントは出されていませんが、プロデューサーのケヴィン・ファイギは、欧米メディアでの複数のインタビューで、「条件が整えば、ぜひ2作目を製作してみたい」とかなり前向きな様子です。(時期としては2020~2021年くらい?)

シナリオとしては、本格的に開国したことで、国内にテロリストなど悪者が入ってきて、王宮の権力争いと絡めて一騒動・・・といったところでしょうか?

実際、映画では王妃(となりそうな)ナキアは、原作コミックではその後「マリス」と名乗りブラックパンサーを苦しめる悪役に転じますし、王宮内の潜在的抵抗勢力と、外からの悪意ある外敵が結びついてブラックパンサーと対立・抗争するシナリオは、案外有力なのではないかと思います。

6.まとめ

ほぼオール黒人キャストで制作された先進的な制作体制に加え、スキのない王道的なストーリーの節々に強烈な政治性を持たせた本作。普通に娯楽作品として見ても面白いですし、深読みしようとすれば、作品内に重層的に隠されたメッセージにも気づかされます。アフリカの土着的な美意識へのリスペクトもしっかりこめられ、細部まで丁寧に制作された美術や音楽、セットや小物のデザインなども素晴らしかったです。

すべてが高いレベルでしっかりまとまった本作、ぜひ、味わい尽くすまで何度も見ておきたい作品だと思います。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

秀逸!ブラックパンサーのパンフレット

やっぱりマーベル作品のパンフレットは読み応えが違います!人物紹介・設定資料はしっかりしているし、制作陣・キャストへのインタビュー、映画ライターによるコラムも3本と、読み物としても充実。

これに加え、なんと言っても光沢のある上質なカラー印刷が美麗で良いです!映画の名シーンをたっぷりとあとから楽しめるよう、徹底的に作り込んでくれているのです。特に、本作に付属して特別な関連図書が発売されるわけではないので、事実上この映画パンフレットが、大事な副読本になると思います。

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▼ブラックパンサーの秘密を図解!
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▼マニア心をくすぐられる、設定資料集のページも!f:id:hisatsugu79:20180311141529j:plain

▼そして、映画の名シーンのキャプチャ画像も充実!f:id:hisatsugu79:20180311141618j:plain

▼どのページも美しいビジュアルで埋め尽くされていますf:id:hisatsugu79:20180311142037j:plain

調べてみたら、Amazonなど、ネットでも買えるようになっているようです。念の為購入用のリンクを置いておきますね。

映画「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」

ブラックパンサーが初めてお披露目となり、亡き先代国王ティチャカの暗殺事件、バッキー・バーンズとの対決、アベンジャーズ主要メンバーとの顔合わせ、ヴィブラニウムの行方を追うCIAエージェント、エヴェレット・ロスの登場など、盛りだくさんの内容で、本作や、次作「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」への伏線を多数含む重要な前日譚的な位置づけを持つ作品。今もう一度見直してみると、単なる顔見せ以上の意味合いがあるので、できればセットで見ておきたい作品です。

映画「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」

万能のレアメタル「ヴィブラニウム」が作品内で大きくクローズアップされた注目の関連作品。ワカンダへ不正に出入りし、ヴィブラニウムを密輸する闇の武器商人、ユリシーズ・クロウが物語中盤で初登場。また、ヴィブラニウムで作った人工皮膚で覆われた最強の人造人間・ヴィジョンも誕生します。「シビル・ウォー」の他にMCU関連作品をもう1作見ておくならこちら。

サウンドトラックが本気でオススメ!「ブラックパンサー・ザ・アルバム」

映画内で使用された美術やデザインなどでは、複数のアフリカ民族の美意識・美的センスがミックスされ、デザインのユニークさや美しさがたっぷり感じられましたが、音楽面でもその徹底したこだわりは一貫しています。

本作のサウンドトラックは、ライアン・クーグラー監督監修の下、アメリカのHIPHOPシーンで活躍するケンドリック・ラマーが全面的に参加して制作されました。例えば、メインテーマ「ワカンダ」や、主題歌の「Pray For Me」など、非常に印象的な楽曲が満載です。3月11日現在、アマゾンでベストセラーとなっています。

▶メインテーマ「ワカンダ」
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

▶ケンドリック・ラマー「Pray For Me」
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

 

アメコミ版ブラックパンサー

1960年代から50年以上にわたって、マーベル・コミックで繰り返しその活躍が描かれてきた人気アメコミヒーロー・ブラックパンサーですが、昨年発売されたこの「ブラックパンサー」は、映画作品とと連動したアメコミ版「ブラックパンサー」の入門編として最適!ワカンダの地下深くに眠るヴィブラニウムを巡る、スリリングなアクション活劇がシリアスに描かれています。クオリティ高し!


Nスペの興奮再び!2018年の人体展は圧倒的な情報量が光る充実展示でした!【展覧会レビュー・感想・解説】

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年春、また凄い展覧会が国立科学博物館でスタートしました。タイトルは、特別展 「人体 ー神秘への挑戦ー」です。昨年夏の特別展「深海2017~最深研究でせまる”生命”と”地球”~」もそうでしたが、2017年秋から半年をかけて全8回で放送中の人気番組、NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」と連動した企画展となります。

僕も、去年9月末にスタートした第1回から欠かさず見てきたので、今回の展覧会は非常に楽しみにしていました。早速ですが、展覧会の内容について、写真多めでレポートしてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.特別展「人体 ー神秘への挑戦ー」とは?NHK番組とはどう違ったのか?

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最近、本当にあらゆるコンテンツでメディアミックス化が進んでいますよね。人気化する作品は、小説、マンガ、アニメ、実写映画、舞台、展覧会、スピンオフ作品など、あらゆるジャンルで展開されるようになりました。

ここ最近は特に良質なドキュメンタリー作品についても、映像と合わせて、展覧会や書籍化、マンガ化、子供向けの解説書など、本当に様々な派生コンテンツが楽しめるようになってきました。そんな中、今回の「人体展」は、昨年9月30日から放送が始まったNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」と緊密に連動した展覧会企画となります。

展覧会では、実際にNHKの番組内で使用された映像資料や説明模型をはじめ、多数のコンテンツが紹介されているなど、これまでNHKスペシャルを楽しんできた「人体」ファンには「おっ!」と思えるようなコンテンツも用意されています。

ただ、タイトルを見ても

(テレビ)「人体 神秘の巨大ネットワーク」
(展覧会)「人体 ー神秘への挑戦ー」

とサブタイトルが違っていますよね。

したがって、今回の展覧会は「NHKスペシャルを補完する総集編」というわけでは決してなく、ゆるやかにNHKの番組内容に連動しつつも、博物館ならではの強みを活かした、ほぼオリジナルの独自コンテンツになっているのです。

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引用:書籍版 NHKスペシャル 人体~神秘の巨大ネットワーク~ - YouTube

NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」の画期的なところは、「脳」が人体における唯一の「司令塔」であり、とにかく脳が一番大事なんだ、という、人々がテンプレート的に持っていた人体へのイメージを、圧倒的なビジュアルイメージの力で一新してくれたことでした。

「脳」だけが決して特別な存在であるわけではなく、人体というのは、実は、心臓や肝臓、腎臓といった主要な臓器・器官が自律的に機能する中で、互いに緊密にメッセージ物質を伝達し合い、複雑な「ネットワーク」を形成することで、生命としてのバランスを保っているんだ、という考え方は、本当に衝撃的でした。

これに対して、今回の人体展では、博物館ならではの強み・特徴を活かした非常に正統派な展覧会となっています。具体的には、

◯標本、模型を豊富に使った比較展示
博物館でこれまで収集してきた動物・人体の標本や模型を時系列・種類別に比較展示することで、わかりやすく人体の構造・仕組みを解説する。
◯人体解明・解剖学の歴史を丁寧に解説
15世紀後半から始まる人体解明・解剖学の歴史を20名以上の著名な研究者の業績を振り返ることで、まとめていく。
◯人体×アートのコラボレーション
後半部分で、最新の顕微鏡映像にカラフルな着色を施した写真展や、「ネットワーク」としての人体を、メディアアート化することで、直感的に理解できる仕掛けが用意されている。

となっていました。決してTV番組に従属する「総集編的なアプローチ」とは全く違い、博物館ならではの独自企画となっていました。最新の研究成果を斬新なビジュアルで見せるNHKスペシャルに対して、模型や標本を使った充実した実物展示。両方見ることで、「人体」への総合的な理解がぐぐっと深まるような、相互補完的な関係になっているのです。

それでは、このあたりの特徴を軸に、見どころをもう少し紹介していきます。

2.じっくり味わおう!展覧会の7つの見どころとは?

見どころ1:聞くだけじゃない、楽しめる音声ガイド

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今回、音声ガイドのナビゲーターに起用されたのは、タレントの小島瑠璃子さん。バラエティ番組での華やかなイメージとは違っていて、非常に落ち着いて聞きやすく仕上がっていました。

▼耳あて式。携帯電話みたいに使います。f:id:hisatsugu79:20180315124247j:plain

ガイドは、ヘッドホンではなく耳あて式となっています。携帯電話のように耳に直接
当てて使います。

▼クイズも出題されます!これは面白い!f:id:hisatsugu79:20180315124446j:plain

面白かったのは、音声ガイド内で、たびたび3択クイズが出題されること。ガイド周辺の展示を注意深く見ていればすぐに分かる問題なのですが、僕はほぼ全問「不正解」を食らいました^_^;(でも、正解はもちろん教えてくれます)

▼全問不正解だった・・・f:id:hisatsugu79:20180315124458j:plain

国立科学博物館の特別展での音声ガイドは、毎回こういうゲーム的な趣向を入れてくれる事が多いのですが、今回もしっかり楽しめるようになっています。展示の情報量も多いので、ポイントを絞って展示を見て回りたい人にも、おすすめです。

見どころ2:人体研究・解剖の歴史がたっぷり学べる展示内容

そして、これは「博物館ならではのアプローチだなぁ」と思ったのが、人類が15世紀から積み上げてきた人体探求への取り組みを、偉大な研究者達の業績をまとめた解説パネルと、関連展示品でうまくまとめていたことです。

▼要所要所でレオナルド・ダ・ヴィンチの解剖手稿が展示f:id:hisatsugu79:20180315150704j:plain

今回の人体展は、循環器系、神経系、消化器系、運動器系と、人体のそれぞれの
各パーツを種別ごとに順番に見ていくのですが、それぞれの展示コーナーへの
入り口のところに、一つずつダ・ヴィンチの有名な「解剖手稿」の原本(!)が置いてあるんですよね。絵画から都市計画、軍事、土木とあらゆる分野で優れた業績を残した
ダ・ヴィンチですが、人体の構造には特別思い入れがあったんだろうなぁと思わされる手稿でした。(よくよく見ると、有名な鏡文字で書いてあったりします!何気なく置いてありますが、レアな出展なので、じっくりチェックして見て下さいね!)

▼人体解剖史上の偉人たちの業績が紹介されているf:id:hisatsugu79:20180315133526j:plain

そして、それぞれの分野で凄い研究成果を挙げた著名な学者が、解説パネルでしっかりまとめられています。これ、ざっと見て軽く20名以上ありました。

▼研究で使われた分析機器なども合わせて展示されているf:id:hisatsugu79:20180315150641j:plain

さらに、その研究で使った歴史的な分析機器なども合わせて展示されています。今のように最先端の科学機器もなかった時代に、限られた機器を使って偉大な成果を残した学者達の苦労や情熱が伝わってくるような展示でした。

▼江戸時代に日本へ入ってきた「キンストレーキ」f:id:hisatsugu79:20180315134011j:plain

もちろん、今となってはもう生産されていないようなレアアイテムなどもあります。入り口すぐを入った(若干グロテスクな)キンストレーキと呼ばれる、19世紀前半にフランスで考案された人体模型。江戸時代末期に日本にも輸入され、今となっては日本で4体しか現存しない非常にレアなアイテムです。

精密にはできているけれど、男性のお腹が完全メタボ体型だったり、女性像が妙にポーズを取っていたりと、どこかしらB級感の漂う微笑ましい人体模型に、歴史的な味わいをしっかり感じられました。これは必見です!

見どころ3:精巧に作られた大型模型

もちろん、キンストレーキのようなレガシーな模型だけでなく、今回の展覧会用に作られた最新の解説用模型もたくさん置いてありました。ある程度見やすくデフォルメされていますが、どれも非常に大きく見やすいのが良い!

例えば、下記の「脳」の断面図模型などは、非常に大きく拡大されていて、迫力もありました。これならかなり混雑していてもちゃんとチェックできますからね。

▼人体の脳の巨大な断面図f:id:hisatsugu79:20180315151046j:plain

学校の教科書やいろいろな教養書で一度は見たことのあるようなパーツではありますが、百聞は一件に如かず。本で読むだけでなく、実際に展覧会で3次元化されたリアルなモデルをガッツリ見ると、理解が一気に進むことってよくありますよね。ぜひ迫力ある模型を楽しんでみて下さい。

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物凄く驚いたのが、下記の「縄文人」歯の内側から抽出したDNAを元に、完全再現した頭部の模型です。今は、DNA鑑定と頭部の骨格から、かなりのレベルまで顔つきまで再現できるのだとか。凄いですよね。

▼縄文人の顔立ちをDNAから完全再現!f:id:hisatsugu79:20180315140950j:plain

見どころ4:解説パネルもすごい情報量!

そして、やはり国立科学博物館といえば、超豊富な解説パネルの情報量。今回も、1時間や2時間では全部読みきれないほど解説パネルが充実しています。

▼充実した解説パネル
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「数字で知ろう!人体」という子供向けのわかりやすいパネルもありました。春休みやゴールデンウィークに家族連れで来ても十分楽しめますよ。

▼子供向けにも配慮されている展示f:id:hisatsugu79:20180315150748j:plain

見どころ5:動物標本や人体標本の充実した比較展示 

そして、これぞ博物館の底力を感じたのが、動物標本や人体標本を使った実物展示です。(念の為ブログでは写真掲載を控えますが)様々な動物たちの標本を、人体と見比べながら違いがわかる「異種別間の比較展示」や、人体の成長の変遷がわかるような「時系列での比較展示」が特に充実していました。

▼人体の男女骨格の比較展示(明らかに違う!)f:id:hisatsugu79:20180315150955j:plain

こちらは、江戸時代の子供の人骨を使った、幼少時の骨格の成長過程がわかる比較展示です。人間はこうして少しずつ成長するんですね・・・。

▼江戸時代の子供の人骨比較展示f:id:hisatsugu79:20180315151850j:plain

▼各動物種での心臓の比較展示f:id:hisatsugu79:20180315151908j:plain

結構面白かったのが、ライオンのメスとヒョウのオスから生まれた「レオポン」の動物標本です。「DNAのメカニズムを変えずに、細胞の形質を変化させる」というエピジェネティクスの実例として展示されていたのですが、「レオポン」が2つの種のちょうどあいのこのような特徴をしていたのが印象的でした。

▼上部左:ヒョウ(父)/右:ライオン(母)
下部2頭:レオポン
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また、人体の標本コーナーについては、衝立が設けられており、衝立の後ろ側に回り込まないと見えないような配慮もなされています。ホルマリン漬けになっており、かなり生々しさは抑えられていましたが、これは良い工夫でした。

▼人体標本コーナー入り口には注意書きが必ずあるf:id:hisatsugu79:20180315133231j:plain

見どころ6:NHK番組で使ったグッズも!  

本店は、基本的にはNHKスペシャルとはほぼ独立した展示が大半なのですが、展示後半のいくつかのコーナーで、NHKスペシャルとの連動が図られています。

そして、NHKスペシャルとの連動コーナーの手前から、写真撮影OKとなります。下記の看板で明示されていますので、是非スマホやカメラを是非用意して下さい!

▼展示後半から写真OKになります!f:id:hisatsugu79:20180315132809j:plain

一番の見所はやっぱり、番組でたびたび活躍するレゴで作った実物大タモリ。ちゃんと、内蔵部分も作り込まれていました。是非記念写真をガッツリ撮っちゃって下さい!

▼番組で毎回大活躍の「レゴ版実物大タモリ」f:id:hisatsugu79:20180315133157j:plain

その他、番組内で実際に使った人体の模型がいろいろ展示されています。よく見てみるとTVの小道具・小物類は、「リアル」さを相当犠牲にしても、TVモニターを通した際のわかりやすさ、見た目のインパクトを重視して製作されていることがよくわかります。

▼筋肉などの模型
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▼子宮内を図示した模型(思い切ってデフォルメされている)
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見どころ7:アート的なアプローチも良かった!

そして、今回意外に良かったのが、「アート」的なアプローチです。最新のテクノロジーを駆使して、ラットの体内の様々なパーツをミクロレベルで写した各種写真が展示されているのですが、元々の白黒写真を鮮やかに着色することで、ちょっとした写真展のような趣向に早変わりしていました。

細胞単位の超ミクロな写真に映し出された各器官の意外なかたちを、楽しく学べる良い工夫だったと思います。

▼記念写真も撮りやすくなっていますf:id:hisatsugu79:20180315131858j:plainf:id:hisatsugu79:20180315131732j:plain

さらに、人体の各パーツが騒がしく情報をやり取りするイメージを、体験型メディアアートに仕上げた インスタレーション「NETWORK SYMPHONY」も面白かったです。

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暗幕で仕切られた暗い部屋に入ると・・・

床にそれぞれ「すい臓」「腸」「心臓」とプリントされた丸いスポットが見えます。この中に立つと、天井に取り付けられた臓器が光って、それぞれの別の臓器にカラフルな情報伝達物質が流れる仕掛けになっています。

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複数の参加者が参加することで、絶え間なく臓器間でカラフルな情報物質がやり取りされる様子が再現される仕組みになっています。下記写真の通り、まるでちょっとした宇宙空間にいるようでした。

▼子供も喜びそうな体験型インスタレーションf:id:hisatsugu79:20180315132535j:plain 

3.グッズ・お土産も多数ありました

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最後の展示を抜けると、人体展のミュージアムショップが待っています。図録からTシャツ、お菓子、書籍、人形、他子供向けのグッズまで、ものすごい種類のグッズが並んでいました。そのうち、良さそうなものを紹介しますね。

まず、目を引いたのはトートバッグ。かなり斬新なデザインなので、強烈に思い出に残りそうな逸品です。

▼斬新なデザインのトートバッグ
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そして、ゆるかわいい小動物が人気の、イラストレーター「カナヘイ」とのコラボグッズもかなりの種類が揃っていました。期間中、商品の入れ替えもあるみたいなので、コンプリートしたい人は是非何回も足を運んでみて下さい。

▼カナヘイとのコラボグッズf:id:hisatsugu79:20180315131043j:plain

中でも、カナヘイの手ぬぐいは結構良かったかも。種類も豊富だし、これはかなり人気が出そうです。

▼カナヘイの手ぬぐい!
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書籍コーナーも充実!子供向けから大人向けまで展覧会に関連した書籍が数十種類完備されていました。オススメは、やっぱりNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」関連書籍・DVDです。会場限定の先行発売DVDもありますので、見逃さないようにしてくださいね。

▼充実した書籍コーナー
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▼会場先行発売!
「人体神秘の巨大ネットワーク」プロローグ編DVDf:id:hisatsugu79:20180315124812j:plain

そして、最後に紹介したいのが、展覧会では「定番」の図録です。しかし、この「図録」が本当に素晴らしかった!毎回、国立科学博物館の展覧会図録は、本当に読みやすくてクオリティが高いのですが、今回もまた期待を裏切らない出来となっていました。

展示が気に入った人は絶対購入してみて下さい!展覧会の情報量が、まるごと1冊にまとめられているので、永久保存版として図鑑代わりに手元においておけます!

▼絶対買いたい!素晴らしいクオリティの図録f:id:hisatsugu79:20180315123945j:plain

ちょっと中身を紹介しておきますね。雰囲気としては、NEWTONやNational Geographicといった科学雑誌に似ているかも知れません。惜しげもなくビジュアルが使われた誌面が非常に贅沢でした。これで2,300円は絶対安いです。

4.混雑状況と所要時間目安

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ここ最近、特にNHKの番組と連動する国立科学博物館の企画展は例外なく人気化して大混雑する傾向にあります。昨年も、「深海展2017」「大英自然史博物館展」などは、人気化して整理券配布による入場制限がかかることがありました。

特に、今回の展示では人体の体内を模した、「迷路状」に組まれた間仕切りを進んでいくので、どうしても人が滞留しやすい箇所もあって、展示前半部分は混雑しやすいと思われます。

そこで、狙い目は、早朝と夜間開館がお勧めです。国立科学博物館は、上野公園内のどの美術館・博物館より早く朝9時に開きますので、朝9時~10時台は、非常に快適に見れることが多いです。また、金・土の夜間開館時も狙い目でしょう。是非、会期前半にまずは1回目を見ておきたいですね。

所要時間は、しっかり見ておきたいなら、90分~120分は空けておいたほうがいいでしょう。解説パネル・映像資料・各種模型など、物凄い情報量なので、2回目、3回目とリピートしても楽しめそうです。

5.関連書籍・資料などの紹介

最終回まであと2回!NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」

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引用:書籍版 NHKスペシャル 人体~神秘の巨大ネットワーク~ - YouTube

プロローグを含め、NHK総合テレビにて全8回で放送中のNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」も、展覧会開始とともに、いよいよ大詰め!残すところあと2回となっています!

2018年3月18日(日)夜9時
【第6集】”生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話
2018年3月25日(日)夜9時
【第7集】”健康長寿”究極の挑戦

グッズコーナーでも紹介しましたが、現在、2017年9月30日放送分『【プロローグ】神秘の巨大ネットワーク』のDVDは、会場限定で発売中です。このあと、ネットやCDショップ等でも発売されるとは思いますが、いち早く入手したい方は「人体展」へどうぞ! 

一方、テレビ放送2回分を1冊に編集した書籍版「人体 神秘の巨大ネットワーク」は、プロローグ編と第1集放送分をまとめた第1巻が発売中。そして、第2集、第3集をまとめた第2巻は、3月28日に発売予定です。

テレビで見た豪華なビジュアルがそのまま書籍で再現されている他、テレビでは収録しきれなかった様々な解説も追加されています。子供から大人まで幅広く楽しめる素晴らしいクオリティでした!僕も、図鑑代わりに第1巻を小学校低学年の子供に買い与えましたが、子供が事あるたびに何度も読み返しているので、買ってよかったなぁと思います^_^;

そして、なんと子供向けにマンガ版の刊行もスタート!最近は教養系のドキュメンタリー番組でも、メディアミックスが進んでいるんですね。3月30日発売ですが、なんでもコンプリートしないと気がすまない自分としては、試しに買ってみようかなと思っています。お子さんの教育にもぴったりかもしれません。

6.まとめ

今回の「人体展」は、博物館ならではの模型や標本など、オーソドックスな正統派的アプローチを基本に、15世紀以降の人類が積み上げてきた人体解剖の歴史を振り返ることができる重厚な展示が印象的でした。

最新の研究成果で人体に関するコンセプトを問い直したNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」と合わせて見ることで、人体についての知識・教養が一段深いレベルで身につく画期的な展覧会になったと思います。

僕も、1回じゃ消化しきれないので、期間中あと1~2回は足を運ぼうかなぁと思っています。いつもながらハイレベルな展覧会でした。オススメ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
国立科学博物館
〒110-8718 東京都台東区上野公園7-20
◯最寄り駅
・JR上野駅(公園口)から徒歩5分
・東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅(7番出口)から徒歩10分
◯会期・開館時間
2018年3月13日(火)~6月17日(日)
9時00分~17時00分(入場は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日、4月29日、30日、5月3日は20時まで
※5月1日(火)、2日(水)、6日(日)は18時まで
※開館時間や休館日については変更可能性あり
◯休館日
毎週月曜日
(※3月26日、4月2日、4月30日、6月11日は開館)
◯入場料
一般・大学生1600円/小・中・高校生600円
◯公式HP
・東京科学博物館HP 
http://www.kahaku.go.jp/

・展覧会専用特設ページ
http://jintai2018.jp
◯Twitter
https://twitter.com/jintai2018 

お花見の穴場?!トーハク恒例『博物館でお花見を』イベントが2018年度もスタート!

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かるび(@karub_imalive)です。

東京国立博物館で開催中の春の定番イベント企画「博物館でお花見を」に初めて行ってきました。2月下旬にプレスリリースが出て以来、これは必ず行かなければ!と思っていたので、まだ桜は一切咲いてないのですが、先に作品だけ見てきました(笑)

いち早く「博物館でお花見を」企画について、チェックしてきましたので、簡単にレポート第1弾を書いてみようと思います。アメックスカードの会員向けの特別サービスメニューのリリース情報ももらったので、合わせて最後に紹介しておきますね。

1.東京国立博物館のイベント「博物館でお花見を」とはどんなイベントなの?

