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ムンク展は名作「叫び」が来日!楽しい仕掛けが満載の展覧会でした!【見どころ解説・展覧会感想・レビュー】

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かるび@karub_imalive)です。

2018年秋の上野公園は、西洋美術の展覧会で花盛りです。一足早く上野の森美術館で始まった「フェルメール展」、国立西洋美術館で好評開催中の「ルーベンス展」に続いて、10月27日から東京都美術館で満を持して「ムンク展」がスタートしました。

展覧会の目玉となる作品は、西洋美術史に残る屈指の名作《叫び》です。これを見なくてははじまりません。しかし、今回の展覧会はそれ以外の展示も見どころいっぱい。展覧会がスタートして約1週間経過しましたが、予想以上にお客さんも来ています。これは混雑する前にしっかり見ておかなくては!と思い、急いで2回見てまいりました。早速ですが、その感想やレポートを書いてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.ムンク展とは

オスロ市ムンク美術館の全面的な協力を得て、展示作品全てがムンク作品で構成された贅沢な今回の「ムンク展」。目玉作品《叫び》をはじめとして、ムンクが生涯で描いた油彩画の傑作を中心に、版画や素描、セルフポートレート写真などバラエティに富んだ出品作品約100点が展示されています。 

展覧会のプロモーションも秀逸。来場者を楽しませるいくつもの念入りな仕掛けや、充実したグッズコーナーなども非常に好感でした。たとえばお笑い芸人・バイきんぐ小峠さんを起用した、《叫び》の中の絵の人になりきったコスプレ撮影などはなかなか面白いですね。(下記でコスプレのメイキング動画が上がっています!時間のある方は是非) 

2.ムンクって誰?~1分でわかるムンクの生涯~

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エドヴァルド・ムンク 会場内解説パネルから引用

さて、実際にムンク展の感想レポートに入る前に、簡単に画家・ムンクについて簡単に紹介してみたいと思います。こうした画家についての背景知識を少しでも展覧会の前に仕入れてから出かけると、鑑賞が捗りますからね!

エドヴァルド・ムンク(1863ー1944)は、1863年、ノルウェーのローテンに生まれ、当時クリスチャニアと呼ばれた首都オスロに生後間もなく移住します。ムンクは5歳の時に母・ラウラ・カトリーネを、ついで14歳の時に姉・ソフィエを結核で亡くしました。

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《死と春》1893年

この幼少期に体験した身近な大切な人の病と死は、ムンクのその後の性格形成や精神性に大きく影響を与えました。ムンクはこの病と死への不安や恐怖を、絵を描く=祈りに変えることで乗り越えようとしたと言われています。

ムンクは1885年、1889年~92年、1896年~97の3回に渡ってパリに滞在して作風の土台を固めていきます。1回目の短期滞在では印象派に心を奪われ、2回目の留学時で、スーラ、ゴッホ、ゴーギャン、ロートレックや世紀末美術に共感し、3回目ではナビ派や象徴主義の画家たちと交流を持つなど、西洋美術における当時最先端の潮流に影響を受け続けました。

ムンクの作品内における人間の内面を反映した強く激しい感情表現は、持病の精神の病と背中合わせでした。1908年、症状が悪化するととうとう入院。8ヶ月間の療養生活を送ることになります。

退院後は放浪生活をやめてノルウェーに戻り、制作を再開。以後は狂おしいまでの感情表現はトーンダウンしていきますが、代わってマティスやボナールのように豊かな色彩が新たに加わるようになります。この頃、20代~30代に手がけた代表作が評価され、ムンクの画家としての名声が確立し、50代中盤以降は、国内で巨大壁画の制作を手がけたり、国内外で回顧展が開催されるようになっていきます。

しかし70代後半に入り、ナチス・ドイツがヨーロッパで台頭し始めるとドイツ国内にあるムンク作品は「頽廃芸術」として没収され、ノルウェーはナチスの占領下に置かれます。

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頽廃芸術展に訪れたナチス高官/Wikipediaより

1943年12月、自宅の窓を爆風で吹き飛ばされますが、それがきっかけで重い気管支炎にかかり、翌1944年1月23日、亡くなりました。死後、遺言により彼が残した全ての作品はオスロ市へ寄贈されましたが、所有していた作品は約2万点にも及んだそうです。 

3.ムンク展の5つの見どころを紹介!

見どころ1:ムンクの代表作「叫び」

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《叫び》1910年?

今回の展覧会で絶対に見ておきたいのが今回初来日した世界的名作《叫び》です。作品の前を保護するため、この《叫び》と他3点の関連作品だけ照明が落とされ、展示スペースがものすごく広く取られています。

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《叫び》特設展示コーナー

《叫び》の前はいわゆる「ドライブスルー形式」で、絵画を観るためだけの専用列に並んで、作品の前をゆっくり通過しながら鑑賞するスタイル。11月2日(金)夜間開室で2度目に観たときは、やはり《叫び》の前だけ長蛇の列ができていました。少し後ろからなら並ばずに鑑賞できますので、じっくり見たい方は、案外後ろから頑張って首を伸ばして鑑賞したほうが捗るかも。

一方、絵の後ろには、詳しい解説パネルが。

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壁には、ムンクが《叫び》を制作した時の心情を綴った有名なテキストの一部が抜粋されています。そう、これを読むとわかるのですが、《叫び》は、画面手前の男=ムンクが叫んでいるのではなく、男を取り巻く世界が叫んでいるのですね。

また、こんなパネルも用意されています。

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実はこの《叫び》、展示作品以外にも3種類+版画作品のバリエーションがあるのです。どれも構図は基本的に同じなのですが、各作品を描いた時のムンクの精神状態の違いからなのか、背景の色使いや画面後景の2人の男の向きや姿勢など、微妙に全て異なっているのです。内面の心情変化により、刻々と世界の見え方が変わっていくムンクの視点を比較鑑賞することができて、面白いですよね。

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《絶望》1894年

また、関連作品として《叫び》のすぐ横に展示されている、ほぼ同じ構図で描かれた《絶望》と《叫び》を「色彩」に着目して見比べて観ると興味深いです。不安や恐怖が「青」や「深緑」「赤」のコントラストで表現されていることが多いのに対して、絶望はほぼ「黒」一色なのですね。 

見どころ2:生涯にわたってたくさん描いた「自画像」

「私は自分が見えたものを描くのではない。自分が見たものを描くのだ」と語り、世界をありのままに観察するより、自分自身の心情や内面をありのままにキャンバスに表現しようとしたムンク。

そんな彼にとって、常に一番近くにいる「自分自身」に真っ先に興味が向くのは極めて自然なことだったのかもしれません。ムンクは生涯で約70点の自画像を描いたとされますが、本展でも80歳の時の絶筆作品を含め、多数の自画像が展示されています。

中でも特に注目したいのがまずこちらの自画像。

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《地獄の自画像》1903年

背景には真っ赤に燃える炎のような赤と、大きな黒い影が。本人の顔は赤く塗りつぶされ、なぜか上半身素っ裸です。ただ事ではない構図から、狂気や死のイメージを連想してしまいます。ストイックなまでに自らの内面に宿る痛みや苦悩をキャンバスに叩きつけた、ムンク自画像作品の中で屈指の傑作だと思います。

続いて、こちらは展示室のラストを飾る晩年の作品。

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《自画像、時計とベッドの間》1940~43年

しかしこの絵の中のムンクは、生気もなく腕もダラッと弛緩していて、画面からは死相が色濃く漂っています。50代で隠遁生活に入り、名声や名誉は得たが、晩節を見届けてくれる家族や恋人は側にいない・・・。孤独な人生を送ってきた男の寂しい最後ということなのでしょうか。画面を支配する寒色系の色使いからも強烈な寂寥感が感じられた、印象深い作品でした。

ところで、どの本やガイドブックにも書いていないのですが、ムンクは自画像を描く時、自分の顔などにアクセントとして必ず「緑色」を使うんです。顔の輪郭線だったり、目や耳のパーツだったり、緑色のズボンを履いていたり。ムンクにとって「緑」って特別な色だったのかもしれませんね。

見どころ3:見比べる楽しさも!連作シリーズの名作

積みわらやルーアン大聖堂を繰り返し違う季節・時間帯で何度も描いたモネのように、ムンクも自らの画業のコアとなる一つのテーマを掘り下げ、構図や技法、キャンバスを変えたり、モチーフをマイナーチェンジしながら描き続けました。

たとえば、こちらの一つになって溶け合うカップルを描いた「接吻」シリーズ。

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左:《接吻》1897年
右:《月明かり、浜辺の接吻》1914年

複数の油彩作品だけでなく、木版画、銅版画など、様々な「接吻」シリーズが本展で展示されています。

また、2017年には「怖い絵展」でも紹介された有名な「マドンナ」シリーズの連作も、3作揃い踏み。ムンクの女性への憧憬と恐怖を、神秘的な象徴主義絵画的タッチで描いた傑作。少しずつ色合いを変えた連作が3つ並んでいます。どれが自分の好みなのか見比べる楽しさがありました。

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《マドンナ》1895/1902年

非常に珍しい石版まで展示されていました。

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《石版(マドンナ、吸血鬼Ⅱ)》1895/1902年

見どころ4:色使いやタッチを存分に楽しむ

ムンクは眼の前に見えた風景や繰り返し取り上げたモチーフを通して自分の内面の感情や観念を、色使いや筆さばきに乗せてキャンバス上で表現しようとしました。

本展で展示されている作品でも、《叫び》のようにうねるような色彩の線や、自画像で多用される「緑」など、工夫がこらされた作風を味わうことができます。

僕が特に印象的だと感じたのは、垂直方向にまっすぐ強く太い線をすばやく描くことで画面内に生々しい臨場感やただならぬ雰囲気がもたらされていたこの2作品。

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《マラーの死》1907年

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《クピドとプシュケ》1907年

普通、ブログ用に400~500pxに小さく圧縮すると、絵画の筆触、タッチなどはほとんど見えなくなってしまうものですが、この2作品はサムネイル化してもなお、十分筆さばきの感触を感じることができます。今、この絵の中でなにか良くない「事件」が進行しているかのような雰囲気、伝わってこないでしょうか?

また、こちらの、慟哭する女性の作品にも非常に惹かれました。

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《すすり泣く裸婦》1913~14年

顔を埋め泣きじゃくる女性が座るベッドの「赤」、掛け布団の「緑」と反対色を大胆にの組み合わせた色彩が、女性の感情を強く伝えてきます。女性の悲しいオーラが転写されたような壁の模様も印象的です。さらに、女性の体の輪郭線にも緑色が使われ、悲しみで体が冷たくなっている感じも受けます。

家に架けてあったら気が滅入りそうですが、強い引力を持つ作品だと思いました。

また、自由に色彩の組み合わせて生き生きと描かれているのが、ムンクが手がけた一連の肖像画です。例えば下記の3枚を見てください。

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どれも色彩のトーンが全然違いますよね。左端の女性は「紫」と「緑」の組み合わせ、真ん中の男性は「黄色」と「赤」の組み合わせ、右端の男性は「青」と「赤」の組み合わせで、意外性あふれるカラフルな色使いが凄い。

自分の心に見えたままのイメージを、決してカオスにならないよう、色彩に一定のリズム感を保ちながらしっかりキャンバスに置いていっているんです。精神的な脆さ、弱さを常に心に抱えながら画業に向かう一方、計算高い一面も伺えました。

見どころ5:意外に明るい?!晩年の傑作

1908年、診療所で約半年間の療養生活を終え、ノルウェーへと戻って安定した生活基盤の下で制作を開始したキャリア後期、ムンクは「不安、死、絶望」といった自分の内面の負の感情ではなく、光の明るさや生命の輝きといった新たなテーマにもチャレンジするなど、色彩が明るくなって作風が変化します。

確かに「叫び」のような壮絶な情念渦巻く作風は失われてしまったかのように見えるため、作品のクオリティが落ちたと判断する見方もあるようですが、個人的にはキャリア後期の色彩あふれる作品には非常に好感が持てました。

例えば下記の作品。

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《星月夜》1922~24年

自宅の2Fバルコニーから見える夜の冬景色。遠くに街の明かりが見える一方、庭は分厚い積雪で覆われ、自宅から漏れ出た明かりが雪に反射しているロマンチックな風景です。画面右下にはムンクと思しき男性の顔が写り込んでいます。ムンクが描く夜空の透明感あふれる「青」が素晴らしかった1枚。

さらにこちら。

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《太陽》1910~13年

太陽が放つ光やエネルギーが画面いっぱいに爆発する、神秘的な空気感が感じられる作品。この作品に限っては、「不安」「死」「絶望」といったマイナスのイメージは一切感じられません。

キャンバスに近づいてみてみると、放射状に広がる太陽光線の部分が、厚塗りの油絵の具や、歯磨き粉をなすりつけるかのようにチューブからそのままキャンバスに載せられた絵の具など、斬新な筆さばきも見どころたっぷりでした。

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《狂った視覚》1930年

こちらは、晩年に目を悪くした時期に描かれた作品。それまで「緑」と「赤」、「紫」と「黄色」のように、反対色同士を巧みに組み合わせてインパクトの強い色彩が計算されて置かれていた画面とは違い、急にカオスな感じが出ています。

ランダムに置かれたような様々な色の線は、作風は違いますが、目を悪くして混沌とした作風へと変化していったモネの晩年作品とどこか似ているような雰囲気も感じられ、印象的でした。

4.楽しい仕掛けがいっぱい!ムンク展を満喫!

ムンク展では、展示作品以外でも色々お客さんを楽しませてくれる仕掛けが満載でした。ここまで多彩な企画をやってくれている大型展はなかなか珍しいのではないかと思います。是非、館内に来たからには全部味わってみてくださいね。

臨場感が味わい深い音声ガイド

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まずは音声ガイドから。人気声優の福山潤が、ムンクになりきって臨場感たっぷりに演じてくれています。変に大物芸能人を起用するよりも、やっぱりプロの声優が情感タップリにムンクの「画家の心の叫び」を解説してくれていたほうが嬉しい。これは良い起用でした。

ロビーの特設ディスプレイは必見

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また、入口前には巨大ディスプレイがお客さんをお出迎え。展覧会に合わせて制作された映像作品を放映していました。ムンクの筆致を元に新たに作り出された連続するイメージをアニメーションとして表現しているのだそうです。

入場前にこれを見ると、否が応でも期待感が高まりますよね!こちらはもちろん写真撮影し放題。展覧会を見終わってから、改めて見てみると色んな発見があるかもですね。

記念撮影コーナー

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もちろん、写真撮影コーナーもあります。《叫び》絵画写真をそのまま置くのではなく、画面中央の人物像が飛び出た立体パネルに仕上がっています。《叫び》の人物と肩を組んで撮影することもできます!

「DRAW! SCREAM」

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展覧会中、パソコンやスマホ、タブレットなどで自分だけの《叫び》を描いて、展覧会場出口すぐのところに設置されている専用ディスプレイに映し出して楽しむことができる「DRAW! SCREAM」というWebサービスが立ち上がっています。

絵を描く、といっても、テンプレートはすでにサイト内に用意されているので、画面手前の人物を指でドラッグして描くだけ。超簡単です。

たとえばこんな感じ。

▼タブレットで絵を描いていますf:id:hisatsugu79:20181027084753j:plain

僕も、試しに描いてみました。

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あとは、完成後に表示されるQRコードをスマホ等に表示させて、展覧会場のモニターの前にかざすだけ。

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簡単ですので、是非遊んでみてくださいね。優秀作品は、展覧会中に放送されるCMに起用されるかもしれないとのことです!

5.会場限定の公式グッズが史上最大級に充実!

今回のムンク展のグッズコーナーを担当しているのが、首都圏での美術展グッズ制作ではダントツのこだわりとクオリティの高さでマニアをうならせるEast社!たとえば、2018年だと、「仁和寺展」「プーシキン美術館展」「フィリップス・コレクション展」などを担当。

驚いたのは、その豊富すぎるグッズコーナーの品揃えです。図録や文房具、Tシャツやバッグ、食べ物など定番系はもちろん、ポケモンとの特別タイアップ商品やノルウェーや北欧ライフスタイルにちなんだ大型商品まで置かれています。

特に凄いのが、各商品における豊富なバリエーションです。たくさんの種類の中から好きな絵柄、銘柄を選べるのが嬉しいです。ちなみに、各種グッズは数量限定なので、早々に売り切れてしまうリスクもあります。迷ったら「買い」ですよ!

全3種類+特装版!公式図録

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まず最初に驚いたのが3種類の表紙が用意された公式図録です。さらに、特別ケースに封入された豪華特装版も入れると、全4種類販売されていました。中身はしっかりしたクオリティなので、安心してどれを買うか選べますね。

Tシャツ

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今回のムンク展では、展覧会のテーマにちなんだプリントTシャツが豊富に用意されていました。様々な色やテイストで10種類以上販売されています。

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一番人気はやはりこの《叫び》がプリントされたTシャツでしょうか。絵柄が自分の正面にプリントされた、気をてらわない正統派的なプリントTシャツですが、インパクトは抜群だと思います!

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マグネット

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展示されている作品の中から15作品が採用されたマグネット。最近の展覧会では、ポストカードが30種類、50種類と多種類用意されることは珍しくなくなってきましたが、マグネットがここまで多種類用意された展覧会は珍しいかも。

 

最強のネタ土産!?「ムーチョの叫び」

ネタとして一番頑張っていたタイアップ商品が、2種類用意されたコイケヤ「ムーチョの叫び」です。パッケージのインパクトが凄い!コイケヤの「ムーチョ」シリーズのイメージキャラだったおばあさんが2通りのパッケージ(カラムーチョとすっぱムーチョ)で登場。

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 パッケージの裏では画家(ムンク?)がおばあさんを描いていて、おばあさんの向こう側にいる男がカラムーチョとすっぱムーチョを食べているのが笑えます。コンビニの棚を見ていても最近アイデア商品が多くて元気なイメージがありますが、コイケヤの最近のハジけぶりは凄い(笑)

オリジナルのムンク美術館公認グッズも!

その他、展覧会オリジナルのインテリアグッズも素晴らしい。ムンク愛に満ち溢れた商品を見ているだけでも楽しくなってきます。

▼ムンクスクリームドーム
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北国であるノルウェーらしく、ドームをしっかり振ると、底に積もっていた雪が水で満たされたドーム内に拡散し、雪が降っているように見えます。ちょっとおしゃれなインテリアグッズです。

▼ムンク美術館公認「叫び」空気人形
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これまで世界各国で約45万体売り上げてきたという、ムンク美術館公認で制作された「叫び」空気人形。触ってみると独特な手触りもあって、くせになりそう。

北欧雑貨やインテリアグッズも!

その他、北欧デザインの小物や食器、インテリアグッズなども陳列されています。East社のバイヤーが厳選して会場に持ち込んだ品々はどれもセンスが良く、思わず衝動買いしたくなります。大物だと椅子やストーブなども売ってます(笑)

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▼椅子やストーブまで売ってます!
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ポケモングッズ

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そして最後に注目しておきたいのがポケモンとのタイアップ商品。ぬいぐるみ、iPhoneケース、ハンドタオル、クリアファイルなど、ピカチュウや主要キャラたちが《叫び》とコラボしています!

▼あざといくらいに可愛い「叫び」ぬいぐるみ
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▼ハンドタオル
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6.混雑状況と所要時間目安

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事前の下馬評では、「ルーベンス展」「フェルメール展」に比べると、少し集客的に苦戦するかもしれないという噂もあった今回のムンク展。フタを空けてみたら、実は一番混雑しているのが「ムンク展」だったようです。

所要時間は、「叫び」で少し並ぶことも考えると、少し多めの90分~120分は見ておきたいところです。特に2019年1月に入ると、連日《叫び》をひと目見ようと詰めかけたお客さんでかなり大混雑しそう。

是非、年内に早めのタイミングで鑑賞するのがおすすめです。また、金曜日は20時まで開館時間が夜間延長されます(入室は19時30分まで)ので、これを狙うのもいいかもしれません。混雑情報は、おそらく公式Twitterで随時アナウンスされると思われますので、お出かけ前に軽くチェックしてから来場するのをオススメいたします。

7.まとめ

《叫び》の人気ぶりを改めて体感した今回の展覧会でしたが、生涯にわたって描かれた自画像の変遷や、自身の内面を鋭くキャンバスに叩きつけた色彩や筆さばき、晩年の明るく色彩豊かな新境地など、非常に見どころが多い展覧会でした。また、超充実していたグッズコーナー他、ポケモンとのタイアップ、人気声優を起用した臨場感たっぷりの音声ガイド、記念撮影コーナーなど、お客さんを楽しませるための細かい工夫も好感が持てました。

2019年秋、必ず抑えてお生きたい西洋美術展のうちの一つとして、文句なくオススメの展覧会です。僕もあと1回~2回程度リピートしてみたいと思っています!

それではまた。
かるび

※記事内で引用した作品はすべてオスロ市立ムンク美術館所蔵
 All Photographs ©Munchmuseet

関連書籍・資料などの紹介

読みやすい入門用ムック本「ムンク展 公式ガイドブック」

《叫び》は有名な作品ですが、ムンクの作風自体は象徴主義~表現主義といった、20世紀の抽象絵画一歩手前のやや難解な作風です。展覧会と連動して、主な展示作品の徹底紹介や見どころをしっかり解説してくれている公式ガイドは、展覧会のお供として非常に役に立ちます。オールカラーで図解も多く、入門者でもしっかり理解できる良い内容でした。

マンガで伝記が登場!「ムンク」

地元、ノルウェー人作家によってアメコミ(バンドデシネ)風のマンガでまとめられた、ムンクの伝記マンガ。ドラマ性に満ちたムンクの生涯が、日本人とは全く違う感性でつづられます。アクの強さもありますが、恋愛や友人関係など、プライベートでの出来事も含めてムンクの画業を劇画タッチでいきいきと描いた力作でした。これで2000円は安いです。

読みやすさ抜群!一押し「ムンクへの招待」

ムンクへの入門書の中で、個人的に一押しなのがこの朝日新聞出版の「~招待」シリーズ最新刊となる本作。オールカラーなのはもちろん、わかりやすい図解や、今回の展覧会に出展されている代表的な30作品を1作品ずつ徹底解説してくれていて、初心者・入門者にとってかゆいところに手が届いたムック本です。「招待」シリーズの読みやすさは異常!

展覧会開催情報

ムンク展ー共鳴する魂の叫び
◯展覧会開催場所
東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
◯アクセス
・JR「上野駅」公園口より徒歩7分
・東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分
・京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分
◯会期・開室時間
2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
※金曜日は20時まで開室
◯休室日
月曜日、12月25日(火)、1月1日(火・祝)、15日(火)
※ただし、11月26日(月)、12月10日(月)、24日(月・休)、1月14日(月・祝)は開室
◯観覧料(当日)
一般1600円/大学生・専門学校生1300円
高校生800円/65歳以上1000円
※中学生以下無料/※高校生は12月無料
※11/21(水)、12/19(水)、1/16(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料。当日は混雑が予想されます。
◯問い合わせ先
03-5777-8600(ハローダイヤル)

◯関連サイト
・東京都美術館

https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_munch.html
・ムンク展:展覧会特設サイト
https://munch2018.jp/
・ムンク展公式Twitter
https://twitter.com/munch2018

凄まじい画力の猫絵師・陳珮怡の個展に行ってきた!【感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

上記の画像、どう見ても写真に見えますよね?!

でも、違うんです。これは写真ではなく、実際に岩絵の具で描かれた細密絵画の一部なのです。しかも、原寸大ではなく拡大部分画像なのに、全く筆使いの跡が見当たりません!すごすぎます。

最近の美術展では、「超絶技巧」という単語をしょっちゅう聞くようになりました。丁寧な手仕事で仕上げられた細密工芸や細密画の展覧会が一気に増えてきた感触があります。また、細密絵画ばかりをコレクションしたホキ美術館、陶磁器や七宝などの優品が世界的に注目される清水三年坂美術館など、「超絶技巧」系の作品を主に収集している美術館の人気も高まってきています。

そんな中、今回行ってきたのが、銀座「ぎゃらりい秋華洞」で開催されている「ネコ」の超リアルな細密画で注目されている台湾出身の画家・陳珮怡(チン・ペイイ)さんの個展です。

早速ですが、感想レポートを書いてみたいと思います!

1.陳珮怡さんについて紹介

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非常にエネルギッシュな雰囲気もある陳さん

僕は個展開催初日に行ったのですが、ギャラリー内に常駐していた陳珮怡(チンペイイ)さんと運良くお会いすることができました。早速記念写真を撮らせていただき、少しお話を伺いました。

陳さんが猫の細密画を初めて描き始めたのは、台湾・東海大学大学院(※日本の東海大学ではない)を修了した直後の2011年。日々3匹の猫たちと暮らす陳さんにとって、猫たちは単なるペットではなく、人生の大事なパートナーなのだそうです。

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作品制作も大好きなネコと一緒です。

大好きな3匹の愛猫との日常生活を送る中で、彼らが一瞬のうちに見せる様々な表情をスナップショットのようにとらえ、作品に残し続けること7年。気がついたら、台湾で最も注目される「猫」を描く人気絵師となっていました。

彼女の凄いところは、油絵の具ではなく、伝統的な中国絵画や日本画同様、膠彩で描いているということ。これ、本当に驚きました。

ちょうど初日の夕方、彼女の応援にかけつけた池永康晟先生も、レセプションのスピーチで「僕にはこんな凄い絵は描けない。悔しい」と変則的な言い回しで絶賛されていました。

池永康晟先生といえば、現在静かなブームとなっている「美人画」ジャンルで最も注目されている人気作家の一人ですが、元々彼女を発掘したのが池永先生でした。台湾のアートフェアで偶然作品を見てから、「日本人では描けない冷徹な目と圧倒的な作画能力を持っている」と高く評価し、ぎゃらりい秋華洞を通じて彼女を日本へと紹介したのです。

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秋華洞の入り口看板

実は、すでに池永先生と陳さんは昨年11月に秋華洞にて「池永康晟・陳珮怡二人展」を一度開催した実績がありました。そしてこれがきっかけとなり、2018年11月にはこれまで描いた作品をまとめた画集が青幻舎から発売されることが決定。今回の個展は、この画集発売を記念して開催されたものとなります。

現在Amazonでは予約受付中となっていますが、すでにギャラリー内ではいち早く販売が開始されていました。また、都内の大手書店でも一部店頭に並んでいるところがあります。(11月11日、丸善丸の内オアゾで確認)

展示が気に入ったら、その場で画集も手に入れてしまいましょう!

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お店の中で販売されている画集

2.驚異の作画技術。展示作品を紹介!

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左:陳珮怡《被裡窩(ごろり)》/右:陳珮怡《警戒》

彼女がどれだけ凄い技量を持っているかは、ギャラリーで直接確認して頂いたらすぐにわかるのですが、こちらでも画像を使って説明しておきますね。

たとえば、上の写真の右側の作品《警戒》。ネコが姿勢を低くして獲物を狙っているような鋭い目つきで何かを睨んでいますね。

これを、原寸大以上に拡大した部分図がこちら。 

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どうですかこのすごすぎる技量。原寸大より拡大しても、ほとんど写真にしか見えません。でも、陳さんにお聞きしたところ、たとえばヒゲなどは、実際よりも長くしていたり、写真より「盛った」描き方をしている箇所もあるそうです。たとえば、淡く七色に光るネコの瞳なんかも、実物よりも美しく描かれているような気がします。

さらにこの絵のもっと凄い点は、ネコが座っている絨毯の質感なども、完璧に表現されているところ。足元を見てみましょう。温かみのあるペルシャ絨毯が描かれています。

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これを更に拡大すると、こんな感じ。模様や縫い目、絨毯の質感まできっちり1つ1つ描きこまれています。 

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そしてさらに拡大してみます。 

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どうでしょうか。ここまで拡大すると、1つ1つ絵の具が置かれていたり、 線が手作業で引かれていたりと作家の筆使いが感じられ、確かに写真ではないことがわかりました。虫眼鏡でみないとわからないくらいの細かい手仕事は、見事としか言いようがありません。

その他にも、個展では2018年の新作を中心に約10点が展示されていました。

いくつか、簡単に紹介したいと思います。

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陳珮怡《親情(親の愛)》

2匹のネコが体を寄せ合って、あたたかそうに目を細めています。心温まる構図でした。毎日眺めていると元気を貰えそうな1枚です。ちなみに、背景の模様も全て彼女が手作業で描いています。 

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陳珮怡《被裡窩(ごろり)》

タイトルそのまんま、あたたかそうな毛布の上に、丸まってゴロゴロするネコ。こちらを見つめるちょっとびっくりしたような目つきと、差し出された左前脚がかわいいです。

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陳珮怡《獅子吼》

続いては、こちらを向いて、口を一杯に空けて威嚇するネコ。よーく見ると、頭のところの毛が赤く塗られていたり、長すぎる舌が一直線になっていたり、ヒゲがゴージャスすぎたりと、ところどころ写真以上にドラマティックに描かれていますよね。目を凝らして丹念に見ていくと、確かに写真以上に思い入れを持って描かれた部分が見えてきます。

他にもまだまだ個展では魅力的なネコたちが待っています。僕が行った初日にはすでに売約済みとなっている作品がかなりありました。(ざっと半分くらい?)きっと今回の個展で完売しちゃうかもしれませんね。

3.祝!画集「猫さえいれば」発売!

冒頭でも書きましたが、青幻舎から初の画集「陳珮怡画集 猫さえいれば」が発売中です。僕もAmazonでポチりました。届くのが楽しみです! 

4.まとめ

今回の個展や画集発売をきっかけに、日本での人気が更に高まりそうな陳珮怡さん。11月19日まで開催中の個展で発表されている作品は、全て写真撮影OK&SNSへのアップOKとなっています。銀座・ぎゃらりい秋華洞に気軽に立ち寄り、その驚異的な技量で描かれた魅力たっぷりのネコの細密画を堪能してみてくださいね。

それではまた。
かるび

個展開催情報

秋華洞「陳珮怡個展」
■ 展覧会期間:11月9日(金)~11月19日(月)
10:00~18:00 会期中無休 入場無料
■ 会場:「ぎゃらりい秋華洞」
東京都中央区銀座6-4-8曽根ビル7F
https://www.syukado.jp/feature/2018/11/chen-pei-yi.html

美術展は2回目からが面白い!深い鑑賞体験が得られる展覧会「複数回鑑賞」のススメ

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かるび(@karub_imalive)です。

展覧会、好きですか?

僕は、以前サラリーマンを辞めると決めてから、それまで忙しくてできなかった趣味の一つとして、美術展めぐりをはじめました。それ以来3年間、がっつりはまっています。はじめはモネとかレンブラントといった西洋絵画の巨匠の展覧会を混雑に耐えながら回っていました。が、次第にSNS経由でいろいろな展覧会を知るようになり、日本画、陶磁器、茶道具、ファッション系、刀剣・甲冑類、書跡、産業系、サブカル、アニメ・・・等々、いろんな展覧会を回るようになりました。

気がついたら、ここ最近では春と秋のハイシーズンでは月20~30程度回るようになり、両足までどっぷりとアート鑑賞沼に浸かっている状況です。

このようにたくさんの展覧会を回り、量をこなす一方で、ふと昔の展覧会を振り返ってみると、「漠然とした印象以外に、何を見たのか全然思い出せない」ことがよくあることに気づきました。

もともと僕は映画やTVドラマなどを見てもすぐに内容を忘れていく方で、きっと記憶力があんまり良くないんだろうなとは思っていたのですが、やっぱり1度見た展覧会の内容はちゃんと覚えておきたいですよね。

そこで、展覧会に行ったら、関連付けて思い出せるように併設のレストランでご飯を食べてみたり、力を入れてブログに書いて残したりといろいろやってみました。その中でで、最大の成果を挙げるに至った取り組みがありました。

それが、今日ご紹介するシンプルな方法「展覧会の複数回鑑賞」です。

一度見たらそれで終わりにするのではなく、期日を変えてもう1度同じ展覧会に通う。このシンプルな方法で、割と劇的に内容を記憶に保持することができるようになりました。以降、詳細について書いてみたいと思います。

なぜ、せっかく観た展覧会の内容を簡単に忘れてしまうのか?

冒頭でも書きましたが、展覧会を見終わってしばらく時間が経ったら、好きだった美術展の内容を結構忘れてしまっていて、ショックを受けることってありませんか?

多分、これにはいろんな理由があると思うんです。例えば・・・

◯混雑のため、展示がよく見えなかった

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これ、かなりあると思うんですよね。例えば、行列ができるような話題の展覧会に行くと、かなりの確率で美術館の中は混雑しているわけです。名画の前には人垣が二重、三重にできていて、係員からは早く移動することをせかされる。こうなると満足に細部までじっくり観ることはほぼ不可能となります。

◯自分のペースで鑑賞できなかった

気の合う友人と一緒に見て回ると、確かに楽しいです。でも、自分の好きな作品を自分のペースで観ることができず、今ひとつ深い鑑賞ができなかったということってないでしょうか?

◯時間がなくてしっかり鑑賞できなかった

そもそも私達の生活は忙しいのです(笑)「残業が立て込んで、夜間開館に何とか間に合ったけど閉館まで30分しか観られなかった」とか、「他にも予定があって、急ぎ足で観るしかなかった」とか、様々な事情によって、十分な鑑賞時間を取ることができなかったケースもよくあります。

◯実はそもそもちゃんと作品を見ていない

2018年度、文化庁主催の第21回メディア芸術祭で新人賞を獲得したビデオアート作品があります。「美術館で、平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につきわずかに17秒間」に過ぎない、という衝撃的なメッセージを17秒でまとめた皮肉たっぷりのビデオアート作品です。

Gary Setzer—“Panderer (Seventeen Seconds),” 2016. from Gary Setzer on Vimeo.

その後美術館でお客さんがどれだけ展示に集中して見ているか見てみたら、確かにこのビデオアートの言う通り、みんな10秒~20秒くらいしか見ていないんですよね。(※自分も含め!)

これは忘れるわけですよ(笑)僕も大型の展覧会に行って、最初は気合を入れてしっかり見ていても、出口付近になって疲れてくると、流すように作品を見てしまうことも多々あります。

要するに、我々鑑賞者は、しっかり作品を見ているようでもほとんどちゃんと見えていないってことなんでしょうね。

そして、人間は忘れる生き物だ

エビングハウスの忘却曲線ってご存知でしょうか?人間は、何かを学習したあと、わずか1時間後には半分忘れ、1日後には3/4の内容を忘れてしまうという、有名な実験結果をグラフにしたものです。

f:id:hisatsugu79:20181116105109p:plain引用:日本経済新聞オンライン版より

そう、つまり人間はどうしても忘れてしまう生き物なのです。

人間の脳は、なぜだか一度は覚えた記憶のほとんどを、どんどん時間が経つにつれて猛烈な勢いで忘れていくんですよね。テスト勉強などで、わからない英単語を何度も書いて覚えたり、単語帳を作ったりしてなんとか記憶に定着させようと頑張った経験ってありますよね?「予習」「復習」しろと口を酸っぱくして言われるのはここにあるわけです。美術館で見た凄い作品の鮮烈な記憶も、わずか1日後には霞がかったようになってしまうのも無理はありません。

シンプルな解決策「もう1度同じ展覧会を鑑賞する」

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そこで提案したいのがこの解決策。「少し期間をおいて、同じ展覧会を2回鑑賞する」というシンプルな作戦です。

実際、自分でも2018年秋から、ブログで取り上げた展覧会や、絶対に忘れたくない展覧会は全部2回以上見に行きましたが、2回以上観た展覧会はどれも驚くほど鑑賞体験のクオリティが上がったことを実感しました!

