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【ネタバレ有】映画『マリアンヌ』感想とあらすじの徹底解説!/戦時下の壮大で美しいサスペンス悲劇!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月10日に上映開始となったロバート・ゼメキス監督最新作「マリアンヌ」を見てきました。モロッコ(フランス領)、イギリス、フランスと、ヨーロッパ各地を舞台とした第二次大戦下の悲劇的なラブストーリーは見応え十分でした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画の基本情報

<「マリアンヌ」日本版予告編>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ロバート・ゼメキス(「バック・トゥー・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」他多数)
【脚本】スティーヴン・ナイト
【配給】東和ピクチャーズ
【時間】124分
アメコミ原作モノやリブート作品、シリーズ物があふれかえるハリウッド作品において、敢然とオリジナル脚本で、ハリウッド黄金期のような壮大なラブストーリーを作り上げたロバート・ゼメキス監督。

1940年代の戦時下の環境を表現するため、ゼメキス監督が得意とする数々の視覚効果もふんだんに織り込まれ、世界的な俳優二人を主演に据えたオリジナル大作作品に仕上がりました。なお、第89回アカデミー賞では、衣装デザイン賞にノミネートされています。

2.主要登場人物とキャスト

登場人物自体は沢山出てくるのですが、結局はブラッド・ピット扮するマックスと、マリオン・コティヤール扮するマリアンヌにしか目が行きません(笑)あれこれと脇役に目移りしがちな洋画では珍しいかも。

マックス(ブラッド・ピット)f:id:hisatsugu79:20170210200152j:plain

イギリスの特殊作戦執行部(SOE)付きのカナダ人パイロットにして、秘密諜報員。ブラピももう50代ですが、全く年齢を感じさせない熱演。撮影現場では、脇役のキャストたちに演技面でのインスピレーションを与えていたようです。

マリアンヌ(マリオン・コティヤール)f:id:hisatsugu79:20170210200206j:plain

フランスのレジスタンス、ドイツ軍の二重スパイを務めたマリアンヌ役には、今やフランスを代表する大女優となったマリオン・コティヤール。ちょうど同時放映中「たかが世界の終わり」ではフランス語、こちらではフランス語と英語での演技。すごすぎます。
フランク(ジャレッド・ハリス)
諜報機関におけるマックスの上司役。良き理解者として、マックスに様々な局面で有益なアドバイスを送る。
ブリジット(リジー・キャプラン)
マックスの妹。同じく諜報機関に所属し、同性愛者。1940年代にオープンなレズビアンが存在するのは難しかったのでは?

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

マックスとマリアンヌの出会い~ナチスの大使暗殺作戦

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1942年、フランス領モロッコー。マックス・バタンは、パラシュートで砂漠へと降り立った。諜報員がドライバーに扮するタクシーでカサブランカの街に向かい、マックスは「クラブ内で紫の”ハチドリ”のドレスを着た女と合流しろ。」と指示を受けた。

マックスは、そこでマリアンヌ・ボーセジュールという女性諜報員と合流した。合流して早々、夫婦という設定で周りと溶け込むマリアンヌとマックス。友人たちに見送られ、アジトとなる家へ向かう車の中で、マリアンヌはマックスに挨拶をしたが、マックスのフランス語のケベック訛がひどい、と指摘した。

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マックスとマリアンヌは、モロッコの在フランス大使館におけるナチスの大使暗殺計画に関わっていた。彼らは偽装をなじませ、作戦を完璧に遂行するため、実際に新婚の夫婦のように共に暮らし、友人たちにもマックスを「夫」だと紹介した。作戦途中で、マックスの素性に気づいたナチスの諜報員もいたが、気づいたマックスが始末した。

やがて二人は作戦に使用する銃での演習を行い、また、前日には大使館でのホバー大使主催のパーティに入るため、ホバー大使と顔合わせも行い、念入りに信用の構築に務めるなど、作戦当日の準備を進めていった。

親密になった二人は、作戦終了後、ロンドンへ。

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彼らは夫婦を演じるうち、お互いに急速に惹かれていった。そして、パーティでの暗殺作戦の前日、砂漠の嵐の中、彼らは本当に結ばれるのだった。

そして、とうとう複数のナチス達が集まったパーティ当日。手はず通り、建物外で連携する諜報員が起こした爆発をきっかけに、彼らは作戦を決行した。マックスとマリアンヌはナチスの高官たちの暗殺に成功した。

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決死の覚悟で臨んだ作戦だったが、二人共無傷で生き残ったため、マックスは、マリアンヌに「ロンドンで結婚して一緒に暮らそう」と提案し、二人はロンドンで小さな結婚式を挙げた。結婚式の日、すでにマリアンヌのお腹の中には二人の子供を妊娠していた。第二次大戦が始まり、ロンドンにもナチスの空爆が始まった。マリアンヌは、空襲が激しくなる中、マックスとの子供を出産した。子供の名はアンと名付けた。

妻、マリアンヌへの二重スパイ疑惑

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1年後、マックスとマリアンヌはハムステッドに新居を構え、幸せな家庭生活を送っていた。その矢先、マックスは、上官のフランク・ヘスロップとSOEの高官に呼び出された。

彼らは、マックスに、彼の妻マリアンヌがドイツ軍のスパイであるという疑いをかけていた。レジスタンスに在籍したマリアンヌ・ボーセジュールという人物は実際には1941年に亡くなっており、妻が名前を利用してスパイ活動をしているというのだ。

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さらに、彼らがカサブランカで殺害したホバーは、ドイツ帝国の反体制分子であり、暗殺はヒトラーの意思に沿ったものだったというのだ。彼らは、マリアンヌに対して嘘情報を流し、それがドイツ軍に伝わるかどうか確認するテストを行うと告げられた。

72時間の猶予を与え、もしマリアンヌがスパイと分かったら、マックスにマリアンヌを始末するように指示をした。でなければ、逆に大逆罪でマックスを始末する、との非常な通告も受けるマックス。

マックスの苦悩と独自調査

マックスは、突然の通告に怒りととまどいを覚えながらも、妻の無実を信じて独自で調査を開始することにした。

手始めに、1941年にフランス北部、ディエップでマリアンヌとレジスタンスで活動したことがあり、マックスの同僚だった、ガイ・サングスタを訪れた。妻の写真を諜報活動でドイツ軍から負った負傷で、顔は銃創の跡が痛々しく残り、両目の視力を失っていた。ガイは、同じく1941年にディエップのレジスタンスで一緒に活動したドラマールに会えと指示をした。

そこで、彼は空港へ向かい、彼の部下にディエップへ飛び、マリアンヌを知る、と言われたドラマールに妻の写真を見せて、見覚えがあるかどうか確認し、結果を持ち帰るように伝えた。

その夜、マックスとマリアンヌの家で、ホームパーティが開催された。沢山のゲストが来訪した中、上官のフランクたちもマックスの様子を探りに来た。Vセクションは、D-DAYに向けてマックスが使えるかどうか、今回の疑惑を彼への「テスト」として位置付けているという。また、ディエップに向かった彼の部下は、ドイツ軍に殺されてしまったとのことだった。

また、マックスは、パーティ中に妻と話し込む怪しい宝石商を見つけ、問いただそうとしたが、妻に間に入られてしまい、うやむやになってしまう。

パーティの終盤、突如ロンドン郊外にもドイツ軍の空襲があった。イギリス軍が応戦し、撃ち落とした飛行機が、マックスの家に向かって墜落してきたが、直撃することはなく、何とか間一髪彼らは難を逃れた。

翌日、マックスとマリアンヌは、1日休暇を取って子供と3人で水入らずの日を過ごした。これが、二人にとって、最後の幸せな一日となった。

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その晩、マックスは単身ディエップへ飛び、現地のレジスタンスと合流した。彼らの手引で、ドイツ軍の監視をかいくぐって、デラマールが捕まっている監獄へたどり着き、デラマールとなんとか会うことができた。

デラマールは酷く泥酔していたが、彼はマリアンヌの写真には見覚えが無いという。そして、彼の知るマリアンヌは、ピアノを弾く姿が印象的だったと語った。「ラ・マルセイエーズ」をドイツ軍占領下、恐れずによく弾いてくれたと記憶があるという。

二人の変わらぬ愛情は、悲劇的な結末へ

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翌朝、自宅へ戻ったマックスは、行きつけのパブにマリアンヌを連れていき、「ラ・マルセイエーズ」を弾くように伝えたが、マリアンヌは弾くことができなかった。マリアンヌは、マックスがマリアンヌの素性を知ってしまったということを悟った。

彼女はピアノを閉じ、ドイツ軍のスパイであることを白状したが、それはドイツ軍から娘の命を脅されてやっていたことで、夫を愛する気持ちは本物だったとマックスに告げた。苦悩したが、マックスは妻と逃げることを決意した。

マックスは逃げる前に、ナチスの諜報員だった彼らの乳母と宝石商を殺し、その足で空港へと向かった。そして、飛行機で飛び立とうとしたその時、フランク達がマックス達の元へ到着した。

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フランクとマックスは対決し、マックスを裏切りの罪で連行しようとした。マリアンヌは車を降り、最後にマックスに愛している、子供をよろしく頼む、と言い残して、自殺した。フランクは、マックスがマリアンヌを始末した、と他の兵士たちに伝えた。

マリアンヌは、死ぬ前日の夜に、アンが大きくなった時に読めるよう、遺書を遺していた。手紙には、彼女がマックスとアン、そしてロンドンで共に過ごした日々をどれだけ愛していたか書き綴られていた。そして、マックスとアンは、今も元気にマックスの長年切望してきたの移住先、メディシン・ハットで暮らしている。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

ロバート・ゼメキス監督らしい、手の込んだ、スケール感の大きなストーリーだった

本作は、第二次世界大戦下で、カサブランカ、ロンドン、ディエップ(フランス北部)など、ヨーロッパ各地を股にかけた、広大な舞台で繰り広げられるサスペンス・ラブストーリーでした。パンフレットには、

ゼメキスの長く多岐にわたるキャリアは、視覚的革新性と文化的影響力によって特徴づけられる。

と短く要約されていますが、本作は、まさにこの説明の通り。

史実に極めて肉薄し、深い考証を経て作られた第二次世界大戦中の様々な場面設定は、映画製作者や歴史愛好者にはたまらないと思います。そして、砂漠の砂嵐や空襲シーンなどでふんだんに使われたCG、VFXは、映画全体のスケール感を支えるための極めて大きな役割を果たしていました。

史実を掘り下げた「フォレスト・ガンプ」や、80年代にその斬新な映像で世界中に影響を与えた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのエッセンスが、全て結実した大作だったと思います。

戦争とスパイ任務に試される二人の愛

この映画の最大の見所は、戦争ではぐくまれ、ふたたび戦争によって根底から試された二人の関係や、心情の移り変わりです。アクションよりも、会話のやり取りが進む中で、二人の気持ちが揺らぎ、苦悩する姿が効果的に描かれていました。

第二次大戦中という特殊な非日常環境の下、しかも互いに身分を公然と明かせないスパイ任務という極めて緊張を強いられる毎日で、二人の愛は一気に高まっていきました。往々にして人間は緊迫した、非日常的な環境下の方が絆が深まるものですが、人を殺戮する戦争が、二人の恋愛関係を成就させたのは、皮肉なものだと感じました。

そして、後半は戦争のために国に忠誠を尽くさなければならない一方で、二人の結婚生活どころか、生命が失われる危機に陥ります。同じ戦争を描いた映画「この世界の片隅に」でも、戦争によって否応なく主人公、すずの生活が壊されていきましたが、本作でもやはり戦争が二人を大きく引き裂く元凶になってしまいました。

アカデミー賞ノミネート!主人公たちのゴージャスな服装は要注目

今作は、第89回アカデミー賞で「衣装デザイン賞」にノミネートされているように、特にマリアンヌとマックスが様々な場面で着ている衣装が、非常に洗練されていました。

特に、マリアンヌのカサブランカで着ている豪華な服装は、1940年代の映画女優のような華やかさ。対するマックスの服装も、ものすごく高そうな高級スーツ路線です。

華やかな場面では、派手でゴージャスなものを、二人に危機が迫る後半ではダークで落ち着きのある服装で、各場面をよく盛り上げていました。今作では、彼ら主人公の衣装にも要注目だと思います。

ヨーロッパでの空襲シーンを初めて見た

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これまで、戦争映画やドラマで僕が見てきた「空襲シーン」は、全部東京や横浜、広島といった、日本の大都市のどこかに焼夷弾が落ちてくる場面ばかりでした。ヨーロッパで日常生活シーンで空襲を描いた映画は、今作が初めて。

映画では、カサブランカのシーンが終わり、ロンドンの場面に切り替わった途端、ナチスによる空襲で散乱した商店のショーウィンドーのかけらを女性が踏みしめる「ザクッ、ザクッ」という音で、まずハッとさせられました。

そして、2度の空襲シーン。空襲で病院を焼け出される中、出産するマリアンヌ、そしてパーティ中に自宅に突っ込んでくる戦闘機など、かなり生々しく描かれています。

いくつかの写真展で、ドイツ軍に占領されるパリ市内とか、ガレキだらけになったロンドン市内の様子は見たことがあったのですが、実際に映像で再現されてみると、「えっ、ロンドンでも空襲があったんだ・・・」と改めて第二次大戦の凄まじさを少し体感できました。

空襲中の出産シーン
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ただ、空襲があろうと戦時中であろうと、それに負けずに力強く生活する人々の姿が意識的に映画中で描かれていたのは良かったかなと思います。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

原題「Allied」の意味とは?

映画「マリアンヌ」の原題は、「ALLIED」です。
辞書で調べると、主に2つの意味があります。

▶第二次世界大戦における「連合国」
▶似た者同士。同類

この映画は、第二次世界大戦中において主にイギリス・フランスなど「連合国側」の視点で描かれた作品でした。そして、主人公二人は、共に「秘密諜報員」であったことから、似た者同士、同類でもあります。うまくつけられたタイトルです。

ちなみに、邦題につけられた「マリアンヌ」という女性の名前は、フランス共和国を象徴する女性のイメージだったりフランスでは「女神」につけられる名称です。レジスタンスにいた最もフランス的な存在を体現したマリアンヌという名前の戦士が、実は二重スパイだった、という意味で、この邦題も味わい深い響きがありました。

映画「マリアンヌ」の脚本は実話に基づいたストーリーなのか?

脚本を手掛けたスティーヴン・ナイトによると、彼が21歳の時、付き合っていた彼女から、口頭で聞いた伝聞での話だそうです。「カナダ人のスパイと元教師のフランス人レジスタンスが任務で知り合い、結婚後に妻の二重スパイ疑惑が発覚した」というストーリーに感銘を受けたスティーヴン・ナイトは、この内容を覚えていていつの日か映画の脚本にしたい、という思いを強く持っていました。

ちなみに、歴史上の史実資料には本作の出来事を裏付けるような明確なエビデンスは見つかっていません。実話なのか作り話なのか?と言われたら、微妙なラインですね。

第二次世界大戦中、敵国同士のカップルが結婚するケースはかなりあった

とは言え、第二次世界大戦中、敵国同士の男女が知り合い、戦争中に密かに恋愛関係となってから、大戦後に結婚したケースはかなりあったそうです。最も典型的な例として、占領下のフランスで、ドイツ軍の男性兵士とフランスの女性のカップルの間に、200,000人の子供が誕生した事実があるそうです。

How accurate is Allied? True story behind WWII movie | The Week UK

Vセクションとは?

この映画で、たびたび諜報機関関係の人々が口にする「V Section」。映画中では、どの組織でどういった位置付けのグループなのか、明確な説明がありませんでした。(が、何となくトップシークレットな存在であることは匂わされていました)

この「V Section」は、実際には実在しない機関と思われます。ただ、モデルとなっているのは、恐らく戦時下のイギリス諜報機関 British Secret Intelligence Service (SIS)において、スパイ活動に対抗する「防諜」活動を行う「Section V」と呼ばれるチームと思われます。第2次大戦では、この「Section V」は枢軸国側(主にドイツ)のスパイ活動を撹乱し、混乱させる役割があったようです。

マックスの憧れの地、メディシン・ハットは、実在するカナダの街だった

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(Wikipediaより)

映画冒頭で、マリアンヌに出会ったマックスが「引退後はメディシン・ハットで農場を開きたい」と言っていました。これは、マックスの故郷、ケベックからは離れていますが、実際にカナダ西部のアルバータ州に実在する街の名前です。

最後に父娘で農場で二人仲良く歩く後ろ姿がちらっと出てきましたが、彼らはマリアンヌを失ったあと、カナダに戻ってのんびりと農場経営をして生活していたのでしょうね。

6.まとめ

ロバート・ゼメキス監督の最新作は、スケール感の大きい壮大で美しいサスペンス・ラブストーリーに仕上がっていました。どうやったら主人公たちの心の移り変わりをより効果的に表現できるか、こだわり抜いて製作された素晴らしい作品でした。2回、3回と楽しめる良い作品だと思います。オススメ。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画など

ここでは、映画「マリアンヌ」をきっかけに、次はロバート・ゼメキス監督のどの作品を見ていけばいいか、あるいはブラッド・ピットの次に見るべきおすすめ作品を紹介しています。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作

ロバート・ゼメキス監督の最大の代表作。ゼメキス監督のストーリーテリングや映像技術に対するこだわりが爆発した名作。映画だけでなく、マンガやアニメなど、様々なジャンルの後続作品に多大な影響も与えました。今見返しても、非常に新鮮な気持ちで見れます。

映画「フォレスト・ガンプ」

今作「マリアンヌ」同様、ゼメキス監督がアメリカ現代史の史実に基づいて、素朴なキャラクター、フォレスト・ガンプの一生を描いた映画。アカデミー賞6部門を独占した、意外性と感動に満ちた大傑作にして、ロバート・ゼメキス監督の代表作です。

映画「フューリー」

第二次世界大戦ものは、「マリアンヌ」で6作品目の出演となる、円熟したブラッド・ピットの渾身の演技が素晴らしい作品。「フューリー」では、ドイツ軍300人を相手にたった5人で捨て身の戦争に挑んだ男たちのリーダー役として熱演しています。中年期以降のブラピの作品の中では、これが一番オススメ!

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上記でオススメした関連作品以外にも、ロバート・ゼメキス監督作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。

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【ネタバレ有】「サバイバルファミリー」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/オールロケにこだわった災害映画の秀作!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月11日に封切られた矢口史靖監督の映画最新作「サバイバルファミリー」を見てきました。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画の基本情報

<公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】矢口史靖(「ウォーターボーイズ」「スゥイング・ガールズ」「ウッジョブ!」「ハッピー・フライト」)

【配給】東宝
【時間】117分
【原作】矢口史靖「小説版:サバイバル・ファミリー

また、本作品は、東宝の公式チャンネルから前後編合わせて30分近くのメイキング動画もアップされています。映画の予習に見ておくと、さらに本編が楽しめます。今後まず他の映画では実現しない高速道路の撮影シーン裏話は必見!それぞれ、下記の画像をクリックすると、Youtubeがスタートします。

<メイキング動画前編>

<メイキング動画後編>

2.映画「サバイバル・ファミリー」の主要登場人物とキャスト

キャスト陣は、これまでの矢口史靖監督の過去作でたびたび出演している小日向文世を主演に、監督の信頼するベテラン・キャスト陣(深津絵里/矢口作品2回目、柄本明/同3回目、時任三郎/同2回目)で脇を固め、プロの俳優達が揃いました。

鈴木義之(小日向文世)
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鈴木家の頼りない家長。内弁慶で亭主関白、そして見栄っ張りで口だけなダメオヤジ。実生活でも同じような年頃の子供がいる小日向文世の演技は、日常生活からそのまま飛び出てきたようなリアルさが素晴らしかったです。カツラってこういうふうにつけてるんだ、って初めて知りました(笑)

鈴木光恵(深津絵里)
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厳しいディザスター的な環境下にいても、楽観的でおっとりした雰囲気で家族のムードメーカーとなる母親。どんなキャラを演じても、ソツなく地に足の着いたキャラクターでしっかりとドラマを締めてくれる女優ですね。

鈴木賢司(泉澤祐希)
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鈴木家の長男。IT機器・ガジェット類に自分の興味関心が集中しており、その他の衣食住への執着は薄い。まるでミニマリストのような生活スタイルだが、だからといって完全にオタク気質なわけではなく、それなりに女性にも興味がある。泉澤祐希のオールマイティな演技力は、イケメンすぎず、ダメすぎずといったちょうどよい感じの役柄にフィットしていたと思います。

鈴木結衣(葵わかな)
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鈴木家の長女。クラスでの「オシャレ」クラスタでの人間関係維持に忙しいが、本当は辟易しており、自分らしくありたい願望も持っている。年頃の女子らしく、兄、父には生理的な嫌悪感を隠そうともしない演技が痛快でした。

齋藤敏夫(時任三郎)
「ハッピーフライト」での教官役以来、2度目の起用となった時任三郎。字幕では「友情出演」と出ていました。
齋藤静子(藤原紀香)
オフィシャルでのキャラクター紹介に「いけ好かない母親」と書かれていましたが、こういう意識高い系のキャラクターを演じさせれば藤原紀香はぴったりですね。よく本人も受けたなこの役・・・
高橋亮三(宅麻伸)
会社での義之の上司。出世が遅れて冴えない義之に比べて、若い奥さんに3人の子宝、そしてできるエリート然としたビジネスマン役として出ています。

田中義一(大地康雄)
鈴木家が疲労困憊していた時に自宅近くで出会い、彼らを家に宿泊させる。

佐々木重臣(柄本明)
母、光恵の実父。鹿児島の農村で家庭菜園を営み、釣りが趣味とサバイバル能力は非常に高い。ちなみに、柄本明は矢口組での起用が3回目。毎回、それなりの脇役で多彩な役柄を演じています。

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.鈴木家に試練を与えた突然の大停電

鈴木家は、どこにでもいるような平凡で都会の生活に慣れた、東京郊外の公団マンションに住む4人家族だった。

父、義之は、亭主関白で、会社人間なサラリーマン。会社では経理部長を任されており、現在は決算前の多忙な時期だ。母、光恵は少しおっとりした専業主婦。2児の母として堅実に家庭を切り盛りするも、魚をさばいたり、手の込んだ料理は苦手である。そして、兄、賢司は電子ガジェットマニアな大学生。デジタル機器と自転車があれば、それで生活が事足りるオタク気質も持っている。妹、結衣は高校生で、クラスの「おしゃれ系」クラスタの人間関係維持に執心中で、LINEでのやり取りにハマっている。

鈴木家の家族は4人とも、同じ家で生活をしていても、バラバラだ。お互いを気遣う余裕はあまりなく、最近は灰色な生活が続いていた。

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そんな中、ある日朝起きたら突然電気が使えなくなっていた。しかも、タダの停電ではなく、電池や電源で動く機械や車、水道、トイレ、マンションのエレベータなども機能しなくなっていた。かろうじて、鈴木家でも、かろうじて携帯用ガスコンロだけが満足に動く有様だ。

それでも何とか日常生活を続けようと、父、義之は電車で、兄、賢司は自転車で、妹、結衣は徒歩で家の外に出た。

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義之が駅に着くと、電車は完全にストップしていた。ホームには人が溢れ、ラチが開かない。早々に電車を諦めた義之は、2つ隣の駅にある会社へ徒歩で向かうことにした。会社に着くと、今度は電子制御されているエントランスのカギが開かない。叩き割って中に入ったが、資料は全てパソコン上に保存されている上、社員の半分も出社していなかった。上司である高橋から、帰宅指示が出たため、決算資料を持って義之は帰宅した。

また、光恵はとりあえず近くのスーパーに非常食の買い出しに出かけることにした。真っ暗なスーパーで、そろばん片手に現金清算のみとなったレジには長蛇の列ができていた。

晩になっても電気が回復しないため、結局その日は家族揃ってろうそくの明かりの中、非常食を食べた。夕食後は、家族全員で夜空の光を楽しんだ。町中の明かりが消えたので、東京でもくっきりと天の川が見えたのだった。

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そして3日目。妹、結衣のクラスにはすでに数名しか来ていなかった。会社も、この日から全員正式に自宅待機となった。上司である高橋も、家族を連れて山のキャンプ場に避難するとのことだった。義之は、帰宅途中で銀行に立ち寄ったが、ATMカードが使えない上、預金者が殺到していた。結局、殺気立った預金者たちにもみくちゃにされて、資料も踏まれたうえ、1円も下ろせなかった。

3-2.母・光恵の実家、鹿児島へ旅立つ鈴木家の4人

大停電から1週間。スーパーの棚はすっからかんとなり、学校も会社も休業となリ、今後の対策をマンションの住民集会で話し合ったが、結論は出なかった。そんな中、隣の住人がいち早くマンションを出ていった。残されたペットの鳴き声が悲しげに響いていた。

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これを見て、義之も羽田空港から、妻、光恵の父が住む鹿児島へと疎開することを決意した。事前に調達しておいた自転車で羽田まで行って、そこから飛行機で鹿児島へ飛ぶプランだ。

翌日朝早く、山のように荷物を抱えて鈴木家4人は羽田空港へ向かった。道中、どんどん水の値段が高くなったが、光恵が主婦の粘りで値切って大量に水を手に入れることができた。また、途中で休憩した公園では、浮浪者が鯉を勝手に干物にしていたり、公園内のトイレがひどい状態になっていたりと、驚きの光景を目にした4人だった。

やがて羽田空港に着いたが、案の定飛行機は飛んでいなかった。辺りは騒然としており、暴動寸前だった。詰めかけた客と警備員との間で小競り合い続く中、4人は一旦宿を取ることにした。素泊まり1泊3万円のボッタクリ価格だった。

ふたたびその晩家族会議を行った結果、やはり鹿児島へ向かうことにした。自宅に戻っても、ジリ貧になるからだ。翌日、閉まっていたブックオフで「るるぶ鹿児島」を手に入れ、ウィスキー2本と自転車・米10キロを交換して確保すると、4人はその地図を頼りに自転車で鹿児島へ向かった。

3-3.自転車で鹿児島へ!本格的なサバイバル生活のスタート

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しかし、地図が不正確で、たびたび道に迷ってしまう。途方に暮れた時、母、光恵がちょうど目の前に東名高速川崎ICの入り口を見つけた。光恵の発案で、彼らは高速道路で鹿児島を目指すことにした。

その日の夜は海老名SAで野宿することになった。寒くて寝付けない中、深夜に水のペットボトルを盗まれた。犯人を追った兄、賢司は、犯人がその水を使って乳児に粉ミルクを与えているのを見て、複雑な気持ちになった。

道中、様々な失敗や困難が彼ら4人に待っていた。途中で立ち寄った富士川では、水を飲みすぎた父・義之が下痢で腹を下し、大雨にあって米や持ち物の幾つかが台無しになった。その時は、兄・賢司と妹・結衣が近くのホームセンターで代替の飲み水となる自動車用の精製水と、代替食料としてペット用缶詰を入手して事なきを得た。

また、高速道路の旅の意外な難所は、明かりの消えたトンネルだった。静岡にある長大な「日本坂トンネル」では、盲目のガイドに助けられながら何とか走りきった。

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ようやくサバイバル生活も板についてきた22日目、浜松を過ぎた頃、爽やかに野宿をする家族、斉藤家と出会った。彼らはサバイバル生活の達人のようで、燻製の食料を常備しており、サバイバルの知識もふんだんに持っていた。父・義之は一人ライバル意識を燃やしたが、名古屋まで同行することになった。

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名古屋で斉藤家と別れて43日目。大阪にようやく到着したが、やはり状況はかわらず、大阪も東京と同じく、都市機能を停止していた。通天閣の前で、とうとう兄・賢司、妹・結衣は独断専横の父への不満が爆発してしまう。それを聞いていた母・光恵も「お父さんはそういう人なんだから!」とたしなめたが、義之へのフォローになっていなかった。

大阪では、炊き出しの列に並んだが、運悪く彼らの直前で配給が終了してしまう。父・義之は土下座までして食料をなんとか得ようとしたが、どうにもならなかった。

そして67日目。岡山近辺の田園風景が広がる畑のあぜ道で、とうとう彼らは空腹と疲れのあまり、精魂尽き果てかけていた。その時、彼らは畑をさまよう豚を見かける。何とか豚を仕留めたところで、飼い主が現れた。その日は彼の家に宿泊し、残りの逃げ出した豚を捕まえることを前提に、衣食住の提供を受けられることになった。久々のまともな食事に涙が止まらない妹・結衣だった。

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翌日以降、1週間ほど田中家にとどまり、豚を柵に追い込む仕事をしながら、旅の支度を整えた鈴木家だった。一人暮らしが長い田中から、ここにずっと居ても良いと言われたが、やはり鹿児島を目指すことにした。

3-4.父・義之の遭難、母・光恵のケガで絶体絶命に!

しばらく順調だったが、すぐにやはり困難が待っていた。川にかかっているはずの橋がなく、戻るにも困難な状況で、父・義之は黙々といかだを組み始めた。

家族全員で協力して作った即席のいかだで、まず家族を向こう岸に渡してから、その後自転車を渡そうとしたとき、急に大雨が降ってきて、いかだがバラバラになって急流に流されてしまった。兄・賢司は何とか泳ぎきって助かったが、父・義之は下流に流されていった。また、自転車は4台とも失ってしまった。

あとには、父親のかつらだけが残されていた。仕方なく、残された3人で旅を続けることになった。

94日目。今度は、母親がケガをして動けなくなってしまう。歩いて電車の線路沿いに旅を続けていた3人だったが、野犬の群れに燻製の入ったバックパックを引っ掻き回され、そのはずみでガケに落ちたとき、足をくじいたのだ。

動けなくなった母を抱えて、野犬達と対峙して命の危険も感じていた絶体絶命となったその時、蒸気機関車が彼らの前に現れた。機関車に乗せてもらい、しばらく手当を受けていると、車窓から遠く発煙筒を手にする父・義之の姿が見えたので、機関車に止まってもらい、義之も奇跡的にピックアップすることができた。泣いて再会を喜ぶ4人だった。

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4人は、途中慣れない機関車の窓を開けっ放しでトンネルですすだらけになりつつも、何とか鹿児島で光恵の父・重臣のところまでたどり着くことができた。

重臣の村は、漁村だった。それから2年半、男たちは漁に出て魚を取り、女たちは機織りや野菜づくりで自給自足の生活で生き抜いた。

3-5.突然電気が戻り、東京での生活へ戻った4人

そんな中、ある日突然日本全体に電気が戻った。原因はサイバーテロ等、人為的なものではなく、太陽フレアの影響などが考えられたが、停電時の記録が一切残っていなかったので、結局わからないままだった。

鈴木家は、ふたたび東京に戻ってきて都会での生活を初めたが、彼らはすっかりたくましくなっていた。自転車通勤をはじめた父・義之、ガジェットを捨て、ギターを始めた兄・賢司、手芸を始めた妹・結衣。そして、彼らのもとに1通の手紙が届いた。それは、道中で出会った斉藤家に撮ってもらった家族の写真だった。 

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4.映画の感想と評価(※ネタバレ有注意)

CGなしのオールロケで、極力リアリティを出そうとした労作

本作は、CG、VFXを一切使わず、全て日本各地でのロケの積み重ねで製作されました。消えた信号機、駅ホームや空港での群衆のシーン、豚との格闘、筏での遭難シーン、蒸気機関車C751の乗車シーンなど、予算も限られる中、かなり頑張って場面設定にリアリティを出そうとしていました。

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一番の見所は、メイキング映像でも矢口監督が自賛していたとおり、東名高速の川崎インターから高速道路に乗って自転車で移動をするシーン。(本当は東名高速は3車線とか)細かいディテールの違いはあるものの、まさか本物の高速道路を確保して通行止めにしてまで映像にこだわるとは。。。「CGにするくらいなら、映画企画自体をボツにしてしまおう」という不退転の決意で徹底的にロケでの撮影にこだわった矢口監督の執念が乗った力作でした。過去作「ハッピー・フライト」でも徹底的にリサーチして、航空業界の裏まで見せてくれましたが、今作も綿密なロケハンとシミュレーションに裏打ちされた作品だったと思います。

極限状態での群集心理や起きうる事象を丁寧にシミュレーションしている

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さらに、家族のサバイバル・ロードの道中で、実際に電気がなくなった時に起きうる様々な問題点も、合わせてしっかり描かれていたのは見ごたえ十分でした。

銀行の取り付け騒ぎ、暴動、弱みに付け込んだあこぎな商売、窃盗などのネガティブな面はもちろん、本当にどん底な状況では、人々は物々交換で糊口を凌ぎ、普段あんなにありがたがっている「お金」が全く用をなさなくなっていくところなどは非常に興味深いです。

災害時に最終的に役立つのは、アナログでシンプルな仕組み

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また、物流が止まり、電気が使えない中で一番使える移動手段が「自転車」だったのは印象的でした。足回りは簡単に修理できるし、徒歩よりも断然機動力が高くて、荷物も載せられて小回りも利くわけです。

東日本大震災時当日、電車が不通となり、徒歩で自宅への帰宅を余儀なくされる中、飛ぶように東京都心で自転車が売れたというエピソードを思い出しました。(映画でも、普段なら絶対買わないようなダサい3輪自転車を44,800円で義之が買っていましたね・・・)

サバイバル能力ゼロの鈴木家は都会に生きる人達の脆弱さを象徴的に体現していた

都会生活に最適化しすぎた鈴木家。衣食住全てが高度に構築されたライフライン上での便利な生活に慣れすぎた現代人が突然のサバイバル生活に放り出されたら、鈴木家のようになる人もかなりいるのではないでしょうか?

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僕だって、恐らく虫は掴めないですし、燻製も作れなければ豚も魚もさばけないです。野菜も満足に作れないだろうし、裁縫も全くダメです。鈴木家の右往左往ぶりを見ていて、まるで自分を見ているようで薄ら寒い気分にもなりました。少なくとも、画面を見て「こいつらバカだなぁ」とあまり笑えなかったかも。(それこそが監督の狙いだったみたいです・・・) 

災害を通して成長し、家族としてまとまっていく流れは救いになった

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単に都会の住人たちが慣れないアウトドア生活に翻弄される構図だけでなく、そこで「苦難」に立ち向かうことで成長し、家族の絆も強くなるという王道的展開は救いがありました。

特にキーマンだった父、義之が段階的に本来の意味での「父親」らしくなっていく姿は心に残りました。大阪で家族全員からダメ出しされたことで少し目が覚め、ブタを追い込み、川に流されてからは、かつらも投げ捨てて精神的に強くなっていく様子は見ていて爽快でした。

また、電気が復活したらアッサリ都会に戻ってきて、普通に生活を再開しているエンディングも良かったです。

矢口監督の作家性あふれる映画作品らしい映画だった

矢口監督は、映画製作に対して、安易にキャラクターたちにセリフで説明をさせないというポリシーを持っています。

名台詞のような言い聞かせることを、映画の中では絶対やらないようにしています。この作品だけでなく、僕は映画を撮る時に、テーマや伝えたいことは、具体的な台詞とか、画的に解るシーンを、見せちゃいけないと思っているんです。

今作でもそれは徹底されており、TVドラマの劇場版のように饒舌にキャラクターが状況説明をしてくれるセリフは一切ありませんでした。それどころか、今回は、

・CG/VFXでの映像的な支援効果なし
・時間軸をいじった説明的な回想シーンは一切なし
・GoProなどの奇をてらった技巧的なカメラワークは一切なし
・劇伴音楽等での音楽的な支援効果は極力なし

過去作と比べても、一番映像的にシンプルだったのではないでしょうか?

時系列に沿って、ストーリー上起きるべきことが起き、各キャラクターが場面場面で必要なセリフと行動を取るシーンをシンプルな形で見せられ、鑑賞者は自由にそれを判断・検討できるように仕向けられます。

映像1本で勝負しているため、その分映像内での情報量が非常に多く詰め込まれていました。鑑賞者はよーく見てないとすぐに意味を取り逃してしまうという意味で、集中力が要求されるハードな映画でもありますし、2回、3回と複数回の鑑賞に耐えうる作品だと思います。

東日本大震災から5年以上経過した2017年が、見るには絶妙のタイミングだった

映画内での出来事ほど酷くはありませんが、おおむね東日本に住んでいる人の中には、つい先日、2011年に「東日本大震災」で、この映画内で鈴木家が遭遇した状況と似たような体験をした人も多いのではないでしょうか?

僕も、震災当時コンビニからモノが一瞬でなくなり、物流・交通網が麻痺した日常を送りましたし、その後仕事で仙台方面に何度も視察に行って、被災地の厳しい状況も目の当たりにしてきました。毎日、得体も知れない先行きへの不安を感じて毎日生活していた思い出があります。

しかし、あれから5年、しんどかった記憶もだいぶ薄れ、災害時の苦い思い出も少しずつ過去のものになりつつありました。このタイミングで、改めてこうしたリアルなディザスタームービーを見ることで、少し気が引き締まる思いもしました。

5.伏線や設定、みどころなどの解説(※ネタバレ有注意)

虫や動物使いがポイントな矢口監督映画作品

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矢口史靖監督は、過去作で必ずと言っていいほど動物や虫を映画内に効果的に登場させてきます。例えば、過去作ではこんな感じ。

・ウォーターボーイズ・・・イルカ、シャチ
・スウィングガールズ・・・イノシシ
・ハッピーフライト・・・カモメ
・WOOD JOB・・・トカゲ、鹿

今回も、冒頭でキャベツについていた青虫に始まり、犬、鯉、ブタ、もう1回青虫、もう1回犬と、過去最高頻度で動物たちが次々と出てきました。特に今回は「サバイバル」がテーマなので、笑いを誘うシーンだけではなく、重要なシーン、考えさせられるシーンで使われているのが印象的でした。ぜひ、映画内で動物・虫の登場場面に注目してみてください。

川の水は飲んではいけないのか?

映画では、ペットボトルの備蓄が尽きて我慢できなくなった父・義之が川の水を「うんめぇー」と飲んでお腹を壊します。一見、飲んでも問題なさそうに見えた川の水ですが、意外に危ないようです。

まず、第一にキレイそうに見えても、どこからか流れ込んだ生活排水等に細菌類、ウィルスが潜んでいることも多く、さらに川の上流に工場や鉱山、大規模農場などがある場合は、重金属や農薬で汚染されている可能性があります。

上流に工場等がない場合は、煮沸すれば殆どの細菌類が死滅して安全になる他、フィルター類で濾過すればかなりのケースで真水に近づくようです。最近では、東日本大震災後、入れるだけで濾過されて、飲めるような水筒も発売されていますね。

太陽フレアによる大規模停電は発生するのか?

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結局、物語上で電気が使えなくなっていた期間は、足掛け約3年にわたって続きました。ニュース解説番組で原因は不明だ、とされていましたが、有力な説として、太陽フレアによる磁気嵐の影響が指摘されていました。

実際、過去に似たようなケースを見てみると、1989年に北米で大規模停電が起きた時は、キューバでもオーロラが見えるほどの、過去100年で最大級の太陽フレアによる磁気嵐が直接の原因でした。磁気異常による空中の電流が送電線へと一気に流れ込み、電力網を破壊して大規模停電へとつながりました。

ただし、その時も電池は普通に予備電源として使えていたようなので、今回の「電気一切が使えなくなる」という設定は、SF的な創作であるといえそうです。

6.まとめ

矢口史靖監督の最新作品「サバイバルファミリー」は、ストーリーこそシンプルですが、鑑賞者に考えさせる味わい深い作品でした。綿密な製作準備によりリアリティを追求した本作は、どの場面を切り取っても楽しめるインパクトの強い映画となりました。

「映画でしか見れないものを見せてくれる映画は良い映画だ」と映画評論家の宇多丸が言う通り、矢口監督の作家性が強く出た、良質の映画作品だと思います。おすすめ。

それではまた。
かるび 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

小説版「サバイバル・ファミリー」

矢口史靖監督は最近のオリジナル作品では、必ず小説も自ら手がけています。元の絵コンテを原案に、監督自ら描き下ろした小説なので、映画との親和性は限りなく高いです。それに加え、小説では、映画で省略された説明的な表現が「地」の部分でバッチリ描かれているので、映画の各シーンに対する解釈の答え合わせもできますし、映画本体では、上映時間の都合上省略されたいくつかの印象深いプロットも楽しめます。

映画公式ガイド「サバイバル・ファミリー」の歩き方

アニメーターのように絵コンテを各シーン毎に製作し、スタッフと各シーンのイメージを共有していくという独特な制作手法を取る矢口監督。この公式ガイドでは、まず重要な各シーンの絵コンテがたっぷり満載されており、さらに製作時の各スタッフの苦労話や製作時の狙いがわかりやすくまとめられていました。

また、各俳優の撮影時オフショット、インタビュー記事、サバイバルのためのショートコラムなども充実しており、映画が気に入った人には非常にオススメなムック本でした。これは良いです!

矢口史靖監督のオススメ過去作品1:「ハッピー・フライト」

製作段階で、執拗なまでに各部門業務のディテールを取材して、それをムダなくつなげあわせて一つのストーリーに作り上げた手法は、今回の「サバイバルファミリー」でさらに洗練されて応用されていると思います。航空業界に興味がある人は、純粋なお仕事映画としてイメージトレーニングのためにチェックしても非常に有用です。

矢口史靖監督のオススメ過去作品2:WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」

「林業」の仕事内容や、「林業」に関わる村の人々の生活スタイルを丁寧に取材して、三浦しおん同名原作を映像化した作品。巨木を切り倒したり、杉の木を飛び歩いて幹をメンテナンスするシーンを全て俳優達に再現させ、ワイルドな山の男たちを熱く描いた「お仕事映画」としても出来は良かった。残念ながら興収は10億円に到達しなかったが、クオリティはかなり高かったと思います。Amazon Primeでは、2017年2月現在無料で視聴できます。オススメ!

日本初の最強ナビ派企画展!「オルセーのナビ派展」@三菱一号館美術館、最高でした!!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月4日から三菱一号館美術館で開催中の「オルセーのナビ派展」。素晴らしい展覧会でした。印象派と現代美術の橋渡しをする過渡期の19世紀末に、フランスで生まれた前衛芸術運動の一派「ナビ派」の日本初の総合回顧展となる今回の展示は、おしゃれで、かわいくて、ちゃんとわかりやすさもある親しみやすい展覧会でした。

1888年~1900年頃のわずか10年ちょっとの間に、ゴーギャンに影響を受けたフランス人画家達が、どんな絵画を描いていたのか、まとめてチェックできる良い機会でした。

以下、早速展覧会の感想を書いてみたいと思います。

※なお、写真はブロガー内覧会のときに、主催者の許可を得て撮影しています

1.「オルセーのナビ派展」混雑状況と所要時間目安

ブロガー内覧会の時にお邪魔したので、厳密には混雑しているかどうかはチェックしてきてはいません。ただし、会期前半にテレビ局などの特集番組が組まれるはずなので、会期後半の土日はそれなりに混雑を覚悟したほうが良いかも。

それほど展示スペースが広くないので、ゆったり見たいのであれば平日に行くのが良いかと思います。

展示点数は80点ほどですが、どれも見応えがあるので最低でも90分は確保しておきたいところです。僕も、ブロガー内覧会で120分ありましたが、もう少し時間が欲しいくらいでした。

2.ナビ派ってどんな人達なの?~3分でわかるナビ派解説~

「オルセーのナビ派展」と言われても、まずは「ナビ派」って誰だよ?って話になりますよね。印象派や、そのあとのゴッホ、ゴーギャンは知ってるし、20世紀に入ってピカソやマティスはわかるけど、「ナビ派」って言われると、急に何かマニアックな感じがしてきてしまいます。(僕の感覚だけですか・・・)

そんなマイナーな「ナビ派」ですが、ブログ冒頭でも書いたとおり、印象派以後の画家たちが19世紀末(1888年頃~1900年頃まで)に、アカデミー・ジュリアンで学ぶ仲間たちを中心として新しく結成した前衛的な絵画の一流派でした。

ナビ派結成には、去年「ゴッホとゴーギャン展」でも大きく取り上げられたゴーギャンが大きく関わっています。1888年、ポール・セリュジエが、フランス北部ブルターニュ地方で、画家たちの聖地となりつつあったポン・タヴェンを訪問した時からそのストーリーが始まります。

関連記事
【美術展感想】休日は大混雑!ゴッホとゴーギャン展の感想!

当時、ポン・タヴェンでは、ゴーギャンやベルナールらが、すでに印象派や写実に基づくアカデミー的な絵画からは大きく外れた、平面的で心に浮かんだ心象風景を大胆な色使いで描いていく「総合主義」という画風を打ち立てつつありました。ゴーギャンを慕い、ポン・タヴェンに集っていた仲間たちを、ポン・タヴェン派と呼ぶこともあります。

そんな中、セリュジエもゴーギャンと一緒に戸外で写生した時に、その熱血指導?を受けることになりました。その時の会話も残っています。(Wikipediaより)

「あの樹はいったい何色に見えるかね。多少赤みがかって見える? よろしい、それなら画面には真赤な色を置きたまえ……。それからその影は? どちらかと言えば青みがかっているね。それでは君のパレットの中の最も美しい青を画面に置きたまえ……。」

その時に完成した絵画が、「オルセーのナビ派展」にも出展されているこの作品「タリスマン」です。以後、この小品は、彼らナビ派の原点・聖典として文字通り彼らの「護符」(タリスマン)として大切に扱われました。

ポール・セリュジエ「タリスマン」
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ゴーギャンの大胆な筆使い、色彩感覚に度肝を抜かれ、すっかり魅了されたセリュジエは、その日パリに戻ってから、興奮覚めやらぬ中、「タリスマン」を片手に、アカデミーとは全く違うその作風を仲間に伝えました。

それに共鳴したモーリス・ドニ、エドゥアール・ヴュイアール、ピエール・ボナールらは、ヘブライ語で「預言者」を意味する「ナビ」派という新しい前衛絵画グループを立ち上げました。

以後、彼らはポール・ランソンの自宅へ定期的に集まります。作品を互いに批評したり、秘密結社のように彼らだけに通用する独自用語や制服、しきたりなども作り出して、結束を高めるのでした。

ナビ派では、「絵画とは、2次元の平面に描かれるものだ」という絵画の大前提を改めて強く意識しつつ、

・明るく平面的な色調
・写実主義を否定し、装飾的な心象風景を描く
・簡素でかわいい画風

といった、これまでの印象派やポスト印象派にはなかった作風を模索して、19世紀末の最先端の前衛的な芸術を作り上げました。

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3.「オルセーのナビ派」展とは

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これまで、ナビ派の絵画がまとまってグループ展としてがっつりとりあげられる機会はなかなかありませんでした。散発的には紹介されていましたが、「◯◯美術館展」みたいな展覧会で、モネやルノワールら印象派だったり、ピカソやマティスなど大物の影で、脇役として数枚ナビ派の画家たちの絵画がひっそりとかかっているくらいでした。(つい先日も、各地を巡回した「デトロイト美術館展」で、ドニやヴァロットンが1点ずつ出ていましたね)

関連記事
【美術展感想】巨匠が撮り放題!デトロイト美術館展の感想!

これは日本だけじゃなくて、お膝元フランスやヨーロッパなどでも、つい20年~30年前までは、ナビ派の芸術はその程度の扱いだったのです。

ところで、美術界において、ある画家や流派が再評価されるには、誰かに強力にプッシュされて、アートファンに注目される機会がどうしても必要となります。日本でも、21世紀に入ってから大ブレイクした伊藤若冲や、2016年にプチブレイクした鈴木其一らは、美術館での革新的な総合展示会がそのきっかけとなりました。

同様に、美術史の片隅で忘れ去られていたナビ派が徐々に再評価され、ブレイクするきっかけを掴むことができたのは、現在のオルセー美術館館長、キ・コジュヴァルの功績によるところが大きいと言われています。

コジュヴァルは大のナビ派好きで、館長就任以来、ナビ派所属の芸術家達の絵画を世界中から強力に収集してコレクションを強化していきました。コジュヴァルの美術館改革は今も進行中で、印象派絵画を収拾展示する為に運営されていた「オルセー美術館」を、ナビ派を始めとした「象徴主義」画家たちの殿堂に変えつつあるといいます。

また、コジュヴァルは、自らライフワークとしてカタログ・レゾネを編纂しながらも、収拾したナビ派のコレクションを中心にドニやヴュイヤールといったナビ派の画家たちの個別の大回顧展を開き、世界中に企画展として巡回させて、ナビ派の認知度を徐々に上げていくことに成功しました。

日本でも、2014年に三菱一号館美術館で開催されたヴァロットン展は大成功を収め、新たにファンを開拓したといいます。

ヴァロットン「ボール」f:id:hisatsugu79:20170214154952p:plain

今回、三菱一号館美術館で開催された「オルセーのナビ派展」は、オルセー美術館が所蔵するナビ派の画家たちのオールスター作品が揃いました。「◯◯展」と言いつつ、本当に◯◯が描いた作品は数点しか展示がない、よくある西洋絵画のオールドマスター系とは違い、出展された約80点全てが勝負作品なこの展覧会は、本当に貴重でハイレベルな展覧会であるといえます。

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4.ナビ派の画家たちって、どんな人がいるの?

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(引用:三菱一号館美術館、特集ページより)

「オルセーのナビ派展」では、ナビ派メンバーに深い洞察を与えた、ゴーギャンやベルナールら、ポン・タヴァン派の画家たち(総合主義)と、ナビ派の主要メンバーを大特集しています。

1888年、ゴーギャンに直接指導を受けて開眼したポール・セリュジエを筆頭に、彼のアカデミー・ジュリアンの友人であったモーリス・ドニ、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤール、ポール・ランソン、ケル=グザヴィエ・ルーセルが結成時メンバーとなりました。AKBじゃないですが、「第一期生」といったところでしょうか。

その後、彼らの友人筋だったり、学友だったりといったところから、フェリックス・ヴァロットン(スイス出身)、アリスティード・マイヨール、ヨージェフ・リップル=ローナイ(ハンガリー出身)など、あとからナビ派に参加したメンバーには、外国人もいました。あるいは、ジョルジュ・ラコンブのように、絵画だけでなく、彫刻も手掛けたナビ派メンバーもいました。

一人ひとりの短評や解説は、三菱一号館美術館の特集Webページが非常に有用なので、リンクを貼っておきますね。

ナビ派にまつわる作家たち|オルセーのナビ派展:美の預言者たち ―ささやきとざわめき|三菱一号館美術館(東京・丸の内)

5.個人的に気になった展示

ポール・ゴーギャン「<黄色いキリスト>のある自画像」

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(引用:National Gallery of Australia - Home

自画像ですが、後ろの黄色いキリスト像は、まさにゴーギャンの心象風景そのもの。総合主義を切り開いたゴーギャンらしい1品で、展覧会の最初は、ナビ派に手ほどきをしたゴーギャンのこの絵画から始まります。

ケル=グザヴィエ・ルーセル「人生の季節」

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人生の季節と題して、春夏秋冬4つの季節を、4人の婦人像で書き表した作品。まぁ冬と夏はわかるのですが、春と秋はどっちなんでしょう?妙に気になった作品でした。

モーリス・ドニ「ミューズたち」

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比較的小品が多いナビ派の作品の中で、大型の部類に属する作品。背景に溶け込むように平面的に描かれた女性が魅力的な、イラスト的作品。紅葉シーズンに絵葉書などにぴったりフィットしそうな優雅な作品でした。

エドゥアール・ヴュイヤール「公園」シリーズ連作

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小部屋一部屋を全て使って展示されたヴュイヤールの「公園」シリーズ。明るい色使いに牧歌的な風景が落ち着きます。こうやって飾ると、窓からそれぞれの風景が見えているようで視覚的に面白いです。

ピエール・ボナール「庭の女性たち」シリーズ

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(引用:https://www.wikiart.org/en/pierre-bonnard

「日本かぶれのナビ」と仲間内で呼ばれたボナール。浮世絵のように極めて平面的で、イラスト的な婦人像を描いた連絡シリーズ。1枚1枚の絵画のサイズが縦長で、江戸期の美人画のようです。

エドゥアール・ヴュイヤール「ベッドにて」 

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ナビ派を結成後、ドニやヴュイヤールはスピリチュアルな神秘主義へと傾倒していきましたが、顔の上にある「T」型の物体は、十字架なのだそうです。

6.グッズ・物販コーナーも充実!