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東京国立博物館の広大な敷地の中には、ソメイヨシノをはじめ、様々な種類の桜の木が植えられています。正門前、表慶館裏、資料館前など、あちこちに桜のスポットがありますが、中でも、一番の見所は、本館裏にある庭園です。

ただ、この庭園、普段は本館1Fや2Fの裏側の窓から眺めることしかできません。春と秋の一定期間だけしか公開されないのです。

今年も、ちょうど「春の庭園開放」として、桜が一斉に開花するこの時期限定で来館者に一般開放されることが決定しました。しかも、期間中の夜間延長開館時には、ライトアップされるサービスもあります!花見客でごった返す上野公園内において、まさに「隠れ家的スポット」である博物館裏の庭園を、是非楽しみたいですね。

また、庭園の一般開放だけでなく、本館1F、2Fの各展示室では、「桜」にちなんだ作品が「本館桜巡り」と題して展示されています。国宝室をはじめ、衣装、彫刻、陶磁器、浮世絵、日本画、近代美術など各コーナーで、この時期限定の華やかな作品展示が行われます。庭園と合わせて、展示作品でも春を満喫してしまいましょう!

2.「本館桜めぐり」を楽しもう~展示作品の見どころと感想~

ということで、早速本日3月16日、「博物館でお花見を」イベントにいち早く参加してきました!といっても、さすがにまだ早かったようで、ソメイヨシノをはじめ、桜はほとんど咲いていませんでした・・・

しかし、常設展示での桜「本館桜めぐり」はバッチリ堪能できました。一部作品は、3月20日からの展示となりますが、特にオススメの作品をいくつか紹介しますね!どの作品も、桜が満開です!

▼狩野長信「花下遊楽図屏風」(国宝)f:id:hisatsugu79:20180316200846j:plain

桃山時代末期~江戸時代初期に活躍した狩野派一門の凄腕絵師、狩野長信の代表作と言われる国宝屏風です。昭和28年に国宝へと指定されました。満開の桜の下で、楽しそうに宴会をする人々の姿を見ていると、今も昔も本当に変わらないものだなぁと感慨深くなりました。

▼上記左隻部分拡大図
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つづいては、住吉派の代表的絵師、住吉具慶の華やかな屏風絵「観桜図屏風」です。これは、「伊勢物語」第八十二段「渚の院」の一場面を描いたもので、狩りにでかけた咲きで、花見に興じる惟喬親王を描いたものだと言われています。(※展示は3月20日からスタート)

 ▼住吉具慶「観桜図屏風」f:id:hisatsugu79:20180316201426j:plain

そして、浮世絵からは、鳥居清長「飛鳥山(あすかのやま)花見」です。飛鳥山は、8代将軍吉宗ゆかりの桜の名所で、昔は花見客で賑わったそうです。女の人、酒飲みすぎて着物がはだけてますよね^_^;(※こちらも展示は3月20日からスタート)

▼鳥居清長「飛鳥山花見」f:id:hisatsugu79:20180316201350j:plain

陶磁器も、春らしいアイテムが多数並べられていました。中でも目を引いたのがこちら。こちらは、鉢の周りの彩色も春らしくいいのですが、透かし表現を施されており、意外にも技巧的。非常に華やかで、高い技術で制作された逸品でした。

▼仁阿弥道八「色絵桜樹図透鉢」f:id:hisatsugu79:20180316200529j:plain

江戸時代の着物も、桜花があしらわれた派手で美しいアイテムがいくつか展示されていました。中でも、桜スタンプラリーの対象となった、枝垂れ桜が肩から腰へ流れる見事なデザインの振袖が一番印象的でした。

▼振袖 染分縮緬地枝垂桜菊短冊模様f:id:hisatsugu79:20180316201706j:plain

その他、これ以外にも考古・彫刻・刀剣・書画など、まだまだトーハクの本館には山程見どころ満載の「春らしい」作品が展示されていました。本当に何度行っても見飽きないですよね。日本一の博物館であります。

3.スタンプラリーが楽しい!特典をもらっちゃいましょう! 

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そして、この「本館桜めぐり」では、イベント対象作品が展示されている本館の5つのチェックポイントでスタンプを集める、スタンプラリーが同時開催中。5つ揃ったら、オリジナルの缶バッジがもらえるのです。

僕も、当然ながら参戦してきました。簡単に、手順を説明しますね。

まずは、「博物館でお花見を」のチラシをもらってください。

▼いろいろなところにチラシが置いてありますf:id:hisatsugu79:20180316202610j:plain

もらったちらしを、まずは開いてみて下さい。すると、こんな感じで見開きの右側に5箇所、スタンプを押す欄が用意されていることがわかります。

▼5箇所のスタンプ欄がありますf:id:hisatsugu79:20180316202410j:plain

あとは、このチラシを持って、各「本館桜めぐり」展示を見て回り、各スタンプ台でスタンプを押してまわるだけです。簡単ですね。スタンプ台のある展示室も、しっかり明記されています。

そして、これがスタンプ台です。意外に小さいので、ちょっときょろきょろ見回してしまいました。

▼ピンク色のスタンプ台があります
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こんな感じで、該当するスタンプ箇所に、スタンプを押していきます。

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スタンプは、いわゆる「インク式」ではなく、エンボス加工のように立体的にデザイン模様が浮き上がるタイプのスタンプでした。手が汚れなくて済むし、カッコイイですよね。トーハクやるな・・・。

▼エンボス加工のように浮き出る形のスタンプf:id:hisatsugu79:20180316204319j:plain

そして、全部スタンプ欄が埋まったら、本館入り口脇にある、スタンプラリーの景品交換コーナーへ行きましょう。

▼ここで缶バッジの景品と交換してくれますf:id:hisatsugu79:20180316204423j:plain

無事、僕も交換してもらいました。トーハクのマスコットキャラ「トーハクくん」がデザインされた桜色の缶バッジを無事にゲット!!

▼トーハクくん2018年バージョンf:id:hisatsugu79:20180316204942j:plain

所要時間は、ゆっくり作品を見ながら回っても、全部で30分もかかりません。作品を見ずに、スタンプだけ押して回るなら10分もかからないと思います。無料ですし楽しいので、是非やってみてくださいね。 

4.庭園は、晴れの日に行きましょう(笑)

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まだ桜は咲いていないだろうけど、せめて雰囲気だけでもカメラに収めておこうかと思って庭園に突撃したのですが、なんと今日は午後から雨が。大丈夫かなぁ・・まぁ、傘を差して入ればいいや、、、と思って悠長に構えていたら、雨の日はどうやら開放しないようです・・・OTL

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ということで、今日は庭園には入れませんでした・・・。また満開になったら行ってきますので、その時にこちらに追記しますね!とりあえず、トーハクから出ている公式プレスリリースを、イメージ図として貼っておきます(笑)

▼晴天時のイメージ図 その1
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▼晴天時のイメージ図 その2(夜間ライトアップ)f:id:hisatsugu79:20180316210318j:plain

ちなみに、庭園内がライトアップされるのは、3月30日、31日、4月6日、4月7日の4日間限定です!夜桜を楽しむなら、酒臭い上野公園ではなく、穴場のトーハク庭園へ是非!

5.アメックスカード会員向けには特別サービスが!

前々から、アメックスは博物館に強いぞ・・・と思っていたのです。実際、尊敬する先輩アートブロガー「青い日記帳」のTak(@taktwi)さんは、アメックスカード会員特典イベントとして、毎年秋に開催される奈良国立博物館の「正倉院展」やその関連講演イベントに参加されているのですよね。(ブログにアップされています)

「正倉院展」 | 弐代目・青い日記帳

だから、僕の中では「アメックスカード=アートに強い」というイメージがすっかり定着しておりました。

と思っていたら、さすがアメックス。なんと、今回のトーハク「博物館でお花見を」イベントでも、強力な特典があるみたいなんですよね。調べてみたところ、アメックスカードを持っている人は3月20日~5月6日までの間、トーハクで使える4つの特典が用意されていました。

特典1:期間限定コラボカフェ「THE GREEN Cafe」での優待サービス

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東洋館1Fの、庭園の入り口に近い一角に、「ゆりの木」というホテルオークラ系列のミュージアムレストランがあります。3月20日~5月6日にかけて、この「ゆりの木」の野外テラス部分に、「ゆりの木」とアメックスの期間限定コラボカフェ「THE GREEN Cafe」がオープンします。

この「THE GREEN Cafe」自体は、会員でなくても誰でも利用できるのですが、アメックスカード会員には、

・会員だけが座れる優先席
・会員専用オリジナルメニュー
・ワンドリンク無料のサービス

が用意されているのです。
(※それぞれドリンク券、アメックス各種カードの提示が必要)

▼アメックスカード会員専用メニュー
特製牛丼オークラ風(1日限定10食)
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僕も、本日この「ゆりの木」でケーキセットを頂いたのですが、ちょうど、店員さんが3日後にスタートする「THE GREEN Cafe」の準備をしているところでした。

特典2:法隆寺宝物館1Fカフェ「ホテルオークラ ガーデンテラス」の優待サービス

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そして、東京国立博物館の法隆寺宝物館にあるカフェ「ホテルオークラガーデンテラス」でも、やはりアメックスカード向けの特典が用意されていました。

まずは、カード保有者向け限定メニューです。

▼ロゴ入りフレンチトースト(1日限定10食)f:id:hisatsugu79:20180316210715j:plain

抹茶パウダーで、アメリカン・エキスプレのロゴをあしらったホテルオークラ特製のフレンチトースト(1,200円)ですね。メロン・キウイなど、やはり「緑」を基調とした季節のフルーツがいい感じですね。さらに、ソフトドリンクも1杯無料となっているそうです。(※ドリンク引換券とアメックスカードの提示が必要)

特典3:ミュージアムショップでの買い物が5%OFF

東京国立博物館の常設ミュージアムショップは、全部で3箇所ありますが、すべてのミュージアムショップで、アメックスカードで支払うとレジにて5%OFFになるそうです。

余談ですが、本館のミュージアムショップは、いつ覗いても、特に最近外国人観光客が一杯来ているのですが、アート好きの猛者も多いようですね。最近、日本画の書籍を、レジカゴ一杯に山程買っていく外人さんを頻繁に見かけるんですよね。確かにトーハク本館ほど充実した日本美術の書籍コーナーはなかなかないですからね。 

特典4:カード会員専用の「お花見茶席」(※4月6日~8日)

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そして、最後にこれまた良さそうな特典として、カード会員専用の「お花見茶席」が用意されているんです。さすがに4月6日、7日、8日の3日間限定ですが、なんとこの3日間は、庭園奥にある円山応挙の作品が室内いっぱいにあしらわれた「応挙館」にて、アメックスカード会員だけが入れる臨時の茶席が用意されるのです。

そして、お茶を飲み終わったら、同じく庭園内にある、通常非公開の茶室「転合庵」も見学できるという、なかなかレアな体験ができるんですよね。転合庵といえば、江戸初期を代表する大名茶人、小堀遠州が建てた、歴史・由緒ある茶室。お茶好きの人には、たまらない機会になりそうです。

アメックス会員向けの特典サービスが受けられる場所を、地図でまとめるとこんな感じですね。

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また、詳細な優待メニューの情報は、以下のアメックスのHPもご参照下さい。

★アメックスの優待情報まとめページ
https://www.americanexpress.com/jp/content/event/culture/art.html

6.まとめ

いかがでしたでしょうか?トーハク恒例の春のイベント企画「博物館でお花見を」は今年も見どころ満載となりました。これが、総合文化展1回分(620円)で全部味わえてしまうのですから、絶対お得ですよね。

新春の「博物館で初もうで」企画も良かったですが、このお花見企画も展覧会・アート好きなら外せない企画だと思います。アメックスカード会員は、さらにいろいろ特典がついてきますので、もし行く機会があるならしっかり活用しておきたいですね。

それではまた。
かるび

イベント「博物館でお花見を」開催概要

■開催概要
イベント名:「博物館でお花見を」
◯開催期間
2018年3月13日(火)~4月8日(日)
◯開館時間
9:30~17:00
※金・土曜日は21:00まで、4月1日(日)・8日(日)は18:00まで
※入館は閉館の30分前まで
◯休館日
3月19日(月)

◯観覧料
一般620円(520円)/大学生410円(310円)

※( )内は20名以上の団体料金
※高校生以下、および満18歳未満と満70歳以上の方は無料。
入館の際に年齢を証明できるものの提示が必要
※障がい者とその介護者1名は無料。
入館の際に障がい者手帳等の提示が必要
※子ども(高校生以下および満18歳未満)と一緒に来館すると
(子ども1名につき同伴者2名まで)は、団体料金で観覧可能
◯桜スタンプラリー

「博物館でお花見を」期間中、本館展示室の5つのポイントでスタンプを押してもらい、5つ揃ったらオリジナル缶バッジがもらえます。
「博物館でお花見を」期間中毎日開催
※台紙の配布・バッジ引換え場所:本館エントランス(引換えは10:00~閉館)
◯アメックスカード会員向け優待内容まとめhttps://www.americanexpress.com/jp/content/event/culture/art.html

春を満喫できる日本画!山種美術館「桜 さくら SAKURA 2018-美術館でお花見!-」は日本画ファン必見の展覧会!

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かるび(@karub_imalive)です。 

3月も中旬になり、いよいよ暖かくなってきましたね。今年も、ソメイヨシノの開花に向けて各地で桜にちなんだ様々なお花見イベントがあるようで、どれに行こうか今から本当に迷ってしまいます。(※ミーハーなのでお花見特集雑誌を買って、結局どれに行こうか目移りしまくっている)

東京でのアート関連でも、毎年東京国立博物館のイベント企画「博物館でお花見を」や、東京国立近代美術館「美術館の春まつり」、郷さくら美術館「第6回桜花賞展」など、「桜」に関する定番の企画展が毎年開催されています。 

その中で、是非注目してみたいのが、山種美術館で6年ぶりの開催となった「桜」をテーマとしたオール日本画での企画展です。

2018年のタイトルは、「桜 さくら SAKURA 2018-美術館でお花見!-」です。タイトルにローマ字が入っているので、最近来館者が激増中の外国人観光客にも一発で何の展覧会なのかわかりますね。

さて、毎回ご厚意でブロガー向け内覧会にご招待頂いているのですが、今回の企画展は本当に素晴らしかった!タイトル通り、近代日本画の名手たちが描いた「桜」にちなんだ名作たちが華やかに展示室を飾っていました。

早速ですが、簡単に感想レポートを書いてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.企画展「桜 さくら SAKURA 2018ー美術館でお花見!ー」展とは?

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もう、企画展のタイトルを見れば何の展覧会かすぐにわかりますね(笑)

本展は、山種美術館の保有する近代日本画を中心とした膨大なコレクションの中からセレクトされた、「桜」をテーマとした絵画が約60点展示されています。これを見て、美術館の中でお花見を楽しんじゃいましょう!という企画展ですね。

いや、これはすごかったです。

本展で展示されている作品は、歴史画・風俗画・物語絵巻・名所絵・風景画・花鳥画・花卉画まで、様々なジャンルの作品が並んでいます。一口に「桜がテーマです」と言っても、題材としての使われ方は、本当に様々なパターンがあるのですね。

▼桜の描かれ方は千差万別。作家の個性が楽しめる!f:id:hisatsugu79:20180318144617j:plain
左上:守屋多々志「聴花(式子内親王)」(1980)/左下:菊池芳文「花鳥十二ヶ月」(1868-1918年頃)/右上:橋本明治「朝陽桜」(1970)/右下:小林古径「清姫のうち『入相桜』」(1930)

また、桜の描かれ方も多種多様で、それぞれの作品に画家の個性や美意識がしっかりと反映されており、日本画の奥深さも体感できる展覧会となりました。やっぱり、桜と日本画は相性抜群ですね。

2.展覧会の3つのみどころと感想

見どころ1:山種美術館が所蔵する代表的な「桜」作品が登場!

本展には、山種美術館が所蔵する、近代日本画を代表するような「桜」をテーマにした名品が多数出展されています。山種美術館が製作したオリジナルグッズに採用されたり、各種雑誌・書籍等で見たことのある作品も満載です。

もう何度も過去の企画展に登場している作品もあるとは思うのですが、僕のようにまだ日本画をしっかり見始めて日が浅い初心者には、非常にありがたい機会となりました。名作、しっかり堪能できます。

▼奥村土牛「醍醐」(1972)f:id:hisatsugu79:20180317191151j:plain

まず、絶対チェックしておきたいのが、醍醐寺の桜を画面いっぱいに描いた、奥村土牛晩年の傑作「醍醐」です。醍醐寺は、豊臣秀吉も花見に出かけたという、京都屈指の桜の名所ですが、この絵を見て、「醍醐寺」に興味を持った、という人も多いのではないでしょうか。胡粉の白に何層も絵の具を塗り重ねたという労作です。このピンク色は本当に美しいので、是非実物を見て下さい!

続いては、こちら。

▼東山魁夷「春静」(1968)f:id:hisatsugu79:20180317193019j:plain

京都の洛北・鷹ヶ峰の杉林に映える満開の桜を描いた東山魁夷の名作。山種美術館では、これ以外にも春夏秋冬それぞれの季節における京都を描いた魁夷の名作シリーズを保有しています。日本画ファンとしては、別の展覧会で是非コンプリートしてみたいものです。

もう一つだけ定番の名作を紹介しておきますね。それが、こちらの屏風絵。

▼土田麦僊「大原女」(1915)f:id:hisatsugu79:20180317193142j:plain

本展のチラシにも選ばれた、京都画壇で大正~昭和初期に活躍した土田麦僊の描いた大傑作。緑色が意識的に多めに使われた画面や、朗らかな表情で働く女性たちの体型が、なんとなくゴーギャンに似ていますね。麦僊が1927年に描いた同名のタイトル「大原女」も有名ですよね。花の描写には盛り上げ胡粉という技法が使われています。「骨身をけずる思い」で描いたという、麦僊の自信作です。

意外な名作がゴロゴロ!脱初心者にも最適!

山種美術館のコレクションの凄いところは、横山大観・上村松園・速水御舟・小林古径・奥村土牛といった有名どころだけでなく、それ以外の(今となっては知名度が低くなってしまった)レアな作家の作品も多数保有している点です。

今回のブロガー内覧会で山崎館長に少しお話を伺ったのですが、「当時、山崎種二(山種美術館創設者)が作者の生前に作品を収集した際は評価も高く、実力・知名度もあったのだろうけれど、作者の没後、残念ながら忘れ去られてしまったのだろう」と見解をいただきました。

でも、そういった作品も同館顧問・山下裕二教授がしっかり光を当て続け、大御所の作品と同様に本当に良い作品をしっかり評価してくれるので、初心者だけでなく、もっと日本画の世界を知りたい!というファンにも、山種美術館の展示は非常に勉強になるのですよね。

今回も、そういった最近は「埋もれてしまった感があるけれど」再評価を待っている作家の珠玉の作品群が展示されています。

たとえば、この作品などはどうでしょうか。

▼松岡映丘「春光春衣」(1917)
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内覧会で出るたびに、山下教授が「もっと評価されてもいい作家だ」と強調される通り、非常に技巧的で、華やかで見応え充分の作品。

▼松岡映丘「春光春衣」(1917)部分拡大図f:id:hisatsugu79:20180317192943j:plain

拡大してみました。どうでしょうか?この華やかさ!!「松岡映丘」今回で完全に名前覚えました(笑)

▼渡辺省亭「桜に雀」(20世紀明治-大正時代)
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画壇から距離を置き、孤高の日本画家だった渡辺省亭も、一時期は完全に埋もれてしまった状況から、近年急速に再評価が進みつつあります。2017年春に、首都圏の数館で一斉に保有作品を展示する特集企画が組まれた時は、一時期ネットでアートファンの話題となりました。

意外に細かいところまで描かれている日本画

山種美術館で保有しているいわゆるオーソドックスな日本画は、どれもそうですが、非常に細かいところまできちんと描かれている作品が多いんですよね。1点1点、桜だけでなく、意外なところに意外な動物や人物が描かれているのを発見して楽しむのも、楽しみ方の一つだと思います。

たとえば、この山元春挙の描いた富士山麓にやってきた遅い春を描いた作品。

▼山本春挙「裾野の春」(1931)
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ぱっと見ると、富士山と杉の木、茅葺きの民家が目に入ってくるのですが、これをよーく細かいところまで見てみると・・・

▼山本春挙「裾野の春」部分拡大図 f:id:hisatsugu79:20180318143116j:plain

物凄く細かいのですが、庭に「にわとり」がいたり、家の脇に生活の道具が転がっていたりするんですよね。ちゃんと細かいところまで手を抜かずしっかり描いていることがわかります。

ということで、一つ貼っておきますね。

絵画の中では完全に脇役的な存在としてそっと描かれているんですが、なぜかよーく見ていると気になってくるという謎の「犬」のような動物が描かれた作品があります。是非、どの絵の中にあるか探してみて下さい!(山種美術館の常連さんならご存知だと思います・・・^_^;)

????/「????」部分図f:id:hisatsugu79:20180318154911j:plain

これ、あとでブロガー仲間とご飯を食べた時に、「犬」なのか「いたち」なのか一体何の動物なんだ!と話題になりました。是非、見に行ったら見つけてみて下さい!

第2展示室の夜桜も楽しい!

そして、今回の趣向として面白いな、と思ったのが、第二展示室が「夜桜」鑑賞の専用部屋となっていたことです。確かに、この部屋はいつも照明を落として展示されているので、これは素晴らしい趣向だと思いました。 

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▼夜桜の特集が組まれています!f:id:hisatsugu79:20180317193039j:plain
左から、川崎小虎「山桜に雀」(1948-1955年頃)、速水御舟「『あけぼの・春の宵』のうち『春の宵』」(1934)、速水御舟「夜桜)(1928)、今尾景年「松月桜花」(19-20世紀)

▼速水御舟「夜桜」(1928)f:id:hisatsugu79:20180317193002j:plain

たとえば、この速水御舟の作品などは、明るいところで見るよりも、照明を落とした部屋の方が絶対いいと思うんです。夜桜部屋、素晴らしいアイデアでした!

3.特に気に入った作品をいくつか紹介!

最後に、今回僕が見て、特に気に入った作品をいくつか感想つきで紹介しておきますね。紹介しきれないほどあるんですが、キリがないので4つに絞りました。

3-1.橋本明治「朝陽桜」(1970)

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展覧会に合わせて発行された名品画集「桜 さくら SAKURA」の表紙にも起用されていましたが、とにかくわかりやすく華やか!桜を描いても明快な作風、力強い色使いは健在!こういうわかりやすさ、大好きです!

3-2.奥村土牛「吉野」(1977)

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山いっぱいに咲き誇る吉野の桜を幻想的に描いた作品。「醍醐」同様、独特の柔らかいピンク色に癒やされます。この絵を完成させるため、土牛は合計3回も季節を変えて足を運んだのだとか。見た目以上に完成まで手がかかっている労作です。

3-3.守屋多々志「聴花(式子内親王)」(1980)

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人生の盛りを過ぎた頃、政変に巻き込まれて不遇な人生となった式子内親王の詠んだ歌「はかなくて 過ぎしにかたを かぞふれば 花にもの思ふ 春ぞ経にける」にインスパイアされて、守屋が院展へ出品した傑作。

お付きの人もおらず、牛車から降りて、ひとり寂しげに佇む式子内親王の姿が印象的な作品。桜も、よく見るとちょっと地味な「薄墨桜」が大きくフィーチャーされているのも暗示的で面白いです。

3-4.今尾景年「松月桜花」(19-20世紀)

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夜桜コーナーにあるように、月夜に控えめに映える桜がみどころ。今尾景年は、知名度は低いものの、京都・円山四条派の流れをくむ非常に実力のある画家で、見るたびに「凄腕だなー」と感心してしまいます。弟子の木島櫻谷(このしまおうこく)は去年から相次いで展覧会が開催され、急速に再評価が進んでいる感があるので、是非この今尾景年もセットで再評価して欲しいなーと思います^_^ 

4.展覧会の新作グッズや定番の和菓子も充実!