では、2度目の鑑賞で、一体何が得られるのでしょうか?僕の個人的な体験も踏まえつつ、少し説明してみたいと思います。

1度目の鑑賞では見落としていたものが見えるようになる

一度展覧会に行くと、ちょっとした大型展覧会だと普通に200点、300点と大量に出展されていますよね。あるいは、見知らぬ作家さんの作品と初めて出会う時、作品そのものの鑑賞よりも、ついついキャプションや解説を読みこんじゃっていたり。

こうして、1度目の鑑賞ではかなりの情報量を見落としてしまいがちになるのですが、1回目の鑑賞でこぼれ落ちた部分に、2度目の鑑賞で気づくことができるんです。「あれ?こんな所にこんないい作品あったんだ」とか「この作品にこんな色使いがされていたのか」とか、色々と新しい気付きがあるんですよね。

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東山魁夷《道》のポスターより引用

たとえば、この東山魁夷の国民的に有名な作品《道》ですが、僕は2度目の鑑賞で、はじめて《道》にうっすら「わだち」が描かれていることに気づきました。

眼前に広がる未来のメタファーとして、白く大きな「道」を描いた魁夷ですが、これから自らが辿ろうとする道もまた、ある程度先人が通った跡だったりするんですよね。この「わだち」を見て、「人生において新しいことにチャレンジする時は知らないことばかりで不安や恐怖が先立つけど、大抵のことは先人たちが切り拓いてくれているんだから、心配しなくてもいいんだな」と、2度目に作品と対峙した時、作品を細部まで鑑賞することで、描かれている内容から自分なりの意味を引き出すことができたのです。

印象が変わるので、見え方が違ってくる

展覧会を再訪したとしても、美術館に設置されている作品自体は何も変わりません。

変わるのは作品に向かい合う自分自身の内面なのです。再訪した時間帯や天気、当日の出来事によって心理状態が変われば、作品の見え方が確実に変わってきます。

たとえば、仕事に悩みを抱えた状態で、美術館に来る時に冷たい雨に振られて、気分が落ち込んでいる時に観るのと、休日の昼頃、ストレス無くのんびりした心持ちで作品に向かうのでは自ずと作品の見え方も違ってきますよね。

これこそが、再訪する大きなメリットでもあるのですよね。「新たな視点」は、観るタイミングを変えることで半自動的に得られるわけです。

2度見たことで、確実に記憶がアップデートされる

そして、2度目に観ることで、単純に忘れにくくなるわけです。大事な作品は、いつまでも忘れないようにしたいですよね。エビングハウスの忘却曲線と戦うには、シンプルに反復演習することが大事なのです。

ちょっとした一手間で再訪問がもっと楽しくなる、5つの工夫とは?

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シンプルに2度同じ展覧会に通うだけでも相当な効果が見込めますが、せっかくお金と時間をかけて2回目を観るのであれば、行く前にもう一手間かけてみませんか。ちょっと一工夫するだけで、再訪したときの鑑賞体験が、さらに意義深く楽しいものになっていきます!

オススメの工夫1:1回目に公式図録を手に入れ、再訪するまで家で眺めておく

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1度目に観た時、混雑してよく図柄が見えなかったとか、疲れていて集中できなかったという場合、ショップで公式図録を手に入れておいて、再訪するまでの間、復習しておくのも非常に効果があります。

復習する、といっても、ベッド脇に置いておき寝る前にチラチラ眺めておくとか、ほんの些細な振り返りでいいんです。これをやっておくだけでも、再訪した時の鑑賞体験が確実に深まります。また、何よりも「2回目にどうしても観たいターゲット」を予め決めておくことができるので、再訪時にメリハリのついた鑑賞ができるようになるんです。

オススメの工夫2:1回目と違うメンバーで違う時間帯に訪問する

「作品の見え方」を変えるため、1回目に行ったときと違うメンバーで行ったり、訪問する時間帯を変えてみるのも非常に有効です。僕は、1度目は一人で、2回目に行く時は子供と行ったり家族で行ったりする事が多いのですが、特に子供の見方は非常に面白い視点を含んでいることが多く、重宝しています。

オススメの工夫3:2度目の鑑賞では、音声ガイドを使わない

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中規模以上の展覧会では必ず置いてある音声ガイドは、作品鑑賞の大きな助けになってくれる大事なツールです。展覧会場に設置されているキャプションや解説をさらに掘り下げて、展示を楽しく観るためのヒントを提示してくれます。

その反面、音声ガイドを聞いている時間は、目の前の作品に100%没入しているわけではないんですよね。ガイドを聞いて得られるのはあくまで作品鑑賞の前提となる「知識」であって、鑑賞体験そのものではないのです。

だから、僕は2度目に行く時は、ガイドをOFFにして眼の前の作品にできるだけ没頭するようにしています。

オススメの工夫4:特にしっかり見たい作品を予め想定して、メリハリを付けた鑑賞を!

最近の大型展覧会はサービス精神満載で、広い展示会場内に、ものすごい数の展示が並ぶときがあります。しかしよほどの天才でない限り、出品された全ての作品を覚えておくことはほぼ不可能。

鑑賞時間は限られています。大切なのは「どの作品を重点的に観て、どの作品を捨てるか」です。そこで、2度目の鑑賞では、行く前に「今日は●●と◯◯を観る!」といったように、特に力を入れて鑑賞するターゲット作品をあらかじめ決めておくと良いでしょう。

「自分の観たい作品をたっぷり時間をかけて2回観る」これが複数回鑑賞のコツだと思います。

オススメの工夫5:展示替えの時期を狙って再訪する

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展覧会によっては、作品保護の観点やリピーター獲得狙いから、展覧会会期中、何度か一部作品の展示替えが行われることがあります。せっかくなので、展示替えの時期を狙って再訪すると良いでしょう。自分の観たい作品をもう一度味わいつつ、新しい作品とも出会えるので、より展覧会を楽しむことができますよね。ただし、自分がもう一度観たい作品が撤去されてしまっていないか要注意です!

まとめ

ここまで見てきたように、読書や勉強などと同じく、展覧会も時間とお金が許す限り、1度ではなく2度、3度と見ていくことで確実に深い鑑賞体験を得ることができます。

観たい作品をピンポイントで観るだけであれば、2回目はそんなに時間もかかりませんし、「なんだか見たけど消化不良だったな」と感じた展覧会があれば、是非もう一度タイミングを変えてチェックしてみてくださいね。必ず何らかの学びや気付きが得られるはずです!

それではまた。
かるび

プロフィール/ブログ「あいむあらいぶ」について

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かるび(@karub_imalive)です。

いつも当ブログ「あいむあらいぶ」をご覧いただき、本当にありがとうございます。こちらのページでは、初めてご訪問頂いた方のために、当ブログ「あいむあらいぶ」と私こと「かるび」の自己紹介をしています。

管理人「かるび」について

ハンドルネームの由来

「かるび」というハンドルネームは、元々ブログを始める前、20代の頃に趣味のヘヴィメタルからインターネットの掲示板等で交流するために使っていたことに由来します。学生時代一人暮らしを始めた頃から20代の間は無類の焼肉好きだったので、焼肉を食べている時にハンドルネームを決めました。

とにかくインターネットが大好き

1995年、大学の情報処理センターでインターネットを知って以来、ずっとネットにどっぷり浸かっています。1999年頃にネット環境とノートPCを手に入れて以来、2ちゃんねるや趣味の掲示板などに入り浸り、テキストサイト全盛期から欠かさずネットと接してきました。

2002年頃から、当時(今も)趣味だったテキストサイト回りをするうち、趣味の掲示板を渡り歩くようになり、オフ会なども積極的に出席して、ネットを介して友人もできたりしました。「自分も情報発信してみたいな」と思いつつも、優柔不断な性格のため、なかなか本腰を入れて自分のサイト運営までには至らず。

ネットでアウトプットを始めるまで

現在のブログ「あいむあらいぶ」を開設する前に、3回ほど無料ブログを散発的に始めたことはありますが、仕事が忙しかったり、テーマが曖昧だったりで全て短期間で挫折。主にここまで「読み手」としてネットに関わってきました。

2012年頃、Facebookに興味を持ち、一時期は友達が1000人、フォロワーが1500人ほどになるほどどっぷり浸かっていましたが、情報発信のやり方やコミュニケーションに違和感を感じて休止。

そして、2015年になり、40歳の誕生日を迎えます。人間誰しも年を重ねて順番に老いていくのはわかっていたことですが、「40」という数字のインパクトに打ちのめされました。40歳という人生の折り返し点まで来たのに、未だに大好きなインターネットで何もできてない。会社生活以外で何もないのに、ただ仕事漬けのまま流されていく日々に危機感を覚えました。(遅いですよね/笑) 

そこで「情報発信する」ことで、何かが変わるかもしれない。Facebookでは上手く行かなかったけれど、ブログなら思ったことを好きなように発信できる可能性があるのでは?と思い直し、勢いでブログを開設しました。以前に無料ブログで何度か失敗しているので、今度こそ、という思いから、思い切って最初から独自ドメイン+有料会員でスタート。そして今に至ります。

思い切って会社を辞めた

ブログを始めてから、自分の中で下した一番大きな決断が、「会社を辞めたこと」。17年間、馬車馬のように働いてきたので、退職後1年間は、専業主夫として充電期間に当てることにしました。当時中小企業とはいえ、そこそこの要職に就いていたことから退職意志を表明してから時間がかかりましたが、2016年6月ようやく退職。以後は読書や映画、美術館通いなど、社会人になってから忙しくてできなかったことを楽しみました。

現在はライター兼ブロガーとして活動中

そして43歳となった現在、趣味として初めた映画・アートを活動の中心として、ブログや他のWeb媒体に寄稿するなど、ライター兼ブロガーとして活動中。未だに年収はサラリーマン時代の8割程度ですが、最低限健康で文化的な生活を家族とともに送ることができています^_^

ブログ「あいむあらいぶ」について

ブログ名の由来について

ブログ名は、中学生の時に初めて好きになったヘヴィ・メタルバンド、HELLOWEENの名作「Keeper of the Seven Keys Part1」のオープニングチューン「I'm Alive」から頂きました。「会社をやめたけど、まだまだここで頑張ってますよ」という意味も込めてつけました。どうですか、いい曲でしょ?(笑) 

ライターとしての活動実績

紙媒体

2018年10月、ライターとして初めて紙媒体のムック本制作に関わらせて頂きました。それが、「フェルメール会議」(双葉社)です。先輩アートブロガーの「青い日記帳」Takさんからお声がけ頂き、お手伝いさせて頂きました。

こちらでは、会議でのインタビュアーを務めるとともに、フェルメールの作品解説の約半数を担当しました。

Web媒体

◯週刊ニッポンの国宝100 Facebook担当
2017年9月~2018年10月にかけて、小学館の「週刊ニッポンの国宝100」SNS担当として、Facebookページにて「国宝応援団K」という名前で寄稿していました。

◯Webメディア「楽活」
こちらでは、ライター兼サイト保守担当として活動中。2018年1月~9月まで、約30記事を寄稿しています。(2018年10月~12月までリニューアル準備中)

◯和樂Webマガジン「INTOJAPAN」
2018年9月より、和樂Webマガジンにおいて、週1ペースで寄稿中。展覧会レビューや、日本美術をテーマにコラムを書かせていただいています。 

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捨て作品なし!フィリップス・コレクション展はお気に入りの作品と出会える贅沢な美術展!【展覧会感想・レビュー】

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かるび@karub_imalive)です。

2018年も秋本番を迎え、各地では美術展が花盛り。僕が主戦場としている首都圏では、今年の秋は上野地区を中心に西洋美術の大型展覧会がどこも大好評。

そんな中、また一つ絶対に見ておきたいハイクオリティな西洋美術展がはじまりました。それが、三菱一号館美術館で開催中の「フィリップス・コレクション展」。1920年代~1930年代を中心に、西洋美術の世界的なコレクターとして名を馳せたダンカン・フィリップスが残した大コレクションの「いちばんおいしいところ」を選んで展示する展覧会です。

少し遅くなりましたが、2回見てきましたので感想レポートにまとめてみました!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。
※エントリ中、全ての作品はフィリップス・コレクションの所蔵作品です。

1.フィリップス・コレクション展とは

展覧会の概要

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本展は、1920年台~40年台を中心に、西洋絵画の世界的な大コレクターとして名を馳せたダンカン・フィリップスの個人コレクションを収蔵・展示する美術館、フィリップス・コレクションの名品約70点を厳選し、展示する展覧会です。

その内訳は、マネ・モネ・ドガ・シスレーといった印象派を中心に、クールベやコローなどのバルビゾン派、ブラックやピカソなどのキュビスムの作家たち、マティスやデュフィ、ボナールなど彼と同世代のフランスの巨匠たち、カンディンスキーやフランツ・マルクなどドイツ表現主義のメンバーなど、近代西洋絵画のほぼ全てのジャンルを網羅する充実ぶり。

パンフレットに謳われている通り、まさに「全員巨匠」なので、最初から最後まで捨て作品一切なしのクオリティの高い展覧会なのです。

稀代の大コレクター、ダンカン・フィリップスとは?

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会場写真より引用

ダンカン・フィリップスは、1886年、鉄鋼業の一大中心地だったピッツバーグの裕福な家に生まれました。学生時代はパリやロンドン、マドリードなどを頻繁に訪れ、ルーヴル美術館をはじめ、画商や画廊を頻繁に訪問していたといいます。

1910年代頃から批評家として美術界で活動するようになり、1920年代からは批評活動に加え、画家のパトロンとなるべくアートコレクターとして活動を開始。コレクターとしての活動当初は、印象派以前の定評ある作品を手堅く購入するスタイルでしたが、年を経るとともに趣味嗜好の幅を広げ、時代を象徴する様々な作家たちのパトロンとなっていきました。

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会場写真より引用

一方、彼は一般大衆への美術の啓蒙活動にも熱心でした。1921年には、自らのコレクション約240点(当時)を公開・披露するためのフィリップス・メモリアル・アート・ギャラリー(現:フィリップス・コレクション)を開設。また、作品を購入するだけでなく、彼のお気に入りの画家たちの個展開催をバックアップしました。

ダンカン・フィリップスは1966年に亡くなりました。彼が最終的に残したコレクションは、そのまま家庭的な雰囲気の中、フィリップス・コレクションで現在も楽しむことができます。

2.注目したいユニークな展示方法

今回のフィリップス・コレクション展の展示の特徴は、ジャンル別や時代別、様式別に分類整理されているのではなく、ダンカン・フィリップスが収集した順番に作品が並べられているのです。

▼解説パネル上で目立つよう強調された収集順f:id:hisatsugu79:20181110170606j:plain

 

このように丹念に展示を見ていくと、ダンカン・フィリップスがどのような思いで作品を収集し、彼の嗜好がどのように変わっていったのか見えてくるのですよね。

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アルフレッド・シスレー《ルーヴシエンヌの雪》1874年

展示の最初の方はモネやシスレーなど、比較的わかりやすい作品が並びますが、最後の部屋はジャコメッティやピカソなど、現代アートに片足をつっこんだような作品が並ぶなど、ダンカン・フィリップスの嗜好の変化がしっかり感じられるのです。

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必見!「ダンカン・フィリップスの言葉」

また、当初どのように各作品がダンカン・フィリップスのギャラリーで展示されていたのか、当時の展示風景写真と比較しながら展示を楽しむことができるのも、面白い工夫です。

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さらに、「ダンカン・フィリップスの言葉」と書かれた短評も是非読み込んでみてください。ダンカン・フィリップスは稀代の大コレクターでしたが、同時にバリバリの批評家でもありました。単なる人のいいタニマチ的な存在ではないんです!購入した作品と徹底的に向き合い、味わい尽くしてきたプロコレクターが紡ぎ出した言葉には重みが感じられるはず!

3.お気に入りの1枚を見つけよう!

全員巨匠。クオリティは保証付き

今回並んでいる約70作品は、当時屈指の目利きでもあったダンカン・フィリップスが厳選し、日々の生活の中で愛でていたものばかり。いわば、クオリティは保証されているのです。どれもしっかりした作品ばかり・・・ということなら、自分の好きな作家や作品を発掘してみるのもいいかもしれませんね。

実際、僕自身も1回目に行った時は見るだけで精一杯だったのですが、3週間後、2回目に再訪した時は、「これはいいかも」と思えた、興味の持てた作家や作品がいくつか出てきました!

僕の発掘した名作

やっぱり実物を目の当たりにすると、2次元の画像とは全く印象が変わる作品って多いですよね。ここでは、2回の鑑賞を通して僕がいいなと思った作品をいくつか紹介してみたいと思います。

スーティン《嵐の後の下校》

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シャイム・スーティン《嵐の後の下校》1939年頃

スーティンといえば、藤田嗣治やモディリアーニのようにエコール・ド・パリの人かな・・・っていう知識くらいしかなくてほとんどノーマークだったのですが、今回出展されている2作品ともに、異常なほどの迫力を感じ、強く印象に残りました。

特に《嵐の後の下校》は、絵に近づくと何を描いているのかわからないのに、少し後ろに下がって見てみると、タイトルにある情景が見えてくるという不思議な面白さ。

かなり荒っぽいタッチで描かれているため、絵に近づいていくとそれぞれのオブジェクトはもはや色の塊にしか見えないんです。でも少し引いてみると、確かにそこには《嵐の後の下校》風景が出現!嵐が過ぎ去ってまだ風が収まりきっていないような雲の流れや、ざわめく森、そしてそこから画面手前に駆け抜けてくる二人の子どもたちの疾走感などがまるでマジックのように立ち現れました。

この恐るべき才能に、思わず圧倒されました。自宅で定期的に公式図録を眺めては、この独特のイリュージョンのような筆使いに見とれています。

フランツ・マルク《森の中の鹿 Ⅰ》

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フランツ・マルク《森の中の鹿 Ⅰ》1913年

ドイツ表現主義の画家で、1911年に結成された絵画グループ「青騎士」の中心メンバーとして活躍したフランツ・マルク。でもブリュッケや青騎士といったドイツ表現主義の作家たちの作品って、カンディンスキー以外はほとんど日本の展覧会で見ないような気がします。

今回、マルクの作品を初めてしっかり見たのですが、ひと目見て動物たちのかわいさに一目惚れしました!子供の絵本の挿絵のような柔らかさと、そして、画面を覆い尽くす赤・青・黄色・緑・紫といった神秘的な美しさ。これ以外にも、もっとマルクの作品を生で見てみたいなぁと強く思いました。この人の作品が退廃芸術としてやり玉に上がってしまうとは、ナチスもまるで見る目がないですね!

カンペンドンク《村の大通り》

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ハインリヒ・カンペンドンク《村の大通り》1919年頃

青騎士からもうひとり。公式ブログでも「埋もれてしまった巨匠」として紹介されていますが、この人の作品もマルク同様味わい深くて素敵です。マルクの鹿に対して、こちらは牛。おとぎ話の中に出てくる風景のような、牧歌的・幻想的な色使いはやっぱり絵本の挿絵を見ているよう。癒やされます。もうマルクとカンペンドンクは自分の中でしばらく最重要作家として追いかけることが決定しました!

アドルフ・モンティセリ《花束》

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アドルフ・モンティセリ《花束》1875年頃

以前別の美術館でも何点か見た時に非常に印象に残っていた作家。印象派よりも少し前に活躍した画家なのですが、約30年先に流行するフォーヴィスムを先取りしたかのような派手な色彩、キャンバスにべちゃーっと力強く盛り付けられた大盛の絵の具がクセになります。静物画なのに、野性味120%の圧倒的なパワーに引き込まれました。こちらもカンペンドンク同様、19世紀の隠れた巨匠なのでしょうね。

ゴッホ《アルルの公園の入り口》

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ヴィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの公園の入り口》1888年

有名なゴーギャンとの共同生活を迎える直前、アルルの地に画家たちの理想郷を建設しようとゴッホが夢に燃えていた時期に描かれた作品。アルルの公園の入り口のちょうど内側に描かれた、こちらを向いている男性がゴッホ自身であると言われていますが、「さあ僕の理想郷においでよ」とゴッホが出迎えてくれているようで、非常に感慨深い1枚でした。

ドガ《稽古する踊り子》

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エドガー・ドガ《稽古する踊り子》1880年代初め~1900年頃

くすんだオレンジ色の壁に水色の稽古着の色の派手な組み合わせは印象派というよりフォーヴィスムの作家を連想させました。しかも、部分的に黒の輪郭線で線描ぽい表現も、初期作品とはテイストの違いがハッキリ感じられ、思わず見入ってしまいました。 

4.展示の人気ランキングは?

本展では、ほぼ全ての展示作品に対してポストカードが用意されています。三菱一号館美術館でブロガー内覧会のホストを務められたアートブロガー・Takさんが「いまトピ」でポストカードの売上人気ベスト10を発表してくれています。このポストカードの売上ランキングを見ることで、展示作品の人気がわかりますよね。

それぞれの作品詳細については、Takさんの上記エントリをじっくり読んでいただくとして、10月31日までの売上実績で集計したベスト10はこちらとなっています!(上記エントリより引用)

★ベスト10
1位:モネ《ヴェトゥイユへの道》

2位:ゴッホ《アルルの公園の入り口》
3位:ドガ《リハーサル室での踊りの稽古》
4位:デュフィ《画家のアトリエ》
5位:ドガ《稽古する踊り子》
6位:カンディンスキー《連続》
7位:ルソー《ノートル・ダム》
8位:シスレー《ルーヴシエンヌの雪》
9位:クレー《養樹園》
10位:カンペンドンク《村の大通り》

どうですか?1位から3位は納得の印象派勢。でも4位のデュフィとか、10位のカンペンドンクとか、上位に意外な作品が来ているような気もしますよね。

今後定期的に集計を行い、中間発表、最終発表など定期的に人気ランキングが発表されるようなので、いまトピをチェックしておきましょう!

5.見どころ満載のグッズコーナー!

三菱一号館美術館のグッズコーナー「STORE1894」で今回の展覧会のグッズ制作を請け負うのは圧倒的なクオリティの高さがアートファンから絶賛されているEast社。今回も非常に楽しみにしていましたが、数々のサプライズ演出で楽しませてくれています。いくつか、個人的に良かったなと思ったグッズを順番に紹介してみたいと思います。

図版のクオリティが高い公式図録

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今回は迷ったら公式図録は「買い」でいいと思います。なぜなら、図版のクオリティが非常に高いからです。

先日ツイートしたとおり、僕も図録入手しましたが、何度か時間のある時にパラパラ眺めて楽しんでます!

全64種類!驚異的な品揃えのポストカード

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全64種類のポストカード。圧倒されるディスプレイ

上述したとおり、展示されている作品の大半となる全64種類がポストカード化されました。まさにファン心理を突いたやりすぎ好企画であります。

さらに、11月からは全64種類をまとめたお買い得なコンプリートセットが5,000円で発売されていますね。これもいい企画だ!

また、ポストカードよりももう少し大きなサイズが欲しい!という人のためにA4サイズのミニプリントも用意されています。本当にかゆいところに手が届きますよね。

▼全6種類用意されたミニプリントf:id:hisatsugu79:20181111015728j:plain

精巧な出来栄え!ミニチュア・アートが面白い

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そして、今回のグッズコーナーで一番目を引いたのが、10種類用意された「ミニチュア・アート」。原寸大の1/12のサイズで、額縁も含めて精巧に製作されたミニチュア絵画です。

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いかがでしょうか?少し解像度を落としたスマホ上で見た画像だと、本物と違いがほとんどわからないほどの細密な出来栄えですね。

今回、このミニチュア絵画を展示するため、フィリップス・コレクションの当時のギャラリーの一部屋を再現した特別ジオラマまで制作されていました。

▼フィリップス・コレクションのギャラリー内を再現f:id:hisatsugu79:20181110164426j:plain

再現された部屋の中に架けられているのが、ミニチュアアートなのですが・・・

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こうやって写真で見てみると、部屋の調度品や室内の塗装なども含め、本物そっくりですよね。残念ながらこのジオラマは非売品のようですが、1/12のスケールで精巧に制作されたミニチュアアートの出来の良さがしっかり体感できますよ。

クリアファイル

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最近どの展覧会でも、展示作品が小さく多数プリントされたデザインのダブルクリアファイルが良く売れているようですが、本展で用意されたのもこのタイプ。ほぼすべての作品が網羅されている、非常にお得感のあるクリアファイルでした。

オリジナルTシャツ

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Tシャツ

各種展覧会では定番グッズでもある展覧会限定Tシャツ。本展では、Tシャツのデザインも少し変わっていました。なにやら胸元には沢山の文字が書かれていますが、、、、

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これをよーく見てみると、本展に展示されている巨匠たちの名前と、生没年が【生まれた順番で】上から書かれているんですよね。

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実際に店員さんが着ていたので写真を撮らせていただいたのですが、結構渋い感じ。普段着として使っても違和感なく着れそうですね。 

5.混雑状況と所要時間目安

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気になる混雑状況ですが、現状のところはそこまで混雑していません。ただし、三菱一号館美術館は、展覧会終盤になると、一気に大混雑することがよくあります。(前回のショーメ展は大変でしたよね・・・)上野のブロックバスター展覧会の賑わいが一段落したら混雑が始まりそう。是非、早めにおでかけください!

所要時間は、60分~90分程度あれば大丈夫そうです。ですが、本展ではかなり1つ1つの絵を丹念に見ている人が多い印象でした。じっくり鑑賞したい!という人は少し多めに2時間ほど見積もっておくといいかもしれませんね。

6.まとめ・感想

生涯にわたって、近代西洋絵画の巨匠たちの名品を収集し続けたダンカン・フィリップス。4000点以上もの大コレクションの中から、特に人気・クオリティとも高い主力作品ばかり75点が惜しげもなく選ばれ、展示した贅沢な展覧会です。

元々入り組んだ三菱一号館美術館で、一見ランダムに並んでいる絵画作品を見て歩くのは、ちょっとした宝探し気分も味わえました。是非お気に入りの作家や作品を見つけてみてくださいね。

それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

全員巨匠!フィリップス・コレクション展
◯美術館・所在地
三菱一号館美術館
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
◯アクセス
● JR「東京」駅(丸の内南口)徒歩5分
● JR「有楽町」駅(国際フォーラム口)徒歩6分
● 都営三田線「日比谷」駅(B7出口)徒歩3分
● 東京メトロ千代田線「二重橋前」駅(1番出口)徒歩3分
● 東京メトロ有楽町線「有楽町」駅(D3/D5出口)徒歩6分
● 東京メトロ丸ノ内線「東京」駅(地下道直結)徒歩6分
◯会期・開館時間
2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)
10:00〜18:00
※入館は閉館の30分前まで
※祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで
◯休館日
毎週月曜日
※祝日・振替休日の場合は開館
※会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館
※年末年始(12/31、1/1)
◯観覧料金(当日)
一般1700円、大高生1000円、小中学生500円
アフター5女子割:第2水曜日17時以降/当日券一般(女性のみ)1000円
◯関連Webサイト
・三菱一号館美術館
https://mimt.jp/pc/
・三菱一号館美術館公式Twitter
https://twitter.com/ichigokan_PR

古代中国の超絶技巧!「神々のやどる器展」の凄すぎる造形美!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

日本がまだ縄文時代で、狩猟・採集生活に明け暮れていた時、大陸の中国では、すでに殷・周といった広大な国土を治める統一王朝が成立し、高度な青銅器文明が栄えていたことって知ってます?

学生時代、世界史が苦手だった僕は、恥ずかしながら40歳になって根津美術館で中国古代の青銅器コレクションを見るまでそのことを全く知りませんでした。

だって信じられます?古代ローマやギリシャなんかよりもはるか昔、3000年以上も前に、精巧な文様を刻みつけられた複雑な形をした青銅器を日常的に使っていた文明があったんですよ?

今回の「神々のやどる器」展は、泉屋博古館が所蔵する国内屈指の青銅器コレクションが集結した凄い展覧会です。数ヶ月前、チラシをひと目見てから「これは絶対行く!絶対レビューを書く!」と一人テンションを高めて待ち焦がれていた展示。早速、見てきた感想・レビューをまとめてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.神々のやどる器展とは

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本展では、泉屋博古館と、同館が提携する黒川古文化研究所の保有する、古代中国の青銅器や青銅鏡のコレクション約100点が一同に会した展覧会です。なかなかこれだけの数の青銅器や青銅鏡がこれだけ1箇所に集められて鑑賞できる展覧会はそうそうありません! 

3000年以上前に栄えた古代中国文明が生み出した 青銅器文化。複雑で精巧に織り込まれた文様、かたどられた獣や人物たちの高度に抽象化された造形など、神秘的だけど斬新な青銅器のデザインを見ていると、まさに「神々のやどる器」という展覧会名がぴったりだと感じます。

2.展覧会での5つの見どころ・注目ポイント

注目ポイント1:古代中国の超絶技巧!「青銅器」「青銅鏡」

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目玉作品《虎卣》を興味深くチェックする観覧客

まず、一つ一つ青銅器や青銅鏡を見ていくとすぐ気付かされるのが、どれもハンパなく丁寧な手仕事によって精巧に仕上げられているということ。特に、青銅器については、器の外側部分は左右対称で360度ぎっしりと文様とデザインの組み合わせで埋め尽くされています。

その古代中国の「超絶技巧」ぶりが体感できる、本展で一番の目玉作品がこちらの作品《虎卣》(こゆう)。デザインの複雑さ、奇抜さは本展随一です。

口を大きく開けた虎に、なぜか人間がしがみついている不思議な構図。頭には鹿やバクが乗り、側面には虎や蛇の複雑な文様が表されるなど、超ゴージャスな仕上がりです。当時の職人がこれ一つ制作するのにどれだけの時間がかかっているのか、考えただけでも途方もないですよね・・・。

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虎卣(こゆう) 商後期 紀元前11世紀

筒状のガラスケースに展示され、360度あらゆる角度から楽しめる本作ですが、解説パネルもまた4方向から徹底的に見どころをがっつり解説してくれています!解説と本体を見比べながら、思う存分ゆっくり鑑賞してみてくださいね。

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注目ポイント2:青銅器の文様を楽しむ!

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井季卣(せいきゆう) 西周中期 紀元前10世紀 部分図

本展で展示されている青銅器はどれも器の外側表面に、びっしりと文様が施されているのがわかると思います。一見、ランダムに描かれているように見えるのですが、よーく目を凝らしてみてみると、いくつかパターン化した図像の組み合わせで表現されていることに気付かされます。

青銅器が盛んに制作されたのは、紀元前15世紀頃から紀元前3世紀頃まで1000年以上の長期間にわたります。その間デザインの流行や変遷はあったものの、基本的には下記の3つの文様の組み合わせをベースとしてデザインが組み立てられています。

◯饕餮(とうてつ)文様

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偁缶簋(しょうふき) 西周前期 紀元前10世紀 部分図

古代中国では、饕餮(とうてつ)は邪悪な悪霊を喰らい尽くす神獣として「魔除け」のために器の中央部分に、大きな怪獣の顔面のように刻まれました。全部細い線で表現されていたり、浮き彫りで表現されたりといろんなバリエーションがありますが、鼻筋の縦線を中心に、線対称に「目」や「鼻」「口」「耳」「角」などが大きく刻まれているので、比較的見つけやすいです。

◯龍型文様

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直文方座簋(ちょくもんほうざき)
西周中期 紀元前10世紀 部分図 

中国の伝統的文様の一つ「龍」も青銅器のレリーフとして登場。3000年前からずっと使われてきていたんですね。饕餮文同様、夔龍(きりゅう)文、夔鳳(きほう)文、蟠螭(ばんち)文と、時代毎に様々なバリエーションがありますが、こちらは饕餮文よりもちょっと見つけにくいかも。目を凝らしてじーっと見てないとなかなか浮かび上がってきませんが、宝探しのような感覚で是非頑張って見つけてみてください!

◯鳥型文様

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井季卣(せいきゆう) 西周中期 紀元前10世紀 部分図

龍型文様同様、鳥型の文様も多数描かれています。小鳥が横を向いた文様から、羽をいっぱいに広げた鳳凰や孔雀のような大型の文様まで様々なバリエーションがありますが、上記写真のような派手な孔雀文は美しいですよね。生物の系統樹的に龍も鳥も非常に近いこともあって、文様として抽象化されると素人目にはどっちがどっちかわからないものもありました。

本展では、展示されているそれぞれの青銅器について、特にこの3つの文様にフォーカスして、どの文様がどの場所に配置されているのか、丁寧に1つずつハイライトして解説パネルで図示してくれています。これはわかりやすくていいですよね!

▼わかりやすく図示された文様
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また、細かく描かれた文様をしっかり細部まで見たい!という人のために、嬉しいサービスが。展覧会中、先着20台でVixenの美術館専用単眼鏡貸し出しサービスをやってくれてます!

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受付で「貸してください」とお願いすると、音声ガイドのような感じで、落とさないよう首から下げる形で貸してくれます。

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落とさないよう、首から下げて使います

これ、メガネの上からでもちゃんと見れるように工夫されているので、ストレス無く楽しむことができました。

ちなみに、このVixen単眼鏡(4×12)はAmazonでもかなりの高評価。★4.5個はダテではありませんね。もしレンタルで借りるのがちょっと・・・という方は、これを機に購入してもいいかもしれませんね。(一応リンク貼っときます)

注目ポイント3:意外にかわいい青銅器

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鴟鴞尊(しきょうそん)商後期・紀元前12世紀

見ていくと気づくのですが、ミミズクや虎など、動物をかたどった青銅器の中には妙にかわいい形をしたものが少なくありません。展示品の中からいくつかピックアップして再構成すれば「かわいい青銅器」展・・・みたいな切り口でも開催できそうです!