今回は、内覧会ということで物販コーナーの写真も撮影することができました。食べ物・飲み物系が非常に目立ちましたね。個人的には、ナビ派の面々のかわいいイラストがいい感じのTシャツにかなり心動かされました。

Tシャツ
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「大人の塗り絵」付き絵葉書
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たくさんのワイン!!
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いろいろな調味料など!
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定番の書籍類・図録もあります!f:id:hisatsugu79:20170214155626j:plain

7.まとめ

つらつら長く書いてしまいましたが、ぜひ、三菱一号館美術館に足を運んで、現場でナマの作品とじっくり対面してみてください!

オルセー美術館が保有する19世紀末に若手芸術家達が切り開いた流派「ナビ派」の 珠玉のコレクション群をまとめて見れる、素晴らしいチャンスを是非お見逃しなく!僕も、会期中最低あと1回は行く予定です!

それではまた。
かるび

「オルセーのナビ派展」関連書籍

ナビ派については、ようやくこの展覧会をきっかけに陽が当たってくると思われますが、展覧会に合わせて、色々とナビ派の関連書籍が発売されています。簡単に紹介しておきますね。

Kindle版「オルセーのナビ派展」図録!

紙媒体の図録はもちろん三菱一号館美術館で販売されていますが、Kindle版も合わせて発売されました。これは画期的ですばらしい!!正直、僕の住むウサギ小屋な都心の狭いマンションにはもう図録を置くスペースがないので、僕は断然Kindle派です。速攻ポチりました。これで、いつでも好きな時に楽しめる!

「かわいいナビ派」

展覧会を見ているとすぐに気づくのですが、装飾的・平面的で大胆なデフォルメされたナビ派の絵画はどこかイラストやマンガに通じるところがあって、本当に「かわいい」のですよね。「かわいい◯◯」シリーズで特集されるのも納得です。

何気にこの東京美術のかわいい◯◯シリーズは、表紙のゆるい感じに反して、中身の解説記事は意外に骨太なので大好きです。おすすめ。

美術の窓 2017年3月号

国内でナビ派研究では第一人者である、三菱一号館美術館館長、高橋明也氏も原稿を寄せ、ナビ派総力特集が組まれています。ナビ派誕生のエピソード、美術史におけるナビ派の位置付け、ナビ派のアーティストたちの各特集に加え、ナビ派を幾つかのキーワードでわかりやすく、かつマニアックに説明しています。これはオススメ!

展覧会開催情報

オルセーのナビ派展の詳細情報です。これだけのコンテンツなのに、国内に巡回しないのはもったいないなぁ!

◯展覧会名・会場・会期
三菱一号館美術館「オルセーのナビ派展」
2017年2月4日~5月21日

◯最寄り駅
JR東京駅/JR・地下鉄有楽町駅/地下鉄二重橋駅/より、それぞれ
徒歩数分
◯開館時間・休館日

9時30分~18時00分(入場は30分前まで)
祝日・振替休日除く金曜、展覧会会期中の最終週平日は20:00まで

休館日は毎週月曜日
◯公式HP・Twitter
http://mimt.jp/
https://twitter.com/ichigokan_PR

【ネタバレ有】映画「相棒 劇場版4」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/豪華キャストと大規模ロケの集大成的作品!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月11日に封切られた人気TVドラマの劇場版スペシャル映画「相棒-劇場版Ⅳ- 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断」を見てきました。平日昼間にもかかわらず、年齢層高めの熱心なファンでまずまず埋まっていました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※後半部分は、事件の核心部分にかかわる強いネタバレを含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「相棒 劇場版Ⅳ」の基本情報

<劇場版「相棒4」公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】橋本一(「探偵はBARにいる」他映画・TV多数実績)
【脚本】太田愛(小説「犯罪者 クリミナル」)
【配給】東映
【時間】120分
【原作】小説版「相棒劇場版Ⅳ

監督は、前作までの和泉聖治から交代。そして、脚本はTVシリーズでも最近の相棒シリーズで手堅くそのクオリティを評価されている太田愛が起用されました。2012年には犯罪者 クリミナルで小説家としてもデビューした実力派の脚本家です。

2.映画「相棒 劇場版4」主要登場人物とキャスト

ドラマ本編は17年目となる水谷豊と、現在の4代目相棒反町隆史を筆頭に、番組を卒業した準レギュラークラスも入れて、かなりの大人数が入り乱れるキャスト陣。相棒シリーズの初心者は、事前に登場人物の相関図を見ておいたほうがいいかもしれません。

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(引用:相棒-劇場版IV公式サイトキャラクター相関図-より)

ものすごい大人数(笑)TVドラマシリーズを普段から見ていない人にはちょっと酷なくらいの登場人物で、相棒17年間の蓄積の重みを感じます。

杉下右京(水谷豊)
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すでに60台の大台に乗り、かなりのお年のようですが、今作は展開の速さに負けず、よく重要場面で走らされていました。アクションシーン、頑張っていました。あと、クライマックスなどで饒舌なのは、いつものTVシリーズと変わらないテンションです(笑)

冠城亘(反町隆史)
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Season15あたりから、右京とは独立してより単独で考えて動く機会が増えてきたように感じる冠城亘。今作でも右京に言われた指示以外にも、機転を聞かせたプラスアルファの突っ込んだ捜査で魅了してくれます。予告編の「右京さーん!!」はお約束っぽくて良かった・・・。

マーク・リュウ(鹿賀丈史)f:id:hisatsugu79:20170216011505j:plain
年齢的に80歳前後なのですが、、、見た目はかなり若く、もう少し特殊メイクを頑張ってやるとか工夫が欲しかったかも。演技自体は、鹿賀丈史独特の感性が外国生活歴の長い帰国子女的な雰囲気をよく出せていた好演だったと思います。

鷺沢瑛里佳(山口まゆ)
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映画「コウノドリ」では妊娠してしまう、難しい役どころの主役を演じて、演技力が評判になった山口まゆ。今度は、相棒でも重要な役どころに大抜擢されました。最初予告編でみた時は蒼井優?と見間違えたのですが、ほんと似てますよね・・・。

米沢守(六角精児)
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趣味は落語、鉄道他多数。Season14で一旦卒業しましたが、映画版でカムバック。警察学校に右京が押しかけますが、この人は画面に出てくるだけで場がなんとなく和みますね。

神戸尊(及川光博)
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六角精児と同じく、2代目相棒、神戸尊がチョイ役で出演。もう少しストーリーの主要な部分に関わっても良かったのに、と、ファンには少し不満が残る出演時間でした。

黒衣の男(北村一輝)
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獲物に向けて斜めに顔を向けて狙いを定める姿勢がプロの殺し屋っぽくて良かったです。前半は、いかにも犯人?!といった重要なミスリード的役割も果たします。

社美彌子(仲間由紀恵)
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仲間由紀恵も、バリキャリの中間管理職を何の違和感もなく演じる、そんな年齢になってきたのですね。準レギュラーとしてTV版同様警視庁内での「鉄の女」役が板についていますが、映画版では数少ない女性キャラとして存在感は非常に大きかったです。

あと、それ以外にも甲斐峯秋(石坂浩二)、月本幸子(鈴木杏樹)、大河内春樹(神保悟志)、伊丹憲一(川原和久)など、おなじみの脇役クラスが山ほど出てきます。

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.レイブンの日本潜伏と、鷺沢瑛里佳誘拐事件

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7年前、鷺沢瑛里佳がまだイギリスで両親と暮らしていた時、瑛里佳は3人のイギリス人の少女達と自宅でかくれんぼをして遊んでいた。隠れながらうとうとしてしまい、しばらくして目覚めたら、自分以外全員血を流して倒れて死んでいた。瑛里佳は、恐怖のあまり必死で廊下を走った。

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それから7年後、東京。警視庁特命係の杉下右京、冠城亘は、国連犯罪情報事務局元理事のマーク・リュウと共に、同事務局のルイ・モリスと落ち合うため、三番埠頭へと向かっていた。レイブンの正体を掴んだモリスから話を聞くためだ。マーク・リュウは、国際犯罪組織「バーズ」のメンバーで、日本に潜伏しているとされたレイブンを追って、警視庁広報課長、社美彌子が特命係に日本での世話を依頼していたのだった。

しかし、現場に到着した時、モリスは何者かに殺され、モリスが収拾したと思われるデータは奪われていた。

モリスが亡くなる寸前、リュウに調査しろと言い残した「アマガイカツノリ」という日本人名と、モリスの殺人犯、レイブンの正体について、警視庁では検討が進んでいた。

レイブンが日本と関わる事件を起こしたのは、7年前に在英日本大使館の参事官令嬢である鷺沢瑛里佳の誘拐事件のみである。瑛里佳以外の人間が全員殺され、瑛里佳はレイブンに拉致されたが、その後身代金要求はなく、瑛里佳の所在は不明になっていた。

まもなく、別件で、タイで起きた無差別テロ事件で被害者となった日本人の1名の遺体が日本に到着してから行方不明になったという一報が入った。右京は、冠城を現場へと急行させ、自身はリュウと改めて会食へと出かけた。

会食のレストランで、リュウが突然苦しみだした。慌てて介抱すると、ビルで同時に30名ほど倒れている人間がいるという。警視庁で捜査が始まった。

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さらに悪い事に、外務省のホームページがハッキングされ、VTRで犯行声明が流れたという。動画を見ると、7年前の誘拐され行方不明になっていた鷺沢瑛里佳を誘拐したため、身代金700万ユーロを要求するレイブンからの声明だった。拒否すれば、「大勢の人々が見守る中で、日本人の誇りが砕け散るだろう」との脅迫付きだ。

本件は、日本政府も巻き込んだ大事件に発展した。官邸・警察庁で検討した結果、副総理の佐橋が犯人の要求には応じない声明を発表した。また、7年前の鷺沢瑛里佳事件と深く関わった元駐英大使、岩井孝信の身辺警護を強化した。

3-2.捜査の進展、天谷克則の意外な過去

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一方、「アマガイカツノリ」の調査は完全に行き詰った。該当者は28人いたが、事件との関連性はなさそうだ。また、右京は元鑑識で、現在は警察学校勤務となっている米沢守の力を借りて、動画メッセージの撮影場所を東京の城西線沿線の郊外であることを突き止めていた。

鷺沢瑛里佳は、レイブンのアジトにいた。実際の所瑛里佳はレイブンの一味だった。仲間の天才ハッカーにリュウの居所を探らせ、瑛里佳はリュウの居所に忍び込み、デスクから右京と冠城の名刺を見つけたのだった。

右京は、特別措置法により、1959年に死亡扱いとなった「アマガイカツノリ」がいないかどうか冠城に調査させた。すると、一人該当者が割り出せた。また、レストラン街での集団食中毒事件は、エレベーターの階数ボタンに毒物が仕込まれた結果、ボタンを押した中毒者の指先の皮膚から体内に毒物が入ったことがわかった。レイブンとの関係を違い、すぐに科警研で毒物の調査を開始した。

1959年に死亡した天谷克則については従兄弟、天谷光代が存命中だった。光代への聞き込みの結果、克則が帰国したが、間もなく行方不明となったこと、克則は、幼少時、両親とともには戦時中、トラック諸島という日本の信託委任統治領に南洋開拓団の一員として住んでいたこと、戦争激化に伴い、空襲で母を失ったことなど、痛ましい話だった。

3-3.鷺沢瑛里佳の救出とレイブンのテロ計画

右京が署に戻ると、捜査本部はレイブンのアジトと思われる近隣のスーパーで買い物をする瑛里佳の映像を見て、瑛里佳の居所を突き止めた。と、ともに非常に元気そうな瑛里佳を見て、違和感を感じていた。

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右京と冠城も、レイブンのアジトを突き止め、中に入ると手足を拘束された瑛里佳が転がっていた。瑛里佳の拘束を解くと、瑛里佳は右京と冠城に拳銃を向けた。右京は、瑛里佳を説得して銃を取り上げた。すると、横に堕ちていたジャケットのポケットから、南洋開拓団壮行会の写真が出てきた。レイブン=天谷克則であると確信した右京。

記念写真に「銀座開明館」と映っていたところから、「大勢の人々が見守る中で、日本人の誇りが砕け散るだろう」というメッセージは、カナダの国際スポーツ大会で好成績を挙げて凱旋パレードを実施する日本選手団を狙う、という意味だと洞察した右京は、パレードの強化を捜査本部へと願い出た。

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右京、冠城、そしてリュウ、捜査一課のメンバーと状況を見守っていると、科警研から毒物の分析結果が上がってきた。科学的に合成された有機リン系の毒物を1000倍に希釈したもので、常温常圧では液体で安定しているが、40度を超えると急に気化し、大気より重たいため地面近くに滞留して、1リットルで50万人の致死量になるという。

それを聞いた右京は、犯人の狙いが、日本選手団ではなく、それを見に来た群衆を真のターゲットとしていると喝破した。

すぐに現場に出た捜査員にそのことを伝えようとしたが、捜査員のスマホは不通になってしまっていた。捜査一課の伊丹が、不用意に拾ったUSBメモリをPCに挿したことで、捜査本部のサーバーがウィルスに感染したためだった。

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右京、冠城もパレードの現場に出て、レイブンを追うことにした。途中、群衆の中に月本幸子の姿を見たので、携帯を借りて、銀座開明館があった場所を社美彌子に調べてもらった。右京は、レイブンは、開明館の合った場所で毒物を散布するはずだと確信していた。

3-4.テロ未遂事件の収束、レイブンの逮捕

レイブンを探す途中、彼の部下は全て取り押さえることができた。黒衣の男、ハッカーなど。残るレイブンを追って、社美彌子から聞いた立体駐車場の屋上へとレイブンを追い詰めた右京。レイブンは、右京の読み通り、マーク・リュウだった。そこへ、警視庁を逃げ出した鷺沢瑛里佳もいつの間にかレイブンの側にたどりついていた。

警視庁の特命チームには、上司である山崎警備局長からレイブンを見つけ次第射殺するよう指示が飛んでいたが、右京は生きたまま逮捕するため、マーク・リュウをかばって代わりに右胸を撃たれてしまった。

リュウはその場で確保され、テロは未遂に終わった。右京は病院へ緊急搬送された。警視庁の山崎警備局長は、事件を隠蔽しようと社美彌子に指示を出したが、何者かによりマスコミにテロ未遂事件のことがリークされてしまった。

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やがて、手術が終わって退院すると、右京は車椅子姿で数日ぶりにリュウと面会した。右京は、リュウのテロ未遂事件の動機を聞きたかったのだ。リュウは、レイブンとしての最後の仕事として、平和ボケした日本人に、危機意識を持たせるためにやった、そして、このテロ未遂事件で撃たれて死ぬつもりだった、と述懐した。右京は、たとえ犯人となっても最後の瞬間まで命を大切に生きてください、とリュウに伝えて、面会室を出た。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.映画ならではのスケール感を支えた圧巻の北九州ロケ

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クライマックスに入り、凱旋パレードする日本選手団を銀座のメイン通りで出迎える50万人の大群衆、そして、その中で繰り広げられる右京たちと犯人の最後の攻防が描かれます。脚本を担当した太田愛は、まずこの群衆で埋め尽くされたクライマックスシーンを念頭においてシナリオを組み立てていったとのこと。

約3000人のエキストラを動員し、北九州で公道を半日ストップして撮影したというクライマックスシーンは、映画ならではのスケール感がありました。「海賊とよばれた男」「永遠のゼロ」の山崎貴監督なら全部CG/VFXになるところですが(笑)、実写でリアリティを出そうとした頑張りは評価できると思います。

ただ、個人的に失敗したなぁと思ったのは、事前にメイキング映像をYoutubeで見てから映画に行ったこと。自宅であらかじめガッツリ製作シーンを見ていたので、「あー、でもここ北九州なんだよなぁ」と妙に醒めてしまったのは失敗でした。

東映オフィシャルページにある、以下のメイキングはできれば映画を見終わった後にじっくり味わうのがいいと思います。

4-2.クオリティは、良くも悪くもTVドラマ的な作りだった

刑事モノドラマではある程度仕方ないことではありますが、やはりTVドラマのスピンオフ映画にありがちな、「過剰な説明シーンや饒舌なセリフ」が目立ちました。わかりやすさを優先して、会話だけで全部ストーリーを語ってしまうスタイルは非常に気になります。映画らしく、スマートに映像や演技で魅せてほしいなぁとは思いました。

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また、警視庁内部の管理体制のダメさ加減はちょっとありえないと思います。今時、私用USBの使用が野放しになっていて、不用意に拾ったUSBを業務PCに挿してしまう伊丹捜査員、そして、そこから簡単にウィルスが蔓延するネットワークの脆弱性や、捜査員が業務用スマホを持たされていないところなどは、ちょっと設定として甘すぎるのでは?と思います。

セキュリティカードもなく捜査本部に出入りできるリュウf:id:hisatsugu79:20170216012906j:plain

また、部外者の一般人(リュウ)がセキュリティカードも持たずに簡単に捜査本部に出入りしている点や、取調中の瑛里佳に簡単に出し抜かれて、警視庁内を誰にも気づかれず出て行かれたりするのもダメすぎるだろう・・・と思います。ストーリーを進めやすくするためとは言え、ある程度ツッコミどころを残した粗い設定も、TVドラマ的だなとは思いました。

ただ、こういう捜査員の愛すべき間抜けさや、部署間の連携のまずさ、ラストシーンでくどいほど説教シーンが長い右京のキャラクター、強引な直感的推理で正解にたどり着いてしまう展開など、全部ひっくるめてTV版「相棒」の世界をしっかり反映している感じでもあったので、これはこれで、今回は我慢して(?)味わうことにしました!

4-3.登場人物が多すぎて、脇役が追いきれていない

今回の劇場版4での目玉の一つは、圧倒的な映画的スケール感に加え、相棒を「卒業」したキャラの再登板でした。特に及川光博演じる神戸尊、六角精児演じる米沢守はファン待望のキャラクターだったはず。

映画公開直前でのTV版「相棒Season15」の13話、14話で、この二人が前フリ的に出演し、話題を盛り上げた割には、フタを開けてみると、劇場版本編で出演する時間はかなり短く、限定的なゲスト扱いになっていたのはやや残念でした。ファンが求めるのは、カメオ出演じゃなくてガッツリ本編に絡んでくる役どころだったと思うのですが・・・

国家レベルの危機を描く劇場版では、総理官邸や警察庁の人たち、さらに「相棒」の準レギュラークラスや、敵キャラもかなりの数を登場させなければならないため、映画の中では、どうにかこうにか交通整理するので精一杯な感がありました。

4-4.「忘れ去られた戦争の歴史」に光を当てたテーマは秀逸だった

色々シナリオにはツッコミどころがありますが、ただ、社会派刑事ドラマとして、今回忘れ去られた第二次大戦の歴史の「影」の部分にクローズアップして、報われなかった人々の心情を取り上げたテーマは非常に良かったと思います。

結局のところ、テロとは、過去に誰からも相手にされず救われなかった人たちが、いびつな承認要求のはけ口として、自らの存在意義を世に問うため、「復讐」という形で引き起こされるものだと思うからです。(映画では、右京の口から「呪い」というキーワードで変化球的に表現されていました)

戦時中の「南洋開拓団」の人たちの悲劇、日本政府の大雑把な戦死者への「特別措置法」などは、広島/長崎の原爆投下や、各地の空襲の逸話に比べると、非常にマイナーで忘れ去られている問題だと思います。

戦後70年が経過し、事実上ほぼ直接戦争を体験した人々がいなくなった今こそ、改めてこういった過去をフィクション、ストーリーという形で再検証のきっかけとしていくアプローチは、良かったかなと思いました。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ注意)

5-1.テロ未遂事件の犯人レイブンの正体と犯行の動機は?

事件の犯人「レイブン」の正体は、マーク・リュウ(鹿賀丈史)でした。表向きは国連犯罪情報事務局に所属する理事OBとして、刑事組織に潜入しつつ、「レイブン」としての活動を継続していました。80歳近くになり、自身の最後の活動として選んだのが、「日本で無差別テロ未遂事件を起こし、射殺されること」でした。

幼少時の戦時中、トラック諸島の空襲で日本軍に見捨てられ母と生き別れになった上、戦後日本に帰国した時に、「特別措置法」にて戦死扱いされて戸籍を削除されるなど、2度も日本政府に裏切られた天谷克則は、日本を捨てて、マーク・リュウという名前に代わり、犯罪組織「バーズ」でコードネーム【レイブン】として活動するようになりました。しかし、祖国への思いは捨てきれず、自分の身を挺して無差別「テロ未遂」事件を起こすことで、戦後70年経過して平和ボケした日本に問題意識を植え付けたかったのです。

リュウは、わざと右京や冠城に推理しやすいよう、要所要所でリュウ=レイブン=天谷克則であるという手がかりを遺しました。トラック諸島みやげをわざと右京に見せたり、アジトにトラック諸島での幼少時の写真を置いていったりしたことです。

5-2.黒衣の男の正体は?

冒頭で、国連犯罪情報事務局のロイ・モリスを殺害し、パレードでレイブンの手下としてスナイパーを務めた黒衣の男(北村一輝)は、土橋紘一という元SPでした。7年前、イギリスで日本人少女誘拐事件が起こった際、在英日本大使館にて岩井のボディーガードを務めていました。しかし、自らの保身しか考えない岩井に愛想が尽き、SPを辞職した後、レイヴンと出会って彼に感化され、レイヴンの下で働くようになったのです。

5-3.レイブンはどうやって危険物を日本に持ち込んだのか

ロイ・モリス殺害事件・鷺沢瑛里佳誘拐事件と同時並行で、レイブンが起こしたタイでのテロ事件で亡くなった日本人死亡者の遺体の中に、危険物を縫い込んで持ち込みました。遺体の搬送には、X線や金属探知機等のチェックが行われないことに目をつけたのです。遺体の日本到着後は、レイブンのハッカー、滝口が葬儀社の運転手をエレベーターに閉じ込め、そのスキに遺体搬送車を奪い、遺体から危険物を取り出したのです。

このあたりのトリック描写はやや雑で、セリフとして説明されないと分かりづらかったです。タイでどうやって遺体を仕込んだのか?とか謎です・・・

5-4.特命係の位置付けって?

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ところで、右京と冠城はなぜ今回のストーリーで捜査にこれほど苦労したのでしょうか?タイから届いた棺桶を調べようとしたら妨害され、捜査本部には出入り禁止となっており、与えられたデスクは窓際の倉庫みたいなスペース・・・。

TVシリーズを見ているとわかりますが、もともとこの「特命係」は、捜査本部ではないため、捜査権がないのです。時に警視庁のルール・規約を無視し、正義と真実を求めて強引に組織の論理を超えて捜査を進める右京は、一部の良識派を除いて警視庁内では疎んじられており、「特命係」は事実上のリストラ的閑職となっているからです。

それでも、たびたび難事件を解決に導いた右京の有能さも一定の評価を得ており、右京を抑えるため権限はしぼりつつも、警視庁内でのジョーカー的、遊撃的なポジションとして位置付けられていると見ておけば良いと思います。

5-4.映画中で語られた戦死者の「特別措置法」とは?

映画中では、戦後、トラック諸島から日本に戻ってきた天谷克則は日本政府から「死亡扱い」されていることに絶望して、日本を去ってしまいます。

なぜ、死亡扱いになっていたのか?というと、「未帰還者に関する特別措置法」という法律が1959年に施行されていたからです。この法律により、日本政府は1959年時点で戦後行方不明になっていた人は、一旦「死亡した」ものとみなし、戸籍上処理をしたり、政府からの遺族への補償金支払を確定したからです。

なお、この法律を丹念に見ていくと、一旦「死亡」したとみなされても、生存が確認されれば「失踪宣告の取り消し」を裁判所に申し立てることで戸籍上復帰できますし、遺族が一旦受け取った補償金も返さなくても良いのです。法律制定の趣旨は、必ずしも日本政府が行方不明者を「見捨てる」ためだったわけではなかったと思われます。

ただし、戦後の混乱期が続くなか、正しく法律のあり方や補償について知らずに、天谷克則が短絡的に「政府に裏切られた!」と感じてしまっても、不思議ではないと思います。

5-5.トラック諸島での生き別れの話は史実なのか?

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(引用:Wikipediaより)

映画中、天谷光代へのインタビューで、太平洋戦争の旗色が悪くなる中、当時軍事基地があったトラック諸島から、主要戦艦や戦闘機が撤退してしまい、民間人だけが残され、そこへ米軍の容赦ない空襲で母と生き別れになった・・・という凄惨なストーリーが語られました。

実際はどうだったか?と言うと、1944年に、米軍によりトラック諸島への大空襲が実施された記録があります。ただし、日本軍は逃げ出した、というよりは、兵站が維持できなくなり、米軍の占領地の中、飛び地のように終戦まで孤立してしまったというのが実情のようです。米軍は、トラック諸島への上陸作戦で消耗するのを避け、空襲のみで済ませ、より日本に近い拠点での戦闘に主力を割いていました。

だからといって、映画での天谷母子のような生き別れの話がなかったとは限らず、民間人、軍人を含めて相当数の戦死者、行方不明者が出たのは間違いなさそうです。大まかなところでは、史実をヒントに作られた脚本であると見て良いかと思います。

5-6.エンドロールでの女性と子供のシルエットは誰だったのか?

気になるのは、エンドロールでの海辺でのシルエットが誰だったのかということ。現状、明らかにされておらず、以下、2つの線を考えてみました。

1)天谷克則の母、清子と幼い時の克則
2)鷺沢瑛里佳と、彼女の子供

順当に考えたら1)だと思います。レイブン=天谷克則が母を回想しているシーンと解釈するのが自然かも。ただし、2)の可能性も考えてみました。鷺沢瑛里佳は、レイブンの海外のアジトでの生活が長かったはず。レイブン=天谷克則と黒衣の男=土橋紘一が、アジトで遊ぶ瑛里佳を見ている回想シーンは、海辺のどこかの島でした。天谷克則の生まれ故郷、トラック諸島でしょう。

だとしたら、月日が経過して、レイブン亡き後日、鷺沢瑛里佳がレイブンの後を継いでトラック諸島で誰かと生活していても不思議ではありません。(レイブンとの間にできた子供だったら凄いけど、年齢差から見てそれはないか・・・?!)

このあたりは、TV版で後日談としてSeason15のどこかで種明かしがあるかもしれないので、TVシリーズをしばらく着目していようと思います。

6.ノベライズ版とのストーリーの違い(※ネタバレ注意)

ノベライズ版「相棒 劇場版4」では、途中経過まではほぼ同じ展開ですが、なんと犯人が違っていました。小説版でのレイブンは、リュウではなく天谷克則の息子でした。そして、警察側のレイブンの協力者が山崎警備局長という設定でした。

小説版では、USBを捜査本部に落とすのはリュウではなく、山崎です。自らの出世のために手段を選ばない山崎は、過去にもみ消した自分自身の不祥事をレイブンの部下で、ハッカーの滝口に握られ、レイブンに弱みを握られていました。山崎は、この状況を逆に活用し、レイブンと協力し、テロ未遂事件解決の手柄を自作自演で自分のものにしようとしていたのでした。

小説版で微妙に結末が違っているのはひょっとしたら決定稿に至る前にボツになったシナリオを復活・援用したのかもしれません。いわゆる「パラレル・ワールド」的なストーリーとして、非常に楽しめました。ぜひ読んでみてください。

7.まとめ

色々ストーリー展開にはおかしなところもありましたが、テーマとして目のつけどころは非常に良かったですし、北九州で大規模ロケを敢行したクライマックスシーンもゴージャスで映画らしくて気に入りました。

また、ネットでのレビューも、「劇場版3よりいい」という意見が多く、興収もそれを反映して好調な様子。TV版での雰囲気そのままに、スケール感を大きくしてオーソドックスに作り込んだ作品だと思いました。

また今度「劇場版5」が出ても、多分行くと思います。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

相棒-劇場版Ⅳ「オフィシャルガイドブック」

相棒グッズの中で、一番売れている解説ムック本。映画の人物相関図、レギュラーキャスト陣や制作陣へのロングインタビュー、撮影現場レポート、反町隆史が相棒となったSeason14~Season15までのTVシリーズ各話ダイジェスト解説など、超充実の1冊。もちろん僕も買いました。これは文句なくおすすめです!

相棒-劇場版Ⅳ「映画パンフレット」

今回の劇場版Ⅳのパンフレットは、非常に良い出来でした。監督や脚本家のインタビュー、TV版の歴史や直近Season15の解説、そして、映画版での主要キャストへのインタビューや、人物相関図、ネタバレ解説まで、非常に充実した1冊です。Amazonマーケットプレースでアップされているので、購入してみてもいいかもしれません。

その他、相棒グッズはこちらから!

これまで、TV版DVD-BOX、劇場版DVD、映画サントラ、オリジナル小説など、様々な関連商品がリリースされてきた「相棒」シリーズ。下記リンクに、それぞれAmazon、楽天の関連グッズのページを整理しました。よろしければ、ご活用ください!

Amazon・楽天「相棒関連グッズ」コーナー
Amazonで「相棒」関連グッズを探す!
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【ネタバレ有】「劇場版ソードアートオンライン オーディナル・スケール」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/ハイレベルな集大成的オリジナル大作映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月18日にリリースされた新作「劇場版ソードアートオンライン オーディナルスケール」(以下「劇場版SAO」と省略)を見てきました。2013年、2014年に放映されたアニメ版第1期、第2期のストーリーをベースにオールスターが出演する、ファン待望の集大成的な大作映画に仕上がっていました。作画・音楽・スケール感ともに、期待以上の素晴らしい出来です。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「劇場版SAO オーディナルスケール」の基本情報

<オーディナルスケール予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】伊藤智彦(「SAO第1期」「SAO第2期」)
【作画総監督】足立慎吾
【キャラ原案】abec
【原作】川原礫「ソードアートオンラインシリーズ」
【脚本】川原礫・伊藤智彦
【配給】アニプレックス/KADOKAWA
【製作】A-1 Pictures
【時間】110分

アニメ版「SAO第1期」「SAO第2期」とほぼ同じチームで製作された本作は、原作者川原礫が自ら脚本を担当するなど、原作やアニメの世界観を忠実に受け継いで製作されるなど、従来のファンは自然に入っていける作りになっています。

その一方で、今回がSAOに対して全くの初見だと、少し厳しいかもしれません。フルで楽しみたいなら、DVDや各種配信サイトでアニメ版第1期(Amazon Prime他)、第2期(U-NEXT)を見ておくことを推奨します。時間がない場合は、アニプレックスの公式動画として、約10分間で過去のアニメシリーズをまとめた動画があるので、そちらを最低限見ておきたいところです。

2.主要登場人物とキャスト

基本的には、ソード・アート・オンラインシリーズの主人公キリト、アスナの2人を中心とした攻略組や、過去ストーリーで彼らと深く関連したメンバーがほぼ総出演しています。重要キャラの一瞬だけのカメオ出演などは、ファン泣かせの嬉しいサービスでした。(※ここでは、主要キャラのみ紹介しておきます)

キリト(松岡禎丞)
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アニメ第2期でも新しいVRMMOに消極的だったが、今回のオーディナル・スケールでも今ひとつ煮え切らない感じ。もうアスナと仲良く満たされているからまぁ最初はこうなりますよね。しかし、中盤からはいつもの巻き込まれ体質と責任感で、本気で攻略を目指すようになります。

アスナ(戸松遥)
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囚われたり、記憶喪失になったりと、SAOシリーズでは一番危ない目に遭っているのは、やっぱりキリトを本気にさせるためにはストーリー上仕方ないところ(笑)しかしVRMMOだけでなく、ARでもちゃんと動ける身体能力はさすが。

ユナ(神田沙也加)
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神田沙也加の歌唱力は本当に安心して聴けるし、色々声色も調整できるのでこの起用は本当に良かったと思います。声優としても全く違和感ありませんでした。

エイジ(井上芳雄)
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やや棒読み演技が気になりましたが、思ったほど酷くはなかったかも。血盟騎士団のときと表情というか顔の造作まで違っているような・・・

重村教授(鹿賀丈史)
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あとで鹿賀丈史がやっていると言われるまで全く気づかなかった。それほど、ポット出の素人声優臭さがなくて板についていました。裏番組で「相棒劇場版」でも大活躍中ですね。

リーファ(竹達彩奈)
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今作では、クライマックスシーン以外はほとんど出番がなく、脇役陣の中では存在感は少し薄かったような。でも、クライマックスシーンで胸の谷間からユイが出てきたシーンでファンは満足でしょうね(笑)

シリカ(日高里菜)
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今作では非常に出番が多く、存在感がありました。意外に人気が高いキャラなんでしょうか?

リズベット(高垣彩陽)
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アニメ版でアスナのために身を引いてから、すっかりいい姉御ぶりが板についてきたリズベット。サイドストーリーでもいいので、新たな展開を用意してあげて欲しいところです。

シノン(沢城みゆき)
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今作はARだったので、普段着に近いメガネ仕様で戦闘に参加していました。遠隔攻撃は不利なオーディナル・スケールにおいて、一人気を吐くなど、出番は少ないながらも存在感はありました。

クライン(平田広明)
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今回は完全にやられ役。風林火山のメンバーが1名遅刻して来ないなど、現地集合が基本のARイベントの難しさをしれっと教えてくれます。

ユイ(伊藤かな恵)
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ARになり、出番が確実に増えたユイ。今回の映画では、「こんなことまでできるのか」とその無双ぶりに驚かされました。

その他、過去にアニメシリーズでキリト・アスナ達が絡んだメインキャラ達が様々な形で出てきますので、要チェックです。

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.新たに流行したARゲーム「オーディナル・スケール」

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2024年11月7日、天才科学者、茅場晶彦が10000人のユーザーを人質に取ったデスゲーム「ソードアート・オンライン」(以下SAO)がキリトに攻略され、茅場晶彦が死んでから2年。そこで生き残った「SAO帰還者」達は、平和な日常生活を素過ごしていた。

それから2年後。従来ヘッドギアをかぶるフルダイブ型のVRMMOに代わり、最近急激に流行しつつあったのは、AR(拡張現実)型情報端末「オーグマー」だった。

専用端末機器を使い、仮想空間へと意識ごと転移しなければならない従来のVRMMOと違い、覚醒したまま現実空間で手軽に楽しめること、電磁波照射による危険性がないことから、オーグマーはすごい勢いで普及しつつあった。

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オーグマーの作り出すAR空間では、現実世界に仮想の情報を投影するため、目的地へのルート案内や、ゲーム・TVといった娯楽、お店の割引券や食べ物のカロリー計算、チャットなど、日常生活の広い場面で応用ができる便利な機能が沢山実装されていた。

帰還者スクールに通うアスナ、シリカ、リズベットはすぐにこの「オーグマー」に夢中になっていたが、VRゲームに慣れたキリトは、なぜかあまりこの熱気についていけず、乗り気ではなかった。

そして、オーグマーでリリースされた最新ゲーム「オーディナル・スケール」も話題になっていた。現実世界の各イベントスペースで出現するアイテムを集め、モンスターや対人バトルを進めていくRPGゲームである。戦闘等で勝ち進みポイントを集めると、ゲーム内のランクアップが可能になり、ランクに応じてゲームスポンサー企業から、様々なサービスを受けられるような仕組みが、ゲームの人気拡大につながっていた。

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また、ゲーム内では、AIで動き、歌って踊るヴァーチャル・ARアイドル「ユナ」がイメージキャラクターとして非常に人気を博していた。

3-2.オーディナル・スケールでのトラブル

ある日、キリトとアスナは、クラインから「オーディナル・スケール」を試さないか?と誘われた。キリトは気乗りがしなかったが、ゲーム内で旧アインクラッドのボスキャラが出現する、というきな臭い噂を確認してみたくなったので、参加してみることにした。

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その日の会場は秋葉原UDXだった。ゲームイベントスタートは21時。ユナの歌い出しと当時に、旧SAOの10層ボスモンスター「カガチ・ザ・サムライロード」が出現した。モンスターの攻撃特性を読み、敵を倒そうとするも、VRと違い、感覚の違いや体の重さが気になり、動きが鈍いキリト。ランクNo.2のエイジが大ダメージを与え、最後にアスナがトドメを差して、その日の戦闘は終了した。ユナは「ご褒美」と言って、アスナにキスをした。

エイジは、その後もレアアイテムを拾った他のプレイヤーを襲撃してアイテムを奪うなど、強くなるためには手段を選ばない男だった。

4月24日、ALO内のアインクラッド22層のキリト・アスナの山荘にいつものメンバーが集まった。仲間内の何人かに、1週間後に行われるユナのコンサートチケットが当たったようだ。剣道の合宿で行けないリーファと、乗り気ではないキリト以外、全員コンサートに行くことになった。

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翌日朝、剣道の合宿に妹、直葉を送り出すと、キリトはALOでアスナと落ち合い、閑散としたALO内について嘆いた。ALO内のクエスト・イベントも人が集まらず中止になったという。アスナと5月4日に流星を見に行く約束をして、その日はログアウトした。

一方、アスナはその晩も代々木公園で行われる「オーディナル・スケール」のイベントにクラインのギルド「風林火山」と一緒に参加した。ゲームがスタートすると、「ザ・ストームグリフィン」がアスナの前に現れた。アスナは、SAOでの攻略の記憶を元に、集団戦を上手に指揮して、見事に勝利を収めたが、クラインはエイジにギルド仲間を倒され、クライン自身もエイジに武器を奪われ、身動きが取れない中、モンスターに襲われて病院へ搬送された。

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翌日、キリトはアスナとデートの約束をしていた。アスナが現れるまでの間、代々木公園で「オーディナル・スケール」の練習を一人打ち込んでいると、白装束の見知らぬNPCの少女に出会ったが、白装束の少女はある方向を指差して一瞬で消えてしまった。この後、度々キリトは白装束のこの少女と頻繁に出会うことになる。

アスナと合流後、アスナと昨日の戦闘の感想と、No.2プレイヤー「エイジ」について話し合った。エイジは、元SAOの血盟騎士団「ノーチラス」ではないかと疑うアスナ。血盟騎士団では、優秀だったが敵と対決する勇気が出ず、活躍できなかった無名の存在だったという。

次の日21時からも、バイトで行けないシノン以外、アスナとシリカ、リズベットが「オーディナル・スケール」のイベントに参加した。きな臭さを感じていたキリトは、念のために総務省の菊岡へ連絡するとともに、自身はアスナ達と別行動で密かにソロで参加することにした。

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バトルでは、旧SAOでの91層のボスモンスターが出てきて、強すぎるモンスターを前に、その日アスナたちでは全く刃が立たなかった。エイジに突き飛ばされ、モンスターに襲われるシリカを庇ったアスナは、体力ゼロとなり、戦闘不能に陥った。キリトはエイジと対決するも、タイムアップとなってしまった。

その晩、アスナは夢を見ていたが、キリトのことや、旧アインクラッドでの記憶が急にぼやけてしまい、真夜中に目が醒めた。ALOへキリトを呼び出し、自身の記憶障害についてキリトに相談した。

翌日、キリトはアスナを病院へ連れて行き、精密検査をしたところ、脳機能に異常はなかったが、部分的に記憶障害を起こしているとの診断を受けた。ARイベントバトル以降、オーグマーが原因で記憶障害が進む現状に、キリトとの大切な記憶をなくして平常心を失いつつあるアスナだった。翌日、キリトは入院中のクラインも尋ね、クラインも旧SAO関連の記憶をなくしていることに気づいた。

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その晩、キリトはふたたび開催された「オーディナル・スケール」の東京ドーム前でのイベントに一人で参加していた。すると、シノンが駆けつけてくれた。そこで第18層のボスキャラ「ダイアンタスク」(※注:聞き取り間違ってたらすみません、修正します)が現れた。キリトはこれを倒し、ユイは東京ドーム上空を飛んでいたドローンに吸い込まれていくSAO生還者の「記憶」を追って、ドローンの中に入っていくも、途中で侵入できなかった。キリトは、シノンの助けもあり、戦いに勝利した。そして、キリトがこれまで白装束の少女と出会い、その都度少女が指差した場所をプロットしてみると、大岡山の東都工業大学が浮上した。

3-3.黒幕、重村との対決と、キリト達の最終決戦

翌日、キリトは東都工業大学の重村教授の授業に潜り込み、授業終了後重村教授にオーグマーと記憶障害の関係性について指摘したが、重村ははぐらかした。キリトは、続いて総務省の菊岡に連絡して、すぐにオーグマーの使用を中止させるよう進言したが、菊岡は、すぐには難しいと回答した。

その晩、キリトはアスナの家を初めて訪問した。母親は留守だった。アスナの記憶障害は進行しており、最近約束した埼玉の山で星を見る約束まで忘れてしまっていた。アスナは忘れないよう、日記をつけていた。キリトは、それを見てアスナの記憶を絶対に取り戻すと誓った。

翌日、重村は、エイジに「計画を急いで進捗させろ」と指示を出した。キリトに感づかれたからだ。一方、キリトはその晩、明治神宮の参道内で、白い装束の少女と初めて言葉を交わした。ユナと白装束の少女が同一人物であり、少女が旧SAOにいたことを思い出した。白装束の少女は、キリトにもっとランクを上げないとオーグマーの裏で動く計画には近づけない、とアドバイスをした。

キリトは、オンラインで直葉に連絡をして、剣道について一から学び直し、来るべき決戦に備えるのだった。

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キリトは、翌日から、ユナのライブ当日まで毎日「オーディナル・スケール」の各イベントをはしごして、片っ端からボス戦をこなして、ポイントを取得していった。最終的には、1ケタ順位までアップするのだった。

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そして、いよいよユナのライブの日がきた。場所は新国立競技場。クライン以外の仲間がスタンドに座ってライブを待つ中、キリトは、地下駐車場でエイジと対決していた。腕を挙げたキリトは、エイジと互角以上の戦いをしたが、エイジの肉体機能をブーストする装置に気づくと、これを素手で外して、エイジを倒すことができた。

ライブがスタートすると、監修が興奮する中、重村教授は、かつての教え子、茅場に「オーディナル・スケール」を開発した真の目的は、旧SAOで命を落とした娘ユウナをAI化して、再構築するために娘ユウナの記憶を持つSAO帰還者をライブ会場へと一堂に集め、彼らの記憶を奪い取ることだったと述懐した。

ライブが終わると、ファイナルイベントとして、その場に無数のボスキャラ達が現れた。会場は大混乱に陥り、観客たちは逃げ惑ったが、出口は封鎖されて会場内から出られなかった。観客たちの恐怖がピークに達したところで、ライブ会場に設置したドローンから一気にSAO帰還者から記憶の高出力スキャンを行うと、かつてナーヴギアと同様に、全員死んでしまう可能性があった。

白装束の少女、ユウナは父、重村教授に「こんな形での復活は望んでいない」と止めようとしたがムダだった。また、重村は、キリトとの戦いに破れ傷ついたエイジからも、ユウナの記憶を吸い取ろうと画策し、エイジのもとにボスキャラを1体送り込んだ。

ユウナは、キリトに、アインクラッド100層のモンスターがアイテムとして落とす剣を使えば、一瞬でライブ会場に現れたモンスターを倒せるはずなので、アインクラッド100層で戦ってきてほしいと懇願した。ユウナは、キリトたちを第100層へと送り込んだ。

そこでボス戦が行われたが、ユイがかつての仲間たちを召喚し、アスナも勇気を出して戦ったため、何とか100層のボスを倒すことができた。ボスがドロップした剣をコンサート会場に転送されたキリトが振るうと、ほぼ一瞬でボスキャラを平定することができた。

ボス戦が終わると、100層のボスと同じリソースで実体化されていたユナも消えることになったが、ユナには迷いはなかった。ユウナは、消える前に旧SAO生還者から取得した記憶をそれぞれに返却し、エイジにも夢を覚えておいてくれたことに感謝して、消えていった。スタジアム内のボスキャラが一掃されたあと、重村は総務省の菊岡らに連行された。

翌日、ニュースではコンサート会場でのライブ終了後のモンスター出現は、サプライズ演出であったことが発表され、また重村は「オーディナル・スケール」開発元である、カブラ社社外取締役を辞任すると発表した。

そして、5月4日。いつもの酒場では、クラインの退院祝いに仲間が集っていた。しかし、キリトとアスナは堂平山で、約束したデートを楽しんでいた。キリトは、アスナに改めて指輪を嵌め、二人で仲良く星空を眺めるのだった。

そして、後日。菊岡は、本来犯罪者として逮捕拘禁されるべき重村を国家の超法規的措置により、不問に付す代わりに、ある地下室へ連れて行った。そこは、菊岡が秘密裏に関与する、ベンチャー企業「ラース」での次世代型フルダイブ実験機が置かれていたー。(SAO will returnという字幕で終了) 

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.マニアでも初心者でも楽しめる集大成的な作品でもあり、映画らしい正統派グレードアップが施された傑作

単なる総集編や、それに毛が生えた程度のアニメ作品の劇場版が多い中、今作は既存の「設定」は正常な時系列で引き継ぎ、ストーリーは「完全オリジナル」で、作画やスタッフは大幅増強して「映画ならではのクオリティ」として製作された傑作となりました。

美しい夜景
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さすがに新海誠作品には負けますが、徹底したロケハンで描きこまれた東京都心の背景、アクションシーンの迫力ある動きは、もともとハイレベルなアニメ本編よりさらにグレードアップしています。

設定や登場人物は多めで、かなりめまぐるしい割に、ストーリー上の要点は「キリトとアスナが活躍して敵を倒す!」という紛れのない王道な設定だったのも、SAO初心者からマニアまで納得し易い流れだったのかも。

4-2.画面上での情報密度が濃い!

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また、「オーディナル・スケール」は、過去に大ヒットしたアニメ作品同様、とにかく画面での時間あたりの情報量の密度が高いことが挙げられます。各キャラのカメオ出演や細かい背景、細部まで考え抜かれたストーリー設定などは1度の鑑賞では全部押さえきれません。キリトが仲間たちとLINEやARでやり取りする画面なんか、明らかに見えづらいように小さなフォントで、しかもものすごい速さで画面を流れていってしまいます。今度行くときは一番前に座らないと・・・。

さらに、かなり作り込まれている割に、パンフやムック本などで事前に開示されている情報はすごく少ないのですよね。だから、ファンは劇場にリピートして一つ一つ確認しに見に行くしか無いんです。うまくやってくれたなあ!という感想です。(そして映画会社の策略どおり何度も行く羽目になりそうです/笑)

4-3.AR環境でのキリトの苦労とユイの意外な活躍

完全に運動不足で、かつ、幸せで満たされたキリトにいつもの無双ぶりが見られず、ちゃんとAR環境で活動するために剣道の練習をしていたり、昼間に一人でAR環境で剣を振るトレーニングをしていたのが印象的でした。(それでも、ユイや仲間が危険な目にあうと、スイッチが入ったように馬鹿力を発揮するのもキリトらしかった)

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それと反比例して、AR環境ではユイが常に皆からアクセスし易いからなのか、VR環境以上に役割が拡大していましたね。キリトの参謀として、またラストクライマックスでは仲間集めも全部担当するなど、実は影のMVPはユイだったんじゃないでしょうか。ユイの無双ぶりが凄かったです。

実際に、AR環境が我々の生活に入ってきた時、SiriなどのAIによるアシストは欠かせなくなってくるのかもしれませんね。

4-4.クライマックスでの「マザーズ・ロザリオ」に歓喜!

ラストのクライマックスにかけて、キリトのいつもの仲間たちだけでなく、ALOやGGOの仲間まで入り乱れて第100層のボスキャラに挑む中で、キリトの2刀流16連撃も良かったですが、アスナが満を持してユウキから受け継いだソードスキル「マザーズ・ロザリオ」11連撃を炸裂させていたのが一番印象的でした。わずか1秒間足らずでしたが、技を出す時ユウキもちゃんと描かれていたのは見どころだと思います。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.「オーディナル・スケール」の時系列位置付けは?

本作は、アニメSAOシリーズのここまでの総決算的な位置付けとされるオリジナル作品ですが、時系列的には、外伝「マザーズ・ロザリオ」と第4章「アリシゼーション」編の間で発生したイベントです。簡単に整理すると、こんな感じでしょうか。

★今作の時系列上での位置付けは・・・

・アインクラッド編(2022/11~2024/11/7)
SAOで茅場晶彦が仕掛けたデスゲームを、キリトがクリアするまでの話。アニメシリーズ第1期。原作第1巻~第2巻。
・フェアリィ・ダンス編(2025/1/20~2025/1/22)
アルブヘイム・オンライン内に囚われたアスナをキリトが救出し、アスナが現実へ帰還するまでの話。アニメシリーズ第1期。原作第3巻~第4巻。
・ファントム・バレット編(2025/12/7~2015/12/16)
キリト、菊岡の依頼によりシノンと共にガンゲイル・オンライン内の不可解な死亡事故を調査し、解決へと導く。アニメシリーズ第2期。原作第5巻~第6巻。
・外伝マザーズ・ロザリオ編(2026/1/6~2026/4)
アスナ、「絶剣」ユウキと出会い、ユウキ達と最後のクエストをやり遂げ、ユウキを看取る。アニメシリーズ第2期。原作第7巻。
・「オーディナル・スケール」(2026/4~2016/5/4)
今回の映画本編。AR環境オーグマーでの重村教授の計画阻止
・アリシゼーション編(2026/5~)
キリトの新たな仮想世界「アンダーワールド」での冒険がスタート。アニメ第3期か?原作第9巻~第18巻。

5-2.重村教授の狙いは?2人のユナの役割は?

重村教授は、ARゲーム「オーディナル・スケール」に、SAOで死んだ自身の娘「重村悠那」にちなみ、AIを実装した2体のデジタル・ゴースト「ユナ」を作成しました。SAO内のデスゲームで死亡した「悠那」を蘇らせ、AI搭載のデジタルゴーストとして永遠の命を与えるためです。

そのためには、かつてユウナとSAOで行動を共にしたSAO生還者達のユウナに関する記憶データを収集し、デジタルゴーストへとインストールする必要がありました。そのために開発したのが、「オーグマー」であり、プレイヤーに恐怖心を植え付け、効果的に記憶抽出するためのARゲーム「オーディナル・スケール」でした。

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黒い「ユナ」は、ゲーム内での無邪気なARネットアイドルとしてSAO生還者達の記憶収集を促進するために作られたAIです。記憶収集のクライマックスとして、黒い「ユナ」の大規模ライブが計画されました。

一方、白い「ユナ」は、各種ゲームイベントで収集されたSAO生還者たちの記憶を元に人格が形成されたデジタルゴーストです。高度な知性と良心を兼ね備え、やがて父親の計画を阻止するようになっていきました。

5-3.エイジとは誰だったのか?なぜNo.2だったのか

エイジの本名は、後沢鋭二。重村悠那の小学校からの幼馴染で、悠那とともにSAOで囚われました。本編でアスナが気づいたように、彼はアスナと一緒の攻略ギルド「血盟団」に所属しましたが、気が弱く、活躍できませんでした。積極的に攻略組へと参加して、命を落としてしまったユナを救うことができず、攻略組を逆恨みしたまま、SAO事件終了を迎えます。そして、今回「オーディナルスケール」で、重村に見出されて(というか利用され)ユナ復活計画の片翼を担いました。

彼は、オーディナル・スケールで一人だけ特殊器具を身につけることで、ゲーム内で最強キャラとして君臨しましたが、にも関わらず、常にゲーム内でのスコアランクで、「No.2」でした。そして、いつもNo.1は空欄になっていました。これは重村の意向で、SAO生還者の記憶収集が完了し、ユナが完成した時にユナにNo.1が与えられる予定だったためと思われます。

5-4.タイトル「オーディナル・スケール」の意味とは?

