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【ネタバレ有】「ファンタスティック・ビースト」の感想とあらすじ・伏線を徹底解説!/大当たりの王道ファンタジー作品!【ファンタビ】

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【2017年4月20日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。f:id:hisatsugu79:20161124001340j:plain

最終的に約80億円の興収を記録して終わった話題作「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」。ハリー・ポッターの新シリーズは、初めて原作者のJ・K・ローリングが原作小説を書く前に映画化された作品となりました。

結果としては、予想外の良い出来に、大満足でした!以下、映画を見た感想やあらすじ、解説を書いてみたいと思います。
後半パートでは、ネタバレをかなりの部分で含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

映画「ファンタスティックビースト」シリーズは、すでに全5部作での製作が発表されています。その全てでメガホンを取るのは、ハリー・ポッターの後半4部作で監督を務めたデイヴィッド・イェーツです。

また、今回は脚本段階から、ハリー・ポッターシリーズの原作者であるJ・K・ローリングががっつり参加しているため、設定や伏線、世界観が非常にクリアで行き届いていました。

<予告動画を見てみる!>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】デイヴィッド・イェーツ
【原作】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」

2.主要登場人物とキャスト

ハリー・ポッターシリーズらしく、一般人(「ノーマジ」)ジェイコブ以外の主要登場人物は全て魔法界のメンバーです。

ニュート・スキャマンダー
(エディ・レッドメイン)
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イギリスから渡ってきた世界的な魔法動物学者。魔法動物の保護と調査のため世界中を飛び回る中で、ニューヨークへ渡ってきた。

ポーペンティナ・ゴールドスタイン
(キャサリン・ウォーターストン)
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通称ティナ。本作のヒロイン役。物語中盤まで表情も固く、マジメ一徹で保守的な古き良きアメリカの才女というイメージ。

クイニー・ゴールドスタイン
(アリソン・スドル)
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ティナの妹。読心術を心得ており、人の心を自在に読める。地味な姉と対照的にセクシーな衣装で外向的だが、非常に姉思いのよくできた妹でもある。料理も上手。

ジェイコブ・コワルスキー
(ダン・フォグラー)
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アメリカン・ドリームを目指して移民として渡ってきたが、さえない缶詰工場の労働者として働いていた。銀行から資金調達してパン屋を開こうとするが、そこでニュートと出会い、数奇な運命に巻き込まれる。魔法が使えない一般人「ノーマジ」。

パージバル・グレイブス
(コリン・ファレル)
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アメリカ合衆国魔法議会、魔法保安局長。裏の顔も持つ、そこはかとない悪さを醸し出すコリン・ファレルの演技が非常に良かった。

3.映画の見どころ(ネタバレ無し)

3-1.「ビースト」たちの出来がいい!かわいい魔法動物たち!

今作は、魔法動物学者である主人公のニュート・スキャマンダーが、カバンから逃げ出してしまった魔法動物たちを街中で追いかけ回し、また時には動物と協力して危機を脱出し、敵と戦い、謎をとき、問題を解決していきます。そして、その独創的なビーストたちが意外なほどに動きや形がコミカルでかわいいのです。それも、アニメみたいなデフォルメされたかわいさではなく、現実世界に普通に生息していそうなリアルな造形で、なおかつかわいいという絶妙のデザインでした。作り込みに脱帽です。

3-2.アクションシーンでのVFXの美しさ

IMAXや4DXシアターに対応し、アクションシーン全開の今作ですが、最新の3DCGやVFXを駆使して非常にリアルにハリー・ポッターの幻想的な世界観がニューヨークの町中で表現されていました。また、VFXで生み出された数々の魔法動物たちの自然なかわいらしさは要注目です!さすが、アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされただけあります!

3-3.「狂騒の20年代」1920年代のアメリカを描いた時代背景にも要注目

今回の舞台は1926年のニューヨーク。豊かな時代ではあったが、貧困や差別なども豊かさのすぐ側に同居していた「狂騒の20年代」と呼ばれた時代でした。その世相を反映した街並みや人々の服装、考え方など、非常に詳細に時代考証がなされていました。当時まだ飛行機がないため、船着き場に入国審査・税関があったり、走っている車がクラシックだったり、禁酒法下のアングラな居酒屋が独特の妖しさを放っていたりと、見どころは尽きません。 

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4.「ファンタスティックビースト」のラスト結末までの詳細なあらすじ(※ネタバレ注意)

1926年、闇の魔法使いグリンデルバルドがヨーロッパで猛威を振るっていた。魔法世界は、次にグリンデルバルドがどう出るか戦々恐々とする毎日だった。

そんな中、魔法動物学者、ニュート・スキャマンダーが船でニューヨークへと渡ってくるところからストーリーが始まる。ニュートのスーツケースの中には彼が世界中で保護した魔法動物たちで一杯。税関の手荷物検査で見つかりそうになるが、間一髪通り抜けてニューヨークの町中へ。

一方、ニューヨークで起きている一連の不思議な事件の調査で、グレイプスは現場検証をしていた。見知らぬ得体の知らない何かが、街を破壊した痕跡や被害状況を調査していたのだ。

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ニュートが通りを歩いていると、新セーレム慈善協会の指導者、メアリー・ルー・ベアボーンが魔法使いの脅威と撲滅について熱心にスピーチをしていた。彼女は、運動をするかたわら、孤児たちを施設で庇護・養育していた。彼女の子供であるモデスティ・ベアボーンや、クリーデンス・ベアボーンらは、ビラ配りなどメアリー・ルーの教えを広める手助けをしていた。

メアリー・ルーはニュートを見かけると、壇上から何かを話しかけたが、その時ニュートの開きかけのスーツケースから、ニフラーという魔法動物が逃げ出した事に気づいた。

ニフラーは光るものや、金目の物を集めるのが大好き。銀行の中へ逃げたニフラーを追うニュート。銀行内では、パン屋を開くために融資の申込みに来たジェイコブ・コワルスキーがいた。ジェイコブの隣に座り、ニフラーの様子を伺うニュート。ニュートはニフラーを追うのに夢中になるあまり、魔法動物オカミーの卵を椅子に置き忘れてしまう。

ジェイコブは、スーツの中から持参した手作りのパンを取り出して必死にアピールするが、結局融資を受けられず銀行を後にしようとする。引き続きニフラーを探していたニュートにオカミーの卵を返そうとしたジェイコブ。

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「ノーマジ」に魔法動物を見られてしまったニュートは、焦ってジェイコブを魔法で転送して、銀行の金庫内に逃げ込んだニフラーを一緒に追うことになる。

まもなく銀行の警備員がやってきたので、さらに魔法で彼らを固めて、ジェイコブに「オブリビエイト」の魔法をかけて一連の魔法や魔法動物を見ていたジェイコブの記憶を消そうとする。しかし、ジェイコブはニュートのスキを突いて、カバンでニュートを殴って逃げてしまった。

それを見ていたのが、元闇祓いで、アメリカ合衆国魔法議会で、魔法の杖認可局の職員を務めていたティナ・ゴールドスタイン。ティナは、一般人「ノーマジ」に魔法を見せた魔法機密保持法「3条A」に違反したニュートを捕まえて、アメリカ合衆国魔法議会(以下マクーザ)へ連れて行く。しかし、マクーザ議長のセラフィーナ・ピッカリーはすでに魔法の杖認可局を解任されたティナが余計なことをすることに気分がよくない。グレイブスが、ニュートのスーツケースを開けてみると、それはパンが一杯入ったジェイコブのスーツケースだった。最後にジェイコブに間違えてニュートのスーツケースを持って行かれてしまったのだ。

代わりにニュートのスーツケースを持って帰ったジェイコブは、中に何が入っているかも知らず、自宅でスーツケースを開け、中に入っていた幻獣を外に逃がしてしまう。

また、マリー・ルーは子供二人を伴い、ヘンリー・ショーが社長を務める新聞社へ、自らの魔法撲滅運動をアピールしにいった。社長やその息子(上院議員)相手にされない。新聞社からの帰宅途中、クリーデンスはグレイブスと密かに接触し、グレイブスから「力」を持つ子供を探し出せ、そうすれば魔法使いにしてやるとささやかれた。

一方、魔法動物に逃げられたジェイコブの家はマートラップ(魔法動物)に半壊状態に。ニュートとティナはジェイコブの家を修復し、マートラップを回収するが、より安全な妹クイニー・ゴールドスタインと共同生活している家に。ジェイコブも連れて退避する。

その晩、クイニーの手料理を楽しんだジェイコブとニュートだったが、その晩、二人は部屋を抜け出し、残りの逃げ出した魔法動物を連れ戻しに行った。ニュートとジェイコブはスーツケースの中にあるニュートの小屋に行き、ジェイコブに、ニュートが保護している様々な魔法動物を紹介した。中でも、フランクと名付けた魔法動物サンダーバードを、今回アリゾナの大自然に返すため、アメリカに渡ってきたと話すニュート。街に出て、ニフラーと魔法動物エランペントを苦心の末回収した二人だった。

ニュートの小屋で、不穏な泡状の膜に覆われた黒いもやのような浮遊体をみつけるジェイコブ。取り憑かれないよう、ジェイコブに下がっているように注意するニュート。これは、3ヶ月前にニュートがスーダンで捕まえた、オブスキュラスという、小さな子供にとりつき、子供が内側へ抑えつけた魔法の力を捕食して生きる生命体/霊体であり、魔女狩りを恐れ、魔法使いが魔法の力を抑えなければならない何百年前では珍しいことではなかった。取り憑かれた子供はオブスキュリアルと呼び、10歳まで生きられないことが多いという。

その晩、新聞社のショー上院議員の大統領選の大会が開かれていたが、そこで見知らぬ巨大な力により、会場がめちゃくちゃに壊され、ショー上院議員はそこで死んでしまう。

これを重く見たメクーザのメンバーは、事件の原因をニュートが魔法動物と一緒にトランクの中から逃した、暴走したオブスキュラスが仕業であると断定。ニュートとティナを逮捕してしまう。グレイブスによる別室での取り調べで、自分が捕まえて持っていたオブスキュラスは人間に取り付いたことがない無害な個体で、事件とは無関係であると主張するも、クレイブスは、ニュートの言い分を却下し、ニュートとティナに死刑判決を出す。

死刑執行寸前、ニュートは隠し持っていた魔法動物ボウトラックルのピケットなど魔法動物を使い、手錠の鍵を解除し、ティナと逃げ出す。その途中でクイニーとジェイコブと合流した。

一方、繰り返し来る日も来る日も母親のマリー・ルーから虐待をされていたクリーデンス。その日、クリーデンスが杖で叩かれそうになった時、オブスキュラスが現れて、あっという間にマリー・ルーは殺されてしまう。マリーの子供、クリーデンスとモデスティは家から逃げ出した。

ニュート達は、彼らの無実を証明するためにも、逃げた残りの魔法動物の手がかりを得ようと、ブラインド・ピッグというかくれ酒場へゴブリンの事情通、ナーラックを訪ねます。ナーラックは情報提供の見返りに、ニュートの所有する魔法動物、ボウトラックルを要求する。しぶしボウトラックルを渡し、ナーラックは「メーシー」百貨店に残りの1匹がいると教えるも、メクーザにも通報していたのだった。

急いで酒場を離れ、メーシー百貨店へ向かう4人。そこで魔法動物オッカミーのドゥーガルを見つけて、その場でゴキブリを餌に、ティーポットにオカミーをなんとか閉じ込めることに成功したのだった。

一方、グレイブスはクリーデンスと合流し、オブスキュラスに取り憑かれているであろうモデスティを見つけ出す。グレイブスは、クリーデンスが魔法一族の息子だが、魔法を使えない体質であることを伝え、モデスティを確保できそうになったため、用無しになったクリデンスを見捨ててしまう。

見捨てられたクリーデンスは裏切られた悲しみと怒りのあまり、オブスキュラスになってとうとう暴走しまう。モデスティではなく、クリーデンスこそが宿主=オブスキュリアルなのだった。青年まで体内でオブスキュラスを抑えつけていたクリーデンスが開放したオブスキュラスは、非常に強力な個体となって、ニューヨークの街中を荒れ狂うように破壊していく。

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オブスキュラスになったクリーデンスを追うニュート達とグレイブス。やがて、クリーデンスは地下鉄のホームへ入り込み、そこでニュートはクリーデンスと対話を試みる。地上では、メクーザの魔法使いたちが現場近くに結界を張っていた。

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ニュートとティナがクリーデンスと対話している時、再びグレイブスがやってきて、クリデンスの心を乱す。再びオブスキュラスになって荒れ狂うクリーデンス。

そこへ、メクーザの魔法使い達がやってきて、クリーデンスを殺してしまう。オブスキュラスを開放し、人間界を破壊したいと願っていたグレイブスは、失望と怒りのあまり、メクーザから離反する。その場でグレイブスと魔法使いたちの間で戦いになるも、グレイブスの正体を見破ったニュートがグレイブスを拘束し、本来の姿を暴きだした。

捕まったグレイブスは、姿を徐々に変え、正体を現していく。なんとグレイブスは、グリンデルバルドだったのだ。グレイブスは拘束され、ただちにメクーザに収監された。

多数の「ノーマジ」ニューヨーク市民に魔法を見られてしまったため、街全体に「オブリビエイト」の魔法をかける必要があったが、それは魔法使いたちの力だけでは到底無理だった。そこで、代わりにニュートが連れてきたサンダーバードのフランクに、ニュートが開発した記憶を失わさせる青いポーションを街全体へ雨と一緒に降らせることで解決した。

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そして、ノーマジは全員記憶を消さなければならないが、その例外はない。ピッカリーに念を押され、ジェイコブも涙ながらにニュート達と別れを告げたのだった。

それから少したち、ジェイコブは、前職の缶詰工場への勤務に向かう灰色の日々を送っていた。不機嫌そうに通勤するジェイコブに、唐突にぶつかってくるニュート。ジェイコブが態勢を立て直し、スーツケースが妙に重いのでその場で開けてみると、中にはたくさんのオカミーの銀のたまごが入っていた。中の手紙には、これを銀行からの融資の担保にして下さいと書かれていた。

いよいよニュートがニューヨークから旅立つ時が来た。見送りに来たティナに対して、本を書き終えたらまた戻ると言い残して旅立っていった。

ジェイコブが開いたパン屋は大繁盛。かすかに残る記憶で作った、魔法動物を思わせるような変わったパンが今日も好評だ。そこへ、クイニーが店へ入ってきた。微笑むクイニーを見て、何かを思い出したかにみえたジェイコブであった。

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5.映画の感想と評価(※ネタバレ有注意)

5-1.原作の縛りがないのびのびした脚本が良かった

ハリー・ポッターシリーズは、多数の原作ファンを満足させるため、どれも原作に忠実に制作する必要がありました。「小説」と「映画」という媒体の違いから、ストーリーや場面転換に理解しづらい不自然な点がどうしても残ります。個人的には、ハリーポッターシリーズの映画は、モヤモヤしたもどかしい感覚で見終わる事が多かったです。

ところが、今作は、世界観や設定はハリー・ポッターシリーズを受け継ぐものの、原作にしばられず、純粋に「映画」としての面白さに最適化されて制作されたので、非常に展開がスムーズで感情移入もしやすかったです。

5-2.物語はやっぱり王道の異世界ファンタジーだった

ハリー・ポッターシリーズは、(クライマックスとなる後半は除き)、基本は現実世界で冴えないハリーが、年に1回異世界である魔法世界へ旅立ち、そこで「選ばれし勇者」が主人公だけの特殊能力を使って悪者を倒し、そしてまた現実へと戻っていく冒険活劇でした。いわば「異世界転生」「学園モノ」でチート的な無双をするライトノベル的な異世界ファンタジーの王道パターンです。

本作も、イギリスから単身ニューヨークへ来たニュートが、地元のエース魔法使い達をさしおいて、彼だけが使える幻獣たちを駆使して謎を解き、敵を追い詰め、問題を解決します。そして、問題が解決したら女を置いてニューヨークを去って物語が完結する展開は、ハリー・ポッターシリーズ同様、「勇者がどこからか来て、活躍して、またどこかへ去る」という使い古された安定のパターン。

でも、それがわかっていても、決してしらけるわけじゃないのがこの映画の底力です。王道的なストーリー構成が決して嫌味ではなく「良い意味で」老若男女に幅広くアピールできたのは、原作に縛られずスピード感あふれるムダのない脚本と華やかな映像美、それらを支える詳細な設定や伏線がしっかりしていたからなのかなと思いました。

6.気になる設定や伏線の解説

6-1.グリンデルバルド演じる俳優はジョニー・デップだった

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物語終盤、グレイブスが捕縛され、ニュートに魔法をかけられると、グレイブスの本当の顔がグリンデルバルドであることがわかります。事前にトレイラーでは明かされていなかった、真の悪役、グリンデルバルドの俳優は、ジョニー・デップでした。

本家アメリカでは、「私生活で妻を殴打したDV疑惑」もあって、子供まで幅広く大将とする映画へのジョニー・デップの起用は賛否両論のようです。とはいえ、大物ベテラン俳優の起用は、今後、続編でのグリンデルバルドの主役級の活躍が見込まれたと言えそうです。

6-2.禁酒法とファンタスティック・ビーストの世界の関係

禁酒法下、押収した酒を廃棄する当局
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本作のスタートする1926年は、アメリカ全土で「禁酒法」が施行され、飲用目的でのアルコール飲料の製造が憲法で禁止されていました。1920年~1933年まで実に14年間も続いた天下の悪法と言われています。なぜなら、人々のお酒への欲望を断ち切ることはできず、却ってアル・カポネに代表されるマフィア等の非合法組織により、密造酒が作られ続けたからです。

今作終盤でニュート達がゴブリンの情報屋を頼って立ち寄るアンダーグラウンドな雰囲気漂う地下のバーも、「スピークイージー」と呼ばれた、禁酒法時代に流行した「隠れ酒屋」で、この時代ならではの文化・風俗をきちんと反映していました。

6-3.アメリカのメクーザ(MECUSA)はなぜこれほど厳しいのか?

本家イギリスと違い、魔法使いが自分たちに自信を持てず、一般人「ノーマジ」に魔法を見せ、婚姻や友人関係を持つことにまで厳しく制限をかけていたアメリカ合衆国魔法議会(MECUSA/メクーザ)。映画中で直接言及はされていませんが、これは、多数派である一般人「ノーマジ」からの根強い偏見により、魔法使いが抑圧されている当時の社会状況が関係していると思われます。実際、メリー・ルーが結成していた秘密結社的な「新セーレム慈善協会」では激しく魔法使い排斥運動を行っていましたね。

元々西欧世界では、中世からキリスト教の異端弾圧の一貫として「魔女狩り」が盛んに行われてきました。アメリカでも、1694年にマサチューセッツ州で起きたキリスト教の異端信者を対象に起こされた、妖術を使うとされた女性が有罪判決を受けた「セーレム魔女裁判」という有名な事件があります。「新セーレム慈善協会」のマリー・ルーは新聞の力を使って、魔法使いを弾圧し、現代に「魔女狩り」を蘇らせようとしました。

このように、一般人と魔法使いが一触即発の雰囲気にありました。力を持つとは言え、「ノーマジ」と比較すると圧倒的少数派である魔法使いには相当生きづらい世の中だったから、自衛のための厳しい罰則を設けざるをえなかったのでしょうね。

6-4.MECUSA(メクーザ)の本部のモデルは?

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(引用:Wikipediaより)

1913年に竣工され、1926年当時、世界で一番高いビルだった60階建てのウールワースビル。ここの内部がアメリカ合衆国魔法議会として使われていました。ティナがふくろうの石像に杖を振ると、秘密の入り口が現れ、メクーザへとつながっていましたね。しかし、約90年も前にこんな高層建築があったとは驚きです。

他にも、ファンタスティックビーストの映画内で使われたロケーションは、2016年のニューヨークにも結構残っています。ニューヨーク現地では、ファンタビの聖地巡礼ツアーが結構企画されていますね。

Fantastic New York City Tour, inspired by Fantastic Beasts and Where To Find Them and 1920’s New York City - On Location Tours : On Location Tours

6-5.オブスキュラスとは何なのか?

物語の核心でニューヨークの街をめちゃくちゃに破壊したオブスキュラス。オブスキュラスは、魔法動物界の寄生虫のような生命体です。何らかの理由で魔法の力を外部に開放せず、内側に抑圧する子供を宿主=オブスキュリアルとして、宿主の溜め込んだ生命力をエネルギー源として成長します。

成長したオブスキュラスはやがて宿主の精神力を食いつくし、最後は暴走してしまいます。だから宿主は10歳まで生きられないことが多いといいます。ただし、まれに精神力の強いクリーデンスのような宿主は青年まで生きられました。その分、負の感情が高まり、クリーデンスがオブスキュラスとなり暴走した時は、その力はニューヨーク中を破壊し尽くす大変なものとなりました。

ちなみに、ニュートがスーダンで捕まえたオブスキュラスは人に取り付いたことがないため、無害な存在でした。

6-6.なぜグレイブスはオブスキュラスを見つけ出したかったのか

グレイブスの表の顔は、アメリカ合衆国魔法議会の保安局長で、上級幹部として魔法世界を取り締まっていましたが、彼には内心忸怩たる想いがありました。「ノーマジ」と魔法世界を区別するため厳しく設けられた法律が、結果として魔法世界を抑圧するだけで、「ノーマジ」達をつけあがらせているだけなのではないかと。

映画では名言されていませんが、グレイブス=グリンデルバルドは魔法世界を復権させ、人間世界を破壊するための切り札として、密かにオブスキュラスを宿した子供を探し出そうとしていたとみなしていいでしょう。

6-7.クリーデンスは生き延びて、次作以降も活躍する?

ラストのクライマックスシーンで、暴走してオブスキュラスとなったクリーデンスは、魔法使い達に一斉攻撃されて粉々にされていました。その際、よく画面を見ていると、粉々になったその一部分が、フワフワと浮いていましたね。つまり、クリーデンスは弱くはなったけれど、死んではいなかったと解釈することができます。

現に、その一部が明らかにされている第2作のキャストで、早々とクリーデンス役を演じたエルザ・ミラーがクレジットされていることからも、回想シーンではなく、物語の核心部分に深く絡んでくることを示唆しているように思えますね。

6-8.ジェイコブはささやかなアメリカンドリームの象徴なのか?

ポーランド移民としてアメリカへ渡り、第一次世界大戦で兵役を務めた後、アメリカへ戻ったばかりのジェイコブは、ニュートたちと出会ったことで劇的に人生が変わりました。ラストでは、缶工場でのしがない労働者を卒業し、大繁盛する独創的なパン屋を開店して成功へのきっかけをつかみます。さらに、魔法使いの美女、クイニーとも再会するなど、物心両面で幸福な人生を掴んだように見えます。禁酒法下、人種差別や貧困をリアルに魔法世界と絡めて描く一方で、「狂騒の20年代」での古き良きアメリカン・ドリームもきっちり描かれていたのが印象的でした。

6-9.次作以降へ期待感を持たせるためのいくつかの伏線

今作で明らかにされず、本作内で回収されずに終わった主な伏線や謎は以下の通り。

▶ニュートの元彼女(リタ・レストレンジ)の存在
ダンブルドアとグリンデルバルドがどう物語に絡んでくるのか
▶次作以降でニュートとティナの関係はどうなるのか
▶クイニーとジェイコブの新たな出会いの行く末は?
▶かろうじて生き延びたであろうクリーデンスがどうなるのか

先日、プレス発表にて、第2作では「リタ・レストレンジ」が物語の核心部分にからみ、若き日のダンブルドアが登場するとの公式アナウンスがありました。(ダンブルドア役は現在調整中)。

特に、リタ・レストレンジは、ハリー・ポッターシリーズで闇の魔法使いの一族、ベラトリクス・レストレンジというキャラクターと恐らく親族のはず。ハリー・ポッターシリーズでは、ニュートはティナと結婚し、ふたりの間に子供が一人生まれることが確定しているので、恐らくリタとの絡みは難しいものになりそうな予感がします。

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年1月現在上映中映画の感想記事一覧

7.まとめ

原作から解放されて、映画向けの脚本をゼロから書き起こされた本作は、アクション、バトル、謎解き、恋愛、コメディ、ファンタジーなど、様々な要素が上手くミックスされた優れたエンターテインメント作品でした。おデブキャラの活躍やアメリカの世相を反映した舞台設定などのひねりもあり、中身の濃さとエンタメ要素が上手くミックすされた良作でした。

大人から子供まで安心して楽しめる高品質な作品でした。ロングランで上映されるはずなので、この年末年始に機会があったら行ってみて下さい!

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむためのガイドブックなど

8-1.「ファンタスティック・ビースト」初回版DVD/ブルーレイを見てみる!

満を持して4月19日にDVD・ブルーレイディスクが発売になりました。発売と共にさっそくDVD部門でAmazon売上No.1と、さすがに人気のビッグタイトルですね。特に、ブルーレイディスクでの特典映像が素晴らしく、映画内で登場した魔法動物達のメイキングや詳細秘話、たっぷりの未公開シーン集などが含まれていました!これはファンなら買いですね!なお、配信も同時に始まりました。Amazonビデオ単体での配信は、こちらから!

8-2.2017年5月8日まで期間限定で、Huluにて2週間無料で楽しめる!

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(引用:Hulu

実は、ファンタビの公開前、見たことがあるハリー・ポッターの作品は、妻に無理やり学生時代連れて行かれた第1作「ハリー・ポッターと賢者の石」だけでした。今回、新シリーズの発表を機に、どうせなら全作品抑えてから映画に出掛けたい!と思っていたのですが、今から全作品のブルーレイやDVDを揃えるのは、意外とお金がかかるんですよね・・・。そこで、なんか安く上げる方法はないかと思って探してみたところ、ありました!動画配信サービスHuluで、DVDの発売を記念して、ちょうど2017年5月8日まで期間限定でハリー・ポッターシリーズの過去作全8作品が見れるようになっています。
見てみると、最初の14日間は「無料期間中」とのこと。ということは、無料期間中に見てしまえばタダ!ということで、時間の取れるGW中などで、Huluでまとめて見てしまえば非常にお得です!

ファンタビシリーズも、2作目からはダンブルドアの過去やニュートの過去の彼女なども深くストーリーにからんできて、過去作のチェックが必須になってくると思いますこの機会に、お金を節約してHuluで見逃したハリー・ポッターシリーズを全部見てみるのもいいと思います。

<30秒のかんたん申込でHuluトライアル視聴するにはこちら>

2週間無料トライアル期間中に一気に「ハリー・ポッター・シリーズ」をチェック!

8-3.幻の動物とその生息地

「ファンタスティック・ビースト」シリーズの冒険譚が終わり、魔法動物学者として大成したニュートがホグワーツ魔法魔術学校の1年生のために書き下ろした教科書が、2年前に邦訳され、現在Amazonでベストセラーになっています。映画中に出てくるニフラーなどの様々なかわいい魔法動物は、この中に全部網羅されています!ファンタビ・シリーズを今後追いかける上でも、ファン必携のバイブルになりそうですね。

8-4.「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」魔法映画への旅

「ファンタビ」シリーズは、静山社を始め、いくつもの公式ガイドブックが出ていますが、この本がAmazonで一番売れています。製作秘話、フィルムスチールやアートワーク、そしてキャストやスタッフが語る舞台裏情報など、ファンが見たいメイキングでの全てがわかる決定版的書籍。

8-5.ファンタビ映画関連グッズ

先日、小学生の子供をファンタビに連れて行ったら、クリスマスシーズンということもあり、グッズをねだられました・・・。初日に見に行った時、映画館でたくさんグッズが置いてあったのですが、上映後少ししたら別の映画特集に変わってしまっていて、自宅でAmazonと楽天から選びました。

結局、ニフラーのぬいぐるみに落ち着いたのですが、すでに家の中が人形だらけで置く場所が・・・(笑)とはいえ、やっぱりグッズは通販ですね・・・。便利すぎ。

ということで、以下にAmazonと楽天の特集コーナーのリンクを張っておきますね。

Amazon・楽天の「ファンタビ」特設ページ 
Amazon「ファンタビ・ハリー・ポッター特設コーナー」
楽天「ファンタビ・ハリー・ポッター特設コーナー」

9.ファンスティック・ビーストの続編について!

上記で、未回収の伏線や設定について簡単にまとめましたが、2018年に公開される続編について、現時点でわかっている情報を別エントリにまとめてみました。もしよろしければ、こちらもご覧ください。(※かなりのネタバレを含みます)


【ネタバレ有】「美女と野獣(2017実写)」感想・考察とあらすじ解説/感涙!完璧なリメイクで進化した傑作映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

4月21日に封切られたエマ・ワトソン主演のディズニー実写版「美女と野獣」を見てきました。大傑作に満足!!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.実写映画「美女と野獣(2017)」の基本情報

<映画「美女と野獣」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ビル・コンドン(「ゴッド・アンド・モンスター」他)
【配給】ディズニー
【時間】130分
【原作】アニメ版「美女と野獣」

アニメ版で約90分だった上映時間は、新しいエピソードや曲を盛り込んで、約1.5倍弱の130分となりました。メガホンを取ったのは、「ゴッド・アンド・モンスター」で第75回アカデミー賞脚色賞を受賞し、ミュージカル映画「シカゴ」「ドリームガールズ」などを手掛けたベテラン、ビル・コンドン監督。

今作「美女と野獣」では、特に衣装や美術、演出系の項目でアカデミー賞にノミネートされる可能性もありそうです。

2.実写版「美女と野獣」の主要登場人物~エマ・ワトソンを筆頭にイギリス人の豪華俳優陣!~

起用されたキャスト陣は、エマ・ワトソンを筆頭に、豪華なメンバーが揃いました。オリジナルの舞台がフランスだからなのか、世界観と合わせるため、こういう映画ではイギリス英語はヨーロッパの香りがするので良いですね。

ベル(エマ・ワトソン)
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主演に大抜擢されたのは、「ハリーポッター」シリーズのハーマイオニー役で映画ファンが幼少時から成長を見守ってきたエマ・ワトソン。生まれはパリ、育ったのはイギリスという彼女のイギリス英語は、こういう童話ファンタジーでは本当にフィットしますね。ヨーロピアンで優雅な雰囲気にあった適役でした。

野獣(ダン・スティーヴンス)f:id:hisatsugu79:20170421191131j:plain

知的で温和な優男というイメージと顔立ちが似ていることから、ライアン・ゴズリングといつも間違えてしまいます。(僕だけ?)彼の持つ独特の知的なイメージは2017年バージョンの野獣に「知性」という新たな意外性を根付かせることに成功しています。

ガストン(ルーク・エヴァンズ)f:id:hisatsugu79:20170421191159j:plain

昨年10月にスマッシュ・ヒットした「ガール・オン・ザ・トレイン」では次第に壊れていくマッチョな上流家庭の夫を好演していましたが、今回のガストン役ではマッチョなのは変わらず、一転しておバカでナルシストな悪役。本職と間違うくらい歌が上手でした。

モーリス(ケビン・クライン)f:id:hisatsugu79:20170421191207j:plain

本作ではむしろ少数派なアメリカ人で、もともとは舞台俳優から映画へと転身してきました。活躍のピークは80年代~90年代で、1988年には『ワンダとダイヤと優しい奴ら』でアカデミー助演男優賞を受賞している実力派です。今作でも1曲歌うシーンがありました。

ルミエール(ユアン・マクレガー)f:id:hisatsugu79:20170421192246j:plain

現在「T2 トレインスポッティング」が公開中ですが、それ以前にも代表作「スターウォーズ」シリーズのオビ=ワン役を筆頭に、イケメン俳優ながら多岐にわたる役で大活躍中のユアン・マクレガー。今作ではこてこてのイギリス英語丸出しでテンションの高いコミカルな演技が素晴らしかったです。

コグスワース(イアン・マッケラン)f:id:hisatsugu79:20170422020053j:plain

「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズと「X-MEN」シリーズで知られる大ベテランのイギリス人俳優。もう77歳なのにまだまだ現役とは恐れ入る限りです。

ポット夫人(エマ・トンプソン)f:id:hisatsugu79:20170421191243j:plain

こちらもバリバリのイギリス人俳優。1993年にアカデミー賞主演女優賞を獲得した「ハワーズ・エンド」や「日の名残り」などイギリス映画らしい湿っぽい叙情性の高い映画で見事な演技を見せたベテラン女優です。エマ・ワトソンとはハリーポッターシリーズからの共演ですね。

ル・フウ(ジョシュ・ギャッド)f:id:hisatsugu79:20170421191858j:plain
「アナと雪の女王」でのオラフ役で一躍世界的に有名になった俳優。そう言えば、顔もどことなくオラフっぽい。今回も、91年のアニメ版では端役だったル・フウを魅力的なキャラに変える、存在感のある演技を見せてくれています。本職だけあって、歌も非常に上手でした。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

3-1.王子にかけられた魔女の呪い

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昔、フランスのある森の中の城に住む一人の王子がいた。その日も、王子は着飾って将来の妃選びのため、盛大な宴会を催していた。宴もたけなわとなった時、王子の元にあるみすぼらしい格好の老婆が現れ、一輪のバラと引き換えに、一晩泊めてほしいと懇願した。王子は、汚らしい老婆を一蹴すると、その老婆は美しい魔女へと姿を変えた。

驚いた王子は、改めてその魔女に謝罪し、急に丁寧に接しようとしたが、魔女は王子と城全体に魔法をかけ、王子を醜い野獣に、城の家臣たちを家具や小物に変えてしまった。また、城はおどろおどろしい牢獄のような姿に変わってしまった。

やがて、人々は城と王子のことを忘れ去ったが、王子の元には魔女が持ち込んだ一輪のバラが残された。最後の花びらが散ってしまう前に、再び真実の愛を獲得することができたら、かけられた魔法は解け、王子と城は元の姿に戻るというのだ。そうでなければ彼は永遠に野獣として過ごさなければならない。

3-2.平凡な村で暮らすベルの日常に訪れた突然の変化

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ベルはフランスの片田舎の村で父、モーリスと二人で平凡な毎日を暮らしていた。いつの日か冒険を夢見る聡明なベルにとって、毎日の村での決まりきった生活は退屈そのものだった。朝になると、彼女は村で日用品を買い求めると、村の教会の図書館から本を借りては読みふけるのが決まりだった。ベルにとって、まだ見ぬ新しい想像の世界へと連れて行ってくれる読書は、退屈な毎日の中で唯一の気晴らしだった。

しかし、他の女性達とは全く違うベルのことを村人たちは、「変わり者」扱いしたので、ベルはいつも村の中で友人もおらず浮いていた。

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最近、ベルは頻繁に村一番の人気者、ガストンからしつこくつきまとわれていた。幼い頃から目立ちたがり屋で派手好きなガストンは、大人になって戦争で大活躍して、英雄として村に帰ってきていた。

その日も、ガストンは相棒のル・フウを引き連れてベルにしつこく迫っていたが、ベルはそんなガストンが好きではなかったので、サッと交わして家の中へ入っていった。他の村の女性たちからはちやほやされ続けているガストンにとって、そんなベルのつれない態度は逆に新鮮で、ベルへの気持ちが更に高まっていくのだった。

ベルがその日家に戻ると、父、モーリスが自作のオルゴールを売りに市場へでかけるところだった。父は、画家であり、村ではオルゴール製作の職人として生計を立てていた。父を送り出すと、ベルは洗濯をしながら村の女の子に字の読み方を教えていた。

それを見ていた村の学校の校長は、「女に読み書きは必要ない!」とあからさまに嫌な顔をして、集まってきた村人たちと一緒になってベルの邪魔をするのだった。そして、またもガストンに絡まれるベルだったが、つれなくガストンの求婚への誘いを断って家の中に逃げ込んだ。

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ベルは、村で変人扱いされ、村の平凡な生活に飽き飽きしていた。今日借りてきた本のように、どこか新しい場所へ冒険に出て、王子のような男性に出会う日を夢見ていた。

一方、行商へと旅立った父モーリスは、道中急に天候が悪化し、6月なのに雪に見舞われた。悪いことに、オオカミの群れに遭遇してしまった。モーリスは愛馬フィリップと懸命に逃げたが、気づいたら見慣れぬ古城の中に迷い込んでいた。

誰もいない城の中で少し暖を取ったが、確かに人の気配はあるのに誰もいない妙な雰囲気に、モーリスは気味が悪くなって城を出ようとした。城を出る際、庭に咲いていた白いバラを摘んで帰ろうとしたところを、野獣に捕まり、牢に入れられてしまったのだった。

愛馬フィリップは、主人のピンチを伝えようと、ベルの元へと懸命に戻った。自宅に空馬の状態で帰ったフィリップを見て、ベルは父を救出しようとフィリップと古城へと向かうのだった。

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古城の中に入ったベルは、父のうめき声を頼りに、古城の中をどんどん進んでいき、牢の所にたどり着いた。城の中は他にも人の気配がしたが、母親譲りの怖いものなしの性格を受け継いだベルは全く物怖じしないのだった。

ベルが父モーリスの入っている牢にたどり着くと、そこに野獣が現れた。野獣と交渉して、1分だけ牢に入る父親と話をさせてもらい、ベルは野獣によって牢の扉を閉められる前に、父を牢の外へ押し出して自分が身代わりとなって囚われることを選んだ。

ほどなくして、ベルは家具に変えられてしまった家臣たち(置き時計のコグスワース、蝋燭台のルミエール)に導かれ、牢から出て寝室に移動した。寝室では、やはり衣装ダンスのガルドローブが話しかけてきたのだった。驚きの連続だったが、一方でベルはどうやって脱出しようか冷静に考えていた。

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一方、ベルから完璧に振られたガストンは、夜になって居酒屋で次の作戦をねっていた。村の誰よりも勇敢で、美形だと讃えられているのに、ベルには全く通用しない。悩んでいたところ、居酒屋へモーリスが飛び込んできた。

モーリスは、6月なのに雪の中、森の古城に娘のベルが囚われてしまったので、助けてほしいと酒場に集まった村人たちに声をかけていった。村人全員がまともに取り合わず相手にしない中、ガストンは、モーリスに貸しを作ることでベルを手に入れられるのではないかと考え、モーリスと一緒に森の古城へ向かうことにした。

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古城では、家臣たちに説得され、野獣はベルを迎えての初めての夕食に、ベルを誘い出そうとしていた。しかし、不器用で粗野な彼は気持ちを上手く伝えられず、冷え切ったベルの気持ちをほぐすことはできなかった。野獣は、もう食べさすな!と言い残して去っていったが、その後ポット夫人やチップなどに和まされ、ベルは一人でディナーを取ることになった。その日、ルミエール達は、ベルを懸命にもてなすのだった。

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ディナーが終わると、「決して覗くな」と言われた西の塔がどうしても見てみたくなったベルは、こっそりと西の塔の野獣の部屋へと入っていった。そこで、透明の「ベル」の中に入ったバラを見ていたら、そこに野獣がやってきて、物凄い剣幕で怒りだした。

恐れと怒りのあまり、その場を逃げ出してそのまま馬に乗って城を脱出したベルだったが、途中でオオカミの群れに捕まってしまう。そこへ追いかけてきた野獣が間一髪のところでベルを救い出した。ベルを救出する際にひどくケガをして動けなくなった野獣を看病するため、ベルは城ヘと一旦戻ることにした。

一方、ガストン、ル・フウとモーリスは、ベルのとらわれている城を目指して森の中を彷徨っていた。見つからないことに業を煮やし、非礼な振る舞いをしたガストンに対して、モーリスは「娘はやらん」と断言した。怒ったガストンは、モーリスを沿道の木にくくりつけて、村へと帰っていった。

3-3.野獣との二人きりの囚われの日々

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負傷した野獣を看病して以来、ベルの中で野獣に対して持っていた印象が少しずつ変わり始めた。傷の癒えた野獣は、ベルに図書室を案内し、また食事も二人一緒に摂ることも嫌ではなくなった。彼らは毎日城で雪合戦をしたり、語らったり楽しく毎日を過ごすようになり、恋愛に近い友情が生まれていた。

また、ベルはなぜ彼らが野獣や家具になったんか、ポット夫人から一部始終の事情を聴くことができた。ベルは、彼らの力になってあげたいとも思うようになっていた。

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ある日、野獣はベルに魔女が置いていった魔法の本を見せた。その本を使うと、好きな時間の好きな場所に飛んでいけるという。ベルは、彼女が生まれた家を願い、その瞬間パリの生家へと瞬間移動していた。そこでベルが見たものは、疫病で亡くなろうとしている母親と、生前に永遠の別離を選ばなければならなかった悲しい父モーリスの姿だった。彼女は、部屋に落ちていたバラのガラガラを拾って元の世界へと帰った。

村では、アガットに助けられたモーリスが5日振りに酒場に顔を出して、ガストンに講義しようとした。ガストンは、逆にモーリスを精神病だと決めつけ、酒場の雰囲気が騒然とした雰囲気となっていた。

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一方、野獣はベルをその晩舞踏会に誘っていた。お互い正装をして、雰囲気が高まったところでベルに愛を告白しようと計画していた。ダンス自体はムードも良く終わったが、終わった後、ベルは複雑な気持ちだった。野獣の遠慮がちな愛の告白に対して、「好きだけど自由がないままでは難しい」と答えた。父モーリスが気になっているのだ。

野獣は、モーリスの場所がいつでも確認できる魔法の手鏡をベルに渡した。ベルが覗き込むと、モーリスは村の酒場で村人から責め立てられていた。それを見た野獣はベルを囚われの身から解放し、村へと帰らせた。そして、それが意味することは、野獣は永遠に野獣のまま人間に戻れないということを意味していた。

一目散に村へと戻ったベルは、モーリスと合流してガストンや村人たちに父モーリスの言っていることが正しく、野獣は森の中の城に確かにいると説明した。しかし、それは逆効果になってしまった。ガストンは、ベルも馬車の中に閉じ込めてしまい、野獣を討伐するために村人を連れて古城へと向かっていった。

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ベルは自分の行動により野獣と部下たちを危機に追いやったことを悔い、馬車の中で父親と少し話すと、村人達を追って再び古城へと向かった。

一方、意気揚々と古城に侵入したガストンと村人たちは、入口の大広間で家具や小物たちの思わぬ奇襲攻撃を受けた。大半の村人たちは戦意喪失して逃げ出したが、ガストンは西の塔にいる野獣の元へ向かった。傷心状態で無抵抗だった野獣に対してガストンが最初の1発を発泡した丁度その時、ベルが古城へと帰ってきた。

ベルの帰還を受けて、正気に戻った野獣はガストンと戦い、一時は戦いで圧倒して命乞いを受けたガストンを許して釈放した時、後ろから撃たれて死んでしまった。悲嘆に暮れるベルと、家具達。その時、最後のバラの1枚が落ち、家具たちも一斉に動かないアンティークになってしまった。ガストンは、古城が崩壊していく中、足場が滑って地面に墜落していった。

しかし、ベルが野獣にキスをすると、その時奇跡が起こった。城の中にいて状況を見ていたアガットが魔女に変身し、野獣と部下たち、城にかかっていた呪いの魔法を解いたのだ。野獣は、心優しい王子の姿へと変わり、家具となっていた野獣の部下たちも元の姿へと戻っていった。

改めて別の日、森の城の中では村人たちも招待した舞踏会が開かれていた。そして、真ん中にいたのはベルと若き王子だった。彼らは、それ以来末永く仲良く幸せな日々を過ごしたのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

4-1.ディズニーアニメ版「美女と野獣」を正常進化させた忠実なリメイク作品

1991年、ディズニーアニメ作品として当時の大ヒットを記録したアニメ版「美女と野獣」でのファンタジックなイメージが、さらにゴージャスな雰囲気で実写リメイクされた作品になりました。

日本より先に公開された海外では、すでに2つの作品の予告編を見比べる秀逸なYoutube動画なども出回っていますが、今回の実写化において、アニメ作品と同じ場面が多数収録されていることがわかります。

<映画「美女と野獣」比較動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

また、前回のアニメ版の骨格は楽曲も含めてそのまま全部活かされました。そして、アニメ版より40分増えた上映時間は、物語の世界観を深め、各キャラクターを活き活きと描き、心情表現を深掘りするために使われました。

例えば、軍隊帰りでエネルギーを持て余すガストン、冷酷な父に育てられ、心を閉ざしていった野獣、幼少時パリで悲劇的な別離を経験した父モーリスなど、各キャラクターのディテールが掘り下げられています。他には、家族や大切な人への純粋な「愛」を象徴する、キーアイテムとなる「バラの花」が様々なエピソードで追加・強調されたほか、重要人物についての過去のバックストーリーがそれぞれ少しずつ用意されているのも良かったです。

極めつけは、物語全体で登場する魔女の存在です。冒頭からラストまで貧しい浮浪者アガットに扮した魔女は、じっと物言わず語り部として物語全体を観察者として見つめ続けるのです。

このように、本作はキャラクター描写の深掘りと印象深いエピソードを追加し、2017年時点で考えられる最新の映像技術を駆使して、ディズニーらしい世界観満載で正常進化させたマイナーアップデートと捉えるのが良いでしょう。

4-2.とにかく全てがファンタジックで美しい映像や音楽

冒頭の舞踏会から、村の日常風景、ガストンの酒場シーン、城内での家具や食器のダンスなど、全ての場面で1991年アニメ版を遥かに凌駕する驚異的なレベルアップを感じました。巨額の費用をかけて作り込んだセットや、考え抜かれたベル達の衣装と、洗練されたVFX/CGは、どれを取っても惚れ惚れするレベルです。

巨大セットで再現された村の風景f:id:hisatsugu79:20170422023217j:plain

そして、今回ちゃんと主役のエマ・ワトソンが数曲で歌っているじゃないですか!もちろん、プロのシンガーと比べると歌声は平板で頼りないですが(※強烈な音程・音質補正を入れているという指摘もかなりある)、当初予定されていなかった主役ベルの地声での歌唱は良かったと思います。

そして、前作で一躍世界的に有名な歌姫となったセリーヌ・ディオンの歌う「How does a moment last forever/時は永遠に」や、ラストでアリアナ・グランデとジョン・レジェンドのデュエット「Beauty and the Beast/美女と野獣」を筆頭に、さらに強化されたミュージカル仕立ての演出も良かったです!

との映像、どの曲を取っても、そのまんまディズニーランドで普通に流れてそうなファンタジックでディズニー的なセンスに満ちた映像・音楽表現に酔いしれてください!

4-3.表面的なものにとらわれず物事の本質を見つめ続けることの難しさ

ヴィルヌーヴ村の大多数の村人たちは、粗野で獰猛な外見の下に隠れる野獣の繊細さ・純粋さや、一見風変わりに見えるベルが持つ知性や進取性、積極性について認めようとせず、よく考えず「自分たちとは違う」だけで簡単に排除し、表面上「外見が美しく」「強そうな」ガストンに簡単に扇動されてしまいます。

ベルや野獣をありのままに見て理解していたのは、牧師や(魔女の)アガット、モーリスくらいのもので、その他大多数の村人たちは最後まで心が曇ったまま、本質を見ようともしていません。ガストンに煽られた村人たちが野獣の城へと押しかける際の曲「夜襲の歌」で少し気づきかけているル・フウのセリフに、こうあります。

野獣が走り回っている
それは間違いない
でも違う化物が放たれているのが怖い

この「違う化物」とは、人物や物事の本質を見ようとせず、盲目のまま誤った行動を取るガストンでありそれに追随する村人たちのことであり、心が醜く曇り、『野獣』化しているのは実は村人たちの方なのですよね。

映画を見ていて、「うわぁー、自分もこの村人たちのような行動を取っていることって結構あるよなぁ」と身につまされる思いがしました。 

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

5-1.「美女と野獣」の原作ってあるの?

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ディズニー版「美女と野獣」は、「アラジン」「ピノキオ」「ラプンツェル」など他の童話ベースのディズニー映画同様、童話原作の原型を留めないほど手を入れて製作されています。

本作の直接のベースは、1991年版のディズニーアニメ映画「美女と野獣」ですが、その1991年版がベースにしたのは、1940年にウォルト・ディズニーがヨーロッパ旅行に行った際に現地で購入したシャルル・ペローの童話集の中に入っていたフランス民話「美女と野獣」でした。

そのペローの童話集によると、もともとの原作は毎晩主人公たちが晩餐を共にするうちに、仲良くなり結婚するという素朴な異種婚姻譚だったそうです。1940年に一旦映画化が企画されるも、ストーリーが地味すぎてボツになってしまいました。その50年後、1991年になって大幅にストーリーが強化されてアニメ化にこぎつけ、今回の実写版ではさらにパワーアップした、という経緯があります。

昔から社会情勢・時代の流れに合わせ、原型のストーリーに大幅に脚色をして、童話をディズニー流のファンタジーとして語り直してきたディズニーの柔軟性が発揮されていますよね。

5-2.なぜベルはバラを父親に毎回お土産としてせがんだのか

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ベルにとって、「バラ」は彼女が物心つく前に亡くなった母親との絆をつなぐ象徴だったからですね。野獣と一緒に魔女の残したツールを使って、彼女が生まれたパリの生家へとジャンプしたベルは、不治の伝染病にかかった母を残して、モーリスがまだ幼子だったベルを連れて田舎の村へと去ったことを理解します。

その時、パリの部屋に母の遺品として残されていたのも、バラの花のガラガラでした。心の奥底にあった幼い時の記憶から、ベルは無意識に「バラ」の中に母親の思い出を見ていたのかもしれませんね。

5-3.ベルが進取的で自立した強い女性として描かれた

「アナと雪の女王」「モアナと伝説の海」「ズートピア」等、近年のディズニー映画では、ヒロインは自立して自ら行動する活発な女性像が好まれて描かれています。本作もその流れを踏襲し、ベルは前作よりさらに(母親譲りの)勇敢で知的な女性として描かれました。例えば以下のエピソードなどを見るとそれが一目瞭然です。

・読書をするだけでなく、女の子に読み方を教えている
・馬を使い、洗濯を半自動化させる親譲りの「発明」をしている
・牢に入る時、父を突き飛ばして自ら身代わりとなる
・囚われた初日、衣類を結んで窓から脱出を試みている
・野獣の求婚に対して「嬉しいけど自由がないのはムリ」とハッキリ言う

まだ探せばありますが、従来のステレオタイプな「お姫様像」を完全に脱し、自分からどんどん行動するし、自己主張もハッキリしています。

子供に字の読み方を教えるベルf:id:hisatsugu79:20170422022249j:plain

特に、牢に入る時に自ら囚われに行く展開は、前作までに評論家から指摘されていた「野獣との恋愛はいわゆる『ストックホルム症候群』での心理作用に過ぎない」という批判も的外れにさせる力強さがありました。

6.1991年アニメ版との主な違い

本作は、1991年版をベースにしつつ、実写版ならではの新たな伏線・ストーリーの追加や設定変更が効果的に図られました。以下、主な相違点をまとめておきますね。

6-1.ベルの父モーリスのキャラ変更

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1991年版ではマッドサイエンティスト的な3枚目キャラだったモーリスですが、今作では発明家/オルゴール職人でもあり、画家でもあるという、レオナルド・ダ・ヴィンチ的な万能な芸術家として描かれていました。妻との別離以来、筆を取っていなかったようですが、ラストシーンの舞踏会では画家として参加していました。

6-2.魔女=アガットの存在感が大幅アップ

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1991年版では、冒頭のナレーション部分のみの登場にとどまった魔女は、今作では映画冒頭から出てきます。序盤から最終盤まで物乞いの中年女性アガットに扮して村人の中に紛れ込んでおり、ガストンにはめられたモーリスをさりげなく助けたり、最後に自ら現れて魔法を解除するなど、大幅に存在感がアップしました。

基本的には魔法をかけた王子を「観察者」として見守る中立的な役割なのでほぼ無表情なのですが、映画をよーく見ていると、アガットの表情が一瞬映し出されるカットがかなりありますよ。

ちなみに、「Once upon a time・・・」で始まる字幕版のナレーションは、アガット=魔女の声です。彼女は最初から最後まで劇中では何もしませんが、物語の語り部なんですね。

6-3.ル・フウが人間味あふれる「ゲイ」的なキャラとして描かれた

ガストンの腰巾着的相棒、ル・フウが今作では非常に実在感のあるキャラクターとして描かれました。誰よりもガストンの近くにいて、他の村人達と違い、ガストンの行動を時に批判的な目で観察できる冷静な視点を持っているけれど、なんとなく流されて彼に迎合しつづけ、最後にはガストンに踏み台にされて裏切られてしまいます。彼の中に社会の縮図や人間の愛すべき弱さを感じて、憎めない気持ちにさせられます。オラフを弱くしたようなキャラとでもいうべきでしょうか?

面白かったのは、彼が時折ガストンに対して恋心があるような、「ゲイ」なのではないかと思わせる表情や演技を見せていたこと。後半、ガストンから逃れて自由になった彼は、自分の信念に基づいた行動を選択できるようになりますが、最後の舞踏会では男性のパートナーを見つけていました。

欧米でのインタビューではこのことについて質問されたビル・コンドン監督は、正式に「ゲイとして連想されるように描いた」と答えています。そうであれば、ディズニー映画史上初めてLGBTQ系の人物が描かれたことになります。

ちなみに、マレーシアでは実際にル・フウのゲイ的なキャラ設定に対して当局の検閲が入り、これに対してディズニー側はマレーシア国内での公開を見送っています。

6-4.さらに強化されたミュージカル要素

1991年アニメ版で使用された劇中歌は全て使われた上、新たに3曲さらに加わりました。もう、劇中は歌ってばっかりです。予習復習にサントラ購入が必至ですね(笑)

野獣の城の小物や道具たちが全員で歌う「Days in the sun/デイズ・イン・ザ・サン」、城から去ったベルを思って切なく歌い上げる「Evermore/ひそかな夢」、エンディング他劇中で計3回かかる「How does a moment last forever/時は永遠に」と、ミュージカル要素がさらに強化されています。 

7.まとめ

おとぎ話は、世代によって語り方がどんどん変わっていきますが、2017年のディズニー実写版「美女と野獣」は、18世紀のフランス民話の時代から連綿と語り継がれてきた伝統のストーリーに、見事に新たな魂を吹き込んで見せました。最新の映像・音声技術と練り込まれた脚本で魅力的な面が沢山詰まった2017年版の「美女と野獣」、是非劇場でチェックしてみてくださいね。凄い作品です!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年4月現在上映中映画の感想記事一覧

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

アニメ版「美女と野獣」DVD

本作の原点とも言える、1991年アニメ版「美女と野獣」。今見てもそれほど古さを感じさせない高い完成度です。実写版を見た後、合わせてチェックするとキャラクターの違いや時代性が感じられて面白いですよ。2017年の再発売版では、インタビューやメイキング映像が満載でした。僕も買いましたが、子供と何度も見返しました!

実写版「美女と野獣」オリジナルサウンドトラック

本作を名作へと押し上げている要素の一つは、非常に完成度の高い劇中歌。スタジオ内で録音された曲目だけでなく、中にはキャスト陣がセット内で歌ったテイクがそのまま採用された曲もあるとのこと。ヴォーカルも良いのですが、バックのオーケストラの演奏も素晴らしいですね。ディズニーらしい魅力に溢れ、合計19曲もヴォーカルが入った強力盤です。

Disney「BEAUTY AND THE BEAST」スペシャルブック

今回の映画を記念して発売された「美女と野獣」のすべてを特集したムック本。監督やキャストへのインタビュー、メイキング特集、各キャラクターの徹底解説など、映画に関してファンが知りたい内容をコンパクトにまとめてくれています!