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虎鴞兕觥(こきょうじこう)商後期 紀元前12世紀

これ、凄いデザインですよね。前が虎、後ろがミミズクを組み合わせた、ちょっと他にはあんまり見たことのないユニークなデザインの兕觥(じこう)=酒器です。出土例が少ない貴重なアイテムなのだそうです。 

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鴟鴞卣(しきょうゆう) 商後期 紀元前12世紀

こちらは、ミミズクを2体前と後ろに合体させた卣 (ゆう/釣手がついた酒器)。ずいぶん寸胴でとぼけた感じの表情が妙にかわいいですよね。三葉虫の化石を思わせるような羽の部分の渦巻き型デザインや、脚部までしっかり作り込まれた丁寧な手仕事が素晴らしいです。これは当時でも高級品だっただろうな~。

注目ポイント4:触って叩ける「体験型」展示が充実

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展覧会で面白かったのが、精巧に再現されたレプリカを実際に触ってみたり、叩いてみたりできる「体験型展示」です。

触るとわかりますが、鋳造された青銅器は意外に肉薄で、持ち運びを考えて軽量化されている感じなんですよね。実際に展示品の中には、厚さ数ミリクラスの激薄青銅器が展示されていますし。また、年月を経て錆びちゃって緑青が表面に浮いている本物と違い、元々は10円玉みたいな色合いだったことがわかります。

ちなみに、西周時代~戦国時代にかけて大量に制作された「鐘」のレプリカは、叩いて楽しむことができます。

これ、実は何度か撮り直ししてるんですが、ちゃんとスイートスポットを叩かないといい音が出ないんですよね(笑)そういうところも含め、本当によくできているなぁ~と。いろんな場所を叩き比べて、音色の違いを確かめるのも面白いですよ。

また、館外には目玉展示の《虎卣》をかたどった記念撮影立体パネルも用意されていました。虎に抱きつく人間像になりきることができます(笑)

記念撮影コーナー。思い出づくりに是非!f:id:hisatsugu79:20181120171747j:plain

注目ポイント5:青銅鏡コレクションも見どころ満載

また、第二室では青銅鏡コレクションが充実。戦国時代から前漢・後漢時代を経て、唐代まで、龍、鳳凰、四神などが描かれたゴージャスなアイテムが沢山並んでいます。

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神人竜虎画像鏡 後漢中期1~2世紀 

こちらも、主要な作品には解説パネルつき。鏡に描かれた図像について詳しく知ることができるのはありがたかったです。

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「四神」はキトラ古墳・高松塚古墳の古墳壁画で現れたり、西王母や東王父などの神仙たちなどは水墨画や江戸絵画などでも頻繁にモチーフとして使われました。 漢代に現れた中国でのこうした図像が、その後日本に伝わり、脈々と美術作品の中で受け継がれてきたのは感慨深いものがあります。

3.混雑状況と所要時間目安

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過去に開催された展覧会の傾向から見て、展示を見るのがしんどくなるほど混雑することはまずないと思われます。ただ、所要時間は結構見ておいたほうがいいかも。ハマる人は徹底的にハマりそうな超絶技巧作品がズラッと並んでいるので、一つ一つ丁寧に見て回りたい方は、90分~120分程度は見ておいたほうが良いかと思います。 

4.まとめと感想

1回目は内覧会でじっくり最後の一人になるまで粘って見せて頂いたのですが、それぞれの展示物のクオリティが素晴らしく、じっくり鑑賞するには全然時間が足りず。近日中にもう一度再訪するつもりです。

いつも古代中国の青銅器や青銅鏡、唐三彩などを目の当たりにすると、古代中国の圧倒的な文明の力に畏敬の念を覚えるのですが、今回も「神々のやどる器」たちに圧倒されっぱなしでした。3000年前の職人たちが精魂込めて制作した名器の数々、堪能させて頂きました!本当に素晴らしい展覧会なのでおすすめです!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会「神々のやどる器」詳細
◯美術館・所在地
泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
◯最寄り駅
・東京メトロ南北線線六本木一丁目駅北改札口より
 屋外エスカレーターで徒歩3分

・東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口から徒歩10分
・東京メトロ銀座線溜池山王駅13番出口から徒歩10分
◯会期・開館時間
2018年11月17日(土)~12月24日(月・祝)
10時00分~17時00分(入場は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日(※12/24は開館)
◯入館料
一般800円/大学生・高校生600円/中学生以下無料
◯公式HP
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/

◯Twitter
https://twitter.com/SenOkuTokyo

巨匠たちの入魂作品が続々!特別展「皇室ゆかりの美術」【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

平成最後の年となった2018年、来年の新天皇即位、改元を睨んで皇室関連のニュースが取り沙汰されることも多くなってきましたよね。30年続いた「平成」が終わろうとする中、一つの時代の歴史の区切りを感じさせるような象徴的な出来事や事件も多く報道されています。

そんな中、山種美術館ではタイムリーな展覧会として、特別展「皇室ゆかりの美術」が始まりました。山種美術館が所蔵する豊富なコレクションをベースとして、外部の美術館や個人から作品を集めて企画された、非常に力の入った展覧会でした。

早速ですが、館内の展示の様子や感想レポートを書いてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.「皇室」関連の展示はなぜ「ハズレ無し」といえるのか?

江戸時代末期まで、朝廷や江戸幕府周辺では、狩野派や土佐派といった御用絵師集団が専属の絵師として仕えてきましたが、明治維新とともに古いものはバッサリ切られ、御用絵師たちはお役御免に。代わって、皇室関連の美術品制作にあたったのは、宮内省から任命された「帝室技芸員」を中心とした、絵画・工芸で当時一流の実績を残していた芸術家たちでした。

今も昔も「皇室」関連の仕事ができるのは、超一流の証であります。一生に1回しかないような名誉な仕事ですので、普段は余裕しゃくしゃくでふんぞりかえっているような大御所でも(?)皇室からのオーダーには、目の色を変えて取り組んだのです。

時代を代表する巨匠たちが、持てる力を120%注ぎ込んで、精魂込めて制作した作品が、ダメなわけがありません。必然的に傑作揃いとなるわけです。

たとえば、三の丸尚蔵館という、かつて皇室の御物だった美術品を管理・研究する皇居内の美術館をご存知でしょうか?そこに収められた所蔵品を見ればわかります。

たとえば現在「明治美術の一断面-研ぎ澄まされた技と美」という、明治時代の巨匠たちが皇室に収めた絵画・工芸を展示する企画展が開催されているのですが、展示品のクオリティが凄すぎてビビリます。僕もこれを見て「そうか、皇室関連の企画展は必然的に良いものにならざるを得ないのだな」と腑に落ちました。

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展覧会名を見ただけでわかる展覧会のクオリティ

そして今回開催されている山種美術館の特別展「皇室ゆかりの美術」。同館が開催する展覧会の中でもグレードの一番高い【特別展】と銘打たれている上、展覧会名に【皇室】と入っているではありませんか。これはもうタイトルを見ただけで、優良展確定です。行くしかありません。日本美術ファンならマストなのであります。

2.見どころ多数!展示された作品・作家は100%皇室関連!

本展で展示されている作品は、100%全て「皇室」と何らかの関係がある作品ばかり。天皇の直筆宸翰(しんかん)をはじめ、皇室がかつて所蔵していた作品や皇室から下賜された作品、戦前の帝室技芸員の作品など、様々なかたちで皇室とゆかりのある作品・作家が揃っているのです。見どころを紹介してみますね。

独特のクセ字?皇族の直筆書跡

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左:有栖川宮熾仁親王《和歌懐紙》國學院大學蔵
右:有栖川宮熾仁親王《和歌懐紙》國學院大學蔵

密教系のお寺や、戦国武将などを取り上げた大型の展覧会に行くと、国宝や重要文化財に指定されている天皇直筆の書跡を比較的よく見かけますが、本展でも天皇や宮家の名筆を楽しむことができます。

ところで、皇室の人たちの書くくずし字ってかなりクセがありますよね。たとえばこの有栖川宮家に伝わる書道は「有栖川流」と言われ、皇族独特の流儀・美意識に則って伝わってきたものなのだそうです。最近くずし字の読み方も少しずつ入門書などを眺めるようにしているので、江戸後期~明治期の浮世絵や絵本など比較的易しいものはちょっとずつ読めるようになってきたのですが、この有栖川宮熾仁親王の作品は・・・。

学芸員の高橋さんから頂いた鑑賞法のアドバイスは、「くずし字を読み下すのが難しくても、書の持つリズムや筆の勢いなどを絵画と同じように味わってみてください。一見、勢いに任せて書いているように見えますが、配置や字のつなげ方、崩し方、筆勢など全て計算されています」とのことでした。確かに有栖川宮熾仁親王の書は、Webで検索するとたくさん出てきますが、どれも強烈な個性がありますよね。

名作揃い!宮殿を飾った作品の下絵や皇室旧蔵作品

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左:小堀鞆音《秋色鵜飼》東京国立博物館蔵
右:小堀鞆音《春色鷹狩》東京国立博物館蔵

東京国立博物館が所蔵する、青山御所御寝殿(戦災で消失)の襖絵の下絵とされる作品群の中から、非常に見応えがあったのが小堀鞆音(こぼりともと)の優雅な作品。

小堀鞆音は伝統的なやまと絵の伝統を引き継ぎ、歴史画を得意とした巨匠。知名度を失ってしまった現在では、日本画の展覧会で脇役的な存在としてたまにしか見かけないですが、格調が高く、かっこよく人物が描かれた歴史画はいつ見ても心惹かれます。はやく再ブレイクしないかなぁ・・・。

続いて明治期に活躍したの女性南画家、野口小蘋(のぐちしょうひん)の美しい屏風絵。

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野口小蘋《箱根真景図》山種美術館蔵

こちらも残念ながら今となっては完全に埋もれてしまった作家です。Googleで名前を検索するとヒット数わずか98件。寂しすぎる・・・。

キャリア中期から、叙情的で優しい風景美を描くようになりましたが、本作は金地でゴージャスなのに決してごてごてしておらず、元箱根(箱根駅伝のゴール地点近辺)付近から見える景色や地形を忠実に再現している晩年の傑作です。

そして、本展では、山種美術館では珍しく工芸作品も多数出品されています。なかでも一番目を引いたのが、天皇家のお祝い行事などで、中に砂糖菓子を詰めて行事出席者などに引出物として配布されるという小さな銀食器「ボンボニエール」。

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見応えたっぷりのボンボニエール

皇室の「菊」の御紋が入った数センチ程度の器は、どれも和のテイストが凝縮された伝統工芸そのものでした。

Wikipediaで調べてみると、欧米発祥のものとは全く違います。日本で独自進化を遂げ、完全にガラパゴス化しています(笑)しかしこうして歴代の皇室版ボンボニエールを並べてみてみると、今や完全に細密工芸の一部門として「鑑賞」されるべき美術品になったのですね。

実際、昨年三の丸尚蔵館でもこのボンボニエールだけを特集した企画展「皇室とボンボニエール-その歴史をたどる」が開催されたり、ボンボニエールを研究した美術書が発売されるなど、工芸ファンや熱心な皇室マニアの間で注目されているようですね。

他にも、帝室技芸員「工芸」部門で任命された平櫛田中の木彫作品や香川勝廣の金工作品など、いわゆる「超絶技巧」的な作品も見応え抜群でした。

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左:平櫛田中《雲林先生》山種美術館蔵
右:香川勝廣《菊に蝶図花瓶》清水三年坂美術館蔵

皇室に収められた・・・ものと同じ作品

さて、山種美術館には同館ならではのユニークな「皇室」関連作品があります。戦後、東山魁夷や安田靫彦、杉山寧ら、山崎種二と懇意にしていた大作家たちは、次々と皇室からの重要な仕事を仰せつかります。

しかし、そんな彼らの渾身の力作も、一旦皇室に納入されてしまえば、大衆の手がどとかない所へと行ってしまい、作品が一般公開されることはありません。皇居新宮殿でそれぞれの作品を見て感銘を受け、彼らの芸術を幅広く一般大衆にもお披露目したいと考えた山崎種二が、彼らに依頼したのが、

「皇室に収めたものと同じ構図やテーマでうちのためにも描いてくれ」

という(割と無茶振りに近い)オーダー。ふつう、「同じものをまた作れ」って言われたら、普通の作家ならあまり気乗りがしないところ。しかしそこはパトロン歴が長く、作家をその気にさせるのが抜群に巧い山崎種二の「描かせ力」が炸裂!一度断られても根気よく頼み込み、最終的に作家に作品を作らせてしまうのが凄い!

スケール感こそ少しずつダウンサイズしているものの、皇室と同様のコンセプトの作品を、美術ファンが作品を観に来ることができる山種美術館のために描いてもらうことに成功したのです。

その代表的な作品が、東山魁夷《満ち来る潮》です。

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東山魁夷《満ち来る潮》山種美術館蔵

展示室奥の壁一面を埋め尽くした、山種美術館が所蔵する作品群の中でも屈指の大きさを誇る作品。開館前に公式Twitterで搬入中の風景がアップされていましたが、展示するだけでも本当に大変そう。 

この作品を描くに先立って、東山魁夷が描いたのがこちら。皇居新宮殿の壁画《朝明けの潮》です。

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ちゃんと元ネタも写真で紹介されているのが、非常にかゆいところに手が届く丁寧な山種美術館の詳細解説。皇室に収められた元ネタと見比べながら鑑賞してみて下さいね。

この山種美術館バージョンの最大の見どころは、野毛・金砂子・プラチナ箔などで彩られたゴージャスな雰囲気。幽玄で落ち着いた雰囲気をたたえたオリジナルに比べると、波濤の激しさ、海の色の濃さなど、数ある魁夷作品の中でも屈指の派手さ・華やかさが感じられる作品です。

しかしこの《満ち来る潮》、なんとなく既視感ないですか?熱心な日本美術ファンの中には、あれっこれ、どこかで見たような・・・と思った方も多かったかも。実はこれ、皇室のために描いた後、唐招提寺障壁画でも似たような海辺の場面を描いているのですよね。そして折しもちょうど京都・東京を巡回中の「生誕110周年 東山魁夷展」のメイン展示として展示されているので、山種版、唐招提寺版を見比べる絶好の機会かもしれません。 

その他、「山種美術館」のロゴの文字を手がけている安田靫彦の書跡が楽しめる作品 《万葉和歌》も面白い!こちらも、元ネタとなっている作品《万葉集歌額》は皇居新宮殿・千草の間にあって、種二の「同じものを描いてくれ」というオーダーに安田靫彦が応えたことで山種美術館に収蔵された作品。

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安田靫彦《万葉和歌》山種美術館蔵

書聖・王羲之をはじめ、7~8世紀頃に活躍した唐の書の達人たちの書跡を研究した安田靫彦が綴った独特の書体は、確かに万葉っぽさが。台紙として選ばれた色和紙もなんとなく素朴な感じがまた奈良時代っぽくて味があってよいのです。

最後に上村松園の息子、上村松篁が手がけた、十二ヶ月一組の扇絵が描かれたゴージャスな屏風絵。 

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上村松篁《日本の花・日本の鳥》山種美術館蔵

美人画の名手だった母親とは違い、花鳥画を得意とした上村松篁。2度目の鑑賞で息子を連れて行った時、屏風の前で「この人、鳥描くの下手くそじゃない?!」と息子が言い放ったので焦りました^_^;見てみると、確かに上村松篁の美意識が反映され大胆にデフォルメされた鳥が描かれています。「しっ、静かにしなさい!」と言って絵の前をささっと離れましたが、この作品に描かれた個性的なフォルムの「鳥」こそが上村松篁っぽさを端的に表していたかも。

ちなみにこちらは、描かれた鳥の向きがちょっと違う程度で、皇室に収められた作品とほとんど変わらないほぼ同じ作品なのだとか。皇族のみなさんは今でも毎日上村松篁の鳥を愛でているのでしょうか。

帝室技芸員の力作

展示後半では、明治時代から大正・昭和にかけて宮内省から任命された帝室技芸員を大特集。山種美術館が所蔵している彼ら帝室技芸員の作品を1点ずつ紹介してくれています。いくつか順番に紹介しますね。

まずは今でも国民的な知名度を誇る上村松園。

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上村松園《牡丹雪》山種美術館蔵

これは毎年のように所蔵品展でも紹介されているので、熱心な山種美術館ファンの方なら、何度か見ているかもしれません。雪がしんしんと降る中、やや縮こまりながら家路を急ぐ着物美人、風情があっていいですね。

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横山大観《富士山》山種美術館蔵

続いては横山大観。前回展「日本画の挑戦者たち」でも富士山を描いた小品が出ていましたが、今回展ではもう少し大きめの富士山が。画面右上に少しだけ顔を出している夕日がおめでたさを醸し出していますね。 

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橋本雅邦《松林山水》山種美術館蔵

幕末狩野派の末裔から明治日本画界の大御所へ上り詰めた橋本雅邦もちゃんとあります。金泥を薄く伸ばして表現された、夕日を受けてオレンジ色に染まる空間のグラデーションが美しい佳作。

それ以外にも、前田青邨・小林古径・安田靫彦ら日本美術院のエース格から、柴田是真・並河靖之・涛川惣助ら明治工芸の超絶技巧職人まで各方面の巨匠たちの作品が並んでいます。

3.マイナーな帝室技芸員に注目してみた

さて、こうやって帝室技芸員の作品をざーっと見てみると、2018年現在でも、美術に興味がない人でも名前が知られている巨匠や、アートファンに名の通った巨匠だけでなく、コアな日本美術ファン以外は「誰それ?」っていうレベルまでに忘れられてしまった巨匠たちも沢山います。

でも、こうやって作品を見渡してみるとみんな実力は折り紙付き。ただ、色々な事情が重なって少しずつ忘れられていっただけなんですよね。山種美術館では、毎回企画展・特別展を問わずこういった「忘れられたマイナーな巨匠」にもしっかり光を当てて展示してくれています。今回展示されていたマイナー帝室技芸員の作品の中から、特に僕が気に入った作品を紹介しておきますね。

荒木寛畝《雉竹長春》

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荒木寛畝《雉竹長春》山種美術館蔵

明治時代、岡倉天心~横山大観のグループ(新派)と対立して激しく勢力争いを繰り広げた旧派の主要メンバーだった荒木寛畝。「旧派」って言われるとなんだか悪役みたいでダメそうなイメージがありますが、全くそんなことはありません。

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荒木寛畝《雉竹長春》山種美術館蔵 部分図

見てくださいこの麗しい色使い。三戸特別研究員の話によると、荒木寛畝は一度洋画を志していた時期があり、日本画らしからぬ派手な色使いのセンスは、洋画修行時代に身に着けた色彩感覚を活かしたものなのだそうです。特に鳥を描いた作品に秀作の多い荒木寛畝ですが、本作で描かれた孔雀の美しさには目を奪われました。 

今尾景年《松下牧童図》

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続いては僕が大好きな作家・今尾景年。動物を描く天才だった弟子の木島櫻谷は、昨年関東・関西で複数開催された回顧展によって、だいぶ知名度を上げましたが、師匠は未だ・・・^_^;

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本作は、いわゆる牧童が牛の世話をしているという、日本画では頻出画題なわけですが、夕暮れの中クツも履かず一心不乱に作業をする牧童がなんともわびしい感じ。牛の表情も「早く帰りたいな―」となんとなく気だるそうなのもぐっと来ました。

縦長の画面で左上から右下へと大きく描かれた松の木の質感も味わい深くて本当に素晴らしい。いつか引っ越して床の間のある大きな家に住めるようになったら、まず真っ先に画廊へ行って今尾景年の作品を買いたいです。 

山元春挙《火口の水》

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山元春挙《火口の水》山種美術館蔵

思わず見とれてしまうような、雄大でダイナミックな風景画が印象的な山元春挙。バックに描かれた雄大な自然と、手前にひっそり描かれた人物や動物たちの対比も面白い作品が多いのですが、本作も見どころ抜群!

まず目を引かれるのは、デカすぎる火口内の切り立った崖と、崖下にたまっている水面の描写。光を反射した、透明感が表現された水たまりの描写は見事です。そしてこの水たまりを凝視していると、青い桔梗があちこちで控えめに花を咲かせていたり、火口の水辺で二頭の鹿が水を飲んでいる場面が描かれているのです。結構芸が細かいのですよね。(しかしよくよく考えてみると山の山頂に鹿が住んでいるわけがないので、鹿は大自然=神の化身的な象徴的な一種のファンタジーとして描き加えられたのでしょうか?)

橋本関雪《霜の朝》

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橋本関雪《霜の朝》山種美術館蔵

最後に、そこまでマイナーではないかもしれませんが、是非見てほしいのが橋本関雪のかわいい小動物。先日、山種美術館の展覧会「水を描く」では《生々流転》という超大作も披露されましたが、花鳥画や動物画なども本当に味があって好きなんです。 

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橋本関雪《霜の朝》山種美術館蔵 部分図

 

どうですかこのうさぎ。独特の筆さばきで、もふもふした毛並みや無邪気そうな表情が味わいたっぷりに描かれています。 

4.新作多数!カフェ&グッズコーナーも充実

ハンディサイズが嬉しい!オリジナル図録

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「特別展」となる本展では、図録が制作されました。山種美術館の展覧会図録は、ハンディサイズで軽いのが特徴。普通のハードカバー本よりも軽いので、僕も普通に電車の中で読んでたりします(笑)結構人気になると早めに売り切れたりすることもあるので、迷ったら「買い」で!

古径のおめでたい手ぬぐい

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小林古径《鶴》山種美術館蔵

続いては、第2展示室に展示されている小林古径《鶴》で描かれた鶴をモチーフに制作された手ぬぐい。年末年始らしい商品。

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見てくださいこのおめでたい感じ。全体のデザインはこんな感じになっています。初日の出を思わせるような赤の市松模様が、古径の描いた鶴とよくマッチしています。

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売上No.1!梅原龍三郎の絵葉書

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今回の展覧会のためにいくつか新たに制作された記念ポストカードもおすすめ。特にこの「赤」が鮮やかな梅原龍三郎の静物画《バラと蜜柑》が売れ行きNo.1とのこと。日本画の美術館なのに意外ですよね。

お年玉にはぽち袋!

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正月に需要が急増するぽち袋。山種美術館へ来館する客層にぴったりのタイムリーなグッズです。こういうところで地味に日本画の良さを子供に刷り込んでいくのが大事です(笑)

オリジナル和菓子!

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そして今回も1Fのカフェ「椿」では、いつもどおり5種類のオリジナル和菓子が。オーダーする時、メニューにそれぞれの和菓子のネタ元がきっちり解説されているのも嬉しい配慮です。

5.混雑状況と所要時間目安

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展覧会は、不快なほど混雑することはなさそう。所要時間は、30分~60分あればじっくり見て回ることができると思います。前後期でかなりの数の点数が展示替えとなりますので2度楽しめますよ。後期展示でのハイライトとしては、前田青邨が手がけた六曲一双の大作《唐獅子》です!すでに前期で2度行きましたが、後期展示も楽しみにしています! 

6.まとめ

知られざる皇室の伝統工芸「ボンボニエール」をはじめ、どれも面白い制作エピソードが満載だった東山魁夷、横山大観、安田靫彦らの皇室関連作品。作品の質の高さはもちろん、一つ一つの作品にまつわるストーリーもじっくり楽しめる展覧会となりました。巨匠たちが精魂込めて制作した作品がずらりと並んだ見ごたえのある展示はさすが「特別展」というべき充実ぶりでした。おすすめです!

それではまた。
かるび

関連書籍

マニアックな1冊「ボンボニエールと近代皇室文化」

近年になり研究が進んできた、皇室で独自発展を遂げた「ボンボニエール」を取り上げ、豊富な図版とともにその価値や歴史をじっくり論じたユニークな美術書。皇室ファンの方は是非!

華ひらく皇室文化ー明治宮廷を彩る技と美ー

2018年から名古屋・秋田・京都・東京とロングランで全国を巡回している同名の展覧会の公式図録。残すところは東京開催だけですが、山種美術館の本展と合わせて観ると、皇室の美術が深く学べると思います。

展覧会開催情報

特別展「皇室ゆかりの美術」ー宮殿を彩った日本画ー
◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年11月17日(土)~2019年1月20日(日)
*会期中、一部展示替えあり
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※12月24日(月)、1月14日(月)は開館
※12月25日(火)、1月15日(火)は閉館
※12月29日(土)~1月2日(水)は年末年始休館
◯公式HP
◯Twitter

空腹時の鑑賞は要注意?!「大江戸グルメと北斎」展は江戸の豊かな食文化が楽しく学べる展覧会!【美術展感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ最近、書店に行くと新書や文庫、ムックなど買いやすい価格帯で、江戸時代の生活文化についてわかりやすく解説した書籍が増えました。江戸時代の庶民の生活についての新発見や新解釈が発表され、それまで常識とされてきた当時の時代考証が次々と覆っている中、ちょっとした江戸ブームが起きている感もあります。

僕も暇つぶしに江戸についての雑学本を手にとることがありますが、浮世絵や絵本などの図解資料を見ているといつしか時間を忘れて食い入るように見てしまうこともよくあります。

今回の展覧会「大江戸グルメと北斎展」では、すみだ北斎美術館が所蔵する豊富な浮世絵や絵本といったコレクションの中から、北斎や同時代の周辺画家・浮世絵師たちが描いた江戸時代の「食文化」が見て楽しめる作品約140点(前期展示・後期展示合計)が展示されています。

江戸時代の作家たちが残した浮世絵や絵本、肉筆画を楽しみながら、江戸時代の庶民の「食文化」を幅広く学べる展覧会となりました。早速行ってきましたので、簡単に感想・レポートをまとめてみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.「大江戸グルメと北斎」展について

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本展「大江戸グルメと北斎」展では、同館が所蔵する絵本や浮世絵、肉筆画などを通して、様々な角度から江戸時代の食文化についての展示が楽しめるのが特徴です。

展示構成はこんな感じ。

第1章:江戸グルメ繁栄の背景
第2章:江戸の食材
第3章:江戸の料理帖
第4章:江戸の人気料理

中でも特に目を引いたのが、第3章、第4章で紹介されている当時の定番レシピや人気料理についての食品サンプル展示。これが良くできているんです!東京家政学院生活文化博物館が製作した精巧なレプリカを見ていると、猛烈に腹が減ってきます(笑)

本展では単に当時の食文化をビジュアル的に説明するだけでなく、なぜこうした豊かな「江戸グルメ」が成立できたのか、その理由や背景にもきっちり焦点を当てて展示が構成されています。

また、展示を見終わってからがある意味本番かもしれません。今回は展覧会で展示された江戸の再現料理を、「コラボCafe」と題して周辺のカフェで実食することができるのです!僕も早速行ってきましたので、後ほどいくつか紹介しますね。 

2.展覧会の見どころ・注目ポイント

注目ポイント1:空腹時要注意!食事シーンを描いた浮世絵!

まずやっぱり一番目につくのが、葛飾北斎や弟子たち、歌川国芳、三代目歌川豊国ら江戸後期を代表する浮世絵師たちによって制作された浮世絵です。美しい女性たちが寿司や天ぷらをつまんでいる浮世絵は、ブロマイドやポスターを見ているような華やかさ。美人は自然と絵になるというのは今も昔も変わらないものですね。

たとえばこれ。サバ(?)の押し寿司の上に、特大のエビのお寿司が乗っかっています。女性に抱かれている赤ちゃんが食べたそうにしている表情もたまりません。 

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歌川国芳《縞揃女弁慶 安宅の松》
味の素食の文化センター蔵

寿司の部分だけ拡大してみます。うまそう!

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歌川国芳《縞揃女弁慶 安宅の松》
味の素食の文化センター蔵 部分図

続いては、月岡芳年が描いた魚の天ぷらを食べる美人の図。月明かりの下、オープンカフェのような場所で、これからガッツリ行くところなのでしょうか。観ているこちらも猛烈に腹が減ります。

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月岡芳年《風俗三十二相むまさう》味の素食の文化センター蔵

こちらが拡大図。よく揚がってますよね~。

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月岡芳年《風俗三十二相むまさう》部分図
味の素食の文化センター蔵

続いてこちらの歌川豊国・国久の合作で美人がつまんでいるのは、ちょっと変わった食べ物なのです。いや、食べている食材は2018年現在でも日本人に愛されている食材なのですが、現代は単体でつまむのは珍しいと言うか・・・。 

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三代歌川豊国、二代歌川国久《江戸名所百人美女 日本はし》
味の素食の文化センター蔵

拡大してみました。どんぶり茶碗にたっぷり入ったごちそうは、「タコ」です!どんぶりの横には「塩」が置かれています。これをつけて食べるのでしょうか。うん、これはこれでうまそう。

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三代歌川豊国、二代歌川国久《江戸名所百人美女 日本はし》拡大図

で、女性の口元を見てみると、まさにタコの足をこれから頬張ろうとしているところですね。もう片方の手に持っているのは、煎り酒!日本酒が絶妙に合いそうな気がします!

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三代歌川豊国、二代歌川国久《江戸名所百人美女 日本はし》拡大図

もちろん、スナック的なものだけでなく、スイーツを食べるシーンを描いた作品も展示されていました。

それがこちらの三代豊国が描いた豪華三枚続作品。着物をはだけ、うちわで暑さをしのいでいる真ん中の女性が食べているものとは・・・ 

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三代歌川豊国《十二月之内 水無月 土用干》
味の素食の文化センター蔵

拡大してみると・・・今でもスーパーでブロック状に食べやすくしたものが販売されている夏の風物詩「スイカ」です!

解説パネルによると、品種改良の結果、非常に甘くなった現代のスイカとは違い、江戸時代のスイカはそれほど甘くない品種も多かったようです。それでも夏の涼を味わうには十分だったのかもしれませんね。

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三代歌川豊国《十二月之内 水無月 土用干》部分図
味の素食の文化センター蔵

他にも「うなぎ」や「鯛」などが描かれた浮世絵も展示されていました。興味深かったのは、今ではどれも高級食材となってしまった「うなぎ」や「鯛」、「天ぷら」などが、江戸時代では気軽に庶民がスナック菓子やファーストフード感覚で楽しんでいたということ。浮世絵内での気楽な食べ方からも伝わってきます。 

注目ポイント2:江戸時代の料理作法はかなり違う?

また、絵本や浮世絵をよーく観察してみると、江戸時代の料理の作り方や食べ方についても、今とはかなり違っていたことがわかります。

たとえばこちらで野菜を切る料理人の包丁さばき。

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葛飾北斎《「絵本庭訓往来」初編》
すみだ北斎美術館蔵 ピーター・モースコレクション

料理人が座りながら、足のついたまな板の上で食材を切っています。食材を直接手で押さえるのではなく、わざわざ別の棒を使って食材を固定した上で、包丁をのこぎりのように使っています。台所仕事というより、日曜大工のシーンを見ているようです。

続いては、北斎の描いたそうめんを食べる男たちの様子。

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葛飾北斎《『絵本庭訓往来』下編》
すみだ北斎美術館蔵 ピーターモースコレクション

そうめん伸び過ぎじゃないですかこれ(笑)当時本当にこんな食べ方だったのか、あるいは北斎ならではのユーモア的な表現なのか・・・。

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葛飾北斎《『絵本庭訓往来』下編》部分図

また、こちらは料理作法を描いた作品ではなく、一種の洒落のような作品なのですが、うなぎに翻弄される職人たちを面白おかしく描いています。北斎のユーモアセンスが爆発した作品ですね。

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葛飾北斎《「北斎漫画」十二編 鰻登り》すみだ北斎美術館蔵

よく見ると、職人の後方にある看板に「千客万来」と書かれているので、本作品は「鯉の滝登り」とかけて、商売繁盛を祈念したイラストでもあるんですよね。

注目ポイント3:日本各地で発達した農業や漁業

19世紀当時、世界一の大都市へと発展した江戸。100万都市、大江戸において百花繚乱なグルメが発達した要因としては、日本各地で土地の風土にあった殖産興業が図られ、道路網や海路の整備、大都市圏における取引市場の高度な発達など、経済や交通のインフラ基盤が整ったことも大きいと言われていますよね。

本展でも、江戸の「食文化」を支えた農業や漁業など、「食」に関する産業発達の様子がわかるような浮世絵や絵本も展示されています。勉強になる!

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葛飾北斎《百人一首うはかゑとき 天智天皇》すみだ北斎美術館蔵

上記は江戸時代の水田耕作における収穫期のある一日の様子を描いていますが、正直今の農村の姿とあまり変わりませんよね。江戸中期~後期にかけて、全国的に米の収量が一気に高まったと言われていますが、整然と積みわらが片付けられ、組織的に淡々と仕事をする農民の様子が描かれているのを見ていると、江戸後期にはすでにかなり効率よく米を生産できるノウハウや体制が整っていたのでしょうね。

つづいては漁業の様子です。画面左下に注目!

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葛飾北斎《百人一首乳母か絵と起 参議篁》すみだ北斎美術館蔵

最初はなんか人が溺れているな・・・と思ったのですが、そうではなくてこれは海女さんによるアワビ採りを描いたシーンだったのですね。激しい波の中全く動じず、素潜り・素手でアワビを採る海女さんの職人ぶりがうまく表現されていました。

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葛飾北斎《百人一首乳母か絵と起 参議篁》部分図

他にも、サトウキビを収穫して、煮詰めて砂糖を製造する工程が北斎漫画で詳しく描かれていたり・・・ 

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葛飾北斎《「北斎漫画」十三編 砂糖製》すみだ北斎美術館蔵

熊野の特産品「ハチミツ」を製造する工程が描かれた絵本が展示されていたり、どれも見応え抜群。特にこのハチミツづくりの工程を見ると、あたりを飛び回るミツバチを物ともせず、防具も一切つけずに淡々と作業をする職人たちがリアルに描かれています。

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蔀関月《「山海名産図会」二 熊野蜂蜜》すみだ北斎美術館蔵

注目ポイント4:食で活気づく江戸の風景が面白い!

また、本展では様々な絵本の所蔵品から、江戸の町中において発達していた「食文化」がわかるようなシーンを丁寧に拾い出して展示してくれています。

たとえば、江戸の食卓を支えた日本橋魚市場を細密に描いた絵本「江戸名所図会」。市場でセリに参加する人、魚を運ぶ商人、楽しそうに遊んでる町人など、活況に湧く魚市場の様子がいきいきと伝わってきます。

▼細密描写は見ごたえあり!「江戸名所図会」f:id:hisatsugu79:20181126150919j:plain
齋藤月岑ほか著 長谷川雪旦画
《「江戸名所図会」一 日本橋魚市》すみだ北斎美術館蔵

つづいて、こちらは北斎が描いた日本橋魚市場。それにしても人口密度が凄い(笑)川開きの日、花火が上がる両国橋の上がすし詰めになっている構図の浮世絵は比較的よく見かけますが、日本橋魚市場を描いた作品もそれに負けず劣らず人口密度の高い作品が多いような気がします。でもこれはちょっとやりすぎな気が・・・(笑)

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葛飾北斎《五十三次江都の往かい 日本橋》
すみだ北斎美術館像 ピーター・モースコレクション

また、こちらは今でも花見の名所として名高い「飛鳥山」(現:飛鳥山公園)でのお花見のワンシーンを描いた作品です。興味深かったのは、左側のページに、寿司弁当の売り子が描かれていたことです。よく、戦国武将の展覧会に行くと漆塗りの豪華な弁当容器「提げ重」が展示されていますが、庶民はやっぱり使い捨ての紙箱なのですね(笑)今で言うとコンビニ弁当かマックのような感覚だったのでしょうか。

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葛飾北斎《「東都勝景一覧」上 飛鳥山》すみだ北斎美術館蔵

注目ポイント5: 再現された江戸料理と食品サンプル

そして、今回の展覧会で一様にお客さんが驚いていた展示が、江戸時代の料理をリアルに再現した食品サンプルです。ただでさえ浮世絵や絵本の中で描かれた食材を見てお腹が減っている所にダメ押しのように展示後半に出現します(笑)

たとえばこんな感じです。本物そっくりに精巧にできているのでタチが悪い(笑)

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東京家政学院生活文化博物館「茶巾卵」

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東京家政学院生活文化博物館「さくらずし」

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東京家政学院生活文化博物館「長崎鳥田楽

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東京家政学院生活文化博物館「鯛の香物鮓」 

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東京家政学院生活文化博物館「鯛の刺身・煎り酒」

展示されている当時の再現料理の中には、今でも食べられているものもありましたが、半分以上は初めて見るレシピでした。

再現料理の中から、いくつか代表的なものについては詳細な作り方が展覧会の公式リーフレットの中で解説されています。これを見て、自宅で江戸時代の料理を再現してみるのも面白いですね。

▼グッズコーナーで販売されている公式リーフレットf:id:hisatsugu79:20181126145542j:plain

3.実際に体験できる大江戸グルメ!

