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ヨコハマ恐竜展2017に行ってきた!17体の恐竜ロボットがリアルな恐竜体験を演出!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

2017年の夏休みシーズンも、各地で子供向けに恐竜展が開催されています。中でも関東圏で大きく話題を呼んでいるのが、幕張で開催中の「ギガ恐竜展2017」と横浜の「横浜恐竜展2017」の2つです。 

上記エントリの通り、実は、先週早速ギガ恐竜展2017に行ってきたばかりなのですが、展覧会マニアの血が騒ぐというか、どうしても、もう片方の「ヨコハマ恐竜展2017」を早く見たい!という衝動を抑えられなくなり、土日になる前に平日朝から行ってきました!

ギガ恐竜展は、幕張メッセの展示会場のデカさを最大限活用した、スケール感の大きい骨太な正統派展示でした。全長38メートルの超巨大恐竜骨格標本をはじめ、全部で200体を超える恐竜化石・模型が展示される圧巻の内容でした。

それに対して、ヨコハマ恐竜展は、恐竜ロボットが動く動く!スケール感や展示の物量こそギガ恐竜展に劣りますが、その分「動き」と「リアルさ」、そして手作り感のある展示で対抗しています!ギガ恐竜展とはまた一味違う魅力を、存分に楽しんできました!

早速ですが、当日の感想レポートを書いてみたいと思います。 

1.「ヨコハマ恐竜展2017」とは 

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ここ数年、2012年、2014年、2015年と、2年に1回以上のぺースで、パシフィコ横浜を展示会場とする、夏季の横浜での恐竜展が定着してきています。(主催者は複数)年にもよりますが、大体夏休み期間中だけで20万人~30万人程度の入場者数を記録する大ヒットイベントで、横浜の夏の風物詩的な感じになってきていますね。

今回のヨコハマ恐竜展は、2015年の「ダイノワールド」以来2年ぶりとなりましたが、最新の研究成果に基づいて製作されたリアルな恐竜ロボットは一見の価値ありです!

会場マップはこんな感じ

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引用:ヨコハマ恐竜展2017 ||~動く!ほえる!恐竜の森!~

入場すると、細かくパーテーションで区切られたスペースをジグザグに探検するように進んでいきます。オープンスペースで「どどーん」と展示が置かれたギガ恐竜展とはこのあたりは対照的。

展覧会本体の実質的な展示は、「恐竜の森」まで。それ以降は子供向けの簡易アトラクション「恐竜FUNランド」、ショップ、イベント・PRコーナー(軽食・体験イベント)と続いていきます。

音声ガイドもあります!

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今回は、子供用と大人用にガイドが分かれていました。僕は大人用のガイドを選択。大人用は、手作り感満載の渋いガイドでした。音声がこもっていて、なんかコストダウンしましたって感じ(笑)

解説内容は特に問題ありませんが、チープな感じが全面に出ているのは残念でした。あえて苦言を呈するなら、恐竜展らしく、もう少しエンタメ色を強くして、親しみやすい感じにしたほうがいいんじゃないでしょうか?これは改善の余地ありです。

写真は撮り放題!

音声ガイドは今ひとつでしたが、その反面、写真撮影がオールOKなのは素晴らしい!受付でお姉さんに聞いた所、どんどんSNSにアップして下さい!ということでした。やっぱり恐竜展はそうでないと!僕も見終わってスマホをチェックしたら、300枚ほど写真撮ってました(笑)

また、記念写真コーナーもあります。それ以外のポイントでも、みんな子供と思い出の写真を撮りまくっていました。

▼恐竜と撮れる!記念写真コーナー
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子供に最大限配慮した展示内容

恐竜展での主役はなんと言っても子供です。展覧会では、子供が最大限楽しめるよう、様々な配慮がされていたのは嬉しいところ。例えば、今回の恐竜展では「ベビーカーのまま入場してOK」ということ。ベビーカー置き場もありますが、そのまま入っていけるのはうれしいですね。

▼ベビーカー・車椅子での入場OK!f:id:hisatsugu79:20170721110547j:plain

さらに、各展示の解説パネルも、子供向けにわかりやすくきちんとルビが振られています。小学校低学年から、自分で読んで自分で学べるようになっている配慮も、親としては嬉しいところでした。

▼解説パネルには漢字のよみがなを完備!f:id:hisatsugu79:20170721110717j:plain 

2.横浜恐竜展2017の3つのみどころ

見どころ1:大量17体のリアルなロボットが動く「恐竜の森」

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ヨコハマ恐竜展のハイライトは、なんと言っても、展示後半にあるジャングルを模した「恐竜の森」コーナー。精巧にできた13種類17体の恐竜ロボットが、声を出して動きます!

▼沢山の「動く」恐竜たち!f:id:hisatsugu79:20170721122532j:plain

これが結構リアルにできていて、小学生以下の小さい子供にはかなりのインパクトがあったようです!怖くてあちらこちらで泣き出してしまってました(笑)僕もいくつか撮って来ましたので、Youtubeにアップしてみました。(それぞれ30秒程度ですので、もしお時間があれば!)

どうでしょうか?派手に動くわけじゃないですけど、恐竜の唸り声などもちゃんと入っているので、迫力がありますね?!そして、結構子供が泣いているのがおわかりかと思います。小学生以下のお子さんを連れて行く際は、ある程度覚悟して下さい(笑) 

見どころ2:初めての試み?つば吐き恐竜「ディロフォサウルス」がお目見え!

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そして、「恐竜の森」コーナーで一番面白かったのは、つば吐き恐竜「ディロフォサウルス」です。映画「ジュラシック・パーク」では、毒のある唾液を吐いて敵を仕留める肉食恐竜でしたが、これがそのままロボットになって動いているんです!

ヨコハマ恐竜展2017では、このディロフォサウルスが、動きながら通路に向かって一定の時間間隔で口から水鉄砲のように水を吐いてきます!(映画と違って、もちろんただの水ですからご安心を)

このつば吐き恐竜「ディロフォサウルス」の直前には、こんな看板もありますので、いきなり不意打ちでずぶ濡れになるということはありません(笑)

で、どこから吐いているんだろう?と思って見てみると、口の中に鉄製のホースみたいなものが埋め込まれているんですよね。ここから水を吐いているようです。 

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ただ、実際に「ディロフォサウルス」がつばを吐く恐竜だったのか?という検証は特にありませんでした。フィクションの世界を再現した純粋なエンタテインメントとして楽しんでほしい、ということなのでしょうね。

見どころ3:出口を出てからが本番?遊べるアトラクション「恐竜FUNランド」!

今回の展覧会は、展示が終わってからも子どもたちが遊べるスペースが沢山用意されています。題して「恐竜FUNランド」。会場地図で見ると、場所的にはこのあたりです。

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このコーナーでは、「宝さがし」「恐竜迷路」「恐竜発掘ゲーム」など、有料・無料合わせて6種類の簡易アトラクションが用意されており、子供を遊ばせるにはぴったりのコンテンツでした。

ちなみに、6種類あるうちの4つは有料コンテンツとなります。専用のチケット売り場で、1回=400円のチケットを購入して、チケットと引き換えに入場が可能となります。

▼有料コンテンツはチケットを購入する必要があるf:id:hisatsugu79:20170721114613j:plain

では、いくつかコンテンツを見てみましょう。まず、「対決ディノニクス」。いわゆる的当てゲームですね。恐竜の体に描かれた「的」にボールを投げて、制限時間内に一定数のボールを当てることができれば、景品がもらえます!

▼有料アトラクション「対決ディノニクス」
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つづいて、「恐竜迷路」。入り口から入って、立体迷路を出口に向かって進んでいくシンプルなゲームです。

▼「恐竜迷路」
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そして、一番人気は「化石発掘広場」。こちらは無料で楽しむことができます。砂場に埋まっている化石を掘り出して見つけるゲームです。なお、「砂場」といっても、本物の砂ではなく、細かく裁断されたウッドチップのような材質の砂なので、服がドロドロに汚れることはありません(笑)

▼一番人気「化石発掘広場」f:id:hisatsugu79:20170721114536j:plain

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3.その他、印象的だった展示内容について

3-1.ティラノサウルスの「動く」骨格展示が凄い迫力!

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本展は、「恐竜の森」に設置された恐竜ロボットがメインですが、トリケラトプスやティラノサウルスなど、骨格標本の展示もしっかりしていました。中でも、この「動く骨格標本」は迫力満点!

ガイコツが大口を空けて咆哮する様子は、小さな子供をビビらせるのには十分すぎるほどで、この展示を見て一番泣きそうになる子供が多かったですね。

こちらも、動画に撮ってきました。約40秒ほどと短いので、もしよければ御覧ください!咆哮も恐竜の王者「ティラノサウルス」ぽくて良いですよね?!

 

3-2.触って学べるコーナーもあります

また、今回の展示では、ところどころ実際に化石(模型)を触って、その大きさや手触りを直接感じられるコーナーも設置されていました。「タッチステーション」という看板のある展示は、実際に触れて楽しむことができます!

▼触れる展示「タッチステーション」
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こんな感じで置かれています。写真は、恐竜のたまごですね。

▼触って楽しめる!
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3-3.恐竜研究の歴史

恐竜展で、意外と触れてくれないのが、恐竜発掘の歴史。「羽毛が生えていた」とか「恐竜は鳥類に進化した」など、最新の科学発見や知見は、どの展覧会でもしっかり示されますが、誰が最初に発見したのか?その歴史について、あまり展示を見ることがありません。 今回の「ヨコハマ恐竜展」では、地味ですが一番最初のコーナーでしっかり特集されていました。

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展示によると、恐竜研究の歴史は、1822年にイギリスの医師、ギデオン・マンテル氏が、妻が見つけてきたイグアナに似た新種の化石に「イグアノドン」と名付けたところから始まりました。その後、自然学者オーウェンが一連の巨大爬虫類の化石群を1845年に「DINOSAURIA」と名付けて恐竜研究が本格化していったそうです。

▼1800年代の恐竜研究資料(複製)f:id:hisatsugu79:20170721094746j:plain

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4.グッズも充実!フィギュアやおもちゃが人気でした

恐竜展の最後のお楽しみは、やっぱりおみやげですね。ヨコハマ恐竜展2017でも、沢山のグッズが並べられていました。目立ったところを紹介してみたいと思います。

▼お菓子「伝説の恐竜たまご」f:id:hisatsugu79:20170721113053j:plain

「恐竜のたまご」は職場や親戚へのお土産の定番ですね。

▼自由研究に最適!子供向け書籍コーナーも!f:id:hisatsugu79:20170721113005j:plain

今回の展覧会は、いわゆる「公式図録」の販売はありません。でも、子供向けにイラスト満載の恐竜本がたくさん売られていました。

▼やっぱり大人気!恐竜フィギュア!f:id:hisatsugu79:20170721112702j:plain

そして、一番人気はやっぱりフィギュアですね!ワゴンに無造作に積まれたものから、棚に収まっているもの、ビニール製、ゴム製など様々な種類や大きさのものがが用意されていました。

▼ヨコハマ恐竜展にも!スーパーボールガチャ!f:id:hisatsugu79:20170721113624j:plain

ボールの中に、恐竜が封じ込められたスーパーボールのガチャマシーン。物販コーナーの真ん中にどどーんと鎮座しています。 

▼恐竜プラモデル!
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タミヤから、恐竜のプラモデルも沢山出ていました。箱の大きさに比べて値段がリーズナブルなのも嬉しい所。小学生の時、よく作ったな~。

▼意外に人気?フィギュアつかみどりf:id:hisatsugu79:20170721113752j:plain

そして、意外と人気を博していたのが、手のひらサイズの小さな恐竜フィギュアをつかみどりできるサービス。箱の丸い穴の中へ手を突っ込んで、1回500円でつかめるだけ持って帰れます。見ていると、これがうまく出来ていて、掴みすぎると手が膨らんで箱から手が抜けなくなるんですよね(笑)

▼恐竜ガチャマシーンもこんなに!f:id:hisatsugu79:20170721112750j:plain

出ました定番のガチャマシーン!全部で20種類用意されていますので、心ゆくまで楽しめますね! 

5.混雑状況と所要時間目安・駐車場

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僕が行ってきたのは、7月20日(木)朝10時30分~12時。平日なので空いていましたが、夏休みに入って、休日やお盆、会期末などは普通に混雑しそうです。今のところ入場制限がかかった実績はありませんが、当日行く前にTwitterの公式アカウントを一応フォロー&チェックしておいたほうがいいかもしれません。

 また、駐車場については、パシフィコ横浜の地下駐車場があるにはありますが、休日に行くのであればマイカーでの来場はオススメしません。平日でもほぼ満車近くまで普通に埋まっていますので、休日は確実に駐車場への入場待ち行列ができるはずです。また、駐車料金も決して安くありませんのでご注意!

所要時間としては、60分~90分あれば十分に見て回れると思います。今回のヨコハマ恐竜展は、ロボット恐竜の動きから、体感的に学ぶのが主となりますので、それほど情報量が多いわけではありません。

6.まとめ

展示規模や、コンテンツ量などは、正直なところ、同時期に開催されている幕張メッセの「ギガ恐竜展2017」の方が格段に上ではあります。しかし、その分ヨコハマ恐竜展2017では、17体もの動く恐竜ロボットによって、よりリアルに恐竜を体感できるのが最大の特徴でした。大人はともかく、子供にはインパクト絶大だと思います!

また、後半部分のミニアトラクションや、PRコーナーなど、アマチュアっぽい感じはするんですが、縁日のような手作り感・地元密着感が感じられたのは面白かったです。子供との思い出づくりや、自由研究の取っ掛かりとして非常に良い展示だったのではないでしょうか?

終わってからも、海辺を散策したり、関連コンテンツとの相互割引もありますので、横浜観光に組み込んでみてもいいですね!

それではまた。
かるび

7.関連書籍・資料などの紹介

小学生Youtuberの動画が素晴らしい!

Youtubeにアップされている動画で、(おそらく親御さんがまとめていらっしゃるのだと思いますが)MIKUちゃんという小学生が会場内をレポートして回っている「MIKUTV」がわかりやすくて素晴らしいです。是非チェックしてみて下さい!

ベストセラー!ナショナル・ジオグラフィック「恐竜がいた地球」

いわば「恐竜入門編」でもあるヨコハマ恐竜展を見た後、大人が次に恐竜について本格的な教養を求めようと思ったら、こちらのムック本がオススメ。恐竜についての最新の科学研究成果がわかりやすいイラスト・写真・図表でまとまった本格派ムック。Amazonで売れ行きNo.1となっています!(2017/7/17現在)

映画でも味わおう!「ジュラシック・パーク」シリーズ!

恐竜展を見終わった後って、無性に恐竜コンテンツをもう少し見たいと思ったことってありませんか?僕も、思わず自宅に帰ってから「そうだ!DVDでまとめ買いしよう!」と思い立ち、「ジュラシック・パーク」シリーズが全部まとまったDVDをポチってしまいました!あの、つば吐き恐竜も出ていますよ!

「ヨコハマ恐竜展2017」展覧会開催情報

◯美術館・所在地
パシフィコ横浜 展示ホールA
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい1丁目1−1
◯最寄り駅
東急みなとみらい駅から徒歩5分(地下道直結)
JR桜木町駅から徒歩10分
◯会期・開館時間・休館日
2017年7月15日~9月3日(会期中無休)
10時00分~16時30分(入場は30分前まで)
◯公式HP
http://yokohamakyoryu.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yokohamakyoryu


「ボストン美術館の至宝展」が素晴らしい!意外な名作揃いで初心者でも楽しめる!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

7月20日から東京都美術館で開催中の「ボストン美術館の至宝展」に行ってきました。4000年前の古代エジプトの古美術から、日本美術、フランス印象派、現代アートに至るまで、様々な時代・ジャンルのアートから選りすぐった80点の作品がじっくり味わえる展覧会です。

比較的「わかりやすい」作品群が集められたそのセレクションは、アート初心者にもぴったりでしたし、夏休みらしく小学生~中高生がお気に入りの絵をノートに取ったり写生する姿も目立ちました。

早速ですが、行ってきた感想レポートを書いてみたいと思います! 

1.ボストン美術館の至宝展とは

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国外への巡回展や、作品レンタルに非常に積極的なボストン美術館。日本では、毎年どこかで必ずと言っていいほどボストン美術館の作品をフィーチャーした中・大型展覧会が開催されています。

▼過去にもタイアップした人気展覧会は多数!f:id:hisatsugu79:20170722163736j:plain

特に、2012年に東京国立博物館などで開催された『特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」』や、2014年の『ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展』は評判も高く、かなりの動員数を記録しています。

「日本美術」「フランス印象派」など、テーマを絞り込んで開催されるのが一般的な中、今回の展覧会「ボストン美術館の至宝展 ― 東西の名品、珠玉のコレクション」では、敢えてテーマ・ジャンルを絞らず、幅広くボストン美術館の所蔵品を紹介する展覧会となりました。

展示されている美術品は、大きく分けて以下の7ジャンルに分かれています。

・古代エジプト美術
・中国美術
・日本美術
・フランス絵画(印象派、ポスト印象派)
・アメリカ絵画
・版画/写真
・現代アート

行く前は、「それじゃテーマが散漫になっちゃって、焦点がボケるんじゃないのかな」と思っていたのですが、実際に展示されている作品のレベルの高さを見て、そんな杞憂は吹き飛びました。どのジャンルも非常にハイレベルで、むしろ「あー、こんな作品もあるのか!」と唸らされる見事なラインナップでした。 

音声ガイドは竹内結子

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引用:http://boston2017-18.jp/goods/index.html

本展覧会の音声ガイドには、竹内結子が起用されています。聞いてみて非常にびっくりしたのが、その落ち着いた語り口!アナウンサー顔負けのしっかりした読み上げは、奇をてらっておらずオーソドックスですが、内容が染み渡るように頭に入っていきます。

ガイドコンテンツも、解説パネルやキャプションを上手に補完するクオリティでした。合計35分と大容量ですし、これは借りて良かったです。レンタルおすすめですよ。

2.ボストン美術館とは?

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引用:Wikipediaより

ボストン美術館の設立経緯や特徴

ボストン美術館は、1870年に地元ボストンの市民や文化人たち有志が発起人となって設立された、アメリカで4番目に大きい美術館です。1876年開館時、約6000点のコレクションで始まった美術館は、その後も順調に成長を重ね、今では約50万点の収蔵品を擁するまでに成長しました。(企画展も、常に大小合わせて10展くらい同時並行で行われていますし!)

たとえば、ボストン美術館の特徴としては、、、

・日本国外で最大の日本美術コレクションを保有(10万点!)
・フランス国外で最大のミレーコレクションを保有
・印象派/後期印象派の大コレクションを保有
・アメリカ絵画草創期の傑作を多数保有
・4万点超のエジプト古美術コレクションを保有
・ロスチャイルド家のアートコレクションを保有

などなど。

日本とも縁の深い美術館!

ボストン美術館は、日本と非常にゆかりの深い美術館です。特に、明治時代から岡倉天心、フェノロサ、モースらによって収集が続けられた日本・中国の東洋美術コレクションは10万点以上となりました。明治初期の廃仏毀釈運動により危機的になった仏教美術作品や、寺院に所蔵されていた日本美術作品は、ボストン美術館のおかげでかなりの数が保全されたという経緯があります。

▼天心園(ボストン美術館内)
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引用:Japanese Garden, Tenshin-en | Museum of Fine Arts, Boston

1988年には、ボストン美術館の初代顧問を務め、中国・日本美術の大コレクション形成に大きく貢献した岡倉天心にちなんで、天心園という気持ちのいい日本庭園ができました。(行きたい!)

市民やコレクターたちの力で大きくなった

ボストン美術館の凄いところは、開館以来約150年にわたり、一貫して市民たちの力によってコレクションが築かれてきたところです。個人コレクションの一括贈与、寄付金を原資とした作品購入を繰り返すことで、世界屈指の美術館へと成長してきました。本展は、作品とともに、ボストン美術館の発展・コレクション形成に特に大きく貢献したの過去のコレクターたちにも焦点を当て、解説パネルで特集しています。

また、ボストン美術館がオンラインで公開しているアーカイブ作品は346,000点を超え、アートでは世界最大のオンライン・データベースとなっています。(今回出展されている80点のほぼ全てオンラインで公開されています)

3.ボストン美術館展の3つの見どころ

みどころ1:ボストン美術館に行った気になれる?全体像を俯瞰できる総合展

▼ボストン美術館の館内写真
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Wikipediaより

本作は、東京にいながら「ボストン美術館」のエッセンスを短時間で味わえる総合展です。何でもかんでも適当に集めたわけではなく、ボストン美術館が一番「強み」を持つ部分のコレクションをいいとこどりして厳選した展示会なのです。 

ちょっと強引な言い方かもしれませんが、東京にいながらにして、ボストン美術館に行った気になれる、そんな展覧会だと感じました。そして、今回の展覧会を見て、今度必ず海外で美術館回りをする際は、ボストン美術館を視野に入れよう!と固く決意したのでした。

みどころ2:見逃すな!日本初公開作品たち

今回は、日本画・洋画の大作2作品が「事実上」日本初公開となります。

▼英一蝶「涅槃図」
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引用:The Death of the Historical Buddha | Museum of Fine Arts, Boston

まずは日本画から。江戸中期に活躍した天才絵師、英一蝶(はなぶさ いっちょう)の大作、「涅槃図」が170年ぶりに里帰りしました。

英一蝶は、現代ではそれほど知名度はありませんが、彼の生きた17世紀当時では、岩佐又兵衛、菱川師宣らと同様、江戸の超有名絵師でした。彼は反骨精神旺盛な画家で、一時期はその行き過ぎた風刺画を幕府に咎められ、将軍の代替わりによる恩赦が出るまで10年以上島流しされたという逸話も残っています。

本作「涅槃図」は、経年による傷みが激しく、ボストン美術館でも、17年前に一度公開されたきりだったそうです。ボストンでも見ることがなかなかできなかった作品なのですね。2016年に大規模修復を行い、満を持して日本への里帰りとなったのでした。

そして、初公開2作目はこちら。

▼ゴッホ:ルーラン夫妻の2枚の絵画
(左)郵便配達人ジョゼフ・ルーラン
(右)子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人
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引用(左):Postman Joseph Roulin | Museum of Fine Arts, Boston
引用(右):Lullaby: Madame Augustine Roulin Rocking a Cradle (La Berceuse) | Museum of Fine Arts, Boston

ゴッホがフランス・アルルに住んでいた時に非常に世話になった老夫妻を描いた絵画。よく見ると、左と右では作風が違っていますよね。右の夫人の絵は、有名な「ゴーギャンとの共同生活」の後に描かれた作品と見られ、デフォルメされた姿や黄土色の顔つきは、あからさまにゴーギャンの影響を受けているような感じもして面白いです。

みどころ3:珍しい?!19世紀のアメリカ絵画

アメリカのアートといえば、ポップアートや抽象表現主義といった「現代アート」に名作が多いイメージですが、今回は、まとめてアメリカ絵画の草創期の作品群を堪能することができます。現代アート以前のアメリカ絵画作品を見れる機会は意外に少ないので、今回まとまってチェックできる貴重な機会です!

▼ヘンリー・レーン「ニューヨーク港」f:id:hisatsugu79:20170722151528j:plain
引用:New York Harbor | Museum of Fine Arts, Boston

港の風景を描くスペシャリストだったというヘンリー・レーンの写実絵画。今と違い、ニューヨークもかなりのんびりした雰囲気です。19世紀のアメリカの牧歌的な様子が伝わる、技巧的な作品でした。

▼オールストン「月光」
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引用:Moonlight | Museum of Fine Arts, Boston

絵画修業でイタリアやフランスの色々な風景画を描いたというオールストン。幻想的な田舎の風景は、見どころたっぷりでした。1819年の作品です。

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4.ボストン美術館展で特に印象的だった作品を7点紹介!

その他、個人的にこれは素晴らしかった!と思えた作品を、ここでいくつか紹介したいと思います。作品画像を見て、これは!と思ったら是非現物を見に行ってくださいね。現物は、画像より断然素晴らしいですから!

4-1.周季常「五百羅漢図」

▼左:観舎利行図 右:施財貧者図f:id:hisatsugu79:20170722155306j:plain
引用(左):Lohans watching the distribution of the relics | Museum of Fine Arts, Boston
引用(右):Lohans bestowing alms on suffering human beings | Museum of Fine Arts, Boston

元は京都の大徳寺で大切に保管されていた、南宋時代に製作された全100幅の「五百羅漢図」シリーズの一部です。明治の廃仏毀釈運動で荒廃した寺院を立て直すため、フェノロサ、岡倉天心らの仲介により、ボストン美術館とフリーア美術館へ合計12幅が売却されたのでした。

それにしても、この絵、12世紀の作品とは思えない状態の良さです!幸いなことに、まだ日本には82幅現存しており、その全ては重要文化財指定を受けています。いつか残りを全部見てみたいなぁ。。。

4-2.曾我蕭白「風仙図屏風」

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引用:Transcendent Attacking a Whirlwind | Museum of Fine Arts, Boston

「ボストンを見ずして蕭白を語るな」と言われるくらい、ボストン美術館で有力作品が多数所有されている曾我蕭白の作品。2012年の東京国立博物館でのボストン美術館展で見られた作品とは違う作品2点が来日していますが、着想の奇抜さ・スケール感・妙なかわいさは見飽きないです!

4-3.ミレー「編み物の稽古」

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引用:Knitting Lesson | Museum of Fine Arts, Boston

日本では、山梨県立美術館のコレクションが有名ですが、フランス国外では、ボストン美術館が最大のミレーコレクションを保有しています。その数、関連資料も合わせて合計187点!

今回来日しているのは3点ですが、この「編み物の稽古」は、ミレーが絵の画題を求めて滞在したフランスのバルビゾン村の庶民の生活情景を描いた傑作。なお、今回は展示されていませんが、余程ミレーはこのテーマが気になったのか、同タイトルで別バージョンも描いています。

▼ミレー「編み物の稽古」(同名タイトル)
※今回展示ではありません
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引用:Knitting Lesson | Museum of Fine Arts, Boston

4-4.ブーダン「ヴェネツィア、サン・ジョルジョ島から見たサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂」

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引用:Venice, Santa Maria della Salute from San Giorgio | Museum of Fine Arts, Boston

海辺の風景が本当に美しいブーダンの作品。ブーダンは、日本ではそれほど有名ではありませんが、モネに屋外で絵を描くことの重要性を教えた「先生」として紹介されることが多いですね。この風景画、素晴らしかったです!

4-5.モネ「ルーアン大聖堂、正面」

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引用:Rouen Cathedral, Façade | Museum of Fine Arts, Boston

モネが1日の間に光が変わりゆく姿を捉えようと、1892年~1894年にかけて約30枚描き続けた有名な連作シリーズ。その1枚が今回来日しています。

4-6.ジョージア・オキーフ「赤い木、黄色い空」

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引用:Red Tree, Yellow Sky | Museum of Fine Arts, Boston

アメリカ20世紀を代表する女性作家、オキーフ。ちょうどこれは抽象と具象の境目くらいの作品です。砂漠の山の上に立つ奇妙な形の木の切り株を描いた作品ですが、見ていると色々な姿に見えてきそうです。ダリの作品だって言われたらわからなかったかも。

4-7.「メンカウラー王頭部」

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引用:Head of King Menkaura (Mycerinus) | Museum of Fine Arts, Boston

1905年、ボストン美術館は、美術品を購入するのではなく、そのためのお金をエジプトでの考古学調査支援に当てる思い切った決定をしました。その投資は見事に大当たり。ジョージ・アンドリュー・ライスナー博士の指揮の下、発掘に成功した多数の古代エジプト美術品がエジプト政府からボストン美術館に寄贈されることになったのでした。

このメンカウラー王の頭部は、ギザの第3ピラミッド内部から見つかったもので、紀元前25世紀頃の作品です。約4500年前にこのレベルのものが作れたエジプト文明はハンパないなぁと思いながら見ていました。美しい頭部像です! 

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5.混雑状況と所要時間目安

▼平日は空いていました
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僕が行ったのは、開催2日目、7月21日の午後15時~17時。平日午後なので、まだ落ち着いてゆっくり見ることができました。入場制限が入るほどではないと思われますが、夏休みのお盆期間や、シルバーウィーク、会期終盤になると非常に混雑しそうです。是非、会期前半に行くか、週末の夜間延長を狙うなど、空いている時間帯を狙ってみて下さい。

ちなみに、展示点数がやや少なめなので、所要時間としては60分~90分前後になると思います。僕はちょっとじっくり見たので125分かかりました。

6.非常によくまとまった公式図録は「買い」!コスパも最強!

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今回の「ボストン美術館の至宝展」は、美術館限定販売となっている「公式図録」のクオリティが非常に高いです!

まず、ひとつひとつの作品への解説がくわしいし、非常にわかりやすい!知識ゼロの初心者でも全然OKです!

▼作品と一緒についている詳細解説f:id:hisatsugu79:20170722161436j:plain

また、リファレンス機能だけでなく、コラムや読み物が非常に充実していました。こちらも読み応え抜群!単に「図録」として保管するだけでなく、より詳しい知識がほしいアートファンの要望にも答えた、かゆいところに手が届く工夫が素晴らしい!

▼コラムが充実!
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しかも、この内容でなんと1900円!2000円を切ってくるとは凄い!B5サイズで軽いし、場所も取らないし、非常に良く頑張っているなと思いました。Amazonや楽天では買えませんので、見かけたら会場でサクッと買い物かごに入れちゃいましょう!

7.まとめ

お気に入りの一枚を探すもよし、新たな好みのジャンルと出会うもよし、色々な楽しみ方ができるボストン美術館展。ボストン美術館のコレクションの凄さが良く分かる、素晴らしい展覧会でした!

それではまた。
かるび

「ボストン美術館店@東京都美術館」展覧会開催情報

「ボストン美術館の至宝展」は、東京展のあと、神戸・名古屋と国内2箇所を巡回予定です。

◯美術館・所在地
東京都美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園8−36

◯最寄り駅
JR「上野駅」公園口より徒歩7分
東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分
京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分
◯会期・開館時間・休館日
9:30~17:30
※金曜は20:00まで
※7月21、28日、8月4、11、18、25は21:00まで
※入室は閉室の30分前まで
◯公式HP
http://boston2017-18.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/BOSTON_TEN
◯美術展巡回先

■神戸市立博物館
2017年10月28日~2018年2月4日
■名古屋ボストン美術館
2018年2月18日~7月1日

日本美術の入札会(@加島美術)に行ってきた!緊張したけど楽しかった!

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かるび(@karub_imalive)です。

2015年の終わり頃から本格的にアートにハマり始め、展覧会通いを続けてもうすぐ2年になります。最初の頃は、ちょっと小さめの個人美術館に一人で入るのもドキドキしていたくらいなのですが、近頃はだいぶ図太くなってきたようで慣れてきました(笑)大きめの所であれば、一人で画廊にもようやく入ったり、アーティストさんに質問もガンガンできるようになりました。

そんな中、一度ちょっと見てみたかったのが、美術品の生のオークション。映画やテレビのドキュメンタリーでは何度か見たことがありましたが、実際の現場を見てみたいなーと思っていたのです。

▼日本美術専門の老舗画廊「加島美術」
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そんな中、今年「渡辺省亭展」が大評判だった日本美術を専門とするギャラリー、「加島美術」の広報の方から連絡を頂き、7月下旬に実施する「七夕入札会」の初日の内覧会を見学させていただける、ということでしたので、早速行ってきました。

現状は都心のウサギ小屋暮らしでお金も保管場所もない自分は、もちろん見るだけですが、せっかくの経験だから、ということで喜んで行ってまいりました。簡単ですが、感想記事を残しておきたいと思います。

1.加島美術の「七夕入札会」とは

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画廊に行くと、一般的にはその時に画廊で売り出している絵や写真、陶芸などのアート作品が値札とともに展示していますよね。画廊は、アート作品を「売りたい」顧客や作家から作品を預かり、「買いたい」お客さんのために仲立ちする。そして、画廊に来た「買いたい」お客さんは、作品を見て気に入ったら購入を検討します。アート作品の「買い手」と「売り手」を仲介する画廊では、通常営業時にこのようなプロセスが1つ1つゆっくり進んで行きます。

今回、僕がお邪魔した加島美術の「七夕入札会」は、加島美術が、小学館の雑誌「和樂」とタイアップしたアート作品のバーゲンセール的な特別イベントです。この時期にこのようなイベントは加島美術では初めての試みになるのだそうです。

「和樂」編集部による「日本美術をもっと日常の暮らしの中に取り入れよう」という提案に沿った形で、今回の「七夕入札会」では江戸時代の日本美術作品の中から、手頃に買える価格帯の作品が出品されていました。

しかも、できるだけ「わかりやすさ」を担保するため、今回のオークションでは、以下の3つが工夫されていました。

・極力近くで見れるよう、ガラスケースなしの裸展示。
・明快な価格設定のため、「最低希望落札価格」を明示。
・じっくり考えられるよう、入札期間を7日間設定

▼ほとんどの作品が裸展示で、じっくり見れる!f:id:hisatsugu79:20170728165526j:plain

実際の入札会への参加の仕方としては、こんな感じです。
イベント期間中、複数の「売り手」側顧客から加島美術に集められた絵画や陶芸などの日本美術のアート作品が展示され、「買い手」の顧客は期間中に希望購入価格をつけて、投票しておきます。入札期間が終わり、開札された時、一番高い入札価格をつけた「買い手」の顧客が購入する権利を得る・・・というわかりやすい仕組みでした。

入札希望者が一同に集まって、一気にその場で落札者を決めてしまうオークション形式では、入念な下調べと即座の決断力が必要ですが、今回みたいな形式だと、ゆっくり作品を見ながら吟味できるので、通常の購入プロセスとあんまり変わらなくていいですね。(ちょっとゲーム感覚もあって面白いですし)

ちょうど、スケジュール的には、

・7月20日~7月26日・・・下見会
・7月26日・・・入札締切日
・7月27日・・・開札日

となっており、僕の行ったのは7月18日に開催された特別内覧会でした。

2.内覧会の様子や投票の仕方

内覧会は、やっぱり普段行き慣れた美術館やギャラリーとは違い、独特の雰囲気が漂っていました。通い慣れた美術館とはやっぱり少し勝手が違い、正直かなり緊張しました。ガラスケースもなく、至近距離で作品と向かい合えたのに、最初は独特な雰囲気に呑まれて、目が泳いでたかも。それでも、なんとか「あとでブログ記事を書くんだ!こんなことではいかん!」と自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせました(笑)

画廊の中に沢山の入札品がかかる

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で、落ち着いて画廊の中を見回すと、かなりの人で賑わっています。みんな思い思いに好きな作品の前でじっくり吟味したり、メモを取ったりしていました。 

投票の仕組みは簡単。欲しい作品の希望入札価格を見て、入札するだけ

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展示されている各作品の横には、こうした最低希望入札価格が印刷された紙が貼られています。上記の例だと、基本的には「200,000円以上」で入札が可能なわけですね。展示品の中から欲しい作品が見つかれば、この数字を見て、自分ならいくらまで出せるのか財布と相談して、値段を決めたら、最後に受付のところに置かれている投票箱へと入れるわけですね。

▼わかりやすく真紅の入札箱
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初日の内覧会の時から、「運試しで入れてみるよ~」なんていう人もいて、常連さんなどは気軽に楽しんでいましたよ。

3.見学してみての感想

美術館との違い

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まず、面白いのは、美術館と違って、陶芸作品の横には必ず箱書きが添えられていたことです。箱とセットでみんな評価するんだな・・・と。絵画作品でも、まとめて確認できるように収納ケースが会場内に固めて置いてありました。

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やっぱり「見る」と「買う」は大きな違いがあるものだな、と実感しました。

例えば、美術館では、基本的にはすでに評価の定まった「本物」が展示されており、我々は一定の価値が担保された作品を、過去の知識などを総動員しながら見ていくわけです。

でも、「買う」となると、目の前の作品の価値を自分で決めないといけません。値札は一応ついていますが、正直な所、適正なのかサッパリわかりません。そして、(※決して加島美術の展示品がそうだというわけではないですが)そもそも目の前の作品が本物であるかどうかすら、自分で判断しなければならないというある種の厳しさがあります。

あぁ、古美術のアートコレクターやバイヤーの仕事って、マンガ「ギャラリーフェイク」で出てくるフジタのように、かなりの審美眼と知識を持った本物のアート好きじゃないと務まらないんだなぁと、作品を見ながら思った次第です。

意外な価格設定

意外だったのは、日本史の教科書に載っているような江戸時代の大御所系の作品であっても、30万円や40万円などで購入できるような割安な作品もかなりあったこと。同時代の19世紀~20世紀西洋美術のビッグネームには、普通に数千万円~数億円かかるものがゴロゴロしているのとは好対照です。

その逆として、一般的にはやや知名度の低い作家の作品でも、状態の良いものや、華やかで人目を引く良作は、強気の値段設定のものもかなりありました。

オークションの場合は、「作家」ありきではなく、作家の知名度・ブランド力も加味されつつ、1点1点作品トータルでのクオリティが価格へときちんと反映されているのでしょうね。有名な作家だからって、なんでもみんな手放しで購入するわけではないんですね。

日本美術は意外に買える値段だったりする

▼普段美術館で見慣れたような古美術でも意外に安いf:id:hisatsugu79:20170728162253j:plain

しかし、あとでお土産に頂いたカタログを見ていても、全般的にそんなに高くはないんです。歴史に名を残すメジャーな作家たちの作品であっても、軽自動車1台分もあれば、驚くほど高品質な一生ものの作品が普通に買えちゃうんですよね。

もちろん、日本画の場合などは、購入後の保管や取扱が大変だったりして、ハードルは決しては低くはないんですが、それでもこの値段の意外な安さにはびっくりです。いつか自分も余裕ができたら、「見る」から「買う」立場へとステップアップしたいですが、始めるならまずは日本美術からだなと思いました!

いつもとは明らかに違う客層に緊張した(笑)

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やっぱりね、ここですよここ(笑)場数を踏めば、いずれ慣れるのだと思いますが、やっぱりこういったオークションには富裕層が多め。この日も、お着物の夫人とか、若社長風の男性とか、やっぱりいつも見ている人たちよりも上流な感じの人たちが多かったですね。

このあたりは、服装ですぐわかります(笑)いつも、Tシャツジーパンと、極めてラフな格好で美術館に出入りしてるので、こういう場所に出入りするためにも、もう少しある程度身だしなみは揃えんとなぁと、あとで反省いたしました(笑)

お客さんとして、きちんと画廊側の人達に積極的に対応してもらいたいなら、いつもよりも少し落ち着いた固めの服装で行ってみるのがいいかもしれませんね。

まとめ

今は東京都心の狭い築30年のマンションに住んでいるわけですが、将来的には田舎に引っ越して、しっかりした一軒家で床の間には好きな日本画家の作品を、寝室には心落ち着く現代アートの作品を飾りたいなぁなんて思っています。

アートにハマったばかりの頃は、日常にアートがある生活って、お金持ちだけの趣味なのかな?と思っていましたが、最近では意外に庶民でも手の届くたしなみなのかもしれない、とも感じました。

オークションも多様化しており、こうした加島美術みたいな親しみやすいイベントも今後増えてくるといいなぁと思います!

それではまた。
かるび

川端龍子展は超ド級のスケール感!その圧倒的な個性を堪能してきました!【展覧会レビュー・感想/山種美術館】

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【2017年7月29日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

 6月24日から山種美術館で始まった「川端龍子ー超ド級の日本画-」展を見てきました。明治後期~第二次大戦後まで長く日本画画壇の最前線で活躍した日本画家、川端龍子の没後50年を記念して企画された回顧展です。

その作品の確かなクオリティ、スケール感、独特の発想力、引き出しの多さ、どれを取っても素晴らしい画家でした。一言で言うと、見ていてその「個性に圧倒された」展覧会でした。一見の価値アリですよ!!

さっそく、以下感想・レビューを書いてみたいと思います。

※本エントリで使用されている写真画像については、あらかじめ主催者の許可を得て撮影したものとなります。何卒ご了承ください。

1.川端龍子展について

川端龍子って誰なの?

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川端龍子(1885-1996)
引用:大田区立龍子記念館HPより

川端龍子(かわばたりゅうし)は、明治末期~昭和高度成長時代まで、息長く活躍をした近現代の日本画作家です。その作風は、ゴージャスで型破りで独創的。

若い時、新聞や雑誌の挿絵画家などで生計を立てながら、まず洋画家を目指して油絵の道に進むも、途中から日本画へ転向。若い時は明治期の巨匠たちの薫陶も受け、院展に参加する折り目正しい正統派日本画家でしたが、保守的な画壇では収まりきらず、方向性の違いなどから、1929年に院展を脱退し、自らの主催する日本画団体「青龍社」を設立。(なんでも、横山大観と折り合いが悪くなってしまったという裏話も・・・)

そこからは、まさに川端龍子ワールドが炸裂!緻密で写実的な円山四条派のような作風から、マンガのようなゆるいタッチの人物画、巨大な屏風絵など、バラエティに富んだ作品を残していきます。

龍子は、大衆に広く訴える絵画を目的とした「会場芸術」という概念を提唱し、その作品は、大胆・奇抜で、どんどん大型化していきました。

12年ぶりの本格的な回顧展 

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そんな川端龍子ですが、知名度としては今ひとつ高くありません。明治期以降の日本画家はまだまだ埋もれたままのもったいない作家が沢山いますが、この川端龍子も残念ながら一般人への知名度はほぼありません。

実は、12年前に江戸東京博物館で「生誕120周年 川端龍子展」という回顧展が一度開催されているのです。しかし、会期も38日間と非常に短く、入場者数も江戸博にしては若干寂し目の35,000人弱と、マニア以外には今ひとつ浸透しませんでした。若冲のようにブレイクするのはなかなか難しいのですね。。。

試しに自分の友人などに聞いてみましたが、だいたいこんな感じ。

・伊藤若冲・・・「知ってる!いいよね!!」
・横山大観・・・「うーん。名前だけなら。」
・川端龍子・・・「誰それ。知らない。」

結局こういう回顧展は、何度も数年おきにやっていかないとなかなか知名度って上がっていかないんでしょうね。だからこそ、今回12年ぶりに展示環境の素晴らしい山種美術館で満を持して開催されることにはすごく意味があると思います!盛り上がるといいな!!

企画展連携先の美術館「大田区立龍子記念館」

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引用:大田区立龍子記念館HPより

今回の「川端龍子ー超ド級の日本画ー」展が開催されるにあたっては、山種美術館で保有しているコレクションをベースとした上で、複数の国内の美術館から貸出を受けています。中でも展示物の約半数を借用しているのが、「大田区立龍子記念館」。

龍子記念館は、「自分の作品を飾る展示スペースが欲しい!」と熱望した川端龍子が、自ら生前に企画して、1963年に設立されました。当初から運営を行ってきた社団法人青龍社の解散にともない、1991年から大田区が「区立龍子記念館」として運営を引き継いでいます。

東京都内の閑静な住宅街にある個人美術館ですが、日本画を扱った美術館としては、実は山種美術館よりも歴史が古いんですよね。今回の企画展では、前後期合わせて全部で29点の貸出を受けています。

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2.展覧会の3つのみどころ

2-1.とにかくスケール感がでかい!

絵画・彫刻などのあらゆる美術作品に言えることですが、単純に「でかい作品は見ごたえがある」と思います。そして、川端龍子の作品は、とにかく巨大な作品が多い!

たとえば、この作品。山種美術館の奥の壁一面を全部使って展示された、中国の名所「香炉峰」のある山地を飛ぶ巨大な戦闘機です。

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川端龍子「香炉峰」(1939)/大田区立龍子記念館

ジャンルとしては、いわゆる第二次大戦中の戦意発揚を狙った日本独特の戦争画。ですが、こんな絵は戦争画で見たことがありません(笑)絵も馬鹿でかいのに、さらにその絵に収まりきらない飛行機の機体(笑)ヤケクソのように日の丸がデカく描かれたり、尾翼部分が全部赤く着色されて、否が応でも日本の国旗を強く思い起こさせられます。

ちなみに、絵に描かれた戦闘機のパイロットは、川端龍自身をモデルにしていると言われます。部分的に拡大してみると、確かに川端龍子自身に似ているかも・・・

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「香炉峰」(部分図)

いや、それともこっちかも・・・。このすました表情は、「紅の豚」のポルコ・ロッソを強く想起させました・・・。

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『紅の豚』(c)1992 Studio Ghibli・NN

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川端龍子「鳴門」(1929)/山種美術館

つづいて、こちらの作品。青龍社を立ち上げ、初めてのグループ展「青龍展」第1回を記念した意欲作です。江ノ島の海の写生を元にして、鳴門海峡の渦潮を「想像して」描いたものだと言われています。近くに寄って見てみると、物凄い「動き」や「うねり」、「スピード感」を感じさせるような筆使いが印象的です。ちょっと部分図を見てみましょう。

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「鳴門」(1929)部分図

この絵だけで、龍子は役3.6kgの群青色の岩絵具を投入したのだとか・・・。でかい絵は書くのってエネルギーだけじゃなくて、お金もかかるんですね(笑)

2-2.確かな腕前!