そして、山種美術館と言えば、展覧会と連動して毎回期間限定で提供される5種類の和菓子です。今回はこんな感じでした。

▼春らしい華やかな色使いの和菓子f:id:hisatsugu79:20180317184947j:plain

いつもは1種類だけ「青」系統のお菓子があることが多いですが、今回は徹底して新緑の「緑」、桜の「ピンク」が目立つ色合いでした。個人的には緑色の寒天で固めた「花春水」が一押しです!

また、展示会場で、お菓子のモデルになった作品については、作品情報が書かれたキャプション・パネルの右上に「Cafe 椿 和菓子になりました」と明記されていますよ。探してみてくださいね。

▼キャプションに明示されていますf:id:hisatsugu79:20180318151428j:plain

そして、今回の展覧会に合わせて新しく発行されたハンディサイズの作品集「桜 さくらSAKURA 名品画集」がおすすめ!

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いわゆる、通常の展覧会の図録のように重くなくて、カバンにさくっと入る手軽さが嬉しいところ。画家の言葉や、絵画に合った短歌と共に、全80点を収録しています。山種美術館の画集は、すぐに売り切れてしまいますので、思い立ったらその場で抑えてしまいましょう! 

5.混雑状況と所要時間目安

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展示作品は約60点とそれほど多くはありませんが、1点1点本当にお花見をしているような気分で回れますので、60分~90分程度は時間を空けておきたいところです。

見ごたえのある大きめサイズの作品が多いので、多少混雑しても問題なく見れますが、13時頃~15時頃は若干人が多めとなるので、じっくり見たい人は閉館直前1時間か、午前中がおすすめです!

6.まとめ

いつも行くたびに日本画の良さをしみじみ味わえるのが山種美術館の企画展ですが、今回はいつにも増して、山種美術館のコレクションのクオリティの高さを感じられる素晴らしい展覧会になりました。美術館で何度もお花見を楽しんでくださいね!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年3月10日(土)~5月6日(日)
*会期中、一部展示替えあり
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※但し、4月30日(月)、5月1日(火)は開館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

「Re 又造 MATAZO KAYAMA」展で、最新技術で再現された加山又造の芸術を味わおう!【記者発表会レポート】

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【2018年3月28日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

加山又造って知ってますか?キュビスムから琳派まで古今東西の様々な先人たちに学びつつ、最終的に到達した独自の絵画表現や、その斬新な制作手法が高く評価されている、現代日本画家の巨匠です。

僕も、展覧会でひと目見て気に入った作家さんで、展覧会会場で出展作品を見るたびに「いいなぁー」といつも思っていました。ただ、まだこの方は最近亡くなられたばかりとあって、ほとんどの会場で作品が「撮影禁止」となっており、SNSやブログで気軽に紹介するのが難しいのが残念といえば残念ではありました。

しかし!今度の「Re 又造」展では、出展される原画はもちろん、すべての作品がスマートフォン・携帯端末にて「撮影OK」なのです。(※フラッシュの使用不可)それに加えて、収蔵先から借用するのが難しい作品に関しても、最新技術で複製された陶板画をベースにして、体験型メディアアートとして、会場で再現されるという、非常に個性的な展覧会になりそうなのです。

3月14日、その全体像を発表する記者発表会が、展覧会場と同じビル内1Fの「SUBARU STAR SQUARE」で開催されました。取材させて頂けましたので、早速ですが、その内容を簡単に紹介したいと思います。 

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

「Re 又造」展とは?その特色は?

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加山又造(1998年/71歳)撮影:執行季信

 「Re 又造」展は、その展覧会のタイトルからわかる通り、日本画家・加山又造の遺した作品や、作風の変遷を通じて、その画業と人生を振り返る展覧会です。

加山又造(1927-2004)は、生前から非常に人気の高かかった日本画家でした。小品から大型の屏風絵まで、様々なタイプの作品を手がけ、その代表作は主に各地の公立美術館に収蔵され、大切に扱われています。

記者発表会では、

日本の美術界100年に一人の天才と言われ、「伝統と革新」を作品制作の軸として日本の様式美に現代の革新的な手法を取り入れながら独自の表現を生み出した。

と紹介されていました。

このように、加山又造が偉大な画家であることは間違いないですが、ただそれだけに、展覧会をやろうとすると思わぬところで問題も発生するわけです。

現在、国内の公立美術館が主催する以外で、加山又造作品の代表作を一箇所に集め、大規模な回顧展を開催するのはほぼ不可能になっているのです。日本画は痛みやすく厳重な取り扱いが必要ですし、展覧会のために借用するのも法律的・手続き的にも非常に面倒なのですよね。

そこで、今回の展覧会では、原画至上主義にこだわらず、

「加山又造の世界観を現在の技で再現する」

という思い切ったコンセプトで、最新のデジタル複製技術、演出技術を援用して、様々なアーティスト・職人たちにより加山又造の作品を「再創造しよう」という展覧会になりました。

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そのキーワードは、上記の3つ。

すなわち、「デジタル・アーカイブ」で記録されたデータを使って、劣化に強い「陶板」(やきもの)に複製画を焼き付け、映像や照明、音楽など、最新のデジタル演出技術を使ったインスタレーションで、加山又造の世界を再現しよう、ということですね。

▼登壇された加山由起氏f:id:hisatsugu79:20180317151758j:plain

驚きなのが、この記者発表会で企画コンセプトを発表したプレゼンターが、現在、加山又造作品の著作権を保有する、加山由起氏(又造の孫にあたる方)から発表されたということ。いわば、加山又造公認の下、肝いりで進められた企画であるということです。

偉大な画家の遺族といえば、著作権の管理保護の観点から、どうしても保守的になりがちで、こういった斬新な企画に対しては、一般的に慎重な姿勢を取ることが多いもの。

にもかかわらず、遺族の方が自ら先頭に立って、このような大胆な企画を発案し、記者発表会の壇上でプレゼンされること自体、非常に斬新で素晴らしいと感じました。本展で加山又造や日本画の新しい魅力が、普段日本画を見たことがない層の人達に届けばいいなと思います。

ちなみに、「Re 又造」「Re」は、

Remember:又造作品に近づく
Recreation:又造作品を再創造する
Remind:又造作品を通じて語り合い、考える

など、様々な意味が込められているそうです。

加山氏は「Re」というタイトルを、加山又造の「落款」(署名)から連想して思いついたそうです。面白いですよね。

▼「又造」が「Re」になった?f:id:hisatsugu79:20180317153325j:plain

そして、写真撮影はすべてOKに!

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まだ、亡くなって日が浅いこともあり、他の美術展などで作品が展示されていたとしても、写真撮影はNGであることが多い加山又造の作品。

しかし、今回の展覧会では、なんとスマホ・携帯での撮影がOKとなりました!驚きなのは、展示作品中、メディアアートや複製画が作品点数の約半数を占めるのですが、普通に原画も14点出展される中での「写真撮影OK」となったこと。

これは、他の美術展ではない大きな特色であり、加山又造ファンは全国各地から駆せ参じても抑えておきたいところです!!もちろん僕も行きますよ?!ガッツリ撮影してSNSで紹介しちゃいます! 

3.展覧会の6つのみどころ~出展される主な作品と一緒に紹介~

今回の「Re 又造」展で出展される作品は、全30点。原画主体で構成される通常の回顧展とは違い、選びぬかれた代表作品が最新のデジタル技術とコラボすることで、非常に見どころが多くなっています。一つずつ、紹介していきますね。

見どころ1:最新の技術でデジタル複製された又造作品が「陶板画」で楽しめる!

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まず、今回いくつかの大型作品は、生前に加山又造が自ら進めていた原画のデジタルアーカイブを使用して、やきもので作る「陶板画」という形で再現・展示されます。

そのラインナップがまた凄いんです。例えば、このあたり。

実際の再現度がどれくらい凄いかは、是非展覧会現地にてチェックしてみてくださいね!

▼華扇屏風 1966年 山種美術館蔵f:id:hisatsugu79:20180328093630j:plain

▼千羽鶴 1988年 東京証券取引所蔵 f:id:hisatsugu79:20180329002700j:plain

▼風 1982年 個人蔵
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見どころ2:又造作品が没入感のある体験型メディアアートに!

そして、今回会場へと搬入できない代表作の中から、複製画とメディアアートを組み合わせた大型インスタレーションも製作されます。原画製作時に加山又造が表現しようとした世界観が、部屋いっぱいを使って体感・没入できる作品に仕上がっているといいですね。

▼加山又造「おぼろ」(1986年 個人蔵)f:id:hisatsugu79:20180317114439j:plain

これが、こんな感じになります。

▼加山又造「おぼろ」
(美術陶板+デジタル・映像作品/1986年 個人蔵)f:id:hisatsugu79:20180317114452j:plain

▼加山又造「春秋波濤」(1966年 東京国立近代美術館蔵)f:id:hisatsugu79:20180317114557j:plain

こちらは、原画が何層かのレイヤーに分かれ、3次元空間に投影される予定です。お客さんは、その中を行き来することで、原画の中に入り込んだような気分になれる、という仕掛けですね。こちらも楽しみ。

▼加山又造「春秋波濤」
(デジタル・映像作品/1966年 国立近代美術館蔵)f:id:hisatsugu79:20180317114617j:plain

見どころ3:有名な2つの天井画を展覧会場に再現!

加山又造は、各地の寺社からの依頼で、大型の天井画も残しました。これら作品は、現地に行かないと基本的に見ることはできませんし、簡単に観覧できるわけでもありません。

そこで、今回加山又造が残した大型の天井画の中から、2点をピックアップして、実際に展示会場の天井にほぼ原寸大で再現しよう、という意欲的な企画も進められています。選ばれた作品はこちら。

▼加山又造「天龍寺 雲龍図」(1997年 天龍寺蔵)f:id:hisatsugu79:20180317114257j:plain

▼加山又造「久遠寺 墨龍」(1984年 久遠寺蔵)f:id:hisatsugu79:20180317114327j:plain

両方とも、寺社の天井に描かれるモチーフとしては定番の「龍」ですが、ちょうど「金」と「銀」の2つに分かれていますね。それぞれ、展覧会場ではどんな演出が待っているのかこちらも楽しみ。

見どころ4:もちろん、原画も14点出展されます!

大型のインスタレーション作品や天井画、陶板画といった複製作品だけでなく、「Re 又造」展では、ちゃんと原画も14点出展されます。

特に、記者発表会でプッシュされたのが、こちらの「猫」です。

加山又造は、シャム猫やヒマラヤ猫を数多く作品内で描きましたが、どれも横向きが多いんですよね。本作は、多数残された「猫」をテーマとした加山又造作品の中で、唯一「前を向いている」作品なので、貴重なのです!

是非、こういった作品もバシバシ撮影していってみてくださいね。

▼加山又造「猫」
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その他、人気の高い代表作品・大作も原画で出展されてきます! 

▼加山又造「倣北宋寒林雪山」(1992年 個人蔵)
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中国・北宋時代の絵画にインスピレーションを受けて制作された作品。山中の急峻な造形や、林立する左右の木々のかたちに、初期の作風を残しているキビキビした冬の風景画。暗闇に映える雪山が荘厳そのものです。

▼加山又造「雪月花」(1979年 新喜楽蔵)
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2018年、ついに国宝へと格上指定されることが決まった、室町時代の傑作「日月四季山水図屏風」に又造がインスパイアされて製作した大作。緑とピンクが鮮やかな春らしい作品です。

▼加山又造「月光波濤」(1979年 イセ文化財団蔵)
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加山又造作品の中で、僕が一番好きな作品です。個人的には、厳しさと美しさが同居した加山又造の最高傑作かなと思っています。昨年、三越本店で開催された回顧展で見た原画は本当に素晴らしかった。 

見どころ5:「黒い薔薇の裸婦」を女優・宮城夏鈴が実写化して再現!

▼加山又造「黒い薔薇の裸婦」(1976年 東京国立近代美術館蔵)f:id:hisatsugu79:20180317120157j:plain

そして、面白かったのは、加山又造の中期の傑作「黒い薔薇の裸婦」の3D実写化作品の制作です。実際の作品は、展示を見てのお楽しみですが、記者発表会ではその制作風景と、モデルとなった歌手・女優の宮城夏鈴さんとメイクアップ・アーティストJIROさんのインタビューを聞くことができました。

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みどころ6:スバルのラッピングカーも綺麗です!

今回の「Re 又造」展の斬新で画期的なコンセプトに賛同し、展覧会を特別協賛する株式会社SUBARUから、加山又造の絵画世界を表現した「OUTBACK」のラッピングカーが発表されました。

不思議と加山又造の「和」の絵画世界と、スバルの車、非常に相性が良い感じなのですよね。

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前後左右からも撮ってみました。

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会期中、エビススバルビルで展示されていますので、是非立ち寄ってチェックしてみてくださいね。 

展覧会の予習にはこれ!テレビ番組・オススメ関連書籍を紹介!

TV東京が製作したイベント映像でまずは予習!

「Re 又造」展の主催社であるテレビ東京が、早速記者発表会の後に展覧会のプロモーション映像を作ってくれています。まずは、こちらで雰囲気を掴んでおくと良いですね。

展覧会前にチェックしたいTV番組

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プロモーション映像だけでなく、テレビ東京系列にて、展覧会前にさらに2つの特集番組の放映が決定しました。こちらです。

◯3月21日(水・祝)朝9時41分~
「Re又造 MATAZO KAYAMA」特別番組「加山又造を巡る旅」
◯3月31日(土)夜10時~
美の巨人たち「加山又造 久遠寺『墨龍』」

両方共、「Re 又造」展の予習にぴったりなコンテンツになりそうです。しっかりビデオに録って何度も見返しておきたいですね。

加山又造の作品が映像や画集もあります!

今もきちんと絶版にならず、Amazonでも豊富な在庫が用意されている画集。代表作が網羅されています。

加山又造没後5年を記念して開催された展覧会と連動して制作されたDVD。加山又造の生涯を年代順に、関係者のインタビューや約70作品を紹介しています。加山又造の作品全容をしっかりチェックできる、クオリティの高いドキュメンタリーDVDでした。

まとめ

本展を、「宵山の持つ祝祭感」のように、カジュアルに、気軽に見て感じてもらえるような展覧会にしたいという、加山由起氏。最新のデジタル映像技術や、ラッピングカー、女優による実写化再現など、既成概念にとらわれない斬新なアイデア満載で加山又造作品を味わえる、見応えのある展示となりそうです。

展示期間もそれほど長くはないので、是非この機会を見逃さず、会場へ足を運んでみてくださいね。僕も初日に行く予定です!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

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◯展覧会名
Re 又造 MATAZO KAYAMA

◯展覧会場・所在地
EBi
S303 イベントホール
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿1-20-8 エビススバルビル3F
◯アクセス
・JR恵比寿駅東口から徒歩3分(約250m)
・地下鉄日比谷線恵比寿駅1番出口から徒歩4分
◯会期・開館時間
2018年4月11日(水)~5月5日(土・祝)
11時00分~20時00分(入館は閉館30分前まで)
※4月11日(水)は13時開館
※4月16日(月)は16時閉館
◯休館日
なし(※開催期間中無休)
◯観覧料
一般2000円(前売1800円)/学生1300円(前売1100円)
※小学生以下無料
※学生に関しては学生証の提示が必要
※障が者手帳等を提示の方とその付添者(1名)は無料
◯公式HP
https://rematazo.tokyo
◯Twitter
https://twitter.com/Re19272004

猫好き必見の美術展!「猪熊弦一郎展 猫たち」がBunkamura ザ・ミュージアムで絶賛開催中!【展覧会感想・解説・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

猪熊弦一郎って知ってますか?昭和~平成の入り口にかけて名を馳せた、個性派の洋画家です。故郷・丸亀市の駅前には、彼の名前を冠した「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」という立派な美術館もあるほど、昭和の画壇において、個性が際立った作家の一人でした。

猪熊弦一郎は、名前こそ「いのしし」「くま」と勇ましい感じですが、生前は無類の猫好きとして知られました。彼は、純粋な抽象画、戦争画など、様々な引き出しを持つ画家ですが、現在、Bunkamura ザ・ミュージアムにて、猪熊が生涯に渡って好んで描き続けた「猫」に着目した企画展が開催中です。

現代アートファンだけでなく、「猫好き」なら誰でも楽しめる、まさにBunkamura ザ・ミュージアムらしい好企画です。早速ですが、簡単に感想や見どころをまとめてみました。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.「猪熊弦一郎展 猫たち」とは

猪熊弦一郎ってどんな作家だったの?

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猪熊弦一郎(1902-1993) 撮影:高橋章

猪熊弦一郎(1902-1993)は、昭和~平成の入り口にかけて個性派の洋画家として様々な作品群を残した画家です。学生時代、故郷の丸亀を離れて東京へ移住すると、東京美術学校で洋画家の巨匠・藤島武二から学び、1938年、パリへ移住。移住先ではアンリ・マティスに学び、藤田嗣治とも親交を結びます。第二次大戦中は従軍画家として合計3回、戦争の最前線へと送り出されました。(※ちなみに、従軍画家として描いた戦争画の大傑作が、現在東京国立近代美術館のMOMATコレクション展で紹介されています)

▼第二次大戦中は従軍画家だった猪熊弦一郎f:id:hisatsugu79:20180326175617j:plain
参考:猪熊弦一郎「○○方面鉄道建設」 1944年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館無期限貸与

戦争が終わると、猪熊は1955年になって再びパリへ向かいます。しかし、その道中、ふらっと立ち寄ったニューヨークに魅せられてそのまま移住。そこから約20年間はニューヨークにアトリエを構えました。そして、帰国後は今度は東京とハワイの二拠点居住にて制作を継続しました。

画家としての知名度・名声も現役の頃からかなりのもので、1978年には日経新聞で「私の履歴書」が掲載され、一流文化人として認められていたことがよくわかります。また、最晩年の1991年には、故郷・丸亀市に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館も設立されました。(建物は、世界的に有名な谷口吉生が設計)

こうして猪熊弦一郎の一生を簡単に振り返って見て、東京・パリ・ニューヨークで活動した実績から、巨匠らしいスケール感の大きさを感じますね。

今回の展覧会「猪熊弦一郎展 猫たち」の内容とは?

猪熊弦一郎の展覧会は、タイトルの付け方が統一されているのが特徴です。どの展覧会を見ても、「猪熊弦一郎展 ◯◯◯」と名付けられ、このサブタイトル部分の「◯◯◯」で、展覧会のテーマを表現するのです。

これまで開催された、猪熊弦一郎の展覧会名をざっくり見てみると・・・

「猪熊弦一郎展 戦時下の画業」
「猪熊弦一郎展 私の履歴書」
「猪熊弦一郎展 『いのくまさん』」

など、非常に統一感がありますね。

そんな中、今回開催される展覧会は、

「猪熊弦一郎展 猫たち」

ということで、たくさんの猫に囲まれて生活を送っていた猪熊弦一郎が、生涯描き続けた様々な「猫」の絵画を大特集した企画展となりました。2015年、同タイトルにて丸亀の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で大人気を博した展覧会の構成をベースに、今回バージョンアップされてBunkamura ザ・ミュージアムで復活したのが、今回の展覧会なのです。

2.展覧会の5つのみどころ・感想

一言で言うと、「猫」です(笑)

猪熊はその長い画家のキャリアの中で、具象画~抽象画まで、様々なタイプの作品を残し、生涯に渡って試行錯誤を続けてきた画家でした。彼の作風の変遷に従って、本当に様々なタイプの「猫」が展覧会では次々に登場してきます。是非、猪熊弦一郎の描いた色々な愛すべき猫たちを味わってみて下さい。

みどころ1:大迫力の油彩画の中の猫

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個人的には、一番迫力があって、ほとばしる感じのエネルギーを感じるのが、ニューヨークへと渡った猪熊が具象画から抽象画へと移行していった移行期の時代の作品でした。特に、キュビスム的なデフォルメを加えて描かれた作品は、ピカソからの影響が大きく感じられ、非常に味わい深かったです。

みどころ2:カジュアルな作品群も味わい深い!

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猪熊弦一郎 題名不明 1987年 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

猪熊弦一郎の作品は、大迫力の油彩画もあれば、一方で、ノートの切れ端に即興で描いたような感じの、タイトルもつけられていない作品まで様々なタイプがあります。ボールペンでさささっと描いた作品は、絵画といより、素朴なイラストやマンガのように見えました。こうしたほのぼのとした雰囲気の作品であっても、猪熊ならではの個性がしっかり伝わってきます。

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猪熊弦一郎 題名不明 1986年 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

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猪熊弦一郎 題名不明 1987年頃 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

みどころ3:奥さんと猫

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猪熊弦一郎の妻・文子 展覧会解説パネルより引用 

展覧会でほっこりさせられたのは、猪熊弦一郎が本当に妻・文子を生涯に渡って大事にしてきたところ。夫婦揃って猫好きで、猫と一緒に何度も作品内でモデルとして描かれているのを見ると、本当に仲が良かったのだなと思わされます。

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そして、泣けるのが猪熊が晩年に描いた作品です。彼が最愛の妻・文子に先立たれてから描いたいくつかの最晩年の作品からは、独特の物哀しさが伝わってきます。

作品の中では、奥さんの顔、ヌードなどが猫や動物達と一緒に升目状に配置されており、奥さんに先立たれた哀しみが伝わってくるようでした。きっと奥さんと過ごした数十年の思い出を振り返りながら、繰り返し描いたのでしょうね。

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みどころ4:すごく器用な猪熊弦一郎

展覧会で出品されている猪熊弦一郎が描いた「猫」の作品を時系列で見ていくと、様々な画家から影響を受けていることがわかるのですよね。すごく器用だなと思うと同時に、彼が自分自身の理想の作風に向けて、貪欲に試行錯誤を続けていたことがよくわかる展覧会でした。

たとえば、戦前に描かれたこの作品の中で出てくる人物の顔つきや描かれ方を見ていると、パリで親交のあった藤田嗣治の影響をどことなく感じるのですよね。

▼ちょっとフジタっぽい感じ?f:id:hisatsugu79:20180326114545j:plain

同じく、パリへの留学時代に心酔していたアンリ・マティスの影響が色濃く感じられる作品もいくつか展示されています。それでもちゃんと猫が画面内に配置されているのが猪熊流ですね。

▼マティスにも惚れ込んでいましたf:id:hisatsugu79:20180326114552j:plain

みどころ5:味わい深いキャプション

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今回、作品以外に注目したいのは、その味わい深いキャプションです。作品展示の要所要所で取り付けられたキャプションには、作品そのものの解説よりも、作品に纏わる猪熊のエピソードや猪熊自身の言葉が配置されているのが良かったです。

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あぁ、これはあれこれ評論するのではなく、「猪熊ワールドに浸って、絵を見て感じろ!」ということなんだなと解釈しました。難しいこと抜きで、猫の絵の前に立って色々自分の感じるままに味わってみて下さい。

3.撮影OK!猪熊弦一郎の「猫」が撮り放題のコーナーも!

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展示の最終コーナーには、写真撮影OKとなっているコーナーが設けられています。紙とインクで描かれた素朴な作品から晩年の作品まで、ブルー系のかわいめの作品が並んでいます。カメラを忘れずに持参して、SNSでガンガン紹介しちゃいましょう!

▼写真撮影がOKとなっているコーナーf:id:hisatsugu79:20180326170143j:plain

4.グッズコーナーは猫一色!猫グッズ買い放題!!

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Bunkamura ザ・ミュージアムのグッズコーナーは、毎回特設されるグッズコーナーと、常設のグッズコーナーと2つありますが、今回はどちらのコーナーもとにかく猫だらけ!展覧会オリジナルの猪熊弦一郎グッズはもちろん、それ以外にも猫に関するあらゆるグッズが集められています。

▼Tシャツやクリアファイル、iPhoneケースなど、定番のオリジナルグッズが多数用意されています!
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中でも面白かったのが、この砂時計。展覧会グッズとしては非常に珍しいです。

▼砂時計
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最愛の妻・文子とその頭の上に乗っかる猫が描かれたそばちょこ。おしゃれでお酒が進みそうです。

▼そば猪口
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▼Tシャツも多数あります!f:id:hisatsugu79:20180326112722j:plain

▼iPhoneケース
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そして、奥の方には常設のミュージアムショップもあるのですが、こちらも物凄い品揃えで、びっくりしました。

▼常設のミュージアムショップも見てみましょうf:id:hisatsugu79:20180326111835j:plain

進んでいくと、常設のグッズコーナーにも、所狭しと猫グッズがもの凄い密度で置かれていました!!

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特に、猫好きにとってはたまらないくらい、猫に関する書籍類が揃っていました。

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物凄い物量が用意されているので、猫好きな方は、是非お金をたくさん持って展覧会場へ行きましょう!目移りして困るくらい揃っています! 

