かるび(@karub_imalive)です。
出版する小説が次々に映画化・ドラマ化される売れっ子ミステリー小説家、東野圭吾の「疾風ロンド」が映画化され、11月26日に公開されたので早速見てきました。
正直、見るまではあんまり期待していなかったのですが、サスペンスとコメディ、人間ドラマがバランスよく融合しており、素晴らしい出来だったのです。原作のプロットでの大切なポイントは全て網羅した上で、吉田監督ならではのプラスアルファの要素が加えられ、味わいあるストーリーへと昇華された佳作だと思います。以下、感想を書いてみたいと思います。
※エントリ後半では、かなりのネタバレを含んでいますので、何卒ご了承下さい。
- 1.映画の基本情報
- 2.主要登場人物とキャスト
- 3.映画の見どころ(ネタバレ無し)
- 4.簡単なラストまでのあらすじ(※ネタバレ有注意)
- 5.映画の感想・評価、原作との相違点
- 6.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)
- 7.原作小説との細かい相違点(※ネタバレ有注意)
- 8.まとめ
- 【おまけ】映画を楽しむための原作小説などを紹介!
1.映画の基本情報
本作は、下記の公式予告編でも明らかにされている通り、コメディ色の強い原作のタッチを活かして制作されています。監督にはコミカルな笑いを得意とし、「あまちゃん」で実績のある吉田照幸監督を起用。特色ある個性的な映像や独特のおかしみがある映像空間が楽しめます!
<公式予告編動画>
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【監督】吉田照幸(「あまちゃん」「サラリーマンNEO」)
【原作】東野圭吾「疾風ロンド」
2.主要登場人物とキャスト
主演は阿部寛。原作同様、脇役の2名が活躍し、主役はラストまでどうにも冴えない3枚目です。東野圭吾原作作品では、「麒麟の翼」(2012)以来、2回目の出演となりましたが、前作とまったく違うタイプのキャラクターでも幅広く演じ分けができる阿部寛はやっぱりすごい。
栗林和幸(阿部寛)
東野圭吾作品で、「栗林」姓の登場人物は、冴えない人物として描かれることが多いです。今作でも、研究所の「主任」ですが、どうにも情けない人として描かれます・・・根津昇平(大倉忠義)
野沢温泉スキー場でパトロール隊員を務める。正義感が強く、実直で冷静な好青年。
瀬利千晶(大島優子)
スノーボードクロスの国際大会に出る腕前を持つ。姉御肌で、何にでも絡みたがる世話焼きな性格でもある。根津のことが気に入っている。
栗林秀人(濱田龍臣)
多感な年頃を迎え、父親和幸に対して素直になれない今日この頃。ウィンタースポーツが好きで、毎年スノボに行くのを楽しみにしている。
東郷所長(柄本明)
研究所での栗林の上司。自己の保身を第一に考える俗物的なサラリーマン。
3.映画の見どころ(ネタバレ無し)
3-1.雪原でのチェイスシーンの迫力
超小型のアクションカメラ「GoPro」で撮影された雪原での犯人とのチェイスやアクションシーンがスピード感満載で見応えがあります。スノーモービルやスタントマンをフル活用して、迫力のある、実際に滑っているような
3-2.犯人探しではなく、死んだ犯人の残したトリックを素人探偵が挑むストーリー
原作小説でも、冒頭からビニール袋に入った「品物」をスキー場のある場所に埋め込む犯人が名前入り「葛原」で描かれ、そしてあっさりその帰り道に交通事故で死んでしまうというひねった展開。
そこから、素人探偵達が一つずつ謎を解いていくプロセスを楽しむ映画となっています。後半の謎解きのクライマックスシーンは、犯人との雪原でのチェイスを含め、かなりスピード感があります。
3-3.コメディとサスペンスの絶妙なバランス
多数の人命に関わる深刻なリスクのある問題が起こっているのに、主役の栗林や上司の柄本明扮する東郷所長の、ダメサラリーマンをデフォルメしたかのような間抜けなキャラクターがコメディ的な雰囲気を醸し出しています。そんな、サスペンスドラマにコメディ調のタッチがうまく融合した、面白い感覚の映画に仕上がっています。あまちゃんをヒットさせた吉田監督ならではの、ユーモアあふれる映像表現が見どころ。
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