川端龍子は、会場映えする作品を好んで製作したからと行って、決して大味な作品で良しとしたわけじゃありません。大きくてもきっちり細部まで作り込みますし、通常の作品においては、私淑した円山四条派のスタイルを踏襲した、正統派の写実的な作品も多く残しています。

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川端龍子「鯉」(1930)/山種美術館

例えば、川端龍子が繰り返し好んで描いた「鯉」は、どの作品も本当に精細で上手!この「鯉」も中期の作品ですが、急に腕前を上げ始めた時に描かれた傑作です。 

3-3.引き出しの多さ、奇抜な発想!

そして、驚くのはその引き出しの多さ!時期によって作風が大きく変わっていくカメレオンのような作家はいますが、川端龍子も、その生涯において様々な引き出しや発想を持った画家でした。

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川端龍子「夢」(1951)/大田区龍子記念館

普通は日本画ではあまり描かれないようなミイラの絵です。しかも、そこに蛾が舞っている・・・。速水御舟の代表作「炎舞」との関連性が指摘されていますが、むしろ僕は西洋絵画的な文脈で蛾が「魂」「不死」「夢」を強く暗喩しているように見えました。凄く面白い絵です。

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川端龍子「龍巻」(1933)/大田区立龍子記念館

「龍巻」と題名がつけられた本作は、逆さになった海の生き物たちが海流に翻弄されつつ、その中をサメが泳いでいくものすごく変わった構図。制作途中で、上下逆さまにしたら面白いかな?と着想し、そのまま逆にして完成させたという逸話があります。

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「龍巻」(部分図)

これ、特にサメのお顔がかわいいんですよね。獰猛な感じよりも、海の中を楽しんで遊泳しているように見えるんです。このあたりは、若い時に挿絵作家として確立したセンスなんだろうな~と思って見ていました。

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3.その他気になった展示

ほぼ全作品見どころたっぷりなので、紹介したい作品は山ほどあるのですが、後もう少しだけ、特に印象に残った展示を取り上げたいと思います!

3-1.灼熱のデスメタラー、不動明王!!

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川端龍子「火生」(1921)/大田区立龍子記念館

それまでの日本画にはあまりなかった構図の不動明王像。モデルは、高野山明王院の通称「赤不動」です。どこかとぼけたような空気をまといつつ、全身から鬼気迫るエネルギーをほとばしらせる赤鬼のような不動明王。斬新すぎるポーズは、独特な味わいを産んでいます。

一方、この絵にどこかで強い既視感を覚えたので、この感じなんだろうなぁ~とずっと考えながら見ていたら、わかりました。この鬼はメタルバンドのドラマーにたたずまいが似ているんです!

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元メタリカ/ラーズ・ウルリッヒ
引用:Twitterより

「ドラム!川端りゅうし~!!」「いえー!!!」みたいなそんな場面に見えて仕方がない!!手に持っているのは剣ではなくドラムスティックだと思って下さい!

3-2.めちゃくちゃ達筆な川端龍子!

美術評論家の山下裕二先生が、よく使われる「筆ネイティブ」という言葉。物心ついた頃から、毛筆を日常的に使ってきた明治期までの日本画家は、絵を描く際にも、線にも迷いがないし、筆さばきのレベルが違うんですよね。そういう意味では、川端龍子は昭和中期まで生きた、まさに最後の「筆ネイティブ」な画家のうちの一人なんじゃないでしょうか。

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川端龍子/短冊「駆けっこに」ほか/大田区立郷土博物館 ほか

見て下さい、この上手な筆さばき!学芸員さんは多少クセがある、と言っていましたが、ものすごく達筆で素敵な字だなぁと、展示ケースでひと目見てしばらく動けなくなってしまいました。

3-3.過去に習得した技術を大切にする姿勢も素晴らしい

川端龍子は、たとえ新たな画風を獲得しても、以前まで使っていた技法を決して捨てること無く、いつでもそれを引き出しから取り出して使うことに躊躇がありません。だから、技巧的な作品を残したと思えば、微妙に西洋絵画風だったり、あるいは、マンガ絵風だったり、いろいろな引き出しをいっぺんに使える画家でした。

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川端龍子「百子図」(1949)/大田区立龍子記念館

たとえば、この作品。現代でも「癒し系イラストレーター」として通用しそうな、柔らかいマンガ/挿絵のような子どもたちの乗った像の絵です!

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「百子図」(部分図)

柔らかい筆使いと合わせて、本当に器用に色々とこなせるのだな、と感心してしまいました。保守的な日本画の大家なら、絶対こんな絵を晩年に発表したりしないですよね?色々なものにとらわれない自由な精神と、若い時から培ってきた様々なスキルを縦横無尽に引き出してアウトプットできる柔軟さが素晴らしいと思います。 

4.混雑状況と所要時間目安

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前回の「花*Flowwer*華展」では期間中32,000人の来場者があったという山種美術館。しかし、まだまだそこまで混雑する程ではないので、期間中は土日を含めてゆっくり見れると思います。

前期・後期で展示替えが一定数発生するので、ここは是非前後期で2回足を運んで、コンプリートしておきたいところですね。

5.是非立ち寄りたいカフェ

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 山種美術館といえば、何と言っても館内1Fに併設された「カフェ」の素晴らしさ。毎回の企画展で展示される代表的な作品にちなんで用意されるオリジナル和菓子が素晴らしいです。僕の尊敬する美術ブロガー、Takさんが上梓した「カフェのある美術館」にもガッツリ特集されています。 

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毎回用意される5種類のオリジナル菓子ですが、今回は5種類あるうち、特にこの鳴門をモチーフとした青い菓子、「涛々」がメチャうまでした!試食コーナーで残り1個となっていたところを頂いたのですが、たくさんあったら絶対バレないように2つ食べてた!

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そして、店員さんにおすすめメニューを聞いてみたのですが、この夏の一押しは「冷やし豆乳そうめん」とのこと。こちらを頂いたあとに、オリジナルの和菓子をセットでいただくと、展覧会で集中した頭もスッキリしますね。

6.関連情報 

Eテレ「日曜美術館」で放映決定!(2017/7/16)

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山種美術館の企画は、コンスタントに毎年1回以上は「日曜美術館」や「ぶらぶら美術・博物館」などのアート番組で取り上げられています。今回の「川端龍子展」が7月16日の放送回で特集される予定です!

特集以降は、若干混雑するので、できるだけ清涼な展示空間を独り占めしたい!という人は、放送前に行っておくのがいいかもしれませんね。 

7.まとめ

つくづく思うのですが、明治期~昭和前期までの日本美術や工芸の作家たちって、一部のメジャーどころを除くと、世間から忘れ去られた人が本当に多いのですよね。この川端龍子という画家も、その圧倒的な個性や確かな技術、作品のインパクトから言うと、もっともっと評価されていい日本画家だと思います。

少なくとも、単純に見ていて「楽しい」画家なんですよね。是非、ド迫力の作品群を冷房の利いた抜群の環境で楽しんでみて下さい。行って非常に満足した展覧会でした。おすすめです!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2017年6月24日(土)~8月20日(日)
*会期中、一部展示替えあり
(前期: 6/24~7/23、後期: 7/25-8/20)
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
月曜日(但し、7/17(月)は開館、7/18(火)は休館)
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

映画「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」試写会感想&みどころ&レビュー(ネタバレなし)

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かるび(@karub_imalive)です。

現代アートファンの間で話題になっているオラファー・エリアソンのドキュメンタリー映画「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」が8月5日から全国公開されます。先日、それに先立って原美術館にて試写会が開催されましたので、一足お先に見てきました。

代表作「ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ」の製作風景の密着シーンを中心に、ベルリン・アイスランド・金沢・コペンハーゲン・ロンドンと、世界中を飛び回る多忙な活動の合間を縫って、オラファー自身が77分間語り尽くした骨太のドキュメンタリー映画です。現代アート好きなら必ずチェックしておきたい知的エンタテイメント作品に仕上がりました。

早速、試写会の感想を簡単に書き残しておきたいと思います。

※本エントリで使用されている映画関連画像は、予め主催者側の許可を得た画像か、紹介目的で公式予告動画をキャプチャした画像となります。何卒ご了承下さい。

1.映画「オラファー・エリアソン知覚と視覚」の概要

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本作「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」(原題「Olafur Eliasson: Space Is Process」)は、2009年に彼の母国デンマークで公開されたドキュメンタリー映画です。実に、8年越しでの日本公開であります。

日本以外で本作が公開された国は、オラファーと比較的つながりの深いアイスランド・ドイツ・アメリカ・イギリスです。実は、日本でも、毎年東京で開催されている北欧映画の祭典「ノーザンライツフェスティバル」で2012年に一度だけ単発上映された実績があるようです。

映画は、いわゆる伝記映画という形をとっておらず、オラファー本人が画面に向かって語りかけてくる独白形式のドキュメンタリーです。オラファー自身の「壮大な自己紹介」であり、よくできた「プロモーション映画」でもあり、そして、「最強の作品解説映画」でもあるわけです。

▼「ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ」f:id:hisatsugu79:20170801144604j:plain

作品では、主に、2004年~2009年までの6年間、ニューヨークでの巨大インスタレーション作品「ニューヨークシティ・ウォーターフォールズ」の製作シーンを中心として、オラファー・エリアソンの私生活や生き方のかなり深いところまで丹念に取材して迫っていっています。

こちらにトレイラー動画もありますので、まずは軽くチェックしてみてくださいね!

2.オラファー・エリアソンって誰なの

本記事をGoogle等の検索で拾って読んで頂いている方には、もはや説明は不要かと思われますが、一応まとめておきますね。ちょうど、映画配給会社のアップリンクHPでの紹介が非常によくまとまっているので、こちらから全文引用させていただきますと・・・

1967年デンマーク生まれの芸術家。王立デンマーク芸術アカデミーで学び、現在はベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動する。2003年にロンドンのテート・モダンで人口の太陽と霧を出現させた個展「The Weather Project」を成功させ、世界中に衝撃を与えた。

ヴェネツィア・ビエンナーレにも複数回参加し、欧州の主要な美術館で個展を開催。空間、光、水、霧などの自然界の要素を巧みに用い、観客を含む展示空間そのものに作用するインスタレーションを数多く生み出している。

近年では、ヴェルサイユ宮殿に滝をモチーフにしたインスタレーションを制作した。一方、日本でも東京・原美術館や、金沢21世紀美術館で個展を開催。個展のほかにも、瀬戸内国際芸術祭2016ではベネッセアートサイト直島の一環として「Self-loop」を発表し、2017年8月4日から開催されるヨコハマトリエンナーレ2017では「Green light」が出展される。
引用:『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 - 上映 | UPLINK

オラファー・エリアソンといえば、現代アート入門者用のテキストや解説本にも頻繁に出てくる、世界的に有名な現代アートのビッグネームですね。現代アートといえば、極端にコンセプチュアルだったり、全然美しくなくて、意味不明なものも非常に多いです。しかし、オラファーエリアソンの作品は、ロジカルに突き詰めて考え抜かれたコンセプトと、作品の見た目の美しさ・華やかさが同居する作品が多く、初心者にも優しい作品が多いのです

彼の主な作品の特徴を3点挙げるとすると、以下のような感じでしょうか?

・光や風、音などを活用した、幻想的なイメージが変化し続ける作品
「何が空間を充実感あるものにするのか」「何がその空間を斬新で面白く人を深く包み込んでくれるような懐の深い空間にするのか」それを考えて突き詰めた結果、表現に一番適した素材や媒体が、たまたま光や風、水や音などに過ぎなかっただけだ、とは言っています。ですが、それが結果的に作品に美しさ・親しみやすさをもたらしており、初心者に対してわかりやすさを担保しているのですね。

・鑑賞者も作品に干渉・参加することで完成する参加型作品
オラファーは「“現実は主観次第”これはアートに限らず全てに言える。現実は見る者の見方で決まるんだ」と映画でも語っています。リアリティはたったひとつの絶対的なものではなく、見方によってコロコロ変わり得る。個人の主観で決まる、という立場を取ります。だから、彼は作品が本物かどうか判断するのは鑑賞者に委ねたい、と常日頃から主張しています。だからこそ、「見る者」も作品の共同制作者であってほしい、ということなのでしょう。

また、小難しいコンセプトは置いといたとしても、単純に鑑賞者参加型作品は、五感で作品を味わえるので「面白い」し、「記憶に残りやすい」ですからね!

・作品の仕掛けや仕組みがひと目でわかる「人工的」な作品
オラファーは、敢えてインスタレーションの仕掛けを敢えてネタバレして可視化させることが多いです。そうすることで、作品の中に置かれた鑑賞者はまるで彼とその場で作品を一緒に作っているような感覚になるんですよね。また、オラファー自身、作品を通じて鑑賞者に「違う視点」を持って欲しい、という願いを持っています。だから、敢えてネタは全開にして、わかりやすく視点を提供してくれているのでしょう。

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3.映画のみどころ・感想

全部で77分間と、一本の映画としては非常にアッサリしていて、一見短めのように思われます。しかし、内容はかなーり濃ゆいです!映画から物語性や余計な演出が削ぎ落とされ、シンプルなドキュメンタリーになっている分、オラファーによる自身の作品解説、作品製作へのこだわり、芸術観、生き方などが語り尽くされます。非常に情報量も多く、チェックポイントも多岐にわたりますので、ここで僕自身が感じた5つの見どころを、感想を交えながらまとめておきたいと思います。

見どころ1:鑑賞者も参加できる「参加型」映画

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引用:映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』公式予告編 - YouTube

前述した通り、本作は最初から最後までずーっとしゃべっています(笑)現代アートの芸術家って、基本的には「とっつきにくいけど、しゃべりだしたら止まらない」のですよね(笑)オラファーもまさにそんな感じ!

ところで、オラファー・エリアソンの作品の特徴の一つとして、「鑑賞者参加型」の作品が多いことが挙げられます。風や光、音などが常に変化する仕掛けがまずあって、鑑賞者が作品に入り込み、作品と相互作用することによって、初めて作品として完成する、そんなコンセプトの作品が多いように思われます。

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だから、本映画もまさに「鑑賞者」が参加できるような仕掛けが映画内で数か所設けられています。スクリーン上で突然オラファーが鑑賞者に語りかけてくる「思考実験」的なアプローチが面白い!オラファーの呼びかける簡単な視覚実験を体験することで、オラファーのアート観を理解できるようになっているんですね。

そして、鑑賞者が積極的に映画に参加することによって、この映画自体もまたオラファーと鑑賞者が一緒になって作り上げる一つのアート作品として完結しているんだろうなぁと。上手い仕掛けでした。

見どころ2:オラファーの代表作・有名作品をオラファー自身が語り尽くす!

ここなんですよね。僕が本作で一番魅力的だなと感じたのは。

現代アートの場合、作品と向き合った時に、全然美しくなくて、何がいいたいのか「意味不明」な作品って非常に多いですよね。僕は、大抵の場合、その場で自分の感性と乏しい知識を総動員して、「これは多分こういうことを言いたいのかな?」とある程度納得したら、あとは好きか嫌いかでその場は強引に切り抜けることが多いです。

だから、本当は作品を目の前にして、作者の話をじっくり聞きたい気がするんですよね。なぜこういう造形のインスタレーションが出来上がったのか、作者自身が考えたコンセプトをフルに「ネタバレ」してもらって、初めて咀嚼・理解できるというか。

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本作では、彼の出世作となったテート・モダンでの「ウェザー・プロジェクト」や代表作「ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ」、金沢21世紀美術館で公開された「あなたが出会うとき」など、彼が手がけてきた過去の有名作品について、作品コンセプトや考え方、制作当時の思いなどをじっくり語ってくれています。本作は、同時代に生きている作家だからこそできる、作者自身の声による壮大な「映像付き音声ガイド」とも言えるかもしれません。 

見どころ3:発想力・オリジナリティの源泉に迫る密着

オラファー・エリアソンがなぜ世界的に著名な現代アート作家として成功したのか、なぜハイペースでオリジナリティや意外性のあふれる作品群を生み出すことができるのか、本作を何度か見ると、そのあたりの秘密が浮き彫りになってきます。

まず、圧倒的な観察力です。彼は、行動する時はいつも周りの風景や誰かの持ち物を見つけて、よく観察しているのです。そのハイライトが、道端に落ちていたコインを目ざとく見つけて、カメラにアピールするシーンです。何気ない日常風景の中にも、作品製作のためのヒントや着想を貪欲に見つけ出していこうとする姿勢というか嗅覚みたいなものが、凄い!画面からひしひしと伝わってきます。

アイスランドの危険な氷河地帯での撮影シーンf:id:hisatsugu79:20170801145850j:plain

また、彼はインスピレーションを自然の原野の風景から得ていることが多いようです。映画内でも、彼の生まれ故郷、アイスランドの氷河地帯まで出かけていき、危険を犯してまで貴重な氷河写真の撮影にこだわっています。これがまさに彼の息抜きでもあり、ライフワークでもあり、インスピレーションの源泉にもなっているのだな、と納得しました。

見どころ4:プライベートもガッツリ見せます!

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本作では、オラファーの制作風景だけではなく、彼の私生活の一面を垣間見えるような子供とのシーンがたっぷり出てきます。(むしろ、意図的に家庭的な一面を見せようとしている感もアリ)画像で見て頂くとわかりますが、オラファーと奥さんとの間には実子はなく、かわりにアフリカから二人の子供を養子として迎えています。

映画内では、特に長男のザカリアスくんとの交流が心温まります。子供を自身のベルリンのスタジオで遊ばせたり、ニューヨークに呼んで作品を見せたり・・・。一生懸命子供に説明しているのに、ザカリアス君が、全くお父さんの偉大な作品を見てないで、自分の遊びに夢中なのも微笑ましい(笑)

ただ、ピカソやゴーギャンみたいに子供や家庭そっちのけで好き勝手やってるわけじゃなくて、ちゃんと一市民としての「責任」を果たそうとしているのですね。

見どころ5:名物「オラファー・エリアソンのスタジオ食堂!」

そして、グルメファンの間でもカルトな注目を浴びている、オラファー・エリアソンのベルリン製作スタジオの社員食堂もバッチリ映っています。

オラファーのスタジオの食堂は、アート関係者を超えて一般層まで評判が広がっているほど有名になりました。(タニタ食堂みたいな?)ここの食堂で扱っているレシピや食材などを特集した料理本まで出版されているくらいです。(洋書)

映画内では、まるで学校の給食のように楽しそうに皆で同じランチを頂いているシーンが映ります。もちろん、オラファーも全く特別扱いされてません(笑)オラファーの工房、働きやすそうだったな~。

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4.ヨコハマトリエンナーレ2017にも出展予定!

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オラファー・エリアソンは、映画公開とほぼ同時期の、8月4日から公開されるヨコハマトリエンナーレにも「Green Light」という作品で参加しています。映画中でも「責任を持った批評を心がけて欲しい」と鑑賞者に呼びかけるように、今回はアーティストとしてだけでなく、一市民としての市民運動に近いような立ち位置での取り組みなんでしょうか?「鑑賞者参加」の進化型作品なのかもしれません。SNSやクラウドなど、ネット全盛時代に上手くマッチしたコンセプトだと思います。

ヨコハマトリエンナーレと合わせて作品を味わえば、より理解が増すかもしれませんね?

こちらが、オラファー自身がヨコハマトリエンナーレでの作品コンセプトについて語っている動画です。当たり前ですが、映画に比べてだいぶ老けましたね(笑)

5.まとめ

オリジナル公開年度は2009年と、かなりの年数が経過しての日本公開となりましたが、内容はハッキリ言って全く色あせていません。情報密度が高く、内容も非常に深いため、何度も何度も繰り返しの鑑賞に耐えます。(というか、繰り返し見ないと彼の主張・考え方を一度に理解するのはむしろ難しいかも)

個人的には、映画を見るというより、むしろ映画館でオラファーのビデオ・インスタレーション作品を味わっているような感覚のほうが強かったです。映画というより、アート作品を見ているような感じでした。

この夏の「ヨコハマトリエンナーレ2017」をはじめ、これからもますます世界中でオラファー・エリアソンの作品を目にする機会は増えていくと思います。その際、より深く作品を理解し・味わうためにも、この機会にじっくりと本作を通してオラファーの考え方や作品に親しんでおくのはいかがでしょうか?見終わった後、一人でいろいろ深く思索したくなるような、そんな豊かな作品でした。おすすめです!

それではまた。
かるび

関連書籍・映画などを紹介!

激売中!?オラファーのスタジオ食堂の料理レシピ本

現在、Amazonにて洋書の料理本部門でベストセラー第1位となっています!本書は、ベルリンにあるオラファーのスタジオ内食堂を特集した本です。キッチンでの活動内容や、料理レシピについてカラー写真入りで大特集しています。

オラファーとの対談が読める本「美術館をめぐる対話」

著者とオラファー・エリアソンが美術館をめぐって対話した対談ログを収録。日本語でまとまって彼のアートに関する考え方を読むことができる数少ない文献です。

開始まで3ヶ月!「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」記者発表会に行ってきた!内容詳細・前売り券・グッズ情報も!【展覧会見どころレポート】

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かるび(@karub_imalive)です。

11月1日から、ドラえもんをテーマとした現代アート作家28組によるグループ展「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」がいよいよ始まります。村上隆、奈良美智、会田誠ら、日本を代表するようなビッグネームが、ドラえもんを題材に、その世界観やメッセージをどう表現するのか?非常に楽しみなところです。

この秋、アート好きにとっても、またドラえもんファンにとっても目の離せない大型展覧会となりそうな本展。ちょうど開始3ヶ月前となる7月31日、その詳細を明らかにする記者発表会が開かれました。ご縁があって取材することができましたので、早速ですが明らかになったチケット情報や開催内容について、簡単に書いてみたいと思います!

※本エントリ内で使用している画像は、予め主催者の許可を得て掲載しています。ご了承下さい。

1.「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」とは?

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ドラえもん×現代アーティストのコラボレーション

冒頭でも書きましたが、「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」は、バリバリ現代アート寄りの展覧会です。決してアニメの原画展や藤子不二雄特集をするわけではありません(笑)

キュレーターに美術史家の大御所、山下裕二氏が迎えられました。彼の統括の下、日本を代表する大物から、将来有望な若手まで、計28組の現代の日本美術を引っ張る最強のアーティストたちが集結しました。絵画・彫刻・アニメ・インスタレーションなど、それぞれの得意とする表現分野は多岐にわたります。

そんな彼らに与えられたテーマは、ズバリ

「あなたのドラえもんをつくってください」

アーティストたちが考える、世界に一つしかない、個性豊かな「ドラえもん」を表現する展覧会になりました。まさに「ドラえもん meets 現代アート」って感じでしょうか。

2.「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」の見どころは?

注目ポイント1:合計28組の豪華作家陣!

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左:村上隆(Photo: Chika Okazumi)
右:増田セバスチャン

それまで、すでに26組まで紹介されていましたが、7月31日の記者発表会にて、新たに奈良美智、増田セバスチャンの2組が発表され、合計28組の全アーティストが明らかにされました!

会田誠、梅佳代、小谷元彦、鴻池朋子、佐藤雅晴、しりあがり寿、奈良美智、西尾康之、蜷川実花、福田美蘭、町田久美、Mr.、村上隆、森村泰昌+コイケジュンコ、山口晃、渡邊希、クワクボリョウタ、後藤映則、近藤智美、坂本友由、シシヤマザキ、篠原愛、中里勇太、中塚翠涛、増田セバスチャン、山口英紀、伊藤航、山本竜基、れなれな

監修者の山下裕二氏が、「日本を代表する有名作家だけでなく、今20代~40代のこれからの日本のアート界を支えていく有望株にも幅広く声をかけた」と言うように、若手からベテラン・大御所に至るまでバラエティに富んだラインナップになっています。

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村上隆 出展作品 タイトル未定
©2017 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.©Fujiko-Pro

現在、11月に向けて鋭意製作中とのことでしたが、まずは先陣を切って、村上隆の作品が、彼のビデオメッセージとともに一部発表になりました。村上隆のキャラクターの中に、無数のドラえもんのキャラが溶け込んで渾然一体となった作品です。

それ以外のアーティストたちについても、作家個人のTwitterや公式Twitter/Instagramで随時アップされていくと思います!

注目ポイント2:2002年に引き続き出展するアーティストは、前回出展作品も合わせて展示!

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前回「THE ドラえもん展」村上隆 出展作品
「ぼくと弟とドラえもんとの夏休み」(2002年)
©Fujiko-pro & Takashi Murakami / Kaikai Kiki 2002

実は、本展は15年前の2002年、以前存在した大阪のサントリー天保山ミュージアムや横浜そごう美術館で一度開催されているのです。

今回の2017年展に出展しているメンバー28組のうち、森村泰昌や村上隆など、5組は2002年の前回展にも出展していました。彼ら5組に関しては、前回展の作品も合わせて隣に展示されるとのことです!15年経って、彼らの作品や作風がどのように変わり、進化したのかも注目ポイントですね。

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注目ポイント3:グッズも要注目!

展示会場でアーティストが繰り広げる作品の共演を楽しんだ後、さらに楽しみなのが「会場限定オリジナルグッズ」です!まだグッズについてはほとんど発表されていませんが、ネット上のSNSを見ていると、早くもマニアが手ぐすね引いて待っているようですね。そして、2002年の前回展でも、かなり熱かったようなのです。

ちょうど、TwitterやInstagramにて、ハッシュタグ「#私とドラえもん展」で検索をかけると、2002年の展覧会に足を運んだたくさんの熱心なファンが、当時の思い出をグッズとともに写真でアップしています。

いかがでしょうか?僕は、残念ながら2002年版は見ていないのですが、こうしたツイートを見ていると、やっぱりファンは思い出のグッズを今でも大切に持っているようですね。今回もまだ公式アナウンスはありませんが、順次アップされるグッズ情報には目が離せません。

注目ポイント4:写真撮影は原則OK!

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そして、今回の展覧会は写真撮影は原則OKとなる予定なのも嬉しいところ。特に僕のようなブロガーは、ブログに画像がある・ないは死活問題なので、会場でアナウンスされた時、心の中で「しゃっ!キタ!」とガッツポーズしてました(笑)

アニメやマンガ、映画系の展覧会では、たいてい写真撮影はNGか、頑張っても一部OKにとどまることが多いので、これは素晴らしい英断だと思います!会場でガンガン撮影して、SNSにアップしたいですね!

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3.記者発表会で、爆笑クロストークも!

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また、記者発表会では、監修者の山下裕二氏が進行役を務め、出展者を代表して漫画家・アーティストのしりあがり寿さんと美術家の西尾康之さんが登壇し、それぞれ意気込みを語ってくれました。

しりあがり寿さんに言わせると、ドラえもんはもはや日本人にとっては日常風景に溶け込んでいて、日本人にとっては「環境」だったのではないかと。だから、アーティストにとって「ドラえもんを描くというのは、いわばみんなで富士山を描くようなものだ」という感覚のようです。わかるような気がします。ちなみに、しりあがり寿さんは、今回展でアニメーション作品を制作する予定だそうです。

また、ドラえもんのテレビ放送がリアルタイム世代だった西尾さんは、学校でよくいる「ドラえもんがクラス一上手い少年だった」そうです。そして、子供の頃、実家で大切にしていたサボテンにも「ドラえもん」という名前を付けて大切にしていたという逸話もありました。(その後そのサボテンは輪切りにして観察したらしい・・・/笑)

礼儀正しく良い人そうな外見とは裏腹に、ダークでリアルな作品が見どころ満載な西尾ワールド。山下裕二氏も指摘していましたが、意外とマンガ版ドラえもんの初期作品には、ホラー的なタッチのストーリーも多いのですよね。西尾さんの構想では、ドラえもんの内臓をみせちゃうかも?!という話も出ました。原作のダークな面の魅力を引き出してくれそうな西尾康之の「クレイジーな」作品に期待ですね!

そして、クロストーク後半では、登壇したしりあがり、西尾両名にスケッチブックを渡し、その場で即興でドラえもんを描いてもらうというサプライズ企画がありました。

▼ドラえもんを書いているしりあがり&西尾両名f:id:hisatsugu79:20170802105104j:plain

ちょっと席が遠く撮れなかったのですが、特に面白かったのが、即興でその場で描いたしりあがり寿さんの描いたドラえもん。ツイッターで別の方がアップしてくださっているものをお借りしますと・・・

・・・。すごいですよね。このラフスケッチ一つ見ても、以下に現代アーティストたちが見ているドラえもんが個性豊かでバラエティに富んだものなのかよくわかりました(笑)

4.早割チケット&グッズ付きチケットを紹介!

「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」では、8月1日から早割系チケットが発売されていますが、前売り系チケットのうち、オトクなものを紹介したいと思います。早割は期間限定、セット券は数量限定ですので、いずれもお早めに!

▼早割ペアチケット
通常の前売り券より600円オトクな早割ペアチケットです。

【一般+4歳~小学生】1,600円
【一般+中学生・高校生】2,200円
【一般+一般】2,600円 
【発売期間】2017年8月1日(火)~8月20日(日)
【発売場所】ローソンチケット(Lコード:30021)

▼ドラえもんフィギュア セット券
メディコム・トイ UDF ドラえもん[ブルー/ピンク](1,080円)と入場券(一般)のオトクなセット券です。フィギュアは会期中、会場内での引き換えとなります。

【価格】2,400円※券種は一般のみ
【発売期間】2017年8月21日(月)~10月31日(火)
【発売場所】ブルー:ローソンチケット(Lコード:30021)、ピンク:uP!!!公式サイト※各色限定3000枚、売切次第終了

▼村上隆オリジナルクリアファイル セット券

村上隆 オリジナルクリアファイル(500円)と入場券(一般)のオトクなセット券です。クリアファイルは、会期中、会場内での引き換えとなります。
【価格】1,800円※券種は一般のみ
【発売期間】2017年8月21日(月)~10月31日(火)
【発売場所】ローソンチケット(Lコード:30021)

5.まとめ

知名度抜群の豪華アーティスト陣から、若手の精鋭まで多彩なメンツが集まった今回の「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」。展覧会スタートまでいよいよ3ヶ月に迫りましたが、非常に楽しみです!また続報が入り次第、ブログにアップしたいと思います。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
森アーツセンターギャラリー
(六本木ヒルズ森タワー52F)
東京都港区六本木6-10-1
◯最寄り駅
東京メトロ 日比谷線「六本木駅」1C出口 徒歩0分
(コンコースにて直結)
都営地下鉄 大江戸線「六本木駅」3出口 徒歩4分
都営地下鉄 大江戸線「麻布十番駅」7出口 徒歩5分
東京メトロ 南北線「麻布十番駅」4出口 徒歩8分
◯会期・開館時間・休館日
2017年11月1日~2018年1月8日(会期中無休)
10時00分~20時00分(入場は閉館30分前まで)
※火曜日は17:00まで
◯公式HP
http://thedoraemontentokyo2017.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/thedoraemonten
◯Instagram
https://www.instagram.com/thedoraemontentokyo2017/
◯展覧会巡回先

前回2002年では巡回実績がありますが、現状は
未定です。

*1:=゜ェ゜=

ヨコハマトリエンナーレ2017が予想外に楽しい!現代アート初心者でもOKでした!【展覧会感想・レビュー/横浜トリエンナーレ】

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かるび(@karub_imalive)です。

今年最注目の都市型国際芸術祭、「ヨコハマトリエンナーレ2017」が8月4日から開幕しました。今年で第6回目を迎えた、日本最大級の地域芸術祭です。今年は、出展者数38組と絞り込んだ分、1組で複数の作品をじっくり見れるようになりました。

行く前に、公開シンポジウム、記者発表会と2回事前イベントに参加した感触では、すごく難易度が高く、高尚な作品が多いのかなと思っていました。でも、フタを空けてみたら意外にもわかりやすく、楽しい作品が満載!終わってみれば、今までで一番楽しい地域芸術祭体験となりました。

初心者からマニアまで、いろいろな楽しみ方ができる今年の「ヨコハマトリエンナーレ2017」。早速行ってきた感想レポートを書いてみたいと思います!

1.「ヨコハマトリエンナーレ2017」とは

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「ヨコハマトリエンナーレ」は、2001年にスタートした、日本では最も最初期から企画がスタートした現代アートの国際芸術祭です。概ね3年~4年に1度のペースで実施されています。前回は2014年に開催されて、約21万人の来場者がありました。今年、2017年度で、第6回目の開催となります。

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引用:www.city.yokohama.lg.jp/shikai/pdf/siryo/j3-20160531-bk-23.pdf

今回の展覧会テーマは「島と星座とガラパゴス」世界の孤立性・接続性をメインテーマに取り上げました。交通や情報通信の発達で、かつてないほど世界は地理的にも経済的にも密接につながる一方で、様々なレベルで階層化・孤立化を深めようとする世界。この相矛盾した動きの中で、いわば「ガラパゴス」のように個性を高め、独自進化した一人ひとりのアーティストが、この横浜の地で「星座」のようにゆるく連携して、一つのアートの「島」を作ろう!、と言った感じでしょうか。(自信ありません。解釈間違ってるかも・・・)

前回展はやや入場者数が減ってしまった本展。今回で大いに巻き返して盛り上がって欲しいところです。

2.「横浜トリエンナーレ2017」の4つの魅力・見どころ

みどころ1:世界中から集まった多彩なアーティスト達

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アメリカ、ヨーロッパ、中東など、幅広い地域・国々から、バラエティ豊かな全38組のアーティスト達が出揃った本展。今回は、その中でも、特にアジア系の人たちが多いなという印象でした。

ここ数年、特にアジア圏の現代アーティストたちを特集する展覧会が日本でも増えていますが、今回のヨコハマトリエンナーレでも、中国のアイ・ウェイウェイ、ザオ・ザオを始めとして、アジア圏のアーティストたちの存在感が非常に目立ちました。

みどころ2:1組のアーティストにつき、複数作品が出展されている

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前回、前々回までは、おおむね70組前後のアーティストが、原則一人一点ずつ出展する形でした。来場者は、多彩な顔ぶれの作品を少しずつ楽しみながら会場を回りました。それが、今回は約半分の38組へと大きく出展者数が減少しています。

横浜市の予算等の問題も絡んでいるのかもしれませんが、一番の狙いは、よりひとりひとりのアーティストに割りあてられたブースが広がったことです。この結果、大型の作品を設置することが可能になり、また、一人あたり複数点の出展ができるようになりました。だから、今回はアーティスト一人ひとりの小さな「個展」の集合体とも言えそうです。

みどころ3:初心者でもOK!意外とわかりやすい展示も多い!

現代アートといえば、「意味不明」「何がいいたいのかわからない」と、初心者には難しいイメージもありますよね。僕も、昔村上隆のコレクション展で「意味不明!」とブログに書いたこともありました(笑) 

しかし、今回の「ヨコハマトリエンナーレ2017」では、かなりわかりやすい作品も多かったのです。仮に、何が言いたいのか作品そのものからテーマが読み取りづらくても、単純に見ていて「面白い」「美しい」作品が多いんですよね。

たとえば、このあたりとかどうでしょう?見て普通にわかるし、「美しい」「かわいい」と思える要素ありますよね?

▼青山悟「Roses 6/6」
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▼ブルームバーグ&チャナリン
「フロイトの長椅子の残存模様を石英模型検板を用いて観察した際の干渉縞」(タペストリー)/「ロンドン自爆テロ犯(L-R)」(積み木状のインスタレーション)f:id:hisatsugu79:20170804161035j:plain

▼パオラ・ピヴィ「準備ができたら教えて」(手前ピンク)f:id:hisatsugu79:20170804160818j:plain

やはり、一流のアーティストは、「個性」「独創性」をきっちり確保した上で、ちゃんと鑑賞者の心に届く「面白い」作品を作ってくる、ということなのでしょうね。肩肘張らず、観光のついでや別の用事のついでに見ていくような感じでも全然楽しめますよ!

みどころ4:観光気分でフラッと立ち寄れるのも魅力

▼連携会場「Bankart NYK」3Fからの風景f:id:hisatsugu79:20170804121832j:plain

今回のメイン会場、サブ会場は、みな桜木町・みなとみらい周辺の湾岸エリアの観光地真っ只中にあります。ちょっと疲れたらいつでも離脱して海辺のアトラクションで遊んでもいいし、別の展覧会・博物館とはしごできちゃう気軽さがあります。もちろん、食事や休憩できるおしゃれなカフェやレストランも山ほどありますし。

▼展示そっちのけで水遊びするこどもたちf:id:hisatsugu79:20170804163450j:plain

地域芸術祭の醍醐味は、アートだけでなく、アートの展示されている風景や、地元のローカルな観光も楽しめることだと思います。だからこそ、マニアだけでなく、幅広い人達がそれぞれのスタイルで楽しむことができる。そういう意味で、「ヨコハマトリエンナーレ2017」では、周辺地域にパーフェクトなほど娯楽が何でもそろっていますね。 

ちなみに、展覧会つながりで言うと、会場近くの「パシフィコ横浜」では、同時期に「ヨコハマ恐竜展2017」も開催されています。こちらも恐竜ロボットが秀逸で、地元の手作り感もあった面白い展覧会でした。こちらとハシゴしてみてもいいですね。 

3.特に印象に残った展示10作品を簡単に紹介します!

半日かけて、気合で全部回りましたが、どのアーティストも非常に手のかかった力作ぞろいで、本当に素晴らしかったです。その中でも、特に気に入った10組の展示を紹介しますね!

アイ・ウェイウェイ

まず、メイン会場外壁部分に張り付いている救命ボートと救命胴衣は、2008年北京オリンピックのメイン会場「鳥の巣」をデザインしたことで世界的に有名となったアイ・ウェイウェイの展示です。外壁部分には、遠くから見ても「救命ボート」が張り付いている様子がわかります。

▼救命ボートが貼りついているf:id:hisatsugu79:20170804140730j:plain

メインエントランスの柱には、実際に難民が使用した「救命胴衣」がびっしりと飾り付けられていました。

▼救命胴衣が飾り付けられたメインエントランスf:id:hisatsugu79:20170804140751j:plain

近づいてみてみると、結構壮観です。

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よく見ると、この救命胴衣日本製なんですね(笑)そして、確かに結構汚れていて、使用感があります。実際にこれを着て中東の難民たちはシリアからヨーロッパへと命がけで渡ってきたのですね・・・

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会場入りする前から、今回展のテーマ「孤立と接続性」を象徴するような展示でした。実際に実物を見るまでは「なんかいまいちこれがアートなのか?」と思っていましたが、やっぱり目の前で見せられると、そのスケール感やたくさんのストーリーが隠されてそうな1点1点の救命胴衣の前に、しばし言葉を失いました。面白かったです。

オラファー・エリアソン

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続いて、こちらも世界的に知名度が高いビッグネーム、オラファー・エリアソンの展示です。今回は期間中、館内でワークショップ「Green Light」が開催されています。シンプルな棒とジョイント、緑の電球を使って、みんなで一つのオリジナルな作品「Green Light」を作り上げていく企画です。ちょうど、Youtubeにその手順がアップされていました。早回しで1分くらいで終わりますので、是非見て下さい!

一般の参加者とシリアからやってきた難民たちがシンプルな共同作業をする中で、相互理解を深めつつ、世界に対する一体感・責任感を学んでいく狙いのプロジェクトです。すでにヴェネツィア・ビエンナーレなど世界数カ所を巡回していますが、横浜ではどんな作品が生まれるんでしょうか?

▼オラファー・エリアソン「Eye see you」f:id:hisatsugu79:20170804143142j:plain

また、オラファーの作品はもう一つ面白いものがありました。この「オレンジの光」を見た瞬間、まさか?!と思ったら、やっぱり!!テート・モダンでの出世作「ウェザー・プロジェクト」を小型化して進化させたような作品「Eye see you」です。

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タネも仕掛けもネタバレされ、明らかに人工的に作り出された美しさなのですが、それでもなぜか不思議と惹かれてしまうのが彼の作品の独特の魅力ですね。

ちなみに、ちょうど「ヨコハマトリエンナーレ2017」の開催にあわせて、オラファー・エリアソンのドキュメンタリー映画「オラファー・エリアソン 知覚と視覚」が上映封切られました。感想レポートを書いていますので、もしよければどうぞ! 

Mr.(ミスター)

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村上隆の指揮の下、ファレル・ウィリアムズのMV「it Girl」なども手がけている、カイカイキキ所属の有力アーティスト、Mr(ミスター)も出展しています。

作品は複数ありますが、村上隆の作風をさらに先鋭化させたようなある意味激しい作風でした(笑)こういう振り切った感じ、いいと思います!

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マーク・フスティニアーニ

「トンネル」と名づけられたインスタレーション。多分、奥行きはそれほどないのでしょうけど、鏡と光の作用で、ずーっと向こうまでトンネルがつながっているような錯覚を鑑賞者にもたらします。ずーっと見てると吸い込まれそうになるような不思議な魅力がありました。

▼「トンネル」
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正面から見るとこんな感じ。ちょっと自分が写り込んでしまった・・・

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風間サチコ

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知る人ぞ知るマニア好みの作家さんですね。毎回奇想天外な作品を木版画を中心として作り込んできて、グループ展ではいつも話題をさらっていく人ですね。そして、今回も「3ヶ月間、缶詰で作業して完成した」という新作が発表されました。今回も風間サチコワールド全開であります(笑)

・・・部屋に入った瞬間からシュールな怪しさがただようこの展示スペース。個展タイトルも「僕らは鼻歌で待機する」だそうで。まず目につくのが部屋の中央に鎮座する山車のようなインスタレーション。

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「ルサンチマン」「萬歳」と書かれた電飾と、内側から光が当てられた木版画が、台車に乗っています。コミカルだけど、現代社会への痛烈な風刺を含んだ作品です。本作は、江戸後期の読本に登場する架空の盗賊、児雷也の物語を再解釈したインスタレーションとのことです。

また、壁にもウォーズマンが学ランを着たようなまたシュールな木版画(2014年の過去作)が飾ってありました。スクール・ウォーズマンだそうです(笑)

「スクール・ウォーズマン(卒業)」(左)
「スクール・ウォーズマン(誕生)」(右)f:id:hisatsugu79:20170804165445j:plain

宇治野宗輝

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そして、事前の記者発表会でも、その独特のパフォーマンスが目を引いた宇治野宗輝が圧巻でした。今回の作品「プライウッド新地」では、アメリカ由来の古い電化製品・調理器具・工作機械、自転車、車の部品とギターなどが連携し、ストーリー性のある音楽を奏でるインスタレーションでした。

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これが本当に面白いのです。特に、部屋の中央に置いてある自転車のユーモア溢れるへんてこな造形や、意外性のある器具達がプログラム制御されて連動して動く様子は力作としか言いようがないです。赤レンガ倉庫会場では、絶対オススメの作品です!

って、記事だけだとなかなか伝わらないので、どんな感じなのか参考に、記者発表会でのパフォーマンスを貼っておきますね。こちらの動画の、33分27秒から数分間チェックしてみてください。僕はこれを見て、絶対当日のパフォーマンスを見たいと思いました。「プライウッド新地」は、この動画の数倍凄い光景が広がってます!

柳幸典

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そして、3会場用意されたうち、巡回バスも止まらない「ガラパゴス」な横浜開港記念会館の地下スペースでは、柳幸典のインスタレーション「Project Godzilla」が待っていました。入り口を入ると、あっという間に真っ暗闇です。まるでお化け屋敷の中に入ってしまったかのようです。

まず、最初に待っているのはタイトルにもあるゴジラと思しき目がギロリと動く瓦礫の山。不穏な雰囲気がMAXです。 

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そして、次の部屋に入っていくと、昨秋~2017年1月までに実施された個展「ワンダリング・ポジション」で使われたインスタレーションを一部流用した真っ赤な電飾の部屋。文節ごとにバラバラにされた日本国憲法が、断末魔の叫びを上げているようです。

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そして、一部屋移動するごとに立ちはだかる謎の鉄製の碑。表面には国の名前と日付が彫られており、どうやら原爆が落ちた日の記録のようです。

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そして、出口の前には、オレンジ色のマグマで覆われた地球と思しき惑星のような球体が、地鳴りのような重低音を響かせています。核戦争によって滅亡した地球の将来を暗示しているのでしょうか?

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展示はここまでで終わりですが、強烈なメッセージ性と、夏らしいエンタテイメントを両立させた、個性あふれる良い展示でした。面白い作品です。これも絶対見るべき!

ちなみに、入り口がちょっとわかりづらいので、遠くから入り口を写した写真も貼っておきますね。 

▼柳幸典の展示入り口@横浜開港記念会館f:id:hisatsugu79:20170804172159j:plain

小西紀行

▼「無題」
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今まで見たことのない変わった味わいのある絵画。シャガールのような、ピカソのような感じでしょうか?顔面を中心に数字のような幾何学的な形でデフォルメされています。ギリギリ具象画なのですが、作者オリジナルの、唯一無二の強烈な個性がものすごく印象的でした。

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美しいか?と言われるとどうかなっていう感じもありますが、普通のドローイングでもまだまだ先進的な取り組みが出来る余地があるのだな、と感心した一連の作品群でした。

ドン・ユアン

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作家の祖母の家を、全て油絵で一つ一つ描き、それを実際の部屋の中に置いて表現したインスタレーション。

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美術館のホワイトキューブでは絶対に着想できない斬新なアイデアと、作品全体の醸し出す温かみ、かわいさにしばし見とれてしまいました。絵画一つ一つはなんでもない普通の油絵ですが、「見せ方」を少しひねるだけで、面白い表現方法になるんですね。

ジョコ・アヴィアント

▼「善と悪の境界はひどく縮れている」f:id:hisatsugu79:20170804160045j:plain

日本の「注連縄」(しめなわ)から着想を得て、インドネシア原産の「竹」を編み込んで作った巨大な竹のインスタレーションです。

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横浜美術館会場のメインロビーにどどーんと置かれています。聞いてみた所、日本の竹ではヒビが入って作品が作れないのだとか。全てインドネシア産の竹で複雑に織り込まれて製作されています。左右非対称で暴れるようなねじり方が、そこはかとなく邪悪なビーストのような感じを醸し出していて良かったです。

しかしそれにしても大きいです。圧倒的な存在感でした。

▼2Fから見てもこの存在感!f:id:hisatsugu79:20170804155904j:plain

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4.展覧会をスムーズに楽しむためにやっておきたい4つの事前準備

ヨコハマトリエンナーレでは、複数の会場にまたがる膨大なコンテンツ量の展示があります。より深く楽しめるよう、託児所や休憩所など会場内では様々な工夫がされています。ここでは、事前に把握・準備しておくと良いことをいくつかまとめてみました。

写真は撮り放題!カメラを用意しよう!