順位が最重要な世界
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映画内で説明はされていませんが、「オーディナル・スケール」とは、統計学の専門用語で、日本語に訳すると「順序尺度」。絶対数値の差異ではなく、大小関係のランク付けを重要視する判断基準のことです。

ARゲーム「オーディナル・スケール」では、ゲーム順位によって、ゲーム内での強さが決まり、ゲーム外でスポンサーから受けられる恩賞も変わってくる、いわば「順位」がすべての世界でした。

物語後半で、重村と茅場が「基数から序数へ」と言っていましたが、これも「1番目、2番目、3番目」といった「序数」を重要視する=ランク付けで全てが決まる世界観への移行について指摘していたのでしょう。

実際、2012年頃に一瞬流行した「Kloutスコア」なるSNS内での個人の影響力を数値化し、企業のマーケティングやサービス対象選定に使われた格付けサービスがありましたので、今回のSAO劇場版のようなサービスは今後流行してもおかしくはありませんね。(個人的には嫌ですが・・・)

5-5.ラストシーンまで気が抜けない!アニメ第3期アリシゼーション編への前フリか?

まるで最近のMARVELアメコミ映画作品のように、映画の最後に続編へのおまけがついているとは思いませんでした。ちょっとしたサプライズです。ネット上の噂で、「アニメ第3期」が決定したらしい、とありましたが、これのことだったのですね。

「ラース」という単語が菊岡のセリフから聞こえましたので、ソードアート・オンライン原作で、第9巻~第17巻まで9巻分かけた「アリシゼーション」編がスタートするのでしょうね。アニメ化した場合、4クール分位の分量はゆうにあるので、第3期、第4期とやっていってほしいです。夏以降に大期待!ですね。

6.まとめ

2010年台に入って最も世界で売れているライトノベルNo.1の実力はやっぱり凄かったです。ライトノベル特有の「女子だらけ」、最後は主人公の「無双状態」で解決するっていうお約束はあるものの、確実にここで提示されているARやVR、そしてAIが絡んできた世界観は、日本の現実の数年先を行く優れた近未来のコンセプトだと思います。

この先、3期目のアニメ放映も決まっているようで、SAOの世界はますます楽しみ担ってきますね。

それではまた。
かるび 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

劇場版SAO「オーディナル・スケール」オリジナルサウンドトラック

今作品は、とにかく音楽が良かったです!ユナ(CV:神田沙也加)が歌う劇中歌4曲+エンディング1曲を含め、場面場面に応じたスリリングな全50曲は聴き応え十分でした。アニメ第1期、第2期との雰囲気もバッチリあっていました。僕も劇場で買いましたが、Amazonでもかなり売れているようですね。

アニメ「SAO第1期」

第1期の「アインクラッド」編と「フェアリィ・ダンス」編の全25話を網羅した愛蔵版です。まだ未見の人は、絶対見ておいて欲しいシリーズです。

なお、Amazon Primeだと無料で見れます。Amazonビデオで見ると、1シリーズ200円×25話=5,000円かかりますので、一気見したいのであれば、年間3980円のPrimeに入会してしまったほうがお得ですね!

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アニメ「SAO第2期」

第2期は、海外生産のブルーレイが廉価でおすすめです。シノンが大活躍する緊迫の「ファントム・バレット」編、RPGらしい冒険譚のALO外伝「キャリバー編」、そして涙なしでは見れない「マザーズ・ロザリオ編」と、珠玉の3編があります。これを全部見ておくと、劇場版が120%楽しめます!

なお、第2期の動画配信は、2017年2月18日現在U-NEXTのみです。初月は入会無料で、24話全話パックで3548円(600円分はサービスなので、実質2948円で視聴可能)で見れます。初月無料期間中に全部見れば、基本料金はかかりません!僕は、映画公開前にU-NEXTでまとめて全話チェックしました!

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ソードアート・オンライン・マガジン第3号

昨年から電撃PlayStationの増刊号として、およそ隔月ペースで出版されています。第1号はAmazonマーケットプレイスでカルト的人気になるなど、売り切れると増刷がかかりにくい模様。第3号では、劇場版SAO「オーディナル・スケール」総特集他、TV版全話総括、全バトル解説がつくなど、ちょうど劇場版の前の復習にピッタリの1冊です。

その他のSAOグッズはこちらからどうぞ! 

これまで、アニメ版DVD-BOX、各種グッズ、オリジナル小説、外伝、など、様々な関連商品がリリースされてきた「SAO」シリーズ。下記リンクに、それぞれAmazon、楽天の関連グッズのページを整理しました。よろしければ、ご活用ください!

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【ネタバレ有】「一週間フレンズ」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/脚本にやや難ありか?「記憶障害」王道ラブコメ青春映画でした!【いちフレ】

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かるび(@karub_imalive)です。

2月18日に公開された青春恋愛映画「一週間フレンズ。」(通称「いちフレ」)を見てきました。マンガ原作からアニメ化もされてヒットした、一風変わった「記憶障害」を持つヒロインをめぐる切ないストーリーです。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「1週間フレンズ。」の基本情報

<映画「一週間フレンズ。」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】村上正典(「電車男」「赤い糸」Huluドラマ「代償」)
【配給】松竹
【時間】120分
【原作】葉月抹茶:コミック版「一週間フレンズ。」

原作漫画、アニメ化を経て、企画された今回の映画。メディアミックスとしてやり尽くした、いわば最終段階での実写映画製作です。

なお、アニメ版同様、スキマスイッチが特別に映画用にアレンジしたテーマソング「奏」をバックにした予告動画ロングバージョンもあります。合わせて見ておくといいかも。(しれっとラストシーンまで見せちゃってるけど/笑)

2.映画「一週間フレンズ」の主要登場人物とキャスト

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(引用:映画「一週間フレンズ。」公式サイトより)

キャスト陣では、主人公の長谷祐樹、藤宮香織をはじめとしてほぼ全員が程度の差はあれ、キャラの性格や設定に手が加えられています。また、「記憶障害」をリアルに見せるためか、原作ではほとんど空気な感じだった医者や両親、先生など、作品内で「大人たち」が多めに登場してきています。(居なくても良かったけど・・・)さらに、映画だけのオリジナルキャラとして、近藤まゆという女の子が追加されました。 

長谷祐樹(山崎賢人)

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主人公。恋愛青春映画は、昨年10月リリースの「四月は君の嘘」以来4ヶ月ぶり。そう言えば年末の「妖怪ウォッチ」でもエンマ大王役で出ていましたね。ここ最近、役柄もかっこいいだけのヒーローだけでなく、多彩な配役が回ってくるようになりました。

藤宮香織(川口春奈) 

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一旦大切な存在や友人として認識すると、豹変したように人懐っこく振る舞う原作とは違い、落ち着いた繊細な感情表現が良かったです。村上正典監督のインタビューでもありましたが、映画中でたまに繰り出す「笑顔」が素晴らしく魅力的でした。 
桐生将吾(松尾太陽)
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祐樹の親友である将吾役は、映画初起用となった松尾太陽。一見ぶっきらぼうですが、主人公、祐樹を影で色々サポートする役柄です。イケメンなんですが、演技は・・・もう一つかなりヤバかっただったかも。

九条一(上杉柊平)
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マンガ原作では、香織を媒介として、主人公の祐樹とも次第に「男の友情」が育まれていきますが、映画版では(彼には彼の事情があるにせよ)、ステレオタイプ的に悪役一辺倒な、いけ好かないやつとして描かれています。

山岸沙希(高橋春織)
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祐樹の幼馴染でしっかりものという映画独自設定。主演以外の脇役の中では、この高橋春織が一番存在感があって、好演だったと思います。将吾といい感じになった原作と違い、その視線はずっと祐樹に向けられています。でも祐樹もこんなかわいい幼馴染がいるのに贅沢ですね・・・。

近藤まゆ(古畑星夏)
映画内でのオリジナルキャラ。中学時代、香織と九条との間で三角関係となる。

藤宮志穂(国生さゆり)
香織の母親役。服の上からでもふくよかでお腹が出ているのがわかるくらい、すっかりおばちゃん役が似合うようになりました・・・
井上潤(戸次 重幸)
青春映画やスイーツ系映画で、チョイ役として出演する先生や父母役で、本当によく見かけるTEAM NACSメンバー。今作でも安定の人畜無害な感じの先生役です(笑)

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3.映画「いちフレ」ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.長谷祐樹と藤宮香織の出会い

高校1年生が終わる3学期、長谷祐樹は親友の桐生将吾と学校の図書室にいた。将吾が真面目に勉強に打ち込む中、祐樹は1冊の本を見つけた。誰も借りなそうな難解な分厚い本「アンリ・ミショー全集」を取り出すと、これを借りることにした。マンガ研究会に所属する祐樹は、パラパラマンガを書き込むのに適した本を探していたのだ。

祐樹が藤宮香織と出会ったのは、その日の図書室だった。彼女が落とした図書カードを偶然拾い、さらに帰りの電車も偶然一緒の車両に乗りあわせ、借りた本を座席に置き忘れた祐樹に、本を渡してくれたのだ。その別れ際に見せた彼女の笑顔が忘れられなかった。

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次に祐樹が香織と会ったのは、高校2年となって、新しいクラスで一緒になった初日だった。放課後、祐樹は香織に「友だちになってください」と伝えたが、きっぱりと拒絶されたのだった。

友人に聞くと、彼女は高校1年生の秋に転入してきて以来、誰とも積極的に口を聞こうとせず、いつも一人でいるのだという。それでも、諦めきれず、どうしても近づきたいい祐樹は、放課後やランチの機会に、彼女のところへ行って、友達になってくださいと繰り返し話しかけた。しかし、香織からの返事はいつもつれなかった。

そんな祐樹を見ていた担任の井上は、香織が過去のトラウマが原因と思われる「解離性健忘症」という、一種の記憶障害を抱えていることを祐樹にそっと伝え、コミュニケーションのとり方についてアドバイスをした。

香織は、両親と定期的に医師の精密検査を受けており、日常生活には支障はなく、両親の顔などは正常に認識できるのだが、月曜日になる度に、友人との記憶だけをすべて失ってしまう、という特殊な記憶障害を患っているのだった。

香織がなぜクラスで孤立し、誰とも話ができないのか理解した祐樹は、この状況を打開し、何とか藤宮と友人になるにはどうしたらいいかずっと思案していたが、ある時、古文の授業中で紀貫之「土佐日記」の授業を受けている時、彼女との「交換日記」をスタートする、というアイデアが思い浮かんだ。

3-2.交換日記を機に、関係を深める2人

すぐに、幼馴染の沙希と一緒に近所の文房具屋で水玉のノートと、水色・ピンクのペンを購入し、次の昼休みに香織に「交換日記をしよう」と持ちかけてみた。

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当惑した香織は、一旦はノートを突き返すも、度重なる祐樹の押しに負けて、ノートを受け取ってしまった。人がいない所でこっそり見てみると、月曜日~金曜日の日記が簡単ではあるが、書かれている。

この日、帰宅した後母親に交換日記のことを聞き、久々に過去の自分の思い出の品をあけてみる香織だった。

翌日、香織は屋上に祐樹を呼び出し、一週間で友人との記憶が消えてしまう自分の記憶障害について話し、迷惑をかけたくないから友人にはなれない、と言って、ノートとペンを祐樹に返した。祐樹は、なおも「友人になってくれ」と頼み込んだが、香織に断られ続けた。

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しかし、そんな頑固な香織も、ある放課後の下校時刻に、急な雨が降ってきた時に祐樹がカサを貸したことで、とうとう根負けして交換日記に応じることを了承した。ただし、1週間で記憶がリセットされてしまうので、金曜日の夜に香織が家に日記を持って帰り、月曜日の朝に読み返してから登校することで、祐樹のことを忘れないようにしたい、と香織から提案があった。

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交換日記は、二人の間柄を友人関係に変えただけでなく、香織の心境も大きく変えることになった。将吾や沙希など、祐樹の友人たちとも友達になったのだった。

夏休みになり、祐樹は、香織、将吾、沙希と、近くの川沿いで行われる、夜にランタンを飛ばす「天燈祭り」に出かけることにした。人出も多く、人混みの中で将吾、沙希とバラバラになってしまった香織と祐樹は、二人きりでランタンが飛ぶ幻想的な風景を楽しんだ。まるでデートのようだった。

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沙希、将吾を見つけ、合流出来た時、香織に見知らぬ他校の女の子が話しかけてきた。その女の子は、中学で同じクラスだった近藤まゆと名乗ったが、記憶障害の香織には、誰なのかわからなかった。さらに、見知らぬ男が突然香織に向かって、「裏切り者」と突然つぶやいた。

それを聞いた香織は、急に呼吸が荒くなり、その場で倒れてしまった。祐樹は、彼女を介抱し、急いで病院に連れて行った。なぜか、その男も病院についてきて、目を覚ました香織は、男を見て「はじめ君」と名前を覚えていたのだった。

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香織の両親も急ぎ病院にかけつけ、祐樹は、香織の不安定な精神状態を憂慮した父から、「もう娘には近付かないでくれ」と釘を刺されるのだった。

しかし、どうしても諦めきれない祐樹は、あれ以来交換日記が途絶えてしまった香織の家に直接出向き、交換日記だけ手渡すのだった。帰り道、追いかけてきた香織の母と少し話をしたが、母親は祐樹を応援してくれているようだった。

3-3.明らかになった香織の過去と九条一の登場

二学期になり、祐樹のクラスに九条一という転入生が入ってきた。夏休み、香織に暴言を吐き、香織を精神的に不安定にさせたその男だった。九条は、香織のことが「大嫌いだ」と言うが、裏がありそうだった。

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やがて、学園祭シーズンが近づき、準備が大詰めとなった日。香織と祐樹は、キャンプファイヤー用の出し物(ドミノ)を倒してしまい、大騒ぎする周囲をよそに、二人で図書室に逃げ込んだ。いい雰囲気になる二人。しかし、そこへ九条がやってきて香織を非難した。

その時、香織は部分的に九条との昔の思い出を思い出した。九条が札幌へ引っ越す前日、最後にもう一度会おうと約束していたが、結局九条の前に現れなかった香織。それを非難する九条だったが、香織はその日、確かに待ち合わせ場所まではたどりついたことまでを思い出した。だが、その先を思い出す前に、頭が割れるように痛くなり、ダウンしてしまった。

学園祭当日。クラスで出展していた模擬店で祐樹と九条が呼び込みをしていると、先日河川敷で会った近藤まゆがやってきて、香織の記憶障害について、過去の一件について謝りたいという。九条と祐樹は、香織とまゆをつれて屋上で話をすることにした。

まゆは、中学時代に九条に片思いをしていたが、九条は香織のことが好きだった。九条は香織を呼び出して、気持ちを伝えたが、香織はまゆのことを思い、返事を保留していた。しかし、2人で会っていたところを別のクラスメイトに見られてしまい、香織はクラスで浮いてしまっていた。

そして、それが決定的になったのが、九条が転校する前に香織を呼び出した夜のこと。香織が九条のところに駆け寄るその直前、それを偶然見ていたまゆや友人が、「抜け駆けしないで」と香織を責め立てた。それを聞いて、とうとう心が耐えられなくなった香織は、公園と反対の道路に飛び出してしまい、車にはねられた時に、その時のトラウマから「友人」について忘れてしまう、特殊な記憶障害になってしまったのだった。

その事実を聞いた香織は、ふたたび頭を抱え、うずくまってしまう。必死に祐樹が介抱する中、香織は「一君に会いたい・・・」と祐樹の腕の中ではっきりとつぶやいた。

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落ち込んだ祐樹は、キャンプファイヤーの中に交換日記を投げ入れて焼き捨ててしまい、次の月曜日には、当然一のことは覚えていても祐樹のことは全く覚えていなかった。

3-4.香織に忘れ去られる祐樹、そして卒業式の奇跡

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冬になり、すっかり香織は九条と恋人のように付き合うようになっていた。祐樹は、沙希から告白されたが、沙希と付き合う気にはなれなかった。

そして、高校3年生になり、祐樹と香織は違うクラスになると、二人には全く接点がないまま、あっというまに卒業式の日を迎えた。

卒業式の当日、祐樹はせめての思い出作りのため、香織と卒業アルバムにメッセージ交換をした。祐樹は、メッセージにイラストを添えて「また笑顔が見れて良かったです」と書き込んだ。香織と祐樹は、メッセージを交換し終えると、何事もなく別れたのだった。

帰ろうとした時、香織は図書室から未返却の本がある、と呼び出された。結局それは勘違いで、本は別の図書委員が持っていたのだが、その本に書き込まれていた落書きを見た図書委員に、落書きはいけませんね、と注意をされた。

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香織は不思議に思ってその本「アンリ・ミショー全集」をめくってみると、貸出カードには「長谷祐樹」と埋め尽くされており、そのマンガは、先程メッセージ交換をした祐樹のものだった。そのパラパラマンガは、祐樹が香織と高2の春に出会い、そして学園祭の日までのハイライトが描かれていた。

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その時、香織は全てを思い出した。そして、祐樹にもう一度会いたい、と心から強く思い、学校中を探し回った。そして、祐樹はいつもの学校の屋上にいた。

香織は、祐樹に近づいていき、「私と友だちになってください」と祐樹に手を差し出した。祐樹は驚きつつも、嬉しいような泣きたいような気持ちで、手を握り返した。

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4.映画「一週間フレンズ。」の感想や評価(※ネタバレ注意)

大抵のスイーツ系恋愛作品は、「アラ」には目をつぶって、楽しく見れてしまうのですが、今作は、映画を見ていてどうしても目につく不満が多目でした。ちょっと否定的な感想が多くなりますが、ご了承ください。

4-1.原作、アニメ版とはほぼ別物の作品だけど、これはこれでありかなと思った

すでにマンガ原作とアニメ版が完結した後に、製作された今回の実写映画。真新しさを確保するためなのか、あるいはアニメ12話分を凝縮する映画の「尺」の調整のためなのか、ストーリーの大きな流れは同じですが、詳細なプロットの中身や、設定、キャラの性格などは、かなり大幅に手を加えられていました。

最初映画を見てすぐは、「原作」じゃなくてもうこれは「原案」レベルの改変なので、やりすぎだろう?とややネガティブな気持ちで見ていました。ただ、実写映画で原作やアニメの「絵柄」や牧歌的な雰囲気を100%そのまま再現したらどうなるのか?というと、少しボケてしまうような気もします。あのふわっとした、葉月抹茶の独特な世界観は、マンガならではの表現であり、実写だと弱すぎるかもしれません。

原作ファンはちょっとがっかりかもしれないですが、少ない尺の中で、内容を凝縮して内容的なインパクトを出しつつ、実写映画の特性を最大限生かした作品にするのであれば、忠実に原作の雰囲気や流れをムリにトレースするよりは、思い切って色々変えてみるのは致し方なかったと思います。

4-2.大根役者?それとも監督指示?演技ヤバい役者が多すぎ・・・

原作に大ナタを振るうところまでは良しとしましょう。ただし、どうしても気になったのは、キャスト陣の演技力です。低予算のスイーツ映画なのでしょうがないのかもしれませんが、今作では「学芸会レベルの」メンバーが何人かいたのには閉口しました。

主演二人は、凄く上手!という感動はなかったですが、まぁ順当に良かったと思います。ひたむきで純粋かつお調子者な三枚目風演技が新鮮だった山崎賢人や、物憂げな表情が多い中、時折見せる笑顔に破壊力があった川口春奈はまずまず。

でも、桐生将吾役の、松尾太陽・・・。ちょっと酷すぎるような。滑舌も悪いし棒セリフだし、これでよくOKテイク出しましたね。パンフを見ると、今回が初めて映画単独出演なのだそうで・・・(-_-;) 頼むからもうちょっと練習してくれ!!

それから、藤宮志穂役の国生さゆり!何年芸能人やってるんですかこの人・・・。動揺する娘や祐樹をフォローする大事な「大人」役なのに、棒演技ぶりが目立って、画面に集中しづらかったです。

村上正典監督がメガホンを取った、Huluで現在配信中のサスペンスドラマ「代償」でも、小栗旬のセリフが普段より何となく棒読み気味に聞こえますし、この映画全体を通しても、戸次重幸や甲本雅裕などベテラン勢までなんとなくセリフが棒気味だったので、ひょっとしたら村上正典監督の好みなんでしょうか?とにかく、映画中、俳優のヘタな演技にイラッとさせられる場面が多かったです。

4-3.脚本にもかなり難がある作品

さらに、脚本も少しツッコミどころが多いです。一番気になったのは、高2秋~高3までの1年半、ほとんど没交渉に陥った二人が、突然復活するのは(ドラマチックですが)いくらなんでもムリがあるんじゃないかということ。

香織は九条と1年半、ほぼ恋人のような状態を続け、祐樹と過ごした半年間の3倍の時間を九条と一緒にいたはずなのに、香織は、パラパラマンガを見ただけでスイッチが入って、その場で準彼氏の大事な存在である九条を捨てて、突然祐樹の元に走っちゃいますかね普通??

卒業式というハレの場が、特別感情が高まる「非日常」的な特別な機会であるということを考えたとしても、祐樹と声を交わしただけで目が覚めたかのように行動し、九条も九条で、「いけば・・・」とか簡単に悟ったように祐樹のもとに行かせてしまうのはちょっと都合が良い描写だったような気がします。

また、香織の人物造形もこれでいいのだろうか?と甚だ疑問でした。可愛いのはいいとしても、性格に難がありすぎるのでは?

祐樹に抱きしめられている時に「はじめくんに会いたい」と言い放ち、祐樹の心を凍えさせ、卒業式にはその逆の仕打ちを九条に食らわす香織は、客観的に見るとかなり自分勝手で嫌なヤツになっちゃうんじゃないでしょうか?

1年半のブランクを置き、卒業式でサプライズのように決着させたのは、映画ならではの劇的な効果を狙ってのことだと理解しましたが、だとしても、その割には高2の秋~高3の終わりまでの描写がわずか2シーン(クラス替えと沙希の告白)しかありません。これでは、祐樹と香織を隔てた時間の長さや重み、あきらめつつも香織のことを信じて待ち続けた祐樹のじれったさ、といった「タメ」を鑑賞者に感じさせることが全くできていないと思います。別れていた1年間を雑に飛ばしすぎたから、「えっ、祐樹は高3の1年間、フラれてしょげているうちに終わってしまったの?」というダメ男的な印象しか鑑賞者に与えていないような気がします。

4-4.高校生に見えない主人公たち

さらにもう1点あるちょっとした不満としては、主要なキャラクターが全員高校生に見えないことです。山崎賢人、川口春奈はともに22歳と、主演二人からしてすでに実年齢では大学4年生なのですが・・・そして、一番ムリがあったのは、九条一役の上杉柊平。映画公開時ですでに24歳!!

当然、全く17歳には見えません。

もっとも、ほとんどのスイーツ系映画は同じような状況で、今度5月に同じ松竹から公開される「ピーチガール」主演の山本美月は25歳なのに女子高生役をやる(しかも茶髪ヤンキー風)ですし、このあと2017年に土屋太鳳が主演を務める同系統の映画は2本とも女子高生役バリバリで出演しますから・・・

4-5.良かった点:小道具の工夫や画面の華やかさはこの作品の最大のみどころ!

以上、色々と目についた不満はあったのですが、この映画でハッキリ良かった点もありました。それは、小道具や画面の華やかさです。

まず、パラパラマンガ。なんで祐樹はマンガ研究会所属なんだろう?と不思議に思いましたが、ラストでパラパラ見せるための設定だったわけですね。これは、ややあざとい感じでしたが、斬新で良かったと思います。また、直接ストーリーには関係ありませんでしたが、エンドロールを中心として時折挟まれた黒板アートもキレイでよかったです。

桜のシーン。春らしく明るい画面も良い!
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ものすごい絵になるS字カーブでの桜満開なシーンf:id:hisatsugu79:20170221000647j:plain

さらに、主人公の祐樹のピュアで一途な心境を表していたかのようなキレイで温かみのある画面の雰囲気も良かったです。春の桜が満開になるシーン、卒業式のシーン、学園祭での凝りまくったドミノ倒しのセット(壁ドンしようとしたら、ドミノを倒しちゃうという・・・)、そして台湾の天燈祭りから着想を得たと思われる、ランタンが空中を浮遊する縁日の幻想的な場面など、見どころが多かったです。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.香織の病気「解離性健忘」とはどんな病気なのか?

解離性健忘とは、いわゆる「記憶喪失」症状を表す病名のことです。心に強い心的外傷を負ったイベントの前後について、忘れてしまう症状ですが、実際の症例としては個人差があります。

日常生活が破綻するほど何も覚えていない重度のものから、ある時期のある事項のみ選択的に忘れてしまうものまで、様々な症例があるそうです。

月曜日になったら友人についてのことだけ定期的に全て忘れてしまう、というのはさすがにファンタジー的な設定ですよね。

ちなみに、マンガ原作では、香織の症状がより詳細に描かれています。月曜日になったら全て忘れてしまうのですが、強い感情を伴った出来事は、出来事自体は忘れていても、その時に感じていた感情は思い出すことができるようです。

原作では症状はもう少し一進一退となりますが、症状が改善してくると、その出来事に付随した「感情」を手がかりに、全部思い出せるようになったりとか、将吾のことだけ全部覚えていたりとか、ストーリーの進行に応じて、細かく香織の症状も変化していきました。

5-2.なぜ香織は記憶障害になってしまったのか?その理由とは?

香織が記憶障害になった主原因は、中学時代、九条一にかかわる親友との三角関係が決定的にこじれ、香織の心が耐えられなくなった精神的トラウマでした。その前段階から、九条から告白され、二人で会っていたところを見たクラスメイトの女子から避けられるようになっていましたが、九条が札幌へ発つ前日、二人で待ち合わせしたところを再度親友の近藤まゆに見られてしまいます。その場でまゆから、「抜け駆けしないで」と強く詰られたことから、動転してしまい、その直後に遭った交通事故をきっかけとして、記憶障害を発症したのです。

5-3.なぜ九条は香織意外に「一」と下の名前で呼ばれるのが嫌なのか?

これは、原作マンガで説明されています。九条は子供の時、自分の名前が「一」と横棒一本だけっていうのがかっこ悪く思え、名前を書くのが楽でいいよな、と言われるのが嫌だったと語っています。

しかし、自分で嫌だと思っていたその名前を、初めて褒めてくれたのが香織でした。だから、他の女子が「はじめ」と下の名前で呼ぶのは嫌っていても、香織にだけは呼ばれても平気である、というわけですね。

5-4.天燈祭りって本当にある祭りなの?

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高校2年の夏休み、祐樹、香織、沙希、将吾の4人で出かけた「天燈祭り」。ランタンが空中に浮かぶ幻想的なシーンが印象的でしたが、この「天燈祭り」は、実際に台湾で毎年行われている名物のお祭りです。

ネットで調べると沢山出てきますが、毎年、旧暦の正月(旧正月)の頃、台湾の山里深い平渓というところで、平渓天燈祭(天燈節)というランタンを飛ばすお祭りをやっています。近年は、冬の時期の台湾への観光ツアーでも名物となっているようですね。

映画内では、夏祭りにいわゆる定番の花火、金魚すくいに終わらず、冬場に公開されることを意識してか、幻想的なランタン飛ばしのイベントを描いていたのは個人的にはポイントが高かったです。

5-5.アニメ版の主演声優、雨宮天と山谷祥生がゲスト出演していた?

アニメ版の香織役を務めた雨宮天と、祐樹役を務めた山谷祥生が、卒業式の最終シーンでそれぞれ音声出演しました。具体的には、雨宮天が構内アナウンス、山谷祥生が卒業式のアナウンスでの登場でした

事前に、この二人が登場するらしい、と聞いていましたが、終わってからパンフレットに書いてあったのを見て、初めて気づきました・・・。

5-6.原作・TVアニメ・映画でラストシーンが全部違う!

どのバージョンも、最後に祐樹と香織が向き合って、「友だちになってください」と言うシーンでエンディングとなります。これは、ストーリー冒頭での祐樹の「僕と友達になってください」というシーンと呼応しているのですが、面白かったのは、(多分意図的なのですが)三者三様で全部違っていることでした。

漫画原作版
祐樹が、もう一度香織に「友だちになってください」と手を差し出す

TVアニメ版
お互いが、お互いに「友だちになってください」と言い合う

映画版
香織から、祐樹に「友だちになってください」と手を差し出す

その他、各バージョンで沙希の立ち位置や性格が全く違っていたり、エンディングの時期がバラバラだったりと、それぞれ少しずつ3媒体を確認して行くと面白いですね!

6.まとめ

個人的には脚本やキャストについては、正直な所少し改善点は多いですが、「月曜日になったら全てを忘れてしまう」という設定は面白いですし、TVアニメ版、マンガ原作と大きく変更されたプロット、ラストシーンは新鮮で良かったです。

また、映画で良かったな~と思った方は、是非マンガ原作とアニメを試してみてください。新しい感動が待っているはずです。

それではまた。
かるび 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

先行する原作マンガ版、アニメ版、そして映画に合わせて製作されたノベライズ版と、様々な形でちょっとずつ違うストーリーが楽しめる「一週間フレンズ。」映画公開に合わせて、一通り全部見てみました!

映画ノベライズ「一週間フレンズ。」

実写映画に基づいて、シナリオを忠実にノベライズした作品。映画そのものです。映画を見た後読み返すと、映画の各場面がいきいきとよみがえってきます。小説で文面を追っていくと、何度も何度も香織に冷たくされても、ひたむきに向かっていく祐樹がより頑張っている必死な感じが伝わってきます。

マンガ原作「一週間フレンズ。」

累計170万部を売り上げたベストセラーとなった原作。ほのぼのとした絵柄、ピュアで互いを思いやる主人公たちの心情を詳細に描いた傑作です。映画では悪役然として描かれた九条一も、マンガでは祐樹と仲良くなり、最後には自ら身を引きつつ、香織を中心とした仲良し5人組になっていきました。ファンタジックな絵柄に反して、地に足の着いた現実感のある心理描写や、キャラクターの心情表現は、読めば読むほどしっくりくるようになりました。おすすめ。

アニメ版「一週間フレンズ。」

映画公開に合わせて発売された、全12話と豪華特典が大盛りのブルーレイBOX。【仕様・封入特典】が多数のお得な特別バージョンです。途中まではマンガ原作と同じ展開ですが、後半からアニメオリジナルな展開に突入します。また、沙希と将吾の恋愛模様にもかなりのウェイトが割かれるのもみどころです。

また、アニメ版は、Amazonビデオでも全話見れるようになっています。(U-NEXT版見放題は、2/28終了予定)Amazonビデオでは、第1話は無料、残り11話は1話216円(税込)で視聴できます。僕はこちらで今回映画前に全話チェックしました!最終第12話の高2冬休みの初詣で、祐樹と香織がお互いへの好意を確かめ合うシーン~香織によるエンディング「奏」フルコーラスの流れは何度見ても泣けます!

その他の映画「一週間フレンズ。」関連グッズなど

その他、Amazonや楽天などで、沢山の「一週間フレンズ。」関連作品がリリースされています。格安のマンガ全巻セットを探したり、レアな関連グッズなどもここから検索できます。下記のリンクからそれぞれのサイトに飛べるようになっていますので、もしよければご活用ください!

Amazon・楽天「一週間フレンズ関連グッズ」コーナー
Amazonで「一週間フレンズ。」関連グッズを探す!
楽天で「一週間フレンズ。」関連グッズを探す!

これは良著!『カフェのある美術館』はアートファン必読の美術館ガイドでした!

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かるび(@karub_imalive)です。

美術館を本格的に回り始めて1年が経過しました。気がついたら早いもので、東京・南関東の美術館を中心に、旅行先に行ったものも含めて、去年は結局100展以上の展覧会を回りました。

これまでは、闇雲に「良さそうだな!」と思ったら、とりあえず何も考えずにお目当ての展示を目指して行ってみる!というスタイルで美術館にガンガン行っていました。

でも、最近は、雰囲気のいい美術館に行きたい!という要求が自分の中で高まってきています。展覧会って、結構消耗するんですよね。終わった後、ゆっくりとコーヒーを飲みながらゆっくりするのも、展覧会の楽しみ方の一つなんだな、と実感する今日このごろ。

でも、「雰囲気のいい美術館」と言っても、ネットなどでHPなどを見て調べるのは限界があります。正直なところ、現地に行ってみないと美術館の良し悪しはよくわかりません。自分の住居近辺の南関東ならまだしも、それ以外の地域は、どこがオススメなのかもよくわかっていません。

そんな中、いつも覗かせて勉強させて頂いている美術ブロガーの大御所、青い日記帳のTakさん@taktwi)が出版した美術館ガイド「素敵な時間を楽しむ カフェのある美術館」が僕のニーズに合ったベストな1冊となり、かつ、内容も非常に素晴らしかったので、少し紹介してみたいと思います。

「カフェ」に着目したコンパクトな美術館ガイド

この本は、全国津々浦々の全ての美術館を網羅したいわゆる「図鑑的な」ガイドではありません。全国の数ある美術館の中から、特に、併設されている「カフェ」が素晴らしい25箇所の美術館を、東北~九州まで幅広くほぼ全国に渡って厳選したテーマ別ガイドです。

まえがきにはこうあります。

一昔前までの美術館のカフェは、おまけ的な存在でお世辞にもおしゃれな空間とは言えませんでした。ところが今ではカフェを目当てに美術館に行く人もいるほど、注目を集める場所になってきています。[・・・]俗世とかけ離れたある種の非日常的な空間でゆったりとした時間を過ごせることが、美術館の大きな魅力のひとつです。そこに素敵なカフェがあればその時間はさらに有意義なものとなります。せっかく美術館に行くのなら、そこにあるカフェでくつろぎながら感動を反芻する時間を持ちたいものです。

そうなんですよね。ここ10年ほどで、ようやく日本でも併設されたカフェやレストランのクオリティが一流と言える素晴らしい美術館が、かなり増えてきました。

このタイミングで、「カフェ」に着目した美術館ガイドの決定版が、いわば鑑賞者の代表である「アートブロガーの第一人者」の手によってまとめられた、ということに非常に意義があると思います。

素晴らしいカフェがある美術館は、良い美術館である

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(引用:MOA美術館HPより)

美術館に良し悪しなんてあるのだろうか?展示さえ良ければまぁハコは二の次でいいんじゃないか?・・・美術館を回り始めた時は、そう思っていたのですが、たくさん美術館を回るうちに、本当に良い美術館に出会った時に、衝撃を受けました。

例えば、山種美術館。渋谷から徒歩20分、汗だくになって丘の上に到着すると、美術館の中は別世界で、夏冬通して快適な館内に、本当に癒されます。鑑賞者に優しい照明、行き届いた音声ガイドサービス、SNSアップOKの写真コーナー、そして何と言っても落ち着いた雰囲気の優雅なカフェ・・・

あるいは、最近8年ぶりに訪問した箱根のポーラ美術館。国立公園の大自然と一体化した施設、地元の食材をふんだんに取り入れた料理に定評があるレストランに、ホッと一息つけるカフェが1つずつあり、森林浴を楽しめる整備された森の小道・・・。めちゃくちゃ癒やされます。

といった具合に、さすがにこれだけ闇雲に展覧会に行っていると、行く先々の美術館の良し悪しがわかるようになってきたのです。

良い美術館の定義は、人によって、いろいろな判断基準があると思います。僕が感じる「良い美術館」の条件のうち、一番外せない要素であると最近強く感じるようになったのが、「良いカフェが併設されていること」ことなんです。

試しに、思い返してみてほしいのですが、良いカフェを併設している美術館は、大抵カフェだけでなく、美術館全体の雰囲気も素晴らしいことが多いのではないでしょうか?

美術館を設計する際に、重要なのは、作品を展示・保存する優れた展示環境だけでなく、鑑賞者の満足もしっかり考慮されていることです。疲れた鑑賞者を癒やすスペースや、作品を鑑賞した後に、ゆっくり考えをまとめたり、見たばかりの作品について友人と語り合う空間が設けられていることは、良い美術館にとっての必須条件になってくると思うんです。

その受け皿となるのが、まさに「カフェ」であり、「レストラン」なのであり、ゆえに、優れた「カフェ」がある美術館は、例外なく鑑賞者の満足度を高めてくれる良い美術館だといえると思うのです。

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「カフェのある美術館」の3つのおすすめポイント

おすすめポイント1:最強のアートブロガーが監修した安心感

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(引用:Twitterプロフ画像より。フェルメール!)

アートファンや美術業界の人なら、知らない人はいないという、美術ブロガーの草分け的存在であるブログ「青い日記帳」主催のTakさん(@taktwi)は、普通に仕事をしながら、もう20年以上、コンスタントに月20件以上の展覧会に通い詰めるという、アートへの並外れた情熱を持った方です。

最近、「青い日記帳」経由で開催されるブロガー内覧会や、美術館ツアーに参加させて頂き、ちょくちょくお話する機会があるのですが、話をさせて頂くたびにその博識ぶりと知見の深さは身をもって体感しています。本来は天上人のような人なのに、何を質問しても、「あー、あれはねぇ・・・^_^」と気さくに即答で教えていただける素敵な方ですし!

そんなTakさんが、過去20年のキャリアの中で、自分の足で見て回り、全国から選びぬいた「カフェが素晴らしい美術館」を厳選したガイドブックなので、全面的に信用がおけるのです。

実際、この本の中で紹介されている幾つかの美術館には僕も足を運んでいますが、どれも素晴らしいな、と思った「当たり」ばかりでしたから。

おすすめポイント2:見やすいデザインと、優れた携帯性

こうしたガイド本の命は、結局は実用性だと思うんです。家でパラパラ見ながら、「今度はここに行ってみよう!」と思い立ったら、そのガイドを1冊持っていくだけで、美術館の概要や場所、連絡先、外観などが全部わかる、というのが理想です。

この本は、あまり欲張りすぎずに、全国25箇所(+おまけ)に掲載施設を厳選しているので、その分一つ一つの施設について最大5ページを割いて、フルカラーで贅沢に写真を満載し、美術館の魅力を最大限引き出しています。ベッドサイドに置いといて、寝る前などに今度はどこに行こうかな~などとパラパラ眺めてもいいですね。

写真が満載で読みやすい紙面f:id:hisatsugu79:20170221235103j:plain

また、A5で140ページ弱と、コンパクトにまとまっているので軽く、旅行先にも持っていくことができるのも気に入ったポイントです。

おすすめポイント3:美術館の紹介記事の確かさ

単に美麗な写真を撮って、それをうまく編集するだけなら、旅行会社のライターさんでもできると思うんです。美術館からもらった資料とかをコピペしてまとめればいい話ですから。

でも、このガイドブックの良いところは、実際にTakさんを始めとしたアートライターの取材陣が、丁寧に現地で体験した感想をベースに、

・この美術館は、館内・屋外を含めて何が見どころなのか
・見ておくべき代表的な所蔵作品や、美術館の専門分野は何なのか
・併設されるカフェのおすすめメニュー

これらの情報が、実にコンパクトに無駄なく収められているんですよね。このバランスの良さは、「るるぶ」や「まっぷる」のような旅行会社では出せないクオリティだと感じました。自信を持っておすすめできるポイントです。

まとめ

今回購入した「素敵な時間を楽しむ カフェのある美術館」で特集されている25箇所の美術館の中には、まだ僕も行ったことのない美術館がたくさんありました。今年は、地域芸術祭や旅行のついでに、各地域の美術館にも沢山立ち寄りたいと考えていますが、その時にこの本をお供にしたいと思っています。

素晴らしいガイドブックです。
全てのアートファンにおすすめの一冊でした。

それではまた。
かるび

「屏風にあそぶ春のしつらえ」展@泉屋博古館分館は春らしい展示が印象的でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月25日からスタートする泉屋博古館分館での展覧会「屏風にあそぶ春のしつらえー茶道具とおもてなしのうつわ」のブロガー内覧会に当選したので、行ってきました。住友財閥のオーナー家が収集した日本の絵画や伝統工芸品を展示公開している「渋い」美術館です。

簡単ではありますが、以下、感想とみどころを書いてみたいと思います。

※なお、ブログ内での画像は、主催者の許可を得て撮影したものです

1.混雑状況と所要時間目安

今回の展覧会は、特に動けなくなるほど混雑することはなさそうです。展示作品は約60点なので、1時間ほどあれば、ザーッと見ることは可能。ただし、膨大な人物が丁寧に描かれた、「ウォーリーを探せ」状態な、展覧会の一番の目玉展示「二条城行幸図屏風」を丹念に見るなら、90分~120分ほど見ておきたいところです。

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2.泉屋博古館とは?

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(引用:Wikipediaより)

日本には、コレクター達が設立したたくさんの私立美術館があります。中でも、その収蔵品のコレクションが充実していて、運営が安定しているのは「旧財閥系」の設立した美術館です。パッと挙げてみると・・・

・三菱一号館美術館(三菱系)
・三井記念美術館(三井系)
・泉屋博古館/分館(住友系)
・東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 (旧安田系)

と、明治維新以降、名だたる財閥系企業、はみんなちゃんと自前の系列美術館を持っているわけです。

今回行ってきた、泉屋博古館(せんおくはくこかん)分館は、特に日本の伝統的な美術に造詣が深かった住友財閥の第15代当主「住友春翠」及び、その子、住友寛一のコレクションを核として、これまで住友家が収集してきた美術品を展示する美術館です。

東京の「分館」は、南北線が開通して、六本木一丁目駅前の複合施設「泉ガーデン」の構内に2002年にオープンしました。駅から徒歩1分と恵まれた立地で、しかも大通りから離れた、閑静な環境の中にたたずむ小規模な美術館です。

美術館の「泉屋」というのは、元々住友家が江戸時代につけていた屋号です。住友家は江戸初期から、大坂を拠点に銅山開発や銅の精錬・輸出を手がけてきました。そのためか、本館は京都にあって、本館と分館はコレクションを共有しているため、しばしば企画展を連携して開催することもあります。

所蔵品には、絵画では円山応挙や伊藤若冲、与謝蕪村など、江戸期以降明治・大正といった近代までの名だたる画家たちの作品がハイライトです。工芸作品では、殷周時代の中国の青銅器に始まり、中国の有名な古窯の各種うつわ、仁清や乾山といった江戸期の巨匠工芸家作品、宮川香山、板谷波山らの明治大正期の超絶技巧系作品など、非常に多岐にわたります。

住友春翠は、生前、尾形乾山の食器や野々村仁清のうつわを惜しげもなく財閥主催の茶会や食事会で頻繁に使っているんですよね。いいな~。

3.「屏風にあそぶ春のしつらえ ―茶道具とおもてなしのうつわ」展とは?

展覧会名のタイトル(長い!)が示すとおり、今回の展覧会で目玉となる大型作品は、屏風「二条城行幸図屏風」や「四季草花図屏風」などの屏風絵でした。屏風に描かれた春の草花や人々の装いから、春の訪れを楽しめます。また、一緒に展示されている絵画の作品群は、春らしく桜が満開な絵が多く展示されていました。

副題にある通り、今回の展覧会では、泉屋博古館が収集した非常に貴重な「お茶会」用の茶道具が沢山展示されています。特に、2017年上半期は、東京国立博物館で開催される「特別展 茶の湯」(2017年4月~)や、東京国立近代美術館での「茶碗の中の宇宙展」(2017年3月~)など日本の伝統文化「茶道」に関する注目の展覧会が多く開催されますがが、その予習にもぴったりな展覧会だと思います。

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4.展覧会のみどころ

せっかくなので、今回のブロガー内覧会で説明してくださった学芸員の方に、ずばり展覧会の見どころはどこなのか?聞いてみました。

おすすめポイント1:寛永文化の優れた作品群の展示

今回の展示では、17世紀前半の、いわゆる「寛永文化」に関する作品群がジャンル横断的に特集されています。寛永文化とは何か・・・というと、ちょっとWikipediaから抜粋してみます。

寛永文化(かんえいぶんか)とは、16世紀の桃山文化と17世紀後半の元禄文化に挟まれた17世紀前半(江戸時代初期)の文化。寛永年間を中心として、慶長あるいは元和から寛文年間の約80年前後の時期を指す。

美術館に通って日本美術を見ていくとわかるのですが、日本美術の作品は、江戸時代後期の18世紀後半頃から一気にクオリティも上がり、作品数が増えていきます。それ以前の江戸初期や、それ以前の桃山時代以前になると、戦乱の世の中で消失したものが多いのか、一気に数が減っていきますし、残っていたとしても、保存状態が悪いものが多いのですよね。

そんな中、今回の泉屋博古館分館で展示されている作品群は、17世紀前半の寛永文化に関する屏風や茶器などの貴重なコレクションが中心です。しかも、結構保存状態が良いものが多いのです!

宮川長春「遊女図鑑」
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まず、17世紀後半に活躍した、浮世絵師宮川長春の絵巻物。ものすごい鮮明で、17世紀の作品とは思えない保存状態の良さです。華やかな遊女たちの服装が印象的でした。

二条城行幸図屏風(作者不明)
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目玉となる「二条城行幸図屏風」は、17世紀前半の作品とは思えないほど良好な状態で、非常に貴重な作品でした。寛永3年(1626年)、上洛中の徳川秀忠、徳川家光の招待で、後水尾天皇が二条城に行幸した時のシーンを描いた作品。

長らく学芸員さんのお話では、作品の性格上、一度製作されてからほとんど使われた形跡がなく、18世紀から住友家の蔵の中に眠っていたため、これだけ良好な保存状態を保つことができたのだろう、という見解でした。今回は、5年ぶりの展示となります。

見どころは、何と言っても描きこまれた3200名という膨大な人数と、彼らの服装です。公家・武家・商人・農民と、その服装はきっちりと描き分けられ、寛永期のそれぞれの階層の人々の服装が忠実に反映されているといいます。

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なお、正面のロビーに、「二条城行幸図屏風」を詳細に解説したビデオ動画が放映されていますので、見終わった後は、こちらもチェックすると良いかもしれません。

さらに、野々村仁清の茶器「唐物十九種茶入」「白鶴香合」「鶏撮丸香炉」なども非常に見応えがありました。

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おすすめポイント2:初公開!菊池容斎「桜図」

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実は恥ずかしながら、菊池容斎の作品は今回が初見だったのですが、彼は狩野派や琳派、円山四条派など、当時確立していた様々な日本絵画の流派をすべて吸収し、その上で自分自身の独自の画風を打ち立てた日本画家でした。

菊池容斎77歳の時の自画像
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(引用:Wikipediaより)

菊池容斎は非常に長命で、江戸後期の1788年に生まれ、亡くなった明治時代前期の1878年まで多数の弟子を育て、特に孫弟子には速水御舟や今村紫紅といった明治期に活躍した日本画家も多数輩出しました。

今回出典された「桜図」は、画面中央に大きく桜の巨木がどーんと描かれた華やかな作品となりました。花びら1枚まで丁寧に描きこまれていて、繊細で技巧的です。春らしさ全開の素晴らしい絵画でした。

なお、本作品は、2002年に住友家からコレクションを一括寄付されて以来、今回が初公開となるそうです。

おすすめポイント3:超絶技巧な工芸品の数々

泉屋博古館では、明治期の、いわゆる「超絶技巧」系な工芸作品も精力的に収集しており、今回も幾つかはほれぼれするような工芸品が展示されていました。

なかでも、二代目川嶋甚兵衛による「猟犬図額」は凄い作品!

