【2017年7月13日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。
日本は今、静かな仏像ブームと言われます。ここ数年、「仏像」をテーマにした展覧会は動員数も非常に好調。例えば、2009年に行われ約94万人を集めた「国宝 阿修羅展」は、なんとその年の展覧会で、1日あたりの入場者数で世界No.1を記録しました。(日本じゃなくて、世界ですよ?!)
去年も、東京国立博物館では6月に特別展「ほほえみの御仏―二つの半跏思惟像―」、9月に特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」が開催され、大人気コンテンツになっていました。
そして、今年も9月からはいよいよ大注目の「運慶展」が始まりますが、大変な人気になりそうな予感がします。
しかし!!!
その前に意外な伏兵がいたのです!!
それが、今回紹介する「タイ展」!
展覧会名だけ聞くと、なんだか「クール・ジャパン」的な感じで、タイ料理とかタイの観光地とかを紹介するような万博チックな響きがありますが、フタを空けてみるとそうではなかったんです!
展示品のほとんど全部が「仏教美術」に関する展示で、メインコンテンツは「仏像」だったんです!まさに仏像漬け、仏像まみれと言っていいほど、タイから大量の仏像たちがやってきてくれました!!
ということで、7月4日から、東京国立博物館で始まったタイ展(正式名称: 日タイ修好130周年記念特別展「タイ~仏の国の輝き~」)に行ってきました。
展覧会が始まって1週間。昨日、2回目の参拝訪問を済ませてきましたので、ここで満を持して感想エントリを書いてみたいと思います!
※本エントリで使用している会場写真は、あらかじめ主催者の許可を得て撮影したものとなります。ご了承下さい。
1.タイ展とは?
特別展「タイ~仏の国の輝き~」の概要について
タイ展は、正式名称が『日タイ修好130周年記念特別展「タイ~仏の国の輝き~」』とある通り、紀元5世紀頃の建国以来、歴代王朝の歴史を簡単に振り返りながら、タイの仏教美術や文化を大特集した展覧会です。
冒頭でも書きましたが、最初に展覧会名を聞いた時は「衣食住も含め、万博のパビリオンみたいな総合展なのかな?」と思っていたのですが、「仏教美術」という非常にピンポイントに絞り込んだテーマでした。
音声ガイドに「みうらじゅん、いとうせいこう」見仏記コンビ登場!
仏教美術を全面にフィーチャーした今回のタイ展、、、、
・・・
・・・
となると、音声ガイドはあの二人しかいないんだろうな・・・と思っていたら、期待通りやっぱり!
みうらじゅんといとうせいこう
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
2016年9月-2017年1月にも特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」を本館1Fで開催した時、この2人の漫才のような軽妙なトークが素晴らしかったので、もう一度聞けて良かった!
この二人は、仏像マニアならまず知らない人はいないと言っていいほどの筋金入りの仏像マニアです。1992年に雑誌「中央公論」で対談コラム「見仏記」をスタートさせ、2002年からはテレビにも進出。以来15年間、関西テレビ系列で、不定期ながら「TV見仏記」「新・TV見仏記」というゆるーい仏像紀行がカルトな長寿番組になっているのです。
ちょうど、この「タイ展」に合わせて、彼らがタイへと遠征した時の公式Youtube動画がアップされていますので、時間のある方は是非チェックしてみて下さい。このゆるさが癖になるんですよね。
見て頂くとわかりますが、二人の間には、非常にまったりとしたケミストリーが流れていますね。きっと仏像効果です(笑)
まさにこの雰囲気のまま、ゲストガイドとして、ゆるーく、でも、マニアックにがっつり語り尽くしてくれていたので、本当に楽しい音声ガイドでした。収録時間も全部で35分とボリュームも大盛りでしたし、今回は音声ガイド超おすすめです!!
最強の「非公式?」Twitterアカウントは絶対見ておきタイ!