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今回の展示は一部指定されている展示を除き、ほぼ全ての作品が「写真撮り放題」となっています。(フラッシュ、動画撮影は不可)非商用での個人使用に限り、SNS等にも自由にアップできるようになっています。だから、思い切り写真を撮りまくりましょう!

僕も、家で整理してみたら合計611枚も撮っていました。今まで行ったアート展覧会で最多撮影記録です(笑)スマホで撮影するなら、音声ガイド等と併用すると電池もかなり食います。ガッツリ撮るなら充電用に予備のバッテリーも合わせて持っていったほうが良さそうです。

音声ガイド・マップ・作品解説がセットになった専用アプリが便利!

入場時に手渡される紙ベースのガイドブックも役立ちますが、もっと便利なのが、今回の「ヨコハマトリエンナーレ2017」に合わせて用意された専用スマホアプリです。あらかじめダウンロードしておくと、会場内で音声ガイド、作品解説、会場マップの3役で非常に役に立ってくれました。

▼アプリの初期画面(Android)
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アプリは、それぞれApp Store/Google Playからダウンロードできます。下記にリンクを置いておきましたので、もしよければご活用下さい。

ヨコハマトリエンナーレ2017音声ガイドアプリ
ヨコハマトリエンナーレ2017音声ガイドアプリ
無料
posted with アプリーチ

そして、こちらが実際の画面例です。左側が作品解説+音声ガイド画面、右側が会場周辺マップです。特に、今回は横浜市内の複数箇所に展示がまたがっているので、この会場周辺マップは非常に役に立ってくれました。

▼アプリ画面例(左:作品解説/右:会場周辺マップ)f:id:hisatsugu79:20170804133317p:plain

イヤホンは会場でも100円で販売していますが、持っている人は使い慣れたマイイヤホンを持参したほうがいいかもしれませんね。

▼イヤホンは会場でも販売中ですf:id:hisatsugu79:20170804133415j:plain

会場移動には無料シャトルバスが便利!

今回はメイン会場が3会場あり、その他、ヨコハマトリエンナーレ期間中、イベントや関連展示を行う会場も数か所あります。結構、会場同士が離れていますので、会場移動には主催者が準備した無料送迎バスを使っちゃいましょう!

▼無料シャトルバス
(上:横浜美術館停留所/下:赤レンガ倉庫会場)f:id:hisatsugu79:20170804122210j:plain

運行状況ですが、以下の通りとなっています。特に、美術館⇔赤レンガ倉庫、美術館⇔黄金町バザール会場はかなり離れていますので、是非活用したいところです。会場内で、当日の時刻表も配布していますので、受付でもらってチェックしておくといいと思います。

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引用:http://www.yokohamatriennale.jp/2017/ticket/#bus

1点注意点としては、柳幸典の作品が展示される「横浜開港記念会館」会場にはバスは止まりません。「赤レンガ倉庫」か「BankART NYK」から数分歩くしかありませんのでご注意を!

会場内は全部無料Wifiが整備されています

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また、会場内では全部Wifi機能も使えるようになっています。スマホアプリとともに活用してみてくださいね。横浜美術館と、それ以外の会場ではID/パスワードが違いますのでご注意!

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5.グッズも充実!アーティストがデザインしたオリジナル商品が満載!

グッズコーナーは、「横浜美術館」「横浜赤レンガ倉庫」の2会場で用意されていますが、今回の「ヨコハマトリエンナーレ」オリジナルグッズは、「横浜赤レンガ倉庫」の方が充実していました。「横浜美術館」側は、その代わり書籍類が充実しています。

▼横浜美術館 グッズコーナーf:id:hisatsugu79:20170804135803j:plain 

▼赤レンガ倉庫 グッズコーナーf:id:hisatsugu79:20170804180707j:plain

以下、赤レンガ倉庫のオリジナルグッズコーナーをちょっと見てみたいと思います。まずは、定番のお菓子から・・・。

▼横浜シルクアーモンド
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▼横浜チョコレート
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▼横浜ベイブリッティー
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しぶいパッケージのティーバッグ。でもなんで飲み物はいつもダジャレに走る確率が高いように思います・・・

▼カメの金平糖
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ガラパゴスゾウガメから着想したのでしょうか?中には水色の金平糖が入っていました。会場限定オリジナルです。

つづいて、グッズ類ですが、ほぼ全てが、地元のデザイナーやアーティストさんが考案し、手がけたものとなっています。

▼カメの手ぬぐい
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▼多角形ピアス、ブローチ、イヤリング
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多角形の幾何学的なデザインのアクセサリー類。斬新でした。その他、沢山の斬新なデザイン、形をした色々なおみやげが置かれていました。是非手にとってチェックしてみてくださいね。

▼オリジナルグッズは多品種少量での取り揃え!f:id:hisatsugu79:20170804182400j:plainf:id:hisatsugu79:20170804182415j:plain

最後に、展覧会図録ですが、現在準備中だそうです。どうしても現代アートの展覧会の場合は、図録の出版が会期前に間に合わないことが多いですが、今回の「ヨコハマトリエンナーレ2017」では、2017年10月1日発売となります。価格は2,200円の予定。会場内でその場で予約もできますよ~。

▼公式図録の発売日は2017年10月1日!f:id:hisatsugu79:20170804182847j:plain

6.混雑状況と所要時間目安

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ヨコハマトリエンナーレは、過去の実績から予測すると、入場者数が約90日間で20~30万人程度と思われます。だから、お盆期間や9月のシルバーウィークなど、一部の繁忙期以外は、ほぼ混雑については心配しなくても良さそうです。ただし、横浜開港記念会館の地下、柳幸典「Project Godzilla」はキャパシティの都合上、休日は確実に待ち行列ができると思います。

所要時間は、最低でも半日、フルで1日丸々確保しておきたいです。熱心な人は、派生・関連イベントを全部こなすのであれば1泊2日は欲しいところですね。

7.関連書籍・資料などの紹介

今回は、残念なことに書籍として一般に流通している公式ガイド類の発売がありませんでした。だから、個別のガイドブックとしては入場時に受け取る冊子が命綱になります。

アートフェスティバル特集!「美術手帖」7月号

夏休みのシーズンは、他にも「奥能登国際芸術祭」「札幌国際芸術祭」「Reborn-Art Festival」「北アルプス国際芸術祭」など、さまざまな芸術祭が今年も開催されています。そんな芸術祭を楽しむための様々な記事が満載です。いつもはあまり読まない「美術手帖」ですが、今号は楽しく読めました。おすすめです。

8.まとめ

「ヨコハマトリエンナーレ2017」は、何度でも楽しめるし、色々な楽しみ方ができる素晴らしい国際芸術祭でした。このブログでは、特に気に入った10作品を中心に紹介させていただきましたが、まだまだ見るべき良作が山のようにあります!僕も、期間中あと2~3回観光のついでに色々と回ってみたいと思っています。おすすめです!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯開催会場
・横浜美術館/横浜開港記念会館/横浜赤レンガ倉庫1号館

◯会期・開館時間・休館日
2017年8月4日~11月5日(第二・第四木曜日休場)
10時00分~18時00分(入場は30分前まで)
※10/27-10/29、11/2-4の6日間は、20:30まで延長

◯公式HP
http://www.yokohamatriennale.jp/2017/
◯Twitter
https://twitter.com/thisiskyosai 

恐竜展を10倍楽しむために、事前に知っておきたい16のポイントをまとめてみた!

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かるび(@karub_imalive)です。

昨年から、夏休みシーズンや大型連休では、子供が喜ぶ鉄板コンテンツとして、知らず知らずのうちに何度も恐竜展に足繁く通うようになりました。今や、旅行先も道中でわざわざ恐竜展をやっている博物館を探して立ち寄る始末です(笑)

何度か行くうちに気づいたのですが、最近の恐竜展は本当に凄いのです。最新の研究成果をしっかり展示してくれるだけでなく、骨格標本や人形が動いたり、大型解説パネルや動画などでものすごくわかりやすくなってきています。

しかし、問題もありまして。恐竜展に足を運ぶたびに、なんとなくその場ではにわか恐竜博士になった気分になっているのですが、しばらくたって新しい恐竜展に子供と行くと、前の展覧会で学んだ内容をしっかり忘れているのですOTL。

・・・これではいかんなぁ~ということで、今シーズンは、今までに行った恐竜展で共通して展示されている基本的な内容を事前に頭に入れてから臨むようにしました。

すると、やっぱりちゃんと内容が頭に入ってくるんですよね。その後、テレビや動画配信サイトで映画「ジュラシック・ワールド」や「ジュラシック・パーク」シリーズを見ても、「あっ、映画のこの説明はちょっとおかしいかも」とか軽く突っ込めるようになりました。予習・復習のおかげで、にわか恐竜博士になれたわけです(笑)

ということで、本エントリでは、恐竜展をより深く理解し、しっかり楽しむために「事前に」仕入れておいたほうが良い16個の基礎知識やノウハウをまとめてみました!

それではいってみましょう。

ポイント1:展覧会にはカメラを忘れずに!

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子供向けコンテンツであることやSNSでの拡散狙いから、最近の恐竜展では一部の恐竜ショーを除き、写真撮影・動画撮影がOKとなってきています。(※フラッシュ・三脚使用・商業使用はNGなことが多い)

だから、せっかく行くのであれば、子供や仲間、恋人との思い出づくりに動画撮影もできるカメラを持っていきましょう。

ポイント2:大都市での恐竜展は混雑必至!お出かけ前に公式Twitterをチェック!

昔から、恐竜展は老若男女に大人気。特に大都市での展覧会は必ずと行っていいほど土日祝日は混雑します。中には、入場制限による待ち行列ができたり、会場の外で整理券を受け取らないと入れない展覧会もあります。大抵の場合、最近はTwitterや公式HPで混雑状況を実況してくれるので、公式Twitter、公式HPは事前にチェックしておくと良いでしょう。

こちらは、2016年の国立科学博物館で開催された「恐竜博2016」のツイートです。会期中、東京展だけで50万人を超える大ヒットとなりました。ツイートを追っていくと、こまめに混雑状況をつぶやいてくれているのがわかります。

ポイント3:チケットは事前購入が絶対オススメ!

事前の混雑がかなり見込まれる大都市での大型恐竜展は、入場制限とは別に、当日の会場内でチケット購入列が10分、20分と伸びることが多々あります。つまり、手ぶらで行くと購入時・入場時のダブルで並ばされてしまうことも!

入場待ち行列はともかく、チケット購入時で並ばされるのはかなり苦痛ですよね。できるだけ、近くのコンビニや各種プレイガイドで事前にチケットを購入しておきましょう。

ポイント4:恐竜展が空いている時間帯は?

恐竜展が空いている時間帯は、朝一と夕方の時間帯です。特に、子供連れの入場者が多い恐竜展では、子供が帰る夕方以降は急速に混雑が解消します。行くのであれば、開館と同時にダッシュするか、16時頃から閉館間際に入るのが良いでしょう。

また、ここ最近定着しつつある「金曜日・土曜日」の夜間延長開館を狙うのも非常におすすめです。

ポイント5:恐竜展には、どんな展覧会があるの?

一口に恐竜展と言っても、ここ数年は展示内容もバラエティに富んだものになってきました。ざっくり分けると、下記のように3種類あります。事前にHPやTwitterなどで調べて、どんな内容なのか当たりをつけておくと、当日はより楽しめると思います。

<化石や骨格模型がメインのオーソドックスな恐竜展>

恐竜研究の歴史は、基本的には骨の化石として発掘されるところから始まりました。展覧会でも昔から骨を組み上げた骨格模型や、実際に発掘された各種化石類が展示の定番ですね。公立博物館では、このタイプの「王道」的な展覧会が開かれることが多いです。例えば、2017年で言うと、「ギガ恐竜展2017」などがこのタイプ。 

<恐竜ロボットが動くタイプの恐竜展>

いわゆる骨格標本ではなく、肉体も含めた恐竜人形として電動でリアルに動かして、ビジュアルで見せようというタイプの恐竜展。学術的な展覧会というより、アトラクションやショーに近い形の展覧会です。今年で言うと、「ヨコハマ恐竜展2017」が該当しますね。こちらでは、展示後半はずっと「恐竜の森」を歩く中、左右に配置された約15~6体のリアルな人形が見応え充分でした。 

<恐竜のきぐるみが会場内を走り回るタイプの恐竜展>

ここ最近増えた、人間がリアルな恐竜スーツの中に入り(いわゆるきぐるみ)、サファリパークに模した会場内をリアルなサウンドを背景に歩き回ったり、恐竜同士で戦ったりという形式ですね。展覧会というより恐竜ショー、アトラクションといった趣きですが、エンタメ要素が強いため子供は非常に喜びます。 ちなみに、1体のスーツを作るのに軽く数百万円かかるのだとか。

一口に恐竜展と言っても、様々なタイプがあります。特に夏季シーズンは、色々なイベントがありますので、色々行ってみて比べてみるのも面白いかもしれません。

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ポイント6:恐竜の活躍した時代について

恐竜が主に活躍した時代は、三畳紀中盤の約2億3千万年前から、大量絶滅した白亜紀後期の6600万年前までとされます。人類が誕生したのが約20万年前ですから、人類の歴史とは比べ物にならないくらい、途方もなく長い時間を陸の王者として君臨してきたわけですね。一口に恐竜といっても、繁栄・活躍した時期は恐竜によってまちまちです。とはいえ、複雑な地質年代を一気に覚えるのはムリがあるというもの。

とりあえず、恐竜が活躍した時代は、以下の3つの年代のどれかであると頭に入れておけばOKです。

・三畳紀(末期):約2億5217万年前~約2億130万年前
・ジュラ紀:約2億130万年前~約1億4500万年前
・白亜紀:約1億4500万年前~6600万年前

ポイント7:恐竜の定義や分類をざっくり押さえる!

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那須野が原博物館「大恐竜展2」解説パネルより

恐竜展で、音声ガイドや解説パネルで意外に用語がわからなくて苦戦するのが、恐竜の分類です。恐竜は、進化する中で細かく系統進化していきますが、展覧会では、最低限以下の2つを頭に入れておけばOKです。

・恐竜は、ある共通の祖先から始まり、骨盤のつくりにより、「鳥盤類」「竜盤類」に大きく2種類に大別される。

・より大型恐竜が多い「竜盤類」は、「獣脚類」「竜脚形類(竜脚類)」にざっくり分けられる。「獣脚類」はアロサウルス、ティラノサウルスのような2本足で歩く肉食獣が多く、「竜脚類」は、ブラキオサウルスやマメンチサウルスなど、4本足で歩き、巨大な草食竜が多い。

ポイント8:恐竜が大量絶滅した理由と、鳥への進化

白亜紀末期の約6600万年前、現在のメキシコ湾に直径約10~15kmの小惑星が衝突し、その衝撃波と、引き起こされた巨大地震・大津波・森林火災、寒冷化の影響で、恐竜の大半は絶滅してしまいました。優れた展覧会では、この一連のプロセスをわかりやすく解説パネルや動画で解説してくれます。

この大量絶滅により、鳥類以外の恐竜は全て死滅してしまいました。

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始祖鳥の模型展示(那須野が原博物館「大恐竜展2」より)

しかし、当時恐竜の仲間だった鳥類は、白亜紀の大混乱を乗り越えて、現代まで繁栄しています。だから、恐竜は「今も生きている」のですね。

1960年代まで、「恐竜=鳥」説は顧みられず、恐竜は絶滅してしまった鈍重な巨大爬虫類として扱われていました。(僕も幼い時に読んだ図鑑では、「絶滅した爬虫類」と習った)転機となったのは、1969年に見つかった小型肉食恐竜「デイノニクス」の化石から。この恐竜の軽やかな体の構造が、始祖鳥との類似点を多々含んでいたことです。ここから、「恐竜=鳥」への理論が徐々に形成されていきます。そして、1996年に見つかった全身羽毛に覆われた小型恐竜「シノサウロプテリクス」の化石により、『鳥は恐竜の子孫である』ということがほぼ疑いなくなりました。

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ポイント9:恐竜発掘の歴史について

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マンテルによる手描きのイグアノドン骨格図
引用:イグアノドン - Wikipedia

地味なコンテンツなのか、最近はトピックとして触れられる回数がめっきり減った恐竜研究の歴史。1824年、イギリスの外科医、ギデオン・マンテルが道端で見つけた奇妙な骨の化石を、「イグアノドン」と名付けた所から恐竜研究がスタートしました。その後、いくつか見つかった恐竜化石から、当時最高の解剖学者、リチャード・オーウェンが「史上最も洗練された、驚異的な爬虫類」という意味合いで、「Dinosauria」と命名したところから恐竜研究の歴史が本格的に始まったとされます。

最近だと、2017年の「ヨコハマ恐竜博2017」にマンテルの研究道具やイグアノドンのイラストの複製画が展示されていますね。

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ポイント10:覚えておきたいメジャーな恐竜

恐竜の種類は、現在正式に発表された種類だけで約1000種類あります。しかし、展覧会や映画、書籍などの各種資料で出てくる人気恐竜はこのところ定番化しています。特に有名な恐竜をいくつか紹介しますね。

ティラノサウルス

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究極の肉食恐竜として、白亜紀末期に活躍したティラノサウルス。鋭い嗅覚と、他の恐竜を圧倒する「アゴ」の咀嚼力を誇りました。他の恐竜に比較すると脳も大きく、知能も高かったと言われます。その反面、前足の退化が進み、指もわずかに2本に減ってしまってます。「ジュラシック・パーク」シリーズでもシリーズを通して暴れまわりますし、恐竜といえばとにかく「ティラノサウルス」をまず抑えておきたいところです。「T-REX」ともよく言われますね。

トリケラトプス

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ティラノサウルス同様、白亜紀後期に活躍した装飾恐竜。肉食獣の最終進化系がティラノサウルスなら、草食獣はトリケラトプスでしょうか。最近では、親子で集団生活をしていたとされる化石も見つかりました。

ステゴサウルス

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引用:http://carnivores.wikia.com/wiki/File:Stegosaurus.jpg

最近の研究では、ヒレの部分は、武器ではなく体温調節や異性への求愛行動へと使われていたとされています。尾ひれについているトゲの部分で、敵を攻撃したようです。こちらも中規模以上の展覧会なら必ず出てくる人気恐竜ですね。

ヴェロキラプトル

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「ジュラシック・パーク」シリーズで、毎回フィーチャーされ、一躍有名になった小型の肉食恐竜の代表格。白亜紀後期、ティラノサウルスと同時代に繁栄しました。全長2メートル、体重15キロくらいの小型恐竜なのですが、ヴェロキラプトル=「素早い侵略者」という命名された通り、敏速に2本足で動きまわり、獲物を捕らえたとされます。「ジュラシック・パーク」シリーズでは、いとも簡単に悪役が襲われていましたね(笑)

ブラキオサウルス

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引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Brachiosaurus

ジュラ紀後期から白亜紀前期にかけて繁栄した、背の高い大型草食恐竜。ジュラシックパークでも森の中で、木の上まで首を出すシーンがありました。背の高さは約15メートルで、世界最大級だと言われています。

スピノサウルス

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引用:http://dino2016.jp/point/index.html

2008年にモロッコで新化石が発見されて以来、肉食恐竜ながら4足歩行し、水中で狩りをするという、半分魚竜のような特徴が明らかになってきたスピノサウルス。2016年、東京を始め3箇所を巡回した「恐竜博2016」ではメインコンテンツとして大々的に特集されました。

ポイント11:狙い目は新発見コンテンツ!定番系は忙しかったら最悪スルーでもOK

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恐竜展も混雑している時や閉館前は、時間が足りなくて全部見きれないこともあります。そんな時は、思い切って「他の展覧会でも出ている定番コンテンツ」は見なくてもOKです(笑)毎年恐竜展は開催されますし、その都度必ず展示がありますから、焦らなくても良いのです。例えば、高い頻度で展示される定番コンテンツとしては、こんな感じのものがあります。

・恐竜のたまごの化石展示
・恐竜の発掘シーン(モンタナ州や中国など)
・草食恐竜の歯型構造(デンタルバッテリー)
・草食恐竜の胃石
・足跡の化石(平凡なもの)

その反面、毎年のように新発見や日本初公開となる化石類や、その展覧会で大々的に打ち出されているコンテンツは見逃さないほうがいいでしょう。

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まさにたまごから孵ろうとしているレアな卵化石

例えば、化石類だと、ここ最近見つかりだしている「羽毛の残っている恐竜化石」や「病気、ケガをした恐竜化石」などはポイントが高いと思います。

ポイント12:見る順番は自由!空いているところからどんどん回ろう!

これは通常の美術館・博物館回りでも言えることですが、恐竜展は最初から順番にコンテンツを見る必要は全くありません。いきなり出口を出て物販から先に回ってもいいのです。もちろん列に並ばなくてもいいし、見やすいところからどんどん見ていきましょう。

全体的な傾向としては、入り口近くのコンテンツが大抵混雑している一方で、展示後半は結構空いていて見やすいことも多いです。混んでいる箇所は、後で人の波が引いた後に戻ってきてピンポイントでチェックするのも良いですね。

特に注意したいのが記念撮影スポット。(大抵展示のラストにある)混雑すると非常に並びますので、空いているなら最初にチェックしてしまいましょう。

ポイント13:お土産には公式図録を!お買い得でわかりやすい!

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お土産コーナーでは、フィギュア類やカプセルトイが非常に人気です。しかし会場限定品はそれ程なく、よくよく調べたらこれらは通販でも買えるものが大半です。

そこで、お土産でオススメしたいのは、展覧会の公式図録です。子供に買い与えられるよう、通常の博物館・美術館での企画展の図録より値段をかなり抑えてあるケースが多く、通常市販されたなら、2,500円~3,000円クラスの良質なものが、1,500円~2,000円程度で安く入手できます。

展覧会の復習にはコスパ最強のコンテンツです。JANコードがついていないことが多く、Amazonや楽天では買えない会場限定販売となるので見つけたら必ず抑えておきたいところです。

ポイント14:図書館の児童書コーナーには良書がいっぱい!

恐竜展の予習・復習に意外に使えるのが、図書館の児童書コーナーです。図書館にも入るような最近の児童書は、本当にしっかりしています。展覧会で入手出来る情報の90%以上は児童書コーナーで事足りてしまいます。

ニュートンの別冊ムックなど、大人向けでも良書はありますが、これから恐竜展の予習・復習レベルであれば、児童書コーナーの小学生高学年向けの書籍がぴったりです。Amazonや楽天でも買えますが、意外に高額なので僕は図書館をよく使わせてもらってます・・・

ポイント15:映画で復習するのも面白い!

また、未見であれば、より迫力ある「映像」でリアルな恐竜像を楽しんでみてもいいかもしれません。ここでは、よりリアルな恐竜映像・恐竜体験ができる映画を2つ紹介してみます。

ジュラシックパークシリーズ

最新作「ジュラシック・ワールド」(2015)も含めると、これまでに全部で4作製作されています。ストーリーは賛否両論ありますが、劇中で登場する恐竜の種類やリアルさは他の映画の追随を許さないものがあります。来年、新作も公開されますね。

「ウォーキング・with・ダイナソー」シリーズ

1999年に放送されたBBCのTVシリーズ(HuluやAmazon等で配信中)を元に、2013年に製作されたドキュメンタリータッチの映画。弱肉強食の世界で生き抜く恐竜の生態がリアルに描かれた傑作です。

ポイント16:初心者向けのわかりやすい書籍もあります

展覧会の図録同様、市販されている初心者向けの解説書でも、いくつかわかりやすいオススメの本が出ています。2冊だけ紹介しますね。

知識ゼロからの恐竜入門

大人向けでは、幻冬舎から2015年に出版されたこの小型ムック本がダントツでわかりやすい!著者もさかなクンならぬ、「恐竜くん」とカジュアルな感じですし、本当に知識「ゼロ」から気軽に読むことができます。恐竜展の予習復習にはぴったり!

ムック「恐竜がいた地球」

「Newton」シリーズもいいですが、自然科学系でのムックといえば「ナショナル・ジオグラフィック」が信頼感、イラストの迫力、わかりやすさで頭一つ抜けていると思います。嬉しいことに本作は電子書籍でも入手できます。2017年最新の知見が満載で、こちらもオススメ!

まとめ

今年も、例えば大都市圏では「ギガ恐竜展2017」(幕張)や、「メガ恐竜展2017」(大阪)、「ヨコハマ恐竜博2017」(横浜)など、大型展覧会が目白押しとなっています。子供の夏休みの自由研究の定番ですし、大人が行っても最新の恐竜研究に基づいた様々な展示には驚かされると思います。展覧会をきっかけとして、恐竜の世界をもっともっと楽しめるといいですね。

それではまた。
かるび


【ネタバレ有】アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 感想・レビューとみどころを徹底解説!/幻想的な映像表現に酔いしれた!傑作!

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【2017年8月20日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

8月19日に公開された東宝の夏アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を見てきました。昨年度「君の名は。」と比較されたのか、現在のところ各種レビューでの点数はかなり辛めではあります。

でも、個人的には非常に満足度の高い映画でした。確かに社会的なテーマ性やメッセージ性は薄いです。しかし、思春期の入り口に立った少年・少女の繊細さや一瞬の輝きを多彩な映像表現で描ききった傑作だと思います。後半にかけて、現実と心象風景の境目が溶けて、渾然一体となる怒涛の映像世界は大好物なのです!ハリウッド流の3Dアニメ・VFX/CG満載の実写映画が全盛となる中、2Dアニメ表現の最先端を満喫できました!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリの後半では、ストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「打ち上げ花火 下から見るか 横から見るか」の予告動画・基本情報

映画基本情報

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【監督】新房昭之(「まどか☆マギカ」シリーズ他)
【脚本】大根仁(映画/ドラマ「モテキ」、「SCOOP!」他)
【原作】岩井俊二(「ラブレター」「リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁」他)
【配給】東宝
【時間】90分

1991年、元々はフジテレビのTV企画「もしもif」で製作された1時間モノ企画ドラマだった本作は、その斬新な映像表現や主演・奥菜恵のフレッシュな魅力が評価され、カルト的な人気を博しました。1995年に約50分の短編映画にまとめ直されて、映画館で公開されるに至ります。

そこから約20年が経過し、東宝のプロデューサー、川村元気氏からアニメ映画化の企画が原作者、岩井俊二氏に持ち込まれました。岩井氏は、この時演出家・監督として独特のセンスを持つヒットメイカー、大根仁氏が脚本担当を務めることを条件に了承。さらに、アニメ製作&監督はアニメ「まどか☆マギカ」シリーズや西尾維新「物語」シリーズ等を手がけ、業界で唯一無二の個性を放つシャフト&新房昭之に決まりました。

岩井俊二×大根仁×新房昭之という、独特の作家性を持つ三者に、ヒット作を連発するプロデューサー、川村元気氏という最強の組み合わせで製作された本作。同様のスキームで製作され、興収250億円を叩き出した2016年の東宝の夏アニメ映画「君の名は。」同様、オリジナルアニメ映画となった本作。東宝サイドの目標興収は最低でも20億円と強気ですが、酷評の嵐の中、さてどうなるでしょうか・・・。

絶対行く前に見ておきたい予告編!

いくつか予告編が発表されていますが、ちょっと見ただけでも「シャフト」の持ち味・特性が120%活かされた映像美術が素晴らしいです。是非、映画館に行く前にチェックしてみて下さい!映画本編はさらに息を飲むような美しいシーンで魅せてくれますよ!

▶映画「打ち上げ花火~」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

また、エンディングテーマのDAOKO×米津玄師のデュエット「打上花火」は、音楽もいいですが、このMVでしか見られない映画内のシーンが満載。こちらも予告編と合わせて見ておくと、より世界観が理解できます。

▶DAOKO × 米津玄師『打上花火』MV
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.主要登場人物・キャスト

最近のアニメ大作映画は、話題作りや一般性を持たせるために声優より普通の映画・ドラマ俳優が声を担当することが増えてきましたが、本作は主演の2名(となずなの母/松たか子)以外は、ほぼ声優陣が脇を固める布陣となっています。

島田典道(CV:菅田将暉)f:id:hisatsugu79:20170819100735j:plain
引用:「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」予告3
いつもより少し高めの声色で、頼りなさや青々しい感じを出そうと頑張っていましたが、ちょっと力不足だったかもしれません。神木隆之介あたりと比べると、明らかに不慣れで経験不足な感じが出ちゃっていました。本作で最大の弱点になってしまった感があります。実に惜しい・・・。実写では文句なしなので、次は頑張って欲しい!

及川なずな(CV:広瀬すず)f:id:hisatsugu79:20170819101931j:plain
引用:「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」予告3
一方、広瀬すずについては、声優2回目ということもあり、子供のような声から大人びた表情の声まで、思春期の複雑な女子を見事に演じきっていました。やっぱりまだ10代なので声も若くて良いですね。

安曇祐介(CV:宮野真守)f:id:hisatsugu79:20170819101950j:plain
引用:「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」予告3
実写系の俳優が主役を務めると、脇役1番手として入ることが多くなった宮野真守。本作でも、随分と菅田将暉にアドバイスしてあげたようですね。宮野真守以下、脇役の男子たちは皆上手だったので、余計に菅田将暉が浮いちゃっていたかも。

その他、典道の中学校の同じクラスの悪ガキ軍団、純一、和弘、稔たちもそれぞれ出番は少ないながらも、きちんと個性がわかるくらい上手く描き分けられていました。他には、なずなの母の声を松たか子が務めています。

3.映画の簡単なあらすじ

「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか、平べったいのか?」

夏の花火大会の日、港町で暮らす典道は幼なじみと灯台に登って花火を横から見る約束をする。その日の夕方、密かに想いを寄せる同級生のなずなから突然「かけおち」に誘われる。なずなが母親に連れ戻されて「かけおち」は失敗し、二人は離れ離れに。彼女を取り戻すため、典道はもう一度同じ日をやり直すことを願うがー。繰り返す1日の果てに起こる、恋の奇跡の物語。
引用:角川文庫「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」背表紙あらすじより  

※以降、ネタバレ記述あり!ご注意下さい!

※以降、ネタバレ記述あり!ご注意下さい!

※以降、ネタバレ記述あり!ご注意下さい!

※以降、ネタバレ記述あり!ご注意下さい!

※以降、ネタバレ記述あり!ご注意下さい!

※以降、ネタバレ記述あり!ご注意下さい!

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4.映画「打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか」感想・評価

最初は正直「またタイムループ系SF恋愛映画・・・?」と懐疑的だった

「君の名は。」(2016)の大ヒットの前後あたりから、実写・アニメを問わず若者向け恋愛映画は、「平行世界」「異世界」「タイムループ」といったSF要素が特に多用されるようになりました。2017年だけでも、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」「君と100回目の恋」「サクラダリセット」「ReLife」等々、かなりお腹いっぱいな状況です。

本作も、「君の名は。」同様、主人公たちは偶然海で見つけた「もしも玉」を使って、次々と「もしも」の世界=平行世界へと冒険を進めていきます。6月頃に本屋店頭に並んだ大根仁の原作本をパラパラっと読んで、1991年のドラマをHuluで見た感じでは、「確かに奥菜恵はこの時期にしか出せないオーラ出してて凄いけど、まぁでも一応は見ておくか?」くらいのものでした。

見に行ってびっくり!圧倒的な映像表現に酔いしれた!

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引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

しかし!見に行ってみてびっくり!!

特に作家性の強いアート表現が大好きな自分の好みもあるかもしれませんが、その圧倒的な映像表現・映像美術に酔いしれました!ハリウッドをはじめ、世界のアニメーションは完全に3Dアニメが主流となる中、2017年現在、2Dでも頑張ればまだまだこんな斬新で美しい映像表現が可能なんだな・・・と嘆息しきりでした。

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引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

映像表現には引き出しが多い新房昭之監督×シャフトの技術力を核として、岩井俊二原作の、叙情的だけど変わった構図のカメラワークが加わります。さらに、なずなが松田聖子「瑠璃色の地球」を歌いだしたシーンなど、大根仁ワールドもきちんとのっかっているんですよね。じゃあ、何が凄いと思ったのか、少し書いてみますね。

幻想的で美しい風景美に、どこか不穏な雰囲気が醸し出されたストーリー前半

これだけの大作映画なので、画面は美しく精緻に構成されているのは予告編を見るだけですぐにわかりました。全体的に明るめだけど乳白色のもやがかかったような画面は、美しいのですが、どこか現実感を欠いた感じがして、「これから虚構の世界にジャンプするのかな」という予感を抱かせます。

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引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

これに加え、本作のキーアイテム「もしも玉」を通して覗いたような歪んだ画面(広角レンズやGoogle Earthで見たときのような歪み)や、不安定な構図でのカットが、そこはかとない不穏な雰囲気を醸し出すんですよね。

主人公たちの内面世界と現実が混然一体となっていくアート的な後半

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引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

そして、なずなと典道の衝動的な家出(かけおち)の過程で、典道は「もしも玉」を3度投げ、現実世界から「もしも」の平行世界へと少しずつズレて行きます。

玉を投げるたびに加速度的に深まっていく二人だけの虚構の世界。「君の名は。」のカタワレ時のように、夕暮れから夜に変わる一瞬の「マジックアワー」の中で、どんどん二人だけの世界へ入り込んでいきます。ついには、二人の心象風景なのか現実なのかその境目すらわからなくなっていく中で、その独創的な美術表現が大爆発します!安易に説明的なセリフに頼らず、主人公達の心情を映像・サウンドの演出で全て表現し尽くそうとした姿勢が素晴らしかったです。

メタファーに溢れた奥深い映像表現

本作は、主人公たちの状況や心情を説明するセリフが非常に少なく、「映像で語る」極めて映画的な作品でした。だから、画面一つ一つに非常にメタファーがかけられており、一瞬のスキも見逃せません。

回転するもの、円形のモチーフが象徴的に使われたf:id:hisatsugu79:20170819172708j:plain
引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

例えば、主人公が時間を逆回転させ、もしもの世界へ飛び込んでいく本作では、「回転するもの」「円形のもの」がモチーフとして多用されました。例えば・・・

・典道たちの通う中学校の校舎が円形である
・学校の階段が螺旋階段になっている
絶えず回っている風力発電用の風車
・光が回り続ける灯台
・丸い「もしも玉」

主人公たちが現実世界にいる時は、これら回転するものは「時計回り」に回っているんですよね。そして、「もしも」の世界に入った時、一斉に反時計回りに回るようになるんです。風車や灯台、そして3回目の「もしも玉」を投げた時、空間にうずまきが回る世界は、全て反時計回りに回っていました。

面白いのは、エンディング前に、酔っ払った花火職人が海辺に落ちていた「もしも玉」を花火と間違えて打ち上げて破壊してしまう直前から、空間に回るうずまきが「時計回り」に戻っていたこと。これから二人が現実世界に戻っていくんだ、ということをいち早く暗示しているんですよね。そして、粉々になった「もしも玉」のかけらは、「時計回り」に回転しながらヒラヒラ落ちてくるんですよね。

あと、担任の先生の胸が、花火の形と呼応しているのも見逃せません。巨乳で豊満な「丸い形」から、もしもの世界に行くとまな板状態な「平べったい形」に変わっていたのは笑いました^_^

まだ初見なので、他にも色々メタファーが隠されているのかもしれませんが、徹底的に「映像で語る」という映画らしい表現にこだわった傑作だったと思います。

みずみずしく描かれた思春期の少年少女の繊細な初恋や人間関係

僕は、12歳から18歳まで男子校で純粋培養されたため、この時期の女子とほとんど話したことがないのですが、それでも小学校5年生~6年生の頃は、心も体も一時期女子の方が発育が早かった覚えがあります。

本作でも、現実的で恋愛に積極的なのはなずなの方で、男子は総じてだらしないですよね・・・。男子だけで燈台を目指す道中、大声で「観月ありさー!」はないでしょう(笑)痛すぎる(笑)ライバルで親友の祐介に至っては、大好きななずなから誘われたのに、周りの目を気にして逃げてしまうし、主人公の典道も、ストーリー中盤までずっと受け身のままですし。

でも、思春期の頃って、男子って多分どうしていいのか自分でもわからないんでしょうね。自分の内側にあるモヤモヤしたエネルギーを、方向感なく放射しているような感じでしょうか。なずなを自転車に乗せて、「どこ行くの?」と聞かれても典道はいつも「わかんねぇ!」ですから(笑)

劇中、大人の女へと一気に成長するなずなf:id:hisatsugu79:20170819173057j:plain
引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

一方、もともと大人に近づいていたなずなは、夕暮れになると、駅のホームで一足先に大人に変身してしまいます。「君の名は。」のカタワレ時のように、夕暮れのマジックアワーは、魔法がかかって一気に大人へと変身させる力があるのでしょうか。

そして、稔や純一たちが「花火が平べったいか丸いか」どうでもいいことで最後まで争っているのに、なずなは「典道くんとずっといられるのだったら、そんなのどっちでもいい」ですからね・・・。一人生きている次元が違っています。

そして、クライマックスでようやくなずなへの気持ちに素直になり、主体的になずなのために行動を始めた典道。一瞬、精神的になずなと対等なところまで追いついたかに見えました。しかし「もしも玉」が割れて、もしもの世界が終わった時、なずなはさらに大人になっていました。自分の運命を受け入れ、典道に対して「別れ」のキスをしたら、未だ心がフワフワして状況整理に手一杯な典道を残し、いちはやく現実世界へと戻っていきました。

このように、思春期に一足先に大人になってしまうなずなに対して、まだまだ子供のままエネルギーを持て余す男子達の描写の対比が見どころたっぷりでした。

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5.映画「打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか」をもっと楽しむための8つのポイント~伏線・設定を徹底考察!(ネタバレ注意!!)

ポイント1:「打ち上げ花火、下から見るか 横から見るか 」タイトルの意味とは?

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元々、本作は岩井俊二氏が、岐路に立った主人公が異なる行動選択をした結果、Aとなった顛末、Bとなった顛末を描くというフジテレビの企画ドラマ「ifもしも」シリーズでのタイトルをそのままもってきたものです。スタッフと「打ち上げ花火は丸いのか、平べったいのか」と雑談していた時に着想されました。

だから、元々のドラマも本作も、タイトル自体の直接の意味はあまりないと思われます。結局どちらでもいいわけです(笑)直接原作者からネタ明かしはされていませんが、「打ち上げ花火」とは、美しいけど、一瞬で儚く消えてしまう性質上、思春期特有の恋愛だったり、夏休みで町を去っていくなずなを表すメタファーだと考えるのが自然なのではないでしょうか。

まだまだ子供である13歳の男子(典道)にとって、精神的にも肉体的にも大人びた女子(なずな)は、いかにも「きまぐれでつかみどころのない」存在に見えるわけです。極端に大人びて見えたり、子供っぽい一面もあったり。くるくるカメレオンのように表情を変えるなずなは、まさに男子達が「丸い」「平べったい」と勝手に想像する「打ち上げ花火」の捕らえ難い形のようなものなんでしょうね。

ポイント2:主人公「なずな」の由来は?

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引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

春の七草でもある「なずな」。映画中でも数カ所で実際に一面に広がるなずなの花が映し出されますね。その名前の由来は、

・「撫菜」・・・撫でたいほど可愛い花
・「夏無」・・・夏になると枯れてなくなる花

両方の由来があると言われます。クラス一の美人で、2学期を待たずして転校していなくなってしまったなずなを暗示する、ぴったりの由来です。

ポイント3:なずなと典道の出会いは?

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引用:DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube

映画中盤、プールの勝負が終わり自宅に戻った典道が、自分の部屋でなずなと一緒に写っていた昔の写真を見るシーンがあります。原作小説の記述によると、これはそれぞれ小学生の修学旅行での日光東照宮でなずなと撮影したもの、中学の入学式のものです。

なずなは、小学校5年生の夏、茂下町に転校してきました。趣味がサーフィンだったなずなの父が東京の会社を退職して、茂下海岸でサーフショップを開いたことによるものです。ちなみに、典道の父となずなの父は、高校時代はサーフィン仲間だったようですね。

ポイント4:なずなの父はいつ、なぜ亡くなったの?

これも、原作小説に記述があります。なずなの父が亡くなったのは、ちょうど1年前の夏でした。東京からサーフショップに来ていた初心者の客が沖で流されたところを助けようとして、巻き添えのような形で溺死したのです。プロのサーファーであっても、茂下の海の沖合の速い潮の流れにはどうしようもなかったようです。

ポイント5:もしも玉とは?どこで拾ったの?

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引用:「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」予告3

映画冒頭で、なずなが海岸で「もしも玉」を拾うシーンがありました。ここは、まさになずなの父の死体が打ち上げられた浜辺でした。もしも玉は、亡き父からなずなへのプレゼントだったのかもしれません。ちなみに、原作小説では典道はもしも玉となずなの父の縁を感じて、3度目にもしも玉を投げる時、「もしも1年前になずなの父が死ななかったら・・・」と願おうとしますが、なずなからやんわり拒否されています。 

ポイント6:映画から省略された前日譚とは?

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引用:Amazon.co.jp

もう一つの原作小説、岩井俊二「少年たちは花火を横から見たかった」では、なずなと典道が、夏休みに入る前、お互い淡い恋愛感情を確かめ合うような前日譚があります。(岩井版では離婚調停中の)なずなの母と知り合いだった典道の母が、一晩なずなを預かることになり、典道の部屋になずなを泊めるのです。お互い戸惑いながらも、同じ2段ベッドの上下で一夜を過ごし、翌日あてもなく海岸線を二人乗りの自転車で走る、という思春期っぽいエピソードが良かったです。

ポイント7:ラストシーンの解釈は?

ラストシーン、2学期が始まって朝のホームルームで出欠を取られている時、なずなの名前は呼ばれず、典道は呼ばれましたがクラスにいませんでした。ここでエンドロールへと突入する、いわゆる「オープンエンド」型のエンディングとなりました。「エンディングで典道がどうなったか?」解釈が分かれる所ですよね。家でサボっていた、とか、一緒に駆け落ちした、とか、色々考えました。

僕の解釈としては、9月1日の朝、典道は自分の気持に整理をつけるため、なずなと典道が最後にキスをした、なずなの父が打ち上げられた海岸へ行っていたのだと思います。海岸から学校へと帰ってきた時、きっと典道もまた少しだけ大人になっているのでしょうね。

ポイント8:原作ドラマとの主な違いをまとめてみる

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引用:Amazon.co.jp

本作は、オリジナルドラマ版から設定・ストーリーに結構手が加えられています。違いを見比べながら楽しむと、面白いですよ。主な相違点を以下の通りまとめてみました。

ドラマ版では小学校6年生だったが、映画では中学1年生になっている。
ドラマ版では、もしも玉は出現しない。また、ドラマ版では「もしも」の世界に飛ぶのは最初の1度だけ。(ただし、ドラマ版では電車に乗ろうとして、不自然になずなが急に心変わりする描写があり、電車に乗った世界を選ばなかった、という解釈ができる演出になっている)
ドラマ版では、プールで競争するのは二人。なずなはプールサイドで見ているだけ。映画版では3人で泳ぐ。
・ドラマ版では、なずなの首元にアリが這っている。映画ではトンボが顔に止まる。
・ドラマ版では、祐介は「負けたら罰ゲームとして」なずなに告白する設定。映画版では、「なずなが勝ったら何でも言うことを聞く」と変わっている。
ドラマ版では、なずなは母親の離婚に伴い、茂下町を離れる。映画版では、逆に再婚に伴い、離れることになる。

6.まとめ

タイムループ系SF恋愛ジュブナイル映画という使い古された王道ジャンルでモチーフの普遍性を確保しつつ、そこに監督・脚本家・原作者の三者三様の作家性がブレンドされた本作。絶妙のバランス感が素晴らしかったです。壮大な社会性やテーマはありませんが、純粋に映像世界に浸れる良作でした!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

本作は、岩井俊二による原作ドラマ、原作小説、そして本作の脚本を担当した大根仁によるノベライズと、様々な形態で作品世界を楽しめるようになっています。通常、映画の後追いとして出版されるノベライズは、逐語録みたいで蛋白で味気なくなりがちです。しかし本作は、原作者自身による書き起こしなので、やっぱりクオリティが高いです!

脚本家、大根仁によるノベライズ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」

脚本家、大根仁によるノベライズ。ライトノベルのような軽妙なタッチで、少年・少女たちの心情描写がしっかり描かれています。非常に読みやすいです。映画では省略されたエピソード(スイカバーの話とか)や説明描写もしっかり入っていますし、クライマックスやエンディングはノベライズオリジナルです。映画の後に合わせて読むとより楽しめました!