5.混雑状況と所要時間目安

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総作品点数は約160点と大ボリュームな上、最後の写真撮り放題コーナーや、充実したグッズコーナーもあるため、所要時間に関しては多めに取っておきたいところです。落ち着いて見て回るなら、90分~120分はあったほうがいいでしょう。

会期が短く、「ネコ」という非常に普遍的なテーマでもあるため、春休み期間や土日は混雑しそうです。毎週金・土は夜21時までやっていますすので、夜間開館や朝イチを狙っていくと、比較的ゆっくり見れると思います。カメラもお忘れなく!

6.関連書籍・資料などの紹介

ミュージアムショップでは、猫好きにはたまらない物凄い種類の書籍が置かれているのですが、中でも、特に展覧会と関連が深い関連書籍を2つだけ紹介しておきますね。一般書籍なので、展覧会場でも置いてありますし、ネットでも買えます。

猪熊弦一郎のおもちゃ箱

猪熊弦一郎現代美術館の監修で、猪熊弦一郎に関する逸話を、ストーリーとイラスト(絵画作品)でつづった心温まる書籍。今回の展覧会の直前に出版された最新の書籍です。猪熊弦一郎の世界観がよく分かるエピソードが掲載されています。

ねこたち

公式図録が用意されていない今回の展覧会で、事実上の図録代わりとなる書籍です。展覧会場でも、一押しでフィーチャーされていました。

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展覧会に出品されている全ての作品を網羅しているわけではありませんが、猪熊弦一郎の代表的な作品がまんべんなく掲載されているので、「猫」の絵を中心に、彼の画業を振り返るにはちょうどぴったりの画集です。これはおすすめ! 

7.まとめ

この展覧会で描かれた猪熊弦一郎の猫は、見ているだけでも色々バリエーションがあって本当に味わい深かったです。猫を通して猪熊弦一郎の画風の変遷をじっくり確認するも良し、お気に入りの猫の絵の前でじっくり猫と語り合うも良し、色々な楽しみ方ができる展覧会です。

展示期間が結構短いので、会期を逃さずお出かけ下さい。Bunkamura ザ・ミュージアムらしい、いろんなお客さんが楽しめる展覧会でした。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
Bunkamura ザ・ミュージアム
〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
◯最寄り駅
・JR線/渋谷駅(ハチ公口)より徒歩7分
・東京メトロ・銀座線、京王・井の頭線/渋谷駅より徒歩7分
・東急・東横線・田園都市線、東京メトロ・半蔵門線、副都心線/渋谷駅(3a出口)より徒歩5分
◯会期・開館時間
2018年3月20日(火)~4月18日(水)
10時00分~18時00分(入館は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日は21時まで(入館は、20:30まで)
◯休館日
会期中無休
◯入館料(消費税込)
(当日)一般1300円/大学・高校生900円/中学・小学生600円
(団体)一般1100円/大学・高校生700円/中学・小学生400円
※団体は20名以上、事前の電話予約が必要(03-3477-9413)

※学生券の購入には学生証の提示が必要(小学生は除く)
※障害者手帳の提示で割引料金あり、詳細は窓口で要問合せ
◯公式HP
展覧会特設HP
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_inokuma/
◯Twitter
 https://twitter.com/Bunkamura_info

音声ガイドで上坂すみれのロシア愛が聞ける?!プーシキン美術館展の意外な見どころを紹介します!

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年は、西洋美術展の当たり年なんでしょうか。次から次へと力の入った展覧会が開かれており、あれこれ本当に目移りしてしまいます。(とはいえ結局全部行くんですが・・・^_^)

たとえば、上半期で見ると現在開催中の「史上の印象派展 ビュールレ・コレクション」(国立新美術館)「プラド美術館展」(国立西洋美術館)「ブリューゲル展」(東京都美術館)など、どれも非常に素晴らしい展覧会揃いです。 

そんな中、4月14日からまた新たに一つ、西洋美術ファンなら絶対に見逃せない大型の企画展「プーシキン美術館展」がスタートするのです。

詳細は、4月14日以降、展覧会の感想レポートをアップする予定ですが、待ちきれない感じなので、少し事前に調べた範囲で見どころを紹介してみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

プーシキン美術館展とは?

ロシアには、エルミタージュ美術館、ロシア美術館、トレチャコフ美術館など、国際的にも有名な美術館がいくつもありますが、プーシキン美術館もそのうちの一つです。

プーシキン・・・というのは、ロシアの地名ではなくて、19世紀に活躍した、ロシア史上最高の詩人・作家の一人とされるアレクサンドル・プーシキンの名前から取られているのですね。

▼プーシキン美術館f:id:hisatsugu79:20180327234714j:plain
引用:Wikipediaより

プーシキン美術館の特徴は、なんと言っても非常に充実したフランス絵画のコレクションです特に印象派、ポスト印象派の絵画群の充実ぶりは世界的にも有名です。

実は、日本でプーシキン美術館展が開催されるのは2005年、2013年に続いて今回が3回目なのです。毎回、少しずつサブテーマを変えながら実施されてきましたが、今回は、サブタイトルに「旅する風景画」とあるように、「風景画」特集です。

約10万点の所属作品の中から、17世紀~20世紀のフランス近代風景画65点が厳選されて来日する予定で、絵画を通してヨーロッパ各地の様々な風光明媚な風景をじっくり味わっちゃおうと言う企画展なのです。

▼ルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」f:id:hisatsugu79:20180327234908j:plain
引用:Wikipediaより

さて、前々回の展覧会では、マティス「金魚」が、前回はルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」が目玉でしたが、今回のプーシキン美術館展のは一番の目玉作品は何なのでしょうか?

今回の目玉作品はこれ!モネ「草上の昼食」

モネやルノワールら、印象派の画家たちの精神的な支柱だったエドゥアール・マネ。彼が1863年のサロンに出品し(※結果は落選)、西洋美術史に残る歴史的な問題作となった「草上の昼食」という作品をご存知でしょうか?

▼エドゥアール・マネ「草上の昼食」f:id:hisatsugu79:20180327235024j:plain
引用:Wikipediaより

今となってはどうということのない普通の油絵に見えますが、1863年当時、「現実の裸体の女性」を絵の中に堂々と登場させるのは、大変画期な試みであり、センセーショナルな反響を生んだのです。

この作品に触発されて、若きモネが描いた作品があったんですね。それが今回出品されるクロード・モネ「草上の昼食」です。とりあえずヌードの婦人は絵の中にいませんが(笑)、映画に出てきそうな上流階級の貴族たちが優雅に郊外で食事を楽しむ図が非常にまぶしい絵画に仕上がっています。モネが26歳の時に描かれた作品でした。

▼クロード・モネ「草上の昼食」1866年f:id:hisatsugu79:20180327234211j:plain
© The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

その他の注目作は?

プーシキン美術館の一番の強みは、印象派・ポスト印象派の絵画群だと言われますが、今回の展覧会では、17世紀~20世紀に至るまで、様々な時代で活躍した巨匠たちの風景画がバランスよく出品されています。むしろ、サンプルとして公開されている画像を見る限り、典型的な印象派絵画はそれほど多くなく、「風景」をテーマとして、フランス近代絵画史を俯瞰するようなイメージでしょうか。ちゃんと1点1点観ていけば、かなり勉強になる感じです。

たとえば、こんな感じの作品が出ています。

▼ユベール・ロベール「水に囲まれた神殿」1780年代f:id:hisatsugu79:20180327234243j:plain
© The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

いつ見ても古代ローマ、ギリシャ神殿風の廃墟の建物をモチーフとした風景画がすばらしい17世紀フランスを代表する風景画家ユベール・ロベール。僕の大好きな作家の一人です!

▼アルフレッド・シスレー
「霜の降りる朝、ルーヴシエンヌ」1873年
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© The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

もちろん、典型的な印象派の作家もきっちり押さえられています。のどかな田舎の風景を描く名手・シスレーの作品。いつ見ても和みます。

▼アンリ・ルソー「馬を襲うジャガー」1910年f:id:hisatsugu79:20180327234302j:plain
© The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

パリにいながらにして、熱帯のジャングルを描いた作品。緑一色の中、真ん中で得体の知れない動物を捕食した白馬にどうしても目が行きますね。ところで馬って肉食でしたっけ・・・(笑)不思議な絵です。是非実物をもっとしっかり観たい!

▼アンドレ・ドラン「港に並ぶヨット」1905年f:id:hisatsugu79:20180327235357j:plain
© The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

後期印象派からフォーヴィスムへと移行期にあるアンドレ・ドランの風景画。印象派からさらに色使いが自由奔放になり、人物や物体の大きさ、遠近法も大きく歪んでいます。 

大のロシア好き、声優・上坂すみれの担当する「音声ガイド」が要注目!

僕は毎回美術展に行くと、必ずと行っていいほど音声ガイドを借りることにしているのですが、今回の音声ガイドは最強に期待できそうなのです。

なぜなら、今回のナビゲーターは、贅沢な二人体制だからです!!

美術館に足を運ぶ40代~60代のアートファンには、水谷豊さんの渋いナレーションでがっちり心をつかみつつ、声優の上坂すみれさんを起用して、従来のアートファン以外にも幅広くアピールしていこう、という戦略でしょうか。

役割分担としては、水谷さんが各作品の解説を担当し、上坂さんがロシアやプーシキン美術館に関するコラムを担当しているのだそうです。その収録分数は、他の展覧会で収通常収録される25分~35分を大きく越えて、約1時間程度の超大ボリュームとなっているらしいです。これは聴き応えありますね?!

▼上坂すみれさん収録風景f:id:hisatsugu79:20180328001936j:plain

実は、今回、上坂さんの音声ガイドの収録現場を少しだけ覗かせて頂き、収録後のインタビュー現場も拝見したのですが、上坂さんのロシア愛、ソ連愛はハンパなかったです。

「ロシアのアヴァンギャルド芸術が好き」
「ソ連時代のプロパガンダポスターが好き」
「ロトチェンコの作品やマヤコフスキーの詞が好き」

と、ロシア・ソ連関係の話になったら、マニアックな話が止まらない上坂さん、さすがでした。(というか結構予習していったにも関わらず、ロシア・ソ連関係のトークになると、高度すぎて話についていけなかった・・・^_^;)

また、モネ「草上の昼食」には、

こういう柔らかい陽射しが当たる、「針葉樹」ではない森っていうのが、ロシアではすごく少ないんですよね。だから、この作品を買った人は、こうやって上着を脱いでゴロゴロできるなんていいなーって感じてたと思うんです。また、女性のお洋服なんかもすごくかわいくて、当時の人々の遊びの楽しさがすごく伝わってくる感じが良かったです。

と、ロシア人コレクターがなぜこの作品を購入したのか、ユニークな分析が非常に印象的でしたし、同様に、ルソー「馬を襲うジャガー」に対しても、

このルソーの絵(「アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》」を指して)も「青空」とか「緑」とか「熱帯」とか、ロシアではなかなか見られないようなものにあこがれてコレクターが買ったんだろうなって思えるんです。こういった、ロシア人がなぜこの絵を気に入ったんだろうか?という背景が感じられる作品が、特にオススメです!

と、徹頭徹尾「ロシア人目線」の観点からお気に入りの絵画を熱く語っていたのが印象的でした。(またロシア大好きな上坂さんが言うと、妙に説得力があるんですよね)面白い視点を持っているんだなぁ~と、本当に感服いたしました。

▼ロシア愛があふれていたインタビュー
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そして、上坂さんファンにも満足できるように、通常のコラム以外にも、個性大爆発のマニアックな「シークレットコラム」も用意されているとのこと。どんな内容になっているのか、期待して待ちたいと思います。

まとめ

関係者のご厚意で、アート関連の音声収録現場に同席させていただいたこともあり、今回は特に「音声ガイド」が期待できそうなプーシキン美術館について、見どころを簡単にまとめてみました。開幕まであと2週間ちょっとに迫ったプーシキン美術館展。音声ガイドとともに展覧会を回るのが今から楽しみです。

それではまた。
かるび

関連書籍の紹介

時空旅人増刊「プーシキン美術館展」

公式図録とは別に、プーシキン美術館展のスタートに合わせて、「時空旅人」から特集本が発売される予定です。展覧会に出品される絵画と連動して印象派についてじっくり掘り下げてくれているようなので、副読本としてぴったりかも。

DVDボックス・プーシキン美術館

プーシキン美術館の保有する代表的な芸術作品を、4枚のDVDに収めたDVD-BOX。合計260分超収録されていますが、定価19,440円→3,998円と、元値の約8割引きで買えるので、非常にお得。今後もたびたび日本でプーシキン美術館展が開催される(かもしれない)ので、永久保存版として抑えておくのもいいかもしれません。

展覧会開催情報

◯展覧会開催場所・所在地
東京都美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩7分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分
・京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分
◯会期・開館時間
2018年4月14日(土)~7月8日(日)
9時30分~17時30分(入館は閉館30分前まで)
※毎週金曜日は20時まで
◯休館日
毎週月曜日(※ただし4月30日は開室)
◯観覧料
一般1600円(1400円)/大学生・専門学校生1300円(1100円)
高校生800円(600円)/65歳以上1000円(800円)
※カッコ内は団体料金・前売料金
※前売は、4月13日(金)まで販売中
※中学生以下無料
◯公式HP
・東京都美術館HP
 http://www.tobikan.jp/
・展覧会専用特設ページ
http://pushkin2018.jp/

◯Twitter
 https://twitter.com/pushkin2018

【ネタバレ有】映画「MUTE ミュート」感想・考察と10の疑問点を徹底解説!/評論家の評価は最低だけど、意外に楽しめたサイバーパンク作品!

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かるび(@karub_imalive)です。

2017年末頃から、「ブライト」「アナイアレイション」「アウトサイダー」等、ハリウッド系のオリジナル映画大作のリリースペースが顕著に上がってきているNetflix。映画好きにとっては、映画館に行くだけでなく、毎週のように上がってくるNetflixの新作チェックもしなきゃいけなくて・・・で、嬉しい悲鳴になっていますね。

そんな中、また一つハリウッドで実績を残している映画監督・キャストで制作されたネットフリックスオリジナル映画「MUTE ミュート」が2月下旬、全世界一斉にリリースされました。

遅くなりましたが、割りと好きな感じの世界観でしたので、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、作品鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.Netflix映画「ミュート」の予告動画・基本情報

▶公式予告動画(英語版)
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ダンカン・ジョーンズ(「月に囚われた男」「ミッション:8ミニッツ」他)
【配給】Netflix
【時間】126分
【原作】なし(オリジナル)

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引用:Wikipediaより

本作でメガホンを取ったのは、ダンカン・ジョーンズ監督。彼は昨年亡くなったデヴィット・ボウイの実子であるという事実は、かなり有名な話のようですね。(知らなかった・・・^_^;)ただ、決して親の七光りでのし上がった人ではなく、作った作品がちゃんと評価されてハリウッドでステップアップしてきた人なのであります。

これまでの作品の中で、特に評価されている「月に囚われた男」「ミッション:8ミニッツ」は、共に時間・場所が限定的な条件下、主人公が同じ行動をループ的に繰り返す中で繰り広げられる人間ドラマを緻密に描き出した傑作でした。

両作品ともプロットも大筋ではわかりやすく作られているのですが、どうしても隅から隅まで楽しみたくなり、1度観た後、すぐに2回目が観たくなるような、繰り返し味わえる作品となっていたのが特徴でした。(こういう作品は喜んで円盤で買いたくなりますね)

今回の映画「MUTEミュート」は、ダンカン・ジョーンズ監督が、脚本担当のマイケル・ロバート・ジョンソンと16年もの長期間じっくり構想を温めてきたライフワーク的な作品だと言います。そんな個人的な思いの詰まった作品を、敢えて通常の劇場公開版映画ではなく、Netflixというプラットフォームを選んで勝負してきたわけですが、さて、出来の方はどうだったのでしょうか?

2.主要登場人物・キャスト

レオ(アレクサンダー・スカルスガルド)f:id:hisatsugu79:20180330181316j:plain
引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube
スウェーデン出身のベテラン俳優で、ハリウッド映画作品や、アメリカのTVドラマで活躍中。特に昨年は米ドラマ「ビッグ・リトル・ライズ」で、第69回プライムタイム・エミー賞の助演男優賞、第75回ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞するなど充実した一年となりました。ちなみに、昨年末「イット/それが見えたら、終わり」のピエロ役で大ブレイクを果たしたビル・スカルスガルドは、彼の実弟です。

カクタス・ビル(ポール・ラッド)f:id:hisatsugu79:20180330181430j:plain
引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube
どこかで観たことがあるなぁーと思っていたら、彼はマーベルヒーロー作品「アントマン」で主役を務めていましたね(笑)調べるまで全く気づかなかった・・・。「アントマン」では終始コメディ・リリーフ的な三枚目の主人公でしたが、本作ではキレたら怖い元退役軍人役を絶妙なさじ加減で演じていました。役者って凄いですね・・・。

ダック(ジャスティン・セロー)f:id:hisatsugu79:20180330181424j:plain
引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube
年末最大の話題作「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」にて、謎の男マスター・コードブレイカーを演じましたが、今作では、ジョン・レノンみたいな髪型・髪色で出てきたので全く同一人物だと気づきませんでした。2017年初頭に日本でも公開された「ガール・オン・ザ・トレイン」にも出演しています。

ナディーラ(セイネブ・サレー)f:id:hisatsugu79:20180330181740j:plain
引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube
ドイツ出身の女優で、本作がはじめてのハリウッド系作品への登場。国際的には無名な人ですが、今作で主演に抜擢されたことで、今後本格的に世界進出を果たすのでしょうか?

3.途中までの簡単なあらすじ

西暦2052年。科学技術は発達する一方、戦争や乱開発によって環境汚染が進行し、人類は摩天楼の林立する大都市で身を寄せ合うように生きていた。ベルリンは、新たな冷戦時代における国際的な主要都市となっていた。

幼少時の事故により声帯を損傷し、しゃべることのできないバーテンダー、レオ。物静かで控えめなレオには、たった一つの生きる意味があった。共にストリップクラブで働く恋人のナディーラの存在である。ナディーラには、レオには言えない秘密があったが、レオは、過去のことよりも今、ナディーラと共に過ごすことができれば、他には何も必要がなかった。

そんな恋人のナディーラだったが、ある日、彼女はレオの元から、連絡もなしに忽然と姿を消してしまう。ナディーラを取り戻すため、レオは、数少ない手がかりを元にベルリンの街を奔走する。やがて、ナディーラの失踪の原因には、ナディーラの元夫カクタス、その親友である元従軍医師ダックが深く関係していたことがわかってくる。

ナディーラはなぜ突然失踪したのか?事件の真相を突き止め、ナディーラを取り戻すため、粘り強い捜索を続けたレオ。やがて、ナディーラが囚われているであろう秘密の隠れ家へとたどりついたレオだったが、そんな彼に悲劇的な運命が降りかかるのだった・・・。

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

ブレードランナー?あからさまなサイバーパンク色あふれる画面

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

まず、観始めて30秒で気づくのは、「あれ、これはあからさまにブレードランナー的な世界観なのかな?」ということ。摩天楼が映る大都会の夜景をバックに、1台の飛行艇のような乗り物がスーッと画面を横切っていく演出は、もうそのまんまですよね。

これは確信犯だろう?と思って調べたら、案の定、ブレードランナーのような近未来の退廃的な国際都市の中で起きる人間ドラマを描きたかった、と監督もインタビューで答えており、もはやパク・・じゃなくてオマージュを隠すつもりもないということですよね。

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芸者の格好をしたゲイの娼婦なども典型的??
引用:Netflix「MUTE ミュート」より

人物描写や美術なども、これまでのブレードランナーや一連のサイバーパンク的世界観を共有する映画群からの、色々な引用が感じられます。例えば、ストリップバーなどで踊っているアンドロイドや、芸者の格好をしたゲイの男、80年代系の角ばった乗り物のデザインなど、挙げていくとキリがないわけです。

正直言って、こういった設定が物語に直接深みを与えているかと言えば、必ずしもそうとは言えない感じもして、ここまでしっかりしたサイバーパンク的な作り込みって必要だったのかな?とも思えましたが、そこはNetflix。細部まで細かく美術・世界観を作り込めるだけの潤沢な予算を用意してあったのでしょうね。決して映画館の大画面で上映される機会もない割に、ここまで純粋に世界観をがっちり作り込んでくれたのは、サイバーパンク系SFが好きな人にはたまらなかったのではないかなと思います。オリジナリティはないけど、確実に「頑張っている」と感じました。

主人公の「設定」は物語に確実に見どころと深みを与えていた

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その反面、主人公の「設定」は物語に確実に見どころと深みを与えていたと思います。主人公・レオは幼少時にしゃべれなくなったことをきっかけに、内向的で物静かな大人へと成長しています。別の感覚が研ぎ澄まされた結果なのか、世俗的な成功や利害関係には疎い半面、繊細さとアート的な感覚を発達させた芸術家肌の青年であることが、開始数分の日常のルーティーンを描くことで上手に視聴者にわからせていく。このあたりの演出は実に渋くて上手だったですね。

でも、普段は物静かで人畜無害だけど、愛する彼女が失踪してからは、伝統的なアーミッシュの家に生まれたゆえの機械音痴も乗り越えて、一途で有能な戦士に一変するという。彼女への一途な愛が、冴えないバーテンダーをタフな戦士へと激変させ、行く手を阻む悪そうな奴らをバシバシのして彼女の行方を追跡していく様は、まさに宇多丸いわく「ナメてたやつが実は最強の殺人マシーンでした」的なパターンのカタルシスを感じさせてくれる展開であり、自然と主人公に肩入れしたくなる展開になるのですよね。

そして、このレオを演じたスカルスガルドも、細かい顔の表情だけで苦悩や不安、怒りを見事に表現できていて、上手だなぁと唸らされました。

分かりづらいストーリーはNetflixならではの特徴なのか?

ただ、その反面、やっぱり今回のこの映画、ストーリーがわかりにくすぎる展開に少しイライラさせられました。Netflixという、気軽に戻して見直せるという媒体の特性に甘えて、ちゃんと集中して観ていなかったのもあるのかもしれません。でも、僕がストーリーの全体像をちゃんと把握できたのは3回目の鑑賞時でした。

極端に説明的なセリフが少ない上、。暗くて猥雑でごちゃごちゃしたサイバーパンクな世界観もあって、本当にわかりづらい・・・。細部まで目を皿のようにして画面に食いついて観ていないと、人間関係やストーリーが浮かび上がってこないのですよね。

「月に囚われた男」「ミッション:8ミニッツ」も、確かに1度で全てのストーリーや伏線を味わい切るのは至難の技でしたが、それでも全体として何が起こっているのかは1度目でもしっかり把握出来たと思います。これに対して、今作では、特に1度目の鑑賞では何が起こっているのか、全体像もおぼろげにしかわからなかったりと、やや難易度が限度を越えている感があります。

もうちょっと難易度を下げて、丁寧に描いてくれても良かったかなと思いました。これを、「Netflixなので何度も観て楽しめるからいいじゃないか」とわかるまで忍耐強く観続けることができるか、「こんな駄作!」と開始30分で再生ストップボタンを押下してしまうかは、人によって反応が分かれるところでしょう。ただ、アメリカの大手評価サイトRotten Tomatoesあたりでの評価が異様に低い理由の一つに、このわかりにくさがあったのではないかなと思います。

ただ、個人的には、わかり易いほどベタベタ説明される話より、多少アラがあっても最後まで謎解きを楽しめる方が好きなので、本作の分かりづらさについては、そこまで気にはなりませんでした。何度でも再生できますからね。

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5.映画「MUTE ミュート」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:映画のタイトル「MUTE」の意味とは?

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

「MUTE」(ミュート)とは、翻訳すると「口がきけない」という意味を持つ英単語です。つまり、直接的には主人公のレオをそのまま意味しているわけです。

また、ダンカン・ジョーンズ監督によると、「月に囚われた男」(原題「MOON」)、本作、さらにもう1作品と、共通する世界観の中、別々のアンソロジーを並べた、ダンカン・ジョーンズ・ユニバース的な3部作構想があるようです。本作は、第1作目「MOON」に続く2作目として、「M」で始まる4文字のタイトルは収まりが良かったのかもしれませんね。

疑問点2:主人公レオはなぜしゃべれないまま成長したのか

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

レオの母親が、宗教上の信条から、医師から強く勧められた手術を断ったからです。本来手術すれば完治したはずでした。しかし、レオの家庭はキリスト教の宗派の中でも、特に近代以前の伝統的な生活様式に厳格にこだわる「アーミッシュ」に属しているため、現代的な医療機器を使った施術を嫌ったのでしょう。

なお、「アーミッシュ」に属する宗派は、現在でも全世界で20万人ほどいると言われ、アメリカではドイツ系の移民がその大多数を占めています。

疑問点3:映画の設定年代は?