ディズニー映画は、全部まとめてU-NEXTで!

上記でオススメした関連作品以外にも、ディズニー映画作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。今回の「美女と野獣」の公開を記念して、U-NEXTに大幅にラインナップが強化されました。映画作品だけで、なんと54作品が見れるようになっています!これは便利!

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現在、僕はU-NEXT、Hulu、AmazonPrime、TSUTATAとオンデマンドサービスに4社加入しているのですが、U-NEXTが一番品ぞろえが良くオトクですね。

加入初月は無料。見放題以外の有料作品も、毎月自動的に付与される1000ポイントを使えば、3本まで無料で見れるようになっています。国内最大120,000点の品揃えは映画ファンにはたまりません!

ディズニー作品のどの作品にも共通する夢とファンタジーの世界。「美女と野獣」を見て、もっと味わいたいと思ったら、圧倒的な品ぞろえが便利なU-NEXTがおすすめです!

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その他「美女と野獣」グッズ購入はこちらから

これまで、映画サントラ、オリジナル小説、各種グッズ類など、様々な関連商品がリリースされてきた「美女と野獣」シリーズ。下記リンクに、それぞれAmazon、楽天の関連グッズのページを整理しました。よろしければ、ご活用ください!

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楽しみ!ヨコハマトリエンナーレ2017の記者会見で内容を聞いてきました!

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かるび(@karub_imalive)です。

 さて、今年も暖かくなってきて、すでに「市原アート×ミックス」がすでにスタートしていますが、全国で地域芸術祭がいくつも開催される予定です。そんな中、今年の注目度No.1は、今年の8月にスタートする、「ヨコハマトリエンナーレ2017」です!

ふとしたご縁から、ヨコハマトリエンナーレ2017の準備段階から、記者会見の場を取材させていただけることになりました。ブログを長くやってるといいことがあるものですね!

簡単にはなりますが、4月18日に実施された「ヨコハマトリエンナーレ2017」の記者会見の内容を、以下少し書いてみたいと思います。

1.いよいよ開催が近づいてきたヨコハマトリエンナーレ2017 

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アートの展覧会って、意外に準備に時間がかかるんですよね。各美術館/博物館で年に数回開催される通常の企画展でさえ、様々な関係者を巻き込んで2~3年かけてゆっくりと企画を詰めていくわけです。

そして、横浜トリエンナーレが通常の企画展よりさらに運営や準備が複雑で大変なことは、想像に難くありません。美術館単体の企画ではなく、地域の自治体・企業・住民達を巻き込んで組織される上、取り扱うアーティスト・作品数も通常の何倍にもなるからです。

試しに前回のヨコハマトリエンナーレ2014の記者発表を見ると、期間前も含めて合計4回も記者発表をしているんですね。準備をしながら、ネタがまとまってきたら段階的に記者会見を実施して小出しに情報をリリースしていくわけですね。

そんな中、ちょうど先週4月18日は開催3ヶ月前ということもあり、ヨコハマトリエンナーレの公式特別サイトがオープンするとともに、この日開かれた第2回目の記者会見でいよいよ固まってきた企画概要と、参加決定アーティスト第一弾の発表がありました。

ヨコハマトリエンナーレ2017 公式サイト
http://yokohamatriennale.jp/2017/index.html

2.企画概要について自分なりに解釈してみた

さて、今年のヨコハマトリエンナーレの副タイトルを見てみましょう。

 島と星座とガラパゴス

ここで示されている「島」「星座」「ガラパゴス」は今回のヨコハマトリエンナーレ2017を象徴するキーワードなんですね。記者会見では、今回のテーマは世界の「接続性」と「孤立性」を考える展覧会にしたい、という話がありました。

この「接続性」「孤立性」は世界中の様々な事象で同時に見られる概念なのですが、ためしに私達のコミュニケーションのあり方を例にとって考えてみます。

2017年現在、SNS等のコミュニケーションツールの発達で、世界はますますネットワーク化が進み、生活や仕事の効率は向上し、世界中の誰とでも一瞬でつながれるようになってきていますよね。(だから残業が終わらんわけだ・・・世界の「接続性」は、かつて無いほど高まっているというわけです。

その一方で、しばしば我々はネットワーク上で溢れかえる膨大な情報量に圧倒されるようにもなってきました。ちょっと目を話したスキに、何十件もメールが溜まってると、思わす「うわー・・・」と目を背けたくなりますよね?

僕自身も、毎日数百件のeメールに加え、LINE、Twitter、Facebookでのやり取り、テレビやネットの各種情報源などから毎日物凄い量の情報を受け取っていますが、ハッキリ言って全く処理は追いついていません。

そこで、ネットワーク上から受け取った玉石混交ある膨大な情報を取捨選択するためのフィルターを自分自身で設定して、だんだんと欲しい情報だけ取るようになっていかざるを得ません。そうすると今度は、自分の価値観に合った情報、欲しい情報だけにしかアクセスしないようになっていきます。自分にとって好ましい情報だけを選択し続けることで、今度は確実に互いにつながってるはずの情報の海のなかで「孤立」していくのですよね。

例えば、自分の場合、2016年に会社を辞めて、趣味のアートや映画に傾倒していったのですが、もう日常の中で「アート」と「映画」以外の情報は意識しないとほとんど入ってこなくなりました。今は日経平均株価も景気動向も、今国会で審議している法案の内容もよく把握してませんし。あぁ、これが「孤立性」ってことなのか、と記者会見の内容を聞いていて実感しました。

前置きが長くなりましたが、2017年の今現在、世界ではこの「接続性」と「孤立性」という一種相反する概念の現象が同時に進行しているのであって、この奇妙な現象を「アート」によって表現し、読み解いてみよう、というのが今年の「ヨコハマトリエンナーレ2017」のコンセプトというわけなんですね。

我々は気づいたら個人個人でも、コミュニティレベルでも、国家レベルでも、あらゆる階層において密接につながりつつも、妙に「ガラパゴス」化した離れ小「島」にいるような感覚になっていて、だけど、それをもう一度「星座」のようにつなぎ直すには一体どうしたらいいのか?どんな妙案があるんだろう?ということを考えていくのは、ものすごく意味があることだと思います。

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3.これまでに決定したアーティストたち

記者会見では、前回、前々回よりも出展者数を40組程度に絞り込み、その分1組あたりの出展作品を複数に増やすなどして、「小規模な個展の集合体」のような展示内容にしたい、と話がありました。

確かに、紅白歌合戦でもMAX50組くらいが限界なので、絞り込んでくれたほうが分かりやすいかもしれません。僕も地域芸術祭に参加した時、参加アーティストが多すぎて内容が散逸するよりは、まとまっていたほうがうれしいなぁと思っていたので、これは良い措置だなと思います。

現在プレスリリースを見ると、決定したアーティストはとりあえず全部で計26組。べ、勉強不足なので知らない人いっぱい(汗)これから勉強しなきゃ。。。

アイ・ウェイウェイ/ブルームバーグ&チャナリン/マウリツィオ・カテラン/ドン・ユアン/サム・デュラント/オラファー・エリアソン/アレックス・ハートリー/畠山直哉/カールステン・ヘラー、トビアス・レーベルガー、アンリ・サラ&リクリット・ティラヴァーニャ/ジェニー・ホルツァー/クリスチャン・ヤンコフスキー/川久保ジョイ/風間サチコ/ラグナル・キャルタンソン/マップオフィス/ブラバヴァティ・メパイル/小沢剛/ケィティ・パターソン/パオラ・ピヴィ/キャシー・ブレンダーガスト/ロブ・プルイット/ワエル・シャウキー/シュシ・スライマン/ザ・プロペラ・グループ/宇治野宗輝/柳幸典/プロジェクト:Don't Follow the Wind

このうち、会場で直接解説があった何人かを取り上げてみますね。

3-1.アイ・ウェイウェイ

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アイ・ウェイウェイ(艾未未) ≪安全な通行≫ 2016
© Ai Weiwei Studio

さすがに現代アート初心者な自分でもわかる超大物。2016年から始めた、大量の救命胴衣を建物や敷地内に敷き詰めたり巻きつけたりする、難民問題に注目した新作が、横浜にもやってきます。柱を覆い尽くす救命胴衣は、遠くから見ると人体が巻き付いているようにも見えます。さてこの作品をどの会場に巻きつけられるのか、楽しみです。

3-2.クリスチャン・ヤンコフスキー

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クリスチャン・ヤンコフスキー ≪重量級の歴史≫ 2013
Photographer: Szymon Rogynski
Courtesy: the artist, Lisson Gallery

重量級の選手が重たそうな半身像を持ち上げようとしていますが、まだポーランドがソ連の衛星国だった共産党時代の公共の銅像を利用した作品ですね。独裁政権ってほんと半身像とか銅像系のアイコン好きだなー。

3-3.アレックス・ハートリー

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(引用:ヨコハマトリエンナーレ2017HPより)
《Nowhereisland(どこにもない島/ここが国土 )
メヴァギジー村へ行く》 2012
Photo by Max McClure

ノルウェーの陸地から切り出した岩の塊を「独立国家」と宣言し、その岩の塊を乗せた車を「EMBASSY」と名付け、世界中を巡回して展示したことがある現代アート作家。現在は、その岩の塊は世界各地の希望者に配布され、残りは成層圏に送られ、永遠に宇宙空間を漂っているそうです。そんな彼の新作が展示されますが、やはり政治性を帯びた作品になるのでしょうか。

3-4.カールステン・ヘラー、トビアス・レーベルガー、アンリ・サラ&リクリット・ティラヴァーニャ

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(引用:ヨコハマトリエンナーレ2017HPより)
《ジルバ タンゴフライ タグプラント》2016
Produced at STPI ‒ Creative Workshop & Gallery, Singapore
©The Artists/STPI
Photo: Katariina Träskelin

別々の作品をつないで作ったマッシュアップ作品。個性の強い現代アート作家が、リレー形式でバトンタッチしながら作品を少しずつ発展させていく企画。全体的なコントロールを失った作品が、手探りでの作家同士の連携を経てどう仕上がったのかが見どころだそうです。最近少女マンガ等では、大胆な作品の連携企画読み切りが増えましたが、現代アートでもそういうのやってるんですね・・・。

3-5.ワエル・シャウキー

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ワエル・シャウキー
≪十字軍芝居 Ⅲ:聖地カルバラーの秘密≫より 2015
© Wael Shawky: Courtesy Lisson Gallery

アラブ諸国の歴史や文化を再解釈して、人形劇や人形のインスタレーションで独自の表現をしてきた作家で、日本では初登場。今回は、十字軍の時代に起きた重要な歴史イベントやドラマをコーランに用いられた古代アラビア後を用いた人形劇で表現します。この人の作品を向き合うときは、アラブ世界の歴史や文化の知識も必至となりそうですね。当日までに調べから会場へ行こう・・・。

3-6.シュシ・スライマン

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(引用:ヨコハマトリエンナーレ2017HPより)
《マレーの薔薇》展示風景 2016 
カディスト美術財団(パリ) Courtesy of the Artist
Photo: Aurélien Mole.

小山登美夫ギャラリー所属作家なので、日本では比較的個展開催や、美術館収蔵作品もちらほらあるイメージですが、原産地が東南アジアやインドのモクレン科のチャンパカという植物を使ったインスタレーション。部屋の中が良い香りにつつまれていそうです。

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4.ゲスト小沢剛氏のトークと宇治野宗輝氏のパフォーマンス

そして、一通り作品説明が終わった後、ゲストの小沢剛氏のトークセッションと宇治野宗輝氏のアート・パフォーマンスがありました。

宇治野宗輝氏のパフォーマンスf:id:hisatsugu79:20170422130523j:plain

小沢氏の作品は、ペインティングとビデオを組み合わせたインスタレーションを予定しているとのこと。そして、宇治野氏は、バナナと牛乳を入れたジューサーを使ったパフォーマンスを披露してくれました。終わった後は、作ったバナナ牛乳を登壇者全員で乾杯してました。なお、宇治野氏の当日の展示はライブパフォーマンスではないので、会場に来てもバナナと牛乳はありませんとのことです(笑)

5.まとめ/感想

こうやって記事にしてみると、現代アートの作品群を見るときは、コンセプトをしっかりと理解することって本当に大事だなって感じます。僕は専門の記者ではなく、一介のブロガーですが、こういった記者会見で関係者の思いや考えを直接聞く重要さが良くわかりました。

現代アートの作家や批評家の書く文章は非常に難解なものも多いですが、彼らが話し言葉で講演などをする時、分かりやすい言葉で置き換えて話をしてくれるのも初心者には嬉しいです。

ヨコハマトリエンナーレ2017では、こういった講演会や作家本人が開催するワークショップ・トークイベントなども沢山開催される予定ですが、作品本体を見るだけでなく、今年はイベントにも積極的に参加してみようかなと思っています。

それではまた。
かるび

ヨコハマトリエンナーレ2017の開催情報

◯開催会場
・横浜美術館/横浜市開校記念会館/横浜赤レンガ倉庫1号館を予定

期間中、チケット購入者向けに無料シャトルバスが定期運行します。
◯会期・開館時間・休館日
2017年8月4日~11月5日(第二・第四木曜日休場)
10時00分~18時00分(入場は30分前まで)
※10/27-10/29、11/2-4の6日間は、20:30まで延長

◯公式HP
http://www.yokohamatriennale.jp/2017/
◯Twitter
https://twitter.com/thisiskyosai

「花*Flower*華」展(山種美術館)の感想:日本画の華やかさが味わえる展覧会!

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かるび(@karub_imalive)です。

山種美術館で4月22日から開催中の「花*Flower*華」展に行ってきました。副題に「ー琳派から現代へー」とある通り、酒井抱一、鈴木其一ら琳派の画家を目玉として、山種美術館で所蔵する江戸~昭和期までの様々な日本画の有名画家たちが描いた「花」の作品を集めた展覧会です。

※ブログ内での写真撮影は、予め主催者の許可を得て撮影しています

1.「花*Flower*華」展のコンセプト

 田能村直入「百花」部分拡大図f:id:hisatsugu79:20170425110131j:plain

春になると、特に日本画を多数所蔵する美術館を中心として、「桜」や「菖蒲」「牡丹」といった花をテーマとした作品を企画展示する展覧会が増えてきますよね。前回、「日本画の教科書(東京編)」で、一旦開館50周年と銘打った一連の大型企画が終了して、2017年4月から新年度の企画展が始まった山種美術館でも、その第一弾として企画されたのは「花」をテーマとした展覧会でした。

さて、山種美術館といえば、主力は18世紀の江戸琳派以降、明治~昭和期の近現代日本画の大量コレクションで有名です。

ゴージャスな金屏風!/鈴木其一「四季花鳥図」
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今回の展覧会でも、江戸琳派の大御所酒井抱一、鈴木其一から始まり、現在でもバリバリ活躍中の千住博、牧進ら、現在でも現役で活躍中の現代日本画作家まで、幅広い所蔵品で春夏秋冬それぞれの「花」をテーマとした絵画で楽しませてくれます。

出品数は、全部で60点。各作家から1点~3点程度の出品(最大は奥村土牛の6点)で、バラエティに富んだ様々な作家の作品が楽しめるので、本当に日本画好きにはたまらない展覧会になりました。

2.展示に様々な工夫もなされています

山種美術館は、コンパクトな展示スペースながら、非常に毎回丁寧で鑑賞者に優しい構成の展示が素晴らしいのです。今回の展覧会の展示スペースで目についた工夫を紹介しますね。

2-1.丁寧な音声ガイド

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僕は美術館に行くと、あれば必ず「音声ガイド」を借りることにしています。ただ、企画展に合わせた「音声ガイド」は、やっぱり製作費も手間もかかることから、大抵は大規模な企画展に限られるもの。

そんな中、中規模展示でも必ず充実した音声ガイドをつけてくれる日本画系の美術館が、根津美術館と山種美術館。決して華美な演出はありませんが、60点あまりの作品群に対して、23項目約30分のガイドは非常に丁寧です。作品3点に1点強に音声解説が割りあたるので、作品一つ一つを非常に深掘りしてじっくり味わえるのです。

2-2.写真撮影OKの展示がきちんと用意されている!

そして、山種美術館では、展示会場内の指定作品1点に限り、昨年度から展示作品の写真撮影がOKになっています。

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記念撮影コーナーでプラスチックのパネルが用意されていたりという工夫は他の美術館でもよくありますが、日本画の作品自体が撮影OKというのは、国立美術館、博物館系を除くとまだほとんどありません。

やっぱり、せっかく来たからには記念に作品を撮って帰りたいですし、SNSにもアップしたいですよね。 今回撮影がOKなのは、酒井抱一「月梅図」。山種美術館所蔵の抱一作品の中でも非常に目を引く代表的な作品です。

修復作業を終えて、より華やかになった本作をしっかり撮影して、思い出を記念に持って帰りたいところですね!

酒井抱一「月梅図」
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2-3.企画展にちなんだ期間限定の和菓子が味わえる!

山種美術館では、美術館カフェガイド本「カフェのある美術館」にも掲載された、趣のある1Fのカフェコーナー「椿」で、毎回の企画展ごとに、展示作品とコラボした期間限定のオリジナル和菓子を味わうことができます。

今回はこのラインナップ。

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そして、「どの作品がオリジナル和菓子のモチーフに使われたのかわかりやすくして欲しい」という、ブロガーから挙げられた要望に答えて、今回から作品のキャプションに下記のようなマークがついて、和菓子コラボ作品が明示されました。

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展示を見ながら、このマークを探してみてくださいね。見終わったら、喫茶コーナーでどんなお菓子になったんだろう、と作品と見比べてみるのも面白いかもしれませんね。

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3.特に気に入った展示を幾つか紹介します

3-1.鈴木其一「牡丹図」

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琳派最後の大御所でありながら、 装飾的な表現だけでなく、写実的な緻密さも追求した鈴木其一の優雅な作品。2株の牡丹から、3種類の牡丹が咲き乱れる(そんなことってあるのかな?)華やかな作品。

今回の「花*Flower*華」展の第二展示室は、全部牡丹の作品で統一されていますが、その中でも一番気に入りました。 

3-2.奥村土牛「醍醐」

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彼が兄弟子のように慕っていた小林古径の奈良での7回忌の法要の帰りに立ち寄った京都の醍醐寺で見かけた満開の桜に感銘を受けて制作された作品。

山種美術館の所蔵する奥村土牛作品の中でも代表作として知られ、中でも独特のピンク色の色彩が美しいです。食紅の材料としても知られるコチニール色素を岩絵具に混ぜて色合いを出したのだとか。

3-3.千住博「夜桜」

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京都の寺社で最近よく襖絵や屏風絵が奉納されている現役作家・千住博の作品。

本当は正面から撮りたかったのですが、映り込みがどうしても回避できず、ちょっと変な角度からの撮影になってしまいました。しかしこれが非常に美しい夜桜なんですよね!こんな夜桜の下で花見をしたいなぁと、ほれぼれするような作品でした。

3-4.結城素明「躑躅百合(つつじゆり)」

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戦前は日本画の大家として知られましたが、昭和に入ってから忘れ去られてマイナーな存在となってしまった作家。(確かに今Google検索してもわずか18,700件しか引っかからない)写実的で堅実な作風は、もっと見直されてもいいような気がします。山種美術館で32年前に「結城素明 : その人と芸術 : 特別展」が開催されていますが、どんな展覧会だったのでしょうね、、、

3-5.渡辺省亭「牡丹に蝶図」

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2017年春、加島美術での個展をはじめ都内各所で連動した作品展示が仕掛けられ、急速に日本画ファンの間で知名度をアップさせている渡辺省亭の作品。本作は、山種美術館の顧問を務める山下教授の個人蔵作品です。

まだ企画段階のようですが、数年後に大規模な回顧展が企画されつつあるようですね。伊藤若冲、河鍋暁斎らのように近年再評価が進む江戸末期~明治期の日本画作家が多いですが、渡辺省亭もいよいよブレイクでしょうか?!

3-6.山口蓬春「梅雨晴」

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(引用:山種美術館オフィシャルHPより)

雨上がりの陽の光に明るく輝くあじさいを画面いっぱいに描いた初夏を感じさせる爽やかな作品。西洋画から後に日本画へと転向した山口蓬春らしい、油絵的なセンスも感じられる佳作でした。

3-7.加山又造「華扇屏風」

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(引用:山種美術館オフィシャルHPより)

今回の展覧会で個人的にはNo.1だった作品。キュビスム~シュルレアリスムから琳派まで様々なスタイルを遍歴してきた加山又造ならではの、現代的なセンスと伝統をミックスして制作された「華扇屏風」。様々に人工的に酸化・退色させた「銀」地のコントラストの上に浮かぶ扇上の花々は見飽きません。

3-8.木村武山「秋色」

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秋の草花をちりばめ、全体的に淡い色で統一された、写実的で優しい雰囲気の作品です。横山大観、下村観山、菱田春草らと、岡倉天心の下で明治期の新しい日本画をリードした木村武山ですが、生前大量に作品を残したため、大観らに比べると驚くほど安い値段で作品が流通しているそうです。

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4.企画展に連動したグッズ類

今回の企画展で新たに制作された「花」にちなんだオリジナルグッズや、コンパクトな図録も発売されていました。

新作もたくさん用意されたグッズ類!f:id:hisatsugu79:20170425121152j:plain

奥村土牛「醍醐」にちなんだクリアファイルや一筆箋f:id:hisatsugu79:20170425121531j:plain

5.まとめ

いつもながら、日本画の奥深さと魅力を存分に味わえる展覧会でした。有名な作家からマイナーな掘り出し物まで、春夏秋冬それぞれの「花」に関する優れた作品がその膨大なコレクションから厳選して展示されています。会場内で2時間30分、一つ一つの作品を堪能させてもらいました!日本画が好きな人は是非!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間・休館日
2017年4月22日~6月18日(月曜日定休)
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum

新しい体験型恐竜ライブ「ディノサファリ」@渋谷ヒカリエが想像以上に楽しかった!

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かるび(@karub_imalive)です。

ゴールデンウィークや夏休みには、毎年のように恐竜展や恐竜映画が評判を呼びますが、今年のゴールデンウィークは、「古くて新しい」リアルな恐竜体験ができるライブイベント「ディノサファリ」@渋谷ヒカリエが面白そうです。

本日、ちょっとしたご縁から、プレオープンイベントを体験できることになりましたので、行ってきました!その感想を書いてみたいと思います。

※ブログ内の写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものとなります。

1.「恐竜ライブ ディノサファリ」とはどんなイベントなのか?

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これまで、恐竜系のエンターテイメントといえば、大きく2つに分かれるかと思います。ひとつは、展覧会形式での展示イベント。巨大な化石やリアルな映像などを自分で歩いたりボートやカートに乗って展示順に沿って見ていく感じですね。例えば今年も7月から幕張で「恐竜展2017」が開催されます。

もう一つは、映画館等でリアルな映像を楽しむ映像コンテンツですね。映画「ジュラシック・パーク」などは回を重ねるごとに大ヒットを続けていますし、「キング・コング」や「シン・ゴジラ」といった怪獣モノも好調ですよね。

でも、今回の渋谷ヒカリエで開催される「恐竜ライブ ディノサファリ」は既存の展覧会でも映画でもない、古くて新しいイベントでした!

具体的には、サファリパークのような空間に仕立てあげられた渋谷ヒカリエ9Fのイベントホールの中に観客が入り込んで、超リアルに再現された等身大の恐竜のきぐるみが動き回る中、至近距離で恐竜体験ができる、というイベントです。

流行りのVRでもARでもなく、ベンチャー企業ON-ART社が10年以上かけて開発した超リアルな「恐竜型メカニカルスーツ」(要するに超リアルなきぐるみ)を用いて、想像をはるかに超えた恐竜そのものの動きを精巧に再現したという点で、最新の技術を投入して、アナログな「人形劇」を超進化させた「古くて新しい」イベントなのです。

すでに、2015年頃から散発的に都内近郊の各地イベントスペースで「DINO-A-LIVE」という名前で、恐竜達が暴れるゲリラ的なイベントが開催されているようですね。幾つか、その状況がネットに上がっています。

これまでは、あくまでイベントスペースで遠くから恐竜を見るだけでしたが、今回の「渋谷ヒカリエ」での「ディノサファリ」は、これをさらに進化させ、より洗練された擬似的に再現されたサファリパークの中で、至近距離でリアルな恐竜体験ができるという意味で、同社が手がけてきた「DINO A LIVE」の進化版だと言えると思います。

2.全部で6体の恐竜が会場内を暴れまわる!

さて、そんな「ディノサファリ」で今回投入されることになった恐竜は、全部で6種類。植物食恐竜の代表格「トリケラトプス」(全長6.5m)や、肉食恐竜の覇者「ティラノサウルス」(全長8.0m)、されに日本の福井県で発見された「フクイラプトル」(全長5.5m)など、全部で6体の恐竜が、会場内を暴れまわります。

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3.オフィシャル・サポーターは「パックン・マックン」

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イベント進行役は、通常は探検隊の格好をしたナビゲーター4名(MC役2名、他2名)が務め、会場のナレーションや映像等での各種プロモーションを「パックン・マックン」が担当しています。(久々にマックン見かけた・・・

パックンとマックンは、26日のこけら落としの15時~、17時~の回と、ゴールデンウィーク中の5月1日、2日の全部の回には実際にアドリブ満載のゲスト出演もしますよ。

ちなみに、MC役の方はプロの劇団の人で、こんな感じの服装でハイテンションなMCで楽しませてくれました。パックンマックンのアドリブ芸にも難なく対応してました!

4.実際の上演はこんな感じでした!

今日、僕が行ってきたのは関係者向けのプレ公演イベントでしたので、「ディノサファリ」で使われる恐竜スーツの開発元、ON-ART社の金丸社長の挨拶からはじまりました。

左側が金丸社長
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社長のお話によると、これまで30体以上の精巧な恐竜スーツを製作してきたけれど、「今回投入するのは最新型の最もリアルな精鋭6体です!」と自信を持って話されていました。このON-ART社、社員はたった6名のベンチャー企業なのだそうです。作った恐竜の数のほうが多いですね・・・。

そして、いよいよ会場のライトが消えて真っ暗になり、イベント開始。上演時間は、約50分です。ヒカリエホールに特設されたサファリを探検する男女二人の隊員達が、簡単なストーリーに沿って次々と恐竜と遭遇し、恐竜たちとの交流や恐竜同士の対決を演出します。

会場内は、前方の方に地べたに座って見る芝生席があり、後方に椅子席が用意されています。自由席なので、どちらに座るか、どこに座るかは自由です。中の構造としては、会場中央が舞台で、芝生席と椅子席の間にもスペースがあって、そこにも恐竜がやってくるようになっています。

見るなら断然芝生席がおすすめ!f:id:hisatsugu79:20170425213929j:plain

そして、公演の概要についてネタバレにならない程度で言うと、各6種類の恐竜が会場内を走り回り、クライマックスではトリケラトプスとティラノサウルスがサファリ中央で対決しちゃいます!

草食恐竜「トリケラトプス」
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どんどん回って来るので、時にはこんな至近距離に迫ってきます。(かぶりつきの芝生席などは、実際に尻尾とかがぶつかっちゃうことも・・・)

至近距離で拝むトリケラトプスのご尊顔f:id:hisatsugu79:20170425212830j:plain

そして、色々出てきたところで、最後の真打ちは、やっぱり肉食恐竜の王者、ティラノサウルスですね。それまでの恐竜とは暴れ方が違います!

パックンや隊員達も、お約束のように食われてました(笑)

ティラノサウルスに食われる隊員!f:id:hisatsugu79:20170425212644j:plain

そして、トリケラトプスとティラノサウルスは最後に対決ムードに!互いに8メートルくらいある巨大な恐竜同士が睨み合っています。

睨み合うステゴサウルスとティラノサウルスf:id:hisatsugu79:20170425212426j:plain

そして、ティラノサウルスがトリケラトプスの尻尾に食いつきました!

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その後、ストーリーは意外な展開で収束を迎えますが、そこはイベントに行ってのお楽しみということで!

今回、工夫されているなと思ったのは、写真撮影タイムがちゃんと設けられていたこと。雰囲気を大切にするため、公演中は基本的には会場内撮影禁止なのですが、トリケラトプスが出てきたところで「撮影タイム」が別途設定されていました。また、希望者には、先着順数名となりますが、サファリ中央に出てきて隊員や恐竜と一緒に写真を撮ることも出来ますよ。 

やっぱり、このスマホ・SNS全盛時代に一律撮影禁止にするのではなく、ちょっとでも思い出に残したり、自分のSNSに投稿できるようになっているイベントは盛り上がりますよね。

5.物販コーナーや記念撮影コーナーもあります!

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 そして、イベント終了後には、会場外のブースに物販コーナーもありました。様々な大きさのフィギュアやマグカップ、キーホルダーなどのグッズ類や、、公式ガイド(公演パンフレット)が販売されていますよ。

所狭しと並んだ物販コーナーのフィギュアf:id:hisatsugu79:20170425211837j:plain

シールやメモ帳
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マグカップ
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そして、こちらが公式ガイド(パンフレット)です。 

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中を明けてみると、今回の公演で登場する恐竜たちの迫力ある絵と解説が載っていますよ。公演が終わってからの思い出や復習にぴったりですね。

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そして、会場外にも2ヵ所の記念撮影コーナーがあります。是非、友人や家族と写真を撮って、楽しい思い出を作ってみてくださいね。

写真撮影コーナー
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6.まとめ

大型連休や夏休みになると、恐竜や怪獣の大型イベントが各地に開催されますが、今回この渋谷ヒカリエで実施される「ディノサファリ」は恐竜好きなマニアから家族連れにはもちろん、展望台も近くにあるのでちょっと変わっているけどデートでも使えそう。

始まったばかりの企画なので、より工夫する余地はまだまだありますが、恐竜の体験イベントとしては、確かな「新しさ」を感じました。VRやARでは味わえない「本物の」臨場感を味わいたい人は是非!

それではまた。
かるび

イベント開催情報

「恐竜ライブ ディノサファリ」は、渋谷ヒカリエにてゴールデンウィーク中、全39回公演。チケットは、各種プレイガイドやコンビニ、会場内入場券売り場にて発売されます。混雑状況や詳細は、公式TwitterやオフィシャルHPをチェックしてください。

「恐竜ライブ ディノサファリ」詳細情報
◯開催場所
渋谷ヒカリエ9Fヒカリエホール ホールA
〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2丁目21-1渋谷ヒカリエ
◯最寄り駅
JR・東急・東京メトロ「渋谷駅」15番出口と直結
◯チケット
前売・当日 全席自由2,800円(税込)
※3歳以上有料、3歳未満膝上鑑賞無料
◯上演時間
約50分(完全入れ替え制)
◯スケジュール
2017年4月26日~5月6日 ※全39回公演

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◯公式HP
http://dinosafari.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/dinoalive

初心者もマニアも楽しめる!「ファッションとアート展」は懐の深い展覧会でした!(@横浜美術館)

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ1~2年、各地の美術館で「ファッション」関連の展覧会が多数開催されるようになってきています。

このブログを開設した2015年秋ごろからアートにどっぷり漬かって1年半経ちましたが、アートファンの人って、なんだかんだで皆さんファッションセンスがいい人が多いんですよね。やっぱり普段から良いものを見る審美眼が身に付いて、目が肥えているからなのでしょうか。

そんなセンスの良い方々に囲まれて、様々なアートを見続けているというのに、今のところ自分にはファッションセンスが身につく気配が少しもありません。肥えるのは体ばかりだ・・・OTL

そんな時、今回横浜美術館で開催された「ファッションとアート展」はちょうどまたベストタイミングで現れてくれた展覧会なのであります。

今こそこの苦手分野「ファッション」に目を向ける時がきた!まずはこれを見て勉強するぞ!ということで、早速意気込んで行ってきました。オープニングの日と、22日の2回見ることができましたので、ちょっと感想/レビューを書いてみたいと思います。

※ブログ内で使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものとなります。

1.混雑状況と所要時間目安

さてそんなファッションとアート展ですが、混雑状況を見てみると、前回の篠山紀信展同様、そこまで大混雑するレベルではありません。広めに取ってある展示スペースもあって、ゆったりと見ることができます。

ゆったりとスペースの取られた優雅な展示空間f:id:hisatsugu79:20170426133407j:plain

コンテンツ量もそこまで多くないので、早い人なら60分あれば十分見終わるとと思います。ただし、後述する同時開催中のコレクション展「自然を映す」を見るならば、その倍の120分は確保したいところ。横浜美術館は、企画展だけでなく、常設展とセットで見るのが非常にお得だし、おすすめです。

2.ファッションとアート展とは

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さて、今回の展覧会の正式なタイトルは、「ファッションとアート 麗しき東西交流」とあります。タイトルにある通り、今回は「ファッション×アート」「東洋×西洋」と、2種類の異なる概念が並列で並べられていますね。

つまり、近代以降「ファッション」と「アート」は互いに密接に関連しあって、お互いに深い影響を与え合いながら発展・拡大してきたことや、その発展拡大においては、「東洋」=日本と、「西洋」=ヨーロッパの間で絶えず影響を与えあい、融合してきた歴史があるんだよ、ということをわかりやすく展示する展覧会なのです。

横浜美術館の学芸員さんの説明で「横浜は東洋と西洋が最初に出会った開港の地」なんだというお話をよく聞かせていただくのですが、そういう意味で、今回のように「ファッション×アート」「東洋×西洋」という対立する図式を紐解くようなテーマは、横浜美術館らしい良いコンセプトだなぁと思いました。

さて、たいてい美術館が「ファッション」関連の企画展をするときは、その元ネタは外部から持ち込まれることが多いのですが、今回も「ファッションとアート」のうち、「ファッション」の部分については「京都服飾文化研究財団」(略称:KCI)という、ワコールの故・塚本幸一会長が1975年に京都で立ち上げた公益財団とのコラボレーションで展示が実現しています。

KCIのホームページを見てみると、この財団はこんなことをやっている団体です。

京都服飾文化研究財団(KCI)は、収集は活動の根幹であるという考えのもとに、設立以来、近世以降それぞれの時代を代表する西欧服飾品とそれを造形してきた下着、それらの背景を紐解く文献資料の収集という基本構想のもとに活動を続けてきました。

現在、17世紀から現在までの服飾資料を1万2千点、文献資料を1万6千点所蔵。その中には1千セットに及ぶコム・デ・ギャルソンからの寄贈品を筆頭に、クリスチャン・ディオール、シャネル、ルイ・ヴィトン等、世界的なメゾンからの寄贈品も含まれています。

すごいですね・・・。

KCIでは、1975年の創立以来、地元の京都国立近代美術館やその他の美術館・博物館での企画展などを頻繁に行っており、横浜美術館でも、今回の「ファッションとアート」展は、3年前から展覧会の企画を立ち上げてじっくりと構想を練ってきたそうです。

KCIの服飾類は全て「裸展示」のため至近距離で見れる!f:id:hisatsugu79:20170426172753j:plain

他の団体が「ガラスケースに入れた展示」でないと衣装貸出にOKが出ない中、KCIは今回の「ファッションとアート」展のようにガラスケースがない”裸展示”を許可してくれる数少ない団体なのだとか。

今回は、展覧会のコンセプト「東洋ー西洋」の融合という観点から、

・日本で製作された西洋向けのドレス
・日本に影響を受けて製作された西洋のドレス

を集中的に展示しています。

一方、「ファッションとアート」の「アート」の部分は、横浜美術館側が対応していますね。絵画や工芸品、写真など、ファッション以外の幅広い分野から選ばれた作品群が、ドレスたちと一緒に展示されました。こちらも、

・日本で西洋の影響を受けて製作された絵画・工芸品
・西洋で日本の影響を受けて製作された絵画・工芸品

が所狭しと並んでいました。

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3.展覧会の見どころ

西欧列強に追いつくため、必死で西洋文化を学んだ幕末~明治期

幕末に締結された西洋列強各国との不平等条約を受け、欧米に追いつく必要性に迫られた日本は、西洋の服飾やアートを積極的に学び、生活文化に取り入れるとともに、外貨獲得のために西洋向けの輸出用工芸品や服飾を生産していきました。

当時の浮世絵にも洋装で外国人と交流する姿が!f:id:hisatsugu79:20170426151832j:plain

その玄関口となったのがまさに「横浜港」だったのですが、前半部分の展示では、まさに西洋へのキャッチアップに必死だった日本が西洋の影響を受けて生み出した新たなアートや服飾が展示されています。

たとえば、以下のような展示が興味深かったです。

芝山細工花鳥図屏風(奥)
椎野正兵衛商店 輸出用室内着(左、右)
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横浜で絹織物商として繁盛した椎野正兵衛商店は、開港後すぐに英語の看板をお店に立てて、外国人への店頭販売を行うとともに、上質なキルティングの室内着を輸出用として生産しました。これが大当たりして、かなり売れたそうです。寝間着って感じですよね。でも、柄が菊柄の刺繍だったりして、ある意味日本の田舎臭さが拭えないこの素朴な感じが良かったです。

後ろの芝山細工もまた、横浜港を通じて輸出された明治初期のヒット商品。今でも古い田舎の立派な家に普通に飾ってありそうなレトロな感じが素敵でした。

銀線七宝菊蝶文香炉(左)
後藤省三郎「銀胎七宝花鳥図花瓶」(中)
武蔵屋「花瓶」(右)
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いわゆる明治期の超絶技巧系の工芸品。近くで見るとわかりますが、この水準の作品をどれだけ今の日本で作れる職人さんがいるでしょうか?江戸後期~明治中期にかけて「ジャポニスム」と讃えられ、万国博覧会の賞レースを席巻したのはこうした一連の超絶技巧系工芸品だったのですよね。

五姓田義松「細川護成像」(左)
山本芳翠「園田銈」(右)f:id:hisatsugu79:20170426135317j:plain

そして、欧米に追いつけ追い越せで、貴族など上流階級の家庭の子息を中心に、多数の留学生がヨーロッパへと渡りましたが、そんな彼らの肖像画を「洋画」でリアルに描いた作品が残っていました。絵画を通しても、どこか背伸びをしているような、洋服に着られているようなイケてなさが漂うのは気のせいでしょうか?凄く面白い展示です。

 

西洋文化に取り込まれた「日本的な」要素

開国した日本から様々な美術工芸品が入ってきたヨーロッパでは、19世紀末期から「ジャポニスム」と言われる絵画や工芸分野におけるちょっとした日本ブームが起きた時代がありました。

ジュール=ジョゼフ・ルフェーヴル
「ジャポネーズ」(扇のことば)f:id:hisatsugu79:20170426134209j:plain

彼らにとっても、200年以上の鎖国で独自進化を遂げた日本文化は非常に新鮮に写り、確実に先鋭的なヨーロッパのアート作家たちの作風に取り込まれていくことになりました。そして、ジャポニスムで強烈な印象を与えた日本的な要素は、その後20世紀初頭の「アール・ヌーボー」、そして1910年以降の「アール・デコ」といった一連の装飾美術の潮流において、完全に取り込まれ、西洋文化に融合していくことになりました。

後半展示では、西洋にて一旦消化・再解釈された「日本的な要素」を持った服飾や工芸品が一挙に展示されていくことになります。

まるで着物のような体裁と、虎があしらわれたコートf:id:hisatsugu79:20170426135620j:plain

広げたとき、まるで着物のようなゆったりとした体裁に、背中の部分に虎の顔がプリントされたドレス。正直・・・これは微妙なのでは?と思いましたが、会場内に展示されているドレスの中で一番わかりやすく異彩を放っていたので、良くも悪くも強烈な印象を残した作品でした。

後ろ姿がキレイに映える「見返り美人」的なドレス達f:id:hisatsugu79:20170426135840j:plain

20世紀初め、コルセット文化からの脱却を図っていたパリのファッション界は、日本の「きもの」のゆったりとした構造に目をつけ、きもの風コートを開発していきました。裾をひきずり、振り返ったときに優雅に見える「見返り美人」的なデザインが面白いドレスたちです。

ゆったりとしたイブニングドレスたちf:id:hisatsugu79:20170426140121j:plain

第一次世界大戦が終わった1920年代には、洋服には活動性と機能性が重視されるようになったため、ヨーロッパではよりアールデコ的な、直線的で平面的なデザインが流行しました。このとき、平面的な服の素材として使用されたのがやはり日本的な柄だったそうです。こういったヨーロッパの最先端の服をイブニングドレスとして輸入し、日本人も舞踏会などで着ていた記録が残されています。

学芸員さんも仰っていましたが、日本に影響を受けて制作された最先端のヨーロッパのドレスを、再び日本人が輸入して喜んで着る、という構造は、まさに数十年の時を経てファッションの東西交流が輪になって完結したっていう何よりの証拠ですよね。感慨深いものがあります。

アート初心者も中級者以上も楽しめる不思議な展覧会

ここまで、この展覧会の趣旨や見どころを書いてみましたが、これはあくまで真面目に「勉強として」見るならば・・・という前提です。

もっと自由に楽しむこともできるのがこの展覧会の特徴で、ぶっちゃけ「どのドレスがキレイなのか?」「こんな調度品が欲しい!」といったように、もっと単純に楽しんでもいいと思います!

所狭しと並んだ個性的なドレスたちf:id:hisatsugu79:20170426140152j:plain

今回、敢えて男性用・子供用は省略し、一番ゴージャスできれいな女性用ドレスに絞って展示されているだけあって、とにかく見た目が美しく華やかなので、その場で色々ドレスを見ているだけで楽しい気分になってくるのですよね。

だから、展示されている様々なドレスを見ながら「これはいい!」とか「これはちょっとムリ」とか、友達とワイワイ話しながら見ていくだけでも凄く楽しいと思います。実際、僕が22日に見たときは、

「(青海波のドレスを指して)これ昆虫みたいじゃない?キモくないこれ?」
「これは今でも大阪のおばちゃんが着てそう。ポケットからアメ玉出てくる感じだよね?」

とか、そんな感じでカジュアルに楽しんでましたので。

一方で、様々なアートに精通し、ガッツリ見て回りたいアートマニアにとっても、今回の展覧会は沢山のネタを提供してくれる深い内容に仕上がっています。「アート」「ファッション」だけでなく、「東西文化交流の歴史」など、複数分野にまたがるテーマである上、厳密に評価しようとするなら歴史的な文脈や観点に立った鑑賞が求められるからです。中級者以上のアートファンでも新しい発見や学びが沢山出てくる、いくらでも深く掘り下げて見ていくことができる懐の深い展覧会でした。

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4.その他、気になった展示品などを一挙紹介!

ロイヤル・ウースター社
伊万里写ティーセット
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江戸時代~明治期を通じて海外へ多数輸出された伊万里焼にインスパイアされ、イギリスの陶磁器メーカーで製作された伊万里風ティーセット。あちこちにあしらわれた菊の御紋が眩しいです(笑)すごいセンスですよね・・・。

ティファニー商会 
群魚文ピッチャー(左)、瓢箪文酒ポット(右)
ゴーハム社
芭蕉句入花瓶「古池やかわず飛こむ水の音」f:id:hisatsugu79:20170426135752j:plain

これら銀食器類もバリバリ日本の輸出品からインスパイアされて製作されたものなのでしょう。しかし芭蕉の句まで入っちゃうとは(絶対意味わかってなかったはず!)

昭憲皇太后着用大礼服(マントー・ド・クール)f:id:hisatsugu79:20170426135434j:plain

第二室のほぼど真ん中全部を占有した、今回展示の目玉の一つがこの「昭憲皇太后」がドレスで着用したという礼服。完全に洋装なのですが、100%メイド・イン・ジャパンというのが面白いですよね。

かなり小柄な昭憲皇太后でしたが、格調の高さを示すトレーン部分の長さは3メートル30センチもあるそうです。皇室らしい「菊柄」全開で、まさに和洋折衷、東西融合の象徴みたいなドレスです。

5.同時開催のコレクション展も非常におすすめ!

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横浜美術館は、毎回企画展と同時開催されるコレクション展(常設展)の内容がいつも素晴らしいのですよね。よく整理された展示内容と物凄い物量で、なんなら企画展よりも遥かに多い展示内容が待っているのです。特に、前回の篠山紀信展では、紀信展も合わせて圧巻の「全館写真展」状態でした。 

さて、今回のコレクション展も例によって惚れ惚れするような素晴らしさでした。今回のテーマは「自然を映す」。テーマに沿って、収蔵された西洋画、日本画、現代アート、写真、工芸品などが大量に展示されています。個人的には、日本画コーナーの充実ぶりが素晴らしかったです。

コレクション展は写真撮影が全てOKなのも素敵です。気に入った作品を片っ端から撮りまくりましょう!是非、企画展だけで帰らず、常設展の中から新たなアートとの出会いを楽しんでくださいね。

6.まとめ

「ファッションとアート」展は、純粋 に展示されている美術品や服飾の美しさを楽しむために見て回るのもありだし、歴史的な文脈から、学術的に深く展示に切り込んでいくスタイルもOKだと思います。

見る人によって様々な楽しみ方ができる展覧会でした。力の入った企画展なので、是非楽しんでみてください。ちなみに、ファッションセンスがゼロな僕でも、物凄く楽しめましたし、なんかちょっとだけファッションセンスが身についたような気がします^_^;

それではまた。
かるび

「ファッションとアート」展の参考図書

「ファッションとアート展」公式図録

今回展覧会の公式図録。ゴージャスなカラー写真と詳細な解説で、明治~昭和初期までファッションとアートが互いに密接に絡み合って発展してきたことが、より深く理解できる図録に仕上がっています。何度も見返すと、その度に新しい発見があるクオリティの高い図録です!

「ファッションの世紀」

今回の図録にもコラムを寄せている深井晃子氏が、20世紀のファッションの潮流と、現代アートの深い関連性についてわかりやすく論じた1冊。明治期~昭和初期までの「ファッションとアート」の関係性をまとめた今回の展覧会から時間軸をさらに進め、20世紀後半まで丁寧に網羅した応用編的な内容です。

展覧会が終わった後に読むと、この本の面白さが際立ちますね。2005年に出版された本ですが、全く古さはありません。展覧会の副読本として無条件におすすめしたい好内容でした。

展覧会開催情報

「ファッションとアート 麗しき東西交流」展

◯開催地
横浜美術館
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
◯最寄り駅
東急みなとみらい駅/JR・東急桜木町駅
◯開館時間・休館日・会期
2017年4月15日(土) ~ 6月25日(日)
10時~18時 (17時30分最終入館)
*2017年5月17日(水)は20時30分まで
木曜日、5月8日(月)
ただし、5月4日(木・祝)は開館
◯公式HP
http://kishin-yokohama.com/
◯Twitter
https://twitter.com/yokobi_tweet
◯周辺地図
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(引用:横浜美術館HPより)

実写版「3月のライオン(後編)」ネタバレ感想・考察とあらすじ解説!/感動の結末は必見!素晴らしい傑作でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

4月22日に公開された実写版「3月のライオン」後編が公開されたので、今日映画館で見てきました。前編同様、かなり厳しい動員状況のようですが、前編をはるかに上回る出来の良さに感服しました。アニメ、原作が好きな人は、絶対後編だけでも見たほうがいいです!

ということで、早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。ちなみに、映画前編についても、レビュー記事を書いています!もしよろしければ、こちらもご覧くださいね。 

※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれます。予めご了承ください。

1.実写版「3月のライオン」(後編)の基本情報

<映画「3月のライオン」後編公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】大友啓史(「るろうに剣心」他)
【配給】アスミック・エース
【時間】139分
【原作】羽海野チカ「3月のライオン」

上演時間は、前編同様、大盛りの139分。ただし、登場人物の紹介や場面設定の説明シーンが不要な後編では、内容をじっくり掘り下げた丁寧な作りゆえの長時間構成となり、全く長さを感じさせません。

公開直前には、5分感の「前編まとめ」公式動画もアップされましたので、前編未見の人にも、復習のためにも映画に行く前に見ていくと良いと思います。

<映画「3月のライオン」ダイジェスト動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.実写映画「三月のライオン」(後編) 主要登場人物とキャスト

後編から新たに出演する主要キャラは、川本三姉妹の実父とひなたのクラスメイトや先生くらいのもので、基本的には前編で登場したキャラが出てきます。後編では、特に後藤正宗、幸田柾近、宗谷冬司の出演時間が増えますよ。

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(引用:http://www.3lion-movie.com/chart/

桐山零(神木隆之介)
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原作者羽海野チカ、大友啓史監督ら、製作者サイド全てから、主演は神木隆之介しかいない!と一致してオファーが出た逸話があるほど、今作での桐山零にぴったりフィットしています。神木自身も、出演が決まる前に「3月のライオン」原作を愛読していたそうですし、インタビューでも、零の雰囲気が普段一人でいる時の「素の自分」に通じるところがあると言うあたり、自他共に認めるぴったりの配役となりました。

川本あかり(倉科カナ)
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後編では夜の仕事のシーンがなく、露出度は減りました(笑)川本家の働き手の大黒柱として、また妹二人の母親代わりとしてそつなくこなすあかりにも初めての試練が。家庭的な母性あふれる日常生活での姿と夜の仕事で大人な雰囲気に変身する二面性を持つあかり役は、なかなか適役なんじゃないかと思いました。過去にグラビアアイドルをやっていたキャリアが見事に生きています。安心してみていられる好演でした。

川本ひなた(清原果耶)
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早熟でこれまでもリハウスのCMやNHK系の大作ドラマに重点的に起用されるなど、同年代の女優の中では実績を積んでいるので、演技的には問題ありません。ひとつ気になるのは、まだ中3なのにお姉さんより体格的にすでに一回り大きいという点(笑)モデル体型ですね。後編では、極めて重要な役どころになってきそうなので引き続き楽しみです。

川本モモ(新津ちせ)
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「君の名は。」で大ブレイクした新海誠監督の娘さんだそうです。後編では、原作・アニメで伝説的な名場面となった「まんじゅうに何いれる?」というお爺ちゃんの問いかけに「ガム!」と答えるシーンは、期待通り入っていました(笑)

桐山香子(有村架純)
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正直俳優の持っているイメージ感と全く違う配役だったので、「意欲的だなぁ」と思いましたが、決してミスキャストという感じはありませんでした。演技も熱演で良いと思います。ただ、もっと後藤9段からぞんざいな扱いを受ける原作と違い、割と大切に扱われていたし、川本三姉妹の出番を凌ぐほど出演シーンが多いのは、事務所サイドの意向なのかな・・・?