今回の展覧会の面白いところは、展示後半で紹介されていた江戸の再現料理のいくつかを「コラボCafe」と題して近隣のいくつかのカフェで実際に試食できる企画が用意されていること。

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館内には、コラボCafeを実施している近隣のカフェ一覧の案内があります。どこも徒歩5分圏内のカフェばかりなので、気軽に立ち寄れますよ。

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せっかくなので、今回はその中から合計6品目の再現料理を「ランチセット」として食べることができる「ORI TOKYO」を訪問してみました。

▼カフェ「ORI TOKYO」
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「ORI TOKYO」はすみだ北斎美術館から北斎通りに出て、江戸東京博物館側に1分ほど歩いたところにあります。2018年4月にオープンしたばかりの新しいカフェです。入口前には、わかりやすいように「再現メニュー提供店」と大きく張り紙が。 

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早速中に入って注文してみました。

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メニューは、「北斎ランチ」(6点盛)、「北斎プレート」と2種類用意されています。これを逃したらもう2度と食べることができないわけで、迷うこと無く最上級の「北斎ランチ」(6点盛)にご飯と味噌汁をつけたセットでオーダー。

とまぁ、急いで食べた後興奮冷めやらぬ中ツイートもしておきました。沢山の方にツイートを見てもらえたので大満足です(笑)

そして、お腹もいっぱいになったところで、あらためて「ORI TOKYO」の店内を見回してみると、落ち着いた雰囲気の和モダンなカフェなのです。

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店内の様子はこんな感じ。4人がけのテーブルが2つと、カウンター席が10席程度。僕が入ったのはちょうど13時頃だったので、店内には10人くらいお客さんがいました。みんな「北斎ランチ」をオーダーしてました。

店内の壁には、北斎の「富嶽三十六景」の浮世絵・・・かと思ったら浮世絵ではなく、浮世絵を元にデザインした「織物」が展示されていました。店員の方に聞いたら、販売もしていますよ、とのこと。 

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一つ試しに手にとって見せていただいたのがこちら。 

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作品の裏側にはカラフルな糸がぎっしり織り込まれていました。いや、これよくできていますよ。遠くから見ると、発色が鮮やかなので、版画作品以上に存在感があります。

この「ORI TOKYO」はちょうどすみだ北斎美術館と両国駅の間にあるのです。だから展覧会を見終わった後、一息ブレイクを入れるカフェとしてぴったり。僕もこれからガッツリ使わせていただきます! 

4.混雑状況と所要時間目安

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11月25日(日)の14時頃(つまり一番混雑する時間帯)に行ってきましたが、ストレスなくスムーズに展示を楽しむことができました。恐らく会期終了頃まで、特に混雑を気にすることなく鑑賞できると思います。鑑賞時間は30分~60分あればしっかり観て回ることができると思います。

展示点数は前後期合わせて約140件ありますが、前後期でかなりの作品が展示替えとなります。前期を見て気に入った人は、後期展示もたっぷり楽しめそう。 なお、入場した半券をは是非捨てずに取っておきましょう。後期展示入場する際、入場料が20%OFFになりますよ!

5.展覧会の感想とまとめ

今回の展覧会は展示も面白いのですが、僕が感銘を受けたのは美術館側の展覧会に対する熱意の部分です。

もともとすみだ北斎美術館は「区立美術館」らしく、企画展「すみだの橋、北斎の橋」で地元ローカルネタを深く掘り下げたり、近隣の商店街や美術館・博物館と連携したり、地元密着志向が強いのです。今回の展覧会では、さらにその地域連携型コラボ企画が洗練され、入念に準備されていたことに感銘を受けました。

美術館効果ってやっぱり結構大きくて、すみだ北斎美術館ができてから、近隣にはおしゃれなカフェがぽつぽつと建ち始めました。今回のコラボCafeではまさにそういった近隣の意欲のあるカフェとしっかり組んで、地元のお店を巻き込んだコラボ企画を考えてくれているんですよね。

オープンして2年目に入り、少しずつ着実に地元に愛される美術館になろうと頑張っているすみだ北斎美術館、これからも応援したいなぁと思います。良い展覧会なので、前期・後期がっつり2回楽しんでみて下さいね!

それではまた。
かるび 

関連書籍・資料などの紹介

江戸の《新》常識

食文化だけでなく、江戸時代の生活文化全般に関して、最新の知見とカラー画像をたっぷり使って解説した書籍。知識ゼロの初心者でもわかりやすい解説と、ビジュアルの豊富さ、情報の新しさ、「新書」ならではの手頃な価格感から、まず1冊入門編として購入するならこれがおすすめ!

浮世絵に見る 江戸の食卓

美術と料理の両分野をつなぐ取材記事や著作には定評のある林綾野さんが手がけた江戸料理の本。浮世絵に出てくる料理を実際に作って再現した画像や、わかりやすい解説は読み応えたっぷり。江戸料理のレシピ本は沢山出ていますが、アートファンに1冊オススメするなら、断然これです! 

 

展覧会開催情報

企画展「大江戸グルメと北斎」
◯美術館・所在地
すみだ北斎美術館
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2
◯最寄り駅
・都営地下鉄大江戸線「両国駅」A3出口より徒歩5分
・JR総武線「両国駅」東口より徒歩9分
・JR総武線「錦糸町駅」北口より墨田区内循環バスで5分
◯会期・開館時間
前期:2018年11月20日(火)~12月16日(日)
後期:2018年12月18日(火)~2019年1月20日(日)
9時30分~17時30分(入場は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日、年末年始(12月29日~1月1日)
※12月24日(月)、2019年1月14日(月)は開館
※12月25日(火)、2019年1月15日(火)は休館
◯入館料
一般1000円/高校生・大学生700円/中学生300円
65歳以上700円/障がい者300円
※小学生以下無料
◯公式HP
http://hokusai-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/HokusaiMuseum 

【Amazonサイバーマンデー2018】おすすめセール情報・お得な商品を解説!

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かるび(@karub_imalive)です。

Amazonが毎年恒例として実施する年末の大セール「サイバーマンデー」が、2018年も12月7日18時から、12月12日01時59分まで開催されます。昨年よりも2時間長いロングランとなる年末の大セール。

目玉となるのは、日替わりで実施される「タイムセール」ですが、それ以外にもプライム会員限定のセールや、半額セール、在庫一掃セールなど、複数の値引きセールが実施されるので、じっくり予習して臨みたいところです。

お得なポイントやセール情報をまとめてみました。

【12月11日まで随時更新中】

1.Amazon 「cyber monday(サイバーマンデー)」って何?

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「サイバーマンデー」とは、毎年恒例開催となっている、Amazonが開催する冬の大セールのことを言います。元々は、アメリカの感謝祭翌日の11月4週目の月曜日を指す言葉で、アメリカでは、ここからクリスマスの年末商戦が始まるのが恒例なのだそうです。

2018年の日本でのサイバーマンデーは、

12月7日18:00~12月11日01:59

で開催決定!去年より2時間長くなっています!

待ちきれない方はこちらへ!
Amazonサイバーマンデー特設会場を見てみる!

2.サイバーマンデーに参加する前にやっておきたい2つの準備

準備1:セール前に、気になる商品を「ほしい物リスト」へ入れておく

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サイバーマンデーは4日間の長丁場。4日間を通して、セール対象商品は頻繁に入れ替わっていきます。そこで活用したいのが「ほしい物リスト」です。

セール対象に該当するかどうかわからなくても、欲しいアイテムが見つかったら、とりあえず「ほしい物リスト」へ放り込んでおきましょう。

Amazonの仕様上、この「ほしい物リスト」に入ったアイテムは、もし価格変更があった場合、プッシュ通知で教えてくれるようになっています。つまり、セールが始まって価格が下がると、あなたの携帯にプッシュ通知が着信するということですね。

やり方はすごく簡単。下記のように追加します。

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あるいは、商品をそのままドラッグ&ドロップする方法でも「ほしい物リスト」に入れることもできます。

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サイバーマンデーの目玉商品は、なくなり次第終了となる商品が多いので、欲しいものを見つけたら、どんどんセール開始前から「ほしいものリスト」に入れておきましょう!

サイバーマンデー2018セール会場はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

準備2:Amazonプライム会員に登録する

「Amazonサイバーマンデー」では、Amazonプライム会員限定のお得なセール対象商品も多数登場します。まだ未加入の方は、これを機に思い切ってお試し登録してしまいましょう!

Amazonプライム会員になるには、月額400円の会費がかかります。でも、年間一括で申込みをすると年額3,980円。Amazonプライム会員になれば、例えば、以下のサービスがすべて無料で受けられるようになります。 

▼Amazonプライム会員のサービス内容とは?
・プライム会員限定セールに参加できる
・約35,000本の映画やTV番組が見放題

・100万曲以上の音楽が聴き放題
・お急ぎ便・日時指定便での配送が無料
・即時配達サービス「プライムナウ」が使える

初月31日間は、Amazonプライム会員に無料で加入できます。

セール中、割引対象となっている商品を購入して、商品が届いてから解約すれば十分モトは取れます。サイバーマンデーを最大限楽しむためにも、まずは無料お試し会員登録しちゃいましょう!登録は、こちらからできます!

 

3.2018年の目玉タイムセール商品はこちら!

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さて、セールは12月7日から開始されますが、11月下旬から段階的にタイムセール対象商品の概要が発表されてきています。

ちょうど昨日、12月3日で最後の予告が出揃いました。

セール対象商品は、以下の5つのカテゴリに分かれます。

◯Amazonデバイス
◯PC・家電・ゲーム
◯日用品・食品
◯スポーツ・おもちゃ・DIY
◯服・シューズ・バッグ・腕時計
見て頂くとわかりますが、ほぼ全ジャンルですよね(笑)
例年のセール状況を見ると、特に狙い目となる値下げ率が高いジャンルは、Amazonデバイスや生活家電、スポーツ用品、ファッション全般、アクセサリー類でしょうか。

では、ここからは5つのジャンルに分けて、代表的なセール対象商品の中にどんなものがあるか、簡単に紹介していきますね。

 
サイバーマンデー2018セール会場はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

Amazonデバイス

f:id:hisatsugu79:20181204160518j:plain Amazonが年に2回実施する「プライムデー」「サイバーマンデー」では値下げ率が非常に高く、セールの主役となるAmazonデバイス。KindleやFireタブレット、FireTV Stickに加え、昨年からはAmazon Echoが仲間入りしました。30~50%OFFが期待できそう。

Echoにスクリーンが付いた最新版。まだまだ便利に進化していくと思われますが、今回のサイバーマンデーでの一番の狙い目になりそう。

Amazonが現在一押しのKindle Paperwhiteの最新モデル。僕もこれとほぼ同スペックの「マンガモデル」を持っていますが、結構するいっぱいになるので、どうせ買うなら容量は絶対に大きいモデルをセールで購入するのがおすすめです。

Amazonデバイスのセール会場はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

PC・家電・ゲーム

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家電類は在庫一掃セール的な意味合いが強く、モノによっては50%~70%OFFになる商品もあります。中華系メーカーの上位モデルや、Amazon限定モデルなどが特に狙い目となります。

年末からいよいよNHK8K放送も始まり、オリンピックを来年に控えて4Kテレビ、8Kテレビの中に掘り出し物が出てきそうです。ハイエンドモデルが一気に安くなることもあり、熱いです。

男性用シェーバーはAmazonセール常連ですが、年2回のプライムデー、サイバーマンデーでは特に値引率が大きくなります。フィリップス、ブラウン、パナソニックの御三家が日替わりでタイムセール対象になりそう。成熟したジャンルなので、型落ちの激安商品を購入するのがお得。

クリスマスをにらんで、プレイステーション、XBOXなど主力据置型ゲーム機のAmazon限定モデルや、主力ソフトとの抱合せセット販売がタイムセールの目玉商品になりそう。

サイバーマンデーや年末年始セールで特にバカ売れするのが、こちらの空気清浄機。バルミューダやシャープといった主力メーカーの商品がどれも格安で出てきそうです。

PC・家電・ゲームのセール対象商はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

日用品・食品

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日用品や食品も幅広くセール対象になりますが、毎年良く売れるのがサバスなど各社から出ているプロテイン粉末のまとめ買い。

各種洗剤やおむつなどのトイレタリー用品も値引率はそこまで高くないものの、スーパーで買うよりも安くなります。なによりもワンクリックで安く買えて家まで届けてくれるのがいいですよね。

うちも使ってますナノックス。花王・ライオン他、主要メーカーの洗剤やシャンプー、おむつやおしりふきなどは毎回必ず安くなるので、要チェックです。

プロテインは50%OFF以上になることも多く、業界No.1のサバスをはじめ、日替わりで特選タイムセール対象になりやすい商品です。日頃から愛用されている方は、とりあえず「ほしい物リスト」に入れておくと良いと思います。

年末年始の宴会などで、意外に重宝するのがワインセット。楽天なんかでも安く買えますが、サイバーマンデーでも相当安くなります。冬場はクール宅急便を使わなくてもいいので、配送も気にしなくて良いので買いやすいですよね。

日用品・食品のお得なセール商品はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

スポーツ・おもちゃ・DIY

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今年は上映がないので、例年よく出ていた「スターウォーズ」関連商品が見当たらない(笑)それはともかく、スキーやスノボ関連グッズなど、冬ならではのお得な商品に驚くほど安い掘り出し物が見つかりそうです。

昨年の型落ちモデルを狙い撃ちすれば、驚くほど安く買えそう!

Amazon限定の電動バイクが登場。1回3時間の充電で最大60Km走行することができ、最高速度は約40Kmの、街乗り専用の国産電動バイク。専用ヘルメットもついてきます!

スポーツ・おもちゃのセール対象商品はこちら!
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服・シューズ・バッグ・腕時計

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タイムセールだけでなく、ファッションセールや型落ちセール、クーポンセールなど、複数のセールが同時にいくつも実施されるサイバーマンデー。時計・バッグ・ジュエリー類は、並行輸入品が最大70~90%OFFになることもあります。

FURLAだけでなく、COACHやPRADAなど女性向け有名ブランドの並行輸入品が半額以下になることもザラです。

アウトドアやキャンプ用品なども狙い目。普段、アウトレットや量販店でもなかなか安くならない一流ブランドのアイテムが、サイバーマンデーではかなり値下げしてきます。

OMEGAなど高級腕時計も50%以上OFFになることもザラにあります。

服・シューズ・バッグ・時計のセール対象商品はこちら!
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4.サイバーマンデー中に実施される大型値下げセール

AV・生活家電・カメラが最大50%OFF!

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最後にプライム会員限定セールも紹介しておきますね。通常1日で終わってしまうタイムセールと違い、12月7日~11日の全期間有効なプライム会員に限定したセール対象商品です。かなりの点数が出てくるので、これを機にプライム会員登録をしてからセールに臨むのも悪くないと思います。

 

アイリスオーヤマのファンヒーターや布団乾燥機、加湿器は国産の安心感、コスパの良さでいつもアマゾンのセールでは常連です。セールでもいつも値下率が高いので要注目です。

ヘッドホンは、ゼンハイザーなど有力メーカーの「Amazon限定モデル」がセールでは狙い目。普段なかなか手が出ないハイエンドモデルがぐぐっと安くなります!

ファーウェイなど中華系SIMフリースマホも、セール常連。恐らくSIMカードやmicroSDカードとのセット販売となりそうですが、思い切った値引率が設定されることもあるので、要注目です。

家電50%OFF対象商品はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

【プライム限定】PC周辺機器、スマホ、文具、楽器セール

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PC周辺機器・スマホ・楽器セール対象商品はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

おせち・かに・食品・飲料セール

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予告ページでは、まだおせちだけが表示されていますが、クリスマス用のケーキやローストチキンなどのパーティセットなども販売されそうです。

いわゆる早割的な感じで、サイバーマンデー期間中に頼んでしまうのもありですね。期日指定できるものとできないものがあり、できないものはより一層安くなっています。

中には30人前と超特大のおせちも販売中。大家族専用といったところでしょうか。これは見てみると面白いですよ!

おせち・かにのセール対象商品はこちら!
開始前にセール対象の「目玉商品」をチェックする!

 

5.まとめ

いかがだったでしょうか?1年間頑張ってきた自分へのご褒美や、家族への贈り物に、「サイバーマンデー」のセールを活用してみてくださいね!僕も5日間がっつり張り付く予定です!

それではまた。
かるび

「ここから3」障害・年齢・共生を考える5日間【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。 

文化庁が主催する、アートを通じて共生社会を考える入場無料の展覧会「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」に行ってきました。展覧会のサブタイトルにある通り、5日間限定の展覧会です。

これまで障害者の方が制作したアートはきちんと見たことがなかったのですが、改めていろいろな作品をじっくり見ることにより、「障害者だから」というのではなく、普通に面白い作品・凄い作品と沢山出会えました。

簡単ですが、レビュー・感想を書いてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

展覧会「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」とは?

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作家さんたちの記念写真

本展「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」は、文化庁が主催する障害者アートを主に取り上げた展覧会で、

「ここからーアート・デザイン・生涯を考える3日間」
(平成28年10月開催)

「ここから2ー障害・感覚・共生を考える8日間」
(平成30年3月開催」

と、先行して2回開催された展覧会の”第3弾”となる展覧会。今回のテーマは、

「障害・年齢・共生を考える5日間」

ということで、前回開催とほぼ同じテーマを継承しつつ、新たに「年齢」という要素を加えて展示が構成されています。

簡単に見ていきましょう。 

第1章:「ここからはじめる」斬新な作品が並ぶ障害者アート

本展監修者の前山裕司氏(新潟市美術館館長)、小林桂子氏、戸田康太氏(独立行政法人日本芸術文化振興会)によって全国各地から選ばれた障害者10名のアート作品が展示されています。何人か気になった作家を紹介してみたいと思います。

横溝さやか

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大きなキャンバスに描かれているのは、大阪や東京、オリンピック会場など、人が多く集まる場所に集まった無数の人々の様子。特徴的な建物やお店などとともに、行き交う人々を明るい色使いで楽しく描き出しており、見ていると楽しくなってきます。

「洛中洛外図屏風」や、ぎっしりと人々が描かれたフランドル絵画など、人物が密集した絵画作品が好きな人は絶対ハマると思います。

見ているだけで、童心に帰って楽しい気分になれる不思議なエネルギーを持った作品でした。美術展を沢山回っていても、これほど心を明るくさせてくれる作品にはなかなか出会えないと思います!

大庭航介

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下半身が不自由な大庭さん。当日、車椅子で展覧会場にかけつけてくださったのですが、その車椅子が自由で素晴らしい!

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なんと、車椅子の下部には緑や青のLEDランプが点滅し、大音量で音楽も流せるようになっていました。普段は外部のスピーカーユニットも取り付けて、オリジナル車椅子で毎日を過ごしているそうです。いいですねこういう自由な発想。

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大庭航介《ヒマワリ》

大庭さんの作品は、幾何学的な図形や、様々なパターンの模様を組み合わせて描く白黒の細密画。かなり抽象度が高く、純粋に図形同士の膨大な組み合わせが織りなすリズム感を楽しむような感じで鑑賞しました。

少し引いてみると、モノクロームの版画作品に質感が似ているのですが、これを一つ一つボールペンで描いているとのこと。

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大庭航介《ヒマワリ》拡大図

ものすごく近寄って見ると、確かに丹念にボールペンで描いていることがわかります。微妙に少しずつ塗り残したり、線が曲がっていたりするあたりが、木版画のような温かみや人間味を生んでいるのも面白いです。

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大庭航介《ヒマワリ》拡大図

ちなみに、1作品あたり完成まで2~3ヶ月かかるとのこと。毎回作品ごとにものすごい沢山の数のボールペンを消費するそうです。

大倉史子

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大倉史子《アイスクリームやさん》

アイスクリームやアメリカンチェリー、鮭、しめさばといった、「食べ物」を大画面にひたすら反復して表現する作風が面白い大倉史子さん。引いてみると抽象的な図形が並んでいるように見えますが、近づくと、食べ物が並んでいることがわかります。

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全く同じ色合いで描くのではなく、たまに色や並べ方が変化するので、見ていて飽きもこないのです。見れば見るほど、親近感がわいて手元においておきたくなる可愛い作品でもありました。

中崎強

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重度の身体障害のため、足の指を使って絵を描く中崎強さん。具象画ですが、非常に単純化された形で対象が表現されています。

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中崎強《夜の砂浜》

僕が感銘を受けたのは、画面上に残った足の指使いの跡と、抜群の色彩感覚。見れば見るほど引き込まれました。過去、「二科展」でも入賞した実績があるのもわかる気がします。心に染み渡るような良い作品でした。 

石栗仁之

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遠くから作品群を眺めてみると、何かの形がが非常に薄く着色されており、何が描かれているのか近寄って確かめたくなるのですが、、、

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石栗仁之《筑波山》

作品に近づいてみると、細かい線描で風景が描かれていることがわかります。さらに寄って近づいてみると・・・

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石栗仁之《筑波山》拡大図

なんと!山や海、宇宙などの風景画が、様々な色で着色され、超高密度で描かれた迷路で表現されているのです!しかも、ひとつひとつちゃんと最初から最後まできっちりつながっており、迷路としても遊ぶことができるのだとか。

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石栗仁之《筑波山》拡大図

作者の石栗仁之さんは、幼い頃から迷路が大好きだったとのこと。その大好きな迷路がそのままアート作品になってしまった・・・ということですね。

他にもまだまだ面白い作品はありました。どの作家もユニークな着想と圧倒的な集中力で、作家独自の世界観を作品の中にしっかり投影して、アート表現を楽しんでいるのが作品を通じて伝わってくるのが良いです。画像で見るのではなく、展覧会場で実際の作品を見たほうが、いろいろと感じるものがあると思います。 

第2章:「ここからおもう」エイジレスに着目した作品群

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先日まで国立新美術館にて開催された文化庁主催「第21回メディア芸術祭」出展作品の中から、「年齢」や「生きること」をテーマとしたマンガやアニメ作品が展示されています。

特に印象的だったのが、池辺葵「どぶがわ」、松田洋子「大人スキップ」。文化庁メディア芸術祭で受賞歴のある実力派作家が、「年齢」をテーマとしたオリジナリティあふれるストーリーを展開。読んでいるうちにぐいぐい引き込まれる佳作です。

僕も帰宅してから、早速Amazonでポチりました。

不慮の事故で入院した中学生が、超長期の昏睡状態から目覚めたら、26年後の40歳になっていたという設定のストーリー。心の中は14歳なのに、外見は40代の中年女性。周囲からの見られ方と自分自身の未熟さのギャップに悩み、傷つき、それでも何とか生きていくしかない中で、主人公が選んだ人生とは・・・。

誰もが近寄らない、異臭のするドブ川で日々目を閉じて空想にふける老女。この老女と偶然に接点を持った近所の住民たちが、思いがけず少しずつ幸せを掴む不思議なストーリー。心温まります。

私達は日常生活や社会との関わりの中で、「年齢」相応に正しく振る舞うことが周囲から求められます。何か新しいことを始めようと思いついても、「もうそんな年じゃないだろう」と自ら心の中で制限をかけて諦めることも多々ありますよね。

だからこそ、「年齢」にとらわれず、思い立ったらまずは行動してみる、新たな一歩を踏み出してみることこそが、精神的な自由を獲得する大きなカギになるんだろうな、と作品を読みながら考えていました。

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また、第2章の前には原爆をテーマに描いた絵画で有名な丸木位里の母、丸木スマの作品約20点を特別展示。70歳になってから初めて絵筆を握り、81歳で亡くなるまで約800点を描いた「おばあちゃん作家」です。

ギャラリートークを担当された前山さんも「70歳を過ぎてから天才性を発露させた偉大な作家」と絶賛。

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第1章で展示されている障害者のアーティスト同様、正規の美術教育を受けていないこともあり、自身のセンスが爆発した作品は、かわいいキャラクター、素朴な画題、画面を埋め尽くす自由奔放な色使いが特徴的でした。プロの作家の中にも、熱心なコレクターがいるのだとか。

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丸木スマ《ヒマワリ》

初めて見ましたが、「素朴さ」「かわいさ」という点では、東郷青児記念損保ジャパン美術館の常設コーナーで展示されているグランマ・モーゼスの作品を想起させました。同じく70代から絵を描き始めたという点でも共通項がありますね。

第3章:「ここからひろがる」障害者との共生を考えるインスタレーション

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echo《回音》

最後の第3章では、目が不自由な障害者向けに開発されたセンサーのデバイスを使った体験型インスタレーションが展示設置されています。

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インスタレーションの真ん中には青白い光を放射するLEDランプが設置されており、その周りを「障害物」として薄い布のカーテンが何重か張り巡らされています。

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障害物を感知すると様々な音や振動を発する装置

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装置を手につけて歩きます

鑑賞者は、障害物を検知するデバイスを手に装着して、目を閉じてインスタレーションの周りを自由に歩くことができます。これにより、目の不自由な障害者が空間を知覚する時の感覚を擬似的に体験できるのです。

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僕も何回かこのデバイスを片手に、目を閉じて展示を味わってみました。会場内中央に垂れ下がる障害物は薄い布なので傷つくことは全くありません。それでも、センサーが障害物に反応するたびにびくっとして立ちすくんだり。ちょっと面白い体験ができました。

ちなみに、このコーナーだけは一般鑑賞者も写真撮影OKとなっています。

グッズコーナーも充実しています

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第1章で紹介されているアーティスト達や、彼らが所属する工房が制作した各種グッズが入り口脇のグッズコーナーで買えるようになっています。

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また、展覧会で紹介されているマンガ作品や、障害者とアートに関する関連書籍も発売中。展覧会を見て、少しでも何か感じるものがあれば記念に購入してみると良いかもしれません。

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まとめと感想

本展で特に印象に残ったことは、障害者のみなさんが制作した作品群の一つ一つが非常にユニークで、作品の中にポジティブなエネルギーが満ち溢れていたこと。

例えば横溝さやかさんの作品は見るだけで楽しくなれますし、石栗仁之さんの迷路アートは、本人が心から楽しんで制作している痕跡がよくわかるのですよね。

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楽しんで自由に制作していることがよくわかります
石栗仁之《難崖富士山》部分図

ものをひたすら切ったり、同じ図形や図柄を反復して徹底的に描くことで、作家独自の世界を作り上げるとともに、インパクト抜群の作品を作り出す障害者のアーティストたち。その情熱を高密度で作品制作にぶつける彼らの作品群を見ていると、人間の内側に秘められたパワーの大きさを再認識させられました。

月並みな表現ですが、なにか「元気をもらえた」そんな展覧会でした。

一つ要望を書かせて頂くとすると、今後ももし継続して第4弾、第5弾と継続するのであれば、是非、全作品写真撮影OKにしてほしい、ということです。決して障害者の方の著作権を軽んじているわけではないのですが、大きな展覧会に比べてそれほどマスメディアの注目度も高くない現状、彼らが作り上げた作品の本当の価値を伝えるには、SNS等での草の根的な情報拡散が不可欠だと考えるからです。

5日間の開催と非常に短い期間ではありますが、誰でも入場無料で気軽に入れます。他の展覧会とあわせてでも良いので、ぜひフラッと覗いてみてください。インパクトあふれる斬新な作品との出会いが待っていますよ。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会「ここから3ー障害・年齢・共生を考える5日間」
国立新美術館 1階企画展示室1A
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
◯最寄り駅
・東京メトロ千代田線乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口直結
・東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
・都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
◯会期・開館時間
2018年12月5日(水)~12月9日(日)
水木日:10時00分~18時00分
金土:10時00分~20時00分
※入場は閉館30分前まで 
◯観覧料(当日)
入場無料!
◯ここから展展覧会ホームページ
https://www.kokokara-ten.jp/

【映画感想】バスキアがわからない人こそ見てほしい傑作!「バスキア、10代最後のとき」

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かるび(@karub_imalive)です。

ジャン=ミシェル・バスキアが亡くなってから30年が経過しました。ユニクロのコラボ商品やZOZOタウンの前澤社長のコレクションのおかげで、今やアートファン以外の一般層にも知名度を広げつつあります。まさにレジェンド級の現代アーティストですよね。

当初ストリートのアンダーグラウンドシーンで活動していたバスキアが、アーティストとして認められてから、亡くなるまでに活動した期間はわずか7年間。その間に制作した作品は実に1500点以上とも言われていますが、彼の情熱やインスピレーションの源泉、活動のルーツはいったいどこにあったのでしょうか?

本作「バスキア、10代最後のとき」はまさにそんな疑問に真正面から実直に答えてくれる良質なアートドキュメンタリーです。映画では、10代最後の3年間に焦点を当て、若き日のバスキアがどのようにしてアーティストとして活動の幅を広げ、チャンスを掴んだのかを徹底的に掘り下げています。

作品は12月22日からYEBISU GARDEN CINEMAを皮切りに全国20館以上で順次公開予定ですが、幸運にも直前の試写会に参加することができました。早速ですがその見どころや魅力について、簡単に触れてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した画像は、予め主催者の許可を得て使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.映画「バスキア、10代最後のとき」の内容について

映画基本情報

本作でメガホンを取ったのは、本作が4作目となる、サラ・ドライバー監督。

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サラ・ドライバー監督
引用:https://www.imdb.com/name/nm0238138/mediaviewer/rm737187840

70年代~80年代のニューヨークのインディーズシーンに詳しく、過去作は3作品いずれもニューヨークを舞台とした作品を手がけています。

ちなみに、夫は、カンヌ国際映画祭ノミネートの常連でもあるベテラン、ジム・ジャームッシュ監督(『パターソン』『 ブロークン・フラワーズ』他)です。熱心な映画ファンなら旦那さんの方は知っている方も多いでしょうか。本作にも登場します。

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ジム・ジャームッシュ監督
引用:Wikipedia

夫婦ともに当時から非常にバスキアと近いところで活動を続けており、バスキアの熱心なファンでもあるそうです。

本作の原題は『BOOM FOR REAL』。直訳すると「本物へのとどろき」。やや間の抜けた響きがありますが、「BOOM」という単語には、「(人気の)急成長、急上昇」という意味もあり、本物のアーティストになるために、短い激動の10代をあっという間に駆け抜けたバスキアをよく表した原題だと思います。

映画の概要

本作では、バスキアがアート界のスターダムへと駆け上がる直前にニューヨークで過ごした雌伏の3年間(1978年~81年)を、バスキア本人の映像や、彼が当時交流した友人やアートシーンの関係者の証言を元に掘り下げ、バスキアの人物像やアーティストとしての源流を丁寧にたどっていきます。

映像は、バスキアが17歳の時、故郷・プエルトリコから荒れ果てたニューヨークのイースト・ヴィレッジに飛び出してきた1978年からスタートします。家出少年だったバスキアは、ホームレス同然で友人宅を転々としながらアーティストとしての表現活動の幅を広げていきました。

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©2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
Photo by Bobby Grossman

やがて、謎につつまれたグラフィティ・アーティストユニット「SAMO(セイモ)」のメンバーとして有名になったバスキアは、ニューヨークのアンダーグラウンドなクラブで知り合ったアーティスト達と交流しつつ、活動範囲をファッション(「MANMADE」ブランドでの洋服のプロデュース)や音楽(バンド活動)など多角的に広げていきました。

仲間たちがストリートでの活動に一区切りつける中、バスキアもまた、主戦場をストリートからアトリエへと移します。音楽、文学、図柄、グラフィティ、ファッションなどそれまでの活動全てが融合した集大成的なアウトプットとして、コピー機を活用したコラージュ作品制作を試した後、満を持してドローイング(絵画)へと移行。最後にたどりついたドローイングがアート界の目利きたちに注目され、バスキアはいよいよスターダムに駆け上がっていくことになるのです。

まるでゴミ溜めのようなニューヨークの猥雑なストリートから、一躍天才アーティストへと羽ばたいていったバスキアにとって、10代最後の3年間はどのような意味があったのでしょうか?彼はこの3年間で残したものは一体何だったのでしょうか?