現在、九州国立博物館で開催中の日タイ修好130周年記念特別展 仏の国の輝きがもうじき東京にもやってきます。その前に少しタイ、仏像、刀剣、絵画についてツイートします。#タイ展 #仏の国の輝きpic.twitter.com/FnAmrasEbi
— タイ展に行きタイ! (@hotokenokuni) 2017年5月14日
公立の美術館・博物館も、最近は結構SNSを活用してきていますが、今回のタイ展も頑張ってます。いろいろ大人の事情があって「非公式?」なのでしょうが、この「非公式?」アカウントがすごく熱心なんですよね。
とにかく毎日何かしらの情報をつぶやいてますし、たとえば、こんな感じでブロガーに気さくにエキセントリックに絡んでいったりもします。。。
はろるどさん、私が謎の #非公式アカウントです!#タイ展、よかったでしょう。癒しの空間にようこそ!これからもどうぞよろしくお願いいたします。
— タイ展に行きタイ! (@hotokenokuni) 2017年7月10日
また実況中継などいたしますね。#タイ展感想 も聴いてみたいです。 https://t.co/mKm6MedJVW
そして、何よりも役に立つのは、タイ展の「作品情報」を定期的につぶやいてくれることです。試しに、Twitterの検索窓で「タイ展 作品情報」と打ち込んでみて下さい。この非公式アカウントが画像つきでたくさん解説してくれています。
▼僕のケータイ画面です
こちらの情報を、事前の電車の中でもいいので直前に予習しておくと、展覧会がはかどりますよ!ツイートしたら見つけて絡んでくれるかも(笑)?!
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2.展覧会の4つのみどころ
みどころ1:何と言っても仏像!!
行ってみて衝撃を受けたのは、今回タイから来ている仏像が、その物量・クオリティともに想像以上だったことです。歴史ある貴重な文化財を、よくまぁこんなに気前よく貸してくれたなぁと・・・。タイ関係者の気前良さと、日経をはじめ展覧会関係者の粘り強い努力に拍手です・・・。
もう、これは行って見て頂くしかありませんが、古くは5世紀頃から、20世紀に至るまで、とにかく様々な色・形・材質・大きさの仏像を次から次へと鑑賞することができます。
例えば、ごく一部を紹介してみるとこんな感じです。
▼菩薩立像(左)
ドヴァーラヴァティー時代、7世紀
タイ~ミャンマーにかけて当時隆盛を誇ったモン族が建国した古代タイ王朝、ドヴァーラヴァティー時代の仏像。インド様式の影響なのか、腰がくねっと曲がっているおしゃれな感じの仏像です。顔つきも独特でした。
▼菩薩頭部
プレアンコール時代 8~9世紀
現在のカンボジア地方からタイ南部へと勢力を伸ばしていたプレ・アンコール王朝の仏像頭部。表面のざらざらした感じが彫刻っぽい手作り感でした。日本では13世紀頃まで運慶の「玉眼」が流行するまであまり例がない「はめ込み式の目」が、この地では500年前から一般化していたのですね。
▼ハリハラ立像(右)
スコータイ時代、15世紀
上座部仏教が国教となっていたスコータイ王朝でしたが、インド由来のヒンドゥー教やバラモンなども一定の存在感があり、ヒンドゥー教の神像もまた仏像同様に多数製作されました。日本人はこれを見るとどうしても「阿修羅像」を連想しますが、これはヒンドゥー教のシヴァとヴィシュヌが合体した最強の神、ハリハラ神です。
▼仏陀坐像(左、右両方)
スコータイ時代 15世紀
チラシでこれを見た時一目惚れし、「絶対タイ展行かねば!」と心に決意したのですが、この独特の卵型のお顔とアルカイックスマイル、そして頭に角のように生えている炎のオブジェ。スコータイ時代に花開いた、タイ様式の真骨頂です!
▼仏陀涅槃像
ラタナコーシン時代 19世紀
そして一気に時代は飛び、現王朝のラタナコーシン時代の涅槃像。僕が最初に、タイの仏像は「寝てる」のもあるっていうのを初めて知ったのは、中学1年生の時でした。当時大流行していたカプコンの格闘対戦ゲーム「ストリートファイター2」で見て、衝撃を受けたものです(笑)
▼ストリートファイター2「ザガット」
引用:https://www.youtube.com/watch?v=1hEeXftE3c0
このタイプの仏像をいつかリアルで見てみたい!と思っていたのですが、あれから30年。42歳にして、初めて実物と対面できました。ありがとうタイ展!(笑)
▼仏陀坐像
ラタナコーシン時代、1903年
そして、最後は20世紀に修造され、日本の三會寺に安置されている坐像です。やっぱり、タイ古来の伝統を受け継いだ定番のスタイル+頭上の炎のオブジェが独特で、日本のものとは明らかに違いますね。
このように、本展はタイの歴史を追いかけながら、それぞれの時代、それぞれの王朝における仏像の変遷を味わいながら進んでいくことができる、非常に贅沢な展覧会なのです。写真に載せた以外にもまだまだ沢山の仏像が展示されています!