二海堂春信(染谷将太)
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公式戦中に倒れたり、いきなり零の学校にリムジンで乗り付けたりと大暴れだった前編とは違い、後編では活躍シーンはありません。ただ、映画中盤で出てくる仰々しい二海堂御殿はシリアスな本編の中で数少ない笑いどころかも。

島田開(佐々木蔵之介)
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前編のクライマックスで宗谷冬司に敗北して以来、こちらも後編では出番はぐっと減ってしまいます。二海堂同様、零の仲間/メンターとして蔭で零を応援する役回りでした。

後藤正宗(伊藤英明)
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前編での「悪役」という立ち位置から、後編では零の「ライバル」として描かれ、描かれ方は徐々に変わっていくものの、前後編を通して非常に存在感を発揮したキャラクター。相変わらずマッチョな体型に、重厚感溢れるどっしり構えた対局中の威圧感が半端ないです。好演でした。

宗谷冬司(加瀬亮)
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将棋界で共に「神童」と讃えられ、永世名人位を持つ羽生善治と谷川浩司を合成して作られたキャラクターですが、前半での神がかった神秘的な雰囲気から一転して、後半ではより人間的で意外なとぼけた一面も描かれたのが印象的でした。若い時の羽生善治になんとなく似ていたと思います。

3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ)

3年目になった桐山零のプロ棋士生活

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桐山零の棋士生活3年目が始まった。学校では新人王戦で見事優勝を飾った零は、全校生徒の前で校長から「ようやく”と金”になれた」と祝賀スピーチを受けた。自宅では相変わらず一人で研究を続ける日々だったが、ある日、将棋会館に行ってみると、零の新人王獲得を記念した、宗谷名人との記念対局が企画されていた。若い将棋ファン獲得のため、連盟会長の肝いりの企画だった。

零もまた、将棋を志した幼い頃から、宗谷名人は雲の上のあこがれの存在だった。正直実感も沸かなかった。

自宅に帰る前、零はいつものように川本家に立ち寄った。その日は、祖父、相米二が経営する和菓子屋「三日月堂」の夏の新商品を全員で検討中だった。

5月に入ると、いよいよ各棋戦が本格的にスタートした。その日、零は昨年は準決勝まで進んだ相性の良い「獅子王戦」の1回戦をクリアして控室に行くと、TVモニター上では昨年の宗谷冬司への挑戦者、島田8段が1回戦から敗色濃厚となっていた。宗谷と戦った後は、みな一様に一度自分と向き合うことを余儀なくされるために、成績を一時的に落とすことが多いのだという。

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しかし、三角から零の義父、幸田柾近8段に不戦勝した、と聞かされた零は、幸田が入院中の病院へと急行した。病室で対面した幸田に入院の理由を聞くと、「自宅で転んで頭を打った」のだという。奇しくも、同じ病院には後藤9段の意識不明で寝たきりの妻も入院中だった。零は、遠目に後藤を見かけたが、特に声をかけずに病院をあとにした。

その晩、自宅でいつものように棋譜を並べて勉強していたら、突然2人前の出前とともに義姉の香子が零の家にやってきた。香子は、幸田が入院した本当の理由は弟の歩(あゆむ)との諍いが原因だと零に告げた。零が家を出て1年経つが、まだ幸田家は荒れていたのだった。

宗谷名人との記念対局で得た確かな感触

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そして、5月末、盛岡での宗谷名人との記念対局の日になった。「勝つことだけを考えて全力で戦え」と二海堂から熱いゲキをもらいつつ、零は前夜祭に臨んでいた。前夜祭のインタビューで零は気づいたのだが、宗谷はたまに記者からの質問への受け答えが噛み合っていないことがあった。

記者会見を終えてホテルの自室に戻ると、零は明日の対極に備えて最後の棋譜検討を行った。緊張から無意識の手の震えが止まらない零に、義父、幸田は電話で元気づけるのだった。

翌日の記念対局は、寺のお堂で戦われた。途中、慎重な駒組みが続いたが、零は途中で不用意な一手を差してしまう。そこから怒涛のように宗谷が攻め込む展開となったが、この時不思議と零はこれまでになく盤面に純粋な気持ちで向き合えるようになっていた。

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回りの風景が全て消え、宗谷と将棋盤と自分だけになる中、一手一手夢中で差し続けた。結果、勝負には負けてしまったが、宗谷との戦いの中で、自らの将棋に新境地を見出した零だった。

後に研究会で島田と宗谷との対決を振り返ったが、宗谷には自分の限界を引き出してくれるとともに、宗谷自身も耳が時折聞こえない、という秘密も持っていた。

川本家に訪れた試練~ひなたのいじめ問題~

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零は、東北土産を持って久々に川本家へ行くと、泥だらけに汚れた格好でひなたが泣きながら帰ってきた。話を聞くと、中学3年生になり、仲の良かった「ちほ」がいじめられるようになり、その「ちほ」が転校していくと、今度はひなたがクラス内でのイジメ対象となったのだった。担任は見て見ぬふりだった。

零は、思わず外へ走り出していったひなたを追いかけ、ひなたに「僕がついてる」とフォローするのだった。「後悔なんてしない」「間違ってなんかない!」と言うひなたの芯の強さに、逆に零自身が勇気づけられているような気がした。

祖父、相米二もひなたをしっかり受け止め、その日の夕食はひなたの好きなメニューで食卓が埋め尽くされた。また、翌日相米二は浅草にひなたと出かけるなど、家族全員でひなたを守るのだった。

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ひなたの中学校では、いじめがさらにエスカレートしていた。登校すると机一面に落書きが書かれ、給食当番でも嫌がらせを受けた。また、教室の黒板にも一面に悪口が書かれていた。しかし、酷くなるいじめに対して心身に異常をきたした担任が教室内で暴れ、それがきっかけで生活指導の教師が新しい担任になったことをきっかけに、学校側が本格的な事態収拾に乗り出した。そして、夏祭りが始まるまでにはいじめ問題は収束したのだった。

ひなたは、夏祭りに手伝いに来ていた零に、お礼の気持ちとして零の顔に似た手作りのネコのお守りを作って零に手渡した。

後藤の妻の葬儀

秋になり、獅子王戦を順調に勝ち進んだ零は、いよいよ次が準決勝となった。しかし、同じく勝ち残っていた後藤の寝たきりの妻が対局中に亡くなるといった事件があった。対局中、危篤との一報を受けた後藤は対局を中座してそのまま病院へと向かった。しかし、妻の死に目には会えず、人知れず病院のトイレで男泣きした。そして、そのまま対局室へ戻り、その対局に勝って獅子王戦の準決勝へと進んだのだった。

後藤の妻の葬儀には、零を初め、現役棋士が総出で出席した。宗谷名人も遅れて焼香に現れた。しかし香子は葬儀に参加することが叶わなかった。葬儀が終わると、零は久々に自宅へと帰宅して、義父、幸田柾近の体調を気遣った。

三姉妹の父、誠一郎の突然の帰宅と獅子王戦決勝

冬になると、数年前、別の女性と家出して突然出て行った三姉妹の父親、誠一郎が帰ってきた。ただならぬ雰囲気に、零は三姉妹の代わりに誠一郎の矢面に立って誠一郎を追い払おうとした。零はなんとか川本家の力になりたかったのだ。

誠一郎から川本家との関係を聞かれた零は、「ひなたさんと結婚する予定です」と答え、家族を驚かせ、ひなたがその場に卒倒してしまうこともあった。

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しかし、モモを勝手に連れて出かけて戻ってきた誠一郎と3度目の対決をした時、零は家族と誠一郎の距離感を掴みきれず、つい追い詰めすぎてしまい、逆にひなたとあかりから窘められ、今日は帰ってくれ、とあかりから言われてしまった。

零は久々に寝込み、川本家から拒絶された今、やはり自分には将棋しかないと自分を追い込んでいた。研究会の仲間や、学校でも獅子王戦の決勝に向けて応援してくれたが、今ひとつ身が入らなかった。

一方、香子もまた獅子王戦の直前に後藤から振られてしまう。将棋に集中するために出ていってくれないか、と後藤の家を追い出された香子は、帰宅して「全て将棋に奪われた」と泣いた。

そして、迎えた獅子王戦決勝の日。将棋会館で零と後藤の対局が始まると、川本家も実父、誠一郎と最後の一日を過ごしていた。実父と1日時間を過ごし、その後思い残すことがなくなったあかりは、誠一郎にこれを機に縁を切ると宣言した。

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一方、零と後藤の対局は夜まで続いた。終盤戦になり、零は敗色濃厚となり、頭を抱えて次の一手に苦しみだす。しかし、長考し悩み抜いたとき、突如逆転の一手を思いつくとともに、これまでの自分の将棋人生の意味や回りへの感謝の気持ちが怒涛のように湧き上がってきた。泣きながら、終局まで差し切り、見事零は獅子王戦で優勝し、宗谷名人への挑戦権を得たのだった。

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対局が終わると、零は走って川本家へと向かった。泣きながら戸をたたき、先日の非礼を詫びると、ひなたとあかりはいつものように暖かく迎え入れてくれた。

また、香子もその日、父、柾近から「幸せになることを諦めるな、応援している」と言われ、父と和解していた。負けて戻ってきた後藤の元に向かい、優しく後藤の手を取って後藤のマンションへと入っていった。

宗谷名人への挑戦

後藤との獅子王戦決勝を経て、大きく成長した零は、いよいよ宗谷名人に挑戦することになった。義父、柾近と新調した紋付袴で、一歩一歩、山深い寺の境内の階段を上り詰めたところにある対局場には、すでに宗谷名人が待っていた。零は、ひなたから貰った人形を大切に傍らに置き、名人との対局に臨むのだった。

4.感想や解説・考察(※ネタバレ含みます)

個人的には圧倒的に満足度が高かった後編

冗長で時に退屈な展開に思えたパートも散見された前編に比べて、最初からスムーズにストーリーへと入っていけた後編は見違えるように面白く、ムダのない素晴らしい出来でした。前編同様、139分と大盛り長尺でしたが、全く時間を感じさせず、あれ?もう終わり?という感じ。

ひなたの強い気持ちに心打たれ、勇気をもらう零f:id:hisatsugu79:20170428123624j:plain

主人公の零は、後編を通して対宗谷戦、対後藤戦、と2つの対局でそれぞれ異なる気づきを得て成長するとともに、零をとりまく川本三姉妹や香子など脇役たちも、零との交流を通してそれぞれの人生における大きな課題に向き合っていくのですが、その全てが最後に良い形で収束していきます。

前編で登場人物を多数登場させ、複数のサイドストーリーを進行させるなど、広げるだけ広げた風呂敷が見事に後半で一気にまとまったのは見事でした。羽海野チカの作り上げてきた原作の力も間違いなくあったと思いますが、それらを土台にしてきっちり映画として気づきや感動をもたらしてくれる秀作だったと思います。

むしろこの出来なら、原作かアニメを見たことがある人は、なんなら今から「後編」だけ見てもとりあえず満足できるかも。期待以上の大団円に素直に感動したし、大満足でした。

前半は原作に忠実に、後半はオリジナル展開で綺麗にストーリーが収束!

今回、物語の前半部分までは、前編同様に時系列を入れ替え、原作から「ひなたのいじめ問題編」と「実父との対決編」をピックアップして川本家を集中的に描きつつ、同時に零の棋士としての3年目の棋戦や、香子のストーリーが進んでいきます。ここまでは、台詞回しも含めて意外なほど原作に忠実な流れでした。

そして、後半になると時系列上は原作を越えて、待ちに待ったオリジナルストーリーが始まります。後藤の妻の死、獅子王戦での後藤との対局を経て、大きく成長した零がラストで宗谷名人との2回目の対決に臨むところでエンドロールとなりました。とは言っても、それ以外の結末は考えづらく、だいたい想定内でしたが・・・(笑)

何が零を大きく変えたのか?2つの対局が成長への「鍵」となって描かれた

後編において、零は2つの棋戦でそれまでにない「気づき」を得て、棋士として、人間として大きく成長を果たします。対宗谷戦では棋士としての自信を得て、対後藤戦では自分自身を取り戻しました。

対宗谷戦(記念対局)
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まず、最初に零を待っていたのは宗谷名人との記念対局。「宗谷と対戦する者はみな、自分自身と向き合わされ、自分の弱さや心の中をしっかり見透かされてしまう」と劇中のセリフでもあるように、純粋で孤高の存在である宗谷はプロ棋士達にとってある意味「神」に近い立ち位置であり、心を映し出す「鏡」のような存在なんですよね。(だからいつも勝負衣装は「白」系の紋付袴ばかり)

そこで零が見たものは、自分の中に広がる無限の可能性、インスピレーションでした。不用意な7四歩を咎められ、宗谷に攻め込まれた零は、他の棋士同様、心の中を裸にされてしまいます。しかし、零が並の棋士と違っていたのは、そこから盤上に没入し、無心で差し回すうちに、一種「ランナーズハイ」のような神がかった悟りに近い状態を体験したことです。敗色濃厚の中、一心に盤上没我して最善手を打ち続ける中で、確実に自分自身の棋士としてのアイデンティティに目覚め、自信をつかんだ一局になりました。

対後藤戦(獅子王戦決勝)f:id:hisatsugu79:20170428123423j:plain

対して、クライマックスとなる対後藤戦では、なんと対局中に涙を流します。最初見えたときは、汗なのかな?と思ったのですが、泣いていたんですよね。神木くんの凄まじい演技に脱帽です。対後藤戦も後半敗勢となりますが、頭をかきむしってあきらめずに考え抜いた時、たった1手で大逆転できる手が見えたのです。それは、単に勝敗を分けた一着にとどまらず、零が人生の暗がりから抜け出した瞬間だったんですよね。

敗色濃厚となった苦しい盤面でもあきらめずに考え続け、ひねり出したたったその1手で局面が180度変わってしまったまさにその時、彼は盤面の将棋に自分自身の人生を重ね合わせて見ていました。ずっと暗がりの中で一人きりで、自分には「将棋しか無い」と思っていたけど、心から切望していた「幸せ」や「愛」は、あきらめずに探し続ければ必ず見つかるし、実は最初からすぐそこにあったんだという大きな気づきを一瞬で得たのです。

仲間や先輩、家族に囲まれ、彼が求めた「愛」は日常生活の中で、手を伸ばしたらいつでも手の届く所にあったのですが、零はいつも見過ごしていました。いや、零がきちんと「見ようとしていなかっただけ」なのでした。そして、彼が見過ごしていた大きな幸せは、実は彼が幼少時から「将棋しかねぇんだよぉ~」と絶望、苦悩とともに打ち込んできた「将棋」こそが運んできてくれた最大の贈り物だったんですよね。そういう意味でやっぱり零には「将棋しかなかった」のでした。

今なぜ自分がこの場に存在しているのか、自分の幸せはどこに落ちていたのか、こうした気付きが一瞬でもたらされ、怒涛のように押し寄せる様々な感情の中、震える手で最後トドメの飛車を盤面に打った時、涙が止まらなくなるのは自明の理ですね。本当に素晴らしい演技でした。

幸せは与えられるものではなく、自分で気づくもの

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「幸せは自分で気づき、つかみにいくもの」というテーマは、後編での川本家三姉妹や香子を取り巻くストーリーにも通奏低音のように流れていました。

クライマックスシーンで、あかりは彼ら三姉妹にとって愛憎入り交じる実父に対して、「次の一手を打つ」として、遊園地で最後の1日を過ごし、そこで三行半をつきつけます。平手打ちまでして実父に別れを告げたあかりの大胆な行動力は、彼らが「幸せ」であることへの貪欲さの現れでした。

いつも愛情で溢れた温かい食卓や家庭環境は、決して最初からあったわけでも与えられたわけでもなく、彼らがそれを選び続けたからこそなんですよね。一見理想的な温かい家庭に見える川本家にも、放蕩三昧の父親やいじめ問題など、普通に問題や試練は訪れるのです。しかし、あかりやひなたのようにお互いを思いやり、自分自身で「幸せである」ことに対して素直であり続けることで、彼らはいつも笑っていられたのだなと思います。

将棋のために何かを犠牲にして戦う、不器用なプロ棋士達

ある意味「将棋」に人生を翻弄され続けた香子f:id:hisatsugu79:20170428124215j:plain

しかし、それにしても「3月のライオン」で描かれる棋士たちはみな揃いもそろって不器用で、何かを犠牲にしながら懸命に生きる姿が印象的でした。前後編を通して、「将棋」のために全てを差し出して対局に臨むプロの厳しさもきっちりと描かれます。

たとえば、各棋士が将棋のために犠牲にしたものは、リストにするとこんな感じ。

<桐山零>
普通の高校生活。将棋漬けで友人もいない。
<後藤正宗>
結婚生活。香子との不倫関係さえも最後に捨て去る。
<幸田柾近>
子供2人の才能を見切り、親子関係が冷え込む。
<宗谷冬司>
極限までのプレッシャーから難聴になる。
<二海堂春信>
腎臓の持病が対局中にたびたび極度に悪化する。
<島田開>
プレッシャーから、慢性的な胃潰瘍を患っている。

パンフレットにも書かれていましたが、「将棋」のため、日常的に常に何かを犠牲にしながら生きている棋士たちにとって、彼らが犠牲にしたものの象徴=後藤の奥さんの葬儀は、いわば彼らが前進するために必要な大切な儀式だったのかもしれません。

宗谷名人とのラスト対決の舞台はどこなの?

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ラストシーンで、宗谷名人との獅子王戦第1戦の対決で、宗谷名人が先に待つ対局室まで階段を踏みしめるように一歩一歩登っていく零の姿は、映画全体を通して少しずつ成長していった彼を象徴するような美しいシーンで、心しびれましたね。

そして、何よりも素晴らしかったのはそのロケーション。将棋の本場、山形県の立石寺(りっしゃくじ)が選ばれました。開山して1200年以上の由緒ある古刹です。

立石寺HP
http://rissyakuji.jp/

まるで修験道のお寺や昔の山水図などの水墨画に出てくるような急峻な山に立つ立石寺は、映像にしてみると非常に趣がありますね。近いうちにぜひ聖地巡礼したいと思います!

先に結末が描かれた映画に対してマンガ原作はどうなるの?

獅子王戦の対局中に、妻の危篤を知る後藤が描かれるところから、原作の進行を越えて映画オリジナルのストーリーが進んでいきました。そこから、零は後藤との獅子王戦決勝を制して、最後に宗谷名人との獅子王戦七番勝負に挑んでいくところでエンディングとなりました。

すでに複数のソースで原作者の羽海野チカが語っているように、この結末は当初原作でも想定していたエンディング案だったようです。しかし、映画化を受けて、改めて後編のパンフレットでのインタビューで、羽海野チカがこう語っています。

映画には、当初予定していた最終回をそのまま提供しました。そこへオリジナルのアイデアが加えられて、圧倒的な”映画”としての正解を見せてくれたなという気持ちです。[・・・](映画を受けて、原作が)全く同じとはいきませんよね。具体的には、七番勝負を全部描くという手段をとらざるを得なくなりました。しかもそこで終わりではなく、さらなるエピローグも描かなければいけない。

おお!これは楽しみ!原作マンガでは、もっとドラマチックで心躍らされる展開を期待するとしましょう!

5.まとめ

ネコを拾ってきては、温かい場所で愛情をこめて育てるのが好きだったあかりに道端で拾われた零は、川本三姉妹や将棋仲間たちとの交流を通して、自分を取り戻していく中で、体こそ痩せたままでしたが、心はしっかりフクフクになりました。

でも、映画の前後編を通して一番心豊かにフクフクになれるのは、映画を見ている我々なんだと思います。マンガ原作と雰囲気こそ少し違えど、作りてとして同じ魂を持った羽海野チカと大友啓史は、確実にその世界観や目指すところを共有していたと思います。原作同様、「3月のライオン」は素晴らしい映画でした。おすすめです。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年4月現在上映中映画の感想記事一覧

6.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作マンガ「3月のライオン」

今作を見て、まだマンガ原作を未読の方は、是非後編に向けて予習をしておくと良いと思います!コメディ要素とシリアス要素が絶妙にMIXされた羽海野チカの独特の作風はいちどはまると病みつきになります。特に、映画後編の話の核となった「ひなたいじめ編」「捨男編」までの展開(7巻~11巻)は必見!是非、これを機に試してみてくださいね!【Kindleで一気読みはこちら!

別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界

マンガ原作、アニメ、実写映画を含め、これまで発表された「3月のライオン」関連の全てのコンテンツを振り返る意欲的な総特集。原作者羽海野チカをはじめ、実写映画監督の大友啓史、TVアニメ監督の新房昭之、監修した先崎学9段、神木隆之介らへの豪華インタビュー他、極めつけに羽生三冠へのインタビューまであります!!

また、「3月のライオン」だけでなく、デビュー作「ハチミツとクローバー」の回顧特集までついています。過去に出版されたどの「3月のライオン」特集本よりも素晴らしかったムック本でした。超おすすめ!

アニメ版「3月のライオン」動画配信はHuluで!

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2016年10月~2017年3月に渡ってNHKで放送されたアニメ版「3月のライオン」(第1話~第23話)が現在Huluで見放題となっています!

原作漫画で描かれる零の心象風景や個性的な棋士達が命を削って戦うシリアスなシーンから、川本3姉妹とにゃんこたちも絡んだコミカルなシーンまで、原作の世界観を忠実に再現したハイクオリティなアニメは、絶対見て損はありません!

加入後2週間はトライアル期間で「無料」、その後も月額933円(税抜)とかなりの低額で海外ドラマや見逃し配信など、膨大な作品が楽しめます。このGWシーズン、無料期間中に全23話見てしまうことも可能です!是非検討してみてくださいね。

Huluへの申込リンク
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【ネタバレ有】「ワイルドスピード8 アイスブレイク」感想・レビューとあらすじ解説!/ド派手なカーアクションは今作も健在!

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かるび(@karub_imalive)です。

4月28日にリリースされた映画「ワイルド・スピード ICE BREAK」を見てきました。4月中旬に世界同時公開されて以来、早くも興収が9億ドルを超えた超大作の第8弾となります。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「ワイルド・スピード ICEBREAK」の基本情報

<映画「ワイルドスピードICEBREAK」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】F・ゲイリー・グレイ(「追憶の森」「ストレイト・アウタ・コンプトン」)
【配給】東宝東和
【時間】136分

作品を重ねるごとに、どんどん伸びる上映時間。今回も上映時間は2時間16分とかなりの長さになりました。そして、監督には今作からF・ゲイリー・グレイが本シリーズ初メガホンとなりました。

F・ゲイリー・グレイ監督f:id:hisatsugu79:20170429211139j:plain
(引用:http://www.imdb.com/name/nm0336620/

前作「ストレイト・アウタ・コンプトン」では、手がけた作品が米国内で過去最高興収を記録した「黒人」監督として一躍有名になりましたが、今作の世界的な大成功を受け、その記録はさらに伸びそうです。 

2.映画「ワイルドスピード ICEBREAK」の 主要登場人物とキャスト

2009年の第4作でヴィン・ディーゼルがシリーズに復帰して以降、大物俳優の「ファミリー」加入が進められていますが、今作ではジェイソン・ステイサムやスコット・イーストウッドなど新キャラが登場し、前作撮影中に事故死したポール・ウォーカーの穴をしっかりと埋めています。

ドミニク(ヴィン・ディーゼル)f:id:hisatsugu79:20170429211336j:plain

「トリプルX」のザンダー・ケイジも「ワイルド・スピード」シリーズでも、キムタク同様、何を演じてもヴィン・ディーゼルにしかなりえない感じの人だと思っていたのですが、今作の大半の時間を「敵」側のメンバーとして演じたことで、新たな一面が見れたのは面白かったでです。
ホブス(ドウェイン・ジョンソン)f:id:hisatsugu79:20170429211637j:plain

今作では、最初から「当局側」という縛りがなくなり、よりアウトローでワイルドな面が(普段のWWEでのレスラー”THE ROCK”に近い感じ?)全面に出てきたドウェイン・ジョンソン。「モアナと伝説の海」マウイ役での声の演技といい、意外にこの人は引き出しが多いですね。
デッカード(ジェイソン・ステイサム)f:id:hisatsugu79:20170429211448j:plain

多分今作のMVPです。後半クライマックスでの緩急をつけた演技は絶妙でした。ママに頭が上がらないイタリアマフィアみたいな設定や、赤ちゃんをあやす表情など、前作までのシリアスなヴィラン設定はどこへ!!(笑)チームのみんなはハンを殺された恨みはどうでもいいのか?!でも、確実に映画に新しい風をもたらしてくれたと思います。ドウェイン・ジョンソンとのスピンオフも実現すれば楽しみ!

ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)f:id:hisatsugu79:20170429211357j:plain

前作で唐突に登場して以来、今作では確実に存在感を増したミスター・ノーバディ。今後のスピンオフも睨み、アベンジャーズのサミュエル・L・ジャクソン扮する秘密組織の長官的な立ち位置になっていくんでしょうか?ラストシーンのお祈りでもちゃっかり席に着いてたし・・・

サイファー(シャーリーズ・セロン)f:id:hisatsugu79:20170429211326j:plain

若い女性が偏執狂的なテロリストの悪役を演じ、身なりはきちんとしているんだけど、色仕掛けは一切なしと、典型的なヴィランのイメージからかなり外れた配役は、ワイルド・スピードらしくて良かったです。何年も前から出演交渉を重ねてきており、今回満を持しての登場でした。なにげにこの人はオスカーも受賞している本格派女優なんですよね。

レティ(ミシェル・ロドリゲス)f:id:hisatsugu79:20170429211522j:plain

個人的にはどちらかというと「バイオハザード」(第1作、第5作)での個性的(だけどゾンビ的な気持ち悪さもしっかりある)な役割のイメージが強いのですが、いずれにしてもこの人は戦闘シーンが本当に似合いますね。今作では、心変わりした(かに見える)ドミニクを最後まで信じ抜く重要な役柄を演じています。熱演でした。

ローマン(タイリース・ギブソン)f:id:hisatsugu79:20170429211437j:plain

シリーズ2作目で一旦降板したドミニクの代役として参加した際は、3枚目過ぎて約不足だなぁと思っていましたが、逆に脇を固める存在に回ると欠かせない存在感がありますね。「軽さ」を感じさせる陽気な黒人キャラとして5作目からは不動のサブキャラになりましたが、今作ではテズとの軽妙なやり取りがさらにキャラクターの新たな魅力を引き出しています。

テズ(クリス・リュダクリス・ブリッジズ)f:id:hisatsugu79:20170429211746j:plain

2作目ではマイアミのストリート・レースを取り仕切るボス的な役割で出たと思ったら、5作目で再登場した際は控えめでメカに強いオタク青年キャラへと変貌。さらに前作あたりからかなり口数も増えて、胸板や腕の筋肉も(みせないけど)ムキムキになってきたような。映画で見るたびに少しずつキャラが変わっていくのが面白いです。

ラムジー(ナタリー・エマニュエル)f:id:hisatsugu79:20170429211418j:plain

前作後半から、敵方からドミニクファミリーに移籍してきた天才技術者。今作では髪型もアフロに変わり、「ユーロミッション」で死亡したジゼルの代わりにしっかり個性を確立してチームに馴染んでいました。今後も愛されるキャラになりそう。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

キューバでのハネムーンとマイルレース

数々の戦いを経て、ようやく平和な日々を取り戻したドミニクとレティは、ハネムーンとしてキューバで安息の日々を過ごしていた。ハネムーン中も、車好きの二人は地元のストリートレース会場を楽しんでした。キューバには他の国で見られないようなクラシックカーが街に溢れていた。

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レース会場で、彼は親戚のフェルナンドがラルドという男とトラブルになっているところへ出くわす。トラブルを解決するため、ドミニクはラルドとお互いの車を賭けてフェルナンドのマイルレースを戦った。

ラルドの仕掛けたワナや不慣れな地の利もあったが、ドミニクはブライアン譲りのドライブで何とかラルドに勝利する。勝負が終わり、ラルドとドミニクの間には確かな友情が生まれた。

新たな敵、サイファーの登場とドミニクの裏切り

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別の日、ドミニクは街を歩いていた時、サイファーという女と出会う。出会いは偶然ではなく、仕掛けられたものだった。そして、サイファーはドミニクにはある携帯電話の画像を見せて、部下になれとドミニクに脅したのだった。

その頃、ホブスにも新たな任務の依頼が飛び込んできていた。大量破壊兵器として扱われているEMP(電磁パルス兵器)がベルリンの反体制派の武闘派組織に奪われたので、それを奪い返して欲しい、という依頼だった。ちょうどその時彼は地元で、実の娘も所属するサッカーチームの指導をしていた。寂しがる娘を見て心が痛みつつも、ホブスは作戦遂行にあたり、ドミニクたちのチームの力を借りてベルリンへと飛んだ。

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作戦遂行当日、ドミニクはレティ、ローマン、ラムジー、テズら、ファミリーのメンバーを連れて、ホブスと合流した。そしてドミニク達は無事に反体制派からEMPを奪い返し、追いすがってきた反体制派の高速車を巨大な鉄球で破壊すると、ミッションは終わったかのように見えた。しかし、ミッション終了時にドミニクはホブスの車を横転させ、EMPを奪ってサイファーの自家用ジェット機へと合流し、一人逃走してしまった。そして、任務に失敗し、車に残されたホブスはそのまま逮捕されてしまった。

デッカードのチームへの合流

ホブスは、前回のミッションで投獄したデッカード・ショウが服役する極悪犯の収容所へと収監された。収監される前、ミスター・ノーバディと、その部下、リトル・ノーバディは、「我々と仕事をするなら釈放する」と告げたが、リトル・ノーバディが娘の誘拐をちらつかせたため、ホブスは怒ってそのまま収監されることを選んだ。

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しかし、ミスター・ノーバディの手引により、ホブスとデッカード・ショウは収容所での乱闘に巻き込まれ、その流れで超法規的に収容所を出て作戦に参加することになった。

ホブスとデッカード・ショウは、ミスター・ノーバディの作戦司令室へと向かい、すでに集められていたレティたちと合流して、そこでサイファーとサイファーの計画についての説明と、サイファーのグループにドミニクが加わっているという事実を告げられた。

デッカードは、すでにサイファーのことをよく知っていた。過去に弟、オーウェンが軍から「ナイトシェード」を奪おうとした時や、彼自身がラムジーの開発した神の目(ゴッドアイ)を奪おうとした時、その依頼元はサイファーだったのだ。一時期オーウェンと共に行動したことがあるレティも、サイファーの部下、ローズには見覚えがあった。

サイファーの急襲

サイファーは、レーダー検知をかいくぐって、世界中をステルス戦闘機で移動してまわっているのだという。そこで、ローマンの提案で、その場で「神の目」を使ってサイファーとドミニクの居場所を探ることになったが、検索結果から逆探知して更に調べた結果、彼らが今いるビルにいることがわかった。

と、その時、ちょうどサイファーとドミニクが爆発音とともに司令室へと乱入してきた。脳震盪グレネード弾でホブスたちを動けなくした上で、サイファーは悠々と「神の目」のチップを取り出して出ていった。こうして、サイファーはドミニクを使ってEMPと「神の目」の2つを悠々と手に入れたのだった。

ドミニクがサイファーに従っていたのは、一時期親密な関係にあったエレナとドミニクとの間に生まれていた息子、マルコスがサイファーに人質に取られていたからだった。ドミニクは、機を見てサイファーやその部下、ローズを簡単に襲撃することもできたが、その代わりエレナと息子を殺されてしまう恐れがあったため、事実上何もできないのだった。

ニューヨークでのアクション・バトル

サイファーの次の作戦は、ニューヨークに滞在中のロシア大使を襲撃し、核ミサイルの発射用暗号が入ったスーツケースを奪うことだった。サイファーは、機上で奪取したばかりの「神の目」を使い指揮を取り、ドミニクが実行犯として地上に降りた。

ドミニクはこの機を逃さず、カメラの死角に入ると、車を降りて短時間のうちにオーウェンとデッカードの母、マグダレーナ・ショウを訪ねていた。マグダレーナは、息子達の敵であることは承知で、ドミニクと面会したのだった。

サイファーに気づかれずに車に戻ると、ドミニクは作戦を開始した。サイファーは、地上で走行中や駐車中の車両を次々にハッキングし、自動運転を乗っ取ってロシア大使の乗るリムジンを足止めすると、ドミニクはロシア大使から核ミサイルの入ったスーツケースを成功裏に奪いだした。

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ドミニクを追ったホブス達はドミニクに追いつくと、ドミニクの逃走を阻もうとした。カーチェイスの結果、5台がかりでドミニクの車を一旦捕まえることに成功したが、馬力の違いからドミニクを取り逃がしてしまうのだった。

逃げるドミニクに対して、デッカードが立ちはだかったが、ドミニクはあっさりデッカードを撃ち殺して逃げていった。さらにその後レティが走って逃げるドミニクに路地裏で追いつき、対峙したが、その時ローズがやってきてレティを殺そうとした、ドミニク、レティ、ローズと3つどもえで暫くにらみ合い、そしてドミニクはローズと共にサイファーの元へと戻っていった。

作戦がスムーズに成功しなかったこと、レティを守ってローズを脅したことから、サイファーはローズにエレナを射殺させた。そして、ドミニクはそれをただ見ているしかなかった。

そして、ロシアの極寒の地へ

サイファーの最後のミッションは、ロシアの原子力潜水艦の強奪だった。サイファーは、手に入れた原子力潜水艦に格納された核ミサイルを各大国へと撃ち込み、世界を支配する野望を持っていたのだ。最近、武装反乱勢力に乗っ取られ、ロシア政府も手をだせなくなっていた極東の軍事基地、ウラドビンを襲撃する計画を立てていた。

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これを察知したホブス達チームも、ミスター・ノーバティが用意した戦闘高速車両を準備し、サイファーたちを迎え撃つことになった。

ドミニクは、ベルリンで手に入れたEMPを効果的に使い、電子制御で動作する兵器の索敵・防御機能を奪い、サイファーの潜水艦へのハッキングを成功させた。ラムジーもハッキングし返したが、サイファーとのハッキング合戦に敗れ、結局潜水艦を奪うことはできなかった。しかし、同時にデッカードとオーウェンのショウ兄弟が、サイファーの乗るスーパージェットへ侵入することに成功していた。

ドミニクは、デッカードの母、マグダレーナに直接デッカード兄弟の助力を要請し、デッカードは頭が上がらない母からの指示に従い、弟オーウェンを連れてサイファーの自家用ジェットを襲撃し、ドミニクの息子の救出に向かったのだった。デッカードが撃たれたのはフェイクで、かつてのドミニクのファミリー、レオとサントスが倒れた(かに見えた)デッカードをすぐに回収したのだった。また、ハネムーン中にキューバで新たに友人となったラルドがニューヨークでのドミニクとマグダレーナの面会をアレンジしていたのだった。

デッカードとオーウェンは、機内の敵を次々と倒していった。オーウェンは操縦室を占拠し、デッカードはドミニクの息子を救出した。ドミニクは、それを知ると、サイファーの指示でドミニクの監視役としてつけていたローズを倒した。そして、サイファーにもう従わない、と宣言した。

一方、ホブス達も潜水艦の中へと入り込み、潜水艦の中の核兵器発射装置のチップを抜くことで遠隔操作での発射を防ごうとしていた。彼らは、ロシアの反乱軍部隊を倒しながら何とか司令室への侵入に成功すると、サイファーが核ボタンを押して、ミサイルが発射されるわずか0.6秒前にチップを抜き取ることに成功したのだった。

チップを抜き取り、潜水艦の核兵器発射装置の無力化に成功したホブス達は、基地の外へと用意した高速戦闘車両へ一斉に逃げ出した。すると、ホブス達の侵入に気づいた反乱軍の地上部隊が追いすがってきた。さらに、その後ろから潜水艦のコントロールを奪ったサイファーが追いかけてきた。

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逃走中、ローマンの乗った車が水没したり、潜水艦から打ち込まれた魚雷と格闘したり危機の連続だったが、サイファーが潜水艦から打ち込んだ熱感知ミサイルに対して、ドミニクがひきつけ、潜水艦自らに当たるように誘導した。熱感知ミサイルが潜水艦にヒットした時、ドミニクは避けきれず、炎と防風に焼かれる前に、ドミニクの仲間たちの車が戻ってきて、ドミニクを守ったのだった。

エピローグ~新たなファミリー~

一方、機上を制圧したオーウェン、デッカード兄弟はサイファーを追い詰めていた。サイファーは、デッカードに捕まる寸前に、一人パラシュートで機内から脱出し、その後はギリシャへと逃げていった。

こうして、サイファーの計画を阻止することに成功したドミニク達は、いつものように事件終了後、ニューヨークのビルの屋上でパーティを開いていた。また、新たにファミリーにデッカードも迎え入れられることになった。ドミニクは、息子のファーストネームに「ブライアン」と名付け、そして全員で食事を取るのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

超B級娯楽映画は今作も健在!

ワイルドスピードシリーズの一番の醍醐味は、なんといってもカーアクションですね。高級車からスポーツカーまで、あらゆる車が派手にぶつかりあったり、空を飛んだりするスケール感のある画面が最高です。

前作ではビルを突き抜け、空を飛んで行き着くところまで行ったかなと思ったら、今作で異種格闘技戦のような潜水艦とのカーチェイスや、鉄球で車を押しつぶすシーンや、自動運転車を暴走させ、大通りを埋め尽くしたり建物から雨のようにふらせたり、よくもまぁネタが尽きないものです・・・。

今作も、まず大半の観客が期待していたであろう「カーアクション」についてはまったく不満ありません。日頃のストレスがスーッと消えていくような、カタルシスを刺激するド派手なシーンの連続に、「これぞ映画!これぞワイスピだよね!」とまずは満足しました!

だから、個人的にはカーアクションシーン以外でストーリーやセットに多少のアラがあっても、目をつぶるしかないというか、まぁ仕方ないのかなと思っています。というか、ぶっちゃけ1作目からずっと突っ込みどころが多すぎて、「現実感がない」とか「ストーリーにムリがある」とか言い出すと、キリがないような。

ただ、ストーリーもダメ、アクションも中途半端な並の駄作とは、本シリーズは若干違います。「ワイルドスピード」じゃなきゃ、普通バカバカしくて思いつかないような奇想天外なカーアクションシーンに、湯水のように予算を投入してド迫力で見せてくれるので、「まぁストーリーとか、一部チープなセットとかは仕方ないよね」と半分力技で納得させられるような感じなんですよね。そういう意味で、この映画は「超B級娯楽大作映画」なんだと思います!

近未来SFストーリーとして見れば楽しめる?!

元々、純粋なクルマいじりから始まったアナログ的な本作でしたが、前々作「ユーロミッション」あたりから、急速にITが絡んだサイバー犯罪サスペンス要素が強まってきました。今作は、最近のアニメ映画「ひるね姫」でも取り上げられた「自動運転」に着想を得た大規模なカーアクションが見どころです。

路上にあふれるハッキングした自動運転車の群れ!f:id:hisatsugu79:20170430024115j:plain

しかしそこはやり過ぎ演出なワイルドスピード!前作から出てきた、世の中のあらゆるネットワーク情報を瞬時に操れる「神の目」だったり、エンジンが停止している車も含めて、何十台も遠隔操作で完璧に車両を操作したり、クライマックスでは潜水艦をハッキングして操るなど、物語の前提として明らかに現実離れした、ある意味「未来的な」仕組みが平然と導入されています。

これを「どうやって実現するの?」とか野暮なことを言い始めたら、キリがありません。僕も最初は気になっていたのですが、ある時から「そうか、このお話は近未来のSFものなんだ!」と考えるようにしたら、すんなり受け入れられるようになりました。着想は面白いし、案外10年、20年後に見返したら、「時代を先取りしたテーマだったね」と再評価されているのかもしれません。

SF/ファンタジー色が強まった分、コメディ要素の強化が生きた

もはや各種設定やアクションシーンが現実離れしすぎて、一種近未来SF的な趣向もある今作。だからこそ、シリアスになりすぎず、前作よりも大幅に強化されたコメディ色に好感が持てました。

物語を通してお互いの共通項を見出し、口の悪い相棒となったホブズとデッカード、息が合ってきたローマンとテズの軽妙なやりとりに加え、機上でシリアスな戦闘をしつつ赤ちゃんをあやすデッカード、リトル・ノーバディの天然キャラなど、笑えるポイントが本当に増えました。物語の矛盾点やご都合主義的な進行にいらっとする前に、さらっと笑わせてくれる展開は良かったと思います。

しかし、案外ぶれていない作品のコンセプト

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「ワイルドスピード」シリーズは、シリーズを重ねるに従って、「ファミリー」という上位概念を中心に、大切に育てられてきたいくつかのキーコンセプトがあります。本作では初めて「ファミリー」が崩れるところが新味として描かれますが、監督やジャンルが変わって来ていても意外なほど作品の骨格はぶれていませんでした。たとえば、こんなところ。

・エキゾチックな西洋以外の舞台が撮影地として選ばれる
→今作の撮影地は、なんとキューバ!オバマ大統領の思わぬ成果!
・「原点」であるストリートカーレースのシーンが描かれる。
→今作もキューバの市街地でマイルレースが行われました。
・ファミリーに毎回1~2名ずつフレッシュな新キャラが加入する。
・前作の敵キャラがファミリーに加わる。
→今作ではまさかのデッカードがチーム入り!倒した敵が次々悟空のファミリーに加わっていくように、まさにドラゴンボール的な「昨日の敵は今日の友」展開は今作でも健在!
・過去作品のキャラクターをリスペクトし、思わぬ形で再登場させる。
→今作も懐かしいキャラが再登場していました。

過去作で、作品の個性を形作り、評価を得てきたポイントはしっかり押さえた上で、新しいストーリーや新キャラを登場させるそのバランス感覚は、見ていて非常に安心できました。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

作品数を重ねてきた超大作シリーズということで、ストーリーは単純ながら作品内での情報量は詰め込まれていて、コアなファンにリピートさせる様々な工夫が施されています。そこで、サラッと見た時に取りこぼしがちな伏線や設定などをまとめてみました。

映画冒頭でホブスと子供達がやっていた踊りは「ハカ」

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ホブスが最初に登場するシーンで、彼は子供の女子サッカーチームの監督を務めていましたが、試合前に変わった踊りを披露して相手チームを威嚇していました。これは、ラグビー等でニュージーランドの「オールブラックス」が試合前によくやっている「ハカ」というマオリ族に伝わる民族舞踊です。

いかにもマッチョなホブスらしい逸話でしたが、同時にこれはディズニーアニメ映画「モアナと伝説の海」でマウイというオセアニア先住民の半神半人を演じたドウェイン・ジョンソンへのオマージュでもありました。

なぜサイファーはドミニクを脅してまで部下にしたのか?

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サイバーテロリストとして世界の支配を目論むサイファーは、過去にショウ兄弟を雇い、それぞれオーウェンには軍の通信網を24時間遮断する特殊装置「ナイトシェード」作成のためのパーツ収集を、デッカードにはラムジーの開発した「神の目」を奪うように指示しましたが、両方ともドミニクと仲間たちに阻まれました。(そういう意味で、見えてないけど「ユーロミッション」「スカイミッション」も真のラスボスはサイファーだったということですね)

それならば、直接ドミニクを脅して支配下に置いたほうが「論理的」であると考えたサイファーは、ドミニクを部下にすることを決意したのです。

「神の目」(ゴッドアイ)とは何か?

インターネットを介して、ネット上に接続された世界中のあらゆるカメラ装置を遠隔操作して目的の人物を追跡監視できるシステム。在野の天才ハッカー、ラムジーにより独自に開発され、前作「スカイミッション」では彼女と彼女の作った「神の目」を巡って、ドミニク達とデッカードが争いました。ちなみに、現実的には今の技術レベルではまったく実現不可だと言われています(笑)

ニューヨークでドミニクを助けたメンバーは誰なの?

ドミニクを監視する「神の目」の死角を全て防ぎ、ドミニクのためにショウ兄弟の母、マグダレーンとの面会をアシストしたのは、キューバでマイルレースを共に戦ったラルドでした。ドミニクは、人質になっているドミニクの息子を、ショウ兄弟に救出してもらえないか、彼らの母親のマグダレーンに直談判したのでした。

マグダレーンに頭の上がらないデッカードは、母の指示通り弟、オーウェンを連れてドミニクの息子の救出へ向かいます。そして、ドミニクが外して息子の監禁部屋に掛けておいたネックレス内に仕込んだ発振器を手がかりに、サイファーのジェット機を探し出し、急襲したのでした。

この任務に就くため、一旦デッカードはドミニクに撃たれて「死んだ」フリをしなければなりませんでしたが、その際に倒れたデッカードを搬出したのは、4作目冒頭でドミニクと一緒に強盗の仲間だった、レオとサントスでした。

続編製作やスピンオフの情報が?

ブライアン・オコナー役のポール・ウォーカーが不慮の死を遂げ、前作「ワイルド・スピード SKY MISSION」がキリの良い終わり方をしただけに、当初は今作を含む続編製作の機運はそれほど高くなかったようです。しかし、前作が1500億ドルを超える超メガヒットを記録したため、ビジネス上の強い要請もあって8作目以降の製作続行が決定しました。

Twitterでは早くも「9」のポスター画像が!
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(引用:https://pbs.twimg.com/media/C-I0LIzXkAInKkX.jpg

今作、エンディングでシャーリーズ・セロン扮するサイファーはギリシャへと逃げ込んで再起を図っているとミスター・ノーバディがラストで言っていましたが、「ワイルドスピード」シリーズは、サイファーとの対決を描く今作からスタートする3部作を2021年までに予定しています。

時系列での公開予定
2017年4月29日:ワイルドスピード・アイスブレイク
2019年4月19日:ワイルドスピード9(日本での仮題)
2021年4月2日:ワイルドスピード10(日本での仮題)

さらに、ドウェイン・ジョンソン扮する外交保安部に復帰(するであろう)ホブスと、今作でホブスのよきライバル&相棒的な存在となったジェイソン・ステイサム扮するデッカード・ショウのスピンオフ企画も進行中とのこと。

時系列的には、ワイルドスピード10でサイファーとの決着が図られるまでの期間に起こったサイドストーリーという位置づけになるようです。続報が楽しみですね。

6.まとめ

細かいところを突っ込みだすとケチはいくらでもつく作品ですが、クオリティの高い派手なアクションをポップコーンを安心してゆっくり食べながら見るにはぴったりな作品。ポール・ウォーカーへ捧げるオマージュ的シーンも満載ですし、長年のファンには見逃せない作品になっています!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年4月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「ワイルド・スピード」オリジナルサウンドトラック

いつもノリノリの良曲揃いで定評のあるワイルド・スピードシリーズのオリジナルサウンドトラックですが、今回Amazonで購入すると、車用のステッカーがAmazon限定付録としてついてきます!(といっても僕は車に貼る勇気はなかったので、パソコンに貼りましたが/笑)Amazon限定版は限定生産のようなのでお急ぎください!

ワイルド・スピード ヘプタロジーBlu-ray SET

ワイルド・スピードシリーズの過去7部作が全てまとめられ、メイキングシーンを収録した全8枚組823分を収録したコスパの良い1枚。手元に全部置いておきたい!という人は、1枚ずつ買うよりもこの「ヘプタロジー」を購入するほうが割安ですね。

「ワイルド・スピードICE BREAK」のAmazon特設ページが!

また、その他グッズについて、現在Amazonにて「ワイルド・スピード アイスブレイク」公開を記念した特設ページができています。こちらではDVD以外にもミニカーや関連するカーパーツなど様々なグッズが用意されていました。こんな売り物もあるのか!と思わず唸ってしまいました。面白いので、是非チェックしてみてくださいね。

Amazon「ワイルドスピード」特設コーナー
Amazonの「ワイルドスピードICEBREAK」特設ページを見る!

 

過去のワイルド・スピードシリーズは、まとめてU-NEXTで!

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上記でオススメした関連作品以外にも、ワイルド・スピードシリーズを一気に楽しむには、過去作全てを網羅したオンラインレンタルサービス、U-NEXTが一番便利です!

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【ネタバレ有】実写映画「帝一の國」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/極上の権力闘争コメディ作品!

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かるび(@karub_imalive)です。

4月29日にリリースされた菅田将暉主演「帝一の國」を見てきました。映画をきっかけに原作にハマリ、そして封切りが楽しみだった作品です。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。


※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「帝一の国」の基本情報

<映画「帝一の國」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】永井聡(「世界から猫が消えたなら」「ジャッジ!」)
【配給】東宝
【時間】118分
【原作】古屋兎丸「帝一の國」

2.映画「帝一の國」の 主要登場人物とキャスト

本作で早くも2017年主演作は2作目となる菅田将暉を中心に、イケメン男優をずらっと6名並べた男子校映画。出演者の男女比は100:1以上!圧倒的に男臭い映画であります。 

赤場帝一(菅田将暉)
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映画化が決まる前から原作の大ファンで、自ら積極的に「帝一」役を志願して主演をゲットしたのだとか。2017年も「キセキ」の大ヒットや、夏公開アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」、芥川賞作品「火花」主演など、注目作が目白押し。「2017年は仕事を少しセーブします」って言ってましたが、まったくそんな気配はありません(笑)

東郷菊馬(野村周平)
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いつもの2枚目な役柄と違い、珍しく3枚目の悪役キャラが回ってきましたが、原作の菊馬のイメージがよくハマっていました。素の時のキャラに実は近いのではないでしょうか?

榊原光明(志尊淳)
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オネエキャラまではいかないものの、中性的であり、実質上本作のヒロイン役(笑)従来ならこういった役は千葉雄大に回ってきたのでしょうが、さすがに世代交代ということでしょうか?舞台系の方が出演頻度は高かったイメージですが、2016年「疾風ロンド」2017年「サバイバルファミリー」に出演するなど、映画出演が増えてきていますね。

氷室ローランド(間宮祥太朗)
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質実剛健な私立高校で、こういう茶髪&ロンゲは一発で生徒指導の対象になるんじゃないかと思いますが、今作では割りと菊馬と並んでの「悪役」的立ち位置。海帝高校の伝統に則って陰謀・賄賂なんでもありの権力闘争を繰り広げます。

大鷹弾(竹内涼真)
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登場人物の中で、唯一まともな感覚を持つ好青年。素のままで演じるだけで、この中にはいれば良いやつに見えますね。彼の見せ場だけは、まるで普通のアイドル/ヒーロー映画のようなシーンに仕上がっています。(笑)GW中は、「LAST COP ザ・ムービー」と2本同時公開となっており、ファンにはたまりませんね。

森園億人(千葉雄大)
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もう28歳になるのに、まったく制服姿に違和感がない安定の童顔っぷりは今作でも健在。2017年に入り、現在公開中の「リライフ ReLIFE」「暗黒女子」や、近日公開の「兄に愛されすぎて困ってます」でも高校生役を演じるなど相変わらず「学生」役でひっぱりだこです。

白鳥美美子(永野芽郁)
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主演作「ひるなかの流星」が予想以上のヒットに恵まれ、確かな演技力と表情のかわいさで、注目度急上昇中の旬の若手俳優。2017年で出演待機作として「ピーチガール」「ミックス。」なども目白押し。これでまだ17歳っていうのが驚きで、大化けして第二の広瀬すずになれるかどうか今年は勝負の年ですね。それにしても、見るたびに「のん(能年玲奈)」に似てるなーと思うのは僕だけでしょうか?本作での彼女の見どころはズバリ「エンドロール」です!終わっても席を立たないようにしてください(笑)

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

帝一、海帝高校に入学する

4月。中高一貫制の名門私立高校「海帝高校」の高校1年生になった赤場帝一は、入学式で生徒会長の堂山圭吾の歓迎スピーチに感動していた。帝一は、この時早くも3年生になったら海帝高校の生徒会長に立候補することを心に決めていた。

海帝高校は、元々は海軍兵訓練学校として創設され、現在では数多くの政治家や官僚、財界トップなど、日本のエリート層を輩出する日本屈指の名門校だ。そして、海帝高校の中でも選ばれたエリートが目指すのは、将来を約束されている「生徒会」入りであり、その頂点に立つのが「生徒会長」なのだった。

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帝一は、海帝高校に最優秀の成績で入学した実績から、新入生代表挨拶を任されていた。そして、心の中で誓った。「僕は作る。僕の国を。」

帝一の父、赤羽譲介もまた、海帝高校の出身者だった。譲介には、高校時代に、東郷菊馬の父である東郷卯三郎と生徒会長選を戦い、一票差で敗れた苦い思い出があった。この時の勝敗が、彼ら2人が政界入りしてからのキャリアに決定的な差をつけたのだった。共に同期で通産省に入省した二人だったが、東郷卯三郎は現在「通産大臣」を務める一方、譲介は事務次官止まりだったからだ。

譲介は、息子に自らの夢を託そうとし、ピアノに夢中になる帝一に対して、ピアノをやめさせ、代わりにエリート教育を徹底したのだった。

帝一は、無事に入学式が終わったことを夕食の場で父、譲介に報告すると、夕食後は密かに付き合っている幼馴染、美美子の家に行き、糸電話での会話を楽しんだ。

生徒会長への第一歩、評議会入り

帝一が生徒会長へと上り詰める最初の第一歩は、生徒会長への投票権を持つ一、二年生で構成される「評議会」入りすることだ。その「評議会」に入るには、クラスでルーム長か副ルーム長に選ばれる必要があった。

帝一は、多額の寄付金と中学での生徒会長実績を買われ、難なく担任の川俣からルーム長に任命された。そして、帝一は副ルーム長に、中学以来の同志である榊原光明を指名した。一方、二組のルーム長はライバルの東郷菊馬が、そして、六組のルーム長には無名だった大鷹弾が選ばれた。

大鷹弾は、天性のカリスマ性を持つ外部入学生で、評議会の中では異色な存在だった。彼の経歴に興味を持った帝一と光明は、弾の家に遊びに行き、弾が奨学金を得た片親の苦学生であることを知った。帝一は、強烈な嫉妬と危機感を覚えていた。

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帝一は、担任の川俣にかけあい、今年度の外部入試試験問題と、大鷹弾の成績を取り寄せ、非公式ながら自分で解いてみて、その点数を比べてどちらが上なのか、父、譲介と確認してみることにした。結果としては、5教科でかろうじて2点差で帝一の成績が上回ったが、そんな帝一に、父は「つまらないプライドを満たしていないで、お前はこれから次の会長になる男を見定め、その男の犬になれ!」と叱咤するのだった。

生徒総会での攻防

評議会が始まると、帝一と光明は、さっそく翌年の生徒会長候補のピックアップを始めた。候補は3人だ。4組の本田章太、5組の森園億人、そして、大本命は金髪のハーフ、氷室ローランドだった。氷室は、今年度堂山会長を生徒会長にするための票固めをした一番の功労者だった。

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帝一は、迷いなく氷室ローランドの忠実な「犬」になることを決意した。委員会や部活の予算承認を行う生徒総会を取り仕切ることになった氷室に対して、帝一は迷いなく校旗掲揚をやらせてほしいとアピールした。

一方、菊馬も帝一と同じく、氷室に対してアピールしていた。得意の「諜報活動」で調べ上げた独自の個人情報データベースを氷室に提供したのだった。氷室は菊馬のリストを見ながら戦略を練っていたが、そんな氷室の動きは、光明の発明した盗聴器で全て帝一と光明に筒抜けだった。

生徒総会の日、帝一は裏に回り、校旗掲揚業務を順調にこなしていたが、光明からの合図で、菊馬の相棒、二四三が持ち場を離れ、校旗のワイヤーを糸のこで切ろうとしている現場を押さえた。二四三は逃げていったが、ワイヤーが切れてしまい、帝一は自分の腕で重い校旗をささえなければならなくなった。かわりにそこへ菊馬が現れて帝一を妨害する。帝一がもう少しで校旗を取り落としそうになったその時、その現場へ大鷹弾が現れ、菊馬を追い払ってくれた。そして、総会が終わるまで、二人で校旗を無事に支え続けることができた。

次期生徒会長選のスタート

そして、半年後。11月に入り、評議会では次期生徒会長候補者3名の発表があった。予想通り、本田章太、森園億人、氷室ローランドの3人だった。帝一、菊馬は氷室推し、大鷹は森園推しだった。

公約発表として体育会系優遇方針を掲げた氷室は、下馬評通り体育会系の部を中心に票を固め、派閥の力を活用して序盤は優勢な戦いを進めていた。一方、対抗馬である森園は、部員の潜在能力を加味した「期待予算制度」や生徒会長選のオープン化など、自由化路線を訴えた。

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帝一は、文化祭「海帝祭」の開会式演出の責任者に命じられた任務を活用し、この機会で氷室派の評議会員達を集めて出し物「裸太鼓」を計画した。ふんどし一丁での男らしい見栄えもさることながら、リハーサルで何度も顔合わせをするうちに、仲間の結束も促進できる妙案だった。舞台は大成功に終わった。

これに気を良くした氷室は、文化祭の当日、森園支援に回った大鷹弾に対して、彼の父の残した借金帳消しをエサに、支援を取り付けようと話を持ちかけた。弾は、一瞬心がゆらいだが、衆人環視の元、氷室を殴り、誘惑を断ち切った。

帝一の造反~マイムマイム事変~

帝一にとって大誤算になったのは、氷室の父と帝一の父が犬猿の仲だということだった。氷室の父は、外資系自動車メーカー、HMモーターズ社の役員、スティーブ・レッドフォードだった。レッドフォードの推進する日本進出に対して、禎一の父、譲介は「日本車優遇措置法」の立法化を推進し、HMモーターズの進出を阻んだが、その時HMモーターズ社で責任をとらされたのがレッドフォードだった。レッドフォードは、その時から譲介に深い恨みを抱いていた。

その事実が、菊馬の告げ口でローランドの耳に入り、帝一は氷室派にいても使い捨てにされてしまう恐れが高まったのだ。光明の仕掛けた盗聴器で氷室の動きを探ると、氷室はまさに帝一を捨て駒にしようとしていた。

帝一は、父、譲介とも相談して、思い切って森園陣営に造反する大勝負に出た。森園の前で深々と土下座しこれまでの非礼を詫びるとともに、大鷹弾のとりなしもあって、帝一は無事森園陣営に付くことができた。

帝一の造反で一瞬氷室陣営に混乱が生じたが、氷室はこれ以後「実弾」=賄賂でさらに地盤固めを強引に進めていった。しかし、帝一は父の「実弾を使うのではなく、錦の御旗を立てることが再重要だ」というアドバイスに従い、ある放課後、イベントを仕掛けた。

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それが、後に海帝高校の歴史に刻まれた「マイムマイム事変」だった。音楽放送を全校に流し、帝一や弾ら、数名で校庭でマイムマイムを踊っていると、不思議と次々と生徒達がその環の中に加わった。そして、その真中には森園億人が立つ形にして、自然と森園への支持があつまるような流れができていた。

一方、実弾を配りだした氷室陣営には、金の亡者となった部員達が集まりだし、もらっていないメンバーは逆に不満を貯めていった。金の力の限界だった。こうして、選挙前に森園陣営は氷室陣営と5分5分の勝負へと持ち込んだのだった。

父、赤場譲介の失脚、失意の帝一

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しかし、次に菊馬が繰り出した謀略は、通産大臣の父、東郷卯三郎の力を使い、帝一の父、赤場譲介を収賄容疑で収監させることだった。この一件により、森薗派と帝一のイメージダウンは免れず、森薗次期生徒会長とその後の帝一の生徒会長就任が遠のいた。帝一は譲介と拘置所で面会し、父譲介を激しく責め立てた。

帝一が父親に従い、海帝高校の生徒会長を目指したのは、彼の国を作れば、幼い時に父から禁じられたピアノを自由に弾けるようになると考えたからなのだった。ただそれだけのために自分の国を作る、という目標を掲げ、困難に耐えてやってきたが、帝一の張り詰めた心は折れてしまった。

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そのまま会長選まで、帝一は学校を休み、家に引きこもってしまった。会長選当日、帝一の元に大鷹弾と光明、そして最後に美美子がやってきて、帝一を懸命に説得した。その甲斐があって、帝一は会長選の日、学校へと向かった。

森薗新体制の誕生

しかし、評議会室に行く途中で、帝一の前に菊馬が立ちはだかり、彼の投票を阻もうとした。菊間は、幼少時から美美子を取られ、成績やピアノでも歯が立たなかった帝一への積年の嫉妬と恨みをぶつけ、殴りかかってきた。

帝一も応戦し、評議会室へ向かおうとしたが、二人が校庭で乱闘をしているうちに帝一は「棄権」扱いとなってしまった。

一方、会長選は氷室の腹心、駒が造反したり、大鷹が白票を投じたりというサプライズも挟みつつ、最終的に30対30の同点となり、ルールに基づいて、生徒会長裁定により森薗が次期生徒会長に指名された。

帝一の生徒会長選挙~エピローグ

それから1年。いよいよ帝一にとっての生徒会長選挙がやってきた。森薗の制度改革により、立候補を済ませた大鷹、菊馬、帝一の3人が立候補し、全校生徒での投票が行われたが、菊馬がまず13票しか取れず脱落し、勝負は大鷹と帝一の2名に絞られた。

菊馬は自身の当選をあきらめ、帝一陣営へと自ら投票したことによりこの時点で1票差で帝一が勝てそうな気配だった。しかし、投票締め切り1秒前になり、帝一自身が大鷹へと投票先を変えたため、次期生徒会長は1票差で大鷹に決まった。締め切り数秒前になって、菊馬が大鷹陣営へ投票先を変える動きを見せていたため、帝一はとっさの判断で、自身の負けが避けられないのであれば、「負けた」のではなく「勝ちを譲った」形にしたのだ。

こうして、帝一の会長選挙は終わったが、帝一は夢を諦めてはいなかった。それは、評議会本部室で次期生徒会長に就任する大鷹を祝してピアノ演奏を務めた曲目「マリオネット(操り人形)」に現れていた。帝一は、これまで封印してきたピアノを活き活きと演奏しながら「君たちのことだよ」と心の中でつぶやいた。 

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

菅田将輝の怪演と多芸ぶりが圧巻!

