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【ネタバレ注意】映画『この世界の片隅に』の感想と解説/2016年No.1の最高の名作でした!

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かるび(@karub_imalive)です。

話題のアニメ映画「この世界の片隅に」を見てきました。クラウドファンディングで制作費を賄い、改名後、女優として再起をかける「のん」が主人公のすず役を務めたことなど、口コミで話題になっている作品ですが、今年No.1と言えるほど本当にいい作品でした!

公開初日に見てきましたが、なんと終演後、シネコンなのに会場内からは拍手が!こんなの初めてなんですけど・・・。その後、パンフレット購入に長蛇の列ができるなど、お客さんの反応も抜群でした。

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凄くいい作品なので、興奮醒めやらぬ中、以下感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、ネタバレ部分をかなり含みますので、何卒ご容赦下さい。

1.映画の基本情報

【監督】片渕須直
【脚本】片渕須直
【原作】こうの史代(「夕凪の街 桜の国」
【音楽】コトリンゴ

映画作品では単館系作品、「マイマイ新子と千年の魔法」以来、メガホンを取るのが7年ぶりとなる片淵監督ですが、自らの企画発案により、私財も投じて数年がかりで完成にこぎつけた作品です。作品全体に漂う優しい雰囲気は、前作「マイマイ新子と千年の魔法」と変わらず、片渕監督の面目躍如でしょうか。

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映画製作が費用面で行き詰まっていた2012年以降、クラウドファンディングに打って出たところ、目標2000万円はわずか9日間で達成、最終的に目標の倍額、4000万円弱と、国内最高金額が集まります。

思わぬ反響に手応えを感じ、予算も潤沢に集まったことから、本格的に製作委員会が立ち上がり、制作が急ピッチで進んでいきました。

2.主要登場人物とキャスト

北條すず(CV:のん)
本作の主人公。のんびりマイペースで、天然キャラ。誰からも好かれる憎めない性格で、北條家では控えめに振る舞う。
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北條周作(CV:細谷佳正)
すずの夫。海軍の軍法会議所で録時として働いている。運動神経は鈍く、優しく温厚な性格。
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黒村径子(CV:尾身美詞)
周作の姉で、旦那と死に別れて離縁し、子供の晴美とともに北條家へ戻ってくる。一人息子は下関の黒村家にいる。すずには厳しくあたりがち。
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黒村晴美(CV:稲葉菜月)
径子の娘。径子とともに北條家へ来てから、すずになついている。別れた兄の影響で、軍艦に詳しい。
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白木リン(CV:岩井七世)
呉の繁華街の遊郭で働く。すずが道に迷った際、すずに道案内して交流する。f:id:hisatsugu79:20161112072105j:plain 

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3.ラストまでの簡単なあらすじ(※ネタバレあり注意)

広島で3人兄弟(長男:要一、次女:すみ)の真ん中で、浦野家の長女として生まれ育った浦野すず(CV:のん)は、天真爛漫でおっちょこちょいだが、純粋さを失わず、素直に成長していく。小さい頃から叔母の家で座敷わらしと交流したり、街に出た時に人さらいおばけに出くわしたり、日常的に非現実的な出来事も多かった不思議系少女でもあった。

すずの特技は、絵を描くこと。中学の時、クラスのガキ大将で幼馴染だった水原哲(CV:小野大輔)の代わりに描いた海の風景が、(水原哲の名前で)絵画コンクールで受賞したこともあった。

そんなすずに転機が訪れたのは18歳の時。電車を乗り継いで広島から2時間程離れた呉の高台にある北條家の長男で、呉の軍事工廠で働く北條周作(CV:細谷佳正)からの指名で、嫁入りすることに。

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右も左も分からない中、祝言を挙げ、北條家へ嫁いだすず。姑である周作の姉である径子(CV:尾身美詞)は性格からなのか、すずにきつく当たってくる。慣れない中、頭にハゲができたりもするが、夫、周作のサポートなどもあり、すずは持ち前の明るさで、徐々に北條家にとけこんでいく。

夫の死後、離縁して実家に帰ってきた径子の連れ子、晴美(CV:稲葉菜月)からはよくなつかれ、一緒に遊んだり、絵を描いたりと楽しく交流する毎日だった。

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ある日、晴美が貴重な砂糖壺を水の中に流してしまったので、呉のヤミ市へ買いにでかけたすずは、その帰り道で道に迷ってしまう。そこで遊郭の白木リン(CV:岩井七世)とはじめて出会う。