没後30年を記念して制作された本作の中に、その全ての答えがありました。

2.映画の3つの注目ポイント

バスキアをテーマとした映画は、すでに「バスキア」(1997)、「DOWNTOWN81」(2001)、「バスキアのすべて」(2010)と数年おきに複数リリースされていますが、本作ではそのいずれの過去作にもなかった、新しい視点や切り口が満載。バスキアの過ごした10代最後の3年間がスタイリッシュかつ斬新なかたちで描き出されていました。

そこで、映画の中で特に見どころとして注目しておきたいポイントを、感想とともに3つピックアップしてみました。

注目ポイント1:「桐島、部活やめるってよ」方式で浮かび上がるバスキアの素顔

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過去にもバスキアのドキュメンリー映画と違い、本作で非常に斬新だったアプローチは、作品内でバスキア本人の肉声を敢えて使わず、登場シーンを最低限に抑えたことでした。

その代わり、サラ・ドライバー監督は、当時バスキアと交流のあった20人の関係者や友人たちにバスキアについて徹底的に丁寧に語らせます。バスキアのアーティストとしての活動のあり方や人間性の輪郭が、上映が進むにつれて少しずつ浮かび上がってくるように計算された巧みな演出が光りました。

主役なのに本人の登場シーンが一番少ないのは、邦画の名作「桐島、部活やめるってよ」を彷彿とさせますが、「早逝した伝説のアーティスト」バスキアの神秘的な一面と非常に上手くマッチした、考え抜かれた編集手法だと感じました。

また、「バスキアはこんな人だった!」とナレーターがガッツリ語らないため、鑑賞者はその分必然的に考えさせられるわけです。上映後、関係者の語ったインタビューでの証言を元に、自分なりの「バスキア像」について色々想像を膨らまることができるのも本作の醍醐味。友人と語り尽くすのも面白そうです。

注目ポイント2:ニューヨークの荒廃したアンダーグラウンドシーン

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ここだけの話、僕はアートファンでありながら、ストーリー要素の薄いアートドキュメンタリーには少し苦手意識があります。なぜなら、寝てしまうから(T_T)。家でリラックスしてDVDをゆったり観る分には良いのですが、暗い映画館ではつい眠くなってしまうのですよね。

この日も試写会が始まるまでは「今日はドキュンメンタリー映画だから寝ないようにしなきゃ・・・」と身構えていたのですが、フタを空けてみると全くの杞憂でした。寝ている暇なんか全くありません。

とにかく、映像のクオリティがリアルで素晴らしいのです。開始早々から、当時のニクソン大統領の悲壮なスピーチ音源とともに映し出されたのは、今では考えられないほど荒れ果てていた、スラム街のようなニューヨークのイースト・ヴィレッジ。

治安の悪い廃墟だらけの街中を走る落書きだらけの地下鉄や、マフィアも絡みドラッグまみれで猥雑な雰囲気たっぷりのアンダーグラウンドなクラブ、けばけばしいグラフィティアートにあふれる街角など、衝撃的な映像が満載でした。

また、スピーディなカット割りで配置された刺激的な映像に合わせて、バックで流れるヒップホップやパンクロックなどの音楽も秀逸。1980年代初頭のNYインディーズシーンを強く感じさせる選曲が素晴らしく、バスキアの同時代から一貫してニューヨークのカルチャーを見つめ続けてきたサラ・ドライバー監督のセンスが存分に発揮されていました。

注目ポイント3:浮き彫りになるバスキアの意外にクレバーな一面

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当時を振り返る友人たちの証言の中で浮き彫りになったことで一番意外だったのが、バスキアはただ単に、ドラッグに溺れながら幼稚なスタイルの絵画を感覚だけで書き殴る、センスだけの天然キャラでは全くなかったということ。

実際はむしろその真逆でした。彼は自分の才能や価値に確固たる自信を持ち、ニューヨークのアンダーグラウンドなアートシーンから抜け出してメジャーになろうと強い野心もありました。また、それを周りからもきっちり見抜かれていたのも凄い。

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そして、わずか18歳かそこらで、周囲の若手アーティストたちと少しずつ違う行動を取ることで差別化を図ろうとする冷静な戦略すら持ちあわせていたという事実に、非常に驚かされました。

そういえば別の映画「バスキア」(1997)では、バスキアがアンディ・ウォーホールとレストランで初めて出会う有名なシーンが収録されていますが、バスキアがウォーホールの前で非常にクレバーに振る舞っていたのが印象的でした。当初観た時は、「クサい演技だな」と感じていましたが、本作を観た後では、実際にこんな感じの立ち回りをしたのではないかと思えます。

自分自身をよく理解し、自己演出に長けていたからこそ、数少ないチャンスが回ってきた時、それをしっかりものにすることができたのでしょうね。彼が通称「黒いピカソ」と言われてきた理由も、なんとなく理解できました。

3.裏話も出た!試写会後のトークセッション

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この日の試写会では、上映終了後、ミズマアートギャラリーの三潴社長と、アートブログ・青い日記帳管理人Takさんのトークセッションが行われました。Takさんの巧みな質問に、上機嫌で飛ばしまくる三潴社長。その掛け合いが絶妙で、非常に聴きごたえのあるトークセッションになりました。

予定時間の30分を大幅オーバーしての凄い盛り上がり。当日取ったメモそのまんまに書きなぐる形で恐縮ですが、せっかくなので簡単に紹介しておきたいと思います。

映画内での最注目人物は、ディエゴ・コルテス?

映画内では、バスキアの当時を知る20人の友人や関係者達のインタビューを収録していますが、三潴社長が最注目した登場人物は、キュレーターのディエゴ・コルテス。

彼はバスキアも参加してブレイクするきっかけをつかんだ「ニューヨーク/ニューウェイヴ」展のキュレーターであり、バスキアをアートシーンにおける有力者たちに引き合わせたキーパーソンなのですが、三潴社長とは今でも定期的に顔を合わせるなど長年の付き合いがあるとのこと。(地味に凄い!)

そして、バスキアを発掘した凄腕キュレーターであるディエゴが日本人アーティストの中で高く評価しているのが、なんと会田誠なのだそうです。コンセプチュアルな作品を創れると同時に、絵もしっかり描ける点が凄いのだとか。(大抵、コンセプチュアルアートに走る作家は絵が下手だからという切実な理由もあるらしいです)

そんなディエゴが会田誠の凄さを見抜いたのが、大きくスポーツ新聞のようなフォントで「桑田」というロゴをパネルに描いた作品。(※Webで調べてみて下さい。検索結果に出てきます)日本語も読めないのに、ディエゴは「桑田」を観た瞬間、ロバート・インディアナの有名な「LOVE」モニュメントと同じ類のセンスの鋭さを会田誠の中に感じ取ったのだそうです。うーん。天才作家も天才キュレーターも考えていることはわからん(笑)

ニューヨークの街並みはアートで変わってきた

20年以上前からニューヨークを観てきた三潴社長の話によると、バスキアが拠点としていたSOHOは、映画冒頭のように、以前は荒れ果てた倉庫街でした。しかしバスキアらのブレイクによって、アートシーンが育ってくると、ギャラリーが建ちはじめます。すると次にレストラン、ブティックが順番にできていく中で、次第に街がきれいになり、最後には地価が上昇するというサイクルをたどったのだとか。現代アートは街をも作り変えるパワーを秘めているのですね。

日本でも金沢市や、東京の江東区清澄白河あたりでも同様の傾向がありますよね。僕もちょうど清澄白河の近くに住んで15年になりますが、東京都現代美術館がもたらした現代アートのパワーが、人の流れを変え、街をおしゃれに作り変えていくプロセスを今まさに現在進行形で体感しているところです・・・。

欧米のアートシーンはユダヤ人でないとメジャーになれない?!

プエルトリコ出身の黒人だったバスキアが、今よりも遥かに人種の壁が厚かった80年代初頭においてアート界の頂点に上り詰めたのは、非常に画期的だったとのこと。なぜなら、今も昔も欧米のアートシーンでブレイクしやすいのはユダヤ系の白人だからです。

今のアートマーケットを支配している2大勢力は、ユダヤ人がトップに立つ金融系とイスラム系のオイルマネー。偶像崇拝を禁止するイスラム教やユダヤ教を信奉する彼らに対して一番心に響く作品を作ることができるのは、やはり伝統的に抽象画などの制作ノウハウに優れたユダヤ系の作家になるのが自然な帰結なのだそうです。

欧米のアートシーンでは、売れっ子になりたいなら、ユダヤ人になるのが早いかゲイになるかどちらかだ、という自虐的なジョークもあるほどで、そんな不利をものともせず大ブレイクしたバスキアは「別格」の存在だったということなのでしょうか。

ZOZOタウンの前澤社長について

話がヒートアップして佳境にさしかかると、2017年、バスキアの作品を史上最高の123億円で落札し、一躍世界のセレブ入りを果たした前澤社長についても話が及びました。(鑑賞者の皆さんも、いつこの話題に触れてくれるのだろうと待っていた感じ^_^)

三潴社長は、実際に何度か前澤氏に会ったことがあるそうで、曰く、自分より背の高い女性(剛力彩芽)と付き合う男性=前澤氏は、相当な「野心家」なのではないかと。鋭い分析!

100億円以上の買い物となった前回の落札劇については、正直なところ「良いお客さん」として欧米の業者にうまく買わされた感があるけれど、今後バスキアはさらに高騰する可能性もあるし、社業の宣伝効果を考えると必ずしも高い買い物ではなかったのではとの見立ても。

その一方で、世界のアートシーンの中で日本人が注目されるコレクターとして名乗りを上げたのは、日本のアートシーンをより活性化する意味でも非常に意義深いと評価されていました。

若いアーティストが作ったものは捨てずに何でも取っておけ!

バスキアの作品は現在1700点ほどあるとされていますが、これはきちんとしたペインティングだけでなく、家具やレストランのナプキンに書いたような紙切れまで含めての数字。今や、バスキアの痕跡が残るものは全て高値が付く状態なので、紙切れ1枚といえども、オークションで高額売買の対象となるのです。

そこで三潴社長ならではのアドバイスが凄かった!

曰く、若い現代アーティストが作ったものは、ゴミのようなものでも捨てずに取っておけ」と。なぜなら、将来バスキアのようにブレイクした時、ものすごく値段が釣り上がるかもしれないから。

実際、三潴社長は、まだバラック小屋のような汚いアトリエで制作していた駆け出しの頃の会田誠が失敗して捨てたドローイングを落ち穂拾いのように拾って自宅に持ち帰っていた(!)のだそうです。(その後三潴社長の読みは大当たりし、会田誠はブレイク。今なら何を作っても値段が付く状態に!)

4.まとめと感想

ということで、上映後のトークセッションも含め、あっという間の2時間30分だった映画「バスキア、10代最後のとき」試写会。

文学・ファッション・音楽・グラフィティアートなど、当時のストリート文化を貪欲に吸収し続け、アートシーンにおいて時代の寵児に上り詰めたバスキアの実像について、斬新な手法で丁寧に描き出した良質のアートドキュメンタリーでした。

この映画を観て一番勉強になったのは、一見意味不明なバスキアの風変わりな絵画作品が、なぜこれだけ評価されているのか、かなりクリアに理解できたこと。彼がドローイング作品の中で確立した圧倒的な個性は、本作で徹底的に掘り下げられたニューヨークでの10代最後の3年間に凝縮されていたのです。

ぜひ、「バスキアの作品がいまいち何が良いのかわからない」という方こそ、じっくり腰を落ち着けて観ていただきたい作品です。

なお、2019年9月21日(土)~11月17日まで、六本木・森アーツセンターギャラリーにて、日本初の大回顧展となる「バスキア展」の開催が決定。世界各地から集められた公開予定のバスキア作品約70点の中には、ZOZO前澤社長が落札した123億円の例の作品も含まれているようです。秋に控える「バスキア展」のためにも、バスキアのルーツを掘り下げた本作をしっかり観ておきたいですね。

それではまた。
かるび 

映画公開情報

◯映画タイトル
「バスキア、10代最後のとき」
◯会期・開館時間
12月22日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
◯公式HP
http://www.cetera.co.jp/basquiat/

2019お正月のAmazon初売りセール・おすすめ商品の解説!【年末年始・新春のお得なバーゲンまとめ】

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【2018年12月29日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

2018年もあっという間に年末を迎えました。

さて、年末年始といえば、Amazonの冬セールと初売りが楽しみですね。サイバーマンデーに比べると注目度はそれほど高くありませんが、大型タイムセールや「福袋」などが登場する見逃せないセールなのです。

そこで、本エントリでは、2018年の年末年始にAmazonで開催中のセール情報について、オトクな商品とともに簡単に紹介してみたいと思います。それでは、早速行ってみましょう!

要注目!Amazonの初売りセール

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「初売りセール」とは、毎年恒例開催となっている、Amazonが開催する年始の大セールのことを言います。特に2019年は特設会場もしっかり設けられるなど、非常に力が入っています。

2019年の初売りセールは、

1月2日18:00~1月4日23:59

で開催。去年よりまる1日長くなっています。

待ちきれない方はこちらへ!
2019年のAmazon初売りセール特設会場を見てみる!

 

初売りセールで楽しみな商品1:「福袋」

昨年の初売りセールではそこまで存在感がなかった「福袋」ですが、今年はかなり力を入れて特集されています!中身が見えない通常バージョンに加え、何が入っているか見えている「中身が見える福袋」も登場。

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こちらの2種類が、1月2日~1月4日までの初売りセール特設会場で登場します。サンプルは、こちらの初売りセール特設会場で一部チェックできるようになっています。確認してみてくださいね。 

2019年初売りセール会場はこちら 
2019年のAmazon初売りセール特設会場を見てみる!

 

なお、各ファッションブランド・メーカーから販売されている「中身の見えない」福袋に関しては、初売りセールを待たず、すでに12月中から予約が可能となっているセットも多数あります。例えばこんな感じです。

上記以外にも、メンズ・レディース・子供用のブランド福袋が多数用意されています。一部中身が見れるようになっているものもありますので、チェックしてみてくださいね。1月1日発送開始です。

ファッションブランド福袋売り場 
1月1日発売のファッションブランド福袋セール会場を見てみる!

 

初売りセールで楽しみな商品2:特選タイムセール

もちろん、通常開催されている月替りの「タイムセール祭り」や「サイバーマンデー」同様、目玉商品は期間中に日替わりで大幅値下げされるタイムセール商品です。すでにいくつか予告されているので、紹介してみますね。

パナソニック4Kテレビ

年末商戦では4Kを凌ぐ「8K」テレビが話題になっていました。既存の「4K」モデルは一斉に価格が下がり、かなり買いやすくなっていますね。初売りではどこまで下がるのか楽しみです。

NEOGEO本体+PADセット

NEOGEOの名作アーケードゲームを数十本セットにした本体とPADがセットになったAmazon限定モデルがクリスマスでもかなり売れていましたが、初売りでもセール対象に。

DELLゲーミングノートパソコン

セールの常連、DellからはゲーミングノートPCがセール対象になっています。通常は10万円以上する商品ですが、どこまで安くなるのか楽しみです。

日立冷蔵庫

日立だけでなく、シャープやアイリスオーヤマ、あるいは中華系メーカーも安くなりそう。白物家電は型落ちを安く購入するのがお得ですね。

アイリスオーヤマ 全自動洗濯機

毎回大型タイムセールでは様々な商品が値下げになるアイリスオーヤマからは、全自動洗濯機がセール対象として予告。その他にもAmazonの各カテゴリでベストセラーとなっている布団乾燥機シーリングライトふとんクリーナーなどもセール対象になりそうです。

GANRIVERスマートウォッチ

上記商品は、初売りセール前でも18,990円→4,199円とすでに78%OFFになっています!全般的にGanRiver製品はこの年末年始安くなっていますね

ヴェリタスシャンパン9本セット

楽天でも格安ですが、Amazonの大型タイムセールでも毎回定番となったヴェリタスのワインセット。寒い冬場はクール宅急便等の細かいケアも不要なので、送料無料となるAmazonでのまとめ買いがお得です!

サムソナイトスーツケース

サムソナイトの手頃なソフトケースが初売りセールに登場。初売りセール前でも、クーポンセール対象になっていたり、それなりに値引きされていますね。初売りでどこまで安くなるのか楽しみです。

その他にもまだまだ多数のセール対象商品が用意されています。初売りセール会場を覗いてみてくださいね。

2019年初売りセール会場はこちら 
2019年のAmazon初売りセール特設会場を見てみる!

 

年末年始はAmazonデバイスが大幅に安い!

Echo dot(~12月31日12時まで)

上位モデルが次々に登場する中、ベーシックモデルも改良を重ねすでに第3世代に。2018年10月末に登場した最新モデルが早くもセール対象となっています!

★年末年始セールでのお得なポイント★
▶値下価格5,980円3,240円(46%OFF)
12月31日12:00までのタイムセール
※2018年12月29日価格確認

 

Fire TV Stick

ネット配信動画をテレビで観るための便利ツールの決定版。一度導入すると、手放せなくなる、ワンタッチリモコンです。4K対応版の上位モデルが発売されたため、廉価版となる本品がセール価格となっています。

★年末年始セールでのお得なポイント★
▶値下価格4,980円3,980円(約20%OFF)
年末年始は1000円OFF!
※2018年12月29日価格確認

 

Kindle PaperWhite(第7世代)

★年末年始セールでのお得なポイント★
▶値下価格15,280円10,980円(28%OFF)
第8世代登場につき大幅値下げ!
※2018年12月29日価格確認

 

Kindle PaperWhite(マンガモデル)

Kindleでマンガを読む人専用に設計された、大容量32GBのKindle Paperwhite。なんと10,000円切り!僕の購入した2年前より格段に安くなっています!通常版より1,000円安いのは、画面に広告が挿入されるからですが、書籍の広告が中心なので本好きの人には全く気にならないレベルといえそうです。

★年末年始セールでのお得なポイント★
▶値下価格15,280円9,980円(35%OFF)
マンガ700冊分が保存できる大容量モデル!
※2018年12月29日価格確認

 

1月2日~1月4日の「初売りセール」では、上記以外のAmazonデバイスも大幅な値下げが期待できそうです。Amazon初売りセール特設会場をチェックしてみてくださいね。

待ちきれない方はこちらへ!
2019年のAmazon初売りセール特設会場を見てみる!

 

その他の年末年始セールを一挙紹介!

1月2日~4日の初売りセール以外にも、年末年始は沢山のセールが同時並行で開催されています。テーマ別に、様々な特集が設けられていますので、掘り出し物があれば、是非このセール期間中に押さえちゃいましょう!

年末の大クーポンセール

現在、全ジャンルで40,000点以上がレジで会計時にクーポンを使った割引対象の商品となっています!いくつか目についた商品を例にとって見てみますね。

★クーポンセールでのお得なポイント★
▶通常価格3,480円クーポンで20%OFF
ブラウンのエントリーモデル3シリーズ!
※2018年12月29日価格確認

 

★クーポンセールでのお得なポイント★
▶通常価格4,586円3,280円
3,280円からクーポンにて更に20%OFF!

※2018年12月29日価格確認

 

 

★クーポンセールでのお得なポイント★
▶通常価格84,464円74,464円(10,000円OFF)
レジにて会計時10,000円OFFクーポン使用可!
※2018年12月29日価格確認

 

それ以外にも、約40,000点もの対象商品が、クーポンを使用して大幅に値引きされます!下記のリンクから対象商品を探してみてくださいね。

年末の大クーポンセール会場はこちら!
40,000点以上の商品がクーポンを使って大幅値引きに!対象商品をチェックする!

 

年末ポイント還元セール(~12月31日)

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こちらは、商品を購入するとAmazonポイントで還元してくれるセールです。普段からAmazonを利用している方なら、実質上の値引きセールと同じですね。12月末まで、ベストセラー商品を中心に約850点がポイントセールの対象となっています。代表的なものを紹介しておきますね。

★ポイント還元セールの概要★
▶通常価格17,900円3,222ポイント還元
さらにレジにて2,000円OFFクーポン適用可!
※2018年12月29日価格確認

 

★ポイント還元セールの概要★
▶通常価格1,699円340ポイント還元!
AmazonベストセラーのAnker急速充電器!
※2018年12月29日価格確認

 

★ポイント還元セールの概要★
▶通常価格5,999円1,200ポイント還元!
ペンタブ部門ベストセラー商品!
※2018年12月29日価格確認

 

それ以外にも、★4つ以上の定番商品・ベストセラー商品を中心に、約850点がポイント還元対象セールに指定されています。中にはクーポン割引やタイムセール割引と合わせてセール対象になっている「隠れ」お得商品もありますので、探してみて下さい!

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ファッションウインターセール

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Amazonファッションより、冬の大型セールが開催中!年末年始の主なセールは以下のとおりとなっています。それぞれ、リンクをクリックすると各セールの専用ページに飛ぶことができます!

  ◯ウイング、セシールなどのレディースインナーウェアがお買い得 (12月31日まで)
◯セシール、ブロス、ベルーナなどのメンズインナーウェアがお買い得(12月31日まで)
◯セシールのストッキング、レギンスなどがお買い得(12月31日まで)
◯メンズスポーツシューズが30%以上OFFセール(12月31日まで)
◯レディーススポーツシューズが30%以上OFFセール(12月31日まで)
◯panhard冬物・メンズ セール(12月31日まで)
◯corisco冬物・メンズ セール(12月31日まで)
◯メンズ長袖ワイシャツがお買い得なセール(1月2日まで)
◯服、シューズ、バッグ、腕時計、ジュエリー15%OFFクーポンセール(1月6日まで)
◯ONE DAY KMC メンズジュエリーのセール(1月6日まで)
◯長財布、ウォレット、本革天然レザーなどのセール(1月8日まで)

上記以外にも割引対象セールが多数用意されています。下記リンクから、ファッションウインターセールのトップページに飛ぶことができます!  

ファッションウィンターセールはこちら!
Amazonファッションの「ファッションウインターセール」の特設会場を見てみる!

 

ドラッグストア年末年始大セール!

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年末年始の大掃除や生活消耗品の補充にぴったりの年末年始のドラッグストア大セールが開催中。定番の洗濯洗剤、台所洗剤、芳香剤・除湿剤他、マスク、温熱・冷却シート、サプリメント、大人用おむつ、介護用食品、サポーターなどあらゆる生活用品が幅広くクーポン適用でのセール対象に。代表的な商品を一部紹介します。

 

★ドラッグストアセールの概要★
▶通常価格2,857円レジにて20%OFFクーポン適用
※2018年12月29日価格確認

 

★ドラッグストアセールの概要★
▶通常価格4,642円レジにて30%OFFクーポン適用
※2018年12月29日価格確認

 

★ポイント還元セールの概要★
▶通常価格5,476円レジにて15%OFFクーポン適用
※2018年12月29日価格確認

 

その他にも、多数のセール対象商品が用意されています。下記リンクから探してみてくださいね。 

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在庫処分セール

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大きなセールと並行して開催される在庫処分セール。ジュエリーやファッション、おもちゃなど、商品の入れ替えに伴う旧モデル等の在庫を格安で販売する「在庫処分」セールの中には、とんでもないお宝も隠れています。是非探してみてくださいね。

いくつか紹介しておきますね。

★在庫処分セールのお得なポイント★
▶通常価格6,458円処分価格3,899円
2,559円OFF(40%OFF)
※2018年12月29日価格確認

 

★在庫処分セールのお得なポイント★
▶通常価格13,349円処分価格6,300円
7,049円OFF(53%OFF)
※2018年12月29日価格確認

 

★在庫処分セールのお得なポイント★
▶通常価格23,760円処分価格18,342円
5,418円OFF(23%OFF)
※2018年12月29日価格確認

 

それ以外にも、セール対象となっている商品は多数!在庫処分セールの特設会場トップページには、下記から飛ぶことができます。

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まとめ

いかがでしたでしょうか?ボーナス商戦が一段落した年末年始ですが、まだまだ通常期間よりも全体的に安い商品が沢山出ています。年末年始・正月はAmazonで思わぬお宝を探してみるのも面白いかもしれませんね!

Amazon初売りセール特設会場!
2019年のAmazon初売りセール特設会場を見てみる!

 

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2018年、見てよかった美術展・展覧会ベスト10まとめ!

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年もあっという間に年末となりました。2015年秋以来、どっぷりとアート鑑賞にはまって約3年が経過しましたが、今年もガッツリ展覧会に足を運びました!ちゃんと数えてはいませんが、恐らく2018年は、過去最高の200くらいは行けたのではないかと思います。

せっかくなので、昨年に引続き、2018年度展覧会ベスト10を選んでみたいと思います!それでは行ってみましょう。

10位:快慶・定慶展(東京国立博物館)

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2017年に東京国立博物館で開催された運慶展で、仏像の美しさや日本の古代・中世における彫刻芸術のレベルの高さに驚いた人は多いかと思います。運慶など「慶派仏師」の造ったハイレベルな仏像をもっと楽しみたい!という人にとって、続く2018年に東京国立博物館で開催された「快慶・定慶展」は、運慶展の「おかわり」「続編」的な位置づけとして、かなり楽しめたのではないでしょうか?

僕もこの展覧会は会期中3回足を運びましたが、メイン展示となった快慶「十大弟子立像」、定慶「六観音菩薩像」のすさまじい出来に圧倒されました。質実剛健で写実的な作風はもちろん、全体的に統一感を持たせながら、一つ一つの仏像を細部のパーツに至るまで細かく彫り分ける技術の確かさ。展示室内のライティングもいつもながら素晴らしく、広大な展示空間で荘厳に輝く仏像は特別なオーラを放っているようでした。

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六観音菩薩像(写真撮影OKだったのも太っ腹!)

ちなみにこの仏像群、普段は京都・千本釈迦堂(大報恩寺)の巨大な宝物館(霊宝殿)でいつでも気軽にチェックすることができるのです。

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大報恩寺(通称:千本釈迦堂)の参道

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千本釈迦堂の霊宝殿。入り口は狭いけど中は広い!

いつ行っても空いている穴場的なお寺ですが、応仁の乱でついたとされる刀傷なども残り、京都市内最古の木造建築として貴重な本堂を見たあとは、霊宝殿で「十大弟子立像」「六観音菩薩像」を独り占めできますよ!

9位:建築の日本展(森美術館)

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六本木・森美術館の広大な展示スペースを使って、模型や再現展示、映像インスタレーションなどを駆使して、古代から現代まで連綿と続く日本の名建築をビジュアル的にわかりやすく特集した建築展。

建築にこだわりのある一部のファンからは、「総花的・表層的」「日本凄い的な自己満足に終わっている」などと厳しい意見も見られましたが、建築初心者たる自分にとっては、建築の楽しさ、面白さを発見できた画期的な展覧会となったのでした。

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展示室内に再現された国宝茶室「待庵」
茶室の驚くほど狭いにじり口や室内を体験できました

千利休の国宝茶室「待庵」の再現展示を体験すると、茶室内のびっくりするほどの狭さに新鮮な驚きがありましたし、神話世界を体現したような出雲大社の再現模型、ディストピア的なメタボリズム建築のゾクゾクするような面白さ、巨大戦艦のような香川県庁、古代遺跡が現代にタイムトリップしてきたかのような名護市役所、不思議な二重らせん構造のさざえ堂、禅の世界を完全に体現したかのような鈴木大拙館など、日本建築の豊かなバリエーションに感動。

それ以来、旅行に出かけた際は美術館・博物館だけでなく「地方の名建築を観る」という楽しみも生まれたのです。藤森先生、「建築の日本展2」やってくれないかなぁ・・・

8位:ルーベンス展(国立西洋美術館)

西洋美術史に燦然と輝く17世紀の巨匠・ルーベンスですが、生涯において3,000点以上の作品を残している割には、日本では意外なほど存在感が薄いのですよね。(フランダースの犬で知ってる・・・程度/笑)各地の西洋美術をテーマとした常設展示でも、あまリ目立っていません。

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そんな中、日本国内で久々に開催されたルーベンスの大型企画展がほんとうに素晴らしいクオリティでした。ルーベンスの画業のルーツであるイタリアでの修行時代に着目しつつ、国立西洋美術館の高い天井を生かした巨大な宗教画・歴史画の数々は本当に素晴らしかった。これぞまさに「ザ・西洋絵画」というべきコテコテのバロック美術の神髄を味わえた展覧会でした。

ルーベンスが作品制作のインスピレーションを得たとされる彫刻なども合わせて展示されているのですが、これがまた普通に2000年前の作品だったりと、地味に展示のクオリティが高いのです。すでに3回観に行きましたが、仕上げに年明けもう1度行ってきます!

7位:プラド美術館展(国立西洋美術館)

国立西洋美術館で春期の目玉として開催されたプラド美術館展も良かった!何年かに1度、日本で定期的に開催されてきている「プラド美術館展」ですが、今回展は副題に「ベラスケスと絵画の栄光」と書かれているように、実質上「ベラスケス展」と言っても良かったかと思います。

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というのも、17世紀に爛熟期を迎えたスペイン美術の最高峰とされるベラスケスの作品が、過去最高となる7点も一挙に来日したからです。

階層や身分に関係なく、描く人物の一瞬の表情を捉え、内面性まで丸裸にした確かな観察眼や、重要性や遠近に応じて、印象派を先取りしたような大胆な粗いタッチを導入した大胆な筆さばきなど、ベラスケスの個性をしっかり堪能することができました。

また、ムリーリョやスルバランなど、同時代の巨匠たちの作品も合わせて堪能できた、スペイン絵画黄金時代の層の厚さも感じられる良い展覧会でした。特に印象的だった1枚が、ムリーリョの代表作の一つである「小鳥のいる聖家族」。

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イケメンすぎるヨセフ!
引用:Wikipediaより

通常、汚いハゲオヤジとしてぞんざいに描かれることの多いイエスの父、ヨセフが最高にイケメンな頼れる父親として、画面センターに主役として描かれていたことに衝撃を受けました(笑)

6位:縄文展(東京国立博物館)

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ここ数年の「縄文ブーム」の追い風に乗って、開催前から非常に期待されていた展覧会でした。フタを空けてみたら、国宝指定されている縄文時代の国宝5件全件を筆頭に、著名な土偶や縄文土器、勾玉、土製耳飾、尖頭器など、日本全国から縄文時代の歴史資料・出土品が集められた史上空前の「縄文」をテーマとした展覧会となりました。

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真っ赤な「縄文国宝室」に鎮座する国宝5点
展示の演出も秀逸で、「縄文国宝室」と名付けられた、「火炎」を想起させる真紅の展示スペースは圧巻でした。高貴さと激しさが同居する展示空間の中で、贅沢に並べられた国宝群を何度も堪能させてもらいました。

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山形県民の至宝「国宝・縄文の女神」
「縄文雪炎」と愛称がつけられた国宝・火焔型土器や、雲母片がキラキラ光り予想以上に高度な圧着技術を駆使して制作されていた国宝土偶「縄文のビーナス」、高さ45センチと日本最大の高さを誇る国宝土偶「縄文の女神」など、縄文時代における日本人の「美意識」をたっぷり味わうことができました。

5位:東山魁夷展(国立新美術館、京都国立近代美術館)

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「また東山魁夷か。」と最初は醒めて見ていたのですが、京都遠征をした日、「京のかたな展」を見終わったあと、ついでに夜間延長開館で入った京都国立近代美術館で展覧会を見て、自らの不明を恥じることに(汗)「京のかたな展」より全然いいじゃないかと(笑)

しばらくリニューアル工事で行き場のない唐招提寺障壁画全点を、美術館内に特別セットを組んで再現した展示は凄い見ごたえでした。また、代表作《道》《残照》などを含み、最初期から晩年の絶筆まで、もれなく代表作が揃っていた展示の充実ぶりも際立っていました。まさに生誕110年にふさわしい大回顧展と言ってよいかと思います。特に最晩年の幻想的で美しい風景画には心奪われましたね。

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気がついたら京都で1回、東京で2回と合計3回通いつめていましたが、いずれも驚いたのが物販コーナーの盛り上がり。高額なレプリカなどが飛ぶように売れてた(笑)人気が高いだけでなく東山魁夷展は「儲かる」展覧会だからこそ、毎年のように開催されるのだなと腑に落ちました。

4位:仁和寺展(東京国立博物館) 

空海にルーツを持つ真言密教系の大きなお寺は、美術品も多数所蔵していますが、本展では「仁和寺」や全国各地の「真言宗御室派」のお寺が保有する寺宝のもっとも美味しいところが東京国立博物館に大集結。

前期展示のハイライトだった空海「三十帖冊子」(国宝)全巻一挙展示では、レジェンド級の歴史資料と相対して心震えましたし、全期を通して観音堂に安置された33体の仏像が写真撮り放題&SNSアップし放題なのも良かったです。

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しかし一番心に残ったのは、2月14日から期間限定で展示された葛井寺の国宝「千手観音菩薩坐像」!奈良時代に制作された日本最古クラスの千手観音像ですが、腕がちゃんと1000本あるんです!

まさに古代の超絶技巧。約1300年間、火事や戦乱、天変地異をくぐり抜けて大切に守り抜かれてきた日本屈指の仏教彫刻を、トーハクが誇る最高のライティングでたっぷり味わうことができました。ちなみに、2月14日以降、仁和寺展はプチブーム状態に。連日大行列となり、最終日近くでは入場制限がかかり、待ち時間は最大70分を記録。入場者数は最終的に40万人を超える大盛況となったのでした。

3位:デザインあ展(日本科学未来館)

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デザインの魅力をわかりやすく紹介するNHK Eテレの人気教育系番組「デザインあ」のエッセンスを展示として紹介する「デザインあ」展。2013年の前回展が好評だったことを受け、2018年に富山・東京の2会場で開催されました。

展示内容は「楽しい!」の一言につきます。子供から大人まで、直感的にデザインの魅力や面白さに気づかせてくれるような「体験型展示」が満載でした。自分の手や体を動かしながら、 親子やカップルで肩肘張らず楽しめるだけでなく、全展示撮影OKだった各作品は、SNS映えする要素が抜群。

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Twitterやインスタグラムで拡散したこともあり、東京展では会期終了直前には最大6時間待ちとなるほど人気が爆発。楽しみながら「デザイン」「アート」を学べるという意味で、学びとエンタメ要素がよくバランスした素晴らしい展覧会でした。また数年後に第3弾を期待したいです。

2位:幕末狩野派展(静岡県立美術館)

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午前中、豊洲で買い物をして時間があまったので、急遽思い立ってネットで検索し、家族を強引につれてそのまま高速道路に乗って静岡へ(笑)全く予習なしで臨んだ展覧会だったのですが、これがものすごい大当たりだったのです。

室町時代~江戸時代まで約400年にわたって御用絵師として日本絵画を引っ張ってきた「狩野派」絵師たち。狩野探幽以後、江戸中期には作風が硬直化して停滞・マンネリに陥った狩野派ですが、江戸後期~幕末にかけて、伝統を受け継ぎつつも、粉本主義を脱して新境地を開拓する個性的な絵師たちを輩出します。本展は、幕末に最後のきらめきを見せる「狩野派」作家の作品約100点を大特集した展覧会で、見終わるまでたっぷり2時間30分かかりました。

中でも衝撃を受けたのが京狩野の狩野永岳。写実的で、狩野派代々の絵師の中でも随一と思えるほど徹底的に丁寧に描きこまれた作品からは鬼気迫るオーラが感じられました。

1位:横山華山展(東京ステーションギャラリー)

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そしてNo.1は江戸中期に活躍した横山華山。日本美術史の影に埋もれてしまった、知る人ぞ知る謎絵師的存在でしたが、展覧会が始まってみるとその確かな実力、ユーモアあふれる自由闊達な作風にびっくり。

岸駒やを師匠に持ち、曾我蕭白や呉春に私淑して様々な流派の画法を身に着けて腕を磨いた初期作品、数年がかりで取材し、山形の特産品「紅花」の栽培・加工・出荷過程を写実的に描いた《紅花屏風》、上下巻で約30mに達する《祇園祭礼絵巻》の一挙展示など、どれも見どころたっぷりでした。

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狩野一信、河鍋暁斎、月岡芳年、渡辺省亭、鈴木其一など、毎年のように次々と特集が組まれ、作家の再評価が進む日本美術ですが、横山華山も本展をきっかけにブレイクのきっかけをつかみそうですね。

その他、良かった展覧会

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それ以外にも、特に秋以降に見た展覧会の中に満足度の高い展覧会がありました。ベスト10外としましたが、以下の展覧会も素晴らしかったです。

ピエール・ボナール展
過去最高規模のボナール展。ナビ派時代の日本画的な構図、キャリア後期作品での色彩の美しさ、作品にさらっと込められた寓意性など、じわじわと面白さが身にしみる展覧会でした。3回足を運びました。

フェルメール展
フェルメールルームの贅沢さも素晴らしかったですが、風景画・風俗画・宗教画・肖像画など、オランダ絵画の豊かなバリエーションもしっかり味わえる展覧会。これまで2回行きましたが、会期終了まであと2~3回は観るつもり。もちろん大阪にも遠征します。

長谷川利行展
ガラガラで静まり返る福島県立美術館で、ほぼ独り占めするような贅沢な環境で観ました。極貧の中で心身共にボロボロになりつつも、絵を描くことにしか興味がなかった破天荒なキャラクターや、欧米の作家にも負けない圧倒的なオリジナリティはまさに天才作家としか言いようがありません。

池大雅展
変幻自在な筆さばきやいろいろな知識人たちとのコラボ作品も良かったし、池大雅の「書」の達人ぶりも楽しめました。もっと話題になっても良かった、非常に充実した展覧会だと思います。

1年間を通しての全体的な感想・総括

最後に1年間展覧会を観てきて気づいたことや感じたことを簡単にまとめておきたいと思います。

地方の美術館に掘り出し物が多かった

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山形美術館「吉野石膏コレクション」「長谷川コレクション」と二大コレクションが充実した常設展示は圧巻。

2016年、2017年は首都圏・関西圏の主要美術館で開催されるブロックバスター展ばかり目が行っていたのですが、今年は旅行に組み込む形で、秋田、山形、福島、茨城、静岡など、東北地方を中心に地方の美術館・博物館を精力的に回ってみました。

地方美術館では写真撮影がほぼ禁止なので、ブログ記事で紹介することが叶わなかったのですが、地方の美術館でも素晴らしい展覧会を沢山楽しめました。首都圏に巡回しないハイクオリティな企画展や、広い展示スペースを生かしたぜいたくな常設展なども多数ありました。

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郡山市立美術館「眼の人」展

たとえば、上記の展覧会。地元郡山市の歯科医、今泉亀撤の近現代美術コレクションを大特集した、郡山ならではの特色ある展覧会でした。

広報が機能しておらず集客が弱かったり、展示設備が老朽化していたりと課題があるミュージアムは多いですが、展示のクオリティは首都圏の大型美術館に全くひけをとらない素晴らしいものが多かったです。

せっかくブログをやっているわけですから、2019年は、お金と時間の許す限りもっと関東・関西以外の優れた展覧会や地域芸術祭を回り、アートファンの皆さんと鑑賞体験をシェアできればなぁと思います!