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予告編を見て最初に「テンション高っ!」と驚いたのですが、映画が始まってみると、ほぼ全編予告編通りのハイテンションぶりでした。映画製作が決まった時、自ら主演を志願しただけあって、原作での帝一がそのまんま実写化されたような、菅田将暉のキレキレの演技が印象的でした!さすがカメレオン俳優と言われるだけありますね。

さらに驚いたのが、劇中で菅田将輝が見せてくれた数々の芸達者ぶり!まず、ラップを歌いながら自宅で試験問題を解くシーン。今年2月に公開された、GReeeeNをモデルにした映画「キセキーあの日のソビト」で身につけた特殊スキルがさらっと炸裂!

その次はふんどし一丁での裸太鼓!「ワイルドスピードICEBREAK」を見たばっかりだったので、体つきは貧弱に見えてしまったのですが(笑)、仲間たちと非常にタイトできびきびした動きを披露しています。息を合わせての練習は大変だっただろうな~。

さらに、トドメはピアノ!原作で、帝一はピアノ好きであるという設定だったので、どうするのかな?と思っていたら、ちゃんと自分で弾きこなしていました!ローデ「マリオネット」はともかく、よりによって超絶技巧なフランツ・リスト「ため息」を弾きこなしています。プロ意識高い!彼の役者魂を感じました。

原作ファンに違和感のないキャラや再現された独特な世界観

菅田将輝扮する主人公、帝一以外にも、3枚目の卑劣な悪ガキ東郷菊馬や、中性的なかわいさ爆発な榊原光明、学園で唯一のまともな好青年、大鷹弾など主演たちがそれぞれマンガからそのまま飛び出てきたかのような原作に忠実な役作りは非常に良かったです。

氷室ローランド。金髪でロンゲ!
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そして、原作が持っている「男版宝塚」のような耽美的でホモソーシャルな世界観まで、きっちりと計算されているんですよね。氷室ローランドの不自然なほど明るい金髪や、口紅や化粧まで作り込んだ光明の外見は、明らかに過剰な感じなんだけど、それが原作の雰囲気にぴったり寄り添ったテイストになっていました。

海帝高校という一種の「白い巨塔」的な特殊な閉鎖社会で、過剰なまでに時代錯誤で、旧海軍仕込みの大仰にデフォルメされたパフォーマンスが最初から最後まで通して高いテンションで実写で再現されているので、それを見ているだけでも楽しいです!

原作より強めなBL要素!

本作で取り扱う舞台が男子校であるため、とにかく画面内には大量のエキストラを含めて、画面上を若い男子が縦横無尽に埋め尽くしております(笑)そして、男同士でマイムマイムは踊るわ、ふんどし一丁で裸太鼓は披露するわでやりたい放題の、まさに「男の楽園」的な海帝高校!

ファン待望?の裸太鼓シーン
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さらに、ルーム長と副ルーム長がいつも二人でワンセットとして描かれるのも、狙っているとしか。。。特に、「ローランド×駒」「帝一×光明」はもう少しで一線を超えそうな危うさがあります(笑)

一応、原作は少年誌なので、男同士の性的な関係はなく、あくまでホモソーシャルな男同士の連帯や友情が中心なのですが、この映画に「女性」が入るスキはありません(笑)たとえば、帝一の彼女として、永野芽郁扮する美美子(これまた見事にステレオタイプな深層令嬢)がヒロインとしているはいるんですが、本作での扱いはとにかく酷いです(笑)

深夜に糸電話で毎日話すのですが、帝一は基本的に美美子の話をあんまり真面目に聞いていません。クライマックス直前でそれでも帝一に気づきを与え、帝一を立ち直らせるのですが、帝一が最後に抱きつくのは美美子ではなく光明だったという・・・。

弾と帝一と美美子が三角関係となり、美美子の気を引こうとあれこれ帝一がもがく原作と違い、本作ではあからさまに光明>>>>美美子なんですよね。あ、でもマンガ版でもやっぱり光明のほうが彼にとって大切な存在なのかも。

マンガでは「光明」はこんな立ち位置
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大人の権力闘争や政治家たちへのひねりの利いた風刺

そして、男がいっぱい集まれば、自然と誰がボス猿になるのか争い出すのは古今東西、どんな集団にもありがちな状況。今作では、特に日本の大企業内や政治家の不毛な権力闘争や、抗争に夢中になる男たちを、ユーモアたっぷりに皮肉っています。

冒頭10分から、勝手にライバル心を燃やして、父親を動かし文化庁を工作して、モンゴメリの展覧会までえさにして、帝一が先生から取り寄せたのは、外部生の入試問題でした(笑)大鷹は全く気にしていないし、誰からも頼まれていないのに、帝一は一人大鷹へのライバル心を空回りさせ、徹夜で入試問題を解いて、大鷹との点数を父親と二人で比較します。不毛すぎる!!

ここの長回しのシーンは、序盤最大の見どころなのですが、菅田将輝の過剰な演技と、やってることのバカバカしさの両面でメチャ笑えました!

ワイロを渡そうとする氷室ローランドf:id:hisatsugu79:20170501163844j:plain

さらに、たかが高校の生徒会長選挙なのに「実弾」が飛び交い、「埋蔵金」の空手形で説得工作をして、父親たち=外部のしがらみも絡んで身動きが取れなくなって・・・と、まさに今の日本の政治状況そのまんまですよね。

そして、極めつけは、「どんな国をつくるの?」と美美子に聞かれた帝一のリアクション。美美子に急に聞かれても、帝一は確たる考えを持っておらず、答えられませんでした。(強いて言うならピアノを自由に弾ける国?)これって、まさにポスト獲得が独り歩きして自己目的化し、手段と目的が逆転しがちな日本の大企業や政界での権力争いそのものですよね。「政権を取ったけど、何をしていいかわかりませんでした!」みたいな・・・。

このあたりの描写は非常に見ていて痛快です。単にこの映画が若い人だけでなく、幅広い年齢層に楽しめる作品なんだなと思わせられるポイントでした。

惜しいのは、帝一の「成長」についての描写不足

今作は、設定も各俳優の演技も、非常にコミカルでよくまとまっていて良かったのですが、1点惜しいな、と思ったのは、ンガ原作映画によくある「尺不足に由来する心情描写不足」という問題です。

クライマックス寸前、父、譲介は、中央政界で失脚し、収賄容疑で収監されてしまいます。これを受け、絶望した帝一は父を責めて部屋に引きこもって出てこなくなります。そこから帝一は見舞いに来てくれた美美子の一言で立ち直り、行く手に立ちはだかった菊馬との殴り合いの喧嘩を経て、そこから復活・成長してクライマックスでの委員長への立候補へつながっていくのですが、そのプロセスが少し性急すぎて、ちょっと置いて行かれてしまいました。

映画オリジナル「菊馬と殴り合うシーン」f:id:hisatsugu79:20170501163931j:plain

それまでほとんどまともにとりあっていなかった美美子の話を一言聞いただけで、帝一がすぐ立ち直るのも変ですし、菊馬と延々殴り合いをしただけで決定的に成長のきっかけを掴めたとは思えないのですが・・・。(自分の本当にやりたいことに素直になる、という意味では良かったですが)

あるいは、その後父親と和解しているシーンも見当たりませんし、それまで功利主義的で独善的だった帝一が「仲間」や「友情」の大切さを学んでいる描写がないのが一番気になりました。

原作ではこのあたりは綺麗に表現されているところですが、どうしても14巻分を2時間に収める時に、細かい心情表現が雑になってこぼれ落ちてしまうのは致し方ないところでしょうか。少し惜しいポイントに思えました。 

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

「帝一」という名前にこめられた意味とは?

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宿敵、東郷卯三郎(菊馬の父)に生徒会選挙で1票差で敗れ、その後のキャリアでも差をつけられてしまった赤場譲介(帝一の父)が、子供には「海帝高校」で「一番」になってほしいという意味を込めて名付けました。すごい執念ですよね・・・。

帝一が2年生~3年生に至るまで、映画で飛ばされた出来事

3年生になって、森薗新体制になった生徒会で、帝一は菊馬、光明、二四三(菊馬の片腕)と共に副会長就任&執行部入りを果たします。森薗は、生徒会長選の候補者指名制から立候補制に変え、1年生~3年生までの全生徒の投票で次期会長を選ぶ、より「民主的」な制度に変えました。

会長選は、蒜山、裕次郎という1年生の有力メンバーと組んだ菊馬が優勢に選挙活動を進めます。帝一はその過程で様々な出来事から成長を重ね、一旦会長選を降り、大鷹陣営の参謀として菊馬を倒すため選挙活動を戦います。しかし、結局直前で大鷹らの勧めにより、土壇場で会長選へと再立候補を決め、会長選は大鷹、菊馬、帝一の三つ巴の争いになりました。また、光明は蒜山に洗脳され、土壇場で洗脳が解けるまで菊馬サイドのブレーンになってしまいます。

ここまでのプロセスが、漫画版では多数の個性的な1年生のルーム長達とともに描かれますが、映画では放映時間の問題から全てカットされていました。

帝一が副委員長になってからの後日談について

生徒会執行部の最後の仕事として、次期会長選の選挙管理を行うことになった帝一たちは、中間アンケートの結果、裏で菊馬と校長の暗躍により、菊馬の傀儡である守旧派の永福吉祥が不自然に票を伸ばしている事に気づきます。森薗の改革が反故にされ、学校の体質が元に戻されることを懸念した帝一は、氷室や森薗らOBたちの力も借りて、校長と菊馬の陰謀を打ち砕きます。

自由化された海帝高校には、大学へのコネ進学のルートが消滅しており、帝一と大鷹は東都大を自力で入試を受けて進学し、美美子は花園女子大へ内部進学、光明は父の町工場を継ぎました。ちなみに、菊馬は東都大を目指して浪人中です。

マンガ版との主な相違点

原作では普通にピアノを弾いている
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マンガ原作版では、帝一は家で度々自分のためにショパンを弾いており、妹や恋人の美美子は、時折それを聞くのを楽しみにしています。

学校での先生の良心、黒坂先生
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海帝高校の極端な権力闘争体質や閉鎖的な密室談合政治を「狂ってる」と見抜き、大鷹弾の後押しをして現体制に異を唱える黒坂先生という若い女の先生が原作では登場しています。

海帝高校のルーム長夏合宿

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海帝高校の夏休み中に、各学年のルーム長・副ルーム長を集めて行われるサバイバル夏合宿。海底の生徒会活動は一種の「戦争」であり、この「戦争」を勝ち抜くために日本で失われた「大和魂」を養成するとして、評議会顧問の川俣主催により行われました。

その他、多数のサブキャラたちが登場
映画では省略された帝一の多数の同級生・下級生がマンガ原作では描かれますが、特にぶっ飛んでいるのが下級生たち。揃いも揃ってこんなのがルーム長に選ばれるか普通?!っていう変わり者たちが大活躍します。

6.まとめ

男性アイドル系青春映画として、コメディ映画として、原作のエッセンスを上手く取り込んだ楽しい映画になりました。原作キャラがそのまま画面上で動いている感じや、笑えるパートとはっとさせられるパートがしっかり両方とも入っているバランスの良い作品だったと思います。面白かったです!

それではまた。
かるび

 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年4月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画ノベライズ(マンガ番外編おまけ付き)

映画のノベライズ作品。映画でカットされた幾つかのシーンも入っていますし、映画エンディング後の帝一の「その後」について、原作マンガで発表された大ボリューム50ページほどの「番外編」読み切りも巻末に収められています。これは買ってよかった!

原作マンガ「帝一の国」

映画化が決まってから遡って読んだのですが、久々に物凄く面白くて一気読みして、何度も読み返してしまった作品。後半になるにしたがって、各キャラクターがどんどん躍動し、斜め上から予想外の展開に目が離せなくなりました。よく物語が破綻せず、いい感じで収束できたな・・・と(笑)映画を気に入った人は、マンガ原作は絶対気にいると思いますよ!超おすすめ!

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主演6人に絞って、グループインタビューや現場でのメイキングオフショット、座談会、カラーグラビア、監督へのインタビュー、など総力62ページの大特集。SODAは品切れ絶版になるのが早いので、お早めに!

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【ネタバレ有】映画「追憶」感想・考察とあらすじの徹底解説!/岡田准一の名演技と詩情あふれる風景美が最高でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月6日にリリースされた岡田准一主演「追憶」を見てきました。映画館では久しぶりに味わった本格的な古き良き「ザ・日本映画」でしたが、迫真の演技、美しい詩情たっぷりの画面に酔いしれた1本となりました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「追憶」の基本情報

<映画「追憶」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】降旗康男(「鉄道員」「駅-STATION-」他)
【撮影】木村大作(「劔岳」「春を背負って」)
【配給】東宝
【時間】99分
【原作】青島武「追憶」公式ノベライズ

大自然の厳しさや美しさ、映画的な視覚効果を大切にして詩情豊かな画面作りが得意な木村大作と、人情味豊かなヒューマンドラマに定評がある降旗康男。共に、77歳、84歳と、日本映画界では「レジェンド」となった最古参の長老級の映画人ですが、彼らがタッグを組んだのは、実に9年ぶりで通算16作目。パンフレットには「再始動」と書かれていましたが、年齢から見てこのコンビでは恐らくもうこれが最後か、あってももう1作くらいが限界なのでは・・・^_^:

ともかくも、古き良き60年代、70年代の日本映画黄金期の香りが漂う「これぞ折り目正しい日本大作映画!」という雰囲気の1本に仕上がった渋い作品となりました。

また、音楽も大仰なクラシック音楽路線が得意な千住明を起用。大河ドキュメンタリー的な雄大なテーマソングを始め、劇的にドラマを盛り上げる大掛かりな劇伴音楽の効果も見逃せません。

2.映画「追憶」の 主要登場人物とメインキャスト

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その時々に応じて、一番旬の俳優を積極的に登用する降旗監督。主演俳優陣には、日本アカデミー賞受賞歴もあり、賞レースで常連となった実力派7名が揃いました。 

四方篤(岡田准一)
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いつになく最後まで険しい表情が続き、緊迫感のある鬼気迫る演技が素晴らしかった今作。降旗康男×木村大作も認めた「高倉健の後継者」として、俳優として超一流へ上り詰めつつありますね。今作では、木村大作のススメで東京での捜査シーンの一部カットの撮影にも参加しています。将来は映画監督にもなっちゃうのかな・・・。

田所啓太(小栗旬)
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作品によっては「棒演技?」と疑ってしまうほど空回りしている時もあり、演技の出来にムラがあるイメージでしたが、今作では岡田准一とともに引き締まった演技を披露しており、素晴らしかったです。岡田准一とは、ドラマ「大化改新」(2005)以来、約12年ぶりの共演となりました。

川端悟(柄本佑)
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家族を守るために、秘密を共有する啓太を半分強請るなど、心の強さと弱さが同居する難しい役どころを見事に演じた今作。個人的には、実生活上の妻、安藤サクラとの共演シーンを楽しみにしていたのですが、1ヵ所ありました!
四方美那子(長澤まさみ)f:id:hisatsugu79:20170509101243j:plain

長澤まさみももう今年30歳の大台で、すっかり中堅クラスの女優として安定して映画・ドラマへの出演が続くようになりましたね。去年から「君の名は。」「SING」などアニメ映画での声の出演が印象的でしたが、今作では夫とのすれ違い生活で愛情に飢え、疲れ気味の主婦を好演していました。役作りなのか、少しふっくらしてきましたよね?

田所真理(木村文乃)
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主演級キャラの中では、唯一過去に縛られず、自然体で幸せオーラを出しているキャラクターでした。出自の後ろ暗さとは対照的に、里親に愛情いっぱいに育てられた真理の天真爛漫な性格は、暗く沈みがちなストーリーに明るさを与えていました。しかし、早いもので木村文乃も今年で30歳なのですね。

仁科涼子(安藤サクラ)
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「日本のマリア様」になれる人を探していたという降旗康男監督の抜擢により、涼子役に指名された経緯が映画パンフレットに掲載されていました。確かに、一種仏像のような顔つきは降旗監督の見立て通りなのかも。劇中、夕日に向かって祈りを捧げるシーンや、ラストシーンは確かに「聖母マリア」そのものだったと思います。

山形光男(吉岡秀隆)
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昨年「海賊とよばれた男」での岡田准一との共演が記憶に新しいところですが、今回の役のほうがより素に近い役どころかもしれません。相変わらず少し弱気で頼りなさそうな役柄はアテ書きだったのかも。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

封印された記憶

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1992年12月24日。北陸地方を中心に日蝕が観測されたその日、厳しい雪と風が吹きすさむ能登半島の海沿いの街での出来事は、当時まだ少年だったアツシ、ケイタ、サトシの3人には忘れられない記憶となった。

それぞれの事情で、家庭の温もりを知らない少年たちにとって、母親同様の存在だった涼子。その涼子に乱暴を繰り返す、出所してきた元ヤクザの愛人に涼子との共同生活を脅かされた少年たちは、ヤクザの愛人を襲撃し、殺害してしまったのだ。最初に計画したアツシが男にバットで不意打ち同然で襲いかかり、涼子が止めに入る寸前に、抵抗した男をケイタがナイフで止めをさしたのだ。

ぐったり動かなくなった男を目の前に呆然とする3人に対して、涼子は、「全て忘れなさい」と3人に言い含め、3人の代わりに自首して刑務所へと投獄されたのだった。それっきり、3人はバラバラとなってしまい、再びしばらく会うことはなかった。

2017年、3人の近況

あれから25年。3人の少年たちは大人になり、それぞれの生活を営んでいた。

アツシこと四方篤は、現在は富山市内で刑事として働いていた。激務の中、確実に実績を重ね刑事としてのキャリアは順調だったが、その反面、私生活はうまく行っていなかった。課長の紹介で、保育士として働いていた美那子と結婚して5年経過していたが、子供にも恵まれず、ほぼ別居状態が続いていた。また、奔放に男性と遊び歩き、幼少時に篤を放置した母は、晩年になって精神的に不安定な状態が続いていた。その日も、筋の悪い借金を作ってしまったと電話をかけてきて、篤を悩ませるのだった。

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一方、サトシこと川端悟は、都内のガラス職人として入婿となり、義父の跡を継いで工務店の社長となっていた。現在は小川という社員一人にも給与を遅配するほどの苦境にあったが、悟は受け継いだ会社と家族を守ろうと、必死で働いていた。

悟は、金策のため旧友を富山に尋ねると妻に打ち明けると、妻は妹夫婦に借りた香典万円の入った封筒を悟に持たせて富山へと送り出した。

ケイタこと田所啓太は、妻、少数の従業員と地元、輪島市で土建屋を営んでいた。臨月を迎え、第一子の出産を控える妻、真里との新居の契約をその日、丁度すませたばかりだった。

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啓太が契約した売りに出されていたその土地は、彼ら3人が涼子と幸せな日々を過ごした場所で、涼子は、好きだった雪割草の花にちなんで経営していたスナックに「ゆきわりそう」という名前をつけていた。3人はそこで出会ったのだ。

25年後に再会した篤と悟

篤は、ある日富山市内のラーメン屋で昼食を取っていたら、偶然金策に来ていた悟と出くわし、そこで夜まで飲みに行くことになった。あの日、「もう2度と会わない」と涼子に言い含められていたのに、色々と私生活を詮索してくる悟を警戒し、篤は厳しい表情を崩さなかった。しかし、もう一人の旧友、啓太にお金を借りに行くという悟の話を聞き、篤は別れ際に手持ちの金を手渡したのだった。

翌日、啓太は「ゆきわりそう」跡地を義理の両親に案内した後、啓太の会社で待っていた悟を見ると、悟と別の場所へと移動して、悟のためにお金を用意してやるのだった。悟は、啓太から金を受け取ると、その足で妹の家に行き、妻から託された香典代を返却した。

一方、篤志は久々に捜査が一段落したので、保育施設で働く美那子を食事に誘い出してみたが、美那子の都合がつかずそのまま別れた。

何者かに殺された悟、捜査に動き出す篤

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次の日の朝、殺人事件発生との一報を受け、篤が現場へ急行してみると、そこには昨日25年ぶりに偶然再会し、飲んだばかりの悟の刺殺体があった。まもなく妻の小夜子も富山に来て、事情聴取を受けることになった。

初動の現場検証と聞き込みを終えた係員たちは、捜査会議で状況を整理すると、篤は課長より同僚2名と東京での捜査をすることになった。所持していたカバン、金銭、携帯が犯人に奪われていたことから、怨恨と窃盗の両面で捜査を進めることになった。

捜査が進む中、悟の家のアルバムをチェックしていた篤は、悟アルバムから「あんどの家」と書かれた封筒が目につき、それを密かに持ち帰った。ホテルで一人になった時、Web検索すると、そこはデイケア介護施設だった。その時、母、清美から電話があり、薬を大量服薬して自殺未遂を起こして自宅で倒れてしまったという。東京にいて捜査中ですぐに動けなかった篤は美那子に母の世話を頼み、急ぎ富山へと帰着した。

結局、母清美は服薬量が少なかったこともあり、一命を取り留めた。清美は寂しさをわかってほしくて、わざと自殺未遂を起こして篤の気を引こうとしたのだった。控室で美那子に礼を言うと、美那子もまた、心を開かない篤との距離感に悩み、寂しさのあまり別居を選択したのだと涙ながらに語った。

啓太と再会し、涼子の居場所をつきとめた篤

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篤は、母の無事を確認すると、そのまま自家用車で啓太の家へと向かった。悟の死について啓太が何らかの形で関連していると疑った篤は、25年ぶりの再会であったが、厳しい口調で啓太を詰問した。啓太は、「刑事になって自分だけきれいになったつもりか」と篤に取り合おうとしなかった。

次に、篤は「あんどの里」に向かった。車を停めると、意識の焦点があっていない感じの涼子が、車椅子でちょうど玄関から山形に付き添われて出て来るところだった。とっさに隠れて見ていた篤だったが、しばらく衝撃で手が震えていた。

事件の捜査が進んでいくにつれて、啓太らしき人物が悟と厳禁授受をしていたという目撃情報や、ラーメン屋での聞き込みや街の防犯カメラから、悟が死ぬ前日に篤が悟と会っていたことがわかってきた。篤は、課長に潔白を主張したが、これをきっかけに捜査から外れることになった。

フリーとなった篤は、別の日、再度「あんどの里」を訪問し、そこで半身不随となった涼子を世話していた山形に直接話をした。涼子は、刑務所から出所して山形と一緒になり、3年前の交通事故で半身不随になって、脳を強く打った影響で重度の記憶障害に陥ったのだという。悟や啓太は、その時に涼子の居場所を突き止めて、彼らと再開したのだという。すでに3人のことは覚えておらず、山形からは、もう事件のことは忘れてしまっても良い、と優しく篤に諭した。

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篤は、その後、今は廃墟となった「ゆきわりそう」へ行き、昔を思い出すと、その足で啓太のオフィスへと再度向かった。啓太は今や重要被疑者として現場付近に捜査員が張り込んでいたが、篤は気にせずに啓太を訪問していった。

真理の出産、真犯人の逮捕

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二人は再び言い合いになり、啓太に対して「何を守ろうとしているのだ、真実を話せ」と篤が迫った時、ちょうど真里が産気づいた。二人は言い争いを辞めて、真里を乗せて珠洲総合病院へと真里を運んだ。

予定より1ヶ月早い帝王切開での出産となり、緊急手術が行われることになった。待機中、東京で捜査を続行していた山崎から、真犯人は悟の妻、小夜子と従業員の小川だったと告げられた。二人の共謀による保険金殺人で、悟を追って秘密裏に富山入りした小川が、悟の妹の実家を出た時に刺殺したのだった。二人の不倫関係に気づいていた娘の証言が決め手となり、小夜子と小川がそれぞれ自白したという。

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篤は、啓太が真犯人ではなかったことに心から安堵したが、同時に篤と啓太はやりきれない気持ちになった。家庭を守ろうと必死だった悟が身内の裏切りにより命を失ったからだ。

そして、母子ともに問題なく出産は完了した。啓太は初めて「おめでとう、ケイちゃん」と昔の呼び名で啓太を祝福した。啓太もまた、「ありがとう、アッちゃん」と答え、啓太が3年前に涼子に再会したこと、涼子が獄中で出産し、里親に出した一人娘だった真里を探し出し、結婚したことだった。啓太は、真里と、生まれてくる子供を守るため、警察や篤に対して捜査に消極的だったのだ。

エピローグ~涼子との対面~

生まれてきた子供は、女の子だった。真里は、見たことのない生みの母から一文字を取って、子供の名前を「涼」と決めた。事件が終わると、啓太は予定通り「ゆきわりそう」の解体に自ら着手した。

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篤は改めて事件現場で悟の娘とともに悟を弔い、「あんどの里」で涼子と対面した。夕日の見える海岸沿いに連れ出し、涼子にあらためて挨拶すると、涼子は篤をそっと包み込むように抱きしめるのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

ストーリーとマッチした厳しく、寂しく、そして美しい北陸の情景

今作で撮影を担当した業界のレジェンド「キャメラマン」木村大作は、これまで手がけてきた数々の作品で、一環して大自然の「雄大さ」「美しさ」に着目して画面を作ってきました。

木村が富山を撮るのは「劔の記」「春を背負って」以来3回目になりますが、今作でフォーカスされているのは「日本海の夕日」です。「北陸の地の厳しさ、寂しさ、美しさを詩情豊かに表現していきたい」と語っていた木村監督の言葉通り、ストーリーにぴったりな美しい風景に彩られた映像美が素晴らしかったです!

特に、冒頭の厳しく荒れ狂った冬の海景からクライマックスの穏やかな夕陽の映える海岸線まで、主人公たち(特に篤)の心情や状況に合わせ、様々な異なる表情を見せる「夕陽」を的確に捉えた画面が非常に印象的でした。さすが60年の経歴はダテではありません!

主演俳優陣のしっかりした演技力はさすが!

降旗康男×木村大作が組んだ作品では、現場での撮り直しがほとんどないことで有名ですね。基本はどのシーンもテスト撮影1回、本番1回で撮り終えるそうです。そして、場合によっては、セリフ回しも現場で俳優陣に任せてしまうなど、彼らの作品の出来不出来は俳優の力量に負うところが大きいのです。

しかし、今回映画を見ていくと、とても1回で撮影OKが出たとは思えないほど、各役者の演技に緊迫感があり、確かな力量を感じることができたのは驚きでした。

特に、主演の岡田准一の迫力や存在感が素晴らしく、降旗、木村両名から「ポスト高倉健」と太鼓判を押されるだけのものがありました。木村監督も「佇まいが素晴らしい」と絶賛でしたが、確かに今作で岡田准一からは特別なオーラみたいなものが感じられるのですよね。前作「海賊とよばれた男」でも伝説の経営者になりきった演技で日本アカデミー賞にノミネートされましたが、確実に今作で一皮むけた感じがあります。

その他、出来不出来がはっきり作品で分かれる小栗旬も今回は良かったと思いますし、相変わらずどんな役でもこなせる安藤サクラの怪演ぶりや、長澤まさみの成長も感じられました。今作は、出ている俳優陣がみな特別に意気込みを持って撮影に臨んだのだな、というのが非常に良く分かる映画でした。

家族を形作り、命を繋いでいくものは「愛情」

今作では様々な家族のカタチ・あり方が描かれましたが、血の繋がった親子や正式な婚姻関係にある家族よりも、血縁関係がなくや正式な手続きを経ていない家族の方がむしろ温かく、本物の家庭らしく描かれました。

特に、軽食喫茶「ゆきわりそう」で共同生活を送った涼子と子供たちの絆や、里親に出され、そこで愛情を一杯に受けて幸せにまっすぐ育った真理。また、真理のいる田所興業は、従業員を含めてまるで大きな家族のような温かい雰囲気でした。

それに対して、愛情表現がうまくできず、母や妻との関係が冷え切った篤や、仕事で結果を出せず、妻と従業員に見放され殺されてしまった悟はまさに対照的。

結局、家族を形作る最大の要素は血縁や出自や婚姻関係ではなく、そこで一緒に暮らした人間同士の愛情が通い合っているかどうかなのだな、と強く思わされます。

聖母マリアを強く想起させるラストシーンが圧巻!

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そして、安藤サクラ扮する涼子に水色のセーターを着せ、確信犯的に聖母マリアを強く想起させるラストシーンは圧巻でした。(西洋絵画の中で聖母マリアは「青い」マントを必ず着用している)

聖母マリア像(必ず青いマントを着ている)
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(引用:Wikipediaより)

それまで、一貫して厳しく固い表情を崩さなかった岡田准一扮する篤が、穏やかな夕陽の映える海辺で初めて見せる安堵の表情!今思うと、映画ポスターとして公開前から大胆にネタバレされていたわけですが(笑)、見ているこちらも心から安らかになれそうな穏やかな岡田准一の表情は、聖母マリアに癒され、救済される子供そのものでしたね。

旧友の衝撃的な死をきっかけに、篤の心の中の矛盾はピークを迎え、彼は荒んだ自分の心に強制的に向き合わざるを得なくなっていきます。そして、徐々に刑事捜査の範疇を越え、一個人として一旦関係を絶った大切な人たちと出会いを重ねていくようになりました。大切な記憶や25年分のミッシングリンクを取り戻していく中、自分の母親代わりでもあった、一番大切な人=涼子と正面から向きあった時、篤は心から切望していた「母親からの愛」を彼女から受け取り、満たされたのですよね。この瞬間、篤の中で25年前の記憶は、「後悔」「悔悟」から「追憶」へと変わったのだと思います。

人が何人か死に、決して手放しでのハッピーエンドではありませんでしたが、見ている観客一人ひとりが「救われた」ような気持ちのよい余韻と静かな感動が残る素晴らしいエンドロールでした。

 

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

ここでは、映画本編で少し分かりづらかったポイントや、ストーリーを補完する設定・伏線などについてまとめています。

「ゆきわりそう」に込められた意味

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(引用:http://echigo-park.jp/guide/flower/hepatica/

涼子と3人が出会い、共同生活を送ったスナック「ゆきわりそう」は、涼子が好きだった花、雪割草にちなんでつけられました。雪割草は、北陸地方の高地に自生し、5月~6月に開花する野生花ですが、特に奥能登の輪島市、珠洲市近辺でよく見られます。特に、輪島市の猿山岬での大群落は、日本有数の規模で咲いており、毎年野生花マニア・愛好家が遠征して見に来る秘境として知られています。

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特に輪島市では、雪割草を「市の花」として制定し、毎年3月下旬に「能登雪割草祭り」という祭りも開かれるなど、地元で非常に愛されている花ですね。

また、雪割草の花言葉は、「信頼」「忍耐」「内緒」「悲痛」「和解」「少年時代の希望」など多岐にわたります。どれも、まさに本作のテーマを象徴するような意味が込められていたのですね。

真犯人はどうやって判明したのか?その動機は?

今作での真犯人は、殺害された悟の妻、小夜子と彼の経営する会社の従業員、小川の2名でした。小夜子と小川は不倫関係にあった上、苦境にあった会社経営も絡んだ経済的な事情も加わり、小夜子は小川と共謀して、保険金殺人を企てたのでした。判明したのは、悟の娘、梓の証言と、取り調べによる本人たちの自白によるもの。

降旗康男監督作品では、なぜかアクションシーンや追跡シーンはあっさりとカットされることがよくありますが、今回もそういった取り調べでの修羅場や、チェイスシーンは一切なし。クライマックスで、同僚の山崎が篤に電話をかけてきたことで、シンプルにストーリーが流れていきました。

具体的なトリックも、動機をめぐるバックストーリーの描写も派手な騙し合いも一切なし。つまり、サスペンス刑事ものという体裁を取りつつも、今作の本質はあくまで主人公、篤の心の内面での葛藤と救済を描いたヒューマン・サスペンスだったということですね。

啓太が守ろうとしたものとは?また、真里と結婚に至った経緯とは?

啓太が刑事である篤や警察から守ろうとしたものは、25年前の事件の真相ではなく、彼と結婚した真理の出自の秘密でした。

それは、3年前、啓太が交通事故で半身不随・記憶喪失となってしまった涼子を訪ねた時、そばで看病していた山形から「娘がいるということを忘れないでいて欲しい」と頼まれたことがきっかけでした。涼子が獄中で殺害してしまったヤクザの子を出産した後、中岡家に養子に出された真理の存在を山形から伝えられた啓太は、最初は真理を遠くから見守っているだけでした。

しかし、真理が働く美容院に通い詰めるうち、啓太は真理に本気で惚れてしまうようになります。啓太の気持ちが通じて、真理と啓太はやがて結婚し、子供を身ごもることになりました。本気で真理に惚れ、幸せな家庭を築きたかった啓太にとって、今回の事件で警察から洗いざらい過去を探られると、やがて真理が25年前の事件のことや、彼女自身の不幸な出自について、知り得てしまう恐れが出てきます。それだけはなんとしても避けたかったことだったでしょう。

美那子と篤のその後の関係はどうなるのか?

映画では省略されていましたが、ノベライズにそのヒントとなる描写があります。事件が解決し、悟の殺害現場で祈りを捧げた篤は、悟が生前最後に娘に電話をかけた事件現場近くの公衆電話で、妻、美那子に電話をかけて改めて「話したいことがある」と和解に向けた提案をしています。ちょっと引用してみると・・・

四方は美那子を抱きしめたいと思った。子供の頃から、自分は誰かに抱きしめてほしいと願っていたのだ。誰かに抱きしめてもらうには、自分が誰かを抱きしめなければならない。そんな当たり前のことにようやく気づいた。 

ということで、美那子とも、よりが戻っていくことが、強く示唆されていました。 

2003年アカデミー賞受賞作「ミスティック・リバー」と類似する脚本

本作は、2003年にボストンを舞台にしたクリント・イーストウッドが監督を務めた傑作「ミスティック・リバー」とかなりの点で物語に共通点があります。幼馴染3人があるトラウマ級の事件をきっかけに疎遠になり、何十年後かに被害者・容疑者・刑事の立場でそれぞれ再会するというストーリー構造がまずそっくり!

主人公たちはそれぞれ幼少時の過去の記憶にとらわれていますが、事件をきっかけに過去と向き合い、心の傷を清算するプロセスを描いているという点でテーマも類似していますし、「追憶」では海を、「ミスティック・リバー」では川をそれぞれ心情描写の暗喩として似たようなモチーフを象徴的に使ったという点でも共通点があります。

両作品とも本格派俳優達の緊張感あふれる演技のぶつかりあいが素晴らしい傑作ですね。是非、こちらもDVDや映像配信でチェックしてみてくださいね。

6.まとめ

「映画というのは、不幸な人を描くものである」「幸せや幸福を捨てていく人の人間らしさ、悲しさ、美しさを描くのが映画である」と主張する降旗康男監督。そんな監督の思いと、日本海の厳しく美しい大自然の中、詩情たっぷりに撮り切った木村大作撮影監督の衰えない技術が、ガッチリとあわさった傑作に仕上がりました。

岡田准一の役者としての凄み・貫禄も確かに感じられる1本でもあります。非常に気に入った1本となりました。おすすめです!

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ノベライズ版「追憶」

脚本を担当した青島武によって書き下ろされた映画原作。大筋では同じストーリーですが、脚色を小説向けに洗練させ、映画版とは違う「別作品」として楽しめる趣向がかなり施されています。舞台の違い(富山→北海道)をはじめ、殺人事件で使われたトリック、映画では描ききれなかった各キャラクターのバックストーリー、より複雑かつ洗練された物語の構造など、見どころ満載。

現場での裁量や台詞回しを俳優に大胆に委ねる映画本編に比べ、情報量が増えた上、よりプロットとして計算しつくされた緻密さが味わえる素晴らしいノベライズ。これはおすすめです!

映画「ミスティック・リバー」

2004年の第76回アカデミー賞で主演男優賞、助演男優賞と主要2部門を制した名作。本作「追憶」と脚本に共通点が多く、合わせて見てみると面白いと思います。2017年5月現在、Amazon Prime加入者は、Amazonビデオが無料で視聴できますよ。

降旗康男監督作品は、まとめてU-NEXTで!

上記でオススメした関連作品以外にも、降旗康男監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。

現在、僕はU-NEXT、Hulu、AmazonPrimeとオンデマンドサービスに3社加入しているのですが、降旗康男監督作品はU-NEXT貴重な初期作品を中心に16作品、全て「見放題」でチェックすることが出来ます。

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【ネタバレ有】「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2:リミックス」感想・レビューとあらすじ解説/文句なしの大傑作スペースオペラ第2弾!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月12日に封切られた新作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2:リミックス」を見てきました。ここ最近のマーベル作品の中でも屈指の傑作で、間違いなくおすすめです!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「GOTG2:リミックス」の基本情報

<「GOTG2」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ジェームズ・ガン(「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」他)
【配給】ディズニー
【時間】136分

事前予想を裏切り、世界中で熱狂的なファンを獲得して大成功を収めた2014年の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」第1作から、引き続きジェームズ・ガン監督が引き継ぎました。

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(マーベル公式Youtube動画より)

元々はコメディ映画の脚本家だったジェームズ・ガン監督。前作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」がハリウッドでの大作デビューでした。今作で業界のレジェンド、シルベスター・スタローンに撮り直しを依頼した時、びびって緊張した逸話など、若手監督らしいエピソードが微笑ましい限りです。

2.映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2:REMIX」の 主要登場人物とキャスト

ヨンドゥ、ネビュラ、マンティスら、3人の仲間がが新たに「ガーディアンズ」のファミリー入りを果たしました。外見上も性格も、キャラクターの個性がしっかりしているのも本作の魅力です。

ピーター・クイル(クリス・プラット)f:id:hisatsugu79:20170512191359j:plain

クリス・プラットがハリウッドを代表する「アイドル俳優」へと成り上がるきっかけとなったのが前作でしたが、2017年も「マグニフィセント・セブン」「パッセンジャー」などで堂々たる主演クラスを演じるなど、器用に演じ分けている印象。そして、各出演作品でかなりの確率でなぜか「裸」になるサービスカットが!(笑)

ガモーラ(ゾーイ・サルダナ)f:id:hisatsugu79:20170512191348j:plain

「アバター」でブレイクし、「スター・トレック」のリブート3部作と本作シリーズなど、すっかりSF系大作でのイメージが強くなりましたね。本作では「剣」を持って戦う戦闘シーンにしびれました!

ロケット(声優:ブラッドリー・クーパー)f:id:hisatsugu79:20170512191916j:plain

アメリカの「最もセクシーな男性」ランキングで上位常連なブラッドリー・クーパーを壮大にムダ使いしているわけですが(笑)、声の収録シーンのメイキングなどを見るとかなり頑張ってるんですよね。しかし、今作は声もよかったけどVFX技術の確実な進歩によって、ロケットの生き生きとした表情が非常に楽しめました。

ベビー・グルート(声優:ヴィン・ディーゼル)f:id:hisatsugu79:20170512191243j:plain

こちらはもっと器用理由が意味不明なヴィン・ディーゼル。大人だった前作ならまだしも、今作はベビー・グルートということで声にはどこにもヴィン・ディーゼルの面影はありません(笑)しかし、VFX/CGでのベビー・グルートの可愛さは異常!

ドラックス(デイヴ・バウティスタ)f:id:hisatsugu79:20170512191618j:plain

元WWEプロレスラーから、完全に俳優へと転身したデイヴ・バウティスタ。特に2015年以降は、順調にハリウッドでのキャリアを深めつつありますが、本人は本作が一番思い入れがあるとのこと。しかし元レスラーって、ワイルド・スピードのドウェイン・ジョンソンといい、みんなハゲスキンヘッドなんですね・・・

ヨンドゥ(マイケル・ルーカー)f:id:hisatsugu79:20170512191543j:plain

とてもそうは見えなかったですが、すでに今年で62歳となるマイケル・ルーカー。近年は人気ドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」シリーズの出演とこの「GOTG」シリーズくらいですが、ハリウッドでのキャリアはすでに30年以上のベテランです。

ネビュラ(カレン・ギラン)f:id:hisatsugu79:20170512191432j:plain

2016年「マネー・ショート」や、今年度エマ・ワトソン主演の「ザ・サークル」でも出演し、人気上昇中の女優です。言うまでもなく、他作品ではスキンヘッドではありません(笑)

マンティス(ポム・クレメンティエフ)f:id:hisatsugu79:20170512191307j:plain

カナダ出身の俳優で、本作がほぼ初めてのハリウッド大作作品での出演となります。どこか東洋的な顔立ちでしたが、オーディションでの大抜擢での起用でした。 

エゴ(カート・ラッセル)f:id:hisatsugu79:20170512191220j:plain

ハリウッド出演50年になる大俳優。2017年5月現在、「バーニング・オーシャン」「ワイルド・スピードICEBREAK」と本作に出演中で、偶然ではありますが、現在日本で上映されている大作洋画のほとんどで出演しているという無双ぶり!映画ではクリス・プラットから「本当にお父さんになってください」と迫られたのだとか・・・。

 

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

怪物アブリスクとの戦い

1980年、アメリカのミズーリ州。ピーター・クイルの母、メレディス・クイルは宇宙人のボーイフレンドとドライブを楽しんでいた。車を降りて、スーパーマーケットの裏手の雑木林に植えた「苗」を見ながら、彼らは熱い抱擁を交わしていた。

それから34年後。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」ファミリーは、ソブリン星の王族に雇われ、アニュラクス電池を捕食しようとしたアブリスクというタコ型の怪物退治のため、戦っていた。

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ベビー・グルートだけが一人悠々と音楽を聞きながら踊る中、彼らは必死に戦っていたが、外皮の固いアブリスクに苦戦していた。しびれを切らしたドラックスが怪物の体内へ侵入する中、首筋の弱点に目をつけたガモーラが剣で切り裂き、何とか怪物を倒すことができた。

戦いを終えたガーディアン達は、アニュラクス電池を持ってソブリン星の高官、アイーシャに謁見し、電池と引き換えの報酬として彼らが拿捕・換金していたガモーラの義妹、ネビュラの身柄を引き取った。ネビュラは惑星ザンダーで懸賞金がかけられたいたため、彼女を引き渡して賞金を受け取ろうというのだ。

惑星ベアハートでの父「エゴ」との衝撃の出会い

ガーディアン達が惑星ザンダーへと帰着しようと宇宙空間へ出た時、ソブリンから追手がやってきた。引き渡されたアニュラクス電池の一部がなくなっていた事に気づいたのだ。ロケットがポケットにいくつかくすねてきていたのだ。

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大量のドローンに追いかけられ、途中窮地に陥るも、謎の小人に助けられたこともあり、最終的には遠隔操作の無人ドローンの攻撃をなんとかかいくぐり、何とか別惑星系へとワープできたが、船に受けたダメージが大きく、そのまま彼らはワープした先の惑星ベアハートへとぼぼ墜落同然で不時着した。

途方に暮れたガーディアン達だったが、そこに別の宇宙船が降下してきた。中からは一人の女性とともに壮年の男性が現れた。

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彼は、名前をエゴと名乗り、なんとピーター・クイルの父親だというのだ。突然の出会いに戸惑うピーターだった。

一方、惑星コントラクシアでは、ヨンドゥ率いるラヴェジャーズの一団が逗留していた。ヨンドゥは、そこでかつて仲間だったスタカーと偶然出くわした。かつて、ヨンドゥは掟であった子供の人身売買に手を染めたことがスタカーにバレて、彼らの集団を追放されたのだった。一方、ヨンドゥは彼の率いる一団の内部でも、ピーター・クイルへの甘すぎる処遇などから、チームの有力者、テイザーフェイスや腹心、クラグリンから不満が上がっていた。そんな中、惑星コントラクシアにソブリン星からアイーシャがやってきて、ヨンドゥにある依頼を行おうとしていた。

ピーターは、突然の父の出現にショックを引きずっていたが、エゴの説明によると、母がなくなった時、ピーターを迎えにヨンドゥを地球に派遣したが、ヨンドゥがエゴの所に戻らなかったので、再会に時間がかかったのだという。

ガモーラの後押しもあり、ピーターは、グルートとロケットをネビュラの見張りとして惑星ベアハートへ留守番として残し、ガモーラ、ドラックスとともにエゴの惑星を訪問することにした。

エゴの「惑星」へ行くピーター、ヨンドゥの追跡

ピーターが去った直後、ヨンドゥ達は、アイーシャの依頼で、惑星ベアハートへ不時着したガーディアン達を追って彼らが墜落した森の奥深くへ到着した。ロケットが事前に準備したトラップで多くの犠牲を払いつつも、ヨンドゥはロケットを追い詰めた。しかしその時テイザーフェイスがヨンドゥを裏切り、ベビー・グルートを丸め込んで手錠を外させ、自由の身となったネビュラと連携し、ヨンドゥ、ロケット、ベビー・グルートを捕虜にしたのだった。

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一方、道中、エンパス(人の感情を読み取ることができる)でもあるエゴの従者、マンティスとも打ち解け、エゴの惑星に到着した一行は、エゴが「セレスティアル」という神に近い古代種族であること、エゴの実態は「惑星」そのものであること、彼が数百万年も生きて真価を重ねてきたことを知った。

ピーターは、それでも、エゴが母を地球に置き去りにしたことに納得が行かなかったが、父、エゴからエネルギーの制御の仕方を教わり、次第に警戒を解いていった。

ラヴェジャーズの船では、テイザーフェイスがヨンドゥ派のメンバーを宇宙空間へ追放した。また、ネビュラの提案により、彼らにガーディアンズに懸賞金がかかっている惑星クリーへ3名を連行することにした。ネビュラはその見返りとして、ガモーラを惑星エゴへ追いかけるための船を彼らに用意させた。

ヨンドゥとロケットは牢の中で打ち解けあい、夜になり船員達が寝静まった頃合いを見計らって、グルートにヨンドゥが矢を操るためのフィン(頭部に装着する制御装置)のプロトタイプをテイザーフェイスの寝室から盗み出させた。

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何とかフィンを盗み出すことに成功した彼らは、テイザーフェイス以外のヨンドゥを裏切った船員を全員「矢」で倒して船を掌握した。テイザーフェイスも爆弾で船本体ごと爆破し、彼らは脱出ポッドでガーディアン達のいるエゴの惑星へと向かった。しかしテイザーフェイスは死ぬ前にアイーシャに彼らの行き先を連絡していた。

エゴの真の目的、そしてエゴとの最終決戦へ

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エゴの星では、マンティスとドラックス、ピーターとガモーラはそれぞれ良い雰囲気になりかけていた。しかし、ガモーラはなかなかピーターに気を許そうとしなかった。ガモーラが一人になった時、ネビュラがガモーラを急襲してきた。ガモーラは洞窟へと逃げ込み、そこへネビュラの船が墜落炎上した。ガモーラは、ネビュラを何とか助け出したが、ネビュラはガモーラを構わず殺そうとした。ガモーラとネビュラはお互いの気持をぶつけ合い、和解した。洞窟から抜け出そうとした時、二人は大量の人骨を見つけたのだった。

エゴは、彼の真の目的をピーターに告げた。人類を徹底的に研究し、学んだ結果、彼の本当の目的は宇宙全体へと彼の存在そのものを「拡張」することだった。そのため、地球を含め彼の分身をあらゆる惑星へと植え付けたのだった。しかし、彼一人では宇宙全体のエネルギーを集め、拡張することができないので、様々な種族との間に「子供」を作り、彼の分身を作り出そうとしたのだ。

しかし、ピーター以外の子供は、エゴ同様「セレスティアル」としての特質を備えておらず、エゴは用済みとして子供たちを殺した。そして、ピーターだけが「成功」例なのだった。ピーターがインフィニティストーンを直に触っても死ななかったことからエゴがそのことに気づいたのだった。

エゴは、母、メレディスを愛してはいたが、彼の計画を優先するため、情を断ち切るためにも彼女の母メレディスに脳腫瘍を埋め込み、メレディスを殺したのだった。

それを聞いたピーターは我に返り、エゴを機関銃で乱射した。エゴは、突然のピーターの反抗に対してピーターを拘束し、宇宙中にばらまいた「苗」を起動させ、大量虐殺を開始した。そして、ピーターのウォークマンと母からもらったカセットテープを粉々に壊したのだった。

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エゴの真の意図を知ったガーディアン達は、再び宇宙を守るため、エゴに全員で立ち向かった。マンティスのアドバイスで、彼らは星のコア部分にあるエゴの「心臓部」を破壊することで、エゴを倒そうとした。

しかし、そこに運悪くヨンドゥ達を追いかけてきたソブリンのドローンが攻撃をかけてきて邪魔をしてきた。マンティスがエゴを一瞬眠らせることに成功すると、彼らは地底深い洞窟内にベビー・グルートを時限爆弾とともに送り込み、爆破を試みた。グルートは無事に爆弾を仕掛け終わると、彼らは順次脱出していった。

ヨンドゥの死

しかし、マンティスの催眠術が解けてしまい、ピーターは時間稼ぎのため最後までエゴと戦った。時限爆弾が爆発すると、エゴは死亡したが、惑星が崩壊を始めた。最後までピーターと残っていたヨンドゥが宇宙空間までピーターを連れ出し、1着しかないスーツをピーターに着せ、ヨンドゥ自身は宇宙空間で凍りついて間もなく死亡してしまった。

こうして、宇宙を救うことに成功したガーディアン達だったが、ヨンドゥを失った彼らは、手厚く彼の亡骸を葬ったのだった。ヨンドゥが死んでから初めて、ピーターはヨンドゥが父親同様の存在であったことに気がついた。

そして、ヨンドゥの追悼に、彼の昔のラヴェジャーズの仲間であるスタカー達も集まってきて、彼の死を偲んだのだった。

エピローグ~エンドロール

エピローグ1
クラグリンは、ヨンドゥの残したフィンを使って矢を制御する練習をしていたが、なかなかうまく行かなかった。そして、ドラックスに刺さってしまった・・・。

エピローグ2
スタカーは、ヨンドゥの死にインスパイアされて、マルティネックス、チャーリー、スターホーク、メインフレームら、彼の仲間とチームを作ることを決意した。(オリジナルのガーディアンチーム)

エピローグ3
アイーシャ達は、ガーディアン達を倒す新たな方法を模索していた。生命孵化装置から彼らが取り出したのは、「アダム」と名付けた新たな方法で生み出した彼らの最終兵器だった。(アダム・ウォーロック)

エピローグ4
グルートは、今や成長して思春期を迎えていた。ピーターがグルートに「根」をだらしなく這わせたままにするな、と叱りつけたが、グルートは無視してTVゲームに没頭するのだった。それを見たピーターは、苦笑して自分の思春期を思い出していた。

エピローグ5
スタン・リーは、「ウォッチャーズ」と座っていたが、延々と続く彼の昔話に飽きた「ウォッチャーズ」達は、彼の話を聞こうとせず、去っていった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

前作を上回る、MCU史上最高傑作のSF作品!

映画キャッチコピー「ノリと笑いで宇宙を救う」とある通り、テンポの良いストーリー進行の中、ドタバタ劇に近い笑いと一転してしっかり描かれたシリアスシーンが波状攻撃のように流れていきます。第1作でキャラ紹介も完了している分、全ての時間を本筋のコンテンツとして消化できる2作目の強みを活かし、きっちりと前作の伏線も回収しつつ、監督のマニアックな趣味やこだわりも随所に散りばめた密度の濃い136分でした。

アクションシーンとヒューマンタッチなシーン、そしてラブロマンスなシーンもきっちりと織り込んで、センスの良い70年代テイスト満載の軽快な音楽に乗って、エンディングまであっという間でした。「まだ見ていたい!」と強く感じさせる、大満足な映画でした!

一方、クライマックスでは「父親」としての決意と覚悟を示したヨンドゥの死と、宇宙空間を彩る「宇宙葬(?)」のシーンでは否応なくきっちり泣かされる展開に。笑いだけでなく、感動も涙も用意されている。あぁ、これがまさにGOTGの世界だよなぁ!と心から満足できる映画となりました。

ベビー・グルートがあざといほど可愛すぎる!