※以降、ネタバレあり注意※
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4.簡単なラストまでのあらすじ(※ネタバレ有注意)
大学の医科学研究所で主任研究員として働いている栗林和幸は、一人息子の秀人(しゅうと)と暮らすしがないサラリーマン。母親はすでに亡くなり、息子と二人暮らしだ。14歳になり、言うことを聞かなくなってきた息子の教育に悩みつつ、今日も出社するのだった。
その日出社した栗林は、バイオセーフティレベル4相当の実験室内に保管してあったはずの病原体を入れた試験容器がなくなっていたことに気づいた。
すぐに生物学部長の東郷に報告する栗林。すると、東郷宛に来ていた脅迫メールを見せられる。脅迫状には、摂氏10度以上になると破損する仕掛けを施した薄いガラスケースに生物兵器クラスの感染力がある炭疽菌「K-55」を入れて、ある場所に埋めたと書かれていた。
犯人いわく、埋めた場所は、あるスキー場の木の根本。そこに、目印として木に1週間限定で電池で動作する発信機をつけたテディベアをくくりつけたという。3億円を払えば、引き換えに病原菌を埋めた場所を教えるとメールにはあった。
この、K-55は2週間前に研究所で勤務していた葛原が勝手に作り出し、保管していた新種の炭疽菌だった。研究所の規約での禁止事項に抵触する行動を重く見た東郷は、即座に葛原を解雇。葛原が作り出した病原菌は、国に無届けでセキュリティレベル4の実験室を秘密裏に稼働させ、保管していた。恐らく、今回の事件はそれを恨みに思った葛原の仕業であると考えられた。
栗林が警察への届け出を申し出るも、今回の件を秘密にして保身を図る東郷はそれを却下。研究所員だけで回収したいという。
そこへ、警察から葛原が高速道路の交通事故で亡くなったと報告があった。警察からなんとか回収した葛原の遺品の中に、方向探知受信機とノートパソコンがあった。パソコン内に残っていたデジカメ撮影の写真画像には、どこかのスキー場でとったと思しきテディベアの画像など、数枚見つかった。
写真を見ても、写り込んでいる鉄塔みたいな物体から、どこかの上信越のスキー場であることだけはわかったが、それ以外がさっぱりわからない。栗林は、自宅に帰り、スノボにハマっている秀人の友人に調べてもらい、写真の場所が野沢温泉スキー場であることをつきとめた。
東郷に報告すると、やはり警察には届けず、栗林が回収してくるように指示を出す東郷。しぶしぶ野沢温泉へ向かう栗林だった。
20年来、スキーなどやったことがなかった栗林は、息子の秀人を伴ってスキー場へ捜索に向かうことにした。スキー場に着くと、早速着替えてゲレンデに出るも、まったく滑れない栗林。ボーゲンで右往左往して子供にもバカにされる始末だ。
捜索初日の水曜日。コース外を探索中に新雪につかまり、うごけなくなる栗林。それを見ていた「どどめいろ」の帽子をかぶった男が、パトロールに連絡する。連絡を受けた根津が現場に急行し、栗林を救助するのだった。
場面は変わり、地元の中学生二人が、コース外をスノボで楽しんでいた。地元の高野裕紀と、川端健太の二人である。しばらく滑っていると、ブナ林のある木の下で、木につるされた不審なテディベアーを発見した。気持ち悪くなり、そのまま何もせず、下山する二人だった。
一方、秀人は、親とは離れゲレンデでスノーボードを楽しんでいた。地元のスキー学校で野沢温泉に来ていた女の子、山崎育美とぶつかりそうになったことをきっかけに、二人はそのまま意気投合し、その日一緒にスキーを楽しむのだった。
その日は、結局捜索するも成果がなく、栗林は、中腹のヒュッテ「カッコウ」で状況を分析することにした。すると栗林に先程の「どどめいろ」の帽子をかぶった男が話しかけてきた。色々と質問されたが、本当のことが言えないので、栗林は、適当なことを言ってごまかした。
翌日、木曜日。疲れ切って全身がだるい栗林。それでも何とかゲレンデに出る準備をしていると、昨日会った親子連れにまたしても出会う。親子連れと軽口を交わし、スキー場に出ようとしたその時、受信機が突然反応し、驚く栗林。あたりを見回したが、特に何もない。やがて、受信機は反応しなくなった。
ゲレンデに出て、スキーを履いたままコース外へ出て、探索を開始するも、あっさりコケてケガをしてしまう。動けなくなった栗林は、たまたま側を通りかかった千晶に助けられた。千晶がパトロールを呼び、またしても根津に山小屋に運び込まれた栗林。