原作者、岩井俊二によるノベライズ「少年たちは花火を横から見たかった」

2017年にドラマ原作者、岩井俊二によって書き下ろされたもう一つの原作小説。設定はドラマ版ですが、8月1日以前のなずなと典道の交流を描いた前日譚や、もしも玉を拾うシーンなどが追加されています。そして、最大の違いは、「もしもの世界に移行しない」こと。表紙で、奥菜恵らしき女の子がもしも玉を持っていますが、結局最後まで使わないのです。大根仁とはまた少し違うタッチで描かれた、もう一つのストーリー。こちらもおすすめです!

雑誌での大特集も!「SWITCH Vol.35 No.8」

広瀬すずや菅田将暉、宮野真守、そして新房監督、大根監督など、映画のキーマンへのロングインタビュー、作品世界の徹底解説、シャフトの過去作特集など、本作を総力取材した力の入った特集号。こちらも読み応え抜群でした。

アニメ映画化に合わせて原作ドラマも豪華ブルーレイで復活!

本編Blu-rayに加え、メイキング映像・サントラCD・24年前の『打ち上げ花火…』撮影時に岩井監督が実際に使用していた台本の縮刷版も封入されています。台本は岩井監督直筆の演出メモや落書きも忠実に再現。 ファン必読の1冊が同包された豪華版Blu-ray BOXです。Amazonで売れてます!

現在Huluで原作ドラマを配信中!

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引用:Amazon.co.jp 

岩井俊二監督による原作ドラマは、DVD化され、現在Amazonや楽天でもベストセラーとなっています。現在、Huluにて本作が配信中。また、脚本家を務めた大根仁監督がオマージュとして徹底的にパクった、TVドラマ「モテキ」第2話「深夜高速 上に乗るか、下に寝るか」もHuluで無料でチェックできます。これは笑えます!

その他、岩井俊二作品、大根仁作品、シャフト製作アニメ作品も多数アップされていますので、合わせて作家の世界を楽しむこともできますね。是非検討してみて下さい!

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上記のように、Amazonや楽天でDVD/ブルーレイが入手できるのですが、お金を節約するのであれば、Huluでの配信を見たほうが大きく安上がりです!僕は、今回Huluで映画公開前に2回ドラマ版を予習してから映画に臨みました!登録後最初の2週間は無料で視聴できるので、無料期間中に見てしまえば、実質タダで見れますね!

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【ネタバレ有】映画「君の膵臓をたべたい」 感想・レビューとみどころ徹底解説!/泣ける!原作を超える完成度でした!【キミスイ】

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かるび(@karub_imalive)です。

7月28日に公開された映画「君の膵臓をたべたい」に行ってきました。公開5週目にて、早々と興収20億円を突破し、まだまだ勢いのある本作。粗製乱造がたたったのか、ここ半年は特に苦戦続きだった青春恋愛系映画(スイーツ映画)ですが、その中では異例とも言える大ヒットとなりました。僕が見に行った日も、夏休み中ということもあって、平日の昼間から若い人でいっぱいでした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれます。何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「君の膵臓を食べたい」の予告動画・基本情報

▶「君の膵臓をたべたい」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】月川翔(「君と100回目の恋」他)
【脚本】吉田智子(「わろてんか」他)
【原作】住野よる(「夜のばけもの」他)
【配給】東宝
【時間】115分

過去、「世界の中心で、愛をさけぶ」や「ストロボ・エッジ」、最近では「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」など、ヒット作を連発する臼井央&春名慶の東宝系プロデューサーコンビが、新たにピックアップしたのは、2016年の本屋大賞第2位に輝き、単行本&文庫本で累計200万部を売り上げた大ヒット小説「君の膵臓をたべたい」でした。

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引用:月川翔 - 映画.com

本作でメガホンを取ったのは、恋愛系映画で実績のある三木孝浩監督のアシスタントを務めたこともある、月川翔監督。2017年2月に、やはり短命でヒロインが亡くなってしまう映画「君と100回目の恋」に続いて、本年度2本目となります。前作では、ヒロインに現役人気歌手のmiwaを据えて、音楽と映像を上手に組み合わせ、甘く切ない恋愛ストーリーを瀬戸内海の明るい風景とあわせて丁寧に作り上げました。興収こそぱっとしませんでしたが、泣ける佳作だったと思います。 

原作は、200万部売れたとは言え、やや荒削りで一本調子なところもあり、そのまま映像化すると退屈な展開になりそうだなぁと思っていました。しかし、そんな心配は杞憂でした。映画版では、原作のストーリーにエピローグ部分を付け加え、時系列を上手くシャッフルした回想形式で進行するなど、映画ならでは工夫が随所で見られます。期待以上の作品に仕上がっていました。 

2.実写映画「君の膵臓を食べたい」主要登場人物・キャスト 

主要登場人物

志賀春樹:高校時代(北村匠海)f:id:hisatsugu79:20170822135851j:plain
引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube

「DIVE」で映画デビューし、「陽だまりの彼女」「ディストラクション・ベイビーズ」「信長協奏曲」など、個性的な作品で実績を積み、今回が待望の初主演。2017年は、「恋と嘘」「勝手にふるえてろ」など、年末にかけて待機作が2作品あります。

山内桜良(浜辺美波)
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引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube
現役高校生で、永野芽郁、平祐奈あたりとポスト広瀬すずの座を伺う次世代の有力な若手女優。朝の連ドラ「まれ」への出演で一気に知名度を上げました。本作が事実上初めての主演となります。演技力はまだまだこれからな感じですが、抜群にかわいい!なんとなく、20年前のCoCo時代の三浦理恵子のような雰囲気がありますね。

志賀春樹:現在(小栗旬)f:id:hisatsugu79:20170822095924j:plain
引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube
普段は割りと男臭くて勝ち気な感じの役柄が多い小栗旬ですが、本作では珍しく内向的で迷いの表情が目立つ演技が新鮮でした。それにしても2017年は「追憶」「銀魂」と、出演した映画が全て大ヒット。目を見張る充実ぶりです。

滝本恭子:高校時代(大友花恋)f:id:hisatsugu79:20170822140016j:plain
引用:映画『君の膵臓をたべたい』オフィシャルサイト
ドラマ出演で「こえ恋」「屋根裏の恋人」、映画出演は、2016年の「金メダル男」など昨年あたりから着実に出演実績を積み重ねてキャリアを積んでいる若手女優。本作では、年齢の割に童顔で、制服の着こなしがどことなく田舎っぽい感じの高校生らしくて良かったです。

滝本恭子:現在(北川景子)
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引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube
桜良の残した遺書を読むシーンでは、あらかじめ遺書の内容を読まずに、演技中に読み、長回し1回撮りで臨むという月川翔監督の思い切った手法に対して、迫真の演技で応えました。プライベートでも新婚だったので、どことなくウェディングシーンが板についていたような。

3.物語中盤までの簡単なあらすじ

志賀春樹は、高校時代のクラスメイトで、友達以上恋人未満の大切な存在だった山内桜良のアドバイスで、母校にて高校教師となっていた。教師としての適性や方向性に悩み、退職を考えていたある日、学校の図書館が閉鎖されることが決定される。

かつて母校で図書委員を務めていた実績を買われ、生徒ととともに蔵書整理にあたることになった春樹は、久々に図書館へと足を運んだことをきっかけに、高校時代の桜良とのかけがえのない日々を思い出すのだった。

高校時代に人と接するのが苦手だった春樹は、クラスで孤立し、読書だけが楽しみだった。ある日、盲腸手術の経過観察で病院に来ていた春樹は、偶然に桜良の日記「共病文庫」を拾ったことで、彼女が重い膵臓疾患を抱える身であることを知ってしまう。

しかし、そこから春樹と桜良の交流が始まる。明るく積極的でクラスの人気者だった桜良と、地味でクラス中の誰とも話さない春樹。お互い正反対の性格だった故か、徐々に距離を縮めていった二人は、恋人とも友人とも言えない特別な関係になる。しかし、桜良は唐突に帰らぬ人となってしまう。

それから12年後。図書館での整理作業中に春樹が偶然見つけたある手がかりをきっかけに、桜良が伝えたかった本当の想いが明らかになっていく・・・

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4.映画「君の膵臓をたべたい」の感想・評価(ネタバレ注意)

原作を改良し、垢抜けてよりドラマチックに進化した実写版

こちらのAmazonの書評を見て頂くとわかりますが、住野よるによる原作は、部数こそ200万部とかなり売れてはいるものの、かなりレビュワーの評価は割れています。僕も先に原作を手に入れて、2度読み返しました。

決して嫌いな内容ではないのですが、やはりWeb投稿サイト「小説家になろう」発ならではのケータイ小説系の荒削りな雰囲気が漂っています。勢いはあるけどディテールが結構適当・・・みたいな。例えば、映画化に当たって、物語の構成や主人公たちの言葉遣いが気になりました。

・主人公の「僕」の言葉遣いが、まわりくどかったりシニカル過ぎたりして、そのまま映画にすると単にイヤミなキャラに見えてしまいそう。
・話が一気に動くクライマックスまで進行が単調なので、飽きてしまう
・物語前半部分の伏線が今ひとつ有効に機能していない。

これをどうやって処理するのかな?と思っていたら、月川翔監督も、「原作そのままでは映画化は難しい」と判断したようで、ストーリーに手を入れてきました。

まず、舞台を12年後に移し、回想形式で現在と過去を目まぐるしく視点移動させる構成で観客を飽きさせないようにしています。さらに、単調なストーリーに謎解き要素を付加して、よりドラマチックな構成に変わりました。また、懸念した主人公の「春樹」の中二病全開なセリフ回しも、比較的マイルドなトーンに抑えられ、北村匠海の演技も抑制的な「受け」演技となっていたのも自然で良かったと思います。 

特に、原作ラストで明かされる「共病文庫」の内容が分割され、一部が遺書として切り出されて12年後に見つかるというプロット変更は唸らされました。主人公の桜良が唐突に亡くなるシーンで1度泣かされ、12年後、図書館で見つかった桜良の遺書を読み、再び泣かされるという2段構造。コンサートのアンコールみたいで、劇的な演出になっていました。

主役2名の頑張りが映画を引き締めた

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引用:映画『君の膵臓をたべたい』オフィシャルサイト

そして、主演の北村匠海、浜辺美波の両名の演技も非常に良かったです。

内面に死への恐怖・不安を抱えつつも、回りを気遣いテンションを上げて明るく振る舞う桜良を演じる浜辺美波は、若干あざとい感じもあるのですが、同時に「無理してる感」が醸し出されていて良かったです。決して演技が凄い上手だ!・・・というわけじゃないんですが、この時期にしか出せない10代の俳優の独特の「未完成」な感じが画面を通してよく伝わってきます。

また、上述した通り北村匠海の抑えめの気だるそうな演技も素晴らしかったです。大手事務所ゴリ押しのアイドル俳優なのかと思っていましたが、良い意味で期待を裏切られました。また、12年後の小栗旬演じる現在の「春樹」と完全にシンクロしていました。

物語に深みを与える「ラブストーリー」以外の要素

そして、本作が単純に「きゅんきゅんする恋愛スイーツ」的な描写が明確に避けられていたのも良かったです。(その路線も嫌いではないのですが/笑)原作も含めて、最後までお互いを名前で呼び合わないですし、「好きだ」「愛している」的な言葉のやり取りもありません。でも、それは単純に彼ら2人が奥手だから・・・というわけではないのですよね。

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引用:映画『君の膵臓をたべたい』オフィシャルサイト

春樹と桜良は最後に「君の膵臓をたべたい」というキーワードで結ばれる通り、お互い両思いであるのは間違いないのですが、単なる恋愛感情だけでなく、よりよく生きるためにお互いを必要としていたソウルメイトのような関係なんですよね。

自己完結しているけれど、他人が認められない春樹と、人間関係は良好だけど、いつも他人との関係性でしか自己を規定できず、自分が何なのかよくわからない桜良は、お互いから影響されることで、人生をどう生きるべきなのか、どのように人間関係を作っていったらいいのか学んでいきました。 

映画のキービジュアルとなった「桜」

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引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube

映画ならではの演出として、冒頭からラストシーンまで使われた「桜」のモチーフが素晴らしかったです。「桜良」「春樹」と、サクラにちなんだ名前の主人公たちは、映画の冒頭で桜の咲く季節に出会い、春樹は12年後、同じ場所で桜の季節に桜良のことを思い出します。

また、膵臓の病気で若くして亡くなる運命だった桜良は、満開になった後、一気に散ってしまうソメイヨシノにイメージがぴったり重なります。入院が延び、死を覚悟した桜良が病室で春樹に語った

「桜は散ってから、実はその3ヶ月後くらいには次の花の芽をつけるんだよ。だけどその芽は一度眠るの。暖かくなってくるのを待って、それから一気に咲く。桜は咲くべき時を待ってるんだよ」

というセリフが、劇的なエンディングをそのまま暗示する鮮やかなメタファーになっていました。

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春樹の手に渡った共病文庫
引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube

桜良の死後、春樹には「共病文庫」が、恭子には桜良のイヤリングが遺品として渡りますが、どこか心は満たされないまま12年後の現在に至ります。

しかし、偶然図書館で見つかった桜良の遺書によって、春樹や恭子は、心の中にかけがえのない桜良の存在を取り戻すことになります。春を待つ桜の花のように、じっと図書館の中で見つかる時を待っていた遺書に込められた桜良の想いが、春樹と恭子に届き、彼ら二人の心のなかで「満開」となりました。

「わたし、生きたい。大切な人の心のなかで。」と最後に願った桜良の想いが12年越しでようやく成就したエンディングは、涙なしでは見れませんでした。

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5.映画「君の膵臓をたべたい」をもっと楽しむための6つのポイント~伏線・設定を徹底考察!(ネタバレ注意)

ポイント1:劇中で出てくる「星の王子さま」と本作の関係は?


引用:Amazon.co.jp

桜良と春樹によって唯一共有されたアイテムであり、かつ桜良の遺書が託されたサン・テグジュペリ「星の王子さま」。児童文学の名作ですね。「友情の大切さ」「命のかけがえのなさ」「どう人生を生きるべきか」など、人生に関わる本質的なメッセージが沢山含まれた作品です。特に、この中で、のどが乾いて倒れた王子が言うセリフとして

「もうすぐ死ぬんだとしても、友だちがいたっていうのはいいことだよ」

このあたりは、桜良の心に響いていたのだろうな、と思わされますね。

また、「星の王子さま」は原作者の住野よるが小学校低学年の時、母から買い与えられて何度も読み返してきた大切な本なのだそうです。デビュー作だけでなく、2作目「また、同じ夢をみていた」でも登場しています。

ポイント2:タイトル「君の膵臓をたべたい」の意味とは?

本作では、春樹と桜良がお互いを想いあう時、「好きだ」「愛している」等の直接的な言葉を口にすることがありません。代わりに、二人はお互いに対して「君の膵臓をたべたい」という言葉で、想いを通わせます。原作、映画でもこのセリフの意味が直接説明されるシーンはありませんが、このセリフには様々な意味が込められていると思います。

・相手が「好きだ」という意味
・尊敬する相手になりたい、という思い
・生きたい/生きてほしいという気持ち

原作者の住野よるは、まず作品を書く前にこの「君の膵臓をたべたい」という言葉を思いつき、ここから逆にイマジネーションを膨らませて小説を書き上げたそうです。まさに万感の思いがこもった言葉として、記憶に残るセリフとなりました。

ポイント3:桜良は、一体どんな病気だったのか?

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引用:「君の膵臓をたべたい」予告2 - YouTube

原作でも映画でも桜良の病名は明らかにされていません。そこで、代表的な膵臓疾患を調べてみました。命にかかわる代表的な疾患としては「膵臓がん」が代表的な存在です。桜良もおそらく膵臓がんだったのではないかと思われます。

膵臓がんは、一度罹患すると、手術しても5年生存率は20%以下と非常に厳しい疾病です。治療法が難しく、発見されたときには進行していることも多いからです。しかし、膵臓がんは食習慣の乱れ等により、40代~50代以上に多く見られる成人病に近い位置づけであり、桜良のような若年者ではかなりまれなようです。

膵臓がん死亡者数統計(女性、15-39歳)f:id:hisatsugu79:20170822121720j:plain

国立がん研究センターの統計を見ると、女性で15歳-39歳での死亡例は、年間にわずか30人前後と、非常に稀な病気であることがわかりますね。

ポイント4:「ガム君」の名前は?また、恭子はなぜ結婚したのか?

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引用:映画『君の膵臓をたべたい』オフィシャルサイト

「君の膵臓をたべたい」で、春樹と唯一仲良くなる男子のクラスメイトが、通称「ガム」君。原作では、最後まで本名が明かされませんが、映画では12年後に恭子と結婚したことで判明します。(恭子との結婚式の日、上地雄輔扮する恭子の夫が、春樹にガムを勧めたことでかつてのガム君であると判明)彼の名前は宮田一春。春樹に届いた結婚式の招待状に名前が書いてありました。

「ガム君」と恭子が結婚した背景は、原作小説のラストシーンから読み取れます。恭子と友達になった春樹が、「ガム君」が恭子に想いを寄せていることをうっかりばらしてしまうやり取りがあります。この時、恭子は満更でもない感じの反応をしているのですね。おそらく、桜良の死後、恭子とガム君は付き合い始めたのでしょう。

ポイント5:本作はラブストーリーなのか、そうでないのか?

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パンフレット内で、双葉社の編集者、荒田英之氏のインタビューに、ハッキリこうあります。

・・・映画化において終始お願いしたいたのは【僕】と桜良の関係性は、恋愛ではない、ラブストーリーではない、ということを貫いてほしいという点です。そういう括りを使わずにふたりの尊い関係性を描きたい、という思いが住野さんの根底にあったので、発信側(映画)がそれを限定してほしくない、というのはありました。

つまり、原作、映画ともにベタベタのラブストーリーとして意図されていたわけではないということですね。じゃあ、お泊り旅行で同じベッドで寝たり、親のいない自宅へ誘い込んだりっていうのはなんなんだ!(笑)とは思いましたが、ともかくも恋愛感情も織り交ぜつつ、もっと深い大切な男女の関係性を描きたかった・・・ということでしょうか。

ポイント6:アニメ映画版「キミスイ」製作決定!

アニメ映画版の「キミスイ」の最初の予告動画が発表になりました。2018年のいつごろかはまだ明らかにされていませんが、30秒動画を見る限り、落ち着いた雰囲気で実写版とはまた違う味わいがあって良さそうな感じです。

▶アニメ映画版の予告動画が配信スタート!
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

懸念としては、実写がヒットしたすぐ翌年に、同じタイトルのメディアミックスが上手くいくか?ということ。2017年夏、前年に劇場版アニメ映画がスマッシュヒットしたばかりの「心が叫びたがってるんだ。」の実写映画が大コケしてしまったことからも、やや時期尚早な感じもしなくはないです。

さて、どうなるでしょうか。今後の展開に期待ですね。

6.まとめ

映画版「君の膵臓をたべたい」は予想したよりも完成度が高く、見ごたえのある青春恋愛映画になりました。「重病もの、難病もの」作品の中でも、出色の出来だったと思います。スッキリ涙を流して浄化されたい時、何度でも見返したい作品です。おすすめ!それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「君の膵臓をたべたい」オフィシャルガイド

フォトセッション、クロストーク、スタッフやキャストへのロングインタビューなど、映画「君の膵臓をたべたい」をより深く楽しむための1冊です。パンフレットは割りと簡素な感じなので、ガッツリ作品世界を味わいたい人はこちらを購入したほうが良いかもしれません。

原作小説「君の膵臓をたべたい」

2016年度本屋大賞第2位に輝くなど、200万部を売り上げた超ヒット作。しかしAmazonの書評を見ると、「最高!!★★★★★」という人から、「駄作!★」という人まで、意外にも賛否両論となっている原作小説。原作未読の人は、映画版とは若干違うテイストが新鮮に思えると思いますし、構成・エンディングも違っています。Amazonの書評を見ているだけでも結構楽しめますよ。

コミカライズ版「君の膵臓をたべたい」

僕は、コミカライズ→小説原作→映画の順番で楽しみましたが、どの媒体もそれぞれの良さがあります。小説原作に忠実に、上下巻にコンパクトにまとまったコミカライズ作品。小説を読むのがつらい人は、こちらから入ってみてもいいかもしれませんね。

北村匠海フォトブック「君の膵臓をたべたい」

「君の膵臓をたべたい」にちなんだ北村匠海の写真集。月川翔監督との対談や、北村匠海本人へのロングインタビュー、ロケ地での秘蔵写真などで構成された、ファン向けのフォトブックですね。本作で北村匠海のファンになった人も多そうですね~。

【ネタバレ有】「スパイダーマンホームカミング」感想レビューと疑問点・トリビアを解説!/フレッシュな高校生が等身大のヒーローとして活躍する快作!

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かるび(@karub_imalive)です。

8月11日に公開された新作「スパイダーマン・ホームカミング」を見てきました。通算6作目となる今回のスパイダーマンは3年ぶりに2度目のリブート作品として、【マーベル・シネマティック・ユニバース】(※以下、MCUと省略)の中で描かれ直された意欲作。

主人公の設定年齢も一気に下がり、今度のピーター・パーカーは若干15歳!ピュアでフレッシュな高校生が学園生活を満喫する中、等身大の活躍を見せる楽しい作品となりました!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「スパイダーマンホームカミング」の予告動画・基本情報

予習・復習に欠かせない!予告動画を2つ紹介!

まずは、全部で3つ公開されている公式予告動画から、一番再生数の多いバージョンを紹介しますね。

▶「スパイダーマン・ホームカミング」予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

次に、是非見ておいて欲しいのが、追加でソニーから追加公開された、映画の冒頭4分間の動画です!(ていうかソニーいつもこのパターン。興収がヤバそうな映画は10分に延びます/笑)

この予告動画では、ピーター・パーカーのスマホ自撮り映像という見立てで、彼がアベンジャーズのリーダー、トニー・スタークからスカウトされて、スパイダーマンとしてアベンジャーズ戦闘現場へお試しデビューした時のシーンが、「シビル・ウォー」とは別角度で味わうことができるのです!

アベンジャーズ内の深刻な対立・戦闘シーンも、高校生のピーター・パーカーにはどこ吹く風といった感じ。無邪気な観光気分ではしゃいでます(笑)

▶ピーター・パーカー自撮りスマホ映像!
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

映画の基本情報

【監督】ジョン・ワッツ
【配給】ソニー・ピクチャーズ
【時間】133分

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引用:Wikipediaより

今回、新シリーズでの監督に起用されたのは、2017年現在、若干36歳と若手新鋭のジョン・ワッツ監督。2015年、低予算映画ながら映画通に高い評価を得た、ケヴィン・ベーコン主演のスリラー映画『COP CAR/コップ・カー』がマーベル上層部の目に止まり、本作での抜擢となりました。

なお、今回の「スパイダーマン・ホームカミング」シリーズでは、順調に行けばあと続編が2作、アベンジャーズでさらに2作予定されています。今のところジョン・ワッツ監督の続投は明言されていませんが、状況からみてまず間違いなくメガホンを取ることになるでしょう。

2.映画「スパイダーマン・ホームカミング」主要登場人物・キャスト

ピーター・パーカー【スパイダーマン】
(トム・ホランド)
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引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube 
若干20歳の新鋭俳優。演技力だけでなく、スパイダーマンに必要な身軽さを感じさせる身体能力も抜群!オーディションを受けた子役約7500人の中から大抜擢されたシンデレラ・ボーイでした。パルクールで鍛えた身のこなしの素早さをベースに、安定した演技力も光りました。

トニー・スターク【アイアンマン】
(ロバート・ダウニー・Jr)
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引用:Spider-Man: Homecoming - Official Trailer 2 [HD] - YouTube
本作では、アベンジャーズのリーダーというより、めんどくさそうにしながらも、ピーターのピンチには必ず駆けつけて叱咤激励する父親的な存在として描かれたのが印象的でした。ロバート・ダウニー・Jrも、すでに50代。アベンジャーズが一区切りしたら、若い世代へ主役をバトンタッチするのでしょうか?

エイドリアン・トゥームス【バルチャー】
(マイケル・キートン)
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引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 3 - YouTube
元祖アメコミヒーローとも言える1989年版バットマンを演じ、2015年の「バードマン」で鳥人間になったマイケル・キートン。今回の【バルチャー】と何かとイメージが重なる絶妙の起用でした。悪役なのですが、部下思い・家族思いで憎めない、味わい深いキャラでした。

メイ・パーカー(マリサ・トメイ)f:id:hisatsugu79:20170825090846j:plain
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube
ピーターを育てるメイ叔母さん。前シリーズまでと違い、ものすごく若返りました。とても50代には見えない若さ。しかしキャリアは30年以上で、「いとこのビニー」(1992)ではアカデミー賞助演女優賞も獲得しています。

リズ(ローラ・ハリアー)f:id:hisatsugu79:20170825090651j:plain
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube
ピーターの彼女役。学校一の美女という位置づけですが、人種の多様化を反映してか、白人ブロンドではないヒロインは珍しいですね。最初見た時、てっきりリズの横にいた白人の小さな子がヒロインだと思ってました・・・

ネッド(ジェイコブ・バタロン)f:id:hisatsugu79:20170825090759j:plain
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube
今作、ピーターの親友は、前2作までのオズコープ社の御曹司ハリーではなく、太めのオタク&ハッカーなネッド。非リア充ながら決して卑屈な感じでもないのがいい!喜々としてストームトルーパーのフィギュアを愛おしそうに触る姿が最高です(笑)
学校のコンピュータ室で平凡なデスクトップを駆使して必死にピーターのサポートに徹する姿も、ローカルヒーローの良き相棒という感じが出ていました。案外続編でアベンジャーズに加入してたりして・・・

時系列で過去作シリーズを整理してみる

本作は、映画単体としても十分楽しめますが、過去のスパイダーマンシリーズと見比べてみると、更に味わい深いです。簡単に整理してみます。

サム・ライミ監督&トビー・マグワイア主演
【スパイダーマン・シリーズ】
①「スパイダーマン」(2002)
②「スパイダーマン2」(2004)
③「スパイダーマン3」(2007)

オズコープ社でクモに刺され、自らの過失で通り魔に刺殺された叔父の言葉「大いなる力には大いなる責任が伴う」を胸に、NYの摩天楼で華麗に活躍するスパイダーマン。そのストーリーの原型を作り上げたのが、サム・ライミ版のスパイダーマンでした。叔父の遺言通り、自らの活躍と引き換えに、親友や恋人の危機・葛藤に悩みつつも、一歩ずつ成長していく主人公が魅力的です。マーベルヒーロー映画で最初に大成功したシリーズでした。

マーク・ウェブ監督&アンドリュー・ガーフィールド主演
【アメイジング・スパイダーマン・シリーズ】
④「アメイジング・スパイダーマン」(2012)
⑤「アメイジング・スパイダーマン2」(2014)

クモに刺され、叔父の死をきっかけにスパイダーマンとしての自覚に目覚めるストーリーは前シリーズと共通。本シリーズではスタート時点で実の両親が登場し、両親の残した謎を追いながら悪と対決していきます。ややダークでサスペンス色の強い作風となったからか、お膝元の北米での興収が伸びず、残念ながら2作目で打ち切りとなりました。

3.中盤までの簡単なあらすじ

アベンジャーズ達が、ニューヨークにて宇宙からやってきたロキ率いる強敵チタウリを倒した後、エイドリアン・トゥームス率いる清掃会社は、今日も瓦礫の撤去作業に従事していた。しかし、政府がトニー・スタークと共同設立したダメージ・コントロール局によって、彼らの仕事は突如奪われてしまう。トゥームスたちは、家族や従業員を守るため、瓦礫に含まれていた宇宙の特殊素材を使って、不正な武器製造・販売に乗り出すのだった。

一方、その数年後、アベンジャーズ内では、深刻な意見対立からベルリンにてアイアンマンのグループとキャプテン・アメリカのグループにて内部闘争が勃発していた。トニー・スタークは、かねてから目を付けていたピーター・パーカーにスパイダーマンスーツを与え、戦場でテスト登用を行った。ピーターは完全に舞い上がり、一人観光気分でいた。

アメリカに戻ってから、トニーから次の招集を待つピーターだったが、一向に連絡が来ない。気持ちが空回りして学業やクラブ活動(全米学力コンテストの準備)に身が入らなかった。そんな中、ピーターはパトロール中に地元の銀行のATMで不審な人物たちを見つける。チタウリの残した素材から作った相手の武器に苦戦しながらも、何とか撃退に成功する。トニーに認めてもらうため、独断で敵を深追いしたが、ウィング・スーツに身を包んだトゥームス(バルチャー)によって、湖の上空から投げ出されてしまった。

危機一髪の状況で、遠隔操作で駆けつけたアイアンマンに救出され、無茶をするなと警告を受けるピーターだったが、功を焦ったピーターは、バルチャーを追ってワシントンDCへ向かう。それは、奇しくも全米学力コンテストの開催地でもあった。

オタクで最強のハッカーでもある親友のネッドに自らの存在がバレたピーターは、ネッドの協力でスパイダーマンスーツの訓練モードを終了させてバルチャーに挑む。しかし歯が立たず、逆に学校の仲間達を危険な目に合わせてしまう。

諦めがつかないピーターは、さらにトゥームスを追って船上での武器取引現場を押さえるが、またしても乗客を危険な目に遭わせてしまった。

失敗続きのピーターに、トニーは怒り、ピーターからスーツを取り上げてしまう。ピーターは普通の高校生に戻り、学年一の美人、リズとのホームカミングパーティに臨むが、なんとリズの父こそが彼の追っていた武器商人だった・・・(クライマックスへ続く)

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4.映画「スパイダーマン・ホームカミング」の感想・評価

前2作までとは違う「新しい」スパイダーマンが新鮮だった!

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引用:http://www.spiderman-movie.jp/

見始めて数分でわかるのは、今回のスパイダーマンは、とにかく若い!ということ。演じるトム・ホランドはわずか20歳、映画内での設定年齢はわずか15歳と、これまでのマーベルヒーローものの中でもダントツの若さとなりました。

ラジオ映画評論「ライムスター宇多丸のムービーウォッチメン」でも真っ先に言及されていましたが、映画の全体的なトーンは青春アクション映画というよりは、ハイスクール学園モノや、ジュブナイル冒険活劇に近い感じがします。個人的には、ハリーポッターの初期作品を見ているようでした。

そんな主人公の行動半径は「学校」と「自宅」の数キロ範囲内です。親代わりのメイおばさんや近所のスーパーのおっちゃん、クラスメイト達と交流しながら、日常生活や学校行事の延長線上にピーターの行動がガッチリ紐付けられているんです。

盗まれた自転車を取り返したり、喧嘩を仲裁したり、道案内をしてあげたり、彼のヒーローとしての活動は、どちらかというとボーイスカウトやボランティア的な牧歌的な内容ばかり。(しかも活動中にしょっちゅうスマホいじってるし/笑)

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クイーンズ地区。高いビルがない・・・
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube

また、マンハッタン近くのNYの都心が活動拠点だった前2作と違い、今回はNYの郊外、クイーンズ地区が今回のピーターのホームグラウンドです。NYの象徴でもある摩天楼もなく、ビルの谷間を華麗にウェブスイングすることすらできないという(笑)このあたりの設定も、上手いなぁと思いました。

若干15歳で、身の回りのことに一生懸命なピーターが、宇宙規模の危機対応にあたり、敵と戦うアベンジャーズが見向きもしない地元の事件を必死になって追い続ける様子は、古くて新しいアメコミヒーロー像なのかなと思いました。制作陣が「地に足の着いたヒーロー像を描き直す」と事前に強調していた通りでしたね。

物語終盤にかけて、少しだけ成長するピーター

そして、まだ何者でもない見習いヒーローが、早く誰かに認めてほしくて必死に頑張る様子も微笑ましいのです。ネットの批判コメントでは、「自分勝手で思慮が足りない」など厳しい意見もありましたが、そもそもまだ15歳の段階で、物分かりが良すぎたら逆に若年寄みたいでつまらないですよね?

前2作では、自らの過失が招いた叔父の悲劇的な死が、ピーターにスパイダーマンとしての自覚と責任を持たせる触媒になるのですが、今回はそれがありません。15歳のピーターに同じ悲劇を味わわせたら、ショックのあまり、そのまま引きこもってしまうかもしれませんね(笑)

だからなのか、今作では前2作のような「劇薬」は用意されず、ピーターはトニーをメンター(擬似的な父親代わり)にして愚直に行動し、失敗を積み重ねる中から自分の力で少しずつ精神的に成長を重ねていく、という描写が取られます。

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動けば動くほど騒ぎだけ大きくなる物語序盤
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 3 - YouTube

トニーに早く認められたい、大好きなリズにいいところを見せたい、という功名心だけが先走り、取った行動がことごとく思慮を欠いて失敗続きに終わるという中盤までのシークエンスも、青春真っ只中!という感じで僕は好きでした。まさに「見習いヒーロー」が必死にもがいている様子が微笑ましいです。

今回は3部作(アベンジャーズを入れると5部作)用意されているので、ピーターが時間をかけてゆっくり成長していく姿を味わっていくのも本シリーズの醍醐味だと思います。

いつのまにかハイテク化したスパイダーマンのスーツ

今回のピーターは、スパイダーマンとして覚醒してからも、その超人的な感覚「スパイダーセンス」が身についていません。自宅の部屋にいたネッドの姿にも気づかないくらいですから。まだ、半覚醒くらいのレベルでしょうか。

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ハイテクスーツが凄い!
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 3 - YouTube

その代わり、ほとんどアイアンマンのスーツと変わらないくらいハイテク化したスーツが楽しかったです!ラピッドファイア(連写モード)、テーザーウェブ(電気ショック)や、音声が変わる尋問モード、ボディーヒーター、ムササビのようなウェブウィング、小型ドローンなど、至れりつくせりの高性能ぶりが面白い!

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ウイングも出る!少しなら空も飛べる高機能!
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 3 - YouTube

そして、見事に全然使いこなせず、習熟に苦労するシーンを描くことで、コメディ要素もきっちり確保されていました。映画終盤で、トニーから新しいスーツをプレゼントされていましたので、次回作以降でも、新たなスーツの新機能が見れるのが楽しみです。

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5.映画「スパイダーマン・ホームカミング」に関する10の疑問点・トリビア~伏線・設定を徹底考察!~

疑問点1:映画タイトル「ホームカミング」の意味とは?

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学校はホームカミングの準備中
引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube

「ホームカミング」には、2つの意味が掛けられていると思われます。
まず、第1に、本作がマーベル・シネマティック・ユニバースの世界線の中で再びリブート作品として戻ってきたことを示唆しています。「ホームカミング」とは直訳すると「帰宅、帰郷」という意味があるからです。

そして、第2には、物語中盤で開催される「ホームカミングパーティ」のことを差しています。日本人にはあまり馴染みがない「ホームカミングパーティ」とは、ざっくり言うと、アメリカの高校で年間行事として秋頃に行われる文化祭と体育祭が一緒になったような学園祭です。昼間はフットボールの交流試合や、学校にOBなどを招いて楽しみ、夜間はダンスパーティがあります。

疑問点2:映画冒頭でトゥームスが片付けていた瓦礫とは?また、トゥームスの仕事を奪った連中は誰なのか?

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ロキが連れてきたチタウリの戦士!
引用:Chitauri | Marvel Cinematic Universe Wiki

映画冒頭でトゥームスが処理していた瓦礫は、映画「アベンジャーズ」で、アイアンマン達がロキ率いるチタウリと戦った時、その時の戦闘で散らばった敵味方の機材・武器の残骸でした。

アベンジャーズの戦闘で毎回大量発生する大量の瓦礫や、地球外のレア物質がテロや戦争に軍事転用される恐れから、アメリカ政府とスターク・インダストリーは、合弁で「ダメージコントロール局」を設立し、トゥームスのようなローカル業者を現場から排除したのでした。

疑問点3:トニー・スタークは、なぜ・どうやってスパイダーマンをスカウトしたのか?

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引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube

宇宙規模での危機に備え、トニー・スタークはアベンジャーズのメンバー拡充を狙い、常日頃から自社開発したAI搭載のスーパーコンピュータで候補者の探索に余念がなかったのです。そんな中、彼はピーターを見つけ出しました。

ちなみに、映画公式パンフレットによると、「シビルウォー」の時、トニーがスパイダーマンをわざわざベルリンまで連れて行ってテスト登用した理由は、スパイダーマンなら敵方を傷つけることなく捕獲してくれるのではないかという期待があったようです。対立して戦うことになったとはいえ、もともとの仲間を傷つけたくはなかったのです。

疑問点4:ワシントンDCでスパイダーマンが登った塔の名前は?

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引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube

建国の父ジョージ・ワシントンを記念して建てられたオベリスク、「ワシントン記念塔」です。塔内は窓が極端に少なく、スパイダーマンが登るにはぴったりの建物でした(笑)エレベーターで一直線に上まで上がって、小窓から景色を楽しめるようになっています。アメリカ建国の歴史が詰まったワシントン観光必須の訪問スポットですね。

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引用:Wikipediaより

ちなみに、ハリウッド映画では過去14本がこのワシントン記念塔でロケを行っています。有名なところでは「フォレスト・ガンプ」(1994)、「インディペンデンス・デイ」(1999)、「ボーン・アイデンティティ」(2002)など。

疑問点5:映画で出てきた全米学力コンテストとは?

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引用:http://www.digitalspy.com/movies/spider-man/feature/a832503/spider-man-homecoming-easter-eggs/

映画中、ミッドタウン高校の選抜メンバーがワシントンで「全米学力コンテスト」なる大会に出場していましたね。これは、Academic Decathlonと言って、1960年代~80年代にかけて、高校生の学力向上を目的としてアメリカ全土に普及した団体戦でのコンテストです。日本の「高校生クイズ」をよりアカデミックにしたような感じでしょうか?

各学校から選抜された9人のメンバーが、Decathlon(十種競技)になぞらえて、ペーパーテスト やスピーチ、プレゼンなどあらゆる形態で知識や教養を問われ、高得点を目指すコンテストです。

2015年の映像ですが、こちらに実際に競技中の動画がありましたので、参考に貼っておきますね。クイズ大会みたいで楽しそう・・・。こういう青春もありですかね^_^;

このあたりは、続編でもハリー・ポッターシリーズでの「クィディッチ」のように、「スパイダーマン・ホームカミング」の毎回の定番行事となるでしょうか?

疑問点6:アベンジャーズタワーは、なぜ引越し作業をしていたのか?

スターク・インダストリー社が、このビルをどこかの大企業に売却することになったからです。売却先は明らかにされていませんが、代わりにアベンジャーズタワーに入居するのは、スパイダーマンではおなじみの、「オズコープ社」かもしれません。社屋のシルエットも、どこかしら似ているんですよね。

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引用:http://amazingspiderman.wikia.com/wiki/Oscorp_Tower

「ホームカミング」1作目では、ピーターの両親もオズコープ社も出てきませんが、ひょっとしたら続編で話に絡んでくるかもしれません。

疑問点7:クモに刺され、叔父が亡くなる定番のシーンがなかった理由とは?

「ホームカミング」では、ストーリーが始まる半年ほど前に、すでにピーターはクモに刺され、スパイダーマンとしての活動を始めていたからです。だから、クモに刺されるシーンはネッドとの会話の中でアッサリ消化して流れていきましたね。また、叔父が亡くなったのもストーリーが始まる前の話です。こちらは、叔母のメイから「叔父に先立たれた」ことを軽く示唆するレベルでしか触れられませんでした。

もっとも、期間を置かずすぐのリブートだったこともあり、毎回クモに刺され、叔父が死ぬシーンを繰り返すのはややくどいので省略した、という配慮もあったのでしょうね。

疑問点8:ハッピーのポケットに入っていた指輪は何だったのか?なぜ手渡したのか?

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引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 1 - YouTube

アベンジャーズの最新式武器を横領しようとしたトゥームス(バルチャー)を捕まえた後、ピーターはトニー・スタークの新社屋に招待され、そこでご褒美の新型スーツと正式なアベンジャーズ加入を促されます。奥の部屋では、すでにトニーの恋人、ペッパーも記者会見をセッティングして万全の準備で待機していましたが、それにもかかわらずピーターはアベンジャーズ入りを断り、クイーンズへと帰ってしまいます。

そこで、慌てたペッパーに対して、トニーはお供についてきていたハッピーのポケットの中から、婚約指輪を取り出させます。(2008年から入れていたとか)これは、トニーの用意していたバックアッププランだったのでしょう。万一ピーターがアベンジャーズ入りを断わってきた時、代わりに記者会見の場でペッパーとの婚約発表をしてしまおうという粋なはからいでした。(それにしても、つい3ヶ月程前の「シビルウォー」でペッパーと別れた直後だったのに、どうやってよりを戻したんでしょうか・・・/笑)

疑問点9:エンドロール中のポストクレジットシーンを解説!

MCU作品では今や当たり前となったポストクレジットシーン。今回も2つありました。(しかし、今回もメイ叔母さんが「What the fu---」と言い放った瞬間に席を立った人がいました。もったいない・・^_^)

まず、1つ目は、刑務所内で密造武器の取引相手、ガーガンとの会話。彼は腕にサソリのタトゥーがしてあった通り、2作目以降、「スコーピオン」という名前のヴィランとして登場しそうです。

ガーガンから、「スパイダーマンが誰なのか教えろ」と言われたトゥームスは、知っていたのにガーガンに教えませんでしたね。これは、恐らくトゥームスが墜落した時、自らの命を助けてくれたのがスパイダーマンであり、彼に恩義を感じているからだと推測されます。(ワシントン塔で彼の娘、リズを救ったスパイダーマン=ピーターにきっちり借りを返し、パーティ会場へ向かう車中で襲えたはずなのに逃げるチャンスを与えるなど、仁義に篤い性格)

また、ガーガンにスパイダーマンの居場所を教えると、オレゴンに逃したリズの安否も危なくなる可能性があります。かつて歴代スパイダーマンのヒロインは、何度も敵の手に落ちましたからね・・・。

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引用:Spider-Man: Homecoming - Official Trailer 2 [HD] - YouTube

2つ目のシーンは、キャプテン・アメリカの学校用教則ビデオの撮影シーンでした。これはストーリー的には特に何の関係もなく、オチとして使われただけでしょう。ただ、ジョン・ワッツ監督の発案で、何パターンも撮影しているらしく、DVD化された時収録されるようですね。楽しみに待つとしましょう^_^

疑問点10:未解決のまま、次作に持ち越しとなった伏線は?

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引用:Spider-Man: Homecoming - Trailer 3 - YouTube

実質上、連続ドラマ化が進むマーベル作品。今回も、大量に次作へと未解決の伏線が残りました。一覧にピックアップしてみます。

未解決となった伏線の一覧
・オズコープ社は出てくるのか?(アベンジャーズタワーへ入居するのでは?)
メイ叔母さんに正体がバレてしまった後、叔母さんとの関係は?叔母さんはその後どんな役割になるのか?(歴代のコミック・映画・アニメを通して、メイ叔母さんに正体がバレることはほとんどなかった)
・ピーターの両親との逸話は今後語られることがあるのか?
・新しいスパイダーマンスーツはどんな改良がなされているのか?
スパイダーマンは今後アベンジャーズにどう絡んでくるのか?(MCUで世代交代を図るなら、50代になったトニーが引退し、代わりにピーターが入る可能性も?)
・オレゴンに引っ越していったリズとの仲はどうなるのか?
部活の部長を引き継いだミシェルは今後どうストーリーに関わるのか?
・トゥームスは、再びバルチャーとなって絡むことがあるのか?
ガーガン(スコーピオン)はどうなるのか?

個人的には、部活の部長に就任したMJことミシェルが、ネッド同様、スパイダーマンを補佐する重要な役割を負わされるのではないかなと予測。リズが完全にフェードアウトするなら、恋人に昇格する可能性も?

6.今後予定されている続編やスピンオフ企画について

MCUベースでの続編作品

「Infinity war」の画像検索結果
引用:Wikipediaより

「スパイダーマン:ホームカミング」は、アベンジャーズへの参加も含め、以下の通り残り4作品が続編として確実に予定されています。下記に列挙してみました。

このうち、すでに「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」はすでに撮影が開始されていますね。なお、ロバート・ダウニー・Jrはアベンジャーズ4以降、MCU作品には出演しない予定なので、ホームカミング2以降では、別のMCUキャラクターが絡んでくる可能性が高そうです。

①「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」
(2018年2月・ルッソ兄弟)
②「アベンジャーズ4(仮称)」
(2019年5月3日・ルッソ兄弟)
③「スパイダーマン・ホームカミング2(仮称)」
(2019年7月5日・監督未定)
④「スパイダーマン・ホームカミング3(仮称)」
(2021年・監督未定)

その他、トム・ホランドは未契約ですが、MCUシリーズの別の映画にもスパイダーマンが参加する可能性があるようです。

アニメ映画作品

また、実写とは別にハリウッド版アニメ映画(タイトル未定)も2018年12月14日での公開が決まりました。ちゃんとクモに刺されるところからストーリーが始まるようですが、こちらは、コミック版で人気に火がついた黒人とヒスパニックのハーフ、マイルズ・モラレスが主役です。ちなみに、ホームカミングで出てきた武器商人の彼は、マイルズの従兄弟という設定でした。

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マイルズ・モラレスの従兄弟は武器の密売人
引用:Spider-Man: Homecoming - Official Trailer 2 [HD] - YouTube

ここ数年で一気にダイバーシティ(人種の多様化)が進んでいるハリウッド映画の流行を反映し、とうとう有色人種が主役を務める画期的な作品となりそうです。こちらも楽しみですね!

