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【映画感想】「大爆死」!?のジブリ新作「レッドタートル」は自然の本質を味わい深く描いたアートな良作でした【ネタバレ含注意】

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かるび(@karub_imalive)です。

9月17日に封切りとなったスタジオジブリ2年ぶりの新作映画「レッドタートル ある島の物語」に行ってきました。

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なんと初週は「ジブリ」ブランドであるにも関わらず観客動員数でランク外となるまさかの展開。あるネット記事では、「大爆死」と書かれてしまう始末。

9月22日の週は、「君の名は。」がV4達成、さらにNo.2には「聲の形」がランクインするなどアニメ映画が絶好調となる中、迷走気味(に見える)スタジオジブリの今の状況を象徴しているようでした。

個人的には、この作品は、予告動画などを見る限り、実験的ではあるけれど悪くはないんじゃないかなぁと思っていました。どんなものなのか実際にみてみようかな?ということで、早速行ってきました。以下、感想を書いてみたいと思います。

なお、本感想エントリには、後半でのあらすじや考察で「ネタバレ」部分があります。映画館にこれから行かれる方は、ご注意下さいませ。

1.映画基本情報

【ジャンル】アニメ・無人島ファンタジー
【公開日】2016年9月17日(金)
【原作・監督】マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
【アーティスティックプロデューサー】高畑勲
【脚本】パスカル・フェラン
【制作】スタジオジブリ/ワイルドバンチ
【音楽】ローラン・ペレズ・デル・マール
【プロデューサー】鈴木敏夫

なんと、スタジオジブリ始まって以来の外国人監督起用&海外プロダクションでの制作作業となりました。今回起用されたマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督は、ロンドン在住のフランス人。

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短編アニメーションで実績を積んできたベテランで、寡作ですがもう60代。2000年にリリースされた8分間の短編アニメ映画『岸辺のふたり』(邦題)を見たジブリの鈴木プロデューサーが惚れ込み、長編制作の打診をかけたところから、映画「レッドタートル」の構想がスタートしました。

以後、構想10年、制作に8年。絵コンテ制作段階では、マイケル監督が日本に短期滞在し、日本側の高畑勲監督のチームと膝詰めで構想を練りました。その後は本国フランスと日本でのオフショアでのやり取りを重ねる中、ようやく2016年に完成した労作であります。

映画ラストのクレジットを見る限り、高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサー以外に目立った日本人の名前が見当たりません。コンセプトワークは日仏合作で、お金は日本側で出して、制作の大半はフランスで、というオフショア開発のような分業体制だったのでしょう。

2.興行収入/動員数ではかなり厳しい模様・・・

僕が行ったのは、いつもホームグラウンドにしているユナイテッド・シネマ豊洲ですが、封切り2週目の土日にして、一番小さいミニシアターでわずかに1日2回放映のみ。しかも、土曜日の午後という一番混雑する時間帯での上映にもかかわらず、座席は半数程度(30~40人くらい)とかなりの厳しい状況でした。

報道されている興行収入も、封切り初週でわずか3300万円にとどまりました。100館以上の上映でこれは正直寂しい・・・。ジブリの作品としてはかつて無いほどの厳しいスタートとなっています。

原因は、下記のようにいくつか考えられます。

1)広告宣伝が不足しており、本作の存在が広く認知されていない

テレビやネットなどのCM、見かけましたか?日テレが積極的に動いてないですよね。また、映画のフライヤーもものすごく地味でした。少なくとも、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門特別賞受賞の快挙なども、コアな映画ファン以外は知らなかったのでは?

2)従来のジブリ作品と毛色が全く違うため、ジブリファンが動いていない

外国作品であり、作画や雰囲気が全く違う。「ジブリの作品です」と言われなければ、とてもそう見えません。

特にキャラクターの雰囲気がぜんぜん違う
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(Youtube上の海外向けトレーラーより)

目が「点」で描かれています・・・。このあたりは、日本アニメではまず見ない、海外独特のテイストだよなぁ、と思ってみていました。

3)長編の無声映画であり、大衆性がない

今作は、まさかの無声映画!にも関わらず、テーマも抽象的で、一見難解にみえます。「君の名は。」で一気に王道SF恋愛モノへと大衆性、エンターテイメント性を強化してメジャー化した新海監督とは対照的でした。ネット上の評判でも、「長編でこれはないんじゃないの?」という批判もちらほら。