別の日に、軍法会議所で働く周作と、町中でたまの夫婦水入らずの夕方を過ごしたすずは、周作から「やせた」と指摘され、妊娠の疑いから病院へ検診に行ったが、結局ただの夏バテによる体調不良だった。

昭和20年になると、いよいよ軍事基地がある呉にも空襲が頻発し、周作も家を3ヶ月間離れることになった。また、工廠で航空機エンジニアとして働く義父の円太郎(CV:牛山茂)も空襲で大ケガをして、町の病院に入院しているという。晴美を疎開させるため、切符を購入する待ち時間の間に、晴美を連れて円太郎の見舞いに出かけたすずだったが、その帰りに空襲に遭遇する。

すぐ近くの防空壕で晴美と難を逃れたが、空襲が終わって防空壕を出た時、不発弾が爆発し、晴美は死に、すずは絵を描くための大切な右手を失った。径子からは「人殺し」となじられ、さすがのすずも自分を責め自暴自棄になる。

7月に入ると、さらに戦況は悪化する。北條家にも焼夷弾が落ちたり、至近距離から機銃掃射による空襲を受けたり、常に命の危険にさらされながら、「帰りたい」と周作に訴えるなど、不安定な心のまま毎日をすごすすず。

そして8月6日の朝。径子から、「人殺し」と非難されたことについて謝罪を受け、思いがけなく優しい言葉をかけられ、心がほぐされたすずだったが、和んだのもつかの間。広島で原爆が落ち、ものすごい地響きとキノコ雲を見て不安になるすずだった。

そして、終戦。一家そろって玉音放送をラジオで聞いた北條家。「晴美・・・」と言って泣き崩れる径子。自宅裏の畑で泣き崩れたすず。終戦を区切りとして、その日、すずの義母、サン(CV:新谷真弓)はとっておきの白米を一家に振る舞った。

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終戦後、進駐軍が占領を開始すると、軍で働いていた円太郎と周作はお役御免となり、自宅へと帰ってきた。浦野家では、原爆が落ちた日、母は即死、父は10月に病死。生きていたのは放射能の後遺症で寝込んでいたすみ(CV:潘めぐみ)だけだった。

また、幼馴染の哲も無事に帰還していたが、その後姿をみかけたが、すずは敢えて声をかけなかった。

年が明け、街のベンチに座って握り飯を食べながら周作と話をしていると、ヨーコという小さな身寄りのない女の子が近寄ってきた。握り飯をヨーコに分け与えるすず。そのまま、ヨーコは二人のあとをついてきた。北條家でヨーコが新しい家族として迎えられようとしていた。

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4.映画の見どころや感想(※ネタバレ含)

4-1.のん演じる「すず」が意外にもフィットしている

あまちゃんの時にみせた、本人の「地」を活かした天然系でふわっとしたあたたかみのある声色が、すずにぴったりはまっていました。声優としてのキャリアも初めてなので決して上手だとは言えないのですが、映画の世界観にぴったりの抜擢は、大当たりでした。

4-2.戦時中を描くも、牧歌的でファンタジックな情景

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本作は、基本的に主人公すずを通して見えている世界を描き出した「私小説」に近い構成です。すずを通して見えた戦時中の風景や心情を描き出しているため、物語前半部分は、緊迫した戦時下でもどこか牧歌的でのんびりとした柔らかく優しい情景が広がっています。日常世界をどこか幻想的に映し出すパステル調のきれいな画像は必見。ふわっとした抑えめの色使いで彩られた画面に癒やされました。

4-3.徹底した考証に支えられた精緻な描き込み

すずの心の中を描写したような牧歌的なトーンで描かれる一方、描かれた内容は極めてリアルです。「公式ガイドブック」「公式アートブック」で制作の舞台裏が取材されていますが、戦時下の呉の街並みや人々の生活風景、空襲の日時、その被害状況、被災場所など、徹底的なロケハン(下見等の現地調査)とヒアリングにより再現されました。後半になるにつれ、至近距離で爆発する焼夷弾や、機銃掃射、防空壕の中での振動や原爆が落ちた瞬間の描写は、鳥肌が立つほどリアリティがあります。70年前の戦時中の日本の生活や風景は、まるで別世界のようでした。