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特に、前作で燃え尽きて「苗」となったグルートが、今作では「ベビー・グルート」として最初から最後まで非常にかわいいマスコット的なキャラに生まれ変わりました。

映画冒頭でガーディアンたちが必死で戦う中、一人音楽に合わせてコミカルに踊るシーンから、すでに観客の心をガッチリつかみます。小さいボディを活かして、中盤でのヨンドゥ、ロケットの脱獄を助けたり、クライマックスで時限爆弾を設置したり、まさに最終兵「木」として大車輪の活躍でした。ある意味、今作でのダントツの主役です。

土壇場までわからなかった「エゴ」の素性

そして、意外だったのが「エゴ」の素性でした。窮地に陥ったガーディアンズ達の船を助け、不時着した惑星ベアハートでの最初の出会いが非常に友好的だったこと、惑星エゴの美しい幻想的な風景から、途中までまさか彼が今作のヴィランになるとは思いもしませんでした。ミスリードにまんまとやられた・・・。途中まで、ピーターと「エゴ」が協力してソヴリン族のアイーシャと最終対決するのかと思っていました(笑)

こっちがラスボスかと思ってました・・・f:id:hisatsugu79:20170513045109j:plain

あとでWebで調べてみたら、関係者だけの先行試写会でも「悪役だと気づかなかった」観客が多かったようです。そこで、観客の反応を見て、ジェームズ・ガン監督がクライマックス直前まで「エゴ」を明確な悪役としてあえて描かないように土壇場で脚本を変更したのだとか。このあたりは、上手な演出だったと思います。

また、この「エゴ」は、GOTGシリーズの大成功で無名な存在から一躍スターに駆け上がったジェームズ・ガン監督自身や主演のクリス・プラットの心の中に生まれた「虚栄心」「驕り」への戒めの象徴でもあったといいます。

彼らは、映画撮影開始前に、環境が激変した今こそ、以前と変わらない平常心で映画撮影に臨もう、と誓い合ったそうです。確かに、出来上がった作品では前作同様気さくで「アホ」な感じのクリス・プラットが見れて良かったです(笑)

父親をめぐるストーリー

前作では数十年ぶりにピーター・クイルが母親との関係について自分のルーツを探る冒険譚でしたが、今作では、父親との関係をめぐる壮大な旅となりましたね。しかも、父親は、「実の父親」であるエゴと、「育ての父親」であるヨンドゥが鮮やかに対比して描かれました。

遠くにいて、長年手の届かないところにいて突然現れた「生みの親」に対して、四半世紀もずっと一緒にいて、不器用な形ながら自分をずっとそばで導いてくれていたのに,近すぎてその価値やありがたみに全く気付こうともしなかった「育ての親」。

育ての親「ヨンドゥ」は最後に死を賭して宇宙と息子を守る!f:id:hisatsugu79:20170513042924j:plain

ピーターは、物語ラストで一気に両方の親を失ってしまうわけです。その痛みは非常に大きなものでしたが、そこで彼が正気を保てたのは、2作目で「本当」の家族になれたガーディアンズの存在が大きかったのかなと思いました。

家族であり続けることを描いた第2作目

各キャラクターの抱える心の喪失感や、過去の関係性などが、より深く掘り下げられて描かれた本作。ジェームズ・ガン監督の言葉を借りると、「前作はガーディアンズが家族に「なる」までの過程を描いた作品だったが、今作では家族で「あり続ける」過程を描いた」とのこと。

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それぞれのメンバーが、自分自身の心の闇と向き合い、仲間と言いたいことを言い合い自己開示を重ねることで、少しずつお互いの溝を埋めていき、真の「家族」になっていくプロセスは深く共感できるものでした。

特に、強情で自分自身に一番素直になれずにいたロケットが、心を通じ合った自分の「分身」でもあったヨンドゥの死に対して涙していたラストシーンは、本作屈指の名シーンだったと思います。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

本作では、もの凄い大量の伏線・設定、小ネタが全編に渡って仕込まれていましたが、ここでは特に自分が印象的だったものを取り上げたいと思います。

アニュラクス電池とは?なぜガーディアンズは怪獣と戦っていたのか?

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アニュラクス電池は、宇宙で一番高価な電池であり、ソヴリン星のメイン動力源でもあります。ネビュラは、換金目的で盗み出そうとソヴリン星に潜入しますが逆にアイーシャに捕まってしまいました。

ソヴリン星では、ガーディアンズと契約し、アニュラクス電池のエネルギーを好んで捕食するシーモンキー型怪物「アビリスク」を倒し、電池を引き渡す代わりにネビュラの身柄を拘束したのでした。あまりに高価なので、この電池をロケットが数ユニット盗み出したところからストーリーが動き出しました。 

ウインクする目は間違えてはいけない?

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今回、ロケットはいくつかのシーンでウインクをする目を間違えて相手を怒らせてしまいますが、いずれも「左目」を閉じていました。相手への好意を伝えるためには「右目」をウィンクしなければならないところ、「左目」をウインクしてしまっていました。この場合「相手が嫌いである」という正反対の表明とされるため、相手が怒ってしまったのですね。

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ちなみに、グルートが惑星「エゴ」のコアで、エゴを倒すために押した起爆装置のボタンも「左側」でしたが、偶然の一致だったのでしょうか・・・。

エゴの正体とは?セレスティアル族とは?

エゴの正体は、宇宙の古代種族「セレスティアル族」でした。彼らは何百万年も生き、半分「神」に近い正体であると言われます。「エゴ」は当初実態のないエネルギー体でしたが、何百万年もの期間をかけて、物質となり、惑星を形作り、人間の形態にも擬態できるようになったのですね。いわばその虚像が少しずつ拡大して大きくなっていく様は人間のエゴ=自我そのものを暗喩しているようでした。

父親「エゴ」は、なぜ母親に脳腫瘍を仕込んで殺したのか

エゴの最終目的は、自分自身を宇宙全体に「拡張」させて、宇宙と同化することでした。しかし、エゴはピーターの母メレディスが本気で好きになってしまい、これまで3度地球を訪れていました。しかし、これ以上地球に立ち寄って時間を使っていると計画に遅れが生じるため、ピーターを産んだメレディスを「用済み」として脳腫瘍を仕込んで殺害したのです。 

ヨンドゥはなぜピーター・クイルをえこひいきするのか

彼は、当初「エゴ」の指示で、エゴが宇宙の各惑星で残してきた子供たちの誘拐を担当していましたが、ある時、「エゴ」の真意に気づき、ピーターを回収後エゴに引き渡さず、自分自身の「子供」として育てることにしたのでした。

ヨンドゥ自身、若き日に惑星クリーで奴隷状態にあった時、スタカーに引き取られて父親のように育てられた経験から、知らず知らずのうちにピーターのことが若い時の自分と重なったのかもしれません。あるいは、自分の子供をひいき目で見るようになったのかもしれませんね。

スタローン演じるラヴェジャーズのメンバーについて

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ラヴェジャーズは、宇宙に100グループ以上散在する海賊集団の総称です。シルベスター・スタローン演じるスタカーは、かつてヨンドゥを奴隷状態から救出しましたが、彼がラヴェジャーズで禁じている「子供の人身売買」を行ったため泣く泣くヨンドゥを彼のグループから追放しました。

映画ラストで、腹心マルチネックスや、盟友であるチャーリー27、妻のアリータらとともに、ガーディアンズのようなチームを作ることを示唆していましたが、これは原作の「ガーディアンズ」の構成であるようです。今後の作品で、ガーディアンズとの協力関係などが見られるのでしょうか?

続編や、アベンジャーズへの登場はあるの?

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http://www.followingthenerd.com/movies/james-gunn-on-guardians-of-the-galaxy-and-avengers-crossover/

エンディングではっきり「The guardians will return」と名言されていましたが、エンドロールの内容と合わせると、次回作はアイーシャが新たな生殖方法で生み出した「アダム」こと、アダム・ウォーロックがヴィランとして立ちはだかることになりそうです。

アダム・ウォーロックとは、マーベル・コミックスで、「ファンタスティック・フォー」や「ハルク」などでシリーズ横断的に出てくる強力な悪役の一人です。登場は、「MCU」Phase4以降なので、速くて2019年夏以降でしょうか。

また、2018年、2019年に予定されている「アベンジャーズ インフィニティー・ウォー」前後編で、正式にガーディアンズメンバーが参戦することが決定しました。メインのヴィランが、GOTG1作目でも出てきた「サノス」になりそうで、下記の撮影風景動画では、クリス・プラットが抱負を語っていますね。

他には誰がどのような場面で出演するかは決まっていませんが、全員で60名以上のキャラクターが登場する忙しい展開になるとのことです・・・。

<アベンジャーズ(2018)撮影風景>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

6.パンフレットの出来が良い!ファンは特別版を絶対買うべき!

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僕は、見た映画は全作品で劇場版パンフレットを購入しますが、今回は文句なく素晴らしい出来!「通常版」(820円)「特装版」(950円)と2タイプありますが、迷わず「特装版」をチョイス。人物紹介・原作と対比してのマニアックな作品解説・キャストや制作陣へのインタビューなどマーベル作品の熱心なマニアにも納得の出来でした!これは迷わず買いですよ!!

7.まとめ

長くなってしまいましたが、本作は本編136分の間にもの凄い情報量が詰め込まれ語るべき伏線や設定が非常に多い作品です。喜怒哀楽全ての感情が詰まった、ハイレベルなMCUシリーズ屈指の傑作に仕上がった大作は、間違いなくおすすめです!

それではまた。
かるび

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オリジナルサウンドトラック「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス」

今回も、前作同様ノスタルジックでセンスの良い70年代の名作13曲(+1曲)は、映画を見る前に聴き込むとより本編が楽しく見れます!また、普通にドライブ等でかけても非常にフィットします。僕も、映画公開前から何度もリピートして備えました!

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今作を見てから、再度1作目を復習すると、ストーリーの全体像やマーベル・シネマティック・ユニバースの中での位置づけ、各キャラクターの成長など、新しい発見があります!僕も今作を機に思い切って重要資料として購入しました(笑)

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現在、2017年5月25日までの期間限定で、Huluにてマーベル作品の特設コーナーが開設されています!前作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」ももちろんラインナップされていますよ!

また、今後2018年、2019年の2部作で描かれる「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」にもGOTGファミリーが出演することを考えると、特に関連深い過去の「アベンジャーズ」シリーズや「アイアンマン」シリーズ、「キャプテン・アメリカ」シリーズは、復習しておきたいところです。

Huluの良いところは、何と言っても「加入後2週間は無料」で見れるところです。無料期間中に、一気に11作品見てしまえば実質タダで過去作品が復習できますね!

僕も、Huluは長年お世話になっていますが、今回の期間限定配信中に全11作品全てチェックしました!ここ最近のマーベル作品は情報量が多いので、何度見ても新しい発見があるのですよね。レンタル代が浮いて非常にお得に復習できましたよ! 

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ファン必見!映画「メットガラ」は美術館の舞台裏がわかる傑作アートドキュメンタリー!【感想・ネタバレ有】

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かるび(@karub_imalive)です。

4月15日から渋谷Bunkamura等で公開されている、ニューヨークメトロポリタン美術館でのファッションの祭典「メットガラ」に密着したアートドキュメンタリーをようやく見ることができました。これが、凄く面白かった!

映画「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープが演じたアナ・ウィンターの実物版が動き回っている!というミーハーな見方でも良いし、アートとファッションの最新の関係性について真面目に深く考えるきっかけにしても良いし、あらゆるレベルで楽しめる作品でした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、考察・解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ドキュメンタリー内容の核心部分にかかわるネタバレ記述が多少含まれますので、何卒ご了承下さい。

※本エントリで使用した画像は、Youtube上の映画公式予告動画から抜粋したものか、筆者が実際に撮影したものとなります。

映画「メットガラ」の基本情報

【監督】アンドリュー・ロッシ
【配給】アルバトロス
【時間】91分
【原題】「The First Monday in May」

原題タイトルの通り、本作品は、毎年5月の第1月曜日にニューヨークのメトロポリタン美術館で実施されるファッションの祭典「メットガラ」に密着取材したファッション/アートドキュメンタリー映画です。

上映時間は91分と、一般的に短めなアートドキュメンタリー作品の中では普通くらいの長さです。主演のアナ・ウィンターは、「ビル・カニンガム&ニューヨーク」「ファッションが教えてくれたこと」についで、長編ドキュメンタリー映画への出演は実に3回目になります。

また、彼女がモデルとなって世界的に大ヒットしたハリウッド映画「プラダを着た悪魔」も有名ですよね。でも、あれから10年以上経って丸くなったのか、あるいは映画の脚色がやりすぎだったのか、映画ほど「悪魔」ではありませんでした(笑)

映画「メットガラ」の 感想・考察

フィーチャーされる二人の主人公

さて、今回紹介する映画「メットガラ」では、2015年のメットガラのイベント当日の華やかなパーティを徹底取材するとともに、そこまでに至る何ヶ月ものイベント関係者・美術館スタッフ達の準備のプロセスを丹念に描き出しています。

今回のドキュメンタリーでの主人公は2人います。

アナ・ウィンター
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まず、その一人目としては、冒頭でも紹介したアナ・ウィンター。ファッション業界を代表するレジェンド的存在であり、雑誌「VOGUE」や「RUNWAY」の編集長を務めます。さらに、現在メトロポリタン美術館の理事に就任しており、VOGUEの編集メンバーも総動員して「メットガラ」を取り仕切っています。

一方、もうひとりの主人公は、メトロポリタン美術館服飾部門のエースキュレーター、アンドリュー・ボルトンです。

アンドリュー・ボルトン
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同美術館では、毎年この「メットガラ」にあわせて、その日からスタートするファッション関連の大型企画展をスタートさせています。2015年の展覧会は「鏡の中の中国」(原題:「China:Through The looking Glass」)と銘打った、80万人を動員した超大型の企画展でした。 

本作品では、「メットガラ」祭典の表の顔としてアナ・ウィンターと、裏の顔として「鏡の中の中国展」を取り仕切るアンドリュー・ボルトンの2人と、その周辺のスタッフ達の動きについて、時系列に沿って交互に取り上げられます。

好対照な二人のマネジメントスタイル

面白いのは、この二人のリーダーシップのあり方がまさに対照的だったこと。
アナ・ウィンターは、映画「プラダを着た悪魔」で描かれたように、いつもスタバのコーヒーを片手にせかせか現場を動き回りながら、自身のインスピレーションの趣くまま、トップダウンで矢継ぎ早に指示をバシバシ出していきます。

会議打ち合わせ中の緊迫した様子f:id:hisatsugu79:20170513164903j:plain

画面越しでさえ、独特のカリスマチックな迫力が伝わってくるほどなので、目の前でビシビシ指摘を受けるプロの服飾デザイナーや関係者はたまらんだろうなぁと(笑)

面白かったのは、映画「プラダを着た悪魔」で描かれたセットとVOGUE本社のオフィスの中の雰囲気や、打ち合わせの進行状況、そしてアナ・ウィンターの自宅の様子まで、かなり似ていたこと。このドキュメンタリーを見て、逆に「プラダを着た悪魔」が綿密な取材や考証に裏打ちされた作品だったのだな、と納得させられました。

一方、もう一人の主役、アンドリュー・ボルトンは、アナとは真逆で、叩き上げの調整型マネージャータイプです。メットガラ当日でさえ、皆がパーティ会場で酔いしれている中、一人で黙々と展示の最終点検を行うなど、まさに縁の下の力持ちで、「ザ・裏方」といったキャラクター。

パーティの最中も展示内容を念入りに最終チェックf:id:hisatsugu79:20170513165001j:plain

発言権が決して強いとは言えない服飾部門のキュレーターとして、他部門のキュレーターや上司などと粘り強く折衝を重ね、自分自身が「理想」とした展示に一歩一歩近づいていく真摯な姿には、非常に心打たれるものがあります。

リーダーシップやマネジメントにおいて、正反対の二人が協力しあって「メットガラ」当日まで企画を進めていくコラボレーションは、非常に見応えがありました。

セレブが集結した華やかなイベントや世界最高レベルの展覧会

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もう一つの見どころは、何と言っても「メットガラ」の華やかなパーティ風景や、息を飲むような世界最高峰のクオリティで展示された展覧会の様子。

ハリウッドスターやトップシンガー、有名デザイナーら数々のセレブ達が、アナ・ウィンターが監修した至高のドレスに身を包みパーティで盛り上がるシーンや、まず日本では考えられないほどゴージャスなセットや仕掛けを使って彩られた展覧会会場は、映像越しでもため息が出るようです。

例えば、出席したセレブ達の一部を見てみると・・・

アン・ハサウェイ
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ブラッドリー・クーパー
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サラ・ジェシカ・パーカーf:id:hisatsugu79:20170513165149j:plain

ジョージ・クルーニー
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一見、美術館にセレブな有名人のパーティがどう関係あるのか?と訝しく思っていましたが、この「メットガラ」というイベントこそが、ニューヨークメトロポリタン美術館での年間運営費を集金するための欠かせない年間行事となっているのだそうです。

伝統的な世界最高レベルのファインアートの殿堂が、一見対局にあるような華やかで商業的な臭いのする資金集めイベントをがっつり活用して運営されているのは、いかにもアメリカらしい柔軟な発想で素晴らしいなと感心しました。

美術館スタッフたちの悩ましい日々

衣装貸出を渋る中国の美術館スタッフとのタフな交渉f:id:hisatsugu79:20170513170220j:plain

この映画は、単に「メットガラ」というハリウッドスターがどんちゃん騒ぎするうわべだけを切り取ったドキュメンタリーではありません。「メットガラ」当日に向けて、美術館スタッフや関係者たちが取り組む、地道でめんどくさい下準備のプロセスが、メインテーマとしてしっかり取り上げられているのです。

わずか1日だけのために、何ヶ月、場合によっては数年がかりで企画を準備し、それを様々な障害や問題、課題を乗り越えて作り上げていく美術館スタッフたちの奮闘や人間模様が非常にリアルで興味深く面白い!

当日の席次表を製作中、「来てほしくない人」についても話し合うスタッフ達(笑)f:id:hisatsugu79:20170513165651j:plain

また、かなり生々しいやりとりもあって、決してきれいなところだけではなく裏の裏まできちんと作り込んで見せていこう、という映画スタッフの意気込みも感じられる映画でした。

ファッションとアートの関係性についても深く考えるきっかけになる映画

これら美術館スタッフの努力を通して、視聴者に課題として見えてくるのは、ファッションとアートの関係性や、現在の美術界におけるファッションの位置づけです。

たとえば、映画本編で紹介される各種展示物や、セレブが着こなしているドレスなどを少し見ただけでも、一流のメゾンやブランドが生み出してきた最先端のファッションは、きらびやかで、アートそのものだと言っても過言ではありません。

取扱や保管で必要とされる繊細さ、熟練した技術力、「美」への審美眼など、非常に高レベルの能力が必要とされる分野であるにもかかわらず、こうしたファッション部門は、絵画や工芸、彫刻と比較すると、まだまだきちんと評価されていない状況なのです。

最新の注意を払って取り扱われる繊細な超高級ドレスf:id:hisatsugu79:20170513165803j:plain

それは、同美術館の服飾部門の処遇にも明確に反映されています。彼らは地下の、窓もない閉鎖された空間に追いやられてひっそりと展覧会の準備をしていますし、工芸や絵画など他部門のアイテムと一緒に抱き合わせ展示を行う際も、他部門のキュレーターや上位レベルのマネージャーから、「ファッションと一緒に展示することで、観客が真面目に見てくれないんじゃないか」と言い掛かりに近いようなダメ出しをされる始末。アンドリュー、さすがに頭抱えてました(笑)

ファッション業界の大物からも疑問を呈する声が・・・f:id:hisatsugu79:20170513165931j:plain

映画内では、「ファッションは映画など他のと比べても女性的とみなされてアートの世界から排除されてしまったのでは?」とナレーションが入ります。(実際、ドレスや服飾のバリエーションは圧倒的に成人女性のまとうドレスやマント、ケープといった服飾がメインなのです)

この「ファッション軽視」の流れは、2010年に急逝した世界的な服飾デザイナー、アレキサンダー・マックイーンの大回顧展「Savage Beauty」展(2011)の大成功で、多少潮流が変わってきたと言われています。(ちなみに担当のメインキュレーターはアンドリュー・ボルトンだった)

日本でも、ここ1~2年で急にファッション系の展覧会が活発に企画されるようになってきましたが、まだまだきちんと「ファインアート」としてきちんと認識されていないのが現実だろうと思います。このあたりは、非常に考えさせられるものがありました。

まとめ

個人的には、全くファッションセンスゼロなのは痛いほど自覚しているのですが、でもやっぱり美しいものを見れば、普通に感動しますし、映画「メットガラ」で紹介されたドレスは、どれもずっと見ていたいなぁと思わされる素晴らしいものでした。

日本でも、急速に認知・受容されつつあるファッション系の展覧会ですが、この映画「メットガラ」は、現在の世界的なファッションとアートの関係性や捉え方についてじっくり考えることができる良いドキュメンタリーでした。おすすめです。

それではまた。
かるび

映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「プラダを着た悪魔」ブルーレイ/配信

メリル・ストリープ演じるアナ・ウィンターが新入社員のアン・ハサウェイを徹底的に「かわいがる」、ファッション業界の内部が良く分かるヒューマン・コメディ。オフィス内でのやり取りも多く、英語学習者のリスニング対策でも使える作品なんですよね。

映画「ファッションが教えてくれること」

2010年にファッション界のカリスマ、アナ・ウィンターを徹底的に追いかけて密着取材したドキュメンタリー映画。VOGUEディレクターのグレイスと編集長アナ・ウィンターが、より良いものを作り出そうと信念を持って社内で真剣勝負するシーンは見ものです。「メットガラ」の次に見るアナ・ウィンターもののドキュメンタリーとしては最適かと思います。

新書「美術館の舞台裏」

中規模の美術館ながら、独自の企画力と運営で存在感を見せる三菱一号館美術館の館長、高橋氏が美術館運営の舞台裏までじっくり語り下ろした新書。この本を読むと、展覧会企画の大変さや苦労がよくわかります。

書籍「ファッションの世紀」

20世紀のファッションの潮流と、現代アートの深い関連性についてわかりやすく論じた1冊。2005年に出版された本ですが、全く古さはありません。アートとファッションについて体系的な知識が欲しい人におすすめ!

映画「メットガラ」と関連した展覧会情報

現在、横浜美術館で開催されている「ファッションとアート」展や、京都国立近代美術館にて、フランスのジュエリーメゾン「ヴァン・クリーフ&アーペル」を特集した「技を極める」展など、ファッション関連の大型展が東西で開催中です。

横浜美術館「ファッションとアート」展
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京都国立近代美術館「技を極める」展f:id:hisatsugu79:20170513164110j:plain

特に、「ファッションとアート」展は、以下で展覧会レビューを書きましたので、もしよければ覗いてみてくださいね。

【ネタバレ有】「スプリット」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/シャマラン監督完全復活!超心理サスペンス傑作映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月12日に公開となった、M・ナイト・シャマラン監督の待望の新作「スプリット」を見てきました。シャマラン監督の鮮烈な復活を強く印象づけた秀作でした!面白かった!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「スプリット」の基本情報

<「スプリット」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】M・ナイト・シャマラン(「シックス・センス」「サイン」他)
【配給】東宝東和
【時間】117分

緊迫の心理サスペンスに叙情的な親子、恋人同士の絆を描き、ラスト結末のどんでん返しが大評判となった「シックス・センス」(1999)で世界的に有名なハリウッド映画監督となったM・ナイト・シャマラン監督の最新作。

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(Twitter/シャマラン監督の来日時ツイートより)

「アフター・アース」「エアベンダー」と、シャマラン監督らしくない不振の時期を乗り越えて、初心に帰ったかのようなオリジナル脚本での超心理サスペンスもので勝負をかけた今作。

スマッシュ・ヒットした前作「ヴィジット」のスタッフが再結集し、総製作費900万ドルと低予算のインディペンデント映画ながら、余計な干渉抜きで作家性を前面に出して制作された本作は、すでに世界中で3億ドルを超える興収を叩き出しています。映画成績だけ見ても、まさに大復活ですね!

2.映画「スプリット」の 主要登場人物とキャスト

本映画は、主演2人の素晴らしい演技、特にジェームズ・マカヴォイの怪演につきます。低予算映画らしく、登場人物もぐっと少なめな分、主演のカメレオンのように変化する味わい深い演技を堪能してください!

デニス/パトリシア/ヘドウィグ/ビースト/バリー/オーウェル/ジェイド/ケビン・ウェンデル・クラム(ジェームズ・マカヴォイ)f:id:hisatsugu79:20170515192931j:plain

「X-MEN」新シリーズでの活躍や、演劇界でも実力を評価され、その演技力は折り紙つきのジェームズ・マカヴォイ。そんな彼でさえ、「最後の方は今誰を演じているのか、自分でもわからなくなってしまったよ(笑)」と語るほど、沢山の人格を短時間で演じ分けた本作。作品の成功や好評価は、彼の演技力によるところが非常に大きいはずです。

ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)f:id:hisatsugu79:20170515193104j:plain

ハリウッド期待の新星としてデビュー作「ウィッチ」(2017.7公開予定)で主演を務め、話題になったほか、2017年は「Thoroughbred」「Marrowbone」が待機中。アジア系でもなく、黒髪のロングヘアーの若手女優。独特の存在感は将来大物になる予感十分です。童顔ながらスタイル抜群なのも良かった^_^

クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)f:id:hisatsugu79:20170515193046j:plain

現在公開中の「スウィート17モンスター」他、「ブロンズ~私の銅メダル人生~」など、16歳でハリウッドデビューを果たした早熟の演技派。今作では主演が引き立つ演出もあり、それほど目立ちませんでしたが、演技力は確かでした。「Columbus」が現在待機中で、これからますます楽しみな俳優です。

マルシア(ジェシカ・スーラ)f:id:hisatsugu79:20170515193021j:plain

主にTVドラマで活躍中のイギリス出身の俳優。出世作は、「スキンズ」(第5、第6シーズン)だそうです。ハリウッド映画ではこれが初めてのキャスト抜擢となりました。

Drカレン・フレッチャー(ベティ・バックリー)
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2012年には演劇界で栄誉の殿堂入りを果たした米演劇界の超大物。映画では「私の中のもうひとりの私」など、1980年代か、それ以前での出演作多数。2010年代は、シャマラン監督作品「ハプニング」と今作の出演。超ベテランですが、役作りにあたっては、この歳になっても専門医に色々ヒアリングをしに行くなど、意欲的なところもあります。ケビンとのカウンセリングシーンはちょっとした心理戦っぽくて、意外なみどころでした。

3.ラスト結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

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唐突に起こった女子高生3人の誘拐事件

その日は、クレアの誕生日パーティが華やかに開かれていた。親友のマルシアはもちろん、普段は絶対誘わないようなクラスのトラブルメイカー、ケイシーまでほぼ全員を招待したパーティが終わると、クレアの父はマルシア、クレア、ケイシーを車で自宅まで送ろうと申し出た。

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3人が乗り込むと、クレアの父の代わりに、見知らぬ男(ケビン)が運転席に乗り込んできた。男は、催涙ガスで3人を眠らせて誘拐したのだ。

ケイシーが次に目を覚ましたのは、窓のない見知らぬ地下の部屋の中だった。マルシア、クレアらと共に誘拐・監禁されていることを理解した。まもなく、ケビンが部屋に入ってきて、マルシアを連れ出そうとしたが、マルシアは、ケイシーのとっさのアドバイスで小便をわざと漏らしたので、潔癖症(であろうと思われた)ケビンはマルシアを再び部屋の中へ追い払った。

クレアは3人で男に立ち向かって戦おうと主張したが、冷静なケイシーは注意深く様子を見て、状況を把握するのが先だと言って、その提案には乗らなかった。クレアは、昔父や叔父と鹿狩りに行き、狩りの基本的な考え方を教わったシーンを思い出していた。

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一方、セラピストのカレン・フレッチャー博士は、自宅のリビングのTVで3人の少女が誘拐されたニュースを見ていた。その時、カレンはバリーという男からの「緊急」と書かれたメールを受信した。カレンは、幼少時からDID(解離性同一性障害)、つまり多重人格者であるケビンを研究対象としており、同時にカウンセリングも担当していた。そして、バリーという人格は、ケビンの持つ23の人格のうちのメイン人格だったのだ。

明らかになってきた多重人格の犯人ケビンの特異性

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監禁部屋の中では、クレアたちは隣の部屋に女性らしき気配を感じていた。彼女たちは、この女性に向かって助けを求めると、部屋に表れたのは、ケビンの持つ女性人格、パトリシアだった。彼は、ハイヒールとスカートで女装してイギリス女性になりきっていた。パトリシアは、なぜ3人がここに監禁されているのか、その理由は間もなく明かされる、と言った。

カレンは、その日スカイプにて学会のシンポジウムに遠隔参加していた。カレンは、多重人格者の中の人格は、「照明」と呼ぶ権利を得て表に出てくること、各人格が違うと、彼らのパーソナリティによって、肉体も物理的に変化しうることを学会で強調した。

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その後、クレアたちはケビンの中の「ヘドウィグ」という9歳の男の子の人格にも遭遇した。ケイシーは、「ヘドウィグ」に「ここから出して欲しい」と懇願したが、ヘドウィグは、パトリシアとデニス(冒頭で誘拐を担当した男性人格)が怒るからダメだ、と断って部屋を出ていった。

ヘドウィグとの会話の中で、最近部屋を修繕したことを知った3人は、壁や天井を探り始めた。すると、クレアが天井の壁が薄くなっていることを発見した。ケイシーは軽挙しないよう諌めたが、クレアは天井を壊し始めた。すると、そこへ「デニス」が戻ってきた。「デニス」がケイシー、マルシアの妨害を振り切り、部屋へ入ってきたときには、クレアは天井裏へと逃げ出した。しかし、逃げ出した先で隠れたロッカーを見破られてしまい、「デニス」に別の部屋に一人監禁されてしまった。

24番目の人格「ビースト」の存在

その日、ケビンとのセッションに臨んだカレンは、話し相手がいつもの代表人格「バリー」と雰囲気は似ているが、どこか違うところを感じ、彼がデニスであることを見破った。彼女の深い共感と信頼に打ち解けた「デニス」は、「バリー」のマネを辞め、彼女に24番目の人格「ビースト」の存在を打ち明けた。カレンは、24番目の人格については、思い込みである、と否定的だった。

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ケビンは監禁部屋へ戻ると、「パトリシア」としてマルシアとケイシーに食事を与えた。「パトリシア」は、二人を監禁部屋から出してサンドイッチを振る舞ったが、パトリシアが後ろを向いている時、マルシアが椅子で殴りつけ、その隙に逃げ出そうとした。しかし、マルシアも捕まってしまい、別の部屋に監禁されてしまった。

一人になったケイシーに、今度は「ヘドウィグ」になったケビンが現れて、ケイシーにキスをしていいか迫った。ケイシーがこわごわ受け入れると、「ヘドウィグ」は気を許したのかケイシーに乗せられて自室へ連れていき、そこでカニエ・ウェストにあわせて踊りだした。ケビンの部屋に脱出できる窓がなく、落胆していたケイシーを見て、逃げ出そうとしているのを悟った「ヘドウィグ」は怒り出した。

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ケイシーは、部屋においてあった無線のトランシーバーを掴み、外部へ助けを求めたが、そこで2人は取っ組み合いになった。ケイシーは最終的に「ヘドウィグ」に抑え込まれ、監禁部屋へと連れ戻された。ケイシーは、狩りに行った日、初めて叔父に性的暴行を受けたことを思い出していた。

前回のセッションで異変を感じ取ったカレンは、直接ケビンの家へと行った。デニスとして出迎えを受けたカレンは、ケビンの家で急遽セッションを行うことにした。デニスは、引き続き24番目の人格「ビースト」について語り、現在は「群れ」と呼ばれる主人格(デニス、パトリシア、ヘドウィグ、バリー)が交代で「ビースト」が表れるのを待っていると語った。

ここで、初めて恐怖を感じたカレンは、セッションを中断し、トイレに行く途中で監禁されているクレアを発見した。すると、後ろから追いついてきたデニスに催涙スプレーで眠らされてしまった。

「ビースト」の覚醒と対決

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その後、「デニス」は街へ出ていき、花屋で花束を購入して、無人の列車が停泊する駅のプラットフォームに花束を手向けて祈ると、その無人列車に乗り込んだ。そこで、デニスは肉体的にも精神的にも怪物のような24番目の人格「ビースト」に変身した。変身を終えると、ビーストは上半身裸のまま、野生の獣のように一目散にケビンの自宅へと駆け戻っていった。

ケビンが不在になると、ケイシーは、床で拾ったネジを使って、錠前を外して、建物の外に出るためのカギを探し回った。インターネットは不通だったが、PCのデスクトップにはケビンの持つ23の人格が残した動画メッセージが残されていた。彼女は、歴史オタクとみられる「オーウェル」や、糖尿病の症状を持つ「ジェイド」などのファイルを見つけた。

「ビースト」がケビンの家に戻ると、意識が戻りかけたカレンが、書き置きを残していた。「ビースト」はカレンを見つけると、カレンを後ろから抱きしめ、圧死させたのだった。その頃、ケイシーはクレア、マルシアを探して建物の中を歩き回っていた。しかし、マルシアは腹を「ビースト」に食い破られすでに死んでおり、クレアは、まさに今から行きたまま食われるところだった。

恐怖にかられ、逃げ出したケイシーだったが、まもなく「ビースト」に追いつかれてしまう。ケイシーは、部屋に置いてあった「ケビン・ウェンデル・クラムと名を呼べ」と書かれたカレンのメモを見て、「ビースト」に「ケビン・ウェンデル・クラム」と叫んだ。すると、「ビースト」は、その言葉がケビンが3才の時に受けた虐待のトラウマを呼び起こし、ショック状態を経て主人格のケビンに戻った。ケビンは、2014年9月18日に最後にバスに乗っていた時から、記憶が一切なかった。

ケビンは、まもなく自分のしでかした行為を悟ると、ケイシーに猟銃の在り処を教え、自分を殺してほしいと懇願した。ケイシーがためらっていると、「群れ」人格たちが次々と表れ、そして、最後にもう一度「ビースト」が現れた。

「ビースト」との決着、そして意外な結末へ

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ケイシーは、逃げながら猟銃を探し出し、建物奥の動物の檻のような空間へと逃げ込んだ。「ビースト」追いついてきて、驚異的な腕力で檻の金属棒を曲げて、ケイシーの檻へと入ってきた。ケイシーは、至近距離から「ビースト」を2発撃ったが、「ビースト」は全く意に介さなかった。いよいよビーストに殺されそうになった時、ビーストはケイシーの腹部や肩に残された激しい自傷跡を見て、ケイシーを見逃したのだった。

その時、ケイシーは、父が心臓麻痺で死んでから、叔父が新たな保護者になった時のことを思い出していた。彼女もまた、「ビースト」同様、長い間叔父から性的虐待を受けて来たのだった。

まもなく、ケイシーは動物園の職員に保護された。ケビンは、動物園の管理人の仕事に就いており、その地下にあった彼の居室に、監禁されていたのだ。警察へと引き渡されたケイシーに、叔父が迎えに来たが、ケイシーは車から出ようとはしなかった。

ビーストは、現場を逃げ出して生き延びていた。ケイシーの放った2発の銃弾は致命傷になっていなかったのだ。近くの食堂では、TVで事件の残虐性・猟奇性がちょうど報道されているところだった。女性客が、15年前のある車椅子の男が引き起こした事件に似ているが、犯人の名前が思い出せない、とつぶやくと、その隣りに座っていた男が、「ミスターグラスだよ」と答えた。その声の主は、デイビッド・ダン(ブルース・ウィリス)だった。(映画「アンブレイカブル」の主演)

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

4-1.原点回帰して、大復活を遂げたM・ナイト・シャマラン監督の傑作!

「エアベンダー」「アフター・アース」と、立て続けにブロックバスター大作で大コケして悟ったのか、前作「ヴィジット」に引き続き、今作でもシャマラン監督の十八番とも言える、独特の世界観を反映した心理ホラーサスペンスの勝負作を放ってきました。

映画館に行く前は、低予算映画らしいし正直どうなのかな?と半信半疑だったのですが、見てみるとすごく面白かった!映画のデキは予算規模とは全然関係ないですね(笑)

ジェームズ・マカヴォイの演じた各人格たちは、成人男性、女性、子供など、様々なキャラクターがいましたが、みな一様に薄ら寒い怖さや狂気を内に秘めた感じが良かったですし、ケビンVSケイシー、ケビンVSカレンの腹の探り合い、つばぜりあいも見ていてドキドキさせられました。

また、映像的な面白さも映画の随所に散りばめられていました。唐突に入る上空からのカットや、過去作品で少しずつノウハウとなってきたスカイプ/動画などPC画面の活用が非常に効果的でした。

自宅へ戻るビースト。街灯越しに上空からのカットがぞくぞくするf:id:hisatsugu79:20170516161750j:plain

シャマラン監督が多用するPC画面を活用したシーンf:id:hisatsugu79:20170516161903j:plain

4-2.「意外性」に溢れた描写は今作でも健在?!

そして、シャマラン監督作品が毎回公開されるたびに期待されるのが、いわゆる「どんでん返し」的なサプライズエンドです。映画序盤~中盤にかけて、巧妙に散りばめられた伏線が、ラスト結末で、鑑賞者の視点を180度ひっくり返すような意外な収束へ繋がり「えぇ~っ、そうだったの?!」と驚かされるんですよね。(逆に「サプライズ」への過度の期待が彼の場合評価の足かせになっているともいえますが・・・)

特に、「シックス・センス」「アンブレイカブル」など、初期作品の秀作は、結末を知り、新たな視点を得た2周目の鑑賞からは全く違う映画として見れてしまうのも凄いところ。

そういう意味で、今作も過去作ほどではないですが、主人公、ケイシーにまつわる背景説明やストーリーテリングの上手さには舌を巻きました。映画冒頭で監禁された時、ひとり騒がずすまし顔だったケイシーの最初の印象は、単純に「冷静で頭が切れるクレバーな子なんだな」という感想でした。

しかし、数度に分けて挟まれる回想シーンを経て、実は「叔父の日常的虐待を生き延びるために必死に頭を回転せざるを得なかった」暗い過去があったことが間接的に浮かび上がってくると、その痛ましい過去こそが、彼女の命を救う決め手となったという数奇なプロットに驚かされました。なるほど、そう来るか!と・・・。冒頭から丁寧にラストに向けた伏線を静かに仕込んでいき、一気にクライマックスで収束させる手法は、今作も健在でした!

また、囚われた女性は少しずつ脱がされて行くんですが、それが必ずしもステレオタイプ的に性的な暴行につながるわけではなく、単に「デニス」の潔癖症に由来するものだったり、幸せそうなブロンド女性から先に殺されるという、少しずつホラージャンルの王道的お約束を外してきた意外性も良かったです。

4-3.「スプリット」のもう一つの意味~2人の主役の対照的な結末~

今作での2人の主役の共通点は、幼少時に痛ましい虐待を受けていることです。その結果、ケビンは自分自身を守るため、複数の人格を作り出しましたし、ケイシーは自傷行為を繰り返したり、わざと学校で騒ぎを起こして、居残りさせられ、独りになろうとしていました。

ある意味、主役と敵役は非常に似た者同士であったわけですが、ストーリーを通して2人の対照的な方向性が描かれました。物語中、ケビンは、あくまで自分を守るため、24番目の最強人格「ビースト」を作り出し、生贄を惨殺して凶悪犯へと墜ちて行きます。これに対して、ケイシーは自分と向き合うことを選択し、「ビースト」=「叔父」の犯罪行為に対して銃で立ち向かえるようになりましたし、ラストで迎えに来た叔父を拒否する素振りを見せます。自分の意志で、心の痛みを終わらせる前向きな選択が出来たのですよね。このあたりは、「痛み」や「心の傷」からの再生を丁寧に描くシャマラン節炸裂!といった感じでした。

本作題名で提示される「スプリット」とは、悪役ケビンの24個に分かれた人格を指しているだけでなく、物語を通してケイシーとケビンが取る選択と、その後の運命が対照的に分岐していく様を暗喩したキーワードでもあったのでしょうね。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

5-1.ケビンの人格の構造や、その種類はどうなっていたのか?

ケビンは、「ビースト」を含め、24個の副人格を持っていたわけですが、今作ではさすがに全部は出てきません。「群れ」(The Horde)と呼ばれるバリー、ヘドウィグ、パトリシア、デニスの4人格を中心に、オーウェル、ジェイド、そして最終24番目のビースト、元々のケビンを含め、今作で主演のジェームズ・マカヴォイが演じ分けたのは8つの人格でした。

彼らが表面に出てくるためには、彼らの中で「照明」と呼ばれる権利を取得しなければなりませんが、最近までは明晰で社交的な「バリー」が「照明」のコントロール役を担ってきました。

しかし、何らかのタイミングで、「ヘドウィグ」にも「照明」を自在に操れるようになり、「バリー」は主導権を失います。代わって、それまで「バリー」のコントロール下で不遇だった「ヘドウィグ」と「パトリシア」「デニス」が結託して、ケビンのメイン人格群として表に出てくることになりました。

彼ら3人の人格は、奥に潜んでいた24番目の人格「ビースト」を表面化させるため、少女たちの誘拐を計画するに至りました。

ここで、出てきた人格を一覧にまとめておきますね。

★ケビンの人格一覧

人格短評
バリーファッション・アート好きで社交的。「照明」を管理できる唯一の人格で、全員の司令塔。カレンとの面会も、通常バリーがこなしている。しかし、ある日、ヘドウィグに「照明」を奪われ、全体のコントロールを失う。
デニスバリーが仕切っているときは、その先鋭的な思想ゆえ、冷遇されて「照明」をなかなか取れなかった。ヘドウィグ達と結託し、「ビースト」の覚醒に向けて誘拐を主導する。極度の潔癖症。
パトリシアケビンの中の女性人格。女性らしい細やかさの中にも切れた時の狂気が宿る
ヘドウィグ9才の小学生男子。無邪気だが頭は切れる。バリー以外に「照明」を取れるようになった。
ビースト24番目の人格。鋼鉄のような筋肉や素早い動き、圧倒的なパワーは、野獣そのものである。ケビンを守るための最終進化形態。
オーウェル歴史オタク。小難しいことを延々と喋り続ける。
ジェイド糖尿病を患い、インシュリン注射が欠かせない。
ケビン主人格。2014年9月18日から副人格達に乗っ取られ、まるで記憶がなかった。

5-2.なぜ3人はそもそも誘拐されなければならなかったのか?

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「デニス」や「パトリシア」達は、不安定な「ビースト」をケビンの幼少時のトラウマを乗り越え、ケビンを外敵から守る守護者として、確実に彼らの中に定着させたいと考えていました。

そのためには「ビースト」の好物である「痛みを知らない無垢な少女たち」を生贄として捧げる必要があると考えていたためです。実際、「デニス」は、劇中、ビーストを完全に呼び出すには「あと10人ほど必要だ」と語っていました・・・。

5-3.ラスト結末で明かされた「アンブレイカブル」と地続きの世界

今回用意されたサプライズは、実は「スプリット」が、15年前のシャマラン監督作品「アンブレイカブル」と同じ世界線上での出来事で、互いのストーリーがつながっていたということが明らかにされたことです。

ラストで出てきたブルース・ウィリス扮するデイビッド・ダンは、「アンブレイカブル」で描かれた不死のヒーローですし、そこで彼をヒーローとして見出し、最後に対決したのが「ミスター・グラス」でした。

2019年1月に「GLASS」(原題)というタイトルで続編として映画化されることまでエンドロールで明かされ、ここにマーベル的な「シャマラン・シネマティック・ユニバース」とも言うべき世界観が提示されたことが、ある意味「サプライズ」ではありました。

でも、このサプライズ提示は個人的には失敗なんじゃないかと思います。最初から「アンブレイカブル」を見ておけば、劇中で気付けるいくつかの重要な伏線・設定が用意されていたからです。これなら、広告宣伝の段階で「アンブレイカブル2」だ!と世界の繋がりをネタバレしてくれていたほうがスッキリしました。

5-4.「ビースト」に変身する前にケビン(デニス)が駅で花束を手向けた理由

実は、映画「アンブレイカブル」の冒頭で、ブルース・ウィリス扮するデイビッド・ダンは、彼以外全員が死亡した凄惨な電車脱線事故に遭遇するのですが、その事故で死亡したのが、ケビンの父だったのです。

「デニス」が花束を買って、鉄道のプラットホームに置いたのは、亡き父への手向けの花であり、「ビースト」を顕現させ、別人へと生まれ変わる前に、心に一区切り付けたかったのでしょう。

5-5.「Mr.グラス」はスーパーヒーローとスーパーヴィランを作り出していた!

「アンブレイカブル」で、サミュエル・L・ジャクソン演じた「Mr.グラス」は、名前通り、骨のタンパク質が足りないため、骨が脆弱になってしまうという先天性の重病を抱えたヴィランでした。彼はアメコミヒーローにあこがれ、大人になった時、展覧会を開けるくらい有名なコレクターになります。また、彼は病弱な自分とは対極の、不死身の肉体を持つスーパーヒーローがこの世の中に存在すると考え、世の中にテロや大事故を起こし続け、そこから生き残る不死身のヒーローを見出そうとする危険な思想の持ち主でした。

結果として、彼が首謀者だった、ある列車脱線事故で、彼は不死身のヒーロー、デイビッド・ダンを見出しますが、同時にその列車事故で間接的に「ビースト」をも生み出していたのですよね。ケビンの父親が列車事故で突然死した結果、ケビンの母親は不安定になってケビンへ虐待するようになったからです。

5-6.続編「GLASS」情報まとめ

ここまでで明らかにされている続編情報は、以下の通り。箇条書きに少しまとめてみました。4月26日に彼のTwitterで明らかになった最新の詳細です。

・次回作のタイトルは、「GLASS」(原題)で決定。
世界公開日は、2019年1月18日。
・「スプリット」「アンブレイカブル」両方に関連するエピソードが描かれる予定で、3部作の完結編となる予定。
・「Mr.Glass」をサミュエル・L・ジャクソンが、デイビッド・ダンをブルース・ウィリスが続投する。
・ジェームズ・マカヴォイも続投が決定。パトリシア、デニス、ヘドウィグ、バリー、ジェイド、オーウェル、ビースト以外に、ハインリッヒ(Heinrich)、ノーマ(Norma)といった新キャラも予定されている。
・アニヤ・テイラ=ジョイ扮するケイシーも出演が決定。

6.まとめ

全編でほとんどCGも使われておらず、ほの暗い地下の雰囲気たっぷりのセットで丁寧に作られた映画でした。低予算ながら、シナリオの素晴らしさとキャスト陣の頑張りでシャマラン完全復活を告げる作品になったと思います。面白かった!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「アンブレイカブル」

続編「GLASS(原題)」をフルに楽しむためにも、スプリットと同一の世界での出来事を描いた「アンブレイカブル」の復習はやはり外せないと思います。かなり前の作品ですが、シャマランが描くとアメコミヒーローモノはこうなるのか!という驚きと、結末の「どんでん返し」がたまりません。未見の方は是非!

小説「24人のビリーミリガン」

レオナルド・ディカプリオ主演で、2015年に「Crowded Room」というタイトルで映画化も発表されていますが、本作「スプリット」も、ダニエル・キイスの実話を元にした解離性同一性障害の犯罪者の主人公を描いた小説からインスピレーションを得ているそうです。世界的なベストセラー小説しとて有名ですね!

M・ナイト・シャマラン監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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上記でオススメした関連作品以外にも、M・ナイト・シャマラン監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。

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【ネタバレ有】映画「チアダン」感想・レビューとあらすじの徹底解説!/広瀬すずの若さあふれる熱演が最高!

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【2017年5月18日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

3月11日にリリースされた広瀬すず主演の新作「チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話」を見てきました。10代女性俳優では、今一番劇場にお客を呼べるという広瀬すずが、半年以上かけてチアダンスをゼロからマスターした意欲作。スイーツ映画ながら、その作り込みは素晴らしかったです!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「チア☆ダン」の基本情報

<「チアダン」公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】河合勇人(「俺物語!!」「兄に愛されすぎて困ってます」)
【配給】東宝
【時間】121分

主にTVドラマシリーズでキャリアを積み、最近は「俺物語!!」(2015)や、2017年6月末公開予定「兄に愛されすぎて困ってます」といったスイーツ風の若者恋愛映画を手がけることが多い河合勇人監督。丁度TVドラマから映画監督へとキャリアを広げていくためにも、本作は今後の映画監督としてのキャリアを占う大切な試金石的な作品になりそうです。

2.映画「チアダン」主要登場人物とキャスト

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チアダンス部という大人数で実施されるスポーツのため、登場人物はかなり多めですが、映画を楽しむために最低限見ておきたいのが、上記の写真に映っている5人と、鬼教師役の天海祐希です。

友永ひかり(広瀬すず)
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映画撮影時、現役の高校2年生だった広瀬すず。実年齢とほぼ同じ役どころで、本人も「素の自分に近い」とインタビューで答えているように、非常に自然な演技でした。それにしても、広瀬すずはかるた、ヴァイオリンの次はチアダンスと、部活系の映画が立て続けに上演され、どれも興収10億円以上達成している(あるいは見込)のは見事。今回の「チアダン」でも「主演は広瀬すずしか考えられない」と河合勇人監督からの熱い指名で実現したのだとか。

玉置彩乃(中条あやみ)
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ほっそりと整った顔立ち、スラッとした長身はバリバリモデル体形で、広瀬すずと並ぶと主役を「公開処刑」しかねない凄いヴィジュアルの持ち主。素の時はのんびり屋だそうで、映画中での「まじめでストイックな」役柄に入っていくのが大変だったそうです。ちなみに、演技についてはやや見苦しい時があり、しばしば長文の時に棒読みになりがちだったところは、やや残念でした。

紀藤唯(山崎紘菜)
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この人も、中条あやみ同様、スリムで長身なモデル体形ですね。二人して主演広瀬すずを挟む立ち位置のカットもしばしばあり、広瀬すずがかわいそうな瞬間もありました(笑)ちなみに、映画好きの人はTOHOシネマズの新作映画の紹介動画ナレーションでいつも見慣れていますね。TOHOの予告編では少し舌っ足らずなナレーションが印象的だったのですが、今作では一匹狼から徐々に仲間を信頼できるようになっていく無口な女子を好演しています。主役の生徒役の中では最年長。

東多恵子(富田望生)
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若い女子でここまで体形がはっきりしているキャラが主演級で「かっこよく」起用されるドラマや映画って珍しいかもしれません。踊りは柳原可奈子のようにキレキレで、全く違和感がありませんでした。チアダンスの練習がハードなため、痩せていくのを防ぐために人一倍食べて体重を維持したという、ちょっと変わったエピソードもパンフレットで紹介されています。

永井あゆみ(福原遥)
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みんな大好きまいんちゃんですね(笑)主役5人の中では一番役どころが限定されており、セリフはそれほど多くはありません。映画内では、アニメ声を活かして、天真爛漫で目立ちたがり屋の役を演じていました。

早乙女薫子(天海祐希)
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2017年は1月の「恋妻家宮本」以来早くも映画出演2作目。こちらは、モデルとなった五十嵐裕子先生からの「指名」で鬼教師役に内定しました。映画内では、演劇っぽい大仰でコミカルなアクションが本来表現したかった教師の「厳しさ」をややわかりにくくしている点が気になりました。ただ、この人はその場に入るだけでデカいので威圧感があるといえばあるのですが・・・。

山下孝介(真剣佑)
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女性主体のストーリーだけど、少しくらいは男子もいないとね、ということで、ひかりの友達以上彼氏未満である親しい男の子役を務めました。ただ、チアダンス部は「恋愛禁止」なので、スイーツ映画お約束の壁ドン顎クイ床ドン、、、といった展開は一切ありませんでした。どちらかというと、恋人というより、ひかりとはお互い高め合う「戦友」的な存在としてサッパリ描かれます。

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3.映画「チアダン」の結末までの詳細なあらすじ(※ネタバレ)

3-1.ひかり、福井中央高校でチアダンス部に入部する

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友永ひかりはこの春、福井中央高校に入学した高校1年生。放課後、部活の勧誘ブースで友人達とどの部活に入ろうか見て回っていた。ひかりは、「イケてる女子はみんなチアダンス部に入るんだ」とチアダンス部推しだった。

ひかりの密かな夢として、サッカー部に入部した中学の時の同級生、山下孝介を全国大会で応援して、孝介と結ばれる、という青写真があった。

しかし、ひかりが部活見学に行った日、チアダンス部の顧問、早乙女薫子先生は、「チアダンス部はアメリカに行って全米大会での優勝を目指してます」とギラギラした目つきで高らかに宣言するのだった。しかも、全米を目指すため、スカートは膝丈、ネイルは禁止、前髪は禁止、校則厳守、そして恋愛まで禁止だという。

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これはダメだ、とあきらめて別の部活を探そうと考え始めたひかりだったが、孝介から「チアダンス部の応援楽しみにしてるわ」と言われ、思わず弾みで「まかせて!」と答えてしまい、引っ込みがつかなくなってチアダンス部に入部するのだった。

チアダンス部の部活初日に顔を出した1年生は、全部で14人だった。1年生しか部室にいなかったので、早乙女に聞いたところ、2年生、3年生は全員退部したとのことだった。

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全米3位になったという日本の高校生の演技をDVDで見せられた後、一人ひとり早乙女の前でダンスをしたが、彩乃、麗華、唯以外のメンバーは素人同然でボロボロだった。必然的に、部長には彩乃が指名されたのだった。孝介の話によると、彩乃は横浜から福井へと引っ越して来る前の学校でも、チアダンスで全国優勝したことがあるのだという。

翌日から始まったレッスンでは、彩乃、麗華、唯以外のメンバーはひたすら体を動かすための柔軟体操で一日が終わり、ダンスの練習すらさせてもらえない始末だった。

そんな悲惨な部活生活が始まったひかりだったが、、父親からは意外にも「ひかりは笑顔が素敵だからチアダンスはあっているんじゃないか」と得意料理「からあげ」を振る舞われて励まされるのだった。翌日、練習で自慢の「笑顔」を早乙女にアピールしてみたが、早乙女からは逆に前髪の指摘をもらっただけだった。

恋愛禁止になった上、孝介からも恋愛対象として意識されていなかったことがわかったひかりは、部活をやめようかと迷っていた。彩乃はそんなひかりを校舎の屋上に連れ出し、早乙女の代わりに個人的にひかりにダンスレッスンをつけるのだった。彩乃は、部員全員のモチベーションを考えて、基礎練習一辺倒ではなく、ダンスの練習も少しずつ取り入れるべきと早乙女に直談判するなど、リーダーシップにも優れていた。

彩乃のサポートや、自宅での懸命な自主練の成果が少しずつ出始め、ひかりや他の部員たちも、ようやく1曲を通して踊れるようになっていた。ひかりは、少しチアダンスが楽しくなり始めていた。

いよいよ福井大会が目前に迫ってきていた。初心者組も、1曲通して踊れるようになってからは、ダンス経験者の麗華や、顧問の早乙女から容赦なくダンスのパフォーマンスに指摘がビシビシ入るようになってきていた。ダンスでは貢献できなかったが、ひかりも「笑顔」の作り方を唯に教えるなど、チームに貢献するのだった。

しかし、福井大会での最初のパフォーマンスはぼろぼろだった。イージーミスを連発して、最低の出来に終わってしまったのだ。終了後、案の定早乙女からはダメ出しがあり、最悪の雰囲気の中、麗華は部活を退部してしまった。翌日以降あゆみ、ひかり、彩乃以外は練習にも現れなかった。一方、学校では福井大会の惨状を受けて、チアダンス部の解散が検討されていた。

3-2.チアダンス部解散の危機と部活の再生

ひかりも、クラスメイトと久々にカラオケに繰り出して発散してみるものの、この先どうしていいか気持ちの整理がつかなかった。帰宅後、自宅に来てくれた彩乃とじっくり話しあい、もう一度チアダンスをやってみたくなった。

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ひかりは、彩乃とともに、唯や多恵子ら、仲間たちにもう一度粘り強く声をかけてチアダンスをやろう、と説得して回った。そして、集まった仲間たちとともに校長室へチアダンス部継続を直談判するのだった。最後は、「アメリカを目指します!」と弾みで好調にアピールしたひかり達の熱意に負けた校長から、チアダンス部の継続許可を勝ち取ったのだった。

仲間と部室に戻ると、顧問の早乙女が待っていた。部の存続が決まったタイミングで、本気でアメリカを目指して活動するため、早乙女から、チーム名を「JETS」として新たに活動を再開することが発表された。

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時は過ぎ、ひかりは2年生になった。入部説明会で、去年と全く同じように「おでこ全開!」「校則遵守!」と新入部員を前に熱く語る早乙女に苦笑いしつつも、2年生となった彼らは確かな成長を感じていた。笑顔が苦手だった唯は、今では1年生に笑顔の作り方を教えることができるまでになっていた。

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練習は順調に進み、新たに招聘したコーチの元、JETSは福井県大会で優勝を飾り、全国大会へと駒を進めた。過去最高にチームワークも機能し、充実した練習ができた(できていたと自負していた)

しかし、全国大会では自信を持って演技ができたにもかかわらず、結果は全国4位と、優勝には程遠い結果だった。早乙女が「仲良し地獄だ」とつぶやいたとおり、もう一歩突き詰める演技ができていなかったのだ。

大会の結果が終わった後、早乙女はさらに大きく一人一人が成長できるようにと、「夢ノート」というノートを1日1回寝る前に必ずつけるようにと指導した。夢ノートで一番大きく変わったのは、部長の彩乃だった。

3-3.本気でアメリカを目指した最後の1年間

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大会終了後、本気で「アメリカに行きたい」と考えた彩乃は、夢を達成するために敢えて「みんなの敵になる」と夢ノートに書き込み、翌日から厳しく仲間に対して遠慮ない指導を行うようになった。

ひかりもまた、彩乃から「端っこで踊っているだけで満足し、欲がないことが欠点だ」と指摘され、彩乃と一瞬気まずくなるのだった。しかし、数日後の帰宅途中で一緒になった時に、ひかりは彩乃から受けた指摘について感謝した。ひかりは、彩乃に「わたし、端っこでもセンターになったつもりで踊る」と力強く宣言した。

そして、ひかりにとって高校生活最後の年がやってきた。しかし、春からいきなり全治2ヶ月の重傷を負ってしまう。根を詰めて練習しすぎたためだ。周りが全国大会に向けて順調に結束してダンスを磨いていく中、ひかりは一人蚊帳の外で参加できない悔しさを味わっていた。後輩のフォローをしていると、早乙女から「邪魔だから帰れ」と言われてしまう始末だった。

それでも、大会直前になってようやく全体練習に復帰できたひかりだった。しかし、2ヶ月のブランクは大きく、みんなのペースについていけず、全体練習の和を乱してしまった。早乙女から「練習から外れるように」と屈辱的な指示を受け、皆の前では気丈に振る舞ったひかりだったが、内心は悔しい思いでいっぱいだった。

全国大会は、補欠として一人練習用のジャージを来て円陣に臨み、全員を送り出したひかりだったが、皆の健闘を祈る気持ちと、大会に出れず悔しい気持ちがごっちゃになっていた。

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福井中央高校は、見事全国優勝を成し遂げ、全米大会への切符を手に入れたのだった。高校に戻ると、地元のマスコミが取材に来ていたり、応援団が特別祝勝イベントを開催してくれたりと、周囲がチアダンス部を見る目は一変した。試合に出た仲間たちが凱旋インタビューを受ける中、ひかりはジャージに着替えて学校の屋上で一人ダンスの練習を続けていた。

全米大会前の全体練習で、ひかりはとうとう全員と揃って踊れるようになった。ひかりの仕上がりが間に合ったことに早乙女以下、全員が驚き、喜んで迎え入れてくれた。

そして、迎えた全米大会。早乙女以下、チーム全員はバスでサンディエゴの試合会場へと向かったが、気持ちは少し浮つき気味だった。気持ちがどことなく定まらないまま臨んだ予選では、決勝へと進んだ8校のうち、かろうじて7番目で決勝へ進むことができた。

数日後の決勝を前に、早乙女は秘策として、センターである彩乃とひかりを入れ替えるという発表を行った。突然の発表に戸惑う全員だったが、彩乃は気丈に振る舞い、ひかりをセンターとして全員で踊りを合わせよう、とまとめた。

解散となった翌日、ひかりは彩乃から「夢ノート」を手渡された。センターとしての心構えを記載したので、参考に読んでおいて欲しい、という。ひかりは、そのページを読み込んでみたが、「センターの心構え」について書かれたページは一度破かれた跡があった。彩乃もやはり悔しくて、やりきれない気持ちをノートにぶつけたのだった。

それを見たひかりは、早乙女の決断に納得が行かず、ポジション変更撤回を迫ったが、早乙女は断固として自分の決断を曲げず、ひかりに「頂上を取った景色を見ておけ」とただ静かに話すのだった。

まだもやもやしていたひかりだったが、夕方一人で海を見てたそがれていると、コーチの大野がひかりのところにやってきた。大野は、早乙女が如何にチームを愛していて、指導者として悩みながらここまで指導をしてきたか、どれだけひかりに期待していたのか、そっとひかりに語って聞かせた。そして、ひかりと早乙女は、その一途さが非常に似ているとも話したのだった。

早乙女の意外な一面や熱い思いを知って、そして全員がひかりのために準備をしている光景を見て、ひかりはみんなの前で「センターで踊る」と決意を新たにした。

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翌日の決勝では、全員でしっかりと悔いなく踊り切ることができた。踊り終わって、ひかりは確かに「てっぺんを取った者しか見れない光景」をこの目で見たのだった。観客席を見ると、早乙女の姿がなかった。

ひかりは、急いでバックステージ裏の通路に戻ると、早乙女の姿を発見した。早乙女に踊り終わった思いを伝え、二人は固く抱き合ったのだった。そして、福井中央高校が優勝したとのコールが会場に伝わると、他の部員たちも早乙女のところに来て、全員で泣いて歓喜した。

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その数年後の4月。彩乃は夢だったキャビンアテンダントになっていた。一方、ひかりは、母校福井中央高校でチアダンス部のコーチに就任していた。彩乃のニュースを知ったひかりが、相変わらずチアダンス部で顧問を続ける早乙女に朗報を伝えると、早乙女は一人見えないところで号泣して喜ぶのだった。

ひかりは、新入部員を前に、数年前に早乙女が入部説明会の時に語ってくれた内容と一言一句同じように語りかけ、アメリカへの夢をぶちあげるのだった。早乙女の目指した夢は、確実にひかりに受け継がれ、そしてこれから入部してくる新入部員にも伝わっていくのだった。

その日の部活が終わると、同じく学校でサッカー部の顧問となっていた孝介と校門の前で待ち合わせ、今度こそデートへと出かけるのだった。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.想定していた観客層と全然違っていた?!