お寺や神社の宝物館も美術品の宝庫!

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興福寺は国宝館を2018年元旦にリニューアル。

以前からお寺や神社を訪問するのも好きだったのですが、2018年は有力な神社仏閣にお参りするだけでなく、併設の宝物館やミュージアムも積極的に回るようにしてみました。

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春日大社国宝殿。2017年にリニューアル。

興福寺の国宝館、東大寺の東大寺ミュージアム、中尊寺の讃衡蔵など色々行きましたが、どこも清潔で明るい館内にびっくり。音声ガイド、解説パネルも充実していて、国宝や重文級のお宝が専用ディスプレイで見やすく展示されていたりと、お寺や神社も最近は文化財の展示に力を入れてきているのだなと実感させられました。

年末年始休みや定休日がある美術館と違って、彼らは基本的に観光収入第一なので、年中無休で頑張ってくれているのも嬉しい(笑)一昔前まで、お寺の宝物殿といえば暗くてカビくさくて、隙間風が入り込んできて寒い・・・というイメージがありましたが、最近はかなり変わってきているようですね。

ギャラリーや小規模な展覧会はSNS映えが集客のカギ?!

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SNSで集客に大成功!加島美術「SEITEIリターンズ!!」

2018年、特に顕著に感じたのは、展覧会集客におけるSNSのパワーの強さです。会期当初はガラガラだったのに、会期終了直前には若い人を中心にとんでもない大行列になっていたケースをよく見かけましたし、自分自身もそうとは知らず会期終了直前に駆け込んで、SNS効果で人気化した展覧会の混雑によく巻き込まれてました(笑)

会期後半から盛り上がる展覧会の特徴としては、

・展示の中にエンタメ要素がある
・観るだけでなく、五感を使った体験型展示
・写真撮影&SNS掲載OKになっている

この3つの要素を満たしている時、InstagramやTwitter等で一気に拡散し、若い人を中心にどこからかともなくお客さんが押し寄せてくる「行列ができる展覧会」へと発展することが多かったように思います。

例えば、9月初旬~下旬にかけて3週間限定で開催された「世界を変えた書物展」。

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雰囲気抜群の展示空間がSNSで大爆発!「世界を変えた書物展」

展示内容は一見地味で、お客さんがパラパラ来たら良いほうかな・・・と予想していたのですが、展示に持ち込まれた稀覯本のレベルが予想外に素晴らしく、SNS映えする展示空間に、Twitter、Instagram等SNS経由で一気に火が付き、想定外に若い人が殺到。連日大入りとなったのでした。

単眼鏡普及が進むか?美術鑑賞専用モデルが出揃う

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ケンコーの美術鑑賞専用単眼鏡「galleryeye」

これまで「単眼鏡」といえば、コアな美術マニアのおじさんが屏風絵や陶磁器の前でおもむろに取り出し、作品を舐めるように見る・・・といったように、どちらかといえばマニアックなアイテムでした。

しかし、2018年にはビクセン、ケンコー・トキナーなど大手メーカーから10,000円を切る極軽・極小で高機能な美術鑑賞専用モデルが相次いで登場。

女性用の小さいハンドバッグにも楽々入るし、ほとんど重さも感じません。デザインも洗練されており、これなら買ってもいいかなと感じました。

実際、2018年は刀剣女子が使っているところを本当によく目撃しましたし、複数の展覧会で、ビクセンの単眼鏡が無料貸出されているシーンにも遭遇。まずはお客さんに使ってもらって、買ってもらうという、いわゆる「フリーミアム」戦略でしょうか。ビクセンは商売上手です(笑)

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泉屋博古館分館「神々のやどる器」展で無料貸出サービスが!

僕もこれを機会にケンコー・トキナーの6倍モデルを入手しました。少しずつ使い出していますが、やみつきになりそうです。

まとめ

振り返ってみると、今年は過去最高に色々な展覧会に行き、新しい作品との出会いやアートに対する学びが深まった1年でした。良いご縁に恵まれて、「週刊ニッポンの国宝100」や「INTOJAPAN」や「楽活」等各メディアでライターとしてお仕事もさせて頂けるようになりましたし、ムック本「フェルメール会議」でも原稿を沢山書かせていただきました。2019年も引続き、もっと学びを深め、アート鑑賞の面白さをどんどん発信できるようにしていきたいと思っています。

2018年、お世話になった皆様、本当にありがとうございました。
また来年もどうぞよろしくお願いします。

皆様、良い年末年始をお迎え下さい。
かるび

ムンク展の裏話や鑑賞のポイントが満載だった!銀座蔦屋のトークイベント「銀座美術夜話会」参加レポート

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かるび(@karub_imalive)です。

蔦屋銀座のアート書籍コーナーの一角で行われているトークイベント【銀座美術夜話会―第14話「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」開催×『いちばんやさしい美術鑑賞』刊行記念 ムンク展でひらく美術館のとびら! -美術館で絵画と共鳴する。】に行ってきました。

いよいよ1月20日に終了となるムンク展ですが、もっともっとムンクのことを深く知りたい!というアートファンのために、1月9日夜、アート鑑賞の達人・Takさん(アートブロガー)と、「ムンク展」を担当した東京都美術館の学芸員・小林明子さんの対談イベントが開催されました。

今回、主催者の許可を得て特別にイベントの写真を撮らせて頂くことができましたので、イベントでの写真を交えつつトーク内容をまとめてみたいと思います。

トークイベント「銀座美術夜話会」とは?

僕がこの銀座蔦屋のトークショーに参加したのは今回が2回目。前回参加したのは、サントリー美術館のコレクション図録発売を記念したトークイベントでした。

銀座蔦屋は日本屈指のアート系書籍が充実した書店。トークイベントも、アート書籍コーナーの空間を活用して、半透明のネットを張って仮設のトーク会場が設置されるのがなんとも味わい深いのです。

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アットホームなトークイベントコーナー

「蔦屋銀座夜話会」登壇者のお二人を紹介! 

東京都美術館学芸員・小林明子さん

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前任者とあわせて、足掛け6年かけて今回の「ムンク展」を主担当として準備してきた東京都美術館・学芸員の小林明子さん。今回のムンク展では、12月に放映されたBS日テレのアート番組「ぶらぶら美術・博物館」にも山田五郎さんなどと一緒に案内役として出演されていました。

たまたま僕は「ぶら美」をテレビで見ていたのですが、その時のお話の印象から、「この方はきっとトークショーで面白い話をしてくれるに違いない!」と確信。実際、整然と理知的な話の中にも適宜ユーモアを交えた語り口は抜群に聞きやすく、素晴らしいトークを聞かせていただきました。

青い日記帳・Takさん

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アートブロガーならもうご存知のブログ「青い日記帳」管理人のTakさん。昨年、ちくま書房から本格的な単著となる「いちばんやさしい美術鑑賞」を出版されるなど、ますます活躍に磨きがかかっています。

僕のブログでも、もう何回登場されているのかわからないくらいです(笑)昨年夏は、出版記念で2時間30分の長大インタビューもさせていただきました。 

今回のトークイベントでは、このお二人が登壇。「ムンク展」運営についての裏話や、「ムンク展」の見どころ、そして小林学芸員が担当する次の注目展覧会「クリムト展」(2019年4月23日~7月10日)についてたっぷりとお話を聞くことができました。

トークは、Takさんが進行役を担当しつつ、小林学芸員が展覧会の見どころや「裏話」を順番に説明する展開に。それに対してまたTakさんが感想やツッコミを入れる・・・といった展開で進んでいきました。休み明けで若干お客さんの入りはいつもより少なかったのですが、その分緊張感から解き放たれたTakさんのトークがノリノリ&キレキレでした。 

ムンク展をより楽しく鑑賞する7つのポイントとは?

トークでのメインコンテンツはムンク展の鑑賞ポイントについて。

ムンク展で展示されている主要な作品などがスライドで順番に投影され、登壇者の二人がそれを見ながらムンク展の「見どころ」や「魅力」を順番に解説してくれました。

興味深いトピックを色々聞けたのですが、その中でも僕の印象に残ったポイントを7つに絞ってまとめてみます。 

鑑賞ポイント1:オリジナリティあふれる「版画」制作

ムンクがまだ画家を志して自らの作風を模索していた時、キャリア飛躍のきっかけをつかむ突破口となったのが「版画制作」でした。

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たとえば、初期の代表作《病める子》は、よく見ると顔は丁寧に描かれているのに、周りには乱れを感じさせるような線があふれていて、モヤモヤと霞がかかったような感じで表現されています。意味不明なキズや、引っ掻き傷などもついていて、そういった「線」や「キズ」など、ムンク独自の表現が鑑賞者に「不安」を感じさせる要素になっているそうです。

また、キャリア中期では一つの作品を様々な媒体、表現方法で試す中で、積極的にリトグラフや木版画、銅版画など、版画によるバージョン違いを制作しているのもムンクの画業における特徴です。

多色刷りを効率よくこなすため、バラバラの版木をジグソーパズルのように組み合わせた独自の多色刷り木版画手法を自ら開発し、さらにはその「版木」をも個展で展示してしまうこだわりぶり。展覧会でも、実際の「版木」が作品と一緒に展示されているので是非注目して欲しいとのことでした。

鑑賞ポイント2:繰り返し好んで描いた「浜辺の女性」

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ムンクは、特に「海の風景」「森の風景」を好んで描いていますが、中でも生涯に渡って繰り返し描いたモチーフが、「浜辺に佇む女性」のいる風景。特にTakさんは晩年に描いた作品を見てグッときたそうです。

小林さんの解説によると、ムンクが付き合い、ファーストキスを経験した女性=人妻との甘美な逢瀬を重ねたのが浜辺の村だったため、その時の強烈な原体験が忘れられず、ムンクは何度も「浜辺の女性」を描くようになったのだそうです。

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浜辺の女性の絵には特徴的な「月光」が・・・

ちなみに、浜辺の女性と一緒によく描かれるのが、柱状にくっきりと描かれた、海面に反射する「月光」です。イメージとして単純化されていますが、これは「男性器」の象徴なのではないかという小林さんの鋭い解説。ムンクの作品に全体的に「性的」なイメージが漂うのも、この柱状の月光が大きく寄与しているのだそうです。いつも「柱状」でしっかり描かれるので、ムンクなりの重要な意味があったのは間違いないとのことです。

鑑賞ポイント3:定番の「叫び」について

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今回のムンク展に来日した「叫び」は、4つあるバージョンのうちの1つ。よく見ると、描かれた人物は耳を塞いでいます。決して叫んでいるわけではないのですね。(これは僕も当初見事に勘違いしてました・・・)

これはムンクが作品とともに残した言葉を読むとわかるのですが、絵の中に描かれている人物=ムンクは、自然を貫く叫びに不安や恐れを感じ取り、これに耐えきれず耳を塞いでいるのですね。

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「叫び」と同じような構図の作品が並んでいる

小林さんによると、この「叫び」の構図はムンクの中で完成されたものとなっているとのことでした。実際に《叫び》の横に展示された《絶望》を見てみると、《叫び》が恐怖や不安を外に発散しているのに対して、《絶望》は背景に背を向けていて、内向きに閉じたような構図で描かれています。対照的な2つの作品ですが、構図や背景がほぼ同一で、造形的に呼応しているのがよくわかります。

一方、Takさんは橋の欄干がきつい斜めのラインで表現され、極端な遠近法を使うことで不安を倍増させる効果を生み出しているとの指摘。また、画面に置かれた色彩の綺麗さも見どころの一つ。混ざっていない冴えた色をきれいに「面」で併置しているので、近くで見るとさえた色彩が感じられたのが大きな発見だったとのことでした。

鑑賞ポイント4:ムンクはゴッホに作風が似ている?

ムンクは修行時代に印象派的な作風を得意とした先輩画家から指導を受け、イタリア、ローマ、フィレンツェなどに渡って古典絵画を学んだとされます。「ラファエロから影響を受けた」との言葉も残っていますが、「どこが??」って感じですよね。

実際、イタリア・ルネサンス時代の美術を専門とする小林学芸員がプロの目から見ても、全く影響が感じられず、ムンクは自らの作風にゆるぎない確信があったのだろうとのことでした。むしろ、肖像画でニーチェなど同時代の文学者を好んで描いたように、ムンクはどちらかというと画家仲間よりも、思想学者や文学者から精神的な影響を受けていたそうです。

その中で、例外的に画家からの影響を指摘されているのが、「ムンクはゴッホの作風を真似している?」との指摘です。(※これは「ぶら美」でも山田五郎さん指摘されていましたね)当然Takさんはここに切り込んでいきます。

小林さんの解説によると、断定することはできないけれど、ヨーロッパ各地を渡り歩いて活動していたムンクは、同時代に少し先輩格として活動し、没後国民的画家として一気に評価が高まっていったゴッホを知っていて、その生き様や作風を意識して自らの作品に取り込んだのかもしれないとのこと。

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ゴッホの代表作《星月夜》と同名のタイトル

実際、ムンクの代表作の一つに、ゴッホと同じく《星月夜》というタイトルで描いた作品もありますし、オスロ大学の食堂のために描いた障壁画もゴッホに非常に作風が似ていますよね。

鑑賞ポイント5:肖像画にも見どころが一杯!

自画像だけでなく、ムンクは肖像画にも優れた作品が多数あります。小林学芸員の話によると、ムンクは普段お世話になった人を描いたり、普通に仕事として受注した肖像画の仕事をこなしていたとのこと

注目したい作品として小林学芸員とTakさんが挙げたのが、「マラーの死」。当時ムンクが深い仲になったトゥララーセンという女性から結婚を迫られ、それを断ったムンクと彼女の間でトラブルになった時、銃が暴発してムンクは左手の中指の第1関節から先を失う羽目になります。

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しかしムンクは、身の回りの出来事をなんでも絵画へと落とし込んでしまう人なのです。まさに炎上上等。ダヴィッドが描いた有名な「マラーの死」というタイトルの作品をモチーフにして、自分をそれになぞらえて、個人的な痴話喧嘩をヒロイックに描いてしまった作品が本作なのです。

「もし現代にムンクが生きていたらSNSなどで炎上するこじらせ系だったに違いない!」とのTakさんの鋭い指摘が印象的でした。

鑑賞ポイント6:「連作」を意識した作品制作・展示

ムンクは、生前自らの個展を開催した際に、「生命のフリーズ」など、意味的にも造形的にもつながりのある複数の作品を「連作」としてセットで一つの作品として展示することを好みました。

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また、様々なバージョン違いの作品を横に並べることで、作品が一緒に並んだときに縦の線や水平線を活かすような効果的な展示も試みています。

小林学芸員のお気に入りは、少しずつ背景や技法、色彩などを変えて制作した「吸血鬼」や「接吻」「マドンナ」シリーズが並んだ1Fの展示スペース。まとめて同じようなコンセプトの作品を観た時のリズム感や全体的な雰囲気なども楽しんで欲しいとのこと。

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また、Takさんが注目したのは地下1Fの「浜辺の女」だけがまとまって展示されたスペース。お客さんが素通りして見過ごしがちな展示ですが、「連作」的な作品のつながりを意識してみてみると違う鑑賞体験ができるので面白いとのことでした。

鑑賞ポイント7:こじらせた自画像も面白い!

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Takさんが再三「ムンクは相当なこじらせ系の人物だろう」と指摘する通り、その面倒な(?)性格は、生前いくつも手がけた「自画像」から隠しきれずにじみ出ていたりするのです。

たとえば、スペイン風邪にかかり、病み上がりの自分をわざわざ描いた自画像や、まだ写真フィルムが貴重だった当時に「自撮り」写真を残していたり。一連の「自画像」や「セルフィー」から、ムンク独特の「自意識」を感じてみるのも面白いかもしれませんね。

ムンク展についての裏話も?

また、トークイベントではムンク展の見どころだけでなく、企画段階での苦労話や裏話も合わせて披露されました。こちらも、いくつか紹介してみたいと思います。 

なぜこんなに予想外にお客さんが入ったのか?

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2018年秋~冬にかけて「フェルメール展」「ルーベンス展」「ムンク展」と上野公園の各美術館で同時期に開催されている巨匠たちの3つの展覧会。どれも好評ですが、フタを明けたら事前予想に反して、ムンク展がダントツで人気化。1月9日現在、すでに入場者は50万人を突破するなど、2015年のモネ展以来の超大入りとなっています。

この最大の原因としてTakさん、小林学芸員のお二人は、手数を尽くした入念なプロモーション活動をが奏功したのではないかと指摘。普段美術館のメイン客層である中高年だけでなく、若い人も多数来場してくれていることが、大成功につながったとのことです。

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個性的なグッズがSNSで話題を呼んだ

確かに、芸能人、文化人を多数起用した宣伝告知だけでなく、上野駅周辺にピカチュウとコラボしたバナーを置いたり、限定グッズを制作したりと、「ポケットモンスター」との大型コラボが大成功しています。また、カラムーチョとのタイアップなど、独創的なグッズ制作はSNS経由で口コミを呼んでいる印象があります。

自由なグッズ制作に寛容なムンク美術館

小林学芸員は、今回これだけ自由にグッズ制作やプロモーションが柔軟に打てた原因の一つとして、ムンク作品を所蔵するムンク美術館側が、企画にほとんどNGを出さなかったことが大きいと分析していました。

通常は作家のイメージ保護のため、斬新すぎるタイアップ企画は通りにくいはずなのですが、ムンクに関してはムンク美術館側がむしろ自由にタイアップ商品を作りまくっているのだそうです。

確かに、ネットで少しリサーチしてみると、ムンク美術館はわりと独創的なグッズが多そうな感じではありますね。小林さんの見方では、ムンクの作品のパワーに自信があるからこそできるのではないかとのことでした。

6年も前からスタートしていた展覧会企画

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ムンクの大回顧展の様子

展覧会の企画がスタートしたのは、小林学芸員が担当を引き継ぐ前の前任者が、6年前の2013年、生誕150年を記念してノルウェーの国立美術館で開催されたムンクの大規模回顧展を視察した時でした。実に6年前から展覧会の準備がスタートしていたのですね。

今回の東京都美術館での展示に派手な北欧風の壁紙が使われていたり、「浜辺の女」が一箇所に集められてランダムな感じで連作風に並べて展示されているのも、ノルウェーの国立美術館やムンク美術館での展示方法を参考にしているそうです。作品だけでなく、パーテーションや壁紙など、展示方法にも注目してみたいですね。

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意外にも80歳まで長生きし、大活躍したムンク

また、ムンクといえばとにかく「暗い」「気が滅入りそう」な鬱な感じの作家だと思われています。しかし実際はそうではなく、人間の内面を描きつつも、明るい作品から暗い作品までバラエティに富んだタイプの作品群を残し、80歳までしっかり大活躍した作家でした。

今回の展覧会では、人々が「叫び」を通してムンクに抱いていた先入観を解きほぐすためにも、できるだけニュートラルな感じで展示構成を考えたのだとか。このエントリでもたくさん紹介してきましたが、ぜひ、ムンクの「叫び」以外の作品もじっくり味わってみてくださいね。 

小林学芸員が担当する次の展覧会「クリムト展」は必見!

小林学芸員が次に担当する美術展が、2019年4月23日から東京都美術館で開催されるクリムト展。トークショーのラストでは、「クリムト展」の見どころについても紹介されました。Takさん曰く、世界中の美術館から24点もクリムトの作品を集めた本展は、間違いなく2019年最注目の展覧会の一つであろうとのこと。

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その目玉となるのが、チラシ画像にも選ばれたクリムトの代表作の一つである《ユディトⅠ》。以前1度だけ来日したことがあるそうですが、奇跡の再来日。

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小林学芸員が推すのは、《女の三世代》それぞれ世代の違う女性がキャンバスに3人描かれていますが、妊婦をしっかり描いた作品は珍しく、クリムトならではの斬新な試みといえそうです。

まとめと感想

あらためてトークイベントに参加して感じたのは、小林学芸員が強調するように、ムンクは感情の赴くまま、破滅的な人生観を持って刹那的に作品を作っていたわけではないということ。こじらせ型のややこしい性格であったことは確かですが、その一方で自分や状況を客観的に分析できる冷静さも持ち合わせていたのですね。

自分だけの画風を揺るぎなく確立する一方で、版画や写真など様々なメディアや表現手法を貪欲に探求し、どうすれば「売れる」のか考えて制作を続けていた戦略家でもあったのでした。トークイベントでは、展覧会での見どころや様々な作品の見方と同時に、こうしたムンクの人物像や制作スタイルについても深く学ぶことができたのが、非常に大きな収穫でした。

次にクリムト展でもひょっとしたら、このTakさん×小林学芸員の組み合わせでトークショーが実現するかもしれませんね。もし開催されたら絶対面白くなると思うので、ぜひ参加してみたいと思います!

それではまた。 

人気美術史家の鋭い審美眼!美術読み物「未来の国宝 MY国宝」【美術書レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

2017年9月~2018年9月にかけて、小学館から「週刊ニッポンの国宝100」という「国宝」をテーマとした分冊百科雑誌が発売されていました。2018年現在、日本国内には約1115件弱の「国宝」指定を受けている文化財がありますが、その中から週に2つずつ、50週の配本で合計100の国宝をビジュアル満載で紹介する分冊雑誌でした。 

「週刊ニッポンの国宝100」では、初心者でもわかるよう様々な角度から非常に優しく「国宝」について解説されていました。普段、分冊雑誌は買うのが面倒で数冊で投げてしまう僕に、50冊全て発売日に通読し、その後発売された3冊の総集編まで熟読させるなど、本当に素晴らしい内容でした。

その「週刊ニッポンの国宝100」には、毎回楽しみにしていた巻末のコラムがありました。それが、明治学院大学教授・山下裕二氏による「未来の国宝 MY国宝」というタイトルの連載です。

すでに分冊雑誌の配本中から、この連載がまとめられて1冊の単行本として出版される旨が予告されていたので楽しみにしていたのですが、2019年2月、予告どおり発売されました。早速入手して改めて通読してみたのですが、やはり山下先生の美術書は面白いです!

せっかくなので、読んでみた感想を簡単にブログにまとめておきたいと思います。

 「未来の国宝 MY国宝」とはどんな本なの?

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冒頭でも書きましたが、2019年2月現在、日本中に数多くある文化財の中で、最高峰のクオリティと認められ、「国宝」指定された作品はわずかに1115件しかありません。

文化財保護法第27条によると、

文部科学大臣は、重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる。

と定められています。

文化庁の文化審議会において、有識者達による毎月定例の会議を経て国宝に指定されている文化財は毎年少しずつ増えてはいますが、本来は「国宝」に指定されてもおかしくないくらいの潜在的な価値を持つ文化財はまだまだ沢山残っています。

そこで、この「週刊ニッポンの国宝100」では、日本美術史界におけるキーマンであり、かつエッセイや読み物の筆も立つ山下裕二氏が、

・将来の国宝候補となる作品(未来の国宝)
・個人的に国宝にしたい作品(MY国宝)

という2つの観点から50作品を選定。縄文土器から現代アートまで、絵画、彫刻、漆工など様々なカテゴリから毎回1作品ずつ取り上げて、作品の魅力やなぜこれが「国宝」であるべきなのか(あるいは国宝にしたいのか)、それぞれの作品に対する思い入れたっぷりにわかりやすく解説してくれました。それが、「週刊ニッポンの国宝100」での連載「未来の国宝 MY国宝」のコラム内容でした。

なぜ「未来の国宝 MY国宝」はオススメなのか?

プロの「鑑賞眼」で見た、本当に価値ある文化財が選定されている

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山下裕二氏は、まだ美術史学生だった時から「とにかく作品を見る」ということを最優先に取り組んできました。それ以降約40年間もの間、日課のように展覧会やギャラリーを回り、時には国外を含めた遠方への遠征もまったく厭わない一方、美術に関する高額でレアな資料や画集・図録類をちゅうちょせず購入するなど、日々の研鑽を通じて鑑賞スキルを磨いてきた方です。

そんなプロ中のプロが、将来の国宝候補として選びぬいた傑作がまとめて50作品、解説付きで誌上にて鑑賞できるのですから、非常に価値があるわけです。少なくとも、山下氏が40年かけて磨いてきた独自の「審美眼」を学ぶことができるのは、自分にとっては非常に価値のあることでした。

ストーリーテラーとしても優秀な山下裕二氏。読み応え抜群のコラム集!

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山下氏は講演などでも、ユーモアや裏話なども交えた軽妙なトークが本当に面白くためになる一方、ライターとしても非常に「読ませる」一流の書き手なのです。ちゃんと素人である我々一般の美術ファンが読んでも楽しめるように、わかりやすく噛み砕いて解説してくれているんですよね。

本作でもその「読みやすさ」は健在。

しかも「MY国宝」を語る時、ご自身の昔の経験談やエピソードを交えてしみじみ語る語り口が味わい深くてよいのです。また、時には美術界を取り巻く諸問題に対してウィットの効いた批判精神が披露されているのも、「山下節」の面白さの一つかもしれません。

では、実際にどのような作品が取り上げられているのでしょうか?本書に網羅された作品を、6つのタイプ別に分けて紹介してみたいと思います。

選定されている作品をコンセプト別に紹介!

タイプ1:埋もれた作家・忘れ去られた作品

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狩野一信《五百羅漢図》のページ

日本美術では、現役時代は実力が認められ第一線で活躍していたものの、亡くなってから時間が経過するとともに忘れ去られ、埋もれていった作家がまだまだ山程います。山下氏は、それまでほとんど注目されてこなかった作家に注目し、展覧会なども企画・監修を務められるなど、日本美術史における「埋もれたアーティストたち」の復権に大いに貢献しています。そして、「未来の国宝、MY国宝」でも何人かの「埋もれてしまったけれど、実力ある作家の代表作品」を取り上げ、熱く「MY国宝」として紹介されています。

タイプ2:現在進行形で名品が出てきている分野

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縄文土器について熱く語ったページ

ここ数年、発掘の進展や分析技術の進歩によって、縄文時代~古墳時代にかけての、日本古代での「考古学」分野についての研究が非常に進んできています。実際、縄文時代に関しては、「国宝」指定が相次いではじまったのも21世紀に入ってからのこと。

2018年の夏に東京国立博物館で開催された「縄文展」では面白い造形をした土偶や芸術センスあふれる縄文土器が多数出展されていましたが、山下氏もこの「縄文時代」に積極的に注目。いくつかの「深鉢形土器」を6つ目の「国宝候補」としてピックアップしています。

タイプ3:海外に流出してしまった国宝級の作品

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惜しくも海外流出した狩野山雪の”奇怪な”梅の絵《老梅図襖》

明治維新後、廃仏毀釈運動や西洋文化の流入によって、浮世絵や日本画などの美術作品はずいぶんと海外向けに売り立てられ、国外へと流出してしまいました。有力なコレクターが所蔵していたり、美術館に収蔵されたりと、海外へと持ち出された美術品の大半は現地で大切にされているようですが、でも肝心の日本で簡単に観られないのは惜しいですよね。

山下氏も日々の研究過程でずいぶん欧米のコレクターや美術館を回って流出した美術品の検証作業を行ってきていますが、本書でもその中から特に思い入れがあり、クオリティの高い作品がいくつかピックアップされています。もし万が一日本に戻ってくることがあれば、その時は「国宝」指定されるのかもしれないと思うとちょっとロマンがありますよね。

タイプ4:「新しい」という理由で国宝化されていない明治期の作品

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美術展などで国宝作品を意識的に見ていくようになると気づくのが、国宝に選定されている作品の選定基準の一つとして「古さ」が重要な指標になっているのではないかということです。例えば、絵画部門で見てみると、一番新しい国宝は、幕末に渡辺崋山の描いた自画像です。その後に制作された明治時代、大正時代の作品については「重要文化財」止まりであって、1件も国宝指定されていないのですね。

山下氏は、まさにこういった明治時代以降の画期的な作品を多数取り上げ、そろそろ国宝にしてみてはどうですか、と提案しているのです。

タイプ5:宮内庁が管理する「国宝制度」の埒外の作品

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伊藤若冲《動植綵絵》は三の丸尚蔵館が所蔵する作品

先日、宮内庁の所蔵品を管理する皇居内の「三の丸尚蔵館」で開催された明治工芸を特集する展覧会を見てきたのですが、展示作品はどれも最高峰のクオリティで目を見張るものがありました。しかし皇室の「御物」や、三の丸尚蔵館や正倉院、桂離宮、修学院離宮といった宮内庁が管理する建物や作品に関しては、現在の「文化財保護法」で定められた国宝制度の適用範囲外なのです。(厳密な規定はないけれど、戦前からの暗黙の不文律となっている)

その代表格が、今や日本美術の代表格として海外に紹介されることも増えた伊藤若冲の最高傑作「動植綵絵」シリーズです。画家修業を終え、本格的にオリジナリティを確立した若冲が、約10年かけて制作したとてつもない作品です。これこそまさに堂々と「国宝」と呼びたいものですよね。

連載時、山下氏がいつ「動植綵絵」を取り上げてくれるのかな~と思って楽しみにしていたのですが、やはりしっかり言及してくれたのでした。

タイプ6:山下氏の思い入れ1:奇想の系譜に連なる作家たち

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2016年末の回顧展で人気爆発!鈴木其一の代表作《夏秋渓流図屏風》

コラムのタイトルが「未来の国宝 MY国宝」とあるように、山下氏の特にお気に入りの作品も多数「MY国宝」としてコラム内で取り上げられました。ただし、40年以上にわたる研究歴の中で、作品を見続けてきた山下氏の確かな目が選んだ「MY国宝」なので、そのクオリティは折り紙付き。

そんな山下氏が特に思い入れが強いと見られるのが、山下氏の師・辻惟雄氏が激賞する「奇想の系譜」に連なる江戸時代の個性派絵師たちです。1970年に発売され、50年以上読みつがれてきた美術書のレジェンド「奇想の系譜」で取り上げられる前は、彼ら奇想絵師たちはみな、完全に歴史の谷間に埋もれていました。しかし、辻氏の粘り強い啓蒙活動や、それに続く山下氏の著述活動の中で取り上げられたことによって、現在の隆盛があるわけですね。

本書では、この江戸絵画の「奇想形絵師」の作品が全部で実に9作品(コラム含)も取り上げられています。

タイプ7:山下氏の思い入れ2:現代美術の作家たち

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「琳派」作品から本歌取りした日本美術のDNAを引く作品。会田誠《紐育空爆之図》

日本美術に深い造詣がある山下氏ですが、日本人の現代作家たちにも目線が行き届いています。2017年~2019年にかけて国内を巡回中の「ドラえもん展」でもキュレーションを担当されるなど、優れた現代アーティストの発掘にも余念がありません。本書で山下氏が取り上げた現代作家たちは、特に「未来の国宝・・・」というより「MY国宝」という側面が強く、古美術作品に比べると書き方がより「主観的」で、作品への惚れ込み方がよりわかりやすく反映されています。

将来、本当に「国宝」に格上げされるかも?!

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連載初回に掲載されたところ、2018年に見事国宝へと格上げされた《日月山水図屏風》

「未来の国宝 MY国宝」で山下氏が選んだ作品は、いずれも何らかの理由によって国宝に選定されていない名品ばかり。しかし、第1回の連載で取り上げられた江戸時代のデザインセンス溢れる名品「日月山水図屏風」が、2018年4月に実際に「国宝」指定を受けるというちょっとしたサプライズが。改めて、山下氏の選球眼の鋭さを証明する形になりました。

冒頭でも書きましたが、本書は特に「国宝」というキーワードにとらわれず、本当に優れた作品を日本美術の中から見つけ出すための「目」を養うために非常に役に立ちます。それぞれのコラムでは、山下氏がなぜその作品を「未来の国宝」または「MY国宝」に選んだのか、わかりやすく解説してくれています。

ぜひ、美術鑑賞の「目」を一歩深めるためにも同書を活用してみてください。もちろん僕もこの機会にしっかり読み直して、実際に美術館・博物館へと作品に会いに行きたいと思います!

それではまた。
かるび

関連情報

「未来の国宝 MY国宝」

「リアル書店で置いてない!」という声もちらほら聞こえてきますが、そういう場合はネット通販が頼もしい味方です。Amazon、楽天から購入できますので、こちらからぜひどうぞ。

奇想の系譜展で山下氏のキュレーションがたっぷり楽しめる!