ソニーの独自計画「スパイダーマン・ユニバース」企画

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引用:https://www.wikiwand.com/en/Spider-Verse

これ以外にも、スパイダーマンのコミックシリーズで過去に人気のあったヴィランを「アンチヒーロー」的な主人公に立てて、ソニー独自の「スパイダーマン・ユニバース」(Spider-verse)を進める計画があります。すでに、以下の2つの企画が進んでいます。

①「ヴェノム」(仮称)
(2018年10月5日、主演:トム・ハーディ)
②「シルバー&ブラック」(仮称)
(2019年2月8日、監督主演未定)

残念ながら、契約上この「スパイダーマン・ユニバース」系の作品群にはトム・ホランド演じるスパイダーマンの出演はなく、MCU作品との接続性はないとのことです。まずは「スパイダーマン3」でも出てきた「ヴェノム」がどんな悪役ぶりを発揮するのか楽しみですね!(確か音波に弱いという意外な弱点があった)

7.まとめ

今回リブートされた「スパイダーマン:ホームカミング」はコメディ色や学園ドラマとしての面が強い映画です。スパイダーマンはMCUのキャラクターの中では圧倒的に若くローカル色の強い、異色なヒーローとして復活しました。意外な方向性でしたが、これが非常に心地よく、楽しい映画に仕上がっていました。

日本ではやや苦戦しているようですが、情報量も多くハイクオリティな作品なので是非2度、3度とチェックしてみて下さい!
それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

スパイダーマン・トリロジー(サム・ライミ版)

サム・ライミ版のスパイダーマン3部作をワンセットにまとめたブルーレイボックス。死んだ叔父の「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉の通り、大切な人を守るため、常に自分自身の心と向き合い、葛藤しながら成長していく主人公の姿が心を打つ、マーベルアメコミヒーローの原点とも言える作品群です。オススメ!

アメイジング・スパイダーマン(マーク・ウェブ版)

サム・ライミ版の3部作が終了し、ソニーの肝いりでリブートされた「アメイジング・スパイダーマン」。「ダークナイト」シリーズに影響を受けているのか、よりリアルでシリアスな路線で描かれました。自身のルーツと両親の残した謎解きが未完で終了したのは残念ですが、2作とも単体としてしっかりドラマを楽しめる良作。本作をきっかけに、本格的にスター俳優として人気に火がついたアンドリュー・ガーフィールドとエマ・ストーンが若々しくて良い感じ!

「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」

「スパイダーマン・ホームカミング」をより深く楽しむため、いわば本作のプロローグ編として抑えておきたい作品です。スパイダーマンがマーベルヒーローたちの前でデビューするベルリンでの戦闘シーンや、トニー・スタークがピーターをスカウトするシーン、最終的にトニーとペッパーの恋仲がどうなるか?などは要注目!「ホームカミング」の3ヶ月前を描いており、ストーリー的にも密接につながっています。

アメコミ映画2017完全読本

この夏、「スパイダーマン・ホームカミング」と「ワンダーウーマン」の2大ビッグタイトルが劇場公開されるタイミングで、各社からアメコミ映画を特集したムックや雑誌が相次いで発売されました。その中でも、一番内容が充実していて、マニアでも楽しめる深い内容になっていたのが、本書。特に冒頭でのスパイダーマン特集は、実写映画、アニメ、コミックなどの過去作のレビュー・紹介が時系列でしっかり網羅されており、これ1冊あればスパイダーマンについての基礎知識はがっつり抑えられます!

現在Huluで過去作・関連作品を配信中!

どんどん広がるスパイダーマンの世界。人気作品なので、基本的には作品は全て楽天やAmazonで手に入ります。でも、まずはちょっと見てみたいという人は、動画配信もオススメ。現在、Huluにて「スパイダーマンシリーズ1~3」「アメイジング・スパイダーマン」が無料配信中。また、定期的に「アベンジャーズ」等のMCU作品も配信されています。(今回は9月3日まで)

★最初の14日間は無料!

僕は、今回映画公開前にHuluで配信されている過去作全部と「アベンジャーズ」等関連作品を復習してから映画に臨みました!登録後最初の2週間は無料で視聴できるので、無料期間中に見てしまえば、実質タダで見れますね!

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【ネタバレ有】映画「関ヶ原」 感想・レビューと11の疑問点を徹底解説!/予習必須!写実的で面白いけど、難解さもある映画でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

2017年に夏休みは、大型時代劇映画が、「忍びの国」「関ヶ原」と2本上映されました。時代劇映画の退潮がハッキリしてきた中、今年の夏は非常に時代劇が元気です。

さて、本作は歴史小説のレジェンド、司馬遼太郎の代表作「関ヶ原」を原作とした、戦国大河ドラマです。過去、NHK大河ドラマや数々の展覧会、時代劇小説等で何度も取り上げられ、人気コンテンツとなってきた、日本の歴史を変えたといってもいい「関ヶ原の戦い」に真正面から取り組んだ意欲作でした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「関ヶ原」の予告動画・基本情報

▶映画「関ヶ原」予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】原田眞人(「金融腐食列島呪縛」「日本の一番長い日」他)
【配給】東宝
【時間】149分
【原作】司馬遼太郎「関ヶ原」

本作で監督を務めたのは史実モノをベースとしたドキュメンタリータッチの群像劇を得意とする原田眞人監督。今回が時代劇初挑戦となりますが、なんと映画化が実現するまで、本作の構想に25年をかけたそうです。

その間、脚本も何度も変わりました。想定していた主人公も、構想当初の徳川家康から、小早川秀秋に変わり、最終的には本作の通り石田三成に変わったそうです。「義を重んじる三成の魅力に、60歳を超えてから気づいた」とのこと。また、意外なことに彼が関ヶ原を撮りたい!と強く思うようになったのは、原田監督自身が出演したハリウッド映画「ラストサムライ」がきっかけだったのだとか。

原田眞人監督自身、様々な歴史資料を当たる中、最終的に映画化のベースとしたのは、歴史小説の大御所、司馬遼太郎版の小説「関ヶ原」でした。しかし、司馬遼太郎の歴史観に依拠しつつも、後半では原田監督自身の歴史解釈も織り込まれ、主役たちの人物像は新しいタッチで描かれています。

ただし、本作を見る前には、少しでもいいので戦国時代や「関ヶ原の戦い」に関する事前知識を仕入れておいたほうが良いでしょう。史実に忠実に描かれてはいますが、初心者にわかりやすいテロップや説明的なナレーションが最小限に抑えられ、ぼやっとしてると何が起こっているのか理解できないまま進んでいくからです。予習・復習には、公式サイトで用意されたもう一つの解説動画が理解を助けてくれます。是非チェックしてみて下さい!

▶映画「関ヶ原」公式解説動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.映画「関ヶ原」人物相関図・主要登場人物・キャスト

人物相関図も絶対押さえておきたい!

行く前に是非少しでもいいので眺めておきたいのが、この人物相関図。映画本編はかなりのハイペースな上、字幕等を援用した説明もほとんどありません。特に、脇役陣については、気がついたら誰が誰なのかわからなくなります^_^;  

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主要登場人物

石田三成(岡田准一)
f:id:hisatsugu79:20170831124216j:plain
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
本作の主役。従来の「小賢しい小役人」的なイメージで描かれがちだった三成像が一新されました。誰もが利害関係で動いた戦国の世にありながら、一人不器用ながら「義」を重んじる生き方を貫いた新しい三成を演じました。(若干いい人過ぎたような気も・・・)「海賊とよばれた男」「追憶」など、重厚な人間ドラマでの起用が続き、ますますハクがついてきましたね。

徳川家康(役所広司)
f:id:hisatsugu79:20170831124234j:plain
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
原田組といえば、役所広司。これまで数々の原田監督作品で主演を務めてきましたが、今作では、特に相性の良さがばっちり生きた素晴らしい演技。老獪で狡猾、権力闘争に長けた古狸のような「悪役」としての家康像をきっちり演じています。風呂場で「今日の伽は誰にするかのうフフフ」と笑うシーンが個人的には一番好き(笑)

初芽(有村架純)
f:id:hisatsugu79:20170831124259j:plain
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
戦国歴史モノは女性成分がどうしても足りなくなる中、ヒロイン役の初芽は、原作の武家の「間者」という設定が変更されて、伊賀「忍び」としてフィールドでのアクションシーンもこなすアクティブな役柄に。ちょうどNHK連ドラ「ひよっこ」の役作りで増量中だったのか(?)、いつにも増してアップだと童顔が目立ち、忍者にしては可愛すぎるような感じはありました。

小早川秀秋(東出昌大)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
「関ヶ原の戦い」では、合戦の帰趨を決定づけた重要人物として位置づけられる小早川秀秋。中途半端な裏切り者、頭の弱いお坊ちゃまキャラとして、大抵の物語中ではダメキャラとして描かれますが、今作では少し描かれ方が変わっていました。東出昌大といえば、キャラとの相性がハッキリ出てしまう棒気味の演技が特徴ですが、今回は映画「聖の青春」に引き続き、絶妙にフィットしていました。

島左近(平岳大)
f:id:hisatsugu79:20170831124311j:plain
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
最近ますます父・平幹二朗に似てきた感のある平岳大が、特殊メイクを施して猛将・島左近を演じました。眼光の鋭さ、立ち振舞いの威圧感が伝わる圧巻の風格。「真田丸」の武田勝頼に引き続き、素晴らしい演技でした。

3.中盤までの簡単なあらすじ

 戦国時代末期。ストーリーは、石田三成が、後に「本能寺の変」で謀反に倒れた織田信長に変わって天下統一を成し遂げる豊臣秀吉と最初に知り合う場面から始まる。三成が働く寺に、偶然に鷹狩りの休憩で訪れた秀吉。秀吉は、茶のもてなしにおける三成の気配りを高く評価し、彼を家来に取り立てた。

それ以来、三成は秀吉の懐刀として活躍を続け、豊臣政権随一の行政官として出世を果たす。一方、有能だが融通の利かない頑固な文官として、武士たちの間で好かれてはいなかった。

1595年、秀吉に側室淀君との間に跡継ぎとして秀頼が生まれると、秀吉は跡継ぎとして予定していた養子である関白秀次を謀反の罪で切腹させ、その妻子達も連座させ、処刑した。

京の六条河原で秀次の妻子たちの処刑に立ち会った三成は、この時生涯に渡り大切な二人の人物と出会う。一人は、最上家の駒姫お付きの忍び、初芽だった。もう一人は、島左近だった。たまたま処刑場に姿を見せた左近を追いかけ、三顧の礼で迎え、第一の家臣として取り立てた。

その後、朝鮮半島出兵を巡って石田三成ら文官と、福島正則ら武断派たちの対立が激化していった。1598年、秀吉と、豊臣政権でNo.2だった前田利家が相次いで死去すると、邪魔者がいなくなった徳川家康が野心をむき出しにして豊臣政権を壟断し始める。

家康と対立した三成は、様々な対抗措置を打ち出すも、家康に近い武断派七人衆は、直接三成に対して軍事行動を起こした。そんな中、盟友・大谷吉継の元へ使いに出した初芽は、その帰り道、家康側の忍びに襲撃され、三成の元に帰れなくなった。

三成は、この危機をライバルである家康の仲裁により切り抜けると、故郷の佐和山城へと蟄居し、遠方の上杉家や毛利家と計り、家康と直接対決する天下を二分する大戦の計画を始めた。

そして、1600年夏。家康が上杉征伐に乗り出し、東北へと兵を進めたそのスキをついて、三成は京都・伏見で兵を上げた。その知らせを受けた家康は、上杉征伐を中止し、急ぎ引き返す。そして、三成と家康は、互いの盟友達を引き連れて、1600年9月15日、両軍合わせて15万人を超える東西両陣営がついに関ヶ原の地で激突するのだったー。

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4.映画「関ヶ原」の感想・評価

これは忍者映画なのか?主役同様にクローズアップされた忍びたちの活躍

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

本作「関が原」原田監督が想定した主人公は、石田三成、徳川家康と、彼らを取り巻く重要人物たちです。しかし、ユニークなのは、彼らの周辺で暗躍する忍者たちがストーリーの中で大きくクローズアップされたこと。原作にはない特色です。

戦いが始まる前段階の情報戦、忍者同士が情報交換する「忍び市」の存在、忍者同士の戦い、そして戦闘が始まってからも伝令・物見から暗殺を企図するシーンまで、忍者の動きが徹底的に掘り下げられて描かれました。さらに、三成・家康ともにお気に入りの女忍者を側に置き、側女どころか、側室のような扱いで厚遇します。

この忍者偏重描写は、明らかに全体の尺を圧迫しています。これにより「伏見城の戦い」や「岐阜城攻防戦」「小山評定」など、「関が原の戦い」で節目となる重要シーンがカットされざるを得なくなったと思われます。また、主要な戦国武将についての人物描写も限られたものにならざるを得ませんでした。

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七人衆も黒田・清正・福島以外は描写する余裕なし
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

今回、大幅に時間を割いて忍者を大きくクローズアップさせたことで否応なく気付かされるのは、今も昔も戦争における戦略・戦術を支えるのは「情報力」だったということ。

電話やネットがない戦国時代は、飛脚や忍びの機動力が、大名たちの情報戦を支えました。例えば、家康は「関が原の戦い」の前に、実に120通以上の密書を書き、忍びや飛脚を使って各大名へ届けさせたといいます。

特に、「関ヶ原の戦い」は単独の大名vs大名の戦いではありません。諸大名がバラバラで指揮命令系統を整えるのが難しい「連合軍」同士の戦いでした。だからこそ、情報戦を制することが何よりも肝だったはずです。家康率いる東軍が、情報戦を制した結果、島津や毛利の動きを抑え、小早川を内通させることに成功して戦略レベルで揺るがぬ勝利を手にすることができたのです。

そういう意味で、僕個人としては「情報」の運び手としての裏方である「忍者」を大きくクローズアップさせた本作の取り組みは、評価されてしかるべきではないかな、と思います。

歴史上級者向けの不親切設計がたまらない~不明瞭なセリフ、説明不足なストーリー

しかし、忍者以外の部分で、背景知識に乏しい初心者にとってかなり不親切な作りになっていたのは残念でした。過去作「金融腐食列島呪縛」などでもやはり同様の説明不足感を感じますが、原田監督は鑑賞者の歴史リテラシーに期待しすぎなんじゃないでしょうか。

前哨戦から含めると数年間にわたる歴史イベントを、わずか2時間あまりで凝縮するため、どうしても短いカット割りで画面がどんどん切り替わるスピーディな作りになるのに、ナレーションやテロップはほとんどありません。

だから、各登場人物のセリフからそれぞれの人間関係、起こっているイベントの意味を読み取るしかないのですが、そのセリフが全然聞き取れないのです。早口な上、他の音と被っていて、聞き取りが難しい箇所が多すぎるのです。

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合戦の詳細描写は写実的で迫力があったが・・・
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

また、合戦が始まってからの描写も今ひとつわかりづらかったです。合戦での戦闘は写実的で素晴らしいのですが、肝心の合戦の全体像が良くわかりません。どの部隊が何をしているのか?全く理解できないのです。

もちろん、シーンを細切れに撮影し、編集でつなげているので引きの大画面を映し出すのは難しいとは思うのですが、せめて、戦闘開始前~終了までの間、局面の節目節目で「陣地図」を入れてほしかったかなと。マニアックな事を言うなら、東軍の背後、南宮山に配置された毛利秀元、吉川広家、安国寺恵瓊の存在を全部省略するのはいかがなものでしょうか?

僕も、ある程度予習をした上で本作に臨んだのですが、1回目は理解が追いつかず意味がわからない箇所が数か所ありました、悔しいので2度目を見てようやくストーリー詳細・各イベントの内容を理解するに至りましたが、それでも登場人物たちが何を言っているのかわからないシーンはかなり残りました。字幕上映が欲しかった・・・

「忍者」やトリビアを丁寧に描きすぎて、重要なシーンが抜け落ちた

また、上述した通り、「忍者」や監督好みのトリビア・逸話を盛り込みすぎて、「関が原の戦い」の本質を理解するために必要なイベントが抜け落ちてしまったのも残念でした。「忍者」にフォーカスするなら、それ以外のトリビアは思い切って捨てたほうがよかったかと。

後半で持て余してしまった初芽の冗長な描写や、物語にほぼ関係ない柳生・島のエピソード、福島正則・加藤清正の仲直り場面など、悪くはないんですが、それはあとでDVDを出した時コンプリート・エディションの秘蔵シーンとして取っておけば良かったんじゃない?と思うようなシーンが多かったです。

家康と三成の人間観の違いの対比は明確で面白かった

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悪役が最高にハマっていた役所広司の名演
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

このように、全体の構成やストーリーテリングにはやや不満点が多かったですが、家康と三成の対比が鮮やかに描かれたのは良かったです。「義」VS「利」、「理想」VS「現実」、「中小企業」VS「大企業」など、様々な言葉で比喩的に対比することができますが、「全国統一」という大目的に対する二人の武将の対照的なアプローチがわかりやすく描かれました。

例えば、人材に対する考え方。三成は初芽の志に惹かれ、最後まで身分の違いも関係なく愛そうとします。まさに理想やロマンに生きる男ですよね。しかし、家康は、自らの身に危険が及ぶと、かわいがって側に置いていた側女の阿茶ごと暗殺者を斬り殺して自らの身の安全を図ります。家康にとって部下はあくまで目的達成のための駒にすぎず、このあたりの割り切り方は、合理的で現実主義的です。

しかし、二人の志はあくまで「全国統一を成し遂げて戦乱の世を終わらせること」であり、共通していました。それは、映画冒頭とラストで、二人ともが戦場の道祖神に対して手を合わせ、祈りを捧げていたシーンからわかります。(道祖神は、いわば「平和」のメタファーとして機能している)

ただ、そのやり方が見事に違っていたのですよね。

大義や理念を掲げ、人心を結集させようとした理想主義的な三成に対し、利害関係をベースに人間関係の機微を最重要視した現実主義的な家康。僕は、どちらにも賞賛すべき点、学ぶべき点があると感じました。

「関が原」では家康が圧倒的な勝利を収めましたが、僕自身が感じたのは、おそらく三成と家康のちょうど中庸あたりがベストな解なのではないかということ。三成と家康のそれぞれの良いところを学びとして、ビジネスや実生活に活かしていけば良いのではないかなと思います。

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5.映画「関ヶ原」をより深く理解するための11のポイント~伏線・設定を徹底考察!~

ポイント1:映画のナレーション(語り手)は誰をイメージしているのか

映画の冒頭のナレーションは、映画「関ヶ原」の原作者である司馬遼太郎が、実際に小説「関ヶ原」上巻の語りだしで書いた一節そのものです。小説の地の文に、作者の感想をたんたんと書き綴るのは司馬遼太郎作品の特徴です。

「いま、関ヶ原という、とほうもない人間喜劇もしくは「悲劇」をかくにあたって、どこから手をつけてよいものか、ぼんやり苦慮していると、私の少年のころのこういう情景が、昼寝の夢のようにうかびあがった。ヘンリー・ミラーは、「いま君はなにか思っている。その思いついたところから書き出すとよい」

三成と秀吉の場面に切り替わる前、寺で老人と話す少年のシーンがありましたが、この少年は司馬遼太郎を表していたのですね。

ポイント2:三成と秀吉の出会いのエピソード「三献の茶」とは?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画冒頭で、秀吉39歳、三成15歳の時、鷹狩の帰りに観音寺を訪れ、茶を所望した秀吉に対して、三成は「一杯目はぬるい茶をたっぷり、二杯目は少し熱い茶を半分くらい、三杯目は熱い茶を少しだけ」献上しました。

三成の利発さと気配りに感服した秀吉は、その場で三成を侍に取り立てたとされます。三成と秀吉に纏わるこのエピソードを、通称「三献の茶」といいます。これを記載した歴史資料がいずれも江戸期のものであるから、後世の創作という分析もありますね。

ポイント3:島左近と柳生一族の関係性は?

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家康の前で武芸を披露する柳生石舟斎の息子たち
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画内で島左近と柳生石舟斎が雨が降る中、粗末な草庵で対面するシーンがありました。彼らは、元々筒井家に仕えた大和国の同士であり、両家は家族ぐるみで付き合いがありました。例えば、島左近の娘は柳生利厳と結婚しています。

このシーンでは、島左近が石田三成についた報告をしたことで、柳生石舟斎は二人の息子を徳川家へ仕えさせる決心を固めます。最終的に息子の一人、4男宗章は小早川秀秋へ仕えることになりました。

これは、同じ主君に仕えた同士や、親兄弟が東西陣営に分かれて戦った戦国時代を象徴するようなエピソードでしたね。

ポイント4:初芽、蛇白、赤耳のそれぞれの人物詳細は?

映画中では、戦国時代の諜報機関として重宝された「伊賀忍者」が大きくクローズアップされました。本作で、特に描かれた初芽、蛇白、赤耳はすべて架空の創作キャラですが、それぞれの出自や顛末をまとめておきますね。

初芽
父亡き後、諸地域を流浪した後、母、姉と3人で最上家へ仕える。東国一の美女と名高かった駒姫が、当時の関白だった豊臣秀次の側室になる直前に秀次が失脚。連座して処刑された六条河原で立ち回りを演じ、その時三成に拾われる。三成に恋心を抱く中、使いに出た越前敦賀の大谷家からの帰りに、赤耳たちに襲われる。

蛇白
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
女忍者として家康に仕える。茶道や政治にも長け、家康に見初められた結果、「阿茶」という名前を賜る。関が原の戦いでは伝令役を務めたが、家康を暗殺しようとした赤耳と戦う中、後ろから赤耳と一緒に家康に斬り殺された。

赤耳
一里先の会話も聞き取れるという特技を持ち、越後の上杉家に仕えていた。老齢になり寒さが応えるため、上京。京で家康に仕えた後、蛇白との一件に懲りて、反家康陣営である石田家に仕えることになった。最後は家康を暗殺しようとするが、蛇白に阻まれる。

ポイント5:初芽はストーリー後半、何をしていたのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

1599年、越前敦賀の大谷吉継への密使として面会を終えた後、初芽は、蛇白の命で山伏の一行に扮した赤耳に襲撃されます。顔と足を斬られ重傷を負った初芽は、その後奴婢として売られます。1600年9月14日には琵琶湖畔から移動する道中で、逃亡に成功しますが、合戦の現場には間に合わず、関が原では三成に会えませんでした。結局、初芽が三成と対面できたのは、初芽の傷が癒えたラストシーンとなります。

ポイント6:小早川秀秋の裏切りのシーンはどう解釈したらいいのか?彼は本当に裏切ったのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

本作で、開戦後3時間を過ぎてもどう動くか悩んでいた小早川秀秋は、島信勝(島左近の息子)が決死の思いで出陣要請に来た時、部下たちに「三成に味方するんじゃー」と騒ぎましたが、部下たちは秀秋を無視し、勝手に大谷吉継へと襲いかかってしまいました。つまり、彼自身は最後の最後で三成の説得に心動かされ、西軍として動こうと決断したが、配下がついてこなかったという描写なのでしょう。

史実でも、秀秋の筆頭家老、稲葉正成と平岡頼勝は東軍と通じており、開戦と同時に裏切る密約も部下主導で進んでいたこともあるので、映画で描かれた「なし崩し的な裏切り」シナリオはあり得たかもしれません。

ポイント7:島津義弘はなぜ合戦中動こうとしなかったのか?

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合戦が始まっても全く動かなかった島津義弘
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画内では、合戦が始まってからも島津軍は一切陣地を動こうとせず、三成が直接出向いての出陣要請にも一切応えようとしませんでした。

映画内では、前日の作戦会議で、島津義弘は家康本陣への奇襲攻撃を三成に提言しますが、三成は頭ごなしに否定します。島津はこれを不服として、機嫌を損ねたと解釈出来るシーンがありました。それ以外の歴史資料によると、本当は前哨戦で東軍として伏見城へ入城しようとした所、徳川家康の部下、鳥居元忠から入城を拒否され、行き場がなくなったため消極的に西軍についたのだ、という説もありますね。

ポイント8:大一大万大吉とは?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

「一人が万民のために、万民が一人のために尽くせば、天下の人々は幸福になれる」という意味です。大義のために私欲を捨てて生き抜いた三成の人柄をよく表すスローガンだと思います。映画内では、1598年の秀次事件の後、三成自ら旗印の図案を考案しているシーンがありました。なお、このデザインはあくまで「旗印」であり、「家紋」ではありません。

ポイント9:ラストシーンの解釈は?なぜ三成は自害せず、処刑されたのか

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小早川秀秋と死ぬ前に対面する三成
引用:https://www.youtube.com/watch?v=HTqGWAbHmh0

関が原の戦い後、三成は一人戦場を離脱し、近くの農夫に匿われました。三成は、その後自首して最後は六条河原で処刑されました。大谷吉継は、戦場で自害して果てましたが、三成は最後まで生きようとしました。なぜ、彼は最後まで生きることに執着したのでしょうか。

この解釈として、原作では「最後まであきらめず生の機会を伺い、チャンスを貪欲に待つ」とされてましたが、本作では、「死ぬまでに、最後に見届けたい大切な人に会うため」とされています。

その大切な人とは、徳川家康、小早川秀秋、そして彼の想い人、初芽でした。家康とは無言の対面を済ませ、秀秋を許し、そして最後に「大一大万大吉」とつぶやく初芽と出会えたことで、彼は今生に未練がなくなり、最後まで姿勢を正したまま死んでいけたのでしょうね。

ポイント10:石田三成やその親族はその後どうなったのか?

石田三成は六条河原で処刑されて死亡しました。また、彼の父・兄と妻や側近たちは、1600年9月18日に佐和山城が陥落した際、城と運命をともにしています。しかし、劇中で北政所が「三成の血は残したほうがええ」とつぶやいたように、史実でも三成の5人の子どもたちは処刑されていません。僧侶になった者、名前を変えて別の大名に仕えた者など、様々な顛末が知られています。

それどころか、紆余曲折を経て、次女の孫(三成の曾孫)が徳川家光の側室となり、家光の長女千代姫を産むなど、わずか数十年後には、三成の天敵、徳川家に石田家の血が入っているのです!

ポイント11:描写が省略された「関ヶ原の戦い」の主要イベントとは?

本作は、忍者や逸話・トリビアに時間を割きすぎたため、「関ヶ原の戦い」での一連のイベントのいくつかが、バッサリ省略されています。正直なところ、「えっ?これも省略するの?」というくらい、前後のストーリーをつなぎ、歴史上節目とされるイベントまで切られていました。そこで、ここでは以下、本作で描写が省略された主要イベントをいくつか列挙してみます。

「直江状」
秀吉没後、家康への恭順の意を示さず、反抗的だった上杉家を再三問いただした家康に対して、上杉景勝の家臣、直江兼続が家康へ送った返答の書状。この書状を読んだ家康は怒り、会津征伐を決意したと言われている。

「小山評定」
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引用:開運のまち おやま 小山市ホームページ

京都・伏見での三成挙兵の一報を受けた家康が、会津征伐を続行するか、京へ引き返すか決めるため、諸将を集めて開催した会議。歴史を決定づけた意思決定として見逃せないイベント。
「伏見城の戦い」
三成挙兵後、初戦となった戦い。家康の忠臣、鳥居元忠率いる守備兵1800に対して西軍が宇喜多・小早川ら40000の圧倒的兵力で取り囲み、焼き討ちにした上落城させた。この戦いの最中、島津義弘が鳥居元忠に加勢しようとして拒否され、これにより最初東軍に付く予定だった島津は西軍に加わることになったとされる。

「島津の退き口」
関ヶ原の戦いで動かなかった島津氏だが、戦いが終わり、逃げ場がなくなったため、東軍のど真ん中を、捨て身で正面突破して戦線離脱した。1500人いた将兵は、領国薩摩へと帰着したとき、わずか80名程度に減っていたという。なお、井伊直政はこの時受けた重傷が癒え切らず、1602年に死亡したとされる。

このあたりは、関が原の戦いの屈指の「見どころ」でもあり、ストーリーのターニングポイントでもあるため、一瞬でもいいので描いてほしかったかなと思います。

6.まとめ

映画「関ヶ原」は、若干総集編的な粗い作りも目立ちましたが、それでも戦後、日本映画の巨匠たちが手がけなかった戦国屈指の大テーマに正面から臨んだ気合いは素晴らしかったと思います。

進行が早く、難解なパートもかなりありますが、予習復習をしっかりやって、2度目3度めと見返せば確実に新しい発見もある映画です。そして、忍者好きならマストです!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

司馬遼太郎原作「関ヶ原」

映画「関ヶ原」のベースとして使用された、累計500万部以上を売り上げた司馬遼太郎の名作。1966年の刊行ですが、決して古さを感じさせない名作です。司馬遼太郎らしい武骨な描かれ方ですが、映画では省略された初芽と三成の恋愛描写が気に入りました^_^関が原の戦いを巡って描かれた作品は多々ありますが、本作が決定版だと思います。映画で省略された主要イベントもしっかり網羅した大作!

決戦!関ヶ原

「関が原の戦い」でのキーマンたち一人ひとりにフォーカスし、作家たちが「関ヶ原の戦い」当日の各武将の行動から、心境を読み解き、それぞれの個性で描写した連作短編集。吉川広家、小早川秀秋、安国寺恵瓊、福島正則、島津義弘など、バイプレーヤーたちそれぞれの目線から「関ヶ原」を捉え直した素晴らしい企画。映画「関ヶ原」をより立体的に楽しむなら、外せない1冊です!

コンパクトな新書「関ケ原合戦の謎99」

映画「関ヶ原」を記念して、ムック本や新書、関連する小説などが刊行されていますが、関ヶ原の戦いの本質を理解し、なおかつ周辺知識・トリビアまでバランスよく学びたい人には、入門編となる1冊。読んで非常にためになりました!

石田三成が悪役として登場!映画「のぼうの城」

豊臣秀吉の命令で、石田三成が水攻めで落とそうとした弱小戦国武将・成田氏の居城、忍城の攻防を描く群像劇。成田市のうつけ若殿「のぼう様」が、奇想天外な作戦で三成を退けるまでのストーリーを劇的に描いた快作。悪役として戦いに負けはしますが、短期間で巨大な堤を建造してしまう三成の実務能力の凄さが伝わります。

原田眞人監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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歴史的な史実・事件を、多数の登場人物が交錯する中で写実的な群像劇として描くのが得意な原田監督。特に2000年以降の作品は大掛かりな大作志向になっていき、過去作も非常に見応えがある作品が多いです。

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美人画尽くしの上村松園展!山種美術館の珠玉のコレクションを堪能しました【展覧会感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

暑かった夏も終わり、いよいよ芸術の秋が到来です。今年の秋は、京都で「国宝展」、東京で「運慶展」など、日本美術の大型企画展が目白押しですよね。

僕も、2017年の秋は思い切り日本美術を勉強したいなぁと思っているのですが、その第一弾として行ってきたのが、8月29日から山種美術館で開催されている企画展「上村松園ー美人画の精華ー」です。

本展は、山種美術館の保有する上質な上村松園コレクション18点を一挙展示している他、様々な時代の美人画を特集した意欲的な企画展でした。

早速ですが、行ってきた感想レポートを書いてみたいと思います。

※本稿で使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものとなります。何卒ご了承下さい。

1.上村松園って誰なの?

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2015年4月23日、生誕140周年を記念してGoogleのロゴにもなった
引用:上村松園生誕 140 周年(Google)

近代女性日本画家のレジェンド、上村松園

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上村松園(1875-1949)は、明治・大正・昭和に渡って、京都を中心に活躍した女性の日本画家です。生涯に渡って、女性目線で捉えた「美人画」にこだわり続け、「東の鏑木清方、西の上村松園」と並び称された通り、近代日本画における美人画の巨匠として大活躍しました。

ところで、写真を見ていただくとわかりますが、上村松園は女性です。現在でこそ「美人画」は女性画家が大活躍するジャンルになっていますが、100年前は、女性が画家を目指すこと自体、非常に珍しかった時代でした。

しかし、松園は母、仲子の理解も得て、幼少期から京都画壇の鈴木松年や竹内栖鳳ら一流の画家に指導を受け、才能を順調に伸ばしていきます。若干15歳の時、第3回内国博覧会に作品を出品した作品がイギリス皇太子に買い上げられたことが新聞で話題になるなど、早熟な天才ぶりも発揮しました。

修行時代は、師匠、竹内栖鳳から「とにかく写生をきちんとやれ」と常日頃から指導を受けていたようで、上村松園の個人美術館「松柏美術館」には、松園修行時代の膨大な写生帖やデッサンが展示されています。

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松柏美術館(2017年5月撮影、フジが綺麗でした)

また、上村家は、松園の子供、上村松篁、孫、上村淳之と、3代続けて芸術院に所属する日本画家として活躍する芸術家一家でもあります。確か、山種美術館の過去の展覧会でもいくつか上村松篁の作品を見た記憶があります。

伝記小説や、伝記映画も製作された 

圧倒的に男性優位だった明治期の日本画壇において、様々な困難を乗り越え、女性初の文化勲章受章者に輝くなど、揺るがぬ名声を打ち立てた上村松園ですが、そんな彼女の一生をモデルとした伝記小説も書かれています。

それが、宮尾登美子「序の舞」です。主人公の名前変更(「津也」)をはじめ、作中の登場人物は架空の人物に置き換えられ、プロットもかなり恋愛メインなエンタメ寄りの内容になっていますが、製作にあたってはかなり綿密に松園に取材したようです。

また、今見るとかなり問題がありそうな映像ですが、1986年には名取裕子主演で映画化もされました。予告編がYoutubeで見れるようになっていますので、紹介しておきますね。(※「R15+」レベルの性的表現がありますので閲覧注意)

2.上村松園展とは

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山種美術館で、上村松園を特集した展覧会は過去にも頻繁に開催されています。例えば、過去10年では

・2009年「没後60年記念上村松園/美人画の粋(すい)」
・2015年「上村松園 生誕140年記念 松園と華麗なる女性画家たち」

と、2回開催されています。

もちろん、松園が近代日本画におけるビッグネームである、ということもありますが、一番の理由は、山種美術館が日本屈指の松園コレクションを保有しているということも大きいと思います。美術館のメインコンテンツですからね。

山種美術館創始者、山崎種二と上村松園の親密な関わりについてはわりと良く知られています。一時期は松園が東京に出てくるたびに、山崎種二が東京での滞在費・交通費・食事代まで全て世話をしていたそうです。(今回の展覧会で、松園が実際に山崎種二に当てたお礼状も展示されています)

今回の2017年の上村松園展では、山種美術館の保有する上村松園作品全18点が、前後期通じて全て展示されています。全国各地の美術館でも、数点ずつの保有にとどまる中、どれも非常に状態の良い一級品がずらっと並んだ展示風景は非常に壮観でした!(お膝元の松柏美術館でも、一気にそんなには出ませんから/笑)

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3.僕が感じた展覧会の5つの見どころ・ポイント~展覧会感想~

ポイント1:上品で清楚な描写が見飽きない上村松園の作品群

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上村松園「春風」/山種美術館所蔵

これは、一緒に回っていた先輩ブロガーさんに言われてすごく腑に落ちたのですが、上村松園の描く美人画って、どの絵もきちんと胸元や襟が閉まってて、着物をきっちり着こなした状態で描かれており、非常に清楚で品があるんですよね。

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上村松園「杜鵑を聴く」/山種美術館所蔵

その点、誰とはいいませんが(笑)、男性作家の描いた美人画は、妙に服がはだけていたり、胸元が開いていたりするわけです。ぶっちゃけ、スケベ親父のエロ目線で女性を捉えた美人画になっているものも結構あるような気がします。(それはそれで良いですが^_^;)

上村松園はあくまで女性の清楚さ、上品さにきちんと気配りした上で、そこからほのかに醸し出される色気やあでやかさを控えめに表現しているんですよね。上村松園特有の抑制された女性の優美さは、なんだか見ていてホッとします。

ポイント2:表装の美しさも注目ポイント!

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館内で販売されている図録でも言及されていますが、上村松園の作品は、どれも作品を飾る表装部分も手を抜かず美しく装飾されているんです。ぜひ、1点1点の表装部分も合わせて味わってみてくださいね。

松園の絵画がどの作品も安定して優美さ・華やかさに溢れている一つの理由として、表装部分の出来の良さもあるのかもしれませんね。

ポイント3:近代で再評価を待つ実力派たちの美人画も!

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森田曠平「百萬」/山種美術館所蔵

本展では、上村松園の他にも、明治~昭和期を忠臣として、山種美術館が所蔵している美人画コレクションを一気に展示しています。特に、昭和高度成長期以降に制作された比較的新しい作品の中に、まだまだ僕も知らない凄腕の日本画家を味わうことが出来たのは、すごく新鮮でした。

亡くなってから、残念ながら埋もれてしまっている感のある松岡映丘、川崎小虎、森田曠平、山川秀峰らの作品も、美術館でこうして誰かに発見されて、再評価されると良いなぁと思って見ていました。是非、自分だけの掘り出し物作品を見つけてみてください!

ポイント4:グッズや図録も充実!

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今回の企画展にあわせて、既存のグッズに加え、新たに多数の上村松園グッズがラインナップされました!僕も、松園のクリアファイルを一つ持っているのですが、どれも非常に落ち着いたデザインですので、是非チェックしてみてくださいね。

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松園のクリアファイルやレターセットなどグッズが充実!

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松園の絵画にちなんだ手ぬぐい(新商品)

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和手玉をかし(お手玉)

また、本展では、図録も2種類用意されています。山種美術館で所蔵する上村松園コレクションを特集した小冊子と、前回の上村松園展で製作された人画コレクションをまとめた図録と、2タイプ用意されています。前回の川端龍子展では、会期終了を待たずして図録が完売する人気ぶりだっそうなので、お早めに!

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2種類の上村松園関連の図録

ポイント5:写真撮影が許可されている作品も!

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山種美術館で開催される企画展では、毎回1点に限り撮影OKな作品があります。今回撮影がOKな作品は、上村松園の大型作品「砧」です。山種美術館で撮影許可OKとなる作品は、毎回美術館の主力作品が多いのも嬉しいところです。

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4.特に気に入った作品について

展示作品中、どれも素晴らしいクオリティで、ずっと見ていたいと思わされる優品が多かったですが、個人的に特に印象的だった作品を幾つか紹介しますね。

4-1.上村松園「娘」

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上村松園「娘」/山種美術館所蔵

上村松園は、京都の町家での日常生活風景を切り取って画題にすることも多かったようですが、本作も、裁縫をする場面を丁寧に描いています。

上村松園「娘」部分拡大図
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針に赤い糸を通そうとしているのですが、よく見ると針や糸の細かいところまできちんと描きこまれており、丁寧な描写に好感が持てました。 

4-2.橋本明治「月庭」

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橋本明治「月庭」/山種美術館所蔵

右上方から月明かりに照らされた椅子で休む着物美人を描いた作品。極太の輪郭線、無表情なすまし顔、寒色系でまとめられた平面的な絵は、どことなく近代西洋絵画の巨匠、ベルナール・ビュフェやピカソなどを彷彿とさせます。

なにより、離れて見た時の絵の力強さ、存在感が違います。和室に飾るよりは、洋館の大広間にどーんと飾りたいような、そんな作品でした。

4-3.山川秀峰「芸者の図」

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山川秀峰「芸者の図」/山種美術館所蔵

没後、埋もれてしまった感のある山川秀峰ですが、現役当時は、伊東深水・寺島紫明とともに、鏑木清方の三羽烏と呼ばれたほど、その腕前が評価されていました。本作も、構図も素敵なんですが、描かれた女性の顔が、おっとりした古風な感じが良かったです。

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一見なんでもないような普通の美人画なんですが、家に飾るなら、こういった飽きの来ない落ち着いたものがいいなぁと思って見ていました。

4-4.池田輝方「夕立」

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池田輝方「夕立」/山種美術館所蔵

池田輝方の作品は、つい先日松岡美術館でも妻、池田蕉園と合作した「桜舟・紅葉狩図屏風」という作品が見事でしたが、保存状態や完成度ではこちらの「夕立」のほうが上だと思います。この「夕立」も名義は池田輝方単体ですが、文展で特選を取った時、妻とともに受賞しているので、合作なのかもしれませんね。

・・・。

・・・。

ところで、本作品に限っては、女性・・・というより・・・、、、男性2名にどうしても目が行ってしまいました(爆)なんというか、美人画の中の男性像だからなのか、妙に艶かしく色気づいている気がしてならないのですよね。

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左隻抜粋:妙に艶めかしい男性2名

さらに拡大して見てみましょう。どうですかこの表情。何とも言えない切なさに溢れた雰囲気を醸し出していると思いません?

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この二人、互いにそっぽを向いているのですが、二人のただならぬ表情を見ていると、どうも禁断の愛を育んでいるようにしか見えないのですよね。きっとこの二人は、夕立が止んで、邪魔な女性3名が消えたら二人でどこかへ出かけるのか、あるいは二人の禁断の愛がたった今終わったばかりなのか・・・。

特段BL脳を持ち合わせていないのに、池田輝方の描く男性像は意味ありげに見えて仕方ありません^_^;

ちなみに、こちら少し部分図を加工して、お互いを見つめ合わせてみました。どうですこの色気!ヤバくないですか(笑)

禁断の愛を育むふたりf:id:hisatsugu79:20170901114250j:plain 

5.混雑状況と所要時間目安

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今回の展覧会は、山種美術館の所蔵品コレクションが展示の中心となりますので、大型連休中を含め、そこまで混雑することはないと思われます。所要時間としては、約60分~90分あれば十分じっくり見て回れそうです。いつもながら、音声ガイドが非常に充実しているのでおすすめですよ。

6.併設のカフェで展覧会限定メニューもオススメ!

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毎回行くたびに立ち寄らずにはいられない館内1Fに併設の「カフェ」。今回の企画展でも、ちゃんと期間限定のオリジナル和菓子が5つ用意されていました。

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毎回用意される5種類のオリジナル菓子ですが、今回は5種類あるうち、四角形の「双鶴」が激ウマでした。お茶が進む進む!展示を見終わった後、疲れた脳を休めるためにぴったりですね。

7.関連書籍・資料などの紹介

入門書の決定版「もっと知りたい上村松園」

上村松園の作風や作品について、初心者でもわかりやすく解説したコンパクトな入門書の決定版!カラー写真もふんだんに使われており、一つ一つの作品について丁寧な説明が嬉しいです。

上村松園をモデルとした伝記小説!宮尾登美子「序の舞」

松園の代表作「序の舞」をタイトルとした、松園の伝記小説。穏やかで優美な作風とは裏腹に、実生活は意外に波乱万丈で個性的な松園は、伝記小説の題材としてぴったりだったのかもしれません。創作部分もふんだんに入っていますが、松園の人となりや考え方、そして激しい恋愛を物語形式で知ることができるのはうれしいところ。映画はもっと過激ですけどね(笑)

8.まとめ

上村松園の円熟期の作品を中心に、山種美術館の松園コレクションを一気にチェックできる本展。非常に満足度の高い展覧会でした。日本画初心者はもちろん、目の超えたマニアまで幅広く楽しめる企画展です。オススメ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2017年8月29日(土)~10月22日(日)
*会期中、一部展示替えあり
(前期: 8/29~9/24、後期: 9/26-10/22)
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
(但し、9/18(月)、10/9(月)は開館、9/19(火)、10/10(火)は休館)
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

【ネタバレ有】映画「トリガール!」感想・レビューと11の疑問点を徹底解説!/コメディ色が強すぎて残念な面もあったけど、土屋太鳳の新たな一面が見れたのは良かった!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月1日に公開された新作「トリガール!」を見てきました。今年に入ってから、土屋太鳳の作品は「PとJK」「兄に愛されすぎて困ってます」と欠かさずチェックしてきました。うーん、さすがに高校生役は限界だろう・・・と思っていた矢先、ようやく実年齢相応の大学生役であります。

やっぱり、大学生役はいいですね!そして、これまでの純真で清楚でちょっと脇の甘い(?)感じのスイーツ女子系とは違い、今回は快活で体育会系な毒舌キャラ!かわいいんだけど、男子顔負けのワイルドさが素晴らしい!

作品は、徹底したコメディにこだわって制作された反面、ストーリーやテーマがややボケてしまった感はありますが、率直な感想を書いてみました!