公開初週の日曜日の午後という一番混雑するタイミングで見に行ったのですが、座席は見事に満席。女子中高生やカップルがメイン客層だと予想していたので、オッサン一人で観に行くのは凄く気が引けたのですが、フタを明けたら、なんとメインの客層は女子小学生!!(もちろん親子連れです)僕の横に座ったのも、小学校高学年の女の子でした。

すごく意外な客層に少し安堵しつつ、始まった映画での彼らの反応にもびっくり。この「チアダン」は、ところどころでやり過ぎなほど露骨なコメディタッチの演技や効果音、マンガ的なツッコミが入るのですが、そこで小学生が笑う笑う、、、

事前にマーケティングできていたのかどうかわかりませんが、予想以上にコメディ色の強い作風が、ぴったり低年齢層を中心とした客層にハマっていたことに驚きを隠せませんでした。満員の映画館が一体感に包まれていました。小学生たちのお陰で、なんというか素直な心で楽しく鑑賞できました!たまには満員の映画館もいいですね。

4-2.成功の裏にある「犠牲」と「挫折」が丁寧に描かれた点が好感だった

映画「チアダン」は、福井商業高校の実在するチアダンス部が、2006年に創部されてから3年間で全米大会を制覇するまでの実話に基づいて製作されました。実話のドキュメンタリー「チアダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話の真実」も事前に読了してわかるのですが、決してエリート選手が努力して、順当に夢を掴んだ話では全くないのですよね。

ストーリーで特にクローズアップされるのはひかり、彩乃、早乙女の3人ですが、3人ともが、最後に全米大会で優勝するために多大な犠牲を払い、大きな挫折を経験するシーンが1回ずつ丁寧に描かれます。

まず、恋愛は禁止、女子高生らしいファッションも禁止。部活は朝練、休日練習は当たり前で、寝る前に夢日記までつけています。「私らは全てをかけてやってきたんやで?!」と全米大会の演技前の円陣で、ひかりの福井弁バリバリのセリフにある通り、彼らは普通の高校生としての楽しみを犠牲にして、高校生活の大半のエネルギーをチアダンス1本に賭けていました。

そして、勝つためには「仲良さ」を捨てて「厳しさ」を優先します。試合前の人選で、早乙女はひかりを全国大会から外し、キャプテンの彩乃でさえ試合の直前にセンターから外しました。温情より冷徹な実力主義で判断されています。

また、裏では早乙女も相当な挫折を味わっていました。顧問着任早々2年生以上に全員退部されてしまったどころか、残った1年生のチームも途中で一旦崩壊寸前になってしまい、校長からは顧問としての指導力を疑われる始末です。

このように、「全米大会で優勝する」という大目標こそクリアされましたが、そのプロセスは全く順風満帆というわけではなかったのでした。彩乃の夢ノートに書かれ、セリフでも強調された通り「努力してもかなわないこともある。でも努力を続けるしかない」とあった通り、彼らの望みは、叶ったり叶わなかったりなのですが、この映画では「叶わなかった思い」にも焦点を当て、しっかり拾い上げていたところが印象的でした。

4-3.指導者の気持ちが全く届いていない感じがリアルで良かった

映画を見ていて、途中までぬぐい難い違和感としてあったのが、顧問の早乙女の心情描写がほとんどなかったことです。でも、これは後で「意図的」だった、と気づきました。

この映画では、最初から主人公=ひかりの視点で物語が進んで行きます。彼氏未満の孝介や部活仲間との交流などは丁寧に映像やセリフで心情描写がなされる一方、キーマンであるはずの早乙女との交流の描写が極端に薄く感じられるのです。

高1の入部説明会~高3の最後の練習風景に至るまで、ひかりは、早乙女から詳しい説明もなしに一方的に何か指示を受け、それに対して都度軽い不満をもらすなど何らかのリアクションはするにはしますが、違和感を強く表明したり、激しいやり取りもなく、物語が最後まで進んでいくのですよね。

なんか描写が雑だなーと思っていたら、ラストシーン直前の全米大会直前のワンシーンでひかりが早乙女に「軽蔑します!」と言い放つシーンを見て、ようやく腑に落ちました。

要するに、数々の苦難を乗り越えて、長い長い時間を3年間共有し、その集大成として全米大会までこぎつけたにもかかわらず、ひかり(学生)と早乙女(顧問教師)の間の関係はそれまでその程度のものだったということなんです。独り言で「うるさいババァやの」とひかりが良くつぶやいていたように、ひかりからは早乙女のことが良く見えていなかったという、二人の間のリアルな距離感が映画全体で表現されていたんですね。

実際の初代JETSメンバーでも、初代キャプテンは全米大会前に心を閉ざして一人だけ退部してしまっていますし、多感な高校生への指導の難しさを実感しました。

4-4.素人でも志を持ち続けることの大切さが描かれた

努力しても叶うこともあれば叶わないこともあります。そういったリアルな挫折感もきっちり描きつつ、それでもこの映画では「たとえ素人でも努力し続けることで成功できる可能性」も提示されています。

その最たる象徴こそが、主要登場人物を務め、ダンス演技中も最前列に配置され続けた太めキャラ、多恵子の存在です。映画全体を通して、彼女が目立つ場所に敢えて配置され続けたのは、「たとえ未経験から、素人からスタートしても、努力すれば成功できる」という可能性の象徴だったからなのではないでしょうか?

もう一人の「素人」は、顧問の早乙女です。早乙女の指導法は、部活の練習こそ生徒の自主性にある程度任せているものの、基本的には独善的で学生一人ひとりへの配慮が致命的なほど欠けていました。指導者として「素人」くさいわけです。

この歪な指導法のせいで2年生以上を全員失い、チアダンス部が崩壊寸前になるわけですが、それでも早乙女にはその欠点を補って有り余る圧倒的な「ビジョン」と「志」がありました。だって、福井の片田舎で全く実績もなくゼロの状態から、「全米大会で優勝する」なんて誰も本気で言えないですよね。

ひかりら生徒との距離感は微妙に縮まらない一方で、早乙女が示したビジョンや熱意は、確実に学生に浸透していき、強いチームが出来上がっていったのですよね。

このように、映画「チアダン」では、生徒も指導者も「素人」でしたが、「素人」であっても、志を持ち続けることで、時にとてつもない奇跡のような成果を生み出すことができる、そんな可能性をしっかりと映画のテーマとして提示してくれていたと思います。

4-5.そして、思いは受け継がれていく

映画全体を通して、「誰かが言ったセリフが、後のシーンでそれを言われた誰かによって反復される」シーンが多用されます。それは、掛け声であったり、アドバイスであったり、セリフであったり様々でしたが、ポジティブな思いが確実に仲間に広がり、受け継がれていく様子を効果的に表現するには優れた表現だったと感じました。

映画でもリアルでも、JETSはその後全米大会を何度も連覇する強豪チームへと成長するわけですが、その過程では、必ず成功体験や成功を支えた考え方やノウハウ等は先輩から後輩へ、仲間から仲間へと正しく「継承」され、広がっていかなければなりません。そのためには、まずは「ことば」ありきなんですよね。

先輩から、指導者から受け継いだ「ことば」が正しく、きっちりと受け継がれていく様子を効果的に印象づけるため、徹底して同じ言葉がチーム内に継承される脚本は素晴らしかったです。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.ダンスの種類を覚えておくとより楽しめる映画

チアダンスは、いわゆる甲子園や高校サッカーなどで見られるチアリーディングではなく、チアリーディングに含まれる「ダンス」要素を独立させた競技部門の一つです。約2分半の演技時間の中で、ポンダンス・ジャズダンス・ヒップホップ・ラインダンスと4つのダンスを必ず含み、採点はダンスの技術や振付、チームの一体感、表現力などが採点の対象となります。

20人以上のメンバーが息を合わせて華麗に踊り、表現する姿は、シンクロナイズドスイミングや新体操なんかにも雰囲気が似ていますね。映画中でも、唯はヒップホップ、彩乃がポンダンスが得意だったり個性がある他、場面場面での主人公たちの心情に寄り添って、踊られるダンスの種類や内容が細かく調整されています。

5-2.実際の福井商業「JETS」の動画が凄まじい!

映画内での広瀬すずをはじめ主役たちの演技も、実際に想像以上に完成されており見事な動きでしたが、彼らのモデルとなった福井商業高校「JETS」の全米大会で演技する動画がYoutubeに年度別にアップされています。

<「JETS」2016年度全米大会決勝の演技>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

これを見るとわかりますが、とてつもないレベルですね。ちなみに、映画内でも実際に福井商業で全米大会で優勝経験を持つ酒井麗奈と藤井利帆が初代部員8名の中に含まれている他、初代JETSの優勝メンバーで、現在JETSでコーチを務める三田村真帆さんも指導に入るなど、全面的な福井商業メンバーOBのバックアップが入っています。

5-3.モデルとなった「福井商業高校」の実話も生々しくて凄い!

映画「チアダン」は、福井商業高校の実話を元に製作されていますが、キャラ設定から鬼顧問の存在まで、明確なモデルがありました。映画と同時に刊行されたチアダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話の真実によると、実際の福井商業高校でも、初代JETSメンバーでは例えばこんな生々しい実話があったそうです。

・五十嵐裕子先生(早乙女のモデル)がチアダンス部顧問になった時、2年生~3年生が全員退部してしまった。しかもその後、退部した元部員たちが外野から足を引っ張リ続けた。
・夢ノート導入へ反発したメンバー達が部室で五十嵐先生の悪口を言っていたところに五十嵐先生が通りかかり、先生激怒。それを受けて部員全員が反省文を提出して、何とか騒動が決着した。
・3年時、ケガで離脱してモチベーションの維持に苦しんだ部長が、五十嵐先生の拙いフォローもあって、全米大会前に退部してしまった。

それ以外にも書籍には色々エピソードが網羅されていますが、決して全米大会優勝への道のりは平坦だったわけではなく、だからこそむしろ本当に「奇跡」に近い快挙だったんだ、とわかります。

5-4.ノベライズに収録された、映画本編では省略されたストーリー

角川つばさ文庫で映画と同時に刊行されたノベライズ版は、映画で恐らくカットされたであろうストーリーが盛り込まれています。詳しくは読んで頂くのが一番良いのですが、いくつか紹介しておきますね。

<全米大会前にも一度ひかりはセンターを試している>
・全国大会4位となった後の練習で、早乙女に言われて彩乃とセンターを変わる。あゆみや多恵子、唯もひかりのセンター案を推すも、結局その時は技術的に優れた彩乃がセンターへ戻ることになった。
→これが当初案では全国大会決勝での交代への伏線として用意されていたプロットかもしれない。ラストのひかりの葛藤シーンがより際立ったので、映画ではこのシナリオを外したことは良かったかもしれません。

<全米大会後、ひかり達の卒業式の描写>
・ひかり、孝介から第2ボタンをもらいに行く。
・彩乃、相変わらず矢代に校舎裏で告白されている。
・麗華がJETSメンバーに「全米優勝おめでとう」と言いに来る。
・次期部長には絵里が内定。(唯に笑顔を指導されていた子)
・最後に、円陣を組んで定番のセリフ「明るく、素直に、美しく!レッツゴー、JETS!」で笑顔で叫んでお別れとなった。

<ひかり、彩乃以外の卒業後のそれぞれの進路>
・多恵子は、子供達を守る児童福祉司になった。
・あゆみは大学卒業後、専業主婦として一児の母になった。
・唯は卒業後もダンスを続け、アメリカでプロのダンサーになった。
・麗華は、敏腕キャリアウーマンとして海外を飛び回っている。 

6.まとめ

部員を説得して回るシーンが「七人の侍」「荒野の七人」のオマージュだったり、特設中継会場で応援するひかりの父がアニマル浜口そっくりだったり、遊び心も満載で、オーバーリアクションでベタなコメディタッチで笑えるシーンが沢山用意されていたのも、その骨格に実話をベースとする力のある感動ストーリーがあったからこそ。

笑えるシーンもありますが、最後はきっちりと最高の演技と若者たちの一途な気持ちに泣かされました。小学生から大人まで、いろいろな視点で幅広く楽しめる佳作でした。映画館の大画面でぜひ!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

大原櫻子 主題歌

エンドロールで流れる初春の卒業ソングらしいスケール感のあるメロディが、全米大会を終えてそれぞれの道へと踏み出したJETSのメンバーを送り出すメッセージのようで、最高に泣けました。いい曲でしたね!ちなみに、大原櫻子自身も、本作で南青山高校のチアダンス部員としてカメオ出演しています。

「チアダン」ノベライズ

角川つばさ文庫からの出版。小学生でも読めるように全部ルビが振ってあり、気がついたら僕の小1の息子が読んでました(笑)Amazonのジュブナイル小説部門でベストセラーになるなど、やはりこの映画はJSに大人気なのか・・・。

内容は、映画を小中学生でもわかるように平易な文章で描かれていますが、普通に大人でも楽しく読めてしまいます。僕も何気に映画前後に3回読み返してしまいました(笑)

「チアダン」ドキュメンタリー

ノベライズと同時に出版されたのは、映画「チアダン」のモデルとなった福井商業高校チアリーダー部「JETS」の実話版ノンフィクション・ドキュメンタリーです。顧問となって赴任した五十嵐裕子先生が、持ち前の強烈なリーダーシップとガッツで新生チアリーダー部を率いて、第1期創部メンバーが2009年に全米優勝を成し遂げるまでを描きます。綿密な取材に基づいた描写も生々しく、ハッキリ言ってこちらは映画以上に壮絶です。映画が気に入った人は、こちらのノンフィクションもお勧め!

【ネタバレ有】映画「メッセージ」感想とレビュー・あらすじ伏線の徹底解説!/静かな感動があふれるSF史上屈指の大傑作でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月19日にリリースされた鬼才、ドゥニ・ビルヌーヴ監督の最新映画「メッセージ」を見てきました。見終わると、人生の意味について誰かと語りたくなるような、深くて静かな感動が待っている素晴らしい傑作でした!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「メッセージ」の基本情報

<「メッセージ」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ドゥニ・ヴィルヌーヴ(「複製された男」「ボーダーライン」他)
【配給】ソニー・ピクチャーズ
【時間】116分
【原作】テッド・チャン「あなたの人生の物語」

前作「ボーダーライン」は2015年度アカデミー賞3部門でのノミネートとなりましたが、2016年度アカデミー賞8部門でのノミネートを果たし、「音響効果賞」に輝いた今作。ここ最近、リリースするたびに傑作を連発しているカナダ出身の鬼才、ドゥニ・ビルヌーヴ監督がメガホンを取りました。

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ビルヌーヴ監督といえば、10月28日に日本公開となる「ブレードランナー2049」も現在撮影中。こちらもめちゃくちゃ楽しみです!

2.映画「メッセージ」の 主要登場人物とキャスト

この映画では、主人公、ルイーズとエイリアンのコンタクトに完全にフォーカスされているため、画面上は軍関係者など多数のキャラクターが常に見えているものの、しっかりチェックしておけば良いキャストは、以下の3人のみ。非常にシンプルな映画なのです。

ルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)f:id:hisatsugu79:20170519201734j:plain

回想シーンでの物憂げで全てを悟った慈しむような目つきや、エイリアンとの交流シーンなど、非常に情感豊かにベテラン女優らしい熱演でした。2017年秋も、実力派男優ジェイク・ギレンホールと共演する「ノクターナル・アニマルズ」が待機中。

イアン・ドネリー(ジェレミー・レナー)f:id:hisatsugu79:20170519201806j:plain

どうしても「アベンジャーズ」シリーズでの「ホークアイ」「ボーン・レガシー」「ミッション・インポッシブル」シリーズなど、アクション系俳優のイメージが強いのですが、今作では至って普通の学者役。アクションシーンも一切なく、自慢の肉体美を披露する局面はありませんが、彼の知性的で優しい顔つきは、こういう普通のオッサンを演じるほうが実はあっているような?

ウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)f:id:hisatsugu79:20170519201825j:plain

軍隊側の人間で、ルイーズ、イアンを統率し、現場と軍幹部の間に挟まれた、いわゆる中間管理職。ルイーズとイアンが、人類の危機的状況(に見える中)どこか超然と研究に打ち込む中、このウェバー大佐は、普通の人間のあせりや恐怖を体現した側の人として描かれました。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

突然現れたエイリアンの12隻の宇宙船

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ルイーズ・バンクは、娘との様々な記憶を思い出していた。娘が生まれたときのこと、幼少時のこと、そして、病気で娘に先立たれた記憶。様々な記憶が脳裏に蘇っていた。

ルイーズは、言語学の大学教授だった。その日、クラスへの出席者は少人数だったが、講義を開始した途端、臨時ニュースが流れた。アメリカを含め、日本、中国、イギリス、パキスタンなど、世界中で同時に12箇所に地球外の飛行物体が現れたという。

その日は休講となり、まもなく世界中は大混乱に陥った。翌日も大混乱が続く中、独り大学へ出勤してみたが、誰もキャンパスに人影は見当たらなかった。

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ルイーズが研究室でパソコンを眺めていると、そこへウェーバー大佐がやってきた。過去の軍隊への協力実績から、異星人とのコンタクトへの協力要請だった。

その夜、ウェーバー大佐はルイーズを自宅まで迎えに来て、彼らはアメリカでの異星人の出現場所、モンタナ州のサイトまでヘリで移動した。ヘリに同乗していたのは、物理学者のイアン・ドネリーだった。ルイーズとイアンは、共同で研究にあたることになった。

コンタクトを通じて徐々に明らかになる異星人の目的

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モンタナ州のサイトには、軍関係者のキャンプがすでに設営されており、他の11サイトと回線をつなぎ、随時情報交換を行っていく段取りとなっていた。メディカルチェック、予防注射を済ませると、早速ルイーズ、イアンは第1回のコンタクトへと臨むことになった。

彼らの宇宙船は全長450メートルと、超巨大な縦型の黒い未知の浮遊物体で、18時間おきにコンタクト目的で最下部に開口部が現れた。開口部から入ると、途中で重力が反転して、彼らは壁伝いに垂直に歩いて最奥部へと向かった。

最奥部は、ガラスのような透明な仕切りが出来ており、その仕切の奥に、タコのような足を持った異星人が2体霧の中に動いていた。彼らの形状から、イアンとルイーズは彼ら異星人を「ヘプタポッド」と呼ぶことにした。

最初のコンタクトでの感触から、彼らとのコンタクトには音声ではなく文字(筆談)での対話が必要だと判断したルイーズは、2回めのコンタクトでフリップに「HUMAN」と書き、さらに防護服を脱いで彼らに親愛の情を見せた。

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すると、彼らの側からも、触手の先から円環状に形成される文字状のメッセージを返してきた。彼らは、それを持ち帰って解析するとともに、ヘプタポッドの2体にコステロ、アボットと名前を付けた。

しかし、彼らがコンタクトを続ける間も、世界の混乱は継続し、人々の間に恐怖が蔓延していた。人々は、世界各地でデモや暴動を起こしていた。

セッションが進むとともに、彼らはフリップから様々な単語を説明し、それに対してヘプタポッドたちが彼らの側の対応する円環状のメッセージを返す、という地道な作業が続いていった。ルイーズは、さらに彼らに近づこうと、透明な壁に手を置いてヘプタポッド達に親愛の情を示すと、彼らも触手を重ねてきた。

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すると、それ以来ルイーズは度々自分の娘についてのビジョン(未来の記憶)が頭にひらめくようになった。

中国ではシェン大将率いる部隊が対応に当たっていたが、確たる成果を出せずにいた。彼らはマージャンゲームを用いての対話を試みようとしていた。

ルイーズは、ヘプタポッド達の言語で夢を見るようになっていた。夢の中で、自分の娘と交流しているシーンを何度も見るようになっていた。夢の中で、娘の父親はいなくなっており、自分が娘に対してフォローをしているようなシーンが印象に残っていた。

異星人は、ルイーズに対して「武器を使え」とメッセージを投げかけてきた。それを聞いた他の軍隊関係者(特に中国)は、次第に異星人たちが侵略を開始するのではないかと疑い始め、態度を硬化させていった。

近づく核戦争の危機

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そして、中国はとうとう、24時間以内に退去しないと先制攻撃を行う、と宣戦布告するに至った。ロシアやスーダンなどがその動きに同調し、それと同時に12カ国での回線はシャットダウンされ、各国での協調関係は崩れていった。しかし、ルイーズは彼らが戦争を企図していようとはとても思えず、「武器」についての解釈をもっと深めようとウェーバー大佐に進言した。

アメリカ軍も、一旦モンタナ州のサイトから撤退する動きを見せていた。ルイーズとイアンは、撤退直前のセッション37で何とか彼らの真意を図ろうとした。しかし、そのセッションでは、精神状態を追い込まれた彼らの護衛兵が内部から宇宙船を破壊しようと、時限爆弾を仕掛けていた。

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時限爆弾が爆発する前、ヘプタポッドたちはこれまでにない大量のデータを吐き出した。そして、アボットは、爆発と同時にルイーズとイアンを突き飛ばし、爆風や爆発の影響を最小限に抑えてくれる協力をしてくれた。アボットはこの影響で死亡し、これをきっかけに世界中の12サイトの宇宙船は、すこし上空へと場所を移動させた。

ルイーズが目を覚ますと、キャンプの中にいた。先に目覚めたイアンは、前回のセッションで得た情報を解析し、「時間」に関するストーリーであることに気づいた。ロシア軍がいよいよ戦闘行動を開始したとの情報が入り、軍隊は撤退準備を急いでいたが、その時ルイーズは独り宇宙船の方へ駆け寄っていった。

宇宙船からは、ルイーズを内部に迎え入れるための彼らの小型ポッドが射出され、ルイーズはそれに乗ってコステロと直接対面した。コステロは、彼女に対して教えたヘプタポッドの文字自体が、彼女と人類全体への贈り物=武器であると説明した。3000年後に彼らの文明に起こる危機への対処に協力してもらう見返りとしての贈り物だった。

彼らの言語を理解することは、サピア=ウォーフ仮説に基づくと、未来も見通せるようになるということを意味していた。そして、この直接のコンタクトによって、さらに彼女の脳裏に頻繁に未来の記憶が呼び起こされるようになっていた。

そして、彼女はかなり先の未来で、「ヘプタポッドの言語について」という本を出版していることも理解した。その瞬間、ルイーズには完全にヘプタポッドの言語体系を習得したのだった。

危機を救ったルイーズの機転

そこで、彼女に一連のフラッシュがやってきた。また、18ヶ月後、彼女はある国際的な会合で、中国のシェン大将と直接立ち話をする機会を得た。シェン大将から、彼女から電話で聞かされたシェン大将しか知り得ない妻のダイイングメッセージを聞くことが出来たため、ヘプタポッドへの核攻撃を思いとどまることができた、と感謝された。そして、シェン大将から携帯電話の番号を聞くことができた。

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フラッシュが終わり、現実に戻ると、彼女はアメリカ軍の携帯電話を使い、シェン大将に電話連絡をした。基地内のオペレーター達に逆探知され、もう少しで殺されそうになるところだったが、何とかルイーズはシェン大将に連絡を取り、核攻撃を思いとどまらせることに成功した。

その時、12ヵ所全てのサイト上空にあったヘプタポッドの宇宙船は静かに向きを変えると、その場で消滅していった。全て終わったことを悟ると、イアンはルイーズにプロポーズして、ルイーズはイアンのプロポーズを受け入れた。近い将来、イアンとは別れ、ルイーズを病気で亡くしてしまうことがわかっていたにも関わらず。

ルイーズは、最後に彼女の娘ハナとイアン、3人でいる記憶を思い起こしていた。ルイーズとイアンは静かに抱き合うのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

宇宙人襲来モノSFなのに、テーマは「自分の人生」という不思議な映画

一般的に、宇宙人襲来モノSFは、人々がパニックに陥って逃げ惑う中で、主人公が勇気を出して立ち上がり、人々を導き救い出すのがハリウッドの典型的な大作映画のパターンでした。(「インディペンデンス・デイ」「エイリアン」等々)

しかし、本作では、最初から最後まで主人公ルイーズの心の内面に徹底的にフォーカスし続けます。ルイーズが自分自身と向き合い、個人的な内面の体験を突き詰めることで世界は救われるという不思議な味わいのストーリーなのです。

もちろん、周りの軍関係者や世界中の人々が恐怖心からパニックとなっている状況は刻一刻と画面に映し出されますが、どこか現実感がありません。映画を通して、パニック状況は深刻になり、最終的に核戦争の一歩手前まで事態が悪化していきますが、状況が緊迫すればするほど、それとは対照的にルイーズは自分の心の内面深くへの探求を静かに深めていく対比が面白いです。

そして、ルイーズにとっては、タコ状の異形の異星人「ヘプタポッド」とのコンタクトは、まるでルイーズの個人的体験に気づきを与える師匠との禅問答のセッションのようです。前衛書道や水墨画に似た表義文字を夢中で解析する中で、ルイーズは「時間」の概念を超越した現実感覚を獲得し、それが結果的に世界を救い出すことにつながりました。 

アート要素とエンタメ要素が高いレベルで両立した傑作だった!

また、本作は非常にアートの香りもする芸術性の高い映画だったと思います。

ビジュアル面では、彼らの宇宙船がまるで「ばかうけ」のようだTwitterでバズっていましたが、アート好きな自分としては、宇宙船の形状や質感やシンプルな内部空間が、まるで現代アートの彫刻のようで最高でした!

たとえば、こんな感じでしょうか?

巨匠ブランクーシの現代彫刻作品f:id:hisatsugu79:20170520150824j:plain

そして、宇宙船の壁面も、どこか黒茶碗のようなあたたかみのある質感が、アートっぽくていいなぁと。

宇宙船の壁面。陶器のような質感がアートっぽいf:id:hisatsugu79:20170520151028j:plain

ヘプタポッド達の使う円環状の「表義文字」もまた、東洋の禅的な水墨画や、現代の前衛書道のような、高度に抽象化されたアートのような味わいがありました。公式動画での識者インタビューでも、「一見誰もが考えつきそうなのに、今までなかった斬新なデザインだ!」と絶賛されていました。

まるで水墨画か前衛書道のような表義文字f:id:hisatsugu79:20170520151328j:plain

たとえば、これと禅画(水墨画)を比べてみましょう。

仙厓「一円層画賛」
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禅画では、「◯」は禅の真髄でもある「空」の境地や「悟り」を表すとされていますが、ヘプタポッドの表義文字と非常によく似ていますね。見ながら「おぉ、禅画の世界だ!」とニヤニヤしてしまいました。

ルイーズを演じたエイミー・アダムスの圧倒的な演技力

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本作では、ヘプタポッドとの交流が深まり、彼らの言語を習得していくにつれて、ルイーズの中に新しい思考体系とビジョンがもたらされていきます。すなわち、彼女の中に直線的に進行する「時間」の概念が薄れていき、クライマックスにかけて現在・未来の出来事が入り乱れ、同時進行でストーリーがつながっていく様子が描かれました。

未来に起こる出来事を全て今「知り得ることができた」ルイーズは、夫との離別や娘の病死など、現在の延長線上に必ずしも明るい未来が待っているわけではないことを知りますが、それでも敢えてイアンのプロポーズを受け入れ、予め決まっている未来を敢えて受け入れるのです。

すると、映画冒頭から度々挟まれるフラッシュの中で出て来る、ルイーズの、ある意味悲しみも喜びも全て含んだ、いつくしむような表情で娘を見つめていた意味が理解できて、たまらなく切なくなるんですよね。

映画ラストシーンでルイーズに「これから起こり得ることを全部知っていたとしたらどうする?」と聞かれたイアンが「その時に感じた気持ちをもっと大切にするかもしれない」とアドバイスしたように、確定した未来を見通す力を得たルイーズは、物事の因果関係や結果に対して執着するのではなく、その一瞬一瞬を愛おしむように大切に味わい尽くすようになるんですね。回想シーンでルイーズが見せた娘への万感の思い込めた表情を、エイミー・アダムズが見事に演じきっていたのはさすがでした。

突きつけられる様々な哲学的な問い

映画を見終わると、様々な疑問がわきあがってくるのも、この映画の特徴でした。例えば、僕の場合は、以下のような疑問がつきませんでした。

・時間という概念が消え去り、物事の因果関係に意味がなくなった世界とはどんな世界なのだろうか?
・成功、失敗、戦略、戦いといった概念が薄れ、平和な世界がやってくるのか、それとも空虚で張り合いのない世界になってしまうのだろうか?
・もし人生があらかじめ運命として決まっていたとしたらどうなんだろうか?
・主人公ルイーズのようにそれを受け入れて生きるとしたら、どんな気持ちなのだろうか?
・過去・現在・未来の概念がなくなった時、自由意志は存在するのだろうか?

・・・等々、見終わった後、様々な疑問が尽きません。非常に哲学的で、一種スピリチュアルな感触もある作品です。人生を慈しむように噛み締めながら生きるルイーズの心情に深く共感を覚えるとともに、見終わってから「人生の本質」について深く考えさせられる映画でした。 

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

なぜルイーズは未来が見えるようになったのか

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ヘプタポッド達と交流する中で、教わった彼らの「表義文字」をマスターしたことがきっかけでした。人間の言語は、右から左、前から後ろへと順番に流れていくため、人類は、因果関係を伴った時間の流れをリアルに感じながら世界を認識します。それに対して、ヘプタポッドの「表義文字」は、前後左右がなく、物事の循環を象徴するような「円環」で閉じています。彼らの文法の中には現在・過去・未来といった「時制」がないため、彼らの世界では全ての出来事は同時に起こっており、物事の因果関係は極めて曖昧な状態なのです。

映画中でも引用された、人間の世界観や物事の捉え方は、使用する言語によって規定されるという「サピア=ウォーフ仮説」を裏付けるように、ヘプタポッドの「表義文字」に親しみ、深くインプットしていく中で、ルイーズは次第にヘプタポッドのような現実の捉え方ができるようになっていきました。

つまり、異星人同様、彼女が時折見る記憶のフラッシュの中には現在の出来事と関連した「未来」を含む映像が同時に見えるようになっていったというわけです。

ヘプタポッドの言語を身につけたルイーズに起きた変化とは?

通常の人間は物事を順序どおり経験し、「因果関係」に着目して、最大限行動した結果を得ようとします。しかし、ヘプタポッドの言語をマスターし、関連する事象を、過去も未来も関係なく同時に経験するようになったルイーズは、「結果」ではなく「結果」の根源に潜む目的や意図を汲み取ろうとする視点を身につけるのですよね。この一連の物事では、何を最大化しようとしているのか?何を最小化しているのだろうか?と。

原作では、ヘプタポッドの言語を身に着けたルイーズの心境の変化はこう結ばれています。

・・・だから、わたしは強く注意をはらって、あらゆる詳細を心に刻んでいる。そもそものはじめから、わたしは自分の運命を知っていたし、当然のものとしてそのルートを選びもした。けれど、わたしがめざしているのは歓喜の極致なのか、それとも苦痛の極致なのか?私は最小と最大のどちらを成就するのだろうか?

エイリアンからもらった「武器」とは一体何だったのか

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物語中盤で、「武器」を供与する、と伝えられたヘプタポッドのメッセージは、軍幹部や他国政府に「敵対的な意志がある」と誤解される元になったわけですが、本来、彼らがルイーズに与えたかった「武器」として意図したものは、まさにこの「表義文字」そのものとそれがもたらす認識の大変化でした。

「現在・未来・過去」という時制に縛られ、つねに不確定な未来を心配して計画・戦略を立て、自らの生存のために比較優位を確保するため戦わなければならないのは、彼らヘプタポッド達にとっては「不自由」そのものなのです。

そして、その認識の変化を通してルイーズが得た新たな能力=「未来を見通す力」こそがルイーズに対して時空を超えた情報へのアクセスを可能にし、世界を破壊する核兵器に対抗するための「武器」となったのでした。

物語終了後のルイーズの人生を時系列で整理してみる

本作は、2周目以降に鑑賞した際に、全く違った新たな気づきを鑑賞者にもたらすように計算して編集されていることや、ルイーズの獲得した世界観に沿って、関連する出来事がバラバラで描かれたことにより、時系列で一体何が起こったのかわかりにくくなっています。(ルイーズの立場に立って鑑賞するなら、時系列での整理は要らないともいえますが)一応ここで「映画終了後」のルイーズの出来事を整理してみます。

時系列でルイーズ達に起きるできごと
・ルイーズとイアン、結婚する。
・ルイーズ、国際会議で中国軍のシェン上将と面会する。
・ルイーズ、一人娘のハナを出産する。
・ハナの幼少時、ルイーズはイアンと離婚する。
・ハナ、成人前後で病死する。
・ルイーズ、「ヘプタポッドの言語」を出版。
→著作の序文に「ハナに捧ぐ」と書かれていた

ルイーズの娘はなぜ若くして死んだのか?

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映画の設定では、「ガンによる病死」とされています。面白いのは、原作の設定。原作では、ハナは、難易度の高いロッククライミングに挑戦中、崖から滑落して全身を強打して死亡しました。「表義文字」をマスターして未来を見通せるようになったルイーズは、より心配性な性格となり、それに無意識に反発した娘は逆に「好奇心旺盛」なリスク選好型の性格へと育ってしまったのでした。

なぜ、イアンとルイーズは離婚してしまったのか?

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セリフとしてきちんと描かれているわけではありませんが、ルイーズは、身につけた特殊能力や、彼らの未来について、イアンと結婚後、ハナが生まれてからある時点でイアンに正直に打ち明けたのだと思われます。回想シーンでハナのセリフに「これまでと同じようにパパが私のことを見てくれない」というセリフがありましたね。

娘が死ぬとわかっていながら子供を産んだこと、将来離婚してしまう未来などに耐えきれなくなり、ルイーズのことが信用できなくなったため、イアンはルイーズの元を離れていったのでしょう。

中国人のシェン上将は、なぜ核攻撃を中止したのか?

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http://chinafilminsider.com/china-box-office-chinese-moviegoers-dead-arrival/

ルイーズは、異星人が地球を去って約1年半後に開催されたパーティの場で、中国軍のシェン上将から彼の携帯電話の番号と、妻が死ぬ間際のダイイング・メッセージを聞くビジョンを見ます。

その直後、ルイーズは中国軍の核攻撃を阻止するため、そのキーマンであったシェン上将に電話をかけ、その時点では彼も知り得ない危篤状態の妻のダイイング・メッセージを伝えました。シェン上将は、ルイーズの電話によって、異星人から提供された「武器」とは物理的に人類を攻撃するものではなく、彼らが戦闘の意思を持っていないことを悟り、核攻撃を中止したのです。

ちなみに、劇中で語られた妻のダイイングメッセージ(中国語)は「In war there are no winners, only widows.」(戦争には勝者はいない。ただ未亡人だけが残される)というものでした。

異星人たちは、なぜ人類(ルイーズ)に彼らの言語を教えたのか

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時系列で約3000年後、ヘプタポッド達に訪れる危機を人類に助けてもらうため、彼らは人類に対してヘプタポッド達の使っている「表義文字」を教えたのでした。ルイーズは、娘の死後、最終的に「ヘプタポッド達の言語」についての本を出版し、人類全体に「表義文字」とその意義を伝えます。

ただし、「未来」を見通せる力を手に入れた人類たちが彼らを救うのか、あるいは、「時制」の縛りから逃れ、永久に世界平和を達成した人類が彼らを救うのか、その3000年後にどのような形でヘプタポッドたちが救われるようになるのかは、映画でも原作でも明らかにはされていません。

本作品での「自由意志」のあり方はどういうスタンスで描かれたのか?

未来が確定したものとして見通せることと、我々の自由意志があるということは一般的に両立しません。なぜなら、私たちに自由意志があるなら、「現在」において自由に振る舞った結果、未来に起きる事象は不確定になるからです。

したがって、本作品では「もし未来を知るという経験が、人間の内に切迫感を呼び覚まし、【自分はこうなるのだと知ったとおりの行動をすべき】という義務感を呼び覚ますのだとしたらどうなのだろうか?」という仮説を立て、未来を確定したものとして描いています。

6.まとめ

「見返すたびに新しい発見があるように、撮影後の編集作業には非常に気を使った」というヴィルヌーブ監督の言うとおり、本作は2回目の鑑賞以降で、もっと深くルイーズの気持ちに寄り添い、テーマを深く理解できるような深い作品でした。

アカデミー賞8部門ノミネート、音響効果賞を受賞しただけあって、全ての要素が高いレベルでまとまった、10年後、20年後も楽しめる傑作だと思います。

是非複数回映画館でチェックしてみてくださいね!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説「あなたの人生の物語」

海外ではSF作品の最高峰であるネビュラ賞を獲得した傑作。日本でも、早川書房が主催する「SFマガジンオールタイム・ベストSF」の海外短編部門で第1位となったように、SF史上の金字塔的な短編作品です。パニック映画的なエンタメ要素を付加した映画に比べて、「哲学的」「科学的」な側面がよりマニアックに描写され、ルイーズの内面に焦点が当たっています。こちらも、映画を見た後2度、3度と楽しめる大傑作!

映画「メッセージ」オリジナルサウンドトラック

スペーシーで浮遊感のある曲や、静かな盛り上がりを見せるオープニング、エンディング、どことなく禅や東洋的な香りのするヘプタポッドたちとの遭遇シーンまで、瞑想的で繰り返し作業用BGMとして使える、不思議な魅力満載のサントラ。これは気に入りました!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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上記でオススメした関連作品以外にも、鬼才、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。

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【ネタバレ有】実写映画「ピーチガール」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/原作より深く練り上げられたストーリーが良かった!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月20日に封切られた少女漫画原作の恋愛青春映画「ピーチガール」を見てきました。原作のにぎやかなドタバタコメディ風味を受け継ぎつつも、実写ならではのオリジナル表現でしっかりと内容が掘り下げられた映画でした!

この手の映画って、特に休日は映画館で見るのが非常にキツいのですが(実際、今回隣の席は女子小学生だった・・・/笑)、頑張って見てまいりました!早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「ピーチガール」の基本情報

<「ピーチガール」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】神徳幸治(「モテキ」「バクマン!」※いずれも助監督)
【配給】松竹
【時間】116分
【原作】上田美和「ピーチガール」「裏ピーチガール」

神徳幸治監督は、これまで助監督歴20年のベテランですが、今回が記念すべき監督初作品となりました。映画人としてのキャリアの中で、これまで少女漫画原作の恋愛映画を手掛けた経験がなかったため、オファーを受けた時は「誰かと間違えてるのかな?」と一瞬困惑するも、「どうしても映画監督になりたい」という夢をかなえるため、最終的には張り切って引き受けたそうです。


(画像内のイラストが神徳監督!)

すでに2018年には、同じく少女漫画原作の「honey」も公開予定で、現在撮影中とのこと。今後要注目になっていきそうな若手監督ですね。 

2.映画「ピーチガール」の 主要登場人物とキャスト

本作は、マンガ原作同様、主役4人が大きくクローズアップされます。

安達もも(山本美月)
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今年26歳になる山本美月。映画デビューとなった「桐島、部活やめるってよ」(2012)の時点で、すでに大人びた表情が特徴的でした。さすがに高校1年生はもう限界な感じはありますが、時折見せるあどけない表情はやっぱりかわいいですね。多少のコスプレ感は愛嬌として見ておきました。

岡安浬(伊野尾慧)
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「戦う!書店ガール」(2015)などドラマではいくつか出演歴があったものの、映画出演は今回は初めてとなります。初出演初主演ということでプレッシャーはあったと思いますが、素のキャラクターを上手く活かしたキャラ作りは良かったと思います。多少の棒読み感は、まぁ経験が浅いので仕方ないところですかね・・・。

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そして、意外な見どころは、「女装」シーンでした!元々中性的な顔立ちで「可愛い」感じですが、あそこまで似合うとは・・・。(笑)

東寺ヶ森一矢(真剣佑)
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「ちはやふる」(2016)、「チアダン」(2017)など映画では広瀬すずとセットというイメージがあった真剣佑。今年は、さらに「ジョジョの奇妙な冒険」が待機するなど、俳優として活躍の幅が広がりつつあります。ハリウッド進出予定もあるようで、今後の動向が楽しみですね。

柏木沙絵(永野芽郁)
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「小悪魔キャラってどんな子なんだろう?と思って原作を読んだら、小悪魔じゃなくて悪魔でした(笑)」とパンフでのインタビュー記事にある通り、非常に難しい役柄をコミカルに、時にエグく演じていました。怒りのあまり「白目」になる演技は自らの発案だったとか?!

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撮影時はまだ若干16歳でしたが、今年すでに主演を務めた「ひるなかの流星」「帝一の國」「PARKS」など邦画実写青春モノに出ずっぱりと大活躍。17歳と思えない見事な演技力は将来性を感じさせます。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

高校1年生になったもも

(ある暑い夏の記憶。真っ白な砂浜で仰向けに横たわった少年の上に、もう一つの影が重なっていくシーンが映し出される)

高校1年生になった安達ももは、泉琳高校に入学早々、これ以上日焼けしないよう、手袋、日傘で完全防備して登校していた。中学の時から一目惚れ中の、東寺ヶ森一矢、通称「とーじ」は色黒の女子が好きではないと聞いていたからだ。

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中学時代に水泳部に所属していたことから、ももは色黒で、髪の毛も脱色したように茶髪である。そのためか、入学早々クラスの男子からは「遊んでいる」イメージを持たれていた。ただひとり、とーじのみが、もものことを理解してくれていた。高校に入って、ますますももはとーじのことが好きになった。

クラスで一つ前の席に座っているのは柏木沙絵だ。高校に入ってから知り合った。雑誌の読者モデルをやっている有名人でもある。その日も、有名なモデル「ジゴロー」のスポーツカーで学校に乗り付けてきていた。

沙絵は、なぜかももに対抗心を持ち、ももの欲しがるものは、ヘアピンからソックス、彼氏まで全て真似して手に入れようとする変わったところがあり、最近面倒な存在になりつつあった。

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その日のランチタイム、学食で少し離れてた席でひとりとーじに見惚れていたももだったが、そこへ、沙絵がやってきて「ももちゃんの好きな人、あててあげようか!」と言ってきたので、とーじを取られたらたまらない、と思い、とっさに学年一のモテ男、4組の岡安浬(通称”カイリ”)を指すと、女子たちに囲まれていたカイリは、もものほうに視線を向けてきたのだった。

数日後、ももはカイリの取り巻きの女子たちに絡まれた。カイリから、ももとキスしたと聞かされて腹を立てたらしい。ももは、カイリを探し出して問い詰めたが、逆にスキをついてキスされてしまった。しかも、そのキスシーンは、沙絵に隠し撮りされていたのだった。

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カイリとのキスシーンは翌日早速ネット上に動画がアップされ、とーじにも見られてしまった。ももは、カイリが自分でアップしたのだと思い、カイリを問い詰めたが、やったのはカイリではなかった。また、とーじもカイリを校舎裏に呼び出し、ももに対する気持ちが本気かどうか、問い詰めた。カイリは、だったら、僕も本気になろうかな、とつぶやいた。

カイリがその日帰宅すると、兄の涼とその婚約者の操が父と結婚式の打ち合わせをしているところだった。兄と操が部屋を出ていくと、父は一転厳しい表情になり、カイリの芳しくない成績に苦言を呈するのだった。

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カイリの夢は、将来一流パティシエになること。その為、高級フレンチの店でバイトしながら菓子作りの修行をしていた。近日中に開催されるコンテストで好成績を収めたら、パリに留学するつもりで、フランス語の習得にも力を入れていた。

もも、沙絵の妨害にも負けず、とーじと両思いになる

沙絵は、ももが好きなのはとーじであることに気づいており、翌日以降もとーじが盲腸で休んだ時に、ももにだけ情報や入院先を伝えず、ももには「とーじがもう会いたくないと言っている」と嘘の情報を流した。

しかし、カイリの機転で、ももはとーじの入院先の藤沢中央病院へ見舞うことができた。ももは、カイリや沙絵がその場にいたにもかかわらず、とーじに告白した。とーじもそれを受け入れ、二人は翌日から付き合うことになった。

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奥手でピュアなとーじだったが、それでも何度かデートを重ね、二人は、ももの誕生日をとーじの家で祝うことにした。とーじは、偶然アクセサリーショップで出会った沙絵のアドバイスに従い、「桃」の香りがする香水をももにプレゼントした。そして、部屋でいい雰囲気になった時、沙絵からももに電話が入った。

沙絵の仕掛けたいくつものわな

電話によると、沙絵がジゴローからストーカーされており、不安なのでももに付き添って欲しいという。急いで約束の待ち合わせの場所にかけつけたが、さえは見当たらず、ももはジゴローに後ろから羽交い締めにされて、眠らされて車でラブホテルへ拉致されてしまった。

とーじは、部屋でももの帰りを待っていたが、代わりに部屋に入ってきたのは、ウィッグをつけ、ももに変装した沙絵だった。ピュアなとーじは、さえの行動に抗議したが、うまくいいくるめられてしまった。そして、とーじに来たももからのLINEには、「もう一人好きな人がいて、今日はその人と付き合うことにした」と表示されていた。そして、沙絵はとーじに対して、もものいるホテルを知っているといい、とーじと一緒にいくことにした。

その頃、バイト先に食事に来た涼と操にデザートを振る舞ったカイリは、窓の外を通りかかるとーじと沙絵を偶然見かけた。怪しいと踏んだカイリは、二人のあとをつけることにした。

とーじと沙絵がホテルの部屋に到着すると、ちょうど脱がされたももがベッドで目を覚ました所だった。はめられたことを悟ったももだったが、トージを目の前にして、申し訳ない気持ちと恥ずかしさでいっぱいだった。密かにつけてきていたカイリは、ジゴローと沙絵のLINEメッセージを見て、沙絵の仕業であると見抜いていた。

しかし、これをきっかけに、とーじは翌日ももに別れ話を切り出した。前の晩のホテルでの一件は、カイリの計らいで、ももに嫉妬した沙絵が仕組んだワナだったとわかったが、沙絵は次のトラップを仕掛けていた。沙絵は、その晩ジゴローとももがベッドに入っている写真を撮っており、ネットにばらまかれたくなければ、ももとわかれて沙絵と付き合うようにとーじを脅したのだった。

カイリとつきあいはじめるもも

落ち込んだももは、1週間学校を休んだが、7日目になってカイリが見舞いに来て、ももを外に連れ出した。買い物から帰ると、カイリはもものために厨房で手作りのケーキを振る舞った。カイリの意外な才能とやさしさにびっくりするももだった。

翌日、ももが学校に登校すると、クラスではとーじと沙絵が付き合い始めたことで話題はもちきりだった。立ち尽くしていると、カイリはももを中庭の花壇に案内し、二人で「桃」の種を植えて元気づけた。

そして、1週間後、もういちどカイリに手を引かれて花壇に行くと、そこには桃の花ではなく、木瓜(ボケ)の花が咲いていた。何の事はない、枝がさしてあったのだった。しかし、カイリのやさしさに心打たれたももは、その場でカイリの告白を受け入れ、この日からカイリと付き合うことになった。

そして、横浜でデートしたある日。赤レンガ倉庫横のカフェで、ももとカイリは偶然に涼と操とばったり遭遇する。挨拶した時、カイリの浮かない表情が気になったが、ももは涼が誘ってくれた異業種交流会に参加することにした。

カイリの過去、操との関係

異業種交流会で、ももは、操から様々なカイリの昔の話を聞き出した。カイリが昔かなり荒れていたこと、それをきっかけとして操が昔カイリの家庭教師を始めたこと、操が家庭教師を突然辞めた時、カイリが海で自殺未遂を起こしたことなど。

会場には、沙絵もなぜか来ていた。沙絵は、涼を見ると一目惚れした様子だった。涼は、沙絵にも抜け目なくアプローチしているようだった。それよりももが気になったのは、操とカイリの関係だ。カイリと楽しく話す姿を見て、カイリはまだ操のことが好きなのではないだろうか?とモヤモヤするのだった。

カイリと約束していた神社の夏祭りの日。19時30分に待ち合わせしていたが、カイリからLINEで「遅れる」と電話が入った。家を出る時、たまたますれ違ったタクシーの中にカイリと操が座っているのを見たももは、不安な気持ちになっていた。

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そして、待ち合わせ場所現れたのは、なんととーじだった。とーじの次に、遅れてカイリがやってきた。ももを挟んでにらみあうとーじとカイリだったが、ももはカイリととーじ、両方のどちらも選べず、そのまま自宅へと帰った。

沙絵の援助交際問題

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翌日、学校に行く気が起きず、海で独りたそがれていたももだったが、そこで沙絵が見知らぬ中年男性とカフェから出てくるところを目撃した。ももが、沙絵を問い詰めると、沙絵は涼のファッション事業の開業資金集めを手伝うため、援助交際をしていたのだ。

バイト後にカイリに相談して、涼の動きを確かめようとしていたその時、沙絵からSOSのLINEがあった。先程会っていた中年男性にホテルで縛られ、軟禁されているという。

カイリと急いで現場へ向かい、沙絵を救助すると、カイリは風呂から上がってきた中年男性を締め上げた。中年男性は、先物取引に失敗して借金漬けになった涼から、お金と引き換えに沙絵を好きなようにしていいと言われている、と言い訳した。涼から裏切られた沙絵は、ショックのあまりトイレで手首を切って自殺をしようとしたが、傷は浅く、操の働く藤沢中央病院で手当てを受けて事なきを得た。

涼は、父親も騙そうと、カイリのバイト先のレストランで投資話をもちかけた。カイリとももは、会話に割って入り、涼の悪事について涼の父親に洗いざらい話した。また、ももはパティシエを目指して本気で勉強中しているのカイリをしっかりと認めるよう、カイリの父に訴えた。カイリの父は、カイリに「すまなかった」と謝罪し、カイリのパティシエへの夢を応援すると約束してくれた。

カイリを選んだもも

後日、沙絵を見舞ったももは、沙絵から、とーじが急に冷たくなった理由(ジゴローとももの写真をばらまくととーじに脅した)を聞かされ、混乱して病院をあとにした。とーじが急に別れ話を切り出したのは、ももを守るためだったことがわかり、どうしていいかわからなくなった。

ももは、母親からのアドバイスに従い、「自分自身が愛されるか」ではなく「大切な人をどう幸せにするか」考え行動することにした。白浪海岸に行こうと約束した日、代わりに、ももはカイリを操の病院へ行かせ、自分自身の気持ちを伝えるように背中を押してやった。カイリは操を呼び出すと、「ずっと好きでした、だから兄との結婚は忘れて、いい人を見つけて欲しい」と伝え、自分の気持に区切りをつけた。

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ももが自宅に帰ってくると、とーじが待っていた。歩きながら、とーじは、ももに再び告白した。とーじとももがカイリのバイト先のレストランの前にを通りかかった時、レストランの軒先にカイリがパティシエコンクールで優勝した案内板が貼ってあった。レストランに入ると、カイリがコンテストで制作した「ピーチスマイル」という作品が展示されていた。

涙が止まらなくなったももは、自分が一番幸せにしたいのはカイリだとわかった。とーじと別れると、ももはカイリの待つ白浪海岸へと向かった。LINEで待っている、とメッセージが入ったからだ。

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一方、カイリも、白浪海岸でももを待っていた。海岸で落としてしまったももからもらった携帯のストラップを地元のヤンキー風の男に取られ、海に投げ込まれてしまったのだった。

カイリはストラップを探し海の中へ入っていったが、ストラップを掴んだ瞬間、大波に飲まれて、溺れてしまった。

ももが到着した時、カイリは波打ち際に横たわっていた。息をしていないことに気づくと、ももは人工呼吸をした。すると、カイリの息が蘇った。そのままふたりは抱き合っていたが、落ち着いた所で、お互いのLINEをチェックしてみると、お互い送った覚えがなかった。恐らく、沙絵が仕組んだことに違いなかった。

エピローグ

2年後。今日は、フランスの製菓学校に留学したカイリが、修行期間中を終えて日本に帰国する日だった。沙絵、とーじも入れて、4人で合流すると、彼らは母校の泉琳高校へと向かった。

高校の中庭には、2年前に彼らが植えた「桃」の木が、見事に大きくなって花を咲かせていたのだった。二人は、桃の花を見ながら、幸せそうに微笑みあった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

マンガ原作を上手にまとめきり、ドタバタ劇コメディに深みをもたせることに成功した作品だった

今回が初メガホンとなる神徳幸治監督でしたが、全18巻にわたる壮大なドタバタコメディを、大きく設定を変えず、約2時間で上手に圧縮した手腕は見事でした。少女漫画の実写では、「マンガの単なるダイジェスト版」と揶揄されるような失敗作品が山ほどあります。表面上のストーリーを追うのに精一杯で、中身が伴わないものが非常に多いですよね。しかし、本作は違っていました。

原作のストーリーラインやキャラクターのエッセンスをしっかり凝縮しつつ、原作にはなかった岡安家、安達家の家庭内の人間関係や、カイリの将来の夢も描かれたことで、物語のバックグラウンドに深みが与えられていました。

原作では、非常にテンション高く主人公4人を中心としためまぐるしい人間関係、恋愛模様がコメディタッチで描かれますが、どこか現実感がないのですよね。マンガならそれでいいですが、そのまま実写にしたら確実に中身のなさが目立ちそう。

映画版では、涼やカイリの両親との屈折した関係や、それをバネにしてパティシエへの夢を追い求めるカイリ、ももをお店の植物同様に大切にあたたかく見守るももの母親などを付加して描くことにより、各キャラクターにもリアリティが増して、地に足の着いたストーリーを作り出すことに成功していると思います。

サービスカット連発な恋愛シーン

約100人の女子高生から綿密にヒアリングをするなど真面目にリサーチした上で、最終的にリアルJKでもある沙絵役の永野芽郁に一つ一つの場面設定を確認させるなど、徹底して「きゅんきゅん」するシーンを追求したという本作。

その成果もあって、各恋愛シーンでは、定番の「壁ドン」、バックハグ、人工呼吸、投げキッスなど惜しみなくリサーチの成果が反映されていました(笑)

バックハグ
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授業中、サインを出すももf:id:hisatsugu79:20170522105426j:plain

雨の中抱き合うふたり
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恋愛映画を120%楽しみたい!という人たちは、大満足だったんじゃないでしょうか?