川嶋甚兵衛「猟犬図額」
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写真だとわかりづらいのですが、一見絵画風に見えて、実は「川嶋織」と呼ばれる織物でできているのです。数千種類の糸を使って表現された超絶技巧作品なのですが、川島織物内に後継者がおらず、現在これを再現するのは残念ながら不可能なのだそうです。

伝佐々木庄次郎「半磁器桜花模様花瓶」
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また、伝佐々木庄次郎「半磁器桜花模様花瓶」も、桜の花びらが白い半磁器に丁寧に彫りつけられている華やかな作品でした。

5.まとめ

泉屋博古館分館での「屏風にあそぶ春のしつらえ ―茶道具とおもてなしのうつわ」展は、春の訪れを感じさせる華やかな作品がジャンル横断的に展示された展覧会です。是非チェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび

関連書籍

二条城行幸図屏風を保有する泉屋博古館から出版された、この屏風絵を掘り下げて研究・解説した本。カラー拡大写真満載で、マニアックでわかりやすい!一般の書店にあまり置いていないので、会場で買うか通販で手に入れる感じになると思います。

展覧会開催情報

「屏風にあそぶ春のしつらえ ―茶道具とおもてなしのうつわ」展は、2017年2月25日からGW明けの5月7日までの開催。前後期で、かなりの数の展示品が展示替えとなります。

◯所在地
泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1丁目5-1
◯最寄り駅
地下鉄南北線「六本木一丁目駅から徒歩5分程度

◯展覧会会期

屏風にあそぶ春のしつらえ ―茶道具とおもてなしのうつわ
2017年2月25日(土)-5月7日(日)
《前期》2月25日(土)-3月26日(日)
《後期》3月30日(木)-5月7日(日) 

◯開館時間・休館日

午前10時00分~午後5時00分(入館は4時30分まで)

月曜休館 、3/21、3/27-29(展示替のため)
◯公式HP
http://www.sen-oku.or.jp/tokyo/


【ネタバレ有】映画「ララランド」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/切なすぎるエンディングに感涙必死!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月24日に封切りされた、今年度アカデミー賞No.1候補作と呼び声の高いミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」を見てきました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画[「ラ・ラ・ランド」の基本情報

<映画「ラ・ラ・ランド」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】デイミアン・チャゼル(「セッション」)
【配給】GAGA/ポニーキャニオン
【時間】128分

若き天才、デイミアン・チャゼル監督が名作「セッション」に続き、彼の得意分野「ジャズ」を絡ませたミュージカル映画はゴールデン・グローブ賞7部門受賞、アカデミー賞14部門ノミネートなど、各方面から絶賛。2月26日発表のアカデミー賞の結果が非常に気になるところです。

2.映画「ララランド」の主要登場人物とキャスト

主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンは、「ラブ・アゲイン」(2011)、「L.A. ギャング ストーリー」(2013)以来、実にこれが3度目の映画共演となります。ダンスや歌など多くの場面で、ぴったり息のあった演技を見せてくれました。また、本作は多くの脇役たちが出演しているものの、主演の二人以外はほとんど印象に残らない「二人だけの世界」を描いた映画です。

セバスチャン(ライアン・ゴズリング)f:id:hisatsugu79:20170224210331j:plain
いつの日か、ロサンゼルスで自前のジャズバー・レストランの経営を夢見る売れないジャズピアニスト。一番驚いたのは、普通に映画内でピアノを演奏していること。プロ根性を感じました。コメディからシリアスもの、SFまでこなせる多才ぶりですが、密かに努力家でもあるんでしょうねぇ。年末の「ブレードランナー2」での演技も楽しみです。

ミア(エマ・ストーン)
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ハリウッド女優を夢見て、ロサンゼルスのハリウッド近くの喫茶店でバイトをしながらオーディションを受ける毎日。エマ・ストーンの場合は、どの作品もある程度エマ・ストーンにしか出せない「地」が出ますが、ひたむきでガッツもあり、コケティッシュで女性らしい愛嬌も兼ね備えたキャラは、ぴったりはまっていました。劇中で歌っていますが、結構上手で驚きました。

キース(ジョン・レジェンド)f:id:hisatsugu79:20170224210739j:plain
セバスチャンが参加する映画内ジャズバンド「messengers」のバンドリーダーにしてメインVoを務めました。映画内で熱唱した、本人作の「START A FIRE」(サントラ収録)はかなりいい曲だったけどなぁ。彼の美声にかなり引かれました。

ビル(J・K・シモンズf:id:hisatsugu79:20170224210413j:plain
現在上映中の「ザ・コンサルタント」では退役寸前の気のいい軍人を演じましたが、2014年度のアカデミー助演男優賞を獲得した、チャゼル監督の前作「セッション」での迫真の鬼コーチぶりが強く印象に残っていました。トレイラーを見ると、今回も主役をいじめている(笑)ので、これは!と思い、J・K・シモンズがでてきたシーンは、主役そっちのけで表情を追ってしまいました(笑)

★参考記事★
【映画レビュー】映画「ザ・コンサルタント」の感想と解説

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.「冬」:セバスチャンとミアの出会い

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ロサンゼルスのハイウェイは、今日も渋滞中だった。ドライバー達は、車中で思い思いの曲を聞いていたが、一人の女性が外で歌い出したのをきっかけに、全員中から出てきて全員で踊りだしてしまう。(「ANOTHER DAY OF SUN」)

踊りが終わると、全員車に戻って前進したが、プリウスの中にいたミア(エマ・ストーン)は、その日に行われる映画俳優のオーディションの練習(電話のシーン)に夢中で止まったままだった。ちょうど後ろにいたセバスチャン(ライアン・ゴズリング)は、クラクションを鳴らしたが、ミアは電話に夢中で前に出ようとしない。仕方なく、セバスチャンは隣の車線からイライラしながら追い越していった。

ミアは、現在ハリウッド女優を目指して、ワーナー・ブラザーズの入居するビルのコーヒーショップでバイトをしながらオーディションに挑戦中だ。コーヒーショップにはしょっちゅう俳優たちも訪れ、その度にミアはいつの日か自分も・・・と決意を新たにするのだった。

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しかし、その日のオーディションは酷い出来だった。バイトを早上がりして急いでいた時に、シャツにコーヒーをかけられてしまい、それをジャケットで隠しながらオーディションに臨んだが、熱演も虚しく審査員は心ここにあらず、落選してしまった。

一方、セバスチャンは自宅に帰宅する最中、好きだったジャズクラブが閉店しているのを見かけるのだった。帰宅すると姉が部屋に上がり込んでいた。金欠な状況を見透かされた姉から、速く定職について落ち着くようにたしなめられた。

ミアは、オーディションから帰宅すると、同じく女優を目指して修行中のルームメイト3人から、ハリウッドのパーティに出かけようと誘われた。オーディションに失敗したばかりで気乗りがしなかったが、ミアはやはり行ってみることにした。(「SOMEONE IN THE CROWD」)

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パーティ会場では、特に得られるものもなく、ひとり虚しく帰宅しようとしたら、駐車禁止で愛車プリウスがレッカー移動されてしまっていた。踏んだり蹴ったりで帰宅する途中、ジャズバーから聞こえてきたピアノの音色に誘われて、「リプトンのバー」というバーへ一人入るミア。

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そのバーでは、セバスチャンがピアニストとして演奏中だった。支配人のビルからは、オリジナル曲ではなく、クリスマスソングを演奏するように指示されていたセバスチャンだったが、衝動を抑えきれず、自分自身の曲を弾いてしまった。(「MIA & SEBASTIAN'S THEME」)支配人から、即刻クビを言い渡されて不機嫌なセバスチャンは、ミアを突き飛ばしてバーを出ていった。

3-2.「春」:惹かれ合う二人

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ミアは、あるプールパーティでふたたびセバスチャンを見かける。プールサイドのお遊びパーティバンドで、変な格好で演奏中だったセバスチャンたちに、「I RAN」をリクエストするのだった。

演奏終了後、セバスチャンはミアに話しかけた。プロのミュージシャンに「I RAN」(のようなチャラチャラした曲)はNGだと言い張った。ふたりはあまり友好的とは言えない状況の中で、自己紹介をするのだった。

パーティの場で、ミアはうさんくさい脚本家にしつこく話しかけられていた。ミアは、その場から逃げ出すため、通りかかったセバスチャンと一緒に会場を出た。そのまま駐車場のサンセットが見えるスペースまで移動して、二人は夜景見ながら会話と踊りを楽しんだ。(「A LOVELY NIGHT」)踊り終わると、ミアのボーイフレンド、グレッグから電話がかかってきた。

その後も、ナースや警察官など慣れない役どころのオーディションを受け続けるミアだったが、相変わらずハリウッドのコーヒーショップで働いていた。そこへ、ある日突然セバスチャンが尋ねてきた。

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バイトが終わった後、ハリウッドの界隈を散歩して歩く二人。ミアが叔母さんの影響でハリウッド女優を目指すことになったことや、セバスチャンが古き良きジャズが好きであることなどを話し、少しずつ打ち解けていくふたり。

セバスチャンは、ジャズが好きではないと言うミアをジャズ・バーに連れていき、本物のジャズを聞かせてジャズの良さを語った。(「HERMAN'S HABIT」)そして、翌週月曜日10時に、オーディションを突破して、学園モノ映画への出演するミアのために映画に行こうと誘った。

しかし、そのオーディションは酷い出来だった。顔も見られず、わずか1行セリフを読んだだけで落とされてしまった。憤慨して自宅へ帰ると、さらに悪いことにグレッグとのグレッグの兄との会食の時間と、セバスチャンとの待ち合わせがダブルブッキングになっていた。

セバスチャンと連絡先を交わしていなかったので、やむをえず会食へ出かけたが、どうしてもセバスチャンがきになったミアは、会食を抜け出してセバスチャンの待つ「リアルト」へ向かった。

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映画はすでに始まっていたが、首尾よく隣の席に座り、二人は映画を見ながらいい雰囲気になっていった。キスを交わす寸前というその時、映写機の調子が悪くなり、上映は中止となった。ふたりは、映画のシーンで出てきた「グリフィス天文台」へ向かい、その中でデートの続きを楽しんだ。(「CITY OF STARS」「PLANETARIUM」)天文台の中で、彼らは初めてキスを交わした。

3-3.「夏」:セバスチャンの成功、二人の関係の変化

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二人の交際は順調だった。ミアは、セバスチャンの提案で脚本も自分で書くようになっていた。秋に、一人芝居の舞台を企画していたのだ。二人がデートする時は、セバスチャンが家の外でクラクションを鳴らすのが通例になっていた。

二人は、行きつけのバー「LIGHTHOUSE」へ行き、セバスチャンはいつか自分のバーを持ち、経営したいと熱く夢を語った。話していると、セバスチャンは過去のジャズバンド仲間、キースから声を掛けられた。

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新たにバンドを立ち上げるので、仲間にならないかと誘うキース。条件も良かったが、自分の夢にこだわるセバスチャンは一旦断った。ミアは、キースのために店名とロゴを(SEB'S)を提案したが、セバスチャンは「CHICKEN ON A STICK」という名前にこだわった。伝説のジャズ・ミュージシャン、チャーリー・パーカーが鶏肉が好きだったのでついたあだ名「バード」にちなんだ名前にしたいというのだ。

その夜、二人は「CITY OF STARS」をデュエットで歌った。

翌日、ミアのためにも、セバスチャンはキースのバンド「メッセンジャーズ」に入ることを決めた。それはセバスチャンの目指す古き良きジャズとは大きくスタイルが異なっていたが、稼ぐために割り切った。

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ミアは、セバスチャンのバンドのライブに行くと、ちょうど「START A FIRE」がかかっていた。モダンで若者好みの音楽性に、とまどうミアだった。

3-4.「秋」:二人の前向きな「別れ」

ミアは、いよいよ一人芝居の舞台の最終準備にかかっていた。たくさんの招待状を送付した。夏以降、順調なバンドがツアーに出てしまい、セバスチャンと会えなかったミアだったが、その日、セバスチャンは多忙な中、ミアと会う時間を作っていた。

近況を話し合う二人。セバスチャンは、ミアにツアーに帯同して欲しいと頼んだが、ミアは一人芝居の舞台が2週間後に迫っていたので丁寧に断った。ツアー終了後も、さらにレコーディングと次のツアーが続いていることに驚いたミアは、自分自身の夢を妥協するセバスチャンにそれで満足しているのか?と迫った。

ミアのために割り切って活動していたとは言え、痛いところを突かれたセバスチャンは、ミアに対して「成功して欲しくないからそんなことを言うのか」と、彼女を傷つけてしまう。ミアは、泣いて出ていってしまった。

ミアの一人芝居の舞台の当日、セバスチャンは必ず行くと約束していた。しかし、バンドの練習終了後、当日になって、キースから写真撮影が予定されているため残るように指示されてしまう。写真撮影が終わって駆けつけると、すでにミアの舞台は終わっていた。

観客は10人ほどしか見に来ておらず、しかも終了後、舞台袖から観客の悪評が聞こえてきて、完全に落ち込んでしまったミア。セバスチャンの制止も振り切り、そのままネバダの実家に帰ってしまった。

少ししてから、その日、ミアの一人芝居を見て高く評価した映画関係者から、メジャーな映画のオーディションがあるので、セバスチャンにミアの連絡先を教えてほしいと連絡が入った。携帯をオフにしていたミアに連絡が取れないため、セバスチャンはミアの実家を探し出し、必死で説得して連れ戻した。

オーディションで自由演技を求められ、出し尽くしたミア(「THE FOOLS WHO DREAM」)。その後、二人でロサンゼルスの岡の上で語り合い、物理的にも会う機会が取れなくなるため、お互いの夢を優先して二人は関係を保留することにした。

3-5.5年後の「冬」:エピローグ

ミアはオーディションに合格し、ハリウッド女優としてのキャリアで成功しつつあった。別の夫と結婚し、子供も生まれていた。一方、セバスチャンも自分の原点だった「ジャズ・バー」を開く、という夢を実現していた。

その日、ミアは夫と二人でハリウッドのイベントに出かけ、その帰り道、ひどい渋滞に捕まっていた。高速道路を降りて、街中でディナーを摂ったあと、車に乗り込もうとした矢先、聞き慣れたジャズが耳に入ってきた。

見に行くと、そこには「SEB'S」という看板がかかっていた。そして、ちょうど中ではセバスチャンがこれからピアノソロを演奏するところだった。

セバスチャンは、二人の思い出の曲「CITY OF STARS」を演奏しながら、空想に入っていた。

その空想は、ちょうど二人の出会いに遡って始まった。二人は出会うやいなやキスを交わし、セバスチャンはキースと会話すらもしなかった。満員となったミアの一人芝居の舞台の最前列でスタンディングオベーションをするセバスチャン。ミアがパリに行くとセバスチャンも一緒にパリに渡り、セバスチャンはパリで演奏家として仕事を始め、ミアと結婚して子供も授かった。そして、ミアとジャズバーに出かける幸せな日々だった。。。

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そこで、空想は終わり、セバスチャンの演奏も終わった。ミアは夫と静かに席を立ち、ジャズバーを後にした。出ていく時、後ろを振り返ったミアに、寂しそうに微笑むセバスチャンだった。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.主人公達が結ばれない、切なすぎるハッピーエンド

事前に公式予告動画での予想に反して、ミアとセバスチャンはお互いの夢を尊重し、人生を「前進する」ために、別れを選択するという切なすぎるハッピーエンドで終わりました。一旦関係が保留になる中、ミアはハリウッド女優として成功し、セバスチャンはロスに自分のジャズバーをオープンさせるといういう夢を達成しました。

いわば、物理的な面では、完全に彼らは「アメリカン・ドリーム」的な夢をつかんで大成功したわけです。それでも、ジャズバーを後にするミアを見送るセバスチャンの寂しげなラストシーンの表情が、忘れられません。名シーンだったと思います。

大成功し、結婚して子供にも恵まれ、物心両面で幸せになったミアに対して、ほろ苦い喪失感を伴う「不完全な成功」に終わってしまったセバスチャン。

キャリアの成功と人間関係の充実はトレードオフなのか、それとも両立しうるのか非常に考えさせられました。(というか、キャリア上の成功をまず収めるのも本来は難しいので、贅沢な悩みなのだけれど)

4-2.新海誠「秒速5センチメートル」と似ている

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(引用:https://www.youtube.com/watch?v=1X95eE2fwuc

一旦遠く離れた後、その後の「復縁」に一縷の望みをつなぎ、待ち続けたセバスチャンと、大成功した後、自分をサポートしてくれる堅実な夫を探し出して、さっさと結婚してしまったミア。

舞台設定やストーリーは違いますが、物語の大枠の構造が新海誠の「秒速5センチメートル」とそっくりでした。(アメリカの掲示板でも指摘があった!)秒速5センチメートルでは、小学生以来の幼馴染で相思相愛となった貴樹と明里は、中学生の時に両親の仕事で離れ離れとなりますが、いつまでも彼女を待ち続けたのは貴樹で、明里は徐々に現実の中で新しい幸せを見つけていきました。

ラストシーンで、偶然二人がニアミス的に出会い、男の側が復縁への望みが叶わないことを知る、というラストも同じ構造ですね。

ネット上で「男の恋はフォルダー保存、女の恋は上書き保存」という格言(?)を見つけたのですが、こういった過去の恋やロマンチシズムに引きずられるのは古今東西、男性の方なのかもしれないですね。

4-3.ハリウッドへの毒を利かせたコメディ要素も楽しめた

とはいえ、途中の展開は結構笑える箇所がいくつもありました。特に、いわゆる「ハリウッド的」なものへの毒の利いたシニカルな笑いが散りばめられていたのが面白かったです。例えば・・・

・グルテンフリーのメニューを注文するクレーマー客
ミアのバイト先で出されたマフィンがグルテンフリーではないとわかったクレーマー客が、払い戻しをミアに強要するシーン。ハリウッド発で大流行した「グルテンフリーダイエット」を揶揄していると思われます(笑)

・パーティにプリウスだらけ
プールパーティから帰る時、クロークにあった車のキーが全部プリウスのものでした(笑)「クリーン」で「エコ」なイメージが意識の高いハリウッドセレブに一時期大ウケしたプリウスで、ハリウッド中が溢れかえった現象を皮肉っていましたね。

・一方通行だらけのロサンゼルス
ミアとのデートでセバスチャンが細い路地を間違って入っていき、対向車から追いかけられてバックで戻るシーンがありましたが、ロサンゼルスは一方通行だらけのわかりづらい道路区画で特に有名なのだそうです。

他にも探せば結構ありそうですが、ちょくちょく本筋と関係ない小ネタが挟まれていて面白かったです。

4-4.キャリアの成功と幸せな家庭の両立の難しさ

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エンディングシーンで、ミアは最初に付き合っていたグレッグのような風貌の黒髪で保守的な男性と結婚していました。この男性は、家でミアの帰りを待っていました。ということは、自らはキャリアを諦め、ミアをサポートする専業主夫的な立ち位置だったということです。だからこそ、ミアとの結婚生活が成り立っているのでしょう。

これは、恐らくセバスチャンにもわかっていたことでしょう。なぜなら、セバスチャンの空想シーンでも、彼はハリウッド女優として活動するミアとともにパリに渡り、現地のジャズ・バーで演奏家として生活している様子が描かれていたからです。これは、彼自身の原点である「ジャズバーの店を持つ」という夢を諦めることと引き換えに、ミアとの幸せな結婚生活を手に入れたことに他なりません。

どちらかが極端に難易度の高い夢を追いかける人生を歩むのであれば、その伴侶となる者は、夢を諦めて伴侶のサポート(=家庭を守る)に回り、バランスを取っていくのが現実的なのでしょうね。キャリアと家庭の両立の難しさについて、改めて深く考えさせられました。

4-5.自分自身の夢の追求と経済的な成功の両立の難しさ

セバスチャンの顛末については、さらにもう一つ気付かされることがあります。それは、経済的に成功することと夢の追求はトレードオフになりがちである、ということです。

セバスチャンの夢は、ジャズバーで自らがオールドスタイルな古き良きジャズピアノを演奏することでした。ですが、現実的にはお客さんが付いてこないため、彼はいつもお金に困っていました。

そこで、一旦キースの誘いを受けバンド「Messengers」に加入して、自らの夢を一時保留し、「仕事」として客の喜ぶ音楽をやりだすと、お金は入ってきましたが、多忙な日々に自らの夢が宙ぶらりんになってしまいます。(ここはミアに散々突っ込まれることになります)

さらに5年後、セバスチャンは念願のジャズバーをオープンしますが、そこでは、自分より上手なピアニストと契約するシーンが描かれていました。技量的な問題、経営面での問題(経営者なので忙しい)などもあるのでしょう。彼女もあきらめ、自らの店を持てたのに、自分の代わりのピアニストを雇用しなければならないセバスチャンの現実は、100%自分自身の夢を追求する難しさを象徴していたように思います。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.映画タイトル「ララランド」とはどんな意味なのか?

「La・La・Land」という単語は、1970年代後半から使われ始めた、比較的新出のスラングに近い俗語なのですが、主に2つの意味があると言われます。

  1. 恍惚で、心ここにあらず陶酔した状態。
  2. ロサンゼルス周辺のことを差す言葉。「La」=「Los Angels」の略称で、ハリウッドやビバリーヒルズなど、浮ついたイメージのある地名から連想されてこう呼ばれるようになった。

夢の国=ハリウッドで大成功を収めるのは、自分に酔い、愚かなほど盲目にならないとやってられないほど、低確率で難しいことです。ほぼ不可能に近い夢に挑戦する愚かなほどまっすぐな男女二人を描いた物語として、絶妙なタイトルだったと思います。

5-2.アカデミー賞大本命!ここまでの受賞歴とノミネート状況

「ララランド」は、元々ハリウッドで夢を追う若者を扱った、いわば業界内輪向けのテーマを扱った映画なので、各種賞レースの審査員の心に響きやすい作品ではあると思います。

それを差し引いても、絶賛の嵐ですよね。前哨戦であるゴールデングローブ賞では、7部門で受賞を決めましたので、この勢いがアカデミー賞に続くかどうかが見どころです。下記に、各種賞レースの受賞状況を簡単にまとめてみました。アカデミー賞では、実に14部門でノミネートされているので、最低でも数部門での受賞は確実だと思われますが、結果が楽しみです。

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5-3.映画中で、ライアン・ゴズリングのピアノ演奏は本物なのか?

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映画中、ライアン・ゴズリング扮するセバスチャンは、かなりの難易度なピアノソロをガンガン弾きこなしていました。演奏シーンが始まると「手だけ」フォーカスしたピアノ映像でつなぐのが、通例ですよね。(「のだめカンタービレ」の玉木宏とか「四月は君の嘘」の山崎賢人とか/笑)

これは、ライアン・ゴズリングが本当に全部自分で弾きこなしているのだそうです。実際、彼の演奏シーンは全部「手だけ」のカットは一切ありません。物凄い超絶技巧シーンなどがありましたが、ロケ開始前に全て3ヶ月の猛特訓で覚えきったそうです。その間、全ての仕事を止めて執念で習得したライアン・ゴズリングのプロ意識には恐れ入りました。

ついでにいうと、エマ・ストーンの歌声も期待以上、物凄い上手だったというわけではありませんでしたが、それなりに普通に聴けるレベルでした。調べたら、2014年にブロードウェイの舞台「キャバレー」でデビューしていました。俳優になってからこちらも猛特訓したのでしょうね。ハリウッドの俳優は気合いも違います・・・。

5-4.映画内のバンド「Messengers」のヴォーカル担当、キースを演じていた俳優は?

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映画後半で、セバスチャンが加入したバンド「Messengers」のリーダー兼Vo担当は、実際にソウルシンガーとしても有名な、ジョン・レジェンドです。本職ですね。一旦有名コンサル会社に就職した後、歌手デビューしたという変わった経歴の持ち主で、2004年のデビューアルバム「Get Lifted」が全世界200万枚を超える大ヒットを記録しました。

ちょうど、本人も歌手から俳優へと活動の場を広げたいという意向があった中、本職を生かした演技は渡りに船だったようですね。

それにしても美声でした。映画中で歌われた曲「START A FIRE」は、映画「ララランド」のサントラ盤に収められています。

5-5.映画内に散りばめられた様々なメタファー

チャゼル監督の鬼才振りは、前作「セッション」でもそうでしたが、主人公たちにセリフとしてテーマを饒舌に語らせるのではなく、情景描写や映画の撮影方法、主人公たちの服装の変化、プロットなどにそれとなくメッセージやメタファーを散りばめて、きっちりとテーマやストーリーを浮き上がらせる演出力や構成力にあると思います。

たとえば、冒頭とラストの高速道路の渋滞の描写の対比は鮮やかでした。LAの名物「大渋滞」は、いわばハリウッド=成功に続く道の困難さを表しているのでしょう。実際、映画冒頭で踊りだした人たちは、ミア、セバスチャンも含めてみんな若者ばかりでした。

そして、エンディングでやはりミアは渋滞に捕まるのですが、冒頭と違うのは、そう、脇に出口があったことです。家路に向かうミアが、あっさり脇道から渋滞を抜けていくシーンは、ミアがすでにハリウッドでの大成功を収めたことを暗示していました。

それ以外にも、二人の関係が深まり、現実というカベにぶち当たるに従って、ビビッドな服装が地味になっていったり、2人が食事をするシーンで、メインディッシュが焼け焦げてしまうトラブルが二人の行く末を暗示していたり、様々な工夫がありました。

何度見直しても新たな発見がある、情報量の濃いしっかりとした作品だったと思います。複数回行く予定なので、もう少し探してみるつもりです。

6.まとめ

僕は、どちらかというと洋画ではあまり泣けないのですが、今回の「ラ・ラ・ランド」は本当に切ない話で、泣かされてしまいました。と、同時に、キャリアと人間関係のトレードオフなど、人間の幸福に直結する、考えさせられるテーマを含んでいた傑作だったと思います。何度も見返したい素晴らしい作品です。前作「セッション」に引き続き、若き天才、チャゼル監督の渾身の作品でした。文句なしにおすすめ。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「ラ・ラ・ランド」 サウンドトラック

映画内で演奏された全16曲がそのまま収められています。「ララランド」がクライマックスにかけて感動を呼ぶのは、間違いなく「音楽のちから」だと思います。ポップで、キャッチーで、ノスタルジックな雰囲気もある絶妙な楽曲群は、何度聴いても素晴らしいです!僕も映画公開前に輸入盤で購入しました。(輸入盤はこちらから)

映画「セッション」

ラスト10分で鬼コーチと主人公が、ジャズドラムの即興演奏で語り合う(殴り合う?)シーンは、鳥肌モノの迫真の演技。ここで鬼コーチを演じたJ・K・シモンズは、2014年度のアカデミー助演男優賞を見事にゲットしましたね。

ララランド同様、人間関係や恋人などを犠牲にしてまでも、夢を追ってキャリアを追求する人々を描き出した傑作です。この映画を製作した時、デイミアン・チャゼル監督はわずか30歳だったというのも物凄い驚き。「ララランド」を見てハマった人は、是非この作品も見てほしいです。

【ネタバレ有】「彼らが本気で編むときは、」感想とあらすじ・伏線の徹底解説/真正面からLGBTを扱った荻上直子監督の新境地!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月25日に封切りされたLGBTと向き合った荻上直子監督の最新作「彼らが本気で編むときは、」を見てきました。事前にノベライズで予習していた段階から、今回は「かもめ食堂」や「めがね」みたいなフワフワした癒し系とはぜんぜん違うよね?と期待していたのですが、予想通り作風が一新された意欲作でした。

正直、荻上作品で泣かされることになるとは思いませんでした。本当に良かった!!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「彼らが本気で編む時は、」の基本情報

<映画「彼らが本気で編むときは、」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督・脚本】荻上直子(「かもめ食堂」「めがね」「レンタネコ」他)
【配給】スールキートス
【時間】127分

自身の出産・育児によるブランクを含め、2012年の「レンタネコ」以来、実に5年ぶりとなる作品は、本人も「荻上直子第2章」と宣言する通り、気分一心、新境地で製作された意欲作です。従来の「癒やし」路線は、置いてけぼりになる観客も多く好き嫌いがハッキリ分かれましたが、今作は従来のアンチ荻上な人こそ見て欲しい作品に仕上がりました。

2.映画「彼らが本気で編むときは、」主要登場人物とキャスト

今回、もたいまさこや小林聡美、市川実日子ら、いつもの荻上組オールスターズは出演していません。新しい俳優陣と仕事をしたかった、と荻上直子監督が言う通り、フレッシュで豪華な俳優陣が揃いました。しかしよく生田斗真受けたな・・・。ジャニーズってこういう仕事しなさそうなのに、意外です。

そういえば、荻上直子作品はみなそうですが、メインの登場人物は下の名前だけで呼ばれ、かつカタカナであることがほとんどですね。

リンコ(生田斗真)
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中学生の時に自身の「女性」性に目覚め、大人になってから性転換手術もすませたトランスジェンダーの主人公。非常に難しい役どころだと思いますが、見事な熱演でした。この映画撮影終了後、すぐにその後「土竜の唄」でバリバリ男になって弾ける役を普通にこなせるあたり、やはり並の俳優ではないなと思いました。

マキオ(桐谷健太)
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直近に紅白歌合戦で見た印象と全く違い、温和でどこにでもいそうなおとなしい青年になりきっていい人オーラを全開に放っていました。LGBTの女性と結婚する難しい役どころでしたが、こちらも素晴らしい演技でした。

トモ(柿原りんか)
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トモに扮する子役の柿原りんかは、これが映画初デビューだそうですが、こちらも非常に熱演でした。口数が少なく、言葉より表情や動作で心情を表現する難しい役柄でしたが、子供とは思えない見事な演技でした。オーディションで見事トモ役を勝ち取ったそうですが、これからが楽しみな子役です。

ヒロミ(ミムラ)
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育児放棄をするトモの母を演じていました。役作りのため、トモ役の柿原りんかとは、撮影期間中わざと仲良くせず、口を聞かなかったのだとか。こわ・・・。それにしても、吉田羊と見分けがつきません、、、。

ナオミ(小池栄子)
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保守的な教育ママといった役柄は意外とフィットしていました。昔はよく青年誌のグラビアの常連だった小池栄子も、もうお母さん役が似合う年頃なのですね・・・。

サユリ(りりィ)
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ヒロミの母、トモの祖母。サユリ演じるりりィは、2016年末に亡くなったそうです。ご冥福をお祈りします。

フミコ(田中美佐子)
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リンコの母親役。何があっても100%娘を無条件に受け入れ、娘の心強い味方として描かれました。

カイ(込江海翔)
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トモの幼馴染の男の子。ゲイなのかトランスジェンダーなのかは不明だが、ハッキリ男子に興味があるところが描かれていました。これもトモ同様難しい役柄でしたが、上手にこなせています。

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3.「彼らが本気で編む時は、」結末までのあらすじ(※ネタバレ有)

3-1.ヒロミの育児放棄、トモとリンコの出会い

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トモは母親、ヒロミと二人暮らしの母子家庭。最近、ヒロミの帰宅が遅く、朝帰りになることもしばしばだ。洗い物や洗濯物も溜まっており、家の中は雑然と荒れていた。今日も夜は帰らないらしく、いつものようにトモの夕飯はコンビニのおにぎりだった。

その日、結局ヒロミは朝方になってベロベロに酔って帰宅してきた。そして、トモの小学校登校時間になっても起きて来なかった。母親を置いて学校に到着すると、黒板には幼馴染のカイの悪口が書き込まれていた。カイは、昔からおとなしく、女子みたいな言葉遣いをするので男子からしばしばいじめの対象になっていた。

小学校低学年までは、しょっちゅうトモはカイと遊んでいたが、高学年になると他の女子の目もあるので、距離を置くようになっていた。

帰宅すると、やはり母親はいなかった。そして、トモは机の上に現金2万円と母親の書き置きを見つけ、読んで絶句した。またかー。

ヒロミは、勤めていた会社も退社し、どこか知らない男を追いかけて家を出てしまったのだ。その間、ヒロミの弟、マキオの家にお世話になることになった。小学校3年生の時と同じように。

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マキオは読書家が高じて、現在大手書店に勤務中だった。その日、定時退社してマキオはトモを自宅へと連れて帰った。マキオの自宅に着くと、前回とは違い、マキオの同居人で、リンコという女性がいた。トモはリンコに挨拶したが、女性離れしたその風貌に戸惑った。リンコはトランスジェンダーで、マキオと付き合ってから同居しているのだという。観察していると食事は上手だしその立ち振舞は完全に女性そのものだった。

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そして、その日から約2ヶ月間のマキオ、リンコ、トモの共同生活が始まった。

3-2.リンコ、トモ、マキオの幸せな共同生活

翌日、トモは、生活必需品や学校道具などをマキオの家に運びこむため、学校を休むことにした。朝起きるとすでにリンコ、マキオは仕事に出てしまっていたが、朝ごはんと弁当がおいてあった。朝ごはんを食べ終わると、トモは自宅への帰り際、公園で弁当を明けてみた。すると、そこにはタコさんウインナーなどが入った、見たこともない素敵なキャラ弁だった。

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おもわず感嘆し、もったいなくて食べずにいたが、後から時間が経ってから食べてお腹を壊してしまった。マキオの家で唸っている時、リンコが優しく抱きしめてくれたが、トモは驚いてトイレにふたたび篭ってしまった。

翌日、トモが図書室で「体と性」という本を見つけたので、トランスジェンダーについて調べてみたが、欲しい情報は特に得られなかった。そこへカイがやってきた。カイは、上級生の大野くんという男子が好きなのだという。こんな近くにリンコと同じような人間がいるんだ、と思った。

トモが帰宅してマキオの部屋でWiiをやっていると、突然見知らぬ男女が部屋に入ってきた。リンコの母、フミコとヨシオだった。リンコとマキオが両方共残業で遅くなるため、代わりにトモの面倒を見に来たのだ。

トモは、フミコたちと外食に出かけた。そこで、フミコからリンコの性同一性障害について話を聞き、フミコのリンコに対する愛情の深さを思い知らされるのだった。

フミコがリンコを本格的に「女子」として接するようになったのは、リンコが中学2年制になった頃からだった。体育の授業を毎回不自然に欠席するリンコの生活態度について、担任から呼び出されたのがきっかけだった。それまでも、リンコの持ち物が女の子っぽいものだったり、言葉遣いの節々からその兆候を感じていたが、はっきりフミコはこの時リンコを「女の子」として扱い、しっかり守ってやろう、とそれまでと変わらずリンコに愛情を注いでいった。最初にフミコがリンコにプレゼントしたのは、ブラジャーと、詰め物として毛糸で編んだ「おっぱい」の詰め物だった。

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マキオとヒロミの母、サユリは現在老人ホームに入居中だった。その老人ホームに勤務するリンコにも立ち会ってもらい、認知症が進んだサユリに久々にトモを引き合わせた。面会が終わり、老人ホームの中庭でマキオはトモにリンコとの馴れ初めや、リンコと付き合うようになったきっかけについて話した。

マキオは、サユリをかいがいしく世話するリンコに一目惚れしてしまい、何度も交際を申し出てようやくOKをもらったのだという。付き合った当初は、リンコの性同一性障害が気になったマキオだったが、好きになったら男でも女でもそんな小さなことはどうでもいい、と度量の大きい心をもつマキオだった。

その日、コンビニのおにぎりを口にして吐いてしまったトモは、マキオの家に帰宅してから、お気に入りのネコ柄のタオルを握りしめて臥せっていた。それを見つけたリンコは、「まだまだ赤ちゃんだな」と言って、やさしくトモを胸の中に抱きしめた。トモは、リンコのおっぱいを触ってみたが、リンコの言うとおりやや硬かった。

その日以来、リンコとの距離がなくなったトモは、家で快活に振る舞うようになっていった。リンコ、マキオとトモの不思議な共同生活は、トモにとってもリンコにとっても幸せな時間だった。

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中でも、桜が満開になった日に、3人で河川敷で食べた弁当は忘れられない思い出になった。トモの大好きなシジミの醤油漬けと切り干し大根も入っていた。

3-3.厳しい現実、彼ら3人をつなぐ「編み物」

しかし、数日後の夕方、トモとリンコがスーパーで夕食の食材を買い出しに出た時、トラブルが起こった。カイとカイの母、ナオミもスーパーに居合わせ、リンコを見たナオミが、トモに話しかけてきたのだった。リンコのことを悪く言われたトモは、衝動が抑えられなくなり、その場でナオミに食器用液体洗剤をぶちまけてしまった。

それは警察沙汰になってしまい、その場はリンコが散々謝罪して収まったのだが、家に帰ってから、リンコはトモに怒りを抑え、我慢すること、そして、我慢するための秘訣として、編み物を勧めた。編み物に没頭しているうちに、気持ちが落ち着いてくるのだという。

そして、リンコは、自身の「男根供養」として、108本の男根の形をした編み物をつくり、完成後燃やして供養したあと、戸籍を「女性」へと変更するのだと言った。リンコはその編み物を「ボンノウ」だと言った。トモは、「ボンノウ」作りを手伝いたくなって、その日からリンコに編み物を教えてもらうことにした。

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リンコは、マキオにトモを養子に迎えられないか本気で相談した。それは、マキオと入籍するということを意味していたが、マキオは真剣に受け止め、検討してくれることになった。

翌日、トモが学校に行くと、クラスでトモの悪口が黒板に書かれていた。先日まで仲のよかった友人たちからも悪意ある目で見られ、トモはそのまま学校を後にした。自宅近くで、母親、ヒロミの姿を見かけたような気がして急ぎ家に帰ったが、家には誰もいなかった。トモは号泣してしまった。

その日、トモは夜遅く帰宅した。連絡なく遅くなったトモを心配したリンコが強い口調でたしなめると、「ママでもないくせに」とトモは押し入れの中に入ってしまった。

リンコは、翌日勤務先の中庭で、一心不乱に編み物に向かっていた。トモの一言が答えたのだ。すると、横にサユリが来ていた。サユリもまた、亡くなった夫に浮気された時、編み物で心を落ち着かせたのだという。子供であるヒロミは、なぜか編み物を嫌がったので、ダンボール数箱分たまった編み物を夫の葬儀で棺桶に全部いれてやったのだという。

リンコが帰宅すると、トモはまだ押し入れに隠れていた。襖越しに、糸電話で仲直りをしようとしたが、トモが「昨日ママを見かけた」と話すと、リンコは続きが聞きたくなくて、家を出た。その途中で交通事故に遭ってしまい、急遽検査入院するという時に、一悶着あった。リンコは女性と認められず、男性用ベッドで夜を過ごすことになったのだ。

慌てて病院へ見舞いのため訪れたマキオが珍しく声を荒げて病院側に掛け合うも、リンコへの配慮は認められなかった。

リンコの検査結果は特に問題なく、すぐに退院となった。別の日、彼らはリンコの同僚、佑香の結婚式に参列した帰り道、3人で川べりでゆっくりした。マキオも、編み物を教えてほしいとねだったので、今度はトモがリンコのかわりにマキオに手ほどきをしてやった。

別の日、リンコとマキオの結婚を祝して、リンコ、マキオ、トモと、マキオの両親の家で鍋をつつく機会があったが、そこで改めてトモはフミコのリンコへの愛情の深さを思い知らされるのだった。

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トモの中で、完全にトランスジェンダーへの偏見はなくなっていた。カイとふたたび一緒に遊ぶようになったり、学校でもリンコの「ボンノウ」づくりを手伝うようになっていた。

3-4.共同生活の終わり

しかし、カイとトモが一緒にリンコと喫茶店で遊ぶところを目撃したカイの母、ナオミは、密かに児童相談所に通報していた。ある日、突然マキオの家に立入検査が入ったのだった。一通り聞き取り調査が終わり、児童相談所の職員は帰っていったが、このことはリンコ、トモ、マキオの3人に深い心の傷を残した。

一方、カイは自殺未遂を起こしていた。大野くんに当てた書きかけのラブレターを母親、ナオミに読まれ、知らない間に破り捨てられていたのだ。ナオミから、「罪深い」と言われ、母親の睡眠薬を一気に飲んで病院に運び込まれていた。見舞いに行ったトモは、彼女なりのやり方でカイを気遣うのだった。

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 そして、とうとう3人で編み続けた「ボンノウ」が108個になり完成したので、海でお焚きあげをするのだった。

数日後、マキオの元にトモの母、ヒロミが突然顔を出した。マキオの家で正式にトモを引き取りたいと申し出たマキオとリンコだったが、トモはヒロミと戻りたいと泣いてすがった。トモは、リンコの愛情に感謝しつつ、リンコと最後の夜を過ごすのだった。

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リンコは徹夜で編み物をして喪失感に耐え、翌朝、無言でトモを送り出すのだった。トモは、リンコの部屋に最愛の猫柄のハンドタオルを残していった。トモが自宅に着いて、リンコから渡されたプレゼントを明けてみると、手編みのおっぱいの編み物が中に入っていた。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.強く、優しいリンコに深く感動した

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作品中で描かれたトランスジェンダーの主人公、リンコは作品中どの女性よりも「母性」と「強さ」を兼ね備えたキャラクターとして描かれました。母親からの愛に飢えたトモをしっかり受け止め、心の支えになるとともに、様々な周りの無理解や偏見に対して、一度も怒りを表に出してキレることなく、飲み込める本物の「心の強さ」が印象的でした。

この作品で良かったのは、そんな強くて優しいリンコがどうやって形作られて来たのか、その背景、経緯をもしっかり描いていたこと。

リンコの違和感が頂点に達し、性同一性障害が周りに発覚した中学2年生の時、友人や学校の無策・無理解がはびこる中、母のフミコだけは、無条件にリンコを受け入れ、変わらぬ愛情でリンコと接していきました。初対面のトモに向かって、「リンコを悪くいうなら、たとえ子供であっても容赦しない」と言い切り、「我が子が一番可愛い」とリンコの前で言い切るフミコ。

この母親からの無条件の包み込むような愛情があって、初めてリンコという存在が出来上がっていったのでしょうね。

4-2.母親との関係性の大切さ

本作品では、LGBTを取り巻く学校や生活、職場でのトランスジェンダーへの偏見や無知を明らかにするだけでなく、親子間、特に母親と子供との関係性にフォーカスして描かれています。(父親は敢えて描かれず省略されている)

愛情に溢れたフミコーリンコの関係が、リンコを、逆境にも負けない、強く優しい大人へと成長させたのとは対照的に、「ナオミーカイ」「サユリーヒロミ(マキオ)」「ヒロミートモ」では、子供への理解不足やコミュニケーション不全により、その母からの愛情がいびつに伝わった結果、子供の精神も不安定となりました。カイは自殺未遂を起こし、ヒロミは育児放棄、そしてトモもリンコと出会う前は、愛情に飢えた不安定な精神状態にありました。

このように、リンコとそれ以外を鮮やかに対比させる形で、親から子供へ無条件に「愛情」を与えることの大切さが提示されていました。

僕も現在、1児の父として小学生の子供を育てる立場にありますが、改めて子供への愛情を絶やさないようにしなくてはと、この映画を見て強く実感しました。

4-3.無条件の愛は周囲へ確実に伝播するし、障害を乗り越える

母親から100%精神的に守られ、いっぱいの愛を受けて育ったリンコは、自らが愛を与える存在へと成長していきました。その愛は確実に周囲にも伝わっていきます。職場では老人たちを愛情深くケアし、それを見ていたマキオを魅了し、さらに愛情に飢えていたトモを癒やし、成長させていきました。物語前半で、マキオに語らせていた一言が、本当に忘れられません。

「リンコさんのような心の人に惚れちゃったらね、もうあとのいろいろなことは、どうでもいいんだよ。男とか、女とか、そういうことも、もはやカンケーないんだ。」

フミコから受け継いだ深い愛情が、今度はリンコから周囲へと伝播していく中で、リンコ自身もマキオという得難いパートナーを手に入れ、世間の厳しい風当たりはあるものの、幸せな生活を手に入れていたのが印象的でした。

4-4.温かい食卓は見ているだけでホッとする

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映画全体に始終「温かさ」が漂っていたのは、リンコやフミコ、マキオといった愛情あふれる人物表現や、荻上監督の映像表現手法もありますが、彼らを結びつける「食事」のシーンが素晴らしかったことも大きく寄与していると思います。

「かもめ食堂」以来、荻上作品では、いつもフードスタイリストの飯島奈美氏による彩り鮮やかな食卓のシーンが見どころですが、今回も、

・トモとリンコ、マキオの最初の食事シーン
・リンコとマキオの結婚を記念したナオミ宅での鍋パーティ
・リンコがトモに最初に作ったキャラ弁
・桜が満開の日に川沿いでのピクニックで食べた昼食

など、ストーリーの要所要所で、暖かく家庭的な食事のシーンがしっかり演出されており、彩り豊かに盛り付けられた家庭的なメニューが、この映画の「温かさ」を決定的に象徴していたと思います。飯島奈美さん、今回も本当にいい仕事しています。 

4-5.荻上直子作品の新境地!~従来の作品と変わった点は?

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(引用:「彼らが本気で編むときは、」映画公式HPより)

映画パンフレットに荻上監督のコメントが掲載されています。

「癒し系、スローライフなどが、私の過去の映画のイメージと言われてきました。しかし、もはや、癒してなるものか!この映画は、人生においても映画監督としても、荻上直子、第二章の始まりです。

5年ぶりに映画製作に戻ってきた荻上監督ですが、本作では作風が大きく変わった印象を受けました。「かもめ食堂」「めがね」などに代表される「ファンタジックな癒やし路線」では、熱狂的なファンを獲得するとともに、アンチも非常に多かったです。

実在感に乏しい人物造形や因果関係がぼかされたあやふやなストーリー、「おままごと」と揶揄された、余りにもスローライフ的な職業観に閉口した人も多かったと思います。言い方を替えると、監督自身が分かる人だけわかればいいと割り切って、「見る人を選んでいた」フシもあったのかも。

しかし、今作では「LGBT」という題材こそやや特殊性はあるものの、映画内で表現されたドラマ、ストーリーは非常にわかりやすく、老若男女幅広いファンにアピールできる作品になりました。

まず、荻上作品では初めてと言っていいほど、わかりやすい「悪役」的キャラが描きこまれたこと。育児放棄を正当化するヒロミや、自らの価値観に固執し、トモやカイを追い詰めるナオミは、痛々しいほど「悪役」的でした。

また、物事の因果関係が「誰にでもわかるよう」セリフや情景描写でしっかり説明され、ストーリーラインがハッキリしたこと。左脳的に映画を解釈、理解する人たちにも受け入れられそうです。

さらに、映画中で描かれたキャラクターも非常に実在感がありました。学校での生々しい子供達のストレートな偏見や、その言葉遣い、マキオやリンコの職場のリアルな描写は、最後までみんな何者なのかわからない(特にもたいまさこの役柄!)「かもめ食堂」「めがね」とは大違い。

なんだ、やればできるじゃん!と、目の肥えたファンからも、ネット上で再評価する声もちらほらありましたね。

4-6.荻上作品の良いところはそのまま生かされている

それでも、荻上監督が従来の映画作品で表現されてきたものが全部捨てられたわけではなく、彼女の良さが「いい形で」生かされていたと感じました。

例えば、なんだかんだ言って「自由」でゆるいキャラクター達は健在でした。

 ・鯉の餌あげ禁止を採算無視して餌を上げ続ける老人達
 ・学校を簡単に休んでゆっくりしちゃうトモ
 ・職場から定時退社で必ず帰宅するマキオ
 ・自己顕示欲が強く、俺が俺が、というキャラが不在であること

このあたりは、リベラルで良い意味での荻上監督の「ゆるさ」がきちんと作品中に散りばめられていてよかったかなと思います。

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さらに、大事なシーンでの大胆な長回し、海や川など「水場」の風景シーンの多様、セリフより情景描写でテーマを丁寧に描き込む姿勢なども従来作品同様、非常に良かったと思います。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.「ひとつひよこが~だいろくねんね」とは

劇中で、サユリーヒロミートモの3人は、それぞれ別々のシチュエーションでフッと無意識に「ひとつひよこが~だいろくねんね」と口ずさんでいました。この童謡は、日本に口承で伝わる代表的な「数え歌」です。発祥地等は不明で、全国に驚くほど多彩なバリエーションがあるようです。

ひとつひよこが あちこちで ( その他音楽 ) - ひとひら風信 風のいろ 雲のうた - Yahoo!ブログ

本作では、幼少時から繰り返し聞かされてきたであろうわらべうたが、ふとした瞬間に無意識に口を伝って出てしまう様子が描かれました。サユリーヒロミ、ヒロミートモの親子関係は、理想からは程遠い状況ではありますが、たとえどういう形であったとしても親子というのは切っても切り離せないものなんだな、と感じさせられるエピソードでした。

5-2.児童相談所の立ち入り検査について

作品後半部分で、突然マキオの家に児童相談所の職員が押しかけてくるシーンがありました。これは、言うまでもなくカイの母、ナオミの「通報」による嫌がらせですが、こうした立入検査は、実際にかなりの件数行われています。

厚労省のHPを見ると、2000年11月に「児童虐待の防止等に関する法律」(通称「児童虐待防止法」)の施行後、児童相談所に報告される児童虐待の数は、この20年で50倍以上にまで拡大しています。なんと、平成27年度で全国208か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、103,260件(速報値)で、これまでで最多の件数となっています。

児童虐待防止法では、児童相談所に通告があった場合、24~48時間以内(自治体によって違う)に安否確認をすることになっています。また、必要に応じてこうした立入検査も行われ、実際に対象児童の「腕」や「顔」のチェックと現地でのヒアリングを行うそうです。かなり後味の悪いリアルなシーンでした。

5-3.荻上作品における「編み物」の位置づけとは?

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荻上作品では、今作だけでなく、例えば「めがね」でもやることがなくなってヒマな主人公が海辺で編み物をするシーンが描かれるなど、頻繁に「編み物」が映画内に出てきます。

これに対する答えが、荻上監督自身のインタビューで明らかにされていました。

荻上直子監督インタビュー前編|『かもめ食堂』から11年。監督自身が第二章と公言する『彼らが本気で編むときは、』への想いとは。|箱庭 haconiwa|女子クリエーターのためのライフスタイル作りマガジン

自分が28歳くらいの頃に、将来が見えなくて、お金もなくて、映画監督になれるかどうか不安だった時期があったんです。その時に、ふと編み物をやってみたんですよね。立て続けに3本くらいのマフラーを編んでいたんですが、無心になれる感じがあったし、不安みたいなものを取り除く作用があると思ったんです。その経験から、悔しいときとかに、編み物をやることで、その気持ちが浄化されたりするのかなと思いました。作品の中でも言っていますが、男性が女性になる手術をするというのは、みんな大変な想いや、ある種の覚悟を持って挑んでいると思うんですよ。それで単純に、どうやって気持ちの整理をしてるのかなと思って。その気持ちの整理の仕方の表現として、編み物につながったんです。

上記から、編み物は荻上監督の映画人としてのキャリアの中で一番苦しい時に、彼女を支える大切な活動だったことがわかります。編み物への特別な思い入れが、今作のストーリーへの着想につながっていたのですね。

5-4.映像に込められたメッセージを読み解く楽しみ

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今作は、荻上監督の過去作に比較すると、それなりにストーリーのポイントを「セリフ」として語ってくれていますが、やはり映像表現の中に登場人物の心情や作品のテーマをかなり織り込まれています。

個人的に特に秀逸だなと感じたのは、季節を感じさせるモチーフを上手く使って彼らの心情の移り変わりを巧みに表現していたことです。例えば、マキオ、リンコ、トモの共同生活における幸せ度やそのテンションは、ちょうど桜が満開になる時にピークを迎え、桜が散っていくとともに、彼らの共同生活は終わりに向かっていきました。

また、桜が満開になった一番幸せな時期に、ピクニックの弁当の中にリンコが作って入れた3匹の鯉のぼりに対して、トモが去っていく当日朝にリンコがマンションのベランダから見た、遠くにはためく鯉のぼりは、彼らの共同生活の終わりを暗示していました。

探せばまだまだ読み解けそうな場面はありますが、繰り返しじっくり鑑賞できる映像表現の面白さがある映画だったと思います。

6.まとめ

前作「レンタネコ」から5年ブランクが空き、作風を一新して製作されたこの映画は監督本人もハッキリ明言しているように、勝負作でした。

LGBTを真正面から扱った作品なので、興収的には厳しそうではありますが、映画館で見る価値がある素晴らしい作品だと思います。上映期間が短そうなので、興味がある方はお早めに!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ノベライズ「彼らが本気で編むときは、」

荻上直子が描き下ろした脚本に沿って、忠実にノベライズ化された作品。映画中、頑ななトモは無口で心情が読みづらいシーンもありますが、小説版では、トモを中心として各キャラクター達が各場面でどう考えていたのか、どう感じていたのか、詳細に描写されています。本編同様、かなり涙腺が危なくなります・・・。素晴らしいノベライズでした。

荻上直子監督作品は、まとめてHuluで!

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Huluでは、荻上直子監督作品のうち、自身の出世作・代表作とされる「かもめ食堂」「めがね」に加え、「トイレット」が見放題!

「彼らが本気で編むときは。」では新境地を開拓した荻上直子監督ですが、そのゆるゆるでファンタジックな癒やし路線は、この上記3作で確立したと言っても過言ではありません。好き嫌いがはっきり出るとは思いますが、まだ未見であれば、見ておいて損はないと思います!

現在、僕はU-NEXTHulu、AmazonPrimeとオンデマンドサービスに3社加入しているのですが、荻上監督作品は、Huluが一番品ぞろえが良いです。

月会費は933円ですが、加入後2週間は無料。無料期間中にまとめて見てしまえば、お金は一切かかりません!

荻上監督の他の作品も見たくなったら、お金を節約できるHuluがおすすめです!

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幕末明治の最強絵師、河鍋暁斎「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展が超おすすめ!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月23日から渋谷のBunkamuraで開催中の、幕末明治の天才画家、河鍋暁斎をフィーチャーした「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展に行ってきました。いや~、これはやばい!日本画ファンなら全員必修とも言える素晴らしい展覧会でした!

興奮覚めやらぬ中、以下、早速レビューしてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

僕が行ってきたのは平日昼間でしたが、それなりに混み合っていました。まだ会期スタート数日でこれですから、会期後半の土日はかなりキツキツになると思います。

所要時間としては、展示点数が150点以上あり、かなりの分量を見なくてはいけないので、90分は空けておきたいところです。僕はメモを取りながら見ましたので、所要時間は125分でした。物凄いクオリティなので、最初からリピート前提で2回に分けて見てもいいかも。

2.「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展とは

明治、大正期に大活躍した奇想の日本画家、河鍋暁斎の画業をイスラエル・ゴールドマンという海外の有力コレクターの保有作品で振り返る回顧展です。昭和後期や平成に入ってから人気復活した絵師って、大抵そうなのですが、人気が出た時はすでに海外のコレクターが一大コレクションを形成しちゃっているという(笑) 

この河鍋暁斎にしても、伊藤若冲におけるジョー・プライス・コレクションのように、ゴールドマンさんという強烈なイギリスの日本画を専門とする画商兼コレクターが、物凄い大コレクションを構築しているのです。

これまで、河鍋暁斎のゴールドマン・コレクションは過去2回日本で公開され、その都度大きな反響を呼んで来ました。1度目は2002年の大田記念美術館(原宿)での小規模公開。そして、2回目は2008年の京都国立博物館での回顧展です。

そして、今回の3度目の日本里帰りは、渋谷のBunkamuraから始まり、日本各地4箇所を巡回する予定。(こんなに展示替えもなくハードに巡回して、作品痛まないのかな・・・)

このコレクションは、現在大英博物館に全点寄託され、公開が進んでいるようですが、それでも、今回3度目のお披露目で、日本初公開になる作品が山のようにあります。それも、いわゆる素描やラフスケッチのような捨て作品ではなく、ガッツリとちゃんとした作品群ばかり。だから日本画ファンとしては、絶対に見逃せない展覧会なんです。

3.ところで、河鍋暁斎って誰なの?