山下裕二氏といえば、2019年2月9日~4月7日で東京都美術館で開催されている「奇想の系譜展」を監修しています。本書で「未来の国宝」として取り上げられた作品も、以下の5作品が出展されています。

・白隠《達磨像》
・曽我蕭白《群仙図屏風》
・岩佐又兵衛《山中常盤物語絵巻》
・鈴木其一《夏秋渓流図屏風》
・岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風・舟木本》(コラム)

僕も寄稿先の和樂Webマガジン「INTOJAPAN」でレビュー記事を書きました!もしよければこちらもチェックしてみてください!


代表作続々!奥村土牛展は傑作・名作が目白押しの特別展でした!【展覧会レポート・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

2019年は、広尾の丘の上に美術館が移転してちょうど10周年。山種美術館では、これを記念して年間を通じて「広尾開館10周年記念特別展」が開催されます。

その第一弾として開催されているのが、戦前~平成にかけて日本画壇で息の長い活躍をした巨匠・奥村土牛の画業を総覧できる「奥村土牛展」です。早速行ってきましたので、詳細なレポートをまとめました。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.なぜ山種美術館での「奥村土牛展」が見逃せないのか?

理由1:山種美術館は、奥村土牛の作品を135作品も所蔵している!

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非常に長命だった奥村土牛は、最晩年となる101歳まで絵筆をふるい続けましたが、山種美術館では初期~最晩年に至るまで、土牛の作品を135点も所蔵しているのです。

本展では、その中から、院展出品作や人気作品を中心に、特に選りすぐった作品・資料を65点展示。まさに質・量ともに奥村土牛のベスト・オブ・ベストといった感じのラインナップになっているのです。

理由2:勝負作である「院展」出品作品が35点も一挙展示されている

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奥村土牛《舞妓》

「新しい日本画を創造する」として明治31年、岡倉天心らによって創設され、横山大観、速水御舟、安田靫彦、小林古径ら綺羅星のごとくスター絵師達を排出してきた名門・日本美術院。その日本美術院で毎年秋に開催される「院展」は、多くの画家にとって毎年一番の自信作をお披露目する場でした。

奥村土牛も、キャリア中期頃から毎年秋の院展にて勝負作を発表していきますが、彼のキャリア半ば以降、「院展」出展作品はほぼ全て山種美術館に収蔵されています。そして、今回の「奥村土牛展」では美術館が所蔵する院展出展作品全35点が全点展示されているのです。

なぜそんなに「院展」に出品した作品を山種美術館がほぼ全部持っているのか、ギャラリートークにて特別研究員の三戸さんにお聞きしたところ、「院展に出展した作品は、その後ほぼ半自動的に山種美術館にて収蔵する、という約束が山崎種二と奥村土牛の間でなされていたのでしょうね。それは裏返すと彼ら二人の信頼関係が非常に強固なものだったともいえますね。」とのことでした。

2.奥村土牛とは?

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奥村土牛(展覧会場写真パネルから引用)

奥村土牛は超長命だった偉大な日本画家です。1889年(明治22年)に生まれ、101歳の天寿を全うするまで、ひたすら画業に打ち込んだ人生でした。

雅号である「土牛」を命名したのは実父。「土牛石田を耕す」という中国の唐時代の古い詩の一節にちなんで名付けられました。土牛はこの一節から『牛が石ころの多い荒れ地を根気よく耕し、やがては美田にかえるようたゆまず精進する』と心に決めて、絵の道に邁進したのですね。

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奥村土牛《犢(こうし)》

土牛は梶田半古門下生でした。そして、生涯「師」と仰いで敬愛したのは日本美術院で「院展三羽烏」と謳われた、兄弟子だった小林古径。展覧会を見ると、僕のような素人でも「この花瓶のかたち、古径そっくりじゃね・・・」とわかるほど、土牛は小林古径から多大な影響を受けています。

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奥村土牛《浄心》

例えばこちらの作品。敬愛する古径が亡くなったことをきっかけに取り組んだ中尊寺一字金輪坐像を描いた《浄心》。流れるような線描や寄り目の顔面は古径作品を彷彿とさせます。

しかし兄弟子の華々しい活躍とは裏腹に、土牛の日本画家としてのそのキャリアが花開いたのは遅く、彼が院展に初入選したのは1927年。38歳の時でした。もう軽くおっさんです。

しかし土牛はそこからが凄い。無名時代から山﨑種二の支援を受けられる幸運にも後押しされ、ひたすら画業に邁進してきた努力がとうとう身を結びます。円熟期を迎えた60代、《舞妓》《城》《那智》《鳴門》など傑作を連発。一番の代表作である《醍醐》は83歳の時に、《吉野》は88歳の時に描かれるなど、キャリア後期~晩年にかけて大ブレイクを果たしたのでした。

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奥村土牛《白寿記念》

今回の「奥村土牛展」では、白寿(99歳)を記念して企画された展覧会のために98歳の時に描かれた《山なみ》や自らしたためた墨書《白寿記念》を第二展示室で見ることができます。90代後半にしてまだこの画力をキープしているのかと、まさに「大器晩成」とは土牛のためにある言葉だなとしみじみ思い至らされました。 

3.展覧会での6つのオススメ鑑賞ポイントとは?

本展では最初から最後まで本当に見どころたっぷりで、大満足して帰ってきたのですが、特にその中でも、見逃したくない鑑賞ポイントをいくつか絞ってまとめてみます。

鑑賞ポイント1:定番の人気作品はほぼ全て登場!

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奥村土牛《鳴門》

前述したように、山種美術館では135作品もの土牛作品を所蔵しています。年間5~6回開催される企画展・特別展でも土牛作品は代表作を中心に頻繁に展示されています。(お客さんのリクエストも多いのだとか)

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奥村土牛《吉野》

今回の展覧会では、春を先取りできる《醍醐》《吉野》をはじめ、姫路城を個性的な視点で描いた《城》、リアルさと可愛らしさが絶妙のバランスで描かれた《舞妓》、下絵よりもぐっと進化した迫力の《鳴門》など、山種美術館が所蔵する土牛の人気作品がほぼ全部見ることができるのです。

鑑賞ポイント2:色とかたちで対象の「本質」を捉えるまなざし

丹念に土牛の作品を見ていくと、土牛が単純に「写実」一辺倒を目指していたわけではないのだな、ということは割とすぐに気づきます。たとえば花瓶やツボは不自然に曲がってますし(笑)

僕が最初に土牛が「写実」以外の別の何かを大切にしていたのだな、と気付かされたきっかけは、姫路城の天守閣を描いた《城》という作品でした。

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奥村土牛《城》

本作は姫路城の天守閣を下から見上げた時の印象を表現したものなんですが、なんだか遠近法が狂っていて、天守閣が大きすぎますよね。最初見た時は、恥ずかしながら「えっ、なにこれ。この作品のどこがいいの」と嘯いていたものです。正直同じ場所から写真で撮影したならば、こんな感じでは見えないはずです。

でも、実際にその後姫路城に行って、土牛が描いたであろう場所に立ってみて、姫路城の再下層部から天守閣を見上げた時に腑に落ちました。白亜に塗られた巨大な建物が迫りくる圧迫感や異物感。これを土牛は表現したかったのかと。

つまり、土牛は写真みたいに写実一辺倒を目指すのではなくて、描く対象物のエッセンスを強調して描くことに腐心していたんだということに気付かされたのです。

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奥村土牛《軍鶏》

動物もそうです。例えばこの「軍鶏」なども、鶏というよりも、馬や牛並みに強調され、不格好にも見えるほど大きく足腰が描かれています。軍鶏ってこんなに足太いのか?と思って、先日国立科学博物館で軍鶏の剥製を見てきたのですが、ここまで太くはありませんでした(笑)

このように、古径は見たものをそのまま写実的に描くのではなく、「色」や「かたち」を工夫することにより、ある意味写真以上に描く対象の本質を捉えようと努めていたのですね。実際、展覧会場の解説パネルには「修行時代、兄弟子の小林古径から作品集をもらって熟読し、セザンヌや後期印象派の印象を受けた」と書かれていました。 特にセザンヌの影響が強く出ている作品がこちら。

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奥村土牛《雪の山》

よーく近づいてみてみると、筆を置くタッチやストロークには、確かにセザンヌ的なリズム感が感じられます。写真だとどうしてもボケちゃう部分なので、ぜひ美術館で現物をかぶりつきでチェックしてみてください!

鑑賞ポイント3:動物たちがあざといくらいにかわいい!

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奥村土牛《春光》

土牛作品を丹念に見ていくと気づくのが、(《軍鶏》など一部の例外を除いて)動物たちに向けられた愛おしむようなまなざしです。鹿やウサギなどの草食動物を描く時、必要以上にかわいいのです(笑)

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奥村土牛《兎》部分拡大図

実際、土牛は動物を描く時「温かな情味が大切」と語っており、小動物たちの「可愛さ」に着目して、実物よりも愛くるしいフォルムになるように計算して描いている感じなんですよね。ぜひ、「眼」をはじめとした、動物たちの味わい深い表情に注目して見てください。

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ヤ◯ザの親分のような貫禄が!

ちなみに、こちらがグラサンをかけた円熟期の土牛先生。・・・。白黒写真からは、昭和の任侠団体トップのようなコワモテオーラが全開ですが、動物たちにそそぐ慈しむような眼差しは間違いなく本物なのです。

鑑賞ポイント4:写実的に描かれたリアルな植物 

とはいえ、土牛は画力に自信がなかったから写実的に描くことを避けていたわけではないんです。それがよく分かるのが、60代頃までのキャリア中期に描かれた写実的な植物画の作品群です。

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奥村土牛《花菖蒲》

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奥村土牛《花菖蒲》部分図

こちらの花菖蒲は、茎から下こそ尾形光琳の「燕子花図屏風」のような琳派的なデフォルメ感がありますが、花そのものは非常に精巧に描かれており、土牛の鋭い観察眼と高い写実力を示していると感じました。

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奥村土牛《ほゝづき》部分拡大図

さらにこちら。十八番の「たらしこみ」を縦横無尽に駆使し、熟れて色づくほおづきの葉の絶妙のグラデーション。まさに日本画を観る醍醐味をたっぷり味あわせて頂きました。

鑑賞ポイント5:下絵と実物を比べる楽しみ

本展では、《鳴門》《城》《那智》といった代表作については、下絵も一緒に展示されています。土牛は、作品制作に取り掛かる際、まず現地に何度も赴いてその場でスケッチを描いてから、それを元に作品制作に取り掛かることが多かったみたいです。

三戸特別研究員のギャラリートークでは、「作家によっては、下絵>>>作品となる残念なケースも結構あるけれど、土牛の場合は下絵よりも本作品のほうが断然良くなっていることが多いです」との解説があり、「どれどれ・・・」と見てみると、確かに!

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奥村土牛《那智瀧》(画稿)

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奥村土牛《那智》

これは凄い。下絵《那智瀧》自体も水彩画として素朴な良さが味わえますが、このスケッチを元に制作された作品《那智》は迫力満点の大パノラマ画面が楽しめる大作へと大化けしています。この下絵と本作品の違いを楽しむのも、豊富に土牛作品を収蔵する山種美術館ならではの展覧会の面白さだと思います。

鑑賞ポイント6:キャリア中期~晩年にかけて変化していく作風

本展は回顧展らしく、おおむね描かれた年代順に作品が並んでいます。展示室も折り返しを過ぎて後半に入って80代頃の作品から、徐々に作風に変化が見られるようになります。それがよく分かるのがこちらの作品《海》。

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奥村土牛《海》

画面からは余計なオブジェクトが消され、水平線一杯に広がる海と岸壁に打ち寄せる波が、清らかで温かみのある色調で描かれています。

たらしこみによるにじみの偶然性を画面内で最大限生かしつつ、従来より抽象性が増した画面を見ていると、老境を迎え、肩から余計な力が抜けて、より純粋に絵を描くことを楽しんでいるような土牛の心境が感じられました。

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しかも、画面をよく見ると、なにかマス目のような線が見えますよね。これは三戸特別研究員の解説によると、下地に「銀箔」を貼ってから、その上に描いているのだそうです。80代を過ぎてもなお、新しい表現に挑戦し続けていた土牛のチャレンジ精神がよくわかる作品でした。

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奥村土牛《富士宮の富士》

こちらは93歳の時の作品。空の水色や、たなびく雲を突き抜けて顔をだす富士山の清冽な「群青」には、まさに土牛の特徴がしっかり出ていますよね。横山大観の描く富士山と並べて鑑賞してみたいなぁと思いました。

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奥村土牛《山なみ》

そしてこちらが最晩年中の最晩年、土牛98歳の時に描かれた、富士山を想起させる山の風景。真っ白に雪をかぶり、空と山の境目に金色のオーラをまとう山は、「白寿」を目前に控えた土牛自身を表しているのでしょうか? 

ちなみに、本作制作時に「今までにやったことのないことをしているんです」と力強いコメントが残されています。まさに恐るべきチャレンジ精神。100歳を目前にして、なおも新境地を開拓しようと挑戦し続けていた土牛の情熱には頭が下がります。 

4.その他非常に良かった作品をピックアップ!

その他にも、沢山の作品に目を惹かれました。せっかくなのでもう少しだけ作品を紹介してみたいと思います。

白と灰色で表現された「雨」に注目したい《雨趣》

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奥村土牛《雨趣》

こちらは展示されている作品の中では最も古い作品の一つ。面白かったのが「雨」の表現です。写真ではよく見えないのですが、「白」と「灰色」の2色を使って表されているんです。これは珍しいなと・・・。初夏の昼時に、雨で煙るじとっとした空気感も非常に味わい深く、タイトル通り《雨趣》をたっぷり楽しめました。

精緻に描かれた枇杷とコケシのような少女の対比が面白い《枇杷と少女》

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奥村土牛《枇杷と少女》

この作品でまず目が行くのが、生い茂った枇杷の木のいきいきとした質感や、葉の一枚一枚やオレンジの実の質感まで細かく写実的に描かれた枇杷の木です。 

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奥村土牛《枇杷と少女》部分図

岩絵の具を盛り上げて立体的に表現された歯の表面に走る葉脈や、絵の具のグラデーションが美しい枇杷の実など、ほれぼれするような作品です。

しかし、その一方で、左下に描かれた所在なさ気な少女がまさに対比的で面白かったのです。

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奥村土牛《枇杷と少女》部分図

しかもこのおかっぱ頭の少女、美少女・・・というより、丸顔や顔にちょこんとついた各パーツを見ていると、まるでコケシのようです。コケシにじっとこっちを見られているような、そんな不思議な感覚が残る作品でした。

写実を極めた植物画の傑作《花》

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奥村土牛《花》

アサガオをはじめ、3種類の夏の草花を写実的に描いた作品。動物などはかなりデフォルメして描く事が多い土牛ですが、植物画(特に花の部分)では写実的な作品も多く、自分好みの作品がいくつもありました。本作はその中でも一番目を惹かれました。

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奥村土牛《花》部分拡大図

本作は、花弁だけでなく、花芯や弁ひとつひとつまで丁寧に描かれており、非常に気に入った作品の一つでした。疎開先の信州を引き払い、西永福に新居を構えた昭和26年の自庭を描いたものです。街中にはまだ戦災の爪痕が残る中、庭の片隅に見事に咲いた芙蓉・百合・朝顔を見て、嬉しくなって気合を入れて写生したのでしょうね。

入り口最初に掛けられた一番人気の《醍醐》

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奥村土牛《醍醐》

本作は2018年では「桜」をテーマとした企画展「桜 さくら SAKURA 2018」でも出展されていた、土牛作品の中で最も人気の高い作品の一つ。本展では展覧会場の入口部分に大きく展示されています。

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醍醐寺境内(2018年10月撮影)

昨年、ちょうど京都に遊びに行った時、この土牛の《醍醐》が描かれた醍醐寺に行ってみようと急遽思い立って行ってみた(京博から調子に乗ってタクシーに飛び乗ったら3500円もかかりました・・・OTL)のですが、行ってみたら現地には本当に土牛の描いたような情景が広がっていて感激でした。これぞ聖地巡礼の醍醐味。今度はぜひ桜の季節に再訪したいと思います。 

5.春を先取りできる華やかなグッズも注目

今回目立ったのは、土牛の描いた「桜」をモチーフとした、「春」を先取りできそうな華やかなグッズ類です。

たとえば、「醍醐」「吉野」をモチーフとしたグリーティングカード。部屋に飾れば室内がパッと明るくなりそう。

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もう少し本格的に飾りたい人のために《醍醐》については色紙も制作されています。

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また、今回展に合わせて制作された新作のハガキ《紅白梅》《早春》《枇杷と少女》《あけび》の4種類。いずれもかなり売れているようですよ。

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この写真を撮った時、「あれっ。なんだろうこれ・・・」と目が行ったのが、ハガキを自立させるために使われていた「マグネットカードスタンド」です。

これも実はグッズでした。

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使い方は簡単。マグネットカードスタンドの「花」と「茎」の間にハガキを挟むだけでOKです。磁力でハガキを固定してくれます。 

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これはなかなかいいですよね。カードをしっかり挟み込んで支えつつ、見た目も美しい優れものです。 

そして、今回展で制作されたオリジナルグッズでおすすめなのがこちら。祇園辻利とコラボして制作された「宇治茶 抹茶あられセット」です。中には、煎茶、ほうじ茶のティーバッグが2回分ずつ、6枚入りの抹茶あられが2箱入っています。

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こんな感じでコンパクトな箱に入っていますので、自宅で使うだけでなくちょっとした贈り物にぴったりですよね。

また、展覧会に出品された土牛作品にちなんだ、青山の和菓子匠「菊家」とのコラボ和菓子もいつものように5種類ちゃんと用意されています。

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「Cafe椿」の店員さんに聞いてみたのですが、これらの和菓子は賞味期限が短めなので、営業日はほぼ毎朝軽トラでフレッシュな状態の商品が山種美術館に必要な分だけ届くのだそうです。(週1くらいで入荷して、あとは冷蔵庫に入れておくのかと思ってました・・・)だからお土産用の「持ち帰り」もOKになっているのですね。新鮮なできたての和菓子、本当においしいのでおすすめです。

6.混雑状況と所要時間目安

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ここまで2回足を運びましたが、いずれも快適に観ることができました。山種美術館の場合、お客さんに主婦層が多いのか、日中は混雑していても閉館前は他館よりも顕著にお客さんがスーッと引いて行く傾向にあるので、じっくり空間を独り占めしたいなら15時30分以降がおすすめ。

特に16時30分を過ぎてからの閉館30分前は、静かに作品に向き合いたい人にはパラダイスのような空間となります(笑)ぜひ、来館時間に一工夫して快適な鑑賞を楽しんでみてください!

7.まとめ

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奥村土牛《あけび》部分図

その名の通り「牛」のような確実な歩みで、遅咲きながら息の長い活躍で日本美術史に足跡を残した巨匠・奥村土牛。

兄弟子・小林古径から受け継いだしなやかな線描、絵の具のにじみの偶然性を活用した「たらしこみ」の趣ある風情、明るく穏やかな色使い、動植物に対する慈愛あふれるまなざしなど、バラエティに富んだ作品群で奥村土牛の個性をたっぷり感じられる素晴らしい展覧会でした。

個人的には上半期ベスト10に入るかな。オススメなのでぜひ足を運んでみてください!

それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

◯展覧会名
【山種美術館 広尾開館10周年記念特別展】
生誕130年記念 奥村土牛
◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
開催中~3月31日(日)
*会期中、一部展示替えあり
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
◯公式HP
◯公式Twitter

巨匠のレア作品をかぶりつきで!加島美術「バック・トゥ・ザ・江戸絵画」が日本美術ファンにオススメ!

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かるび(@karub_imalive)です。

日本美術の展覧会ってなんとなく地味で難しそうなタイトルが多いですよね。偉い先生が監修して、関係者の利害調整をこなしながら作品を集めたり、ターゲットとなる観覧者の客層を考えたりすることを考えると、地味なタイトルに落ち着いてしまうのも仕方がないのかもしれません。

しかし、そんな旧態依然とした日本美術界に風穴を開けるような面白いタイトルの展覧会が東京・京橋の画廊「加島美術」で始まりました。題して「バック・トゥ・ザ江戸絵画」

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チラシのデザインも含め、明らかに例のハリウッド映画からパク・・いや、オマージュとしてコンセプトを借りてきているのですが、考え抜かれた展示空間の演出も含めて、お客さんに少しでも画廊に入ってもらう敷居を下げようと努力されている姿勢、いつもながら素晴らしいなと思いました。

もちろん、集客に向けた斬新な取り組みだけでなく、展示作品の内容も充実。現在、東京都美術館でも盛り上がっている「奇想の系譜展」でも特集されている伊藤若冲、長沢芦雪、白隠慧鶴ら「奇想系絵師」を中心に、まだ【美術館には入っていない】巨匠たちの優れた作品を見ることができます。

素晴らしい展覧会だったので、撮影NGだったのですがその場で広報の方にお願いして、取材許可を頂いて展覧会の雰囲気をカメラに収めてまいりました!さっそく雰囲気をご紹介したいと思います。

「バック・トゥ・ザ・江戸絵画」ってどんな展覧会なの?

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タイトルの通り、加島美術に足を踏み入れたお客さんが、江戸時代の約300年前にタイムスリップして江戸絵画の世界をたっぷり味わえるような展覧会です。

特集されている江戸絵画は、辻惟雄氏が名著「奇想の系譜」で取り上げた江戸時代に活躍した「奇想系絵師」たちや、同時代に活躍した巨匠たちの作品群。

入口をすぐの1Fでは、伊藤若冲曽我蕭白円山応挙の作品がお出迎えしてくれます。2Fに上がると、長沢芦雪白隠慧鶴の作品を中心に、林十江岩佐又兵衛鈴木其一の作品なども味わうことができました。

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面白いのはその展示空間。いつもの「美祭」や2019年1月から始まった「廻」などの入札会とは違い、黒一色で宇宙空間をイメージさせるような間仕切りや、特集された絵師の名前と生まれた年がカッコよく英語で表記されている工夫も。(終わったあと剥がすのが大変そうだと仰ってました/笑)

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ぜひ、その展示空間も含めて江戸時代にタイムスリップしたような鑑賞体験を味わってみてください。

ドク役のクリストファー・ロイドさんもサプライズ訪問?!

面白いことに、この展覧会企画がプレスリリースされたばかりの2018年12月、ちょうど別件で来日中だったクリストファー・ロイド氏が、サプライズで加島画廊を訪問してくれたそうなんです。

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これは仕込みでも何でもなくて、本当にガチの僥倖だったようなんです。そんなこともあるんですね。自分が展覧会企画担当だったらうれしかっただろうなぁ~。

ちなみに、ロイドさんが来廊してくれた時、その時刷り上がっていたチラシに記念にサインをもらったそうなんですが、そんな時に限って「白系」のマジックがないという(笑)

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画廊内にロイドさんのサインも展示されていますが、同系色のマジックでサインしてもらったため、サインがあんまり目立っていません。でも、そういったバタバタ感もまた、ロイドさんの来訪が本当にサプライズだったんだなぁと思わせるものがありました。いいなぁ~としみじみ。

見どころ1:ガラスケースは一切なし!至近距離で楽しめる!

繊細な作品が多い日本美術の展覧会では、基本的に「単眼鏡」や「双眼鏡」が手放せないですよね。ですが、加島美術では未だに単眼鏡を使ったことがありません。なぜなら、使う必要がないから。加島美術での展示はほぼ全点ガラスケースなしの「裸展示」で、至近距離までガッツリ寄って鑑賞することができるからなんです。

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伊藤若冲《雙鶏図》部分図/若冲の十八番、薄墨での「筋目描き」も至近距離でバッチリ!

今回なら、伊藤若冲の「筋目描き」、長沢芦雪の「つけたて」、岩佐又兵衛の「上品な線描」など、巨匠たちの卓越した描画技術をしっかり確認させていただくことができました!

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林十江《虎独風直図》部分図/37歳で夭逝した幻の画家、林十江の勢いある独特の描線も至近距離でバッチリ堪能!

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円山応挙《雪柳狗子図》部分図/300年前も大人気だった?!応挙のコロコロしたかわいい「犬」もありました!

見どころ2:美術館には出ていない、巨匠のレア作品がたっぷり!

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伊藤若冲《雙鶏図》/本展最高額となる作品。価格は来廊してのお楽しみ!

加島美術で展示されている作品は、基本的に「売られているもの」なので、個人蔵の作品ばかり。ほとんどの作品が、過去に美術展で出品されたことがないか、あっても1~2回といったレベルなので、目の肥えた上級者であっても初めて目にする作品ばかりのはずなんです。美術館では普段観られない巨匠たちの作品群を味わえるレアな機会でもあるんですよね!

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長沢芦雪《雪中胡人狩猟図》/岩肌や雪の質感、とぼけた表情の人物など、芦雪らしさが感じられる作品です。これは意外にも安くお買い得でした。

見どころ3:相場観がわかる楽しみもあるし、作品の購入も可能!

かなりカジュアルな企画展といっても、加島美術は日本美術の有力な画廊でもあります。企画展として一般客を楽しませてくれる一方で、購入しよう!という本気のお客さんとはその場で商談も可能。当然、すべての展示品のキャプションには、作品名と一緒に購入希望価格が記載されています。

今回は、かなり高額品ばかりなのでブログでの値札の掲載は自粛しておきますが、来廊してそれぞれの価格感を観るのも、加島美術ならではの楽しみ。

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画像・右の応挙の屏風絵《山水図》は意外に価格が抑え目。画像左端のかわいい犬の作品より安いのです。

たとえば、大きめの屏風絵よりも、出来の良いコンパクトな花鳥画のほうが価格が上だったりするのは現代の日本の住環境事情を反映していて興味深いです。要するに、屏風絵はでかいんだけど、家に入らないので買い手を選ぶ分割安になりがちだってことなんですよね。このあたりの相場事情は美術館で見ているだけじゃ絶対わからないですからね。

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白隠慧鶴《鐵棒画賛》/地獄の鬼が持つ「鉄棒」を描いた作品。白隠らしい謎掛けが効いたゆるい禅画は近年外国人に大人気なのだとか。

今回非常に驚いたのが、ゆるーく描いたように見える白隠慧鶴の禅画に高級車1台分くらいの価格がついていたこと。広報の後藤さん曰く、「白隠は、最近フランスなど外国で人気化してきているんです。海外のコレクターはお金あるし、相場も上がってきているんです」とのこと。

あれっ、ということは、ここで誰かが買わないと国外に流出してしまうのでは?!(笑)そのあたりの事情も含めて、画廊のスタッフさんに作品の来歴や、価格感の理由なども聞いてみましょう。わりと気さくに教えてくれたりしますよ。

工夫されたミニカタログも秀逸。親しみやすい

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そして受付で販売されているカタログ(≒ミニ図録)を見てみると、こちらも非常に凝った作りになっています。

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ドクらしきシルエットが優しく解説してくれます(笑)

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金子学芸員のコラムも掲載!

現在府中市美術館で好評開催中の展覧会「へそまがり日本美術」を企画した、金子信久先生のコラムも読めます。ぜひ、見終わったら、お土産に購入して持ち帰ってみてくださいね。

まとめ!期間が短いのでお見逃しなく!

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鈴木其一《立雛図》(部分図)

価格的には正直一介のブロガー/ライターにすぎない自分には今のところ(いまのところ、ね!)手が出ない高額作品が多かったですが、単眼鏡なしでガッツリ展覧会未公開作品ばかりを見ることができるのはすごく良かったです!

ちなみに、加島美術は「画廊」なので、展覧会とはいえ本気で商談に臨む人には、思わぬ作品がバックヤードから出てくる展開もあるかも(笑)僕も取材のラストにご褒美(?)として、撮影NGですがすんごいお宝をチラッと見せてもらいました。そんなお宝発掘感も含めて、「日本美術」の一種の春のお祭りとしてすごく楽しい企画展なので、ぜひ足を運んでみてください!会期、かなり短めなのでお早めに!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

加島美術「バック・トゥ・ザ・江戸絵画」

◯美術館・所在地
加島美術

〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2
◯最寄り駅
・東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分
・東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7から徒歩約2分
・都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から徒歩約5分
・JR東京駅八重洲南口から徒歩6分
◯会期・開館時間
2019年3月21日(祝)~3月31日(日)
10時00分~18時00分
◯休館日
なし(会期中無休)
◯入館料
無料!
◯加島美術公式HP
https://www.kashima-arts.co.jp/

◯Twitter
https://twitter.com/Kashima_Arts

【レポート】抱腹絶倒のトークショー『杉全美帆子×青い日記帳:旧約聖書がわかると、絵画鑑賞が俄然楽しくなる!』【感想レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

西洋美術の展覧会に行くと、いつもなんとなくモヤーっとするのが、聖書や神話のいち場面を描いたとされるシーンの解釈です。キャプションを見て、「ふむふむなるほど」と一端は納得はするものの、再び顔を上げて絵画を見直してみると、なんとなく没入しきれず、消化不良な感じが残った経験ってないでしょうか?

特に、その中でも最難関なのが「旧約聖書」の世界です。同書は、キリスト生誕以前の、神とイスラエルの民の間で紡がれたストーリーで、ローカルな地域史が描かれているのですが、歴代の巨匠たちによって非常に多くのシーンが描かれてきました。しかし、よほど世界史を熱心に学んでいる人は別として、古代のイスラエル人の歴史は日本人に縁遠い世界の話です。たとえば、西洋絵画を見始めた初心者のうちは、「ダヴィデとゴリアテ」とか「ユディト」とか言われてもサッパリ感情移入できないですよね?!

しかし、そんな「旧約聖書」アレルギーを断ち切る時がやってきました!

その決定版となる初心者向けの入門書が、今回紹介させて頂く杉全美帆子(すぎまたみほこ)さんの6冊目となる新著「イラストで読む旧約聖書の物語と絵画」です。

実は今回、その新著「イラストで読む旧約聖書の物語と絵画」の出版を記念して、3月21日に東京・下北沢の本屋B&Bにて、記念トークイベント『杉全美帆子×青い日記帳 「旧約聖書がわかると、絵画鑑賞が俄然楽しくなる!」』が開催されたので、参加させて頂きました。書籍同様、非常に内容も面白く、あっという間の90分でした。

非常に面白いトークイベントでしたので、当日の会場の様子も含め、イベント内容を簡単にレポートしてみたいと思います!

※会場内は主催者の許可を得て撮影しています。

トークイベントの会場は本好きの聖地「本屋B&B」

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トークイベントの会場となったのは、初めて行く下北沢の本屋さん「本屋B&B」。場所を調べるため事前にホームページを確認してみたら、毎日のように店舗内でトークイベントを実施している、知る人ぞ知る本好きの聖地みたいになっている書店なのですね。

会場は下北沢から徒歩3分程度の好立地。本屋さんは地下にあって、いかにも秘密基地みたいな雰囲気が漂っています。

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20分前に入ってみると、すでに会場はお客さんで一杯。普段は40~50名程度集まるところ、今回のトークイベントは約80名と超満員札止めとなったそうです。本日の対談相手、中村剛士さん(Takさん)と杉全美帆子さんの人気の高さが伺い知れました。

トークイベントの主役を紹介!

さて、そんなトークイベントでの主役となったのはこの二人です。

杉全美帆子さん

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本日の主役が、新著「イラストで読む 旧約聖書の物語と絵画」を書いた杉全美帆子(すぎまたみほこ)さんです。注目したいのはその異色の経歴。

女子美術大学を卒業後、一旦は広告代理店にてグラフィック・デザイナーとして6年間勤務するも、その後思い立ってフィレンツェへ渡航。イタリアで美術史、修復、銅版画を学び、帰国後2010年1月から「イラストで読む 美術」シリーズの刊行をスタート。新刊も含めると、これまで既刊6冊を刊行するなど、精力的な執筆活動をされています。

また、杉全さんが手がけるのは文章だけではありません。テーマの選定、資料収集、構成、イラスト、文章、デザインレイアウトまで、ほぼ全ての作業をご自身でこなされるというマルチクリエイターなのです。この「イラストで読む 美術」シリーズの制作秘話は、ご自身のブログ「杉全美帆子のイラストで読む美術シリーズ製作日誌」でたっぷりと読むことができます。

会場には、旦那さんと二人のお子さんも来場されていました。ご年齢も家族構成も僕と結構似ているので、個人的に非常に親近感を感じました。

「青い日記帳」主宰・Takさん

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意外なことに、実は今回トークイベントは初めてだった杉全さん。一人でトークイベントを行うのはちょっと・・・ということで、杉全さんから対談相手としてご指名が入ったのが、アートブロガーの第一人者、ブログ「青い日記帳」を主宰するTakさんでした。

2018年はムック本「フェルメール会議」、新書「いちばんやさしい美術鑑賞」、ガイドブック「カフェのある美術館 感動の余韻を楽しむ」など、ご自身が執筆・監修された書籍が3冊も刊行されるなど、今やアート業界を盛り上げる「顔」の一人にもなりつつある活躍ぶり。対談でも絶妙のトーク力で会場を盛り上げてくれました!

トークイベントで取り上げられた本「イラストで読む」シリーズとは?

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「イラストで読む美術」シリーズは、日本人には馴染みの薄いキリスト教やギリシャ神話などをテーマとした西洋絵画を読み解くための、西洋美術に関するテーマ別のガイドブックです。その一番の特徴は、杉全さんによる独自のイラストによって徹底的にわかりやすく解説されていることです。

たとえば、新著「イラストで読む 旧約聖書の物語と絵画」を読んでみましょう。初心者でも直感的にわかるよう、各ページには手書きのイラストが満載。面白く読めるよう要約された旧約聖書のストーリーを追いながら、同時に西洋美術史の巨匠が手がけた名画に描かれたシーンを解説付きで楽しむことができます。

トークショーでは、本書でも取り上げられた旧約聖書のストーリーをいくつか抜粋しながら、旧約聖書を面白く読み進めるためのコツや西洋絵画の着目点について、杉全さんとTakさんが非常に面白く語ってくれました。その一部を紹介してみたいと思います。

旧約聖書を楽しく読み解く重要ポイント

旧約聖書は、現在世界人口の約半数が信じている3つの宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)が共通のベースとしている伝承です。「聖書」といっても、意外なことにその内容は、神の教え・・・といった感じの宗教性が強いものではありません。紀元前2000年くらいから始まるイスラエル人の約1500年間にわたる歴史が記された歴史書に近い書物です。

その内容は極めて人間臭く、イスラエル人の王族を中心として人間の喜怒哀楽が詰まった一種の大河ドラマみたいなものなのです。トークイベントでは、旧約聖書に数多く書かれた有名なエピソードの中から、初心者でも親しみやすい切り口で、名画を紹介しながらいくつかのエピソードが解説されました。その中から、特に印象に残った、面白かったエピソードを紹介してみたいと思います。

ポイント1:塩柱にされたロトの妻を探せ!