原作より主体的で強く描かれたヒロイン「もも」

最終的に、ももがカイリかとーじのどちらかを選ばなければならない、というシーンで、映画では原作よりも、ももの「強さ」を感じる選択が描かれたのが印象的でした。

原作では、「私を幸せにしてくれそうな方」をほぼ直感で選びとりますが、どうしても最後まで「受け身」な感じが否めません。

それに対して、2017年の実写映画では、母親の桜子(菊池桃子)のアドバイスにより「自分がより幸せにしてあげたい方はカイリととーじ、どちらなのか」と、受け身な原作よりも踏み込んで、より主体的な判断をしているのです。「女性」の強さを描く2010年代の映画らしい鮮やかなバージョンアップでした。

自分の夢と恋愛を両立させるカイリ

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一方、原作にはないエピソードとして、映画ではカイリの情熱的な一面を掘り下げて、鮮やかに描き出しました。幼少時に、父、崇史のために作ったお菓子を褒められたことがきっかけで、パティシエを本気で目指すカイリは、やっぱりキラキラしているんですよね。自分も学生時代こんな一途でありたかったなぁと、映画を見ながら後悔しました(笑)

自らの夢を理解してくれず、時代遅れなキャリア論を押し付けてくる父親との関係に悩み葛藤する日々を描き出したことや、ラストシーンでももがカイリの思いを父親に必死でアピールする場面は映画的なカタルシスが感じられるシーンでした。

工夫されていたエンドロールが素晴らしい!

一旦ハッピーエンドとなって、エンドロールが始まった途端に帰る人が何人かいましたが、非常にもったいなかったです!邦画のスイーツ系映画では、特にエンドロールでエピローグが「記念写真」等の体で語られ、見逃せないことが多いですが、本作は特に力が入っていました。物語中で、特に沙絵が謀略のために駆使した(笑)Youtube、LINEを可愛くマンガ的にデフォルメした画面で、印象深いエピローグが用意されていました。

パンフレットでも語られていますが、神徳幸治監督は、過去に助監督を務めた「バクマン」「モテキ」等で、エンドロールに非常に工夫をこらした大根仁監督を見習い、特にどう楽しく見せるか気を使った、とのことです。

脚本や編集で残念だった点もいくつかあった

とはいえ、若干の不満が残るポイントがいくつかありました。
一番何とかならなかったのかな、と思う点としては、ラストシーンの描写です。ももとカイリが出会った場所とシチュエーション(=白浪海岸で溺れた所を、助け出される)をそっくりクライマックスでも繰り返す、というストーリーは、マンガ原作に忠実な描写なのですが、これって、実写映画化すると非常にムリがあり、情けないシーンになってないでしょうか?

無人の海水浴場にどこからともなくヤンキー達が出てきて、金にもならなそうなケータイのストラップを奪い、海に投げ込むシーンは、実写化すると、もの凄い不自然な感じがありました

そして、どう見ても溺れる余地もないような波打ち際で水飲んで意識を失い、次のカットで波打ち際に「さぁ人工呼吸をしてください」と言わんばかりに仰向けに都合よく倒れているシーンは、ずっこけそうでした。

誰が波打ち際まで運んだのでしょうか(笑)しかも置き去りにして??なんだか、非常に不自然でダサい絵面になっちゃってました。

大事なクライマックスシーンだけに、ここは少しアレンジを加え、もう少し実写映画にフィットするような表現に柔軟に変更してほしかったかな、と感じました。

また、編集でもいくつか杜撰だった点が。映画後半に入り、すでに7月になっているのに、背景に満開のサクラが咲いているのはどうなんでしょうか?少なくともクライマックス前後の2ヵ所以上で、画面にはっきりとサクラが見えています(笑)

撮影期間が2016年3月~4月と、タイトな予算・撮影スケジュールだったのはなんとなく想像できるのですが、せめてCGとか使って消す努力をすべきだったと思います・・・。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

映画中、様々な場面で出てきた「花」が暗示したテーマやキャラクターの心情

映画中では様々な「花」にちなんだ表現がちりばめられたのも良いアクセントになっていました。例えば、「真実の愛」を花言葉に持つマリーゴールドの鉢植え。映画中、ももを諭すように、冒頭から最後までももの自室に置かれ続けたのは印象的でした。

また、学校の中庭に植えられた「桃」の花が暗示するのは「あなたにぞっこんである」という意味でしたし、代わりにカイリが自宅近くの庭から切り取ってきた「木瓜」の花にも、「ひとめぼれ」「魅惑的な恋」という意味があります。

ももの母親、桜子の一挙手一投足に要注目!

菊池桃子扮する桜子の登場シーンは、ほぼすべてのセリフが直接的、間接的に娘、ももへのアドバイスや教訓に満ちており、ももの行動に大きく影響を与えています。

例えば、映画冒頭で、ややオカルト的に桜子が鉢植えに「声がけ」をしていたシーンは、「恋愛や人間関係は、自ら主体的に関わって育てていくべきものである」という隠喩と解釈できます。これが、ラストシーンでももがとーじとカイリのどちらかを選ぶ際、受け身ではなく自ら行動して選び取る主体的な姿勢につながっています。

あるいは、ももが失恋して学校を欠席中、カイリが遊びに来た際に、桜子は「カニ」を二人に振る舞いました。なぜにここでカニ?と思ったのですが、よく考えてみると、カニは「再生」「脱皮」を暗喩する象徴なのですね。恋愛が一旦リセットされ、相手役がとーじからカイリへとスイッチする物語の節目を意味していたと解釈できます。

なぜ沙絵はラストシーンで二人が白浪海岸で会うことがわかっていたのか

沙絵は、物語後半で援助交際で涼から裏切られたショックで自殺未遂を起こし、藤沢中央病院に入院します。一方、白浪海岸に旅行に行く予定だった日、カイリはももに促され、中央病院で働く操を病院の屋上に呼び出して、自分の気持ちを伝えます。

対面終了後、カイリはその日ももに渡すはずだった「白浪海岸」行きの切符を病院の屋上から捨てていました。沙絵は、屋上から落ちてきた切符を目ざとく拾い、状況を察知したのですね。さすがです・・・。 

6.まとめ

キラキラした恋愛スイーツ映画として、ファンが期待するようなサービスカットをたっぷり入れつつ、決してきゅんきゅんさせるだけでは終わらない。人生や恋愛の本質はどうあるべきなのか、キャラクターを掘り下げて描写しようと取り組んだ意欲作でした。今後の神徳監督の作品に期待ですね。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画ノベライズ小説「映画 ピーチガール」

映画のノベライズ。ほぼ忠実に描かれていますが、途中、頻繁に映画本編になかったセリフや場面が出てきたり、ストーリーの順序が入れ替わっています。映画では語られなかったより深い主人公たちの心情描写や背景などの描写もあり、映画が気に入った人は読んで損なしです!

マンガ原作「ピーチガール」

1997年10月~2004年1月にかけて、「別冊フレンド」で連載され、コミックス累計1300万部を売り上げたメガヒット作品となりました。ストーリー前半~後半にかけて、まんべんなく各エピソードが組み合わされて映画内で取り上げられています。今なら1巻はKindleで0円になっていますね。Kindleでまとめ買いしたい方は、こちらからどうぞ!

スピンオフ「裏ピーチガール」

マンガ原作では、終盤手前で改心するまで、サイコパス級の悪役を演じた沙絵のスピンオフ。その強烈な個性ゆえ、読者投票ではいつも人気上位だったそうです。このスピンオフ全3巻では、本編以上にやりたい放題やっています(笑)

続編「ピーチガールNEXT」

「ピーチガール」本編終了から10年後を描いた続編で、2016年から連載がスタートしています。カイリとももは今のところ幸せそうですが、とーじは何だか空白の10年のうちに闇を抱えていそうな感じですし、相変わらず沙絵がやりたい放題です(笑)20代後半になると、結婚や子育ての話題が中心になってくるのも面白い!

「ピーチガール」台湾ドラマがU-NEXTで見れます!

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「ピーチガール」は、今回の実写映画版がリリースされる前に、2001年に台湾ドラマ版が、2005年にアニメ版が先行して製作されています。アニメ版は勉強不足で見れていないのですが、2001年の台湾ドラマ版は、U-NEXT「見放題」でチェックすることが出来ます。

台湾版は、4人は大学生という設定。沙絵がクラスの人気者だったり、とーじがロンゲでクラブでDJやってたりと、なんかかなり設定が違っているのも面白いのですが、原作のエッセンスはしっかり受け継がれていました。DVDの入手が非常に困難になっていることもあるので、「ピーチガール」の世界をとことん味わい尽くしたい人は是非U-NEXTどうぞ!

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【ネタバレ有】「たたら侍」感想・レビューとあらすじの徹底解説!/意気込みが空回りか?映像は圧倒的に美しかったけど・・・

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かるび(@karub_imalive)です。

5月21日にリリースされた映画「たたら侍」を見てきました。EXILEで有名なLDH Picturesで初めて自主配給となった島根県の地域おこしが期待された時代劇映画です。

EXILEで有名なLDH Picturesが自主配給したり、ハリウッド映画並みの潤沢な予算を投じて制作されたゴージャスなセットなど、何かと話題だった作品。封切り後、興収、動員は苦戦しているようですが、果たして内容はどうだったのでしょうか?

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「たたら侍」の基本情報

<「たたら侍」公式予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】錦織良成(「渾身」「RAILWAYS」他)
【配給】LDH pictures
【時間】120分
【原作】松永弘高ノベライズ版「たたら侍」

錦織(ニシコオリ)監督は、ここ数作島根県にまつわる、いわゆる「地方発映画」に特化して作品を作ってきました。隠岐の島での神前奉納相撲をテーマにした前作「渾身ーKONSHINー」で配給を務めた松竹と訴訟となったからか、今回初めてEXILEのLDH Pictures自主配給での興行となりました。

前回の「渾身」から、青柳翔や宮崎美子、笹野高史、甲本雅裕らメインキャスト陣をそのままスライドさせ、島根の山間部に実際にたたら村を丸ごと作って撮影されました。セットやたたら製鉄シーン、神楽や舞などの伝統芸能が披露されるカットも多く、錦織監督の地元愛をたっぷり感じられます。

公式Youtubeには、アニメでの「1分で分かるたたら侍の世界」という解説動画も用意されています。これも映画鑑賞前に見ておくと良いかもしれませんね。

<「たたら侍」アニメ解説>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

2.映画「たたら侍」の 主要登場人物とキャスト

本作はEXILE映画ですので、主演クラス&ヒロインは当然のごとくがっちりEXILE勢で固められています・・・。まぁ、これは致し方ないところ(笑)

登場人数も非常に多く、ほんの数カットしか出てこないキャラでも、割りと有名なキャストをがっつり起用するなど、こちらもセット同様に金がかかってそうな感じ。以下の人物関係図で事前にキャスト陣を予習していくと良いと思います。

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伍介(青柳翔)
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前作「渾身ーKONSHINー」に引き続いて錦織監督作品で2作連続の主演起用となりました。劇団EXILEの看板俳優で、EXILE以外の映画でも幅広く脇役系で出ていますね。本作では「侍になりきれない」ヘタレで中途半端な主人公でしたが、主人公の抱えるもどかしさや焦りなどは上手に表現できていたと思います。

新平(小林直己)
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映画は「HiGH&LOW THE MOVIE」シリーズくらいのもので、本格的な映画出演は今作が初めて。大柄なので殺陣シーンは非常に画面映えしますが、もう少し演技力を磨く必要があるかも。

尼子真之介(AKIRA)
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HiGH&LOW THE MOVIE」シリーズはもちろん、2017年はスコセッシ監督の「沈黙」にも出演するなど、すでに映画キャリアは10本以上。EXILEメンバーの中では実績を十分積んできました。今作は、クライマックスで主役が交代したのかと思ったほど目覚ましい活躍シーンが予定されています。ファンサービスですね(笑)

お國(石井杏奈)
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E-girlsの人気メンバーですが、パフォーマーとしてより、役者としての期待の方が高い石井杏奈。演技力も確かですし、2017年も「スプリング、ハズ、カム」「ブルーハーツが聴こえる」他、「心が叫びたがってるんだ。」も待機中。地元に伝わる神楽を踊るシーンは非常に優美でよかったです。

与平(津川雅彦)
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本作での悪役。いかにも悪役商人らしい「ずる賢さ」はきっちり表現できていました。

平次郎(豊原功補)
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新平の兄。主役クラスで、一番最初に死にますが、唯一の非エグザイル系。ドラマ・映画・舞台を問わず、名バイプレイヤーとして大活躍中。声優やバラエティ、ナレーション等でもたびたび見かけますね。今年50歳になるとは思えない若さです。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

平次郎の死

1582年。出雲の山奥にあるたたら村。伍介は、幼い頃、村が盗賊たちに襲われた日のことを思い出していた。あの日、伍介と母の命を盗賊たちから救ってくれたのは少し年上の尼子真之介だった。

たたら村では、伍介の家が代々たたらでの鋼作りを取り仕切る「村下」(むらげ)を務めてきた。その日伍介の祖父、喜介に代わって弥介が新たに村下に就くことになったのだ。

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伍介には幼少時から共に育ってきた村の仲間がいた。その日も、幼馴染の新平と、新平の兄、平次郎と剣術の稽古に励んでいた。伍介は、村一番の剣術使いである平次郎にいつも勝つことができなかった。稽古から帰ると、伍介の幼少時からの許嫁、お國が待っていた。

翌日、新たに「村下」となった弥介の元で、初めての鉄作りが始まった。伍介も跡取りとしてたたら作りから参加したが、鉄を町の外に売りに出た平次郎が野盗に襲われているという報告が入り、慌てて現場へとかけつけた。

平次郎は木刀1本で2人の野盗と対峙していたが、斬られてしまい息絶えた。

大好きな平次郎を助けられなかった伍介は、己の無力さを責め、より強くなるために村を出て侍になりたいと決意した。そこで、村へ逗留中だった馴染みの商人、惣兵衛に頼み込み、侍になるため織田家に士官するツテを紹介してもらうことになった。

侍になるため、村を出た伍介

新平や弥介は反対したものの、最終的には黙って送り出してくれた。村の祭祀を務めるお國からは、お守り代わりに揃いの勾玉の片割れをもらった。

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翌日、港に着くと、越前敦賀行きの大型船に乗った伍介は、海を渡り、敦賀から近江へと入り、そこで惣兵衛の知り合いの商人、与平を紹介してもらった。与平は、近々織田家の家来、蜂須賀小六の足軽舞台の長、井上辰之進にちょうど武器弾薬を届けるところだという。与平は、その際に伍介を井上に紹介する約束をした。

また、与平の計らいで、伍介は村から持ち出した鋼を刀匠に打ってもらった。

井上辰之進の陣中での伍介の役割は、飯炊き係だった。そこで仙吉という気のいい足軽に世話をしてもらった。しばらく従軍していた時、敵襲に遭遇した。

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あまりの迫力に伍介は腰を抜かしてしまったが、後ろから鉄砲を放った仙吉に助けられ、戦場を逃げ出すことができた。

逃げながら、略奪に遭った農民や、逆に落ち武者狩りにも遭遇した。逃げる中、仙吉とは別れてしまったが、翌日戦場に戻ってみると、井上辰之進の陣は壊滅しており、仙吉の死体もあった。

伍介は、完全に行き場を失ってしまい、迷った挙句村へと帰ることにした。村に戻ると、新平を始め、温かく迎え入れてくれた。

たたら村へやってきた与平

翌日、以前のように鉄づくりに復帰すると、村へ与平が訪ねてきた。いつしかの惣兵衛同様、織田軍に納品するための鉄砲を作って欲しいという。弥介は即座に断ったが、与平は、良質の鉄を求めて織田軍がここにも攻め込んで来る可能性があるから、せめて武装すべきだと主張した。

村の外で戦場を見てきた伍介は、与平を信用していなかったが、鉄砲で守りを固める必要性は納得できた。伍介と村の若い者たちは、新平、弥介や喜介、村の長老たちの反対を押し切り、鉄砲づくりと物見台や村の入口に門を作った。新平は、頑として作業を手伝おうとはせず、村の外の何処かへと出ていってしまった。

ある日、櫓から見えた馬に乗った不振な武士の一団が遠くに見えた。織田軍の斥候と思われたが、その中になぜか新平の姿があった。村の誰かがその斥候に向かって鉄砲を放ったが、もし織田軍だとすると、村は織田軍と敵対状態に入ったことを意味していた。

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夜になると、その日は村で神楽が奉納された。村の中央広場に設置された部隊では、ヤマタノオロチが退治される神楽が舞われていた。伍介は、しばらくお國と見ていたが、やがて神楽の最中、新平と落ち合って近況を話し合った。新平は、織田軍に味方する、真之介のところにいるという。

村中に広がっていく不穏な空気

翌日、村人たちに無断で与平がゴロツキのような野武士の傭兵を村へと迎え入れた。伍介は抗議したが、「これは伍介が望んだことだ」と与平は相手にしなかった。野武士の傭兵軍団は、別の日に尼子真之介の使いの者が来た際も、鉄砲で追い返してしまった。

伍介は、密かに村を出ると、尼子真之介の館へと向かった。真之介は、新平とともに温かく迎えてくれた。側には、お京という密偵の若い女がいたが、伍介は以前、村に帰り着く途中でこの女に会ったことがあった。伍介は、久々に真之介と剣術の稽古をして、現在の天下の情勢を真之介から聞くことができた。

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毛利攻めも終わり、中国地方も織田信長の手中に落ちそうな今、織田家と敵対するのは非常にまずいという。

後日、激しい雨の夜、村の外で斬り合う音が聞こえてきたので、伍介は慌てて外へ飛んでいった。新平が、与平を倒そうと独り村へと忍び込んできたのだが、感づいた傭兵衆が新平を取り囲んだ。新平はよく戦ったが、背後から鉄砲で撃たれて死亡した。そして、新平の元に駆け出した伍介も何者かに後ろから袈裟斬りにされてしまった。

伍介が目を覚ますと、尼子真之介の館だった。事態を把握した真之介は、手勢を連れて与平とその傭兵衆を討つため、たたら村へと攻め入った。

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そこで、頭領の佐吉以外を切り伏せると、真之介は、最後に佐吉と1対1の斬り合いになった。何とか勝利したが、その瞬間、与平が真之介を鉄砲で撃ち殺した。

伍介は、与平に対して切りかかり、渾身の力で与平の持つ銃の砲身を切り落とした。こうして、伍介は自らが撒いた災厄の種を何とか刈り取ることができたのだった。

たたら作りに戻った伍介

しかし、今回の騒動で、伍介は幼少時からの大切な仲間である平次郎、新平、真之介をみな失う羽目になってしまった。自分だけ生かされた天啓を感じ、伍介は定めであるたたらづくりに今日も打ち込むのだった。

後日、徳川家が戦国の世を統一して幕府を開いた後も、たたら村で作られる最高級の鉄は、徳川家康への献上品として重宝されたという。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

本作は、良かった点もありますが、残念な点もいくつかありました。いくつか感想をピックアップしてみたいと思います。

すばらしい出雲地方の風景美と精巧なセット

映画を見てすぐに気づくのが、とにかく非常に美しい出雲地方の風景美です。島根出身で、過去に「RAILWAYS」「渾身-KONSHIN-」など、島根県周辺を何度も映画で撮影している錦織監督の郷土愛が120%感じられる素晴らしい風景でした。

この日、TOHOシネマズ日本橋で本作を見たのですが、終わったあと、歩いて1分のところにある島根県のアンテナショップに行って観光ガイドを沢山もらって来たくらいですから(笑)日本にもまだこんなに秘境のようなすごい風景美を味わえる地域があるんだな、と映像の驚異的な美しさに見惚れてしまいました。

そして、まるで高山都市マチュピチュを想起させるような奥深い山あいに、村一つ分をまるごと作り出した巨大セットは、見ているだけで圧巻でした。NHKの大河ドラマを遥かに上回るリアルな中世の農村風景に非常に目を奪われます。

農村一つをまるごと作った巨大セット「出雲たたら村」f:id:hisatsugu79:20170524084151j:plain

もちろん、特に炉の置かれた茅葺きの建物や、中に設置された炉の様子は、使い終わったらそっくりそのまま博物館の展示にできそうなレベル。実際にEXILEのイベントで「いずもたたら村」として使われているようですね。

たたら製鉄の設備や鋳造プロセスをリアルに再現した様子は、地元などの学校や観光案内所等で社会科や観光の映像資料としてそのまんま使える優れた映像でした。

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伍介が海路で敦賀まで旅立った際に使った中世の帆船もすごい迫力でした。ほんの1~2分程度の船での渡航風景を撮影するだけなのに、CG/VFXに頼らず、わざわざ巨大な木製の帆船を組み上げて、それを海で走らせる贅沢な映像は圧巻!

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さらに、お國を演じた石井杏奈の巫女姿での神楽シーンも素晴らしかったです。夕陽が映える中、神楽風の音楽に合わせて踊るシーンは、男臭い映画の中、一瞬の清涼剤のような感じでした。

現代にも通じる複数のテーマ性を持たせたのも良かった

本作のメインテーマは、映画開始早々に青柳翔がセリフで「力とは何か?本当の強さとは何か?」とアッサリ語っちゃうのですが(笑)、それ以外にも、日本の伝統芸能、ものづくりへの礼賛や、日本の美しい原風景、郷土愛などがたっぷり感じられる映画でした。

1500年以上出雲で続いている「たたら製鉄」f:id:hisatsugu79:20170524084711j:plain

良かったのは、「たたら村」で作られる「鉄鋼」を、例えば「石油」や「石炭」などのエネルギー資源に読み替えた時、たたら村を巡って起きる「鉄砲」と関連リソースの奪い合いは、現代のにもそのまま適用できるストーリー展開でした。

たたら村は、最終的に武装せず鎖国状態で中立を守ることを選びます。現代でも例えば実際に資本主義を避けて鎖国を続けているチベットの秘境、ブータンのような国もありますし、エンディング後のたたら村がどういう結末を迎えたのか興味深いところです。

また、村の若いメンバーと長老メンバーの間、または外の世界を見てきた伍介と外の世界を知らない新平のような「価値観」の対立は、歴史の大きな転換点においては必ず起き得る混乱だと思います。

このように、メインテーマである、いわゆる「放蕩息子が帰ってきて、自らの真の使命に目覚める」という王道ストーリー以外にも、いくつも読み取れるテーマ性があったのは非常に良かったと思います。

格調高い映画を台無しにした脚本・演出の拙さ

しかし、残念ながら試写会の段階からかなり視聴者の満足度は低く、本作品は結果的に評判も伸びなかったため、公開初週から非常に厳しい興行成績となっています。自主配給で広告宣伝が少なかったのもあるかもしれませんが、最大の原因は、「脚本」の拙さだと思われます。

まず、各キャラクターのセリフが酷い・・・。村の長老や、伍介の先輩格のキャラクターが、次々に「良さげな」格言めいた、あるいは謎掛けめいたセリフを話すんですが、わざとらしすぎて逆に白けてしまいます。

その一方で、語られるべきストーリーの骨格部分は、ふわっと流れていってしまいます。なぜ今それが起こっているのか?今出てきたキャラは誰なのか?というストーリーの詳細や因果関係については、映像的な工夫やセリフでの説明が少なく、なんとなく物語が進んでいくのです。あるいは、編集で切りすぎて、前後がロジカルにつながっていないシーンもありました。

風景やセットはきれいなんですが、非常に単位あたりの情報量は少ないのですよね。ストーリーテリングを後押ししたり、キャラクターの心情を暗喩するような使われ方をせず、単にきれいな風景を撮って終わってしまっています。

だから、例えば何か村に不吉なことが起こっているのを暗示する場面も、判で押したように毎回「おばば」の不吉な予感を告げるもったいぶったセリフや、「長老」の苦虫を潰したような表情のみ(笑)

物語の不穏な展開を暗示する「おばば」の予感
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また、モブキャラたちはきちんと方言を喋っているのに、主演のEXILE勢だけはバリバリ標準語なのはなぜなんでしょうか・・・。リアリティを出すなら主演の彼らこそ濃ゆい出雲ことばを喋らせるべきだったと思います。

一体この映画の主役は誰なのか?

映画フライヤーや宣伝記事では、「新しい武士道」像を提示する!と書いてありますが、そもそも主人公の伍介は、戦場で一度も剣を振るっていませんし、侍になりたい、と言って挫折して村に逃げ帰ってくるわけです。

稽古の場面は勇ましい伍介ですが・・・f:id:hisatsugu79:20170524091424j:plain

代わりに、この映画では伍介の親友、新平や、彼のメンター的な尼子真之介が、伍介の目の前で敵と渡り合い、そして敵の放つ火縄銃の前に無念の死を遂げるわけです。その間、やっぱり伍介は戦闘シーンを見ているだけ・・・。

だから、伍介が村に帰ってきてからは、主役は新平に移り、さらにクライマックスで尼子真之介になったかのようでした。

ある程度EXILEメンバーのアイドル映画である、という側面もあるかもしれませんが、さすがにこれだけ主役に無力感があると、映画的なカタルシスを感じるのは非常に難しいのではないかなと思います。最後にほぼ無抵抗なヴィランが持つ鉄砲の砲身を斬って終わり、じゃ物足りません。

殺陣シーンはもう少し何とかならなかったのか

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それから、本映画で何度か出てきた戦闘シーン。戦国時代らしく、殺陣シーンはまずます高頻度で出てきます。ただし、その全ての画面において、映画の「レーティング」を気にしたのか、「血が一切流れない」演出が非常にひっかかりました。

かなり頑張って演技でカバーしようとしていたのですが、血糊がある程度出ないと、やっぱり斬ったか斬られたのかよくわからないので、見ていてイライラするのですよね。特に、同時期に「無限の住人」でやり過ぎなほど殺陣シーンが血まみれになる映画を見たから余計そう感じたのかも。

ヒロイン役「お國」の掘り下げ方も甘いと感じた

最後ですが、石井杏奈の演じたヒロイン役「お國」のキャラクターについて、少し類型的・記号的すぎる描かれ方もちょっとどうかな?と感じました。聞き分けが良すぎて、まるで牢獄に囚われたお姫様のようなキャラクターだったのは残念。

ひたすら待ち、祈るだけの従順なヒロインf:id:hisatsugu79:20170524084912j:plain

小さい頃からの幼馴染で、しかも許嫁なんですよね?勾玉を渡して旅の無事を祈る神楽を踊るシーン以外にも、主人公ともっと積極的に絡むシーンがあっても良かったはず。現代でも通用する普遍的なテーマ性を込めるなら、もう少し主演女優は受け身一辺倒ではなく、アクティブな方が自然な気がしました。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

「感想」でも書きましたが、この映画で問題だと感じたのは、具体的な心情表現や格言めいた意味ありげなセリフは饒舌に語る反面、ストーリーや設定・伏線等の因果関係が明確ではなく、映像での状況描写やセリフでの説明が非常に薄かったこと。モントリオール国際映画祭に出品した時より、最終的にそこから15分間編集で詰めたことも影響しているようです。

ノベライズ版原作では、前後関係がきっちり説明されていますので、本作のストーリー上、ポイントになる疑問点をここでまとめておきたいと思います。

疑問点1:本作はいつの時点の話なのか?

1582年(天正10年)でした。クライマックス直前になって、尼子真之介が織田軍の状況を語るシーンがあります。ちょうど、織田軍の大将、羽柴秀吉がたたら村を間接統治する毛利家と戦っており、物語ラストでのお京の報告でちょうど本能寺の変が起きたことが知らされました。

疑問点2:平次郎はなぜ村を出ていく時に襲われて死亡したのか?

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平次郎は、村長の長次郎の長男として、たたら村で作られた鉄を外部へ売りに行く担当だったのです。殺された日も、ちょうどできた鉄を持って下山するところでした。(野盗たちがそれを知っていたかどうかは定かではありませんが)

ちなみに、平次郎が「木刀」しか持っていなかったのは、彼は人を殺めたくなかったからです。村一番の剣の達人でしたが、決して「刀」を帯刀しようとはしませんでした。

疑問点3:尼子真之介(AKIRA)とはどんな人物なのか?なぜ物語最後ギリギリになるまでたたら村を守ろうとしなかったのか?

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尼子真之介は、もともとたたら村近辺を治めていた尼子家の分家筋の武士で、たたら村の警護担当でした。戦場に出ることを許されなかったため、通常時に特別な「から紅」の陣羽織を着用することを代々許されてきたのだそうです。

しかし、1566年、毛利家に尼子本家が滅亡させられて、尼子家の残党・家臣たちは、打倒毛利の旗の下、山中鹿之介らを筆頭に、織田勢に加勢していくことになります。「敵の敵は味方」という論理ですね。

真之介は村人たちから非常に慕われていたので、いつでも村に気兼ねなく出入りできる立場でした。しかし、いつまでもたたら村周辺に真之介が出入りすることで、毛利家を刺激して村に被害が出てはいけないと考えた真之介は身を隠し、村が危機に陥ってもギリギリまで出ていくことができなかったのです。

疑問点4:なぜたたら村では「鉄砲」を作ることに消極的なのか?

1566年に尼子宗家が滅びた時、戦乱の世で振り回されないため、村の掟として人を殺す武器として「鉄砲」を作らない、と決まったからのです。これが奏功し、その後この地方を統治することになった毛利家では、人里離れたたたら村に価値を認めず、代官すら置かなかったという経緯もあります。

疑問点5:伍介が士官した井上辰之進とは誰なのか?

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井上辰之進は、織田信長の子飼いの配下、蜂須賀小六の抱える足軽衆を取りまとめる上級下士官といった位置づけの武士です。戦慣れしておらず、戦場においてそれほど戦力として機能しない足軽部隊は、鉄砲隊や騎馬隊も含めた全軍の雑務を引き受けていました。

足軽を取りまとめる井上辰之進は、その役柄上、武器や食料に関する出入り商人との接点が多かったため、士官を希望する農民達を新兵として商人から調達することもよくあったのでしょう。

疑問点6:村に入ってきた浪人衆は一体だれなのか?与平は何をしようとしていたのか?

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村に入ってきた浪人衆は、与平が関わりがあった羽柴秀吉の発破衆(忍者や間者)とされています。与平は、織田軍本体とは別ルートで鉄砲の入手を試みていた羽柴秀吉の意向を先読みして、たたら村に鉄砲を作らせて秀吉に鉄砲を届けようとしていました。(しかしそれも「本能寺の変」が起きて、秀吉が中国地方を離れたため結果的に無意味なものとなった)

疑問点7:なぜ新平は村で襲われて殺されたのか?

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真之介の拠点に出入りするようになった新平は、彼らからの情報をいち早く得て、たたら村にとって「ガン」なのは与平であることを見抜きました。彼は、与平を殺してしまえば、また村に平和が訪れると考えて、闇夜に紛れて村に忍び込み、与平の暗殺を試みましたが、それを読んでいた与平とその傭兵集団に逆に殺されてしまったのです。

6.まとめ

島根県や地元関係者の支援を受けて制作された本作は、幻想的で美しい出雲の自然風景と、伝統的な鉄づくりや地元に伝承された神楽など、出雲地方の魅力が満載でした。残念だったのは、ストーリーや演出の弱さ。ちゃんとした脚本家を招いて作り込めば素晴らしい映画になっていたと思われるので、詰めの甘さが悔やまれます。

でも、個人的には島根に旅行に行きたいなと強く思いましたので、地域おこし映画としてはかなり成功してるんじゃないでしょうか?近日中に実際に奥出雲のたたら製鉄の博物館などを見てきたいと思います。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ノベライズ版「たたら侍」

映画本編で不足しているストーリーの全体像や背景知識の説明も十分なされていますし、編集で公開前にカットされた部分も収録。映画ノベライズ作品としては、手堅くまとまったレベルの高い小説。映画を見た後にモヤモヤした人は、合わせて読んでおくと理解が深まります。

【ネタバレ有】映画「美しい星」感想とレビュー・あらすじの徹底解説/難解だけど見応え抜群!さすが吉田大八監督!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月26日に封切られた映画「美しい星」を見てきました。監督デビュー以来まだ6作目と寡作ながら、どの作品も水準以上に仕上げてくる吉田大八監督。あの「桐島」「紙の月」の吉田監督の作品だから見る!という人は結構多かったのではないでしょうか?

しかし、今作は変わった作品でした。正気なのか奇行なのか判然としない登場人物達と、いまいちハッキリしない謎めいたストーリーなど、非常に風変わりな問題作。文学性やアート性が高く、見終わった後に、一体何が言いたかったのか誰かと感想を放したくなる作品だったと思います。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「美しい星」の基本情報

<「美しい星」予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】吉田大八(「桐島、部活やめるってよ。」「紙の月」他)
【配給】GAGA
【時間】127分
【原作】三島由紀夫「美しい星」

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本作は、吉田監督が映画監督になろうと志した30年前からずっと温めてきた思い入れのある作品なのだそうです。東西冷戦がエスカレートし、核戦争での人類滅亡の危機が現実化しつつあった1962年。国際的な政治危機が地球滅亡につながりかねない一触即発の情勢を憂慮した三島由紀夫は、SFと純文学のクロスオーバー作品として、原作小説「美しい星」を出版しました。

本作品では、すでに70年代に2度ドラマ化(TVドラマ、ラジオドラマ)を果たしており、近年では舞台にもなっていますね。

映画化については、三島の生前、数々の監督からオファーがあったそうですが、三島由紀夫が「大島渚か市川崑でなければダメだ」と言って難色を示し、映画化の話はなかなかまとまらなかったそうです。三島の死後約50年が経過した2017年に、ついに初映画化にこぎつけたのは意義深かったのではないでしょうか?観客も、60代、70代の年配の人が多かったような気がします。

2.映画「美しい星」の 主要登場人物とキャスト

本作では、宇宙人一家と政治家秘書、黒木の5人を覚えておけばOKです。その他のキャストも、いぶし銀のような職人系の人材をオーディションで丁寧に選んだだけあって、非常に各キャストの演技は充実していました。

大杉重一郎:火星人(リリー・フランキー)f:id:hisatsugu79:20170526203254j:plain

本格的に俳優活動を開始したのは40代後半に入ってからというリリー・フランキーですが、昨年「SCOOP!」2度目の日本アカデミー賞(助演男優賞)を獲得するなど、この世代の個性は俳優としてゆるぎない地位を獲得した感があります。本作でも、その怪演ぶりはすさまじいものがありました。2017年は大根仁監督の「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」、「一茶」と2作品が待機中。

大杉伊予子:地球人(中島朋子)f:id:hisatsugu79:20170526203309j:plain

同時期の封切り作品「家族はつらいよ2」でも同年代の女性を演じていますが、吉田監督が起用理由として挙げた通り、「安定感」のある人物を好演していました。主婦役が本当に似合う年齢になってきましたね。物語中、マルチにハマっていくに連れて、服装がムダにゴージャスになっていく細かい描写が個人的にはツボでした。

大杉一雄:水星人(亀梨和也)
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テレビで見ていて、「内側に怒りを秘めた表情」が気になり、起用を決めたという吉田監督。確かに「PとJK」(2017)でもどこか憂いのある表情が目立っていたし、やっぱり彼の波乱に満ちたアイドル人生の賜物なのでしょうか?演技力は飛び抜けてすごい!というわけではありませんが、今回はハマリ役だったと思います。

大杉暁子:金星人(橋本愛)f:id:hisatsugu79:20170526203325j:plain

吉田大八監督とは「桐島、部活やめるってよ」(2012)以来、4年ぶりとなりましたが、スイーツ映画でひっぱりだこになる年頃なのに、出演作は例えば、ここ数作でも「古都」(2016)や「PARKS」(2017)など、文学的だったり小規模公開の作品が多いイメージ。海岸でUFOを呼ぶシーンは今作の隠れたハイライト!

黒木(佐々木蔵之介)
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時代劇からコメディ、サスペンス、ヒューマンものなどあらゆるジャンルをオールマイティにこなす今一番旬の俳優。今年に入って、すでに「破門」「3月のライオン」「花戦さ」などハイペースで出演しまくっています。本作では、結局最後までどんな人物なのかわからない謎の宇宙人を好演していました。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

大杉重一郎、UFO体験をする

大杉重一郎は、テレビでもちょっと有名な気象予報士だった。その日は重一郎の誕生日で、妻、伊余子、長男、一雄、長女、暁子と会食に出かけてきていた。フリーターとして自転車バイク便のバイトが長引いて遅れてる一雄を待つ間、彼の愛人、中井玲奈から電話がかかってきていた。職場でアシスタントを務める若い気象予報士だった。

別の日。重一郎は、JTNテレビのニュース番組のコーナーに毎日出演していた。今年の冬は暖冬で、1月なのに4月並の陽気が続いていた。仕事が終わると、不倫相手の玲奈とホテルで楽しみ、玲奈と車で帰る途中に、ものすごい光に遭遇し、そのまま気を失ってしまった。

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重一郎が気づくと、知らない田んぼの真中に車が座礁していた。気づいたら玲奈は横におらず、昨晩強烈な光と遭遇して以来、その後の記憶がなかった。

翌日の天気予報は、アシスタントの玲奈がカバーしてくれた。各方面に謝罪して周りつつ、玲奈に昨晩のことを聞き出そうとしたが、玲奈には特に変わったことはなかった。

別の日、重一郎は、ニュース開始前に屋上で天気を確認していた。予測データだけでなく、自分の目で天気を確認するのも彼の仕事前の大事なこだわりだった。その日、たまたまカメラマンも屋上にいたため、捕まえてみると、彼はUFOマニアなのだった。重一郎が少し前の話をすると、彼は「アブダクション」経験だったのかもしれないと分析し、重一郎にUFOマニアの本を貸してくれた。怖くなった彼は、身体に異常がないか控室で確認してみたが、特に体に異常はなかった。

覚醒していく大杉家のメンバー

しかし、その日天気予報コーナーの前にあった「火星探査」報道を見てなぜだか感動してしまい、本番になっても泣いてしまい声を出せなくなってしまった。それが彼の火星人としての覚醒体験の始まりだった。

一方、長男の一雄は、自転車便ライダーのバイトに明け暮れていた。車の隙間を縫うように走り、荷物を届ける過酷な仕事だが、一仕事終えたその日、危険な目に合わされた車を深追いして地下の駐車場で対面すると、車から出てきたのは政治家、鷹森雄一郎とその秘書、黒木だった。

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仕事が終わり、彼女とプラネタリウムでデートした一雄だったが、プラネタリウムでつい彼女に迫り過ぎた一雄は、彼女に振られてプラネタリウムに独り取り残されてしまう。呆然としてそのまま見ていたら、「水星」のスライドを見た時、目が釘付けになってしまった。それが、一雄が水星人として覚醒した最初の経験だった。

母、伊余子は、友人との料理会で、和歌山の源流水を使った「美しい水」のディストリビューターにならないかと誘いを受けていた。後日、誘われた友人の事務所に行って、正式に契約を済ませた伊余子は、さっそく100ケースを購入し、自らも「美しい水」の拡販に勤しむのだった。美味しい水を飲んで、それを誰かに紹介して入ってきたお金で海外旅行でも家族全員で行ければ、、、とささやかな希望を持って始めたのだった。

長女、暁子は大学生だった。人との付き合いが苦手な内向的な性格だったが、その飛び抜けた容姿に対して、暁子に声をかけてくる男は非常に多かった。その日も、教授からゼミに誘われたり、広告研究会の男からミスコンに誘われたりした。

その日の学校帰りの途中で、暁子は路上で弾き語りをする男の歌に釘付けになった。その男は、タケミヤカオルと名乗り、「金星」というタイトルのデモCDを購入した暁子は、家で聴くと、いてもたってもいられなくなり、ネットで彼のライブ会場を探し出し、翌日新幹線で金沢へと向かった。

ライブ会場に到着すると、彼女はタケミヤから直接声をかけてもらい、翌日直接料亭で会うことにした。

一方、重一郎は、最近胃の調子が悪かった。妻の手がける「美しい水」で胃薬を服用してみたが、気分が優れなかった。

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料亭でタケミヤと食事をしながら話をした暁子は、「自分は金星人である」と名乗るタケミヤと同じく自分が金星人なのではないかと思い始めた。食事が終わったら、タケミヤと一緒に日本海の海岸で2体のUFOと遭遇した暁子は、その思いが確信に変わっていった。

一雄は、政治家秘書、黒木の計らいで、自転車便を辞めて、政治家鷹森参議院議員の秘書となっていた。彼の初めての仕事で、エレベーターに乗った時に、鷹森がヒットマンに襲われるビジョンを見た一雄は、そのビジョンに先回りしてヒットマンに殴りかかり、未然に暗殺を防ぐことができた。まるで水星人としての特殊能力が覚醒したかのようだった。

それぞれの使命に目覚める家族達

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火星人として覚醒した重一郎は、「地球を守らねば!」という使命感にかられるようになっていた。天気予報の時に、予報そっちのけで酸性雨や山火事の話をして、スタッフを驚かせた。ニュース終了後の反省会の席で、スタッフから諌められたが、彼は全く意に介さなかった。彼は、自宅に帰るとさらに地球温暖化についての資料を読み漁るのだった。そして、翌日もさらに天気予報そっちのけで過激なトークと変な決めポーズで天気予報を締めるのだった。

一方、一雄は鷹森の秘書として順調に日々を重ねて行ったが、ある日、帰宅途中で忘れ物に気がついてオフィスに戻ると、別の部屋で黒木が鷹森を土下座させている驚愕のシーンを見てしまった。鷹森は、黒木の操り人形だったのだ。

黒木もまた、宇宙人だったのだ。一雄を水星人だと見抜いた黒木は、一雄になぜ鷹森をコントロールしているのか、人間がいかに地球を自分たちで守ることができていないか、信頼に足らないか力説するのだった。

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妻、伊余子は唯一宇宙人としてのアイデンティティに目覚めてはいなかったが、こちらは誘われて始めた「美しい水」マルチ商法で意外な才能を発揮し、その日表彰式に呼ばれていた。奇しくも、その会合に政治家の鷹森と秘書の黒木も来ていたのだ。黒木は、伊余子を見つけると、ご主人と私には方向性は違うが共通項がある、と告げた。

金沢から帰り、金星人として目覚めた暁子は、一度は断った大学のミスコンに出場することを決めた。しかし、つわりのような症状に悩み、母、伊余子と検査に行ったところ妊娠していることが判明した。暁子は、金星人として特殊な処女懐胎をしたと信じており、自らの想像力についてこれない母に「やっぱ地球人だね」と斬って捨てた。

一方、より黒木の信頼が厚くなった一雄は、黒木の極秘指令もこなすようになっていた。外国の要人から、サウナで太陽光発電についての極秘資料を受け取るのだった。黒木と鷹森は、太陽光発電を推進しようとしていた。そして、鷹森の後継者として、地球を変えるために政治家を志そうとしていた。

その日、ちょうど天気予報コーナーの直前に、ゲスト出演した鷹森が、太陽光発電への投資推進を熱く語ってたところ、次のコーナーで出演予定だった重一郎が我慢できなくなって暴走し、そこへ乱入するという放送事故が起きた。生態系のバランスが崩れてしまう前にもっと早急な手を打って地球を救わねばならないという主張をした。

重一郎は自宅に帰宅すると、妻の伊余子は、暁子の妊娠が判明した大事な時期にTVで放送事故を起こした重一郎を責めた。重一郎は、金沢に飛んで暁子の子供を妊娠させたであろうタケミヤに会いに行ったが、タケミヤは捕まらなかった。彼のバンドメンバー曰く、タケミヤは借金漬けになり、各方面で女を騙して東京へ行ってしまって行方不明だという。また、「金星」という曲は、タケミヤが作ったものではないことも判明した。

家族の挫折と重一郎の入院

そんな時、伊余子が関わっていた「美しい水」の製造元が薬事法違反で摘発を受けたという報道が入った。自ら主催する説明会で受けたクレームから事務所に逃げ帰ると、事務所はスタッフ達がすでに逃げた後だった。騙された伊余子は、がっくりくるのだった。

重一郎もまた、鷹森からの政治的圧力を受け、前日の騒動の責任を取って降板&謝罪会見を行うことが決定した。謝罪会見は録画で行ったが、やはりどうしても我慢できなかった重一郎は、会見の録画中、またも暴走して「地球温暖化のために立ち上がれ」と演説を初めてしまった。

すると、それをスタジオで見ていた一雄と黒木が収録現場に出てきて、一雄と重一郎、黒木と重一郎はお互いの意見を激しくぶつけ合うのだった。議論は平行線をたどったため、証拠を見せる、と言って、重一郎は黒木たちをTV局の屋上に連れて行き、宇宙との交信を始めたのだった。

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しばらく交信していた重一郎だったが、宇宙船は表れず、代わりに落雷の影響で電灯が消えた時、重一郎は血を吐いて倒れてしまった。黒木の手には意味ありげな「スイッチ」が握られており、黒木はスイッチを自信満々に押したのだった。黒木は、「カウントダウンが始まったぞ」と言った。

倒れて入院した重一郎の診察結果は、末期のステージ4の胃がんで、余命1ヶ月と診断された。そして一雄はいつものように鷹森のオフィスへ出勤したが、IDカードが失効し、中に入れなくなっていた。彼はクビになったのだ。

宇宙船との遭遇

一雄、暁子、伊予子は代わる代わる父の病床へと面会に行ったが、伊予子の発案で、最後は父、重一郎を郊外に連れていき、宇宙船とコンタクトさせたいという。彼らは、重一郎を病床から逃がすと、重一郎の指示で東京を遠く離れた福島の山奥へと向かった。

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途中、不思議な牛にも導かれ、明け方にたどり着いたその場所に、まさに宇宙船が降りてきたのだった。重一郎は、宇宙船の中に吸い込まれて行ったのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

過去の吉田大八作品のエッセンスが詰まった作品だった

本作は、過去に吉田大八監督作品5作品のエッセンスが散りばめられた作品でした。ちょっと変わってますが、集大成的な作品とも言えるかも。例えば、後半クライマックスまで続く大杉家のバラバラ感は、過去の吉田大八作品で見覚えがある風景です。桐島が消えて、右往左往するその友人たちを描いた「桐島、部活やめるってよ。」や、一つ屋根の下で過ごしていても、連帯感が皆無だった風変わりな家族を描いた「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」など。近くにいても、その個性の強さ故なのか、お互いが全く違う方向性を向いていて、全く噛み合わない人間関係は、過去の吉田監督作品に頻出する設定です。

鑑賞者の認識を180度変えてしまうラストシーンやどんでん返し的な仕掛けも、過去作品と共通していました。今作では、原作ラストのその「先」を大胆に踏み込んで、UFOとの遭遇後を描いた宇宙船乗船シーンは、原作ファンにはちょっとしたサプライズでした。「おぉ、マジか!」と思いましたが、これも過去作で心当たりがあります。

例えば、皆少しずつ狂っている田舎の女系社会を描いた「パーマネント野ばら」のラストシーンでのどんでん返しや、預金を横領した女性銀行員の意外な結末を描いた「紙の月」での、意外なエンディングを想起させます。

また、今作は、日本映画では珍しく、政治・社会・時事問題が正面から議論され、重要テーマの一つとして取り上げられました。これも、過去の吉田作品「クヒオ大佐」で1991年当時社会問題となった「湾岸戦争」時の戦争拠出金についての描写を思い起こさせます。

このように、本作は変わった作品ではありますが、振り返ってみると過去の作品のエッセンスが少しずつ散りばめられていた、「吉田大八第一期作品の集大成」とでも言うべき作品だったのかなと思いました。

バランス感覚も絶妙で素晴らしい

本作は、とにかくまず最後までシュールな笑いが散りばめられています。宇宙人意識に目覚め、微妙に考え方や行動が変わっていく暁子と重一郎、ネットワークビジネスにハマり、予想外に活躍する伊余子など笑えるポイント多数。

それでいて、単にコメディ娯楽作品に終わることなく、原作の三島由紀夫作品から感じられる文学的要素やシュルレアリスム的な、狂気と現実が紙一重に折り重なる感じなど、シリアスに味わい深いシーンもしっかり用意されていました。

ちょうど娯楽作品とアート系作品のギリギリ境界線上にうまく着地したっていう感じでしょうか。このあたりのバランス感覚はさすが!

テーマは「わかりやすく」、ストーリーは「わからない」映画だった

本作は、タイトル「美しい星」とあるように、取り上げられたテーマは非常に明快でした。「地球環境問題」です。クライマックスでの一雄VS黒木VS重一郎での三つ巴での激論シーンでは、環境問題についての主要争点が明快に話し合われます。

一雄VS重一郎で討論された「環境問題についての世代間対立」や、黒木VS重一郎で討論された「地球温暖化の真の原因」(人間の活動によるものなのか、単なる長期的気候変動の結果なのか)は、比較的メジャーな論点でしたが、迫力がありました。

また、本作は家族の絆、団結についても分かりやすく取り上げています。なぜなら、映画冒頭とラストが両方とも家族のシーンだからです。映画冒頭、丸テーブルを挟んで向かい合う大杉家は見事にバラバラです。それに対して、ラストシーンで4人の間にはテーブルもなく、手を繋いで宇宙船を見上げていました。

こうした明快だったテーマ設定に対して、ストーリー自体は非常にとらえどころがなく、よく「わからない」のがこの映画の特徴でした。考え抜かれた映像表現で、ストーリーや各キャラクターの心情表現をきっちりとわからせるスタイルだった過去5作品に比べると、今作は圧倒的にわからなさが残ります。

恐らく、確信犯的に「わからなく」しているのだと思います。なぜなら、作品の肝となる部分に限って、ストーリーやキャラクターの心情は敢えて曖昧に描かれ、鑑賞者が様々な解釈をできる余地を作っているからです。

例えば、

・黒木とは何者なのか?宇宙人なのか?
・大杉家は本当に宇宙人なのか?本人達が病んでいるだけなのか?
・黒木が持っていたボタンは何だったのか
・ラストシーンは何が起こったのか?