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(引用:Wikipediaより)

河鍋暁斎(かわなべきょうさい、ぎょうさいじゃないよ!1831-1899)は、幕末から明治期にかけて大活躍した日本画家の天才絵師です。知名度は結構低め。ティツィアーノを知らなかった妻に、「河鍋暁斎って知ってる?」って聞いたら、見事に「誰それ」と帰ってきたものです。

さて、彼が生きて活躍した時代は、時期的には、葛飾北斎や歌川国芳の後続世代にあたります。父の導きで、6歳の時に歌川国芳に入門し、ついで9歳から狩野派で9年間学んだ後、19歳でプロの絵師として独立するなど、早熟タイプの天才でした。

大衆的な浮世絵・戯画を描く一方で、狩野派をベースとした伝統的な大和絵もバッチリこなすオールラウンドプレイヤーとして、幕末~明治初期では国内で人気No.1絵師として知られていました。

また、本展覧会でも明らかにされますが、特に鹿鳴館や三菱一号館を設計したジョサイア・コンドル(難関大学日本史の入試問題に出てきますね!)を弟子としたことで、コンドルの書いた書物「河鍋暁斎 本画と画稿」や、コンドルの暁斎コレクションを通じて、ヨーロッパでも日本画家の第一人者として有名な存在になっていきました。

しかし、そんな暁斎も、月日が流れ、伊藤若冲らと同様に、徐々に忘れ去られて、第二次大戦後には完全に埋もれてしまいました。

再評価が進むきっかけになったのは、河鍋暁斎の親族による地道な普及活動や、海外のコレクターによるコレクションの形成でした。2010年台に入り、毎年どこかで暁斎展が開催されるようになり、2015年に三菱一号館美術館で開催された「画鬼・暁斎展」でいよいよアートファンに幅広く「みつかった」のでした。

ところで、河鍋暁斎の作品の特徴を3つ挙げるとすると、1)変幻自在な作風、2)ユーモアに溢れた楽しい画風、3)天才的な筆使い だと思います。

特徴1:変幻自在な作風

河鍋暁斎は、19歳で独立するまでに、大衆的な浮世絵、伝統的な狩野派絵画の両方を習得し、さらに江戸琳派、鈴木其一の次女と結婚するなど、それ以外にも琳派、円山四条派、中国の山水画、西洋画など、様々な流派、画風を独学で学び、変幻自在な作風を打ち立てていきました。

今回の展覧会をざーっと見ているだけでも、「あっ、この犬は応挙だ!」とか、「これは琳派臭い!」とか、「この仏画は狩野派バリバリだよね~」「この鶏はちょっと若冲っぽい」等々、本当に様々な引き出しを持っていることに気づきます。

今回のゴールドマンコレクションからは、

・カラスをモチーフとした花鳥画
・妖怪画や幽霊画
・中国山水画
・狩野派風の仏画
・達磨絵(禅画風)
・浮世絵
・美人画
・春画
・雑誌の挿絵

など、あらゆるジャンルの絵画が出展されています。

特徴2:ユーモアに溢れた楽しい画風

真面目な絵ももちろんこなせるのですが、展覧会の大半の作品は、どこかしら絵の中にユーモアがたっぷり感じられる作品ばかり。明治期に入ってから、文明開化を冷徹な目で見つめつつ、持ち前の風刺精神もたっぷり効かせた楽しい作品を作り続けました。

国芳の下を離れた暁斎は、どうやら一旦狩野派の絵師として安定した仕事にありつこうとしたようなのですが、生来江戸っ子気質だったのか、遊びすぎて、その素行を問題とされて館林藩御用絵師坪山洞山から破門されてしまいます。

これ以来、しばらくカツカツの状況が続くのですが、この時に浮世絵、風刺画、妖怪絵から春画、花鳥画まで、仕事を選ばずあらゆるジャンルを手掛けたことから、ジャンル横断的で自由な、ユーモアのある作品を生み出すようになったそうです。

また、生来から反骨精神溢れる人物だったようで、明治3年には、上野の不忍池で行われた書画会で明治高官の風刺画を描き、禁錮3ヶ月、鞭打ち50回の刑に処されたエピソードも残っています。(その時のエピソードも自分で絵にしちゃうという・・・)

特徴3:天才的な筆使い

これはもう目の前で作品を見ていただくしか無いのですが、どの作品も、とにかくほれぼれするような天才的な筆使いなんですよね。躍動感と繊細さが同居してるというか。

あらゆる流派の特徴をミックスして、それを自由自在に技法として取捨選択できる卓越した筆触は、すでに毛筆を日常使いしていない「非・筆ネイティブ世代」な現代人では絶対にこの境地には到達できないだろうなぁと感じました。

特に、狩野派の伝統的なモチーフを墨の濃淡、筆使いだけでいくつも描いた「枯木寒烏図」シリーズは、そのうちの一枚が、内国勧業博覧会で当時最高評価を受けるなど、卓越した技術が感じられます。

4.今年の暁斎展を絶対見ておくべき3つの理由

今回の暁斎展は、アートファンなら絶対に行っておくべき大事な展覧会だと思います。仕事サボっても、馳せ参じる価値があります(笑)なぜ、今年の暁斎展が素晴らしいのか、見逃してはならないのか、僕なりに感じた理由を以下、3点に絞って書いてみたいと思います。

理由1:暁斎の全ての画業を網羅している展覧会だから

河鍋暁斎は、なんだかんだ言って幕末の浮世絵師たちに比べるとまだまだその知名度が低いのが現状です。北斎や広重は広く知られていますが、暁斎となると、コアなアートファンにしか知られていません。

暁斎の作品は、大抵「浮世絵」や「妖怪画」などの展覧会では、必ずと言っていいほど数点作品は紹介されはしますが、どうしても展覧会のメインディッシュとはならず、たいてい北斎や国芳らの引き立て役で終わってしまうのですよね。

特に、日本では浮世絵師的な文脈の中で紹介されることが多く、「あー、暁斎ね。明治の浮世絵師でしょ?」ぐらいのイメージしか持っていない人が多いのではないでしょうか?(僕も含めてそうでした)

しかし、今回の展覧会の良いところは、もちろん暁斎に先行して持たれているイメージ通りの「妖怪画」や「浮世絵」だけでなく、彼の本当の凄さがわかる、沢山の肉筆画が出展されていることです。「えっ、こんなのもやってたの?」と驚きの連続です。

2015年の三菱一号館美術館での「画鬼・暁斎展」でも相当数の肉筆画が出ましたが、その時と一枚もダブっていないのも凄いです。

理由2:圧倒的な展示点数

そして、展示されている点数も、あの文化村のスペースに150点以上の展示を詰め込むなど、かなりのボリューム感があります。(しかも展示替えなし!)最初から最後まで全部暁斎の作品がズラーッと並ぶと、本当に壮観でした。

理由3:日本初出展となった作品が多数!

前述しましたが、今回が初めて日本での展覧会デビューする作品も多数ありました。これを逃すと、今後はもう図録上(か大英博物館)でしか見れなくなる作品も確実に多数あると思われます。

毎年のように河鍋暁斎をテーマとした展覧会は開催されていますが、今回の展覧会はその希少性がとりわけ高いといえます。是非、会期中に見逃さずにチェックしてみてください。

5.特に素晴らしかった作品をピックアップ

5-1.「枯木に夜鴉」

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第2回内国勧業博覧会に出品して、最高評価を得た「枯木寒鴉図」のバリエーション。暁斎は、伝統的な狩野派の技法を用いて枯木に止まる「鴉」(からす)をモチーフにした絵を好んで量産しました。

シンプルながら、力強く、かつ繊細な見事な筆使いに惚れ惚れしました。今回の展覧会では、ゴールドマン・コレクション保有の4枚の「鴉」の絵が出展されています。

5-2.「鷹に追われる風神」

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(引用:http://thunder-mist.tumblr.com/post/65876865778/animus-inviolabilis-wind-god-being-chased-by-a

あの風神雷神図で強そうな姿が印象的な「風神」が鷹に追われる?!という型破りな発想と、ユーモア溢れる風神の表情がなんとも言えませんでした。

明治維新の世の中になり、世の中の価値観がぐるっと変化した有様を、伝統的な日本画のモチーフを流用して表現したと言われています。2008年の京博での展覧会でも人気となった一枚だったようですね。

5-3.「地獄太夫と一休」

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(引用:「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展公式HP)

 美しい花魁も、暁斎の手にかかると怪しげな造形に早変わり(笑)着物の絵柄とか、笑っちゃうほどやりすぎです。それでいて、絵画自体はまったく手を抜かず真剣に描いているという・・・。そして、横のガイコツなどもどこかおかしみがあるし、一休に至っては、まるでガイコツの頭の上でヤク中のように踊り狂っています。 

そして、下記はその近くに展示してあった「シルクハット」をかぶって三味線を演奏するガイコツ。もうなんでもありですね・・・。

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(引用:https://twitter.com/thisiskyosai

5-4.「蛙の放下師」

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(引用:「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展公式HP)

暁斎が初めて描いた動物画は、「蛙」の絵だと言われます。暁斎の妖怪画や戯画などでも圧倒的に出現頻度が高く、コミカルに描かれる「蛙」に要注目です。そういえば、若冲も「動植綵絵」の中で様々な動植物を描きましたが、カエルだけは下手くそだったような(笑)

5-5.「百鬼夜行図屏風」

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(引用:「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展公式HP)

こちらは、狩野派でも土佐派でもなく、鎌倉時代の鳥獣人物戯画へのオマージュとして制作されたと言われています。もう、どこまで引き出しが広いんだ!と唸ってしまいました。たださすがにこれを宴会の場で使うのはなかなか難しいかも。保存状態がいいのは、全く使ってないからなんだろうか?と思いながら見ていました。 

基本的には過去の様々な妖怪画からモチーフを持ってきているのですが、中には暁斎が考案したオリジナルの妖怪もちらほら混ざっているようです。

5-6.「龍頭観音」

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(引用:「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展公式HP)

この絵を見て、真っ先に頭に思い浮かんだのが、ちょうど狩野派の同期で、フェノロサと組んだ狩野芳崖の「悲母観音」。共に、空中に浮遊した神秘的な観音像という点で共通しています。晩年には再度狩野派に入門し直した暁斎は、この狩野芳崖の作品のことを知っていたんでしょうか?

狩野芳崖「悲母観音」(参考)
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(引用:Wikipediaより)

5-7.「達磨図」

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(引用:「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展公式HP)

そして、出口近くの最終コーナーにまとめて展示されているのが、「禅画」のモチーフとして繰り返し描かれてきた「達磨図」。太い輪郭線で力強く大胆に描かれ、シンプルだけど気品溢れる一枚。

浮世絵や戯画といった大衆路線だけでなく、こうしたシリアスな宗教画もビシッと描けてしまう多才ぶりを示している作品だと思います。

6.音声ガイドが秀逸だった!

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(引用:https://spice.eplus.jp/articles/107809/images

今回は音声ガイドが特に秀逸でした。音声ガイドは、会場で提供されていれば必ず借りることにしているのですが、ガイド内で「落語」を聞かされたのは初めてでした(笑)

というのも、今回ガイドを務めているのは、笑点の司会でもおなじみの、春風亭昇太だったからです。幽霊画の解説で、「・・・あっしも幽霊だから足はださない」・・・って作品解説そっちのけで普通に落語「へっつい幽霊」やってるんですけど!(笑)

音声ガイドボーナストラックに、「和楽器バンド」f:id:hisatsugu79:20170228123732j:plain
(引用:「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展公式HP)

内容も、ナレーションのお姉さんと掛け合いがあったりとか、ボーナス・トラックで和楽器バンドのテーマソングが気持ちよかったりと、従来の音声ガイドに比べると「攻めてるな!」という印象で、音声ガイド好きな自分としては大満足でありました。

もちろん、解説部分も非常にわかりやすく、キャプションとダブラないプラスアルファの解説内容が勉強になりましたので、普通に聴いてもおすすめです。

7.まとめ

幼少期に弟子入りした狩野派の師匠から、暁斎のオールマイティになんでも描きこなし、精力的に修行に打ち込む姿を見て「画鬼」とあだ名をつけられるほど、生涯を通して絵画に打ち込んだ河鍋暁斎。

今回の展覧会で里帰りしたゴールドマン・コレクションは、状態もよく、見どころ満載でした。楽しく、ユーモア溢れる暁斎を満喫できる素晴らしい展覧会です。おすすめ!

それではまた。
かるび

関連書籍・お役立ち書籍など!

別冊太陽「河鍋暁斎」

安定と信頼の「別冊太陽」シリーズ。著者には江戸絵画の考察に定評がある安村敏信氏を起用し、美麗なカラーでバラエティに富んだ暁斎の絵画と的確な論評を楽しむことができます。レビューも写真も手を抜かない別冊太陽がやっぱり最初に読む1冊としては非常にバランスが良いと思うんですよね。

もっと知りたい河鍋暁斎 ー生涯と作品

そして、安定の東京美術のこのコンパクトなムックシリーズ。こちらも、全編カラー写真でジャンル別に暁斎の作品を徹底的にレビューしています。展覧会より一歩深い考察や知識を手に入れたい人には、こちらがお勧め!

暁斎春画 ゴールドマン・コレクション

よくぞ出たなという感じ。今回の展覧会では、一部「春画」コーナーが設けられていましたが、えげつないものから笑えるものまで、同じ春画でも様々なバリエーションがあるのが印象的でした。そんなゴールドマン・コレクションから、暁斎の「春画」だけを特集しようというマニアックなファン向けの企画。この表紙の絵は、展覧会にも飾ってありましたね!

展覧会開催情報

「これぞ暁斎!世界が認めたその画力」展展は、東京展のあと、高知・京都・石川と国内3箇所を巡回予定です。版画作品を中心として若干の展示内容変更があります。

◯美術館・所在地
Bunkamuraザ・ミュージアム
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7
◯最寄り駅
JR・東急・地下鉄渋谷駅3A出口(109口)から徒歩7~8分
◯会期・開館時間・休館日
2017年2月23日~4月16日(会期中無休)
10時30分~19時00分(入場は30分前まで)

◯公式HP
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_kyosai/

◯Twitter
https://twitter.com/thisiskyosai
◯美術展巡回先

■高知県立美術館
2017年4月22日(土)~6月4日(日)
■美術館「えき」KYOTO
2017年6月10日(土)~7月23日(日)
■石川県立美術館
2017年7月29日(土)~8月27日(日)

シャセリオー展(国立西洋美術館)はエキゾチックな魅力満載の展覧会でした!

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f:id:hisatsugu79:20170304150322j:plain

かるび(@karub_imalive)です。

国立西洋美術館での2017年最初の特別企画展「シャセリオー展」が2月28日からスタートしました。2015年「グエルチーノ展」2016年「メッケネム展」等々、日本ではそれほど知名度がない西洋美術のオールドマスターの「日本初」となる回顧展を積極的に手がける同美術館。

もちろん、僕自身も昨年この展覧会名を聞くまでは「シャセリオー?誰それ」的な感じでした。シャセリオーとはどんな画家だったのか、作品の魅力や画家の生涯について展覧会でバッチリ学んできましたので、以下、簡単に感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と鑑賞に必要な所要時間の目安

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会期初日でしたが、混雑度を見るために敢えて午後の一番混雑する時間帯、14時頃に入館してみました。が、結構空いています。やはり知名度的に、熱心なアートファン以外はまだ様子見段階ということなのでしょう。展覧会公式Twitterのフォロワー数もかなり少ない状況。(3月4日現在800人程度と寂しい・・・)

会期中、主催者TBSでのTV特集が何度か入るまでは、しばらく土日でもゆっくり見れるとは思います。GW前頃からは少し土日は厳しくなるかもですね。

ただし、版画や素描など、比較的小品展示が多いので、少しでも混雑してくると鑑賞しづらくなる作品が多いです。できるだけ空いている会期前半に行ったほうがいいかもしれません。

全展示合わせて90点ちょっとであり、素描や未完成作品を除くと1/3以下となるため、鑑賞に必要な所要時間は、60分程度確保しておけばOKだと思います。音声ガイドを借りてガッツリ見るなら90分~120分欲しいところ。

2.音声ガイド、山田五郎の安定感が素晴らしい!

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/event/#tieup

今回の音声ガイドは、西洋美術を独特のセンスで、わかりやすく噛み砕いて解説してくれることで定評がある山田五郎。シャセリオーが属したロマン派や、彼が描いた代表的な作品について、「西洋美術史」の観点から作風や人物像を説明してくれます。

通常の音声トラック20本に加え、特に山田五郎が熱く語り下ろす3つの特別ガイド(ボタン60番、70番、80番)の内容が素晴らしかったです。それぞれ2回ずつ聴いちゃいました。コアなファンからアート初心者まで、幅広く納得させる素晴らしいガイドでした。ガイドのレンタル、本当におすすめです。

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3.シャセリオーって誰なの?

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

テオドール・シャセリオー(1819-1856)は、19世紀に活躍したフランスの画家です。本国フランス同様、日本でも非常にマイナーな存在で、今回が初めての回顧展開催となります。試しにAmazonで調べましたが、シャセリオーを特集した書籍は、わずか1冊しか検索に引っかかりませんでした。(去年のメッケネム展のほうがまだ引っかかった)

現在では忘れ去られ、すっかり美術史の中で埋もれてしまったシャセリオーですが、生前はかなりの知名度を得ていました。後続のアーティストたちの中にはシャヴァンヌ、ギュスターヴ・モローといった熱狂的なファンも存在したようです。

シャセリオーは、美術史に輝く新古典派の巨匠、ドミニク・アングルにわずか11歳で弟子入りしました。この子は将来「美術界のナポレオンになる!」とアングルが絶賛したほどの天才・早熟ぶりだったそうです。

しかし、アングルがフランス国内での待遇に不満を持ち、ローマへ旅立ってからは、シャセリオーは(鬼のいぬ間に?)アングルの作風を離れ、アングルのライバル、ドラクロワらが属する「ロマン派」に傾倒していきます。

ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」f:id:hisatsugu79:20170304141050j:plain
(引用:Wikipediaより)

そして、彼は次第にロマン派の代表的な画家として評判になり、当時のパリでの一流文化人や著名人達と交流が増えていきました。驚いたのは、彼のキャリア絶頂期に、当時パリでNo.1の美貌を誇ったと言われる高級娼婦、アリス・オジーを文豪、ヴィクトル・ユーゴーと取り合い、そして見事に勝ち取って(!!)交際にこぎつけたこと。(失礼ですが自画像を見る限り、そんなにイケメンには見えなかったもので・・・)

後述しますが、今回の展覧会のハイライトの1枚でもある、「泉のほとりで眠るニンフ」は、彼女をモデルにした1枚だと言われています。

その後、シャセリオーはアルジェリアに写生旅行に出かけ、自らのルーツでもあるエキゾチックな絵画を沢山残しつつ、自身最大の労作となった会計検査院での壁画を手がけました。

もともと病弱だったシャセリオーは、わずか37歳で亡くなりますが、その独特の作風は当時熱狂的なファンを多数獲得したと言われています。

4.シャセリオーの絵画の特徴や、展覧会のみどころは?

今回の展覧会で、僕が感じたシャセリオーの絵画の「みどころ」や「特徴」を、その絵画の特徴とあわせて少し整理してみました。

みどころ1:遅れてきたロマン派の大物

シャセリオーは、いわゆるギリシャ・ローマ~ルネサンス絵画の伝統を踏まえた「新古典派」を捨てて、感情的で動きのある絵の中に個性を盛り込むスタイルの「ロマン派」絵画の一派に属しました。しかし、彼が活躍した1940年代以降、ロマン派はムーブメントとしてはやや落ち着いてきており、彼はいわば「遅れてきた最後の大物」的な登場だったようです。

ただ、彼自身はあまり作風にはこだわらず、1850年代から隆盛してきた写実主義の代表格、クールベや、自然を好んで描いたバルビゾン派のテオドール・ルソー(アンリ・ルソーじゃないよ)らとも親しくして、彼らの作風も自分自身の絵画へと柔軟に取り込んでいきました。

みどころ2:エキゾチックな絵画

シャセリオー自身、フランスの植民地(今のドミニカ共和国)生まれであり、彼の父は一年の大半を植民地への遠征で過ごすなど、彼の作品から「異国的な香り」が強くただよってくるのは、その生い立ちや家庭環境にルーツがあったと言われています。

今回の展覧会では、特に1940年代に入ってから、シャセリオーが旅して回ったアルジェリアの日常風景を描いた作品が多数出展されており、見どころの一つになっています。

みどころ3:かわいい馬

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

ロマン派の代表格、ジェリコーやドラクロワもしばしば絵画のモチーフの中に「馬」が登場しますが、シャセリオーも絵画の中に「馬」を沢山描きました。

それにしても、シャセリオーの描く馬は、顔の表情がとにかくかわいい!馬への愛情が感じられる絵画が非常に多いのです。特に下記の黒の雌馬を描いた作品は馬の「かわいさ」に目を惹かれました。

みどころ4:モチーフに多用された「赤ちゃんと母親」

「コンスタンティーヌのユダヤ人街の情景」f:id:hisatsugu79:20170304145948j:plain
(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

シャセリオーが生涯大切にしたモチーフの一つとして挙げられるのは、「赤ん坊と母親」というテーマです。遺作となった伝統的な宗教画「東方三博士の祈り」でも、真ん中に神々しい母親と赤ちゃんが描かれました。今回の展覧会でも、出展された絵画の中に多数「赤ん坊とそれを抱く母親」がモチーフとして使われていますので、是非探してみてください。 

みどころ5:熱狂的なフォロワー達

シャセリオーは、画家仲間の中に熱狂的なファンが多数いたことで有名です。特に後続の画家の中から、2人の熱狂的なファンがこの展覧会で紹介されています。

ギュスターヴ・モロー「若者の死」
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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

その一人は、ギュスターヴ・モロー。聖書や神話をテーマに幻想的な絵画を沢山描いた象徴主義の先駆けのような画家ですが、モローは、シャセリオーが好きすぎて、当時通っていた美術学校エコール・デ・ボザールを辞めて、シャセリオーの隣の家に引っ越してくるほどの力の入れようでした。そんなモローが大成して、再度美術学校に戻った時に今度は講師としてジョルジュ・ルオーやアンリ・マティスを見出して育てるのだから、面白いものですね・・・

シャヴァンヌ「海辺の乙女たち」
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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

もう一人は、シャヴァンヌです。彼は19世紀最大の壁画アーティストとして有名ですが、シャセリオーの手がけた会計検査院での大壁画を見て多大なインスピレーションを受けました。公私共に付き合いがあり、シャセリオーが亡くなって以後、シャセリオーの最後の奥さんといい仲になってしまった(!)そうです。(やり過ぎですよね??)

シャセリオーと付き合いが深かったロマン派の詩人テオフィル・ゴーティエが、シャセリオーを評して言った有名な言葉があります。

もっと純粋で、もっと完璧な、もっと明確な画家はほかにいたが、テオドール・シャセリオーほど我々の心をかき乱した画家はいなかった。

シャセリオーだけが持つ、独特な絵画の作風や個性を的確に表現した名言ですね。

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5.注目の展示作品について

5-1.「カバリュス嬢の肖像」

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

今回の展覧会の一押し作品です。展覧会のチラシにも選ばれるほど、パッと目をひく華やかな作品。肖像画として、ずっと見ていても飽きない不思議な魅力に溢れた一枚で、非常に写実的に丁寧に描かれています。展覧会でも、後半の目玉作品としてどーんと設置されていますよ。

5-2.「泉のほとりで眠るニンフ」

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

絵画の名声が高まり、フランスの社交界でも人気絶頂だったシャセリオーが、当時付き合っていた高級娼婦のアリス・オジーをモデルとして描いたとされる裸婦像。ルネサンス期のティツィアーノの「ウルビーノのビーナス」を彷彿とさせる一方で、普通はあまり描かれない脇毛などを丁寧に描いた写実へのこだわりは、当時急速に台頭しつつ遭ったクールベらの写実主義の影響も受けていると言われます。

5-3.肖像画「アレクシ・ド・トクヴィル」

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

有名な古典「アメリカのデモクラシー」を書いた有名な政治思想家で、シャセリオーとは家族ぐるみのつきあいだったそうです。オーダーがあれば誰でも彼でも仕事と割り切って肖像画を描いたドラクロワらとは違い、シャセリオーが描いた肖像画は身近な親しい人に限られました。トクヴィル、見るからに頭良さそうですね~。

5-4.「アポロンとダフネ」

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

ロマン派の作風は、新古典派やそれ以前の画家たちとモチーフは同じでも、そこに、より豊かな感情表現や動きを入れたり、自分自身の思いや自我を絵画に積極的に投影させていったのが特徴です。

この「アポロンとダフネ」は、中世以降何度も沢山の先達の画家により繰り返し好んで用いられたテーマですが、シャセリオーの作品は、いかにもロマン派らしい情感豊かな構図が印象的でした。ダフネの髪が水平になびいているのが特に(笑)

5-5.「コンスタンティーヌのユダヤ人女性」

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

シャセリオーがアルジェリアへ写生旅行へ出かけた際に、現地の女性をモデルに描いた半身像。顔以外の上半身部分は、少し省略された「習作」レベルの作品ではあるのですが、西洋人とは明らかに少し異なる風貌として描かれた女性の「眼力」が非常に印象的で、しばらく見とれてしまった一枚。シャセリオーはエキゾチックな絵画を描いたと言われますが、個人的に、この展覧会でエキゾチスムを一番感じた作品でした。

5-6.「海から上がるヴェヌス」

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(引用:http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

この作品は、特にシャヴァンヌに影響を与えた1枚という文脈で展覧会では紹介されていましたが、僕自身の個人的な感想としては、シャセリオー自身の師匠へのリスペクトが良く現れた一枚だな、という印象でした。

というのも、師匠アングルの有名なこの絵画を45度回転させ、ポーズを少し変えれば、そっくりだと感じたからです。

アングル「泉」
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(引用:google arts&cultureより)

20歳で師匠アングルとイタリアで再開した時、作風の違いから師弟関係を解消したその後も、人前ではずっと「アングルの弟子」であることを誇らしげに強調していたというシャセリオーの師匠への思いが感じ取れた1枚でした。

6.まとめ

まだまだ西洋美術史の中でも知られざる巨匠や名手は沢山いるものですね。少しマニアックだけど、注目すべき画家をどんどん発掘してくれるこうした展覧会は、非常に勉強になるし、新しい発見があって楽しいです。

4月から東京で始まるランス美術館展でも、シャセリオーの絵画が2点出展されているようですし、合わせて見ておくとより楽しめそうですね。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会は、残念ながら地方への巡回は予定されていません。5月28日までたっぷり3ヶ月間開催されていますので、当面は混雑せずにゆっくり見れるとは思います。Twitterが頻繁に情報更新されているので、要チェックです!

◯展示会場・所在地
国立西洋美術館(東京・上野公園)

◯最寄り駅
JR・地下鉄・京成上野駅から上野公園内
◯開館時間・休館日

午前9時30分 〜 午後5時30分 (金曜日は午後8時) ※ 入館は閉館の30分前まで
月曜日 (ただし、3月20日、3月27日、5月1日は開館)、3月21日 (火)

◯公式HP
http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/
◯Twitter
https://twitter.com/chasseriau2017

【ネタバレ有】映画「ハルチカ」感想とあらすじ・伏線の解説!/主役2人が美しすぎる王道アイドル映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月4日に公開された映画「ハルチカ」を見てきました。先日、日本アカデミー賞新人賞を受賞した橋本環奈と、美形で知られるSexyZoneのセンター、佐藤勝利とダブル主演ということで、美形のアイドル映画に仕上がった本作。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「ハルチカ」の基本情報

<映画「ハルチカ」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】市井昌秀(「箱入り息子の恋」「僕らのごはんは明日で待ってる」)
【配給】KADOKAWA
【時間】118分
【原作】初野晴「ハルチカ」シリーズ

監督は、2013年に星野源をフィーチャーした単館系映画「箱入り息子の恋」でデビューし、若手監督として進境著しい市井昌秀。いわゆる「映画らしい」しっかりした映画を撮る監督というイメージがあったので、今作も楽しみにしていました。

すでに原作とTVアニメが先行する中、実写映画としてどう仕上げていくのかが個人的な見どころでしたが、以下、レビューで書いたとおり、見事な作品でした。

2.主要登場人物とキャスト

本作のテーマである「吹奏楽」を扱うので、必然的に大人数の高校生を扱うことになります。ただ、本作は何と言っても主役二人のためのアイドル映画でもあります。だから、脇役陣は、圧倒的に「華やかな」美形の二人を引き立てるために、基本的には1~2人の美形脇役を除いて、個性はあるけれど敢えて「普通」感のある人材を抜擢しています。(それもなんか等身大の高校生っぽくてよかった)

穂村千夏「チカ」(橋本環奈)f:id:hisatsugu79:20170306164003j:plain
チカ、ハルタのダブル主演ですが、映画での主演は、明確に橋本環奈扮するチカの方でした。ただ、見に来ている観客は圧倒的にSexyZoneの若い女性ファンが多かったわけですが・・・。

上条春太(佐藤勝利)
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今作では、原作より大人しく控えめなハルタを演じた佐藤勝利。ネットの前評判で「棒演技だ」と割りと散々に書かれていたのを散見しましたが、それほど悪くなかったように思います。もともと童顔なのか、20歳(撮影時)にはとても見えません・・・。

草壁信二郎(小出恵介)
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この人もなかなか年を取らない役者だと思います。若い時は老け顔でしたが、最近年相応か、少し若いくらいに見えることが多いです。若者の気持ちを理解できる指導者役は、小出恵介のハマリ役なんじゃないかと思います・・・。

その他、大勢出ているのですが、こちらのオーケストラを使った人物紹介図が非常によく出来ているので、事前の予習に役立つと思います。

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(引用:映画「ハルチカ」オフィシャルサイトより)

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.チカとハルタとの再会、吹奏楽部復興に向けての取り組み

その日は、穂村千夏(橋本環奈)の清水北高校への入学式の日だった。バスに乗り遅れそうになり、ギリギリバスに乗り込むと、揺れるバスの中で目の前に座っていた上条春太(佐藤勝利)に何度もぶつかってしまった。その時は気づかなかったが、チカにとって、それが小学校以来の幼馴染、ハルタとの再会の瞬間だった。

チカは、これまで全くやったことがなかったが、高校では吹奏楽部に入部することを決めていた。入学式が終わると、チカは真っ先に吹奏楽部の部室を尋ねたが、部室にいた上級生は、4月に廃部が決まった吹奏楽部に残された機材を片付けている最中だった。

諦めきれないチカは、職員室で直接校長(志賀廣太郎)に直談判してもう一度吹奏楽部を立ち上げたいと掛け合った。ちょうど、4月から新任の音楽教師として赴任してきた草壁先生(小出恵介)の口添えもあり、4月30日までに、演奏会開催に必要な最低人数として、部員を9人集めることができたら、廃部を撤回するという言質を得ることができた。

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その日から、早速勧誘活動を再開したチカ。元部員を訪ねて回り、もう一度やろうと説得したり、ビラ配りを行った。チカは、部室で草壁の持ち込んだ荷物の中に、草壁がさ作曲中の未完成のオリジナル「春の光」の譜面を見つけ、モチベーションを高めるのだった。

一人目に入部させたのはハルタだった。再度バスの中でハルタにぶつかってしまったチカは、ハルタを見て、ようやくそれが幼馴染のハルタであることに気づいたのだった。小学生の時、ひ弱でちびで根性なしだったハルタを守り、男勝りのガキ大将的な存在だったチカは、当時の関係そのままに、ハルタを有無を言わせずホルン担当として入部させたのだった。

3-2.部員集めに奮闘するハルタとチカ

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翌日から、二人で勧誘することになったが、チカは、音楽誌の特集の中で、同級生の米沢妙子が、チューバの達人であることに気づいた。彼女には病気のため入部は不可能だと断られてしまった。また、投手で肩を壊してしまい、野球を続けられなくなった傷心の2年生、宮本恭二が小学生の時にサックスをやっていたと聞きつけ、熱心に勧誘した結果、2回目の勧誘で仲間になってくれた。

宮本を入れて勧誘活動を続けていると、それを見ていた元部員の片桐誠治と野口わかばも加わってくれた。ハルタと片桐、わかばの3人で構内で演奏を聞かせる華やかな勧誘を行ったことで、トロンボーンの中津川恵が入部してくれた。これで、6人となった。

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人数も増えて、部活らしくなった吹奏楽部は、部長を片桐誠治として、パート練習を始めるなど少しずつ活動をスタートしていった。

7人目に仲間になったのは、先日声を掛けて一旦は断られた米沢妙子だった。妙子は、練習しすぎて唇が荒れて「タラコ」と呼ばれてしまうのが嫌で、吹奏楽部を離れたのだという。全員でタラコ唇のような化粧をして説得に来たチカたちを見て、思わず苦笑いして入部することを承諾してくれたのだった。

8人目のターゲットは、パーカッション担当で、元部長の檜山界雄だった。コンクールの直前、彼が突然登校拒否になり、部活にも来なくなったことで、コンクールの結果も芳しくなく、吹奏楽部がまとまりを失っていくきっかけになったのだという。

檜山は、一方で実家でインターネットラジオのDJを続けていた。「はごろも通信」という番組で、チカもずっと聴いていた番組だった。ハルタとチカは復帰させようとしたが、片桐は最初難色を示した。

また、7人で練習中に、突然部室にクラリネットの音が聞こえてきたので、それを辿ってみると、音楽家の家に育ち、自身もプロの奏者を目指している芹沢直子だとわかった。さっそく勧誘してみるも、「一人でプロを目指す」と全く相手にされなかった。

その晩、いつも行っている「清水マリンパーク」でチカとハルタは檜山の「はごろも通信」を聴いた。彼のラジオ音声では、いつもゲストに老人が多数参加しているのだった。

その後、廃部決定まであと3日と迫った日。芹沢直子の様子を探ってみると、突然廊下側の関への席替えを先生に直訴したという。ハルタとチカは、芹沢直子が現在難聴で悩んでいて、補聴器をなくしてしまったのではないかと推理した。直子の補聴器を探し出すことで、勧誘にOKを貰えるかもしれないと考えた二人は、夜中の校舎に二人で忍び込んだ。すると、直子も校舎に来ていたのだった。3人で捜索しても全く見つからなかったが、それもそのはずで、チカが踏みつけてしまっていたのだった。

これで、直子がすぐに吹奏楽部に入ることはできなくなったが、これをきっかけに3人は仲良くなったのだった。

そして、ハルタ、チカ、部員達は、とうとう檜山界雄の実家まで押し掛けて直接勧誘に乗り出した。熱心に語りかけ、家の外で演奏した結果、彼も気が変わり、入部してくれることになった。

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最後の一人は、芹沢直子が紹介してくれた。いつも図書室で寝てばかりいる元部員、手塚耕太を芹沢が勧誘して、これでぴったり9人。9人揃ったのは、ギリギリ4月30日の午後のことだった。

そして、顧問はもちろん草壁先生となった。更に部員も増えて、20人になった吹奏楽部。部活の中で、積極的に体力づくりや息を合わせるためのワークなど様々な練習をこなしていった。

3-3.吹奏楽コンクールに向けた試練

初夏、草壁は部員たちの前で、夏に実施される静岡県のコンクールに出場することを全員に宣言した。夏には、草壁の書いたオリジナル曲「春の光、夏の風」が完成したのだ。

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何人か技量に劣る部員が目立つ中、フルート担当のチカがどうしてもボトルネックになり、何度演奏を合わせてもフルートの独奏部分で詰まってしまうのだった。他の部員からのパート交換や譜面書き直しなども提案があったが、草壁は頑として初心者のチカには厳しい、難度の高いソロパートを変更しようとしなかった。そして、ある日チカの不出来により全体練習が中断した際に、部員同士の仲間割れも発生してしまう。

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さらに、ハルタも勉強と部活の両立で、過労のため倒れてしまった。責任を感じ、練習に出てこれなくなったチカ。部活に顔を出さず、気づいたらいつもの「清水マリンパーク」で一人たそがれていた。そこへ、復帰したハルタが勇気づけに来た。ハルタは幼い時も今もチカは自分のヒーローだ、と話し、チカを優しく抱き寄せるのだった。

これで吹っ切れたチカは、次の日一人朝練に向かうと、そこには仲間全員が待っていた。昼休みには芹沢直子からもアドバイスを受けて更に練習を重ねていった。そして、その日の全体練習で初めてソロパートを失敗せずに演奏することができたのだった。

コンクールの前日、最後の全体練習後、草壁が帰った後、機材の後片付けをしていたチカは、草壁の使っている棚からひとりひとりの各パートへのアドバイスがびっしりと書かれた譜面を見つけ出した。草壁の熱意に思わず涙するチカ。吹奏楽部の仲間全員で譜面を食い入るように読むのだった。

そして、迎えたコンクール本番。校長や芹沢直子など関係者も見守る中、清水北高校の演奏が始まった。演奏は、もちろん「吹奏楽のための狂詩曲第1番「春の光、夏の風邪」だった。順調に演奏を重ねていったが、チカは問題のソロパートで、大失敗してしまった。

3-4.感動のサプライズ演奏

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コンクールが終わり、吹奏楽部はいつもの練習シーンに戻ったが、失敗したチカは、部室から足が遠のいていた。翌日、チカは通学中、ハルタと一緒のバスに乗り合わせたチカ。バツが悪そうにしていると、なぜかハルタはチカに席をゆずり、バスが揺れた際にチカにわざとぶつかってきた。

それから少し経ったある日の英語の授業中。突然外からホルンの音が聞こえてきたので、チカがハッとして廊下へ出ていくと、反対側の校舎の屋上でハルタがホルンを演奏していた。コンクールで演奏した「春の光、夏の風」だった。

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しばらく見ていると、校舎のいろいろな所から吹奏楽部の各パートが聞こえてきた。演奏が進むにつれて、吹奏楽部のメンバーは、校舎の中庭へと集まって来た。校長を始め教師は止めようとしたが、吹奏楽部のメンバーは演奏をやめようとしなかった。

チカを元気づけようと、吹奏楽部全員が企画したサプライズ演奏に勇気づけられ、ロッカーからフルートを取り出し、校舎の渡り廊下で演奏を始めた。いつのまにか、草壁も校舎の屋上で指揮棒を振っていた。そして、フルートの独奏パートへとやってきた。そして、やはり本番同様失敗してしまう。

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すると、ハルタがもう一度その直前のホルン独奏部分から曲をスタートさせるのだった。もう一度フルートの独奏パートにさしかかり、またもチカは失敗してしまう。すると、3度目のリスタートがかかった。今度は、見事演奏に大成功するのだった。

そして、校舎の中庭は教室から出てきた学生たちでお祭り状態になった。誰もがチカの大成功を祝ってくれているかのようだった。演奏が終わると、草壁は満足そうにうなづき、チカとハルタは互いに見つめ合うのだった。

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4.感想や評価、解説(※ネタバレ有注意)

アイドル映画の王道が押さえられた作品

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映画を見ていてまず感じたのは、主役の二人が凄く美しいこと。橋本環奈を映画で見るのは、「セーラー服と機関銃ー卒業ー」に次いで2回目でしたが、相変わらず黒髪ストレートで抜群の可愛さでした。一方、これが映画初主演となるハルタ役の佐藤勝利も、ホルンを演奏する姿が凛々しすぎて惚れ惚れしました。Sexy Zoneのセンターとして、たまに歌番組で見かけるたびに、イケメンやなぁーと思っていましたが、人形のように上品に整った顔立ちは橋本環奈以上にハイレベルですね・・・。

吹奏楽部でも、上白石萌歌や平岡拓真など、次世代の主演級を目指すそれなりの人たちが配されているのですが、主役の二人と比べると(敢えて際立つように地味に振る舞っているのもあって)全く「華」が違いました。

このあたりは監督もよーくわかっているようで、映画中は要所要所で二人のアップが映され、クライマックスで交互にアップの顔で終わったのは象徴的でした。いいものを見せてもらいました。。。

市井作品でよく走らされる主人公たち

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青春映画において、若者が走り出すシーンはアニメ・実写を問わずもはや「様式美」の世界ではありますが、市井監督の作品では、この「若者走り出し率」が100%なんですよね(笑)

パンフでも指摘がありましたが、2013年のデビュー作「箱入り息子の恋」では、奥手でコミュ障だった星野源演じる主人公が、ラストシーンで必死な顔して走りますし、2017年「僕らのごはんは明日で待ってる」でも、HeySayJUMPの中島くんが、カーネル・サンダース像を持ってヒロインの待つ病室へ走っていきます。(もちろん原作にそんなシーンはない/笑)

今回も、映画の冒頭すぐに、入学式への希望を胸に橋本環奈が走り出したので、思わずニヤッとしてしまいました。さらに、冒頭のシーンと呼応するかのように、クライマックス直前の挫折シーンでは泣きながら海へと走っていく場面も良かったです。

沈黙のシーンも要チェック

また、今作はセリフ回しを控えめに抑え、いろいろな場面で「沈黙」するシーンを効果的に使っていました。

夜の校舎で、回りから聞こえてくる音に耳をすませる場面や、チカのソロパートが上手く行かず、残されたメンバー全員が重苦しく黙りこくる「沈黙」、コンサートで出番を待つまでの緊張のあまり「沈黙」する場面、演奏がスタートする直前、草壁が万感の思いを込めてタクトを振り下ろす前の「沈黙」etc。。。

言葉にならない思いが沈黙の中に溢れ出しているようでした。なんでもかんでもセリフの中に埋め込んでしまわずに、効果的にその場面での人物たちの心情を投影した素晴らしい映像表現だったと思います。

小出恵介扮する草壁先生の存在感も良かった

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今作品では、主演2人と仲間たち以外では、極端に「大人」の関与が低く、主人公たちの世界だけにフォーカスして作られています。若者の青春映画や恋愛映画では、大抵両親が出てきて主人公の恋愛を邪魔したり、時に良き理解者としてサポートしたりしますが、本作では一切「親との交流」が描かれません。

その代わり、顧問の草壁先生が、時には彼らに試練を与えたり、時には見守る存在であったり と一手に「大人」役を引き受けており、この脚本が素晴らしかったです。

指導中、多くは必要以上語らず、部活の運営は生徒の自主性に任せつつも、決して放任するのではなく、生徒一人ひとりの才能を見抜いて的確な指導をする。なかなかできることじゃないと思います。

草壁は、吹奏楽部を立て直したチカを、部の活性化のキーマンと見立てて、フルートを高校時代ゼロから始めた彼女に難易度の高いソロパートを与えました。この「春の光、夏の風」は、チカが入部した春の段階では完成していなかったので、明らかに意図的な措置です。できないとわかっていて、敢えて難しいパートを用意したのでしょう。

そして実際の練習場面でも、草壁は、吹けていない「事実」だけを全員の前でチカに伝え、あえて練習場を後にして、メンバーに時間を与え、自分たちだけで考えさせる時間を作ります。言葉として「全員で団結しろ!」と上意下達で押し付けるのではなく、自然なかたちで「全員で支え合って試練を乗り越える」大切さを悟らせる指導法を確立していました。

この草壁の思いが全員に伝わり、そしてラストシーンでのハルタの機転から最後の大団円へとつながっていきました。この映画で表現されている、『自主性を重んじ、全員の団結や奮起を促す指導スタイル』は、映画を見た指導者たちにも、重要なヒントになったかもしれません。

また、配役も見事でした。2009年、初主演となった映画「風が強く吹いている」での駅伝部のプレイングマネージャー役を演じた時も強く思いましたが、後輩や生徒を暖かく、時には厳しく指導する演技は小出恵介のハマり役だと思います。インテリ風音楽教師らしく丁寧な言葉づかいの中にも、指導者としてのあたたかさや厳しさを的確に表現できていました。

ミュージカル仕立てのラストシーンは素晴らしい!

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色々ポイントはありましたが、一番はやっぱりあのラストシーンでしょうね。結婚式のフラッシュモブのように、校舎全体をいっぱいいっぱい使って大掛かりなサプライズを演出し、沢山の観衆が見ている前でチカが失敗したコンサートのリベンジを果たすシーンは、まさに映画的な高揚感につつまれて、本当に印象的な場面になりました。

これぞ青春!といった若さとエネルギーが爆発したようなお祭り騒ぎの中、互いに試練を乗り越えて成長したチカとハルタがアップで見つめ合うシーンでスーッと終わっていく潔いラストシーンも良かったです。

スイーツ映画にありがちな、エンドロールでエピローグ的な写真(静止画像)がアルバムのように流れる演出もなく、心地よい余韻を残して終わってくれました。

前半の部員集めがやや御都合主義的だったり、何人か棒演技な俳優もいましたが、終わりよければ全て良し。YahooやFilmarksなどの感想を見ても、最後のシーンで文句をつけているレビュワーはほとんどいませんでしたね。

5.原作小説・アニメとの関係は?

本作の大元の原作は、2008年からスタートした初野晴の原作小説「ハルチカ」がベースとなっています。原作は、第1作「退出ゲーム」からスタートして、最新作「惑星カロン」と外伝を含むと、シリーズ化された人気作品となっています。

これまで、この原作小説をベースに、コミカライズ、TVアニメ(1クール12話)が先行して製作されました。実写映画版「ハルチカ」は、いわばメディアミックスの集大成として最後に製作されたわけですが、結論としては、原作小説とは全く違うジャンルの作品に仕上がっています。もはや原作というより「原案」レベル程度の大改変が施されたオリジナル映画だと言ってもいいかもしれません。(というより、この段階で全く原作やアニメとシナリオが同じだったら実写で作る意味もないかも)

この改変については、原作者、初野晴も望んでのことだったようで、映画パンフレットには、

[・・・]市井監督との初顔合わせのとき、「ハルタとチカと草壁先生が出ていれば何をやってもいいです。その代わり、原作者と原作のファンに映画の尺に合った完全新作を観せてください」とお願いしました。

改変ポイントとしては、大まかにみて以下の2点に集約されます。

改変ポイント1:物語のジャンルが大きく変わっている

原作は、「高校生」「吹奏楽部」をテーマとした学校生活を舞台として、オムニバス形式で描いた日常系の推理小説です。高校1年生の秋から物語がスタートし、ハルタがいわば「探偵」役、チカが「アシスタント」役として、彼らの日常生活で起こる事件を推理して解決していくのです。

これに対して、映画版では、前半部分の「仲間集め」の場面でこそ推理要素が多めに残っていましたが、あくまでハルタとチカを中心とした吹奏楽部での活動に焦点を当てた青春モノとして仕上がっていました。

改変ポイント2:恋愛要素の有無

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原作者も明言しているそうですが、原作小説では、推理小説としての自由度を高めるため、青春につきものである「恋愛」要素は敢えて排除されていました。しかも、恋愛モノにしないために、敢えて上条春太を「ゲイ」設定にして、ハルタとチカで顧問の草壁先生を取り合う展開となっているのです。

映画では、予告動画でもしっかり「恋じゃない。けどー友達より、特別」ってナレーションが入るとおり、高校で再会した元幼馴染の二人は、部活での切磋琢磨を通じて、恋愛関係一歩手前の関係にまで発展していきます。少なくとも、ハルタが男性を追いかけるシーンや、ハルタとチカが草壁先生を取り合うシーンはありませんでした(笑)

もっとも、映画製作が決定した当初、主演が佐藤勝利(Sexy Zone)になると聞いて、こりゃハルタは「ノンケ」決定だな?!ってなんとなく思ってはいましたが・・・

アニメシリーズとの関係は?

アニメシリーズでも、基本は「推理モノ」ですが、原作よりは「青春モノ」ジャンルとなっていて、吹奏楽部としての活動も特に最終回を中心として後半でしっかり描かれました。(その分ハルタの「ゲイ」要素は弱まっている)

原作のストーリーを抽出してまとめられていますが、アニメ独自のオリジナル回も何回かありました。

小説・アニメも含めた時系列でのまとめ

小説、アニメも含めて作品世界を見てみると、今作は、小説シリーズの始まる「前日譚」という位置づけなのですよね。そもそも高校名も「清水北高校」(映画)/「清水南高校」(小説・アニメ)と違うので、パラレルワールド的な位置づけで見ておけば良いと思いますが、時系列的には整合性が取れています。整理してみると、こんな感じでしょうか。

◯高校1年生春~高校1年生夏
映画「ハルチカ」

◯高校1年生秋~高校1年生冬
小説第1巻「退出ゲーム

◯高校2年生春~高校2年生夏
小説第2巻「初恋ソムリエ

◯高校2年生夏
小説第3巻「空想オルガン

◯高校2年生秋(文化祭)
小説第4巻「千年ジュリエット

◯高校2年生秋~
小説第5巻「惑星カロン」 

6.まとめ

主人公たちの淡い恋愛と成長、仲間たちとの絆など、青春映画での王道のテーマを扱いつつも、決してストレートにわかりやすいハッピーエンドが用意されているわけではなく、ひとひねりしつつようやく最後に前向きな結末が待っている作品でした。

若い人向けの映画ではありますが、すでに青春時代が終わった(僕を含め・・)人にもノスタルジックにもなれるし、意外な気づきも得られる良い映画でした。

主演の二人も文句なく美しいですし、おすすめできる作品です。

それではまた。
かるび 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年3月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

小説版「ハルチカ」シリーズ

原作の一番の魅力は、学園の日常生活の中で起こるちょっとした出来事や事件に対して、ハルタとチカのコンビがテンポよく重ねていく推理です。先生との三角関係は斬新な設定でした(笑)一気読みするなら、AmazonではKindle4冊合本版が安くておすすめです。

コミカライズ「ハルチカ」シリーズ

こちらは、現在2巻まで出版されているコミカライズ版。こちらは原作とは若干時系列が代わり、エピソードは原作から拾い上げ、時系列は高1の春、部員集めからスタートしていきます。マンガ版では、ハルタは弁が立ち、チカを積極的にリードしていきますし、草壁先生をチカと取り合います(笑)。絵柄もかわいくて魅力的!

映画「ハルチカ」オリジナルサウンドトラック

映画中で演奏されたオリジナル吹奏楽曲「春の光、夏の風」のフルバージョンを収録。演奏曲が気に入った人は是非!ちなみに、「春の光」=春太、「夏の風」=千夏と、主人公の名前も楽曲名に掛かっているんですよね。フルートのソロパート、難しそうでした。

映画「セーラー服と機関銃」

橋本環奈が初主演した映画「セーラー服と機関銃-卒業-」は、薬師丸ひろ子の映画オリジナル、原田知世や長澤まさみのTV版など、歴代のアイドル系女優がキャリアの登竜門的に演じてきた作品。

脚本は正直???な出来でしたが、橋本環奈の可愛さと意外なほどの演技力が評判を呼んだ一作。この作品で、日本アカデミー賞新人賞もゲットしました。「ハルチカ」を見てもう少し興味が出たら、是非チェックしてみてください。今なら、AmazonPrime会員は無料で見れるようになっています!

【ネタバレ有】映画「アサシンクリード」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/パルクールの格闘アクションは見ごたえ十分!