4-4.厳しい戦時下でも日常生活を守ろうとする市井の人々

衣食住全てにおいて、配給制限や闇市での物資の高騰が生活を圧迫する中、人々が協力しあい、工夫して毎日の生活を少しでも充実させようと懸命に取り組むシーンが淡々と描かれるところに心を打たれました。

特に印象的なのは、北條家や浦野家の食事シーン。終戦が近づくに連れ、どんどん劣化する一方の食事内容でも、身を寄せ合うように一つのカマのご飯を頂くカット(もちろん、まずい時は皆まずそうな顔をする)が何度も繰り返し描かれます。

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そして、戦後の進駐軍の炊き出しを手に入れた径子とすずが、どうみてもねこまんまにしか見えないゴミ入りの洋風の雑炊を、「おいしい~」と肩を寄せ合って食べるシーンは印象的でした。

4-5.ジワジワと来る、大切な人が亡くなっていく厳しい現実

本作では、戦争の厳しさやつらさ、残酷さだけに焦点を当てたステレオタイプな描き方を脱し、すずという「普通の」女性から見えた生活風景を淡々と精緻に描き出すことで、戦時中の厳しさが自然に際出つ演出が取られています。

そして、戦局が悪化するにつれて、大切な人との死別が日常風景になっていくと、物語は暗いトーンへと落ち込んでいきます。

幼少時に、幼馴染の水原の兄はすでに戦死しています。嫁入り後、便りが絶えていた出征中の兄は、戦死して浦野家に兄の遺骨が届きます。さらに、空襲が激しくなると、軍工廠で働いていた周作の父が生死に関わる大怪我をし、晴美も焼夷弾に当たって死亡します。同時に、すずも自らのアイデンティティに深く関わる、絵を描くための大切な右手を失います。

クライマックスは、8月6日の広島への原爆投下です。近所の刈谷さんの息子が自宅の前で座って亡くなっているシーン(しかも死が日常的すぎて親さえも気づいていない!)があり、すずの広島の実家の母は原爆で即死、父は10月に病死(恐らく放射線の影響による)しました。妹は原爆後遺症で寝たきりになりました。

戦局が悪化し、空襲が日常化するとともに、懸命に平静を保とうとするも徐々に壊されていく大切な家族や衣食住。物語中を通して、多くの人が戦争で傷つき、亡くなって行く残酷な展開が、あくまで「すずの生活感覚の中で」ニュートラルに描かれますが、ジワジワと染み入るように重苦しさが伝わってきました。

個人的にも、東日本大震災直後に実際に強く実感したことですが、大切な人が健在であり、何気ない毎日の生活を平凡に送ることができることが、どれだけかけがえのないことであるのか、それを教えてくれる映画でもありました。

4-6.70年前の、「結婚」から始まる恋愛像

f:id:hisatsugu79:20161112165108j:plain日常生活を描く一方で、この映画は、すずと周作の恋愛映画でもあります。すずは、見ず知らずの家に就職面接をするかのように北條家へ嫁入りします。好きかどうかも分からない中、徐々に周作に惹かれていくすず。

日常生活や苦楽をともに過ごす中で二人の関係が深くなり、本当の家族になっていくプロセスは、現代ではちょっとあり得ない展開でもあり、恋愛観ひとつ取っても、70年前と現代では全く違ってきているのだな、と感じさせられました。一つの見どころです。

4-7.空襲で利き腕を失ったすずの心の変化

片渕監督の制作インタビューに「すずさんという人は、小さな子どもの頃から家の仕事とか家事の手伝いとか、妹の面倒までいっぱいしてきて、どこか子どもとしての部分を発揮しきれなかった人なんじゃないか」とあります。

すずは幼少期からずっと、北條家へ嫁入りするまで、一貫して自分自身を抑えて慎ましく生きてきました。あるいは、思いを言葉で表現するのが不器用なため上手く自己主張できなかったのでしょう。満たされない思いや感情は、「絵を描く」ことで上手く昇華され、ある意味「絵」の中に自分の居場所を見出していました。

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空襲で利き手を失い、それまで北條家の嫁として家族の世話をする一方だったすずは、一転して世話をされる立場へと変わり、さらに「絵」に自分の感情のはけ口を求めることもできなくなります。

手を失ったことで、すずはようやく声に出して自分の思いを周りに伝え始めます。逆らったことのなかった夫と口げんかをしたり、姑の径子に甘えたり。「絵」を描くための大事な片腕を失うという大きな代償は払いましたが、タイトル通り「この世界の片隅」にしっかりと自分の居場所を作れたのではないでしょうか。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ注意)

5-1.新婚初夜について祖母イトからの「傘」のアドバイスって何だったの?