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イスラエルを建国したアブラハムの甥・ロトは、ソドムの街に定住していたが、神の使いは人心が荒廃していたソドムとゴモラの街を焼き滅ぼすと決断。ロトは家族を伴って業火に焼かれる街から避難したが、その際、神の使いから「決して後ろを振り返ってはいけません」と告げられるが、その禁を破って後ろを振り向いたロトの妻は、神の使いによって「塩柱」にされてしまいます。

この「ソドムとゴモラ」のシーンは過去何度となく西洋絵画に描かれてきましたが、杉全さんは、このエピソードを描いた西洋絵画には、必ず「塩柱」がどこかに描かれていると指摘。

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歴史画・宗教画はその場面を象徴・暗示するような図像を読み解くことで、画家がどんな出来事のどの場面を描こうとしていたのかがわかるようになっているのですね。

スライドを見ていくと、確かにどれも際どく、ほんの小さな痕跡ですがちゃんと「塩柱」(にされたロトの妻)が描かれていました。場面を読み解く重要な手がかりの一つが「塩柱」っていうのはちょっと意外でした。誰も西洋絵画を楽しむときに「塩柱」を血眼になって探している人なんていないですからね(笑)

ポイント2:お爺さんを誘惑する娘たち

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生き残ったロトと娘2人は山中で避難生活を送りますが、そこでは娘たちの子種を残してくれそうな若い男性は見当たりません。そこで、子孫が絶えてしまうことを危惧した娘二人は、身近な男性として「父」から子種をもらうことを決意。あの手この手で誘惑して、父と交わろうとします。

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しかしこれ、考えてみれば、みんなが読む「聖書」なのに、すごい話ですよね。現代においても文化の違いを越えて普遍的にタブーとされる近親相姦が、ここでは堂々と描かれているのです。なんだか非常に背徳的な香りがする話ですが、「聖書」に書いてあるからOKになっちゃうのでしょうか(笑)こんなにも際どい話なのに、非常に多数の西洋絵画で「名シーン」として描かれ続けているのも面白いなーと思いました。

ポイント3:ヌードを描きたい作家が好んだエピソード

西洋絵画の歴代の巨匠たちの大半は男性です。そして、男性ならやはり「ヌード」の女性を描いてみたいもの。しかし現代とは違い、昔の巨匠たちはただ単に「ヌード」を脈絡なく描いてしまえば、非難されたり投獄されたりいろいろ不都合なことがありました。そこで、裸体画を正当化するために「これは聖書の文脈に沿って描いた宗教画・歴史画ですよ」という必要があったのですね。

そんな時好都合だったエピソードが「旧約聖書」の外伝にあたる「ダニエル書」に描かれた「スザンナの水浴」というストーリー。水浴をしていたスザンナを覗き見していた裁判官二人が、スザンナを脅して手篭めにしようとする話です。

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このエピソードは、まさに裸になっている女性を描くには非常に好都合な場面ですよね。芸術家たちも「水浴をするスザンヌを盗み見るオッサン二人」という構図さえ守れば、大手を振ってヌードを描けました。

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スライドで実際の絵画を見ていくと、お約束であるオッサン二人はできるだけ小さく、目立たないところに排除されていて、画家たちは明らかに女性のヌードの美しさにしか興味がないことがわかります。ヌードは気合を入れて描いているのに、オッサン二人はかわいそうに隅っこで暗いところに追いやられています(笑)

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できれば女性のヌードだけを「純粋に」描きたい巨匠たち。でも世間への配慮も考慮に入れると、作品を「歴史画」として正当化するため「不純物」を描きこまなければならない。そのせめぎあいの中で葛藤しつつも、でもやっぱりヌードをしっかり描きたい・・・ヌード一つからも、そんな当時の巨匠作家たちの当世職業事情があったのだと楽しく学べました。

ポイント4:覗き見する情けないダビデ、そしてやっぱりヌードが描きたい巨匠

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ダヴィデ像って有名ですよね。ミケランジェロの作った超有名な彫刻作品のおかげで、旧約聖書は知らなくても、ダビデの名前は知っている人が多いかと思います(僕もそのうちのひとり)

このダビデ王、確かに旧約聖書においても天性の指導者として、イスラエルの全盛期を支えた偉大なる王の一人であったと描かれています。

しかしそんなダビデ王の弱点は、臣下ウリヤの妻、バト・シェバとの不倫問題でした。(そんな下世話な話が普通に聖書に収録されているのも凄いんですが・・・)ある日、バト・シェバが宮殿の屋上で水浴びをしているところを目撃したダビデは、バト・シェバに一目惚れしてしまいます。バト・シェバに理性を狂わされたダビデはその夫・ウリヤを謀殺するなど非常な悪虐な行為に及ぶのですが、西洋絵画のオールド・マスターが着目したのは「悪い堕落した英雄ダビデ」・・・ではなく、「ヌードの題材」としてのバト・シェバだったのです(笑)

トークイベントで披露されたのはバト・シェバの裸身を描いた数々の堂々たるヌード絵画。でも、それだけじゃいろいろと不味いので、歴史画であることをわからせるため、ダビデが画面のどこかに描かれるのですが、どれも物凄く小さい(笑)

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たとえ建国の英雄であっても、ハッキリ言ってこの絵には「いらないヤツ」なんですね。そして、描かれている姿も遠目から覗き見している姿ばかりで、ハッキリいってキモいストーカーにしか見えません(笑)

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そして、究極なのがこちら。画面のどこにもダビデが見当たりません(笑)それもそのはず。いっそのこと開き直ったのか、この作品はPOVゲームのようにダビデの一人称視点で描かれていたんですね(笑)

ポイント5:旧約聖書は映画でマスター!

そして、トークイベントのラストでオススメされたのが、旧約聖書をはじめとした西洋絵画は「映画」で見ると理解が進む!ということ。映画好きな僕としては「わかるわかる」とすごく共感できたのですが、面白かったのが、着目すべき俳優を挙げてくださったこと。

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チャールトン・ヘストン
Wikipediaより引用

それは、キリストの生誕・受難・奇跡を描いた「ベン・ハー」(1960)でアカデミー主演男優賞を獲得した名俳優チャールトン・ヘストンです。杉全さんのオススメポイントは、「汚くて、ワイルドで、イケメン」。まさにホコリまみれ、砂まみれの地で活躍したユダヤの人物たちを描くにはぴったりかも。

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確かにこの人、聖書や歴史上の人物を多数演じているんですよね。「ベン・ハー」ではユダヤの青年を、「十戒」(1959)ではモーゼ役、「偉大な生涯の物語」(1965)では洗礼者ヨハネ役、「華麗なる激情」(1965)ではミケランジェロ役、「ジュリアス・シーザー」(1970)「アントニーとクレオパトラ」(1972)ではマルクス・アントニウス役と、西洋絵画で描かれる重要人物を次々と演じています。

西洋絵画に関連した映画を見るなら、まずはチャールトン・ヘストンの作品を見ろ!というオススメ、しっかり肝に命じました!まだ一つも見ていなかったので、これから急いでチェックしてみたいと思います!

まとめ

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いかがでしたでしょうか?僕もアート好きになってから書店や美術館で開催されるトークショーや講演など数多く参加してきましたが、中でも今回の杉全さんとTakさんのトークイベントは抜群に面白かったです。

トークイベントを開催されるのは今回が初めてだったとは思えないトークの充実ぶりでした。

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お客さんの満足度も非常に高く、トークイベントが終わった後、河出書房新社の編集・竹下さんが持ち込んだ著作は、過去作も含めほぼ完売。終了後のサイン会も長蛇の列ができていました。

残念ながらトークショーに参加できなかった方は、ぜひ一度杉全さんの書籍を読んでみてください!「旧約聖書」「ルネサンスの巨匠たち」などそれぞれのテーマに沿って書かれたイラスト満載の入門書は、上級者でも意外に知らなかったことが書かれていたりと、情報量も豊富です。僕もこれを機に、既刊も含めて全冊購入する予定です!

それではまた。
かるび

参考:杉全美帆子さんの書籍「イラストで読むシリーズ」

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トークイベントで取り上げられた杉全さんの最新作「イラストで読む旧約聖書の物語と絵画」はアート鑑賞初心者はもちろん、中~上級者でも満足できるよう情報密度も高く、素晴らしい本でした。(実際2019年3月23日現在、Amazonで旧約聖書関連の書籍ではベストセラーになっています)

 

旧約聖書のストーリーを、イラストと名画で楽しく学ぶガイドブック。名画の見どころや魅力についてもたっぷり解説!

それ以外にも、「イラストで読む美術」シリーズとして、2012年からすでに5冊もの既刊が発売されています。既刊を探したい人は、下記リンクからチェックしてみてくださいね。

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杉全美帆子さんの著作一覧 
杉全美帆子さんの「イラストで読む美術」シリーズの過去作をAmazonで見てみる!

 

参考:杉全さんオススメのチャールトン・ヘストン出演の映画 

1.「ベン・ハー」(1960)

チャールトン・ヘストンが見事アカデミー主演男優賞に輝いた、ハリウッド映画史上の金字塔的作品!キリストの誕生~受難、死による奇跡を描いています。

2.「十戒」(1959)

モーゼ役で出演。海が割れます!

3.「偉大な生涯の物語」(1965)

洗礼者ヨハネ役で出演。

4.「ジュリアス・シーザー」(1970)

シーザー・・・ではなく、マルクス・アントニウス役で出演。

5.「アントニーとクレオパトラ」(1972)

またまたマルクス・アントニウス役で出演。前作よりたった2年後だけどいいの?って感じですよね(笑)

以上、5作品の紹介でした!

参考:Takさんの書籍「いちばんやさしい美術鑑賞」もおすすめ!

こちらが、杉全さんの聞き手を勤めたアートブロガー・Takさんが2018年にちくま新書から出版した初心者向けの美術鑑賞入門書。徹底した鑑賞者目線での「アートを楽しむノウハウ」が紹介されています。

 「いちばんやさしい美術鑑賞」
初心者でもわかりやすく書かれた美術鑑賞入門の決定版。情報量も非常に多く詰まった、何度も読み返して学べる良書です。

また、当ブログでも過去にいくつかTakさんの「いちばんやさしい美術鑑賞」関連のエントリやロングインタビューをアップしています。もしよろしければ、こちらも読んでみてくださいね。

こちらが、読後の感想レポートです。

山種美術館「花*Flower*華」展(2019)感想レポート:めいこいとの初コラボが予想外の盛り上がり!

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かるび(@karub_imalive)です。

日本画の展覧会って、美術鑑賞を始めたばっかりの人にとっては、どうしてもどこかとっつきにくい感じのイメージがありますよね。ほぼ白黒の画面に、難しそうな中国語がばばーっと書かれていて、山の中で老人たちがダラダラしているような感じの絵が頭に思い浮かんでしまって「なんかよくわからないや」って感じてしまう人も多いかも知れません。

しかし、日本画の中にも、印象派の絵のように、直感的に心の赴くままにゆったり見て楽しめるジャンルがあります。それが、「花」をテーマに描かれた作品群です。

4月6日から山種美術館ではじまった「花・Flower・華」展は、タイトルの通り、春夏秋冬のそれぞれの季節の花が描かれた作品を大特集した展覧会。詳しい予備知識や描いた画家のことを知らなくても十分楽しめる、非常に敷居の低い展覧会です。

すでに始まってから2回観てきたのですが、内覧会取材時に撮らせていただいた写真を中心に、みどころを紹介してみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.「花・Flower・華」展とは

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2017年に続いて、2回目の開催!

本展の正式なタイトル名は、【山種美術館 広尾開館10周年記念特別展】「花*Flower*華ー四季を彩るー」。改めて本展のコンセプトを紹介しておくと、タイトルにある通り、順路に沿って春~夏~秋~冬と季節を一巡りしながら、作品の中に描かれた四季織々の花々を愛でることができる展覧会です。

山種美術館では、毎年春になると、ほぼ毎年「花」か「桜」をテーマにした展覧会が開催されてきましたが、展覧会名に「花・Flower・華」というタイトルがつけられたのは、2017年に引き続いて2回目ですね。

ゲーム「めいこい」とのコラボ

2回目に訪問して気づいたのですが、今回の展覧会はいつもと客層がちょっと違います!山種美術館のメイン客層である40~60代女性だけでなく、10代~20代の若い女性の姿が非常に目立つんです。母娘ペアで来ている2人組も多いですね。

なぜか・・・というと、実は今回、山種美術館としては開館以来初めてとなる、ゲーム・アニメとの本格的なコラボ企画が開催されているからなのです。そのタイトルとは、「明治東亰恋伽」(略称:めいこい)

主人公の女の子が明治時代にタイムスリップして、文豪や画家といったイケメン一流文化人たちと恋愛を楽しむという、いわゆる腐女子向け(?)ゲーム/アニメです。2019年1月~3月期の冬アニメで放送されたばかりということもあり、タイアップとしてはまさにベストタイミング。

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めいこい缶バッジ。大人買いするハードコアなファン続出とのこと!

内覧会で美術館の方から聞いた話によると、1個500円(税別)となる展覧会限定缶バッジが、展覧会初日だけで2000個売れたとのこと。オタクパワー半端ないです・・・

「刀剣乱舞」をきっかけに、専門家顔負けのガチの刀剣マニアへとレベルアップした若い女性の刀剣ファンが多数出現したように、「めいこい」をきっかけとして、一人でも多くの若い人たちが新たに日本美術を好きになってくれるといいなと思います!

2.展覧会の5つの見どころを紹介!

さて、一口に花をテーマに描いた作品といっても、静物画、花鳥画、屏風絵、絵巻物、美人画と種類は多岐にわたります。ここでは、本展で特に見逃したくない作品や面白いなと思ったポイントを、「みどころ」としていくつかまとめておきますね。

みどころ1:画家の個性を見比べる楽しみ

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本展で出品されている作品は、全56件。横山大観や菱田春草、小林古径といった院展系の作家を中心に、巨匠たちが技法や表現に工夫を凝らして花々を美しく描き出しています。季節ごと、花の種類ごとに近い位置に展示されているので、同じ種類の花が描かれた作品を見比べてみるのも面白いかもしれません。

特に今回「桜」については、多数の作品が出品されているので、まずはこちらをじっくり比較してみることにしましょう。

巨匠たちの「桜」を見比べるf:id:hisatsugu79:20190420144347j:plain

さて問題です。上記の絵の中で、横山大観が描いた桜はどれでしょうか?
・・・

・・・

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・・・

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・・・

・・・

・・・

・・・

答えは、左下の桜です!熱心な日本画マニアなら、ひと目見て「これ!」ってわかった方もいらっしゃるかもしれませんね(笑)

ちなみに、その他の作品はこんな感じ。

左上:菱田春草《桜下美人図》
右上:小林古径《桜花》
左下:横山大観《山桜》
右下:渡辺省亭《桜に雀》
(※全て部分図、山種美術館蔵)

こうして見ていただくとわかりますが、同じ「桜」を見ていても、作家によって表現方法は千差万別。見比べてみると、個性がハッキリ感じられると思います。

たとえば、横山大観はヤマザクラの葉を「金泥」で描き、大気を桜色に染めるひねった趣向を見せていますし、菱田春草が描く桜は雪の結晶のように五角形で真っ白に描かれていたりします。

そして、こういった巨匠の作品を見たあとに、最後にぜひ現代作家・石田武さんの作品をチェックしてみてください。

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左:小林古径《桜花》山種美術館蔵
右:石田武《吉野》山種美術館蔵

圧倒的な写実性の中にもそこはかとない叙情性が漂う、山種美術館で特に人気が高い作品です。圧巻のソメイヨシノ。本作が描かれた奈良・吉野に行くとこの絵の構図とほぼ同じ光景を見ることができるポイントがあるそうです。雄大な景色ですよね。

みどころ2:鳥や昆虫たちに注目してみる

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小林古径《白華小禽》部分図 山種美術館蔵

日本画で画面の中に描かれた美しい花々のそばには昆虫や鳥などの小動物たちがセットで描かれていることが多いです。絵画の内側へ入り込むことができない私たち鑑賞者の代わりに、思う存分美しい花々を楽しんでいる小動物たちの姿を見ていると、なんだかうらやましくなってきますよね。こちらも、「桜」同様に、巨匠たちによって描き方は千差万別。リアルに描かれたものから、コミカルにかわいらしくデフォルメされたものまで、色々楽しむことができます。

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省亭の描く小動物は、人間のような表情が印象的!
渡辺省亭《桜に雀》部分図 山種美術館蔵

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丸々と太ったかわいい小鳥も!
竹内栖鳳《梅園》部分図 山種美術館蔵

本展でも、それぞれの作品の中には蝶やハチといった昆虫から、鳥やネズミ、犬などが描かれています。えっ、鳥はみつけたけど、ネズミとか犬とかそんなの描かれてたっけって?・・・あるんですそれが!

見つかるまでぜひ何度でも足を運んでみてくださいね?!

隠れキャラその1:こまねずみf:id:hisatsugu79:20190420145224j:plain
誰の作品か、答えは山種美術館で!
????《????》

隠れキャラその2:犬f:id:hisatsugu79:20190420145310j:plain
誰の作品か、答えは山種美術館で!
????《????》

みどころ3:日本画家の描く花瓶はなぜか「曲がっている」?!

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小林古径《鉢花》部分図  山種美術館蔵

これ、みどころというよりは、誰も言わないのでここで敢えて書くのですが(笑)、小林古径を筆頭として、特に院展系の作家が描く花瓶やうつわって、いつも微妙にゆがんでませんか(笑)

ちゃんと比較したわけではないのですが、ゆがみ率No.1はたぶん小林古径小倉遊亀!そこそこ曲がってるのが、前田青邨、安田靫彦、奥村土牛、山口蓬春あたりでしょうか。思い起こすと、山種美術館でこれまで数々「花」と一緒に多数目にしてきた花瓶やうつわは、だいたい曲がっていたような気がします(笑)

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山口蓬春《唐壺芍薬》部分図 山種美術館蔵

本展で出品されているいくつかの絵でも、器が不自然なほど歪んで描かれている作品があります!なぜ、巨匠たちは花瓶をわざわざ曲げて描くのか?!一体最初に曲げて描いたのは誰なのか?

美しい花々を見ながら、どうにもこの疑問が頭から離れませんでした(笑)だれか教えてください!

みどころ4:百花繚乱!山種美術館の意外な代表作を見逃すな!

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小茂田青樹《四季草花画巻》山種美術館蔵

展示後半に差し掛かると、「特集1 花のユートピア」というコーナーで、ひときわ描かれた花々の密度が濃い作品群が集められていますが、本展のハイライトとなるのがこちらのコーナー。

特に見ておきたい2作品が、こちら。まずは、荒木十畝《四季花鳥》です。

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荒木十畝《四季花鳥》山種美術館蔵

どうですかこの4枚ずらっと描かれた草花の密度。日本画らしい目に優しめの淡い色使いで統一された画面は、写実的というよりは、琳派のようなデザイン的なイメージが強めです。どことなく、ナビ派のボナールの初期作品やミュシャといった西洋絵画の香りもちょっと漂っていますよね。

正直なところ「鳥」を描かせたら帝室技芸員だったお父さん、荒木寛畝のほうが上手な気もします。ただ、この人の描く花鳥画は、どれを見ても非常に空間密度が濃くて、画面を埋め尽くす草花は、まさに「百花繚乱」といった華やかさに溢れています。

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田能村直入《百花》部分図 山種美術館蔵

つづいて絶対見ておきたいのが、田能村直入《百花》です。こちらは一種の植物図巻のような巻き物状になっており、タイトルどおり100種類の四季の花が高密度で写実的に描かれています。

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田能村直入《百花》部分図 山種美術館蔵

この人は名前が示すとおり江戸時代の文人画の名手・田能村竹田の弟子で、明治時代を通して晩期の文人画を支えた巨匠でした。ためしにネットで調べてみると、この絵の他に検索でひっかかるのは、玄人受けしそうな、白黒で表現された激シブの文人画スタイルの作品ばかり。山種美術館が所蔵する本作だけ、突然変異したかのように飛び抜けて明るくて華やかな作品に仕上がっているのです。

「備忘録のために作った」などと言い訳のような款記が絵の隅っこに書かれているのですが、本当はもっとこういう派手な作品もおおっぴらに描いてみたかったのではないだろうかと思いながら楽しく鑑賞させて頂きました。まさに直入の渾身の代表作です。

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田能村直入《百花》と荒木十畝《四季花鳥》があしらわれた数々のグッズ類

これら2つの作品は、絵葉書やマスキングテープ、メモ帳、クリアファイルなど、豊富にグッズが用意されているので、何か購入してみて、改めて自宅でゆっくり楽しむのも風流でいいですね。

 みどころ5:見逃したくない傑作!

4つ目はみどころというより、今回僕が特に「これは絶対オススメ!」と感じた作品をいくつかピックアップしておきますね。

まず最初にオススメなのは、奥田元宋が奥入瀬での初夏の新緑を描いた大作。

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奥田元宋《奥入瀬(春)》個人蔵

展示室奥の壁一面を使った巨大な横長の作品ですが、まずこの絵の前に立ってみてください。鬱蒼と茂った奥入瀬の森の奥で、水しぶきを上げて右から左へと流れていく濁流を見ていると、奥入瀬渓流の水の音がリアルに聞こえてくるような錯覚を覚えます。

よーく見てみると、鬱蒼と茂った森林のあちこちに金泥がさりげなく塗られ、森の奥に太陽の光が差し込んでいる様子が表現されているんです。画面全体がなんとなく明るく感じるのは、木々や下草の緑のグラデーションの効果だけでなく、大画面の中にさりげなくこういった小技も利かされているからなんですね。

ちなみに、この作品には、対となっている、同じサイズで奥入瀬の「秋」を描いた作品があります。こちらも人気作なので、近い将来展示される機会もあるかもしれません。

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2018年夏に山種美術館にて開催された企画展「水を描く」より
奥田元宋《奥入瀬(秋)》山種美術館蔵

つづいて、入り口に近い場所にある渡辺省亭《牡丹に蝶図》が激おすすめ。

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渡辺省亭《牡丹に蝶図》個人蔵

本作は、近年よく展覧会に出品されるようになりました。今回で観たのが3回目なのですが、3回目にしてようやく本作の面白さに気づきました。それは、本作が「時間の経過」や「アニメーション的な動き」を感じさせる作品だということです。

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渡辺省亭《牡丹に蝶図》部分図 個人蔵

画面左側にはわざわざ花びらが落ちて枯れてしまった牡丹の花が描きこまれているのですが、よく見てみると、花びらや種が、パラパラマンガのようにこぼれ落ちる様子が連続的に描かれているんです。

また、それだけではなく、本作はピンク色に満開になった大輪もあれば、まだ開花前のつぼみのもの、そして上記のように朽ちて枯れてしまった花まで、まるで生命の一生や循環を感じさせるように、一つの画面の中に全ての状態の花が描かれているんですね。「四季山水図」や「四季耕作図」といった屏風絵の大作ならともかく、こうした通常サイズの花鳥画において、さりげなく生命の循環を感じさせる壮大な主題が織り込まれている深いテーマ性に足が釘付けになってしまいました。ぜひ、足を止めてじっくりチェックしてみてくださいね。

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肉筆浮世絵風の美人が、花の名所「御殿山」で桜を愛でる図。
渡辺省亭《御殿山観花図》部分図 個人蔵

最後におすすめしたいのは、第二展示室の「美人画」作品の数々です。伊東深水、渡辺省亭、菱田春草、上村松園らが描いた美人画は、それぞれタイプは違うけれど、どれも味わい深くて素晴らしいのです。特に、上村松園の描いたタイプの違う2つの美人画がおすすめです。

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上村松園《春芳》山種美術館蔵

3.華やかなグッズ!

作品を楽しんだら、次はミュージアムショップでお土産を是非チェックしてみてください。今回は、上記に書いたとおり田能村直入《百花》と荒木十畝《四季花鳥》があしらわれた作品が多数登場。ここでは、いわゆるマスキングテープ、メモ帳、クリアファイル、ポストカードといった定番商品以外のところから、面白かったグッズを紹介します。

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荒木十畝《四季花鳥》にちなんだ「しおり」

これは読書が捗りそうなゴージャスな栞ですね。春夏秋冬と全ての季節が揃っているので、1年を通して衣替えしながら楽しめます。

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オリジナル文香。財布やカバンの中に入れて気軽に「四季」の香りを楽しめます。

火をつけるタイプではなく、袋の中に匂いの元が封入されているタイプ。財布や小物入れの中に入れておくと、常に気持ちをリフレッシュできますね。僕も購入しました!

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金箔があしらわれたゴージャスな手紙箱。

こちらは、今回は出店されていないのですが、速水御舟《夜桜》で描かれた桜があしらわれた「金箱はがき入れ」です。何万円するのかな???と思って見てみたら、意外にリーズナブルで3500円。

そして、展覧会が始まって2週間後に登場したのが、こちら。「めいこい」ファンから熱い支持を受けている菱田春草の描いた《白牡丹》があしらわれたTシャツが発売されました!

これは「めいこい」ファンが殺到して、正直速攻で売り切れそう。取り置きの電話しよっかな・・・。

4.和菓子もいいけどチーズケーキ+紅茶が隠れたオススメ!

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ここ数回、山種美術館の展覧会レビューでは、展覧会を観終わったあとに、1Fのカフェ「椿」で楽しめる5種類の「展覧会限定」和菓子を一押しでおすすめしてきました。

それはそれで毎回本当に工夫が凝らされていて素晴らしいのですが、「他にも何かおすすめできるメニューないかな?」と思って先日訪問した時に実食して、非常によかったのが米粉を使って作られたチーズケーキ「雪うさぎ」の紅茶セットです。

このチーズケーキ「雪うさぎ」、本当に上品で美味しいのです!甘さは控えめで、チーズ特有のクセもないので、さらっといただけます。基本的には「お茶」でも「コーヒー」でもなんでも合わせやすいと思います。

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ちなみに、ツイッターでも書きましたが、セットでいただくなら、コップ4杯分楽しめる「紅茶」(ホット)がおすすめです。ティーポットにたっぷりお湯をいれて持ってきてくれるので、紅茶をおかわりしながら、ゆっくりとカフェを楽しめそうです。 

5.まとめ

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館内は梅、桜、牡丹、カキツバタ、紫陽花、水仙、朝顔など、江戸時代~現代までの日本画の名手たちが描いた四季織々の花があふれています。冒頭にも書きましたが、観た瞬間、「あ、きれいだな」と直感的に見て楽しむことができるのが本展のすばらしいところ。全く難しいところがなく、心を空っぽの状態にして華やかな作品を見て回ると、自然に癒やされていく感じがしました。

「めいこい」との初コラボによって、いつもより確実に来館者の客層が若返っている山種美術館の「花・Flower・華」展。初心者から上級者まで、様々な楽しみ方ができる屈指の56点が揃った、春ならではの素晴らしい展覧会です。ぜひ何度でも足を運んでみてください!

それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2019年4月6日(土)~6月2日(日)
*会期中、一部展示替えあり
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※但し、4/29(月)、4/30(火)、5/6(月)は開館、
※5/7(火)は休館
◯公式HP
◯Twitter

【緊急まとめ】3分でわかる「トルコ至宝展」の3つの注目点!

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かるび(@karub_imalive)です。

国立新美術館で開催中の「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」も気がつけば会期終了の5月20日まであと1週間足らずとなりました。

本展は、2007年に開催された「トプカプ宮殿の至宝展」以来、約12年ぶりに開催された「オスマン・トルコ」時代の美術品を特集した展覧会です。展示された約170件の作品はほぼ全点が初来日作品となっており、僕も会期終了前にもう一度しっかり観てこようと思っています。

そこで、今回はまだ観ていない方のために、ポイントを3つに絞って「3分でわかる3つの注目点」をまとめてみました。

注目点1:やりすぎ?!贅を尽くした宝飾類の超絶技巧!

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「儀式用宝飾水筒」オスマン帝国、16世紀後半

本展の最大の見どころは、数百年にわたって繁栄した、オスマン・トルコの王様(スルタン)が造らせた、贅を尽くした王侯貴族の宝飾品や財宝です。まるでRPGゲームやマンガ、アニメのように、現代の我々が「金銀財宝」を想像した時に思い浮かべるようなキラキラの財宝が、まるで宝箱を開けてそのまま持ってきたかのような感じで展示されているのです。まさに圧倒的な美しさ。

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「ターバン飾り」オスマン帝国(インド様式の影響が見られる)、17世紀

巨大なエメラルド、ルビー、水晶、真珠などが嵌め込まれた儀礼用装飾品や、柄の部分が丸々エメラルドで造られた短剣など、呆れるくらい贅沢できらびやかな宝飾類を見ていると、かつて栄華を極めたオスマン・トルコ帝国の繁栄を否が応でも感じざるを得ません。

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「宝飾つるし飾り」オスマン帝国、18世紀末~19世紀初頭

深い鑑賞知識は一切不用で、誰が見てもわかりやすく美しい展示です。まずはこれらを思いっきり楽しんでみて下さいね。

また、ちょっと余裕があれば、単眼鏡を持っていって当時の名もなき一流の職人達が細部にわたるまで徹底的にこだわり抜いて作り上げた超絶技巧ぶりを確認するのも面白いですね。

注目点2:布系の展示はとにかく「チューリップ」を探せ!

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「クッション・カバー」オスマン帝国、17世紀(両方とも)

でも、今回はわかりやすいほどにきらびやかな金銀財宝類は意外と多くない印象。そのかわり、スルタンを始め王族メンバーが着用していた絹織物などの服飾類や靴、カバン、小物入れ、絨毯、テントといった「布系」素材の展示が多めになっています。

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ちゃんと靴にもチューリップの文様が入っています
「長靴」オスマン帝国、16世紀後半

入り口近辺に展示されている金銀財宝類に比べると、若干地味かな??と一瞬思ってしまうのですが、そこでガッカリしてはいけません!

なぜ、敢えて一見地味めに思えるけれど、「布系」の展示が多いのか?それには、本展のテーマと深く関わる理由があるのです。

試しに、本展の英題を見てみてみましょう。「The Treasures and the Tradition of "Lâle” in the Ottoman Empire」となっていますよね。この中で注目したい単語は「Lâle(ラーレ)」、トルコ語で「チューリップ」という意味です。つまり、本展で主催者が鑑賞者に提案しているのは、数世紀にわたるオスマン・トルコが育んできた文化を「チューリップ」で読み解いてみませんか、ということなんですね。

そこで、本展ではぜひそういった一見地味に見える「布系」の展示物の中に散りばめられた、共通するモチーフ「チューリップ」を見てほしいのです。すると、展示アイテムの至るところにオスマン・トルコの国花ともいうべき「チューリップ」が文様やレリーフとして装飾に使われていることに気づかされるでしょう。

その出現頻度はまさに異常なほどです。日本人は「サクラ」が大好きですが、ここまで日用品にサクラづくしにすることはありませんよね。展示を見ていくと、トルコに生きる人々にとって、どれほどチューリップが大切な存在であるのかよくわかります。

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「チューリップ用花瓶(ラーレ・ダーン)」オスマン帝国、18~19世紀

これはちょっと文献やネットで調べてみるとわかるのですが、チューリップの発祥や原産地の一つが、現在のトルコ領土となっているアナトリア半島だと言われているのですね。

世界史の授業では、17世紀にオランダでチューリップ・バブルが起こり、その後もチューリップの一大産地として栄えたとしか教わりませんよね。だから、ついついオランダがチューリップ発祥の地だと思ってしまいがちです。僕もそうでした。

でも、そうではないのです。あくまで、オランダ人はトプカプ宮殿に美しく咲き誇っていた美しいチューリップを見て、これをヨーロッパに最初に持ち帰ったにすぎないのですね。

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「タイル」オスマン帝国・イズニク、16世紀後半~18世紀前半

とにかく、彼ら王族が身にまとった服飾品や、香炉、陶磁器などの日用品のデザインや柄をよーくチェックしてみて下さい。ほぼ全てのアイテムのどこかしらに「チューリップ」が配置されています。ちょっとした宝探し感覚で見ていくと、断然展示を見るのが面白くなってきますよ!

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梯子みたいなものにまで、ちゃんとチューリップ文様が入っています!
左:「梯子」オスマン帝国、19世紀
右:「サイド・テーブル」オスマン帝国、19世紀

注目点3:東西文化の要衝として栄えたイスタンブル

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会場内解説パネルより、トプカプ宮殿の当時の情景

トプカプ宮殿があったイスタンブルは、紀元前7世紀に「ビュザンティオン」としてギリシャの衛星都市として建設され、その後ローマ時代の「コンスタンティノープル」時代を経て、現在までずっと東西文化の要衝地として栄え続けています。

その特殊な地理的条件を反映して、オスマン・トルコ時代に歴代のスルタン達が収集した美術品も、東西文化それぞれの影響を受けたものがズラリ。ヨーロッパ文化の影響が色濃く反映された工芸品や絵画もあれば、中国・日本から輸入した陶磁器なども展示されています。まさに文化のるつぼ。様々な文化の影響を受けて形成されていったトルコ文化の面白さがたっぷり感じられますよ。

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ヨーロッパ風の七宝と鋼鉄製の細密工芸の傑作!
「香炉」オスマン帝国、19世紀

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歴代スルタンは、特に中国の陶磁器をこよなく愛したという・・・
左:「バラ水入れ」中国・清代、1700-25年/中:「急須」中国・清代、1700-25年/右
:「染付水差し」中国・明-清代、17世紀中期

展示最終コーナーでは、19世紀に日本とオスマン・トルコが交流した際、交流を記念して互いに贈りあった当時の美術品も展示されています。日本へ里帰りした江戸~明治時代に制作された花瓶や七宝、飾り棚や机なども展示されていました。

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日本からの輸入品にも、「チューリップ」がちゃんと描かれています!
左:「染付瓢箪型瓶」 瓶:日本・有田、1655-70年 銀製蓋:オスマン帝国、17世紀
中:「染付瓶」 瓶:日本・有田、1660-80年 銀製蓋:オスマン帝国、19世紀(?)
右:「染付カラック(芙蓉手)皿」 日本・有田、1670-1700年

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左:鏡(鏡枠)日本・明治時代 トルコ国立宮殿局コレクション
右:段違い飾り棚 日本・明治時代 トルコ国立宮殿局コレクション

もちろん、超一流の作品!・・・というわけではないのですが、こうした日本からの贈り物が今もトプカプ宮殿博物館で大切にされているのだと思うと、少し感慨深いですよね。

まとめ

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左:「備えつけ時計」ドイツ、18世紀末
右:「暖炉時計」フランス、1780~90年

近年、トルコにおける文化財保護についての法律が強化された影響で、以前に比べて文化財を国外に持ち出すのが難しくなっているそうです。そのため、2007年以来本当に久々の「トルコ展」となった本展。

東西文化の要衝として古来から栄えたトルコならではの、エキゾチックな香りのする美術品の数々は必見です。東京展は会期終了まであと1週間となりました。ぜひお見逃しなく!

それではまた。
かるび

※本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものです。

展覧会情報

展覧会名:「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2019年3月20日(水)~5月20日(月)
公式サイト:https://turkey2019.exhn.jp/

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