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【2017年3月7日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

3月3日に公開された映画「アサシン クリード」を見てきました。1億2500万ドルという巨額をかけて製作されたゲーム実写化映画でしたが、早速、見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「アサシン クリード」の基本情報

<映画「アサシン クリード」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ジャスティン・カーゼル(「マクベス」「スノータウン」)
【配給】20世紀フォックス
【時間】116分

Xbox、PS4などで、既に10作以上リリースされている人気の歴史サスペンス・アクションゲームシリーズの映画化作品。バイオハザードシリーズ同様、今後シリーズ化前提で製作された第1作目となります。

なお、ジャスティン・カーゼル監督は、前作「マクベス」に続き、主演マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤールとのタッグを組んでいます。

2.映画「アサシンクリード」主要登場人物とキャスト 

カラム・リンチ/アギラール(マイケル・ファスベンダー)f:id:hisatsugu79:20170304111457j:plain
物語の主人公。死刑囚として死刑執行される際、アブスターゴ財団の実験棟に秘密裏に移送され、ソフィア・リッキンの「エデンの果実」探しに協力をさせられる。前作「マクベス」での情熱的な演技に比較して、今作では終始若干醒めた感じの抑え気味の演技でした。

ソフィア・リッキン(マリオン・コティヤール)f:id:hisatsugu79:20170304111547j:plain
ヒロイン役。アブスターゴ財団のCEO、父、アラン・リッキンの下、天才的科学者として人類の暴力を根絶する方法を研究するため、カラムを刑務所から連行する。一見優しく思いやりがあるように感じられるが、「人類の暴虐性を抑えるため、人類の自由意志を制限しなければならない」というトンデモ思想を持っている。現在公開中の映画「マリアンヌ」での情熱的な演技に比較して、かなり抑えめの淡々とした演技は、マイケル・ファスベンダー同様でした。

アラン・リッキン(ジェレミー・アイアンズ)f:id:hisatsugu79:20170304111604j:plain
表の顔はアブスターゴ財団のCEO、裏の本当の顔はテンプル騎士団の幹部クラス。国連で世界平和を訴えるスピーチをしてプロパガンダに勤しむ一方、エデンの果実を使ってアサシン教団を滅ぼし、人類をコントロールしようとしている、いわゆる「巨悪」。

ジョセフ(ブレンダン・グリーソン)f:id:hisatsugu79:20170304111426j:plain
カラムの父親。迫り来るテンプル騎士団の追っ手から妻の持つ秘密を守るため、妻を殺して子、カラムを逃がす。自分自身はアブスターゴ財団へ連行され、「アニムス」で精神崩壊へと追い込まれた。

ムサ(マイケル・K・ウイリアムズ)f:id:hisatsugu79:20170304111337j:plain
カラムがアギラールとアニムスなしでも100%シンクロするようになった時、施設内で反乱を起こしてカラムとともに脱出し、以後行動をともにするアサシンの末裔。「アニムス」被験者として施設内で暮らしている。

マリア(アリアンヌ・ラベッド)f:id:hisatsugu79:20170304111312j:plain
1491年のスペインで、アギラールとともに「エデンの果実」奪還作戦を遂行した。最後にオヘダに捕まり、秘密を守るために恋人、アギラールの前で自決する。

エレン・ケイ(シャーロット・ランブリング)f:id:hisatsugu79:20170304111919j:plain
テンプル騎士団の最高幹部。物語前半で、財政上の困難を根拠に、「アニムス」の計画中止をアラン・リッキンに非常にも通告する。

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3.映画「アサシン・クリード」結末までのあらすじ(※ネタバレ)

3-1.カラム・リンチ、アブスターゴ財団へと拉致される

1491年、アギラール・デ・ネルハ(マイケル・ファスベンダー)は、殺された両親が所属したアサシン教団で、同僚以上恋人未満であるマリア(アリアンヌ・ラベッド)の徹底した訓練を経て、初のミッションに挑もうとしていた。

グラナダまで迫っていた、トマス・デ・トルケマダ率いるテンプル騎士団が、イスラム最後の王朝を滅ぼし、イスラム王朝の王が所持していた「エデンの果実」を奪取しようとしていたのだ。これを阻止するのが、アギラールに与えられた使命となった。

一方、1988年。カラム・リンチ(マイケル・ファスベンダー)がいつものように自宅に戻ると、父親が、母親を殺害した現場を目撃する。遠くから近づいてくるテンプル騎士団の車列から逃れつつ、父に促され、突然家を去ることになった。

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それから約30年経った2016年。カラムは殺人罪で誕生日に死刑執行されるところだった。死刑台に座り、薬物を注入されて死亡したはずだったが、目が覚めたら実験室のようなところにいた。目が覚めた時横にいた女性はソフィア・リッキン(マリオン・コティヤール)で、アブスターゴ財団のスペイン支社で最新のヴァーチャル・リアリティ装置「アニムス」の研究開発に携わっていた。混乱したカラムは、実験棟を歩き回り、自分が今アメリカにいないことを悟った。

カラムは、ソフィアから、【法的には死亡した状態で】アブスターゴ財団へ連行されたこと、理想の人類を追求するため、新たな方法で暴力を根絶するための手がかり、「エデンの果実」のありかを探るためのヴァーチャル・リアリティ実験への協力依頼を受けた。

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カラムはVR装置「アニムス」の実験室へと連行され、そこで「エデンの果実」のありかを知るキーマンである500年前の祖先、アギラール・デ・ネルハの人生を追体験することになった。彼は、アギラールの世界へと入っていった。

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1491年。スペインのグラナダ包囲戦で、導師のベネディクト、同僚のマリアと共にテンプル騎士団からイスラム王朝のグラナダの王子を奪還する作戦に携わっていた。アギラールは首尾よくラミレス将軍を倒すことができたが、王子を擁するオヘダという屈強な黒騎士に近づくことができず、激しい戦闘が続いた。

王子を拉致して逃げるテンプル騎士団の馬車を奪い取り、王子の奪還に一旦は成功したアギラールだったが、結局テンプル騎士団に追い詰められ、マリア、ベネディクト導師と共に捕らえられてしまった。

そこで、一旦シンクロが乱れ、カラムの精神が限界に達したため1度目の遡行体験は終了した。

3-2.「エデンの果実」の秘密と、アブスターゴ社の計画

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実験を終え、カラムに休息を与えると、ソフィアは実験棟に来ていた父、アラン・リッキンと合流した。アランの表の顔は、巨大企業、アブスターゴ・インダストリーズのCEOであり、G7で平和に向けてのスピーチをする程の実力者だった。しかし、彼には秘密結社テンプル騎士団の最高幹部としての裏の顔もあった。彼の推進する「アブスターゴ計画」では、「エデンの果実」からDNAの遺伝暗号を取り出し、人々の自由意志を操り、長年テンプル騎士団と対立してきたアサシン教団を滅ぼし、彼らがコントロールする世界を作り出そうとしていた。

彼が急遽イギリスからスペインの「アニムス」実験所に飛んできたのは、遅々として進まない「アブスターゴ計画」を中止するとテンプル騎士団の最高幹部から通告されたからだった。社運を掛けたプロジェクトをやめるわけにいかず、彼自身が娘に代わり、陣頭指揮を取るつもりだった。

一方、1度目の遡行を終え、自室で目覚めたカラムは混乱していた。目の前に追体験したアギラールの幻影が見える「流入現象」に悩まされていた。これが行き過ぎると「神経分離」を起こし、廃人同様になってしまうという。

ソフィアは、強制ではなく、カラムにどうしても「自発的に」実験に協力して欲しいと願い、自分の研究室にカラムを案内し、「エデンの果実」の秘密やカラムの両親、アサシン教団の秘密などを語り聞かせた。

カラムはその後、大部屋で同じく被験者となっているアサシン教団の末裔、ムサやリンたちと挨拶をすませ、食事を摂ったが、一口食べたところでふたたび流入現象に襲われ、苦しんだ。部屋に戻ってもアギラールの幻影は続いたが、アラン・リッキンは実験を急いだ。カラムは無理やり「アニムス」へ連行され、2回目の遡行が始まるのだった。

1491年へ遡行すると、導師のベネディクト、マリアとともにアギラールははりつけにされており、異端審問官トマス・デ・トルケマダによる異端審問が始まるところだった。導師ベネディクトが火あぶりで苦しんで死亡する間に、足枷と手枷を解いたアギラールは、マリアを解放し、混乱のさなか逃げ出すことに成功した。

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テンプル騎士団の追っ手を撒くため、グラナダの街の屋根づたいに敵を倒しながら必死で走って逃げたが、最終的には尖塔のてっぺんに追い詰められてしまう二人。しかし、彼らは臆することなく、鷹のように手を広げ、空中へとダイブして逃げ去った。

そこで、第2回目の遡行は打ち切られた。アニムスとのシンクロがずれ、またもカラムの精神負荷が限界を超えたためだった。

3-3.父との再開後、自らの遺志でアニムスへ向かうカラム

しかし、次の実験を急ぐアラン・リッキンは、娘の制止を振り切り、カラムを焚きつけようと直接カラムに交渉し、さらに、彼の父を軟禁している、「神経分離」により正気を失った被験者達を収容する「インフィニティ・ルーム」へカラムを案内した。

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ずっと父を殺したいと思っていたカラムだったが、ジョセフが母を殺害したのは苦渋の選択だったことを完全に理解した。時間遡行を矯正され、精神崩壊した父を見て、カラムは、何が遭ったのか真実を知るため、初めて自発的に「アニムス」に入ることを決意した。

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そして、3度目の遡行が始まった。トルケマダは、誘拐したグラナダの王子と引き換えに、グラナダの王が持っていた「エデンの果実」を手に入れようとしていた。それを天井裏から見ていたアギラールとマリアは、次の瞬間、天井裏から降りて彼らを襲撃した。トルケマダを殺害し、「エデンの果実」を奪取したアギラールだったが、マリアが黒騎士オヘダに捕まってしまう。アギラールは躊躇したが、マリアは短刀を持つオヘダの腕を自らの首に強く押し当て、自害した。アギラールはオヘダとの激しい戦闘の末、オヘダも殺害した。

その時、激しい動きに「アニムス」のカラムを支えるアームが千切れて壊れてしまったが、完全にアギラールとシンクロしていたカラムは、そのまま遡行を続行した。カラムの元に、次々に歴代のアサシン達のホログラムが現れるという、不可解な現象が出現し、ソフィアは驚いた。一瞬だが、そこになぜかソフィア女自身の顔が見えた。

やがて、アギラールがクリストファー・コロンブスに「エデンの果実」を託し、コロンブスが「墓まで持っていく」と会話するシーンがホログラムに映し出された。ソフィアとアランは、「エデンの果実」が現在のコロンブスの墓所である「セヴィリア大聖堂」にあることを突き止めた。

3-4.アサシン達の復活とエデンの果実の奪還

同じ頃、ムサたちは、内部で反乱を起こしていた。守衛たちを突破し、カラムの元へ集結するアサシンの末裔たち。しかし、すでに「エデンの果実」の有りかを突き止めたアランには、施設の維持は不要だった。アランとソフィアは混乱する施設を捨て、ヘリで脱出し、セヴィリア大聖堂で念願の「エデンの果実」を手に入れた。

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後日、ロンドンで開催されたテンプル騎士団の会合で、アラン・リッキンは「エデンの果実」を手に入れた成果の報告スピーチを行っていたが、スピーチ中にカラムが潜入してきた。カラムは、舞台袖に控えていたソフィアを仲間に引き入れようとしたが、ソフイアは父への愛情とカラムへ惹かれる気持ちに引き裂かれ、身動きができなかった。

そして、カラムはアラン・リッキンを暗殺し、スピーチ会場は大混乱に陥った。カラムと仲間のアサシン達は、「エデンの果実」を奪取し、大衆に紛れて会場を脱出した。ソフィアは、父の後を継ぎ、アサシン教団への復讐を心に誓うのだった。

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4.映画「アサシン クリード」感想や評価(※ネタバレ)

4-1.ゲームを再現したパルクールでのアクションシーンは良かった!

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歴代のゲーム「アサシンクリード」シリーズでの特徴だった、忍者のような屋根伝いでのスリリングな格闘バトルシーンや、そのハイライトとして、高い尖塔から手を広げて一気に下に飛び降りる「イーグルダイブ」など、歴代ゲームシリーズをしっかり実写で再現したアクションシーンは、世界観の再現度も高く非常に良かったと思います。

こうした激しいアクションシーンのほぼ全てが、CGに頼らずにスタントマンが実際に演じた「こだわり」は素晴らしかったです。特にイーグルダイブを決める場面は、パルクールの第一人者、ダミアン・ウォルターズが、スタントマンとして自ら志願して37メートルの高さからジャンプするシーンを撮ったのだとか。。。

4-2.できるだけ史実上のキャラをストーリーに登場させる設定は好感

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過去に遡行した主人公が、その時代の実際の歴史で活躍した実在の人物と関係を持ちながらストーリーが進んでいくのも、歴代のアサシンクリードのゲームシリーズのコンセプトに忠実に沿っています。今回も、15世紀末ルネサンス期のスペインで、カトリック勢力を後ろ盾にしたスペイン王国によるレコンキスタ(国土回復運動)と、スペイン異端審問を絡めて、グラナダへとイスラム系のナスル王朝を追い詰めた所から物語がスタートしていました。

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ちょうど広場で異端審問官、トマス・デ・トルケマダ(歴史上の人物)がアサシン教団メンバーを火あぶりにした「異端審問」のシーンは迫真のシーンでしたし、その後ナスル朝の最後のムハンマド11世が異端審問官に追い詰められてエデンの果実を渡してしまうシーンなどは、まさに「王国の滅亡」のワンシーンを描いているようで良かったです。(なぜ片田舎で滅亡寸前のイスラム王朝が「エデンの果実」を持っているのかというツッコミはあるものの・・・)

4-3.ゲームをやっていない人には導入部分がちょっとつらかったのでは?

アクションシーンや時代考証に基づいた詳細な歴史描写が素晴らしかった反面、ストーリーのわかりにくさが少し気になりました。僕自身は、映画に行く前にノベライズ版を先に読み、ゲームの実況動画などを見てから映画に臨んだため、何とか入っていけましたが、あの冒頭のスター・ウォーズの字幕みたいな説明一つだけで、ゲームを知らない初見の映画ファンを引き込むにはムリがあったのではないでしょうか?

少なくとも、映画冒頭にて、

・アサシン教団とテンプル騎士団がなぜ何世紀もの間、対立しているのか
・そもそもこうした秘密結社はなぜ結成されているのか
・アサシン教団のとテンプル騎士団の違いは何なのか

このあたりをしっかり説明してくれないと、ついていけないような気がします。

実は、映画予告編の一つに、本編からカットされたと思われる、秘密結社やアサシン教団、テンプル騎士団についての背景説明を行うシーンが収められています。これを見ると少し背景が理解できると思います。(画像をクリックしてスタート)

4-4.人物像の掘り下げは全体的にかなり弱め

アクションシーンは全般的に秀逸な反面、各キャラクターの描き込みが弱く、しばしば物語への没入しづらい場面がありました。確かに、カラムの現代とアギラールの15世紀を行き来する忙しい展開にはなるのですが、もうちょっとやりようがあったはず。

例えば、主人公カラム・リンチは幼少期に実父が実母を殺すシーンを見てから家を出て、その30年後、いきなり死刑囚として死刑執行されるシーンへ飛んでいきます。そこで、カラムが重大な殺人を犯した、と一応説明があるのですが、なぜカラムが凶悪殺人犯になったのか、30年間のブランクで何があったのか全く説明がなく、いきなり次の瞬間にアブスターゴ財団の実験棟へと連れてこられます。(途中、マリアとの会話の中で、「ポン引きを殺した」と一言語られるのみ)

さらに、現実世界での施設にとらわれている他のアサシン教団の末裔たちの人物像の描かれ方が雑すぎて、誰が誰なのかもちゃんと描かれません。カラムとほとんど交流もないのに、ラストシーンでカラムと同調して反乱を起こし、普通に行動を共にしているのも不可解です。

総じてストーリーだけが勝手に進んでいき、なぜそのシーンでその行動が取られるのか、各キャラの心情の動きや行動の動機が弱すぎるのが気になりました。(皮肉にも、公式ノベライズの出来が非常に良く、納得の行く説明が全部描かれています。先に予習をするか、あとで復習として答え合わせ代わりに読むと非常に良く理解できる)

4-5.コロンブスにエデンの果実を託すシーンで置いて行かれた・・・

驚いたのは、「エデンの果実」の行く末にクリストファー・コロンブスが絡んでいたこと(笑)えっ、まさかそう来たか?と・・・。

1492年といえば、スペインの歴史上、グラナダでイスラム王朝を滅ぼしたスペイン王朝に財政的に余裕ができたため、コロンブスを第1回航海に派遣した年です。だからといって、異端審問官から奪い返した大事な大事なエデンの果実を、アギラールが初対面のコロンブスにパッと託しちゃうのはどうなんでしょうか????

歴史上、テンプル騎士団の残党とコロンブスは新大陸発見を争っていたようなので、アサシン教団と利害関係は一致していたとは考えられますが、普通に考えたら、エデンの果実はアサシン教団内で厳重確保すべきなのでは??

アニムスに映し出されるアギラールの「船」のイメージを見て、ソフィアが「コロンブスだ!」と疑わず、その後研究所を脱出してコロンブスの墓に直行するシーンでは少しあっけにとられました(笑)「ダ・ヴィンチコード」シリーズのような謎解き要素を加えようと頑張ったのだろうと思いますが、これはやり過ぎなんじゃないかと感じました・・・

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ)

5-1.映画タイトル「アサシン クリード」の意味とは?

映画の原題は、「Assassin's Creed」です。Assassinは、「暗殺者」という意味で、Creedは「信条、教義」と訳すことができます。つまり、「暗殺者の教義」という意味ですね。パンフレットにも明記されていますが、アギラールらが所属する暗殺教団には、その教義=掟としてこんなものがありました。

・罪なき者に刃を向けるなかれ。
・身をさらすなかれ。
・決して仲間を裏切るなかれ。

さらに、映画冒頭でアギラールが出陣する前に、教義を詠唱するシーンもありますが、どちらかというと宗教というより、特定の思想下で活動する正義の秘密結社のような集団だと捕らえておけば良いと思います。

5-2.アギラールはなぜアサシン教団に入団したの?

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アギラールの両親もアサシンでしたが、テンプル騎士団のトルケマダ(劇中で白いローブを着た異端審問官)と、黒騎士オヘダによって火あぶりの刑で殺されました。アギラールは、教団に殉じて亡くなった両親の遺志を継いで、1491年のグラナダ包囲戦の直前にアサシン教団に入団したのでした。

アサシン教団は、当初アギラールの入団を断りましたが、単なる両親を殺された復讐以上の大義を彼の入団動機に見い出したため入団を許し、マリアに戦闘技術を仕込ませて、短期間で一流のアサシンへと成長させました。ちなみに、この教育課程でマリアとアギラールは同僚以上恋人未満のいい関係になっていきます。このあたりの経緯は断片的にセリフから拾える他、ノベライズ版で詳しく描かれます。

5-3.カラムはなぜ死刑になったのか?

幼少時、家を出てから、30年後の次のシーンでは、カラムは死刑囚として収容所の中にいましたが、映画では、ソフィアとの会話の中で、ただ一言「ポン引き」を殺したとしか説明がありません。(雑すぎ・・・)

ノベライズ版では、映画では省略されたカラムの過去30年の所業が断片的に描かれています。それによると、

・家を出てから暴力・けんか・犯罪三昧だった
・10代の時、店で窃盗したゲームソフトを子供達に売りさばいていた
・殺人で捕まる直前は、アトランタの路上でひったくり泥棒をしていたが、いつも手がかりを残さず、捕まったことはなかった
・出入りしていたバーで娼婦の少女達に暴力を振るうポン引きに義憤を感じ、ポン引きを殺してしまった

これらノベライズに散りばめられたエピソードから、暗殺教団で活躍するための素養「暴力性」「知性」「大義に生きる心」を持ったカラムは、たしかにアギラールのDNAを継いでいることがわかりますが、残念ながら映画内ではこのあたりの詳細な描写は全部カットされていました。

5-4.ソフィア・リッキンと父、アラン・リッキンの思惑の違いとは?

ソフィア・リッキンは、幼少時に母をアサシン教団に殺されてから、この世にはびこる暴力を根絶するためにエデンの果実を手に入れて、暴力の源泉ともなる人々の自由意志を抑えるDNAコードを抽出して制御する方法を模索していました。

これに対して、テンプル騎士団のグランドマスタークラスでもある、父、アラン・リッキンは娘に「アニムス」を研究させ、エデンの果実を手に入れたら、人々の自由意志をコントロールして、テンプル騎士団の天敵であるアサシン教団を壊滅させることを第一に考えていました。「暴力を根絶する」というのは表向きのプロパガンダに過ぎなかったわけです。

クライマックス・シーンでそれをハッキリ認識させられたソフィアが、父に「騙したのね」と抗議していましたが、聡明なソフィアのことなので、薄々気づいてはいたけれど、見て見ぬふりをしてきた、といったところだったのではないかと思います。

5-5.エデンの果実とは何なのか?

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人間の暴力性を取り除くための鍵となるDNAコード情報が封印されていると言われる古代の遺物。テンプル騎士団が人々を支配するために躍起になって探し続けると同時に、暗殺教団では「果実」を守ることを最優先とする教義があります。

旧約聖書では、アダムとイブが食べることを禁じられた「禁断の果実」として記されていますが、「アサシン クリード」の世界では、古代の神々に近い存在が作り出した人工的な遺物として描かれます。

なお、ゲーム世界では「リンゴ状のアイテム」以外にもエデンの果実はいくつも存在しています。いずれも過去の偉人達の手を渡りつぎ、最終的にほとんどすべてがテンプル騎士団の手に落ち、世界がテンプル騎士団の支配下に置かれようとしているディストピア的世界観が描かれています。ひょっとしたら、次回作で第2、第3の「エデンの果実」が出現するかもしれませんね。

5-6.暗殺教団やテンプル騎士団は実在した秘密結社なのか?

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暗殺教団は、もともとイスラム教シーア派の中で、11世紀頃特に過激な一派が分派してできた集団で、対立するイスラム教徒の派閥や、エルサレムへ迫りくる十字軍の要人の暗殺に暗躍したとされます。しかし、いずれも明確なエビデンスに乏しく、現代では史実としてよりも「伝説」として位置づけられているようです。

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一方、テンプル騎士団は、中世に実在した修道士の兵士集団でした。日本的に言うと興福寺や比叡山の僧兵集団みたいなものでしょうか。公式に解散したのは、フランス国王フィリップ4世が、テンプル騎士団の一斉弾圧・逮捕をした1314年のことでした。それまでは、十字軍に従軍したり、商業活動でその組織を拡大したりと、それなりの存在意義がありました。

14世紀に組織が解体して以後も、近代以降にはじまり、現代迄続くフリーメイソンのようなグループが、そのルーツをテンプル騎士団に見出したり、映画「ダ・ヴィンチ・コード」などで大きくクローズアップされたりなど、神秘的なイメージが定着していますね。

5-7.続編製作中?!回収されずに終わった伏線の数々

今作では、カラムを利用してエデンの果実のありか(=コロンブスの墓)をソフィアの父、アラン・リッキンが手に入れ、テンプル騎士団が果実をアサシン教団撲滅のために使う前にカラム達がアラン・リッキンを暗殺したところでストーリーが終わりました。恐らく次回作につなげるため、意図的に沢山の伏線を残したまま終了したのでしょうが、残された伏線が多すぎて、すっきりしなかったのも確か。

例えば、以下のような伏線や謎が回収しきれず残りました。

・カラムのアニムスでの3回目の遡行終了後、カラムの近くに現れた歴代のアサシン教団の仲間たちの中に、ソフィアと同じ顔の女性がいたのはなぜなのか?
→恐らくソフィアの母であったでしょうが、説明がありませんでした。
・結局ソフィアの母親はどのような経緯・理由でアサシン教団に殺されたのか?
・カラムの父は、なぜ母親を殺害したのか?(母親はどのような秘密を持っていたからカラムの父に殺されることを同意したのか?)
・結局アサシン教団とテンプル騎士団の間の争いはどう決着が着くのか?
カラムはエデンの果実を奪って、その後どうしたのか?
エデンの果実は実は偽物?(エデンの果実を保管していたハコが、2016年にコロンブスの墓から発見された時、別のデザインに変わっていた)

ちょっと未回収の謎が多すぎるような気もしますが、このあたりも今ひとつこの映画の評価が上がってこない理由なのかもしれません。

実は、現在まだ構想中ではあるのですが、主演のマイケル・ファスベンダーとジャスティン・カーゼル監督は、すでに第2弾の構想を検討し始めたとの報道もありました。

大作映画に負け、アメリカ国内では事前に期待されていたほどの興収を挙げられなかった本作ですが、Ubisoftはこの映画を将来に向けたブランディング強化費用と割り切っているフシもあり、恐らくそのまま第2弾の製作に入るのではないかと予想しています。次回はもっと人間ドラマにも焦点を当てて製作してほしいです・・・

6.まとめ

映画の感想で、少し辛辣な意見も書いてしまいましたが、決して「全くダメだった」わけではありません。1491年のルネサンス期スペインでのグラナダ包囲戦の描写は惚れ惚れするほど素晴らしかったですし、パルクールを活用したアクションや、ゲーム同様史実で登場するキャラを絡ませてストーリーを構築する姿勢も好感が持てました。

各キャラクターの描き方が淡白(というか雑)になり、次回作に残しすぎた伏線が多すぎて若干不完全燃焼で終わったのは残念でしたが、世界観は凄く良かったと思います。

ノベライズの出来が非常に良いため、もしこの作品を120%楽しむのであれば、小説版で補完することで、味わい尽くすことは可能だと思います。ここまで伏線を残したのだから、是非次回作も頑張って作って欲しいなぁとは思いました。

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年3月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

公式ノベライズ「アサシン クリード」

映画の公式ノベライズ。通常、公式ノベライズは技量が劣る素人以上、小説家未満の専業ライターが書くことが多いのですが、本作は例外的に素晴らしいクオリティです。

映画本編を忠実にノベライズ化しつつ、登場人物の心情変化や説明描写が詳細で、映画を見る前の予習としても、映画鑑賞後の答え合わせとしても最適な1冊。訳者も推奨する通り、映画を見る前に一読しておくと、映画をより楽しめるようになります!

また、映画では描ききれなかったムサやリン(最後にカラムと行動を共にしたアサシンの末裔)の「アニムス」を使っての遡行記録を描いたオリジナルスピンオフ小説も合わせてついています!

ゲーム「アサシン クリード エツィオ コレクション」

アサシン クリードシリーズの初期作品3作が、PS4でリメイクされて、映画リリースとほぼ同期にリリースされました。映画同様、15世紀後半のイタリア・ルネサンス最盛期でフィレンツェの町を縦横無尽に駆け回る「エツィオ編」を網羅した一作。映画を見てゼロからゲームを始めるなら、まずこの「エツィオ・コレクション」から入るのがお得でわかりやすくておすすめ!

マイケル・ファスベンダー主演映画は、まとめてU-NEXTで!

上記でオススメした関連作品以外にも、マイケル・ファスベンダー出演作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。僕も、今回過去作「それでも夜は明ける」など、他作品は、加入中のU-NEXTで視聴しました。最近、手放せない頼もしいVODサービスになりつつあります。

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現在、僕はU-NEXT、Hulu、AmazonPrimeと3社のオンデマンドサービスに加入しているのですが、マイケル・ファスベンダー出演作品はU-NEXTが一番品ぞろえが良く、オトクでした。

加入初月は無料。見放題以外の有料作品も、毎月自動的に付与される1000ポイントを使えば、3本まで無料で見れるようになっています。国内最大120,000点の品揃えは映画ファンにはたまりません!

2017年3月4日現在、マイケル・ファスベンダー出演作品は、全部で13作品がラインナップされており、6作品が見放題。残りの7作品はポイントを使って無料で見れます。

マイケル・ファスベンダーの演技に惹かれて、他の作品も見たくなったら、お金を節約できるU-NEXTがおすすめです!

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その他アサシンクリードシリーズのグッズはこちら

これまで、ゲームを中心として、そのノベライズやグッズ類など、様々な関連商品がリリースされてきた「アサシン クリード」シリーズ。下記リンクに、それぞれAmazon、楽天の関連グッズのページを整理しました。よろしければ、ご活用ください!

Amazon・楽天「アサシンクリード」コーナー
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楽天で「アサシンクリード」関連グッズを探す!

【ネタバレ有】『君の名は。』感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/超ロングランの大ヒットアニメ映画!

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【2017年3月9日最終更新】
※あらすじ紹介以降、かなりのネタばれを含みます。ご注意を!

かるび(@karub_imalive)です。

大ヒット中の新海誠監督の最新アニメ映画「君の名は。」は、素晴らしい映画でした!

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何度リピートしても楽しい、よく考えられた脚本や伏線、ストーリー、設定などに加え、「新海マジック」と言われる作画へのこだわりや、練り上げられた映像美も非常に良かったです!

本エントリでは、映画のあらすじや感想、伏線などを書いていますが、かなりの部分でネタバレを含みます。あらかじめご了承下さい。

1.「君の名は。」の映画基本情報

<オフィシャル予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【公開日】2016年8月26日(金)
【監督】新海誠
【作画監督】安藤雅司
【キャラクターデザイン】田中将賀
【音楽・サントラ】RADWIMPS

足掛け3年の月日をかけて制作された、新海誠監督の勝負作品となった本作は、作画・ストーリー・舞台設定・演出全てにおいてハイレベルで密度の濃い大作映画となりました。新海誠本人が手がけた原作小説、コミカライズの他、2016年10月から、小海町、飛騨、東京と「君の名は。」展の巡回も始まっています。

観客動員数も絶好調。2017年3月1日時点で、速報値ながら、興収は240億円を突破。ちなみに、アニメ映画の興収歴代ベスト5はこんな感じです。

★アニメ映画興収ベスト5
1位「千と千尋の神隠し」(308億円)
2位「君の名は。」(240億円)※2017年3月現在
3位「ハウルの動く城」(196億円)
4位「もののけ姫」(193億円)
5位「崖の上のポニョ」(155億円)

他国での配給決定も続々決定。賞レースへのノミネートも!

興収1.5億円だった前作「言の葉の庭」から100倍以上の巨大な成果を得ることになった本作ですが、その評判は他国にも伝わっています。

2016年11月には、「ロサンゼルス批評家協会賞」をアニメ部門で受賞。さらに、2017年3月には日本アカデミー賞「脚本賞」他、3部門で受賞。アジア各国、ヨーロッパに加え、アメリカ・カナダなど北米でも公開が決まっており、世界規模で好評を得ています。

宮崎アニメのエッセンスを取り込んだのもヒットの要因か?

宮﨑駿監督が一旦アニメ制作から引退した空白期間、潜在的に興収100億円超を稼ぎ出せる市場がぽっかりと開いている状況でした。ジブリ直系の米林宏昌や、細田守、神山健治ら次世代のアニメ映画監督がポスト宮崎駿の座を伺う中、その市場スペースを埋めたのが今回の「君の名は。」だったとも解釈できます。

実際、新海監督はここ数年、ジブリの王道アニメのエッセンスを自分のモノにするためのステップをしっかり踏んできています。前前作「星を追う子ども」は、メジャー化を目指し、宮崎アニメの表現方法を作品中において意欲的に試した実験作でした。そして、今作で作画監督を務める安藤雅司氏は元ジブリ出身であり、キャラクターデザインを担当した田中将賀氏は、大ヒットした青春アニメ「心が叫びたがってるんだ」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」で実績を積んだ業界のエース格。確実にジブリ映画などの大作アニメのエッセンスと、自身の作風の融合を図ろうとしていたのです。実際、普段アニメを見ないライトな映画ファンの中には、今回の「君の名は。」を宮崎アニメの新作だと思っている人も多数いたようです。 

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3.結末までのあらすじ・ストーリー(※ネタバレ注意)

父親と東京の都心に住む男子高校生・立花瀧(たちばなたき)と、岐阜県の山奥の糸守町(いともりちょう)に住む女子高校生・宮水三葉(みやみずみつは)。朝起きると、ひょんなことから二人の意識が入れ替わり、ドタバタ生活が唐突に始まるところからストーリーが始まります。

意識の入れ替わりがなぜ起こるのかは不明。二人は、当初、単純にリアルな夢を見ているのだと思っていました。しかし、朝起きると、週に2~3回ランダムに二人の体が入れ替わっているので、これは夢の出来事ではなく、これが現実世界の出来事であると認識し、互いの実在を確信するようになっていきます。

入れ替わった先では、当然お互いの生活のディテールが良くわからないし、入れ替わりは突然起こります。対策として、入れ替わった日の一日の終わりに、お互いのスマホにメッセージを残し合うという風変わりな形で、二人は交流を始めました。

戸惑いつつも、二人はやがてお互いの入れ替わった先の生活に次第に慣れて、楽しめるようになっていきます。三葉はあこがれだった都会生活を満喫し、瀧のアルバイト先のマドンナ的存在、大学生の奥寺先輩と交流を深めます。一方で、瀧は田舎の学校生活で一目置かれる存在になり、男子・女子限らずモテまくる毎日に。

ところで、三葉の家系は、祖母、一葉の代から糸守町の氏神様、宮水神社の神主を務めてきました。三葉とその妹、四葉は、ともに巫女としての家業を務める毎日です。

糸守選年の歴史が刻まれている組紐(くみひも)作りや、神楽を舞い、ご神体に奉納する口噛み酒を仕立てる神事などもこなします。

口噛み酒作りは神聖な儀式ですが、衆人環視の前で米を噛んで自分自身の唾液と混ぜて、升の中にゆっくり吐き出して作る工程は、やはり見られると恥ずかしいもの。三葉の密かな悩み事でもあるのでした。

ある朝、三葉と入れ替わっていた瀧は、一葉、四葉と山の上にある宮水神社のご神体へ、神事で三葉が作った口噛み酒を奉納しに行くことに。その際に、地域の伝承を一葉から聞くことになります。「口噛み酒はあんたらの半分なのだよ」と一葉に言われるもその時は意味もわからず、糸守町の方言で、「黄昏時(たそがれどき)」を表す夕暮れの「カタワレ時」を迎えるのでした。 

そんな二人が入れ替わり生活に馴染んできたところで、ある日、瀧は、あこがれの奥寺先輩とデートにでかけることになります。入れ替わっていた三葉が設定してくれていたのです。デートの日、瀧は本来の瀧として奥寺先輩と会うことになりますが、三葉はなぜか胸騒ぎがして、涙が流れてしまいます。(この時点でもう瀧のことが好きになっていた暗示)

三葉は、結果が気になって実際に瀧に会いに行こうと東京に出掛けますが、デート当日、瀧への携帯はつながらず、二人のデートシーンには会えませんでした。

三葉が代わりに会えたのは、中学生だった瀧でした。

なんと、二人の間には3年の時差があったのです。2016年に生きる瀧と、2013年に生きる三葉。二人は、時空を超えて入れ替わっていたのでした。

三葉の世界線である2013年は、瀧はまだ中学生。奥寺先輩とは面識がなければ、三葉にも会ったことすらないわけです。

偶然、中学生の瀧を満員電車の中見つけてしまった三葉は、瀧の無反応にいぶかしくも思いますが、なんとか別れ際に一声かけ、自分の髪をゆわえていた組紐を瀧に渡して岐阜に帰り、失意のうちに髪を切ってしまうのでした。(小説版では、失恋に似た感情を覚えたためと描かれている)

一方で、2016年の瀧は瀧で、何故か奥寺先輩とのデートだというのに、三葉のことが気になってデートに集中できません。デートで立ち寄った六本木の国立新美術館の展示で、偶然糸守町の写真展示を見つけてしまい、奥寺先輩をそっちのけで食い入るように見つめる瀧。奥寺先輩には上の空であることを見透かされ、「今は別の好きな人ができたんでしょ」と言われてしまう始末です。

そして、それ以降なぜか二人の入れ替わりは、二度と起きませんでした。

入れ替わりが途切れてしまった瀧は、三葉のことが気になって仕方ありません。そして、自ら描いたスケッチを片手にとうとう現地入りし、糸守町の場所をつきとめます。

しかし、行ってみたら糸守町は3年前、2013年の彗星落下災害で消滅してしまっており、図書館で見つけた犠牲者名簿に三葉の名前を見つけてしまいます。瀧は、ようやくここで全体像を理解します。三葉は亡くなってしまったので、入れ替わりがストップしていたこと、実は入れ替わりは3年の時差があったことを悟ったのでした。

その時、瀧は三葉となってご神体に奉納した口噛み酒を思い出し、これを飲めばもう一度入れ替わりがおきるのではないかと思い、衝動的にご神体のある山上へ向かいます。ご神体の中には、三葉が作った3年前の口噛み酒がありました。瀧が、ためらわず口にすると、瀧の推測通り、3年前、つまり2013年の彗星落下直前の三葉に入れ替わりが起きます。三葉は、代わって山上の2016年の瀧へと入れ替わり、眼前の糸守町の消失を見て呆然とします。

2013年の三葉に入れ替わった瀧は、糸守町で幼なじみのサヤちんとテッシーの力を借りて、彗星落下から村人を安全な場所に避難させる作戦を立てます。瀧は、何故かその時山上のご神体に三葉の気配を感じ、三葉を呼びます。

そして、神様が気まぐれを起こすという、カタワレ時(=夕暮れ時)がやってくると、互いの姿が目の前に顕れ、二人のこころとからだが元通りに戻り、二人は初めて対面を果たします。瀧は、3年前電車の中でもらった組紐を、三葉に渡して、彗星の災害から糸守町を守る作戦を引き継ぎます。

しかし、カタワレ時が終わると、二人はまたお互いが見えなくなってしまい、お互いの名前すらなぜか忘れてしまいます。それでも、三葉は糸守町を守る作戦を成功させ、彗星は落ちて町は消滅したものの、大半の町民は無事に生き延びたのでした。そして、三葉や町民たちは、東京でそれぞれの新たな生活をはじめました。(つまり歴史が書き換わり、三葉は死ななかった)

それから数年が経ち、大学生になった瀧は就職活動を経て、社会人になります。記憶が風化する中、「ずっと何かを、誰かを探しているような気がする」と漠然と心に引っかかりながら毎日を過ごす瀧。そこで、とうとう偶然に東京で瀧と三葉が出会います。お互いの名前は思い出せないけれど、大切な人。そして、二人は同時に、四谷の須賀神社の階段上で、「きみの、名前は・・・?」と問いかけをするシーンで、ハッピーエンドとなりました。

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4.ストーリー、伏線を徹底解説!(★ネタバレ注意★)

ムダのない設定と見事な伏線回収

伏線の設定と回収は見事でした。物語序盤で紹介される、夜と夕方の境目であるたそがれどきを表す糸守町の方言「カタワレ時」、宮水神社で巫女の手によって作られる「組紐」(くみひも)、祭祀の際に巫女の唾液を介して造られる世界最古の酒「口噛み酒」(奉納される際に組紐で封印される)これらが物語中で有機的に絡み合い、時を超えて二人が結ばれる媒介物となっていきます。

カタワレ時f:id:hisatsugu79:20160826223824j:plain

物語クライマックスで、瀧が三葉の「口噛み酒」を飲み、再び入れ替わりが起きると、時空の境目を象徴する「カタワレ時」にとうとう二人は正位置で再会します。その、僅かな時間の間に、2013年の満員電車内の出会いで、三葉から瀧に手渡された「組紐」が、再び三葉に戻ります。

そして、それを媒介していたのが、「組紐」同様、二人の絆を暗示する「彗星」で、組紐と相似形なのであります。

また、舞台の「糸守町」という、組紐を連想させる名称や、主人公の「瀧」(さんずいに竜)という彗星を暗示させるような名前もすごく良かった。

ちなみに、「糸守町」は岐阜県の飛騨高山地方をモデルにした、架空の地名です。飛騨高山から、さらに奥地に入った山間の小さな町、という設定です。(聖地巡礼はできませんのでご注意!)

なぜ瀧と三葉の入れ替わりは起こったのか

先に見てきたとおり、男女の運命的な出会い”ムスビ”の象徴である組紐。入れ替わり能力のある(=夢を見る能力)シャーマン的な特殊能力を先祖代々受け継ぐ宮水家の巫女として、三葉は夜になると日頃から神社の内職として組紐を作っていたシーンが描かれていますね。

組紐とは(『伝統工芸って何?』より引用)
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見て分かる通り、組紐は、たくさんの糸をより合わせて作る古来からの伝統工芸品です。映画内では瀧と三葉の「ムスビ」を強く暗示させるアイテムとなっているのですよね。

そして、三葉自身の手によって紡がれる組紐の中でも、特にお気に入りのものは、三葉自身が髪に結わえていたのでした。実は、2013年時点で三葉はこの組紐を満員電車での別れ際に中学生の瀧に手渡しているのです。

タイムパラドックス的な状況ではありますが、この2013年の最初の出会いの時点で三葉と瀧は「組紐」を通してムスビの関係となり、三葉の入れ替わりの相手が瀧に確定したのだと解釈できます。そして、2016年、その入れ替わりが発動するとともにストーリーが動き出したのでした。

「糸守町」が岐阜の飛騨地方の山奥の街に設定された理由

三葉の住む糸守町は、岐阜の飛騨地方の山間部の架空の町という設定です。新海監督は、記者会見にて

「神秘的な雰囲気と、知られざる歴史を積み重ねてきたような場所というイメージで選んだ。あとはストーリー上、東京から、遠すぎず、近すぎずという距離感」

と飛騨を舞台に選んだ理由を明かしています。

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劇中で、三葉がいてもたってもいられなくて、奥寺先輩と瀧が東京でデートするところに会いに行こうとするシーンがあります。これ、本当に行けるのかと、「ジョルダン」で確認してみました。確かに、飛騨高山からなら何とか半日あれば東京まで会いに行けますね。

セカイ系的なストーリー展開

新海監督といえば、過去作品「ほしのこえ」に代表されるように、世界で起こる出来事の全てが恋人たち二人だけの関係に収斂していくセカイ系的なストーリー展開がお家芸です。今作も、もちろん前作同様に、設定や伏線のすべてが、物語終盤の二人の再会という一点へと収束していく流れは、セカイ系的な要素を確実に含んでいる映画と言えると思います。1200年に一度、周期的に大災厄をもたらす「彗星」までもが、時空を超えて二人をつなげ、結びつける強い「組紐」として描き出されました。

3年ずれた異世界同士での意識の入れ替えに伴う設定には、細かい破綻や描写不足もあらを探せば沢山見つかるのですが、強い感情を伴うセカイ系的ハッピーエンドの前には、(まぁ細かいところは・・・いいか。感動したし!)という気にさせられるわけです(笑)

5.「君の名は。」の魅力とみどころ

「空」を中心に緻密に描かれた美しい風景

新海誠監督の映画の最大の特徴は、星の見える「空」の風景を中心として、美しく緻密に描かれた作画です。苦手(であろう)キャラクター等のデザインは田中将賀氏に任せ、自身は美術監督として、強いこだわりを持って写実的に背景を描き込みました。

特に、注目したいのは「空」の表現。全体的に乳白色のフィルターが掛かったような幻想的な「新海マジック」と表現される独特の画風と、光線の美しさは、ラッセンやフェルメールを彷彿とさせます。

また、シーンの要所要所で挟まれ、状況に応じて様々に表情を変える「空」だけの風景に各シーンでの主人公たちの心象風景を暗喩的に語らせる手法は、新海監督の18番とも言える表現手法です。是非、2度目以降リピートする時は、背景、特に表情豊かな空の風景を楽しんでみてください。

試しに、公開動画から何枚か見てみます。

神社のシーン(空の多彩な表情に注目)f:id:hisatsugu79:20160826223221j:plain

糸守のご神体。空からのカメラ位置、背景には雲海f:id:hisatsugu79:20160826224007j:plain

電車のシーンf:id:hisatsugu79:20160921161230j:plain

新海監督の映画では、毎作必ずここぞ!という大切な場面で「電車」のシーンが多用されます。電車の中のシーンや、プラットフォームでのシーン、踏切のシーンなど幾つかタイプはありますが、作品における「電車」が暗示するものは、二人の別れやすれちがい、孤独感(たいてい立って窓の外の風景を見つめている)です。

今作も、いちばん大切な「組紐」を三葉が中学生の瀧に手渡すシーンは、満員電車の中、「二人の別れ」あるいは「絆のきっかけ」として描かれました。

思春期の繊細で一途な心情描写

今作は、新海誠作品のお家芸である「SF的な舞台背景」で若い男女が出会って恋に落ち、「遠距離」でのすれ違いや葛藤を乗り越え、再び出会う所までを描く王道的ストーリーです。純粋でちょっと奥手なところもある二人が、物語が動き出す中盤以降に心の赴くまま相手のことを思い、一途に行動する若さや青春っぽさも見どころです。

「入れ替わり」の設定に甘えず、ストーリーとしての面白さを追求

男女、親子体が入れ替わる「とりかえばや」的ストーリーは、昔から「らんま1/2」や、東野圭吾「秘密」、最近だと押見修造の「ぼくは麻理のなか」など多いですよね。

今作は男女の体の取り替えっこによってもたらされる男女の「性差」から起きる設定に甘えたドタバタ劇に単純に終始することなく、入れ替わりでの葛藤や、お互いのコミュニケーションを通した心情の変化や、紡がれるストーリーそのものに主眼が置かれています。

そして、3年の時差をおいた入れ替わりのトリック。タイムトラベルSF的な要素が、ストーリーの面白さを倍加させていました。

東日本大震災へのオマージュ。被災者にも勇気を与える映画

また、新海監督は明言していませんが、この1000年に一度の彗星がもたらす周期的で不可抗力な天災の描かれ方は、我々日本人に東日本大震災を強く想起させます。

物語序盤で紹介された糸守町で起こった「繭五郎の大火」により、古文書が失われたエピソードは、長期間の間に風化する被災や災害の記憶を伝え続けることの難しさを象徴していました。1200年前に落ちた彗星によって地形が大きく変わり、湖が出来るほど甚大な大災厄の歴史も、年月を重ねる中、長年の間に風化していきます。「つなみてんでんこ」という、100年以上前に起きた津波被害の言い伝えや教訓が忘れ去られ、甚大な津波被害を出してしまった東日本大震災の前夜のような状況でした。

ただ、彗星落下後に壊滅した糸守町を出たてっしーやさやちんら、三葉の仲間がきちんと避難先の東京で新生活を始めるシーンなど、再生に向けて立ち上がる人間のある種のしぶとさ、力強さがきちんと表現されていたのは良かったです。

6.過去作品よりわかりやすい形でのハッピーエンド

公式ビジュアルガイドに掲載された新海監督のインタビューに、こんなメッセージがあります。ちょっと長いですが、引用します。

今回、奥寺先輩が瀧に”君もいつかちゃんと、幸せになりなさい”というセリフがあって、ちょっと謎めいた言葉にも聞こえるかもしれないけれど、あれはお客さんに対する僕の気持ちでもあるんですよ。[・・・]誰かの幸せを願うような作品にできたらいいなと。[・・・]日常がいつかなくなってしまうかもしれない感覚って、みんな日に日に強く抱えるようになっていると思うんですよ。でも、あと少しだけでいいからこの状態を続けていたい。好きな人と一緒にいたい。幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。 

新海監督の映画では、幸せへの渇望や喪失感を心の中に秘めた主人公が頻繁に描かれます。過去作「言の葉の庭」「秒速5センチメートル」では、出会ったふたりは最後まで結ばれることなく、切なくエンディングを迎えました。

しかし、今作は、二人は数年の時を経て、何度もすれ違って観客をハラハラさせつつも、ようやく最後にお互いへとたどり着きました。新海作品史上、一番わかりやすい形でのハッキリしたハッピーエンドは、新海監督の思いを届けるために必要な結末だったのかもしれません。

7.まとめ

今作は、新海監督作品の「難解さ」を薄め、わかりやすさを全面に出した監督にとってのメジャーデビュー勝負作でした。観客にどう「伝わるか」を真剣に考え、「エンターテイメント性を重視した」という監督のインタビューでの言葉通り、脚本制作だけで6ヶ月もかけた、練りに練ったストーリー。わかりやすいハッピーエンドでの結末、王道のラブストーリー的展開が、往年の宮﨑アニメのように広くファンの心を掴んだといえると思います。

新海監督が「107分間、1分も退屈させないように作り込んだ映画」と言う通り、コンパクトで完成度の高い作品でした。文句なくおすすめです!

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8.新海誠の過去作品が一気に見れるオンライン動画サービス

映画「君の名は」のヒットを受け、VOD(ビデオ・オン・デマンド)配信各社とも、新海誠監督の過去作品を配信を強化しています。コスパが一番いいおすすめサービスは、Huluです。「秒速5センチメートル」「ほしのこえ」「言の葉の庭」「雲の向こう、約束の場所」など、新海誠の過去作品が、加入後見放題となるからです。Hulu加入後最初の2週間は無料なので、是非見てほしいです!

過去作品を見ると、「君の名は」が、新海監督の映画キャリアの集大成であり、総集編でもある、というのがよくわかりますよ!

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おまけ:2周目を楽しむための小説・外伝・公式ガイド・設定資料集など

約120万部を売り上げ、オリコン2016年度文庫本ランキングでNo.1となった原作小説。映画の世界観そのままを文章に詰め込んだ感じ。映画と小説を両方味わうことで、より深く作品を楽しめますし、複雑な伏線をスムーズに理解するための予習復習にも非常に有用です。監督の書き下ろす小説はこれで3作目ですが、着実に小説の腕も上げている印象。

今作の脚本協力として活躍した加納新太氏による外伝です。こちらも約30万部を売り上げる大ヒット。本編に収録しきれなかった伏線部分やサイドストーリーを、主人公以外の視点(四葉、トシキ、テッシーなど)で描き出しています。本編では単なる悪役にしか見えない父親トシキの秘めたる苦悩、糸守町の秘密や伝承など、本編を深く理解し、楽しむために非常に役に立つ骨太な作品でした。2周目を楽しむため、もっともオススメしたい必読の書です!

封切と同時に発売されたコミカライズ版第1巻。1巻では、物語前半部分が原作に忠実に描かれますが、このあと映画本編とは異なる展開・結末となる予定とのこと。絵柄は映画とそれほど変わらず、違和感はありません。

映画カットを使ったストーリーガイドに、監督・声優・RADWIMPSへのインタビュー記事、設定資料集など、映画を細部まで味わうためのガイドブックです。新海監督がこの映画に込めた想い、制作での苦労、超美麗な作画がどのようにして作られたのか、丁寧にまとめられています。基本的にはネタバレなので、映画本編を見終わった後に楽しむと良いと思います。

デビュー作「ほしのこえ」から今作まで、CM作品を含めて新海誠監督の業績を完全網羅した充実のまとめムック本でした。作品紹介、神木隆之介と新海監督の対談、画集パートなど、ファン垂涎の一冊となりました。文句なくおすすめです。

4万字以上の新海誠監督への超ロングインタビュー他、制作スタッフへのインタビュー、文化人からの推薦コメントなど、新海誠監督の「人物」に焦点を当てて制作されたムック本。この内容ボリュームで1,000円以内に抑えられており、かなりお得な一冊です。

「君の名は。」のキャラクターデザインや色彩設計、風景の美しさの秘密などを制作スタッフのキーマンたちにロング・インタビューした丁寧な記事作り。ほぼ1冊全部「君の名は。」特集です。色彩設計の三木陽子氏の「『君の名は。』の色彩設計は彩度が高いポップなものに振っている。思春期の若い人たちに向けた作品だから。」は納得。Kindle Unlimited指定書籍なので、読み放題の人は是非。

やりすぎなほど非常にディープな分析はさすが硬派な文芸誌。明らかにIQの高そうな読み手に響きそうな、長文での、こじらせてるんじゃないかと思えるほどの深読み映画評がズラッと並ぶ圧巻の内容でした。色々関連書籍を読んできて、最後にこれを読むのが正解かも(笑)。「君の名は。」を極め尽くしたい人にオススメです!