嫁入り前に、浦野家で祖母のイトが、新婚初夜に婿から「傘を1本持ってきたか」と聞かれたら、「新なのを1本持ってきました」と答え、「差してもええかいの」と言われたら「はい」と答えるようにすずにアドバイスしていました。

これは、通過儀礼として新婚初夜に夫婦が交わすテンプレート的なまくら言葉だと解釈するのが自然だと思います。

民俗学で有名なのが「柿の木問答」というやり取りがあり、九州~東北地方で昭和初期にはこんな初夜のかけあいがあったそうです。

男「あんたとこに柿の木あるの」
女「あります」
男「よく実がなりますか」
女「はい、よくなります」
男「わたしが上がって、ちぎってもよろしいか」
女「はい、どうぞちぎってください」

ちなみに、映画では、「新なのを・・・」とすずが答えたら、周作はその傘を使って干し柿を取って二人で食べましたね。想定と違う微笑ましい展開でしたが、ここでも柿が登場しており、祖母のイトがアドバイスした「傘」のやりとりは、この柿の木問答のバリエーションだとみなして良いと思われます。

5-2.座敷わらしの正体はリンだった

そうだ、とは明言はされていないのですが、マンガ原作や映画中のリンとの交流で挿入される思い出の一コマや映画のエンドロールで強く示唆されているように、幼少時、親戚の家に遊びに行き、昼寝をしている時に天井裏から出てきた座敷わらしは、リンだったと思われます。リンがすずに「芯ばかり食べていたけど、一度だけ女の子にスイカをもらって食べた」と語ったエピソードからもわかります。

5-3.広島で拾ってきた「ヨーコ」は家族の絆と戦後復興の象徴なのか

最終シーンで、広島の焼け跡で彷徨っていた浮浪者の「ヨーコ」(※映画では明らかにされませんでしたが、ノベライズ版で「ヨーコ」と名付けられています)に懐かれたすずと周平は、そのままヨーコを自宅に連れ帰ります。

エンドロールでは、少し成長したヨーコがすずから裁縫を教わり、すずと径子に赤い水玉柄のおそろいの服を作っていました。汚く裸同然の恰好で拾われたヨーコが成長し、モンペや着物ではなく「洋服」をプレゼントする様は、象徴的に戦後の日本の復興と重ね合ってみえました。

また、「ヨーコ」は皆にとって特別な存在にもなりました。子供ができないすずと周作にとっての子供であり、晴美を空襲で失った径子にとっての子供でもあり、さらに、すずにとっては、恵まれない幼少時代を過ごしたであろうリンの生まれ変わり、生き写し的な意味合いもあったと思われます。

家族や故人との大切な繋がりや、戦後の復興への希望を象徴する特別の存在として、マンガ原作にはない後日譚をエンドロールで付加的に描かれていたのは、非常に感慨深いものがありました。

6.ノベライズ版、マンガ原作との相違点(※随時追加、ネタバレ有注意)

ノベライズ版はマンガ原作と基本的には同じ内容です。そこから、2時間強の尺に収まるだけのコンテンツを厳選して映画が作られました。映画でのセリフなどはマンガ原作とほぼ全部同じですが、残念ながら惜しくも削られた部分もありました。ここでは、特に映画版にはなかったマンガオリジナルの伏線やサブストーリーを紹介したいと思います。

6-1.原作では、より複雑なリンと周作、すずの三角関係について

映画では省略されましたが、マンガ原作では、遊郭近くの海軍で働いていた周作が、すずと出会う前に遊郭でリンと出会い、熱を上げていた時期があったことが示唆されています。遊郭の女に情がうつり、そこから連れ出して妻に迎えるというのは江戸時代からよくあるパターンですが、さすがに家族の反対に遭うわけですね。