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

本作で描かれた舞台は、近未来となる2052年。舞台も、アメリカのどこかではなく、ドイツのベルリンでした。映画中では、アメリカ脱走兵を厳しく取り締まる憲兵のような存在も匂わされていましたし、恐らく何度かの世界大戦や混乱を経て、近未来での国際的な覇権はドイツへと移ったということなのでしょうか?(映画内で使用されていた紙幣も、すでにユーロではなかった)

ちなみに、ダンカン・ジョーンズ監督は、いくつかのインタビューにおいて、「移民によって様々な人種のぶつかりあう文化のるつぼのような大都市としてベルリンが思い浮かんだ」と答えています。

疑問点4:映画でのキーマン、カクタスとダックの正体や特殊な関係性とは?

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

カクタス、ダックは、ともに元アメリカ軍の軍医で、ベルリン基地から中東方面へ派遣されていました。映画では言及されていませんが、カクタスは何らかのきっかけで軍を脱走して、きちんと兵役を終えたダックと合流し、犯罪組織に雇われて犯罪者等を扱う違法な外科手術で日銭を稼いでいました。

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

娘を連れてアメリカに帰りたかったカクタスですが、脱走兵という立場であるため、正規ルートでは脱出できない身分となっていました。そのため、ベルリンの犯罪組織を通じて自分と娘二人分の出国書類を偽造することで脱出を図ろうとしていたのですね。

ちなみに、ダックとカクタスの二人の関係性は、絶妙の味わい深い描かれ方でしたね。短気で癇癪持ちのカクタスに、気が弱く幼児好きなダック。ともに一歩間違えたら犯罪者予備軍になりかねない精神面の脆さを抱えつつ、軍隊時代の強い絆で結ばれている。そして同時に、一人の女を取り合った結果、取られた側のダックはカクタスに愛憎両面の感情を抱いている・・・この絶妙な関係性がストーリーをわかりにくくもしているし、深みを加えているとも見ることができました。何度も見直して、味わい直してみてくださいね。

疑問点5:ジョージーは誰と誰の子供なのか?

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

映画中盤までの段階で、ジョージーがカクタスの娘であることはすぐにわかります。映画最終盤において、かつてナディーラとカクタス、ダックは三角関係にあったが、やがてナディーラとカクタスが結ばれたことが示唆され、この子供は、ナディーラとカクタスの間に生まれた娘であることが判明します。

疑問点6:ナディーラがレオに明かせなかった過去の秘密とは?

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引用:Mute | Official Trailer [HD] | Netflix - YouTube

レオは、明らかにナディーラから、彼女の過去について何も知らされていない感じでしたね。(もっとも、今、そばにいてくれればあとのことは問題ではない、と言い切るレオの器の大きさ/ピュアさも素敵なのですが)ナディーラがレオに明かせなかった過去の秘密とは、過去において、自分がカクタスと結婚しており、さらに二人の間に娘がいて、現在親権を係争中である、という事実なのでしょう。

疑問点7:ナディーラはなぜカクタスに殺害されたのか?

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引用:Netflix「MUTE ミュート」より

ここの解釈が非常に難しいのですが、 ナディーラは、カクタスから一人娘を取り返し、レオと一緒に故郷の母親の元で幸せに暮らそうとしていたのではないでしょうか?そのため、ナディーラは憲兵にお金を払って、違法な活動に手を染めるカクタスを憲兵に逮捕させようとしていたのでしょう。

しかし、娘を奪われたくないカクタスはそんなナディーラの行動を察知し、先手を打ってレオの家に侵入し、飲み物に薬を混入させて眠らせたすきに、隠れ家へと誘拐し、窒息死させたのでした。

疑問点8:なぜカクタスとダックはニッキーを誘拐したのか?

ニッキーは、ギャングの親玉、マクシムの許可なく、売春を斡旋していたからです。しかし、レオがナディーラを探し回る過程で「副業」がマクシムにバレてしまったため、その見せしめとしてカクタス、ダックに命じてニッキーを誘拐・拷問しようとしたのですね。もうすぐアメリカに帰れると思っていたカクタスは、嫌そうに対応していたのが印象的でした。

疑問点9:映画「月に囚われた男」との関係性は?

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引用:Netflix「MUTE ミュート」より

本作は、実はイースターエッグ的に、テレビのニュース映像の中で、物語中盤で映画「月に囚われた男」のその後の後日譚がしれっと描かれていました。

ダンカン・ジョーンズ監督の出世作となった映画「月に囚われた男」では、「ルナ産業」という巨大企業が月の裏側へ社員を送り込み、「ヘリウムガス」の生産を軌道に乗せることで、人類のエネルギー問題、環境汚染を解決していました。しかしその事業は、ある男の無数のクローンを作り出し、月の裏側での非人道的&過酷な労働において使い捨てにすることによって成り立っていたのでした。

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ルナ産業が経営するガソリンスタンドが映画内で登場
引用:Netflix「MUTE ミュート」より

これに気づいたあるクローンが、会社を出し抜いて地球へと帰還するところでストーリーは終わるのですが、本作ではその後の状況がダイジェスト的にニュース報道として描かれましたね。すなわち、地球へ帰着したクローンが会社を相手取って訴訟を起こしたことにより、大スキャンダルへと発展している様子がニュース画面で描かれました。

また、映画ラストでガソリンスタンドに立ち寄るシーンがあるのですが、この時に立ち寄ったスタンドの会社名にも「ルナ産業」と書かれていましたね。

疑問点10:ラストシーン・結末の考察~本作の隠れたテーマとは~

レオは、最愛の恋人・ナディーラを殺害したカクタスへ復讐を果たし、次いでナディーラとカクタスがかつて結ばれた橋の上で、ダックを殺します。この時、印象的だったシーンが、カクタスもダックもいなくなり、レオとナディーラの娘、ジョージーだけが残った時、二人はこの映画で初めて「肉声」で会話し合うのです。二人が父娘となったことを象徴しているようなシーンでした。この時、レオは残されたナディーラの娘・ジョージーを引き取り、自らがナディーラの代わりにジョージーを育てていくことを決意ししたのでしょう。

レオとジョージーがベルリンを出て、田舎へと向かう途中の食堂で映画は終わりますが、その行き先はおそらくナディーラの母親のところだったのかもしれません。それは、ナディーラが本来思い描いていた、レオ・ナディーラ・ジョージーの3人で、ナディーラの母親の実家で幸せに暮らす、という夢を引き継ごうとしていたのかもしれません。

ダンカン・ジョーンズ監督は、本作に関連したインタビューの中で、本作の一つのテーマとして「父親になる」ということを挙げています。ちょうど、監督に取って4作目となる本作を撮影していた時、子供を授かり、現在進行形にて父親になるという経験をしていた監督自身の体験とぴったり重なる部分だったため、エンディングは特に力の入った描写だったように感じました。

6.まとめ

Netflix未加入の人には、これ1本見るために加入してみては?とおすすめすることは流石にないですが、それでも、ブレードランナーや一連の近未来のサイバーパンクな雰囲気の作品が好きな映画ファンには、それなりに楽しめるフィルム・ノワール系作品だと思います。1度観ただけじゃ何がなんだか?っていう説明が足りない感じの語り口も、何度も気軽に見直せるNeflix向けの映画だなぁと思いました。

それではまた。
かるび

映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「月にとらわれた男」

ダンカン・ジョーンズ監督の出世作。低予算映画ながら、アイデアが詰まったワン・シチュエーションにおいて、主人公の葛藤や人工知能ロボットとの絆、家族・地球への郷愁など、心情描写が非常に秀逸だった作品。宇宙空間で一人(または二人)きり・・・という設定は過去の名作から最新作まで色々ありますが、本作はその中でもかなり優れた作品だと思います。

映画「ブレードランナー」

本作が強く世界観やストーリー構造を準拠する元作品。本作「MUTE ミュート」の世界観が気に入った人でまだ観てない人がいるならば、まずは黙ってチェックしてみて下さい!不滅の金字塔的作品です。こちらを観終わったら、2017年に公開された続編「ブレードランナー2049」も続けてどうぞ!

ダンカン・ジョーンズ監督作品は、まとめてU-NEXTで!

本作はNetflixでしか見ることができませんが、ダンカン・ジョーンズ監督の過去作の配信に関しては、U-NEXTがNo.1でした。代表作「月に囚われた男」「ミッション:8ミニッツ」の両作品が、ともに無料で楽しめるのはU-NEXTだけ!

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本作「MUTE」を見て、もう少し同監督の過去作を見てみたいなと思った人は、1つずつDVDを買うよりも、まずはビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてはいかがでしょうか。

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映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」は楽しく教養が深まるアート・ドキュメンタリーの傑作!【映画レビュー・感想(ネタバレなし)】

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かるび(@karub_imalive)です。

久々に、見に行ってよかったな~と思えるアート系ドキュメンタリー映画に出会えました。それが、今日ご紹介すする映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」です。

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昨年2017年は、日本画、浮世絵の巨匠・葛飾北斎の「生誕250周年」「没後160年」にあたります。節目の記念イヤーだったこともあって、国立西洋美術館での「北斎とジャポニスム」展をはじめ、各地で様々な力の入った「葛飾北斎展」が開催されました。

少し前には北斎生誕の地にほど近い東京都心・両国に、紆余曲折を経て「すみだ北斎美術館」も創立され、オープン直後は行列が止まらなかったのも印象的でした。また、NHK特集、Eテレ日曜美術館などをはじめ、各種アート系テレビ番組でも何度か北斎が大特集されています。

このように、去年から今年にかけて、いわば、ちょっとした「北斎ブーム」が到来していた感もあったのですが、本ドキュメンタリー映画は、そのフィナーレを飾る決定的なコンテンツとして、アートファン(映画ファン)の前に現れてくれた感があります。

もちろん僕も行くつもりでいました。東京では、全国に先駆けて3月24日から「YEBISU GARDEN CINEMA」で公開が始まりましたので、満を持して31日のトークイベント付き上映回に行ってまいりました!

ということで、早速、見どころや感想を含めた映画鑑賞後のレポートを書いてみたいと思います!

映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」では何を取り上げているのか

本作「大英博物館プレゼンツ 北斎」は、2017年5月~8月にかけて大英博物館で開催された展覧会「Hokusai: Beyond the Great Wave」を取材した、葛飾北斎に関する映画としては初めてとなる長編ドキュメンタリー映画です。

映画内では、展覧会の舞台裏や葛飾北斎作品について、共同取材・製作にあたったNHKの8K高精細映像データを活用した鮮明な映像で徹底解剖。映画館の大画面を使って、驚くべき詳細さでこれら美麗な映像表現を体験することができるという意味で、非常に画期的でした。

 

展覧会を企画した2人の熱狂的な北斎研究者に密着!

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Documentary film and guide to exhibition film © British Museum

このドキュメンタリーでは、現代美術家の巨匠、デイヴィッド・ホックニーや、日本美術史の権威・辻惟雄など、熱心なアートファンなら知っている研究者・芸術家たちも多数出演しています。

その中でも、ガイド役として最初から最後まで本作の「熱く」盛り上げてくれるのは、本展覧会を企画・監修したこの二人。

ティム・クラーク(左)とロジャー・キース(右)です。ティム・クラークは、大英博物館のアジア部門日本セクションのキュレーターです。大英博物館では、過去に「春画」の展覧会を企画するなど、長期に渡って、日本の江戸時代、明治時代を中心に浮世絵や春画などの「日本画」の研究で実績を残してきた日本美術通です。

もうひとりのロジャー・キースは、北斎研究この道50年。北斎研究の第一人者として世界的に知られる権威なのです。映画内で彼の研究室が何度か写されましたが、数十年にわたって収集された膨大な資料群には目を見張るものがありました。

で、とにかくこの二人、北斎のことなら何から何まで知り尽くしていると言うか、驚くほど博識なんですよね。 そして、その語り口は、一言で言うと非常に「熱い」のです。特に、ロジャー・キースは、話しながら感極まって言葉に詰まり、何度も泣きそうになっていました。もう、北斎が好きすぎてどうしようもない感じが素晴らしかった。日本人の端くれとして、こんなにも北斎のことを好きでいてくれてありがとう、って感じです。

知らなかったエピソードがいっぱい

これは単に僕が不勉強なだけかもしれませんが、これまで僕が他の北斎に関連する展覧会ではあまり聞いたことのない、北斎に纏わるエピソードも多数紹介されました。

例えば、北斎は50代までに浮世絵だけでなく、琳派、円山四条派、文人画など日本画の各種技法から、西洋画の遠近技法まであらゆる技術をマスターして、絵師としてのキャリア・名声も絶頂を迎えました。にも関わらず、60代では一転して不遇の身に置かれ、転居を繰り返す極貧生活に陥ったそうです。

その理由が、北斎自身の奢りや慢心だったというわけではなく、孫が放蕩生活で拵えた莫大な借金を返すためだったというのが非常に意外でした。天才的な絵師になんてことをしてくれるんだ、孫よ!!

また、「北斎」という名前の由来も初耳でした。すなわち、彼の生家の近くにあった妙見山法性寺でお祭りしている妙見菩薩から来ているというのです。妙見菩薩は、別名北極星を表す北辰菩薩とも言われ、北極星振興と結びついた、日蓮宗に近い仏教宗派の一つではあります。

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北斎が通いつめた法性寺(4月1日撮影)

北斎は、ある日法性寺へお参りに来た帰りに落雷に遭い、それをきっかけとして、絵師としての道を歩むことに迷いがなくなり、売れっ子絵師へと上り詰めていったという伝説があります。自らも絵師として真っ直ぐに「北極星」のような不動で力強い存在になりたい、と強く願ったのだとか。

実際、映画を見終わった翌日、たまたま自宅から数キロのところに法性寺があったので、早速お参りに行ってきました。中のお堂の様子は、神仏習合的で修験道に近い雰囲気で、あまり見たことのない祭壇のご祈祷風景は非常に鬼気迫るものがありました。

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法性寺でのご祈祷の様子(4月1日撮影)

落雷伝説の真偽はともかくとして、確かにこのお寺なら、北斎もなにか重大なインスピレーションを受け取っていてもおかしくないと感じましたよ。

全体的に、本作では北斎の画業の凄さ、技術の素晴らしさを伝えるというよりは、彼が残した作品から、北斎の絵師としての精神性や心の内面をより深く見ていこう、という趣旨で掘り下げられていたのが印象的でした。 

70代以降の晩年の名作を徹底紹介

もちろん、本作では展覧会でも当然展示された非常に有名な作品から、晩年期の作品まで取り上げていきます。

▼「神奈川沖浪裏」(「The Great Wave」)
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Documentary film and guide to exhibition film © British Museum

北斎が西洋で知られるきっかけとなった決定的な一枚と言えば、なんと言ってもこの作品ですよね。日本でのタイトルは、本作が収められた版画集「富嶽三十六景」にちなんで「神奈川沖浪裏」と普通に名付けられているのですが、海外でのタイトルは、「The Great Wave」と訳されているんです。わかりやすすぎ(笑)確かに日本語の原題「神奈川沖浪裏」よりも数倍わかりやすいし、作品の本質を切り取っていますね。

▼「凱風快晴」
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Documentary film and guide to exhibition film © British Museum

日本人の間では、「神奈川沖浪裏」よりも人気があり、本作「凱風快晴」は通称”赤富士”として知られています。こちらも「富嶽三十六景」からの代表作ですが、「HOKUSAI:Beyond the Great Wave」では、約8000枚刷られたと言われている同作品のうち、北斎が直接ディレクションした(であろう)、非常に珍しい「初刷り」版も合わせて紹介されています。

詳しくは映画での高精細映像を見て驚いてほしいのですが、この「初刷り」、全然”赤富士"じゃなくて、むしろ”ピンク富士”でした。それこそが、北斎が本当に表現したかった秋の早朝の朝日に映える富士山の姿だったようです。これを目の当たりにして、ロジャー・キースが感極まって泣くシーンはもらい泣きしちゃいそうでした。ドキュメンタリーで泣きそうになるなんて、間違いなく本作のハイライトシーンでしょう!

▼北斎漫画
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引用:Wikipediaより

映画内では、有名な「北斎漫画」も、もちろん取り上げられました。「北斎漫画」の紹介シーンでは、東洋古美術の専門美術商「浦上蒼穹堂」の店主で、約3000冊にも及ぶ世界一のコレクションを保有している浦上満さんという凄い方が映像出演されています。

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実は僕が行った回は、トークイベント付きのスペシャル回だったのですが、終演後イベントで登壇したのがこの浦上満さん。時間いっぱい使って、「北斎漫画」の魅力についてガッツリ語ってくれました。ちなみに、浦上さんが運営する葛飾北斎特集Webサイト「浮世絵師 葛飾北斎」は、北斎について優しく学ぶことができる必見のHPです。儲けや商売度外視で、本当に北斎が大好きなのですね。

また、北斎は、最晩年期、自宅が火事にあったことをきっかけに浮世絵の制作をパッタリやめてしまいます。それ以降、亡くなるまでひたすら肉筆画を描き続けましたが、この最晩年の傑作群が、大英博物館の展示での白眉でした。

映画では、こうした最晩年期の大傑作もしっかり特集を組んでくれています。

▼富士越龍図
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引用:Wikipediaより

北斎90歳時、亡くなる数ヶ月前に描き、「絶筆」となった作品として知られています。シンプルに描かれた富士山の右上に浮かび、天に上っていく龍は、北斎そのものを暗示していると言われます。これを描き上げた時期に「天がもう五年、私を生かしてくれれば、私は本物の画家になれたであろう」と語ったのだとか。

大英博物館での展覧会の様子も追体験できる!

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Documentary film and guide to exhibition film © British Museum

もちろん、本作では後半部分、実際に館内を見て回り、主な作品を取り上げて解説して回っていくシーンも収録されています。いわば、本作の半分は、展覧会のビジュアル・ガイドツアー的な役割にもなっているのですね。

そういう意味では、イギリスでの本展や、その後大阪・あべのハルカス美術館で開催された日本凱旋展「北斎ー富士を越えて」を見逃した人にとっては、後から展覧会の雰囲気を追体験できる機会にもなりました。いやー、いい時代になったものですね。

なぜ映画館で観ておきたいのか、その2つの理由とは

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本作を見終わって強く感じたのは、このアート・ドキュメンタリーは「映画館で見ておかないとダメだな」ということです。もちろん少し待ってから円盤を入手(またはレンタル)して見てもいいのでしょうが、以下の通り、映画館ならではの大きな利点があります。

映画館で観ておきたい理由1:大画面で味わえる

今回のドキュメンタリー映像は、BBSとNHKの共同製作です。本作に収められた展覧会場での作品映像は、NHKが会場に持ち込んだ8K映像機材でULTRA HDフォーマットにて撮影されました。そのため、これを映画館の大画面スクリーンで見ると、本当に隅々までくっきりと北斎の作品の凄さがわかるんですよね。

映画館で観ておきたい理由2:没入度・集中度の違い

他に気を反らす邪魔もない、映画館という密閉空間だと、没入度がやっぱり違います。昨年から、何度もNHK/民放を問わず、北斎についてのスペシャル番組が断絶的に放送されていま。それらも自宅で録画して色々観たのですが、やっぱり自宅のTV番組だと、どうしても受動的で真面目に見れてなかったのですよね。

本作のように完成度が高いドキュメンタリー作品こそ、映画館という特殊な閉鎖空間が、あなたの思索や気づきを確実に広げてくれるはずです! 

まとめ

「大英博物館プレゼンツ 北斎」は、単に北斎の画業や技術、美術史における影響度を振り返るだけでなく、彼の残した作品をじっくり観ていくことで、彼の内面や精神性、人柄、生き様に深く迫っていくアプローチが非常に印象的でした。

あまり気づきにくい点ですが、映画でのナレーションを、モーションピクチャーでは第一人者である、イギリス人ベテラン俳優のアンディ・サーキスが担当している点も映画ファン的にはポイントが高かったと思います。(エンドロールで出てくるまで全く気づかなかった)

アートファンならもちろん、そうではない人でも、映画館でじっくり見てほしい作品です。単に教養が身につくだけでなく、北斎の生き様から、凄い気付きを得られるかもしれない、そんな深みのあるドキュメンタリー作品です。これはおすすめ!

それではまた。
かるび

映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」について

作品名:
『大英博物館プレゼンツ 北斎』
3月24日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給:東北新社 / 配給協力:DBI INC
監督:パトリシア・ウィートレイ 
提供:大英博物館
ナレーション:アンディ・サーキス 
出演:デイヴィッド・ホックニー、ティム・クラーク 他
2017/イギリス/87分/英語・日本語 
原題 British Museum presents: Hokusai
後援:ブリティッシュ・カウンシル 
協力:浦上蒼穹堂 すみだ北斎美術館 凸版印刷株式会社

※ちなみに、YEBISU GARDEN CINEMAでの映画の上映は、上映時間が変わるので、事前にYEBISU GARDEN CINEMAのHPで調べてから行った方が良いと思います! 

映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」の関連書籍・資料などを紹介

大英博物館「北斎展」展覧会図録も日本で入手できる!

映画内で特集されている大英博物館での展覧会「HOKUSAI:Beyond the Great Wave」の図録が日本でも買えます。輸入大型本のため値段は少々張り込みますが、海外で話題となった展覧会の画像が、簡単にワンクリックでAmazonで買えてしまうのがすごい!毎日眺めて、ずっと大切に図鑑として見返すのであれば、手が出ない価格じゃないと思います。僕も思い切ってポチりました!!

北斎漫画入門

北斎が大衆向けに残した「マンガ」の原型とも言える「北斎漫画」。彼の死後に至るまで、約60年間をかけて全15巻で刊行された、江戸後期~明治前期にかけての大ベストセラーです。映画内でも登場しましたが、この「北斎漫画」研究の第一人者、浦上満さんが書いた入門書が非常にわかりやすくてオススメ。コレクションした「北斎漫画」はすでに3000冊以上と、「北斎漫画」にかける半端ない熱量が、この1冊の入門書に凝縮されています!

北斎への招待

近年、東京美術の「もっと知りたい~」シリーズに並んで、非常に取材・構成がしっかりしてきた朝日新聞出版の「~~への招待」シリーズ。こちら、「北斎への招待」は、徹底的にアートビギナーにわかりやすくまとめられており、これから葛飾北斎を学んでいこう!という人には最適の一冊です。昨年秋に開催された一連の「北斎展」と連動した、最新のコンテンツになっているのも嬉しいところ。

北斎肉筆画の世界

「富嶽三十六景」などの浮世絵だけでなく、手がけた肉筆画の中にも見るべき作品を多数残した葛飾北斎。中でも傑作とされる最晩年期の作品群を中心に、彼の肉筆画の世界を手軽な価格でたっぷり楽しめるムック本の代表格が、本書です。大英博物館での展覧会「HOKUSAI:Beyond the Great Wave」を意識した構成になっており、どれか肉筆画の特集本を買おう!という場合こちらが一番おすすめ! 

裏話もたっぷり聞けたトークイベント「久保佐知恵×おおうちおさむ×中村剛士 サントリー美術館の舞台裏」【イベント感想レポート】

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かるび(@karub_imalive)です。

3月30日に開催されたトークイベント「久保佐知恵×おおうちおさむ×中村剛士 サントリー美術館の舞台裏―コレクションをいかに魅せるか」に行ってきました。

サントリー美術館の所蔵品を特集した図録大型本「サントリー美術館 プレミアム・セレクション 新たなる美を求めて」が求龍堂から出版されたことを記念したトークイベントとなります。

こういった「美術館の舞台裏」をたっぷり聞けるトークイベントって面白いし、教養もつくし、満足度が高いことが多いんですよね。今回は、特にベテランアートブロガーTakさん(@taktwi)がファシリテーターを務められるということで、面白い話がきけるのではないか?と思って期待して行ってまいりました。

簡単ですが、その時のレポートを書いてみたいと思います。

トークイベント「久保佐知恵×おおうちおさむ×中村剛士 サントリー美術館の舞台裏―コレクションをいかに魅せるか」とはどんなイベントだったのか?