「君の名は。」展の感想/手堅いけどサプライズ感はなし。もう一つ工夫が欲しかった!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月8日にから2週間限定で松屋銀座にて始まった「君の名は。」展。アニメの原画、設定資料集を中心に、手堅くまとまった巡回展でした。

ただし、サプライズ感があまりなく、マニアには恐らく食い足りない感じ。巡回している間に情報も古くなり、真新しさがないのは少し残念でした。展示内容には不満が残りましたが、その一方、会場限定のグッズ販売等は充実しているので、熱心なファンなら抑えておいて損はない展覧会ではあると思います。

以下、感想の中で、良かったことや悪かったことを率直に書いてみたいと思います。

1.「君の名は。」展の混雑状況と所要時間目安

アニメ・マンガ系の百貨店での展覧会で一番気になるのは、「混雑状況」です。僕が行ってきたのは、展覧会のオープンから少し経過した10時15分頃。かなりガヤガヤ人がいる感じですが、身動きがとれないほどでもなく、入場待ち列もありませんでした。

入口近辺(10時15分)
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物販コーナー(10時15分頃)
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今回の「君の名は。」展は、これまで小海町、飛騨とすでにいくつか各地を巡回してきた3つ目の巡回先であること、映画が公開されて一番「熱い」時期は過ぎていることもあって、懸念したほどではなかったです。

ただし、土日はかなり混雑すると思われますので、気になる方はローソン(Lコード:33957)にて事前に購入してから行くと良いと思います。

展覧会の内容自体は、下記でも触れていますが、やや既視感のある平凡な内容。いつも展覧会で結構粘る方なのですが、今日は20分程度で見終わってしまい、あっさりと出てきてしまいました。入場制限などがなく混雑していなければ、30分~60分あれば大丈夫だと思います。

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2.「君の名は。」展の内容

もうすでにご存知だと思いますが、2016年~2017年にかけて、約250億円の興収を叩き出した新海誠監督の大ヒット映画「君の名は。」を特集した展覧会です。

関連記事
【ネタバレ有】「君の名は。」感想とあらすじ・伏線の解説!

マンガやアニメのいわゆる「原画展」だと思っていただければと思います。展覧会のコンテンツの大部分が写真撮影禁止だったので撮影できていませんが、困ったときに結構お世話になっているInternet Museumさんが取材された動画がありましたので、紹介しておきます。

以下、展示順にひとつずつ感想を書いてみたいと思います。

新海監督がこれまで手掛けた映画の紹介パネル

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ファンならすでに頭に入っている基本事項ではありますが、入口外の壁面に過去作品のサマリーを紹介するパネル展示がありました。これは、展示室外なので、写真撮影OKです。

企画書ボツ案(2014年度当初のもの)

f:id:hisatsugu79:20170309085353j:plain(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

公式サイトでも紹介されていますが、2014年7月になって、新海監督が最初に提示した企画案です。『夢と知りせば(仮)-男女とりかえばや物語』と題された企画書の実物が展示されています。公式サイトに書かれていた内容そのままなので、もうひと工夫欲しかったところ。

映画の台本

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(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

映画の台本も展示されています。ただ、毎日ページを変えて展示替えするとか、実際に手にとって読めるようにするとか、地味な分、もうちょっと展示を工夫してほしかったところ。

新海監督のインタビュー動画

展示コーナーの最初のあたりと奥の方に動画を放映するモニターが2台置いてありました。ただ、導線の途中に置いてあるので障害物になって渋滞の原因になっている上、ざわざわしていると音声が小さすぎて全く聞こえません・・・。これは要改善だと思われます。

新海監督による絵コンテ

f:id:hisatsugu79:20170309012145p:plain(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

新海監督、やっぱり普通に絵がうまいんだなぁという感想。秒単位で細かく書かれているため、これを100分用意するだけでも途方もない時間と労力がかかるのだな、と実感させられます。

各種設定資料集

f:id:hisatsugu79:20170309011916j:plain(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

展示されているのは、以下の資料集です。

◯安藤雅司氏らによるキャラクター設定資料
◯三木陽子氏らによる色彩設計資料
◯岩崎たいすけ氏らによるプロップ設定資料
◯各種美術設定資料

このあたりは、すでに出版されている各種ガイドブックで網羅されているため、あまり真新しいものでもなかったかなと。そうは言っても原画展としては外せない展示ではあると思うので、見たいところだけ拾って見ていくのがいいと思います。

ただ資料が並べてあるだけの淡白な展示なのは、非常に惜しかったです。各種担当者の思い入れやエピソード紹介などのキャプションが少しでもあれば、展示がより締まって良かったかなと思います。

美しい風景のセル画展示

f:id:hisatsugu79:20170309011831j:plain(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

新海監督といえば、超美麗な風景描写に定評がありますが、今作で一番キラキラした場面のセル画を選りすぐって展示してあります。アニメ表現の限界まで攻めた精密な描写なので、ちょっとした写真展みたいで面白かったです。

組紐の組台(★おすすめ)

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(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

本作のキーアイテムとなった「組紐」。映画前半部分では、三葉や四葉が巫女として組紐を作るシーンがありますが、組紐を実際に作るための「組台」が、豊島区で江戸組紐を手がける「平田組紐」から実物出展されています。映画では、実際にこの組台を使って組紐が製作されるシーンの「音」を収録して使っているのだそうです。

巫女舞の実演シーン(★おすすめ)

三葉・四葉が神社で神楽を踊るシーンの振り付けは、歌舞伎役者の中村壱太郎が手がけています。今回展示では、中村壱太郎による実演と、その実演シーンを元に作られた絵コンテが展示してありました。これはちょっと面白かった。

劇伴音楽

f:id:hisatsugu79:20170309012505j:plain(引用:https://www.youtube.com/watch?v=8LzwpSuJGRk

RADWIMPSによる劇中歌4曲の歌詞がそのままパネルとして貼ってありました。いや、それはもうみんなネットで調べるし、熱心なファンは既にサントラを持ってるからいいんだけど・・・。RADWIMPSの最近のコメントとか、まだ出てきてない制作秘話とかそのあたりを紹介したり、音源やMVのしっかりした試聴コーナーを作ったほうが物販にもつながってよかったのではないかと思います。

記念撮影コーナー

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展示スペース内に1つ(学校の黒板)と展示スペース外に1つ(瀧と三葉の等身大パネル)あります。展覧会内で撮影できるスペースが最後に1つでもあったのは良かったです。

展示スペース内の撮影コーナー
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展示スペース外の撮影コーナー
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3.物販・グッズコーナーは充実!

ここまで見てきたように、展覧会自体は、あっさりしたオーソドックスな原画展です。必然的に、来場者の主戦場はグッズコーナーになるんじゃないかと思います。

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グッズコーナーは、見ての通り同一のアイテムは購入が3つまでに制限されていました。会場限定グッズが多数販売されているため、転売屋さんがやんちゃしすぎないように、こういった措置は非常に大事。グッズは質・量ともにかなりの広さと在庫が確保されており、会期前半であれば問題なく買えると思います。

目についたものをピックアップしていきます。

メモ帳
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スマホホルダー
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スマホケース
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チョコレート
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宮水神社 甘酒(口噛み酒ではありません/笑)
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新海作品のノベライズ・DVD・マンガなど
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クリアファイル
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これらの他にも、Tシャツ、ポスター類、カレンダー各種、ジグソーパズルなど、まだまだ沢山会場限定品がありました。コレクターは要チェックだと思います。

4.全体的な感想:個人的にはやや不満な展覧会だった

結論から言うと、今回の展覧会は、いわゆる「展覧会」独特のワクワク感や五感で感じられる楽しさがあまり伝わってこず、やや不満な出来でした。

今回の展覧会で一番問題だと思ったのは、展覧会として「手作り感」や「展示の工夫」がほとんどなかったこと。いろいろな資料を借りて展示するだけでなく、製作した当事者にもっと積極的に関わって展覧会を作ってもらう努力をすべきだと感じました。

また、小海町から始まり、飛騨、東京と巡回する中で、映画「君の名は。」を取り巻く状況も刻一刻変わっていっているはずですが、網羅されている情報が2016年秋の時点で止まってしまっています。せめて巡回するタイミングで、最新情報をフォローして展示内容に積極的に追加していく配慮が必要だと思いました。

前売500円と小規模な展覧会だからなのか、ほぼ物販即売会的な要素が強く、「とりあえず展示は並べておけばOKだろう」という意識がどうしても見え隠れした展覧会でした。

5.まとめ

最近、他の美術展で神がかった展示を沢山見すぎたからなのか、「君の名は。」展は少し残念に感じてしまいました。ただ、少し作りが淡白で雑だっただけで、展示としては必要最低限見せるべき内容は網羅しているので、決してぜんぜんダメなわけではありません。グッズ購入を主体に考えて、展示は興味のある箇所だけサッと流して見るくらいで丁度良かったのかなと思います。

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

「君の名は。」展は、現状未定ですが、おそらく東京展の後も各大都市の百貨店等を順番に巡回していくものと思われます。映画公式サイト等をこまめにフォローしておくと良いでしょう。

◯美術館・所在地
松屋銀座8Fイベント会場
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7
◯最寄り駅
地下鉄銀座駅・東銀座駅など
◯会期・開館時間・休館日
2017年3月8日~3月20日(会期中無休)
※最終日は17:00閉場、入場は閉場の30分前まで。
10時30分~20時00分(入場は30分前まで)

◯公式HP
http://www.matsuya.com/m_ginza/newinfo/information/2017/01/20170103_100100.html

◯Twitter
https://twitter.com/kiminona_movie

◯美術展巡回先
■未定ですが、恐らくあと数カ所巡回しそうです。

最強のミュシャ展がスタート!スラヴ叙事詩全20作を見逃すな!【展覧会感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

2017年最大の注目展覧会「ミュシャ展」が、3月8日からスタートしました。ミュシャがその後半生の情熱を全て捧げた「スラブ叙事詩」全20編に加え、ポスターや壁画装飾、切手やお札などのデザインなど、画業の全てを俯瞰できるすごい展覧会になりました。

早速行ってきましたので、展覧会の感想を書いてみたいと思います。

※本エントリでの掲載写真は、主催者の許可を得て撮影したものとなります。

1.混雑状況と所要時間目安

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注目度今期No.1の美術展だけに、平日も含めて大混雑するのは避けられない状況です。特に、同時開催中の草間彌生展もかなりの人気ですので、土日はもちろん、平日でもある程度入場制限やチケット購入列ができると思われます。(すでに主催者側は混雑を予想して、臨時のロッカーを増設している様子)

チケットは、来場前にプレイガイドで事前購入することを強くオススメします。また、公式Twitterのアナウンスなどで混雑状況をチェックしてお出かけください。

ちなみに、ガッツリ見るのであれば、所要時間は120分は見ておきたいです。「スラヴ叙事詩」20点が途方もなく大きくて情報量が多い上、絵の背景や意味をキャプション・音声ガイドで把握しながら見ていくと、あっという間に時間が過ぎていきます。さらに、これに加えてチケット購入列or入場制限などかなりの混雑も予想されます。

2.今年のミュシャ展はなぜ「別格」なのか?

日本は美術館大国なので、ぶっちゃけ、ミュシャの展示会が見たい!と思えば、1年中どこかしらの美術館で開催される小~中規模のミュシャ展がみつかります。また、大阪府の堺市には、ミュシャの所蔵作品を約500点保有する「アルフォンス・ミュシャ館」というミュシャに特化した美術館まであるのです。(平成29年6月30日まで工事休館中)

堺市「アルフォンス・ミュシャ館」f:id:hisatsugu79:20170309093826j:plain
(引用:https://pbs.twimg.com/media/C5her_aU4AIH0Ps.jpg

そんな中、敢えて今回、国立新美術館で開催される「ミュシャ展」を絶対に見なければならない理由があります。それは、今回の展覧会で、ミュシャが後半生をかけて製作した超大作「スラブ叙事詩」全20点が日本初公開となるからです。しかも、「スラヴ叙事詩」がチェコの国外に出たことはこれまで一度もなく、チェコ国外でも世界初公開となる貴重な機会になるからです。(その後、中国、韓国、アメリカを巡回予定)

恐らく、これを逃すともう生きているうちに日本で拝める機会はまず回ってこない、そんな凄い展覧会なのです。

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3.ミュシャと「スラヴ叙事詩」について3分で解説!

アートファンだけでなく、デザイナーやアニメーターなど、幅広いジャンルのクリエイターに愛されるミュシャですが、モネやルノワール、ゴッホなどに比べると知名度ではまだまだ劣ります。まだまだ今回の展覧会が彼の作品に触れる初見の人も多いかと思います。蛇足かもしれませんが、簡単にミュシャについてまとめておきたいと思います。

3-1.遅咲きのアーティスト、ミュシャ

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アルフォンス・ミュシャ(チェコ語では「ムハ」と発音)は、1860年にチェコ、モラヴィア近郊の村に生まれました。本格的に絵の勉強をスタートして画家を志したのは意外にも遅く、19歳を過ぎてからでした。ウィーンやミュンヘンで数年間絵画の基礎を勉強した後、27歳で単身パリに渡ります。

彼が最初にチャンスを掴んだのは、女優、サラ・ベルナールの演劇ポスターを手がけることになったことがきっかけでした。正月公演「ジスモンダ」に間に合わせるため急遽仕上げる必要があったのですが、ミュシャ以外は全員クリスマス休暇を取得していたので、それまでポスターを手掛けたことがなかった未経験の彼に、偶然仕事が回ってきたのです。

これを受けて製作されたポスター作品「ジスモンダ」が、1895年1月1日にパリ中で掲示されると、物凄い反響を受けて、ミュシャは大ブレイクを果たしたのでした。

ポスター「ジスモンダ」
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(引用:Wikipediaより)

ミュシャは、華やかな花と女性をモチーフに多用し、日本の琳派などにも通じるような太い輪郭線で装飾性の強い独特の作風で、19世紀末期のフランスで隆盛した「アール・ヌーヴォー」を象徴する作家になっていきました。

その活躍範囲は広く、絵画をはじめ、新聞広告、ポスター、パネル装飾、雑誌の挿絵など、多岐の分野に渡りました。現在日本の展覧会で出展される作品群は、パリ時代、及びその後ニューヨークへ渡ってから手がけられたこうした一連の商業系作品がメインとなります。

3-2.スラヴ民族の苦境を見て、決意するミュシャ

ミュシャがその活動を変えるきっかけとなったのが、1900年の万国博覧会でボスニア・ヘルツェゴビナ館の壁画装飾を手がけた時です。作品制作のために、現地を訪れたミュシャは、当時オーストリア帝国の支配下に入ったばかりで、戦争の傷跡が生々しく残っり、人々の生活の窮乏ぶりに大変驚いたそうです。

彼の生まれ故郷チェコ同様、異民族であるオーストリア帝国(ゲルマン民族)の支配下に入り苦しんでいる同じスラヴ民族であるボスニア・ヘルツェゴビナの苦境を見て、「僕は今まで何をやっていたんだ・・・」と猛省し、残りの後半生を画業を通してスラヴ民族の意識高揚のために尽くしたい、と決意したのでした。

こうして愛国主義に目覚めたミュシャは、「スラヴ叙事詩」製作のためのパトロン探しと資金集めのために1905年にはアメリカへ渡ります。1909年、パトロンであるチャールズ・クレイン、プラハ市との間に3者契約を締結した彼は、祖国チェコへ帰郷し、以降、足掛け20年をかけて「スラヴ叙事詩」を完成させたのでした。

3-3.「スラヴ叙事詩」は完成したけど評判は今ひとつだった

#18 スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオムラジナ会の誓いf:id:hisatsugu79:20170309105911j:plain

「スラヴ叙事詩」が初めて展覧会で発表されたのは1919年でした。次いで、完全版として1928年に再度発表されましたが、残念なことに評価は今ひとつでした。彼が活躍した19世紀後半とは美術界の潮流が全く変わっていたからです。時代はすでにキュビスムで名を馳せたピカソを筆頭に抽象画全盛となっており、彼が描いたアカデミックなスタイルの具象画は、アートファンの間で「時代遅れ」とみなされてしまったのでした。

さらに悪い事に、1939年春、ドイツ帝国がチェコスロバキアを占領すると、ミュシャは「愛国者」として逮捕拘禁され、その時に患った肺炎をこじらせて、同年9月になくなってしまいます。ゲルマン民族であるナチス政権下、発表の場を完全に失った「スラヴ叙事詩」は、彼の没後長らく美術史から姿を消してしまいます。第二次大戦後、わずかに毎年夏に、ミュシャの生まれ故郷モラヴィア地方のモラフスキー・クルムロフ城でひっそりと公開されるのみで、ほとんど人目にも触れることはなかったのでした。

モラフスキー・クルムロフ城
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(引用:http://4travel.jp/travelogue/10163644

紆余曲折があって、作品として再評価が進んだ「スラヴ叙事詩」がようやくチェコの首都、プラハ市内の市民会館へと戻ってきたのは、なんと2012年5月。ミュシャが亡くなって70年以上が経過していました。

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4.「スラヴ叙事詩」を見た感想

とにかくスケール感が半端ない!

まず、下記の写真群で、人の大きさと絵画を見比べていただきたいのですが、絵画1枚1枚が物凄い大きさなんですよね。

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巨大なアート作品は、その「大きさ」ですでに圧倒されてしまうもの。そして、このスラヴ叙事詩の大きさはハンパないです!!国内だと、このサイズの作品を飾るなら国立新美術館しかなかったんだなぁと、つくづくその大きさに圧倒されました。

これだけ大きいと設置作業も相当大変だったらしく、多数のスタッフで丸1日かかって作業して、やっと1枚展示が完了するレベルだったそうです。公式サイトに作品の展示作業の動画がアップされているのを見ても、大変さがわかりますね。

スラヴ民族の歴史を描いた作品なので、背景知識が必要!

「スラヴ叙事詩」は、そのタイトルの通り、ミュシャの祖国チェコに生きるスラヴ人の民族意識高揚のために描かれた歴史絵画です。彼の生まれ故郷、モラヴィアの9世紀頃から始まり、20世紀の近現代に至るまでのブルガリアやチェコ、ロシアなど、中欧~東欧に至るスラヴ民族の国々で起きた歴史上の重要イベントの一場面がテーマとして取りあげられました。

それゆえ、それぞれの絵に込められた意味や寓意、背景が我々日本人には非常に難解なのです。事前にしっかり書籍等で予習をしてあれば別ですが、実際に絵の前に立ってみると、「その絵は一体何を意味しているんだろうか?」と疑問が湧いてきます。

だから、しっかりと味わい尽くすのであれば、作品中で取り扱っている「スラヴ人の歴史」について背景となる知識が絶対必要になってきます。

そこでおすすめなのが、音声ガイドです!

音声ガイドのレンタルを強くおすすめします!

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僕は、普段音声ガイドがあれば100%絶対にレンタルする派なんですが、今回のミュシャ展では、無条件に「全員に」レンタルを強くおすすめしたいです。今回の音声ガイドは気合いが入っており、「スラブ叙事詩」全20点に一つずつ丁寧な解説がついています。(メイン作品に1点ずつ解説が入る展覧会は、昨年の「大兵馬俑展」以来!)

収録されたガイドも、全26トラックと、通常より2~3割多いコンテンツ量が収録されています。ベテランのアートファンから初心者まで、幅広く納得できるクオリティなので、是非検討してみてくださいね。

民族の自立と平和への強い思いが描かれていた

中世~近現代に至るまで、スラヴ人の歴史は他民族からの侵略・被支配の歴史でもありました。彼の祖国、チェコはたびたびゲルマン系民族に蹂躙されており、皮肉にも彼が亡くなったのも、1939年のドイツによるチェコスロバキア占領がきっかけでした。

ミュシャは、このスラヴ叙事詩全編を通じて、スラヴ人の民族意識高揚だけでなく、戦争のむなしさ、平和への希求を強く絵画の中で繰り返し表現しました。いくつか紹介したいと思います。

#3「スラヴ式典礼の導入」
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スラヴ叙事詩3作目に製作された作品。9世紀モラヴィア王国(現在のチェコ)にて、ローマ教皇らの反対を押し切り、古代スラヴ語=母国語でのキリスト教典礼普及の実現を祝した絵画。こちらを向いて輪を持った若い男性は、スラヴ人の団結の象徴だそうです。力強くこちらを向いた「眼力」が印象的。

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#1 原故郷のスラヴ民族
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自然界の神々を崇拝していたスラヴ民族の独立と平和を願って製作された最初の作品。夜空に浮かぶ右上の多神教の祭祀の両脇には、正義への戦いを象徴する若い戦士と、平和の象徴である若い女子が配置された幻想的な一枚です。一方で、画面右下に描かれた難民のこれまた「眼力」が忘れられない一枚でした。

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#8 グルンヴァルトの戦いの後f:id:hisatsugu79:20170309110055j:plain

1410年、バルト沿岸地域へ勢力を拡大しつつあったドイツ騎士団とポーランド王国・リトアニア大公国の間で戦われた中世ヨーロッパ最大の戦い「グルンヴァルトの戦い」を描いた1枚。戦闘中ではなく、戦闘後に傷つき倒れた人々が横たわる戦場を描くことで、同じキリスト教国同士で争う戦争の虚しさを訴えています。

こういった「戦いの後」の情景を描いた作品は、#11「ヴィートコフ山の戦いの後」、#12「ヴォドニャヌイ均衡のペトル・ヘルチツキー」など、他にもいくつかあります。

「スラヴ叙事詩」写真撮影OKのコーナーもある!

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なんと、今回スラヴ叙事詩全20点のうち、5点は写真撮影がOKとなっています!折角の機会なので、是非カメラをもってお出かけください。こういった貴重な外国から出展される作品では、通常は絶対に写真撮影禁止となるので、今回の措置は主催者側の英断だと思います。素晴らしい!

5.その他印象に残った展示

5-1.「四つの花」

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ミュシャがアール・ヌーヴォー期にパリで描いた作品群の中でも、特に人気の高いこの連作4枚。リトグラフで大量生産され、庶民にも安価に手に入った上、様々な商業印刷で引用、転載されました。どこかしら見たことがあるのですが、でも不思議と見飽きないのがミュシャの芸術の凄いところです。 

5-2.紙幣のデザイン

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ミュシャは、祖国へ帰国してから「スラヴ叙事詩」を手がける傍ら、祖国の役に立つ仕事であれば無償で引き受けることも多かったそうです。展覧会では、上記のチェコスロヴァキアの各種紙幣や、切手類がまとめて展示されています。

5-3.ボスニア・ヘルツェゴビナ館の壁画下絵

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1900年の万国博覧会で手がけた「ボスニア・ヘルツェゴビナ館」の壁画下絵です。下絵なのに絵から力がにじみ出ており、思わず見入ってしまいました。

当時、オーストリア帝国は施政下に入ったばかりのボスニア・ヘルツェゴビナでしたが、ミュシャはバルカン地方の民族伝承や伝説から着想を得て、彼らの歴史・神話をテーマに壁画を描き込みました。この作品製作がきっかけとなって、ミュシャは「スラヴ叙事詩」の構想へと入っていきます。

5-4.「ハーモニー」

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ミュシャのアメリカ時代、スラヴ叙事詩にとりかかる直前に製作された油彩の大作絵画。ニューヨークのドイツ劇場の装飾として横長の画面に変更され、現在では堺アルフォンス・ミュシャ館の目玉作品の一つになっています。

6.グッズコーナーの様子はこんな感じ

ブックマーク、チケットホルダーf:id:hisatsugu79:20170309101538j:plain

ノート、一筆箋など
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ミュシャの美麗なデザインで読書をしたりメモを取ったり、贅沢ですね。僕も一筆箋とチケットホルダーを買いました!

クラシック音楽のミュシャ展記念盤f:id:hisatsugu79:20170309101653j:plain

「スラヴ賛歌」やスメタナ「わが祖国」の展覧会記念盤が発売されていました。CDのジャケットが「スラヴ叙事詩」となっています。

チェコの藍染「Violka」各種グッズf:id:hisatsugu79:20170309101956j:plain

チェコに伝わる伝統的な藍染の布製品がすごくきれいで印象的でした。他の展覧会ではまず見ないコラボ製品です。 

7.まとめ

上記で散々「良かった!」と絶賛しましたが、絶対に書籍や画像ではなく、実物を見に行ってほしいです!その巨大な絵画のスケール感に圧倒されますし、光の使い方、描かれた人物たちの表情、こちらを見据える眼力などは、「ナマ」の絵画を見ないとわかりません。是非、万障繰り合わせの上展覧会にお出かけください!!

それではまた。
かるび

展覧会の関連資料

新書「ミュシャのすべて」

日本でNo.1のミュシャ・コレクションを誇る公立美術館、堺アルフォンス・ミュシャ館が今回のミュシャ展を見据えて出版した新書版のミュシャガイド。ミュシャの人物像、活動の詳細から、代表的なミュシャ作品、そして何と言っても「スラヴ叙事詩」全20点の詳細解説がついてきます!予習に、また展覧会リピートするための復習にもぴったりな1冊。新書なのにがっつりカラーページがついて、この値段は凄い!僕ももちろん速攻でゲットしました!

ミュシャ展公式図録

今回のミュシャ展では、公式図録がAmazonや一般書籍店舗でも普通に発売されました。Amazonでは、発売前にすでに「美術カテゴリー」人気No.1のベストセラーとなる爆発的な売れ行き!図録ですから、当然展覧会の全ての作品を大画面カラーでしっかり網羅し、学芸員や専門ライターによる詳細な解説も読み応え抜群。2017年を代表する最高の展覧会ですので、アートファンなら絶対に記念に押さえておきたい図録ですね!

MUCHA アール・ヌーヴォーの奇才 「アルフォンス・ミュシャ」の願い【特別付録:公式トートバッグ&ポスター】

こちらはミュシャ展に合わせて出版されたムック本。ちょうど上で紹介した新書をコンパクトにして、写真を大画面にしたまとめ本。嬉しいのは特別付録のトートバッグですね。このために購入してみてもいいかも!

スメタナ「我が祖国」(ミュシャ展開催記念盤)

今回のミュシャ展開催に合わせて発売された、チェコのクラシック音楽の金字塔、スメタナ「我が祖国」(1908)です。ちょうどミュシャが「スラヴ叙事詩」の制作にとりかかる直前にリリースされ、彼はこの作品から大いにインスピレーションを得ていたようです。今年は、特に日本ーチェコ国交回復60周年を記念した演奏会も多く開催されますが、特にスメタナ「我が祖国」は定番中の定番として、取り上げられる頻度は高いと思われます。今回リリースされた記念盤は、何と言ってもジャケットが素晴らしいです!

その他、ミュシャの書籍やグッズを探す!

上記で紹介した他にも、続々とミュシャ関連アイテムが発売されています。もしよければ、こちらにAmazonと楽天のリンクを用意しましたのでご活用ください。

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「ミュシャ展」開催情報

ミュシャ展は、国立新美術館のみの開催で、特にこのあと巡回予定はありません。「スラヴ叙事詩」は、遠征しても見る価値のある逸品です!

◯美術館・所在地
国立新美術館
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2 
◯最寄り駅
地下鉄「乃木坂駅」6番出口直結/JR・地下鉄六本木駅徒歩7分
◯会期・開館時間・休館日
午前10時―午後6時
※毎週金曜日、4月29日(土)-5月7日(日)は午後8時まで
※入場は閉館の30分前まで 
◯公式HP
http://www.mucha2017.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/thisiskyosai

【ネタバレ有】「モアナと伝説の海」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/美麗なCGで自分探しの旅を描いた傑作映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月10日に封切られたディズニー56作目となる新作アニメ映画「モアナと伝説の海」を見てきました。物凄いきれいな映像にびっくりしました!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「モアナと伝説の海」の基本情報

<映画「モアナと伝説の海」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
【配給】ディズニー
【時間】107分

ジョン・ラセターが製作総指揮に入ってからすっかり複数監督、複数脚本のオールスター体制で製作されるようになった最近のディズニー映画。今作も監督二人の協業体制で名作を作れたのでしょうか?

2.主要登場人物とキャスト

ここ最近は「ズートピア」「アナ雪」といい、女性主人公のほうが大ヒット作が出やすいディズニー映画ですが、今作でも16歳となった若き村長の娘、モアナが主人公です。各登場人物は、綿密な取材と検証を繰り返して設定されただけあって、その顔立ちや肌の色は南太平洋の島々の人々の特徴がよく出ています。

モアナ(日本語:屋比久知奈)

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メインの劇中歌も担当する屋比久知奈は、ディズニー史上最大規模のオーディションで選ばれたシンデレラガール。現在琉球大学の現役の4年生です。英語字幕版で劇中歌&モアナ役を担当しているAuli'i Cravalhoとは、非常に声質も似ています。声優としての演技は、実写俳優にありがちな妙な素人臭もなくスムーズでした。

マウイ(日本語:尾上松也)f:id:hisatsugu79:20170309164022j:plain

マウイの豪快な外見から見ると意外な人選でしたが、ソロで歌うパートも問題なくこなしていました。あとでエンドクレジットを見て、気づきましたが、言われるまで全くわからなかった・・・。歌舞伎役者の中には歌って踊れる人材が多いですね、、、

タラ(日本語:夏木マリ)f:id:hisatsugu79:20170309164313j:plain

一瞬、声から「ゆばあば」の面影がちらっと見えたような気がしましたが、ディズニーの幹部も夏木マリを起用する際、「千と千尋の神隠し」での声優の実績を考慮に入れて選んだようですね。安定感抜群でした。

トゥイ(日本語:安崎求)
シーナ(日本語:中村千絵)

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モアナの父親、母親役は芸能人枠ではなく、普通の声優さんが起用されました。しかし夫婦で並ぶとこの体格差。ポリネシア系の男子達は、屈強なラグビー選手たちのように、昔も今もマッチョでデカいんですね・・・。

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3.ラスト・結末までのあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.島に伝わる伝説と、モアナの旅立ち

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太平洋に浮かぶ島、モトゥヌイ。人々は、緑と花、ヤシの木など豊かな自然に囲まれた平和な暮らしを送っていた。

物語は、モトゥヌイの村長、トゥイの娘、モアナがタラおばあちゃんが語る島の伝説を熱心に聞き入るところから始まる。タラおばあちゃんは、モアナに語った内容は、このような話だった。

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昔、地球には海しかなかった。やがて、テ・フィティという女神が作り出した母なる島が出来上がり、テ・フィティは自らの「心」の渦巻きから命を生み出し、周りに木々や花で埋め尽くされた沢山の島を作り出していった。しかし、島々の平和は、テ・フィティの「心」を独り占めしたいと欲しがる者たちによって、乱されていくことになった。

ある日、マウイという、風と海を司る屈強な半神半人が、自身の持つ「神の釣り針」でテ・フィティの「心」を釣り上げた。「心」を失ったテ・フィティの島々は崩れ、この世に初めて「闇」が訪れた。

マウイは逃げようとしたが、その時現れた大地と炎の悪魔「テ・カァ」との戦いに負け、マウイは「神の釣り針」とテ・フィティの心の両方を失ってしまい、彼もどこからかへと姿を消してしまった。

タラが語る伝説によると、いつの日か、マウイを探し出し、海を渡りテ・フィティの元に行って「心」を戻す使者が現れる日が来るのだという。

父、トゥイが村人に対して、サンゴ礁を越えて遠洋に出るのを厳しく禁じたにもかかわらず、モアナは、幼少の時から不思議と海に魅せられていた。いつも呼ばれているような気がするのだ。

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モアナは、幼少時、不思議な経験をした。鳥につつかれていた子ガメを守った時、海が形を変えて、心を通じ合ったことがあった。その時、渦巻き色の形をした緑色のきれいな石をもらったのだが、父親に呼ばれた時になくしてしまったのだった。

モアナが16歳になった時、父、トゥイは村人たちの前で正式にモアナを次代の村長候補に指名し、代々の村長だけが立ち入ることのできる山の頂上へ連れて行った。モアナは、海へ惹かれる気持ちはそっと胸にしまいつつ、モトゥヌイで村人たちと平和な暮らしをしようと誓うのだった。

モアナが村長になるための修行を始めた時、村に異変が発生した。ココナツの実が腐り、近海で魚が急に採れなくなったのだった。モアナは父の前で、サンゴ礁を越えて漁に出ることを提案したが、父に猛反対された。気持ちを押さえきれないモアナは、父に黙って一人で遠洋に漕ぎ出したが、高波にさらわれて命からがら岸辺に戻りついた。

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それを見ていたタラは、モアナを秘密の洞窟へ連れて行った。その洞窟には、1000年前の先祖がモトゥヌイへとたどり着いた時に使った帆船が置かれていた。帆船の太鼓を叩いた時、海を渡り歩く旅人だった祖先のイメージが心に湧き、彼らと心で通じ合ったような気がしたモアナだった。

タラは、ペンダントの中から渦巻きの模様がある緑色の石を取り出し、モアナに手渡した。それこそが、テ・フィティの「心」であり、タラは、モアナこそが伝説の予言にある通り、海に選ばれてマウイとともにテ・フィティの心を返しにいく使者なのだと告げた。

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その夜、タラは危篤状態に陥り、モアナは、タラから形見としてペンダントを受け取り、黙って先祖の残してくれた帆船で単身海に漕ぎ出していった。出航した時、亡くなったタラが「エイ」となって、モアナを送り出してくれた。

3-2.マウイとの出会いとテ・フィティへの旅

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海に漕ぎ出したモアナだったが、間もなく嵐に遭遇し、モアナは気を失ってしまった。モアナが目を覚ました時、モアナは無人島に流れ着いていた。しかし、そこがまさに伝説のマウイが幽閉されていた場所だった。

しかし、マウイを説得するのは一筋縄では行かなかった。マウイは、カニ型の魔物、タマトアに奪われてしまった「神の釣り針」を取り返しに行くため、モアナの隙をついて船を奪って島を出ていこうとした。モアナの懸命の説得で、マウイは「神の釣り針」を先に取り返すことを前提に、モアナとテ・フィティの島へ「心」を返しに行くことに応じた。

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順調に旅を続ける二人だったが、そこへテ・フィティの「心」を狙う海賊、カカモラが現れて、二人を襲撃してきた。奮戦したが多勢に無勢、一度はテ・フィティの「心」を奪われ、劣勢になったマウイは逃げ出そうとするが、モアナは機転を効かせて戦い抜き、テ・フィティの「心」を取り戻して、自滅したカカモラから逃げることに成功した。

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次に、二人はタマトアの住む島へとたどり着いた。単独行動で釣り針を取り戻そうとするマウイに無理やりついていったモアナだったが、二人は見事な連携プレイでタマトアを引っくり返し、身動きが取れない中「神の釣り針」を取り返た。マウイは、次第に勘を取り戻し、「神の釣り針」を使って自在に変身できる力を取り戻した。

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相次いで困難を乗り切り、信頼関係が強くなった二人は、その後協力し合ってテ・フィティのところへと向かった。マウイは自分の過去をモアナに打ち明け、モアナはマウイから航海術を教わり、一人前の相棒として認められた。

3-3.テ・カァとの対決

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そして、いよいよテ・フィティの島が近づいた時、二人の前に溶岩の悪魔「テ・カァ」が立ちはだかるのだった。勇敢に戦おうとするも、全く刃が立たず、大切な「神の釣り針」を壊されそうになったマウイは完全に心が折れてしまい、モアナの元を去ってしまった。

土壇場で相棒に立ち去られたショックから、モアナも海にテ・フィティの「心」を返し、使者の役目を一旦降りて島へ帰ろうと決意する。しかし、その時どこからともなくエイが現れ、エイはタラに姿を変えて、モアナを優しく諭した。どんな時も必ず無条件に暖かくモアナを見守ってくれる「海」のような祖母に心を打たれ、この時モアナは自分が何者であり、何をすべきなのかハッキリと心の中に悟った。

迷いがなくなったモアナは、一人でもテ・カァの居場所をすり抜け、テ・フィティの島へと向かうことを決意した。そして、テ・カァと向き合った時、一旦は去って行ったマウイが戻ってきてくれた。

マウイの力強いサポートもあり、モアナはテ・カァをやり過ごして、テ・フィティの島へとたどり着いたが、肝心のテ・フィティの「心」を返す場所がなくなっていた。その時、モアナに追いついてきたテ・カァの胸の当たりを見てみると、渦巻状になっている部分を見つけた。

モアナは、テ・カァに近づいていき、テ・カァこそが「心」を失ったテ・フィティであることを見破った。そして、テ・カァにその緑色の石をはめ込むと、テ・カァの呪いが解けて、テ・フィティは「心」とともに原初の姿を取り戻した。

3-4.冒険の終わりと、モアナの新たな旅の始まり

これにより、南の島々にはふたたび平和が戻り、モアナはモトゥヌイに戻り、父・母、村人たちとの再会を果たした。モアナはマウイを島へと誘いましたが、マウイはひとりでいる自由を選んだ。二人は、ハグをしてお別れをした。

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島に戻ったモアナは、村長になるのではなく、昔の先祖たちがそうであったように、自分の心に従って、海の旅人として村の人々たちと生きていくことを決意したのだった。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.美麗すぎる海の表現

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新海誠やSAOなど、日本のアニメの作画レベルも相当に向上していますが、ディズニー長編アニメも物凄いレベルに到達しています。3年前の「アナ雪」でも雪や氷の質感、なめらかな登場人物たちの動きに驚嘆しましたが、「モアナ」はそれを遥かに上回る印象です。

特に、波打ち際の自然な海の質感や、粘性のある溶岩のどろどろした粘り気、赤道直下の明るい空や海、緑の島々は見ているだけで惚れ惚れするレベルでした。 

4-2.敵を倒さない冒険もの映画!

テ・フィティの島にたどり着くまで、モアナは海賊のカカモラ、巨大なカニのタマトア、そして最後に溶岩の悪魔テ・カァと、合計3度の戦いを経験します。

面白いのは、どの戦いでも敵に対して多少はマウイが攻撃しますが、一度も敵を倒さずに切り抜けているのですよね。カカモラには船をぶつけあって自滅するように仕向け、タマトアはひっくり返して終わり、テ・カァに至っては戦わずにすり抜けようとします。

過去のディズニーアニメ映画を含め、普通の冒険ファンタジーストーリーでは、ボスクラスの敵を完全に「倒す」ことが主人公たちの成長、成功の象徴として描かれ、RPGゲームのように戦って勝つシーンが明確に描かれる作品がほとんどです。

そんな中、敵を一切殺さず、倒さず、といったこの「モアナと伝説の海」は例外的な冒険もの映画だったかなと感じます。

4-3.恋愛要素はまたしても二の次に!

そして、今作では主人公たちは敵を倒さなければ、恋愛もしないという異例づくしなのです(笑)

もっとも、最近のディズニーの大作長編アニメは、恋愛要素が本当に薄いですよね。「アナ雪」では、サイドストーリーとして妹アナと雪山で出会ったクリストフが最後に恋仲になりますが、メインテーマはアナとエルサの「姉妹愛」でした。「ズートピア」では21世紀のアメリカ社会を強く暗示させる「差別と偏見」が描かれ、主人公のジュディとニックの恋愛シーンは一切なし。そして「ベイマックス」では、「友情と家族愛」が主題でした。

今作でも、ラストシーン直前でモアナが「島に残ってくれてもいいのよ」と軽く誘いますが、マウイはあっさり断り、二人の関係は友情以上には発展しません。二人はハグし合っただけで、男女関係的なシーンは全くなかったのは潔いなぁと思いました。

まぁディスニー映画としては、エマ・ワトソン主演でド直球の恋愛系の実写大作「美女と野獣」が4月に上映されるから、そっちを見てください!ということですね(笑) 

4-4.今作のテーマは「自分探し」。

今作でのテーマは、恋愛でも成功でもなく、非常にわかりやすい形で「自分探し」であることが歌やセリフから明確に提示され続けます。

モアナとマウイの島々への冒険の旅は、自分探しの壮大なメタファーでした。海の厳しさを身にしみて味わった父から何度諭されても、どうしても「海」に出てみたいという直感に導かれ、島の危機を救うため伝説の教えに従って冒険に出たモアナは、いくつかの成功体験と挫折の果てに、「自分とは何なのか」「自分の行くべき道」を知るのです。

映画の最初から「モトゥヌイのモアナ!」と自分のことを呼んでいたモアナも、物語後半でついに自分自身を知り得た時、単に「私はモアナ!」と歌の中で力強く宣言していたのが非常に印象的でした。

また、モアナの相棒、半神半人のマウイは、「神の釣り針」で人間の役に立つことを自分自身のアイデンティティとして強く認識することで(それ自体は無私の心で非常に尊いのですが)、無意識に幼少時に母に捨てられた寂しさを埋め合わせていました。しかし、そんなマウイもモアナを信じ、「神の釣り針」が壊れても自分自身であろうとしました。

冒険を通して、モアナとマウイはともに、自分を規定していた過去の何かを捨て、シンプルに「いまここの自分自身」に立ち戻ります。本当にやりたいこと、本当の自分とは、自分の外側にある概念や属性によりかかっていては見えてこないのですよね。(例えば、モトゥヌイの村長である私、とか、神の釣り針を持つ強い俺といったもの)

そうではなく、自分自身の内側から湧き上がる強い気持ちに素直であろうとした時、二人は「自分は誰なのか」「進むべき道はどこにあるのか」という自分自身の根源的なアイデンティティを手にしたのでした。

結果として、モアナは「海の旅人」として生きていくことに迷いがなくなり、マウイは過去のトラウマから開放されて、「神の釣り針」なしでも強い心を取り戻すことができました。

今作は、自分のやるべきことは何なのか、自分とはどんな存在なのかを探求しようとした時、シンプルに「今の自分自身の気持ち」に従うことの大切さを、南太平洋の寓話をミックスさせた長編アニメで表現した傑作だったと思います。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.「モアナ」「マウイ」の意味とは?

マウイという言葉は、ハワイ、トンガ、サモア、タヒチ、ニュージーランドやポリネシア諸島の人々の間で、共通して「神」という意味合いを持つ言葉です。これに対して、モアナという言葉は、「太平洋」や「海」という意味を持ちます。

彼らの伝説の中では、原初には「海」(Moana)だけがあり、そこから「神」(Maui)が島々や人々を創造した、とされていますから、映画での主人公たちの名前は、まさに彼らの根源的なアイデンティティ、ルーツを象徴していたのですね。ちなみに、映画中では、マウイが「神の釣り針」で島々を釣り上げたのだ、と発言していました。

余談ですが、イタリア、フランスなどヨーロッパの多くの国では、「Moana」という名称が80年代活躍した有名なポルノスター(Moana Pozzi)と混同するのを避けるため、「Vaiana」や「Oceania」というタイトルに変更されました。ヴァイアナ?ピンとこないかも・・・

5-2.ペットのブタ、プアの存在について

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ディズニーの長編アニメ映画に欠かせないのは、主人公にお供するコミカルな動物たちですよね。今作では、にわとりのヘイヘイとブタのプアが務めましたが、ブタのプアは、モアナとともに冒険に出ることもなく、島に残るなどして、存在感が中途半端なのですよね。

変だなと思って調べてみたら、どうやら映画製作開始当初はプアとの出会いをしっかり描き、モアナとともに冒険に出かける設定だったそうです。でも海上の冒険でブタが活躍するシーンは描きづらく、大幅に出演シーンがカットされたのだとか。

ちなみに、削られたモアナとプアの出会いのシーンですが、もともと家畜だったプアは食が細く、弱っていたところをモアナがみつけ、大切にペットとして飼育することになったというエピソードだったようです。

5-3.回想シーンで登場した先祖の名前は「マタイ」

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先祖の船が隠された洞窟で太鼓を叩いたモアナが、回想シーンで出会った先祖の名前は「マタイ」と言います。彼は、1000年前に海を渡り歩いてモトゥヌイにたどり着き、最初に定住した偉大な村長でした。モトゥヌイが息子にネックレスを譲り渡す世代交代のシーンも描かれていましたが、このネックレスこそが、村長の家系に脈々と受け継がれ、タラが死ぬ時にモアナに渡した形見のネックレスだったのですね。

ちなみに、マタイはクライマックス前に落ち込んだモアナがゴースト姿のタラに再会した時にもちらっと登場して、モアナを勇気づけていました。

5-4.モアナはなぜ「海に選ばれた」存在になったのか

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今回のモアナの冒険では、最初からラストシーンまで様々な局面で「海」がモアナのピンチを支えてくれます。祖母、タラからも「お前は選ばれた存在だ(The Chosen One)」だとモアナは繰り返し聞かされます。

なぜモアナが選ばれた存在になったのか、その根拠としては、単に族長の娘だったからではありません。その根拠は、映画冒頭で描かれています。海へ帰っていく子ガメを攻撃しようとした海鳥から守り、子ガメを無事に海へ送り届けたシーンを「海」はちゃんと見ていたのですよね。その直後に海が割れて、海から緑色の石、テ・フィティの「心」がモアナに託されたのでした。

5-5.ラストシーンでモアナはどこへ行ったのか

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エンディングで、モアナが両親たちと遠洋に旅立つシーンがありましたが、モアナはどこへ行ったのでしょうか?直接説明はありませんでしたが、以下の状況から、モアナはモトゥヌイを出て、別の島を見つけ出す長旅に出たのでしょう。そして、両親を両脇の船に従えていたことから、モアナは彼女自身が選んだ生き方と合うかたちで、実質上村長を父、トゥイから継承したようにも見えます。

<モアナが長旅に出たのだとわかる根拠>

・モアナが内なる声に従い「海を旅して生きていく」ことを選んだこと
→テ・カァとの2度目の遭遇前、タラと再会した時、本当の自分の気持ちに気づくシーンが描かれている
・モトゥヌイの島の山頂に海で拾った巻き貝を置いたこと
→村長になる者は、そこに必ず自分の石を置かなければならない。島の象徴である重たい「石板」ではなく、海を連想させる「巻き貝」を置いていた。
・サンゴ礁の手前で手を振って見送るモトゥヌイの人々が一定数いたこと
もっとも、ここは「村人たちを訓練しているのだ」「お祭りとして出かけたのだ」という解釈もネット上でちらほらありましたので、どれが「正解」というのはなく、映画を見た人に解釈が任されているのだと思います。

6.劇中歌、エンディングは誰が歌っているの?

ディズニーアニメ映画で主人公が劇中で繰り返し歌う主題歌は、プロモーションの段階から徹底して積極的に公開されます。(通称「I Want Song」「I Wish Song」とアメリカでは言われます)先例に従って劇中歌とエンディングでそれぞれ異なる歌手が担当しています。これが、日本語吹替版/英語字幕版と2つずつあるからややこしいのですが、公式サイトに4人とも歌声がアップされていますので、少し聴き比べてみるのも面白いと思います。

ということで、順番に見ていきましょう・・・

6-1.日本語版の劇中歌(屋比久知奈)

<映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版劇中歌>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

「まるで演歌のようにコブシが利いてる」と、リリース前からネットで話題騒然だった屋比久知奈の歌声。無名ですが、何千人ものオーディションから選ばれただけあって、人前でライブで歌った時も安定感抜群ですね。映画ではこの劇中歌を合計2度歌うシーンがあり、ちょっとずつ歌詞が変わります。2パターンとも日本語版サントラに収録されています。

6-2.日本語版のエンディング(加藤ミリヤ)

<映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版エンディング>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

日本語吹替版は、加藤ミリヤが担当しています。MVでは、自らモアナになりきり、南の島でロケをする力の入れようです。しかし、アナ雪のMayJ、神田沙也加といい、ディズニーは一度埋もれかけた才能をふたたび発掘して表舞台に立たせる絶妙の嗅覚がありますね。野球で例えると、まるで野村再生工場のようであります。

原曲に従ってストレートにメロディを載せて歌われた劇中歌と違い、嫌味にならない程度の自分の個性を乗せて、この「How far I'll go」を上手く再解釈していました。こちらも、日本語版サントラに収録されています。

6-3.英語版の劇中歌(アウリィ・クラヴァーリョ)

<映画「モアナと伝説の海」字幕版劇中歌>

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英語版の劇中歌に起用されたのは、ハワイ原住民出身で若干14歳のアウリィ・クラヴァーリョ(Auli'i Cravalho)。モアナの声優担当でもあります。ディズニー映画でヒロイン役を務めた声優の中ではダントツ最年少での起用となりました。

映画が終わってからも、英語圏の国々の歌番組で次々ゲスト出演していますが、その堂々たる歌唱や立ち振舞は、とても14歳には見えません。こちらは、英語版サウンドトラックに収録されています。

6-4.英語版のエンディング(アレッシア・カーラ)

<映画「モアナと伝説の海」字幕版エンディング>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

字幕版エンディングには、イタリア系移民でカナダ出身の20歳のシンガー・ソングライター、アレッシア・カーラが起用されました。10歳で作曲を始め、13歳でYoutubeに自らの歌声をアップしはじめたという、宇多田ヒカルみたいなエリート早熟タイプの若い歌手ですね。

2015年にリリースしたデビュー・アルバムが全米9位になるスマッシュヒットを飛ばした後、モアナで抜擢されて世界的に注目を浴びました。こちらは、日本語版サウンドトラック英語版サウンドトラックに収録されています。

6-5.おまけ「24ヶ国語版」

<映画「モアナと伝説の海」24ヶ国語版>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

映画公開日に新たに追加された24カ国語版。こうして並べてみると、やはりディズニーの方針なのか、どのバージョンも原曲を歌ったアウリィ・クラヴァーリョと声質や歌唱法が良く似ていますね。

7.まとめ

テーマソング「どこまでも~How far I'lll go」とある通り、モアナは自らの心に従って遠い海へと冒険の度に出ますが、結局どこまで行っても答えがあるわけではなく、一番大切なものは、自分の心の内側に最初からあった、ということなんですよね。

だけど、矛盾しているようですが、それは、自らがかつて経験したことがないほど遠い果ての遠洋まで出かけていったからこそ見つけられたものなのかもしれません。

「本当の自分とは何か?」映画を見終わって、単純だけど深遠なテーマと向き合う絶好の機会をくれる、そんな映画だったと思います。何度もリピートしたい良い映画でした。

それではまた。
かるび

 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年3月現在上映中映画の感想記事一覧

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

オリジナルサウンドトラック(日本語版)

日本語吹替版のサウンドトラック。屋比久知奈の劇中歌、加藤ミリヤのエンディングも含まれています。歌曲部分と、純粋なサウンドトラック合わせて40曲以上が収録されていますが、歌曲部分は物語でのモアナ達の心情がわかりやすく日本語で表現されていますので、じっくり歌詞カードを読んでみると、新たな発見がありますよ。ちなみに、オリジナルサウンドトラック(英語版)は、こちらから。

加藤ミリヤ「どこまでも ~How Far I'll Go~」

加藤ミリヤのエンディングをシングルカットした商品。映画に合わせた特別限定生産盤で、かなり売れているようですね。久々に加藤ミリヤの歌声を聞きましたが、昔よりかなり上手になってますよね?!

小説版「モアナと伝説の海」

ノベライズは、幼児向けの絵本、小学生低学年向けのジュブナイル小説、そして小学校高学年以上向けの本作品と、3種類も用意されていますが、大人が読むのであればこれがいいでしょう。劇中のセリフや情景描写などは忠実に小説で再現されています。細部まであとで思い出して文章で楽しみたい人にお勧め!

モアナと伝説の海 ビジュアルガイド

ラストまで網羅したストーリーガイド、個性豊かなキャラクターの紹介や、美しい大自然のアートワークを多数掲載。主題歌の歌詞も収録し、様々な角度から映画を分析した本です。もっと映画のことを知りたいファン向けの決定版です!

Amazon・楽天「モアナ」特設コーナー

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モアナは、やはり大作長編アニメ映画らしく、通常の映画とはケタ違いに発売されているグッズ数が多いです。上記で紹介したノベライズやガイドブック、サントラ以外にも、例えばモアナのフィギュアだったり、先祖代々受け継いだペンダントなど多岐に渡る人気グッズがあります。

Amazon、楽天でもそれぞれ専門の物販コーナーがありましたので、以下にリンクを貼っておきますね。もし必要であれば、お役立てください。

Amazon・楽天「モアナ」特設コーナー
Amazon「モアナ」特設ページを見る!
楽天「モアナ」特設ページを見る!

【ネタバレ有】映画「SING シング」感想とあらすじ・伏線の徹底解説/洋楽の魅力がたっぷり詰まった長編アニメの佳作!