みどころ2:わかりやすい説明パネル!
若干心配だったのが、恥ずかしながら自分に「タイ」についての知識が殆どなかったこと。最近の時事ネタはまだ「政治が難しそうな状況だ・・・」とか、「パクチーがブームだ」とかなんとなくついていける状況でしたが、タイの伝統的な仏教文化や歴史となるとサッパリわかりません・・・
しかし、そんな心配も全く杞憂でした。
▼非常にわかりやすい解説パネル
この、「もっと知りタイ」という非常にわかりやすい解説パネルが、各展示の要所要所で先回りして必要な知識を都度インプットしてくれるので、鑑賞のための前提知識も含めて、全部展覧会の中で一通り消化・理解できるような構成になっているんです。
夏休みで小中学生が来場することも考えると、非常に気の利いた解説だったと思います。他の難解な現代アートの展覧会なんかも、タイ展を見習ってほしいなぁ・・・。
みどころ3:江戸時代、日本との関わりもあった!
▼末吉船図衝立(右)
そして、展示後半になり、「シャム」の時代になると、日本との交流も徐々に活発化します。例えば、この写真で映っている衝立(ついたて)は、17世紀に江戸幕府が「朱印状」を発行した船にだけ他国との交易を許可した「朱印船貿易」において、末吉吉康という豪商が、シャムとの交易に成功した様子を描いたものです。
その他、シャムの日本人町のトップに立った山田長政の肖像画や、実際に徳川家康の朱印が押印された「朱印状」の実物なども展示されており、このコーナーも見応え十分でした。
みどころ4:写真撮影も一部OK!
そして、今回のタイ展では、展覧会で出展された最も巨大なアイテムが、「撮影可能」となっていて記念写真を撮れるようになっています。
それが、このアイテム。
▼ラーマ2世王作の大扉
なんと、展示会場の天井付近まで高さがありますね。よく見ると、非常に精巧に作られた彫刻で、彼らの仏教芸術のレベルの高さがわかる一品でした。
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3.その他気になった展示
仏像の他にも、様々な仏教美術に関するお宝が展示されていました。もう少しだけ、特に僕が印象深かった展示物を紹介してみたいと思います。
3-1.法輪(左)と法輪柱
仏教国では、仏像だけでなく「法輪」に対して礼拝する習慣が多かれ少なかれありますが、特に古代タイのドヴァーラヴァティーではこの「法輪信仰」が篤かったそうです。万物の成長や、豊穣をイメージさせる太陽や自然への信仰心と結びついていたのかもしれませんね。保存状態も良く、迫力ある展示でした。
3-2.仏足跡
仏足跡とは、釈迦の足跡を石に刻みこんで、それを信仰の対象としたものですが、今回紹介されているスコータイ時代の巨大な仏足跡は、石製ではなく青銅製だったのが印象的。近くに寄っていくと、仏足跡の表面にはびっしりとタイ語での祈りの言葉や、無数の仏像が彫り込まれていて、見た目以上に手が込んでいる作品です。
3-3.象鞍
タイは仏教の国ですが、ヒンドゥー教の影響で、ゾウは繁栄は幸福の象徴として大切に扱われてきました。実際1916年まで使われていた旧国旗には、白象の絵が描かれていたくらいです。
▼参考:タイ旧国旗(~1916)
引用:タイの国旗 - Wikipedia
そんな神聖な象に人間が乗るための「象鞍」が、リアルな実物大模型、現地のビデオ映像と一緒に展示されていました。本器は、王族のサワットソーポン親王が旧蔵していた高級品だそうです。
4.グッズも充実!DVDもグリーンカレーもあるよ!