山小屋で、2日連続でコース外へ出た栗林に、その理由を問い詰める根津。栗林は、とっさの機転で、炭疽菌ではなく、未認可の新薬を探していることにして、その他の事件の全容を根津と千晶に打ち明ける。未認可のワクチンだが、待っている患者がいるため、急がなければならない、と咄嗟に話をつくると、それをすんなり信じる根津と千晶。そして、彼らが代わりに受信機を持って、テディベアの根本に埋まっているワクチンを探すことになった。
栗林は、軽食も取れる山小屋「カッコウ」で、二人の捜索状況を見守ることとなった。そこへ、その日も、育美とスキーを楽しんだ息子、秀人が「カッコウ」に入ってきた。あいさつをする栗林と育美。
一方、根津と千晶は捜索を開始するが、どどめ色の帽子をかぶった不審な男にあからさまに後をつけられていることに気づく二人。気にせず捜索に集中したが、やはり簡単には見つからない。もう一度山頂から見直してチェックするため、ゴンドラに乗って、何気なく受信機をつけたら、一瞬だけ受信機が反応した。しかし、すぐに消えてしまい、反応しなくなった。
やがて、捜索を終えた根津と千晶が「カッコウ」に帰ってきた。捜索状況を共有し、不審な男に後をつけられたことを栗林に伝える二人だったが、栗林は意に介さないようだった。
その晩、根津と千晶は久々の再開を祝して飲むことになった。スノーボードクロスのレース出場のための練習に身が入らないので、明日も捜査に協力したいと申し出る千晶。根津は色々思うところがあったが、次の日も捜査をお願いすることにした。
金曜日の朝になった。いよいよ今日見つけないと、発信機の電池が切れてしまう。またも例の親子連れとホテルの土産コーナーで立ち話をした。今日、高速で帰るという。
この日も、捜索は根津と千晶に任せ、栗林は「カッコウ」で待機することになった。捜索する中で、リフトに乗っていた時に再び受信機が大きく反応する。そして、ある親子連れに受信機を向けた時、受信機の電波感知が最大になるのだった。二人は、親子連れの服装を覚えてすぐに捜索するが、見失ってしまう。
根津は、栗林に状況を報告すると、栗林に「親子連れ」の心当たりがあった。何度か宿で話したあの親子連れだ。昨日、ホテルで親子連れと話をした時に、受信機が反応したことを思い出し、すぐにホテルのフロントへ。いやがるフロントから、何とかその親子連れが名古屋在住であることを聞き出す。
一方、根津はその親子連れが別のスキー場の食堂で「ビール」を2本注文していたことから、名古屋行きの高速バスで名古屋へ帰るはずだと推測し、高速バス乗り場へ急行する。すると、運悪くすでに名古屋に向けて出た後だった。
根津は、すぐに軽トラックを借りて、インターチェンジの前でバスを待ち伏せして、バスを捕まえて親子連れを探す。そこで、女の子「ミハル」ちゃんが持っていたテディベアを回収するも、このテディベアは、地元の中学生からもらったものだという。
これを聞いた栗林は、育美に、ミハルちゃんにテディベアをみつけて渡した友達を探してもらうように協力を要請した。育美は、LINEで連絡をとりあうと、同級生の川端がテディベアを持っていたとの情報が得られた。
すぐに育美が川端に連絡し、そのテディベアを拾った場所を栗林に案内してほしいので、「カッコウ」に来るように伝えた。「カッコウ」に向かう川端。
川端が「カッコウ」の前まで来ると、例のどどめ色の帽子の男が川端の前に出て「私が栗林だ」と名乗り、川端をつれていってしまう。
川端がいつまでたっても来ないので、途方に暮れる栗林たち。そこへ、川端の同級生高野裕紀が「僕、その場所知っています」と申し出る。根津は、高野を連れて現場へ急行する。
やがて、高野と現場近くの木の下を探したところ、雪の下に埋まったビンが出てきた。回収して、帰ろうとしたその矢先、「どどめいろ」の男が川端をナイフで脅し、ビンを渡すように根津を脅す。根津は、ビンを「どどめいろ」の男に奪われた。
その直後、現場に千晶がやってきた。ビンを横取りされたことを根津から聞くと、千晶は「どどめいろ」の男を追っていった。
やがて、「どどめいろ」の男に追いついた千晶は、男とスキー場で激しいチェイスを繰り広げる。そして、男からストックを奪うと、男と滑りながらバトルをする。最後に金的でノックアウトすると、その現場を根津が抑え、「どどめいろ」の男から再びびんを奪い返すことに成功した。