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かるび(@karub_imalive)です。

3月17日にリリースされた新作「シング」を見てきました。イルミネーション・スタジオらしい軽快なテンポで進む、老若男女幅広く楽しめるコメディー作品です。早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。

※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「シング」の基本情報

<映画「シング」公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】ガース・ジェニングス(「リトル・ランボーズ」他)
【配給】東宝東和
【時間】108分
上映時間はコンパクトにまとまった108分。映画「ミニオンズ」シリーズや「ペット」ですっかり日本でも有名になったイルミネーション・エンターテイメントの制作する3DCGアニメ第3弾は、「歌」をテーマとして取り上げた作品となりました。

2016年12月のアメリカ公開を皮切りに世界中で公開され、すでに6億ドル(約720億円)以上の大成功を収めた本作。日本でも春休みを前に満を持して公開されましたが、どうなったでしょうか?

2.主要登場人物とキャスト

本作は、ズートピア同様、人間ではなく動物たちだけが暮らす世界での出来事を取り上げます。現代のアメリカ社会のメタファーとして社会での差別と偏見に焦点を当てたズートピアとは違い、「Sing シング」で取り上げられたのは個人個人のドラマ。劇場支配人のバスターを中心に、集まってきた主役たちの人生を描きます。

今作は、豪華な声優陣に注目です。字幕版、吹替版ともに、一流の俳優やシンガー、声優を起用して鉄壁の布陣。特に楽曲群では、スカーレット・ヨハンソンや長澤まさみが上手だったのが意外でした。演技だけでなく歌も上手いのですね・・・。

バスター・ムーン(マシュー・マコノヒー/内村光良)f:id:hisatsugu79:20170318185323j:plain

吹替版の内村光良は、基本的には前向きで陽性なコメディアンとして、絶妙の配役でした。声の演技も悪くなく、違和感なくスッと入っていけます。鬱陶しいほど空元気を発揮するバスターの性格をしっかり声だけで表現できていました。

字幕版のマシュー・マコノヒーも「ダラス・バイヤーズクラブ」や「インターステラー」のようなシリアスな役から、こういったアニメ声優まで、本当に多才なカメレオン俳優を発揮しています。

ロジータ(リース・ウィザースプーン/坂本真綾)f:id:hisatsugu79:20170318185405j:plain

家では子供を25匹抱え、家事育児に全く興味のない無気力な夫を抱えて孤軍奮闘する毎日。すっかり家の中で落ち着いてしまい、自信がなくいつもおろおろしているような気の弱い主婦を日米両声優とも上手に表現しています。

ちなみに、ブタは多産で、1回の出産で10匹~12匹の子供を生むので、家で25匹の子供がいるのも納得ですね。

マイク(セス・マクファーレン/山寺宏一)f:id:hisatsugu79:20170318185439j:plain

山寺宏一のほれぼれするような大人びた歌声がとにかく素敵でした。彼は本当にいい仕事をする超一流の声優ですね。最近は、主演で出るより、こういった脇役のほうがいぶし銀の活躍をする傾向にあるような気がします。

アッシュ(スカーレット・ヨハンソン/長澤まさみ)f:id:hisatsugu79:20170318185347j:plain

長澤まさみが上手だったのも驚きですが、スカーレット・ヨハンソンがもとはシンガーソングライターで、様々なアーティストとのコラボも入ったオリジナルアルバムを2枚も発表済みというのが凄い。俳優業としても歌手としても大活躍です。

ミーナ(トリ・ケリー/MISIA)f:id:hisatsugu79:20170318185452j:plain

こっちは、どう聴いてもMISIAの歌声なんですが、ソウルフルで声域の広い壮大なバラードを簡単に歌い上げてしまうMISIAはさすがの人選。というより、よくこういう役回りを引き受けたなぁとびっくりです。吹替版のハイライトは、MISIAの歌声であると言っても過言ではありません。

ジョニー(タロン・エガートン/大橋卓弥)f:id:hisatsugu79:20170318185611j:plain

目を閉じて歌唱シーンを聴くと、やっぱりスキマスイッチを連想してしまうのですが、でも大橋卓弥は昔に比べると歌唱が安定しましたね。声優としても違和感なく、多才な才能があるんだなぁと驚きました。

エディー(ジョン・C・ライリー/宮野真守)f:id:hisatsugu79:20170318185650j:plain

脇役にも日本の実力派人気声優をあてて、スキのない布陣でした。メイキングビデオで、各声優陣の中で出演できたことを一番喜んでいましたね。

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3.結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.バスター・ムーンの起死回生の作戦「歌のコンテスト」

経営不振で取り壊し寸前のムーン劇場。支配人で、コアラのバスター・ムーンは、6歳の時に「自分の劇場を持つ」という夢を見て以来、その夢を一旦叶えはしたが、現実は厳しく、今日も朝から未払いとなっていた費用の催促を受けていた。

ムーンは、お客さんへの対応を秘書のミス・クローリーに任せると、一旦屋根裏部屋から外へと脱出した。と、その時、劇場を救う起死回生の一手を思いついたのだ。

早速、親友のひつじのエディにプランの内容を打ち明けるのだった。バスターは、賞金つきの歌のコンテストの開催を思いついたのだった。市中に埋もれている人材をコンテストで発掘し、本物の才能を持った彼らを劇場で歌わせることにより、劇場に人を呼ぶ起爆剤としたいと考えたのだった。

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劇場へ戻ると、バスターは早速、コンテストのチラシを作ら、街中にばらまいた。手持ちの資金が900ドルちょっとだったので、「豪華賞金1000ドル」として、チラシをばらまいたのだった。しかし、この時ミス・クローリーのタイプミスによって、チラシには、「豪華賞金100,000ドル」と書かれてチラシが配布されてしまったのだった。

次の日、バスターが目覚めると、ものすごい数の候補者が劇場に列をなしていた。そこで、バスターは、コンテストの前に一旦オーディションを行い、最終候補者6名を絞り出した。

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父が営むギャング稼業から足を洗い、歌手になりたいゴリラのジョニー、パンク少女のシンガーソングライター、はりねずみのアッシュ、家事と育児に追われるブタの専業主婦ロジータ、派手好きなハツカネズミのシンガーのマイク、大柄でハイテンションなブタのダンサーのグンター、ラクダのピート、カエルの3人組の合計8組を登用した。

3-2.問題山積のリハーサル

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バスターは、ここでようやくチラシに記載したのが「1000ドル」ではなく「100,000ドル」であること気づいた。泣いて落ち込むミス・クローリーを慰めつつ、バスターは金策にめどをつけるため、ふたたびエディの元を訪れるのだった。

エディは金持ちの御曹司であり、彼なら資金を出せるはず。そう考えて尋ねてみたが、流石に断られてしまう。しかし、一旦プロジェクトが動き出したらやるしかない。バスターは、最終候補者たちに明日からコンテストのリハーサルを開始すると告げるのだった。

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しかし、候補者は候補者でそれぞれ問題を抱えていた。ジョニーは父の新たな強盗計画の手伝いをしなければならず、いつ父から呼ばれるかハラハラしながらの参加となった。ロジータはリハーサル中の彼女の子供達の子守と家事を何とかしなければならず、ベビーシッターに断られたので、徹夜で育児と家事をこなす機械を作って凌ぐことにした。また、アッシュは一緒にオーディションを受け、落とされた恋人ランスとの折り合いが悪くなっていた。不機嫌なランスをなだめつつの参加だった。

そして、リハーサルが始まったが、劇場内でも問題が続出するのだった。カエルの3人組は喧嘩が絶えず、リハーサル中に帰ってしまい、さらにリハーサル中に電気が切れたのだった。先月から電気代を支払っておらず、リハーサル中に止められたのだ。

屋根へ出て、電気を隣のビルから勝手に引っ張ろうとしたバスターだったが、一人では上手くできなかった。そこへ、昨日不合格にしたゾウのミーナが通りかかった。バスターは、ミーナに手伝ってもらい、何とか電源確保の応急措置を完了させた。この娘は何かと使える。そう考えたバスターは、ミーナを裏方役として急遽採用するのだった。

リハーサルが終わると、マイクは銀行に向かい、近日中に10万ドルが入ると大風呂敷を広げ、銀行でプラチナカードの発行を受けることができた。この資金をネタにさらに大儲けしてやる、と考え、先日フラれたハツカネズミのナンシーを伴って、カジノへ行くのだった。

翌日、劇場には銀行の取り立てとしてジュディスが来ていた。期日までに返せないと、土地を差し押さえるという。バスターは、ふたたびエディの家に行き、金策を相談した。すると、エディは水曜日に祖母のナナ・プードルマンと会う予定があるという。すでにエディの両親には警戒されているバスターだったが、祖母のナナにアピールすることで、資金調達できるかもしれない、そう考えたバスターは、まずナナをコンテストのリハーサルへと招待し、投資を検討してもらうことにした。

その日のリハーサルでも、トラブルが続出した。カエルの3人組は決定的に仲が悪くなり、本番出演ができなくなった。また、ラクダのピートはリハーサル中のケガで、本番出場が厳しくなったのだった。バスターは日本から来たレッサーパンダの5人組のアイドルに声をかけたり、ミーナを裏方から昇格させようとしたが、上手く行かなかった。

リハーサル終了後、アッシュが帰宅すると、同棲中のランスは、ベティという別のハリネズミの女を家に連れ込んでいた。失意と怒りで当惑したアッシュは、ランスとベティを家から追い出した。

また、ハツカネズミのマイクは、カジノで勝ちまくっていた。トランプにイカサマをして、ポーカーでマフィアのクマから金を巻き上げたのだ。イカサマが発覚したが、捕らわれる寸前に金を持って脱出することに成功したマイクだった。しかし、その後マイクは執拗にクマのマフィアから追われることになった。

そして、水曜日。バスターは、エディの祖母、ナナを訪ねて、コンテストのプランを説明し、懸命にナナを説得した。当初は難色を示していたナナだったが、バスターの熱意に負けて、劇場でのコンテストのリハーサルへ足を運んでくれることになった。

劇場へ帰ると、バスターは翌日、劇場でナナを招いて通しリハーサルをすると皆に宣言した。その日のリハーサルも、やはり問題は山積だった。彼氏と別れて傷心のアッシュ、ダンスが上手く踊れないロジータ。そして、一番の問題は、ジョニーだった。リハーサルの合間に、父の強盗を手伝うはずだったが、交通渋滞に巻き込まれ、父が収監されてしまう。

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収監された父を見舞ったジョニーは、歌手になり、コンテストで得た賞金で父親を保釈させる計画を語ったが、がっくりした父には理解されなかった。ジョニーは、いち早く父を保釈させるため、夜中に劇場に忍び込んで金を盗もうとしたが、そこでバスターのオーディションメモを見て、思い直した。ジョニーは、居合わせたミス・クローリーと夜通しピアノを練習して翌日の通しリハーサルに備えるのだった。

また、バスターは、劇場の装飾に巨大な水槽を設置して、演出を盛り上げようと考えついた。巨大な水槽のセットを作ると、その夜、ミーナとともに水道の配管を変更し、レストランからイカを盗み出した。

3-3.大失敗したリハーサル、大崩壊した劇場

そして、通しリハーサルの当日。ナナがエディと一緒に劇場にやってきた。劇場には、照明用のイカを満載した水槽の設置が完了していた。そこへ、先日マイクが金をだまし取ったギャングのクマが乗り込んできた。その場を収拾するため、マイクは勝手に賞金の入ったカバンを開けたところ、中には1000ドル弱しか入っていないことがみんなにバレてしまった。ロジータやアッシュたちも一斉にバスターに詰め寄った。

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その時、水圧に耐えかねた水槽にひびが入り、裂け目から水が出てきてしまった。劇場内は大洪水になり、人々は逃げ惑った。何とか誰一人傷つくことなく脱出したが、劇場内は水浸しでめちゃくちゃになってしまった。そして、この時のダメージが元で、倒壊してしまったのだ。こうして、ムーン劇場はコンテストを実施するまでもなく、終了してしまった。

3-4.どん底からの復活

一文無しになり、エディの家に逃れたバスターはしばらく落ち込んでいたが、やがて意を決して、亡くなった父同様、洗車業をスタートしたのだった。エディも手伝ってくれて、あっという間に洗車業は繁栄した。

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そして、バスターは、ある日劇場の跡地で一人で歌っていたミーナの歌声を聴いて、劇場を再開することを決意した。野外の即席劇場だったが、全員で今やれること準備をして臨んだのだった。

いよいよ劇場復活の日がやってきた。あの日計画したコンテストの決勝メンバーが、一人ひとり心を込めて踊り、歌っていく。コンサートスタート時は、出演メンバーの身内しかいなかった劇場だったが、プログラムが進むにつれて人がどんどん入ってきた。

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トリを務めたのは、とうとう人前で歌うことができたミーナだった。トリが終わる頃には劇場は超満員。満月の夜にムーン劇場はドラマティックに復活したのだった。

後日、この日のショーを見ていたナナの支援で、ムーン劇場が再建された。バスター・ムーンは、新しくなったムーン劇場で仲間たちと新たな決意を誓うのだった。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.ただ可愛いだけだった「ペット」からテーマ性を持たせて進化した本作

前作「ペット」は都会の高層マンションで飼われているペット達が、人間のいない間に繰り広げるドタバタ大冒険をコミカルに描いた100分弱の映画でした。ハイレベルな作画と、目まぐるしく展開するスピード感や可愛くて痛快なアクションシーンが観客を魅了する一方で、テーマ性がやや薄く、物語の意味や深みを求める人達には不評でした。

その批判を踏まえたのか、今作では、各キャラクターにしっかりとしたバックグラウンドを持たせつつ、「なぜ歌うのか」、また、歌うことによって「何が変わるのか」、各キャラクターの自己実現や成長に焦点を当てようとしていました。

見栄っ張りで適当だけど、どこまでも前向きな主人公、バスター・ムーンを筆頭に、夫の無関心により、家事育児に忙殺されて自己評価の低い主婦ロジータ、貪欲で金でしか動かないネズミのマイク、父の営むギャング稼業と自己実現の狭間で悩むゴリラのジョニー、彼氏より才能があるのは明らかなのに、彼氏に抑圧されているアッシュなど、キャラクターの魅力は素晴らしかったです。

それぞれ訳ありで問題だらけの彼らが集まり、一旦はどん底まで落ち込んだ彼らが、再び立ち上がり、ベストを尽くします。そして、野外公演を大成功させて、「歌」の力で自己実現を達成するラストシーンは非常に溜飲が下がり、観客のカタルシスを満たしてくれました。

4-2.惜しいのは、途中のプロセスの描き込みが雑だったこと

映画的な尺の長さから仕方のないことではあると思うのですが、やはり主役が何人もいれば、一人ひとりの描き込みはどうしても薄くなります。今作は、一人ひとりのキャラの魅力は確かにあるものの、キャラがちゃんと動き出しません。物語の最初と最後だけが描かれ、起承転結でいうと「承」と「転」の部分がほとんど描かれていないことが気になりました。

例えば、ロジータが自動で育児家事をする装置を徹夜で一気に製作するシーンやジョニーがほとんど素人の状態から、数日でピアノをマスターするシーン、あるいは、一度劇場が潰れ、洗車ショップを立ち上げて成功するまでのシーンなどです。相当に骨が折れそうな大変なエピソードであるにも関わらず、どのシーンも物事が達成されるまでのプロセスが描かれることなく、一瞬で御都合的に物事が成就していくのですよね。

終始こんな感じなので、なんとなく映画全体が「点」と「点」をつなぎ合わせたダイジェスト番組的なノリに見えてきてしまい、感情移入する前に映画が終わっていたという感じでした。脚本やストーリー至上主義のディズニーとはこのあたりの完成度においてまだ少し差があるのかな?というのが率直な印象です。

4-3.とは言ってもやっぱり歌の力は大きい!

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映画の中盤までは、ややブツ切れ感のあるストーリーや、秒単位で小出しに散りばめられた楽曲群にイライラさせられたのですが(きゃりーぱみゅぱみゅの曲なんて3回もあったのに全部1~2秒しかかからない)、クライマックスで5人のキャラクターが歌うシーンは圧巻でした。

ロジータ(とグンター)のダンス曲、ジョニーのR&B、アッシュのパンクロック、マイクのオールディーズ、そして最後にミーナのソウルフルなバラードが5連続で続いていく歌のシーンは、それまで何となくもやっとしていた細かいイライラを吹き飛ばしてくれました。歌そのものも良い選曲ですし、歌詞の持つ普遍的でストレートなメッセージ性は、言語のカベを超えてきちんと伝わってきます。

「君の名は。」や「アナと雪の女王」など、大ヒットする映画は、しばしば「音楽」を効果的に多用して感動を運んできてくれますが、この「SING シング」でも、「音楽」の魔法は健在だったようです。やられました(^^)

4-4.「何度でも繰り返しチャレンジすること」の大切さを教えてくれるバスター

ストーリー要素が希薄なこともあり、映画を通して主役のバスター・ムーンはほとんど成長していないように見えます。虚栄心が強くいい加減ですが、包容力があり起業家精神に溢れた彼は、物語前半も破綻後再起した時も、鬱陶しいほど情熱的でした。バスターは、成功の可能性を信じて、回りを巻き込んで打てる手を片っ端からガンガン打っていきます。

無許可で他人の電源を使ったり、差し押さえられた土地を勝手に借用したり、時には常識にとらわれず、道義的に問題のある行動でも厭わず実行する野性味も、ベンチャー起業家らしい描写でした。

冷静に見てみると、物語前半で借金まみれになったバスターが最後の大勝負として仕掛けたコンテストと、一旦破綻してからもう一度作り直した野外劇場計画には、そんなにレベル的に差がないように思えるのです。彼は破綻前のコンテストも、破綻後の野外劇場も、バスターは変わらず情熱的に取り組んでいました。

一方では大失敗し、一方では成功を収めることができた。因果関係だけ見ると、バスターの大失敗とその後の大成功を分かつポイントは、特になかったように思うのです。つまり、うまくいかない時はうまくいかないし、うまくいく時はうまくいく。やってみなければ、正直結果はどうなるかわからない。でも、チャンスをつかみたいのなら、たとえ瓦礫の中からでもいいので、何度でも立ち上がり、行動を起こさないと何事も始まらないのです。

「一勝九敗」というユニクロを興した柳井正の有名な著作があるように、優れた起業家でも、ビジネスにおいては決して百発百中で成功しているわけではないといいますよね。沢山撒いた種の中から、そのうちのたった一つでもいいから大きく育てば、それで「成功」になるわけです。

映画中、打たれても打たれてもめげずに立ち上がるバスターの不屈の精神は、何かを成し遂げようとした時に、諦めずに取り組み続ける大切さを教えてくれているような気がしました。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.きゃりーぱみゅぱみゅは3曲!全64曲も散りばめられたトラックリスト!

今作では、最初から最後までほんの数秒レベルの引用から、ワンコーラスしっかり主役級が歌い上げるものまで含めると、全部で64曲も使われていました。

映画パンフレットから、全64曲を抜き出して表にしてみましたが、こうして見てみると、クラシックからオールディーズ、R&Bやダンス・ミュージック、最近のロックまで時代を問わず様々な楽曲が使われていますよね。僕も、いくつか気に入った曲があったので、これを機に気に入ったアーティストを聴いてみたいと思います。

★映画「シング」トラックリスト
(青い背景の曲はオリジナルサウンドトラックに収録)
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この表を見て驚くのは、なんと全64曲中、きゃりーぱみゅぱみゅの曲が「にんじゃりばんばん」「きらきらキラー」「こいこいこい」と3曲も使われていることです。(全部合わせて10秒くらいだけど・・)それでも「シング」に登場するアーティストの中で、一番多く曲が使われているんですよね。凄い・・・。

5-2.ねずみのマイクの顛末について

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映画「シング」では、主役級の一人、ねずみのマイクは最後の最後まで感情移入のしにくい「悪役」キャラでした。登場シーンで、病気の喘息持ちのサルから金を恐喝し、物語前半で銀行を口先三寸でたぶらかして大金を引き出し、それで新車を買ってカジノでクマのギャングから金を騙し取ります。

さらに、劇場破綻後にバスターが声をかけた時も、ギャラがないとわかると一旦劇場を去り、観客が集まっているとわかると、虚栄心を満たすためだけに劇場に戻ってきてシナトラの「My Way」を歌いました。

このキャラ、どうなんだろう?と思っていたら、やっぱりムーン劇場再オープンのテープカットの際に、他の仲間が全員揃っていたのに彼だけいませんでしたね。代わりに、赤い車でクマのギャングと一緒に走り去っていくシーンが一瞬写りました。これは、マイクがクマに食べられて殺されてしまうことを暗示していたのでしょうか?それとも続編「シング2」で彼らが手を組んで再度一悶着を起こすのでしょうか?

どちらにしても、ねずみのマイクの末路については、様々な解釈が分かれそうなもやっとした描かれ方でしたね。個人的には続編の伏線だといいなぁと思います。

5-3.月の形と主人公たちの運命

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物語冒頭から、大洪水で建物が倒壊するまでの間、劇場のステージにかかっていた月のオブジェは、下弦の月でした。「欠けていく」下弦の三日月の形をしていて、あと数日で消えてしまう運命を暗示していたのですよね。リハーサルでイカの水槽をバックに、パッと光った下弦の月は、弱々しく不自然でした。

それとは対照的に、野外劇場でミーナが全身を震わせながら歌い上げ、セットが壊れたときにミーナのバックに出てきた月は、ちょうど「満月」でした。

このように、いわば主役を象徴する「月」の満ち欠けが効果的にストーリーの行く末を暗喩するように上手く使われていたのは感心しました。是非、チェックしてみてくださいね。

5-4.続編「Sing2/シング2」について

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エンドロール終了後、早くも「シング2」の製作が発表されました。すでに全世界での興収は600億円を超え、「ミニオンズ2」「ペット2」に続いて、「シング」もシリーズ化されることになります。全米でのリリース日は、2020年12月25日と仮決定されましたが、内容についてはまだ発表はありません。どんな内容になるのか楽しみですね。

6.まとめ

通常、吹替版は声優のみで、楽曲までは吹替えを行わない(許可が降りないらしい)ものですが、今回、世界で唯一日本だけが、セリフだけでなく劇中歌まで吹替を行うことが許されました。

MISIAや大橋卓弥など、こだわりの声優陣がすばらしい吹替版、ハリウッド俳優の意外な一面が見れる字幕版、それぞれ両方に独特の魅力があります。弱めのストーリーなど、まだまだディズニーアニメに比べると課題はありますが、しっかり楽しめる作品でした。

それではまた。
かるび 

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年3月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

「SING シング」オリジナルサウンドトラック

劇中でキャストたちが歌ったすべての曲と、エンディング、ボーナストラックなど、合わせて20曲以上が収録されたオリジナルサウンドトラックは、映画を気に入った人にとってはマストアイテムだと思います!特に、日本盤は劇中で吹替された楽曲も含め全26曲と大盛りの内容になっています!【輸入盤はこちらから

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さらに、この映画「SING シング」ではAmazonが専用の物販ページを作って総力特集中。また、Amazon Prime会員になれば、輸入盤のMP3がオンライン上で無料で聴き放題になる他、キャラクターのぬいぐるみやフィギュアなど、様々なグッズも販売されています!

Amazon「シング」特設コーナー
Amazonの「SING」特設ページを見る!

「SING シング」公式ノベライズ作品

シングの公式ノベライズも小学館文庫から発売されています。映画のセリフを忠実に興しただけでなく、小説ならではの主人公たちの心情描写などは見逃せません。僕もこれで予習復習しました!

【ネタバレ有】映画「チアダン」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/広瀬すずの若さあふれる熱演が最高!

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【2017年3月19日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

3月11日にリリースされた広瀬すず主演の新作「チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話」を見てきました。10代女性俳優では、今一番劇場にお客を呼べるという広瀬すずの最新作はどうだったのでしょうか? 

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「チア☆ダン」の基本情報

<「チアダン」公式予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】河合勇人(「俺物語!!」「兄に愛されすぎて困ってます」)
【配給】東宝
【時間】121分

主にTVドラマシリーズでキャリアを積み、最近は「俺物語!!」(2015)や、2017年の待機作「兄に愛されすぎて困ってます」といったスイーツ風の若者恋愛映画を手がけることが多い河合勇人監督。丁度TVドラマから映画監督へとキャリアを広げていくためにも、本作は今後の映画監督としてのキャリアを占う大切な試金石的な作品になりそうです。

2.映画「チアダン」主要登場人物とキャスト

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チアダンス部という大人数で実施されるスポーツのため、登場人物はかなり多めですが、映画を楽しむために最低限見ておきたいのが、上記の写真に映っている5人と、鬼教師役の天海祐希です。

友永ひかり(広瀬すず)
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映画撮影時、現役の高校2年生だった広瀬すず。実年齢とほぼ同じ役どころで、本人も「素の自分に近い」とインタビューで答えているように、非常に自然な演技でした。それにしても、広瀬すずはかるた、ヴァイオリンの次はチアダンスと、部活系の映画が立て続けに上演され、どれも興収10億円以上達成している(あるいは見込)のは見事。今回の「チアダン」でも「主演は広瀬すずしか考えられない」と河合勇人監督からの熱い指名で実現したのだとか。

玉置彩乃(中条あやみ)
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ほっそりと整った顔立ち、スラッとした長身はバリバリモデル体形で、広瀬すずと並ぶと主役を「公開処刑」しかねない凄いヴィジュアルの持ち主。素の時はのんびり屋だそうで、映画中での「まじめでストイックな」役柄に入っていくのが大変だったそうです。ちなみに、演技についてはやや見苦しい時があり、しばしば長文の時に棒読みになりがちだったところは、やや残念でした。

紀藤唯(山崎紘菜)
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この人も、中条あやみ同様、スリムで長身なモデル体形ですね。二人して主演広瀬すずを挟む立ち位置のカットもしばしばあり、広瀬すずがかわいそうな瞬間もありました(笑)ちなみに、映画好きの人はTOHOシネマズの新作映画の紹介動画ナレーションでいつも見慣れていますね。TOHOの予告編では少し舌っ足らずなナレーションが印象的だったのですが、今作では一匹狼から徐々に仲間を信頼できるようになっていく無口な女子を好演しています。主役の生徒役の中では最年長。

東多恵子(富田望生)
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若い女子でここまで体形がはっきりしているキャラが主演級で「かっこよく」起用されるドラマや映画って珍しいかもしれません。踊りは柳原可奈子のようにキレキレで、全く違和感がありませんでした。チアダンスの練習がハードなため、痩せていくのを防ぐために人一倍食べて体重を維持したという、ちょっと変わったエピソードもパンフレットで紹介されています。

永井あゆみ(福原遥)
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みんな大好きまいんちゃんですね(笑)主役5人の中では一番役どころが限定されており、セリフはそれほど多くはありません。映画内では、アニメ声を活かして、天真爛漫で目立ちたがり屋の役を演じていました。

早乙女薫子(天海祐希)
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2017年は1月の「恋妻家宮本」以来早くも映画出演2作目。こちらは、モデルとなった五十嵐裕子先生からの「指名」で鬼教師役に内定しました。映画内では、演劇っぽい大仰でコミカルなアクションが本来表現したかった教師の「厳しさ」をややわかりにくくしている点が気になりました。ただ、この人はその場に入るだけでデカいので威圧感があるといえばあるのですが・・・。

山下孝介(真剣佑)
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女性主体のストーリーだけど、少しくらいは男子もいないとね、ということで、ひかりの友達以上彼氏未満である親しい男の子役を務めました。ただ、チアダンス部は「恋愛禁止」なので、スイーツ映画お約束の壁ドン顎クイ床ドン、、、といった展開は一切ありませんでした。どちらかというと、恋人というより、ひかりとはお互い高め合う「戦友」的な存在としてサッパリ描かれます。

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3.映画「チアダン」の結末までの詳細なあらすじ(※ネタバレ)

3-1.ひかり、福井中央高校でチアダンス部に入部する

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友永ひかりはこの春、福井中央高校に入学した高校1年生。放課後、部活の勧誘ブースで友人達とどの部活に入ろうか見て回っていた。ひかりは、「イケてる女子はみんなチアダンス部に入るんだ」とチアダンス部推しだった。

ひかりの密かな夢として、サッカー部に入部した中学の時の同級生、山下孝介を全国大会で応援して、孝介と結ばれる、という青写真があった。

しかし、ひかりが部活見学に行った日、チアダンス部の顧問、早乙女薫子先生は、「チアダンス部はアメリカに行って全米大会での優勝を目指してます」とギラギラした目つきで高らかに宣言するのだった。しかも、全米を目指すため、スカートは膝丈、ネイルは禁止、前髪は禁止、校則厳守、そして恋愛まで禁止だという。

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これはダメだ、とあきらめて別の部活を探そうと考え始めたひかりだったが、孝介から「チアダンス部の応援楽しみにしてるわ」と言われ、思わず弾みで「まかせて!」と答えてしまい、引っ込みがつかなくなってチアダンス部に入部するのだった。

チアダンス部の部活初日に顔を出した1年生は、全部で14人だった。1年生しか部室にいなかったので、早乙女に聞いたところ、2年生、3年生は全員退部したとのことだった。

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全米3位になったという日本の高校生の演技をDVDで見せられた後、一人ひとり早乙女の前でダンスをしたが、彩乃、麗華、唯以外のメンバーは素人同然でボロボロだった。必然的に、部長には彩乃が指名されたのだった。孝介の話によると、彩乃は横浜から福井へと引っ越して来る前の学校でも、チアダンスで全国優勝したことがあるのだという。

翌日から始まったレッスンでは、彩乃、麗華、唯以外のメンバーはひたすら体を動かすための柔軟体操で一日が終わり、ダンスの練習すらさせてもらえない始末だった。

そんな悲惨な部活生活が始まったひかりだったが、、父親からは意外にも「ひかりは笑顔が素敵だからチアダンスはあっているんじゃないか」と得意料理「からあげ」を振る舞われて励まされるのだった。翌日、練習で自慢の「笑顔」を早乙女にアピールしてみたが、早乙女からは逆に前髪の指摘をもらっただけだった。

恋愛禁止になった上、孝介からも恋愛対象として意識されていなかったことがわかったひかりは、部活をやめようかと迷っていた。彩乃はそんなひかりを校舎の屋上に連れ出し、早乙女の代わりに個人的にひかりにダンスレッスンをつけるのだった。彩乃は、部員全員のモチベーションを考えて、基礎練習一辺倒ではなく、ダンスの練習も少しずつ取り入れるべきと早乙女に直談判するなど、リーダーシップにも優れていた。

彩乃のサポートや、自宅での懸命な自主練の成果が少しずつ出始め、ひかりや他の部員たちも、ようやく1曲を通して踊れるようになっていた。ひかりは、少しチアダンスが楽しくなり始めていた。

いよいよ福井大会が目前に迫ってきていた。初心者組も、1曲通して踊れるようになってからは、ダンス経験者の麗華や、顧問の早乙女から容赦なくダンスのパフォーマンスに指摘がビシビシ入るようになってきていた。ダンスでは貢献できなかったが、ひかりも「笑顔」の作り方を唯に教えるなど、チームに貢献するのだった。

しかし、福井大会での最初のパフォーマンスはぼろぼろだった。イージーミスを連発して、最低の出来に終わってしまったのだ。終了後、案の定早乙女からはダメ出しがあり、最悪の雰囲気の中、麗華は部活を退部してしまった。翌日以降あゆみ、ひかり、彩乃以外は練習にも現れなかった。一方、学校では福井大会の惨状を受けて、チアダンス部の解散が検討されていた。

3-2.チアダンス部解散の危機と部活の再生

ひかりも、クラスメイトと久々にカラオケに繰り出して発散してみるものの、この先どうしていいか気持ちの整理がつかなかった。帰宅後、自宅に来てくれた彩乃とじっくり話しあい、もう一度チアダンスをやってみたくなった。

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ひかりは、彩乃とともに、唯や多恵子ら、仲間たちにもう一度粘り強く声をかけてチアダンスをやろう、と説得して回った。そして、集まった仲間たちとともに校長室へチアダンス部継続を直談判するのだった。最後は、「アメリカを目指します!」と弾みで好調にアピールしたひかり達の熱意に負けた校長から、チアダンス部の継続許可を勝ち取ったのだった。

仲間と部室に戻ると、顧問の早乙女が待っていた。部の存続が決まったタイミングで、本気でアメリカを目指して活動するため、早乙女から、チーム名を「JETS」として新たに活動を再開することが発表された。

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時は過ぎ、ひかりは2年生になった。入部説明会で、去年と全く同じように「おでこ全開!」「校則遵守!」と新入部員を前に熱く語る早乙女に苦笑いしつつも、2年生となった彼らは確かな成長を感じていた。笑顔が苦手だった唯は、今では1年生に笑顔の作り方を教えることができるまでになっていた。

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練習は順調に進み、新たに招聘したコーチの元、JETSは福井県大会で優勝を飾り、全国大会へと駒を進めた。過去最高にチームワークも機能し、充実した練習ができた(できていたと自負していた)

しかし、全国大会では自信を持って演技ができたにもかかわらず、結果は全国4位と、優勝には程遠い結果だった。早乙女が「仲良し地獄だ」とつぶやいたとおり、もう一歩突き詰める演技ができていなかったのだ。

大会の結果が終わった後、早乙女はさらに大きく一人一人が成長できるようにと、「夢ノート」というノートを1日1回寝る前に必ずつけるようにと指導した。夢ノートで一番大きく変わったのは、部長の彩乃だった。

3-3.本気でアメリカを目指した最後の1年間

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大会終了後、本気で「アメリカに行きたい」と考えた彩乃は、夢を達成するために敢えて「みんなの敵になる」と夢ノートに書き込み、翌日から厳しく仲間に対して遠慮ない指導を行うようになった。

ひかりもまた、彩乃から「端っこで踊っているだけで満足し、欲がないことが欠点だ」と指摘され、彩乃と一瞬気まずくなるのだった。しかし、数日後の帰宅途中で一緒になった時に、ひかりは彩乃から受けた指摘について感謝した。ひかりは、彩乃に「わたし、端っこでもセンターになったつもりで踊る」と力強く宣言した。

そして、ひかりにとって高校生活最後の年がやってきた。しかし、春からいきなり全治2ヶ月の重傷を負ってしまう。根を詰めて練習しすぎたためだ。周りが全国大会に向けて順調に結束してダンスを磨いていく中、ひかりは一人蚊帳の外で参加できない悔しさを味わっていた。後輩のフォローをしていると、早乙女から「邪魔だから帰れ」と言われてしまう始末だった。

それでも、大会直前になってようやく全体練習に復帰できたひかりだった。しかし、2ヶ月のブランクは大きく、みんなのペースについていけず、全体練習の和を乱してしまった。早乙女から「練習から外れるように」と屈辱的な指示を受け、皆の前では気丈に振る舞ったひかりだったが、内心は悔しい思いでいっぱいだった。

全国大会は、補欠として一人練習用のジャージを来て円陣に臨み、全員を送り出したひかりだったが、皆の健闘を祈る気持ちと、大会に出れず悔しい気持ちがごっちゃになっていた。

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福井中央高校は、見事全国優勝を成し遂げ、全米大会への切符を手に入れたのだった。高校に戻ると、地元のマスコミが取材に来ていたり、応援団が特別祝勝イベントを開催してくれたりと、周囲がチアダンス部を見る目は一変した。試合に出た仲間たちが凱旋インタビューを受ける中、ひかりはジャージに着替えて学校の屋上で一人ダンスの練習を続けていた。

全米大会前の全体練習で、ひかりはとうとう全員と揃って踊れるようになった。ひかりの仕上がりが間に合ったことに早乙女以下、全員が驚き、喜んで迎え入れてくれた。

そして、迎えた全米大会。早乙女以下、チーム全員はバスでサンディエゴの試合会場へと向かったが、気持ちは少し浮つき気味だった。気持ちがどことなく定まらないまま臨んだ予選では、決勝へと進んだ8校のうち、かろうじて7番目で決勝へ進むことができた。

数日後の決勝を前に、早乙女は秘策として、センターである彩乃とひかりを入れ替えるという発表を行った。突然の発表に戸惑う全員だったが、彩乃は気丈に振る舞い、ひかりをセンターとして全員で踊りを合わせよう、とまとめた。

解散となった翌日、ひかりは彩乃から「夢ノート」を手渡された。センターとしての心構えを記載したので、参考に読んでおいて欲しい、という。ひかりは、そのページを読み込んでみたが、「センターの心構え」について書かれたページは一度破かれた跡があった。彩乃もやはり悔しくて、やりきれない気持ちをノートにぶつけたのだった。

それを見たひかりは、早乙女の決断に納得が行かず、ポジション変更撤回を迫ったが、早乙女は断固として自分の決断を曲げず、ひかりに「頂上を取った景色を見ておけ」とただ静かに話すのだった。

まだもやもやしていたひかりだったが、夕方一人で海を見てたそがれていると、コーチの大野がひかりのところにやってきた。大野は、早乙女が如何にチームを愛していて、指導者として悩みながらここまで指導をしてきたか、どれだけひかりに期待していたのか、そっとひかりに語って聞かせた。そして、ひかりと早乙女は、その一途さが非常に似ているとも話したのだった。

早乙女の意外な一面や熱い思いを知って、そして全員がひかりのために準備をしている光景を見て、ひかりはみんなの前で「センターで踊る」と決意を新たにした。

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翌日の決勝では、全員でしっかりと悔いなく踊り切ることができた。踊り終わって、ひかりは確かに「てっぺんを取った者しか見れない光景」をこの目で見たのだった。観客席を見ると、早乙女の姿がなかった。

ひかりは、急いでバックステージ裏の通路に戻ると、早乙女の姿を発見した。早乙女に踊り終わった思いを伝え、二人は固く抱き合ったのだった。そして、福井中央高校が優勝したとのコールが会場に伝わると、他の部員たちも早乙女のところに来て、全員で泣いて歓喜した。

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その数年後の4月。彩乃は夢だったキャビンアテンダントになっていた。一方、ひかりは、母校福井中央高校でチアダンス部のコーチに就任していた。彩乃のニュースを知ったひかりが、相変わらずチアダンス部で顧問を続ける早乙女に朗報を伝えると、早乙女は一人見えないところで号泣して喜ぶのだった。

ひかりは、新入部員を前に、数年前に早乙女が入部説明会の時に語ってくれた内容と一言一句同じように語りかけ、アメリカへの夢をぶちあげるのだった。早乙女の目指した夢は、確実にひかりに受け継がれ、そしてこれから入部してくる新入部員にも伝わっていくのだった。

その日の部活が終わると、同じく学校でサッカー部の顧問となっていた孝介と校門の前で待ち合わせ、今度こそデートへと出かけるのだった。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.想定していた観客層と全然違っていた?!

公開初週の日曜日の午後という一番混雑するタイミングで見に行ったのですが、座席は見事に満席。女子中高生やカップルがメイン客層だと予想していたので、オッサン一人で観に行くのは凄く気が引けたのですが、フタを明けたら、なんとメインの客層は女子小学生!!(もちろん親子連れです)僕の横に座ったのも、小学校高学年の女の子でした。

すごく意外な客層に少し安堵しつつ、始まった映画での彼らの反応にもびっくり。この「チアダン」は、ところどころでやり過ぎなほど露骨なコメディタッチの演技や効果音、マンガ的なツッコミが入るのですが、そこで小学生が笑う笑う、、、

事前にマーケティングできていたのかどうかわかりませんが、予想以上にコメディ色の強い作風が、ぴったり低年齢層を中心とした客層にハマっていたことに驚きを隠せませんでした。満員の映画館が一体感に包まれていました。小学生たちのお陰で、なんというか素直な心で楽しく鑑賞できました!たまには満員の映画館もいいですね。

4-2.成功の裏にある「犠牲」と「挫折」が丁寧に描かれた点が好感だった

映画「チアダン」は、福井商業高校の実在するチアダンス部が、2006年に創部されてから3年間で全米大会を制覇するまでの実話に基づいて製作されました。実話のドキュメンタリー「チアダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話の真実」も事前に読了してわかるのですが、決してエリート選手が努力して、順当に夢を掴んだ話では全くないのですよね。

ストーリーで特にクローズアップされるのはひかり、彩乃、早乙女の3人ですが、3人ともが、最後に全米大会で優勝するために多大な犠牲を払い、大きな挫折を経験するシーンが1回ずつ丁寧に描かれます。

まず、恋愛は禁止、女子高生らしいファッションも禁止。部活は朝練、休日練習は当たり前で、寝る前に夢日記までつけています。「私らは全てをかけてやってきたんやで?!」と全米大会の演技前の円陣で、ひかりの福井弁バリバリのセリフにある通り、彼らは普通の高校生としての楽しみを犠牲にして、高校生活の大半のエネルギーをチアダンス1本に賭けていました。

そして、勝つためには「仲良さ」を捨てて「厳しさ」を優先します。試合前の人選で、早乙女はひかりを全国大会から外し、キャプテンの彩乃でさえ試合の直前にセンターから外しました。温情より冷徹な実力主義で判断されています。

また、裏では早乙女も相当な挫折を味わっていました。顧問着任早々2年生以上に全員退部されてしまったどころか、残った1年生のチームも途中で一旦崩壊寸前になってしまい、校長からは顧問としての指導力を疑われる始末です。

このように、「全米大会で優勝する」という大目標こそクリアされましたが、そのプロセスは全く順風満帆というわけではなかったのでした。彩乃の夢ノートに書かれ、セリフでも強調された通り「努力してもかなわないこともある。でも努力を続けるしかない」とあった通り、彼らの望みは、叶ったり叶わなかったりなのですが、この映画では「叶わなかった思い」にも焦点を当て、しっかり拾い上げていたところが印象的でした。

4-3.指導者の気持ちが全く届いていない感じがリアルで良かった

映画を見ていて、途中までぬぐい難い違和感としてあったのが、顧問の早乙女の心情描写がほとんどなかったことです。でも、これは後で「意図的」だった、と気づきました。

この映画では、最初から主人公=ひかりの視点で物語が進んで行きます。彼氏未満の孝介や部活仲間との交流などは丁寧に映像やセリフで心情描写がなされる一方、キーマンであるはずの早乙女との交流の描写が極端に薄く感じられるのです。

高1の入部説明会~高3の最後の練習風景に至るまで、ひかりは、早乙女から詳しい説明もなしに一方的に何か指示を受け、それに対して都度軽い不満をもらすなど何らかのリアクションはするにはしますが、違和感を強く表明したり、激しいやり取りもなく、物語が最後まで進んでいくのですよね。

なんか描写が雑だなーと思っていたら、ラストシーン直前の全米大会直前のワンシーンでひかりが早乙女に「軽蔑します!」と言い放つシーンを見て、ようやく腑に落ちました。

要するに、数々の苦難を乗り越えて、長い長い時間を3年間共有し、その集大成として全米大会までこぎつけたにもかかわらず、ひかり(学生)と早乙女(顧問教師)の間の関係はそれまでその程度のものだったということなんです。独り言で「うるさいババァやの」とひかりが良くつぶやいていたように、ひかりからは早乙女のことが良く見えていなかったという、二人の間のリアルな距離感が映画全体で表現されていたんですね。

実際の初代JETSメンバーでも、初代キャプテンは全米大会前に心を閉ざして一人だけ退部してしまっていますし、多感な高校生への指導の難しさを実感しました。

4-4.素人でも志を持ち続けることの大切さが描かれた

努力しても叶うこともあれば叶わないこともあります。そういったリアルな挫折感もきっちり描きつつ、それでもこの映画では「たとえ素人でも努力し続けることで成功できる可能性」も提示されています。

その最たる象徴こそが、主要登場人物を務め、ダンス演技中も最前列に配置され続けた太めキャラ、多恵子の存在です。映画全体を通して、彼女が目立つ場所に敢えて配置され続けたのは、「たとえ未経験から、素人からスタートしても、努力すれば成功できる」という可能性の象徴だったからなのではないでしょうか?

もう一人の「素人」は、顧問の早乙女です。早乙女の指導法は、部活の練習こそ生徒の自主性にある程度任せているものの、基本的には独善的で学生一人ひとりへの配慮が致命的なほど欠けていました。指導者として「素人」くさいわけです。

この歪な指導法のせいで2年生以上を全員失い、チアダンス部が崩壊寸前になるわけですが、それでも早乙女にはその欠点を補って有り余る圧倒的な「ビジョン」と「志」がありました。だって、福井の片田舎で全く実績もなくゼロの状態から、「全米大会で優勝する」なんて誰も本気で言えないですよね。

ひかりら生徒との距離感は微妙に縮まらない一方で、早乙女が示したビジョンや熱意は、確実に学生に浸透していき、強いチームが出来上がっていったのですよね。

このように、映画「チアダン」では、生徒も指導者も「素人」でしたが、「素人」であっても、志を持ち続けることで、時にとてつもない奇跡のような成果を生み出すことができる、そんな可能性をしっかりと映画のテーマとして提示してくれていたと思います。

4-5.そして、思いは受け継がれていく

映画全体を通して、「誰かが言ったセリフが、後のシーンでそれを言われた誰かによって反復される」シーンが多用されます。それは、掛け声であったり、アドバイスであったり、セリフであったり様々でしたが、ポジティブな思いが確実に仲間に広がり、受け継がれていく様子を効果的に表現するには優れた表現だったと感じました。

映画でもリアルでも、JETSはその後全米大会を何度も連覇する強豪チームへと成長するわけですが、その過程では、必ず成功体験や成功を支えた考え方やノウハウ等は先輩から後輩へ、仲間から仲間へと正しく「継承」され、広がっていかなければなりません。そのためには、まずは「ことば」ありきなんですよね。

先輩から、指導者から受け継いだ「ことば」が正しく、きっちりと受け継がれていく様子を効果的に印象づけるため、徹底して同じ言葉がチーム内に継承される脚本は素晴らしかったです。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.ダンスの種類を覚えておくとより楽しめる映画

チアダンスは、いわゆる甲子園や高校サッカーなどで見られるチアリーディングではなく、チアリーディングに含まれる「ダンス」要素を独立させた競技部門の一つです。約2分半の演技時間の中で、ポンダンス・ジャズダンス・ヒップホップ・ラインダンスと4つのダンスを必ず含み、採点はダンスの技術や振付、チームの一体感、表現力などが採点の対象となります。

20人以上のメンバーが息を合わせて華麗に踊り、表現する姿は、シンクロナイズドスイミングや新体操なんかにも雰囲気が似ていますね。映画中でも、唯はヒップホップ、彩乃がポンダンスが得意だったり個性がある他、場面場面での主人公たちの心情に寄り添って、踊られるダンスの種類や内容が細かく調整されています。

5-2.実際の福井商業「JETS」の動画が凄まじい!

映画内での広瀬すずをはじめ主役たちの演技も、実際に想像以上に完成されており見事な動きでしたが、彼らのモデルとなった福井商業高校「JETS」の全米大会で演技する動画がYoutubeに年度別にアップされています。

<「JETS」2016年度全米大会決勝の演技>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

これを見るとわかりますが、とてつもないレベルですね。ちなみに、映画内でも実際に福井商業で全米大会で優勝経験を持つ酒井麗奈と藤井利帆が初代部員8名の中に含まれている他、初代JETSの優勝メンバーで、現在JETSでコーチを務める三田村真帆さんも指導に入るなど、全面的な福井商業メンバーOBのバックアップが入っています。

5-3.モデルとなった「福井商業高校」の実話も生々しくて凄い!

映画「チアダン」は、福井商業高校の実話を元に製作されていますが、キャラ設定から鬼顧問の存在まで、明確なモデルがありました。映画と同時に刊行されたチアダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話の真実によると、実際の福井商業高校でも、初代JETSメンバーでは例えばこんな生々しい実話があったそうです。

・五十嵐裕子先生(早乙女のモデル)がチアダンス部顧問になった時、2年生~3年生が全員退部してしまった。しかもその後、退部した元部員たちが外野から足を引っ張リ続けた。
・夢ノート導入へ反発したメンバー達が部室で五十嵐先生の悪口を言っていたところに五十嵐先生が通りかかり、先生激怒。それを受けて部員全員が反省文を提出して、何とか騒動が決着した。
・3年時、ケガで離脱してモチベーションの維持に苦しんだ部長が、五十嵐先生の拙いフォローもあって、全米大会前に退部してしまった。

それ以外にも書籍には色々エピソードが網羅されていますが、決して全米大会優勝への道のりは平坦だったわけではなく、だからこそむしろ本当に「奇跡」に近い快挙だったんだ、とわかります。

5-4.ノベライズに収録された、映画本編では省略されたストーリー

角川つばさ文庫で映画と同時に刊行されたノベライズ版は、映画で恐らくカットされたであろうストーリーが盛り込まれています。詳しくは読んで頂くのが一番良いのですが、いくつか紹介しておきますね。

<全米大会前にも一度ひかりはセンターを試している>
・全国大会4位となった後の練習で、早乙女に言われて彩乃とセンターを変わる。あゆみや多恵子、唯もひかりのセンター案を推すも、結局その時は技術的に優れた彩乃がセンターへ戻ることになった。
→これが当初案では全国大会決勝での交代への伏線として用意されていたプロットかもしれない。ラストのひかりの葛藤シーンがより際立ったので、映画ではこのシナリオを外したことは良かったかもしれません。

<全米大会後、ひかり達の卒業式の描写>
・ひかり、孝介から第2ボタンをもらいに行く。
・彩乃、相変わらず矢代に校舎裏で告白されている。
・麗華がJETSメンバーに「全米優勝おめでとう」と言いに来る。
・次期部長には絵里が内定。(唯に笑顔を指導されていた子)
・最後に、円陣を組んで定番のセリフ「明るく、素直に、美しく!レッツゴー、JETS!」で笑顔で叫んでお別れとなった。

<ひかり、彩乃以外の卒業後のそれぞれの進路>
・多恵子は、子供達を守る児童福祉司になった。
・あゆみは大学卒業後、専業主婦として一児の母になった。
・唯は卒業後もダンスを続け、アメリカでプロのダンサーになった。
・麗華は、敏腕キャリアウーマンとして海外を飛び回っている。 

6.まとめ

部員を説得して回るシーンが「七人の侍」「荒野の七人」のオマージュだったり、特設中継会場で応援するひかりの父がアニマル浜口そっくりだったりといった遊び心も満載で、オーバーリアクションでベタなコメディタッチで笑えるシーンが沢山用意されていたのも、その骨格に実話をベースとする力のある感動ストーリーがあったからこそ。

笑えるシーンもありますが、最後はきっちりと最高の演技と若者たちの一途な気持ちに泣かされました。小学生から大人まで、いろいろな視点で幅広く楽しめる佳作でした。映画館の大画面でぜひ!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年3月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

大原櫻子 主題歌

エンドロールで流れる初春の卒業ソングらしいスケール感のあるメロディが、全米大会を終えてそれぞれの道へと踏み出したJETSのメンバーを送り出すメッセージのようで、最高に泣けました。いい曲でしたね!ちなみに、大原櫻子自身も、本作で南青山高校のチアダンス部員としてカメオ出演しています。

「チアダン」ノベライズ

角川つばさ文庫からの出版。小学生でも読めるように全部ルビが振ってあり、気がついたら僕の小1の息子が読んでました(笑)Amazonのジュブナイル小説部門でベストセラーになるなど、やはりこの映画はJSに大人気なのか・・・。

内容は、映画を小中学生でもわかるように平易な文章で描かれていますが、普通に大人でも楽しく読めてしまいます。僕も何気に映画前後に3回読み返してしまいました(笑)

「チアダン」ドキュメンタリー

ノベライズと同時に出版されたのは、映画「チアダン」のモデルとなった福井商業高校チアリーダー部「JETS」の実話版ノンフィクション・ドキュメンタリーです。顧問となって赴任した五十嵐裕子先生が、持ち前の強烈なリーダーシップとガッツで新生チアリーダー部を率いて、第1期創部メンバーが2009年に全米優勝を成し遂げるまでを描きます。綿密な取材に基づいた描写も生々しく、ハッキリ言ってこちらは映画以上に壮絶です。映画が気に入った人は、こちらのノンフィクションもお勧め!

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