今回のトークイベントの会場となったのは、昨年リニューアルされ、アートとファッションの聖地的な存在となった「GINZA SIX」内の「銀座蔦屋書店」。リッチで落ち着いた空間が非常に魅力的な書店です。

▼会場となった「蔦屋書店」f:id:hisatsugu79:20180404114543j:plain

特に、大型店の中では、洋書も含め、芸術・文化系書籍の充実が目立ち、アート好きにはたまらない書棚が並んでいます。

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実際、Googleで「銀座蔦屋」と調べると、まず「アートを身近に・・・」っていうキャッチフレーズとともに1番目に表示されますからね。如何にアートに力を入れているかわかりますよね。

そんな銀座蔦屋のレジからちょっと奥に入ったところに、着席ベースで約50名ほど収容できるイベントスペースがあります。ここで、毎日のようにアートや文化系のトークイベントが開催されているのですよね。

ところで、ちょっと注意事項ですが、銀座蔦屋、すごく広いので、イベントスペースがどこにあるのか、非常に(良い意味で)わかりづらいのです。わからない場合は、サクッと店員さんに聞いてしまいましょう。親切に教えてくれました。

▼銀座蔦屋イベントスペース
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イベント登壇者はこの3人

トークイベントでの登壇者はこの3名。ブロガー、美術館学芸員、デザイナーと仕事内容も個性も違う3人のプロフェッショナルが登壇しました。 

久保佐知恵氏

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サントリー美術館の学芸員さん。今回の図録出版企画を担当された方です。まだ30代前半と非常にお若いのに、美術館に関するあらゆる業務に精通し、トークも上手な美人学芸員というイメージでした。2013年にサントリー美術館の学芸員になり、2017年、子供から大人まで楽しめる夏休み時期の所蔵品展「おもしろ美術ワンダーランド2017」を企画担当されました。

おおうちおさむ氏

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田中一光事務所出身で、現在は独立して書籍の装丁を中心に、グラフィックデザインや展覧会の内装、チラシ、総合的なアートディレクションなど、多方面でデザイナーとして活躍するおおうち氏。最近では、「横山大観展」(4/13~)のチラシデザインや、「京都国際写真祭」(4/14~)の展示空間デザインなどを手がけ、各方面からひっぱりだこの気鋭のグラフィックデザイナーです。

中村剛士(Tak)氏

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トークイベントのファシリテーターを務めた、皆さんご存知のベテランアートブロガー、Takさん(@taktwi)ですね。やはり長年こういったイベントで司会を務められているだけあって、取り回しは本当に上手です。巧みな話術で久保さん、おおうちさんから本音を引き出すことに成功されていました(笑)この日は、特にアグレッシブに色々攻めていた印象でした。(顔がほんのり赤かったのは日焼けなのか、それともある程度仕上がっていらっしゃったのか・・・^_^;)

図録の中身やこだわりがしっかり聞けました

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ところで、今回のトークイベントで話題の中心となったのは、こちらのサントリー美術館の所蔵品を特集した図録大型本「サントリー美術館 プレミアム・セレクション」出版にまつわる様々なエピソードでした。いわゆる出版を記念して開催されたトークイベントなのであります。

最初このタイトルを聞いた時感じた率直な印象としては、んん??同社のビールのタイトルそのものだな・・・ということでしたが、実は本当に同社のビール主力銘柄「プレミアム・モルツ」から着想を得ているそうです。

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ところで、意外なことに、サントリー美術館は1961年の開館以来、ほぼ企画展が中心で、所蔵品だけを展示する「所蔵品展」はほとんどやっていないのだそうです。とはいえ、50年以上の歴史を積み重ねる中で、少しずつ自社購入を進めつつ、個人からまとまったコレクションを相次いで譲り受けてきたた結果、いつしかその所蔵品は、約3,000点にも膨らみました。(国宝1点、重要文化財15点含む)

そこで今回、2007年にミッドタウンへと美術館を移転してちょうど10周年を迎えたことをきっかけに、同館の所蔵品だけを厳選して掲載した図録を作ろうという企画が始まったのでした。

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最終的に、絵画だけでなく、工芸・ガラス・陶磁器など、同館のコレクションから幅広いジャンルにわたって130点のアイテムが掲載された図録が出来上がったそうです。

図録の特徴は、なんと言っても読みやすさとバイリンガル対応。

どのページを開いても、糸綴の背中をそのまま見えるように本を仕立てる「コデックス」仕様を採用したため、本の開きがよく、どのページで開いても本にストレスをかけずに大きく開くことができます。

かつ、海外のコレクター、アートファンでも十分楽しめるよう、バイリンガル対応も施されました。また、内部の装丁・紙面デザインは、おおうちおさむ氏の細部にわたる配慮と技が利いたこだわりの造りになり、読み易さとアート的なセンスが高いレベルで両立されています。

▼力をかけなくても、180度バッチリ開くf:id:hisatsugu79:20180404115834j:plain

これは嬉しい配慮ですよね。

掲載された絵画の理想の色味を出すために、何度も印刷所と折衝を繰り返し、最終的には奈良県の本社まで押しかけて、現場で直接色合いをチェックする久保さんの粘りや、1ページ1ページ、読みやすさや快適さを追求するため、デザインの微調整を全く厭わないおおうちさんのプロのこだわりをたっぷり聞けました。

こうした美術展や図録作成って、トークイベントや書跡などで「裏話」「苦労話」を聞くと、本当に凄いなぁと感心しますよね。そこまで考えて作り込んでいるのかと。

図録というのは、まず我々素人の読み手では気づかないような細部まで、本当に何ヶ月もかけてじっくり一つ一つの各工程にこだわり抜いて作られた「作品」そのものなのだな、と改めてプロたちのトークを聞いて深く実感したのでした。

特に面白かったエピソード5つを紹介!

さて、それ以外にも、今回のトークイベントではたくさんの面白い「裏話」「苦労話」を聞くことができました。その中で、特に僕が印象に残ったポイントをいくつかにまとめておきますね。

サントリー美術館の、細部までこだわった内装の凄さ

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普段サントリー美術館で展覧会に参加する時、いつも感じるのは

「ガラスケースの映り込みが少なくて気持ちがいいな」
「ライティングが絶妙で展示が見やすいな」

程度のものですが、それ以外にも、意外なところで内装にこだわっていると聞いて、びっくりしました。例えば、床に使われている木材は、ウイスキーを熟成させるためのオーク樽と同じものを使っているそうです。隠れた「サントリーらしさ」ですよね。

また、壁に使われている和紙にも、こんにゃく糊を塗布することで、汚れにくくする一工夫が凝らされているのだとか。今度展覧会に行った時、確認してみよう・・・。

サントリー美術館の宴会で絶対的なタブーとされるのは?

このように、色々こだわりが多いサントリー美術館ですが、当然宴会で飲むアルコール飲料のメーカーも、キ◯ンや▲サヒといったライバル他社は絶対のご法度なのだそうです。どうしても現地でサントリーのお酒が調達できない時は、どこかで調達して、宴会場にわざわざ持ち込むのだとか。

まぁ、考えてみればこれは当然ですよね。自動車メーカーなどでもよくある話ですからね。僕が最初に新卒で入った会社は三菱系でしたが、社用車は(今は亡き)高級車デボネアでしたし。

今回の図録を求龍堂が担当することになったきっかけとは?

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図録を出版できるノウハウを持っている出版社は、実はそれほど多くはありません。中でも今回出版元となった「求龍堂」は、美術書や写真集など、芸術系の書籍出版では長年のノウハウと実績がある会社です。(例えば、2017年だと大ベストセラーとなった「ミュシャ展」の図録は求龍堂から出版されていました)

意外なことに、実は今回がサントリー美術館と求龍堂の初取引だったのだとか。

面白かったのは、出版元が求龍堂に決まった経緯ですね。久保さんの実施した相見積もりの結果、同社が最安の見積もりを出したこともあったそうですが、ダメ押しとなったのは意外にも別の素朴な要因だったのでした。

サントリー美術館では、昭和の洋画家・小出楢重の非常に小さな小品「裸婦像」を所蔵しているのですが、かつて小出楢重の作品集を出版した時に、その「裸婦像」を画集で取り上げたことがあったそうで、そんな共通点から担当者同士が意気投合して、取引開始に大きく前進する機運が醸成されたのだとか。このあたりのやり取りは、極めて人間臭い、よくある商取引と変わらないのだなぁとしみじみ思いました。

展覧会名は、学芸員の意外なアイデアで決まることもある

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学芸員の仕事は多岐にわたりますが、時々回ってくるのが、どうしても決まらない企画展の展覧会名を考案する仕事なのだそうです。

例えば2015年に開催された尾形乾山の展覧会。タイトルがなかなか決まらず、サントリー美術館の学芸員全員が、「松竹梅3パターン」のアイデアを出し合って決めたそうです。

最終的には、尾形乾山の「目立ちたがり屋」「派手好き」というキャラクターも考慮して、「乾山見参!」とダジャレのようなタイトルに落ち着いたのですが、展覧会名というのは最後まで悩むものなのだなと思いました。

横山大観展のポスターデザインについて

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おおうちおさむ氏も、最近のちょっとした展覧会にちなんだ裏話をしてくれたのですが、特に面白かったのが、最近特におおうち氏が力を入れているという展覧会のチラシのデザイン。

ちょうど、4月13日から東京国立近代美術館において「横山大観展」という大型の特別展が開催されるのですが、この「横山大観展」のチラシのデザインを見事コンペの結果かちとったのが、おおうち氏でした。

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トークイベントでは、最初の案から最終案まで、選定プロセスの中でどのように変わっていったのか詳しく解説してくれました。気付かされたのは、こうしたチラシ1枚の企画を考えるにしても、本当にみんな関係者の方は多くの人を呼ぶために必死で取り組んでいるのだということ。こうしたプロセスを見ると、どんな展覧会であっても、ちゃんと一つの作品として真剣に向き合わないといけないなぁと思った次第です。

まとめ

トークセッションはあっという間の90分でした。次から次へと面白いエピソードが満載だった今回のトークイベント、本当に参加して良かったです。こうした良質なトークイベントに参加すると、1冊アート関連の書籍を読んだのと同じくらいの知見や教養を身につけることができますね。

イベントの関連書籍・資料を紹介!

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サントリー美術館 プレミアム・セレクション

約3000点の膨大なコレクションの中から、久保氏を中心として各分野からこだわり抜いた130点が、美麗な写真・詳細な解説とともに非常に読みやすい形で掲載されています。1冊3,240円と、展覧会図録とほぼ同じ価格で買える永久保存版。表紙や装丁に至るまで、非常に洗練されたデザインも素敵です。おおうち氏いわく、「安易に流行の『白』に逃げるようなことはしたくなかった」とのこと。さすがです。

カフェのある美術館

イベントにてファシリテーターを務めた、ブログ「青い日記帳」管理人のtakさんが監修し、2017年に出版された「美術館×カフェ」という新しい着目点で美術館を紹介したムック本。売れ行き好調で、第2弾の企画も現在進行中なのだとか。

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僕もこの本を購入してからは、自然と展覧会のあとは無意識のうちに美術館併設のカフェやレストランを探してしまう癖がつきました。(それで、食べたものはおぼえていても展示を忘れていることもあったり・・・^_^;)

美術館の舞台裏

美術館運営の舞台裏を興味深く楽しめる新書の「決定版」的な読み物。三菱一号館美術館の高橋館長が長年美術館経営に携わる中で、展覧会開催までのプロセスや一般の美術ファンには見えないところでの苦労などを書き綴っています。アートファンなら読んで損なしの良書です。

【4月6日~4月8日】アメリカン・エキスプレスが開催するトーハクの「お花見茶席」を体験してきた!

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かるび(@karub_imalive)です。

先日、3月13日から始まっている東京国立博物館の企画展示「博物館でお花見を」。この春のお花見の時期に合わせ、5月6日までアメリカン・エキスプレス×東京国立博物館のコラボレーション企画も進行中で、対象のカード会員向けに様々な特典があるのです!

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中でも注目したいのが、トーハクの庭園開放中、4月6日~4月8日にかけて開催されるのが、「お花見茶席」企画です。コラボレーション企画の一番の目玉です。

あぁ、応挙の襖絵かぁ・・・観たいなぁ・・・入りたいなぁ、いいなぁと思っていたら、なんとアメリカン・エキスプレスからお声がけ頂き、取材させて頂けることに!!!!!!

ということで、本日4月5日、翌日からの茶席の準備やリハーサルに奔走している関係者の方に混じって、お花見茶席が開催される「応挙館」「転合庵」の2つの茶室をいち早く体験してまいりました。

早速ですが、簡単に「お花見茶席」の様子をレポートしてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

アメリカン・エキスプレスの「お花見茶席」とは?

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アメックスカード、持ってますか?

◯アメリカン・エキスプレス®・カード
◯アメリカン・エキスプレス・ゴールド®カード
◯プラチナ・カード®

の対象カード会員は、4月6日~4月8日は、ぜひ上野の東京国立博物館へ行きましょう!なぜかというと、非常にレアで貴重な体験ができるからなのです。

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実は、3月13日(火)~5月20日(日) の間、東京国立博物館では、【期間限定】で本館裏に広がる日本庭園を開放中なのです。そんな中、4月6日~4月8日の3日間に限っては、アメックスが5つある茶室のうち、【応挙館】【転合庵】の2つを貸し切って、対象カード会員だけのためのスペシャルなお花見茶席が用意されるのです。

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ただでさえほとんど足を踏み入れることができない庭園内で、歴史ある茶室を借り切って花を見ながらお茶を楽しめる・・・凄い優雅でスペシャルな体験じゃないですか?

では、一体この【お花見茶室】の何が凄いのか、もう少し掘り下げて見てみたいと思います。

応挙館でお茶を飲める幸せ

今回のお花見茶席のメイン会場となっているのは、庭園内の【応挙館】です。ちょっと奥まったところにあるので、わかりにくいかな?と心配な方でも大丈夫。道すがら、対象カード会員のために、ちゃんと要所要所で看板がしっかり立ててありますから。

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応挙館で受付を済まして、中へ入っていくと、まず驚かされるのが、応挙が水墨で描いた花鳥画の襖絵です。(※デジタル高精細複製画です)

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決して派手さはないのですが、茶室の静謐な雰囲気にピッタリ寄り添った落ち着いた絵で出迎えてくれます。もうね、日本画好きなら、パッと見た感じ、「あぁ、応挙だよな~」と一発でわかる(笑)そして、床の間にはちゃんと【散ってない】桜がいけてあります。

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さらには、京都で皇室御用達の高級漆器「象彦」10代目当主・西村毅氏がプロデュースした高級蒔絵重箱セットも設置され、お茶を頂く環境としては、これ以上望めない凄い贅沢空間なのですよね。

▼購入すると1000万円以上の価値があるというf:id:hisatsugu79:20180406013747j:plain

そして、このスペースでお茶を頂くのです。お茶は、きちんとプロの家元が入れてくださいました。春らしいお着物が、また室内空間や季節感にぴったりマッチしていらっしゃいました。

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僕もご厚意でお茶を体験させて頂きましたが、お菓子も甘すぎず、お抹茶もにがすぎず、スーッと体に入っていくような清涼感がありました。ぜひ、応挙の絵に囲まれてお茶を楽しんでみて下さいね。

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しかも、ぜひ注目していただきたいのは、使われている器です。江戸後期から連綿と続く京焼のブランド「高橋道八」の九代目当主が制作した、一流のうつわなのです。ちょうどこの日に家元が持ってきてくださったのが、転合庵を建てた江戸時代の茶人、小堀遠州の家紋が入った渋い茶碗でした。茶碗の裏側には「道八」と書かれていました。

▼うつわの裏には、「道八」と銘が見えるf:id:hisatsugu79:20180406012633j:plain

いつもマグカップでテキトーにお茶を入れてぐびぐび飲みながらブログを書くのが日課になっている僕としては、こういう高い茶碗を持ったのは初めてなので、ちょっと緊張しました^_^;

また、天気が良ければ、庭先にも「桜」が活けてありますので、お花見は大丈夫!ソメイヨシノは散ってしまいましたが、「お花見茶席」のお花はソメイヨシノ、ヤエザクラ、オカメザクラと、微妙に色合いの違う3種類をいっぺんに楽しむことができますよ!

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転合庵も特別に見学できます

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いつもなら、池を挟んだ対岸から、遠巻きに観ることしか出来ない転合庵。こちらは、江戸時代の大名茶人、小堀遠州が17世紀前半に元々京都伏見・六地蔵に建てた茶室です。それから数百年。数度の移転を経て、今はこうしてトーハクという安住の地を得たのですね。

さて、応挙館でお茶を飲み終わったら、そのまま帰ってはいけません!「お花見茶室」オープン期間中は、特別にこの転合庵の部屋もアメリカン・エキスプレスの対象カード会員限定で公開されるからです。

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こちらの中では、先程も紹介した「象彦」10代目・西村毅氏が所蔵する作品の中から、この転合庵に合いそうな作品を2点用意してくれている上、西村氏から直接解説を聞くこともできるのです。

▼西村氏が直接作品を解説してくれましたf:id:hisatsugu79:20180406013818j:plain

まず、この掛軸は、西村氏同様、京都画壇で明治~昭和期にかけて活躍した戸島光孚(とじまこうふ)の作品です。戸島は、生前からその実力を高く評価されていました。皇室にも作品を納入した実績もあるくらいなのです。実際、三の丸尚蔵館にも収蔵作品が収められており、2009年に東京国立博物館で開催された特別展「皇室の名宝-日本美の華」でも展示されたほどなのです。

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西村氏同様、漆工職人でもあった戸島は、この鯉が上っていく絵画を、漆で描いたのだそうです。こういった漆絵の日本画は非常に珍しく、漆一つでここまで写実的に、躍動感あふれる描写ができる絵師はほとんどいないのではないでしょうか?

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そして、その横に設置されたのが、象彦がマレーシアのロイヤル・セランゴール社とコラボして製作したピューター(錫合金)と蒔絵技術を融合させたアート作品です。タイトルは、「こいが滝のぼりをする・・・」様から、『昇鯉』(しょうり)と名付けられました。世界で88個限定販売されたうちの1体で、今回アメリカン・エキスプレスの「青」と呼応する形で、青い光によく映える1体を持ってきてくれたのです。

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もう見て分かる通り、「立身出世」の意味合いを持つ“鯉の滝昇り”の伝説をモチーフにしており、掛け軸の「鯉」、庭園の池と非常にマッチした作品です。超絶技巧な漆工芸の新境地、じっくり堪能してみてくださいね! 

まとめ

ということで、「お花見茶席」いかがでしたでしょうか?「大人」で格調高い文化の香りが漂ってくる美しい空間が楽しめるのは、4月6日~4月8日の3日間限定!対象のカード会員の方は、ぜひ東京国立博物館に立ち寄ってみてくださいね。4月6日、4月7日は茶席が終わったあと、庭園内の夜間ライトアップも非常にきれいです!

それではまた!
かるび

お花見茶席について

開催日程:
4月6日(金)~4月8日(日)
開催時間:
4月6日(金)10:30~18:00(受付終了は17:30)
4月7日(土)10:30~18:00(受付終了は17:30)
4月8日(日)10:30~16:00(受付終了は15:30)
開催場所:
東京国立博物館庭園内「応挙館」
利用人数:
1カード会員様につき3名の同伴者まで利用可能
対象カード:
◯アメリカン・エキスプレス®・カード
◯アメリカン・エキスプレス・ゴールド®カード
◯プラチナ・カード®
利用条件:
混雑時は待ち時間が発生する可能性有り
利用制限時間が発生する可能性有り 
事前予約はなし 
小学生未満は利用不可
靴を脱ぐため、靴下の着用が必要

【ネタバレ有】映画「ボス・ベイビー」感想・考察と10の疑問点を徹底解説!/子供も大人も楽しめた、意外に深い春休み向けコメディ喜劇!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月21日に公開された話題の春休み映画「ボスベイビー」を子供と見てきました。アメリカでの世界初公開から遅れること約1年、満を持しての日本上陸となりました。ちょうど春休み中の子供たちの心をガッチリつかんだようで、映画館には平日の昼間であるにもかかわらず、小・中・高校生でパンパンでした。

僕も小学生の子供と一緒に行ったのですが、隣で笑い転げていました。上映終了後はノベライズまでがっつり読み返すほどの満足度だったようです。

早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ボスベイビー」の予告動画・基本情報

▶「ボス・ベイビー」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】トム・マクグラス(「マダガスカル」シリーズ)
【配給】東宝東和
【時間】97分
【音楽】ハンス・ジマー

本作は、ディズニーやピクサー、イルミネーションに比べると、日本での浸透度はもう一つな感のある「ドリームワークス」の最新アニメーション作品です。監督は、ドリームワークスでは「マダガスカル」シリーズなどで実績のあるトム・マクグラス。

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引用:Wikipediaより

今回、改めてトム・マクグラス監督の初期作品でもある「マダガスカル」(2005)を見返してみたのですが、3DCGアニメ黎明期だった当時に比べると、格段にアニメーションのクオリティはアップしていますね。

アメリカでは2017年3月に公開済みとなっており、昨年アメリカでのアニメ映画では、「リメンバーミー」「怪盗グルーのミニオン大脱走」に続いて、第3位の興行成績を収めていますね。日本公開前に、すでに世界興収は500億円を超え、現在すでにNetflixにて「その後」を描いたTVシリーズが展開中です。

今回、公式サイトで物凄くたくさん用意されたPVの中から、特に面白かったのが現在小学生に大人気の「うんこドリル」とのまさかのタイアップ(笑)僕の息子もうんこドリル大好きなので、笑ってしまいました。一つ貼っておきますので、バカバカしさをぜひ味わってみて下さい!