根津たちは、「カッコウ」に戻りK-55が入った収納容器を栗林に渡した。収納容器からビンを落とすと、ビンはその場で割れてしまった。「生物兵器だ!」と言って、慌てふためく栗林だったが、中身は高野家が「カッコウ」で使っているコショウだった。
根津から「ワクチンではなかったのか」と詰め寄られる栗林。謝罪するも、今はビンを探し出すことが先決として、再び捜索の手がかりを探ることに。すると、栗林は「カッコウ」の裏口で東郷所長への定期報告をする時、誰かに聞かれていた気配を感じていた。どうやら高野裕紀がすり替えて持ち逃げしたとわかり、裕紀を追うことに。
中学校のスキー学校の打ち上げの豚汁会場にいるだろうとアテをつけ、現場に急行すると、裕紀を捕まえることに成功した。今度こそ、K-55の入ったビンを回収することに成功したのだった。
その晩、今回の事件を警察などに公表する/しないで秀人と言い争いになり、気まずい雰囲気になり、栗林はなかなか寝付けなかった。
翌朝、栗林は、秀人に対して、今回の事件を隠蔽せず、きちんと公表することを伝え、秀人に感謝の気持ちを伝える。秀人も栗林に対して素直になれずごめんと謝る。事件を通して、ようやく二人のコミュニケーションが上手く周りだしたのだった。
K-55のビンを回収に来たのは、折口だった。折口が「どどめいろ」の男とつながっていたことを知らない栗林は、折口にビンを渡してしまい、折口はそのまま「どどめいろ」の男と成田空港へ向かい、高飛びしようとする。
東郷所長から折口の裏切りを伝えられ、焦った栗林だったが、秀人がいたずらでK-55のビンをすり替えていたので、間一髪折口に渡してしまうのを水際で防げたのだった。
後日、大学に戻った栗林は、東郷所長の元に収納容器を置いて、部屋を退出する。いぶかった東郷が、容器をあけると、K-55のビンではなく、東郷、栗林連盟で、今回の事件を公表するための記者会見のプレスリリースが設定されたことを印刷した紙が入っていた。栗林は、もう逃げないと決めていたのだった。
一方、テレビニュースでは、折口真奈美と「どどめいろ」の男が空港でパスポート偽造の罪で逮捕されたというニュースが報道されていた。押収した収納容器を税関職員が開けたところ、彼らは「生物兵器だ!」と叫んだが、中にはフランクフルトが入っているだけだった・・・
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5.映画の感想・評価、原作との相違点
映画オリジナルで付加された主役・栗林のサブストーリー
原作小説「疾風ロンド」は、根津と千晶のカップルがスノーリゾートで起こる事件を解決するシリーズ物です。だから、どちらかと言えば主役は根津と千晶なのです。
彼らが1作ごとのゲストキャラクターである栗林から依頼を受けて、雪原でのアクションや謎解きを行い、シリーズが進むごとに根津と千晶の関係も少しずつ親密になっていく、というパターンでこれまでシリーズが進んできました。
しかし、映画では、パンフを見ても分かる通り、主役はあくまで阿部寛扮する栗林です。原作のまま映画化すると、栗林を演じる阿部寛が間抜けなまま終わってしまうので、浮かばれないよな~と思っていたら、栗林に関するサブストーリーがクライマックスの後にきっちりと付加されていました。栗林が、息子と対話し、自分と向き合い、事件の一部始終を公表するくだりです。
栗林と息子の相棒映画という見立て
見方を変えると、この映画は、栗林と息子のバディ・ムービーと見ることもできます。長年の惰性でサラリーマン生活をこなしていた栗林が、突然降ってわいたような自分の手に負えないレベルの難事件に直面します。そして、息子とともにスキー場という特殊な非日常空間へ行って、お互いがそれぞれ一連の事件と深く関わり、問題に向き合いました。
非日常における危機は、日常に潜在していたお互いへの不満や人間関係の問題点浮き彫りにしてくれる触媒でもあります。事件をきっかけに、栗林は、その浮わついた言動を見透かされ、心が離れかけていた息子とコミュニケーションを取り戻します。そして、自分自身の自分自身の職業生活の原点へと回帰していきました。
コメディタッチで終始進んでいく中で、最後はシリアスに栗林をきれいに描いたオリジナル・サブストーリーが付加されたのは、映画全体を引き締める効果があって非常に良かったです。
脇役、根津と千晶が原作のイメージどおりで素晴らしい!