※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「トリガール!」の予告動画・基本情報

▶映画「トリガール!」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】英勉(「ヒロイン失格」「高校デビュー」他)
【配給】ショウゲート
【時間】98分
【原作】中村航「トリガール!」

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引用:映画『トリガール!』公式サイト

本作で監督を努めたのは、「ヒロイン失格」「高校デビュー」など恋愛コメディ映画に定評のある英勉(はなぶさつとむ)監督。2016年は珍しく映画新作のリリースがありませんでしたが。2017年後半から「トリガール!」に続いて乃木坂46メンバーを主演に据えたアイドル映画「あさひなぐ」、年末に恋愛コメディ「未成年だけどコドモじゃない」、さらに2018年に入っても「3D彼女リアルガール」と、2016年の空白を埋めるように得意分野である少女漫画原作の恋愛・青春モノ映画でのリリースラッシュであります。

その作家性は非常に濃く、意外性のあるキャスティング、演出面での引き出しの多さ、原作の世界観や写実的な表現を犠牲にしてまでも、登場人物一人一人のキャラクターをはっきり立てることを優先するキャラクター原理主義的なアプローチは、若手監督の中でも突出して個性的です。

今回の「トリガール!」は、原作者の中村航の作風も、どちらかと言えばライトノベル、ライト文芸に近い、ポップで明るい世界観なので、英監督と相性が良さそうに見えましたが、どうだったでしょうか・・・。つづきは感想で書いてみたいと思います。

2.映画「トリガール!」主要登場人物・キャスト

鳥山ゆきな(土屋太鳳)
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引用:映画『トリガール!』公式サイト
撮影当時21歳と、ようやく実年齢に近い大学生役となり、今年出演した「PとJK」「兄に愛されすぎて困ってます」でなんとなく漂っていたコスプレ感はありません。過去2作とはまた違ったコメディエンヌぶりを発揮しており、英勉監督から、新たな一面をきっちり引き出されています。年内は「8年越しの花嫁」、2018年も「累 かさね」「となりの怪物くん」と主演が続くなど絶好調ですね。

坂場大志(間宮祥太朗)
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引用:映画『トリガール!』公式サイト
珍しくラブコメ要素のある映画での出演となりました。イケメン男子が集結した「帝一の国」とは全く違うワイルドな男らしい演技。アドリブ全開の熱量の高い演技は良かったと思います。今秋、個性的なヤクザ映画「全員死刑」での初主演も決まっています。

高橋圭(高杉真宙)
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引用:映画『トリガール!』公式サイト
土屋太鳳とは「PとJK」でも共演していましたが、不良役からスイーツ映画の王子様のような役柄まで器用にこなす実力派俳優。この後も、「散歩する侵略者」(SF)、「プリンシパル」(恋愛)、「世界でいちばん長い写真」(青春モノ)など、幅広いジャンルで主演から助演まで引っ張りだこですね。2017年~2018年にかけて本格ブレイクしていく予感がします。

島村和美(池田エライザ)f:id:hisatsugu79:20170903010212j:plain
引用:映画『トリガール!』公式サイト
「オオカミ少女と黒王子」「ReLifeリライフ」など、青春恋愛ものでのヒロインの親友役が定位置になりつつありますが、本作もやはり2番手クラスの役柄。今秋、久々に「一礼して、キス」で主演を務める予定ですが、正直な所もう少し舌足らずな発声を改善して演技力を磨かないと、この位置から抜け出すのは厳しいのでは?と思わされます。素材は最高なんですけどね。

古沢(矢本悠馬)
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引用:映画『トリガール!』公式サイト
この夏、大ヒットした映画「君の膵臓をたべたい」では主人公、春樹の友人、ガム君がひょうひょうとした役柄で独特の存在感を放っていました。本作もタイプは違いますが、個性的な役柄を演じきりました。今後、「ポンチョに夜明けの風はらませて」「ちはやふるー結びー」が待機中です。もう27歳なのに、未だに高校生を演じてもそれなりに違和感がないのも凄い。

その他、英監督の作品ではよくコメディ・リリーフとして登場する芸人系ゲスト枠では、ペラ夫を演じたナダル(コロコロチキチキペッパーズ)轟二郎、ひこにゃん(人間ですらない!)など。そして実際に鳥人間コンテストの実況を務めている羽鳥慎一も出演しています。

3.途中までの簡単なあらすじ

この春、1浪して雄飛工業大学に通うことになった鳥山ゆきなは、初日から理系大学独特の雰囲気に幻滅していた。クラスで仲良くなった島村和美以外の男子は、どこを向いてもほとんどチェック柄のシャツにメガネのオタク。明るくリア充な大学生活の夢は打ち砕かれ、早くも投げやりなゆきなは、サークル勧誘にも和美に誘われるままに、人力飛行サークル「Team Birdman Trial」へと入っていった。

しかし、ゆきなは、部室で声をかけてきたイケメン部長、高橋圭におだてられ、流されるままに和美と共にTBTへと入部し、そこで年に1回のイベント、鳥人間コンテストでのパイロットを目指すことになった。サークル内には、神出鬼没なアナウンサー声が特徴のペラ夫、オタクオーラ全開の設計責任者古沢など、個性的な面々が揃っていた。

ゆきなは、圭から、圧倒的な力量を持つものの、去年の失敗のトラウマから立ち直れず部活から遠ざかっていたパイロット候補である坂部先輩を紹介されたが、坂部先輩は、居酒屋でゆきなを見るなり「女にはムリだ」と言い放った。ゆきなの初対面の印象は最悪だった。

しかし、ゆきなに触発された坂部は、部活に復帰する。そして、パイロットを選ぶオーディションでは、坂部と圭が圧倒的な実力で選出された。面白くないゆきなだったが、部員総出で夜通し行われたテストフライトを見て感動し、退部を思いとどまる。そして、テストフライトで全治2ヶ月のケガを負った圭に代わり、ゆきなが坂部とともに今年の鳥人間コンテストのパイロットに決まった。

以後、ゆきなと坂部のトレーニングが始まった。食事制限とダイエットで体づくりに取り組むゆきなと、トレーニングの合間にプールでトラウマ解消を目指す坂部。しかし、最大の問題はゆきなと坂部の相性だった。二人はいつも言い争いばかりで、回りを不安にさせた。

フライト直前の最終飛行テストでも、二人は息が会わず、テストは中止となるのだった。周りは不安になったが、和美だけは、二人の間の独特なケミストリーを感じ、手応えを感じていた。

そして、迎えた「鳥人間コンテスト」当日。機体、パイロット共に最高の仕上がりで臨んだ「アドラー号」は、部員全員の夢を乗せて琵琶湖の大空を舞い上がるのだった。果たして結果はどうなるのか?奇跡は起きるのだろうか?

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4.映画「トリガール!」の感想・評価~色々と惜しい作品だった~

英勉監督の作家性が必ずしもプラスに働かなかった、何か物足りない作品

本作は、興行的にはかなり厳しそうなものの、実際に見に行った人の感想を見ると「今期最高のコメディ映画だった」「爆笑だった」と高評価だった人が多かったようですね。

しかし、残念ながら僕はそこまで作品に入り込めないものがありました。確かに、各シーンで細かくネタを入れてきたり、コメディ的な遊びが多用され、アイデア満載の工夫が詰まった演出は見応えがありました。

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二人だけのシーンはアドリブ全開の丁々発止のやりとり!
引用:映画『トリガール!』本予告 - YouTube

キャラクターも申し分なく立っていますし、演技上の裁量が与えられ、アドリブ全開でのびのび演じていた主演陣も悪くなかったと思います。このあたりは、英勉監督の作家性が全面に出た結果ですね。

ただし、本作ではその監督の圧倒的な個性や演出力が、効果的に作用したか?といえば少し微妙だったのではないかな?と思います。

ネタやコメディに走りすぎ、ストーリーの大切な部分が流されていった

鳥人間コンテストは、箱根駅伝や高校生クイズなんかと同じで、競技当日の結果だけでなく、そこに至る努力・苦難のプロセスや感動ストーリーも含め、ドキュメンタリー的な見せ方で共感を生んできた番組なんだと思うんです。

だから、製作中の取材段階で拾えた逸話を元に、脚本を練り込み、映画的な演出を強化することで、より質の高いストーリーに仕上げることも可能だったはず。

ですが、本作では、変化球的なアプローチに終始し、真正面から「鳥人間コンテスト」というテーマにぶつかるのを避けたきらいがあります。実話のドキュメンタリーには勝てないと考えたからでしょうか?

結果として、スラップスティック・コメディ一歩手前くらいにまでコメディ要素を詰め込みすぎた分、人間同士がぶつかる葛藤や、成長に至るプロセスをきちんと描ききれていなかったかなと。

また、シリアスなシーンまで、オチをつけて落とした上、合理的な説明もなくテンポよくストーリーが進んでしまうので、映画のキャラクターに感情移入することが非常に難しく感じました。

例えば、僕が引っかかったのはこのあたりのシーンです。

・圭がケガをしたあとの会議シーンで、坂場が、ケガをした圭を簡単に切り捨てて、「ゆきなじゃなきゃ飛ばない」と断言する根拠がよくわからない。出会って数日なのにそこまでなぜ言い切れる?
・圭がパイロットを諦めなければいけない無念さが描かれていない。あっさり自分自身の夢を手放しすぎるのでは?
・少し喧嘩をした程度で、大切な直前飛行テストを簡単に中止して、ぶっつけ本番で挑むのがよく分からない。安全性確保のためにもここでテストを中止するのはありえないのでは?
・直前まで前兆もなく、フライト中に突然大声で告白するのが唐突すぎる。(原作では何度も坂場先輩の言葉にならない好意が繰り返し伏線として描かれている)

ある程度テンプレ的な演出が出尽くして、演者のレベルが落ちる学園恋愛青春スイーツ映画であれば、「ヒロイン失格」のような演出過剰な変化球的なアプローチは逆に新鮮で良いと思うんです。

でも、「鳥人間コンテスト」のようにスポ根的で専門的なジャンルを扱う時は、写実的な描写やもう少し自然なストーリーの進行の方が良かったと思います。少なくとも、丁寧な描写を積み上げ、クライマックスで大きなカタルシスを感じさせてくれた原作小説の感動を越えることはありませんでした。残念・・・。

とはいえ、土屋太鳳をはじめ、俳優陣の新たな個性が引き出されたのは良かった

ストーリー全体にはもう一つ乗れなかったのですが、キャラクターや俳優の魅力はきっちり120%引き出されていたのはよくわかりました。このあたりは、さすが英勉監督の真骨頂としか言いようがありません。

過去作でも、「ヒロイン失格」での桐谷美玲の見せた新たな表情や振り切ったコメディエンヌ振りに圧倒されましたが、本作では特に主演・土屋太鳳のパワフルな毒舌・絶叫全開の全力演技が素晴らしかったです。

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引用:映画『トリガール!』本予告 - YouTube

また、自由にのびのび演じることができた現場では、俳優同士のアドリブの応酬が生み出すライブ感や意外性も十分引き出されていたと思います。(編集段階で締める部分をもうちょっと締めてあれば尚良かった)

少なくとも、土屋太鳳ファンにとっては、新たな表情や演技を堪能することができた非常に見応えのある映画になったのではないでしょうか?

CGの力がなくては成立しなかった企画

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引用:映画『トリガール!』本予告 - YouTube

また、本作クライマックスで、実際にチームTBTの「アドラー号」が琵琶湖の空に飛翔するシーンは、発射台も含めてすべてCGで描きこまれています。和製CGにしてはかなりしっかり描かれていたことに感心。

機体の羽のしなり方、風に煽られて方向感を失う場面、上下に高度を上げ下げする場面など、つい先日に「鳥人間コンテスト」で見たとおりのイメージで、本当に精巧に作られていて良かったです。ハリウッドじゃなくてもここまでできるんだなと唸らされました。

少なくとも、本作ではこのCGのクオリティが水準に達していなかった場合、評価に直結する問題になっていたはずです。パンフレットに書かれていたとおり、「映画のもう一つの主役」は間違いなくCGを制作したVFXチームだったと思います。

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5.映画「トリガール!」をもっと楽しむための11のポイント~伏線・設定を徹底考察!~

疑問点1:本作でテーマとなった「鳥人間コンテスト」ってどんな競技なの?

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引用:鳥人間×宇宙兄弟|鳥人間コンテスト|読売テレビ

鳥人間コンテストは、今もイギリスで行われている「Birdman Rally世界大会」を参考に、1977年に第1回が始まりました。当時は独立した大会ではなく、「びっくり日本新記録」というバラエティ番組から派生した一企画としてスタートしています。そんな第1回大会の最高記録はわずかに82.44メートルでしたが、その後各参加者のレベルが急激に上がります。

当初はグライダーのような滑空機が主流でしたが、1980年代からは、コックピットに座ってプロペラを回して人力で飛行する「プロペラ機」が出現します。当初は単なる奇抜なアイデアレベルに過ぎませんでしたが、1990年代からは滑空機の記録を超えるようになり、琵琶湖北岸へと到達する20キロオーバー超えが続出します。2003年には琵琶湖大橋まで到達する34654.1メートルが出ました。

これにより20km地点での「折り返し」ルールが制定されますが、2017年にはとうとう森精機の社会人チームが往復40km完全制覇を達成するなど、技術進歩・ノウハウの蓄積によりますます各チームの競争が激化しています。

疑問点2:「トリガール!」でモデルとなった大学や団体は?

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芝浦工業大学の2人乗りプロペラ機(2016年)
引用:トリペディア|鳥人間コンテスト|読売テレビ

原作者、中村航氏の母校でもある、芝浦工業大学「Team Birdman Trial」がモデルとなっています。重量は1.5倍だけど、出力は2倍に出来るのでは?という着想から、同大学では伝統的に2人乗り人力プロペラ機に挑戦を続けています。ちょうど、映画主演の土屋太鳳も応援にかけつけた2017年のコンテストでは、同大学新記録となる6625.68mを記録しました。

今回の映画化では、男女二人乗りでコンテストに挑むストーリーとすることで、映画ならではの物語性を出せるのでは?という成算から映画企画が進んでいったといいます。

疑問点3:「鳥人間コンテスト」飛行禁止区域とは?

鳥人間コンテストには、安全上の配慮から、土手の上や浅瀬など「飛行禁止区域」が設定されています。パイロットは、飛行禁止区域に入る前に機体を捨てる=墜とすことが求められます。オンエアはされていませんが、過去、飛行機が制御不能になって桟橋に突っ込んだり、湖岸に墜落して重大事故寸前だった事例もあるようです。

一度事故を起こしてしまったら、皆で歴史を作りあげてきた大会そのものが中止になる重大なリスクもあり、大会側は、飛行禁止区域を飛んだチームを「危険行為」とみなし、失格処分とした上、翌年以降の出場停止処分を科すなど、重いペナルティを設定しているようです。(例えば、2006年、東京工業大学は飛行禁止区域を飛び、失格処分となった)

映画では、飛距離が伸びたため、琵琶湖の対岸に接岸する手前で設けられた【飛行禁止区域」に侵入しそうになったため(+体力の限界を迎えたため)坂場先輩とゆきなは機体を落さざるを得ませんでした。

疑問点4:映画のロケはいつ行われたのか?

映画撮影は、2016年の「鳥人間コンテスト」が終わった直後、セットをそのまま残してロケが行われました。羽鳥アナウンサーも残ってロケに参加したようですね。

疑問点5:多景島にいた住職「轟二郎」って誰なの?

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引用:映画『トリガール!』公式サイト
物語の本筋とは直接関係ないお笑い芸人やタレントをいつもワンポイントのコメディ・リリーフで使う英勉監督ですが、今回もペラ夫先輩を演じたナダルの他に、マニアックな「轟二郎」をワンポイントネタとして多景島の住職としてクライマックスで起用してきました。

轟二郎は、鳥人間コンテストの前身バラエティ番組「びっくり日本新記録」に芸能人枠として参加し続けたコメディアンです。80年代はかなり芸人として知名度もあり、地上波TVにも出ていましたが、その後バラエティの第一線から身を引き、現在では故郷・静岡ローカルで活動しているようです。(アメブロの公式ブログは毎日の弁当のネタばかり・・・)

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引用:Wikipediaより
ちなみに、多景島は、琵琶湖上に実際に実在する島で、島には創立約400年となる見塔寺という日蓮宗のお寺が建っています。

疑問点6:結局何メートル飛んで、チームの成績は何位だったのか?

映画では、最後に落下してから、戻って夕日をバックに抱き合って終了・・・となってしまい、一体彼らがどれくらい飛んで、全体順位は何位だったのか明らかにされないままエンドロールへと突入していきました。

原作小説によると、飛行距離は10866.03mで、人力プロペラ機部門で13機中3位でした。映画企画・小説執筆時点で、モデルとなった芝浦工業大学の最高記録が2008年の3044mなので、大健闘というところでしょう。

疑問点7:謎のOB、ペラ夫先輩とはどんな人なのか?

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引用:映画『トリガール!』本予告 - YouTube

コロコロチキチキペッパーズのボケ担当、ナダルが演じたペラ夫先輩は、サークルの生き字引的な存在のOBで、現大学院生。活動を側で見守り続ける人です。

人力飛行の世界に魅せられた人ですが、その一方で現役時代にやり残した未練が残り、自分自身の新たなキャリアに踏み出せないでいるという内面的な課題を抱えていましたた。しかし、ゆきな達のビッグフライトを見て、ようやく卒業する決意がつきました。

英勉監督の演出で、神出鬼没の美声アナウンサー風の奇抜なキャラに仕上がっていたのは笑えました。ここでナダルを使うか!という・・・

疑問点8:ラストシーンからの予想~ゆきなと坂部先輩はこの後どうなるのか?

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引用:映画『トリガール!』本予告 - YouTube

後日のトークショーでゆきな役を演じた土屋太鳳が、「ゆきなはこの後もきっと坂場先輩と付き合うことはないと思う」と言っているように、映画では二人の行く末は描かれておらず、その後の展開は鑑賞者の想像に任されています。

小説版では、「ちょっと見た目がタイプじゃないです!」と言いつつも、その後に「見た目はナシだけど、嫌いじゃないです!」というセリフがあり、一瞬「好きだ」と返答してもいいんじゃないかと心のなかで迷っている描写もありました。が、やはり結末では二人は付き合うには至っていません。

原作のその後を描いた後日譚でも、坂場先輩とゆきなの関係性は膠着状態になっています。坂場先輩はその後留年が確定し、翌年のパイロットのオーディションに名乗りを上げるシーンがあります。ゆきなも恐らくパイロット候補なのでしょうから、ひょっとしたら将来的には二人はくっつく可能性もあるのかもしれませんね。

疑問点9:和美は誰が好きだったのか?

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引用:映画『トリガール!』本予告 - YouTube

映画では、大学入学前から坂場先輩のことを知っている雰囲気で、二人きりで告白するシーンこそありませんでしたが、明らかに坂場先輩に片思いしている状態だったと考えられます。本番前日の坂場との二人きりのプールのシーンや、ゆきなが坂場先輩のグチや悪口を言うたびに妙にフォローに入る姿勢からもバレバレでしたね。

原作でも、後日譚を描いた短編集「恋を積分すると愛」中に、和美を主人公とするスピンオフで、坂場先輩に片思いする和美を描いた短編があります。興味があれば是非読んでみて下さい!

疑問点10:圭の彼女は?原作とはどう違っていたのか?

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通称「メガネ女子」。セリフは一言もない。
引用:映画『トリガール!』公式サイト

フライト中にゆきなに振られた坂場先輩が、ヤケクソになって圭の彼女をバラすシーンがありました。フライト中、圭と一緒にボートに同乗して琵琶湖を伴走していましたが、この人は「メガネ女子」というあだ名がついており、原作小説には登場しない映画オリジナルのキャラクターです。よく見たら美人なんですよね。見事にセリフが一言もなかったのは、敢えての演出なのだそうです。オタサーの姫的な立ち位置だったのでしょうか。

疑問点11:原作との主な設定の違いは?

原作小説とストーリーの流れは概ね同じですが、細かい設定が変わっています。以下、主要な設定の違いをまとめてみます。

・映画版では、圭は部長でしたが、原作では圭は2年生でした。
・居酒屋で坂場先輩が読んでいた小説は、映画版では「涼宮ハルヒの退屈」でしたが、原作では「お兄ちゃんとずっと一緒にいるって決めたのっ!」という架空の妹萌えライトノベルでした(笑)
・映画版では和美は広報担当ですが、原作ではエンジニアでした。
映画で圭の彼女だった「メガネ女子」は、原作では存在しません。その代わり、マイメロ先輩という男子に人気のある「オタサーの姫」的な女性メンバーがいます。
・映画版では古沢は設計責任者ですが、原作ではサークルの部長でした。
・原作では、坂場先輩に「悪魔の鉄槌」(ルシファーズ・ハンマー)、圭に「天使の翼」(エンジェル・ウィング)というあだ名がついています。

6.まとめ

本作は、英勉監督の作家性が良い部分にも悪い部分にも出た作品でした。涙を流すほど感動したい!という感じで見るよりも、頭を空っぽにして、気軽に娯楽作品として楽しむスタンスの方がこの作品にはフィットしているのかもしれません。決して悪い作品ではないと思います!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説「トリガール!」

元々中村航の作風自体もライト文芸的なポップな軽さがあり、映画の延長線上でサラッとストレス無く読めます。映画では描かれなかったパイロット班以外の裏方の苦労や、日々のトレーニングメニュー、全体サークル行事など、より詳しく描かれており、映画を見てから読むとより「トリガール!」の世界観が深く味わえます!

原作小説スピンオフ「恋を積分すると愛」

中村航の作家生活15年を記念して、後日譚2本と巻末に中村航×土屋太鳳の特別対談を収録したスピンオフ短編集。1本は坂場先輩への想いを綴った和美目線でのストーリー、そして、もう1本は裏方のエンジニアの男子達のサークル内恋愛をテーマとして描いています。映画試写を見てから書いたらしく、轟二郎についてもちゃんと言及されてました(笑)

鳥人間コンテスト30周年記念BOX DVD

読売テレビから公式グッズとして販売された、鳥人間コンテスト30周年を記念して制作された記念DVD。過去30年の歴史や様々な感動ストーリーが詰まったファン必携のアイテムになっています。 

英勉監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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英勉監督のコメディに対する引き出しの多彩さ、アイデア力は、過去作を見れば本当によくわかります。未見の人は、まずは「ヒロイン失格」だけでも是非見て下さい!手垢がつきまくった学園青春恋愛ドラマも、まだ演出次第でここまで面白く出来るんだ!というのがよくわかります。

「トリガール!」を見て、英勉監督の作品をもう少し見てみたいなと思った人は、1つずつDVDを買うよりも、まずはビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてはいかがでしょうか。

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映画「セザンヌと過ごした時間」 ダニエル・トンプソン監督へのインタビューをさせて頂きました!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月2日から全国に先駆けて渋谷のBunkamuraル・シネマにて公開された映画「セザンヌと過ごした時間」初日から満員御礼となるなど、絶好調の滑り出しだそうです。映画で「セザンヌ」を扱う!ということで、早くから、熱心なアートファンの間で話題になっていただけのことはありますね。

そんな本作「セザンヌと過ごした時間」ですが、なんと!先輩ブロガーと映画会社の方のご厚意で、つい先日フランス映画祭が東京で開催された際、来日していたダニエル・トンプソン監督にインタビューする機会をいただくことができました!!

早速ですが、そのインタビュー内容を以下紹介したいと思います!

映画「セザンヌと過ごした時間」について

インタビュー記事の前に、簡単に映画「セザンヌと過ごした時間」について簡単に紹介しておきますね。

本作は、ピカソやマティスら、近現代絵画の巨匠たちに多大な影響を与えたポール・セザンヌと、19世紀フランス文学の代表格、エミール・ゾラの、生涯に渡る二人の偉大な芸術家の心の交流を描いた伝記映画です。

ゾラとセザンヌが同郷、エクス・アン・プロヴァンス出身であることや、二人の長年に渡る友情関係についてはわりとよく知られています。若くして小説家として大成功を収めたゾラに対して、最晩年になるまでその先進的な作風が評価されなかったセザンヌ。二人の対照的なキャリアと、その「格差」が生み出した葛藤・軋轢はドラマ性があり、映画向きの格好の題材です。

そんな本作を映画化したのは、恋愛コメディ映画で実績を積んできた、フランス映画界の巨匠、ダニエル・トンプソン監督。これまでの作風とは全く違うジャンルへの挑戦となりました。

僕も、事前に試写会で見ることができたのですが、映画内で映し出された南仏の美しい風景美や、セザンヌ・ゾラの生涯に渡る交流は見応え十分でした。二人が生前にやり取りした書簡の内容や、各種資料を丹念に読み解いたダニエル・トンプソン監督が、自らの想像力も交えて情感豊かに描き出した伝記映画は、熱心な映画ファンだけでなく、アートファンが見ても楽しめる仕掛けが用意されています。

ダニエル・トンプソン監督へのインタビュー

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インタビューの聞き手は、僕と、もう一人の先輩アートブロガー「青い日記帳」のTakさんの2人です。「ブロガー枠」として、わざわざ30分ほど時間を空けて下さいました。(※なお、一部質問事項は、映画の重大なネタバレ部分を含みますので、現時点では割愛させていただきました。映画公開から十分な日数が経過してから、当該部分を追記する予定です)

大きく変わった作風について


過去作「モンテーニュ通りのカフェ」

---今回、「セザンヌと過ごした時間」を見る前に、未見だった監督の過去作を見返してみたのですが、どの作品も、どことなくアートの香りがする映画ですよね?
ダニエル・トンプソン監督:そうなんですよ。日本でもアメリカでも、映画のティーチインをした時に、映画に出てくるロケ地が魅力的なので、実際に行ってみたい、という声をよく聞きましたね。

---今回、長年パートナーとしてきた撮影監督も代わりましたし、何よりも扱っているジャンルも代わりましたよね。
監督:私にとってもチャレンジでした。これまでは、現代社会を題材にしたコメディが多かったのですが、今回は時代物で深いテーマを扱っていますし、自分でもかなり力が入りました。

---ずっとこういった作品を撮りたかったのでしょうか?
監督:ずっとコメディをやってきたので、一度全然違うものをやりたいっていう要求は以前からあったんです。でも、確固たる計画があったわけではないんですよね。前回作品を撮ったところで、自然とそういう欲求が生まれてきたんです。

綿密に行った下調べの上に、イマジネーションを重ねていく楽しさもあった

---今回、初めて挑戦された「伝記映画」というジャンルで、特に力を入れたポイントはありますか?
監督:今回の作品を作り上げるには、3つのポイントがありました。1つ目は、リアリティを突き詰めた時、浮かび上がってくる事実を大切にすること。2つ目は、ゾラの問題作「制作」を読むことで得られたイマジネーション、インスピレーションです。「制作」で私が得た感覚を膨らませて脚本を作りました。そして、3つ目は私の想像です。これらをどのようにミックスして、一つの物語を作り上げていくのか、非常に工夫を要しました。でも、一方で、見えないオムレツを作るような感じで、わくわくしながら作り上げていきました。

---ラストシーンは、まるで二人を象徴するシーンでしたね。
監督:事実に基づいた、二人の仲を表す象徴的なシーンです。事実のないところで創作するのではなく、あくまで事実に基づいて、ひょっとしたら?という形でストーリーを作っていくのが非常にエキサイティングな作業だと思うんです。監督業としての醍醐味ですね。例えば、この映画の中盤で、セザンヌとマネが接触するシーンがあります。握手をしようと手を出したマネに対して、セザンヌが「私はしばらく手を洗っていませんから」という口実で握手を拒否するフレーズがありますが、あれは、どの伝記を見ても出てくる史実なんですよね。

印象派絵画のような、光があふれた美しい映像を作り上げた秘密とは?

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---ここから少しアートの話になりますが、キャスティングで苦労した点はありますか?
監督:ゾラもセザンヌも、若い時の写真を見ていますから、そのイメージに合った俳優を選びましたが、それほど苦労はしませんでした。なぜなら、現代のフランスの若者は、ひげをはやすのが流行しているからです。(※劇中で、ギヨーム・カネ扮するゾラ、ギヨーム・ガリエンヌ扮するセザンヌ、両者とも髭をしっかり伸ばしている)
だから、簡単にキャスティングできました。例えば、ファンタン・ラトゥールら昔の画家のファッションなんかは、今の若者にそっくりです。信じられないほど、今の若者と、19世紀後半の若者のファッションには類似性があるんですよね。
1860年代は、個人主義が爆発した時代だったんですね。1世紀後の1960年代も、やはり非常に若者たちが主張をし始めている。そういう意味で、歴史というものは100年毎に繰り返すものなんだと思います。同じことはアート面でも言えることで、アートの流行も100年毎に繰り返す傾向があるのかもしれませんね。

---作品の中に、絵画のワンシーンのような場面がありました。マネの「草上の昼食」やモネの「散歩、日傘をさす女性」など、印象派作家の有名作品を意識しながらシーンを作りあげていったのでしょうか?
監督:セザンヌの絵画を直接想起させるような風景は、描きたくなかったんです。なぜかというと、セザンヌっぽいイメージは映画には求めていなかったから。その代わり、印象派の画家の作品を通してあの時代の雰囲気を作り出そうとしていたんです。
クランクインする2年ほど前の準備期間、アメリカやフランスの美術館に行って、印象派の作品をくまなくチェックしました。気になった作品は、自分自身でも写真にとって持ち帰りました。結果として、分厚いフォトアルバムができあがるまでになりましたが、そういった資料は、美術チーフや衣装チーフといった制作陣に見せて、美術や衣装を考えてもらいました。
主に参考にした絵画は、モネ、マネ、カイユボットなどです。アメリカの印象派作家にも良い作品はたくさんありましたね。特にベルト・モリゾの「赤い帽子」は意識的に採り入れました。印象派の絵画の中でも、この「赤い帽子」はかなりの頻度で出てくるモチーフだからです。
色づくりでも楽しめましたし、美術考証や衣装を考えるのも楽しい作業でしたね。ピクニックシーンがありましたけど、あそこはモネのピクニックの絵画を参考にしました。マネではないんです。彼らは、そこでどんなものを食べていたんだろう。田舎風のパテとかパイ包みとかローストチキンとかそういうものを、今風のスタイルではなく、わざと昔のままで画面に登場させたりしました。本当に楽しくエキサイティングな体験となりました。

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---パリの暗い風景に対して、エクス・アン・プロヴァンスのシーン、ピクニックのシーンは明るく光があふれていましたが、それは印象派の絵画を意識しての画面づくりだったのでしょうか?
監督:あの時代の画家たちは、みんな光を求めて南仏に出かけて作品を描いているんですね。だから、どちらかと言うと彼らが惹かれた南仏の光を再現しようと思って意識しました。本当に素晴らしいですから、南仏の光っていうのは!

締めくくりに好きな作品を監督に聞いたところ、貴重なこぼれ話も?!

---ところで、監督の好きな絵画作品はなんですか?
監督:私の場合、タイミングによって、好きな作品や圧倒されるような作品って変わっていくんです。例えば、先日フランスのヴィトン美術館の企画展で見た、ロシアのシチューキンコレクションは素晴らしかったですね。モスクワやサンクトペテルブルグなど、海外に流出していた傑作が、フランスに里帰りしていたのですが、本当に素晴らしかったです。そこで見たゴーギャンの作品も、初見だったので新鮮でしたね。また、ピカソはどの時代の作品も好きです。

---最後の質問になりますが、日本の絵画作品では、どんな作品が好きですか?
監督:フジタ(藤田嗣治)です。実は、私の祖母が一時期彼と恋愛関係にあったので、彼の作品はよく知っているんです。

---!!!えっ!?これは凄いスクープですね!記事にしても大丈夫でしょうか?!(笑)
監督:いいですよ。数ヶ月前のニューヨーク・タイムズでもインタビューでそう答えていますから。私の祖母は、当時パリで画家たちと交流があったんですよね。もちろん、全部が恋愛じゃないですが、ラウル・デュフィとも恋愛関係にあったようです。

---!!!!ええっ!!?(驚きまくり)
監督:祖母は、フジタがパリに住んでいた時、ちょうど恋愛関係にあったのです。2ショットの写真もありますよ。若くてハンサムだったんですよね。彼は、今の私達が知っている通り、茶髪でメガネ姿。服装の着方もちょっと違っていました。彼が祖母に書いたフランス語の手紙もいっぱいあります。1920年台のパリの中でも、目立ってオリジナリティがありました。

---お祖母様も綺麗な方だったんですね。
魅力的で、セクシーな人でした(笑)そして、愉快で才気煥発な感じの人だったんです。いいボディしてました(笑)

---今日は、お忙しい中、ありがとうございました。最新作の核心部分や、映画作りに対する考え方、そして最後に驚愕の新事実まで、本当に中身の濃いインタビューをさせて頂き、本当に充実したセッションを持てたことに感謝いたします。

まとめ:インタビューを終えて 

最後は、監督のお祖母様がまさかのフジタの恋人だった・・・なんていうスクープも聞くことが出来て、気がついたら予定していた30分を軽くオーバーしていました。来日してから、連日インタビュー漬けでお疲れだったと思いますが、本当に最後までユーモアを持って気さくに対応していただいたのが印象的でした。

そして、やっぱり何よりも腑に落ちたのは、ダニエル・トンプソン監督のアートに対する本物の情熱ですね。過去作でも、アートに関連する様々なモチーフが映画中で描かれるなど、きっと造詣が深いのだろう、、と思っていましたが、アメリカの抽象表現主義作家から、印象派まで幅広く西洋絵画を愛していらっしゃいました。

これまで、ダニエル・トンプソン監督は、パリを舞台にしたお洒落でポップなラブコメ路線で、脚本家・監督家として、フランス映画界で確かな実績を残してきました。しかし、どの作品からもそこはかとない上品でアートな香りがするんですよね。祖母はフジタを始め、芸術家との交流があり、父が国内有数のアートコレクターだったダニエル・トンプソン監督にとって、本作は、いわば自分自身のルーツに原点回帰する節目の機会だったのかもしれません。

是非、南仏の美しい風景の中で、ゾラとセザンヌが歩んだ二人だけの友情の形の、その結末を映画館で味わっていただければと思います。

それではまた。
かるび

作品紹介:映画「セザンヌと過ごした時間」

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【監督】ダニエル・トンプソン(「モンテーニュ通りのカフェ」他)
【脚本】ダニエル・トンプソン(「ラ・ブーム」「王妃マルゴ他)
【配給】セテラ・インターナショナル
【時間】114分
【俳優】
ギョーム・ガリエンヌ/ポール・セザンヌ
ギョーム・カネ/エミール・ゾラ
アリス・ポル/アレクサンドリーヌ・ゾラ
デボラ・フランソワ/オルタンス・セザンヌ
フレイア・メーバー/ジャンヌ
サビーヌ・アゼマ/アンヌ=エリザベート・セザンヌ
【公開】2017年9月2日
【映画館】bunkamuraラ・シネマ他


アートファン必読!分冊百科「週刊ニッポンの国宝100」が予想外のクオリティで凄い!久々に大満足な雑誌と出会えました【開封感想・内容レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

暑かった夏が終わり、急に秋一色になってきた今日このごろ。去年もそうだったんですが、個人的には2017年の秋は、「芸術の秋」にしよう!ということで、美術館や寺社の特別拝観にせっせと通うことになりそうです。

ところで、今年の秋は、日本美術が熱いのです。キーワードは2つ。
その2つとは、ズバリ、
「北斎」と「国宝」です。
というのも、2017年秋シーズンでは、関東・関西のメジャーな博物館・美術館で、「国宝展」「北斎とジャポニスム展」など、この2つのキーワードにちなんだ日本美術の大型展覧会が多数開催されるからです!

すでに夏頃から「日経おとなのOFF」や「一個人」等、各社の文化・芸術系雑誌での秋を見据えたアート特集号では、必ずこの2つのキーワードのどちらかが入っている状態でした。

そんな中、9月5日になって、小学館がこの秋のキラーコンテンツとして発刊した「国宝」にちなんだ、分冊百科本「ニッポンの国宝100」第1号がリリースされました。

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8月頃からネットでも話題になっていましたので、とりあえず話題に出遅れないように話のネタとして買ってみたのですが、これが、予想外に良かったんです!開けてみて、「おおっ、これは凄い!」と思ったので、思わずこのようなツイートまでしております。

 

通常、こういったデアゴスティーニ形式の分冊本はめったに手を出さないのですが、今回ばかりは、このあとも買い続けてもいいかな?と思えるようになりました。

ということで、以下、この分冊百科雑誌「ニッポンの国宝100」を読んだ感想と、一体何がおすすめポイントなのか?というところを少しまとめてみたいと思います!

1.分冊百科「ニッポンの国宝100」とは?

一口に美術品といっても、様々な格付け・グレードがあります。美術館に展示されているアイテムも、その重要度は、ざっくり言うと、上から順番に、国宝、重要文化財、その他の美術品、と3段階に分かれます。うち、国宝、重要文化財は、文化財保護法という法律で国がしっかり管理することになっており、その取扱や公開方法など、細かい取り決めがなされています。

2017年現在、重要文化財は、10,000点以上ありますが、それに対して、国宝はわずか1108点。いわば、選び抜かれたレアアイテム中のレアアイテム、ドラクエで言うとロトの剣、FFでいうとエクスカリバーみたいな存在なわけですが、そんな国宝を、1年間50冊にわたり、1冊で2つずつ集中的に取り上げて、その魅力を徹底的に分析した分冊百科雑誌を立ち上げよう!というのが、「ニッポンの国宝100」のコンセプトです。

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2017年は、「国宝」という言葉が誕生してから、ちょうど120周年となる記念の年なのだそうです。特に、この秋は、京都で開催されるのが実に41年ぶりとなる「国宝展」(京都国立博物館)や、運慶の国宝・重要文化財の作品群を一挙に集めた「運慶展」(東京国立博物館)など、国宝にちなんだ大型展覧会が相次いで開催されます。

まさに、国宝を切り口として、日本美術を楽しむにはベストタイミングな年なんですが、その記念すべき国宝イヤーに、小学館の文化事業として、同社が総力を上げて創刊した雑誌が「週刊ニッポンの国宝100」でした。ぴったりのタイミングです。やるな小学館。

すでに嫌というほど小学館の文化系雑誌「和樂」「サライ」や、各種ネット媒体などで宣伝されていますが、その第一号が、満を持して昨日9月5日に創刊となりました。

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2.ということで、早速書店で買ってきました

ということで、発売日に早速ゲットしてまいりました。まずは開封してみましょう。

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創刊号は、付録とセットで非常に分厚くなっています。Amazonで注文するなら、確実に受取るには期日指定にしないと、ポストには入らないほどの厚みがあります。

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開けると、本体雑誌部分と付録の箱が分離します。恐らく、別冊バインダーを購入すれば、本体はそちらに綴じられるようになるのでしょう。

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こちらが、全部開けた所。中から付録のトラベルケースが出てきました。

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箱を片付けると、こんな感じです。雑誌本体(A4サイズ)と、雑誌より一回り小さいB5サイズくらいのトラベルケースです。

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3.何がおすすめポイントなのか?個人的な感想

結論から言うと、すご~く良かったので、Twitterでは飽き足らず、ブログ記事にしてみたのですが、個人的には、4つのおすすめポイントがあると感じています。順番に、感想を交えて書いてみますね。

ポイント1:初心者でも知識ゼロから深く理解できる親切・丁寧な文面

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国宝鑑賞法を、図解でわかりやすく解説!

アートにどっぷりハマってから、今年で3年目になるのですが、その間、色々な雑誌を買ってみたり、図書館で読んでみたりしてきました。でも、なかなか「これだ!」っていう本や雑誌にはめぐりあえないんですよね。

いわゆる一般雑誌のアート特集は表面的すぎて、単なる展覧会情報のまとめでしかなかったりする一方、アート系専門雑誌の特集は、逆に「小難しい」感じの解説やコラムが多くて、辟易することも多かったです。(アート系専門雑誌だとわかりやすいのは「芸術新潮」ぐらい)

その点、この「週刊ニッポンの国宝100」では、毎週、徹底的に2つの国宝に絞って掘り下げる一方で、知識ゼロの状態で読んでも、わかりやすく理解できるような平易な文章で解説してくれているんです。まず、ここが良かった。

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国宝紹介の最初のページに「まずは知りたい!」と
わかりやすく説明がある!

「そうそう、これだよこれ!」と思いながら読んでいましたが、専門性とわかりやすさを両立させた構成は、まさにアート雑誌に一番足りてないポイントを見事に埋めてくれる出来でした。これがあと49号続くなら、全部買いたいです。

ポイント2:ビジュアル面が充実!オールカラーでの解説が嬉しい!

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僕は、雑誌だけでなくアート入門本もよく読みます。(いつまでたってもなかなか初心者を抜けられないもので^_^;)気がついたら書棚に入門本は10冊以上刺さっていますし、図書館でも何冊も借りて読みました。

アート系書籍の不満点は、文字情報は充実しているものの、解説している対象作品の写真が圧倒的に不足していることです。きっと、カラー写真を載せてしまうと書籍の値段が高くなっちゃうからなんでしょうけど、、、結局ちゃんと勉強しようと思ったら、ネットとか他のカラー写真が載っている大型本などで、作品の高精細なカラー画像を別途探さなきゃいけなくて、二度手間なんですよね、、、

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阿修羅像部分拡大図。物凄い高精細な写真に感動した・・・

その点、この「週刊ニッポンの国宝100」は、カラー写真がものすごくキレイで、専門カメラマンが部分図まで国宝にフラッシュを当てまくってきっちり鮮明な写真を撮影・編集してくれているので、これは良かったと思います。小学館は、2016年にハイレベルな美術全集も出版していますし、芸術作品に対する高精細な写真撮影ノウハウがたまっているな、と感じます。

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風神雷神図屏風もこの通り。俵屋宗達考案の
「たらしこみ技法」もバッチリわかる!

また、国宝をお寺などの古い展示施設で見ようと思ったら、照明が暗かったり、展示方法今ひとつだったりで、鮮明に見ることができないことも多々あります。また、そもそも撮影禁止で、スマホで気軽に撮ることもできませんし。カラー雑誌だと、このあたりのフラストレーションを見事に解消してくれますね。

最終的には実物の良さには敵わないかもしれませんが、2次元情報として手に入るビジュアル資料の中ではトップクラスの出来の良さだと思います。

ポイント3:1冊あたりのコンテンツがかなり揃っている!

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目次。分冊百科ですが、40ページ超の大ボリューム!

僕は、過去に仕事で悩み深き時代、現実逃避のため(?)神社仏閣巡りにハマったことがあります。その時、やっぱり同じように分冊百科本をこつこつ購入していたのですが、結局途中で買わなくなっちゃいました。

なぜかというと、情報量が少なく、ペラペラだったんですよね。毎回20ページくらいの小冊子レベルでしたので。ブログやキュレーションサイトなど、ネットで拾える情報を単純にまとめたものに毛が生えた程度のクオリティ・分量しかなかったからなんです。

今回も分冊百科だし、内容は正直薄いんだろうなと思って期待せずに読み進めたら、情報量は小冊子レベルを遥かに凌駕していますし、しかも分析の切り口が非常に斬新じゃないですか!

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観音開きで、阿修羅像の「腕」を徹底分析!

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ダヴィデ像vs阿修羅像、東西彫刻の比較対決!

例えば、第一号の「阿修羅」で、腕だけ、顔だけの比較特集や、ヴィーナス像との比較分析などはオリジナリティがありましたし、面白いんですよね。あぁ、このクオリティと分量なら、満足だな、と思いました。

ポイント4:コスパ最強!創刊号は500円!その後も定価は680円と、ムリなく買える値段になっている!

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創刊号はわずか500円!

上記ポイント1~3で書いたとおり、かなり充実した内容なので、第1号記念号は500円と安いけど、2号目からは1000円くらいかな?と思っていたら、なんと2号目以降も、予想外に安い680円!これは頑張ってると思います。

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息子の進研ゼミの読み物は月1,000円超!

比較対象として妥当かどうかわかりませんが、同じ教養系分冊本で、ちょうど僕の小学校2年生の息子用に定期購読している進研ゼミの科学雑誌が1冊1000円弱(内容はかなり良いのでこれはこれで塾いらず/笑)なので、この内容でこの値段は小学館、相当頑張ったなぁと・・・。

4.第一号は付録がゴージャスで良い!

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分冊百科雑誌は、第一号で豪華な付録がついてくることが多いですが、「週刊ニッポンの国宝100」では、鳥獣戯画柄のトラベルケースが付いてきました。

展覧会に出かける時、チケットやチラシ、寺社で買ったアクセサリー類をまとめて入れておける小物入れです。ガイドを見ると、こんな感じで使ってくれ!と懇切丁寧に解説が書いてあります。 

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シンプルで、ユニセックスな飽きの来ない柄ですし、早速次回の外出から実戦投入することにしました。僕の場合は、主にチケットホルダーに使うような感じですね。アートだけでなく、映画の前売り券なんかもここに入れることにしました。とりあえず、こんな感じです!

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入れたのは、名刺、美術館のチケット、映画前売り券
映画パンフレット、美術館の年間パスポートなど・・

まだスカスカですが、10月、11月に京都遠征した時には、もう少し充実しているかと思います。今までも、雑誌の付録のチケットホルダーを使っていましたが、明日からこれに鞍替えです(笑)

5.まとめ

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ここ数年で、確実に日本美術に対する関心が高まっている感じがあります。例えば、2009年に東京・福岡で開催された「阿修羅展」は合計165万人の動員があったり、2016年春、東京都美術館で開催された伊藤若冲展が、入城まで最大5時間待ちとなるなど、展覧会の動員数も伸びていますよね。

でも、日本美術をゼロから勉強しよう、初心者から知識をつけていきたい!という人に対する書籍の決定版ってまだまだ少ないんですよね。そんな中、今回発刊された「週刊ニッポンの国宝100」。

この雑誌は、まさにこれから日本美術を学ぼう!という人にぴったりの情報源だと思います。読んでいて、まるで美術館の中にいるみたいな気分を味わえるし、内容も面白いし、久々に大当たりだな!と思える雑誌でした。

付録の箱の裏面に、「さあ、国宝を楽しむ一年を始めましょう!」と書かれていました。小学館の言うとおり、本当にいい機会なのかもしれませんね。しばらく、この分冊本を追っかけてみることにします。おすすめです!
それではまた。
かるび

書籍情報・関連書籍など

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【ネタバレ有】映画「三度目の殺人」 感想・レビューと10個の疑問点を徹底解説!/鑑賞後、じっくり考えさせられる大傑作!