▶子供に人気!うんこドリルとのタイアップ!
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

 

2.主要登場人物・キャスト

ボス・ベイビー(吹替:ムロツヨシ)
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引用:The Boss Baby | Offisiell Trailer | 20th Century Fox Norge
赤ちゃんのくせにティムよりも声がうんと低いのは字幕も吹替も変わらず。こういった思い切った演出はアニメっぽくて良かった。吹替のムロツヨシは、本当にこれが声優初挑戦なのかと疑うハイレベルな演技でした。実写もアニメも個性的な役柄をガッツリこなせるという意味で、まさに旬の俳優ですね。

ティム(吹替:芳根京子)
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引用:The Boss Baby | Offisiell Trailer | 20th Century Fox Norge
吹替の芳根京子も素晴らしかったです。非常に自然な声の演技は、ちゃんと少年っぽさを表現できていました。ちなみに、おとなになったティムは宮野真守が演じています。

フランシス・フランシス(吹替:山寺宏一)
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引用:『ボス・ベイビー』日本語版予告編 - YouTube
元ベイビー株式会社のトップまで上り詰め、その後、あるつまらない理由で左遷されたヴィラン。さすがは山寺宏一、記者会見等では、他の声優陣からその仕事ぶりを賞賛されまくりです。現場に緊張感と成長をもたらせるという点で声優としてはレジェンド的な存在になりつつありますね。

ユージーン(吹替:立木文彦)
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引用:『ボス・ベイビー』ボス・ベイビーとティムが大ピンチ!?本編抜粋映像
フランシスのお兄さんで、今はフランシスの腹心の部下として、ティムやボスベイビーたちを追い詰める役割。

ティムのパパとママ(パパ:石田明/ママ:乙葉)f:id:hisatsugu79:20180405121101j:plain
引用:The Boss Baby | Offisiell Trailer | 20th Century Fox Norge
映画館で最後に吹替スタッフロールが流れるところで、一番どよめきがあったのがNON-STYLEの石田明がティムのパパ役だったところです。小学生や中学生から「えー、いしだだったの~」とかそこら中で石田呼ばわりされてちょっとかわいそうでした^_^ 

3.途中までの簡単なあらすじ

ティム・テンプルトンは、大好きなママ、パパと3人暮らし。一人っ子だったが、両親の愛情を一身に受け、幸せな生活を送っていた。兄弟はいなかったが、持ち前の想像力でいくらでも楽しく過ごすことができていた。

そんなある日、突然ティムに試練が訪れる。弟「ボス・ベイビー」がスーツを着て、タクシーで突然家にやってきたのだった。それ以来、ティムの両親は朝から晩までボス・ベイビーにかかりっきり。寝る前の子守唄もハグもしてもらえず、面白くない毎日を過ごしていた。

しかし、ティムは、スーツで突然家にやってきたボス・ベイビーにどこかしら不審さを感じていた。ある日、ボス・ベイビーの世話で疲れ切ってリビングで寝てしまった両親を尻目に、ボス・ベイビーの部屋に忍び込んだティムは、ボスベイビーのとんでもない秘密を見てしまう。なんと、ボス・ベイビーは赤ちゃんなのに普通に言葉をしゃべり、外の誰かと電話で話をしているのだった。

その様子をカセットテープに録音したティムは、自分から両親を奪ったボス・ベイビーを追い出そうと、ボス・ベイビーが普通の赤ちゃんではない証拠として、会話を録音したカセットテープを両親に渡そうとするも、ボスベイビーは、仲間も集めて必死で阻止するのだった。最終的にカセットテープは路上に落ちて、車に踏まれて再生できなくなってしまい、ティムは、一連の騒ぎを起こした罰としてしばらく外出禁止になってしまったのだった。

流石に不憫に思ったボス・ベイビーは、ティムに対して自らの秘密を打ち明けた。ベイビー株式会社の社員として、ライバル社であるワンワン株式会社の内情を探るため、ティムの両親の元へやってきただけであり、ミッションが終わったらテンプルトン家を去るというのだ。

半信半疑のティムだったが、ボスベイビーに、ベイビー株式会社の社内を案内してもらって納得した。ティムは、工場で生産され、ベルトコンベアで運ばれて人間の元へ出荷される赤ちゃんとそのまま会社に居残って経営陣となるエリートへ振り分けられるシーンや、外見は赤ちゃんの姿のまま、会社で働くたくさんの社員を見て納得するのだった。

早く両親を自分の元に取り戻したいティム、ワンワン株式会社の内情を早く探りたいボスベイビー。思惑が一致した二人は、ボス・ベイビーのミッションを協力して進めていくことにした。

別の日、ティムの両親が、1日感謝デーとしてティムとボス・ベイビーをワンワン株式会社へと連れて行ってくれる日がやってきた。これを好機としたボスベイビー達は、ワンワン株式会社へ侵入し、新型ペット犬の情報が書かれた秘密のファイルを手に入れようとしたが、それはワナだった。

彼らは、逆に、同社の用心棒・ユージーンに捕まってしまった。しかし、ボス・ベイビーたちは、同社が新型の「成長しない」ペット犬をロケットで世界中にバラまき、人間の家庭から赤ちゃんを一掃しようとする計画を立てているということを掴む。さらに、その計画を推進していたのは、皮肉なことにボスベイビーの尊敬する元上司、フランシス・フランシスだった。

別の日、ティムの両親は、家を留守にして、ラスベガスで開催される新型ペット犬の発表イベントへと出かけてしまった。留守の間、ベビーシッターとしてテンプルトン家にやてきたのは、なんと家政婦に化けたユージーンだった。

ティムとボスベイビーは、なんとかユージーンを振り切ると、ティムの両親を追いかけ、ラスベガスのお披露目イベント会場へとたどり着いた。そこでティムとボス・ベイビーは、とんでもないものを目にするのだが・・・。

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

古き良きアニメ風のタッチを残した映像表現

最近の3Dアニメの進化は凄まじいですよね。ディズニーやイルミネーションなど、ハリウッド系大手スタジオの作品もそうですし、日本でもセルルックのハイクオリティな3DCGアニメーションに定評があるポリゴン・ピクチュアズなど、どの作品もキャラクターの動きや背景の描きこみが、実写とそう変わらないところまで来ている感触もあります。

そんな中、本作を見て最初の数分間で感じたのが、「あれっ、ちょっと古き良きカートゥーン・アニメ的なノリなのかな?」ということです。キャラクターの動きは大胆に強調・デフォルメされ、明らかにちゃんと「アニメ」を見ている感覚が残るんですよね。本作での主人公ティムは7歳になったばかりでもあり、まだまだ現実に空想の世界が入り乱れて世界が存在するような年頃なので、変にリアルすぎるよりはこういうタッチのほうがしっくり来る感じがしました。

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引用:『ボス・ベイビー』決め台詞が中間管理職!ボス・ベイビーとティムが共闘!本編抜粋映像

特に、ティムが空想サイドの世界に入り浸っているシーンでの描写は、ビビッドな色使い、人物や物体のシルエットが色濃く描かれた「空想絵本」の世界に入り込んだような映像表現が秀逸でした。間違いなく本作での見どころの一つだと思います。

大人でも子供でも楽しめるように、丁寧な仕掛けがいくつも用意されている

「ズートピア」「SING」など、ここ最近、興行的に成功を収めたハリウッドアニメ大作は、大人でも子供でも楽しめるよう、視点を変えて重層的に楽しめる仕掛けが用意されています。だからこそ、ヒットにつながったのかもしれません。

同じ映画を見ていても、子供は擬人化された動物のかわいさや、キャラクターの面白さ、そして登場人物たちのドタバタ喜劇を見て笑い転げる一方、大人には、動物やキャラクターたちの世界を現実世界のメタファーとして置き換えて鑑賞しつつ、過去の映画作品からのオマージュやイースターエッグを探す楽しみが用意されているのです。

本作もそういった過去に成功した子供向けアニメ映画の例に漏れず、表面上は赤ちゃんたちが引き起こすスラップスティック・コメディが基本です。

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おならは子供達への鉄板ネタ!
引用:The Boss Baby | Offisiell Trailer | 20th Century Fox Norge

おならをしたり口から何かを吐き出したりといった(ちょっと汚ない)シーンでは、例外なく子供たちが大笑いしていましたし、誇張された各キャラクターのアニメ的な動きはコミカルで飽きの来ないものでした。

その一方、大人向けには、とにかく執拗なまでに過去のハリウッド大作からの引用・オマージュが含まれていて、小ネタを探すのが好きな映画ファンにはたまらない作品になったのかもしれません。

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映画「マトリックス」有名シーンへのオマージュ
引用:『ボス・ベイビー』日本語版予告編 - YouTube

また、ボス・ベイビーの所属するベイビー株式会社でのシークエンスにおいて、いわゆる典型的なサラリーマンの生態に風刺を利かせてあったり、ボス・ベイビーが要所要所でクサい自己啓発的なセリフを吐いたりするのも、大人向けに作り込まれたポイントだったでしょうか。一つ一つの映像に、非常に沢山の情報量が詰まった、よくできた脚本・演出だったと思います。

芯の通った骨太な主題へと収斂していく終盤が特に秀逸

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引用:『ボス・ベイビー』日本語版予告編 - YouTube

本作が非常に良かったと思うポイントは、ちゃんと1本芯の通った、普遍的なテーマを物語に持たせていたということです。単に過去作へのオマージュやイースターエッグを散りばめた小手先の工夫だけではないのです。

そんな本作で取り扱ったテーマは、「愛」の形や性質です。すなわち、「愛」とは、お金や資源など、有限な「ゼロサムゲーム」で取り合うものではなく、与えたり分かち合うことで、いくらでも増えていくものである、という、愛の普遍的な有り様について、ティムとボス・ベイビーは物語の中で体当たりで学んでいくのですね。

物語当初、ボス・ベイビーが家にやってきたことで、それまでティムを目に入れても痛くないほどかわいがっていた両親は、ボス・ベイビーにかかりきりの毎日になってしまいます。両親がティムに対してどう感じているのか知らないまま、ティムはそれまで一身に受けていた両親の愛情をもらえなくなってしまった(愛=有限である)と強く錯誤するのですね。

一方、赤ちゃん工場で生まれ、両親の愛情も知らず、ベイビー株式会社の経営陣になったボス・ベイビーは、愛とは何なのかすら知りません。だから、それ以外の代替物を必死でかき集める(名誉、地位、お金)ことで心のスキマを埋めようとします。

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引用:『ボス・ベイビー』日本語版予告編 - YouTube

そんな二人が、打算的なアライアンスを組んでから、様々な障害を乗り越えて目的を達成していく中で、お互いを思いやる気持ち(=愛)を知っていくのです。すなわち、ティムは愛を「もらう」だけでなく、むしろ「与える」ことで自らの心が満たされることを自覚しますし、ボス・ベイビーは初めて打算的な人間関係を超えた絆をティムと結ぶことにより、「愛」の存在を自覚するのです。

ともすれば、前半~中盤まで若干まったりしがちな展開にやきもきする場面もありましたが、ティムとボスベイビーが共通の敵、フランシスを倒して、その先に見えた新しい「愛」のかたちは、彼らの人生を大きく変えた大きな気付きだったのですね。自らの愛を全てボス・ベイビーに与えることで、新しい愛の形に気づいたティム、そして彼の愛に応えて、全てを投げうって、ティムの元へ走ったボス・ベイビー。美しすぎるエンディングで、思わず涙してしまいました。

エンディングテーマ「What the world needs now is love」での歌詞に、この映画で本当に訴えたかったこと、全てが詰まっていましたね。スラップスティック・コメディ調でスタートし、本作が最後の最後でしっかりと味わい深い普遍的なテーマへと着地させた制作陣の手腕、お見事でした。

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5.映画「ボス・ベイビー」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:ボス・ベイビーはどこからやってくるのか?彼はなぜ普通の赤ちゃんではなく、ボスベイビーになったのか?

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引用:The Boss Baby | Offisiell Trailer | 20th Century Fox Norge

映画「ボス・ベイビー」の世界では、子供は全員「ベイビー株式会社」の工場で生まれてきて、各家庭で購入して配達されるのです。(その割には、一瞬だけママのお腹が大きいカットが1シーンだけあって謎だったのですが・・・)

秘密の工場のようなところで生産された赤ちゃんたちは、ベルトコンベアーに乗せられて、ベビーパウダーを塗布されてベビー服を着せられ、最後に出荷前の「くすぐりチェック」を受けます。

この時、しっかり笑った子供は、下界へ降りていき、家庭へと出荷され、笑わなかった子供はそのまま「ベイビー株式会社」の経営に携わる社員へと抜擢されるのです。

ボスベイビーは、このくすぐりチェックで笑えなかったため、経営部門へと回されて会社の中間管理職になったのでした。

▶ボスベイビー誕生の秘密とは?
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

一歩間違えたら、本作はとんでもないディストピア的な世界に映るところですが、そこは子供向け3Dアニメの世界。ギリギリのところで「暗さ」「おぞましさ」をうまく感じさせない世界観を保ってくれていました。

疑問点2:ボス・ベイビーの秘密の4つの道具とは?

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引用:『ボス・ベイビー』キュートでキメキメなボス・ベイビーが初登場!

いざ地上に降りたボスベイビーが持ち込んだカバンの中には、秘密道具が入っていました。ちょっと面白かったので簡単に紹介してみたいと思います。

秘密道具1:スーパーミルクf:id:hisatsugu79:20180407080430j:plain
引用:『ボス・ベイビー』宮野真守さんのエルヴィス・プレスリー!
これを定期的に摂取することで、ベイビー株式会社の経営チームは、意識は大人の状態で、永遠に体は「赤ちゃん」のまま保つことができるのです。切らしてしまうと、普通の赤ちゃんに戻ってしまうので、絶対に欠かせない道具でした。

秘密道具2:おしゃぶり
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引用:『ボス・ベイビー』対立するボス・ベイビーとティムが初結束!!
これを使うと、体から意識のみ抜け出してベイビー株式会社へと戻ることができました。ちなみに、NetflixのTVシリーズでは、おしゃぶりはさらに進化し、意識のみならず体も会社へと瞬間移動できる仕様になっていました。

秘密道具3:熊のぬいぐるみ型プロジェクターf:id:hisatsugu79:20180407080103j:plain
引用:『ボス・ベイビー』ボス・ベイビーたちの秘密会議!本編抜粋映像
仲間たちと打ち合わせをする時、この熊のぬいぐるみの体内に隠された映写機を使って、打ち合わせを実施していました。なお、このぬいぐるみはボスベイビーがティムの家を去る時に、工作員がきっちり片付けて持ち帰っていましたね。

秘密道具4:指示棒
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引用:『ボス・ベイビー』キュートでキメキメなボス・ベイビーが初登場!
ビジネスマンのプレゼンテーションを効果的に進めるためには欠かせない小道具ですね。僕もサラリーマンの現役時代、Amazonで1,200円で買った安物を愛用していました(笑)

疑問点3:ボス・ベイビーとティムが過ごした日々は現代ではない?

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引用:『ボス・ベイビー』ボス・ベイビーとティムが白熱バトル!本編抜粋映像

ボス・ベイビーとティムが過ごした日々は、少し過去に遡る80年代~90年代のことだと思われます。その一番の手がかりとなるのが、劇中前半でキーアイテムとしてフィーチャーされた「カセットテープ」です。もし、2018年時点でなにか録音するのであれば、スマホやICレコーダーを使いますよね。カセットテープで録音することはまずありえないわけです。

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また、ティムの家の中の家具やおもちゃも、リビングのテレビもブラウン管だったり、少し前の年代を感じさせる雰囲気でしたし、そもそもボス・ベイビーが会社と連絡を取る時も、スマホではなく有線の電話機を使っていましたからね。

これは、エンドロールで判明するのですが、本作は、ティムとボスベイビーがおとなになった現代から、過去を回想するスタイルでストーリーが構成されていたのですね。

疑問点4:フランシス・フランシスの病気「乳糖不耐症」とはどんな病気なの?

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引用:『ボス・ベイビー』日本語版予告編 - YouTube

乳糖不耐症とは、牛乳・乳製品に含まれる「乳糖」を分解するための消化酵素「ラクターゼ」が小腸に十分存在しないため、牛乳や乳製品を摂取した時に消化できず、お腹を下してしまう症状のことです。

成長するにつれて牛乳や乳製品を飲まなくなると「乳糖不耐症」的な症状を発生させる人も多くなってくるのですが、フランシス・フランシスのように生まれつき、赤ちゃんのときから乳糖不耐症になり、牛乳が飲めない子供もいるのですね。

これによって、フランシス・フランシスは、体の成長を抑えるスーパーミルクを消化できず、徐々に物理的に「成長」してしまい、ベイビー株式会社を追われてしまったのでした。

疑問点5:ベイビー社を追い出されたフランシスは新しい会社で何をしたかったのか?

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引用:『ボス・ベイビー』日本語版予告編 - YouTube

一言でいうと自分を追い出した会社への「復讐」です。輝かしい業績を挙げたにもかかわらず、外見的な差別(?)で冷たく自分を追い出したベイビー株式会社を潰すため、彼は子犬の生産・販売を行うライバル会社「ワンワン株式会社」へと移籍しました。そこで、自らが開発した成長しない「スーパーワンコ」の大量のクローンを世界中にばらまくことで、「ベイビー株式会社」の主力商品である「赤ちゃん」を売れなくさせて、会社を潰そうとしたのです。

これって、よくよく考えたらとんでもないことで、各家庭に子供がいなくなったら、人類はどんどん減って絶滅してしまいますよね。フランシス・フランシスのやっていたことは、間接的に人類を滅ぼす恐ろしい計画でもあったわけです。

疑問点6:空港でたくさんのエルヴィス・プレスリーが出てきた意味とは?

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引用:『ボス・ベイビー』宮野真守さんのエルヴィス・プレスリー!

映画中盤で、ラスベガスへ一足先に行ってしまった両親を追いかけるティムたちが、遅れて飛行機の別便に乗り込もうとする時、ネタ的に出てきたプレスリー。一体何なの?って思った方も多いかもしれません。

エルヴィス・プレスリーは、ビートルズなどと同じ世代で、1960年代に大活躍したロックミュージシャンですが、俳優業にも進出していました。そんな彼の代表作が、ラスベガスを舞台とした映画「Viva Las Vegas」です。主題歌も含め、世界中で大ヒットしました。この映画によって、ラスベガスといえばプレスリーを強く連想させるようになったわけです。

ちなみに、この曲は2018年始に日本でもヒットした「キングスマン:ゴールデン・サークル」でも重要な(?)挿入歌として使われています。

▶エルヴィス・プレスリー「Viva Las Vegas」
※画像をクリックすると動画がスタートします


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それにしてもこういうネタを放り込んでくるあたりが、本作が子供だけでなく、大人もガッツリ楽しめる所以なのですね。

疑問点7:ティムの好きな子守唄「ブラックバード」について

まだボス・ベイビーが自宅に来る前、毎晩ティムが寝る時に子守唄としてママから歌ってもらっていた大切な曲がありました。以後ラストシーンまで何度も繰り返し重要なシーンで使われますが、この曲は、ビートルズの名曲「ブラックバード」です。

▶ビートルズ「ブラックバード」
※画像をクリックすると動画がスタートします


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この曲を作ったのはポール・マッカートニー。ビートルズが解散してからも、引き続きポール・マッカートニーのソロコンサートではよく歌われているようです。この曲が作られた1960年代は、黒人による公民権運動が盛んに行われており、ポールは「ブラックバード」に黒人の人権開放への願いを込めてこの曲を作ったのだとか。

深読みすると、ベイビー株式会社という檻に閉じ込められ、愛を知らず育ったボスベイビーが、真の幸せを掴むための「心の解放」を歌った挿入歌だったと言えなくもないかもしれませんね。

疑問点8:本編から削除されたシーンとは?

アメリカの大手Webメディア「ハリウッド・レポーター」の報道によると、クライマックスシーンで上映時間の都合上1ヶ所だけ削除されたシーンがあるようです。

それは、ボス・ベイビーがラスベガスの記者会見場の裏で、子犬を1匹捕まえて、ハードボイルドなドラマのように尋問をするシーンです。しかし、子犬は何もわからずただニコニコしているだけ・・・という割りとシュールなシーンだったようです。DVD&ブルーレイ化された時に、削除シーンが収録されている可能性は高そうですね。 

疑問点9:ラストシーン・結末の考察~ボスベイビー再び?歴史は繰り返す?

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引用:18 EASTER EGGS in THE BOSS BABY ( 2017 ) - YouTube

ラスベガスでフランシスと再度対決したティムとボスベイビーは、子犬たちがロケットで世界中にばら撒かれるのを瀬戸際で阻止し、フランシスの恐るべき野望を打ち砕きました。(もしフランシスの子犬たちが世界中にばら撒かれていたら、人間は子供を持たなくなり、最悪、絶滅してしまう巨大なリスクもあった)

戦いが終わって目的を果たしたボスベイビーはベイビー株式会社へと帰っていき、ティムの回りからはボスベイビーのいた痕跡は、同社の工作員の的確な仕事によって見事に消されていきます。

ボスベイビーがいなくなって心にぽっかり穴が空いてしまったティムは、ベイビー株式会社に戻ったボスベイビーに手紙(レポート)を「僕の愛を全部あげる。だから戻ってこないか」と書きます。ベイビー株式会社で昇格を果たしたボスベイビーでしたが、彼も、もはや自分が欲しかったのはお金や名誉、地位などではなく、「愛」だったのだと気づきます。そして、ティムの求めに応じて、ティムの家へと赤ちゃんとして再出荷されることを選択するのです。ボスベイビーが語ったように、まさにティムが書いたこの「レポート」が二人の関係性を永遠に変えるきっかけになったのですね。

二人にとって一番大切だったものは、愛情を独り占めにすることではなく、愛を誰かとわかちあうことだったのです。エンドロールでかかったディオンヌ・ワーウィックの1966年の名曲「What the world needs now is love」の歌詞がすべてを物語っていました。素晴らしい選曲、しびれましたね。

▶エンディングテーマはこの曲!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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ちなみに、その後のボスベイビーとティムのストーリーを描いているのが、4月6日より全世界一斉配信が開始されたNetflixのTVシリーズ「ボスベイビー ビジネスは赤ちゃんにおまかせ!」です。

これによると、ティムとボスベイビーは本物の兄弟になったものの、ボスベイビーはその後も完全に「赤ちゃん」に戻ってしまったわけではなく、パパとママがいなくなると、いつもの大人口調でティムと話しています。そして、相変わらず札束をばらまいてました(笑)

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引用:18 EASTER EGGS in THE BOSS BABY ( 2017 ) - YouTube

映画版のラストシーンは、それから数十年後、2017の「現在」へと飛んでいます。すると、ティムには一人娘がおり、その娘が見つめる先には、新たな女の子のボスベイビーが不敵な笑顔を浮かべていたのでした・・・。

疑問点10:続編はあるの?

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本作は、すでに世界興収は500億円を超えて、早々に続編の製作が2本決定しています。1本は、Netflixでのアニメドラマの配信です。予定通り、全世界で4月6日から同時一斉配信リリースされました。

とりあえず、英語版ですがYoutubeにNetflixドラマシリーズの予告編がアップされていましたので貼っておきますね。ティム、ボスベイビー他、ヴィラン以外の映画での主要登場人物(パパ、ママ、子供の仲間たち)は全員健在です。また、これに加えて近所の黒人夫婦みたいな新キャラも登場しています。

どうもこれを見ると、新たな強敵は「子犬」ではなく「子猫」となっているようですね。ボスベイビーvsネコというわりと安易な構図で再び戦いが起きるのでしょうか(笑)

▼愛情シェアグラフの第2位にネコが!f:id:hisatsugu79:20180406141730j:plain
引用:The Boss Baby Back in Business | Official Trailer| Netflix

さらに、映画では「ボスベイビー2」が2021年3月26日と、早くも公開日が決定。主演のボスベイビー役にも、アレック・ボールドウィンの続投が決まっています。シナリオや1作目との整合性、Netflixシリーズとの関係性などはまだ明らかにされていませんが、とりあえず楽しみですね。

映画パンフレットも堅実な作りでよかった

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本作は、大人から子供まで幅広い年齢層のお客さんが想定されました。それを反映してか、パンフレットも基本的には子供向けに読みやすく噛み砕いて説明したキャラ紹介、あらすじ部分が用意された反面、大人向けにきっちり2つのコラム、4ページにわたるプロダクションノートなども用意され、この手の映画としてはバランスの良い構成であると感じました。

▼大人向けにはじっくり読ませるコラムが充実f:id:hisatsugu79:20180406124735j:plainf:id:hisatsugu79:20180406124716j:plain

また、大人から子供まで、あとからしっかり映画を振り返れるように、映画のハイライトシーン特集ページも4ページ用意されています。これはあとで親子で見返したりすると、ずっと思い出に残るのではないでしょうか。

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こちらのパンフレットですが、Amazon等で買えるようになっているみたいなので、念の為リンクを置いておきますね。 

6.まとめ

本作は、まさに親子で映画館で楽しむためにピッタリの作品でした。大人向けには、サラリーマンを皮肉ったベイビー株式会社の様子や、過去の名作のオマージュがこれでもかと散りばめられたシーンを読み解く楽しさがあり、子供向けにはわかりやすいストーリー、インパクト重視のアニメーション、メリハリのついたドタバタ系コメディ・アクションで楽しませました。

今後ネットフリックスでのスピンオフや、2作目の映画作品など、ボスベイビーの世界が広がっていきますが、非常に楽しみです。ディズニーやイルミネーションとは又違った個性のある、ドリームワークスのアニメーション、しっかり楽しませてもらいました!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ノベライズ版「ボスベイビー」

映画の内容を忠実にノベライズした作品。漢字がわからない小学校低学年でもしっかり読めるように、ふりがなつきなので、子供でも安心して読めました。エンドロールまできちんと再現されています。

ボスベイビー オリジナル・サウンドトラック

これまでハリウッド映画で数々の名作を手がけてきたハンズ・ジマーが本作のサントラを担当。劇中での挿入歌も含め、非常に充実しています。エンドロールで流れたディオンヌ・ワーウィックの名曲「What the world needs now is love」(1966)のカバーもちゃんと入っています!

【ネタバレ有】「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」感想・考察と8つのの疑問点を徹底解説!/TVゲームとして復活!家族で楽しめるテーマパーク的冒険活劇!