既発表のシリーズ3作を通じてすでにがっちりキャラクターが固まっている根津と千晶ですが、根津役の大倉忠義、千晶役の大島優子とも、非常に原作のイメージにぴったりの演技をしてくれました。冷静沈着で内に情熱を秘めた根津、活動的で、おせっかいな姉御肌の千晶ともに小説から出てきたような好演でしたね。(大島は地なのかも・・・)
6.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)
6-1.埋められた病原菌の中身は何だったのか
交通事故死した葛原哲也が、実験室で作り出した、「K-55」という識別番号で呼ばれるワクチンの効かない「炭疽菌」の突然変異体です。炭疽菌は、体内に取り込まれると発病率が高い病原菌です。近現代の国家間戦争にて、生物兵器として何度か使われたほか、アメリカの炭疽菌テロでも使用されました。
「芽胞」という状態で粉末化して空気中で散布できるため、本作のような事件がおきるとパニックになるのは容易に想像できるところです。
6-2.どどめ色のスキーウェアの男と折口真奈美研究員の関係
エンドロール中に明かされましたが、折口真奈美研究員と、どどめいろのウェアの男は姉弟でした。真奈美は、従順でか弱い研究員を日頃演じながら、手段を選ばず大きなチャンスを伺う勝負師として、原作では描かれています。
真奈美は、無断で炭疽菌K-55を作成した葛原とグルでした。解雇された葛原が復讐として東郷所長へ3億円を脅し取ろうとした計画に乗り、葛原が炭疽菌を盗み出す手助けをします。そして、アクシデントで葛原が死亡した後は、多額の借金返済に迫られていた弟と共謀して葛原の残した炭疽菌のビンを回収し、外国へ売りさばいて高飛びしようとしました。
現実に、こういう大胆な人物がいるか?といえば、やや疑問ですが、物語にひねりと壮大なオチをもたらしてくれた存在でしたね。
6-3.なぜ秀人は炭疽菌の入ったビンをすり替えたのか
事件が解決したその夜、あくまで事件を隠蔽したままやり過ごそうとした栗林に対して、「それでいいのか?きちんと対処しなければいけないのではないか?」と迫り、親子はぎくしゃくしてしまいました。
秀人はなぜビンをすりかえたのでしょうか?まず、父親に対するあてつけの気持ちがあったでしょう。さらに、折口研究員に渡すのではなく、自分たちで持ち帰ることによって、もう一度父親に正しい選択を取るよう考え直して欲しいと考えたからとも考えられます。
秀人の「余計な」行動が、結果として折口姉弟の空港での高飛びを防ぎ、炭疽菌の拡散を防ぐ大殊勲につながったところに、このストーリーの面白みがありました。
6-4.「栗林」という名前に込められた意味とは
阿部寛扮する主人公の「栗林」という名前には、「冴えないサラリーマン」「うだつの上がらない中年」という記号的な意味が含まれていると思われます。本作だけでなく、小説・ドラマ・映画と大ヒットを記録した「ガリレオ・シリーズ」でも万年助手を務める栗林助手という名前のうだつの上がらない似たようなキャラが出てきますね。
今回の栗林は助手ではなく「主任」ではありますが、実質は強権的な東郷所長の下で情けない中間管理職でしたから、ほぼガリレオシリーズの栗林と同じようなイメージで描かれたものだと見て良いでしょう。
6-5.山小屋「カッコウ」についての考察
今回の事件で、物語の重要な拠点となったのが、スキー場の中腹にあったヒュッテ「カッコウ」です。野沢温泉スキー場に実在する小屋で、「パノラマハウス ぶな」という名前で、11月26日から営業を開始しています。聖地巡礼にいいかも?!