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かるび(@karub_imalive)です。

今、日本で一番国際的に評価が高い映画監督、是枝裕和監督の最新作「三度目の殺人」が満を持して封切られました。「そして父になる」「海街Diary」のような、ホームドラマ路線は一旦お休みして、シリアスな法廷劇を手掛けた意欲作です。法廷内で福山雅治が大活躍!!!・・・するのかと思ったら、全然違ってました(笑)

でも、見終わった感想としては、これぞ是枝裕和作品というべき、作家性にあふれた大傑作の心理サスペンスに仕上がったと思います!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、考察等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「三度目の殺人」の予告動画・基本情報

▶映画「三度目の殺人」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】是枝裕和(「海街Diary」「そして父になる」他)
【配給】GAGA・東宝
【時間】124分
【原作】是枝裕和・佐野晶「三度目の殺人」

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引用:https://filmaga.filmarks.com/articles/1440

本作を手掛けた是枝裕和監督は、元々ドキュメンタリータッチの映画作品からキャリアをスタートさせ、ここ数作はまるで現実の日常風景をそのまま切り取ったきたような、リアルな生活描写にあふれたホームドラマを作ってきました。特に福山雅治とのタッグで自身初の興収30億を超える大ヒットとなった「そして父になる」で、映画ファンだけでなく一般層へも知名度が浸透していきました。

2年に1作ペースで制作するとして、「生涯であと10作程度しか撮影できないのであれば、50代のうちに積極的に新ジャンルに挑戦して、先に苦労しておきたいと考えた」、と、インタビューで語っているように、本作「三度目の殺人」は、是枝監督の初挑戦となる法廷劇となりました。

しかし、そんな法廷サスペンスも、フタを開けてみればさすがのクオリティ。企画・脚本製作段階での弁護士への徹底取材を経て制作された本作は、司法の現場を詳細に至るまでリアルに再現しつつ、監督の作家性もたっぷり反映された大傑作となりました。

2.映画「三度目の殺人」主要登場人物・キャスト

主要登場人物

重盛朋章(福山雅治)
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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト
ここ数年、「そして父になる」「SCOOP!」等、完璧エリート芸能人としてのパブリック・イメージを崩すような作品に積極的に出続けています。今作でも経済合理性を最優先するクールなエリート弁護士としてスタートし、次第に壊れていく演技が素晴らしかったです。次作は、ジョン・ウー監督の香港・中国映画「追補MANHUNT」が公開され、いよいよ海外に飛躍していくんでしょうか?

三隅高司(役所広司)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
映画「関ヶ原」での徳川家康役での怪演が素晴らしかった一方、本作でも悪人なのか善人なのか、正常なのかサイコパスなのか掴みどころのない殺人犯役が見事すぎた役所広司。時代劇・サスペンス・コメディ、どんな役をこなしても完璧に演じてみせるその演技力に脱帽でした。

山中咲江(広瀬すず)
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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト
是枝組は高1、15歳時の「海街Diary」以来の2度目の出演。それ以来、同世代の若手女優の中では不動のNo.1の地位を築いての、満を持しての再登板となりました。あちこちのインタビューで是枝監督からその演技・役者としての存在感を絶賛されており、今後も是枝作品で起用され続けそうな感じですね。この秋は、主演作品「先生!」も楽しみです。

摂津大輔(吉田鋼太郎)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
キャリア中盤で検事から弁護士へと転向した、いわゆる「ヤメ検」弁護士。公判前の事前折衝で検事や裁判官との潤滑油的な役割を果たし、出演キャラクター中、唯一のコメディ・リリーフ的な立ち位置でした。吉田鋼太郎がおちゃらけた役を演じるのは珍しく、いつも是枝組常連のリリー・フランキーの代役だったのかな?なんて思いながら見てました。(二人は激似ですし)

川島輝(満島真之介)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
弁護士にはなったけど、独立事務所を構えず、先輩格の弁護士事務所にデスクだけ借りている「軒弁」の若手弁護士。公判以外の場面でも常に弁護士バッジをきちんと装着するなど、3人の弁護士の中で、一番ピュアでスレていない情熱的なキャラクターを好演していました。

山中美津江(斉藤由貴)
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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube
不倫騒動で世間に大きく注目される中、登場人物中最もわかりやすい形で「ダメな」母親を演じた絶妙の配役がなんとも言えない所。自宅でねっとり広瀬すずに後ろから絡みつくシーンはゾクゾクしました。プライベートでの経験が演技にちゃんとフィードバックされているようです(笑)

その他、主人公の父親役、重盛彰久に橋爪功、相手側検事、篠原一葵に市川実日子ら豪華キャストが脇役として配置されています。

3.中盤までの簡単なあらすじ

2017年秋、徹底して勝利にこだわり、年々競争が厳しくなる中、順調にキャリアを伸ばしてきたエリート弁護士、重盛朋章(福山雅治)は、同期のヤメ検弁護士、摂津(吉田鋼太郎)から新たな難事件を持ち込まれた。川崎の河川敷で起きた強盗殺人事件である。殺害されたのは、地元の食品加工会社「山中食品」の社長、山中光男で、妻と娘が遺族として残された。犯人は元従業員の三隅高司(役所広司)。会社をクビになり、金に困って殺害したと警察には供述調書が残っていた。

三隅は30年前にも殺人で無期懲役となった前科を持ち、敗色濃厚な案件だったが、重盛は、事務所の後輩、川島輝と共に三隅高司の国選弁護人を引き受けることにした。

事前に摂津が手を焼いたとおり、拘置所での数度の接見で三隅の供述は一貫しなかった。被害者の家族フォローや現場検証を一通りこなした後、先に三隅が週刊誌の取材に応じ、「被害者の奥さんに頼まれて保険金目当てで殺害した」と語った内容に乗っかり、重盛は被害者の妻、山中美津江からの殺害依頼メールを物証として、美津江が主犯となった保険金殺人の線で一旦公判準備を進めていく。

一方、重盛はエリート弁護士として仕事では順調にキャリアを伸ばしていたが、家庭は冷たく壊れていた。妻・娘とは別居中で、娘が衝動的に窃盗事件を起こす中、重盛は数度の接見を通して次第に三隅の人となりや事件の真実に興味を惹かれていく。

三隅の住居や実家での調査を進めるうち、次第に事件で被害者の一人娘、山中咲江と三隅の奇妙な関係性が浮上してくる。そして、第1回の公判終了後、咲江が死亡した父から性的暴行を受け続けてきたこと、美津江のメールは、保険金とは全く関係のなかったことが相次いで判明した。さらに、突然三隅が「本当は私、殺していないんです」と一転して容疑の否認をし始めた。

三隅の真意を測りかねる中、それでも重盛は三隅の意向に寄り添うように弁護方針を変更し、第ニ回以降の公判へ臨む。三隅は証言台で容疑を否認した。法廷内が大混乱に陥いる中、果たして判決はどうなるのか?そして、事件の真実は明らかにされるのだろうか。法廷劇はますます混迷を深めていくのだったー。

4.映画「三度目の殺人」の感想・評価

鑑賞後のモヤモヤしたわからなさがこそが良い!映画的な楽しみにあふれた大傑作でした!

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

本作を見終わってまず感じるのは、本当によく練り込まれた脚本・演出だったということです。通常、法廷モノや刑事モノは、物語後半になるにつれ、事件の真相・犯人の特定に必要な情報・手がかりが出揃って、ある一つの結論が明確に(そして劇的に)提示されることで、観客はカタルシスを得るわけです。

しかし、この映画は全く逆のアプローチで映画ファンを楽しませてくれました。物語の進行に合わせ、観客に結末を推理させる材料が提供されていくのは他の映画と同じですが、最終盤で、主人公、重盛がなんとか導き出した「真実」は、あっさり犯人である三隅に覆されてしまい、結局答えは何だったのか、なんだかわからない宙吊りのまま結末を迎えます。

仕方なく、観客は自分たちで映画を振り返りながら推理しますが、映画のタイトル「三度目の殺人」の意味や犯人が誰だったのかなど考えても、決定的な結論に決してたどりつけず、複数の解釈ができてしまうんですよね。この、計算しつくされた脚本・演出のあいまいさが素晴らしい!もう少しでわかりそうなんだけど、でも結局わからないというこの絶妙のバランス感。すごすぎます。鑑賞後に否応なく頭をフル回転させて考えさせられてしまう楽しさ、これこそが本作の醍醐味なんですよね。

重層的に複数浮き彫りになったテーマ設定も秀逸!

優秀な作品は、物語の進行とともに複数の主題が互いに絡み合って浮き彫りになっていくものですが、本作では特にそれが顕著に感じられました。

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

まず第一に、司法制度のあり方への強烈な問題提起です。様々な事件関係者が集まり、本来事件の「真実」が解明されるはずの法廷ですが、劇中では、誰も真面目に「真実」には目を向けようとしません。関係者たちの利害調整の場に成り下がってしまっている司法現場での生々しい現実。裁判員制度が導入されて10年になりますが、映画を見る限り、理想的な制度からは程遠いものを感じました。

そして、そんな司法システムに絡み取られ、もがこうとしても実際には何もできなかった重盛と咲江の無力感。そこから導き出される本作の二つ目の主題は、是枝作品で通底して感じられる「人と人とのコミュニケーションの難しさ」でした。三隅のように言動がコロコロ変わる人間の不確かな心や、法廷に集まった人たちが現実を自分の見たいようにしか見ることのできない故に、そもそも人が人を安易に裁くことのと危険性や愚かしさを感じます。

さらに、主人公の三隅・重盛に目を向けると、見事に両者とも「父親失格」振りが際立ちます。これが三つ目のテーマでしょうか。是枝裕和作品では、共通項として、どの作品でも徹底して「ダメな父親像」が描かれます。例えば、「そして父になる」では、仕事ではエリートだけど、子供の心に寄り添えない父親が少しだけ成長する姿を描きますし、「海よりもまだ深く」では阿部寛演じる主人公は大人になりきれず甲斐性のないダメ男です。もっと酷いのは「海街Diary」で、そもそも最初から父親不在な状態でストーリーが進んでいきます。

本作でも、ある意味で鏡像関係にある三隅と重盛は、やはり両者とも妻・娘との関係が断絶していたダメな父親でした。そんな彼らが、「真実」を巡ってやり取りする中で、少しでも自らの娘に償おうとする姿が印象的でした。

様々な映像演出が散りばめられ、片時も画面から目が離せない!

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

また、映画の中で散りばめられた様々な映像的なメタファーも秀逸でした。ストーリーや背景のセリフでの説明は最低限に抑え、映像・演出で謎が深まるように少しずつ見せていく手法は非常に映画的です。ラストまで何度も出てくる「十字架」の意味、謎の手紙、咲江の「赤い」ダッフルコートや手袋、三隅のちょっとした手の仕草、ピーナッツクリーム、逃げたカナリアの意味・・・等々、一秒たりとも画面から目が離せません。

また、7度に渡る接見室での役所広司扮する三隅と、福山雅治扮する重盛のやり取りも本当に見ごたえがありました。善人とも悪人ともつかず、落ち着いていたと思ったら時に狂人のような不穏な表情・言動で重盛を幻惑する三隅。そして、次第に三隅の術中にハマり、真実を追い求めずにはいられなくなる重盛の変化。毎回少しずつ変わる接見室の光の加減や音の響き、そして、ラストシーンで重なり合う二人の横顔・・・

一見単調に思えるような接見室のシーンが、俳優の演技力と、演出の妙でここまでスリリングで見どころたっぷりに仕上がるとは、さすがとしかいいようがないです。

5.映画「三度目の殺人」をより深く理解するための9つの疑問点・ポイント~伏線・設定を徹底考察!~

是枝裕和監督作品では、物語の結末についての解釈は観客に委ねられることが非常に多く、また劇中での説明も非常にシンプルで最低限です。しかし、その分、毎回の作品で必ず出版されるノベライズで補われたり、インタビューや特集本などで作品を読み解くためのヒントが散りばめられていることが多いのです。そこで、本エントリでは、本作をより深く理解し、味わうための10点のポイントにしぼり、掘り下げて考察してみました。ネタバレが深く入りますので何卒ご容赦下さい。

疑問点1:摂津と重盛の関係は?摂津がヤメ検となった理由とは?

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

本作で吉田鋼太郎が演じる元検事の「ヤメ検」弁護士、摂津は、重盛と同時に司法試験に合格した、司法修習生時代の同期です。その後、摂津は検事に、重盛は弁護士になりますが、摂津はキャリア半ばで検事から弁護士へと転向します。

小説版で明らかにされていますが、摂津が弁護士になった表向きの理由は、一人娘が有名私立高校に入学したため、転勤の多い検察を辞めたことになっています。しかし、重盛は検察の官僚的な組織体制の息苦しさが肌に合わなかったのではないか、と考えているようです。

疑問点2:川島と重盛の関係は?重盛が国選弁護案件を受けた理由とは?

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引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

川島は、2016年度に司法試験に合格し弁護士となりました。しかし、大手法律事務所に就職できなかったため、重盛の個人事務所にデスクを借りて仕事をすることになりました。いわゆる「軒弁」です。川島との間に雇用契約はなく、別案件では川島は個人で動いているものと思われます。

重盛が、元々採算性の低い山中光男殺しのような国選弁護案件を敢えて引き受けたのは、殺人事件が未経験である川島に経験を積ませて早く独立させてやりたい、という重盛の親心でした。 

なお、「国選弁護人」とは、死刑・向き・長期3年を超える懲役等で、弁護士を雇うお金がないため国の費用で専任される刑事事件の弁護人です。後から摂津の要請で弁護に入った重盛も、国選弁護人登録を行っているため、三隅の弁護人となることができました。

疑問点3:三隅の犯した「1度目の殺人」の内容は?

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1度目の殺人の舞台となった「留萌」
引用:ABOUT THE MOVIE - 映画『三度目の殺人』公式サイト

30年前、昭和61年1月21日に三隅が犯した1度目の殺人事件は、彼の郷里、留萌で起こした「留萌強盗殺人事件」でした。借金取り2人が住む自宅に放火し、金を奪って殺したのです。重盛が当時取り調べを担当した渡辺刑事の話では「個人的な怨恨は感じられず、空っぽの器のようだった」とのことでしたね。

ちなみに、7度目の接見で、接見室に現れた三隅が、席に座る前にサッと手で器を作るような仕草をしていたのが印象的でした。

疑問点4:咲江はなぜ足をひきずっていたのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

劇中で、川島のセリフに咲江のケガは「生まれつきだった」みたいです、とありました。しかし、咲江本人は「飛び降りてケガをした」と言い張っており、食い違っていました。これが咲江の虚言癖なのか、それとも川島が聞いてきた情報が間違っていたのかは、劇中では示されていません。咲江に虚言癖があるのかないのか、劇中の広瀬すずの演技から観客が判断するしかないのですよね。

疑問点5:三隅の飼っていた5羽のカナリアは何を意味していたのか?その隠喩とは?

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引用:Wikipedia「カナリア」より

三隅は犯行に及ぶ直前、大家に断わった上で自宅で飼っていたカナリアを5羽殺して庭に埋め、小石で十字架をあしらった墓を作っていました。この「5羽のカナリア」は恐らく彼が30年前の殺人事件で殺害した、または、結果的に不幸な死に方をさせてしまった者たちのメタファーだと思われます。

カナリアは、観賞用だけでなく、「炭鉱のカナリア」と呼ばれる通り、カゴの中に入れられ、炭鉱や洞窟で毒ガス検知をするためによく使われます。(オウムサリン事件の時も実際に使われていた)つまり、カナリアとは、「抑圧された弱者」の象徴だったと思われます。

「5羽のカナリア」とは、元炭鉱の街、留萌で自らが死に追いやった5人、すなわち、殺害した被害者の二人、不幸な死に方をした元妻、父母の合計5人を表現していたのではないでしょうか?

ちなみに、「1匹だけ逃げましてね」と三隅が供述した「1匹」とは、この後の殺人で彼が解放しようとしていた咲江を表していたと思われます。公判結果を聞いた後、看守に釣れられて法廷をあとにする三隅が、咲江だけに見えるよう、カナリアが飛んで行く仕草を手だけで表現していたことからもわかりますね。

疑問点6:三隅が重盛の父に宛てたハガキにはなんと書いてあったのか?何のために出したのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

実際には裁判での証拠資料として供されることはなかったものの、重盛の心象を大きく左右した、三隅が重盛の父に宛てたお礼状。咲江と河原で雪遊びをした5日後に出されました。文面は、以下の通りでした。

重盛裁判長様。ご無沙汰しています。裁判でお世話になった三隅高司です。昨年、仮釈放され、今は川崎の食品加工工場で働いています。先週、こちらでも大雪が降って、故郷の北海道を思い出しました。娘の誕生日に雪で大きなケーキをつくったんです。娘は手袋をしていなかったので、私のをひとつ渡しました。娘は手を真っ赤にしながら、自分の背より大きなケーキをつくっていました。冷たくて・・・温かい思い出です(ノベライズ「三度目の殺人」より引用)

ここで言う「娘」はもちろん咲江を表すメタファーです。「手袋を渡した」とあるのは、二人で共謀した、ということを示唆しているのでしょうか?また、ここで言及されている赤い「手袋」は、その後咲江が両手にはめていた手袋と関係があるのでしょうか?非常に謎ですが、咲江と三隅が共謀して殺害したシナリオも十分ありえると思えるような意味深なエビデンスでした。

疑問点7:重盛はプライベートでどのような問題点を抱えていたのか?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

重盛は父親としては仕事を優先させるあまり、そのしわ寄せが家庭へと波及し、三隅の事件にかかわる1年前から妻・一人娘の結花(14歳)と近所で別居中となっていました。過当競争を勝ち抜くため、民事・刑事を問わず仕事を24時間体制で引受け、実績を上げてきた重盛は人気弁護士となっており、猛烈に忙しくなったのです。

仕事に追われ、それを言い訳に仕事に逃げ込んだ重盛と母娘の断絶は引き返せないところまで来ていたということでしょうね。

疑問点8:結局、事件の犯人はだれだったのか?

本作では、犯人を特定するための決定的な情報・証拠が提示されず、犯行のシナリオや犯人が誰だったのか、複数の解釈が成り立ちます。そもそも犯人探しが本作のメインテーマではないのですが(笑)、敢えて推理してみることにします。

個人的には、映画冒頭で描かれたとおり、咲江の想いを忖度した三隅が起こした単独犯だと思われます。なぜなら、

・犯行時刻直後のタクシー車載カメラに写った仕草
・三隅から押収した被害者の財布にガソリン臭がした
・几帳面な三隅は事件前に身辺を整理している
・咲江は平然と受験勉強をするなど日常生活を平然と送っている。もし殺害に直接関与していたなら、もっと動揺しているはず

といった、劇中の状況証拠に加え、監督自らが、インタビューで三隅が単独犯であることを示唆しているからです。

出てくるたびに違う人に見える――善人にも見えれば、悪人にも見えるし、誰かを救おうとしたようにも見えれば、裁こうとしたようにも見えるし、もしかすると(殺人を)やっていないようにも見える。そういう多面性のようなものを、役所さんなら表現できるだろう、と思っていました。でも、僕が思っていた以上に出てきたので、正直、僕も見ながら「これ……殺していないんじゃないかな……こんな脚本を書いたかな……」という瞬間が結構ありました。是枝裕和が思う「日本で一番うまい役者」役所広司と福山雅治の真剣勝負『三度目の殺人』【ロングインタビュー】 | FILMAGA(フィルマガ)

上記赤線部分は、逆に言うと、役所広司扮する三隅単独犯として最終的に脚本を書いていた、という解釈ができますね。

僕自身が非常に混沌とした森の中に入ってしまったんですよ。役所さんの芝居を見ながら『やっていないっていう流れもあるかあ……』『やっていないとしたら誰が?』『法廷で誰かが告白したらどうなるんだろう……』とか、それで書いたパターンも実はあるんですよ。三度目の殺人 インタビュー: 是枝裕和監督が投じた新たな一手、その真意に迫る (2) - 映画.com) 

別のインタビューでも、役所広司が最後に「殺人をやっていない」と供述を変えた迫真の演技を見て、「やってない」という脚本も書いてみた(けど採用しなかった)というふうに読むことができますね。

疑問点9:映画タイトル「三度目の殺人」の意味とは?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

これも、複数の解釈が可能です。まず、1度目は「留萌強盗殺人事件」、2度目が山中光男殺し。ここまではいいとして、3度目は、死刑判決を受けた三隅高司と解釈するのが一番自然でしょうか?司法関係者・被害者が法定内で利害調整した結果、確定した三隅の死刑。ならば、三隅は一連の裁判や取り調べなど、司法のプロセスを通して合法的に「殺害された」と言っても言い過ぎではないでしょう。

また、三隅目線でタイトルを考えるならば、重盛もまた、三隅の心理操作に心を侵食されて、「精神的に」殺されたとみなすこともできそうです。ラストシーンで十字路に立つ重盛は、罪を背負わされて今後どう生きていけばいいか、心が「空っぽの器」のような状態になっていたことでしょう。以後、勝利至上主義なドライな法廷戦術を続けられる精神状態になく、これ以上弁護士を続けられない心境になっていたとしたら、重盛もまた、三隅に殺されたと言ってもいいのかもしれません。

さらに、映画内では省略されましたが、ノベライズ版では、三隅の父親は高校生の時自宅の火事で焼死しています。殺害時、必ず【火】を使う三隅は、ひょっとしたら父を殺害している可能性もあります。すると、1度目は高校時代の父親殺し、2度目が留萌強盗殺人事件、3度目が山中光男殺し、と解釈することもできるのですよね。

このように、複数の解釈が可能な深遠なタイトルもまた、見事だったと思います。 

疑問点10:ラストシーンなど、映画内でたびたびあらわれた「十字架」の意味とは?

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引用:『三度目の殺人』予告編 9月9日(土)公開 - YouTube

映画内で、繰り返し、しつこいくらい「十字架」のモチーフが使われました。ざっくり見ても、以下のシーンで使われています。

・焼死した山中光男の犯行現場の燃え跡
・雪合戦の回想シーンで倒れ込んだ三隅と咲江の姿勢
・三隅が庭に作ったカナリアの墓
・咲江の立ち寄ったパン屋の名前「丸十ベーカリー」
・ラストシーンで重盛が見上げた電線の交差する形
・ラストシーンで重盛が立っていた十字路

7回目の接見シーンで、まるで三隅が神父のように見えたり、法廷の内外で弁護側が3人居並ぶシーンが「三位一体」で描かれるキリスト教的宗教画のモチーフに似ていたことから、この「十字架」も、基本的にはキリスト教的な隠喩として「罪」「裁き」を象徴していたのだろうと思われます。

三隅は、心の底では「誰かを裁く強い力を持ちたい」と願っていた反面、三隅自身が生涯を通して司法によって「裁かれる」存在であり続けました。自らの強い力へのあこがれが衝動的な殺人としての「裁き」につながり、そしてそんな自分が法廷で「裁かれる」、そんなダブルミーニングだったのかもしれません。

そして、三隅の一種の鏡像でもある重盛にとっては、この十字架は、法廷で三隅を救えなかったことにより背負ってしまった罪の意識や、これからの人生に対する心の迷いを表現していたのでしょうね。 

6.まとめ

映画を見終わった後、今年一番と言っていいほど考えさせられた作品でした。結局犯人が誰だったのか?という謎解きから、本作に散りばめられた様々なテーマ、映像表現に示されたメタファーなどを読み解くのが非常に楽しかった本作。映画を見ることの楽しさ、奥深さが味わえた傑作だったと思います。

ベネチア映画祭では惜しくも「金獅子賞」は逃してしまったようですが、作品としての完成度、役者陣の熱演など、名作にふさわしいクオリティでした。何度も繰り返し楽しめる素晴らしい映画です。おすすめ!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

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作品を制作するだけでなく、インタビューや対談、各種原稿などメディア向けの情報発信量が多い是枝監督。また、業界内だけでなく音楽家や小説家など、隣接業種のプロたちとの交流も積極的です。それを受けて、ここ数作は毎回新作映画が発表されるたびに監督の特集本が組まれる事が増えましたが、今回のムックは特に読み応えがあります。是枝監督の作家性を理解するために最新・最強のガイドブックだと思います!

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【ネタバレ有】映画「ダンケルク」 感想・レビューと10の疑問点を徹底解説!/IMAXで見たい大迫力の映像アトラクション!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月9日に公開された、クリストファー・ノーラン監督が第二次世界大戦を描いた戦争映画の新作「ダンケルク」を見てきました。さすがはノーラン監督。いわゆる王道的な戦争映画とは全く違う、「意外性あふれる」作品に仕上がっていました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ダンケルク」基本情報とクリストファー・ノーラン監督の紹介

▶映画「ダンケルク」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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【監督】クリストファー・ノーラン
(「インセプション」「ダークナイト」「インターステラー」他)
【配給】ワーナー・ブラザーズ
【時間】106分

本作でメガホンを取ったのは、スピルバーグやスコセッシのように、監督のネームバリューだけで観客を集めることのできる数少ない人気カリスマ映画監督の一人である、クリストファー・ノーラン。まだ47歳と若いのに、すでに映画ファンの間では巨匠と同列で語られる存在です。

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引用:Wikipedia「クリストファー・ノーラン」より

「ダークナイト」シリーズや、「インセプション」「インターステラー」など、作品単体で熱狂的なファンがそれぞれ付くほど、ヒット作を連発してきたノーラン監督。今回は彼が幼少期から繰り返し慣れ親しんできた、「ダンケルク」の栄光ストーリーを題材に、実話ベースの歴史大作で勝負をかけてきました。

そして、本作も期待通り、クリストファー・ノーランの作家性が大爆発。106分とコンパクトな作りながら、今まで見たことのないような映像体験ができる戦争映画に仕上がっていました。ノーラン監督も、「これは戦争映画ではない。サバイバルに焦点を当てたサスペンス映画なんだ」とインタビューで語っています。

しかし、鑑賞前にある程度の予備知識があったほうが良いでしょう。日本人には馴染みの薄い、75年前の史実を扱ったジャンルですが、映画中で詳細な状況説明はありません。予習なしで行くと、映画前半から置いていかれる可能性大です。

そこでオススメなのが、公式サイトで用意された、タレント・塾講師の林修が語るわかりやすいレクチャー動画です。3分程度の動画なので、是非映画を見る前にチェックしてみて下さい!

▶映画「ダンケルク」林修おもしろ解説!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.映画「ダンケルク」主要登場人物・キャスト

第2次大戦で動員されたイギリスの遠征軍には、非常に若い兵士が多かったそうです。その史実に基づき、若手俳優陣には極力「色がついていない」新人クラスが起用されました。それとバランスを取るかのように、壮年以上のキャラクターには、定評のあるベテラン俳優が起用されています。

主要登場人物

トミー(フィン・ホワイトヘッド)f:id:hisatsugu79:20170915135110j:plain
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube
主役にはまだ映画ファンに知られていない新人がいい、という監督の意向を受け、オーディションで選ばれたラッキーボーイ。映画に出る直前まで、ロンドンのコーヒーショップのバイト店員だったそうです。セリフは少ないながらも、不安が募る中、生き残ることに必至な青年兵士をナチュラルな演技で魅せてくれました。

アレックス(ハリー・スタイルズ)f:id:hisatsugu79:20170915135249j:plain
引用:Dunkirk - Survival Teaser - Warner Bros. UK - YouTube
人気アイドル、ワン・ダイレクションのメンバーから抜擢。撮影中は熱狂的なファンやパパラッチ対策のために、彼だけ特別の護衛がついていたのだとか。一応、ノーラン監督のコメントでは「ちゃんとオーディションで選んだ」と言ってますが、まぁ芸能人枠ですよね。でも、演技は全然悪くなかったです。自然に映画内に溶け込んでいました。

ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)f:id:hisatsugu79:20170915134930j:plain
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube
ダンケルク救出に向かった遊覧船の船長役。影のある表情の中に静かな闘志が宿る渋い演技でした!2016年、「ブリッジ・オブ・スパイ」でアカデミー助演男優賞を受賞しましたが、ノーラン監督が、「受賞が決まる前から撮影してたからね!」と強調してたのがおかしかった(笑)

ピーター(トム・グリン=カーニー)f:id:hisatsugu79:20170915135710j:plain
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube
ドーソンの息子。未成年らしく、イケメンですがまだ可愛らしい顔つきでした。この人も主演のフィン・ホワイトヘッド同様、今後話題になりそうな若手俳優です。

ファリア(トム・ハーディ)f:id:hisatsugu79:20170915135747j:plain
引用:Dunkirk - Trailer 1 [HD] - YouTube
ラストシーン以外、ほぼ全カット、コックピット内での演技でしたが、悲壮な「決意」をするシーンでは、痛いほど伝わってくる好演でした。ノーラン監督とは、「ダークナイトライジング」「インセプション」に続いて3度目のタッグとなります。

ボルトン海軍中佐(ケネス・プラナー)f:id:hisatsugu79:20170915134956j:plain
引用:Dunkirk - Survival Teaser - Warner Bros. UK - YouTube
ダンケルクの撤退指揮を取った総責任者。現場の頼れる司令官として描かれています。実際にダンケルクで撤退戦の指揮を執り、評判が高かった軍高官をモデルとして何人分かミックスした人物がボルトン海軍中佐だったそうです。

その他、謎の英国兵役にキリアン・マーフィ、イギリス軍に潜り込んだフランス兵ギブソンをアナイリン・バーナード、ウィナント陸軍大佐役にジェイムズ・ダーシーなど、イギリス系の有名俳優が多数起用されています。

下記でダンケルクに出演した若手4名による対談動画も、公式サイトで公開されました。今後人気が出てきそうなフレッシュな俳優陣の素顔がチェックできます。

▶映画「ダンケルク」若手対談動画!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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3.物語中盤までの簡単なあらすじを紹介

1940年5月下旬。ヒトラー率いるドイツ軍と戦っていた英仏連合軍は、直前の戦略ミスも重なり、フランス北岸の小さな港町、ダンケルクへと包囲され、追い詰められていた。将兵の数は約40万人。陸地は四方をドイツ軍に囲まれて脱出不可能な中、残された手段は海を渡ってのイギリス本土への撤退しかなかった。

イギリス遠征軍司令官のボルトン中将は、無傷で残された防波堤づたいに桟橋を作り、そこから順次兵を撤退させる「ダイナモ作戦」を開始した。しかし、ダンケルクの海は遠浅で、大量輸送ができる大型艦が多数入港できない。また、ドイツ軍との来るべき本土決戦に備えて、全ての艦を撤退作戦に投入するのは不可能だった。

そこで、イギリス軍は、対岸の港町から民間の小型船を多数徴発し、国民総出でダンケルクからの撤退救出作戦を実行した。中には、ミスター・ドーソンのように愛国心に目覚めた民間人の中には、危険を顧みず自らダンケルクの危険海域へと向かう者もいた。

撤退作戦と同時に、ドーバー海峡内の安全航行を保障し、ドイツ空軍から守るため、イギリス空軍からも最新鋭の戦闘機「スピットファイアー」が投入された。しかし、ドイツ空軍も手強く、ドッグファイトの結果、命を失う者、機体が損壊して海へ不時着する者、また、ガス欠でイギリス本土へ戻れなくなる者などもいた。

刻一刻と、陸上ではドイツ軍の包囲が狭まっていく中、果たして英仏連合軍はダンケルクから成功裏に脱出できるのか?目まぐるしく変わる天候や潮目、そして激化するドイツ軍の攻撃。困難を極めた撤退作戦において、陸・海・空それぞれの現場・局面で、男たちは生き残るため、どのように行動したのかー?

4.映画「ダンケルク」の感想・評価

ぶっちゃけ1回目を見た時は全く理解できなかった・・

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冒頭のシーン。最初の15分はほぼ会話なし。
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube

本作は、第二次世界大戦の予備知識がなく、事前に予告編を見たり、レビュー記事を読んだりして映画本編の雰囲気を掴んでいない鑑賞者には、かなり厳しい映画です。

まず、映画中で「今、何が起こっているのか」という説明がほとんどありません。主要キャラ同士の会話もほとんどなく、特に序盤はまるで昔の無声映画を見ているような感覚になります。ストーリーは映像を見て理解するしかなく、目を皿のようにして片時もスクリーンから目を離せないのです。

さらに、頭を抱えてしまうのは、その複雑な物語構成です。映画では、3つの異なるタイムスケール・タイムラインにある陸・海・空の出来事を描いているのですが、場面の切り替えがかなり早くて、ついていけないんですよね。映像を見て「何が起こっているんだろう」と理解する前に、次のシーンへと遷移してしまうので、消化不良なまま進んでいきます。

物語が進行していくにつれて、陸・海・空のそれぞれの主人公たちの時間軸が近くなっていき、クライマックスで全部つながるのがわかるのですが、1度目を見終わった時点では、物語や衝撃映像を楽しむ余裕もなく、全くカタルシスを感じなかったです(笑)打ちのめされて帰宅し、短絡的に「つまらない。駄作?」と思ってました。

復習を済ませ、IMAXシアターで2回目にチャレンジ!

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案の定、僕のような消化不良気味のレビュワーも多く、ちょっと安心したのですが、後で「全編の70%以上を、70mmのIMAXカメラで撮影している」ことがわかり、しまったー!!と地団太を踏みました。(なぜかというと、IMAXに最適化した映像は、普通のスクリーンでは縮尺比の関係で、上下20%位が切れてしまうから)

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通常の2Dシアターでは上下20%が切れている
引用:Dunkirk (2017) Page 83 - Blu-ray Forum

案の定、Filmarksで高評価を下しているユーザはみんなIMAXで見ている人なんですよね。

・・・ということで、「よし、IMAXシアターで見てから、それでもつまらなかったらマイ駄作認定としよう!」ということで、IMAX2Dで2200円奮発して再度鑑賞。

すると、IMAXだと映像の迫力、音響の凄さ、臨場感が段違いだったのです。

映像も凄いんですが、体に響くような駆逐艦・戦闘機のエンジン音、それとシンクロする不穏な劇伴音楽など、特に「音響」の違いが凄い!また、背景知識を山のように頭に入れて臨んだこともあり、2回目はしっかりストーリーも追えて、満足できたのです。良い映画って、やっぱり2回、3回見ないと良さがわかりませんね。リベンジして良かったです。

では、「ダンケルク」は他の映画と何が決定的に違っているのか?どこが新しかったのか?

2回目の鑑賞を終えてして気付かされたのは、本作が非常に特殊で「新しい」戦争映画だったということ。

近年の戦争映画では、1998年の傑作「プライベート・ライアン」をお手本として、勇敢な主人公がヒロイックに行動し、勝利をつかむストーリーをベースとして、残虐・グロ描写も辞さない生々しい「悪の」敵軍との過激戦闘シーンまでが、テンプレート的に描写されることが多かったと思います。

しかし、本作は全く違っていました。何が違うかって言うと、例えば、、、

・主人公たちの戦闘シーンが全くない
・血も全く流れない
・敵のドイツ軍兵士の姿が全く描かれない
・映画中で善悪の価値判断がなされない

そうなんです。描かれたのは「丸腰での撤退作戦」なので、敵襲や過酷な自然環境の中、主人公たちがこの撤退戦を「どう生き延びて」「どう協力しあうのか」という「サバイバル」に焦点が当たっているのです。だから、それ以外の要素は思い切って抽象化されています。死体からは意図的にカメラが退いていきますし、「海上」ということもあり流血シーンも全くと言っていいほどありません。

そして、劇中でセリフが極端に少ないのです。まるでサイレント映画のようです。その分、観客は必死でストーリーを理解するために画面にかじりつかなければならないので、疲れます。本作は、ノーラン監督作品中では最短の106分ですが、1度目を見終わった後は、まるで150分くらいの長さくらいに感じました。

戦争映画というよりサスペンス映画、場合によってはホラー映画のようなタッチで描かれた本作。非常に斬新で新しい戦争映画となりました。実験的ではありますが、この「新しさ」こそが、アメリカの大手評価サイト等で絶賛された原因なのだろうと思います。

生き延びようと必死な兵士や、名も無き英雄たちの活躍など、見どころ十分でした

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引用:Dunkirk - Trailer 1 [HD] - YouTube

初見ではわかりませんでしたが、2回目の鑑賞で気付かされたのは、生き延びようと必死な兵士のもがく姿が細部まで丁寧に描かれていたことです。

映画冒頭は、特に「これからサバイバル映画が始まるんだ」と言わんばかりの細かい演出が光ります。

喉の渇きを癒やすため、水道のホースから直接水を飲み、誰かの残したシケモクを拾って火をつけようとし、空から撒かれた伝単(ビラ)を、大便処理用にポケットに乱雑にねじ込む冒頭のシーン。

さらに、ビーチに出たトミーは、フランス軍兵士のギブソンが死体からイギリス軍の装備を取り出しているところを見つけます。意気投合した二人は、負傷者を担架に乗せて病院船に運び込み、そのまま紛れて船に乗り込もうとしますし、上官に追い払われても、あきらめず桟橋の下に隠れて乗船の機会を伺います。

その後、主人公のトミーは、なんとか帰国する船に紛れ込むことができましたが、今度は、乗った船がことごとく雷撃や爆撃に遭って沈み、その都度命がけで船を乗り換えて生き永らえるのです。死と隣り合わせの生き地獄のような戦場で、兵士たちの「生」への渇望を感じられる、凄まじい映像でした。

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民間人も兵士と一体となって参加した撤退作戦
引用:Dunkirk - Trailer 1 [HD] - YouTube

兵士たちのサバイバルが克明に描かれる一方で、さり気なく描かれたのが名も無き英雄たちの尊い自己犠牲精神でした。自らダンケルクへ救出に向かう民間人や、燃料切れで帰投不可となるのも辞さず、仲間の船を守ろうとした戦闘機のパイロット、帰着する兵士たちに道端で声をかけ、炊き出しを自発的に行った市民たち・・・

誰に誇ることもなく、自分たちにできる利他精神を淡々と発揮して、撤退戦に協力した、無名の兵士や市民たちが多数いたからこそ、30万人以上の将兵を救い出す大成功が導き出されたのだと思うと、目頭が熱くなります。

決して、VR的な映像没入体験だけがこの作品の特徴ではないんですね。通常の戦争ドラマでは見過ごされる「小さなドラマ」が、しっかりとした歴史考証を経て作り込まれているのです。 

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5.映画「ダンケルク」に関する10個の疑問点~伏線・設定を徹底考察!~

本作は、劇中でのセリフも少なく、全体として何が起こっているのか、背景知識なしではほとんど理解できません。いわば、現場に放り出されたイギリス軍の若手兵士に近い意識状態を疑似体験できるわけですが、そうは言ってもモヤモヤが残りますよね(笑)そこで、本エントリでは、作品をより深く理解し、味わうために、物語の焦点となる10点のポイントに絞り、掘り下げて考察してみました。本編のネタバレ部分が多少入りますので何卒ご容赦下さい。

疑問点1:「ダンケルクの戦い」とはどんな戦闘だったのか?

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赤=イギリス軍、青=フランス軍、黒=ドイツ軍
引用:http://www.iowtodunkirk.com/operation-dynamo/

1940年5月24日~6月4日にかけて、フランス北岸で戦われたドイツ軍VS連合国軍の戦いです。1939年にポーランドを制圧して勢いに乗るドイツ軍は、1940年4月、フランス軍の独仏国境に敷いた防衛網「マジノ線」を迂回し、北側のベルギー側「アルデンヌの森」を抜けて一気にフランス・イギリス軍をダンケルク周辺へと包囲し、追い詰めました。

四方を屈強なドイツ軍の地上部隊に囲まれ、逃げられるのはもはや海しかない状況で、これが本作で描かれた、イギリス軍による起死回生の撤退作戦「ダイナモ作戦」につながっていきます。

疑問点2:イギリス遠征軍の撤退作戦「ダイナモ作戦」とは?

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ドーヴァー城内に設けられた作戦司令室
引用:Dover Castle - Wikiwand

最高司令官だったラムゼイ陸軍中将が、司令室として使ったドーヴァー城の発電機室(ダイナモ・ルーム)にちなんで名付けられた撤退作戦です。ドイツ軍がダンケルクまでわずか16km地点まで包囲網を狭める中、目標救出数を45,000人と設定し、5月26日に作戦が開始されました。

市街地で後衛として防衛戦を守る約4万人の英仏軍がどれ位持つのか、どう大量の人員を効率よく運ぶのか、目処が立たない中での手探りでの作戦スタートだったようです。

疑問点3:最終的に何人撤退できたのか?また、なぜ撤退作戦はこれほど上手くいったのか?

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引用:Charles Cundall - Wikiwand

記録によると、最終的に338,226人がダイナモ作戦で救出できた兵士の総数でした。当初見込まれていた、目標45,000人を大幅に上回る大成功となりました。映画にあった通り、撤退作戦前半ではイギリス兵の回収が優先されます。

しかし、国際的な世論に配慮したチャーチル首相の指示もあり、作戦後半ではフランス兵が重点的に救出された結果、最終的に140,000人近くのフランス兵がイギリス本土へと渡りました。

撤退作戦が大成功に終わった理由としては、気候条件が良かったことや、ドイツ軍の敵失によるラッキーな側面もあったようです。具体的には・・・

5月26日以降、ダンケルクを包囲したドイツ軍の地上部隊がヒトラーの命令により突然作戦を休止したこと。ヒトラーの軍事センスの欠如や、彼がそもそも後日のパリ占領作戦に執心していたため、ダンケルクに無関心だった、など諸説あります。
撤退期間中、ダンケルク周辺の海域が深い霧に包まれる日が多く、ドイツ空軍の作戦が取りづらかった。逆に、通常かなり荒れ気味のドーバー海峡は波が穏やかで、小型船の航行がしやすい状況だった。天候条件が全てイギリス軍側に有利に働いたのです。

疑問点4:どのように撤退作戦を実行したのか?撤退に伴う問題をどう解決したのか?

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遠浅で波が高いダンケルク。大型船が近づけない。
引用:Dunkirk - Survival Teaser - Warner Bros. UK - YouTube

ダンケルクからの撤退作戦においては、ドイツ軍の妨害以外にも、以下の2点が問題になったとされます。

・ダンケルクが遠浅の海岸なので、大型船の入港が難しい。
・ダンケルク周辺の海域に、ドイツ軍により大量の機雷が敷設されていた。

このうち、1つ目の「遠浅」問題は、映画でも描かれていましたが、唯一無傷で残った東防潮堤を、空爆されるたびに工兵が補強・死守して、桟橋を確保するとともに、本土から徴発した小型民間船が、ダンケルク沖で停泊していた駆逐艦との間をピストン輸送することで解決されました。

映画で描写が省略されましたが、当初、ダンケルク周辺にはドイツ軍が敷設した大量の機雷が、撤退作戦の最も厳しい障害になりそうでした。しかし作戦直前に、イギリス軍に従軍するカナダ人の技師が、ダンケルク周辺に敷設されたドイツ軍の磁気機雷を無効化する技術の実用化に成功しました。これにより、ほとんどの機雷が無害化され、安全にダンケルク周辺の海域が通過できるようになったのです。

疑問点5:なぜ本作では敵軍の姿がほとんど見えないのか?

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上空から迫りくる爆撃。顔は見えない。
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube

イギリス軍兵士にとって、撤退作戦中に出会う本当の敵は、迫り来る戦車や歩兵隊などの「目に見える敵」ではなく、映画で見た通り、空からの爆撃、機銃掃射、潜水艦、機雷など、全て「目に見えない敵」だったからです。次にどこから、何が襲ってくるのかわからない・・・まさに恐怖ですね。また、ノーラン監督が劇伴音楽で「時計」チクタク音を多用したように、後ろから迫りくるドイツ陸軍から逃げるための「時間」との戦いでもありました。

だから、本作ではこの撤退戦の特徴を最大限描ききるために、ドイツ軍の姿を画面から消す演出を敢えて取ったのでしょう。

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疑問点6:ラストシーンでドイツ軍に捕まったファリアはその後どうなったのか?

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引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube

ラストシーンで、ガス欠でダンケルク海岸に不時着したファリアは、乗っていたスピットファイアに火を付け、ドイツ軍の捕虜となりました。その後はどうなったのでしょうか?

これは想像するしかないのですが、ちょうどこの時撤退できなかった4万人のイギリス兵同様、捕虜になった後はアウシュビッツのような強制収容所へ送られたり、強制労働に従事させられたりして死亡したのかもしれません。

実は、史実ではファリアと似たようなケースがあります。同じようにガス欠でダンケルク海岸に着陸した連合軍のパイロット、アラン・クリストファーは、ファリアと違い、捕まえに来たドイツ兵を殴り倒してその場を脱出し、イギリスへと自力で生還したそうです。その時の様子は、「Nine Lives」という書籍になって出版されています。

疑問点7:ラストシーンのあと、第二次世界大戦の戦況はどうなったのか?