4)同時上映された強力な競合他作品の存在

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言うまでもなく、同時期に上映されているアニメ映画「君の名は。」「聲の形」の両作品に押されています。特に、普段アニメを見ないライト層は、「君の名は。」がジブリの新作だと思っている人も案外多いのではないでしょうか・・・。

3.あらすじ前半ダイジェスト(ネタバレ無し)

荒れ狂う海の中、ある男(※名前がないので以後「男」とします)が無人島へと打ち上げられます。気づいた男は、あたりを探索しますが、誰もいない無人島であることがわかり、絶望に打ちひしがれます。
やがて、気を取り直した男は、無人島からの脱出を試みて、倒木で作ったいかだでしまの脱出を試みますが、なぜか沖へ出る前に、海面の下から突き上げられるようにしていかだがバラバラになって、脱出できません。
そして、3度めに脱出を試みた際、脱出中の沖合で、男は途中で不思議な赤い色をしたウミガメ(レッドタートル)に出会います。

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男と赤いウミガメ(レッドタートル)の出会いは、やがて思いがけない不思議な展開へとつながっていきます・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

・・・(以下ネタバレ注意)・・・

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※これより下は、ネタバレを含みます。

4.あらすじ完全版(※ネタバレ含/注意)

あらすじを深く知りたい場合は、ジブリ公式の海外向けトレーラーが役に立ちます。

荒れ狂う海の中、ある男(※名前がないので以後「男」とします)が無人島へと打ち上げられます。気づいた男は、あたりを探索しますが、誰もいない無人島であることがわかり、絶望に打ちひしがれます。

やがて、気を取り直した男は、無人島からの脱出を試みて、倒木で作ったいかだで島からの脱出を試みます。しかし、なぜか沖へ出る前に、海面の下から突き上げられるようにしていかだがバラバラになって、脱出できません。

3度めに脱出を試みた際、脱出中の沖合で、男は途中で不思議な赤い色をしたウミガメ(レッドタートル)に出会います。やがて、ウミガメはいかだの下に潜り込み、下から硬い甲羅で突き上げて、筏を壊してしまうのでした。

男が失意と怒りで無人島へと戻って疲れ果てて寝てしまいます。浜辺で目をさますと、なんと隣にはあの赤いウミガメがいました。男は、3度脱出を阻まれたウミガメに対して砂をかけ、ひっくり返してウミガメを動けなくしてしまいます。

やがて、ウミガメは弱っていき動かなくなります。男はウミガメに対する罪悪感から、ウミガメに海水をかけたり気にかけます。一晩経つと、ウミガメの甲羅が割れ、ウミガメは人間の女性(以下、「女」で統一)に姿形が変わっていきました。

やがて、女は目を覚まし、甲羅を脱いでどこかへ行ってしまいます。しばらく男と女は警戒しあい、お互いに近づきませんでしたが、男が上着を女に与えたことをきっかけとして、女は甲羅を海の沖に流し、それを見た男も、脱出をあきらめ、作りかけのいかだを海に流して女との共同生活へと入っていきました。

共同生活を続ける中、ひとりの子供が生まれます。(以下、「息子」と表記)息子は、あっという間に島の暮らしに慣れて、大自然の中で成長し、ウミガメたちとも交流するようになります。

息子が青年になったある日、突然の大津波が無人島を襲います。沿岸で貝を採っていた3人は、あっという間に波に飲まれ、島の森林も徹底的に破壊されました。息子が竹林の瓦礫の中で目を覚ますと、父親と母親を探して島中を奔走します。母親は山の中腹でケガをしていましたが、無事でした。そして、ウミガメと一緒に捜索した結果、父親は海の沖合に流され、瀕死の状態で生きていました。

津波に飲まれた無人島は、惨状となりますが、それでも男、女、息子の3人はなんとか生活を開始します。

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息子は、小さい時に、偶然島に漂着したガラス瓶を見つけます。以後、水筒として大事に使いますが、このガラス瓶にインスパイアされ、外の世界へと旅立つことを決意します。息子は父、母を島に残し、ウミガメ3匹とともに、沖合へと旅立っていきました。

残された男と女は、再び幸せに暮らします。

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やがて、男も女も年を取っていきます。すっかり老人となった男と女は、ある日、海辺でダンスを楽しんだ後、そのまま寝てしまいます。男は夜中に一瞬目をさますと、また寝入り、そのまま安らかに老衰で死去しました。