ちなみに、「カッコウ」という名前は非常に秀逸でした。本作は、後半にかけてどんでん返しの連続でストーリーが加速していきましたが、物語展開の核心部分にあったのが、炭疽菌の「収納容器」でした。物語中、高野裕紀、栗林秀人により2回もすり替えられた収納容器は、まさに「カッコウ」の巣みたいでしたね。物語の重要拠点となった小屋の名前が、まさに物語の本質を暗示していたわけです。
7.原作小説との細かい相違点(※ネタバレ有注意)
7-1.ロケーションの違い
犯人が炭疽菌を埋めた場所が、原作では「里沢温泉」となっていましたが、映画ではむしろぼかされることなく、「野沢温泉」となっていましたね。まぁ原作を読んでいる時に、ああこれは野沢がモデルかな・・・と思いながら読んでいましたが(笑)
7-2.発信機の電池の違い
原作では、脅迫状に、発信機の電池は1週間と書かれていましたが、映画ではスピード感を持たせるためか、4日間とされていましたね。
7-3.家族のきずなを強調するための片親設定
事件で鍵となる栗林家、高野家について、原作では両親とも健在でしたが、映画では栗林家が父子家庭、高野家が母子家庭として描かれていましたね。事件を乗り越えたことにより、強くなる家族の絆をより強く演出するための設定だったのでしょう。
8.まとめ
複雑にプロットが積み重なった原作を極力間引きせず、スピード感をつけてまとめ上げるとともに、原作で描ききれていなかった栗林親子の葛藤や、栗林自身が事件を通じて成長する様までを描いた本作。
監督の得意なコミカルでおかしみのある演出に逃げ込まず、シリアスなシーンとゆるいシーンが波状攻撃のようにつながっているのも良かったと思います。
映画ならではの面白さが感じられる、原作をうまく昇華した良い作品です。是非、映画館で楽しんでみて下さい。
それではまた。
かるび
【おまけ】映画を楽しむための原作小説などを紹介!
実は、この映画の原作「疾風ロンド」は、スノーリゾートで起きる事件を解決する根津・千晶が活躍する「根津・千晶シリーズ」の2作目なのです。本シリーズは、2016年11月現在、4作出版されています。
主人公がコミカルな3枚目だったり、恋の駆け引きや人間関係を面白おかしく描いた作品だったりと、サスペンスを基調としながら、作品を追うごとに読みやすいライト文芸調へと変わってきているのが特徴。そして、どの作品も発売後即ベストセラー。メチャクチャ売れてます!せっかくなので、全作紹介したいと思います。
第1作:「白銀ジャック」
シリーズ1作目は、渡辺謙主役でドラマ化もされました。スキー場経営をめぐり、スケールの大きい陰謀と殺人事件が起きます。スキー場のパトロール隊員だった根津が、はじめて千晶と出会い、共に事件に巻き込まれていくことになります。バブルの後遺症が続き、経営難に苦しむスキー場を舞台にした本格サスペンスミステリです。
第2作:「疾風ロンド」
時系列で言うと、「白銀ジャック」より少し後。里沢温泉スキー場に移ってきた根津に久しぶりに会いに来た千晶の距離がまた少しだけ縮まりました。本編ではサブストーリーですが、二人の絡みも読み応えがあります。ちなみに、「根津・千晶シリーズ」2作目から急にコメディタッチへと変わりました(笑)
第3作:「恋のゴンドラ」
「疾風ロンド」映画化に合わせ、書き下ろされた第3弾。舞台は再び里沢温泉ですが、今回はスキー場の「ゴンドラ」を舞台に、リア充たちの恋模様を描いた連作短編集。人は一人も死にませんが、結婚適齢期の男女の生々しい人間模様を描いた、東野圭吾版「私をスキーに連れてって」です。一気読みしました。面白かった!
第4作:「雪煙チェイス」(11月29日発売!)
「恋のゴンドラ」に続き、「疾風ロンド」映画公開に合わせて11月29日に発売となる文庫書き下ろし作品。未読ですが、「サスペンス、恋愛、コメディ、人間ドラマ」など全ての要素を入れて書き下ろした、と東野圭吾自身語っているように、本シリーズのハイライトになりそうな作品。(※読み終わったら、感想追記します!)