さて、今回のタイ展では、あまり他の展覧会では見ない魅力的なグッズが並んでいました。見ていて気になったものをピックアップしてみます。
▼公式図録
公式図録は、通常の美術展よりもワンサイズ小さめのB5サイズ。重さも抑えられており、展覧会当日に購入しても、軽いし荷物がかさばりにくくて良かったです。画像が非常に鮮明で整理されていますし、解説もきっちりわかりやすいので、復習用におすすめ。
▼定番のグッズ類もしっかり完備!
(一筆箋、クリアファイル、マスキングテープ他)
定番商品は、仏像をあしらったグッズが充実していました。
▼やっぱりあった、タイカレー&ジャスミンライス!
絶対あるだろうな?!と予想してましたが、やっぱりあったタイカレーセット!タイ展に行った人のツイートを見ていると、一定の人は「タイカレー食べたい」とか「タイ料理行きたい」とか書いていましたから、これは売れているでしょうね~。
▼新TV見仏記(タイ編/23巻~24巻)
みうらじゅんといとうせいこうの“仏友”(ぶつゆう)二人が、各地の仏像を求めて気ままに巡る人気シリーズ。今回のタイ展に合わせて、第23巻「バンコク編」と第24巻「アユタヤ編」と、タイでの仏像紀行が収録されたDVDが会場で絶賛発売中です。
▼仏像のメモ帳
強烈な表紙のメモ帳。ご利益がありそうです・・・
5.混雑状況と所要時間目安
展示点数が約150点ほど(前後期合計)と、トーハクの特別展にしては少なめですが、1点1点大物が多くて、非常に見応えがあります。
僕は、たいていこの「平成館」で実施されるトーハクの企画展はいつも見終わるまで2時間以上かかるのですが、今日2回目の訪問で改めて測ってみたら案の定。140分かかっていました。良い作品も多いですし、鑑賞完了まで90分~120分は見ておいたほうがいいかもしれません。
なお、4月~6月にすでに展示を終えた九州国立博物館ではかなり静かに見れたみたいですが、さすがに東京ではそうはいかなそう。お盆の前後や会期末は、それなりに混雑するかと思います。場合によっては空いている夜間開館時や、閉館前を狙ってみるのも一つの手ですね。
6.関連書籍・資料などの紹介
音声ガイド2人の定番コンテンツ「新TV見仏記-タイ編-」
この「タイ展」に合わせ、収録された「アユタヤ」「バンコク」での二人の仏像見物紀行をまとめた初回生産版DVD。単独でも「Vol23」「Vol24」とバラでそれぞれ発売はされていますが、こちらの付録付きが非常にオトクです。
音声ガイドでのかけあいそのままに、楽しそうにああでもない、こうでもないと談義しながらタイをめぐる旅がゆるくて最高です(笑)
タイの歴史を知るならこれ!新書「物語 タイの歴史」
アユタヤ朝の成立から現代に至るまで、非常に詳細かつわかりやすくタイの歴史についてまとめた新書の決定版。文体も滑らかで、読みやすいです。出版から10年経過していますが、コンパクトにまとまった歴史書としては現状ベストな1冊だと思います。タイ展と合わせて読むと、理解がぐっと深まりそう。
7.まとめ
過去も含め、仏教が信仰された国・地域はアジアを中心にいくつかありますが、興味深いのは、どの地域も少しずつ「仏様の顔つきが違う」ということです。アートにハマって熱心に展覧会に通うようになって、様々な地域の仏像を見てきましたが、タイの仏像もまた非常に個性を感じました。
みうらじゅんといとうせいこうもガイド音声で言っていましたが、是非複数回通ってみて、気になった仏像の前で30分でも1時間でもずーっと見ているのもいいですね!おすすめの展覧会です!
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
「タイ展」は、東京展の後の巡回はありません。東京展がラストチャンス!!
◯開催地
東京国立博物館 平成館
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
◯最寄り駅
JR・地下鉄上野駅から上野公園内を徒歩7分
◯会期・開館時間・休館日
2017年7月4日~8月27日
月曜日 (※7月17日・8月14日は開館、7月18日は閉館)
午前9時30分〜午後5時
※金曜日、土曜日は午後9時まで
※日曜日と7月17日(月・祝)は午後6時まで
※入館は閉館の30分前まで
◯公式HP
http://www.nikkei-events.jp/art/thailand/index.html
◯Twitter(非公式?)
タイ展に行きタイ! (@hotokenokuni) | Twitter