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かるび(@karub_imalive)です。

本国アメリカに遅れること4ヶ月、満を持して日本公開されたファミリー大作映画「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」を公開日に見てきました。この日は、僕の小学生の息子の春休み最終日。映画館は昼間から中高生で大混雑でした。

早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ジュマンジ/ウェルカムトゥジャングル」の予告動画・基本情報

▶映画「ジュマンジ」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ジェイク・カスダン(「ゼロ・エフェクト」「バッド・ティーチャー」他
【配給】ソニー・ピクチャーズ
【時間】119分
【原案】絵本「JUMANJI」

2017年度、アメリカ映画興行成績において、恐らく最大のサプライズ・ビッグヒットとなった本作。制作費は約100億円と、クリスマスシーズンを想定したそれなりの規模で制作された娯楽大作映画ではありましたが、クリスマスが終わって年が開けても勢いは止まりません。予告編でも謳われているように、日本での公開が始まる前には、最終的に900億円を超える世界的な超ビッグヒットになったのでした。

そんな本作でメガホンを取ったのは、大人向けコメディやいわゆる「シットコム」を中心としたテレビドラマで実績を挙げていたジェイク・カスダン監督。父親のローレンス・カスダンもまた、ハリウッドで実績のある脚本家・映画監督として活躍していますね。

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引用:Wikipediaより

本作は、ジェイク・カスダン監督が得意とするコメディ路線と、父親譲りのテーマパーク的な冒険譚が絶妙のさじ加減で融合したファミリー映画となりました。特に、映画のこういったシーンは、インディ・ジョーンズ シリーズ第1弾「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のワンシーンを彷彿とさせるものがあり、オールドファンをニヤリとさせたかもしれませんね。

▼父親譲りの場面演出もちらほら?!f:id:hisatsugu79:20180408164127j:plain
引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Choose

ところで、今回色々リリースされていた予告編動画を見ていて特に面白かったのが、下記で紹介する「ジュマンジ」の裏テーマソングです。実は、第5の主人公アレックス/シープレーンを演じるニック・ジョナスは、俳優業だけでなく、兄弟で「ジョナス・ブラザーズ」というアイドル(系)グループにも所属しており、歌も歌えるのですね。

残念ながら本編では披露されていませんが、円盤が出た時にボーナス・トラックに収録されているかもしれません。チーム内の俳優たちの雰囲気も非常に良さそうで、見ていて非常に楽しい動画でした。お時間があればぜひチェックしてみて下さい!

▶映画「ジュマンジ」裏テーマソング?!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.主要登場人物・キャスト

スペンサー/スモルダー・ブレイブストーン博士
(現実:アレックス・ウルフ/ゲーム:ドウェイン・ジョンソン)
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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer 
今やハリウッドを代表するマッチョ系俳優へと上り詰めたドウェイン・ジョンソンですが、本作では、潔癖症でゲーム好きなひ弱な青年、スペンサーの性格を受け継いで、弱気でチャーミングな一面をたっぷり楽しめます。決してマッチョ系一辺倒ではなく、コミカルで意外性ある器用な演技もできる、この「幅の広さ」こそが、ドウェイン・ジョンソンの強みなのでしょうね。

フリッジ/ムース・フィンバー
(現実:サーダリウス・ブレイン/ゲーム:ケヴィン・ハート)
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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer 
ムース・フィンバーに起用されたのが、アメリカを代表する黒人コメディ俳優・ケヴィン・ハート。アメリカ屈指のスタンドアップ・コメディアン(ピン芸人)として、巨大会場も満員にできる実力を持っています。だから、映画内でもやっぱり彼の一挙手一挙動がなんだか笑える感じなんですよね。柔軟なキャスティングだと思いました。

ちなみに、普段の本業では、こんな感じ。

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引用:Netflix「ケヴィン・ハートのまじウケる」一場面より

マーサ/ルビー・ラウンドハウス
(現実:モーガン・ターナー/ゲーム:カレン・ギラン)
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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer 
マーベルヒーロー映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのネビュラ役で人気を不動のものにしたカレン・ギランがセクシーな女戦士を演じました。色んな所で指摘されていましたが、現在上映中の人気ゲームからのスピンオフ映画「トゥーム・レイダー」シリーズの主役、ララ・クロフトそっくりの衣装でしたが、狙っての敢えての演出だったのかも。

ベサニー/シェリー・オベロン教授
(現実:マディソン・アイスマン/ゲーム:ジャック・ブラック)f:id:hisatsugu79:20180407103918j:plain
引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer 
ゲーム世界でのオベロン教授を務めたジャック・ブラックは、ニック・ジョナス同様、俳優業の傍ら歌手業も務める多彩な才能を持つ俳優。おデブなキャラクターなので、大抵はコメディ・リリーフ的な役柄が多く、個人的には「キング・コング」(2005)での業界臭あふれるうさんくさい映画監督役が非常に印象的に残っています。今回は「心は女」「外見はオッサン」という非常に難しい役柄を務めています。

アレックス/シープレーン(ニック・ジョナス)f:id:hisatsugu79:20180408095844j:plain
引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer #2
ジュマンジ内のパーティは、「イケメン白人男性枠がない!」と思っていたら、5人目のメンバーはガッツリアイドル系俳優を配置してきました。徐々にゲームのプレイヤーが増えていく過去作「ジュマンジ」「ザスーラ」同様、途中からの登場です。

3.途中までの簡単なあらすじ

1996年。ある朝、父親がジョギング中にビーチで拾ってきた謎のボードゲーム「ジュマンジ」に、ゲーマーだったアレックスは見向きもしなかった。しかし、ある夜、箱の中から妙な太鼓の音が聞こえてきたので、変に思ったアレックスは、もう一度その箱を開けてみた。すると、最初に見た時ボードゲームだったその箱の中には、テレビゲームのカセットが入っていた。早速取り出してプレイしてみたアレックスだったが、謎の光と共に、ゲーム世界へと吸い込まれてしまった。

それから20年が経過した2017年。4人の高校生が、「ジュマンジ」世界へと囚われることになってしまった。気弱なゲームオタクのスペンサー、筋肉系アメフト部員のフリッジ、自分大好きなSNS女子ベサニー、ガリ勉で気難しい性格のマーサの4人だ。その日、4人はそれぞれ学校で起こした問題行動に対して、罰として学校の地下倉庫に集められ、書類整理をさせられていた。そこで、4人は、なぜか倉庫内に置かれていた「ジュマンジ」を偶然みつけてしまい、退屈しのぎにゲームを始めてしまったのだった。こうして、4人もまたゲーム世界へと吸い込まれていった。

ゲーム内に放り込まれた4人は、まず自分たちがゲーム内のキャラクターへと変わっていることに驚愕した。スペンサーはマッチョで勇敢な冒険家・ブレイブストーン博士に、フリッジは小柄な動物学者フィンバーに、ベサニーはデブでメガネの中年オヤジ姿で地図専門家のオベロン教授、そしてマーサはセクシーな女拳闘士・ラウンドハウスに変わっていた。

ゲーム内でのライフは3回まで。腕に残りライフが黒い線で表示されるシステムだ。ジャングルには危険がいっぱいで、カバに食べられてしまったり、ガケから落ちたりして簡単に死亡してしまう。一度死亡すると、残りライフが1つ減って、瞬時に死んだポイントの上空から落ちてくる仕組みだ。

そんな戸惑う4人の前に現れたのは、「ジュマンジ」内のゲーム案内人、ナイジェルだった。彼はゲーム内のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)だった。ナイジェルの説明によると、ヴァン・ペルトという悪者が、伝説のジャガー像から緑色に光る宝石「ジャガーの目」を奪い、「ジュマンジ」の世界に呪いをかけたというのだ。この呪いを解くため、4人はナイジェルが奪還した宝石と「ジュマンジ」の地図を受け取って、再びジャガー像に宝石をはめ込んで「ジュマンジ!」と叫ぶ、というゴールが設定された。

早速、4人は地図を頼りに、「失われた断片」を探すという最初のミッションを遂行するため、市場へと向かう。その旅路の途中で、4人は敵と遭遇する中、それぞれの個性や弱点を徐々に把握してゲーム世界に順応していった。ヴァン・ペルトのバイク部隊の襲撃もかわし、なんとか市場へとたどりついた4人は、謎解き「失われた断片」を探す中、シープレーンという若き男性に出会う。このシープレーンこそが、20年前に失踪したアレックスであり、彼の存在こそが「失われた断片」だったのだ。

こうして、5人全員揃った仲間たちは、ジュマンジの呪いを解くために、いよいよ最終目的地、ジャガー像へと向かうことになったが、彼らにはさらなる試練が待ち受けていたのだったーーー。 

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

ドウェイン・ジョンソンの弱気なヒーロー像が新鮮

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer #2

本作で面白かったのは、現役の高校生たちが、ゲーム内に吸い込まれた時、まるで自分とは違う正反対の特徴を持ったキャラクターを強制的に演じなければならない設定です。4人は、「ジュマンジ」という非日常空間の中、否が応でも自らと全く違う「他人」の中に入り込むことで、価値観や考え方の多様性や、その中で力を合わせて一つの物事を達成する苦労や面白さを体験していくんですよね。

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer

やっぱり正反対の役柄を急にやれ!と言われてもなかなかできないものです。特に、現実世界でスクールカースト最下層にいるスペンサーとマーサが、よりによって劇中でお互いの気持に気づき、気持ちの悪いキスシーンを映画館の大スクリーンで見せられた趣味の悪さ(?)には大笑いでした。

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必死に自信のなさを克服しようと葛藤する
引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer

そして、注目したいのは、主演・ドウェイン・ジョンソンの演技です。普段のマッチョな「ザ・ロック」的なキャラクターとは違い、元の弱気で潔癖症のスペンサーが透けて見えるような、弱々しい少年のような立ち振舞いが、いつものドウェイン・ジョンソンと全く違っていて見ごたえがありました。(もっとも、彼自身は、すでにマッチョイメージが定着していた高校時代、内面ではうつを抱えていたことをインタビューで告白しており、案外自分自身のリアルな過去を再現した演技だったのかもしれません)

しかしこの人は本当に器用ですね。キャリアを積むごとに、単なるマッチョ俳優の枠を越えて、どんどん演技に深みや幅が付け加わっている感じがします。このあと5月にも「ランペイジ」という、彼が主演した似たような感じの(?)大作映画の公開が控えていますが、両方見て、演技を見比べてみるのも面白いかもしれません。

あくまでゲームとしてメタ的視点をキープしながら進むストーリー

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer

ゲーム世界で繰り広げられる冒険やアクションの数々は、80年代あたりから続く、テーマパーク的な王道のジュブナイル系(といっても顔はオッサンだけど)アクション冒険活劇ですが、この映画には、少しひねりが効いているのですね。

それが、映画全編を通してキャラクター全員が持っている「ゲームプレイヤーとしてのメタ視点」です。彼らはあくまでVRゲーム的にゲーム空間へと没入する一方、ちゃんと「自分たちはTVゲームをやっているんだ」という意識を持って、冒険を進めていくのが新しいのですよね。

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer #2

例えば、フィールドにいると、ドラクエのような巨大なコンソール画面が彼らの眼前に現れて、そこで彼ら自身の弱点や特技(スキル)を確認できたり、映画冒頭とラストで出てくる案内役のナイジェルや、敵の雑魚キャラが同じセリフばかり繰り返すNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の特徴を帯びていたり。

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弱点である「ケーキ」を食べてアッサリ爆死!
引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer 

また、ゲーム内であっさり痛みもなくサクッと死んでしまうスピーディな展開や、死んだら上空から五体満足な状態で復活する演出、さらにそれらを逆用して、冒険を有利に進めようとする各キャラクターたちの機転など、このあたりの細かい工夫は、見ていて非常に新鮮でした。

「ソードアートオンライン」等に代表される、オタク系青少年向けに作られた日本のライトノベルやアニメなら当たり前すぎる描写ですが、とうとうハリウッドの娯楽超大作でもこういう演出が普通に使われ、しかも世界的に大ヒットする時代になったのですね・・・。

キャラの掘り下げ方が若干雑だった

唯一少し不満だった点は、各キャラクターの内面への掘り下げ方が中途半端だったかなという点です。リアル世界では普段言えないような本音をアバター上でお互い言い合う展開は、極めて自然な流れだと思うのですが、やっぱりちょっと展開が忙しすぎて、ひとりひとりがトラウマを解消して成長するプロセスや、メンバー間の葛藤を描くシーンが極めて薄口で、記号的になってしまった感がありました。

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer

例えば、何かをやろうとして、「やっぱりできない、僕には無理だ」と落ち込んだ時、誰かが「お前はできる、大丈夫だ」的に励ますようなやりとりが何度かあるのですが、どのキャラも一言声をかけられただけで、速攻で立ち直って成長するんですよね。ドラマっぽい、「ため」が全くないのです。

また、ひどい罵り合いをしても、次の瞬間には何もなかったかのように冒険を続けていたり。「今落ち込んでいたのは何だったんだお前!」と何回も映画を見ながら心の中で突っ込みたくなるシーンがありました。

5人も主人公がいて、ゲーム内でのスキルや弱点をこなしつつ、さらに心理面での描写を描きこむ、となるとやっぱり少し演出が粗めになってしまうのは仕方ないとは思うのですが、それなら主人公のスペンサーだけでも、もう少し掘り下げて描いてほしかったかなと思いました。(割りと高いレベルでバランスよくまとまっているので、敢えての苦言です) 

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5.映画「ジュマンジ/ウェルカムトゥジャングル」に関する8つの疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:映画のタイトル「ジュマンジ」の意味とは?

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer

「ジュマンジ」とは、主人公たち4名が劇中で吸い込まれてしまうゲーム世界のことですが、本作のベースとなった映画「ジュマンジ」(1995)に主演したロビン・ウィリアムズの説明によると、「JUMANJI」という言葉はアフリカのズールー語で、英訳すると「Many effects」(色々な効果)という意味なのだそうです。

元々はすごろくゲームであり、さいの目が出たポイントに止まると、様々な特殊効果が現実世界へと飛び出してくるゲームらしいネーミングですね。

疑問点2:登場人物たちの設定は?

本作をより楽しむためには、それぞれのキャラクターが持っている「スキル」や「弱点」に着目して見ていくといいですね。下記の通り、一覧表にまとめてみました。

▼各キャラクターの特徴まとめ一覧表f:id:hisatsugu79:20180408162137j:plain
スキル・弱点は映画パンフレットより抜粋引用

こうして一覧にして眺めてみると、ジュマンジのゲーム世界に入って冒険をするの正味約90分の中で、彼ら5人のスキル・弱点設定が全てストーリー内で活用されているのですよね。

また、現実世界でリア充&スクールカースト強者だったメンバーほど、外見・肉体的な弱点を持たされ、そうではない二人(スペンサー、マーサ)はわかりやすいハリウッドスター的な外見・スキルを持っているんですよね。このあたりのバランス感、本当によく考え抜かれた設定だと思いました。

疑問点3:本作で出てきたNPCとはどんな存在なの?

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer #2

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)とは、ゲーム内にてプレイヤーが操作しないキャラクターを指す用語です。映画内では、まだRPG系ゲームソフトが発展期だった90年代らしく、NPCが同じセリフしかしゃべらない設定になっているのが、妙なところでリアルでした。

いわゆる最近のラノベ系RPGアニメで描かれる大規模VRMMO(仮想現実大規模多人数オンライン)ゲームでは、NPCのほうがマイナーキャラともいえますが、本作は古き良き(?)据え置き型ゲームなので、本作の主人公たちが出会う人間のキャラクターは、ヴァン・ペルトを除いて全員NPCなのでしょう。

疑問点4:「ジュマンジ」のゲームルールとは?

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer #2

本作のゲームルールは、「ソードアート・オンライン」等の最近の複雑なMMOゲームに比べると、わかりやすくシンプルでした。

・プレイヤーは、選択したアバターの能力が使える。
・プレイヤーは全員で協力して、ジャガーの像を目指す。
・ジャガーの像にエメラルドの宝石をはめて、「ジュマンジ」と叫ぶことでゲームクリアとなる。
・プレイヤーは3機用意されており、残機は各プレイヤーの腕に黒い線で明示される。
・プレイヤーが死亡した場合、残機があれば、装備・持ち物はそのままでその場の上空から降ってくる。
・残機がゼロになってしまった場合、口移しで蘇生処置を行えば、自分の残機を分けることで仲間を蘇生させることができる。

こんな感じですが、最初に案内人ナイジェルから受けたゲーム説明は極めて雑だったため、各プレイヤーは、実践で(時には偶然に)ゲームを覚えていくことになります。映画内の登場人物同様、ゲーム内のルールを手探りで習得していくプロセスが、ハラハラさせられるポイントでもありましたね。

疑問点5:ヴァン・ペルトの目的とは?なぜ主人公たちを追い回すのか?

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer

ヴァン・ペルトの目的は、「ジュマンジ」世界の全ての源であるエメラルド色の宝石「ジャガーの眼」を奪い、ジュマンジ世界に呪いをかけ、世界を支配することでした。

しかし、ヴァン・ペルトのすきを見て宝石を奪ったナイジェルは、新たに「ジュマンジ」へとやってきた4人に、宝石を渡してしまいます。それを察知したヴァン・ペルトは、4人の道中で待ち受けて、宝石を奪い、再びジュマンジ世界を完全支配することを目指していたのです。

疑問点6:本作は、前作「ジュマンジ」とつながっている3つの物理的証拠とは?

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Blu-ray and Digital Trailer 

本作は、前作「ジュマンジ(1995)」と世界観、設定をゆるく共有している「続編」であるとみなすことができます。ゲームのシステムは、ボードゲームからTVゲームへと変わり、ゲームの主戦場は現実世界からゲーム内の世界へと変わりましたが、共に「熱帯」をサバイバルするゲームであるという共通点があります。それ以外にも、2つのストーリーは時間を隔てて、物理的に同じアイテムを共有しているという証拠もあるのです。

まず、1つ目は、ゲーム内の世界です。本作でアレックスが1996年から2017年までの21年間(ゲーム内では数ヶ月)住んでいたジャングル内の小屋の元の持ち主は、前作の主人公アラン・パリッシュでした。(小屋に刻まれた『ALAN PARRISH WAS HERE』「アラン・パリッシュここにあり」という署名が、映画内で一瞬映し出されたことで判明)彼もまた1969年から1995年まで26年間、ゲーム内の世界に住んでいたのです。

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE Vignette – “Evolution”

また、前作のラストシーンでは、「ジュマンジ」がフランス北部の海岸へと流れ着いたシーンで終わりますが、本作ではアレックスの父親が、やはり海岸に埋まっていた「ジュマンジ」を拾うシーンで始まるのです。前作のエピローグと、本作のプロローグが、つながっているのですね。(ただ、なぜか場所はフランス北岸からアメリカ東海岸に変わっていましたが・・・)

さらに、ゲーム内で登場するヴァン・ペルトの存在も、2つの世界のつながりを強く感じさせる存在でした。前作では、彼は現実世界へと戻ったアランを追って、ボードゲームから飛び出してきて執拗にアランを狙う狂気のガンマンでした。

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前作のヴァン・ペルトも結構怖かった
引用:映画「ジュマンジ」(1995)の一シーンより

本作では、ボードゲームからTVゲームへとアップデートされた影響なのか、姿形は大幅に若返りましたが、TVゲーム版ジュマンジでも唯一のNPCではないキャラクターとして、主人公たちを襲う敵キャラとして健在でした。

疑問点7:ラストシーン・結末の考察~エンドロールの最後は次作への伏線?

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引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE - Official Trailer

最後にジャガーの像へとたどりついた5人は、待ち伏せていたヴァン・ペルトを撹乱しながら無事に宝石を像の目にはめ込み、ジュマンジの呪いを解いて、ゲームをクリアすることに成功します。

こうして現実世界に戻ってきた4人は、再び高校生の日常へと戻って行きました。しかし、ゲームでの過酷で特別な経験を通して、4人は互いを認めあい大きく成長し、真の友人同士になっていました。冒険を通して、スペンサーは勇気と自信をつけ、フリッジとスペンサーは幼年期のように親友に戻りましたし、ベサニーはすでに自撮りには興味はなく、ゲーム内のキャラクターだったオベロン教授の特殊スキルの影響を受け、アウトドアで大自然を体験してみたいなんていい出す変わりようです。

そして、5人目の仲間となったアレックスは、4人とは違い、彼がゲームを開始した時点の1996年に戻り、二人の子供と幸せな家庭を築いていましたね。(でも相変わらずメタル好きなのは変わらず、メタリカのメタTを着ていたのは微笑ましかった)

そして、4人は高校へ戻り、2度とゲームがだれかを吸い込んでしまわないよう、フリッジがボウリングの玉でジュマンジを壊してしまい、そこで映画は終わりました。

ただ、ちょっと面白かったのが、エンドロールの最後で、例の低い太鼓の音が映画館に鳴り響いて終わっている演出ですね。「ああ、これはジュマンジはまだ死んではいないのだな」と。

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一晩でボードゲームからTVゲームへ進化したジュマンジ
引用:JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE Vignette – “Evolution”
思い返してみると、一晩でボードゲームからファミコン型TVゲームへとトランスフォームしたり、前作で川に捨てられたにもかかわらず、全く無傷で海岸に流れ着いたように、「ジュマンジ」には、驚異的な耐久能力があるのです。ボーリングの玉でちょっとぐしゃっとなったくらい、なんともないのかもしれません・・・。

疑問点8:続編はあるの?

本国アメリカをはじめ、記録的な大ヒットとなった本作は、当初明確にフランチャイズ化(シリーズ化)を目指して製作されたわけではありませんでした。しかし、アメリカのWebサイト「コライダー」での報道によると、ソニーはすでに次回作に向けて脚本検討に入ったようです。

次回作製作にあたっては、ゲーム内でのキャスト陣(ドウェイン・ジョンソン、ケヴィン・ハート、ジャック・ブラック、カレン・ギラン)をそのまま全員起用する大前提ですが、今回登場した高校生たちの再登板があるかどうかは未定なのだそうです。

その他、まだリリース日や冒険の舞台、本作との接続性など、どうなるのか詳細は未定のようですが、楽しみにしたいですね。宿敵、ヴァン・ペルトも一段と強敵に進化していそうです。

独創的な映画パンフレットが鑑賞記念におすすめ!

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本作の映画パンフレットは、非常に独創的で面白いのです。いつものようにレジで購入する時、店員さんが渡してくれたのは、一見するとパンフレットには見えないなにか別のもの。よく見ると、映画内のオリジナル・ボードゲームをあしらったビニール袋でパッケージがシールしてありました。

これを家に帰って開けてみると・・・

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こんな感じで、中には2つの小冊子が入っていました。1つはゲームの攻略本に見立てた小冊子で、もう一つは、映画内でオベロン教授(ベサニー)が持っていた、ゲーム内フィールドの地図を模したパンフレットです。

早速広げてみましょう。実際の「ジュマンジ」世界の地図の上に、各キャラクターの特徴や弱点がまとめられています。

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裏側には、さらにあらすじ、登場人物紹介などがぎっしり。

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さらに、もう1冊の小冊子も開けてみましょう。

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こちらは、読み物主体です。映画評論家による「ジュマンジ」レビューを座談会形式で詳しくまとめてくれています。

▼評論家によるジュマンジのレビュー対談f:id:hisatsugu79:20180408013421j:plain

さらに、映画内で登場した様々なジャングル内の動物たちについても特集しています。

▼ジュマンジ動物辞典f:id:hisatsugu79:20180408013449j:plain

といったように、今回のパンフレットは、普通の映画パンフレットと大きく違っていて、非常に面白い工夫が凝らされています。普段パンフレットを買わない人でも、非常に楽しめるし、映画鑑賞の記念としてはよく考えられた商品だと思いました。

念の為調べてみたら、Amazon等でも買えるようになっているみたいなので、リンクを置いておきますね。 

6.まとめ

「君の名は。」のように体が入れ替わったり、ちょっとしたタイムトラベルSF的な要素があったり、随所で笑えるコメディ要素があったり、90年代へのノスタルジー的要素があったりと、後から見てみれば、ファミリー向け娯楽映画として大ヒットするポイントが沢山用意されていた本作。子供から大人まで、色々な楽しみ方ができる作品でした。娯楽大作として、ゆったり見れる良作です。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「ジュマンジ」

名優、ロビン・ウィリアムズの代表作となった「ジュマンジ」第1作目。本作とは逆に、ボードゲーム内のジャングルから、宿敵ヴァン・ペルト他、様々な動物たちが現実世界に出てきて、大騒ぎになります。テーマパークのアトラクションのように、あらゆる仕掛けで楽しませてくれるファミリー映画です。まだ13歳だったキルスティン・ダンストのフレッシュな可愛さもポイントが高かった(笑)

映画「ザスーラ」

第1作とは直接的なつながりはないものの、ストーリー構成・ゲームシステムを共有する【精神的続編】として位置づけられた第2弾。地下室で「ザスーラ」というボードゲームを見つけた子供達が、否応なく家ごと宇宙空間へ飛ばされて、隕石や宇宙人たちと戦いながらゲームを進めていきます。不思議なスケール感と雰囲気を持った作品で、個人的には2度見返すなど面白く楽しめました。監督は、「アイアンマン」や「アベンジャーズ」シリーズを手がけたジョン・ファブローが務めています。 

ジュマンジの過去作品は、まとめてU-NEXTで!

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本作の土台となった先行2作品「ジュマンジ」「ザスーラ」は、U-NEXTで「見放題」配信中。本作を見て、もう少し見てみたいなと思った人は、1つずつDVDを買うよりも、まずはビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてもいいですよね。僕も今回、U-NEXTでそれぞれ2回ずつ見返してガッツリ予習できました!

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