そこで、周作は、リンを諦めるその代わりとして小さい時に街で出会った「浦野すず」という女性なら結婚してもいい、と無理気味のリクエストを出しますが、伯父がすずを広島で見つけてきてしまい、祝言へと進んだのでした。

結婚後、祝言の仲人になってくれた伯父の小林家の疎開作業中に、みたこともない「りんどう柄」の茶碗が出てきます。そこから周作に過去の縁談話を聞いたすずは、その直前にリンが見せてくれた大学ノートの切れ端や「りんどう柄」という共通項、周作とデートした時の周作のセリフ「過ぎたこと、選ばんかった道、みな覚めて終わった夢と変わりはせんな」から、周作が過去結婚しようとしていた人物がリンであることを割り出したのでした。(そういうところは勘がいいすず)

6-2.遊郭の人々との交流

マンガ原作では、リンとは1回きりの関係ではなく、その後も何度か街に出た時に交流したり、周作が渡せなかった「りんどう柄」の茶碗を渡しに行ったりします。大空襲後、リンの勤めていた朝日遊郭へ行ってみたら、遊郭は廃墟になっており「りんどう柄」の茶碗のかけらが側に落ちていた描写から、リンは結局大空襲があった際に亡くなってしまったのだと思われます。

また、リンを訪ねた際、リン不在の時にテルという女性に会いますが、後日リンからテルの使っていた遺品の口紅をもらいます。以降、すずはこの口紅を非常に大切な機会に使っています。(長期で家を離れる周作を、朝見送る時とか)

7.まとめ

ここまで見てきたように、内容は素晴らしいです。日本人しか制作できない「戦争もの」ジャンル映画ですが、世界中の老若男女に幅広く受け入れられる訴求力を持っています。一般市井の普通の女性の視点から「日常生活のかけがえのなさ」という普遍的なテーマを扱い、政治的なイデオロギーや思想の色もありません。

公開前、「のん」の独立を巡る芸能界独特のしがらみから、テレビ等での十分なプロモーションが行き届いていたとは言えないですが、クラウドファンディングでネットの力で制作された本作は、ネットで口コミが広がって大ヒットしてほしいなと素直に思いました。

いい映画です。年末年始にじっくり味わって欲しい、心が震えるような名作でした。上映館数が少なめですが、文句なくお薦めです。

それではまた。
かるび

8.映画を楽しむための小説やガイドなど

8-1.マンガ原作「この世界の片隅に」

映画を見て感動したなら、まず読んでほしいのがこうの史代による漫画原作版です。全3巻ですが、雰囲気や世界観は映画と共通な上、映画以上に伏線やサイドストーリーが充実しています。時代性や幻想的なやさしさを表現するため、マンガならではの多彩な表現方法が素晴らしいです。過去作品「夕凪の街 桜の国」と合わせてこうの史代の表現世界をたっぷり味わってみて下さい!

8-2.公式アートブック

「このマンガが凄い!」編集部によって制作されたムック本。アニメの制作過程や時代背景の詳細な説明、マンガ原作版の分析、設定資料集など、作品に多角的で深い解説が大盛りになった労作です。これは買って良かった!文句なくお薦め。

8-3.この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

もう一つのお薦めガイドブックがこちら。こちらは、映画製作の裏を総力取材した解説本です。ロケハン写真をはじめとする、膨大な制作資料やメイキングのプロセス、のんや監督、原作者のこうの史代などへのロング・インタビューも見どころ。こちらも値段以上の値打ちがありました。

8-4.ユリイカ

「この世界の片隅に」を始めとして、こうの史代の主要な作品を振り返り、映画についてのプロの文芸批評家たちの長文での徹底的なレビューが特集されています。マニアックかつ学術的な側面から作品を極めたい人にお薦め!

8-5.映画の公式ノベライズ版

映画、マンガに加え、公式ノベライズも出版されました。200ページ強と、ハンディな作品に仕上がっていますが、原作マンガに忠実な作品となっています。映像では捉えきれなかったストーリーや情景を、小説として「文字」でじっくりと消化することで、また違った味わいが出てきます。これもお薦め。

8-6.マイマイ新子と千年の魔法

片渕須直監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」(2009)も素晴らしい出来。上映時はほとんど興収もなかったマイナー作品でしたが、内容が良いです!DVDで後追いで見たのですが、やはり昭和の山陰地方を巡る牧歌的な心洗われる作品でした。こちらもお薦め!


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