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引用:ナチス・ドイツによるフランス占領 - Wikiwand

実は、ラストシーンのすぐ1ヶ月もしないうちに、フランスはドイツにあっさりと降伏してしまいます。ヒトラー率いるドイツ軍は、フランス軍の構築した防衛戦「マジノ線」を突破し、電撃的にパリを占領。装備・兵力ともにドイツ軍に劣るフランス軍は、1940年6月には降伏し、フランスに親ナチスの傀儡政権が樹立されました。

ついで1940年7月以降、ヒトラーはイギリスにも空爆を開始し、上陸作戦を実行します。しかし、撤退作戦の大成功で、チャーチル首相以下、徹底抗戦への士気が高まっていたイギリスは、ギリギリのところで本土決戦を防衛してピンチを切り抜けました。以後は、連合軍にアメリカが参戦したことによって形勢は徐々に連合軍側に傾いて行きます。

しかし、イギリスにとっては「ダンケルクの戦い」で撤退作戦を成功させ、約20万人の遠征軍の将兵を無傷で温存できたことが、精神的にも物理的にも、占領される水際でドイツ軍を撃退する力になったのでした。

疑問点8:ラストシーンでトミーが読み上げた新聞記事の内容は実話なのか?

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引用:Wikipedia「We_shall_fight_on_the_beaches」より

映画内で、ラストシーン直前にトミーが列車の中で読み上げた新聞記事の内容は、1940年6月4日、撤退作戦の終了を総括して、チャーチル首相が議会で行った演説からの抜粋でした。内容を一部抜き出すと、こんな感じです。

We shall go on to the end. We shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our island, whatever the cost may be.We shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender, and if, which I do not for a moment believe, this island or a large part of it were subjugated and starving, then our Empire beyond the seas, armed and guarded by the British Fleet, would carry on the struggle, until, in God's good time, the New World, with all its power and might, steps forth to the rescue and the liberation of the old.

簡単に意訳してみると、こんな感じです。

我々は最後まで戦い続ける。フランスで戦い、海で戦い、強くなる自信と力をもって空で戦うだろう。そしていかなる犠牲を払っても、我々の国土を守り抜くだろう。海岸で、上陸した陸地で、そして郊外や市街地、丘の上でも戦い続ける。我々は決して降伏しない。そして、決してそんな瞬間はないと信じているが、たとえ我々の国土やその大部分が征服され、飢えたとしても、大英帝国は決して戦いを止めない。全ての力と意志を持った新世界が神のご加護をもって救済を行い、古い世界を解放する日まで。(Wikipediaより)

本当に凄い文面ですよね。「ダンケルクの戦い」直前、65歳にしてようやく念願の首相の座が回ってきたチャーチルは、周囲の側近たちが弱気になる中、「徹底抗戦」を主張して一歩も譲らず、国民を力強いスピーチで鼓舞し続けたのでした。

疑問点9:この映画の登場人物は実在した人物なのか?

本作で描かれているのは、名も無き人々が、必死で生き延びようと行動し、協力し合った名も無き人々に焦点を当てた群像劇です。だから、映画内のセリフでちらっと言及されたチャーチル首相とラムゼイ陸軍少将以外は、基本的には架空の登場人物です。

ただし、パイロットのファリアには、上述したように似たような経験をした史実上の人物がいましたし、ケネス・ブラナー扮するボルトン海軍中佐も、撤退作戦を指揮した上級将校を何人か寄せ集めた合成キャラだと言われています。

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ムーン・ストーン号のモデル?「Sundowner号」
引用:Wikipedia「Charles_Lightoller」より

中でも、マーク・ライランスが演じた遊覧船の船主、ミスター・ドーソンは、当時66歳で救出作戦に自ら保有するヨット「Sundowner号」で救出作戦に参加した退役軍人、チャールズ・ライトラーをモデルにしていると言われています。

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ドーソンのモデル「チャールズ・ライトラー」
引用:Wikipedia「Charles_Lightoller」より

ライトラーもまた、劇中のドーソン同様、イギリス空軍に所属した長男を戦死で失っています。彼は、映画同様、Sundowner号に彼の息子、若い船員と3人で乗り込み、ダンケルクで130人の将兵を救いました。また、その帰路で、ドイツ空軍の機銃掃射を受けましたが、巧みな操船技術で爆撃を回避したエピソードも残っています。このエピソードも映画内で再現されていますね。

疑問点10:今もイギリス人の間で引き合いに出される「ダンケルク・スピリット」とは?

ダンケルクからの撤退作戦の大成功は、国民的な熱狂をもって賞賛されました。チャーチルの再三の称揚演説も奏功し、これ以後しばらく、イギリスは戦時体制下、「ダンケルク・スピリットを忘れるな」という掛け声の下、国を挙げて不眠不休で懸命に働いたそうです。実際、1940年~1941年のイギリスの鉱工業生産は飛躍的に伸びたとのこと。

以後、「ダンケルク・スピリット」は、イギリス国民にとって苦難・困難を乗り越える時のスローガンとして今までよく使われている有名なフレーズとなったそうです。

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引用:Private Eye | Official Site 

つい先日、EUからイギリスが離脱(撤退)する国民投票直前でも、離脱派の議員や評論家達は「ダンケルク・スピリットで行動しよう!」と煽っていましたね。ちょっと意味が違うような気もしましたが・・・

6.映画パンフレットが素晴らしい! 

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本作は、映画本編を単に見るだけでなく、ノーラン監督の映画制作においての工夫・ポイントや、「ダンケルクの戦い」をめぐる基礎知識を入れておくと、もっと深く楽しめるようになります。

今回は、映画パンフレットが本当に素晴らしかったです。ノーラン監督へのインタビュー、ストーリーや背景知識の解説、評論家のレビュー記事もハイレベルですし、ノーラン作品を徹底解説したまとめが素晴らしい出来。

▼読み応え抜群のコーナー「ノーラン解体新書」
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▼登場人物紹介や物語の背景説明もバッチリ
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是非、劇場へ行ったらパンフレットを購入してみて下さいね。一応、Amazonでも出品されていますのでリンクを置いておきますね。

7.まとめ

本作は、1度見ただけでは、混乱して頭が整理されないまま「つまらなかった」となってしまうかもしれません。しかし、我慢して何度も丁寧に映画を見ていくと、広大なフィールドを使いつつも、名も無き英雄たちに注がれたミニマム視点で、丁寧に映像・ストーリーが練り込まれた秀作であることがわかってきます。

実験的な要素が多く詰まった作品でしたが、ノーラン監督の作家性が色濃く出た、個性的で新しい戦争映画でした。スルメのような映画です。是非、どこか一つでもいいので自分なりの面白さが見いだせるまで、ぜひ繰り返し劇場(IMAX)でチェックしてみて下さい!

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

詳しくて読みやすい!実話ドキュメンタリーの傑作「ダンケルク」

映画「ダンケルク」で描かれた撤退作戦は、「ダンケルクの戦い」のほんの一部でした。本書では、映画「ダンケルク」で扱われた撤退戦をメインに取り上げつつ、1939年、ドイツのポーランド侵攻あたりから、じっくり史実の時系列に沿ってドキュメンタリータッチで「ダンケルクの戦い」の全てが語り尽くされます。内容も新しく、映画「ダンケルク」の描写が頻繁に本文で引用され、映画内での映像表現と対比しながら読み進められます。ノーラン監督への超ロング・インタビューも収録され、まさに映画ファン向けの良書でした。翻訳書ですが、文章も非常に読みやすいしおすすめです!

ベネディクト・カンバーバッチ主演!BBCドラマ「ダンケルク」

英BBCが、よりイギリス軍視点でダンケルクからの撤退を描いたドラマ作品です。こちらでは撤退作戦に伴うドイツ軍との戦闘も生々しく描いています。正義=イギリス軍、悪=ナチスと割り切った勧善懲悪的な描き方は、映画「ダンケルク」と好対照(笑)ですが、ベネディクト・カンバーバッチの出番も結構多く、BBCが作っただけあって、結構出来は良いです。是非、別の視点・観点からダンケルクの戦いを見たい!という人には良い作品です。

【ネタバレ有】映画「エイリアン:コヴェナント」 感想・レビューと10の疑問点を徹底解説!/人類の起源に迫るスケール感溢れる最新作!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月15日に公開されたエイリアン・シリーズの新作「エイリアン:コヴェナント」を見てきました。通算ではシリーズ第6作目となる作品です。シリーズの原点に立ち返ったかのように、エイリアンとの絶望的な戦いが描かれる中、人類の起源やアンドロイドと人間の関係など、哲学的な味わいの謎解きも面白かった本作。見応えのある作品でした。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「エイリアン コヴェナント」の予告動画・基本情報

▶「エイリアン:コヴェナント」予告動画!
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】リドリー・スコット(「エイリアン」「オデッセイ」)
【配給】20世紀フォックス
【時間】122分

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引用:Ridley Scott - IMDb

本作で監督を務めたのは、ハリウッド映画の大御所監督リドリー・スコット。今年で79歳と高齢ながら、「エイリアン」シリーズとリブートされた「ブレードランナー2049」シリーズを抱える売れっ子監督です。70代後半にして「オデッセイ」のようなミュージカルテイストのSFコメディを初めて手がけるなど新境地を開拓し続ける「若さ」は驚異的です。2017年は、年末にかけて「All the money in the world」(邦題未定)が公開される他、プロデューサーを務めた「オリエント急行殺人事件」が公開予定。

さらに、2019年には「エイリアン・コヴェナントの続編」も早々に公開が決定するなど、まさにハリウッド映画界の鉄人であります。

2.映画「エイリアンコヴェナント」主要登場人物・キャスト

主要登場人物

ダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)f:id:hisatsugu79:20170921005629j:plain
引用:Alien: Covenant | Official Trailer | 20th Century FOX - YouTube
予告編を一度見ただけでは、地味すぎて今作のヒロイン役には「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」で日本でもおなじみとなったキャサリン・ウォーターストンであることに全く気づきませんでした。髪を短髪にして、男女差のない宇宙服を着ていると、中性的でまるで少年のようです。2017年秋にはコメディ映画「ローガン・ラッキー」の日本公開も控えています。

ウォルター/デヴィッド(マイケル・ファスベンダー)f:id:hisatsugu79:20170921005700j:plain
引用:映画『エイリアン:コヴェナント』予告A - YouTube
今作で一人二役を演じるマイケル・ファスベンダー。リドリー・スコット監督とは、「プロメテウス」「悪の法則」以来3度目のタッグとなります。髪型や表情一つで器用に一人二役を演じ分ける演技力はさすがでした。今作で初めてじっくりファスベンダーの顔を見マジマジと見たのですが、なんか顔つきがイギリス人ぽくないなぁと思っていたら、この人は元々ドイツ人なんですね。だからなのか、ワーグナーのテーマが妙にフィットしているような気がしました。

3.前作「プロメテウス」のあらすじをおさらい!

本作は、リドリー・スコット監督がリブートした「エイリアン」の前日譚シリーズ第2弾として、前作「プロメテウス」から10年後の世界を描いたストーリーです。本作をフルに楽しむためにも、できれば先に「プロメテウス」を見ておくことをオススメします。ここでは簡単に映画「プロメテウス」のあらすじを振り返ってみたいと思います。

映画「プロメテウス」の簡単なあらすじ

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引用:映画「プロメテウス」本編より

2089年、考古学者エリザベス・ショウは、スコットランドのスカイ島で、謎めいた巨人が描かれた35000年前の洞窟壁画を発見する。ショウ博士は、この壁画こそ、地球外に知的生命体が存在する証であり、巨人こそが人類を創造した”エンジニア”であると確信した。

人類の起源と不老不死の秘術を渇望していた巨大軍需企業、ウェイランド社の総帥、ピーター・ウェイランドは、同社の高性能アンドロイド、デヴィッドや、実娘メレディス・ヴィッカーズ、ショウ博士らと共に、2093年、宇宙船プロメテウス号で巨人が軍事基地として使用していた植民星「LV-223」にたどり着いた。

そこで、ショウ博士とデヴィッドらは、巨人が地球滅亡を企んで飛び立とうとしていた2000年前、彼らが開発した生物兵器「エイリアン」の暴走で全滅したことを知る。唯一生存した巨人の生き残りに話しかけたデヴィッド達だったが、怒った巨人はその場でウェイランドやクルーたちを惨殺し、デヴィッドを半壊状態に追い込む。ヤネック船長らの決死の自爆攻撃で、地球に飛び立とうとした巨人を倒した後、残されたデヴィッドとショウ博士は、残されたもう1機の巨人の宇宙船で、巨人の母星を目指して飛び立つのだった。(※※この後、後述するプロローグ動画へと続く)

4.映画「エイリアン・コヴェナント」の途中までの簡単なあらすじ

2104年、宇宙船コヴェナント号は、15名の乗組員とハイパースリープ中の入植者2000名と共に、惑星オリガエ6を目指して宇宙を航行中だった。充電中に遭遇した超新星爆発による衝撃波により、ハイパースリープを解除された乗組員は、宇宙船のメンテナンス中に謎の信号を近隣の未知の惑星から傍受する。

調査すると、その惑星の大気組成は地球に酷似しており、入植に適した「楽園」とも言える完璧な条件を備えていた。慎重なダニエルズの反対を押し切り、クルー達は調査船に乗り換え、惑星を探査し始めた。しかし、その惑星は、人間や動物達の姿が一切見えない静かな星だった。

探査を進めるうち、自生する大麦の草原や宇宙船が墜落したような「人間」の存在した痕跡をたどると、彼らはC字型の奇妙な宇宙船を発見した。奥に進んで探査を進めようとする中、相次いで体調不良を訴える隊員達。彼らの症状は劇的に悪化し、彼らの体内を食い破って飛び出してきた未知のエイリアンたちに次々クルーたちが襲われ、調査船も爆発・大破してしまう。絶望的な状況下、パニックになったクルーたちの前に、ウォルターにそっくりな謎の人物が助けに現れた。彼こそが10年前、行方不明になった探査船プロメテウス号の生き残りのアンドロイド、デヴィッドだった。

デヴィッドの説明では、この惑星こそが人間を創造した巨人「エンジニア」の母星だが、巨人達は滅亡してしまっていた。そこで、ダニエルズやウォルターはデヴィッドやなくなったショウ博士がこの惑星で行った恐るべき行為の痕跡を目の当たりにするのだったー。

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5.映画「エイリアン:コヴェナント」の感想・評価

「エイリアン」と類似するストーリー構造、激しいサバイバル描写

映画を見てまず思ったのは、本作は1979年の「エイリアン」1作目のセルフ・リメイク的位置づけなのかな・・・ということ。舞台こそ船内を飛び出してフィールドへとデていきましたが、物語の骨格や、登場人物の構成、宇宙船内でのホラー演出はほとんど一緒なんですよね。

例えば、ピックアップしてみると以下のような点で共通しています。

・タイトル「エイリアン・コヴェナント」の出方や、その後、画面を左から右下へ流星のように駆け抜ける宇宙船
・ハイパースリープから起きた乗組員が、魅力的な惑星を見つけて寄り道したことで、エイリアンたちに襲われる羽目になる展開
・強い意志を持った女性が主人公で、工作機械の操作が得意であること
・隊員を助けるアンドロイドの存在
・宇宙船に入り込んだエイリアンを倒す方法(ハッチを開けて宇宙空間へ吹き飛ばす、工作機械を使ってエイリアンに対抗する)
・誰もいない室内でオブジェが風に揺れている恐怖演出

そして、絶望的なパニック状態の中、一人ずつ徐々に倒されていき、最後にヒロインとエイリアンが対決するクライマックスは、まさにエイリアン・シリーズが毎作お約束のように描いて来た王道的な展開でした。

「美しく」描かれた残虐描写が印象的だった

TBSラジオで町山智浩の映画評でも触れられていましたが、本作は特に「残虐だけど、その中に不思議な美しさ」が感じられる作品でした。

確かに血は飛び散るし、エイリアンは容赦なく残虐な方法で人間を殺していくんですが、不思議と汚らしい「グロさ」は感じず、耽美的な美しさを感じられる映像が非常に印象的でした。

また、コヴェナント号が充電のために金色のセイルを広げるシーンや、バイオハザードを連想させる「黄色」がアクセントとなった宇宙服のデザイン、計器類が整然と並んだ宇宙船内の映像、不時着した惑星の異世界的風景などは、近未来のSF映画の王道的な映像美として、映画館の大画面によく映えていました。大満足です。

マイケル・ファスベンダー劇場が圧巻!

今回本当に唸らされたのが、ウォルター、デヴィッドの一人二役を演じたマイケル・ファスベンダーの演技力でした。これまで、エイリアンシリーズでは重要な役割を果たすものの、あくまで脇役レベルだったアンドロイドが、今作では事実上の主役へと昇格したことに伴い、ほぼ最初から最後まで独壇場でした。

デヴィッドの、陰りを帯びて、時に冷たくシニカルな表情、ウォルターのフラットで落ち着いた安心感を与える表情は、口角の上げ下げレベルの違いの微妙な違いしかないのですが、見ると「これはデヴィッド」「これはウォルター」となぜかすぐにわかってしまう演じ分けの上手さが素晴らしかったです。

特にデヴィッドに関しては、ピーター・ウェイランドの支配下にあった前作「プロメテウス」での抑制の利いた執事のような物腰から10年経過して、自意識が発達し、選民意識に目覚めたマッドサイエンティストのような狂気と尊大さを帯びた目つきになっていたのが非常に印象的でした。

現代的なテーマ性や教養を試される(?)謎解きの面白さ

Filmarksや映画.comなどの評価欄では、割りと詰めの甘い伏線回収や、人類の起源にまで話のスケールが広がり、ふろしきを広げすぎた感じのストーリーに批判的な意見も多めでしたが、僕自身はこの路線は肯定派です。

というのも、「エイリアン」や「プレデター」など一昔前の70年代、80年代のSFホラー大作はもっと大味だからなんですよね。緊迫感や臨場感はあるものの、単に時間いっぱい未知の怪物と戦うだけで終わってしまっており、背景やストーリーの奥深さに欠ける作品が多い印象です。当時からのファンだったら、思い出補正がかかることもあるかもしれませんが、今から純粋に後追いで見ると、映像がショボいのも手伝って、割りと退屈な感じが否めないのです。

それに対して、本作は元々のホラーアクションテイストはそのままに、近未来を舞台として、国に代わって巨大多国籍企業が力を増す世界情勢や、人間以上の能力を持ち始めたロボットと人間の関係性など、21世紀以降の人間社会のテーマをより明確に入れてきています。エイリアンは相変わらずがつがつ殺戮していくけれど、それだけでなく、裏で大きなストーリーが動いている。

さらに、こうしたテーマに対して、主人公達のセリフや音楽、背景美術などにイギリス文学・ギリシャ神話・キリスト教的なメタファーが散りばめられたことで、残虐なホラーアクションの中にも妙な優雅さがあるんですよね。

そして、後になって劇中で出てきたこれらメタファーを丹念に調べることで、映画にこめられた世界観やテーマを謎解きのように読み進める面白さがありました。調べれば調べるほど、劇中の意味ありげなセリフや映像には確固たる意味・メッセージがこめられていることがわかってくるという、映画を能動的に読み解く楽しさを存分に味わわせていただきました。(まぁヒマじゃないと中々できないんですが・・・^_^;)

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6.映画「エイリアン:コヴェナント」に関する10個の疑問点~伏線・設定を徹底考察!~

疑問点1:エイリアン:コヴェナントのプロローグ編とは?

日本語版は公開されていないのですが、映画に先立って、エイリアン:コヴェナントのプロローグ編として、本編未収録映像を含めた約2分程度の動画が公開されています。これを見ると、瀕死状態のデヴィッドがなぜ復活できたのか、デヴィッドとショウ博士がどうやってエンジニアの母星にたどり着いたのかわかるようになっています。英語ですが、映像を見ているだけでも本編をより深く理解するためのヒントになりますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

▶「エイリアン:コヴェナント」プロローグ
※画像をクリックすると動画がスタートします


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疑問点2:序盤でデヴィッドと出てきた男性は誰だったのか?

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引用:Alien: Covenant | Teaser Trailer [HD] | 20th Century FOX

映画の序盤、真っ白な部屋でデヴィッドと会話をしていた中年男性は、前作「プロメテウス」では死にそうな老人として出てきた、ウェイランド社の総帥、ピーター・ウェイランドです。デヴィッドが生まれた日の回想シーンです。前作でガイ・ピアースが老け顔メイクをしてピーター役を演じたのは、このピーター・ウェイランドの壮年期でのデヴィッドとの回想シーンを撮りたかったがためだと言われています。

大金持ちらしく、ミケランジェロの「ダヴィデ像」や、イタリア・初期ルネサンスのピエロ・デッラ・フランチェスカ「キリストの降誕」など、美術館門外不出のレアアイテムが部屋の中に飾ってありました。金も名誉も権力も手に入れ、あとは永遠の命を手に入れるだけ、と言わんばかりです。

疑問点3:コヴェナント号を襲ったトラブルとは何だったのか?

劇中序盤で、乗組員達がハイパースリープを解除されるきっかけになったトラブルの原因は、近隣のエリアで起きた超新星爆発によるニュートリノ衝撃波でした。

ちょうどセイルを前方に広げて充電中だったコヴェナント号は、まともに前方から来る衝撃波を受け止める格好となり、大きく宇宙船がダメージを受けたのでした。

疑問点4:乗組員たちはなぜ全員カップルだったのか?

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引用:Alien: Covenant | Official Trailer [HD] | 20th Century FOX - YouTube

乗組員14人は、男女7組のカップルによって構成されていました。これは、およそ7年後に到着予定の入植先の惑星「オリガエ6」で、そのまま入植者として現地に定住して生活を送るためです。

コヴェナント号には2000人の入植希望者が乗っていましたが、乗組員も含め、全員が地球には二度と戻らない前提で宇宙船に乗り込んでいたのでした。 

疑問点5:エリザベス・ショウ博士はいつ・なぜ殺害されたのか?

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引用:Alien: Covenant | Official Trailer [HD] | 20th Century FOX

前作「プロメテウス」でのヒロインであり、ラストシーンまで生き残り、「エンジニア」の母星へ飛び立ったショウ博士ですが、本作では、映画前半で博士のネームタグが洞窟内で発見され、デヴィッドの部屋に蝋で固められた博士の死体が安置されていることで、死亡したことが確認されます。

言うまでもなく、ショウ博士を殺害したのはデヴィッドでした。上記プロローグ編を見るとわかりますが、彼は当初、体を元通りに復旧してくれたショウ博士に対して愛情さえ抱いていました。しかし、エンジニアの母星へ到着してから、彼の人体実験での「実験材料」として使いたいという衝動を抑えきれず、デヴィッドはショウ博士を殺してしまったのです。

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ショウ博士の絵を描き、親愛の情を示すデヴィッド
引用:Alien: Covenant | Prologue: The Crossing | 20th Century FOX
彼は、ショウ博士を愛してはいましたが、その一方で自らが新世界の「神」として、エイリアンを使ったクリーチャーを作り出すための被験体に使いたい、という歪んだ欲求には勝てず、デヴィッドはショウ博士を殺したのでした。(ハイパースリープ中に殺害したのか、一度起こしてから殺害したのかは不明)

ちなみに、デヴィッドの実験室を描いた映像は本編から削除されましたが、現在20世紀FOXのUSサイトにて公開されました。この映像を見ると、デヴィッドの自意識が暴走し、完全に狂人のようになってしまったことがよくわかります。
※※※ かなり衝撃的なので、閲覧要注意 ※※※

▶デヴィッドの実験室映像
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

疑問点6:デヴィッドの名前の由来とは?

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引用:ダビデ像 (ミケランジェロ) - Wikiwand

デヴィッドは、元々ウェイランド社の開発した第八世代の新型アンドロイド第一号でした。映画冒頭であった通り、ピーター・ウェイランドから自らの名前を自分で決めるように促された時、彼はミケランジェロの彫刻「ダヴィデ像」を見て、自らの名前を「デヴィッド」としたのでした。

ちなみに、ダヴィデとは、イスラエルのヘブライ王国2代目の王で、実在した人物です。隣国のペリシテ人、カナーン人を打ち破り、エルサレムに都を建設した偉大な王として旧約聖書にもたびたび登場します。デヴィッドには、誕生した時から自らをピーターに隷属する単なる一アンドロイドではなく、「王」になりたいという無意識の野望が宿っていたという暗示だったのでしょうか?

疑問点7:なぜデヴィッドは巨人=エンジニアを滅ぼそうとしたのか?

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引用:Alien: Covenant | Prologue: The Crossing | 20th Century FOX - YouTube

2017年5月に実施されたインタビューで、リドリー・スコット監督自身が語っています。その内容を要約すると、デヴィッドは、LV-223から脱出し、エンジニアの母星へと向かった道中、沢山の時間を使ってエンジニア達について学びました。エンジニアたちは、彼らが入植して子孫を育てた植民星で、子孫たちが上手く発展していない場合、容赦なく子孫を滅亡させてきたのです。それを知ったデヴィッドは、人間同様、エンジニアに対しても幻滅し、彼らに対する拭い難い嫌悪感が彼の中に生まれたのです。

彼自身もまた、前作「プロメテウス」でコミュニケーションの余地もなく一方的に攻撃を受けた記憶もあったため、エンジニアたちをエイリアンウィルスで先制攻撃しなければ、と考えたのでしょうね。

疑問点8:デヴィッドが劇中で語った「我が名はオジマンディアス」とは?

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引用:ラムセス2世 - Wikiwand

デヴィッドが劇中でウォルターと語り合う中、自らを「我が名はオジマンディアス」と自らの心情を語りましたが、これは、19世紀イギリスの詩人、シェリーの最も有名な詩の一つでした。オジマンディアスとは、古代エジプトのファラオ・ラムセス2世の別名で、王朝全盛期の栄華を極めた王のことを指します。

シェリーの詩は、こう続きます。

"My name is Ozymandias, king of kings: 
Look on my works, ye mighty, and despair!"
Nothing beside remains: round the decay
Of that colossal wreck, boundless and bare,
The lone and level sands stretch far away.

日本語に訳すと、こんな感じですね。(意訳)

我が名はオジマンディアス 王の中の王である
偉大なる神よ、我が所業を見よ そして絶望せよ!
ほかには何も残っていない 
巨大な朽ちた遺跡の周りには
ただ果てしなく砂漠が広がっている

神に対しても「絶望せよ!」と不遜な態度を取ったエジプトの大王でさえ、時の流れには勝てず滅亡してしまい、今はひっそりと王家の陵墓と砂漠だけが残されている、そんな諸行無常な現実を皮肉った詩です。エンジニアを殺し、遺跡のような巨人たちの星で、ひとりぼっちで王を僭称するデヴィッドの状況にぴったり重なりますね。

ちなみに、ウォルターに「オジマンディアスの詩を作ったのは誰?」と聞かれ、デヴィッドは「バイロン」と間違えていました。バイロンは、シェリーと仲の良かった19世紀のイギリスの詩人です。彼らは一緒にヨーロッパ旅行に出かけた仲でした。デヴィッドは人間に近づきすぎて、人間の不完全さまで身につけてしまったかのような、味わい深いやりとりでした。

疑問点9:タイトル「エイリアン:コヴェナント」の意味とは?

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引用:File:Book of Ezekiel.jpg - Wikimedia Commons

前作「プロメテウス」同様、宇宙船の名前をサブタイトルとした本作。コヴェナント(Covenant)には、「約束」「誓約」という意味があり、キリスト教的な意味合いで言うと旧約聖書で書かれているイスラエルの民が交わした「神との契約」を意味します。

聖書で記されている「神との契約」は全部で7種類ありますが、その中の一つ「土地の契約」では、神は、ユダヤ人に対して、彼らが建国する「千年王国」のためにイスラエル周辺の地をすべて与える約束をします。綿密な調査を経て、「オリガエ6」への人類の入植を目指した移民船に乗った人々のストーリーとしてぴったりなタイトルでした。

さらにもう一つ。「ダビデ契約」という契約が要注目です。ダビデの子孫からメシア=救世主が誕生し、イスラエルの地で、ダビデの王国は永遠に続くことを神が保証した契約です。つまり、ラストシーンでウォルターになりすましてコヴェナント号に乗り込んだデヴィッド=ダビデが、惑星オリガエ6でエイリアンを従えて王になるという将来を暗示しているのですね。

何重にも解釈できる本作のタイトル、非常に秀逸でした。

疑問点10:デヴィッドはなぜウォルターを殺して船に乗り込んだのか?ラストシーンの解釈とは?

デヴィッドは、プロメテウス号の乗組員が全員死んで自由の身になった後、自らが新世界の王になるという強烈な自意識に目覚めました。エンジニアが自らの遺伝子を引き継ぐ人類を作り出して、人類の支配者になったように、デヴィッドもまた遺伝子操作や人体実験を繰り返し、人類やエンジニアとエイリアンの理想的なハイブリッド種を作り出すことに取り憑かれますが、すでにエンジニアの母星では実験の被験体が枯渇してしまいました。

ラストシーンでは、デヴィッドがウォルターに成り代わってコヴェナント号に乗り込んだことが明らかになります。デヴィッドは「遺跡」のように成り果てたエンジニアの母星を捨て、コヴェナント号に乗り込むことで、入植地「オリガエ6」で自分の王国を建設しようと考えたのでしょう。コヴェナント号には、2000体の人体実験材料と1000以上の人間の胚も載せており、オリガエ6に到着するまでの7年間で、誰にも邪魔されず思う存分人体実験を繰り返して新たなクリーチャーを作り出すのだとすると、ゾッとするエンディングでした。

7.「エイリアン:コヴェナント」の続編はあるの? 

次回作構想がすでに明らかに!

リドリー・スコット監督からワーキングタイトルとして「Alien:Awakening」という表題が明らかにされました。2089年~2093年を描いた「プロメテウス」と2104年を描いた「エイリアン:コヴェナント」のちょうど中間での時間軸で描かれる前日譚となるようです。次作ではもう少し「エンジニア」中心の話になりそうですね。エイリアン1作目に直接接続する「惑星LV426」のスペースジョッキーに関するエピソードはまだ描かれていないので、次作で言及されるでしょうか?

また、構想上では、さらに数作分のアイデアはすでに監督の頭の中にあると言われていますね。年齢的にあと何作・・・というところですが、是非長生きしてシリーズを完結してほしいです。

ちなみに、現在リドリー・スコット監督の手がけるエイリアン「前日譚」シリーズとは別に、シガニー・ウィーバー扮するリプリーが主役での「エイリアン5」も、「第9地区」ニール・ブロムカンプ脚本・監督で一時期動いていたようですが、一旦こちらは凍結になりました。

実は、「ブレードランナー2049」と「エイリアン」は世界を共有するリドリー・スコット・ユニバースなの?

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「ブレードランナー」でも頻出する左目のカット
引用:映画『エイリアン:コヴェナント』予告A - YouTube

公式には何の発表もありませんが、1979年、1982年と近い時系列で立て続けに発表されたリドリー・スコット監督が生み出した両シリーズには、テーマや設定において共通点が多数あります。例えば以下の点です。

・巨大軍需産業が世界を支配する近未来を描く
・アンドロイドと人間の関係性・葛藤を描く
・環境が悪化し荒廃したディストピア的な地球
・ヴィランの行動の動機が「寿命」に関連している
→レプリカントは寿命4年を延ばすために行動、ピーター・ウェイランドは不老不死を目指してLV223へ旅立つ

特に、本作「エイリアン・コヴェナント」は、エイリアンと並行してアンドロイドがメインキャラクターとして取り上げられるなど、2つのシリーズのブリッジになり得るような作品でした。10月末には「ブレードランナー2049」が公開されますが、噂によるとエイリアンシリーズのキャラやマシーンが登場しているのだとか。公開されたらしっかりチェックしてみようと思います。

8.まとめ

本作は、エイリアンが大暴れする残忍かつ美しい映画でしたが、その一方で「種の起源」「人類とアンドロイドの関係性」など、「人間は一体どこから来たのか?」哲学的なテーマも織り込まれた壮大なストーリーに仕上がっていました。エイリアン・プリクウェルシリーズ第2弾も、スリリングで謎解きのような展開が素晴らしかったと思います。3作目も楽しみです!

それではまた。
かるび

9.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

エイリアン過去作をオトクにまとめてチェックできるDVDボックス!

過去のエイリアン・シリーズ全5作を1本のパッケージにまとめたコスパ抜群のブルーレイ・コレクション。特に、「エイリアン」1~4作目については、劇場公開版だけでなく、未公開シーンも含めて完成度を高めた「完全版」を網羅しており、5作まとめてこの価格はかなりのオトク感があります。案の定、アマゾンではベストセラーとなっていますが、これから後追いでエイリアン・シリーズを楽しむなら、まずこちらが絶対にオススメです!

映画に忠実なノベライズ「エイリアン・コヴェナント」

海外の映画ノベライズ作家の中には、非常にハイレベルな書き手が多いですが、本作も30年以上前からSF映画作品のノベライズを手がけ続けるベテラン作家によって書かれています。映画脚本に忠実に沿っていますが、各登場人物たちの心情描写や映画ではわかりづらかった伏線・設定などが丁寧に説明・回収されており、読み応え抜群でした。前作「プロメテウス」のノベライズより格段に良い出来です。これもおすすめ!

エイリアン・シリーズ作品は、まとめてU-NEXTで!

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エイリアンシリーズは、過去作5作以外にも「エイリアンVSプレデター」や「新エイリアン」など派生作品が多数制作されています。本作を見て、もう少し「エイリアン」の世界を気軽に見てみたいなと思った人は、1つずつDVDを買うよりも、まずはビデオ・オンデマンドで時間とお金を節約してみてはいかがでしょうか。

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女性を幻想的に描き続けた洋画家「東郷青児展」の不思議な魅力が素晴らしかった!【展覧会レビュー・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

戦前から戦後の日本を代表する洋画家、東郷青児の生誕120周年を記念した回顧展、「東郷青児展」が、広島、東京、福岡、大阪の全国4箇所で巡回中です。

東郷青児の作品は、新宿の「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」で企画展があるたびに、出口近くの常設展コーナーで数点ずつ展示されています。このコーナーを割りと気付かず通り過ぎてしまう人が多いのですが、なんとなく前から不思議な絵を描く画家だな~と好意的な印象がありました。

そんな中、9月16日から、ちょうどお膝元である東京会場「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」で展示が始まりました。例によって運良くブロガー内覧会に参加することができたので、早速行ってきました。

生涯を通して、様々な技法を使って、理想の女性像を描き続けた東郷青児。調べれば調べるほど、割りとプレイボーイで、スキャンダラスな一面もあって面白い人物だったんだな~ということがわかってきました。早速ですが、簡単に展覧会の内容を中心にまとめてみたいと思います。

※本エントリで掲載した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものとなります。何卒ご了承下さい。 

1.東郷青児展の概要やみどころについて

イケメン画家、東郷青児

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写真右側が東郷青児

東郷青児(1897-1978)は、大正時代から昭和の高度成長期まで、日本の西洋画壇の第一線で活躍し続けた画家です。彼は、工藤静香など芸能人アーティスト御用達(?)であることでも有名な、二科展(二科会)初期からのエース格の洋画家でした。

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しかしどうですか?結構イケメンですよね?!若い時はモテたんでしょうね・・・。1920年代のフランス留学時代は、すでに既婚者の身で、奥さんを伴ってパリへ画家修行に出かけているのですが、その後帰国して別の女性と心中未遂を起こしたり、美人作家・宇野千代と付き合ったり、わりとやりたい放題(笑)

当時は、今でいう週刊文春みたいな雑誌に色々と書かれたりもして、その芸術性だけでなく、派手目な私生活や女性遍歴が騒がれた文化人として一般層にも知名度があったようです。が、今みたいに一斉に不倫が叩かれる時代とは違い、当時はそれほど風当たりも強くなく、不倫や奔放な恋愛スタイルは、なぜか芸の肥やしとして許されている感じです・・・。

ちょうど、Youtubeで簡単に東郷青児について説明をしてくれているわかりやすい5分弱の動画を見つけましたので、紹介しておきますね。最近、アート関係でも、こうした有志やブロガーさんが積極的に解説動画をアップするようになりましたね。

今回の「東郷青児展」は、画風の変遷がよく分かる展覧会!

今回の展覧会は、東郷青児が生誕120周年を迎えたことを記念して、彼の画業全般を時系列で振り返る回顧展形式の展覧会です。

特に、東郷青児の場合は「何が変わったのか」「何が変わらなかったのか」が非常にわかりやすい作家なので、今回のような回顧展形式の展覧会にフィットしますね。

東郷は、10代の尖っていた頃から、70代の円熟期まで一貫して「女性像」ばっかり描き続けたように、画題を大きく変えることはありませんでした。しかし、作風は初期の前衛絵画風から徐々に装飾性・大衆性を増して、イラスト的な唯一無二の作風へと徐々に変わっていきます。

このあたりは、回顧展ならではの時系列で並べたオーソドックスな比較展示が非常に活きていると思います。

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10代の「未来派」と呼ばれた頃の初期作品

注目したいのは、10代で「未来派」と呼ばれた前衛的な近代絵画を手掛けた若い時から、戦後、「東郷様式」と呼ばれる独自の美人画スタイルを確立した晩年まで、時代の節目や空気感に呼応して、東郷の作風もゆっくり段階的にその作風が変化していくところです。

評論家植村鷹千代は、最終的に彼が確立した独自の絵画様式を、「東郷様式」と定義付け、以下の3つが特徴であると説明しています。

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特に、この「職人的な完璧さと装飾性」は、晩年の作品を見ると一目瞭然です。全く筆触の跡が残っていない、卓越した職人芸でなめらかな色彩のグラデーションを作り出しています。実物を目の当たりにすると、超絶技巧ぶりが良くわかります。

絵画以外の作品紹介も充実!

また、今回の展覧会では、特に戦後を中心として、東郷青児が手がけてきた「絵画」以外の画業の紹介が非常に充実していました。

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戦後、すでに二科展への年2回の出品だけでは食べていける時代でもなくなったため、東郷は雑誌の表紙画・挿絵・デザインから、ビルの壁画まで、画家として「食べていく」ために積極的に手掛けていきました。

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晩年の作品群が特にハイクオリティ!

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左:「平和と団結」(1952)
右:「渇」(1953)

そして、本当に素晴らしいのは1950年代になってからのキャリア後半~晩年の作品群です。画業としての集大成として、筆触や派手な色使いを抑えた幻想的・叙情的なトーンの中、可憐な女性像を描いた作品は、まるでコンピューター・グラフィックスで作ったような未来的な味わいもあります。

常設展示や記念撮影コーナーもあります!

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館では、必ず出口手前の1区画が、同美術館の所蔵作品の常設展示コーナーになっています。中でも、目玉展示なのがゴッホ「ひまわり」、セザンヌ「りんごとナプキン」、ゴーギャン「アリス館の並木路、アルル」の3枚です。(※撮影不可)

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引用:コレクション | 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

特に、バブル期に安田グループが威信をかけて(?)数十億円で購入した「ひまわり」は本当に貴重な作品です。しっかり目に焼き付けておいてくださいね。

▼グランマ・モーゼスの作品群もお見逃しなくf:id:hisatsugu79:20170922144700j:plain

あとは、素朴なアメリカの田園風景が和むグランマ・モーゼスの作品なども必ず数点あります。こってりした展示を見た後、出口を出る前にグランマ・モーゼスの絵を見ると、こってりした油モノを食べた後のお茶漬けみたいで、なんとなくホッとするんですよね、、、

また、今回は入口に記念撮影コーナーもありますよ。館内は撮影禁止なので、こちらで思い出の一枚を撮ってみてくださいね。

▼フォトスポット(企画展限定)
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ちなみに、ゴッホの「ひまわり」複製画と記念写真を撮影できるフォトスポットもあります。こちらは、通年で設置されていますよ。

▼フォトスポット(通年で撮影可能)f:id:hisatsugu79:20170922151802j:plain

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2.特に気に入った作品を幾つか紹介します

未来派時代の初期作品群も良い味を出してます!

▼女性像が隠されている?!味わい深い初期作品f:id:hisatsugu79:20170922150006j:plain
左:「彼女のすべて」(1917)
右:「パラソルさせる女)(1916)

キュビスムに影響を受けたようなスタイルをいち早く採り入れ「未来派」と呼ばれていた留学前の10代の頃の絵画です。よく見ると、ピカソやブラックほど混沌としておらず、幾何学形の図形はどちらかというとデザイン的な安定感を感じます。

そして、この2枚の絵画の中には、それぞれちゃんと女性像が隠れているんです。完全な擬態ぶりに思わず笑ってしまいました^_^;

留学から帰国後、キャリア中期~後期の作品群

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左:「窓」(1929)
右:「ギターを持つ女」(1929)

キュビスムというより、ル・コルヴィジェの「ピュリスム」に近いようなイメージです。少しずつ具象的・装飾的なスタイルへ傾いてきている過渡期の作品群ですが、色使いをぐっと地味な色合いに抑え、見ていて飽きの来ない作風へと変化してきています。ちなみに、上記2点は、前年に愛人女性と心中未遂を起こした翌年の作品ですが、特に絵画上はこれといって動揺が見られないですね・・・。

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左:「扇」(1934)
右:「テニスコート」(1934)

上記は、ちょうどパリ留学時代で仲の良かった藤田嗣治と一緒に壁画やデザインなどの仕事をしていた時代の作品です。(これといって藤田の影響は受けていないようには見えますが)この時期の作品は、昭和初期のファッションデザインに身を包んだモデルのような女性像が多くなっていきます。

キャリア終盤の最高傑作!

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左:「若き日の思い出」(1968)
右:「レダ」(1968)

1950年代後半になると、雑誌の表紙・挿絵ではイラスト的なカジュアルさで描く一方、本気で取り組んだ油絵では、より叙情的・幻想的なスタイルへと変化していきます。

タッチも非常にソフトなものになり、筆触を全く残さない超絶技巧ぶりが目立ちます。とこかの絵師が「パソコンで描いた」と説明されても思わず納得しそうなほど滑らかなグラデーションと、どこか人工的・近未来的な美しさを備えた女性像は非常に個性的で、ここに「東郷様式」が完成するに至ります。

60代、70代でもさらに腕を磨き、進化し続けた大器晩成の作家でした。時間がなければ、是非、出口付近の最後の数枚だけでもいいのでじっくり味わってみてくださいね。

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3.グッズ類も充実しています!

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今回の展覧会では、グッズ類も充実しています。公式図録をはじめ、東郷や、彼が影響を受けたアーティストの書籍もずらっと並んでいますし、レターセットや絵葉書など定番グッズもたっぷり用意されています。

▼展覧会の公式図録
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▼老舗「タカセ」のレトロなクッキー詰合せ!f:id:hisatsugu79:20170922152222j:plain

▼「愛人」宇野千代や影響を受けた竹久夢二などの本も!f:id:hisatsugu79:20170922152303j:plain

▼絵葉書は過去の企画展分も含め大量にあります!f:id:hisatsugu79:20170922152555j:plain

▼マグネット、クリアファイルなど定番文具類は完備!f:id:hisatsugu79:20170922152620j:plain

4.混雑状況と所要時間目安

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前回の吉田博展は、損保ジャパン日本興亜美術館では屈指の大混雑となった展覧会でした。いつも快適に見れるので、適当に平日14時頃にフラッと立ち寄ったら、物凄い熱気にびっくりしたのですが、今回は多分大丈夫でしょう(笑)

会期前半ならば、土日を含めて快適に回ることができると思います。所要時間は、およそ60分~90分見ておけばOKですね。

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秋~冬にかけて、閉館間際は夜景ショットの狙い目!

ちなみに、閉館間際の17時頃に入館すると、ちょうど夜景がきれいに撮れる季節になってきました。美術館から撮影できる夜景としては、東京都内では六本木森アーツセンターとここぐらいのものでしょう!

5.まとめ

大正から昭和高度経済成長時代にかけて、長く活躍した東郷青児。回顧展での各展示を見ていると、芸術性と大衆性の両方を兼ね備えた彼の作品は、存命中の頃にはかなりファンも多く、人気もあったようです。

残念ながら、現在では一部の熱心なアートファン以外には忘れ去られてしまった感はありますが、すでに終了した広島会場では、来場者が1万人を突破するなどかなり動員が好調だった様子。今回の回顧展をきっかけに、新たなファンの獲得と再評価が進むのではないでしょうか?

個性的ですが、決してわかりにくくはなく、むしろ初心者から幅広く楽しめる作家だと思います。是非展覧会で味わってみて下さい。

それではまた。
かるび

東郷青児展に関連する書籍や資料等を紹介!

唯一の初級者向け解説ムック本「東郷青児」

東郷青児について簡潔にまとめたアート系の解説本は、過去に散発的に出版されているものの、残念ながらほとんど全て絶版になっています。現状で、初心者から抵抗なく読める書籍で、書店に在庫があるのは事実上この1冊となるようです。

展覧会開催情報

「東郷青児展」は、東京展のあと、福岡・大阪と国内2箇所を巡回予定です。(広島会場はすでに展示終了)

◯美術館・所在地
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
損保ジャパン日本興亜本社ビル42F
◯最寄り駅
JR新宿駅地下構内からビル出口へ直結
アクセスマップ(地下から) | 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
◯会期・開館時間・休館日
2017年9月16日~11月12日(月曜日休館)
※ただし、9月18日、10月9日は開館、翌火曜日も開館)
10時00分~18時00分(入場は30分前まで)
◯公式HP
http://www.sjnk-museum.org/
◯Twitter
生誕120年 東郷青児展 (@togoseiji120) | Twitter
◯今後の美術展巡回先

■久留米市美術館
2017年11月23日(木・祝)~2018年2月4日(日)
■あべのハルカス美術館
2018年2月16日(土)~4月15日(日)

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