肝心のシーンをどう読み解くかは、我々鑑賞者に任されている感じなんですよね。何通りも解釈出来得る抽象的な映像表現やストーリーテリングが、「あぁ今回は難解な映画だな」と思わせた主原因かと思いました。

5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

本作は、原作にはないオリジナルストーリー部分が多いのですが、敢えて説明がぼかされている点が結構多かったです。そこで、主要なポイントについて、現時点で僕自身が考えている解釈を書いてみたいと思います。(なので後で訂正するかも・・・)

原作との相違点について

本作は、小説版「美しい星」と様々な点において違いがありました。映画パンフレットと映画HPの比較対象表が非常にうまくまとまっていたので、内容を抜粋してまとめておきますね。(映画パンフレットから大部分を抜粋)

 小説映画
時代設定1962年(東西冷戦時)2018年~2019年(近未来)
人類が直面する危機核戦争人口爆発、エネルギー問題、
地球温暖化、異常気象
一家の職業重一郎高等遊民テレビ気象予報士
伊余子専業主婦専業主婦
(ネットワークビジネス)
一雄大学生(リア充)フリーター
(自転車メッセンジャー)
暁子女子学生女子大生
母星重一郎:火星
伊余子:木星
一雄:水星
暁子:金星
重一郎:火星
伊余子:地球人
一雄:水星
暁子:金星
ロケーション設定住居
埼玉県飯能市
暁子の処女懐胎
石川県内灘町
ラストシーン
神奈川県東生田周辺
住居
東京都国立市近辺
暁子の処女懐胎
石川県内灘町
ラストシーン
福島県いわき市近辺
黒木保守系衆議院議員参議院議員鷹森の第一秘書
他の敵仙台在住の
羽黒、曽根、栗田
3人は登場せず、黒木に統合

設定の違いとして面白かったのが伊余子が地球人に変更された理由。映画パンフレットには、以下のように吉田監督のコメントが掲載されています。

母親だけを地球人にしておけば、『覚醒した宇宙人』という存在に対するツッコミを家族の中にあらかじめ含んでおくことができるので、その分この4人がたくましく見えていいんじゃないか、という狙いでした。

確かに、全員宇宙人ならみんな『ボケ』で、バランスとれなくなっちゃいますからね(笑)これは上手な設定変更でした。

劇中では、いっぺんに家族が変になってしまったことで、驚き呆れていた伊余子でしたが、最後はもう慣れたのか、「まぁどっちでもいいや。家族がまとまってくれれば」という感じで意外と動じない、たくましい安定感が中嶋朋子らしくて良かったです。

実は、重一郎は「地球」そのものの象徴だったのでは?

物語中、重一郎は火星人として覚醒し、天気予報コーナーを私物化してまで地球環境保護への必死のアピールを続けます。しかし、物語後半から、重一郎を火星人ではなく「地球」そのもののメタファーとして捉えたほうが、物語がすんなり理解できるのです。

例えば、クライマックスシーンでTV局の屋上で手を振るシーンは、まるで地球自身がSOSを出しているようですし、実際にこの後、黒木に「ボタン」を押された直後、重一郎は血を吐いて倒れてしまいます。今の地球そのものを暗喩しているのではないでしょうか?

また、彼は最後に部下であり不倫相手だった玲奈と別れ際、キスをされてビンタをされます。一体どっちやねん?!と思うのですが、ここでも重一郎=地球、玲奈=地球の人々、と置き換えるとすんなり理解できますね。玲奈は、地球人の一貫しないスタンスを表しています。一方では地球を大事だといいながら、平気で環境破壊をする人類そのものです。

黒木が持っていた「ボタン」が意味するものとは?

これは、まず第一に「原作へのオマージュ」から用意された小道具でしょう。ソ連とアメリカの間で核戦争の危機が迫っていた原作では、たびたびクライマックスの論争で「核ボタンを押す/押さない」についての論争があります。

ただ、今作はあとで黒木からボタンを入手した一雄が分解してみると、ただの玩具だったことが判明します。にもかかわらず、黒木がボタンを全員の前でしっかり押して見せるシーンがありました。

これには2つ意味があると考えられます。

1つは、黒木自身が操る参議員議員、鷹森紀一が国会内で超党派での会派を立ち上げ、黒木の理想とする人類破滅計画にいよいよ着手した、という象徴。

もう1つは、すでに地球環境破壊は後戻り出来ないポイント(ポイントオブノーリターン)まで来てしまったんだという黒木自身の地球環境に対する見立ての象徴。そして、黒木がボタンを押すと、地球=重一郎は血を吐いて一気に瀕死になりました。

山中に現れた「牛」の意味するものとは?

その前に、まず、なぜ山中に牛が彷徨っていたかというと、重一郎が目指したUFOとのコンタクトポイントは、福島第一原発の影響で、立入禁止区域内の場所だったことが深く関係しています。映画中、大杉家の乗った車は、「放射線立ち入り禁止区域」として張られた警察のバリケードを突破して山中に入っていきましたよね?

とすると、この牛は原発近くの牧場から逃げ出して野生化した牛だということですね。このあたりも、実際に核戦争による放射能汚染で人類が滅亡するとした原作への軽いオマージュになっています。「放射能」つながりですね。

さらに、この牛に乗ってコンタクトポイントへと向かったのはなぜなのか?というと、この牛は聖地へのガイド役の象徴なんですよね。日本の故事で、洗濯物を牛のツノに引っかかり、それを追いかけたら善光寺=聖地に着いてしまったという逸話から「牛に引かれて善光寺まいり」という言葉があります。

人間が作り出した放射能汚染で逃げ出して野生化した牛が、UFOの到着地点へ導いてくれたのも皮肉な話です。

ラストシーンの解釈について

ラストシーンでは、UFOを見上げた重一郎は、次の瞬間UFOの船内にいて、地球のはるか下の方を見ると、自分も含めた家族4人が手を降っています。このラストシーンで頭をひねった人も多かったのではないでしょうか?

様々なソースで製作者サイドの話を総合すると、どうやらUFOは火星へ帰還するための連絡船だったと言えそうです。ただし、服装が綺麗になっていて、顔色も良くなっていることや、はるか下には自分の姿も見えるわけです。この解釈としては・・・

・重一郎は、UFO到着時に死亡し、魂だけがUFOに乗っている
・重一郎は死んでおらず、UFOによって過去の映像を見せられている

僕は、最初このシーンを見た時は、重一郎の代わりのクローンが火星から地球へ搬送されてくるシーンだと思っていました。これなら、UFOに乗っている重一郎の顔つきがやたらすっきりしていることや、下に重一郎たち4人が見えるのも自然です。

原作にもないこのラストシーンについては、もうしばらく僕も考えてみたいと思います。

6.まとめ

本作は、わかりやすくカタルシスを感じられる作品でもなかったし、スカッとするようなアクションもありません。モヤモヤわかりづらい部分が残り、スッキリしないですよね。ですが、たまにはこうした「わかりにくさ」を一つずつ熟考して紐解いていく楽しみも映画にはあってもよいのかなと思います。

2回、3回と見ていくと、また違った魅力が見えてくる、それだけのポテンシャルはある映画だと思いますので、是非繰り返してチェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

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【ネタバレ有】「ちょっと今から仕事やめてくる」映画感想・レビューとあらすじ徹底解説!/全ての働く人に見て欲しい珠玉の映画!

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【2017年6月6日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

人は、何のために仕事をするんでしょうか?自分のため?あるいは家族のため?やりがい?本来、人生に豊かさと喜びをもたらしてくれるはずの「仕事」は、多くの人にとっていつの間にか生きていくための「苦痛」でしかなくなっています。

僕も、最初は「希望」を持って入ったはずの前職(ITシステム開発)での仕事が「苦痛」に変わり「辞めたい!」と強く思うようになってから、実際に退職するまで、8年もかかりました。次の仕事が見つかる保証がないので、決意できなかったのです。

本作の主人公、隆もまた、入社早々に「仕事」へのモチベーションだけでなく「生きる」目的も見失ってしまいます。ブラック企業でドン底まで堕ちた隆が、力強く最後には生きる力を取り戻していくまでの過程を描いた本作は、仕事で悩む全ての働く人たちにとって、生きる希望をもらえる珠玉の一作となりました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「ちょっと今から仕事やめてくる」の基本情報

<「ちょっと今から仕事辞めてくる」予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

【監督】成島出(「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」他)
【配給】東宝
【時間】114分
【原作】北川恵海「ちょっと今から仕事やめてくる」

2003年のデビュー作「油断大敵」以来、ヒット作を連発し、2011年「八日目の蝉」では日本アカデミー賞作品賞を獲得するなど、まだ50代ですが大物監督としての風格たっぷりの成島監督。

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(映画.comより引用)

この人は舞台挨拶等で「演技指導が厳しい」的なコメントがよく出ますが、今回も、「最初に2人に会った時はちょっときついかなと思い、これ以上ないくらい追い詰めた。つぶれそうになったこともあったと思うが、日々成長し役者としてひと皮むけた。」と、5ヶ月間に及ぶリハーサルで、主演2名に対してブラック企業並のかなり厳しい演技指導を行った様子(笑)

幸いにして舞台挨拶では、「厳しく指導していただき大変だとは思ったけれど、やりがいもあって楽しかった。監督に出会えたのは、大きな財産になりました」と涙で福士蒼汰が感謝するシーンもあったとか。「ちょっと今から俳優やめてくる」とはならなかったようですね!

2.映画「ちょっと今から仕事辞めてくる」の 主要登場人物とキャスト

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人物相関図は、至ってシンプルな映画です。ヤマモトと隆の二人の主人公が、偶然の出会いからお互いの存在によって救われ、そして生きる目的を見出すまでのストーリー。ヒロイン役がおらず、一種のバディムービー的な要素もありますね。(ただしホモソーシャルな関係ではない)

ヤマモト(福士蒼汰)
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原作のキャラ通り、本作で初めて関西弁での演技に挑戦しています。関西出身者が聞くとところどころおかしなイントネーションもありますが、まぁ及第点かと。直近作「無限の住人」(2017)ではやや若すぎるかなという感じもありましたが、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(2016)など、作品にも恵まれ、彼が出演する作品の興収はいつも安定していますね。

青山隆(工藤阿須加)
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現ソフトバンクホークスの工藤公康監督の息子さんだと知ったのは最近なのですが、本人は全く野球に興味がないらしい(笑)2017年は、年始の「恋妻家宮本」で存在感が薄かったので、今作での力の入った演技は正直見直しました。今後が楽しみですね。

五十嵐美紀(黒木華)
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まだ27歳なのに、本作では疲れ切った表情やだらしない服装から30代後半くらいに見えるのは、日本アカデミー賞女優のある意味演技力の賜物なのかも。成島作品では「草原の椅子」「ソロモンの偽証」に続き、3度目の起用。

山上守(吉田鋼太郎)
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自ら主催する劇団では、厳しく叱ることもあるという、いかにも厳しそうなコワモテの吉田鋼太郎。しかし、さすがにこの映画での度を越したパワハラぶりは、演じている本人ですら辛かったとのこと。ある意味、真のプロ意識を感じた裏MVP的な怪演でした。

大場玲子(小池栄子)
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こちらも、黒木華同様、「草原の椅子」「不思議な岬の物語」など成島組では常連俳優ですね。小池栄子といえば、少年誌・青年誌を席巻したビキニ姿の巨乳グラビアで強烈な印象があるのですが、時の経つのは早いです。最近はすっかり落ち着いた主婦役が増えているし、またそれが凄く板についているんですよね・・・。

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

隆の暗鬱な日常に突如現れた「ヤマモト」と名乗る男

青山隆は、中堅の印刷関連の、いわゆる「ブラック企業」で営業職として働く新入社員だった。入社して半年が経過したが、毎日起きて会社に行くのが非常に辛い毎日だ。その証拠に、部屋の中は荒れ放題。山梨でぶどう農園を営む両親から送ってもらった野菜や果物は箱の中に入ったまま腐っていた。

その日もやっとの思いで出社すると、山上部長が出社すると同時に朝の体操と社訓斉唱が始まった。続いて、社内表彰式だ。先輩の女性営業社員、五十嵐美紀がノルマ達成の金一封を受け取っていた。

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業務が始まると、まもなく隆にクレームの電話が入った。それを聞いた部長は、部屋が凍りつくほど大声で隆を怒鳴りつけた。さらに悪い事に、ミスした分を給与天引きにされる通告をされた上、翌日朝イチまでに営業資料をまとめておくように言い含められた。これで今日も深夜までの残業が確定だ。

すでに3ヶ月連続で150Hを超える残業をこなし、心身ともに疲弊しきっていた時に、実家の母からの電話があった。応対する気力もなく、つい親にぞんざいな対応をしてしまった。

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やっとの思いで残業を終わらせ、駅のホームで帰りの電車を待っていた時、携帯電話に部長からの着信が入ってきた。「もう限界だ、、、」そう思って、投げやりにホームから転落しようとしたその時、隆は若い見知らぬ男に手を強く掴まれ、危うく電車に轢かれるところを間一髪で免れた。

助けてくれた男は、「ヤマモトや!」と自己紹介してきた。誰だったのか思い出せなかったが、とりあえずヤマモトの勢いに押され、飲みに行くことにした。居酒屋で、トイレに立つふりをして小学校時代の友人に電話で「ヤマモト」を調べてもらった所、「ヤマモトケンイチ」というクラスメイトがいたことがわかった。

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とりあえずその日は乾杯し、昔話に花を咲かせた隆は、少し気持ちが楽になったような気がした。隆とヤマモトは、携帯電話の番号を交換してその夜は別れた。

ヤマモトとの交流で持ち直した隆

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ヤマモトと出会った最初の週末。ヤマモトが隆のマンションまで会いに来てくれた。ヤマモトは、勝手に近所のスーパーでカートを借りて、坂道を一緒に転がったり、一緒に買物に行ったり、二人はまるでデートのような時間を過ごしたのだった。

翌日月曜日、出社する際に少し気持ちが楽になったような気がした。先に出社していた五十嵐先輩から、雰囲気が変わったね、と声をかけられた。よい雰囲気のまま、その日、隆は半年通いつめた小谷製菓と新規取引を成約させることができた。

その晩、隆とヤマモトは祝杯を挙げた。隆が改めてヤマモトに礼を言うと、携帯に岩井から電話がかかってきた。小3の時仲が良かった「ヤマモトケンジ」は現在ニューヨークにいるという。フェイスブックで確かめたところ本当だった。では、今一緒に飲んでいるヤマモトは一体誰なのか?

ヤマモトを問い詰めると、アッサリと「小学校の同級生っていうのは勘違いやったわ」と白状した。本当の名前は「山本純」という。免許証で確認させてもらった。写真が若干違っているようだったが、確かに本人だった。彼らは改めて友人として乾杯をするのだった。

発注ミスが発覚し、落ち込む隆

少したった別の日。出先で商談中、隆の携帯に五十嵐から電話が入った。小谷製菓へ納品した製品の型番違いのクレームだった。急ぎ戻り、五十嵐と原因を確認すると、隆が工場への発注ミスをしていたことが判明した。

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五十嵐と小谷製菓の担当へ謝罪訪問に行くも、受付のところで担当者から冷たくあしらわれた。五十嵐は、隆を先に自社へ戻らせ、改めて担当へ謝罪の挨拶に向かった。

自社に戻ると、隆は部長から凄い剣幕で叱られた。しかしその日山上部長は、隆だけでなく五十嵐に対してもプレッシャーをかけていた。言葉はキツくなかったが、ノルマ未達を責めるのだった。

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その日の夜、隆は一睡もできなかった。昼間の大失敗がぐるぐる頭の中を回り、ひたすらベッドでうずくまるしかなかった。翌朝、出社すると、部長から小谷製菓の担当を五十嵐に変更すると指示があり、改めて全社員の前で何度も土下座して大声で謝罪させられた。

ようやく退社した時、隆はヤマモトに呼び止められ、イタリアンレストランで食事をした。隆は経緯を全て話すと、ヤマモトは、誰かに発注書のデータを書き換えられたのでは?と誰かの嫌がらせを疑った。そして、元気のない隆に対して、思い切って転職したらどうか?と勧めるのだった。しかし、隆はこのご時世に半年で退職して、正社員として採用してくれる会社があるとは思えず、難色を示すのだった。

しかし、ヤマモトは、「隆にとって、仕事をやめるののと死ぬのはどっちのほうが簡単なのか?」といつになく食い下がってきた。

謎が深まるヤマモトの正体

しばらくすると、また隆にも平穏な日々が戻ってきた。しかし、すでに隆には会社生活や人生に希望を見いだせず、ただ平穏に1週間を過ごせればいい、と諦めの境地になっていた。

そんな時、流山の自社工場からの帰り道、駅前で「流山霊園」への送迎バスにいつもと全く違う落ち込んだ表情で乗り込むヤマモトを見かけた。

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自宅に帰ってから、「山本純」でネット検索をかけると、なんと、ヤマモトは3年前に亡くなっていた。ミヤタフードカンパニーという会社に勤務していた山本純は、心労から会社で飛び降り自殺したのだ。すると、自分が会っているヤマモトは幽霊なのか?とわけがわからなくなった。

翌日出社すると、自分のデスクのPCを五十嵐が操作していた。声をかけると、五十嵐はいつになく余裕のない表情で「小谷製菓」についての書類を検索させてもらっていた、と話した。

その日退社する時、隆はヤマモトとフットサルに飛び入りした。裸足でフットサルを楽しむヤマモトを見て、確かに「足」があるので幽霊ではなさそうだ、とも思ったが、もし幽霊だとしたら、ヤマモト自身が成仏できるよう、自分がもっとしっかりしなくては、とも思った。

再び自殺へと追い込まれる隆

翌日、隆は再度気を取り直して出社し、五十嵐に小谷製菓についてまとめた引き継ぎ資料を渡した。すると、五十嵐からは「こんなのが役に立つか」となぜか激しく叱責を受けた。五十嵐は、そのままトイレでうずくまってしまった。

デスクに戻ると、隆は部長から呼ばれ、「小谷製菓の数字を五十嵐に取られたことに文句たらたらなのか」と激しく叱責された。そんなつもりで引き継ぎ資料を作ったわけではないと弁明したが、部長は聞く耳を持たなかった。

外回りに出ていく五十嵐に、改めて謝罪する隆だったが、五十嵐からも「消えろ、バカ」と言われ、突き放されてしまった。隆は、もう死ぬしか無いと覚悟を決めた。

翌日は土曜日だった。誰もいない会社に出社し、屋上から飛び降りて死のうとしたその時、ヤマモトが屋上に来て、必死で引き止めた。人生は誰のためにあるんだと思う?お前を大切に思ってくれる人のためだ!」と説得され、隆は自殺を思いとどまった。

久々に実家に帰省し、退職を決意

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翌日、隆は、ヤマモトの強い勧めを受けて実家の山梨に久々に帰宅した。1年半ぶりだった。これまで両親に対して酷い言動を取ってきたことを詫びると、隆は恐る恐る退職したいと両親に切り出した。すると、両親は「若いうちにたくさん失敗しろ」と全面的に隆の意向を尊重してくれた。

隆は、東京に帰り、翌日の朝、ヤマモトを近くの喫茶店に呼び出すと、晴れやかな気持ちでヤマモトに改めて礼を言い、「ちょっと今から仕事やめてくる。少し待っていてくれ」と言い残し、会社へと向かった。

会社につくと、隆は部長に今日で退職する旨を告げ、職場の全員と五十嵐に礼を言って会社を後にした。エレベーターホールのところで、呼び止められた五十嵐から、小谷製菓の発注書ミスは、五十嵐が改ざんしたものだったと打ち明けられた。隆の成績が上がると、ノルマも上がり、追い込まれていた五十嵐は、隆の成績を落とすためにやったのだという。そんな五十嵐に対しても、いたわりの言葉をかけて、隆は意気揚々とヤマモトを待たせている喫茶店へと戻ってきた。

しかし、喫茶店へ戻るとヤマモトの姿はすでになかった。

明らかになったヤマモトの正体と、過去の傷

無職に戻った隆は、自宅を片付けて、健全な自炊生活に戻っていた。今後の人生についてじっくり考えてから再就職に臨むつもりだったが、どうしても消えてしまったヤマモトのことが気になっていた。携帯もつながらなくなっていた。

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どうしても諦めきれない隆は、ネットで山本純の知り合いに連絡を取り、会うことにした。彼女は、大場玲子といい、死んだ山本純のいた孤児院の院長の娘だった。その結果、ヤマモトは双子で、亡くなった「純」の他に「優」という兄弟がいることがわかった。5才の時、両親を亡くして孤児院に入った純と優だったが、特に優は、最初は純以外の誰とも口をきこうともしなかったという。

優が変わったきっかけは、純がどこからか持ち込んだ、ポリネシアの孤児たちの笑顔の写真集を目にした時だった。同じ「孤児」という境遇なのに、笑顔を絶やさない彼らを見て、優も笑うようになったのだ。それ以来、この兄弟は、孤児院を出たら、兄の純は医者として、弟の優は教師として、この写真に映っている「バヌアツ共和国」の孤児院で働くと決めて大学進学を志した。

優は首尾よく大学に合格したが、純は、医学部受験に失敗してしまった。孤児院は18歳で出なければならない規定だったので、純は就職しながら医師を目指すことになった。しかし、就職先が運悪くブラック企業だったため、純は翌年度も大学に不合格となり、とうとう就職して2年目となった20才の時、自殺したのだった。優は、一足先にバヌアツに行って、純を待ちながら教師になると決めていたが、純の自殺を受けて心に傷を負ってしまい、渡航を延期したのだった。

しかし、半月前ほど、優は玲子に会いに来て、バヌアツに行く決意が出来たと告げた。純が亡くなって以来、できた友人のお陰で、ちゃんと生きていこうって決意することができたとの話だった。そして、優は隆が玲子に会いに来ることを予見しており、隆に「ありがとう」という言葉とともに笑っているバヌアツの子供たちの写真を託していたその写真の裏には、優の手書きで「俺の天使たちだ。この子達と一緒に笑ってみないか」と、バヌアツに来ないかと隆を誘っていた。

バヌアツで再び出会った優と隆

人生の恩人である優の申し出に応えたいと強く思った隆は、バヌアツへ向かうことにした。現地へ着くと、すでに優は現地の子供たちに青空の下、算数のクラスを楽しそうに教えていた。

優は、隆を見つけると、改めて握手をして隆を歓迎した。隆はぎこちない表情で子供たちに挨拶すると、優は、「しばらくは言葉の特訓やな!」と笑ったのだった。そして、隆の最初の仕事は、子供たちとの鬼ごっこだった。

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子供たちと駆け回る隆を見て、優は「人生っとそれほど悪いもんでもないな」と死んだ空の方を向いて純に話しかけるのだった。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

賛否両論?!映画オリジナルのクライマックスが用意されていた

僕は、7ヶ月前にすでに原作のライトノベル版を読了し、昨日2回原作を読み返してから満を持して本作に臨みました。隆が会社を辞めるところまでは原作そのままの忠実な作りで、安心しきって見ていたのですが、途中でみぃさん=玲子(小池栄子)にコンタクトを取るシーンから、怒涛のオリジナル展開が!

隆が小池栄子扮する玲子と面会するシーンで、「優」と「純」についての過去の経緯について掘り下げられて語られます。TVの推理モノ2時間ドラマの謎解きのように、セリフベースで怒涛のように語られ出したのはやや苦笑いせざるを得ませんでしたが、原作では、ヤマモトの正体は最後まで「謎」の存在のまま終わってしまうので、この追加シナリオは個人的には歓迎です。

このシナリオ追加がなされたことにより、隆とヤマモトは、表面上「支えられる者」「支える者」という関係ではありますが、実は二人はお互いにとって必要なモノを「与えあう」不可欠な存在同士だったことがわかります。

お互いを必要としていた二人f:id:hisatsugu79:20170528004626j:plain

ブラック企業で激務に喘ぐ隆は、ヤマモトの心の支えが無ければ当然再生できませんでした。そして、ヤマモトもまた、最愛の兄、純をそのまま投影したような、生真面目で純粋な隆の苦境を救うことで、3年前に純を救えなかった罪悪感から解放されることができたのですよね。優にとって、隆との出会いは、過去を清算し、前を向くために必要なプロセスだったわけです。だからこそ、優は最後に「ありがとう」と玲子に隆向けのメッセージを託したんですよね。

こうして2つの「隆」と「優」の二人の物語が交差して、最後に抜けるような青空が広がるバヌアツでの新生活へとつながっていったのは、物語としてすごくキレイな終わり方だったし、原作より一回りスケール感も大きくなっていてよかったです。

隆のオフィス。狭くて陰鬱で息が詰まりそう。f:id:hisatsugu79:20170528004714j:plain

ぶっちゃけ、ラストはバヌアツでもなんでも、開放的なロケ地ならどこでも良かったと思うんですよね。隆が半年間暮らした牢獄のようなブラック企業のオフィスに対して、優がバヌアツの子供たちに算数を教えた青空教室のなんと明るく開放的なことか!この対比は見事でした!オフィスで萎縮して土下座していた隆が、バヌアツの子供たちと活き活きと鬼ごっこを始めたラストシーンは、映画的なカタルシスにあふれていました。

彼らだけでなく、見ている鑑賞者一人ひとりにとってバヌアツの地は「再生の象徴」だったのでしょうね。エンドロールで、まるで人生のように曲がりくねったバヌアツの川を下りきり、大きな海に出た2羽の白鳥が空高く画面を横切って飛んでいくシーンは、まさに我々自身も、「人生の可能性」を自由に探求していいんだよ、と優しく諭されているみたいで、涙が止まりませんでした。

希望はいつでもすぐそこにあるけれど、見ようとしていないだけ

本作は、バヌアツの南国的な風景美以外にも、冒頭からラストまで、雲が程よく広がった明るい初夏の陽光が広がっていました。特に、最初に隆とヤマモトがカートで坂を転がった時に見上げた空、隆がビルから飛び降り自殺を図ろうとした時に広がっていた空、いずれも抜けるような美しい空でした。

隆が苦しい時でも、いつでも晴れわたる美しい空f:id:hisatsugu79:20170528004801j:plainf:id:hisatsugu79:20170528004824j:plain

星空を見ながら優がバヌアツの子供に語りかける場面で、印象的なセリフがあります。

「生きるということは希望は持つこと。希望は見えなくなってしまうだけなんだ。でも常にそこにあるんだよ」

このセリフが入ったシーンは、映画が終わった後でも意識下に刷り込まれるように、冒頭とラストで2度繰り返されます。

この映画で印象的だった「快晴の空」は、明らかに「希望」のメタファーですよね。ブラック企業で傷つき、疲弊し、目の前の暗い現実しか見えなくなってしまった隆は、仕事の合間に空を眺める余裕すらなくなってしまうのですが、どんな時でも「空」=『希望」はいつでも目の前に広がっていたのですよね。

少し視点を変えれば、いつでも希望はそこにあるんだ、だから落ち込んだときほど目の前に広がっている希望を見ろ!と、この映画からそんな強いメッセージを受け取ったような気がしました。

影のMVPは吉田鋼太郎扮する鬼部長か?!

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この映画で出てくる吉田鋼太郎扮する山上部長は、まさにレジェンド級のブラック上司でした。いびるターゲットを決めると、必要以上に大きな声を出して全身でいびり倒すトラウマ級の圧倒的なパワハラは、ブラック企業の恐ろしさを体現した見事な怪演でした。

ちなみに、山上部長は、高卒叩き上げで自衛隊に入隊し、結婚を機に除隊してサラリーマンになったという裏設定があります。自衛隊内で徹底的に愛情を持ってしごかれたため、彼の中ではあくまで「部下を育てている」という意識なのでしょう。(それがまたホラーなのですが・・・)

こんな上司の下だったら僕なら速攻で心折れそうですが、FilmarksとかYahoo映画のコメントを見ていると、結構このクラスは「ザラにいる」というコメントもちらほら。日本企業恐るべし・・・。

真面目な人ほどハマりやすいブラック企業の罠

本作では大切なことはわかりやすく「セリフ」で表現されています。端正な映画では、セリフで過剰に語りすぎるのは下品だとされますが、本作に限っては、大切なことはセリフで表現されたのがかえって良かったかなと思います。

なぜなら、それくらい強く打ち出さないと、本当にこの映画を見なければならない、ブラック企業で耐えて頑張っている生真面目な人たちには届かないでしょうから・・・。

「人生はお前を大切に思ってくれてる人のためにある」
「隆にとって、会社辞めることと、死ぬことはどっちのほうが簡単なわけ?」

僕は、前職で人事もやっていました。10年ちょっとやらせてもらった中で、印象的だったのは、生真面目でいい人ほどつらさを我慢してしまうこと。僕の担当ではなかったですが、結果として自殺した人も複数見てきましたし、鬱症状になる人は何十人も見てきました。

だから、病気になる前にさっさと逃げなきゃダメなんです。映画中でヤマモトがサッカーの話で例えて言ったように、仕事の成果は、能力だけでなく人間関係の「相性」に左右されることが非常に多いのです。ある会社、あるプロジェクトでダメでも、別の会社やプロジェクトに行けばエース格になれたケースなんていくらでもあります。

だから、生真面目な人ほど、この映画のタイトルのように、「ちょっと今から仕事やめてくるわ~」と、カジュアルに考えるくらいでちょうどいいのかもしれません。

5.その他伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)

隆の所属したブラック企業の恐るべき「社訓」

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(Twitterより)

隆の務めていた印刷会社は、ブラック企業のエッセンスを凝縮したようなある種のおかしさがありましたが、映画で一番面白かったのは、壁にかかっていた社訓です。そして、それを真面目に唱和していたバカバカしさ。思わず笑ってしまうブラックユーモアでした。で、これは、広告の鬼と言われた電通中興の祖、吉田秀雄が作った「電通鬼十則」を明らかにパロってますよね(笑)

割りとまともそうな項目もありますが、明らかにおかしなものも半分くらい含まれていますね(笑)「有給なんていらない。体がなまるから。」「折れる心が無ければ耐えられる」って、説明会で壁にかかっているのを見た瞬間に入社志望者が全員逃げるレベルです(笑) 

原作との主な相違点

本作は、中盤までは原作に非常に忠実な作りになっていますが、終盤に入って完全に映画オリジナルのストーリーへと枝分かれしていきました。原作には原作の良さがあると思いますが、主な相違点を簡単にまとめておきたいと思います。

★原作と映画の主な相違点

・原作では五十嵐先輩は男性である。
・原作では、純が死亡した年齢は22歳。(映画では20歳)
・部長に退職を告げる時、原作では激しく戦っている。有給を要求したり、部長に「うるせーよ!」と怒鳴り返したりする。
・原作では、優には両親がいる。優は親元を離れて一人暮らしをしている。
・原作ラストで、優はフリーランスの臨床心理士になっている。2年振りに隆が臨床心理士の見習いとして優の勤務先に配属されてくる。

今回の映画化にあたり、1点だけ惜しかったなと思った点は、部長に退職を申し出る時、原作のような対決姿勢じゃなかったことです。部長から「懲戒解雇だ!」と言われたのに「それでもいいです」とアッサリ受け入れたのは頂けなかった!(笑)そこは、「出るトコ出ましょうか?今日このまま労基行ってもいいんですよ?!タイムカードも記録取ってるし、今の会話も録音させていただいています」くらいの戦う姿勢が欲しかった!!

6.まとめ

恐らく、この映画を一番見なきゃいけない人たちほど、映画館に立ち寄っている暇などないとは思います。「だからこそ、まず助けなきゃいけない人たちの周辺にいる人にまず見て欲しい!」と成島監督がインタビューで答えていましたが、本当にその通り。働く全ての人にとって、見て損のない、非常に意味のある映画だと思います。

是非、映画館でチェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

 

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【映画レビュー】2017年5月現在上映中映画の感想記事一覧

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原作ライトノベル「ちょっと今から仕事やめてくる」

これまで60万部を売り上げた大ベストセラー。いかに会社や仕事を辞めたい人が多いかよくわかります。僕も、たまたま去年仕事をやめようと決断する直前にこの本と出会い、少し背中を押してもらいました。ライトノベルのような軽くて柔らかい文体ながら、描かれるストーリーは非常に共感できます。映画が気に入った人はこちらもオススメ!また、本作については、別途半年前に書評も書いていますので、もしよければ覗いてみてくださいね! 

コミカライズ版「ちょっと今から仕事やめてくる」

原作小説を忠実にマンガ化したコミカライズ。マンガのほうがしっくり来る人は、これを読むのでもOKだと思います。ポイントを押さえた堅実な出来でした。映画、小説と見た後に買ってみましたが、様々なメディアで別の角度から物語を見てみると、より立体的に把握できるようになりますね。

映画「何者」

「ちょっと今から仕事やめてくる」は、入社半年でブラック企業からの退職を決意するストーリーですが、こちらは就職活動中の大学生を描いた群像劇。キャリアについて悩んでいる人や就活中の若い人は、こちらも物凄くおすすめです!

ちなみに、昨年僕もレビューを書きました。もしよければこちらもご覧くださいね。

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【ネタバレ有】「パトリオットデイ」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/テロに負けなかった人々の強さが感動的な傑作実話映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

6月9日にリリースされた新作「パトリオット・デイ」を見てきました。2013年のボストン・マラソン当日を狙って起こされた無差別テロ事件と、事件の収拾・解決に尽力した警察メンバーを中心とした実話ベースの感動ストーリーです。

僕は、陸上やマラソンが大好きなので、この映画は特に注目していました。思った以上に実話に忠実な語り口で、非常にドキュメンタリータッチな硬派な仕上がりでした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「パトリオット・デイ」の基本情報

<映画「パトリオットデイ」公式予告>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ピーター・バーグ(「バーニングオーシャン」他)
【配給】キノフィルムズ
【時間】133分

「ローン・サバイバー」「バーニングオーシャン」と、ここ数作はマーク・ウォールバーグを主演固定にして、実話ベースの大作映画路線が続いているピーター・バーグ監督。現実に起きた事件を振り返り、その中に人間ドラマを再構築する実話ベースの映画作品を作らせるなら、実績十分。今作では主演と監督のコンビががっちり噛み合い、2013年の「ボストン・マラソン」でのテロ事件と、危険を顧みず不眠不休で解決に尽力した捜査官や無名の市民たちを取り上げました。

2.映画「パトリオットデイ」の 主要登場人物とキャスト 

ボストン警察巡査部長/トミー・サンダース
(マーク・ウォールバーグ)
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「ローン・サバイバー」「バーニングオーシャン」に引続き、ピーター・バーグ監督の実話シリーズ3部作で全て主演を務めました。「製作総指揮」としてクレジットされるなど、特に今作では製作にも深くコミットしています。今年は、2017年夏「トランスフォーマー 最期の騎士王」も待機中。ちなみに、俳優になる前、ボストン在住だった若い頃は、ボストン警察に何度も世話になった経験があるそうです(笑)

FB特別捜査官/リック・デローリエ
(ケヴィン・ベーコン)
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警官役は過去幾度となくこなしている名俳優ですが、特に「刑事」は彼のハマリ役ですね。近年だけでも、「ブラック・スキャンダル」(2015)、「COP CAR/コップ・カー」(2015)など。「ミスティック・リバー」(2003)のような名作から、「ゴースト・エージェント/R.I.P.D.」(2013)のような大コケした作品まで幅広く出ております(笑)

ボストン警察警視総監/エド・ディヴィス
(ジョン・グッドマン)
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俳優歴40年以上の大ベテランで、近年も毎年1~2作は話題作にバイプレイヤーとしてコンスタントに出演をこなします。近年も「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(2015)、「10 クローバーフィールド・レーン」(2016)、「キングコング:髑髏島の巨神」(2017)など。うるさ型のオヤジキャラが本当によく似合いますね。

ウォータータウン警察巡査部長/ジェフ・ピュジリーズ
(J・K・シモンズ)
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日本でも大ヒットした「セッション」(2011)での鬼教官ぶりが鮮烈だったJ・K・シモンズ。2017年「ラ・ラ・ランド」でも嫌味な劇場支配人役として出ていますね。今回は、地元の町の頼れる警官として、久々に「良い」シモンズを見れて良かったです。


キャロル・サンダース(ミシェル・モナハン)
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トム・クルーズ主演の大ヒットシリーズ『M:i:III』(2006)ではヒロインに抜擢されてブレイクしました。直近の出演作は「ミッション:8ミニッツ」(2011)、「ピクセル」(2015)など。大学時代、モデルの仕事で頻繁に来日しており、一時期は乃木坂に住んでいたこともあるのだとか。愛犬に「ロッポンギ」という名前をつけるほどの日本通なのだそうです(笑)

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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)

テロ事件当日の朝

2013年4月。トミー・サンダース巡査部長は、2名の同僚とともにアパートで犯人を追い詰めていた。ドアを蹴り破った際に膝を痛めてしまったものの、なんとか上司であるエド・ディヴィスが現場へ到着する前に、犯人を取り押さえることができた。つまらない傷害事件の捕物だったが、先日仲間の警官を殴ってしまい、停職処分を受けていたトミーの復帰に向けての研修を兼ねていたのだった。

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4月15日。今日は「パトリオット・デイ」だ。その日、朝は遅めの起床となったパトリック・ダウンズとジェシカ・キンスキーは、朝食の後この日行われるボストンマラソンを沿道で見ようと考えていた。

MITでは、学生グループがゼミのプロジェクトについて検討していた。学内警備担当のショーンは、中国人留学生を次の週末にデートに誘い出そうとしていた。

一方、トミーは、前日の晩に夜遅く帰宅し、わずか数時間の休息の後、ボストン・マラソンの警備担当として、早朝から出勤のため起床していた。警備用の制服は、決してかっこいいものではなかったが、この警備を無事に勤め上げた後、彼は正式に復職できる見込みだったので、張り切っていた。

中国人留学生のダン・マンは、朝から最近購入した新車の黒のメルセデスを前に、中国本土に住む両親とビデオチャットを楽しんでいた。チャットを終えると、ダンは朝のランニングにでかけるのだった。

キャサリン・ラッセルは、夫のタメルラン・ツァルナエフと彼の弟、ゾハールがテロの計画を話し合っている時、娘をあやしていた。弱気になる弟、ゾハールを激励し、本日のテロを2人でやりきる予定であった。

また、ウォータータウン警察巡査部長、ジェフ・ピュジリーズは、朝起きると妻と近くのダンキン・ドーナツへ朝食を食べに行くのだった。

ゴール前で起きた爆破事件

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毎年4月15日、パトリオット・デイには世界でも有数のマラソンのビッグレース、ボストンマラソンが開催される。2013年4月15日も、朝から、マラソンコース沿道には参加者や観客など、大勢の市民が続々と集まってきていた。

トミーは、その日ちょうどゴール前の警備を担当する予定だった。前日夜に痛めた足が腫れてきたので、彼は妻のキャロルに電話して、ゴール前に膝のサポーターを持ってきてほしいと連絡した。

そして、いよいよスタート直前となった。スタート前、ニュータウンスクールでの銃乱射事件で死亡した26名の犠牲者へ黙祷が捧げられた。

タメルランとゾハールは、レースのゴール会場へと到着した。彼らは、互いに爆薬がたくさん詰まったバックパックを背中に背負い、ふた手に別れて待機していた。男子マラソンの優勝者が決まり、続々とランナーがゴールへと帰ってきていた。そして、ゴール前の賑やかさが頂点に達した時、巨大な爆発が2度起こった。

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トミーは、現場責任者として現場付近のランナーを退避させ、警察官と救急スタッフに連絡した。まもなく、メディカルチームがやってきて、負傷者は市内の病院へと順次運ばれていった。パトリックとジェシカの足は、ひどく負傷していた。彼らは別々の病院へと緊急搬送された。スティーブは、爆発で気を失っていたが、ケガはなかった。メディカルチームがスティーヴを救助し、レオを安全なところへと連れ出した。トミーは、キャロルが無事でいることを確認すると、自宅へと帰させた。現場には、なおも多数の負傷者が手当を受けるのを待っていた。

テロと断定され、捜査が始まる

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状況が落ち着き、現場から人がいなくなると、FBI捜査官のリック・デローリエが捜査担当として現場へと赴いてきた。状況を把握すると、リックは、すぐにこの爆発事件を「テロ」と断定することを避けた。市民の間に混乱が広がるのを懸念したからだ。しかし、状況的にはテロと断定せざるを得ない状況だった。リックは、全ての捜査関係者をブラック・ファルコン・ターミナルという巨大倉庫に捜査本部を設置させ、本格的な捜査に取り掛かった。

一方、犯人の二人は、テロの後、一旦自宅へと戻っていた。彼らは、報道で事件の状況を知った。彼らは、引続き身を隠すことに決めた。

トミーは、手がかりを得るためにボストンのあらゆるところを捜査して回っていた。事件で足を切断する重症を負ったジェシカの両親を始め、彼の近所や友人たちに様々なヒアリングを行った。トミーは、明らかに苛立っていた。そして、現場で感じた爆発の恐怖、自身の無力感に打ちのめされていた。しかし、彼は必ず犯人をこの手で捕まえると固く決意するのだった。

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一方、捜査本部では、捜査官達がセキュリティカメラが捉えた犯人の姿を探り当てることに成功していた。まず、映像から白いキャップをかぶったゾハールを割り出すことに成功すると、周囲に設置された他のカメラ映像から、一人の犯人がタメルランであることを特定した。

しかし、リックは、一旦彼ら2名の犯人映像を公表することを控え、様子をみることにした。なぜなら、未だセキュリティカメラの映像は解像度が低く、犯人として断定するには証拠になりづらいレベルだったからだ。これでは、犯人側に対して捜査の進捗が思わしくないことが伝わってしまう。また、市民の間にイスラム教徒への偏見が広がってしまう懸念もあった。リックは一旦映像の公表を取りやめたが、ディヴィスは公表するよう激しく迫った。

一方、ピュジリーズも、地元のウォータータウン警察を率いてボストン警察やFBIから捜査協力の声がかかるのを待っていた。

ゾハールの大学生の仲間たちは、大学寮でゲームをしながら大麻を吸っていた。大麻が切れたので、ゾハールの部屋で大麻を探してバッグを探っていると、爆弾を作るための沢山の材料がバッグの中に入っていることを見つけ出した。彼らは、怖くなってこれら証拠資料を隠したのだった。

犯人の二人は、夜になって移動しようとしていた。次のテロのターゲットがニューヨークだったからだ。彼らは銃を手に入れようとして、MIT構内で待機しているショーンを見つけ出した。彼らは抵抗するショーンに至近距離から何度も発砲し、ショーンを射殺すると、彼の腰から拳銃を奪った。その後、近くに停車していた黒のメルセデスに乗っていたダンを銃で脅し、車を奪い取るとダンを人質にして逃げ去るのだった。車中で、9.11事件の本当の犯人は、アメリカ政府そのものだ、とダンに話すのだった。

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犯人の兄弟が給油のためにガソリンスタンドに立ち寄った時、一瞬のスキをついてダンは逃げ出し、近くのコンビニにで警察へと通報した。兄弟は逃げ去ったが、その直後に警備中だったトミーがダンの元に現れた。彼は、トミーに対して、兄弟がボストン・マラソンでのテロの首謀者であり、次はニューヨークでのテロを計画していると話した。ダンは、トミーの捜査に協力し、彼の車に取り付けたGPS装置の追跡番号を告げた。

警察は、犯人たちを追ってウォータータウンへと向かっていた。ゾハールとタメルランは、ウォータータウンの住宅街で増援にかけつけた警察部隊と激しい銃撃戦になった。タメルランは、数カ所撃たれ、まもなく病院へと運ばれたが、病院で死亡した。ゾハールは現場から逃げ去ってしまった。

犯人の逮捕へ

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次の日、警察はボストン市全域を封鎖し、全力でゾハールの行方を追ってくまなく捜索を行った。ゾハールのルームメイトたちは、ドミトリーにいるところを逮捕された。タメルランの妻、キャサリンも、警察に拘束され、夫タマランのテロ計画に関わっていたかどうか厳しい尋問を受けた。キャサリンは、婦人警官の説得工作にもかかわらず、この件について黙秘を続けていた。

ウォータータウンに住むある男が、芝生の上に置いていたボートの中に、不審な侵入者が入ってきた様子を発見した。通報を受けたトミーは、男を地下室へと避難させると、シートの下に隠れているゾハールを見つけ出し、すぐに応援を要請した。夜までかかり、FBIの専門捜査官たちに取り囲まれ、威嚇射撃を受けたゾカールは間もなく投降し、その場で拘束された。捜査本部は、犯人逮捕の一報を受けると沸き立った。トミーは、同僚たちと事件の解決を祝うためにバーに繰り出していった。

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別の日、ボストン・レッドソックスはテロ解決を祝って、試合前にセレモニーを行った。事件解決に尽力した警察官や、州知事、ボストン市長などが挨拶した。その日のレッドソックスのユニフォームは、胸にいつもの「RED SOX」ではなく、「BOSTON」と縫い付けられていた。ゾハールは、30もの余罪とともに結局死刑が宣告され、現在は連邦刑務所にて服役中も、控訴の準備中である。ゾハールのルームメイトは、捜査妨害の罪で逮捕された。また、警察は、キャサリン・ラッセルを爆破事件への関与がなかったかどうか、なおも捜査を続けている。

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そして、事件捜査に関わった本物のエド・ディヴィス、リック・デスロリエ、ジェフ・ピュジリーズたちのインタビューが続く。彼らは、事件当日の悲劇を乗り越え、より強い連帯とつながりを手に入れていた。最後に、事件で片足を失ったパトリックが、後年のボストン・マラソンに義足で無事に完走を果たしたシーンが映し出された。

そして、最後にこの事件で死亡した4人の犠牲者の写真が映し出された。映画は、被害者・捜査担当者・メディカルスタッフら、この事件に関わった全ての人達に捧げられた。

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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)

リアルな事件の再現から感じる、底知れない恐怖感

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本国ではR指定を受けているだけあって、爆発時の大混乱や、負傷・死亡した各被害者のリアルな流血といったキツい映像表現から、シリアスな捜査シーンまで、詳細に再現されているのです。おまけに映画内で出現する「F***」ワードは約150回ほど。最初から最後までみな遠慮なく連呼しております(笑)そうそう、やっぱりこうでないと!

僕は、大抵のゴア描写・グロ描写は全く平気なのですが、ピーター・バーグの実話3部作に限っては、どうもダメです。本物のリアルさが心底怖いんですよね。

ピーター・バーグの映画の場合、映画内で再現されているディザスターは、実際に起こった実話ベースに基づいた情景なんだと思うと、2011年の震災時に感じた底知れない恐怖感に似たような感情を思い起こさせるのです。映画「バーニングオーシャン」でも、逃げ場のない海上油田火災の恐ろしい情景に、思わず泣きそうになりましたが、今作の爆発シーンの惨状は、これが本当に起こったことなのだと想像すると、前作に匹敵する怖さを感じました。非常にリアルな映像表現は、秀逸だったと思います。

現場の緊張感もリアルで見応え十分だった

事件は、わずか102時間でスピード解決するのですが、その間の捜査状況も非常にシリアスで、丁寧に描かれていました。下手な刑事モノドラマなんか比べ物にならないくらいの緊迫感です。

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空き倉庫に臨時の捜査本部が設置され、知事・市長・FBI・ボストン警察・CIAなど、あらゆる関係者が協力・連携し、時には意見を激しく違えながら、事件の手がかりを一つ一つ追っていくシーンが非常に丁寧に描かれます。立場も人種も考え方も違う、様々な人たちが一致団結して不眠不休で事件を追っていく流れに、アメリカ人の火事場での強さを見たような気がしました。

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犯人を追い詰めた現場での銃撃戦も、非常にリアルでした。アクション映画などでよく見られる「武器を放り出し、なぜか素手で殴り合う主役と悪役」だったり、「激しく撃ち合うも、弾がなぜか当たらない」といったいわゆる映画的な様式美は排され、非常に泥臭い描写が印象的でした。圧倒的多数で犯人を取り囲み、容赦なく蜂の巣にしてみたり、犯人がボートの中に潜んでいるとわかっても、すぐには手を出さず、増援を呼んで、満を持して夜まで待機してから一気に踏み込む描写などは、実際の犯人制圧シーンっぽくてよかったです。

「BOSTON STRONG」~テロに屈せず、より強く結びついた人々の姿

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(Wikipediaより)

本作は、オバマ大統領のスピーチシーンが使われたり、ラストシーンでジョン・F・ケネディの肖像画が映ったり、レッドソックスのセレモニーのシーンで「自由」の尊さについてレッドソックスのオルティーズ選手がコメントしたりと、若干アメリカ国民向けの愛国プロパガンダ映画的な側面があることは確かです。

しかし、それを差し引いても、テロを終えてより結びつきを強め、自由のために連帯する市民の力強い姿には、勇気づけられるものがありました。特に、観客として爆発に待っこまれ、片足ずつ失った被害者のカップルが、2016年には義足をつけて今度は参加者としてマラソンを完走するシーンは、深い感動を呼ぶとともに、彼らがテロを乗り越え、精神的に強く成長したことを強く印象づけました。

ラストシーンのインタビューでも彼らは「大勢の人に支えられ、助けられて強くなった」的なコメントを残していましたが、アメリカ国民だけでなく、映画を見たひとりひとりが勇気づけられる普遍的な描写だったと思います。

5.映画の伏線・設定をめぐる7つの疑問点を徹底考察!

本作は、事件当日の状況や、事件後の捜査状況について詳しく迫っていましたが、その反面、事件そのものが起こった背景や、犯行動機などの描写は省略されています。ここではより映画を掘り下げて理解するため、映画で分かりづらかったいくつかの伏線・設定等の疑問点について解説してみたいと思います。(※随時更新予定)

疑問点1:パトリオットデイ(愛国者の日)とは?

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毎年4月の第3月曜日は、マサチューセッツ州では「パトリオット・デイ」(愛国者の日)という祝日を設けています。1775年の4月19日、ボストン北西部で起こったアメリカ独立戦争が始まる契機となった英米間の戦闘「レキシントンとコンコードの戦い」を記念して設けられた州立記念日なのですね。つまり、「パトリオット・デイ」とは、アメリカ独立と自由の象徴でもあるのです。

映画中でも半分冗談めいて言及されますが、熱狂的なボストン市民はこの日、

①ボストン・マラソンに出場する
②ボストン・マラソンを応援する
③ボストン・レッドソックスの試合を観戦する

それ以外はやってはいけないとされますが(笑)、ボストン・マラソンやレッドソックスは、それだけ地元で愛されている存在だということですね。

公式HPでも、以下の通り簡単に動画で説明してくれていますので、参考に是非チェックしてみてくださいね。

<「パトリオットデイ」とは?>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします

動画がスタートしない方はこちらをクリック

疑問点2:ボストン・マラソンとは?

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ボストン・マラソンは、毎年「パトリオット・デイ」に実施されるマラソン大会なのですが、現在では、東京・シカゴ・ベルリン・ニューヨーク・ロンドンと並んで、世界最高峰の「ワールド・マラソン・メジャーズ」大会となっています。(要するにマラソン界のG1レースみたいなもの)

だから、ボストン・マラソンでテロが起きたということは、いわばワールドカップがテロで中止されたのと同じような強いインパクトがあったのです。

2017年大会、3位になった大迫傑
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日本からも毎年多数の参加者が出走しています。例えば、瀬古利彦は、1981年、1987年と2度優勝しています。2017年は、大迫傑選手が3位になったことで、陸上競技界ではちょっとした話題になりました。高速コースなのですが、35キロ過ぎで魔の上り坂があり、難易度は割りと高めだと言われます。日本では深夜の時間帯ですが、毎年衛星放送やCSで完全中継されています。

疑問点3:映画はどれだけ実話を反映しているの?

最初からラストまで、実際の出来事の再現度は非常に高く、ロケーションの約70%が、実際の出来事が起こったところと同じ場所で撮影されました。

また、バーグ監督と制作チームは、正確な出来事の再現のため、地元の警察署、FBI、州警察、様々な法執行機関、地域や組織のリーダーたち、被害者などに会って、徹底したリサーチを行いました。

唯一フィクションだったのが、主役のマーク・ウォールバーグ扮するトミー・サンダースと、その奥さんのキャロルです。

主人公は実在の人物ではない!f:id:hisatsugu79:20170609155945j:plain

トミー・サンダースは、事件の重要シーンのどこにでもタイミング良く神出鬼没でしたね(笑)テロの爆発シーンに始まり、人質救出シーン、タメルラン・ゾハールとの銃撃戦、ゾハール逮捕シーンと全てのシーンに必ず居合わせる大活躍でした。

これは、いわゆる実話系ドキュメンタリー映画でよく使われる「合成キャラ」という手法で、実際に事件に関わった何人かの警察官達の行動を合体させたキャラクターだったそうです。映画的なストーリーのフックを持たせ、主人公を語り手にするための手法としてここは致し方ないところでしょうか?

疑問点4:ゾハールの友人たちはなぜ逮捕されたのか?

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(Wikipediaより)

ゾハールは、大学内でドラッグの仲介人をしていました。学生寮の仲間たちは、ゾハールの部屋でドラッグを探していたところ、爆薬を作った材料と思しきブツが大量に見つかりました。その前にテロ事件でのゾハールの関与を疑い、ゾハールとメッセージのやりとりをしていた仲間たちは、(実際には無関係だったが)ゾハールとの共犯関係を疑われてはいけないと思い、爆薬を隠して、嘘の供述をしたのです。これにより、テロ事件の証拠隠滅を図った罪に問われて収監されました。

疑問点5:犯人の2人はどんな人物だったのか?

ゾハール(実物画像)
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(Wikipediaより)

二人は、チェチェン人の父、アヴァール人の母から旧ソビエト連邦自治領内(現ロシア)で生まれ、自らを「チェチェン人」として位置づけています。ツァルナエフ家は、2002年にアメリカへと移住してきました。二人は、特に母親の影響で、熱心なイスラム教徒でした。成人するとともに、彼らはより過激な思想へと傾倒するようになっていきました。そのため、事件前からイスラム過激派の要注意人物として政府から目を付けられていました。

事件後、余罪としてアメリカ国内で起きた他のテロ事件への関与や、自爆テロなどさらなるテロ事件を計画していたことが判明しています。 

疑問点6:犯人の動機は何だったのか?

事件後のゾハールの自白によると、彼らはイラクやアフガニスタンにおけるアメリカ軍のイスラム国家への侵略行為への報復として、爆破事件を計画したのだそうです。ただ、アルカイダ等の組織との直接の関与はなく、彼らが自分自身で思い詰め、実行したテロでした。

ちなみに、自作した爆発物製作のノウハウは、イエメンにあるアルカイダ系組織のオンラインマガジンの内容からネット経由で学んだものだったそうです。

疑問点7:犯人の妻、キャサリンを尋問した謎の捜査官は誰だったのか?

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直接は説明されている資料はありませんが、(弁護士を呼ばせないなど)尋問中に国内法を適用せず超法規的な尋問を行っていたため、明らかに警察関係者ではありません。

具体的には、HIG(High-Value Detainee Interrogation Group)というオバマ大統領直轄の国際テロ捜査機関だと思われます。2009年に設立されたこの組織は、CIAやFBI、国防省、外交省から、諜報活動の担当者を集め、大統領の指示により国際テロ犯罪を中心に捜査を進めることを主目的としていました。映画内でも、彼らが到着した途端、FBIも事情を察したのか、何の文句も言わずにキャサリンの尋問を彼らに任せていたのが印象的でした。

6.まとめ

 一部、映画的な脚色や過剰演出はあったものの、基本的には事実関係を丁寧に取材した中で、リアルに再現されたハイクオリティな映画でした。テロの恐怖と、そこから立ち上がる人々の強さが非常に印象的な傑作だと思います。オススメ!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年6月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

「ローン・サバイバー」

マーク・ウォールバーグ主演のピーター・バーグ監督の実話モノ第1弾にして、大傑作の戦争エンタテイメント作品。2005年6月、アフガニスタンにて「レッドウィング作戦」という敵ゲリラの掃討作戦に失敗し、多数のタリバン達に囲まれながら生き延びたネイビー・シールズ所属のある兵士の1日をリアルに描き出した作品。2014年アカデミー賞2部門にノミネートされ、全米で大ヒットしました。これはオススメ!

ピーター・バーグ監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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上記でオススメした関連作品以外にも、ピーター・バーグ監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。ピーターバーグ監督作品はU-NEXT4作品、全て「見放題」でチェックすることが出来ます。

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