あくる朝起きた女は悲しみますが、老人の死を受け入れると、静かにまた元の赤いウミガメ(レッドタートル)へと姿を変え、海へと戻っていきました。

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5.映画の感想(※ネタバレ少し含/注)

無声映画の難しさ

まず、事前に告知されていますが、本作は、長編の無声映画です。主人公の男たちは「うー」「うわー」とか色々擬音、擬声は発しますが、一言も言葉を発しません。アニメーションの細かい動きや表情、画面の風景、劇伴音楽から、何が起こっているかを読み取る必要がありました。
また、画面もジブリや日本のアニメでの「きれいさ」とはまた違う写実性や装飾性にすぐれた表現が、個性的で面白かったです。月夜の明かりや、自然を丁寧に描き出した背景、動物たちのコミカルな動きは、無声映画だからこそ際立っていました。

その反面、難解になったことは否めません。映画祭でスタンディングオベーションとなったとおり、中身は大衆娯楽作品ではなく、どちらかというとアートや芸術の香りがする路線です。

ジブリ作品ということで、大人から子供まで幅広い層が来場していましたが、作品中途で、集中力を切らして飽きたこどもが5~6人トイレに立ちました。完全に客層とミスマッチを起こしていました。「大人のジブリ作品」である、と事前にどこかで本作のキャッチコピーを聞きましたが、たしかに子供には厳しいかも。

パンフレットによると、制作当初はセリフが少しあったそうです。完成間近に高畑監督と相談し、最終的に全て削ったとのこと。セリフがない分、キャラクターたちの言いたいことや瞬間瞬間の心情を想像して自分で補完する楽しさが新鮮でした。(人情物の長編落語を聞いているような感覚に似ていました)

命の普遍的な営みを暖かく描き出した

ある男が無人島に漂着し、ウミガメの化身と結ばれ、幸せに暮らす。途中、津波や息子との別れを経て、最後には安らかに眠る。無人島漂着モノ+異類婚姻譚というストーリーで、ある種使い古された童話のテンプレート上にのっかる「わかりやすい」形で提示されてはいるんですよね。

パンフレットにも「これは一つの恋の成就、家族の誕生と充ち足りた歳月の物語である」と池澤夏樹が書いているように、変な文明も利害関係も貧富の差もしがらみもなにもない無人島で男と女が出会えば、普通に恋に落ちて仲良く暮らし、子供ができるものなのでしょう。

映画の中では、人間は完全に自然の一部でした。ときには津波など圧倒的な自然のチカラの前に無慈悲に押し流されながらも、それでも淡々と再生し、あるがままに時間がながれていきました。

ラストは、息子が旅立ち、男が死に、女が再び元のウミガメへと戻り、海へ帰っていき、ふたたび無人島は誰もいなくなります。まさに生々流転。どこからともなく何もないところから命が始まり、移り変わり、命が尽きれば最後には何もないところへと戻っていく。

でも、無常観ではなく、どこか温かみを残してくれるラストシーンは、マイケル監督の個性であり、確かな力量のなせる技なんだなと感じました。

解釈は自由

とはいえ、これは僕が1回目の鑑賞で抱いた感想です。無声映画だけに、あらゆる解釈が可能だと思うし、解釈など細かいことを抜きに、感性で「あたたかいもの」「雄大なもの」をストレートに感じ取るのも自由。

味わい方も、鑑賞者側に委ねられているのだと思います。

6.まとめ

正直なところ、映画の各シーンの解釈は、声が入らない分自由に広がっていると思います。ツイッターなどの感想を見ていても、「何度も見て味わいたい」という人が多かった。自由に解釈し、思う存分ストーリーを掘り下げていく楽しみがあるし、普遍的な「自然の営み」をテーマとしているため、10年後、20年後にも確実に残る作品です。

「爆死した」と言われた興収や思わしくない動員状況とは裏腹に、じわじわ心に染みわたる良作でした。何度も見て楽しめるスルメ的作品としてオススメしたいと思います。

7.関連作品など

パンフレットでも解説を担当する池澤夏樹が、独自の解釈に基づいて、映画の内容を絵本に仕上げました。子供には、これを先に読ませてから映画に行くのがいいかもしれません。


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